
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(4)平成30年11月 9日 東京地裁 平29(ワ)34733号 損害賠償請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(4)平成30年11月 9日 東京地裁 平29(ワ)34733号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成30年11月 9日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)34733号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2018WLJPCA11098016
裁判年月日 平成30年11月 9日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)34733号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2018WLJPCA11098016
東京都中央区〈以下省略〉
原告 株式会社アム・ネット
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 山中雅雄
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 テルモ株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 須藤修
同 野口徹晴
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,430万8051円及びこれに対する平成29年10月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,原告被告間の海外駐在員の引っ越し手配等委託契約(以下「本件契約」という。)において,被告には,契約期間中生じる全ての業務を原告に委託する義務があるにもかかわらず,これに違反して他社に委託した結果,原告の粗利益が減少したと主張し,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求として430万8051円及びこれに対する平成29年10月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等(甲1,2,13,乙11)
ア 原告は,出張費・旅費等の計算,清算事務の受託業務等を目的とする株式会社である。
C(以下「C」という。)は,原告の取締役アウトソーシング事業部長で,本件契約担当者の上司であった者である。
イ 被告は,医薬品等の製造,売買及び輸出入等を目的とする株式会社で,複数の海外子会社を有し,福利厚生として,従業員の海外赴任に伴う引っ越し代等を一部補助している。
D(以下「D」という。)は,被告の従業員で,平成18年9月まで本件契約担当者の上司であった者である。
(2) 本件契約(甲3,乙1)
原告と被告は,平成17年9月29日,被告を委託者,原告を受託者として,以下の趣旨の条項等を定め,「業務委託仕様書」を添付した「業務委託基本契約書」(以下「本件契約書」という。)を締結した。本件契約書における「海外駐在員の引っ越し業務」(後記ア①)は,複数の引っ越し業者から相見積りを取得した上,被告が選択した業者に引っ越しを手配し,これについて被告人事担当者及び被告従業員に連絡し,清算代行すること等(以下「本件業務」という。)を内容とすることとされた。
ア 業務内容(1条)
本業務の対象は次の各号に定める業務とし,詳細については別紙仕様書にて定める。
①海外駐在員の引っ越し及び家財保管業務
②新聞,書籍,雑誌の海外送付業務
③その他,原告被告が協議して定めた業務
イ 資料の提供(2条)
本業務を実施するに伴い,被告が原告に提供する海外駐在員リスト一覧等の資料・情報等は,被告の責任と負担において原告に提供するものとする。
ウ 費用(10条)
被告は,1条に記載する業務を原告に委託するにあたり,仕様書に記載された費用を原告に支払うものとする。
エ 期間(15条)
平成17年10月1日から平成18年9月30日までの一年とする。
但し,有効期間満了の3か月前までに被告又は原告の一方あるいは双方から書面による終了の意思表示がない場合は,同一条件で更に一年間有効に存続するものとし,以後も同様とする。
(業務委託仕様書)
