
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(264)平成22年 1月13日 東京地裁 平20(ワ)16308号 報酬支払義務確認請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(264)平成22年 1月13日 東京地裁 平20(ワ)16308号 報酬支払義務確認請求事件
裁判年月日 平成22年 1月13日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)16308号
事件名 報酬支払義務確認請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA01138011
要旨
◆原告と被告との間で、被告が原告に対し、訴外甲社が発行するオリジナルカードに関してカードが発行された会員1名につき250円の割合による報酬支払債務が存在することの確認を求めた事案において、被告による本件カードの発行と原告の営業活動との間には、因果関係があるとは認められず、また、発行された本件カードにしても、本件報酬契約及びこれを前提とした報酬額合意が前提としていたものとは異なるとして請求を棄却した事例
出典
ウエストロー・ジャパン
参照条文
民法415条
裁判年月日 平成22年 1月13日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)16308号
事件名 報酬支払義務確認請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA01138011
名古屋市〈以下省略〉
原告 株式会社アイエスアイ流通経済研究所
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 大野博昭
東京都文京区〈以下省略〉
被告 三菱UFJニコス株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 小沢征行
同 香月裕爾
同 佐藤良尚
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
原告と被告の間において,被告が原告に対し,株式会社バローが発行するオリジナルハウスカードに関してカードが発行された会員1名につき250円の割合による報酬支払債務が存在することを確認する。
第2 事案の概要
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに弁論の全趣旨及び括弧内に掲げた証拠によって容易に認定できる事実)
(1) 当事者
原告は,流通業に関するコンサルタント業などを目的とする株式会社である。
被告(旧商号日本信販株式会社)は,平成17年10月1日,商号をUFJニコス株式会社(以下「UFJニコス」ともいう。)と変更した上で,同年3日,株式会社ユーエフジェイカード(以下「ユーエフジェイカード」ともいう。)を吸収合併し,平成19年4月1日,株式会社ディーシーカード(以下「ディーシーカード」ともいう。)を吸収合併するとともに商号を現在のものに変更した(甲2)。なお,被告は,平成18年10月1日,協同クレジットサービス株式会社を吸収合併した(甲2)。
株式会社バロー(以下「バロー」という。)は,岐阜県多治見市を事実上の本店所在地として,岐阜県,愛知県を基盤とするスーパーマーケット及びホームセンターにおける販売を主要業務とした流通業を営むとともに,子会社においてスーパーマーケット,ドラッグストア,スポーツクラブなどの運営をしている会社であって,平成19年3月末日当時の連結資本金は119億1600万円,年間売上は2781億9100万円であり,同社は,平成7年10月,株式会社富士屋(以下「富士屋」という。)を吸収合併した(乙22)。
(2) 契約
ア 原告は,ディーシーカードとの間で,平成16年9月1日,次の内容の合意をした(以下「本件報酬契約」という。)。
(ア) ディーシーカードは,原告に対し,成功報酬として,ディーシーカードが獲得した提携カードの発行された会員数に応じて所定の成功報酬を支払う。
