【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(44)平成26年 5月 9日 東京地裁 平23(行ウ)407号 法人税更正処分取消等請求事件(第1事件、第2事件)、通知処分取消請求事件(第3事件)

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(44)平成26年 5月 9日 東京地裁 平23(行ウ)407号 法人税更正処分取消等請求事件(第1事件、第2事件)、通知処分取消請求事件(第3事件)

裁判年月日  平成26年 5月 9日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(行ウ)407号・平24(行ウ)92号・平25(行ウ)85号
事件名  法人税更正処分取消等請求事件(第1事件、第2事件)、通知処分取消請求事件(第3事件)
裁判結果  認容  上訴等  控訴  文献番号  2014WLJPCA05096002

要旨
◆同族会社であった原告が、海外親会社から原告子会社の株式を購入して購入価格よりも安く同子会社に譲渡し譲渡損失額を損金算入した上、連結納税制度を適用して同子会社と損益を合算し法人税の確定申告をしたところ、法人税法132条1項により本件譲渡損失額の損金算入を否認する旨の更正処分等を受けたため、各処分の取消しを求めた事案において、本件では原告をグループ内の中間持株会社として置いたことに正当理由ないし事業目的がなかったとはいい難い上、本件各株式譲渡に経済的合理性がないとまではいい難いなど、各譲渡を含む一連の行為に租税回避意図があるとはいえないことなどから法人税法132条1項所定の「不当」の要件を欠くとして、各処分を取り消した事例

新判例体系
公法編 > 税法 > 法人税法〔昭和四〇年… > 第二編 内国法人の法… > 第五章 更正及び決定 > 第一三二条 > ○同族会社の行為又は計算の否認
◆同族会社が、一〇〇パーセント子会社に当該子会社の株式を譲渡し、みなし配当額を譲渡対価額から控除して計算した譲渡損失額を損金の額に算入して欠損金が生じたことによる法人税の負担の減少をもって、法人税法第一三二条第一項にいう「不当」なものと評価することはできない。

 

裁判経過
上告審 平成28年 2月18日 最高裁第一小法廷 決定 平27(行ヒ)304号 法人税更正処分取消等請求事件、通知処分取消請求事件
控訴審 平成27年 3月25日 東京高裁 判決 平26(行コ)208号 各法人税更生処分取消等、通知処分取消請求控訴事件

評釈
岡村忠生・ジュリ 1483号37頁
髙橋祐介・ジュリ 1473号8頁
岡村忠生・ジュリ臨増 1479号211頁(平26重判解)
西山由美・WLJ判例コラム 42号(2015WLJCC003)
乙部竜夫・行政関係判例解説 平成26年 150頁
田島秀則・月刊税務事例 47巻2号1頁
藤曲武美・税務弘報 62巻12号148頁
竹内陽一・税理 57巻10号56頁
水野忠恒・国際税務 34巻11号72頁
岩品信明・ビジネス法務 14巻9号90頁
朝長英樹・T&A Master 558号4頁
朝長英樹・T&A Master 556号4頁
朝長英樹・T&A Master 554号4頁
朝長英樹・T&A Master 559号17頁
入谷淳・税務弘報 62巻10号85頁
品川芳宣・T&A Master 571号30頁
品川芳宣・TKC税研情報 23巻6号54頁
今村隆・税務弘報 64巻8号45頁

参照条文
法人税法2条10号(平18法10改正前)
法人税法2条10号(平15法8改正前)
法人税法4条の2第2号(平22法6改正前)
法人税法4条の3(平22法6改正前)
法人税法23条(平18法10改正前)
法人税法
法人税法23条(平15法8改正前)
法人税法23条(平14法79改正前)
法人税法24条1項5号(平18法10改正前)
法人税法24条1項(平18法10改正前)
法人税法24条1項5号(平14法79改正前)
法人税法24条1項(平13法80改正前)
法人税法24条1項(平13法6改正前)
法人税法57条1項(平23法114改正前)
法人税法57条1項(平22法6改正前)
法人税法57条1項(平18法10改正前)
法人税法57条1項(平14法79改正前)
法人税法61条の2第1項(平18法10改正前)
法人税法61条の2第1項(平13法6改正前)
法人税法81条の9(平23法82改正前)
法人税法81条の9(平22法6改正前)
法人税法81条の9(平18法10改正前)
法人税法81条の9(平16法14改正前)
法人税法132条1項1号
法人税法132条1項
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9条3項(平14法47改正前)
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9条4項1号
行政事件訴訟法3条2項

裁判年月日  平成26年 5月 9日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(行ウ)407号・平24(行ウ)92号・平25(行ウ)85号
事件名  法人税更正処分取消等請求事件(第1事件、第2事件)、通知処分取消請求事件(第3事件)
裁判結果  認容  上訴等  控訴  文献番号  2014WLJPCA05096002

平成23年(行ウ)第407号 法人税更正処分取消等請求事件(第1事件)
平成24年(行ウ)第92号 法人税更正処分取消等請求事件(第2事件)
平成25年(行ウ)第85号 通知処分取消請求事件(第3事件)

当事者の表示 別紙1「当事者目録」記載のとおり(同別紙で定める略称は,以下の本文及び添付の各別紙においても用いることとする。)
 

主文

1  本件の各事件の請求に係る各処分を別紙A「処分目録」記載のとおりいずれも取り消す。
2  訴訟費用は被告の負担とする。
 

事実及び理由

第1  請求
1  第1事件
別紙A「処分目録」第1項及び第2項に同じ。
2  第2事件
別紙A「処分目録」第3項に同じ。
3  第3事件
別紙A「処分目録」第4項及び第5項に同じ。
第2  事案の概要(以下使用する略称は,別紙2「略語表」中の「定義語」欄各記載のとおりであり,当該略称に係る定義は同別紙の「定義内容」欄各記載のとおりであり,本文及び添付の各別紙においても用いることとする。)
本件は,外国法人であるb社を唯一の社員とする同族会社であった原告(内国法人)が,平成14年2月に海外の親会社であるb社からc社の発行済株式の全部の取得(本件株式購入)をし,その後,平成17年12月までに3回にわたり同株式の一部をそれを発行した法人であるc社に譲渡(本件各譲渡)をして,当該株式の譲渡に係る対価の額(利益の配当とみなされる金額に相当する金額を控除した金額)と当該株式の譲渡に係る原価の額との差額である有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上損金の額にそれぞれ算入し,このようにして本件各譲渡事業年度において生じた欠損金額に相当する金額を,平成20年1月1日に連結納税の承認があったものとみなされた連結所得の金額の計算上損金の額に算入して平成20年12月連結期の法人税の確定申告をしたところ,処分行政庁が,法人税法132条1項の規定を適用して,本件各譲渡に係る上記の譲渡損失額を本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することを否認する旨の更正の処分(本件各譲渡事業年度更正処分。甲1,2及び4)をそれぞれするとともに,そのことを前提として,①平成16年12月期,平成18年12月期及び平成19年12月期並びに平成20年12月連結期の各法人税の更正の処分(甲3,5,6及び127の1),②平成21年12月連結期及び平成23年12月連結期の各法人税の更正の処分及び各過少申告加算税の賦課決定処分(甲35の1,甲147の1及び乙62)並びに③原告がした平成22年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(平成22年分更正の請求。甲A4)に対する更正をすべき理由がない旨の通知の処分(平成22年分通知処分。甲A5)をそれぞれしたため,原告が,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)は同項の規定を適用する要件を満たさずにされた違法なものであるとして,本件各更正処分等の取消しを求める事案である。
1  関係法令の定め
別紙3「法人税法の定め」に記載したとおりである(同別表に記載した規定に係る改正及び適用の関係は,同別紙に記載したとおりである。)。
2  前提となる事実関係
本件の各事件の前提となる事実関係は,別紙4「前提となる事実関係」に記載のとおりである(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者において争うことを明らかにしない事実である。以下「前提事実」という。なお,同別紙に記載された法令の改正の関係については,以下においてはそれに係る記載を全て省略する。)。
3  本件各更正処分等の根拠及び適法性に関する被告の主張
後記5に掲げるほか,別紙5「本件各更正処分等の根拠及び適法性」に記載のとおりである。
4  争点
(1)  本件各譲渡による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が本件各譲渡事業年度において原告の所得の金額の計算上損金の額に算入されて欠損金額が生じたことによる法人税の負担の減少が,法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができるか否か(争点1)
(2)  前記(1)において法人税の負担の減少が法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができる場合に,処分行政庁による本件各譲渡事業年度の課税標準等に係る引き直し計算が適法であるか否か(争点2)
(3)  本件更正理由(甲1,2及び4)に理由の附記の不備による違法があるか否か(争点3)
5  争点に関する当事者の主張の要点
前記4に記載した各争点に関する被告の主張の要点は別紙6のとおりであり,原告の主張の要点は別紙7のとおりである。
第3  当裁判所の判断
1  法人税法132条1項について
法人税法132条1項は,税務署長は,内国法人である同族会社(同項1号)に係る法人税につき更正又は決定をする場合において,その法人の行為又は計算で,これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず,税務署長の認めるところにより,その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨を定めており,同項は,その趣旨,目的に照らすと,上記の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かを,専ら経済的,実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理,不自然なものと認められるか否かを基準として判定し,このような客観的,合理的基準に従って同族会社の行為又は計算を否認する権限を税務署長に与えているものと解するのが相当である(最高裁昭和53年判決参照)。
2  争点1(本件各譲渡による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が本件各譲渡事業年度において原告の所得の金額の計算上損金の額に算入されて欠損金額が生じたことによる法人税の負担の減少が,法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができるか否か)のうち本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることが法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価されるべきであるとして被告が主張する評価根拠事実について
被告は,本件において,本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることは法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価されるべきである旨主張し,その評価根拠事実として,①原告をあえてc社の中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いこと,②本件一連の行為を構成する本件融資は,独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること及び③本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められることを挙げるから,順次検討を加えることとする。
3  原告をあえてc社の中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いか否か(前記2①)について
(1)  認定事実
前提事実,後に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によれば,次のような事実が認められる。
ア 「中間持株会社(H型)」の意義及びその役割について
(ア) 持株会社の定義
我が国の法令においては,持株会社は,「子会社(中略)の株式(中略)の取得価額(最終の貸借対照表において別に付した価額があるときは,その価額)の合計額の会社の総資産の額(中略)に対する割合が100分の50を超える会社」と定義されており(原告が日本における○○グループを成す会社の持株会社とされた当時(平成14年4月22日当時)につき,同年法律第47号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9条3項参照),全経済活動に関する国際標準産業分類(ISIC)第4版においては,持株会社は,「財務活動を行い,子会社グループの支配的水準の持分を主要な資産として保有するが,当該子会社の事業に対してその他の役務を提供することはない単位組織」をいうものとされ,持株会社は,子会社に対して戦略又は経営機能を提供しないものとされるとともに,そのような機能を提供するもの(本部)については,「企業の他の単位組織の監督及び管理,会社又は企業における戦略的又は組織的な企画及び意思決定,並びに関連する単位組織の日常的な業務管理及び運営」を含むものとして定義されている。(甲81,128)
(イ) 「中間持株会社(H型)」の定義等
米国の多国籍企業は,完全子会社又は過半数の発行済株式を所有する子会社の階層から成る複雑なネットワークの構造を形成していることをその一つの特徴としているところ,そのような構造の中で,上層の組織の子会社でありながら自らも子会社を有する会社を中間会社と称することがある。そのような中間会社には,①事業と子会社の経営を同時に行ういわゆる事業会社(中間事業会社),②経営全般及び戦略機能を担う会社(「中間本部(M型)」)及び③財務的活動を行うが経営全般又は戦略機能を有しない会社(「中間持株会社(H型)」)の3つのものがあるとされる。そして,米国の多国籍企業は,「中間持株会社(H型)」を一般的かつ広範に利用しているとされる。(甲81,82,84,128,129)
(ウ) 「中間持株会社(H型)」の意義,役割等
a 「中間持株会社(H型)」は,「中間本部(M型)」と異なり,常勤の役員や従業員がほとんどいない又は全くいないことがあるとされ,その役員ないし取締役は,多くの場合,当該「中間持株会社(H型)」の親会社,子会社又はいわゆる兄弟会社等のいずれかの役員であるとされる(甲81)。
b 「中間持株会社(H型)」に該当するとされる持株会社は,配当施策を決定するなどの資金管理を集中的に行う機能を必ず有しているものとまではいえず,その存在自体にいわゆる金融仲介機能に係る法的,経済的な固有の意義があるとされる場合がある(甲81,128,129)。また,事業所在地国内の中間持株会社が企業を買収するということそれ自体に,他の方法(事業所在地国内の中間事業会社又は当該国外の親会社若しくは子会社)による企業の買収と比較し,買収を先行させて組織上の位置付け等を買収後に検討することを可能にするなどの取引の柔軟性を確保したり,取引のコストを減少させたりすることができるという独自の役割を有するとされる(甲39,81)。
イ 原告が関与した事例に係る事情等
(ア) c社等4社を原告の子会社とした事情等
a社及び○○グループにおいては,製造と販売を異なる事業と認識し,各国に1社ずつ販売事業者を置くものとされ,日本においては,c社が販売事業を行うための会社との位置づけがされていた。他方,製造事業については,世界中での販売事業における需要に応えるためにa社が直轄で管理するものとされていたところ,a社及び日本における○○グループにおいては,c社の事業と指揮や命令の系統が異なる事業は,c社と分離しておくことが経営管理上必要かつ当然であると考えられており,そのような事業がc社の決算等に影響を与えないようにすることが必要であると考えられていた。
b社が原告の持分を取得した当時,日本における○○グループを成す会社には,c社以外に,アジア太平洋地域にある○○グループの事業を支援していたd社並びに製造事業を行うf社(液晶パネルの製造)及びe社(半導体等の製造)があったが,これらについては,上記のとおり,c社と全く事業内容が異なっていたため,d社,f社及びe社について,c社の子会社としてc社の業績に反映させることは考えられていなかった。(甲38,弁論の全趣旨)
(イ) a社が主導した企業の買収に係る事情等
a 日本における◎◎の買収
k社によるコンサルティング業務に係る事業(s社)のうち日本におけるものは,従業員約1650名を擁する大きな事業であったところ,○○グループが全世界においてs社を買収するに当たり,日本においては,(a)いわゆる企業文化,労働条件等がc社と全く異なっていること等から,コンサルティング業務に従事している者の市場における流動性が高いこともあって多数の従業員が退職するおそれがあったこと,(b)システムの設計と構築を分離して発注する日本の官公庁による慣習の下では,c社がこれまで受注してきたシステムの構築業務の受注をすることができなくなるおそれがあったこと,(c)日本におけるs社は,c社の競業会社を顧客としており,これらの顧客から契約を解除されるおそれがあったこと,(d)o株式会社の社長が,c社の社長(当時)であったA4よりもc社の入社年次の高いA5であったため,同人の処遇の問題が生じることという諸事情があったことから,これらの事情を踏まえ,a社は,c社にo株式会社を直接吸収合併させるよりも,同社からその事業を譲り受けたl社を原告の子会社とし,当分の間,c社といわゆる兄弟会社の形とする方が妥当であると判断し,実際にもl社(商号の変更後はl1社)をc社に吸収合併させるまでに約7年半を要した(甲38,39,46,64,69)。
b j社及びm社の買収
j社及びm社の買収については,原告は,これらの会社の株式を短期間保有したのみであり,その後にc社がこれらの会社をいずれも吸収合併している(前提事実3(3)イ及びウ参照)ところ,これは,これらの会社の規模が小さく,最終消費者がいないために買収先の企業文化の尊重等の時間をかけて調整すべき課題が少なかったことに起因するものである(甲46)。
(ウ) c社による独自の企業の買収の検討等
c社は,a社によるものとは別に日本独自の企業の買収を具体的に検討し,A6が,平成11年7月,買収の候補となった会社の社長に対し,直接,買収の申入れをするなどの具体的な努力をしたことがあったものの,その際に,c社が直接買収することに対する強い抵抗感を示されるなどしたため,原告をいわゆる受皿会社として使用することにより,c社とは別系列の同格の組織とするような買収の仕組みを整備することによって,企業の買収が容易になるものと期待されていた。もっとも,日本には,○○グループの事業戦略上の補完ができ,いわゆるシナジー効果を見込むことができるような適正な価格のソフトウェアの開発等に携わる会社が極めて少なかった。(甲38,39)
ウ a社に係る税額控除の繰越しの状況等
米国連邦税法上,米国外で課税された所得について当該外国で課された税額を法人所得税の額から控除すること(外国税額の控除)等が認められ,各国から送金される配当等に対して各国政府によって課された源泉所得税は上記の外国税額の控除により調整されて国際二重課税が排除されるのが原則である(前提事実2(5)参照)が,米国においては一定額以上の収入がある場合にこれらの損金への算入や税額控除(外国税額の控除を含む。)を制限する制度(いわゆる代替ミニマム税ないし最低ミニマム税。甲75)があり,これにより控除が認められなかった本来の税額控除の対象となる額(外国税額を含む。)は将来の事業年度に持ち越される(税額控除の繰越し。ただし,所定のいわゆる繰越期間を経過するとこれを回収することができない。)ところ,2002年(平成14年)頃,a社においては,税額控除の繰越しが多額(例えば,同年のa社の税額控除の繰越額は,22億3400万米ドル(当時の換算レートによる邦貨換算で約2678億5660万円)である。甲27)になっており,外国税額についても直近の事業年度で調整の対象とされず,直ちには国際的二重課税が解消されない状況にあった。
b社が原告の持分を取得する前は,c社がb社に対してした配当(配当とみなされる自己の株式の取得を含む。)には支払金額の10%の源泉所得税(所得税法161条5号,212条1項,213条1項1号,日米租税旧条約(平成14年当時のもの)12条2項(b))が課される一方,上記のとおり,a社は,多額の税額控除の繰越しを抱えていたために,上記の源泉所得税の額に係る税額控除を直ちには受けられない状況にあった。
他方,b社が原告の持分を取得した後は,原告が米国に送金すべき金銭の一部を貸付金(本件融資)の元本の返済(これには源泉所得税が課されない。)として米国に送金することになり,当該貸付金の利子の支払に当たる部分には源泉所得税が課されたものの,従来に比べると源泉所得税が課される対象となる部分が縮減した。また,c社が原告に対して利益の配当又は自己の株式の取得による金銭の交付としての金銭の支払をした際に徴収する源泉所得税(所得税法174条2号,212条3項)の税率は20%(同法213条1項1号)であったが,これは原告の法人税の額と調整され,原告に所得がない場合には還付されるものであり(同法174条2号,法人税法68条1項,74条1項3号(平成22年法律第6号による改正前のもの),75条の2第1項(平成22年法律第6号による改正前のもの),78条1項(平成14年譲渡については平成14年法律第79号による改正前の法人税法79条1項)),現に,原告は,本件各譲渡の際にc社が源泉徴収した源泉所得税の額については,本件各譲渡事業年度の法人税の確定申告をすることによりその全額の還付を受けている(甲78の1ないし3)。そして,いずれの事業年度においてもおおむね源泉所得税の納付(1月)の翌々月(3月)には還付を受け,還付を受けた額に相当する金銭についても借入金の返済等としてb社に送金していた。(甲27,48,49,75,78の1ないし3,弁論の全趣旨)
(2)  前提事実及び前記(1)に認定した事実によれば,原告は,①a社が主導的にした日本における○○グループを成す会社に係る組織の再編における持株会社又は企業を買収した複数の案件における受皿会社としてそれぞれ一定の役割を果たしたとはいえないとまではいい難いし,②資金を柔軟に移動させることを可能としたり○○グループに係る租税の負担を減少させたりすることを通じて○○グループが必要とする資金をより効率的に使用することを可能とするような一定の金融上の機能(金融仲介機能)を果たしていないともいい難い上,③上記の企業を買収した複数の案件以外の企業を買収する案件における受皿会社としての一定の役割を果たすことも期待されていたことも一概に否定し難いと認められる。上記①ないし③を前提とすれば,原告に持株会社としての固有の存在意義がないとまでは認め難いというべきである上,企業グループにおける組織の在り方の選択が基本的に私的自治に委ねられるべきものであることや,法令上,外国にある持株会社と我が国にある事業会社との間に有限会社である持株会社を置くことができる事由を限定する規定が見当たらないことも考慮すると,b社とc社との間に中間持株会社としての原告を置いたことに税負担の軽減以外の事業上の目的が見いだせないともいい難いというべきである。
以上によれば,原告を日本における○○グループを成す会社に係る中間持株会社として置いたことに正当な理由ないし事業目的がなかったとはいい難いというべきであり,他に原告が中間持株会社として置かれることの正当な理由又は事業目的があったとはいい難いことを裏付ける証拠ないし事情等は見当たらない。被告は,①日本再編プロジェクトにおいて企図された原告を中間持株会社として置くことに係る4つの目的(甲23の1)の多くを原告が達成した旨の原告の主張が失当である,②原告が持株会社としての実質的役割を果たしていないなどと主張するが,上記に述べたとおりであっていずれも採用することができない。
4  本件一連の行為を構成する本件融資は,独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであるか否か(前記2②)について
本件融資の具体的内容は,前提事実4(2)アないしオに述べたとおりであるところ,前提事実1(1)イに述べたとおり,原告は,本件融資のされた当時,c社等4社の発行済株式の全部を保有していた上,前提事実1(1)によれば,基本的にいずれも○○グループに属するb社及びc社以外の者と債権債務関係が発生することが想定されていないことが認められるから,これらの事情を前提とすれば,前提事実4(2)アないしオに述べた内容でされた本件融資が,独立した当事者間の通常の取引として到底あり得ないとまでは認め難いというべきである。被告は,本件融資が原告にとって極めて有利な内容である上,当初から約定どおりに返済されることも予定されていなかったとうかがわれる旨を指摘するが,これらの事情はいずれも上記の認定判断を直ちに左右するものとまではいい難く,他に,本件融資が独立した当事者間の通常の取引として到底あり得ないというべきことをうかがわせる証拠ないし事情等も格別見当たらない。
5  本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められるか否か(前記2③)について
被告は,本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められるとして,①本件株式購入及び本件各譲渡は経済的合理性がないこと,②原告に有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が生ずることとなった経緯からa社が税負担の軽減を目的として意図的に原告に有価証券の譲渡損を生じさせるような事業目的のない行為である本件一連の行為をしたことを推認することができること,③原告が中間持株会社として置かれた当初からいわゆる連結納税制度を利用して本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが想定されていたことが合理的に推認されること及び④本件につき法人税法の適用のない米国法人が濫用的にその適用を受けて租税回避を企図したものと評価することができることをその評価根拠事実として挙げるから,順次検討を加える。
(1)  本件株式購入及び本件各譲渡は経済的合理性がないか否か
ア 本件株式購入については,前提事実4(2)に述べたとおり,c社等4社の時価総額の評価をしたh社は,○○グループに属する会社(子会社又は関連会社)ではなく,いわゆるファイナンシャルアドバイザリーサービスの専門業者であるところ,△△評価書(乙30)に記載された非上場会社であるc社の株式に係る評価手法及び時価純資産価額が,専門的知識及び経験に基づく適正なものとはいえないことをうかがわせる事情等を認めるに足りる証拠はない(むしろ,株式の公正な市場価値(時価)は,その会社の売上高に対する倍率を計算し,その倍率を同様の条件下にある企業と比較することによっても一応の評価をすることが可能であることが認められる(甲163)ところ,これを前提とすれば,平成13年12月31日時点におけるc社の発行済株式の全部の公正な市場価値は3兆9693億円と計算されることとなり(甲165,166,弁論の全趣旨),△△評価書(乙30)における評価額を大幅に上回るから,実際の本件株式購入における株式の売買価格(1兆9500億円)が過大な評価とまでは断定し難いことがうかがわれる。)から,本件においては,△△評価書(乙30)に記載されたc社の発行済株式の全部に係る価額(1兆7795億円から1兆9760億円)が時価純資産価額として不適切なものであるとまでは認め難く,同評価書(乙30)に依拠して本件株式購入に係る取得の価額を決定したことが不自然,不合理であるともいい難いというべきである。
なお,被告は,①c社が,平成14年2月ないし3月,n銀行に対し,c社等4社の時価総額を約9000億円(約80億ドル)と伝えていたところ,この時価総額とh社が評価したc社等4社の株式に係る適正な時価純資産価額(1兆8000億円から1兆9966億円)との間には約2倍,金額にすると1兆円もの差が生じていたとして,原告が,本件株式購入におけるc社の株式の取得の価額につき△△株式評価書(乙30)を唯一のよりどころとして1兆9500億円と決定したことが極めて不自然である旨や,②△△株式評価書(乙30)に,平成14年度から平成16年度までのc社の業績予測及び予測されるキャッシュフローについての記載はあるものの,株式の価値を算定する根拠となった平成17年度以降のキャッシュフローの予測については具体的な記載がないとして,同評価書(乙30)に記載された価額が時価によるものであるか否かが疑わしい旨を主張するが,上記に述べたとおりであって,いずれも上記の認定判断を直ちに左右するものではなく,採用することができない。
イ 本件各譲渡については,①前提事実1(2)に述べたとおり,c社の平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度以降の事業年度の純利益が平成14年度のそれと比較して減少している(別紙9参照)一方で,c社が自己の株式を取得する度に取得した自己の株式の全部を直ちに消却しており(前提事実4(3)参照),c社が自己の株式を取得する度に1株当たりの価値が上昇していたこと,②本件各譲渡が非上場会社に係る自己の株式の取得であること及び③新たな時価純資産価額を算定するためには高額の費用を要することが容易に想定されることに加え,前記アに述べたところも併せ考慮すれば,直近の取引実例に係る価額である本件株式購入時の価額(1株当たり127万1625円)を用いてそれとほぼ同額とするように本件各譲渡におけるc社の株式の1株当たりの譲渡の価額を決定したとしても,それが不合理,不自然であるとまでは断定し難いものというべきである。
なお,被告は,平成14年譲渡及び平成17年譲渡において,それぞれ譲渡する株式数や取得の価額の変更がされた際に原告がこれに主体的に関わっていない旨を指摘し,原告が,本件各譲渡に係る代金の決定過程において,売主又はc社の株主として,独自の意思決定を行うなど主体的かつ合理的に行動した形跡はなく,本件各譲渡における原告の行動が独立の経済主体として不自然,不合理なものである旨主張するが,これまでに述べたところに加え,上記の変更等に係るc社の取締役会における説明を原告の取締役を兼務するA7(平成14年譲渡)又はA8(平成17年譲渡)がするなどして原告においても上記の取引に相応に関与していること(前提事実4(3)ア(ウ)及びウ(ウ)参照)にも照らすと,この点が,上記の認定判断を直ちに左右するものとまではいい難いというべきであるから,上記の被告の主張は,採用することができない。
ウ 以上によれば,本件株式購入及び本件各譲渡については,いずれも,経済的合理性のないものであるとまではいい難いというべきであり,他にこれと異なる認定をすべきことをうかがわせる証拠ないし事情等も格別見当たらない。
(2)  原告に有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が生ずることとなった経緯からa社が税負担の軽減を目的として意図的に原告に有価証券の譲渡損を生じさせるような事業目的のない行為である本件一連の行為をしたことを推認することができるか否か
後に掲記する証拠によれば,(a)A9が平成14年譲渡に係るc社の株式の1株当たりの価額を算定する際,誤って時価純資産価額による算定(本件株式購入における取得の価額に基づく価額の算定)をせずに簿価純資産価額を用いる方式による算定をしてc社の財務部門に算定の結果(1株当たりの価額を30万5586円とするもの)を回答し,平成14年11月27日に開催されたc社の取締役会(日本再編プロジェクトの目的を知っていたA6やA4も出席し,日本再編プロジェクトの実務を担当していたA7も説明者として参加している。)において,上記の価額を基に自己の株式の取得の価額の総額及び取得する株式数が決定されたところ,その際,同取締役会に出席していた取締役や監査役からも取得の価額や取得する株式数に関して特段の意見が出たとはうかがわれないこと(甲47,乙33の2,34,35,38ないし40),(b)同年12月24日に開催された同社の取締役会において,A4が上記の価額を基に自己の株式の取得をしたことの報告(自己の株式の取得の価額の総額及び取得した株式数を含む。)をし,取得した株式の全部を消却することが決定されたところ,その際,同取締役会に出席していた取締役や監査役からも取得の価額や取得した株式数に関して特段の意見が出たとはうかがわれないこと(乙36),(c)c社の財務部門が,同月27日時点において,自己の株式の取得に係る対価の全額がみなし配当の額とみなされるという前提で平成14年譲渡に係る源泉所得税の額を計算していたこと(甲66の1・2),(d)A10が,平成14年譲渡の結果原告に生じた多額の税務上の損失について,これを使用する見込みがないことからa社の連結財務諸表に何らかの記載をする必要はないという判断をし,実際にも2007年(平成19年)に至るまでa社の連結財務諸表上本件各譲渡により原告に生じた有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額について何も記載していなかったこと(甲27,48,92),(e)平成14年譲渡の後,原告の財務諸表上繰延税金資産(繰越欠損金)を計上すべきかが検討された際,これを計上しないものとされ,2007年(平成19年)に至るまでa社の連結財務諸表の作成に当たって○○グループの繰延税金資産を精査する業務に従事していた者(A11)にも原告に有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額(本件各譲渡の合計で約3995億円)が生じていることが伝えられていなかったこと(甲43,44,51)の各事実が認められるところ,これらの事実は,いずれも,a社が本件各譲渡に基づいて原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を利用して税負担を軽減する目的でこれを意図的に発生させた旨の被告の主張と整合し難い事実である。これに加え,前記3及び4に述べたとおり,原告をc社の中間持株会社として置いたことに正当な理由ないし事業目的がないとはいい難く,かつ,本件株式購入及び本件各譲渡が経済的合理性のないものともいい難いことを併せ考慮すると,本件においては,a社が,税負担の軽減を目的として意図的に有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を生じさせるような事業目的のない行為(本件一連の行為)をしたとまでは認め難いというべきである。以上と異なる被告の主張は全て採用することができない。
(3)  原告が中間持株会社として置かれた当初から連結納税制度を利用して本件各譲渡により原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが想定されていたことが合理的に推認されるか否か
ア(ア) 前提事実2(4)ウ(キ)に述べたとおり,平成13年10月9日に公表された「連結納税制度の基本的考え方」(甲104)においては,外国法人の子会社が連結親法人として認められるかどうかは明確にされておらず,連結納税制度の適用対象となる子会社につき時価による評価をする対象から除外される場合も具体的に記載されていなかったから,これによれば,原告が連結納税の承認の申請をした場合に国税庁長官の承認を受けることができるか否か又は連結納税の承認を受けた場合にどのような得失が生ずるかが日本再編プロジェクトをa社が承認した時点(遅くとも同年11月)においては不明であり,連結納税の承認を受けることを具体的に想定することができたとはいい難い状況であったことがうかがわれる。
(イ) 前提事実,証拠(甲48,50,59の2)及び弁論の全趣旨によれば,①3月22日議事録(甲59の2)には,「連結納税の可能性」という表題の下,「将来において,日本における○○グループが連結納税申告を提出することの可否/その場合の費用への影響」として,(a)A12が,新しい日本の連結納税制度を追求するつもりがない旨を指摘した旨,(b)A13が,株主が1名であるという前提で自己の株式の取得に係る授権をする決議を行っているため株主が2名になると面倒である旨指摘した旨及び(c)A14が,c社はいつでも原告が保有することになるc社の株式の割合を100%未満にするためにb社に対して追加の株式を発行することができるため,a社の権利は確保できている旨を指摘した旨がそれぞれ記載されていること,②A14が上記①(c)のような指摘をしたのは,完全支配関係がある法人につき連結納税制度が強制的に適用される国があることを念頭に,そのような適用を回避するためであったことが認められるところ,これらの事実は,原告を中間持株会社として置くことを検討していた段階(平成14年3月22日)において,連結納税の承認を受けず,むしろ連結納税制度の適用を避けることについて議論がされていたことを示しており,原告が中間持株会社として置かれた当初から将来に連結納税の承認を受けることを想定していたこととは必ずしも整合しない議論がされていたことがうかがわれる。
(ウ) 原告が中間持株会社として置かれた後においても,欠損金の繰越期間の制限(当時は5年。「連結納税制度の基本的考え方」(甲104)及び平成16年法律第14号による改正前の法人税法81条の9第2項参照)との関係で,原告が,連結納税制度が導入された当時(平成14年当時),仮に少なくとも近い将来に連結納税の承認を受けることを想定していたとすれば,一定の時期にc社の資産を時価により評価するなどの方策を講じない限り,平成14年譲渡により原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額が連結所得の金額の計算上損金の額に算入されることもなかったことになるところ,弁論の全趣旨によれば,子会社であるc社の資産を時価により評価することとなれば一時に多額の評価益が発生する状況であったことが認められ(なお,本件において,c社につき適格合併(法人税法2条12号の8)をしなければならないような法令の定めに基づく必要性があったことや,それをすることがa社及び○○グループにとって顕著な経済的合理性を有する行為であったことを裏付ける証拠ないし事情等は見当たらない。),原告が連結納税の承認を受けて平成14年譲渡により原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することは現実的でなかったことがうかがわれる。
そうすると,仮に,○○グループにおいて本件一連の行為の当初から又は近い将来に連結納税の承認を受けることを想定していたとすれば,平成14年譲渡をしないこと又はこれをするとしてもそれを小規模なものにとどめることとするのが合理的であると考える余地もあることになるが,実際には平成14年譲渡の規模が平成15年譲渡よりもはるかに大きい(約9倍。前提事実4(3)ア及びイ参照)上,平成16年には原告からc社に対する株式の譲渡がされていない(前提事実4(3)エ参照)のであり,原告が,平成14年当時から少なくとも近い将来に連結納税の承認を受けて本件各譲渡により原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することを想定していたことと必ずしも整合しない行為をしていることがうかがわれる。
(エ) A10は,平成14年譲渡がされた頃,平成14年譲渡に伴って原告に日本の税務上の損失(有価証券の譲渡に係る譲渡損失額)が発生することを知り,当該損失がa社の連結財務諸表の記載に影響を及ぼす可能性があるか否かをA15と検討したものの,結局,これを使用する見込みがないことからa社の連結財務諸表中の繰延税金資産に係る記載に変更を加える必要はないとの結論に至った(甲27,48,92,93)ことが認められるところ,a社の連結財務諸表中の繰延税金資産に係る記載を変更しない限り,原告に税務上生じた上記の損失を利用することができない(甲92,93)から,原告が中間持株会社として置かれた当初から少なくとも近い将来に連結納税の承認を受けて本件各譲渡により原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが想定されていたのであれば,2002年(平成14年)ないしはそれに近接した事業年度のa社の連結財務諸表中の繰延税金資産に係る記載(甲27)を変更することになったと考えるのが自然であるとも解されるが,実際には,2007年(平成19年)に至るまで本件各譲渡により原告に生じた有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額をa社の連結財務諸表中の繰延税金資産に記載しようとしていなかったのである(甲26,弁論の全趣旨)。
このように,a社は,平成14年当時から少なくとも近い将来に連結納税の承認を受けて本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することを想定していたことと必ずしも整合しない行為をしていることがうかがわれる。
イ 前記アに述べたところに加え,(あ)平成14年9月期の決算処理をする際に送信された本件A16メール(甲24)に「現段階で日本で連結納税申告を申請することに前向きではない」との記載があることや,(い)前提事実2(4)エに述べたとおり,欠損金の繰越期間の制限が7年に延長され,かつ,平成13年4月1日以後に開始した事業年度において生じた欠損金額に遡って適用されるという平成16年法律第14号による法人税法の改正(平成16年度税制改正)がされたところ,原告が,そのことによって初めて,連結納税の承認を受けることにより,子会社であるc社の資産について時価による評価をすることなく平成14年譲渡により原告に生じた有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが可能となったことも前提とすれば,a社が,日本再編プロジェクトの実行を承認した当時(遅くとも2001年(平成13年)11月)において,原告について少なくとも近い将来に連結納税の承認を受けて本件各譲渡により原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することを想定した上で同プロジェクトの実行を承認し,その後,a社及び○○グループが,それを想定して本件各一連の行為をしてきたものとまでは認め難いというべきである。
被告は,①税制改正の客観的経過(前提事実2(4)参照)からa社及び○○グループが原告につき連結納税の承認を受けて本件各譲渡により原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することを想定していたことを合理的に推認することができる,②a社及びc社が本件株式購入の前に連結納税の承認を受けることについて検討している,③連結納税制度の導入から本件連結納税承認申請に至るまでの間に原告が連結納税の承認を受けることを決断させるような事情の変化がないなどの事情を指摘し,原告が中間持株会社として置かれた当初から連結納税の承認を受けて本件各譲渡により原告に生ずる有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが想定されていたことを合理的に推認することができる旨を主張するが,被告の指摘するところは,いずれも,上記に述べたところに照らし,上記の認定判断を直ちに左右するものとまではいい難いから,上記の被告の主張は採用することができないものというべきである。
(4)  本件につき法人税法の適用のない米国法人が濫用的にその適用を受けて租税回避を企図したものと評価することができるか否か
被告は,この点につき,本件株式購入及び本件各譲渡は,米国法人であるb社(ひいてはその連結親法人であるa社)が,我が国の法人税法が適用されることにより生ずる税負担の軽減効果を日本国内における子会社(原告)を通じて実質的に享受することができるようにするため,実態としては米国法人(b社)にc社の株式の譲渡に係る取引による損益が帰属するにもかかわらず,これを形式的に内国法人に帰属させる形にするためにあえて原告を介在させ,その法的性質を課税所得を有しない内国法人(原告)への配当(自己の株式の取得によるみなし配当)と外国法人(b社)への借入金の返済という二つの法形式に分解し,原告に我が国における多額の税務上の有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を計上させ得る外形を作出して行われたものというべきであり,本件株式購入及び本件各譲渡以前にb社とc社との間で行われていた直接の同社の株式の譲渡に係る取引を変更すべきものとする正当な事業上の目的がないことを併せ考慮すると,本件のc社の自己の株式の取得における原告の関与及びこれに係る法人税の申告は,我が国の法人税法が定める自己の株式の取得に関する課税の計算の制度(同法24条1項5号,23条1項及び61条の2第1項)を濫用して租税回避を企図したものというべきである旨主張するが,a社ないし原告が上記に指摘するような法的な枠組みを構築して自己の株式を取得すること等を禁止する法令上の明文の規定が見当たらないことに加え,これまでに述べてきたところに照らすと,被告が主張するような事実が認められるとはいい難いのであり,他に,被告が主張するような事実を認めるに足りる証拠ないし事情等も格別見当たらない。
(5)  まとめ
以上に述べたように,本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められる旨の評価根拠事実として被告が挙げるいずれの事実についても,これを裏付けるものと認めるに足りる証拠ないし事情があるものとは認め難いというべきである。
6  小括
以上によれば,本件においては,本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることが法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価されるべきであると認めるには足りないというべきである。
したがって,本件については,税務署長が同項の規定を適用して本件各譲渡年度の法人税につき更正をすることができる要件を満たしているとは認め難いというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件各譲渡事業年度更正処分は違法なものとして取消しを免れないというべきである。
第4  結論
これまで述べたところに加えて,本件全証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各事業年度の法人税に係る所得の金額若しくは連結所得の金額,納付すべき法人税の額又は翌期へ繰り越す欠損金額若しくは連結欠損金額については,別紙8「本件各事業年度の法人税について」に記載のとおり認めることができ,この認定判断を左右するに足りる証拠ないし事情は見当たらない。
よって,原告の請求は理由があるからこれらをいずれも認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八木一洋 裁判官 福渡裕貴 裁判官 川嶋知正)

別紙A
処分目録
1 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした
(1) 原告の平成14年10月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正の処分のうち,欠損金額1982億1046万5085円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金額2027億6029万5081円を超える部分(なお,本別紙においては,以下,所得の金額又は納付すべき税額が増加する方向をプラス,欠損金額又は還付金の額に相当する税額が増加する方向をマイナスと見て,ある金額よりもプラス方向の部分を「超える部分」と表現することとする。)
(2) 原告の平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正の処分のうち,欠損金額212億7598万7981円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金額2240億3628万3062円を超える部分
(3) 原告の平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正の処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金額2240億4377万2635円を超える部分
(4) 原告の平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正の処分のうち,欠損金額1803億0334万2588円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金額4043億4681万3619円を超える部分
(5) 原告の平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正の処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金額4038億9565万2113円を超える部分
(6) 原告の平成19年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正の処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金額4040億1810万0254円を超える部分
をいずれも取り消す。
2 日本橋税務署長が平成24年3月27日付けで原告に対してした原告の平成20年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度の法人税の更正の処分のうち,連結所得の金額0円を超える部分,還付金の額に相当する法人税の額162億4591万8828円を超える部分及び翌期へ繰り越す連結欠損金額2862億9003万5794円を超える部分をいずれも取り消す。
3 日本橋税務署長が平成23年6月20日付けで原告に対してした原告の平成21年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度の法人税の更正の処分(ただし,日本橋税務署長が平成24年3月27日付けで原告に対してした原告の平成21年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度の法人税の更正の処分により一部取り消された後のもの)のうち,連結所得の金額0円を超える部分,還付金の額に相当する法人税の額3億2562万0870円を超える部分及び翌期へ繰り越す連結欠損金額1878億1666万6834円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,日本橋税務署長が平成24年3月27日付けで原告に対してした原告の平成21年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度の過少申告加算税の賦課決定処分の変更の決定により減額された後のもの)をいずれも取り消す。
4 日本橋税務署長が平成24年9月28日付けで原告に対してした原告の平成22年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度の法人税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知の処分を取り消す。
5 日本橋税務署長が平成25年6月28日付けでした原告の平成23年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度の法人税の更正の処分のうち連結所得の金額156億5604万0947円を超える部分及び還付金の額に相当する法人税の額40億5255万7340円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
以上
別紙1
当事者目録
東京都中央区〈以下省略〉
第1事件ないし第3事件原告(以下「原告」という。) 有限会社X
同代表者取締役 A1
同代理人弁護士 宮崎裕子
同 鳥羽衞
同 神田遵
同 南繁樹
同 森大樹
同 遠藤努
東京都千代田区〈以下省略〉
第1事件ないし第3事件被告(以下「被告」という。) 国
同代表者法務大臣 A2
処分行政庁 日本橋税務署長 A3
被告指定代理人 関根英恵
同 小柳誠
同 森下麻友美
同 岡部博昭
同 玉田康治
同 木村快
同 若原浩司
同 清水一夫
同 糸賀定雄
同 松丸憲司
同 殖栗健一
同 佐々木大介
同 小西雄貴
以上
別紙2
略語表(個人以外)

番号 定義語 定義内容
1 A17意見書 A17教授作成の意見書(甲81)
2 A17補充意見書 A17教授作成の補充意見書(甲128)
3 お知らせ 日本橋税務署長が原告の法人税の更正の処分に係る更正通知書と同時に原告に対して通知した「更正等に伴う連結利益積立金額等のお知らせ」(甲7の2(平成20年12月連結期第2更正処分),9の2(平成20年12月連結期第3更正処分),10の2(平成20年12月連結期第1更正処分),35の2(平成21年12月連結期第1更正処分),127の2(平成20年12月連結期第4更正処分)又は147の2(平成23年12月連結期更正処分))
4 ガデリウス事件判決 東京地裁平成16年2月26日判決・判例タイムズ1172号164頁及び東京高裁平成18年1月24日判決・税務訴訟資料256号順号10276
5 旧商法 平成17年法律第87号による改正前の商法
6 繰越欠損金 翌期に繰り越す欠損金額
7 ケン事件判決 ケン事件第一審判決(乙67)及びケン事件控訴審判決(乙68)の総称
8 ケン事件第一審判決 東京地裁平成17年7月28日判決・税務訴訟資料255号順号10091(乙67)
9 ケン事件控訴審判決 東京高裁平成18年6月29日判決・税務訴訟資料256号順号10440(乙68)
10 源泉所得税 源泉徴収に係る所得税
11 子会社方針書 a社のジェネラル・カウンセルであったA18及びチーフ・ファイナンシャル・オフィサーであったA19が1999年(平成11年)に作成した方針書(甲19)
12 最高裁昭和53年判決 最高裁昭和51年(行ツ)第34号同53年4月21日第二小法廷判決・訟務月報24巻8号1694頁
13 最高裁昭和60年判決 最高裁昭和56年(行ツ)第36号同60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁
14 主要行程書 平成14年(2002年)1月24日付けで改訂されている「クリティカル・パス」(英語原文題名は,Critical Path)と題する書面(甲56の2)
15 消費税等 消費税及び地方消費税
16 処分行政庁 日本橋税務署長
17 自民党税調 自由民主党に置かれている税制調査会
18 スリーエス事件第一審判決 東京地裁平成12年11月30日判決・訟務月報48巻11号2785頁
19 政府税調 平成21年政令第243号による廃止前の税制調査会令に基づき内閣府本府等に置かれていた税制調査会
20 チェック・ザ・ボックス規則 米国財務省規則301.7701-1ないし3
21 中間会社 完全子会社又は過半数所有子会社の階層から成る米国の多国籍企業の複雑なネットワークの中での上層の組織である子会社であり,自らも子会社を有する会社
22 中間事業会社 中間会社のうち,事業と子会社の経営を同時に行う会社
23 中間本部(M型) 中間会社のうち,企業の他の単位組織の監督及び管理,会社又は企業における戦略的又は組織的な企画及び意思決定並びに関連する単位組織の日常的な業務管理及び運営活動を行い,能動的な司令部門を持つもの
24 中間持株会社 中間会社のうち,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9条4項1号(なお,原告がc社等4社の発行済株式の全部を取得した当時(平成14年4月22日)は,同条3項(同年法律第47号による改正前のもの))が定める持株会社の定義を満たすもの
25 中間持株会社(H型) 中間会社のうち財務的活動を行うが経営全般又は戦略機能を有しないもの
26 通則法 国税通則法
27 g社 株式会社g及びその米国法人等の関連法人
28 日米租税旧条約 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約(昭和47年条約第6号)
29 日米租税新条約 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約(平成16年条約第2号)
30 日本再編プロジェクト (a社において検討,企画された主要地域・国における持株会社の導入による子会社再編の一つとして,2001年(平成13年)秋頃から2002年(平成14年)春にかけて企画され,実行されたとされる)日本における○○グループを成す組織の再編をするとされるプロジェクト
31 j社 j株式会社
32 c社 c株式会社
33 c社等4社 c社,f社,e社及びd社の総称
34 日本k社 k税務事務所(ただし,平成14年3月時点の名称)
35 配当等の額 内国法人が受ける利益の配当又は剰余金の分配の額
36 平成13年度 c社の平成13年1月1日から同年12月31日までの事業年度
37 平成14年譲渡 原告が,平成14年12月20日,c社に対し,同社の株式を譲渡した取引(乙36,39)
38 平成14年度 c社の平成14年1月1日から同年12月31日までの事業年度
39 平成14年度税制改正大綱 平成14年度税制改正の大綱(乙5)
40 平成14年度税制改正要綱 平成14年度税制改正の要綱(甲108)
41 平成14年9月期 原告の平成13年10月1日から平成14年9月30日までの事業年度
42 平成14年12月期 原告の平成14年10月1日から同年12月31日までの事業年度
43 平成14年12月期確定申告書 原告が麻布税務署長に対し平成15年2月14日に提出した平成14年12月期の法人税の確定申告書(甲78の1)
44 平成14年12月期更正処分 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした平成14年12月期の法人税の更正の処分(甲1)
45 平成14年12月期更正理由 平成14年12月期更正処分に係る更正通知書(甲1)に記載された更正の理由
46 平成15年譲渡 原告が,平成15年12月22日,c社に対し,同社の株式を譲渡した取引(乙43)
47 平成15年12月期 原告の平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度
48 平成15年12月期確定申告書 原告が麻布税務署長に対し平成16年2月16日に提出した平成15年12月期の法人税の確定申告書(甲78の2)
49 平成15年12月期更正処分 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした平成15年12月期の法人税の更正の処分(甲2)
50 平成16年度 c社の平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度
51 平成16年12月期 原告の平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度
52 平成16年12月期確定申告書 原告が麻布税務署長に対し平成17年2月23日に提出した平成16年12月期の法人税の確定申告書
53 平成16年12月期更正処分 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした平成16年12月期の法人税の更正の処分(甲3)
54 平成17年譲渡 原告が,平成17年12月28日,c社に対し,同社の株式を譲渡した取引(乙49)
55 平成17年度 c社の平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度
56 平成17年12月期 原告の平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度
57 平成17年12月期確定申告書 原告が麻布税務署長に対し平成18年2月27日に提出した平成17年12月期の法人税の確定申告書(甲78の3)
58 平成17年12月期更正処分 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした平成17年12月期の法人税の更正の処分(甲4)
59 平成18年12月期 原告の平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度
60 平成18年12月期確定申告書 原告が麻布税務署長に対し平成19年2月21日に提出した平成18年12月期の法人税の確定申告書
61 平成18年12月期更正処分 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした平成18年12月期の法人税の更正の処分(甲5)
62 平成19年度 c社の平成19年1月1日から同年12月31日までの事業年度
63 平成19年12月期 原告の平成19年1月1日から同年12月31日までの事業年度
64 平成19年12月期確定申告書 原告が麻布税務署長に対し平成20年2月29日に提出した平成19年12月期の法人税の確定申告書
65 平成19年12月期更正処分 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした平成19年12月期の法人税の更正の処分(甲6)
66 平成20年度 c社の平成20年1月1日から同年12月31日までの事業年度
67 平成20年分更正の請求 原告が平成22年4月28日付けで日本橋税務署長に対してした平成20年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(甲11)
68 平成20年分通知処分 日本橋税務署長が平成22年7月28日付けで原告に対してした平成20年分更正の請求について更正をすべき理由がない旨を通知する処分(甲8)
69 平成20年12月連結期 原告の平成20年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度
70 平成20年12月連結期確定申告書 原告が麻布税務署長に対し平成21年4月28日に提出した平成20年12月連結期の法人税の確定申告書
71 平成20年12月連結期第1更正処分 麻布税務署長が平成21年5月15日付けで原告に対してした平成20年12月連結期の法人税の更正(減額)の処分(甲10の1)
72 平成20年12月連結期第2更正処分 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした平成20年12月連結期の法人税の更正(増額)の処分(甲7の1)
73 平成20年12月連結期第3更正処分 日本橋税務署長が平成23年6月20日付けで原告に対してした平成20年12月連結期の法人税の更正(増額)の処分(甲9の1)
74 平成20年12月連結期第4更正処分 日本橋税務署長が平成24年3月27日付けで原告に対してした平成20年12月連結期の法人税の更正(増額)の処分(甲127の1)
75 平成21年度 c社の平成21年1月1日から同年12月31日までの事業年度
76 平成21年分更正の請求 原告が平成22年6月10日付けで日本橋税務署長に対してした平成21年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(甲33)
77 平成21年分通知処分 日本橋税務署長が平成23年6月20日付けで原告に対してした平成21年分更正の請求について更正をすべき理由がない旨を通知する処分(甲34)
78 平成21年12月連結期 原告の平成21年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度
79 平成21年12月連結期確定申告書 原告が日本橋税務署長に対し平成22年4月28日に提出した平成21年12月連結期の法人税の確定申告書
80 平成21年12月連結期第1更正処分 日本橋税務署長が平成23年6月20日付けで原告に対してした平成21年12月連結期の法人税の更正(増額)の処分(甲35の1)
81 平成21年12月連結期第2更正処分 日本橋税務署長が平成24年3月27日付けで原告に対してした平成21年12月連結期の法人税の更正(減額)の処分(乙62)
82 平成21年12月連結期賦課決定処分 日本橋税務署長が平成23年6月20日付けで原告に対してした平成21年12月連結期の過少申告加算税の賦課決定処分(甲35の1)
83 平成21年12月連結期賦課決定処分変更決定処分 日本橋税務署長が平成24年3月27日付けで原告に対してした平成21年12月連結期賦課決定処分を変更(減額)する旨の処分(乙62)
84 平成22年審査請求 原告が平成22年4月16日付けで国税不服審判所長に対して本件各更正処分及び平成20年12月連結期第2更正処分に不服があるとしてした審査請求(甲12)
85 平成22年分更正の請求 原告が平成24年6月12日付けで日本橋税務署長に対してした平成22年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(甲A4)
86 平成22年分通知処分 日本橋税務署長が平成24年9月28日付けで原告に対してした平成22年分更正の請求について更正をすべき理由がない旨を通知する処分(甲A5)
87 平成22年12月連結期 原告の平成22年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度
88 平成22年12月連結期修正申告書 原告が日本橋税務署長に対し平成24年4月26日に提出した平成22年12月連結期の法人税の修正申告書
89 平成23年分更正の請求 原告が平成24年6月12日付けで日本橋税務署長に対してした平成23年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(甲A6)
90 平成23年分通知処分 日本橋税務署長が平成24年9月28日付けで原告に対してした平成23年分更正の請求について更正をすべき理由がない旨を通知する処分(甲A7)
91 平成23年12月連結期 原告の平成23年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度
92 平成23年12月連結期確定申告書 原告が日本橋税務署長に対し平成24年4月26日に提出した平成23年12月連結期の法人税の確定申告書
93 平成23年12月連結期更正処分 日本橋税務署長が平成25年6月28日付けで原告に対してした平成23年12月連結期の法人税の更正(増額)の処分(甲147の1)
94 平成23年12月連結期賦課決定処分 日本橋税務署長が平成25年6月28日付けで原告に対してした平成21年12月連結期の過少申告加算税の賦課決定処分(甲147の1)
95 平和事件第一審判決 東京地裁平成9年4月25日判決・訟務月報44巻11号1952頁
96 米国外法人 米国から見た外国法人(Foreign Corporation)
97 米国外法人税 米国外法人が米国外で納付した法人税
98 米国雇用創出法 American Jobs Creation Act of 2004
99 米国連邦税法 Internal Revenue Code
100 a社 a Corporation(通称a社)
101 米国k社 k社の米国法人
102 b社 b Corporation
103 本件一連の行為 b社が原告の全持分を取得した上,原告が,b社がした本件融資及び本件増資によって得た資金を用いて本件株式購入をし,さらに本件各譲渡に及んだという一連の行為(被告の平成24年12月17日付け準備書面(6)9頁参照)
104 本件各更正処分 日本橋税務署長が平成22年2月19日付けで原告に対してした平成14年12月期更正処分,平成15年12月期更正処分,平成16年12月期更正処分,平成17年12月期更正処分,平成18年12月期更正処分及び平成19年12月期更正処分の総称
105 本件各更正処分等 本件各更正処分,平成20年12月連結期第4更正処分,平成21年12月連結期第1更正処分(ただし,平成21年12月連結期第2更正処分により一部取り消された後のもの。)及び平成21年12月連結期賦課決定処分(ただし,平成21年12月連結期賦課決定処分変更決定処分により一部取り消された後のもの。),平成22年分通知処分並びに平成23年12月期連結期更正処分及び平成23年12月連結期賦課決定処分の総称
106 本件各更正処分事業年度 平成14年12月期ないし平成19年12月期の総称
107 本件各事業年度 平成14年12月期,平成15年12月期,平成16年12月期,平成17年12月期,平成18年12月期,平成19年12月期,平成20年12月連結期,平成21年12月連結期,平成22年12月連結期及び平成23年12月連結期の総称
108 本件各譲渡 平成14年譲渡,平成15年譲渡及び平成17年譲渡の総称
109 本件各譲渡事業年度 平成14年12月期,平成15年12月期及び平成17年12月期の総称
110 本件各譲渡事業年度更正処分 平成14年12月期更正処分,平成15年12月期更正処分及び平成17年12月期更正処分の総称
111 本件各譲渡事業年度更正通知書 本件各譲渡事業年度更正処分に係る各更正通知書(甲1,2及び4)
112 本件各通知処分 平成22年12月連結期通知処分及び平成23年12月連結期通知処分の総称
113 本件過去調査 東京国税局が本件調査よりも前(平成15年,平成18年及び平成19年)に原告に対してした平成14年9月期ないし平成18年12月期を対象とする法人税の調査
114 本件株式購入 原告が,平成14年4月22日,b社からc社の発行済株式の全部を購入した取引(甲22の1,乙29)
115 本件A20メール A20が2002年(平成14年)3月6日にA10に対して送信した電子メール(甲58)
116 本件更正理由 本件各譲渡事業年度更正処分に係る各更正通知書(甲1,2及び4)に附記された更正の理由
117 本件増資 平成14年4月3日に開催された原告の臨時社員総会で決議された原告の資本の増加(1億3320万円)及び資本準備金(1330億6680万円)の積立て(乙25)
118 本件調査 東京国税局が①平成20年7月から平成21年6月までの間に原告に対してした平成14年9月期及び本件各更正処分事業年度を対象とする法人税の調査並びに②平成21年7月から平成22年2月までの間に原告に対してした平成14年9月期,本件各更正処分事業年度及び平成20年12月連結期を対象とする法人税の調査の総称
119 本件調査報告書 本件調査を担当した者が平成20年9月24日付けでA21との応接内容を記録して作成した「応答録」と題する文書及び調査の概要を記した「調査報告書」と題する文書の総称(乙28)。なお,頁数を記載するときは,上記の「応答録」の頁数を指す。
120 本件A16メール A22が2002年(平成14年)9月12日にA16に対して送信した電子メールに含まれているA16が同日にA22に対して送信した電子メールの内容が記載されている部分(甲24)
121 本件A21メモ 本件A21・2月メモ及び本件A21・3月メモの総称
122 本件A21・2月メモ A21が平成14年2月19日付けで作成した「取引先メモ」と題する文書(乙28の別紙1)
123 本件A21・3月メモ A21が平成14年3月18日付けで作成した「取引先メモ」と題する文書(乙28の別紙2)
124 本件c社法務質問書 c社が平成14年1月30日付けでi法律事務所(当時)に対して発出した照会文書(乙18)
125 本件被買収企業3社 l社,j社及びm社の総称
126 本件融資 本件株式購入に係る代金の一部(1兆8182億2000万円)を消費貸借の目的とするb社との間の平成14年4月22日付けの準消費貸借契約に基づき,原告がb社から受けた融資(甲22の1,乙29)
127 本件連結納税承認申請 原告が平成19年6月20日に国税庁長官に対してした原告を連結親法人とする連結納税の承認の申請(甲25)
128 l社 株式会社l
129 n銀行 n銀行株式会社(現・n1銀行株式会社)
130 みなし配当の額 法人税法24条1項の規定により配当等の額とみなされる金額
131 みなし連結欠損金額 法人税法81条の9第2項1号イに基づいて前事業年度から繰り越された連結欠損金額とみなされる(原告単体の)繰越欠損金の額
132 山菱不動産事件判決 東京地裁昭和47年9月12日判決・行政事件裁判例集23巻8・9号691頁
133 連結繰越欠損金 翌期へ繰り越す連結欠損金額
134 d社 d株式会社
135 DCF法 企業が将来生み出すフリーキャッシュフローの合計を現在価値に割り引くことにより当該企業の収益資産(株式)の価値を評価する方法(ディスカウント・キャッシュ・フロー方式)
136 f社 f株式会社
137 f社ら3社 d社,f社及びe社の総称
138 E&P Earnings and Profits(米国連邦税法上の配当可能利益と解されるものであって,課税所得に所定の修正額を加減して算定されるもの)
139 l1社 l1株式会社(l社が平成14年9月18日に商号変更したもの)
140 ○○グループ a社によって直接又は間接に株式を保有されている子会社及び関連会社から成る企業グループ
141 m社 m株式会社
142 k社 k社
143 □□意見書 日本k社が2002年(平成14年)3月20日付けで作成した「c社-Tax effect of stock buy back」と題する文書(乙19)
144 h社 h社(2002年(平成14年)当時)
145 △△株式評価書 h社が2002年(平成14年)4月4日付けで作成したc社等4社の発行済株式の全部の評価を記載した文書(乙30)
146 ◎◎ k社のビジネス・コンサルティング業務に係る事業部門
147 o株式会社 o株式会社
148 p社 p・コーポレイション
149 e社 e株式会社
150 2001年10月原案ペーパー 日本再編プロジェクトの原型となった平成13年(2001年)10月付けの「○○ Asia Pacific Restructuring」(○○アジア太平洋地域再編)と題する書面(甲54)
151 2002年2月メモ a社の財務部門が作成した「○○ Asia Pacific Restructuring」(○○アジア太平洋地域再編)と題する原告設立に関するパワーポイントで作成したメモ(甲57の2)
152 3月22日議事録 平成14年3月22日に日本で行われた会議の内容を記録した議事要旨(甲59の2)
153 3月22日付け資料 a社が作成した「Japan Restructuring」(日本再編)と題する2002年(平成14年)3月22日付けプレゼンテーション資料(甲60の2)

略語表(人名)

番号 定義語 定義内容及び主な役職
154 A23 A23(平成13年~15年時にc社財務 資金 資金管理課長,平成19年1月~平成24年3月原告取締役)
155 A12 A12(平成13年~15年時にc社タックス・マネージャー)
156 A24 A24(平成13年~15年時にq1株式会社ファイナンス・オペレーション子会社経理センター担当)
157 A25 A25(平成13~15年時にc社財務部門に所属)
158 A26 A26(平成13~15年時にc社の経理部長)
159 A4 A4(平成13年~15年時にc社代表取締役社長)
160 A9 A9(平成13~15年時にc社税務担当プログラム・マネージャー,平成22年1月~原告取締役)
161 A6 A6(平成11年(1999年)までc社の社長,c社代表取締役会長,平成13年~15年時はb社に置かれていたアジア太平洋地域の各国子会社を統轄する組織であるAsia Pacificプレジデント,平成14年2月~平成15年4月原告取締役)
162 A5 A5(平成14年時にo株式会社の代表取締役会長兼社長)
163 A7 A7(平成13~15年時にc社(理事)財務担当,平成14年2月~平成15年4月原告取締役)
164 A27 A27(h社元パートナー)
165 A13 A13(平成13年~15年時にc社法務・知的所有権担当,弁護士)
166 A16 A16(平成13~15年時にq1株式会社ファイナンス・オペレーション部門主任アカウンタント)
167 A21 A21(n銀行の行員(主任調査役))
168 A8 A8(平成13~15年時にa社財務部門,平成15年4月~平成19年1月原告取締役)
169 A22 A22(a社における,原告の決算に関する担当者)
170 A17教授 A17(r大学院教授)
171 A28 A28(平成13~15年時にa社グローバル・ビジネス・オペレーションのアシスタント・トレジャラー)
172 A20 A20(平成13~15年時に米国k社のパートナーで東京事務所に駐在)
173 A11 A11(平成13~15年時にa社ワールドワイド・タックス・アカウンティングのプログラム・マネジャー)
174 A29 A29(a社の税務部門)
175 A15 A15(平成13~15年時にa社の財務部門の内部で日本再編プロジェクトの税務面からの検討をしていたアシスタント・トレジャラー)
176 A10 A10(平成13~15年時にa社グローバル・タックス・プラニング&コーポレート・ディベロップメントのディレクター)
177 A14 A14(平成13~15年時にa社インターナショナル・タックス・カウンセル)
178 A30 A30(a社の税務部門)

