判例リスト「営業代行会社 完全成功報酬|完全成果報酬」(465)昭和59年 5月30日 東京地裁 昭52(ワ)9427号 商標権侵害差止等請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成功報酬|完全成果報酬」(465)昭和59年 5月30日 東京地裁 昭52(ワ)9427号 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 昭和59年 5月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 昭52(ワ)9427号・昭56(ワ)14163号
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 1984WLJPCA05300007
要旨
◆原告名義登録のトロイ・ブロス商標に基づく権利行使が米国法人トロイ(補助参加人)とのライセンス契約が解約された等の経緯から、権利濫用として許されないとされ、原告が専用使用権者であるワンポイント・マークとして使用されているパイプ商標についての商標権侵害に基づく差止請求が認容された事例
出典
判タ 536号398頁
特許と企業 187号52頁
参照条文
商標法25条
商標法30条
商標法36条
商標法37条
民法1条
裁判年月日 昭和59年 5月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 昭52(ワ)9427号・昭56(ワ)14163号
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 1984WLJPCA05300007
【主文】
一 被告らは、別紙第一目録記載の商品及びそれらの包装に別紙標章目録二記載の標章を附し、右商品及びそれらの包装に右標章を附したものを譲渡若しくは引渡し、又は譲渡若しくは引渡のために展示してはならない。
二 被告らは、第一項の商品に関する別紙第二目録記載の書類に別紙標章目録二記載の標章を附して展示し又は頒布してはならない。
三 被告株式会社東京トロイ本社は、その所持する別紙標章目録二記載の標章を附した別紙第二目録記載の書類及び下げ札、包装、台紙、ネーム、洗濯ネームを廃棄せよ。
四 原告のその主の請求はいずれも棄却する。
五 訴訟費用(補助参加によつて生じた訴訟費用を除く。)は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。
補助参加によつて生じた訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を補助参加人の各負担とする。
【事実】
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文一ないし三項の「別紙標章目録二記載の標章」を「別紙標章目録一・二記載の標章」と、同三項の「被告株式会社東京トロイ本社」を「被告ら」と各読みかえる外は主文一ないし三項と同旨。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1(一) 原告は、次の商標権(以下、「本件第一商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標一」又は「トロイ・ブロス商標」という。)につき、昭和四六年四月二日商標権の設定の登録を受けた。
登録番号 第八九五一〇二号
登録商標の構成 別添商標公報(一)のとおり
指定商品 第一七類被服(運動用特殊被服を除く。)、布製身回品(他の類に属するものを除く。)、寝具類(寝台を除く。)
出願 昭和四四年二月一一日
出願公告 昭和四五年六月一〇日
登録 昭和四六年四月二日
存続期間の更新登録 昭和五六年六月三〇日
(二) 訴外楠瀬寿二(以下、「楠瀬」という。)は、次の商標権(以下、「本件第二商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標二」又は「パイプ商標」という。)につき、昭和五一年一一月一日商標権の設定の登録を受け、原告は、右楠瀬から昭和五二年二月一日本件第二商標権につき専用使用権の設定を受け、右専用使用権につき同年五月三〇日設定の登録を受けた(以下、「本件専用使用権」という。)。
登録番号 第一二二九八二一号
登録商標の構成 別添商標公報(二)のとおり
指定商品 本件第一商標権と同じ
出願 昭和四五年一二月二一日
出願公告 昭和五一年一月二〇日
登録 昭和五一年一一月一日
2(一) 被告株式会社東京トロイ本社(旧商号株式会社東京トロイ、昭和五五年八月一日現商号に商号変更、以下、「被告東京トロイ」という。)は、別紙第一目録記載の商品(以下、「本件商品」という。)及びそれらの包装に、別紙標章目録一、二記載の標章を附し、本件商品及びそれらの包装に右各標章を附したものを譲渡若しくは引渡し、又は譲渡若しくは引渡のために展示している。
同被告は、別紙第二目録記載の書類に右各標章を附して展示頒布し、また、右各標章を附した右書類及び下げ札、包装、台紙、ネーム、洗濯ネームを所有している。
(二) 被告株式会社東京トロイ(以下、「被告新社」という。)は、昭和五五年八月一日設立され、ワイシャツ、スポーツウェア等各種衣科品及び服飾品の販売等を業とする株式会社であるが、前記被告東京トロイと本店所在地を同じくし、代表取締役も同一人であり、被告東京トロイから、別紙標章目録一、二記載の標章を附した本件商品を購入し、これを全国の販売店に譲渡若しくは引渡し、又は譲渡若しくは引渡のために展示している。
被告新社は、本件商品及びそれらの包装につき右各標章を附するおそれがある。
被告新社は、別紙第二目録記載の書類に右各標章を附して展示頒布し、あるいはこれをするおそれがあり、また、右各標章を附した右書類及び下げ札、包装、台紙、ネーム、洗濯ネームを所有している。
3 別紙標章目録一記載の標章は本件登録商標一と同二記載の標章は本件登録商標二と同一である。
本件商品は、いずれも本件第一、第二商標権の指定商品に属する。
4 よつて、原告は、被告らに対し、本件第一商標権及び本件専用使用権に基づき、請求の趣旨記載の裁判を求める。
二 請求の原因に対する認否〈省略〉
三 抗弁
1 権利の濫用
(一) 本件第一、第二商標権は、アメリカ合衆国カリフォルニア州の法人である補助参加人トロイ・オブ・カリフォルニア・インターナショナル・インコーポレーテッド(以下、「米国トロイ」という。)に帰属しており、原告は、次に述べるとおり、米国トロイに対し、本件第一、第二商標権についての使用中止義務、右各商標権を返還すべき義務を負つている。
