「営業アウトソーシング」に関する裁判例(41)平成26年 9月26日 東京地裁 平24(ワ)34738号 譲受債権等請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(41)平成26年 9月26日 東京地裁 平24(ワ)34738号 譲受債権等請求事件
裁判年月日 平成26年 9月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)34738号
事件名 譲受債権等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA09268003
要旨
◆債権回収会社である原告が、訴外会社に対する譲受債権を有していたところ、同社は被告会社らにそれぞれ事業譲渡したとして、被告Y2社及び被告Y3社に対し、会社法22条1項の直接適用ないし類推適用により、5000万円の連帯支払を求め、被告Y1社に対し、詐害行為取消権に基づき、事業譲渡の取消し及び価格賠償として承継された資産のうち5000万円の支払等を求めた事案において、訴外会社から被告Y2社及び被告Y3社に対して会社法22条1項の事業譲渡があったとは認められないとするとともに、訴外会社から被告Y1社に対する財産権を目的とする法律行為は債権者を害する行為とは認められないとして、原告の各請求を棄却した事例
参照条文
民法424条
会社法22条1項
裁判年月日 平成26年 9月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)34738号
事件名 譲受債権等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA09268003
東京都千代田区〈以下省略〉
原告 アビリオ債権回収株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 山本純一
同 村松宏樹
埼玉県上尾市〈以下省略〉
被告(以下「被告エイチエム」という。) 株式会社エイチ・エム
同代表者代表取締役 B
さいたま市〈以下省略〉
被告(以下「被告橋本屋酒販」という。) 橋本屋酒販株式会社
同代表者代表取締役 B
埼玉県熊谷市〈以下省略〉
被告(以下「被告橋本屋HD」という。) 株式会社橋本屋ホールディングス
同代表者代表取締役 B
上記3名訴訟代理人弁護士 釘島伸博
同 中島寧
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告橋本屋酒販及び同橋本屋HDは,原告に対し,連帯して5000万円を支払え。
2 株式会社フカヤ企画(以下「フカヤ企画」という。)が,平成22年ころ,被告エイチエムとの間で行った事業譲渡を取り消す。
3 被告エイチエムは,原告に対し,5000万円及びこれに対する前項の判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,フカヤ企画に対する後記債権1ないし3の譲受債権を有していたところ,フカヤ企画は,被告らにそれぞれ事業譲渡をしたとして,①被告橋本屋酒販及び同橋本屋HDに対し,会社法22条1項の直接適用ないし類推適用により,連帯して5000万円(債権1の残元金4106万3375円のうちの2900万円,債権2の残元金1131万4743円のうちの800万円,債権3の残元金1836万1200円のうちの1300万円の合計額)の支払を求め,②被告エイチエムに対し,詐害行為取消権に基づき,事業譲渡の取消し及び価格賠償として承継された資産のうち5000万円(上記記載の債権1ないし3の各内金の範囲内の金額)及び本判決確定日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
第3 前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,各事実の末尾に記載の証拠若しくは弁論の全趣旨により認めることができる。)
1 当事者等
(1) 被告橋本屋酒販は,平成20年6月12日,設立され,同年8月20日,株式会社橋本屋浦和から現在の商号に商号変更した。被告橋本屋酒販の代表者代表取締役はB(以下「B」という。)であり,本店所在地は,さいたま市〈以下省略〉である。(争いがない)
(2) 被告橋本屋HDは,平成20年7月14日,設立された。被告橋本屋HDの代表者代表取締役はC(以下「C」という。)であったが,Cは,平成25年12月24日,代表取締役及び取締役を退任ないし辞任し,Bが,同日,代表取締役に就任した。本店所在地は,埼玉県深谷市〈以下省略〉であったが,平成24年2月14日,埼玉県熊谷市〈以下省略〉に移転した。(本店所在地の移転は弁論の全趣旨,その余は争いがない)
(3) 被告エイチエムは,平成20年6月12日,設立され,設立当初の商号は株式会社橋本屋上尾であり,平成22年1月6日,株式会社橋本屋に商号変号し,同年4月1日,現在の商号に商号変更した。被告エイチエムの代表者代表取締役はBであり,本店所在地は,埼玉県上尾市〈以下省略〉である。(争いがない)
(4) フカヤ企画は,昭和36年8月15日に設立され,平成23年2月16日,株式会社橋本屋から現在の商号に商号変更した。フカヤ企画の代表者代表取締役はCであり,本店所在地は,埼玉県深谷市〈以下省略〉である。(争いがない)
2 りそな銀行の貸付金
(1) フカヤ企画は,平成7年8月30日,株式会社埼玉りそな銀行(当時の商号は株式会社あさひ銀行。以下「りそな銀行」という。)との間で,フカヤ企画がりそな銀行に対する債務不履行の場合の遅延損害金を年14パーセント(年365日の日割計算)とする旨の合意をした。(甲2)
(2) りそな銀行は,平成19年4月27日,フカヤ企画に対し,支払期日を同年7月31日として,手形貸付の方法で,4182万円を貸し付けた(以下「債権1」という。)。(甲3)
(3) りそな銀行は,平成19年4月27日,フカヤ企画に対し,支払期日を同年7月31日として,手形貸付の方法で,1295万3000円を貸し付けた(以下「債権2」という。)。(甲4)
(4) りそな銀行は,平成20年12月24日,原告(当時の商号は三洋信販債権回収株式会社)に対し,債権1及び2を譲渡し,同月25日,フカヤ企画に対し,その旨通知した。(甲5の1・2)
(5) フカヤ企画は,平成20年12月24日から平成24年5月31日までの間,債権1及び2にかかる債務につき,それぞれ弁済し,原告は,同日当時,フカヤ企画に対し,債権1の残元金4106万3375円,債権2の残元金1131万4743円の各支払請求権を有していた。(甲24の1・2)
3 みずほ銀行の貸付金
(1) フカヤ企画は,平成9年3月18日,株式会社みずほ銀行(当時の商号は株式会社第一勧業銀行。以下「みずほ銀行」という。)との間で,フカヤ企画がみずほ銀行に対する債務不履行の場合の遅延損害金を年14パーセント(年365日の日割計算)とする旨の合意をした。(甲25)
(2) みずほ銀行は,平成18年ころ,フカヤ企画に対し,支払期日を平成18年12月10日として,手形貸付の方法で,4500万円を貸し付けた(以下,「債権3」という。)。(甲17の1,21,弁論の全趣旨)
(3) みずほ銀行は,平成19年12月27日,原告(当時の商号は三洋信販債権回収株式会社)に対し,債権3を譲渡し,同月28日,フカヤ企画に対し,その旨を通知した。(甲17の1,21,弁論の全趣旨)
(4) 原告とフカヤ企画は,平成20年7月29日,債権3について,次のとおり,裁判上の和解をした(東京地方裁判所平成20年(ワ)第9548号)。(甲6,11)
ア フカヤ企画は,原告に対し,本件譲受債務として,2350万2200円の支払義務があることを認める。
イ フカヤ企画は,原告に対し,上記アの金員を次のとおり分割して支払う。
(ア) 平成20年7月31日限り100万円
(イ) 平成20年8月から平成22年5月まで毎月28日限り100万円ずつ
(ウ) 平成22年6月28日限り50万2200円
ウ フカヤ企画が,上記イの分割金の支払を怠り,その金額が200万円に達したときは,フカヤ企画は,当然に期限の利益を喪失し,原告に対し,上記アの金員から上記イによる既払金を控除した残額及びこれに対する期限の利益喪失日の翌日から支払済みまで年14パーセント(年365日の日割計算)の割合による遅延損害金を支払う。
(5) フカヤ企画は,平成20年11月28日,同年12月28日,平成21年1月28日,上記(4)イ(イ)の支払を怠り,その額が200万円に達したため,同日の経過により期限の利益を喪失した。(甲17の1,弁論の全趣旨)
(6) フカヤ企画は,平成19年12月27日から平成22年10月22日まで,債権3にかかる債務を弁済し,原告は,同日当時,フカヤ企画に対し,債権3の残元金1836万1200円の請求権を有していた。(甲24の3)
第4 争点及び争点に関する当事者の主張
1 被告橋本屋酒販は,会社法22条1項の直接適用ないし類推適用により,フカヤ企画の原告に対する債務の弁済責任を負うか。(争点1)
【原告の主張】
(1) 事業譲渡について
ア フカヤ企画は,酒類,食料品,煙草,雑貨の販売等を目的とする会社であり,本部に経理・総務・管理等の事務部門を置き,メーカー・問屋から仕入れた酒類,清涼飲料水,食料品を最大11か所の直営店舗(花園店,本庄店,深谷店,大泉店,吹上店,上尾店,越谷店,本郷町店,浦和店,入間店,桶川店)や「○○ワイン館」という名称のホームページによるインターネット通信販売により,一般消費者に対して販売する事業を営んでいた。フカヤ企画の仕入先は,日本酒類販売株式会社,セント・ミハエルワインアンドスピリッツ株式会社,株式会社升喜,三国コカコーラボトリング株式会社,株式会社セカイタカ酒販であった。
