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「営業代行」に関する裁判例(36)平成19年 5月24日 東京地裁 平17(ワ)4472号 売買代金等請求事件、売買代金返還等請求反訴事件

「営業代行」に関する裁判例(36)平成19年 5月24日 東京地裁 平17(ワ)4472号 売買代金等請求事件、売買代金返還等請求反訴事件

要旨
◆レジャー施設等に対する情報機器のシステム開発や設計・施工等をしている原告が、劇場等に備え付ける椅子の代金につき履行期がすでに到来したとして請求した事案において、当該椅子の代金は合意に至っていなかったから、椅子の客観的価値及び当事者の合理的意思によって代金を決定すべきとして、それらに基づいて代金額を認定し、被告が主張する原告が負担すべき費用についての主張は認められないとしつつ、目的物に瑕疵があれば契約の定めによって損害賠償をすべきであって被告の不法行為の主張は採用できないが、被告の主張は契約の規定に基づく損害賠償をいうものと解釈できるとして、瑕疵担保による損害賠償を認めて相殺した上、原告の主張を一部認容した事例

参照条文
民法505条

裁判年月日  平成19年 5月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)4472号・平17(ワ)11987号
事件名  売買代金等請求事件、売買代金返還等請求反訴事件
裁判結果  本訴一部認容、反訴請求棄却  文献番号  2007WLJPCA05248013

平成17年(ワ)第4472号 売買代金等請求事件
平成17年(ワ)第11987号 売買代金返還等請求反訴事件

東京都新宿区〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 aiwin株式会社(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 内田公志
同 後藤正邦
名古屋市〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 株式会社コア・ファニチア(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 國田武二郎

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,402万5537円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,本訴及び反訴を通じてこれを10分し,その1を原告の,その余を被告の,各負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

 

事実及び理由

第1  請求
(本訴)被告は,原告に対し,537万2395円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(反訴)原告は,被告に対し,2473万6015円及びこれに対する平成19年1月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  争いのない事実
(1)原告は,レジャー施設等に対する情報機器のシステム開発,企画,設計,施工,管理及びコンサルタント業等を目的とする株式会社である。被告は,劇場用椅子の設計,製造,施工及び販売等を業とする株式会社である。
(2)原告と被告は,①和歌山市内のショッピングセンターの劇場に備え付ける椅子に関する取引,②神戸市内のオークション会場に備え付ける椅子に関する取引,③愛知万博会場の三井東芝館に備え付ける椅子に関する取引(以下,各取引を「本件取引①」などという。)を行った。
(3)被告は,原告に対し,本件取引③につき,543万5325円の債権(被告が原告の依頼を受けて行った劇場用連結椅子の取付工事等に係る債権)を有しており,その履行期は既に到来している。
2  当事者の主張の要旨及び争点
(1)原告は,被告に対し,本件取引①につき832万9965円,本件取引②につき247万7755円の各債権(合計1080万7720円)を有すると主張し,本件の訴状により,これらの債権と本件取引③に係る被告の上記債権を対当額で相殺する旨の意思表示をしたとして,残額の537万2395円及びこれに対する弁済期の後である平成16年12月25日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(2)被告は,本件取引①に係る被告の債務は360万0251円であり,他方,本件取引②につき2290万0941円の債権を有すると主張し,本件の反訴状により,本件取引②及び③に係る被告の債権(合計2833万6266円)と本件取引①に係る原告の債権を対当額で相殺する旨の意思表示をしたとして,原告に対し,残額の2473万6015円及びこれに対する平成19年1月10日(平成18年12月27日付け請求の趣旨変更(拡張)申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(3)争点は,本件取引①及び②につき原告又は被告がいかなる債権を有するかであり,具体的な争いの内容及び当事者の主張は,次の3及び4のとおりである。
3  本件取引①について
本件取引①は,和歌山市内のショッピングセンターの劇場に備え付ける椅子(以下「プレミアムシート」という。)を原告が被告に納入するものである。
この劇場の工事は,株式会社オーエンタテインメント(以下「オーエンタテインメント」という。)が株式会社淺川組(以下「淺川組」という。)に施工を依頼したものであり,劇場内の椅子については被告に発注され,被告がプレミアムシートを納入することになった。被告は原告に対してプレミアムシートを発注し,原告は株式会社馬場家具(以下「馬場家具」という。)にその製作を依頼した。そして,馬場家具の製作したプレミアムシート135脚(リクライニング付き67脚,リクライニング無し68脚)及び試作品が原告から被告に納入された。(以上の事実は当事者間に争いがない。)
本件取引①に関しては,(1)原告が請求し得るプレミアムシートの代金がいくらであるか,(2)プレミアムシートの製作又は納入に関して被告が負担した費用につき相殺の抗弁が認められるかが争われている。
(1)プレミアムシートの代金
(原告の主張)
ア 原告は,以下のとおり,プレミアムシート135脚及び試作品の代金として,被告に対し,832万9965円の債権を有する。
(ア) 原告と被告は,平成16年10月1日,原告が被告に対し同年11月24日までにプレミアムシートを納入すること,被告は原告に相当額の代金を支払うものとし,具体的な額は後日協議の上決定すること,原告は同年10月12日ころまでにプレミアムシートの試作品を被告に納入し,被告はこれに対しても相当額の対価を支払うことを合意した。
(イ) 上記試作品は,原告から被告に同月13日に納入され,その代金を18万円とすることが合意された。
