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「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(1)令和元年 5月16日 東京高裁 平29(ネ)2968号 取締役に対する損害賠償請求控訴事件

「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(1)令和元年 5月16日 東京高裁 平29(ネ)2968号 取締役に対する損害賠償請求控訴事件

裁判年月日  令和元年 5月16日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ネ)2968号
事件名  取締役に対する損害賠償請求控訴事件
文献番号  2019WLJPCA05169002

裁判経過
第一審 平成29年 4月27日 東京地裁 判決 平24(ワ)174号・平24(ワ)899号・平24(ワ)8257号 取締役に対する損害賠償請求事件

裁判年月日  令和元年 5月16日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ネ)2968号
事件名  取締役に対する損害賠償請求控訴事件
文献番号  2019WLJPCA05169002

主文

1⑴  一審被告A6らの附帯控訴に基づき,原判決中,一審被告A6ら敗訴部分を取り消す。
⑵  上記部分につき,一審原告会社の一審被告A6らに対する請求をいずれも棄却する。
2⑴  一審被告A2の控訴に基づき,原判決中,一審被告A2敗訴部分を取り消す。
⑵  上記部分につき,一審原告会社の一審被告A2に対する請求を棄却する。
3⑴  一審被告A3及び一審被告A4の控訴に基づき,原判決主文第2項及び第3項の一審被告A3及び一審被告A4に関する部分を次のとおり変更する。
⑵  一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社に対し,連帯して,586億7296万8936円,及び内金10億9700万円に対する,一審被告A3については平成24年1月30日から,一審被告A4については同月29日から,内金575億7596万8936円に対する同年2月2日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
⑶  一審原告株主の一審被告A3及び一審被告A4に対する第4事件の第6類型(剰余金の配当等)に係るその余の請求をいずれも棄却する。
4⑴  一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社に対し,連帯して,6億1986万円及びこれに対する平成29年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
⑵  一審原告会社の一審被告A6ら及び一審被告A2に対する当審における拡張請求をいずれも棄却する。
5  一審被告A3及び一審被告A4のその余の控訴並びに一審原告会社及び一審原告株主の控訴をいずれも棄却する。
6  訴訟費用中,第1事件及び第4事件について,当審において生じた部分並びに原審において一審原告らと一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4との間に生じた部分は,これを100分し,その1を一審原告会社の,その1を一審原告株主の,その余を一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4のそれぞれの負担とし,第2事件についての控訴費用は,これを全部一審原告株主の負担とする。
7  この判決は,第3項⑵及び第4項⑴に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨・附帯控訴の趣旨
別紙2-1「控訴及び附帯控訴の趣旨目録」記載のとおり
第2  事案の概要
1  本件は,東京証券取引所(一部)上場会社で光学機械及び精密機器の製造等を目的とする一審原告会社が,巨額の金融資産の損失の計上を避けるために,ファンド等に金融資産を買い取らせるなどして,損失を分離した上,それを解消するために企業を買収するなどした結果,金利及びファンド運用手数料等の支払を余儀なくされ(第1類型),株式を利用した資金運用をして運用損失が生じ(第2類型),実際の価値をはるかに超える額で株式を取得して企業を買収し(第3類型),企業買収に関して多額のFA報酬を支払い(第4類型),代表取締役等であったBから違法行為の疑惑を指摘されたにもかかわらず,虚偽の説明をして損失隠しを隠蔽しようとしたため一審原告会社の信用を失墜させ(第5類型),分配可能額を超えて剰余金の配当等を実施し(第6類型),虚偽の記載のある有価証券報告書等の提出により,課徴金・罰金の納付を余儀なくされた(第7類型)として,以下のとおり,会社法423条1項に基づき,取締役らに対し,損害賠償を請求し(第1事件),一審原告株主がこれに共同参加する(第4事件)とともに,取締役会においてBを代表取締役等から解職する決議をして,不祥事を隠蔽し,一審原告会社の信用を失墜させたなどとして,一審原告株主が,同法423条1項に基づき,取締役らに対し,一審原告会社に損害を賠償するように求めた(第2事件)事案である。
⑴  第1事件及び第4事件
ア 第1類型(金利・運用手数料関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の1及び同第3の1に係る請求)
第1類型(金利・運用手数料関係)は,一審原告会社が,金融資産の巨額の含み損の計上を回避する目的で,当該金融資産を買い取らせることを主たる目的とするファンド(以下「受け皿ファンド」という。)や受け皿ファンドに資金を注入するために利用されるファンド(通過用ファンド。以下,受け皿ファンド及び通過用ファンドを併せて「受け皿ファンド等」という。受け皿ファンド等を構成するファンドは,別紙3「ファンド等一覧」記載のとおりである。)に資金を供給し,含み損を抱えていた金融資産を簿価で買い取らせるなどして,一審原告会社から損失を分離させる損失分離スキーム(以下「損失分離スキーム」という。)を構築し,これを維持し続けたことにより,ファンド等が融資を受けた銀行に対して支払った金利(以下「本件金利」という。)及びファンド運用手数料等(以下「本件ファンド運用手数料等」という。)の損害(本件金利29億3711万2411円,本件ファンド運用手数料等78億8972万9208円)を被ったところ,承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,これを了承(黙認)し,又は中止のための措置若しくは是正措置を何ら採らなかったと主張して,会社法423条1項に基づき,承継前一審被告A1を相続した一審被告A6,一審被告A7及び一審被告A8(一審被告A6ら),一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対し,連帯して(ただし,一審被告A6らについては,各相続分の限度での連帯。以下「第2 事案の概要」において同じ。),上記損害の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の1記載の金員の支払を求めるとともに,共同訴訟参加した一審原告株主が,上記損害の全部として,同目録第3の1記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。なお,同目録第1の1及び同第3の1の各⑴ないし⑶の区分は,一審被告A3及び一審被告A4の取締役就任時点で区切った3つの期間(①平成13年4月から平成15年6月まで,②同年7月から平成18年6月まで,③同年7月から平成23年3月まで)に対応するものである。
イ 第2類型(ITX株式運用損関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の2及び同第3の2に係る請求)
第2類型(ITX株式運用損関係)は,一審原告会社が,損失分離スキームが維持された状態で,受け皿ファンド等であるITVをして,注入された余剰金を用いてITX株式会社(以下「ITX」という。)の株式取得を用いた新たな資金運用をさせたことにより,運用損として91億6022万円の損害を被ったところ,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5はこれに関与し,これを了承(黙認)し,又は中止のための措置若しくは是正措置を何ら採らなかったと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A6ら,一審被告A2及び一審被告A5に対し,連帯して,上記損害の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の2記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記損害の全部として,同目録第3の2記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
ウ 第3類型(国内3社株式取得関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の3及び同第3の3に係る請求)
第3類型(国内3社株式取得関係)は,一審原告会社が,損失分離スキームの構築により生じた損失分離状態(一審原告会社から損失が分離された状態)を解消することを企図し,自ら又は完全子会社である Olympus Finance Hong Kong Ltd.(以下「OFH」という。)をして,株式会社アルティス(以下「アルティス」という。),NEWS CHEF 株式会社(以下「NEWS CHEF」という。)及び株式会社ヒューマラボ(以下「ヒューマラボ」といい,アルティス,NEWS CHEF 及びヒューマラボを総称して「本件国内3社」という。)の株式取得名目で受け皿ファンド等に多額の金員を流すことにより,実際の価値をはるかに超える高額(合計で最大613億7900万円)で本件国内3社の株式を取得して子会社化することを承認する旨の取締役会決議(以下「本件取得決議」という。)を行い,これにより607億9500万円を一審原告会社の社外に流出させて損害を被ったところ,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4はこれに関与し,又はこれを了承したと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対し,連帯して,主位的に上記損害の一部として,予備的に本件国内3社の株式取得に関して外部協力者に支払われた22億0925万円の損害の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の3記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記22億0925万円の損害の全部として,同目録第3の3記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
エ 第4類型(ジャイラス関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の4及び同第3の4に係る請求)
第4類型(ジャイラス関係)は,一審原告会社が,損失分離状態を解消することを企図し,英国医療機器メーカーである Gyrus Group PLC(以下「ジャイラス」という。)を買収する手続に関し,自ら又はその完全子会社である Olympus Finance UK Ltd.(以下「OFUK」という。)をして,フィナンシャルアドバイザー(以下「FA」という。)に対する報酬名目で,Axes America,LLC(以下「AXES」という。)に対するワラント購入権及び株式オプションの付与,AXAM Investments Ltd.(以下「AXAM」という。)からの5000万ドルでのワラント購入権の買取り,AXAMに対する発行額面約1億7700万ドルの優先株の付与及びAXAMからの6億2000万ドルでの優先株の買取りを行うとともに,これら各行為に必要な取締役会決議への参加を始めとする一審原告会社の社内手続及びFAとの契約締結等を行い,これにより,①25億4400万円(AXAMからAXESへのワラント購入権及び株式オプションの売買代金名目での支払額),②6億2000万ドル(ジャイラスの優先株の買取り代金名目でのAXAMへの支払額。支払日の為替レートで569億4080万円)及び③23億3517万0066円(優先株買取りに関して外部協力者に支払われた支払額)を社外に流出させて損害を被ったところ,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4はこれに関与し,又はこれを了承したと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対し,連帯して,上記①の損害の一部として別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の4⑴記載の金員の支払を,及び主位的に上記②の損害の一部として,予備的に上記③の損害の一部として,同目録第1の4⑵記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記①の損害の全部として同目録第3の4⑴記載の金員及び上記③の損害の全部として同目録第3の4⑵記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
オ 第5類型(疑惑発覚後の対応関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の5及び同第3の5に係る請求)
第5類型(疑惑発覚後の対応関係)は,一審原告会社が,損失分離スキームの構築・維持及びその解消による一連の損失隠しを認識していた一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCが,一審原告会社の代表取締役であったBから違法行為が行われているのではないかと疑惑を指摘されたにもかかわらず,問題は何もないと虚偽の説明を続け,同損失隠しの事実を隠蔽しようとしたことにより,一審原告会社の信用が著しく毀損され,少なくとも1000万円の損害を被ったなどと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対し,連帯して,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の5記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記損害は10億円を下らないと主張して,同目録第3の5記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
カ 第6類型(剰余金の配当等関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の6及び同第3の6に係る請求)
第6類型(剰余金の配当等関係)は,一審原告会社が,平成19年4月1日以降に実施した剰余金の配当及び自己株式の取得がいずれも分配可能額を超えて行われたものであるところ,①平成19年3月期ないし平成22年9月期の期末配当額及び中間配当額並びに平成20年5月8日及び平成22年11月5日の自己株式の取得額は合計546億8385万7848円,②平成23年3月期の期末配当額は39億9211万1088円であると主張して,会社法462条1項による金銭支払請求権に基づき,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対し,連帯して,上記①の金員の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の6⑴記載の金員の支払を,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対し,連帯して,上記②の金員の一部として,同目録第1の6⑵記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記①及び②の全部として,同目録第3の6記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
キ 第7類型(課徴金・罰金関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の7に係る請求)
第7類型(課徴金・罰金関係)は,一審原告会社が,①別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「虚偽記載に係る開示書類」欄記載の有価証券報告書,半期報告書及び四半期報告書(以下,これらを総称して「本件有価証券報告書等」という。)について,重要な事実に虚偽の記載がある有価証券報告書等を提出したことを理由として,金融庁長官から課徴金納付命令を受けるとともに(その後,刑事事件判決の確定に伴い,同命令の一部は取り消され,納付すべき課徴金の額は別紙4の「番号」欄16の四半期報告書(以下「本件四半期報告書」という。)の提出に係る1986万円となった。),②別紙4の「番号」欄1,3,7,11及び15の各有価証券報告書(以下「本件有価証券報告書」という。)が平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(以下「旧証券取引法」という。)ないし金融商品取引法(以下「金商法」という。)に違反したとして,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4とともに起訴されて罰金7億円に処せられ,合計7億1986万円の損害を被ったところ,承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCにはこの点について善管注意義務違反があるなどと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対し,連帯して,上記損害の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の7記載の金員の支払を求めた事案である。
⑵  第2事件
第2事件は,一審原告株主が,一審原告会社の取締役であった一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15,一審被告A16,D及びEは,Bから,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目での金銭支払に関し,不正行為が存在するとの疑惑を指摘されるなどしていたにもかかわらず,これを調査し違法行為が行われたと判断される場合に公表その他必要な措置を講ずる義務等を怠り,取締役会でBを代表取締役等から解職する旨の決議をして不祥事の隠蔽を図るなどしたことにより,一審原告会社に,①外部委員会の費用7億1944万9555円,②信用失墜による損害10億円及び③Bに支払った和解金12億7348万6900円の損害を与えたなどと主張して,会社法423条1項に基づき,同第2事件一審被告らに対し,連帯して,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第2の1記載の金員(上記①及び②の合計額)及び同目録第2の2記載の金員(上記③)を一審原告会社に対して支払うよう求めた株主代表訴訟の事案である。
2  原審は,一審原告らの請求のうち,第5類型,第6類型及び第7類型の各請求については,以下のとおり判断し,その全部又は一部の請求を認容した。また,第1類型に係る請求については,本件金利及び本件ファンド運用手数料等の損害の発生が認められないとし,第2事件に係る請求については,取締役の善管注意義務違反が認められないとして,いずれもその請求を棄却し,第2類型,第3類型及び第4類型に係る各請求についても,いずれもこれらを棄却した。
⑴  第1事件及び第4事件の第5類型(疑惑発覚後の対応関係)
一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCは,一審原告会社の代表取締役であったBからジャイラス買収に関する取引及び本件国内3社の買収に関する取引につき違法行為が行われているのではないかと疑惑を指摘された後も,Bの追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として,取締役会においてBを代表取締役等から解職する旨の議案に賛成するなどしたことは,一審原告会社に対する善管注意義務及び忠実義務に違反し,これにより,一審原告会社の信用を毀損し,少なくとも1000万円の損害を被らせた点について,会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
よって,一審原告会社の一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対する第5類型に係る請求は全部理由があり,一審原告株主の一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対する第5類型に係る請求は,一審原告会社への1000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
⑵  第1事件及び第4事件の第6類型(剰余金の配当等関係)
一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,分配可能額を超えて行われた剰余金の配当及び自己株式の取得につき,「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(会社法462条1項柱書)又は「当該株主総会に係る総会議案提案取締役」(同項6号イ)に該当するから,株主が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金額合計586億7596万8936円(①546億8385万7848円,②39億9211万1088円)について会社法462条1項に基づく金銭支払義務を負う。
よって,一審原告らの一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する第6類型に係る請求は全部理由がある(ただし,一審原告会社と一審原告株主の請求が重なる部分の請求元本に対する遅延損害金の請求については,一審原告会社の請求(一審原告会社にとってより有利な請求である。)を相当と認めてこれを認容した。)。
⑶  第1事件の第7類型(課徴金・罰金関係)
ア 承継前一審被告A1及び一審被告A2は,損失分離スキームの構築・維持に関して善管注意義務又は忠実義務違反があり,同義務違反により損失分離スキームの構築・維持の状態が作出され,当該状態を前提とする虚偽記載を含む本件有価証券報告書等が提出されたのであるから,課徴金1986万円及び罰金7億円の合計7億1986万円について会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負っていたところ,一審被告A6らは承継前一審被告A1の地位を相続した。
よって,一審原告会社の一審被告A6らに対する第7類型に係る請求は全部理由がある。ただし,一審被告A6らについて限定承認の抗弁が認められ,承継前一審被告A1から相続した財産の存する限度でのみ責任を負う。
イ 一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,虚偽記載を含む本件有価証券報告書等の作成及び提出を行い又は加功したものであり,取締役としての善管注意義務又は忠実義務に違反するから,課徴金1986万円及び罰金7億円の合計7億1986万円について会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
よって,一審原告会社の一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する第7類型に係る請求(一部請求)は全部理由がある。
ウ Cは,一審被告A5による業務執行を監視して虚偽記載のない本件四半期報告書を提出させるための措置を採るべき注意義務があるのにこれを怠ったことは取締役としての善管注意義務又は忠実義務に違反するから,本件四半期報告書の提出に係る課徴金1986万円について会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
よって,一審原告会社のCに対する第7類型に係る請求(一部請求)は,1986万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
3⑴  一審原告会社は,原判決中,第1類型(金利・運用手数料関係)についての一審原告会社敗訴部分を不服として控訴するとともに,当審において,原審では一部請求をしていた第7類型(課徴金・罰金関係)に係る請求について,別紙2-1「控訴及び附帯控訴の趣旨目録」第1の3のとおり,一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対しては控訴として,Cに対しては附帯控訴として,訴えを変更して全部請求をすることとして請求を拡張した。
⑵  一審原告株主は,原判決中,第2事件の一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15及び一審被告A16に対する請求に関する部分を不服として控訴を提起した(D及びEに対しては控訴を提起しなかった。)。
⑶  一審被告A2,一審被告A3及び一審被告A4は,原判決中,各敗訴部分を不服として控訴を提起し,一審被告A6らは,原判決中,各敗訴部分を不服として附帯控訴を提起したが,一審被告A5は,控訴も附帯控訴もしなかった。
⑷  Cは,原判決中,C敗訴部分を不服として控訴を提起したが,その後,控訴を取り下げた(これに伴い一審原告会社のCに対する附帯控訴も失効した。)。
⑸  以上により,当審における審判の対象は,①第1事件の第1類型(金利・運用手数料関係)について,一審原告会社の一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する請求を棄却した部分,②第1事件及び第4事件の第5類型(疑惑発覚後の対応関係)について,一審原告らの一審被告A3及び一審被告A4に対する請求を認容した部分,③第1事件及び第4事件の第6類型(剰余金の配当等関係)について,一審原告らの一審被告A3及び一審被告A4に対する請求を認容した部分,④第1事件の第7類型(課徴金・罰金関係)について,一審原告会社の一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A3及び一審被告A4に対する請求を認容した部分並びに一審原告会社の一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する当審における拡張請求部分,⑤第2事件について,一審原告株主の一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15及び一審被告A16に対する請求を棄却した部分の当否である。
4  前提事実(当事者間に争いがないか,末尾に掲記した証拠等によって容易に認定できる事実)
⑴  当事者
ア 一審原告会社は,東京証券取引所(一部)に上場する,顕微鏡,写真機,精密測定器,その他光学機械の製造販売並びに修理及び賃貸業務等を行うことを目的とする株式会社である。
イ 一審原告株主は,責任追及等の提訴請求書が一審原告会社に到達した日の6か月前から同社の株式1単元以上を引き続き保有する株主である。
ウ 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15及び一審被告A16は,いずれも一審原告会社の取締役であった者であり,その在任期間等は別紙5「承継前一審被告A1及び一審被告A6らを除く一審被告らの役員在任期間等」記載のとおりである。このうち,承継前一審被告A1は,昭和59年1月から平成5年6月まで一審原告会社の代表取締役社長,同月から平成13年6月まで代表取締役会長の各地位にあり,一審被告A2は,平成5年6月から平成13年6月まで同じく代表取締役社長,同月から平成17年6月まで代表取締役会長の各地位にあり,一審被告A5は,平成13年6月から平成23年3月まで同じく代表取締役社長,同年4月から同年10月26日まで代表取締役会長の各地位にあった。
⑵  LGT銀行等との取引
ア 一審原告会社は,平成10年3月23日,LGT Bank in Liechtenstein AG(以下「LGT銀行」という。)に一審原告会社及び子会社であるOlympus Asset Management Ltd.(以下「OAM」という。)名義で預金口座を開設し,預金口座内の資産を担保として同銀行からCFCに対し同年3月27日に180億円,同年8月6日に120億円の貸付けを受けた(甲Aキ3の7〈添付資料4,5〉,8の3〈添付資料1-1~1-3〉,12の3〈添付資料2,3〉,13の10)。
イ 一審原告会社は,平成11年9月頃,Commerzbank AG(以下「コメルツ銀行」という。)シンガポール支店に一審原告会社名義の預金口座を開設し,預金を担保として,同銀行から Hillmore に対し,約300億円,149億円の貸付けを受けた。その後,一審原告会社は,取引先をSociete Generale Bank(以下「SG銀行」という。)に変え,同銀行に一審原告会社名義の預金口座を開設し,預金を担保として同銀行からEasterside が約550億円の貸付けを受けた。さらに,取引先をSGボンドに変え,SGボンドに対し,平成17年2月,合計600億円を出資し,Easterside は,SGボンドからの資金でSG銀行の借入金を返済した(甲Aキ3の8〈添付資料1,6,7〉,9の12,12の5〈添付資料6の1・2〉,13の17〈添付資料6,7,9〉)。
ウ 一審原告会社は,平成12年3月,事業投資ファンドであるGCNVVを設立し,リミテッドパートナーとして,300億円を出資した(甲Aキ9の13,9の14,13の15〈添付資料5〉)。
⑶  ITX株式の取得
一審原告会社は,平成12年3月31日,日商岩井株式会社(以下「日商岩井」という。)からITX株式4662株を50億0018万1480円で取得し,ITVは,同月28日,日商岩井からITX株式9323株を99億9929万0420円で取得した(甲Aキ9の15〈添付資料3~5〉,12の7〈添付資料8〉,13の16)。
⑷  本件国内3社の株式の取得
一審原告会社は,GCNVVの解散に伴い,GCNVVが保有していた本件国内3社の株式をGCNVVの取得時の簿価で取得した。
一審原告会社は,平成20年3月21日,Neoからアルティス株式1650株を181億5000万円,ヒューマラボ株式670株を137億3500万円,ITVから NEWS CHEF 株式1600株を152億円でそれぞれ取得した。また,OFHは,同年4月25日,DDから,アルティス株式530株を55億6500万円,NEWS CHEF 株式450株を40億5000万円,GTからヒューマラボ株式210株を40億9500万円で取得した。
(甲Aウ15の1・2,19の1~3,20の1・2,21の1・2,22の1~3,甲Aキ3の14〈添付7,16〉,9の19,9の20)
⑸  ジャイラス買収
一審原告会社は,M&Aのために,平成18年6月,AXESとの間でフィナンシャルアドバイザー(FA)契約(以下「本件FA契約」という。)を締結し,企業買収の成功報酬の支払を約し(なお,平成19年6月には成功報酬が変更された。),英国の医療機器会社であるジャイラスを買収し,その報酬として1200万ドルを支払い,配当優先株式(発行額面1億7698万1106ドル)を発行し,ワラント購入権を5000万ドルで買い取り,その後,OFUKは,上記配当優先株を6億2000万ドルで買い取った(甲Aエ1~4,6の1・2,13,42,43,甲Aキ13の24,13の26)。
⑹  剰余金の配当等
一審原告会社は,第139期事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)から第143期事業年度(平成22年4月1日から平成23年3月31日まで)にかけて,期末配当,中間配当及び自己株式の取得を実施し,以下の金額を支出した(以下,これらを総称して,「本件剰余金の配当等」という。)(甲Aカ4の1~4,6の1~8,8の1・2,9の1・2,10の1・2,11の1・2,12の1・2,13の1・2,14の1・2,15の1・2,16)。
ア 期末配当
(ア) 平成19年3月期 64億6483万4177円
(イ) 平成20年3月期 53億9087万6237円
(ウ) 平成22年3月期 40億3690万8324円
(エ) 平成23年3月期 39億9211万1088円
イ 中間配当
(ア) 平成19年9月期 53億9051万5530円
(イ) 平成20年9月期 53億3219万3453円
(ウ) 平成21年9月期 40億3792万6015円
(エ) 平成22年9月期 40億3764万6712円
ウ 自己株式の取得
(ア) 平成20年5月8日決議 99億9773万円
(イ) 平成22年11月5日決議 99億9522万7400円
(アないしウの合計額は,586億7596万8936円である。)
⑺  Bの解職
Bは,平成23年4月1日付けで一審原告会社の社長執行役員に就任し,同年6月29日に代表取締役及び社長執行役員・COOに就任し,同年9月30日開催された取締役会(以下「9月30日取締役会」という。)においてCEOに選任された。
しかしながら,平成23年10月14日に開催された取締役会(以下「10月14日取締役会」という。)において,議長である一審被告A5から,代表取締役及び社長執行役員・CEOのいずれからも即時解職し,業務執行権限のない取締役とすることが提案され,出席取締役の過半数の賛成により承認可決された。同取締役会には,B,一審被告A5,一審被告A4,C,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15,一審被告A16及びFの各取締役,並びに,一審被告A3,G,H及びIの各監査役が出席し,D及びEは欠席した。
⑻  本件有価証券報告書等の提出と課徴金・罰金の支払
ア 一審原告会社は,関東財務局長に対して以下の提出日に本件有価証券報告書等を提出したところ,本件有価証券報告書等のうち,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄1,3,7,11及び15の有価証券報告書(本件有価証券報告書)並びに同16の四半期報告書(本件四半期報告書)には以下の内容の虚偽記載がされていた(甲Aキ2,弁論の全趣旨)。
(ア) 同「番号」欄1の有価証券報告書(提出日:平成19年6月28日)
連結純資産額が約2324億5900万円であるところ,3448億7100万円と記載した。
(イ) 同「番号」欄3の有価証券報告書(提出日:平成20年6月27日)
連結純資産額が約2500億2900万円であるところ,3678億7600万円と記載した。
(ウ) 同「番号」欄7の有価証券報告書(提出日:平成21年6月26日)
連結純資産額が約1208億5200万円であるところ,1687億8400万円と記載した。
(エ) 同「番号」欄11の有価証券報告書(提出日:平成22年6月29日)
連結純資産額が約1713億7100万円であるところ,2168億9100万円と記載した。
(オ) 同「番号」欄15の有価証券報告書(提出日:平成23年6月29日)
連結純資産額が約1252億2500万円であるところ,1668億3600万円と記載した。
(カ) 本件四半期報告書(提出日:平成23年8月11日)
連結純資産額が約1017億5100万円であるところ,1511億4700万円と記載した。
イ 一審原告会社は,平成24年7月11日,金融庁長官から,重要な事項に虚偽の記載がある本件有価証券報告書等を提出したとして,合計1億9181万9994円の課徴金納付命令を受けた(甲Aク1の1)。
ウ 一審原告会社,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成25年7月3日,東京地方裁判所において,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄1,3,7,11及び15の有価証券報告書について,損失を抱えた金融商品を簿外処理するなどの方法により,「連結純資産合計」欄に虚偽の記載をし,虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したなどとして,証券取引法違反及び金商法違反を理由に,一審原告会社を罰金7億円(以下「本件罰金」という。),一審被告A5及び一審被告A3を懲役3年(5年間の執行猶予),一審被告A4を懲役2年6月(4年間の執行猶予)にそれぞれ処する旨の判決の宣告を受けた(甲Aキ2)。
エ 金融庁長官は,平成25年9月4日,本件罰金の支払を命ずる判決の確定に伴い,前記イの課徴金納付命令のうち,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄1~15に係る部分を取り消した。これにより,一審原告会社が納付すべき課徴金額は,本件四半期報告書に係る1986万円となった(以下「本件課徴金」といい,「本件罰金」と併せて「本件罰金等」という。)。(甲Aク1の2)
オ 一審原告会社は,平成24年7月31日,本件課徴金の支払として,1986万円を国庫に納付した。また,一審原告会社は,平成25年8月9日,本件罰金の支払として,7億円を国庫に納付した。(甲Aク2の1・2)
⑼  提訴請求
この間,一審原告株主は,平成23年11月7日,一審原告会社に対し,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬支払に関して,調査の上,取締役らの善管注意義務違反が認められる場合には,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15及び一審被告A16を含む取締役を被告として,前記取得額及び支払額を損害とする責任追及等の訴えを提起するよう通知した。また,一審原告株主は,同月17日,一審原告会社に対し,同社が国外投資ファンド等に支払った1394億1900万円は企業買収の目的で支出されたものではなく,一審原告会社が保有していた金融商品の含み損の穴埋め目的で支払われたものであって,関係役員らの善管注意義務違反は明らかであること,不正行為の疑いを指摘していたBを解職したことなどによる信用毀損等の損害は少なく見積もっても100億円を下回らないため,これらの損害について第2事件一審被告らを含む役員に対して損害賠償請求をすべき旨の提訴通知兼補充通知を送付した。(甲B1の1・2,2の1・2)
⑽  一審被告A6らによる訴訟承継
承継前一審被告A1は,平成25年6月30日に死亡し,その妻である一審被告A6並びに子である一審被告A7及び一審被告A8が,本件訴訟における承継前一審被告A1の地位を承継した。一審被告A6らは,同年9月24日,東京家庭裁判所に対して限定承認の申述をし,同裁判所は,同年10月15日,当該申述を受理するとともに,一審被告A7を相続財産管理人に選任した。
一審被告A7は,平成25年10月28日,同月15日に限定承認をした旨及び一切の相続債権者及び受遺者は2か月以内に請求の申出をすべき旨を公告した。
(乙A7~9)
5  主な争点
⑴  第1類型(第1事件)
ア 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反の有無
イ 本件金利及び本件ファンド運用手数料等相当の損害発生の有無
⑵  第5類型(第1事件及び第4事件)
ア 一審被告A3及び一審被告A4の疑惑発覚後の対応に係る善管注意義務違反の有無
イ 損害発生の有無
⑶  第6類型(第1事件及び第4事件)
一審被告A3及び一審被告A4の会社法462条1項の責任の有無
⑷  第7類型(第1事件)
ア 承継前一審被告A1及び一審被告A2の善管注意義務違反と一審原告会社に科された本件罰金等との間の相当因果関係の有無
イ 会社に科された課徴金・罰金は取締役の善管注意義務違反による損害に含まれるか否か
⑸  第2事件
ア 第2事件一審被告らの善管注意義務違反の有無
イ 損害の発生及び因果関係の有無
⑹  抗弁
ア 第1類型につき消滅時効の成否
イ 第1類型,第6類型及び第7類型につき信義則又は過失相殺による減額の可否
ウ 第6類型につき権利濫用の有無
6  主な争点に対する当事者の主張
⑴  第1類型(金利・運用手数料関係)
(一審原告会社の主張)
ア 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反
(ア) 取締役は,受任者として会社法330条(民法644条)に定める善管注意義務を負っており,具体的には,①有価証券報告書等を提出している株式会社の取締役は,会社による適正な決算処理を困難にし,又は有価証券報告書等の虚偽記載の原因となる行為をしてはならない義務を負うとともに,②取締役は,正当な事業投資とはいえない目的の為に会社の財産を使用するなど,会社をして,無用な経済的負担の原因となる支出をさせてはならない義務を負い,③これらの行為が行われることを認識した取締役は,これを中止するために対応すべき義務を負う。
損失分離スキームの構築及びその維持は,それ自体,一審原告会社における適正な決算処理を著しく困難にするとともに,有価証券報告書等の虚偽記載を発生させる原因となるばかりか,一審原告会社においてその実行のための無用な負担を発生させるものである。このため,損失分離スキームの構築及び維持に関与する行為が取締役の善管注意義務違反に該当することはもちろん,損失分離スキームの構築及び維持が行われていることを知り,又は知り得たにもかかわらず,これを了承(黙認)したり,当該行為を中止・是正させるための措置を採らなかったりすることは,取締役の善管注意義務に違反するものである。
(イ) 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の具体的な善管注意義務違反は以下のとおりである。
a 承継前一審被告A1及び一審被告A2について
承継前一審被告A1及び一審被告A2は,一審原告会社が行った資金運用において巨額の含み損が発生したことを認識しており,現に,バブル経済崩壊後の平成4年以降,継続的に行われてきた一審原告会社における損失計上回避策は,承継前一審被告A1及び一審被告A2が一審被告A3及び一審被告A4に指示をすることで実施されてきたものである。損失分離スキームの構築に関しても,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,その報告を受けて実行するよう指示した上,その後の損失分離状態の維持に関しても,一審被告A3及び一審被告A4から「135PB運用報告」等を用いた損失分離状態に関する報告を定期的に受け,これを認識していたにもかかわらず,何らの是正措置を採らなかった。
