
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(216)平成23年10月26日 東京地裁 平21(ワ)16990号 売掛代金等請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(216)平成23年10月26日 東京地裁 平21(ワ)16990号 売掛代金等請求事件
裁判年月日 平成23年10月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)16990号
事件名 売掛代金等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA10268015
要旨
◆原告が、被告会社の開発した光ファイバーの接続に使用する装置の製造販売事業に関し、被告会社及びその代表取締役である被告Y3並びに取締役である被告Y1らに不法行為及び任務懈怠があったなどと主張して、被告らに対し、損害賠償を請求するなどした事案において、被告Y3が本件製品の発注について虚偽の事実を述べ、原告に本件購入代金債務を負わせた行為につき、不法行為の成立を認め、同不法行為に係る被告会社の使用者責任及び被告Y1らの任務懈怠責任も認めて、被告Y3の同不法行為により原告が被った損害額の範囲で損害賠償請求を認容するなどした事例
参照条文
会社法350条
会社法429条
会社法430条
民法709条
民法715条
裁判年月日 平成23年10月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)16990号
事件名 売掛代金等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA10268015
東京都北区〈以下省略〉
原告 株式会社アイ・サープ
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 濱口善紀
同 荒木理江
東京都台東区〈以下省略〉
被告 株式会社ウラノス
同代表者代表取締役 Y3
東京都台東区〈以下省略〉
被告 Y1
同所
被告 Y2
東京都品川区〈以下省略〉
被告 Y3
上記4名訴訟代理人弁護士 鈴木一
主文
1 被告株式会社ウラノス,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,原告に対し,各自2929万5000円及びこれに対する被告株式会社ウラノス及び被告Y3については平成21年5月30日から,被告Y1及び被告Y2については同月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社ウラノスは,原告に対し,900万円及びこれに対する平成20年8月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の各請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実
第1 請求
1 主位的請求
被告株式会社ウラノス,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,原告に対し,連帯して,4260万円及びこれに対する被告株式会社ウラノス及び被告Y3については平成21年5月30日から,被告Y1及び被告Y2については同月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
(1) 被告株式会社ウラノスは,原告に対し,3360万円及びこれに対する平成20年4月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 選択的請求
ア 被告株式会社ウラノスは,原告に対し,900万円及びこれに対する平成20年8月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
イ 被告株式会社ウラノスは,原告に対し,900万円及びこれに対する平成22年1月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告株式会社ウラノス(以下「被告会社」という。)の開発した光ファイバーの接続に使用する装置の製造販売事業に関し,被告会社及びその取締役である被告Y3(以下「被告Y3」という。),被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び被告Y2(以下「被告Y2」という。)に不法行為及び任務懈怠があったなどと主張して,次のとおり請求する事案である。
(1) 主位的請求
原告は,被告Y3から,虚偽記載のある上記製品のパンフレットや偽造された注文書を示され,上記製品をユーザーに販売できる確実な目途が立っておらず,注文がなかったのに,これがあったかのように欺罔されて,その旨誤信し,上記注文に応ずるために上記製品10万個を第三者から購入してその購入代金債務3360万円を負う損害を被り,また,原告は,被告Y3から,上記製品の部品の買付資金として使用するのではないのに,部品買付に900万円が必要であるかのように欺罔されて900万円を詐取され,同額の損害を被った。そして,被告Y1及び被告Y2は,被告会社の取締役として,取締役である被告Y3を監督,監視する義務を怠った。
よって,被告Y3は民法709条又は会社法429条に基づき,被告会社は民法709条,民法715条又は会社法350条に基づき,被告Y1及び被告Y2は会社法429条に基づき,それぞれ原告に対する損害賠償責任を負うから,原告は,被告らに対し,民法719条1項前段に基づき,連帯して,4260万円及びこれに対する被告らへの訴状送達の日の翌日(被告株式会社ウラノス及び被告Y3については平成21年5月30日,被告Y1及び被告Y2については同月31日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
(2) 予備的請求
ア 売買契約に基づく代金請求
仮に,被告会社について上記(1)の損害賠償責任が成立しないとしても,原告は,被告会社との間で,被告会社に上記製品10万個を販売する旨の売買契約を締結し,同契約に基づく代金債権3360万円を有しているから,被告会社に対し,3360万円及びこれに対する平成20年4月1日(売買代金債務の弁済期の翌日)から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
イ 金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求又は売買契約の解除に基づく原状回復請求(選択的請求)
仮に,被告会社について上記(1)の損害賠償責任が成立しないとしても,上記(1)のとおり,原告は,被告会社に対し,900万円を交付しており,これは,①金銭消費貸借契約による貸付けであるか,又は,②上記製品を製造するための部品を購入する売買契約に基づく代金の支払として交付されたものであり,上記②の場合であれば,原告は,被告からの納品がなかったことを理由に同売買契約を解除したから,原告は,被告会社に対し,①金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権,又は,②上記部品の売買契約の解除に基づく原状回復請求権を有している。
よって,原告は,被告会社に対し,選択的に,①900万円及びこれに対する平成20年8月11日(上記貸金返還の催告期間満了日の翌日)から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金,又は②900万円及びこれに対する平成22年1月19日(上記部品の売買契約の解除の日の翌日)から支払済みまで上記①と同様の割合による法定利息を支払うよう求める。
2 前提事実
以下の各事実については,証拠等を掲記する事実は当該証拠等によりこれを認め,その余の事実は当事者間に争いがない。
(1) 当事者等
ア 原告
原告は,コンピュータ,周辺機器,通信機器,ソフトウェアの保守及び輸出入,販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告会社
被告会社は,光通信用コネクタの研究開発,製造,販売等を目的とする株式会社である。
ウ 被告Y3
被告Y3は,平成17年10月25日から被告会社の取締役を務め,平成20年11月1日からは被告会社の代表取締役を務めている。
エ 被告Y1
被告Y1は,平成17年10月25日から平成19年6月30日までの間,被告会社の代表取締役を務め,同日以後も被告会社の取締役を務めている。
オ 被告Y2
被告Y2は,被告会社の設立当時から平成19年1月24日までの間及び平成19年6月30日から平成20年11月1日までの間,被告会社の代表取締役を務め,同日以後も被告会社の取締役を務めている。
(2) 本件製品
ア 被告会社は,平成19年ころ,2本の光ファイバーの接続に使用する装置であるメカニカルスプライスと呼称される製品を開発,実用化し,同年春ころには,「○○」の商品名を付した製品(以下,この製品を,商品名が付される前後を通じて「本件製品」という。)として販売することとした(甲4,甲21・2頁,甲22・2頁,弁論の全趣旨)。
イ 本件製品は,光通信に利用される芯材を被覆材で覆ってある光ファイバーを,その先端部で露出させた芯材同士を突き合わせることで光接続するための光ファイバー接続装置であって,樹脂製べースであるボディと,ボディに配置され,露出した芯材を突き合わせて光接続するためのマッチングオイルが充填されたフェルールという部品(このボディ及びフェルールを併せて,以下「本件部品」という。)を組み立てることによって製造される(甲3・1頁,弁論の全趣旨)。
ウ 本件製品には,0.25ミリメートル径の光ファイバー用である屋外用のものと,0.9ミリメートル径の光ファイバー用である屋内用のものの2種類が存在する(甲4,乙12・3頁)。
エ 本件製品に係る発明については,クロスター産業株式会社(以下「クロスター産業」という。)を特許権者とする特許権が設定されていた(平成18年3月24日登録)。この発明は,光通信に利用される光ファイバーを接続する技術に関するものであって,従来は,2本の光ファイバーの接続のためには,それぞれの光ファイバーに専用の装置を設置しなければならず,作業効率が低く,また,接続装置の材料の選択の幅が狭かったが,上記発明は,ボディの中央に設置されたフェルール内部において突き合わせた光ファイバーを,所定のたわみ状態でボディの両端において固定することにより,専用の工具を使用することなく,一つの装置により光接続することを可能とし,接続装置であるボディの材料の選択の幅を広げるものであった(甲1,甲3)。
(3) 原告の代表取締役を務めるA(以下「原告代表者」という。)は,平成19年7月ころ,知人であったB(以下「B」という。)から,被告会社及び本件製品を紹介され,その後,被告Y3の案内で,被告会社の事務所において,本件製品を使用した光ファイバーの接続作業の実演を見学し,被告Y3から,本件製品の仕様,初期特性及び信頼性評価の結果,本件製品を使用した光ファイバーの接続手順等を掲載した被告会社作成のパンフレット(以下「本件パンフレット」という。)の交付を受け,以後,本件製品の製造販売に関する事業への参加を検討するようになった(甲25・1頁,原告代表者・1頁)。