イ 被告橋本屋酒販は,フカヤ企画の所在地を本店所在地とし,平成20年11月ころから,フカヤ企画と同じ仕入先のメーカー・問屋から仕入れた酒類,清涼飲料水,食料品を,フカヤ企画と同じ「○○」及び「○○ワイン館」を運営する被告エイチエムに卸す事業を行い,フカヤ企画のホームページの運営を引き継いで行っているので,フカヤ企画からその事業を譲り受けた。
ウ 事業譲渡にあたって,フカヤ企画から被告橋本屋酒販への従業員の移動,仕入部門のオフィスの設置,物流施設の設置,商品在庫・保証金・買掛金・未払金・労働債権の移動,取引形態,当面の運転資金について,被告橋本屋酒販の代表者Bとフカヤ企画の代表者Cで協議して事業承継が行われた。
フカヤ企画から被告橋本屋酒販へ,差入保証金,買掛金債務の承継があり,バイヤー3名が移籍し,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画大泉店の事務所一画を賃借し,フカヤ企画所有の桶川の倉庫を物流施設として賃借したので,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画から,在庫品,差入保証金,取引先に対する買掛債務,仕入担当従業員,事務所施設・物流施設の利用権の承継を受けた。
フカヤ企画の平成20年9月期試算表によれば,フカヤ企画には10億6876万9000円の流動資産と8億3473万7000円の固定資産が存在したところ,フカヤ企画は,平成21年2月,商品在庫,一定の固定資産,酒問屋に対する差入保証金を被告橋本屋酒販に引き継いだので,被告橋本屋酒販がフカヤ企画から引き継いだ資産価値は,少なくとも簿価にして約10億円,実質評価額にして約4億円であった。
エ フカヤ企画の業務には,メーカーや問屋から酒類を仕入れた後,フカヤ企画の各店舗に設置して販売できる状態とする業務が含まれ,これは,事業の重要な一部で,これらは一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能している。小売業務は,物品の仕入と一体となって初めて存続するのであり,事業譲渡というためには,事業の一部の譲渡があればよく,承継事業が単体で営業活動が完結する業務である必要はない。被告橋本屋酒販は,現在事業活動を継続していることから,移転された事業が一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産にあたることは明らかである。
また,事業譲渡の有無は,新旧会社の業務内容,商号,本店所在地,取引先の同一性,役員の関係性,旧会社の主要な事業用資産の譲渡の有無,事業譲渡の時期における譲渡会社の事業継続の可能性等を考慮して判断すべきところ,被告橋本屋酒販の事業はフカヤ企画の事業の仕入部門と同一であり,その商号も主要部分が同一で,取引先も共通し,仕入先に対する差入保証金を承継し,事業譲渡はフカヤ企画が期限の利益を喪失した直後であったから,事業譲渡があったことは明らかである。
なお,競業避止義務は,事業財産が譲渡されたことによる効果であるから,事業譲渡の要件ではないし,一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産の移転であれば足り,譲渡財産が重要な一部かどうかも要件ではないし,譲渡会社と譲受会社の事業が同じである必要もない。免許事業の譲渡につき取得免許の選択は当事者の合理的選択によるもので,免許の種類の違いは,事業譲渡とは関係がない。
被告橋本屋酒販は,事業譲渡を否認するが,Bは,原告からの問い合わせに対する回答(甲9)で,Cも回答書(甲12)で,それぞれ事業譲渡を認めている。
オ よって,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画の事業を譲り受けた。
(2) 商号続用について
フカヤ企画は,平成23年2月16日の商号変更までの間,株式会社橋本屋の商号を使用し,○○の屋号を使用して,浦和,上尾等で酒類販売業等を営んでいた。被告橋本屋酒販は,平成20年6月12日から同年8月20日までは株式会社橋本屋浦和,同日以降は橋本屋酒販株式会社という商号を使用し,○○の屋号を使用して,浦和,上尾等でフカヤ企画の事業を継続している。
よって,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画の商号ないし名称を続用している。
(3) 事業によって生じた債務について
債権1ないし3にかかる各債務は,いずれもフカヤ企画の事業によって生じた債務である。
【被告橋本屋酒販の主張】
(1) 事業譲渡の要件について
会社法22条1項の事業譲渡は,①一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し,②これによって,譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ,③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ,競業避止義務を負う場合をいうと解するべきである。
(2) 本件における上記各要件の充足について
ア 本件では,フカヤ企画について,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産とは,酒類小売販売業の営業目的で組織化され有機的一体として機能する財産を意味することは明らかである。
被告橋本屋酒販が取得しているのは,酒類卸売業免許であって,酒類小売業免許ではないから,被告橋本屋酒販は,酒類小売販売業の営業をすることはできず,酒類小売販売業をフカヤ企画から譲り受けることもあり得ない。被告橋本屋酒販は,メーカーから求められる大量のロットを捌ける販売網もなかった。被告橋本屋酒販は,「○○ワイン館」ホームページを譲り受けていないし,運営もしていない。
被告橋本屋酒販が,フカヤ企画から差入保証金を引き継いだことは認めるが,差入保証金残高(1億円程度)を大幅に超える多額の買掛金債務(3億円程度)を引き継いだので,差入保証金を引き継ぐことも当然である。被告橋本屋酒販が,差入保証金,商品在庫,買掛金債務を受け継いだ当時,差入保証金と商品在庫の簿価合計額は買掛金債務に等しいもので,一般消費者に小売り販売されなければ,実質的交換価値はないので,実態としては,受け継いだ資産である差入保証金・商品在庫より,受け継いだ債務である買掛金債務のほうが多い状態であった。商品在庫は,買掛金支払サイトより商品回転サイクルのほうが早いことから,代金未払であり,フカヤ企画の主要な商品在庫は動産売買先取特権の対象であったことになり,一般責任財産を構成するものであったとはいいきれない。
イ 仕入業務は,流通小売事業者であれば,その営業活動の準備行為として当然に行っているもので,小売業務と有機的一体として機能して初めて酒類小売業の事業として成立するのであり,仕入業務単体で営業活動が完結するものではないから,仕入業務は,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産の重要な一部ということはできず,上記①の要件は満たさない。被告橋本屋酒販は,一次卸売業者として,主要メーカーと直接取引するために必要な高額の保証金を差し入れる能力がなく,メーカーから直接商品を仕入れる一次卸売業者と酒類小売業者の間に介在する二次卸売業者としてしか存在する余地はなく,酒類卸売業者として事業を継続していける展望は皆無であった。
ウ フカヤ企画が従前営んでいた営業活動はあくまで酒類小売業であり,仕入業務によって営業活動を営んでいたものではないから,仕入業務を営業活動として被告橋本屋酒販に受け継がせるということもなく,上記②の要件は満たさない。フカヤ企画の酒類小売業は,同社が仕入業務機能を喪失し,被告橋本屋酒販から仕入を行うようになった平成21年2月以降も,営業を継続していた。小売業務が仕入業務と一体となって初めて存続しうるのであれば,フカヤ企画の酒類小売業務は,仕入業務を喪失した平成21年2月以降は停止していたはずである。
エ 仕入業務は,流通小売業者であれば,当然に行われるべきものであり,あくまで営業活動の準備行為に過ぎないので,競業という概念とは相容れず,上記③の要件は満たさない。
オ 原告は,BやCが事業譲渡を認めていたと主張するが,BやCは,法律の専門家ではなく,判例上の事業譲渡の要件の理解はなかったので,その回答によって事業譲渡かどうかの法的評価をすることはできない。
(3) 本件における経緯について
フカヤ企画は,債権者による取引先信用調査の影響により,卸売業者から信用取引を停止され,現金取引を要求される窮状にあったため,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画への酒類卸売をすることとなった。
その後,フカヤ企画は事業を停止し,新たに,被告エイチエムが同様の酒類小売業を開始したため,以後,被告橋本屋酒販は,被告エイチエムに対して酒類を卸すようになった。このような経緯からしても,被告橋本屋酒販は,一貫して酒類卸売業を営んでおり,酒類小売業を営んだことはなく,それに必要な免許もない。
2 被告橋本屋HDは,会社法22条1項の直接適用ないし類推適用により,フカヤ企画の原告に対する債務の弁済責任を負うか。(争点2)
【原告の主張】
(1) 事業譲渡について
ア 被告橋本屋HDは,フカヤ企画の所在地を本店所在地とし,平成20年11月ころ,フカヤ企画のホームページ「○○ワイン館」の運営を引き継ぎ,被告橋本屋酒販及び同エイチエムの経理,総務,管理等の事務部門を行い,フカヤ企画と代表者が共通であるから,フカヤ企画から,ホームページの運営・その他のフカヤ企画の事務部門に関する事業を譲り受け,併せて人員や設備の承継も受けた。被告橋本屋HDの事業はフカヤ企画の事業における事務部門と同一であり,商号は主要部分で同一で,代表者も同一人物で,事業譲渡の時期はフカヤ企画が期限の利益を喪失し酒類小売業免許返上を求められた時期の後であるから,事業譲渡があったことは明らかである。