さらに,一審被告A2は,損失分離スキームの構築のための資金調達を目的としてLGT銀行の口座を開設するに当たり,平成10年3月23日付け口座開設申請書に一審原告会社の代表者として署名するなど,損失分離スキームの維持のための行為に積極的に関与している。
したがって,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,損失分離スキームの構築及び損失分離状態が達成された後である平成13年4月から損失分離状態が解消される平成23年3月までの間の損失分離状態の維持につき,取締役としての善管注意義務違反が認められる。
b 一審被告A5について
一審被告A5は,平成11年6月に総務・財務部を担当する取締役に就任して以降,一審被告A2や一審被告A3から,一審原告会社が簿外で抱えている多額の損失について説明を受けており,自らも損失分離スキームの構築に必要な議案を提案するなど,その構築に積極的に関与していた(少なくとも,一審被告A3及び一審被告A4が行おうとしている損失分離スキームの構築について認識していたにもかかわらず,当該行為を中止させるための措置を採らずにこれを了承していた。)。また,損失分離状態の維持に関しても,一審被告A3及び一審被告A4から「135PB運用報告」等を用いた損失分離状態に関する報告を定期的に受け,中間決算や本決算の際に一審被告A3から一審原告会社の簿外の損失について報告や相談を持ちかけられるなどしており,これを認識していたにもかかわらず,何らの是正措置も採らなかった。
したがって,一審被告A5は,損失分離スキームの構築及び損失分離状態が達成された後である平成13年4月から損失分離状態が解消される平成23年3月までの間の損失分離状態の維持につき,取締役としての善管注意義務違反が認められる。
c 一審被告A3及び一審被告A4について
一審被告A3及び一審被告A4は,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の了承の下,損失分離スキームを策定して構築したのみならず,分離した損失を解消するまでの間,損失分離状態の維持のための行為に積極的に関与した。
したがって,一審被告A3は,取締役に就任した平成15年6月29日以降,また,一審被告A4は,取締役に就任した平成18年6月29日以降,いずれも損失分離状態が解消される平成23年3月まで,それぞれ取締役としての善管注意義務違反が認められる。
イ 損害の発生
(ア) 本件金利及び本件ファンド運用手数料等
a 一審原告会社の保有に係る預金債権(預託していた国債等を含む。以下,両者を併せて「預金債権等」という。)を担保として銀行から資金を借り入れた受け皿ファンド等が支払った金利の合計額は,別紙6「本件金利」の合計欄記載のとおり,29億3711万2411円である。
b LGT-GIM,SGボンド及びNeoの各受け皿ファンド等が平成13年以降ファンド運用者に対して支払った本件ファンド運用手数料等は,別紙7「本件ファンド運用手数料等」の「⑴GIM,SG Fund,Neo分」の表に記載のとおり,合計55億4408万8527円である(なお,同表中,「GIM」及び「GIM(OT)」はLGT-GIMを,「SG Fund」はSGボンドをそれぞれ示している。)。
また,GCNVVがそのジェネラル・パートナーである GCI Cayman Limited(以下「GCI Cayman」という。)に対して支払った運用報酬等は,合計34億2072万5993円である。GCNVVは,損失分離スキームの構築及び維持に利用することを主たる目的として設立されたものであるが,付随的に新事業の創生等の目的も存在したことを踏まえると,GCI Cayman に支払われた報酬のうち,損失分離スキームの構築及び維持の目的に用いられた資金の運用に係る部分は,GCNVVへの出資金350億円のうち少なくとも約240億円がQPに対して送金されていることから,240/350に相当すると考えられ,別紙7「本件ファンド運用手数料等」の「⑵GCNVV分」の表に記載のとおり,上記支払額のうち,23億4564万0681円となる。
これらの運用手数料等は,合計78億8972万9208円である。
c そして,以上の本件金利及び本件ファンド運用手数料等を,一審被告A3及び一審被告A4の取締役選任時点(平成15年6月,平成18年6月)をもって区切ると,以下の金額となり,これが下記(イ)及び(ウ)の理由により,一審原告会社の損害となるというべきである。
① 平成13年4月から平成15年6月まで
29億3702万3056円
② 平成15年7月から平成18年6月まで
38億1614万8682円
③ 平成18年7月から平成23年3月まで
40億7366万9881円
(イ) 主位的主張(法人格否認の法理の適用)
a 受け皿ファンド等は,関与者・認識者である承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4によって,含み損を隠すという不当な目的を実現するために組成され,受け皿ファンド等に注入された資金は,関与者・認識者の意のままに移動されていたものであること,受け皿ファンド等は,一審原告会社に発生した含み損を隠すことを目的とした損失分離スキームの中で使用された一審原告会社のための計算上の「道具」にすぎず,受け皿ファンド等に金融資産を保有させ続けるための費用については,全て一審原告会社が負担することが当初から予定され,かつ,実際にも一審原告会社が負担し続けてきたものであり,このような実態からすれば,受け皿ファンド等と一審原告会社は全体として一体であり,一審原告会社と各受け皿ファンド等の間,及び各受け皿ファンド間の資金移動は,実質として,一審原告会社の計算の範囲内で行われる資金移動にすぎず,各受け皿ファンド等から一審原告会社の計算の範囲外に流出した資金は一審原告会社の損害と評価されるべきである。
b 受け皿ファンド等は,一審原告会社の損失隠し,具体的には一審原告会社の連結決算において損失を計上させないという違法な目的のためにその法人格が利用されていたものであるから,目的要件を充足し,また,関与者・認識者である承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,自らの意思及び指示に基づいて,受け皿ファンド等を損失分離スキームの構築,維持及び解消に用いており,これらの受け皿ファンド等の資金は全て一審原告会社から拠出されていること等からすれば,支配要件を充足するといえるから,法人格否認の法理(最高裁昭和48年10月26日第二小法廷判決・民集27巻9号1240頁等)により,信義則上,その法人又は法主体の法人格は否定されるべきであり,少なくとも損失分離スキームに関する損害を被った主体を評価する上ではこれらの受け皿ファンド等の法人格を否認すべきである。
c ①受け皿ファンド等のうち本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払主体となったCFC,Hillmore,Easterside,LGT-GIM,SGボンド,GCNVV及びNeoは,一審原告会社の支配下にあって,計算上同一体と評価できるから,一審原告会社の計算の範囲内でこれらの受け皿ファンド等から支払われた本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,一審原告会社が支払ったものと同視できるものである,②受け皿ファンド等に資金を注入したのは一審原告会社であるから,受け皿ファンド等の名義の預金は,いずれも一審原告会社に帰属すると考えられる(預金口座の帰属について判示した最高裁昭和57年3月30日第三小法廷判決・金融法務事情992号38頁等,最高裁平成15年2月21日第二小法廷判決・民集57巻2号95頁判決各参照),③受け皿ファンド等が損害を被った場合には,一審原告会社に生じた損害と評価でき,本件金利や本件ファンド運用手数料等の支払により受皿ファンド等から外部に資金が流出した時点で,同支払額と同額の損害が一審原告会社に発生したものと評価できる(子会社が被った損害の全額につき,親会社に生じた損害として賠償の責めに任ずると判示した最高裁平成5年9月9日第一小法廷判決・民集47巻7号4814頁参照)。
(ウ) 予備的主張(一審原告会社の預金債権等又は出資債権の価値毀損による損害の発生)
a 本件ファンド運用手数料等については,一審原告会社から直接又は間接的に100%出資を受けた受け皿ファンド等(LGT-GIM,SGボンド,GCNVVは直接的に出資しており,NeoはLGT-GIM及びTEAOを通じて間接的に出資している。)が支払い,最終的に受け皿ファンド等の財産は全て一審原告会社に返還されなければならないものであるから,損失分離スキームを構築・維持するという目的のために支払われ(費消され),一審原告会社に返還されないこととなる本件ファンド運用手数料等がその支払時点において,一審原告会社に損害として発生することになるのであって,その後に受け皿ファンド等の資産状態の変動によりその返済能力や返還能力が変動し又は変動する可能性が存在したとしても上記の損害の発生が否定されるものではない。
b 受け皿ファンド等の資産状態が変動することにより,その返済能力が変動する可能性があるとしても,それは飽くまで預金債権等の価値が毀損された後の「損害の填補」の問題であって,受け皿ファンド等から一旦本件金利又は本件ファンド運用手数料等が支払われたことにより損害は発生済みと評価すべきであり,受け皿ファンド等の資産状態が変動することにより,その返済能力が変動する可能性については,「損害の填補」の問題であるから,関与者・認識者である一審被告らが立証責任を負うのが相当である。
c 受け皿ファンド等は,損失分離スキームの構築・維持という同一の目的の下において,関与者・認識者である承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の指示の下,各受け皿ファンド等の間において,資金の入出金等が互いに行われていた可能性があることからすれば,受け皿ファンド等がそれぞれ単独で債務超過状態にあったか否かを論じるのではなく,全体としてみて債務超過の状態にあれば,預金債権の価値が毀損したと評価すべきである。
また,各受け皿ファンド等の多く(CFC,Easterside,SGボンド,LGT-GIM及びGCNVV)は,本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った各時点において,それぞれが継続的に債務超過状態であったことは明らかである。
d 少なくとも平成15年以降,各受け皿ファンド等(CFC,Easterside,SGボンド,LGT-GIM及びGCNVV)に新たに注入された資金は,一審原告会社から損失分離スキームの解消のため(すなわち,一審原告会社の預金債権等の返還を受けるため)に注入されたものであって,各受け皿ファンド等において,保有資産の運用等による収益が発生している事実は存在しない。
e 仮に,損害の発生時期が一審原告会社が提供した担保である預金債権等や出資債権が返済又は返還されなかった時点であるとの前提に立ち,その時点の受け皿ファンド等の返済能力や返還能力によって預金債権等や出資債権の毀損の有無を判断するとしても,一審原告会社への預金債権等や出資債権の返還(返還額は1351億円)は,本件国内3社の株式取得又はジャイラスの配当優先株の買取りに関する任務懈怠に起因して得た利益が還流したものにすぎず,一審原告会社が各受け皿ファンド等(CFC,Easterside,LGT-GIM及びSGボンド)に「国内3社・ジャイラス代金1229億円」を支払う直前の時点において,各受け皿ファンド等には返済能力や返還能力がなかったということになるため,それまでに蓄積されていた本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払(支払額は108億円)による預金債権等の価値の毀損が最終的に現実化し,損害が発生したと評価でき,少なくとも,CFC及び Easterside が支払った本件金利分合計28億7711万2360円,LGT-GIM及びSGボンドが支払った本件ファンド運用手数料等合計47億7608万3682円については,一審原告会社に返済又は返還されなかったと評価でき,同額の損害が発生したといえる。
f 一審原告会社において,GCNVVの組成に当たり,直接の出資として300億円,GVを介した出資(一審原告会社がCFCを経由してGVに送金した資金による出資)として50億円の合計350億円を出資しているのに対し,GCNVVから一審原告会社に償還された財産は,平成18年3月の中間償還として60億円,平成19年9月の中途解約に伴う償還として30億9196万5718円の合計90億9196万5718円にすぎず,出資額から259億円強も目減りしていたのであるから,少なくとも,GCNVVに対する出資債権のうち,本件ファンド運用手数料等分の出資金23億4564万0681円については,一審原告会社に返還されなかったのであるから,同額の損害が発生したといえる。
(一審被告A6らの主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 一審原告会社における金融資産の運用は財務担当の一審被告A3及び一審被告A4が中心となって行っており,承継前一審被告A1は,一審被告A3及び一審被告A4から一審原告会社の含み損の状況について説明を受けた記憶がなく,損失分離スキームの構築について了承したこともない。承継前一審被告A1の供述調書においては,同人が損失分離スキームへの関与を認める旨の供述をしたと記載されているが,同人は自らの関与を認める供述になっていることを認識していなかった。同供述調書は,供述当時87歳の老人が,概ね10年以上前の事実について詳細に供述している点で不自然であり,検察官による相当な誘導があったと考えざるを得ない。
(イ) 大規模な事業会社の役員は広範な職掌事務を有しており,かつ,承継前一審被告A1は必ずしも金融取引の専門家でもないから,その任務として,自らが個別の取引の詳細を一から精査することまでは求められておらず,下部組織等が適切に職務を遂行していることを前提として,そこから上がってくる報告に明らかな不備不足があり,これに依拠することにちゅうちょを覚えるというような特段の事情がない限り,その報告を基に調査・確認すれば注意義務を果たしたことになるというべきである。承継前一審被告A1は,損失分離スキームの構築について説明を受けた記憶がないことに加え,当時,75ないし77歳と高齢で,代表取締役としての責務を主として一審被告A2が担っていたことをも併せ考えると,承継前一審被告A1に,代表取締役会長としての善管注意義務違反は認められない。
イ 損害の発生について
(ア) 損害についてそもそも,損害とは,もし加害行為がなかったとしたならばあるべき利益状態と,加害がされた現在の利益状態との差である(差額説)から,受け皿ファンド等による本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払前後における財産状態を明らかにすべきであり,これがないまま,本件金利等の支払時点で損害が発生するとはいえない。また,かかる差額説からすれば,一審原告会社が受け皿ファンド等に生じた損害がその後填補されていないことまで主張立証しなければならないはずである。一審原告会社は保有する全ての証拠にアクセスできる立場にあるのに対し,一審被告A6らは開示を受けた証拠しかアクセスできないのであるから,公平上も,事案解明のためにも,一審原告会社が主張立証責任を負うのが当然である。
また,仮に,損失分離スキームの構築後,これを放置した善管注意義務違反が観念できるとしても,放置と相当因果関係のある損害は,取締役在任期間における取締役の行為と相当因果関係のある損害に限定されるはずである。承継前一審被告A1は,平成16年4月に取締役を退任しているから,一審原告会社は,その時点において,損害がいくらとなっていたかを明らかにすべきである。
(イ) 主位的主張について
a 受け皿ファンド等は,一審原告会社とは別の法人格を有する法人である。受け皿ファンド等は,一審原告会社とは別の資産を有し,その固有の資産運用も行っており,一審原告会社も,受け皿ファンド等が別の法人であることを前提として業績や財産状況の説明,開示を行っていたものであって,法人格を否認すべき状況などない。
そもそも,法人格否認の法理は,主に会社債権者等の第三者を保護するために認められたものであり,会社やその背後にいる株主に有利な法理の主張は安易に認められるべきではない。
本件は,受け皿ファンド等の法的責任が問われている場面ではなく,一審原告会社が受けたと主張する損害を算定する場面において,受け皿ファンド等の法人格を否定するものであって,法人格の濫用又は形骸化の状態を作出した一審原告会社が法人格否認の法理の適用を主張することはできない。
b 金利は,資金借入れの対価であって,会社は,資金の運用により利益を受けており,金利の支払自体が損害になるものではない。支払った金利以上に会社の資産が増加すれば,損害があるとはいえない。運用手数料についても,同様であり,運用手数料の支払によって資産運用という業務の提供を受けているのであるから,運用手数料の支払自体が損害になるものではない。支払った運用手数料以上に会社の資産が増加すれば,損害があるとはいえない。
特定の受け皿ファンドの支出の一部のみを掲げ,それが一審原告会社の損害であると主張するのみでは不十分であり,ファンド運用による保有資産の増加額を含め,他の受け皿ファンド等も含む一審原告会社と「同一体」にあると主張する範囲全体の財務状況や収支が明らかにならない以上,損害が発生したとはいえない。
(ウ) 予備的主張について
a 一審原告会社が毀損したとする預金は担保から解放され,出資も一審原告会社に戻っているので,預金債権や出資債権の毀損は何ら現実化していない。
b 受け皿ファンド等の資産の減少によって直ちに一審原告会社の預金債権や出資債権の価値が減少するものではなく,預金や出資が返還されないことが確定した時点で損害と認識することが一般的であり,預金や出資が返還されないことが確定する前の時点で損害が発生したとすることはできない。また,一審原告会社の有する預金債権や出資債権は,その債務者である受け皿ファンド等の総資産を引き当てとするものであるから,預金債権や出資債権の価値の減少を主張するのであれば,受け皿ファンド等の支出の一部を掲げるだけでは不十分であり,受け皿ファンド等による運用によって生じた利益もある(実際,預金利息や国債配当等のほか,LGT銀行の預金を解約した際には約7億円の益金が発生し,コメルツ銀行・SG銀行・SGボンドの関係でも解約時に約31億円の益金が発生している。)から,ファンド運用による保有資産の増加額も含め,受け皿ファンド等の全体の財務状況や収支が明らかにされなければならない。一審原告会社の出資が現実に毀損されたことが主張立証されていない。
(エ) 一審被告A2の主張を援用する。
(一審被告A2の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 一審被告A2は,1990年代,いわゆる特金の運用資産の残高及びその中に含み損を抱えた金融商品が存在していたことは認識していたが,それを超えて,一審原告会社が主張するような巨額の含み損が発生していたことは認識していなかった。一審被告A2が,巨額の損失が海外ファンドに隠されていることの概要につき説明を受けたのは,代表取締役会長に就任した平成13年6月より後の,平成14年から15年頃,一審被告A3より「135PB運用報告」(甲Aイ8の1)と類似した書面を見せられた時が最初であり,その時点までは損失隠しの全体像を知らなかった。一審被告A2が受けた報告は,「130PB期運用計画」(乙B44)及び「130PB決算速報」(乙B45)の内容説明にとどまっており,これらがJ常務を名宛人にしていることから表の書面であり,「135PB運用報告」が裏の書面であるというものではない。また,LGT銀行の有価証券取引口座の開設書類(甲Aキ8の3添付資料1-1)に,一審原告会社の代表者である一審被告A2の署名があるが,①同日付けの担保権設定契約書の担保権設定者欄には一審被告A2の署名がなく,一審被告A3が署名したものであること(甲Aイ1,乙B74),②平成15年7月の担保権設定(延長)契約及び宣誓書には一審被告A2の署名がある(甲Aイ10)が,本来であれば,当初の担保権設定契約の締結にも,一審被告A2の署名が必要とされていたこと,③預金口座又は有価証券取引口座の開設は,取締役会決議事項ではなく,LGT銀行との取引関係を作ること自体は,リヒテンシュタイン公家との資産運用を担うなど同行の高い運用実績を活用して資産内容を改善したいという意図や,新事業であるデジタルアーカイブ事業を推進するためリヒテンシュタイン公家や欧州の富裕層顧客とのコネクションを形成したいという意図があって行われたものであり,口座開設書類への署名をもって,担保権設定契約の締結の事情を知っていたと認定することはできないことなどからすると,担保権設定契約は,一審被告A3が社内の決裁手続を意図的に回避して行ったものであって,一審被告A2が一審被告A3から担保権設定契約書の内容を知らされていなかったことを強くうかがわせるものである。
一審原告らは,刑事事件における一審被告A2の供述調書を引用して,一審被告A2が一審被告A3らに指示して損失分離スキームを実施してきた旨主張するが,当該供述調書は,取調べ当時76歳という高齢であった一審被告A2が,長時間に及ぶ取調べを受ける中で,決められたストーリーを執拗に押しつけてくる検察官の取調べに無力感を覚え,少々のことは妥協してしまおうという心理状態になったことなどの複数の要因が影響して作成されたものである。その供述内容も,20年も前の出来事を明確に記憶しているものになっていて不自然であるのみならず,客観的証拠により裏付けられた内容になっていないなど,信用性が極めて乏しい。「運用状況と決算数値について」(甲Aキ12の1添付資料2),「運用ポートフォリオ回復案」(甲Aキ12の2添付資料1),コメルツ銀行に約306億円もの預金がある旨の記載のある決算内訳表(甲Aイ14の1),ITX株式追加購入時の含み損があることを知っていたかのような一審被告A2の供述は,仮にこれを一審被告A2が知覚・認識する機会が存在していたとしても,それはあくまで特金に含まれ又は含まれていた金融商品の含み損解消の過程で生じた一事象であると理解した可能性も十分あり得るものである。
このように,一審被告A2が当初から損失分離スキームの構築・維持を認識していたとはいえず,一審被告A2が,損失隠しの全体像の概要を認識した後に事実の調査の指示,公表等の措置を講じなかったことは,当時の状況下ではやむを得ない事由があったというべきであり,一審被告A2の任務懈怠責任は否定されるべきである。
イ 損害の発生について
(ア) 主位的主張について
そもそも法人格否認の法理は,会社・株主の相手方(主に会社債権者)を保護する法理として発展してきたものであり,会社・株主側に有利となるような適用は安易に認められるべきではない。一審原告会社が援用する最高裁昭和48年10月26日判決も新・旧両会社の法人格の別異性を否定して,会社債権者の保護を図った事案である。
加えて,CFC関係では,一審原告会社がLGT銀行に預託した資産からの収益が存在したはずであり,実際,LGT銀行への預託を解除した際には益金7億円が発生している。また,Hillmore 及び Easterside関係では,コメルツ銀行及びSG銀行に有していた預金には金利が発生する上,預金及びSGボンド解約時には31億円の益金が発生している。さらに,LGT-GIM関係では,2000年(平成12年)12月15日から2007年(平成19年)12月31日までの間の損益計算書によると,運用手数料を控除しても,一貫して利益を上げ続け,その総額は19億2340万5830円に上る。
このように,一審原告会社は,各ファンドとの取引により利益も得ているのであり,これを無視して,損失隠しの道具として各ファンドの法人格を否定することは許されない。
(イ) 予備的主張について
a 損害とは,もし加害原因がなかったとしたならばあるべき利益状態と,加害がされた現在の利益状態の差であるとされており(差額説),このような差額説を前提とすれば,本件の損害とは,「損失分離状態が維持されていることを知りながら又は知り得たにもかかわらず当該状態を是正するための措置を採らずにこれを放置した」という加害がされた現在の利益状態と,加害がなかったとしたならばあるべき利益状態との差と解することになる。一審原告会社が主張する本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,いずれも過去のある時点における個々の支出の問題であり,差額説による損害算定の前提となる「現在の利益状態」を構成する一要素にすぎない。本件金利及び本件ファンド運用手数料等を支払った時点で損害が発生するとの一審原告らの主張は,事実のレベルにおいても,損害概念に関する差額説からも理由がない。また,差額説を前提とすれば,加害行為がされた現状と,それがなされなかったと仮定した場合の原状との差額が損害である以上,一審原告会社において「原状」と「現状」との差額を主張立証しなければならない。
b LGT銀行とCFCとの間のローンアグリーメントにおいては,CFCは,弁済期までは300億円を自由に利用できるとされているのであり,弁済期が到来するまでの間は,金利を支払いさえすれば債務超過に陥っていても構わないのである。CFCがたとえ本件金利の支払時点において一審原告らのいうところの実質的な債務超過状態であったとしても,弁済期に返済資金を準備できれば,一審原告会社が担保に供した預金債権等の価値が毀損されるという損害も発生しなかったと評価することが,金銭消費貸借契約の法的性質からも妥当な結論であることは明らかである。さらに,一審原告会社が担保に供した預金債権等や出資金は,最終的にその全額が一審原告会社に戻ったものと考えられるから,これらが毀損されたことを前提とする損害の主張は理由がない。
c LGT-GIMについてみれば,少なくとも平成12年12月15日から平成19年12月31日までの間,一審原告会社が主張する本件ファンド運用手数料等を控除した上でもなお一貫して利益を上げ続けており,LGT-GIMに対する一審原告会社の出資債権の価値は何ら毀損されていない。LGT-GIMにおいて収益が上がっている事実がある以上,他のファンドにおいても同様に収益が上がっている可能性は十分にあり,この点の精査なくして一審原告会社に損害が発生しているか否かを判断することはできない。
d 一審原告会社は,一審原告会社が担保を設定していた預金債権等が実際に担保実行されることなく返還された場合にはじめて一旦発生した損害が填補されると主張するが,単純に考えて,金利や運用手数料の支払がされた後にファンドの運用による収益が発生した場合,過去の各支払時点において損害が発生するとの一審原告らの論理に基づけば,収益発生の都度損害が填補されて,預金債権や出資の価値の毀損も回復すると考えることになるはずである。損害の発生を過去の各支出時点と考え,他方で損害の填補については,過去の収益発生時点においてはこれを考慮せず,最終的に担保に供されていた預金債権やファンドへの出資金が一審原告会社に返還される時点においても考慮する必要がないかのごとき一審原告らの主張は,論理的にも整合性のない独自の見解というほかない。
e なお,一審被告A2の認識では,GCNVVの組成及び300億円の投資は,新事業創成のためのチャレンジであり,損失隠しのために利用したものではない上,GCNVVから支払われたファンド運用手数料は,契約で定められたものであって,不当に高額なものであるなどの証拠もない。したがって,一審原告会社が主張する一審被告A2の善管注意義務違反とGCNVVからのファンド運用手数料の支払との間には相当因果関係はない。
(ウ) 一審被告A6らの主張を援用する。
(一審被告A5の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 一審被告A5が含み損の存在について報告を受け,これを了承したのは,代表取締役に就任した平成13年6月28日より後のことであり,常務取締役時代には,含み損や損失分離スキームの存在について理解してなかった。これは,一審被告A5が,刑事手続の供述調書において,社長就任後に一審被告A3から簿外の損失があることをはっきり教えられた旨を供述していることや,一審被告A2が上記主張に沿う供述をしていることから明らかである。
(イ) 有価証券報告書を提出している会社の取締役は,有価証券報告書等の虚偽記載をしてはならない義務を負うのみであり,会社による適正な決算処理を困難にし,又は有価証券報告書等の虚偽記載の原因となる行為をしてはならないという義務を負うものではない。また,一審被告A5が損失分離スキームの構築・維持に関与したとしても,そのことから直ちに,適正な決算処理が不可能になったり,虚偽記載を発生させたりするものではない。
イ 損害の発生について
一審被告A6ら,一審被告A2及び一審被告A3の主張を援用する。
(一審被告A3の主張)
ア 本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,一審原告会社とは別法人である受け皿ファンド等が支出したものであって,一審原告会社の損害ではない。また,LGT銀行への預託については解約時に益金7億円が,SGボンドについては解約時に31億円の益金が発生しているほか,預託していた資産に係る利息等を含めれば相当の利益があったのであるから,これらの利益は損害から控除されなければならない。
イ 損害に関する一審被告A6らの主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
ア 善管注意義務違反について
一審原告会社が損失分離スキームの構築・維持の責任の発生根拠として主張する行為は,いずれも一審被告A4が取締役に就任した平成18年6月29日以前の行為である。一審被告A4は,一従業員としてそれらの行為に関与したにすぎず,取締役として責任を負うべきものではない。
イ 損害の発生について
一審被告A3の主張を援用する。
⑵  第5類型(疑惑発覚後の対応関係)
(一審原告らの主張)
ア 一審被告A3及び一審被告A4の善管注意義務違反
取締役及び監査役は,善管注意義務の一つとして,違法行為が行われた疑いが認められる場合にはこれを調査し,その結果違法行為が行われたと判断される場合にはそれについて公表その他必要な措置を講じる義務がある。さらに,違法行為が行われていることを認識している取締役及び監査役は,違法行為が行われたことを隠蔽せず,違法状態を是正すべき義務がある。
本件において,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4が損失分離スキームの構築・維持に関与した者であることは前記⑴記載のとおりであり,損失隠しの存在を認識しながら,平成23年9月にBが本件国内3社の株式取得等に係る疑惑を指摘するようになって以降も,この問題を取締役会で取り上げて議論しようとせず,損失隠しについて認識がない取締役に対し,損失隠しの存在を隠蔽し,ジャイラスや本件国内3社のM&Aに関し違法と言われる問題は何もないとの虚偽の説明を続け,さらにBを非難してその解職に賛成するよう働き掛けるなど,損失隠しについて認識がない取締役が疑問を持たないように仕向けて,違法行為の発覚を避けようとした。これらの行為が,違法行為を隠蔽せず,違法状態を是正すべき義務に違反することは明らかであり,一審被告A3及び一審被告A4には善管注意義務違反が認められる。
なお,一審被告A3は,平成23年6月取締役を退任し監査役に就任しているので,Bによる疑惑指摘後は監査役として対応したことになるが,監査役も取締役と同様,違法行為が行われたことを隠蔽せず違法状態を是正すべき善管注意義務を負うことは,前記のとおりである。
イ 損害の発生
一審被告A3及び一審被告A4は,一審被告A5とともに,Bの疑惑の指摘に対し,違法行為の発覚を避けようとして,10月14日取締役会においてBを社長から解職したが,これにより世間からの批判が強くなって,一審原告会社の株価は下落した。結果的には,第三者委員会(以下「本件第三者委員会」という。)の調査が始まった約1週間後である同年11月8日に損失先送りを公表することになったが,Bによる疑惑の指摘後の対応が不適切であったことは,違法行為を隠蔽するために疑惑を指摘するBを解職したのではないかという印象を世間に与えるなど,一審原告会社のガバナンスに対する信頼を失墜させ,その信用を著しく毀損することとなった。毀損された信用は,その後の回復努力によってある程度回復される可能性はあるが,そのためには相応の費用がかかるし,違法行為を行ってこれを隠し続けたことによる信用毀損を完全に元に戻すことはできない。
こうした信用毀損により一審原告会社が被った損害は,少なくとも1000万円を下回るものではない。
(一審被告A3の主張)
ア 取締役会においてBが解任された主な理由は,Bが強権的であり,他の取締役や社員らとの間で協力関係を築くことができなかったからであり,このことは一審原告会社の社内で共有されていた。Bを解職した理由が上記のようなものである以上,一審被告A5の行為は何ら違法なものとはいえない。
したがって,当時,監査役であった一審被告A3が,違法行為を阻止するために,取締役会や監査役会にその旨報告するなどの措置を講じる義務を負っていたとはいえず,一審被告A3に任務懈怠はない。
イ 一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
ア 一審被告A4は,もともと,Bが代表取締役として相応しくないと考えていたのであるから,B解任決議に賛成したことは,粉飾の発覚を避けるという動機を併有していたとしても,善管注意義務違反にはならない。また,粉飾の発覚を避けるという動機についても,一審被告A4が会社の方針に従って行ってきた一連の行為の延長線上のことであって,善管注意義務違反に問うべきものとはいえない。
イ 損害とは,その行為がなかったとした場合の会社が保有する財産状態と実際の財産状態を比較し,前者が後者を上回る場合に初めて発生したといえるものである(差額説)。したがって,信用毀損による損害が発生したといえるには,B解職により,一審原告会社ができたはずの取引について失注し,これによる利益が得られなくなったなど会社財産を減少させる要因となる具体的事実が認められなければならない。一審原告会社は,そのような具体的事実を何ら主張,立証していないから,損害の発生は認められない。
ウ 一審被告A3の主張を援用する。
⑶  第6類型(剰余金の配当等関係)
(一審原告らの主張)
ア 本件有価証券報告書等の訂正報告書の貸借対照表を元に各期の分配可能額を算定すると,別紙10「訂正後財務諸表における分配可能額」記載のとおり,各期の分配可能額はいずれもマイナスであった。したがって,本件剰余金の配当等は,いずれも分配可能額を超えてされたものである。
イ 平成17年改正前商法においては,利益の配当は,決算に基づく利益処分として行われていたが,会社法は,利益の配当は決算に基づく利益処分ではなく,時期を問わず,いつでも可能な「剰余金の配当」として整理された結果,分配可能額を算定するに当たり,いつの時点の貸借対照表上の金額を基準とすべきかが問題となるところ,分配可能額の算定上「最終事業年度の末日」(すなわち,承認を受けた計算書類にかかる事業年度のうち最も遅いものの末日)の金額を基礎としている(会社法461条2項の「分配可能額」の算定の基礎となる「剰余金の額」は同法446条1項により「最終事業年度の末日」における資産等の金額を基礎とすることとされている。)。これは,本来直近に終了した事業年度の末日における資産等の金額を基準とすべきところ,各事業年度終了後に定時株主総会又は取締役会の承認手続等を経て当該事業年度に係る計算書類が確定されることを前提として(同法438条,439条),各事業年度終了後から定時株主総会又は取締役会の承認手続等がとられるまでの間において剰余金の配当等が行われる場合には,確定のための手続途上の計算書類を基準として分配可能額を算定するのが妥当ではないため,確定のため手続を経ている前の事業年度の末日現在の計算書類を基準とすべきものとしたにすぎない。このように分配可能額の算定の時点は極めて技術的な問題であって,計算書類について取締役会の承認手続が有効か否かの問題ではない。本件においては,各事業年度終了後,定時株主総会又は取締役会の承認等によって本来計算書類が確定されるべき時期までに,承認手続を経た各計算書類のうち,直近のものに基づいて分配可能額が算定されている。
本件は,100億円を超える巨額の損失隠しが問題になっている事案であって,平成19年3月期から平成23年3月期までの貸借対照表に基づく分配可能額は,100億円を超える大幅なマイナスとなっており,貸借対照表上の細かな数値を問題にするまでもなく,平成19年3月期から平成23年3月期までの分配可能額がマイナスであることは明らかである。
ウ 一審被告A3及び一審被告A4の責任について
(ア) 株式会社が分配可能額を超えて剰余金の配当を行った場合には,「会社法454条1項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合における当該株主総会に係る総会議案提案取締役」が,当該株式会社に対し連帯して,分配可能額を超えて配当された剰余金額を支払う義務を負うと規定されており(同法462条1項6号イ),この「総会議案提案取締役」とは,株主総会における「議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは,当該取締役会において当該取締役会の決議に賛成した取締役」がこれに当たると規定されている(同項1号イ,会社計算規則160条3号)。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成19年5月8日,平成20年5月8日,平成22年5月11日及び平成23年5月11日に開催された各取締役会において,定時株主総会に剰余金配当議案を提案することに賛成しており,いずれも総会議案提案取締役に該当する。
(イ) 中間配当についても,会社「法454条1項の規定による決定に係る取締役会において剰余金の配当に賛成した取締役」が,株式会社に対し連帯して,分配可能額を超えて配当された剰余金額を支払う義務を負うと規定されている(同法462条1項柱書,会社計算規則159条8号ハ)。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成19年11月6日,平成20年11月6日,平成21年11月6日及び平成22年11月5日に開催された各取締役会において,中間配当に関する議案に賛成しているから,いずれも分配可能額を超えた剰余金の配当に関する職務を行った業務執行者に該当する。
(ウ) 違法な自己株式の取得についても,会社「法156条1項の規定による決定に係る取締役会において株式の取得に賛成した取締役」が,株式会社に対し連帯して,分配可能額を超えて自己株式の取得の対価として交付された金銭を支払う義務を負うと規定されている(同法462条1項柱書,会社計算規則159条2号ハ)。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成20年5月8日及び平成22年11月5日に開催された各取締役会において,審議された自己株式取得議案に賛成しているから,いずれも分配可能額を超えた自己株式の取得に関する職務を行った業務執行者に該当する。
(エ) 損失分離スキームの構築・維持を認識していた一審被告A3及び一審被告A4がその職務を行うについて注意を怠らなかったとはいえないから,一審被告A3及び一審被告A4は,一審被告A5とともに,会社法462条1項に基づき,一審原告会社に対し連帯して,前記前提事実⑹記載の各配当額及び自己株式の各取得額の合計586億7596万8936円を支払う義務を負う。
(一審被告A3の主張)
ア 本件剰余金の配当等をした事実については認めるが,違法な本件剰余金の配当等に基づく責任については争う。一審被告A4の主張を援用する。
イ 一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
(ア) 会社法462条1項に基づく金銭支払義務は,剰余金の配当等が効力を生じる日における分配可能額を超えた剰余金の配当等が行われることが要件である(同法461条,462条)。この効力を生じる日における分配可能額は,最終事業年度末日における貸借対照表計上額を基準に算定される(同法446条,462条)。そして,最終事業年度とは,会計監査人設置会社の場合,各事業年度に係る計算書類について取締役会の承認を受けた場合における,承認を受けた当該各事業年度のうち最も遅いものをいう(同法2条24号,439条,436条2項)。
一方,計算書類の内容に虚偽がある場合,取締役会の承認自体が無効である。一審原告会社が,平成19年3月期から平成23年3月期の貸借対照表に虚偽記載がある旨主張しているから,取締役会の承認は無効であり,同時期の訂正前の貸借対照表は承認を受けたことにはならない。
したがって,本件において,分配可能額の基礎となる貸借対照表は,平成18年3月期の貸借対照表であって,この貸借対照表上の分配可能額を基準に,その後の剰余金の配当の支払及び自己株式の取得代金の支払による分配可能額の減少により各支払の効力発生時において分配可能額が零を下回ったか否かにより分配可能額を超えた剰余金の配当・自己株式の取得が行われたか否かを判断すべきである。
本件においては,平成19年3月期ないし平成23年3月期の貸借対照表については訂正がされているが,訂正後の貸借対照表について承認を受けたのは,効力発生日よりも後のことであり,効力発生日には存在しなかったものであるから,これをもって効力発生日における貸借対照表であるということはできないのであって,訂正後の貸借対照表上の分配可能額をもって,直ちに効力発生時における分配可能額とすることはできない。
仮に,外形的な承認をもって,承認と解する余地があるとしても,訂正後の貸借対照表は,効力発生日においては存在していなかったのであるから,訂正後の貸借対照表における分配可能額をもって効力発生日における分配可能額とすることはできない。
(イ) また,一審被告A4は,平社員であったころから,一審原告会社の指示に基づき,損失の分離等に関する業務を行ってきたのであり,取締役就任後の行為もその延長にすぎないから,注意を怠ったとはいえない。刑事事件において,有罪になったのは連結決算に関する有価証券報告書等の虚偽記載であって,単体の決算について注意を怠ったことにはならない。(抗弁ではあるが,ここに掲記する。)
(ウ) 一審被告A3の主張を援用する。
⑷  第7類型(課徴金・罰金関係)
(一審原告会社の主張)