(ウ) その後,原告と被告は,プレミアムシートの納入期限,場所及び価格につき,同月25日までに被告の指定するショッピングセンターにおいて納入すること,1脚当たりの価格はリクライニング付き5万9900円,リクライニング無し5万5000円とすることを合意した。
(エ) 原告は,上記(ウ)の合意に従って,プレミアムシートを納入した。
(オ) したがって,原告が被告に請求し得るプレミアムシートの代金は,832万9965円(5万9900円×67脚+5万5000円×68脚+18万円=793万3300円。消費税39万6665円)となる。
イ 被告は,プレミアムシートの価格についての上記合意を否認する。しかし,本件取引①において契約締結の前に商品の単価が決まっていなかった背景には,被告が納期の切迫した無理な納入を求めたこと,原告と被告が従前から一緒にビジネスをしてきた間柄にあることがある。原告は,馬場家具から1脚当たり8万円前後という見積もりを得ており,被告主張の額で合意するはずがない。本件取引①をするに当たり,被告は赤字覚悟で契約する必要があるという状況にあったのに対し,原告はそのような状況になかったのであり,しかも,納期がぎりぎりであったことから,被告は,原告の言い値でプレミアムシートを購入する意思で,これを発注したということができる。原告としては,上記見積もりに基づき,被告が椅子に張る布地(張地)を提供してその分の費用(1脚当たり2万円余り)を負担するとの前提で,上記ア(ウ)の額でプレミアムシートを納入することに応じたのである。
ウ 被告は,試作品の代金を被告が負担すべきことを否認する。しかし,プレミアムシートの試作品は被告の求めに応じて納品されたものであり,原告が被告に代金を請求したときも,被告は特段の異議を述べていなかった。また,被告は業界の慣行について主張するが,馬場家具が原告に対して試作品代を請求していること,被告も本件取引③においては試作品代を請求していることに照らし,これを請求することが業界の慣行に反するということはない。
(被告の主張)
ア 原告と被告は,プレミアムシートの価格につき,当初,中華人民共和国(以下「中国」という。)で製作することを前提に,1脚当たり,リクライニング付き2万5000円,リクライニング無し2万円と合意した。ところが,その後,中国で製作すると納期に間に合わないので日本国内で製作することになったため,原告と被告は,リクライニング付き5万円,リクライニング無し4万5000円とすることにした。また,張地は被告が提供するものとし,その分を代金から差し引くことも合意された。
イ 試作品については,売買契約が成立してその履行がされたときは代金を請求しないのが業界の慣行であり,本件取引①において被告が試作品代を支払うと合意されたこともない。なお,本件取引③においては,ボディソニックという電気部品が埋め込まれた特殊な椅子が対象とされ,しかも,試作品というより先行見本現品であったことから,原告と被告の間で,有償とすると合意されたのである。
ウ したがって,プレミアムシートの代金は,673万0500円(5万円×67脚+4万5000円×68脚=641万円。消費税32万0500円)である。
(2)被告が負担した費用
(被告の主張)
本件取引①に関し,被告は,以下のとおり,合計313万0249円の費用を負担した。これらは原告の債務不履行,製品の瑕疵ないし付随義務違反の結果生じた被告の損害であるから,原告が負担すべきものである。そして,これをプレミアムシートの代金と相殺すると,本件取引①に係る被告の残債務は,360万0251円(673万0500円-313万0249円)となる。
ア プレミアムシートの背バネは,元々付いていたものが強すぎたので,被告が用意した背バネに取り替えられた。そのために要した費用は3万6225円である。
イ 被告が提供したプレミアムシートの張地(赤405.5m,黒72m)の代金(1m当たり1600円及び消費税)は80万2200円であり,これがプレミアムシートの代金から差し引かれるべきである。
ウ 原告が納入したプレミアムシートの巾木ベース底の穴の数及び位置が,図面に示されたものと相違していた。そのため,被告は,プレミアムシートを床に取り付けるためのベース板を製作し直さなければならず,その費用として,107万7300円(1枚3800円,1脚当たり2枚なので,3800円×135脚×2枚=102万6000円。消費税5万1300円)を要した。なお,ベース板の単価が高くなったのは,原告によるプレミアムシートの納入が遅くなり,至急製作する必要があったことによるものである。
エ 被告は,プレミアムシートの取付工事のために職人を手配したり,従業員を出張させたりする必要があった。その費用は,90万2074円(菅原組の職人に対する人件費16万5000円,人材派遣会社である株式会社グッドウィルに対する人件費37万0335円,高速道路代及びガソリン代6万1869円,従業員の宿泊手当9万8000円,同日当20万6870円)である。
オ 原告の馬場家具に対する指示ないし手配のミスにより,プレミアムシートの梱包及び配送に殊更に大きな発泡スチロール及び段ボール箱が使用され,その結果,発泡スチロールの廃棄処理をするために3万円,トラック(4t車)1台を追加するために7万2450円の費用を要した。
カ プレミアムシート設置の工期が遅れたため,被告は,淺川組から清掃代21万円を請求され,これを支払った。工期の遅れは,巾木ベース底の穴の数及び位置の誤りという原告の行為に起因するものであるから,この清掃代は原告が負担すべきである。
(原告の主張)
原告が納入したプレミアムシートに関して債務不履行や製品の瑕疵はなく,また,付随義務の違反はないのであって,被告の主張は,以下のとおり,いずれも失当である。なお,プレミアムシートの納入が遅れたとしても,それは被告が頻繁に仕様の変更を要求したこと,被告が供給すべき張地の送付が遅れたことなど被告の側の事情によるものである。
ア 本件のプレミアムシートは馬場家具の既製品を基にしたものであり,元々使われていた背バネは欠陥品でなかった。これを被告の支給する背バネに交換したのは,被告が仕様変更を望んだからであり,その費用は被告が負担すべきである。
イ 張地の費用は,上記(1)(原告の主張)イのとおりプレミアムシートの価格に含まれておらず,被告が負担すべきものである。
ウ ベース板は被告が用意することになっていたから,穴の位置が図面と異なるとしても,原告には関係のない事柄である。また,原告は,図面を被告に示すに当たり,図面の記載は仮のデータであると説明しており,これを信じたとすれば被告が軽率であったことになる。さらに,被告においては,原告が納入した試作品の穴の位置を速やかに照合し,ベース板を発注すればよかったのであって,1枚当たり3800円という費用が生じたのは被告の責任によるものである。
エ 被告は,その顧客に対し,納品場所においてプレミアムシートを設置すべき義務を負っていた。したがって,職人の手配や従業員の出張に係る費用は,被告が当然に負担すべきものである。