イ 仮に,被告橋本屋HDの業務が事務部門のみであったとしても,事務部門なくして事業を行うことは想定できず,事業の重要な一部の譲渡ということができる。小売業務は,物品の管理等の事務業務と一体となって初めて存続するのであり,事業譲渡というためには,事業の一部の譲渡があればよいので,承継事業が単体で営業活動が完結する業務である必要はない。
被告橋本屋HDがフカヤ企画から引き受けた事業は,11店舗を構えて,一般消費者に酒類,清涼飲料水,食料品を販売する事業の経理,総務,管理等を行う部門であり,被告橋本屋酒販や被告エイチエムの運営にかかる店舗とは異なるスペースに従業員を配置し,経理部門に銀行からの出向者を迎える必要がある規模で,平成21年1月のフカヤ企画の売上高が約49億円にのぼり,経理部門や金銭管理に必要な作業量が極めて膨大な作業量があったので,単なるバックオフィスと評価することはできない。むしろ,被告橋本屋HDが承継したものは,○○の名称で行われている事業に関する一切の金銭の管理,一切の対外的な文書の発受信,その他経理・庶務のすべて,すなわち○○として行われている事業を実質的に支配する重要なものであるから,一定の事業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産の承継にあたる。
なお,競業避止義務は,事業財産が譲渡されたことによる効果であるから,事業譲渡の要件ではないし,一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産の移転であれば足り,譲渡財産が重要な一部かどうかも要件ではない。
ウ 被告橋本屋HDは,事業譲渡を否認するが,BもCも,それぞれ事業譲渡を認めている。
エ よって,被告橋本屋HDは,フカヤ企画の事業を譲り受けた。
(2) 商号続用について
フカヤ企画は,平成23年2月16日の商号変更までの間,株式会社橋本屋の商号を使用し,○○の屋号を使用して,埼玉県深谷市で酒類販売業等を営んでいた。被告橋本屋HDは,埼玉県深谷市でフカヤ企画の事業を継続している。よって,被告橋本屋HDは,フカヤ企画の商号ないし名称を続用している。
(3) 事業によって生じた債務について
債権1ないし3にかかる各債務は,いずれもフカヤ企画の事業によって生じた債務である。
【被告橋本屋HDの主張】
(1) 事業譲渡の要件について
会社法22条1項の事業譲渡は,①一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し,②これによって,譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ,③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ,競業避止義務を負う場合をいうと解するべきである。
(2) 本件における上記各要件の充足について
ア 本件では,フカヤ企画について,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産とは,酒類小売販売業の営業目的で組織化され有機的一体として機能する財産を意味する。
被告橋本屋HDは,いわゆるバックオフィスを行っているにすぎず,フカヤ企画から,酒類小売販売業の組織化され有機的一体として機能する財産の譲渡を受けていない。被告橋本屋HDは,「○○ワイン館」ホームページを譲り受けていないし,運営もしていない。
イ 被告橋本屋HDは,フカヤ企画,被告橋本屋酒販,同エイチエムから事業委託を受けており,仮に,事務部門を引き継いだといえるとしても,総務や経理といった事務部門は,流通小売事業者に限らず,事業者一般が当然に有しているもので,小売業務と有機的一体として機能して初めて酒類小売業の事業として成立するので,上記①の要件は満たさない。
ウ フカヤ企画が従前営んでいた営業活動は,あくまで酒類小売業であり,事務部門によって営業活動を営んでいたものではないから,事務部門を営業活動として被告橋本屋HDに承継させるということは想定できず,上記②の要件も満たさない。
エ 事業者が組織として営業活動をする際に必然的に必要となるのが事務部門であって,あくまで営業部門のバックオフィスに過ぎないもので競業は問題とならないから,上記③の要件も満たさない。
3 フカヤ企画から被告エイチエムに対して,財産権を目的とする法律行為として,事業譲渡があったか。その財産権を目的とする法律行為は詐害行為として取り消され,被告エイチエムは,原告に対する価格賠償責任を負うか。(争点3)
【原告の主張】
(1) 財産権を目的とする法律行為について
ア フカヤ企画は,平成22年4月ころ,被告エイチエムに対し,「○○」の屋号を承継させ,流動資産・固定資産を承継させ,従業員も雇用してもらい,店舗運営に必要なレジシステム,什器備品,運搬具等を賃貸して,フカヤ企画の11店舗における酒類,清涼飲料水,食料品等を,ポイントカード利用者を含む一般消費者へ販売する事業,「○○ワイン館」のホームページからのインターネットによる酒類販売事業を引き継ぎ,もって酒類販売等の事業を譲渡した。被告エイチエムは,事業譲渡を否認するが,BもCも,事業譲渡を認めている。
フカヤ企画の従業員は,解雇された翌日に被告エイチエムに雇用されたので,期間の短さからすれば,従業員の雇用関係はフカヤ企画から被告エイチエムに承継されたといえるし,レジシステム等は賃借であっても,利用権は承継しているので事業譲渡はあったといえる。
イ 什器備品類等については,賃貸のほかに譲渡もしており,その合計額は約3150万円であるが,対価の支払はなく,実際は贈与であった。平成20年9月期のフカヤ企画の営業利益は2740万円,経常利益は1174万円だったから,のれんは少なくとも3000万円の価値があったが,のれんの譲渡に対価の支払はなかった。また,フカヤ企画は,平成21年2月ころ,その商品在庫を被告エイチエムに譲渡した。
ウ フカヤ企画の平成20年9月期試算表によれば,フカヤ企画には10億6876万9000円の流動資産と8億3473万7000円の固定資産が存在したところ,フカヤ企画は,平成21年2月,商品在庫と酒問屋に対する差入保証金を被告エイチエムに引き継いだので,その資産価値は少なくとも簿価にして約10億円,実質評価額にして約4億円であった。10億円超の流動資産と8億円超の固定資産が譲渡されたので,譲渡資産の価値は,原告が請求する5000万円を超えていることは明らかである。
(2) フカヤ企画の無資力と詐害性について
フカヤ企画の平成20年9月期試算表に記載された各勘定科目の実質評価額を基準とすると,フカヤ企画は,6億2136万円の債務超過であり,債権1ないし3にかかる各債務を負い,平成21年1月28日経過で期限の利益を喪失し,同月30日付けで提出された事業改善計画書においても資金難となることが予想される旨の記載があり,上記(1)の事業譲渡の当時,無資力であった。
上記(1)の事業譲渡は,被告エイチエムが,フカヤ企画に対してコンサルタント料や設備使用料を支払う合意がある以外は,対価の支払はなかったので,詐害性はある。無資力下において事業の譲渡をする以上,譲渡対価が適正でないなど,一般債権者を害する形で事業譲渡がされれば,それが詐害行為となることに変わりがない。
被告エイチエムは,フカヤ企画の従業員の雇用維持が目的であったと主張するが,事業を停止しつつ従業員の雇用確保を目的とするなら,破産や民事再生等の法的倒産手続をとるべきであって,原告に知らせることなく事業譲渡を選択したので,事業譲渡が正当な目的のもとにされたとはいえない。
被告エイチエムは,ポイント残高も引き継いだと主張するが,将来にわたって1パーセント値引きしなければならないという意味にすぎず,負債を引き継いだわけではないし,不採算店舗を引き継いだと主張するが,フカヤ企画の第47期の売上総利益は7億6500万円,営業利益2700万円なので,詐害性を否定できない。被告エイチエムは,フカヤ企画は,被告エイチエムから受領する賃料やコンサルタント料で債務を返済していたと主張するが,平成22年4月以降のフカヤ企画の原告に対する弁済は,月8万円ないし10万円,合計120万円程度であり,譲渡された事業価値に比して著しく少額なので,詐害性は否定できない。
(3) フカヤ企画の悪意について
フカヤ企画は,上記(2)の事情を知った上で,上記(1)の事業譲渡をし,原告に対し,上記(1)の事業譲渡を事前に知らせなかったので詐害意思がある。
(4) 被告エイチエムの善意について
被告エイチエムは,フカヤ企画が実質的に債務超過に陥っていた平成20年6月に設立され,被告エイチエムの代表者Bは,上記(1)の事業譲渡以前は,フカヤ企画の業務管理部長だったので,被告エイチエムは詐害行為について善意ではない。
(5) 価格賠償の可否について
一体として移転した事業を元に戻すことは困難であるから,原告は,被告エイチエムに対し,現物の返還に代えて,事業価値に相当する価格の賠償を求めることができる。上記(1)の事業譲渡により被告エイチエムに承継された事業価値は,少なくとも5000万円である。
【被告エイチエムの主張】
(1) フカヤ企画は,平成20年ころ,商品仕入に関し,仕入先から現金取引を要求され,信用取引が困難となっていたため,平成21年から,被告橋本屋酒販が商品を信用取引で仕入れて,消化仕入方式(小売業者に陳列する商品の所有権を卸売業者等に残しておき,小売業者で売上が計上されたと同時に,仕入れが計上されるという取引形態)によって,フカヤ企画に卸す方式により,フカヤ企画に商品供給を図り,フカヤ企画の営業の継続を図っていた。