(イ) 原告の営業活動でかかる経費は,成功報酬の範囲で原告が負担する。
イ 原告とディーシーカードは,平成17年11月ころ,ディーシーカードが提携カード発行会社としてバローを獲得した場合の成功報酬額を,会員1名あたり250円とするとの合意をした。
(3) 被告によるバローの提携カードの発行
バローは,平成20年4月1日,被告との間でUFJブランドでの提携カードを発行するとの契約をした(以下「本件カード発行契約」という。)。
(4) 争いの存在
被告は,請求記載の債務の存在を争う。
2 争点
(1) 本件カード発行契約獲得と原告行為の関係
(原告の主張)
ア そもそも原告代表者は,富士屋にあっては,専務取締役営業本部長,C(以下「C」という。)は,常務取締役管理本部長,D(以下「D」という。)は,取締役店舗運営部長であった者であり,バローに合併後は,順に,常務取締役ホームセンター営業本部長(平成10年2月末日退任),取締役システム部長,ホームセンター店舗運営部長であったものである。
イ そして,ディーシーカードは,このような人脈を利用しようと原告に接近し,原告との間で,Cがトップダウンを嫌う男であることから,原告代表者ではなく,Dをまず先兵役としてCとの交渉に当たらせ,交渉が煮詰まってきた頃の最終段階で原告代表者がバロー代表者と直談判するとの役割を合意し,原告は,以下に述べるような営業努力をし,また,上記アのような原告の人脈があったからこそ,ディーシーカードは,バローに食い込めたものであり,本件カード発行契約の獲得は,このような原告の営業活動が寄与し,被告との合併によって,0.75パーセントとまでしか提案できなかったカード利用手数料について,規模の経済の論理から0.5パーセントまで落とすことができた結果として,実現できたものである。
すなわち,原告は,平成17年10月19日,ディーシーカード従業員から,バローがハウスカードの導入を考えているので,バローの有力な人物を紹介して欲しいとの依頼を受けて,原告のチーフコンサルタントであるDは,バローのハウスカード担当責任者であるC取締役に電話し,カード導入計画の可否,DCカード導入の可能性を確認し,会いましょうとのCの返事を伝えた。
Dは,同年11月16日,Cと会って,バローのカード導入計画についての説明を受けるとともに,DCカードの採用を依頼したところ,ベストな提案書を提出して欲しいとの返答を得て,ディーシーカード従業員に提案書の提出を急ぐよう依頼した。
原告代表者は,同年12月13日,バローに対する提案書の内容について,Dとともにディーシーカード従業員との間で打ち合わせを行い,同月22日,これを提出したとの報告を受けた。
Dは,同月30日,Cと会い,DCカードについてのバローにおける評価などについての情報交換を行い,DCカードが競合他社の交渉と同じ土俵に乗ったとの報告を受け,以後数度,ディーシーカード従業員は,Cとの打合せを持った。
原告は,平成18年5月10日,ディーシーカード従業員から,カード利用手数料についての各社の競争が厳しいとの報告を受け,同月30日にかけて,その対策を打ち合わせた。
ディーシーカードは,バローに対し,平成19年1月25日,システム経費として協賛金5000万円の負担を提案し,後日,その旨を原告に報告した。
ウ なお,被告によるディーシーカードの合併により,その後DCカードは,被告の有する複数のブランド(DCカード,UFJカード,ニコス)の中の一つに過ぎなくなった。また,このうちのどのブランドを採用するかについては,被告とバローが決めることであり,原告は関与できる立場になく,被告がDCカード以外のブランドを採用することによって,一方的に原告に対する報酬支払を免れることが可能になってしまう。そして,ディーシーカードを吸収合併した被告は,ディーシーカードと原告との間の契約関係の全てを当然に引き継いでいるのであるから,本件報酬契約における成功報酬の要件については,被告とバローとの提携カードの発行で足り,そのブランドがDCカードであるかどうかは,無関係であるというべきである。ちなみに,原告がバロー側から得た情報によると,UFJブランドを選択したのはバロー側であり,その理由は,「この地方ではUFJカードの名前の通りがよいのでUFJカードとしただけである」,「UFJ銀行との関係が決め手となったわけではない」とのことである。