以上
別紙3
法人税法の定め
1 2条(定義)10号(同族会社)
(1) 平成15年法律第8号による改正前のもの(平成14年譲渡に適用されるもの)
株主等の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人が有する株式の総数又は出資の金額の合計額がその会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50以上に相当する会社をいう。
(2) 平成18年法律第10号による改正前のもの(平成15年譲渡及び平成17年譲渡に適用されるもの)
会社の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合のその会社を除く。)の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式の総数又は出資金額(その会社が有する自己の株式又は出資を除く。)の100分の50を超える数の株式又は出資の金額を有する場合におけるその会社をいう。
2 4条の2(連結納税義務者)(平成22年法律第6号による改正前のもの)
法人税法4条の2は,内国法人(普通法人又は協同組合等に限るものとし,同条各号に掲げる法人を除く。)及び当該内国法人との間に当該内国法人による完全支配関係(発行済株式又は出資(自己が有する自己の株式又は出資を除く。)の全部を直接又は間接に保有する関係として政令で定める関係をいう。以下2において同じ。)がある他の内国法人(普通法人に限るものとし,清算中の法人,資産の流動化に関する法律2条3項に規定する特定目的会社その他政令で定める法人を除く。)の全てが当該内国法人を納税義務者として法人税を納めることにつき国税庁長官の承認を受けた場合には,これらの法人は,法人税法の定めるところにより,当該内国法人を納税義務者として法人税を納めるものとする旨を定めている。
(1) 2号 普通法人(外国法人を除く。)又は協同組合等との間に当該普通法人又は協同組合等による完全支配関係がある法人
(2) その余の号 略
3 4条の3(連結納税の承認の申請)
(1) 法人税法4条の3第1項(ただし,平成22年法律第6号による改正前のもの)は,同法4条の2に規定する内国法人及び当該内国法人との間に当該内国法人による同条に規定する完全支配関係がある同条に規定する他の内国法人は,同条の承認を受けようとする場合には,その承認を受けて各連結事業年度の連結所得に対する法人税を納める最初の連結事業年度としようとする期間の開始の日の6月前の日までに,これらの法人の全ての連名で,当該期間の開始の日その他財務省令で定める事項を記載した申請書を当該内国法人の納税地の所轄税務署長を経由して,国税庁長官に提出しなければならない旨を定めている。
(2) 法人税法4条の3第4項は,同条1項の申請書の提出があった場合(同条6項の規定の適用を受けて当該申請書の提出があった場合を除く。)において,同条1項に規定する期間の開始の日の前日までにその申請につき承認又は却下の処分がなかったときは,同項に規定する内国法人及び他の内国法人の全てにつき,その開始の日においてその承認があったものとみなす旨を定めている。
4 23条(受取配当等の益金不算入)
(1) 平成14年法律第79号による改正前のもの(平成14年譲渡に適用されるもの)
ア 法人税法23条1項は,内国法人が受ける同項各号に掲げる金額(外国法人若しくは公益法人等又は人格のない社団等から受けるものを除く。以下(1)において「配当等の額」という。)のうち,特定株式等以外の株式等(株式,出資又は受益証券をいう。以下(1)において同じ。)に係る配当等の額の100分の80に相当する金額及び特定株式等に係る配当等の額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入しない旨を定めている。
(ア) 1号 利益の配当(旧商法293条の5第1項(中間配当)又は資産の流動化に関する法律102条1項(中間配当)に規定する金銭の分配その他これに類する金銭の分配として政令で定めるものを含む。)又は剰余金の分配(出資に係るものに限る。)の額
(イ) その余の号 略
イ 法人税法23条3項は,同条1項の場合において,同項の内国法人が当該事業年度において支払う負債の利子(これに準ずるものとして政令で定めるものを含む。)があるときは,同項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入しない金額の合計額は,次に掲げる金額の合計額とする旨を定めている。
(ア) 1号 略
(イ) 2号 その保有する特定株式等につき当該事業年度において受ける配当等の額の合計額から当該負債の利子の額のうち当該特定株式等に係る部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額(当該配当等の額の合計額を限度とする。)を控除した金額
ウ 法人税法23条4項は,同条1項及び3項に規定する特定株式等とは,内国法人が他の内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。)の発行済株式の総数又は出資金額の100分の25以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合として政令で定める場合における当該他の内国法人の株式又は出資をいう旨を定めている。
(2) 平成15年法律第8号による改正前のもの(平成15年譲渡に適用されるもの)
ア 法人税法23条1項は,内国法人が受ける同項各号に掲げる金額(外国法人若しくは公益法人等又は人格のない社団等から受けるものを除く。以下(2)において「配当等の額」という。)のうち,連結法人株式等(連結法人の株式又は出資のうち政令で定めるものをいう。以下(2)において同じ。)及び関係法人株式等のいずれにも該当しない株式等(株式,出資又は受益証券をいう。以下(2)において同じ。)に係る配当等の額の100分の50に相当する金額並びに関係法人株式等に係る配当等の額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入しない旨を定めている。
(ア) 1号 利益の配当(旧商法293条の5第1項(中間配当)又は資産の流動化に関する法律102条1項(中間配当)に規定する金銭の分配その他これに類する金銭の分配として政令で定めるものを含む。)又は剰余金の分配(出資に係るものに限る。)の額
(イ) その余の号 略
イ 法人税法23条4項は,同条1項の場合において,同項の内国法人が当該事業年度において支払う負債の利子(これに準ずるものとして政令で定めるものを含むものとし,連結法人である内国法人を分割法人とする分割で分社型分割以外の分割(同法15条の2第1項(連結事業年度の意義)に規定する連結親法人事業年度開始の日に行うものを除く。)を行った場合の当該分割の日の前日の属する事業年度にあっては連結法人(当該内国法人との間に連結完全支配関係があるものに限る。)に支払うものを除く。)があるときは,同法23条1項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入しない金額の合計額は,次に掲げる金額の合計額とする旨を定めている。
(ア) 1号 略
(イ) 2号 その保有する関係法人株式等につき当該事業年度において受ける配当等の額の合計額から当該負債の利子の額のうち当該関係法人株式等に係る部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額
ウ 法人税法23条5項は,同条1項及び4項に規定する関係法人株式等とは,内国法人が他の内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。)の発行済株式の総数又は出資金額(当該他の内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の100分の25以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合として政令で定める場合における当該他の内国法人の株式又は出資(連結法人株式等を除く。)をいう旨を定めている。
(3) 平成18年法律第10号による改正前のもの(平成17年譲渡に適用されるもの)
ア 法人税法23条1項は,内国法人が受ける同項各号に掲げる金額(外国法人若しくは公益法人等又は人格のない社団等から受ける同項1号に掲げるものを除く。以下(3)において「配当等の額」という。)のうち,連結法人株式等(連結法人の株式又は出資のうち政令で定めるものをいう。以下(3)において同じ。)及び関係法人株式等のいずれにも該当しない株式等(株式,出資又は受益証券をいう。以下(3)において同じ。)に係る配当等の額の100分の50に相当する金額並びに関係法人株式等に係る配当等の額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入しない旨を定めている。
(ア) 1号 利益の配当(旧商法293条の5第1項(中間配当)又は資産の流動化に関する法律102条1項(中間配当)に規定する金銭の分配その他これに類する金銭の分配として政令で定めるものを含む。)又は剰余金の分配(出資に係るものに限る。)の額
(イ) その余の号 略
イ 法人税法23条4項は,同条1項の場合において,同項の内国法人が当該事業年度において支払う負債の利子(これに準ずるものとして政令で定めるものを含むものとし,当該内国法人との間に連結完全支配関係がある連結法人に支払うものを除く。)があるときは,同項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入しない金額は,次に掲げる金額の合計額とする旨を定めている。
(ア) 1号 略
(イ) 2号 その保有する関係法人株式等につき当該事業年度において受ける配当等の額の合計額から当該負債の利子の額のうち当該関係法人株式等に係る部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額
ウ 法人税法23条5項は,同条1項及び4項に規定する関係法人株式等とは,内国法人が他の内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。)の発行済株式の総数又は出資金額(当該他の内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の100分の25以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合として政令で定める場合における当該他の内国法人の株式又は出資(連結法人株式等を除く。)をいう旨を定めている。
5 24条1項(配当等の額とみなす額)
(1) 平成13年法律第6号による改正前のもの
法人税法24条1項は,法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下(1)において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人から同項各号に掲げる金銭その他の資産の交付を受けた場合において,その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額がその交付の基因となった当該法人の株式(出資を含む。以下(1)において同じ。)の帳簿価額を超えるときは,同法の規定の適用については,その超える部分の金額のうち,当該法人の資本等の金額から成る部分の金額以外の金額は,利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨を定めている。
ア 1号 当該法人の資本若しくは出資の減少又は株式の消却により交付される金銭その他の資産
イ 2号 当該法人からの退社又は脱退により持分の払戻しとして交付される金銭その他の資産
ウ 3号 当該法人の解散により残余財産の分配として交付される金銭その他の資産
エ 4号 当該法人の合併により交付される金銭その他の資産
(2) 平成13年法律第80号による改正前のもの
法人税法24条1項は,法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下(2)において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の同項各号に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において,その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本等の金額のうちその交付の基因となった当該法人の株式(出資を含む。以下(2)において同じ。)に対応する部分の金額を超えるときは,同法の規定の適用については,その超える部分の金額は,利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨を定めている。
ア 1号 合併(適格合併を除く。)
イ 2号 分割型分割(適格分割型分割を除く。)
ウ 3号 資本若しくは出資の減少(株式が消却されたものを除く。)又は解散による残余財産の分配
エ 4号 株式の消却
オ 5号 社員の退社又は脱退による持分の払戻し
(3) 平成14年法律第79号による改正前のもの(平成14年譲渡に適用されるもの)
法人税法24条1項は,法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下(3)において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の同項各号に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において,その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本等の金額のうちその交付の基因となった当該法人の株式(出資を含む。以下(3)において同じ。)に対応する部分の金額を超えるときは,同法の規定の適用については,その超える部分の金額は,利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨を定めている。
ア 5号 自己の株式の取得(証券取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得を除く。)
イ その余の号 略
(4) 平成18年法律第10号による改正前のもの(平成15年譲渡及び平成17年譲渡に適用されるもの)
法人税法24条1項は,法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下(4)において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の同項各号に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において,その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本等の金額又は連結個別資本等の金額のうちその交付の基因となった当該法人の株式(出資を含む。以下(4)において同じ。)に対応する部分の金額を超えるときは,同法の規定の適用については,その超える部分の金額は,利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨を定めている。
ア 5号 自己の株式の取得(証券取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得を除く。)
イ その余の号 略
6 57条1項(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)
(1) 平成14年法律第79号による改正前のもの(平成14年12月期に適用されるもの)
法人税法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(同項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び平成14年法律第79号による改正前の法人税法81条(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となったものを除く。)がある場合には,当該欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入するが(本文),当該欠損金額に相当する金額が当該欠損金額につき同法57条1項本文の規定を適用しないものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額(当該欠損金額の生じた事業年度前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金額で同項本文又は同法58条1項の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものがある場合には,当該損金の額に算入される金額を控除した金額)を超える場合は,その超える部分の金額については,この限りでない(ただし書)旨を定めている。
(2) 平成16年法律第14号による改正前のもの(平成15年12月期及び平成16年12月期に適用されるもの)
法人税法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(同項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び同法80条(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となったものを除く。)がある場合には,当該欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入するが(本文),当該欠損金額に相当する金額が当該欠損金額につき同法57条1項本文の規定を適用しないものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額(当該欠損金額の生じた事業年度前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金額で同項本文又は同法58条1項の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものがある場合には,当該損金の額に算入される金額を控除した金額)を超える場合は,その超える部分の金額については,この限りでない(ただし書)旨を定めている。
(3) 平成18年法律第10号による改正前のもの(平成17年12月期及び平成18年12月期に適用されるもの。なお,平成16年法律第14号附則13条は,同法による改正後の法人税法57条1項の規定は,法人の平成13年4月1日以後に開始した事業年度において生じた欠損金額について適用し,法人の同日前に開始した事業年度において生じた欠損金額については,なお従前の例による旨を定めている。)
法人税法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(同項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び同法80条(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となったものを除く。)がある場合には,当該欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入するが(本文),当該欠損金額に相当する金額が当該欠損金額につき同法57条1項本文の規定を適用しないものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額(当該欠損金額の生じた事業年度前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金額で同項本文又は同法58条1項の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものがある場合には,当該損金の額に算入される金額を控除した金額)を超える場合は,その超える部分の金額については,この限りでない(ただし書)旨を定めている。
(4) 平成22年法律第6号による改正前のもの(平成19年12月期,平成20年12月連結期,平成21年12月連結期及び平成22年12月連結期に適用されるもの)
法人税法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(同項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び同法80条(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となったものを除く。)がある場合には,当該欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入するが(本文),当該欠損金額に相当する金額が当該欠損金額につき同法57条1項本文の規定を適用しないものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額(当該欠損金額の生じた事業年度前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金額で同項本文又は同法58条1項(青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越し)の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものがある場合には,当該損金の額に算入される金額を控除した金額)を超える場合は,その超える部分の金額については,この限りでない(ただし書)旨を定めている。
(5) 平成23年法律第114号による改正前のもの(平成23年12月連結期に適用されるもの)
法人税法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(同項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び同法80条(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となったものを除く。)がある場合には,当該欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入するが(本文),当該欠損金額に相当する金額が当該欠損金額につき同法57条1項本文の規定を適用せず,かつ,同法62条の5第5項(現物分配による資産の譲渡)の規定を適用しないものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額(当該欠損金額の生じた事業年度前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金額で同法57条1項本文又は同法58条1項(青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越し)の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものがある場合には,当該損金の額に算入される金額を控除した金額)を超える場合は,その超える部分の金額については,この限りでない(ただし書)旨を定めている。
7 61条の2(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)第1項
(1) 平成13年法律第6号による改正前のもの
法人税法61条の2第1項は,内国法人が有価証券の譲渡をした場合には,その譲渡に係る譲渡利益額(同項1号に掲げる金額が同項2号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)又は譲渡損失額(同号に掲げる金額が同項1号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は,その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上,益金の額又は損金の額に算入する旨を定めている。
ア 1号 その有価証券の譲渡に係る対価の額(同法24条1項(配当等の額とみなす金額)の規定により利益の配当又は剰余金の分配の額とみなされる金額がある場合には,そのみなされる金額に相当する金額を控除した金額)
イ 2号 その有価証券の譲渡に係る原価の額(その有価証券についてその内国法人が選定した1単位当たりの帳簿価額の算出の方法により算出した金額(算出の方法を選定しなかった場合又は選定した方法により算出しなかった場合には,算出の方法のうち政令で定める方法により算出した金額)にその譲渡をした有価証券の数を乗じて計算した金額をいう。)
(2) 平成18年法律第10号による改正前のもの(本件各譲渡に適用されるもの)法人税法61条の2第1項は,内国法人が有価証券の譲渡(当該有価証券が合併,分割又は適格現物出資により合併法人,分割承継法人又は被現物出資法人に移転する場合における当該移転を除く。以下(2)において同じ。)をした場合には,その譲渡に係る譲渡利益額(同項1号に掲げる金額が同項2号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)又は譲渡損失額(同号に掲げる金額が同項1号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は,その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上,益金の額又は損金の額に算入する旨を定めている。
ア 1号 その有価証券の譲渡に係る対価の額(同法24条1項(配当等の額とみなす金額)の規定により利益の配当又は剰余金の分配の額とみなされる金額がある場合には,そのみなされる金額に相当する金額を控除した金額)
イ 2号 その有価証券の譲渡に係る原価の額(その有価証券についてその内国法人が選定した1単位当たりの帳簿価額の算出の方法により算出した金額(算出の方法を選定しなかった場合又は選定した方法により算出しなかった場合には,算出の方法のうち政令で定める方法により算出した金額)にその譲渡をした有価証券の数を乗じて計算した金額をいう。)
8 81条の9(連結欠損金の繰越し)第2項
(1) 平成16年法律第14号による改正前のもの
法人税法81条の9第2項は,同条1項の連結親法人又は連結子法人が同条2項各号に掲げる場合に該当するときは,その該当することとなった日の属する連結事業年度以後の各連結事業年度における同条1項の規定の適用については,当該各号に定める欠損金額又は連結欠損金個別帰属額は,当該欠損金額又は連結欠損金個別帰属額が生じた連結事業年度として政令で定める連結事業年度において生じた連結欠損金額とみなす旨を定めている。
ア 2号 最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日から当該開始の日までの間に行われた株式移転に係る旧商法352条1項(株式交換)に規定する完全子会社であった連結子法人(その発行済株式の全部が当該株式移転により設立された完全親会社であった当該連結親法人によって当該株式移転の日から当該開始の日まで継続して保有されているものに限るものとし,政令で定めるものを除く。)に次の(ア)又は(イ)に掲げる欠損金額又は連結欠損金個別帰属額がある場合 当該欠損金額又は連結欠損金個別帰属額
(ア) 当該開始の日前5年以内に開始した当該連結子法人の各事業年度において生じた法人税法57条1項に規定する欠損金額又は同法58条1項に規定する災害損失欠損金額(イ)
(イ) 当該開始の日前5年以内に開始した当該連結子法人(当該開始の日に当該株式移転が行われたことに基因して同法4条の5第2項(連結納税の承認の取消し)の規定により同法4条の2(連結納税義務者)の承認が取り消された連結親法人であったものに限る。)のその承認に係る各連結事業年度において生じた当該連結子法人の連結欠損金個別帰属額(ロ)
イ その余の号 略
(2) 平成18年法律第10号による改正前(なお,平成16年法律第14号附則14条は,同法による改正後の法人税法81条の9の規定は,連結法人の平成13年4月1日以後に開始した連結事業年度(同条2項に規定する政令で定める連結事業年度を含む。)において生じた連結欠損金額について適用し,連結法人の同日前に開始した連結事業年度(同条2項に規定する政令で定める連結事業年度を含む。)において生じた連結欠損金額については,なお従前の例による旨を定めている。)のもの
法人税法81条の9第2項は,同条1項の連結親法人又は連結子法人が同条2項各号に掲げる場合に該当するときは,その該当することとなった日の属する連結事業年度以後の各連結事業年度における同条1項の規定の適用については,当該各号に定める欠損金額又は連結欠損金個別帰属額は,当該欠損金額又は連結欠損金個別帰属額が生じた連結事業年度として政令で定める連結事業年度において生じた連結欠損金額とみなす旨を定めている。
ア 2号 最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日から当該開始の日までの間に行われた株式移転に係る旧商法352条1項(株式交換)に規定する完全子会社であった連結子法人(その発行済株式の全部が当該株式移転により設立された完全親会社であった当該連結親法人によって当該株式移転の日から当該開始の日まで継続して保有されているものに限るものとし,政令で定めるものを除く。)に次の(ア)又は(イ)に掲げる欠損金額又は連結欠損金個別帰属額がある場合 当該欠損金額又は連結欠損金個別帰属額
(ア) 当該開始の日前7年以内に開始した当該連結子法人の各事業年度において生じた法人税法57条1項に規定する欠損金額又は同法58条1項に規定する災害損失欠損金額(イ)
(イ) 当該開始の日前7年以内に開始した当該連結子法人(当該開始の日に当該株式移転が行われたことに基因して同法4条の5第2項(連結納税の承認の取消し)の規定により同法4条の2(連結納税義務者)の承認が取り消された連結親法人であったものに限る。)のその承認に係る各連結事業年度において生じた当該連結子法人の連結欠損金個別帰属額(ロ)
イ その余の号 略
(3) 平成22年法律第6号による改正前のもの(平成20年12月連結期,平成21年12月連結期及び平成22年12月連結期に適用されるもの)
法人税法81条の9第2項は,同条1項の連結親法人又は連結子法人が同条2項各号に掲げる場合に該当するときは,その該当することとなった日の属する連結事業年度以後の各連結事業年度における同条1項の規定の適用については,当該各号に定める欠損金額又は連結欠損金個別帰属額は,当該欠損金額又は連結欠損金個別帰属額が生じた連結事業年度として政令で定める連結事業年度において生じた連結欠損金額とみなす旨を定めている。
ア 2号 最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日から当該開始の日までの間に行われた株式移転に係る株式移転完全子法人であった連結子法人(その発行済株式の全部が当該株式移転により設立された株式移転完全親法人であった当該連結親法人によって当該株式移転の日から当該開始の日まで継続して保有されているものに限るものとし,政令で定めるものを除く。)に次の(ア)又は(イ)に掲げる欠損金額又は連結欠損金個別帰属額がある場合 当該欠損金額又は連結欠損金個別帰属額
(ア) 当該開始の日前7年以内に開始した当該連結子法人の各事業年度(当該株式移転が適格株式移転に該当しないものである場合には,当該各事業年度のうち当該株式移転の日の属する事業年度前の事業年度を除く。)において生じた法人税法57条1項に規定する欠損金額又は同法58条1項に規定する災害損失欠損金額(イ)
(イ) 当該開始の日前7年以内に開始した当該連結子法人(当該開始の日に当該株式移転(適格株式移転に限る。)が行われたことに基因して法人税法4条の5第2項(連結納税の承認の取消し)の規定により同法4条の2(連結納税義務者)の承認が取り消された連結親法人であったものに限る。)のその承認に係る各連結事業年度において生じた当該連結子法人の連結欠損金個別帰属額(ロ)
イ その余の号 略
(4) 平成23年法律第82号による改正前のもの(平成23年12月連結期に適用されるもの)
法人税法81条の9第2項は,同条1項の連結親法人又は連結子法人が同条2項各号に掲げる場合に該当するときは,その該当することとなった日の属する連結事業年度以後の各連結事業年度における同条1項の規定の適用については,当該各号に定める欠損金額又は連結欠損金個別帰属額は,当該欠損金額又は連結欠損金個別帰属額が生じた連結事業年度として政令で定める連結事業年度において生じた連結欠損金額とみなす旨を定めている。
ア 2号 当該連結親法人若しくは連結子法人を合併法人とする適格合併(被合併法人が当該連結親法人との間に連結完全支配関係がない法人(連結完全支配関係がある法人に準ずる法人として政令で定める法人を除き,特定連結子法人で最初連結事業年度が終了していないものを含む。)であるものに限る。以下アにおいて同じ。)が行われた場合又は当該連結親法人との間に完全支配関係(当該連結親法人による完全支配関係又は同法2条12号の7の6(定義)に規定する相互の関係に限る。)がある他の内国法人で当該連結親法人若しくは連結子法人が発行済株式若しくは出資の全部若しくは一部を有するもの(当該連結親法人との間に連結完全支配関係がないものにあっては連結完全支配関係がある法人に準ずる法人として政令で定める内国法人を除き,当該連結親法人との間に連結完全支配関係があるものにあっては特定連結子法人で最初連結事業年度が終了していないものに限る。)の残余財産が確定した場合 次の(ア)又は(イ)に掲げる欠損金額又は連結欠損金個別帰属額(当該他の内国法人に株主等が2以上ある場合には,当該欠損金額又は連結欠損金個別帰属額を当該他の内国法人の発行済株式又は出資(当該他の内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額で除し,これに当該連結親法人又は連結子法人の有する当該他の内国法人の株式又は出資の数又は金額を乗じて計算した金額)
(ア) 当該被合併法人又は他の内国法人(それぞれ次の(イ)に規定する被合併法人又は他の内国法人を除く。以下(ア)において同じ。)の当該適格合併の日前7年以内に開始し,又は当該残余財産の確定の日の翌日前7年以内に開始した各事業年度(当該被合併法人又は他の内国法人が特定連結子法人で最初連結事業年度が終了していないものである場合には,当該連結親法人との間に連結完全支配関係を有することとなった日前に開始した事業年度に限る。)において生じた同法57条2項に規定する未処理欠損金額(当該被合併法人で当該連結親法人若しくは連結子法人(当該適格合併が当該連結親法人又は連結子法人を設立するものである場合には,当該適格合併に係る他の被合併法人。以下(ア)において同じ。)との間に支配関係があるもの又は当該他の内国法人が特定連結子法人又はこれに準ずる法人として政令で定める法人に該当しない場合において,当該適格合併が同条3項に規定する政令で定める合併に該当する場合又は当該被合併法人若しくは他の内国法人と当該連結親法人若しくは連結子法人との間に当該適格合併の日の属する連結親法人事業年度(同法15条の2第1項(連結事業年度の意義)に規定する連結親法人事業年度をいう。以下(4)において同じ。)若しくは当該残余財産の確定の日の翌日の属する連結親法人事業年度開始の日の5年前の日,当該被合併法人若しくは他の内国法人の設立の日若しくは当該連結親法人若しくは連結子法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がある場合として政令で定める場合のいずれにも該当しないときは,同法57条3項の規定により当該未処理欠損金額に含まないものとされる金額を除く。)又は同法58条2項に規定する未処理災害損失欠損金額(イ)
(イ) 当該被合併法人(当該適格合併の日の前日が連結事業年度終了の日であるものに限る。以下(イ)において同じ。)又は当該他の内国法人(当該残余財産の確定の日が連結事業年度終了の日であるものに限る。以下(イ)において同じ。)の当該適格合併の日前7年以内に開始し,又は当該残余財産の確定の日の翌日前7年以内に開始した各連結事業年度において生じた当該被合併法人又は他の内国法人の連結欠損金個別帰属額(当該被合併法人で当該連結親法人若しくは連結子法人(当該適格合併が当該連結親法人又は連結子法人を設立するものである場合には,当該適格合併に係る他の被合併法人。以下(イ)において同じ。)との間に支配関係があるもの又は当該他の内国法人が特定連結子法人又は前記(ア)に規定する政令で定める法人に該当しない場合において,当該適格合併が同法57条3項に規定する政令で定める合併に該当する場合又は当該被合併法人若しくは他の内国法人と当該連結親法人若しくは連結子法人との間に前記(ア)に規定する最も遅い日から継続して支配関係がある場合として政令で定める場合のいずれにも該当しないときは,当該連結欠損金個別帰属額のうち同項の規定により未処理欠損金額に含まないものとされる金額に相当する金額として政令で定める金額を除く。)(ロ)
イ その余の号 (略)
9 130条(青色申告書等に係る更正)2項
法人税法130条2項は,税務署長は,内国法人の提出した青色申告書又は連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の更正をする場合には,その更正に係る通則法28条2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨を定めている。
10 132条(同族会社等の行為又は計算の否認)1項
法人税法132条1項は,税務署長は,同項各号に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において,その法人の行為又は計算で,これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず,税務署長の認めるところにより,その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨を定めている。
(1) 1号 内国法人である同族会社
(2) 2号 略
以上
別紙4
前提となる事実関係
1 当事者等
(1) 原告について
ア 原告の設立と親会社等
原告は,平成11年4月1日にg社が資本の総額300万円の全額の出資の払込みをして成立した有限会社であり,成立した当時の商号は,有限会社sであった。b社は,平成14年2月12日,g社から,原告の持分の全部を譲り受け(乙22),原告は,同月28日,商号を現在のものに変更した。その後,原告の持分の全部は,平成16年12月16日,b社からp LLCに譲渡され(乙84),会社法の施行に伴い平成18年5月1日に特例有限会社となった後,平成19年5月23日には,その株式の全部が同社から○○ Japan Holdings LLCに譲渡された。
イ 原告の子会社等
原告は,平成14年4月22日,b社から,当時b社が保有していた①c社,②d社,③f社及び④e社(c社等4社)の各発行済株式の全部を代金合計1兆9705億5300万円で購入し(甲22の1ないし4,乙29),日本における○○グループを成す会社の持株会社となった。同日当時におけるb社が保有するc社等4社の株式の各発行済株式に占める割合は,e社については50%,他の3社についてはいずれも100%であった。なお,その後,f社は,平成20年4月に清算結了の登記をし,e社については,原告が保有するe社の株式の全部が売却されているため,平成22年12月31日当時,原告の子会社は,c社及びd社の2社であった。
ウ 原告の企業としての活動状況等
(ア) 役員等の状況
原告には,専任の役員及び使用人はいない。
原告の役員には,b社が全額を出資するp社の日本における代表者やc社の(理事)財務担当等の一定の役職者の計二,三名が,本業と兼務して就任した(甲31,乙54,55)。
(イ) 事務所の状況
原告は,固有の事務所を有しておらず,その本店の所在地(平成21年9月30日までは東京都港区内,同年10月1日からは東京都中央区内)は,p社の日本支店又はc社の本店の所在地と同一であった(乙54,55)。
(ウ) 業務執行の状況
原告は,本件増資のあった平成14年4月(乙25)の当初から,c社との間で,経理,財務,税務等の業務の委託契約を締結し,同契約に基づく業務委託料として月額50万円を支払っている。当該業務委託料の金額は,同年6月頃,c社の子会社の従業員が,財務・支払業務,経理業務及びマネジメント業務を計算要素として積算した金額に基づき算定したものである。当該計算要素の一つであるマネジメント業務については,c社の経理部長,同社(理事)財務担当(原告の取締役を兼任)及びp社の日本支店の役職者(原告の取締役を兼任)の3名分として積算されている。(乙56)
なお,原告は,原告の役員に対して報酬を支出しておらず,本件各譲渡事業年度の原告の損益計算書上,人件費等の固有の経費は発生していない(乙57)。
(エ) 収支の状況
原告の本件各譲渡事業年度における主たる収入は,c社からの配当及び本件各譲渡の代金であり,主たる支出は,b社に対する借入金の返済及びc社に対する業務委託料(前記(ウ)参照)の支払であった(乙57)。
(2) c社について(争いのない事実のほか,全体として乙4)
c社は,昭和12年に設立された情報システムに係る製品・サービスの提供を事業とする内国法人であり,資本金1353億円,従業員数1万6111名(平成20年12月31日現在),売上金額1兆1329億3200万円(平成20年度)の株式会社である。同社は,国内に子会社14社(出資比率100%)及び関連会社22社(出資比率50%超99%以下が10社,10%超50%以下が12社)を有している(平成23年5月1日現在。乙4・12ないし14頁)。また,平成14年度ないし平成17年度におけるc社の当期純利益の額の推移は,別紙9のとおりである。そして,原告は,平成14年4月以降,c社の発行済株式の全部を保有する親会社である。
(3) a社,b社等について
b社は,a社にその持分の全部を保有される同社の海外の関連会社を統括する持株会社であり,a社は,1911年(明治44年)に成立してその株式をニューヨーク証券取引所に上場し,同社及び同社によって直接又は間接に株式を保有されている子会社及び関連会社(2008年(平成20年)当時その数は700社を超えていた。)から成る企業グループ(○○グループ)の経営を率いる本部としての機能を有する株式会社であって,a社及び○○グループは,売上高1000億ドル余で,約170か国に事業を展開し,40万人を超える従業員を擁する多国籍企業グループである。
なお,p LLC及び ○○Japan Holdings LLCは,その持分の全部をいずれもb社又はa社に直接又は間接に保有されている。
2 本件に関連する制度の概要等
(1) 自己の株式を取得する取引に係るみなし配当の額に対する課税の概要
内国法人が受ける利益の配当又は剰余金の分配の額(配当等の額)のうち,関係法人株式等(ただし,平成14年法律第79号による改正前の法人税法23条においては「特定株式等」)に係る配当等の額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入しないものとされている(法人税法23条1項)。これは,法人の受ける配当等の額に対してはこれを支払う法人の段階で既に法人税が課されていることから,それに係る法人の所得に対し重複して課税することを避けるため,それを受ける法人の段階でそれを法人税を課する対象から除外する必要があるとの考慮によるものである。
他方,平成13年法律第6号による改正前の法人税法24条1項においては,法人の株主等が株式の消却等により交付を受けた金銭等の額がその交付の基因となった当該法人の株式の帳簿価額を超える場合に,その超える部分の金額のうち当該株式を発行した法人の資本等の金額から成る部分の金額以外の金額は配当等の額とみなされる金額(みなし配当の額)とするものとされていた(別紙3の5(1)参照)が,法人がその活動により稼得した利益を還元したと考えられる部分の金額の有無や多寡は,本来,株主等における株式の帳簿価額とは関係がないことから,同年法律第6号により改正された後のものであって同年法律第80号による改正前の法人税法24条1項においては,帳簿価額を基準とする取扱いが廃止され,株主等が株式の消却等により交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が,当該法人の資本等の金額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える場合のその超過額をみなし配当の額とする(株式の発行会社における資本等の金額と利益積立金額との比によって算出される。)ものとされた(別紙3の5(2)参照)。そして,同年法律第80号による法人税法の改正により,同法24条1項の規定が適用される事由に自己の株式の取得が追加された(同項5号。別紙3の5(3)参照)。これは,法人が,その留保している利益について,利益の配当等としてではなく自己の株式を取得すること等によって株主等に実質的に帰属させた場合にも,経済的には利益の配当等と同一と考えられることから,当該帰属させた部分を配当等の額とみなし,受取配当等の益金不算入の規定(同法23条)の適用を受けることとしたものである。
(2) 前記(1)を前提とした有価証券の譲渡損益の計算の概要
内国法人が有価証券の譲渡をした場合には,その譲渡に係る譲渡利益額(その有価証券の譲渡に係る対価の額がその有価証券の譲渡に係る原価の額を超える場合におけるその超える部分の金額)又は譲渡損失額(その有価証券の譲渡に係る原価の額がその有価証券の譲渡に係る対価の額を超える場合におけるその超える部分の金額)は,その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上,益金の額又は損金の額に算入するものとされ(法人税法61条の2第1項),みなし配当の額がある場合におけるその有価証券の譲渡に係る対価の額とは,そのみなし配当の額に相当する金額を控除した金額をいうものとされている(同項1号)。
前記(1)に述べたように,平成13年法律第80号により改正された後の法人税法においては,株式会社が自己の株式の取得により株主である法人に対して金銭その他の資産の交付をした場合,みなし配当の額については,受取配当等の益金不算入の規定(同法23条)の適用を受け,他方,当該株式会社による自己の株式の取得に応じた当該株主である法人にとって,その行為は,有価証券である株式の譲渡であるから,上記に述べた有価証券の譲渡損益の計算の規定(同法61条の2第1項)の適用を受け,上記のみなし配当の額に相当する金額を控除した金額を有価証券の譲渡に係る対価として上記の譲渡損益の計算をすることになる。
(3) いわゆる連結納税制度の概要等
ア 連結納税制度の沿革等
連結納税制度とは,発行済株式の一定の割合を超える割合の株式を保有することを通じて密接な関係のある複数の法人のグループを一体としてとらえ,当該複数の法人の所得を連結してグループ全体の所得を計算し,それを課税標準として法人税を課す制度であり,我が国においては,平成14年法律79号による法人税法の改正により導入された。
連結納税制度における法人税の課税標準は,連結法人の各連結事業年度の連結所得の金額であり,この各連結事業年度の連結所得の金額は,当該連結事業年度の益金の額から当該連結事業年度の損金の額を控除した金額であり(法人税法81条及び81条の2),連結法人の各会計上の当期利益又は当期損失を基に,個別貸倒引当金繰入限度額の計算等個々の連結法人ごとに税務調整する項目の調整を行い(法人税法81条の3(平成20年12月連結期については平成20年法律第23号による改正前のもの並びに平成21年12月連結期及び平成22年12月連結期については平成22年法律第6号による改正前のもの)),その後,各連結法人のその調整後の金額を合計し,次に,受取配当等の益金不算入の規定(同法81条の4(平成20年12月連結期,平成21年12月連結期及び平成22年12月連結期については平成22年法律第6号による改正前のもの並びに平成23年12月連結期については平成23年法律第114号による改正前のもの))による金額の計算等の連結法人全体で税務調整する項目の調整を行って計算することとなる。なお,この連結事業年度の益金の額及び損金の額は,個々の連結法人ごとに計算するものはいわゆる単体納税に関する規定により,連結法人全体で計算するものは連結納税に関する規定により,それぞれ計算することとされている。
イ 連結欠損金額の損金の額への算入
法人税法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前5年(ただし,平成16年法律第14号により7年に,平成23年法律第114号により9年に,それぞれ改められている。)以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には,当該欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,当該欠損金額を控除する前の所得の額(ただし,平成23年法律第114号により100分の80に相当する金額に改められている。)を限度として,損金の額に算入する旨を定めている。また,同法81条の9第1項は,連結親法人の各連結事業年度開始の日前5年(ただし,平成16年法律第14号により7年に,平成23年法律第114号により9年に,それぞれ改められている。)以内に開始した連結事業年度において生じた連結欠損金額がある場合には,当該連結欠損金額に相当する金額は,当該各連結事業年度の連結所得の金額の計算上,一定の限度で損金の額に算入する旨を定めており,同条2項は,別紙3の8に記載されているとおりの定めを置いている。
(4) 税制改正の経緯
ア 有価証券の譲渡に係る譲渡損益の計算に関する規定の整備
平成12年法律第14号による法人税法の改正により,有価証券の期末評価にいわゆる時価法が導入された(同法61条の3以下参照)ことに伴い,同時に,有価証券の譲渡に係る譲渡損益の計算について定める同法61条の2の規定が追加された。
イ みなし配当の額に関係する規定の改正
平成13年法律第6号による法人税法の改正により同法24条が改正され,みなし配当の額の計算について,帳簿価額を基準とする取扱いが廃止され,株主等に対する金銭等の交付の基因となった株式を発行した法人の資本金等と利益積立金との割合で算定することとなった(前記(1)参照)。また,同年法律第79号による商法の改正(同法210条及び212条の各改正)により株式会社による自己の株式の取得に係る要件が緩和されるとともに,同年法律第80号による法人税法の改正により同法24条が改正され,同条1項の定めるみなし配当の額が発生する事由に自己の株式の取得が追加された(同項5号の追加。前記(1)参照)。
ウ 連結納税制度の検討の経緯及び創設
(ア) 政府税調は,平成10年12月,「平成11年度の税制改正に関する答申」(甲94)をした。同答申においては,企業集団をいわば一つの「課税単位」とする連結納税制度の導入を求める意見がある一方,それを導入するには様々な論点があることから,法人課税の体系全般に及ぶ検討を行う必要があり,まずは,専門的・実務的な観点から,法人課税小委員会において本格的な分析・検討を行うことが適当であるとされた。
(イ) 自民党税調は,平成10年12月16日,「平成11年度税制改正大綱」(甲95)において,本格的な連結納税制度の導入を前提として,専門的・実務的な検討を行い,適正かつ公平な課税を担保するとともに,万全な租税回避防止策を講ずることにより,平成13年を目途に連結納税制度の導入を目指すこととするなどの考えを示した。
(ウ) 政府税調は,平成11年7月13日以降,法人課税小委員会を継続的に開催して連結納税制度の導入に係る検討を開始し,同年12月16日,「平成12年度の税制改正に関する答申」(甲96)をした。
(エ) 自民党税調は,平成11年12月16日,「平成12年度税制改正大綱」(甲97)において,適正かつ公平な課税を担保し,万全な租税回避防止措置を講ずることにより,企業組織の再編のための税制のパッケージとして,平成13年度における会社分割に関する税制の導入を待って,連結納税制度の導入を目指すなどの考えを明らかにした。
その後,企業再編に係る税制は平成13年春に一応整備される見通しであり,今後の焦点はグループ経営の構築に向けた連結納税制度の導入に移った旨の新聞報道(平成12年10月4日付け。乙74)や,政府税調が同年11月14日に法人課税小委員会を開催し,連結納税制度の導入に向けて年明けから本格的な議論を再開する方針を決めた旨の新聞報道(同月15日付け。乙75)がされ,さらに,自民党税調が同税調がまとめる「平成13年度税制改正大綱」に連結納税制度を平成14年度に導入することを明記する方針を固めた旨の新聞報道(平成12年12月7日付け。乙76)がされた。
(オ) 政府税調は,平成12年12月,「平成13年度の税制改正に関する答申」(甲101)において,連結納税制度について,既に多岐にわたる検討項目を示したところであり,国際的にも遜色のない制度を構築すべく,法人課税小委員会においてこれらの項目について具体的な検討を進めていくこととする旨の答申をした。
(カ) 自由民主党,公明党及び保守党(当時の与党)は,平成12年12月14日,「平成13年度税制改正大綱」(甲102)において,本格的な連結納税制度の導入に向けての専門的・実務的な検討を更に深めるとした上で,平成14年度における連結納税制度の導入を目指すなどの考えを示した。
その後,政府税調が平成13年5月11日に法人課税小委員会を開催して連結納税制度の導入について議論を再開し,外資系会計事務所からフランスで定着している同制度についての調査報告を受け,グループ内取引の損益の課税上の取扱い等の実務的な点を議論した旨の新聞報道(同月12日付け。乙77)や,政府税調が同年7月24日に法人課税小委員会を開催し,同委員会は,連結納税制度は,親会社の利益と子会社の損失を合算し課税所得を計算するため,グループ全体で税負担を軽減できることが利点であるとして,連結納税制度の骨格をまとめたところ,その内容は,①親会社と損益を通算できる子会社の範囲を国内の全額出資子会社に限り,②子会社との損益通算は強制ではなく,企業の自主的な選択に委ねるとするものであり,損益通算の対象として,親会社が株式を100%保有する子会社に限定した理由として,対象を広げすぎると制度を悪用した課税逃れを招きやすいこと,連結納税の対象に加わる前に子会社が抱えた欠損金については,グループの課税所得から差し引けないようにし,課税逃れを防ぐことを挙げたことに加え,財務省が,同制度の平成14年度の導入を目指して平成13年9月までに制度の詳細な案を詰める旨の新聞報道(同年7月25日付け。乙78)がされた。
(キ) 政府税調法人課税小委員会は,平成13年10月9日,「連結納税制度の基本的考え方」(甲104)を公表した。「連結納税制度の基本的考え方」においては,連結納税制度の基本構造について,親会社とその親会社に発行済株式の全部を直接又は間接に保有される子会社(100%子会社)をその対象範囲とすることが適当であり,一旦連結納税制度を選択した場合には,継続して適用することを基本とすべきであるとされていた。また,「連結納税制度の基本的考え方」には,導入されることが想定される連結納税制度の概要が記載されているものの,外国法人の子会社が連結親法人として認められるかどうか,連結納税制度の適用対象となる子会社につき時価評価する対象から除外される場合の要件等については,具体的に記載されていなかった。
なお,「連結納税制度の基本的考え方」が公表された以降においても,連結納税制度の導入に反対する意見が根強くあるために自民党税調において引き続き連結納税制度導入の是非が議論されている旨の新聞報道(同月17日付け。甲136)や,準備が間に合わないことを理由に財務大臣が平成14年4月に連結納税制度を導入することを見送る旨の発言をした旨の新聞報道(平成13年11月23日付け。甲137)がされるなどしたが,財務大臣による上記の発言については,数日後にこれが修正された旨の新聞報道(ただし,同報道には,財務省の事務当局は事務手続の遅れを理由に来春(平成14年4月)の導入は難しいとしている旨等の記載もある。平成13年11月27日付け。乙87)がされたほか,平成14年4月からの連結納税制度の導入を目指すことで決着し,連結納税制度の導入に伴う税収の減少への対応として,法人税率の付加的な上乗せが検討されている旨の新聞報道(平成13年11月29日付け。甲105の1)もされた。その後,自民党税調が平成14年4月から連結納税制度を導入する方針を決め,併せて4年間の時限措置として法人税の税率の付加的な上乗せ(2%)をする方向で検討している旨の新聞報道(平成13年12月6日付け。甲105の2)がされた。
(ク) 財務省は,平成13年12月19日,平成14年度税制改正大綱(乙5)を公表し,平成14年度税制改正による連結納税制度の導入が公表された。その後,内閣は,平成14年1月17日,平成14年度税制改正大綱とほぼ同じ内容の平成14年度税制改正要綱(甲108)を閣議で決定した。なお,同要綱においては,連結納税制度の導入に伴う財源措置として,2年間の時限措置として,連結所得に対する法人税の税率に2%を上乗せすることとされていた。
(ケ) 内閣は,平成14年5月10日,平成14年度税制改正要綱(甲108)の内容を主な改正の内容とする「法人税法等の一部を改正する法律案」を衆議院に提出し,同案は,衆議院で議決された後,同年6月26日,参議院で議決された(同年法律第79号。甲109)。また,国税庁長官は,平成15年2月28日,連結納税制度が創設されたことに伴い,連結確定申告書を提出する連結法人に係る法人税法に関する取扱いを定めた連結納税基本通達(平成15年2月28日付け課法2-3課審4-7国税庁長官通達)を発出した(甲118)。
エ 欠損金のいわゆる繰越期間の延長に係る改正の経緯等
(ア) 政府税調は,平成15年6月,「少子・高齢社会における税制の在り方」(甲112)を答申したところ,同答申においては,欠損金の繰越期間について,一般的な欠損金の繰越期間の延長が産業構造の改革等の政策課題に真に有効な措置となるかどうか慎重に検討すべきである旨が記載されていた。さらに,政府税調は,同年11月27日,「平成16年度の税制改正に関する中間報告」(甲113)をまとめ,上記の答申とほぼ同様の内容が報告された。その後,自民党税調が,欠損金の繰越期間を7年に延長し,平成16年4月以降に発生する欠損金から適用する方針を決めた旨の新聞報道(平成15年12月5日付け。甲110)や,同税調が,平成13年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金について上記の欠損金の繰越期間の延長の対象に含める案で最終調整している旨の新聞報道(平成15年12月13日付け。甲111)がされるなどした。
(イ) 政府税調は,平成15年12月15日,「平成16年度の税制改正に関する答申」(甲114)において,欠損金の繰越期間の延長について慎重に検討すべきである旨の答申をした。これに対し,自民党税調は,同月17日,欠損金の繰越期間を7年に延長するとともに,その際,平成13年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金についてこれを適用する旨の記載を含む「平成16年度税制改正大綱」(甲115)をまとめた。
(ウ) 財務省は,平成15年12月19日,「平成16年度税制改正の大綱」(甲116)を公表し,同大綱においては,欠損金の繰越期間を7年に延長するとともに,その際,平成13年4月1日以後に開始した事業年度において生じた欠損金についてこれを適用することとされた。
内閣は,平成16年1月16日,「平成16年度税制改正の大綱」(甲116)とほぼ同じ内容の「平成16年度税制改正の要綱」(甲117)を閣議で決定し,同要綱(甲117)の内容を主な改正の内容とする「所得法等の一部を改正する法律案」は,同年3月31日,参議院で国会としての最後の議決がされた(同年法律第14号)。
(5) 米国連邦税法の定め
ア 株式の譲渡に係る米国連邦税法上の課税関係
米国連邦税法1221条において,株式等の有価証券は「資本資産」(capital asset)の範囲に含まれ(乙63・215頁),資本資産の譲渡によって生じる損益は,キャピタルゲイン又はキャピタルロスとして,通常の所得とは分離して課税される。すなわち,「実現金額」(amount realized:受領した現金と受領した現金以外の資産の公正な市場価格)から,売却した資産の「修正基礎価額」(adjusted basis:資産の基礎価額(取得価額)に修正額を加減したもの)を控除した金額を,当該資本資産の保有期間に応じて,それぞれ長期又は短期のキャピタルゲイン又はキャピタルロスとして合計した上で,当該課税年度の純額キャピタルゲイン又はキャピタルロスを計算し,税率を乗じるものとされている(乙63・211ないし215頁)。なお,a社は,b社らを関連グループ法人として米国の税制上の連結確定申告を行っており,その連結確定申告においては,b社を含む関連グループ法人全体を合わせてキャピタルゲイン又はキャピタルロスを計算し,連結確定申告における通常の所得とは別に税額を算定することとなる。
イ 自己の株式の取得の対価を受領した場合の米国連邦税法上の課税関係
(ア) 自己の株式の取得の対価を受領した場合の課税関係
米国連邦税法上,自己の株式の取得は「株式の償還」として取り扱われ(同法317条),自己の株式の対価を受領した者は,原則として,当該株式を発行した法人から株主の地位に基づき「資産の分配」を受けたものとされ,その原資が①1913年(大正2年)2月28日以降に累積されたE&P(Earnings and Profits。乙63・8及び186頁)及び②当該年度のE&P(課税年度末のE&Pであり,その年度中に行われた分配額控除前の金額である。)から成る(乙63・185及び186頁)場合には,受領者は配当金を受けたものとして取り扱われる(乙64・397及び398頁)。このように,米国連邦税法では,自己の株式を取得する取引に係る譲渡人がその譲渡の対価を受領しても,キャピタルゲイン又はキャピタルロスが計上されるのではなく,譲渡の対価の額に相当する配当所得として認識されて課税が行われることになる(乙64・398頁)。一方,我が国の法人税法においては,前記(2)に述べたとおりの取扱いになっており(法人税法61条の2),上記の米国連邦税法上の取扱いとは異なる。
(イ) 受取配当に係る所得控除の制度
米国連邦税法においては,法人が配当を受領した場合には,一定の条件の下に,課税所得の計算上,配当額の一定割合(100%,80%又は70%)を控除することができる。米国から見た外国法人(米国外法人)からの受取配当についても,これらの特別控除を利用できる場合もあるが,米国に源泉のある利益から配当される部分に限られる(乙63・190ないし204頁参照)。ただし,2004年(平成16年)に制定された米国雇用創出法(甲21)によって,同年10月21日以前に開始した直近課税年度及びその翌課税年度に限り,一定の要件を満たす米国居住者によって株式を保有された米国外法人(Controlled Foreign Corporation)から米国法人が配当を受領した場合,その金額の85%を課税所得から控除することが認められていた(甲21・61及び62頁)。原告が行った本件各譲渡は,米国の税制上,チェック・ザ・ボックス規則(後記ウ及びエ参照)により,b社とc社との間で直接行われたものとして取り扱われ,c社が支払った譲渡代金は,b社の総所得に算入されるが,これは,b社を含む関連グループ法人全体の連結確定申告をしていたa社の連結所得を構成するものであり,a社は,本件各譲渡に係るc社からの利益還元の時期を2004年(平成16年)から2005年(平成17年)に延期し,米国連邦税法に基づく所得税につき米国雇用創出法による軽減措置を受けた。
(ウ) 米国外法人から配当を受けた場合の外国税額の控除の制度
米国法人が米国外法人から配当を受領した場合,当該米国外法人が米国外の国で納付した法人税(米国外法人税)の額のうち所定の金額は,米国法人が納付したものとみなされ,米国法人が直接納付した米国外法人税の額と合わせ,控除限度額の範囲内で米国連邦税法に基づく法人税の額から控除することができる(乙63・529ないし533頁)。
ウ チェック・ザ・ボックス規則における取扱い
米国においては,例えば,パートナーシップのような事業体に投資して事業が行われている場合,当該事業体を出資者とは独立した法人として課税の対象とするのか(組織体課税),又は当該事業体を出資者たる構成員とは独立した事業体と認めず事業体の取引を構成員の取引として課税を行うのか(構成員課税)といった問題のように,様々な形態の事業体を課税上どのように取り扱うかに関しては,チェック・ザ・ボックス規則がその詳細を定めている。チェック・ザ・ボックス規則においては,自動的に法人と取り扱われる事業体(我が国の株式会社もこれに含まれる。)に該当しない事業体は,構成員課税(いわゆるパススルー課税)を選択することが可能とされており,その場合は,米国における法人税の額の計算上,当該事業体は,持分等の保有者から独立した法人とはみなされず,課税上はあたかも持分等の保有者の支店であるかのように扱われる。その結果,当該事業体と持分等の保有者との間の取引は内部取引(本支店間取引)として扱われて課税はされず,持分等の保有者の段階で課税関係が発生することになる(乙65・303ないし307頁)。この取扱いは,持分全てが米国の親会社に保有されている我が国の平成17年法律第87号による廃止前の有限会社法による有限会社にも適用される。
エ いわゆるハイブリッド支店
我が国の平成17年法律第87号による廃止前の有限会社法による有限会社である原告は,親会社であるb社によって全ての持分を保有されていたから,米国の税制上は,チェック・ザ・ボックス規則によりb社の支店として取り扱われる一方,我が国の法人税法上は,b社から独立した法人として取り扱われることになる。このように,所在地国においては課税上法人として取り扱われるが,米国の税制上では持分等の保有者の支店としてパススルー課税を受ける事業体は,講学上,ハイブリッド支店(hybrid branches)などと呼ばれることがある(乙66・101頁)。
3 日本再編プロジェクトに関係する外形的事実関係等
(1) ○○グループによる組織の再編等
a社は,ハードウェア中心の製造販売多国籍企業からグローバルに統合された組織体制でのハードウェア,ソフトウェア及び企業向けサービスを併せて提供するグローバルに統合された企業グループへの業態変革という大きな変革を遂げること目指し,財務管理の権限をa社の財務部門に集中させたり,不要となったハードウェア製品部門の多数の事業を売却してソフトウェア又は企業向けサービス事業を営む多数の企業を買収したりするとともに,2001年(平成13年)から2004年(平成16年)にかけて,北米,欧州及び日本を含む事業上主要と考えられる地域に地域又は国単位の中間持株会社を置くことによる子会社の組織の再編をすることとし,日本においても,従前,b社の下にc社,d社及びe社が,a社の下にf社が子会社として置かれていたところ,c社,d社,e社及びf社を全て原告の下に子会社として置くこととする組織の再編(日本再編プロジェクト)をすることとした。
(2) 原告を日本における○○グループを成す会社の持株会社とする再編に係る経緯等
ア A10は,2001年(平成13年)11月14日から同月17日まで,東京に出張し,同月15日に開催された会議に参加して,c社の担当者らに対し,c社等4社の株式を保有するための中間持株会社を日本に置くことについて説明した(甲40ないし42,48,54)。その後,A10は,同年12月12日,A13に対し,g社に接触して同社が持分を保有する我が国の有限会社の調査をするよう指示した(甲55)。
イ A10及びA14は,2002年(平成14年)1月20日から同月25日まで,東京に出張し,日本再編プロジェクトの実務を担当する者との会議を開催し,A14は,上記の会議の結果が反映された日本再編プロジェクトの実施に必要な行程,作業項目,論点,担当者,期限等が網羅的かつ包括的に記載された主要行程書(甲56の2)をc社の担当者らに配付するとともに,同月中に原告を購入することを希望する旨を伝えた(甲48,50,56の1・2)。
ウ b社は,平成14年2月1日に書面による同意があったときに係る取締役会決議の省略の方法により,b社による原告の買収及び増資,原告によるc社等4社の株式の取得等について決定し(乙21),同月8日に開催された原告の臨時社員総会においてg社からb社への原告の持分の譲渡が承認された後,g社との間で同月12日付けの株式譲渡契約書(乙22)に係る契約を締結して,原告の持分の全部を取得した。同月28日に原告の臨時社員総会が開催され,原告の唯一の社員であるb社の代理人としてA13が出席し,定款の一部変更,本店の移転,取締役辞任による改選が決議されて,取締役には,A6及びA7が就任した(甲31,乙23,54)。
エ 日本k社は,平成14年3月20日,c社に対し,□□意見書(乙19)を提出した。□□意見書には,「背景」として,○○グループが日本における持株会社を置こうと計画している旨の記載に加え,「X(原告)がc社(c社)の現株主であるb社(b社)から適正市場価格でc社(c社)を買取ろうとするものである…(中略)X(原告)は株式を現金と手形で購入する。購入後,c社(c社)はX(原告)が取得した株式の一部を償還する」との記載があり,それについて,「株式買戻しに関する税務上の取扱い」として,みなし配当の額に係る法人税法24条1項5号の適用関係が計算例とともに説明され,「結論」として,「日本における課税目的上,c社(c社)が償還した株式に割り振られる利益剰余金がある限りにおいて株式の償還はみなし配当として取り扱われる」などの記載がある。
オ 日本再編プロジェクトにおけるc社の担当者らは,平成14年3月22日,米国から出張してきたA14と会議を開催し,主要行程書(甲56の2)に記載されていた項目の検討結果の報告と確認がされ,新たな問題はない旨が確認されて,A14がA10にその旨を報告した(甲50,59の1・2)。同日の会議の要旨をまとめた3月22日議事録(甲59の2)は,別紙10のとおりである。
カ c社の法務担当部署は,平成13年末から平成14年3月頃にかけて,i法律事務所(当時)に対し,法律に関する照会をした。c社が上記の照会の際に作成した本件c社法務質問書(乙18)には,b社による有限会社の買収,当該有限会社によるb社からのc社等4社の株式の取得,同株式の取得をするために当該有限会社が受けるb社からの借入れ,c社の当該有限会社からの自己の株式の取得等に関する法律問題に関する質疑事項が記載されている。
キ(ア) 平成14年4月3日,原告の臨時社員総会が,原告の唯一の社員であるb社の代理人であるA13が出席して開催され,b社を引受人,払込期日を同月8日として資本の増加(1億3320万円)をすることとする(資本の増加後の資本の総額は1億3620万円)とともに,資本準備金として1330億6680万円を積み立てることが決議された(本件増資。乙25)。
本件増資に係る金員合計1332億円は,同月5日,親会社であるb社から原告の取引銀行であるn銀行本店他7行に対して入金された。ただし,上記の金員のうち,1331億7000万円は,同月22日の本件株式購入に係る株式等の取得の代金の支払に充てられたため,同月24日,原告からb社に対して送金された(乙27)。
(イ) また,平成14年4月23日,原告の臨時社員総会が,原告の唯一の社員であるb社の代理人であるA13が出席して開催され,b社を引受人,払込期日を同月25日として資本の増加(1億3320万円)をすることとする(資本の増加後の資本の総額は2億6940万円)とともに,資本準備金として1330億6680万円を積み立てることが決議された(乙26)。
上記の資本及び資本準備金の各増加に係る金員として,1332億円(本件株式購入に係る株式等の取得の代金の支払に充てるためとして同月24日に原告からb社に送金された1331億7000万円を含む。)が,同月25日,b社名義のCitibank, N.A東京支店(当時)から原告の取引銀行であるn銀行本店他7行に送金されている。そして,このうち1331億7000万円については,本件融資に対する返済の一部に充てる目的で,同年5月14日,原告からb社に対して送金された(乙27)。
(3) 原告が関与した企業の買収等
ア a社は,2002年(平成14年)7月,◎◎を全世界において買収することとし,多くの国においては,◎◎の現地法人を当該国の○○グループに属する会社に吸収合併させる形で買収がされたが,日本においては,k社の日本法人であったo株式会社から日本におけるコンサルティング業務に係る事業(同月1日時点で従業員数1650名)の譲渡を受けたl社を原告の100%子会社とする形(c社といわゆる兄弟会社とする形)により買収がされることとなり,原告は,同年9月5日,l社の発行済株式の全部を取得した。l社は,同月18日,l1社に商号を変更し,平成22年4月1日,c社に吸収合併された(甲64,69)。
イ 原告は,平成15年6月10日,同日に開催された臨時社員総会において,b社から,j社の発行済株式の全部(5200株)を4億5211万9810円で取得することを決議し(乙2),同社の発行済株式の全部を取得した。原告の子会社であるc社は,同年8月18日,j社を吸収合併した。
ウ 原告は,平成19年9月19日,同日に開催された臨時株主総会において,当時の株主である○○ Japan Holdings LLCに対し,その保有するm社の発行済株式の全部(50株)を現物出資財産として募集株式の割当をすること(会社法199条)を決議し(乙3),同社の株式を取得した。原告の子会社であるc社は,同年10月1日,m社を吸収合併した。
4 本件株式購入及び本件各譲渡等
(1) c社による利益の還元について
c社は,株主であるb社又は原告に対し,配当又は自己の株式の取得の方法により,稼得した利益を還元しているところ,平成9年ないし平成20年までの利益の還元に係る状況は,別紙11のとおりである。
(2) 本件株式購入について
原告は,平成14年4月22日,b社から,同社の保有するc社の発行済株式の全部(153万3470株)を代金1兆9500億円(1株当たりの取得価額127万1625円)で購入した(甲22の1,乙29。本件株式購入)。なお,上記の取得価額は,a社が依頼し,h社(h社は,○○グループに属する会社(子会社又は関連会社)ではなく,いわゆるファイナンシャルアドバイザリーサービスの専門業者である。)が作成した△△株式評価書(乙30)に基づいて決定されたものであるところ,同株式評価書において,c社の株式の価値は,主としてDCF法により算定されている。△△株式評価書においては,平成14年から平成21年までの8年間の予測されるキャッシュフローに基づいて当該計算が行われている(なお,平成14年度から平成16年度までのc社の業績予測及び予測されるキャッシュフローについての記載があることについては,当事者の間に争いがない。)。また,本件株式購入における取得の価額以外の主な契約の内容を成すものは,次のとおりである(甲22の1,乙29)。
ア 原告は,取得の価額のうち,1317億8000万円は現金で支払い,残額の1兆8182億2000万の代金支払債務については,b社と原告との間で消費貸借の目的とする(本件融資)。
イ 本件融資につき担保の定めはない。
ウ 本件融資は,平成24年12月20日を弁済の期日とし,当該日において,原告は本件融資に係る残高総額及び未払利息の総額を支払う。ただし,原告は,b社に通知することによって,上記の日の前に融資額の一部又は全部を返済することができる。
エ 原告は,b社に対し,本件融資に係る利息を毎年12月20日に支払う。なお,原告は,利息の支払日に利息を支払うことに代えて,利息相当額を未返済残高に組み込むことを選択できる。
オ 平成14年4月22日から平成17年12月20日までの期間の利率は,年0.6344パーセントとする。
(3) 本件各譲渡について
ア 平成14年譲渡について
(ア) c社の定時株主総会における決議等
c社は,平成14年3月28日に当時の株主であったb社の代理人の出席を得て定時株主総会を開催し,同総会において,次期定時株主総会までの間に,c社の発行済株式の全部を保有する者又は同人から同社の発行済株式の全部を譲り受けた者から,自己の株式を,株式数の総数70万株,取得価額の総額2130億円をそれぞれ限度として取得することが決議された(乙32)。その後,c社の税務担当者(A9)は,前事業年度終了の時における簿価純資産価額を基に同社の1株当たりの価額を30万5586円と算出し,当該1株当たりの価額を基に取得する株式数を69万7000株,取得価額の総額を2129億9344万2000円と算出して,同年11月25日に同社の財務部に報告した(乙33の1・2,34)。
(イ) c社による自己の株式の取得等
c社の取締役会は,平成14年11月27日,前記(ア)の株主総会の決議に基づき,株式数の総数70万株,取得価額の総額2130億円をそれぞれ上限として原告から自己の株式を取得する旨及び具体的な買付日,方法等は代表取締役に一任する旨を決議した(乙35)。c社は,同年12月20日,原告から,前記(ア)のA9による報告(乙33の2,34)に基づき,自己の株式69万7000株を総額2129億9344万2000円で取得し(1株当たり30万5586円),また,同月24日に開催された取締役会において,取得した株式の全部を同日付けで消却する旨を決議した(乙36)。
原告は,同月20日,c社から,同社の株式の譲渡の代金の額から源泉所得税の額(みなし配当の額の部分に係る源泉所得税の額)に相当する金額を控除した1703億9475万3600円の振込送金を受け,同日,b社に対し,上記の送金を受けた金員のうち1703億7800万円を本件融資に係る借入金の返済に充てるために送金した(乙37)。また,原告は,同月24日付けで,原告が保有するc社の株式のうち69万7000株を処分価額2129億9344万2000円でc社に譲渡した旨の対内直接投資等に関する命令6条の2第1号(ただし,平成21年内閣府,総務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省,国土交通省,環境省令第1号による改正前のもの。以下同じ。なお,外国為替及び外国貿易法55条の5及び平成21年政令第146号による改正前の対内直接投資等に関する政令6条の3第1項も参照。)に基づく株式持分の処分報告書を日本銀行経由で財務大臣等に提出した(乙38)。
(ウ) 前記(イ)の処理の修正等
c社は,平成15年1月6日に開催された取締役会において,A7(c社(理事)財務担当兼原告取締役)から,平成14年12月20日付けで取得した自己の株式の株式数を69万7000株から16万7497株に修正する旨の報告がされたため,同月24日に開催された取締役会における自己の株式を消却する旨の決議について,消却する株式数を69万7000株から16万7497株に修正する旨を決議した(乙39)。この修正は,当初,c社の1株当たりの簿価純資産価額を基礎としてc社が取得する株式数を算出していたものを,直近の取引価額である本件株式購入時の1株当たりの価額(127万1625円。時価純資産価額)を基礎として上記の取得する株式数を算出し直したことによるものであった。
原告は,平成15年1月6日付けで,原告が平成14年12月24日付けで提出した前記(イ)の株式持分の処分報告書(乙38)のうち譲渡した株式数を16万7497株と修正する内容に差し替えた報告書を日本銀行を経由して財務大臣等に提出した(乙40,41)。また,原告は,平成15年1月6日付けで譲渡した株式数等が修正されたことに伴って源泉所得税の額が修正されたため,c社から,平成14年12月30日,29億5913万5148円の追加の入金を受け,b社に対し,同日付けで同額を送金した(乙51)。なお,上記のような内容の平成14年譲渡の結果,平成14年12月期において,有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額1981億9782万9185円が,原告の所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額として生じた。
イ 平成15年譲渡について
c社は,平成15年3月27日に定時株主総会を開催し,A7(当時の同社の(理事)財務担当兼原告取締役)が原告を代表して出席したところ,同株主総会において,次期定時株主総会までの間に,原告から,自己の株式を,株式数の総数30万株,取得価額の総額835億円をそれぞれ限度として取得することが決議された(乙42)。
原告は,同年12月22日,c社に対し,同社の発行済株式の一部である1万8008株を228億9942万3000円(1株当たりの譲渡価額約127万1625円)で譲渡した(平成15年譲渡)。また,c社の取締役会は,同日,取得した自己の株式の全部を消却する旨を決議した(乙43)。
c社は,同日,原告に対し,平成15年譲渡の譲渡の代金の額から源泉所得税の額に相当する金額を控除した186億7669万3140円を振込送金し,原告は,同日,b社に対し,上記の送金を受けた金員のうち186億7198万4662円を本件融資に係る借入金の返済に充てるために送金した(乙52)。なお,平成15年譲渡の結果,平成15年12月期において,有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額213億1467万9431円が,原告の所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額として生じた。
ウ 平成17年譲渡について
(ア) c社の定時株主総会における決議等
c社は,平成17年3月31日,定時株主総会を開催し,同総会において,次期定時株主総会までの間に,原告から,自己の株式を,株式数の総数15万3000株,取得価額の総額1954億円をそれぞれ限度として取得することが決議された(乙44)。なお,上記の取得価額の総額の限度(1954億円)は,平成16年度に配当することが可能な限度額として算定された2118億8400万3626円から平成17年3月にされた通常配当の額(164億円)を控除した後の平成16年度に配当することが可能な限度額(1954億8400万3626円)を基に算定されたものである。
(イ) c社による自己の株式の取得等
c社の取締役会は,平成17年11月22日,前記(ア)の株主総会の決議に基づき,株式数の総数15万3000株,取得価額の総額1954億円をそれぞれ上限として同年12月中を目途に原告から自己の株式を取得するとともに,取得した自己の株式の全部を同日付けで消却する旨及び具体的な買付日,方法等は代表取締役に一任する旨を決議した(乙45)。
原告は,同月5日,c社から,同社の株式の譲渡の代金の額から源泉所得税の額に相当する金額を控除した1584億4301万2779円の振込送金を受け,同日,b社に対し,同額を本件融資に係る借入金の返済に充てるために送金した(乙46)。また,原告は,同月8日付けで,原告が保有するc社の発行済株式のうち15万3000株を処分価額1945億5862万5000円でc社に譲渡した旨の対内直接投資等に関する命令6条の2第1号に基づく株式持分の処分報告書(乙47)を日本銀行経由で財務大臣等に提出した。
(ウ) 前記(イ)の処理の修正等
前記(イ)の後,c社において,同社の配当することが可能な利益についての計算が誤っており,同社が自己の株式の取得に充てることができる配当することが可能な限度額として正しい金額は,1939億6330万5178円であったことが判明した。
c社は,平成17年12月28日,定時株主総会を開催したところ,同総会において,前記(ア)の株主総会における自己の株式の取得についての決議が無効である旨の説明がされるとともに,同日に開催された株主総会から次期の定時株主総会までの間に,原告から,自己の株式を,株式数の総数15万2531株,取得価額の総額1939億6330万5178円をそれぞれ限度として取得することが決議された(乙48)。また,c社の取締役会は,同日,A8(c社の財務担当理事兼原告取締役)から,自己の株式の取得について,上記の定時株主総会の決議に関する説明がされたため,株式数の総数15万2531株の自己の株式を取得価額の総額1939億6223万2875円で原告から取得し,その取得した自己の株式の全部を即日消却する旨を決議した(乙49)。
