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「営業アウトソーシング」に関する裁判例(2)平成30年12月21日 東京地裁 平27(ワ)9025号 損害賠償請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(2)平成30年12月21日 東京地裁 平27(ワ)9025号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成30年12月21日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)9025号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA12218012

裁判年月日  平成30年12月21日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)9025号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA12218012

東京都豊島区〈以下省略〉
原告 株式会社X
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 名古屋聡介
同 小山征史郎
同 磯孝幸
東京都練馬区〈以下省略〉
被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 野崎大介
送達をすべき場所 不明
商業登記簿上の本店所在地 東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社Y2
同代表者代表取締役 B

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主位的請求
被告らは,原告に対し,連帯して,9753万7657円及びこれに対する平成26年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  予備的請求
被告Y1は,原告に対し,9753万7657円及びこれに対する平成28年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,原告が,元従業員であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)が従業員の採用業務等につき原告において内製化が可能であったのに,被告株式会社Y2(以下「被告Y2社」という。),株式会社a(以下「a社」という。)及び株式会社b(以下「b社」といい,被告Y2社及びa社と併せて以下「被告Y2社ら3社」という。)に委託(外注)し,原告に高額の報酬等の支払を余儀なくさせたとして,主位的に,被告らに対し,共同不法行為に基づき,連帯して,損害金9753万7657円及びこれに対する平成26年1月31日(不法行為の終了日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,被告Y1に対し,雇用契約上の義務違反を理由とする債務不履行に基づき,損害金9753万7657円及びこれに対する平成28年8月18日(訴えの変更申立書送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原告は,本件訴えの提起時において,被告Y1の部下であったC(以下「C」という。),D(以下「D」という。)及びDが代表取締役を務めるb社に対しても被告らと連帯して損害賠償を求めていたが,上記3者との間では,本件訴訟において,裁判上の和解が成立した。また,被告Y2社は,公示送達による呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭しない。
2  前提事実(争いがないか,後掲証拠等により容易に認められる。)
(1)  当事者等
ア 原告は,昭和27年4月1日に設立された,法人向け携帯電話販売事業,インターネット関連事業等を目的とする株式会社であり,A(以下「A社長」という。)が代表取締役を務めている(甲1)。
イ 被告Y1(昭和52年○月○日生)は,平成11年4月1日に原告に入社し,一旦退社したものの,平成16年10月頃に再入社した後,原告の従業員の採用及び教育を主に担当する部署として新設された人材開発部(以下「人材開発部」という。)の部長に就任したが,平成26年4月30日に原告を退社した。また,被告Y1は,平成23年8月22日から平成26年6月27日までは,原告の100%子会社であり,社員教育に関する企画及びコンサルティング業務等を目的とする株式会社c(以下「c社」という。)の代表取締役を務めていた。(甲2の1,甲3,乙18)
ウ 被告Y2社は,平成25年1月11日に設立された採用代行業務,教育育成業務,セミナーの開催等を目的とする株式会社であり,設立時から平成27年1月31日までDが代表取締役を務めていた(甲4の1)。
エ b社は,平成25年8月13日に設立された,人事,総務,経理,経営に関する事務アウトソーシング請負及びコンサルタント業等を目的とする株式会社であり,設立時から平成26年3月16日まではEが,同月17日以降はDが代表取締役を務めている(甲4の3)。
オ Dは,平成12年4月から平成23年6月まで,原告及び原告の子会社等において従業員として勤務し,この間,被告Y1の部下として勤務していた時期があった。また,Dは,平成25年1月11日から平成27年1月31日までの被告Y2社の代表取締役のほか,平成26年3月17日以降はb社の代表取締役も務めている。(甲4の1・3,丙45)
カ a社は,平成25年2月8日に設立された,採用代行業務及び教育研修業務等を目的とする会社であり,Cが代表取締役を務めていたが,平成26年10月21日に株主総会の決議により解散した(甲4の2)。
キ Cは,平成23年8月頃から平成24年2月頃までは人材開発部において,平成24年3月頃から平成25年3月頃まではc社においてそれぞれ勤務していた従業員であり,被告Y1の部下であった。また,Cは,平成25年2月8日から平成26年10月21日まで,a社の代表取締役を務めていた。(甲4の2)
(2)  原告における○○スキームの実施
原告は,原告社内において又はc社を通じて,遅くとも平成23年10月頃から平成25年2月頃まで,以下のアないしウの手順により,クルーと呼ばれるアルバイト従業員(以下「クルー」という。)や正社員の採用活動(以下「○○スキーム」という。)を行っていた。
ア 原告が,クルーの求人募集に応募した者に対し,セミナー及び面接をしてクルーの仮内定者を選別した上で,仮内定者に対し,以下のイの研修に参加するよう勧誘する(以下「本件セミナー等」という。)。
イ c社が,クルー仮内定者に対し,正社員として勤務することの魅力を伝え,正社員採用希望に変更してもらうことを主な目的とする研修(以下「○○研修」という。)を行う。
ウ 原告が,クルー仮内定者と面接を行い,クルー若しくは正社員のいずれの採用を希望するか意向を聴取した上で,採用を決定する。
(3)  被告Y1による本件各外注
ア 被告Y1は,平成25年2月頃以降,○○スキームのうち,本件セミナー等に係る業務を被告Y2社に委託(外注)した(以下「本件外注①」という。)。原告は,被告Y2社に対し,同年2月から同年12月までの本件外注①に係る報酬として,別紙1「被告Y2社に対する支払金額一覧(本件外注①)」の「支払金額」欄記載のとおり,合計7363万7554円(消費税込み。以下,特に記載のない金額は同じ。)を支払った。(甲5,41,71ないし92(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。))
