【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(45)平成26年 3月25日 横浜地裁 平21(ワ)2214号 地位確認及び賃金支払並びに損害賠償請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(45)平成26年 3月25日 横浜地裁 平21(ワ)2214号 地位確認及び賃金支払並びに損害賠償請求事件

裁判年月日  平成26年 3月25日  裁判所名  横浜地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)2214号
事件名  地位確認及び賃金支払並びに損害賠償請求事件
裁判結果  一部棄却、一部却下  上訴等  控訴  文献番号  2014WLJPCA03256013

裁判経過
上告審 平成28年12月21日 最高裁第二小法廷 決定 平28(オ)620号・平28(受)778号
控訴審 平成27年 9月10日 東京高裁 判決 平26(ネ)2672号 地位確認及び賃金支払並びに損害賠償請求控訴事件

評釈
田渕大輔・季刊労働者の権利 309号56頁
萬井隆令・労働法律旬報 1825号26頁
近藤圭介・Libra 15巻6号36頁

裁判年月日  平成26年 3月25日  裁判所名  横浜地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)2214号
事件名  地位確認及び賃金支払並びに損害賠償請求事件
裁判結果  一部棄却、一部却下  上訴等  控訴  文献番号  2014WLJPCA03256013

旧姓 A
原告 X1
同 X2
同 X3
同 X4
同 X5
原告ら訴訟代理人弁護士 岡村共栄
同 岡村三穂
同 畑山穣
同 川又昭
同 根岸義道
同 小口千恵子
同 高橋宏
同 関守麻紀子
同 阪田勝彦
同 西村紀子
同 太田啓子
同 近藤ちとせ
同 田渕大輔
同 浅川壽一
同 宋惠燕
同 田井勝
同 北神英典
同 根本孔衛
同 篠原義仁
同 岩村智文
同 西村隆雄
同 藤田温久
同 三嶋健
同 渡辺登代美
同 神原元
同 山下芳織
同 川口彩子
同 穂積匡史
同 鈴木麻子
同 石井眞紀子
同 沢井功雄
同 畑谷嘉宏
同 児嶋初子
同 高城昌広
同 内田和利
同 湯山薫
同 松本育子
同 小島周一
同 杉本朗
同 岡田尚
同 小賀坂徹
同 森卓爾
同 野村正勝
同 山森良一
同 小池拓也
同 高橋由美
同 山根大輔
同 清水俊
同 竹中由重
同 中尾繁行
訴訟復代理人弁護士 石畑晶彦
同 山口穀大
同 大山勇一
同 伊須慎一郎
同 三浦直子
被告 Y1株式会社
代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 大澤英雄
同 小鍛冶広道
同 湊祐樹
被告 Y2株式会社
代表者代表取締役 C
訴訟代理人弁護士 外井浩志
同 藤原宇基
同 浦辺英明
同 草開文緒
被告 株式会社Y3
代表者代表清算人 D
訴訟代理人弁護士 石嵜信憲
同 鈴木里士
同 橋村佳宏
同 土屋真也
訴訟復代理人弁護士 橘大樹
被告 Y4株式会社
代表者代表取締役 E
訴訟代理人弁護士 中町誠
同 中井智子
訴訟復代理人弁護士 仁野周平
以上

 

 

主文

1  本件各訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分をいずれも却下する。
2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は原告らの負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  原告X1
(1)  原告X1が、被告Y1株式会社に対し、別紙1「契約内容」欄記載のとおりの労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)  被告Y1株式会社は、原告X1に対し、平成21年4月末日から、毎月16日及び末日限り、別紙1「請求額」「賃金」欄記載の金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)  被告Y1株式会社及び被告Y4株式会社は、原告X1に対し、連帯して300万円及びこれに対する平成21年6月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告X2
(1)  原告X2が、被告Y1株式会社に対し、別紙2「契約内容」欄記載のとおりの労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)  被告Y1株式会社は、原告X2に対し、平成21年4月末日から、毎月16日及び末日限り、別紙2「請求額」「賃金」欄記載の金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)  被告Y1株式会社及び被告Y4株式会社は、原告X2に対し、連帯して300万円及びこれに対する平成21年6月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  原告X3
(1)  原告X3が、被告Y2株式会社に対し、平成21年3月29日以降、別紙3「契約内容」欄記載のとおりの労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)  被告Y2株式会社は、原告X3に対し、平成21年5月から、毎月15日限り、別紙3「請求額」「賃金」欄記載の金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)  被告Y2株式会社は、原告X3に対し、平成21年10月以降、毎年4月、10月の各月15日限り、30万円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)  被告Y2株式会社及び被告Y1株式会社は、原告X3に対し、連帯して300万円及びこれに対する平成21年6月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  原告X4
(1)  原告X4が、被告Y2株式会社に対し、平成21年3月29日以降、別紙4「契約内容」欄記載のとおりの労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)  被告Y2株式会社は、原告X4に対し、平成21年5月から、毎月15日限り、別紙4「請求額」「賃金」欄記載の金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)  被告Y2株式会社は、原告X4に対し、平成21年10月以降、各8か月後の15日限り、40万円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)  被告Y2株式会社及び被告Y1株式会社は、原告X4に対し、連帯して300万円及びこれに対する平成21年6月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  原告X5
(1)  原告X5が、被告Y1株式会社に対し、別紙5「契約内容」欄記載のとおりの労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)  被告Y1株式会社は、原告X5に対し、平成21年4月末日から、毎月15日限り、別紙5「請求額」「賃金」欄記載の金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)  被告Y1株式会社は、原告X5に対し、平成21年7月以降、各3か月後の15日限り、10万円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)  被告Y1株式会社、被告Y2株式会社及び被告株式会社Y3は、原告X5に対し、連帯して300万円及びこれに対する平成21年6月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  略語
本件においては、以下の略語を用いる。
(当事者等)
原告X1=原告X1(旧姓A)
原告X2=原告X2
原告X3=原告X3
原告X4=原告X4
原告X5=原告X5
被告Y1社=被告Y1株式会社
被告Y2社=被告Y2株式会社
被告Y3社=被告Y3株式会社
被告Y4社=被告Y4株式会社
a社=株式会社a
b社=株式会社b
(原告X1及び原告X2関係)
テクニカルセンター=被告Y1社テクニカルセンター
ZX0=被告Y1社デザイン本部(総括課)
ZXG=被告Y1社デザイン本部グローバルデザインマネジメント部
ZX1=被告Y1社デザイン本部グローバルデザインマネジメント部総務グループ
ZX2=被告Y1社デザイン本部グローバルデザインマネジメント部人事グループ
ZX3=被告Y1社デザイン本部グローバルデザインマネジメント部プロジェクトプログラミンググループ(予算枠管理)
ZXA=被告Y1社デザイン本部プロダクトデザイン部(旧称ZX4)
ZXB=被告Y1社デザイン本部インタラクション デザイン部
ZXC=被告Y1社デザイン本部カラーデザイン部
ZXP=被告Y1社デザイン本部パーシーブド クオリティ部
DDM=Design Decision Meeting
PDD=プロジェクトデザインディレクター
PCD=プロジェクトチーフディレクター
APCD=アシスタントプロジェクトチーフディレクター
GUI=グラフィカルユーザーインターフェース
CG=コンピュータグラフィックス
ZX2 F=ZX2担当者F
Gマネージャー=ZXA主担G(原告X1及び原告X2の派遣指揮命令者)
被告Y4社H=被告Y4社担当者H
被告Y4社I=被告Y4社担当者I
旧政令=平成24年改正前の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令
現政令=労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令
(原告X3及び原告X4関係)
J工長=被告Y2社工長J
K工長=被告Y2社第二製造部第四車両課工長K
(原告X5関係)
L工長=被告Y1社横浜工場第一製造課第二機械課工長L
被告Y3社M=被告Y3社担当者M
(その他)
労働者派遣法=労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(平成24年10月1日改正前の名称は労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律)
松下PDP最高裁判決=最高裁判所平成21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁〈パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件〉
2  原告らの請求の概要
本件は、原告らがそれぞれ以下の請求をした事案である。
(原告X1及び原告X2)
原告X1及び原告X2は、被告Y1社を派遣先、被告Y4社を派遣元とする派遣労働者として勤務していた者であり、被告Y1社との間で別紙1及び2の内容の労働契約が成立しているとして、被告Y1社に対し、労働者たる地位の確認及び平成21年5月以降到来する分の賃金の支払を求めるとともに、被告Y1社及び被告Y4社に対し、不法行為に基づく慰謝料300万円を連帯して支払うよう求めた。
(原告X3及び原告X4)
原告X3及び原告X4は、被告Y2社に雇用された期間労働者として就労していた者であり、被告Y2社の雇止めが無効であるとして、被告Y2社に対し、期間満了後の平成21年3月29日以降の労働者たる地位の確認及び平成21年5月以降到来する分の賃金と満期慰労金の支払を求めるとともに、被告Y2社及び被告Y1社に対し、不法行為に基づく慰謝料300万円を連帯して支払うよう求めた。
(原告X5)
原告X5は、被告Y3社を派遣元とし、当初は被告Y1社を、その後は被告Y2社を派遣先として就労していた者であり、被告Y1社との間で別紙5の内容の労働契約が成立しているとして、被告Y1社に対し、労働者たる地位の確認及び平成21年2月以降到来する分の賃金と満期慰労金の支払を求めるとともに、被告Y1社、被告Y2社及び被告Y3社に対し、不法行為に基づく慰謝料300万円を連帯して支払うよう求めた。
3  前提事実(認定した事実には証拠を掲げる。)
(1)  当事者等
ア 原告ら
(ア) 原告X1及び原告X2は、被告Y4社との間で労働契約を締結し、被告Y1社において派遣労働者として就労していた者らである。
(イ) 原告X3及び原告X4は、被告Y2社との間で期間の定めのある労働契約を締結して就労していた者らである。
(ウ) 原告X5は、被告Y3社との間で労働契約を締結し、被告Y1社において派遣労働者として就労した後、被告Y2社において派遣労働者として就労していた者である。
イ 被告Y1社
被告Y1社は、自動車製造等を目的とする会社であり、被告Y2社、訴外c株式会社等の多数の連結子会社及び関連企業をその傘下として○○グループを形成している。また、神奈川県厚木市所在のテクニカルセンターにおいて、商品・技術開発、デザイン開発、生産技術開発及び外製部品の購買等を行っている。
○○グループは、自動車、フォークリフト、船舶の製造、販売等を事業内容とし、これらに関連する物流等の各種サービスを展開している。
ウ 被告Y2社は、同社湘南工場における自動車製造を主たる事業とする会社であり、○○グループに属し、被告Y1社から受託した自動車の製造を行っている。
エ 被告Y4社は、d株式会社のグループ会社であり、主として一般労働者派遣事業、有料職業紹介事業、事務処理及び各種産業上の業務処理の請負並びに情報処理提供サービス等を業とする会社である。
オ 被告Y3社は、労働者派遣事業を主たる業務とする会社である。同社は、持ち株会社であるe株式会社(旧商号e1社)の完全子会社であり、各専門分野における労働者派遣事業等のアウトソーシング事業を中心にした事業展開を行っている同社グループの事業会社の一つである。
平成17年7月、a社及び株式会社f等5社が合併し、b社が設立された。b社は、商号変更後、平成19年11月、株式会社gと合併し、被告Y3社が設立された。
(2)  原告X1の労働契約等
ア 原告X1は、平成15年1月6日、被告Y4社との間で有期労働契約(派遣労働契約)を締結し、その後、平成21年3月31日を終期とするまで、3か月ごとに合計25回にわたり契約更新を繰り返した。
イ(ア) 原告X1は、平成15年1月6日から、ZXA(被告Y1社のテクニカルセンターデザイン本部プロダクトデザイン部)へ、次のとおりの派遣条件により派遣されて就労した。
a 業務内容 旧政令4条5号所定の業務
(事務機器操作)
b 派遣期間 平成15年1月6日から同年3月31日まで
c 就業時間 午前9時から午後6時まで
(休憩1時間)
(イ) 被告Y1社への派遣期間は、その後、3か月ごとに延長され、最終の派遣期間は、平成21年1月1日から同年3月31日までであった。
(ウ) 原告X1の契約上の業務内容は、平成21年1月1日から、旧政令4条20号所定の業務(広告デザイン)に変更された。
(エ) 原告X1の賃金(時給)は、平成16年4月に1760円、平成17年4月に1800円、平成19年4月に1900円、平成20年4月に1930円、平成20年7月1日に2000円と変更された(就労を開始した平成15年1月当時の賃金が1700円か1800円かについては争いがある。)。
原告X1の平成20年4月から平成21年3月までの平均月額賃金は39万2849円であった。
原告X1の賃金は、毎月15日締め当月末日支払及び毎月末日締め翌月16日支払である。
(3)  原告X2の労働契約等
ア 原告X2は、平成15年10月上旬に、被告Y4社に登録し、同月20日に同社と有期労働契約(派遣労働契約)を締結し、その後、平成21年3月31日を終期とするまで、3か月ごとに、合計22回にわたり同契約の更新を繰り返した。
イ(ア) 原告X2は、平成15年10月20日から、次のとおりの派遣条件によりZXAへ派遣され、就労を開始した。
a 業務内容 旧政令4条5号の所定の業務
(事務機器操作)
b 派遣期間 平成15年10月20日から同年12月31日まで
c 就業時間 午前9時から午後6時まで
(休憩1時間)
d 賃金 時給 2040円
(イ) 被告Y1社への派遣期間は、その後、3か月ごとに延長され、最終の派遣期間は、平成21年1月1日から同年3月31日までであった。
(ウ) 原告X2の契約上の業務内容は、平成21年1月1日から、旧政令4条20号所定の業務(広告デザイン関係)に変更された。
(エ) 原告X2の賃金(時給)は、平成17年4月に2140円、平成18年4月に2250円、平成19年4月に2700円、平成20年4月に2800円と変更された。
原告X2の、平成20年4月から平成21年3月までの月額平均賃金は56万6236円であった。
原告X2の賃金は、毎月15日締め当月末日支払及び毎月末日締め翌月16日支払である。
(4)  原告X1及び原告X2の労働契約等の終了
被告Y4社は、被告Y1社から、被告Y4社が被告Y1社テクニカルセンターデザイン本部に派遣していた6名の派遣社員のうちZXAに所属する原告X2、原告X1び他のセクションに所属する2名の合計4名の派遣社員が行っていた業務に関して、労働者派遣契約を平成21年3月31日の期間満了をもって更新しないことを決定したとの連絡を受け、同年2月16日、原告X1及び原告X2に対して、それぞれ、同連絡の内容を伝えるとともに、同年3月31日の期間満了をもって原告X1及び原告X2との派遣労働契約を終了すると通告した。
(5)  原告X3の労働契約等
ア 平成15年7月から平成16年4月末まで
原告X3は、被告Y2社の業務を請け負うa社の社員として、被告Y2社湘南工場第1地区第1車体課で就労した。原告X3は、平成16年2月頃、第1地区第1車両課に異動となった。
イ 平成16年5月から平成17年4月30日まで
原告X3は、株式会社hから派遣労働者として派遣され、被告Y2社湘南工場第1地区第1車両課で就労した。
原告X3と株式会社hとの派遣労働契約は、平成17年4月30日、期間満了により終了した。
ウ 平成17年5月1日から平成20年4月26日まで(証拠〈省略〉)
原告X3は、被告Y2社と有期労働契約を締結し、期間従業員として被告Y2社湘南工場で勤務した。原告X3は、同工場第1地区第1車両課で就労し、その後、第2地区第2車体課で就労した。同労働契約の契約期間は、1か月ないし約7か月であり、平成20年4月26日まで、10回にわたり契約が更新された。
エ 平成20年5月1日から同年9月27日まで
原告X3は、n社から派遣労働者として派遣され、被告Y2社湘南工場第2地区の第2車体課で就労した。
オ 平成20年10月1日から平成21年3月28日まで
原告X3は、平成20年10月1日、被告Y2社との間で、期間を平成21年3月28日までと定めて労働契約を締結し、期間従業員として被告Y2社湘南工場第2地区第2車体課で就労した。
カ 原告X3が平成20年10月から平成21年3月まで被告Y2社で期間従業員として勤務していた際の、月額平均賃金は26万3153円であり、賃金支払方法は、毎月末日締め翌月15日払いである。
(6)  原告X4の労働契約等
ア 平成15年3月3日から同年12月25日まで
原告X4は、平成15年2月24日、被告Y2社との間で、期間を同年3月3日から同年9月2日までと定めて労働契約を締結し、期間従業員として被告Y2社湘南工場第1地区第1車両課で就労した。その後、原告X4及び被告Y2社は、同契約の契約期間を、同年12月25日まで更新した。
イ 平成20年7月11日から平成21年3月28日まで
原告X4は、平成20年7月11日、被告Y2社との間で、期間を同年8月10日までと定めて労働契約を締結し、期間従業員として被告Y2社湘南工場第4地区第4車両課で就労した。原告X4と被告Y2社は、同年7月28日、契約期間を平成21年3月28日まで更新した。
ウ 原告X4が平成20年10月から平成21年3月まで被告Y2社で期間従業員として就労していた際の、月額平均賃金は24万3268円であり、賃金支払方法は、毎月末日締め翌月15日払いである。
(7)  原告X3及び原告X4の労働契約等の終了
被告Y2社は、湘南工場の期間従業員265名全員との雇用契約を、平成21年3月28日で打ち切ることとし、これを原告X3には同年1月28日に、原告X4には同月22日にそれぞれ通知した。
被告Y2社は、上記雇止め予告につき、その理由を「急激な需要の冷え込みによる大幅な生産計画の見直しのため」または「リーマンショックに起因する自動車販売の急激・大幅な急落による会社の受注量のかつてない程の急減と、その早期回復が見込めないことからの生産計画の見直しによるやむを得ない措置」と説明した。
(8)  原告X5の労働契約等
ア 平成16年9月から平成17年7月31日まで
原告X5は、平成16年9月1日頃、a社と派遣労働契約を締結し、同日から、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課へ派遣されて就労した。
イ 平成17年8月から平成18年1月31日まで
原告X5は、平成17年8月1日、被告Y1社との間で有期労働契約を締結した。同契約の勤務地は、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課であり、契約期間は、平成17年8月1日から同年11月30日までの4か月であり、その後、平成18年1月31日まで延長された。
