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「営業アウトソーシング」に関する裁判例(3)平成30年11月14日 大阪地裁 平28(ワ)8491号 地位確認等請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(3)平成30年11月14日 大阪地裁 平28(ワ)8491号 地位確認等請求事件

裁判年月日  平成30年11月14日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)8491号
事件名  地位確認等請求事件
文献番号  2018WLJPCA11148001

裁判年月日  平成30年11月14日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)8491号
事件名  地位確認等請求事件
文献番号  2018WLJPCA11148001

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

 

 

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は,原告らの負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  原告X1が,被告株式会社Y2に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  被告株式会社Y2は,原告X1に対し,平成26年4月から平成30年3月まで,毎月20日限り,1か月当たり14万4900円及びこれに対する各当月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  原告X2が,被告株式会社Y3に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
4  被告株式会社Y3は,原告X2に対し,平成26年4月から平成31年3月まで,毎月20日限り,1か月当たり15万9075円及びこれに対する各当月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5  原告X3が,被告株式会社Y2に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
6  被告株式会社Y2は,原告X3に対し,平成28年4月から平成33年3月まで,毎月20日限り,1か月当たり15万9075円及びこれに対する各当月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
7  被告Y1株式会社は,原告らに対し,それぞれ550万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
1  本件事案の概要
本件は,被告Y1株式会社(以下「被告Y1社」という。)との間で期間の定めのない雇用契約を締結し,60歳を迎えて同被告を定年退職となった原告らが,被告Y1社の就業規則には,定年退職前にグループ会社に転籍した場合には,定年退職後,当該グループ会社において再雇用される旨の定めがあるところ,同就業規則のうち,定年後再雇用の要件を定年前転籍の場合に限定する部分は,高齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という。)9条1項2号に違反し,合理性を欠くから労働契約法(以下「労契法」という。)7条により無効であり,その結果,原告らにおいて,就業規則の定年後再雇用の規定が適用され,定年退職した後も雇用が継続されるものと期待することに合理的な理由が認められるから,被告株式会社Y2(以下「被告Y2社」という。)ないし被告株式会社Y3(以下「被告Y3社」という。)との間で,上記再雇用の規定に基づいて再雇用されたのと同様の労働契約が成立していると主張して,原告X1(以下「原告X1」という。)は被告Y2社に対し,原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)は被告Y3社に対し,それぞれ①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認,②労働契約に基づき,定年退職以後の月から満65歳に達した後の3月まで,約定支払日である毎月20日限り,原告X1については14万5900円,原告X2及び原告X3についてはそれぞれ15万9075円の賃金及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,③被告Y1社が高年法9条1項により義務付けられる継続雇用制度その他の雇用確保措置を設けず,継続雇用を希望する原告らを自社又はグループ会社において雇用しなかったことは,故意に原告らの上記期待権を侵害するものであり不法行為に当たるとして,被告Y1社に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料及び弁護士費用の合計550万円及びこれに対する不法行為日以後である平成28年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  前提事実(争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)  当事者等
ア a1公社は,昭和60年4月1日,a株式会社等に関する法律に基づき民営化され,a株式会社(以下「a社」という。)が設立された。その後,組織の再編が行われ,株式会社である同社が発足したが,同法の一部を改正する法律(平成9年法律第98号)により分割再編成され,西日本地域(関西,東海,北陸,中国,四国,九州,沖縄地区)の地域通信事業等を承継する株式会社として,平成11年7月1日,同社から独立した態様で被告Y1社が設立された。
被告Y2社及び被告Y3社は,いずれも後記構造改革の際に設立されたアウトソーシング会社である。また,被告Y2社及び被告Y3社は,被告Y1社の特殊関係事業主(高年法9条2項)に当たり,被告Y1社との間で同項に定める契約を締結している。
イ 原告らは,いずれも期間の定めなくa1公社に採用され,その後,a社を経て,被告Y1社の社員となった者である。
なお,被告Y1社には,同被告社員で労働組合員となり得る者の約98%(当時)が所属している多数労働組合であるb労働組合(以下「b労組」という。)が存在するが,原告らは,b労組とは別の労働組合であるc労働組合(以下「c労組」という。)に所属している。
(2)  被告Y1社の構造改革
ア 被告Y1社は,平成11年7月の設立当初より,同業他社との競争等により厳しい経営環境にさらされていたため,黒字構造への転換のため事業構造そのものを大きく転換させる必要があるとして,平成13年4月以降,構造改革(以下「本件構造改革」という。)を策定し,平成14年5月から実施した。
イ 本件構造改革は,それまで被告Y1社が行ってきた業務の大部分を地域ごとに新たに設立する営業系地域会社,設備系地域会社及び共通系地域会社へアウトソーシングするとともに,雇用形態,処遇体系の多様化を図るというものである。具体的には,西日本地域を16ブロックに分け,営業統括会社として被告Y2社を,設備系統括会社として被告Y3社をそれぞれ設立し(いずれも被告Y1社の100%子会社),ブロックごとに,被告Y2社の100%子会社である営業系地域会社(株式会社d等15社)及び被告Y3社の100%子会社である設備系地域会社(株式会社e等16社)並びに被告Y1社が49%,株式会社f(a社の100%子会社)が51%を出資した共通系地域会社(株式会社g等16社)を設立して,それぞれ業務委託を実施するというものであった。
その結果,被告Y1社は,企画・戦略,設備構築,サービス開発,法人営業等の事業のみを行うことになった。
(以上につき,乙11,12,弁論の全趣旨)
(3)  雇用形態選択制度の概要
被告Y1社は,本件構造改革に伴い,これまで被告Y1社においてアウトソーシング対象業務に従事してきた社員を地域会社に出向させるとともに,賃金水準が高い高齢の社員には,本人の選択に基づき被告Y1社を退職後,被告Y1社より低い賃金水準を設定した地域会社に再就職させ,定年後も当該地域会社で継続して働く場所を提供するというスキームを設定し,平成14年1月4日,「構造改革の実施に伴う雇用形態・処遇体系の多様化の実施について」と題する文書を発出した(以下,被告が策定した雇用形態選択制度を「本件制度」という。)。