(4) 平成19年11月当時,被告会社は,本件製品を電気通信事業者である日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)のグループ企業に販売していくことを目論み,株式会社東京ニューメディアサービス(以下「TNM社」という。)及びその協力会社である株式会社エルマ中部(以下「エルマ中部」という。)と連携し,TNM社及びエルマ中部において,電気通信事業者である株式会社NTT西日本―東海(以下「NTT東海」といい,NTT及びNTT東海を含むNTTのグループ企業を「NTTグループ」と総称する。)に本件製品を試用してもらい,NTTが使用する適格資材としての認定を得るべく,NTTの資材調達部門に推薦をしてもらうよう依頼するなどの営業活動をしていた(甲22・3頁,乙12・1頁,証人C・8頁)。
(5) 本件製品のNTTグループに対する販売に関する説明書面
本件製品のNTTグループに対する販売に関し,被告会社により,平成19年11月14日付け「NTTに対しての○○の販売に関する経過俯瞰図」と題する書面(以下「本件俯瞰図」という。)が作成されている。本件俯瞰図には,被告会社の副社長である被告Y3が,NTT東海に対して上記(4)のような営業活動を展開している旨,平成19年11月16日までにNTT東海から本件製品の導入の可否の結果が出される予定であり,「導入可の結果が出た場合の発注経路」として,NTT東海からTNM社に発注が行われ,TNM社から原告に対し,NTT東海からTNM社宛の発注書のコピーにTNM社の社印を押捺した書面を添付して,発注が行われる旨の記載がある(甲6)。
(6) 原告は,被告会社に対し,本件製品の製造販売事業に関し,次のとおり合計900万円を交付した。
ア 平成19年11月12日 100万円
イ 同月15日 300万円
ウ 同年12月28日 500万円
(7) 原告代表者は,平成19年10月ころまでに,韓国国内でCHANG DO PROFESSIONAL MODE Co.,Ltd.(以下「CDPM社」という。)を経営する父(以下「原告代表者父」という。)に対し,本件製品の組立を韓国内で行う提案をした。これを受けて,CDPM社は,平成19年12月初めころまでに,韓国内に,本件部品の組立加工を行って本件製品を製造する工場を建設し,平成20年1月末までに,ワールドプリント株式会社(以下「ワールドプリント」という。)から本件部品の供給を受けて,本件製品10万個を同工場において製造し,これを組立加工賃1個当たり60円でワールドプリントに納品し,ワールドプリントは,これを,次のとおり原告に販売し,納品した(甲28の1から3,甲29の1から3,甲30の1から3)。
ア 平成20年1月17日
(ア) 個数 2万個
(イ) 代金合計
651万円(単価310円,うち消費税31万円)
イ 平成20年1月23日
(ア) 個数 3万個
(イ) 代金合計
976万5000円(単価310円,うち消費税46万5000円)
ウ 平成20年2月6日
(ア) 個数 5万個
(イ) 代金合計
1627万5000円(単価310円,うち消費税77万5000円)
(8) 本件製品の注文書の存在
原告は,ワールドプリントから上記(7)のとおり本件製品を購入するのに先立ち,TNM社作成名義で原告宛の平成19年11月26日付け注文書(以下「本件注文書」という。)の交付を受けており,本件注文書には,0.25ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品20万個を,単価360円,合計7200万円で発注する旨の記載があるほか,納期については,「納期を連絡ください」との記載がある(原告が誰から本件注文書の交付を受けたかについては争いがある。)。
3 争点
(1) 本件製品の発注に関する被告Y3の不法行為の成否(主位的請求)
(2) 原告が被告会社に交付した900万円に関する被告Y3の不法行為の成否(主位的請求)
(3) 被告Y3の不法行為に関する被告会社,被告Y1及び被告Y2の連帯責任の有無(主位的請求)
(4) 原告の被告会社に対する本件製品の売買契約に基づく代金請求の可否(前記第1の2(1)の予備的請求)
(5) 原告が被告会社に交付した900万円についての貸金返還請求又は解除に基づく原状回復請求の可否(前記第1の2(2)の予備的請求)
第3 当事者の主張
1 争点(1)(本件製品の発注に関する被告Y3の不法行為の成否)について
(原告の主張)
(1) 本件製品の製造・販売スキーム
ア 本件製品の製造・販売に関する基本契約
原告は,平成19年11月ころ,被告会社との間で,本件製品の製造・販売に関する販売スキームを次のとおりとする旨の基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
(ア) 被告会社が本件部品を原告に供給する。
(イ) 原告がCDPM社に本件部品を輸出する。
(ウ) CDPM社が本件部品の組立加工を行い,本件製品を完成させる。
(エ) CDPM社が原告に本件製品を販売する。
(オ) 原告が本件製品を被告会社に販売する。なお,その納品先はTNM社とする。
イ その後,本件基本契約の(ア)及び(イ)について,被告会社が本件部品を有限会社ヨシカワ(以下「ヨシカワ」という。)に販売し,ヨシカワが本件部品をさらにワールドプリントに販売し,ワールドプリントがこれをCDPM社に供給するという商流に変更され,本件基本契約の(エ)については,CDPM社が完成させた本件製品をワールドプリントに納入し,ワールドプリントがこれを原告に販売するという商流に変更された。
ウ 本件製品の売買契約
被告会社は,原告に対し,平成19年11月26日,本件基本契約の(オ)に基づき,本件製品20万個を単価360円として発注した。原告は,これに対し,同月末ころ,単価を360円,納期を平成20年1月末,販売個数の目標を15万個とすることで応じ,同内容の本件製品の売買契約が成立した(この売買契約を,以下「本件製品売買契約」という。)。
(2) 本件基本契約及び本件製品売買契約に関する被告Y3の不法行為
被告Y3は,原告に対し,本件基本契約及び本件製品売買契約の締結に当たり,次のとおり不法行為を行った。
ア 虚偽記載のある本件パンフレットに基づいた本件製品の製造販売事業への誘引
本件製品は,平成18年11月に実施された信頼性試験において,数点で不合格と判定されているにもかかわらず,被告Y3は,これを秘し,本件パンフレットに,本件製品があたかも同試験の合格水準に達する製品であるかのような,上記試験結果を改ざんした虚偽の試験結果を記載するなどした上,本件パンフレットを原告代表者に交付し,同人をして,本件製品は検査機関による信頼性試験に合格した製品であり,極めて優れた光ファイバー接続用装置(メカニカルスプライス)であると誤信させて,本件製品の製造販売事業(以下「本件事業」という。)への参加を誘引した。
イ 虚偽の事業スキームが記載された本件俯瞰図の提示による本件事業への誘引
被告Y3は,原告代表者に対し,本件製品を日本最大の電気通信事業者であるNTTに向けて,NTTの代理店であるTNM社を通じて納品するとの虚偽の事業スキームを説明し,本件事業への参加を誘引した。
すなわち,被告Y3は,原告代表者に対し,平成19年11月14日ころ,本件俯瞰図を示して,原告代表者をして,被告会社がTNM社と連携して本件製品をNTT東海に対して販売するという事業を進捗させていると信じさせた。
しかしながら,本件俯瞰図には,NTT東海による本件製品の導入が可となった場合に,TNM社がNTT東海から本件製品の発注を受け,これを原告に発注するとの事業スキームが記載されていたが,TNM社との間ではそのような合意がなく,同事業スキーム自体が虚偽のものであった。
ウ 本件注文書の偽造及び原告代表者に対する交付
被告Y3は,原告代表者に対し,平成19年11月26日ころ,本件注文書を提示,交付して,NTT東海が本件製品を少なくとも20万個,代金合計7200万円で購入することが決まったかのような説明を行い,原告代表者は,この説明が真実であると信じた。
しかしながら,本件注文書は被告Y3が偽造したものであって,上記説明の時点において,NTT東海が本件製品を購入するとの商談は成立しておらず,TNM社が原告から本件製品を買い受ける予定もなく,被告Y3の上記説明は虚偽であった。
エ 本件基本契約及び本件製品売買契約の締結
原告は,前記ア及びイの被告Y3による本件事業への誘引により,本件事業が実際に開始されるものと誤信し,本件事業への参加を決定して本件基本契約を締結し,さらに,上記ウのとおり被告Y3から本件注文書を交付されて説明を受け,本件製品をNTTグループが購入することが決定したと誤信して,本件製品売買契約を締結した。
被告Y3は,被告会社から全権委任を受けて,原告との間で本件事業についての交渉を行っていた。
オ 原告による本件製品10万個の購入
本件製品売買契約の締結後,本件基本契約及びその後に変更された商流に沿って,被告会社から,ヨシカワ,ワールドプリントを経てCDPM社に本件部品10万個が供給され,CDPM社がこれを組み立てて本件製品10万個を製造し,これをワールドプリントに納入した。そして,原告は,平成21年1月中に,本件製品10万個をワールドプリントから購入した(前記第2の2(7))。
カ 原告による本件製品10万個の納品
(ア) 原告は,本件基本契約の(オ)に基づいて,平成20年1月18日,TNM社に対し,ワールドプリントから購入した本件製品のうち2万個を納品した。
(イ) 被告Y3は,上記納品後,被告会社が供給したフェルールの規格が不均一であり,これを用いて組み立てた本件製品も不均一であることが判明したとして,原告に対し,本件製品をTNM社ではなく被告会社に納品するよう指示した。これを受けて,原告は,被告会社に対し,平成20年1月23日付けで本件製品3万個を,同月31日付けで同5万個を納品した。
キ 損害
前記オのとおり,前記アからウの被告Y3の一連の不法行為の結果,原告は,ワールドプリントから本件製品10万個を購入して3255万円の代金債務を負い,同代金債務相当額の損害を被った。また,原告は,TNM社へ納品した本件製品2万個について,転売利益105万円(1個当たり52円50銭)を得ることができず,同額の損害を被った。したがって,損害は合計3360万円となる。
ク よって,被告Y3は,原告に対し,民法709条又は会社法429条に基づき,3360万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年5月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
(被告らの主張)
(1) 本件製品の製造・販売スキームについて
ア 本件基本契約について
そもそも,被告会社が原告に対して本件製品の大量製造,販売を依頼したことはなく,本件基本契約は成立していない。
被告会社は,CDPM社と本件製品の製造販売業務委託契約を締結したが,同契約は韓国内における本件製品の製造及び販売を可能とするためのものにすぎず,被告会社が原告から本件製品を購入する旨を定めたものではない。原告は,CDPM社の代理又は代理店にすぎず,本件製品に関する契約の当事者となることはない。