ウ 平成18年2月1日から同年8月31日まで
原告X5は、b社と派遣労働契約を締結し、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課に派遣されて就労した。
エ 平成18年9月1日から同年12月31日まで
原告X5は、平成18年8月29日、被告Y1社との間で、勤務地を横浜工場第1製造部第2機械課、期間を同年9月1日から同年12月31日までと定めて労働契約を締結し、期間従業員として就労した。
オ 平成19年1月8日から平成20年2月28日まで
原告X5は、被告Y3社と、派遣労働契約を締結し、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課に派遣されて就労した。原告X5の同工場への契約上の派遣期間は、平成20年3月31日までであった。
原告X5は、同年2月28日頃、被告Y1社の安全担当係長であったNに対して医師の診断書を渡した。
カ 平成20年3月26日から平成21年2月28日まで
被告Y3社は、原告X5の派遣先を、平成20年2月末あるいは3月から被告Y2社に変更し、原告X5は、平成20年3月26日から、被告Y2社に派遣されて就労した。
キ 原告X5の平成20年1月分の賃金(被告Y3社から支給された報奨金を除く。)は、22万9263円である(証拠〈省略〉)。
(9)  原告X5の労働契約等の終了
ア 被告Y2社は、平成21年1月15日、被告Y3社を含む派遣会社22社との間の労働者派遣契約を同契約の定める解除(解約)条項に基づき同年2月28日をもって解除することとし、各社に対して予告解除の通知をしたところ、各社がこれに応じたため、同契約は解約(解除)された。この結果、各派遣会社において合計279人の派遣労働者が解雇等された。
イ 被告Y2社は、前記アのとおり、被告Y3社に対して平成21年1月15日に労働者派遣契約の同年2月28日付け解除(解約)を申し出たところ、被告Y3社がこれに応じたため、同契約は同年2月末日に期間途中で合意解約された。
原告X5と被告Y3社間の派遣労働契約の終期は、平成21年3月末日までであったが、被告Y3社は、上記合意解除を理由として、同年2月28日又は同年3月4日、原告X5を解雇した。
(10)  被告Y2社の満期慰労金制度
被告Y2社には、期間従業員について、勤務期間1か月につき5万円の満期慰労金を支給するとの制度があり、同社は、各契約期間満了時に、期間従業員に対してこれを支払っている。
(11)  被告Y1社の満期慰労金
被告Y1社は、原告X5に対し、期間従業員の契約期間満了に当たり、平成18年2月に19万円を、平成19年1月に12万円を支払った。
第3  当事者の主張
1  原告X1及び原告X2関係
(原告X1及び原告X2の主張)
(1) 派遣労働契約締結の経緯及び勤務実態等
ア 被告Y1社による事前面接
(ア) 原告X1
被告Y1社は、平成14年12月9日、原告X1に対する事前面接を行った。
被告Y4社の担当者は、同面接に先立ち、原告X1に対し、「面接」ではなく「ご面談」だと説明した上、被告Y1社から断られることはあっても、原告X1から断ることはしないようにと述べた。一方、被告Y1社は、事前に被告Y4社を通じて、原告X1に過去の作画例の全てを持参するよう指示しており、原告X1は、同面接にこれらを持参した。
面接当日は、ZX3のGマネージャーらが面接を行い、原告X1に対し、専門学校卒業後の職歴や、持参した作画例等についての説明などを求めたほか、残業の可否、住所地、結婚の有無等を質問した。
被告Y4社は、同面接終了後に、原告X1に対して就業条件明示書(兼)派遣労働者雇入通知書を送付した。
(イ) 原告X2
被告Y1社は、平成15年10月、原告X2に対する事前面接を行った。
被告Y1社は、事前に被告Y4社を通じて、原告X2に過去の作画例の全てを持参するよう指示しており、原告X2は、同面接にこれを持参した。
同面接には、被告Y1社から採用担当者及びデザイン本部の各マネージャーらが出席し、原告X2に対し、i自動車グループ勤務時代の仕事の内容について質問し、原告X2の過去の作品集を見ながら、使えるソフトウエアの種類、内容、技術について確認した。また、被告Y1社の担当者は、原告X2が被告Y1社に勤務することとなった場合に具体的にどのような仕事ができるかを詳細に質問し、前職の会社名及び業務内容、自宅からの通勤経路など、個人を特定する質問や業務遂行に関係のない質問を数多くした。
被告Y1社は、原告X2の技能及び業務経験を高く評価して、面接の最後には原告X2に働いてもらいたい旨をその場で明言し、平成15年10月20日から被告Y4社を通じて原告X2を雇い入れることを決定した。
イ 被告Y1社による賃金額の決定
(ア) 原告X1の当初の時給は、被告Y1社が、事前面接を経て原告X1を高く評価したため、被告Y4社における平均的な時給である1700円より100円高い1800円と決定された。
(イ) 原告X2は、被告Y4社を通じて被告Y1社に対し、事前面接に先立って要求額を伝えたところ、前記のとおり、被告Y1社から技能及び業務経験を高く評価されていたため、当初の時給は2040円と決定された。これは、被告Y4社における平均的な時給1700円と比べて高額であった。
原告X2は、平成18年12月頃、被告Y4社及び被告Y1社ZXAに対し、担当業務内容に見合う査定及び賃金額への反映がないことについて異議を申し立て、自ら被告Y1社ZXAとの間で直接交渉を行った。この直接交渉によって、平成19年4月から、原告X2の賃金は大幅に上昇した。被告Y1社は、その際、自らの圧倒的な支配力で被告Y4社が得るマージンを一定額に抑え、自らの判断で原告X2の能力を評価して同原告の賃金(時給)のみを上昇させた。
ウ 管理職向け派遣社員対応マニュアル(証拠〈省略〉)について
被告Y1社が作成し、使用していた管理職向けの派遣社員対応マニュアルには、労働者派遣法で禁止されている事前面接に関して、「派遣staffを選択する行為(面接により選考、履歴書の提出要請、性別特定、若年層限定等)は禁止されています。それらを候補者本人同意のもと、『職場見学』という事に置きかえて『面談』を行っています」とした上、残業及び長時間勤務の可否を質問するよう記載され、「面談後の合否決定」の項には、面談後速やかにGP3(被告Y1社の人事担当)へ結果を連絡するよう記載されている。
また、派遣労働者の時給設定については、「現状は、購買(H60)にて以下のルールに基づき賃金設定(時給設定改訂)を行う」とした上で、「オーダーする業務内容と料金テーブルと照らし合わせ、購買H53(派遣社員を管理する部署)にて決定」などと記載されている。
これらの記載は、被告Y1社が事前面接によって派遣労働者の採否を決定し、その賃金額を決定していたことを明確に示している。
エ 勤務実態
(ア) 原告X1
原告X1は、被告Y1社において、以下のとおり、同被告が常用的に必要とする基幹業務を担当した。原告X1が実際に担当した業務内容は、派遣期間中、徐々に変化していった。
原告X1は、ZXAにおいて、新規プロジェクトのプレパラトリー段階におけるデザインコンセプト画面の作成作業、現行開発車のフォローにおけるデザインキーワード画面の作成作業等を含め、プロジェクト進行に欠くことのできないデザイン業務を担当した。
原告X1は、ZXAの各PCD(プロジェクトチーフデザイナー:課長職)から指示を受け、会社が継続的に受け入れている外国人研修生のための発表展示場のレイアウトやポスター作成等の業務も行っていた。
原告X1は、ZXAの各プロジェクトチームのPCDの指示で、被告Y1社内で定期的に行われるDDM(数百人が入るホールで、社内の関係者が多数集まりパワーポイントを用いて行われる会議で、デザインコンセプト、デザインの特色などを、プレゼンテーションをして決定していく会議)のために、自動車デザインやコンセプト説明などを正確かつ統一感のある会議資料として仕上げる作業等を担当した。
原告X1は、被告Y1社の共有部品デザインなどを担当するZXB(インタラクションデザイン部)の各デザイナーの指示により、ZXBで、共有部品のデザイン作成やその修正等のデザイン業務も行った。
(イ) 原告X2
原告X2は、被告Y1社で、以下のとおり、被告Y1社が常用的に必要とする基幹業務を担当した。原告X2が実際に担当した業務内容は、派遣期間中、徐々に変化していった。
原告X2は、当時のデザイン部直属のPDD(プロジェクトデザインディレクター:部長職)の指示の下、会社の方針に従ったコンセプトに合う自動車のアイディアスケッチを自ら提案し、各プロジェクトのPCDの指示で、車体のデザイン画を作成し提案するために各プロジェクトの会議にも出席した。
原告X2は、その後の新車開発プロジェクトにおいては、スケッチ作成スキルのない正社員デザイナー、後輩社員及び新入社員の育成指導やサポートも行った。
原告X2は、各正社員デザイナーから出されたデザイン案を取りまとめて、組織間調整を行い総括する担当となった。
原告X2は、高度な技術を要するCG(コンピュータグラフィックス)やデザイン画を作成し、デザインモデルの写真撮影や加工、ポスター及びカタログの作成にかかわる企画提案、デザイン画や完成車レベル(写真撮影レベル)のCG作成等を行う中で、被告Y1社から、社内における業務遂行上の問題点を掘り起こし、業務の改善提案を行うという役割までも求められた。原告X2は、これに応じて、いくつもの提案をし、デザイン制作の際に他車との比較図を作成するに当たり、手作業で行っていたのをデジタル化して、作業時間の短縮化、作業の効率化及び高品質化を実現したこともあった。
オ 被告Y1社からの指揮命令等
(ア) 就業場所や業務内容についての指示・指揮命令
a 勤務管理表
被告Y1社は、原告X1及び原告X2について、正社員と同様に就業場所・業務内容等を管理するため、正社員と同じく、勤務管理表(LISA(PACS))(証拠〈省略〉)を用いていた。
原告X1及び原告X2は、ZXAに配属された当初は、被告Y1社のGマネージャーから業務指示を受け、配属後しばらくたつと、ZXAの各プロジェクトチームのPCD及びZXAの直属のO・PDD等から指示を受けるようになり、その他、ZXBやZXC(カラーデザイン部)及びZXP等の他の部署のマネージャーやデザイナーからもデザイン業務を行うよう指示された。
一方、被告Y4社は、原告X1及び原告X2の就業場所及び業務内容について指示をすることは全くなかった。
このように、原告X1及び原告X2に対し就業場所及び業務内容の指示、指揮命令をしていたのは、被告Y1社の上司等であった。
b 旧政令4条5号の業務以外の業務
被告Y1社は、原告X1及び原告X2の労働者派遣契約及び派遣労働契約上の業務内容が事務機器操作(旧政令4条5号)とされていたにもかかわらず、原告X1及び原告X2に対し、これに含まれないデザイン等の業務を指揮命令し、原告X1及び原告X2も、デザイン等の業務を行っていた。
c 労働時間の管理
Gマネージャーは、毎週月曜日午前10時からの定例ミーティングにおいて、原告X1及び原告X2の業務の進捗状況や、残業予定時間等を確認しており、これによって、被告Y1社は、原告X1及び原告X2の労働時間を管理していた。
被告Y1社は、原告X1及び原告X2に関し、派遣元(被告Y4社)における36協定に基づく残業時間(1年当たり360時間)を超えて、時間外労働をさせていた。
d 有給休暇の決定
原告X1及び原告X2は、有給休暇を取得する場合には被告Y4社ではなく被告Y1社のGマネージャーと相談をしてからこれを取得しており、被告Y4社にはGマネージャーの了承を得た後に事後的に報告する仕組みとなっていた。被告Y1社は、このように、原告X1及び原告X2の有給休暇取得についても、自らの管理下に置いていた。
(2) 被告Y1社との間で労働契約が成立していること
ア 黙示の労働契約の成立
(ア) 労働者派遣契約が無効であること
被告Y1社は、実質的には人事配置権限を完全に支配して原告X1及び原告X2を自己の労働者として働かせていたにもかかわらず、形式的には被告Y4社からの派遣社員にすぎないような取扱いをすることで、原告X1及び原告X2に対する労働保護法規上の責任主体を不明確にさせるとともに、その地位を不安定なものとしてきた。
これらの事実に照らせば、被告Y1社と被告Y4社との間の労働者派遣契約は、脱法的な労働者供給契約であり、職業安定法44条及び中間搾取を禁じた労働基準法6条に違反するとともに、派遣先の常用代替を防止するために定められた26条7項(事前面接の禁止)、労働者派遣法40条の5(直接雇用申入れ義務)及び同法40条の2(派遣期間の制限)に違反するから、無効である。
(イ) 派遣労働契約が無効であること
前記(ア)のとおり、被告Y1社と被告Y4社との間の労働者派遣契約は、当初から被告Y1社が解雇権濫用法理(労働契約法16条)を脱法する目的で締結されており、この事実は、松下PDP最高裁判決が説示した派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効となる「特段の事情」に当たる。したがって、被告Y4社と原告X1及び原告X2との間の派遣労働契約は無効である。
(ウ) 黙示の労働契約の成立
被告Y1社は、原告X1及び原告X2を直接自らの指揮監督下に置き、その労務の提供を受けてきた。また、被告Y1社は、原告X1及び原告X2の賃金を決定する権限を有していたから、被告Y1社が被告Y4社に支払った代金の実質は原告X1及び原告X2の労務提供の対価であり、被告Y4社は、被告Y1社の代金支払機関としてそこから自己の利益を控除して原告X1及び原告X2に支払っていたにすぎない。
このような指揮命令関係及び賃金支払関係に照らせば、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間には、原告X1及び原告X2が被告Y1社で派遣労働者として就労を開始した当初から、労働契約を締結する黙示の合意があったといえる。
仮に、当初から黙示の合意が成立していないとしても、被告Y1社は、原告X1については平成18年1月の時点で、原告X2については同年10月の時点で、同一の派遣労働者につき3年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受け、平成18年4月及び平成19年4月には原告X1及び原告X2が担当していた業務と同一の業務について新規の正社員を雇用したから、同時点で原告X1及び原告X2に対する直接雇用の申入れ義務が発生しており(労働者派遣法40条の5)、被告Y1社は、その後も、このような義務がある中で原告X1及び原告X2から労務の提供を受け続けてきたのであるから、被告Y1社と原告X1との間には遅くとも平成18年4月1日の時点で、被告Y1社と原告X2との間には遅くとも平成19年4月1日の時点で、黙示の合意により労働契約が成立した。
イ 労働者派遣契約の効力いかんにかかわらず黙示の労働契約が成立していること
労働契約は、労務提供の対価としての賃金支払の意思の合致で成立し、それで足りる(労働契約法6条)。したがって、仮に、被告Y1社と被告Y4社との間の労働者派遣契約が無効ではないとしても、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間には、黙示の労働契約が成立する。
すなわち、被告Y1社は、原告X1及び原告X2の採用のみならず賃金額決定へも関与している反面、被告Y4社は、原告X1及び原告X2の具体的就労態様を決定する地位になかったため、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間で、労務提供の対価としての賃金支払の意思の合致があることが客観的に推認されるから、両者間に黙示の労働契約が成立しているといえる。
ウ 規範的・合理的解釈に基づく労働契約の成立
(ア) 労働法制においては、直接雇用・常用雇用が原則であり、これの例外である労働者派遣は、直接雇用・常用雇用を侵害しない一時的・臨時的な労働に限定して認められ、これに反する労働者派遣は違法である(派遣による常用代替の禁止)。さらに、派遣先が、最初から派遣労働者を常用代替として利用する意図の下に労働者派遣契約を締結した場合には、派遣労働者を直接雇用した場合の解雇権濫用法理等を潜脱することを目的として派遣の形式を偽装したもの(偽装派遣)というべきであり、このような脱法目的での法形式利用は無効である。したがって、偽装派遣の場合には、当事者が偽装のために用いた法形式に拘束されず実態に即した解釈を行い、労働者に派遣先の指揮命令下に従属労働を提供する意思があり、派遣先にその労働を受領する意思さえあれば、派遣労働者と派遣先との間に労働契約が成立していると解釈すべきである(規範的・合理的解釈)。
(イ) 被告Y1社は、平成13年頃、従前正規社員が行っていた業務を派遣社員等の非正規社員で置き換える措置をとりつつ、原告X1及び原告X2に対して事前面接を行って、本来常用正社員が行うべき常用的に必要な業務を担うに足るスキルや能力を有しているかを審査した上で採用し、原告X1を6年3か月、原告X2を5年5か月という長期にわたって常用的に必要な業務に従事させた。また、被告Y1社は、原告X1及び原告X2の個別の業務進行や内容、労働時間、休暇の取り方についてまで管理し、賃金額の決定にも関与しており、原告X1及び原告X2を正に正社員の常用代替として利用した。
これらの事実によれば、被告Y1社が、原告X1及び原告X2を最初から常用代替として利用し、ひいては解雇権濫用法理等を潜脱する意図の下で労働者派遣契約を締結したことは明らかである。
よって、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間に労働契約が成立している。
エ 禁反言違反を根拠とする労働契約の成立
被告Y1社は、原告X1については平成18年1月の時点で、原告X2については平成18年10月の時点で、同一の派遣労働者から3年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受け、平成18年4月及び平成19年4月には原告X1及び原告X2が担当していた業務と同一の業務について新規の正社員を雇用したから、同時点で原告X1及び原告X2に対する直接雇用の申入れ義務が発生していた(労働者派遣法40条の5)。
被告Y1社は、このような義務を負っていたにもかかわらず、原告X1及び原告X2に直接雇用の申入れを行わず、約6年間もの長期にわたって常用正社員に代替させて就労をさせ、労働者派遣法に違反していたから、被告Y1社が原告X1及び原告X2に対して直接雇用責任を負わないと主張することは、禁反言の原則に反し、その効果として、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間には、労働契約が成立する。
オ 労働契約の内容
原告X1及び原告X2に関する被告Y1社と被告Y4社との間の労働者派遣契約の期間は3か月であったから、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間に成立している労働契約について、少なくとも契約期間を3か月とする範囲では、黙示の合意が認められる。
賃金等のその他の労働条件は、被告Y4社と原告X1及び原告X2との間の各派遣労働契約の内容と同一であるとするのが当事者の意思に合致する。
(3) 被告Y1社の原告X1及び原告X2に対する雇止めが無効であること
ア 被告Y1社は、被告Y4社に対して、被告Y4社がテクニカルセンターのデザイン部門に派遣していた6名の派遣労働者のうち、原告X1及び原告X2を含む4名について労働者派遣契約を更新しないと告げ、被告Y4社は、指示されるままに労働者派遣契約を合意解除し、原告X1及び原告X2に対し、平成21年3月31日をもって解雇を言い渡した。前記のとおり、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間には有期労働契約が成立しているから、これを実質的にみれば、被告Y1社は、同日をもって原告X1及び原告X2に対し雇止めをしたといえる。
イ 解雇権濫用法理が類推適用されること
原告X1及び原告X2が従事していた業務内容の恒常性、地位の基幹性や、被告Y1社の上司等に継続雇用を期待させる言動があったこと、更新回数が多数に上りその手続も簡易かつ形式的だったことなどを併せて考えれば、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間の労働契約については、契約更新に対する合理的な期待が存在し、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態として存在していたため、その期間満了に伴う契約の終了には、解雇権濫用法理が類推適用される。
ウ 整理解雇の4要件を満たさないこと
(ア) 人員削減の必要性について
被告Y1社は、平成21年3月、平成20年度通期業績予想を大幅に下方修正して発表した。ところが、3か月後に発表された実際の平成20年度決算は、赤字幅が予想より縮小し、平成21年度通期業績予想についても、実際の額は大幅に上方修正した。被告Y1社は、このように信頼性もない予想に基づいて原告X1及び原告X2に対する雇止めをした。
また、平成21年4月1日にエコカー減税制度が施行されたことによって、自動車業界は急激な業績回復を遂げた。被告Y1社は、同制度が平成21年4月から施行されること及び同制度によって受注が急激に増加することを、その数か月前から把握していた。