ア 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に関する善管注意義務違反承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4には,前記⑴(一審原告会社の主張)ア記載のとおり,平成23年3月までの損失分離状態の構築・維持につき取締役としての善管注意義務違反が認められる。
イ 一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の虚偽記載のある有価証券報告書等の提出に係る善管注意義務違反
有価証券報告書等を提出する会社の代表取締役及びその提出の業務に携わる取締役は,これを提出するに当たり,その記載事項につき,虚偽の記載をすべきでないことはもちろん,事実に即して正確に記載し,又は虚偽の記載がされることのないよう配慮すべき注意義務を負う。また,取締役は,取締役会に上程された特定の業務執行に限らず,広く代表取締役ないし業務執行取締役につき一般的に監視する義務ないし任務を負う。
(ア) 一審被告A5の注意義務違反
一審被告A5は,本件有価証券報告書等が提出された平成19年6月28日から平成23年8月11日までの間,一審原告会社の代表取締役であり,かつ,損失分離スキームの維持により,本件有価証券報告書等における連結純資産額等の記載が虚偽であることを認識していたから,本件有価証券報告書等につき,事実に即して正確に記載し,又は虚偽の記載がされることのないよう配慮すべき注意義務を怠った。
(イ) 一審被告A3及び一審被告A4の注意義務違反
一審被告A3は,本件有価証券報告書等が提出された期間のうち,平成23年6月29日まで一審原告会社の取締役を務めており,同日から同年11月24日までは監査役を務めていた。また,一審被告A4は,本件有価証券報告書等が提出された期間,一審原告会社の取締役を務めていた。これらの一審被告は,いずれも損失分離スキームの維持により,本件有価証券報告書等における連結純資産額等の記載が虚偽であることを認識していたから,一審被告A5による業務執行を監視して虚偽記載のない有価証券報告書等を提出させるための措置を採るべき注意義務を怠った。
ウ 損害の発生及び因果関係
一審原告会社は,課徴金納付命令及び刑事判決に従い,本件課徴金1986万円及び本件罰金7億円を納付したところ,善管注意義務違反行為をした取締役が賠償義務を負う損害には,本件罰金等も含まれる。課徴金や罰金を支払ったことによって会社が受けた損害について取締役が賠償責任を負うか否かは,当該善管注意義務違反の具体的行為と損害との間の相当因果関係の有無の問題であるところ,以下のとおり,一審被告らの行為と本件罰金等の納付との間には相当因果関係があるというべきである。
(ア) 損失分離状態の維持等に係る善管注意義務違反との間の因果関係
a 承継前一審被告A1及び一審被告A2について
承継前一審被告A1及び一審被告A2の実行指示の下で行われた損失分離スキームの構築は,有価証券報告書等の虚偽記載に直結する「含み損について損失を計上しないこと」を目的として実行されたものであり,損失分離スキームの構築がなければ,これによる虚偽記載を含む本件有価証券報告書等が提出されることもなかったのであるから,同人らによる損失分離スキーム構築の実行指示と本件有価証券報告書等の虚偽記載との間に条件関係が認められることは明らかである。一審原告会社における一連の損失隠しは,極めて少数の役職員らの間でのみ共有され,実行されており,損失隠しを継続することについての強固な運命共同体が形成された結果,承継前一審被告A1や一審被告A2が取締役を退任した後も,残る運命共同体の構成員たる一審被告A5らによって延々と継続されていくことになった。「含み損を計上しないこと」は,当然ながら有価証券報告書等の虚偽記載を行うことを意味するのであるから,少なくとも承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役であった時期の有価証券報告書等の虚偽記載については,同人らの了解の下で行われていたことは明白である。加えて,同人らは,一審被告A5をはじめとする後任の取締役らに対して損失隠しについての是正の指示や要望をした形跡は一切なく,自らの指示によって実行され,損失隠しによる有価証券報告書等の虚偽記載という結果発生を防止するための積極的な行為を何らしていない。これらのことからすれば,承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役であった時代に既にされていた有価証券報告書等の虚偽記載が,同人らの退任後においても継続してされることは,当然の因果の流れというべきであり,これにより一審原告会社に生じた本件罰金等相当額の損害は,通常生ずべき損害に当たる。
仮に,これが通常損害とは認められないとしても,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,一審原告会社に生じた含み損を計上しないというスタンスを一貫して採り続けているとともに,最後まで適正な方法により含み損が計上されないままであろうと予想しており,かかる認識の下に損失分離スキームの構築の実行を指示していたのであって,自らが取締役を退任した後も,一審被告A5らによって虚偽記載のある本件有価証券報告書等が提出され続けるであろうことを予見し,又は予見し得たのであるから,前記損害は,承継前一審被告A1及び一審被告A2の善管注意義務違反によって生じた特別損害に当たる。
これに対し,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,一審被告A5らの故意行為が介在したことを理由に,自らの善管注意義務違反行為と損害との間の因果関係を否定しているが,本件有価証券報告書等に虚偽記載がされる経緯に鑑みれば,提出時点の代表取締役らの行為の介在は,客観的に見て,予期せざる第三者の故意行為の介入ではない。むしろ,一審被告A5らによる本件有価証券報告書等の提出行為は,前記運命共同体の損失隠しの継続という目的の下において予定されていた必然的な成り行き(いわば共犯による続行行為)であり,損失隠しの継続という目的から切り離された一審被告A5らによる独立の意思決定と評価されるものではないから,これにより相当因果関係が否定されることはない。
また,一審被告A2は,虚偽記載のある四半期報告書の提出が課徴金の対象になる旨の改正がされたのは,平成18年6月14日に公布された「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)であることを理由として,本件課徴金と平成17年6月29日一審原告会社の取締役を退任した一審被告A2の行為との間に相当因果関係がない旨も主張する。しかしながら,既に平成15年4月より証券取引所の適時開示ルールに基づき,上場会社においては四半期業績の概況の開示が義務付けられていたところ,株式を上場している会社の企業内容の適正な開示の要請は有価証券報告書のみならず四半期報告書にも等しく当てはまり,四半期報告書であっても,有価証券報告書と同様,その内容に虚偽記載があってはならないことはいうまでもない。そして,仮に,四半期報告書に虚偽記載があれば,これに起因して一審原告会社に様々な経済的負担(損害)が生じることはいわば当然の事態であるし,そうでないとしても,一審原告会社に,有価証券報告書に虚偽記載があった場合と同様の経済的負担が生じることは予見し又は予見し得たというべきであるから,本件四半期報告書の虚偽記載に係る本件課徴金相当額の損害は,通常損害又は特別損害に当たる。
b 一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4について
本件有価証券報告書等の虚偽記載は,損失分離状態の下で生じた一審原告会社の会計の誤りに起因するものであるから,これらの一審被告らの損失分離状態の維持等に係る善管注意義務違反と本件罰金等の支払との間に相当因果関係があることは明らかである。
(イ) 虚偽記載のある本件有価証券報告書等の提出に係る善管注意義務違反との間の因果関係
本件有価証券報告書等の提出に係る一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の善管注意義務違反により,一審原告会社は,本件罰金等合計7億1986万円の支払を余儀なくされたのであるから,本件罰金等相当額が前記一審被告らの善管注意義務違反と相当因果関係のある損害である。
(一審被告A6らの主張)
ア 法人に対する罰金は,法人を名宛人として法人自体を罰するものである。金商法上も,法人とその代表者等とでは罰金の上限額が異なり,法人に対する上限額の方が多額となっており(同法207条),仮に法人に科された罰金についても取締役が会社に対して損害賠償責任を負うとすると,その実質は二重処罰であり,法人を個人とは別に罰した趣旨が全うされないことになるから,本件罰金は取締役が賠償責任を負うべきものではない。
イ 仮に,承継前一審被告A1が取締役であったときから損失分離状態があったとしても,本件有価証券報告書等の提出時において,一審原告会社の代表取締役やその提出業務に携わる取締役は,損失分離状態があることを認識していたのであるから,虚偽記載のある本件有価証券報告書等が提出されたのは,当該代表取締役や当該取締役の選択の結果である。実際,承継前一審被告A1が取締役を退任した後,本件有価証券報告書等が提出されるまでの間においては,例えば,損失分離スキームとの関係では,NeoからQPへの約445億円の入金やQPからNeoへの約8億円の入金がされており,損失分離スキームの解消との関係では,本件国内3社の株式の買増し,ジャイラスのワラント購入権の買取り並びに優先株の発行及び買取り等について取締役会決議がされるなど,重要な事項について様々な意思決定がされている。したがって,承継前一審被告A1の在任中の行為と損害との間には,道具とはいえない第三者の行為が介在しており,承継前一審被告A1の支配下で行われたものとはいえないから,因果関係は中断している。
株式会社の代表取締役や財務担当の取締役は,毎年の株主総会で取締役に選任され取締役会で選定されるものであり,承継前一審被告A1は,退任から3年ないし7年後における代表取締役,財務担当取締役ないし財務グループ従業員の選任には全く関与できない上,特に上場会社の代表取締役や財務担当の取締役は,その時々の多数の株主から善管注意義務違反を問われないように固有の慎重な判断が求められるのであって,退任した承継前一審被告A1の言いなりになることなどあり得ない。また,損失分離スキームにより分離した損失は,将来的に減少したり解消されたりすることがあり得たのであって,承継前一審被告A1の退任時において,損失を隠し続けなければならないことが予定されていたわけではない。損失分離スキームの維持については,関与者の間でも公表する意見が出るほど考えが揺れていたのであり,同スキームの維持が不動の方針ではなかった。有価証券報告書等の虚偽記載が世間で問題視され,有価証券報告書等の審査体制が厳格化され,課徴金の対象とされるようになったのは,承継前一審被告A1が退任した後の平成17年以降のことであり,その後の有価証券報告書等の提出に当たっては,このような情勢やリスクも踏まえて,損失分離の公表の是非について熟慮を重ねていたものである。さらには,承継前一審被告A1は,取締役退任後に,有価証券報告書等の提出に関与したり指示をしたりするなどの行為をしていない。
これらのことからすれば,本件有価証券報告書等の提出は当然の因果の流れとは到底いえず,一審原告会社が主張する承継前一審被告A1の善管注意義務違反と本件有価証券報告書等の虚偽記載や提出に基づく本件罰金等の納付との間には,相当因果関係がない。
ウ 一審被告A2の主張を援用する。
(一審被告A2の主張)
ア 刑事罰や課徴金制度は,法人を名宛人として法人自体を罰するものであり,これらの罰金等を取締役の賠償責任額に含めるべきではない。
本件罰金は,金商法207条1項1号に基づくものであるところ,同規定はいわゆる両罰規定であり,違法行為を行った自然人の刑事責任を問うとともに,業務主である法人固有の責任を問うものであること,自然人に対する罰金額(1000万円以下)と法人に対する罰金額(7億円以下)を連動させない法人重課を定めていることからすると,同法は,違法行為の抑制のために自然人である行為者に加えて法人固有の刑事責任を認めてこれに刑事罰を科す必要性を認めるとともに,その刑事罰である罰金額について,法人の資産や事業規模を考慮して,法人に対する抑止力として期待できる金額として7億円以下の法定刑を定めていることが明らかである。
このような金商法の趣旨からすれば,自己の責任に基づいて科された刑罰を他者に転嫁することは許されない。
また,本件課徴金について,金商法172条の4は,継続開示書類の虚偽記載により財務状況の見せかけ上の改善が生じて資金調達金利が低下し,発行者に経済的利益が生じるという考え方に基づき,試算される資金調達コストの低下額を課徴金の金額としたものであるところ,上記規定の立法趣旨は,違法行為によって法人たる会社が得た利益を国家が剥奪するというものであり,自然人に対する制裁という目的はなく,専ら法人に対する制裁が意図されている。加えて,金商法は,課徴金の減算制度を設け,違反行為者が当局による調査前に当該違反行為の事実について当局への報告を行った場合に,課徴金の金額を半額にするリニエンシー・プログラムを用意している(185条の7第14項)ところ,会社が納付した課徴金が会社法の制度に基づいて請求される可能性があるとするならば,違反行為に関与した取締役に当該報告を行うことを期待することはできず,リニエンシー・プログラムが有効に機能する障害要因になってしまうことから,金商法は,課徴金の取締役等への転嫁を想定していないというべきである。
イ 本件課徴金は,虚偽記載のある本件四半期報告書の提出に対して課されたものであるところ,虚偽記載のある四半期報告書の提出が課徴金の対象になる旨が定められたのは,平成18年6月14日公布された「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)においてであるから,一審原告会社の取締役を退任した平成17年6月29日以前の一審被告A2の行為と本件課徴金の支払との間には,相当因果関係がない。
ウ 本件有価証券報告書等は,一審被告A2が一審原告会社の取締役を退任した後約2年間が経過した平成19年6月28日以降に提出されたものである。その内容は,当該事業年度における会社の数々の意思決定を反映したものであり,その作成・提出も,当該行為時に取締役等の地位にある者の経営判断ないし意思決定に基づいて行われたものである。例えば,平成19年9月に一審被告A3及び一審被告A4がGCNVVを中途解約して中途解約金を受領したことや,本件国内3社の株式取得名目で合計607億9500万円を支出したことなどは,一審被告A2の退任した後に,一審被告A2の与り知らぬところで,後任の役員らにおいてされたものであって,因果関係の切断を認めるに十分な事情というべきである。また,後任の役員は一審被告A2の意思とは無関係に選任・解任されるため,一審被告A2が退任後に就任した役員等の意思決定に影響を与えることはできず,強固な運命共同体など存在し得ない。
これらのことからすると,一審被告A2の在任中の行為と,本件罰金等の支払によって生じた損害との間には,一審被告A2が関与することのできない,本件有価証券報告書等の提出時の役員等による重大な経営判断ないし意思決定が介在しているというべきであって,これにより両者の因果関係は切断されたと評価すべきである。
(一審被告A5の主張)
一審被告A6ら,一審被告A2及び一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A3の主張)
一審被告A2,一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
ア 罰金・課徴金は,会社に対する制裁という性格からして,その名宛人である会社が負担しなければ意味はなく,これを法的拘束力をもって,その負担を第三者に転嫁することは,罰金・課徴金を認める法の趣旨に反するものである。
イ 一審被告A6ら及び一審被告A2の主張を援用する。
⑸  第2事件
(一審原告株主の主張)
ア 第2事件一審被告らの善管注意義務違反
(ア) 取締役の一般的な善管注意義務の内容
取締役は,会社に対して善管注意義務を負っており,他の取締役の行為が法令・定款を遵守し適正に行われているか否かを監視する義務を負うが,その監視対象は取締役会に上程された事項にとどまらない。したがって,取締役は,他の取締役が関与する違法行為の存在が疑われる場合には,これを調査する義務を負い,調査の結果違法行為が行われたと判断される場合には,それについて公表その他必要な措置を講じる義務等を負うと解すべきである。そして,その違法行為の存在がほぼ確実な程度に明確になっていない段階であっても,会社の経営に関わる人物がある程度信頼できる根拠に基づいて違法行為の疑惑を指摘しているなど,違法行為の存在が相当程度明確に認められる場合であれば,他の取締役は善管注意義務・忠実義務に基づき,当該疑惑を解明するための調査を行う等の対応が求められるというべきであり,少なくとも,疑惑の解明を妨害しない程度の注意義務は認められるべきである。
(イ) 9月30日取締役会における善管注意義務違反
月間FACTA(以下「FACTA」という。)8月号(平成23年7月20日発行)には「オリンパス『無謀M&A』巨額損失の怪」と題する記事(以下「本件記事1」という。)が掲載され,FACTA10月号(平成23年9月20日発行)には「オリンパスの『尻尾』はJブリッジ 巨額M&Aの闇を暴く調査報道第2弾。問題子会社の事業計画書に,あっと驚くファンドの名。」と題する記事(以下「本件記事2」といい,本件記事1と併せて「本件各記事」という。)が掲載されたところ,第2事件一審被告らは本件各記事の内容を把握していた。本件各記事は,一読すれば,しっかりした情報源や内部情報なくしては書けないものであって,十分信用できるものである上,法的知見や企業買収に携わった経験がない取締役であっても,容易に疑問を持ち得る内容であった。
Bは,本件各記事を読んで,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払につき疑念を抱き,平成23年9月23日頃から同月28日頃までの間,一審被告A5及び一審被告A4に対して電子メールのレター(以下,同月23日付けのレターを「本件レターⅠ」,同月24日付けのレターを「本件レターⅡ」,同月25日付けのレターを「本件レターⅢ」,同月26日付けのレターを「本件レターⅣ」,同月27日付けのレターを「本件レターⅤ」といい,後記本件レターⅥを含め,Bが送付したレターを総称して「本件各レター」という。)を送付し,上記疑念に関する質問に対する回答と資料の提供を要求し,一審被告A4から,回答を受領するとともに,平成21年5月17日付けの第三者委員会報告書(以下「平成21年第三者委員会報告書」という。)及び井坂公認会計士事務所作成に係る平成20年2月29日付け本件国内3社の各株主価値算定報告書の送付を受けた。第2事件一審被告らは,平成23年9月24日から同月30日までの間に,Bから本件レターⅠ~Ⅴの送付を受けるとともに,Bと一審被告A5及び一審被告A4との間で交信されたメールの内容も把握していた。
このように,第2事件一審被告らは,本件各記事において一審原告会社のM&A活動に関して一審被告A5ら経営陣による違法行為の疑いなどが指摘されていることを知っていた上,Bから本件各レターの送付を受け,当時の経営陣に重大な違法行為が存在するとの疑いを指摘されていたこと,本件各記事やBが指摘する疑惑の内容が具体的かつ妥当なものであったこと,Bの本件各レターに対する一審被告A4の回答は,Bの追及を否定するか,資料についても全ては送付せず,送付の遅れの理由をるる述べているだけで,Bの疑問に対して,正面から回答するものではなく,一審原告会社で違法・不正な取引が行われたという疑念を払拭するものではなかったこと,平成21年第三者委員会報告書及び井坂公認会計士事務所作成に係る本件国内3社の株主価値算定報告書の内容は,いずれも不十分な内容であって,Bの指摘する違法行為の可能性を否定できるようなものではなかったことなどからすると,9月30日取締役会までに,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,一審被告A5ら経営陣による違法行為が存在する疑いがあることは明確になっていたものといえる。また,当該違法行為の疑いの中心的な行為者が一審被告A5であり,同人やその協力者が,疑惑の解明を妨害し,違法行為等の隠蔽を行う可能性があることは,容易に想定される状況にあった。このような状況からすれば,第2事件一審被告らは,遅くとも9月30日取締役会の時点で,Bの指摘を真剣に受け止め,違法行為の有無について調査すべき注意義務を負っていたものというべきである。
そして,Bは,9月30日取締役会において,本件国内3社の買収額やジャイラスのFA報酬額について疑問が解消された旨の発言をしたわけではなかったにもかかわらず,第2事件一審被告らは,9月30日取締役会において,Bの指摘を真剣に受け止めず,Bによる調査が妨害されないよう配慮するどころか,かえって,Bが本件レターⅠ~Ⅴ等を守秘義務が課されている監査法人に送付したことを執拗に非難し,一審原告会社がジャイラス買収に伴ってFAに多額の金銭支払をしたことを知らなかったとの虚偽の答弁を支持し,結局,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関してまともな議論は一切せず,Bから調査結果の報告を受けることを次回の取締役会の議題とするとの提案もしなかったのであるから,Bの指摘を事実上無視したものであり,違法行為の存在が疑われる場合に取締役が行うべき調査義務を怠ったというべきである。
また,第2事件一審被告らは,違法行為の存在が認められる場合の調査義務に反して,一審被告A5ら損失隠しに直接関与した役員らの違法行為はもとより,杜撰な判断により善管注意義務に違反していた役員らの違法行為を黙認ないし放置したものであり,監視義務にも違反したものである。
(ウ) 10月14日取締役会における善管注意義務違反
a Bは,平成23年10月12日,K弁護士に対し,①本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,一審原告会社の顧問弁護士として,違法行為が疑われる役員個人との相談及びこれに対する助言は当然禁止されていることを指摘するとともに,②同年9月23日以降一審原告会社の顧問弁護士として提供した全ての書類を早急に提出するよう要請するとともに,書類は存在しないが,会合,電話その他の手段による交信がされた場合には,その目的と内容を早急に報告するよう要請するメールを送信した。
Bは,平成23年10月13日午前1時10分,第2事件一審被告らを含む一審原告会社の取締役及び監査役並びにK弁護士に対し,同月11日付けのプライスウォーターハウス Legal LLP.(以下「PwC」という。)作成の中間報告書(以下「PwC中間報告書」という。)を添付したレター(以下「本件レターⅥ」という。)を送付した。PwC中間報告書には,一審原告会社の過去のM&Aをめぐる金銭の動きについて,コンプライアンスリスクがある旨の指摘が随所に記載され,最後に「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」と結論付けられ,「さらに,不適切な会計処理や財務アドバイス,取締役の忠実義務違反を含む,他の潜在的な違法行為がある。」と締めくくられており,通常の判断能力を有する取締役であれば,大手会計事務所によって一審原告会社の過去のM&Aをめぐる金銭の動きに重大な疑問が呈されており,コンプライアンス違反となる可能性が極めて高いと断じられていることは容易に判断できるものであった。そして,Bは,本件レターⅥの中で一審被告A5及び一審被告A4の辞任を要求した。
前記(イ)の9月30日取締役会に至るまでの事情に加え,Bが,第2事件一審被告らを含む一審原告会社の取締役及び監査役並びにK弁護士に対し,PwC中間報告書が添付された本件レターⅥを送付し,一審被告A5及び一審被告A4に対し役員から辞任するよう要求していることからすると,10月14日取締役会の時点では,9月30日取締役会の時点に比して違法行為が存在する疑いは一層明確になっており,もはや違法行為の存在はほぼ確実な状況にあった。
このような状況の下では,第2事件一審被告らは,10月14日取締役会において,①本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,正式に議題として取り上げて真剣に議論し,未だBに提供されていない関連資料の提出を要請し,同人が詳細な調査を実施できるよう対応すべきであるとともに,②Bから違法行為の責任を問われて役員を辞任するよう要求されている一審被告A5,一審被告A4及びその協力者が,今後の調査を妨害し不祥事の隠蔽を図る危険性があることは明白であったから,一審被告A5及び一審被告A4に対し,より詳細な調査結果が判明するまでは業務から離れて自宅待機を勧告するなど,Bの調査に対する妨害を回避する方策を採るべきであった。
それにもかかわらず,第2事件一審被告らは,平成23年10月13日,一審被告A5の呼びかけに応じてK弁護士の事務所に参集し,翌日開催される取締役会において,Bを,一審原告会社の代表取締役及び社長執行役員,CEOその他関連子会社を含めた全ての役職から即時解職すると同時に,一審被告A5を社長に復帰させることを確認し,その手順等を打ち合わせたが,その際,その能力を高く評価してCEOに選任したにもかかわらずわずか2週間でBを解任することの整合性を問う意見を出すこともなかった。
そして,第2事件一審被告らは,10月14日取締役会において,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払につき一切議論することなく,不祥事の責任を追及されていた一審被告A5や一審被告A4の意向に沿って,前日打ち合わせた手順通り,何らの解任理由を説明することなく,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職し,これに代わって,一審被告A5に社長執行役員を兼務させることを承認する旨決議した。
これらのことからすれば,第2事件一審被告らは,一審被告A5によるBの解職提案が,少なくともBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できたにもかかわらず,Bによる疑惑追及や調査を妨害するために前記決議をしたことは明白であり,損失隠しに直接関与した役員らの違法行為を黙認ないし放置しただけでなく,一審被告A5らによる違法行為の隠蔽行為に加担したものとして,善管注意義務及び監視義務に違反するというべきである。
b なお,本件国内3社の買収に関する平成20年2月22日の取締役会決議,ジャイラス買収に係るFA報酬の支払に関する同年9月26日の取締役会における優先株発行に関する決議,平成22年3月19日の取締役会における優先株買取に関する決議については,いずれも取締役責任調査委員会が,それに賛成した一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14の善管注意義務違反の責任を認定している。また,第三者委員会も,「本件国内3社の株式取得額やジャイラス買収に係るアドバイザリー報酬額は,専門的知見がなかったとしても,一般常識からしても異常に高額であり,取締役会にこの議題が上程された際,本来は突っ込んだ議論がされて然るべきであったが,全くされていない。」と指摘している。そして,一審原告会社及び一審原告株主が提起した別件損害賠償請求事件(東京地方裁判所平成24年(ワ)第174号,同第8257号。以下「別件損害賠償請求訴訟」という。)において,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14は,和解に応じている。
c Bには,CEO等の適格性が十分にあり,適格性がないことを解職の理由にすることはあり得ない。一審被告らは,Bの解職理由は,①人格問題,②経営姿勢の問題,③日本に滞在していないこと,④会社の内部資料の漏洩であるとするが,以下のとおり,いずれも根拠がなく,解任理由となり得ないものである。
すなわち,上記①(人格問題)については,Bが激高したとしても,それは,一審被告A5及び一審被告A4が社長であるBに対して何ら知らせることがなかったことをとがめた際のやりとりの中での一過性の出来事であり,社長としての適格性に疑いを生じさせる行為ではない。上記②(経営姿勢の問題)については,仮にBの独断での人事等があったとしても,それはBの強いリーダーシップの現れであり社長解任の理由とはいえない。上記③(日本に滞在していないこと)については,一審原告会社は,日本のみならずアジア・オセアニア地域,欧州,北米・中南米にグループ会社を有するグローバル企業であり,売上げの多くを占める海外に社長が多く滞在していたとしても,元々予定されていたことであり,社長に与えられた裁量の範囲内であり,一審原告会社の取締役は常時は海外駐在しているものも多く存在しており,業務上の必要に応じて電子メール等で意思疎通を図ることで特段不都合は存在しなかったから,社長解任の理由とはならない。上記④(会社の内部資料の漏洩)については,Bは,著名な法律会計事務所であるPwCに対して資料を渡し,一審原告会社の過去のM&Aをめぐる金銭の流れを調査するよう依頼したものである。その資料提供の目的は,一審原告会社の過去のM&Aをめぐる不透明な金銭の流れを調査するためであって正当なものであり,また,資料を提供した相手方は監査法人や法律会計事務所であって法律上守秘義務が課せられているから,解職の理由とはならない。
d 第2事件一審被告らは,Bの解職と疑惑解明の調査とは別問題であるというが,一審原告会社は,B解職後に,世間の注目が集まり,マスコミ報道が加熱し,機関投資家等一部の株主から調査要請を受けて,やむなく第三者委員会の設置を検討したにすぎない。Bの解任とは別に調査をすることを決定していたのであれば,調査対象となる取引を主導し,調査対象となる最重要人物である一審被告A5を経営トップの社長・CEOに復帰させることはあり得ない。
(エ) 第2事件一審被告らの個別事情
a 一審被告A9
①一審被告A9は,Bが解職されれば,社外から隠蔽という批判が出る可能性を認識していたのであるから,その可能性を指摘した上で,解職と違法行為の指摘とが無関係であることの確認をすべきであったが,このような確認をせずに,Bの解職に賛成したのであるから,一審被告A5のBの解職提案について,違法行為の隠蔽目的であると認識していたこと,②一審被告A9は,平成20年2月22日取締役会における本件国内3社の買収に関する承認決議,同年9月26日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株発行に関する決議,平成22年3月19日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株買取に関する決議という,異常な取引に関する各取締役決議に賛成しており,自らの責任追及回避のためにもB解職に賛成する必要があったことなどから,一審被告A9は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
b 一審被告A13について
①一審被告A13は,昭和63年から平成12年3月末まで,一審原告会社の総務・財産部財務グループのグループリーダーの地位にあり,当時の当該グループの規模に照らし,一審被告A13の上司であった一審被告A4及び一審被告A3の損失分離スキームの構築等に一審被告A13が気付かなかったとは考えられないこと,②一審被告A13は,平成20年12月18日のあずさ監査法人との意見交換会,平成21年3月5日の懇談会,同年4月10日の懇談会及び同年5月7日の懇談会のいずれにも出席し,あずさ監査法人から,本件国内3社の買収価格やジャイラス買収に係るFA報酬支払の妥当性について厳しい意見を述べられていることを知っていたこと,③一審被告A13は,平成22年3月19日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株買取に関する決議という著しく不合理な決議に賛成しており,自らの責任追及回避のためにもB解職に賛成する必要があったことなどから,一審被告A13は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
c 一審被告A14について
①一審被告A14は,自ら過去に損失隠しに加担していたことを自認していること,②一審被告A3及び一審被告A4は,損失隠しを隠蔽するため,あずさ監査法人を解任し新たな監査法人を選任することとしたが,その際,一審被告A14は,大学の同級生が理事長を務める新日本有限責任監査法人を一審原告会社に紹介したこと,③一審被告A14は,一審原告会社に入社前にパリバ証券東京支店に勤務していたが,その際,一審被告A4に依頼され,決算対策のために期末に資産を帳簿から外す,いわゆる「期末外し」を行うなどしていたこと,実際にも,一審被告A14は,パリバ証券東京支店が一審原告会社に販売した仕組債が巨額の含み損を抱えるようになったことから,一審原告会社の約283億円の損失を簿外に隠すなどの過去の損失隠しに協力していたこと,④一審被告A14は,平成20年9月26日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株発行に関する決議,平成22年3月19日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株買取に関する決議という,異常な取引に関する各取締役決議に賛成しており,自らの責任追及回避のためにもB解職に賛成する必要があったことなどから,一審被告A14は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
d 一審被告A15について
一審被告A15は,9月30日取締役会において,ジャイラス買収に係る多額のFA報酬の支払に関して指摘したBに対して,社長に就任するまで半年も時間があったのに,今更こうした案件を問題にすることについてBを非難しておきながら,Bからの問い掛けに対し,出席取締役らがジャイラス買収における多額のFA報酬の支払について知らなかったという虚偽の返答をしたことを黙認し,疑惑を追及するBに対して重大な虚偽情報を伝えることに加担し,Bの疑惑追及に協力するつもりがないことを明らかにしたことからすると,一審被告A15は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
e 一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12について
①一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,平成20年2月22日取締役会における本件国内3社の買収に関する承認決議という,特にシナジー効果を認められない本件国内3社の株式を高額な価格で取得するという不合理な決議に賛成したこと,②一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,平成19年11月19日取締役会におけるジャイラスの買収,買収資金の銀行からの借入れ,ジャイラスの買収についての投資顧問としてAXESとの業務委託契約の締結に関する承認決議,平成20年9月26日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株発行に関する決議,平成22年3月19日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株買取に関する決議という,異常な取引に関する各取締役決議に賛成しており,自らの責任追及回避のためにもB解職に賛成する必要があったことなどから,一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
イ 損害の発生及び因果関係
(ア) 各外部委員会の費用 合計7億1944万9555円
a 一審原告会社は,第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為により,本件第三者委員会の設置を余儀なくされ,さらには,経営改革委員会,取締役責任調査委員会及び監査役等責任調査委員会を設置せざるを得なくなり,それらの費用として合計7億1944万9555円を出捐した。
b 9月30日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
第2事件一審被告らが,9月30日取締役会において,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払の経緯や原因,それぞれの判断の妥当性等につき真剣に議論し,少なくとも後の取締役会等においてBから調査結果の報告を受けることを提案し決議するなどの配慮を怠らなければ,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が高く,Bの解職決議がされることもなく,一審原告会社が各外部委員会費用を出捐することもなかった。したがって,9月30日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為と上記出捐との間には,相当因果関係がある。
c 10月14日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
第2事件一審被告らが,10月14日取締役会において,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職し,一審被告A5に社長執行役員を兼務させることを承認する旨決議したことによって,Bを解職して不祥事を隠蔽したのではないかとの報道等が広く行われ,一審原告会社に対する社会的批判が強まったため,一審原告会社は,前記のとおり,本件第三者委員会,経営改革委員会,取締役責任調査委員会及び監査役等責任調査委員会を設置せざるを得なくなった。前記一審被告らがBの解職や一審被告A5の社長執行役員への復帰をさせなければ,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が高く,一審原告会社が各外部委員会費用を出捐することもなかったのであるから,前記一審被告らの善管注意義務違反行為と前記出捐との間には,相当因果関係がある。
(イ) Bとの和解合意により同人に支払った和解金 12億7348万6900円
a 一審原告会社は,Bが不当に解職等をされたことにより,同人に対し,12億7348万6900円の和解金(以下「本件和解金」という。)を支払わざるを得なくなった。
b 9月30日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
9月30日取締役会において,第2事件一審被告らが,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払の経緯や原因,それぞれの判断の妥当性等につき真剣に議論し,少なくとも後の取締役会等においてBから調査結果の報告を受けることを提案し決議するなどの配慮を怠らなければ,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が高く,Bの解職決議がされることもなく,一審原告会社が本件和解金を支払うこともなかった。したがって,9月30日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為と前記支払との間には,相当因果関係がある。
c 10月14日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
10月14日取締役会において,第2事件一審被告らが,Bの指摘に真摯に対応して適切な調査を行うことを決議し,Bの解職を決議することがなければ,一審原告会社が本件和解金を支払うこともなかったのであるから,前記一審被告らの善管注意義務違反行為と前記支払との間には,相当因果関係がある。
(ウ) 一審原告会社の信用失墜による損害 10億円
a 一審原告会社の株価は,Bの解職及び一審被告A5の社長復帰が発表された平成23年10月14日から下落し始め,その後も下落が止まらず,一審原告会社が一連の損失隠しの事実を公表した日の前日である同年11月7日の終値は1034円であって,同年10月13日の終値(2482円)の半値以下となった(この間の下落幅は1448円である。)。同年11月8日以降の株価下落は,一連の損失隠しの事実の公表に起因するものであるとしても,それ以前の株価の下落は,第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為を原因として,一審原告会社の信用が毀損されたために生じたものである。平成23年3月期の一審原告会社の発行済株式総数(自己株式を含む。)は2億7128万3608株であるから,一審原告会社の時価総額は3928億1866万4384円(=271,283,608 株×1,448 円)も減少したことになる。
このように,一審原告会社の信用が著しく毀損されたことは明らかであり,その損害額は,どれほど少なく見積もっても10億円を下らない。
b 9月30日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
第2事件一審被告らは,9月30日取締役会において,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関してまともな議論は一切せず,Bから調査結果の報告を受けることを次回の取締役会の議題とするとの提案もしなかったため,その後,一審被告A5ら損失隠しに直接関与した者の意向に沿って,Bが代表取締役及び社長執行役員を解職され一審被告A5が社長執行役員に復帰するという過程を経て,Bを解職して不祥事を隠蔽したのではないかとの報道等が広く行われるに至り,一審原告会社に対する社会的批判が強まり,結果として,一審原告会社の信用は著しく失墜した。
したがって,9月30日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為と前記信用失墜による損害との間には,相当因果関係がある。
c 10月14日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
第2事件一審被告らが,10月14日取締役会において,Bを解職し一審被告A5を社長執行役員に復帰させることを承認する旨決議したことによって,Bを解職して不祥事を隠蔽したのではないかとの報道等が広く行われるに至り,一審原告会社に対する社会的批判が強まり,結果として,一審原告会社の信用は著しく失墜したのであるから,前記一審被告らの善管注意義務違反行為と前記信用失墜による損害との間には,相当因果関係がある。