(1) 訴外村上寅松は、昭和四三年ころ、衣料品の下請製造加工を業とする村江洋行株式会社(以下、「村江洋行」という。)を経営していたが、新会社を設立してアメリカ合衆国の有名な衣料品会社である米国トロイと提携することを企画し、同年一〇月ころ、米国トロイの日本における代理人である訴外千里貿易株式会社(以下、「千里貿易」という。)を介して、米国トロイの当時の代表者の一人であつたベンジャミン・フェバーマン(以下、「フェバーマン」という。)と会談した。その結果、米国トロイがその商品、商標を村上が設立する新会社にライセンスし、右新会社が米国トロイのために商標の登録手続をし、ライセンス契約終了時に当該商標権を米国トロイに返還することで、村上と米国トロイ間に原則的合意が成立し、フェバーマンは別紙標章目録三記載の商標、営業表示に関する米国トロイの資料を村上に交付した。村上とフェバーマンと千里貿易の代表取締役村田幸三の三者による第二回会談においては、米国トロイの「Troy」商標(以下「トロイ商標」という。)については、日本において先願の登録商標があり、そのままでは使用できないことが判明したため、新会社である原告が日本において使用する商標は「トロイ・ブロス商標」とすることが合意され、また昭和四三年一一月二〇日の第三回三者会談においては、原告がその商品に附するワンポイントマークとしてパイプ商標を使用することが合意された。
(2) 右(1)の合意に基づき、昭和四三年一二月三日には原告が設立され、その後、米国トロイはその代理人千里貿易により、原告との間でライセンス契約(以下、「第一期ライセンス契約」という。)を締結した。
第一期ライセンス契約の内容は次のとおりである。
① 米国トロイは、原告に対し、その商号並びにトロイ・ブロス商標、パイプ商標及び別紙標章目録三記載の商標及び営業表示、その他米国トロイが将来決定する商標の日本における使用を許諾する。
② 原告は、米国トロイに対し、右①の対価として、別紙第三目録(一)記載のとおりロイヤルティを支払う。
③ 原告は、米国トロイの商標についての権利を保全するために、原告名義で商標登録出願をし、契約終了時には米国トロイの商号、商標の使用は即時中止し、登録された商標権は米国トロイに返還する。
(3) 米国トロイは、第一期ライセンス契約の期間満了に伴ない、原告との間で、昭和四八年一二月一七日、右契約の期間を更に五年間延長する契約を締結した(以下、「第二期ライセンス契約」といい、第一期ライセンス契約と合わせて「本件ライセンス契約」という。)。なお、第二期ライセンス契約においては前記(2)①のロイヤルティ支払義務は別紙第三目録(二)記載のとおりに、また、前記(2)③の商標の即時使用中止義務は契約解約後一〇日以内にその使用を中止することに、各改められた。
(4) 原告は、本件ライセンス契約に基づき、右契約期間中は、「LICENSED BY THE TROY SPORTSWEAR COMPANY INC.U.S.A.」「LICENSED BY THE TROY OF CALIFORNIA INTER-NATIONAL」等の表示(以下、単に「トロイ・ライセンス表示」という。)の下に、本件商品につきトロイ・ブロス商標及びパイプ商標を使用し、右商標の使用許諾の対価として、本件ライセンス契約所定のロイヤルティを米国トロイに対し支払つてきた。また、原告は、昭和五〇年七月二一日には、米国トロイからトロイ・ブロス商標、パイプ商標につきライセンスを受けていることを前提として、被告東京トロイに対して、トロイ・ブロス商標、パイプ商標をサブライセンスしている。
(5) 米国トロイは、原告が昭和五二年の初めにおいてトロイ・ブロス商標、パイプ商標が米国トロイからライセンスを受けているものであることを否定し、右各商標について原告又は楠瀬が権利を有する旨主張するに至つたので、本件ライセンス契約の継続を不可能と判断し、昭和五二年四月二七日には、第二期ライセンス契約における「両当事者はいずれも、何らの理由なくして、書面により六〇日の期間をもつて本契約を終了させることができる」との合意条項に基づき、同年七月五日には、原告が米国トロイの商標権を否定したことによる契約義務違反を理由に、本件ライセンス契約を解約する旨の意思表示をした。
(6) なお、本件ライセンス契約は、外国法人である米国トロイの原告に対するトロイ・ブロス商標、パイプ商標についての使用許諾契約であるが、第一期ライセンス契約締結時においては右各商標はいずれも商標登録出願すらされていないし、また、第二期ライセンス契約締結時においてはトロイ・ブロス商標につき商標権の設定登録がされていたが、右は米国トロイ名義ではなく原告名義であるから、たとえ第二期ライセンス契約に基づき米国トロイが原告に対しトロイ・ブロス商標の使用を許諾し、契約終了時における商標権の返還を合意していたとしても、右は旧外資法第三条第一項第三号所定の「工業所有権の使用権の設定に関する契約」には当たらず、本件ライセンス契約については旧外資法上の甲種技術援助契約に必要とされる認可を要しない。
仮に、本件ライセンス契約が旧外資法第一〇条所定の甲種技術援助契約に当たり、同法上の認可を要したとしても、本件ライセンス契約につき右認可を得なかつたことは、次に述べる理由により同契約を無効とするものではない。
① 旧外資法第二条の規定によれば、同法は、本来自由であるべき外国資本の日本に対する投資を、右投資のため健全な基礎造りをするという見地から過渡的に制限する法律であることが明らかである。甲種技術援助契約の認可については、第一期ライセンス契約締結前の昭和四三年五月一〇日の閣議決定により、第一次技術導入の自由化が同年六月一日から実施され、第二期ライセンス契約締結前の昭和四七年六月三〇日の閣議決定により第二次技術導入の自由化が決定、実施されている。右の技術導入の自由化により緩和された基準によれば、第一期、第二期ライセンス契約のいずれも、旧外資法上の認可の申請さえすれば、日本銀行において自動的に認可されたはずのものであり、遅くとも第一期ライセンス契約締結時においては、右自由化により、同法違反の契約の私法的効力を無効と解すべき社会的要請、社会倫理的非難は存しなくなつていた。
② 外国為替及び外国貿易管理法(昭和二四年一二月一日法律第二二八号、昭和五四年一二月一八日法律第六五号により廃止。以下、「旧外為法」という。)は、本来自由であるべき行為を過渡的に制限する法律であるから単なる取締法規であると解されているが、旧外資法は旧外為法の特別法であつて、過渡的な制限という点では旧外為法と同じであり、とくに昭和三六年以降は許認可の基準において両者間に差異はなく、外資の導入についても旧外為法適用のものと、旧外資法適用のものとがあるが、右両者間でその効力を別異に解する理由はない。
③ 本件ライセンス契約は継続的契約であり、原告は約八年間にわたり、同契約が有効に存在することを認め、同契約に基づくロイヤルティ支払義務を履行し、同契約より受ける利益を享受してきたのであるから、旧外資法が廃止され、新しい外国為替及び外国貿易管理法(昭和五四年一二月一八日法律第六五号)の下に技術援助契約には事前の届出のみを要するとされた現在において、永年継続した契約関係を過去に遡つて無効とすべき必要性も社会的要請も存しない。
④ 旧外資法の目的の一つは、同法第一条に規定されているように、外国投資家に対し、投資元本、収益の回収を保証することにあるが、本件ライセンス契約において同法上の認可を欠くことを理由に同契約を無効とし、原告の米国トロイに対する商標権の返還義務を否定することは同法の右目的にも反する。
(二) 被告東京トロイは、本件ライセンス契約解約後、米国トロイからトロイ・ブロス商標、パイプ商標につきライセンスを受け、右各商標を使用している。なお、米国トロイと右被告との右各商標についての昭和五三年九月二三日付のライセンス契約については同年一〇月三一日外資に関する法律(昭和二五年五月一〇日法律第一六三号、昭和五四年一二月一八日法律第六五号により廃止。以下、「旧外資法」という。)上甲種技術援助契約に必要とされる認可を得ている。