原告は,同日,c社に対し,同社の発行済株式の一部である15万2531株を1939億6223万2875円(1株当たりの価額約127万1625円)で譲渡した(平成17年譲渡)。原告は,同月29日,b社からc社を経由して4億8568万4791円の返金を受けたため,c社に対し,同月30日,同額を送金した(乙53)。原告は,平成18年1月12日,前記(イ)の株式持分の処分報告書(乙47)の内容のうち譲渡した株式の数量及び処分価額を修正したもの(乙50)を,前記(イ)の株式持分の処分報告書の内容を差し替える趣旨のものとして,日本銀行を経由して財務大臣等に提出した。なお,平成17年譲渡の結果,平成17年12月期において,有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額1800億7513万0754円が,原告の所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額として生じた。
エ なお,平成16年12月期においては,米国の企業は,2004年(平成16年)10月に成立した米国雇用創出法により,2005年(平成17年)中に所定の要件を満たした上で,同企業に係る海外の子会社から配当を受けた場合に,米国連邦税法に基づく所得税が軽減される措置を受けられることになった(甲21)ため,a社が,c社からの利益の還元の時期を2004年(平成16年)から2005年(平成17年)に延期することとした結果,c社は,原告から,自己の株式を取得しなかった。
5 前記2の日米における各税制を前提とした本件における課税関係等
(1) c社の自己の株式の取得が直接b社から行われたと仮定した場合
ア 我が国における課税関係
b社が,c社に対して同社の株式を譲渡し,同社から自己の株式の取得により金銭の交付を受けたと仮定した場合,その金銭のうちの一部は配当とみなされることから,c社は,当該みなし配当の額に係る部分について最高10%の税率で我が国の所得税を源泉徴収する必要があるが,b社にとっては,それによって我が国の課税関係は終了する(所得税法178条(平成14年譲渡及び平成15年譲渡につき平成17年法律第21号による改正前のもの。以下同じ。),179条(平成14年譲渡及び平成15年譲渡につき平成17年法律第21号による改正前のもの。以下同じ。),212条(平成14年譲渡につき平成15年法律第8号による改正前のもの,平成15年譲渡につき平成16年法律第14号による改正前のもの及び平成17年譲渡につき平成19年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)並びに213条(平成14年譲渡につき平成15年法律第8号による改正前のもの及び平成15年譲渡につき平成16年法律第14号による改正前のもの。以下同じ。),日米租税旧条約12条(平成14年譲渡及び平成15年譲渡)又は日米租税新条約10条(平成17年譲渡))。
また,c社が自己の株式の取得によりb社に対してした金銭の交付は,所得税法25条1項5号(平成14年譲渡及び平成15年譲渡につき平成15年法律第54号による改正前のもの並びに平成17年譲渡につき平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)の事由による金銭の交付として,一定の部分の金額が利益の配当とみなされて,配当所得に係る所得税法24条1項(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する配当等,すなわち,所得税法161条1項5号(平成14年譲渡及び平成15年譲渡につき平成16年法律第14号による改正前のもの並びに平成17年譲渡につき平成18年法律第10号による改正前のもの)の国内源泉所得に該当するものとされる。その結果,c社は,外国法人であるb社に当該金銭を支払う際,所得税を源泉徴収して我が国に納付する義務があることになる(所得税法212条1項)。他方,b社は,国内に恒久的施設を有する外国法人等(法人税法141条1ないし3号)には該当せず,かつ,同条4号に規定する国内源泉所得を有さないため,法人税の納税義務はなく,上記の金銭の交付に係る我が国の課税関係は,上記のc社の源泉徴収によって終了するものとなる(所得税法178条)。
イ 米国における課税関係
b社がc社から自己の株式の取得により交付を受ける金銭については,米国連邦税法上,c社のE&Pから支払われている限り「配当」と取り扱われて同額がb社の課税所得に算入され,a社の連結確定申告において連結所得を構成することになる。他方,c社は,我が国の所得税を源泉徴収している(前記ア参照)ところ,米国の税制上,当該源泉所得税の額は,b社が支払った米国外法人税の額として,a社の連結確定申告において外国税額の控除の対象となる。また,c社が我が国に納付した法人税の額のうち,上記の「配当」に対応する部分として米国連邦税法にのっとって計算される金額についても,b社が納付した米国外法人税の額とみなされ,上記の源泉所得税の額と同様,a社がする連結確定申告において外国税額の控除の対象となる(間接税額控除)。米国連邦税法上,外国法人税の額は,税額控除としての選択を行った場合,控除限度額の範囲内で法人税の額から控除することとされ,控除限度額の計算は一括して行うのが原則であるところ(米国連邦税法904条(a)),配当,利子,使用料等に係る外国法人税の額については,それぞれの所得ごとに控除限度額の比較を行い,未使用の控除限度額の他への流用を認めない(同条(b))こととなっているため,配当に係る外国法人税の額の全てを控除することができるとは限らない(甲75・479ないし482頁,乙63・529ないし539頁)。
(2) 本件株式購入及び本件各譲渡の場合
次のとおり,本件株式購入の段階では,売主であるb社においては,いわゆるキャピタルゲイン課税(株式譲渡益課税)を含め何ら課税を発生させないまま,買主である原告においては,1株当たり127万1625円の取得価額(時価純資産価額)が付されたc社の発行済株式の全部を保有することになった。そして,1株当たりの譲渡の価額を上記の取得価額とほぼ同じ価額(1株当たり約127万1625円)に設定して,原告とc社との間で自己の株式の取得に係る取引(本件各譲渡)をすることで,b社においては,米国の税制上,c社から直接配当を受領したものと取り扱われるという従前の課税関係に変化はないが,取引に介在した原告については,我が国の法人税法上,同法24条1項5号,23条1項及び61条の2第1項の規定が適用され,課税標準である所得の金額の計算上,益金の額に算入されないものとされるみなし配当の額とこれと同額である有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額が生ずることとなる。
ア 本件株式購入について
(ア) 我が国における課税関係
我が国の法人税制においては,チェック・ザ・ボックス規則と同様の取扱いは存在せず,有限会社である原告はb社から独立した法主体として取り扱われるから,本件株式購入が原告の課税関係に影響を及ぼすことになる。我が国の税制上,原告は,別個の法人格を有するb社からc社の発行済株式の全部を総額1兆9500億円(1株当たりの価額127万1625円)で購入したものとして,その金額(1株当たり127万1625円)が原告の同株式に係る取得価額(法人税法61条の2第1項2号,同条10項(平成18年法律第10号による改正前のもの),法人税法施行令119条1項1号(平成18年政令第125号による改正前のもの))になる。その後,原告がc社の株式を同社に譲渡した場合には,原告において有価証券の譲渡損益を計算することになるが,当該譲渡に係る原価の額は,本件株式購入に係る金額(1株当たり127万1625円)が基礎となる(法人税法61条の2第1項2号参照)。
(イ) 米国における課税関係
b社が,その保有していたc社の株式を独立した日本法人に1兆9500億円(1株当たり127万1625円)で譲渡した場合,「実現金額」である当該譲渡に係る代金から「修正基礎価額」を控除した額が株式の譲渡益となり,巨額のキャピタルゲイン課税が米国において発生することが想定される(我が国で昭和12年に設立されたc社は,1911年(明治44年)に創立されたa社の間接子会社であるが,a社の子会社であるb社は,○○グループ内でc社の株式の取得価額を引き継いでいる可能性が高いことや,平成9年6月30日から平成12年7月26日までの間におけるc社とb社との間の自己の株式の取得に係る取引の価格は1株当たり15万3765円から19万9814円の間で推移している(別表11,乙6ないし16)こと等に鑑みると,b社におけるc社の株式の修正基礎価額は本件株式購入における取引価額(1株当たり127万1625円)に比べ相当に低い金額であったことが容易に想定される。)。
しかしながら,b社と原告との間の株式の譲渡については,米国の税制上,譲渡先である原告がb社から独立した法人として取り扱われない我が国の有限会社であることから,上記取引は内部取引として取り扱われることになる。したがって,本件株式購入がされた段階においては,米国の税制上,b社には何らの課税関係も生じない(その後,原告がb社から取得したc社の株式を同社に譲渡した場合には,b社がc社に当該株式を譲渡して配当を受領したものとして,b社の課税所得が計算されることになる。)。
イ 本件各譲渡について
(ア) 我が国における課税関係
a c社から自己の株式の取得により金銭の交付を受けたことに伴う原告の法人税の額の計算
原告は,本件各譲渡において,いずれも,自らの保有するc社の発行済株式の一部を同株式の取得価額とほぼ同額の1株当たり約127万1625円で同社に対し3回に分けて譲渡し,それにより金銭の交付を受けているが,これは,法人税法24条1項5号(平成13年法律第80号により改正された後のもの)の事由により金銭の交付を受けたことに該当し,一定の部分を超える金額(受領した対価の約93%に相当する金額である。)については,法人税法23条1項を含む同法の規定の適用につき利益の配当の額とみなされる。その結果,当該みなし配当の額については,同項の規定に基づき,原告の本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入されないことになる一方,同社の株式の譲渡に係る原告の有価証券の譲渡損益の計算において,譲渡に係る対価の額から控除されることになる(同法61条の2第1項1号括弧書き)。本件においては,本件株式購入の際の原告の取得価額(1株当たり127万1625円)とほぼ同額の1株当たりの価額で本件各譲渡がされている結果,本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上,同法23条1項の規定により益金の額に算入されないものとされるみなし配当の額は,同法61条の2第1項の規定によりそのまま原告の有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額となって損金の額に算入され,他に所得を生じるような特段の事業をしていない原告においては,ほぼその金額に相当する金額が欠損金額として生じ,それに相当する金額が翌期以降の事業年度に繰り越されることとなる(同法57条)。
b みなし配当の額に係る原告の源泉所得税の額等の取扱い
(a) みなし配当の額に係る源泉所得税
原告がc社から自己の株式の取得により交付を受けた金銭のうち,一定の部分を超える金額については,所得税法25条1項5号の規定により利益の配当とみなされて,配当所得に係る同法24条1項に規定する配当等,すなわち,同法174条2号に規定する内国法人に対して課する所得税の課税標準に該当するとされる結果,同社は,内国法人である原告に当該金銭を支払う際,20%の税率で所得税を源泉徴収して我が国に納付する義務が生じる(同法212条3項,213条2項2号)。こうしてc社により源泉徴収された所得税の額は,原告の法人税の額の計算上,法人税法68条1項(平成14年譲渡及び平成15年譲渡につき平成15年法律第8号による改正前のもの並びに平成17年譲渡につき平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)の配当等につき課される所得税の額に該当するため,同項の規定に基づき,原告の法人税の額から控除することができ,法人税の額が0円の場合には,上記の源泉所得税の額と同額の還付を受けることができることになる。原告は他に所得を生じるような特段の事業をしていないため,本件各譲渡事業年度の法人税に係る所得の金額の計算においてはいずれも欠損金額が生じ,法人税の額は0円であって,原告がした原告の本件各譲渡事業年度の法人税の確定申告により,c社が源泉徴収した所得税の額の全額が原告に還付されている(甲78の1ないし3)。
(b) 支払利子に係る源泉所得税
原告がc社から自己の株式の取得により交付を受けた金銭は,原告のb社からの借入金の返済及び利子の支払として,直ちにb社に送金されているところ,当該利子に相当する部分の金額については,外国法人であるb社に対して国内源泉所得に該当する所得税法161条1項6号(平成21年法律第13号による改正前のもの)の貸付金の利子を支払ったものとして,原告は,所得税法212条1項の規定に基づき,その支払の際,最高10%の税率で所得税の源泉徴収義務を負う(同法212条1項,213条1項,日米租税旧条約13条(平成14年譲渡及び平成15年譲渡)又は日米租税新条約11条(平成17年譲渡))。そして,b社は,国内に恒久的施設を有する外国法人等(法人税法141条1ないし3号)に該当せず,かつ,同条4号に規定する国内源泉所得を有さないため,法人税の納税義務はなく,したがって,上記の利子に係る我が国の課税関係は,上記の原告の源泉徴収によって終了する(所得税法178条)。
(イ) 米国における課税関係
原告がc社から自己の株式の取得により交付を受けた金銭については,原告のb社に対する借入金の返済等として直ちに同社に送金されているが,米国の税制(チェック・ザ・ボックス規則)上,上記取引は内部取引として取り扱われることになるため,本件各譲渡は,b社が直接c社に対して同社の株式を譲渡したものとして扱われる。すなわち,c社が自己の株式の取得により原告に対して交付した金銭は,米国の税制上,b社とc社との株式の譲渡の取引において,b社が受け取るべき株式の譲渡の代金が原告を経由してc社から支払われたものとして取り扱われる。その結果,前記(1)イに述べた場合と同様に,b社は,c社の株主としての地位に基づいて,同社から直接「配当」を受けたものとして,その金額がb社の課税所得に算入され,a社の連結確定申告における連結所得を構成することになる。
c社が自己の株式の取得により原告に対して交付した金銭のうちみなし配当の額に係る原告の源泉所得税の額は,①原告が介在しない場合には,前記(1)イに述べたとおり,a社による米国の連結確定申告において,「配当」に係る控除限度額の範囲内で外国税額の控除の対象となるのに対し,②原告が介在した場合には,前記(ア)b(a)に述べたとおり,我が国において原告が法人税の確定申告をすることにより,法人税法68条1項の規定に基づきその全額が還付されることになるので,米国において外国税額の控除の対象とするまでもなく,その全額を原告を通じて我が国から取り戻すことが可能となる(そして,我が国で原告が還付を受けた所得税の額に相当する金銭も,そのほぼ全額が直ちにb社に対する借入金の返済等に充てる目的で送金されている。)。ただし,c社が納付した我が国の法人税のうち,b社が受け取った「配当」に対応する部分については,原告が介在しない場合及び介在した場合のいずれにおいても,b社が支払った米国外法人税とみなされ,a社の連結確定申告において外国税額の控除(間接税額控除)の対象となる。
6 原告の確定申告等
(1) 原告は,平成15年2月14日,麻布税務署長に対し,所得の金額を欠損金額1982億1046万5085円,納付すべき法人税の額を0円,法人税の額から控除される還付金の額に相当する所得税の額を396億3955万3252円,翌期へ繰り越す欠損金額を2027億6029万5081円等とする平成14年12月期の法人税の確定申告をした(甲78の1)。
(2) 原告は,平成16年2月16日,麻布税務署長に対し,所得の金額を欠損金額212億7598万7981円,納付すべき法人税の額を0円,法人税の額から控除される還付金の額に相当する所得税の額を82億1626万0957円,翌期へ繰り越す欠損金額を2240億3628万3062円等とする平成15年12月期の法人税の確定申告をした(甲78の2)。
(3) 原告は,平成17年2月23日,麻布税務署長に対し,所得の金額を欠損金額748万9573円,納付すべき法人税の額を0円,法人税の額から控除される還付金の額に相当する所得税の額を30億8000万円,翌期へ繰り越す欠損金額を2240億4377万2635円等とする平成16年12月期の法人税の確定申告をした。
(4) 原告は,平成18年2月27日,麻布税務署長に対し,所得の金額を欠損金額1803億0334万2588円,納付すべき法人税の額を0円,法人税の額から控除される還付金の額に相当する所得税の額を395億3362万7927円,翌期へ繰り越す欠損金額を4043億4681万3619円等とする平成17年12月期の法人税の確定申告をした(甲78の3)。
(5) 原告は,平成19年2月21日,麻布税務署長に対し,所得の金額及び納付すべき法人税の額をいずれも0円,法人税の額から控除される還付金の額に相当する所得税の額を21億4520万円,翌期へ繰り越す欠損金額を4038億9565万2113円等とする平成18年12月期の法人税の確定申告をした。
(6) 原告は,平成20年2月29日,麻布税務署長に対し,所得の金額を欠損金額1億2244万8141円,納付すべき法人税の額を0円,法人税の額から控除される還付金の額に相当する所得税の額を459億8000万円,翌期へ繰り越す欠損金額を4040億1810万0254円等とする平成19年12月期の法人税の確定申告をした。
(7) 原告は,平成19年6月20日,国税庁長官に対し,自らを連結親法人とする連結納税の承認の申請(本件連結納税承認申請)に係る申請書(甲25)を提出し,平成20年1月1日付けで当該申請が承認されたものとみなされた(法人税法4条の3第4項)。原告は,平成21年4月28日,麻布税務署長に対し,連結所得の金額を1161億7092万7979円,納付すべき法人税の額を185億3401万3900円,翌期へ繰り越す連結欠損金額を3999億2472万6207円等とする平成20年12月連結期の法人税の連結確定申告をした。
(8) 原告は,平成22年4月28日,日本橋税務署長に対し,連結所得の金額を946億9262万8350円,納付すべき法人税の額を280億2696万6500円,翌期へ繰り越す連結欠損金額を0円等とする平成21年12月連結期の法人税の連結確定申告をした。
(9) 原告は,平成23年8月1日,日本橋税務署長に対し,連結所得の金額を1175億5739万8297円,納付すべき法人税の額を288億7821万0700円,翌期へ繰り越す連結欠損金額を0円等とする平成22年12月連結期の法人税の連結確定申告をしたが,平成24年4月26日,連結所得の金額を1273億0338万5438円,納付すべき法人税の額を318億0200万6800円,翌期へ繰り越す連結欠損金額を0円等とする平成22年12月連結期の法人税の修正申告をした。
(10) 原告は,平成24年4月26日,日本橋税務署長に対し,連結所得の金額を744億1554万3504円,納付すべき法人税の額を135億6189万0200円,翌期へ繰り越す連結欠損金額を0円等とする平成23年12月連結期の法人税の連結確定申告をした。
7 本件各更正処分等
(1) 麻布税務署長は,平成21年5月15日,原告に対し,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)をし,また,日本橋税務署長は,平成22年2月19日,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)をした。
(2) 原告は,平成22年4月16日,法人税法に規定する青色申告書又は同法130条1項に規定する連結確定申告書等に係る更正である本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)をいずれも不服として国税不服審判所長に対してそれぞれ審査請求(平成22年審査請求)をした(甲12)。また,原告は,同月28日,日本橋税務署長に対し,平成20年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(平成20年分更正の請求)を(甲11),同年6月10日,日本橋税務署長に対し,平成21年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(平成21年分更正の請求)を(甲33)それぞれした。
(3) 日本橋税務署長は,平成22年7月28日,平成20年分更正の請求(甲11)について更正をすべき理由がない旨を通知する処分(平成20年分通知処分。甲8)をしたところ,原告は,同年9月24日,法人税法130条1項に規定する連結確定申告書等に係る更正である平成20年分通知処分を不服として国税不服審判所長に対して審査請求をした(甲13)が,国税不服審判所長は,平成23年4月1日,平成22年審査請求(甲12)及び上記の審査請求(甲13)をいずれも棄却する旨の裁決をした(甲15)。
(4) 日本橋税務署長は,平成23年6月20日,原告に対し,平成21年分更正の請求(甲33)について更正をすべき理由がない旨を通知する処分(平成21年分通知処分)をする(甲34)とともに,平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)並びに平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1)及び平成21年12月連結期賦課決定処分(甲35の1)をした。
原告は,同年7月29日,法人税法130条1項に規定する連結確定申告書等に係る更正である平成21年分通知処分(甲34)並びに平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1)及び平成21年12月連結期賦課決定処分(甲35の1)をいずれも不服として国税不服審判所長に対してそれぞれ審査請求をした(甲36)が,国税不服審判所長は,平成24年1月25日,上記の各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした(甲37)。
日本橋税務署長は,平成24年3月27日,原告に対し,平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1)並びに平成21年12月連結期第2更正処分(乙62)及び平成21年12月連結期賦課決定処分変更決定処分(乙62)をした。
(5) 原告は,平成24年6月12日,日本橋税務署長に対し,平成22年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(平成22年分更正の請求。甲A4)及び平成23年12月連結期の法人税につき更正をすべき旨の請求(平成23年分更正の請求。甲A6)をそれぞれしたが,日本橋税務署長は,同年9月28日,平成22年分更正の請求(甲A4)及び平成23年分更正の請求(甲A6)についていずれも更正をすべき理由がない旨を通知する処分(本件各通知処分。平成22年分通知処分につき甲A5,平成23年分通知処分につき甲A7)をした。
原告は,同年10月17日,法人税法130条1項に規定する連結確定申告書等に係る更正である本件各通知処分(甲A5,7)を不服として国税不服審判所長に対してそれぞれ審査請求をした(甲A8)。
(6) 日本橋税務署長は,平成25年6月28日,原告に対し,平成23年12月連結期更正処分(甲147の1)及び平成23年12月連結期賦課決定処分(甲147の1)をした。
8 訴えの提起等(いずれも当裁判所に顕著な事実)
(1) 原告は,平成23年6月29日,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)の取消しを求める旨の訴え(第1事件)を提起した。
(2) 原告は,平成24年2月21日,平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1)及び平成21年12月連結期賦課決定処分(甲35の1)の取消しを求める旨の訴え(第2事件)を提起した。
(3) 原告は,平成24年5月17日,第1事件のうち平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)の取消しを求める部分につき平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1)の取消しを求める旨に,第2事件のうち平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1)及び平成21年12月連結期賦課決定処分(甲35の1)の各取消しを求める部分につき平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1。ただし,平成21年12月連結期第2更正処分(乙62)による一部取消し後のもの)及び平成21年12月連結期賦課決定処分(甲35の1。ただし,平成21年12月連結期賦課決定処分変更決定処分(乙62)による一部取消し後のもの)の各取消しを求める旨に,それぞれ訴えを変更する旨の申立てをした。
(4) 原告は,平成25年2月15日,本件各通知処分(甲A5,7)の各取消しを求める旨の訴え(第3事件)を提起した。
(5) 原告は,平成25年9月17日,第3事件のうち平成23年分通知処分(甲A7)の取消しを求める部分につき平成23年12月連結期更正処分(甲147の1)及び平成23年12月連結期賦課決定処分(甲147の1)の各取消しを求める旨に訴えを変更する旨の申立てをした。
以上
別紙5
本件各更正処分等の根拠及び適法性
被告が本件の各事件において主張する本件各更正処分等の根拠及び適法性は,次のとおりである。なお,金額の頭部に「△」を付したものは,所得の金額又は連結所得の金額については当該金額が欠損金額であることを,税額については当該金額が還付金の額に相当するものであることをそれぞれ表す。
1 本件各更正処分(甲1ないし6)の根拠
(1) 平成14年12月期
ア 所得の金額(別表1-1の「区分」欄の「更正」欄中「所得金額」欄) △1263万5900円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)の金額を加算したものである。
(ア) 確定申告における所得の金額 △1982億1046万5085円
上記金額は,平成14年12月期確定申告書(甲78の1)の「所得金額又は欠損金額」欄に記載された金額と同額である。
(イ) 法人税法132条1項を適用したことによる所得の金額の増加額 1981億9782万9185円
上記金額は,原告が,平成14年4月22日にc社の発行済株式の全部を取得(本件株式購入)し,その後,その一部を同年12月20日にc社に譲渡したこと(平成14年譲渡)による有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額から生じたものであるが,本件各譲渡を容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められることから,法人税法132条1項を適用することにより,所得の金額の計算上,これに加算すべき金額である。
イ 翌期へ繰り越す欠損金額(別表1-1「区分」欄の「更正」欄中「翌期へ繰り越す欠損金額」欄) 45億6246万5896円
上記金額は,平成14年12月期確定申告書(甲78の1)の「翌期へ繰り越す欠損金又は災害損失金」欄に記載された2027億6029万5081円から,平成14年12月期更正処分(甲1)により平成14年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた金額1981億9782万9185円を控除したものであり,翌期以後の事業年度において所得の金額の計算上,損金の額に算入される欠損金額である。
(2) 平成15年12月期
ア 所得の金額(別表1-2「区分」欄の「更正」欄中「所得金額」欄) 0円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)の金額を加算したものである。
(ア) 確定申告における所得の金額 △212億7598万7981円
上記金額は,平成15年12月期確定申告書(甲78の2)の「所得金額又は欠損金額」欄に記載された金額と同額である。
(イ) 法人税法132条1項を適用したことによる所得の金額の増加額 212億7598万7981円
上記金額は,原告が,平成14年4月22日にc社の発行済株式の全部を取得(本件株式購入)し,その後,その一部を平成15年12月22日にc社に譲渡したこと(平成15年譲渡)による有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額から生じたものであるが,本件各譲渡を容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められることから,法人税法132条1項を適用することにより,所得の金額の計算上,これに加算すべき金額である。
イ 翌期へ繰り越す欠損金額(別表1-2「区分」欄の「更正」欄中「翌期へ繰り越す欠損金額」欄) 45億6246万5896円
上記金額は,平成15年12月期確定申告書(甲78の2)の「翌期へ繰り越す欠損金又は災害損失金」欄に記載された2240億3628万3062円から,平成14年12月期更正処分(甲1)により平成14年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額1981億9782万9185円及び平成15年12月期更正処分(甲2)により平成15年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額212億7598万7981円を控除したものであり,翌期以後の事業年度において所得の金額の計算上,損金の額に算入される欠損金額である。
(3) 平成16年12月期
ア 所得の金額(別表1-3「区分」欄の「更正」欄中「所得金額」欄) △748万9573円
上記金額は,平成16年12月期確定申告書における所得の金額又は欠損金額を記載する欄に記載された金額と同額である。
イ 翌期へ繰り越す欠損金額(「区分」欄の「更正」欄中「翌期へ繰り越す欠損金額」欄) 45億6995万5469円
上記金額は,平成16年12月期確定申告書における翌期へ繰り越す欠損金額を記載する欄に記載された金額である2240億4377万2635円から,平成14年12月期更正処分(甲1)により平成14年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額1981億9782万9185円及び平成15年12月期更正処分(甲2)により平成15年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額212億7598万7981円をいずれも控除したものであり,翌期以後の事業年度において所得の金額の計算上,損金の額に算入される欠損金額である。
(4) 平成17年12月期
ア 所得の金額(別表1-4「区分」欄の「更正」欄中「所得金額」欄) △2億2821万1834円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)及び(ウ)の各金額を加算し,(エ)の金額を減算したものである。
(ア) 確定申告における所得の金額 △1803億0334万2588円
上記金額は,平成17年12月期確定申告書(甲78の3)の「所得金額又は欠損金額」欄に記載された金額と同額である。
(イ) 過大に控除された受取配当等の益金不算入の額 3億4261万8884円
上記金額は,原告が,平成17年12月期確定申告書(甲78の3)において,受取配当等の益金不算入の額として所得の金額から減算した金額のうち,国外支配株主等に係る負債の利子等の損金不算入(租税特別措置法66条の5)の額が減少した(後記(エ))結果,過大に所得の金額から控除された金額であり,法人税法23条4項(平成18年法律第10号による改正前のもの),法人税法施行令22条2項(平成18年政令第125号による改正前のもの)及び租税特別措置法施行令39条の13第21項(平成18年政令第135号による改正前のもの)を適用することにより,所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
(ウ) 法人税法132条1項を適用したことによる所得の金額の増加額 1800億7513万0754円
上記金額は,原告が,平成14年4月22日にc社の発行済株式の全部を取得(本件株式購入)し,その後,その一部を平成17年12月28日にc社に譲渡したこと(平成17年譲渡)による有価証券(c社の株式)の譲渡に係る譲渡損失額から生じたものであるが,本件各譲渡を容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められることから,法人税法132条1項を適用することにより,所得の金額の計算上,これに加算すべき金額である。
(エ) 過大に加算された国外支配株主等に係る負債の利子の損金不算入の額 3億4261万8884円
上記金額は,原告が国外支配株主等に係る負債の利子の損金不算入(租税特別措置法66条の5)の額として所得の金額に加算した金額のうち,過大に加算されたものであり,所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
イ 翌期へ繰り越す欠損金額(別表1-4「区分」欄の「更正」欄中「翌期へ繰り越す欠損金額」欄) 47億9786万5699円
上記金額は,平成17年12月期確定申告書の「翌期へ繰り越す欠損金」欄に記載された4043億4681万3619円から,平成14年12月期更正処分(甲1)により平成14年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額1981億9782万9185円,平成15年12月期更正処分(甲2)により平成15年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額212億7598万7981円及び平成17年12月期更正処分(甲4)により平成17年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額1800億7513万0754円を控除したものであり,翌期以後の事業年度において所得の金額の計算上,損金の額に算入される欠損金額である。
(5) 平成18年12月期
ア 所得の金額(別表1-5「区分」欄の「更正」欄中「所得金額」欄) 0円
上記金額は,平成18年12月期確定申告書における所得の金額又は欠損金額を記載する欄に記載された金額と同額である。
イ 翌期へ繰り越す欠損金額(別表1-5「区分」欄の「更正」欄中「翌期へ繰り越す欠損金額」欄) 43億4670万4193円
上記金額は,平成18年12月期確定申告書における翌期へ繰り越す欠損金を記載する欄に記載された金額である4038億9565万2113円から,平成14年12月期更正処分(甲1)により平成14年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額1981億9782万9185円,平成15年12月期更正処分(甲2)により平成15年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額212億7598万7981円及び平成17年12月期更正処分(甲4)により平成17年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額1800億7513万0754円を控除したものであり,翌期以後の事業年度において所得の金額の計算上,損金の額に算入される欠損金額である。
(6) 平成19年12月期
ア 所得の金額(別表1-6「区分」欄の「更正」欄中「所得金額」欄) △1億2244万8141円
上記金額は,平成19年12月期確定申告書における所得の金額又は欠損金額を記載する欄に記載された金額と同額である。
イ 翌期へ繰り越す欠損金額(別表1-6「区分」欄の「更正」欄中「翌期へ繰り越す欠損金額」欄) 44億6915万2334円
上記金額は,平成19年12月期確定申告書における翌期へ繰り越す欠損金を記載する欄に記載された金額である4040億1810万0254円から,平成14年12月期更正処分(甲1)により平成14年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額1981億9782万9185円,平成15年12月期更正処分(甲2)により平成15年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額212億7598万7981円及び平成17年12月期更正処分(甲4)により平成17年12月期の所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものとされた欠損金額1800億7513万0754円を控除したものであり,翌期以後の事業年度において所得の金額の計算上,損金の額に算入される欠損金額である。
2 平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1)の根拠
(1) 連結所得の金額(別表2「1連結所得金額」欄中「連結所得金額」欄(順号〈38〉)) 1132億5891万2126円
上記金額は,次のアの金額にイの金額を加算し,ウの金額を減算した金額である。
ア 平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)における連結所得の金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄中「第一次更正処分における連結所得金額」欄(順号〈22〉)) 0円
上記金額は,次の(ア)ないし(ト)の各金額の合計額から(ナ)の金額を控除したものであり,平成20年12月連結期第1更正処分に係る更正通知書(甲10の1)に記載された連結所得の金額と同額である。
(ア) 原告の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結親法人の個別所得金額」欄中「原告」欄(順号①)) △197億8969万0386円
上記金額は,連結親法人である原告の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(イ) c社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「c社社」欄(順号②)) 1272億3303万5199円
上記金額は,連結子法人であるc社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ウ) l1社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「l1株式会社」欄(順号③)) 6億7077万2932円
上記金額は,連結子法人であるl1社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(エ) d社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「d株式会社」欄(順号④)) 1億1086万2150円
上記金額は,連結子法人であるd社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(オ) q1株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q1株式会社」欄(順号⑤)) 1156万9797円
上記金額は,連結子法人であるq1株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(カ) q2株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q2株式会社」欄(順号⑥)) 1億9562万2405円
上記金額は,連結子法人であるq2株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(キ) q3株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q3株式会社」欄(順号⑦)) 5億9581万3412円
上記金額は,連結子法人であるq3株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ク) q4株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q4株式会社」欄(順号⑧)) 4億5673万9498円
上記金額は,連結子法人であるq4株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ケ) q5株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q5株式会社」欄(順号⑨)) 2億0420万9209円
上記金額は,連結子法人であるq5株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(コ) q6株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q6株式会社」欄(順号⑩)) 1億2461万2419円
上記金額は,連結子法人であるq6株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(サ) q7株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q7株式会社」欄(順号⑪)) 9億1110万4709円
上記金額は,連結子法人であるq7株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(シ) q8株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q8株式会社」欄(順号⑫)) 5119万0437円
上記金額は,連結子法人であるq8株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ス) q9株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q9株式会社」欄(順号⑬)) 32億6965万5613円
上記金額は,連結子法人であるq9株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(セ) q10株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q10株式会社」欄(順号⑭)) 4億6907万0871円
上記金額は,連結子法人であるq10株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ソ) q11株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q11株式会社」欄(順号⑮)) 1995万6708円
上記金額は,連結子法人であるq11株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(タ) q12株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q12株式会社」欄(順号⑯)) 3億5440万6329円
上記金額は,連結子法人であるq12株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(チ) q13株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q13株式会社」欄(順号⑰)) 4億7587万4625円
上記金額は,連結子法人であるq13株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ツ) q14株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q14株式会社」欄(順号⑱)) 4億1082万0895円
上記金額は,連結子法人であるq14株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(テ) 株式会社q15の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「株式会社q15」欄(順号⑲)) 2億8771万2844円
上記金額は,連結子法人である株式会社q15の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ト) q16株式会社の個別所得金額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q16株式会社」欄(順号⑳)) 1億0758万8313円
上記金額は,連結子法人であるq16株式会社の平成20年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ナ) 損金の額に算入される連結欠損金額の増加額(別表2「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄中の「連結欠損金の損金算入額の増加額」欄(順号〈21〉)) 1161億7092万7979円
上記金額は,平成20年12月連結期確定申告書別表七の二の「控除未済連結欠損金額 計」欄に記載された金額のうち,法人税法81条の9(ただし,平成22年法律第6号による改正前のもの)の規定により連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されるものである。
イ 連結所得の金額に加算すべき金額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「連結所得金額に加算すべき金額の合計額」欄(順号〈29〉)) 1135億1051万6327円
上記金額は,次の(ア)ないし(カ)の各金額の合計額である。
(ア) 過大に損金の額に算入された連結欠損金額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「連結欠損金の損金算入額の過大額」欄(順号〈23〉)) 1117億0177万5645円
上記金額は,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)により,本件各譲渡事業年度の各所得の金額の計算上,いずれも損金の額に算入されないものとされたことにより,前事業年度から繰り越される連結欠損金額が減少し,過大に損金の額に算入されたことになる連結欠損金額であり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されないものである。
(イ) 法人税の額等の損金不算入の額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「法人税額等の損金不算入額」欄(順号〈24〉)) 4329万5676円
上記金額は,連結子法人であるd社が法人税の額,住民税の額及び事業税の額として損金の額に算入したものであるが,連結所得に対する法人税の負担額として支払う金額であることから,法人税法38条4項の規定により,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されない金額である。
(ウ) その他の原価の額のうち損金の額に算入されない額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「その他の原価のうち損金の額に算入されない額」欄(順号〈25〉)) 6158万9731円
上記金額は,連結子法人であるc社が,その他の原価の額として損金の額に算入したものであるが,棚卸資産に対して翌事業年度以後に発生する損失に備えて計上したものであり,当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものであるから,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されない金額である。
(エ) いわゆる雑収入の額の計上漏れ(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「雑収入計上漏れ」欄(順号〈26〉)) 57万1312円
上記金額は,連結子法人であるc社が平成20年12月連結期終了の日に計上している前受金の額のうち,平成16年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税等に係るいわゆる仮受消費税等の額に相当する額であるが,上記課税期間の消費税等の更正又は賦課決定の期限を経過していることから,雑収入の額の計上漏れとして,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
(オ) 連結所得の金額に加算される連結法人税の個別帰属額に相当する金額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「連結法人税個別帰属額の損金不算入額」欄(順号〈27〉)) 1億8581万2544円
連結子法人であるc社の被合併法人であるl1社が連結法人税個別帰属額として4億0865万8742円を損金の額に算入したことから,l1社が損金の額に算入した連結法人税個別帰属額としてこれと同額を連結所得の金額に加算すべきところ,原告は,2億2284万6198円を連結所得の金額に加算した(過少に加算した。)。
標記金額は,原告が,本来連結所得の金額に加算すべき金額(4億0865万8742円)と平成20年12月連結期確定申告書に記載した金額(2億2284万6198円)の差額であり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
(カ) 連結所得の金額に加算すべき償却限度額を超える償却費の額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「減価償却超過額の加算過少額」欄(順号〈28〉)) 15億1747万1419円
上記金額は,次のaの金額からbの金額を差し引いたものである。
a 償却限度額を超える償却費の額 21億5976万5407円
上記金額は,連結子法人であるc社が受けた平成19年度の法人税の更正の処分により所得の金額の計算上損金の額に算入すべき償却限度額とされた57億5862万1431円と,平成20年12月連結期確定申告書において連結所得の金額の計算上償却費の額として損金の額に算入されている79億1838万6838円との差額であり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入されるものである。
b 過大に連結所得の金額に加算された償却限度額を超える償却費の額 6億4229万3988円
上記金額は,連結子法人であるc社が償却限度額を超える償却費の額として連結所得の金額に加算すべき79億7465万1109円と,平成20年12月連結期確定申告書において償却限度額を超える償却費の額として連結所得の金額に加算した旨が記載されている86億1694万5097円との差額であり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
ウ 連結所得の金額から減算すべき金額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「連結所得金額から減算すべき金額の合計額」欄(順号〈37〉)) 2億5160万4201円
上記金額は,次の(ア)ないし(キ)の各金額の合計額である。
(ア) 過大に計上された売上げの額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「売上計上過大額」欄(順号〈30〉)) 3605万1729円
上記金額は,連結子法人であるl1社が,c社に対する収益の額を過大に計上していたものであり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入されない金額である。
(イ) 過大に算入された役員給与の損金不算入の額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「役員給与の損金不算入額の過大額」欄(順号〈31〉)) 234万6515円
上記金額は,連結子法人であるq10株式会社が役員給与の損金不算入の額として個別所得金額に加算したものであるところ,これは,使用人兼務役員に対して支給する使用人としての職務に対する給与と認められるため,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(ウ) 過大に計上された平成20年12月連結期末において確定していないとされる債務の額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「未確定債務否認の過大額」欄(順号〈32〉)) 1億3726万1610円
上記金額は,連結子法人であるl1社が平成20年12月連結期終了の日までに債務の確定しないものの額として個別所得金額に加算したものであるが,これは,平成20年12月連結期の退職者に係る退職給与の額であり,その支給する金額が同連結期終了の日までに確定しているから,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(エ) 過大に加算された関係会社の株式の評価額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「関係会社株式評価額の加算過大額」欄(順号〈33〉)) 3000万円
上記金額は,連結子法人であるc社が,株式の評価損をその他の引当金として所得の金額に29億2216万9590円を加算すべきところ,29億5216万9590円を加算することによって,過大に所得の金額に加算していると認められるものであるから,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入されない金額である。
(オ) 過大な貸倒引当金繰入限度額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「貸倒引当金の繰入限度超過額の過大額」欄(順号〈34〉)) 4224万9003円
上記金額は,連結子法人であるc社の貸倒引当金の貸倒実績率の計算を誤ったことによって,所得の金額の計算上貸倒引当金繰入限度額を過大に加算したものであるから,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(カ) 費用の額として損金の額に算入される金額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「経費として損金の額に算入される額」欄(順号〈35〉)) 369万5229円
上記金額は,所得税(源泉所得税)の調査により計上漏れが判明した連結子法人であるq7株式会社が従業員に支給した赴任費であり,費用の額として連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(キ) いわゆる雑損失の額として損金の額に算入される額(別表2「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「雑損失として損金の額に算入される額」欄(順号〈36〉)) 115円
上記金額は,前記(カ)の所得税(源泉所得税)の調査により,赴任費に係る会計処理の誤りが判明した結果,連結子法人であるq7株式会社に生じた未払の消費税等に相当する額の増加額82万3285円と,同社が受けた平成20年1月1日から平成20年12月31日までの課税期間の消費税等の更正の処分により増加した同社が納付すべき消費税等の増加額82万3400円との差額であり,雑損失の額として連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(2) 連結所得に対する法人税の額(別表2「2連結所得に対する法人税額」欄(順号〈39〉)) 339億7767万3600円
上記金額は,前記(1)の連結所得の金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。以下同じ。)に法人税法81条の12第1項(ただし,平成22年法律第6号による改正前のもの)に定める税率を乗じて計算したものである。
(3) 法人税の額から控除される所得税の額及び外国法人税の額(別表2「3法人税額から控除される所得税額等」欄(順号〈40〉)) 163億1456万8899円
上記金額は,法人税法81条の14(ただし,平成23年法律第114号による改正前のもの)及び同法81条の15(ただし,平成21年法律第13号による改正前のもの)の規定により法人税の額から控除される所得税の額及び外国法人税の額の合計額であり,平成20年12月連結期確定申告書に記載された所得税の額162億3964万6725円に,平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1)の連結所得の金額及び連結所得に対する法人税の額により控除の対象となる外国法人税の額を再計算した結果である外国法人税の額7492万2174円を加算した金額である。
(4) 納付すべき法人税の額(別表2「4納付すべき法人税額」欄(順号〈41〉)) 176億6310万4700円
上記金額は,上記(2)の金額から上記(3)の金額を差し引いた金額である(なお,通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。以下同じ。)。
(5) 平成20年12月連結期第1更正処分に係る更正通知書(甲10の1)の「更正又は決定の金額」欄中の「差引合計税額」欄に記載された金額(別表2「5第一次更正処分における差引合計税額」欄(順号〈42〉)) △162億4591万8828円
上記金額は,平成20年12月連結期第1更正処分に係る更正通知書(甲10の1)の「更正又は決定の金額」欄中の「差引連結所得に対する法人税額」欄に記載された金額0円から,平成20年12月連結期確定申告書における控除されるべき税額を記載するものとされている欄に記載された金額163億1726万4139円を控除し,これに,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)後の連結所得の金額及び連結所得に対する法人税の額により個別控除対象外国法人税の額を再計算した結果,法人税法81条の15第1項(ただし,平成21年法律第13号による改正前のもの)の規定により控除されない外国法人税の額7134万5311円を加算した金額であり,平成20年12月連結期第1更正処分に係る更正通知書(甲10の1)「更正又は決定の金額」欄中の「差引合計税額」欄に記載された金額と同額である。
(6) 差引納付すべき法人税の額(別表2「6差引納付すべき法人税額」欄(順号〈43〉)) 339億0902万3500円
上記金額は,上記(4)の金額から上記(5)の金額を差し引いたものである。
3 平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1。ただし,平成21年12月連結期第2更正処分(乙62)による一部取消し後のもの。以下同じ。)の根拠
(1) 連結所得の金額(別表3「1連結所得金額」欄中「連結所得金額」欄(順号〈37〉)) 984億7336万8960円
上記金額は,次のアの金額にイの金額を加算し,ウの金額を減算したものである。
ア 平成21年12月連結期確定申告における連結所得の金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄中「確定申告における連結所得金額」欄(順号⑳)) 946億9262万8350円
上記金額は,次の(ア)ないし(テ)の各金額の合計額であり,平成21年12月連結期確定申告書に記載された連結所得の金額と同額である。
(ア) 原告の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結親法人の所得金額」欄中「原告」欄(順号①)) △169億1794万5524円
上記金額は,連結親法人である原告の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(イ) c社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「c社社」欄(順号②)) 1020億8098万9403円
上記金額は,連結子法人であるc社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ウ) l1社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「株式会社」欄(順号③)) 41億6311万7338円
上記金額は,連結子法人であるl1社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(エ) d社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「d株式会社」欄(順号④)) △6億5020万2790円
上記金額は,連結子法人であるd社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(オ) q17株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q17株式会社」欄(順号⑤)) 6897万1403円
上記金額は,連結子法人であるq17株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(カ) q2株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q2株式会社」欄(順号⑥)) 2348万4061円
上記金額は,連結子法人であるq2株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(キ) q3株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q3株式会社」欄(順号⑦)) 2億9675万6884円
上記金額は,連結子法人であるq3株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ク) q4株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q4株式会社」欄(順号⑧)) 7859万2897円
上記金額は,連結子法人であるq4株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ケ) q5株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q5株式会社」欄(順号⑨)) 4851万5458円
上記金額は,連結子法人であるq5株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(コ) q18株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q18株式会社」欄(順号⑩)) 3億0983万4571円
上記金額は,連結子法人であるq18株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(サ) q7株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q7株式会社」欄(順号⑪)) 11億0546万6406円
上記金額は,連結子法人であるq7株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(シ) q8株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q8株式会社」欄(順号⑫)) 1億2995万9146円
上記金額は,連結子法人であるq8株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ス) q9株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q9株式会社」欄(順号⑬)) 13億1726万1601円
上記金額は,連結子法人であるq9株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(セ) q10株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q10株式会社」欄(順号⑭)) 15億1783万9835円
上記金額は,連結子法人であるq10株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ソ) q11株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q11株式会社」欄(順号⑮)) 1966万7653円
上記金額は,連結子法人であるq11株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(タ) q12株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q12株式会社」欄(順号⑯)) 4億5099万6325円
上記金額は,連結子法人であるq12株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(チ) q13株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q13株式会社」欄(順号⑰)) 5億2464万9563円
上記金額は,連結子法人であるq13株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ツ) q14株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q14株式会社」欄(順号⑱)) 1億1398万7720円
上記金額は,連結子法人であるq14株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(テ) q16株式会社の個別所得金額(別表3「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の所得金額」欄中「q16株式会社」欄(順号⑲)) 1068万6400円
上記金額は,連結子法人であるq16株式会社の平成21年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
イ 連結所得の金額に加算すべき金額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「連結所得金額に加算すべき金額の合計額」欄(順号〈27〉)) 75億9334万3412円
上記金額は,次の(ア)ないし(カ)の各金額の合計額である。
(ア) 収益の額の計上漏れ(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「売上利益計上漏れ」欄(順号〈21〉)) 4312万1435円
上記金額は,連結子法人であるc社が平成22年12月連結期の収益の額に計上した金額のうち,平成21年12月連結期の収益の額に計上すべき金額4491万8159円から当該収益に係る売上原価の額179万6724円を控除した額であり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
(イ) 過大に計上された売上原価の額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「売上原価過大計上」欄(順号〈22〉)) 1億2883万2817円
上記金額は,連結子法人であるc社が売上原価の額として損金の額に算入した金額であるが,当該売上原価の額は平成22年12月連結期以降の収益に係るものであり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されない金額である。
(ウ) 損金の額に算入されない費用(外注事務費)の額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「外注事務費のうち損金の額に算入されない額」欄(順号〈23〉)) 480万円
上記金額は,連結子法人であるc社が費用(外注事務費)の額として損金の額に算入した金額であるが,これは,平成22年4月1日から平成24年3月31日までの間に保育所を利用するための利用契約に基づく対価の額であり,平成22年12月連結期以降に役務の提供を受けるために支出した費用の額と認められることから,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されない金額である。
(エ) 雑収入の額として益金の額に算入される額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「雑収入計上漏れ」欄(順号〈24〉)) 573万7202円
上記金額は,次のaの金額及びbの金額の合計額である。
a 雑収入(仮受消費税等の額に相当する額)の額の計上漏れ 19万1200円
上記金額は,連結子法人であるc社が平成21年12月連結期末に計上している仮受消費税等の額に相当する額のうち,平成17年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税等に係る仮受消費税等の額に相当する額であるが,上記課税期間の消費税等の更正又は賦課決定の期限を経過していることから,雑収入の額の計上漏れとして連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
b 雑収入(納付されていない消費税等の額)の額の計上漏れ 554万6002円
上記金額は,連結子法人であるc社の未払の消費税等の額に相当する額と納付された消費税等の額との差額であり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
(オ) 過大に減算されたリース取引に係る収益の額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「リース収益調整の減算過大額」欄(順号〈25〉)) 51億8912万3874円
上記金額は,連結子法人であるc社がいわゆるファイナンスリース取引について会計処理基準を変更したことに伴ってした連結所得の金額の計算に漏れがあったことから生じたものであり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されない金額である。
(カ) 過年度のいわゆる金融費用(ファイナンシングチャージ)の連結所得の金額への加算漏れ(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額への加算額」欄中「過年度ファイナンスチャージの加算漏れ」欄(順号〈26〉)) 22億2172万8084円
上記金額は,連結子法人であるc社が提供するソフトウェアサービス契約について,収益計上基準を変更したことに伴って生じた過年度の金融費用(ファイナンシングチャージ)の加算漏れの額であり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
ウ 連結所得の金額から減算すべき金額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「連結所得金額から控除すべき金額の合計額」欄(順号〈36〉)) 38億1260万2802円
上記金額は,次の(ア)ないし(ク)の各金額の合計額である。
(ア) 益金の額に算入されない原価の額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「その他の原価のうち益金の額に算入されない額」欄(順号〈28〉)) 1328万9975円
上記金額は,連結子法人であるc社が,前連結事業年度にその他の原価(その他引当金)の額として損金の額に算入したものであるが,平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)において損金の額に算入されないもの(益金の額に算入すべきもの)とされた金額のうち,平成21年12月連結期に取り崩し,その他の原価の額として益金の額に算入した金額であり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入されない金額である。
(イ) 一括貸倒引当金繰入限度額を超えた金額であるとして過大に益金の額に算入された金額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「一括評価債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額過大」欄(順号〈29〉)) 655万8909円
上記金額は,連結子法人であるc社が一括貸倒引当金繰入限度額を超えた金額であるとして過大に益金の額に算入した金額であり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(ウ) 連結所得の金額に過大に加算された連結法人税の個別帰属額に相当する金額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「連結法人税個別帰属額の損金不算入額加算過大」欄(順号〈30〉)) 1億8581万2544円
連結子法人であるc社の被合併法人であるl1社が連結法人税個別帰属額として9億7834万5076円を損金の額に算入したことから,l1社が損金の額に算入した連結法人税個別帰属額としてこれと同額を連結所得の金額に加算すべきところ,原告は,11億6415万7620円を連結所得の金額に加算した(過大に加算した)。
標記金額は,原告が,本来連結所得の金額に加算すべき金額(9億7834万5076円)と平成21年12月連結期確定申告書に記載した金額(11億6415万7620円)の差額であり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入されない金額である。
(エ) 損金の額に算入される事業税の額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「事業税の損金算入額」欄(順号〈31〉)) 411万6400円
上記金額は,原告を含む連結法人の平成20年12月連結期の法人税の更正に伴い納付することとなる事業税の額に相当するものであり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(オ) 過大に加算された償却限度額を超える償却費の額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「減価償却超過額の加算過大額」欄(順号〈32〉)) 34億8043万9956円
上記金額は,次のaの金額からbの金額を差し引いたものである。
a 過大に加算された償却限度額を超える償却費の額 41億2273万3944円
上記金額は,連結子法人であるc社が償却限度額を超える償却費の額として所得の金額に加算すべき69億2085万3345円と,平成21年12月連結期確定申告書において償却限度額を超える償却費の額として所得の金額に加算する旨が記載されている110億4358万7289円との差額であり,所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
b 償却限度額を超える償却費の額として加算すべき金額 6億4229万3988円
上記金額は,連結子法人であるc社が償却限度額を超える償却費の額に当たらないものとしてとして益金の額から減算した85億6020万8556円と,平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)により益金の額から減算すべき金額とされた79億1791万4568円との差額であり,所得の金額の計算上,損金の額に算入されない金額である。
(カ) 費用の額として損金の額に算入される金額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「経費認容」欄(順号〈33〉) 619万7884円
上記金額は,連結子法人であるq7株式会社が従業員に支給した赴任費5103万7907円のうち,所得税(源泉所得税)の調査により,給与とすべき経済的利益2636万円に係る所得税の源泉徴収漏れが認められたことに伴い,所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(キ) 雑損失の額として損金の額に算入される金額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「雑損失認容」欄(順号〈34〉)) 34円
上記金額は,連結子法人であるq7株式会社に生じた平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1,乙62)による未払の消費税等の増加額125万5166円と,平成21年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税等の更正による消費税等の増加額125万5200円との差額であり,雑損失の額として,所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(ク) 損金の額に算入される事業税の額(別表3「1連結所得金額」欄の「連結所得金額からの控除額」欄中「事業税認定損」欄(順号〈35〉)) 1億1618万7100円
上記金額は,連結子法人であるc社が前連結事業年度の法人税の更正に伴い納付することとなる事業税の額1億1654万1800円から,q7株式会社が前連結事業年度の法人税の更正に伴い還付されることとなる事業税の額に相当するものである35万4700円を差し引いたものであり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(2) 連結所得に対する法人税の額(別表3「2連結所得に対する法人税額」欄(順号〈38〉)) 295億4201万0400円
上記金額は,前記(1)の連結所得の金額に法人税法81条の12第1項に定める税率(ただし,平成23年法律第114号による改正前のもの)を乗じて計算したものである。
(3) 法人税の額に係る特別控除の額(別表3「3法人税額の特別控除額」欄(順号〈39〉)) 5520万0968円
上記金額は,租税特別措置法68条の9の規定(ただし,平成22年法律第6号による改正前のもの)により,法人税の額から控除されるものであり,平成21年12月連結期確定申告書に記載された金額と同額である。
(4) 法人税の額から控除される所得税の額(別表3「4法人税額から控除される所得税額等」欄(順号〈40〉)) 3億2562万0870円
上記金額は,法人税法81条の14(ただし,平成23年法律第114号による改正前のもの)の規定により法人税の額から控除される所得税の額であり,平成21年12月連結期確定申告書に記載された金額と同額である。
(5) 納付すべき法人税の額(別表3「5納付すべき法人税額」欄(順号〈41〉)) 291億6118万8500円
上記金額は,上記(2)の金額から上記(3)及び(4)の金額を差し引いた金額である。
(6) 既に納付の確定した法人税の額(別表3「6既に納付の確定した本税額」欄(順号〈42〉)) 280億2696万6500円
上記金額は,平成21年12月連結期確定申告書の提出により納付の確定した法人税の額である。
(7) 差引納付すべき法人税の額(別表3「7差引納付すべき法人税額」欄(順号〈43〉)) 11億3422万2000円
上記金額は,上記(5)の金額から上記(6)の金額を差し引いたものである。
4 平成21年12月連結期賦課決定処分(甲35の1。ただし,平成21年12月連結期賦課決定処分変更決定処分(乙62)による一部取消し後のもの。以下同じ。)の根拠
前記3のとおり,平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1,乙62)は適法であるところ,平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1,乙62)により新たに納付すべき法人税の額の計算の基礎となった事実について,平成21年12月連結期確定申告書に記載された法人税の額の計算の基礎とされていなかったことに通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとは認められない。
したがって,原告に課されるべき過少申告加算税の額は,通則法65条1項により,差引納付すべき法人税の額(前記3(7))である11億3422万円(ただし,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てた後の金額。以下同じ。)に100分の10の割合を乗じて計算した金額1億1342万2000円となる。
5 平成22年分通知処分(甲A5)の根拠
原告は,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1)を前提としてされた平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1,乙62)における連結所得の金額及び翌期へ繰り越す連結欠損金額を前提として,平成22年12月連結期の連結所得の金額を計算し,平成22年12月連結期の法人税の修正申告をした上で,本件各更正処分(甲1ないし6),平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1)及び平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1,乙62)はいずれも取り消されるべきであり,これらの処分の取消しが認められた場合に計算される平成21年12月連結期の翌期へ繰り越す連結欠損金額が平成22年12月連結期の損金の額に算入されることにより平成22年12月連結期の課税標準額等が減額され,還付金の額に相当する金額が発生するとして,平成22年分更正の請求(甲A4)をしたものである。
しかしながら,本件各更正処分(甲1ないし6),平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1)及び平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1,乙62)は,前記1ないし3に述べたとおり,いずれも適法であるから,平成22年12月連結期修正申告書に記載された課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった又は当該計算に誤りがあったとは認められない。
6 平成23年12月連結期更正処分(甲147の1)の根拠
(1) 連結所得の金額(別表4「1連結所得金額」欄中「連結所得金額」欄(順号〈24〉)) 761億6932万2343円
上記金額は,次のアの金額にイの金額を加算し,ウの金額を減算した金額である。なお,原告は,平成23年12月連結期更正処分(甲147の1)に係る連結所得の金額の増加額17億5377万8839円について,その内容を争わない旨述べているところ,この金額は,後記イの金額から後記ウの金額を減算した金額と一致しており,原告は後記イ及びウの事実の存在及びその金額を争わないものと思料される。