ところが,平成22年に入り,酒税当局から,消化仕入方式が酒税法に抵触するとの指摘を受けるに至り,行政側と協議の結果,フカヤ企画は,同年3月末日をもって酒類小売業免許を返上することを求められ,税務署から,自主返上に応じなければ,酒類小売業免許を取り消すとの強行姿勢を示されたため,フカヤ企画は,やむなく,同日限りで酒類小売販売業から撤退し,同日付けで従業員も全員解雇し,被告エイチエムに店舗運営を引き継いでもらい,酒類販売コンサルティング業により存続を図ることとした。なお,被告エイチエムは,平成21年2月ころ,フカヤ企画から商品在庫の譲渡を受けたことはない。
酒類小売業を行うには,酒類小売業免許を取得する必要があるので,フカヤ企画が酒類小売業免許返上を余儀なくされた以上,第三者が店舗運営を引き継がなければ,各店舗は平成22年3月末時点で閉鎖されることになる。仮に,被告エイチエムが,店舗運営を引き継がなければ,全従業員が解雇されたまま行き場を失い,顧客が貯めたポイントはすべて無価値になり,フカヤ企画の債権者に対する債務の弁済も平成22年4月以降滞る状態になっていたのであり,被告エイチエムが店舗運営を引き継いだことは詐害行為とはならない。被告エイチエムは,フカヤ企画からポイントカード制度を引き継いだが,同年3月末時点のポイント残高は10億4901万4957円であり,被告エイチエムは,同額分につき,顧客に対して無償で商品を提供しなければならない立場にあった。
(2) フカヤ企画の経営は,長期低落傾向にあったが,被告エイチエムは,不採算店舗を除外することなく,全店舗の運営を引き継いだ結果,経営不振から抜け出すことができず,平成25年にかけてインターネット通販事業から撤退し,同年3月までに11店舗中,1店舗開店し,6店舗を閉店し,希望退職を募って人員削減の大幅リストラを実施し,割増退職金を支払うなど,相当な負担を余儀なくされた。被告エイチエムは,不採算店舗もまとめて引き継いだ上で,自腹を切って起死回生の大リストラを敢行し経営を立て直さざるを得なかったことからすれば,店舗承継が詐害行為であると評価することはできない。被告エイチエムは,「○○ワイン館」ホームページを譲り受けて運営していたが,あまりに不採算であったため,同ホームページは,既に閉鎖されている。
(3) 被告エイチエムは,フカヤ企画から打診を受け,平成22年4月1日以降,フカヤ企画を解雇された従業員のうち希望する者のみを新規雇用し(全雇用契約を承継したわけではない。),フカヤ企画から,平成22年3月31日,店舗運営に必要不可欠なレジシステム・棚・ゴンドラ・冷蔵ケース等の什器,フォークリフト等の運搬具を月額55万円で賃借する設備使用契約を締結し,月額55万円のリース料を支払うこととなり(譲渡により承継したものではない。),同日付けで,フカヤ企画とコンサルティング契約を締結し,以降,コンサルティング料名目で月額20万円を支払うこととなった。事業譲渡であれば,雇用契約上の地位の移転を受け,店舗運営に必要な什器備品の譲渡も受けるはずであるが,そのような事実はない。
フカヤ企画は,平成24年5月31日まで,原告に対する返済を続けていたが,平成22年4月1日以降は,被告エイチエムから支払われる上記の設備使用料やコンサルティング料名目の金員が支払原資となっていた。仮に,フカヤ企画が,同年3月末に酒類小売業免許を返上して廃業していれば,翌月以降,フカヤ企画の責任財産に流入することはなかった。フカヤ企画の債務の返済は,フカヤ企画の各債権者に対する按分返済であり,原告の債権額は,フカヤ企画の債務額の5パーセント程度であったが,同年4月以降に約120万円を返済したことからすれば,他の債権者にはより多額の返済をしていたことがうかがわれる。フカヤ企画が,平成22年3月末時点で破産手続の申立てなどをしていれば,平成20年9月試算表で17億円以上の負債があったので配当はほとんどなかったと思われる。
(4) 以上のとおり,フカヤ企画は,被告エイチエムに対して事業譲渡をしていないし,一連の経緯は,酒税当局の強い指導により,酒類小売業免許返上を余儀なくされたフカヤ企画の現状に鑑み,被告エイチエムが雇用の維持をはかるべく店舗運営を受け継いだにすぎないのであって,詐害行為に該当するものではない。
(5) 原告は,甲11の試算表によれば,10億円超の流動資産と8億円超の固定資産が逸出したと主張するが,甲11はあくまで平成20年9月期の試算表であって,事業譲渡があったと原告が主張する平成22年3月末とは異なる時点のものであり,あくまで簿価であり,時価への評価替えがされたものでもなかった。同試算表では,有形固定資産のうち,土地・建物関係が約9割を占めるところ,これらには,フカヤ企画の巨額の債務に関する根抵当権が設定されており,そもそも一般責任財産を構成するものとはいえない。在庫商品や差入保証金は被告橋本屋酒販が引き継ぎ,被告エイチエムは引き継いでいない。什器備品類は,実際には要修理,買い換え時期のものが多く,換価価値としては二束三文で簿価との乖離は著しかった。したがって,上記の原告の主張は誤った憶測に基づくものである。
原告は,事業譲渡があったと主張する平成22年3月末時点の事業の価値,フカヤ企画の一般責任財産の具体的不足額を主張立証していない。事業は,個々の財産が有機的に一体化した組織的な概念である以上,事業そのものについて成長性,集積性,生産性,安定性を加味した経営分析を経て,現実的な評価をすべきところ,原告はそのような立証はしていない。
同年4月から店舗運営を開始した被告エイチエムの純利益は,消費税納税を前提とすると,平成23年3月期で約1600万円,平成24年4月期で約790万円の赤字,同年と平成25年に合計5店舗を閉鎖して整理解雇をしても,同年3月期で7044万円,同年10月期試算で約2970万円の赤字であった。このような事業に,平成22年3月末時点で価値があったということはできない。
(6) 被告エイチエムは,フカヤ企画が無資力であったかどうかは,第三者であるから関知しないことである。そもそも被告エイチエムが店舗運営を承継したのは,税務署から平成22年3月末で酒類小売業免許を返上するよう求められたからであり,被告エイチエムは,具体的金額は不明ながらも,フカヤ企画に債務があることは知っていたが,支払原資を作るため,コンサルティング料などの名目で,被告エイチエムからフカヤ企画への月額75万円の金銭支払の合意をしたのであって,むしろ,フカヤ企画が債権者に対する返済原資をひねり出すことに協力したので,善意である。
第5 当裁判所の判断
1 証拠(各事実の末尾に記載),前記第3の前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 酒類販売業免許について
酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達によれば,酒税法9条に規定する販売業免許の区分及び意義は次のとおりとされている。(乙14)
酒類販売業免許とは,酒類を継続的に販売することが認められる次の販売業免許をいう。
ア 酒類小売業免許
酒類小売業免許とは,消費者,料飲店営業者又は菓子等製造業者に対して酒類を継続的に販売することが認められる酒類販売業免許であり,酒税の保全上酒類の需給均衡を維持するために酒税法11条に基づき,酒類の販売は小売に限る旨の条件を付されている販売業免許である。
イ 酒類卸売業免許
酒類卸売業免許とは,酒類販売業者又は製造者に対し酒類を継続的に販売することが認められる酒類販売業免許であり,酒税の保全上酒類の需給均衡を維持するために酒税法11条に基づき,酒類の販売は卸売に限る旨の条件を付されている販売業免許である。
(2) 被告らの設立
ア フカヤ企画は,創業1864年,会社設立昭和36年の株式会社であり,平成23年の商号変更前の商号は株式会社橋本屋で,「○○」の屋号により,各店舗において酒類小売業を業として行い,具体的には,各店舗において酒類と酒のつまみのような食品を販売し,その割合は概ね酒類が75,食品が25であった。(商号変更と設立は争いがなく,その余は乙17,被告ら代表者19,弁論の全趣旨)
イ Bは,平成10年にフカヤ企画に入社し,システム,人事,総務を担当し,平成17年ころからフカヤ企画の業務管理部長であったが,平成20年6月,将来,自ら酒類小売業を開業することを目的として,設立準備会社として,株式会社橋本屋浦和(被告橋本屋酒販),株式会社橋本屋越谷(休眠中),株式会社橋本屋上尾(被告エイチエム)の3社を設立した。Bは,当時,Bが設立した会社については,フカヤ企画に,「○○」の購買力を利用して仕入れの便宜を図ってもらい,ロイヤルティーを支払うことを念頭に置いていた。(甲7,9,14,乙17,被告ら代表者1ないし3,21,29,31,53,54)
ウ フカヤ企画は,業務拡大がうまくいかず,借入金が増大し,酒税法改正により新規参入が容易になったこともあり,競合店の増加により売上が減少していた。(乙17,被告ら代表者1,2)
エ フカヤ企画の代表者であるCは,平成20年7月,フカヤ企画やBが設立した会社も含めて,将来的に,事務をアウトソーシングして経費節減できるように,事務受託会社としての被告橋本屋HDを設立した。(甲10,乙17)
(3) 被告橋本屋酒販の酒類卸売業開始と被告橋本屋HDの事務業務受託
ア フカヤ企画は,主要な仕入先との間で,仕入額に応じて差入保証金の積立をして,その金額に基づいて信用取引をしていたが,一部債権者が実施した大口仕入先への調査により,主要仕入先から現金取引を要求されるようになり,平成20年11月から現金取引を余儀なくされていた。当時,フカヤ企画は,150社前後の卸売業者と,信用取引の方法,すなわち月末締め翌月末払で取引していた。(甲11,20,被告ら代表者3,4)
イ そこで,Cは,Bに対し,Bが設立した会社で,酒類小売業ではなく,酒類卸売業を行い,フカヤ企画が運営する店舗に商品を供給するよう依頼した。BとCが協議した結果,被告橋本屋酒販が酒類卸売業を行うこととし,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画の卸売業者に対する差入保証金(約1億円)と買掛金債務(約3億円)等を承継し,信用取引を継続するよう卸売業者を説得するため,フカヤ企画の商品在庫(約2億円)の所有権も承継し,消化仕入方式によりフカヤ企画と取引をすることとした。(甲9,11,20,乙17,被告ら代表者5ないし12,24,25)