契約書1条の委託業務の内容及び10条の費用を次のとおりとする。
① 海外駐在員の引っ越し及び家財保管業務
海外引っ越し,国内引っ越し業務 取扱額の3パーセント
② 新聞,書籍,雑誌の海外送付業務
書籍・雑誌及び日本食の送付業務 取扱額の5パーセント
③ その他
発生時に別途協議の上決定する。
(3) 本件コンペ(乙1,5から7の5まで)
被告は,国際人事業務のうち本件業務を本件契約によって原告にアウトソーシングする一方で,VISA申請,フライト手配及び健診手配等の業務については,他の複数の業者にアウトソーシングしていた。
そこで,被告は,業務効率化や経費削減のため,国際人事業務を一社に一括してアウトソーシングすることを検討し,原告を含む4社に対し,平成28年3月18日ころ,見積りを依頼し,コンペ(以下「本件コンペ」という。)を実施した。
(4) 第三者への業務委託(争いなし)
原告と被告は,本件契約を毎年更新していたが,被告は,本件コンペの結果,国際人事業務を原告以外の会社に一括してアウトソーシングすることとしたため,契約期間中の平成28年10月8日から平成29年9月30日まで,本件業務を上記他社に委託した。
(5) 本件契約の終了(甲4)
被告は,原告に対し,平成29年5月1日,同年9月30日をもって本件契約を終了させると通知し,同日をもって本件契約は終了した。
3 争点
(1) 全件委託義務の有無
(2) 損害
4 争点に関する当事者の主張
(1) 全件委託義務の有無
(原告の主張)
ア 本件契約書において,被告は,原告に対し,海外駐在員リスト一覧を提供することとされている上,別途個別契約を締結する趣旨の記載はなく,被告が本件業務を全件委託する義務(以下「全件委託義務」という。)を負うことが前提とされている。
全件委託義務について,本件契約書に明記されていないのは,当然の前提であったからである。
イ 被告は,本件契約の委託料見積りの際,海外駐在員の引っ越しに要する費用の年間合計額や海外赴任者及び帰任者等の年間合計数を提示し,本件契約締結後,コスト削減効果を検証する際も,本件契約締結前の上記年間合計額と本件契約締結後の費用を比較しており,引っ越し業者や被告従業員にも本件業務はすべて原告が行う旨通知していることから,全件委託義務の存在を前提としている。
ウ そして,被告は,本件コンペを行うまで,現に本件業務を全件原告に委託していた。
エ 以上によれば,本件契約において,被告には全件委託義務がある。
(被告の主張)
ア そもそも本件契約書には,被告が全件委託義務を負う旨明記されていない上,本件契約は,個別契約の締結を前提とする基本契約にすぎず,現に,被告は,原告に引越依頼書(乙2,4)を送付して個別契約の申込みをし,原告がこれを承諾するメールを送信することにより個別契約を締結していた。
また,本件契約書において,一定数量の発注義務や最低委託料は定められておらず,原告は,被告以外の他社からの業務委託を禁止されてもいない。
イ 被告は,本件契約期間中,本件コンペに伴い本件業務の一部を他社に委託したが,原告は,異議を述べていない。
ウ そして,被告従業員が海外の現地業者に引っ越しを委託した場合等,原告に本件業務を委託しなかった例もあり,現に全件委託をしていなかった。
エ 以上によれば,本件契約において,被告には全件委託義務はない。
(2) 損害
(原告の主張)
原告の本件契約による平成26年10月1日から平成27年9月30日までの粗利益は595万0823円であったが,被告が本件業務を他社に委託したことにより,平成28年10月1日から平成29年9月30日までの粗利益は203万4413円に減少した。
したがって,上記粗利益の差額391万6410円及び弁護士費用39万1641円が,被告の債務不履行による損害である。
(被告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 全件委託義務の有無
(1)ア 本件契約書の表題が業務委託「基本契約」であることや,その他協議して定めた業務について,発生時に別途協議の上費用を決定する等概括的な規定も含まれることから(甲3),本件契約は,別途個別契約の締結を前提とする基本契約であると考えられる。そして,本件契約書の条項は,原告の原案を被告が削除訂正して推敲した上で確定したものであるが(乙12,証人C,証人D),被告の全件委託義務についての規定はない。
原告は,当然の前提であるから本件契約書に記載しなかった旨主張するが,全件委託義務の有無は,原告被告双方にとって重要な事項であることからすると,当然であるから契約書にあえて記載しなかったとは考え難い。
