判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(210)平成24年 2月24日 東京地裁 平21(ワ)18577号 売掛代金請求事件、約束手形金請求事件、不当利得返還請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件
裁判年月日 平成24年 2月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)18577号・平21(ワ)26338号(平21(手ワ)67号)・平21(ワ)32530号(平21(手ワ)77号)・平21(ワ)33469号・平22(ワ)9244号
事件名 売掛代金請求事件、約束手形金請求事件、不当利得返還請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件
裁判結果 ①事件認容、②、③事件手形判決認可、④事件請求棄却、⑤事件請求棄却 文献番号 2012WLJPCA02248016
要旨
◆①事件は、原告が、各売買契約に基づき、被告に対し、売買代金の支払を求めた事案であり、②、③事件は、原告の被告に対する各手形金支払請求訴訟に係る請求認容の各手形判決について、被告が異議を申し立てた事案であり、④事件は、被告が、各売買契約に基づき原告に支払った売買代金について、各売買契約の無効等を理由に、原告に対し、不当利得に基づき、返還を求めた事案であり、⑤事件は、原告が、被告による④事件の提訴が違法なものであるとして、不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案において、本件各売買は架空取引であって、原始的に無効であると認定するも、原告と被告との間では、被告がこの無効を主張することは信義誠実の原則に違反するとして、①事件については、請求を認容し、②、③事件については、各手形判決を認可し、④事件については、請求を棄却し、⑤事件については、④事件の提訴は不法行為に該当しないとして、請求を棄却した事例
裁判経過
手形判決 平成21年 9月11日 東京地裁 判決 平21(手ワ)77号
手形判決 平成21年 7月24日 東京地裁 判決 平21(手ワ)67号
参照条文
民法1条2項
民法555条
民法703条
民法709条
裁判年月日 平成24年 2月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)18577号・平21(ワ)26338号(平21(手ワ)67号)・平21(ワ)32530号(平21(手ワ)77号)・平21(ワ)33469号・平22(ワ)9244号
事件名 売掛代金請求事件、約束手形金請求事件、不当利得返還請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件
裁判結果 ①事件認容、②、③事件手形判決認可、④事件請求棄却、⑤事件請求棄却 文献番号 2012WLJPCA02248016
平成21年(ワ)第18577号
売掛代金請求事件(①事件)
平成21年(ワ)第26338号(平成21年(手ワ)第67号)
約束手形金請求事件(②事件)
平成21年(ワ)第32530号(平成21年(手ワ)第77号)
約束手形金請求事件(③事件)
平成21年(ワ)第33469号
不当利得返還請求本訴事件(④事件)
平成22年(ワ)第9244号
損害賠償請求反訴事件(⑤事件)
東京都港区〈以下省略〉
①ないし③,⑤事件原告兼④事件被告
(以下「原告」という。)
株式会社トッパンコスモ
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 鈴木武志
同 笠松未季
同 浅田哲
東京都中央区〈以下省略〉
①ないし③,⑤事件被告兼④事件原告
(以下「被告」という。)
丸紅建材株式会社
代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 阪本智宏
同 髙村充保
同 阪本清
同 島田浩樹
主文
1 (①事件について)
被告は,原告に対し,5285万1753円及びうち3039万7503円に対する平成21年3月21日から支払済みまで,うち2245万4250円に対する平成21年4月21日から支払済みまで,年6分の割合による金員を支払え。
2 (②事件について)
原告と被告との間の東京地方裁判所平成21年(手ワ)第67号約束手形金請求事件につき同裁判所が平成21年7月24日に言い渡した手形判決を認可する。
3 (③事件について)
原告と被告との間の東京地方裁判所平成21年(手ワ)第77号約束手形金請求事件につき同裁判所が平成21年9月11日に言い渡した手形判決を認可する。
4 (④事件について)
被告の請求を棄却する。
5 (⑤事件について)
原告の請求を棄却する。
6 訴訟費用(②,③事件については,異議申立て後の訴訟費用に限る。)は,これを20分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
7 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
【当事者の求めた裁判】
1 ①事件
(1) 原告の求めた裁判(請求の趣旨)
主文1項と同旨。
(2) 被告の求めた裁判(請求の趣旨に対する答弁)
原告の請求を棄却する。
2 ②事件
(1) 原告の求めた裁判(請求の趣旨)
主文2項と同旨。
(2) 被告の求めた裁判(請求の趣旨に対する答弁)
原告と被告との間の東京地方裁判所平成21年(手ワ)第67号約束手形金請求事件につき同裁判所が平成21年7月24日に言い渡した手形判決を取り消す。
原告の請求を棄却する。
3 ③事件
(1) 原告の求めた裁判(請求の趣旨)
主文3項と同旨。
(2) 被告の求めた裁判(請求の趣旨に対する答弁)
原告と被告との間の東京地方裁判所平成21年(手ワ)第77号約束手形金請求事件につき同裁判所が平成21年9月11日に言い渡した手形判決を取り消す。
原告の請求を棄却する。
4 ④事件
(1) 被告の求めた裁判(請求の趣旨)
原告は,被告に対し,1億3571万2018円及びうち1万3167円に対する平成20年12月23日から,うち4636万4855円に対する平成21年1月21日から,うち4823万7001円に対する平成21年2月21日から,うち4091万8505円に対する平成21年3月21日から,うち17万8490円に対する平成21年4月21日から,各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告の求めた裁判(請求の趣旨に対する答弁)
被告の請求を棄却する。
5 ⑤事件
(1) 原告の求めた裁判(請求の趣旨)
被告は,原告に対し,1270万円及びこれに対する平成21年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告の求めた裁判(請求の趣旨に対する答弁)
原告の請求を棄却する。
【すべての事件について―当事者間に争いのない事実】
原告は,建装材並びにこれらに関連する製品の製造販売等を業とする株式会社である。
被告は,木材・合板・建材の輸出入及び販売等を業とする株式会社である。
【事案の概要】
①事件は,原告が,売買契約に基づき,被告に対し,売買代金の支払を求めた事案である。
②,③事件は,原告が,所持する約束手形に基づき,被告に対し,手形金の支払を求め,請求認容の手形判決を受けたが,被告が同判決に対し異議を申し立てた事案である。
④事件は,被告が,売買契約に基づき原告に対し支払った売買代金について,売買契約の無効等を理由に,原告に対し,不当利得に基づき,返還を求めた事案である。
⑤事件は,原告が,被告による④事件の提訴が違法なものであるとして,不法行為に基づき,損害賠償を求めた事案である。
【①事件について】
第1 当事者間に争いのない事実