イ 被告Y1は,平成25年2月頃以降,○○スキームのうち,○○研修に係る業務をa社に委託(外注)した(以下「本件外注②」という。)。原告は,a社に対し,同年2月から同年12月までの本件外注②に係る報酬として,別紙2「a社に対する支払金額一覧(本件外注②)」の「支払金額」欄記載のとおり,合計3503万6400円を支払った。(甲6,41,65,93ないし113,弁論の全趣旨)
ウ 被告Y1は,平成25年8月頃,原告及び原告の子会社の採用応募者向けのブログ作成業務(以下「ブログ作成業務」という。)をb社に委託(外注)した(以下「本件外注③」という。)。原告は,b社に対し,同年8月から同年12月までの本件外注③に係る報酬として,別紙3「b社に対するブログ作成業務に係る支払金額一覧(本件外注③)」の「支払金額」欄記載のとおり,合計733万4250円を支払った。(甲42,114,115,117,120,123)
エ 被告Y1は,平成25年9月頃,原告及び原告の子会社の中途採用従業員の採用活動業務(以下「中途採用業務」という。)をb社に委託(外注)した(以下「本件外注④」といい,本件外注①ないし③と併せて「本件各外注」という。)。原告は,b社に対し,同年9月から同年12月までの本件外注④に係る報酬として,別紙4「b社に対する中途採用業務に係る支払金額一覧(本件外注④)」の「支払金額」欄記載のとおり,合計1092万円を支払った。(甲13,42,116,118,119,121,122,124,125)
(4)  原告の就業規則
原告の就業規則(甲66)23条は,「正社員は,名称,名目,形態の如何にかかわらず,事前に当会社の許可を得ないで他に雇用され,自ら会社を設立し,もしくは当会社以外の法人の役員(これに準ずる役職者を含む)に就任し,または自己の営業を行ってはならない。」と規定している(以下,同条項による義務のことを「自己営業等禁止義務」という。)。
(5)  本件訴訟の提起等
ア 原告は,平成27年4月1日,被告ら,C,D及びb社に対し,共同不法行為に基づき,連帯して,損害金1億2716万3898円及び遅延損害金の支払を求める本件主位的請求(請求の減縮前のもの)に係る訴えを提起した。
イ 平成30年1月15日,原告とC,D及びb社との間において,原告に対し,Cが25万円,Dとb社が連帯して25万円の解決金をそれぞれ支払い,三者が,原告に対し,本件訴訟手続の事実関係の調査に協力することを約し,原告が三者に対するその余の請求を放棄する旨の裁判上の和解が成立した。
3  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  本件各外注が不法行為における違法な行為といえるか(主位的請求)
(原告)
ア 被告Y1は,被告Y2社ら3社は被告Y1が支配する会社であったのに,そのことを原告に説明することなく,人材開発部長という地位を濫用し,自己の利益を図るため本件各外注を行った。被告Y1は,人材開発部長として原告から十分な賃金を受領しながら,本件各外注により,不当に高額な報酬(外注費)を原告に支払わせ,以下の(ア)ないし(オ)の方法によって,少なくとも合計6099万6606円の不正な利益を得た。
(ア) 被告Y1は,株式会社ジャパンネット銀行のF(以下「F」という。)名義の預金口座(以下「F口座」という。)を管理していたところ,同口座から同銀行の被告Y1名義の預金口座(以下「被告Y1口座」という。)に合計1579万円の入金がある。
(イ) 被告Y1は,F口座のほか,株式会社ジャパンネット銀行のG名義の預金口座(以下「G口座」という。)及び同銀行のH名義の預金口座(以下「H口座」という。)を管理していたところ,これらの口座から,被告Y1の関連会社(株式会社d(以下「d社」という。),株式会社e(以下「e社」という。)及び株式会社f(以下「f社」という。))の預金口座又は被告Y1口座に対し,合計2636万4000円の入金がある。
(ウ) 被告Y1は,被告Y1の母親に対し,「顧問契約」の報酬として月額70万円,合計840万円を支払っていた。
(エ) 被告Y1は,被告Y2社の接待交際費名目で,合計604万2606円を私的に流用した。
(オ) 被告Y1は,被告Y2社の預金を用いて440万円でメルセデス・ベンツを購入した。
イ 本件外注①に関し,本件セミナー等に係る業務は,Dを含めて3人程度でまかなえるものであったし,Dを原告で再雇用する選択肢もあったから,原告において内製化することは十分可能であり,外注するよりも業務効率がよかった。また,本件外注①に係る被告Y2社の基本報酬は月額450万円(税別)と不当に高額であり,恣意的に仮内定者を増やすことにより高額の報酬を得ることが可能であった。Dが設立した株式会社g(以下「g社」という。)に外注すれば,外注費はもっと安く済んだはずである。
本件外注②に関し,被告Y1は,Cの実務能力を極めて低く評価していたのに,Cが代表取締役を務めるa社を外注先として選定すること自体不合理である。また,a社は,○○研修につき,c社のテキストとほぼ同じテキストを使用して行っていたことからすると,外注の必要などなく,a社に支払った報酬(合計3503万6400円)は不当に高額である。
本件外注③に関し,ブログ作成業務は,元々原告内部で行われており,特別な知識を要するものではなかったのに,b社は月額160万円以上もの報酬を得ていた。また,被告Y1は,Dに「D1」という偽名を名乗らせ,b社に長い実績があるかのような虚偽の連絡を原告にした。
本件外注④に関し,中途採用業務は,同業務を担当していたDを原告で再雇用すれば,内製化は可能であり,外注よりも業務効率がよかった。また,b社には1092万円もの高額の報酬に見合うだけのノウハウや実績もなく,実際にもわずか2名しか中途採用に至っていない。Dが設立したg社に外注することもできたはずである。
以上のことからすると,本件各外注はいずれもその必要性がなく,内容も不合理なものであるし,特に本件外注④については,外注を行ったこと自体,極めて不当なものであった。
ウ 被告Y1は,本件各外注について,必要とされている原告の法務部のリーガルチェックを回避し,角印についての原告のマニュアル(甲20。以下「角印マニュアル」という。)に違反し,法務部所管の取引印を用いることなく,人材開発部長として保管している原告の角印を用いて発注書及び注文書を作成し,部下に虚偽の説明をさせた。
人材開発部が業務過多であったとしても,それは,部長であった被告Y1の管理に問題があったのであり,採用活動担当の従業員を雇い入れることによる対応も可能であった。本件各外注により人材開発部の従業員の残業時間が減少したとも認められない。
(被告Y1)
ア 本件各外注を開始した当時,人材開発部においては,残業時間が月100時間を超える従業員が多数いるなど,本件各外注を内製化できるような状況ではなかった。被告Y1は,人材開発部の部長として,部下の残業時間を増やすことなく,必要な正社員を確保するという原告の利益のために,被告Y2社ら3社の設立費用を支出し,本件各外注を行ったのであり,外注費も一般的な相場より大幅に低いものであった。
被告Y1は,被告Y2社ら3社の設立費用を支出したが,役員に就任した事実はなく,設立手続も行っておらず,被告Y2社ら3社を支配していた事実はない。
イ 人材開発部においては,人材紹介契約と人材派遣契約を締結する場合のみ,原告の法務部のリーガルチェックを経た上,契約書に原告の会社印が押されていたのであり,被告Y1が本件各外注につき,意図的にリーガルチェックを回避し,角印マニュアルに違反したわけではない。
ウ 原告は,被告Y1が本件各外注により約6000万円もの不正な利益を得たと主張するが,被告Y1が被告Y2社ら3社等の設立費用を回収した事実はあるものの,その他は,上記各会社の口座と被告Y1口座との間で資金が循環しているだけのものや,被告Y1とは関係のない資金の動きに関するものであって,被告Y1が個人的に利得をしたものではない。