オ プレミアムシートの梱包及び配送は被告の指示及び承認の下で行われており,発泡スチロール及び段ボール箱が大きすぎたということはない。
カ ベース板の穴の位置が誤っていたことに起因して清掃費が生じたものであるとしても,上記ウのとおりその原因は被告の不注意にあるから,この費用も原告が負担すべき筋合いのものでない。
4  本件取引②について
本件取引②は,神戸市内のオークション会場に備え付ける椅子等(椅子1050脚,テーブル519卓等。以下「LAA向け製品」と総称する。)を中国から輸入して納入するという取引である。
原告と被告は,LAA向け製品につき,平成16年10月27日に「個別案件合意書」と題する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。この合意書には,LAA向け製品の売買代金は3251万4442円であると定められており,被告はその全額を同年12月15日までに原告に支払った。LAA向け製品を製作したのは,中国の上海永楽と略称される会社(以下「永楽」という。)である。また,被告にLAA向け製品を発注したのは,大阪のLAA関西という会社であり,被告は,同月27日までに神戸港でLAA向け製品の引渡しを受け,LAA関西にこれを納入した。(以上の事実は当事者間に争いがない。)
本件取引②に関し,原告は,本訴により,被告に対し,(1)LAA向け製品の輸入に関する諸費用の支払を請求している。他方,被告は,反訴において,(2)被告が原告に支払った金員と原告が永楽に支払った金員の差額,(3)被告が提供した張地の代金に相当する額,(4)LAA向け製品に中国で課せられた増値税に相当する額,(5)LAA向け製品の瑕疵により被告が被った損害額につき,不当利得返還請求権ないし損害賠償請求権を有すると主張している。以上の(1)~(5)の各争点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。
(1)輸入に関する諸費用の支払請求の可否
(原告の主張)
原告と被告は,本件契約において,LAA向け製品の輸入に関する諸費用は被告の負担とし,被告は,原告の請求に従い,平成16年12月24日までにこれを支払うことを合意した。
原告は,LAA向け製品の輸入に携わった会社から,船代金及び諸費用として144万9155円,輸入関税等として102万8600円の支払を請求されたので,いったん立て替えた上,これを被告に請求した。
したがって,原告は,被告に対し,LAA向け製品の輸入に関する諸費用として,247万7755円の債権を有する。
(被告の主張)
原告が請求する船代金及び諸費用は,相場よりも高額であり,その請求には根拠がない。また,輸入関税等は,輸入者が支払うべきものであり,荷物の名義人になっているのは原告であるから,原告が負担すべきである。したがって,被告にはその支払義務はない。
(2)被告が原告に支払った金員と原告が永楽に支払った金員の差額の請求の可否
(被告の主張)
ア 本件取引②の経過は,次のとおりである。
(ア) 被告が中国で劇場用椅子を製造して輸入したい旨を原告に話したところ,原告は製造会社として永楽を被告に紹介した。被告は,平成16年6月ころ,LAA向け製品の注文を受けたので,その製作を永楽に発注することにし,原告に対し,永楽との取引の仲介(交渉,契約書の作成等)を依頼した。被告は,このころ,原告から,永楽に支払う金額は,製品代及び金型代に諸費用を加えても最大で2500万円程度であると聞いた。
(イ) 同年10月27日,被告代表者が原告の事務所に行ったところ,原告代表者は,被告代表者に対し,永楽への支払金額は増値税を含め3251万4442円に決まった,その半分を同年11月15日に,残額を製品の出荷確認時に支払ってもらう,原告と被告の間で製品取引基本合意書及び個別案件合意書を取り交わし,それに基づいて上記金員を振り込んで支払ってほしいと述べ,両合意書に署名押印するよう迫った。被告代表者は,支払金額が大幅に増えたことに驚き,両合意書の内容にも疑問を持ったが,原告代表者は,大声で怒鳴り,机をたたいて,サインしなければ永楽との取引はなかったものとすると恫喝した。被告代表者は,この時点で取引がキャンセルされるとLAA向け製品の納入が間に合わなくなること,原告代表者の述べる額が永楽からの請求額であると信じたこと,原告代表者の大声に畏怖を覚えたことから,仕方なく両合意書に署名し,指印を押した。このように,本件契約は原告の詐欺又は強迫により締結されたものであって,被告代表者は,正常な判断能力を欠いており,内容を了解していたわけでない。
(ウ) ところが,永楽が原告に請求した金額は,増値税や金型修正代を含めても,2215万6022円であった。原告は,この事実を秘して,永楽への支払額は3251万4442円である旨の虚偽の事実を述べて被告を欺罔し,被告をして差額の1035万8420円を不当に支払わせ,これを領得したのである。
イ 以上のとおり,本件取引②における原告の立場は,被告と永楽の間の取引の仲介者ないし実務代行者であって,原告と被告の間に売主と買主という関係はないから,被告が原告に支払ったLAA向け製品の代金のうち,原告が永楽に支払った金員との差額を原告が取得すべき法律上の原因はない。したがって,原告は,悪意の受益者として,被告に対し,上記差額につき不当利得返還義務を負う。
ウ 被告が本件契約の締結に応じたのは,上記アのとおり原告の詐欺又は強迫によるものであるので,被告は本件契約を取り消す。また,本件契約においては金額こそが重要な要素であり,被告にはこの点に錯誤があるので,本件契約は無効である。
そして,被告は,原告の詐欺及び強迫により本来の請求額を上回る支払をさせられたことにつき,原告に対し,不法行為による損害賠償を請求する。
(原告の主張)
ア 原告と被告は,本件契約により,原告が被告にLAA向け製品を3251万4442円で売り渡すことを約した。被告代表者は,この金額を認識した上で,契約を締結せずにLAA関西への納品が遅れることによる不利益と,この金額で契約を締結することの得失を考えて,本件契約の締結を選択したのであって,これが原告の詐欺又は強迫によるものであったなどという事実はない。
そして,原告は,本件契約に基づいて被告に売買代金を請求し,受領したのであるから,法律上の原因を欠くことはなく,原告に不当利得はない。また,詐欺又は強迫がない以上,不法行為による損害賠償請求も認められない。
イ 被告は,原告が被告と永楽の間の取引の単なる仲介者ないし実務代行者にとどまると主張する。しかし,永楽に対してLAA向け製品の製作を発注したのは原告であって,本件取引②は原告と被告の間の売買契約であり,原告は被告に対する売主という立場にあったのである。
ウ なお,原告は,永楽に対して金型費用115万8989円及び製品代金1892万7000円を支払い,交通費及び宿泊費として約413万円を支出したほか,原告の代表者及び従業員の日当相当額,通訳及び代理人(原告は,中国政府関係者に人脈のある者に,中国における交渉等の事務を委任した。)の費用等として数百万円を負担しており,その合計額は約2950万円となる(甲47参照)。他方,LAA向け製品の被告への販売額は消費税抜きで3096万6135円であり,原告は5%弱の転売利益を得ているにすぎない。したがって,原告が本件取引②により不当な利益を得たということもない。