ア 平成23年12月連結期確定申告書に記載された連結所得の金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄中「確定申告における連結所得金額」欄(順号⑰)) 744億1554万3504円
上記金額は,次の(ア)ないし(タ)の各金額の合計額であり,平成23年12月連結期確定申告書に記載された連結所得の金額と同額である。
(ア) 原告の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結親法人の個別所得金額」欄中「原告」欄(順号①)) △176億6625万5590円
上記金額は,連結親法人である原告の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(イ) c社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「c社社」欄(順号②)) 830億4782万2933円
上記金額は,連結子法人であるc社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ウ) d社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「d株式会社」欄(順号③)) △1億3912万1651円
上記金額は,連結子法人であるd社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(エ) q17株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q17株式会社」欄(順号④)) 2億9270万0652円
上記金額は,連結子法人であるq17株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(オ) q2株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q2株式会社」欄(順号⑤)) 1億3976万5885円
上記金額は,連結子法人であるq2株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(カ) q3株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q3株式会社」欄(順号⑥)) 3億7055万0817円
上記金額は,連結子法人であるq3株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(キ) q5株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q5株式会社」欄(順号⑦)) 5億9711万4101円
上記金額は,連結子法人であるq5株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ク) q18株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q18株式会社」欄(順号⑧)) 3億4200万7784円
上記金額は,連結子法人であるq18株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ケ) q7株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q7株式会社」欄(順号⑨)) 15億0650万1544円
上記金額は,連結子法人であるq7株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(コ) q9株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q9株式会社」欄(順号⑩)) 41億9960万3860円
上記金額は,連結子法人であるq9株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(サ) q10株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q10株式会社」欄(順号⑪)) 3億8914万7827円
上記金額は,連結子法人であるq10株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(シ) q11株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q11株式会社」欄(順号⑫)) 2602万2676円
上記金額は,連結子法人であるq11株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ス) q12株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q12株式会社」欄(順号⑬)) 3億4490万7193円
上記金額は,連結子法人であるq12株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(セ) q13株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q13株式会社」欄(順号⑭)) 5億2623万9469円
上記金額は,連結子法人であるq13株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(ソ) q14株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「確定申告」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q14株式会社」欄(順号⑮)) 3億4848万0524円
上記金額は,連結子法人であるq14株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
(タ) q16株式会社の個別所得金額(別表4「1連結所得金額」欄の「第一次更正処分」欄の「連結子法人の個別所得金額」欄中「q16株式会社」欄(順号⑯)) 9005万5480円
上記金額は,連結子法人であるq16株式会社の平成23年12月連結期確定申告書別表四の二付表の「個別所得金額」欄に記載された金額と同額である。
イ 連結所得の金額に加算すべき金額(別表4「1連結所得金額」欄の「加算額」欄中「連結所得金額に加算すべき金額の合計額」欄(順号〈22〉)) 17億5945万9023円
上記金額は,次の(ア)ないし(エ)の各金額の合計額である。
(ア) 益金の額に算入される売上げの額(別表4「1連結所得金額」欄の「加算額」欄中「売上計上漏れ」欄(順号⑱)) 7億5440万1079円
上記金額は,次のaないしdの金額の合計額である。
a サービス契約に係る収益の額 3億2888万9721円
上記金額は,連結子法人であるc社が,平成23年12月連結期のサービス事業部の収益の一部をグローバル・ファイナンシング事業部の収益に振り替える経理処理において,同事業部が収益の額として計上した金額(3億8146万5297円)とサービス事業部が収益の額から減算した金額(7億1035万5018円)との差額であり,収益の額として益金の額に算入すべき金額が過少になっていることから,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
b システムインテグレーション事業に係るサービス売上げの額 1853万0800円
上記金額は,連結子法人であるc社が行うシステムインテグレーション事業に係る取引のうち,平成23年12月連結期において役務の提供が完了しているにもかかわらず,同連結期の収益の額に計上されていなかった金額であり,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
c 工事進行基準に係る益金の額に算入される額(1) 1億9301万2221円
上記金額は,連結子法人であるc社が,法人税法81条の3の規定に基づき,同法64条及び同法施行令129条3項に定める工事進行基準の方法により計算した金額を益金の額に算入した取引のうち,売掛金残高が一定額を超えるものについて,c社が収益の額に計上した金額(16億0783万9880円)と当該工事進行基準の方法に従って正しく計算した金額(18億0085万2101円)との差額であり,収益の額に計上された金額が過少になっていることから,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
d 工事進行基準に係る益金の額に算入される額(2) 2億1396万8337円
上記金額は,連結子法人であるc社が,法人税法81条の3の規定に基づき,同法64条及び同法施行令129条3項に定める工事進行基準の方法により計算した金額を益金の額に算入した取引のうち,契約書中に瑕疵等による債務不履行について定めた条項があるものについて,c社が収益の額に計上した金額(4億5804万1013円)と当該工事進行基準の方法に従って正しく計算した金額(6億7200万9350円)との差額であり,収益の額に計上された金額が過少になっていることから,連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
(イ) 益金の額に算入される繰延収益の額(別表4「1連結所得金額」欄の「加算額」欄中「繰延収益加算漏れ」欄(順号⑲)) 9億8017万8001円
上記金額は,連結子法人であるc社が,戦略的アウトソーシング・サービス取引に係る会計上の収益認識基準の変更に伴い,特別損失に計上した金額及び平成23年12月連結期の収益の額から減算した金額の合計額286億6380万5898円のうち,税務上の収益認識は当該変更前の収益認識基準によるべき取引に係る部分であるから,当該部分(9億8017万8001円)は繰延収益の額として連結所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
(ウ) 損金の額に算入されない売上原価の額(別表4「1連結所得金額」欄の「加算額」欄中「売上原価の過大計上額」欄(順号⑳)) 1676万1007円
上記金額は,連結子法人であるc社が,業務支援システムの設計・開発業務に係る売上原価の額として損金の額に算入した金額であるが,当該業務は平成23年12月連結期において役務の提供が完了していないため,同連結期に当該業務に係る収益の額が益金の額に算入されないことに対応して,同連結期の収益に係る売上原価の額とは認められず,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されない金額である。
(エ) 損金の額に算入されない費用(ロイヤルティ等)の額(別表4「1連結所得金額」欄の「加算額」欄中「ロイヤルティ等の過大計上額」欄(順号〈21〉)) 811万8936円
上記金額は,連結子法人であるq9株式会社が,外国の○○グループを成す法人との合意に基づく社内使用ソフトウェアに係る費用(ロイヤルティ等)の額として損金の額に算入した金額(3523万4100円)と,当該合意に基づき算定される正当な金額(2711万5164円)との差額であり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入されない金額である。
ウ 連結所得の金額から減算すべき金額(一括貸倒引当金繰入限度額を超えた金額であるとして過大に益金の額に算入された金額)(別表4「1連結所得金額」欄の「減算額」欄中「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額の過大額」欄(順号〈23〉)) 568万0184円
上記金額は,連結子法人であるc社が,平成23年12月連結期確定申告書において,一括貸倒引当金繰入限度額を超えた金額であるとして所得の金額に加算するものとして記載した金額のうち,前記イ(ア)の益金の額に算入される収益の額に係る計上漏れがあったことに伴い平成23年12月連結期終了の時において有する一括評価金銭債権の額が増加するため,それによって減少する一括貸倒引当金繰入限度額を超える金額であり,連結所得の金額の計算上,損金の額に算入される金額である。
(2) 連結所得に対する法人税額(別表4「2連結所得に対する法人税額」欄(順号〈25〉)) 228億5079万6600円
上記金額は,上記(1)の連結所得の金額に法人税法81条の12第1項(ただし,平成23年法律第114号による改正前のもの)に定める税率を乗じて計算した金額である。
(3) 法人税の額に係る特別控除の額(別表4「3法人税額の特別控除額」欄(順号〈26〉)) 451万6183円
上記金額は,租税特別措置法68条の9第1項(ただし,平成23年法律第114号による改正前のもの)の規定により法人税の額から控除されるものであり,平成23年12月連結期確定申告書別表一の二(一)の「法人税額の特別控除額」欄に記載された金額と同額である。
(4) 法人税の額から控除される所得税の額及び外国法人税の額(別表4「4法人税額から控除される所得税額等」欄(順号〈27〉)) 87億5825万6452円
上記金額は,法人税法81条の14(ただし,平成23年法律第114号による改正前のもの)及び同法81条の15(ただし,平成23年法律第114号による改正前のもの)の規定により法人税の額から控除される所得税の額及び外国法人税の額の合計額であり,平成23年12月連結期確定申告書別表一の二(一)の「控除税額」欄に記載された金額と同額である。
(5) 納付すべき法人税の額(別表4「5納付すべき法人税額」欄(順号〈28〉)) 140億8802万3900円
上記金額は,上記(2)の金額から上記(3)及び(4)の各金額を差し引いた金額である。
(6) 既に納付の確定した本税額(別表4「6既に納付の確定した本税額」欄(順号〈29〉)) 135億6189万0200円
上記金額は,平成23年12月連結期確定申告書別表一の二(一)の「差引連結所得に対する法人税額」欄に記載された金額と同額である。
(7) 差引納付すべき法人税の額(別表4「7差引納付すべき法人税額」欄(順号〈30〉)) 5億2613万3700円
上記金額は,上記(5)の金額から上記(6)の金額を差し引いた金額である。
7 平成23年12月連結期賦課決定処分(甲147の1)の根拠
前記6のとおり,平成23年12月連結期更正処分(甲147の1)は適法であるところ,平成23年12月連結期更正処分(甲147の1)により新たに納付すべき法人税の額の計算の基礎となった事実について,平成23年12月連結期確定申告書に記載された税額の計算の基礎とされていなかったことに通則法65条4項にいう正当な理由があるとは認められない。
したがって,原告に課されるべき過少申告加算税の額は,通則法65条1項により,差引納付すべき法人税の額(上記1(7))である5億2613万円に100分の10の割合を乗じて計算した金額5261万3000円となる。
8 本件各更正処分等の適法性
被告が本件の各事件において主張する原告の本件各更正処分事業年度の法人税に係る各所得の金額,翌期へ繰り越す欠損金額及び納付すべき税額は,前記1に述べたとおりであるところ,これらの各金額は,本件各更正処分における本件各更正処分事業年度の法人税に係る各所得の金額,翌期へ繰り越す欠損金額及び納付すべき法人税の額とそれぞれ同額である。そして,平成20年12月連結期,平成21年12月連結期及び平成23年12月連結期の法人税に係る各連結所得の金額,翌期へ繰り越す連結欠損金額及び納付すべき法人税の額は,前記2,3及び6にそれぞれ述べたとおりであるところ,これらの各金額は,平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1),平成21年12月連結期第1更正処分(甲35の1,乙62)及び平成23年12月連結期更正処分(甲147の1)における平成20年12月連結期,平成21年12月連結期及び平成23年12月連結期の法人税に係る各連結所得の金額,翌期へ繰り越す連結欠損金額及び納付すべき法人税の額とそれぞれ同額である。
また,原告の平成22年12月連結期の法人税についてされた平成22年分通知処分については,前記5に述べたとおり,平成22年分更正の請求(甲A4)が通則法23条1項各号(ただし,平成23年法律第114号による改正前のもの)のいずれの要件も満たさない以上,平成22年分更正の請求(甲A4)について更正をすべき理由がないとしてされた平成22年分通知処分(甲A5)は,適法である。
さらに,平成21年12月連結期賦課決定処分(甲35の1,乙62)及び平成23年12月連結期賦課決定処分(甲147の1)に伴って賦課されるべき各過少申告加算税の金額は,それぞれ前記4及び7に述べたとおりであるところ,これらの金額は,平成21年12月連結期賦課決定処分(甲35の1,乙62)及び平成23年12月連結期賦課決定処分(甲147の1)の各過少申告加算税の額とそれぞれ同額である。
したがって,本件各更正処分等はいずれも適法である。
以上
別紙6
被告の主張の要点
第1 本件各譲渡による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が本件各譲渡事業年度において原告の所得の金額の計算上損金の額に算入されて欠損金額が生じたことによる法人税の負担の減少が,法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができるか否か(争点1)について
1 法人税法132条1項を適用するための要件について
(1) 法人税法132条1項の沿革及び趣旨
法人税法132条1項は,税務署長は,内国法人である同族会社に係る法人税につき更正をする場合において,その法人の行為又は計算で,これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず,税務署長の認めるところにより,その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算できる旨を定めている。
同族法人と株主,その親族,使用人その他特殊関係人との間における行為につき所得税ほ脱の目的があると認める場合に限り適用される旨の同族会社の行為又は計算の否認規定が,大正12年,初めて設けられ(大正12年法律第8号による改正後の所得税法(当時は,法人の所得に対する課税も所得税法が定めていた。)73条の2ないし4参照),大正15年の改正(大正15年法律第8号)において,広く同族会社の行為又は計算一般が否認の対象となり,さらに,昭和25年の法人税法の改正(昭和25年法律第72号)において,「逋脱目的があると認められる場合」が「法人税の負担を不当に減少する結果となると認められるものであるとき」と改められた。現行の法人税法132条の規定は,同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため,当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑みて,税負担の公平を維持するため,そのような行為や計算が行われた場合に,それを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。なお,所得税法157条,相続税法64条,地価税法32条並びに地方税法72条の43第1項及び2項も,法人税法132条と同様に,同族会社の行為又は計算の結果その株主等又はその同族関係者の所得税,相続税又は贈与税の負担が不当に減少すると認められる場合について,それを否認する権限を税務署長に認めている。
(2) 法人税法132条1項を適用するための要件
法人税法132条を適用するための要件については,①同族会社の行為又は計算であること(同項1号),②上記①を容認した場合にはその法人の法人税の負担を減少させる結果となること,③上記②の法人税の負担の減少が法人税法上不当と評価される行為又は計算に基づくものであることという3つの要件に整理されるものと解され,これと同旨を述べた同族会社等の行為又は計算の否認等に関する所得税法の規定(同法157条)に係る裁判例(平和事件第一審判決)もある。
ア 法人税法132条1項にいう「同族会社」の意味
法人税法132条1項にいう「同族会社」とは,会社の株主等が3人以下の場合並びにこれらと特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50を超える数(ただし,平成15年法律第8号による改正前については,別紙3の1(1)参照)の株式又は出資の金額を有する場合におけるその会社をいうものとされている。
イ 法人税の負担を減少させる結果となることの意義等
法人税法132条1項の「税務署長は(中略)その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる」との文言からすれば,同項は,税務署長が欠損金額を減少させるだけの更正を行うことをも当然に予定した規定であると解され,同族会社の行った行為又は計算により税務上の損失が計上され,当該損失の計上により当該事業年度の欠損金額が増加する場合(同族会社の行った行為又は計算による損失の計上と切り離して欠損金を計上した場合とは異なる)には,同項の規定にいう,税負担を減少させる「結果となる」場合に該当するというべきであり,これと同旨を述べる裁判例(ケン事件判決(乙67,68))もある(なお,原告は,ケン事件第一審判決(乙67)が,一定の計画の存在が証拠に基づき認定されて初めて「欠損金の計上」が法人税負担の減少に当たると判示したものである旨解しているようであるが,欠損金を具体的に使用する計画が認定されない限り,同項にいう法人税負担の減少があったとは認められないなどという判示はされていない(乙67の83,84参照)。)。また,同条は,同法等の法令の規定に従ってなされたもの(例えば,みなし配当の額の計算(同法24条1項),それに基づく株式譲渡損益の計算(同法61条の2)及びみなし配当の額の益金不算入(同法23条1項))であっても,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理・不自然なものと認められるときは「不当」であるとするものであるから,法令の規定により計算された損失や欠損金の額が計上された場合には,およそ同法132条1項にいう法人税の負担の減少には当たらないともいえない。
ウ 法人税法132条1項にいう「不当」の意義等
法人税法132条1項にいう「不当」なものであるか否かは,同項が,同族会社について,一般に一人又は少数の株主又は社員によって支配されていることから,会社の意思決定を容易に操作することが可能であり,租税回避行為を容易になし得ることに鑑みて創設されたものであること(前記(1)参照)を踏まえると,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理・不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきであり,行為・計算が経済的合理性を欠いている場合とは,それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在せず,専ら租税回避の目的に出たものと認められる場合や,独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっている場合をいうものと解すべきである。
そして,これらの事項を解明するためには,当該行為又は計算の内容,その必要性,合理性等といった当該行為又は計算自体に関する事情を考慮することはもとより,当該行為又は計算が行われるに至った経緯や目的,その後の状況,当該行為又は計算を行った同族会社と関連会社(同族親会社等)との関係等といった当該行為又は計算に関連する周辺事情も含めて考慮する必要があり,これらを総合して不当性の評価を行うべきである。また,当該行為を行った時点における当該法人の租税回避の意図の有無だけを問題とするのではなく,当該法人と密接に関連する法人の租税回避の意図に従って当該行為が行われたという事実が認定又は合理的に推認できるのであれば,当該法人がいつの時点でその意図を有するに至ったかが必ずしも明確に特定されていなくても,その一連の事実関係は不当性の評価を基礎づける重要な事実となり得るというべきである。
このように,法人税法132条1項において,不当性の評価に影響を与える具体的な事実は,「否認」の対象となる法人の行為又は計算自体に関する事実に限られるものではなく,その周辺事情も広く含まれると解するのが相当である。
なお,原告は,法人税法132条1項による否認を行うためには,否認の対象となる行為又は計算の内容あるいは行為そのものが不合理,不自然なものであることがその要件となっており,経緯,目的,その後の状況等の周辺事情は,行為又は計算の内容あるいは行為そのものの不合理,不自然さを基礎づける事実ではない(不合理,不自然な行為又は計算が行われた背景事情(動機等)を基礎づける事実にすぎない)旨主張し,これに沿う裁判例(札幌高裁昭和51年1月13日判決・訟務月報22巻3号756頁及びその上告審判決である最高裁昭和53年判決並びにケン事件判決(乙67,68))がある旨指摘するが,いずれの裁判例も,原告が主張するような内容を判示したものではなく,むしろ,ケン事件第一審判決(乙67)は,否認対象行為が行われるに至った経緯や目的,当該行為を行った法人と関連会社との関係等といった周辺事情を勘案して「不当」性を肯定し,課税処分の適法性を認めている。
2 本件の全体的な構図とこれに関する被告の総括的な主張
a社は,原告を設置する以前から,その子会社であるb社を介して,c社に同社の株式(同社にとっては自己株式)を譲渡することにより,同社の配当可能利益の一部を送金(還元)させていた(乙6ないし16及び別紙11参照)。
a社は,我が国における自己株式取得に係る税制の改正(平成13年法律第6号及び同年法律第80号による法人税法24条1項の改正)を踏まえた米国及び我が国の税制の違いを悪用し,我が国の法人が株式の取得原価と同額で自己株式の譲渡対価を受け取ることにすれば,我が国の税制上,多額の有価証券の譲渡損を計上できることに着目し,上記の改正がされ,かつ,連結納税制度を創設する旨を含む平成14年度税制改正大綱(乙5)が公表された直後に,b社に原告を買収させてその子会社とした上で,b社から原告に対して通常の合理的な取引では考えられないような巨額の低利融資を行うことにより,b社が保有していたc社の発行済株式の全部を原告に購入(本件株式購入)させて持株会社(ただし,原告は,固有の事務所及び使用人を有さず,自らの経理業務等会社組織としての最低限の業務すらc社に委託するペーパーカンパニー的存在であってその果たす役割は極めて乏しいものであるし,多数の子会社を有して既に持株会社的な機能も有していたc社とb社の間に中間持株会社としての原告を設置する具体的必要性もなかったものである。)とし,その後に原告からc社に対して同社の株式を譲渡(本件各譲渡。同社にとっては自己株式の取得)した。
本件は,c社からa社への資金還流の構造(c社による自己株式取得を利用したc社の配当可能利益のa社への送金)を従前どおり維持しつつ,原告をc社に対する株式の譲渡行為の当事者として介在させる合理的な必要性が全くないにもかかわらずこれに形式的に介在させることにより,その法的性質を課税所得を有しない内国法人への配当(自己株式の取得によるいわゆるみなし配当)と外国法人への借入金の返済という二つの法形式に分解し,原告に我が国における多額の税務上の損失(有価証券の譲渡損)を計上させ得る外形を作出するとともに源泉所得税に係る所得税法上の取扱いを変更させ,さらに,原告の本件各譲渡事業年度の課税所得を減少させて原告の後続事業年度において所得の金額から控除することができる欠損金額を計上させた上,連結納税制度を利用する(原告が設置された段階で,上記のようにして作出された有価証券の譲渡損に係る繰越欠損金を連結納税を利用して連結課税所得から控除しようとする詳細かつ具体的な計画が策定されていたことまで当然に意味するわけではなく,原告を本件各譲渡に介在させた当初から,連結納税制度を利用して有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することができることが将来実現する可能性が客観的に高いという見通しの下,連結納税制度を利用して有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することを想定して行動していたという意味である。)ことで,連結子法人となったc社の課税所得と相殺するとともに,a社が間接子会社であるc社から利益還元を受ける際に負担する我が国の所得税額を減少させてほぼ負担が生じないものとする手法を採った事案である。
このような行為は,専ら租税回避の意図の下に行われた異常ないし変則的行為であって,通常の経済人の行為として不合理,不自然で経済的合理性を欠いており,我が国の法人税の納税義務者である内国法人の課税標準の計算方法を定めた受取配当等の額の益金不算入制度(法人税法23条1項)及び有価証券の譲渡損益額の計算(同法61条の2)に係る各規定の趣旨に反するものであるから,本件各譲渡を容認した場合には原告の法人税の負担を「不当」に減少させる結果となるものといえ,同法132条1項を適用して本件各譲渡(原告がc社に対して同社の株式を譲渡した行為)を否認し,本件各譲渡が行われず,これらに伴う有価証券の譲渡損も発生していないものとして原告の法人税の課税標準等を計算することが許されるというべきである。
なお,原告は,被告が,税負担の減少効果のある行為又は計算について少しでも不合理,不自然な事実が見つかれば,それが税負担の減少と無関係な事実であっても法人税法132条1項の適用要件を満たす旨を主張しているものである旨を主張するが,これは被告の主張を正解しないものである。また,原告は,本件のような税法が想定していた効果を内容とし,かつ,立法による明確な防止措置がなされていない事象に同項を適用することは,租税法律主義に抵触する(甲129参照)旨も主張するが,その具体的内容は明らかでないし,みなし配当の額の計算方法の改正に伴う有価証券譲渡損失の発生とグループ内取引による繰越欠損金の連結納税による利用を組み合わせて行われた本件一連の行為が税法上想定されていた事象であるともいえないから,原告の主張は失当である。
3 本件各譲渡を含む一連の行為が同族会社の行為又は計算であること(前記1(2)の①の要件関係)
原告は,本件各事業年度を通じて,その全持分を一の株主(平成16年12月15日まではb社,同月16日から平成19年5月22日まではp LLC(乙84),同月23日以後は○○ Japan Holdings LLC)に保有されていることから,同法2条10号に規定する同族会社に該当する。また,原告の本店所在地は東京都(本件各譲渡の当時の原告の本店所在地は東京都港区,本件各更正処分等がされた時の本店所在地は東京都中央区)内にあるから,当然のことながら内国法人である。
したがって,原告による本件各譲渡は,内国法人である同族会社の行為に当たる。
4 原告の行為又は計算を容認した場合には原告の法人税の負担を減少させる結果となること(前記1(2)の②の要件関係)
本件株式購入及び本件各譲渡において,原告がb社からc社の株式を購入した(本件株式購入)上でc社に対して同社の株式を譲渡(本件各譲渡)する形式を採り,b社とc社の間に原告を介在させることにより,本件株式購入の段階では,売主であるb社においては,いわゆるキャピタルゲイン課税(株式譲渡益課税)を含め何ら課税を発生させない(米国連邦税法(チェック・ザ・ボックス規則)上,b社と同社の子会社である原告(有限会社)の取引は,内部取引とみなされるためである。)まま,買主である原告においては,1株当たり127万1625円の取得価額が付されたc社の株式全部を保有することになり,さらに,1株当たりの譲渡対価を上記の取得価額とほぼ同一の価額(1株当たり約127万1625円)に設定して,原告とc社との間で同社の株式を譲渡する取引(本件各譲渡)を行うことで,b社においては,米国の税制上,c社から直接配当を受領したものと取り扱われるという従前の課税関係に変化はないが,取引に介在した原告については,我が国の法人税法上,同法24条1項5号,23条1項,61条の2第1項が適用され,課税標準の計算上,益金の額に算入されないものとされるみなし配当の額とこれと同額である損金の額に算入されるものとされる巨額の有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が発生することとなる。
その結果として,平成14年12月期において1981億9782万9185円,平成15年12月期において213億1467万9431円及び平成17年12月期において1800億7513万0754円の合計3995億8763万9370円が,本件各譲渡に係るそれぞれの取引がされた事業年度開始の日以後7年以内に開始する事業年度において損金の額に算入することができる欠損金額となる(同法57条1項。欠損金額については前提事実4(3)参照)ところ,実際に,本件各譲渡事業年度に発生した欠損金額については,それぞれ原告の後続事業年度において,同項の規定による繰越欠損金の額として申告され,平成20年12月連結期の原告の連結所得金額の計算において同法81条の9第2項により原告の連結欠損金額とみなされ,前記の金額(3995億8763万9370円)のうち1117億0177万5645円が控除された結果,同事業年度の法人税額が334億5492万4300円減少するものとなっている。
このように,本件各譲渡を含む本件一連の行為を評価すれば,c社に自己株式を取得させた株主たる譲渡人は実質的にはb社であって,原告は両社の間の自己株式の譲渡取引において形式的に介在しているにすぎないにもかかわらず,本来,b社が受領したものと取り扱われるべきみなし配当の額が原告によって受領されたものとして同法61条の2が適用され,原告において多額の有価証券の譲渡損が計上されていることが,取引の経済的実態(b社がc社に対し直接同社の株式を譲渡すること)に合わない課税になっているという意味で,同法の趣旨に沿わない結果になっており,b社とc社が直接取引した場合(この場合には,原告に多額の有価証券の譲渡損が計上されることはない。)に比べ,原告について,著しく「法人税の負担を減少させる結果」が生じているというべきである。
5 本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることは「不当」と評価されるべきこと(前記1(2)の③の要件関係)
(1) 法人税法132条1項の「不当」に係る被告の主張の概要
ア 被告の主張の概要
そもそも,本件株式購入及び本件各譲渡の経緯,内容には不合理・不自然な点が多々認められる(後記(3)ないし(5)参照)ところ,原告が○○グループの一員である同族会社であるからこそ,このような不合理・不自然な取引が実行できたのである。
また,本件株式購入がされる前は,b社がc社に対して直接に同社の株式を譲渡することによって,c社から利益の還元を受けるという通常の経済人の行為又は計算として合理的かつ自然な取引がされていたところ,本件各譲渡は,上記のような取引の間に,独立した法主体としての事業上の存在意義が極めて希薄な原告を中間持株会社としてあえて介在させたものであり,原告はb社のいわゆる分身(日本支店)として,a社の意を受けてc社の株式を法律上形式的に保有していたにすぎず,経済実質的に見れば,c社の株式を保有していたのはb社であって,本件各譲渡における実質的な譲渡人も原告ではなくb社であるということができる。このことは,①チェック・ザ・ボックス規則等を活用しつつ,米国の税制上は内部取引として扱われるb社から原告へのc社の株式の譲渡を行うことによって,原告の下で同社の株式の取得価額をかさ上げする結果(本件各譲渡の前のc社による同社の株式の取得価額(15万3765円ないし19万9814円)に対し,本件株式購入における原告によるc社の株式の1株当たりの取得価額(127万1625円)及び本件各譲渡における1株当たり譲渡価額(約127万1625円)が6倍以上となっている。また,本件株式購入におけるc社の株式の価額は,専ら△△株式評価書(乙30)の中の高い価額により決定されている。)を作り出すとともに,②本件株式購入の前後において,c社が自己株式を取得した都度,その代金を日本から直ちにb社へ送金し,a社にc社が得た利益を還元するという経済的,実質的実態は何ら変わっていないにもかかわらず,原告をc社が自己株式を取得する取引に介在させて原告がc社から自己株式の取得に係る譲渡対価を受領することとしたことにより,b社の分身としての我が国の内国法人である原告をして,法人税法24条1項5号等の規定の適用を受けることを可能とし,我が国において利用可能な多額の株式譲渡損を計算上発生させたことを意味する。そして,現実に,平成20年12月連結期の原告の連結所得金額の計算において,本件各譲渡に係る有価証券譲渡損失の合計額(3995億8763万9370円)のうち1117億0177万5645円が控除され,同事業年度の法人税の額が334億5492万4300円減少する結果となっている。
さらに,a社及び○○グループは,わざわざ有限会社である原告を取得し,中間持株会社とするための各種手続を手間暇かけて行ったが,それは,当初から,将来的に日本における○○グループを成す法人について連結納税制度を利用して,c社の株式の譲渡によって生じる有価証券譲渡損失を連結課税所得から控除することを想定したものである。このことは,本件株式購入後に原告が果たした機能やその活動を勘案しても,その持株会社としての役割,活動は形式的,名目的なものにすぎず,原告の持株会社としての具体的な事業上の存在意義は極めて希薄であると評価せざるを得ないことからも裏付けられる。
このように,いずれも○○グループを成す法人であるb社が保有するc社の株式を同社が取得する取引について,傘下に多数のグループ企業を擁するc社とは別に,わざわざ原告を中間持株会社としてb社とc社の中間に置き,原告を介してc社が自己株式取得により米国側へ利益を還元した一連の行為は,巨額の税負担の軽減という効果を除けば,通常の経済人として正当な事業目的を有する合理的な行為とは到底認められない異常ないし変則的行為であって,遅くとも本件各譲渡の計画がされた時点までに原告ひいてはa社及び○○グループの不当な租税回避を企図した上でされたものといわざるを得ないから,原告による本件各譲渡を容認した場合には,原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるものであることは明らかである。
イ 原告の主張に対する反論
(ア) 課税要件事実は行為時を基準として判定するという租税法の基本に反する旨の原告の主張について
原告は,被告が事後的な事実の存在又は事実の事後的な評価を遡らせて法人税法132条1項の「不当」性の判断要素としている旨主張するが,被告は,前記アに述べたとおり,結局,本件各譲渡によって生じた原告の繰越欠損金の額がc社の連結所得と相殺されているという税務上の事実しか残らないことから,本件各譲渡を含む本件一連の行為が,当初から通常の経済人として不合理・不自然であると評価したものである。
(イ) 法人税法11条との抵触をいう主張について
a 原告は,法人税法11条が実質所得者課税の原則を定めており,c社の発行済株式の全部の法的所有者が実質的にも原告であることに争いはなく,本件各譲渡について経済実質的にはb社が株主であり譲渡人である旨の被告の主張が失当である旨主張する。
しかしながら,原告がc社の株式を購入する原資は,b社の出資と巨額の無担保貸付金から成っており,本件各譲渡によって原告がc社から受領した同社の株式の譲渡対価は,借入金返済の名目で直ちにb社に送金されていることや,同社とc社の間に介在した中間持株会社としての原告の事業上の存在意義が極めて希薄であることなどからすると,原告は,本件各譲渡の譲渡人として,b社から経済的に独立して行動しているとは認め難いから,本件各譲渡に係る経済的収益は,経済的な観点から実質的に見れば株式譲渡人であるb社に帰属するものと同視することができるというべきである。
b 原告は,被告が,本件各譲渡の損益の経済的実質的な帰属(b社)が法律的な帰属(原告)と相違していること(原告が法律上の譲渡主体として本件各譲渡を行ったこと)を法人税法132条1項の「不当」性の評価根拠事実として同項に基づき本件各譲渡を否認することができると主張している旨指摘し,客観的な事実関係に即して同法11条を適用すると本件各譲渡による損益が原告に帰属していることが明らかである上,同条の適用によって客観的に決定された損益の帰属を税務署長の裁量により「不当」と評価することもできないから,法律上の帰属が明らかな場合に経済上の帰属がこれと異なる第三者であることをもって同法132条1項の適用上「不当」と評価する余地はない旨主張する。
しかしながら,被告は,本来b社に帰属すべき本件各譲渡の損益が原告に付け替えられていることを問題にしているものではないし,同法132条1項を適用することによって,同法11条によって認定された損益の帰属を変更しようとするものでもないから,原告の主張は失当である。
(2) 本件において,本件一連の行為を考慮対象とすることが正当であること
ア 本件一連の行為を考慮対象とすべき理由
本件においては,原告は,a社及び○○グループの全世界的な租税負担軽減戦略に組み込まれており,独自の事業上の目的を持つことなく,親会社等の指示の下で我が国において租税負担の軽減を行うために存在し,本件各譲渡等の行為をしているにすぎないところ,このような場合,本件各譲渡を原告に行わせているa社及び○○グループの企図ないし目的,原告との関係,原告が本件各譲渡を行うに至った経緯やその後の状況といった事実を切り離し,法人税の負担の減少を生じさせている本件各譲渡を検討の対象とするだけでは,本件各譲渡が異常ないし変則的であるか否か,その行為に正当な理由ないし事業目的があるか否かなどを的確に判断することはできない。そして,本件のように,あらかじめ計画された一連の行為の一環として,税負担を減少させる行為又は計算が行われている場合には,当該一連の行為を一体として検討し,それが,通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然で経済合理性を欠くものと評価できるか否かを解明すべきである。
したがって,本件においては,否認の対象は飽くまでも本件各譲渡であるとしても,「b社が原告の全持分を取得した上,b社が本件融資及び本件増資等(これらは単なる計数上の処理にすぎないものである。)を行って原告が本件株式購入を行い,本件各譲渡(その1株当たりの譲渡価額は,本件株式購入における1株当たりの取得価額とほぼ同額である。)に及んだという一連の行為」を不当性の考慮対象とすべきである。
イ 本件一連の行為を考慮対象とすべき理由を裏付ける事実
(ア) c社の法務担当者が原告を買収するに先立ってi法律事務所(当時)に対して照会を行った際に作成した本件c社法務質問書(乙18)において,その冒頭に「事実」として,a社が「日本での○○子会社の所有・支配の関係」を変更しようとしている旨記載され(乙18の1,4,5枚目),その主な骨子として,b社による原告の全持分の買収(「①」),原告の増資(「②」),原告に対する融資(「④」),原告に対するc社等の全発行済株式の譲渡(「③」),そして原告がc社による自己株式取得に応じて同社に同社の株式を譲渡すること(「⑤」)がそれぞれ記載されている(乙18の1枚目)ところ,その後,現に,上記手順に従ってb社による原告の持分の全部の取得(上記「①」),本件増資(上記「②」),本件株式購入(上記「③」),本件融資(上記「④」)及び本件各譲渡(上記「⑤」)が順次行われている。
(イ) 米国の税制上,仮に,b社にキャピタルゲイン課税の適用があったとすれば,本件一連の行為をしたとしてもb社に巨額の課税が発生することになり,a社及び○○グループにとって本件一連の行為をする意味がない反面,b社がc社の中間持株会社である有限会社との間でc社の株式の譲渡取引を行う場合には,キャピタルゲイン課税は発生しないものとされている。そして,これを前提に,当該有限会社からc社への同社の株式を譲渡する取引において,日本においてのみ巨額の有価証券の譲渡損を計上できることが確認できたからこそ,本件一連の行為が計画され,実行することが可能となったものである。
このように,b社が米国においてキャピタルゲイン課税を受けないことは,本件一連の行為を実行する上で実質的に不可欠の要素であり,a社及び○○グループはこうした米国の税制を利用して本件一連の行為に及んだものということができるから,米国におけるキャピタルゲイン(譲渡益)課税の有無についても,本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることは「不当」と評価されるべきことの考慮対象となるというべきである。
ウ 原告の主張に対する反論
(ア) 原告は,本件一連の行為は,従前の下級審裁判例(①スリーエス事件第一審判決,②山菱不動産事件判決並びに③ガデリウス事件判決)において示された「行為を一体的に評価することが認められる場合の基準」を満たしていないから,法人税法132条1項の不当性の評価に当たり,本件各譲渡の周辺事情としてこれを考慮することは許されない旨主張するが,上記①ないし③の裁判例は,いずれも原告が主張するような基準について判示したものではないから,原告の主張は,失当である。
(イ) 原告は,a社及び○○グループの全世界的な租税負担軽減戦略に原告が組み込まれていると被告が主張する点について,法人税法132条1項の「不当」性との関係が曖昧である旨主張するが,①c社での平成13年3月19日の会議において,同社の法務部のメンバーから我が国における商法改正及びそれに伴う税制改正が行われる旨の説明が行われ(乙19),②それを受けて,自己株式の取得に係る税務上の取扱いについて検討が行われ,③さらに,c社からi法律事務所に対し,有限会社を持株会社とすることについての法律上の問題点についての照会が行われ(乙18),④a社においても,我が国に設置する法人(持株会社)に係る組織形態に係る検討が行われ,米国税制上の観点から,それは有限会社であることが望ましいとの結論が導き出されている(甲50の別紙1及び甲53参照)ことに加え,⑤本件A20メール(甲58)によれば,原告において,欠損金が生じることを前提とした上で,支払利息について過少資本税制等我が国の税制について検討していたことが認められるところ,これらの事実によれば,a社は,税負担の軽減に係る日米それぞれの税制を深い関心を持って検討した上で,原告の設置に係る計画を策定していることが認められるのであり,それを踏まえれば,事業上の意味がほとんど見いだし得ない本件一連の行為は,原告において巨額の繰越欠損金の額が計算される状況をあえて作出しようとしたものであると認められるから,「a社及び○○グループの全世界的な租税負担軽減戦略に原告が組み込まれている」ことが不当性と無関係の事実であるということはできない。
(3) 原告をあえて日本における○○グループを成す会社の中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いこと
c社は,日本において多数の子会社等を有し,既に持株会社的な機能をも果たしていたのであり,c社とb社の間に屋上屋を重ねる形で原告を中間持株会社として設置することに具体的な必要性は認められず,実際にも長期間にわたる原告の事業活動を検証しても具体的な事業上の意味をほとんど見いだすことはできない。また,純粋持株会社である原告は,固有の事務所及び使用人を有さず,自らの経理業務等の会社組織としての最低限の業務すらc社に委託する(乙56)ようなペーパーカンパニー的存在というべきものであって,原告に下記アに述べるような機能や役割を果たすことは期待されておらず,現に,かかる機能を果たした事実も認められない。
以上によれば,原告をあえてc社の中間持株会社として設置することには,正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いと評価されるべきである。
ア 持株会社の機能等について
持株会社の目的については,持株会社が企業グループ全体の戦略立案と経営管理・リスクマネージメントを行い,各々の事業会社は担当事業に集中するという形態にして,持株会社が,傘下のグループ企業に対してリーダーシップを発揮してグループ全体の活力と調和のとれたグループ運営を担うものであって,持株会社によるグループ全体の事業戦略,資金調達,運用,経営企画,管理監督を通じて,効率的な財務・経営体制が実現することになる旨説明されている(乙58・6及び73頁参照)。また,「独占禁止法第4章改正問題研究会」が公表した「中間報告書」(甲82)においては,持株会社に期待される機能として,①戦略的グループマネジメントと事業マネジメントの分離,②円滑な人事・労働管理,③既存企業によりリスクの高い新規分野における大胆な事業展開(いわゆるコーポレート・ベンチャー)の振興への貢献,④企業グループの再編成の柔軟化・多角化の促進及び⑤いわゆる金融持株会社において,優れた子会社間のリスク遮断機能を持つことによる優れたファイアウォール規制を可能とすることの各点が挙げられ(甲82・164ないし166頁参照),現行法下で持株会社を置く主な利点としても,戦略と事業の分離(上記①)や,経営構造改革のスピードアップ(上記④)等が挙げられている(乙58・6及び7頁参照)。そして,上記のような機能が期待される純粋持株会社が果たすべき業務としては,①グループ全体の事業戦略の立案,②グループ全体の財務戦略や経営資源配分の効率性を考慮したグループ全体に係る資金の調達・運用,③グループ全体の経営の企画・管理及び監督,④グループ全体の一体感の醸成が挙げられ,③の業務は,具体的には,事業計画を作成し,計画と実績との対比等の比較分析や株主資本利益率等の経営分析を行うといった計数による業績管理を行うとともに,各子会社の財政状態,資金繰り状況等にも常に目を配ることを指す(乙58・73ないし76及び82ないし88頁参照)。
また,純粋持株会社の場合,少なくとも,企業グループの経営者とそれを補佐する戦略スタッフが純粋持株会社に所属し,製造や営業などのライン部門は各事業子会社に配置されるのが通常である(乙58・78頁参照)。
イ 原告が日本再編プロジェクトにおいて企図された4つの目的を達成した旨の原告の主張が失当であることについて
原告は,原告の持株会社化はa社が主導した日本再編プロジェクトによって企画・検討されたものであるところ,当該プロジェクトの主たる目的である①日本における○○グループを成す会社を全て持株会社である原告の下に統合すること,②原告を当時a社が精力的に行っていた事業買収取引における日本のいわゆる受皿会社とすること,③原告をして資金のより効率的な配分を行う機能を担わせること及び④原告をして日本において新規事業を行う場合の受皿会社とすることの4つの目的(甲23の1参照)のうち,①ないし③の3つについてはいずれも企図した成果を上げている旨主張する。
しかしながら,これらの主張は次の(ア)ないし(エ)のとおり失当であり,経済人として真に合理的な行為といえるのか,極めて疑わしい。
(ア) 日本における○○グループを成す会社を全て持株会社である原告の下に統合することという目的(前記イ①)について
a 日本における○○グループを成す会社を全て持株会社である原告の下に統合するという目的(前記イ①)については,そもそも,原告を持株会社化したことの同語反復であって,原告の形式的な持株会社化それ自体が目的であると主張するものにすぎず,およそ原告の持株会社としての実質的な存在意義や役割を示すものではない。
b 原告は,a社は,特に財務面では中央集権的な経営体制を構築する方針であったところ,c社は「販売」事業を行う会社であるのに対し,f社ら3社はそれとは業務内容を異にする製造部門等に属する企業であって全ての子会社が同一の戦略で事業を営んでいたという状況になかったことを勘案すれば,f社ら3社をc社の子会社とするのは適切でなく,c社のいわゆる兄弟会社として位置づける必要があり,a社が日本において原告のような「中間持株会社(H型)」を設置したことは,経営組織論上も理に適ったものであったから,原告には,これらの会社の親会社になるという形で事業上の存在意義があった旨主張するが,これは,f社ら3社がc社の子会社として位置付けられるのは不適当であったという消極的な事情を述べるにすぎず,これらの親会社として,b社とは別に,新たに原告を設置する事業上の必要があったことについての具体的な説明ではないし,既にa社の子会社として存在していたb社においてもその役割を十分に果たすことができたのであり,b社に重ねて我が国に原告を設置する事業上の必要性があったことにはならない。
更にいえば,A25がc社の法務部に所属していたA31弁護士に宛てた「Re:Re:f社減資」と題する電子メール(乙73の別紙4)には,「c社(c社)は現在,f社の余剰資金(87.6億円)を預り金として保管しています。今後の投資計画がないとすれば,同金額を株主に返還できるのではと考えています。昨年,減資手続を中止したのは,XHoldings(原告)の設置を待って,aCorp.(a社)ではなくX(原告)に返還したほうが源泉税の節税になるとのCHQ Treasury(a社の財務部門)の指示があったからです。」との記載があり(乙73の別紙4),f社を原告の子会社としたことも,税負担を減少させることを目的とするものであったことがうかがわれる。
(イ) 原告を当時a社が精力的に行っていた事業買収取引における日本の受皿会社とすることという目的(前記イ②)について
原告は,日本の持株会社を当時a社が精力的に行っていた事業買収取引における日本の受皿会社とするという目的(前記イ②)を具体的に基礎づける事実として,(あ)原告が,a社による全世界的な事業買収に伴う被買収企業の日本における事業をc社が統合するまでの一時的な受皿会社として機能しており,実際にも,本件被買収企業3社(l社,j社及びm社)の発行済株式の全部を取得した事実があること,(い)原告が,本件被買収企業3社の買収に当たり,被買収事業を買収企業側に統合する際に生じる人事問題やブランド問題等を円滑に解決するために活用された(特に,◎◎の日本における事業の買収・統合は,ビジネス上の問題(o株式会社がc社の競業企業を顧客としていることによる顧客離れ等)や人事上の問題(o株式会社とc社の労働条件や企業文化が相当異なっていたことによる所属コンサルタントの大量離職のおそれや役員の処遇問題があったこと)により,c社がl社の買収に係る受皿会社になり得なかったことから,原告が,同事業の買収に係る取引における受皿会社となり,平成14年9月5日付けでl社の株式を買収し,同月18日付けで同社はl1社と商号変更し,その後,平成22年4月1日付けでc社に吸収合併される(甲69)まで7年半余りの間,原告の傘下にあった。)ことを指摘する。
しかしながら,既にa社の子会社として存在していたb社においても企業買収の受皿会社としての役割を十分に果たすことができた上,原告は,戦略スタッフが存在せず,その従業員はc社の役員又は使用人が兼務し,独自の事業を行っていたわけでなく,原告自体にa社やc社が持っていない特別のブランドがあったわけでもないから,本件被買収企業3社の受皿会社としてb社には果たし得ないような何らかの重要な機能や役割を果たしていたものと認めることはできず,b社に重ねて我が国に原告を設置する事業上の必要性は存在しなかったというほかない。
そして,j社及びm社については,原告は,上記2社の発行済株式の全部をわずか約半月ないし2か月という短期間保有したのみで,両社をc社に吸収合併させているから,原告は,c社が前記の各会社を統合するまでの間,一時的かつ形式的に自己の子会社にしておいたというにすぎないのであり,j社及びm社を買収するに当たり,既に多数の子会社及び関連会社を傘下に有しているc社が,直接,j社及びm社の株式を取得するのではなく,あえて原告を介在させ,j社及びm社をc社に吸収合併させる前の一定期間原告の子会社とすべきであった事業上の必要性は特段認められない。
また,l社については,l社は,原告の子会社となった後,早々にその商号を○○グループに属する会社であることを示すl1社に変更して○○グループの傘下にある法人となったことを表明しており,l社を買収した当初から,c社がl社を直接吸収合併した場合に顧客離れや所属コンサルタントの大量離職といった事態が発生する大きな懸念が現実にあったのかについては,大いに疑問が残るというべきであり,少なくともl社がb社の子会社となることに格別の問題があったとは認められないから,原告が,形式的にl社の株式を保有するという意味を超えて,同社の買収に係る受皿会社として何らかの重要な機能や役割を果たしていたものと認めることはできない。
以上によれば,a社,b社等の実質的な持株会社又はc社のいずれかが,本件被買収企業3社の親会社としての実質的な機能や役割を分担していたことに変わりはないから,a社が主導して行った買収案件において原告が重要な役割を果たした旨の原告の主張は失当である。
(ウ) 原告をして,資金のより効率的な配分を行う機能を担わせることという目的(前記イ③)について
a 利益還元としての手段等について
原告は,c社に同社の株式を売却して得た譲渡代金や同社から配当として得た金員を,その都度,直ちに借入金の返済としてb社に送金しているだけであり,配当を支払う方法によってa社に利益を還元したことはないから,b社からの多額の借入金を有する持株会社としての原告を設置したことにより,a社に対する利益還元手段が多様化し,「資金移動の柔軟性」を確保することが可能となったとは認められない上,原告のいう「資本構成の最適化」(親会社からの融資と出資を適切に組み合わせること)による具体的成果も認められないのであって,原告のいう投資資金の資金効率の改善を基礎づける事実は何ら存しない。
以上のとおり,中間持株会社としての原告を設置したことにより,具体的に「資金移動の柔軟性」の確保が図られた事実は認められず,従来,b社とc社等によって行われていた資金配分機能に特段の新しい変化が付加されたものとは考えられない。かえって,原告を設立・維持し,原告を介した送金をすることによって生じる諸費用によって,利益還元のためのコストが増す構造になったということもできる。
b 源泉所得税に係る負担の減少について
原告は,この点につき,原告を設置したことによって,①源泉所得税の対象とされる送金部分が相対的に減少した(c社及び同社を含む日本における○○グループを成す会社からの利益還元に係る配当部分全体が対象とされていたのが,利払い部分のみに減縮した)こと及び②b社が日本の納税義務者として負担する源泉所得税の額の割合が確実に減少したこと(b社がc社と直接取引をした場合には,我が国でみなし配当の額に対する所得税として源泉徴収される税額が,米国の税制において外国税額控除には限度額があることから必ずしも全額還付されない状態になっていたところ,原告を介在させることにより,早期に,かつ,源泉徴収額の全てについて還付を受けられるようになったこと)を挙げて財務上のコストが低減し,資金効率の改善が実現した旨指摘し,原告が「中間持株会社(H型)」の「金融仲介機能」としての正当な事業目的を果たしている旨主張する。
しかしながら,c社の配当可能利益のb社への送金という経済実質は何ら変更しないまま,中間持株会社としての実体がない原告をあえて形式的に介在させることにより,その法的性質を課税所得を有しない内国法人への配当と外国法人への借入金の返済という二つの法形式に分解し,もって源泉所得税に係る所得税法上の取扱いを変更させるような行為は,法が当然に予定しているものということはできない。また,上記②は,要するに,米国の税制に関する不満を我が国の税制を利用して解消しようとするものにすぎず,経済取引の国際化に伴って生ずる国際的な二重課税の回避は,租税条約の締結と各国の国内法が設ける諸制度(外国税額控除等の制度)の範囲内で行われるべきものであって,経済的実体の乏しいペーパーカンパニーともいうべき原告を設置して取引に介在させることによって,我が国における課税関係は源泉徴収によって終了するものとされ,かつ,米国の税制上も適法に還付を受けることが認められていない外国税額(我が国の所得税)について,我が国の所得税額控除制度(法人税法68条)を殊更に利用して我が国から還付を受けようと企図するのは,税負担の公平という観点から正当なものとは認められない。上記①及び②を「中間持株会社(H型)」の金融仲介機能としての正当な事業目的であるかのごとく指摘するのは,事業上の合理的な必要性がないにもかかわらず,原告をb社とc社との間の取引に介在させることにより我が国における税の負担を軽減することが,原告を設置して取引に介在させた唯一の目的であったことを端的に意味し,これを自認するものである。
したがって,原告が指摘するところは,原告が「中間持株会社(H型)」として事業上の機能や役割を果たしていたことを根拠づけるものということはできない。なお,原告は,日本国内に中間持株会社を設置する理由について,「国外送金に様々な障壁」が存在することも挙げるが,原告は唯一の収入として得ていた本件各譲渡に係る譲渡代金を直ちにb社に送金していただけであり,原告が米国へ送金するに当たり,c社にはなしえなかった「様々な障壁」を克服する機能を果たしていたとは認められないし,仮に,それが我が国においてb社が負担すべき源泉所得税の額を大幅に減額させることを意味するのであれば,それはおよそ正当な事業目的とは認められない。
c 資金の集中管理の必要性等について
中間持株会社が「金融仲介機能」を果たしているといえるためには,例えば,子会社に生じた配当可能利益をすぐに全て中間持株会社に吸い上げた上で,中間持株会社において,当該資金を運用・管理し,必要に応じて本社に配当として資金を還元し,あるいは,事業資金が必要な子会社に対して資金を提供するなどして資金管理を集中的に行うといったような機能や役割を果たしている実態が必要であるところ,次の(a)ないし(c)のとおり,原告が設置された後も,原告自らは,b社(ひいてはa社)が資金を必要とする場合にc社の株式を同社へ譲渡して得た資金を,直ちにb社(ひいてはa社)に送金するのみであって,実質的に資金管理を行っていたのはc社であることに何ら変わりはないから,原告に上記のような実態がないことは明らかである。
(a) 原告の他にもa社との間に中間持株会社が設置されていること
平成20年12月31日現在における原告と○○グループ各社との資本関係は,原告作成の「-Japan Group」と題する書面(乙84)に記載のとおりであるところ,同書面によれば,原告が中間持株会社として設置された後も,a社との間には,直接,間接に全株式ないし全持分を保有する中間持株会社が幾重にも設置されていることが認められ,その点から見ても,a社の資金管理業務等を行うために原告を設置することが必要であったというのは,いかにも不自然である。
(b) 各国や地域の子会社等の財務情報の集約及び本社への報告に係る業務について
原告が中間持株会社の機能の一つとして主張する各国や地域の子会社等の財務情報の集約及び本社への報告をすることについては,原告には専任の役員及び従業員がいないのであるから,原告自ら数十社に上る日本の子会社等の財務情報を集約し,a社へ報告をすることは,不可能であるといわざるを得ない。仮に,原告が上記の財務情報集約及びa社への報告という役割を含めて月額50万円の事務委託料をもってc社に委託していた(乙56)とすれば,当該役割は,その質及び量において,およそb社に代えてわざわざ日本に中間持株会社を設置することを必要とするようなものでなく,端的にc社が行えば足りる役割というべきである。
(c) 余剰資金の集中的及び一元的な管理の実態について
原告の本件各譲渡事業年度における主な収入は,c社からの配当収入と本件各譲渡に係る譲渡代金であり,主たる支出は,b社に対する同社からの借入金の返済とc社に対する業務委託料の支払であった(乙57参照)ところ,原告は,c社から収受した本件各譲渡に係る譲渡代金のほぼ全額を,それを収受した日にb社に対し,本件融資を含む同社からの借入金の元本の返済として送金し(乙37,46,51及び52),また,c社への業務委託料は,本件増資の当初(平成14年4月)から締結した原告とc社との間の経理,財務,税務等の業務の委託契約に基づき,自己株式取引や通常配当に係る資金の送金事務を含む事実上原告の全業務をc社に委託したことについて月額50万円を支払っていたものである(乙56参照)。さらに,原告は,c社が日本国内のグループ会社に資金を配分するために採用していたキャッシュマネジメントシステム(毎日,c社の関係会社の余剰資金を同社財務部が預かり,資金不足である他の関係会社に貸し付けることにより,支払利息が○○グループの外に流出することを防ぐこと等を目的にした資金管理手法のことをいう。)にも参加していない。
このように,原告の主な収入源や支出先は,c社及びb社であって,原告はその2社の間にあっていわば資金を通過させるだけのトンネル会社的存在にすぎず,その実態は,余剰資金の集中的及び一元的管理という機能を担うものにはほど遠い(なお,原告は,利得を稼得する事業会社と同一国に中間持株会社を設置すれば,利益から生じた余剰現金を当該国において一旦留保した上で同国内で再投資を行うか,a社に送金するかの選択が可能となる旨主張するが,原告は,上記のとおり,本件各譲渡に係る譲渡代金を直ちにb社に送金していただけであり,原告に資金を留保するようなことは全くされていなかったから,上記の主張は,実体を伴わない観念的なものにすぎない。)ものであって,c社等の子会社からの還元利益を一旦通過させることによって,源泉所得税を含む日本での税負担を減少させるようとしたこと以外に,どのような資金業務を行うことが可能となったというのか,原告からも,いかなる意味でa社の財務部門による資金管理業務が可能となったのかに係る具体的な説明が何らされておらず,明らかではない。
(エ) 原告をして日本において新規事業を行う場合の受皿会社とすることという目的(前記イ④)について
原告をして日本において新規事業を行う場合の受皿会社とする目的(前記イ④)については,原告自身も認めるとおり,平成14年に原告が中間持株会社となってから今日に至るまで10年近くの間,一度もそのような機会はなかったのであり,原告の設置当初から,原告に新規事業の受皿会社としての機能を期待されていなかったものというべきである。原告は,上記のような機会がなかったことの理由として,顧客や相手方が,原告よりは○○ブランドで事業を既に行っているc社のような法人を取引相手として選好する傾向が強まったことをその理由として挙げるが,巨大企業であるc社の圧倒的なブランド力からすれば,上記のような傾向は,原告を中間持株会社として設置する当初から明白であったはずであり,原告を設置した後になって予想外に生じた新事情であるとは考えられない。
ウ 原告が持株会社としての実質的役割を果たしていないことについて
(ア) 持株会社としての固有の存在意義がないこと
次のaないしdのような事情は,原告及びその経営者において,原告が,巨大企業であるc社(従業員数約1万6000名,年間売上高約1兆1300億円にも上る。乙4参照)を筆頭として,その傘下に三十数社の子会社及び関連会社を擁する日本における○○グループを成す会社全体に係る事業戦略の立案,同グループ全体の財務戦略等を考慮した資金の調達・運用,同グループ全体の経営の企画・管理及び監督等,純粋持株会社としての期待される実質的役割等を到底果たし得ないことやそもそもその役割を期待されていなかったことを如実に示しており,原告に中間持株会社としての固有の存在意義がないことの証左といえる。
a 原告は,他の会社の株式を多数保有し,その事業活動を支配することを主たる事業とする純粋持株会社であるが,原告の経理業務及びマネジメント業務をc社に委託していた(乙56)上,傘下に置かれたc社を筆頭とする企業グループ全体の経営者も,これを補佐する戦略スタッフも存在せず,原告の兄弟会社の代表者や,原告の子会社であるc社の役員又は従業員らわずか2,3名が原告の役員を兼任する(甲31,乙54,55)のみで,しかもその地位は無報酬である(乙57)。
b 持株会社において,子会社の従業員が持株会社の役員を兼務し,当該子会社役員の選解任権を行使し,当該会社をコントロールするような形態は,極めて変則的であるところ,これは,原告において誰が役員に就任しても日本における○○グループの経営にとって影響がなく,b社ひいてはa社が原告をコントロールしているからこそ可能なことである。なお,原告は,原告がa社の完全子会社である以上,意思決定も業務遂行も全てa社のコントロールに服して行われることは,企業グループにおける経営管理上当然のことである旨主張するが,a社の意思決定が原告の業務委託を受けているc社において遂行されるのであれば,a社とc社との間で,直接,指示・実行等をすれば足り,わざわざ原告を介在させる必要はないから,原告の上記の主張は,原告の機能や役割が乏しいことを原告も自認しているに等しいと評価できる。
c c社は,平成14年譲渡について,1株当たりの取得価額及び取得株式数を後に修正している(前提事実4(3)ア(イ)及び(ウ)参照)ところ,このような修正について原告との間で協議を行った形跡はない。また,原告は,平成17年譲渡におけるc社による自己株式の買受限度額等の修正経緯等(前提事実4(3)ウ(イ)及び(ウ)参照)において,定時株主総会決議の無効理由を検討した形跡がない。このような事実は,原告の業務に係る意思決定や株主としての権利行使が形式的なものであることを物語っている。
d 原告が「中間持株会社(H型)」に当たるとしても,原告が具体的にどのような業務を行い,実質的にいかなる機能や役割を果たしているのかが更に問題とされるべきであるところ,原告は,①常勤の役員や従業員が存在せず,②「中間本部(M型)」に該当せず,③その子会社と同じ国に所在するといった外形的事情から,直ちに,原告が「金融仲介機関」として機能していると主張するのみで,a社が原告を活用して具体的にどのように資金管理等をしているのか,そのためになぜ原告の設置が必要なのかという点について,本件に即して何ら具体的に指摘しない。
(イ) 原告の設置について,税負担を軽減する目的以外の事業上の目的が見いだせないこと
前記(ア)に述べたとおり,①原告に専任のスタッフがおらず,子会社の従業員が持株会社の役員を兼務しており誰が原告の役員に就任しても日本における○○グループの経営に影響がないとみられること,②原告が自らの経理業務,マネジメント業務等組織としての最低限の業務すらもc社に委託し,具体的な事業活動を行っていないことに加え,③2001年(平成13年)から2007年(平成19年)にかけて行われたとされる○○グループの全世界的な組織再編が,地域ごとに様々な国籍の法人が入り乱れる形で幾重にも中間持株会社を設置していくというものであって,何らかの統一された方針の下,計画的に整然と持株会社が設置されていったものとは認められず(むしろ,台湾地域を統括されるとされる持株会社がオランダに設置される(別紙12,○○ Taiwan Holdings)など不自然な点がある。乙85参照),我が国における税制改正の動向と無関係に原告が設置されたともいい難いことや,④原告の存在意義が希薄なものであることも踏まえると,b社に重ねて原告を設置することに,税負担の軽減以外の事業上の目的が見いだし難いというべきである。
(ウ) 組織再編が私的自治ないし経営判断に委ねられる問題であることと,法人税法上の不当性の評価は別の問題であること
原告は,a社が我が国に中間持株会社を設置し,中間持株会社たる原告にどのような役割を求めるかは,私的自治ないし経営判断に委ねられる問題であって,組織形態の選択を決定するのは課税庁ではない旨主張する。
しかしながら,原告を中間持株会社として設置することが私的自治ないし経営判断に委ねられる問題である(被告は,a社及び○○グループが原告を中間持株会社として設置したことの私法上の効力は否定しないし,その経営判断としての当否も問題としていない。)としても,それが直ちに税負担軽減の目的以外の正当な事業目的を有する行為であると評価されることを意味するものではなく,その評価に当たっては,設置された原告が具体的にいかなる機能を果たしているのかを個別に検証する必要がある。そして,本件については,b社とc社との間における同社の株式に係る譲渡取引において,原告を介在させることは,税負担の減少以外に正当な事業目的は認められないから,これにより法人税の負担の不当な減少という結果が生じているといえる。
したがって,組織再編が私的自治ないし経営判断に委ねられる問題であることと,法人税法上の不当性の評価は別の問題であるから,組織再編が私的自治ないし経営判断に委ねられる問題であるからといって,同法132条1項に基づく否認を否定することはできない。
(エ) 租税法上の持株会社の位置付けと法人税法132条1項の「不当」の意義の理解とは別個のものであること
a 原告は,持株会社の役割は株式の保有であるところ,我が国の租税法上,持株会社について直接規定した条文はなく,また,株式を100%保有することにより子会社を支配する場面に関する規定はある(法人税法2条12号の6の4,12号の7,12号の7の6等)が,株式の保有要件を定めているほかに持株会社が法人として取り扱われる要件として,役員,従業員の存在や業務遂行の独立性,主体性を求め,それらの有無によって法的効果を異にするような規定は存在しないから,租税法の観点からは,持株会社には持株会社として期待される実質的な役割等があることが求められる旨の被告の主張は理由がない旨主張する。
しかしながら,株式を100%保有する完全親会社に関する規定としてその該当性要件についての規定しか存在しないこと等と法人税法132条1項の「不当」の意義をどのように理解し,持株会社についていかなる事情に着目してそれに該当するかの判断をするかという問題とは全く別個のものであるところ,行為又は計算を容認した場合に法人税の負担が「不当」に減少するものであるか否かを判断するに当たっては,専ら経済的・実質的見地において,当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不自然・不合理なものと認められるかどうかを基準とすべきであるから,原告が持株会社としてどのような機能や役割を持つ法人であるかどうかは,原告を本件におけるc社の自己株式の取得取引に介在させたことに経済的な合理性があるか否かを検討する上で重要な意味を持つというべきである。
b 原告は,法人税制において,法人格を有する事業体が法人として取り扱われるための要件として,専任の役員,従業員の存在,専用事業所ないし固有の事務所の存在や業務遂行の独立性,主体性を求め,それらの有無によって法的効果を異にするような規定は一切存在しないし,持株会社であるが故に当該法人が租税法上別異の取扱いを受けるべき理由は何もない旨主張する。
しかしながら,被告は,原告が法人として取り扱われることを前提とした上で,b社とc社との間の同社の株式に係る譲渡取引に中間持株会社としての実体のない原告をあえて介在させるという十分な経済的合理性の存しない本件一連の行為によって生じた不当な税負担減少の結果を排除したものであるから,原告の上記主張は失当である。
なお,我が国の法令において,従業員や固有の事務所等がないことを理由に法人格を否定する規定はないとしても,法人税の計算上別異の扱いを定める規定(平成22年法律第6号による改正後の租税特別措置法66条の6第3項,租税特別措置法施行令39条の17第4項2号(平成22年政令第58号による租税特別措置法施行令39条の17の改正によるもの。ただし,平成22年政令第58号においては,租税特別措置法施行令39条の17第3項2号として規定されており,平成23年政令199号による改正により,現行の規定となった。))は存在するところ,これは,従業員や固有の事務所がない中間持株会社をタックスヘイブンに設置することは,経済的合理性がなく,租税回避目的で設立されたものであるとの考え方を前提としているのであり,原告が,法人税制においては,法人の専任の役員や従業員の存在,固有の事務所の存在や業務遂行の独立性,主体性の有無に着目して,課税上の取扱いを異にすることは一切されていない旨主張するものであれば,誤りである。
c 原告は,平成12年7月14日付けの政府税調の答申(甲99)を例に挙げ,企業の経営判断に基づく組織再編に対して税制が中立性を保つことができるように,租税法も組織再編税制や連結納税制度を設けており,原告に主体性,独立性がないことを理由にその存在意義を否定する主張は,これらの税制を整備した税制改正の基本的な考え方を全く理解していないものである旨主張する。
しかしながら,上記の答申(甲99)が示す税制改正の基本的な考え方は,税負担の不当な減少が生じないような税制を構築することを当然の前提とした上で,企業による経営形態の選択の在り方いかんにより課税上の取扱いが異なることになって不公正な結果が生ずるような税制は採らないとの考え方を示しているものにすぎず,原告が例に挙げる組織再編税制や連結納税制度の導入に際しても,租税回避が行われる事態に対処するために,法人税法132条の2として行為又は計算を否認する規定を新たに創設している(平成13年法律第6号)ことからすると,上記の答申(甲99)が示す税制改正の基本的考え方においても,不当な租税回避行為を容認するものでなく,被告の主張と抵触するものでもないことが明らかである。
(オ) 原告の挙げる例が本件に当てはまらないこと
原告は,従業員のいない持株会社としてデュポン社や日本マクドナルドホールディングス株式会社等の日本における純粋持株会社である3社(株式会社エスライン,スミダコーポレーション株式会社及び日本マクドナルドホールディングス株式会社。甲86ないし88参照)を例示し,企業グループ全体の経営者や戦略スタッフが存在せず,傘下の事業会社に本部機能が置かれている純粋持株会社も,純粋持株会社の利用形態の一つとして認識されている旨のほか,デュポン社にあっては,「リスク遮断機能」を果たすことを目的として従業員のいない中間持株会社を設置している旨(甲85参照)を指摘し,これらの例に照らせば,中間持株会社においては,企業グループ全体の経営者や戦略スタッフの存在が不可欠であるとはいえず,原告についても,持株会社としての実質的な役割を果たしていないとはいえない旨主張する。
しかしながら,原告以外に単に専任の役員・従業員や専用の事務所を持たない持株会社が存在している事実(甲86ないし88)があるからといって,それだけでは原告が果たす機能や役割について何ら明らかになるものでなく,また,デュポン社の中間持株会社がリスク遮断機能を果たしていること(なお,原告が指摘する実務書(甲85)には,リスクの遮断機能は,経営者や戦略スタッフが存在しない持株会社でも担うことができるなどといったことは記載されていないし,デュポン社は,地域別の中間持株会社について,全て本店をデラウェアに置くことによってリスク遮断機能を果たしていると認められると記載されているのみである(甲85・183頁参照)。)をいくら指摘したところで,米国ではなく我が国に設置されている原告が,デュポン社の中間持株会社と同様に,リスク遮断機能を有していることが裏付けられることにはならない。さらに,原告が専任の従業員がいない日本における純粋持株会社の例として挙げる上記の3社の例(甲86ないし88)については,それらの純粋持株会社の役員は,いずれも主な事業子会社の代表者が兼務したり数社の役員が兼務したりするなどして,グループ会社全体の経営戦略のための意思決定を行い,また,経営全体に共通する不動産賃貸等の事業活動も営んでおり,原告とは全く異なる業務実態が認められる(乙69・28ないし30及び33頁,70・21ないし24頁並びに71・7,27ないし30頁参照)。
したがって,これらの会社の存在を根拠として原告を設置することに事業上の意味があると主張するのであれば,日本における純粋持株会社の例として原告が挙げる上記3社(甲86ないし88)が果たしている機能(乙69ないし71)が原告と同内容のものであって,それ以上の役割を果たすものでないことを具体的に主張することが必要であり,単に専任の役員・従業員や専用の事務所を持たない持株会社の存在を例として挙げるにとどまる上記の原告の主張は,原告を設置したことに事業上の必要性を見いだせないことについての反論にはならない。
(4) 本件一連の行為を構成する本件融資は,独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること
本件融資は,巨額(1兆8182億2000万円)のものであるにもかかわらず,無担保で,返済条件も原告にとって極めて有利な内容であり,基本的に子会社からの配当と子会社の株式の譲渡代金しか収入のない原告にとって本件融資の全額を返済期日までに返済することはおよそ不可能なものであって当初から約定どおりに返済されることが想定されていなかったとうかがわれる上,b社にとってはc社の株式の譲渡代金に係る支払債務を目的とする準消費貸借契約によるものであって,本件株式購入と同時に行われたために具体的な資金の動きもなかったものである。
このように,本件融資は,独立した当事者の通常の取引とは異なり,不合理,不自然というべきである。
ア 本件融資が原告にとって極めて有利な内容であること(全体として乙29参照)
原告が1兆9500億円という巨額の代金を投じて本件株式購入をすることができたのは,原告の株主であり,かつ,本件株式購入時の売主であったb社からの本件増資や巨額の本件融資(1兆8182億2000万円)が実行されたからであるところ,原告は,ほとんど資産らしい資産を有していないにもかかわらず,巨額な融資等を他の企業から受けられること自体,通常の独立した企業であれば異例である上,その際に何らの担保も提供していない。
また,本件融資は,平成24年12月20日を返済期日とし,当該期日において,原告は本件融資に係る未返済残高及び未払利息の総額を支払うものとされているが,原告は,b社に通知することによって返済期日前に融資額の一部又は全部を返済することができるとされ,さらに,本件融資に係る利息は,0.6344%と比較的低率である上,毎年12月20日に支払うこととされているものの,原告は,利息支払日に利息を支払うことに代えて,利息相当額を未返済残高に組み込むことを選択できるとされている。
このように,本件融資は,巨額の融資であるにもかかわらず,無担保で返済条件も借主である原告にとって極めて有利な内容であって,当独立した当事者間においてされることがおよそあり得ないものである。
イ 本件融資は当初から約定どおりに返済することが予定されていなかったものであること
(ア) 原告は,本件融資がされた日(平成14年4月22日)から平成20年12月までに,c社から,同社の株式の譲渡代金ないし配当として,合計約7914億500万円の支払いを受けているところ(甲15),仮にその全額を,c社の株式の購入のためb社から受けた本件融資(1兆8182億2000万円)の返済に充てていたとしても,いまだ約1兆円近くもの金額が返済されていない(なお,原告は,b社から平成14年4月25日に受けた増資(1332億円)をもって本件融資のうちの1317億7000万円を返済した(乙27参照)旨指摘するが,原告の行った増資は,同額(1332億円)の資金がb社から支払われる都度,株式の取得代金や融資の返済資金としてb社に還流するとともに,一度同社に還流した資金が,そのまま再び新たな増資資金として還流するという二重の還流構造を内包していたものであり,原告が「返済」したと主張する資金は,本件増資を行った者(b社)が本件融資の当事者(b社)として,自己が出資した資金を形式上又は名目上「返済」という形式で戻したにすぎないものであり,およそ独立した第三者間における融資契約に基づく「返済」とは違うものというべきである。)。
基本的に子会社からの配当と子会社株式の譲渡代金しか収入のない原告にとって本件融資額を返済期日までに返済することはおよそ不可能なものであって,当初から約定どおりに返済されることが想定されていないとうかがわれる点においても,独立した当事者間においてされることがおよそあり得ないものである。
(イ) ①原告の元取締役であったA7は,本件融資に係る返済計画の作成に係る記憶はない,借入金の返済原資は配当金であり,c社の場合100%利益配当もあり得るから,資金的には心配する必要はなく,借入金の返済は可能だと判断したと思われる旨(乙88・6頁)を,②原告の取締役であるA23は,借入金の返済期日は決まっているが,返済について特段の議論は行われなかった,返済期限までに返済できない場合には,借り替えするしかないと考えている旨(乙89・4/7頁)をそれぞれ本件調査の担当者に対して述べているところ,これらの供述は,(あ)本件融資に係る返済計画が,本件融資がされた当初(平成14年4月22日)及び平成19年12月末の時点において,いずれも作成されていないこと並びに(い)原告の取締役において返済期限に係る認識に極めて乏しかったことを示しており,本件融資が約定どおりに返済されることが想定されていなかったことを裏付けるものである。