(被告の主張)
ア 原告がCをディーシーカードに紹介し,提携カードの導入に関し,バローに対するディーシーカードの提案内容を確認し,DにおいてC等と接触したことは認めるが,その余の事実は否認する。
被告が,バローとの提携カードの導入について成約できたのは,ユーエフジェイカードであった頃からのユーエフジェイカードやUFJニコスのバローに対する営業活動の結果である。原告は,Dにおいて,Cその他の関係者に接触した以外には,営業活動らしき活動をしておらず,ディーシーカード担当者との打ち合わせにしても,有益な営業活動に該当するものではなく,原告の活動や交渉は,被告とバローとの提携カード発行には,何ら寄与していない。
イ すなわち,ユーエフジェイカード専務執行役員E(以下「E専務」という。)は,平成12年4月から,東海銀行常務取締役執行役員中部営業カンパニー営業統括担当,組織改編により平成13年2月より法人ビジネスユニット長として,ユーエフジェイ銀行を退任する平成14年6月まで,中部地区の営業の担任として営業のトップを務めた者であるが,農林中央金庫がメインバンク,東海銀行が準メインバンクであったバローに対し,銀行在職当時,東海銀行多治見支店の最重要取引先として定期的にトップ外交を実施するとともに,同支店の重要顧客を対象とした取引先会や財界の会合,冠婚葬祭等の場を通じ,バロー代表者と親密な関係を構築していた。
ウ そして,ユーエフジェイカードは,平成16年11月,ユーエフジェイ銀行多治見支店からバローが提携カードの導入を検討しているとの情報を得て,E専務を中心とした検討を開始し,同年12月,バローのF財務次長(現在は,財務部長。以下「F」という。)や提携カード導入検討部門のリーダーであるG(以下「G」という。)と面談するなどして情報収集等を行い,平成17年2月以降,バローの求めにより,提携カードの導入効果(黒字化)を出すための具体的な方策等や提携カードの導入に係る経済的条件(報酬金の支払や予想獲得会員数)等についてのシミュレーションを提出するなどした。
またUFJニコスに合併後は,平成18年11月頃,三菱東京UFJ銀行多治見支社から,バロー代表者がトヨタファイナンスとの提携カードの導入に大きく傾いているとの情報を得て,巻き返しを図るべく,同年12月4日,E専務らがバロー代表者に対するトップセールスを行い,その結果,流れが変わり,UFJニコスがバローの提携カードの導入候補先として残された。他方,ディーシーカードは,これを知らず,原告からもこのような状況について情報を得られなかったことから,対抗策を打てないままバローの提携カードの導入候補先から除外され,提携カード導入の可能性が事実上なくなったものである。
被告は,平成19年5月,バローが社内においてプロジェクトチームを正式に発足させたことに伴い,E専務らが当該チームの主要メンバーと交渉を行い,実務担当者間では定期的なミーティングを実施するなど,バローとの契約獲得に向けた積極的な活動を行った。
被告は,同年5月15日,同月17日,同年6月6日の3回にわたり,原告に対し,バローについては,取引銀行であるユーエフジェイ銀行との従前の関係を背景にして「UFJカード」ブランドでの交渉が進捗しており,「DCカード」ブランドでの提携は難しいことから,DCカードブランドでの提携に成功しておらず,原告の貢献度が明確ではないから成功報酬を支払えないと説明したが,原告はこの説明を受け入れなかった。
エ しかも,原告の活動には,主にCにしか接触しておらず,取引銀行に対する対策が欠如するという問題もあった。
オ なお,被告の発行するDCカードとUFJカードは,別個のカードブランドである以上,本件報酬契約における成功報酬は,DCカードブランドでの提携カードの発行を要件とするものであって,UFJニコスとディーシーカードが偶然合併したからといって,成功報酬の対象となる提携カードの種類にUFJカードブランドも含まれると解するのは不合理である。また,原告の営業活動は,そもそも,DCカードブランドでの提携カードの導入に向けられていたものであって,UFJカードブランドでの提携カードの導入に向けられていたものではない。