イ 本件製品売買契約について
本件注文書は,TNM社が原告に対して発注をした形式となっており,原告と被告会社の間で本件製品の売買単価について合意したこともないことからして,被告会社は,本件製品売買契約を締結したことはない。
(2) 本件基本契約及び本件製品売買契約に関する被告Y3の不法行為について
ア 虚偽記載のあるパンフレットに基づいた本件事業への誘引について
原告は,本件パンフレットの記載が虚偽である旨主張するが,そもそも具体的にいかなる部分が虚偽であるかを特定していない。
また,平成18年ころの本件製品の性能の信頼性と,平成19年秋から年末にかけての時期の本件製品の性能の信頼性には格段の違いがあったのであり,平成18年11月20日の本件製品の信頼性試験結果に基づいて,本件製品に欠陥があるということはできない。
イ 虚偽の事業スキームが記載された本件俯瞰図の提示による本件事業への誘引について
被告Y3は,原告代表者に対して本件俯瞰図を交付したことはない。
また,本件俯瞰図には,本件製品について,NTT東海による導入可の結果が出た場合に,エルマ中部がTNM社に発注し,TNM社が原告に発注するとの発注経路が記載されているが,この記載によって原告がいかなる錯誤に陥り,いかなる損害を被ったかについての主張はない。
ウ 本件注文書の偽造及び交付について
被告Y3は,本件注文書を偽造していない。被告Y3には,本件注文書を偽造し,本件製品を大量に韓国で製造させる動機がなく,むしろ事後的にトラブルが発生するリスクを抱えることとなる。
本件注文書を偽造したのはBである。Bは,本件製品の販売が実現しないと被告会社から報酬を受け取ることができない立場にあったのであり,そのような立場にあったBが,原告及び被告会社の双方に都合がよいことを申し向け,本件製品の主たる大口取引先であるNTTグループに対する販売を画策し,本件注文書を偽造したのである。
エ 原告による本件製品10万個の納品について
(ア) 原告がTNM社に納品した本件製品2万個は,原告がワールドプリントから購入したものではない。被告会社は,平成19年末ころ,有限会社ワイエム(以下「ワイエム」という。)が製造した本件製品2万個(0.9ミリメートル径の光ケーブル用のもの1万個及び0.25ミリメートル径の光ケーブル用のもの1万個)を韓国に搬送し,これがCDPM社を通じてTNM社に納品された。この2万個は,その後,TNM社から被告会社に送付されたため,被告会社において保管しているが,そもそも被告会社が韓国に搬送したものであるから,これについて原告に損害はない。
(イ) 原告が被告会社に対して納品したと主張する本件製品5万個について,被告会社が受領したことはない。
オ 損害について
争う。本件製品の製造原価は,本件部品のうちボディの費用を除けば1個当たり133円から165円であり,原告の主張する損害額は過大である。
カ 以上のとおり,被告Y3に不法行為が成立する余地はない。
2 争点(2)(原告が被告会社に交付した900万円に関する被告Y3の不法行為の成否)について
(原告の主張)
(1) 被告Y3は,平成19年11月初旬,原告に対し,TNM社が作成した「○○の販売に関する報告」と題する書面(以下「本件報告書」という。)を提示し,また,同月9日にはTNM社の社員であるCを紹介するなどして,本件事業への参加を誘引していたところ,原告代表者に対し,本件部品のうちフェルールは製造に時間がかかるので,フェルールを製造しているワイエムに早めに注文をしなければならないと述べて,フェルール購入代金として400万円の貸付けを依頼した。そこで,原告は,被告会社に対し,平成19年11月12日に100万円,同月15日に300万円を貸し付けた。しかしながら,上記貸付金400万円は,本件製品売買契約用のフェルールの購入代金に充てられることなく,被告会社のワイエムに対する従前の債務の支払に充てられた。
(2) 原告代表者が,平成19年12月下旬,被告Y3に対し,上記貸付金400万円で本件製品の部品が購入されたか否かを尋ねたところ,被告Y3は,上記のとおりワイエムに対する従前の債務の弁済に充てられた旨述べ,ワイエムからフェルールを購入するための更なる貸付けを依頼したため,原告代表者は,被告Y3の上記説明を信じて,同月28日,500万円を被告会社に貸し付けた。
しかしながら,被告会社は,上記500万円の借入れに先立って,ワールドプリントから本件商品10万個の販売代金として,平成19年12月17日に1050万円,同月26日に1050万円の支払を受けていたのであって,被告Y3は,上記500万円の貸付けを依頼した際には,借入金をフェルールの購入のために使用する意思を有していなかった。
(3) 上記(1)及び(2)のとおり,被告Y3は,原告代表者に対し,本件製品の製造に用いるフェルールの購入代金に充てる意思がないのに,これに充てると偽って借入れを申し込み,その旨原告代表者を誤信させ,合計900万円の交付を受けたのであるから,上記の被告Y3の行為は詐欺であり,不法行為を構成する。
原告は,被告Y3の上記不法行為の結果,900万円の損害を被った。
(4) よって,被告Y3は,原告に対し,民法709条又は会社法429条に基づき,900万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年5月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
(被告らの主張)
被告会社が原告から合計900万円の交付を受けたことは認めるが,本件製品用のフェルールを購入するための貸付金として受領したものではなく,被告会社が原告に供給した本件部品の代金として受け取ったものである。
3 争点(3)(被告Y3の不法行為に関する被告会社,被告Y1及び被告Y2の連帯責任の有無)について
(原告の主張)
(1) 被告会社の責任
被告Y3の原告に対する一連の不法行為は前記1及び2の各(原告の主張)のとおりであるところ,被告Y3は,上記不法行為の当時,被告会社の代表取締役であった被告Y2から,本件製品に関する事業について全権委任を受けてその事業を執行していた。
よって,被告Y3による上記不法行為は,被告会社自身の不法行為であるか,そうでなくとも,被告会社の代表者がその職務を行うについて第三者である原告に損害を与えたものであるから,被告会社は,原告に対し,民法709条,民法715条又は会社法350条に基づく責任を負う。
(2) 被告Y1及び被告Y2の責任
被告Y1及び被告Y2は,各自,被告会社の取締役として,被告Y3の職務執行について適切な監督,監視を行う義務を負っていたにもかかわらず,以下のとおりこれを怠った。
ア 被告Y1の責任
本件当時,被告Y1は,被告会社における事業の執行について実質的な権限を有しており,被告会社の代表印を押捺できるのは被告Y1のみであった。
被告Y1は,平成19年10月30日,被告Y3及びB同席の下,被告会社とCDPM社との間で本件製品について製造販売業務委託契約(以下「CDPM社業務委託契約」という。)を締結し,被告Y2から預かっていた被告会社の代表印を押捺し,その後,ワールドプリントから本件部品の販売代金を受領するに際し,Bとともにヨシカワに赴き,資金支出の依頼をするなど,本件事業に積極的に関与していた。
また,被告Y1は,平成19年11月14日,内容虚偽である本件俯瞰図に被告会社の代表印を押捺し,さらに,同月15日には,原告及びCDPM社に対し,被告会社が本件事業について被告Y3に全権委任する旨記載された確約書を交付した。
以上のとおり,被告Y1は,被告Y3による詐欺的業務執行を推進したのであって,その職務を行うについて悪意があり,これによって原告に損害を与えたのであるから,会社法429条に基づく責任を負う。
イ 被告Y2の責任
被告Y2は,被告会社の代表印を被告Y1に預けてその押捺権限を与えるとともに,本件事業の遂行及び本件製品売買契約の締結について,被告Y1及び被告Y3に包括的に委任していた。
また,被告Y2は,被告Y3及び被告Y1から指示を受けて行動していたBから,CDPM社業務委託契約及び本件俯瞰図についての報告を受けており,被告Y1及び被告Y3による本件事業の執行状況について把握していた。
以上のとおり,被告Y2は,被告会社の全権を被告Y1に包括委任しつつ,本件事業について逐一報告を受けながら,被告Y3の前記1及び2の不法行為を黙認ないし放置しており,その職務を行うについて少なくとも重大な過失があり,これによって原告に損害を与えたのであるから,会社法429条に基づく責任を負う。
(3) 被告らの連帯責任
上記(1)及び(2)のとおり,被告Y3,被告会社,被告Y1及び被告Y2による不法行為ないし任務懈怠行為は,客観的に関連しており,これによって原告は前記1及び2の各(原告の主張)のとおり合計4260万円の損害を被ったのであるから,被告らは,民法719条1項前段に基づき,原告に対し,連帯して責任を負う。
よって,原告は,被告らに対し,連帯して,4260万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年5月31日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告らの主張)
前記1及び2の各(被告らの主張)のとおり,被告Y3及び被告会社による不法行為は成立しないから,被告Y1及び被告Y2が会社法429条に基づく損害賠償責任を負うことはない。
4 争点(4)(原告の被告会社に対する本件製品の売買契約に基づく代金請求の可否)について
(原告の主張)
(1) 前記1(原告の主張)(1)ウのとおり,原告は,平成19年11月末ころ,被告会社との間で,本件製品について,単価を360円,納期を平成20年1月末,販売個数の目標を15万個として販売する旨の本件製品売買契約を締結した。
原告は,本件製品売買契約に基づき,平成20年1月末までに,TNM社及び被告会社に対して本件製品合計10万個を納品し,その代金支払期日は同年3月31日限りとされた。
(2) よって,原告は,被告会社に対し,本件製品売買契約に基づき,代金として3360万円及びこれに対する代金支払期日の翌日である平成20年4月1日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告らの主張)
前記1(被告らの主張)(1)のとおり,原告と被告会社の間で,本件製品に関し,本件基本契約及び本件製品売買契約が締結されたことはないから,本件製品売買契約に基づく原告の代金請求は理由がない。
5 争点(5)(原告が被告会社に交付した900万円についての貸金返還請求又は解除に基づく原状回復請求の可否)について
(原告の主張)
仮に,被告Y3及び被告会社の不法行為が成立しないとしても,原告は,被告会社に対し,合計900万円を交付しており,これは,原告と被告会社間の金銭消費貸借契約による貸金又は本件部品の売買契約の代金として交付されたものであるから,原告は,被告会社に対し,選択的に,次の(1)又は(2)の請求をする。
(1) 金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求