1 原告は,平成21年1月15日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買①」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 aマンション(マンション)
売買代金 3039万7503円(消費税込)
代金支払日 平成21年3月20日(納品の翌月20日締め,翌々月20日支払)
2 原告は,平成21年2月5日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買②」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 bマンション(マンション)(追加工事分)
売買代金 2245万4250円(消費税込)
代金支払日 平成21年4月20日(納品の翌月20日締め,翌々月20日支払)
第2 原告の主張
1 原告は,これまで仕入先より購入したマンション物件の家具・建具・造作材(以下「建築資材」という。)を,被告に転売する取引を行っていた。被告も,これを他業者へ転売してきた。すなわち,原告も被告も,建築資材取引における中間商社である。
2(1) 原告は,平成21年1月30日付けで,被告に対し,本件売買①の目的物(建築資材。以下,同様。)を引き渡した。
(2) 原告は,平成21年2月20日付けで,被告に対し,本件売買②の目的物を引き渡した。
3 建築業界にあって,売買の目的物である建築資材は,メーカーから現場へ直接納品されるのが一般であり,中間商社間では現実に商品(目的物)は移動しない。売主である商社(原告)から買主である商社(被告)に対しては,売主による納品書ないし買主による物品受領書の交付をもって,目的物の引渡しに代替される合意が成立しており,これには,買主が売主に対し,以後目的物の引渡欠如の主張をしない旨の合意も含まれている。被告は,目的物の不存在を理由に,契約の原始的無効ないし錯誤無効,商法525条による解除,債務不履行解除を主張することはできない(再抗弁)。
原告も被告も中間商社であり,本件売買①,②の原告から被告への引渡しは,いずれも観念的なものであり,原告は,これを前提のうえで,被告に対し,納品書を発行している。
4 被告は,平成21年3月20日を経過したにもかかわらず,本件売買①の売買代金を,同年4月20日を経過したにもかかわらず,本件売買②の売買代金を,いずれも支払わない。
5 原告は,平成19年6月から,原告が株式会社FUJIWARA(以下「FUJIWARA」という。)や株式会社SHOUEI(以下「SHOUEI」という。)から建築資材を買い受け,被告に対し,これを転売する取引を,継続的に何度も行ってきた。被告は,原告がメーカーではなく,商社であることを十分に認識していたはずである。
そして,被告は,このような商流取引に基づき,平成20年9月分以前については代金を滞りなく支払ってきた。
6(1) 被告は,販売先の広島ガス開発株式会社(以下「広島ガス開発」という。)から売買代金を回収できないと見込むや,突如,従前には何ら問題にしてこなかった目的物の不存在を理由に,契約の原始的無効ないし錯誤無効,商法525条による解除,債務不履行解除を主張し,売買代金支払を拒絶しているが,これは,信義誠実の原則に反し,許されない(再抗弁)。
(2) 被告が,循環取引を主導・形成していたこと,すなわち悪意であったことは,以下の各事実により根拠付けられる。
ア 広島簡易裁判所へ提出された循環取引表によれば,被告は,極めて多くの取引において,循環の輪の始点かつ終点となっている。
イ 広島ガス開発が広島簡易裁判所へ提出した資料によれば,被告は,広島ガス開発と莫大な金額の取引を行っており,しかも同一物件に納入する商材を,被告と広島ガス開発が売主・買主の立場を入れ替えた,極めて不自然な取引を行っている。
ウ 広島ガスリビング株式会社(以下「広島ガスリビング」という。)が広島簡易裁判所へ提出した資料によれば,被告は,広島ガスリビングと莫大な金額の取引を行っており,しかも同一物件に納入する商材を,被告と広島ガスリビング,被告と広島ガス開発で売主・買主の立場を入れ替えた極めて不自然な取引を行っている。
エ さらに,被告が提出した書証(乙36,ア記載の循環取引表との照合表)を前提としても,被告が広島ガスリビングを仕入先,広島ガス開発を販売先とする取引を繰り返し行う一方で,広島ガス開発を仕入先,広島ガスリビングを販売先とする取引を繰り返し行っている。
オ こうした不自然な取引は,実需取引ではおよそ考えられないものである。被告は,架空取引と承知のうえで,主導企業である広島ガス開発らと莫大な金額の取引を続けてきた。
(3) 被告は,広島ガス開発と並び,一連の循環取引を主導・形成した立場にある。その被告が,契約の原始的無効ないし錯誤無効,商法525条による解除,債務不履行解除を主張し,売買代金支払を拒絶することは,信義誠実の原則及び正義衡平に反し,断じて許されない(再抗弁)。
7 仮に本件が循環取引であったとしても,原告は,そのことをまったく知らずに仕入先や被告と取引を行ってきたのであり,そもそも欺罔行為がなく,詐欺取消には理由がない。
8 仮に被告が,本件売買①,②が架空取引であったことについて善意であったとしても,被告には,前記6(2)の各事実から,重大な過失があり,錯誤無効を主張することはできない。また,被告が,原告がメーカーであると信じたがゆえに,本件売買①,②が実需取引であると信じて取引に入ったというが,被告が認識していた商流機能及び原告の資金力からして,きわめて不自然,不合理であり,このような不自然,不合理な認識を有していたとすれば,それ自体が重大な過失であり,錯誤無効を主張することはできない。(再抗弁)
第3 被告の主張
1(1) 被告の担当者であるC(以下「C」という。)は,原告の担当者であるD(以下「D」という。)から,売買の目的物の製造業者(メーカー)は原告であると説明されていた。原告は中間商社ではない。しかし,本件売買①,②を含む取引は,実際には架空取引であり,メーカーであった原告が目的物の不存在を知らないはずがない。Dが原告をメーカーと偽ったのは,目的物の不存在を隠蔽する目的としか考えられず,Dが架空取引につき悪意であったことは明白である。
Dは,架空取引につき,主導的役割を果たしていた。原告が被告に交付した見積書,納品書,請求書には具体的な商品につき詳細な記載があるが,かかる商品明細はメーカー機能を有する原告でなければ作成できるものではない。
(2) 原告と取引をする前に,被告がFUJIWARAやSHOUEIと直接取引していた事実はない。被告は,あくまで新規取引として,原告から仕入れることにしたものであり,原告がFUJIWARAやSHOUEIから仕入れていたとは知らなかった。そして,被告は,広島ガス開発へ販売していた。
被告が行った取引は,すべて仕入先及び販売先が決まっており,被告が起点や終点になった事実はない。
原告は,上流に位置するSHOUEIに対し,原告がほぼすべてを負担する形で和解したが,不可解な対応と言わざるを得ない。SHOUEIは,一連の架空取引の首謀者の1人であることを認め,刑事訴追を受けているE(以下「E」という。)が取締役を務める会社であり,一連の架空取引につき悪意であったことは明白である。にもかかわらず,原告が不利な和解に応じたのは,SHOUEIと共謀して見積書,請求書等を作成していたからと考えるのが自然である。すなわち,原告は,自己の善意を立証し得ないという自覚のもとに上記和解に応じたのである。
(3) Cは,E及びパナソニック電工リビング中国株式会社(以下「パナソニック電工リビング」という。)の担当者であるF(以下「F」という。)から,一連の取引における中間商社の機能について資料を示して説明を受けたが,その説明に不自然なところはなく,正常な取引であると信じ,取引を継続した。