(2) 条件成就妨害
(原告の主張)
ア UFJニコスとディーシーカードは,平成18年1月26日,合併後の存続会社をUFJニコスとする合併に関する基本合意書を締結した。したがって,両者は,この時点で,バローの提携カード導入に向けて競争することが無意味な状態となり,バローのカード導入においてはUFJニコスを主体として進めることを内定させたものと思われる。ディーシーカードは,バローの提携カード発行となれば成功報酬の支払義務を負っていたところ,その担当者は,平成18年の春から夏にかけて,相次いで転勤し,同年7月以降は,低調な営業活動しか行わず,バローに対する営業活動から事実上撤退するとの形を取ったため,バローのカード導入に向けての競争においてディーシーカードは,事実上敗退した。
また,被告は,原告に対し,平成19年5月17日及び同年6月6日,これ以上営業活動を行うに及ばない,成功報酬を支払えないと述べて,原告にその日から営業活動をさせないようにした。
イ 上記アの事実がなければ,原告は,営業活動を続け,前提事実(3)の結果をもたらすことができた。
ウ 原告は,平成21年8月26日の本件弁論準備手続期日において,条件成就とみなすとの意思表示をした。
(被告の主張)
原告の上記ア及びイの主張は,否認する。
ア 平成18年1月26日に合併に係る基本合意が締結されたからといって,ディーシーカードの営業担当者らは,UFJニコスの営業活動の進捗状況を把握できず,合併によりディーシーカードのバローに対する営業活動が無意味になるか否かも判断できず,無意味な競争を避けるべく営業活動を控えるとの判断をすることもないから,原告の主張は憶測に過ぎない。
ディーシーカードは,それ以降もバローに対する営業活動を行い,バローに対し,平成19年1月29日には,同月中に決定してもらえない場合には,システム改修支援金2400万円を負担できないと伝えても,回答がなかったことから,提携カード導入の可能性が低いと判断し,その後,営業活動を特に行わなかったものである。
被告が営業活動の中止を告げたのは,原告が営業活動を継続しても,「DCカード」ブランドの提携カードが発行される可能性が事実なくなったため,営業活動の継続によって無駄になる原告の労力と費用に配慮したためであり,被告の社内事情によるものではない。
イ 「DCカード」での提携カード発行の可能性がないから,被告の行為と条件不成就との間に因果関係はない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件カード発行契約獲得と原告行為の関係)について
(1) 証拠(甲14ないし甲21,甲23,甲26,乙1の1ないし7,乙4ないし乙18,乙20ないし乙22,証人H,証人I,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア UFJカードは,旧東海銀行系の株式会社ミリオンカード・サービスが発行していたクレジットカードであるミリオンカードを前身とし,同社が平成14年に株式会社フィナンシャルワンカードと合併してユーエフジェイカードとなった結果,同社よりクレジットカードであるUFJカードが発行されるようになり,被告に合併後は,現在も,被告がこれを発行している。このカードは,中部地区において従前高いシェアを誇っていた旧東海銀行を前身とするユーエフジェイ銀行系のクレジットカードということもあって,同地区ではトップシェアを誇っている。
DCカードは,ダイヤモンドクレジット株式会社が発行していたクレジットカードであるダイヤモンドカードを前身とし,昭和59年に現在のものにブランド名が変更された。同社は,平成元年にディーシーカードに商号変更し,被告に合併後は,現在も,被告がこれを発行している。
NICOSカードは,被告が日本信販株式会社と称していた頃に発行していたクレジットカードである日本信販カードを前身とし,平成3年に現在のものにブランド名が変更され,現在も,被告がこれを発行している。