エ 本件外注①に関し,より多くのクルー応募者を○○研修に参加させることが重要であるから,○○研修参加者数に応じて被告Y2社の報酬が上がる仕組みは合理的であるし,金額も高額ではない。
本件外注②に関し,被告Y1が真にCの実務能力を低く評価していたわけではないし,a社への○○研修の外注費は,c社のテキストを利用して初期費用が抑えられるなど,相場よりも低額であった。
本件外注③に関し,人材開発部が業務過多である状況において,ブログ作成業務を,原告の内情を知り,採用業務の経験があるb社に外注したことは妥当である。
本件外注④に関し,中途採用業務を原告において内製化できるような状況ではなく,Dが原告に再入社するということも現実的ではなかった。
また,b社が行うのは,中途採用候補者を人材開発部の担当者に引き継ぐことであって,採用するかは原告側の判断によるから,採用人数が少ないからといってb社の外注費が高額であるとはいえない。
(2)  本件各外注についての自己営業等禁止義務違反の有無(予備的請求)
(原告)
被告Y1が,自らが支配する被告Y2社ら3社に対して本件各外注を行った行為は,原告の就業規則上の自己営業等禁止義務に違反する。
(被告Y1)
前記のとおり,被告Y1が被告Y2社ら3社を支配していた事実はない。被告Y1は,前記のとおり,原告の利益のため,A社長の採用人数を増やせとの業務命令に従い,本件各外注を行ったのであり,外注費も一般的な相場より大幅に低いから,自己営業等禁止義務に違反するものではない。
(3)  原告に生じた損害の有無及び額
(原告)
ア 内製化コストとの比較による損害(主位的主張)
(ア) 本件外注①に係る損害 5724万4379円
本件外注①以前の平成24年4月1日から平成25年1月31日までの間に原告が本件セミナー等に要したコストは1264万9055円,採用者数は125名であり,本件外注①が行われた同年2月1日から同年12月31日までの間の採用者数は162名であったから,本件セミナー等を内製化した場合のコストは,1639万3175円となる。
(計算式)12,649,055÷125×162≒16,393,175(1円未満四捨五入)
したがって,本件外注①についての原告の損害額は,本件外注①につき被告Y2社に支払った報酬額合計7363万7554円と,上記1639万3175円の差額である5724万4379円となる。
(イ) 本件外注②に係る損害 1429万7003円
原告ないしc社が,本件外注②以前の平成24年4月1日から平成25年1月31日までの間に○○研修に要したコストは,研修実費を除いたものは1459万4398円,研修実費を含むものは2098万1937円であり,採用者数は125名であった。
本件外注②が行われた期間のうち,研修実費が含まない平成25年2月16日から同年9月30日までの採用者数は123名であり,○○研修を内製化した場合のコストは,1436万0888円となる。
(計算式)14,594,398÷125×123≒14,360,888(1円未満四捨五入)
次に,本件外注②が行われた期間のうち,研修実費を含む平成25年10月1日から同年12月31日までの採用者数は38名であり,○○研修を内製化した場合のコストは,637万8509円となる。
(計算式)20,981,937÷125×38≒6,378,509(1円未満四捨五入)
したがって,本件外注②についての原告の損害額は,本件外注②につき被告a社に支払った報酬額合計3503万6400円と,内製化した場合のコストの合計額2073万9397円の差額である1429万7003円となる。
(ウ) 本件外注③に係る損害 620万9217円
本件外注③以前に原告においてブログ作成業務が行われていた際の1時間当たりの人件費は3246円であり,1記事当たりの作成から掲載までに要する作業時間は20分であるから,1記事当たりのコストは約1082円である。本件外注③において,原告がb社に委託した記事数は最大でも1040記事であるから,ブログ作成業務を内製化した場合のコストは,112万5033円となる。
したがって,本件外注③についての原告の損害額は,本件外注③につきb社に支払った報酬額合計733万4250円と,上記112万5033円の差額である620万9217円となる。
(エ) 本件外注④に係る損害 1092万円
b社への本件外注④は,それ自体極めて不当なものであるから,報酬額合計1092万円の全額が原告の損害額となる。
(オ) 弁護士費用 886万7058円
上記(ア)ないし(エ)の損害額の約1割に相当する886万7058円(上記(ア)につき572万4437円,上記(イ)につき142万9700円,上記(ウ)につき62万0921円,上記(エ)につき109万2000円)が,原告の損害として認められるべきである。
(カ) 合計 9753万7657円
イ 一般外注コストとの比較による損害(予備的主張)
仮に,本件各外注につき,内製化ではなく,外注したこと自体は相当であるとしても,外注に係るコストは,以下の(ア)ないし(エ)の限度にとどまるから,原告が支払った額との差額は損害になるというべきである。Dが,被告Y2社ら3社が得た報酬は非常に高額である旨の供述ないし陳述書の提出をしていることや,争点(1)について主張したとおり,被告Y1が6000万円以上の利益を得ていることからしても,原告には相当額の損害があるといえる。
(ア) 本件外注①に係る損害 5199万1804円
本件セミナー等を被告Y2社以外の会社に外注した場合の一般外注コストについては,被告Y2社は,正社員2名及びアルバイト1名で本件セミナー等を実施していたところ,株式会社h(以下「h社」という。)の見積り(甲148)によれば,2633万4000円((採用業務OS(PMクラス)80万円×2名分+採用業務OS(業務アシスタント)40万円+会場費28万円)×11か月分+消費税5%)となり,また,株式会社i(以下「i社」という。)の見積り(甲150)によれば,1695万7500円(初期費用20万円+月額145万円×11か月分+消費税5%)となるから,これらの平均額である2164万5750円にとどまる。
したがって,本件外注①についての原告の損害額は,本件外注①につき被告Y2社に支払った報酬額合計7363万7554円と,上記2164万5750円の差額である5199万1804円となる。
(イ) 本件外注②に係る損害 1958万4950円
○○研修をa社以外の会社に外注した場合の一般外注コストについては,平成25年9月30日までの研修参加者が408人(外注費に宿泊費等を含まない。),同年10月1日以降の研修参加者が143人(外注費に宿泊費等を含む。)であるところ,h社の見積り(甲148)によれば,1885万8000円(3万円/人×408人+4万円/人×143人+消費税5%)となり,i社の見積り(甲150)によれば,1204万4900円(1人当たり約1万6667円((初期費用20万円+月額80万円×6か月)÷6か月÷50人(想定人数))×408人+1人当たり約3万2667円(約1万6667円+宿泊費1万円+交通費6000円)×143人+消費税5%)となるから,これらの平均額である1545万1450円にとどまる。
したがって,本件外注②についての原告の損害額は,本件外注②につきa社に支払った報酬額合計3503万6400円と,上記1545万1450円の差額である1958万4950円となる。
(ウ) 本件外注③に係る損害 584万9550円
ブログ作成業務をb社以外の会社に一般外注した場合のコストは,株式会社j(以下「j社」という。)の見積り(甲152)によれば,76万4400円(200~500文字の1記事当たり735円×1040記事)となり,株式会社k(以下「k社」という。)の見積り(甲154)によれば,220万5000円(初期費用2万1000円+200文字以上の1記事当たり2100円×1040記事)となるから,一般外注した費用は,これらの平均額である148万4700円にとどまる。
したがって,本件外注③についての原告の損害額は,本件外注③につきb社に支払った報酬額合計733万4250円と,上記148万4700円の差額である584万9550円となる。