(ウ) 原告は,平成17年度以降の成長率の見込みを仮に1%(計算上は約1.12%)として,同年以降の税引後純利益の額を算出し,当該「税引後純利益の額」の「見積り総額」は原告の借入金の残額と同額の1兆6865億円となることが検証されていた(乙30参照)から,当該借入金は「返済可能」であることが当初から合理的に想定されていたと主張する。
しかしながら,原告が示す「税引後純利益の見積り総額」とは,平成16年度の見込みの税引後純利益の額(1525億円)に1.12%ずつ増加させた額を累積した結果が借入金の残額と同額になることを意味するものと認められる(別紙13参照)ところ,上記の額は,一般的な税引後純利益の額の算出過程(各事業年度の収入から費用等(法人税額等を含む)を控除する)と異なる過程で算出されたものと認められるから,上記の「税引後純利益の額」の「見積り総額」は,単に計算上,借入金の残額と同額になるよう算出された額の累積額に基づくものにすぎない。また,本件融資の返済計画が作成されていない上,本件融資に係る契約締結時にc社の将来の成長見込み率(売上高)が増加傾向であることを理由に借入金を返済することが可能であると合理的に想定されていたのであれば,契約締結後の同社の売上高(実績)や純利益が減少傾向となった(乙82の1ないし3,別紙9参照)時点で,本件融資の返済条件の見直し等が当然されるはずであるところ,原告とb社との間で本件融資の返済条件の見直し等について議論が行われた様子さえうかがわれない。
以上によれば,原告及びb社は,本件融資が約定どおりに「返済可能」であるか否かについて関心がなかったというほかはなく,原告が当初から約定どおりに返済することを予定していなかったと認められるから,本件融資を返済することが合理的に想定されていたとする原告の主張は,その前提を欠く。
(5) 本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められること
本件各譲渡に基づく有価証券の譲渡損の発生は,通常の事業活動に随伴して期せずして生じたというものではなく,税務及び法律の専門家による周到な検討を踏まえて租税回避効果を極大化させることを意図した本件一連の行為がされた結果というべきであり,本件一連の行為は,殊更我が国の受取配当等の額の益金不算入制度(法人税法23条1項),有価証券の譲渡損益額の計算規定(同法61条の2第1項)及び連結納税制度を適用することを目的として行われたものと認められる。
ア 本件株式購入及び本件各譲渡は経済的合理性のないこと
(ア) 本件株式購入における取得価額が不合理,不自然なものであること
原告が平成14年4月22日にb社から取得したc社の株式の取得価額の総額は,1兆9500億円という巨額なものであるところ,当該価額はa社の依頼により,h社が作成した△△株式評価書(乙30)を根拠として決定されている。
一方,c社は,同年2月ないし3月にn銀行に対し,c社等4社の時価総額を約9000億円と伝えていた。このことは,A21がA25及びA23からの相談内容を聞き取って作成(乙28・2/7枚目)した本件A21・2月メモ(乙28の別紙1)に,案件名を「○○グループ本邦持株会社設立」とし,「持株会社概要」として,「c社他本邦3社」の出資関係について,親会社を「b」(b社)から国内法人(有限会社)である「X・Holdings(ただし,名称を X・HDに変更)」(原告)に変更するという内容の図が記載されているほか,「b(b社)より本邦4社(c社等4社)株式(時価総額$80億)を購入(4月を予定)。購入資金は,b(b社)からの増資受入($20億)・b(b社)からのローン($60億)で賄う予定」との記載があることに加え,A21が,本件A21・2月メモの記載について,①「本邦4社」とはc社等4社のことであり,c社等4社の株式の購入者が「X社」(原告)であり,売り手がb社ということである,②「X社」(原告)が,b社から増資20億ドル及び借入金60億ドルを受け入れて,c社等4社の株式を購入するという意味である旨説明していること(本件調査報告書(乙28)の応答録3/7枚目)から明らかである。なお,原告は,2002年2月メモ(甲57の2)によれば,A25及びA23がA21に示したのは,出資の額が20億米ドル,借入れの額が80億米ドルという金額であるとして,本件A21・2月メモに記載された「時価総額$80億」という金額は,A21の聞き間違い等に基づくものである旨主張するが,①2002年2月メモ(甲57の2)には,b社が出資金として,「20億ドルに相当する円建ての現金」を拠出する旨が記載されている(甲57の2・訳文1枚目)ところ,この金額は,本件A21・2月メモに記載された金額(「$20億相当円(約2,600億円)」)と同額であり,原告が受けた増資の金額(合計2664億円の増資)ともほぼ同額であること,②本件A20メール(甲58)には,原告の増資について「4週間かけて」行い,資金は○○グループが送金するという案が記載されているところ,この案は,本件A21・3月メモ(乙28の別紙2)の「出資を4回に分割」,「自社調達する」との記載内容と一致していることに照らすと,本件A21メモ(乙28の別紙1及び2)には,a社が当時,原告の設置について検討していた内容が正確に記載されているといえるから,A21がc社等4社の時価総額である「$80億」という額のみを聞き間違うなどしたとは考え難い。
確かにn銀行との協議においてもc社等4社の株式の売買価額について,h社の評価の結果次第で金額が上下する可能性があることを示唆しているものの,c社が認識し,同銀行に伝えていた時価総額(80億米ドル。なお,原告が主張するところを前提としたとしても100億米ドル(80億ドル+20億ドル)。)とh社が算定したc社等4社の株式の適正市場価格(1兆8000億円から1兆9966億円)との間には,実に2倍,金額にすると1兆円もの差が生じていたにもかかわらず,原告は,△△株式評価書(乙30)を唯一のよりどころとしてc社の株式の取得価額を決定し,当該価額で取得している。
このような取得価格の決定過程は,独立・対等で相互に特殊な関係のない当事者間で通常行われるものとは異なり極めて不自然である。
(イ) 本件各譲渡が不合理,不自然なものであり,原告自身の主体的,合理的な行動とは認められないこと
原告は,本件各譲渡に係る譲渡代金のほとんど全額を,即日,b社に対する本件融資等の返済として送金しており(乙37,46,51及び52参照),本件各譲渡は,原告単独のキャッシュ・フローからみて,何らのメリットも認められない取引であって,原告が,独立した通常の経済人であれば,このような何らメリットのない取引を行うことは通常考え難い。
また,c社がb社から自己株式の取得を行っていた当時は,その都度c社の簿価純資産価額に基づきその1株当たりの取得価額を決定し,その取得価額も変動していた(例えば,平成9年6月30日における1株当たりの取得価額は17万9485円,平成10年6月30日における同価額は16万9695円,平成11年6月18日における同価額は15万3765円,平成11年9月30日における同価額は16万2404円,平成12年5月31日及び同年7月26日における同価額は19万9814円。乙33の2・3枚目参照)ところ,本件各譲渡における1株当たりの譲渡価額は,一律に本件株式購入時の1株当たりの取得価額(127万1625円)をほぼそのまま用いて決定され,特に,本件平成17年譲渡については,本件株式購入から3年7か月余りが経過し,c社の発行済株式総数の減少やc社の利益の推移(純利益の推移について別紙9参照)等があったにもかかわらず,その1株当たりの譲渡価額に何らの変更も加えられていない。このように,本件各譲渡の代金は,数百億円から数千億円と巨額であるにもかかわらず,原告は,本件各譲渡の代金の決定過程において,売主としても,また,c社の株主としても,独自の意思決定を行い,主体的かつ合理的に行動した形跡はないから,本件各譲渡における原告の行動は,独立の経済主体として不自然・不合理なものというほかない。
(ウ) 原告らは適正な時価を把握することに特段の関心がなく,寄附金である旨の認定や受贈益課税を受けるリスクのない範囲でできる限り多額の有価証券の譲渡損を発生させることに強い関心があったこと
本件株式購入の取得価額は,△△株式評価書(乙30)に基づくものであるとされるところ,本件株式購入に際してc社の株式に係る評価額の算定に当たって,a社は,当初から評価額を高くしたいとの意向を持ち,△△株式評価書(乙30)における評価額の範囲内(1兆7795億円ないし1兆9760億円)の中の1兆9500億円という高い金額でもって取引価額とする極めて不自然な決定をしている(乙30・訳文3枚目,乙83・8/23ページ)。
ところで,△△株式評価書(乙30)における評価方法は,評価対象会社の将来事業計画等を基に,予測期間におけるフリー・キャッシュ・フロー(企業の本来の事業活動によって生み出されるキャッシュフローのこと)の現在価値等を合計したものから株式の価値を算定する手法(DCF法)を中心としたものによるものであるところ,c社に対するフリー・キャッシュ・フローの見積り(乙30・74ページ)においては,Revenue(収入)が平成14年度から平成16年度にかけて毎年11%増加するものと仮定され,それに連動する形で,フリー・キャッシュ・フローも平成14年度から平成16年度にかけて大幅に増加する見積もりになっている(なお,△△株式評価書(乙30)においては,平成14年度から平成21年度までの8年間の予想されるキャッシュフローに基づいて計算されているところ,平成14年度から平成16年度までのc社の業績予測及び予測されるキャッシュフローについての記載はあるものの,株式価値を算定する根拠となった平成17年度以降のキャッシュフローの予測については具体的な記載がない。)が,営業収益(売上高)の実績値を見ると,同社の損益計算書によれば,平成14年度から平成16年度にかけて連続して減少していることが認められる(乙82の1ないし3)。
そうすると,平成14年4月4日にc社の株式の時価を評価するに当たって前提とされたことが,本件各譲渡の時点(平成14年12月20日,平成15年12月22日及び平成17年12月28日)においては妥当しないとの疑問が当然に生じ得るから,本件株式購入の当時の時価が本件各譲渡の時点の時価と一致するとは必ずしもいい難いにもかかわらず,原告は,本件各譲渡に当たり,c社株式の評価額を改めて見直すことなく,本件株式購入時の取引価額を漫然と使用している。独立した第三者の取引であれば,株式を譲渡するに当たり,その適正な価額がいくらであるかについては売買の当事者にとって重要な関心事となるものであり,このようなことは考え難い。
このように,本件株式購入及び本件各譲渡における1株当たりの価額がいずれも時価によるものであるか否かが疑わしいといえる上,原告らは,本件各譲渡における1株当たりの譲渡価額を決定した際,適正な時価を把握することに関心はなく,寄附金である旨の認定や受贈益課税を受けるリスクのない範囲でできる限り多額のみなし配当の額と有価証券の譲渡損による原告の欠損金額を我が国の法人税法上発生させることに強い関心があったことが優にうかがわれるから,これらのことは本件一連の行為が税負担の軽減を目的として行われた純経済人の行為として不合理,不自然な行為と評価されることを根拠付ける事実といえる。
(エ) 実質的な内部取引において,有価証券の譲渡益に係る課税のないまま取得価額のみがかさ上げされていると評価されること
前記(ア)に述べたとおり,本件株式購入における取得価額の決定過程は極めて不自然である(なお,本件株式購入におけるc社の株式の1株当たりの取得価額(127万1625円)は,b社とc社との間でされたc社の株式の譲渡取引における1株当たりの価額(15万3765円ないし19万9814円)に比べて6倍以上の金額であったところ,c社の株式の1株当たりの価額が高くなり,その総額が大きくなるほど,有価証券の譲渡損失の計上という観点から原告の利用価値が高まる関係にあった。)上,前記(イ)に述べたとおり,本件各譲渡における1株当たりの譲渡価額の決定過程も不自然である。また,仮に,本件各譲渡時の1株当たりの譲渡価額が時価として正当な価額であったとしても,b社と原告は,経済的に見て一体と評価すべきものであって,b社が原告に対してc社の株式を譲渡した取引は,実質的には内部取引にすぎず,米国の税制上も,チェック・ザ・ボックス規則が適用されて内部取引(本支店間取引)として取り扱われ,その有価証券の譲渡益は課税対象とされていないところ,我が国においては,原告(実質的にはb社)の保有するc社の株式の取得価額(帳簿価額)が,b社がc社に対して直接譲渡していた時の取引価額と比べて6倍以上の価額に上昇したことは,b社からみれば,c社の株式の評価換えが行われたものと同視することができるから,その帳簿価額(形式的には原告の取得価額となっている)のみがかさ上げされているものと評価することができ,このことは,本件における税負担の減少が不当であることを根拠づける一つの重要な要素となる。
このように,c社の株式の帳簿価額が何らの課税を受けることなくかさ上げされた価額で原告の取得価額にすり替わっているものというべきところ,b社から取得したc社の株式を原告(実質的にはb社)がc社に譲渡する段階でそのかさ上げされた取得価額に基づいて原告の有価証券の譲渡益を計算することは,一般的に資産の移転に伴って譲渡価額が上昇すれば当該上昇部分に課税がされていることとの比較において,課税の公平が害されているというべきである。
(オ) 本件株式購入及び本件各譲渡における株式の価額が時価によるものであることは,本件一連の行為が法人税法132条1項の「不当」なものと評価すべきであることを何ら左右しないこと
原告は,被告が本件株式購入や本件各譲渡の価額が時価であることを争っていないとした上で,時価による取引は法人税法の原則であり,時価により行われた取引の正当性が否定されるのは,時価が当事者の行為により不自然に変動される(ケン事件第一審判決(乙67)の事例)など時価自体が不合理,不自然な場合に限られるから,時価による取引により有価証券の譲渡損を増加させることを目的としていたとの被告の主張には合理性がない旨主張するが,被告は,本件株式購入及び本件各譲渡における1株当たりの譲渡価額の決定過程が不合理,不自然であることが,中間持株会社としての実態のない原告がb社とc社との間の同社の株式に係る取引に介在することになったことが原告に多額の欠損金を作出するために意図的に行われたことを根拠付けるという趣旨で主張しているのであって,本件株式購入及び本件各譲渡における価額が正当な時価によるものであることを認めているものではないし,それらが時価による取引であるか否かが単に疑わしいという事実をもって法人税法132条1項の「不当」性が基礎付けられると主張しているものでもない上,原告が指摘する事例(ケン事件第一審判決(乙67)の事例)は,グループ内部に意図的に多額の欠損金を作出するためにした取引であることを理由に法人税法132条1項の「不当」性が肯定された事例であって(乙67・80頁参照),原告の理解が誤っていることにも照らすと,上記の時価により行われた取引の正当性が否定されるのは時価自体が不合理,不自然な場合に限られる旨の原告の主張は失当である。
イ 原告が有価証券の譲渡損を計上するに至った経緯からa社が税負担の軽減を目的として意図的に有価証券の譲渡損を生じさせるような事業目的のない行為である本件一連の行為をしたことが推認できること
(ア) 原告が有価証券の譲渡損を計上するに至った経緯からの推認
次のaないしhの各事実を総合すれば,本件各譲渡に基づく有価証券の譲渡損の発生は,通常の事業活動に随伴して期せずして生じたというものではなく,税務及び法律の専門家による周到な検討を踏まえて,租税回避効果を極大化させることを意図した上で,有限会社である原告を中間持株会社として我が国に設置してb社が保有するc社の株式の同社への譲渡に介在させることや,同社の株式の1株当たりの譲渡価額を従前に比べて著しく高く設定して本件各譲渡を行うことなどを含む本件一連の行為がされた結果であるというべきである。
a 我が国において,平成13年6月22日の商法改正(同年法律第79号による商法210条及び212条の改正。自己株式の取得に係る要件の緩和)を踏まえ,同月29日に法人税法24条の改正(同年法律第80号による改正)が行われ,これにより,自己株式の取得に際し支払われる金額をみなし配当の額とするという規定(法人税法24条1項5号)が新たに追加されたことを背景として,a社の幹部(A10)が我が国に持株会社となるべき子会社を設置することを検討し,有限会社を子会社とした場合に米国における課税関係がどのようなものとなるのかについて専門家(A14)に助言を求め,チェック・ザ・ボックス規則による選択をすることにより米国の持株会社の支店とみなされることになる旨の認識を伝えられた(甲50の別紙1及び甲53)。
b 前記aで求めた専門家(A14)の助言(有限会社を子会社とした場合にチェック・ザ・ボックス規則による選択をすることにより米国の持株会社の支店とみなされることになること)を踏まえて,受取配当等の益金不算入制度(法人税法23条)の適用を受けることを想定してa社の幹部(A10)は,c社の株式に係る持株会社となるべき有限会社を購入するよう指示した(甲55)。
なお,原告は,受取配当等の益金不算入制度(法人税法23条)の適用を受けることを想定して有限会社を購入するよう指示したとしても,c社がa社に対して利益還元をする方法のいかん(通常配当又は自己株式の取得)にかかわらず検討を要する問題であるとして,その点は原告に有価証券の譲渡損が発生することを想定していたことを裏付けるものではない旨主張するが,前記aに述べた背景があることに加え,①主要行程書(甲56の2)には,c社等4社の株式に関する「配当支払計画」において,「自己株式取得に関し,日本における税務上の問題がないことの確認」,「自己株式取得についての授権承認」などに係る手順が示されており,a社が原告の設置に当たって「自己株式取得」を前提とした配当支払に係る計画を予定していたと認められること,②後記eに述べるとおり,自己株式の取得による金銭等の交付に係る金額がみなし配当の額に該当することが確認されていたこと(乙19)も併せて考慮すれば,a社は,自己株式の取得により交付を受けた金銭等が配当等の額とみなされる額(みなし配当の額)に該当すると認識し,これの発生と裏腹の関係にある有価証券の譲渡損の発生(法人税法61条の2第1項1号括弧書き参照)についても十分認識していたものというべきである。
c c社は,前記bの検討と併せて,専門家(i法律事務所(当時))に対し,有限会社を持株会社とするスキームについて,違法性の有無を照会した(乙18)。なお,原告は,上記の照会は,一般的な法律調査を行ったにすぎず,本件と関連性がない旨主張するが,本件c社法務質問書(乙18)の「事実」欄には,「⑤YK(原告)はc社からYK(原告)が所有するc社株の買取(商法210条)を利益配当に代わるものとして受ける」との自己株式の取得に係る取得代金の額がみなし配当の額に該当する旨が記載されており,a社が自己株式の取得に係る税務上の取扱いを認識した上でc社による自己株式取得を実行するに当たり必要な手続の確認を行っていることが認められるから,上記の照会をした事実は,本件一連の行為が「あらかじめ一連の行為として計画されたもの」として純経済人として不合理・不自然な行為であることを示す証拠であるといえる。
d 上記a及びcの検討を踏まえ,a社は,平成14年2月12日,b社をして,株式会社ではなく有限会社であることに着目して我が国における中間持株会社として原告を設置させ,もって我が国において有限会社である中間持株会社を手に入れ,我が国においてはb社と分離独立した法主体として扱われる一方で,米国連邦税法上はb社と分離独立した法主体として認められない(b社の支店とみなされる。)事業体(原告)を獲得した。
e 前記dにより原告が設置された後,b社から原告に対してc社の株式を譲渡し,原告が,更にその株式をc社へ譲渡するに際して,c社において,平成14年3月20日,我が国のみなし配当の額に係る税制上の取扱いの確認を行った(乙19)。なお,原告は,□□意見書(乙19)には,自己株式を譲渡する株主の課税関係については何の記載もないから,同意見書(乙19)にみなし配当の額に関する記載が存在することをもって,被告が主張するような推認をすることはできない旨主張するが,a社は,原告を中間持株会社として設置した後にc社が自己株式を取得することによって生じる税務上の問題について詳細な検討をしていた(上記に述べたところに加え,前記aないしc及び後記f参照)上,同意見書(乙19)の作成を依頼したc社自身が,原告の設置前後に日本における原告に関する業務全般を行っていた(乙56)にもかかわらず,自己株式を譲渡する株主である原告側の課税関係については一切検討されず,a社及び○○グループにおいて原告側に有価証券の譲渡損が発生することに全く気づいていなかったなどということはあり得ないから,原告の指摘するところは,被告の主張するところを覆すに足りるものとはいえない。
f a社は,平成14年3月22日,日本再編プロジェクトについての議論を行った際,「タックス・リストラクチャリングの検討」(甲59の2)として,「c社が高く評価されることは,本プロジェクトの有効期間を実質的に長期のものとすることにつながる」との認識が示され,c社の株式が高く評価されることが税制上意義があるとの認識を有していたほか,c社が原告から自己株式の取得をした際に損失が生じることについても検討が行われた(甲50の別紙2及び甲59の2)。
なお,原告は,①「タックス・リストラクチャリングの検討」とは,3月22日議事録(甲59の2)全体に付されたタイトルではなく,「評価」等他の議題と並列的に記載されたものであり,被告が指摘する「c社が高く評価されることは,本プロジェクトの有効期間を実質的に長期のものとすることにつながる。」との記載も,「評価」という議題の中で記載されたものであって,「タックス・リストラクチャリング」の議題の下に記載されたものではない旨,②上記「評価」の項目内に有価証券の譲渡損の記載はない旨を指摘し,上記の被告の主張が失当である旨主張する。
しかしながら,3月22日議事録(甲59の2)の内容を見ると,冒頭に「2002年3月22日 議題 タックス・リストラクチャリングの検討」との記載があり,その下に2行にわたり,「構築から自己株式取得及び将来の金銭配当までの取引の流れ」「我々は,ストラクチャー(提案されている全ての変更点を含めて)の検討を行った。」という,同日の会議の内容に係る総括的な記載がある。そして,上記記載に続いて,「評価」,「負債資本」,「財務部門に関する問題」,「自己株式取得の影響」,「源泉徴収税の影響」,「法的文書の影響」,「課税年度に関する問題」,「その他の税務問題」,「連結納税の可能性」及び「コミュニケーションに関する問題」の各標題とともに,各標題に関する議論の要旨が記載されており,これらの標題からも,同日に税務上の諸問題が横断的に検討されていることが明らかである。
このように,3月22日議事録(甲59の2)の具体的記載をみれば,冒頭の「タックス・リストラクチャリングの検討」との議題は,その下の「評価」以下の標題と並列的に掲げられたものであるというよりは,むしろ,各検討項目全体に係る総括的議題として記載されたものであり,被告が指摘した「c社が高く評価されることは,本プロジェクトの有効期間を実質的に長期のものとすることにつながる」との記載も,「タックス・リストラクチャリングの検討」の一環として記載されたものとみるのが自然である。さらに,3月22日議事録(甲59の2)には,「自己株式取得の影響」の標題の下,「配当としての取扱い及び損失の認識を含む」との記載があることからすれば(甲59の2・訳文3枚目),a社において,c社の自己株式の取得により原告に生じる損失,すなわち,有価証券の譲渡損が発生することが議題の一つとして検討されていたことは明らかというべきである。
g 原告は,平成14年4月22日,b社との間で本件株式購入をした際,k社株式評価書(乙30)に基づき,c社の株式の評価額(総額は1兆9500億円)を決定したところ,その際,a社においては,同社の株式の1株当たりの取得価額が高くなり総額が大きくなればなるほど,原告に生じる有価証券の譲渡損の利用価値(租税回避効果)が高まることが認識されており,現実にも1株当たりの取得価額は,b社とc社との間で直接売買されていた時(15万3765円ないし19万9814円。乙33の2の3枚目参照)と比べ6倍以上の金額(127万1625円)に設定された。
h 原告は,平成14年12月20日,平成15年12月22日及び平成17年12月28日,c社に対し,本件各譲渡をしたところ,我が国の税制上は,原告とc社との間の売買として取り扱われる一方,米国連邦税法上は,原告の存在が無視されてb社とc社との間で行われたものと取り扱われることになった。また,本件各譲渡の都度,巨額のみなし配当の額(総額は3995億8763万9370円)及びこれと同額の有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が発生した。
(イ) 原告の主張するところによっても,a社が税負担の軽減を目的として意図的に有価証券の譲渡損を生じさせるような事業目的のない行為である本件一連の行為をしたとの推認を覆すに足りないこと
a 原告は,日本再編プロジェクトが実施される過程におけるa社等の関係者の発言及び行動は原告に生じる税務上損金となる支払利子や譲渡損失について,a社が全く関心を持っていなかったことを一貫して示している旨主張する。
しかしながら,我が国の税制改正の経過は前提事実2(4)に述べたとおりであるところ,これを踏まえれば,我が国における連結納税制度に係る改正がa社の中の一部の役員の「関心事」であったか否かにかかわらず,a社においては,a社(A10)がc社(A13)に対し我が国において有限会社を購入するよう具体的な指示を出す以前に,原告を設置することにより有価証券の譲渡損を作出できるとの見通しがあり,連結納税制度が導入されることにより,みなし連結欠損金額の利用が可能となるとの見込みも客観的にあったことは明らかであるから,前記(ア)に述べたとおり,本件において原告に多額の有価証券の譲渡損が発生したことは,通常の事業活動に随伴して生じた結果ではなく,a社及び○○グループとして租税負担の軽減を図るという意図をもって行われた一連の不当な租税回避行為の結果であると評価できるものである。
b 原告は,a社が税務上有価証券の譲渡損が生ずることに関心を有していたとすれば,3月22日議事録(甲59の2)や3月22日付け資料(甲60の2)に当該譲渡損の取扱いに関する情報が記載されているはずであるのにそのような記載がないことが,a社がc社等の所得金額から原告の連結欠損金額を控除させることを想定していたとの被告の主張と両立しない旨主張する。
しかしながら,a社においては,c社による自己株式取得によって生ずる税務上の問題について詳細な検討がされていたこと(前記(ア)aないしc,e及びf参照)からすれば,原告が指摘する資料(甲59の2,60の2)に有価証券の譲渡損の取扱いに関する記載がないからといって,c社による自己株式取得により有価証券の譲渡損が発生することに関心がなかったとはいえない。
c 原告は,「日本再編プロジェクト」計画の承認・実施の過程では,a社自身,中間配当又は自己株式取得のうち,いずれの方法で利益還元するかについて決定していなかった(甲40及び62の2)ところ,このことは,a社において,c社が原告から自己株式を取得することによって原告に有価証券の譲渡損を生じさせることを一切想定していなかったことを裏付けるものである旨主張する。
しかしながら,前記(ア)bで述べたとおり,主要行程書(甲56の2)によれば,原告の設置が「自己株式取得」を前提とした「配当支払計画」を前提とされ,また,原告が挙げるa社とc社との間で交わされたメール文書(甲62の1ないし3)の内容も,利益還元の方法として「自己株式取得」を含めるべきか否かを議論するものではなく,「自己株式取得」の手段の活用を前提とした上で「配当」の時期(甲62の1・2)や配当可能利益の100%を自己株式取得により行った場合のc社における企業慣行の観点からの懸念(甲62の2)など,配当とともに自己株式取得を利益還元の方法として利用することを前提とした実務的な議論を行うものであるから,こうした議論が行われた事実が,有価証券の譲渡損の発生を一切想定していなかったことを意味するものでないことは明白である。
ウ 原告が設置された当初から連結納税制度を利用して本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することが想定されていたことが合理的に推認されること
(ア) 税制改正の客観的経過から連結納税制度の利用が想定されていたことが合理的に推認されること
我が国における連結納税制度の導入に関する経緯については,前提事実2(4)ウのとおりであるところ,それによれば,原告が主張するa社が日本再編プロジェクトを承認したとされる時点(遅くとも2001年(平成13年)11月)よりも前に,我が国に連結納税制度が導入されることはほぼ確実視され(原告は,同月当時においても連結納税制度の導入に係る議論は流動的であった(甲137参照)旨指摘するが,原告が指摘する新聞記事(甲137)は,連結納税制度の導入自体を見送る動きを報じたものではない上,上記記事に係る財務大臣による発言は数日後に修正され(乙87),平成14年度税制改正大綱(乙5)において,連結納税制度が導入されることが明記されたから,原告の指摘は失当である。),「連結納税制度の基本的考え方」(甲104)において,平成14年度税制改正大綱で示された制度の骨格(連結納税の対象に加わる前に子会社が抱えた欠損金額については,グループの課税所得から差し引けないが,親会社の欠損金額については,連結欠損金額として繰越控除が可能となることを含む。)も明らかになっていたから,a社において原告の設置についての意思決定がされた時期が2001年(平成13年)11月であったとしても,原告が設置された当初から将来連結納税制度を利用することが想定されていたことが十分合理的に認められる。
(イ) 本件株式購入及び本件各譲渡の前に連結納税制度の利用について検討していたこと
3月22日議事録(甲59の2)において,a社が日本における連結納税制度の利用を検討した旨の記載がある(甲59の2・訳文6枚目)ことは,a社において,連結納税制度の利用を想定していたことを示すものであったといえる。
(ウ) 平成14年度税制改正大綱(乙5)によって明らかにされていた連結納税制度の内容につき,連結納税制度の導入から原告が本件連結納税承認申請をするまでの間に,連結納税制度の利用を決断させるような事情の変化等がなかったこと
a 平成16年度税制改正において,欠損金の繰越控除の期間は5年から7年に延長されている(前提事実2(4)エ。平成18年法律第10号による改正前の法人税法81条の9第2項(別紙3の8(2))参照)ところ,原告は,平成17年までに本件各譲渡を終えた後,1回目の譲渡である平成14年譲渡によって発生した繰越欠損金について,その控除期限が到来する前の平成19年6月20日に本件連結納税承認申請を行い(甲25),現に,平成20年12月連結期において本件各譲渡により生じた繰越欠損金とc社の所得とを相殺している(c社は,少なくとも平成14年度から平成17年度にかけて,約800億円から約1030億円の当期純利益を安定して計上し(別紙9),多額の課税所得が生じていた。)。前記(ア)に述べたとおり,平成14年度税制改正で導入された連結納税制度の内容については,本件一連の行為に先立つ平成14年度税制改正大綱(乙5。平成13年12月19日公表)によって既に明らかとなっており,その後,原告が本件連結納税承認申請(甲25)をするに至るまで連結納税制度を利用することなど全く想定していなかった原告に,その判断を180度変えさせ,連結納税制度の利用を決断させる原因となるような事情の変化等は何もなかった。
したがって,原告が将来的に連結納税制度を利用して本件各譲渡により生じる有価証券譲渡損を連結課税所得から控除することは,本件一連の行為の当初から想定されていたものと考えるのが自然である。
b 原告は,本件連結納税承認申請をした原因となった事情の変化として,連結付加税の廃止や子会社(c社)の時価評価が不要になったことを挙げる(乙61添付原告の平成22年8月3日付け反論書8頁参照)。
しかしながら,連結付加税については,連結納税制度の導入当初から租税特別措置法による時限立法として規定されていたもの(平成16年法律第14号による改正前の租税特別措置法68条の8)であり,その加重税率も2パーセントと比較的低いものであったし,連結納税制度導入時において,親会社が子会社の株式の全部を5年を超えて保有している場合に,その子会社による資産の時価評価益又は評価損の計上が不要とされる取扱い(法人税法61条の11第1項)は,連結納税制度導入当時から本件連結納税承認申請(甲25)をした平成19年まで何ら変わっていない(ただし,本件連結納税承認申請については,平成22年法律第6号による改正前の法人税法61条の11第1項が適用される。)。そして,原告は,日本における○○グループを成す会社の株式を保有する目的で設置された持株会社であって,本件株式購入の当初から子会社となったc社の株式を(その一部について同社の自己株式取得に応じるのを除いて)将来にわたって保有することも予定されており,平成14年に原告が本件株式購入をする結果,その後5年を超えた時点において,原告を親法人とする連結納税制度を導入した場合には,子会社であるc社において資産の時価評価益等の計上が不要となることは,平成14年当時から当然想定されていたことである。
したがって,連結付加税や資産の時価評価の点について,平成14年以降に新たに生じた事情は何もなく,本件連結納税承認申請(甲25)をした原因となった事情の変化に係る原告の指摘は,失当である。
(エ) a社が日本における連結納税制度の利用を想定していなかったことを示す事実として原告が指摘するところは,いずれも原告が設置された当初から連結納税制度を利用して本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することが想定されていたとの推認を覆すに足りないものであること
a 原告が,日本再編プロジェクトが○○グループの世界的な組織再編の一環として行われたものであって日本の税制改正と無関係であるとする点について
原告は,日本再編プロジェクトは,○○グループの全世界的な組織再編(国又は地域ごとの子会社群を持株会社の下に統合する再編)の一環として行われ,その検討を平成13年11月よりも前から行っていたのであって,日本の税制改正と無関係に開始されたものである旨主張する。
しかしながら,①a社が日本での持株会社組織の設置を計画していた背景として,平成13年3月に,日本の商法改正に係る説明がされたことを受け,自己株式取得に係る税務上の取扱いが検討されたこと(□□意見書・乙19),②同年10月に原告の設置に係る検討事項等が記載された書面(2001年10月原案ペーパー。甲54)が作成されたところ,その際,a社において,設置する日本法人の組織形態をどのようなものにすれば最も税務上のメリットを享受し得るかが検討されていること(甲50の別紙1及び甲53)がそれぞれ認められるのであり,上記事実を踏まえれば,仮に,日本再編プロジェクトが○○グループの全世界的な組織再編の一環として行われたとの原告の主張を前提としたとしても,原告の設置は,我が国の税制改正と無関係にその検討が開始されたというよりは,c社からの利益還元をc社からb社に直接行わせるよりも,原告を介在させて自己株式の取得という「手段」を用いて利益還元させることに「関心」を持ち,税制改正を検討した結果に基づいて行われたものと認められるというべきである。また,原告の指摘する全世界的な組織再編が統一された方針の下,計画的に整然と持株会社が設置された状況にあるとは,客観的には認められない(乙85参照)から,○○グループが他国において我が国における再編と同様の再編を行っていることをもって,原告の設置と我が国の税制改正とが無関係となるものともいえないというべきである。
b 3月22日議事録(甲59の2)の記載について
原告は,3月22日議事録(甲59の2)には,(将来)強制的に連結納税制度を適用させられないために,原告によるc社株式の保有比率を100パーセント未満に下げることが検討されていた事実が記載されているとして,a社が当時は日本における連結納税制度の利用を望んでいなかったことがうかがわれる旨主張する。
しかしながら,3月22日議事録(甲59の2)における原告が指摘する上記の記載は,a社において,将来,日本において連結納税制度の適用を受けない方が有利であるとの判断に達した場合には,同社の判断で適用を回避することも可能な状況にあることを確認したものとみることができ,当該記載がa社において日本での連結納税制度の適用を想定していた事実と矛盾するものではないから,a社が「日本再編プロジェクト」の実施時に連結納税制度の利用を望んでいなかったなどとはいえず,株式譲渡損失の発生を含む自己株式の取得に係る税務上の取扱いが変更されたことを十分に認識した上で,上記計画を策定したというべきである。
c 原告が指摘する本件一連の行為の当時にやり取りされた電子メール等について
(a) b社に対して利子を支払った際に生じる損金を控除することができないことをa社において確認していること
原告は,原告がb社に対して利子を支払った際に生じる損金について原告には課税所得が生じないことから控除することはできないことをa社において確認していることを裏付ける証拠(A11の陳述(甲51)並びに本件A16メール(甲24)及び本件A20メール(甲58))が存在する旨指摘するが,原告の示す各証拠(甲24,51,58)には,単に原告に課税所得が生じないから法人税額が発生しないことが確認されているにすぎず(甲24・訳文1枚目及び甲51・訳文3頁),課税所得から控除できなかったことにより生じた欠損金について,連結納税制度において将来利用しないことを確認しているものではないから,原告の指摘は失当である。
(b) 本件A16メール(甲24)の記載
原告は,平成14年9月にa社と原告からの委託により原告の経理処理を担当していたc社側の担当者との間でやり取りされたメール(本件A16メール・甲24)に「将来,YK(原告)に課税所得が発生する可能性は殆どないと理解しています」,「A26さん(当時のc社の経理部長)からは,我々としては,現段階で日本で連結納税申告を申請することに前向きではないと聞いています。」との記載があること(甲24・訳文2枚目)を指摘し,原告が連結納税の申告の申請をすることにより原告に生じた税務上の損失を使用することを全く想定していなかった旨主張する。
しかしながら,本件A16メール(甲24)の上記の記載は,その段階では連結納税申告を申請することに前向きでなかったことを示すにとどまり,将来的に,原告やc社が連結納税制度を利用することを全く想定していなかった事実を示すものとは到底いえず,むしろ,本件A16メール(甲24)の「現段階で(原文は「at the moment」)…前向きではない…」という記載からは,将来は連結納税申告を申請し,繰越欠損金を利用することを想定しつつも,現段階で直ちに連結納税申告の承認の申請をすることには消極的であったとも読み取ることが可能である。
(c) 原告に係る繰延税金資産を計上しない旨が確認されていること
原告は,本件A16メール(甲24)及びc社の経理担当者らの陳述書(甲43,44)によれば,原告に係る繰延税金資産を計上しないことが確認されており,これが本件一連の行為の当時a社において連結納税制度の適用を考えていなかったことの証拠である旨指摘するが,連結納税制度の導入を検討し始めたとされる平成17年以降(甲47・6頁参照)においても,繰延税金資産の計上に係る検討や報告をしたことは認められず,また,原告の本件各更正処分事業年度の原告の財務諸表のいずれにおいても,繰延税金資産は計上されていないことに照らすと,原告においては,会計上繰延税金資産が計上されていなかったことが,直ちに,連結納税制度の利用の意思がなかったことを客観的に示す証拠にはならないというべきである。
d 平成14年譲渡をしたこと自体について
原告は,平成14年譲渡当時の欠損金の繰越可能期間は5年であり(法人税法81条の9第2項),原告が連結納税を適用して平成14年譲渡に係る有価証券の譲渡損を利用しようとしても,同時に連結子法人となるc社の完全支配関係の成立後5年未満であるために同社の資産を時価評価して多額の評価益を計上しなければならず(平成14年当時は平成18年法律第10号による改正前の法人税法61条の11第1項),そのような経済的合理性に欠ける選択をすることはおよそ不自然であり,それを利用することは不可能であるとして,大規模な平成14年譲渡をしたこと自体から,原告が連結納税を適用して有価証券の譲渡損を利用することを想定していたとはいえない旨主張する。
しかしながら,原告において多額の有価証券の譲渡損が計上されることが明らかであったにもかかわらず,a社においてこれを利用した税負担軽減を図る意思がなかったなどということは到底信じ難い上,仮に,本件各譲渡が行われた各事業年度において,将来の原告単体の所得金額から有価証券の譲渡損により生じた巨額の欠損金額を控除することができる見込みがなかったとしても,原告がc社等の資産の時価評価をした上で平成14年譲渡により生じた欠損金の繰越可能期間内に連結納税の適用を開始するなり,c社を適格合併するなりして,当該欠損金額を現実に使用し得る蓋然性は存在していたから,上記の原告の主張には,論理の飛躍がある。
e c社において平成14年譲渡に係る1株当たりの取得価額や源泉所得税の額の計算を間違えていた事実
原告は,c社において平成14年譲渡に係る1株当たりの取得価額や源泉所得税の額の計算を間違えていた事実(甲66の1・2,乙34)が,原告に自己株式取得による譲渡損にいささかの関心も払う意思がなかったことを示すとともに,a社に連結納税制度を利用して有価証券の譲渡損を将来連結繰越欠損金として控除する意思がなかったことを裏付ける旨主張するが,1株当たりの取得価額や源泉所得税の額の計算に誤りがあることと,連結納税制度の利用の意思がなかったことは次元の違う問題であり,一部の事務処理担当者が事務処理を誤ったことのみをもって,それが直ちに,原告に自己株式取得による譲渡損にいささかの関心も払う意思がなかったということはできない。
f a社が本件各譲渡後に原告に生じた有価証券の譲渡損を米国の連結財務諸表上の繰延税金資産として計上していないこと
原告は,a社が本件各譲渡後に原告に生じた有価証券の譲渡損を米国の連結財務諸表上の繰延税金資産として計上していない事実(甲27)を指摘するが,a社がその米国における連邦財務諸表上,原告に生じた有価証券の譲渡損を繰延税金資産として計上しなかったとしても,その事実が,直ちに,原告らが我が国で連結納税制度を将来的にも利用することを全く想定していなかったことを意味するものではない。
g 本件連結納税承認申請が専らA9がa社に働きかけた結果であること
原告は,原告が平成20年12月連結期以降に連結納税制度を適用したことは,専らA9が連結納税制度の利用に向けてa社に働きかけた結果である旨指摘するが,前記(イ)に述べた事実(平成14年3月22日にa社が日本における連結納税制度の利用を検討していたこと)を前提とすれば,仮にA9による連結納税制度の利用に係る働きかけの事実があったとしても,それによって,a社による連結納税制度の利用の想定が否定されないというべきである。
h 平成16年度税制改正により初めて平成14年譲渡により原告に生じた有価証券の譲渡損を利用することが可能になったこと
原告は,平成14年12月期に発生した平成14年譲渡による有価証券の譲渡損について,平成20年12月連結期以降にc社等の連結子法人の連結所得金額から控除することができたのは,平成16年度税制改正の結果である旨指摘する。
しかしながら,結果的に見れば,平成16年度税制改正による制度を活用して連結所得金額から平成14年譲渡により生じた欠損金額を控除したことになったとしても,本件一連の行為を計画した時点において,欠損金を使用できる可能性が全く否定されるような状況でない限り,不合理,不自然な行為によって発生した欠損金の存在により,法人税法132条1項の適用上,不当な法人税の負担の減少がなされると評価されることはあり得るというべきところ,前記dに述べたとおり,原告は,c社について時価評価をすることを前提に連結納税制度を利用したり同社について適格合併を利用したりするなどの方法で,子会社の所得から事実上控除する形で上記の有価証券の譲渡損を活用することは十分想定できたから,原告の指摘する事実は,被告の主張を覆すに足りるものではない。
エ 本件が法人税法の適用のない米国法人が濫用的にその適用を受けて租税回避を企図したものと評価できること
b社と原告は,経済的実質的には一体の関係にあり,米国連邦税法上も本店と支店の関係にあるとされることから,b社が保有するc社の株式を同社に譲渡する場合,従前の形態による取引(b社とc社の直接の譲渡取引)と本件各譲渡における形態による取引(b社とc社の間に原告を中間取得者として介在させて行う譲渡取引)との間には,米国連邦税法上は,c社の自己株式の取得に係る収益がb社に帰属するものとされ,自己株式の取得取引における譲渡人側(b社)が受取配当として所得に加算されることについて何ら変わりがない(米国連邦税法317条(b),301条)が,我が国の法人税法上は,原告を介在させる形態による場合には,c社の自己株式の取得に係る対価が原告に帰属し,平成13年法律第6号による改正後の法人税法による税制(みなし配当の額の計算を定めた同法24条1項5号,株式譲渡損益額の計算を定めた同法61条の2第1項,受取配当等の額の益金不算入を定めた同法23条1項)を適用すれば,譲渡人側(原告)に譲渡損が算定され得ることになる。
従前はb社とc社との間で行っていた直接の同社の株式の譲渡取引に原告を介在させて本件各譲渡が行われたのは,a社が,上記の日米の税制上の違いに着目して,b社とc社との間の直接の同社の株式の譲渡取引に原告を形式的に介在させて,その法的性質を課税所得を有しない内国法人への配当(自己株式の取得によるみなし配当)と外国法人への借入金の返済という二つの法形式に分解し,原告に我が国における多額の税務上の有価証券の譲渡損を計上させ得る外形を作出することによって,同株式の譲渡取引の実態や米国内で税負担をほとんど変更させることなく,米国の税法が適用されるb社に直接帰属していたc社の自己株式の取得に係る対価を我が国の法人税法が適用される原告に帰属するように仕組み,その対価に関して我が国の法人税法の適用を得て多額の有価証券の譲渡損を発生させようとしたものと評価することができる。
以上のとおり,本件株式購入及び本件各譲渡は,米国法人であるb社(ひいてはその連結親法人であるa社)が,我が国の法人税法が適用されることにより生ずる税負担の軽減効果を日本国内における子会社(原告)を通じて実質的に享受できるようにするため,実態としては米国法人にc社の株式の譲渡取引による損益が帰属するにもかかわらず,これを形式的に日本法人に帰属させる形にするためにあえて原告を介在させて行われたものというべきであり,本件株式購入及び本件各譲渡以前にb社とc社との間で行われていた直接の同社の株式の譲渡取引を変更すべきものとする正当な事業上の目的がないことを併せ考慮すると,本件のc社の自己株式の取得における原告の関与及びこれに係る法人税申告は,我が国の法人税法が定める自己株式の取得に関する課税計算の制度(同法24条1項5号,23条1項及び61条の2第1項)を濫用して租税回避を企図したものというべきであり,税負担の公平を著しく害するものである。
第2 前記第1において法人税の負担の減少が法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができる場合に,処分行政庁による本件各譲渡事業年度の課税標準等に係る引き直し計算が適法であるか否か(争点2)について
1 法人税法132条1項を適用した効果について
(1) 法人税法132条1項を適用した原則的な効果
「否認」とは,同項の適用要件(その法人の行為又は計算で,それを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの)を満たした行為又は計算(否認の対象行為)が存在する場合に,税務署長が当該行為又は計算を否認することであり,その実質は,税務署長において,その認めるところにより,その法人に係る法人税の課税標準等の計算を行うに当たり,法人税の負担を不当に減少させる結果を排除するために必要な限り(税務署長の自由裁量により課税標準等を計算して更正をすることが許されるわけではない。)において,私法上有効に行われた行為又は計算をなかったものとみなすことができることを意味するものである。すなわち,同項の適用要件を満たす場合,税務署長は,現実に行われた法人の行為又は計算(本件では本件各譲渡)が行われておらず,正常な行為又は計算が行われたものとみなした上で(否認に伴ういわゆる「引き直し」),そのみなし行為又は計算(引き直した行為又は計算)を前提に法令を適用して法人税の課税標準等の計算をし,更正又は決定を行うことになる。
(2) 通常用いられる行為形式に引き直して課税標準等を計算することが著しく困難又は不可能な場合について
ア 法人税法132条1項の典型的な適用場面の一つとして,私的経済取引の合理性という見地からは合理的な理由がないにもかかわらず,通常用いられない行為形式を選択することによって,結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら,通常用いられる行為形式に対応する課税要件の充足を免れ,もって税負担を減少させ,あるいは排除するような行為が行われたような場合があるところ,この場合は,法人の行為を「通常用いられる行為又は計算」に引き直した上で法令を適用し,法人税の課税標準等を計算すれば,不当な税負担の減少結果を最も合理的に排除することができるものと考えられる。
しかしながら,近年における経済取引の複雑化に伴い,一連の取引を組み合わせた複雑な租税回避行為が行われたような場合には,税負担の減少の有無を検証する際に,通常あるべき行為又は計算として,比較の対象とすべき一連の取引を観念し得るものであっても,同項の法律効果として,常に,通常あるべき行為又は計算に全面的に引き直した上で課税標準等を計算しなければならないということになれば,現実の行為形式とのかい離があまりにも大きくなるなどして,極度に複雑な計算を要したり,合理的な課税標準等の計算ができなくなったりするような場合も想定されるところ,このような場合に通常あるべき行為又は計算に引き直して課税標準等の計算ができないからといって,不当な税負担の減少の結果を放置せざるを得ないとすれば,同項を設けた趣旨が著しく損なわれる。
この点,同項は「税務署長の認めるところにより」とのみ規定しており,通常用いられる行為形式に全面的に引き直して課税標準等の計算をしなければならないとは明記していないから,そのようなことが著しく困難又は不可能である場合には,他の合理的な方法によって課税標準等の計算を行うことにより,法人税の税負担を不当に減少させる結果を排除することも許容されるというべきであり,これと同旨を判示した裁判例(ケン事件判決(乙67,68)。なお,原告は,裁判例(ケン事件第一審判決(乙67))が,純経済人として合理的な取引に引き直すことができる限りにおいて,最小限の否認にとどめるべきものである旨判示した上で,取引そのものの否認は認める一方,引き直し計算については価格否認に準じた計算を行っている旨指摘し,被告が同裁判例の理解を誤っている旨主張するが,原告が指摘する上記裁判例(乙67)の判示に係る部分(乙67・100頁参照)は,上記の裁判例の控訴審判決(ケン事件控訴審判決(乙68))において判断が変更されている(乙68・22頁参照)上,原告が指摘する上記の裁判例(乙67)の判示部分は,本件で処分行政庁が行った原告に不利益を与えないための便宜的な引き直し計算(①本件株式購入を否認対象とせず,本件各譲渡のみを否認対象としたこと,②貸借面(B/S)は私法上のそれと一致させる取扱いをした上で,③(あ)株式譲渡代金の受領は益金に算入されない受取配当として引き直し,また,(い)将来の譲渡益の発生を減少させるため,本件各譲渡に係る株式の取得価額相当額を「子会社株式・出資金」として計上したこと)を否定する内容ではないから,原告の主張は失当である。)もある。
以上のとおり,税負担の不当な減少となる結果を排除する方法としては,通常用いられる行為形式に全面的に引き直して課税標準等を計算することが最も直接的な方法ではあるが,仮に,それが著しく困難ないし不可能である場合や,現実の行為形式とのかい離があまりにも大きくなって支障が生じる場合には,不当な税負担の減少という結果を排除し,租税負担の公平性を図る上で合理的と認められるような行為又は計算に引き直して課税標準等を計算することも,同項の「税務署長の認めるところ」による計算として許容されているというべきである。
イ 法人税法11条との抵触をいう原告の主張について
原告は,飽くまでも法的実質主義により帰属を決定して課税を行うというのが,法人税法11条の解釈として定着しており,課税標準等の計算規定にすぎない同法132条の適用について損益の帰属を問題とすることができない旨主張する。
しかしながら,私法上の観点からは,本件各譲渡に係る収益が原告に帰属すると認められる場合であっても,原告の形成した私法上の法律関係が法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には,同項を適用することができることは当然というべきである。
2 本件へのあてはめについて
(1) 全面的な引き直し計算を行う場合に生じ得る問題点
本件の場合において,通常あるべき行為に引き直すとすれば,b社が保有するc社の株式を直接同社に譲渡したものと引き直すことになる。すなわち,本件の特徴は,b社とc社との間に,事業上存在する意味のない原告を形式的に設立した上で,取引に関与させ,巨額の有価証券の譲渡損を計上させているところにあり,それが独立した企業間の取引として経済的に不自然,不合理であるといえるから,本件の場合について全体として通常あるべき行為に引き直すとすれば,そもそも原告の存在自体を否定するとともに,原告がb社からc社の株式を譲り受けたという事実(本件株式購入)と原告がc社に同社の株式を譲渡したという事実(本件各譲渡)を否認すべきであるとも考え得る。しかしながら,原告は,c社の発行済株式の全部を保有し,そのことを前提として現在まで法人税の納税義務を負い,c社等の連結子会社とともに連結納税を行っているにもかかわらず,その存在を無にするような引き直し計算をすることは,実際に行われた行為形式とのかい離があまりにも大きく,本件各譲渡に係る事業年度以降において,私法上有効に存在する行為形式を前提としてされる原告の納税義務の適正な履行について支障が生じるおそれがある。
以上のことに鑑みれば,本件では,法人税法132条1項の適用において,本件各譲渡のみならず本件株式購入までもなかったものとして,全面的に通常あるべき行為に引き直すことが困難な事情が存するというべきである。
また,原告の課税標準等の計算において,本件各譲渡がなかったものと引き直して計算する場合には,これに連動して,原告がc社に譲渡した同社の株式を失い,その対価として譲渡代金を受領したという貸借面(B/S)の事実も税務上無視され,それを前提に原告の資産,負債及び純資産に係る各項目の金額も引き直すことになる。
しかしながら,税務上,原告の行為を否認したことに連動して貸借面(B/S)をも全面的に引き直し,これにより理論上計算される原告の資産,負債及び純資産に係る各項目の金額(引き直し後のB/S)と,私法上有効な行為によって変動した結果のそれらの金額(引き直し前のB/S)が全面的に食い違う状態にすることは,翌事業年度以降の原告の課税標準等の適正な計算を確保する見地からは必ずしも望ましくない場合もある。
(2) 処分行政庁による引直し計算は合理的なものであること
処分行政庁は,法人税法132条1項を適用し,原告がc社に対して同社の株式を譲渡したという事実(本件各譲渡)のみを税務上はなかったものとし,その結果として,①本件各譲渡による有価証券の譲渡損も生じなかったものとした(甲1・3枚目「更正の理由」欄の「①子会社株式譲渡損過大額198,197,829,185円」参照)。
他方で,②貸借面(B/S)では,本件各譲渡に係る譲渡代金相当額を「子会社株式・出資金」として原告の資産勘定に計上した(甲1・2枚目の「子会社株式・出資金 212,993,504,925」参照)。この②の処理によって,上記譲渡代金相当額は,原告が保有するc社の株式の簿価の一部となり,将来,原告が保有するc社の株式を第三者に譲渡した際,その譲渡原価に算入され,原告の有価証券の譲渡益を減少させることになる。
その一方で,処分行政庁は,その他の貸借面については,私法上の原告の資産,負債及び純資産に係る各項目の金額と一致させる取扱いをすることとし,原告が本件各譲渡によってc社から受領した譲渡代金については,税務上も受領したものとして扱うこととした。もっとも,c社がb社から直接自己株式を取得するという通常あるべき行為又は計算が行われた場合,c社による自己株式の取得代金が原告の課税所得を構成することはない。そこで,処分行政庁は,原告が受領した譲渡代金について,その税務上の取扱いを通常あるべき行為又は計算と一致させるため,便宜上,これと課税関係が同様となる他の取引(すなわち,原告の益金に算入されない受取配当)の形式で,原告がc社から受領したものとして計算を行った(甲1・3枚目「更正の理由」欄の「②受取配当金の計上もれ 14,795,675,740円及び③受取配当等の益金不算入額の増加額 14,795,675,740円」参照)。
以上のような処分行政庁による引き直し計算は,c社がb社との間で自己株式の取得取引を行うに当たり,原告が形式的に介在したことによって生じた不当な税負担の減少という結果を合理的に排除しつつ,原告が実際に行った私法上の取引の結果生じた法的効果や経済状態と同一の状態が生じるような他の行為形式に引き直すことにより原告の課税標準等を計算したものであって,租税負担の公平性を図る上で合理的な方法である。また,上記の原告の行為を引き直した上での課税標準の計算方法は,本件各譲渡により生じた有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を損金の額に算入しない計算結果と一致するから,この点からも,処分行政庁による原告の課税標準等の計算は,合理的であって適法というべきである。
3 原告の主張に対する反論
(1) 処分行政庁がした置き換え計算に係る主張について
原告は,処分行政庁が本件各譲渡の対価を受取配当として課税所得を計算した点を捉え,本件各譲渡の時点では通常配当に旧商法上の制約(同法234条1項,281条1項4号,283条1項参照)があった以上,上記のような置き換え計算をすることはできない旨主張するが,処分行政庁は,不当な税負担の減少という結果を合理的に排除しつつ,課税関係が私法上の取引の結果生じた法律効果や経済状態の場合と同様となる他の取引に便宜上置き換えたものであるから,原告の主張は前提を欠くものである上,引き直し計算の一部を分断的に取り上げて論難するものであって失当である。
(2) 有価証券の譲渡損が発生していないものとして処分行政庁がした引き直し計算に係る主張について
ア 原告は,同法61条の2は,譲渡損益の計算も税法の適用の効果としており,同法132条による税務署長の裁量で譲渡損益の計算自体を否認することはできない旨主張するが,処分行政庁は,譲渡損益の計算のみを否認したものではなく,本件各譲渡が行われなかったものと引き直して原告の課税標準等を計算しており,被告は,これが合理的なものであって適法であると主張しているから,原告の主張はその前提を欠くものである。
イ 原告は,処分行政庁が,法人税法132条1項を適用した効果として本件各譲渡をなかったものとしているため,同法24条1項5号が適用されない一方で,原告の行為ではないc社による自己株式の取得及びその消却を否認することができないから,c社の株式の所有者である原告に株式の消却に係る同項4号が適用されることによる譲渡損益が生じることになるとして,仮に,同法132条1項により本件各譲渡が否認されたとしても,結局,否認後の取引に同法を適用すると有価証券の譲渡損が計算されることに変わりはないから,有価証券の譲渡損が発生していないものとした引き直し計算に基づく処分は違法である旨主張する。
しかしながら,処分行政庁は,同法132条1項によりc社の行為(原告から自己株式を取得した後,同株式を任意消却したこと)を否認していないから,c社による自己株式の取得という同法24条1項5号に該当する事由(自己株式の取得)があったことまでは否定されず,処分行政庁が引き直した事実(本件各譲渡はなかったとするもの)を前提としても,c社において取得した同社の株式について株式の消却が行われたことになり,同項4号に規定する株式の消却(取得した株式について行われる株式の消却以外の株式の消却)が行われたこと(原告が例として挙げる有償減資を含む。)にはならない。また,同項各号は,株式の発行法人の行為を列挙したものであるが,同項の規定の適用の有無は,株主である法人の行為として,同項各号の事実を原因として金銭の交付を受けたか否かによって決定される条文構造になっているところ,上記のとおり,同法132条1項を適用して本件各譲渡を否認した法律効果としてc社が自己株式の取得をしたという事実(同法24条1項5号に該当する事実)は否定されないものの,株主である原告が当該事由(c社による自己株式の取得)によって金銭の交付を受けたという事実が否定されるため,原告による本件各譲渡の対価の受領の点には同項4号の規定が適用されず,処分行政庁は,原告による本件各譲渡の対価相当額の現金の受領を,単に株主の地位に基づいてc社から金銭の交付を受けたものと引き直したものである。
したがって,本件において同法132条1項を適用し,税務上,本件各譲渡を否認しても,本件各譲渡の対価の受領には同法24条1項4号が適用されない以上,同法61条の2第1項の規定により有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が計算される結果にはならない。
(3) 税務仕訳が一致しているのか判然としない旨の主張について
原告は,本件各譲渡事業年度更正処分に係る更正通知書(甲1,2及び4)において,本件各譲渡に係る株式の取得価額相当額が「子会社株式・出資金」として記載され(甲1,2及び4・各2枚目),平成20年12月連結期第2更正処分に係る更正通知書(甲7の1)と併せて通知されたお知らせ(甲7の2)においても,同様に「子会社株式・出資金 429,911,741,760」として計上されているのに対し(甲7の2の別紙2・7枚のうち1枚目),平成20年12月連結期第3更正処分に係る更正通知書(甲9の1)と併せて通知されたお知らせ(甲9の2)においては,これが「利益積立金」の合計額として計上して表示されている(甲9の2の別紙2・4枚のうち1枚目において,上記金額が「申告額合計 715,597,772,880」に含められて表示されている。)から,処分行政庁の税務仕訳と被告の主張が一致しているのか否か判然としない旨主張する。
しかしながら,平成20年12月連結期第2更正処分の際に通知されたお知らせ(甲7の2)において,連結利益積立金額の計算上「子会社株式・出資金」として表示されていた金額は,平成20年12月連結期確定申告書において,連結個別利益積立金額(法人税法2条18号の3,平成20年政令第156号による改正前の法人税法施行令9条の3)の計算上,加算漏れとなっていた個別所得金額(同令9条の2第1項1号イ参照)として記載された本件各譲渡に係る株式の取得価額相当額であり,「区分」欄の「子会社株式・出資金」の表記は,当該加算額に対応する貸借科目として記載されたものである。そして,当該金額が,平成20年12月連結期第3更正処分に係るお知らせ(甲9の2)の「別紙2 翌期現在連結個別利益積立金額等」(4枚目のうち1枚目)において,「申告額合計」欄に含めて表示されたのは,連結確定申告における金額がその直前にされた更正(すなわち平成20年12月連結期第2更正処分。甲7の1)により加減算された後の金額(上記別紙2の「小計」欄参照)を「申告額合計」として記載したものにすぎない。
平成20年12月連結期第3更正処分に係るお知らせ(甲9の2)等の記載が以上のことを意味することは,その記載自体から明らかであり,被告の主張と平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)の内容が一致するから,原告の主張は理由がない。
第3 本件更正理由(甲1,2及び4)に理由の附記の不備による違法があるか否か(争点3)について
1 本件更正理由に理由の附記の不備がないこと
(1) 法人税法130条2項の趣旨
法人税法130条2項の定めは,別紙3の9に記載したとおりである。同項の規定は,同法が,いわゆる青色申告制度を採用し,青色申告に係る所得の計算については,それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上,その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑みて,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨である。
そして,帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合には,その更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから,更正通知書記載の更正の理由がそのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示するものでないとしても,更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り,法の要求する更正理由の附記として欠けるところはないといえる(最高裁昭和60年判決参照)。
そうすると,更正が帳簿書類の記載自体を否認するものではない場合には,なぜそのような判断に至ったのかという処分行政庁の判断過程が省略することなく記載されていれば,処分行政庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由の附記の制度の趣旨目的は充足されるものといえる。
なお,原告が指摘する裁判例(東京地裁平成5年3月26日判決・行政事件裁判例集44巻3号274頁)は,行為又は計算の否認のように,帳簿の記載を否認することなく,その法的評価を納税者と異にして更正する場合には,更正の附記理由において,処分行政庁の恣意抑制及び相手方の不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨に適う程度に具体的に説明すれば足り,当該更正をした根拠資料の明示は不要であることを明らかにしており,本件のようないわゆる評価否認を行った更正処分の理由の附記については証拠を示して行うことを求めているものではないから,更正処分の理由の附記については,その判断過程の説明を具体的に,かつ,証拠を示して行うことが求められている旨の原告の主張は,同裁判例の判旨を正解しないものである。
(2) 本件更正理由の内容
本件更正理由(甲1,2及び4)には,「次の1から3によれば,本件譲渡には法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が存在せず,本件株式の取得(本件株式購入)から本件譲渡にいたる貴社の一連の行為は独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは,異なっていると認められ,本件譲渡を容認した場合には貴社の法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められることから,法人税法132条1項の規定により,本件譲渡はなかったものとし,(中略)当事業年度の所得金額に加算しました。」と記載され,その1ないし3において,その理由が記載されている。
そして,処分行政庁は,本件更正理由を記載するに当たり,本文で本件各譲渡が否認の対象となることを明記するとともに,それを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となるとの法的評価を行った根拠として,まず,原告が主張する本件各譲渡の目的について,「貴社は,本件譲渡の目的について,・・・a社の資金需要に柔軟に対応するためにc社の自己株式の買取りによって貴社に支払われる資金をb社,ひいてはa社に供給することにある・・・と申し述べています」(平成14年12月期更正理由(甲1)・「1(1)」。なお,本件更正理由は内容が共通しているため,以下,その記載を引用する場合,代表して平成14年12月期更正理由の記載を取り上げる。)と整理した上で,次に,原告が介在して本件各譲渡を行う正当な理由ないし事業目的がないとの評価を行った根拠事実として,「貴社が本件株式(c社の発行済株式の全部)を取得する前は,c社はb社から自己株式を買い取り,その対価をb社に送金していました」(甲1・「1(2)イ」),「貴社は本件譲渡により受け取った資金を即日b社に送金していますが,貴社には専任の役員及び従業員が全くおらず,貴社の業務に必要な行為は,a社の指示に基づき,かつ,c社への業務委託により行われており,当該送金についてもc社への業務委託により同社が行っています」(甲1・「1(2)ロ」)といった具体的な事実を摘示し,処分行政庁が法的評価の基礎となる具体的な事実を証拠に基づいて認定していることを読み取ることができる。
(3) 本件更正理由に理由附記の不備はないこと
本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)は帳簿書類の記載自体を否認するものではないところ,本件更正理由には,前記(2)に述べたとおり,処分行政庁が本件株式購入から本件各譲渡に至る原告の一連の行為を容認した場合には原告の法人税の負担を不当に減少させると判断した過程が示されている。
すなわち,本件更正理由は,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)における処分行政庁の判断過程を省略することなしに記載したものといえるものであり,処分行政庁は,前記のような内容の理由を記載することによって,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)における自己の判断過程を逐一検証することができるのであるから,その判断の慎重,合理性を確保するという点について欠けるところはない。また,不服申立ての便宜の要請からみても,原告に対して必要な材料を提供するに足りるものといえるものであり,処分行政庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由の附記の制度の趣旨・目的を充足しているものである。
2 原告の主張に対する反論
(1) 本件更正理由の記載内容自体に関する原告の主張について
ア 原告は,本件更正理由の記載内容について,①処分行政庁の示した各事実を摘示しただけでは処分行政庁の判断過程を示したことにはならない,②処分行政庁の認定した各事実がその判断とどのように結びついているのか明らかでないなどと主張する。
しかしながら,平成14年12月期更正理由(甲1)には,「次の1から3によれば,本件譲渡には法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が存在せず,本件株式の取得(本件株式購入)から本件譲渡(平成14年譲渡)に至る貴社の一連の行為は独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なっているものと認められ」るものと評価したとの判断過程を示し,その結果,「本件譲渡(平成14年譲渡)を容認した場合には貴社の法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」との認定を行ったことを明らかにしている。そして,上記のような評価を行った根拠として,平成14年12月期更正理由の「1」から「3」において事実を具体的に示しているのである。
まず,平成14年12月期更正理由の「1」についてみれば,原告がb社からc社の株式を取得する前は,c社は直接b社から自己株式を買い取り,その対価をb社に送金していたところ(平成14年12月期更正理由(甲1)の「1(2)イ」),原告が平成14年譲渡に関与することになった後も,原告がc社から受け取った資金は即日b社に送金され,原告自身には,専任の役員,従業員などが全くおらず,自らの業務に必要な行為も,a社の指示に基づき,かつ,c社への業務委託により行われており,上記の送金についても同様であったこと(甲1・「1(2)ロ」)からすれば,原告がb社からc社の株式を譲り受け,平成14年譲渡に関与するようになってからも,c社の自己株式を買い取った対価を直ちにb社が受け取るという取引の実態は変わっていないと評価できたこと(甲1・「1(2)」),原告自身も,平成14年譲渡の目的が,c社の自己株式の買取りによって支払われる資金をa社に供給することにあって,原告がb社からc社の株式を取得する前にc社がb社から自己株式を買い取っていた目的と同様であったと申し述べていたこと(甲1・「1(1)」)も併せて検討した上で,処分行政庁が,平成14年譲渡に原告が介在する形で関与したことに正当な理由ないし事業目的が認められないとの結論に至ったことを容易に読み取ることができるというべきである。
また,平成14年12月期更正理由(甲1)の「2」についてみれば,本件株式購入から平成14年譲渡に至る一連の取引の結果として,原告の確定申告書のとおり税務上多額の損失が計算されていることが記載され,当該損失が発生することを原告が認識しつつ平成14年譲渡を実行したとの処分行政庁の判断が示されているところ,この原告の認識と平成14年12月期更正理由(甲1)の「1」で指摘した事実を踏まえ,処分行政庁において平成14年譲渡に原告が介在する形で関与したことには租税負担の軽減の目的しかないものと判断したことが容易に読み取れるというべきである。
さらに,平成14年12月期更正理由(甲1)の「3」についてみると,原告はb社からc社の株式を取得する代金をb社からの巨額の借入れによって調達しているところ,その借入契約は,長期の返済期限が定められているにもかかわらず,担保の設定もなく,分割による返済といった条件も付されていないものであるとして,平成14年譲渡の前提となった一連の取引の中に,「独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なる」契約が含まれていると評価した根拠事実を摘示していることが容易に分かるというべきである。
以上のとおり,平成14年12月期更正理由(甲1)には,処分行政庁が「本件譲渡を容認した場合には貴社の法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」との判断に至った過程が,順序立てて具体的に記載されているのであり,このことは,平成15年12月期更正処分及び平成17年12月期更正処分に係る各更正理由書(甲2及び4)に記載された更正の理由についても同様であるから,処分行政庁の判断過程やその判断を支える事実との関係は明らかである。
イ 原告は,本件更正理由に記載された「関与する」(平成14年12月期更正理由(甲1)「1」の冒頭部分参照)という記述の意味が不明確であるから,本件更正理由の「1」が意味するところは不明である旨主張する。
しかしながら,平成14年12月期更正理由(甲1)「1」によれば,c社がb社が保有する自己株式を取得するについて,従前はc社がb社から直接買い取って対価をb社に送金するという取引をしていたものを,その間に原告が介在し,原告を通じてc社へb社が保有する自己株式を譲渡し,その対価をb社へ送金するようになったことを捉えて,原告が「本件譲渡(平成14年譲渡)に関与する」との記載がされていることは明らかであるから,それが意味するところは,平成14年譲渡に原告が介在する形で関与したことを意味していることは容易に理解できるというべきである(このことは,平成15年12月期更正処分及び平成17年12月期更正処分に係る各更正理由書(甲2及び4)に記載された更正の理由についても同様である。)。
ウ 原告は,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)が通常行われる行為への置き換え計算をすることなく,原告による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額の損金への算入という計算を否認したものと理解した上で,被告の主張は,違法な理由の差替えであり,否認に伴う税務調整(仕訳)を示さず,その主張の全体像を明らかにしていない点において,原告の防御権を侵害し,違法若しくは主張自体失当である旨主張する。
しかしながら,処分行政庁は,法人税法132条1項を適用することにより,税務上,本件各譲渡はなかったものとして引き直し,原告の課税標準等を計算したものであるところ(甲1,2及び4・各3枚目参照),被告も,原告による本件各譲渡がなかったものと引き直すことを前提として,原告の課税標準,税額等を算定し,本件各更正処分等は適法であると主張するものであって,原告による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額の損金への算入という計算を否認して原告の課税標準等を計算することを主張するものではないから,原告の主張は失当である。
(2) 他の調査,処分等との関連に係る原告の主張について
ア 原告は,本件各譲渡事業年度更正処分は,原告に対して行った本件過去調査において把握されていた事実と同一の事実関係に基づいてされた処分であるところ,本件過去調査の時点においては,法人税法132条1項により原告の行為又は計算の否認を適用する処分やその他一切の処分がされていなかったから,本件過去調査時に把握されていた事実と同一の事実関係に基づいて異なる対応の更正処分をする場合には,そのような対応を行う合理的な理由や事情を記載し,その判断過程を具体的に示す必要があるというべきことを前提に,本件更正理由には,本件過去調査で把握された事実以外の事実は摘示されていない上,本件過去調査の時点における処理とは異なる対応をして処分を行うに至った合理的な理由や事情の変更があったことも何ら記載されておらず,納税者の立場からすれば,本件過去調査によって把握されていた事実と同一の事実関係に基づいて何ら理由を示されないまま異なる対応,処分がされたものであるから,納税者の予測可能性を阻害し,法的安定性を欠く旨主張する。
しかしながら,法人税法が更正処分に理由の附記を要求している理由は,手続的保障の見地から,処分行政庁の判断に慎重さや合理性を担保してその恣意を抑制する(処分適正化機能)とともに,処分の理由を示して,不服申立てに便宜を与える(争点明確化機能)ことにあると解されるところ(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁),処分適正化機能や争点明確化機能が求められる対象となる処分は理由が付された当該処分であって,当該処分より前に行われていた行政庁の評価や判断ではないから,仮に当該処分がそれ以前に処分行政庁が行っていた評価を変更するものであったとしても,当該処分よりも前の評価の理由やその評価を変更するに至った判断過程を処分理由に明示することは求められていないのであり,当該処分について理由の附記があり,その内容が不備とはいえない限りは,当該処分に対する処分適正化機能や争点明確化機能は十分機能しているというべきである。
以上によれば,本件更正理由には過去に処分行政庁が認識していた事実に係る評価やそれを変更するに至った判断過程等が具体的に明示されていないとしても,理由の附記が不備とされ違法となるものではない。
イ 原告は,国税庁長官が本件連結納税承認申請(甲25)を却下しなかったことは,原告における有価証券の譲渡損の存在が「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」とは認定し得ないとの判断を事実上示したものと認められる旨主張する。
しかしながら,本件連結納税承認申請(甲25)が却下されなかったのは,当時,処分行政庁において,原告が連結親法人となり連結納税制度を適用することによって法人税法が申請却下事由として定める「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められること」(法人税法4条の3第2項3号ニ)に該当するものと判断しなかっただけのことであって,同号ニに該当する事由があるか否かの判断と,同法132条1項に該当する事由があるか否かの判断とでは,それぞれの規定内容に照らして明らかなとおり,判断の対象が異なるものであり,本件連結納税承認申請(甲25)を却下する事由がないとした判断は,原告が連結親法人になる以前に生じた有価証券の譲渡損の発生について同項の不当性が認められないという判断と同一ないし重なる内容のものではない。
したがって,国税庁長官が本件連結納税承認申請(甲25)を却下しなかった(同法4条の3第3項のみなし承認による。)ことをもって,原告の本件各譲渡を容認した場合に「法人税の負担を不当に減少させる結果」(同法132条1項)になるとは認められないとの国税庁長官による判断が示されたものということができないことは,明らかである。
ウ 原告は,処分行政庁が,本件過去調査において一定の事実を把握していたにもかかわらず,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)においてみなし連結欠損金額として本件各譲渡事業年度の欠損金の損金算入を認めて法人税法132条1項に規定する同族会社の行為又は計算の否認を行わなかったことは,処分行政庁が把握していた事実では同項の要件を充足しないという見解を黙示的に一旦示して本件各譲渡事業年度の申告を是認する処分を行ったのと実質的に同じであるから,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)と平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)は実質的に同一の処分であるといえるのであり,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)は平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)の後に一連の行為に係る不当性についての事実を知ったことにより行われた処分ではなく,一連の行為についての評価を修正した再更正であると考えられる旨主張する。
しかしながら,一般に,税務署長が過去に行われた税務調査の際に,納税者による納税申告に係る会計処理等を是正しなかったとしても,そのことだけではその是正がなかった部分を課税の対象としない旨の課税庁の黙示の意向の表明があったと認めることはできない(乙80,81参照)。
本件においても,処分行政庁は,本件過去調査の際に本件各譲渡により多額の有価証券の譲渡損を計上したことに対して同項を適用して更正処分を行わなかっただけのことであり,処分行政庁の一定の責任ある立場の者が,その多額の有価証券の譲渡損の計上について,同項の適用対象とならないことを認める旨の正式な見解を示したような事情はない。また,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)は,原告において,当初,連結親法人事業年度開始の日前7年以内に開始した当該連結親法人(原告)の各事業年度において生じた法人税法57条1項の繰越欠損金の額が計上されていたことから,当該金額のうち,所定の額を損金の額に算入しないで連結所得金額を計算したことが同法81条の9第2項1号の規定に従っていないことを理由として行われた更正処分(甲10の1の「更正の理由」参照)であり,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)とは明らかに理由が異なるものである。
したがって,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)が行われたからといって,本件各譲渡に伴う有価証券の譲渡損に起因して算定される原告の繰越欠損金の額の発生について,「法人税の負担を不当に減少させる結果」になるとは評価し得ない旨の見解を税務署長が黙示的に示したことになると認めることができないから,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)と本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)が実質的に同一の処分であるとはいえない。