また,Cは,Dから,マンション名,戸数,施主名,ゼネコン名,メーカー名等につき通知を受け,取引内容を確認していた。Dは,原告がメーカーだと虚偽の説明をすることで,目的物の存在を偽ったのである。凸版印刷株式会社の100パーセント子会社で,資本金30億円の巨大企業である原告から,自らが目的物のメーカーであると説明をされ,目的物の実在に疑いを持つ者などいるはずがない。さらに,買主である広島ガス開発から物品受領書も受領している。Cは,架空取引につき善意であった。
2 本件売買①,②の目的物の引渡しは,否認する。
通常の商流取引において,中間商社間で商品(目的物)の現実の引渡しが行われないことは認めるが,売主による納品書の交付をもって,目的物の引渡しに代替される合意があるとの点は,否認する。通常の商流取引では,目的物が存在しており,最終ユーザーに納品される以上,中間商社間での現実の引渡しが必要とされないというだけである。事実と異なる納品書には何の意味もない。また,被告は,原告に対し,物品受領書を提出していない。
本件売買①,②の目的物は,原告→被告→広島ガス開発という流れで転売され,最終的には,マンションを施工するゼネコンに引き渡されることになっていた。しかし,本件売買①,②の目的物は,そもそも存在しておらず,施工業者への現場への直接納品すらなかった。本件は,いわゆる架空取引の事案である。広島ガス開発の担当者は,協力者をして建築中のマンションをインターネットで探させるなどして,関係のない建築現場を納品現場であるかのごとく装っていた。
3(1) 本件売買①,②は,当初から目的物が存在しておらず,原始的に無効である(抗弁)。
(2) 仮に原始的に無効でないとしても,被告には架空取引との認識はなく,通常の売買契約であると誤信していたのであるから,意思表示に要素の錯誤があり,本件売買①,②は,民法95条により無効である(抗弁)。
(3) 仮に無効でないとしても,Dは,目的物が存在しないことを認識しており,Dの欺罔行為により,被告は,通常の売買契約,適法な商流取引と誤信して契約したのであるから,平成21年9月11日の口頭弁論期日において,原告に対し,民法96条1項により,本件売買①,②を取り消す旨意思表示した(抗弁)。
(4) 本件では引渡期限までに売買契約の目的物が給付されていない。本件売買①,②は,マンションの内装工事に必要とされる建築資材を提供する契約であり,履行期に納品されなければ,その目的を達することができないのであるから,商法525条により,解除したものとみなされる。
本件売買①,②の納期は,いずれも平成21年1月31日であり,同納期の経過により,本件売買①,②は,当然に解除されたとみなされる。
(5)ア 本件売買①,②の納品現場とされたマンションでは,原告の履行遅滞中に,他から家具・建具・造作材の納入を受け,すでに建築が完了しており,もはや原告による目的物の納入は履行不能である。よって,被告は,平成22年3月25日の弁論準備手続期日において,原告に対し,民法543条に基づき,解除する旨意思表示した(履行不能解除)(抗弁)。
イ 仮に履行が可能だという場合に備え,被告は,平成22年3月25日の弁論準備手続期日において,原告に対し,同月31日までに履行するよう催告し,履行がなければ,同日の経過をもって,民法541条に基づき,解除する旨意思表示した(履行遅滞解除)(抗弁)。
4 Dのほか,架空取引の首謀者は,原告にこの取引を紹介したF,E及び広島ガス開発の担当者であるG(以下「G」という。)である。なお,SHOUEIは,Eが取締役を務める会社であり,FUJIWARAは,SHOUEIと同じビルに存在し,緊密な関係にあることから,FUJIWARA及びSHOUEIも架空取引の事実を認識していたと思われる。
5 被告は,原告が送付した虚偽の納品書を真実と信じていただけであり,転売先の広島ガス開発からも物品受領書を交付されていたため,従前,目的物を受領していない旨を主張しなかっただけである。
被告は,これまで目的物の不存在という事実を知らなかったのであり,信義則違反とされる理由はまったくない。
6 被告が,循環取引を主導・形成していた,すなわち悪意であったとの主張は,否認する。
(1) 原告主張6(2)アに対する反論
循環取引表の作成については否認ないし不知。また,内容についても,同表には多くの誤りがあり,証拠価値はない。被告は,その旨広島簡易裁判所の調停委員会に対し上申した。
実際に,被告が行った取引は,すべて仕入先及び販売先が決まっており,被告が起点や終点になった事実はまったくない。
(2) 同イに対する反論
広島ガス開発と多額の取引をしていたとしても被告の悪意を推認させるものではない。また,同一物件に納入する商材を,被告と広島ガス開発が売主・買主の立場を入れ替えて取引をした事実はない。原告が作成した資料において,広島ガス開発が被告に販売したと主張する取引につき,広島ガス開発が作成した資料と突き合わせると,いすれも「売上日 未完成」「回収状況 未完成物件につき未請求」と記載されており,同資料からも,実際には存在しない取引であることが分かる。
(3) 同ウに対する反論
広島ガスリビングと多額の取引をしていたとしても被告の悪意を推認させるものではない。ちなみに,広島ガスリビングは,自らの首謀性を否認している。
(4) 同エに対する反論
マンション建設にかかる中間商社の機能からすれば,被告が広島ガスリビングを仕入先,広島ガス開発を売上先とする取引を行う一方で,広島ガス開発を仕入先,広島ガスリビングを売上先とする取引を行ったことは,不自然ではまったくない。
Cは,Gから,「広島ガス開発は,広島ガスの施設跡地の再開発事業を行っており,ゼネコンに対する影響力を持っている。広島ガスリビングも,ガス器具を販売する関係から,大規模なマンションの新築情報を素早くキャッチできる。両社ともそれぞれ内装工事を依頼している工事会社があり,マンションの施工会社(ゼネコン)と関係の深い会社がゼネコンへの納入の窓口(商流における下流)となるため,広島ガスリビングが下流となることもある,広島ガスリビングにはこのような機能があるので,広島ガス開発が窓口(下流)となる取引でもたまに商流(上流)に入れてやり金融仲介機能を果たす見返りとして若干の利益を落とすことにしている。」と説明されていた。かかる説明には合理性があり,被告が不正取引と疑わなかったのも無理はない。
なお,原告も同様の取引を行っていたとのことである。
(5) 同オに対する反論
争う。原告の主張は,「被告は,広島ガス開発と頻繁に取引をしていたから悪意」ということに尽きるが,まったく不合理な推論である。
第4 被告の主張1に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張1(1)については,本件が架空取引であることは除き,すべて否認する。被告は,原告が中間商社であることは十分承知していた。
被告は,仕入先がメーカーでない広島ガス開発らとも頻繁に同様のマンションを納品現場とする建築資材の取引を行っており,本件に限り原告をメーカーと信じたから取引をしたというのは不自然である。
原告が被告に交付した見積書等は,商社の実需取引で一般に作成されているものであり,何ら不自然な点はない。
2 同(2)のうち,被告が行った取引で被告が起点・終点になった事実がないとの点は,否認する。
3 同(3)のうち,Cが架空取引について善意であった事実は,否認する。Cが平成16年にEらの説明を聞いて正常な取引と信じて取引を継続したとの点は,被告が大手中間商社であることから不自然であり,現に被告は,平成13年にはマンションを納品現場とする建築資材の取引を行っていた。
【②,③事件について】
第1 当事者間に争いのない事実
1 被告は,別紙1の手形目録1ないし6記載の各約束手形(以下「本件手形①」といい,同目録1記載の約束手形を「本件手形①1」などという。)を,別紙2の別紙手形目録1ないし3記載の各約束手形(以下「本件手形②」といい,同目録1記載の約束手形を「本件手形②1」などという。また,本件手形①と本件手形②を併せて,以下「本件手形」という。)を振り出した。
2 本件手形は,いずれも原告が受取人兼被裏書人である。