ア 原告は,被告会社に対し,前記2(原告の主張)のとおり,合計900万円を,いずれも被告会社のワイエムに対する本件部品の購入代金に充てる目的で,期限を定めることなく貸し渡した(以下,これら合計900万円の貸付けを一括して「本件消費貸借契約」という。)。
イ 原告は,平成20年7月31日,被告会社に対し,同年8月10日までに,本件消費貸借契約による貸金を返還するよう催告した。
ウ よって,原告は,被告会社に対し,本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求として,900万円及び弁済期の翌日である平成20年8月11日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 本件部品売買契約の解除に基づく原状回復請求
ア 原告は,被告会社から,本件製品10万個を製造するための本件部品(フェルール11万個,ボディ10万個)を購入した(以下「本件部品売買契約」という)。
イ 原告は,被告会社に対し,本件部品売買契約の代金として,前記第2の2(6)のとおり,合計900万円を支払った。
ウ 原告は,被告会社が本件部品売買契約に基づく本件部品の引渡債務を履行しないため,被告会社に対し,平成22年1月18日の本件口頭弁論期日において,本件部品売買契約を解除するとの意思表示をした。
エ よって,原告は,被告会社に対し,本件部品売買契約の解除に基づく原状回復請求として,900万円及び上記解除の日の翌日である平成22年1月19日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による法定利息の支払を求める。
(被告らの主張)
(1) 本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求について
ア 前記2(被告らの主張)のとおり,被告会社が原告から受領した900万円は,被告会社が原告に供給した本件部品の代金として受領したものであるから,本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求は理由がない。
イ 原告は,原告が被告会社に交付した900万円に係る請求につき,本件第2回弁論準備期日において,本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求を撤回し,本件部品売買契約の解除に基づく原状回復請求のみを主張したが,その後,本件第5回弁論準備期日において,本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求を復活させ,本件部品売買契約の解除に基づく原状回復請求との選択的併合であると主張するに至った。
しかしながら,訴えの交換的変更は,新たな訴えの提起と旧訴の取下げ又は請求の放棄がなされたものと解すべきであり,本件において,原告は,本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求と本件部品売買契約の解除に基づく原状回復請求について交換的変更をしたのであるから,旧訴である本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求を放棄したと解すべきである。
よって,原告による本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求の主張の復活は,訴訟手続に関する方式違反であり,許されない。
(2) 本件部品売買契約の解除に基づく原状回復請求について
原告は,解除の対象である契約,履行すべき債務の内容,履行期について特定して主張していない。
また,被告会社は,原告に対し,次のアからウのとおり,本件部品を納品しているから,原告による解除は認められない。本件製品を組み立てるために必要な本件部品は,事実上被告会社を通じてしか購入することはできないから,CDPM社が本件製品の組立加工をすることができたのは,本件部品が被告会社からCDPM社に供給されたからにほかならない。
ア 平成19年12月18日
ボディ5万個及びフェルール5万個をCDPM社に送付した。
イ 平成19年12月27日
ボディ5万個及びフェルール5万個をCDPM社に送付した。
ウ 平成20年1月24日
被告Y3,B及び当時被告会社の従業員であったD(以下「D」という。)が韓国に行った際,フェルール10万個をCDPM社に交付した。
第4 当裁判所の判断
1 本件事業における本件製品の発注及び製造の経緯
前記第2の2の前提事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 被告会社による本件製品の開発等
被告会社は,平成17年3月に設立され,本件製品の開発を行っていたが,本件製品に係る発明の特許出願を巡って,クロスター産業と紛争となっており,平成18年3月24日に同発明についてクロスター産業を特許権者とする特許権の設定の登録がされてからも,この特許権をクロスター産業から取得し,本件製品を実用化して製造販売することを事業の方針としていた。被告会社としては,本件製品をNTTグループに採用してもらうことを企図しており,被告Y3は,被告会社の設立後間もなく,友人であり,NTTに関連する設備工事会社に勤務していたCに対し,被告会社への入社を勧誘し,Cは,そのころ,被告会社に入社した。その後,Cは,NTTの一次代理店であったTNM社の代表取締役社長であるE(以下「E」という。)と知り合い,Eを通じてNTTグループが行う電話通信工事の最大手請負先である日本コムシス株式会社の技術部門の紹介を受けた。そして,被告会社は,同技術部門による技術指導の下に,平成19年春ころ,本件製品を実用化し,「○○」の商品名を付すに至った。Cは,そのころ,被告会社を退社したが,同年秋にTNM社に入社し,同年11月当時,TNM社の営業部長を務めていた(甲21・2頁,甲22・1頁,甲23の1及び2,証人C・1頁)。
(2) 本件製品の製造販売に対するBの関与
ア Bは,平成19年4月から5月ころ,被告Y3の依頼を受けて,本件製品の販売先の開拓を行うこととなり,同年7月20日に被告会社の取締役に就任した。なお,同年8月31日にBが被告会社の取締役を辞任した旨の登記が,同年10月10日受付によりされているが,Bは,同日以後も本件製品の販売についての営業活動を行っていた(甲21・1頁,証人B・1頁,乙11・1頁,弁論の全趣旨)。
イ Bは,上記アの営業活動について,被告会社から報酬を受けておらず,被告Y3から,報酬が成功報酬である旨言われていた(証人B・27頁,被告Y3・10頁)。
(3) 原告に対する被告会社及び本件製品の紹介
原告代表者は,平成19年7月ころ,知人であったBから,被告会社及び本件製品を紹介され,その後,被告Y3の案内で,被告会社事務所において,本件製品を用いた光ファイバーの接続の実演を見学し,また,被告Y3から本件パンフレットの交付を受けた。その際,被告Y3は,原告代表者に対し,被告会社はNTTの代理店であるTNM社を通じて,NTTグループに対し,本件製品の採用を働きかける営業活動を行っているが,NTTグループからの受注が決定した場合には,本件製品を組み立てるワイエムという下請会社があるものの,生産能力が月3万個程度であり,100万個単位でのNTTグループの発注に応えられるかが懸念される旨述べた。これを聞いて,原告代表者は,原告代表者父であれば本件製品の生産能力の問題を解決できるかもしれないと考えた(甲4,甲25・1頁,原告代表者・1,22頁)。
(4) 本件製品に係る特許権についての弁護士との面会
原告代表者は,平成19年8月21日,被告Y3及びBに伴われて,その当時本件製品の特許権に関するクロスター産業株式会社との訴訟において被告会社の訴訟代理人を務めていたF弁護士を訪問し,韓国において本件製品を製造した上でこれを日本国内で販売することについて,法的問題がないかを尋ねたところ,同弁護士から,問題がない旨の回答が得られた(甲25・2頁,原告代表者・2頁,被告Y3・21頁,弁論の全趣旨)。
(5) CDPM社業務委託契約の締結
そこで,原告代表者は,韓国在住の原告代表者父に対し,上記(3)及び(4)について伝え,来日を要請した。原告代表者父は,平成19年10月末ころに来日して,被告Y3及びBとともに,本件部品のうちフェルールを製造するワイエム及び株式会社ナンシン(以下「ナンシン」という。)を訪問し,韓国内において本件製品の組立てが可能であると判断した。そして,原告代表者父は,平成19年10月30日,被告会社事務所において,被告Y1との間で,被告Y3及びBの同席の下に,被告会社とCDPM社の間で,被告会社が平成19年11月1日からCDPM社に対して本件製品に関する製造,販売を一任し,その契約内容の詳細については,両社による協議の上取り決める旨の記載がある「韓国内における製造販売業務委託契約書」と題する契約書(甲8)を作成し,CDPM社業務委託契約を締結した(甲8,甲21・2頁,甲25・2頁,甲35,証人B・2,26頁)。
(6) 本件報告書の交付等
ア TNM社は,平成19年11月7日ころ,被告会社宛の「○○の販売に関する報告」と題する本件報告書(甲5)を作成した。そして,C,E及びエルマ中部の代表取締役社長であるGの3名は,被告会社を訪問し,被告Y3及び被告Y1に対し,本件報告書を交付した(甲5,証人C・6頁,被告Y3・25頁,弁論の全趣旨)。
イ 本件報告書には,エルマ中部がNTT東海を中心に本件製品についての営業活動を展開しており,NTT東海やその協力会社に本件製品を200個ほど使用してもらったところ,作業が簡単で,接続信頼性も合格との評価を得たため,NTT東海等から,NTT本社の資材調達部門に推薦してもらうこととなり,これを受けて,Eが同部門を訪問し,「NTT認定商品」としての認可を早急に取り付けられるよう働きかけている旨の記載に加え,NTT東海の名古屋地区だけでも1日当たり1000件の光工事が実施されており,全国展開した場合の工事数を考えると,被告会社における生産体制により対応できるかが課題となっており,被告会社において,品質,納期を最大限に考慮して今後の生産体制の充実を図っていただきたいとの旨の記載がある(甲5)。
ウ 本件報告書は,Cが,平成19年11月7日当時の本件製品に係る営業活動の状況を記載して起案したものであるが,Cは,その当時,NTTの子会社であるNTTコミュニケーションズ株式会社から,光ケーブルの工事に本件製品を使用してもよいとの回答を受けており,本件商品が,本件報告書記載の「『NTT認定商品』としての認可」を受けることができる可能性があるとの認識を有していた(甲22・3頁,乙12・1頁,証人C・5頁)。
エ 原告代表者は,平成19年11月8日,被告Y3から本件報告書の交付を受け,NTTグループから本件製品から受注できるかもしれないとの説明を受けたが,この時点においては,原告としては,CDPM社が本件製品の組立てを行うこととなった場合に,日本におけるCDPM社の代理をすることになるという程度の認識であった(甲5,甲25・3頁,原告代表者・4頁)。
(7) 原告に対するCの紹介