(3)張地相当額の請求の可否
(被告の主張)
被告は,原告から,永楽が張地を必要としていると言われたので,合計2268mの張地を送付した。しかし,実際に永楽が原告に要求したのは1627mであり,原告は,被告に虚偽の事実を申し向けて641m分も過大に張地を送付させ,被告に損害を生じさせたのである。
したがって,641m分の張地の相当額である58万5233円(913円×641m)につき,原告は,不法行為責任又は不当利得返還義務を負う。
(原告の主張)
永楽による1627mの張地の要求は計算違いによるものであって,原告は,後日,永楽の要求する張地の分量を被告に伝えている。したがって,原告が不当に過大な量の張地の送付を求めたことはないし,原告が被告の提供した張地を領得した事実もないから,被告の請求は理由がない。
(4)増値税相当額の請求の可否
(被告の主張)
被告が原告に支払った前記金員には,増値税321万9251円が含まれている。
増値税は,中国国内での販売,加工及び輸入段階において付加価値税として課されるものであるが,輸出品は増値税が免除されるため,上記の増値税は,最終的には被告に返還されるべきものである。ところが,原告は,その還付を受けながら被告に返還しておらず,法律上の原因なくしてこれを取得している。
したがって,原告は,上記増値税相当額につき,原告に対し不当利得返還請求権を有する。
(原告の主張)
原告は本件契約に基づき被告から代金を受領したのであって,その一部を被告に返還すべき理由はない。しかも,原告が増値税の還付を受けた事実もないから,不当利得をいう被告の主張は失当である。
(5)LAA向け製品の瑕疵の有無
(被告の主張)
被告が引渡しを受けたLAA向け製品を実際に取り付けたところ,ビスの不足や破損,ひれ金具のねじれ,肘化粧板の穴の開け忘れ,テーブルの破損,溶接の外れ等の瑕疵が発見された。被告は,これらの瑕疵の修理等に多額の費用を要し,その額は,平成17年1月~5月分(同年6月15日に提起された反訴により請求された分)が606万2798円,同年6月~11月分(平成18年12月27日付け請求の趣旨変更(拡張)申立書により請求された分)が267万5239円であり,合計873万8037円となる。
これらの瑕疵はいずれも容易に発見可能なものであるにもかかわらず,原告は,中国でLAA向け製品の検査を行った際,検査を十分に行わず,検査結果は合格であるとしたのである。そうすると,原告にはこの点において過失があったから,上記の瑕疵により被告に生じた損害につき不法行為責任を負う。
(原告の主張)
LAA向け製品に瑕疵が存在した点は否認する。仮に瑕疵があるとしても,検品作業を行ったのは被告であり,被告がそれを怠って損害が発生したのであれば,被告が自らこれを負担すべきものである。
また,本件取引②は商人間の売買であるから,商法526条の規定が適用され,引渡しから6か月を経過したときは目的物の瑕疵を主張して損害賠償を請求することはできない。被告は平成16年12月に引渡しを受けたのであるから,請求の拡張に係る平成17年6月~11月の分の請求は,明らかに失当である。
第3  当裁判所の判断
1  本件取引①について
(1)証拠(以下に個別に掲げるほか,C(原告の従業員)の供述(甲50,証人C)並びに後記の採用しない部分を除くD(被告の顧問)の供述(乙61,証人D)及び被告代表者の供述(乙2,70,被告代表者)。なお,書証については枝番の記載を省略する。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告は,被告の営業代行をしていたホットシネシート社のE(Dの子)から,オーエンタテインメントが劇場用の椅子を発注する旨の話を聞いた。Eは,平成16年8月23日(以下,事実経過については「平成16年」の記載を省略することがある。),被告に対し,1脚当たりリクライニング付き3万8000円,リクライニング無し3万3000円での製作の可否及び納期を検討してくれるよう求めた。被告は,9月上旬ころ,原告に対し,価格を1脚当たり2万5000円程度,納期を11月10日ころとして,馬場家具の中国の工場でプレミアムシートを製作することができないかどうかを打診した。原告が検討したところ,中国での製作は納期の関係上不可能であり,国内(群馬県)にある馬場家具の工場で,馬場家具の既製品を基に寸法,機能等を多少変更して製作することは可能であるが,価格は高くなると答えた。被告は,その価格では赤字になるが,既にオーエンタテインメントへの提案を済ませていたので,原告にプレミアムシートの製作を依頼することにした。そして,被告は,9月30日,原告と打合せをした後,原告にファクシミリを送信して,納入するのは全部で135席で,納期は最も遅くとも11月24日現地(和歌山市)到着であることを知らせ,試作品を10月12日までに被告に届けるよう求めるとともに,無理を言っていることは承知しているが,どうせ赤字を出すのであれば次につなげたいと思うので原告にお願いするなどと伝えた。被告は,本件取引①で損失が生じても,オーエンタテインメントの劇場が完成すれば,他の劇場主が見学に来るなどして商売が広がり,将来は利益になるであろうと考えていた。(甲3,乙47)
イ 原告と被告は,9月30日ないし10月1日ころ,製作すべき椅子の図面をやり取りした。原告が被告に送付した図面は既製品をベースにしたものであり,被告は,この図面に寸法の手直し等を書き加えて,原告に返送した。また,原告は,被告に図面を送付するに際し,この図面はサイズ修正前のものであり,個別の金物パーツは仮のデータである旨を送信のメールで知らせていた(この点に関し,被告はメールを受信したことを争い,D及び被告代表者は,原告から送付された図面が正式なものであって,これに基づいてプレミアムシートが製作されることになった旨を供述する。しかし,上記メールは,被告から原告にあてたメールに対して返信されたものであることがその体裁及び内容から明らかであり,また,後述のとおりその後種々の修正が加えられていることに照らし,上記供述を採用することはできない。)。(甲15,16,乙3~5)
ウ 原告は,10月1日ころ,馬場家具にプレミアムシートの製作を依頼した。馬場家具は,張地にエクセーヌという名称の素材(1脚当たり2万円余りするもの)を用いた場合の価格は,概算で,リクライニング付きが8万円前後,リクライニング無しが7万6000円前後になることを知らせた。(甲17)