(一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12及び一審被告A13(以下「一審被告A9ら5名」という。)の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 取締役の監視義務について
取締役が他の取締役の業務執行一般を監視する義務を負うのは,違法ないし不適正な業務執行を認識しまたは認識し得た場合に限られるものというべきところ,認識し得た,すなわち認識可能性があったといえるためには,認識の抽象的な可能性があったというだけでは足りず,具体的な認識可能性があったことが必要であり,認識していたとまでは認定できないが,それに近い心証が形成される場合に,初めて「認識し得た」として監視義務違反が肯定される。また,監視義務違反の対象が,役職員の具体的な法令違反ではなく,善管注意義務違反などの抽象的法令義務違反である場合,取締役の監視義務が認められるのは,当該善管注意義務が顕著な場合に限られる。さらに,仮に,取締役において,他の取締役の不正な業務執行を認識し又は認識し得た場合であっても,取締役が負う監視義務は無限定のものではなく,監視義務の履行としてどのような措置を講じるべきかは,取締役に一定の裁量が認められ,経営判断原則と同様の配慮が必要であって,後知恵で評価することには慎重でなければならない。
(イ) 一審被告A9ら5名の本件国内3社の買収及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払についての認識
一審被告A9ら5名は,本件国内3社の買収は,経営戦略に合致し,新事業創成に繋がり得るものであり,本件国内3社の事業計画や事業価値等について事業投資委員会,経営執行会議,経営企画本部及び新事業関連会社統括本部等による検討又は審議等を経たものであって,取締役会における一審被告A5らによる説明及び取締役会提出資料によれば,本件国内3社の株式取得はやむを得ないものであり,経営判断の範囲内として承認したものである。また,ジャイラスの買収についても,事業展開において不可欠なものであり,取締役会における一審被告A5らによる説明及び取締役会提出資料によれば,FA報酬に関連する支払もやむを得ないもので適法であると認識していた。そして,あずさ監査法人からは,本件国内3社の買収及びジャイラス買収に係るFA報酬について疑義を述べられたものの,外部の専門家による調査結果である平成21年第三者委員会報告書においては,取引自体に不正・違法行為はなく,取締役の善管注意義務違反や手続的瑕疵は認められないとされ,あずさ監査法人も無限定適正意見付きの監査報告書を提出したという経過があり,一審被告A9ら5名は,本件国内3社の買収やジャイラス買収に係るFA報酬の支払は,いずれも適法である旨認識していた。取締役責任委員会や第三者委員会も,取締役に善管注意義務違反があると認定したものではない。
(ウ) 9月30日取締役会における善管注意義務違反について
① FACTAに掲載された本件記事1は,一審被告A9ら5名にとっては,既知である本件国内3社の買収及びジャイラス買収に係るFA報酬について,金額が過大であるという外部からの評価が記載されたものにすぎない上,反社会的勢力に巨額の資金が流れたという明らかに事実に反する内容を含むものであり,これをもって違法行為の存在を認識させるに十分なものとはいえない。
② Bからの要請を受けた一審被告A4の対応も,休日の関係で社内資料にアクセスできない,英訳に時間がかかるなどといった説明をしつつ,最終的にはBが求める質問に全て回答し,求められた資料を送付するなどしており,真摯かつ適時のものであった。
③ Bに提供された平成21年第三者委員会報告書は,本件国内3社の買収金額やジャイラス買収に係るFA報酬額を問題視していたあずさ監査法人からのヒアリング等にも依拠して作成されたものであって,同報告書が提出されたことにより,同監査法人も,問題視していた点も含めて無限定適正意見を出したという経過があった。
④ Bは,9月30日取締役会において,問題とされる取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分確信できたので,今後は前向きに未来に目を向けるつもりであるとの趣旨の発言をしており,本件レターⅤにおいて,詳細に調査し,専門家の助言を受ける必要があると記載しておきながら,取締役会においては,問題を詳細に調査すべきであるとか,専門家の助言を受ける必要があるなどといった発言は一切しなかった(この点は,Bも証人尋問において認める証言をしている。Bは,そのような発言をしなかったのは,その前日,一審被告A5らと面談した際,取締役の任命権など,自己が欲した権限を手に入れて満足していたからに他ならない。)。仮に,Bが疑問を解消したと考えていなかったとしても,Bの上記発言を聞いた一審被告A9ら5名が,Bの疑問は解消されたものと認識するのは当然である。
これらの事情からすると,9月30日取締役会の時点で,本件各記事やBが役員全員に送付した本件レターⅠ~Ⅴにより,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,一審被告A5らによる違法行為が存在することが明確になっていたものとはいえない。
(エ) 10月14日取締役会における善管注意義務違反について
① Bは,取締役らに対し,PwC中間報告書を添付して本件レターⅥを送付し,一審被告A5らに一方的に取締役を辞任するように迫った。しかし,PwC中間報告書は,本件国内3社の買収に関しては数行触れる程度であって,その本文全てがジャイラス買収に係るFA報酬に関するものであり,FA報酬が高額にすぎる,高額になった理由等は,資料提供を受けていないからコメントできないなどと記載されており,結論部分の記載は違法行為が存在したと結論付けるものではない上,役員個人の責任について言及するものでもなかった。したがって,本件レターⅥ及びPwC中間報告書によっても,10月14日取締役会の時点で,違法行為の存在がほぼ確実な状況になったとはいえない。
② かえって,一審被告A9ら5名は,Bには独断的な一面があるものの,他方で,強いリーダーシップという点では魅力的とも評価し,一審被告A5及び一審被告A4と協力し,同被告らがBを補佐し,過度の独断を抑えることができるという前提で,BのCEO就任に賛成したが,違法行為の存在を断定していないPwC中間報告書を根拠にして,一審被告A5らに辞任を迫るという独断専権的な行為に及ぶに至り,Bの経営者としての資質に疑問を抱かざるを得なかった。
一審被告A9ら5名は,平成23年10月13日,K弁護士の事務所における打合せに参加したが,一審被告A5から,Bは社長として問題があるから翌日の取締役会で解職したい旨を告げられ,K弁護士からも,本日集まってもらったのはB解職の段取りを確認するためである旨説明を受けたが,特段の疑問を感じることはなかった。
③ 一審被告A9ら5名は,10月14日取締役会において,Bの解職に賛成したが,それは,Bが,ヨーロッパに滞在してほとんど来日せず,他の取締役との意思疎通も不十分であり,一審原告会社の総務部からの報告も十分行えないとの状況の中,突如として,PwC中間報告書を送付して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を要求する行為に出たことを考慮し,他の経営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離を生じ,経営の意思決定に支障を来す状態に陥っていると判断したためである。
これらの事情によれば,10月14日取締役会において,一審被告A9ら5名が,違法行為の存在を認識し,または認識し得る状況にはなく,Bの解職に賛成したのも,Bの経営者としての資質に疑問を持ったからであって,Bによる疑惑の追及や調査を妨害するためではないから,善管注意義務違反はない。
(オ) 善管注意義務の履行
一審被告A9ら5名の取締役は,Bの解職の7日後である平成23年10月21日には本件第三者委員会の設置を準備している旨のプレスリリースを行い,同年11月1日には実際にこれを設置して調査を開始し,同月8日には損失隠しを公表し,同年12月6日には本件第三者委員会から調査報告書の提出を受けているのであって,まさに調査義務を尽くしている。一審原告会社の株価が急落し,不正会計疑惑等に関する報道が過熱して収拾がつかなくなったために,本件第三者委員会の設置が決定されたといった事実や,同年11月8日発売の週刊朝日に損失隠しに係る疑惑の真相を詳細に記載した記事が掲載されたため,これを知った一審被告A5が,同日,損失隠しを公表したといった事実はない。
(カ) 別件損害賠償請求訴訟における和解
一審被告A9ら5名が,別件損害賠償請求訴訟において,和解に応じたが,善管注意義務違反の責任を認めたものではないことはその和解条項からも明らかである。
イ 損害の発生及び因果関係について
(ア) 本件において,各外部委員会による調査は必要不可欠であり,9月30日取締役会及び10月14日取締役会において一審被告A9ら5名がいかなる対応をしたかにかかわらず,各外部委員会への費用の支払はされたのであるから,一審被告A9ら5名の善管注意義務違反行為と前記費用の出捐との間には条件関係を欠き,相当因果関係も認められない。
外部の専門家により構成された本件第三者委員会の設置は,まさに取締役による調査義務の履行であって,調査義務の履行により生じた費用をもって,調査義務違反により生じた費用と解する余地はない。
(イ) 10月14日取締役会におけるBの解職決議は,同人が,他の取締役と十分意思疎通することができていない上,9月30日取締役会の後,突如として,PwC中間報告書を送付して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を要求するなど,独断的な行動を採ったことを理由とするものであり,9月30日取締役会における一審被告A9ら5名の対応如何にかかわらず,同取締役会の後に発生した事由に起因して,適法にされたものである。したがって,①9月30日取締役会における一審被告A9ら5名の対応,②10月14日取締役会におけるBの解職決議,③これを前提とする本件和解金の支払のそれぞれの間には条件関係を欠く。
また,本件和解金の支払は,9月30日取締役会及び10月14日取締役会における一審被告A9ら5名の対応から通常生ずべき損害ではない。また,Bが9月30日取締役会の時点で「私は安心したのです。」などと発言していることからすれば,その後,Bを解職するという事態が生じることを予見できず,予見可能な特別損害にも当たらない。
(ウ) 一審原告会社の信用失墜による損害額が10億円を下らないことにつき,具体的な主張・立証はない。時価総額の喪失,すなわち,株価の下落をもって,当該会社に信用失墜による損害があったと認めるべき合理的理由はない。
一審原告会社の信用失墜及びそれに伴う株価の下落は,一審被告A5らによる一審原告会社の損失隠しや,暴力団や反社会的勢力に資金が流れているとの誤った報道によって生じたものであり,一審被告A9ら5名の行為によるものではなく,相当因果関係は認められない。
(一審被告A14の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 一審被告A14の本件国内3社の買収及びジャイラス買収に伴うFA報酬についての認識
一審被告A14は,平成20年6月27日に社外取締役に就任したが,その時点では,既にジャイラスの買収は完了しており,同年9月26日の取締役会において,税務対策上の事情により,FA報酬の支払方法が優先株の付与に変更する旨の説明を受け,議案に賛成し,同年11月28日の取締役会において,優先株の転売を阻止するために買戻しが必要である旨の説明を受け,やむを得ないものと判断して議案に賛成した。そして,あずさ監査法人から,本件国内3社の買収やジャイラス買収に係るFA報酬について懸念が伝えられたものの,弁護士,公認会計士,大学・大学院教授からなる平成21年第三者委員会が調査を実施し,不正・違法行為があったとは認められず,取締役の善管注意義務違反があったとも認められないとの判断を示したため,あずさ監査法人も無限定適正意見を出した。
このような経過から,一審被告A14にとって,本件国内3社の買収やジャイラス買収に係るFA報酬の支払について不正・違法行為があると疑うべき理由などなかった。
(イ) 9月30日取締役会における善管注意義務違反について
一審被告A14が9月30日取締役会までに受領した資料は,本件レターⅠ~Ⅲの英文部分と一審被告A4が平成23年9月24日及び同月25日にBに宛てて送信した英文の電子メールを印刷したもののみである。上記レターの日本語訳は受け取っておらず,本件レターⅣ及びⅤについては,英文部分及び日本語訳ともに受け取っていない。Bからは,9月30日取締役会までに上記英文部分の確認を求めるとの説明はなく,これらの資料が送付されてきたのも9月30日取締役会の直前である同月27日であったため,社外取締役であり一審原告会社以外にも職務を有する一審被告A14は,9月30日取締役会の時点において,本件レターⅠ~Ⅴの内容を把握していなかった。
そして,一審被告A14は,9月30日取締役会において,Bが,FACTAの記事を基に何らかの疑念を抱いていたようであったが,同人の発言から,疑念は解消され,前向きに経営に取り組んでいく姿勢を表明したものと理解した。
9月30日取締役会の時点で,一審被告A14において関与者らによる違法行為の存在が明確になっていたとはいえず,一審被告A14に善管注意義務違反行為があるとする一審原告株主の主張は,その前提を欠く。
(ウ) 10月14日取締役会における善管注意義務違反について
一審被告A14は,PwC中間報告書を受領していない。一審被告A14は,平成23年10月13日にK弁護士の事務所に赴いた際,PwC中間報告書の存在を認識したが,現物を見せられたわけではなく,何ら不適切な行為の存在を認めるものでないことを教示されたにすぎない。また,一審被告A14は,一審被告A5から,Bは,他の取締役の担当人事に介入したり,独断的な発言や行動が多く,経営者としての資質に欠けるためBを解職したい旨の提案があり,一審被告A14も,BのCEO就任に違和感を感じていた上,他の常勤取締役らからも不満が述べられていたことなどから,解任に賛成することとした。
一審被告A14は,一審被告A5らが違法行為に関与している可能性があるなどと認識し得なかったし,B解任が違法行為の隠蔽にあるなどと認識する由もなかった。
一審被告A14は,B解任とは別にPwC中間報告書において疑義を排除できないとされているのであれば,いずれにせよ調査をした方がよいと考え,他の取締役とともに第三者委員会設置の準備を勧めたのであって,取締役としての善管注意義務・調査義務を果たしている。
イ 損害の発生及び因果関係について
(ア) 一審原告会社において,一審被告A5らにより,長年にわたって巨額の損失隠しが行われていた以上,これについて適切に真相究明を行い,かつ,第三者に対して説明責任を果たすためには,単なる内部調査では足りず,外部の委員会による調査を行うことは不可欠である。各外部委員会はB解職の有無にかかわらず設置されるべきものであるから,一審被告A14の善管注意義務違反行為と各外部委員会の費用の出捐との間には条件関係を欠き,相当因果関係も認められない。
(イ) 本件和解金の支払につき,Bによる英国労働審判の申立内容,同審判の審理及び和解協議の内容や経過等が明らかにならない限り,一審被告A14の善管注意義務違反行為と本件和解金の支払との間に相当因果関係があるとはいえない。
(ウ) 一審原告会社の株価の下落を含む信用失墜は,一審被告A5らによる長年の巨額な損失隠しが原因であるから,一審被告A14の善管注意義務違反行為との間に相当因果関係は認められない。
(一審被告A15及び一審被告A16の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 善管注意義務としての調査義務について
違法行為の存在が明らかとまではいえない場合に,他の取締役に調査義務が発生するのか,発生するとして具体的にどのような状況において調査義務が発生するのかは,ケースバイケースである。具体的な法令違反の有無が問題になる場合とは異なり,過去における経営判断が問題とされる場合には,価値判断が介在するものであるから,どのように調査を進めるかも高度な経営判断事項であり,取締役に一定の裁量があり,調査義務が容易に観念されるわけではない。
(イ) Bの意図について
Bは,社長に就任したものの,一審被告A5が人事権等を有し,実権を握っていることに不満を持ち,FACTAの記事を利用して一審被告A5から実権を奪おうとしていた。平成23年9月29日の面談は,本来であれば,FACTAの記事が指摘した事項について議論がされるはずであるが,Bは,FACTAの記事を問題にすることなく,一審被告A5に対し,引退し,経営執行会議へ出席しないこと,自己がCEOに就任し,人事権を持つことなどを要求し,一審被告A5は,引退を除き,渋々その要求を受け入れた。そのため,9月30日取締役会においては,一旦「矛を収める」形にして,本件国内3社の買収及びジャイラス買収に係るFA報酬について「懸念」があるという趣旨の発言はしたものの,直ちに調査する必要がある,「懸念」を解消すべきである,取締役会として対応すべきであるといった趣旨の発言をしなかった。また,Bは,一審被告A5及び一審被告A4に辞任を要求するために,PwC中間報告書を利用した。
(ウ) 9月30日取締役会における善管注意義務違反について
本件各記事は月刊誌に掲載されたものであり,裏付けとなる客観的資料の記載もないなど,経営陣による違法行為の疑いを明確にするような内容ではなかった。また,Bからの本件各レターに対しては,一審被告A4がメールを受領する都度回答し,添付資料も送付するなどの対応をしており,その対応に不自然又は不合理な点があったわけでもなかった。これらの事情を踏まえれば,9月30日取締役会の時点で,一審被告A15及び一審被告A16にとって,経営判断に基づいて行われた本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払について,一審被告A5ら経営陣による違法行為が存在する疑いがあることが明確になっていたとはいえない。疑惑を指摘していたB自身,9月30日取締役会において,一審被告A5や一審被告A4と話し合った結果,本件各記事で指摘された内容に係る疑問が解消され,相互に建設的な理解に達したこと,今後は前向きに未来に目を向けていきたいことを述べていたのであるから,一審被告A5らの違法行為を全く認識していない一審被告A15及び一審被告A16にとっては,当該疑惑について,直ちに調査を進めなくてはならない状況ではなかったのであり,一審原告株主が主張するような義務が認められないことは明らかである。
(エ) 10月14日取締役会における善管注意義務違反について
PwC中間報告書はあくまで中間報告書にすぎず,その結論についても「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」と記載されているにすぎないから,PwC中間報告書やそれに基づくBの電子メールによる指摘をもって,10月14日取締役会の時点で,違法行為が存在する疑いが一層明確になったとか,違法行為の存在がほぼ確実な状況になったとはいえず,一審被告A15及び一審被告A16が不祥事の隠蔽を図る危険性を認識する前提を欠いている。そもそも,一審被告A15は,香港に滞在していて香港で電子メールを受信していたところ,平成23年10月13日には日本に帰国しており,PwC中間報告書を含む本件レターⅥを読んだのは,同月26日か27日頃であった。
一審被告A15は,平成23年10月13日のK弁護士の事務所における打合せには参加していない。一審被告A16は,打合せに参加したが,もともと,Bの資質に問題を感じていたため,一審被告A5からのB解職の提案に違和感はなかった。
10月14日取締役会において,一審被告A15及び一審被告A16がBの解職に賛成したのは,同人が,ヨーロッパに滞在してほとんど来日せず,他の取締役との意思疎通も不十分であり,メーカーとして重要な製造工場を視察しないなど製造現場を軽視し,研究開発費の削減を目的とした研究テーマの見直しを独断で進めるなどその経営等の進め方が独断専行的で,本件についても,独断でPwCに対して社内秘の資料を送付するなどした上,役員全員に対し,外部機関によるPwC中間報告書を一方的に送付して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を迫るなど,他の経営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離を生じ,経営の意思決定に支障を来す状態に陥っていると判断したためである。
このように,一審被告A15及び一審被告A16は,一審被告A5らが違法行為を隠蔽する目的でBの解職を提案したことを認識することはできなかった。
(オ) 調査義務の履行
一審被告A15及び一審被告A16は,Bが指摘する疑惑について,違法行為が存在するとまでは考えなかったものの,その解明のために何らかの調査等を行う必要があるとは認識しており,現に,平成23年10月21日に本件第三者委員会を立ち上げることを公表し,同年11月1日には本件第三者委員会を設置して疑惑についての調査を委託し全容を明らかにしたのであるから,調査義務を果たしたものであって,一審被告A5らによる違法行為を黙認ないし放置したことにはならないし,これに加担したことにもならない。
イ 損害の発生及び因果関係について
(ア) 本件第三者委員会,取締役責任調査委員会及び監査役等責任調査委員会は,一審被告A5らが損失隠しのために違法行為を行ったことを原因又は契機として設置されたものであるから,一審被告A15及び一審被告A16の善管注意義務違反行為とこれらの委員会費用の出捐との間には,相当因果関係がない。また,経営改革委員会は,一審被告A5らの違法行為を受けて再発防止策の策定等を目的として設置されたものであり,一審原告株主が主張する善管注意義務違反行為とは全く関係がない。
(イ) 本件和解の合意は,Bが不当に役職から解職されたことを認めた上でされたものではなく,また,英国の裁判所が,同人が不当に役職から解職されたと認定したわけでもないから,一審原告株主が主張する善管注意義務違反行為と本件和解金の支払との間には相当因果関係がない。
(ウ) 一審原告株主が主張する信用失墜による損害は,極めて抽象的・多義的な主観的評価(印象論)にすぎない。また,株価の下落は株主に発生した損害であって,一審原告会社に発生した損害ではない。
⑹  抗弁
ア 消滅時効(第1類型)
(一審被告A6らの主張)
一審原告会社の承継前一審被告A1に対する第1事件に係る訴訟提起は,平成24年1月8日にされているため,承継前一審被告A1は,同年3月1日の原審口頭弁論期日において,平成14年1月8日より前の取締役としての行為を理由とする善管注意義務違反による損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(一審被告A2の主張)
一審被告A2は,平成26年2月6日の原審口頭弁論期日において,支払日から10年を経過している本件金利及び本件ファンド運用手数料等に係る損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(一審原告らの主張)
いずれも争う。
イ 信義則ないし過失相殺(第1類型,第6類型及び第7類型)
(一審被告A3の主張)
(ア) 一審原告会社における損失隠しは,昭和62年10月のいわゆるブラックマンデーを機に株価が大暴落した際から始まるが,これは当時社長であった承継前一審被告A1及び経理部門の担当役員であった一審被告A2の指示によるものであり,その後,平成2年頃からのバブル経済の崩壊により一審原告会社が運用していた金融商品に多額の含み損が生じ,平成4年には約480億円もの多額の損失が生じたが,承継前一審被告A1は,一審被告A3らに対し,同年3月期の決算において損失を表に出さずに処理するように指示した。その後,平成5年6月に一審被告A2が社長になったが,承継前一審被告A1の方針を踏襲し,損失は開示されず,平成8年8月には損失は約900億円に達したが,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,一審被告A3らに対し,損失を開示しないように指示した。平成13年6月には一審被告A5が社長に就任したが,承継前一審被告A1及び一審被告A2の方針を踏襲し,損失の開示がされないまま経過した。
一審被告A3は,この間,歴代社長らに対し,損失の開示を進言したが,社長らは,これを拒絶した。すなわち,一審被告A3は,①平成4年1月頃,一審原告会社の実現損及び含み損が合わせて約480億円に達していたことから,承継前一審被告A1及び一審被告A2に対し,損失を開示すべきことを進言したが,承継前一審被告A1から,開示することは不可能であるなどと言われ,損失を開示しない方針が維持され,②その後も,承継前一審被告A1の指示で損失を開示しない方針が採られたが,積極的な資金運用を行って損失を取り戻そうとする承継前一審被告A1の方針が損失を増大させるのみであったことから,総務・財務部長に就任した平成9年4月頃,承継前一審被告A1及び一審被告A2に対し,積極的な資金運用を停止すべき旨を進言したところ,同人らがこれを容れて,積極的な資金運用は停止されることとなったものの,損失を開示することについては拒絶され,③平成12年3月期の決算時にも承継前一審被告A1及び一審被告A2に対し,損失を全部開示すべき旨を進言し,④一審被告A5が代表取締役に就任した後には,同人に対しても損失の開示について第三者に相談するよう進言したが,一審被告A5らから拒絶された。一審原告会社が平成23年11月に損失を開示したのも,一審被告A3が一審被告A5を強く説得してようやくこれに踏み切らせたためである。
仮に,一審原告会社に損害が発生したとしても,かかる損害を発生・拡大させたことは専ら一審原告会社の社長及び会長を長年にわたって務めていた承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の指示及び決定によるものであった。一審被告A3は,損失を開示するよう度々進言したが,拒絶されたため,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の意向に従わざるを得なかったのであり,当時は内部告発者を保護する法的環境も未整備で,仮に内部告発を行えば一審原告会社を倒産させるのみならず,一審被告A3自身も職を失って家族を路頭に迷わせるおそれが高かったために内部告発をすることも困難であった。一審原告会社の請求は,自ら損失隠しを決定し,そのための対応を一審被告A3に指示しておきながら,いざ損失隠しが露見するや,そのことによって被ったとする損害を一審被告A3に請求するものであり,クリーンハンズの原則に反する。
仮にそうでないとしても,公平の観点から,過失相殺規定の類推適用により,賠償額は大幅に減額されるべきである。
(イ) 一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
(ア) 一審被告A4は,昭和62年に一審原告会社に入社し,資金運用業務に携わることになり,直属の上司であった一審被告A3の指示のもと損失隠しに関与するようになった。
一審被告A4は,含み損を損失として表に出したいという考えを持ち,機会があるごとに,少なくとも,決算の度に,上司である一審被告A3に伝えていたが,意見を同じくする一審被告A3が,当時の社長らに対し,損失の開示を進言したものの,拒絶され,損失の開示がされないまま経過した。
使用者が,その事業の執行につきされた被用者の加害行為により損害を被った場合においては,使用者は,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して損害賠償請求を行い得ると解されている。このように,使用者に故意・過失がない場合においても,使用者の被用者に対する損害賠償請求が制限されていることからすると,被用者が使用者の違法な指示に従った行為について,使用者が損害賠償請求をすることは,それ自体信義則に反し,許されないというべきである。一審被告A4は,一審原告会社としての意思決定に基づく指示に従って,損失分離スキームの構築・維持等に関与したのであるから,一審原告会社の責任を棚上げにして一審被告A4に巨額の責任を負わせることは,信義則に反し,許されない。
仮に,一審被告A4に何らかの責任が認められるとしても,一審被告A4の責任原因とされる行為は,いずれも一審原告会社の代表取締役であった承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の意思決定や指示に基づいて行われたものであり,歴代の経営者がしてきたことを継承する以上に,会社側の体質に起因するところが大きい。したがって,一審原告らの一審被告A4に対する請求は,過失相殺規定の類推適用により,賠償すべき損害額は大幅に減額されるべきである。
(イ) 一審被告A3の主張を援用する。
(一審原告らの主張)
(ア) 信義則に関する主張について
損失分離スキームの構築・維持等に始まる一連の行為は,一審原告会社の限られた取締役や従業員のみによって計画・実行されたものであり,正式な機関決定の上でされたものではないし,仮に歴代の代表取締役の決定や指示があったとしても,一審原告会社の決定・指示と同視し得るものでもない。一審被告A3及び一審被告A4は,単に承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の決定・指示に従っていただけの消極的な立場にあったのではなく,むしろ,これらの歴代の代表取締役の了承の下,損失分離スキームの構築から解消に至るまで極めて長期間にわたり,様々な方策を策定・実行するなどして,一連の行為に積極的に関与し続けてきた者である。取締役は自ら法令を遵守するだけでなく,代表取締役の決定・指示が取締役としての善管注意義務に違反するようなものである場合には,これを是正するための措置を採るべきことは当然である。一審被告A3及び一審被告A4は,およそクリーンハンズの原則に反するなどと主張できる立場にはなく,また,同人らに対する請求が信義則上制限されることもない。
(イ) 過失相殺の主張について
前記(ア)のとおり,一審被告A3及び一審被告A4は,歴代の代表取締役の了承の下,損失分離スキームの構築から解消に至るまでの極めて長期間にわたり,積極的に関与し続けた者である。一審被告A3及び一審被告A4は,損失隠しという違法行為を行うことについて明確な目的を持って一連の善管注意義務違反行為を行ったのであり,そのような一審被告らが過失相殺規定の類推適用を主張することこそ,公平の観点から許されないというべきである。
ウ 権利の濫用等(第6類型)
(一審被告A4の主張)
(ア) 一審原告会社は,本件剰余金の配当等の後も破綻することはなく,現在では訂正後の決算内容を前提として単体での分配可能額はゼロを上回り,剰余金の配当も行っている。現在の分配可能額の状況からみれば,分配可能額の範囲内で剰余金の配当等が行われたのと同じ結果になっているにすぎず,これによって債権者にも一審原告会社にも実質的な不利益を与えるものではない。それにもかかわらず,本件剰余金の配当等によって流出した金銭を役員に弁済させた場合には,一審原告会社が不当に利得することになる。
また,企業の実質的な財産状態は連結ベースの財産状態であるところ,本件剰余金の配当等が行われた当時,連結貸借対照表に基づいて分配可能額を計算すると分配可能額は十分にあった。仮に,当時,虚偽記載のない決算をしていた場合には,子会社から配当金を受領して単体ベースでの分配可能額を十分な額にした上で,剰余金の配当等をしていたはずであって,いずれにせよ剰余金の配当等は行われていたはずである。本件剰余金の配当等は,会社の実質的な財産状態を不当に悪化させたものではなく,単に,子会社からの配当受領額の増加のための手続を履践しなかったという手続的な瑕疵にすぎない。
以上によれば,一審原告らの会社法462条に基づく請求は,権利の濫用として許されないというべきである。
(イ) 一審被告A3の主張を援用する。
(一審被告A3の主張)
(ア) 一審原告会社の株主らは,本来受領することがなかった分配可能額を超える剰余金の分配に与り,他方で,一審被告A3から分配可能額を超える額を回収することができることになり,実質的に,一審原告会社が原資を負担することなく,分配可能額を超える剰余金の配当等がされたことになる。分配可能額を超える剰余金の配当等を行った責任を一審被告A3に負わせるのは著しく公平に反する。
(イ) 一審被告A4の主張を援用する。
(一審原告らの主張)
会社法462条の金銭支払義務は,「剰余金の配当が効力を生ずる日における分配可能額」を超えた配当がされたことについての責任であって,仮に事後的に分配可能額が回復したとしても,前記責任の消長とは全く関係がないし,その責任を追及することが権利濫用になるわけでもない。また,同条は,分配可能額の算定を単体ベースで行うことを前提としており,連結に関する調整は,会社計算規則158条4号の定める限りに留めているのであって,連結貸借対照表に基づいて分配可能額を計算すると分配可能額は十分にあったという一審被告A3の主張自体,失当である。
エ 損益相殺
(一審被告A4の主張)
一審原告会社は,一審被告A4の妻Lを被告として,分配可能額を超えた剰余金の配当等による責任に係る金銭支払請求権を被保全債権として詐害行為取消請求事件を提起し(横浜地方裁判所川崎支部平成25年(ワ)第936号。以下「別件詐害行為取消訴訟」という。),別件詐害行為取消訴訟において,平成26年9月29日,一審原告会社に対し,和解金として,Lが50万円,一審被告A4が250万円をそれぞれ支払うことを内容とする和解が成立し(乙E2),全額履行された。同額については,損益相殺により控除されるべきである。
(一審原告会社の主張)
別件詐害行為取消訴訟の和解において,合計300万円の支払を受けたことは認める。これが損益相殺の要件を満たすかどうかは措き,上記300万円を損害から控除することは争わない。
理由

第3  当裁判所の判断
1  第1類型(金利・運用手数料関係)について
⑴  認定事実(損失分離スキームの構築・維持及び解消等)
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
ア 積極的な資金運用等による損失(含み損)の拡大
(ア) 昭和60年当時,為替相場は急速に円高が進んでいたところ,一審原告会社においては,国内で製造したカメラ,顕微鏡及び内視鏡等を欧米に輸出していたことから,円高による収益圧迫が深刻な状況となっていた。そのような中,昭和59年に一審原告会社の社長に就任した承継前一審被告A1は,営業外収益を獲得するために証券投資等を積極的に行っていく方針を打ち立て,国債や公社債等による資金運用に加え,特定金銭信託(投資家が信託銀行に対して金銭を信託し,運用指図をして有価証券への運用等を行わせ,信託契約終了時に金銭で信託財産の償還を受けるもの。)及び特定金外信託(信託で運用を行う点は特定金銭信託と同様だが,信託契約終了時の信託財産の償還を現状で受け取るもの。以下,特定金銭信託と併せて「特金等」という。)等の運用割合が多くを占めるようになった。(甲Aキ9の1,12の1,13の1)
(イ) 平成2年には,株式相場の大幅な下落によって一審原告会社が特金等で運用していた株式等が多額の含み損を抱えることとなったが,承継前一審被告A1は,当該損失を決算において公表しないこととする旨の判断をし,一審原告会社の経理部財務グループに対してその旨を指示した。
これを受けて,一審原告会社は,①バスケット方式原価法(特金等内の財産をまとめて1つとみなし,その期末時点の時価が取得価格の50パーセントを下回る場合には時価で評価しなければならないものの,これを下回らない場合には簿価たる取得価格で評価できる方法)を採用して特金等に現金を預け入れることで,特金等内の資産の簿価が50パーセントを上回るようにする方法や,②決算期末前に,含み損を抱えた金融商品を一審原告会社が買い戻す合意をして証券会社等に購入させ,期末後に買い戻すなどの方法(いわゆる「飛ばし」行為)を用いて,含み損の全てを財務諸表に計上せず,過小に計上する処理を行った。
(甲Aキ7,12の1,13の1)
(ウ) 承継前一審被告A1及び当時専務取締役であった一審被告A2は,平成4年1月頃,経理部財務グループに対し,当期の決算数値のまとめ方と損失の回復方法を検討するよう指示し,これを受けて,平成元年から経理部財務グループのグループリーダーを務めていた一審被告A3は,部下であった一審被告A4及びCとともに,平成4年1月20日付け「運用状況と決算数値について」と題する文書を作成し,承継前一審被告A1及び一審被告A2に提出・報告した。当該文書には,一審原告会社の抱える損失が480億円(実現損250億円,評価・含み損230億円)であること,長期保有株の一部を海外へ移管し,表向きは将来的にアジア地区の資金・為替コントロールの中枢を担うことを理由として,金融子会社(OAM)を設立すべきことなどが記載されていた。(甲Aキ12の1(特に,添付資料2を参照。以下,同様の意味で「〈添付資料2〉」などと表記する。),13の1,原審における一審被告A3本人)
(エ) 一審原告会社は,平成4年以降,決算において利益を計上するとともに損失の回復を狙うため,購入時点で利益を受け取ることができる仕組債やスワップ等を購入したものの,これらの資金運用による損失額は拡大の一途を辿り,平成8年夏頃には資金運用による含み損が約900億円に達していた。
同年頃一審原告会社の社長であった一審被告A2は,経理部財務グループに対して損失回復のための方策を検討するよう指示したところ,一審被告A3は,一審被告A4及びCとともに,同年8月5日付け「運用ポートフォリオ回復案」と題する文書を作成し,一審被告A2及びその頃一審原告会社の会長であった承継前一審被告A1に対して報告した。当該文書には,一審原告会社の抱える損失が902億円であること,そのうち450億円を回復目標額として具体的な損失解消案を実行することなどが記載されていた。
(甲Aキ12の2〈添付資料1〉,13の2,原審における一審被告A3本人)
イ CFC及びQPの設立と損失の計上
(ア) 一審原告会社は,前記ア記載のとおり,含み損を抱えた金融商品を期末に証券会社等に一時的に買い取らせ,その後買い戻す手法等を用いて損失を隠していたが,平成7年頃には,そのような手法に協力してくれる証券会社が徐々に減少する状況となっていた。
そこで,一審被告A3は,ペインウェーバー証券のM及びNに対し,決算対策商品による損失を一審原告会社の決算に反映させずに損失を回復する方法を相談したところ,同人らから,ケイマン諸島籍の簿外のファンドを作り,そこに含み損を抱えた金融商品を移す方法を提案された。一審被告A3は,一審被告A2の了承を得て,Mらの協力の下,メディアトラストと称するケイマン諸島籍の多数のファンドを設立するとともに,平成8年1月25日には,一審被告A3,一審被告A4及びCを役員とするCFCを設立した上,一審原告会社ないしその子会社であるOAMが特金等内で保有していた債券をCFCに貸し付け,それをCFCが売却して作った資金を使用して,一審原告会社がペインウェーバー証券から購入した決算対策商品をメディアトラストに組み替えた。
一審被告A3は,メディアトラスト内の資産の運用をM及びNが設立したAXESグループに委託して損失の解消を図ったが,結局,これを実現することができず,メディアトラストが抱えていた含み損をCFCに付け替え,CFCにおいて損失を計上した。
(甲Aキ9の3・4,12の2〈添付資料2〉,13の2)
(イ) また,一審被告A3は,平成9年3月頃,330億円の含み損を抱えていたパリバ証券の仕組債を簿外のファンドに簿価で買い取らせてそこで損失を計上させるため,一審被告A2の了承を得た上,一審被告A4とともにQPを設立し,一審原告会社からQPに対して流した資金により,QPが当該仕組債を簿価で買い取り,これをパリバ証券に対して時価で売却することにより,QPにおいて損失を計上した(甲Aキ10,12の2,13の4)。
ウ LGT銀行を介した損失分離スキームの構築等
(ア) 一審被告A3は,平成9年4月一審原告会社の総務・財務部長に就任し,秘密保持の徹底している外国の銀行に一審原告会社の口座を開設し,当該銀行に預け入れた預金を担保にCFC等に融資をしてもらうことにより,一審原告会社とCFC等との関係を切り離すことが望ましいと考え,一審被告A2に対してその旨を説明して,その了承を得た。
一審被告A3は,野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)に勤務していたOから,リヒテンシュタインに本店を置くLGT銀行のPの紹介を受け,平成10年3月23日,LGT銀行に一審原告会社及びOAMの名義の各預金口座を開設した。その際,一審原告会社の預金口座開設申請書には一審被告A2が一審原告会社の代表者として署名し,同時に,当該口座に関する署名権者を,一審被告A3,一審被告A4及びCと定めてLGT銀行に通知した。また,一審原告会社及びOAMは,同日,一審原告会社及びOAMの名義の各預金口座内の資産全てについて,CFCのために担保権を設定する旨の契約を締結したが,当該担保権設定契約において署名権者として署名したのは,一審原告会社については一審被告A3であり,OAMについてはCであった。
LGT銀行は,その後,上記担保権設定契約が締結されたことを受けて,CFCに対し,平成10年3月27日180億円,同年8月6日120億円をそれぞれ貸し付けた。
(甲Aキ3の7〈添付資料4,5〉,8の3〈添付資料1-1~1-3〉,12の3〈添付資料2,3〉,13の10,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(イ) 一審原告会社及びOAMは,LGT銀行による融資を延長してもらうため,平成15年7月14日,LGT銀行との間で包括的な担保権設定契約を締結したが,これらの契約においては,一審被告A2が一審原告会社の代表者として,一審被告A3がOAMの代表者として,それぞれ署名した。その際,LGT銀行から,一審原告会社及びOAMの取締役会議事録の提出を求められたが,LGT銀行との取引は損失分離スキームの構築・維持のための預金取引であって取締役会に諮ることができなかったことから,これに代わるものとして,一審原告会社は同社の取締役会の意思と一致する旨が記載された一審被告A2及び一審被告A5の署名のある宣誓書を提出し,OAMも,同旨の記載がある一審被告A3の署名のある宣誓書を提出した。(甲Aキ13の10〈添付資料4~7〉,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
エ コメルツ銀行等を介した損失分離スキームの構築等