3(1) 原告は,平成20年9月12日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買③」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 cマンション(マンション)
引渡期限 平成20年10月31日
売買代金 1930万9500円
代金支払日 平成20年12月末日限り,約束手形発行
(2) 原告は,平成20年9月17日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買④」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 bマンション2期(マンション)
引渡期限 平成20年10月30日
売買代金 1888万2150円
代金支払日 平成20年12月末日限り,約束手形発行
(3) 原告は,平成20年10月10日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買⑤」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 dマンション(マンション)
引渡期限 平成20年11月28日
売買代金 3390万4500円
代金支払日 平成21年1月末日限り,約束手形発行
(4) 原告は,平成20年10月17日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買⑥」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 bマンション(マンション)
引渡期限 平成20年11月28日
売買代金 1780万3170円
代金支払日 平成21年2月末日限り,約束手形発行
(5) 原告は,平成20年11月7日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買⑦」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 eマンション(マンション)
引渡期限 平成20年12月26日
売買代金 3743万2500円
代金支払日 平成21年2月末日限り,約束手形発行
4 被告は,本件売買③,④の代金支払のため,平成20年12月22日,本件手形①1ないし3を,本件売買⑤の代金支払のため,平成21年1月20日,本件手形①4ないし6を,本件売買⑥,⑦の支払いのため,平成21年2月20日,本件手形②を,それぞれ振り出した。
なお,本件売買③,④の売買代金と本件手形①1ないし3の金額とに,19万1650円の差額が生じているのは,1万3160円については,反対債権と相殺し,17万8490円については,被告が原告に対し他の取引にかかる売買代金とあわせて約束手形(額面1993万6826円)を振り出しており,決済済みだからである。
5 本件手形①について,東京地方裁判所は,平成21年7月24日,被告は,原告に対し,7190万4500円及びうち3800万円に対する平成21年4月20日から支払済みまで,うち3390万4500円に対する平成21年5月20日から支払済みまで,それぞれ年6分の割合による金員を支払えとの手形判決を言い渡した(②事件)。
被告は,平成21年7月29日,上記手形判決に対し,異議を申し立てた。
6 本件手形②について,東京地方裁判所は,平成21年9月11日,被告は,原告に対し,5523万5671円及びこれに対する平成21年6月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払えとの手形判決を言い渡した(③事件)。
被告は,平成21年9月11日,上記手形判決に対し,異議を申し立てた。
第2 原告の主張
1 原告は,本件手形を所持している。
2 原告は,平成21年4月20日に本件手形①1ないし3を,同年5月20日に本件手形①4ないし6を,同年6月22日に本件手形②を,それぞれ支払場所において,支払のため呈示した。
3 被告は,原告に対し,本件手形②による支払分のうち,607万2280円を,新たな約束手形を振り出す方法により支払った。その内訳は,本件手形②2の支払分につき500万円を,本件手形②3の支払分につき107万2280円である。
その結果,本件手形②2については,500万円が控除され,本件手形②3については,107万2280円が控除され,原告は,被告に対し,本件手形②については,計5523万5671円の手形金の支払を求める。
4 ①事件の原告の主張等と同じ。
第3 被告の主張
①事件の被告の主張等と同じ。
本件売買③ないし⑦は,いずれも無効,あるいは,取り消された,もしくは,解除とみなされた,債務不履行解除された(原因関係の不存在・消滅の抗弁)。
なお,本件売買③ないし⑦の納期は,以下のとおりであり,同納期の経過により,本件売買③ないし⑦は,商法525条により,当然に解除されたとみなされる。
本件売買③・平成20年10月31日,本件売買④・同月30日,本件売買⑤・同年11月28日,本件売買⑥・同日,本件売買⑦・同年12月26日。
よって,原告は,被告に対し,本件手形の各手形金の支払いを求めることはできない。
【④事件について】
第1 当事者間に争いのない事実
1(1) 原告は,平成20年6月16日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買⑧」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 fマンション(マンション)
引渡期限 平成20年7月31日
売買代金 3229万8000円
代金支払日 平成20年9月末日限り,約束手形発行
(2) 原告は,平成20年6月16日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買⑨」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 gマンション
引渡期限 平成20年7月31日
売買代金 1406万6850円
代金支払日 平成20年9月末日限り,約束手形発行
(3) 原告は,平成20年6月16日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買⑩」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 hマンション(マンション)
引渡期限 平成20年8月31日
売買代金 3201万4500円
代金支払日 平成20年10月末日限り,約束手形発行
(4) 原告は,平成20年7月15日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下「本件売買⑪」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 bマンション(マンション)
引渡期限 平成20年8月31日
売買代金 1622万2553円
代金支払日 平成20年10月末日限り,約束手形発行
(5) 原告は,平成20年8月8日,被告との間で,次の約定で,原告を売主,被告を買主として,売買契約を締結した(以下,「本件売買⑫」といい,本件売買①ないし⑫を「本件売買」という。)。
目的物 家具・建具・造作材
納品現場 iマンション(マンション)
引渡期限 平成20年9月30日
売買代金 4091万8500円
代金支払日 平成20年11月末日限り,約束手形発行
(6) 本件売買⑧ないし⑫の代金支払日は,契約書上は各月末日であったが,実際には各月20日であった。
2(1) 被告は,本件売買⑧,⑨の代金支払のため,平成20年9月20日,約束手形を振り出した。同手形は,平成21年1月20日に決済され,被告は,同日,原告に対し,4636万4855円を支払った。
(2) 被告は,本件売買⑩,⑪の代金支払のため,平成20年10月20日,約束手形を振り出した。同手形は,平成21年2月20日に決済され,被告は,同日,原告に対し,4823万7001円を支払った。