(エ) 本件外注④に係る損害 729万4875円
中途採用業務をb社以外の会社に外注した場合の一般外注コストは,Dが1人で中途採用業務を担当していたことからすると,h社の見積り(甲148)によれば,396万9000円((採用業務OS(PMクラス)80万円+会場費28万円-本件外注①と併せての申込みによる値引き24万円)×4.5か月分+消費税5%)となり,i社の見積り(甲150)によれば,328万1250円(初期費用20万円+月額65万円(40万円+会場費25万円)×4.5か月分+消費税5%)となるから,これらの平均額である362万5125円にとどまる。
したがって,本件外注④についての原告の損害額は,本件外注④につきb社に支払った報酬額合計1092万円と,上記362万5125円の差額である729万4875円となる。
(被告Y1)
ア 損害額に関する原告の主張は否認ないし争う。
本件各外注に係る業務を原告において内製化することは不可能であったから,本件各外注と内製化のコストを対比するのは相当ではない。
また,一般外注コストについては,原告が依頼した会社の見積りには種々の問題があり,損害額の算定根拠となり得るものではない。
イ 仮に,原告の損害が認定されるとしても,本件外注①及び同②により,原告は,平成25年2月から平成26年2月までの間に,正社員113名とクルー78名の入社(平成25年12月までの○○スキームの効果を見るためには,平成26年2月までの人数を算入するべきである。)による利益を得ているから,損益相殺により原告に損害は発生しない。
また,原告に損害があるとしても,被告Y1が本件各外注に至ったのは,原告の労務管理のずさんさや,過大なノルマと無理な採用増の指示等が原因であるから,少なくとも9割の過失相殺がされるべきである。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  ○○スキームの実施に至る経緯等
ア 原告は,大量の営業員を確保して大量の携帯電話を販売し,携帯電話キャリアから多額の報奨金を得ることなどで利益を上げて成長し,東京証券取引所市場第一部に上場した株式会社である。しかし,他方で,従業員の離職率が高く,恒常的に多数の従業員の採用を行う必要があった。また,クルーと呼ばれるアルバイト従業員では行うことができない種類の営業も存在していたため,正社員を確保することも重要であった。
そうした状況の中で,クルーへの応募者を正社員への応募に変更させることを主目的として,○○スキームが発案された。
原告の100%子会社であるc社は,○○スキームを実施するため,平成23年8月22日に「c1株式会社」から「株式会社c」に商号変更され,同日,被告Y1が代表取締役に就任した。
原告は,同年10月1日付けで,c社との間で教育・研修等に関する業務委託契約を締結し,人材開発部において又はc社を通じて,同月頃から平成25年2月頃まで,○○スキームを実施していた。この間,Cは,平成24年3月頃からc社に所属し,○○研修を担当していた。
(甲1,38,134の2,乙18,証人I・24頁,32頁,被告Y1・12頁,25頁)
イ 原告は,いわゆるブラック企業であるとの噂を立てられることがあり,原告の社名を出すと応募者に敬遠されることもあった。このため原告は,子会社を通じて従業員を募集することがあり,○○スキームをc社が実施していたのも上記理由によるものであった。c社は,原告の社屋の一部を賃借して業務を行うなどしており,被告Y1が人材開発部の部長でもあることから,実質的には人材開発部に組み込まれる形となっていた。(甲3,11,38,乙18,被告Y1・25頁,分離前相被告D・2頁)
(2)  人材開発部の状況等
ア 原告において○○スキームが実施されていた当時,人材開発部には10前後の課が置かれており,このうち,実質的にはc社である○○研修課を含む2つの課が○○スキームを担当していた。○○スキームを担当する課に所属する従業員は,C,J(以下「J」という。),K(以下「K」という。)及びL(以下「L」という。)らであった。(甲139,乙1,被告Y1・12~13頁)
イ 人材開発部には,平成24年11月当時,部長である被告Y1以外に80人の従業員が所属していたが,このうち,同月の時間外労働時間が80時間以上の者が51人(64%),このうち100時間以上の者が38人(48%),直近3か月の平均時間外労働時間が80時間以上の者が54人(68%)に及ぶなど,長時間労働が慢性化していた。○○スキームを担当する従業員の超過勤務も深刻であり,Cの同月における時間外労働は115時間(直近3か月平均116時間),Jは133時間(直近3か月平均128時間),Kは160時間(直近3か月平均146時間),Lは133時間(直近3か月平均119時間)にも及んでいた。(甲37の1)
ウ 人材開発部における長時間労働は,平成25年2月時点においてある程度減少したものの(80時間以上40%,100時間以上21%,直近3か月平均80時間以上41%),依然として深刻な状況が続いており,○○スキームを担当するC,J,K,Lらにおいても同様であった。
原告取締役のI(以下「I」という。)は,同月19日,被告Y1に対し,「人材開発部の残業時間を70時間/月以内にするように。そのために,仕事の効率化をするように。」との電子メールを送信した。(甲34,37の2)
エ 平成25年5月時点における人材開発部における長時間労働は,平成24年11月時点よりは減少したものの,平成25年2月時点よりは若干増加し(80時間以上46%,100時間以上27%,直近3か月平均80時間以上42%),依然として深刻な状況が続いていた(甲37の3)。
(3)  本件外注①及び同②の実施及び実施に至る経緯等
ア 被告Y1は,○○スキームの成果(採用者数)が当初予定の半分程度に低迷する一方,人材開発部は業務過多であり,相応のコストもかかっていたことなどから,○○スキームの中止を検討していた。このような状況において,被告Y1は,平成24年11月29日,以前原告の従業員であり,原告を退職してg社を設立していたDから仕事上の相談を受けたことを契機として,DとCにそれぞれ新会社を設立させ,○○スキームを外注することを計画した。(甲165,乙18,丙22ないし25,45,D・1~2頁,被告Y1・14頁)
イ 被告Y1は,部下であるFに指示して,被告Y2社の設立手続を行わせ,平成25年1月11日,東京都新宿区高田馬場所在のレンタルオフィスを本店所在地として,被告Y2社を設立した。設立に際しては,被告Y1が発起人となり,資本金300万円を準備し,代表取締役にはDが就任した。被告Y2社の従業員数は6ないし7名程度であった。(甲43ないし48,丙4,13,25,26,38,被告Y1・54~55頁,D・16~18頁)
ウ 被告Y1は,平成25年1月27日,Dに対し,「形式上,君は現在業者の立ち位置なので,どこまでオープンにするかな,,,と迷ったわけだが,もう,身内なわけなので,以下に実態を話す。が,内密に頼む。」と記載した上で,本件外注①のモデルについて記載した電子メールを送信した。同電子メールには,原告から被告Y2社に支払われる基本報酬を400万円ないし420万円とし,40人(仮内定者)を基準として1人下回るごとに10万円減算されること,媒体費用200万円,諸経費50万円,人件費60万円(Dへの支払が40万円であり,事務員を雇うと若干超過する。)とすると,31人が損益分岐点となることなどが記載されている。(丙28)
エ 被告Y1は,平成25年2月1日付けで,被告Y2社に対し,契約期間を同日から平成26年1月31日までの1年間として,本件セミナー等に係る業務の発注書を送付した。被告Y1は,同発注書に,原告の会社印ではなく,被告Y1が人事開発部長として保管を認められている角印を押印した。発注(報酬)金額は月額450万円(税別)であり,内定出し人数が30人を上回った場合は1人当たり20万円(税別)加算し,下回った場合は1人当たり10万円(税別)減算することとされていた。