エ プレミアムシートの試作品は10月12日ころまでに完成し,同月13日に被告の事務所(名古屋市)に送付された。被告がこれを大阪市のオーエンタテインメントに届けたところ,オーエンタテインメントは試作品の出来に大変喜んだが,修正すべき点の指摘もあった。被告は,同月14日までに,原告に対し,椅子の高さ,背のウレタンの厚み,リクライニングの背を倒したときに生ずる摩擦音,リクライニングの倒れ方(倒すのが重く,戻るのが速いこと。止めたままにすることができないこと),通常時におけるヘッドレストと背面との面合わせ,ヘッドレストの動作(倒すのに強い力を要すること),肘木の角の形状,座面の高さ,脚の色等について修正を求めた。原告は,馬場家具に問い合わせた上,同月15日に,被告の指摘のうち修正可能な点は修正するが,リクライニングの倒れ方やヘッドレストの動作については修正不可能である旨を回答した。(甲4,5,18~25)
オ 馬場家具は,10月16日,プレミアムシートの見積書を原告に交付した。これによれば,1脚当たりの価格はリクライニング付きのものが5万2000円,リクライニング無しのものが4万7000円,試作品代が15万円(いずれも消費税別。ただし,仕様変更の場合は別途見積もりとする。)とされていた。また,上記見積額は運賃,開梱設置料及び張地の代金を含んでいないが,これはこれらの費用が被告の負担であることを前提にするものである。(甲26)
カ 被告は,10月20日以降も,原告にファクシミリを送信するなどして,リクライニングを軽くするために,既に組み込まれている背バネを被告が支給するものに取り替えること,ヘッドレストの回転を滑らかにすること,寸法(高さ,奥行き等)を被告がファクシミリに記載した図面どおりにすること,座面前方を高くすることなどを求めた。被告の原告に対する修正の要求は同月29日ころまで続き,原告は,馬場家具と検討した上,製作上可能な範囲で被告の求めに応じた。そして,同日ころ,馬場家具が作成すべきプレミアムシートの具体的な仕様が確定したが,縫製用の糸及び針につき被告から原告への指示が伝えられたのは11月10日であった。(甲28~30,32~34,36,乙7)
キ 被告は,11月12日,上記カの背バネを馬場家具に送付した。また,被告は,プレミアムシートに用いる張地は被告が提供する旨の原告との合意に従って,10月25日~11月19日の間に,合計477.5mの張地を送付した。(甲27,31,35,39,乙8,17,49)
ク 被告は,11月15日,プレミアムシートの納入に先行して,リクライニング付きのもの1脚を同月19日までに被告に送付するよう求め,原告は,これに応じて,同日までにこれを被告に届けた。被告がこれを実測したところ,横幅及び座面の高さが図面と相違していたので,原告はその旨を被告に指摘した。原告は,馬場家具に確認した上,寸法の相違はウレタンを入れたことにより生じたものであり,アンカーの位置は図面どおりである旨を回答した(なお,この回答書にいう「アンカーの位置」とは,椅子を床に固定するために巾木ベース底に設けられた穴の位置をいうものであり,これが「図面とおり」であるとは,椅子の横幅が図面より広くなったが,穴の位置は椅子の横幅方向にずれていないことを意味するものと推認される。)。(甲37,40~42,乙9,10,12,14)
ケ プレミアムシートの設置場所への納入は,11月10日付けの被告から原告への指示では,10t車2台で搬入(同月23日着でリクライニング無し68脚,25日着でリクライニング付き67脚)とされていたが,同月20日及び22日付けの指示では,段ボール箱の大きさからして10t車に積めるのは最大50脚なので,リクライニング無し50脚を10t車1台で同月24日到着,同18脚及びリクライニング付き67脚を10t車及び4t車各1台により同月25日到着となるように送付すべきものとされた。この指示に基づき,プレミアムシートは,同月24日及び25日に現地で被告に引き渡された。(甲6,43,乙11)
コ 原告は,11月26日,リクライニング付きが5万9900円,リクライニング無しが5万5000円,試作品代が18万円であるとして,合計832万9965円の支払を求める請求書を被告に送付した。被告は,そのころ,この請求書を受領した。(甲7,乙15)
(2)争点(1)(プレミアムシートの代金)について
ア 上記事実関係によれば,原告と被告は,馬場家具の製作したプレミアムシートを原告が被告に売り渡すこと,被告はこれに対して相当額の対価を支払うことを約した上で,本件取引①を行ったと認められるが,具体的な額については合意に至らなかったということができる。そうすると,被告が支払うべき代金の額は,プレミアムシートの客観的な価値及び当事者の合理的意思に基づいて推認すべきものである。
まず,客観的な価値については,馬場家具の見積額(甲26)は,試作品の製作を踏まえて示されたものであり,これが不合理であることをうかがわせる事情は見当たらないので,これを基準とすべきものと解される。これによれば,プレミアムシートの単価(消費税別)は,リクライニング付きが5万2000円,リクライニング無しが4万7000円であり,これには張地の代金は含まれず,また,仕様変更がある場合には別途見積もりになるとされていた。そして,上記見積額が示された平成16年10月16日以降にも被告の要望を受けて修正が加えられたことを勘案すると,プレミアムシートの価格は上記見積額を上回ると考えられる。
次に,当事者の合理的意思についてみると,上記認定のとおり,被告は,中国ではなく日本国内で製作する場合には,製造原価が高くなり,赤字になることを認識した上で,オーエンタテインメントへの提案を済ませていたので取引を中止するわけにいかなかったこと,今回の取引で損失が生じても将来的に利益を得られると期待したことから,本件取引①を行ったということができる。これに対し,原告の側には損失を負担してまで本件取引①を行うべき事情があったことはうかがわれず,少なくとも馬場家具に支払うべき金額並びに最低限の利益及び必要経費に相当する金額につき,被告から支払を受けられるものと考えていたと解される。
この点に関し,D及び被告代表者は,原告から,1脚当たりの価格が5万円を超えることはない,張地を被告が負担するのであればその分を価格から差し引くと言われたなどと供述する。しかし,原告が試作品製作前の時点でリクライニング付きが8万円前後,リクライニング無しが7万6000円前後になる旨の報告を馬場家具から受けており(甲17),これから張地代(1脚当たり2万円余りするエクセーヌの調達に要する費用)を控除しても5万円を下ることはないこと,馬場家具の前記見積額には張地代が含まれていないことに照らすと,原告が上記のような発言をしたとは解し難く,上記供述は採用し得ないというべきである。
以上の諸点を勘案すると,プレミアムシートの単価(消費税別)は,馬場家具の見積額に5%を加えた額(リクライニング付き5万4600円,リクライニング無しが4万9350円)であると認めるのが相当である。
イ 次に,試作品代についてみると,被告は試作品代を請求することは業界の慣行に反する旨を主張するが,業界の慣行の存否及び内容を示す客観的な証拠はない。むしろ,被告が,本件取引③に関し,「試作他諸経費」及び「椅子サンプル手直し代」を原告に請求していること(甲13,14)を勘案すると,試作品が有償か無償かは,個々の取引ごとに試作品が製作された経緯やその額等を考慮して判断すべきものということができる。