ウ 被告橋本屋酒販は,平成20年8月20日,株式会社橋本屋浦和から現在の商号に商号変更した。酒販という名称は,一般的に卸売会社に使用される名称なので,卸を主体とする会社であることを明確にするためであった。(商号変更は争いがなく,その余は被告ら代表者54,55)
エ Bは,卸売業者を説得し,新たに信用を得る努力をした結果,フカヤ企画の最大の仕入先だった卸売業者が,被告橋本屋酒販との信用取引を了承してくれることとなり,これに続いて,他の卸売業者とも交渉し,被告橋本屋酒販は,卸売業者から信用取引により商品を仕入れることができるようになった。(乙17,被告ら代表者6,7,56,57)
オ Bは,平成20年の終わりころまでに,フカヤ企画を退職した。フカヤ企画で仕入れに専任していた従業員3名は被告橋本屋酒販に移籍した。(被告ら代表者23ないし25)
カ フカヤ企画と被告橋本屋HDは,平成20年11月20日,フカヤ企画が被告橋本屋HDに対し,文書の受発信,整理,保管に関する事項,金銭の出納に関する事項,経理及び庶務において本来処理すべき事務に関する事項に係る業務を委託し,別途定めた業務委託手数料を支払う,契約期間は同年12月1日から2年間,解約申入れがない場合は更新する旨の業務委託契約をした。(乙3)
キ 被告橋本屋酒販と被告橋本屋HDは,平成20年11月20日,被告橋本屋酒販が被告橋本屋HDに対し,文書の受発信,整理,保管に関する事項,金銭の出納に関する事項,経理及び庶務において本来処理すべき事務に関する事項に係る業務を委託し,別途定めた業務委託手数料を支払う,契約期間は同年12月1日から2年間,解約申入れがない場合は更新する旨の業務委託契約をした。(乙4)
ク 被告橋本屋酒販は,平成20年9月9日付けで酒類販売業免許の申請をし,館林税務署長は,橋本屋酒販に対し,酒類販売業免許(卸売に限定)について,平成21年2月3日付けで免許した。同免許は,邑楽郡〈以下省略〉の○○大泉店事務所内に仕切りを設けて被告橋本屋酒販の事務所を設置し,同所における酒類販売場のもので,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画に対して,同事務所部分の使用の対価として,賃料を支払うこととなった。併せて,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画から,空き家になっていた元パンの製造工場を倉庫として賃貸した。(乙1,被告ら代表者26,27)
ケ 被告橋本屋酒販としては,もともとフカヤ企画と卸売業者が直接取引していたところに,間に入った形になったので,儲けが出る程度の中間マージンをとることまではできず,そうかといって,主要な酒販メーカーと取引を開始するほどの営業力もなく,卸売業者として業績を伸ばしていく見通しはなく,フカヤ企画の手助けという側面が強かった。被告橋本屋酒販の卸売先は,若干業務拡大したものを除いて,ほとんどがフカヤ企画であった。(乙17,被告ら代表者12,33)
(4) フカヤ企画の経営状況の悪化
ア フカヤ企画の平成20年3月末時点での年間売上高は約49億3000万円,売上総利益は約7億6500万円,営業利益は約2700万円であったが,平成21年に入り,同年4月から同年9月までの6か月間の累計で,売上高は前年比約89パーセントと減少した。(甲11)
イ 売上高の減少については,平成19年8月で酒類小売業社の経営の改善等に関する緊急措置法が失効し,コンビニエンスストア,ホームセンター,ドラッグストアなど新たに酒類を扱う店舗が増加し,競争激化していたこと,ガソリンが高騰し,郊外型店舗を多く有していたフカヤ企画は影響を受けたことなどがあった。(甲11)
ウ フカヤ企画は,平成17年ころから約3年程度,ネット販売を行い,スタッフ社員4名,パート・アルバイト3名を配置し,ネット販売の平成19年度の売上高は3億0700万円で,粗利は5070万円であったが,キャンペーンエントリー費用などの変動経費負担が大きく,部門販管費は7880万円で,部門損益では約2800万円の赤字であった。(甲11)
エ フカヤ企画の平成20年9月末における借入金残額は,11社に対し合計約14億円であり,その時点で,年間粗利益は3億2000万円,経費3億円,利益2000万円,その前提で事業収益からの返済原資1800万円,月額返済額は全債権者合計150万円を見込んでいた。(甲11)
オ フカヤ企画とCは,平成21年当時,少なくとも,深谷市〈以下省略〉に店舗建物・倉庫建物とその敷地,桶川市〈以下省略〉に店舗建物とその敷地,深谷市〈以下省略〉に物置建物を有していたが,これらにはその固定資産税評価額を上回る根抵当権が設定されていた。(甲11)
カ フカヤ企画は,平成21年1月30日,株式会社中央経営コンサルタンツに依頼して,事業改善計画書(甲11)を作成した。その中で,組織の再構築として,直接商品仕入れを行わず,協力会社等の仕入商品の委託販売業務を受託する販売専門会社となって,店舗販売に専念する,具体的には,被告橋本屋酒販に商品仕入れ及び在庫管理を引き継ぎ,フカヤ企画は被告橋本屋酒販から販売委託を受け,販売手数料を受領する旨をうたっていた。また,同様に,組織の再構築として,信用棄損回復のため,経理・総務・管理等の事務を削減し,外部(被告橋本屋HD)に経理及び人事の事務代行を委託することにより,人件費等の削減,事務の簡素化等の合理化を図ることを明記していた。(甲11)
(5) 被告エイチエムによるフカヤ企画の店舗承継
ア 被告エイチエムは,平成22年1月6日,商号を株式会社橋本屋上尾から株式会社橋本屋に商号変更し,同年4月1日,現在の商号に商号変更した。株式会社橋本屋上尾から株式会社橋本屋に変更したのは,被告エイチエムが酒類小売販売業免許の申請をする際,上尾以外の店舗でも営業をすることから,商号から地名を除いたほうがよいという税務署側の指導を受けてのことであり,株式会社橋本屋から現在の商号に商号変更したのは,商号に橋本屋の名称を残すと,法人格としては別であるフカヤ企画と紛らわしいという税務署側の指摘を受けてのことで,株式会社橋本屋で免許取得後に商号変更することとなった。(商号変更は争いがなく,その余は被告ら代表者57,58)
イ フカヤ企画は,平成21年の終わりころ,熊谷税務署から,消化仕入方式が違法であるとの指摘を受け,Cは,熊谷税務署と協議を続けた結果,平成22年2月ころまでに,同年3月末をもって酒類小売業免許を返上することで収束させるとの見通しとなった。(甲9,20,乙17,被告ら代表者12,13,33)
ウ 消化仕入方式とは,卸売業者が商品の所有権を持ったまま,商品を小売業者に卸売し,小売業者は,卸売業者に所有権のある商品を在庫として持って店頭に並べ,一般消費者に商品が売れた段階で売れた数だけ,商品の所有権が,卸売業者から小売業者,小売業者から一般消費者に移転するという方式である。酒税法上問題とされたのは,小売業免許を受けている者が,在庫も管理する必要があるのに対し,在庫の所有権が卸売業者にある場合,卸売業者が在庫を管理していることになり,小売業免許を受けている者が,一連の小売販売業務,すなわち仕入れ,在庫管理,販売,売上金の回収のすべてを行わなければならないという要件を満たさないと指摘されたことであった。(被告ら代表者34,50,51)
エ そこで,Cは,平成22年2月,Bに対し,フカヤ企画の店舗運営を承継するよう依頼した。Bは,フカヤ企画が酒類小売業免許を返上した場合,顧客の貯めたポイントはすべて無価値になり,従業員は全員解雇され,フカヤ企画は倒産することとなるが,短期間で店舗運営を承継する会社を他に探すのは困難であり,フカヤ企画が廃業すれば,被告橋本屋酒販も連鎖倒産してしまうことから,Cの申出を受けることとした。(乙17,被告ら代表者14)
オ フカヤ企画は,酒類販売業免許を返上することとし,フカヤ企画の酒類販売業免許(小売)は平成22年3月31日付けで取消しとなり,フカヤ企画は,同日付けで酒類小売営業を停止し,従業員を全員解雇した。(甲9,20,乙12,被告ら代表者35,36)
カ 被告エイチエムは,平成22年2月2日付けないし同月3日付けで,11店舗(浦和店,深谷店,越谷店,上尾店,桶川店,本庄店,大泉店,吹上店,入間店,本郷町店,花園店)について,それぞれ酒類販売業免許の申請をし,各店舗管轄税務署長は,同年4月1日付けで,被告エイチエムに対し,各店舗に関してそれぞれ酒類販売業免許(ただし,酒類の販売方法は,通信販売を除く小売に限る)をした。被告エイチエムは,平成23年12月1日付けで,酒類販売場の移転を申請し,大宮税務署長は,平成24年2月2日付けで許可をした。(乙15の1ないし12,被告ら代表者14,15)
キ 被告エイチエムと被告橋本屋HDは,平成22年4月1日,被告エイチエムが被告橋本屋HDに対し,文書の受発信,整理,保管に関する事項,金銭の出納に関する事項,経理及び庶務において本来処理すべき事務に関する事項に係る業務を委託し,別途定めた業務委託手数料を支払う,契約期間は同日から2年間,解約申入れがない場合は更新する旨の業務委託契約をした。(乙5)
ク 被告エイチエムとフカヤ企画は,平成22年3月31日,フカヤ企画が所有する設備(レジシステム,棚・ゴンドラ・冷蔵ケース等の什器,フォークリフトその他運搬具,その他店舗関連設備)につき,設備使用料月額55万円,契約期間同年4月1日から1年間,更新については双方の合意により決定する旨の設備使用契約を締結した。(乙7,被告ら代表者15,16)