(ア)a 一審原告会社は,平成9年頃,同社の監査を担当していた朝日監査法人から,近い将来,時価会計制度が導入される旨の情報提供を受けていたところ,平成10年5月29日,同監査法人から,同年3月期の監査概要報告書において,バスケット方式原価法を採用している特定金外信託について,今後の金融商品に対する時価会計導入の影響を含めて対処を検討する必要がある旨の指摘を受けた。また,同年6月頃,一審原告会社が財テクの失敗で巨額の損失を抱えている旨が新聞で報じられて一審原告会社の株価が急落したことを契機として,同年7月,同監査法人から,一審原告会社の資金運用に特化して行われた監査の結果として,時価会計導入を踏まえて特金等の解約を検討するよう要請された。
そこで,一審被告A3は,一審被告A4及びCとともに,朝日監査法人からの上記要請への対処方針を検討し,同要請を受け入れて平成13年3月期までに特金等を解約する(朝日監査法人に対しては,特金等の解約を目指す旨回答した。)とともに,それまでの間に新たな資金注入のためのスキームとして,LGT銀行以外の金融機関を介した損失分離スキームの手法を開拓することとした。
そして,一審被告A3は,一審被告A2に報告してその了承を得た上で,Mを介してコメルツ銀行のQと面会し,平成11年9月頃,コメルツ銀行シンガポール支店との間で,一審原告会社名義の預金口座を開設する契約を締結し,一審被告A4とともに,当該預金口座に,同年10月6日2億0100万ドル,同年12月27日1億0100万ドルをそれぞれ入金し,この預金を担保にして,Qが設立したファンドである Hillmore に対して約300億円の融資を受け,この資金をM及びNが設立した21C等の受け皿ファンド等に送金した。
さらに,一審被告A3及び一審被告A4は,平成12年6月22日,コメルツ銀行の預金口座に150億円を入金し,この預金を担保にして,Hillmore に対して149億円の融資を受け,これも受け皿ファンド等に送金した。
(甲Aキ3の8〈添付資料1,3,6,7〉,9の4,9の10,9の12,9の13,12の5〈添付資料1,3,6の1・2〉,13の3〈添付資料1,2〉)
b 一審原告会社の決算内訳書におけるコメルツ銀行への定期預金額は,第132期事業年度(平成11年4月1日から平成12年3月31日まで)が306億1825万円,第133期事業年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)が150億0001万2778円であった(甲Aイ14の1・2)。
(イ)a Qは,平成12年秋頃,勤務先をコメルツ銀行からSG銀行シンガポール支店に変えたため,一審被告A3及び一審被告A4は,コメルツ銀行を介した損失分離スキームをSG銀行に移すことを企図し,Hillmore においてコメルツ銀行に対して借入金を返済し,一審原告会社において預金の担保解除及びその払戻しを受け,当該資金を原資として,SG銀行の一審原告会社名義の預金口座に,平成12年12月4日200億円,平成13年2月21日100億円,同年6月11日150億円をそれぞれ入金した。さらに,一審被告A3及び一審被告A4は,平成15年10月22日,同預金口座に100億円を入金した。
Qが設立した Easterside は,これらの預金を担保として,預金額とほぼ同額の約550億円の融資を受け,21C等の受け皿ファンド等に当該資金を送金した。
(甲Aキ3の8,13の17〈添付資料6,7〉)
b 一審原告会社の決算内訳書におけるSG銀行への預金額は,①第133期(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)が300億0005万5556円,②第134期(平成13年4月1日から平成14年3月31日まで)が450億円,③第135期(平成14年4月1日から平成15年3月31日まで)が450億円,④第136期(平成15年4月1日から平成16年3月31日まで)が450億円であった(甲Aイ14の2~5)。
(ウ) Qは,平成17年,SG銀行を退職して投資顧問会社を経営することになったため,一審被告A3及び一審被告A4は,Qの会社が運営するSGボンドに対して資金を出資し,これを通じて受け皿ファンド等に資金を流す方法に切り替えることを企図し,SGボンドにおいて一審原告会社から出資を受けた資金で債券を購入し,Easterside において,当該債券を借り受けて売却により資金化し,SG銀行に対して借入金を返済した。
その過程で,一審原告会社は,SGボンドに対し,平成17年2月4日100億円,同月15日50億円,同月17日200億円,同月18日100億円,同月22日150億円(合計600億円)をそれぞれ出資した(甲Aキ3の8,13の17〈添付資料9〉)。
オ GCNVVを介した損失分離スキームの構築等
(ア) 一審原告会社は,平成11年9月頃,特金等の口座の中で保有していたシュローダー証券取扱いの仕組債を一時的に「飛ばす」ため,買戻しの合意をした上で金融機関に簿価で買い取らせたが,これが朝日監査法人に発覚し,同監査法人から当該仕組債を買い戻すよう要求された。さらに,一審原告会社は,朝日監査法人から,平成11年9月期中間決算において,特金等内の金融資産を時価評価し,損失相当額を引当金計上するとともに,(従前の要請を1年前倒しして)平成12年3月期までに特金等を解約するよう指導を受けた。
一審被告A3は,一審被告A4及びCと相談の上,一審被告A2に対し,この機会に一審原告会社が簿外に抱えている全ての損失を公表することを提案したが,一審被告A2から,監査法人に把握されて指導を受けた限度で損失を公表し引当金を計上するようにとの指示を受けたため,結局,一審原告会社は,一審被告A2の方針に従い,平成11年9月期中間決算において,朝日監査法人が把握した金融資産に限定して時価評価を行い,約168億円の引当金を計上した。
そのため,平成11年10月27日付けで,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5は,それぞれ報酬の減額処分を受け,一審被告A3は,減給処分を受けた。
(甲Aキ7,9の10,9の13,12の6〈添付資料1の1・2〉,13の11,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(イ) 一審原告会社は,既にCFC及びQPを設立してこれに資金を送金する損失分離スキームを構築・維持していたが,監査法人の指導に従い平成12年3月期に前倒しして特金等を解約するためには,これまでのスキームに加えて,受け皿ファンド等に資金を流すルートを設ける必要が生じた。
一審被告A3は,一審被告A4及びCとともに,既に野村證券を退職して株式会社グローバルカンパニー(以下「グローバルカンパニー」という。)を設立していたOに相談したところ,同人から,一審原告会社において,①LGT銀行が設定するファンドである PS Global Investable Markets を購入し,これを担保にLGT銀行から資金を借りてCFCに送金する方法や,②資金を出資して事業投資ファンドを組成し,グローバルカンパニーがファンドマネージャーとなって,新規事業の発掘・育成等を行う方法が提案された。Oは,②の方法を用いれば,資金を受け皿ファンド等に回すことが容易となるだけでなく,新たなベンチャー企業を発掘して上場させることでキャピタルゲインを取得して損失を取り戻すこともできるなどと説明した。
一審被告A3,一審被告A4及びCらは,Oと協議を重ねた結果,平成12年1月,LGT銀行の設定するファンドの購入及び事業投資ファンド設立のスキームの大枠が固まったことから,一審原告会社の経営会議及び取締役会に諮るべく,承継前一審被告A1に対しては一審被告A3において,一審被告A2及び一審被告A5に対しては一審被告A3及び一審被告A4において,一審原告会社が抱えている簿外の損失の状況や,LGT銀行のファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を損失分離スキームに利用することなどを説明した。
(甲Aキ9の13,9の14,12の6,13の14,13の15,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(ウ) 一審原告会社の第787回取締役会は,平成12年1月28日,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5を始めとする一審原告会社の取締役らが出席して開催され,LGT銀行のファンドの購入及び新規の事業投資ファンドの設定が議案として上程されて,一審被告A5及び一審被告A4が投資の必要性や事業投資ファンド設立の目的を説明し,全員異議なく了承された。
その後,一審原告会社は,LGT銀行との交渉の結果,PS Global Investable Markets ではなく,一審原告会社の英語の頭文字を名称に冠した一審原告会社独自のクラスファンドである PS Global Investable Markets-O(GIM)に出資することとなり,平成12年3月17日,一審原告会社が150億円,OAMが200億円(合計350億円)をLGT銀行に出資してこれを購入した。
(甲Aキ3の10〈添付資料6,7〉,9の14,12の6〈添付資料2-1・2〉,13の15,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(エ) 一審原告会社は,平成12年3月1日,M及びNが設立した Genesis Venture Capital Series Ltd.(以下「GV」という。),及びOが設立した GCI Cayman との間で,一審原告会社及びGVをリミテッドパートナー,GCI Cayman をジェネラルパートナーとする事業投資ファンド組成契約を締結し,一審原告会社が300億円,GVが50億円,GCICayman が1億円をそれぞれ出資して,GCNVVを設立した(なお,GVの出資金50億円は,一審原告会社がCFCを経由してGVに送金した資金であり,GCI Cayman の出資金1億円は,同社に対する運用報酬と相殺したため,GCI Cayman から現実に拠出された資金はなかった。)。
(甲Aキ9の13,9の14,13の15〈添付資料5〉,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(オ) 一審被告A3,一審被告A4及びCは,Oらと相談の上,LGT-GIMに出資した350億円のうち,310億円を受け皿ファンド等であるTEAOに貸し付けるとともに,そこから300億円を出資してNeoを設立する(GCI Cayman がNeoの資金移動権限を持つジェネラルパートナーに就任する。)こととし,その旨実行された。Neoに出資された資金は,平成12年3月23日ITVに対して101億1515万円が送金され,同月24日QPに対して194億円が送金された。
(甲Aキ3の10〈添付資料8,9〉,12の7)
(カ) 一審被告A4は,QPの債券を購入する名目で,ジェネラルパートナーである GCI Cayman のO,R及びSに依頼して,GCNVVにおいて,平成12年3月17日出資された金銭のうち320億円をQPに送金するとともに,同月28日QPの債券を購入し,QPにおいて,一審原告会社から借り受けていた国債を一審原告会社に返還した。その後,平成17年まで,GCNVVの決算期に向けた監査法人対策としてQPからGCNVVへ債券の償還名目で資金を戻し,その目的を達成するとGCNVVからQPに再び資金を移動するという行為を繰り返した。
その後,平成18年3月頃,本件国内3社の株式を実際の価値よりも高値で取得することを利用してGCNVVとQPとの間の債権債務関係を解消することとし,QPがGCNVVに対し,その当時の残債務である240億円を全て返済してこれを解消した。
(甲Aキ3の13〈添付資料1~8〉)
カ 損失分離状態の報告
一審原告会社においては,金融商品への投資により損失を抱えるようになった平成2年頃以降,承継前一審被告A1及び一審被告A2に対し(一審被告A5に対しても,遅くとも同人が一審原告会社の社長に就任した平成13年6月以降),概ね半期に一度,定期的に,一審原告会社の抱えていた簿外の損失の額やその対策等についての報告が行われていた。当該報告は,一審被告A4,Cないし損失分離スキームの構築・維持等に必要な事務作業を行っていたTが作成した資料に基づいて,一審被告A3が行うのが通例であり,必要に応じて,一審被告A4,C及びTが立ち会って補足説明をしていた(例えば,平成15年9月12日付けで財務部が作成した「135PB運用報告」と題する資料(甲Aイ8の1)には,宛先として「A1取締役殿」,「A2会長殿」,「A5社長殿」等とされており,135期下期(平成14年10月から平成15年3月まで)の期末である平成15年3月末時点における一審原告会社の損失額が1176億6000万円であること,対前期比で損失が8億0600万円増加したことなどが記載されていたが,一審被告A3は,一審被告A4及びCとともに,当該資料を用いて,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5に対し,その記載に沿った説明をした。)。
(甲Aイ8の1,キ3の11〈添付資料3〉,3の17,12の8,13の18,原審における証人T,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
キ 損失分離スキームの維持に伴う本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払
(ア) 前記ウ(ア)記載のとおり,CFCは,LGT銀行から300億円の融資を受け,平成13年7月以降,利息等の名目で,別紙11の「①CFCのLGT銀行への本件金利の支払」の各「日付」欄記載の日に,各「支払額」欄記載の金員を支払った(甲Aキ3の18の1,3の18の2〈添付資料5〉)。
(イ) SG銀行が Easterside に宛てて送付した契約条件の確認書面によれば,SG銀行の Easterside に対する貸付けの利率は,別紙11の「②Easterside に対する貸付けの利率」記載のとおりであった(甲Aイ15の1~5)。
(ウ) LGT-GIMが,その資産を運用することに伴い,同資産からLGT銀行に対して支払う年間のファンド運用手数料は,各年末のファンドの総資産価値の1.5パーセントと約定されていた。そして,LGT-GIMの各年末における総資産価値は,①平成13年末が355億8318万9504円,②平成14年末が358億0870万9552円,③平成15年末が360億3974万8379円,④平成16年末が362億7438万4959円,⑤平成17年末が365億5933万6382円,⑥平成18年末が368億2679万4646円,⑦平成19年末が370億6305万5830円であった。(甲Aキ3の18の1〈添付資料2〉,3の18の2〈添付資料4〉)
(エ) SGボンドは,そのファンド運用手数料等として,Qの経営する会社に対し,別紙12の「①SGボンド運用手数料等」記載のとおり,合計6億7656万1796円を支払った(甲Aキ3の18の1〈添付資料6〉)。
(オ) Neoは,GCI Cayman に対し,報酬として,別紙12の「②Neoから支払われた報酬」記載のとおり,合計12億8768万5775円を支払った(甲Aキ3の18の1〈添付資料1〉)。
(カ) GCNVVは,GCI Cayman に対し,報酬として,別紙12の「③GCNVVから支払われた報酬」記載のとおり,合計41億3095万3226円を支払った(甲Aキ3の18の1〈添付資料1〉)。
ク ITX株式の取得
(ア) 一審被告A3,一審被告A4及びCは,平成11年12月頃,Oから,当時の日商岩井がその情報産業部門を独立・分社化したITX株式の取得を勧められた。
一審被告A3らは,IT関連のノウハウの取得による一審原告会社の事業の改善目的のほか,将来の上場によるITX株式の値上益を一審原告会社の抱える損失の穴埋めに充てるなどの目的から,一審被告A2の了承も得て,後記のとおり,50億円分のITX株式を一審原告会社が取得し,100億円分のITX株式については,Oに依頼してLGT銀行グループが組成し管理するクラスファンドとしてITV(LGT ClassFund IT Ventures(JPY))を組成させ,ITVに取得させることとした。また,グローバル・カンパニーがLGT銀行のアドバイザーに就任して,ITVの実質的な運営者となった。
(甲Aキ8の4,9の15,12の7,13の16)
(イ) 平成12年1月28日開催された一審原告会社の経営会議における審議を経て,同日に開催された一審原告会社の第787回取締役会において,前記オ(ウ)のとおり,LGT銀行のファンドの購入及び新規の事業投資ファンドの設定が議案として審議されるとともに,ITX株式を50億円で取得する旨の議案が承認可決された(甲Aキ8の4〈添付資料1-1・2,2〉,9の15〈添付資料2〉)。
一審原告会社は,日商岩井との間で,平成12年3月31日,ITX株式4662株を50億0018万1480円で譲り受ける旨の契約を締結し,ITVは,同月28日,日商岩井との間で,ITX株式9323株を99億9929万0420円で譲り受ける旨の契約を締結した。ITVによる当該株式取得資金は,LGT銀行のNeo名義の口座からITVに出資した101億円を原資とするものであった。(甲Aキ9の15〈添付資料3~5〉,12の7〈添付資料8〉,13の16)
(ウ) その後,株式分割やITVから一審原告会社へのITX株式の譲渡を経て,最終的には,一審原告会社は,平成22年11月11日から同年12月27日までを買付期間として実施した公開買付け及び平成23年3月23日を効力発生日とする株式交換により,ITXの全株式を取得してITXを完全子会社化し,これに先立つ同月17日ITXは上場廃止となった。
ITXが株式を上場した平成13年12月から上記上場廃止の前日までのITXの株価の推移は,別紙13「ITXの株価の推移」記載のとおりである。
(甲Aイ11,16の1・2,17~21)
(エ) 一審原告会社は,平成24年8月24日,アイ・ティー・エックス株式会社(以下「新ITX」という。)を設立し,同年9月28日を効力発生日として,ITXの営む情報通信事業を含む全事業を新ITXに引き継いだ上で会社分割する旨を公表した。また,一審原告会社は,同日付けで,新ITXの発行済株式の全てをアイジェイホールディングスに530億円で譲渡する旨の契約を締結したことを公表した。(甲Aイ22)
ケ 一審原告会社による本件国内3社の株式の取得
(ア) 本件国内3社の事業内容
アルティスは,医療施設から排出される感染性廃棄物並びに事業所及び工場から排出される廃プラスチックを油化プラントで再生油等にリサイクルする事業を行う会社であり,NEWS CHEF は,電子レンジ専用調理容器や健康食・食材キットの販売等を行う会社であり,ヒューマラボは,健康食品及び化粧品の販売,担子菌及びその他の菌類の培養・研究・開発等を行う会社であった(甲Aウ1~3)。
(イ) 本件国内3社を用いた損失分離状態の解消
一審被告A3,一審被告A4及びCは,一審原告会社の新規事業の投資先として,Oから本件国内3社の紹介を受けた。一審被告A3,一審被告A4及びCは,最終的には,①Neo及びITVが安い価格で本件国内3社の株式を取得する,②本件国内3社の企業価値が著しく高くなるよう見積もった事業計画を作成する,③GCNVVがNeo及びITVから本件国内3社の株式を本来の企業価値よりも高い金額で買い取った後,一審原告会社が本件国内3社の株式を引き取り,本件国内3社を一審原告会社の子会社とする,④Neo及びITVが取得した多額の株式売却益を用いて損失分離スキームに関わる簿外ファンドに資金を環流させるなどして簿外ファンドが抱えている損失の一部を解消する,⑤一審原告会社は,本件国内3社の買取価格と企業価値との差額を多額の「のれん」として計上し,「のれん」を長期償却する方法により損失分離状態を解消することを企図し,一審被告A5の了承を得て,これを実行することとなった。(甲キA9の16,9の17,13の19,13の20)
(ウ) Neoらによる本件国内3社の株式の取得
ITVは,平成16年4月16日(増資日は同月20日),同年8月6日(増資日は同月7日),平成17年3月11日(増資日は同月14日)の3回にわたり,NEWS CHEF の株式合計2000株を合計4億円(1株当たり20万円)で,新株引受け(増資)の方法により順次取得した。
Neoは,①平成17年7月20日(増資日は同月21日),ヒューマラボの株式1200株を6000万円(1株当たり5万円)で,②同年12月13日(増資日は同月16日),アルティスの株式2880株を1億4400万円(1株当たり5万円)で,③既に NEWS CHEF の株式250株を保有していたが,同年12月,NEWS CHEF の株式2000株を4000万円(1株当たり20万円)でそれぞれ新株引受け(増資)の方法により取得した。
GCNVVは,①平成17年3月11日(増資日は同月14日),NEWS CHEF の株式1000株を2億円(1株当たり20万円)で,②同年7月20日(増資日は同月21日),ヒューマラボの株式200株を1000万円(1株当たり5万円)で,③同年12月13日(増資日は同月16日),アルティスの株式720株を3600万円(1株当たり5万円)でそれぞれ新株引受け(増資)の方法により取得した。
(甲Aウ4~7,甲Aキ9の16,13の19,甲B41)
(エ) DD及びGTによる本件国内3社の株式の取得
一審被告A3らは,Qの設立したファンドであるDDやGTにも本件国内3社の株式を購入させることとし,①DDは,平成18年3月9日,Neoからアルティスの株式530株を29億5210万円(1株当たり557万円),NEWS CHEF の株式450株を20億0250万円(1株当たり445万円)でそれぞれ購入し,②GTは,同月10日,Neoからヒューマラボの株式210株を29億6100万円(1株当たり1410万円)で購入した(甲Aキ9の16)。
(オ) GCNVVによる本件国内3社の株式の取得
平成18年3月9日に開催された一審原告会社の事業投資委員会において,Oから本件国内3社を重点的な投資先として提案するなどし,一審原告会社では,社内審査の結果,GCNVVが本件国内3社の株式を取得することになった。
一審被告A3らは,その後,Oの作成に係る事業計画を元に,平成18年3月時点における本件国内3社の売上高,営業利益及び当期純利益を別紙14の「1.平成18年3月時点における事業計画」記載のとおり見積もり,井坂公認会計士事務所により,アルティスの事業価値は204億円から370億円,NEWS CHEF の事業価値は171億円から306億円,ヒューマラボの事業価値は167億円から306億円と評価されていること(外部評価。なお,書証によって数値に変動があるが,甲Aキ9の17〈添付資料8〉の数値による。)を踏まえた上,投資に当たってのアルティスの事業価値を220億円(1株当たり579万円),NEWS CHEF の事業価値を160億円(1株当たり445万円),ヒューマラボの事業価値を230億円(1株当たり1437万5000円)とするのが妥当である旨を記載した投資提案審議資料を作成した。また,一審被告A3らは,事業投資審査委員長名義で,上記投資提案審議資料と整合する内容の同月16日付け「審査結果の報告」と題する書面(甲Aキ9の17〈添付資料8〉)を作成したが,同書面には,①アルティス株式760株を,取得金額44億0040万円(1株当たり579万円)で,② NEWS CHEF 株式400株を,取得金額17億8000万円(1株当たり445万円)で,③ヒューマラボ株式320株を,取得金額46億円(1株当たり1437万5000円)でそれぞれ取得することを承認する旨が記載されていた。(甲Aウ9,甲Aキ9の16・17,13の19〈添付資料3~5〉)
これを受けて,GCNVVは,①平成18年3月17日,ITVから,NEWS CHEF の株式400株を17億8000万円(1株当たり445万円)で,②同月23日,Neoから,アルティスの株式760株を44億0040万円(1株当たり579万円)で,③同日,Neoから,ヒューマラボの株式320株を46億円(1株当たり1437万5000円)でそれぞれ購入した(甲Aウ10,甲Aキ9の16,9の18)。
(カ) GCNVVの解散と一審原告会社による本件国内3社の株式の取得
平成19年3月期から事業投資ファンドに関する会計処理が変更となり,GCNVV及びその主要な投資先については持分法を適用して連結決算に組み込まれるようになったことを契機として,一審原告会社及びGCI Cayman は,同年9月21日,GCNVVの組成契約を中途解約し,これにより,GCNVVは解散した。
一審原告会社は,GCNVVの解散に伴い,GCNVVが保有していた本件国内3社の株式を現物で取得し,これら株式は,一審原告会社の連結貸借対照表において,GCNVVが上記平成18年の売買の際に取得した価格(簿価)で資産として計上された。
これにより,損失分離スキームのうち,GCNVVとQPとの間の貸借関係は解消した。
(甲Aウ15の1・2,甲Aキ9の19,9の20〈添付資料2〉,甲B41)
(キ) 一審原告会社による本件国内3社の株式の追加取得
平成20年2月8日に開催された一審原告会社の経営執行会議における審議を経て,同月22日に開催された一審原告会社の第999回取締役会において,一審原告会社が本件国内3社の株式を総額186億1200万円ないし613億7900万円で追加取得して子会社化することなどが提案され,これを承認する旨の決議(本件取得決議)がされた。一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,当該取締役会に出席し,上記議案に賛成した。なお,一審被告A4は,上記経営執行会議において,同月時点における本件国内3社の今後の事業計画について,別紙14の「2.平成20年2月時点における事業計画」記載のとおりであることなどを説明した。また,井坂公認会計士事務所は,平成20年2月29日付け「株主価値算定報告書」において,上記事業計画に基づき,DCF法を用いて,アルティスの株主価値を335億4700万円ないし469億6200万円,NEWS CHEF の株主価値を336億4200万円ないし382億7600万円,ヒューマラボの株主価値を297億6700万円ないし392億8100万円と評価していた。(甲Aウ16の1・2,17の1・2,甲Aエ6の1・2,甲Aキ9の20,12の11,甲B32の5~7)
本件取得決議を受けて,一審原告会社は,平成20年3月21日,①Neoから,アルティスの株式1650株を181億5000万円(1株当たり1100万円),ヒューマラボの株式670株を137億3500万円(1株当たり2050万円)で購入し,②ITVから,NEWS CHEF の株式1600株を152億円(1株当たり950万円)で購入する旨の各売買契約を締結した。一審原告会社は,同月26日,上記売買契約に基づく代金として,Neoに対し318億8500万円を,ITVに対し152億円をそれぞれ支払った。(甲Aウ19の1~3,甲Aキ3の14〈添付資料7〉,9の20)
また,OFHは,平成20年4月25日,①DDから,アルティスの株式530株を55億6500万円(1株当たり1050万円),NEWSCHEF の株式450株を40億5000万円(1株当たり900万円)で購入し,②GTから,ヒューマラボの株式210株を40億9500万円(1株当たり1950万円)で購入する旨の各売買契約を締結した。OFHは,同日,上記売買契約に基づく代金として,DDに対し96億1500万円を,GTに対し40億9500万円をそれぞれ支払った。(甲Aウ20の1・2,21の1・2,22の1~3,甲Aキ3の14〈添付資料16〉,9の20)
(ク) 借入金の返済及び出資金の償還
Neoが一審原告会社から得た本件国内3社の株式の売却代金約319億円は,QPを経由してCFCに資金が移動した後,CFCがLGT銀行に対し,借入金の返済をし,LGT銀行は,平成20年6月4日,一審原告会社に対し,上記借入れの担保となっていた預金の払戻しとして351億4233万3333円を支払った。
ITVが一審原告会社から得た本件国内3社の株式の売却代金152億円は,Neo及びTEAOを経由してLGT-GIMに資金が移動した後,LGT-GIMは,平成20年8月26日,一審原告会社に対し,LGT-GIMのファンドに出資した出資金150億円の償還及びその運用益の分配として,159億0480万円を支払った。
DD及びGTがOFHから得た本件国内3社の株式の売却代金約137億円は,Easterside,CD及びGPAI,CFC及びTEAOを経由してLGT-GIMに資金が移動した後,LGT-GIMは,平成20年10月24日,OFH(出資者はOAMであったが,OFHはOAMからLGT-GIMに関する事業を承継した。)に対し,平成20年10月24日,出資金の償還及び運用益の分配として,209億4620万円を支払った。
本件国内3社の株式取得についての資金移動の概況は,別紙8「H20.2.22の取締役会決議に基づく国内3社株式代金流出後の資金移動の概況」記載のとおりであり,このうち,一審原告会社から送金された各資金移動の内容は,別紙16の「Ⅰ 本件国内3社の株式取得に関する預金移動(一審原告会社)」記載のとおりであり,OFHから送金された各資金移動の内容は,別紙16の「Ⅱ 本件国内3社の株式取得に関する預金移動(OFH)」記載のとおりである。
これにより,損失分離スキームのうち,LGT銀行及びLGT-GIMに係る債権債務関係は解消された。
(甲Aキ3の14,甲B41)
(ケ) 本件国内3社の財政状態等
当時の本件国内3社の売上高等の実績値は別紙15「本件国内3社の財務諸表」記載のとおりであった。
(コ) 「のれん」の計上
本件国内3社は,GCNVVの解散による株式の承継と一審原告会社による株式の追加取得等により,一審原告会社の子会社となり,一審原告会社は,連結決算上,平成20年3月期において,本件国内3社の「のれん」として約545億円(期中増加額)を計上した。最終的には,その後に計上された「のれん」を含めて,本件国内3社の「のれん」について,平成21年3月期に約557億円,平成22年3月期に約13億円の減損処理をそれぞれ行った。(甲Aキ3の14,9の20,甲B41)
(サ) 外部協力者へ支払われた報酬
a Neoは,平成20年9月11日,その預金口座から Gurdon Overseas S.A の預金口座に対し,12億5925万円を振込送金した。同金員は,一審被告A3及び一審被告A4が,一審被告A5と相談の上,LGT銀行の行員であったUらが損失分離スキームに協力したことへの報酬とする趣旨で,同人らが経営する Gurdon Overseas S.A に対して支払ったものであった。(甲Aウ27,甲Aキ11の5,12の12,13の21)
b TEAOは,平成20年12月19日,その預金口座から NaylandOverseas S.A の預金口座に対し,9億5000万円を振込送金した。同金員は,一審被告A3及び一審被告A4が,一審被告A5との相談の上,LGT銀行の行員であったPが損失分離スキームに協力したことへの報酬等とする趣旨で支払ったものであった。(甲Aウ28,甲Aキ11の5,12の12,13の22)
コ ジャイラス買収に伴うFA報酬の支払,ワラント購入権及び配当優先株の買取り等
(ア) 事業買収(ジャイラス買収)を用いた損失分離状態の解消
一審原告会社は,医療市場への事業拡大のためのM&Aの活用を検討していたが,一審被告A3及び一審被告A4は,事業買収を通じてファンドに資金を流し,損失分離状態の解消を図ることを企図し,最終的には,後記のとおり,①ジャイラス買収に伴うFA契約において,報酬として株式オプションとワラント購入権を付与し,②その後に株式オプションを配当優先株に交換した上,ワラント購入権及び配当優先株を高額で買い取ることにより,高額なFA報酬を支払い,③これらジャイラス買収に伴う高額なFA報酬の支払,ワラント購入権及び配当優先株の高額での買取りによる資金を損失分離スキームに関わる簿外ファンドに資金を環流させるなどして損失分離状態の解消を図ることを企図し,一審被告A5の了解を得て,これを実行することとなった。
(イ) ジャイラス買収に伴い締結したFA契約及び修正FA契約の内容等
一審原告会社は,平成18年6月5日,AXESとの間で,当時想定していた大型のM&A案件を前提として,①適切な買収ターゲットの特定における一審原告会社への支援,②各専門家を構成員とする作業部会の運営管理,③各取引のスキームの立案,④各取引に関して,通常フィナンシャルアドバイザー兼代理人が提供する分析,評価,交渉及び文書作成その他の支援を内容とする本件FA契約を締結した。本件FA契約では,買収金額の1パーセントに相当する成功報酬として支払うこととされ,その成功報酬のうち20パーセントは現金で支払い,その余は買収の条件に基づいて対象会社の資産を承継する法人(以下「買収ビークル」という。)が発行した株式オプションで支払うこととされていた。
その後,M&Aの対象がジャイラスに変更され買収規模が縮小したことから,一審原告会社は,平成19年6月21日,AXESとの間で,本件FA契約で定めた成功報酬を変更する旨の契約(以下「本件修正FA契約」という。)を締結した。本件修正FA契約では,買収金額に応じた一定の割合で成功報酬を支払うこととされ,その成功報酬のうち一定の割合は現金補償額として現金で支払い,その余は買収ビークルの発行済み株式総数の価額の9.9パーセント分の株式オプションで支払うこととされた(例えば,買収金額が20億ドルの場合,20億ドルの5パーセントが成功報酬となり,そのうち15パーセントが現金補償額として現金で支払われることとされた。)ほか,ワラント購入権を付与することとされた。
(甲Aエ1~4,甲Aキ11の6,13の26)
(ウ) ジャイラス買収に係る取締役会の承認決議
平成19年11月19日に開催された一審原告会社の第994回取締役会において,英国の医療機器会社であるジャイラスを約9億3500万ポンドで買収すること,この買収資金として銀行から上限2500億円の資金借入れを実施すること,ジャイラス買収に関する投資顧問として,AXESと業務委託契約を締結することなどが提案され,承認可決された。一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,当該取締役会に出席し,上記議案に賛成した。(甲Aエ5の1・2)
(エ) 本件修正FA契約に基づく報酬支払
一審原告会社は,平成19年11月26日,本件修正FA契約に基づき,AXESに対し,成功報酬のうち15パーセントに当たる現金支払分として1200万ドルを支払った(甲Aエ6の1・2)。
(オ) ジャイラスの買収手続の完了
英国裁判所による買収手続が適法であるとの判断及び承認を得てジャイラスは上場廃止となり,平成20年2月14日,一審原告会社は,ジャイラスの株主に対し払込みを行い,ジャイラスの買収手続が完了した(甲Aエ6の2)。
(カ) コール・オプション契約の締結
一審原告会社は,平成20年2月14日,AXESとの間で,本件修正FA契約における義務に従い,AXESに対してジャイラス発行の株式オプションを付与すること,当該合意に基づくAXESの権利義務はAXESと第三者との間で合意された対価ないし条件で自由に譲渡できることなどを内容とするコール・オプション契約を締結した(甲Aエ7)。
(キ) 配当優先株の発行及びワラント購入権の買取りに係る取締役会の承認決議等
a 一審原告会社は,ジャイラス買収完了後から,ジャイラスの資本再編を進めていたところ,その過程でジャイラスに生じる売却益について,一連の再編手続がグループ内再編と認められなければ米国や英国で課税対象となる可能性があり,これを回避するためには,AXESに発行した株式オプションを一審原告会社側で買い取る必要があることが判明した。
一審被告A4及び一審被告A3は,株式オプションを買い取る方法として,AXES及びAXAMの代表者であったNと協議した上,株式オプションの対価としてジャイラスの配当優先株を発行する方法で精算することで調整し,併せて本件修正FA契約に基づく報酬としてAXESに付与したワラント購入権についても,一審原告会社側が現金で買い取り,その代金を損失分離状態の解消のための資金に充てることとした。
一審被告A4及び一審被告A3は,一審被告A5の了承を得て,上記のワラント購入権及びAXAMに付与するジャイラスの配当優先株を一審原告会社側が買い取り,その代金を損失分離状態の解消のための資金に充てることにより,SGボンドを介した損失分離スキームの600億円の損失を解消する方針を決定した。
(甲Aエ8の1・2,9の1・2,甲Aキ11の6,13の26)
b 平成20年9月26日に開催された一審原告会社の第1009回取締役会において,本件FA契約及び本件修正FA契約に基づくAXESへの投資顧問料の支払について,現物報酬として,ジャイラスの配当優先株(発行額面1億7698万1106ドル)を同月30日に発行すること,一審原告会社が本件修正FA契約に基づくワラント購入権を5000万ドルで買い取ること(支払日は同月30日)などが提案され,承認可決された。一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12及び一審被告A14は,当該取締役会に出席し,上記議案に賛成した。(甲Aエ14の1・2)
一審原告会社は,平成20年9月30日,上記取締役会決議に基づき,ジャイラス,AXES及びAXAMとの間で,ジャイラスがAXAMに配当優先株式を発行すること,AXES及びAXAMが本件修正FA契約に基づくワラント購入権の発行に関する義務を一審原告会社から解放する代わりに,一審原告会社がAXAMに5000万ドルを支払うことなどを内容とする株式引受契約を締結した。なお,AXESは,これに先立つ平成20年6月9日,AXAM(ジャイラスの買収に伴い一審原告会社から支払われる資金を受領するために設立された法人)に対し,本件修正FA契約に基づく株式オプション及びワラント購入権を2400万ドルで譲渡していた。
(甲Aエ13,甲Aキ5の3,13の24〈添付資料5〉)
(ク) 配当優先株の買取りに係る取締役会の承認決議
平成20年11月28日に開催された一審原告会社の第1012回取締役会において,ジャイラス配当優先株の配当条件に基づく今後のキャッシュの外部流出を防止すること,今後のグループ内再編を容易にすることなどを理由として,OFHがAXAMからジャイラスの配当優先株(発行額面1億7698万1106ドル)を5億3000万ドル~5億9000万ドルで購入すること,その実施のための資金を調達することを目的として,OFHが増資を行うことが提案され,承認可決された(甲Aエ18の1・2)。
(ケ) あずさ監査法人による指摘
一審原告会社は,平成20年12月から平成21年4月にかけて監査に当たっていたあずさ監査法人から,ジャイラスの買収について,本件FA契約及び本件修正FA契約に基づく報酬が異常に高い上,AXESの役割も十分理解できないこと,また,本件国内3社の買収について,投資した金額が事業に投資されておらず,ほとんどファンドに渡ってしまっていることなどを繰り返し指摘され,取得価額や取引先の妥当性について懸念を表明する監査役会宛ての文書を受領した。
これを受けて,一審原告会社の監査役会は,平成21年5月9日,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払について,①取引自体に不正・違法行為がなかったか,②取締役の善管注意義務違反及び手続的瑕疵がなかったかにつき調査・検討を行うことを目的として,独立性の高い弁護士及び公認会計士らによって構成される第三者委員会を組織することを可決した。一審原告会社の監査役会から調査・検討の依頼を受けた第三者委員会は,調査・検討の上,同月17日,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払について,いずれも違法もしくは不正な点があった又は善管注意義務違反があったとまで評価できるほどの事情は認識できなかったとする平成21年第三者委員会報告書を提出した。
あずさ監査法人は,平成21年5月20日,一審原告会社の連結計算書類が,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に照らして適正に表示しているものと認める旨の仮の意見を表明したが,一審原告会社に対し,ジャイラスの配当優先株を買い取ることを白紙に戻すなどの条件をクリアしなければ,真正の監査報告書は出せない旨を伝達した。
(甲Aエ22~35,36の1・2,38,甲B15〈添付資料3〉)
(コ) 配当優先株の買取りに係る取締役会の承認決議の取消し
平成21年6月5日に開催された一審原告会社の第1022回取締役会において,第1012回取締役会で承認されたジャイラスの配当優先株の買取りに係る決議を取り消すことが提案され,承認可決された。
(甲Aエ39の1・2)
(サ) 監査法人の交代及び配当優先株の買取りに係る取締役会の再承認決議
a 一審原告会社は,あずさ監査法人との監査契約を更新しないこととし,平成21年6月開催の株主総会において,新日本有限責任監査法人を新たな会計監査人に選任した。
一審被告A3及び一審被告A4は,あずさ監査法人からの指摘を受けて一旦頓挫したジャイラスの配当優先株の買取りによる損失分離状態の解消を実現するため,新日本有限責任監査法人所属の公認会計士に対し,当該優先株の買取価格と簿価との差額をのれん代として計上する方法を相談したところ,平成22年2月頃,同公認会計士から,了承が得られたことから,一審被告A3及び一審被告A4は,一審被告A5の了承も得た上,同年3月期中に,再度,AXAMからジャイラスの配当優先株を買い取る方針を固めた。
(甲Aキ11の6,12の13,13の27,弁論の全趣旨)
b 平成22年2月26日に開催された一審原告会社の第1033回取締役会において,AXAMからのジャイラスの配当優先株の買取りについて,ジャイラスの配当優先株評価額に配当未払額を加えた金額を買取価格の上限とし,同年3月までに買い取ることを条件として交渉することが提案され,承認可決された(甲Aエ40の1・2)。
また,平成22年3月19日開催された一審原告会社の第1034回取締役会において,①OFUKがジャイラスの配当優先株1億7698万1106株を6億2000万ドル(約558億円)で買い取ること,②取得者であるOFUKに対して一審原告会社から増資及び貸付けを行うことなどが提案され,承認可決された。一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14は,当該取締役会に出席し,上記配当優先株買取りの議案に賛成した。(甲Aエ41の1~3)
c OFUKは,平成22年3月22日,AXAMとの間で,ジャイラスの配当優先株1億7698万1106株を6億2000万ドル(なお,発行額面は1億7698万1106ドルであった。)で買い受ける旨の契約を締結した(甲Aエ42,43)。
(シ) 資金移動
a ワラント購入権買取代金の資金移動
一審原告会社は,平成20年9月30日,AXAMに対し,ワラント購入権の買取代金として,5000万ドルを支払った(甲Aキ3の15〈添付資料1〉)。
同資金は,GPAI,21C及び Easterside 及びSGボンドをそれぞれ経由した上で一審原告会社に戻ったものと解される(甲Aキ3の15〈添付資料2~5〉)。
b 配当優先株買取代金の資金移動