以後,被告Y1は,被告Y2社に対する本件セミナー等の外注(本件外注①)を開始した。報酬算定の実際の運用としては,半月ごとに,基本報酬を236万2500円として,別紙1の「仮内定者数」欄記載の仮内定者,すなわち○○研修への参加者が15人を上回った場合は1名当たり21万円を加算し,下回った場合は10万5000円を減算することとされており,別紙1の「報酬金額」欄記載の金額は,基本的には上記の計算方法により算定されたものである(ただし,平成25年9月上旬・下旬取引分及び同年12月下旬取引分については,上記とは異なる計算により報酬金額が算定されている。)。(甲5,41,71ないし92,132,D・37頁)
オ 本件セミナー等は,月に2度,合計1500名程度のクルー応募を受付をして,そのうち1100名程度につき面接の調整を行い,850名程度に面接前日の電話連絡をし,来社した650名程度に会社説明会及び1次面接を行い,250名程度に合格連絡をし,その後,来社した170名程度に○○研修の説明会を開催し,60名程度(1回当たり30名程度)が○○研修への参加意思を表明する,というようなおよその人数規模で行われており,Dのほか数名の従業員が担当していた(乙6,丙30,45,被告Y1・15~18頁,D・11,18~21頁)。
カ a社は,平成25年2月8日,被告Y1が発起人となり,資本金100万円を準備して設立され,代表取締役にはCが就任した。そして,被告Y1は,同月からa社に対する○○研修の外注(本件外注②)を開始した。(甲93,丙5)
キ ○○研修は,4泊5日の宿泊研修と1日の通い研修の合計6日間のカリキュラムであり,ビジネスマナー全般のほか,営業職の正社員として働きたいと思わせるための動機付け等を内容とするものである。a社は,従前c社において使用されていたテキストとほぼ同内容のテキストを使用し,C及びa社の従業員が○○研修を担当していた。平成25年2月から同年12月までの期間における○○研修の実施日程や参加人数は,別紙2の「内訳」欄記載のとおりであり,参加者1人当たりの単価は,平成25年10月より6万円から6万8000円に改定され,別紙2の「支払金額」欄記載のとおりの報酬が原告からa社に支払われた(なお,別紙1の「仮内定者数」欄記載の人数よりも○○研修への参加者が多いこともある。)。上記の単価改定の際,被告Y1は,a社に対する注文書に角印を押印した。(甲6,41,55ないし57,93ないし113,乙9,18,被告Y1・17~19頁)
ク 人材開発部ないしc社が○○スキームを実施していた平成24年4月1日から平成25年1月31日までの10か月間において,原告が○○スキームを通じて採用できた従業員は125名(正社員62名,クルー63名)であった。
これに対し,本件外注①及び同②が行われた平成25年2月1日から同年12月31日までの11か月間において,原告が○○スキームを通じて採用できた従業員は162名(正社員95名,クルー67名)であった。(甲132)
ケ Cは,平成26年4月25日,原告に対し,a社では○○研修に係る実費を全て負担し,1人当たりの単価を限界まで抑えて原告に貢献してきた旨のメールを送信した(甲167)。
(4)  本件外注③及び同④の実施及び実施に至る経緯等
ア 被告Y1は,Fに指示して,b社の設立手続を行わせ,平成25年8月13日,b社を設立した。設立に際しては,被告Y1が発起人となって資本金100万円を準備し,代表取締役にはEが就任した。(甲4の3,甲49ないし54,丙7)
イ 被告Y1は,b社に対し,平成25年8月頃にブログ作成業務を外注し(本件外注③),同年9月頃に中途採用業務を外注した(本件外注④)。本件外注④につき,被告Y1は,b社に対する発注書に角印を押印した。(甲13,114,116)
ウ ブログ作成業務は,原告及びその子会社の採用応募者向けにブログの記事を作成し掲載する業務である。本件外注③の内訳及び支払金額は別紙3のとおりであり,b社は,1040記事を作成して掲載した。(甲14,15,42,114,115,117,120,123)
エ 中途採用業務は,原告及びその子会社の中途採用従業員の採用活動業務であり,程度に差はあるものの,基本的には優れた知識や経験のある人材を採用することを目的とするものであった。本件外注④の内訳及び支払金額は,別紙4のとおりである。このうち「特殊採用代行」とは,特に優れた知識や経験のある人材の採用を目的とし,「採用代行」とあるのは,そこまでには至らない経験者の採用を目的とするものである。同業務はDが担当し,求人媒体の選定,求人原稿の作成,求人応募の受付,面接日程の調整,面接日前日の確認連絡,会社説明会と一次面接の実施,履歴書の入力管理,一次面接合格者への通知,二次面接の設定,二次面接の実施,二次面接合格者への通知という流れで行われていたが,純粋な特殊採用の場合は二次面接の設定まで行い,その後は原告の担当者であるLに引き継いでいた。多数の応募者がいても,求める知識や経験の程度によっては,採用者が1,2名にとどまることもあり,1人も採用できない事態も想定される業務であった。(甲13,42,116,118,119,121,122,124,125,139,D・22~25頁)
オ Dは,平成25年9月5日,被告Y1の指示を受けて,b社の「D1」を名乗って,「弊社は,業務代行サービスとして長年に渡り,企業様の煩わしい業務や,コスト削減の一環として事業を営んでおります。」などと記載した電子メールをLに送信した(甲61,丙32,D・15~16頁)。
カ 被告Y1は,平成25年9月8日,Fに対し,今後,原告側と電子メールのやり取りをする場合,被告Y1のメールアドレスを入れないように指示する旨の電子メールを送信した(乙19,丙41,46)。
(5)  被告Y2社及びa社による本件各外注に係る業務以外の業務
ア 被告Y2社は,本件外注①に係る本件セミナー等以外にも原告への人材紹介業務を行っていた。原告は,被告Y2社に対し,人材紹介手数料として,平成25年は,8月分42万円,9月分306万6000円,10月分52万5000円,11月分424万2000円,12月分262万5000円の合計1087万8000円を支払った。(甲41,62)
イ a社は,本件外注②に係る○○研修以外にも原告の「マインドアップ研修」と呼ばれる研修を実施していた。原告は,a社に対し,同研修の手数料として,平成25年は,4月分92万4000円,5月分210万円,6月分100万8000円,7月分186万5100円,8月分176万4000円,9月分201万6000円,10月分110万8800円,11月分175万5600円,12月分231万円の合計1485万1500円を支払った。(甲41)
(6)  本件各外注についての被告Y1の権限に関する事実関係
ア 原告は,平成22年12月1日,被告Y1が人材開発部長として保管する原告の角印に関し,角印マニュアル(甲20)を制定した。この中において,契約当事者双方が押印する書面(契約書,合意書,覚書,確認書等)や,申込書・発注書であっても契約書の取り交わしがないまま取引が成立するものについては,角印の押印が禁止されており,法務部の確認後,法務管理の会社印で押印することとされている。原告は,前記(3)エ,キ,(4)イのとおり,本件外注①に係る発注書,本件外注②の単価改定時の注文書及び本件外注④に係る発注書にそれぞれ角印を使用した。