被告新社は、専ら、被告東京トロイからトロイ・ブロス商標、パイプ商標を附した本件商品を購入し、販売している。
(三) 以上によれば、原告は、本件ライセンス契約の終了により、米国トロイに対し本件第一、第二商標権についての使用中止義務、右各商標権を返還すべき義務を負つているのであり、右義務を履行しないまま、原告が、本件第一商標権及び本件専用使用権に基づき、米国トロイからトロイ・ブロス商標、パイプ商標についてライセンスを受けている被告東京トロイ及び専ら同被告から本件商品を購入している被告新社に対し、右各商標の使用の差止請求権を行使するのは権利の濫用であり許されない。
(四) 仮に、本件ライセンス契約が、原告主張のように旧外資法上の認可を得なかつたために無効であり、それが故に原告について本件第一、第二商標権の米国トロイに対する使用中止義務、返還義務が生じないとしても、原告は前記(一)のとおり、約八年間にわたり本件ライセンス契約を有効なものとして同契約上の権利を行使しその利益を享受してきたのであるから、今日に至つて同契約の無効を主張して、本件第一商標権及び本件専用使用権に基づく差止請求権を行使することは権利の濫用として許されない。
2 本件第二商標権につき、商標登録出願により生じた権利の譲渡の無効
(一) 本件第二商標権のパイプ商標は、昭和四五年一二月二一日原告により商標登録出願され、この出願により生じた権利が同五〇年三月一日原告から楠瀬へ譲渡されて、楠瀬名義で商標権の設定登録がされているが、原告から楠瀬への右権利の譲渡は、次の理由により無効である。
(1) 原告の代表取締役村上は、豊田通商が原告に五〇パーセントの割合で資本参加をすることが昭和五〇年二月ころ決定したため、同社の参加によつて原告における自己の地位が低下することをおそれ、自己の腹心の部下である楠瀬と通謀して真実パイプ商標についての商標登録出願により生じた権利を譲渡する意思がないのにあるかのように仮装して、パイプ商標の出願人名義を楠瀬に変更し、原告における自己の地位の保身をはかつたものである。
(2) パイプ商標の商標登録出願により生じた権利を原告から楠瀬に譲渡された昭和五〇年三月当時、楠瀬は原告の取締役であつたから、右譲渡には取締役会の承認を要する。
(二) 以上いずれによつても、楠瀬はパイプ商標についての商標を受ける権利を承継しない者であり、本件第二商標権につき何らの権利を有しないのであるから、右楠瀬から本件専用使用権の設定を受けた原告もパイプ商標については何らの権利を有しない。
なお、本件第二商標権につき商標権の設定登録後、五年の期間が経過したことにより、特許庁に対し、同商標権につき無効審判の請求を提起しえなくなつた(商標法第四七条)としても、右は特許庁に対し、当該商標権の無効を主張しえなくなつただけで、原告と楠瀬間の無効な権利の譲渡を有効するものではなく、楠瀬が右商標権につき新たに権利を取得しうるものではない。
3 通謀虚偽表示――本件専用使用権の設定契約について
前記2(一)(1)のとおり、原告が楠瀬と通謀して本件第二商標権について楠瀬を名義のみの商標権者としたのであるから、楠瀬から原告に対する昭和五二年二月一日のパイプ商標についての本件使用権認定契約は、互いに専用使用権を設定する意思がないのにその意思があるかの如く仮装してされたものである。
4 原告の米国トロイに対するパイプ商標の使用許諾契約
(一) 仮に、パイプ商標が原告の商標であり米国トロイに返還すべき商標ではないとしても、第一期ライセンス契約において原告のパイプ商標の使用を米国トロイが承認した際に、原告は米国トロイに対して、本件ライセンス契約終了後も米国トロイがパイプ商標を自ら使用し又は第三者に対し使用許諾を与えることができる旨約した。
(二) 前記1(二)のとおり、被告東京トロイは米国トロイからパイプ商標の使用の許諾を受けており、被告新社は、専ら被告東京トロイからパイプ商標を附した本件商品を購入して、販売している。
(三) よつて、被告らのパイプ商標の使用は、原告に対する関係で適法である。
5 原告の被告東京トロイに対するパイプ商標の使用許諾契約
仮にパイプ商標が楠瀬に帰属する商標であり、米国トロイに返還すべき商標ではないとしても、専用使用権者である原告は、被告東京トロイに対し、昭和五〇年七月二一日にトロイ・ブロス商標につきサブライセンス契約を締結した際、パイプ商標の使用をも許諾している。
四 抗弁に対する認否及び反論〈省略〉
五 再抗弁――抗弁5に対し
抗弁5の原告と被告東京トロイ間の契約において、契約期間を一年とし、期間満了一月前に書面による解約の申入れがない場合は、右契約期間が自動的に更新される旨約定されていたところ、原告は、同被告に対し、昭和五一年六月一六日付で更新拒絶の通知をし、この通知は、そのころ同被告に到達した。
六 再抗弁に対する認否〈省略〉
七 再々抗弁
原告が再抗弁において主張する更新拒絶通知は、次の理由により効力を有しない。
(一) 原告と被告東京トロイ間の抗弁5の契約においては、特別の事情がない限り更新拒絶をしない旨の合意があつた。
(二) 仮に右合意が存しないとしても、原告の更新拒絶は、次のとおり権利の濫用として許されない。
原告が被告東京トロイに対し右更新拒絶通知をした当時、右被告はそれまで原告に対し負つていた債務はすべて完済しており、右契約を解約されるべき何の理由もなかつたのであり、しかも、右被告の取扱い商品中パイプ商標を附した商品の占める割合は非常に高くパイプ商標が使用できなくなれば、右被告は、直ちに倒産するという状態であつた。更に、原告は、右解約の一月後には東京において商品展示会を開いていることからも明らかなように、専ら右被告が有していた東京における販売網を奪い、東京市場に直接侵出することを目的として右解約をなしたものであり、右の事情の下では原告による右解約(更新拒絶権)の行使は信義則に反し、権利の濫用として許されない。
八 再々抗弁に対する認否〈省略〉
第三 証拠〈省略〉
【理由】
一 請求の原因1及び3の事実は当事者間に争いがなく、同2(一)の事実は原告と被告東京トロイとの間において、同2(二)の第一文の事実は原告と被告新社との間において、それぞれ争いがない。
右事実と〈証拠〉によれば、被告新社は、被告東京トロイの代表取締役鈴木瀧彦の全額出資により被告東京トロイの販売部門を独立させる趣旨で設立された会社であり、被告東京トロイから本件商品を含む同社が企画し製造する商品を購入して販売店に販売していること、被告両社は本社所在地及び代表取締役を同じくし、その役員の人的構成もほゞ同じであり、一体性の極めて強い会社であることが認められ、右事実と弁論の全趣旨によれば、被告新社が被告東京トロイと共に、トロイ・ブロス商標及びパイプ商標を本件商品に附し、あるいは右各標章を別紙第二目録記載の書類に附して展示頒布するおそれがあることが認められる。
原告は、被告新社が現に右各標章を附した右書類及び下げ札、包装、台紙、ネーム、洗濯ネームを所有する旨主張するが、この所有を根拠づける事実の主張はなく、本件全証拠によつてもこれを認めることはできない。
二 抗弁1について判断する。