ケ 被告エイチエムとフカヤ企画は,平成22年3月31日,店舗売り場づくりの指導業務,販売促進案の企画立案業務,その他店舗関連業務について,酒類販売に関する経営指導料月額20万円,契約期間同年4月1日から1年間,更新については双方の合意により決定する旨の酒類販売に関する経営指導(コンサルティング)契約を締結した。(乙8,被告ら代表者16)
コ Bは,被告エイチエムからフカヤ企画に対する設備使用料やコンサルティング料の支払は,フカヤ企画の債権者に対する返済の原資とすることをCから聞いており,価格設定の際もその点が考慮された。(被告ら代表者16,17)
サ 被告エイチエムは,平成22年4月1日,フカヤ企画が「○○」の屋号で運営していた各店舗の運営,ポイントカード制度,ホームページ運営,商品在庫を引き継いで開業した。フカヤ企画の平成22年3月3日時点の各店舗のポイント残高は,11店舗合計で10億4901万4957円,年間ポイント利用料は11店舗で約6000万円であった。(甲9,12,13,乙6,被告ら代表者18,34,36,37)
シ ポイントとは,100円の購入ごとに1ポイントが購入した客に貯まるシステムで,500ポイント貯まると,500円の金券として使用することができるというもので,顧客にとってはサービスであったが,顧客が多額のポイントで大量の商品を購入した場合は,現金が入らず,資金繰りという観点からは,会社にとって不利な状況になるものであった。(被告ら代表者59,60)
ス 被告エイチエムは,平成22年3月31日付けでフカヤ企画を解雇された者を含め,同年4月1日付けで34人の従業員を雇用した。その後は,同年6月に3人,同年7月に3人,同年8月に11人,同年9月に1人,同年11月に2人の従業員を新規雇用した。(乙10,被告ら代表者35)
(6) 被告エイチエムの経営状況
ア 被告エイチエムは,フカヤ企画に対し,平成22年4月から同年11月まで,上記の設備使用料(ただし,同年10月と11月については月額21万円)及び経営指導料を支払った。(乙11の1ないし8)
イ 被告エイチエムの純利益は,平成22年4月から平成23年3月までの期は382万0863円の赤字(消費税の納税義務免除がなかった場合は1611万4580円の赤字),同年4月から平成24年3月までの期は491万3585円の黒字(消費税の納税義務免除がなかった場合は790万7995円の赤字),同年4月から平成25年3月までの期は7044万1803円の赤字,同年4月から平成26年3月までの期は2969万1055円の赤字(平成25年10月末現在の月次試算表による経常利益)であった。(乙13,16,17,被告ら代表者17)
ウ 被告エイチエムは,平成22年4月時点で,フカヤ企画から店舗運営を引き継いだ11店舗(桶川店,深谷店,吹上店,越谷店,浦和店,本庄店,大泉店,上尾店,入間店,本郷町店,花園店)を営業していたが,平成23年12月に1店舗(本郷町店)を閉店し,平成24年2月に佐知川店を開店し,同年3月に1店舗(花園店)を,平成25年3月に4店舗(大泉店,本庄店,吹上店,入間店)を閉店した。(乙17,被告ら代表者17,弁論の全趣旨)
エ 上記のような業績悪化のため,被告エイチエムは,希望退職を募ったり,整理解雇するなどした。その結果,被告エイチエムの従業員は,平成22年11月末時点で49人であったが,平成23年11月末時点で40人,平成24年3月末時点で,3人新規雇用,3人退職,同年4月末時点で1人新規雇用,同年5月末から同年9月末までで,6人退職で,従業員数は35人,平成25年3月末から同年7月末までで,3人新規雇用,16人退職で,従業員数は22人であった。(乙9,17,被告ら代表者17)
オ 被告エイチエムは,ホームページによるインターネット販売も赤字であったため,平成25年3月でインターネット販売を終了した。(被告ら代表者20)
(7) フカヤ企画の経営状況
ア フカヤ企画は,平成23年2月16日,株式会社橋本屋から現在の商号に商号変更し,その旨をフカヤ企画の各債権者に通知した。(甲15)
イ フカヤ企画の平成22年4月から9月までの売上金額は月額157万8000円であり,同年10月と11月は月額107万8000円であり,同年12月から平成22年3月までは月額92万8000円であった。(甲22)
ウ フカヤ企画の所有する桶川店の土地・建物,本店(花園店)の土地・建物,本店倉庫の土地建物は,いずれも平成23年,競売開始決定があった。賃借人である被告エイチエムは,フカヤ企画に対し,賃貸物件が競売となったため,同年10月以降の賃料支払について,差入保証金と相殺してほしいと申し入れ,フカヤ企画は相殺に合意した。フカヤ企画は,その後の賃料につき,被告エイチエムが処分したゴミ処理費用126万6300円と相殺する旨の合意をし,その後の賃料については,債権者を伊藤忠エネクスホームライフ関東株式会社とする債権差押命令が発令された。(甲16,20)
エ フカヤ企画は,原告に対し,平成20年に債権3につき450万円,平成21年に債権1につき5万7000円,債権2につき56万9999円,債権3につき33万1000円,平成22年に債権1につき25万2300円,債権2につき49万3700円,債権3につき31万円,平成23年に債権1につき14万1715円,債権2につき2万1285円,平成24年に債権1につき26万0610円,債権2につき3万9390円,総合計697万6999円を返済した。(甲24の1ないし3)
オ フカヤ企画は,平成24年3月9日,株主総会決議により解散したとして,同月21日,その旨の登記がされた。(乙2)
2 被告橋本屋酒販の会社法22条1項による責任の有無(争点1)について
(1) 平成17年法律第87号による改正前の商法245条1項1号によって特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは,同法24条以下にいう営業の譲渡と同一意義であって,営業そのものの全部又は重要な一部を譲渡すること,詳言すれば,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し,これによって,譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ,譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条に定める競業避止業務を負う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である(最高裁昭和40年9月22日大法廷判決・民集19巻6号1600頁参照)。
(2) 前記認定事実によれば,①フカヤ企画は,「○○」の屋号で,その運営する各店舗ないしホームページのインターネット販売により,酒類小売業及び若干の食品を販売することを業とする会社であったこと,②フカヤ企画は,①の業務を行うために,酒類小売業免許を受けていたこと,③フカヤ企画は,150社以上の卸売業者から,一定の保証金を入れることにより,信用取引(月末締め翌月末払)の方法で取引をしていたこと,④フカヤ企画が酒類卸売業を行っていたとか,酒類卸売業免許を取得していたと認めるに足りる証拠はないこと,⑤フカヤ企画が,上記③の卸売業者から商品を仕入れることを中止し,もっぱら被告橋本屋酒販から仕入れることとしたのは,フカヤ企画の債権者の信用調査により,卸売業者のフカヤ企画に対する信用が毀損され,卸売業者がフカヤ企画に対する信用取引を中止し,他方,フカヤ企画としては,現金取引は資金繰りが苦しいため,商品仕入れに関して信用取引を続ける方法として,被告橋本屋酒販に依頼して,信用取引により卸売をしてくれる取引相手になってもらったこと,⑥被告橋本屋酒販は,酒類卸売業の免許のみ取得し,酒類小売業の免許は取得せず,酒類小売業は一切行っていなかったこと,⑦被告橋本屋酒販は,主として,フカヤ企画が仕入れをしていた取引相手である卸売業者を第一次卸売業者とし,自らは第二次卸売業者として,主としてフカヤ企画に商品を卸していたこと,⑧被告橋本屋酒販が,フカヤ企画が仕入れをしていた取引相手である卸売業者と取引をするに際し,信用取引をするための信用を失っているフカヤ企画とは別会社であること,その他の説明と説得をして,被告橋本屋酒販として新たに信用を得て,信用取引を開始することができるようになったこと,⑨被告橋本屋酒販は,フカヤ企画から,卸売業者に対する差入保証金,買掛債務,商品在庫の所有権を承継したが,その積極財産(差入保証金と商品在庫の所有権の合計額)と消極財産(買掛金債務)はほぼ同じ額であったこと,⑩被告橋本屋酒販が酒類卸売業を開業するにあたり,フカヤ企画の仕入れ専任の従業員3人が被告橋本屋酒販に移籍し,被告橋本屋酒販は,酒類卸売業免許がされた事務所につき,フカヤ企画の運営する○○大泉店の店舗の一角に仕切りを設けて事務所を設置し,賃料を支払ってフカヤ企画から賃借し,フカヤ企画から空き家になっていた建物を倉庫として賃借したこと,⑪被告橋本屋酒販が酒類卸売業を開業した後も,フカヤ企画は,仕入先が従前の業者から被告橋本屋酒販に変更した以外は,従前と同様の規模・内容で,信用取引の方法により仕入れて,従来から運営する店舗において一般消費者に対して酒類を販売する酒類小売業を継続していたことが認められる。