本件制度の内容は,おおむね以下のとおりである。
ア 雇用形態及び処遇体系等の通知
(ア) 平成15年3月31日の時点において51歳以上である者は,平成14年1月4日から同月31日までの間に,後記イの雇用形態及び処遇体系等を選択し,被告Y1社が定める者に対し,通知しなければならない。
(イ) 平成15年3月31日の時点において51歳以上である者が,後記イの雇用形態及び処遇体系等を選択・通知しない場合は,後記イ(ウ)の60歳満了型を選択したものとみなす。
イ 選択する雇用形態及び処遇体系等
(ア) 繰延型
平成15年3月31日の時点において51歳以上である者が平成14年4月30日に被告Y1社を退職し,同年5月1日に地域会社に再雇用され,60歳定年制により60歳まで勤務した後,最長65歳まで契約社員として地域会社に再雇用される。
勤務地が一定の府・県内に限定される一方で,所定内給与が20%ないし30%低下するが,激変緩和措置として,地域会社における退職手当及び(61歳以降の)契約社員期間において給与加算を行う。
(イ) 一時金型
雇用形態は繰延型と同様であるが,所定内給与が20%ないし30%低下することに対する激変緩和措置については,地域会社における退職手当及び平成14年4月30日の被告Y1社退職時に一時金として支給する。
(ウ) 60歳満了型(以下「満了型」という。)
被告Y1社の本社及び支店において被告Y1社の業務に従事し,又は地域会社以外の被告Y1社の関連会社に出向し,社員就業規則73条(定年)に基づき,60歳まで勤務する。
被告Y1社の社員就業規則60条(転用・配置換等)又は61条(出向)に基づき,市場性の高い地域等を中心として,勤務地を問わず(全国への広域配転)成果業績に応じて高い収入を得る機会を追求する意欲を持った者に応える。
ウ 再雇用先の地域会社
(ア) 繰延型又は一時金型を選択した社員の再雇用先の地域会社は,アウトソーシング業務に従事している社員については,原則として当該業務が移行する会社とし,アウトソーシング業務以外に従事している社員については,本人の業務経験,スキル及び希望等並びに地域会社の人員状況等を考慮して決定される。
(イ) 勤務地に,原則として府・県単位の事業所とし,退職時に勤務している支店等が所在し,又は,入社後に初期配属された組織が対応する府・県から選択するが,希望がある場合には,本人の事情等を考慮し,例外的に他の府・県についても選択できるものとする。
(以上につき,乙12,弁論の全趣旨)
(4)  地域会社における契約社員制度の導入
本件制度により,退職・再雇用を選択した者は,地域会社に再雇用され,60歳の定年まで勤務した後,61歳以降は,契約社員として地域会社に再雇用され,最長65歳まで勤務することが可能となり,「一時金型」選択者には固定時間給制の「契約社員A」という契約形態,「繰延型」選択者には個々の技能に応じた個別時間給制の「契約社員B」という契約形態という,2種類の契約社員制度が創設された。
(5)  本件制度に対するb労組の対応状況
本件制度について,b労組は,平成13年4月,被告Y1社から本件構造改革の提案を受け,最終的にこれに同意し,本件構造改革の際,選択対象者である労働者の98.4%の者が,雇用の選択に当たって,退職・再雇用型(繰延型又は一時金型)を選択した(弁論の全趣旨)。
(6)  その後,被告Y1社は,本件制度の対象者を,各年度末における年齢が50歳となる社員にも拡大した。
なお,平成17年度以降,一時金型(上記(3)イ(イ))が廃止され,繰延型又は満了型から選択することとなっている。
(7)  被告Y1社は,平成18年1月16日から同年2月10日までの間,平成16年度までに満了型を選択した者(選択したとみなされた者を含む。)に対して,雇用形態及び処遇体系等の再選択(退職・再雇用型[おおむね上記(3)イ(ア)の繰延型と同内容。以下,両者併せて「退職・再雇用型」という。]又は満了型)の機会を設けた。
(8)  原告X1は,平成14年12月頃及び上記(7)の再選択時に,原告X2は,平成15年12月頃及び上記(7)の再選択時に,原告X3は,平成17年秋頃に,それぞれ本件制度の雇用形態等の選択を求められたが,いずれもその選択を行わなかったため,満了型を選択したものとみなされた。
(9)  被告Y1社は,平成24年4月5日,大量退職期の到来により社員が減少していくなどの人員状況や財務基盤,更には高齢者雇用に関する法的動向等を踏まえ,その後の処遇体系の見直しとして,新たに65歳まで継続して雇用する仕組みを整備することとし,平成25年度より,医療資格グループの社員を除き,雇用形態等の選択を実施しないこととした。なお,本件制度により,満了型を既に選択している社員については,60歳で就労終了を自ら選択していることを踏まえ,従前の扱いを変更しないこととされている。
(甲6,乙29)
(10)  原告らは,定年退職時期である満60歳に達した後に迎える最初の3月31日(原告X1については平成25年3月31日,原告X2については平成26年3月31日,原告X3については平成28年3月31日)に先立ち,被告Y1社に対し,自社又はグループ会社において60歳定年以降の雇用継続を希望する旨の書面を提出したが,被告は,原告らについて,いずれも定年退職したものとして扱った(甲9ないし14)。
(11)  被告Y1社における定年等に関する就業規則の内容及び改正経緯は,おおむね以下のとおりである。
ア 平成18年4月1日以降平成25年3月31日以前(以下「旧就業規則」という。甲1,乙18)
(定年等)
第71条 社員の定年年齢は満60歳とし,定年退職日は定年年齢に達した日以後の最初の3月31日とする。
2 前項の規定にかかわらず,病院の院長,副院長,科部長,センタ長並びに健康管理センタの所長については,これによらない場合がある。
3  社員は,会社のグループ会社への雇用を希望し,定年退職前に会社を退職した後,当該グループ会社に雇用された場合であって,かつ,健康に問題がない場合は,当該グループ会社において,定年退職後,当該グループ会社が定める更新基準に基づき,1年更新の契約社員として,最長満65歳に達した日以後の最初の3月31日まで雇用される。
イ  平成25年4月1日以降(以下「新就業規則」という。甲3,乙19)
(定年等)
第71条 社員の定年年齢は満60歳とし,定年退職日は定年年齢に達した日以後の最初の3月31日とする。
2 前項の規定にかかわらず,病院の院長,副院長,科部長,センタ長並びに健康管理センタの所長については,これによらない場合がある。
3 平成24年度末年齢が満50歳以下の社員(医療資格グループ及び特別専門職群である社員を除く)については,定年退職後,当該グループ会社等において,本人の希望により,1年更新の契約社員として,最長満65歳に達した日以後の最初の3月31日まで雇用される。
4  前項に規定する社員以外の社員については,雇用形態・処遇体系の多様化に伴う雇用形態選択により,会社のグループ会社での雇用を希望し,定年退職前に会社を退職した後,当該グループ会社に雇用された場合は,当該グループ会社において,定年退職後,本人の希望により,1年更新の契約社員として,最長満65歳に達した日以後の最初の3月31日まで雇用される。
なお,雇用形態選択により,会社のグループ会社での雇用を希望せず,定年退職まで会社で勤務することとなっている者については,定年退職後,当該グループ会社等において雇用されない。
(12) 被告Y2社及び被告Y3社の契約社員就業規則において,従前は,契約更新に関し,一雇用契約期間の欠勤日数が一定の日数を超えたとき及び健康に問題がない者と認められないときは更新しない旨定めていたが,上記(9)の処遇体系の見直し以後,同規定は削除されている(甲2,4,5,弁論の全趣旨)。
第3  本件の争点
1  被告Y2社及び被告Y3社に対する請求
原告らと被告Y2社又は被告Y3社の間の労働契約の成否(争点1)
2  被告Y1社に対する請求
(1)  被告Y1社による違法行為の有無及び被告Y1社の故意又は過失の有無(争点2)
(2)  原告らの損害の有無及び額(争点3)
第4  争点に対する当事者の主張
1  争点1(原告らと被告Y2社又は被告Y3社の間の労働契約の成否)について
(原告ら)
(1) 旧就業規則71条3項の「定年退職前に会社を退職した後,当該グループ会社に雇用された場合であって」という部分(以下「本件旧規定部分」という。)が平成24年法律第78号による改正[以下「平成24年改正」という。)前の高年法9条1項2号に違反すること