被告Y1社は、内部留保金(利益余剰預金と資本剰余金)を3兆9969億円(平成20年3月連結)も有しており、平成20年度通期業績予想における純損失2650億円は、内部留保金の6.6%にすぎない。
原告X1及び原告X2の雇止めによる削除賃金(合計月101万4755円)は、上記の業績予想や純損失額に比べれば余りに微々たる金額である。被告Y1社は、自らの在庫削減を既に達成しており、人員削減の必要性は失われている。
また、被告Y1社は、原告X1及び原告X2の所属していたZXAデザイン本部で平成21年4月に正社員を新規採用した。
このように、被告Y1社において、人員削減の必要性はなかった。
(イ) 雇止め回避の努力について
被告Y1社は、平成21年4月には新規採用を実施し、希望退職の募集も行わず、役員の「報酬」カットを実施したのも一時期にすぎないから、雇止め回避の努力を尽くしていない。
(ウ) 人選の妥当性について
被告Y1社は、業務の遂行に際して、原告X1及び原告X2に正社員と同等のものを要求しておきながら、解雇の際は形式的に派遣社員であるということを理由に解雇しており、その人員選定方法は著しく公平を欠き、明らかに不合理である。
(エ) 雇止めの手続について
被告Y1社は、原告X1及び原告X2に対する雇止めについて事前の説明・協議を行っていない。
(オ) 以上によれば、被告Y1社の原告X1及び原告X2に対する雇止めは、無効である。
(4) 被告Y1社及び被告Y4社に対する損害賠償請求
被告Y1社は、原告X1及び原告X2を安価な賃金で正社員の代替として利用し、景気の低迷が明らかになると派遣労働者であるという形式的な理由で雇止めをした。すなわち、被告Y1社と被告Y4社は、共同して、①派遣労働者を特定し、②被告Y4社が、原告X1及び原告X2の業務内容が就業条件明示書(兼)派遣労働者受入通知書に記載されたものと異なることを知りつつ放置し、③被告Y4社が、原告X2と被告Y1社との直接の賃金交渉を示唆、放置し、④被告Y4社が、原告X1及び原告X2の被告Y1社への直接雇用申入れの要請を放置し、⑤被告Y4社が、原告X1及び原告X2の労働条件に関する苦情を適切に処理する義務を怠り、⑥被告Y4社が、契約終了時における被告Y1社による人員選定をそのまま受け入れ、被告Y1社と共同して解雇権濫用と評価される雇止めを行った、といった一連の行為を行い、職業安定法44条、労働基準法6条、労働者派遣法40条の5、同法40条の2に違反して脱法的な労働者供給事業を遂行した。
このような脱法的な派遣関係の維持や不当解雇の不法行為により、原告X1及び原告X2は、労働保護法規上極めて不安定な立場に置かれてきたばかりか、突然生活の術を奪われ多大な精神的苦痛を味わった。上記不法行為により原告X1及び原告X2が被った精神的損害に対する慰謝料額は、それぞれ300万円を下らない。
(原告X1及び原告X2についての被告Y1社の主張)
(1) 派遣労働契約締結の経緯及び勤務実態等
ア 「事前面接」の主張について
被告Y1社が、原告X1については平成14年12月9日、原告X2については平成15年10月、職場見学、面談を行い、事前に被告Y4社を通じて、原告X1及び原告X2に過去の作品・作画例の全てを持参するよう依頼し、原告X1及び原告X2が、同面談時にこれを持参して見せたことは認める。
原告X1及び原告X2に対する職場見学、面談は、被告Y1社が、業務内容及び勤務形態を説明し、職場環境を見学してもらうとともに、あらかじめ人材派遣会社に要求していた合理的な技術水準を備えているかどうかを確認して、派遣元である被告Y4社との労働者派遣契約に基づいて原告X1及び原告X2の派遣就労を受け入れるか否かについて確認するものであって、労働者の特定ないし選別を目的とするものではなく、労働者派遣契約締結の準備行為にすぎない。原告X1及び原告X2の採用(派遣労働契約締結の適否)は、派遣元である被告Y4社が独自に決定したものであって、被告Y1社は原告X1及び原告X2の採用に関与していない。
原告X1との面談においては、簡単に過去の作画例を説明してもらい、被告Y1社から業務経験及び作画例に関する質問をしたにすぎず、原告X2との面談においては、原告X2から簡単に過去の作画例を説明してもらい、それに関する質問をするとともに、ソフトウエアをどの程度使えるかを質問したにすぎないのであって、それぞれ約30分で終了した。このような面談は、正社員デザイナーを採用する際に複数回にわたり、人事部門も含め複数名で面接を行う過程とは、量的にも質的にも全く異なる。また、原告X1及び原告X2と面談をしたのはZXA、ZXPのデザイナーであり、これらの者は採用権限を有しない上、面談時に給与関係等の労働条件に関する説明は全くなかった。
これらの面談の時点で、労働契約の要素である「賃金支払義務」及び「労務提供義務」に関して、意思の合致があったと解することなど到底不可能である。
イ 賃金額の決定について
派遣料金は、労働者派遣個別契約書記載の業務の遂行能力や労働力の需給バランスの関係等によって、派遣元と派遣先と間の交渉の結果で決定されるのであって、原告X2の当初の時給が2040円であったとしても、それは被告Y1社のGマネージャーの評価があったためではない。
一方、派遣労働契約における賃金の体系、計算式、具体的金額は、専ら派遣労働契約の当事者である被告Y4社と原告X1及び原告X2との間で定められるものであり、派遣先である被告Y1社は、原告X1及び原告X2の具体的な賃金額はもちろん、月給か時給かという点を含めて、一切関知していない。仮に、平成19年4月に原告X2の時給が450円上昇したという事実があったとしても、当時、被告Y1社の被告Y4社に対する派遣料金は290円増額されたにすぎず、また、平成18年4月に派遣料金が50円増額されたが、原告X1の主張によれば、その際、原告X1の時給は増額されなかった。
また、被告Y1社の中で派遣料金を決定するのは、労働者派遣契約を締結する権限がある購買部門である。派遣労働者を指揮命令する現場のGマネージャーらは、労働者派遣契約の更新に当たって、現場としては引き続き当該派遣労働者に就労してほしいなどと人事部門の担当者に伝えることもあり、その中で原告X2の時給に関する不満を汲んで人事部門担当者に伝えたことが一度あったものの、現場は派遣料金を決定する権限を有さず、Gマネージャーらは、派遣料金の具体的な金額の決定には何ら関与していなかった。
ウ 管理職向け派遣社員対応マニュアルについて
被告Y1社において、管理職向け派遣社員対応マニュアル(GP3マニュアル)が存在し、原告らが指摘する記載があることは認める。しかしながら、同マニュアルは、被告Y1社本社内のM&S/AS部門の部門人事であるGP3内で作成され、同部門の管理職しか閲覧することができないから、テクニカルセンターで就労していた原告X1及び原告X2に対して同マニュアルが使用された可能性はない。
エ 勤務実態について
原告X1及び原告X2が担当していた業務が、被告Y1社において日常的に必要とされる業務であったことは認め、その余は否認する。原告X1及び原告X2が実際に担当した業務内容は、派遣全期間を通じて同一であった。
オ 指揮命令について
被告Y1社は、原告X1及び原告X2の指揮命令者であるGマネージャーが、派遣先が派遣労働者に対して有する労務指揮権の範囲内で、原告X1及び原告X2に対して指揮命令をしたにすぎない。
(ア) 就業場所や業務内容についての指示・指揮命令について
派遣先が、派遣労働者に対する具体的な作業内容を決定すること自体は何ら問題とはならない。原告X1及び原告X2がZXBやZXC等の他の部署のマネージャーの指示で作業を行ったことはあったが、その場合も、飽くまで指揮命令者であるGマネージャーの指示関与の下で行われたにすぎない。
(イ) 労働時間の管理について
被告Y1社が、原告X1及び原告X2の派遣就業日や派遣就業をした日における始業・終業時刻等を把握・記録することは、労働者派遣法上、派遣先の責務とされ(労働者派遣法42条1項2号及び3号)、派遣就業に関する労働基準法32条等の適用に関しては、派遣先が「使用者」としての責任を負うことから(同法44条2項)、当然のことである。
(ウ) 年次有給休暇の決定について
年次有給休暇については、原告X1及び原告X2が、欠務に当たり、被告Y1社に対して年次有給休暇を取得すると伝えてきたことはあったものの、被告Y1社としては、欠務が有給休暇であるのか欠勤であるのかは関知するところではなく、被告Y4社の扱いも知り得ない。
(エ) 被告Y1社は、原告X1及び原告X2に対する、労働者の配置・懲戒・解雇等の権限を有しておらず、懲戒権を行使したこともない。
(オ) 一方、被告Y4社は、原告X1及び原告X2が被告Y1社に派遣され就労していた間、原告X1及び原告X2の労働条件を策定、決定していた。すなわち、平成16年4月1日から平成17年3月31日までの労働者派遣契約は1年契約であったのに対し、被告Y4社と原告X1及び原告X2との間の派遣労働契約は、3か月ごとに更新されていた。また、被告Y1社は、派遣労働契約の更新手続に全く関与していない。
(2) 被告Y1社との間の労働契約について
ア 黙示の労働契約について
(ア) 松下PDP最高裁判決によれば、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、派遣労働者を保護する必要性に鑑みれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効となることはなく、このことからすれば、労働者派遣法に違反する事実があったとしても、そのことは黙示の労働契約の成否とは無関係である。
そして、松下PDP最高裁判決によれば、注文者と請負労働者の間において黙示の労働契約の成立を認定するためには、単なる「指揮命令」の事実だけでは全く不十分なのであって、①注文者が請負労働者の採用に関与していたこと、②注文者が請負労働者の給与等の額を事実上決定していたこと、③請負人が請負労働者の配置を含む具体的な就業態様を決定し得る地位にないことの、いずれもが認められることが必要であり、労働契約が「労働義務」と「賃金支払義務」の2つの義務を中核的な要素とする契約関係であることからすれば、とりわけ②の要件を充足することが絶対的に必要である。
(イ) 被告Y1社の原告X1及び原告X2に対する面談の態様からは、面談時に、労働契約の要素である「賃金支払義務」及び「労務提供義務」に関して意思の合致があったと解することは不可能である。
また、被告Y1社は、原告X1及び原告X2の賃金を実質的に決定しているなどとは到底いえないから、黙示の労働契約が成立する余地はない。なお、派遣元が派遣労働者に対して支払う賃金が、派遣先が派遣元に対して支払う派遣料金に何らかの形で連動していたとしても、そのことをもって、派遣先が派遣労働者に対して支払う賃金の決定に関与したと評価することは許されない。
原告X1及び原告X2は、派遣会社である被告Y4社に登録をし、派遣労働者として被告Y1社での就労を希望して、被告Y1社での面談の後に、派遣労働契約を締結したものであり、就労期間中、派遣労働契約に定められた賃金の体系、計算式に基づき被告Y4社から賃金を受領して、派遣労働契約の更新も被告Y4社との間で行っていた。そうすると、原告X1及び原告X2は、被告Y1社で就労していた当時、その雇用主が被告Y4社であり、被告Y1社とは労働契約関係がなく、派遣先企業であると認識した上で、被告Y1社において就労していたことが明らかであり、被告Y1社との間の「黙示の労働契約」を認めることは、原告X1及び原告X2の就労当時の意思に反する。
イ 規範的・合理的解釈に基づく労働契約の成立について
争う。
ウ 禁反言違反を根拠とする労働契約の成立について
争う。
エ 労働契約の内容について
争う。
(3) 「被告Y1社の原告X1及び原告X2に対する雇止め」について
争う。
(4) 損害賠償請求について
被告Y1社は、労働者派遣法の枠組みの中で原告X1及び原告X2を派遣労働者として受け入れて就労させ、被告Y4社との合意の上で、労働者派遣契約を期間満了で終了させたものにすぎないから、被告Y1社が損害賠償責任を負う理由はない。
仮に、労働者派遣法に違反する点があったとしても、労働者派遣法は取締法規としての性質を有するものであり、私法上違法という問題を生じさせるものではないから、損害賠償請求の根拠となるものではない。
(原告X1及び原告X2についての被告Y4社の主張)
(1) 派遣労働契約締結の経緯及び勤務実態等
ア 「事前面接」の主張について
被告Y1社が、原告X1及び原告X2について職場見学、面談を行い、事前に被告Y4社を通じて、原告X1及び原告X2に過去の作品・作画例の全てを持参するよう依頼し、原告X1及び原告X2が、同面談時にこれを持参して見せたこと、原告X2の職場見学、面談が平成15年10月に行われたことは、いずれも認める。
派遣労働者が事前に派遣先の職場を訪問することは、それ自体が一切不可とされているわけではなく、就労開始前に職場に関する具体的な疑問や質問などを解消し、職場環境等を確認するために、職場見学が実施されることがある。原告X1及び原告X2は、この職場見学に出向いたのであり、被告Y4社の担当者もその旨説明しており、事前面接とは述べていない。被告Y4社の担当者が、原告X1に対して同原告の方から断ることはできない旨を話したことはない。
被告Y4社が、原告X1及び原告X2に自身の作品を持参するよう指示したのは、予定されていた労働者派遣契約の業務内容に関して、各自のイラストレーターやフォトショップといったソフトウエアの習熟度を確認するためにすぎない。
被告Y4社が派遣先に開示するのは、以前に従事した業務内容、従事した期間、使用したOA機器及びソフトウエアのみが記載されたスタッフスキルシートだけで、名前は記載されていないから、被告Y4社は、原告X1及び原告X2について派遣労働者を特定する行為を行っていない。
イ 賃金額の決定について
(ア) 原告X2の賃金(時給)が2040円となったのは、被告Y4社において、原告X2が自動車デザインの経験者でスキルが高いことを評価した結果であり、被告Y1社は賃金額の決定に関与していない。
(イ) 被告Y4社の営業担当者は、平成18年12月又は平成19年1月頃、原告X2から賃金を上げてほしいと要請されたため、同年3月頃、被告Y1社の購買部と派遣料金の価格交渉を行い、その結果派遣料金が改定され、同年4月から原告X2の賃金が450円上昇した。このように、平成19年4月から原告X2の賃金(時給)が上昇したのは、被告Y4社と被告Y1社の価格交渉との結果である。原告X2が、被告Y1社と賃金交渉をしたことはない。
ウ 管理職向け派遣社員対応マニュアルについて
不知。
エ 勤務実態について
原告X1及び原告X2が実際に担当した業務内容は、派遣全期間を通じて同一であった。原告X2が業務改善提案や組織調整業務を行ったことは否認する。
原告X1及び原告X2の業務は、専門26業務であり、労働者派遣法40条の2第1項1号イにそれぞれ該当する。
オ 指揮命令について
(ア) 就業場所や業務内容についての指示・指揮命令
被告Y1社のGマネージャーが原告X1及び原告X2の担当業務に関する指揮命令を行い、被告Y4社が日常の指揮命令をしなかったことは認めるが、これは派遣労働の性質上当然である。
(イ) 労働時間の管理
被告Y1社が原告X1及び原告X2の労働時間を把握していたこと自体は認めるが、被告Y1社は、被告Y1社と被告Y4社との間の労働者派遣契約で設定された範囲内で原告X1及び原告X2の労働時間や休憩時間等について指揮命令をすることができるため、同原告らの労働時間を把握していたことは当然である。
(ウ) 有給休暇の決定
派遣元は、派遣労働者が有給休暇を取得するに当たり代替派遣の必要性の有無を判断する必要があるため、派遣労働者が派遣先における代替要員の要否を確認することは、円滑な有給休暇の取得に資する。もっとも、派遣労働者は、有給休暇の届出を派遣元である被告Y4社にしなければならず、被告Y4社が原告X1及び原告X2の有給休暇の管理を行っていた。
(2) 被告Y1社との間の労働契約について
ア 黙示の労働契約について
被告Y1社と被告Y4社との間の労働者派遣契約、原告X1及び原告X2と被告Y4社との間の派遣労働契約が無効であるとの主張は、全て否認ないし争う。前記のとおり、原告X1及び原告X2の業務は専門26業務であるから、労働者派遣法40条の2の派遣可能期間の制限を受けない。仮に、同法40条の5違反の事実があったとしても、同規定は派遣先と派遣労働者との間の直接の労働契約を推定するものではなく、労働者派遣契約、派遣労働契約が無効となるものではない。
イ 「労働者派遣契約の効力いかんにかかわらず被告Y1社と原告X1及び原告X2との間に黙示の労働契約が成立していること」について
否認ないし争う。
ウ 規範的・合理的解釈に基づく労働契約について
否認ないし争う。被告Y4社と被告Y1社が、解雇権濫用法理の潜脱を意図して労働者派遣契約を締結した事実はない。
エ 禁反言を根拠とする労働契約について
争う。
オ 労働契約の内容について
争う。
(3) 損害賠償請求について
ア 派遣労働者特定行為について
被告Y4社は、原告X1及び原告X2の派遣登録時に、被告Y1社に派遣労働者の特定行為をさせたり、被告Y1社の特定行為に協力をしたりしたことはない。また、原告X1及び原告X2と被告Y4社との間の派遣労働契約の更新手続は、被告Y4社の担当者が行っており、被告Y1社は関与していない。被告Y4社は、労働者派遣契約の更新に当たって被告Y1社に派遣労働者の特定行為をさせたり、被告Y1社の特定行為に協力をしたりしたことはない。
原告X1及び原告X2の派遣労働契約が終了したのは、被告Y4社が被告Y1社から業務終了となるポジションの連絡を受け、その結果、当該業務を担当していた労働者に雇止めの通告をした結果であり、派遣先の業務縮小に基づく派遣枠の削減が理由である。
イ 業務内容が契約と異なることを知りつつ放置したことについて
被告Y4社は、原告X1及び原告X2のいずれからも、就労中に担当業務内容が異なるとの苦情を受けたことはない。
ウ 原告X2と被告Y1社との直接賃金交渉を示唆、放置したことについて
原告X2の賃金は被告Y4社が決定しており、被告Y1社はこれに関与していない。
エ 原告X1及び原告X2の被告Y1社への直接雇用申入れの要請を放置したことについて
被告Y4社は、原告X1及び原告X2のいずれからも、被告Y1社への直接雇用の申入れの要請を受けていない。
オ 苦情処理義務違反について
原告X1及び原告X2は、派遣先の就業における苦情を被告Y4社に申し出ており、被告Y4社は、これを適切に処理した。
カ 雇止め行為について
原告X1及び原告X2と被告Y4社との間の派遣労働契約は、期間満了によって終了したものであり、被告Y1社が雇止めとなる者を人選した事実はない。
原告X1及び原告X2は、登録型派遣社員であり、登録型派遣の期間雇用契約は、労働者派遣契約の存在を前提としているから、労働者派遣契約が終了すれば、派遣労働契約も終了することが本来的に予定されているため、自らの派遣労働契約が更新されるとの合理的期待を有せず、整理解雇の法理が類推適用されることはない。
このような登録型派遣社員の性質に照らせば、被告Y1社と被告Y4社が共同して不法行為を行ったと評価される余地はない。
2  原告X3及び原告X4関係
(原告X3及び原告X4の主張)
(1) 労働契約の形式的経過及び労働実態等
ア 原告X3
(ア) 原告X3が、平成15年7月から平成16年4月末まで、被告Y2社から業務を請け負っていたa社の社員として被告Y2社で勤務をした際に、原告X3に対して直接具体的に指揮命令をしていたのは、注文者たる被告Y2社であり、この就労実態はいわゆる偽装請負であった。
(イ) 原告X3は、契約上は、平成16年5月から株式会社hの派遣労働者として被告Y2社で勤務をしたものの、就労状況に全く変化がなかったため、労働者派遣に変更されたことを認識していなかった。
(ウ) 原告X3は、派遣労働者として勤務をしていた平成17年4月頃、被告Y2社の工場長から「派遣社員を一斉に期間工にするため、通帳、年金手帳、印鑑を持ってくるように」などと言われ、同年5月1日から被告Y2社の期間従業員として勤務することとなった。しかしながら、原告X3の業務実態は、被告Y2社の社員寮に入寮したほかは、派遣労働者の際とほとんど変化がなかった。
(エ) 原告X3は、期間従業員として勤務していた平成20年4月頃、被告Y2社のJ工長に呼ばれ「次の契約は期間工としては契約できないから、しばらく派遣社員に切り替えてもらうけどいいか」と言われた。原告X3は、一旦派遣社員になった上で、再び被告Y2社に直接雇用されるならば問題ないと思い、J工長の要求にやむを得ず応じ、平成20年5月1日以降n社から派遣されて勤務した。
原告X3の業務内容は、期間従業員であるときから何ら変化がなく、業務中には期間従業員の頃と同じ作業着を使い、同じ更衣室のロッカーを使い、賃金額の待遇もほとんど変化がなかった。また、被告Y2社は、原告X3に対し、引き続き被告Y2社の寮に住むことを許可し、被告Y2社の社員のみが使える送迎バスの使用も許可した。
(オ) 平成20年9月末、n社との派遣労働契約が期間満了により終了するや、被告Y2社の人事部から原告X3に対し、「直接雇用する」と書かれた書面を同封した封筒が届けられ、原告X3は、同年10月1日から、被告Y2社の期間従業員として勤務した。
