「成果報酬 営業」に関する裁判例(28)平成27年11月13日 東京地裁 平25(ワ)25705号 損害賠償請求事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(28)平成27年11月13日 東京地裁 平25(ワ)25705号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成27年11月13日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)25705号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2015WLJPCA11138011
要旨
◆原告が、被告と時間貸駐車場に関するコンサルティング契約を締結したとして同契約に基づく報酬の支払を求めた事案において、原告は、原告が本件契約書の原本を所持していない理由として被告事務所から原告の荷物を持ち帰った際に本件契約書が消失していた旨主張するものの、原告がもともと本件契約書の原本を所持していたことを裏付ける証拠は原告の供述以外には見当たらず同供述はにわかに信用し難いなど、本件契約書の原本が存在したと直ちには認められない上、本件契約内容の経済的合理性や被告の税務申告内容からは本件契約の存在が認められないことなどによれば、原被告間で本件契約書に基づく本件契約が締結されたとは認められないとして、請求を棄却した事例
参照条文
民法643条
民法656条
裁判年月日 平成27年11月13日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)25705号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2015WLJPCA11138011
千葉県浦安市〈以下省略〉
(商業登記記録上の住所)沖縄県名護市〈以下省略〉
原告 有限会社琉球プランニング
同代表者取締役 A
東京都中央区〈以下省略〉
被告 株式会社三慶商事
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 大室幸子
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成25年10月6日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,原告が,被告との間で,時間貸駐車場(以下「コインパーキング」という。)に関するコンサルティング契約を締結したと主張して,同契約に基づき,報酬1000万円(既払金を除く。)及び遅延損害金を請求した事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1) 当事者
ア 原告は,経営コンサルティング等を業務とする有限会社である。A(以下「A」という。)は,原告の取締役である。
イ 被告は,東京都及び千葉県においてパチンコ遊技場の運営等を業務とする株式会社である。
(2) 原告と被告との関係等
ア 原告と被告は,平成22年12月頃,業務委託契約書(乙1)を取り交わし,同書に係る業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結した。
本件業務委託契約の内容は,被告が,原告に,「被告の所有するコインパーキング及び不動産の管理」,並びに「コインパーキングの新規進出を目的とする候補地の開拓・企画等」の業務を委託し,その報酬として月額35万円を支払うというものであった。
イ Aは,平成22年12月1日から平成23年5月ないし6月頃までの間,被告において業務を行った(甲12,乙12)。
ウ 原告は,平成23年3月7日頃,被告に対し,「最高の顧客満足を実現するコインパーキング事業」と題する書面(甲7の3)を提示した。
エ 被告は,平成23年4月28日,原告に対し,50万円を支払った。
(3) 原告が本件請求の根拠として書証提出したコンサルティング契約書(甲1[写し])
ア 原告は,報酬を1050万円とするコンサルティング契約を締結した証拠として,被告名義の記名・押印のある平成23年3月7日付けのコンサルティング契約書(甲1[写し]。以下「本件契約書」という。)を提出する。