ア 平成24年改正前の高年法9条1項2号は,継続雇用制度を「現に雇用している高年齢者」が希望するときは,当該高年齢者を「その定年後も引き続いて雇用する制度」と定めているのに対し,本件旧規定部分は,その明文に反して,退職・再雇用型を選択しなかった従業員が被告Y1社を定年退職したとしても同被告において引き続き雇用されないというものである。このように平成24年改正前の高年法9条1項2号が定年(60歳)まで雇用した従業員を自社で引き続いて雇用する制度を求めていること(定年前に転籍しない限り雇用しない制度を許容していないこと)は,労働政策審議会が平成16年1月20日に厚生労働大臣に対して行った「今後の高齢者雇用対策について(報告)」と題する建議(以下「平成16年建議」という。)が同一企業グループ内で継続雇用するといった緩和策を示していないことからも裏付けられる。
イ 「高年齢者」とは55歳以上の者であり(高年法2条1項,同法施行規則1条),継続雇用制度は,「高年齢者が希望するときは」「定年後も引き続いて雇用する制度」であるから,当該従業員が55歳になった以降に継続雇用の希望を聴取しなければならない。また,実質的に見ても,60歳定年により5年以上前の時期に,定年時にどのような業務をこなすことができるか,親や配偶者,子どもの介護・教育等にかかる費用はどれくらいか,他企業へ転職が可能かなどを考慮して,定年後の働き方を想定することは困難である。にもかかわらず,本件旧規定部分は,従業員が55歳になって以降にその継続雇用の希望を聴取する旨規定していない。
ウ 原告らが退職・再雇用型を選択して65歳まで働いた場合の賃金総額は,満了型で60歳定年により退職した場合の賃金総額よりも111万3262円から702万5736円少なくなり,本件制度における退職・再雇用型は,60歳までの賃金が下がった上に定年後5年間ただ働きをさせられるに等しい。このような結果をもたらす本件旧規定部分は,年金受給開始年齢引上げによる経済的不利益を継続雇用で得られる賃金によって穴埋めするという高年法の趣旨に反するというべきである。また,原告らのように,異職種遠隔勤務を命じられる危険があっても,住宅ローンや子どもの学費等生活維持のために満了型の60歳定年までの賃金に加えて65歳までの賃金確保が必要と考える労働者にとっては,退職・再雇用型の勤務地・職種限定はメリットにならず,賃金減額のデメリットしかないから選択肢がないに等しい。
エ 以上のとおりであって,本件旧規定部分は,平成24年改正前の高年法9条1項2号に違反するというべきである。
(2) 新就業規則71条4項前段の「雇用形態・処遇体系の多様化に伴う雇用形態選択により」,「定年退職前に会社を退職した後,当該グループ会社に雇用された場合は」及び同項後段全部(以下「本件各新規定部分」という。)が平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反すること
ア 平成24年改正後の高年法9条2項は,継続雇用の対象企業を当該事業主のみから同一企業グループ内に拡大したものであるが,同項は,「当該事業主の雇用する高年齢者であってその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用する」制度が継続雇用制度に含まれると規定し,転籍時期が定年時であることを明記している。したがって,平成24年改正後も高年法9条1項2号は定年前に転籍しない限り雇用しない制度を許容していないというべきであるから,そのような制度を定める本件各新規定部分は同条項に違反するというべきである。
イ 本件各新規定部分については,上記(1)イ及びウで述べた点がいずれも当てはまる。したがって,この点からしても,同規定部分は,平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反するというべきである。
ウ 平成24年改正により労使協定による継続雇用対象者の選別を許容する制度(平成24年改正前の高年法9条2項)が廃止された。そして,同改正法の施行日(平成25年4月1日)に本件制度が廃止され,被告Y1社を60歳定年で退職する者が希望すれば,グループ会社で65歳まで継続雇用する制度が導入された。にもかかわらず,本件各新規定部分は,満了型を選択したとみなされた者を継続雇用対象から除外し,過去に満了型を選択した(とみなされた)者を継続雇用しないという選別基準を設けている。この点についても,平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反するというべきである。
(3) 原告X1と被告Y2社間並びに原告X2及び原告X3と被告Y3社間の労働契約の成立
ア 以上のとおり,本件旧規定部分は平成24年改正前の高年法9条1項2号に違反し,本件各新規定部分は,平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反しており,いずれも合理性を欠き,労契法7条により無効であるというべきであるから,原告らは,いずれも定年後再雇用の要件を満たすというべきである。
イ そして,原告X1においては旧就業規則,原告X2及び原告X3においては新就業規則の定年後再雇用の規定が適用され,定年後も被告Y2社又は被告Y3社において雇用が継続されるものと期待することに合理的理由が認められる一方,被告Y2社及び被告Y3社が原告らを雇用しないことについて,客観的な合理性があり,社会通念上相当であることについて何ら主張立証していない。よって,原告X1と被告Y2社間並びに原告X2及び原告X3と被告Y3社との間において,上記再雇用の規定に基づいて再雇用されたのと同様の労働契約が成立しているというべきである。
(4) 上記各労働契約における賃金の額及び支払日
ア 被告Y2社又は被告Y3社において,契約社員としてフルタイム(1日7時間30分)にて稼働する場合の時給額は,原告X1が920円,原告X2及び原告X3がそれぞれ1010円となる。また,1か月の所定労働日数は21日である。したがって,賃金月額は,原告X1が14万4900円,原告X2及び原告X3がそれぞれ15万9075円となる。
イ 被告Y2社及び被告Y3社の賃金は,毎月末締め当月20日払いである。
(被告Y2社及び被告Y3社)
(1) 本件旧規定部分が平成24年改正前の高年法9条1項2号に違反しているとはいえないこと
ア 平成24年改正前の高年法9条1項2号に「定年後」との文言があること及びグループ会社での雇用が明文で規定されていないことをもって,定年前の退職・グループ会社での再雇用が認められないということにはならない。同法が継続雇用制度の具体的な内容を定めていないことに照らせば,同法は,65歳までの安定した雇用が確保されれば,各企業の実情に応じた柔軟な制度の導入を容認しているというべきである。そして,本件制度は,被告Y1社の完全子会社である被告Y2社等という緊密な関係を有するグループ会社において,健康に問題がある者及び欠勤日数が一定日数を超えた者を除いて65歳まで継続雇用を行い,明確な要件で安定した雇用を確保するものである。したがって,本件制度は,平成24年改正前の高年法が許容する制度に当たるというべきである。
イ 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則1条は,高年法上の「高年齢者」に係る年齢について,「55歳」と定義しているものの,希望聴取する際の年齢が55歳以上でなければならないとまで規定していないこと,平成24年改正前の高年法は,継続雇用の希望聴取時期等を含めた継続雇用制度の内容に関する詳細までは明確に規定していないことからすると,これらの点については事業主の裁量に任されているというべきである。また,将来設計やライフプランについて50歳で想定することが一概に困難であるとはいえず,この点に関する原告らの主張は理由がないというべきである。
ウ 平成24年改正前の高年法9条1項2号は,何ら労働条件について制限を設けておらず,その具体的内容については,基本的には事業主の裁量に委ねられているというべきである。したがって,原告らが主張するように,退職・再雇用型の賃金総額が満了型の賃金総額を上回ることまでは法的に求められてはいない。
また,退職・再雇用型には,満了型と比べ,65歳まで継続雇用されることに加え,勤務地が限定され,被告Y1社を退職する際に退職金という形でまとまった金銭を受け取れるなどのメリットがあり,賃金総額のみを比較して,メリット・デメリットを論じることは妥当とはいえない。