原告代表者は,平成19年11月9日ころ,被告Y3及びBからCを紹介され,被告Y3及びBとともに,本件事業に関する打合せを行った。この打合せにおいて,Cは,原告代表者に対し,本件製品について,NTTグループに対する営業は順調に進んでいる旨述べ,CDPM社において本件製品を製造するならば,納期と品質は厳守してもらう必要があると強調した(甲22・4頁,甲25・3頁,原告代表者・4頁,証人C・7頁,被告Y3・27頁)。
(8) 本件俯瞰図の交付等
原告代表者は,平成19年11月14日,被告Y3から,本件俯瞰図の交付を受けた(前記第2の2(5))。しかし,その当時,TNM社においては,NTT東海から発注を受けることができたとしても,TNM社が原告に対し本件製品を発注することは予定されていなかった(証人C・9頁)。
(9) 被告Y3の本件事業についての被告における権限を確認する書面の交付
原告代表者は,上記(8)の当時,被告Y3が被告会社の代表取締役でなかったため,被告Y3に対し,被告Y3が本件事業についての被告の窓口であり,責任者であることを示す書類の提出を求めたところ,被告Y3は,平成19年11月15日,原告及びCDPM社に対し,被告会社の代表印が押捺され,「弊社は,Y3取締役副社長に,単心光ファイバ用接続ツール ○○(通称:メカニカルスプライス)事業に関する全権限を委託していることを確約します。」との記載がある「確約書」と題する書面(以下「本件確約書」という。)を交付した(甲2の1及び2,甲25・3頁)。
(10) 本件注文書の交付
原告代表者は,平成19年11月26日ころ,被告Y3から本件注文書の交付を受けた(甲7,甲25・4頁,甲37,原告代表者・7頁)。
(11) CDPM社による事業の開始及び本件部品の供給経路
ア CDPM社は,平成19年11月中に,韓国において,本件製品を製造するための工場の建設を開始し,同年12月25日,当該工場が完成した(甲21・3頁,弁論の全趣旨)。
イ CDPM社は,当初,被告会社から原告を通じて本件部品を購入し,これを組み立てて本件製品を製造する予定であったが,原告に資金が乏しかったため,原告代表者は,Bの紹介で知り合ったワールドプリントに本件部品の購入及びCDPM社への輸出を依頼し,ワールドプリントはこれを引き受けた。一方,被告会社は,本件部品を製造するワイエム及びナンシンから,現金払いでなければ本件部品を購入することができなかったところ,ワールドプリントでは現金払いに対応できなかったことから,資金力のあるヨシカワに介在してもらうこととした。その結果,以下の経路でCDPM社に本件部品が供給されることとなった(甲25・4頁,甲34・5頁,証人B・15頁,弁論の全趣旨)。
(ア) 本件部品のうち,ワイエム又はナンシンがフェルールを,被告Y3の親族が経営する「サエグサ」と称する会社がボディーを,それぞれ被告会社に販売する。
(イ) ヨシカワが,被告会社から本件部品を現金で購入する。
(ウ) ワールドプリントが,ヨシカワから本件部品を購入し,代金の支払のためにヨシカワに手形を振り出す。
(エ) ワールドプリントが,本件部品をCDPM社に供給する。
(12) 本件製品の製造・納品経路
原告,CDPM社及びワールドプリントの間では,CDPM社がワールドプリントから供給を受けた本件部品を組み立てて本件製品を製造し,これをワールドプリントに納品して組立加工賃の支払を受け,ワールドプリントが原告に対し,納品された本件製品を販売することとされた(弁論の全趣旨)。
(13) CDPM社への本件部品の供給
被告会社は,本件部品10万個(フェルール及びボディ各10万個)を調達してヨシカワに販売し,これが,次のとおり,ヨシカワ及びワールドプリントを通じてCDPM社に供給された。
ア 平成19年12月11日
ヨシカワは,ワールドプリントに対し,本件部品5万個(フェルール及びボディ各5万個)を1050万円で販売し,納品した(甲19の1及び2)。
イ 平成19年12月18日
ワールドプリントは,CDPM社に対し,上記アの本件部品5万個を送付し,CDPM社は,これを受領した(甲26の1及び2)。
ウ 平成19年12月26日
ヨシカワは,ワールドプリントに対し,本件部品5万個(フェルール及びボディ各5万個)を1050万円で販売し,納品した(甲20の1及び2)。
エ 平成19年12月27日
ワールドプリントは,CDPM社に対し,上記ウの本件部品5万個を送付し,CDPM社は,これを受領した(甲27の1及び2)。
(14) CDPM社による本件製品の製造及びワールドプリントに対する納品並びにワールドプリントから原告に対する販売
CDPM社は,上記(13)のとおり供給を受けた本件部品を組み立てて本件製品を合計10万個製造し,次のとおり,これをワールドプリントに納品し,ワールドプリントは,これを原告に販売し,納品した。
ア 平成20年1月7日
CDPM社は,ワールドプリントに対し,本件製品2万個を組立加工賃合計120万円(単価60円)で納品した(甲28の1及び2)。
イ 平成20年1月15日
CDPM社は,ワールドプリントに対し,本件製品3万個を組立加工賃合計180万円(単価60円)で納品した(甲29の1及び2)。
ウ 平成20年1月30日
CDPM社は,ワールドプリントに対し,本件製品5万個を組立加工賃合計300万円(単価60円)で納品した(甲30の1及び2)。
エ 平成20年1月17日
ワールドプリントは,原告に対し,本件製品2万個を代金合計651万円(単価310円,うち消費税31万円)で販売し,納品した(前記第2の2(7)ア)。
オ 平成20年1月23日
ワールドプリントは,原告に対し,本件製品3万個を代金合計976万5000円(単価310円,うち消費税46万5000円)で販売し,納品(前記第2の2(7)イ)
カ 平成20年2月6日
ワールドプリントは,原告に対し,本件製品5万個を代金合計1627万5000円(単価310円,うち消費税77万5000円)で販売し,納品した(前記第2の2(7)ウ)。
(15) 原告によるTNM社及び被告会社に対する本件製品の送付
ア 原告は,平成20年1月18日,TNM社に対し,本件製品2万個(0.25ミリメートル径の光ファイバー用のもの及び0.9ミリメートル径の光ファイバー用のもの各1万個)を送付し,TNM社は,これを受領した(甲13の1,甲31)。
イ 原告は,平成20年1月23日,被告会社に対し,本件製品3万個(0.25ミリメートル径の光ファイバー用のもの)を送付し,被告会社は,これを受領した(甲13の2,甲25・6頁,被告Y3・10頁,証人B・12頁)。
(16) TNM社に対する代金請求及びTNM社の対応
原告は,平成20年1月31日,TNM社に対し,上記(15)アの本件製品2万個の代金合計756万円(消費税込み)を同年3月末日までに支払うよう請求したが,同日までにTNM社からの支払はなく,後に,上記本件製品2万個はTNM社から被告会社に送付されていたことが判明した(甲14の1,甲25・7頁,原告代表者・19頁)。
(17) NTTグループによる本件製品の採用見込みの消滅
B,TNM社及びエルマ中部は,平成20年に入ってからも,NTT東海や東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」という。)に対して,本件製品を採用してもらうべく営業活動を継続していたが,同年6月下旬ころ,NTTからTNM社に対し,NTTではメカニカルスプライスを自社開発すべく研究中であるから,本件製品を採用することはないとの回答があった(甲22・7頁,乙12・4頁)。
2 争点(1)(本件製品の発注に関する被告Y3の不法行為の成否)について
(1) 虚偽記載のあるパンフレットに基づいた本件事業への誘引について
原告は,被告Y3が原告代表者に対し,虚偽記載のある本件パンフレットに基づいて本件事業へ誘引したことが,原告に対する欺罔行為であって,不法行為を構成する旨主張する。
被告Y3は,平成19年7月ころ,原告代表者に対して本件パンフレットを交付している(前記1(3))が,これに先立ち,株式会社オプトゲートによって本件製品(0.25ミリメートル径の光ファイバー用のもの及び0.9ミリメートル径の光ファイバー用のもの)について信頼性試験が実施されており,平成18年11月20日付けで被告会社に対する試験結果の報告書が作成されている(甲15)。同報告書においては,本件製品は,いくつかの試験で不合格と判定されており,各種試験の実施方法及び結果が記載され,試験データが添付されているが,次のような試験結果が記載されている。
ア 0.25ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品
(ア) 初期特性について 合格率91.4パーセント
(イ) 環境特性について
a 高温放置試験 全数合格
b 温度特性試験 合格率50パーセント(8本中4本合格)
c 湿熱試験 全数合格
d 連続温湿度サイクル試験 合格率37.5パーセント(8本中3本合格)
(ウ) 機械特性について
引張試験 合格率0パーセント(8本中合格なし)
イ 0.9ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品
(ア) 初期特性について 合格率87.2パーセント
(イ) 環境特性について
a 高温放置試験 全数合格
b 温度特性試験 合格率87.5パーセント(8本中7本合格)
c 湿熱試験 全数合格
d 連続温湿度サイクル試験 合格率87.5パーセント(8本中7本合格)
(ウ) 機械特性について
引張試験 合格率37.5パーセント(8本中3本合格)
他方,本件パンフレットには,「○○初期特性・信頼性評価結果」との標題の下に,初期特性,環境特性,機械特性とも所定の規格を満たす旨を記載した表が掲載されている。また,「○○信頼性試験結果」との標題の下に,平成18年11月における0.25ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品及び0.9ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品の各温度特性試験結果を示すグラフとして,IL変動値(dB)の変動幅が少なく,規格を満たす良品であることを示すものが掲載されているが,上記報告書には,0.9ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品の試験データとして上記グラフと同一のグラフが添付されているものの,0.25ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品については,上記グラフと同一のグラフは添付されていない(甲4,甲15)。
しかしながら,上記報告書には,温度特性試験において,0.25ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品は合格率50パーセントとされており,良品については0.9ミリメートル径の光ファイバー用のものと同じ傾向であるとの記載があるところ,本件パンフレットに掲載された0.25ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品についてのグラフは,温度特性試験に合格した0.25ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品の良品の試験データを,上記報告書の指摘を踏まえて掲載したものである可能性があり,被告Y3が試験データを改ざんして掲載したとまで認めることはできない。また,本件製品は平成19年春ころに実用化され,「○○」の商品名が付されたのであり(前記1(1)),上記の信頼性試験の実施後に,信頼性がさらに改善された可能性もあり,上記報告書をもって,平成19年7月当時に,本件製品が販売が困難なほどに信頼性の低い製品であったとまで認めることはできない。
