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判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(330)平成19年 2月23日 東京地裁 平18(ワ)14359号 損害賠償請求事件

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(330)平成19年 2月23日 東京地裁 平18(ワ)14359号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成19年 2月23日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平18(ワ)14359号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2007WLJPCA02238007

要旨
◆被告にマネージャーとして雇用されていた原告が、退職勧告及び解雇が不法行為に該当するとして損害賠償の支払を求めた事案において、原告に与える職務が発生する見込みが立たなかったこと、一定額の退職一時金の支給を条件としたこと、就業規則の定めに基づいて解雇が実施されたことなどを理由に、本件退職勧告及び解雇が民法709条における「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」の要件を満たさないと判断し、請求を棄却した事例

参照条文
民法709条

裁判年月日  平成19年 2月23日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平18(ワ)14359号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2007WLJPCA02238007

東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 秋葉信幸
(本店)アメリカ合衆国ニュージャージー州07666ティーネック市〈以下省略〉
(日本における支店)東京都千代田区〈以下省略〉
被告 Yコーポレーション

同代表者代表取締役 A
日本における代表者 B
同訴訟代理人弁護士 岡田和樹
同 山川亜紀子
同 久保達弘

 

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は,原告の負担とする。

 

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告は,原告に対し,金140万円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は,被告の負担とする。
3  仮執行宣言
第2  事案の概要
アプリケーションの開発等を業とする被告からその日本支店におけるマネージャーとして雇用された原告が,被告の原告に対する退職勧告及び解雇が不法行為に該当するとして,慰謝料50万円,地位保全の仮処分申立手続に必要とした弁護士費用等120万9200円の合計170万9200円の内金140万円の損害賠償を求めた事案
1  争いのない事実等
(1)  被告は,情報・通信システムの設計,企画,開発,統合及び保守を目的として米国デラウェア州法により設立された会社である。
(2)  原告は,平成16年10月1日,期間の定めなく被告に雇用された。その給与は基本年収1080万円でこれを12等分した月額90万円を毎月25日に支給し,他に個人の成績と会社の業績によって年間目標賞与として216万円が予定され,目標200パーセント達成時には倍額となるものとされた(以下「本件雇用契約」という。)。
(3)  被告は,原告に対し,平成17年8月23日,同月末日付けをもって原告との雇用関係を終了すること,月収の2か月相当分(180万円)を退職一時金として支給すること等を内容とする退職合意書案(乙2の1,2)を送付し,もって原告に対して退職を勧告した(以下「本件退職勧告」という。)。
(4)  被告は,原告に対し,平成17年9月30日,同年10月31日をもって原告との雇用関係を終了する旨の解雇予告をした(以下「本件解雇」という。)。
(5)  原告は,本件解雇の撤回と平成17年11月1日以降の給与の支払を求めて訴外C弁護士(以下「C弁護士」という。)を代理人として地位保全等の仮処分申立て(当庁平成17年(ヨ)第21200号)をした(以下「本件仮処分申立て」という。)。
2  争点
(1)  本件の主要な争点は,「被告の原告に対する本件退職勧告及び本件解雇(以下「本件解雇等」という。)が,原告に対する不法行為になるか。」である。
(2)  原告は,「ア 本件解雇は,そもそも客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められないばかりでなく,本件退職勧告と共に全く理由のないものであるから,これらは原告に対する不法行為に該当する。イ 原告は,これによりC弁護士に相談し,相談料等20万9200円,成功報酬100万円の支出を余儀なくされた。ウ 原告は,被告の不法行為によって甚大な精神的損害を蒙った。これに対する慰謝料は50万円が相当である。エ よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記合計170万9200円の内金140万円及びこれに対する不法行為以後の日で訴状送達の翌日である平成18年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と主張する。