エ 以上によれば,本件制度は,平成24年改正前の高年法に違反しているとはいえない。
(2) 本件各新規定部分が平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反しているとはいえないこと
ア 上記(1)アのとおり,平成24年改正後の高年法9条2項に「定年後」との文言があることをもって,定年前の退職・グループ会社での再雇用が認められないことにはならない。また,この点は,平成24年改正によって,従前解釈で許容されていたグループ会社での再雇用が明文化されている。そして,被告Y1社は,特殊関係事業主である被告Y2社及び被告Y3社との間で同項に定める契約を締結している。
イ 上記(1)イ及びウで述べたのと同様に,原告らが主張する継続雇用の希望聴取時期の点及び継続雇用制度の労働条件の点について,本件制度が平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反しているとはいえない。
ウ 本件制度は,旧就業規則において,健康に問題がある者及び欠勤日数が一定日数を超えた者を除き,希望者全員を65歳まで継続雇用するという対象者を限定していない制度であったところ,新就業規則における本件各新規定部分においては,上記基準を撤廃し,継続雇用の対象者を限定していない。そうすると,結局のところ,原告らが再雇用されなかったのは原告らが本件制度における継続雇用を希望しなかったからにすぎないというべきである。
(3) 原告ら主張に係る労働契約が成立しているとはいえないことについて
ア 以上のとおり,本件旧規定部分は平成24年改正前の高年法9条1項2号に違反しているとはいえないこと,本件各新規定部分についても,平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反しているとはいえないこと,以上の点からすると,上記各規定部分は,いずれも労契法7条の合理性を欠くとはいえず,無効であるとはいえない。そうすると,本件制度において退職・再雇用型を選択せず,そのため旧就業規則又は新就業規則の定年後再雇用の要件を満たしていない原告らが継続雇用を期待したとしても,それが合理的なものとはいえない。
イ また,被告Y2社及び被告Y3社は,原告らから雇用の申込みを受けたこともなければこれを承諾したこともない。
ウ 以上によれば,原告X1と被告Y2社との間並びに原告X2及び原告X3と被告Y3社との間において,労働契約が成立しているとはいえない。
(4) 賃金の額及び支払日の点について
被告Y2社及び被告Y3社における賃金の支払日が毎月20日払いであることは認めるが,その余は争う。
2  争点2(被告Y1社による違法行為の有無及び被告Y1社の故意又は過失の有無)について
(原告ら)
(1) 原告らの継続雇用の期待が法律上保護に値すること
高年法9条1項は,個人の生存権(憲法25条1項)及び勤労権(同法27条1項)の保障を目的とすること,高年齢者雇用確保措置が努力義務から法的義務に高められるなど15年以上かけて65歳までの雇用確保を周知徹底してきたこと,法的義務化(平成18年4月1日施行)から原告らが定年を迎えるまで長期間(7年以上)が経過し,9割を超える事業主が高年齢者雇用確保措置を実施するに至ったこと,とりわけ,平成24年改正により,労使協定による継続雇用対象者の選別を許容する制度が廃止され,希望者全員を継続雇用する制度となったことにより,65歳までの継続雇用の期待が一層高まったこと,高年齢者雇用確保措置を怠る企業ほど保護される結果となるのは不当であること,以上の点からすれば,原告らが60歳定年後も被告らのいずれかに雇用されるとの期待は法律上保護に値する。
したがって,被告Y1社が自社又はグループ会社において原告らを継続雇用しなかったことは,このような権利又は法律上保護に値する利益を侵害するものである。
(2) 被告Y1社の故意又は過失
被告Y1社が,平成24年改正を受けて,自社を定年退職した従業員をグループ会社において定年後継続して雇用する制度を設けながら,満了型を選択した社員又は選択したとみなされた社員を継続雇用の対象から除外したことからすれば,被告Y1社が原告らの雇用継続を拒否するのは,原告らが,本件制度において退職・再雇用型を選択せず,本件構造改革に協力しなかったことに対する報復を意図したものであって,故意に等しいというべきである。
(被告Y1社)
(1) 高年法の継続雇用制度の導入義務は,公法上の義務にとどまること,上記1で述べたとおり,本件制度は,高年法に違反するものではないこと,原告らは,自ら本件制度における退職・再雇用型を選択しなかったこと,以上の点からすると,原告らについて,定年退職後も継続して雇用されることに対する期待は,法律上保護に値するものとはいえない。
(2) 被告Y1社が本件各新規定部分を定めたのは,満了型を選択した社員については自ら60歳での就労終了を選択していることや既に退職・再雇用型を選択した社員との処遇の整合性を踏まえたものである。したがって,本件各新規定は,本件構造改革に協力しなかった社員を排除する意図で制定したものではなく,被告Y1社に原告らが主張するような違法行為に関する故意又は過失があるとはいえない。
3  争点3(原告らの損害の有無及び額)について
(原告ら)
(1) 原告らは,被告Y1社の不法行為により,定年退職後5年にわたり被告らのいずれかに継続雇用されて賃金を得ることができなくなる経済的損害を受けた。また,それまでのキャリアを活かして働く機会を奪われた上,被告Y1社による報復として雇用を拒否されたことにより甚大な精神的苦痛を受けた。
このような有形無形の損害を慰謝する慰謝料額としては原告ら各自500万円を下回らない。
(2) 上記慰謝料額等に鑑みれば,被告Y1社の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては原告ら各自50万円が相当である。
(被告Y1社)
この点に関する原告らの主張については,いずれも否認ないし争う。
原告らは,自ら65歳までの雇用を実現できる退職・再雇用型を選択しなかったのであるから,60歳以降の継続雇用を前提とする賃金に相当する損害が発生する余地はない。また,原告らの主張を前提とすれば,原告らは,既に退職・再雇用型を選択した場合の賃金を上回る賃金を得ており,損害があるとはいえない。
第5  争点に関する当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1)  定年に関する法的規制及び高年法の改正について
ア 昭和46年,高年法の前身である中高年齢者の雇用の促進に関する特別措置法(以下「特別措置法」という。)が制定された。
イ 特別措置法は,昭和61年,同法の一部を改正する法律(昭和61年4月30日法律43号)により高年法へと名称変更され,その際,事業主が,その雇用する労働者の定年の定めをする場合には60歳を下回らないよう努力する義務が事業主に課せられた(同法4条)。
ウ 昭和61年6月6日,「長寿社会対策大綱」が閣議決定され,高齢者の雇用・就業の機会の確保について,60歳定年の定着及び60歳台前半層を含めた高齢者の雇用・就業の場の維持,拡大を積極的に推進し,当面65歳程度までの継続雇用を促進するものとされた。
エ 昭和63年6月17日,同年度から昭和67年度(平成4年度)までの5年間を計画期間とする「第六次雇用対策基本計画」が閣議決定され,その中で,65歳程度までの継続雇用を中心として高年齢者の雇用・就業の場を確保することが重要な政策課題となっているとして,60歳定年の定着を図るため,高年法に定められた行政指導を講ずること等により,企業に対する指導を強力に実施すること,また,65歳程度まで,同一企業あるいは同一企業グループ内において,定年延長,再雇用,勤務延長等により,勤務継続が行われることを促進することなどの対策を重点的に進めることとされた。
オ 平成元年10月24日,労働大臣(当時)から雇用審議会に対して,高年齢者,特に60歳台前半層の構造的ともいえる厳しい雇用失業情勢を改善し,65歳までの雇用機会を確保するための対策について,諮問が行われた。