(カ) 原告X3は、被告Y2社において派遣労働者ないし期間従業員として勤務中、正社員、期間従業員、派遣社員の混在する製造ラインの中で継続して作業を行い、作業経験が豊富であるため、ラインでの仕事経験の浅い正社員に対して仕事内容を指示したこともあった。原告X3の業務内容は、期間従業員であったときと派遣社員であったときとで変わりはなく、常用的な基幹業務であった。また、原告X3は、就労期間を通じて、被告Y2社の指示により、作業場所を3回も移動させられた。
イ 原告X4
(ア) 被告Y2社は、期間従業員就業規則第10条1項に契約期間は「2カ月以上6カ月まで」と定められていたにもかかわらず、平成21年7月28日に原告X4と労働契約を更新する際、契約期間を約8か月とした。これは、被告Y2社のK工長が、原告X4の働きぶりなどを評価し、特別に優遇して契約期間を延ばした結果であった。
(イ) 原告X4は、正社員、期間従業員、派遣社員の混在する製造ラインの中で継続して作業を行い、作業経験が豊富であるため、ラインでの仕事経験の浅い正社員に対して仕事内容を指示したこともあった。
(2) 被告Y2社の原告X3及び原告X4に対する雇止めが無効であること
ア 解雇権濫用法理が類推適用されること
以下の事実に照らせば、原告X3及び原告X4には雇用継続の期待があることが明らかであるから、原告X3及び原告X4に対する平成21年3月28日の雇止めには、解雇権濫用法理が類推適用される。
(ア) 地位のキャッチボール
a 原告X3
被告Y2社は、原告X3との契約形態を、偽装請負→派遣→期間従業員→派遣→期間従業員と変遷させ、いわゆる「地位のキャッチボール」を行った。この「地位のキャッチボール」は、労働契約法16条、雇止めに関する解雇権濫用法理の類推適用等に違反ないしこれを潜脱するものである。このように、被告Y2社が原告X3の雇用形態を違法、脱法的に変遷させながら常用社員に代替して約6年間も継続して勤務させてきたことは、原告X3に対する雇止めについて解雇権濫用法理が類推適用されるべき事情である。
また、脱法行為に当たる地位のキャッチボールが行われたため、少なくとも、平成17年5月1日に原告X3を被告Y2社の期間従業員から派遣労働者へと切り替えた行為(被告Y2社とa社との間の労働者派遣契約及び原告X3とa社との間の派遣労働契約)は、公序良俗に違反して無効である。そのため、原告X3は被告Y2社から初めて直接雇用された平成17年5月1日から継続して期間従業員の地位を有していたといえる。
b 原告X4
原告X4は、被告Y2社が、期間従業員を常用社員に代替して長期間勤務させていることを認識していた。
(イ) 雇用の基幹性
前記のとおり、原告X3及び原告X4は、正社員と同じ製造ラインの中で継続して作業を行い、ラインでの仕事経験の浅い正社員に対して仕事内容を指示したこともあった。また、原告X3は、3回も作業場所を移動させられた。
これらの事実から、原告X3及び原告X4が、正社員と同様に作業場所が変わっても各作業に対応できるような多能的な技能を有し、正社員と遜色ない業務を行っていたことは明らかである。
(ウ) 雇用継続の期待を抱かせる事情
a 原告X3は、更新を望めば被告Y2社と何の問題もなく労働契約が更新されていたことに加え、「地位のキャッチボール」により脱法的な雇用形態をとってまで雇用されている以上、今後も長期間雇用されると期待していた。
原告X4は、被告Y2社で約1年間就労しており、他の期間従業員が当然のように契約更新をしている状況を見て、真面目に働く限り、今後も長期雇用がされると認識していた。
b 被告Y2社は、原告X4の働きぶりなどを評価したため、平成21年7月28日に原告X4との労働契約を更新するに当たり、期間従業員の契約期間を2か月以上6か月までとする定め(期間従業員就業規則10条1項)に反して、契約期間を約8か月とした。
c 被告Y2社の満期慰労金制度は、期間従業員として期間満了まで辞めずに真面目に働いた者を慰労することで、その後も契約を更新して長期間にわたり働いてもらうよう設けられた制度であり、これも原告X3及び原告X4に雇用継続の期待を抱かせる事情である。
イ 整理解雇の4要件を満たさないこと
被告Y2社の、原告X3及び原告X4に対する雇止めは、整理解雇の4要件を欠き、無効である。
(ア) 人員削減の必要性について
被告Y2社は、平成21年3月期における連結業績予想数値として営業利益198億円、経常利益187億円を見込んでいた上、約6か月後には連結業績予想数値等が上方修正された。被告Y2社は、平成21年3月期にも、平成20年3月期と同様の株式配当をした。
被告Y1社グループは、平成20年1月1日、「在庫増大リスク」を抑えるために国内で減産措置を実施すると発表していたが、被告Y2社が原告X3及び原告X4を雇止めした平成21年3月末には、在庫削減を達成して減産措置を終了していたから、同年4月以降、減産をする必要性はなかった。
また、平成21年4月1日にエコカー減税制度が施行されたことによって、自動車業界は急激な業績回復を遂げたところ、被告Y2社は、同制度が同月から施行されること及び同制度によって受注が急激に増加することを、その数か月前から把握していた。
被告Y2社は、平成21年4月、被告Y1社の九州工場で働く正社員約250名を被告Y2社の湘南工場に融通してもらい、同月7日、他社の異業種からの人員を補充した上、原告X3及び原告X4を雇止めしたわずか6か月後には期間従業員の募集を再開した。
雇止めされた労働者の合計賃金は、月当たり約1億4000万円にすぎず、経常利益187億円の1%に満たない。
したがって、人員削減の必要性がなかったことは明らかである。
(イ) 雇止め回避の努力について
被告Y2社は、原告X3らの雇止めを回避するため、配置転換、正社員をも含めた希望退職募集などを一切行っていない。
(ウ) 人選の合理性を欠くこと
被告Y2社は、期間従業員に対する雇止めをした一方、正社員に対する解雇は行っていない。そもそも正社員と期間従業員との待遇は均等であるべきであるにもかかわらず、期間従業員であることのみをもって、雇止めをすることは、妥当性を著しく欠く。
(エ) 手続について
被告Y2社は、原告X3及び原告X4に対する雇止めについて事前の説明・協議を行っていない。
(3) 被告Y1社及び被告Y2社に対する損害賠償請求
被告Y2社は、被告Y1社によるグループ全体として約2万5千人の人員削減を行う経営方針に基づき、被告Y1社と共同して、原告X3及び原告X4につき解雇権濫用と評価される雇止めを行ったものであり、これは、原告X3及び原告X4に対する不法行為を構成する。このような不法行為により、原告X3及び原告X4は職を失い、住む場所を追われるなどして精神的苦痛を味わった。上記不法行為による原告X3及び原告X4が被った精神的損害に対する慰謝料額は300万円を下らない。
(原告X3及び原告X4についての被告Y2社の主張)
(1) 労働契約の形式的経過及び労働実態等
ア 原告X3
(ア) 平成15年7月から平成16年4月末までの原告X3の就労実態が偽装請負であったことは争う。
(イ) 原告X3は、平成16年5月から労働者派遣に変更されたことを認識していなかったと主張する。しかしながら、原告X3は同月から株式会社hより賃金が支払われ、履歴書にも株式会社hで勤務した旨記載しているため(証拠〈省略〉)、自身の契約が請負契約から派遣労働契約に変更されたことを認識していないはずがない。
(ウ) 被告Y2社は、平成17年5月1日から平成20年4月末まで、原告X3を期間従業員として雇用していた。この間における契約の期間については、その時々の変動する受注量見通しに応じて異なる契約期間を原告X3に提示し、その承諾を得て合意決定したものである。
(エ) 被告Y2社のJ工長は、原告X3が平成20年5月1日からn社と派遣労働契約を締結するに当たって原告X3に頼まれて仲介の労をとったにすぎず、被告Y2社から原告X3に派遣労働者となるよう要請したものではない。
原告X3が平成20年5月1日から同年9月末日まで派遣労働者として勤務していた間、業務内容が期間従業員であったときと同様であったこと、期間従業員であったときと同様の作業着及び更衣ロッカーを使用していたことは認める。被告Y2社は、寮、通勤バス、更衣室等の利用について正社員と期間従業員、派遣社員等とを区別しておらず、原告X3のみが特別待遇を受けていたのではない。
(オ) 被告Y2社が、平成20年10月1日から原告X3を期間従業員として雇用するに当たり、「直接雇用する」旨の書面を送付したことはない。
(カ) 被告Y2社においては、正社員、期間従業員等も、自動車製造工程の作業要員であり、作業の軽重・難易を問わず、自動車製造のために必要不可欠なことは当然である。もっとも、被告Y2社の正社員は所属職場の各作業に対応することができるよう養成されており、作業のほかに工程管理、品質管理、労務管理等も行うのに対し、期間従業員等はこれらの作業を担当したことはなく、限られた作業のみを行っている。雇用の基幹性・常用性などと論じ得る状況にはない。
被告Y2社では、作業上の規律と安全上、業務上の指示は職制が行うこととされており、職制ではない期間従業員や派遣労働者が正社員に指示をすることはない。
イ 原告X4
(ア) 被告Y2社は、その当時の受注量見通しに応じて、原告X4の契約期間を平成21年7月28日から8か月としたのであって、原告X4を特別に優遇したことはない。
(イ) 被告Y2社では、作業上の規律と安全上、業務上の指示は職制が行うこととされており、職制ではない期間従業員や派遣労働者が正社員に指示をすることはない。
(2) 被告Y2社の原告X3及び原告X4に対する雇止めについて
ア 解雇権濫用法理の類推適用について
原告X3及び原告X4には、以下のとおり、雇用継続の合理的期待はなく、解雇権濫用法理が類推適用されることはない。
(ア) 地位のキャッチボールについて
a 原告X3
被告Y2社と原告X3との間の労働契約、被告Y2社と株式会社hとの間の労働者派遣契約は、その折々の受注量及びその見通しに応じて1か月ないし7か月の期間で締結されており、同一期間の契約が形式的に繰り返されたのではないから、「地位のキャッチボール」というものではない。
原告X3は、平成17年5月1日から継続して期間従業員の地位を有していたと主張するが、明文の書面契約が存在するのに、これを無視して黙示の労働契約が成立することはあり得ない。
b 原告X4
原告X4については、その勤務期間の短さに照らせば「地位のキャッチボール」の有無を論じる余地はなく、その経歴から見ても契約期間更新の期待が生じ得ない。
(イ) 雇用の基幹性について
前記のとおり、原告X3及び原告X4が行っていた業務は、正社員の業務とは異なる。
(ウ) 雇用継続の期待を抱かせる事情について
被告Y2社と原告X3及び原告X4間の期間従業員労働契約書(証拠〈省略〉)には、「契約更新の判断基準」として「会社の経営状況に依る契約期間満了時の業務量」と記載されており、作業量が減少した場合には更新されないことを合意していた。被告Y2社には、3年以上勤務する期間従業員はほとんど存在しなかった上、当時は九州工場への移管に伴い湘南工場で大幅な生産縮小が予定されていたから、期間従業員が長期勤続が可能であると認識するはずがない。
満期慰労金制度は、契約期間中途での退職を少なくするための制度であって、長期勤続を促すものではない。
イ 雇止めの有効性について
原告X3及び原告X4の雇止めは、世界的大不況による自動車需要の急落に対処するため、やむなく行ったものであり、期間契約雇用の法制度、労働者派遣制度の下でこれに対応したもので、正当かつ合理的な理由に基づき、有効である。
(ア) 人員削減の必要性について
被告Y2社が製造する自動車は、その全量が被告Y1社からの受注であり、生産は、被告Y1社の国内外における需要動向、販売状況に直接影響される。平成20年9月のいわゆるリーマンショックにより、自動車業界では需要が急激に縮小して生産が落ち込み、平成16年から平成19年までの被告Y1社からの年間受注量が年間30万台余りだったのに対し、同年10月から平成21年3月までの生産台数は前年度比約20パーセントないし約60パーセント減少した。また、平成20年11月以降は生産台数も2万台を割り込み、原告X3及び原告X4に対する雇止めをした際には、生産台数が20万台ないし25万台レベルとなる情勢にあった。このため、被告Y2社では、同年12月には直接員(正社員、期間従業員及び派遣労働者)を合計して694名の余剰人員が発生し、平成21年1月ないし3月になると、必要人員が直接員1100名のみとなり、当時の在籍正社員約1230名の中でも120名が余剰人員となったため、後記(イ)記載の勤務体制変更、休業日の設定等では到底対処することができなくなった。
被告Y2社は、リーマンショック以前から生産台数の減少傾向に対応するため、正社員のセカンドキャリア支援(転身援助制度)などの経営努力を続けていたところ、その最中にリーマンショックに直面して月次生産台数がさらに急減した。被告Y2社における生産台数は、平成19年度から平成22年度にかけて一貫して減少を続け、平成21年以降、リーマンショックの前の生産台数には回復していない。
エコカー減税やエコカー補助金制度は、平成20年12月中旬頃に税制大綱において発表された当時は、どのような実需に結び付くかも全く予測が立たず、被告Y2社は平成20年末から平成21年年初当時における人員問題対策において考慮することができなかった。また、平成20年度、平成21年度の被告Y2社の生産台数の実績が示すとおり、エコカー減税やエコカー補助金制度の実施によっても、被告Y2社の生産台数の減少が止まることはなかった。
(イ) 雇止め回避の努力について
被告Y2社は、平成20年10月から残業規制を実施し、同年11月からは、勤務体制の変更(二直勤務体制を一直勤務体制へ変更)による稼働時間の削減、シフトベースの変更(製造ラインのスピードを大幅に遅くする)による生産抑制を行い、同年12月からは翌年の休日を前倒しして当月の稼働日を休業日とした。また、被告Y2社は、q株式会社の設立に伴い湘南工場の社員数削減に努め、セカンドキャリア支援制度(希望退職制度)により平成19年度末までに社員342名(直接員238名)が退職しており、大幅な減員を先行させていた。
間接部門においても、残業を原則ゼロとし、毎月1回以上の休業日を設定した上、休業手当削減、海外・国内出張の原則禁止、文房具等の消耗品・業務関連書籍等の購入停止を実施した。また、平成21年2月からは管理職の年俸(賞与を含む)を5パーセントないし10パーセント削減して、昇給も停止し、これを平成22年度も継続し、平成21年夏期から一般職員の賞与を前年度比で30パーセント削減するなどした。被告Y2社の取締役は、平成21年1月から月額報酬分から20パーセントを自主返上し、平成21年度の取締役報酬は10パーセント削減された。
(ウ) 人選の合理性及び雇止めの手続について
被告Y2社は、こうした状況を受けて、平成21年の初めに、年度内対応として期間従業員及び派遣労働者については契約解消以外の手段はないと判断した。そして、被告Y2社は、期間従業員については同年3月末日までの契約期間満了時をもって契約更新をしないこととし、265名が雇止めとなった。雇止めに当たり、同年1月21日から同月末まで、各現場の監督者(係長・工長)が各期間従業員に事情を説明して契約を更新しないことを伝えた。
派遣労働者については、同年1月中に派遣会社との間で労働者派遣契約の予告解約の手続をとり、同年2月28日をもって受入れを全面解消することとし、279名が解約となった。
被告Y2社は、期間従業員等への再就職支援等として、①社員寮入寮者に1か月間の無料在寮を認め、②再就職支援室を開設して再就職に向けた相談、雇用保険手続の説明・手続等を行うとともに求人情報を提供し、③湘南工場の各地区ごとに社内でハローワーク説明会を開催し、④所属職場ごとに送別会食や慰労会を実施した。
ウ 損害賠償請求について
前記のとおり、原告X3及び原告X4に対する雇止めは、被告Y2社が直面した世界的大不況による自動車需要の前例のない急落という経済事情の大きな変化に対処するためにやむなく行ったものであり、期間契約雇用の法制度、労働者派遣制度の下でこれに対応して行ったもので、正当かつ合理的な理由に基づくものであるから、適法有効である。
(原告X3及び原告X4についての被告Y1社の主張)
被告Y1社と被告Y2社とは別法人であり、独立した意思決定機関を有している。原告X3及び原告X4の雇止めは、正社員の希望退職募集、新規採用者の抑制等の様々な手段があり、その時期や規模も様々なものが考えられる中で、被告Y2社が独自に判断し、決定したもので、被告Y1社の関与はないから、被告Y1社に不法行為が成立する余地はない。
3  原告X5関係
(原告X5の主張)
(1) 原告X5の労働契約の形式的経過及び労働実態
ア 原告X5は、派遣労働者として被告Y1社で就労した後、平成17年8月から期間従業員として被告Y1社と労働契約を締結するに当たり、あらかじめ、被告Y1社及びa社から、期間従業員にならなければこれ以上被告Y1社で就労することはできないこと及び期間満了後は再びa社の派遣労働者に戻ることができることを説明された。また、平成18年2月1日から同年8月31日まで派遣労働者として就労した後、同年9月から期間従業員として被告Y1社と労働契約を締結するに当たっても、同様の説明を受けた。
イ 原告X5は、平成16年9月1日頃から平成19年7月頃まで、ライン「AL・Cプラ」において、同年8月からはライン「P32E」で勤務した。ライン「AL・Cプラ」で就労していた期間の作業内容は、その契約形態の差異にかかわらず、同一であった。
ウ 有給休暇の持ち越し
原告X5は、被告Y1社から、平成17年7月頃、a社の派遣労働者として稼働していた時期に取得した年次有給休暇は、被告Y1社の期間従業員となった後もそのまま持ち越して使用することができ、被告Y1社との間の労働契約期間満了後に再度a社の派遣社員に戻った際にも持ち越すことができる旨を、あらかじめ説明された。そして、原告X5は、現に、そのように扱われた。
エ 被告Y1社の寮の使用状況
原告X5は、平成17年8月から平成18年5月15日まで、被告Y1社のj寮に居住し、同寮が同日閉鎖されると、同日から平成20年3月21日まで、被告Y1社のk寮に居住した。
オ 雇用の継続に関与したこと
原告X5の上司であったL工長は、原告X5の働き振りを評価し、平成19年9月、原告X5に被告Y1社の正社員登用試験の受験を勧め、職場推薦の事実を伝えた。その時点で、原告X5は、被告Y3社との間で同月末までの契約を締結していたにすぎないから、L工長が将来行われる正社員登用試験に原告X5を推薦することは、少なくとも正社員登用試験が行われるまでは原告X5の雇用を継続させることを意味するのであり、被告Y1社は、原告X5を特定して、被告Y3社が原告X5の雇用を継続することに関与したというべきである。
カ 給与等の額に関与したこと
被告Y1社は、遅くとも平成19年10月以降、被告Y3社を介して、派遣従業員に対して報奨金を支払った。被告Y3社は形式的な給与支払機関にすぎず、被告Y1社は、原告X5の使用者として、雇用している原告X5を査定し、さらなる長期就労を期待して被告Y3社から支払われる基礎賃金に加えて査定給を支払ったものといえる。
キ 被告Y3社が労務管理を行っていないこと
被告Y3社は、被告Y1社横浜工場に派遣従業員との連絡を担当する監督を配置せず、派遣従業員の仕事も月1回報告させる程度で何ら把握していなかった。原告X5は、被告Y1社横浜工場において、「AL・Cプラ」から「P32E」に配置換えとなっているが、被告Y3社はこのことに何ら関与してない。
また、原告X5は、有給休暇の申請を被告Y1社の工長に申請し、工長が認めなければ、有給休暇の取得はできなかった。休日出勤の指示も、被告Y1社から、正社員、期間社員及び派遣従業員を区別することなく行われていた。
仕事で成果を上げた場合も、被告Y3社を一切通すことなく、被告Y1社が直接原告X5を表彰していた。
(2) 被告Y1社との間で労働契約が成立していること
ア 黙示の労働契約の成立
原告X5は、被告Y1社において、業務内容に変化がないにもかかわらず、派遣労働者→期間従業員→派遣労働者→期間従業員→派遣労働者と、雇用形態の変遷を繰り返され(地位のキャッチボール)、雇用形態の変遷にかかわらず有給休暇が持ち越されることや、被告Y1社の寮の使用を継続することができることを説明され、実際にそのように扱われた。
これは、法が禁じている非正規労働の常用代替を脱法的に実現するものである上、労働者派遣法の期間制限を潜脱するものである。
このような地位のキャッチボールは、労働者派遣法40条の2ないし4、労働基準法75条以下(災害補償責任)、労働契約法16条、民法90条(公序良俗)に違反する。被告Y1社と原告X5との間には、遅くとも、被告Y1社が原告X5の特定行為を行い、かつ報奨金制度が始まった平成19年10月以降、期間の定めのない黙示の労働契約が成立したものといえる。原告X5は、その一部請求として、被告Y1社と原告X5との間で期間を4か月とする有期労働契約が成立し、これが更新されてきたことを主張する。
イ 規範的・合理的解釈に基づく労働契約の成立
派遣先が解雇権濫用法理等を潜脱する目的で労働者派遣の形式を偽装し、労働者を派遣労働者の地位にとどめて就労させている場合、労働者に派遣先の指揮命令下に従属労働を提供する意思があり、派遣先にその労働を受領する意思さえあれば、派遣先と労働者との間に労働契約が成立する(規範的・合理的解釈)。