(3) 被告は,本件売買⑫の代金支払のため,平成20年11月20日,約束手形を振り出した。同手形は,平成21年3月20日に決済され,被告は,同日,原告に対し,4091万8505円を支払った。
(4) 被告は,本件売買③,④の代金のうち,平成20年12月22日に反対債権と相殺して1万3167円を支払い,平成21年4月20日に17万8490円を支払った。
第2 被告の主張
1 ①事件の被告の主張等と同じ。
本件売買③,④,⑧ないし⑫は,いずれも契約が無効,あるいは,取り消された,もしくは,解除とみなされた,債務不履行解除された(抗弁)。
なお,本件売買③,④,⑧ないし⑫の納期は,以下のとおりであり,同納期の経過により,本件売買③,④,⑧ないし⑫は,商法525条により,当然に解除されたとみなされる。
本件売買③,④・前記のとおり,本件売買⑧・平成20年7月31日,本件売買⑨・同日,本件売買⑩・同年8月31日,本件売買⑪・同日,本件売買⑫・同年9月30日。
被告は,無効な契約に基づき,売買代金を支払った。これにより,原告は,法律上の原因のない利得を得て,被告は損害を被った。
2 原告は,本件売買③,④,⑧ないし⑫について,目的物の不存在ひいては架空取引であることを認識しており,悪意の受益者である。
3 仮に原告が善意であったとしても,原告は,SHOUEIないしFUJIWARAに対し,不当利得返還請求権を有するのであり,現存利益がある。
4 なお,被告の主張のうち契約の解除が認められた場合,善意悪意にかかわらず,原告は,売買代金の受領時から利息を付して返還する必要がある。
第3 原告の主張
1 ①事件の原告の主張等と同じ。
2 本件売買③,④,⑧ないし⑫は,すべて商流取引による転売を前提としているから,原告の利得は売買代金ではなく,転売差額のみである。
【⑤事件】
第1 当事者間で争いのない事実
④事件は,平成21年9月18日付けで,提訴された。
第2 原告の主張
1 被告は,広島ガス開発らと並び,本件売買を含む一連の循環取引を主導した会社(循環取引主導企業)である。被告は,一連の取引の循環性を知悉しており,「件名変更」の会議(取引が一巡したあと,新たに別の現場を偽って取引を作り出し,手形や架空の建築資材が流れる業者の選定,順番を決める会議)に参加したのみならず,自ら循環取引の輪の中に入り,循環の輪の中心(起点かつ終点,すなわち,最初の売主かつ最終の買主)にまでなっていた。
2 このように循環取引を自ら主導した被告が,本件売買が架空取引であることを主張して,①ないし③事件における売買代金の支払を拒むことは,信義則に反して許されない。
ましてや,循環取引を自ら主導し架空取引を作出した被告が,売買代金の返還を請求する訴訟(④事件)を提起することは,正義衡平の観点からして決して許されるものではなく,きわめて不当な濫訴行為であり,民法709条の不当行為に該当する。
3 原告は,④事件の訴訟追行のため,平成21年10月16日に,弁護士鈴木武志に対して,着手金として630万円(消費税込),実費として10万円の計640万円を支払った。
さらに,原告は,同弁護士に対し,成功報酬金として630万円(消費税込)の支払いを約したことにより,④事件の請求棄却判決がされることを停止条件とする報酬金支払債務を負った。
これらは,被告の不法行為(不当訴訟)により原告に発生した損害である。
第3 被告の主張
1 被告は,架空取引に巻き込まれたのであり,主導したことはない。
被告においては,高度な調査をしたうえで,担当者であるCには,架空取引の認識がなかったと認定している。最高裁判所昭和63年1月26日判決に照らしても,④事件が不当訴訟とされる可能性は皆無であり,同判決を無視してされた⑤事件こそ,不当訴訟の誹りを免れない。
2 弁護士報酬額について,その妥当性を争う。
第4 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張1は否認する。被告に架空取引の認識がなかったなど有り得ない。広島ガス開発,広島ガスリビングとの莫大な取引金額,不自然な取引形態からして,被告が,広島ガス開発らと連携,密着していたことは明らかである。
2 ④事件の訴訟提起は,前記最高裁判所の判決の要件を満たし,不法行為に該当する。
【当裁判所の判断】
第1 証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
1(1) 本件売買を含め,マンション用の建築資材がそもそも存在せず,その建築資材を必要とする施工業者も存在しないのに,建築資材やそれを必要とする施工業者が存在し,その与信のための取引であるかのように装い,マージン(手数料)を受け取る商社等の企業を介在させる取引が継続していた(以下「本件取引」という。)。本件取引は,すべて架空取引であった。
本件取引において,中間に介在する商社等の企業は,一時的に資金を提供すれば,仕入れた建築資材を転売する際に,上乗せするマージン(手数料)分の利益が得られる利点があった。
以下の経緯により,本件取引が,開始され,継続していた。
広島ガス開発は,平成11年ころ,営業部建装課で建材販売の取引を始めた。当時営業担当であったGは,同年秋ころ,木工業者のスガノの営業担当者であったEから,マンション用の建築資材を一括発注することにより各メーカーから安く仕入れることができるが,仕入業者がゼネコンから支払を受けるまでに期間があるため,他の企業がその間に入って,建築資材の取引をする,間に入った企業は,建築資材を仕入れ,予定された販売先に,仕入代金の1・5パーセント程度の利益を付けて販売するなどと,本件取引について,説明を受け,参加を勧められた。広島ガス開発は,Eが取り仕切っていた本件取引に加わるようになり,Gは,遅くとも平成16年1月ころには,本件取引が架空取引であることを認識するに至った。
(2) 本件売買の当時,本件取引を取り仕切っていたのは,スガノのE,広島ガス開発のG,パナソニック電工リビングのFであり,この3名が,インターネットで新築中のマンションを探し出し,仕入先,販売先,介在させる企業等,本件取引の商流を決め,参加各企業に指示をしていた。
Gらは,本件取引に参加する企業に対し,仕入先,販売先,マンション物件名,販売価額,手形振出日及び手形期日等を記載した指示書を交付し,指示書をもとに,見積書・見積内訳書,請求書,納品書,売約証,買約証等が作成され,本件取引に参加する企業に対し,これら書類が順次交付され,約束手形による代金決済が行われていた。
(3) 平成18年以降に限ると,本件取引に参加した企業は,広島ガス開発,パナソニック電工リビング,スガノ,原告,被告,有限会社金重建工,FUJIRAWA,SHOUEI等計二十数社にのぼった。
本件取引の件数は,平成18年が960件,平成19年が1379件,平成20年が1650件,平成21年が229件であった。
平成18年から平成21年までに限ると,本件取引により,被告は,マージン(手数料)4億9871万8823円(マージン率2.78パーセント)の利益を得られる計算となり,原告は,マージン(手数料)1億5221万1500円(マージン率2.37パーセント)の利益を得られる計算となる。(この項の参加企業数,取引件数,利益額等は,捜査機関の捜査結果によるものである。)
(4) 被告は,平成11年から本件取引に参加するようになった。本件売買の担当者であるCは,平成13年6月ころ,EやFから,本件取引について説明を受け,Eの指示に基づき,担当者として本件取引に関与し続けた。被告は,平成18年1月から平成21年2月まで,毎月,本件取引に参加し,その件数は,平成18年が58件,平成19年が92件,平成20年が94件,平成21年が8件であった。被告にとっては,商社として,広島ガス開発や広島ガスリビングといった広島地域の優良企業と関係を持つことも利点であった。(この取引件数も,捜査機関の捜査結果によるものである。)