本件契約書(甲1)の原本は提出されておらず,被告は,同文書の成立の真正を争っている。
イ 本件契約書(甲1)には,次の条項がある。
「第1条(コンサルティング契約)
時間貸駐車場のフランチャイズシステムを用いたビジネスモデル(以下ビジネスモデルという)の構築。
第2条(報酬)
甲(被告)は,乙(原告)が構築したビジネスモデルを甲(被告)が採用するか否かについて,平成23年3月末日までに決定するものとし,甲(被告)がこれを採用する場合,甲(被告)は成果報酬として,10,500,000円(税込)を平成23年4月末日までに乙(原告)に支払う。
第3条(禁止事項)
1.乙(原告)が構築したビジネスモデルを甲(被告)が認めない場合,以後そのビジネスモデルを乙(原告)の了解なく甲(被告)は直接的または間接的に使用してはならない。」
3 争点
原告と被告との間で,原告の報酬を1050万円とするコンサルティング契約が締結されたか否か。
4 争点に対する当事者の主張
【原告の主張】
(1) 被告は,原告に,コインパーキング事業のフランチャイズ展開への協力を依頼した。
原告は,被告のC専務取締役(以下「C専務」という。)との間で,平成23年3月7日か同月8日頃,千葉県浦安市所在の被告本部の一室において,本件契約書(甲1)を作成し,同書に係るコンサルティング契約(以下「本件コンサルティング契約」という。)を締結した。原告は,被告に対し,本件コンサルティング契約に基づき,コインパーキング事業のフランチャイズに係るビジネスモデルの構築として,「理想のコインパーキング・ネットワークの構築」と題する書面(甲7の2),「最高の顧客満足を実現するコインパーキング事業」と題する書面(甲7の3),「カーリンプロジェクト」と題する書面(甲7の4),「賃貸駐車場に伴う4つのリスク」と題する書面(甲7の5)及び「カーリンプロジェクトによるレンタル事業」と題する書面(甲7の6)を交付した。
同月10日頃,被告は,原告が提案したコインパーキングのビジネスモデルの採用を決定したことから,原告は,C専務に対し,請求書(甲2)を送付した。
(2) 本件契約書(甲1)の原本を所持していない理由は,次のとおりである。
原告は,平成23年6月1日,被告が悪質な脱税行為に基づく決算を税務申告した事実を知ったため,すぐさま被告との関係を解消し,被告の浦安事務所から原告の持ち物を持ち帰った。持ち帰った荷物を調べてみると,中にあるはずの本件契約書(甲1)及び業務委託契約書(乙1)の各原本がいずれも消失していた。
(3) 原告が被告に交付した甲第7号証の2及び3は,コインパーキングの新しい事業モデルの理念・方向性の案であり,同号証の4ないし6が,新しい事業モデルの具体的な案である。より具体的には,同号証の3の「12.利回り100%の駐車場をFCシステムで高速回転」(13枚目)の下部記載の「競争せずに開拓できる物件」についての具体案である。
従来のビジネスモデルとの大きな違いは,①テストマーケティング済みの物件を取得できること,②代替駐車場の提供が約束されていること,③投資の全額回収が約束されていること,④節税に適しており実質的な収益が極めて高いこと,の4点である。
原告が提供したビジネスモデルは,リスクがなく,必ず儲かる,他にはない革新的なビジネスモデルである。その対価は1000万円(税別)であり,妥当な金額である。
(4) 被告は,平成23年4月28日,原告に対し,本件コンサルティング契約(甲1)に係る報酬の一部として,50万円を支払った。
(5) 被告は,本件コンサルティング契約(甲1)に基づいて報酬全額(1050万円)を支払ったものとして,平成23年5月末頃に税務申告している。
(6) 被告は,代表印を使用した場合には必ず押印記録簿に記載を行うところ,本件コンサルティング契約については押印記録簿には記載がないから,本件コンサルティング契約は締結されていない旨主張する。しかしながら,被告が提出した押印記録簿(乙3)は,一部分にすぎず,また,いつのものか不明であり,被告の主張の裏付けにはならない。さらに,被告は代表印を使用した場合に押印記録簿に記載しないことがあるから(甲13ないし15),被告の上記主張は虚偽である。
【被告の主張】
(1) 原告と被告は,本件コンサルティング契約を締結していない。