原告X5が、地位のキャッチボールを繰り返され、被告Y1社の正社員が担うべき恒常的な業務を行っていたことに鑑みると、平成18年2月1日に被告Y1社の期間従業員から派遣労働者に戻る際の、被告Y1社と被告Y3社との間の労働者派遣契約及び原告X5と被告Y3社との間の派遣労働契約は、いずれも派遣の期間制限、解雇権濫用法理を潜脱する目的で締結されたものであるといえる。
そして、原告X5は、平成18年2月1日にb社と派遣労働契約を締結した後も、派遣先である被告Y1社の指揮命令下に従属労働を提供する意思を有しており、被告Y1社は、原告X5の従属労働をそれまでと同様に受領する意思を有し、b社は被告Y1社の賃金を原告X5に渡すとともに、被告Y1社から名義貸しの報酬を受け取っていた。これらの事情を実質的規範的に解釈すれば、平成20年2月以降、又は21年1月以降、原告X5と被告Y1社との間に直接の労働契約が成立していたというべきである。
ウ 信義則違反の効果としての労働契約の成立
被告Y1社は、このような地位のキャッチボールを行っていたため、信義則上、被告Y1社の期間従業員であった原告X5が平成19年1月8日から派遣労働者として勤務する際の、被告Y1社と被告Y3社との間の労働者派遣契約、原告X5と被告Y3社との間の派遣労働契約のいずれの有効性も主張することができず、この効果として、原告X5と被告Y1社との間に、直接の労働契約が成立していると解釈すべきである。
エ 労働契約の内容
原告X5の平成20年1月分の賃金額(被告Y3社からの報奨金を除く)は22万9263円であり、同額が原告X5の月額平均賃金額である。
被告Y1社には、3か月の契約期間が満了するごとに、満期慰労金10万円を支給する制度があり、その支払日は、契約期間満了月の翌月15日であった。
オ 被告Y1社の原告X5に対する解雇の意思表示
被告Y1社は、原告X5が何らの理由もなく無断欠勤を続けたと考え、被告Y3社の担当者であるMを使者として、Mが原告X5に対して「もう、Y1社には行かないでくれ」と述べたことにより、原告X5に対する解雇の意思表示をした。
カ 解雇の有効性
(ア) 原告X5が平成20年2月16日以降、被告Y1社において就労することができなかったのは、被告Y1社における業務に起因して足底腱膜炎に罹患したことにより療養を要したことによるものである。被告Y1社は、業務上発症した足底腱膜炎により療養を必要とする期間内に原告X5を解雇したものであるから、労働基準法19条1項に違反し、解雇の意思表示は無効である。
(イ) 被告Y1社と原告X5との雇用契約が4か月間の期間雇用であるとすれば、被告Y1社は、「やむを得ない事由」がないにもかかわらず、期間の途中で原告X5を解雇したことになるから、原告X5に対する解雇の意思表示は無効である。
(ウ) 被告Y1社は、職場から正社員登用試験に推薦されるほど優秀であり、度々職場表彰を受けたこともある原告X5を解雇したものであるから、解雇に合理的な理由はなく、解雇の意思表示は無効である。
キ 退職の合意はないこと
(ア) 被告Y3社の担当者であるMが、被告Y1社の使者として、原告X5に「もう、Y1社には行かないでくれ」と述べたことが、被告Y1社からの合意退職の申し入れであると解されるとしても、原告X5はこれに同意していないから、退職の効力は発生しない。
(イ) 仮に、原告X5が退職に合意したとみる余地があったとしても、被告Y3社の担当者Mの発言は、原告X5に対する強迫(民法96条1項)であり、原告X5は同意の意思表示を取り消しているから、退職の効力は発生しない。
(ウ) また、被告Y1社の合意退職の申入れは、正社員登用試験への推薦までしていた原告X5を、横浜工場から閉め出して労災申請を封じるという不当な動機に基づいてされたものであるから、公序良俗に違反して無効であり、かつ、被告Y1社が退職同意に基づく雇用関係の終了を主張することは信義則に違反し、許されない。
(3) 被告Y1社、被告Y2社及び被告Y3社に対する損害賠償請求
ア 被告Y1社の不法行為
(ア) 被告Y1社は、利益のみを追及し、労働者派遣の規律を回避するため、原告X5について地位のキャッチボールを継続し、被告Y1社における常用雇用の代替としようとして、原告X5を、3年6か月もの長期間、低賃金かつ不安定な地位に押しとどめた。
(イ) 原告X5は、「AL・Cプラ」及び「P32E」のいずれにおいて勤務していた際にも、部品を溶接ロボットにセットして溶接させて取り出し、次の工程に送る「持ち回り」を担当していたところ、これは、生産ノルマに追われ、勤務時間中絶えず小走りで部品を持って歩き回らなければならない作業のため、足腰に大きな負担を受けた。また、溶接部品を運送する巡回台車(AGV)が回ってこなくなるなどのトラブルが頻発したため、原告X5は、他の作業員とともに約20キログラムもある完成した溶接部品を手作業で上げ下ろしすることを強いられた。原告X5は、このような厳しい就労環境のため脱落者及び中途退職者が目立っていたのに対し、生産数の記録を作るほど熱心に就労し、正社員登用試験の職場推薦を受けることとなっていたが、それまで作業で無理をしたことが原因で足腰を負傷し、平成20年2月17日から横浜工場に出勤することができなくなった。このような経緯があったにもかかわらず、被告Y1社は、原告X5が同月28日頃にL工長に対して労災申請の意思を伝え、安全担当係長Nに労災申請の意思を伝え足の負傷に関する医師の診断書を提出するや否や、契約途中の原告X5を強迫して、被告Y1社から強制的に追い出すとともに、労災を隠した。
(ウ) 原告X5は、これらの被告Y1社の不法行為により低賃金の派遣労働者に押しとどめられ、被告Y1社の常用労働者であったならば得られたであろう賃金との差額相当額分の経済的損害を被るとともに、被告Y1社での最終就労日である平成20年2月16日以降の賃金相当額分の経済的損害を被った。
(エ) また、原告X5は、長期間にわたって不安定かつ脱法的な身分変遷を受け入れさせられ、被告Y1社の正社員登用への期待を持たされたにもかかわらず、労災申請の意思を示すや否や、被告Y1社から無理矢理追い出された上、やむを得ずに始めた被告Y2社での就労も、被告Y1社の号令に基づく被告Y2社の人員合理化及び被告Y3社の違法解雇によって一方的に終了させられるなどした。
イ 被告Y3社
(ア) 被告Y3社は、被告Y1社が労働者派遣法の派遣可能期間の潜脱目的で行った脱法行為に加担した上、原告X5の労務管理を全く行わず、原告X5の派遣労働者雇入れ通知書を偽造するなどした。
(イ) 被告Y3社は、被告Y1社の使者として、原告X5を違法に解雇し、原告X5の被告Y1社における就労を不可能なものとした。
(ウ) 被告Y3社は、被告Y1社による原告X5の労災隠しに加担し、原告X5の労災申請手続に協力しなかった。
(エ) 被告Y3社は、被告Y2社の労働者派遣契約の途中打ち切りに迎合し、原告X5を派遣労働契約の期間途中で解雇した。
また、被告Y3社は、平成21年3月末まで寮を使用することを許可しておきながら、同日、原告X5の立会いのないまま原告X5の部屋に無断で立ち入り、原告X5の荷物を運び出すなどした。
ウ 被告Y2社
被告Y2社は、黒字であったにもかかわらず、被告Y1社の大号令の下、原告X5が解雇されることになることを知りつつ、被告Y3社との間の労働者派遣契約を不当に解除した。
エ まとめ
被告Y1社、被告Y3社及び被告Y2社の各行為は、それぞれが単独で不法行為を構成し、かつ各行為は、相互に関連するから、共同不法行為と評価すべきである。
上記被告らの共同不法行為によって、原告X5は多大な精神的苦痛を受けた。その慰謝料の額は、合計300万円を下らない。
(原告X5についての被告Y1社の主張)
(1) 労働契約の形式的経過及び労働実態等について
原告X5の主張(1)アは、原告X5が、派遣労働者として被告Y1社で勤務した後、平成17年8月から期間従業員として被告Y1社と労働契約を締結するに当たり、被告Y1社からあらかじめ労働期間満了後は、原告X5が希望すれば再度、a社の派遣労働者に戻ることができることを説明され、平成18年2月1日から同年8月31日まで派遣労働者として勤務した後、同年9月から期間従業員として被告Y1社と労働契約を締結するに当たっても、同様の説明を受けた限度で認める。
同(1)イないしエは、いずれも認める。
(2) 被告Y1社との間の労働契約について
ア 黙示の労働契約について
黙示の労働契約が成立するためには、①派遣先が派遣労働者の採用に関与していた事実、②派遣先が派遣労働者の給与等の額を事実上決定していた事実、③派遣元が派遣労働者の配置を含む具体的な就業態様を決定し得る地位にないこと、の各要件がいずれも認められることが必要である。以下のとおり、本件においては、いずれの要件も認められないから、黙示の労働契約は成立しない。
イ 地位の変遷について
原告X5は、被告Y1社就労中の地位の変遷を問題とし、労働者派遣法違反等を主張するが、被告Y1社がこれらの規定に違反した事実はない。すなわち、被告Y1社は、派遣可能期間を超えて労働者派遣の役務の提供を受けていないから、労働者派遣法40条の2第1項、40条の4に違反せず、原告X5は、被告Y1社での就労終了後に被告Y3社からの派遣労働者として被告Y2社で就労しているから、労働者派遣法40条の4の適用の前提を欠く。派遣元は、労働基準法75条以下の災害補償について責任を負うのであって、災害補償につき派遣先に責任があるかのような主張は、労働者派遣法の全否定を意味するものでしかない。被告Y1社は、被告Y3社との労働者派遣契約に基づき、原告X5を派遣労働者として受け入れていたものであり、雇止めを論ずる余地も、解雇権濫用法理を論ずる余地もなく、労働契約法16条に違反したことも脱法したこともない。
そして、原告X5の契約関係は、原告X5との合意の下で行われたのであるから、契約の変遷が黙示の労働契約を基礎付けることもない。
ウ 賃金の決定について
被告Y1社は、被告Y3社に対して派遣料金を支払っていたが、被告Y3社が原告X5に対して支払っていた賃金(時給)の額は、被告Y3社と原告X5との間で独自に決まったもので、被告Y1社はその算定方法、具体的数額を知らない。
このように、被告Y1社が原告X5の賃金決定に関与した事実はないから、黙示の労働契約が成立する余地はない。
エ 採用決定について
原告X5と被告Y3社との間の最初の派遣労働契約は、原告X5が被告Y1社で就労を開始した平成16年9月より前の同年6月に締結され、原告X5は、同派遣労働契約に基づき、他社で就労していた。この事実からも明らかなように、被告Y1社は、原告X5が被告Y1社での就労を開始する際の派遣労働契約の締結には全く関与していない。
オ 配置等の就業態様の決定について
原告X5は、被告Y1社での就労を終了する際に、被告Y3社のM氏からの派遣先変更の提案に応じて被告Y2社で就労することとなったものであり、この事実から、被告Y3社が、配置を含む原告X5の具体的な就業態様を決定し得る地位にあったことは明らかである。
なお、被告Y1社は、平成19年8月、原告X5に対し、「AL・Cプラ」ラインから「P32E」ラインへ配置変更を命じている。これらのラインはいずれも横浜工場第1製造部第2機械課「P42」(「P42」は係名)に属しており、係内の作業の中で各派遣労働者にどのような作業をさせるかは、派遣先に認められている労務指揮権の範囲内にあるから、被告Y1社が原告X5の配置を決めたという事実はない。
(3) 規範的・合理的解釈に基づく労働契約について
否認ないし争う。
(4) 信義則違反の効果としての労働契約の成立について
否認ないし争う。
(5) 契約内容について
否認ないし争う。
(6) 損害賠償請求について
原告X5は、被告Y1社及び被告Y3社が労働者派遣の規律を潜脱して、原告X5を長期間にわたり低賃金かつ不安定な地位に押しとどめたことを損害賠償請求の根拠とするが、労働者派遣の規律を潜脱したという原告X5の主張自体に理由がない。また、労働者派遣法は取締法規としての性質を有するものであり、損害賠償請求の根拠となるものではない。
原告X5が、被告Y1社での就労が原因で足を負傷したことはなく、当時被告Y1社に対して労災を申請するなどと発言した事実もないから、被告Y1社は原告X5の労災申請を妨害する意図を持ちようもなく、損害賠償の前提となる事実自体が存在しない。
(原告X5についての被告Y2社の主張)
原告X5の被告Y2社に対する損害賠償請求の主張は、争う。被告Y2社は、被告Y1社とは別に、独自の判断で、被告Y3社との労働者派遣契約を解除した。
(原告X5についての被告Y3社の主張)
(1) 労働契約の形式的経過及び労働実態について
原告X5の主張(1)アは不知。同イは、原告X5が、平成16年9月1日頃から平成19年7月頃までライン「AL・Cプラ」において、同年8月からはライン「P32E」において、それぞれ勤務していた限度で認め、その余は不知。同ウは、被告Y3社が有給休暇の引継ぎという扱いをしていた限度で認め、その余は不知。同エは、原告X5が平成17年8月から平成20年3月までの間、被告Y1社の寮に居住していた限度で認め、その余は不知。
原告X5が平成17年8月から平成20年3月まで被告Y1社の寮に居住していたのは、派遣労働者への便宜のため、被告Y3社が、被告Y1社から寮を借り受けていたことによるものであり、被告Y3社は、被告Y1社に対して寮費を支払っていた。
(2) 被告Y1社との間の労働契約について
ア 黙示の労働契約について
本件における原告X5の労働契約及び派遣労働契約は、全て原告X5との合意に基づき締結されたものである。
原告X5と被告Y1社との間の労働契約、原告X5と被告Y3社との間の派遣労働契約が、労働者派遣法40条の2ないし4に違反する事実はない。また、派遣労働者が派遣先で就労中に労災事故が発生した場合にはその責任は派遣元が負う以上、労働基準法75条以下の責任を回避するものではない。原告X5が被告Y1社での勤務を終了したのは、原告X5も合意の上で派遣先を変更したことによるから、労働契約法16条違反とならない。原告X5との契約関係は、脱法手段に該当するものではない。
イ 規範的・合理的解釈に基づく労働契約について
争う。
ウ 禁反言を根拠とする労働契約について
争う。
エ 労働契約の内容について
原告X5がY3社と派遣労働契約を締結し、被告Y1社に派遣されて勤務していた際の時給は1150円であり、被告Y2社に派遣されて勤務していた際の時給は1250円であった。
(3) 損害賠償請求について
ア 本件において、労働者派遣法40条の2ないし4、労働基準法75条以下、労働契約法16条違反の事実はなく、脱法行為はない。被告Y1社と被告Y3社とは一取引先の関係であるにすぎず、原告X5が主張するような共謀をした事実はない。
イ 原告X5が業務上負傷したことは否認する。原告X5は、平成20年3月上旬に被告Y3社の担当者のMに対し、労災申請をしたい旨を告げたことはあるが、被告Y3社は、本訴提起前の時点で、原告X5が労災申告をした事実を認識していない。
原告X5の派遣先が変更となった経緯は次のとおりである。原告X5は、平成20年2月18日から同月25日までの間無断欠勤をし、同月28日の勤務開始前に足が痛いから休みたいと被告Y3社に連絡をし、その後、同年3月上旬頃まで連絡が取れない状態となった。そこで、被告Y3社の担当者であるMが、同年3月上旬頃に、原告X5に対し、無断欠勤が続くと現在の派遣先である被告Y1社での勤務継続が困難であるとして派遣先の変更を提案すると、原告X5から、自動車関係の仕事で、足に負担のかからない業務に変更したい旨の希望が出された。Mは、これに対して被告Y2社への派遣を提案し、原告X5がこれに応じたため、合意の上、派遣先を変更した。このように、原告X5は、被告Y1社での派遣就労を終えることについて了解していた。
Mが原告X5から被告Y1社の入門許可証及びロッカーの鍵の返却を受けたのは、派遣先の変更が決定した後にこれを理由としたものであり、原告X5が返却を断った事実はない。
第4  当裁判所の判断
1  原告X1及び原告X2について
(1)  認定事実
証拠(証人G、ほか証拠・人証〈省略〉、原告X1、原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。
ア 被告Y4社について
被告Y4社は、訴外d株式会社の100パーセント子会社であり、厚生労働大臣の許可を受けて、訴外d株式会社が中心となって行っている人材派遣、人材紹介業務のうち、IT技術者を対象とする業務を中心に事業を展開している。
被告Y4社は、被告Y1社とは何ら資本提携関係のない会社であり、被告Y1社以外にも多数の取引先を有し、被告Y4社に登録した多数の派遣労働者を、被告Y4社と労働者派遣契約を締結した派遣先において就労させている。
被告Y4社に派遣登録を希望する者は、その学歴、資格、経歴、OA経験、希望就業条件等を申告して登録し、被告Y4社は、その登録情報に基づき、当該登録者についてスキルチェックシートを作成する。被告Y4社の担当者は、スキルチェックシートを作成する際に、実際に、登録希望者にパソコン操作を行わせ、簡単なテストをすることもある。
イ 原告X1及び原告X2と被告Y4社との関わり
(ア) 原告X1
原告X1は、高校を卒業した後、デザイン専門学校で洋裁とテキスタイルデザインを専攻して同校を卒業し、卒業後は、アパレル関連の会社やベンチャー企業で、デザイナーとして就労していた。
原告X1は、就労していた会社が倒産し、失職したことから、平成14年頃、訴外d株式会社の銀座オフィスに赴き、派遣社員としての登録手続をした。原告X1は、同社への登録手続に際し、パソコンスキルをチェックする簡単なテストを受けた。
原告X1は、登録後しばらくして、訴外d株式会社から派遣就労先としてl社を紹介され、l社において、訴外d株式会社からの派遣従業員として就労を開始し、携帯電話のデザイン業務に携わった。
原告X1は、l社において派遣就労をしていた平成14年8月頃、訴外d株式会社から被告Y4社に転籍した。
原告X1は、平成14年12月頃、l社における派遣就労を終了した。
(イ) 原告X2
原告X2は、iグループの会社で自動車デザインのデザイナーとして就労した経験があるほか、約10年間デザイン事務所を経営し、また、美術専門学校の非常勤講師として勤務した経歴を有する者である。
原告X2は、平成15年9月頃、被告Y4社の派遣社員としての登録手続を行った。原告X2は、被告Y4社への登録に際し、パソコンスキルをチェックする簡単なテストを受けた。
ウ 事前面談
(ア) 原告X1
a 原告X1は、平成14年12月頃、被告Y4社の担当者から、被告Y1社への派遣就労を紹介され、被告Y1社において就労することを希望した。
原告X1は、被告Y4社の担当者から、被告Y1社との面談の日程が同月9日に決定したことを伝えられ、面談に際しては、これまで原告X1が製作したデザイン等の作品を持参することを求められた。原告X1は、被告Y4社の担当者に対し、被告Y1社において就労する場合の時給額を1800円にすることを要請していた。
b 原告X1は、平成14年12月9日、被告Y4社の担当者に連れられて、面談場所であるテクニカルセンターに赴いた。
原告X1は、テクニカルセンターの一室において、被告Y4社の担当者も同席して、ZXAのGマネージャー、ZXBのP、ZX0のQとの面談(原告X1面談)を行った。なお、この場には被告Y1社の人事担当者は同席していなかった。
原告X1面談に先立ち、被告Y4社は、被告Y1社に対し、原告X1のこれまでの職務経歴を記載したスタッフスキルシート(証拠〈省略〉)を作成して交付していた。なお、スタッフスキルシートには、原告X1の名前や住所、学歴、これまで就労した会社の具体的名称等は記載されていなかった。
c 原告X1面談において、原告X1は、持参した作品を出席していた被告Y1社担当者に見せ、被告Y1社担当者は、原告X1が持参した作品の説明を受けながら、原告X1がこれまで経験してきた業務内容について質問をした。
被告Y1社担当者は、原告X1に対し、被告Y1社において予定されている業務内容や就労時間等を説明した上で、就労場所であるテクニカルセンターまでの通勤時間や、残業ができるかどうか、結婚や出産の予定があるかどうかについて質問した。
原告X1面談においては、原告X1の賃金の額については話題にならなかった(なお、原告X1は、本人尋問において、原告X1面談の際に、l社時代の時給1800円以上の時給を要請した旨述べるが、証人Gマネージャーは賃金の話題が出たことを否定する供述をしていること、原告X1作成の陳述書(証拠〈省略〉)には「具体的な金額までは口に出しませんでした」との上記供述と矛盾する記載があること、原告X1は、その本人尋問において、被告Y4社から直接被告Y1社に対して給料などの労働条件について話合いをすることを禁じられていた旨も述べていること、後記のとおり原告X2面談において賃金の額は話題に出ていなかったことが認められることに照らし、採用することができない。)。原告X1面談に要した時間は合計30分程度であった。
d 上記面談終了後、被告Y1社は、被告Y4社に対し、原告X1を派遣就労させることに問題がない旨を伝えた。
(イ) 原告X2
a 原告X2は、平成15年9月20日頃、被告Y4社担当者から、被告Y1社のデザイン部にCGオペレーターの派遣就労があることを紹介され、就労を希望した。その際、原告X2は、被告Y4社担当者に対し、時給額を2300円ないし2500円とすることを要請した。
b 原告X2は、被告Y4社担当者から、被告Y1社と面談を行うことを知らされ、面談に際しては、原告X2がこれまでに製作したデザイン等の作品を持参することを要請された。
原告X2は、平成15年10月上旬に、被告Y4社の担当者に連れられてテクニカルセンターに赴き、その一室で、被告Y4社の担当者も同席して、Gマネージャー、プロジェクトマネージャーのR、ZX0のQとの面談(原告X2面談)を受けた。