(5) 原告は,Eから打診があり,平成10年から,本件取引に関わるようになった。この当時の本件取引の商流は,Eにより決められており,平成11年には,原告の仕入先が被告の親会社である丸紅株式会社(以下「丸紅」という。),販売先がスガノとされた。その後,本件取引に被告も参加するようになり,被告が原告の仕入先になったり,販売先になったりするようになった。また,原告が丸紅から仕入れ,被告に販売したり,原告が被告から仕入れ,丸紅に販売することもあった。原告は,平成14年2月ころに本件取引からいったん撤退したが,平成19年6月ころに本件取引に再び参加するようになり,平成21年2月まで本件取引に参加していたが,本件取引に参加していない月もあり,その件数は,平成19年が6件,平成20年が15件,平成21年が4件であった(この取引件数も,捜査機関の捜査結果によるものである。)。
原告が再び本件取引に参加するようになったのは,平成19年6月ころ,本件売買の担当者であるDが,Eの指示を受けた株式会社アマノのH(後にSHOUEIに移った。以下「H」という。)から,本件取引の商流を説明されたのがきっかけであった。Hは,Dに対し,建築資材をFUJIWARAまたはSHOUEIから仕入れ,被告に販売するという商流であると説明した。
(6) 平成21年3月ころ,本件取引が架空取引であることが判明し,本件取引に関し,E,G,F,I及びJが詐欺罪で逮捕され,これまでに少なくともE及びGが有罪判決を受けた。
(以上,甲21の1ないし3,甲35の1ないし5,甲35の2の1ないし7,甲35の3の1ないし7,甲35の4の1ないし6,甲35の5の1ないし6,甲35の6の1ないし10,甲42ないし46,51,52の114,甲53,乙1,47,48,50,証人D,証人C,証人H)
2 Dは,平成10年4月,原告西日本支店広島営業所に配属となり,当時の同営業所所長のもと,本件取引を担当し,平成15年4月に原告関西支店へ異動となり,平成18年4月に再び原告西日本支店広島営業所に配属となり,平成19年4月からは,同営業所所長になり,同年6月以降,本件取引を担当するようになった。
Cは,平成13年4月から,被告関西支店広島営業所所長として,本件取引を担当し,その後,異動のため,本件取引の担当から離れたが,平成18年4月から,被告中国・四国支店(上記広島営業所が名称を変更された。)の支店長代理兼営業課長・高松出張所所長として,再び本件取引を担当するようになった。
(以上,甲2,3,5,20の1ないし7,甲37の1ないし3,甲42,48,49,乙12ないし17,40,48,証人D,証人C)
3 原告と被告は,平成19年6月から平成21年1月まで,原告を売主(商流の上流),被告を買主(商流の下流)として,本件売買を含め,29件(本件売買②は,2つの取引とする。)の本件取引に参加した(甲16の1・2)。(この取引件数は,捜査機関の捜査結果と異なり,被告提出の書証(乙36)記載の件数とも異なる。前者は,原告についてさらに調査が必要とされ,後者は,古澤建設工業株式会社及び株式会社ナカハラの代理人弁護士が作成し広島簡易裁判所に提出した循環取引表に記載の取引を被告が照合したものであるから,いずれも平成19年6月以降の原告と被告との間の本件取引のすべてが反映されているものではないと考えられる。原告作成の取引推移表(甲16の1・2)については,その信用性に疑問を入れる事情は見当たらず,信用することができる。)
4(1) 本件取引のうちSHOUEIが原告の仕入先とする分については,FがDに対し,商流(当事者名,「SHOUEI→原告→被告」と記載されている。),納入先(マンション名),代金,仕入金額,売上金額等を記載した指示書(甲39の8・本件売買①,甲39の6・本件売買③,甲39の7・本件売買⑤,甲39の5・本件売買⑩,乙14・本件売買⑫)を交付していた(甲39の1ないし8,甲42,乙14,証人D)。
また,本件売買のうちFUJIWARAが原告の仕入先の分については,Hが,Eの指示を受けて当事者間の連絡役を担い,Dに対し指示をしていた(甲42,47,48,50,証人D,証人H)。
(2) 原告発行の被告宛ての見積書(甲1・本件売買①,甲4・本件売買②),原告発行の被告宛ての納品書(甲2・本件売買①,甲5・本件売買②),原告発行の被告宛ての請求書(甲3・本件売買①,②,乙14・本件売買③,乙16・本件売買⑤,乙17・本件売買⑥,⑦,乙12・本件売買⑧,⑨,乙13・本件売買⑩),被告発行の原告宛ての買約証(甲40の8・本件売買①,甲40の4(乙7)・本件売買③,甲40の5(乙8)・本件売買④,甲40の6(乙9)・本件売買⑤,甲40の7(乙10)・本件売買⑥,乙11・本件売買⑦,甲40の1(乙2)・本件売買⑧,乙3・本件売買⑨,甲40の2(乙4)・本件売買⑩,乙5・本件売買⑪,甲40の3(乙6)・本件売買⑫)が作成され,それぞれ交付されていた(前掲各証拠)。
見積書には,納入先(マンション名),品名,形状・サイズ,数量,単価等が,納品書には,納入先(マンション名),品種,商品コード,数量,単価等が,請求書には,品名,納入先(マンション名),単価,金額等が,買約証には,品名・規格,数量,金額,受渡条件・場所(マンション名),受渡期限,決済条件等が記載されていた(前掲各証拠)。
(3)ア 本件売買は,Eの指示に基づき,Hが原告に対し商流を指定し,原告が,SHOUEI(本件売買①,③,⑤,⑦,⑧,⑩,⑫),または,FUJIWARA(本件売買②,④,⑥,⑨,⑪),あるいは,田村駒エンジニア(本件売買②)から建築資材を仕入れ,被告に販売するという取引であった。平成19年6月以降の本件取引については,他に株式会社新友が原告の仕入先として参加していた。
また,FUJIWARAが原告の仕入先として参加した取引については,一の位工務店ことKがFUJIWARAの仕入先として参加し,SHOUEIが原告の仕入先として参加した取引については,株式会社新友がSHOUEIの仕入先として参加していた。
(以上,甲41の1,甲42,46ないし48,51,証人D,証人H)。
イ FUJIWARAは,Hから,Dを紹介してもらい,大手企業である原告と取引ができることから,平成19年4月以降,本件取引に参加するようになった。FUJIWARAは,本件取引に参加する際,H,Dと話合いの場を持ち,その後は,主にHと打ち合わせをした。(以上,甲42,47,50,証人H)。
ウ また,FUJIWARAは,SHOUEIと同じビルに入っているが,両者の関係は,SHOUEIがそのビルの所有者で,FUJIWARAがテナントというものである(甲47)。
(4)ア 本件売買について,SHOUEI発行の請求書(甲20の6・本件売買③,甲20の1・本件売買⑧,甲20の3・本件売買⑩,甲20の5・本件売買⑫),または,FUJIWARA発行の請求書(甲20の7・本件売買④,甲20の2・本件売買⑨,甲20の4・本件売買⑪)が,原告に対し,交付された。
SHOUEI発行の請求書もFUJIWARA発行の請求書も,品名,納品先,単価,金額が記載されている。いずれの請求書も,原告の定型書式を用いていた。
(以上,甲20の1ないし7,甲41の1)
イ 本件売買を含め本件取引は,仕入先であるSHOUEI及びFUJIWARAに対しては,販売先である原告が振り出した約束手形により代金が決済される取引であった。
原告は,SHOUEIに対し,平成20年8月31日,本件売買⑧の代金を(甲17,18の各1・2,甲19の1),同年9月30日,本件売買⑩の代金を(甲17,18の各4・5,甲19の2),同年10月31日に,本件売買⑫の代金を(甲17,18の各7・8,甲19の3),同年11月30日に,本件売買③の代金を(甲17の9ないし12,甲18の9,甲19の4),それぞれ支払った。
また,原告は,FUJIWARAに対し,平成20年9月2日,本件売買⑨の代金(甲17,18の各3,甲19の1),同年10月3日,本件売買⑪の代金を(甲17,18の各6,甲19の2),同年11月30日,本件売買④の代金を(甲17の13,甲18の10,甲19の4),それぞれ支払った。