以上
別紙7
原告の主張の要点
第1 本件各譲渡による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が本件各譲渡事業年度において原告の所得の金額の計算上損金の額に算入されて欠損金額が生じたことによる法人税の負担の減少が,法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができるか否か(争点1)について
1 法人税法132条1項の要件について
(1) 法人税法132条1項の解釈について
ア 法人税法132条1項の性格
法人税法132条1項は,同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため,当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み,同族会社による私法上の法形式の選択可能性の濫用があると認められる場合に,これを合理的経済人の行為又は計算に引き直して課税する権限を税務署長に付与し,もって同族会社の租税回避行為の否認を認めた創設規定であるという解釈が学説(甲119)及び裁判例(ケン事件第一審判決(乙67))においても定着している。創設規定であるという規定の性格にも照らすと,同条の解釈・適用は,立法の趣旨,規定の文理に沿って厳格に行われることが求められ,租税法律主義の下においては,税務署長に「包括的,一般的,白地的」に課税処分権限を与えることのないよう細心の注意を払わなければならないのであって,同条の適用範囲を安易に拡張するような解釈論は,厳に慎まなければならない。
イ 法人税法132条1項の趣旨等
前記アにいう「租税回避」の意味については,学説(甲148)及び裁判例(東京高裁昭和49年6月17日判決・税務訴訟資料75号順号3344)において,私法上の選択可能性を利用し,私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに,通常用いられない法形式を選択することによって,結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら,通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ,もって税負担を減少させあるいは排除することとされているから,これによれば,法人税法132条1項は,通常用いられない法形式が選択された行為又は計算を,合理的経済人であれば選択したであろう法形式による行為又は計算に置き換えて課税所得を計算する規定であることになる。
また,同項は,「不当」という不確定概念を要件としており,課税庁による解釈の如何によってその適用が恣意的に行われ,法的安定性及び納税者の予見可能性を害するおそれがある上,「税務署長の認めるところにより」との文言についても,客観的かつ合理的に解釈しないと,同条が,税務署長に包括的,一般的,白地的な課税権限を付与するものとして,憲法84条の租税法律主義に違反する恐れが生じることとなる。この点,法人税法132条によって与えられた税務署長の権限の基本的な解釈について,判例(最高裁昭和53年判決)は,「法人税法132条の規定の趣旨,目的に照らせば,右規定は,原審が判示するような客観的,合理的基準に従って同族会社の行為又は計算を否認すべき権限を税務署長に与えているものと解することができるのであるから,右規定が税務署長に包括的,一般的,白地的に課税処分権限を与えたものであることを前提とする所論違憲の主張は,その前提を欠く。」と判示し,同条に基づく「否認」が「純粋経済人の行為として不合理,不自然なものと認められるか否か」という客観的,合理的な基準に従って行われることが,同条及びその適用の憲法適合性を確保するための必要条件であることを示したものと解することができる(なお,最高裁昭和53年判決の原判決(札幌高裁昭和51年1月13日判決・訟務月報22巻3号756頁)は,法人税法132条1項が,納税者の選択した行為又は計算が実在し私法上有効なものであっても,いわゆる租税負担公平の原則の見地からこれを否定し,通常あるべき姿を想定し,その想定された別の法律関係に税法を適用しようとするものであることに鑑みれば,「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かは,専ら経済的,実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理,不自然なものと認められるか否かを基準として判定すべきものと解される旨判示している。)。
このような客観的,合理的基準によるべきことは,納税者側における課税関係の予測可能性,法的安定性を確保するという租税法律主義の要請からも当然のことである。
(2) 法人税法132条1項を適用するための要件
法人税法132条1項を適用するための要件については,①同族会社の行為又は計算であること(同項1号),②行為又は計算を容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となることの2つに整理することができる。
(3) 同族会社の行為又は計算であること(前記(2)①)
「同族会社」は,法人税法2条10号に定義されており,同族会社「等」については,同法132条1項2号がその要件を定めている。また,内国法人が同項に掲げる法人に該当するかどうかの判定は,行為又は計算の事実のあった時の現況によるものとされている(同条2項)ところ,契約等の法律行為や取引に基づく会計処理が上記の行為又は計算に該当することについては,異論がない。
同条1項の否認の対象となる行為又は計算が,同族会社等の行為又は計算に限定されている(これは,同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため,当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑みたものとされる。甲121参照)ことに照らし,同族会社における意思決定過程や業務執行体制が非同族会社におけるそれとは異なるという事実は,行為又は計算の主体を「同族会社等」とした立法の根拠事実ということになるから,同族会社における意思決定過程や業務執行体制が非同族会社におけるそれとは異なるという事実は,「同族会社等の」という主体の要件に既に包含されており,そのような事実を主張,立証したとしても,不自然,不合理な行為又は計算が行われるおそれの存在を証明できるだけであって,結果として行われた行為又は計算の不自然,不合理性を根拠づける事実とはなり得ない。
(4) 法人税法132条1項における「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」の意義等について(前記(2)②)
ア 法人税法132条1項の「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」の解釈について
(ア) 法人税法132条1項の「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」の判断基準等
法人税法132条1項の「法人税の負担を不当に減少させる」とは,〈A〉否認対象である行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合,すなわち当該行為又は計算が(あ)異常ないし変則的であり,かつ,(い)租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合であって,〈B〉当該行為又は計算に基づき課税所得を計算した場合の法人税額が,合理的経済人であれば選択したであろう行為又は計算に置き換えて課税所得を計算した場合の法人税額と比較して少額になる場合を指すものと解すべきである(甲121,150参照)。
被告は,上記〈B〉を独立の要件として整理するが,これは,税務署長が同条を適用すると決めれば同条を適用するための要件の1つが満たされることになるというのと同じであって不当であり,行為又は計算を容認した場合に法人税の負担を減少させる結果となることを独立の要件として捉えず,法人税の負担の減少が法人税法上不当と評価される行為又は計算に基づくものであることと併せて一つの要件と捉え,将来株式を譲渡した際に生ずることが予想されていた譲渡益への課税を回避するために欠損金を蓄積するという計画の存在を証拠に基づいて認定した上で当該欠損金の計上を容認した場合に法人税の負担を減少させる結果となる旨の判断をしている従前の裁判例(ケン事件第一審判決(乙67),平和事件第一審判決)にも反する。
(イ) 法人税法132条1項による否認の対象とされる行為又は計算自体が不合理又は不自然であることを要すること
法人税法132条1項に係る行為又は計算の不当性の判断基準として,裁判例の多くが,「通常の経済人の行為又は計算として不合理・不自然なものと認められるかどうか」という基準を採用し,通常の経済人の行為又は計算との比較において,経済的・実質的見地において不合理・不自然であるかを判断すべきという解釈を採用しているところ,これによれば,通常の経済人の行為又は計算と比較して,不合理・不自然であるという評価を基礎付ける事実とは,当該事実を無視してそれを正常な行為又は計算に置き換えた場合に,法人税負担の減少が生じなくなるものでなければならないものと解され,これと同旨を判示した裁判例(ケン事件第一審判決(乙67))もある。そして,裁判例(ケン事件判決(乙67,68))が詳細に認定したように,同項による否認をするためには,否認の対象となる行為が通常の経済人が行わないような経済合理性を欠く行為であることを要する(なお,被告は,上記の裁判例(ケン事件判決(乙67,68))が,否認の対象となった行為のみを単独で切り出すことなく,一連の取引としての周辺事情を否認の対象となった行為の不当性判断の評価根拠事実とした上で,当該行為を通常の経済人からみて不合理な行為であると判示したものであって被告の見解に沿うものである旨主張するが,同裁判例(乙67,68)においては,否認の対象となった行為はもとより独立した行為(取引)であり,当該取引自体に関する事実を評価根拠事実として,当該取引そのものを不合理,不自然なものと認定した上で,これを否認した処分を是認しているから,被告の同裁判例に関する理解は誤っている。)。
すなわち,対象となる行為又は計算の内容あるいは行為そのものが不合理,不自然なものであることが否認の要件となっているというべきであり(札幌高裁昭和51年1月13日判決・訟務月報22巻3号756頁及びその上告審判決である最高裁昭和53年判決も同旨であると解される。),対象となる行為又は計算が行われた背景事情を基礎づける事実にすぎない経緯,目的,その後の状況等の周辺事情又は対象となる行為又は計算を行うに至った同族会社の意思決定過程等の特殊性は,行為若しくは計算の内容又は行為そのものの不合理,不自然さを基礎づける事実ではない(同族会社の意思決定過程等の特殊性については同族会社要件において既に評価済みであることについては,前記(3)参照)から,これらの事情を総合的に判断することにより同項にいう「不当」性を肯定することはできないというべきである。また,前記(ア)の〈A〉(い)の要件の判断においては,正当な理由ないし事業目的が存在するか否かが重要であり,租税回避の意図ないし目的は,それがなければ同項の「不当」要件が充足されないことに確定するというものでもなく,それがあれば「不当」要件が充足されることに確定するというものでもないというべきである。
被告は,行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合とは,それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在せず,専ら租税回避の目的に出たものと認められる場合や,独立,対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっている場合をいうものと解すべきである旨主張し,2つの「場合」のいずれかに該当すれば,行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合として同項の「不当」性を認定できる旨や,取引価格その他の経済条件以外の独立当事者間取引との相違点である意思決定過程や業務執行体制等の特殊性を同項の「不当」性を根拠付ける事実として主張する。
しかしながら,被告の主張は,学説(甲120,121)や取引価格その他の経済条件に着目して判断している裁判例(東京地裁平成6年1月28日判決・税務訴訟資料200号順号7270,平和事件第一審判決)と整合しない独自の見解である。また,被告が指摘する取引価格その他の経済条件以外の事情は,同族会社の行為又は計算であることという要件で評価済みの事実であるし,そもそも,取引価格その他の経済条件以外の観点を含めて独立当事者間取引との相違点を論じること自体誤りである。さらに,独立,対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっている場合であれば必ず経済合理性を欠いている場合に該当するわけではなく(甲121参照),そのこと(独立,対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっていること)のみを理由として「不当」と評価されることはあり得ないし,単に主観的に税負担軽減の目的があったこと(租税回避の意図ないし目的があること)のみをもって「不当」と評価されることもあり得ない。
(ウ) みなし配当の額の益金不算入制度による課税所得の減少は,法人税法132条1項にいう「法人税の負担を減少させる」ものとはいえないこと
株式譲渡損失の計上は,同法61条の2に基づいてみなし配当の額を控除して譲渡損益が自動計算された結果であり,欠損金の計上は,同法24条1項に基づいて計算されたみなし配当の額を,同法23条1項に基づいて益金不算入として所得計算をした結果であるから,法的には,両者の発生理由,発生過程は異なる。そして,みなし配当の額の計算とそれに基づく株式譲渡損益の額の計算及びみなし配当の額の益金不算入は,何れも法人税法の基本構造に基づいて二重課税を調整するために行われる計算であるから,本件各譲渡に基づくみなし配当の額及び株式譲渡損益の額の計算により損失又は欠損金が計上されたとしても,それは二重課税の調整の方法として法人税法が採用している特定の方法に従って計算がされた結果にすぎず,法人の行為又は計算とはいえない以上,かかる損失又は欠損金の計上が同法132条1項における「法人税の負担の減少」と評価されることは論理的にあり得ない。このことは,「自己株式取得予定株式」に対する益金不算入の適用制限規定(発行法人に対する譲渡を予定して取得した株式の配当については受取配当の益金不算入の規定は適用しない旨の規定)が設けられた(平成22年法律第6号による改正後の法人税法22条3項)ことの趣旨(甲29参照)からも明らかである。
イ 法人税法132条1項における「不当」の判断要素となる事実関係の範囲について
(ア) 法人税法132条1項の「不当」の判断要素として考慮することができる事実の範囲
a 否認対象の行為又は計算が純経済人として不自然・不合理であるか否かの判断と客観的,合理的な関連性があることを要すること
法人税法132条1項にいう「不当」といえるか否かは,否認対象の行為又は計算が,純経済人として不自然・不合理であるかどうか,当該行為又は計算の内容,その必要性,合理性等といった当該行為又は計算自体に関する事情を評価根拠事実として判断されるところ,同項は,客観的,合理的基準に従って解釈・適用しなければならない(甲123参照)から,当該行為又は計算と直接関係しない事情については,否認対象の行為又は計算の「不当」性評価と客観的,合理的に結びついたもの(当該事実が「不当」性(すなわち,否認対象たる行為又は計算が純経済人として不自然・不合理であること)の評価に原則として結びつくような量的程度の存する事実)に限って考慮することができるというべきであり,その限度を超えて,評価根拠事実として考慮できる「周辺事情」の範囲を客観的,合理的基準なしに拡張して解釈し,否認対象の行為又は計算が純経済人として不自然・不合理であるか否かの判断と客観的,合理的な関連性が認められないような当該行為又は計算に関連する周辺事情を広く評価根拠事実に取り込むことは許されない。また,同項の「不当」性は,法人税の負担の減少に係る要件であるから,我が国の法人税以外の租税の負担(米国における課税,我が国における源泉所得税等)に係る事実は上記の「不当」とは関連性がなく,その評価根拠事実ともなり得ない。
b 複数の行為を一連の行為として評価することができるための基準
客観的に観察すれば個々別々の行為である複数の行為を,「一連の行為」として評価することが認められるのは,それら複数の行為を一体的に評価すべき「特段の事情」がある場合に限られると解するのが自然であるところ,裁判例(スリーエス事件第一審判決)においては,法人税法132条1項の適用に当たり,複数の行為を一連の行為として評価するためには,当該複数の行為が一つの目的を実現するために行われたものであることを要すると解されており,他の裁判例(①山菱不動産事件判決及び②ガデリウス事件判決)においても,事前の計画の存在やそれに基づく複数の行為の実行について,証拠に基づく事実認定を前提として,一連の行為であることが肯定されている。
これに加え,学説(甲140,141)等を踏まえると,法人税法132条1項の「不当」性の判断に当たって,複数の行為を取り出して一体的に評価することが許されるためには,少なくとも3つの基準(①あらかじめ一連の行為として計画されたものであること,②その計画に従って実行されたものであること,③どれか1つが欠けても実行する意味がなく,相互に関連した連鎖的な行為であること)が満たされることが求められると解されるというべきである。
(イ) 損益の経済的実質的な帰属が法律的な帰属と相違していることをもって法人税法132条1項の「不当」性の評価根拠事実とすることができないこと
a 法人税法11条が法的に実質的な帰属が認められる法人を納税義務者とする趣旨の規定であること
法人税法11条は,実質所得者課税の原則を定めているところ,同条は,所得の法律上の帰属につきその形式と実質が相違している場合には,法的に実質的な帰属が認められる法人を納税義務者とする規定である旨の解釈(法律的帰属説)が裁判例(東京地裁平成8年11月29日判決・判例時報1602号56頁及び横浜地裁平成13年10月10日判決・税務訴訟資料251号順号8999)及び学説(甲144)において採用されている(経済的実質的な帰属の認定については客観的,合理的な基準を設けることが難しいため,法的安定性,租税法律主義の観点から,より客観的な認定が可能である法律的帰属説が採用されたものである。)。このように,同法11条は,法律上の帰属と経済上の帰属が相違する場合に,法律上の帰属によって損益の帰属を決定することを明らかにすることで,これを経済的な実質によって判定することによって法的安定性や帰属判定の客観性が害されることを防ぐことにその立法趣旨があると解される。
b 損益の経済的実質的な帰属が法律的な帰属と相違していることをもって法人税法132条1項の「不当」性の評価根拠事実とすることができないこと
法人税法11条及び同法132条1項は,いずれも,租税法上の原理の一つとして主張される「実質課税の原則」を基礎にしている条文であるから,両者の関係(同項の「不当性」の判断が,損益の帰属にまで及ぶかどうか否か)については,「実質課税の原則」の趣旨に即して解釈しなければならないところ,同原則については,適用の場面による区別(所得の実現に関する実質主義と所得の帰属に関する実質主義との区別)がされており,所得の帰属に関する実質主義については,租税法律主義の観点,法人税法における規定の趣旨,文言等の解釈,税制改正の経緯から,前記(ア)に述べたとおり法律的帰属により決定するという解釈が定着している以上,経済的実質的な見地から納税者が選択した法形式を無視して課税することを許容する行為又は計算の否認とは両立し得ない。また,同法132条1項は,文理上,所得計算の特則を規定した条文(課税標準等の計算規定)であることが明らかであるのに対し,同法11条は「第一篇 総則 第四章 所得の帰属に関する通則」の中に規定されており,計算規定を適用する前提として適用される条文であるという同法の条文配置及び同法132条1項の文理からしても,同法11条に基づき損益の帰属が決定された後に,同法132条1項の適用について,再度,損益の帰属を問題とすることはできないことは明らかである。さらに,同法11条に基づき損益の帰属が決定された後に,同法132条1項の適用について,再度,損益の帰属を問題とするのは,①国税通則法の制定(昭和37年)に関する税制調査会の答申(甲145)において,「実質課税の原則」を法制化し,租税回避行為の否認の規定を設けることが提言された際に,実質所得者課税の問題と行為又は計算の否認とは区別して議論されており,損益の帰属が行為又は計算の否認の対象にならないことは所与の前提であったこと(甲145)や,②経済的観点からの帰属の認定が困難であり,かつ,法制上問題があることが立法担当者の認識でもあった(甲146)ことという税制改正に関する立法の経緯とも抵触するものである。
したがって,同法11条に基づき法律上ある者に帰属すると認定された損益が,仮に経済的実質的に他の者に帰属すると認められたとしても,かかる帰属の相違又はそのような帰属の相違をもたらしたことをもって同法132条1項の適用上「不当」と評価するのは,同法11条の適用によって客観的に決定された損益の帰属を税務署長の裁量により「不当」と評価することができるとするものであって,租税法律主義に違反することが明らかである。同法11条に基づき損益の帰属が決定された後でも,同法132条1項の「不当性」の判断において,損益の帰属を問題とすることはできないというような限定解釈がされるべき根拠はないとは解することができない。
(ウ) 租税法上の制度の濫用による租税回避であることを同項にいう「不当」性の評価根拠事実とすることができないこと
租税法上の制度の濫用の判断について求められるのは,法令を文言どおりに適用するか又は不文の要件が付加されていると読み替えて適用するかを判断することであり,法人税法132条1項の適用の可否の判断について求められるもの(同族会社による私法上の法形式の選択可能性の濫用を合理的経済人であればいかなる法形式を選択するかという客観的,合理的基準によって否認するか否かの判断)とは全く異なっている。
そうすると,租税法上の制度の濫用による租税回避であることを「不当」性の評価根拠事実とすることは,同項の「不当」性の有無の判断をある一定の法制度の濫用が認められるか否かの判断によって行うことを意味し,同項が税務署長に対してそのような判断をする権限(包括的,一般的な課税権限)を付与していないことに照らすと,租税法上の制度の濫用による租税回避であることを同項にいう「不当」性の評価根拠事実とすることはできないというべきである。
2 本件における原告の総括的な主張
本件は,処分行政庁ないし被告が,a社が,自己株式の取得に係る取引に関する法人税法の改正(平成13年法律第6号及び同年法律第80号による法人税法24条1項の改正)に着目して,実態のない中間持株会社を上記の取引に介在させることにより我が国の租税法上の制度を濫用して租税回避をすることを企図し,原告の設置から本件各譲渡に至るまでの本件一連の行為を行い,原告をして本件各譲渡に伴う巨額の有価証券の譲渡損を計上させた事案であって,そのような譲渡損の計上は否認すべきであるとの見立ての下,証拠に基づかない憶測や不合理な証拠評価に基づく強引な事実認定をした上で,法人税法132条1項についてその文理や趣旨を大きく逸脱した拡大解釈を行い,同項を適用して本件各譲渡を否認し,本件各譲渡事業年度の法人税の額を計算すべきであることを主張する事案である。
すなわち,日本再編プロジェクト(日本における○○グループを成す会社に係る持株会社として原告を設置するプロジェクト)は,○○グループが2002年(平成14年)頃に進めていたグローバルな組織再編の一環として,日本における事業展開を見据えた上で,①日本における○○グループを成す会社を全て持株会社である原告の下に統合すること,②原告を当時a社が精力的に行っていた事業買収取引における日本の受皿会社とすること,③原告をして資金のより効率的な配分を行う機能を担わせること及び④原告をして日本において新規事業を行う場合の受皿会社とすることという4つの目的(甲23の1参照)を達成するために企画実行されたものであるところ,中間持株会社の設置は,いわゆる多国籍企業が世界中において各国への投資形態として頻繁に採用している形態であり,外国企業の対日投資の形態として一般的に採用されるようになった異常性も変則性もないものである。また,本件各譲渡は,そもそも,c社が平成9年以降株主への利益還元手段として採用してきた取引そのもの(乙6ないし16)であって,異常な法形式でもなく,変則的な取引でもないところ,日本再編プロジェクトとは全く別の時期に,全く別の意思決定によってされた取引である。そして,これらのこと(原告の設置及び本件各譲渡)は,上記の法人税法の改正,連結納税制度の導入に係る税制改正の動向とは全く無関係に企画,決定及び実行されたものであって,本件各譲渡により原告に有価証券の譲渡損が生ずることや将来連結納税制度を利用してかかる譲渡損を利用することについては何らの関心の対象ではなかった。さらに,自己株式を譲渡する取引によってみなし配当の額が計算されることにより有価証券の譲渡損が発生し,みなし配当の額を含む配当等の額の益金不算入の制度と相まって欠損金が計上されるという結果は,法人税法が定める計算規定の論理的帰結であって,特別な課税の減免ではなく,租税法規が課税所得の計算結果として当然に予定しているものである。
このように,本件の事実関係の本質は,異常性も変則性もない行為しか行われず,かつ,特別な又は政策的な課税の減免規定の適用を受けたわけでもないことにある。
3 本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることは「不当」と評価されるべきである旨の被告の主張が失当であること
(1) 被告の立論の基本的な問題点
ア 法人税法132条1項を適用する要件に係る被告の解釈に問題があること
被告は,①行為又は計算を容認した場合には法人税の負担を減少させる結果となることと②法人税の負担の減少が法人税法上不当と評価される行為又は計算に基づくものであることとを分断して,各々独立した要件とし,いわば縦割り方式で,それぞれに該当する事実の認定及び評価を行うという論法を採っている。その結果,上記①の要件については,原告による正常な行為又は計算による税額との比較を示すことなく,原告自身の行為としては株式譲渡損の計上に基づく欠損金の計上のみを摘示(比較対象として,b社が直接c社に対し同社の株式を譲渡した場合という原告以外の者の行為又は計算を挙げる)し,上記②の要件については,例えば,原告における意思決定過程の特殊性や独立性,主体性の欠如といった,同族会社の行為又は計算であることという別の要件において既に評価済みであって法人税負担の減少と直接結びつかない事実を法人税法132条1項の「不当」性を基礎づける事実として摘示して,それぞれの要件が充足された旨主張する。
このような被告の主張・立証における論法は,例えば,税負担の減少効果のある行為又は計算について,重箱の隅を突いて少しでも不合理,不自然な事実が見つかれば,それが税負担の減少と無関係な事実であっても,同項の適用要件を満たすというものであり,要件事実論を悪用した典型的なこじつけである。
イ 被告の主張が課税要件事実は行為時を基準として判定するという租税法適用の基本に反すること
法人税法132条の課税要件事実の判定は行為の時点の現況による(同条2項)にもかかわらず,次の(ア)及び(イ)に係る被告の主張は,課税要件事実時に適用がある法令の改正前の法令が適用されていた当時の行為と比較したり(後記(ア)),事後に生じた事実又は事実の事後的な評価を遡らせて過去の行為の判断要素としたり(後記(イ))するなど,租税法適用の基本に反するものである。
(ア) 被告は,本件各譲渡が経済的に不合理,不自然な取引である旨主張するところ,本件各譲渡に原告が介在したことを不合理,不自然とする判断に当たって比較すべき通常の経済人が行う経済的にも合理的かつ自然な取引は,平成13年度税制改正前ではなく本件各譲渡がされた時に適用される平成13年度税制改正後の行為であるべきであるにもかかわらず,平成13年税制改正前の取引である「b社が直接c社に同社の株式を譲渡することによって,c社から利益の還元を受けるという従前の取引」を経済的にも合理的かつ自然な取引として本件各譲渡と比較しているから,法人税法132条1項の趣旨を正解しないものである。
(イ) 被告は,本件各譲渡によって生じた原告の繰越欠損金の額がc社の連結所得と相殺されているという税務上の事実しか残らないことから本件各譲渡を含む一連の行為が当初から通常の経済人として不合理・不自然であると評価した旨主張するところ,c社の株式を同社に譲渡する結果として原告に生ずる有価証券の譲渡損を連結納税制度の適用を受けることにより連結所得の計算上損金の額に算入することを目的として平成14年譲渡をするということは,平成14年当時の欠損金の繰越期間(法人税法57条1項,81条の9第2項)との関係であり得なかったから,平成16年度税制改正により欠損金の繰越期間が延長されたという事後に生じた事実を遡らせて平成14年譲渡という過去の事実を評価するための判断要素にしているものである。
ウ 本来,b社が受領したものと取り扱われるべきみなし配当の額が原告によって受領されたものとして法人税法が適用され,原告に多額の株式譲渡損が計上されていることが,取引の経済的実態に合わない課税となっており,法人税法132条1項の「不当」に係る評価根拠事実となる旨の主張が失当であること
本件において,c社の株式を法的に所有する者が実質的にも原告であることに争いはないところ,我が国の法人税法上,本件各譲渡の時点において課税単位とされるべきは原告単体であり,本件各譲渡に係る課税関係は,本件各譲渡の対象たるc社の発行済株式の全部の法的帰属先が誰であるかにより決定するというのが法人税制の基本にのっとった結論(連結納税制度は,経済的実質的な損益の帰属が親法人である(税法上,完全支配関係のある企業グループでは利益が親会社に帰属することを明示的に認められている(甲104参照)。)場合であっても法人課税の課税単位はあくまでも個々の子会社であるという法人税制の基本に対する例外である。)である。また,原告の形成した私法上の法律関係について法人税法11条を適用した結果,同法上の損益の帰属が決定されるのであり,同法の適用の結果である以上,そこから生じる課税関係は,たとえ法人税の負担が減少するように見えたとしても,それは実質課税の原則に基づいて税法が課税することを予定している本来の税負担が計算されているだけであり,「不当性」を論じる余地はない。
そうすると,本件においては,租税法の明文の定めなく,原告の存在を無視するような課税は許されず(甲129参照),同法11条の適用によって客観的に決定された損益の帰属を税務署長の裁量により「不当」と評価することもできない(このことは,仮に,原告がいわゆるダミー法人であったとしても同様である。)というべきことになるから,法人税法上の損益の帰属についてまで経済的実質的な判断により課税関係を決定し得るとするのは,法人税の性格を無視して,同法132条1項の位置付けを含む同法の制度設計に対する基本的な理解を欠き,租税法律主義にも違反するものであることは明らかであるし,同法11条に基づき原告に帰属すると認定された損益が,仮に経済的実質的に他の者に帰属すると認められたとしても,かかる帰属の相違をもって,同法132条1項の適用上「不当」と評価する余地もないというべきである。
したがって,b社がc社との間で同社の自己株式取得取引の当事者になるのが通常あるべき取引であるとし,同法132条1項の「不当」要件の判断においても,法人税負担の「減少」要件の判断においても,b社ではなく原告がc社の自己株式取得取引の当事者になっていることが不自然,不合理であり,税務署長の認めるところにより本件各譲渡を否認し,これをなかったものとして課税標準等の計算を行うことができる旨被告が主張することは,実質的には,本件各譲渡の損益が原告に帰属することを否認し,「経済的実質」に鑑みて,これがb社に帰属するのが通常あるべき取引であると主張するものといわざるを得ない(なお,被告は,法人税法132条1項を適用することによって,同法11条によって認定された損益の帰属を変更しようとするものではない旨主張するが,およそ反論の体を成していない。)ところ,このような主張は,帰属の判断に係る事実は同法11条の適用においてのみ考慮され,同条の適用において法人税法上も原告への法律的帰属が否定できない場合には,その帰属を前提としてその後の課税関係が規律され,帰属の判断に係る事実を,同法132条1項の適用における「不当性」の評価根拠事実として引き継ぐことは認められないというべきであることに照らすと失当である。
エ 有価証券譲渡損失や繰越欠損金の連結納税を組み合わせて行われた行為は法令の想定外であった旨の被告の主張は誤りであること
被告は,みなし配当の額の計算方法の改正に伴う有価証券譲渡損失の発生やグループ内取引による繰越欠損金の連結納税による利用が,組織再編税制及び連結納税制度の制定時に予想されていた事象であるとしても,これらの事象等を組み合わせて行われた本件一連の行為が法令上想定されていた事象であるとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件で問題とされている自己株式譲渡による株式譲渡損失の発生もグループ内取引による欠損金の連結納税による使用も,ともに,平成13年度税制改正における法人税法上の制度設計に際して,既に税法が想定していた効果である(甲129・17頁参照)。組織再編税制の新設及び連結納税制度の導入は,連続して行われた税制改正であり,関係法人の繰越欠損金の租税回避的利用の防止は何れの制度においても重要なポイントであった(法人税法57条,81条の9,甲104参照)から,立案担当者が様々な事象を想定した上で制度の租税回避的な利用を防止するため,例えば,連結納税制度には,連結承認申請時点で,国税庁長官が不当に法人税を減少させる結果となると認める場合には承認を却下できるという規定(同法4条の3第2項3号ニ)を置くなどしたものと考えられるのであり,これらの改正は財務省主税局の同じ担当者により立案されたという経緯にも照らすと,法令上想定されていなかった旨の被告の主張の方が不自然である。
したがって,本件のような,税法が想定していた効果を内容とするもので,かつ,立法による防止措置がなされていないような事象に対して,税務署長の裁量による処分を認めた法人税法132条1項を適用することは,租税法律主義に抵触することが明らかである(甲129・17頁参照)。
(2) 原告の行為又は計算を容認した場合には原告の法人税の負担を減少させる結果となることに係る被告の主張が失当であること
ア 本件各譲渡による有価証券の譲渡損益の計算について
前記1(4)ア(ウ)に述べたとおり,株式譲渡損失額の損金算入とその同額のみなし配当の額の益金不算入により欠損金が計上され,法人税額が,上記の譲渡損失額に対応した金額分少なく算出されたとしても,その税額が本来負担すべき法人税額であれば,「法人税の負担」の「減少」とはいえないから,本件各譲渡により譲渡損益額の計算においてみなし配当の額の部分が控除され,株式譲渡損失額が生じること又は繰越欠損金が計上されることが同法132条1項における「法人税の負担の減少」と評価されることは論理的にあり得ない。
イ 被告が主張する法人税の負担の減少につき本件各譲渡の比較対象となる合理的経済人の行為又は計算の内容は,到底その対象となり得ないものであること
被告は,本件と比較対象としたのは,c社による自己株式の取得に原告が介在せず,b社が直接c社に対し同社の株式を譲渡した場合における原告の行為又は計算であり,比較対象とした行為又は計算においては,原告はb社が保有するc社の株式の同社への譲渡に関与しないこととなるから,当然,原告における株式の譲渡損失もそれに基因する繰越欠損金の額の計上も生じないこととなり,その場合と本件とを比較すれば,本件が「法人税の負担を減少させる結果となること」に該当する旨主張する。
しかしながら,本件における否認対象である行為又は計算は,原告の行為である本件各譲渡であって本件一連の行為ではないから,法人税の負担の減少につき比較対象とする行為も原告が合理的経済人であれば本件各譲渡に代わって選択したであろう行為又は計算と解するのが文理上自然であるところ,被告の主張が前提とするのは本件一連の行為が行われなかった状態であって原告が存在しなかった状態を意味するから,そこにおける「原告の行為又は計算」を観念することは不可能(被告も実質的な譲渡主体は原告でなくb社であるとして,原告以外の者の行為又は計算を比較対象としていることを事実上認めている。)である。
このように,そもそも観念できないような「原告の行為又は計算」を比較対象とするという被告の主張は,原告以外の者の行為又は計算を比較対象とするという法人税法132条1項の文理解釈としておよそ認め難いものであるから,失当である。
(3) 本件が法人税法132条1項にいう「不当」なものに該当するか否かを判断する際に本件一連の行為を考慮することができないこと
ア 複数の行為を一体的に評価することができる場合の要件を満たしていないこと
被告は,本件一連の行為を本件各譲渡と一体的に評価することにより,本件各譲渡を法人税法132条1項により否認することができる旨主張するが,本件一連の行為に係る被告の主張及び立証を見る限り,それがあらかじめ一連の行為として計画されたという事実又はある計画又は目的(例えば有価証券の譲渡損の計上という目的)に従って実行されたという事実が,積極的に主張立証されているとはいえないから,前記1(4)イ(ア)bに掲げた複数の行為を一体的に評価することができるための基準のうち,いずれの基準も満たしていないことが明らかであり,結果として多額の有価証券の譲渡損が計上されているから,その原因となった行為は多額の有価証券の譲渡損を計上するために行われたと考えるほかはないと決めつけているだけである。
したがって,本件においては,法人税法132条1項の適用に当たり本件一連の行為を一体的に評価することは許されない。
イ 本件一連の行為を総合的に判断することにより本件各譲渡を法人税法132条1項により否認することができる旨の被告の主張が失当であること
被告は,本件一連の行為として,本件株式購入及び本件各譲渡に関して時系列的に行われた複数の行為及び計算を列挙し,これらを総合的に判断して,本件株式購入及び本件各譲渡が通常の経済人として不合理・不自然であると判断しているが,これらの行為を一体的に評価すべき特段の事情は何も述べておらず,これらの行為があたかも税務上の損失を生じさせるために計画的に行われた一体的な行為であるかのような印象を作り出しているのみであるし,そもそも,原告が持株会社となったのは○○グループにおける世界的な組織再編の一環であって,本件株式購入もa社が資金効率の改善をグローバルに進めるために日本において中間持株会社を設置するという事業目的で行われたものであり,その資金調達に何ら不合理・不自然なところがない上,本件各譲渡もそれぞれ本件各譲渡事業年度の事情を踏まえて実行されたから,これらの行為が,一定の「目的」(たとえば,有価証券の譲渡損の計上又は有価証券の譲渡損の計上と連結納税によるその利用)の実現のためにあらかじめ計画され,実行されたものとはいえない。また,利益送金の実態が変わっていないという事実は,何ら,不合理,不自然と評価される事実ではない。
被告は,異なる時点,状況又は意思決定に基づき行われた複数の行為について,総合的に評価するという曖昧な枠組みにより,個々の行為としての評価を排除して1つの行為として評価しているが,結局,それは,税務上の損失が生じたことのみを評価の根拠としてこれを総合的判断による評価と言い換えているだけであり,ひいては,結果に対する評価を過去に遡って過去に行われた行為(いわば,時間的には,前段階あるいは前々段階の行為)の評価とみなすこと(本件についていえば,原告がc社の発行済株式の全部の所有者となった後に本件各譲渡により株式の譲渡損が生じた事実が,租税回避と評価されるべきであると課税当局が判断した結果,株式の譲渡損が生じたという事実を根拠として,中間持株会社の設置やa社による資金効率の改善という本件株式購入及び本件各譲渡に係る事業目的の存在を否定し,本件各譲渡を否認すること)にしかなり得ず,課税要件事実の判定が行為時を基準とするという租税法の基本的な考え方(前記(1)イ参照)からは,そのような論法は到底認められるものではないし,税負担の減少が生ずる結果でありさえすれば,その前段階の行為を,全て,不合理・不自然と評価して,同項の適用を認めること(前記(1)ア参照)にもつながりかねない。
ウ 本件一連の行為を考慮対象とすべき理由を裏付ける事実として被告が指摘するところはその裏付けとなるものではないこと
(ア) 本件c社法務質問書(乙18)の存在について
被告は,本件各譲渡を含む本件一連の行為を構成する複数の行為を一体的に評価することの根拠となるべき証拠として,本件c社法務質問書(乙18)の存在を指摘する。
しかしながら,本件c社法務質問書(乙18)は,○○グループが,日本の有限会社を子会社とした経験がなかったことから,有限会社を中間持株会社にする際の法的手続や有限会社の増資手続等の法律問題について法律照会を行ったにすぎず,その文面上,自己株式取得を実際に行うことの決定が既に行われていたことを示すものではないことが明らかであり,定時株主総会時点では株主ではないがその後ほどなく株主が変更された場合であっても自己株式取得という方法で利益還元を行う途を確保しつつ,中間配当という方法で利益還元を行う途も確保することを念頭においた質問である。また,同質問書(乙18)には,税制に関する照会や譲渡損失の発生に関する記載は含まれておらず,「事実」欄の記載も,照会した時点において検討中の案を法律上の問題点を検討するために記載したものにすぎず,記載のある取引の実施が照会時に確定していたことを示すものでもない(甲42)。
したがって,本件c社法務質問書(乙18)をもって,a社がc社をして自己株式取得をなさしめることを目的として一連の行為を計画したものと認定することはできないというべきであるから,このような法令上の処理に関する一般的な記載をもって,a社が,株式譲渡損の作出に向けて本件一連の行為を計画したと認定するのは,論理の飛躍が甚だしいというべきである。
(イ) 米国における課税の有無について
被告は,b社が米国においていわゆるキャピタルゲイン課税(株式譲渡益課税)を受けないことが本件一連の行為を実行する上で実質的に不可欠な要素であったから,本件一連の行為を考慮対象とすべき理由を裏付ける事情たり得る旨主張する。
しかしながら,本件株式購入の時点において,b社に対するキャピタルゲイン課税がされていない(正確には,繰り延べられている)としても,いかなる場合に課税繰延べを認めるかは米国の税制における立法政策の問題であり,それが我が国の法人税の負担の減少に向けられたものではない以上,それが我が国の法人税法上「不当」と評価されることはあり得ない。また,組織再編に際して資産を譲渡する場合に,米国企業が,自国の税制を利用してキャピタルゲイン課税の繰延べを得ることは何ら不自然・不合理なことではない。さらに,自己株式譲渡によるみなし配当の額の計算は,当該株式を旧株主(本件ではb社)から取得した際の取得価額とも何の関係もなく,帳簿価額が適正に計上されていれば,自己株式譲渡の場合のみなし配当の額の計算も含めて,株式譲渡損益額は機械的に計算されるから,原告がc社株式を取得した際に,米国において,b社にキャピタルゲイン課税がなされていない(繰り延べられている)ことは,本件各譲渡による株式譲渡損益額の計算とは全く関係がない。
したがって,原告がc社の株式を取得した際に米国でキャピタルゲイン課税がなされていない(繰り延べられている)ことは,本件各譲渡とは全く関係のない事実である。
(ウ) a社及び○○グループの全世界的な租税負担軽減戦略に原告が組み込まれている旨の被告の主張について
a 被告は,a社は,全世界の税制に関心を持って常に税金面のコストダウンを検討し,a社及び○○グループの全世界的な租税負担軽減戦略に原告も組み込まれているなどとするほか,a社及び○○グループには租税回避の意図ないし目的があった旨を主張するが,その具体的内容及び根拠は何も示されておらず単なる憶測であるにすぎない上,それが本件における不当性といかなる関係があるのかも曖昧であるから,いたずらに原告ないし○○グループの悪印象を醸し出そうとするだけの不当な主張であって,本件における不当性の評価根拠事実たり得るものではなく,主張自体失当である。
b 被告は,①平成13年3月19日の会議において商法改正に関する説明が行われ(乙19),②その後自己株式取得に係る税務上の取扱いについての検討が行われ,③さらに平成14年1月30日に法律上の問題点についての照会が行われた(乙18)という事実が存在した旨指摘し,これらの事実が本件一連の行為が原告において巨額の未処理欠損金額が計算される状況をあえて作出しようとしたものであることを裏付けるものであり,a社及び○○グループの全世界的な租税負担軽減戦略に原告が組み込まれていることが法人税法132条1項の「不当」性と関連する事実であるといえる旨主張する。
しかしながら,□□意見書(乙19)には,「c社の法務部のメンバーが,株式の買い戻しに影響を与える日本の商法の改正について説明した。そして,関連のある改正点についての簡単な説明が続けられた。」,「2001年10月,商法は改正された。株式の買い戻し制限は緩和された。」との記載があるから,同意見書(乙19)に記載されている会議(上記の①)は,いわゆる金庫株の解禁に伴う商法改正(平成13年法律第79号及び同第80号による改正。なお,同改正に係る法案が国会に提出されたのは同年5月18日であり(甲164参照),法案の内容が公表されたのも同時期であるから,少なくとも,同年3月の段階では法案の具体的な内容は明らかではなかった。)がされた後に開催された会議であることが明らかである。したがって,同年3月の段階で,「c社の法務部のメンバーが,株式の買い戻しに影響を与える日本の商法の改正について説明」することや「関連のある改正点についての簡単な説明」することはできないから,被告の主張は事実を誤認したものである。また,□□意見書(乙19)は,平成14年3月20日に作成されたものであると認められるところ,これによれば,税務上の取扱いの検討(上記の②)は,法律上の問題の検討(上記の③。なお,本件c社法務質問書(乙18)の作成日付にも誤記があり,同質問書(乙18)の実際の作成日は,同年1月30日である。)に遅れてされたもの(法律上の問題が検討された後に,税務上の問題が検討された)となり,税制を検討した上で原告の設置に係る計画を策定した旨の被告の主張とは全く逆である。さらに,税務上の取扱いの検討(上記の②)が同年3月に行われたことを前提とすると,a社が日本再編プロジェクトの計画及び目的を承認した時期(遅くとも2001年(平成13年)11月)や,主要行程書(甲56の2)がアップデートされた時期(2002年(平成14年)1月24日)より何か月も後のこととなり,税負担の軽減に係る日米それぞれの税制を検討した上で原告の設置に係る計画を策定した旨の被告の主張とも整合しないこととなる。
したがって,被告の主張は誤りである。
c 被告は,本件A20メール(甲58)から,原告に欠損金額が生じることを前提とした上で,支払利息について過少資本税制等我が国の税制について検討していたことがわかり,それは,a社及び○○グループが原告の設置に当たり,原告に適用される我が国の税制に深い関心があったことを示す旨主張するが,過少資本税制の適用により支払利息の損金算入が制限されるかどうかは,企業が外国に設ける子会社の資本構成を考える場合の一般的な論点の一つであるから,これにa社の税務担当者がなんらかの関心を持つことがあったとしても決して不思議ではない上,その点について関心を持つことが我が国の税制一般に深い関心があったことを意味するというのは,論理があまりにも飛躍している。
(4) 原告を日本における○○グループの中間持株会社としたことには正当な理由ないし事業目的が存したこと
原告は,a社が主導して○○グループがその事業上進めてきたグローバルな組織再編の一環として,4つの事業目的を持った日本における中間持株会社として設置されたものであって,以後その目的が達成されてきたものであるから,その設置には,正当な理由ないし事業目的があったものである。
ア 持株会社に関する被告の理解は,理論的にも実務的にも誤りであること
(ア) 米国の多国籍企業が利用する中間持株会社の事業目的,機能及び組織について
A17意見書(甲81)及びA17補充意見書(甲128)によれば,次のとおりである。
a 米国の多国籍企業の構造は複雑であるが,その中で,上層の組織の子会社でありながら,自らも子会社を有する会社は中間会社と呼ばれることがある。中間会社の組織形態には,①それ自身が事業を行う事業会社であるもの(中間事業会社),②中間本部,すなわち中間会社である「本部(M型)」(「中間本部(M型)」)及び③中間持株会社,すなわち中間会社である「持株会社(H型)」(「中間持株会社(H型)」)の3つの場合がある。「中間持株会社(H型)」は,米国の多国籍企業によって広く利用されている。
b 「中間持株会社(H型)」には通常常勤の役員や従業員はほとんどいないか全くいない。また,「中間持株会社(H型)」の役員や取締役は,たいていの場合,その子会社,親会社,親会社の他の子会社のいずれかの役員である。
c 「中間持株会社(H型)」であってその子会社と同じ国に所在する場合について述べると,そのような「中間持株会社(H型)」は,国連の分類では金融機関の一種とされているが,それは,そのような「中間持株会社(H型)」は,親会社と事業子会社との間の金融仲介機関として機能するからである。「中間持株会社(H型)」は,国レベルで統合された財務管理を提供するものであり,所在地国における買収,クロスボーダー取引,為替取引管理,資金管理及び資金計画並びに本国への配当送金を助ける等,子会社事業の戦略や経営という次元とは別の次元で各所在地国資産のグローバルな財務管理を助けることを事業目的とする。また,「中間本部(M型)」は,経営全般や戦略機能を担うが,「中間持株会社(H型)」は,複数子会社を横断するような事業上の戦略機能や一般的経営機能の国レベルの統合をするものではない。
d 米国の多国籍企業による事業の所在地国における組織の選択に影響する要因としては,制度的要因,経営的要因及び経済的要因がある。経営的要因という観点からは,多国籍企業には,一国の子会社を束ねる中間会社として,「中間持株会社(H型)」,「中間本部(M型)」又は中間事業会社という3つの選択肢がある中で,後の2者は,当該国の子会社の事業間に国レベルでの統一的な戦略及び経営の機能を必要とする程度に戦略上及び事業上の共通性がある場合にのみ望ましい選択肢であり,複数ある子会社がそれぞれ親会社に対して提供する戦略,事業及び運営上の目的が異なる場合には「中間持株会社(H型)」を採用する方が望ましい。それにより,持株会社の金融仲介機能を事業子会社の戦略,経営及び事業上の目的と区別されたものとして利用することができるからである。また,経済的要因の観点からは,「中間持株会社(H型)」は,買収等の局面において取引の柔軟性を確保し,取引コストを減少させる点に利用するメリットがある。
e 原告は,「中間持株会社(H型)」の組織であるが,「中間持株会社(H型)」は,a社が複数の国・地域において恒常的に使用してきたものであることが認められる。複数の法域にわたって類似の組織形態を採用するという行動様式は米国の多国籍企業に実務上一般的にみられ,共通化戦略と支配の便宜に資する。原告の事業目的は,「中間持株会社(H型)」の財務機能として学術研究で認識されてきたものと整合的であるところ,原告を日本に設置することに関与したa社の経営幹部は,「中間持株会社(H型)」には財務機能があることを認識していたことが認められるし,そのように「中間持株会社(H型)」を利用することは,a社が採用していた全世界的,中央集権型の財務管理戦略と整合的でもある。a社の日本所在の各子会社の中には,顧客への販売・マーケティング企業,製造企業(メーカー)等異なる戦略目的を有するものが存在していたことも考慮に入れると,「中間本部(M型)」を置くことは,a社が国ごとの分権的戦略からグローバルな戦略に焦点を移していたことからすれば,戦略面,費用面で著しく劣ると考えられ,各子会社を適切に機能分化すると同時に統合するという経営上の原則に照らしても,原告の設置に当たり「中間持株会社(H型)」形態を採用したことは大変望ましいものであったといえる。
(イ) 持株会社の機能と組織に関する日本における報告書等
日本における報告書等には次のような記載があるほか,実際にも中間持株会社が設置されている事例があることが認められる。
a 「独占禁止法第4章改正問題研究会」が公表した「中間報告書」(甲82・166頁)
同報告書(甲82)には,公正取引委員会が行った欧米主要国における持株会社の利用状況に関する調査によれば,欧州では持株会社を頂点とする企業グループも少なからずみられるが,米国においては,中間持株会社,即ち,事業会社の傘下の子会社を統括するものとして利用している例がほとんどであり,我が国で指摘されているような本社機能を持株会社に集中して経営戦略上のメリットを追求するという目的で持株会社形態を採ったとする例はほとんどみられなかった旨の記載がある。
b 「企業法制研究会」の報告書(甲83・303頁)
同報告書(甲83)には,自国で純粋持株会社が認められている外国企業が,純粋持株会社形態の企業を設立する形で日本に対する投資を行うことが認められないため,本社が純粋持株会社となっている外国企業や,戦略拠点ごとに純粋持株会社を設立して経営を行っている外国企業(とりわけ欧州企業はそのような企業が多い。)は,その企業が持つ最も得意な経営ノウハウを活用することができない旨の懸念を指摘する記載がある。
c 公正取引委員会事務総局による欧米における持株会社の実態調査に係る報告書(甲84・258頁)
同報告書(甲84)には,いわゆる純粋持株会社の場合は,商法(当時)の規定を満たすべく持株会社傘下の子会社の社長や社外重役等で構成される役員会を置いているにすぎないので,実際の企画立案等の本部機能を担う事務局は子会社にある形態も少なくない旨の指摘がある。
(ウ) 持株会社の機能と組織に関する被告の理解が誤りであること
被告は,被告が理解するところの純粋持株会社が果たすべき業務として戦略機能,経営機能等を挙げ,少なくとも,企業グループの経営者や戦略スタッフが持株会社に配置されるのが通常であるなどと主張するが,前記(ア)及び(イ)に詳細に述べたとおり,これは,「中間本部(M型)」のみが純粋持株会社であるという勝手な思い込みによるものでしかないことは自明であり,いたずらに持株会社の役割,機能ないし組織の実態を無視してこれを矮小化して理解するものであって,企業経営や企業組織に関する基礎的理解を欠いたものである。
イ 日本再編プロジェクトの目的がa社による全世界的な再編の一環であり,その多くを実際に達成したこと
原告を中間持株会社として日本に設置するプロジェクト(日本再編プロジェクト)の事業目的は,①日本における○○グループを成す会社を全て持株会社である原告の下に統合すること,②原告を当時a社が精力的に行っていた事業買収取引における日本の受皿会社とすること,③原告をして資金のより効率的な配分を行う機能を担わせること及び④原告をして日本において新規事業を行う場合の受皿会社とすることの4つであった(甲23の1)。
これらの目的は,ハードウェア中心の製造販売多国籍企業からグローバルに統合された組織体制でのハードウェア,ソフトウェア及び企業向けサービスを併せて提供するグローバルに統合された企業グループへの業態変革という大きな変革を背景として行われた世界の主要地域・国に持株会社を設置することによる子会社再編の目的そのものである。上記①,②及び④の各目的は,ハードウェア事業からソフトウェア及び企業向けサービスを併せて提供するグローバルに統合された企業グループへと業態を変化させるためにa社が手がけていた多数の企業買収によって買収した企業の円滑な統合に役立てるという目的に直結するものであり,上記③の目的は,子会社方針書(甲19)及び同方針書が明記している子会社最適化という方針において求められた投資資金の効率的利用という観点を含むものである。
そして,上記の①ないし④の各目的のうち,上記④については,経済情勢の悪化や,事業提携等を新たに行おうとしても,顧客や相手方が,原告よりは○○ブランドで事業を既に行っているc社のような法人を取引相手として選好する傾向が強まったという外部要因もあり,原告を新規事業の受皿会社として利用する機会が実現化してはいないが,上記①ないし③の目的については,実際にそれを達成している。
ウ c社等4社を全て持株会社である原告の下に統合することが○○グループ内における製造部門と販売部門とを分けて統治するという事業構成に沿った合理的な経営判断に基づく再編であったこと
日本における○○グループを成す会社を全て持株会社である原告の下に統合するとの目的は,原告によるc社等4社の株式の取得により達成されたところ,このことを日本に持株会社を設置することの目的とするのは,中間持株会社としての機能・役割が,原告がb社からc社等4社の株式を取得,保有することにより初めて実現可能になることに照らし,当然のことである。
○○グループでは「製造」と「販売」という事業は異なる事業であるとの認識の下,c社は,日本における販売事業を行うための会社として位置付けられているため,c社の日本における販売事業と業務内容や指揮・命令系統が異なる製造事業は,c社のラインとは分離し,その業績がc社の決算等に影響を与えないようにすることが経営管理上は必要かつ当然であった(甲38)。
ところが,原告が中間持株会社となる以前の日本における○○グループは,c社が同グループの中心的存在であったものの,これと並列して,日本だけでなくアジア地域における○○グループに対する対事業サービスを行っていたd社,a社と株式会社東芝の合弁(出資比率50:50)により液晶パネル製造を行っていた会社を事業分割してa社の100%子会社となったf社(なお,製造自体は別会社に移管することにより同製造事業から事実上撤退している。また,同社株式は原告による株式購入の直前にa社からb社に現物出資され,b社の100%子会社となった。)及び日本における○○グループの半導体製造事業を移管するためにb社とセイコーエプソン株式会社が合弁(出資比率50:50)で設立したe社を加えた計4社が,a社が直接又はb社を介して保有する子会社として存在するという組織構造となっていた(甲38)。しかも,f社の製造事業とc社が販売会社として日本市場の顧客に対して提供している販売事業とは直接関係がなく,e社はa社の製造部門から直接指示を受けることが通常であって,c社の社員が一定数出向していたという程度の関係しかc社とは関係がなく,d社はc社とは全く事業内容が異なっていた(甲38)。また,グローバルに統合された企業グループへの業態変革との関係では,○○グループが自社工場により行っていた製造事業の規模を縮小する動きが具体化していたものであり,f社及びe社の存在もその一環であったものである。
日本における持株会社設置が検討されていた当時,c社を持株会社にして,d社,f社及びe社の3社をc社の子会社にするという発想はa社には全くなく,上記のような事業の内容,性質等に応じて,d社,f社及びe社をc社の兄弟会社として位置付けることが適切であることから,c社とともに原告の子会社となったものである。このように,原告を持株会社としてc社の上位に置くことは,十分に合理性がある経営判断であると認められることについては,A17教授も的確に指摘している(甲81)。
そして,f社及びe社は,原告の子会社となったが,f社については平成20年4月に清算結了し,e社については平成18年6月に50%分の保有株式を売却したところ,これは,両社が原告の傘下に入ることによって,清算又は売却の手続を日本国内で完結させることが可能になり,それぞれの製造事業からの撤退を円滑に完了することができたものである。
なお,被告は,A25がA31に宛てた電子メール(乙73の別紙4)の「X Holdingsの設立を待って,○○ Corp.ではなくXに返還した方が源泉税の節税になる」との記載を捉えて,f社を原告の子会社としたことが税負担を減少させることを目的とするものであった旨主張するが,上記引用部分の記載は,原告を中間持株会社として設置して,f社をその傘下に置くことが決定された後に,f社が減資手続を行うことを所与の前提とした上で,f社の減資手続を行うのであれば源泉所得税がより節約される方法を採用すべきであるとの判断がなされたものにすぎず,上記に述べたとおり,f社が原告の子会社になったことには正当な事業目的が存在する以上,かかる経営判断の際に租税負担を考慮することは合理的な経営判断の不可分の一部であり,国際的な二重課税回避の点からも正当と認められるから,上記の被告の主張は失当である。
エ 原告の存在は日本における○○グループがハードウェア事業からソフトウェア及び企業向けサービス事業への転換というグローバルな変革を実現する一環としての買収案件において大きな役割を果たしたこと
(ア) 日本における企業買収の受皿会社としての原告の役割
原告は,①l社(平成14年),②j社(平成15年)及び③m社(平成19年)の各買収において,被買収事業を買収企業側に統合する際に生じる人事問題,ブランド問題等を円滑に解決するために,現実に活用された(なお,被告は,原告が関与する必要性は乏しい,b社においてもその役割を十分に果たすことができた,b社には果たし得ないような何らかの重要な機能や役割を果たしていたものと認めることはできないなどと主張するが,いずれも失当である。)ものである。
「中間持株会社(H型)」は企業買収取引においても金融仲介機能,財務機能を果たすことが指摘されており,a社の経営陣がその点を認識していたと認められることは,2001年10月原案ペーパー(甲54)の「Benefits(利点)」に「将来の買収及び投資の基盤(Platform)」)が含まれていたことからも明らかである(甲54・2頁)。A17教授も,子会社買収のための便宜……等,学術文献で認識されてきたような「中間持株会社(H型)」の財務機能は,原告について中間持株会社(H型)とする構造を採用することに関与したa社の経営幹部も認識していた旨指摘している(甲81)。
実際にも,日本において○○グループが企業買収を行う場合には,例えば,日本の労働慣行の中で,従業員が1000名を超えるような大規模な日本企業を買収しようとする場合,人事管理や報酬制度の違いや役員の削減への不安が同等の企業であるc社への吸収合併や子会社化へ抵抗感を生じさせる要因となる等様々な問題があることも想定されていたところ(甲38),買収の受皿会社とするということは,このような問題に速やかに対処することができるような体制を作ることも意味し,c社より上位の中間持株会社を日本に設置し,企業買収の際に中間持株会社の子会社としてc社と同等とすることを買収交渉の時から示すことができれば,それだけで買収への抵抗感を軽減することができ,買収の可能性を高めることができるし,買収後も,相応の時間をかけて企業文化や労働条件の統合を図っていくことで,日本における企業買収のハードルを下げることが可能になるからである(甲39)。
(イ) ○○グループによる◎◎のグローバルな買収時における日本での対応は,原告が買収の受皿会社として想定どおりに機能したことを示していること
a社は,2002年(平成14年)の夏から秋にかけて,世界的にも著名なコンサルティング・ファームである◎◎を全世界において買収することになり,その買収・統合は,a社主導で全世界において行われ,多くの国では◎◎の現地法人を当該現地における○○グループに属する会社に吸収合併する形がとられた。他方,日本においては,原告が,同年9月5日にo株式会社(◎◎の日本法人)から日本におけるコンサルティング事業の事業譲渡を受けたl社(l社は,上記の◎◎の世界的な買収に際して,k社の日本におけるビジネス・コンサルティング事業の売却準備のための一時的な受皿会社として同事業を譲り受けた日本法人であり,原告による買収時点では多数のo株式会社の元従業員を雇用する事業会社であった。)の発行済株式の全部を取得(c社の兄弟会社とする形で買収)した。そして,l社は,同月18日に商号変更してl1社となり,平成22年4月1日にc社に吸収合併されたが,吸収合併されるまでの7年半余りの間,原告の傘下にあって,c社と並ぶ日本における○○グループの主力会社としてコンサルティング事業を行ってきた(甲69,155)。
このように他の国におけるのと異なる形態による買収をすることとなったのは,a社が◎◎を全世界的に買収することを決定した当時,①o株式会社によるコンサルティング事業は,約1650名(平成14年7月1日時点。甲64参照)の従業員を擁する大きな事業であったこと,②o株式会社に所属するコンサルタントはそれぞれc社の競合企業等を顧客としていたこと,③c社の事業の一部がo株式会社と競合状態にあったこと,④両社の労働条件や企業文化が相当異なっていたことという問題があったことから,仮に,c社が,最初からo株式会社を吸収合併すると,(あ)両者における顧客離れ,(い)政府系の業務における両社の仕事への制約,(う)o株式会社に所属するコンサルタントの大量離職という大きなリスクを抱える懸念があっただけでなく,(え)A4よりもA5の方がc社では先輩であったためにA5の処遇に困るという危惧もあった(なお,被告は,上記(あ)ないし(え)に指摘した各懸念が現実にあったのかについては,大いに疑問が残るなどと主張するが,かかる懸念は現実のものとして当時のc社の経営陣が共有するものであった(甲38,39,46)し,当時の社会通念としては,外資系企業による買収の場合には,従業員の立場からの懸念について報じる報道も散見されるから(甲130),買収に際して既存の事業会社とは異なる雇用形態を維持するために異なる法人が必要とされていたものといえ,原告が買収の受皿会社としての機能を有し,期待されていたことは何ら不合理・不自然ではなかったものである。)からである。
そして,現実にも上記①ないし④のような問題を解決してc社に合併させる準備が整うまでには7年半もの歳月が必要だった(甲69)のであり,その間,原告は,日本における企業買収の受皿会社としての役割を原告設置当初の期待どおりに果たしてきたのである(甲39)。
(ウ) j社及びm社の買収においても原告は中間持株会社としての機能を果たしていること
「中間持株会社(H型)」が果たす財務機能の中には,買収に係る取引コストの低減を含めて保有期間の長短とは無関係の機能があること(甲81)に加えて,短期間の保有であっても,c社に統合するまでの間に,問題がある部分を整理,解決する機能,役割を果たしているのであれば,その経済合理性は認められるから,保有期間の長さは持株会社としての存在意義とは無関係である(甲39)ところ,j社やm社は,o株式会社と比較して格段に小さい規模の会社であり,その企業文化を尊重する必要性が相対的に小さく,またエンドユーザーを持たないソフトウェア会社であって顧客との関係の維持を考慮する必要もなかったため,比較的短期間でc社へ統合することが可能であった(甲46)。
オ 原告の設置による資金の集中的管理及び資本構成の最適化が日本における○○グループの事業から獲得される利益に係る資金効率の改善をもたらしたこと
(ア) 利益還元の手段が多様化したこと
中間持株会社は,対外的信用の観点から一定水準の自己資本比率を求められることがないため,中間持株会社は,親会社の投資効率のみを念頭に置いた資本・負債比率を採用することが可能であり,事業会社の資本構成に制約を与えることなく多国籍企業が各国の資本構造の管理を行うことができる(甲81)。そして,負債割合の高い中間持株会社を設置することにより,事業子会社から配当として還元された資金を本国の親会社に送金する方法として,配当の支払に加えて,負債に係る借入元本返済及び利子の支払という2つの方法が付け加わることにより,時期の選択や手続に関し,より弾力的な送金が可能となる。
本件においては,原告を設置することにより,配当を支払う方法のほかに,負債(元本・利息)の返済という手段を用いることが可能となっており,その時々での様々な外的環境によって上記のいずれかの方法を選択することが可能であるという意味で手段が多様化したから,c社等の事業子会社等から還元された利益をa社へ送金する際の時期や方法の柔軟性を確保することが可能(少なくとも,原告を設置する前は,c社からb社に対して負債返済という形で送金することはできなかった。)になった。
(イ) 租税負担が減少したこと
a a社に多額の税額控除の繰越しが発生していたこと
a社においては,2002年(平成14年)頃,税額控除の繰越しが多額(22億3400万米ドル,円貨にして2678億5660万円(期末為替レート119.90円による。)。甲27参照)に上っていた結果,外国税額について直近の事業年度で課税の調整の対象とされず,直ちには国際的二重課税が解消されないことが問題となっていた(甲48,49)。そして,税額控除は,本来,米国において最終的に課される米国法人(a社)の法人所得税額より差し引かれる金額であるから,a社が,同年頃に約2700億円にも及ぶ資金負担を余儀なくされていたことを意味するところ,この額は当該税額控除が認められた将来の事業年度に回収されることになるのが原則であるが,所定の繰越期限を経過するともはや回収できないから,控除が認められなかった外国税額控除については国際的二重課税が恒久化する。また,回収できる場合でも,回収するまでの間は(米国政府に対して)無利息融資をしているのと同様であるから,税額控除の繰越しがある間は資金効率が低下していることになる。
b 原告の設置による租税負担の軽減等
c社が,原告を設置する以前,b社に対して行った配当(配当とみなされる自己株式取得を含む。)には,外国法人であるb社を納税義務者として,支払金額の10%に相当する額の源泉所得税(所得税法161条5号イ,212条1項,213条1項1号,日米租税旧条約12条2項(b))が課される(なお,当該徴収によって日本における課税関係が終了(所得税法178条)する。)一方,b社が受領した配当については,a社の納税申告において外国税額控除によって国際的二重課税の調整が行われることになるが,前記aに述べたとおり,a社が多額の税額控除の繰越しを抱えた租税上の地位(タックス・ポジション)にあったために,上記の国際的二重課税が直ちには調整されない状況になっていた(なお,甲75も参照)。
これに対し,原告を設置した後においては,c社が,原告に対してした配当の支払には,内国法人である原告を納税義務者として,支払金額の20%に相当する額の源泉所得税(所得税法174条2号,212条3項,213条1項1号)が課される(上記に述べたb社に対する配当に係る源泉所得税とは,根拠条文,納税義務者(前者は外国法人,後者は内国法人)及び税率が全て異なるから,その意味において原告設置の前後で源泉所得税に関する取扱いに変化はない旨の被告の主張は,誤りである。)が,原告を納税義務者として課される上記の源泉所得税は,受領者(株主)である原告の法人税の前取りとしての性格を有していることから原告の法人税と調整されて原告に課税所得がない場合には還付される(同法174条2号,法人税法68条1項,74条1項3号(ただし,平成22年法律第6号による改正前のもの),75条の2第1項(ただし,平成22年法律第6号による改正前のもの),78条1項(ただし,平成14年譲渡については,平成14年法律第79号による改正前の法人税法79条1項))のであり,実際に原告は,本件各譲渡の際にc社が徴収した源泉所得税(本件各譲渡がされた月(平成14年,平成15年及び平成17年の各12月)の翌月である1月に納付)について,法人税の確定申告(おおむね2月)をすることによりその全額の還付(おおむね3月)を受けている(甲78の1ないし3)。また,原告の設置に際し,原告のc社等4社株式の購入代金の大部分を準消費貸借によるb社からの融資として,負債割合を高めた資本構成とした(乙25,29)ため,原告からb社に対する送金は,負債の返済(その大部分は元本の弁済で残額が利子の支払。なお,負債元本の返済に対しては源泉所得税が課されない。)の方法を採ることとなり,c社から米国への利益還元において課される源泉所得税の額が利子を支払う部分に係る源泉所得税(当時の米国法人向けの利子の支払に適用される税率は10%)のみに限定され,源泉所得税が徴収される対象となる部分が相対的に減少し,a社がネットで受け取ることのできる資金の額が増加した。
このように,資本構成を最適化した原告の設置によって,a社の租税上の地位(タックス・ポジション)に起因する国際的二重課税のリスクをより早期に,より確実に排除するという効果が生じており,資金効率の改善は確実に実現している。
c 組織形態の選択において二重課税を排除して資金効率の改善を図ることは正当な経営判断であり,源泉所得税の縮減を理由に組織形態の選択に係る事業目的が否定されないこと
一般的に,企業の経営判断に基づいて行った私法上の行為の結果として租税負担の減少がもたらされることになることがある場合に,それが広い意味での租税回避行為に該当するということはあり得るとしても,私的自治ないし経営判断の自由を租税法上も尊重するという考え方に鑑み,それはいわゆる節税であって,否認規定が適用されるようなものではないと理解されている(甲132参照)ところ,子会社の設置のみならず,このような子会社の資本構成の決定も経営判断に委ねられるべき事項(なお,特に,資本構成に関しては,事業活動を行うに当たって必要な資金を資本(株式,出資)で調達するか,あるいは負債(借入れ,社債)で調達するかは経営判断の問題であると解され(甲131),その例外として一定の要件の下で負債の利子の損金算入を制限する個別的否認規定としての過少資本税制が規定されているものである。)である(甲129)。
また,外国法人に対して源泉所得税を課するのは,国際取引において所得の源泉国がその課税権を確保するために行うものであるが,他方,外国法人は居住地国においても課税されるため,国際的二重課税を強いられる危険があるところ,源泉所得税の賦課におけるこのような性質を前提とすれば,納税者が,源泉地国課税と居住地国課税との国際的二重課税を回避するための努力は,国際的に事業を展開する企業であれば当然に行っているものであって,かかる考慮が合理的な経営判断の範ちゅうに含まれることは明白であり,いわゆる課税ベース(所得課税の対象範囲)を浸食するような「租税回避」とは全く性質が異なるものといえる(甲129,133参照)。
本件においては,資本構成が負債比率の高い中間持株会社である原告の設置により,源泉所得税の取扱いが変更されたものであるところ,これは,子会社の設置や当該子会社の資本・負債構成の決定という私的自治に委ねられた事項(当事者の自由な選択として許される事項)の決定を通じ,配当と借入金の返済という二つの法形式に分解されることによって源泉所得税の取扱いが変更されるものであり,法が予定する範囲内の源泉地国課税と居住地国課税の国際的二重課税を回避するためにとる行為にすぎないから,国際課税において「租税回避」と評価されることはなく,その事業目的の正当性を否定されることはないというべきである(甲133,158参照)。
また,c社の配当支払に課された源泉所得税は,既にc社において(法人税として)課税済みの法人所得を法人株主が受領する際に課せられるものであるから,たとえ,従前,c社がb社に対して直接配当を支払う際に当該配当に源泉所得税が課せられており,当該源泉所得税に係る二重課税が米国における外国税額控除制度によって解消されていたという経緯があったとしても,原告の設置以後,c社から原告に支払われた配当に係る源泉所得税につき原告が法人税の確定申告において我が国の所得税額控除制度(法人税法68条)を利用して還付を受けること(我が国の租税法が法人・法人株主間の二重課税を排除する趣旨で,配当所得に対しては当初に所得を稼得した法人段階で一回のみ課税することを原則としている(同法23条参照)ことの帰結である。)や,原告からb社に対する支払について源泉所得税が課される金額が縮減したことは,c社に対する法人税の対象である課税所得に一切の影響を与えるものでも(これらのことは,もともと租税法が課税の対象から除外していたことに由来するものである。),何ら課税ベースを浸食するものでもなく,税負担の公平を損ねるものでもない。
したがって,a社が原告を設置したことについて,b社とc社との間の取引に形式的に介在させ,c社からb社への配当(自己株式取得を含む)支払を原告(内国法人)への配当とb社(外国法人)への借入金の返済という二つの法形式に分解することにより,我が国における課税関係は源泉徴収によって終了するものとされ,かつ,米国の税制上も適法に還付を受けることが認められていない外国税額(我が国の所得税)について,我が国の所得税額控除制度(同法68条)を殊更に利用して我が国から還付を受けようと企図するものであって,法が当然に予定していない源泉所得税の取扱いの変更をもって我が国における税の負担を軽減することを唯一の目的とするものであり,税負担の公平という観点からも正当な事業目的があるとはいえない旨の被告の主張は,法人税の減少と全く関係がなく,法人税の減少との間に因果関係もない事実(源泉所得税の縮減)を同法132条1項の「不当」性の評価根拠事実として主張するものであるだけでなく,国際的二重課税を甘受することを強制するものでもあって,失当である。
(ウ) 資金を集中的な管理を可能としたこと
a 資金の集中的な管理をする必要性
○○グループの経営体制は,地域権限分散的な体制から,全世界の予算と人事についてa社が権限と責任を持つ中央権限集中的な体制に変更され,a社が各地域・国における正確な財務状況を理解した上で,○○グループ全体にとって最善の経営判断を行うことが可能となったと同時に,a社は,単なるデータの管理に止まらず,中央権限集中化の徹底のために,資金面においても,全世界の子会社等を見渡し,○○全体にとって最適な方法で資金を管理及び活用する権限を掌握することにも取り組み,各国の事業会社レベルでは稼得した利益をa社に送金することが原則とされ,a社の財務部門が,全世界の各地域・国の子会社を対象として,「資金管理業務」(①資金需要のあるグループ各社への資金供給,②流動性の規模及びリスクの管理と運用並びに③為替変動リスク及び投資収益の目標管理)及び「資金計画業務」(各地域・国の事業に係る資金需要や各地域及び世界全体における事業展開の見通しを考慮して資金計画の作成を行うこと)を担当することにより,全世界での事業展開のために必要な場所に最小の費用と時間で資金供給を行うとともに,余剰が生じたときにa社の株主への利益還元を適時,適切に行うことが可能になった(甲49,73)。
b 中間持株会社を事業会社と同一国に置く必要性
中間持株会社の設立は,前記aに述べたa社の財務部門の一括的・集中的な資金管理機能をより効率化するために必要とされたところ,中間持株会社を利益を稼得する事業会社と同一国に置くことにより,利益から生じた余剰現金を当該国において一旦留保した上で当該国内で再投資を行うか,a社に送金するかの選択が可能となるほか,国外送金には,法律上・会計上の手続,源泉課税等,様々な障壁(バリヤー)が存在することも考慮すると,迅速かつ柔軟な資金の還流という観点からは,中間持株会社は,原則として事業会社の所在地国に置くことが望ましい(甲81)。日本における○○グループを成す会社(c社を含むがそれに限られない。)の利益を国内で集中的かつ一元的に管理する受皿ができたこと自体に,原告の法的,経済的な存在意義がある(甲129)。
c 原告が果たしている金融仲介機能(A17意見書で述べられている財務管理ないし財務機能を含む。)は正当な事業目的であること
(a) 中間持株会社を含む持株会社の機能,役割として金融仲介機能があることについては,理論的にも解明されており(甲129),中間持株会社が金融仲介機能を果たすことはまさに正当な事業目的である。ある法人の行為が法人税法132条1項によって否認できるかを検討する際に,当該法人が「中間持株会社(H型)」であってその事業目的が株式保有・金融仲介機能であることは,当該法人が一般事業会社であって製造業や販売業を営んでいることと同じ程度に,当該法人の行為の不当性の根拠事実とはなり得ない事実である(甲129参照)。そして,米国多国籍企業の多くが原告と同様の機能を持つ中間持株会社を利用(フォーチュン500に挙げられる著名米国企業の上位25社のうち16社(64%)が,外国に「中間持株会社(H型)」を有している。甲81,128参照)し,国連やOECD等の国際機関やこれを受け入れた多くの国が「中間持株会社(H型)」の金融仲介機能を認知(甲81,128)し,欧米では経営戦略上のメリットを追求するという目的で持株会社形態を採ったとする例はほとんどみられなかった(甲82)ことにも照らすと,a社による中間持株会社の設置自体が,何ら「異常ないし変則的」な行為又は不合理・不自然な行為ではなく,その設立に事業目的が認められるというべきであるし,a社のグローバルな,中央集権型の財務管理戦略と整合的であって,取引コストやエージェンシー理論の問題を考慮しても,原告に財務機能を置くことが適切であったともいえる(甲81)から,原告の機能・役割を否定する根拠もないというべきである。
(b) 被告は,原告には,子会社に生じた配当可能利益の全てをすぐに持株会社に吸い上げた上で,同持株会社において,当該資金を運用・管理し,必要に応じて本社に配当として資金を還元し,あるいは,事業資金が必要な子会社に対して資金を提供するなどして資金管理を集中的に行うといったような機能や役割を果たしている実態がない上,c社が日本国内のグループ会社に資金を配分するために採用していたキャッシュマネジメントシステムにも参加していないことを指摘し,原告が金融仲介機能を有していなかった旨主張する。
しかしながら,原告の金融仲介機能とは,日本における○○グループを成す会社からc社等の子会社を通じて利益還元を受け,それを最終的にa社に利益還元するために,その間の資金移動を仲介する「中間持株会社(H型)」としての機能であり(甲128,甲129参照),具体的な資金需要に応じてグループ各社に資金配分を行う「中間本社(M型)」としてのそれではない(甲128参照)から,被告の指摘するところは,原告が「中間持株会社(H型)」として果たすべき機能及び役割を果たしていることを否定することにならない。また,c社が運用しているキャッシュマネジメントシステムは,同社が「中間本部(M型)」としての機能を果たす際に必要なシステムであって,原告とa社との間の資金の流れとは何の関わりもなく,これに組み込まれているか否かは,上記の原告の金融仲介機能とは全く関係ない。
したがって,被告の主張は,原告の金融仲介機能とは関連性がなく,失当である。
(c) 被告は,原告がc社とb社の間にあって資金を通過させるだけのトンネル会社的存在にすぎない旨指摘し,余剰資金の集中及び一元的管理という機能を担うものにはほど遠いものである旨主張する。
しかしながら,中間持株会社は,最上位の株主(本件ではa社)の中央集権的な財務管理を助け,資金管理の効率を高めるために受け皿として機能するというその存在それ自体に法的,経済的意味があるもの(甲129)であって,自らが資金管理を集中的に行うもの(それは「中間本部(M型)」の役割である。)ではなく,株主を唯一の顧客として金融仲介サービス(本件でいえば,原告を設置した4つの目的の達成)を提供するものであることからすれば,中間持株会社の法人としてのメリットはそれを設置した株主が享受するものであって,中間持株会社自身のメリットを観念することができない(甲129)から,これをもって中間持株会社が正当な事業目的を有していないことにはならないし,中間持株会社の法人としての実体がないことにもならないから,被告が原告を「トンネル会社的存在」などと指摘することは失当である。
カ ○○グループは日本において新規事業の開拓を試みてきたこと
原告が設立されてから今日に至るまでの10年近くの間,経済情勢の悪化や事業提携等を新たに行おうとしても,顧客や相手方が,原告よりは○○ブランドで事業を既に行っているc社のような法人を取引相手として選好する傾向が強まったという外部要因もあり,○○グループが日本において新規事業を行う場合の受皿会社として原告が活用された事例は一度もなかったのは事実である。