イ また,Dは,海外郊外にある拠点周辺には,必ずしも原告が有利に交渉できる大手日系引っ越し業者の事務所があるとは限らず,海外現地業者のほうが好条件のサービスを提供することもあるため,多様なケースに対応できるよう,本件契約締結時,全件委託を前提としていなかった旨供述するところ,上記全件委託を前提としなかった理由は合理的で,現に原告を通さず海外現地業者に引っ越しを委託した例が複数ある(甲12,乙9,11,証人D)こととも整合し,信用することができる。
他方,原告は,被告以外からも本件業務と同種業務について,委託を受けることは何ら制限されておらず,一般に,受託者にとって,委託者の全件委託義務を認めるべき必要性があったとは窺われない。
ウ そして,上記に加え,本件契約書において,本件業務の報酬は取扱額に応じて算定する旨規定され,最低額は定められておらず,業務量についても何ら規定はなく,全件委託義務の存在を窺わせる条項はないこと,本件契約期間中,原告が清算代行までの一連の本件業務全ては行っていない例もあること(甲12,乙9),本件コンペに際し,被告は,本件業務の一部を他社に委託したが,原告は異議を述べていないこと(争いなし)等を考慮すると,本件契約において,被告に全件委託義務があったということはできない。
(2) その他の原告の主張について
ア 原告は,本件契約書において,被告が原告に対し,海外駐在員リストを提供する旨規定されていることをもって,全件委託義務が前提となっていたと主張する。
しかし,被告は,原告に対し,本件契約交渉段階において,海外駐在員リストを交付したものの,これは,駐在員の規模や,各国への分布の大枠を把握するためのもので,詳細な個人情報については,業務が発生する都度,該当者の情報を連絡している(乙11,証人D)。そして,本件契約書作成の際,契約時点における駐在員全員の個人情報を登録し,海外駐在員が新たに発生した時点及び変動があった時点で必ず登録を行うものとするとの原告案が削除された経過(乙12,証人D)も考慮すると,海外駐在員リスト提供の規定をもって,全件委託義務の存在を推認することはできない。
イ 原告は,本件契約の報酬見積りやコスト削減効果検証の際,被告が,全件委託を前提とする金額や人数を基準にしていたことや,引っ越し業者や従業員に対する通知内容をもって,全件委託義務が前提になっていると主張する。
しかし,被告が,上記見積り等の際,海外駐在員引っ越しに要する費用の年間合計額や海外赴任者及び帰任者等の年間合計人数を基準とし,引っ越し業者や従業員に本件業務を原告が行う旨通知したのは,現に,本件業務の見積り依頼は原則原告にしているとDが供述するとおり,本件業務の効率化やコスト削減のために本件契約を締結し,原告に国際人事業務の一部をアウトソーシングしているのだから,ほぼ全件を原告に委託することが想定されたからにすぎず,これをもって被告に全件委託義務があると推認することはできない。
ウ 原告は,原告において,本件業務を担当する社員を配置していること,被告担当者が,現地退職となった従業員について,本件業務を委託することにはならないとあえて伝えたり,現地引っ越し業者に委託したケースを特別ケースと称して謝罪したりしていること等をもって,全件委託義務が推認できる旨主張するが,被告が本件業務のほぼ大半を原告に委託していたことを示す事実にすぎず,原告の上記主張は,採用することができない。
エ Cは,原告が業務委託を受ける際は,相手方に全件委託義務を課すのが不可欠の条件であり,本件契約についても全件委託義務について,担当者が被告に伝えているはずであると供述するものの,C自身は契約交渉に関与していない上,実際に被告に伝わったか担当者に確認もしておらず,社内記録にもその旨記載したものはなかったことを自認しており,上記Cの供述をもって,全件委託義務を認めることはできない。
また,Cは,被告に全件委託義務を課す前提で,報酬を決定した旨供述するが,これを裏付けるに足りる証拠はなく,報酬にも影響する重要事項であれば,本件契約書に明記するはずであるにもかかわらず記載がないのは不自然で,信用することができない。
(3) 小括
以上によれば,本件契約において,被告に全件委託義務はないから,本件契約期間中に,他社に本件業務を委託したことをもって,債務不履行ということはできない。
2 よって,原告の請求は,理由がないから棄却することとして主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第42部
(裁判官 安田裕子)
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