被告は,本件契約書(甲1)に押印したことはなく,本件契約書(甲1)の原本は存在しない。このことは,被告において,被告の代表印を使用した場合には必ず押印記録簿に記載を行うこととされていたが,本件コンサルティング契約について押印がされた記録は存在しない(乙3)ことからも明らかである。また,原告が本件契約書(甲1)の原本を所持していないことの理由の説明が変遷している。
被告は,請求書(甲2)も受け取っていない。
(2) 原告が被告に交付したとする甲第7号証の2ないし6について,被告は,同号証の3以外の文書は当時受け取っていない。
同号証の3は,本件業務委託契約(乙1)に基づく業務の中で,原告が作成したものである。
甲第7号証の3に係る原告の提案は,経済合理性を欠き,内容に乏しく,1050万円の報酬に値するようなものではない。
(3) 原告の主張によれば,平成23年3月7日に本件契約書が作成され,同月10日,請求書(甲2)が発行された。そうすると,わずか3日間で,①原告は被告のためにフランチャイズビジネスの構築を行った上で,②被告に対し同ビジネスモデルの説明を行い,③被告は同ビジネスモデルの採否を検討した上で,④同ビジネスモデルを採用する代わりに原告に対して1050万円を支払うとの結論に至り,⑤原告は請求書(甲2)を発行したということになるが,このような事実経過は,非現実的で経験則に反する。
(4) 本件業務委託契約(乙1)に基づき,Aは,同日以降,被告の従業員と同様,原則として毎日被告において勤務し(乙2),被告は,Aに対し,毎月35万円の報酬を支払っていた。
(5) Aは,被告に対し,架空のコンサルティング契約を締結し,税金の負担を軽減させる方法を執拗に持ちかけた。被告は,この提案に一度は乗ってしまったが,その後修正申告をした。なお,かかる架空の報酬を受け取ったこととなる原告には税務上の負担が生じることになってしまうため,それに見合うものとして,被告は,原告に対し,50万円を支払った。
第3 争点に対する判断
1 本件契約書(甲1)の原本の存在について
(1) 原告は,本件契約書の原本を所持していない理由として,平成23年6月に被告の浦安事務所から原告の荷物を持ち帰ったところ,中にあるはずの本件契約書(甲1)が消失していたというのである。
(2) しかしながら,原告が,もともと本件契約書(甲1)の原本を所持していたことを裏付ける証拠は原告の供述以外に見当たらない。
また,本訴訟の第1回口頭弁論期日において,原告は,本件契約書(甲1)について聞かれ,「判この赤いのがないのかと聞かれて,私はそれを原紙というふうに認識しておりましたので,それは自宅に持っていましたから,あるというふうに答えた」旨供述する(原告代表者本人26頁,平成26年5月28日付け原告準備書面2の4頁)。
しかしながら,原告代表者本人の供述によれば,原告は,本訴訟提起前に,本件契約書の原本の消失を認識していたことになるが(原告代表者本人16,27,30頁),上記期日において問われた「判この赤いの」を,原本ではない,単なるカラーコピーだと思ったというのは,にわかに信用し難い。また,被告の事務所に保管していた原告の荷物から原本が消失していたという事情が判明していたのであれば(原告代表者本人25ないし27,30頁),原告は第1回口頭弁論期日においてその旨説明するのが自然であるのに,その説明がされていないのは不自然に思われる。
(3) 加えて,Aが被告において半年間ほど業務を行っていたこと,原告が被告名下の契約書を複数所持していること(甲8,9,14ないし16,18,19)などからすれば,原告は,被告の意思に基づかずに本件契約書(甲1[写し])を作成することが可能な状況にあったことがうかがえる。
(4) 以上によれば,本件契約書(甲1)の原本が存在したことを直ちに認めることはできない。
2 本件コンサルティング契約の内容について
(1) 前記前提事実(3)のとおり,本件契約書(甲1)においては,原告が行うコンサルティング業務の内容は,「時間貸駐車場のフランチャイズシステムを用いたビジネスモデルの構築」とされ(第1条),報酬については,「甲(被告)は,乙(原告)が構築したビジネスモデルを甲(被告)が採用するか否かについて,平成23年3月末日までに決定するものとし,甲(被告)がこれを採用する場合,甲(被告)は成果報酬として,10,500,000円(税込)を平成23年4月末日までに乙(原告)に支払う。」とされている(第2条)。また,禁止事項として,「乙(原告)が構築したビジネスモデルを甲(被告)が認めない場合,以後そのビジネスモデルを乙(原告)の了解なく甲(被告)は直接的または間接的に使用してはならない。」とされている(第3条・1項)。