以上からすれば,フカヤ企画から被告橋本屋酒販に対して,差入保証金の譲渡,買掛金債務の引受,在庫商品の所有権の移転,従業員3人の移籍,事務所の一部の賃借や新たな倉庫の賃借といった財産の譲渡ないし移転があったことは認められるものの,被告橋本屋酒販が業として開始した酒類卸売業についていえば,フカヤ企画は,酒類卸売業免許を取得しておらず,酒類卸売業を行っておらず,これを承継したものではないし,そもそも被告橋本屋酒販が酒類卸売業を行うこととなったのは,フカヤ企画の信用が棄損されたことに端を発し,被告橋本屋酒販の一次卸仕入先は,フカヤ企画の従前の仕入先とほぼ同じであるとはいえ,フカヤ企画の信用が毀損されて,信用取引ができなくなったことに代わり,被告橋本屋酒販として,新たに信用を得て信用取引を開始したものであって,被告橋本屋酒販が酒類卸売業を開業した後も,フカヤ企画は,仕入先が被告橋本屋酒販に変更した以外は,従前と同様の規模・内容で,従来から運営する店舗において一般消費者に対して酒類小売業を継続していたのであり,被告橋本屋酒販は,酒類小売業を行ったことはないのであるから,これらの事実関係を前提とすれば,被告橋本屋酒販は,フカヤ企画から,酒類小売業という事業についていえば,そもそもその営業目的のために何らかの財産を譲り受けたということはできないし,仕入先取引相手を含む酒類卸売業という事業に関しても,フカヤ企画は酒類卸売業を行っておらず,仕入先との取引関係ないし信用取引により取引することができる地位を承継したものでもなく,被告橋本屋酒販において,新たに免許を取得して,新たに独自で仕入先との信用関係を築いて酒類卸売業を開始したものであるから,単なる差入保証金・在庫商品の譲渡・従業員3人の移籍・事務所の一区画や倉庫の賃借は単なる財産の譲渡にすぎず,これらのみをもって,酒類卸売業という営業目的のため,組織化され有機的一体として機能する財産の重要な一部を譲り受けたということはできない。
(3) 原告の主張について
ア この点,原告は,フカヤ企画の業務には,卸売業者から商品を仕入れた後,これらの商品を各店舗に設定して販売できる状態とする業務が含まれ,同業務は事業の重要な一部であって,フカヤ企画から被告橋本屋酒販に承継された差入保証金,買掛債務,商品在庫,従業員,事務所施設,物流設備の利用権,一定の固定資産は,一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産である,事業譲渡というためには,承継事業が単体で営業活動が完結する業務である必要はないと主張する。
しかしながら,(a)小売業者が,卸売業者から商品を仕入れて店舗に並べるのみで販売をしないのであれば,売上金の発生,収入,利益の発生はなく,あくまで一般消費者に対して商品を販売して初めて小売業が成立することはいうまでもないのであって,その意味においては,小売業を行う上での商品の仕入れは,小売業の準備行為にすぎず,それ自体のみをもって小売業の全部又は一部の営業的活動であるということはできないし,(b)フカヤ企画から被告橋本屋酒販に譲渡された差入保証金,商品在庫,移籍した従業員,賃貸された事務所等があれば,卸売業を開業できるものではなく,むしろ,本件において,被告橋本屋酒販が卸売業を開業する上で最も重要であったのは,酒類卸売業の免許の取得と,仕入先に対する信用の確保,これにより仕入先と信用取引の方法により取引を開始継続してもらうことであり,これらの要素がすべて相まって初めて,譲渡された財産も,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能するというべきところ,上記の最も重要な要素であった免許取得と仕入先の信用確保・取引開始継続は,フカヤ企画から被告橋本屋酒販に承継されたものではなく,被告橋本屋酒販が独自に新規取得したものであり,(c)フカヤ企画は,被告橋本屋酒販の卸売業開業により,その重要な一部の営業活動を失ったものではなく,むしろ,従前の仕入先の代わりに被告橋本屋酒販から仕入れを行うことにより,信用取引により仕入れが可能となり,従前と同様の小売業を継続することができたのであるから,そうであるとすれば,フカヤ企画が被告橋本屋酒販に譲渡したものは,単なる財産の一部の譲渡にすぎず,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産の重要な一部ということはできない。
イ 原告は,BとCが,債権者に対する回答書において,フカヤ企画から被告橋本屋酒販に,営業譲渡ないし事業譲渡があったと述べたことをもって,フカヤ企画から被告橋本屋酒販への財産の承継が,会社法22条1項の事業譲渡に該当すると主張するが,事業譲渡は,個々の財産の譲渡についての事実関係を前提とした評価的要素を含む文言であるところ,BとCは,会社法22条1項の事業譲渡の文言の意味を理解した上で,法律的な解釈として上記のとおり述べたものではないし,前記のとおり,証拠上認定できる事実関係を前提とすると,フカヤ企画から被告橋本屋酒販への財産の譲渡は,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産の重要な一部の譲渡ということはできないので,この点に関する原告の主張は理由がない。
(4) よって,フカヤ企画から被告橋本屋酒販に対して,会社法22条1項の事業譲渡があったということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,被告橋本屋酒販が,フカヤ企画の事業によって生じた債務について,会社法22条1項の責任を負うということはできない。
3 被告橋本屋HDの会社法22条1項による責任の有無(争点2)について
(1) 前記認定事実によれば,①フカヤ企画は,「○○」の屋号で,その運営する各店舗ないしホームページのインターネット販売により,酒類小売業及び若干の食品を販売することを業とする会社であったこと,②フカヤ企画は,①の業務を行うために,酒類小売業免許を受けていたこと,③フカヤ企画と被告橋本屋HDは,平成20年11月20日,フカヤ企画が被告橋本屋HDに対し,文書の受発信,整理,保管に関する事項,金銭の出納に関する事項,経理及び庶務において本来処理すべき事務に関する事項に係る業務を委託し,別途定めた業務委託手数料を支払う旨の契約をしたこと,④被告橋本屋HDは,同日,被告橋本屋酒販とも同様の契約をし,被告橋本屋HDは,平成22年4月1日,被告エイチエムとも同様の契約をしたこと,⑤被告橋本屋HDが,酒類小売業免許を取得したり,酒類小売業を行っていたりしたことはないことが認められる。
以上からすれば,フカヤ企画は,単に,被告橋本屋HDに対して,文書の受発信,整理,保管に関する事項,金銭の出納に関する事項,経理及び庶務において本来処理すべき事務に関する事項に係る業務を委託したのみであって,フカヤ企画から被告橋本屋HDに対して,何らかの重要な財産の一部が譲渡されたとか,その譲渡された重要な財産の一部が,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能していたと認めることはできず,フカヤ企画から被告橋本屋HDに対して,会社法22条1項でいう事業譲渡があったと認めることはできない。
(2) 原告の主張について
ア この点,原告は,被告橋本屋HDは,フカヤ企画のホームページのインターネット販売を承継し,経理・総務・管理等の事務部門を行い,代表者が同一人物で,商号も主要部分が同一で,人員や設備の承継も受け,その時期が,フカヤ企画が期限の利益を喪失して,酒類小売業免許返上を求められた時期の後であるから事業譲渡があったと主張する。
しかし,被告橋本屋HDが,フカヤ企画のホームページを承継したことや酒類小売業を行っていることを認めるに足りる証拠はないし,人員や設備の承継を受けたことを認めるに足りる証拠もない。また,被告橋本屋HDがフカヤ企画の経理・総務等の事務部門の業務を行っているのは,フカヤ企画との間で業務委託契約を締結し,その契約の履行として委託業務を行っているにすぎず,これをもって事業譲渡があったということはできない。代表者が同一人物であるとか,商号の主要部分が同一であるからといって,直ちに事業譲渡があったことになるものではないことはいうまでもない。なお,前記前提となる事実及び前記認定事実によれば,フカヤ企画が債権3について裁判上の和解による期限の利益を喪失したのは平成21年1月28日であり,酒類小売業免許の返上を求められたのは平成21年末から平成22年3月にかけてであって,フカヤ企画と被告橋本屋HDが業務委託契約を締結した時期(平成20年11月20日)とは必ずしも一致しない。よって,原告が,事業譲渡があったと主張する根拠は,いずれも理由がない。
イ また,原告は,事務部門なくして事業を行うことは想定できず,小売業は,物品の管理等の事務業務と一体となって初めて存続するので,事業の重要な一部であると主張するが,前記認定のとおり,フカヤ企画は,被告橋本屋HDに対して,文書の授受保管,金銭の出納,経理,庶務について業務委託をしたにすぎず,商品在庫の管理を委託したことを認めるに足りる証拠はないし,「事務部門の業務を譲渡した」ものでもないので,この点に関する原告の主張は理由がない。
ウ さらに,原告は,フカヤ企画は11店舗を運営し,経理部門に銀行からの出向者を迎えており,売上高が約49億円だったので,その規模からすれば,単なるバックオフィスであるということはできず,フカヤ企画の実質的支配を譲渡されたと同視できるかのような主張をするが,業務の規模が大きくなれば,業務委託が事業譲渡になるという理由はないし,規模いかんにかかわらず,文書の授受保管,金銭の出納,経理,庶務について業務委託は,あくまでこれらの業務委託にすぎないし,実質的支配については,被告橋本屋HDがフカヤ企画の経営ないし事業活動を実質的に支配していることを認めるに足りる具体的な証拠はないので,この点に関する原告の主張も理由がない。
(3) よって,フカヤ企画から被告橋本屋HDに対して,会社法22条1項の事業譲渡があったということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,被告橋本屋HDが,フカヤ企画の事業によって生じた債務について,会社法22条1項の責任を負うということはできない。
4 フカヤ企画から被告エイチエムに対する詐害行為の有無とその効果(争点3)について
(1) まず,フカヤ企画から被告エイチエムへの財産権を目的とする法律行為の有無及び同行為の詐害性の有無について検討する。