イ 原告の取締役であるIは,平成24年5月22日,人材開発部における意思決定の迅速化等を図るため,人材開発部が対応する採用及び教育に関わる契約締結については,法務部のリーガルチェックが通っていること,人材開発部長の承認がとれていることを条件に稟議を不要とすることを承認する旨の決裁をしていたが,被告Y1は,本件各外注について,原告の法務部のリーガルチェックは受けなかった(被告Y1は,人材開発部においては,人材紹介契約と人材派遣契約を締結する場合のみ,法務部のリーガルチェックを経て,契約書に原告の会社印が押印していたのであり,被告Y1が,意図的に,本件各外注につきリーガルチェックを回避したり,角印マニュアルに違反したりしたわけではない旨主張するが,被告Y1が行った本件各外注は,被告Y2社ら3社と契約を締結するものであるか,少なくとも,申込書・発注書により契約書の取り交わしがないまま取引が成立するものには該当すると認められるから,上記基準に照らし,リーガルチェック及び原告の会社印の押印を要するものと認められ,したがって,被告Y1の主張は採用することができない。)。
また,被告Y1は,被告Y2社ら3社は被告Y1が出資した会社であることをA社長,Iその他の役員に知らせておらず,被告Y2社ら3社に対して本件各外注を行うことにつき,原告の了承を得ていなかった。(甲17,18,62,被告Y1・35頁,41頁,71頁)
ウ 被告Y1は,平成25年10月31日,A社長に対し,「全社で取り組んでいる過重労働,残業圧縮の件ですが,Y1の判断で,部分的にだけ,自由にやらせてもらうことは出来ませんでしょうか?(中略)とてもじゃないですが時間で仕事やってる余裕ないです。」との電子メールを送信した。これに対し,A社長は,「気持ちは,わかるし,ありがたい話しだし,意気込みは買う。しかし,絶対厳守で,いこう。(中略)時間内でできることを,やろう。後は,外部を使うとか,採用部の人数増やすとかしよう。」と返信した。(甲130の1・2)
エ 被告Y1は,人材開発部の業務の状況に応じて,本件各外注に係る業務を外注するかの判断についての裁量権限は有していた(I・37頁)。
(7)  被告Y1による原告の退社等
ア 平成26年2月14日,Iは,被告Y1ら関係者に対し,「採用,教育コスト額が2億を超えてきたので,今後は支出をよくよくみていかないといけない。なので,採用(派遣を含む),教育関連の支出について,発注前に,すべて俺のところを事前に通すようにしてくれ。A社長,社長室からの依頼分もすべて。」との電子メールを送信した(甲32)。
イ 被告Y1は,平成26年4月30日に原告を退社した。この後,人材開発部を含む原告全体の従業員数が大幅に増え,従業員の時間外労働時間が減少した。(甲138,I・20頁)
(8)  被告Y1が関与した関連会社
被告Y1は,被告Y2社(平成25年1月11日設立,資本金300万円,同年4月11日に500万円に増資),a社(同年2月8日設立,資本金100万円),b社(同年8月13日設立,資本金100万円)のほか,株式会社l(同年5月14日設立,資本金500万円),株式会社m(同年5月24日設立,資本金100万円,同年9月12日に500万円に増資),株式会社n(同年12月19日設立,資本金100万円)の設立に関与し,資本金(増資分を含めて合計1800万円)を出資した。
被告Y2社の本店所在地であるレンタルオフィスにおいては,被告Y2社以外の上記各社(少なくとも株式会社n以外)に所属する従業員も勤務しており,被告Y1は,上記各社への入金状況を部下に報告させたり,従業員の給与データを部下に送信させて確認したりしていた。
また,被告Y1は,d社,e社,f社の業務(本件各外注に係るものとは異なる業務)についても少なくとも一定程度の関与を有していた。
(甲4の1ないし3,甲43ないし54,168,169,乙19,34,35,37,39,丙1,6,13,33,37,38)
(9)  被告Y1口座及び被告Y1の関連会社に対する送金等
被告Y1は,自らが管理するF口座から被告Y1口座に対し合計1579万円,G口座及びH口座からd社,e社,f社の各預金口座や被告Y1口座に対し合計2636万4000円,合わせて4215万4000円を送金した。
他方,被告Y1は,その母親に対して顧問契約の報酬として月額70万円を支払うことを予定していたが(丙18),同支払が現実に実施された事実を認めるに足りる証拠はない。
被告Y2社は,平成25年及び平成26年に接待交際費名目で合計604万2606円を支出したほか,平成25年11月18日頃,その預金によりメルセデス・ベンツを代金440万円で購入したところ,少なくとも後者の自動車購入は被告Y1が関与して行われた。
(甲131,乙17,丙14,15,47,被告Y1・65頁,68頁,調査嘱託の結果)
2  争点(1)(本件各外注が不法行為における違法な行為といえるか(主位的請求))について
(1)  前記1(6)エのとおり,人材開発部の部長であった被告Y1は,業務の状況に応じて,本件各外注に係る業務を外注するかを判断する裁量権限を有していたものと認められる。そして,前記1(2),(3)ア,(6)ウ,エのとおり,被告Y1が○○スキームを外注することを計画していた平成24年11月当時,人材開発部は長時間労働が慢性化し,○○スキームを担当する従業員の超過勤務も深刻な状況にあったこと,その3か月後の平成25年2月には,Iが被告Y1に対し残業時間を70時間に抑えるよう指示していたこと,同年5月の時点でも,人材開発部における従業員の長時間労働は依然として深刻な状況にあったこと,本件各外注実施後の同年10月には,A社長が被告Y1に対し外注を容認する趣旨の電子メールを送信していることなどの事情によれば,人材開発部の部長であった被告Y1が,平成24年11月から平成25年2月にかけては本件外注①及び同②に係る各業務について,さらに同年8月ないし同年9月にかけては本件外注③及び同④に係る各業務について,内製化を中止し,外注によることとした判断自体が違法であったということはできない(結果的に,本件外注①及び同②の後に人材開発部の長時間労働に改善が見られなかったとしても,そのことにより当初の判断が違法とまでいえるものではないし,そうした状況を踏まえて,さらに本件外注③及び同④を行うこととした判断が違法ということもできない。)。
原告は,被告Y1が平成26年4月末に退職した後に人材開発部の残業時間が大幅に減少しており,それまで残業時間が多かったのは被告Y1の労務管理に問題があった旨主張する。確かに,前記のとおり,本件外注①及び同②の後も人材開発部の長時間労働が改善しなかったことからすれば,被告Y1の労務管理に一定の問題があった可能性は否定できない。しかし,仮にそうであったとしても,そのことにより,本件各外注を行うこととした被告Y1の判断が直ちに違法となるものではないし,原告が指摘する平成26年4月末以降の人材開発部の残業時間の減少は,前記1(7)イのとおり,原告全体の従業員数が大幅に増え,人材開発部を含めた原告の従業員全体の残業時間が減少したことに伴うものと認められるから,いずれにせよ,原告の主張は前記判示を左右するものではない。
また,原告は,被告Y1はDを原告において再雇用すべきであったとも主張するが,前記1(3)アのとおり,Dは,既にg社を設立していたのであるし,当時,Dが原告への再就職の希望を被告Y1に伝えていたとの事実を認めるに足りる証拠もないから,原告の主張は前記判示を左右するものではない。
(2)  しかしながら,他方において,前記1(3)イ,カ,(4)ア,(6)イのとおり,被告Y2社ら3社は,被告Y1が設立時の資本金全額を出資した会社であるところ,被告Y1は,本件各外注に当たって同事実をA社長やIに伝えるなどして原告の了承を得ていない。むしろ,被告Y1が,前記1(3)ウの電子メールをDに送信したことや,前記1(4)オ,(6)ア,イのとおり,原告の法務部のリーガルチェックを回避し,本来必要な会社印ではなく自身が保管する角印を用いて発注書等を作成するなどして本件各外注を行ったこと,Dに指示して,b社が長年にわたり業務代行サービスを営んでいるとの実際とは異なる内容の電子メールを原告宛てに送信させたことからすると,被告Y1は,被告Y2社ら3社が被告Y1出資に係る会社であることにつき,原告に秘密裏に本件各外注を行おうとしていたと認められる。さらに,前記1(4)カ,(8),(9)からすると,被告Y1は,原告の従業員としての立場を離れて,独立して経済活動を行おうとしていることも窺われる。