本件取引①においては,被告の側が要望したことから試作品が製作されるに至ったこと(甲3),馬場家具がプレミアムシートの代金とは別に試作品代の見積もりをしていること(甲26)に照らせば,試作品は有償であり,これを被告が負担すべきものと解するのが相当である。
そして,その額は,上記アと同様,試作品の客観的な価値及び当事者の合理的意思に基づいて推認すべきものと解されるところ,馬場家具の見積額が15万円(消費税別)であること,原告が試作品から利益を得ることを想定していたとは解し難いことからすると,上記見積額をもって被告が原告に支払うべき試作品代であると認めることができる。
ウ したがって,原告が被告に対して請求し得るプレミアムシートの代金は,752万2200円(5万4600円×67脚+4万9350円×68脚+15万円=716万4000円,消費税35万8200円)であると認められる。
(3)争点(2)(被告が負担した費用)について
被告は,被告が負担した背バネ,張地等の費用がプレミアムシートの代金から差し引かれるべきであると主張するが,以下のとおり,被告の主張はいずれも失当であって,D及び被告代表者の供述のうち以下の認定判断に反する部分はいずれも採用することができないというべきである。
ア 被告は,被告が供給した背バネの製作費用3万6225円(乙16)をプレミアムシートの代金から差し引くべきであると主張する。しかし,前記事実関係によれば,被告は,馬場家具の製作した試作品の背バネにつき,これが強すぎる(リクライニングを倒すのに強い力を要し,リクライニングが戻るのが速すぎる)ので,より弱いものにすべきであるとのオーエンタテインメントの要望に応じて,背バネを取り替えたものであるが,元々付いていた背バネが欠陥品であったと認めるべき証拠はない(試作品に対するオーエンタテインメントの最初の感想は「サンプルの出来に大変喜んでいた」というものであった。甲5,20)。そうすると,背バネの交換は,リクライニング式の椅子として通常有すべき性能を備えた馬場家具の既製品を,納入先の希望に合わせて改良するために行われたものであるから,背バネの調達に要した費用は被告が負担すべきものと考えられる。
イ 被告は張地の代金をプレミアムシートの価格から差し引くべきであると主張する。しかし,上記(2)のプレミアムシートの価格は,被告が張地を提供することを前提とするものである(前記認定事実によれば,被告は,張地を自ら提供することにより,被告が支払う代金の額を下げたとみることができる。)から,被告の主張は,明らかに失当である。
ウ 被告は,ベース板の代金として支出した107万7300円(乙18)につき,ベース板を取り付けるための穴の位置及び数が図面と相違したために上記支出を余儀なくされたものであるから,原告においてこれを負担すべきである旨を主張する。しかし,ベース板は元々被告が製作するとされていたところ(甲3),原告はあらかじめ被告に対し,実際に製作されるプレミアムシートが図面と異なり得ることを伝えていたのであって(前記(1)イ参照),試作品に対して被告の側から修正の要求がなかった箇所は,試作品のとおり製作すれば足りると考えられる(納入されたプレミアムシートの穴の位置等は試作品におけるものと同じであったと推認される。)。そうすると,被告においては,試作品における穴の位置等を確認し,それに基づいてベース板を製作していれば,ベース板の製作に通常要する費用で足り,上記の支出は避けられたと解される。したがって,上記支出を原告の負担とすべき理由はないというべきである。
エ 被告は,プレミアムシートの取付作業のために90万2074円の費用を支出したと主張し,これに沿う証拠(乙19~23)を提出する。しかし,上記取付作業は,プレミアムシートが納入された平成16年11月24日から数日の間に行われたと推認されるから,上記証拠のうち,株式会社グッドウィルの請求中の12月4日の作業分(乙20),11月2日及び同月30日以降の高速道路代等(乙21)並びに被告の従業員の出張手当等(乙22,23)は,取付作業とは明らかに無関係である。また,11月25日~27日の作業に係る菅原組及び株式会社グッドウィルの請求(乙19,20)についても,プレミアムシートの劇場への設置は,元来,被告が行うべきものであり(被告は,淺川組から,椅子組立設置費用の支払を受けている。乙26),また,原告の側の過誤により取付作業に要する費用が増加したと認めるに足りる証拠はないから,これらについても被告が原告に対して負担を求めることはできないと解される。
オ 被告は,プレミアムシートの運送及び梱包につき原告に過誤があったために4t車1台分の費用及び発泡スチロールの廃棄費用(乙24,25)が生じたと主張する。しかし,前記事実関係によれば,運送,梱包等に関する費用は被告の負担とされるところ,まず,トラックの費用については,被告主張の大きさの段ボール箱(プレミアムシートの外形寸法に近いもの)であれば10t車2台で足り,4t車は不当であったとしても(乙11),当時,そのような大きさの段ボール箱を馬場家具が速やかに確保することができたと認めるに足りる証拠はない上,10t車2台と4t車で運送することは原告も了解していたと認められる(甲43)。また,原告の過誤によって殊更に大きな段ボール箱に収納されたり,発泡スチロールが過剰に使用されたりしたことをうかがわせる証拠もない。そうすると,これらの費用も,原告が負担すべきものとは認められない。
カ 被告は,プレミアムシートの納入が遅れたために清掃代(乙26)を支払ったとして,原告がこれを負担すべきであると主張する。しかし,この清掃代が納入の遅れを原因として発生したと認めるに足りる証拠はない上,仮に納入の遅れが原因であるとしても,その原因が専ら原告の側にあるとは認められないから(むしろ,納入が期限より遅くなったことの主要な原因は,修正を求め続けた被告の側にあると解し得る。),これを原告が負担すべきであるとする被告の主張も失当というべきである。
(4)以上によれば,本件取引①については,原告が被告に対し752万2200円の債権を有すると認めることができる。
2  本件取引②について
(1)証拠(以下に個別に掲げるほか,Cの供述(甲50,証人C)並びに後記の採用しない部分を除くDの供述(乙61,証人D)及び被告代表者の供述(乙2,52,57,70,被告代表者))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告は,平成16年2月ころ,中国の椅子等の製造業者である永楽を原告から紹介された。被告は,同年6月ころ,LAA関西からLAA向け製品を受注し,その製作を永楽に委託しようと考えて,その旨を原告に伝えた。そして,原告,被告及び永楽は,永楽が中国で製作した椅子を日本に輸入することについて交渉を行い,7月25日から27日にかけて,共同事業基本合意書,機密保持契約書,基本取引契約書及び新製品開発委託契約書を取り交わした。これらの契約書においては,原告及び被告が「甲」,永楽が「乙」と略称され,甲が乙に技術を提供して新製品を共同開発すること,乙が中国国内で製品を製造し,甲に売り渡すこと,乙が中国国内で製品を販売したときは甲に対して販売許諾料を支払うことなどが合意された。これに先立つ同月中旬ころ,被告は,原告から上記各契約書の案を示され,これを検討した上で,原告に対して機密保持,通知義務等に関する条項の修正を求めており,被告の意見を反映した内容で上記各契約が締結されるに至った。(なお,被告は,これらの契約書の日本語文と中国語文で内容が異なる点があると指摘するが,これらの相違点は本件の判断に影響するものではないと解される。)(甲44,45,乙36,37)