OFUKは,AXAMに対し,ジャイラスの配当優先株買取代金として,平成22年3月23日に2億ドル,同月24日に2億1000万ドル,同月25日に2億1000万ドルの合計6億2000万ドル(当時の為替レートで換算すると91.84円/ドル(甲Aエ44の2)569億4080万円)を支払った(甲Aキ3の15〈添付資料6〉)。
同資金は,GPAI,CD及び Easterside を経由してSGボンドに 資金が移動した後,SGボンドは,一審原告会社に対し,出資金の償還として,平成22年9月22日に315億6910万9673円,平成23年3月24日に315億3634万7569円の合計631億0545万7242円を支払った(甲Aキ3の15〈添付資料9,11,13〉)。
c 資金移動のまとめ
ワラント購入権及び配当優先株の買取りについての資金移動の概況は,別紙9「〈ワラント購入権・優先株買取代金支払後の資金移動の概況〉」記載のとおりであり,このうち,一審原告会社から送金された各資金移動の内容は,別紙16の「Ⅲ ジャイラス買収に関する預金移動(一審原告会社)」記載のとおりであり,OFUKから送金された各資金移動の内容は,別紙16の「Ⅳ ジャイラス買収に関する預金移動(OFUK)」記載のとおりである。
これにより,損失分離スキームのうち,SGボンドに係る債権債務関係は解消された。
(甲Aキ3の15,甲B41)
(ス) 「のれん」の計上
AXES及びAXAMに対して支払われた報酬,付与された株式オプションの簿価及びワラント購入権の買取代金の一部である合計190億円が「のれん」として計上され,OFUKが支払った配当優先株の買取代金と簿価との差額414億円のうち,412億円が「のれん」として計上されるなどした。(甲Aキ3の15,甲B41)
(セ) 外部協力者へ支払われた報酬
a Mは,GPAIの預金口座から,自身が設立した Promo Tech Investment Limited の預金口座に対し,平成22年5月18日に250万ドル,同日に2億3180万円,同年9月2日に633万0775.58ドル,同日に6億3000万円を振込送金した。これは,一審被告A3及び一審被告A4が,一審被告A5と相談の上,損失分離スキームに協力したN及びMへの報酬とする趣旨で,同人らに支払うこととしたものであった。(甲Aキ5の3〈添付資料14の1・2,15の1・2〉,11の5,12の13,13の24)
b 平成22年4月26日,Easterside の預金口座から DRAGONS ASSET MANEGEMENT CO.LTD の預金口座へ,1450万ドル(同日の為替レートである94.20円/ドル(甲Aエ44の5)で換算すると13億6590万円)が振込送金された。これは,一審被告A3及び一審被告A4が,一審被告A5と相談の上,損失分離スキームに協力したQへの報酬とする趣旨で,同人の会社に支払うこととしたものであった。(甲Aキ3の15〈添付資料12〉,11の5,12の13,13の23)
⑵  承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反の有無について
ア 取締役は,善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う(会社法330条,民法644条)とともに,法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し,株式会社のために忠実にその職務を行わなければならず(会社法355条),これらの義務を怠ったときは,会社に対して,当該義務違反により生じた損害を賠償する責任を負う(同法423条1項)。
会社の抱える損失の財務諸表への計上を回避するため当該会社から損失を分離するスキームを実行し,その状態を維持することは,それ自体,適正に処理すべき会社の決算を困難にさせ,財務諸表の虚偽記載を発生させる原因になるとともに,その実行に伴って本来支払う必要のない負担を会社に生じさせ得るものであるから,取締役が,自ら損失分離スキームの構築・維持を行うことが善管注意義務及び忠実義務に違反するものであることはもちろん,損失分離スキームの構築・維持が行われていることを知り,又は知り得たにもかかわらず,これを中止ないし是正させることを怠ることも,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものというべきである。
イ 承継前一審被告A1について
(ア) 前記⑴の認定事実によれば,一審原告会社は,LGT銀行等を介した損失分離スキームを構築する以前から,証券会社に対して決算期末に買戻しの特約を付して損失を抱えた金融商品を売却する(いわゆる「飛ばし」行為)などの損失計上回避策を行っていたところ,それらの措置は,承継前一審被告A1が,積極的な証券投資等を行った結果生じた一審原告会社の損失を決算において公表しないこととする旨の判断を下し,経理部財務グループに指示するなどして実施したものであること,承継前一審被告A1は,LGT銀行を介した損失分離スキームが構築された平成10年頃には,既に一審原告会社の社長を退任して会長となっていたものの,概ね半期に一度の割合で,一審被告A3らから一審原告会社の抱える簿外の損失の額やその対策等について報告を受けていたこと,承継前一審被告A1は,平成12年1月,一審被告A3らがLGT銀行の設定するファンドであるLGT-GIMを購入したり事業投資ファンドであるGCNVVを組成したりするに当たり,一審被告A3から,その時点における一審原告会社の簿外の損失の状況や,上記ファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を損失分離スキームに利用する旨の説明を受けたことが認められるから,これらの事情によれば,承継前一審被告A1は,一審原告会社が損失の財務諸表への計上を回避するために損失分離スキームを構築し,これを維持していることを知っていたと認められる。
しかるに,承継前一審被告A1は,一審原告会社の簿外の損失を公表する機会があったにもかかわらずこれを公表することをせず,取締役を退任する平成16年6月29日までの間,前記損失分離スキームの構築・維持について,中止ないし是正させるための措置を何ら講じていなかったのであるから,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対する任務懈怠の責任を負う。
(イ) これに対し,一審被告A6らは,承継前一審被告A1が一審原告会社の含み損の状況について説明を受けた記憶はなく,損失分離スキームの構築について了承したこともない旨主張するが,証拠(甲Aキ7,乙D1,2,4,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)に照らし,採用することができない。一審被告A6らは,承継前一審被告A1の供述調書が検察官による相当な誘導によって作成されたと考えられる旨主張するが,これを的確に裏付ける証拠はなく,採用できない。
また,一審被告A6らは,大規模な事業会社の役員は,下部組織等から上がってくる報告に明らかな不備不足があり,これに依拠することにちゅうちょを覚えるというような特段の事情がない限り,その報告を基に調査・確認すれば注意義務を果たしたことになるなどとも主張する。しかしながら,前記⑴の認定事実記載のとおり,承継前一審被告A1は,一審原告会社において発生した損失を決算において公表しない旨の決断を下し,当該損失の財務諸表への計上を回避するための措置を自ら指示して実行させていたのであって,単に下部組織等から上がってくる報告に基づいて対応策を了承・是認していたにとどまるものではない。一審被告A6らの上記主張はその前提を異にするものであって,採用できない。
ウ 一審被告A2について
(ア) 前記⑴の認定事実によれば,一審被告A2は,平成2年頃以降,概ね半期に一度の割合で,一審被告A3らから,一審原告会社の抱える簿外の損失の額やその対策等について報告を受けていたこと,一審被告A2は,一審被告A3らにおいて,CFC・QPの設立,LGT銀行を介した損失分離スキームの構築,コメルツ銀行を介した損失分離スキームの構築及びGCNVVを介した損失分離スキームの構築等,新たな損失分離スキームの方策を策定する際には,その都度一審被告A3らからその旨の報告を受けてこれを了承していたことが認められるから,一審被告A2は,当初から損失分離スキームの構築・維持を知っていたというべきである。
(イ) これに対し,一審被告A2は,①平成10年3月23日付けLGT銀行の有価証券取引口座の開設書類(甲Aキ8の3〈添付資料1-1〉)には,一審原告会社の代表者である一審被告A2の署名があるが,同日付けの担保権設定契約書の担保権設定者欄には一審被告A2の署名がなく,一審被告A3が署名したものであること(甲Aイ1)などからすると,担保権設定契約は,一審被告A3が社内の決裁手続を意図的に回避して行ったものであって,一審被告A2が一審被告A3から担保権設定契約書の内容を知らされていなかったことを強くうかがわせるものである,②「130PB期運用計画」(乙B44)及び「130PB決算速報」(乙B45)が「表の書面」,「135PB運用報告」(甲Aイ8の1)が「裏の書面」であるとの原判決の認定には誤りがあり,一審被告A2に対する説明内容は,「130PB期運用計画」及び「130PB決算速報」の記載内容にとどまっていたものである,③一審被告A2の捜査段階の供述調書中には,損失の分離を知っていたかのような供述があるが,仮に一審被告A2がこれを知覚・認識する機会が存在していたとしても,あくまで特金に含まれ又は含まれていた金融商品の含み損解消の過程で生じた一事象であると理解した可能性も十分あり得るなどとして,一審被告A2が当初から損失分離スキームの構築・維持を認識していたとはいえないと主張する。
しかしながら,上記①については,平成10年3月23日付け一審原告会社とLGT銀行との間の包括的な担保権設定契約書に一審被告A3が署名したことについては,LGT銀行の一審原告会社名義の預金口座の署名権者として一審被告A3,C及び一審被告A4が登録されていたことによるものであると考えられること(甲Aキ8の3[3頁],12の3[14頁]),一審被告A2が平成15年7月14日に融資の延長に伴い作成された一審原告会社とLGT銀行との間の包括的な担保権設定契約書及び宣誓書に自ら署名した際に基本となる包括的な担保権設定契約について問題視した形跡もないことからすると,平成10年3月23日付け一審原告会社とLGT銀行との間の包括的な担保権設定契約書に一審被告A3が署名し,一審被告A2が署名していないことをもって,一審被告A2がその事情を知らなかったものと認めることはできない。
上記②については,一審原告会社内部においては,例えば,第135期事業年度の後半については,巨額の含み損の記載のない「135PB金融資産運用損益報告」(甲Aイ30)と,巨額の含み損の記載のある「135PB運用報告」(甲Aイ8の1)の両方が作成されていたと認められるところ,これは,原審において証人Tが,同一事業年度の資料として,含み損の実態を反映したものと含み損の実態を反映していないものの2種類の資料が作成されていた旨証言しているところと合致するものであって,同証言は信用することができるというべきである。そして,一審被告A2は,「135PB運用報告」の名宛人となっているとおり,巨額の含み損の記載のある資料をもって,一審被告A3らから一審原告会社の抱える簿外の損失の額やその対策等について,定期的に説明を受けたものと認められることからすると,一審被告A2が損失隠しの事実を知ったのは平成14年ないし15年頃であるとの一審被告A2の主張は不自然・不合理であり,一審被告A2の認識の内容が巨額の含み損の記載のない「130PB期運用計画」及び「130PB決算速報」の記載内容にとどまっていたものとは認められない。
上記③については,一審被告A2の主張自体,「可能性も十分あり得る」というものであって,一審被告A2の当時の具体的な認識を主張するものではない上,一審被告A2は,上記のとおり,一審被告A3らから,一審原告会社の抱える簿外の損失の額やその対策等について報告を受け,損失分離スキームの構築等の際には,その都度報告を受けてこれを了承していたことが認められるから,一審被告A2の損失の分離に関する認識が,一時的な限定的な事象に関するものであったとは到底認められない。
また,一審被告A2は,同人の供述調書は長時間の取調べを受ける中で,検察官から決められたストーリーを執拗に押しつけられたものであるなどとも主張するが,これを的確に裏付ける証拠はなく(一審被告A2の作成に係る地検メモ(乙B65~74)にもこれを直接裏付ける記載はない。),採用することができない。
一審被告A2の上記主張は,採用できない。
(ウ) 以上によれば,一審被告A2は,当初から損失分離スキームの構築・維持を知っていた上,自ら指示し又は一審被告A3らの提案を了承して損失分離スキームの構築・維持を行い,平成17年6月29日に取締役を退任するまでの間,それを中止ないし是正する措置を講じることもなかったものというべきであり,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対する任務懈怠の責任を免れない。
エ 一審被告A5について
(ア) 前記⑴の認定事実によれば,一審被告A5は,GCNVVを介した損失分離スキームを構築するに際し,平成12年1月28日に開催された取締役会に先立ち,一審被告A3及び一審被告A4から,一審原告会社が抱える簿外の損失の状況やLGT銀行のファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を損失分離スキームに利用することなどの説明を受けていることが認められるから,遅くともこの時点までには,一審原告会社が損失の財務諸表への計上を回避するために損失分離スキームを構築及び維持していることを知ったものというべきである。
それにもかかわらず,一審被告A5は,一審原告会社の簿外の損失を公表する機会がありながらもこれを公表することをせず,前記損失分離スキームの構築についてこれを中止ないし是正させるための措置を何ら講じておらず,かえって平成12年1月28日に開催された取締役会において,一審被告A3とともに投資の必要性や事業投資ファンド設立の目的を説明したことなどが認められるから,損失分離スキームの構築・維持を積極的に容認したといえ,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対する任務懈怠の責任を負う。
(イ) これに対し,一審被告A5は,含み損の存在について報告を受けこれを了承したのは,自らが代表取締役に就任した平成13年6月28日より後のことである旨を主張するが,前記認定に照らし採用できない。
オ 一審被告A3について
前記⑴の認定事実によれば,一審被告A3は,一審被告A2の指示ないし了承の下,一審原告会社の外部の者であるNやOの協力・助言を受けるなどして,LGT銀行,コメルツ銀行及びGCNVV等を介した損失分離スキームを構築するための実務作業を担い,その構築後には,損失分離スキームを維持するため,上記両名に受け皿ファンド等の運営を任せて本件金利を支払うなどしていたことが認められるから,自ら損失分離スキームの構築・維持を行ったということができる。
それにもかかわらず,一審被告A3は,取締役に就任した平成15年6月27日以降,取締役として,自ら構築した損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じていないことが認められるから,善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対して任務懈怠の責任を負う。
カ 一審被告A4について
(ア) 前記⑴の認定事実によれば,一審被告A4は,一審被告A2の指示ないし了承の下,一審被告A3とともに,NやOの協力・助言を受けるなどして,LGT銀行,コメルツ銀行及びGCNVV等を介した損失分離スキーム構築の実務作業を担い,その構築後には,損失分離スキームを維持するため,上記両名に受け皿ファンド等の運営を任せて本件金利を支払うなどしていたことが認められるから,自ら損失分離スキームの構築・維持を行ったということができる。
それにもかかわらず,一審被告A4は,取締役に就任した平成18年6月29日以降,取締役として,自ら構築した損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じていないことが認められるから,善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対して任務懈怠の責任を負う。
(イ) これに対し,一審被告A4は,一審原告会社が損失分離スキームの構築・維持の発生根拠と主張する行為はいずれも一審被告A4が取締役に就任する以前のものであるから,取締役としての責任を負わない旨を主張する。
前記⑴の認定事実によれば,一審被告A4は,一審原告会社の役員ではなく従業員として,一審被告A3とともに,外部の者の協力・助言を受けるなどして損失分離スキームの具体的な方策を検討し,その構築・維持に関与したものであるが,一審被告A4は,そのこと自体を理由として責任を問われているものではなく,そのような損失分離スキームの構築・維持に深く関与した一審被告A4が,平成18年6月29日に取締役に就任した以降,自ら構築した損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を講じなかったことをもって善管注意義務及び忠実義務違反があると判断されるものであるから,一審被告A4の上記主張は採用できない。
⑶  損害の発生の有無について
ア 前記⑴の認定事実によれば,CFCが,LGT銀行に対し,利息等の名目で,合計22億8622万0276円を支払ったことが認められる。また,Easterside は一審原告会社の預金を担保としてSG銀行から約550億円の融資を受けたこと,SG銀行の Easterside に対する貸付けの利率は,別紙11の「②Easterside に対する貸付けの利率」に記載されたとおりであることが認められるから,Easterside は,SG銀行に対して,当該利率に従った利息を支払ったものと推認される。なお,一審原告会社は,Hillmore が,コメルツ銀行に対し,少なくとも借入金(期首預金残高150億0001万2778円)に対する平成13年4月1日から平成14年3月31日までの間の金利として,600万0051円(年0.40%)を支払ったと主張するが,上記期間は,資金調達先をコメルツ銀行からSG銀行に移行させた時期と重なり,上記期間における Hillmore のコメルツ銀行に対する借入金残高の推移も本件証拠上は明らかではないから,Hillmore がコメルツ銀行に支払った金利の額も明確になってはいない。
次に,前記⑴の認定事実によれば,SGボンドが,別紙12の「①SGボンド運用手数料等」記載のとおりの運用手数料等合計6億7656万1796円を支払ったこと,Neoが,別紙12の「②Neoから支払われた報酬」記載のとおりの報酬合計12億8768万5775円を支払ったこと,GCNVVが,別紙12の「③GCNVVから支払われた報酬」記載のとおりの報酬合計41億3095万3226円を支払ったことが認められる。さらにLGT-GIMは,その資産を運用することに伴い,同資産からLGT銀行に対し,各年末の総資産価値の1.5パーセントに相当するファンド運用手数料を支払う約定となっていたことが認められるから,LGT-GIMは,前記⑴の認定事実キ(ウ)記載の各年末の総資産価値に1.5パーセントを乗じたファンド運用手数料を支払ったことが推認される。
イ 主位的主張(法人格否認の法理の適用)について
(ア) 一審原告会社は,本件金利及び本件ファンド運用手数料等が,承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反による一審原告会社の損害である(ただし,責任を負う範囲は,一審被告A3については平成15年7月以降,一審被告A4については平成18年7月以降に限られる。)とし,信義則上,受け皿ファンド等のうち本件ファンド運用手数料等の支払主体となったCFC,Hillmore,Easterside,LGT-GIM,SGボンド,GCNVV及びNeoの法人格を否認して,受け皿ファンド等が支払った本件金利及び本件ファンド運用手数料等は一審原告会社が支払ったものと評価すべきであると主張する。
一審原告会社は,損失を分離するために利用した受け皿ファンド等が負担した本件金利及び本件ファンド運用手数料等を,信義則上,自らが負担したものと同視し,一審原告会社に生じた損害と評価すべきであるとして,法人格否認の法理の適用を主張するが,そもそも,法人格否認の法理は,法人格が全く形骸にすぎない場合又はそれが法律の適用を回避するために濫用される場合に,権利の濫用又は信義則の法理を具体化して,法人格の背後にある者の責任を追及するための法理であって,法人格の背後にある一審原告会社が,自らが被ったとする損害を主張するために法人格否認の法理を援用することは相当ではないというべきである。
(イ) また,この点を措くとしても,本件において,損失分離スキームの構築・維持に利用した受け皿ファンド等は,多数に及び,その法形態も多様であり,本件全証拠によるも,一審原告会社と実質的同一性があると認めるには十分でない。
すなわち,①CFCは,平成8年1月25日頃,一審原告会社が保有する含み損のある金融商品について一時的に連結決算の対象から外すために行われるいわゆる「飛ばし」行為の受け皿として設立されたSPC(特別目的会社)であり,管理者(Administrator)は,Nらが経営する Genesis Global Securities Inc.(後に GENESIS ASSET MANAGEMENT INC.)で,一審被告A3,一審被告A4及びCはCFCの役員であったこと,一審原告会社及びOAMは,CFCに一審原告会社が保有する含み損のある資産等を引き受けさせるため,平成10年3月23日,一審原告会社及びOAMの名義の各預金口座内の資産全てについて,CFCのために担保権を設定する旨の契約を締結し,同月以降,LGT銀行は,これを担保としてCFCに対し,合計300億円を貸し付けたこと,その後,CFCは,本件国内3社の株式取得に関する資金の移動により得た資金でLGT銀行に対する約300億円の借入金を返済するなどした(別紙8,16)後,平成22年9月30日頃,解散したことが認められる(甲Aキ3の16)。
②Hillmore は,一審原告会社がコメルツ銀行に預けた預金を担保にして融資を受けるための役割を果たしていたSPC(特別目的会社)であり,平成11年10月7日頃,SG銀行を退職して独立したQによって設立されたものであること,平成12年頃,コメルツ銀行からSG銀行に預金を移動させたことを契機に,銀行からの資金の受け皿となるファンドは Hillmore から Easterside に切り替えられたことが認められる(甲Aキ3の16)。
③Easterside は,平成12年頃以降,上記 Hillmore に代わって一審原告会社がSG銀行に預けた預金を担保として融資を受けたり,SGボンドから債券を借りてその資金を21Cに移動させる役割を果たしていたSPC(特別目的会社)であり,これを設立したのはQ又はその関係者であったこと,平成22年4月までに,SGボンドから借りていた約600億円の債券を返済したこと,その後,TはQに対し Eastersideを閉鎖(解散)するよう指示したことが認められる(甲Aキ3の16)。
④LGT-GIMは,LGT銀行グループが組成し管理していたクラスファンドであり,一審原告会社及びOAMは,平成12年3月中旬頃,LGT銀行に開設したLGT-GIMの投資口座に合計350億円を出資したこと,LGT-GIMの形式上の運用者はLGT銀行であったが,実質的にはアドバイザーとしてOらが経営するグローバルカンパニーが運用者になっていたこと,LGT-GIMは,平成12年3月中旬頃,出資を受けた350億円のうち310億円を受け皿ファンド等であるTEAOに貸し付けていたが,TEAOから本件国内3社の株式取得に関する資金の移動により得た資金で同額が返済されるなどした(別紙8,16)後,平成20年10月頃,契約を解約したことが認められる(甲Aキ3の10,3の16)。
⑤SGボンドは,平成16年10月25日頃,Qが組成し登記した免税リミテッド・パートナーシップ(Exempted Limited Partnership)であり,投資マネージャーはQが経営する STRATEGIC GROWTH Asset MANAGEMENT であったこと,一審原告会社は,SGボンドに対し,平成17年2月4日100億円,同月15日50億円,同月17日200億円,同月18日100億円,同月22日150億円(合計600億円)をそれぞれ出資したこと,SGボンドは一審原告会社から出資を受けた資金で債券を購入し,Easterside において,当該債券を借り受けて売却により資金化し,SG銀行に対して借入金を返済したが,SGボンドは資金を移動させる役割を果たしたこと,平成23年3月3日までに一審原告会社は出資金の全額を払い戻し,同年9月1日頃,解散したことが認められる(甲Aキ3の8,3の16,13の17)。
⑥GCNVVは,平成12年3月1日頃,一審原告会社が,O,R及びSの協力を得て,新事業創出のために事業投資することを名目として設立した事業投資ファンドであり,同ファンドは,出資名目で同ファンドに拠出された資金をQP等に環流させて「特金」や包括信託を解消することを企図して設立されたものであること,GCNVVは,ジェネラルパートナーがOらが設立し経営する GCI Cayman,リミテッドパートナーが一審原告会社及びGVであったこと,一審原告会社は,GCNVVの設立に際して,自らの出資分300億円及び一審原告会社が実質的に管理するファンドであるGVによる出資分50億円の合計350億円を現実に出資し,GCI Cayman が1億円を出資したこと(ただし,上記1億円の出資は報酬等と相殺された。),GCNVVは,平成19年9月頃には契約を終了し,同年11月7日頃,解散したことが認められる(甲Aキ3の9)。
⑦Neoは,平成12年3月15日頃,組成されて登記されたファンドであり,Oらが設立し経営する GCI Cayman がそのジェネラル・パートナーとなっていたこと,Neoの設立に際し,一審被告A3,一審被告A4及びCは,Oらと相談の上,LGT-GIMに出資した350億円のうち,310億円を受け皿ファンド等であるTEAOに貸し付けてNeoの出資金の原資とすることとなり,TEAOが300億円を出資したほか,GCI Cayman が1000万円を出資したこと,Neoは,本件国内3社の株式取得に関する資金の移動により得た資金をTEAOやQP等に移動させた(別紙8,16)後,平成20年9月18日頃,解散したことが認められる(甲Aキ3の10,3の16)。
(ウ) 以上のとおり,LGT-GIM,SGボンド及びGCNVVは直接一審原告会社ないしOAMが出資していること,NeoはLGT-GIM及びTEAOを介して間接的には一審原告会社の資金により出資が行われていることが認められるものの,GCNVVに対しては,一審原告会社のほかにGV及び GCI Cayman が出資しており,Neoに対しては,TEAOのほかに GCI Cayman が出資しているものであって,受け皿ファンド等の中には,一審原告会社以外の他の出資者が存在するものもあり,その出資の程度,割合も異なっていることなどが認められる。また,受け皿ファンド等の中には,一審原告会社がその組成・設立や解散に関与していたことがうかがわれるものがある一方で,一審原告会社以外の第三者が組成・設立したものもあり,その管理,運営についても,第三者に管理,運営が委ねられていたとうかがわれるものもあって,受け皿ファンド等の運営,管理の実態や財務状況や収支等も明らかではない。このような状況のもとにおいては,一審原告会社と受け皿ファンド等との間に一体性があると評価することは困難である。一審原告会社が平成23年12月14日提出の有価証券報告書の訂正報告書(甲Aカ1の1~5,3の1~5,18の1・2)において受け皿ファンド等の一部を連結決算の対象としたとしても,連結決算は,経済的一体性を有する連結グループ内の財政状況やキャッシュフロー等を投資家や株主等に総合的に報告するためにされたものであって,これによって,法人格が形骸化等していると評価できるような一体性があるとはいえず,上記判断が左右されるものではない。証券取引等監視委員会事務局証券取引特別調査官作成の調査官報告書(甲Aイ24)も同様であり,同報告書は,受け皿ファンド等が連結財務諸表原則等の定める基準における連結の範囲に含まれるかを検討したものであって,法人格の形骸化等とは異なる観点からの検討であり,同様に上記判断を左右するものではない。
また,もともと,各受け皿ファンド等は,損失分離スキームの維持等において,一審原告会社から経済的に独立した主体として存在して一審原告会社が保有する金融資産の巨額の含み損を簿外処理する目的を果たしていたものである。
このように,受け皿ファンド等の一審原告会社との実質的な同一性を認めるのは困難であるというべきである。
一審原告会社が指摘する前掲最高裁平成5年9月9日判決も,完全子会社(親会社がすべての発行済み株式を有する子会社)が保有する親会社の株式を親会社の指示により売却した場合における完全子会社の損害について判示したものであって,一審原告会社以外の出資者があり,一審原告会社の出資の割合や程度も異なる受け皿ファンド等を親会社と完全子会社との関係と同視することはできない。また,前掲最高裁昭和57年3月30日判決等も実際の出捐者に預金債権が帰属する旨を判示したものであって,本件で問題となるような損害の認定について判示したものではない。
(エ) 以上によれば,受け皿ファンド等が支払った本件金利及び本件ファンド運用手数料等が一審原告会社の損害と評価することは困難であり,一審原告会社の上記主位的主張は,採用できない。
ウ 予備的主張(一審原告会社の預金債権等又は出資債権の価値毀損による損害の発生)について
(ア) 一審原告会社は,本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払によって,一審原告会社の預金債権又は出資債権の価値が毀損されたことが一審原告会社の損害であるとし,受け皿ファンド等が本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った時点において,一審原告会社に損害が発生し,その後の受け皿ファンド等の資産状態の変動又は変動の可能性によっては損害の発生は否定されない,受け皿ファンド等が本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った後の受け皿ファンド等の資産状態の変動は,損害の填補の問題であるなどと主張する。
しかしながら,そもそも,一審原告会社は,受け皿ファンド等が本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払ったことで,銀行等から預金債権又は出資債権の価値が減少したとして,新たな担保提供や更なる出資等を求められたことなどなく,また,金利やファンド運用手数料等の支払が遅滞するなどして,問題になったことなどもないから,現実に価値の減少が生じたものとはいえず,損害の発生は認められない。
加えて,一審原告会社は,承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反による損害の賠償を求めているところ,一審原告会社の主張する損失分離スキームは,前記⑴に認定のとおり,平成10年頃から構築され,平成23年頃に至ってようやく解消したものであって,LGT銀行,コメルツ銀行等及びGCNVVを介した3つのルートがあり,それに関わる受け皿ファンド等も多数存在し,その間には,出資,債券の購入,債券の貸借等を介した複雑な資金の移動等がされるとともに,その中には,一審原告会社の正当な経済活動という側面があることが否定できない取引等も含まれている。このような長期間にわたり,相互に関連を有する経済活動が継続され,しかも,預金の金利をはじめ,ファンドの運用利益等の収益もありながら,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体は明らかではない状況のもとで,過去の一時点における本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払のみをもって損害が発生したと捉えることは相当ではない。一審原告会社は,ファンド等の運用利益が発生したとしても,損害の填補の問題にすぎないと主張するが,上記のとおり,そもそも損害の発生が認められないのであるから,損害の填補の問題とはいえない。
(イ) 一審原告会社は,受け皿ファンド等を全体としてみて債務超過の状態にあれば,預金債権の価値が毀損したと評価すべきである,各受け皿ファンド等の多くは,本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った各時点において債務超過状態にあったと主張する。
しかしながら,本件証拠上,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体が明らかになっているわけではなく,各受け皿ファンド等について,本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った各時点において債務超過状態にあったといえるかは不明であるといわざるを得ない。
(ウ) 一審原告会社は,少なくとも平成15年以降,各受け皿ファンド等に新たに注入された資金は,一審原告会社から損失分離スキームの解消のために注入されたものであって,各受け皿ファンド等において保有資産の運用等による収益が発生している事実はないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,預金債権等又は出資債権が存続する期間中における受け皿ファンド等の資産や収支の増減についても考慮することなく,過去の一時点における本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払のみをもって損害が発生したと捉えるのは相当ではない。そして,本件証拠上,各受け皿ファンド等において多額の資金が注入されることによって保有資産の運用等による収益の発生があったことはうかがわれるものの,その時期や額等も不明といわざるを得ず,結局,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体が明らかになっているわけではないから,本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払のみをもって直ちに預金債権等又は出資債権の価値毀損による損害が発生したと認めることはできない。
(エ) 一審原告会社は,各受け皿ファンド等に「国内3社・ジャイラス代金1229億円」を支払う直前の時点において各受け皿ファンド等には返済能力や返還能力がなく,その時点でそれまで蓄積されていた本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払による預金債権等の価値の毀損が最終的に現実化し,損害が発生したと評価できると主張する。
しかしながら,そもそも,本件国内3社及びジャイラスの買収は,平成19年11月から平成20年3月頃にされたものであるところ,それ以前に発生した本件金利及び本件ファンド運用手数料等も相当額に上るが,それらは何らの問題もなく支払がされ,預金債権等の価値の毀損も発生したとはいえないことはもとより,その後において預金債権等の価値の毀損が現実化することもない。そして,前記のとおり,そもそも,本件証拠上,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体が明らかになっているわけではなく,一審原告会社が主張する時点において各受け皿ファンド等の返済能力や返還能力がなかったといえるかは不明であるといわざるを得ない。本件において,一審原告会社が主張する時点において預金債権等又は出資債権の価値毀損が現実化したものと認めることはできない。
(オ) 一審原告会社は,GCNVVについては,出資額と償還額を比較すると259億円目減りしていたから,少なくとも本件ファンド運用手数料等分の出資金23億4564万0681円については同額の損害が発生したといえると主張する。
しかしながら,上記の259億円の目減り分と本件ファンド運用手数料等の支払との関連性は不明である上,上記のとおり,本件証拠上,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体が明らかになっているわけではないから,仮にGCNVVについて出資額と償還額とを比較して259億円の目減りが生じていたとしても,直ちに損失分離スキームの構築・維持に係る取締役らの善管注意義務違反と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。
(カ) 以上によれば,本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払によって,一審原告会社の預金債権又は出資債権の価値が毀損されたことが損害である旨の予備的主張も,採用できない。
⑷  小括
以上の次第であって,第1類型について,一審原告会社の主張する損害の発生は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,一審原告会社の第1類型に係る請求は理由がない。
2  第5類型(疑惑発覚後の対応関係)及び第2事件について
⑴  認定事実(B解任を巡る事実関係)
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
ア 本件国内3社の株式の取得及びジャイラス買収について
前記1⑴のケ及びコのとおり,一審原告会社において,本件国内3社の株式を取得し,ジャイラスを買収しこれに伴ってAXES及びAXAMに対しFA報酬を支払い,FA報酬として付与されたワラント購入権及び配当優先株を買い取るなどした。
イ Bの代表取締役就任等
Bは,一審被告A5が主導して,平成23年4月1日付けで一審原告会社の社長執行役員に就任し,同年6月29日に代表取締役及び社長執行役員・COOに就任した(甲B11の1,原審における一審被告A5,弁論の全趣旨)。
ウ FACTAの記事
FACTA8月号(平成23年7月20日発行)に,「オリンパス『無謀M&A』巨額損失の怪」と題する本件記事1が掲載された。本件記事1には,①一審原告会社が平成20年3月期に合計約700億円で買収した本件国内3社について,素人目にも極めて不自然な利益計画であり,まともな投資とはいえないこと,②ジャイラスの買収に関して,ジャイラスが2700億円も出して買う会社ではなく,さらに,そののれん代を一括償却すれば連結自己資本がほとんど吹き飛んで一審原告会社の屋台骨が大きく傾くこと,③一審原告会社のM&Aが不明朗で,貸借対照表に計上されていない損失があるのではないかとアナリストが疑いの目を向けていること,④一連のM&Aで社外に流出した巨額の資金の流れも闇に閉ざされていることなどが記載されていた。(甲Aオ1)
(イ) FACTA10月号(平成23年9月20日発行)に,「オリンパスの『尻尾』はJブリッジ 巨額M&Aの闇を暴く調査報道第2弾。問題子会社の事業計画書に,あっと驚くファンドの名。」と題する本件記事2が掲載された。本件記事2には,①一審原告会社が平成20年に本件国内3社を子会社化した際に株式を買い取ったのはNeo及びDDであること,②DDを立ち上げた投資ファンドはJブリッジから52パーセントの出資を受けた子会社であること,③Jブリッジは反社会的勢力との関係が疑われて資本市場で爪弾きされる企業であること,④本件国内3社の買収により総額350億円前後の資金がファンドに渡ったことになること,⑤Jブリッジに巨額の資金が流れた疑いが出ていることについて,一審原告会社の広報・IR室は黙りを決め込んでいることなどが記載されていた。(甲Aオ2)
エ Bによる本件各レターの送付とこれに対する一審被告A4の回答等
(ア) Bは,本件各記事がFACTAに掲載されたことを受けて,平成23年9月24日午前2時31分,一審被告A4に対し,同月23日付け本件レターⅠを電子メールで送付した。
本件レターⅠは,表題として「当社のM&A(合併・買収)活動に関する深刻なガバナンスの問題」と記載され,本文部分には,本件記事1のコンテンツに対し深い疑念を抱いていたが,本件記事2は不安を一層高めるものであること,自分には一審原告会社の社長として全ての関連問題を理解する責任があること,本件各記事に記載されている懸念に加え,一審原告会社のM&A活動に関する他の分野で何が実際に起こったのかや,それに伴うリスクを理解するために,説明を希望する分野が数多くあること,具体的には,本件国内3社の買収に係る取引の詳細やジャイラス買収に係る取引の詳細等について説明を希望することなどが記載されており,末尾には,取締役会役員各自は,一審原告会社の活動に対する法的責任を共有しており,電子メールのカーボン・コピー(以下「CC」という。)に記載されていない社外役員,監査役及び新日本有限責任監査法人のシニア・パートナーにも本件レターⅠのコピーが確実に送られるように手配してほしい旨が記載されていた。
(甲B17の1・2)
(イ) 一審被告A4は,本件レターⅠを受領し,平成23年9月24日午前10時58分,Bに対し,本件レターⅠに対する回答の電子メールを送信した。同回答メールには,Bが本件レターⅠで指摘している点は,ほとんど,あずさ監査法人から新日本有限責任監査法人に会計監査人を変更する前に,監査役会とあずさ監査法人によって指摘されている事項であること,これについては,既に会計事務所,法律事務所,学術的な専門家からなる第三者によって構成された調査委員会を組織し,調査報告(平成21年第三者委員会報告書)を受けたこと,あずさ監査法人は,当該調査報告に基づき,第141期事業年度(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の会計報告書を承認してサインしたこと,新日本有限責任監査法人もこの調査を認識した上で,一審原告会社の会計監査人を引き受けたこと,平成23年9月28日の会議でこの調査について説明することが記載されていた。(甲B28)
(ウ) Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月24日午後8時2分,一審被告A4に対し,同日付け本件レターⅡを送付した。本件レターⅡには,一審被告A4からの回答が不十分であること,自分が提起した各問題に対して十分な回答が得られない場合,著名な会社の独立会計士を入れて,様々な取引の調査を行い,一審原告会社取締役会に正式に報告書を提出することを主張すること,自分が懸念している事柄の1つがジャイラスの買収に関して外部のアドバイザーに6億ドルを支払った理由であること,要求している回答が書面によって得られるまで(自分が一審被告A4から詳細な報告書を受領するまで),訪日を延期し,それに合わせてスケジュールを変更することなどが記載されていた。(甲B18の1・2)