被告Y1は,本件各外注は原告のためになることであるから,不法行為にはならない旨主張するが,被告Y1が原告の了解を得ず秘密裏に本件各外注に及んでいることからすると,本件各外注が専ら原告のためであったとする被告Y1の主張は採用することができない。
そうすると,被告Y1には,本件各外注により,少なくとも自己の利益を図る目的をも有していたと認めざるを得ず,本件各外注には不法行為上の違法性が認められるというのが相当である。
3  争点(2)(本件各外注についての自己営業等禁止義務違反の有無(予備的請求))について
前記認定のとおり,被告Y1は,自らが出資して設立した被告Y2社ら3社に対し,事前に原告の了解を得ることなく本件各外注をした事実が認められる。
そうすると,被告Y1の行為は,原告就業規則23条「事前に当会社の許可を得ないで」,「自ら会社を設立し」,「自己の営業を行ってはならない」との規定に違反し,自己営業等禁止義務に違反したものと認められる。
4  争点(3)(原告に生じた損害の有無及び額)について
(1)  内製化コストとの比較について
前記のとおり,被告Y1が○○スキームを外注することを計画していた平成24年11月当時,人材開発部は長時間労働が慢性化し,○○スキームを担当する従業員の超過勤務も深刻な状況にあったこと,平成25年2月には,Iが被告Y1に対し残業時間を70時間に抑えるよう指示していたこと,同年5月の時点でも,人材開発部における従業員の長時間労働は依然として深刻な状況にあったことなどの事情によれば,○○スキームを内製化により継続することは限界に達していたと認められ,他の業務についても外注を検討すべき状況にあったと認められる。そうすると,被告Y1が,人材開発部の部長として,本件各外注に係る業務を外注するという判断をしたこと自体が違法であったということはできない。
したがって,原告に生じた損害の算定につき,内製化を前提とするのは相当ではなく,本件各外注に係る支払金額と,内製化コストとを比較して損害を算定すべきとする原告の主張は採用することができない。
しかし,他方で,本件各外注に係る業務を外注すること自体はやむを得ないものであったとしても,前記のとおり,被告Y1が,自らの関連会社である被告Y2社ら3社に対し,原告に秘密裏に本件各外注を行った行為は不法行為上の違法性が認められ,自己営業等禁止義務にも違反する。そこで,以下においては,本件各外注に係る業務を被告Y2社ら3社以外に一般外注した場合に生ずる費用と,原告が本件各外注につき被告Y2社ら3社に対して支払った報酬との差額につき検討することとする。
(2)  一般外注コストとの比較について
ア 本件外注①(本件セミナー等)について
原告は,本件外注①の一般外注コストは,h社の見積額2633万4000円(甲148)とi社の見積額1695万7500円(甲150)の平均額である2164万5750円にすぎない旨主張する。
これに対し,被告Y1は,o株式会社(以下「o社」という。)の見積額(税別。以下,被告Y1提出に係る見積額につき同じ。)として,初期導入費用420万円,月額費用932万円ないし1022万円(乙23の1),株式会社p(以下「p社」という。)の見積額として,初期導入費用60万円,月額費用1407万円(乙24の1),株式会社q(以下「q社」という。)の見積額として,初期費用50万円,月額費用約1189万9000円((7189万8000円-50万円)÷6か月)(乙25の1)とする各見積書を提出する。
そこで検討するに,本件セミナー等は,原告におけるクルー(アルバイト従業員)への応募者を正社員への応募に変更させることを主目的としているという特殊性があるから,一般外注をする場合には,その特殊性に応じた募集方法を構築するために,初期費用等の相応のコストを要することが想定される。しかるところ,被告Y1が提出する各見積書(乙23の1,24の1,25の1)には,初期費用が計上されているのに対し,h社の見積額では,初期費用が0円とされている点で,本件セミナー等を外注先が初めて担当するという実態を反映したものとはいえない。これに加え,前記1(3)オのとおり,本件セミナー等では毎月約1500名のクルー応募者に対応する必要があるところ,h社の見積書においては,そのような人数規模で行われることが反映されているのか必ずしも明らかではないこと,h社の代表者は原告の元従業員であり,そのことが分からない状態で原告からh社の見積書が証拠提出されたこと(甲148,149,乙27)からすると,上記見積書の信用性には疑念を挟む余地がある。
また,i社の見積書(甲150)に関しては,「全応募者 ※120名を想定」をもとに2名で対応可能としている点で,上記のとおり毎月1500名のクルー応募者に対応する必要のある本件セミナー等の実態を的確に見積もったものとは認め難い。
その他,前記1(3)エに認定した本件外注①に係る報酬額の算定方法が不合理であると認めるに足りる証拠はないことからすると,本件外注①につき,原告が被告Y2社に支払った報酬7363万7554円(11か月間の平均月額約670万円)が,一般外注した場合のコストを上回るものであったとは認められない。
この点,原告は,上記報酬額の算定方法は恣意的に仮内定者を増やすことにより高額の報酬を得られるものである旨主張する(争点(1)に関する主張)。しかし,前記1(3)エのとおり,仮内定者とは○○研修への参加者を意味するところ,Dの供述(D・37頁)に照らすと,被告Y2社において行うことができたのは,クルー応募者に対し○○研修に参加するよう積極的に勧める程度のことであったと認められ,恣意的に仮内定者を増やすことができたとまでは認められないから,原告の主張は採用できない。また,原告は,g社に外注すれば外注費はもっと安く済んだはずである旨主張するが(争点(1)に関する主張),これを裏付けるに足りる証拠はなく,原告の主張は採用できない。
イ 本件外注②(○○研修)について
原告は,本件外注②の一般外注コストは,h社の見積額1885万8000円(甲148)とi社の見積額1204万4900円(甲150)の平均額である1545万1450円にすぎない旨主張する。
これに対し,被告Y1は,o社の見積額として,初期導入費用870万円ないし1020万円,月額費用432万円(乙23の1),p社の見積額として,初期導入(コンサルティング)費用580万円,月額費用360万円(乙24の1),q社の見積額として,初期費用650万円,月額費用1760万円((4800万円+360万円+5400万円)÷6か月)(乙25の1)とする各見積書を提出する。
そこで検討するに,○○研修も,本件セミナー等と同様に,原告におけるクルー(アルバイト従業員)への応募者を正社員への応募に変更させることを主目的としているという特殊性があるから,一般外注をする場合には,その特殊性に応じた募集方法を構築するために,初期費用等の相応のコストを要することが想定される。しかるところ,被告Y1が提出する各見積書(乙23の1,24の1,25の1)には,初期費用が計上されているのに対し,h社の見積額では,初期費用が0円とされている点で,○○研修を外注先が初めて担当するという実態を反映したものとはいえない。これに加え,h社の見積書(甲148)は,その体裁において各費用の実態を踏まえた詳細な検討がされているものではない上,「専任研修担当者は,貴社からの出向者にて対応」とされている点において○○研修を一般外注した場合のコストを的確に分析したものとは認められない。また,h社の代表者が原告の元従業員であることに伴う問題点があることは,前記アと同様である。
次に,i社の見積書(甲150)は,初期設定費用は計上されているものの,20万円と低額にすぎるし,研修全体をトレーナー1名で実施可能としている点,4泊5日の宿泊費が1人当たり1万円とされている点において,前記1(3)キのような○○研修の実態を踏まえたものとは認め難い。