イ バローは,Jを代表取締役社長(平成6年6月就任)とし,Gを取締役企業設計統轄本部長兼総務部長(平成14年10月企業設計統轄本部長兼総務部長,平成15年6月取締役就任),Cを取締役システム部長(平成7年10月取締役就任,平成8年6月システム部長),Fを取締役財務部長(平成17年1月財務部長,平成18年6月取締役就任)とする会社であり(乙22),農林中央金庫をメインバンク,東海銀行を準メインバンクとしていた。
ウ ユーエフジェイカードは,平成16年3月8日,提携カード導入について,バローに接触を図るため,東海銀行多治見支店を前身とするユーエフジェイ銀行多治見支店に,バローのキーマンの確認などを依頼し,バロー代表者がカードに強い拒絶感を抱いているとの情報を得た(乙4)。
エ ユーエフジェイカードは,同年11月22日,ユーエフジェイ銀行多治見支店から,バローにおいてクレジットカード戦略の見直しを行うとの情報を得て,次週,バローを訪問し,バローのニーズを確認することの方針をE専務らにおいて立てるなどとした(乙5)。
オ ユーエフジェイカードは,証人Iにおいて,同年12月3日,ユーエフジェイ銀行多治見支店担当者とともにバローのFを訪問し,提携カード導入に関して方向性は持っておらず,情報収集し現状通りというのもあり得る,以前加盟店契約及び提携カードの発行先をオリコとしたのは,経済条件のみで決定したものであり,今回も当然そうなるなどの情報を得た上で,クレジットカード検討リーダーであるGへ面会約束の取り付けを依頼した(乙6)。
カ ユーエフジェイカードは,E専務や証人Iにおいて,同月21日,ユーエフジェイ銀行多治見支店担当者とともにバローのGらを訪問し,導入時期は未定であるが,グループ全体の提携カード導入を視野に2,3社と話をしている状態にあること,既発行のポイントカード会員数やホームセンターで発行している提携カード会員数等の情報を入手し,既契約先スーパーの導入効果を知りたい,各社より内容,経済面を全て確認し,どこと組むのが一番得策か検討したいなどの意向を聴取した(乙7)。
キ ユーエフジェイカードは,証人Iらにおいて,平成17年2月22日,ユーエフジェイ銀行多治見支店担当者とともにバローのG,F,Cらを訪問し,加盟店手数料,提携カードに関わる募集手数料や利用時の割戻率についての提案を行い,加盟店手数料については,ホームセンターにおける現在の料率の方が低いとして難色が示されたが,それ以外については,特に悪い反応はなく,各店の客数,客単価などを提供するので,5年程度の期間でカード導入効果(黒字)を出すにはどうすべきか具体的に示して欲しいとの希望や各店のPOSが統一されておらず,カード導入に伴う費用負担が生じた場合,捻出は難しいとの意向を聴取した(乙8)。
ク ユーエフジェイカードは,同年3月31日,ユーエフジェイ銀行多治見支店担当者とともにバローのG,F及びCを訪問し,G及びFに急用があったため,Cに対し,提携形態が異なることによる収支構造の相違に関わるシミュレーションを提示し,収支構造が理解できてありがたい,さらに検討を進めたい,提携カード導入時期としては明確ではないが年内にスタートしたい,どこから聞きつけるのか多数のカード会社から提案がありヒアリングを続けている状態で,自社発行についての提案は,ユーエフジェイカードが初めてである,もうしばらくカード各社のヒアリングをし,まずは数社に絞り込み本格的な検討に入りたいとの意向を聴取した(乙9)。
ケ ユーエフジェイカードは,同年6月17日,バローのF及びCを訪問し,十数社から条件面のヒアリングが完了し,現在まとめている状態にあり,今後は,各社にバロー側の要望事項を項目化し,それに対応できるかの確認を行う予定である,今後夏頃に条件を示し,方向性を決めた上で年内に導入する予定であり,カード事業は中期計画課題として正式に取り上げているものであり,ユーエフジェイカードの条件は競合他社に比べ劣ってはないが,勝っているものではないとの情報を得た(乙10)。