1 米国トロイと原告との間で第一期、第二期ライセンス契約が締結されたこと、原告が右各契約期間中において本件商品についてトロイ・ライセンス表示の下にトロイ・ブロス商標とパイプ商標を使用していたこと、原告が米国トロイに対し右各ライセンス契約に基づき右各契約所定のロイヤルティを支払つていたこと、第二期ライセンス契約につき米国トロイが原告に対し、遅くとも昭和五二年七月五日に解約の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
2 トロイ・ブロス商標、パイプ商標が本件ライセンス契約により米国トロイから原告に対しライセンスされた商標であるか否かを判断する。
(一) 〈証拠〉によれば、第一期ライセンス契約締結の際に作成された契約書の第一条には「千里貿易は、米国トロイの委任の下に、日本国内において原告の社名、販売商品に対して、米国トロイの社名、商号、商標並びにそれらに類似する商号、商標を貸用する」旨、第三条には「原告は商号権、意匠権、商標権は他に侵害されざるため日本国内において所定の法的登録手続をとらなければならない」旨、第六条には「原告は使用せんとする商号、商標は事前、事後を問わず、千里貿易に提示し、米国トロイの同意を必要とする旨、第七条には「本契約期間中原告による契約違反、破棄、又は第二期以降契約不能の場合は原告は社名、商号、商標の使用は即時中止するものとする」旨の記載があること、及び第二期ライセンス契約締結の際に作成された契約書の第二条には「米国トロイは原告に対して、日本において、その販売及び製造組織、並びに最終製品たる衣服に、米国トロイの会社名、住所、商標、ラベル、コピーライト等又はそれらの変形物を使用することを許諾する」旨、第三条には「日本において米国トロイより原告に提供される会社名、商標、ラベル、コピーライト等に関し、米国トロイの権限を守り、他の者がこれを侵害することから守られることとする」旨、第八条には「原告は、トロイ オブ カリフォルニアの名の附されたすべての種類の商標、ラベル、包装等を使用することについて米国トロイ又は千里貿易の承認を得ねばならない。米国トロイはこれらを全体的若しくは部分的に修正する権利を有し、原告は米国トロイの修正に従わねばならない」旨、第一三条には「原告が違反又は侵害を犯した場合には、米国トロイはこの契約を解除する権利を有し、原告は、米国トロイより原告に通告された解除の日後一〇日以内にトロイ オブ カリフォルニア及び米国トロイにより与えられたものすべての使用を停止する」旨の記載があること、及び右各契約書においては右以外には具体的にいかなる商標が米国トロイから原告に対しライセンスされたか否かは明記されていないこと、並びに〈証拠〉によれば、米国トロイは、第一期ライセンス契約締結前から今日に至るまで、アメリカ合衆国においてトロイ商標は使用しているものの、トロイ・ブロス商標、パイプ商標は全く使用していないことが認められる。
(二) そこで、本件ライセンス契約締結に至る経緯及び契約当事者の右契約の履行状況、契約締結後の言動等についてみるに、前記1の当事者間に争いのない事実並びに〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 村上は、昭和三七年四月二〇日繊維製品の製造、販売を目的として村江洋行を設立したが、村田が昭和四二年まで勤務していた商社東洋模範物産株式会社を介して、村江洋行が米国トロイに対し繊維製品を輸出していた関係で、米国トロイとその当時の代表者フェバーマン及び村田を知つていた。村上は、昭和四三年ころ、外国企業からライセンスを受けて衣料品を販売する新会社を設立することを企画したが、新会社がライセンスを受ける外国企業として従前取引関係があつた右米国トロイが適当と判断し、同年九月ころから、米国トロイの日本における代理人である千里貿易の村田を介して、米国トロイの代表者フェバーマンと交渉を開始し、数度の交渉を経て、同年一一月二〇日には、村上が設立する新会社の商号として「トロイ」を用いること、右新会社が米国トロイから別紙標章目録三記載の商標、営業表示及び販売技術等につきライセンスを受けて衣料品を販売すること、原告が米国トロイに対し別紙第三目録(一)記載のとおりロイヤルティを支払うこと等を骨子に、米国トロイとの間で、最終的な合意が成立した。同年一二月三日には、右合意に従い右新会社(原告)が設立され、その後村田が、米国トロイと村上との右合意に基づき、米国トロイの代理人として契約書を作成し、同年一二月中旬に右契約書に記名押印のうえ、これを原告宛てに郵送し、原告の代表取締役村上が翌年これに記名押印して返送する形で、原告と米国トロイの間で第一期ライセンス契約が締結された。(なお、契約書の日付は、昭和四三年一二月一日とされた。)
(2) 楠瀬寿二は、昭和三二年から数年間村上経営の村上商事株式会社に勤務していたことがあり、その後訴外エースメンズウェア株式会社に仕入課長として勤務していたが、村上から右新会社設立の企画に誘われてこれに応じ、昭和四三年八月二〇日ころには右エースメンズウェアに辞表を提出し、同年一〇月には同社を退職し、そのころから村上と共に新会社設立の準備に本格的に取りかかつていた。当時新会社(原告)の商品に附する商標については右楠瀬を中心に検討が進められていたところ、前記フェバーマンとの交渉の過程で村上は別紙標章目録三記載の商標、営業表示に関する資料の交付を受けていたが、楠瀬らによつて採用され、原告においてそのままの形で使用されたものは同目録三(一)記載のもの(トロイ商標は除く。)のみであり、同目録三(二)記載のものはいずれも第三者による先願の登録商標がある等の理由で原告の商標として使用するには不適当であると判断され、原告において使用されるには至らなかつた。
米国トロイのトロイ商標については、第三者の登録商標があり、そのままの形では使用できないことが判明したが、楠瀬ら原告の社員数名が、楠瀬宅にあつたコーヒー茶碗の受皿をヒントにBrothersの略語であるBrosをTroyの文字の後に続けてトロイ・ブロス商標とすることを考えつき、また、当時スポーツウェア等に附することで流行しつつあつたワンポイントマークについては、米国トロイから示された商標とは関係なく、楠瀬が図案集中の図柄をヒントにパイプに煙のマークを創案し、同年一二月六日にはトロイ・ブロス商標、パイプ商標につきグラフ印刷株式会社にそのデザイン化及び清刷の作成を依頼し、同社ではデザイナーの繁治照男にそのデザインを依頼し、同人デザインの下に翌四四年一月下旬には、トロイ・ブロス商標については、Troyは米国トロイのトロイ商標と全く円じ字体で、Brosのrosについては米国トロイから手交された資料中の字体を用い、残りのBはトロイ商標の字体に合うようにデザインして、別紙標章目録一の形状のトロイ・ブロス商標のデザイン及び清刷を完成し、パイプ商標についても、楠瀬から渡された手書きの図案を参考に同じく別紙標章目録二の形状のパイプ商標のデザイン及び清刷を完成させた。原告はトロイ・ブロス商標、パイプ商標を附した商品の販売を同年三月下旬ころから開始したが、米国トロイは、その代表者シェリンが同年四月の原告の商品展示会に招待され、右展示会には右各商標を附した原告の商品が展示されていたため、遅くともそのころには原告がトロイ・ライセンス表示の下に、トロイ・ブロス商標及びパイプ商標を使用することを了知した。