雇用審議会は,平成2年3月1日,「事業主が雇用を確保する具体的な方法としては,定年の引上げ,再雇用制度,勤務延長制度等,多様な方法を講ずる必要がある」,「事業主は,定年退職者ができるだけ失業を経ることなく再就職することができるように,同一企業グループに限らず,高年齢者が培ってきた技能や経験が活かされる職場であれば広く再就職の機会に関するあっせん,情報の提供などの援助に努める必要がある」などとし,65歳までの雇用機会を確保する法的整備については,高年法の現行の規定との関連等に留意しつつ,法的整備を進めることとし,65歳までの雇用機会を確保する措置に関する規定については事業主の自主的努力を促進する趣旨の規定とすることが適当であること,60歳定年達成の目標に向けて適切な措置を講ずることが妥当であることなどを答申した(答申第21号)。
その後,同答申を踏まえて,高年法の一部を改正する法律が成立し,平成2年6月29日,同年法律第60号として公布された。
カ 同改正後の高年法は,4条の5を新設し,事業主が,60歳以上65歳未満の定年に達した者が当該事業主に再び雇用されることを希望するときは,原則として,その者が65歳に達するまでの間,その者を雇用するように努めなければならない旨規定した(継続雇用の努力義務の新設)。
なお,同規定は,60歳を超えると健康や体力の面等で個人差が拡大するため,事業主に対して,65歳までの雇用を一律に求めることは困難であること,他方で,事業主はその雇用する高年齢者について雇用機会を確保すべき責務を一般的に有することから,事業主は,定年を定めた場合であっても,定年後の再雇用を希望する定年到達者に関しては,その個々の状況を考慮しつつ定年後も雇用するように努めることが少なくとも必要であることを踏まえて定年後の再雇用の努力義務を設けたものである。
キ 平成4年7月10日,同年度から平成8年度までの5年間を計画期間とする「第七次雇用対策基本計画」が閣議決定され,65歳までの継続雇用の推進について,平成5年度までに60歳定年の完全定着を図るとともに,60歳定年を基盤として,働くことを希望する高齢者全員が65歳まで継続して働くことができる雇用システムの確立を図るため,継続雇用制度の一層の普及に向けての体制を整えることとされた。
ク 平成5年10月14日,労働大臣(当時)から雇用審議会に対し,65歳までの雇用機会を確保するための実効ある推進策に関して,法的整備の在り方も含め,諮問が行われた。
雇用審議会は,同年12月22日,60歳定年については,60歳未満定年制を解消するための法的措置を講ずる必要があること,60歳を超える雇用機会の確保については,高年齢者が長年にわたり蓄積してきた技能・経験を活かすことによりその能力を有効に発揮できるようにするため,同一企業又は同一企業グループ内において65歳までの定年延長,勤務延長,再雇用等の継続雇用を計画的かつ段階的に進めていくことが重要であることなどを答申した(答申第23号)。
また,中央職業安定審議会は,平成6年1月14日,労働大臣(当時)に対し,65歳までの雇用機会の確保等総合的な高齢者雇用対策の確立について建議を行った。
ケ 上記答申及び建議を受けて,高年法の一部を改正する法律案が国会に提出され,国会の審議を経て同法律が成立し,平成6年6月17日,同年法律第34号として公布された。
同改正後の高年法は,事業主がその雇用する労働者の定年の定めをする場合には,当該定年は,原則として,60歳を下回ることができないもの(4条)とそれまでの努力義務から60歳定年の義務化を図ったほか,同改正において,事業主は,その雇用する労働者が,その定年(65歳未満の者に限る。)後も当該事業主に引き続いて雇用されることを希望するときは,原則として,当該定年から65歳に達するまでの間,当該労働者を雇用するように努めなければならない旨の規定を維持したまま(4条の2),新たに65歳までの継続雇用制度の導入・改善計画の作成についての労働大臣の指示について定めた(4条の3)。
なお,答申第23号も,60歳以上の雇用に関し,60歳を超えると健康等の個人差が拡大するとともに,就業ニーズも多様化することから,一律に定年延長によるのではなく,多様な形態による雇用・就業の場の確保が図られるようにするため,「同一企業又は同一企業グループ内において65歳までの定年延長,勤務延長,再雇用等の継続雇用を計画的かつ段階的に進めていくことが重要であり,事業主の自主的努力を更に促進するための法的措置を講ずることが適当」としていた。
また,平成6年に老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢を60歳から65歳へと段階的に引き上げることが決定された。
コ 高年法4条の2は,その後,平成12年法律第60号によって改正され,65歳未満の定年の定めをしている事業主は,当該定年の引上げ,継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入又は改善その他の当該高年齢者の65歳までの安定した雇用の確保を図るために必要な措置を講ずるように努めなければならないものと規定された。
また,平成12年に老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢も引き上げることが決定された。
サ 厚生年金の支給開始年齢について,60歳から65歳まで段階的な引上げが予定される一方,上記ケ記載のとおり平成6年法律第34号による高年法の改正後,事業主は,原則として60歳を下回る定年の定めをすることができない旨義務付けられたものの,高年齢者の65歳までの雇用については必要な措置を講ずべき努力義務を負うにとどまっていた。
そのような状況の下,平成15年4月以降,厚生労働省において「今後の高年齢者雇用対策に関する研究会」が開催された。
労働政策審議会は,同年10月以降,同研究会で出された意見を踏まえて検討を行い,平成16年1月20日,厚生労働大臣に対し,「今後の高齢者雇用対策について(報告)」と題する建議(平成16年建議)を行った。
シ 平成16年建議を受けて,高年法は,平成16年法律第103号(同年6月11日公布)によって改正され(以下「平成16年改正」という。),平成16年改正後の高年法9条は,平成18年4月1日施行された。
平成16年改正後の高年法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主が,その雇用する高年齢者(同法2条1項,同法施行規則1条により,55歳以上の者をいう。)の65歳(ただし,同法附則4条1項により段階的な施行が定められているため,平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間は62歳,平成19年4月1日から平成22年3月31日までの間は63歳,平成22年4月1日から平成25年3月31日までは64歳)までの安定した雇用を確保するため,以下の(ア)ないし(ウ)の措置のいずれかを講じなければならないとした。
(ア) 当該定年の引上げ
(イ) 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入
(ウ) 当該定年の定めの廃止
また,平成16年改正後の同条2項は,「事業主は,当該事業所に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め,当該基準に基づく制度を導入したときは,前項第2号に掲げる措置を講じたものとみなす」旨定めていた。
ス 厚生労働省において,平成22年11月以降,「今後の高年齢者雇用対策に関する研究会」が開催された。
また,同年12月13日に開催された同研究会において,定年前のグループ会社への転籍による継続雇用制度に関する裁判例として,被告Y1社を当事者とする裁判例(高松高等裁判所平成22年3月12日判決・労判1007号39頁(乙8)。本件制度が平成24年改正前の高年法9条の趣旨に反するとはいえないとするもの)等が紹介されている。
そして,同研究会は,平成23年6月,今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書を取りまとめた。同報告書は,平成25年度からの高齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の引上げに対応して,無年金・無収入となる者が生じることのないよう,希望者全員が65歳までの雇用を確保する方策として,法定定年年齢の引上げ(直ちに引上げは困難であるが引き続き議論を深めるべきとする。)や希望者全員の65歳までの継続雇用(継続雇用制度の対象者を限定する仕組みの廃止,雇用確保措置を講じない企業の企業名の公表等)等を検討している。
セ 労働政策審議会は,平成24年1月6日,平成23年9月12日以降,今後の高年齢者雇用対策について検討を重ねた結果,厚生労働大臣に対し,希望者全員の65歳までの雇用確保措置(継続雇用制度の対象者を限定する仕組みの廃止,継続雇用における雇用確保先の対象拡大等)及び生涯現役社会の実現に向けた環境の整備を内容とする「今後の高齢者雇用対策について」と題する建議を行った。