原告X2面談に先立ち、被告Y4社は、原告X2についてのスタッフスキルシート(証拠〈省略〉)を作成し、被告Y1社に交付していた。スタッフスキルシートには、原告X2の名前、生年月日、学歴、これまで就労した会社の具体的名称等は記載されていなかったが、被告Y1社担当者は、被告Y1社で就労していた原告X2の大学の後輩や原告X2が専門学校で講師を務めていた際の教え子を通じて原告X2の話を聞き及んでおり、原告X2について、出身大学等、スタッフスキルシートに記載された以上の情報を有していた。
c 原告X2面談において、原告X2は、出席していた被告Y1社担当者に持参した作品を見せながら、過去に経験した業務の具体的内容を説明した。
被告Y1社担当者は、原告X2に対し、これまで携わった業務の具体的な内容を質問したほか、就労場所までの通勤時間、残業が可能かどうか、周囲の人間とうまくやっていけるかどうかについても質問した。
原告X2面談においては、原告X2の賃金額については話題にならなかった。原告X2面談に要した時間は30分程度であった。
d 上記面談後、被告Y1社は、被告Y4社に対し、原告X2を派遣就労させることに問題がない旨を伝えた。
エ 賃金額の推移
(ア) 原告X1及び原告X2が被告Y4社から支払を受けた賃金(時給額)の推移と被告Y1社が原告X1の派遣料金として被告Y4社に支払っていた金額の推移は別紙6〈「原告X1及び原告X2の賃金・派遣料金(時給単位)変動表」〉のとおりである(なお、原告X1は、被告Y1社において派遣就労を開始した当初の時給が1800円であり、Gマネージャーからの評価が下がったことからその後1700円に下がった旨述べるが、別紙6のとおり被告Y1社からの派遣料金に変動がないこと、また、就業条件明示書(兼)派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)には当初の賃金額が1700円である旨の記載があることに照らし、採用することができない。)。
(イ) 原告X1
別紙6のとおり、原告X1の賃金額は、おおむね毎年4月に見直しが行われていた。平成20年4月、原告X1の時給が1900円から1930円と増額されたが、原告X1は増額幅に不満を持ち、同月頃、被告Y4社の担当者に、再度の増額を求めたところ、同年7月から時給が2000円に増額された。なお、別紙6のとおり、同年7月には被告Y1社の原告X1に対する派遣料金は改定されていない。
(ウ) 原告X2
原告X2は、被告Y4社から支払われる賃金額に不満を有していたことから、平成19年1月頃、被告Y4社の担当者であった被告Y4社Hに対し、他社から引き合いがあり、退職を視野に入れていることを述べつつ、賃金を大幅に増額することを求めた。
被告Y4社・Hは、被告Y1社のGマネジャーに相談したところ、GマネージャーからZX2・Fに相談するように言われ、Fに電話したところ、Fからは、被告Y1社の購買部門担当者であるSに連絡するように言われた。ZX2・Fは、被告Y4社・Hに対し、前記指示をする一方で、原告X2の業務の見直しを行い、被告Y1社購買部門に原告X2の派遣料金の増額の話をした。そして、被告Y4社・Hが、被告Y1社購買部門と交渉した結果、原告X2の派遣料金は、別紙6のとおり、平成19年4月から、それまで3210円だったのが3500円に増額された。
被告Y4社は、平成19年4月から、原告X2の賃金を、それまでの時給2250円から2700円に増額した。
オ 業務内容
(ア) 原告X1
a 就業条件明示書(兼)派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)において、原告X1の被告Y1社における業務内容は、「政令業務05号 CG・デザイン業務オペレーション、テクニカルイラスト類」と記載されていた。
b 原告X1は、就労開始から3か月程度は、Gマネージャーの指示を受けて、自動車の写真を基にそれを線画で表現する仕事や、車両モデルの画像合成等の仕事をしていた。
原告X1は、就労開始から3か月を経過した頃から、Gマネージャー以外のマネージャーからも指示を受けるようになり、デザイン作成の準備としてデザインの種になるような写真を集めたり、具体的なテーマやデザインキーワードを基に、デザインの発想支援をしたりする仕事などに従事した。
原告X1は、平成16年頃から、デザイナーやプロジェクトマネージャーから依頼を受けて、開発中の製品について意思決定を行うためのDDM会議に使用する資料(パワーポイントを使用したもの)の製作作業を多く行った。
c 原告X1は、上記のような作業のほとんどを、被告Y1社が貸与したパソコンを使用し、作画ソフトやパワーポイントを使用して行っており、原告X1は、被告Y1社の社内でCGオペレーターと呼称されていた。
d 原告X1は、業務が繁忙になった際は、早朝あるいは夜遅くに時間外労働をすることがあり、その際は、被告Y1社の従業員が不在の状態で、就業場所の鍵を開け閉めすることもあった。
e 原告X1の退職後、原告X1の担当していた業務は、被告Y1社の正社員が担当している。
(イ) 原告X2
a 就業条件明示書(兼)派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)において、原告X2の被告Y1社における業務内容は、当初、「政令業務05号 CG・デザイン業務 3Dデザイン テクニカルイラスト類」と記載されていたが、平成19年4月1日ないし同年12月末日までを対象とするものについては、これに「その他一体的に行う業務」という記載が付加され、平成20年1月1日から同年12月末日までを対象とするものについては、「その他一体的に行う業務」が削除され、付随業務として、「データ照合、資料整理」という記載が付加され、平成21年1月1日から同年3月31日までを対象とするものについては、さらに付随的業務として、「不備等問い合わせ 付随的業務は1週間当たり1割以下とする。」との記載が追加された。
b 原告X2は、被告Y1社において、PCDなどのデザイナーから指示を受けて、スケッチを作成したり、デザイン案のレイアウト比較図や車両の最終案のレンダリング作業を行ったりしていた。これらの作業を行う中で、原告X2が業務改善提案を行い、その提案が採用されたこともあった。
c 原告X2は、上記のような作業のほとんどを、被告Y1社のパソコンを使用して行っており、原告X2は、被告Y1社の社内で、CGオペレーターと呼称されていた。
d 原告X2は、業務が繁忙になった際は、早朝や夜遅くに時間外労働をすることがあり、その際は、被告Y1社の従業員不在の状態で、就業場所の鍵を開け閉めすることもあった。
e 原告X2は、被告Y1社のPCDやPDMから直接指示を受けて業務を行うことが多く、指示を受けるデザイナーの所在に合わせて原告X2が就労する机の場所も度々変更された。なお、被告Y4社は、原告X2の就労する机の場所が変更されることについて、関与していなかった。
f 原告X2が退職した後、原告X2の担当していた業務は、被告Y1社の正社員が担当している。
カ 労務管理
(ア) 勤務時間及び休憩時間
原告X1及び原告X2は、被告Y1社に出勤した時間と退勤する時間をタイムシート(証拠〈省略〉)に記入し、これにGマネージャーのサインをもらった上で、被告Y4社に提出していた。被告Y4社は、提出されたタイムシートを基に、原告X1及び原告X2の賃金額の計算を行い、同人らに賃金を支給していた。
Gマネージャーは、平成18年頃、原告X1と原告X2に対し、出勤と退勤の確認のためにGマネージャーにメールを送信することを要請し、原告X1及び原告X2は、これに応じてGマネージャーにメールを送信していた。
原告X1及び原告X2は、業務の都合で所定の時間に休憩時間を取れないことがしばしばあり、そうした場合は、別の時間帯に休憩時間を取得したり、取得することができなかった休憩時間を時間外労働時間としてタイムシートに記載したこともあった。
(イ) 有給休暇の取得
原告X1及び原告X2は、有給休暇を取得する際は、Gマネージャーに承認を求めた上で、タイムシートに記入していた。被告Y4社は、原告X1及び原告X2から提出されるタイムシートを見て、同人らの有給休暇の取得を把握していた。
(ウ) 時間外労働
原告X1及び原告X2は、時間外労働を行った際は、タイムシートにその就労時間を記載していた。Gマネージャーは、同人らの時間外労働が月45時間超えることが度々生じたことから、被告Y4社担当者からの要請を受けて、ミーティングなどの席で、原告X1及び原告X2に対し、時間外労働時間が多くならないように要請したことがあった。
キ 被告Y4社担当者との面談
被告Y4社担当者は、2か月に1回程度、派遣労働者をフォローするために派遣労働者の就労場所を訪問しており、原告X1及び原告X2に対してもそれぞれ担当者がテクニカルセンターに赴いてフォロー面談を行っていた。被告Y4社担当者は、フォロー面談の際に、原告X1及び原告X2に対し、被告Y1社での就労を継続する意思があるかどうかを確認するほか、同人らから就労場所での要望を聞いたり(原告X2は使用しているパソコンのハードディスクの容量が足りずに困っているとの話をしたことがある。)、賃金増額の要請を受けるなどしていた。
ク 契約の更新
原告X1及び原告X2と被告Y4社との派遣労働契約は3か月間の期間雇用であり、派遣労働契約の更新手続は、それぞれ原告X1及び原告X2と被告Y4社の担当者との間で行われていた。被告Y4社の担当者は、通常は、被告Y1社に被告Y4社との労働者派遣契約を継続する意向があることを確認した上で、原告X1及び原告X2と面談をし、被告Y1社における就労を継続する意思があるかどうかを確認して、契約更新手続を行い、作成された就業条件明示書(兼)派遣労働者雇入通知書の控えを原告X1及び原告X2の自宅に郵送していた。なお、この派遣労働契約更新の手続に被告Y1社が関与したことはない。
また、被告Y4社は、派遣従業員向けに同社の就業規則やタイムシートの書き方等を記載した冊子(証拠〈省略〉)を作成しており、原告X1及び原告X2にもこれを交付していた。
ケ 直接雇用の希望
原告X1は、将来的には被告Y1社の従業員として採用されることを希望しており、その旨を被告Y4社担当者及びGマネージャーに伝えたことがあった。
原告X2は、被告Y4社との派遣労働契約を打ち切って、被告Y1社に中途採用されることや、被告Y1社の関連会社であるm社の従業員となることを希望し、これを被告Y4社担当者やGマネージャーに伝えたことがあった。
コ 派遣就労終了の経緯
被告Y1社は、平成21年2月9日、被告Y4社担当者に対し、被告Y4社から派遣されている労働者について労働者派遣契約が派遣期間満了による終了の可能性がある旨を伝えた。その後、被告Y1社は、正式に、被告Y4社に対し、テクニカルセンターの一部門であるZXAにおいて受け入れている派遣労働者全員(対象者は原告X1及び原告X2)の労働者派遣契約を期間満了として終了させる意向を伝えた。
これを受けて、被告Y4社担当者は、原告X1及び原告X2に対して、被告Y4社との派遣労働契約が平成21年3月31日に終了することを伝えた。なお、被告Y1社から、原告X1及び原告X2に対して、派遣労働契約が終了することが伝えられたことはない。
(2)  黙示の労働契約の成立の主張について
ア 黙示の労働契約の成否について
(ア) 契約意思の合致
原告X1及び原告X2は、原告X1及び原告X2と被告Y1社との間には黙示の労働契約が成立していると主張する。
黙示の労働契約の成立が認められるためには、明示の意思表示を欠いていることが前提であるから、原告X1及び原告X2と被告Y1社との間に、それぞれ労働契約を成立させる意思の合致があったことを推認させるに足りる事情があることが必要である。
しかしながら、前提事実及び前記認定事実によれば、原告X1及び原告X2は、いずれも、被告Y4社からの派遣従業員として被告Y1社において就労し、被告Y4社との間で明示の派遣労働契約を締結し、また被告Y4社との間で派遣労働契約の更新手続を行い、被告Y1社はこれに関与していないこと、原告X1及び原告X2は、被告Y4社から同社との派遣労働契約に基づいて賃金の支払を受けていたこと、原告X1及び原告X2は、それぞれ賃金の増額を被告Y4社担当者に要請した事実があること、原告X1及び原告X2は、被告Y1社における派遣就労時に、被告Y1社から直接雇用されることを希望していたこと、派遣労働契約を終了させる際、被告Y4社担当者から原告X1及び原告X2に対して派遣労働契約が終了することが伝えられており、被告Y1社はこれに関与していないことがそれぞれ認められるところ、これらの事情は、原告X1及び原告X2において、同人らの雇用主が被告Y4社であり、被告Y1社とは直接の雇用関係がないことを明確に認識していたことを示す事情であり、また、被告Y1社が原告X1及び原告X2の雇用主であるとは認識していなかったことを示す事情であるといえる。
そうすると、原告X1及び原告X2において、上記のとおり被告Y1社との間に雇用契約が存在していないことを明確に認識していたことを示す事情及び被告Y1社において原告X1及び原告X2の雇用主ではないことを認識していたことを示す事情が存在するにもかかわらず、派遣就労時の各当事者の認識に反して、原告X1及び原告X2と被告Y1社との間に黙示の労働契約が成立していることを認定するのはそもそも困難であるといわざるを得ない。
(イ) 黙示の労働契約成否の判断基準
派遣労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が成立するか否かについては、上記説示した派遣労働者及び派遣先企業の就労当時の認識を前提として、派遣元に企業体としての独自性があるかどうか、派遣労働者と派遣先との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係の実情を検討すべきである。例えば、労働者が派遣元との派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先に派遣された場合であっても、派遣元が形式的・名目的な存在にすぎず、派遣労働者の労務管理を何ら行っていないのに対して、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の労働条件を決定し、配置、懲戒等を行うなどして、派遣労働者を派遣先の従業員と同一視することができるような特段の事情がある場合には、派遣先と派遣労働者との間において、黙示の労働契約が成立していると認める余地が生じるというべきである。以下、本件の事実関係に則して検討する。
(ウ) 被告Y4社の独立性
前記認定事実のとおり、被告Y4社は、被告Y1社とは資本提携関係のない独立した会社であり、被告Y1社はその取引先の一つにすぎない。また、被告Y4社は、派遣就労者を登録する際にはスキルチェックテストを行った上で、その経歴等を登録させており、登録内容等に基づいて派遣先を提示し、派遣先における就労条件を決定していたことが認められるから、被告Y4社が名目的、形式的な存在であったということはできない。
(エ) 原告X1及び原告X2の賃金額の決定
原告X1及び原告X2が被告Y4社から賃金の支払を受けていたことについては争いがないところ、同人らの賃金額は、別紙6のとおり推移している。
別紙6のとおり、被告Y1社からの派遣料金の増額幅と原告X1及び原告X2が被告Y4社から受け取る賃金の増額幅とが一致しているとはいえないから、被告Y1社から受領する派遣料金の増減によって原告X1及び原告X2の賃金額が自動的に決定されていたものということはできず、被告Y4社において独自に原告X2及び原告X1の賃金を決定していたということができる。
(オ) 就労管理
前記認定事実のとおり、原告X1及び原告X2の就労時間、時間外労働、有給休暇の取得は、同人らが作成するタイムシートによって管理され、原告X1及び原告X2が月2回タイムシートを被告Y4社に提出し、被告Y4社において賃金計算を行っていたこと、被告Y4社は原告X1及び原告X2の有給休暇の取得についてもタイムシートによって管理していたこと、また、被告Y4社は、原告X1及び原告X2の時間外労働時間数が多くなっていたことから、派遣先の指揮命令者であるGマネージャーにその削減を要請していたことが認められ、これらの事実に照らせば、被告Y4社において原告X1及び原告X2の労働時間の管理を行っていたものといえる。
また、前記認定事実のとおり、被告Y4社は、原告X1及び原告X2に対し同社の就業規則やタイムシートの書き方を記載した冊子を交付して周知を図っていたことが認められるから、この点からも労務管理を行っていたものといえる。
(カ) 更新手続
前記認定事実のとおり、原告X1及び原告X2は被告Y4社との間で期間の定めのある派遣労働契約を締結していたこと、被告Y4社は期間満了前に原告X1及び原告X2に派遣労働契約更新の意向を打診し、その期間満了前に契約更新手続を行っていたこと、被告Y4社は作成した就業条件通知書(兼)派遣労働雇入通知書を原告X1及び原告X2の自宅に送付していたことが認められ、また、これらの更新手続に被告Y1社が関与していた事実は認められない。そうすると、被告Y4社は、原告X1及び原告X2との派遣労働契約の更新手続を、被告Y1社とは関わりなく、独自に行っていたものといえる。
(キ) (イ)ないし(カ)の各事実に照らせば、原告X1及び原告X2と被告Y4社との派遣労働契約は、形式的、名目的なものとはいえず、労働契約としての実質を伴ったものであったということができる。
(ク) 原告X1面談及び原告X2面談について
他方、前記認定事実によれば、被告Y1社及び被告Y4社は、「面談」と称して、原告X1及び原告X2と被告Y4社との労働契約締結前に、同人らを被告Y1社の就労場所に連れて行って被告Y1社担当者と対面させていたこと、その際、原告X1及び原告X2は、被告Y4社から事前に指示を受け、過去に作成したデザイン画等を持参していたこと、被告Y1社担当者は、原告X1及び原告X2に対し、これまで行ってきた業務内容を質問したほか、通勤時間、残業が可能かどうか、周囲の人間とうまくやっていけるかどうか、女性である原告X1については、婚姻の有無や出産予定の有無などについても質問したこと、原告X2については、大学の後輩や専門学校で講師を務めていた際の教え子が被告Y1社において就労していたことから、被告Y1社は、スキルシートには記載されていない原告X2の経歴等を面談前に把握しており、被告Y1社が面談前に被告Y4社から原告X2の氏名等の情報を伝えられていたと推認されること、この面談を経て、被告Y1社は原告X1及び原告X2が派遣労働者として派遣されることに問題がない旨を被告Y4社に伝え、被告Y4社において原告X1及び原告X2と派遣労働契約を締結した経緯があったことが認められる。
上記経緯に照らせば、被告Y4社が原告X1及び原告X2と派遣労働契約を締結するに際し、あらかじめ被告Y1社において同人らと面談し、採用面接に類した質疑応答をした上で、同人らを受け入れることが可能であることを被告Y4社に伝えていたのであるから、被告Y4社が原告X1及び原告X2と派遣労働契約を締結するに当たっては、被告Y1社の意向が少なからず影響を与えていたものといわざるを得ないし、被告Y1社が、少なくとも原告X2については面談前に被告Y4社から氏名等の情報を伝えられ、原告X2を知る従業員から話を聞くなどして、原告X2の情報を把握しており、個別の面談を行った上で原告X1及び原告X2について受入れの可否を伝えていたことは、労働者派遣法26条7項にいう特定行為にあたるともいえる。
しかしながら、被告Y4社における多数の派遣登録者の中から、原告X1及び原告X2を被告Y1社における派遣就労の候補者として選定したのは被告Y4社であって、被告Y1社は被告Y4社が選定した候補者を派遣従業員として受け入れることが可能か否かを判断したにとどまるから、上記面談行為があったとしても、被告Y1社において、原告X1及び原告X2の採用行為を行ったとまではいうことができない。
(ケ) 賃金交渉について
前記認定事実によれば、原告X2は、被告Y4社からの賃金額に不満を有し、賃金増額を被告Y4社担当者に要請したこと、被告Y4社担当者がこれを被告Y1社のGマネージャーに伝え、GマネージャーがZX2・Fに同内容を伝え、ZX2・Fが原告X2の業務の見直しを行い、被告Y1社購買部門に話が伝えられたことで、被告Y1社が被告Y4社に支払う派遣料金が増額され、被告Y4社が原告X2に支払う賃金も大幅に増額されるに至ったことが認められる。これらの事実に照らすと、被告Y1社は、被告Y4社が決定する原告X1及び原告X2の賃金額に、相当程度影響を及ぼす立場にあったとはいえる。
しかしながら、原告X1及び原告X2が被告Y4社から支払を受ける賃金額について、被告Y4社が被告Y1社から支払を受ける派遣料金の増額幅と連動しているとはいえないことは別紙6のとおりであって、被告Y4社が利益率を増減させるなどの独自の判断で原告X1及び原告X2の賃金を決定していたといえるから、被告Y1社の意向で原告X1及び原告X2の賃金が決定されていたものということはできない。
(コ) 原告X1及び原告X2の業務内容