イ 被告は,上記各契約を締結したころ,原告から,LAA向け製品の製作に関して永楽に支払う金額は,製品代金に金型代,運賃等の諸雑費を含め,2500万円程度であると聞かされていた。永楽は,9月28日ころ,LAA向け製品の価格は約2000万円になる旨の見積もりを原告に示し,原告は,そのころ,この金額を被告に知らせた。(乙27)
ウ 原告,被告及び永楽は,LAA向け製品に用いる張地は被告が提供すると合意した。被告は,原告の指示に従って,10月18日~11月22日の間,合計2268mの張地を永楽又は原告に送付した。(乙31,38,63)
エ 原告と永楽は,10月25日,LAA向け製品の合計価格を153万2607.34元(1元=13円として,1992万3895円)とすること,代金の半分は3営業日内に前納し,残額は納品の3営業日前までに支払うこと,張地1627mは原告が提供することなどを内容とする発注確認書を取り交わした。また,原告が負担する金型の代金は14万5702.15元,金型修正代は2万6000元であることなどを内容とする金型開発製造協力契約書及び金型修正協力契約書も取り交わされた。(乙31~33)
オ 被告代表者は,10月27日,被告の従業員と共に原告の事務所に赴いた。そして,原告と被告の間で,両社間の継続的な製品取引に関する包括的な取り決めを定めた製品取引基本合意書と,LAA向け製品の取引に関する個別案件合意書が取り交わされた。後者が本件契約であり,①原告が被告にLAA向け製品を3251万4442円(消費税込み)で売り渡すこと,②納品日は12月15日とすること,③納入に関する費用(輸入費用(コンテナ取扱,通関,書類作成,検査,船舶代等を含む。),梱包費用,為替手数料,輸送費等)は被告の負担とし,原告の請求により12月24日に支払うこと,④被告は,原告からLAA向け製品の納入を受けた場合,直ちにその受入検査を行い,直ちに発見することのできる瑕疵があるときは原告にその旨を書面で通知するものとし,引渡日から7日以内にこの通知がないときは,製品は完全な引渡しがされたものとみなすことなどを内容とするものである。被告代表者は,上記①の額は相当高いと感じたものの,本件契約の締結に応じないとすると,LAA関西から受注した椅子等を納期までに納入することができず,LAA関西から損害賠償責任を問われるおそれがあると考えて,上記各合意書への署名及び指印に応じた。(甲8,乙28)
カ 永楽は,10月29日,LAA向け製品を合計金額153万2607.34元(税込み)で,東方国際集団上海市対外貿易有限公司に売り渡した。これは,永楽が自ら貿易を行うことができないので,これを行うことのできる上記有限公司を通じて,LAA向け製品を輸出することにしたものである。(乙51)
キ 原告は,11月11日,上記有限公司への1892万7000円の送金に関して取消不能信用状の発行を受けた。他方,被告は,同月15日に1600万円,12月15日に1651万3602円(本件契約の金額との差額は振込手数料である。)を原告に送金した。(甲48,49,乙29,30)
ク 原告の従業員のCは,12月4日,永楽の担当者と共に,永楽の製作したLAA向け製品の検査を行い,その結果は合格であったとして,確認書を作成した。そして,LAA向け製品は中国から日本に船舶で輸送され,被告は,12月23日及び27日に,神戸港でLAA向け製品を受領した。(乙34,53)
ケ 原告は,LAA向け製品の輸入に関し,旭商事株式会社から12月10日に120万1962円,同月13日に24万7193円(コンテナヤード使用料,燃料割増料率,円高損失補填料金,緊急事態バンカー追加料金,船運賃,運搬業者への荷渡し指図書代金,同発行手数料の合計額)の請求を受け,これらの合計額144万9155円につき,同月20日に被告に支払を請求した。また,原告は,佐川急便株式会社から同月22日に102万8600円(輸入関税,輸入消費税及び輸入地方消費税の合計額)の請求を受け,同日,被告にその支払を請求した。(甲9~12)
(2)争点(1)(輸入に関する諸費用)について
上記(1)オ③及びケのとおり,被告は,本件契約に基づき,LAA向け製品の輸入に関する諸費用の支払義務を負っており,その額は合計247万7755円であると認められる。また,本件契約が詐欺若しくは強迫により取り消され,又は錯誤により無効であるといえないことは,後記(3)のとおりである。
したがって,原告は,被告に対し,上記諸費用として247万7755円の支払を求めることができる。
(3)争点(2)(被告が支払った金員と原告が支払った金員の差額)について
ア 被告は,本件取引②における原告の立場が,被告に対する売主ではなく,被告と永楽の間の取引の仲介者ないし実務代行者であることを前提に,原告が差額を取得したことが不当利得又は不法行為に当たると主張する。
しかし,本件取引②が,原告が被告にLAA向け製品を3251万4442円で売り渡す取引であることは,個別案件合意書(甲8)の記載から明らかであって,その記載に反して原告は売主でないと解すべき理由を認めることはできない。したがって,原告は,永楽からの買入価格と被告への売渡価格の差額を,取引に伴う諸経費及び利益として,当然に取得し得るものと解される。
この点に関し,被告は,原告は永楽から許諾料を得られるから,永楽と被告の間の取引を無償で仲介すべき動機があった旨を主張する。しかし,許諾料を得られるのは永楽が中国国内で製品を販売した場合とされるが(甲45),具体的な販売の予定や許諾料を受領し得る見込み等は証拠上明らかでないし,また,許諾料が発生する場合には原告と被告の双方に支払われることになる。そうすると,被告の主張によるとすれば,永楽の製造した製品を日本で販売するときは,被告のみが利益を取得し,原告は経費分を損失として負担することになり,また,中国で販売するときは,原告と被告が同様に許諾料を取得するということになるが,これは原告と被告の間の公平さを欠くものであって,合理的といい難い。したがって,被告の上記主張を採用することはできないと考えられる。
イ 被告は,被告が本件契約の締結に応じたのは原告の詐欺若しくは強迫によるものであるから本件契約を取り消し,又は被告には要素の錯誤があるから本件契約は無効である旨を主張する。しかし,前記事実関係によれば以下のように解することができ,これらの事情を勘案すると,詐欺若しくは強迫又は錯誤があったと認めることはできないと解すべきである。