(以上,前掲各証拠,甲16の1,甲33,41の1)
ウ しかし,本件売買①,②,⑤ないし⑦については,●●●の約定日に代金決済がされなかった。
(以上,甲16の1,甲33)。
(5)ア 平成19年6月以降の本件売買を含む本件取引において,被告の販売先は,広島ガス開発,広島ガスリビングであり,被告の仕入先は,原告のほかに,パナソニック電工リビング,サンヨー宇部,広島ガス開発,広島ガスリビングであった(後掲証拠,甲49,乙36,40)。
パナソニック電工リビングやサンヨー宇部が被告の仕入先の取引については,GがCに対し,電話で取引の概要を伝え,上記各社から取引の詳細がファクシミリで送られ,原告が被告の仕入先の取引については,DがCに対し連絡をしていた(乙31の6,40,証人C)。
広島ガス開発発行の買約証が被告に交付されており,そこには,品名・規格,数量,金額,受渡条件・場所(マンション名),受渡期限,決済条件が記載されていた(甲52の13ないし33)。
また,F作成の指示書がCに交付され(甲52の37),パナソニック電工リビング発行の納品明細書も被告に交付された(甲52の36,92,93,102)。また,広島ガスリビング発行の納品明細書(甲52の83,84,87,91)やサンヨー宇部株式会社発行の納品明細書(甲52の98)が被告に交付された。これら納品明細書には,いずれも,名称,材種,形状・寸法,数量,単価,金額,納入先(マンション名)が記載されていた(前掲各証拠)。
そして,被告発行の物品受領書が広島ガス開発に交付され,そこには,品名・規格,仕入先(原告,パナソニック電工リビング,広島ガスリビング,サンヨー宇部の記載がある。),数量,納品先(マンション名)が記載されていた(甲52の40ないし60)。広島ガス開発発行の支払通知書が被告に交付され,そこには,品名・仕様,数量,金額,物件名(マンション名),手形支払日,手形期日が記載されていた(甲52の61ないし81)。被告発行の請書が広島ガス開発に交付され,そこには,数量,金額,納入場所,現場名(マンション名),支払条件等が記載されていた(甲52の108の1ないし15)。被告発行の請求書が広島ガス開発(G宛て)に交付され(甲52の109ないし112),被告発行の「広島ガスリビング株式会社への販売予定物件」という書面も,スガノ(E宛て)に交付された(甲52の113)。
イ 本件売買についても,被告発行の物品受領書(乙25・本件売買③,乙26・本件売買④,乙27・本件売買⑤,乙28・本件売買⑥,乙29・本件売買⑦,乙20・本件売買⑧,乙21・本件売買⑨,乙22・本件売買⑩,乙23・本件売買⑪,乙24・本件売買⑫)が広島ガス開発に交付された。記載内容は,ア記載の物品受領書のそれと同様である。(以上,前掲各証拠)
(6) 原告は,被告に対し,SHOUEI,または,FUJIWARA,あるいは,田村駒エンジニアから仕入れた建築資材を,被告に販売し,被告が振り出した約束手形により代金決済がされる取引であったが,被告が本件売買③ないし⑦の代金決済のために振り出した本件手形①,②について,平成21年2月27日,手形不渡異議申立預託金を納めたうえ,手形金支払を停止したため,代金の決済がされず,本件売買①,②については,約束手形を振り出さなかったため,代金の決済がされていない。被告がこのような処置をしたのは,被告の販売先である広島ガス開発から代金支払を停止されたためである。(以上,甲6の1,甲7ないし15の各1・2,甲17の1ないし13,甲18の1ないし10,甲19の1ないし4,甲42,証人D)。
(7) 本件売買において,SHOUEI,または,FUJIWARA,あるいは,田村駒エンジニアから,原告に対し,目的物は移転しておらず,原告から被告に対しても,同様である。本件売買は,本件取引と同様,いずれも架空取引であった。
5 原告は,本件手形①,②をいずれも所持している。原告は,平成21年4月20日に本件手形①1ないし3を,同年5月20日に本件手形①4ないし6を,同年6月22日に本件手形②を,それぞれ支払場所において,支払のために提示したが,本件手形①,②について,いずれも契約不履行を理由に,支払が拒絶された。(以上,甲7ないし15の各1・2)。
6(1) FUJIWARAは,平成21年6月29日付けで,原告を被告として,約束手形金請求訴訟及び請負代金支払訴訟を提起した。これは,仕入先をFUJIWARAとする本件売買②,⑥の代金支払についてのものである(甲32の1・2)。
(2) 原告は,平成22年1月7日,東京地方裁判所において,原告を株式会社愛媛銀行(以下「愛媛銀行」という。),被告を原告とする,約束手形金請求事件について,原告が愛媛銀行に対し約束手形金3668万7000円及びこれに対する平成21年5月31日から支払済みまでの年6分の割合による利息を支払うことを内容とする裁判上の和解をするに至った。これは,仕入先をSHOUEIとする本件売買⑦の代金決済のために振り出された,振出人を原告,受取人兼第1裏書人をSHOUEI,第1被裏書人兼第2裏書人を株式会社新友,第2被裏書人を愛媛銀行とする約束手形についてのものである。原告は,上記和解成立後,愛媛銀行に対し,上記金員を支払った。(以上,甲30)。
(3) 原告は,平成22年2月2日,広島地方裁判所において,原告を呉信用金庫,被告をSHOUEI及び原告とする,約束手形金請求事件について,原告が呉信用金庫に対し約束手形金3379万9331円(3324万3000円及びこれに対する平成21年5月1日から平成22年1月31日まで年1.7パーセントの割合による利息の合計)を支払うこと,SHOUEIが原告に対し解決金200万円を支払うことを内容とする裁判上の和解をするに至った。これは,仕入先をSHOUEIとする本件売買⑤の代金決済のために振り出された,振出人を原告,受取人兼第1裏書人をSHOUEI,第1被裏書人を呉信用金庫とする約束手形についてのものである。原告は,上記和解成立後,呉信用金庫に対し,上記金員を支払った。(以上,甲31)。
第2 本件売買の有効性
前記当事者間の争いのない事実及び上記認定事実により,以下,判断していく。
1 本件売買のようにマンション建築において,必要な建築資材をメーカーから仕入れ,ゼネコン等施工業者に販売するまでの間に,商社等の企業が,売主(メーカー)と買主(施工業者)の中間に介在して建材の流通に関与する取引は,通常よく行われているものであり,中間に介在する者は,マージン(手数料)を得ることができる。この場合,仲介に介在する者のところには,納品等,売買の目的物が現実に移転することはなく,納品書・納入明細書,物品受領書・買約証,請求書,支払通知書等,書類の授受,これら書類に基づく代金決済のみで,取引が行われる。これは,中間に介在する者が複数になった場合も同様である。
このような取引については,形式的にとはいえ,売買契約として締結されている以上,法的には売買契約として扱われるべきものであるが,実質は金融効果を目的として行われており,中間に介在する者は,目的物の存在や現実の引渡等には関心がなく,目的物が存在することや現実の引渡がないことを前提に取引に関与しているのが通常である。もっとも,このような取引が有効とされるのは,すべての契約当事者間では実際の目的物の移転がなくても,最終的には,買主のもとへ,売買の目的物が引き渡されることが前提になっていると解すべきである。
そもそも売買の目的物が存在しない場合には,売買契約の成立要件である財産権の移転(目的物の引渡)(給付)ができないものといわざるを得ない。すなわち,売買契約が有効に成立したというためには,目的物の存在が必要であり,目的物が存在していない場合,原始的に不能であり,当初から無効であるというべきである。
2 本件についてみると,本件売買は,いずれもマンションを納品現場とする建築資材を目的物とするものであるが,目的物である建築資材が一切存在せず,架空のものである。
そうなると,本件売買は,いずれも原始的に不能であり,無効と解さざるを得ない。このように解する以上,錯誤無効,詐欺取消,商法525条による解除,債務不履行解除のいずれについても,その判断は不要である。