前記認定事実のとおり、就業条件明示書(兼)派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)において、原告X1の業務内容は、「政令業務05号 CGデザイン業務 オペレーション テクニカルイラスト類」とされているところ、原告X1は、マネージャーの指示を受けて自動車の写真を基にそれを線画で表現する仕事や、車両モデルの画像合成等の仕事を行い、また、平成16年以降は、パワーポイントを使用したDDM会議の資料製作作業を多く行っている。原告X1は、これらの業務のほとんどを、パソコンにインストールされた作画ソフトやパワーポイントを使用して製作していたこと、原告X1の業務には、パソコンソフトの操作に適した専門的な知識・技術が要求されていたことからすると、原告X1の行っていた業務は、派遣受入期間の制限が及ばない専門26業務の一つである「事務用機器操作の業務」(旧政令4条1項5号、現政令4条1項3号)の範囲に含まれるといえる。
前記認定事実のとおり、就業条件明示書(兼)派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)において、原告X2の業務内容は、「政令業務05号 CGデザイン業務 3Dデザイン テクニカルイラスト類」とされているところ、原告X2は、マネージャーからの指示を受けて、スケッチを作成したり、デザイン案のレイアウト比較図や車両の最終案のレンダリング作業を行ったりしていたことが認められる。原告X2は、これらの業務を主にパソコンの作画ソフトを使用して製作していたこと、原告X2の業務には、パソコンソフトの操作に適した専門的な知識・技術が要求されていたことからすると、原告X2の行っていた業務は、派遣受入期間の制限が及ばない専門26業務の一つである「事務用機器操作の業務」の範囲に含まれるといえる(旧政令4条1項5号、現政令4条1項3号)。
この点につき、原告X1及び原告X2は、同原告らの行っていた業務は、デザイナーが行う業務そのものであり、専門26業務の「事務用機器操作の業務」には含まれない旨主張する。
そこで検討するに、労働者派遣法において派遣期間制限が及ばないとされている専門26業務は、いわゆる専門的業務であり、業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識・技術又は経験を必要とする業務であると解される。そして、前記認定事実のとおり、原告X1及び原告X2は、事務用機器であるパソコンを使用し、作画ソフトやプレゼンテーションソフトを使用して、被告Y1社担当者の指示を受けて、専門的な知識・技術を用いてCG画像等を作成していたこと、原告X1及び原告X2は、被告Y1社の社内においてCGオペレーターと呼称されていたことが認められるから、原告X1及び原告X2の行っていた業務は、専門26業務である事務用機器操作に含まれるものといえる。
なお、原告らが指摘するとおり、原告X1及び原告X2が行っていた業務が、被告Y1社の正社員であるデザイナーが行っていた業務と重なる面があったとしても、原告X1及び原告X2が行っていた業務が、専門的な知識・技術を用いてパソコンを使用してCG画像を作成するという点で、事務用機器操作に含まれることが否定されるものではない。
また、原告X1及び原告X2が一部事務用機器操作に含まれない業務を行っていたとしても、事務用機器操作とは性質が異なる職務に従事していたことを認めるに足りる証拠はなく、いずれもCGオペレーターとしての事務用機器操作に密接に関連する付随業務を行っていたものと推認するのが相当であるから、いずれにしても、原告X1及び原告X2の行っていた業務は、なお専門26業務に含まれるといえる。
(サ) 原告X2の配置について
前記認定事実のとおり、原告X2は、被告Y1社において派遣就労を行っていた当時、業務指示を受けるデザイナーの部屋に合わせて、たびたび業務を行う机の場所が変更となったことが認められ、また、原告X2の机の場所が変更されることについて、被告Y4社は関与していなかったことが認められる。
しかしながら、具体的な業務指示を受けるデザイナーの所在に合わせて原告X2の机の場所が変更されたとしても、原告X2がZXA(プロダクトデザイン部)に配属され、ZXAと関連する業務を担当することが変更されたものではないから、このことによって被告Y1社が原告X2の人事上の配置を決定したものとみることはできない。
(シ) 派遣労働契約終了の経緯について
前記認定事実によれば、被告Y1社は、テクニカルセンターの一部門であるZXAにおける派遣労働者(対象者は原告X1及び原告X2)の受入れを派遣期間満了により終了させることを決定し、これを被告Y4社に伝えたこと、被告Y4社は、被告Y1社からの連絡を踏まえて、原告X1及び原告X2との派遣労働契約を更新しないことを伝えたことが認められる。
上記認定事実によれば、被告Y1社は、テクニカルセンターの一部門であるZXAにおける派遣労働者の受入れを派遣期間満了により終了させることを決定したものであり、その対象者が原告X1及び原告X2であったにすぎないから、被告Y1社が、他の派遣労働者の中から、原告X1及び原告X2を選別して派遣労働受入れの終了を決定したものとはいえず、また、被告Y1社の決定をもって、原告X1及び原告X2が事実上被告Y1社から解雇あるいは雇止めを受けたものと評価することもできない。
(ス) (ク)ないし(シ)で検討した事情に照らせば、被告Y1社が原告X1及び原告X2の採用行為を行ったとも、原告X1及び原告X2の賃金を決定したとも、また原告X1及び原告X2の配遣、更新及び雇止めを決定したともいうことはできない。
これらの事情に加えて、前記のとおり原告X1及び原告X2がその雇用主は被告Y4社であると認識していたことが認められること、また、原告X1及び原告X2と被告Y4社との間の派遣労働契約が、名目的、形式的なものではなく、採用、賃金支払及び労務管理のいずれをとっても実体を伴ったものであったことに照らせば、原告X1及び原告X2と被告Y1社との間において黙示の労働契約が成立していたことを基礎付けるに足りる事情があるということはできない。
イ 労働者派遣契約及び派遣労働契約の有効性について
(ア) 原告X1及び原告X2は、被告Y4社と被告Y1社の間の労働者派遣契約は、脱法的な労働者供給契約であり、職業安定法44条及び中間搾取を禁じた労働基準法6条に違反し、また労働者派遣法40条の2(派遣期間の制限)及び同法40条の5(直接雇用申入れ義務違反)に違反するから無効である旨主張し、また、原告X1及び原告X2と被告Y4社との間の派遣労働契約は、当初から被告Y1社が解雇権濫用法理(労働契約法16条)を潜脱する目的で締結されており、無効である旨主張する。
(イ) 被告Y4社と被告Y1社との間の労働者派遣契約について
a 労働者供給
職業安定法44条で禁止されている労働者供給事業は、①供給元と労働者との間に雇用関係がなく、供給先と労働者との間には指揮命令関係又は雇用関係の生ずるもの、及び、②供給元と労働者との間に雇用関係があるが、供給先に労働者を雇用させることを約して行われるものに限られるものと解される。そして、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間に労働契約は締結されていないから、被告Y1社と原告X1及び原告X2、被告Y4社との関係は労働者派遣に該当するものであり、これを労働者供給であると解することはできない。したがって、被告Y4社と被告Y1社との間の労働者派遣契約が職業安定法44条に違反するということはできない。
b 中間搾取
被告Y4社は厚生労働大臣の許可を受けて労働者派遣事業を営む会社であるから、被告Y4社が労働者派遣事業の一環として行った行為は、労働基準法6条の「法律に基いて許される場合」に含まれ、同条において禁じられる中間搾取には該当しない。
c 労働者派遣法40条の2及び同法40条の5
原告X1及び原告X2は、既に説示したとおり、派遣期間の制限を受けない専門26業務を行う派遣従業員として就労していた者らであるから、労働者派遣法40条の2の派遣期間の制限に違反せず、派遣先に労働者派遣法40条の5に基づく労働契約の申込義務も発生していないから、原告X1及び原告X2の主張はその前提を欠くものである。
d 他に、被告Y4社と被告Y1社との間の労働者派遣契約を無効と解すべき事情は見当たらない。
(ウ) 原告X1及び原告X2と被告Y4社との間の派遣労働契約について
労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用関係が無効になることはないものと解される(最高裁判所平成21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁「松下PDP最高裁判決」参照)。
本件においては、既に説示したとおり、被告Y4社は、同社に対して派遣登録をしていた原告X1及び原告X2に対し、派遣就労先として被告Y1社を提示したこと、被告Y4社は、原告X1及び原告X2との間で有期労働契約を締結し、同契約に基づいて賃金を支払っていたこと、労働契約の更新手続は原告X1及び原告X2と被告Y4社との間で行われていたこと、被告Y4社は原告X1及び原告X2の労働時間を管理し、定期的に就労場所を訪れて原告X1及び原告X2から職場の状況を聴取し、また、同人らからの要望を受けて被告Y4社の判断で賃金を増額していたことがそれぞれ認められるのであり、このような実体を伴った労働契約を無効と解すべき特段の事情があるとは認められない。
(3)  規範的・合理的意思解釈に基づく労働契約の成立の主張について
原告X1及び原告X2は、原告X1及び原告X2の被告Y1社における就労が偽装派遣であって無効であるとし、偽装派遣の場合には、労働者において派遣先に労務を提供する意思があり、派遣先においてその労働を受領する意思さえあれば、派遣労働者と派遣先との間に労働契約が成立する旨主張する。
しかしながら、被告Y1社と被告Y4社との間の労働者派遣契約、原告X1及び原告X2と被告Y4社との間の派遣労働契約がそれぞれ無効とはいえないことは前記のとおりであるから、原告X1及び原告X2の主張はその前提を欠くものである。
また、労働契約の成立を認定するに当たり、契約当事者間の契約成立に向けた明示の意思表示がなくとも、黙示的に意思表示があったといえるためには、労務提供・受領の意思のみならず、賃金支払・受領についても意思の合致があったことを推認させる事情があることが必要であると解すべきであるところ、本件においてこのような事情があると認めることはできない。原告X1及び原告X2が、偽装派遣の場合には、労働者において派遣先に労務を提供する意思と、派遣先においてその労働を受領する意思さえあれば労働契約の成立が認められるとするのは、契約当事者の意思によらずに契約の成立を擬制する独自の解釈といわざるを得ず、採用することができない。
(4)  禁反言違反を根拠とする労働契約の成立の主張について
原告X1及び原告X2は、被告Y1社は、同原告らから約6年間継続して労務の提供を受け、原告X1及び原告X2に対する直接雇用の申込義務が発生していたにもかかわらずこれを履行せず、また、被告Y1社が原告X1及び原告X2の退職後、同原告らが担当していた業務について新規に正社員を雇用したとし、被告Y1社が原告X1及び原告X2に対して直接雇用責任を負わないと主張することは禁反言の原則に反し、その効果として、被告Y1社と原告X1及び原告X2との間には労働契約が成立する旨主張する。
しかしながら、本件において被告Y1社に原告X1及び原告X2に対する労働契約の申込義務が発生していると認められないことは既に説示したとおりであるから、同原告らの主張はその前提を欠くものである。また、禁反言の原則は、自己のこれまでの言動と矛盾する主張を排除する法理であるところ、本件全証拠をもってしても、被告Y1社において、本件訴訟に至るまで被告Y1社と原告X1及び原告X2との間に労働契約が存在することを前提にしていた事実は認められず、むしろ、被告Y1社は、一貫して被告Y1社と原告X1及び原告X2との間には労働契約が存在しない旨主張してきたことが認められることからすれば、被告Y1社が原告X1及び原告X2に対して労働契約上の義務を負わない旨の主張をすることが禁反言の原則に違反するものとは認められないし、それによって労働契約の成立が認定されるものともいえない。
(5)  まとめ
以上のとおり、原告X1及び原告X2と被告Y1社との間に労働契約が成立していたとは認められないから、被告Y1社の原告X1及び原告X2に対する雇止めの有効性について判断するまでもなく、原告X1及び原告X2の地位確認請求及び賃金支払等の請求は理由がない。
(6)  被告Y1社及び被告Y4社に対する不法行為に基づく損害賠償請求について
ア 原告X1及び原告X2は、被告Y1社及び被告Y4社が、共同して、①派遣労働者を特定し、②被告Y4社が、原告X1及び原告X2の業務内容が就業条件明示書(兼)派遣労働者受入通知書に記載されたものと異なることを知りつつ放置し、③被告Y4社が、原告X2と被告Y1社との直接の賃金交渉を示唆、放置し、④被告Y4社が、原告X1及び原告X2の被告Y1社への直接雇用申入れの要請を放置し、⑤被告Y4社が、原告X1及び原告X2の労働条件に関する苦情を適切に処理する義務を怠り、⑥被告Y4社が、契約終了時における被告Y1社による人員選定をそのまま受け入れ、被告Y1社と共同して解雇権濫用と評価される雇止めを行い、これらが被告Y1社及び被告Y4社の同原告らに対する共同不法行為である旨主張する。
イ しかしながら、原告X1及び原告X2が労働者派遣法違反を指摘する点については、労働者派遣法は、労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講じるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他に福祉の増進に資することを目的とする行政上の取締法規であることを踏まえれば、仮に、同法に違反する事実(なお、労働者派遣法26条7項によれば、労働者の特定行為を避けるべきことは派遣先の努力義務にとどまるものである)が認められたとしても、そのことから、直ちに派遣労働者の個々具体的な法律上保護されるべき利益が損なわれたものとみることはできない。
ウ そして、原告X1及び原告X2は、被告Y4社に派遣登録をし、派遣労働者として就労することを認識した上で被告Y1社における就労を継続し、被告Y4社との間の派遣労働契約に基づく相応の賃金の支払を受けており、この点について原告X1及び原告X2に何らかの法律上の不利益が生じていたものとは認められない。
また、既に説示したとおり、被告Y4社は独自の判断で原告X1及び原告X2の賃金を決定していたものであるし、原告X1及び原告X2は派遣期間の制限を受けない専門26業務に従事していたものであるから、就労が長期に及んでも派遣先である被告Y1社に雇用申込義務が生じるものではない。
さらに、被告Y1社は、ZXAにおける派遣労働者の受入れ終了を決定し、その対象者が原告X1及び原告X2であったにすぎないから、被告Y1社が、他の派遣労働者の中から、原告X1及び原告X2を選別して派遣労働受入れの終了を決定したものとはいえないし、原告X1及び原告X2は、被告Y4社における登録型の派遣労働者であり、原告X1及び原告X2と被告Y4社との間の派遣労働契約は、被告Y1社と被告Y4社との間の労働者派遣契約の存在を前提としたものといえるから、労働者派遣契約の終了に伴って派遣労働契約が更新されないことは当然に予定されているものといわざるを得ず、被告Y4社が原告X1及び原告X2との間の派遣労働契約を終了させたことが違法であるとも認められない。他に、被告Y1社及び被告Y4社の原告X1及び原告X2に対する対応について、不法行為を構成するに足りる違法性があった事実は認められない。
エ そうすると、被告Y1社及び被告Y4社が、原告X1及び原告X2に対して、共同して不法行為を行ったとする原告X1及び原告X2の主張は、理由がない。
(7)  原告X1及び原告X2についての結論
以上のとおりであるから、原告X1及び原告X2の被告Y1社及び被告Y4社に対する請求は、いずれも理由がない。
2  原告X3及び原告X4について
(1)  認定事実
証拠(証拠・人証〈省略〉、原告X3本人、原告X4本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 原告X3
(ア) 被告Y2社において就労するに至った経緯
原告X3は、家庭の事情で大学を中退せざるを得なくなり、平成14年2月から同年6月まで、愛知県田原市に居住してi自動車の自動車製造工場で期間工として就労し、期間満了によってその就労を終了した。
原告X3は、自動車製造ラインで働くことのできる仕事を探していたところ、自動車工場での製造ライン作業員を募集していたa社の募集案内を見て、同社に応募した。原告X3は、a社に採用され、a社が業務を請け負っていた被告Y2社の湘南工場において平成15年7月から就労を開始し、同工場の第1地区第1車体課に配属された。原告X3は、被告Y2社の期間の定めのない従業員と同一の製造ラインで就労していた。原告X3は、就労を開始するに当たり、a社の用意した寮に入寮した。
(イ) 派遣従業員となった経緯
製造業派遣が解禁された平成16年4月から、原告X3は、h社からの派遣従業員として、Y2社の湘南工場において就労することとなった。その後しばらくして、原告X3は、湘南工場第1地区1車体課から同第1車両課に異動となった。原告X3は、被告Y2社の期間の定めのない従業員と同一の製造ラインで就労していた。
原告X3とh社との間の派遣労働契約は、平成16年4月から平成17年4月まで、3か月、5か月、4か月と更新された。
(ウ) 期間従業員となった経緯
原告X3は、平成17年5月頃、湘南工場の工長から湘南工場における派遣従業員を期間従業員として採用することを説明され、同年5月から、被告Y2社の期間従業員として就労した。その際、原告X3は、被告Y2社が用意した寮に転居した。
期間従業員となってしばらくした頃、原告X3は、湘南工場の第2地区第2車体課に異動となった。原告X3は、被告Y2社の期間の定めのない従業員と同一の製造ラインで就労していた。
(エ) 契約の更新
期間従業員としての期間満了が近づくと、湘南工場の工長から、原告X3に対し、契約更新の有無について打診があり、原告X3が更新を希望する旨を伝えると、その後、被告Y2社の人事担当者が湘南工場を訪れ、工場内の食堂テーブルの一区画で契約更新手続が行われた。原告X3の期間従業員としての契約期間は、平成20年4月26日まで、7か月、4か月、3か月、3か月、3か月、3か月、1か月、3か月、2か月、6か月、1か月と10回更新された。
被告Y2社において、期間従業員の契約期間については、年間生産計画台数を前提に、受注状況に応じて必要工数を算定した上で、工務部、製造部及び人事部が参加する工数調整会議において決定されていた。
(オ) 派遣従業員への変更
平成20年3月頃、次の就業先が決まっていなかった原告X3は、湘南工場のT工長から、原告X3の同僚のJ工長(当時は工長にはなっていなかった。)を通じて、派遣従業員として湘南工場において就労することができること及びその希望の有無を打診され、派遣従業員として就労することを希望した。
後日、原告X3は、J工長に連れられて湘南工場内において派遣会社であるn社の担当者と面接し、履歴書を提出した。原告X3は、n社との間で期間を5か月とする派遣労働契約を締結し、平成20年4月から同年9月末まで被告Y2社においてn社からの派遣従業員として就労した。
原告X3は、n社からの派遣従業員となった後も、担当する業務内容に変更はなく、被告Y2社の期間の定めのない従業員と同一の製造ラインで就労していた。また、原告X3は、被告Y2社の寮に継続して居住していた。原告X3がn社から支払を受ける賃金は、被告Y2社の期間従業員であった頃と比較して3000円程度増額されていた。
(カ) 派遣従業員から期間従業員への変更
原告X3は、n社との派遣労働契約が終了する直前であった平成20年9月末頃、被告Y2社から、期間従業員採用の説明会が開催されることを知らされ、同年10月1日に開催された説明会に参加した。
原告X3は、被告Y2社との間で、平成20年10月1日から平成21年3月28日までを雇用期間とする雇用契約を締結し、期間従業員として就労した。
被告Y2社の期間従業員となった以降も、原告X3の業務内容に変化はなく、原告X3は、被告Y2社の期間の定めのない従業員と同一の製造ラインで就労していた。
イ 原告X4
(ア) 被告Y2社における過去の就労
原告X4は、平成15年2月から同年12月まで、被告Y2社において期間従業員として就労したことがあった。
原告X4は、その後、オートバイの整備士等として就労していたが、平成20年頃、交通事故が原因で就労を継続することができなくなった。
(イ) 被告Y2社における就労
原告X4は、平成20年7月上旬頃、被告Y2社の期間従業員に応募して採用され、雇用期間を1か月とする雇用契約を締結し、被告Y2社において就労した。原告X4の雇用契約は、平成20年8月頃、期間満了を平成21年3月28日までとして更新された。原告X4は、被告Y2社の期間の定めのない従業員と同一製造ラインで就労していた。
原告X4は、期間従業員として採用されるに際し、労働契約が更新された場合の雇用期間は最大で2年11か月であるとの説明を受けていた。
ウ 期間従業員の雇止めを決定した平成21年1月当時の被告Y2社の状況
(ア) 九州工場建設に伴う新会社の設立
被告Y2社の車両製造工場は湘南工場のみであったところ、同社は、湘南工場の老朽化及び輸送コスト削減のために、平成19年2月頃、新会社(Y2社九州株式会社)を設立し、被告Y1社の敷地内に新たに九州工場を建設し、新会社において九州工場を運営することを計画していた。そのため、被告Y2社は、湘南工場の自動車製造台数を削減することを予定しており、それに伴い、湘南工場の人員を削減することを計画していた。