よって,被告Y3が原告代表者に本件パンフレットを交付した行為をもって,原告に対する欺罔行為であるということはできず,この点についての原告の主張は採用できない。
(2) 本件俯瞰図の提示による本件事業への誘引並びに本件注文書の作成及び交付について
ア 原告は,本件俯瞰図は,被告Y3が,平成19年11月14日に原告代表者に対して交付したものであり,本件注文書は,被告Y3が,同月26日ころに原告代表者に対して交付したものである旨主張し,原告代表者はこれに沿う供述しており,その陳述書(甲25)にもその旨の記載がある。これに対し,被告Y3は,本件俯瞰図及び本件注文書について見たことすらない旨供述するので,この点について検討する。
イ 本件俯瞰図の作成及び交付について
(ア) 本件俯瞰図は,Bが起案したものであるが,Bは,起案当初は,NTT東海による本件製品の採用についての「導入可の結果が出た場合の発注経路」として,TNM社が被告会社に発注し,被告会社が原告に発注する旨記載していたところ,被告Y3から,これをTNM社が原告に対し直接発注する経路とするよう修正の指示を受け,これに従って修正した結果,前記第2の2(5)のとおり,NTT東海からTNM社に発注が行われ,TNM社から原告に対し発注が行われる旨の記載となり,これに被告Y1が被告会社の代表印を押捺した(甲34・2頁,証人B・5頁)。
(イ) 原告代表者は,平成19年11月14日ころ,被告Y3から本件俯瞰図の交付を受け,その際,被告Y3は,TNM社から本件製品の発注を受けた場合は,その注文を原告に回す旨述べた。また,被告Y3は,本件事業については,TNM社が原告に対して直接発注する仕組みとなっており,被告会社としては,本件部品を原告に納品することで利益を上げる旨の説明をした(甲25・3頁,原告代表者・5,25頁)。
(ウ) 本件俯瞰図の作成日付の当時,TNM社においては,NTT東海から発注を受けることができたとしても,TNM社が原告に対し本件製品を発注することは予定されておらず(前記1(8)),本件俯瞰図のうち,NTT東海により本件製品の導入可の結果が出た場合の発注経路に関する部分の記載は真実に反するものであった。
(エ) 被告Y3は,本件俯瞰図を見たことがなく,誰が作成した書面かも分からない旨供述する。しかしながら,原告代表者は,被告Y3から本件俯瞰図の交付を受けた旨を明確かつ具体的に供述しており,被告Y3の供述以外に,これに反する証拠はない。他方,被告らは,本件俯瞰図が真正に成立したものであることを認めており,被告Y3が本件俯瞰図の存在や内容を知らなかったとは極めて考えにくく,上記供述自体が不自然である。また,Bは,証人として前記(ア)の認定事実どおりの供述をしているが,被告会社がTNM社やエルマ中部とともにNTT東海に対する営業活動を展開していた経緯からすれば,Bとして,TNM社から発注を受けるのは被告会社であると認識していたことは自然であると考えられ,当初,本件俯瞰図にTNM社が被告会社に対して発注する経路を記載したとする供述は首肯できるところである。さらに,修正後の発注経路は,被告Y3が原告代表者に対し,被告会社は本件部品を販売することで利益を上げる旨の説明をしたとの原告代表者の供述とも符合する。これらの点を考慮すると,原告代表者及び証人Bの上記各供述は信用することができ,これらにより,前記(ア)及び(イ)の各事実を認めることができるのであって,これらに反する被告Y3の上記供述は採用できない。
ウ 本件注文書の作成及び交付について
(ア) 被告Y3は,平成19年11月中旬ころ,TNM社に対し,被告会社における資金調達のためであるとして,被告会社宛に本件製品の注文書を発行するように依頼した。TNM社は,被告Y3の上記依頼に応じて,本件製品の被告会社宛の注文書を作成したが,この当時,NTT東海からTNM社に対する本件製品の発注はなかったことから,同注文書の本件製品の数量及び単価の欄は空白のままとされ,これらについては別途打合せの上定める旨の記載がなされた(上記の注文書を,以下「本件仮注文書」という。)(甲22・5頁,証人C・9,19頁)。
(イ) 本件仮注文書は,Cから被告Y3又はBに交付されたが,Bは,発注経路に関し,本件仮注文書の記載がTNM社から被告会社に対して発注するとのものであったことから,被告Y3に対し,本件俯瞰図記載の発注経路と整合するように,TNM社から原告に対する注文書とするよう変更することを進言した(甲21・4頁,証人B・9頁,証人C・10頁)。
(ウ) 被告Y3は,原告代表者に対し,平成19年11月26日ころ,本件注文書を交付し,平成20年1月末までに本件製品20万個を納品するよう求めた。これに対し,原告代表者は,そのような大量の生産は無理であると回答し,原告代表者父と協議した上,被告Y3に対し,平成20年1月末までに7万個であれば製造できると伝えた。しかし,被告Y3は,せっかく受注したのに7万個しか製造できないのでは顧客に説明しにくいので,少なくとも15万個くらいは製造して欲しい旨述べた。そこで,原告代表者は,さらに検討の上,平成19年11月末ころまでに,被告Y3の上記申出に従ってCDPM社の韓国の工場において本件製品を製造してもらうことを決め,被告Y3に対し,その旨を回答した。なお,原告代表者は,TNM社には,その旨を被告Y3から連絡してもらうこととした(甲25・4頁,原告代表者・7頁)。
(エ) 実際には,平成19年11月末ころの時点において,NTTグループが本件製品を導入すると判断したことも,NTT東海がTNM社に対して本件製品を発注したこともなく,また,TNM社が被告会社又は原告に対し,本件製品20万個を発注したこともなかった(甲22・5頁,証人C・10頁)。
(オ) 原告は,本件注文書について,被告Y3がこれを偽造して原告代表者に交付したものである旨主張するのに対し,被告らは,被告Y3においては本件注文書を見たこともなく,本件注文書はBがTNM社に作成させたものであると主張する。
この点について,原告代表者は,被告Y3から本件注文書の交付を受けた旨明確に供述しており,また,Bは,証人として,前記(イ)のとおりの内容の供述をしている。そして,被告会社は,原告代表者に対し,平成19年11月15日,本件事業について被告Y3に全権限を委ねている旨の本件確約書を交付している(前記1(9))が,被告Y3が本件注文書を交付するのは,この権限からして当然のことであると考えられ,また,本件注文書がこのような権限を有する被告Y3の関与なくして被告会社に交付されるとは考えがたい。さらに,本件注文書は被告会社側の者から原告代表者に対して交付されたことが明らかである以上,原告代表者にしてみれば,本件注文書を原告代表者に交付した者がBであるか被告Y3であるかはさしたる問題ではなく,この点についてあえて虚偽の供述をする理由に乏しい。これらの点に照らせば,上記の原告代表者及び証人Bの各供述は信用することができ,前記(ウ)の被告Y3との交渉についての原告代表者の供述も信用することができるから,これらにより,前記(イ)及び(ウ)の事実を認めることができ,これに反する上記の被告Y3の供述は採用できない。
なお,Cは,Cに本件仮注文書の作成を依頼をした人物について,原告提出に係る陳述書(甲22)には被告Y3であると記載しているが,その後に被告らが提出した陳述書(乙12)にはBであると記載し,その記載内容を変遷させ,証人尋問においては,確かBから依頼されたと思う旨証言している(証人C・9頁)。また,Cは,本件仮注文書を交付した相手についても,被告Y3かBのいずれかである旨の曖昧な証言をしている(証人C・10頁)。そして,Cは,上記変遷の理由について合理的な説明をしていないが,BとCは,Bが本件事業に関与するまで面識がなかったのであり(前記1(1)及び(2),証人B・3,5頁,弁論の全趣旨),それにもかかわらず,BがCに対して直接本件仮注文書の作成を依頼することは不自然の感が否めないのに対し,被告Y3がCに被告会社への入社を勧誘し,Cがこれに応じて被告会社に入社し,本件製品の実用化に関与したなどの被告Y3とCとの関係(前記1(1))からすれば,被告Y3がCに本件仮注文書の作成を依頼したとみるのがより自然であって,被告Y3も本件仮注文書を見たことがある旨供述していることをも考慮すると,上記の原告提出に係るCの陳述書(甲22)の記載は信用することができ,これに反する上記の被告ら提出に係るCの陳述書(乙12)及び証人尋問におけるCの供述は採用することができない。
(カ) また,本件注文書は,その外形からみて,TNM社の社印を押捺して作成されたものではなく,TNM社の社印が押捺された文書をコピー機を使用するなどしてカラーコピーして作成されたものであると認められるところ,前記(ア)から(ウ)の事実を併せて考慮すれば,本件注文書は,被告Y3が,Cに本件仮注文書の発行を依頼し(前記(イ)),その交付を受けた上で,TNM社の社印が押捺された本件仮注文書を用いて,本件仮注文書の記載のうち,宛先を被告会社から原告に変更し,空白であった数量欄及び単価欄にそれぞれ20万個及び360円と記載し,「数量及び単価については別途打合せの上定める」旨の記載を「(納期を連絡ください)」との記載に変更し,コピー機等を使用して作成したものであると推認することができる。
エ なお,原告は,NTTグループが国産品のメカニカルスプライスに限り採用する旨の方針を有しており,被告Y3はNTTグループの上記方針を知りながら,これを原告に告げなかった旨主張するが,NTTグループが上記のような方針を有していたと認めるに足りる証拠はない。
(3) 被告Y3の不法行為について
ア 以上によれば,被告Y3は,平成19年11月14日,TNM社においては,NTT東海から本件製品の発注を受けることができたとしても,TNM社が原告に対し本件製品を発注することは予定されていなかったにもかかわらず,原告代表者に対して本件俯瞰図を提示して前記(2)イ(イ)のとおりの説明をし,これによって,原告代表者が,NTT東海からTNM社に発注があれば,TNM社から原告に発注が行われると誤信していたところ,同月26日ころ,NTTグループが本件製品の採用を決めたことも,NTT東海がTNM社に対して本件製品を発注したこともなく,また,TNM社が被告会社又は原告に対して本件製品20万個を発注したこともなかったにもかかわらず,原告代表者に対し,偽造した本件注文書を交付して,NTTグループから本件製品の発注があった旨の虚偽の説明をし,本件製品を平成21年1月末までに少なくとも15万個製造してTNM社に納品するよう要請し,これによって,原告代表者は,NTTグループから本件製品の発注があり,TNM社から原告に対し本件製品の発注がされたと誤信し,これに応ずればTNM社から代金の支払を受けることができると考えて,原告においてワールドプリントからCDPM社が製造した本件製品を購入し,ワールドプリントに対し,その代金債務を負うに至ったと認められる。