ソ 高年法は,平成24年法律第78号により改正され(平成24年改正),平成24年改正後の高年法は,平成25年4月1日,施行された。
平成24年改正後の高年法9条では,労使協定により継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定める制度(平成24年改正前の同条2項)が廃止され,新たに,同条1項2号の継続雇用制度に,事業主が実質的に経営を支配することが可能となる関係にある事業主等(特殊関係事業主)が高年齢者を引き続いて雇用することにより雇用を確保する制度が含まれる旨が明記された(平成24年改正後の同条2項)。さらに,平成24年改正後の同法10条3項では,厚生労働大臣は,前条1項に違反する事業主が同法10条2項の勧告に従わなかった場合にはその旨を公表することができる。
(以上アないしソにつき,甲15,23,26,乙1ないし6,25,33)
(2)  被告Y1社の財務状況
被告Y1社の経常利益(損失)は,平成11年度(第1期)が430億3100万円の赤字,平成12年度が1057億9300万円の赤字,平成13年度が1704億9500万円の赤字であったが,本件構造改革後の平成14年度が449億2500万円の黒字となり,それ以降は平成27年度まで黒字となっている(乙30)。
(3)  原告らの配属先
ア 原告X1は,本件制度の雇用形態等選択前は線路技術職であったが,平成15年4月1日以降被告Y1社京都支店ソリューション営業部,平成18年7月1日以降平成25年3月31日まで被告Y1社営業本部マーケティング部マーケティング推進部門京都センタに配属された。
イ 原告X2は,平成16年3月31日(本件制度の雇用形態等選択前)までは株式会社eに配属されており,同年4月1日以降被告Y3社設備ビジネス本部情報システム体系化推進部体系化推進担当,平成18年7月以降平成26年3月31日まで被告Y1社技術部情報システム体系化センタ(その後,平成19年7月に技術部を技術革新部へ名称変更,平成23年11月に技術革新部をネットワーク部に名称変更)に配属された。
ウ 原告X3は,本件制度の雇用形態等選択前は株式会社eに配属されていたが,平成18年7月1日以降Y1社営業本部マーケティング部マーケティング推進部門大阪東センタ,平成20年11月1日以降平成28年3月31日まで被告Y1社営業本部マーケティング部マーケティング推進部門企画担当地域強化PT・名古屋エリアグループ(その後平成25年10月に企画担当地域強化PT・名古屋エリアグループを名古屋センタへ名称変更)に配属された。
(以上につき,甲28,29,39,原告ら,弁論の全趣旨)
(4)  本件制度の雇用形態等選択による原告らの賃金額比較
原告らの雇用形態等選択後定年までの賃金総額及び退職・再雇用型を選択した場合の賃金総額は,別表のとおりである(乙32の①ないし③)。
(5)  本件制度に関する厚生労働大臣の被告Y1社に対する助言等の状況
被告Y1社は,これまで本件制度に関し,厚生労働大臣から,高年法10条に定める助言及び指導,勧告並びに勧告に従わない旨の公表をされたことはない(弁論の全趣旨)。
2  争点1(原告らと被告Y2社又は被告Y3社の間の労働契約の成否)について
(1)  はじめに
原告らは,前記第4の1(原告ら)のとおり,本件旧規定部分及び本件各新規定部分が,高年法9条1項2号に違反し,合理性を欠いて労契法7条により無効である旨主張する。
そこで,以下において,原告らの主張に沿って,本件旧規定部分が平成24年改正前の高年法9条1項2号に違反するか否か,本件新規定部分が平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反するかどうかについてそれぞれ検討することとする。
(2)  本件旧規定部分について
ア 被告Y1社が自社を定年退職した従業員を自社で継続雇用していない(定年前に転籍しない限り雇用していない)点(前記第4の1(原告ら)(1)ア)について
(ア) 上記1(1)で認定した高年法の立法目的,法的性格及び改正経緯を踏まえると,平成24年改正前の同法9条(以下,2(2)部分では,特に断らない限り,平成24年改正前のものを前提とする。)の趣旨は,事業主が雇用している高年齢者の60歳以後,65歳までの安定した雇用を確保するための措置を講じることによって,年金支給開始年齢までの間における高年齢者の雇用を確保するとともに高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことを可能とする労働環境を実現することにあると解するのが相当である。
(イ) ところで,平成16年改正の基礎となった平成16年建議の内容や高年法9条の改正経緯,同条1項は,上記措置として,定年の引上げ(1号)や定年の廃止(3号)による従前の雇用契約の継続のみならず,2号において,雇用契約を定年により一旦終了させた上で,新たに労働者と再雇用契約を締結する継続雇用制度を認めているものの,その再雇用契約の具体的な内容等についてまでは規定していないこと,以上の点を踏まえると,高年法9条は,その趣旨に反しない限り,各事業主がその実情に応じて多様かつ柔軟な上記措置を講ずることを許容していると解するのが相当であり,また,同条1項2号の継続雇用制度によって確保されるべき雇用の形態(再雇用契約の内容)については,必ずしも労働者の希望に合致した職種・労働条件による雇用であることまでは要せず,同希望や事業主の実情等を踏まえた常用雇用や短時間勤務,隔日勤務等の多様な雇用形態を含むものと解するのが相当である。
また,上記1(1)で認定説示した高年法の改正経緯によれば,60歳を超える者の雇用確保については一貫して,多様な形態による雇用・就業機会の確保が図られることが重要であり,そのために同一企業又は同一企業グループ内において定年延長,勤務延長,再雇用等の継続雇用を計画的かつ段階的に進めていくことなどが重要であるとされていたことが認められ,それらを踏まえて同法9条が規定されたと解するのが相当である。そうすると,少なくとも,同法9条は,同一企業のみならず同一企業グループにおいて継続して雇用・就業の場の確保を図ることも高年法の趣旨目的を達成するに足りる方法・手段として想定していたと認められる。以上の点に鑑みると,同条1項2号の継続雇用制度について,転籍という方法による雇用継続がおよそ含まれないと解することはできず,また,平成16年建議の中で同一企業グループ内での継続雇用に触れられていないことをもって,直ちに同一企業グループ内での継続雇用を否定する趣旨であるとまで解することはできない。
もっとも,上記したような高年法9条1項2号の趣旨及び同項が,事業主に対して,その雇用する高年齢者の安定した雇用を確保するために同項各号に定める措置を講じなければならないと定めていることに鑑みると,事業主が転籍型の継続雇用制度を採用する場合,特段の事情がない限り,事業主と転籍先との間で少なくとも同一企業グループの関係とともに,転籍後も高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性が認められなければならないというべきであって,平成24年改正後の同法9条2項は,その旨を明示した趣旨であると解される。
(ウ) 以上を踏まえて本件についてみると,被告Y2社及び被告Y3社は,いずれも平成24年改正後の高年法9条2項の特殊関係事業主に該当する(前提事実(1)ア)ところ,被告Y1社と被告Y2社及び被告Y3社との間には資本的な密接性が認められるのみならず,一雇用期間における欠勤日数が一定数に達した者や更新時に健康上の問題がある者を除き,基本的に再雇用及び更新されることとされている(前提事実(12))ことが認められ,これらの点からすると,被告Y1社と被告Y2社及び被告Y3社との間には事業主と転籍先との間に同一企業グループの関係とともに,転籍後も高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性が存在すると認められる。
(エ) 以上認定説示した点によれば,高年法9条1項2号は,継続雇用制度を「現に雇用している高年齢者」が希望するときは,当該高年齢者を「その定年後も引き続いて雇用する制度」と定めてはいるものの,同条項が,同条文の規定以外の雇用形態等を許容していないとは解されず,被告Y1社が自社を定年退職した従業員を自社で継続雇用していない点(定年前に転籍しない限り雇用していない点)をもって本件旧規定部分が高年法9条1項2号に反するとはいえない。