(2) 本件契約書の上記内容,原告の主張及び原告代表者本人の供述によれば,本件コンサルティング契約における,原告がすべきコンサルティング業務(1050万円の対価)とは,コインパーキングのフランチャイズシステムを用いた新しいビジネスモデルの構築であるところ,本件コンサルティング契約締結日(平成23年3月7日若しくは8日)には,原告のすべき業務は履行されていた,つまり,同ビジネスモデルの構築ないし提供は,平成23年1月頃から始め,上記契約締結日に,最終的な成果物としての甲第7号証の2ないし6の交付等により,既に終了していたということになり(原告代表者本人22ないし25頁。原告は,被告に交付したものは甲第7号証の2ないし6に限らないと述べているが,同号証の内容を超える成果物が被告に提供されていたことをうかがわせる証拠はない。),そして,被告が上記ビジネスモデルを採用すれば報酬が支払われ,採用しなければ原告には何も支払われないということになる。
(3) しかしながら,1050万円もの価値が見込まれる革新的なビジネスモデルの内容が既に被告に明らかにされてしまい,それに対して1050万円を支払うか否かは被告の意思次第という契約内容は,本件契約書(甲1)に上記禁止事項(第3条)や機密保持(第4条)があることを勘案しても,経済的合理性に欠けるといわざるを得ない(契約後,当該ビジネスモデルの構想に基づき,原告が被告に対し具体的な構築業務を行うというのであれば別論,本件コンサルティング契約はそのような契約ではない。)。
また,そのビジネスモデル自体が1050万円の価値がある機密性の高いものであるのに,訴訟記録として閲覧されても支障がないというのも(原告代表者本人26,27頁参照),合理性に乏しい。
(4) また,原告によるビジネスモデルの提供からわずか3日程度で,被告がその対価として1050万円もの報酬を支払う決断をしたともにわかに考え難い。
加えて,そもそも,原告が主張する「リスクがなく」「必ず儲かる」ビジネスモデルなるものが果たして存在するのか疑問である上,甲第7号証の2ないし6をみても,「必ず儲かる」ための具体性・現実性を有する手法が示されているとは直ちに読み取り難く,1050万円もの対価を支払うことに経済的合理性があるかについて疑問が生じることは否めない。
(5) なお,前記前提事実(2)ア・イ,証拠(甲12,乙2,4ないし12)及び弁論の全趣旨によれば,Aは,本件業務委託契約(乙1)に基づき,平成22年12月1日から平成23年5月ないし6月頃までの間,被告に出勤して業務を行っていたことが認められるところ,原告から被告に提供されたコインパーキング事業に関する資料(争いがないものとして,甲第7号証の3)は,本件業務委託契約(乙1)に係る業務の一環として,被告に対し提供されたものと考えられる。
3 被告の税務申告について
証拠(乙12,13,証人C・8,9,23ないし26頁)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成22年度の税務申告として,原告に対する1000万円のコンサルティング料を経費として計上したこと,平成25年に至ってその修正申告をしたことが認められる。
原告は,被告の当初の税務申告を,本件コンサルティング契約の存在を裏付けるものであると主張するが,結局修正申告されていることからすれば,節税のため,一旦は架空の経費を計上してしまったが,いけないことだと思って後に修正申告したという証人Cの供述の信用性は高いというべきであり,被告の税務申告の内容から,本件コンサルティング契約の存在が認められるとはいえない。
4 結論
その他原告は縷々主張するが,以上述べたところによれば,原告と被告との間で,本件契約書(甲1)に基づく本件コンサルティング契約が締結されたことを認めることはできない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 大黒淳子)
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