原告及び被告が,本件売買が架空であったことについて善意であったか,悪意であったかは,上記判断に影響を及ぼすものではないというべきである。
第3 信義誠実の原則違反の主張について
1 被告が本件売買の無効を主張し,売買代金の支払を拒むこと(約束手形金の支払を拒むこと),支払済みの売買代金の返還を求めていることが,信義誠実の原則に違反しないか,次に検討する。
2(1) 本件全証拠をもってしても,Dひいては原告が,本件売買を含む本件取引に関し,目的物(建築資材)が現実に存在したかどうか,目的物が納品現場であるマンションに現実に納入され工事が施工されたかどうかを確認したと窺わせる事情は一切見当たらない。このことは,Cひいては被告についても同様である。物品受領書や買約証等各書類の授受等や,仮にCが納入先とされたマンションの現場確認をしたと認められても,これらにより被告が目的物の存在を確認したとまではいえない。
これは,本件取引について,原告も被告も,売買の目的物の現実の移転とは無関係に,見積書,納品書,請求書,買約証等の交付だけで,マージン(手数料)を受けることで,利益を得ることを目的としていたからであって,目的物の存在や工事の施工について,無関心であっても,むしろ当然というべきである。
(2) そして,本件全証拠をもってしても,Dひいては原告が,架空取引であった本件取引において主導的な役割を果たしていたと認めるには足りず,さらに,Dひいては原告に本件売買を含む本件取引が架空取引であったとの認識があったと認めるには足りないというべきである。
この点,被告は,Cに対する電子メールに,Dが原告のことを「メーカー」と表示したことをもって,Dひいては原告が,本件取引が架空取引であったことを認識しており,目的物の不存在を隠蔽したと主張する。しかし,この記載及びCの供述(乙40,証人C)をもってしても,原告がいったん撤退する以前の本件取引において,被告が原告の仕入先・丸紅が原告の販売先,丸紅が原告の仕入先・被告が原告の販売先という商流による取引が行われていたこと,本件取引において,広島ガス開発や広島ガスリビングが被告の仕入先にも売上先にもなっていたこと,本件売買において,FUJIWARA,SHOUEI及び田村駒エンジニアリングから原告の仕入先として存在していたこと,本件売買③,④,⑧ないし⑫については,原告かFUJIWARAまたはSHOUEIに対し代金が支払われていること,本件売買⑤,⑦についても,裁判上の和解により仕入先との関係では代金の決済に関し処理されたこと,売買の目的物が現実には移転しないにも関わらず,あるいは,そのことを原告も被告も確認をしていないにも関わらず,FUJIWARAまたはSHOUEIと原告の間で,そして,原告と被告との間で,売買の目的物が移転しているかのような前記見積書等の書類が交付されていることなどから,Cひいては被告が,原告のことを本件取引の中間に介在する商社ではなく,メーカーであると認識したうえ,本件売買に参加したと認めることはできないというべきである。上記「メーカー」との記載は,原告が被告の仕入先(売主)であることを意味するものに過ぎないと解することができる。また,上記メール以外で,本件売買において,DがCに対し原告がメーカーであるとの説明をしたことや,CがDに対し原告がメーカーであるか確認したことを認めるに足りる証拠はない。
また,本件取引は,目的物の現実の移転を重視していないものであり,また,Eらからの指示に基づき取引の内容が決まっていたものであるから,Dが支払明細書の納品日を自らの判断で記載したとしても,Dが,本件取引が架空取引であったと認識していたと認めることにはつながらない。原告発行の見積書等の商品明細が詳細であることについても同様である。
そして,原告が本件売買⑤,⑦について裁判上の和解をしたからといって,原告が,本件取引が架空取引であったと認めたことにはならない。
なお,穴吹工務店は,施工業者として,原告から,本件売買⑤にかかるdマンション新築工事について,キッチンのカウンター等を,本件売買⑧にかかるfマンション新築工事について,キッチンのカウンターを,本件売買⑩にかかるhマンション新築工事について,キッチンのカウンターを購入していることが認められる(乙41による。)が,本件売買⑤,⑧,⑩の内容とは大きく異なっており,また,Dは,穴吹工務店による購入の事実を知らなかったのである(証人Dによる。)から,このことが上記判断に影響することはない。
(3) さらには,本件全証拠をもってしても,Cひいては被告が,架空取引であった本件取引において主導的な役割を果たしていたと認めるには足りず,さらに,Dひいては被告に本件売買を含む本件取引が架空取引であったと認識があったと認めるには足りないというべきである。被告が本件取引で主導的役割を果たしていた広島ガス開発を直接の当事者とする取引を繰り返していたことをもって,直ちに被告が,本件取引が架空の取引であったことを認識していたとまでは認めがたいといわざるを得ない。
(4) しかし,本件で認められる全事実を総合判断すると,本件売買のうち,③,④,⑧ないし⑫については,原告が仕入先に対し代金を支払っていること,⑤,⑦については,裁判上の和解により仕入先との関係で代金決済が処理されていること,②,⑥については,仕入先から代金支払の訴訟が提起されていること,本件売買が無効となるのは目的物の不存在を理由とするものであるところ,原告も被告も目的物の存在や工事の施工には関心がなく,書類の交付のみで取引を続け,原告と被告との間では目的物の不存在に関わらず取引が続けられ,ほとんどの取引において代金の決済を終えてきたこと,いっったん撤退したことがある原告とは異なり,被告が本件取引に参加し続けていたこと,平成18年以降に限っても,原告に比べ,被告の取引件数,利益額等が甚大であること,被告が原告への代金支払を拒絶したのは,被告が販売先である広島ガス開発から代金支払を拒絶されたことがきっかけであったことなどからすれば,本件売買を含む本件取引が無効であるにしても,原告と被告との間では,被告がこの無効を主張することは,信義誠実の原則に違反するものと解すべきである。
(5) そうすると,①事件については,被告が原告に対し売買代金を支払うべきであり,②,③事件については,被告が原告に対し手形の原因関係の不存在を主張できず,手形金の支払を命じた手形判決が認可されるべきであり,④事件については,被告が原告に対し支払済みの売買代金の返還を求めることはできないというべきである。
第4 ⑤事件について
Cひいては被告が,本件取引が架空の取引であることを認識していたとは認められず,この点に関し重大な過失が認められたとしても,被告の④事件における主張が事実的・法律的根拠を欠くものであり,かつ,被告がそのことを知りながら,または,少なくとも通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに,あえて④事件を提起したものということはできず,被告による④事件の提起が不法行為に該当するとは認められない。
原告の被告に対する損害賠償請求は認められない。
第5 結論
以上の次第であり,①事件については,原告の請求には理由があるから,これを認容し,②事件及び③事件については,いずれも原告の手形金請求を認容した各手形判決は相当であるから,これを認可することとし,④事件については,被告の請求には理由がなく,これを棄却し,⑤事件については,原告の請求には理由がなく,これを棄却した。そして,訴訟費用の負担について,民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言について,民事訴訟法259条1項をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。
(裁判官 山城司)
〈以下省略〉
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