(エ) 一審被告A4は,本件レターⅡを受領し,平成23年9月25日午後5時8分,Bに対し,本件レターⅡに対する回答の電子メールを送信した。同回答メールには,Bの質問に対する回答のほとんどは平成21年第三者委員会報告書や過去の取締役会の提案書にあること,同月28日のBとの会議までにはほとんどの資料を提供できると確信しているが,その翻訳にどれほど時間がかかるか明言できないことなどが記載されていた。(甲B29)
(オ) Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月26日午前5時25分,一審被告A4に対し,同月25日付け本件レターⅢを送付した。本件レターⅢには,懸念事項は取引の合法性であり,取締役会がその取引を承認したか否かではないこと,もっとも,ジャイラス買収に関する取締役会の出席者が,①AXAM側にいる個人宛てに支払われた金額とその個人の氏名,②優先株の発行が「関連当事者取引」か否かを決定できるだけの十分な開示がされなかったため,あずさ監査法人と新日本有限責任監査法人がジャイラスグループの決算を承認した事実について知っていたかを確認してほしいことが記載されており,これに加えて,当該取締役会に提出された資料のコピーと議事録の送付,及び本件レターⅠの質問事項のうち,本件国内3社及びジャイラス買収に関する質問に対し直ちに回答することを要望する旨が記載されていた。(甲B19の1・2)
(カ) 一審被告A4は,本件レターⅢを受領し,平成23年9月26日午後9時14分,Bに対し,本件レターⅢに対する回答の電子メールを送信した。同回答メールには,自分らが資料を集め,翻訳する作業を続けているが,関係資料(特に,平成21年第三者委員会報告書)の量が多いため,明日中に回答及び根拠書類を送付できると明確には言えないこと,明日,再度進捗状況を報告すること,本件レターⅠ~Ⅲを一審被告A14や新日本有限責任監査法人のパートナー等に送付する手配をしたことが記載されていた。(甲B30の1~3)
(キ) Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月27日午前1時40分,一審被告A5に対し,同月26日付け本件レターⅣを送付した。本件レターⅣには,本件各記事で取り上げられた問題と疑惑は最も深刻な類いのものであること,まずは本件レターⅠの本件国内3社及びジャイラスに関する質問に対する明確な回答を同月27日午後8時までにしていただきたく,その後,その他の質問に対する回答や第三者による調査報告その他の資料を送付してほしいこと,これらに対する納得できる回答がない限り日本には戻らないという自らのスタンスは,極めて適切なものであることなどが記載されていた。(甲B21の1・2)
(ク) さらに,Bは,平成23年9月27日午前9時13分,一審被告A5に対し,一審被告A4から,同月28日午後8時までに本件レターⅠの本件国内3社及びジャイラスに対する質問に対する回答ができる旨を伝えられて安心していること,これらが自分の心配を和らげるものであれば,同月29日に互いの顔を見ながら議論でき,同月30日の取締役会においても隠し立てすることなく議論できることを記載した電子メールを送信した(甲B22)。
(ケ) 一審被告A4は,平成23年9月27日午後7時50分,Bに対し,平成21年第三者委員会報告書の英訳及び本件国内3社への投資手続の説明を添付した上で,本件レターⅠの質問のうち,本件国内3社の株式取得に係る取引の詳細やジャイラス買収に係る取引の詳細等に関するものに対し,例えば,本件国内3社に対する投資はそれぞれ投資目標を持っており,一審原告会社の投資戦略と一致していたこと,それぞれの買収手続において,独立した会計事務所による評価等を参考にして交渉を行ったことなど,個別に,一通りの回答を記載した電子メールを送信した。また,一審被告A4は,同日午後7時57分,Bに対し,上記回答の添付資料として,井坂公認会計士事務所作成に係る本件国内3社それぞれの株主価値算定報告書の英訳を添付した電子メールを送信した。(甲B31の1~5,32の1~7)
(コ) Bは,平成23年9月28日午前4時17分,一審被告A4に対し,同月27日付け本件レターⅤを送付した。本件レターⅤには,一審被告A4からのメールの返信や資料の送付に礼を述べた後,さらに追加の書類として,①本件国内3社の買収に係るデューディリジェンス報告に関し,調査を行ったファンドマネージャーの報告書の写し,②一審原告会社の取締役会において第141期事業年度決算のために提示された関連書類,③本件国内3社の第144期事業年度の予算,4月から8月までの予算及び実績の資料,④ジャイラス優先株の価値を算定した際の計算基準及び計算過程の詳細を示した別表,⑤AXESとの間の本件FA契約書及び本件修正FA契約書の写し,⑥平成20年11月28日開催された一審原告会社の取締役会の議事録,特に優先株再購入についての会社の承認に関する文書を,同月28日午後3時30分までにメールで送付してほしいことが記載されており,これに加えて,自分が依然として,あらゆる点を考慮しても完全に過度と思われるAXESに対する6億ドル支払の理由や,本件国内3社買収の商業的な論理的根拠について大変懸念しており,同月29日に一審被告A5及び一審被告A4と面談し,9月30日取締役会において十分な話合いをしたいと考えていること,同年10月7日までには自分の考えをまとめて取締役会に正式に報告するつもりであることも記載されていた。(甲B23の1~6)
(サ) 一審被告A4は,本件レターⅤを受領し,平成23年9月28日午前8時55分,Bに対し,本件レターⅤに対する回答として,依頼された資料を収集しようとしており,本日午後3時30分までにメールで送付するが,要求された資料の英訳が間に合うかどうかは定かではない旨の記載のある電子メールを送信した(甲B33)。
(シ) 上記(ア)ないし(サ)の各電子メールは,いずれもCCとして,「aaa@bbb.co.jp」の宛先(メンバーは,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,C,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A15,一審被告A16,D及びG)及びEに対し送信された(甲B17の1~3,18の1・2,19の1・2,21の1・2,22,23の1~6,28,29,30の1~3,31の1~5,32の1~7,33,乙M3)。
(ス) Bは,平成23年9月29日午前3時58分,「aaa@bbb.co.jp」の宛先及びEに対し,本件レターⅠ~Ⅴの日本語訳を添付した上で,自分と一審被告A5及び一審被告A4との間で一審原告会社のM&A活動に関するコーポレート・ガバナンス上の重大な懸念事項についてやり取りが交わされたこと,取締役会メンバー全員が内容を完全に理解できるよう,交信内容を日本語に翻訳したものを添付して送付すること,同日一審被告A5及び一審被告A4と面談し,同月30日開催される取締役会においてこの件を議論したいと考えていることなどを記載した電子メールを送信した。また,Bは,同月30日午前1時48分,上記宛先及びEに対し,上記電子メールに添付した本件レターⅤが判読不能となってしまったため,再度これを添付して送る旨を記載した電子メールを送信した。
これらの電子メールは,CCとして,K弁護士及び新日本有限責任監査法人にも送信された。
(甲B24の1~6,25の1・2)
オ 一審被告A5及び一審被告A4とBとの面談
この間,一審被告A5及び一審被告A4は,平成23年9月29日,一審原告会社の会議室において,Bと面談し,同人に対し,FACTAは無名のタブロイド誌であるから本件各記事には取り合う必要がないこと,Bの疑問に対しては一審被告A4が全て回答することなどを説明した。一審被告A5は,その話合いの中で,Bに対し,同人が映像事業のトップである一審被告A9に相談しないまま,中南米地域の映像販売子会社を独立させようとしたことを注意したところ,Bは激高し,自分が社長なのに従業員は一審被告A5の意見ばかり聞いて自分の言うことを聞かないなどと述べ,一審被告A5が退任するか,さもなければCEOの地位をBに移譲することを要求した。一審被告A5は,一審原告会社のCEOの地位が単なる肩書に過ぎず,それに付随する権限もなかったため,これをBに与えることとし,同人に対し,その旨を伝えるとともに,今後経営執行会議に出席しないことを約束した。(甲B11の1,原審における一審被告A5本人,原審における一審被告A4本人)
カ 9月30日取締役会の開催
一審原告会社の第1062回取締役会(9月30日取締役会)は,平成23年9月30日午前9時から,議長である一審被告A5のほか,B,一審被告A4,C,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15,一審被告A16,D,E及びFの各取締役,並びに,一審被告A3,G,H及びIの各監査役が出席して開催された。同取締役会においては,一審被告A5が主導して,最初に,同年10月1日付けでBをCEOに任命すること(ただし,取締役会の議長は従前どおり一審被告A5が務める。),一審被告A5は,同日以降,経営執行会議のメンバーから外れ,同会議に出席しないことなどを提案し,全員異議なく承認可決された。
その後,Bは,発言の機会を得て,要旨,「私が懸念していることについて,私自身,A4さん,A5さんとの間で連絡を取り合っていました。その懸念というのは,部分的には『FACTA』誌の記事によるものであり,またイギリスのジャイラス社の会計を調べた時に感じたものでもあります。」,「昨日,会長とA4さんと私はしばらく話し合いました。非常に正直かつ率直な話合いでした。最終的に私たちは非常に建設的な理解に達したと思います。」,「ここで,話し合いの結果,個人的な利害関係や利益の証拠はないと断言できます。」,「もう一度言いますが,私たちは昨日議論しました。非常に単刀直入な議論をし,意思決定を行いました。私はこれらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分に確信できました。」,「社長として私は代表で公衆の前に出て,決算書に署名し,陳述書にも署名します。それが,私が例のメールのやり取りを行った理由です。(中略)メールの中にはこの会社内のどの役員も個人的な利益を得ていると私に思わせるような事実はなく,今は前向きに未来に目を向けるつもりであることをはっきり表明します。」などと発言した。
(甲Aオ3,乙M1,2)
キ PwC中間報告書の入手と本件レターⅥの送付等
(ア) Bは,外部の会計事務所であるPwCに対し,一審被告A4との電子メールのやり取りにより入手した資料を提供して調査を依頼していたところ,同事務所から,平成23年10月11日付けでPwC中間報告書の提出を受けた。同報告書は,ジャイラス買収に係る本件修正FA契約の報酬が,経験上,類似しているサービスと比較して,①買収取引の規模及び性質から鑑みて,買収総額の1パーセント程度を報酬として期待するのが通常であり,その6.25パーセントを報酬としているのは明らかに高いこと,②専門のアドバイザーは,通常,取得するビジネスの株式オプションやワラントといった形態で報酬をもらうことは期待しないこと,③専門のアドバイザーは,一旦アドバイザーとして指名されて以降,特に業務範囲が大きく変更されていないのに自分たちの都合のいいように報酬スキームを変更することは期待しないことといった理由から異常であり,本件修正FA契約に至る手続も,AXAMに対してどのような財務デューディリジェンスが実施されたか不明瞭であること,成功報酬の増額について外部からどのようなアドバイスがあったのか及びどのようにアドバイスに準拠したのかについて調査する必要があることなどの問題点があって,結論として,「現在までに実施したレビューに基づくと,我々は不適切な行為が行われたと確信することはできないが,支払われた総報酬金額と今までになされたいくつかの非通例的な意思決定を考慮すると,現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」,「オリンパス社にとって重要なのは,(中略)例えばマネーロンダリングのような広範囲に及ぶ規制違反があったかどうか,もしあったのであれば,どのようなアクションと矯正段階がとられるべきか,について十分な調査を行い,理解するために適切な段階を踏むことである。」などと記載し,更なる調査を推奨するものであった。また,本件国内3社の株式取得については,指示を受けた調査の対象外であったが,これらの取引に関する特定の事項について,調査の実施を推奨していた。
(甲B27の3・5)
(イ) Bは,一審被告A5に対し,平成23年10月11日付け本件レターⅥを送付した。本件レターⅥには,PwC中間報告書の一部が添付され,本件国内3社及びジャイラスの買収に関するBの検討内容が記載された上で,「PwCからの報告は関係者の行為を完全に糾弾したものであり,当社の役員を一新しない限りこの先前進していくことは不可能であることが,はっきりしました。」,「PwCの報告書に明らかな通り,非常に多くの悲惨な誤り,そして並外れてお粗末な判断力,これが重なってアルティス,ヒューマラボ,New Chefの買収は,13億米ドルというショッキングな額に上る株主への損失となりました。」,「会社の利益を優先し,名誉ある前途を歩むためには,いかなる局面から考慮しても恥ずべき事件であるこれまでの経過に対する結果に,あなたとA4さんが直面することが必要です。現状に至ってはもはや擁護できない事態であることが明白であり,これから前向きに進む上での対策として,あなた方両者が役員会から辞任することが必要です。」などと記載されていた。(甲B27の2・4,弁論の全趣旨)
(ウ) Bは,平成23年10月13日午前1時10分,「aaa@bbb.co.jp」の宛先及びE(CCとしてK弁護士)に対し,本件レターⅥ及びPwC中間報告書を添付した上で,これらに記載されている出来事は尋常ではなく,ここから前進を試みるためには当事者の責任が明確にされなければならないこと,「じっとして嵐が過ぎ去るのを待つ」という試みは論外であり,「都合の悪い事実を隠し通せるのでは」という態度は通用しないこと,取締役会メンバーの長期間にわたる個人的な忠誠心等が本件に関するロジックをゆがめることなく,対象となる個別案件の詳細を捉えてもらえることを願っていることなどを記載した電子メールを送信した(甲B27の1~5)。
ク 平成23年10月13日の打合せ
一審被告A3,一審被告A4,C,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14及び一審被告A16は,平成23年10月13日,一審被告A5から招集を受け,K弁護士の所属する法律事務所に参集した。一審被告A5は,上記一審被告らに対し,Bは経営者としての資質に問題があるため10月14日取締役会で解職したい旨を告げ,それに引き続き,K弁護士がBを代表取締役から解職するための手続について説明したところ,上記一審被告らから異論が出ることはなく,また,9月30日取締役会においてBをCEOに任命したこととの整合性やBが指摘していた疑惑の存否等について説明を求める意見も出なかった。
(原審における一審被告A5本人,原審における一審被告A9本人,原審における一審被告A14本人)
ケ 10月14日取締役会の開催
一審原告会社の第1063回取締役会(10月14日取締役会)は,平成23年10月14日午前9時に開催され,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOのいずれからも即時解職し,業務執行権限のない取締役とすることが,(Bを除く)出席取締役全員の賛成により承認可決され,さらに,一審被告A5を社長執行役員・CEOに選定し,代表取締役会長兼社長執行役員・CEOとすることが承認可決された(甲Aオ4)。
コ その後の経緯
(ア) 一審原告会社は,平成23年10月14日,適時開示情報として,Bと他の経営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離が生じ,経営の意思決定に支障を来す状況になったため,10月14日取締役会において,代表取締役及び社長執行役員であったBを解職すること(代表取締役及び社長執行役員のいずれからも解職し,業務執行権のない取締役とすること),及び,これに伴い代表取締役会長であった一審被告A5が社長執行役員を兼任することを決議したことを公表した(甲B4)。同日,一審原告会社の株価は,前日の終値2482円から約400円下落し,終値は2045円となった(甲B10〈資料3〉)。
(イ) 平成23年10月中旬,Bが海外でのM&Aを巡る一審原告会社内部の不透明な資金の流れについて調査を進めており,トップの立場から内部告発を行ったために解任に繋がったとの見方を示す記事が英紙フィナンシャル・タイムズ電子版等に掲載されたことを受け,市場での一審原告会社の企業統治への不信感が高まっている旨の記事が同月17日の日本経済新聞電子版に掲載された。同日,一審原告会社の株価は,前営業日の終値2045円から更に下落し,終値は1555円となった。また,同月18日には,Bが,複数の海外メディアに対し,過去の企業買収での不明朗な支出を追及したのが解職の理由だったと主張しており,新旧トップ同士の泥仕合が経営の混乱を拡大させることになりそうである旨の記事が読売新聞に掲載された。同日,一審原告会社の株価は,終値1417円となった。(甲B10〈資料3〉,37の8・13)
これらの報道を受けて,一審原告会社は,平成23年10月19日,「一連の報道に対する当社の見解について」と題する文書を公表し,Bの解職について一部報道機関において不正確又は誤解を招く内容が報道されているが,当該解職の理由は既に適時開示等で公表したとおりであり,本件国内3社及びジャイラス買収に不正・違法行為は認められないなどと説明した(甲B10〈資料2〉)。
(ウ) 上記のBの解職発表やその後の報道内容を踏まえて一審原告会社の株価が大きく下落していたこと,更なる調査を推奨する内容のPwC中間報告書は会計監査人である新日本有限責任監査法人にも送付されていたことなどから,一審原告会社においては,遅くとも平成23年10月17日(月)頃から,第三者委員会を設置して調査を行うことについての検討が行われ,同月20日,取締役連絡会において,第三者委員会を設置することが決定された(甲B10,原審における一審被告A15本人,当審における一審被告A16本人)。
(エ) 一審原告会社は,平成23年10月21日,一審原告会社の過去の買収案件について,弁護士及び会計士等の有識者によって構成される第三者委員会の設立を準備している旨を公表した(甲B10〈資料4〉)。
(オ) 一審被告A5は,平成23年10月26日,代表取締役会長及び社長執行役員の役職を返上して取締役となり,同日開催された取締役会において,後任として,取締役専務執行役員であった一審被告A9を代表取締役及び社長執行役員に選任した(甲B10〈資料6〉)。
(カ) 一審原告会社は,平成23年11月1日,①一審原告会社によるジャイラス買収に関する一切の取引(FAの選定,報酬の支払等を含む。),②本件国内3社の買収に関する一切の取引(買収額の決定及び買収後の減損処理に至った経緯等を含む。)に関し,一審原告会社に不正ないし不適切な取引等があったか否かにつき検証することなどを目的として,一審原告会社と利害関係のない弁護士5人及び公認会計士1人により構成される本件第三者委員会を設置し,その旨を公表した(甲B10〈資料8〉)。
(キ) 一審被告A5及び一審被告A4は,平成23年11月24日付けで一審原告会社の取締役を辞任し,一審被告A3は,同日付けで一審原告会社の監査役を辞任した。他方,Bも,同年12月1日付けで一審原告会社の取締役を辞任した。(甲B10〈資料14,18〉)
(ク) 本件第三者委員会は,平成23年12月6日,一審原告会社に対し,調査報告書を提出した。これを受けて,一審原告会社は,同月7日,①一審原告会社及び同グループ全体の経営体制の刷新,ガバナンス体制等の抜本的な見直し等に関する指導・勧告等をすることを目的とする経営改革委員会(以下「本件経営改革委員会」という。)を設置すること,②損失計上先送り等の一連の問題につき,現旧取締役に善管注意義務違反行為があったか否かを調査してその責任を明らかにするため,取締役責任調査委員会(以下「本件取締役責任調査委員会」という。)を設置すること,及び③現旧監査役に取締役の職務執行の監査に関する善管注意義務違反行為がなかったか,現旧監査法人に不当又は不適正な監査がなかったか等を調査してその責任を明らかにするため,監査役等責任調査委員会(以下「本件監査役等責任調査委員会」といい,本件第三者委員会,本件経営改革委員会,本件取締役責任調査委員会及び本件監査役等責任調査委員会を併せて「本件各外部委員会」という。)を設置することを決定し,各委員会に対し指導・勧告等や調査を委託した。その後,一審原告会社は,平成24年1月7日本件取締役責任調査委員会から,同月16日本件監査役等責任調査委員会から,それぞれ調査報告書を受領した。(甲B10〈資料19・21・27・28〉)
(ケ) 一審原告会社は,①本件第三者委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計4億6402万1835円を(甲B6の1~13),②本件経営改革委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計3005万6770円を(甲B7の1~4),③本件取締役責任調査委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計1億4070万7350円を(甲B8の1~5),④本件監査役等責任調査委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計8466万3600円を(甲B9の1・2)それぞれ支払い,さらに,⑤平成24年1月21日,東京証券取引所から,上場契約違約金として1000万円を支払うよう通知を受け,同年2月20日これを支払った(甲B10〈資料31〉)。
(コ) 一審原告会社は,平成24年6月8日,「和解に関するお知らせ」を公表し,①同年1月,Bから,同人の解職等が英国の1996年雇用権利法に違反するなどとして,英国労働審判所に対して労働審判を申し立てられたが,同年5月29日付けで和解の合意に至ったこと,②これにより,Bは前記労働審判の申立てを取り下げ,一審原告会社はBに対し,本件和解金1000万英ポンド(約12億4500万円)を支払うことになることを明らかにした(甲B5)。
一審原告会社は,平成24年7月4日,Bに対し,本件和解金として1000万英ポンド(支払時の為替レートで換算すると12億7348万6900円)を支払った(弁論の全趣旨)。
サ 一審原告会社の株価の推移等
一審原告会社の平成23年10月11日から同年12月30日までの株価の推移は,別紙17「一審原告会社の株価の推移」記載のとおりである(甲B10〈資料3〉)。
また,Bの解任が報じられた平成23年10月14日以降,連日のように新聞紙上等において,一審原告会社の経営の混乱や迷走,コーポレートガバナンス(企業統治)の体制や法令遵守の姿勢の欠如を指摘する多数の記事が掲載された(甲B37の1~114)。
⑵  第5類型について
ア 一審被告A3及び一審被告A4の疑惑発覚後の対応に係る善管注意義務違反の有無について
(ア) 一審被告A5の認識について
前記⑴の認定事実によれば,一審被告A5は,Bから,本件各レターにおいて,一審原告会社における本件国内3社及びジャイラスの買収案件に関し,深刻なガバナンス上の問題がある旨の指摘を受けた際,一審被告A4とともに,平成21年第三者委員会報告書等の資料を示しつつ,本件国内3社について完全な調査を行い,独立した会計事務所による評価を行ったなどと回答するなど,一貫して,上記の各買収について何らの疑念も存在しないという態度を表明し,損失分離スキームの解消を目的として上記の各買収を行ったことが露見しないように対処したこと,一審被告A5は,Bが,一審被告A5及び一審被告A4に対し,「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」と結論付けたPwC中間報告書及び平成23年10月11日付け本件レターⅥを送付して辞任を要求したのに対し,一審原告会社の取締役らが当該レターを受信した日である同月13日に当該取締役らをK弁護士の法律事務所に招集し,Bの解職を取締役らに告知した上で,翌14日開催された10月14日取締役会においてBを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職する旨の決議を成立させるなどしたことが認められ,これらの事情によれば,一審被告A5は,Bの追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として同人の解職を主導したものと認定するのが相当である。
一審被告A5は,Bの社長としての執務ぶりには多大の問題があったのであり,Bの解職は一連の疑惑発覚を避けることだけを目的としたものではないなどと主張するが,一審被告A5自身,原審における本人尋問において,損失隠しが公表されることになれば,一審原告会社は倒産し,従業員やその家族が路頭に迷い,利害関係人にも大変な迷惑を掛けるから,損失隠しがされたことが発覚することは絶対避けようと思っていた旨供述していることに加え,わずか2週間前に開催された9月30日取締役会において,自らが主導して,BをCEOに選任したことなどに照らすと,一審被告A5の上記主張は採用できず,一審被告A5は,自らが主導して代表取締役及び代表執行役員・CEOに選任したBが疑惑追及を強硬に主張して一審被告A5や一審被告A4の辞任を迫るに及んだことから,損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として解職決議に及んだものというべきである。
(イ) 一審被告A4の善管注意義務違反について
前記⑴の認定事実によれば,一審被告A4は,一審被告A3らとともに損失分離スキームを構築・維持するために具体的な手法を策定・実施するなどの実務作業を担っており,これによって一審原告会社は簿外の損失を保有し続けることができたことや,一審被告A4は,本件国内3社の株式取得及びジャイラスの配当優先株の買取り等が損失分離状態を解消するために実行されたものであることを知悉していたこと,それにもかかわらず,一審被告A4は,Bが送付した本件各レターに対し,同人の指摘する疑念は存在しないとの回答を送付し続け,同人がPwC中間報告書を示して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を求めるようになった後は,一審被告A5が招集したK弁護士の法律事務所における集まりに参加し,翌日の10月14日取締役会におけるBの解職に異論を述べず,同取締役会において解職議案にも賛成したことが認められるから,一審被告A4は,一審被告A5とともに,Bの疑惑追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として,Bの解職に向けた上記の一連の行動を採ったと認定するのが相当である。
このような一審被告A4の行為は一審原告会社に対する善管注意義務及び忠実義務に違反するものと認められる。
一審被告A4は,Bが代表取締役として相応しくないと考えて解職議案に賛成したというが,一審被告A4は,一審被告A5と同様,Bが疑惑追及を強硬に主張して一審被告A4の辞任を迫るに及んだことから,損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として解職決議に及んだものというべきである。
(ウ) 一審被告A3の善管注意義務違反について
前記前提事実のとおり,一審被告A3は,平成23年6月から監査役に就任していたことが認められるが,監査役も取締役と同様,会社に対する善管注意義務を負っており(会社法330条,民法644条),取締役が不正行為をし,又は不正行為をするおそれがあるときは,遅滞なく取締役会に報告しなければならない義務(会社法382条)等を負っているものと解される。
そして,前記⑴の認定事実によれば,一審被告A3は,一審被告A4らとともに損失分離スキームを構築・維持するために具体的な手法を策定・実施するなどの実務作業を担っており,これによって一審原告会社は簿外の損失を保有し続けることができたこと,一審被告A3は,本件国内3社の株式取得及びジャイラスの配当優先株の買取り等が損失分離状態を解消するために実行されたものであることを知悉していたこと,一審被告A3は,Bと一審被告A4との間の本件各レターその他のメールのやり取りを認識し,一審被告A4が事実に反して何らの疑惑はないという立場で応対していることも認識していたこと,それにもかかわらず,一審被告A3は,Bが本件レターⅥによって一審被告A5及び一審被告A4の辞任を求めた直後,一審被告A5が招集したK弁護士の法律事務所における集まりに参加し,翌日の10月14日取締役会におけるBの解職に異論を述べず,解職議案にも賛成したことが認められるから,一審被告A3は,一審被告A5が,Bの追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として同人を解職する旨の議案を10月14日取締役会に提案したことを認識していたと推認するのが相当である。
このように,一審被告A3は,そのような一審被告A5の違法行為を阻止するため,取締役会や監査役会にその旨報告するなどの措置を採る義務を負っていたというべきであるにもかかわらず,実際には何らの措置を採らなかったのであるから,一審原告会社に対する善管注意義務に違反するものと認められる。
イ 損害の発生の有無について
前記⑴の認定事実によれば,一審原告会社は,平成23年10月14日,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職したことを公表したこと,一審原告会社の株価は,当該公表前には概ね2400円前後で推移していたものの,公表当日の終値は2045円に下落し,翌週にはさらに,終値が1555円,1417円,1389円などと下落した上,本件第三者委員会の設立を準備している旨を公表した同月21日には終値が1231円となり,更にその翌週の同月24日には終値が1099円に下落していることが認められる。
このような株価の下落をもって,直ちに一審原告会社に損害が生じたものということはできないものの,Bの解職前後における上記の株価の下落状況に加え,前記⑴の認定事実によれば,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職することは,同人が指摘していた疑惑を隠蔽するためにされたとの見方をされてもやむを得ないものであること(B自身,対外的に,過去の企業買収における不明朗な支出を追及したのが解職の理由であったと主張した。),実際に,Bの解職を受けて,一審原告会社の経営の混乱や迷走,コーポレートガバナンス(企業統治)の体制や法令遵守の姿勢の欠如を指摘する多数の新聞報道がされ,一審原告会社は,その後,各種プレスリリースや本件第三者委員会の設置等の対応を強いられたことなどが認められるから,これらの事情を総合すれば,一審原告会社には,Bの解職によって,信用毀損による損害が生じたものというべきである。
そして,当該損害の性質上,その額を立証することは極めて困難であるといえるから,民事訴訟法248条により,その損害額は,一審原告会社主張の1000万円であると認定するのが相当である。
一審被告A4らは,損害の立証がないと主張するが,上記のとおり,本件は,損害の発生は認められるものの,その額の立証が極めて困難な場合に当たるから,上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上によれば,一審原告らの第5類型に係る請求は,一審原告会社が請求する限度で全部理由がある。
⑶  第2事件について
ア 9月30日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反の有無について
一審原告株主は,①FACTAに掲載された本件各記事は,内部情報に基づく十分信用できるものである上,法的知見や企業買収に携わった経験がない取締役であっても,容易に疑問を持ち得る内容であったこと,②Bが指摘する疑惑の内容は具体的なものであったが,Bの本件各レターに対する一審被告A4の回答は,Bの追及を否定するか,資料についても全ては送付せず,送付の遅れの理由を述べるだけで,Bの疑問に対して,正面から回答するものではなく,一審原告会社で違法・不正な取引が行われたという疑念を払拭するものではなかったこと,③平成21年第三者委員会報告書及び井坂公認会計士事務所作成に係る本件国内3社の株主価値算定報告書の内容は,いずれも不十分な内容であって,Bの指摘する違法行為の可能性を否定できるようなものではなかったことなどからすると,一審被告A5ら経営陣による違法行為が存在する疑いがあることは明確になっていたものといえ,第2事件一審被告らは,遅くとも9月30日取締役会の時点で,Bの指摘を真剣に受け止め,違法行為の有無について調査すべき注意義務を負っていた,④Bは,9月30日取締役会において,本件国内3社の買収額やジャイラスのFA報酬額について疑問が解消された旨の発言をしたわけではなかったにもかかわらず,第2事件一審被告らは,Bの指摘を事実上無視し,違法行為の存在が疑われる場合に取締役が行うべき調査義務を怠った,また,一審被告A5ら損失隠しに直接関与した役員らの違法行為はもとより,善管注意義務に違反していた役員らの違法行為を黙認ないし放置したものであり,監視義務にも違反したものである旨主張する。
しかしながら,上記①については,本件各記事は,本件国内3社やジャイラスの買収額が高額であると指摘するものであるが,そもそも,本件国内3社の買収額やジャイラスの買収額及びFA報酬については,あずさ監査法人から取得価格や取引の妥当性について懸念を表明され,平成21年第三者委員会が設置され,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払に関して,①取引自体に不正・違法行為がなかったか,②取締役の善管注意義務違反及び手続的瑕疵がなかったかについて調査,検討がされ,平成21年第三者委員会は,いずれも違法もしくは不正な点があった又は善管注意義務違反があったとまで評価できるほどの事情が認識できなかった旨の報告をしていたのであって,本件各記事の内容は,概ね,既に一審原告会社内において,既知のものであり,一応の決着を得た問題であったことが認められる。また,本件各記事のうち,本件国内3社の株式を一審原告会社に売却したDDが反社会的勢力との関係が疑われるJブリッジと関係があり,Jブリッジに巨額の資金が流れた疑いがあるとする部分は,一審原告会社の違法行為の存在に関して客観的な根拠を示したものではなく,推測の域を出ない内容といえる。
次に,上記②については,Bは,平成23年9月24日から同月28日にかけて,第2事件一審被告ら(一審被告A14を除く。)を含む一審原告会社の取締役等に対し,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に関する金銭の支払について,「深刻なガバナンスの問題」と記載した本件各レターを送付したが,一審被告A4は,本件各レターを受領した当日ないし翌日にはBに対し電子メールを返信するなどして対応し,その際,一審被告A4は,Bから回答を求められた本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に関する全ての質問に対して個別に回答しており,その回答内容も不自然なものではなかった上,Bが提出を求めた資料についても,平成21年第三者委員会報告書及び井坂公認会計士事務所作成に係る本件国内3社の株主価値算定報告書等の英訳を準備するなどして送付したのであって,このような一審被告A4の対応は,損失分離スキームに関する事情を知らない第2事件一審被告らが一審被告A5や一審被告A4らが疑惑を隠蔽しようしているとの疑念を抱くようなものであったとはいえない。
さらに,上記③については,平成21年第三者委員会報告書は,上記の経過による調査,検討の結果であり,取引に不正・違法行為があったとの事情は認識できなかったと結論付けられていたものであるから,第2事件一審被告らが一審被告A5や一審被告A4らが疑惑を隠蔽しようしているとの疑念を抱くようなものであったとはいえない。
加えて,上記④については,Bは,9月30日取締役会において,「最終的に私たちは非常に建設的な理解に達したと思います。」,「非常に単刀直入な議論をし,意思決定を行いました。私はこれらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分に確信できました。」,「今は前向きに未来に目を向けるつもりであることをはっきりと表明します。」など,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に関して自己が抱いていた疑問点が解消した旨の発言をし,調査が必要であるとは発言しなかったことが認められる(乙M2,当審における証人B)。一審原告株主は,Bは,ジャイラス買収に一審原告会社の2年分の利益に相当するFA報酬を支払ったことについて疑念は解消していない旨を発言していると主張するが,9月30日取締役会におけるBの発言を詳しく見ると,Bは,ジャイラス買収のFA報酬について上記の発言をしながらも,最終的には,FACTAの記事にあるような疑念はないことを確信し,安心したと発言したのであって,Bの内心はともかく,9月30日取締役会に出席した取締役らが,Bの疑念が解消されたと認識することが自然といえる状況にあったものと認められる。
これらの事情に照らすと,9月30日取締役会の時点で,損失分離スキームに関する事情を知らない第2事件一審被告らにおいて,Bが指摘をした違法行為について調査するなどの対応を要するような状況にはなかったのであるから,その時点において,第2事件一審被告らに善管注意義務違反があったとはいうことはできない(一審被告A14は,本件レターの送信を受けておらず,Bと一審被告A5及び一審被告A4とのやり取りを知らなかったが,9月30日取締役会に出席し,Bの前記発言を聞いていたのであるから,同様に,善管注意義務違反があったとはいえない。)。
なお,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14は,本件国内3社の株式取得あるいはジャイラスの配当優先株の買取りに係る取締役会に出席し,これらの議案に賛成しているが,当時,これらの議案提出の動機である損失分離スキームの解消についての認識を有していなかったものと認められるから,上記事実をもって,前記判断を左右するものではない。
イ 10月14日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反の有無について
一審原告株主は,Bは,第2事件一審被告らを含む一審原告会社の取締役及び監査役らに対し,PwC中間報告書を添付した本件レターⅥを送付したが,PwC中間報告書は,通常の判断能力を有する取締役であれば,大手会計事務所によって一審原告会社の過去のM&Aをめぐる金銭の動きに重大な疑問が呈されており,コンプライアンス違反となる可能性が極めて高いと断じられていることは容易に判断できるものであり,Bは,本件レターⅥの中で一審被告A5及び一審被告A4の辞任を要求していたのであるから,もはや違法行為の存在はほぼ確実な状況にあったといえ,第2事件一審被告らは,10月14日取締役会において,Bが詳細な調査を実施できるよう対応すべきであるとともに,一審被告A5及び一審被告A4に対し,Bの調査に対する妨害を回避する方策を採るべきであったが,Bの解職提案が,違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できたにもかかわらず,疑惑追及や調査を妨害するために解職決議をしたことは明白である旨主張する。
しかしながら,PwC中間報告書は,Bが一審被告A4から入手した資料を提供して作成されたものであり,その内容も,ジャイラス買収に伴うFA報酬の支払等について,コーポレートファンナンスチームの経験から,AXESやAXAMに支払われた報酬が取引の規模,性質からは高額にすぎる,その理由等は資料の提供を受けていないからコメントできない,詳細な調査を推奨するとし,結論として「不適切な行為が行われたと確信することはできない」と記載しているものであって,具体的な根拠をもって一審原告会社の過去の買収案件に関する違法ないし不適切行為の存在を指摘したものではなく,限られた資料に基づき書面調査をした経過を報告した中間報告書という性質からしても,それによって疑惑が一層明確になったとはいうことはできない。また,本件国内3社の株式取得については,そもそもPwCによる調査の対象外であった。
そして,Bは,9月30日取締役会においては,疑念が解消したと表明しながら,本件レターⅥにおいては,添付したPwC中間報告書が,本件国内3社の株式取得は対象外とされ,関係者らに善管注意義務違反があるとの指摘をしたものではないにもかかわらず,本件国内3社の株式取得の疑惑を指摘して,一転して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を強硬に迫ったものであること,Bは,「私はこれらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分に確信できました。」,「A4さんがスイスのどこかに別荘を持っているとか,そういうことは一切ないということについて確信できました。」などの発言(乙M2)からも明らかなように,もともと個人的に利益を得た者がいるかに関心を持っていたこと,B自身が不満を抱いていたように一審原告会社の社内や他の取締役らからは必ずしも全面的に支持されていなかったこと(当審における証人B)などからすると,Bの真意が疑惑の解明,調査というよりも,疑惑を利用して,一審原告会社における実権を獲得することにあるのではないかとの疑いも生じる状況にあったものといえる。
さらに,平成23年10月13日のK弁護士の法律事務所における打合せは,極めて異例のものであったが,一審被告A5が資質上の問題からBを解職する意向を有している旨を明らかにし,K弁護士がそのための手続を説明したことは認められるものの,それ以上にその打合せの状況を詳しく認定し得る証拠はない。Bは,9月30日取締役会においては,前向きに未来に目を向けるつもりであることをはっきり表明し,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に関する自己の疑問点が解消したことを明らかにする発言をしたにもかかわらず,一転して,自己が依頼して作成させたPwC中間報告書に基づき,一審被告A5及び一審被告A4の辞任を強硬に求めるなどしたこと,上記取締役会においても,出席取締役らから,Bが外部の監査法人に資料を送付したことや納得する返事がなければ取締役会に出席しないと述べたことなどが批判され,B自身,自己が代表取締役であることに反対であるならば,取締役らにおいて自己を代表取締役から解職する権利があるとも発言していたこと,上記のとおり,Bの真意が疑惑の解明,調査というよりも,疑惑を利用して,一審原告会社の経営における実権を獲得することにあるのではないかとの疑いも生じる状況にあったことなどからすると,Bを抜てきした一審被告A5自身がBの資質に問題がある旨の説明をして解職を提案したことは,取締役らにとっては,不可解なものとはいえず,理解できないものではなかったというべきである。