(3) 原告は、右以来トロイ・ライセンス表示の下にその商品にトロイ・ブロス商標、パイプ商標を使用したが、その商品の宣伝については外国企業からライセンスを受けた商品であることを強調するために、その商品カタログを作成する場合にも外国人モデルを使い、アメリカ合衆国の西海岸に似た風景の場所を捜してそこで撮影する等の工夫を凝らし、また外国企業と提携関係の存否について疑問をもつ者もいたため、昭和四八年三月には創立五周年記念ゴルフコンペを催し、その際に米国トロイの代表者シェリンを招待して同コンペに招かれた原告の取引先に対し米国トロイを代表してシェリンに挨拶させ、また同年秋には原告の顧客に示すために、原告が米国トロイから正式にライセンスを受けていることを証明する米国トロイの代表者シェリンの署名入りの昭和四四年八月二〇日付の証明書を米国トロイから送付してもらい、同証明書を原告の事務所に飾つて、原告と米国トロイとの提携関係を明瞭に公示し、更に、同年暮には原告が同意した顧客宛てのクリスマスカードを米国トロイへ送付し、米国トロイから直接原告の顧客へ発送してもらう等、顧客、取引先に対しては外国企業からのライセンス商品であるとして舶来品イメージを強調する形でその宣伝、広告に努めた。その結果、設立当初は米国トロイの社名、営業表示も含め、トロイ・ブロス商標、パイプ商標も日本ではほとんど無名であつたため、原告の営業成績は低迷し苦しい経営が続いていたものの、外国企業からのライセンス商品が流行していた当時の時流に乗つて、昭和四六年ころから売上も次第に伸び始め、同四八年ころには比較的順調にその売上を伸ばし、その後石油ショックで一時経営が悪化したものの、トロイ・ブロス商標とパイプ商標は原告の営業努力によつて一般需要者間に次第に浸透し、その商標としての価値を増大していつた。また、昭和四八年には、原告と米国トロイとの間で締結されていた第一期ライセンス契約の期間が満了したため、同年一二月一七日第二期ライセンス契約が締結され、契約の期間が更に五年間延長された。
(4) トロイ・ブロス商標は、昭和四四年二月一一日楠瀬名義で商標登録出願がされ、同四五年一〇月二六日の登録査定の後、商標登録出願によつて生じた権利の同年一二月一五日付の譲渡を理由に同年一二月一七日原告に出願人の名義を変更する旨の届がされ、翌四六年四月二日原告名義で商標権の設定の登録がされた。
パイプ商標は、昭和四五年一二月二一日原告名義で商標登録出願がされ、商標登録出願により生じた権利の同五〇年三月一日付の譲渡を理由に同年五月二日楠瀬に出願人の名義を変更する旨の届がされ、翌五一年四月一六日登録査定がされ、同年一一月一日楠瀬名義で商標権設定の登録がされた。また、昭和五二年二月一日付で楠瀬から原告に対し本件使用権が設定され、右は同年七月二〇日登録された。
(5) 原告は、その本店が大阪市所在であり関西を中心にその商品を販売していたため、東京方面での原告の商品の販売は、昭和四五年五月ころから有限会社マキシムをその代理店として行なつていたが、同四八年七月には右マキシムの組織を変更して被告東京トロイが設立され、以後同被告が原告の東京方面の販売代理店となつた。同被告の原告に対する売掛代金等の未払債務は昭和五〇年六月三〇日の段階で総額六億二九〇〇万円にも上つたため、原告は右債務の解消を目的として、被告東京トロイは商品の仕入価額をより低額にする目的で、原告と右被告間で昭和五〇年七月二一日ライセンス契約が締結された。右契約締結の結果、従前原告から被告東京トロイに対し販売されていた商品は、村江洋行から、原告を通さずに、昭和五〇年四月に原告に資本参加をしていた豊田通商、更に兼松江商株式会社(以下、「兼松江商」という。)を通して被告東京トロイへ販売されるようになり、同被告はトロイ・ライセンス表示の下にトロイ・ブロス商標、パイプ商標を使用した商品を、右経路で仕入れ、販売するようになつた。
右ライセンス契約の契約書の前文には、「被告東京トロイは、原告所有にかかわるTroy Brosブランドを使用する商品を販売するにあたり、以下の基本的事項を取り決める」旨の記載もあるが、同契約書第四条には「被告東京トロイが原告に対し、メーカーから豊田通商への商品の販売価格の三パーセントを、原告の米国トロイへのロイヤルティの支払に充当するため、支払う」旨、第六条には「原告と米国トロイとの契約が解約されたときは、自動的に本契約も終了する」旨の記載があり、右ライセンス契約が米国トロイと原告間の本件ライセンス契約のサブライセンス契約であることは契約当事者間においても認識されていた。ただし、被告東京トロイが支払つたロイヤルティの全額が米国トロイに支払われたのではなく、右のロイヤルティの内、約1.4パーセントは米国トロイに支払われ、残りは原告がそのまま受領することで、米国トロイの代理人である千里貿易の村田と原告との間で了解がついていた。
右契約においては、契約期間を一年とし、期間満了一月前に書面による解約の申入れがない場合は右契約期間が自動的に更新される旨約定されていたが、原告は、被告東京トロイが原告の販売テリトリーを侵したこと、米国トロイの意向もあることを理由に、右約定に基づき、昭和五一年六月一六日、同被告に対し書面により右契約の解約を申入れた。そのため、同年七月には右被告の代表取締役鈴木が千里貿易の村田と会い右解約申入れの撤回を要望し、また、原告と兼松江商等の関係者間で話合いが続けられ、その間原告が東京営業所を開設し、七月二六、二七日には東京で商品展示会を開き東京市場への進出を試みる動きもあつたが、同年八月四日の原告と兼松江商との会談において、原告と被告東京トロイとの右契約は再契約はしないけれども後日代理店契約等を相談の上取り決めることを前提として、右契約で決められた経路で従来どおり同被告にトロイ・ライセンス表示の下にトロイ・ブロス商標、パイプ商標が附された商品が供給されること、原告は東京での商品展示会の際発送した挨拶状を撤回する意味で新たに得意先へ挨拶状を発送することが合意されて、一応の暫定的決着がつき、その後第二期ライセンス契約が解約されるまで前記経路で被告東京トロイに対し右商品の供給が継続された。右解約の件が一応落着したため、関係者の融和をはかる意味で、八月九日豊田通商の専務取締役でもある原告の川島取締役会長の呼びかけで、原告、村江洋行、豊田通商、千里貿易の関係者が東洋ホテルに集まり、豊田通商から原告への資金援助の件、原告の事務処理手続の問題、原告と被告東京トロイとの前記契約の解約の件等が話し合われ、同八月一三日ころには被告東京トロイの得意先に対し、原告と同被告間の問題は円満に解決し、同被告が従来どおりその得意先にトロイ・ブロスブランド商品を納入する旨の挨拶状が発送された。
(6) 米国トロイは、元々アメリカ合衆国においてはパイプ商標又はそれに類似する商標は一切使用しておらず、その代理人である千里貿易の村田が原告の昭和四九年秋のカタログに関して原告に対し宛てた手紙においても、原告がワンポイントマークとしてパイプ商標を使用することに批判的であり、代わりにカリフォルニア又は同州の地図をシンボルマークとして使用することを進言していたが、原告の東京での前記商品展示会が行われた直後の昭和五一年七月末ころ、村田が米国トロイの代表者シェリンの意思を電話で確認して、その内容を記載し、原告に宛てて出した手紙において、「トロイ・ブロス商標は本件ライセンス契約に基づいて、米国トロイの権利を守り、他者に侵害されないため、原告に代理登録させている商標であり、右契約が破棄された場合は原告は一〇日以内にその使用を禁止されるものである」旨、「パイプ商標については、米国トロイの権利所有ではないこと、及び米国トロイは喫煙が社会的悪習とされつつあるアメリカ社会に鑑みその使用には疑問を持つており、更にその商標権の登録が原告の一社員に所属する等の問題提議があるを聞くに及び、近い将来その使用の中止を公表する意向である」旨の見解を表明している。