(オ) したがって,この点に関する原告らの主張は採用することができない。
イ 55歳以上の従業員から継続雇用の希望を聴取していない点(前記第4の1(原告ら)(1)イ)について
(ア) 上記1(1)で認定説示した高年法の改正経緯等に鑑みると,平成16年改正においては,同法8条が60歳までの雇用継続を当然の前提とし,同法9条1項2号が65歳までの継続雇用を確保するための措置の一つとして継続雇用制度を位置付けたと認めるのが相当である。そうすると,55歳という年齢が継続雇用制度に関する労働者の希望聴取との関係で格別な意味を持つと認められず,かえって,同法が,希望聴取の時期や方法について何ら規定していないことに照らせば,これらの点については,基本的に事業主の裁量に委ねられていると解するのが相当である。
(イ) また,①被告Y1社が50歳の時点で希望を聴取することとしたのは,本件制度の導入が平成13年の本件構造改革の一環であったこと(前提事実(2),(3))及びその際の同被告の経営状況(認定事実(2))に鑑みれば,本件構造改革により,被告Y1社の業務が大幅に縮小され,そのまま同社に在籍し続ける労働者については,従前と異なる職種や地域での勤務となる高度の蓋然性があったため,より早期に選択の機会を与えることが望ましい面があるなど,50歳の時点で,その後の雇用形態の選択に関する希望を聴取する必要性が認められること,②被告Y1社が平成14年1月及び平成18年1月ないし2月に同社の労働者に対し,雇用形態や処遇体系等を説明した上でその選択の機会を設け,その際,選択内容である雇用形態や処遇の内容(労働条件等)について具体的な説明を行っていること(前提事実(3),(7)),③原告らが各選択した時点においては,既に年金支給開始年齢の引上げが決まっており(認定事実(1)),原告らも60歳定年後に無年金・無収入の時期が生じ得ることを認識していたと認められること,④本件構造改革の際,選択対象者である労働者の98.4%の者が,雇用の選択に当たって,退職・再雇用型(繰延型又は一時金型)を選択したこと(前提事実(5)),以上の点を総合的に勘案すると,50歳という時期における希望聴取自体が不合理であって,事業主である被告Y1社が裁量を逸脱濫用したとまで評価することはできない。
(ウ) 以上によれば,55歳以上の従業員から継続雇用の希望を聴取していない点をもって,本件旧規定部分が高年法9条1項2号に違反するとはいえず,この点に関する原告らの主張は採用できない。
なお,本件記録を精査しても,平成16年改正あるいは平成24年改正によって,事業主が改めて労働者に選択の機会を与えるべきことまでを法的に義務づけられたと解すべき個別具体的な根拠は認められない。また,退職・再雇用型については,雇用主及び労働条件の変更を伴うことに照らすと,社員が退職・再雇用型にするか,満了型にするかの選択を行わなかった場合,退職・再雇用型を選択したものとみなすことはできず,従来と同様の労働条件で被告Y1社との雇用関係が定年退職時まで続く満了型を選択したものとみなすこと自体は合理的であると解されるから,この点をもって,原告らの自由な意思による選択が妨げられたということはできない。
ウ 継続雇用を選択した従業員の方が不利益を被る点(前記第4の1(原告ら)(1)ウ)について
(ア) 確かに,上記認定事実(4)のとおり,原告らが満了型を選択するよりも退職・再雇用型を選択するほうが賃金の点で不利益となることが認められる。
しかしながら,①高年齢者の雇用が事業主に相応の負担を生じさせるものであり,高年法9条1項2号で定める継続雇用制度が各事業主の実情に応じた柔軟な措置をとることを許容していると解されること(上記(2)ア(イ)),②平成16年建議においても,「65歳までの雇用確保に当たっては,今後の労働力供給動向を踏まえた人材の確保,雇用・就業ニーズの多様化や厳しい経営環境の中での総コスト管理の観点からも,労使間で賃金,労働時間,働き方等について十分に話し合い,賃金・労働時間・人事処遇制度の見直しに取り組むことが必要である。」と指摘されている(甲26)こと,③本件制度は,本件構造改革の一環として導入されたものであり,その必要性及び合理性が認められるものであること(上記(2)イ(イ)),④退職・再雇用型を選択した労働者については,勤務地が限定的なものとなるという利益がある一方,賃金面での不利益に関しても,地域会社における退職金等において一定の緩和措置がとられていたこと(前提事実(3)イ,ウ),以上の点が認められ,これらの点に,⑤定年後の継続雇用制度に関する規定から,定年前の労働条件に対する規律まで導き出すことは困難であることをも併せ勘案すると,本件制度において,退職・再雇用型を選択した場合に,総所得が低下する場合があることをもって直ちに,本件旧規定部分が,高年法9条1項2号に反するとまではいえない。
(イ)a 原告らは,本件制度は,60歳までの賃金が下がった上に定年後5年間ただ働きをさせられるに等しく,このような結果をもたらす本件各旧規定部分は,年金受給開始年齢引上げによる経済的不利益を継続雇用で得られる賃金によって穴埋めするという高年法の趣旨に反する旨主張する。
しかしながら,①退職・再雇用型を選択した場合に満了型を選択した場合よりも賃金総額が低下するのは,定年前の賃金額が低下したためであって,実際にただ働きをするわけではないこと,②原告らの主張においても,退職・再雇用型を選択した場合は,定年後5年間で1100万円から1200万円の賃金を得られること,③原告らにとっては,退職・再雇用型の勤務地・職種限定はメリットにならないものであったとしても,労働者の事情は様々であることからすると,本件制度における勤務地・職種限定の点がメリットにならないとはいえないこと,以上の点に鑑みると,原告らが指摘する上記の点をもって,本件制度が高年法の趣旨に反しているとまではいえない。したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。
b なお,原告らは,本件構造改革自体が不要であった,平成25年度から実施された再構築(前提事実(9))によって,本件構造改革に伴う本件制度の導入に必要性も合理性もなかったことが明らかになった旨それぞれ主張するが,被告Y1社は,本件構造改革後,平成14年度に黒字化を達成し,同年度及び平成15年度に二期連続で増益になるなど,本件構造改革による一定の効果があったと認められること(認定事実(2),乙30),上記再構築は,その後の被告Y1社における経営環境や事業運営,人員構成や財務基盤,社会環境の変化(平成25年度から始まる公的年金の支給開始年齢の段階的引上げ等,今後の高齢者雇用に関する法的動向への対応を含む。)を踏まえつつ,処遇体系の再構築を図る目的で行われたものであると認められること(甲6,乙29),以上の点に鑑みれば,被告Y1社が平成25年度から上記再構築を実施したことをもって,平成14年に行われた本件構造改革の必要性及び合理性が否定されるものではないというべきである。したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであって,本件旧規定部分は平成24年改正前の高年法9条1項2号に違反するものであるとは認められず,この点に関する原告らの主張は,いずれも採用できない。
(3)  本件各新規定部分について
ア 定年前に転籍しない限り雇用していない点(前記第4の1(原告ら)(2)ア)について
(ア) 上記2(2)アで認定説示した点及び平成24年改正により高年法9条1項2号の継続雇用制度に,事業主が実質的に経営を支配することが可能となる関係にある事業主等(特殊関係事業主)が高年齢者を引き続いて雇用することにより雇用を確保する制度が含まれる旨が明記されたこと(同条2項)からすると,本件各新規定部分は,平成24年改正後の高年法9条1項2号(以下,2(3)部分では,特に断らない限り,平成24年改正後のものを前提とする。)に反しないと解するのが相当である。
(イ) そして,上記1(1)で認定説示した高年法の改正経緯によれば,今後の高年齢者雇用対策に関する研究会が平成23年6月に取りまとめた報告書(甲23)においても,継続雇用制度が各企業の実情に応じた対応を可能とする制度であることを前提とするなど,同法9条の趣旨に反しない限り,各事業主の実情に応じた柔軟な措置を採用することを許容するという基本的な方針は踏襲されていると認められる。そうすると,高年法9条2項は,「当該事業主の雇用する高年齢者であってその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用する」制度が継続雇用制度に含まれると規定してはいるものの,同条項が,同条文の規定以外の雇用形態等を許容していないとまでは解することはできない。