コ ユーエフジェイカードは,証人Iらにおいて,同年7月12日,バローのC,G及びFを訪問し,提携カードの会員獲得報奨金の支払につき,ユーエフジェイカードが年間会員数の上限を設ける提案をしているところ,上限を設けない設定又は会員残高に対する何らかの支払は可能か,また,バローの既存店舗数・来客数などにおいて自然体で獲得実施した場合,どの位の提携カード会員数・利用率を見ておけばよいのか提示して欲しいとの要望を伝えられるとともに,一次選考において何社か断り,二次選考として,ユーエフジェイカードを含む数社の中から提携先を決めていくとの情報を得た(乙11,乙21,証人I)。
サ ユーエフジェイカードは,証人Iらにおいて,同年8月5日,バローのC及びFを訪問し,先に依頼を受けた会員獲得ボリューム,収入及びコスト等のシミュレーション(理論値)を提示する一方,シミュレーションについては,外2,3社に依頼中であり,各カード会社からのヒアリング実施後,社内的に諮っていく段取りとしているとの情報を得た(乙12)。
シ ディーシーカードのKは,同年10月19日,Dに対し,バローの有力な人を紹介するよう依頼する一方,Dは,Cに電話して,面会する約束を取り付けるとともに,同年11月3日,Kと打ち合わせた上で,同月16日,バローのCを訪問し,以前十六銀行がDCカードの提案書を持参したが,ディーシーカードとの直接取引はなく,しかも,内容が陳腐であったので議論の俎上に載せなかったとの情報を得るとともに,提案書を提出するようにとの話を聞いて,Kに伝えた(甲23,原告代表者。なお,ディーシーカードは,カード導入についての事実上の責任者がGであるとの情報を得ておらず,同人への接触を図ることもなかった(証人H)。)。
ス ディーシーカードのLは,平成18年1月25日,原告代表者に内容確認を求めた上で,提携カード導入についての初期提案をバローにしたが,傘下の中部薬品株式会社(以下「中部薬品」という。)を通して提出するよう求められた(乙20。なお,甲23には,提案時期を平成17年12月中とし,その後数度,Cと面談したとする部分があるが,乙20と対比し容易に採用しがたい。)。
セ ユーエフジェイカードは,証人Iらにおいて,平成18年1月頃には,バロー傘下の株式会社アクトスが独自に提携カードの発行を検討しているとの情報を得て,同社に提案書を提出し,同年6月には,中部薬品から,独自にクレジットカードの導入を検討しているとして,提案書の提出依頼を受けて,これを提出した(乙13,乙21)。
ソ ディーシーカードは,同年5月10日,Lらにおいて,原告のDを訪問し,各社の競争が激しく,手数料率の引き下げを検討中であるとの報告をし,同月18日,M常務らにおいて,原告の協力に感謝するとの発言をし,その後,数度,原告との間で情報交換をし,同年6月30日,中部薬品を訪問し,バローグループとしての提携カードの検討状況についてのヒアリングを行い,同年7月,証人HがLから名古屋支店長を引き継いだ後は,証人Hにおいて,中部薬品でデモンストレーションを行うなどした(甲23,乙20,証人H)。
タ ユーエフジェイカードを合併した被告(UFJニコス)は,証人Iらにおいて,同年8月3日,ユーエフジェイ銀行多治見支店を前身とする三菱東京UFJ銀行多治見支社担当者とともにバローのCを訪問し,バローに対する提案内容は経営トップに上申済みである,導入可否については,現状検討中の段階で,決定時期は未定である,カード発行形態については,バローグループカードとして検討しているなどの情報を得た(乙13)。
チ 被告は,証人Iらにおいて,同年11月20日,バローのCを訪問し,提携カードを発行した場合の経済条件の提示を待っている状態であるが,カード導入に伴うコスト増は明確である一方,来店増や売上増等の得られるものが不明確であり,カード導入はトップの判断となるため,何らかの環境の変化がないと難しいのではとの見解を得た(乙14,乙21)。
ツ 被告は,証人Iらにおいて,三菱東京UFJ銀行多治見支社担当者から,バロー代表者がトヨタファイナンスの提携カードの導入に大きく傾いているとの情報を得て,同年12月4日,E専務らにおいて,バロー代表者と面談し,これまでの取り組みやバロー所在地における三菱東京UFJ銀行を含めた金融グループとしての基盤の強さなどを訴え,UFJカードの提案を受けるとの返答を引き出した(乙21,証人I)。