(7) 昭和五一年一〇月には米国トロイのシェリンが村上の長男荘一郎の結婚式に出席するため来日し、米国トロイと原告間では依然として従来どおりの関係が係属していたが、同年一一月に村田の忠告により米国トロイが原告に対し、トロイ・ブロス商標ほか数種の商標についての権利を米国トロイが有していることの確認を求め、同年一二月には右商標にパイプ商標等を追加的に明記して同旨の確認を求めたのに対し、原告がその代理人を通じて昭和五二年一月一九日付でトロイ・ブロス商標、パイプ商標等は原告が有する商標であると返答したため、右の各商標権の帰属をめぐつて、米国トロイと原告間で深刻な対立が生じ、同年二、三月にかけての右の点をめぐつて千里貿易の村田と原告との間で話合が継続し、同年四月に最終的に村田が村上に対し商標権の帰属についての見解の表明を求めたが、村上からは「ライセンス契約は従来どおり継続することを希望する。Troy Bros商標は日本国内において他の何人にも侵害されざる様に大切に我々の手で保存する。」旨の返答がきただけで、米国トロイは右返答では不十分であると考えたため、原告に対し、同年四月二七日及び七月五日の二回にわたつて、第二期ライセンス契約の解約の申入れをし、第一回目の解約申入れの際にはトロイ・ブロス商標ほか四種の商標の使用中止を、第二回目の解約申入れの際にはパイプ商標を含めたすべての商標の使用中止を求めた。
以上の事実が認められる。
(三) 以上(二)に認定した事実によれば、トロイ・ブロス商標は、第三者の登録商標がすでに存在していたため、米国トロイのトロイ商標をそのままの形で使用することができずに同商標の変形として楠瀬らによつて創案された商標であり、その字体も米国トロイのトロイ商標の字体に類似していること、原告は、昭和四四年以来トロイ・ライセンス表示により米国トロイからライセンスを受けていることを公然と明示しながら、トロイ・ブロス商標をその商品につき継続的に使用し、本件ライセンス契約書所定のロイヤルティを米国トロイに対し支払い、その商品の宣伝においても外国企業からライセンスされた商品であることを強調してきたのであり、米国トロイも原告がトロイ・ブロス商標をライセンス表示の下に使用していることを承認していたこと、原告が被告東京トロイとの間で締結した昭和五〇年七月二一日付のライセンス契約に基づき、同被告は、原告からトロイ・ライセンス表示の下に本件商品につきトロイ・ブロス商標を使用することを許諾されてきたのであるが、右契約は本件ライセンス契約のサブライセンス契約として契約当事者間で認識されていたのであるから、同契約に基づき、原告はトロイ・ブロス商標を米国トロイからライセンスを受けている商標と認識して、これを右被告に対しサブライセンス契約という形で使用させたとみるのが合理的であること、更に原告と米国トロイ間で商標権の帰属につき争いが生じ、第二期ライセンス契約について最初に解約通知が出された昭和五二年四月二七日の直前である四月二三日に、原告の代表取締役である村上が村田の求めに応じて本件ライセンス契約の継続と、トロイ・ブロス商標を原告の手で大切に保管する旨の見解を述べていること、が認められるのであるが、これに前記(一)の第一期、第二期ライセンス契約の契約書の各条項を考え合わせると、トロイ・ブロス商標は本件ライセンス契約に基づき、米国トロイのトロイ商標に類似する商標又は同商標の変形物として、米国トロイから原告に対しライセンスされた商標と認めるのが相当である。
(四) パイプ商標については、前記(二)設定の事実によれば、原告がトロイ・ライセンス表示の下にパイプ商標をトロイ・ブロス商標とともにその商品について使用し、その商品宣伝の際も外国企業からのライセンス商品であることを強調し、また米国トロイに対してもパイプ商標の使用を報告し、更に原告と被告東京トロイ間の昭和五〇年七月二一日付の契約に基づき、同被告が原告の許諾を得てパイプ商標を使用した商品を販売したとの事実関係についてはトロイ・ブロス商標と同じであるが、商標について使用主義をとり、商標の通商上の使用を基礎として商標権の登録を認めているアメリカ合衆国において、米国トロイはトロイ商標は使用しているものの、パイプ商標又はその類似、変形商標は一切使用していないこと、米国トロイは元々原告がパイプ商標を本件商品につき使用することに批判的であり、かつ、昭和五〇年七月末ころ米国トロイの代理人である千里貿易の村田が米国トロイの意思を電話で直接確認したうえ原告宛てに出した意見書によれば、トロイ・ブロス商標は米国トロイが本件ライセンス契約により原告に対し使用許諾したものであるが、パイプ商標については米国トロイが権利を有しない旨、トロイ・ブロス商標とパイプ商標を明確に区別してその見解を表明しているのであり、右意見書は前記のとおり、村田が米国トロイの代表者シェリンの意見を電話で確認し、そのまま記載したものであり、また、原告と被告東京トロイ間の右サブライセンス契約につき原告が更新拒絶通知をしたことによつて紛争が生じ、その収拾策について関係者間で協議が継続中に作成されたもので、右のような時機に米国トロイが当時すでにワンポイントマークとして重要であつたパイプ商標につき故意に虚偽の意見を陳述したとは到底考えられず、右意見書は米国トロイの真意を述べたものとみて何の差支えもないこと、更にパイプ商標はトロイ・ブロス商標とは異なり米国トロイの商標とは全く関係なく楠瀬によつて独自に創案されたもので、また同商標は元々日本では全く無名の商標であつたが、原告の営業努力により次第に有名になりその商標としての価値を増大していつたことが認められ、これに前記(一)の第一期、第二期ライセンス契約の契約書の各条項を考え合わせると、パイプ商標は原告が米国トロイのライセンス商品に使用するため、米国トロイに報告しその一応の了解を得て日本でのみ使用した原告独自の商標とみるのが相当であり、米国トロイが本件ライセンス契約によつてその商標として原告に対しライセンスした商標であると認めることはできない。〈反証判断略〉
なお、原告と被告東京トロイ間の昭和五〇年七月二一日付の契約が米国トロイから原告に対する本件ライセンス契約のサブライセンス契約、すなわちトロイ・ライセンス表示の下におけるトロイ・ブロス商標の使用の再許諾とみられること、右契約によつて右被告は、トロイ・ライセンス表示の下にトロイ・ブロス商標とともにパイプ商標も使用していたことは前記のとおりであるが、これに右被告が右各商標の使用の対価として支払つたロイヤルティの一部は、右契約がサブライセンス契約である以上当然に米国トロイへ支払われたが、一部は米国トロイの代理人である千里貿易の了解の下に原告が受領していたこと等前記(二)認定の本件の一連の真実経過を総合勘案すれば、原告は被告東京トロイとの右契約において、トロイ・ブロス商標についてのサブライセンスの合意と附随併行して、パイプ商標についてはサブライセンスではなく原告の商標としてライセンスすることを合意したとみるのが相当である。