さらに,原告は,○○研修は内製化で対応することができるから外注の必要はない旨主張するが,原告が提出する一般外注に係るh社の見積額(1885万8000円)とi社の見積額(1204万4900円)は,いずれも原告主張に係る○○研修を内製化した場合のコスト(2073万9397円)を大幅に下回るものである点で一貫したものとは言い難い。
以上に加え,前記1(3)キに認定した本件外注②に係る報酬額の算定が不合理であると認めるに足りる証拠はないこと,さらに,同ケのとおり,a社で○○研修を担当していたCが,平成26年4月25日,原告に対し,a社では○○研修に係る実費を全て負担し,1人当たりの単価を限界まで抑えて貢献してきた旨の電子メールを送信していることなどの事情によれば,本件外注②につき,原告がa社に支払った報酬3503万6400円(10.5か月間の平均月額約334万円)が,一般外注した場合のコストを上回るものであったとは認められない。
ウ 本件外注③(ブログ作成業務)について
原告は,本件外注③の一般外注コストは,j社の見積額76万4400円(甲152)とk社の見積額220万5000円(甲154)の平均額である148万4700円にすぎない旨主張する。
これに対し,被告Y1は,株式会社rの見積額として810万円(5万円/月×6か月+7500円/記事×1040記事)(乙26の1),株式会社sの見積額として728万円(7000円/記事×1040記事)(乙29の1)とする各見積書を提出する。
そこで検討するに,ブログ作成業務は,東京証券取引所市場第一部上場企業である原告及びその子会社の採用応募者向けの情報提供を目的とするものであるから,原告の実情をある程度把握しておく必要があると認められるところ,原告が提出する各見積りは単に文字数を指定しただけであり,その文字数も200ないし500文字(甲152)又は200文字以上(甲154)と求められる記事の内容に照らして十分な分量とはいえず,あまりに安価なものといわざるを得ない。その他,本件外注③に係る別紙3「内訳」欄記載の報酬算定方法が不合理であると認めるに足りる証拠はないことや,被告Y1が提出する各見積りの内容からすると,被告Y1が,ブログ作成業務については若干高い契約になっている旨供述していること(被告Y1・75頁)を踏まえても,本件外注③につき,原告がb社に支払った報酬733万4250円(1記事当たり約7060円)が,一般外注した場合のコストを上回るものであったとまでは認められない。
エ 本件外注④(中途採用業務)について
原告は,本件外注④の一般外注コストは,h社の見積額396万9000円(甲148)とi社の見積額328万1250円(甲150)の平均額である362万5125円にすぎない旨主張する。
これに対し,被告Y1は,o社の見積額として,初期導入費用90万円,月額費用90万円(乙23の1),p社の見積額として,月額費用394万5000円(乙24の1),q社の見積額として,初期費用120万円(20万円+資料作成100万円),月額費用約214万7000円((1408万2700円-120万円)÷6か月)(乙25の1)とする各見積書を提出する。
そこで検討するに,前記1(4)エのとおり,中途採用業務は,程度に差はあるものの,基本的には優れた知識や経験のある人材を採用することを目的とするものであったところ,h社の見積書(甲148)は,面接を実施する対象人数,採用者数自体が明らかではないこと,経験者の採用に係る単価(採用業務OS(PMクラス)80万円)が,本件外注①に係るアルバイト従業員の採用の見積りと同様の単価であることなどの点で不合理なものといわざるを得ない。h社の代表者が原告の元従業員であることに伴う問題点もあることは,前記アと同様である。
また,i社の見積書(甲150)は,Dがb社において複数案件を並行して行っていたこと(前記1(4)エ及び別紙4の「内訳」欄参照)が考慮されていないなどの点で,本件外注④の実態を的確に反映したものとはいえない。
そうすると,原告の見積りを直ちに採用することはできず,他方で,別紙4の「内訳」欄記載の報酬の算定が不合理なものであると認めるに足りる証拠はないから,本件外注④につき,原告がb社に支払った報酬1092万円が,一般外注した場合のコストを上回るものであったとは認められない。
この点,原告は,中途採用業務によっては2名しか採用に至っておらず,上記報酬は高額にすぎる旨主張するが(争点(1)に関する主張),前記1(4)エのとおり,中途採用業務は,多数の応募者がいても,求める知識や経験の程度によっては,採用者が1,2名にとどまることもあり,1人も採用できない事態も想定される業務であったから,結果的に採用が2名にとどまったとしても,そのことをもって報酬が高額にすぎると非難することは相当ではなく,原告の主張は採用できない。
オ 原告は,本件各外注により被告Y2社ら3社が得た報酬が高額にすぎる旨主張し,Dもこれに沿う供述をし,同趣旨の陳述書(甲162)を提出する。
しかし,Dの供述ないし陳述書の記載は,被告Y2社ら3社が得た報酬が高額である根拠につき具体的な裏付けを示すものではないし,陳述書(甲162)は,原告との間で裁判上の和解(前提事実(5)イ)が成立した後に原告から提出された経緯があることからすると,上記報酬額に関するDの供述ないし陳述書の記載はいずれも採用できない。
また,原告は,被告Y1が,本件各外注により,不当に高額な外注費を原告に支払わせ,少なくとも6000万円以上の不正な利益を得ているから,原告は同金額に相当する損害を被った旨主張する。
確かに,前記1(8),(9)のとおり,被告Y1は,F口座,G口座及びH口座から被告Y1口座や自らが関与するd社,e社及びf社の各預金口座に合計4215万4000円を送金した事実が認められ,被告Y1自身,被告Y2社ら3社のほか,株式会社l,株式会社m,株式会社nの資本金を上記送金額から回収した事実自体は認めている。また,被告Y2社は,接待交際費名目で合計604万2606円を支出したほか,その預金によりメルセデス・ベンツを代金440万円で購入したところ,少なくとも後者の自動車購入は被告Y1が関与して行われた事実が認められる。
しかし,前記1(5),(8)のとおり,被告Y2社とa社は,原告から本件各外注に係る業務以外の業務に係る手数料の支払を受けていたこと,d社,e社及びf社は本件各外注とは異なる業務を行っていたことが認められるのであり,これらの事実を考慮すると,上記送金に係る金銭が,本件各外注により生じた利益を原資とするものであるとの事実を認めるには至らない。また,被告Y1が関与した被告Y2社の自動車購入につき,被告Y2社が事業を営む上での必要な経費として不相当なものであったとは認められないし,被告Y2社における接待交際費の支出につき被告Y1が関与していたとしても,これも上記と同様の経費として不相当なものであったとは認められない。
この点を措くとしても,前記のとおり,本件各外注につき原告が現実に支払った報酬金額が,本件各外注に係る業務を一般外注した場合に要するコストを上回るものであったとは認められないことからすると,被告Y1が,上記資本金等を原告による上記支払から捻出した事実があったとしても,これをもって,原告に損害が生じたということはできない。
5  まとめ
以上のとおり,被告Y1の本件各外注は不法行為上違法であり,雇用契約上の自己営業等禁止義務違反ともなるが,これにより原告が被った損害の立証があるとはいえず,したがって,不法行為は成立せず,債務不履行責任も認められない。公示送達の被告Y2社についても,損害の立証がない以上,請求は棄却を免れない。
6  結論
以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第25部
(裁判長裁判官 鈴木昭洋 裁判官 阿波野右起 裁判官 窓岩亮佑)

 

〈以下省略〉

 

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