したがって,10月14日取締役会に出席した第2事件一審被告らには調査義務があったものとはいえず,一審被告A5によるBの解職提案が違法行為を隠蔽しようとするものであることを認識することができたともいえないから,善管注意義務違反があったということはできない。一審被告A14は,PwC中間報告書を添付した本件レターⅥの送信を受けていないが,K弁護士の事務所における打合せに出席し,Bが一審被告A5及び一審被告A4の辞任を強硬に求めていることを知ったのであるから,同様に,善管注意義務違反があるとはいえない。また,一審被告A15は,上記打合せに出席していないが,実際,9月30日取締役会には出席し,Bの手法に疑問を呈する旨発言もしていた(乙M2,原審における一審被告A15本人)のであるから,Bの解職提案に賛成したことは一審被告A5らによる違法行為の隠蔽に加担したとはいえず,同様に,善管注意義務違反があったとはいえない。
また,一審原告株主は,BにはCEO等の適格性が十分あり,解職する理由がなく,CEOに選任した2週間後に解職するのは不自然であり,調査と解職は別問題とする第2事件一審被告らの供述は信用できない旨主張するが,上記のとおり,既に9月30日取締役会においてもBの手法等には疑問を呈する意見が出されていたが,B自身が自己の疑問点が解消したことを明言し,前向きに未来に目を向けると表明して収まったものの,一転して,一審被告A5及び一審被告A4の辞任を強硬に迫るなどした状況があり,資質に問題があるという一審被告A5の説明も不可解なものとはいえず,理解できないものではなかった上,遅滞なく,平成23年10月20日の取締役連絡会において,第三者委員会の設置の方針を固め,翌21日には,その旨のプレスリリースをし,同年11月1日,本件第三者委員会が設置され,調査が実施され,一審被告A5も,同年10月26日に辞任しているから,第2事件一審被告らの供述が信用できないものとはいえない。
なお,一審原告株主は,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14は,別件損害賠償請求訴訟(東京地方裁判所平成24年(ワ)第174号,同第8257号)において和解に応じている旨主張するが,善管注意義務を認めて和解したものではないことはその和解条項からも明らかである。また,本件第三者委員会報告書は,関与した取締役らの善管注意義務を認定したものではない上,本件取締役責任調査委員会が,本件国内3社の株式取得あるいはジャイラス買収に伴うFA報酬の支払に関する取締役会決議に関与した一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14について善管注意義務違反があると指摘したとしても,後日実施された調査に基づく指摘であり,上記一審被告らが,自らの責任追及を回避するために,Bの解職提案に賛成したものとはいえない。
ウ 小括
以上によれば,一審原告株主の第2事件に係る請求は理由がない。
3  第6類型(剰余金の配当等関係)について
⑴  認定事実(剰余金の配当等の事実)
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 第139期事業年度から第143期事業年度までの間の期末配当の実施平成19年5月8日,平成20年5月8日,平成22年5月11日,平成23年5月11日にそれぞれ開催された一審原告会社の各取締役会において,各剰余金の配当を定時株主総会に上程する議案が承認可決された。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,上記取締役会に出席し,同議案に賛成した。
上記各配当議案は,平成19年6月28日,平成20年6月27日,平成22年6月29日,平成23年6月29日にそれぞれ開催された一審原告会社の各定時株主総会において原案のとおり承認可決され,前記前提事実⑹ア記載のとおり配当が実施された。
なお,実際の配当額が上記定時株主総会で決議された配当額よりも低額であるのは,配当金を受領しない株主が存在したためである(なお,以下のイの中間配当についても同様である。)。
(甲Aカ6の1~4,7の1~4,8の1・2,9の1・2,10の1・2,11の1・2,16)
イ 第139期事業年度から第143期事業年度までの間の中間配当の実施
平成19年11月6日,平成20年11月6日,平成21年11月6日,平成22年11月5日にそれぞれ開催された一審原告会社の各取締役会において,各中間配当に関する議案が承認可決され,前記前提事実⑹イ記載のとおり配当が実施された。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,上記取締役会に出席し,同議案に賛成した。
(甲Aカ6の5~8,12の1・2,13の1・2,14の1・2,15の1・2)
ウ 自己株式取得の実施
平成20年5月8日,平成22年11月5日にそれぞれ開催された一審原告会社の各取締役会において,各自己株式取得に関する議案が承認可決された。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,上記取締役会に出席し,同議案に賛成した。
一審原告会社は,上記取締役会決議に基づき,前記前提事実⑹ウ記載のとおり,自己株式を取得した。
(甲Aカ4の1~4,6の2・8)
⑵  一審被告A3及び一審被告A4の会社法462条1項の責任について
ア 証拠(甲Aカ1の1~5,3の1~5,5,18の1・2)によれば,本件剰余金の配当等について,一審原告会社の提出した訂正後の有価証券報告書に従って分配可能額を算出すると,別紙10「訂正後財務諸表における分配可能額」記載のとおり,本件剰余金の配当等は,いずれもその効力を生ずる日における分配可能額を超えて行われたものと認められる。
イ そして,前記⑴の認定事実によれば,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,本件剰余金の配当等のうち,平成19年3月期,平成20年3月期,平成22年3月期及び平成23年3月期の各期末配当を定時株主総会に上程する議案について,各取締役会において決議に賛成しているから,「当該株主総会に係る総会議案提案取締役」(会社法461条1項8号,462条1項6号イ)に該当する。
ウ また,前記⑴の認定事実によれば,被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,本件剰余金の配当等のうち,平成19年9月期,平成20年9月期,平成21年9月期及び平成22年9月期の各中間配当について,これらの議案が審議された各取締役会において剰余金の配当に賛成しているから,「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(会社法461条1項8号,462条1項柱書,会社計算規則159条8号ハ)に該当する。
エ さらに,前記⑴の認定事実によれば,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,本件剰余金の配当等のうち,平成20年5月及び平成22年11月の自己株式の取得について,これらの議案が審議された各取締役会において同株式の取得に賛成しているから,「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(会社法461条1項2号,462条1項柱書,会社計算規則159条2号ハ)に該当する。
オ したがって,一審被告A3及び一審被告A4は,一審被告A5とともに,会社法462条1項に基づき,一審原告会社に対し,連帯して,本件剰余金の配当等により,株主に対して交付された金銭合計586億7596万8936円を支払う義務を負う。
カ これに対し,一審被告A4は,分配可能額の算定に関し,①計算書類の記載に虚偽記載がある場合,計算書類に関する取締役会の承認決議は無効となるから,本件において分配可能額の算定の基礎とすべき貸借対照表は平成18年3月期の貸借対照表である,②訂正後の各貸借対照表(訂正後の平成19年3月期ないし平成23年3月期の各貸借対照表)は,剰余金の配当等の効力発生日においては存在していなかったこと,剰余金の配当等に係る金銭の支払責任は,剰余金の配当等の効力発生日において客観的に発生するか否かが定まるべきものであり,事後的に権利者である会社の行為により,決められるものではないことから,訂正後の各貸借対照表を基礎として分配可能額を算定するのは不当である,③一審原告会社は,公正妥当な会計基準に基づいて裁量の余地なく訂正後の貸借対照表の金額に修正されなければならないことを具体的な明細及び根拠を示して主張・立証すべきであるのにこの点の立証がなく,訂正後の各貸借対照表を基礎として分配可能額を算定するのは不当である,④訂正後の各貸借対照表は連結貸借対照表であるから,単体の貸借対照表について粉飾がされたのか否かは明らかではないと主張し,一審被告A3もこれを援用する。
しかしながら,上記①については,まず,剰余金の配当又は自己株式の有償取得(以下「剰余金の配当等」という。)が会社法461条1項の剰余金の配当等の効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)における「分配可能額」を超えて行われた場合には,業務執行者及び同項各号に定める取締役は,同法462条1項に基づく金銭の支払義務を負うところ,この分配可能額の算定は,大要,「最終事業年度の末日における剰余金の額」を計算の出発点として,これに最終事業年度の末日後,当該配当等を行う時までの分配可能額の増減(金銭等の分配,資本金の減少等)を反映させることにより行われる(同法462条2項,446条,会社計算規則等)。ここで「最終事業年度」とは,「計算書類につき承認を受けた場合における当該各事業年度のうち最も遅いもの」と定義されている(同法2条24号)ところ,一旦,取締役会の承認決議等により直近の事業年度の末日をもって計算書類が確定され,これを基礎として剰余金の配当等に係る定時株主総会又は取締役会の決議が行われている以上,当該直近の事業年度の末日をもって,分配可能額の算定の基礎となる「最終事業年度の末日」の時点は確定するというべきであり,仮に計算書類の承認決議に無効事由があることが後に判明したとしても,これによって,分配可能額の算定の基礎となる「最終事業年度の末日」が影響を受けることはないと解するのが相当である。また,実質的にみても,同法462条1項に基づく責任は,会社財産の株主に対する分配可能額を超える払戻しにより,債権者に対する弁済の引当てとなる会社財産が不当に流出することを規制し,会社債権者と株主との利害を調整するという趣旨によるものであるから,分配可能額の算定は,剰余金の配当等の決定・実施時から近接した時点における会社の財産状態等を正しく表した計算書類を基礎とするのが相当であり,このような観点からも,剰余金の配当等において基礎とされた計算書類が対象としていた直近の事業年度の末日の時点を基礎として分配可能額を算定するのが相当である。このように,承認手続を経た計算書類に係る直近の事業年度の末日の時点を基礎として分配可能額を算定するのが相当であり,一審原告会社が主張する訂正後の各貸借対照表を基礎とした分配可能額の算定に誤りがあるとはいえない。
上記②については,会社法462条1項の支払義務が生じるのは,同法461条1項のとおり,剰余金の配当等の効力発生日における分配可能額を超えた場合であるところ,同法462条1項の財源規制の趣旨からしても,分配可能額の算定の基礎とする数値は,各計算時点における会社の財産状態等を表す真正な数値によるべきであるから,分配可能額の算定の基礎とされた承認手続を経た貸借対照表の数値に誤りがある場合には,当該各計算時点においてあるべき真正な数値を表示した訂正後の貸借対照表の数値を基礎として算定するのが相当である。
上記③については,証拠(甲Aカ1の1~5,3の1~5,5,18の1・2)によれば,分配可能額の算定の基礎とされた訂正後の各貸借対照表を含む各有価証券報告書については,第三者委員会による調査報告書による指摘を踏まえて過年度決算について精査の上,訂正を行ったものであり,訂正後の財務諸表については,監査法人による監査を受け,適正意見(平成21年3月期以前については限定付適正意見,平成22年3月期以降については無限定適正意見)を受けているものであるから,その信用性を肯定することができる(なお,一審被告A3及び一審被告A4も訂正後の各貸借対照表について具体的な誤りを指摘するものではない。)。そして,訂正後の各貸借対照表によれば,本件剰余金の配当等が,いずれもその効力発生日における分配可能額を超えて行われたものであることは明らかである。
上記④については,会社法上の配当制限が,単体の貸借対照表に基づいてされることは,会社が任意に連結貸借対照表も考慮した配当規制を選択できるとされている(連結配当規制適用会社,会計計算規則158条4号)ことからも明らかであるが,有価証券報告書の訂正報告書(甲Aカの1~5)には,訂正後の単体の貸借対照表の説明として,「貸借対照表では同期首(注:訂正期間期首である平成18年4月1日を指す。)において,『関係会社投資』に対する損失見込額 117,914 百万円を期首剰余金から減額しています。」と明記されている上,証拠(甲Aカ1の1~5,3の1~5,5,18の1・2)によれば,単体の貸借対照表である訂正後の各貸借対照表を基礎として計算した結果として,本件剰余金の配当等の効力発生日時点における単体の貸借対照表に基づく分配可能額は,少なくとも70億円を超えるマイナスになっているものと認められるから,本件剰余金の配当等が,いずれもその効力発生日における分配可能額を超えて行われたものであることは明らかである。
一審被告A4及び一審被告A3の上記主張は,いずれも理由がない。
キ 一審被告A3及び一審被告A4は,本件剰余金の配当等について注意を怠ったとはいえない旨主張する。
会社法462条1項に基づく支払義務は,業務執行者及び同項各号に定める取締役が「その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したとき」(同条2項)には,その義務を免れるとされている。しかしながら,前記⑴の認定事実によれば,①一審被告A3は,一審被告A2の指示ないし了承の下,一審原告会社において,金融資産の運用に直接に携わり,外部協力者の協力・助言を受けるなどして自ら損失分離スキームの構築・維持を行った者であり,平成15年6月27日に取締役に就任した以降も,取締役の善管注意義務及び監視義務に違反し,損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じておらず,損失分離状態を前提とした虚偽の計算書類が作成されていたことを認識していたものと認められること,②一審被告A4についても,一審被告A2の指示ないし了承の下,一審被告A3の部下として一審被告A3とともに,一審原告会社において,金融資産の運用に直接に携わり,外部協力者の協力・助言を受けるなどして自ら損失分離スキームの構築・維持を行った者であり,平成18年6月29日に取締役に就任した以降も,取締役の善管注意義務及び監視義務に違反し,損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じておらず,損失分離状態を前提とした虚偽の計算書類が作成されていたことを認識していたものと認められることからすると,会社法461条1項に違反する本件剰余金の配当等の実施が行われることについて,一審被告A3及び一審被告A4が,業務執行者又は総会議案提案取締役として「注意を怠らなかった」ということはできない。
⑶  権利濫用の抗弁について
一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社による会社法462条1項に基づく請求は,著しく公平に反するものであって,権利濫用に当たる旨主張する。
一審被告A3及び一審被告A4は,訂正後の連結貸借対照表に基づいて分配可能額を算定すれば,分配可能額は十分にあったと主張するが,会社法の配当規制は,単体の貸借対照表に基づくものであり,任意に連結貸借対照表も考慮に入れた配当規制を選択した連結配当規制適用会社(会社計算規則158条4号)でない限り,単体の貸借対照表に基づいて分配可能額を算定することになる。そして,一審原告会社が,連結配当規制会社を選択することなく,単体の貸借対照表による分配可能額に基づき会社法462条1項の請求をすることは何ら権利の濫用になるものではない。
また,一審原告会社の株主らは,本来取得できなった分配可能額を超えた剰余金の分配に与り,取締役らから分配可能額を超えて分配された額を回収することは二重に利益を得ることになり,著しく不公平であるとも主張するが,分配可能額を超えて分配がされた場合には,株主であっても,交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭の支払義務を負っている上(会社法462条1項,463条2項),取締役らが損害賠償義務を履行して分配可能額を超えた分配額に相当する額が会社財産に回復したとしても,個々の株主が直接利益を受けるわけではないから,二重に利得するものとはいえず,著しく不公平であるともいえない。
一審被告A3及び一審被告A4の上記主張は,採用できない。
⑷  信義則ないし過失相殺の抗弁について
一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社の方針に従い一連の行為に関与したものであるから,信義則又はクリーンハンズの原則から一審原告会社の会社法462条1項に基づく請求は棄却されるべきであるとか,過失相殺の規定の類推適用により責任額が減額されるべきであると主張する。
しかしながら,株式会社及び共同訴訟参加した株主が取締役に対し,善管注意義務違反等を理由として損害賠償を求める事案において,取締役は株式会社の機関であるから,これとは独立した株式会社の過失を観念することは困難であること,取締役は,株主総会において選任され,株式会社に対し,取締役会を通じて代表取締役の業務の執行が適正に行われるようにするべき監視義務を負っているのであるから,代表取締役等による違法又は不正な行為が行われていることを認識しながら,その指示に従っていたということは,取締役の監視義務に違反することにほかならず,これを取締役に有利な事情として考慮することは困難であることからすると,取締役の監視義務違反が明らかな事案において,信義則又はクリーンハンズの原則の適用,過失相殺の規定の類推適用により,取締役の責任の免責又は軽減を認めることはできない。また,会社法462条1項に基づく責任は,会社財産の不当な流出を防止し,会社債権者と株主との利害を調整する趣旨で法定された特別責任であって厳格な免責要件が定められていること(同条3項)からしても,過失相殺の規定の類推適用による責任軽減を肯定することは相当でない。
この点を措くとしても,一審被告A3及び一審被告A4は,いずれも自ら損失分離スキームの構築・維持を実行した者であり,取締役に就任した以降も,取締役の善管注意義務及び監視義務に違反し,損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じていなかったというのであるから,一審被告A3及び一審被告A4について,その責任を軽減すべき事由があるとはいえない。
一審被告A3は,歴代の社長や会長に対して損失の開示を進言した旨主張し,その旨供述するけれども(乙D1~4,原審における一審被告A3本人),一審被告A3自身,最終的には,一審被告A5らの損失を先送りするという意見に同調し,取締役会等の正式な場面で意見を述べることはなかったというのであるから(原審における一審被告A3本人),取締役の監視義務に違反することは明らかであり,一審被告A3について,その責任を軽減すべき事由があるとはいえない。
一審被告A4も,従業員時代に一審原告会社の意思決定に基づく指示等に従ったにすぎず,上司に損失の公表を進言したものの,これを拒絶されたなどの事情があるというが,本件において,一審被告A4は取締役としての責任を問われているのであって,財務部門の従業員時代の行為の責任を問われているものではない。そして,一審被告A4は,従業員時代に損失分離スキームの構築・維持に深く関与し,損失分離の実態を知悉していたにもかかわらず,平成18年6月29日に取締役に就任した後においても,損失の公表に向けた意見を述べることなどなく,かえって,違法な本件剰余金の配当等に関与したものであるから,一審被告A4について,その責任を軽減すべき事由があるとはいえない。
一審被告A3及び一審被告A4の上記主張は,採用できない。
⑸  損益相殺の主張について
別件詐害行為取消訴訟(横浜地方裁判所川崎支部平成25年(ワ)第936号)において,別件詐害行為取消訴訟の原告である一審原告会社と被告である一審被告A4の妻L及び利害関係人である一審被告A4との間で裁判上の和解が成立し,同和解に基づき,Lが50万円を,一審被告A4が250万円をそれぞれ一審原告会社に対し支払ったことは,一審原告会社と一審被告A4との間に争いがなく,一審原告会社,一審被告A5,一審被告A3との関係でも弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。そして,一審原告会社は,上記和解で支払われた合計300万円を損害から控除することを争わない旨陳述し,一審原告株主もこれに特段の異議を述べていないところ,これは,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の会社法462条1項に基づき支払義務を負う額の元金から上記300万円を控除することを容認する趣旨と解される。
したがって,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4が会社法462条1項に基づき支払義務を負う586億7596万8936円から300万円を控除すべきである。
⑹  小括
以上によれば,第6類型に係る一審原告会社の請求(一部請求)は,全部理由があるが,第6類型に係る一審原告株主の請求は,一審被告A3及び一審被告A4に対し,586億7296万8936円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。なお,一審被告A5は,控訴も附帯控訴もしていないから,一審原告株主に不利益に変更することはできない。
4  第7類型(課徴金・罰金関係)について
⑴  認定事実(課徴金・罰金の納付等の事実)
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 虚偽の記載のある有価証券報告書の提出については,従前から,罰金,課徴金の対象とされ,罰金については,個人が5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金又は併科,法人が5億円以下の罰金とされていた(平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(旧証券取引法)197条1項1号,207条1項1号)が,平成18年法律第65号による改正によって,個人が10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又は併科,法人が7億円以下の罰金と加重され(同改正後の金商法197条1項1号,207条1項1号),同改正部分は同年7月4日に施行された(附則1条1項)。
また,四半期報告書の提出は,従前は,証券取引所の自主ルールとされていたが,上記改正によって,法定化される(金商法24条の4の7)とともに,その虚偽記載が,罰則・課徴金の対象とされ(同法172条の2第2項,197条の2第6号,207条1項2号),平成20年4月1日以後に開始する事業年度から適用された(附則15条,16条)。その後,平成20年法律第65号による改正により,課徴金の根拠条文は,172条の4第2項となり,平成20年12月12日以後に開始する事業年度から適用された(附則8条)。
イ 一審原告会社,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成24年3月7日及び同月28日,旧証券取引法及び金商法違反の罪(虚偽記載有価証券報告書の提出の罪)の容疑で公訴提起され,平成25年7月3日,東京地方裁判所において,旧証券取引法及び金商法違反の罪(虚偽記載有価証券報告書の提出の罪)で,一審原告会社が罰金7億円,一審被告A5及び一審被告A3がそれぞれ懲役3年(5年間刑の執行猶予)並びに一審被告A4が懲役2年6月(4年間刑の執行猶予)に処せられたが,認定された罪となるべき事実は,⑴平成18年4月1日から平成19年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月28日,損失を抱えた金融商品を簿外処理するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,関東財務局長に提出し,⑵同年4月1日から平成20年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月27日,損失を抱えた金融商品を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,同局長に提出し,⑶同年4月1日から平成21年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月26日,損失を抱えた金融商品を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,同局長に提出し,⑷同年4月1日から平成22年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月29日,架空ののれん代を計上するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,同局長に提出し,⑸同年4月1日から平成23年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月29日,架空ののれん代を計上するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,同局長に提出し,提出したことにあった(甲Aキ1の1・2,2)。
ウ 金融庁長官は,平成24年7月11日,一審原告会社に対し,1億9181万9994円の課徴金納付命令を発したが,平成25年9月4日,その一部を取り消したため,一審原告会社が納付すべき課徴金は,第144期事業年度の第1四半期(平成23年4月1日から同年6月30日まで)について,平成23年8月11日,のれんの過大計上等により,連結純資産額が虚偽の本件四半期報告書を提出した事実による1986万円になった(甲Aク1の1・2)。
エ 一審原告会社は,平成24年7月31日,本件課徴金1986万円を,平成25年8月9日,本件罰金7億円を,それぞれ国庫に納付した(甲Aク2の1・2)。
⑵  法人に科せられた課徴金・罰金を取締役の善管注意義務による損害とすることの可否について
一審被告らは,①金商法207条1項1号は,行為者たる自然人を罰するほかに法人固有の責任として法人に対する抑止力をもたせるという見地から法人に罰金を科し,同法172条の4は,違法行為によって会社が得た利益を国家が剥奪するという性格から法人に課徴金を科しているのであって,法人に科された課徴金・罰金は,国が法人処罰等の特定の目的をもって意図的に科したものであるから,課徴金・罰金の取締役への転嫁を認めるべきではないこと,②会社が支払った課徴金・罰金について取締役が補填すれば,会社が実質的に不正又は違法な利益を保持することになり不当であること,③課徴金・罰金について取締役に対する損害賠償責任を認めることは,取締役に対して,過剰な負担を課すことになることなどを主な理由として,取締役の善管注意義務違反と課徴金・罰金の支払との間には,法的因果関係が否定されるというべきである,④また,同一の事実に基づき罰金相当額の損害賠償を命じられることは,実質的には禁止されている二重処罰になるなどと主張する。
しかしながら,まず,上記①については,会社法423条1項の取締役の責任は,債務不履行責任であって,取締役に対してその任務懈怠と相当因果関係のある損害の賠償義務を負わせているが,その賠償の範囲には任務懈怠と相当因果関係がある限り,特段の限定はなく,会社が取締役の任務懈怠によって課徴金・罰金の支払を余儀なくされた場合において,その課徴金・罰金を損害から除く根拠はない。また,課徴金が法人に対する制裁として,会社が得た利益を剥奪するものであり,罰金が法人固有の刑事責任を認め,法人の資産や事業規模等を考慮してその抑止力として期待できる額の法定刑を定めているとしても,それは課徴金・罰金の目的や性質であって,そのような目的,性質から直ちに課徴金・罰金が民事上の損害賠償の対象にはならないとされるものではない。そして,金商法207条1項1号及び同法172条の4の各規定の内容や沿革等を考慮しても,取締役の任務懈怠を理由とする損害賠償責任について,取締役の任務懈怠と罰金・課徴金の支払との間の因果関係を否定する根拠を見いだすこともできない。さらに,会社が自らの責任財産をもって課徴金・罰金の支払をし,納付を完了することによって,会社に対して課徴金・罰金を科す目的は達せられたのであって,その後に任務懈怠をした取締役等への損害賠償請求により,法人が支払った課徴金・罰金相当額についての損害が実質的に填補されたとしても,それは任務懈怠をした取締役に対する責任追及を認める会社法の規定に基づき取締役の損害賠償責任が認められた結果にすぎず,これをもって,会社が自己に科された罰金・課徴金を取締役等に転嫁したと評価されるべきものではない。
次に,上記②については,取締役の任務懈怠によって会社が課徴金・罰金の支払を余儀なくされ,それに相当する額の財産が逸出して株主にも不利益が発生した場合において,任務懈怠をした取締役が会社に対する損害賠償責任を負わないということになれば,株主が代表訴訟を提起し,取締役の責任を追及して会社に財産の回復をさせる手段も奪うことになり,最終的には株主にその不利益を甘受させることになるが,このような結果になることは相当とはいえない。むしろ,自らの任務懈怠によって会社に課徴金・罰金の支払を余儀なくさせた取締役が会社に対する損害賠償義務を果たすことによってその損害の回復を認めることが公平の見地からは相当であり,違法行為の抑止にも資するというべきである。
さらに,上記③については,会社が取り扱う取引の規模等によっては,取締役が通常の取引において任務懈怠があった場合でも,巨額の損害賠償責任を負担することがあり得るのであるから,課徴金・罰金に相当する額の損害賠償のみについて別異に取り扱い,過剰な負担であることを理由にして相当因果関係を否定する理由もない。取締役が過失によって巨額の損害賠償責任を負う場合については,取締役の責任の一部免除の規定(会社法425条)の活用や取締役賠償責任保険によって,その負担の軽減を図ることができるのであるから,取締役が巨額の損害賠償責任を負う結果となることを理由として,直ちにその損害賠償責任を否定すべきものとはいえない。
なお,上記④については,本件においては,取締役の民事上の責任として一審原告会社が支払を余儀なくされた罰金相当額の損害について賠償義務があるとされるのであるから,二重処罰にも当たらない。
⑶  承継前一審被告A1及び一審被告A2について
前記⑴の認定事実のとおり,一審原告会社が罰金刑に処せられたのは,承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役を退任した後の第139期事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)から第143期事業年度(平成22年4月1日から平成23年3月31日まで)の5年にわたる各連結会計年度について重要事項に虚偽の記載がある本件有価証券報告書を提出したという事実によるものであり,課徴金が科せられたのは,同様に承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役を退任した後の第144期事業年度第1四半期(平成23年4月1日から同年6月30日まで)について重要事項に虚偽の記載がある本件四半期報告書を提出したという事実によるものであって,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,本件有価証券報告書及び本件四半期報告書の作成やその提出自体には関与しておらず,刑事事件の判決においても,重要事項に虚偽の記載がある有価証券報告書の提出の事実について,一審被告A5らとの共謀が認定されているわけではない。
一審原告会社は,①承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役であった時代に同人らの指示の下で損失分離スキームが構築され,これを知る一部の役職員らの間で損失隠しを継続することについて強固な運命共同体が形成され,これが承継前一審被告A1及び一審被告A2の取締役退任後も継続されていたのであるから,一審被告A5らによる本件有価証券報告書等の提出行為は,運命共同体において損失隠しの継続という目的の下で予定されていた必然的な成り行き(いわば共犯による続行行為)であること,②承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役であった時代に既にされていた有価証券報告書等の虚偽記載が,同人らの退任後においても継続してされることは,当然の因果の流れというべきであるから,一審被告A5らによる本件有価証券報告書等の提出行為により,一審原告会社に生じた本件罰金等相当額の損害は,通常生ずべき損害に当たり,仮にこれに当たらないとしても,自らが取締役を退任した後も,一審被告A5らにより虚偽記載のある有価証券報告書等が提出され続けるであろうことを予見し,又は予見し得たのであるから,特別損害に当たると主張する。
会社の経済活動は社会的には事業年度を超えて連続性があるが,会社法等においては,事業年度を基準として種々の制度が構築されており,会社の状況に関する重要事項等を記載する事業報告は事業年度ごとに各事業年度の終了後に作成され,会社の計算(会計)も,事業年度ごとに,当該事業年度に係る貸借対照表,損益計算書等の計算書類を作成し,各事業年度の終了後に,株主の承認等を受け,公告等をするなどして決算を行うことが義務づけられ(会社法435条等),有価証券報告書も事業年度経過後3月以内に提出することが義務付けられている(金商法24条1項)。そして,有価証券報告書には,経理の状況として連結財務諸表及び個別財務諸表の記載が必要とされているところ,これらの計算書類については,上記のとおり事業年度ごとに作成,確定されるものであり,四半期報告書も,四半期(3か月)ごとの経理の状況等を記載するものであるが,これも事業年度を前提にしている。
本件においては,確かに,本件有価証券報告書等の連結貸借対照表の純資産額については,承継前一審被告A1及び一審被告A2が関与した損失分離スキームにより長期にわたり金融資産の含み損を簿外処理するなどをしたことの影響が一定程度残存していることは否定できないが,本件罰金等が科されたのは,飽くまで第139期事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)から第144期事業年度四半期(平成23年4月1日から同年6月30日まで)までの有価証券報告書等についてであり,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,これらの有価証券報告書等の作成,提出はもとより,本件有価証券報告書等に係る事業年度の経営に関与したり,経営に影響を与えたりしたとは認められない。しかも,承継前一審被告A1及び一審被告A2退任後には,GCNVVが本件国内3社の株式を取得し,その後のGCNVVの解散により,その保有する本件国内3社の株式を一審原告会社が取得し,本件国内3社は一審原告会社の子会社となって連結決算上「のれん」を計上し,ジャイラスの買収及びこれに伴うFA報酬が支払われるなど重要な意思決定が一審被告A5らによって次々とされ,これが本件有価証券報告書等の純資産額にも反映されたが,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,それらの意思決定に関与したり,意思決定に影響を与えたりしたとは認められない。さらに,承継前一審被告A1及び一審被告A2が,取締役を退任した後も,損失分離状態の概要について一審原告会社の関係者から報告を受け,何らかの指示等を与えていたことなどを認めるに足りる証拠もなく(一審被告A3は,承継前一審被告A1及び一審被告A2に定期的に報告していた旨供述しているが(甲Aキ12の8,乙D2),取締役退任後のことを述べているものではない。),承継前一審被告A1及び一審被告A2について,当時現職であった一審被告A5らによる意思決定を中止ないし是正させる権限や影響力を有していたとも認められない。
このように,前記1⑵に説示するとおり,損失分離スキームの構築・維持に関して,承継前一審被告A1については平成16年6月29日までの取締役在任中の善管注意義務違反及び一審被告A2については平成17年6月29日までの取締役在任中の善管注意義務違反が認められ,その影響が本件有価証券報告書等の純資産額に一定程度残存していることは否定できないものの,本件罰金等が科されたのは,承継前一審被告A1及び一審被告A2の影響を受けることなく,それとは独立して,一審被告A5らが取締役として判断,意思決定をして虚偽記載がある本件有価証券報告書等を提出した結果であって,これを承継前一審被告A1及び一審被告A2の上記善管注意義務違反の当然の因果の流れということは困難である。
以上によれば,承継前一審被告A1及び一審被告A2による善管注意義務違反行為と本件罰金等の損害との間に相当因果関係を認めることはできないものというべきである。
⑷  一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4について
一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,取締役として,企業の業績を正確に開示させるために,記載内容が正確な有価証券報告書等を作成し,これを提出する義務を負うところ,重要事項に虚偽の記載をした有価証券報告書を作成しこれを提出し,旧証券取引法及び金商法違反行為を行ったものであるから,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する。実際,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社とともに,旧証券取引法違反及び金商法違反の罪(虚偽記載有価証券報告書提出の罪)で有罪判決を受け,確定しているのであるから,一審被告A5らの上記善管注意義務違反,忠実義務違反と一審原告会社が支払った本件罰金との間には相当因果関係があることは明らかである。また,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,同様に,重要事項に虚偽の記載をした本件四半期報告書を作成しこれを提出しあるいはこれに加功したものであるから,一審被告A5らの上記善管注意義務違反,忠実義務違反と一審原告会社が支払った本件課徴金との間には相当因果関係があることも明らかである(なお,一審被告A3は,平成23年6月29日に取締役を退任し,監査役に就任した者であり,本件四半期報告書の対象となる期間のほとんどは取締役在任中であり,その後についても監査役として監視義務を負う。)。
したがって,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社が支払を余儀なくされた本件罰金及び本件課徴金(合計7億1986万円)相当額の損害を賠償する義務を負う。
⑸  小括
以上によれば,一審原告会社の一審被告A6ら及び一審被告A2に対する第7類型に係る請求(当審における拡張請求を含む。)はいずれも理由がないが,一審原告会社の一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する第7類型に係る請求(当審における拡張請求を含む。)はいずれも理由がある。
5  各請求のまとめ
⑴  第1類型に係る一審原告会社の請求は理由がないから,一審原告会社の控訴を棄却すべきある。
⑵  第5類型に係る一審原告らの請求は,原判決が認容した限度で理由があるから,一審被告A3及び一審被告A4の控訴を棄却すべきである。
⑶  第6類型に係る一審原告会社の請求は,全部理由があるが,第6類型に係る一審原告株主の請求は,一審被告A3及び一審被告A4に対し,586億7296万8936円及びこれに対する遅延損害金を請求する限度で理由があり,その余は理由がない(なお,一審被告A5は,控訴も附帯控訴もしていないから,一審原告株主に不利益に変更できない。)。
⑷  第7類型に係る一審原告会社の請求のうち,一審被告A6ら及び一審被告A2に対する請求は理由がないから,これを認容した原判決を取り消し,一審原告会社の同部分に係る請求及び当審における拡張請求をいずれも棄却すべきである。一審被告A3及び一審被告A4に対する請求は理由があるから,一審被告A3及び一審被告A4の控訴を棄却し,当審における拡張請求を認容すべきである。
⑸  第2事件に係る一審原告株主の請求は理由がないから,一審原告株主の控訴を棄却すべきである。
6  結論
以上の次第であって,第6類型(第1事件及び第4事件)に係る一審被告A3及び一審被告A4に対する一審原告株主の請求は,一部理由がないから,その限度で原判決を変更し,第7類型(第1事件)に係る一審被告A6ら及び一審被告A2に対する一審原告会社の請求はいずれも理由がないからこれを認容した原判決を取り消し,一審原告会社の同部分に係る請求及び当審における拡張請求をいずれも棄却し,同類型に係る一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する一審原告会社の請求は当審における拡張請求を含めて理由があるから,拡張請求を認容し,一審被告A3及び一審被告A4のその余の控訴並びに一審原告会社の控訴をいずれも棄却し,第2事件については一審原告株主の控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第8民事部
(裁判長裁判官 阿部潤 裁判官 嶋末和秀 裁判官 田口治美)

別紙1
別紙2
別紙3

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