したがって,被告Y3の上記各行為は,原告に対し,本件製品の発注について虚偽の事実を述べて,原告をしてNTTグループからの発注に基づいてTNM社から発注があった旨誤信させ,その発注に応ずるために原告に本件製品を購入させ,その購入代金債務を負わせたものであるということができるから,原告に対する不法行為を構成するというべきである。
イ なお,原告は,被告Y3の上記アの行為により,本件製品売買契約が成立した旨主張するが,原告代表者が被告会社に対して本件製品を販売する意思表示をしたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,本件俯瞰図及び本件注文書の各記載に加え,実際に,最初にCDPM社において製造した本件製品2万個をTNM社に送付し,その代金の請求もTNM社に対して行っていることに照らせば,むしろ,原告代表者は,TNM社に対して本件製品を販売する意思であったと認められ,被告会社を買主とする本件製品売買契約が成立したと認めることはできない。
もっとも,本件製品売買契約の成立が認められないとしても,これによって被告Y3による上記不法行為の成立が妨げられるものではなく,上記アの認定判断が原告の主張を逸脱するものでもないと解されるから,上記アの判断は左右されない。
(4) 損害
ア 原告は,被告Y3の上記(3)の不法行為の結果,TNM社及び被告会社に送付した本件製品10万個をワールドプリントから購入し,その代金債務合計3255万円を負担したことによる代金債務相当額の損害及びTNM社に納品した本件製品2万個についての同社への販売予定額とワールドプリントからの購入金額との差額(転売利益)105万円の,合計3360万円の損害を被った旨主張するので,これについて検討する。
イ ワールドプリントから購入した本件製品10万個のTNM社及び被告会社に対する送付
(ア) 本件製品10万個の購入
原告は,平成20年1月17日から同年2月6日までの間に,ワールドプリントから,本件製品10万個を合計3255万円(うち消費税155万円)で購入した(前記1(14)エからカ)。
(イ) 本件製品のTNM社に対する送付
原告は,平成20年1月18日,TNM社に対し,本件製品2万個(0.25ミリメートル径の光ファイバー用のもの及び0.9ミリメートル径の光ファイバー用のもの各1万個)を送付し,TNM社は,これを受領した(前記1(15)ア)。
TNM社は,原告に対し本件製品を発注していなかったが,CがTMN社において上記送付を受け,被告Y3に対し,対応を尋ねたところ,とりあえず預かって欲しいと言われたため,TMN社において上記本件商品を受領し,二,三か月保管した後,これを被告会社に送付した(甲13の1,甲22・6頁,甲31,証人C・11頁)。
(ウ) 本件製品3万個の被告会社に対する送付
上記(イ)のとおり原告がTNM社に本件製品2万個を送付した平成20年1月18日の前後ころ,CDPM社が被告会社に直接送付していた本件製品のサンプルに不具合が発見されたため,被告Y3は,原告に対し,被告会社において調査のため保管するので,被告会社に本件製品3万個を送付するよう指示し,原告は,平成20年1月23日,被告会社に対し,本件製品3万個(0.25ミリメートル径の光ファイバー用のもの)を送付し,被告会社は,これを受領した(前記1(15)イ,甲25・6頁,原告代表者・14頁)。
(エ) 本件製品の不具合の調査
被告Y3及びBは,平成20年1月24日,本件製品の不具合の原因を解明するため,被告会社の技術者であるDを伴って韓国のCDPM社の工場に赴いた。同月25日,DがCDPM社の組み立てた本件製品を調査したところ,本件製品に用いられたフェルールには,規格が内径0.1251ミリメートルから0.1254ミリメートルのランク1のものと,内径0.1255ミリメートルから0.1259ミリメートルのランク2のものが混在しており,内径が太い0.1256ミリメートル以上のものを用いて組み立てても販売可能な製品とならないことが判明した(甲16,甲21・5頁,甲34・5頁,B・13,23頁)。
(オ) 本件製品5万個の被告会社に対する送付
被告Y3及びBは,平成20年1月28日,日本に帰国し,そのころ,原告代表者と本件製品の不具合に対する対応を協議した結果,原告において,CDPM社に保管されている本件製品5万個(0.25ミリメートル径の光ファイバー用のもの)を被告会社に送付することとなった。そして,同年2月6日,原告従業員が,CDPM社から原告事務所に送付されていた上記本件製品5万個を被告会社事務所に搬送し,被告会社がこれを受領した(甲13の3,甲25・6頁,甲32,甲34・6頁,乙9,原告代表者・16頁,証人B・12,17,37頁)。
ウ 被告らは,原告がTNM社に納品した本件製品2万個は,ワイエムが製造した本件製品を,被告会社が平成19年末にBの指示により韓国に送ったものであるから,原告に損害はなく,また,被告会社は,上記イ(オ)の本件製品5万個を受領したことはない旨主張し,被告Y3の供述及び陳述書の記載にはこれに沿う部分がある。
しかし,日本国内で製造した本件製品をいったん韓国に送付し,再度日本国内のTNM社に納品したということ自体が不自然である上,被告会社が,平成18年11月ころ,ワイエムに対して本件製品の組立を依頼し,平成19年8月28日,ワイエムから,ワイエムが組み立てた本件製品2万5000個の納品を受けたことが認められる(乙1から3)ものの,本件製品2万個を韓国に送付したことを裏付ける客観的証拠はなく,被告Y3の上記供述等は直ちに信用することができないから,この点についての被告らの主張は理由がない。
また,被告会社による上記イ(オ)の本件製品5万個の受領については,原告の元従業員H(以下「H」という。)の陳述書(甲32)には,Hが本件製品5万個を被告事務所に搬送し,納品書とともに被告Y3に渡して,被告Y3から受領書に受領印を押捺してもらった旨の記載があり,原告代表者の供述にも上記認定に沿う部分がある。そして,被告会社は,同月23日に本件製品3万個を受領しており,また,TNM社に送付された本件製品2万個も受領している(前記イ(イ))のであって,上記の5万個の受領のみをことさらに拒絶する理由は見いだせないことを考慮すれば,上記のHの陳述書及び原告代表者の供述は信用することができる。
なお,本件製品5万個を平成20年1月31日に受領した旨の記載がある原告作成の被告会社宛の同日付け受領書(甲13の3)には,確認印として「Y3」の印影があり,被告Y3は,同受領書に押印した事実を否定するものの,上記のHの陳述書により被告Y3が押印したと認められる。もっとも,同受領書の日付が平成20年1月31日となっており,前記イ(オ)で認定した現実に本件製品5万個が被告会社に搬入された日とは異なっている。この点について,原告代表者は,被告Y3及びBとの協議において上記本件製品5万個を被告会社に送付することとなった際,納品は同年2月上旬になるが,請求書は1月末付けにしたいと述べ,被告Y3がこれを了承した旨供述しており,現に原告から被告会社宛に平成20年1月末付け本件製品5万個の請求書が発行され,納品日として平成20年1月31日との記載があること(甲14の2)を考慮すれば,上記の点は合理的に説明できるものであって,前記認定を左右しない。
エ 被告Y3の不法行為との因果関係
被告Y3の前記(3)の不法行為は,NTTグループからもTNM社からも本件製品が発注されていないにもかかわらず,発注があったかのように装い,原告をしてその旨誤信させたというものであるところ,NTTグループが採用する可能性のあった本件製品は,屋外用の0.25ミリメートル径の光ファイバー用のものであり(前記第2の2(2)ウ,乙12・3頁,弁論の全趣旨),本件注文書にも0.25ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品を注文する旨の記載がある(前記1(10))。
前記イの事実によれば,原告がワールドプリントから購入した本件製品10万個のうち9万個が0.25ミリメートル径用のものであったのであるが,その購入代金債務については,被告Y3の上記不法行為の結果,原告が,TNM社から同本件製品について発注があったと誤信し,これを購入して負うに至った債務であると認められるから,被告Y3の上記不法行為と相当因果関係のある損害であると認められる。
しかしながら,その余の本件製品1万個(TNM社に送付されたもの)は0.9ミリメートル径の光ファイバー用であり,これは,前記のとおりNTTグループが購入する可能性のない製品であって,本件注文書にも記載のないものであり,原告がこれを購入した理由や経緯は明らかでないから,被告Y3がNTTグループ及びTNM社から0.9ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品の発注があった旨説明して本件注文書を交付し,原告においてその旨誤信して購入したとは認めることができない。したがって,上記1万個の購入代金債務については,被告Y3の上記不法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできないというべきである。
オ 逸失利益について
原告は,原告がTNM社に送付した本件製品2万個についての逸失利益を主張するので,これについてみるに,上記2万個のうち,0.9ミリメートル径の光ファイバー用のもの1万個分については,上記エのとおり,その購入代金債務が被告Y3の不法行為と相当因果関係のある損害と認めることができないのであるから,これに係る逸失利益も同様である。
また,0.25ミリメートル径の光ファイバー用のもの1万個分の逸失利益についても,TNM社が原告に対し本件製品を発注した事実はそもそも認められないのであって,被告Y3の上記不法行為の結果,上記1万個を原告がTNM社に転売することができなかったという関係が認められないのであるから,上記逸失利益についても,被告Y3の上記不法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
カ 小括
以上によれば,前記(3)の被告Y3の不法行為により原告が被った損害は,ワールドプリントに対して負った0.25ミリメートル径の光ケーブル用の本件製品9万個の購入代金債務の合計2929万5000円(単価310円,うち消費税139万5000円)となる。
(5) 以上のとおり,被告Y3は,原告に対し,民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
よって,原告は,被告Y3に対し,民法709条に基づく損害賠償として,2929万5000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年5月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
3 争点(2)(原告が被告会社に交付した900万円に関する被告Y3の不法行為の成否)について
(1) 原告による被告会社に対する900万円の交付の経緯