テ ディーシーカードは,証人Hにおいて,平成19年1月29日,バローに対し,バローから求められていたPOSシステム改修支援金の負担について,同月中にディーシーカードを提携先として決定してくれなければ,2400万円の経費負担はできないことを伝え,従前提出していた提携カード提案書を差し替えたが,特にバローの反応はなく,その後,バローに対する営業活動は特に行わなかった(乙20,証人H。なお,甲23には,上記金額を5000万円とする記載があるが,乙20と対比し,容易に採用できない。)。
ト 被告は,同年1月,N・JA営業推進部常務(以下「N」という。)において,中部薬品のO社長室長(協同クレジットサービス出身)から,中部薬品において,バローのクレジットカード導入に関する検討(評価)を実施し,上申していきたいとしているとの情報を得た(乙21,証人I)。
ナ 被告は,同年5月8日,Nにおいて,O中部薬品本部長から,同月7日,バローの部長会において提携カードの取り組みについて共有化し,来週,第一回目のプロジェクト会議を実施する,プロジェクトリーダーは,G1取締役企画開発本部長(G取締役の誤記との思われる。)であるとの情報を得た(乙1の1)。
ニ 被告は,証人Hにおいて,同月15日,原告を訪問し,P取締役に対し,取引銀行であるユーエフジェイ銀行との従前の関係を背景にして,UFJカードブランドでの契約交渉が進捗しており,DCカードブランドによる提携は難しく,今後は,UFJカードブランドでの提携カードの推進が行われるので,原告の貢献度が明確ではない(DCカードブランドによる提携に成功していない)本件においては,成功報酬を支払うことができないと伝え,P取締役は,早いタイミングではっきり言ってもらってよかったと発言した(乙20)。
ヌ 被告は,Iらにおいて,同年7月4日,Cを訪問し,具体的な提案をするよう依頼を受け,同月19日,各種手数料等の諸条件を提示するとともに,バローグループと被告との商圏的つながり,きめ細かなサポート体制,UFJブランド業務は名古屋に集中,MUFG・JA・地銀ネットの顧客基盤に裏打ちされたサービス提供など諸点を説明した(乙1の2及び3)。
ネ 被告は,E専務らにおいて,同月30日,バロー代表者を訪問し,被告との提携のメリットを,同年8月15日,バローのG,C及びFを訪問し,カード会社を取り巻く情勢や被告の優位性等を説明した(乙1の3及び4)。
ノ 被告は,Qらにおいて,同年8月20日,バローのC及びFを訪問し,会員獲得報奨金や手数料についての再考を求められ,同年9月7日,バローのGを訪問し,加盟店手数料等についての再確認を行うとともに,競合他社が一社であるとの感触を得た(乙1の5及び6)。
ハ 被告は,R中部営業部ゼネラルマネージャーにおいて,同年9月25日,バローのCから,昨24日の役員会において,提携カード発行会社が被告に内定したとの連絡を受け,その旨は,三菱東京UFJ銀行多治見支社にも伝えられた(乙1の7)。
(2) しかしながら,原告代表者の陳述書(甲23,甲26)や供述その他の本件全証拠に照らしても,原告がディーシーカードとの打ち合わせにおいて,バローの内部や他のカード会社の動静その他の情報やアドバイスなど,何らかの具体的事項を教示したとの状況やディーシーカードが平成19年2月以降もバローに対する接触を行っていたとの事実,さらには,提携カード発行会社が被告に内定した平成19年9月25日当時において,Cが,原告に対し,その旨を連絡したとの事実などは認められない。しかも,原告がバロー側から得たと情報であるとして主張するところによっても,本件カードについて,UFJブランドを選択したのはバロー側であり,その理由は,「この地方ではUFJカードの名前の通りがよいのでUFJカードとしただけである」,「UFJ銀行との関係が決め手となったわけではない」とのことであるとされているところであって,DCカードが有力な選考対象とされていたとの状況を窺うべき証拠は存しない。