(ア) 本件契約が締結された時点で,原告と被告の間には,本件取引②に加え,本件取引①及び③も進行していたのであって(甲13,14),このような複数の取引を継続的に行っている者の間で(原告と被告の間には,本件取引①~③以外にも,劇場用の椅子等の取引があった。甲44),一方当事者が他方当事者に対して詐欺や強迫等の手段を用いて過大な対価を要求したとは考え難い。
(イ) 本件契約の締結後も,原告と被告の取引は格別の支障なく続けられており,被告は,原告による詐欺又は強迫を理由に,取引を中止するなどしていない(被告が平成17年2月21日に原告に送付した内容証明郵便においても,原告の言う金額が永楽からの請求額であると信じ,かつ,原告代表者の大声に圧倒されて本件契約の締結に応じた旨の記載はあるものの,詐欺又は強迫があった旨の明確な記載はない。乙45,46)。
(ウ) 原告が,永楽と原告の間の取引価格につき,虚偽の事実を被告に告げたと認めるに足りる証拠はない。なお,被告は,本件契約の定める金額が永楽から請求された額である旨を原告から告げられたと主張するが,原告は,上記アのとおり,永楽との間の取引価格に諸経費及び利益を上乗せした額を被告に請求したとみるべきであるから,永楽の請求額をそのまま被告に伝えたとは考え難い。また,売主が仕入価格を買主に開示することはないのが通例であるから,原告が永楽との取引価格を告げなかったことをもって,詐欺に当たると評価することはできない。
(エ) 本件契約が締結された10月27日の時点で,原告代表者は,同月25日に永楽と取り交わした発注確認書に従って代金の半額を前納する必要があったことから,契約締結に難色を示す被告代表者に対し,語気を強めて署名押印を求めたと推認することはできるものの,被告代表者の意思を抑圧するような強迫に当たる言動があったと認めるに足りる証拠はない。他方,被告代表者は,原告に支払うべき金額が高い点には不満を抱いたものの,LAA関西から受注した椅子等を納期までに納入するためには契約締結の必要があると考えて,本件契約の締結に応じたと認められるのであって,その意思表示に瑕疵があるとは認められない。
ウ したがって,原告が永楽に支払った代金を上回る金員を被告から受領したことにつき,原告に不法行為又は不当利得が成立するということはできない。
(4)争点(3)(張地相当額)について
前記(1)ウのとおり,LAA向け製品に用いる張地は被告が提供するものとされ,被告は合計2268mの張地を送付した。この点に関し,被告は,実際に永楽が必要とした張地は1627mであるのに,原告はこれを超過する量の張地を送付させたと主張して,超過分の張地相当額につき不当利得の返還ないし不法行為による損害賠償を求めるものである。
しかし,原告が超過分の張地を領得したことをうかがわせる証拠はないから,原告に利得はなく,不当利得の返還が認められないことは明らかである。
また,前記のとおり原告と被告が継続的な取引関係にあったことに照らすと,LAA向け製品の製作に用いる張地の量につき,原告が,殊更に虚偽の事実を被告に告げて,被告に損害を被らせたと解すべき事情もうかがわれない。そうすると,不法行為をいう被告の主張も採用することはできないというべきである。
(5)争点(4)(増値税相当額)について
被告は,原告が増値税の還付を受けたことを前提に,これが不当利得になると主張してその返還を請求する。しかし,原告が増値税の還付を受けたことを示す証拠はないから,被告の上記主張は,前提を欠き,明らかに失当である。
(6)争点(5)(LAA向け製品の瑕疵)について
ア 被告は,LAA向け製品に瑕疵が存在したことにより損害を被ったと主張し,不法行為による損害賠償を請求する。しかし,前記(1)オ及び(3)アのとおり,原告と被告の間の本件契約は売買契約であり,また,本件契約には瑕疵担保に関する定めがあるから,売買の目的物(LAA向け製品)に瑕疵があったとすれば,本件契約の定めに従って損害賠償を請求すべきものである。したがって,不法行為をいう被告の主張を採用することはできないが,被告の主張は本件契約の規定に基づく損害賠償をいうものと解して,これに理由があるかどうかを検討する。
イ 被告が主張するLAA向け製品の瑕疵は,ビスの不足や破損,ひれ金具のねじれ,肘化粧板の穴の開け忘れ,テーブルの破損,溶接の外れ等であり,これらは隠れた瑕疵ではなく,直ちに発見することのできる瑕疵と解されるから,被告が損害賠償を請求するためには,引渡しの日から7日以内に,瑕疵が存在する旨を原告に対して書面で通知することを要する(本件契約5条1項)。そして,被告は平成16年12月27日までにLAA向け製品の引渡しを受けたのであるから,年末年始をはさむことを勘案しても,被告主張の瑕疵のうち,同月29日~31日の間及び平成17年1月6日に被告が原告に通知した瑕疵(①テーブルの左脚7本の不足,②継ぎアングル左右各11本の不足,③天板及び幕板各1枚の損傷,④中脚カバービス2072本の不足,⑤ダンパー止め金具の不足。乙39の2~4,7枚目)に限り,本件契約の定める瑕疵担保責任の対象になるというべきである。
そして,上記瑕疵による損害の額は,証拠(乙40の請求明細のうち1月6日~8日分の一部)及び弁論の全趣旨によれば,材料費及び人件費を合わせて,53万9093円(上記①につき22万円,②につき10万4000円,③につき11万円,④につき7万4343円,⑤につき3万0750円)であると認められる。
ウ したがって,被告は,原告に対し,瑕疵担保による損害賠償として,53万9093円を請求することができる。
(7)以上によれば,本件取引②については,原告が被告に対し247万7755円の,被告が原告に対し53万9093円の,各債権を有すると認められる。
3  本件請求及び反訴請求の当否
上記1及び2のとおり,原告は,被告に対し,本件取引①につき752万2200円,本件取引②につき247万7755円の合計999万9955円の債権を有する。他方,被告は,原告に対し,上記2のとおり本件取引②につき53万9093円の債権を有すると認められ,また,本件取引③につき543万5325円の債権を有することは当事者間に争いがないから,被告の原告に対する債権の額は,597万4418円となる。そして,原告及び被告の上記各債権が弁済期にあること,原告及び被告がそれぞれ自己の債権と相手方の債権を対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは,以上の説示から明らかである。
そうすると,原告の本訴請求は,402万5537円及びこれに対する原告が支払を請求した後である平成16年12月25日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると認められるが,被告の反訴請求は理由がないと判断するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 長谷川浩二)

 

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