ア 原告代表者は,被告Y3及びBからCを紹介された平成19年11月9日の数日後,被告Y3から,NTTの発注が近づいてきたので,フェルールを早めに注文しなければ納期に間に合わないとして,その購入資金の提供を依頼された。そこで,原告代表者は,原告から被告会社に対し,同年11月12日に100万円,同月15日に300万円を,それぞれ弁済期の定めなく貸し付けた(甲10の1及び2,甲25・3頁,原告代表者・4頁)。
イ 被告Y3は,平成19年12月中旬ころ,原告代表者に対し,上記アの合計400万円を被告会社の従前の債務の弁済に充てたため,フェルールは購入できておらず,フェルールを注文するためには,さらに500万円が必要であると述べて,被告会社に対する貸付けを依頼した。そこで,原告は,被告会社に対し,平成19年12月28日,500万円を弁済期の定めなく貸し付けた(甲11,甲25・4頁,原告代表者・11頁)。
ウ なお,被告Y3は,上記ア及びイの合計900万円は原告代表者がBに交付したものであって,被告Y3はこれをBから受け取った旨供述し,被告Y3の陳述書にも同旨の記載があるが,これに反する原告代表者及び証人Bの供述に照らし,採用することができない。
(2) 被告らは,上記(1)の合計900万円の授受の趣旨につき,原告代表者が早く本件製品の製造を開始したいと述べたため,被告Y3が本件部品の購入代金として交付を受けたものである旨主張し,被告Y3の陳述書及び供述にはこれに沿う部分があり,原告が交付した上記合計900万円を受領した旨の領収書2通(甲10の1及び2)には,「○○の部品代金の一部として」との記載がある。
しかしながら,上記900万円のうち400万円が交付された平成19年11月12日及び15日の時点では,原告は本件事業に参加することを決定しておらず(前記1(6)エ),原告代表者が本件製品の製造を早期に開始したいと述べるような状況にはなかったのであって,むしろ,被告Y3において,NTTグループから発注があった場合の納期に間に合わせるように,本件部品を早めに発注しなければならないと考えていたことがうかがわれること(被告Y3・43頁),上記900万円を購入代金とする本件部品の売買契約の主体や契約時期等が明らかでない上,本件部品10万個がヨシカワからワールドプリントを経由してCDPM社に供給されており(前記1(13)),原告は本件部品の購入主体となっていないことに照らせば,被告Y3の上記陳述書及び供述は信用することができない。また,上記領収書の記載は,被告会社による借入金の使途として,これを部品の購入資金に充てるとの趣旨であると解することができ,被告らの上記主張を裏付けるものではない。
したがって,被告らの上記主張は,上記(1)の認定を左右しない。
(3) 原告は,被告Y3は,本件部品の購入代金に充てるとの名目で原告代表者に借入れを申し込み,その旨原告代表者を誤信させ,合計900万円の交付を受けたが,これを本件事業のために必要な本件部品の購入代金に充てることなく,被告会社の従前の債務の弁済に充てたのであるから,被告Y3は,原告から900万円を詐取したものである旨主張する。
しかしながら,原告は,被告Y3が,返済の意図がないにもかかわらず,これを秘して原告から合計900万円の貸付けを受けたとまで主張するものではなく,これを認めるに足りる証拠もない。また,被告会社は,平成19年8月28日,フェルールの製造元であるワイエムからメカニカルスプライス2万5000個を代金375万円,フェルール11万個を代金770万円(代金合計1202万2500円〔消費税込み〕)で購入しており(乙2,乙3),他方,ワイエムに対し,同年11月12日に300万円,同月16日に400万円,平成19年12月27日に500万円を商品代金として支払っている(乙4から6)。そして,これらの事実と,平成19年12月中に本件部品がヨシカワからワールドプリントを介してCDPM社に供給されていること(前記1(13)アからエ)とを併せると,前記1(13)のとおり,CDPM社に供給された本件部品は,被告会社が調達してヨシカワに販売したものであることが推認され(原告も被告会社が本件部品を調達してCDPM社に供給したことを争うものではない。),この点を考慮すると,上記900万円の貸付金が,被告会社において本件部品を調達してCDPM社に供給するための資金として使用されなかったとまで認めるに足りる証拠はない。したがって,被告Y3が,原告から上記900万円を詐取したということはできない。
なお,原告は,被告会社が上記900万円を被告会社の従前の債務の弁済に充てた旨主張するが,上記のとおり,被告会社がCDPM社に供給された本件部品を調達したことが推認されることを考慮すれば,原告の上記貸付金が被告会社のワイエムに対する従前の債務の弁済に充てられたとまで認めるに足りる証拠はない。また,仮に,原告の上記貸付金が本件事業に要する本件部品の調達に直接に使用されなかったとしても,被告会社は,ワイエムに対する従前の債務を弁済しなければ,ワイエムから新たにフェルールを調達することはできなかったと考えられるから,結局,原告の上記貸付金は,フェルールをCDPM社に供給するために用いられたこととなる。そうすると,この点においては,原告が貸付けをした目的に合致しており,被告Y3が原告を欺罔したということはできないから,被告Y3の不法行為は成立しないというべきである。
(4) 以上によれば,原告が被告会社に交付した900万円に関する被告Y3の不法行為に基づく原告の主位的請求は理由がない。
4 争点(3)(被告Y3の不法行為に関する被告会社,被告Y1及び被告Y2の連帯責任の有無)について
(1) 被告会社について
前記2のとおり,同(3)の被告Y3の本件製品の発注に関する行為(以下「本件行為」という。)は,原告に対する不法行為を構成するものであるところ,被告Y3は,被告会社の取締役であって,本件事業に関し,被告会社から全権の委任を受けていた(前記1(9))のであるから,被告会社との間には指揮監督関係があり,その事業の執行について本件行為を行ったということができる。したがって,被告会社は,民法715条に基づき,被告Y3の上記不法行為について使用者責任を負うというべきである。
(2) 被告Y1について
被告Y1は,本件行為当時,被告会社の取締役を務めており,取締役である被告Y3の業務執行について適切に監視,監督すべき義務を有していたところ,被告会社の社屋2階の自己の使用する会長室において管理していた被告会社の代表印を,本件俯瞰図及び本件確約書に押捺した(甲2の1及び2,甲6,甲34・3頁,証人B・3頁,被告Y3・22頁)が,これらを用いて被告Y3が行う行為について,その内容等を吟味するなどしたことはうかがわれず,他に,本件行為について,上記義務を尽くすべく何らかの行為をした形跡もないから,その職務を行うについて,重大な過失があったと認められる。したがって,被告Y1は,被告Y3の本件行為による不法行為によって原告に生じた損害について,会社法429条によりその賠償責任を負うというべきである。
(3) 被告Y2について
被告Y2は,本件行為当時,被告会社の代表取締役を務めており,取締役である被告Y3の業務執行について適切に監視,監督すべき義務を有していたところ,被告Y1に対し,被告会社の代表印を預けてその押捺権限を包括的に委ねており(証人B・7頁,弁論の全趣旨),上記義務を尽くすべく何らかの行為をした形跡はないから,その職務を行うについて,重大な過失があったと認められる。したがって,被告Y2は,被告Y3の本件行為よる不法行為によって原告に生じた損害について,会社法429条によりその賠償責任を負うというべきである。
(4) 以上のとおり,被告会社は,民法715条により,被告Y1及び被告Y2は,会社法429条により,被告Y3の本件行為による不法行為について,それぞれ原告に対し損害賠償責任を負う。
なお,被告会社は,被告Y3といわゆる不真正連帯債務を負い,被告Y1及び被告Y2は,連帯債務を負う(会社法430条)。原告は,被告Y3,被告会社,被告Y1及び被告Y2による不法行為ないし任務懈怠行為は,客観的に関連しているから,被告らの行為は共同不法行為に当たり,被告らは民法719条1項前段に基づき連帯責任を負う旨主張するが,この点は,各被告の原告に対する損害賠償責任を左右しないから,特に判断を要しない。
5 争点(4)(原告の被告会社に対する本件製品の売買契約に基づく代金請求の可否)について
前記2のとおり,原告の被告会社に対する主位的請求は,前記2の限度で理由があるから,その限度で予備的請求である本件製品の売買契約に基づく代金請求については判断を要しない。また,主位的請求のうち理由のない部分に対応する予備的請求については,原告と被告会社との間において,0.9ミリメートル径の光ファイバー用の本件製品1万個について,原告主張の本件製品の売買契約が成立したと認めるに足りる証拠はなく,理由がない。
6 争点(5)(原告の被告会社に対する原告が被告会社に交付した900万円に関する請求の可否)について
前記3(1)のとおり,原告と被告会社の間において本件消費貸借契約が成立したことが認められ,原告は,被告会社に対し,平成20年7月31日ころ,同年8月10日までに,本件消費貸借契約に係る貸付金900万円を返還するよう催告した(甲12)。
よって,原告は,被告会社に対し,本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求として,900万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成20年8月11日から支払済みまで商事法定利率である年6分の遅延損害金の支払を求めることができる。
なお,被告らは,原告は本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求を放棄しているから,上記請求は許されない旨主張するところ,原告は,本件第2回弁論準備手続期日において,貸金返還請求に係る主張を撤回し,請求の趣旨を変更しているが,原告が本件訴訟手続において貸金返還請求を放棄したとまでは解されないから,被告らの上記主張は理由がない。
7 結論
以上によれば,主位的請求については,原告は,被告らに対し,被告Y3につき民法709条,被告会社につき民法715条,被告Y1及び被告Y2につき会社法429条に基づき,各自2929万5000円及びこれに対する被告株式会社ウラノス及び被告Y3については平成21年5月30日から,被告Y1及び被告Y2については同月31日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。また,予備的請求については,原告は,被告会社に対し,本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求として,900万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成20年8月11日から支払済みまで商事法定利率である年6分の遅延損害金の支払を求めることができる。
よって,原告の各請求は以上の限度で理由があるから,これらを認容し,その余の各請求は理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 白井幸夫 裁判官 永山倫代 裁判官 水田直希)
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