(ウ) したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。
イ 55歳以上の従業員から継続雇用の希望を聴取していない点及び継続雇用を選択した従業員の方が不利益を被る点(前記第4の1(原告ら)(2)イ)について
これらの点については,上記2(2)イ及びウで認定説示したとおりであって,本件各新規定部分が高年法9条1項2号に反しないことについては,上記2(2)イ及びウと同じである。
ウ 本件制度を廃止したのに満了型選択者を継続雇用対象から除外している点(前記第4の1(原告ら)(2)ウ)について
(ア) 前記前提事実のとおり,本件制度は,各年度末における年齢が50歳となる社員全てを対象に選択の機会を与えるものであること(前提事実(3),(6)),退職・再雇用を選択した者は,61歳以降,契約社員として地域会社に再雇用されるところ,従前も,被告Y2社及び被告Y3社の契約社員就業規則において,契約更新に関し,一雇用契約期間の欠勤日数が一定の日数を超えたとき及び健康に問題がないと認められないときは更新しない旨定められ,再雇用(更新)の対象者をほとんど限定していなかったが,処遇体系の見直し以後,同規定は削除されていること(前提事実(3),(4),(6),(9),(12)),以上の点が認められ,これらの点に鑑みれば,本件制度は,希望聴取をする時期を50歳となる年度に設定しているものの,退職・再雇用型選択者(希望者)全員を定年退職後も再雇用するという制度であって,労使協定により継続雇用制度の対象者自体を限定しているとは認められない。
(イ) そして,希望聴取をいつの時点で実施するかという点については,平成24年改正の経緯においても議論されていないこと(認定事実(1)),希望聴取の時期や方法について,何ら具体的に規定していないことは平成24年の改正前後で異ならないこと(これらの点は,上記説示したとおり,事業主の裁量に委ねられていると解するのが相当である。),以上の点を考慮すれば,本件制度を廃止したにもかかわらず満了型選択者を継続雇用対象から除外しているという本件各新規定部分が高年法9条1項2号に反するとはいえない。したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。
エ 小括
以上によれば,本件各新規定部分は平成24年改正後の高年法9条1項2号に違反するものであるとは認められず,この点に関する原告らの主張は,いずれも採用できない。
(3)  総括(地位確認請求及び賃金請求部分)
以上のとおりであって,本件旧規定部分及び本件各新規定部分ともに高年法9条1項2号に違反するとは認められず,合理性を欠いて労契法7条により無効であるともいえない。そうすると,原告らについては,定年年齢に達した日以後の最初の3月31日をもって,被告Y1社を定年退職したのであって,定年退職後において,被告Y2社ないし被告Y3社との間で,労働契約が成立していると認められない。したがって,原告らの本件請求のうち,地位確認及び賃金の支払を求める部分については,いずれも理由がないといわざるを得ない。
3  争点2(被告Y1社による違法行為の有無及び被告Y1社の故意又は過失の有無)について
(1)  原告らは,前記第4の2(原告ら)のとおり,原告らの60歳定年後も被告らのいずれかに雇用されるとの期待は法律上保護に値する旨主張する。
ア 確かに,高年法の改正経緯等によれば,抽象的には定年退職後における継続雇用への期待が高まった面があったことは否定できない。
イ しかしながら,上記2で認定説示したとおり,平成24年改正前後を問わず,高年法9条1項2号は,各事業主の実情に応じた柔軟な措置を許容していると解され,本件制度は,平成24年改正後も高年法9条1項2号に違反するものとはいえないところ,前記前提事実及び証拠(甲6,乙29)及び弁論の全趣旨によれば,①被告Y1社は,平成24年4月5日,原告らの所属するc労組に対し,「今後の事業運営等を踏まえた処遇体系の再構築」と題する書面を交付したこと,②同書面には,同再構築に当たり,満了型を選択した社員及び満了型を選択したとみなされた社員については再構築を適用しない旨記載されていたこと,③新就業規則においても,満了型を選択した社員及び満了型を選択したとみなされた社員については,定年退職後,当該グループ会社等において雇用されない旨記載されていること(前提事実(11)),④原告X1については,平成14年12月頃及び平成18年の再選択時,原告X2については,平成15年12月頃及び平成18年の再選択時にそれぞれ2度,原告X3についても,平成17年秋頃に1度とはいえ,60歳定年後再雇用を含む退職・再雇用型の選択の機会を与えられたがいずれも選択しなかったこと(前提事実(8)),⑤被告Y1社は,原告らに対し,定年退職後も再雇用することを期待させるような言動があったことを認めるに足りる的確な証拠は認められないこと,⑥被告Y1社は,平成24年改正後の高年法9条1項2号の継続雇用制度として本件制度を設けていたのであるから,高年齢者雇用確保措置を怠る企業であるともいえないこと,以上の点からすると,原告らが60歳定年退職後も被告らのいずれかに雇用されると期待していたとは認め難く,仮に,何らかの期待を有していたとしても,それは抽象的なものにとどまり,法的な保護に値するとまで評価することはできないといわざるを得ない。
(2)ア  この点,原告らは,被告Y1社が提示した労働条件が,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという平成24年改正後の高年法の趣旨に反し,違法である旨主張する。
しかしながら,上記2で認定説示したとおり,本件制度の導入については,その必要性が認められ,平成24年改正前後における高年法9条1項2号に違反するとはいえないこと,本件制度において,退職・再雇用型を選択した場合には,契約社員として定年退職後も5年間にわたって一定の収入が得られること,退職・再雇用型の社員が満了型を選択した社員よりも取得することができる賃金総額が低くなるのは,定年退職前の賃金が低下するためであり,その点については,そもそも高年法が直接規律するものであるとはいえないこと(上記2(1)ウ),以上の点に鑑みれば,被告Y1社が提示した労働条件が平成24年改正後の高年法の趣旨に反するものであるとは認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ  また,原告らは,被告Y1社が原告らの雇用継続を拒否するのは,原告らが,本件制度において退職・再雇用型を選択せず,本件構造改革に協力しなかったことに対する報復の意図によるものであり,著しく不合理な取扱いであって社会的に許容されないなどと主張するが,被告Y1社において,原告らが主張するような意図を認めるに足りる的確な証拠は認められず,その限りにおいて,原告らの同主張は理由がないといわざるを得ない。
(3)  以上のとおり,原告らは,60歳の定年退職後,被告らのいずれかに雇用されるという法的保護に値する期待権を有しているとは認められず,また,被告Y1社について,原告らが主張するような同権利侵害に関する故意又は過失があるとも認められない。したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
4  結論
以上によれば,原告らの本件各請求は,いずれも理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
(裁判長裁判官 内藤裕之 裁判官 松本武人 裁判官 溝口達)

 

別紙
当事者目録
京都市〈以下省略〉
原告 X1
大阪府豊中市〈以下省略〉
原告 X2
大阪府寝屋川市〈以下省略〉
原告 X3
上記3名訴訟代理人弁護士 城塚健之
同 増田尚
同 井上耕史
大阪市〈以下省略〉
被告 Y1株式会社
同代表者代表取締役 A
大阪市〈以下省略〉
被告 株式会社Y2
同代表者代表取締役 B
大阪市〈以下省略〉
被告 株式会社Y3
同代表者代表取締役 C
上記3名訴訟代理人弁護士 高坂敬三
同 嶋野修司
同 永原明
以上

〈以下省略〉

 

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