もっとも,日本独自の買収先の発掘は重要な課題であったため,日本における○○グループは,原告が設立された当時,日本における○○の事業の成長のためにソフトウェア及びサービス分野で○○の事業戦略上の補完ができ,シナジー効果が見込めるような日本独自の企業買収を具体的に検討し,定期的に買収候補会社をリストアップして,随時a社と相談するなどのことをしていた(甲38)。また,日本には優れたソフトウェア会社は少なく,仮にあったとしても,買収対象としての魅力のある会社が乏しかったこともあり,過去10年間では日本独自の企業買収は実現しなかったにすぎない(甲38)。
これまでの実績だけを見て日本における企業買収の可能性がないと決めつけるのは,ビジネスの現実を無視した身勝手な思い込みにすぎず,原告の設置当初から,原告に新規事業の受皿会社としての機能が期待されていなかったとするのは,全くの事実誤認である(甲38)。
キ 原告は持株会社としての機能を果たしており,その設置に正当な事業目的がないとはいえないこと
(ア) 企業グループの組織形態の選択は基本的に私的自治ないし経営判断に委ねられる問題であること
a 企業グループ内の組織形態(株式保有構造)は,当該企業グループが行う各事業の内容,各事業に関与する個々の事業体の(狭い意味での)事業上の目的,グループ全体の財務体質の健全性及び経営管理等の効率性といった諸点を考慮した上で,法的,会計的又は税務的な観点から総合的に合理性を検討して決定されるものであり,最終的には,グループ全体の利益(当該企業グループの最上位にある企業が上場会社である場合には当該企業の株主の利益)を最大化するために最適であると認められる組織形態が当該企業グループの経営判断として選択される。多国籍企業においては,複数の法域にわたって多数のグループ会社を擁するのが通常であるため,この組織形態の選択に当たっては,その多国籍企業のグループが中央集権的な財務管理によって運営する方針をとっているか,それとも各法域ないし地域に分権的に財務管理機能を分配して運営する方針をとっているか,さらに,その多国籍企業のグループの事業が基本的に一つの戦略に基づいて運営されるべき事業から構成されているか,あるいは事業の種類が複数にわたり,それぞれの種類の事業について,さらには法域や地域毎に別々の事業戦略によって運営するという方針をとることがより合理的であるか,等々の経営上考慮すべきさまざまな要素を勘案することが必要である。さらに,グローバルに子会社を展開する場合には,いずれの法域についても類似の組織形態を採用するという組織の共通化といったグループ全体からみた管理のしやすさ(コントロール確保)という観点や,全世界的な財務の集中管理の必要性,設置コスト(コストには組織運営・管理のための継続的なコストを含む。),エージェンシーコスト(資金を全世界のグループ全体の利益のために中央において管理するために要するコスト)といった観点も考慮される(甲81参照)。
このように,企業グループの組織形態は,諸般の事情を総合的に考慮した上で,経営判断として,当該企業グループにとって経営者がその時点において最適と考える組織形態が選択されるものであるから,その策定において私的自治の原則が妥当するのは当然であり,最もよく判断をなし得るのは,企業グループを統括する地位にある経営者自身(通常は取締役)であって課税庁ではない。また,経営判断においては,上記のような様々な経営上考慮すべき要素をタイムリーに勘案して判断をすることが求められていることを考えれば,そこに一つの絶対正しい判断があるということにはならないのが通常であることは経験則上も明らかである。そうである以上,そこで経営者がなすべき経営判断には広範な裁量が認められるべきであり(以上につき,甲129参照。),判例(最高裁平成21年(受)第183号同22年7月15日第一小法廷判決・裁判集民事234号225頁)もこれを是認している。
これを前提とすれば,一見,異常変則に見える法形式であっても,その経営判断が合理的経済人の行う判断の範囲内であれば,税法がそれを「不当」と評価することはできない(甲132参照)のであり,そのような形式の選択が税負担を減少させる効果を伴うとしても,直ちに,租税回避以外に正当な理由あるいは事業目的がないとはいい切れず,税負担の減少効果がなければそのような行為(組織再編)をしなかったという因果関係が客観的に立証できて,初めて,租税回避以外に正当な理由あるいは事業目的がないといえるものというべきである。裁判例も,株式の譲渡や資本取引が関係する事案においては,取引当事者の採用した法形式を,経済的・実質的観点から安易に否定することには慎重な考え方を示している。
b 前記aに述べたところからすれば,a社が日本に中間持株会社を設置することは私的自治ないし経営判断に属する事項であるといえるところ,外国法人の対日投資の方式として,支店形態によるか,事業会社を直接子会社として持つか(直接子会社方式),日本に中間持株会社を置くか(間接子会社方式)は,何れも同様に「経済的にも合理的かつ自然な」方式であり,どの形態を選択するかはまさしく企業の経営判断であるし,利益還元も,それぞれの企業形態に応じた手段によって行われるのであり,経験則からみても,直接子会社方式の方が間接子会社方式よりも「経済的にも合理的かつ自然な取引」というような評価はできないから,b社が直接c社に同社の株式を譲渡することによってc社から利益の還元を受けることが経済的にも合理的かつ自然な取引である(その反面として,本件各譲渡が経済的に不合理かつ不自然な取引である)とは評価することができないものである。そして,前記イに述べたa社が原告を中間持株会社として日本に設置するプロジェクトの事業目的として挙げる4つの目的は,a社が,他の多国籍企業の中間持株会社と同様の機能・役割を原告に期待していたことを示している。さらに,①a社が国別分権型組織からグローバルに統合された組織への変革を進めており,特に財務面では中央集権的な経営体制を構築する方針の下,グローバルな再編を進め,日本再編プロジェクトもその一環であったことや,②日本における○○グループを成す会社の事業には販売事業,製造事業等複数のものがあり,全ての会社が同一の戦略で経営されるべき事業を営んでいたという状況ではなかったこと等も勘案すれば,a社が日本において「中間持株会社(H型)」としての原告を設置する組織の再編を行ったことは,経営組織論上も理にかなった極めて合理的かつ的確な経営判断であるというべきである。
(イ) b社には果たし得ない機能があることを原告の事業目的として要求する理由がないこと
前記(ア)aに述べたとおり,企業グループがいかなる組織形態を選択するかは私的自治の範疇に属する領域であって,原告が,当該組織形態の中で一定の機能及び役割(具体的には,前記イに述べた①ないし④の4つの目的)を果たす限り,原告には○○グループ内における正当な事業目的及び存在意義が認められるから,原告の機能及び役割がb社には果たし得ないものである必要はないというべきである。また,原告の場合には,b社と同様の「中間持株会社(H型)」としての機能を果たしていたほか,事業会社の所在地国に存在する点でb社にはない利便性(前記オ(ウ)b)を有し,資金効率の改善(前記オ)にもより貢献していた。
また,本件において,従前から存在したb社の機能及び役割に付加されたものを原告に要求することは,類似の法的効果をもたらす複数の行為が存在し,いずれを選んでも正当な事業目的が達成できるという前提を置いた場合に,従前選択した行為から離脱するには何らかの特別な理由が必要である,又は従前選択した行為よりも租税負担が軽くなるような行為を後に選択し直した場合には,最初に選択した行為には正当な事業目的があるが,後に選択された行為には正当な事業目的がないと主張するのに等しく,法形式の選択に係る私的自治の原則に正面から抵触するものでもあるし,原告を設置したという組織再編行為が,本件各譲渡という否認対象行為との関係において,いかなる意味で私法上の法形式の選択可能性の濫用であるといい得るのかという観点からの分析を欠くものでもある。
(ウ) 日本の租税法上法人が持株会社であるか否かは当該法人の租税法上の取扱いに何ら影響を及ぼすものではないこと
a 法人の「実体」は,法人格の付与により私法上の権利義務の主体となること,及び法人自身が法律に従った意思決定機関による意思決定をしていることで充足され,物理的な意味での当該法人役員,従業員の事業活動の不存在や,専用事業所ないし固有の事務所の不存在,業務の外部委託は法人の「実体」を否定する根拠にはなり得ないというべきである(甲129)。
我が国の法人税制又は会社法制において,持株会社(戦略的・経営的機能を有しない「H型」のみならずかかる機能を有する「M型」を含む広義の意味で用いる。以下,この項において同じ。)について直接定めた規定は存在せず,株式を100%保有することにより子会社を支配する場面に関する規定がある(法人税法2条12号の6の4,12号の7,12号の7の6等)にとどまるところ,①法人格を有する事業体が法人として取り扱われること,②完全支配関係を有する法人が法人として取り扱われること又は③連結納税における連結親法人として取り扱われることに係る要件として,(あ)専任の役員若しくは従業員の存在,(い)専用事業所ないし固有の事務所の存在又は(う)業務遂行の独立性,主体性を求めたり,それらの有無によって法的効果を異にしたりするような規定は一切存在しない(甲129参照。なお,被告は,いわゆる外国子会社合算税制の適用が除外される対象となる「統括会社」に該当するための要件として,「本店所在地国に統括業務に係る事務所,店舗,工場その他の固定施設及び当該統括業務を行うに必要と認められる当該統括業務に従事する者……を有していること」(租税特別措置法施行令39条の17第4項2号)が明記された(平成22年政令第58号による租税特別措置法施行令39条の17の改正。ただし,平成22年政令第58号においては,租税特別措置法施行令39条の17第3項2号として規定されており,平成23年政令199号による改正により,現行の規定となった。)ことを挙げて上記の点を争うが,これは,我が国の租税法が,従業員や固有の事務所がない中間持株会社の存在を予定していることの表れである。)。
すなわち,我が国の法人税制においては,株式を100%保有する法人については,株式の保有以外に要件を規定しておらず(なお,外国子会社合算税制を定めた規定の中には,株式の保有自体に固有の事業目的があることを明文で認める(平成22年法律第6号による改正後の租税特別措置法66条の6第3項の括弧書き「株式等の保有を主たる事業とする……もの」参照)ものがある。),当該法人が100%の株式を保有する子法人が複数ある法人(持株会社)であるか否かも問わないから,「中間持株会社(H型)」を「中間本部(M型)」と租税法上別異に扱うべき理由は全くない。
b 租税法は,主体性,独立性がない企業組織の存在を前提として,かつ,企業の経営判断に基づく組織再編の実行に対して税制が中立性を保つことができるように,組織再編税制や連結納税制度を設けており,これらの税制を整備した税制改正の基本的考え方(例えば,平成12年7月14日付けの税制調査会答申(甲99)には,企業の経営形態の選択に税制が中立的であるべきとする基本的な考え方が明確に示され,「連結納税制度の基本的考え方」(甲104)においても,連結納税制度については,個々の企業に独立性,主体性がない完全支配関係にある企業グループについてのみその利用を認める,という同税制の基本的な考え方が明確に示されている。)にも現れている。
原告に主体性,独立性がないことを理由にその存在意義を否定することは,これを全く理解していないものであり,そのことをもって,法人税法132条1項の「不当性」の適用要件を満たすというのであれば,完全支配関係のあるグループ企業である連結法人が行う行為又は計算は全て同条による否認の対象となってしまうところ,そのような解釈が上記の我が国の税制の基本的な考え方と両立しないことは明らかである。
(エ) 原告の設置に正当な事業目的がないと被告が指摘する事情がいずれも被告の主張を基礎付けるものとはいえないこと
a 原告の意思決定及び業務遂行が全てa社のコントロール下にあって独自性がなかったこと等について
原告は,中間持株会社として,親会社であるa社の経営判断に従いつつ,日本における○○グループを成す会社の親会社として,法人として必要な機関決定を行って業務を行っていたところ,100%子会社の意思決定及び業務遂行が全てa社のコントロールに服していることは,企業グループにおける経営管理上当然のこと(同旨を述べた裁判例もある。)であり,そのことが直ちに当該子会社がその子会社との間で行った行為の経済合理性を否定する根拠事実とはなり得ない。公開企業であり,純粋経済人というべきa社の判断が,原告が純粋経済人であった場合に行うべき判断と一致することも自然かつ合理的であり,原告がa社の判断に従って行動したことが,当該判断の経済合理性を失わせることにはならない。
b 平成14年譲渡及び平成17年譲渡において1株当たりの取得価額を修正した際の原告の関与等の態様について
原告は,平成14年譲渡及び平成17年譲渡において,c社が取得した自己株式の株数及び取得価額が修正された過程においてc社と協議していないが,これは,修正に関するc社の取締役会における説明を原告の取締役を兼務するA7(平成14年譲渡)又はA8(平成17年譲渡)が行っている(乙39,49)ために不要であったにすぎず,何ら不自然,不合理ではないから,原告の意思決定や株主としての権利行使が形式的なものであるともいえない。
c 原告専任の役員や従業員がおらず,業務に必要な行為がc社に委託されていたことについて
そもそも,持株会社は,自ら実業としての事業活動を行うわけではないから,専任の役員や従業員がいなければその機能が果たせないというものではなく,かつ,中間持株会社としての意思決定の結果は,上位の親会社の経営判断又は傘下の子会社の事業活動として実現又は実行されるのであって,兼任の役員や事務の業務委託により,会社としての意思決定や業務は問題なく遂行されているから,役員が専任ではないことも,事務が業務委託されていることも,持株会社としての機能が存在しないことを根拠づける事実とはなり得ない。
また,「中間持株会社(H型)」においては専任のスタッフを持たないのが通常(現に,フォーチュン500の米国多国籍企業上位25社に含まれる中間持株会社16社(64%)のうち14社は,従業員も固有の事務所も持っていない。また,日本マクドナルドホールディングス株式会社,スミダコーポレーション株式会社及び株式会社エスラインは,管理,経理等の事務処理業務を全て子会社に業務委託しているためにいずれも従業員が全く存在していない会社である(甲86ないし88)。被告は,これらの会社につき,原告の業務実態とは異なる(乙69ないし71参照)などと指摘するが,専任の役員・従業員がおらず,かつ,子会社に対して必要な業務を委託しているとしても,純粋持株会社法人がその機能・役割を果していないこととは全く関連性がない上,原告の場合にはA6が原告の初代取締役を兼務している(甲31,乙54)から,被告の指摘は失当である。)であり,国際機関もこれを認めている(甲81,128)。さらに,中間持株会社が事業子会社の経営リスクが他の事業に波及するのを防ぐ(リスク遮断)目的で設立される例がある(デュポン社は,資本金上位25の子会社のうち,ヨーロッパ子会社,中国子会社を傘下とする持株会社5社をアメリカ国内に有している。甲85・171及び182頁参照)ところ,これは,中間持株会社の法人としての特質である有限責任性を利用することが中間持株会社の事業目的として認められている(中間持株会社の存在そのものに機能及び役割が認められる)ことの証左である。
本件においては,日本に駐在していた原告の役員を兼務するa社の経営幹部が,本件各譲渡が行われた時点においては,a社の方針を踏まえつつも,市場において現実の顧客や従業員と向き合っているc社等4社の事業会社の意向も受けて,両者の調整を行い,日本における○○グループの事業全体に関する実質的な意思決定を行っていたし,業務に必要な行為がc社に業務委託されていたとしても,それは事務的な作業の委託であり,日本における○○グループの事業全体に関する意思決定という原告の中核的な中間持株会社としての機能については,原告が独自に維持していた。
なお,被告は,原告がペーパーカンパニー的存在である旨指摘するが,そもそもペーパーカンパニー的という曖昧な評価が何を意味するものかは全く不明である上,A17意見書からも明らかなように,いわゆる多国籍企業が設置する専任の役員や使用人がいない「中間持株会社(H型)」が独自の財務機能を果たすものであることは学術的にも論証されており,グローバルにも認知されている(甲38,81参照)。
d ○○グループの米国外での組織編成について
被告は,①2004年(平成16年)年12月以降に原告の全持分がb社からオランダ法人に譲渡されていること(乙84),②原告とa社との間に中間持株会社が幾重にも設置されていること(乙85)及び③台湾地域を統括されるとされる持株会社がオランダに設置されたこと(乙85)を挙げ,これらの事情が,原告を設置したことにつき租税負担の軽減以外の事業上の目的が見いだし難いことの根拠となり得る旨主張する。
しかしながら,原告の持分がb社からオランダ法人に譲渡されたのは2004年(平成16年)年12月以降であり,本件一連の行為の端緒であるb社による原告の全持分取得(2002年(平成14年)2月12日)から3年近く後の出来事であるし,台湾地域の持株会社は原告とは異なる地域での異なる事業に関するものであるから,いずれも本件各譲渡の課税要件とは全く関連性がない。また,○○グループは,2000年(平成12年)頃以降からの○○グループの全世界的な組織編成戦略の一環として,2007年(平成19年)に米国外の全世界を統合する中間持株会社を設置するに至るまで,原告の設置後もグローバルな再編を続ける中で中間持株会社を重層的に設置するという組織再編を行ったものである。これらの中間持株会社は,個別的な事情に応じてそれぞれ固有の経済的機能,事業目的をもって設置されたものであり,資金管理一つをとっても米国外事業全体でみた資金管理や日本事業に限った資金管理など様々な次元における機能がある。
したがって,グループ内に複数の中間持株会社が重層的に存在すること等の事情が原告の機能や事業目的の存在を否定する根拠となることはあり得ない。
(5) 本件融資が合理的経済人の行為として不自然・不合理な行為であったとはいえないこと
原告は,本件株式購入をするに当たり,b社から巨額の融資(1兆8182億2000万円)を受けたものである(本件融資)ところ,本件融資は,次のとおり,何ら合理的経済人の行為として不自然,不合理な行為とはいえない。
ア 担保の設定等の本件融資に係る契約条件等について
原告は,本件融資を受けてした本件株式購入により,c社の株式というその借入金額(1兆8182億2000万円)に見合った優良な資産を取得し,b社は原告の全持分を保有することによってc社を間接的に支配しているから,本件融資はc社の株式の有する経済的価値によって担保されている。また,利息についても,独立・対等当事者間で支払うであろう程度の利率での支払を行うことが合意されて実行されていた。これに加え,仮に,返済に問題が生じたとすれば,原告の全持分を保有するb社が,取締役の解任等の株主権の行使を通じて適切な措置を講じることが可能であったことも併せ考慮すれば,本件融資に当たり,担保の設定や分割による返済といった条件を付すことが合理的経済人の行動として必要であったとまではいえない。
イ 原告が本件融資を返済期限までに完済することができる合理的な見込みがあったことについて
原告は,本件融資(1兆8182億2000万円)のうち,1317億7000万円については,平成14年5月に2回目の増資により出資を受けた金額でもって返済している。また,残額の1兆6864億5000万円については,c社が原告による買収前の過去3年間において,毎年1000億円超の税引後純利益を計上し(甲79の1ないし3),平成14年から平成16年までの各年度の税引後純利益も順調に増加していくことが予測されていた(乙30)ところ,毎年の成長率が1%をやや上回る程度(計算上は,約1.12%。これは,かなり保守的な見通しである。)であったならば,本件融資が実行されたとき(平成14年4月22日)からその返済期限(平成24年12月20日)までの期間におけるc社の税引後純利益の見積り総額は,借入残高と同額の約1兆6865億円となり,原告はc社から受領する配当ないし自己株式譲渡代金をb社からの融資の返済に充てることにより本件融資を約定どおりに返済することが可能であることを踏まえると,本件融資を合意どおりに完済することができることは,当初から合理的に想定されていたといえる。
このように,本件融資額を返済期日までに返済することはおよそ不可能なものであったとして,本件融資が当初から約定どおりに返済されることが想定されていないものであるとうかがわれる旨の被告の主張は,誤った推測に基づくものである。
ウ 完全支配関係下にあるグループ内の組織再編については,具体的な資金の移動を伴わない(資金が内部で循環している旨被告が指摘することを含む。)のが通常であることについて
本件株式購入は,完全支配関係にある○○グループ内の組織再編の一環として行われたものであり,その取引の態様を一般の株式売買における独立当事者間取引と単純に比較することはできない。また,完全支配関係下の組織再編は資金の移動を伴わずになされる方がむしろ普通であり,企業形態の選択の弾力化に対する税制の中立性という観点(これは,クロスボーダーの組織再編についても共通するものである。)から,組織再編税制もそのような企業実務を前提にして課税関係を規定しているから,同族会社の行為又は計算で,資金の移動を伴わないことが独立当事者間取引と異なるからといって,租税法はこれを不合理,不自然とは評価していない。また,出資金を原資とした貸付金の返済は,いわゆるデット・エクイティ・スワップの一種として独立した第三者間においても通常行われている取引である。
また,本件はクロスボーダーの組織再編であったため,我が国の私法上会社分割や株式交換といった手法を利用することができず,有償の株式譲渡(売買)による取得という法形式でされたものであるが,原告がb社による現物出資によってc社の発行済株式の全部を取得することも可能であった。そして,本件の法形式であった有償の株式譲渡(売買)による取得の場合,資金の移動なしに再編を行うことができる現物出資との比較から,外部資金を利用することなく,かつ,内部資金の資金効率を阻害することなく購入資金を調達することが最も経済合理的かつ順当な方法(現物出資による増資も可能であった中で,現金出資によることとした以上,増資資金の銀行口座への滞留を最短にとどめることはキャッシュ・マネージメントの観点から企業経営上当然の行為であって,その合理性を否定することはできない。)であり,a社がc社の発行済株式の全部の購入資金の調達方法を決定するに当たっては,原告の資本・負債構成について,送金の時期,方法の弾力化の観点から負債比率を高める必要があった反面,過少資本税制への対応の観点から一定規模の資本等を確保する必要もあった。a社はその比較衡量を行った上で,増資の金額と準消費貸借の金額を確定したものであり,その配分比率の決定は,まさに企業としての経営判断の結果であった。そして,準消費貸借による融資により,資金の移動を伴わずに株式を購入したことも,準消費貸借契約が民法上の典型契約であって,企業活動の中で広く利用されていることからして,何ら,不合理,不自然な行為とはいえず,本件が完全支配関係下にあるグループ内の組織再編のための株式の売買であることからすれば,資金の移動を伴わない準消費貸借を選択するのはむしろ経済的に合理的であったといえる。
さらに,原告の事業目的は,日本における○○グループを成す会社の株式を保有することで実現するのであり,株式取得後は,経常収支としては子会社からの利益還元を原資として借入金の返済等を行い,事業資金が必要になればその時に借入れ等を行えば良かったのであるから,当時の会社法制上増資払込金を保管する必要がある期間が経過した後に,これを現預金として滞留させることなく,株式購入代金の決済又は借入金の返済に充てたことが,資金効率の確保という観点から経済合理性のある行為だったことは,企業経営の常識に照らせば明らかである。
以上によれば,本件融資を不合理・不自然なものとする理由はなく,負債比率が高い点や担保,返済条件等が有利な点について問題があるというのであれば,そのような問題は,クロスボーダー取引であることによる課税上の弊害に対処する税制である過少資本税制や移転価格税制の適用により融資に係る損益についての所得の計算を是正することを通じて解決されるべきものであるにとどまるというべきである。
(6) 本件株式購入及び本件各譲渡が経済的合理性のある取引であること
ア 本件各譲渡が株主への利益還元を目的として行われたものであること
平成6年の商法改正以降,株式会社による自己株式取得を,配当,中間配当とともに会社の配当可能利益を株主に還元するための一つの手段として利用することができるようになった(甲30)ところ,①c社が平成9年以降自己株式取得と配当を組み合わせて株主への利益還元を行ってきたこと(乙6ないし16,別紙11参照),②c社としては,旧商法上,配当と中間配当の時期に制限があったことから,利益還元の時期によっては自己株式取得によることとし,平成9年以降,毎年定時株主総会において自己株式取得について必要な株主総会決議を得て(乙6,8,10,12,14,17),具体的な必要が生じた際には取締役会決議によって自己株式取得が実行できる措置(乙7,9,11,13,15,16参照)を講じていたこと,③各事業年度において,利益をいくら,どの時期に株主に還元するかについては事業年度ごとにa社とc社との間で行われる具体的な協議を踏まえて決定されていたことを踏まえれば,配当を受ける権利が議決権と並ぶ株主の重要な権利である(会社法105条1項1号,2項参照)以上,c社が究極の親会社であるa社への利益還元(送金)のために自己株式取得を行うことを決定した場合に,原告が,c社の株主として,かつ,a社の子会社である日本における○○グループを成す会社の中間持株会社として,c社の自己株式取得に応じることは,自然かつ合理的で正当な理由のある行為であることは当然であって,その経済合理性の存在について異論がないはずである。
この点だけによっても,本件各譲渡には法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないという立論は成り立ち得ない。
イ 時価による取引の正当性が否定されるのは,当該時価が不合理,不自然な場合に限られること
時価による取引が法人税法の原則である以上,時価により行われた本件各譲渡の正当性が否定されることは,時価自体が不合理,不自然な場合(時価それ自体が当事者の行為により不自然に変動させられていたケン事件第一審判決(乙67)の事案がこの場合に該当する。)以外にはあり得ない。
本件では,a社及びb社を含む○○グループがc社の株式の時価を不自然に変動させるような行為をした事実はなく,原告も,本件各譲渡を原告によるc社の株式の取得価額(帳簿価額)とほぼ同額の1株当たりの譲渡価額で行うことにより私法上の取引として損失の発生を極力回避する等通常の企業と同じ合理的な経済行動を取っているから,時価自体が不合理,不自然とはいえない。また,被告も,本件株式購入及び本件各譲渡が時価に基づいてされたこと自体は争っていない。
したがって,本件株式購入におけるc社の株式の取得価額又は本件各譲渡におけるc社の株式の譲渡価額の決定過程が不自然として被告が主張する事実は,本件各譲渡の「不当」性の根拠とはなり得ない。
ウ 本件株式購入におけるc社の株式に係る取得価額が正当な時価によるものであること
(ア) △△株式評価書(乙30)に基づいて本件株式購入におけるc社の株式に係る取得価額を決定したことが正当であること
本件株式購入におけるc社の株式の取得価額は,△△株式評価書(乙30)に基づいて決定されたものであるところ,評価を行ったh社は○○グループから独立した第三者である専門業者であり,△△株式評価書(乙30)に記載された評価手法及び評価額は,非上場会社であるc社の株式の評価として,専門的知識及び経験に基づく適正なもの(△△評価書(乙30)は,c社が業績予測を提供した当初3年間を重視しているものの,その後の5年間に関するh社による予測数値も併用して評価されており,このように異なる精度の予測を併用し,より長期間のキャッシュフロー予測を求めることは実務上の情報の制約に鑑みて望ましいことと考えられている(甲71・185頁参照)。)である。また,本件株式購入より前の時点において,非上場会社の株式の売買について簿価純資産価額に基づき取得単価を決定していたことが不合理であるとはいえず(時価による取引事例がなかったからである。),逆に,本件株式購入がされた時点のように,第三者評価による時価(△△株式評価書(乙30))が存在する状況で簿価純資産価額によることが不合理であることも明らかであるところ,独立当事者間では複数の評価を徴して価格を決定するのが通常ということであればともかく,被告からはそのような主張も証拠の提示もなされてはいない。また,処分行政庁も,本件各譲渡事業年度更正処分に当たって,当該価額の適正性については異を唱えてはいない。
したがって,本件株式購入におけるc社の株式の取得価額が不合理,不自然なものであるとはいえない。
(イ) A23が,平成14年2月頃,A21に対し,c社等4社の時価総額が80億米ドル(当時の為替レートで約9000億円)であると伝えたという事実は存在しないこと
被告は,A23が,平成14年2月頃,n銀行のA21に対し,c社等4社の株式の時価総額が80億米ドル(当時の為替レートで約9000億円)である旨伝えた事実があった旨を指摘し,これが△△株式評価書(乙30)に基づく本件株式購入におけるc社の株式の取得価額とかい離していたことをもって,本件株式購入における取得価額の決定の過程が不合理・不自然である旨を主張するが,次のa及びbのとおり,被告の主張は誤っていることは明らかである。
a 本件A21・2月メモ(乙28の別紙1)に記載されている「本邦4社株式(時価総額$80億)」という金額はA21の思い違い,聞き間違い又は憶測に基づいて書かれたものであること
次の(a)ないし(d)に掲げる事情を総合すれば,本件A21・2月メモ(乙28の別紙1)に記載されている「本邦4社株式(時価総額$80億)」(なお,「本邦4社」とはc社等4社のことである。以下同じ。)という金額はA21の思い違い,聞き間違い又は憶測に基づいて書かれたものというほかないというべきである。
(a) 本件調査報告書(乙28)及び本件A21メモのいずれにも被告が主張する事実(A23が,平成14年2月頃,A21に対し,c社等4社の時価総額が80億米ドル(当時の為替レートで約9000億円)であると伝えたという事実)の記述はないこと
(b) 本件調査報告書(乙28)には,①平成14年2月18日にA23の話の内容を聞き取ったA21は,本件A21・2月メモ(乙28の別紙1)の「本邦4社株式(時価総額$80億)」の記載に関して「時価総額$80億の金額の根拠資料等はありませんでした。」と明確に供述したこと(乙28・3/7枚目),②本件A21・3月メモ(乙28の別紙2)に関しても(金額の根拠となる)「資料等はありません。金額は,『2月付取引先メモ』(本件A21・2月メモ)にも記載した……$80億を円貨に換算したものです。」(乙28・5/7枚目)と供述したこと,③時価評価精査についても「会計事務所(h社)が,試算していると聞いただけです。」と供述したこと(乙28・6/7枚目)がそれぞれ記録されているところ,上記①ないし③によれば,本件A21・3月メモの「¥8,000億から10,000億と見られる」との記載は,A23がA21に対して伝えた内容を記載したものではないことが認められること
(c) c社等4社の株式の評価を行っていたのはh社であり,c社はh社の作業に必要なデータの作成,提供等の業務は行っていた(甲162の1・2)ものの,評価額の算定それ自体に直接関与していたc社の従業員はいなかったこと
(d) A23がA21に対して時価総額を伝えたとされる平成14年2月又は同年3月の時点では,h社ではc社等4社の株式の評価をする作業の途中であり,その評価額は未定であったことを踏まえれば,仮に,A23が,本件調査報告書(乙28)に記述された内容に近い発言をしたことがあったとしても,そこで示された金額は,2002年2月メモ(甲57の2)に記載された,出資が20億米ドル(US$2Bio),借入れが80億米ドル($8Bio)という数値(合計100億米ドル)以外にはあり得ず,「80億ドル」は,A23が借入金の総額として例示的に伝えた可能性がある(甲45)にすぎないこと
b 2002年2月メモ(甲57の2)の記載内容は,本件調査報告書(乙28)の記載が正確であることを裏付けるものとはいえないこと
次の(a)ないし(c)に掲げる事情を総合すれば,本件調査報告書(乙28)の記載内容と,2002年2月メモ(甲57の2)の原告の増資に係る送金に関する記載内容が一致していることは,本件A21・2月メモ(乙28の別紙1)に記載されている「本邦4社株式(時価総額$80億)」という金額が正確であることを裏付ける事情とはいえないものというべきである。
(a) A23やA25が,A21に対して日本再編プロジェクトの内容を説明していたのは,h社がc社等4社の時価を評価する作業をしている最中(平成14年2月又は同年3月)であり,c社等4社の株式についてどのような評価額が示されるかは誰にも分からなかったから,上記の説明の中で何らかの数字が示されたとしても,それは仮置きの数字でしかないことが明らかであること
(b) 本件調査報告書(乙28)と2002年2月メモ(甲57の2)の記載内容が一致するのは,いずれもc社等4社の時価総額に係る部分とは関係のない部分であり,そのような部分の記載内容が一致したとしても本件調査報告書(乙28)の全ての記載が正確であるとは限らないこと
(c) A23が,平成14年2月に2002年2月メモ(甲57の2)を見て,同メモ(甲57の2)にc社等4社の時価総額を「100億ドル」とする仮置きの数字が記載されているのを認識していたと認められること
(ウ) 2002年2月メモ(甲57の2)における時価総額の記載が本件株式購入におけるc社の株式の取得価額が正当であることを左右するものではないこと
2002年2月メモ(甲57の2)には,出資が20億米ドル(US$2Bio),借入れが80億米ドル($8Bio)という数値(合計100億米ドル)が記載されているところ,この数値は,h社によるc社等4社の株式の時価評価が示されるまでの仮置きの評価額でしかなかった(甲45)から,a社及び○○グループが,平成14年2月又は同年3月において,c社等4社の株式の時価総額を100億米ドル(80億ドル+20億ドル)と認識していたとしても,本件株式購入におけるc社の株式の取得価額が正当であることを何ら左右するものではない。
エ 本件各譲渡におけるc社の株式の譲渡価額が正当であること
原告は,本件各譲渡におけるc社の株式の譲渡価額を本件株式購入における同社の株式の取得価額とほぼ同額としているのは,次のような事情によるものである。
自己株式の取得の実質は,配当と並ぶ株主への利益還元の手段であり,特に株主が1名であれば,利益還元の総額がまず決定されてその総額を1株当たり株式価格で除して取得株式数が決定するという順序で取引内容の決定がなされるのが合理的かつ自然であるし,実務的にも一般的であるから,1株当たりの株式の価額が低くなった場合には利益還元の総額も低くするという関係は全く認められず,1株当たりの株式の価額は取得株式数を決定する要素にすぎない。現に原告が本件各譲渡を行った際のc社による自己株式取得の決定過程においても,取得価額の総額が決められた後にそれを1株当たりの株式価格で除して取得株式数を決定している(甲66の2,67及び68参照。)。
また,c社及び原告が,新たに多額のコストを要する第三者による時価評価を行わずに,第三者評価を経た直近の取引実例価額である1株当たりの取得価額とほぼ同額の1株当たりの譲渡価額を使用することとしたのは,①h社がDCF法を使用して「時価」を算定しており,DCF法は複数年度の事業の見通しを基にしていることから,平成17年譲渡において価格の見直しを行っていなかったとしても何ら不自然ではないこと,②第三者評価を行うことが義務付けられているわけではないこと,③非上場企業の場合,株価が市場の動きに影響されることがなく,その企業価値が短期的な業績変動だけによって大きく変化することもないという経験則があることを勘案した上で,上記のような自己株式取得取引の特殊性を踏まえた判断に基づくものであり,純経済人として何ら不合理,不自然ではない。
オ 本件株式購入及び本件各譲渡における原告の関与が合理的であること
本件株式購入は,完全支配関係にある○○グループ内の組織再編の一環として行われたものであり,本件株式購入におけるc社の株式の取得価額をa社が決定することは,同社が原告の完全親会社である以上,何ら不自然ではない。また,原告としての意思決定手続は会社法制にのっとって適正に行われており,c社に委託した事務についても委託契約にのっとって原告の事務として処理されている。また,本件各譲渡によりc社から受領した資金は,原告の名義で,借入元本又は利払いとしてb社に送金されており,利払いの場合は原告が源泉徴収義務者として源泉所得税を徴収し,税務署に納付している。
このように,原告が,完全親会社の指揮に服していて,事務を子会社に委託しているとしても,その事実だけをもって,独立した法的主体として,旧商法等の規制の下で活動していた原告の行為を不合理・不自然ということはできない。
カ 本件株式購入及び本件各譲渡におけるそれぞれのc社の株式の価額の決定過程からa社ができる限り多額の有価証券の譲渡損を発生させることに強い関心を有していたことを推認することができないこと
(ア) 本件株式購入におけるc社の株式の取得価額の決定過程が不自然であるとはいえないこと
a 株式の取得価格の決定については,資本構成の変更による資金効率の改善という財務上の目的からの要請もあることから,公正市場価値の範囲内で高めの価格を選択したとしても,それが株式譲渡損失を発生させる目的を有していたことを立証するものとはいえないから,公正市場価値の範囲内で高めの価格を選択したことは,△△株式評価書(乙30)に記載された価額が適正な時価であったことを否定する根拠にはならない。なお,株式の公正市場価値(時価)は,その会社の売上高に対する倍率を計算し,その倍率を同様の条件下にある企業と比較することで評価することが可能である(甲163参照)ところ,これを前提とすれば,平成13年度の末日におけるc社株式の公正市場価値は3兆9693億円となり(別紙14参照),△△株式評価書(乙30)における評価額を大幅に上回るから,実際の株式売買価格(1兆9500億円)も,決して過大な評価ではないといえる。
b b社とc社が同社の株式に係る取引をしていた際には,c社は,相続財産評価に関する基本通達(昭和39年4月25日付け直資56(例規)直審(資)17国税庁長官通達)に定める方法(いわゆる簿価純資産法)によって自己株式の1株当たりの取得価額(簿価純資産価額)を算定していたところ,簿価純資産価額は資産の含み損益や事業の収益力が全く考慮されておらず,独立当事者間において形成される時価とは必ずしも一致しないものの,自己株式取得は利益を還元するための取引であり,その1株当たりの取得価額は消却株式数を決定するために用いられていたにすぎなかったため問題はなかった。
これに対し,本件株式購入は資産譲渡取引であり,その価格は法人税法上独立当事者間において形成される時価とする必要があった(なお,時価よりも高額又は低額な価格でc社の発行済株式の全部を購入した場合,受贈益課税や寄附金課税を受けるリスクにさらされる。)ところ,本件株式購入におけるc社の株式の取得価額は,独立した第三者であるh社によって,DCF法及び類似企業比較法に基づき算定された評価額(乙30参照)に基づいて決定されており,その当時におけるc社の発行済株式の全部の適正な時価(資本関係や人的支配関係のない独立した当事者間の取引で合意される独立当事者間価格)であるといえる。
したがって,本件株式購入におけるc社の株式の1株当たりの価額(127万1625円)が,b社とc社との間でされた取引(平成9年6月30日から平成12年7月26日までの間にされたc社による自己株式取得取引)における1株当たりの取得価額(15万3765円から19万9814円。別紙11参照)に比べて約6倍以上の金額であった事実は,平成12年以前に行われたc社による自己株式取得が,独立当事者間において形成される価格(時価)の6分の1以下の金額で行われたことを示唆するものではあっても,本件株式購入におけるc社の株式の取得価額が適正な時価であったことを否定するものではなく,租税回避効果を極大化すること(c社の株式の1株当たりの価額の総額が高くなればなるほど,有価証券の譲渡損失の計上という観点からの利用価値が高まること)を意図して本件株式購入におけるc社の株式の1株当たりの取得価額をあえて高額な金額と設定したともいえない。
c 被告は,a社が△△株式評価書(乙30)における評価額の範囲(1兆7795億円ないし1兆9760億円)の中でも高い金額(1兆9500億円)をもって本件株式購入におけるc社の株式の取得価額とする旨の決定をしたことは,a社が評価額を高くしたいとの意向を持っていた結果であって不自然である旨主張し,その根拠として調査報告書(乙83)も指摘する。
しかしながら,調査報告書(乙83)は,△△株式評価書(乙30)が作成(平成14年4月4日)されてから約7年後(平成21年2月26日)にA27から聴取された結果であり,同人の記憶が曖昧かつ不正確であることがその発言自体から明らかである。また,評価作業が終了した時点に関する同人の記憶(平成13年12月か平成14年1月にはおおむね終わっていた)は,他の客観的な証拠(甲56の2,162の1・2)の内容(①h社から同年1月に最初の本格的な資料請求がされたこと(甲162の1),②同年2月26日にもh社から多数の資料請求がされたこと(甲162の2),③h社による評価の終了日が「3/22」である旨の記載があること(甲56の2))と異なっており,誤りであることが明らかである。しかも,A27の発言内容は,全て同人の推測に基づくものである上,c社の評価額を上げたいとの意向をa社又はh社の関係者から聞いたことは一度もなく(乙83),そのような意向に関するA27の発言は,担当調査官の執ようで強引かつ曖昧な誘導尋問に応じた憶測にすぎないものである。
(イ) 本件各譲渡におけるc社の株式の譲渡価額の決定過程からa社ができる限り多額の有価証券の譲渡損を発生させることに強い関心を有していたことを推認することができないこと
a 原告が,本件株式購入の際にc社の株式を時価(127万1625円)により取得したことに伴って本件各譲渡における1株当たりの譲渡価額(約127万1625円)が,b社がc社に対して同社の株式を譲渡していた際の価額(15万3765円から19万9814円。別紙11参照)と比べて6倍以上の価額に上昇したとしても,当該価格が時価を反映したものであれば,時価による取引が法人税法の原則である以上,それを受容するのは経済人として当然の行為であり,法人税法132条1項の「不当性」が純粋経済人の行う行為と比較して不合理,不自然であることを基準として判断することとされている以上,法人税法の原則を踏まえた価格決定が,取得価額がかさ上げされたなどとして同じ法人税法により「不当」と評価されることはあり得ない。
b 被告は,c社の営業収益が平成14年12月期から平成16年12月期にかけて連続して減少している(乙82の1ないし3)にもかかわらず,平成14年譲渡ないし平成17年譲渡を通じて1株当たりの譲渡価額が,平成14年度から平成21年度にかけてフリーキャッシュフローが毎年増加し続けることを前提に時価の評価をした△△株式評価書(乙30)に基づいて決定された本件株式購入におけるc社の株式の1株当たりの取得価額(127万1625円)とほぼ同額とされていることをもって,本件各譲渡における1株当たりの譲渡価額の決定においては,適正な時価を把握することではなく,みなし配当の額と株式譲渡損失による原告の欠損金額を作出することに強い関心があったことが優にうかがわれる旨主張する。
しかし,上記の被告の主張は,1株当たりの譲渡価額を引き下げることを是とした上で,そのようにすれば株式譲渡損失の金額が減ることを前提とするものであると解されるところ,前記ウに述べたとおり,本件のような利益還元のための自己株式取得の場合には,利益還元の総額が先ず決定されることを勘案するとその前提において誤っている。また,仮に1株当たりの譲渡価額を引き下げていたならば,本件各譲渡による株式譲渡損失の金額は必ず増えることになった(仮に,1株当たりの譲渡価額を引き下げたとしても,上記のとおり利益還元の総額(c社の自己株式取得予定額)が変わることはないのが通常であるから,結果的に取得株式数が増加することとなる一方で,みなし配当の額の部分を含む譲渡損失の1株当たりの金額は,1株当たりの譲渡対価(取得資本等の金額)から1株当たりの譲渡原価(帳簿価額)を差し引いて算出されるところ,この金額(譲渡損失の1株当たりの金額)は,1株当たりの譲渡価額を引き下げても変わることはないことから,取得株式数が増加すれば,それに比例して譲渡損失の金額の総額は増加する。詳細は,別紙15参照)から,仮に,原告が本件各譲渡によって多額の譲渡損失を発生させることに関心を有していたのであれば,本件各譲渡に当たって,被告が主張する状況変化を理由として,1株当たりの譲渡価額を引き下げる方が自然であり,本件各譲渡に当たって1株当たりの取得価額とほぼ同額の1株当たりの譲渡価額をそのまま使用していたことは,むしろ,a社が,本件各譲渡による譲渡損失の発生について何ら関心を有していなかったことを示す事実である。
(7) a社が原告を中間持株会社として日本に設置したのは,c社による自己株式取得に応じさせることによって有価証券の譲渡損を生じさせることを目的としたものでも想定したものでもなく,有価証券の譲渡損が生じたことが租税回避の意図を基礎付けるものでもないこと
ア ある取引をすることにより法人税の負担が減少することを認識していたとしても,それは税効果を理解していたことを意味するものにすぎず,それを超えた租税回避の意図ないし目的を基礎づけないこと
営利企業がある取引をするに際して,その税効果を検討・認識することは,税引後利益の最大化を目指す以上当然のこと(このことを是認すると解される裁判例もある。)であり,何ら特別なことではないし,正当な行為又は計算であっても租税回避に向けられた不当な行為又は計算であっても存在し得るものであるから,「不当」性の評価に関して中立的・両立可能な事実である。
したがって,ある取引の過程において単に当該取引の税効果を検討し,認識していたという事実(本件においては,本件各譲渡により原告に巨額の有価証券の譲渡損が生ずること)自体により,法人税法132条1項の「不当」性要件が充足されることはない。
イ 日本再編プロジェクトが実施される過程におけるa社等の関係者の発言,行動等がa社が本件各譲渡により生ずる有価証券の譲渡損に全く関心を持っていなかったことを裏付けること
日本再編プロジェクトが実施される過程におけるa社等の関係者の発言,行動等,特に,主要行程書(甲56の2)及び3月22日議事録(甲59の2)の記載内容は,a社が本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡損について,何の関心も持っていなかったことを一貫して示している。
(ア) 3月22日議事録に記録された発言等
a 負債資本についての議論
主要行程書(甲56の2)には,「負債レベルおよび売買契約」という項目があり(同・訳文1頁参照),その最初に持株会社の資本負債比率を決定するという検討項目が記載されているところ,3月22日議事録の「負債資本」という項目(甲59の2・訳文2頁)には,A12が,過少資本であることを理由に原告が受けた融資に対して支払う利子の損金控除はできないと指摘したことに対して,A14が,「とりわけエイ・ピー・ホールディングス(原告)においては課税所得が一切生じないであろうから,日本においてかかる損金算入することは我々(a社)の目的ではない」と答えたことが記載されている。原告には課税所得がないから支払利子の損金算入さえ享受できないであろうと考えていたa社が,自己株式譲渡により生じる譲渡損失を利用することに関心があったとはいい難い。
原告の資本負債比率は,最終的には,過少資本税制上支払利子控除が否認されない最低の比率である1対3ではなく(租税特別措置法66条の5第1項参照),約1対6.5という比率とされ,それに合わせた金額の融資(本件融資)がb社から原告に対してされているところ,仮に,日本再編プロジェクトが原告において有価証券の譲渡損を計上させることを目的とする取引であったならば,a社は,原告に対する出資と本件融資の割合(資本負債比率)の決定においても,支払利息が全額損金算入できるよう,本件融資の額を出資の額のちょうど3倍になるように調整したはずであることに照らすと,原告において有価証券の譲渡損を作出して節税を図ること等には全く関心がなかったことが裏付けられる。
b 自己株式取得の影響についての議論
主要行程書(甲56の2)には,「c社とX(原告)との間における自己株式取得に関し,日本における税務上の問題がないことの確認」という項目が挙げられている(甲56の2・訳文2頁)ところ,この項目の検討結果は,3月22日議事録(甲59の2)の「自己株式取得の影響」の項に,配当としての取扱い及び損失の認識を含むc社の自己株式取得についての税務及び法務上の影響に関する議論が行われた旨の記載に加え,「未解決の税務上の問題はない。法務上の論点について疑問点があったが,k社のA20が書簡を出した結果疑問点は解消されているようである。A20はその書簡の写しを私に渡してくれることになった。」との記載によって明らかである。
これらの記載からは,この項目の担当者であったA12又は税務アドバイザーとして同席していた日本k社のいずれかから,平成14年3月22日の会議において,自己株式譲渡を行うと譲渡損が出ることについての報告がされたことがうかがわれるが,仮にa社がその譲渡損の利用に関心があったとすれば,それをどのように利用するかという議論がなされたという記録が残っていてしかるべきであるところ,そのような議論の記載は全くなく,その譲渡損の件を含めて,結論としては「未解決の税務上の問題はない。」という記載がなされている。また,A20がA14に渡すと述べたとされる書簡は,□□意見書(乙19)であると思う旨A14自身述べている(甲50)ところ,同意見書(乙19)は,自己株式取得に係るc社にとっての法務上の論点と税務上の論点を扱う内容のものであるが,自己株式取得に応じた株主側(つまり原告側)において生じる譲渡損に関する記述は一切存しない。
c 源泉所得税の影響についての議論
3月22日議事録(甲59の2)には,「自己株式取得の影響」の次に「源泉徴収税の影響」という項目があり,そこでは,自己株式取得が行われた場合の配当等の額(正確にはみなし配当の額)に対する源泉所得税の納付時期と還付時期についての説明が記載されているものの,専ら配当等の額(みなし配当の額)に課される源泉所得税の納付時期と還付時期の関係が議論されているだけであって,自己株式譲渡によって生ずる譲渡損の利用(源泉所得税の縮減)をいささかなりともほのめかすような内容は全く含まれていない。
d 課税年度に関する問題についての議論
3月22日議事録の中の「課税年度に関する問題」という項目(主要行程書(甲56の2)の中の「YK(原告)の配当に係る源泉徴収税についての計画」という項目(甲56の2・訳文2頁)に対応)においては,①同一四半期内に源泉所得税の納付と還付が起こることが望ましいとの考え(甲48)の下,そのために持株会社の決算月をいつに設定すればよいのかということに関心を持ち,1年の間に何回か持株会社の事業年度を変更する提案をしたa社側(A14)とその提案を実務上受け入れ難いとするc社側((理事)財務担当のA7)との間の意見の相違があったこと(甲40参照)に係る記載,②平成14年12月に自己株式取得を行う場合を前提とした源泉所得税の納付時期と還付時期との関係に関する議論がされたことをうかがわせる記載,③自己株式取得を同月に行わず,平成15年3月まで延期するという代案(配当に係る源泉所得税の還付時期をなるべく納付時期に近付けるためのもの)が考えられる旨の記載,④上記③の代案について,「四半期ルール」(米国連邦税法956条)を理由に「2003年の配当計画にネガティブな影響を生じさせることになると思われる。」との記載が,それぞれされている。
これらの記載自体はa社側の認識としては,どのような時期にc社から利益還元がなされるかには大いに関心があることがわかる反面,上記の利益還元の結果,原告に生じる譲渡損について何らかの関心を持っていたことを示す記載や,平成15年に自己株式取得を延期することによって上記の譲渡損を利用することができる期間が1年先に延びるというような考慮をしていることをうかがわせる記載は全くない。
また,原告の事業年度をめぐる議論においては,原告は法人税の確定申告によって源泉所得税の額に相当する金員を還付してもらうことになることが当然の前提とされ,a社及び平成14年3月22日の会議の参加者が,原告が課税所得を有する法人ではないと考えていたことをよく示している。
e 「その他の税務問題について」の項に譲渡損失に関する記載が一切ないこと
3月22日議事録には「その他の税務問題」という項目もあるが(甲59の2・訳文5及び6頁),そこに記載されているのは,印紙税と登録免許税に関することであり,自己株式の取得による譲渡損失に関する記述はない。
(イ) 3月22日付け資料(甲60の2)に本件各譲渡から生ずる有価証券の譲渡損の取扱いに関する情報の記載がないこと
3月22日付け資料(甲60の2)は,同日に開催された会議において使用された資料であるところ,仮に,被告が主張するように株式譲渡損失の発生が企図されていたのであれば,日本再編プロジェクトの実行に当たって検討された内容を記録した資料である同資料(甲60の2)や3月22日議事録(甲59の2)に,上記の損失をどのように利用するかという議論の形跡が残っているはずであるが,そのような議論が行われた痕跡はどこにも見当たらない。
(ウ) 平成14年3月の段階でc社が自己株式の取得をすることを具体的に決定していなかったこと
c社の定時株主総会(平成14年3月28日開催)において,自己株式取得の授権決議がされた(乙32)ところ,これは,旧商法210条に基づいて自己株式取得を行うためのいわゆる枠取りをあらかじめしておく(なお,c社は,○○グループ全体としての資金移動及び資金利用の効率化を図るため,a社が希望するタイミングで速やかに利益還元を行えるようにするべく,旧商法上は送金時期に制約があった配当及び中間配当に加えて,平成9年以降は自己株式を取得する方法により利益の還元を行うこととしており(甲38,40),同年以降毎年,定時株主総会において自己株式取得に必要な枠取りの決議(旧商法212条の2に基づく定時株主総会決議)をしていた(乙6,8,10,12,14,17)ものの,a社が利益還元を必要としなかった年には上記の枠取りの決議は行っていても自己株式取得を行っていない。そして,会社法の施行により配当時期の制約が撤廃された以降は,年間を通じていつでも配当を行うことが可能である旨定款を変更し(甲80。変更後定款33条),その後は自己株式の取得をしていない(別紙11参照)。)ことにより,a社が望む時期に利益還元をすることができるようにするためのものにすぎず,この時点で自己株式取得によって株主への利益還元を行うことが具体的に決定していたものではない(甲40。なお,甲40の別紙4はA7が株主総会決議前の取締役会において自己株式取得について説明した際に使用したプレゼンテーション資料であるが,その2頁においても具体的な自己株式取得については「TBD」(これは「to be Determined」(未定)の略語である。)と記載されている。)。
(エ) 平成14年4月初旬の時点で資金還元の方法についてa社とc社との間で合意されていなかったこと
A7とA10は,平成14年4月8日から同月11日にかけて,b社から新持株会社(原告)にc社の株主が変更された後においてc社から株主である新持株会社(原告)に対して行われる利益還元の「方法」が,配当,中間配当又は自己株式取得のいずれの方法によるべきかにつき,詳細な議論をした(甲40及び62の2)。その中で,A7は,c社側の意見として,極力日本の一般的な企業の実務に歩調を合わせるべきであるという考え方から,できるだけ配当及び中間配当の方法によりで利益還元を行うべきであり,日本では実務上あまり行われていない自己株式取得によることはなるべく避けたいという意見を述べ(甲40並びに甲62の2・訳文5及び13頁),A10は,a社側の希望として,財務的な観点から,なるべく子会社からの利益還元の時期について柔軟に対応することを希望し,a社の事業年度の終わりに近いところで利益還元をするような方法も考えてほしい旨の意見を述べた(甲62の2・訳文12頁)。
このような議論が平成14年4月初旬から中旬になされているという事実(甲62の2・3)は,日本再編プロジェクトの計画の承認(遅くとも2001年(平成13年)11月)及び実施(平成14年1月から同年3月)の過程において,a社が,c社が原告に対して配当,中間配当又は自己株式取得のいずれの方法で利益還元するかについては特段の関心がなく,利益還元の時期こそがa社の関心事であること(甲62の2におけるA10の意見参照)を示している。また,A10の意見(甲62の2)には,c社による自己株式取得に伴い原告に譲渡損失が出ることやその譲渡損失を利用することに意識が向いていると思わせる部分は全くなく,a社が,原告を中間持株会社として設置するに当たり,c社による自己株式取得により原告に譲渡損失を生じさせることを本件一連の行為の当初から全く想定していなかったことを示している(甲48参照)。
(オ) a社が平成14年譲渡をする時期や譲渡代金の額についてc社と折衝している段階(平成14年11月14日)においてもなおc社による自己株式取得を実際にするかどうかを決めていなかったこと
平成14年譲渡については,その譲渡時期及び譲渡代金(総額)について,A28とA7との間で折衝がされ,2002年(平成14年)12月10日にその折衝が終了している(甲65)。同日に発信された電子メール(甲65)には,上記の折衝に当たりA28とA7との間でやりとりされた電子メールの記載も含まれているところ,同年11月14日付けのA28からA7宛の電子メールには,同日においてもなお事業年度中(平成14年中)に自己株式取得をするか否かを決定できない旨及びその理由が「日米両国の年金の状況並びに『特別な』資金調達の程度は依然として不明であり,この不明な部分がc社による配当とa社の連結帳簿の税率の相互関係に直接的に影響」するためである旨が記載されており,a社が,平成14年11月に至ってもなお,c社に自己株式を取得させるか否かを判断してなかった上,その判断に原告に譲渡損が生ずるか否かという要素は全く関係していなかったことがうかがえる。
このことは,a社が本件各譲渡により原告に譲渡損失が生ずることに全く関心がなかったことを示している。
ウ 本件各譲渡後のc社の担当者らの行動等がa社が本件各譲渡により生ずる有価証券の譲渡損に全く関心を持っていなかったことを裏付けること
(ア) c社の担当者が平成14年譲渡の当初,c社の株式の1株当たりの取得価格及び平成14年譲渡に係る源泉所得税の額をいずれも誤って計算していること
c社の財務部門からの依頼を受けて平成14年譲渡における1株当たりの取得価額の計算を行ったA9は,直近に時価取引の実例があればその時価をもって1株当たりの取得価額とすべきであり,実際に平成14年譲渡の前にされた本件株式購入は時価によって取引されていたにもかかわらず,時価取引の実例はないと誤解し,簿価純資産法による計算(本件株式購入がされる前にc社が自己株式をb社から取得していた際に1株当たりの取得価額を決定するに当たって用いていた計算方法)を行って財務部門に計算結果を回答した(甲47,乙33の2,34)ところ,このことは,本件株式購入があった事実をA9には伝えられていなかったことを意味する。
また,c社の財務部門フィナンシャルプロジェクトのA32が,A12に対して送信した電子メール(甲66の1)及びその添付資料(甲66の2)を精査すると,平成14年譲渡について,「(取得価額)」(212,993,442,000円)に内国法人間の配当の源泉所得税の税率である20%を掛けた金額が,「(12/20預かり源泉税額)」の金額(42,598,688,400円)とされており,c社の財務部門の担当者は,自己株式取得の対価全額がみなし配当の額になるという前提(平成13年法律第6号及び同年法律第80号による改正前の法人税法の規定を前提)にして,源泉所得税の額の計算をしていた。このことは,c社の財務部門で源泉所得税の額の計算をした者は,同年法律第6号及び同年法律第80号による法人税法の改正によって自己株式取得に係る税務計算が変更されたことに気づいておらず,知らされてもいなかったことを意味する。
a社が,日本再編プロジェクトを計画し,実行した時点において,自己株式譲渡により原告に有価証券の譲渡損を生じさせることを意図していたのであれば,c社及び原告の関係者に対し,c社が自己株式を取得し,原告に有価証券の譲渡損を計上する手続にいささかなりとも疑義のないよう注意して行わせるべく万全の措置を講じるはずであるにもかかわらず,a社の財務部門がc社による自己株式取得の決定に当たってそのような注意を喚起するような行動をとった形跡は全くなく,c社及び原告においても,c社による自己株式取得により原告にいくらのみなし配当の額に相当する金員を支払うことになるかの計算すら同月20日の時点では誤っていたのである。これは,a社が,c社による自己株式取得によって原告に譲渡損失を発生させるために,日本再編計画を実行したのであれば,起こり得ないことといわなければならない。
このような事実は,結局a社もc社も,また原告自身も,c社による自己株式取得により原告に譲渡損失が生じることにいささかの関心も持っていなかったことをよく示している。
(イ) 平成14年譲渡がされた頃に原告に有価証券の譲渡損が生じたことが報告されたことに対するa社の対応(2007年(平成19年)に至るまでa社の繰延税金資産にも計上されていなかったことを含む。)等
A10は,平成14年譲渡がされた前後の頃,米国k社のアドバイザーから,c社による自己株式取得の結果原告に多額の税務上の損失が生じることになるという電話を受けたことから,本件各譲渡に伴って日本の税務上発生する損失の取扱いに初めて考えを巡らせ,その損失がa社の会計上財務諸表に影響を及ぼす可能性があるかについてA15と検討したが,結局,原告に課税所得が生じることは想定されておらず,また日本で連結納税を採用することは検討の対象とされていなかったことから,そのような損失についてa社のグループ全体の連結財務諸表に何らかの記載をする必要もない(甲92,93参照)という判断をした(甲27,48)。仮に,a社において,原告の繰越欠損金を原告又はa社グループに属する日本法人の課税所得を減少させる目的で使用する見込みがあれば,2007年(平成19年)事業年度の記載(甲26)のように,米国財務会計基準上,繰延税金資産に関する記載を行う必要があり,これに違反していたとすれば,a社は米国における開示規制に違反し,重大な制裁を受ける可能性があったから,a社が本件各譲渡により原告に生じた繰越欠損金を2007年(平成19年)に至るまで開示資料の対象としなかったこと(甲27参照)は,米国における開示規制上非常に大きな意味を持つ行為であり,a社が株式譲渡損を税務上利用できる見込みはないと判断していたことを明らかに示す事実である。
これらの事実は,a社が日本再編プロジェクトの当初からc社による自己株式取得により原告に生ずる譲渡損失には何の関心も持っていなかったことをよく示している。
(ウ) 本件各譲渡により原告に有価証券の譲渡損が生じたことが2007年(平成19年)に至るまでa社の経理担当者に伝えられていなかったこと
本件においては,平成14年譲渡が行われた後,平成14年譲渡により原告に生ずることとなった有価証券の譲渡損を原告の財務諸表上繰延税金資産に計上すべきかが検討されたが,当時の原告担当者(A24)が,原告が中間持株会社として主として(課税所得計算上,益金不算入とされる)配当所得を得る法人であって将来にわたり課税所得を得る見込みのある事業会社ではないことやA12が連結納税を行わないという方針でいたことを踏まえ,繰越欠損金の使用により課税額を減少させる効果は期待できず,これを繰延税金資産に計上すべき理由はないと判断した(甲43,44)。その結果,a社において連結財務諸表の作成に当たって各国の子会社の繰延税金資産を精査する業務に従事していた者(A11)は,本件各譲渡により原告に有価証券の譲渡損が生じたことを2007年(平成19年)まで知らなかったものである(甲51)。そして,上記の譲渡損の金額は本件各譲渡の合計で約3995億円であり,平成14年譲渡だけで約1981億円にも上ることからすれば,仮に,この損失が,a社が意図的に生じさせた損失であったとすれば,a社において連結財務諸表を作成する担当者に何らかの形で通知されてしかるべき(a社の連結財務諸表に,世界各国の子会社の繰越損失等に係る繰延税金資産が計上されるか否かは,最初にそれぞれの現地子会社の税務担当者の判断により当該現地子会社の財務諸表上繰延税金資産が計上されるか否かが決定され,そこで現地子会社の財務諸表上繰延税金資産が計上されることとされた場合には,次にa社の財務部門によりa社の連結財務諸表上現地子会社で計上された繰延税金資産の計上の可否を検討するという段階を踏んで,最終的にa社経理部門の担当者によって決定されることになっていた(甲43,51参照)。)レベルの金額であった(甲51)。
これらの事情は,a社が,本件各譲渡により原告に生じた有価証券の譲渡損には,当初から何の関心も持っていなかったことを示している。
エ 原告が有価証券の譲渡損を計上するに至った経緯から税負担の軽減を目的として意図的に有価証券の譲渡損を生じさせるような行為をしたとは推認することができないこと
(ア) 平成13年法律第79号による商法の改正により,自己株式の取得が従前に比べて大幅に緩和されたことと,同年法律第80号による法人税法の改正により,自己株式の取得がみなし配当の額を計上することができる事由に追加されたことが背景となって,a社の幹部が日本に中間持株会社を設置することを検討するに至ったとの被告の主張は全く根拠のない憶測であること
被告は,平成13年法律第80号による法人税法の改正により,同法24条に自己株式の取得に際し支払われる金額をみなし配当の額とする規定が新たに追加されたことを背景として,A10が我が国に子会社を設置すること(原告の中間持株会社としての設置等)を検討した旨主張し,同年10月9日,A14がA10に対して,子会社として有限会社が用いられる場合,米国税制上,b社の支店とみなされる旨の認識を伝えたこと(甲53)がこれを裏付ける旨指摘する。
しかしながら,被告はこれらの事実を並列して記しているだけであって,上記の商法及び法人税法の各改正が原因となってa社が日本に中間持株会社を設置することの検討を開始し,上記のA14のA10に対する認識の伝達の事実(甲53)が生じたという因果関係を示す事実を何も主張立証していないから,根拠のない憶測を述べているものにすぎない。そして,主要行程書(甲56の2)に「k Tokyo(日本k社)がk・Germanyと連絡を取り,選択された評価手法が○○セントラル地域再編で使用されたものと一致しているか確認する」との記載があるところ,これは,日本における中間持株会社の設置に当たり,株式評価に関して,その直前に完了したドイツでの再編時に行われた評価手法と同様の評価手法で行うことが想定されていたことを示しており,日本再編プロジェクトが,全世界的な視野から相互に関連したプロジェクトとして実施されていたこと(原告の設置が我が国の税制改正を背景として検討されたものではないこと)を裏付けている。
(イ) a社が日本再編プロジェクトの検討に際して,受取配当益金不算入制度の適用を受けることを想定していた事実は,a社が原告に譲渡損失を計上させることを意図していたことを意味しないこと
受取配当益金不算入制度は,法人の所得に対する税を採用している世界中の多数の法域(日本を含む。)において,いわゆる法人間の二重課税の問題(配当支払法人において当該法人の所得に対する税(我が国の法人税に相当するもの)として課税された利益が,その配当を受けた法人(株主)において再度当該法人の所得として課税されること)を調整する方法として採用されている制度であり,各国の法人二重課税解消のための制度のルールは微妙に異なる(例えば,受取配当益金不算入制度を設けている場合でもいわゆる保有期間要件は一様ではない。)。
本件においても,c社が株主に対する利益還元をどのような方法(配当,自己株式取得等)によって行うにしても,受取配当益金不算入制度がどのように適用されるのかを検討しておく必要があることになるから,a社の税務担当であったA10が,○○グループが日本において有限会社の子会社を持つのは初めてであったこともあって,これらの点について日本に有限会社の中間持株会社を設置した場合にどのように取り扱われるかを検討し,その要件を満たすよう指示するのは当然のことである。
したがって,A10が,①c社に対してチェック・ザ・ボックス規則上支店扱いとすることの選択が可能な有限会社の購入について検討を開始するよう指示していた(甲55)が,その際,受取配当等の益金不算入制度の適用を受けることを想定していた,②c社社の税務及び法務の担当者に対し,受取配当等の益金不算入制度の適用を受けるために必要な要件を充足等するよう指示していた(甲56の1)等の事情が,a社においてc社の自己株式取得により日本に設置する持株会社(原告)に株式譲渡損失が発生することを想定していたことを裏付けるものとはいえない。
(ウ) □□意見書(乙19)にみなし配当の額の税制上の取扱いに係る記載があることからa社が原告に生ずる譲渡損失を利用する意思を有していたと推認することができないこと
□□意見書(乙19)は,c社が自己株式取得を行う際の同社における税務上の取扱いについて記載されているものであり,当該自己株式を譲渡する株主(原告)の課税関係については何の記載もない。
したがって,□□意見書(乙19)にみなし配当の額に関する記載が存在することをもって,a社が,本件各譲渡に伴いc社の株主である原告に生ずる株式譲渡損失を利用することを想定していたと合理的に推認することは到底できない。
(エ) 3月22日議事録(甲59の2)の記載からa社が原告に生ずる有価証券の譲渡損を利用する意思を有していたと推認することができないこと
3月22日議事録(甲59の2)の記載内容から,a社が,①c社の株式が高く評価されることが税制上意義があるとの認識を有していたこと,②c社が原告から自己株式を取得した際に原告に有価証券の譲渡損が発生することについて検討していたことを推認するのは,3月22日議事録(甲59の2)の記載を曲解するものである。
a 「c社が高く評価されることは,本プロジェクトの有効期間を実質的に長期のものとすることにつながる」との記載について
3月22日議事録(甲59の2)の原文(英文)を見ると,「タックス・リストラクチャリングの検討(Review of Tax Restructure)」は当該議事録(甲59の2)に記載された数多くの議題の中の一つとして「評価(Valuation)」等他の議題と並列的に記載されているものであって,c社の評価に関する被告が指摘する記載も,「タックス・リストラクチャリングの検討」ではなく,「評価」の項目で記載されている。そして,「評価」の項目では,どのような算定方法が適正な評価といえるかということと評価を取得する時期が論じられているのみであり,税務との関連においては,過大評価と判断された場合における原告からb社への贈与税(受贈益課税)についてしか記載されておらず,c社が自己株式取得を行った場合に原告に生じることとなる譲渡損失についての言及は全くない。
なお,「本プロジェクトの有効期間」という表現は,日本再編プロジェクトの目的の一つである資金効率の改善に関し,c社その他の日本における子会社の資本構成を変更せず,中間持株会社において負債比率を大幅に増やすことによって,日本から米国への配当に係る源泉所得税の負担を軽減し,国際的二重課税を極力回避するという財務上の目的(c社株式の評価額が高ければ高いほど,中間持株会社が同株式を取得するために多額の資金が必要になるため,中間持株会社がb社から借り入れるべき負債の金額も多額になって,その元本弁済により長い期間を要することから,(元本返済には源泉所得税がかからないため)日本から米国への送金に伴う源泉所得税負担を縮減することができ,国際的二重課税のリスクを減らすことができるということ)を端的に表現したものであって,それ以上の意味はないと解される。
b 「自己株式取得の影響」との表題の下「配当としての取扱い及び損失の認識を含む」との記載について
3月22日議事録(甲59の2)には,「自己株式取得の影響」との表題の下,「配当としての取扱い及び損失の認識を含む」との記載がされているところ,これは,自己株式を取得することにより法律上は譲渡損失が出るという説明以上のものではなく,ましてや譲渡損失を利用するとか譲渡損失を出すことを目的として日本再編プロジェクトを行うなどということをほのめかすような記載は一切ない。
(8) 原告が設置された当初から連結納税制度を利用して本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することが想定されていた旨の被告の主張が失当であること
ア 原告が設置された当初から連結納税制度を利用して本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することが想定されていた旨の被告の主張がおよそその前提を欠くものであること
(ア) 本件株式購入及び本件各譲渡の目的がグローバルな組織再編の一環である日本再編プロジェクトを実行することにあったこと
原告は,原告の下に日本における○○グループを成す会社を再編することによって日本における○○グループを成す会社の統合を実現し,事業買収取引における受皿会社や新規事業の受皿会社としての役割を果たすことができるようにするとともに,柔軟な利益の還元を可能とすることによって○○グループ全体における資金配分やリスク管理を効率化し,日本における事業に投下する資金の投資効率を上げることを目的とする持株会社となるために,c社等4社の株式の取得(本件株式購入を含む。甲22の1ないし4)をしたのであり,原告,c社及びa社は,原告の下に日本における○○グループを成す会社を再編することが,その際に生ずる損失を使用して法人税を減少させるために行うものとは全く考えていなかったものである。
このように,損失を使うことを全く想定もしていない者が損失を作出することを目的とする行為を行うなどということはおよそ非論理的であって理解し難いから,原告が,本件各譲渡事業年度において,税法の規定に従って計算された損失を計上したとしても,これが「不当に」税負担を減少させたものと評価されることはあり得ない。
(イ) 税務上多額の損失が作出されることの認識があったことは直ちにそれを使用することを想定していたことを推認させるものではないこと
適正な価格による経済合理性が認められる取引について,仮に,税務上の損失が生じることを当事者が認識していたとしても,それは当事者が税法を理解していたことを示すにすぎず,損失発生の認識と当該損失を専ら租税回避目的に利用するという意図が合わさって,初めて,当該取引が損失の計上を目的とした取引ということができるから,損失発生の認識がその利用の意図の存在を根拠づける事実とするのは論理の飛躍である。
本件においても,本件各譲渡における1株当たりの譲渡価額は,本件株式購入における1株当たりの取得価額とほぼ同額の譲渡価格により行われていることに加え,本件株式購入が前記(ア)に述べた目的でされたものであることに照らすと,原告が,本件各譲渡をした事業年度において税法の規定に従って計算された損失を計上したとしても,これが「不当」に税負担を減少させたものと評価されることはあり得ない。
(ウ) 欠損金の発生は原告の税務上の収益構造に由来するものであること
原告は,a社の100%子会社である中間持株会社として,その収入が子会社からの通常配当と子会社への自己株式譲渡代金等,法人税法上の益金不算入となるものに限られる一方,支出は,株式取得資金の借入金利払いやc社への業務委託費用等,法人税法上の損金となるものであったことから,経済的には収益が計上されるものの,税務上の収益構造は恒常的に欠損金が生じるものとなっていた。
このような原告の収益構造は,本件各譲渡事業年度更正処分により,本件各譲渡が生じた有価証券の譲渡に係る譲渡損失額の損金への算入を否認されて欠損金額を減少させても,本件各更正処分事業年度の単体申告分はもとより,平成20年12月連結期の連結確定申告についても,原告単体では個別欠損金が計上されており,本件各譲渡事業年度更正処分後も全ての年度で所得金額0円又は欠損金額の計上となっていることからも裏付けられる(甲1ないし6,7の2,9の2)。
イ 日本再編プロジェクトが実施される過程におけるa社等の関係者の発言,行動等がa社が本件各譲渡により生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することに全く関心を持っていなかったことを裏付けること
日本再編プロジェクトが実施される過程におけるa社等の関係者の発言,行動等は,a社が本件各譲渡により原告に生ずる連結納税制度の利用について,又は有価証券の譲渡損失を生じさせることと連結納税度を組み合わせて利用することについて,何の関心も持っていなかったことを一貫して示している。
(ア) 日本再編プロジェクトが2001年(平成13年)11月よりも前に検討が開始されていること
日本再編プロジェクトは,少なくともそれがa社によって承認された2001年(平成13年)11月よりも1年以上前には検討が開始されていた(甲53,54参照)グローバルな再編の一環であって,他の国,地域で行われた再編(甲89参照)と同じ目的のプロジェクトであり(甲38,40),日本の連結納税制度の導入に係る税制改正とは無関係に開始されたものであったから,その時点(2001年(平成13年)11月よりも1年以上前の時点)においては,法人税法24条の改正はされておらず,連結納税制度を導入するための提案がいつされるかについても不明であった。
(イ) 本件A20メール(甲58)の記載
本件A20メール(甲58)において,A20はA10に対し,過少資本税制の問題に関連して,原告の収益構造を前提とすれば支払利息を損金に算入する可能性はないから日本の税務上の問題はないことを前提に「今回の計画では,どのみち損金算入することはないという前提です。」と助言しているが,これは,原告において,原告に生ずる税務上の損失をもって将来連結納税制度を含む何らかの方法で日本における○○グループの課税所得と通算して節税を行う等ということが全く予定されていなかったことを示している。
(ウ) 3月22日議事録の「連結納税の可能性」との項目の記載からは,a社が2002年(平成14年)3月22日の当時に連結納税制度の利用を検討していたことが推認することができないこと
主要行程書(甲56の2)には「c社(株式)の100%または95%の譲渡およびみなし連結納税(土地,建物,証券,登録知的財産権の評価損益課税を引き起こす可能性がある)についての検討」という項目及び「日本の新しい連結納税制度に基づくd株式会社(d社)連結の検討および支払利息の損金算入の可能性についての検討」という項目が論点として挙げられている(なお,主要行程書(甲56の2)が作成された時点においては,既に連結納税制度を導入するという政府の方針が公表されていた(乙5,甲108参照)。)。
この点について,3月22日議事録(甲59の2)において,「連結納税の可能性」という項目の中で,○○グループが日本で連結納税を行う可能性及びそのコストについても検討が行われており,①将来連結納税の可能性については,A12が,「c社が保有する会社の殆どが収益性の高い企業であるから,新しい日本の連結納税制度を追求するつもりはない」上,「新しい連結納税制度は2%の付加税を規定している。(税率が42%ではなく,44%となる)」と述べたこと,②A13が,「法務部としては,(3月28日開催のc社の定時株主総会(乙32)においては,)株主が1名であるという前提で自己株式取得の授権決議を行っているため,株主が2名になると面倒である。」と述べたこと,③A14が,「c社はいつでも,その保有するエイ・ピー・ホールディングス(原告)の持分を100%未満にするためにWT(b社)に対して追加の株式を発行することができるため,a社の権利は確保できている」と考えたこと,という3点が記載されている。
これらの発言は,連結付加税の点も考慮の上で将来連結納税制度を利用する計画や意思がないことを明確に述べるものである(上記①)上,その発言(上記①)に対して,A14が別段それ以上に連結納税制度を利用する途を探る方向で追求をしたことは全くうかがわれず,逆に,上記③の内容(これは,株主が1名のみの場合には自動的に連結納税を強制される制度を採用している国もあるとの認識を前提に,万が一日本がそのような連結納税の強制適用制度を採用した場合には,原告の株主を2名以上とすることによって連結納税を回避することができるという趣旨でされた記載である。)からは,a社としてはむしろ連結納税制度の適用を回避したいと考え,強制的に連結納税制度の適用を受けた場合にそれを回避する方策まで考えていたことがうかがえる(甲48,50,56の2,59の2)。そして,原告の株主を1名とするという判断をした理由が「株主が2名になると面倒」(上記②)又は必要があればいつでも原告の株式保有比率を100%未満に下げることができる(上記③)というところにあったという事実自体,原告を連結親会社とする連結納税にはa社からの参加者もc社からの参加者も全く関心がなく,むしろ連結を回避したいと考えていたことを示している。
(エ) A30のA11に対する報告
A30は,2002年(平成14年)8月17日付けで,A11に対し,「利息については,日本において控除することはできず」などと記載された電子メール(甲51の別紙1)を送信しているところ,これは,原告は支払利息を損金に算入することができる所得を有する見込みがないため,原告の損益計算書に記載されていた支払利息が日本の税務上控除の対象となることはあり得ないとの趣旨によるものである(甲51)。
(オ) 本件A16メール(甲24)
本件A16メールには,「将来,X(原告)に課税所得が発生する可能性は殆どないと理解しています。」,「A26さんからは,我々としては,現段階で日本で連結納税申告を申請することに前向きではない(“at the moment we are not very positive about applying consolidated tax filing for Japan”)と聞いています。」などと記載されていたところ,本件A16メール(甲24)は,A26,A24及びA16が,原告の平成14年9月期の決算において原告に生ずる税務上の損失(本件融資の利息相当額である約23億円)が計上されてその損失が税法の規定により5年間繰り越されるものの,原告は持株会社であって課税所得が生じないために原告に税務上の損失が計上されても,連結納税申告を申請しない限り税務上その損失を利用することはできないところ,A26が原告について連結納税申告を申請する意思がなく,その損失を税務上利用することはできないと見込まれたため,上記の税務上の損失を繰延税金資産を計上しないという経理処理をすることでよいかどうかを確認する(甲44参照)趣旨のものであった。
仮に,将来は連結納税を申請する可能性があると考えていたのであれば,当然に税効果会計に反映させるべきだという報告内容になるはずであるから,本件A16メール(甲24)が,送信された段階で連結納税申告を申請することに前向きでなかったことを示しているにすぎず,将来は連結納税申告を申請して繰越欠損金を利用することを想定していたとの認識に立って記載されたものではないことは明らか(甲43,44)である。
ウ 本件各譲渡及びその後のc社の担当者らの行動等がa社が本件各譲渡により生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することに全く関心を持っていなかったことを裏付けること
(ア) 平成14年譲渡の存在それ自体がa社が本件各譲渡により生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することに全く関心を持っていなかったことを裏付けること