(3)  被告は,「ア 本件雇用契約における原告の担当業務は,設計,開発及び実装,営業開発(ビジネス・ディベロップメント)である。イ 具体的には当時受注していた訴外みずほ証券株式会社を顧客とするアプリケーション開発プロジェクト(以下「みずほプロジェクト」という。)の担当者であり,さらにその後の日本におけるアプリケーション開発業務を開拓することが求められていた。ウ ところが本件雇用契約後すぐに,みずほプロジェクトが中止されてしまった。そしてほかにアプリケーション開発業務について新たな受注を取ることができなかったため,原告の技術にふさわしい担当業務がなかった。エ こうして原告は,平成17年春ころからは,千代田区有楽町所在の被告肩書地の日本における支店たる事務所(以下「有楽町事務所」という。)にも出勤して来ないようになった。オ 被告は,仕事が全くない状況のもとで,海外異動の提案にも応じず,出勤はもちろん連絡もしなくなるという原告の態度を見て,原告が勤労意欲に欠けており,本件雇用契約関係を継続することは困難であると考えた。そこで被告は,原告に対し本件退職勧告を行ったものである。カ これに対する原告からの文書による回答はなかった。そこで被告としては,原告が退職合意書案に同意したものと理解したが,念のため本件解雇を予告通知したものである。原告は,これにも何らの返事をしないまま期限である平成17年10月31日が経過した。キ このような状況で,被告が本件解雇を行ったのはまことにやむを得ないと言うべきであって,本件解雇には合理的理由があった。したがって,不法行為が成立する余地はない。」と主張する。
第3  争点に対する判断
1  証拠(各文中または文末に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  本件雇用契約の締結
ア 平成16年6月ころ,妻が日本人であることから日本へ移住するために日本での仕事を探していた原告は,被告から,東京で新たなプロジェクトを展開するので,原告の技能を用いる機会を得ることができる旨の勧誘を受け,雇用契約に関する交渉に入った(甲5,乙4,乙14の1,2)。
イ 平成16年8月3日,被告は,原告に対し,同日付け雇用契約書(乙1の1,2)を提示し,同年10月1日,両者は本件雇用契約を締結した。上記雇用契約書の1項には,「会社が行う変更に従うことを前提として,貴殿の勤務場所は,〒○○○-××××日本国東京都千代田区〈以下省略〉(有楽町事務所)とします。」との,同9項には,「貴殿及び会社は本雇用契約を30日前予告により解約する権利を有するものとします。」との定めがある(乙1の1,2)。
(2)  雇用後の稼働状況
原告は,本件雇用契約により東京での勤務を開始したが,ほぼ唯一の担当職務であったみずほプロジェクトが進捗しなくなり,平成17年3月11日の時点では原告の手に余る状況となり(甲13),結局みずほ証券側の事情により中止されたことから,原告にとって担当するべき仕事がない日々が続いた。原告は,日本語コースに通うなどしていたが,平成17年春以降有楽町事務所に出勤することが少なかった(甲5,甲7,甲14,甲15,乙5の1,2,乙14の1,2,乙15の1,2,乙16の1,2,乙17の1,2,乙21の1ないし4)。
(3)  本件退職勧告
被告は,原告に対し,平成17年8月23日,同月末日付けをもって原告との雇用関係を終了すること,月収の2か月相当分(180万円)を退職一時金として支給すること等を内容とする退職合意書案(乙2の1,2)を原告に送付し,もって退職を勧告したが,原告からの書面(メールを含む。)による回答はなかった(乙2の1,2,乙3の1,2,乙14の1,2,乙18の1ないし3)。
(4)  本件解雇
被告は,原告に対し,平成17年9月30日,同年10月31日をもって原告との雇用関係を終了する旨の解雇予告をした(争いのない事実)。
(5)  原告は,平成17年11月1日付けで本件仮処分申立てをしたが(甲1),同申立てに際して同年10月27日,翻訳料等として8万円,平成18年3月8日及び同年4月5日に仮処分成功報酬の各半額として各50万円を,それぞれC法律事務所に支払った(甲2,甲3,甲4)。
2  裁判所の判断
(1)  前記認定のような状況では,被告は,原告を雇い入れたものの原告に与える仕事がない状況が継続し,将来においても原告に与える職務が発生する見込みが立たなかったというのであるから,退職勧告は,被告にとってやむを得ない選択と言うべきである。そうすると,月収の2か月相当分(180万円)を退職一時金として支給すること等を条件として提示した上で原告に退職を求めた本件退職勧告が、不法行為の成立に必要な違法性の要件を充たすとは言い難い。
(2)  そして,このような状況下で本件退職勧告に続いて行われた本件解雇には,客観的に合理的な理由があるというべきであって,その他与えるべき仕事の有無にかかわらず被告が原告に対して本件雇用契約に定められた基本年収を本件解雇に至るまで毎月支払っていたこと,本件雇用契約関係の継続にはその余の経費支出も必要であったこと(乙27の1ないし12),本件雇用契約に際して原・被告間に取り交わされた雇用契約書には,「貴殿及び会社は本雇用契約を30日前予告により解約する権利を有するものとします。」との定めがあり(乙1の1,2),被告はその権利を行使したものであること等の事情に照らすと(本件解雇が労働基準法18条の2に照らして権利の濫用となるかどうか,無効になるかどうかの判断は別として)、本件解雇が,不法行為の成立に必要な違法性の要件を充たすとは言い難い。
(3)  なお,被告は,「原告が海外勤務の提案にも応じなかった。」と主張するが,原告の被告従業員に対するメール(甲14)の記載内容等に照らすと,この点は事情が不明であるものの,いずれにしても上記判断を左右するものではない。
また,被告は,本件仮処分申立て後,本件解雇を撤回して原告の復職に一旦は応じているが(乙6の1,2),本件解雇等が不法行為に当たるかどうかは本件解雇等の時点での事情に基づいて判断されるべきものであるから,その後の推移によって左右されるものではない。
また,本件雇用契約における原告の担当職務中「ビジネス・ディベロップメント」の解釈に営業が含まれるかについては当事者間に争いがあるが,原告は,営業は自己の職務ではないと考え,本件解雇等の以前にこれに従事する意思があったわけではないから(復職後においてもこれに従事することを拒んでいる。),それは上記判断に影響するものではない。
(4)  以上によれば,本件退職勧告及び本件解雇は,原告が主張する民法709条にいう「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」の要件に該当することを認めるに足りる証拠はない(もとより被告に故意又は過失があることの立証もない。)のであるから,不法行為成立の要件を欠くものと言わざるを得ない。
3  よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
(裁判官 山口均)

 

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