さらに,本件報酬契約及びこれを前提とする報酬額の合意については,被告とディーシーカードの合併を前提としたものであることやディーシーカードが上記合併前からUFJカードブランドでのクレジットカードを発行していたことについての主張立証がなく,むしろ上記(1)アのとおり,東海銀行関係のシェアが高い中部地区におけるディーシーカードの提携先拡大との趣旨も伴うものと解しうるから,ディーシーカードの合併先である被告によるUFJカードの発行が,報酬支払要件を満たすものと解することはできない(なお,原告は,被告の有する複数のブランド(DCカード,UFJカード,ニコス)のどれを採用するかについて,原告は関与できる立場になく,被告がDCカード以外のブランドを採用することによって,一方的に原告に対する報酬支払を免れることが可能になってしまうともいうが,バローが決定する限りにおいては,被告との合併前と何ら変わりがない上,バローがDCカードを採用する意向を示しながらも,被告との協議によって,DCカード以外のものに決定されたのであればいざしらず,バローが,この地方ではUFJカードの名前の通りがよい等の理由から,UFJブランドを選択したとの上記事実関係のもとにあっては,DCカードの採用に向けられた営業活動が功を奏しなかったことに尽きるといわざるをえないことになる。)。
(3) したがって,上記(1)及び(2)に検討したところによれば,ユーエフジェイカードの時代を通じた被告によるバローに対する働き掛けは,既に平成16年から開始され,バローから試算用データの提供を得る程度にまで密接なものとなっていた一方で,ディーシーカードとバローとの接触は,DとCがかつて同僚であったという程度の関係(なお,原告は,交渉が煮詰まってきた最終段階では,原告代表者とバロー代表者との直談判を予定していたと主張するが,Cとの関係にしても,提携カード発行会社が被告に内定した当時におけるCの原告に対する連絡はないという程度のものである上,ディーシーカードにおいても,平成19年1月29日,同月中にディーシーカードを提携先として決定してくれなければ従前の提案を撤回し,その後の交渉を事実上断念するのに先立って,原告代表者とバロー代表者との直談判を求めるなどしていないことから,原告主張のような予定があったとは認めがたい。)にとどまるものであるから,被告による本件カードの発行と原告の営業活動との間には,因果関係があるとは認められず,また,発行された本件カードにしても,本件報酬契約及びこれを前提とした報酬額合意が前提としたものとは異なるから,争点(1)についての原告の主張は,採用できないことになる(なお,原告は,バローが本件カード発行契約を締結した理由の一つとして,被告の合併による規模拡大によって,手数料率を下げられるようになったことを主張するが,そのような関係を裏付けるに足る具体的証拠がない上,被告の合併も原告の営業活動とは無関係であるから,上記判断を左右するものではない。)。
2 争点(2)(条件成就妨害)について
(1) ディーシーカードは,平成19年1月29日,同月中に提携先として決定してくれなければ従前の提案を撤回するなどとして,その後の交渉を事実上断念するに至っていたことは,前記1に検討したとおりであるし,原告が,その時点以降において,なんらかの接触をバローに図ったとの事実を窺わせる証拠もない。
そうすると,ディーシーカードや原告としては,既に上記時点以降,本件カード発行契約の締結を期待しうる状況にはなかったというほかないことになる。
(2) また,ディーシーカードは,平成18年1月26日,UFJニコスとの間で合併に関する基本合意書を締結した以降,バローのカード導入においてはUFJニコスを主体として進めることを内定させたとの原告の主張については,何らの裏付けもなく,原告の憶測の域を出るものとは認められない。
(3) したがって,被告が,条件成就を妨げたとの関係は認められないから,争点(2)に関する原告の主張は,その余の点について検討するまでもなく,理由がない。
3 結論
以上によれば,本訴請求は理由がないから,これを棄却し,訴訟費用の負担について民訴法61条の規定を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 松井英隆)
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