平成14年譲渡の当時においては,法人税法上欠損金の繰越期間が5年と定められており,本件株式購入の後5年を超えた直後から(事業年度の変更がないことを前提に平成20年1月1日以降に開始する事業年度から)連結納税制度を導入した場合には,少なくとも平成14年12月期に生じた欠損金1981億9782万9185円(平成14年譲渡によるもの)は,平成19年12月期末をもって繰越期間を経過するため,これを利用することができる合理的な見通しは存在し得なかったことは明白である。しかも,原告が,平成14年譲渡によって生じた譲渡損失を利用する場合には,同時に,連結子法人となるc社の資産を時価評価して多額の評価益を計上しなければならない(完全支配関係が5年未満であるためである。)ところ,c社の資産の帳簿価額は,平成14年ないし平成19年当時の時価に比べて相当低額であり,連結納税を適用するためにそれを時価評価することとなれば,一時に多額の評価益が発生して,たとえ平成14年譲渡に係る譲渡損失を繰越欠損金として受け入れたとしても,○○グループ全体の納税負担の方が大きいことは明らかであり,そのような経済的合理性に欠ける選択をすることも考えられなかった。
そうすると,仮に,a社が,株式譲渡損による欠損金の連結納税による利用を企図していたとすれば,平成14年12月期にc社による自己株式の取得をすることには何のメリットもないことがわかっていたはずであることになるが,実際には,平成14年譲渡の規模は平成15年譲渡よりもはるかに大きい(約9倍)上,平成16年12月期にはc社は自己株式の取得をしていない。
(イ) a社が本件各譲渡により生ずる有価証券の譲渡損に全く関心を持っていなかったことと共通する事実関係
a c社の担当者が平成14年譲渡の当初,c社の株式の1株当たりの取得価格及び平成14年譲渡に係る源泉所得税の額をいずれも誤って計算していること
前記(7)ウ(ア)に述べたとおり,c社の担当者が平成14年譲渡の当初,c社の株式の1株当たりの取得価格及び平成14年譲渡に係る源泉所得税の額をいずれも誤って計算しているところ,これは,○○グループに連結納税制度を利用して有価証券の譲渡損を将来連結繰越欠損金として控除する意思があることを否定する事実であるといえる。
b 平成14年譲渡がされた頃に原告に有価証券の譲渡損が生じたことが報告されたことに対するa社の対応(2007年(平成19年)に至るまでa社の繰延税金資産にも計上されていなかったことを含む。)等
前記(7)ウ(イ)に述べたとおり,A10は,平成14年譲渡がされた前後の頃,本件各譲渡に伴って日本の税務上発生する損失の取扱いについてa社のグループ全体の連結財務諸表に何らかの記載をする必要もないという判断をし(甲27,48,92,93),a社が本件各譲渡により原告に生じた繰越欠損金を2007年(平成19年)に至るまで開示資料の対象としなかった(甲27参照)ところ,これは,a社が株式譲渡損を税務上利用できる見込みはないと判断していたことを明らかに示す事実であり,○○グループに連結納税制度を利用して有価証券の譲渡損を将来連結繰越欠損金として控除する意思があることを否定する事実であるといえる。
c 本件各譲渡により原告に有価証券の譲渡損が生じたことが2007年(平成19年)に至るまでa社の経理担当者に伝えられていなかったこと
前記(7)ウ(ウ)に述べたとおり,平成14年譲渡が行われた後,平成14年譲渡により原告に生じることとなった繰越欠損金を原告の財務諸表上繰延税金資産を計上すべきかが検討され,当時の原告担当者(A24)が,これを繰延税金資産を計上すべき理由はないと判断した(甲43,44)結果,A11は,本件各譲渡により原告に有価証券の譲渡損が生じたことを2007年(平成19年)まで知らなかった(甲51)ところ,この事実は,a社に連結納税制度を利用して有価証券の譲渡損を将来連結繰越欠損金として控除する意思があることを否定する事実であるといえる。
(ウ) 本件連結納税承認申請はA9が平成17年5月頃からa社に働き掛け続けて初めて実現したものであること等の事情の変化があったこと等
原告が,日本再編プロジェクトが計画・実行された当時は全く予定されていなかった連結納税制度を利用することとなった背景には,重要かつ明らかな事情の変化等(①平成16年度税制改正により欠損金の繰越控除期間が5年から7年に延長されるとともに平成13年4月1日以降開始の事業年度に生じた欠損金にこの延長を遡及適用するとされたこと,②平成16年3月にA12がc社を退職して日本再編プロジェクトの計画・実施に全く関与していなかったA9が就任し,それまでの方針(連結納税は行わない)が見直されることになったこと,③連結納税制度導入時(平成14年)に2年後に見直すとされていた連結付加税が,平成16年をもって廃止が確定したこと,④原告がc社等4社の株式を取得してから5年が経過し,連結納税の開始に伴う時価評価が不要になった平成20年12月期において,上記①により,平成14年12月期の欠損金を利用することが可能になったこと,⑤本件過去調査が行われた際,本件株式購入,本件各譲渡及び欠損金の計上について詳細に調査がなされたが,何の指摘もなかったこと及び⑥連結納税基本通達(平成15年2月28日付け課法2-3課審4-7国税庁長官通達。甲118)が制定,改正されたことに加え,質疑応答による解釈の明確化が進んだ上,連結納税導入後の制度運用を見ると承認申請が却下された例は聞かれず,申請すれば承認を得られる可能性が高くなったと考えられたこと)があった。
そして,A9(なお,A9は,タックス・マネージャー就任時にA12から,原告に生じている譲渡損を使うべきだとか使えるようにしてほしいなどという引継ぎを受けたことはない。甲47)が,2005年(平成17年)5月頃,a社の税務部門の担当者(A29)に対し,原告が連結納税申告承認の申請を行うことをa社に提案(日本において連結納税を行うことは○○グループ内における税務方針の重大な変更であるため,a社の税務部門の承認を要する事項であった。)したが,a社においては,既定の方針(日本において連結納税をしない)を変更するべき理由があるとは認識されていなかったためにa社側の関心は極めて薄く,上記の方針を再検討しようという気運も生ぜず,A9の提案に誰も耳を貸してくれないような状況が続いた(甲47)。A9は,さらに約1年半ほどの間,A29のみならずA10(当時はa社の税務部門の責任者)に対しても提案を続け,ようやく2007年(平成19年)5月3日にa社税務部門の承認を取り付けた(甲47,48)結果,本件連結納税承認申請(甲25)がされた。
以上のような本件連結納税承認申請(甲25)に至る経緯は,①a社が原告を日本の持株会社として設置することとした当初から連結納税制度を利用することを想定していたこと及び②原告に連結納税制度の利用を決断させる原因となるような事情の変化等は何もないことという被告の主張が完全なる事実誤認であることを示している。
エ 税制改正の客観的経過によってもa社が本件各譲渡により生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することを想定していたことを合理的に推認することができないこと
(ア) a社が日本再編プロジェクトを承認した時点(遅くとも2001年(平成13年)11月)においては,連結納税の導入自体又は導入されたとしても連結納税制度の適用を受ける要件及びその効果の重要な部分が不明であったこと
a a社が日本再編プロジェクトを承認した時点(遅くとも2001年(平成13年)11月)においては,平成14年度税制改正大綱(乙5)が公表されていなかったこと
a社が中間持株会社の設置を含む日本再編プロジェクトを承認した時期は,遅くとも2001年(平成13年)11月であったところ,これは平成14年度税制改正大綱(乙5)が公表された同年12月19日よりも前である。また,「連結納税制度の基本的考え方」(甲104)が,政府税調によって了承・公表された(平成13年10月16日)以降においても,連結納税制度の導入に反対する意見が根強くあり,同月17日の時点でも,自民党税調において引き続き連結納税制度導入の是非を議論する旨の報道(甲136)がされるなど,「連結納税制度の基本的考え方」(甲104)が公表された時点(同月16日)においては,連結納税制度が導入されるのか,導入されたとしてもそこに記載されたとおりの内容となるのかは,予断を許さない状況にあった上,同年11月下旬の時点においても,当時の財務大臣が平成14年度の連結納税制度の導入を見送る考えを表明した旨の報道がされている(甲137)ことを見ても,a社が日本再編プロジェクトを承認した2001年(平成13年)11月時点においては,日本における連結納税制度導入に係る議論は流動的であった。
b a社は,日本再編プロジェクトを承認した時点(遅くとも2001年(平成13年)11月)において,我が国の連結納税制度に係る法案の内容(特に,子会社継続保有期間要件が5年であること)及び連結納税制度に係る繰越欠損金の適用を受けられることを知ることができなかったこと
a社が日本再編プロジェクトを承認した時点(遅くとも2001年(平成13年)11月)で提案されていた我が国の連結納税制度に関する情報は,「連結納税制度の基本的考え方」(甲104)のみであったところ,それには,時価評価対象から除外される子会社は「長期にわたって100%子会社となっている法人」(甲104「二.7.(1)⑤」参照)との記載があったのみで,「長期」がどの程度の期間を意味するかは全く明らかにされていなかった(甲106参照)。
また,平成13年12月19日に平成14年度税制改正大綱(乙5)が公表されたが,同大綱においても,制度の概要が示されるにとどまり,外国法人の子会社が連結親法人として認められるかどうかは明確でなく,かつ,企業が実際に税制適用の是非を検討するために必要な法令,通達,国税庁による執行方針等は全く未定の状況(例えば,連結納税の適用について国税庁長官の承認が必要となる旨の制度が採用されること自体は平成14年度税制改正大綱(乙5)から読み取ることは可能であったが,承認の要件も不明であり,連結納税承認申請について,申請した後にどのような基準により審査され,どのような場合に承認が下りるのか,その運用方針は全く不明であった。)であり,平成13年12月末の時点でも,連結納税制度を適用した場合の会計基準の取扱いがどうなるのかについては未定であった。その後,平成14年度税制改正要綱(甲108)が平成14年1月17日に閣議決定されたが,同要綱(甲108)においても連結納税制度の概要が示されたのみで,例えば,連結納税の承認の基準等,制度の具体的な利用の検討に不可欠な情報は記載されておらず,連結納税制度についての改正内容が具体的に明らかにされた法人税法の改正案の閣議決定及び同法案の国会への提出がなされたのは同年5月10日であった(甲109参照)。
a社が日本再編プロジェクトを承認した時期は,遅くとも2001年(平成13年)11月である上,a社は,上記の法案が国会で法律として成立し,さらに,その法律を受けて関係施行令,施行規則が全て公布されるまでは,いかなる要件を満たせば連結納税制度を利用することが国税庁長官によって承認されるのか,利用した場合にどのようなメリット・デメリットがあるかを判断するために必要な法令の内容を十分に知ることはできなかった(なお,連結親法人となり得る法人について規定した法人税法4条の2において,外国法人の完全子会社は,連結親法人から除外される普通法人の完全子会社からさらに除外される形で,連結親法人として認められることとされているが,このような複雑な条文構造による連結納税制度の適用関係を平成14年度税制改正大綱(乙5)又は平成14年度税制改正要綱(甲108)から読み取ることは不可能である。)。
このように,a社が日本再編プロジェクトを承認した時点(遅くとも2001年(平成13年)11月)においては,企業が連結納税制度を利用するかどうかを判断するために不可欠な連結納税制度の具体的な要件及び効果のうち重要な部分が依然として明らかとなっておらず,それを定める法律も成立していなかった上,仮に連結納税承認申請をした場合に国税庁長官の承認を得られることを予測することもできなかったところ,そのような不確実な状況の中で,「将来的に連結納税制度を利用して,本件各譲渡により生じる有価証券譲渡損を連結課税所得から控除する」ためだけに日本に中間持株会社を設置することを決定するというのは,合理的な企業の行動・経営判断としておよそあり得ないというべきである。
(イ) 欠損金の繰越控除期間の延長は平成16年度税制改正によって立法されたものであること
原告による連結納税の最初の連結期間である平成20年12月期において,平成14年12月期に生じた欠損金が連結繰越欠損金として取り扱われることとなったのは,平成16年度税制改正による欠損金の繰越期間延長及びその遡及適用という改正(詳細は前提事実2(4)エ参照)の結果であって,a社が日本再編プロジェクトを承認した時点(遅くとも2001年(平成13年)11月)のみならず,本件株式購入及び本件各譲渡がされた平成14年においても,予測不可能であったものである。
平成14年12月期に発生した株式譲渡損失が結果として平成20年12月期以降にc社等の連結子法人の連結所得金額から控除されているという結果から平成14年譲渡当時の原告やa社の主観的意図を推認するのは,誤った結果論でしかないというべきである。
オ 被告が指摘するその余の事情によってもa社が本件各譲渡により生ずる有価証券の譲渡損を連結課税所得から控除することを想定していたことを合理的に推認することができないこと
(ア) 連結付加税の廃止について
日本の法人税の税率はもともと諸外国と比較すると高いのであり,これに税率を上乗せする連結付加税の存在は企業にとっては重い上,a社が日本再編プロジェクトを承認した時点(遅くとも2001年(平成13年)11月)においては,連結納税制度による税収減への対応として,「法人税率の付加的な上乗せ」という提言はされていた(甲105の1参照)ものの,これを時限的な措置とするような案は何ら示されておらず(平成13年12月初めに,4年間の時限措置とするという案が自民党税調で検討されたという報道(甲105の2)が初出である。),平成14年度税制改正要綱(甲108)が公表された時点(平成14年1月17日)においても,連結付加税が2年後に廃止されることが確定的ではなかった。
このような事実経過に照らすと,連結付加税の廃止を織り込んで連結納税制度を利用することを当初から想定していたとは到底いい難いというべきである。
(イ) 5年間の経過を待たずに連結納税制度を利用する方法があることについて
被告は,①原告が,c社等4社の資産の時価評価をする又はc社を適格合併することにより,平成14年譲渡により生じた欠損金の繰越可能期間内に連結納税の適用を開始し,当該欠損金額を現実に使用し得る蓋然性は存在していた,②本件一連の行為を計画した時点において,欠損金額を使用できる可能性が全く否定されるような状況でない限り,不合理,不自然な行為によって発生した欠損金額の存在により,法人税法132条1項の適用上,不当な法人税の負担の減少がなされると評価されることはあり得るなどと指摘する。
しかしながら,合併による債務の引継ぎに伴う取引先の信用への悪影響やc社の許認可や第三者との間の取引契約の承継といった問題を考えれば,適格合併を行うことはビジネス上も不可能であったし,c社の資産を時価評価することについても,前記(8)ウ(ア)に述べたとおり,経済的合理性に欠けており,そのような選択をすることは考えられなかったところ,上記の可能性は全く立証されておらず(むしろ,原告が立証した事実によれば,そのような可能性はなかったものといえる。),法的に可能だったという抽象的な可能性の存在を指摘しているにすぎない。また,被告が上記①及び②に指摘するような可能性は,抽象的にはどの法人にもあり得るのであり,結果として繰越欠損金が利用された場合に,過去のある一時点において当該繰越欠損金を利用し得る可能性がありさえすれば,その不当性が根拠づけられるというに等しく,当該繰越欠損金の利用を可能とするような税制度が存在していることのみによって欠損金を生じさせた行為の不当性が根拠づけられ得るというものである。
以上によれば,被告の主張は,失当である。
第2 前記第1において法人税の負担の減少が法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができる場合に,処分行政庁による本件各譲渡事業年度の課税標準等に係る引き直し計算が適法であるか否か(争点2)について
1 法人税法132条1項の効果(税務署長による引き直し計算)について
(1) 法人税法132条1項による引き直された行為又は計算は否認対象行為がされた時点で合理的経済人が事実上及び法律上選択することが可能であった行為又は計算でなければならないと解すべきこと
法人税法132条1項は,同族会社による私法上の法形式の選択可能性の濫用があると認められる場合に,実際に選択された行為又は計算を,合理的経済人であれば選択したであろう私法上の行為又は計算に引き直して課税する適正,公平な課税の実現のために設けられている例外的規定であるから,同項を適用することにより引き直される上記の「合理的経済人であれば選択したであろう行為又は計算」は,税務署長の自由な裁量に委ねられているのではなく,否認対象行為がされた時点で合理的経済人が事実上及び法律上選択することが可能であった私法上の行為又は計算をいうものと解すべきである。このことは,同項に明文で規定されていないものの,①申告納税制度の下においては,納税者による申告により一次的には納税義務が確定されるのであり,納税者が,税法に基づいて課税標準等を計算し,自発的に申告することができないような計算を税務署長が裁量で行うことを認めることは申告納税制度の趣旨に反すること,②そのように解しないと,納税者に不可能を強いるだけでなく合理的経済人が選択することが不可能な行為又は計算を「正常」な行為又は計算とみなすことにもなり,同項の趣旨や文理に反すること,③税務署長に,引き直し計算の名目で客観的・合理的基準によらない恣意的な否認権限を与えることから,同項の適用に当たって条理上求められる要件ということができる。
(2) 法人税法132条1項に基づく引き直し計算は合理的な取引に引き直すことができる限りそれによるべきであって税務署長の裁量で便宜上他の法形式に置き換えることは許されないこと
税務署長が,通常の経済人が行うことがあり得ない経済合理性を欠く行為について行為そのものを否認する場合,正当な行為又は計算が観念し得ず,引き直し計算ができない場合が仮にあったとしても,そのような場合には,異常な行為を行った本人が,当該行為を行わなかった場合の法人税負担を認識しているのが通常であるし,行為を否認された場合の税負担を甘受すべき立場にあり,行為者の「便宜」のために,価格否認に準じた引き直し計算を行う合理性はどこにもないから,合理的な取引に引き直すことができる限りそれによるべきであり,税務署長の裁量で便宜上他の法形式に置き換えて引き直し計算をすることは,法人税法132条1項の「税務署長の認めるところ」による計算といえず,合理的経済人であれば選択したであろう私法上の法形式に置き換えて課税所得を計算するという限度で税務署長に与えられている権限を遙かに超える権限を行使する不当なものであって許されないというべきである。
被告が,通常用いられる行為又は計算に引き直すことができないときは他の合理的な方法により計算することも許容される旨判示したとして指摘する裁判例(ケン事件第一審判決(乙67))においても,取引そのものの否認は認める一方,引き直し計算については価格否認に準じた計算を行っている(なお,同事件の事案で否認された取引は,合理的経済人であれば決して行わない取引であり,取引自体に異常,変則さが認められる場合の事例判決と解するのが相当である。)から,同裁判例が被告が主張するような他の法形式への「便宜」の置き換えを認める根拠とならないことも明らかである。
(3) 法人税法11条により決定された行為又は計算に基づく損益の帰属につき同法132条1項を適用することによって実質的に否認することが許されないこと
前記第1の1(4)イ(イ)に述べたとおり,法人税法11条が法律的帰属により損益の帰属を決定する規定であると解釈されていることに照らすと,たとえ,経済的実質的な損益が法律的な損益の帰属主体と異なる法人(このことは,仮に,その者がいわゆるダミー法人であったとしても同様である。)に帰属すると認められたとしても,そのようにして決定された損益の帰属を法人税法132条1項の適用によって実質的に否認するような行為又は計算に引き直すことは許されないものというべきである。
(4) 法人税法132条1項は租税法上の制度の濫用による租税回避を否認する根拠規定にはなり得ないこと
法人税法132条1項が対象としている私法上の法形式の選択可能性の濫用による租税回避と租税法上の制度の濫用による租税回避とは似て非なるものであって,同条によって制度の濫用による租税回避行為を否認することはできない。
ア 租税法上の制度の濫用による租税回避に対しては,当該制度の規定の目的論的限定解釈によって当該規定の適用を否定される場合があるが,それは否認ではないこと
一定の政策目的を実現するために税負担を免除ないし軽減している規定に形式的には該当する行為や取引であっても,税負担の回避・軽減が主な目的でその規定の本来の政策目的の実現とは無縁である場合が,租税法上の制度の濫用による租税回避であり,このような場合には,その規定が元々予定している行為や取引には当たらないと考えて,その規定の縮小解釈ないし限定解釈によって,その適用を否定するという目的論的限定解釈をすることによりそれを否定することができる場合があると解され,このような解釈が租税法上の制度の濫用による租税回避に対する否認の根拠となるところ,これは,結果的には租税回避行為の否認を認めたのと同じことになるが,それは理論上は否認ではなく,規定の本来の趣旨・目的に沿った縮小解釈ないし限定解釈の結果である点で法人税法132条1項による否認とは異なると解されるものである(甲148参照)。
このように,法人税法132条1項が対象とする私法上の法形式の選択可能性の濫用と租税法上の制度の濫用による租税回避は,租税法理論上,似て非なるものである。
イ 租税法上の制度の濫用による租税回避に対する目的論的限定解釈と法人税法132条1項による同族会社の行為又は計算の否認は似て非なるものであること
租税回避行為の否認については,①租税回避の否認に関する明文の規定による否認(狭義の租税回避否認)(法人税法132条1項による否認はこの類型に含まれる。),②課税減免規定の目的論的解釈による「否認」,及び③事実認定・私法上の法律構成による「否認」(ただし,この類型は,事実認定そのものの問題である。)の3つの類型に整理することができる(甲153参照)ところ,上記②は,課税減免を規定した租税法規を目的論的に限定解釈することによって課税減免の適用範囲を限定し,当該事案における適用を否定する類型であって,理論的には個別の租税法規の目的論的な限定解釈であるが,それによって結果的に租税回避行為の否認を認めたのと同じことになる(甲148,149参照)ことから,租税回避行為の否認の一類型として分類することができると解されるが,本来の租税回避行為の否認とは異なることから,本来的な意味での租税回避行為の否認(上記①)とは区別されるべきものである。なお,法制度の濫用に対する目的論的な限定解釈は,当該制度において規定されている課税要件(減免要件)にはない不文の課税要件(減免要件)を付加することにほかならないから,租税法律主義の趣旨からして,この限定解釈の法理の適用については,十分に慎重でなければならず,本来的には,立法によって解決すべき問題である(甲148参照)。
ウ 法制度の濫用による租税回避行為を同族会社が行った場合に法人税法132条1項によって否認することができないこと
法人税法132条1項においては合理的経済人が選択する法形式を客観的・合理的基準により判断することが求められるにとどまる(その意味で,同項は,税務署長に包括的,一般的,白地的な課税権限を付与するものではない。)のに対し,法制度の濫用による租税回避について求められる判断(法制度の趣旨・目的がいかなるもので,法制度の趣旨・目的に沿わないと認められる行為が行われた場合に,法制度の適用を排除できるような縮小解釈ないし限定解釈ができるか否かという判断)が同項において判断を求められるものと全く異なるほか,当事者が選択した行為に代えて同じ目的(つまり租税回避目的)のために合理的経済人であれば選択したはずの他の法形式の行為を観念することはできない点においても法制度の濫用による租税回避が同項による否認と全く異なるものであるといえることに加え,法制度の濫用であるとして目的論的な限定解釈による制度の適用を否定することは,法令に不文の要件を付加することにほかならず,その可否の判断が同項によって税務署長に与えられた権限の外にあることが明白であることにも照らすと,同項を適用することによって,租税法上の制度の濫用による租税回避を否認することはできないというべきである。
2 本件における処分行政庁による課税標準等の引き直し計算が違法であること
(1) 本件各譲渡事業年度更正処分において本件各譲渡に係る譲渡の対価を通常配当に置き換えて課税所得を計算していることは合理的経済人が事実上及び法律上選択することが可能であった行為又は計算であるとはいえないこと
処分行政庁は,本件各譲渡事業年度更正処分において,本件各譲渡の対価を通常配当に置き換えて課税所得を計算しているところ,本件各譲渡が行われた時点では,旧商法により通常配当の実施が制限されていてc社も通常配当を行うことができず,原告が本件各譲渡に係る譲渡の対価を受取配当に置き換えて法人税申告を行うことは不可能であったにもかかわらず,違法な配当をすることを合理的経済人であれば選択したであろう行為又は計算と認定したものであって,合理的経済人が違法行為を選択するという背理を正面から認めることにほかならないから,前記1に述べた条理上の要件を無視してまで「便宜上」の置き換えによる引き直し計算をすることは,法人税法132条1項の本来の射程距離を大きく逸脱する違法な処分であるというべきである。(なお,国税不服審判所長は,受取配当への引き直し計算を違法としている(甲15)が,それはこのような事実を踏まえた判断ではないかと推測される。)。
また,被告は,c社が自己株式を取得する取引に原告が「介在」しないこと(b社がc社に対し直接同社の株式を譲渡すること)を「本来あるべき取引」としているため,①上記の「本来あるべき取引」を前提とした場合,本件各譲渡を否認することによる正当な計算としては,原告によるc社の株式の譲渡に係る譲渡代金の受領が配当の受取りといえないことになる一方で,c社の株式が原告へ法律的に帰属することは認めているため,原告が受領した上記の譲渡代金が収益として原告に帰属することは否認できず,かつ,②原告が受領した上記の譲渡代金を全て受贈益と認定して益金に算入した場合,上記の「本来あるべき取引」において,原告が本件各譲渡から完全に外れることになることと比較して,あまりにも処分行政庁が意図したところ(株式譲渡損失のみを否認する)とかけ離れる結果になることを危惧したため,中途半端ともいえる「便宜上」の置き換えを主張せざるを得なかったものと思われるところ,これは,本件各譲渡により原告に生じた株式譲渡損を損金に算入することを否定するという結論を先に決めた上で,本件各譲渡の損益の原告への帰属を否認できないにもかかわらず,法人税法132条1項によって本件各譲渡による株式譲渡損失の計上を否認しようとしたことを強く疑わせるものである。
(2) 法人税法132条1項により本件各譲渡を否認したとしても当時の法人税法を適用すれば原告に株式譲渡損失が生じる結果となったこと
ア 仮に,本件各譲渡を否認して合理的経済人であれば選択したであろう行為又は計算に引き直すとした場合,本件においては,c社が自己株式の取得に伴って取得した自己株式を消却していることに照らすと,これを有償減資(発行法人が減資する見合いで,株主に資産等を交付するもの)とすることが考えられるところ,有償減資の場合,株式の譲渡がなくとも法人株主段階では譲渡損益を認識することとされており,その計上について,株式の消却を伴う場合は,法人税法上は自己株式取得と同一の条文が適用されていたから,結局,本件各譲渡(自己株式取得に応じて株式の譲渡をする取引)場合と原告における法人税法上の取扱いは同一となったはずである。
イ(ア) 本件各譲渡が行われた当時の同法の基本構造は,株式発行法人が株主(法人)に対して金銭その他の資産を交付して発行株式数を減少したことにより資本等の金額を減少させた場合には,法形式のいかんにかかわらず,株主(法人)に同じ方法により計算されたみなし配当の額及び譲渡損益額が発生するというものであった。
法人税法24条1項は,株主である法人が,株式発行法人から,資本の減少に伴って金銭等の資産の交付を受けた場合に資本の払戻し部分を超える部分の金額を配当とみなして課税所得を計算することを定めた規定であり,平成13年法律第6号による改正により,有償減資のうち株式の消却を伴わないものについては減資額,株式の消却を伴うものについては消却株式数を基礎とする計算式により,みなし配当の額を計算することとされた。そして,同年6月の商法改正(同年法律第79号による商法の改正)により,取得した自己株式を消却せずに保有するいわゆる金庫株の保有が認められ,資本の部の控除項目とすることとされたことから,自己株式の取得と株式の消却が連動しなくなったため,自己株式の取得自体をみなし配当の額の発生事由とすることとして,同年法律第80号により法人税法24条1項5号が追加されたもの(なお,被告は,あたかも自己株式取得が新しくみなし配当の額の発生事由となったような指摘をするが,株式の消却を目的とした自己株式取得は,それ以前から株式の消却に伴いみなし配当の額が計算される仕組みだったのであり,上記改正は,消却以外の目的による自己株式取得と併せて,取得時点でみなし配当の額を計算することとしたものにすぎない(甲157参照)。)である。また,同項は,発行法人の資本の部に異動が生じる行為に基づいて株主である法人が発行法人から金銭等の交付を受けた場合に株主である法人において法定の計算式によりみなし配当の額を計算することを定めた規定であり,その条文構造は,みなし配当の額の発生事由について各号毎に個別独立した要件を定めているのではなく,発行法人の資本の部における変動(資本の払戻し,資本の減少,株式の消却あるいは自己株式の控除項目としての計上)に応じて,重複適用を回避する形で,各号に振り分けるという形式を採っている。
このような改正経緯や条文構造に照らすと,同法24条1項4号が,「株式の消却(取得した株式について行うものを除く。)」と括弧書きを設けているのは,同年法律第80号による法人税法の改正において自己株式の取得がみなし配当の額の発生原因として独立の号(同法24条1項5号)で規定されたことに伴う規定の重複適用を避けるための立法技術上の処理(同項各号の括弧書きは,規定の重複適用を避けるための立法技術上の処理として,改正のたびに追加されている。)にすぎず,自己株式の取得による株式消却についてみなし配当の額を計算しないという趣旨に出たものではなく,同項4号の括弧書きは,同項5号によりみなし配当の額を計算されている場合の株式の消却には同項4号を適用しないという趣旨を定めたものと解するのが相当であって,同項の規定の適用の有無が,株主である法人の行為として同項各号の事実を原因として金銭の交付を受けたか否かによって決定されるものともいえないというべきである。
(イ) 処分行政庁は,原告がc社の株式の所有者であることを認めることを前提とした上で,法人税法132条1項を適用した効果として本件各譲渡をなかったものとし,本件各譲渡に伴って原告が受領したc社の株式の譲渡に係る譲渡代金を受取配当として引き直す計算をしているため,同法24条1項5号は適用されない。一方,c社による自己株式の取得及びその消却を否認することができない(原告の行為でないからである。)ため,c社の株式の所有者である原告には,株式の消却に係る同項4号が適用されることによる譲渡損益が生ずる上,同号によるみなし配当の額の計算においても,消却株式数と発行済株式数の比率による計算によりみなし配当の額を計算することになるので(平成18年政令第125号による改正前の法人税法施行令23条1項4号),計算されるみなし配当の額は,自己株式譲渡の場合と同じ金額となる。
このように,同法132条1項の適用により本件各譲渡を否認したとしても,c社が株式を消却したことによる関係法令の適用の結果として自動的に株式の所有者である原告にみなし配当の額と譲渡損益額を生じさせることまでは否認できない。
(3) 被告の主張による引き直し計算は,法人税法11条により決定された行為又は計算に基づく損益の帰属を同法132条1項を適用することによって実質的に否認する違法なものであること
ア 処分行政庁は,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)において,本件各譲渡により原告が収受したc社の株式の譲渡代金を受取配当へ置き換えて引き直し計算を行っており,原告がc社株式を保有している者であることを税法上も認めていることを前提として更正をしており,被告も,本件各譲渡の損益が原告に法律的に帰属していることを争っていない。
したがって,これらの客観的事実によれば,本件各譲渡による株式譲渡損失も原告に帰属するというのが法人税法11条を解釈・適用した結果ということになるというべきである。なお,前記第1の1(4)イ(イ)aで指摘した裁判例(前掲東京地裁平成8年11月29日判決)においては,行為又は計算の否認が所得の帰属の認定には結びつかないことも明らかにされている。
イ 前記アに述べたとおり,c社の株式を法的に所有する者は実質的にも原告であるところ,我が国の法人税法上,本件各譲渡の時点において課税単位とされるべきは原告単体であり,本件各譲渡に係る課税関係は,本件各譲渡の対象たるc社の発行済株式の全部の法的帰属先が誰であるかにより決定するというのが法人税制の基本に則った結論(連結納税制度は,経済的実質的な損益の帰属が親法人である(税法上,完全支配関係のある企業グループでは利益が親会社に帰属することを明示的に認められている(甲104参照)。)場合であっても法人課税の課税単位はあくまでも個々の子会社であるという法人税制の基本に対する例外である。)である。
そうすると,本件においては,租税法の明文の定めなく,原告の存在を無視するような課税は許されず(甲129参照),法人税法上の損益の帰属についてまで経済的実質的な判断により課税関係を決定し得るとするのは,法人税の性格を無視して,同法132条1項の位置付けを含む同法の制度設計に対する基本的な理解を欠き,租税法律主義にも違反するものであることは明らかである。
したがって,b社がc社との間で同社の自己株式取得取引の当事者になるのが通常あるべき取引であるとし,同法132条1項を適用することの効果としての引き直し計算において,税務署長の認めるところにより本件各譲渡を否認し,これをなかったものとして課税標準等の計算を行うことができる旨被告が主張することは,実質的には,本件各譲渡の損益が原告に帰属することを否認し,「経済的実質」に鑑みて,これがb社に帰属するものと主張するものといわざるを得ない(なお,被告は,法人税法132条1項を適用することによって,同法11条によって認定された損益の帰属を変更しようとするものではない旨主張するが,およそ反論の体を成していない。)ところ,このような主張は,帰属の判断に係る事実は同法11条の適用においてのみ考慮され,同条の適用において法人税法上も原告への法律的帰属が否定できない場合には,その帰属を前提としてその後の課税関係が規律されることに照らすと失当である。
(4) 被告は本件一連の行為を否認するのと同じ法的効果を法人税法132条1項により本件各譲渡を否認するという法的構成に仮託して実現しようとしていること
被告は,本件を全体として通常あるべき行為に引き直すとすれば,そもそも原告の存在自体を否定するとともに,原告がb社からc社の株式を譲り受けたという事実と原告がc社に同株式を譲渡したという事実を否認すべきであるとも考え得る旨主張する。
しかしながら,本件一連の行為は,異なる主体による複数の行為であり,法人税法132条1項もあくまでも原告の行為又は計算を否認し得る権限を税務署長に与えているだけで,原告の存在や損益の原告への帰属を否認することはその対象外であるから,本件一連の行為の全てを同項に基づいて否認することは不可能であり,そのような否認はいわゆる包括的租税回避否認規定により初めて可能となるものである。
このように,被告の主張は,同項に基づいて否認することが不可能な本件一連の行為を否認したのと同じ効果を,本件各譲渡を否認するという法的構成に仮託することによって実現しようとするものである。
(5) 処分行政庁は引き直し計算による貸借項目の表示を理由なしに変更しており,被告の主張と処分行政庁による引き直し計算が整合しているかどうか検証できないこと
処分行政庁は,本件各譲渡事業年度更正処分による株式譲渡損失否認の税務仕訳として「子会社株式・出資金」に資産計上した金額(3期分合計429,911,741,760円)を引き継いだ平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)における税務仕訳を,平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)において,何ら理由を付すこともなく,利益積立金の合計金額(「申告額計」欄)に合算計上して表示する変更を行っており(甲9の2),この表示は訴えの変更後の取消対象処分である平成20年12月連結期第4更正処分(甲127の1)においても引き継がれている(甲127の2)。平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)における表示の変更は,連結所得に対する法人税額等の更正通知書とお知らせ(平成20年12月連結期第3更正処分に係るお知らせは甲9の2)により通知されたところ,お知らせ(甲9の2)に記載された連結利益積立金額等は更正対象事業年度の税額に異同が生じるものではなく,処分行政庁による計算結果の通知にすぎないこともあり,お知らせ(甲9の2)には理由付記欄は設けられておらず,不服申立手続に関する教示も記載されていないが,税務仕訳における貸借科目の計上金額は,翌期以降の課税標準等の計算の基礎となり,納税者の納税義務に直結する点で,納税義務者の権利義務を確定する公的な意思表示である上,単体申告に対する更正通知書においては一の書面に記載されており,明示的ではないにせよ,処分の内容と一体的に審理の対象になるから,更正をすべき理由がない旨を通知する処分と同様に処分性が認められると解するのが相当である。
したがって,このような解釈を前提とし,平成20年12月連結期第3更正処分(甲9の1)における表示の変更(甲9の2)が本件各譲渡事業年度更正処分における引き直し計算を変更したものであるとすれば,変更後の税務仕訳に対応する引き直し計算については何ら理由を付していない上に被告の主張とも整合しないことになるため,現時点における処分行政庁の税務仕訳については,被告が合理的と主張する本件各譲渡事業年度更正処分における税務仕訳(株式譲渡損失として否認した金額を貸借科目の「子会社株式・出資金」に資産計上したこと)がそのまま維持されているのか否か判然としない状況となっているというべきである。
第3 本件更正理由(甲1,2及び4)に理由の附記の不備による違法があるか否か(争点3)について
1 本件更正理由には,理由の附記の不備の違法が存在すること
(1) 理由附記の程度について
法人税法130条2項は,「税務署長は,内国法人の提出した青色申告書又は連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の更正をする場合には,……更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない。」と規定しており,本件各譲渡事業年度更正処分を含む本件各更正処分等についても,本件各更正処分等に係る更正通知書にその理由が附記されなければならない。
最高裁は,理由附記の制度趣旨について,「更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨」であると判示した上,理由附記の程度につき,「更正の根拠を前記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り,法の要求する更正理由の附記として欠けるところはない」と判示している(最高裁昭和60年判決)。また,法人税法132条による否認事例における理由附記については,同族会社の行為又は計算を否認するような場合には,そのような評価判断に至った過程自体(法人税の負担を不当に軽減する行為であって,同条の否認の対象となる行為であること)について具体的に明示することによって,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という同法130条2項の趣旨に合致する旨述べる裁判例(スリーエス事件第一審判決)があり,否認の対象となる行為であるという評価に到った判断過程が明示されていることを要すると判示されている。なお,「附記理由は,いずれも,単に,Xらに支給したとされる本件役員報酬が実質的にYに対する報酬と認められるとするのみであって,反対資料を摘示していないのみならず,なにゆえかような判断に至ったのかという判断過程の具体的説明も全くしていない」場合には,当該附記理由は,「更正処分庁の恣意の抑制及び相手方の不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨に照らし,法の要求する程度を満たさず,不十分なものといわざるを得ない」とする裁判例(東京地裁平成5年3月26日判決・行政事件裁判例集44巻3号274頁。なお,同裁判例は,「反対資料の明示は不要」とも述べるが,理由附記の不備の具体的な判断に当たっては,反対資料を摘示していないことを評価の根拠の1つとして挙げており,評価否認の場合におよそ反対資料の摘示が不要であると判示しているわけではないから,これに反する被告の指摘は失当である。)や,評価否認であっても事実の根拠を摘示する必要がある旨を述べるとともに,公知若しくは顕著な事実又はこれらに類する事実以外の事実を評価の根拠とする場合には,資料の摘示がなければ理由附記が不備になりうる旨を示唆する裁判例(前掲東京地裁平成8年11月29日判決)もあり,判断過程の説明は具体的に,かつ,証拠を示して行うことが求められている。
このように,更正理由附記の程度については,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という上記のような理由附記制度の趣旨を充足する程度に,更正処分に至った更正処分庁による判断過程が具体的に明示される必要があると解される。
(2) 本件更正理由には,処分行政庁の判断過程が記載されていないこと
本件更正理由の記載内容は,下記アないしウのとおり,処分行政庁の認定した事実から本件各譲渡を否認するに至った判断過程が明示されていないだけではなく,認定事実の記載自体も不明確な部分があって,その記載から,原告が本件各譲渡事業年度更正処分の内容を検証することは到底できず,これに対して如何なる反論,防御を行うか,原告として判断することが極めて困難である点で,処分行政庁の判断に至った判断過程が具体的に明示されているものとは到底いえないから,そのような理由を附記した本件各譲渡事業年度更正処分に理由附記不備の違法があることは明らかである。
ア 自己株式取得の目的及び資金の流れが変わらないことは持株会社の設置の事業目的がないとする理由にならず,それらの事実を示しただけでは処分行政庁の判断過程を明示したことにならないこと
本件更正理由においては,本件各譲渡の目的と原告が本件株式購入をする前にc社がb社から自己株式を買い取っていた目的が同じであり,かつ,c社からb社に対する資金の流れの実態(実行体制や送金業務を含む。)が,原告が持株会社となった前後において変わりがない,という事実を認定し,かかる事実認定から,直ちに原告が本件各譲渡に「関与する」ことには法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的がないという結論を導き出している。ここで,「関与する」という記述は,内容不明確でその意味を確定することが困難であるが,仮に原告が持株会社となったことに事業目的がないという趣旨であると解したとしても,自己株式取得の目的及び資金の流れが変わらないからといって当該会社が持株会社となることについて事業目的が存在しないとはいえず,原告が持株会社となった前後において資金の流れ等が変わらないという事実を摘示しただけでは「法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が認められない」という判断に至る思考過程を明示したことにはならないというべきである。
イ 本件各譲渡に「関与する」という記述の意味は不明確であり,原告の不服申立ての便宜を著しく阻害すること
(ア) 本件更正理由における「(原告が)本件譲渡(本件各譲渡)に関与することに法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が認められない」という記述の「関与する」とは一体如何なる行為を意味しているのか,明らかでない。「関与」という用語は,「ある物事に関係すること」とされ(甲125),社会通念上,取引の当事者になることから一部の事務を処理することまで非常に幅広い意味で使用される用語であるところ,処分行政庁が原告の如何なる行為について「法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が認められない」と認定したのか,「関与する」という記述からは明らかにならない。原告が本件各譲渡事業年度更正処分を争うためには,処分行政庁が正当な理由ないし事業目的が認められない根拠とした事実の存否及びその評価を争う必要があるが,本件更正理由は,当該争うべき事実の内容を明らかにしていないのであるから,その記載内容は,原告が用意すべき防御の範囲を画す機能を何ら果たしておらず,原告の不服申立ての便宜を著しく阻害していることになる。
なお,被告は,本件各譲渡を含む本件一連の行為には租税負担の軽減以外に正当な理由ないしは事業目的は認められないなどと主張するが,処分行政庁は,本件更正理由においては,「本件株式の取得(本件株式購入)から本件譲渡(本件各譲渡)に至る貴社の一連の行為」,「本件株式の取得(本件株式購入)から本件譲渡(本件各譲渡)に至る一連の取引」という文言を使用して,「一連の行為」と「本件譲渡(本件各譲渡)への関与」とを明らかに使い分けており,結局,その意味するところは不明であって,不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨を充足する程度に処分行政庁による判断過程が具体的に明示されているとは到底いえない。
(イ) 被告は,「関与する」という記述の意味として,本件各譲渡に原告が介在する形で関与したことである旨指摘し,そのことを本件更正理由から容易に読み取ることができる旨主張する。
しかしながら,この「介在」という用語を使った説明ないし「介在する形で関与したこと」という説明は,本件訴えにおいて初めてなされたものであり,「関与する」という記述から「介在する形で関与したこと」を意味すると読み取ることは不可能である。そもそも,法人税法132条1項は,更正対象法人の行為又は計算が不当に法人税の負担を減少させると認められる場合に適用される規定であり,被告主張のように,b社とc社の間に原告が介在したことを「不当」として原告の行為である本件各譲渡を否認するような事案は前例もなくそのような適用が認められるとする学説もなく,同法11条の法律的帰属説による解釈を前提とすれば,むしろ異例な解釈・適用である。
したがって,「関与する」という用語が「介在」を意味していることを原告が読み取ることはできず,「介在」という用語で理由を補充してそれを読み取ることができる旨主張するのは,評価判断に至った過程自体について,更正処分庁の恣意の抑制及び相手方の不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨に適う程度に具体的に説明する必要があるとする裁判例の規範に明確に反しており,自ら,理由附記の不備を認めるに等しいものである。
ウ 本件更正理由においては,処分行政庁が認定した事実から,「本件譲渡(本件各譲渡)には法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が存在せず,本件株式の取得(本件株式購入)から本件譲渡(本件各譲渡)に至る貴社の一連の行為は独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なっている」という評価・判断に至る過程が全く明らかにされていないこと
原告が「本件譲渡(本件各譲渡)に関与することに法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が認められない」という点については,前記イで述べたとおり,認定事実自体が不明確である以上,処分行政庁の判断過程を検証することが不可能であることは自明である。
また,原告が「c社株式の取得(本件株式購入)から本件譲渡(本件各譲渡)に係る一連の取引の結果として,原告に税務上多額の損失が作出されることを認識した上で本件譲渡(本件各譲渡)を実行していると認められる」ということが,処分行政庁による「本件譲渡(本件各譲渡)には法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が存在せず,本件株式の取得(本件株式購入)から本件譲渡(本件各譲渡)に至る貴社の一連の行為は独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なっている」という判断とどのように結びつくのかも全く明らかでない。処分行政庁は,本件各譲渡の目的が資金需要に柔軟に対応することであったことを認めているのであり,仮に,原告が,本件各譲渡により税務上多額の株式譲渡損が発生することを認識しつつ本件各譲渡を実行したとしても,資金需要に柔軟に対応する目的が失われることにはならない。ましてや,株式譲渡損の発生を認識していたこと(これは法人税法の適用法令の内容を知っていたことというのと同義である。)が「法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が存在しない」ことになるという論理は理解不能である。取得者による自己株式の取得に伴って譲渡側に生ずる譲渡損は法人税法61条の2第1項によって計算される金額がマイナスであればその適用により必ず生じるものであるから,独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間における自己株式の売買においても,一方当事者に税務上多額の株式譲渡損が発生することを認識して行われることは当然に想定される。平成22年度税制改正で,自己株式取得が予定されている株式を取得した者が行った自己株式譲渡により計算されるみなし配当の額について益金不算入を制限する規定が新設されたのもそのような納税者の存在を前提としているからである(平成22年法律第6号による改正後の法人税法23条3項。甲29参照)。このような,税制が前提とする事実認識に鑑みても,本件更正の理由における,原告が本件各譲渡により「原告に税務上多額の損失が作出されることを認識して本件譲渡(本件各譲渡)を実行した」との事実認定を基に,本件株式購入から本件各譲渡に至る一連の行為が独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なっていると認定した処分行政庁の判断過程は理解できず,原告としては検証のしようがない。
さらに,本件更正理由において記載されている「貴社は,本件株式の取得(本件株式購入)に際し,その取得に必要な資金の大部分を本件株式(c社の発行済株式の全部)の譲渡人であるb社社(b社)からの借入れにより調達していますが,当該借入れは,1,818,220,000,000円という高額,かつ,平成14年4月22日を借入日,平成24年12月20日を返済期限とする長期なものであるにもかかわらず,担保や分割による返済といった条件が付されていない契約に基づいて行われています。」という事実は,本件株式購入から本件各譲渡に至る一連の行為が独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なっているとの処分行政庁の判断過程を示しているように見える。しかしながら,本件各譲渡及びそれによる株式譲渡損の発生は,原告がc社の株式の所有者であることによるものであり,かつ,原告は,第三者借入れによる購入でも,b社による現物出資でもc社の株式を取得することができ,その場合の取得価額も法人税法上本件株式購入の場合と同様に時価であることが求められていたことからすれば,取得の原資の調達方法あるいは取得の法形式と本件各譲渡による株式譲渡損の発生との間に直接の因果関係がないことは明白である。すなわち,原告による借入れがその条件等において独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なると認定したとしても,それが本件株式購入に係る取得資金であるという事実から,なぜ,本件各譲渡が独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なっていると判断できるのか明らかでなく,ましてや本件各譲渡について「法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が認められない」との認定とどのように結びつくのか,その判断過程は何ら明示されていない。なお,被告は,本件各譲渡を含む本件一連の行為全体を総合的に評価するという,それ自体,内容不明確で客観性に欠ける判断枠組みを主張しているが,本件更正理由においては,そのような記述は全くない。
以上のとおり,本件更正理由に記載された事実は,それらが本件各譲渡による株式譲渡損の発生と因果関係がないものであるから,本件各譲渡が独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なっているという判断とは結びつかないものにすぎず,処分行政庁が認定した事実から「本件譲渡(本件各譲渡)には法人税の負担を減少させる以外に正当な理由ないし事業目的が存在せず,本件株式の取得(本件株式購入)から本件譲渡(本件各譲渡)に至る貴社の一連の行為は独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なっている」という評価・判断に至る判断過程は全く明らかにされていない。また,本件更正理由においては,本件各譲渡を否認した理由として,本件一連の行為が本件各譲渡といかなる関係にあるか何ら言及することなく本件更正理由に記載された事実を本件各譲渡を否認することの評価根拠事実として記述しているから,原告がc社の株式を取得した際の原資の調達方法等について返済条件等に係る事実の摘示が本件各譲渡の前提となった一連の取引の中に,独立・対等で,相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる行為とは異なる契約が含まれていることの評価根拠事実の摘示である旨の被告の主張は,理由のすり替えであり,理由附記の不備を自ら認めるものである。
(3) 本件更正理由には,過去に処分行政庁が認識していた事実に係る評価を変更するに至った判断過程等が具体的に明示されておらず,理由附記不備と認められること
ア 本件過去調査の経緯も勘案すると,本件更正理由には理由附記不備が認められること
(ア) 過去に把握した事実と全く同一の事実関係について処分をする場合には,処分の合理的な理由あるいは事情を明示し,その判断過程を具体的に示す必要があること
処分行政庁が,過去の税務調査における処理と異なる処分を行うには相応の合理的な理由や事情の変更があるものと思われるが,納税者の立場からすれば,税務調査によって把握済みの事実と全く同一の事実関係について,何ら理由を示さずに処分がなされることは,予測可能性が阻害され,法的安定性を欠くことになる。したがって,このような処分を行う場合には,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という青色理由附記制度の趣旨に照らし,納税者の手続保障を図る観点から,処分を行うに至った合理的な理由や事情の変更を明示し,その判断過程を具体的に明示されなければ判例(最高裁昭和60年判決)が求める理由附記の程度を充足しないと解される。
特に,法人税法132条1項については,最高裁昭和53年判決が,同条に基づいて否認の対象とし得る行為又は計算の不当性について,通常の経済人の行為として不合理,不自然なものと認められるかどうかで判断することとした原審の判決(前掲札幌高裁昭和51年1月13日判決)を踏まえて,かかる基準が客観的,合理的に適用されることを前提として,同条が租税法律主義違反であるとの主張を斥けており,全く同一の事実関係に対して,上記の不当性の判断基準を客観的,合理的に適用した場合に,異なった判断が導き出されることはあり得ないことからすれば,過去の税務調査において把握した事実と同一の事実関係について同条を適用するには,租税法律主義の観点から,基準の客観的,合理的な適用の過程を明示することが不可欠と解される。
(イ) 本件更正理由には,本件過去調査において把握済みの事実以外の事実は示されておらず,処分行政庁による判断過程が具体的に明示されていないこと
本件においては,処分行政庁は,本件各譲渡について,本件過去調査においてその事実関係の詳細を把握済みであり,本件各譲渡事業年度更正処分は,把握済みの事実と全く同一の事実関係についてなされた処分であるにもかかわらず,本件更正理由においては,処分行政庁が新たに把握した事実があるか否かも何も示さず,法人税法132条1項を適用するという判断に到った合理的な理由や事情の変更についての具体的な記載も一切していない。すなわち,原告からみれば,本件更正理由を見ても,本件過去調査により把握済みの事実について,新たに本件各譲渡事業年度更正処分がされるに至った処分行政庁の判断過程の検証を行うことが不可能なのであって,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨を充足する程度に,更正処分に至った処分行政庁による判断過程が具体的に明示されておらず,原告の手続保障が害されていることは明らかである。なお,仮に,そのような合理的な理由や事情の変更等が存在しないのであれば,本件各譲渡事業年度更正処分における法人税法132条1項に基づく行為又は計算の否認は裁量権を逸脱したものというべきである。
イ 国税庁長官が本件連結納税承認申請(甲25)を「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」(法人税法4条の3第2項3号ニ)として却下しなかったことを勘案すると,本件各譲渡年度更正処分には理由附記不備の違法があること
国税庁長官は,連結納税の承認申請書の提出があった場合,連結予定法人につき,「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」事実があるときは,申請を却下できることとされている(法人税法4条の3第2項3号ニ)ところ,「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」事実とは,当該文言が同法132条1項の文言と共通していることからすれば,同項の適用要件と同じく,通常の経済人の行為又は計算として不合理,不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきものと考えられる。そして,連結納税の承認申請の却下は,同法132条1項による否認と同じく「できる」との文言を使用する規定であり,却下要件に該当する事実の存在を知っていたとしても却下するか否かは国税庁長官の裁量に属するものの,重要な点において全く同一の事実を前提としつつ,管轄若しくは時期の相違や担当者の異動で異なった評価がなされることは,その変更に合理的な理由が存在するのでなければ,先にも述べたとおり,納税者の予測可能性を阻害し,租税法律主義が予定する公平の原則にも反するのみならず,租税法律主義の内容をなす「合法性の原則」や「手続的保障原則」をないがしろにするものといわなければならない。
しかるに,国税庁長官は,連結納税の承認申請の審査において,処分行政庁が本件更正理由において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認定した事実の詳細(本件各譲渡又は本件各譲渡を含む本件一連の行為に係る事実)を把握していたにもかかわらず,本件連結納税承認申請(甲25)に対して「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」(同法4条の3第2項3号ニ)事実を認定して却下することなくいわゆるみなし承認(同条4項)による連結納税の開始を承認したところ,これは,本件過去調査の結果を踏まえれば,原告における株式譲渡損の存在が「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」(同条2項3号ニ)事実とは認定し得ないとの判断を事実上示したものである。そして,黙示的にとはいえ,一旦示した判断を納税者に不利益なものへ変更する場合には,かかる変更について合理的な理由及び説明が求められるというべきである。しかしながら,処分行政庁は,本件更正理由において,本件各譲渡についての事実関係についての評価を承認申請審査時点におけるそれから変更した合理的な理由について,何ら説明していないのであって,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨を充足する程度に更正処分に至った処分行政庁による判断過程が具体的に明示されていない。なお,仮に,そのような合理的な理由が存在しないのであれば,本件各譲渡事業年度更正処分における行為又は計算の否認は裁量権を逸脱したものというべきである。
ウ 麻布税務署長が,原告の提出した平成20年12月期に係る連結確定申告書につき,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)と実質的には同一の処分(平成20年12月連結期第1更正処分。甲10の1)を本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)より前に行っていることを勘案すると,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)には理由附記不備の違法があること
(ア) 再更正をする場合の要件について
通則法26条は,更正をした後,その更正をした課税標準等又は税額等が過大又は過少であることを知ったときに再更正できる旨を定めて,同一の処分について再更正できる場合を限定しており,判例(最高裁昭和46年(行ツ)第61号同50年9月11日第一小法廷判決・訟務月報21巻10号2130頁)も,第1次更正を第2次更正で取消して,第1次更正とほぼ同じ内容の第3次更正を行った事案について,第1次更正と第3次更正は別個の処分で重複するものではなく,また,同条の要件を具備するかどうかを問題にする余地はない旨を判示し,同一の処分の場合には同条の要件が問題となることを示唆している。
また,ある事実の評価の変更に伴う再更正の可否について検討するに,確かに,同条は課税標準等又は税額等が過大又は過少であることを知ったときは再更正できる旨を定めており,同一の事実関係についての評価の修正であっても,再更正は制限されないとも解される(名古屋地裁昭和61年10月31日判決・税務訴訟資料154号順号5820)が,評価の単なる修正についての再更正を無条件に認めることは,調査時期や調査担当者によって処理が区々になることを容認することになりかねず,更正処分庁の恣意的な処分を助長し,かつ法的安定性を害するから,評価の変更自体の適否は,再更正についての実体的審理の中で判断されるとしても,同条が,条文上「後」に「知った」と要件を明記して,手続的にも,更正処分庁に無制限に再更正できるような裁量権を認めていないことからすれば,新たな事実若しくは証拠が把握された場合又は事実関係に変更がないときはその評価の修正に合理的理由や事情の変更がある場合に限り認められると解すべきであり,かつ,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨を合わせ考えれば,かかる再更正を行うに当たっては,新たな事実若しくは証拠の存在又は事実の評価の修正に係る合理的理由や事情の変更について,更正通知書に明示することが求められるというべきである。
(イ) 本件には通則法26条が適用され,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)に理由の附記の不備の違法があるというべきこと
本件各譲渡事業年度更正処分を含む本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)は,本件各更正処分事業年度及び平成20年12月連結期の複数年度にまたがる処分であるのに対し,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)は,平成20年12月連結期の単年度の処分であることから,外形上は同一の処分でない。しかしながら,みなし連結欠損金額は過年度繰越欠損金の額の累計であり,過年度繰越欠損金が存在する限りその損金算入に裁量の余地はない。すなわち,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)は外形的には平成20年12月連結期の単年度の処分であるが,麻布税務署長が平成20年12月連結期における法人税法81条の9第2項のみなし連結欠損金額としての損金算入を認めたことは,過去の各事業年度の欠損金の存在を認めたことを意味する。そして,東京国税局が本件調査をしていた途中に平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)が行われたことを踏まえると,その時点において本件各譲渡が行われた各事業年度の申告を是認する処分を行ったものと同じであるから,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)の更正の理由が本件更正理由とは異なることを前提としても,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)と平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)は実質的には同一の処分(同一の事実を対象とする判断)というべきである。そして,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)は,過年度繰越欠損金に関する事実関係を十分把握した上で通則法24条に基づいて行われたものであるから,これと実質的に同一の処分であり(しかも,本件一連の行為の不当性に関する事実及び証拠は把握済みであった。),本件一連の行為についての評価を修正したにすぎない本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)については,同法26条が適用されると解すべきである。
本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)についてみるに,処分行政庁は,本件各更正処分(甲1ないし6)及び平成20年12月連結期第2更正処分(甲7の1)において,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)をした時点から本件各譲渡についての事実関係について評価を変更した合理的な理由について,何ら説明していないどころか,本件更正理由において,平成20年12月連結期第1更正処分(甲10の1)と異なる判断を示したことについて新たに把握した事実があるか否かすら示しておらず,如何なる理由により判断を変更したのかその判断過程について具体的に明示していない。評価判断に至った過程自体について,更正処分庁の恣意の抑制及び相手方の不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨に適う程度に具体的に説明する必要があるとする裁判例(前掲東京地裁平成8年11月29日判決)が示す規範に照らせば,本件過去調査において把握されていた事実と同一の事実関係に基づいてされた処分の理由の附記において,評価を変更するに至った判断過程を明示することが求められるのは当然であるし,本件一連の行為を構成する個々の事実は本件過去調査又は本件連結納税承認申請(甲25)の各時点において客観的事実として既に把握済みのはずであるにもかかわらず,なぜ,当該各時点では推認せず,本件調査で唐突に推認したのか,推認による事実認定に基づいて評価否認を行う場合にその判断過程が明らかにされなければ更正処分庁の恣意の抑制及び相手方の不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨に沿うことにはならない。
かかる更正の理由の記載が,法人税法132条1項の趣旨及び更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨を充足する程度に,更正処分に至った処分行政庁による判断過程を具体的に明示していないことは明らか(税務署長の認定によって発動され租税法律主義に抵触するおそれもある規定(法人税法132条1項)を適用して評価否認を行う場合に求められる理由附記については,より明確に処分行政庁の判断過程を明らかにすることが求められるのは当然である。)であって,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)には理由附記不備の違法があるというべきである。なお,仮に,そのような合理的な理由が存在しないのであれば,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)における法人税法132条1項に基づく行為又は計算の否認は裁量権を逸脱したものというべきである。
2 被告の主張が違法な理由の差替えに該当して許されないものであること
(1) 処分の同一性と理由の差し替えとの関係について
ア 課税処分取消訴訟における処分の同一性について
課税処分取消訴訟の訴訟物は,処分の違法性であり,その有無については,課税処分取消訴訟が租税債務不存在確認訴訟としての性格を有していることも踏まえて,原処分により確定された税額が,税法により客観的に定まっている税額として裁判所が認定した金額を超えない場合に,原処分を適法とする,いわゆる総額主義が判例として定着している。そして,総額主義の下においては,処分理由は攻撃防御方法にすぎないことから,口頭弁論終結前までは,更正の理由を差し替えることができることになるが,青色申告については理由附記制度が設けられていることから,基本的な課税要件事実の同一性が要求され,原処分と同一性が維持され,かつ,原告の訴訟上の防御活動に実質的不利益を与えない限りにおいて,更正の理由の差替えが認められるにとどまり,課税処分の同一性を欠くような新たな理由の主張は,訴訟物の同一性を害することになって許されないとされている(甲126参照)。
課税処分の同一性については,それによって確定される租税債務(税額)の同一性により判断すべきものとされている(甲126参照)が,租税債務(税額)の内容が更正対象事業年度について同一であれば足りるのか,その内容を確定させたことに伴う次年度以降の租税債務(税額)も含まれるのかは明確ではない(この点について判断を示した裁判例や学説も見当たらない。)ものの,①純損失又は欠損金の繰越控除制度により,課税標準及びそれにより計算される税額(租税債務)が複数年又は複数年度にまたがって確定されることを前提として,更正対象事業年度の納付税額に影響しない場合についても純損失等の金額を減少させる更正をすることができることが明文で規定されていた(平成23年法律第114号による改正前の通則法70条2項3号)こと,②純損失又は欠損金の繰越控除に限らず,所得,費用・損失等の損益に対応する貸借科目が資産,負債,資本のいずれに該当するかという判断は,更正対象事業年度の納付税額だけでなく,次年度以降の所得計算及び税額計算に影響する重大な要因であること,③費用又は損失を否認する場合,それが社内に留保されたものであるか社外に流出したものであるかによって,更正対象事業年度の納付税額が同じ場合でも,次年度以降の所得計算及び税額計算に影響すること,④更正対象事業年度に係る税額の範囲内であれば理由の差替えは認められるとすると,裁判所が,差替え後の主張を排斥した上で請求を棄却する判決をした場合,棄却判決には拘束力が法定されていない(行政事件訴訟法33条1項参照)から,税務署長が判決理由中の判断に拘束されることなく判決のあった年度以降の年度において上記の差替え後の主張に基づいて否認することも容認されることになり,確定判決後においても納税者が法的に不安定な立場に置かれたままになることを意味するところ,総額主義の適用によりそのような事態を生じさせることは背理である(取消訴訟において総額主義が採られている理由の1つが,紛争の一回的解決機能にあるからである。)ことを考慮・検討すれば,総額主義の下における課税処分の同一性は,単に,更正対象事業年度に係る租税債務(税額)だけでなく,その税額を確定させたことに伴う次年度以降の租税債務(税額)の内容も併せて,それによって確定される租税債務(税額)の同一性を判断することによって確定すべきである。実際に,理由の差替えを認めた裁判例においても,差替えにより次年度以降の税額に異動が生じるような事例は見当たらない。
イ 理由の差替えにおける基本的な事実関係の同一性について
更正の理由の差替えが認められるためには,更正通知書に附記された更正の理由と差替え後の新たな理由の間には基本的な事実関係の同一性が存在しなければならないとされている(甲126参照)。そして,総額主義の下における取消訴訟における実体上の審判の対象は,課税処分により確定された税額の適否であり,処分庁の法律上の根拠に関する判断に誤りがあっても,これにより確定された税額が総額において租税法規の適用により客観的に定まる税額を上回らなければ,処分が適法とされる(最高裁平成2年(行ツ)第155号同4年2月18日第三小法廷判決・民集46巻2号77頁)ところ,一般の更正処分の場合,基本的な事実関係が同一であれば,それに税法を適用することにより確定する税額に相違が生じることはないことから,法律上の根拠に関する理由の差替えを認めても青色申告に係る理由附記制度の趣旨を損ねることはない。
これに対し,法人税法132条1項に基づく更正処分は,前提となる事実関係に法人税法を適用することにより一旦客観的に定まった税額を,税務署長の裁量による判断に基づき変更する処分であるから,単に事実認定の客観的評価だけでなく,「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」と評価した処分行政庁の判断の正否が争点になるため,更正の理由においては,生の事実関係に係る事実認定だけでなく,認定された事実及び当該事実について同項を適用するに至った判断過程が明らかにされなければ,処分行政庁の裁量の当否に対して原告が的確に反論することはできない。前記1(1)に述べたとおり,理由附記制度の趣旨が,更正処分庁の恣意の抑制と,納税者の不服申立ての便宜にある以上,同項に基づく更正処分について理由の差替えが認められる範囲は,単に生の事実関係が同一というだけでは足りず,処分行政庁の評価の判断の枠組み,すなわち要件事実の当てはめと同項を適用した法律効果の枠組みが共通であることが最低限必要であるというべきである。
(2) 被告の主張が違法な理由の差替えに該当すること
ア(ア) 法人税法132条1項による否認の対象を本件各譲渡という「行為」でなく,株式譲渡損の損金への算入という「計算」とする点について
本件更正理由においては,①本件各譲渡によりみなし配当の額が計算され,それにより株式譲渡損が計上され,計算されたみなし配当の額が受取配当益金不算入とされる結果,各事業年度において欠損金が計上されたという計算過程,②法人税法132条1項の適用について,本件各譲渡を原告の行為又は計算として否認の対象とし,本件各譲渡がなかったものとして譲渡対価の交付を受取配当に置き換えて再計算した結果,みなし配当の額の部分に係る株式譲渡損が生ぜず,その分欠損金が減少したという計算過程及び③否認した株式譲渡損相当額に対応する貸借面の処理について,税務上の資産科目としての「子会社株式」に計上するという税務調整(仕訳)を行う処理がいずれも明記されており,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)による否認金額は,c社の株式の税務上の簿価の一部として資産勘定に計上され,将来,原告が同株式を第三者に譲渡する際に,譲渡原価に算入されて,原告の株式譲渡損益を減少させることになることが分かる。
他方,被告は,原告による本件各譲渡に同法24条及び61条の2第1項を適用して計算される巨額の株式譲渡損を原告の本件各譲渡事業年度の損金の額に算入するという原告の計算が,法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるとしてこれを否認することは適法である旨を述べて,株式譲渡損の損金への算入という「計算」を同法132条1項による「否認」の対象として同項を適用し,損金への算入を「否認」して課税標準等を再計算することが,適法であると主張するとともに,処分行政庁が原告による本件各譲渡を否認し,本件各譲渡により生じた株式譲渡損は発生しなかったものとして,同額を原告の本件各譲渡事業年度の損金の額に算入しないで法人税の課税標準等を計算し,本件各更正処分等を行ったことに違法はない旨を述べ,総額主義の立場から,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)が違法でないと主張していることを明確にしているが,否認された株式譲渡損相当額に対応する貸借面の処理に係る税務調整は明確ではない。
以上によれば,被告が更正の理由を差し替えていることは,同項による否認の対象を本件各譲渡という「行為」でなく,株式譲渡損の損金への算入という「計算」と述べている点だけでも明白であるが,否認に伴う税務調整(仕訳)を示さず,その主張の全体像を明らかにしていない点で,原告の防御権を著しく侵害しており,この一点だけでも原告の訴訟上の防御活動に実質的不利益を与えない理由の差替えとはいえず,違法もしくは主張自体失当である。
(イ) 被告の主張が処分の同一性を欠くものであること
a 前記(ア)に述べたとおり,被告の主張における否認された株式譲渡損相当額に対応する貸借面の処理に係る税務調整は明確ではないところ,本件各譲渡事業年度更正通知書(甲1,2及び4)に記載された税務上の貸借において「子会社株式」として計上され,平成20年12月連結期第2更正処分に係る更正通知書(甲7の1)と併せて通知されたお知らせ(甲7の2)においても同様に計上されていた株式譲渡損相当額が,国税不服審判所の裁決(甲15)が出された後にされた平成20年12月連結期第3更正処分に係る更正通知書(甲9の1)と併せて通知されたお知らせ(甲9の2)においては利益積立金として計上されていることからすると,これが,上記の税務調整(仕訳)の差替え内容であったことが推測される。
この差替えは,被告の主張どおりの処分を行うとすれば,本件各譲渡事業年度の更正後の税額が同じであったとしても,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)における税務処理と異なった内容の処分になることが明らかであるから,被告が,株式譲渡損を否認して子会社株式に加算した本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)について,単に損金算入を否認するというのみで,貸借科目を明らかにせずにその適法性を主張するのは,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)とは課税処分の同一性を欠き,訴訟物の同一性を害することになって許されないというべきである。
b 前記(ア)に述べたとおり,本件更正理由においては,否認する対象を原告の行為である本件各譲渡とし,否認の効果は本件各譲渡がなかったものとして譲渡対価の受領は受取配当として再計算しているのに対し,被告の主張においては,否認する対象を原告の計算である本件各譲渡による株式譲渡損の損金への算入とし,否認の効果は損金不算入として再計算すると主張しており,全く異なった要件事実と法律効果の枠組みを前提として事実認定及びその評価を行っている。そもそも,法人税法132条1項による同族会社の行為又は計算の否認の権限は,税務署長に与えられているものであり,国が一般的に行使できる権限ではないことから,被告が,処分行政庁と異なる事実認定と当てはめにより同条を適用する権限を有しているか疑問もある(甲121参照)が,それをおくとしても,処分行政庁の裁量権の行使の当否を審判対象から除外するような主張の変更は,原告の防御の利益を著しく害する違法な理由の差替えであるというべきであって,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という青色申告に係る理由附記制度の趣旨を真っ向から否定する違法なものである。
イ 被告は,本件各譲渡を含む一連の行為には租税負担の軽減以外に正当な理由ないし事業目的は認められないことの理由として,原告が,本件株式購入時に連結納税を適用する意図がなかったことを示す証拠として提出した本件A16メール(甲24)の解釈について,将来は連結納税申告を申請し,繰越欠損金を利用することを想定しつつも,現段階で直ちに連結納税申告の申請をすることには消極的であったとも読み取ることが可能である旨指摘しただけでなく,さらに,平成16年度税制改正において,欠損金の繰越控除の期間は5年から7年に延長されているところ,原告は,平成17年までに本件各譲渡を終えた後,平成14年譲渡によって発生した繰越欠損金について,その控除期限が到来する前に本件連結納税承認申請(甲25)を行い,現に,平成20年12月連結期において本件各譲渡により生じた繰越欠損金とc社の所得とを相殺している旨も指摘して,原告が,連結納税制度の適用を受けて申告を行った事実をもって,あたかも原告が当初から連結納税制度の適用による法人税負担の減少を企図していたがごとく主張している。また,被告は,結局,本件各譲渡によって生じた原告の繰越欠損金の額がc社の連結所得と相殺されているという税務上の事実しか残らないことから,本件各譲渡を含む本件一連の行為は,当初から通常の経済人として不合理・不自然であると評価したものである旨を主張しており,連結納税の適用による繰越欠損金の損金への算入を「税務上の事実」として,本件一連の行為の「不当」性を認定する要の評価根拠事実としていることが明白である。
他方,本件更正理由には原告が連結納税制度の適用を受けたことについての記述は一切なく,国税不服審判所においても,東京国税局長からそのような主張はされていないところ,連結納税に関する上記の事実及びその評価は,訴訟段階において被告から初めて主張されたものであり,被告が,原告が連結納税を適用したことにより繰越欠損金を損金に算入したことを,本件一連の行為の不当性を認定する要の評価根拠事実として主張していることは,本件更正理由において,本件一連の行為の「不当」性を認定する根拠とした事実が,評価根拠事実として不十分であったことを自認するものであり,本件各譲渡事業年度更正処分(甲1,2及び4)に理由附記不備があったことを自白するものであるし,また,基本的な事実関係の同一性を損ね,原告の防御活動に著しい悪影響を及ぼすものでもあって,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という青色申告に係る理由附記制度の趣旨に反する違法な主張でもある(なお,原告は,訴状において,連結納税に関する主張を行い,証拠を提出しているが,これは,益金不算入となる受取配当額(みなし配当の額を含む)を主たる収入とするため恒常的に欠損が計上される原告の収益構造から見て,株式譲渡損を意図的に作出する動機がなかったこと,損失を使用するには連結納税を適用する以外に道はなかったが,当時,連結納税を適用する意思がなかったことを主張,立証するためであるから,この点をもって原告の防御権に対する侵害は生じていないなどと主張することは許されないものである。)。
以上
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