右によれば、パイプ商標についての被告らの抗弁1の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
3 〈証拠〉によれば、被告東京トロイは米国トロイと原告間の第二期ライセンス契約が解約された後、千里貿易の村田を通じ米国トロイからトロイ・ブロス商標等につきライセンスを受けるべく交渉し、当初は米国トロイの口頭の許諾により、後には米国トロイとの昭和五三年九月二三日付の書面による契約により右各商標につきライセンスを受け、今日に至るまで、米国トロイに対し同契約所定のロイヤルティを支払つて、右各商標を使用していること及び被告東京トロイは右契約については昭和五三年一〇月三一日旧外資法第一〇条所定の主務大臣の認可を得ていることが認められる。
前記一に認定したとおり、被告新社は、被告東京トロイの販売部門を独立させる趣旨で設立された会社であり、トロイ・ブロス商標等が附された本件商品を専ら被告東京トロイから購入し、これを販売していることが認められる。
4 以上によれば、トロイ・ブロス商標は本件ライセンス契約に基づき米国トロイが原告に対しその使用を許諾し、米国トロイの右商標についての権利を保全するために原告名義で商標権の登録を受けさせていたものであるから、原告は本件ライセンス契約が解約された以上、同契約に基づき、米国トロイに対し同商標についての本件第一商標権の使用を中止する義務及びこれを返還すべき義務を負担していることとなる。しかるに、原告は米国トロイに対し右各義務を履行しないばかりか、本訴において米国トロイからトロイ・ブロス商標につきライセンスを得て同商標を使用している被告東京トロイ及び専ら同被告から本件商品を購入して販売している被告新社に対し、その商標の使用の差止を求めるものであり、原告の被告らに対する右差止請求権の行使は、権利の濫用として許されないものというべきである。
よつて、トロイ・ブロス商標についての被告らの抗弁1の主張は理由がある。
なお、原告は、本件ライセンス契約は旧外資法上の甲種技術援助契約につき必要とされる認可を得ていないため無効であり、原告に商標権の返還義務は生じない旨主張するが、仮に本件ライセンス契約につき同法上の認可が必要であつたとしても、本件ライセンス契約は継続的契約として八年以上の長期間継続してきたのであり、同契約解約後更に数年以上経過した現在において同契約を過去に遡つて無効であるとすることが契約当事者のみならず広く取引関係者にも大きな混乱を惹き起こすことは明らかであり、特に原告は米国トロイと同契約を締結して以来解約まで、八年以上の長期間にわたつて、同契約が有効であることを前提として、同契約所定のロイヤルティを支払い、米国トロイからライセンスを受けていることをその商品の宣伝、販売に積極的に利用してその営業を営み、同契約により受ける利益を十分に享受してきたのであり、ここにおいて、本件ライセンス契約を過去に遡つて一切無効とし、米国トロイから原告に対しライセンスされ原告名義で登録されている商標権につき原告に返還義務が生じないとすることが、本件において不当な結果を生じさせること前記2(二)認定の事実から明らかであり、更に、旧外資法第二条は「わが国に対する外国資本の投下は、できる限り自由に認められるべきものとし、この法律に基く届出又は認可の制度は、その必要の減少に伴い逐次緩和又は廃止されるものとする。」と規定しており、同法は本来自由であるべき外国資本の日本に対する投資を、右投資のため健全な基礎造りをする見地から、過渡的に制限する法律であるところ、少なくとも技術援助契約については、第一期ライセンス契約締結前の昭和四三年五月一〇日閣議決定による同年六月一〇日以降実施の第一次技術導入の自由化により甲種技術援助契約に対する規制が実質的にかなり緩和され、航空機、武器、火薬、原子力、宇宙開発、電子計算機、石油化学に関する個別審査対象七技術を除き、わが国の経済に重大な悪影響を及ぼすおそれのある場合に限り行いうる主務大臣からの別段の指示が申請後一月以内にない限り、日本銀行において自動的に認可されることになつていたのであり、したがつて右当時においてはすでに右七技術を除く甲種技術援助契約につき旧外資法による規制を強行すべき社会的要請、同法違反に対する社会倫理的非難が軽微なものであつたことが認められ、以上によれば、本件において本件ライセンス契約につき旧外資法上の認可がないとの一事をもつて、本件ライセンス契約が無効であり原告において米国トロイからライセンスを受けた商標権を米国トロイに返還すべき義務が生じないとする理由は全く見いだすことができず、原告の前記主張は採用の限りではない。
三 抗弁2、同3について
1 抗弁2(一)(1)の虚偽表示の主張について判断するに、パイプ商標が昭和四五年一二月二一日に原告名義で商標登録出願され、ついで昭和五〇年三月一日付の原告から楠瀬への商標登録出願により生じた権利の譲渡を理由に、同年五月二日楠瀬に出願人名義変更手続がされ、同五一年一一月一日楠瀬名義で商標権の設定の登録がされたことは右二2(二)(4)に述べたとおりである。
右二2(二)認定の事実及び〈証拠〉によれば、パイプ商標は楠瀬によつて創案された商標ではあるが元々原告の商品のワンポイントマークとして使用する目的で創案されたもので、原告は昭和四四年三月以来今日に至るまで同商標をワンポイントマークとして使用していること、豊田通商は昭和五四年四月に原告に対し全資本の五〇パーセントの割合で資本参加しているが、原告から楠瀬へのパイプ商標の商標登録出願により生じた権利の前記譲渡は、右資本参加とほぼ同じ時期にされていることが認められる。しかしながら、〈証拠〉によれば、パイプ商標についての原告から楠瀬への出願人名義変更手続前の同商標の出願に要した費用、グラフ印刷株式会社への清刷作成費用は原告が負担していたものの、右名義変更手続に要した諸費用(弁理士費用を含む)及びその後のパイプ商標の商標権設定登録の際の弁理士への成功報酬費用(五〇万円)を原告ではなく楠瀬個人が負担していること、楠瀬が同商標の商標権者として、昭和五一年七月にはパイプ商標に類似する第三者による後願の商標登録出願に対する異議申立をし、その手続に要した諸費用を自ら負担して、パイプ商標の商標権の保全をはかつていたこと、楠瀬はパイプ商標の商標権者として昭和五二年二月一日には原告に対し専用使用権を設定し(同年七月二〇日登録)、右使用権認定後はその使用料として、初年度は月一〇万円、二年目以降は月二〇万円を実際に原告から受領していることが認められ、以上によれば、原告から楠瀬へのパイプ商標の商標登録出願により生じた権利の譲渡が、原告と楠瀬間の通謀虚偽表示であると認めることはできない。