前記認定によれば,①フカヤ企画は,「○○」の屋号で,その運営する各店舗ないしホームページのインターネット販売により,酒類小売業及び若干の食品を販売することを業とする会社であったこと,②フカヤ企画は,①の業務を行うために,酒類小売業免許を受けていたこと,③フカヤ企画は,平成21年終わりころ,熊谷税務署から,消化仕入れ方式が違法であるとの指摘を受け,平成22年2月ころまでに,同年3月末をもって酒類小売業免許の返上を求められ,Cは,店舗の運営の引き継ぎをBに依頼したこと,④フカヤ企画は,同月末をもって,酒類小売業免許を取り消され,酒類小売業を停止し,従業員を全員解雇したこと,⑤被告エイチエムは,フカヤ企画が当時○○の屋号で運営していた11店舗につき,店舗ごとに酒類小売業の免許を受け,フカヤ企画から,レジシステム,棚・ゴンドラ・冷蔵ケース等の什器,フォークリフトその他の運搬具といった店舗関連設備の設備使用契約を月額55万円で契約し,経営指導のコンサルティング契約を月額20万円で契約し,ホームページの運営及びインターネット販売を承継したこと,⑥被告エイチエムは,同年4月1日付けで,フカヤ企画の従業員のうち希望する者を新規雇用し,上記⑤の11店舗について○○の屋号でその運営を開始し,ポイントカード,在庫商品を承継し,ホームページの運営を承継したことが認められる。
以上を前提とすれば,フカヤ企画から被告エイチエムへの財産の移転が事業譲渡であると評価することができるかどうかについてはさておき,フカヤ企画から被告エイチエムに対し,「○○」の屋号で酒類小売業を行う11店舗の運営とホームページによるインターネット販売の承継,レジシステム等の設備使用の賃貸借,希望する従業員の移籍があったことは認められ,財産権を目的とする法律行為があったことは認められる。
他方で,上記の財産権を目的とする法律行為の詐害性の有無については,(a)フカヤ企画は,税務署から酒類販売小売業の免許返上を求められ,同免許を取り消されたのであり,そうである以上,酒類販売小売業を継続することはできず,フカヤ企画が酒類販売小売業以外の事業を行っていたことを認めるに足りる証拠はないから,フカヤ企画は廃業ひいては倒産を免れなかったという状況にあったということができ,(b)フカヤ企画の財産であった○○の屋号で営業する11店舗の運営,同各店舗内のレジシステム等の設備及び什器備品等,在庫商品について,具体的にどの程度の交換価値があったかについては証拠上明らかではなく,在庫商品については,被告橋本屋酒販との間で信用取引をしていたことからすれば,その多くの所有権は被告橋本屋酒販に留保されていた可能性も否定できず,(c)開店中の店舗の場合は,いったん閉店後,一定期間経過の後の運営の承継は非現実的で,店舗としての価値を減じないためには,閉店期間を挟むことなく即日の承継が望ましいところ,運営中の11店舗,同各店舗内のレジシステム等の設備等,在庫商品といった財産について,免許返上の時期及び方針が決まった平成22年2月から免許返上の期限の同年3月末までの1ないし2か月の短期間で,具体的に引受する者がいたかどうか,いたとして,具体的に,どの程度の対価で処分することが可能であったかについても証拠上明らかではなく,(d)かえって,店舗運営が即日承継されず,従業員の引受もなければ,雇用上の問題が生じ,フカヤ企画が多額の労働関係債務を負担することになったということができ,(e)顧客との関係でも,一般消費者の信用を維持し,フカヤ企画による運営のときと同様の集客力を維持するためには,店舗運営の承継に伴い,ポイント制度も併せて承継することが必要であったと考えられるところ,その残額は10億円を超えており,店舗運営を承継することは,同時に10億円超のポイントの負担という事実上の消極財産も承継するものであったというべきであり,(f)他方で,フカヤ企画は,被告エイチエムとの間で,設備使用契約及び経営指導契約を締結することにより,継続的に,月額75万円の賃料収入を得ることができ,(g)前記認定事実によれば,上記金額は,フカヤ企画の債権者に対する弁済を前提として,被告エイチエムとの間で調整された金額であり,現に,フカヤ企画は,原告に対しても債務を弁済してきたことが認められ,(h)フカヤ企画が所有していた不動産は,評価額を上回る担保が設定されていたとはいえ,その所有権はフカヤ企画に留保されたままであったことが認められる。
とすれば,フカヤ企画から被告エイチエムに対する店舗承継がなかった場合,フカヤ企画が酒類小売業免許を取り消されて,○○の屋号で運営していた11店舗が閉店に追い込まれ,その屋号や事業としての価値が減価するままに,店舗承継する者も現れず,のれんや11店舗内の設備・在庫は交換価値のないものとなる一方で,多額の労働関係上の債務を負担する事態を免れなかったのに対し,店舗承継の結果,継続的な月額75万円の使用料ないしコンサルタント料の収入が入り,これにより債権者に対する弁済を継続することもでき,労働関係上の債務の負担を免れたのであるから,被告エイチエムがフカヤ企画から11店舗の運営を承継したことは,フカヤ企画の一般責任財産を減少させて,債権者を害する行為であったと評価することはできない。
(2) 原告の主張について
ア この点,原告は,コンサルタント料や設備使用料の支払合意がある以外は,対価の支払がなく,譲渡対価が適正でなければ,詐害行為となると主張するが,適正な譲渡対価については,具体的な主張立証はなく,被告エイチエムが,フカヤ企画から,負担したものを越える価値の財産を取得したことについて,何ら具体的な主張立証はない。原告は,平成22年4月以降のフカヤ企画の原告に対する弁済は,譲渡された事業価値に比して著しく少額なので,詐害性があると主張するが,前記のとおり,譲渡されたものの具体的な交換価値についての具体的な主張立証はないし,前記認定のとおり,フカヤ企画は,平成22年4月より前の時点においても,債務超過の状態にあって,原告に対して多額の返済をすることができる状況にはなく,さらに,前記のとおり,フカヤ企画が同年3月末で免許を取り消されて廃業していれば,翌月以降の弁済は一切見込まれなかったことが推認されるのであるから,原告に対する弁済額の多寡によって,詐害性を認める根拠とはならない。なお,原告は,フカヤ企画の47期の営業利益を前提とすれば詐害性があると主張するが,証拠(甲22)によれば,50期は平成22年4月1日から平成23年3月31日までであると認められ,とすれば,47期は,平成19年4月1日から平成20年3月31日までであると推認されるところ,原告が,詐害行為があったと主張する平成22年3月より2年以上も前の数値であって,これを前提として当時の営業利益と同視することはできない。
イ 原告は,什器備品類については,賃貸のほかに,贈与したものもあり,その価値は3150万円であったと主張するが,その具体的根拠は不明であり,これを認めるに足りる証拠はない。原告は,フカヤ企画の確定申告書添付の決算報告書(甲22)を根拠とするようであるが,同決算書の記載によっても,うち2616万0230円分については被告橋本屋酒販を相手とするものも含まれ,被告エイチエムを相手とする分の特定がない上に,譲渡された資産の内容・対価の有無も不明であるし,結局のところ,原告が指摘するのは単なる簿価上の数字にすぎず,当時の具体的な交換価値も不明で,その立証もない。前記認定のとおり,同日付けで店舗関連設備については対価を伴う使用契約が締結され,その後,対価として使用料が支払われていることも考慮すれば,甲22のみをもって,フカヤ企画から被告エイチエムに対し,3150万円相当額の財産の贈与があったと認めることはできない。
ウ また,原告は,フカヤ企画ののれんは3000万円の価値があり,これは対価なくして譲渡されたと主張するが,のれんに3000万円の価値があったことを認めるに足りる証拠はない。原告は,平成20年9月期のフカヤ企画の営業利益,経常利益を根拠とするようであるが,フカヤ企画から被告エイチエムへの店舗承継があった平成22年3月31日より1年半以上も前のものである上に,簿価上の数値であって,実質的な交換価値として評価されたものではなく,実質的な交換価値についての具体的な立証はない。かえって,前記認定のとおり,フカヤ企画は,同月末をもって酒類小売業免許を取り消され,廃業やむなしとの事態に追い込まれていたのであって,このような状況を考慮すれば,原告が主張するような価値があったと到底認めることはできず,他の承継された消極財産や,店舗設備・店舗運営の指導等の名目で対価が支払われていることや,時間的猶予がなかったといった事情も総合的に考慮すれば,屋号が承継されたことが,一般責任財産を減少させたことに該当するということはできない。
エ 原告は,平成21年2月に,フカヤ企画から被告エイチエムに対して,商品在庫8億円超と酒問屋に対する差入保証金10億円超が引き継がれたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない上に,前記認定のとおり,フカヤ企画の差入保証金は被告橋本屋酒販に承継されており,当時,被告エイチエムは,いかなる種類の酒類販売業の免許をも取得していなかったのであるから,問屋に対する差入保証金や在庫商品を取得することにメリットはなく,このような行為が行われたと認めることはできない。
(3) よって,フカヤ企画から被告エイチエムへの財産権を目的とする法律行為があったことは認められるが,同行為は,債権者を害する行為であったと認めることはできないので,その余の点について判断するまでもなく,フカヤ企画から被告エイチエムへの店舗の承継につき,詐害行為が成立する余地はなく,原告の被告エイチエムに対する詐害行為に基づく主張はいずれも理由がない。
5 以上より,本件各請求は,いずれも理由がないのでこれを棄却することとして,主文のとおり,判決する。
(裁判官 村上誠子)
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