かえつて、以上に認定したように、パイプ商標は当初原告名義で出願され後に楠瀬に出願人名義が変更されて同人が商標権者となつていること、パイプ商標は原告がその商品にワンポイントマークとして使用するためではあるが、楠瀬によつて創案された商標であること、少なくとも原告から楠瀬への出願人名義変更後の一切の手続費用、弁理士費用は楠瀬が負担していること、楠瀬が原告に対し月一〇万円ないし二〇万円の低廉な使用料で専用使用権を設定していること、及び、〈証拠〉によれば、パイプ商標出願当時訴外大信貿易がパイプに関する商標権をすでに有しており、同社は事実上倒産していたため右商標を使用してはいない状況であつたけれども、パイプ商標について商標権を取得するためには右大信貿易の関係者と交渉する必要があり、楠瀬らは右交渉のためにはパイプ商標を会社名義で商標登録出願した方が有利であると考えていたこと、大信貿易のパイプについての商標権は昭和四九年六月七日期間満了により消滅したが、右によりパイプ商標が商標権として登録されることが確実となり、原告から楠瀬へのパイプ商標の商標登録出願により生じた権利の譲渡は右のような時期においてなされたことが認められ各事実及び〈証拠〉によれば、パイプ商標は原告の商品にワンポイントマークとして使用する商標として楠瀬が創案した商標であるため、楠瀬が原告に対し適切かつ低廉な対価をもつて、専用使用権の設定等の形でパイプ商標の使用を許諾することは当然の前提としたうえで、原告の代表者村上が、パイプ商標の創案者としての楠瀬の功績を考慮してパイプ商標については楠瀬を商標権者とすることにつき、その出願当初から了解していたこと、及び、パイプ商標の商標登録出願前から、前記大信貿易がパイプについて先願の商標権を有していたため、本来当初から楠瀬名義で出願すべきところを大信貿易との将来における交渉の際に有利なように、後にパイプ商標が商標権として登録される段階でその出願人を楠瀬に戻すという原告の代表取締役村上と楠瀬との合意に基づき、パイプ商標については当初は原告名義で商標登録出願をし、右大信貿易の先願商標が期間満了により消滅してパイプ商標が商標権として設定の登録を受けることが確実になつた段階で原告から楠瀬へ出願人名義変更手続をした事実を認めることができ、以上によれば、パイプ商標の商標登録出願により生じた権利の原告から楠瀬への譲渡は、パイプ商標についての商標登録出願時の原告と楠瀬間の合意を履行したものにすぎないのであるから、右権利の譲渡が通謀虚偽表示であるとの被告らの主張はこの点からも認めることはできない。
以上によれば、被告らの抗弁2(一)(1)の主張は採用できない。
原告と楠瀬間のパイプ商標の商標登録出願により生じた権利の譲渡が通謀虚偽表示であると認めることができないのであるから、被告らの抗弁3の主張も理由がないことは明らかであり、右主張も採用しえない。
2 抗弁2(一)(2)の事実は当事者間に争いはない。しかしながら、パイプ商標についての原告から楠瀬への商標登録出願により生じた権利の譲渡が同商標出願時の原告と楠瀬との当初の合意を履行したものにすぎないことは前記1認定のとおりであるから、実質的に原告の利益を害するものではなく、右については取締役会の承認を得る必要はないというべきである。したがつて、被告らの抗弁2(一)(2)の主張はその余の点について判断するまでもなく採用しえない。
四 抗弁4について
抗弁4(一)の被告ら主張事実は本件全証拠によつても到底これを認めることはできない。パイプ商標、トロイ・ブロス商標の商標権が、原告と米国トロイのいずれに帰属するかをめぐつて右両者間で見解の対立が生じ、そのため米国トロイは本件ライセンス契約を解約したことは前記二2認定のとおりであり、本件紛争は右のとおり本件ライセンス契約の対象となる商標権の範囲につき契約当事者間で明確な取決めをしなかつたことに起因するのであるから、抗弁4(一)で被告らが主張するような明確な取決めが原告と米国トロイ間でなされたとは経験則上到底考えられず、被告らの抗弁4の主張は採用できない。
五 抗弁5、再抗弁、再々抗弁について
1 原告が昭和五一年七月二一日付の被告東京トロイとの契約において、同被告に対し、トロイ・ブロス商標の再許諾と併行して、パイプ商標についてもその使用を許諾したとみられること前記二2(5)で述べたとおりであり、再抗弁事実は当事者間に争いがない。
そこで再々抗弁(一)、(二)につき判断するに、右事実と前記二2(二)(5)、3の認定事実及び〈証拠〉によれば、原告は被告東京トロイへの売掛代金等の債務の回収が目的で再抗弁5の契約を締結したのであり、右回収後は同被告との契約を打切ることも考慮していたこと、そのため右契約の期間は右被告が三年を希望したにもかかわらず原告の要望で一年となつたこと、原告が被告東京トロイに対し右契約につき更新拒絶通知をした後、原告と兼松江商との会談において、原告と被告東京トロイとの右契約は再契約はしないけれども後日代理店契約等を相談の上取り決めることを前提として、右契約で決められた経路で従来どおり同被告にトロイ・ライセンス表示の下にトロイ・ブロス商標、パイプ商標が附された商品が供給されることを主眼とする合意ができて一応の暫定的解決がつき、その後第二期ライセンス契約が解約されるまで前記経路で同被告に対し右商品の供給が継続されたこと、ところが、同被告は米国トロイと原告間の本件ライセンス契約解約後は、一貫してトロイ・ブロス商標、パイプ商標の商標権者は原告又は楠瀬ではなく米国トロイであるとの態度を取り、その使用の許諾を米国トロイに対し求め、米国トロイとの間で右各商標のライセンス契約を締結し、その使用料を米国トロイに対し支払つていること、また、原告及び同被告の取引先、顧客に対しては、同被告のみがトロイ・ブロス商標、パイプ商標についての正当な権利者である米国トロイからライセンスを受けているものであり、原告は右各商標につき何らの権利も有しないことを、米国トロイの指示の下に米国トロイ名義で、あるいは同被告名義で積極的に宣伝、広告して、原告がパイプ商標について権利を有することを公然と否定する立場を取り、当然のことながら本件ライセンス契約解約後は原告又は楠瀬に対し一切のロイヤルティの支払をなさずに現在に至つていることが認められ、右の事実に照らせば、再々抗弁(一)の合意が契約当事者間であつたとは到底認めることができず、また、原告の更新拒絶通知が更新拒絶権の濫用ということはできない。結局、前示の事実関係のもとにおいては、原告と被告東京トロイ間のパイプ商標についての使用許諾契約が現在においてもなお継続しているとみる余地はなく、被告の再々抗弁(一)、(二)の主張は採用できない。
六 以上の事実によれば、原告の本件専用使用権に基づく請求は被告新社に対する廃棄請求の部分を除き理由があるからこれを認容し、右部分及び本件第一商標権に基づく請求は理由がないからこれを棄却する。
(牧野利秋 清水篤 設楽隆一)
第一目録
ずぼん、スーツ、セーター、カーディガン、チョッキ、ワイシャツ、開きんシャツ、ブラウス、スポーツシャツ、ポロシャツ、くつ下、帽子及びタオル
第二目録
広告、カタログ、定価表及び注文書、注文受書、納品書、請求書、領収書
第三目録(一)
原告は、米国トロイに対し、
(1) 米国内の法定手続に要する経費米貨三〇〇〇ドル(円貨一〇〇万円)及び保証金一〇〇万円を契約時に支払う。
(2) 最低使用料として、昭和四四年一月より同一二月まで各月一〇万円、同四五年一月より同四六年一二月まで各月二〇万円、同四七年一月より同四八年一二月まで各月三〇万円を支払う。ただし、原告の販売額に対して最低使用料が1.5パーセント未満の場合はその差額を支払う。
(二)
原告は、米国トロイに対し、
(1) 最低使用料を五年間で総額一億円(各年二〇〇〇万円)支払う。
(2) 原告の販売額が一七億円を超えた場合は、その販売額の1.2パーセントのロイヤルティを支払う。
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