被告Y2社は、湘南工場の従業員を削減するために、45歳以上の社員を対象に、「セカンドキャリア制度」を実施して平成19年9月から平成20年3月にかけて希望退職を募集し、これによって342名の従業員が退職した。
(イ) 被告Y1社からの受注減
被告Y2社が製造する自動車は、その全車両が被告Y1社からの受注であり、被告Y2社の生産量は、被告Y1社における自動車の販売状況に影響を受けることとなる。
平成20年9月に発生したいわゆるリーマンショックにより、自動車の需要が急激に縮小し、そのことに伴い、平成16年ないし平成19年までの被告Y1社からの被告Y2社の年間受注量は、年間30万台余りだったのに対し、平成20年10月の受注量は前年比同月マイナス21.17パーセント、同年11月はマイナス33.15パーセント、同年12月はマイナス43.30パーセントまで減少した。
(ウ) 受注減に対する対応
被告Y2社においては、受注量の減少に対応するために、平成20年10月から残業規制を行い、同年11月からは二直勤務体制から一直勤務体制に減らし、製造ラインのスピードを低下させるなどして生産抑制を行った。さらに、同年12月からは、翌年の2、3月の休日を前倒しして稼働日を休業日として設定することも行った。
被告Y2社の間接部門においては、残業の原則禁止や、毎月1回以上の休業日の設定、国内外出張の原則禁止、文房具などの消耗品や業務関連書籍などの購入停止などの対策を実施した。
被告Y2社においては、平成21年1月から3月までの間、各役員が報酬の20パーセントを返上した上、平成21年度の役員報酬を10パーセント削減した。管理職に対しては、平成21年2月から平成22年度末までの昇給を停止し、年俸の5パーセントないし10パーセントを削減した。
被告Y2社は、労働組合と折衝の上、休業手当の削減、永年勤続旅行の削減、社有保養施設の利用料及び構内駐車場利用料の値上げなどを実施するとともに、平成21年度の一般社員の賞与削減(対前年比30パーセント減)を実施した。
(エ) 余剰人員の算定
被告Y2社においては、被告Y1社からの発注内示を受け、3か月前から月別の必要工数(1工数=1人の従業員が1時間当たりに行う業務量)を算出し、その後の受注の変動によって適宜修正を加えつつ、工数調整会議を経て当月の必要人員を算出している。
被告Y2社が算定した平成20年12月の必要人員は1235名であったところ、これは被告Y2社の直接員在籍社員1271名と比較しても36名の過剰人員であり、期間従業員(331名)及び派遣従業員(327名)を加えると694名の過剰人員であった。
また、被告Y2社が算定した平成21年1月の必要人員は1093名であったところ、これは被告Y2社の直接員在籍社員1268名と比較しても175名の過剰人員であり、期間従業員(287名)及び派遣従業員(299名)を加えると761名の過剰人員であった。
(オ) 被告Y2社は、平成21年1月13日に行われた経営会議において、平成20年度内に期間従業員を期間満了により雇止めとすること及び派遣従業員については派遣契約を解除することを決定した。このことにより、原告X3及び原告X4を含めた当時の期間従業員265名全員が雇止めとなり、派遣従業員のうち279名の派遣契約が解除された。
エ 期間従業員に対する手続等
(ア) 被告Y2社は、平成21年1月頃、管理職、監督者に向けた「製造派遣社員及び期間従業員の契約終了について」(証拠〈省略〉)と題する説明文書を作成し、これを用いて、湘南工場の係長、工長に対して期間従業員を雇止めとすることを説明した。これを受けて、湘南工場の係長、工長らは、平成21年1月21日から、順次、期間従業員に対し、同年3月末をもって契約を終了させることを告知した。
被告Y2社は、雇止めをする期間従業員に対し、希望者には雇止め後1か月間の寮への滞在を認めること、湘南工場内に再就職支援室を開設し、平塚ハローワークの協力を得て、ハローワークへの登録等を行うこと、神奈川県内の他の企業からの求人情報を提供するなどの措置を行った。
(イ) 原告X3に対しては、平成21年1月28日、工長となったJ工長が雇止めを告知した。原告X3は、J工長に対し、1か月間の入寮延長を希望すること、平塚付近で再就職を希望することを述べた(原告X3は、雇止めの告知を受けたのは平成21年2月3日である旨供述するが、原告X3への説明結果が記載された期間従業員への本人通知結果報告書(証拠〈省略〉)の記載に照らし、採用することができない。)。
(ウ) 原告X4に対しては、平成21年1月22日、湘南工場のK工長が雇止めを告知した。原告X4は自宅通勤であったことから入寮の延長は申請せず、今後の就職活動についても特段の希望を述べなかった(証拠〈省略〉)。
オ 雇止め決定後の動向
(ア) 被告Y1社からの出向社員の受入
被告Y2社は、平成21年2月から3月頃にかけて、被告Y1社九州工場から100人を超える社員を出向という形式で受け入れた。これは、被告Y2社が新会社を設立して九州で新工場を運営するに当たり、湘南工場から新工場に多数の人員を送り込むことが予定されていたことから、相応の技術力を有する労働者を被告Y1社から受け入れることにより湘南工場を安定稼働させることを目的としたものであった。
(イ) 被告Y2社は、平成21年8月頃、o自動車から応援要員を受け入れた。
(ウ) 被告Y2社は、平成21年9月末頃、新たに期間従業員を募集するようになった。
(エ) 被告Y2社の平成20年4月から平成21年3月までの決算期における当期純利益は136億7800万円であり、利益余剰金は1194億7700万円であった。被告Y2社は、同期間の決算期において、株主に対し、前期と同じ1株当たり9円の配当をした。
(2)  被告Y2社の原告X3及び原告X4に対する雇止めの有効性について
ア 雇用継続の期待を抱かせる事情の有無
(ア) 原告X3
前記認定事実のとおり、原告X3は、被告Y2社との間で、平成20年10月1日から平成21年3月28日までを雇用期間とする雇用契約を締結し、同契約は一度も更新されることなく、期間満了に伴って雇止めを受けたものであるから同雇用契約のみを前提とすれば、原告X3について、雇用継続の期待を抱かせる事情があったとはいえない。
しかしながら、前記認定事実のとおり、原告X3は、平成17年5月1日から平成20年4月26日までの間も被告Y2社の期間従業員として就労し、その間、10回にわたり雇用契約が更新されていたこと、原告X3はその後n社からの派遣従業員として被告Y2社において就労したが、その前後で原告X3の業務内容に変更がなかったこと、原告X3がn社の派遣従業員として採用されるに至ったのは、被告Y2社がn社を紹介したことによること、被告Y2社は、原告X3とn社との5か月の雇用期間が満了した後、直ちに原告X3を再び期間従業員として採用し、同一業務に就かせていたことが認められ、これらの事情に照らせば、原告X3がn社からの派遣従業員として就労していた5か月の期間は、期間従業員を一定期限を超えて就労させないとの被告Y2社の方針があり、同方針に適合させるために設けられた空白期間にすぎないものと認めるのが相当であり、この期間も原告X3が派遣従業員として被告Y2社において同一業務に就いていたことを考慮すると、原告X3につき雇用継続の期待を抱かせる事情の有無を判断するに当たっては、直近の雇用契約のみならず、平成17年5月1日から平成20年4月26日までの期間従業員としての雇用契約も前提とされるべきである。
そうすると、原告X3は、被告Y2社において平成17年5月1日から平成20年4月26日まで、及び、平成20年10月1日から平成21年3月28日までの、合計約3年6か月にわたって期間従業員として就労し、その間11回の契約更新(平成20年10月1日については新規契約)を経ているものであるから、被告Y2社に対して雇用継続への合理的期待を有していたというべきである。
(イ) 原告X4
原告X4は、平成20年7月11日から平成21年3月28日までの期間雇用契約を締結して被告Y2社において就労していたものであるところ、試用期間として位置付けられている1か月後の契約更新の他には、契約更新を経ていないこと、原告X4の労働契約書(証拠〈省略〉)には、契約更新の判断基準として、「会社の経営状況に依る契約期間満了時の業務量」との記載があることに照らせば、原告X4においては、平成21年3月28日以降の雇用継続の期待を抱かせる事情があったとまではいえない。なお、前記認定事実によれば、原告X4は、平成15年2月から同年12月までの間も、被告Y2社の期間従業員として就労していた経験を有することが認められるものの、上記期間が満了した後、平成20年7月11日から再度被告Y2社において就労するまでに約4年7か月の期間が経過していることを踏まえると、これを雇用継続の期待を抱かせる事情の有無を判断する際の就労期間として考慮することはできないというべきである。また、原告X4は、平成15年2月から同年12月まで被告Y2社において就労していた際に、期間従業員から正社員となった者が多数いたこと、平成20年7月11日以降就労していた際に、周囲に3年を超えて就労する非正規労働者が多数存在した旨を供述しているが、正社員への登用が期間従業員としての雇用継続の期待と結び付くものとはいえないし、長期間就労を継続していた非正規労働者が多数存在したことについてはこれを認めるに足りる証拠がなく、仮に存在していたとしても、そのことは、前記のとおり更新実績のない原告X4に雇用継続の期待を抱かせる事情があったことを根拠付けるに足るものとはいえない。
原告X4は、被告Y2社においては期間従業員の契約期間を2か月以上6か月までとする定めがあるのに、原告X4の雇用契約期間が8か月とされたこと、被告Y2社が期間満了まで勤務を継続した期間従業員に対して満期慰労金を支給していたことを雇用継続の期待を抱かせる事情として指摘するが、定められた雇用契約の期間が長期であることが契約更新の期待に結び付くものとはいえないし、満期慰労金の制度についても、契約期間満了まで継続して就労することを奨励する制度であると解されるから、契約更新の期待に結び付くものとはいえない。
そうすると、被告X4については、雇用継続への合理的期待を有していたとはいえない。
イ 雇止めの有効性について
(ア) 上記のとおり、原告X3については、雇用継続への合理的期待を有していたといえることからすると、被告Y2社が原告X3を雇止めするについては、解雇権濫用法理が類推適用され、雇止めが客観的合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となるものと解される。
もっとも、原告X3が被告Y2社の期間従業員として雇用されていることからすれば、原告X3の有していた期待も被告Y2社の期間従業員としての雇用継続の期待にとどまるものと解される。すなわち、一般に、受注量の増減によって必要な労働人員が左右される製造工場において、期間の定めのない従業員と、期間従業員が併存して就労している場合には、特段の事情のない限り、景気変動によって避けることのできない受注量の増減に対応することを目的として期間従業員を採用しているものと解される。そして、証拠(証拠〈省略〉)によれば、被告Y2社における直接員は社員、期間従業員、派遣従業員によって構成されているところ、受注変動による要員の増減は期間従業員及び派遣従業員によって調整されていることが認められ、さらに、認定事実のとおり、原告X3の雇用契約期間は7か月、4か月、3か月、3か月、3か月、3か月、1か月、3か月、2か月、6か月、1か月と一定しておらず、これは被告Y2社が被告Y1社からの受注量を踏まえて必要人員を算定した上で決定したものと解されること、被告Y2社の期間従業員の労働契約書には、契約更新の判断基準として、「会社の経営状況に依る契約期間満了時の業務量」との記載がされていることに照らせば、被告Y2社においても、受注量の増減に対応して期間従業員の増減を行うことは当然に予定されていたものということができ、原告X3の雇用継続の合理的期待もこのような期間従業員としての期待にとどまるものというべきである。そこで、以下、原告X3の上記合理的な期待の内容に照らし、雇止めについての客観的合理性及び社会通念上の相当性の有無について検討する。
(イ) 必要性
前記認定事実のとおり、被告Y2社においては、平成20年9月に発生したリーマンショックに端を発した自動車の需要不振により、被告Y1社からの受注量が極端に落ち込み、平成20年11月の算定では694名(期間従業員及び派遣従業員を含む。以下同じ。)、同年12月の算定では761名の余剰人員が発生する状態にあったことが認められる。
そうすると、被告Y2社において、原告X3の雇止めを決定した平成21年1月時点において、人員削減の必要性が生じていたことが認められる。
(ウ) 人員削減回避の措置
認定事実のとおり、被告Y2社は、平成20年10月から残業規制を実施し、同年11月からは、勤務体制の変更(二直勤務体制を一直勤務体制へ変更)による稼働時間の削減、製造ラインのスピードを大幅に遅くするなどによる生産抑制を行い、同年12月からは翌年の休日を前倒しして当月の稼働日を休業日としたこと、間接部門においても、残業を規制し、毎月1回以上の休業日を設定した上、休業手当削減、海外・国内出張の原則禁止、文房具等の消耗品・業務関連書籍等の購入停止を実施したこと、平成21年2月から管理職の年俸(賞与を含む)を5パーセントないし10パーセント削減し、昇給を停止し、これを平成22年も継続したこと、平成21年夏期から一般職員の賞与を前年度比で30パーセント削減したこと、被告Y2社の取締役は、平成21年1月以降、月額報酬分から20パーセントを自主返上し、平成21年度分の取締役報酬は10パーセント削減されたことが認められ、これらの事実に照らせば、被告Y2社は、人員削減を回避するための措置を講じていたものということができる。
(エ) 人選の合理性
前記認定事実のとおり、被告Y2社は、期間従業員の全員を対象として、平成21年3月末までの契約期間満了時をもって契約更新しないこととしたことが認められるから、期間従業員内部で人選が行われたものではない。
そして、上記のとおり、被告Y2社における期間従業員はもともと受注量の増減に対応することを予定して採用されていることからすると、受注量の減少に伴って、期間の定めのない従業員ではなく、期間従業員の雇止めを行うことには合理性があるということができる。
(オ) 手続等
前記認定事実のとおり、被告Y2社は、期間従業員を平成21年3月末に雇止めとするに当たって、約2か月以上前である平成21年1月21日から、湘南工場の係長及び工長を通じて契約を更新しないことを伝えたこと、期間従業員への再就職支援として、①社員寮入寮者に1か月間の無料在寮を認め、②再就職支援室を開設して再就職に向けた相談、雇用保険手続の説明・手続等を行うとともに求人情報を提供し、③湘南工場の各地区ごとに社内でハローワーク説明会を開催した事実を認めることができる。
これらの事情に照らせば、被告Y2社において、期間従業員に対して雇止めをする場合の手続等が不十分であったということはできない。
(カ) なお、原告らは、原告X3の雇止めを決定した当時(決算期)において、被告Y2社の経常利益は136億7800万円であり、利益準備金も1194億7700万円であったこと、被告Y2社は被告Y1社からの従業員を出向という形式で受け入れ、o自動車からの従業員も受け入れていたこと、平成21年9月には新たに期間従業員を募集していたことなどを指摘し、雇止めをする必要性が生じていなかった旨主張する。
しかしながら、受注量の増減に対応するという被告Y2社における期間従業員の前記位置付けに照らせば、期間従業員を雇止めする場合の必要性として、経常利益がマイナスに転じていることや、利益準備金が消失する状況があることまでを必要とするとはいえない。また、前記認定事実のとおり、被告Y1社からの出向社員を受け入れたことについては、相応の技術力を有する出向社員を受け入れることで、湘南工場を安定稼働させるという目的が存したことが認められるから、この事実があったからといって期間従業員削減の必要性が否定されるものとはいえない。さらに、o自動車からの従業員受入れや新たな期間従業員の募集が行われたのは、平成21年8月及び9月当時のことであり、原告X3の雇止めが決定された同年1月とは時期が異なること、原告X3の雇止めが決定された当時において、急激に減少していた受注量が短期的に大幅に回復するとの見込みがあったことを認めるに足りる証拠はないことに照らせば、これらのことは、同年1月当時の期間従業員の雇止めの必要性を否定するに足るものとはいえない。
(キ) 結論
以上検討したとおり、原告X3に対する雇止めについては、被告Y2社において人員削減の必要性があったこと、上記のとおり、雇止めを回避するための相応の措直が講じられていたこと、期間従業員を雇止めした人選が合理的なものであるといえること、雇止めに際しての手続が不十分であったとはいえないことを踏まえれば、客観的合理性及び社会通念上の相当性を欠くものということはできない。
ウ まとめ
原告X3については、期間従業員としての雇用継続に合理的期待を有していたということはいえるが、被告Y2社において原告X3を雇止めとしたことには客観的合理性があり、社会通念上の相当性を欠くものということはできないから、被告Y2社の原告X3に対する雇止めが無効であるとはいえない。
原告X4については、そもそも雇用継続に合理的期待を有していたと認めることはできないから、解雇権濫用法理の類推適用について検討するまでもなく、被告Y2社の原告X4に対する雇止めが無効であるとはいえない。
(3)  被告Y1社及び被告Y2社に対する損害賠償請求について
原告らは、被告Y2社及び被告Y1社が原告X3及び原告X4に対して雇止めを行ったことが同人らに対する不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら、前記認定事実のとおり、原告X3及び原告X4が雇止めを受けたのは、平成21年1月13日に行われた被告Y2社の経営会議で期間従業員の雇止めが決定されたことによるものであり、被告Y1社がその決定に関与していたことを認めるに足りる証拠はない。
また、被告Y2社が原告X3及び原告X4に対して行った雇止めが無効とはいえないことは前記のとおりであり、雇止めそのものについても違法性があるとはいえない。そうすると、被告Y1社及び被告Y2社が原告X3及び原告X4に対して不法行為を行ったものということはできない。
(4)  原告X3及び原告X4についての結論
以上のとおりであるから、原告X3及び原告X4の被告Y2社及び被告Y1社に対する請求はいずれも理由がない。
3  原告X5について
(1)  認定事実
証拠(証拠〈省略〉、証人L、原告X5本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。
ア 被告Y3社について
被告Y3社は、平成20年2月当時、全国48の営業所において労働者派遣事業を行っていた。被告Y3社は被告Y1社及び被告Y2社と資本提携関係はなく、上記2社以外にも多数の取引先(派遣先)を有していた。
イ 原告X5の就労経過
(ア) 原告X5は、高校を卒業した後、平成5年4月から群馬i株式会社に就職し、同社を平成12年11月末に退職した。
(イ) 原告X5は、その後、アルバイトや派遣社員を経て、平成16年6月に被告Y3社の前身であるa社からの派遣従業員として、同年8月頃まで、ペットボトルの製造会社に派遣されて就労していた。
(ウ) 原告X5は、平成16年9月1日から平成17年7月31日まで、a社の派遣従業員として、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課へ派遣されて就労した。
(エ) 原告X5は、a社との契約期間が満了する頃、a社の担当者から、派遣従業員の地位のままでは被告Y1社における就労を継続することができず、他社に派遣されて就労することになる旨の説明を受けた。
原告X5は、被告Y1社における仕事が気に入っていたことから、被告Y1社の期間従業員となって被告Y1社における就労を継続することを希望し、平成17年8月1日、被告Y1社との間で同日から同年11月30日までの期間労働契約を締結した。同期間労働契約は、その後、平成18年1月31日まで更新された。
原告X5が被告Y1社の期間従業員となるに当たり、被告Y1社は、原告X5がa社において付与されていた有給休暇を引き続き使用することができる措置をとった。また、原告X5は、被告Y1社の期間従業員となったことから、被告Y1社の寮に入寮した。
原告X5は、被告Y1社担当者から、期間従業員としての期間終了後は、再び派遣従業員となって引き続き就労することができる旨の説明を受けていた。
原告X5の賃金は、a社からの派遣従業員であったときと比較して、夜勤の際の手当や時間外手当の割増率が増加したことから、若干増額された。
原告X5の就労場所は、期間従業員となった後も変更はなかった。
(オ) 原告X5は、平成18年2月1日、被告Y3社の前身であるb社との間で、同年8月31日までの派遣労働契約を締結し、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課において派遣従業員として就労した。
b社は、原告X5が被告Y1社の期間従業員として付与されていた有給休暇を引き続き使用することができる措置をとった。
また、原告X5は、b社が寮の部屋を借り上げたことにより、被告Y1社の寮に引き続き居住することとなった。寮費は、b社からの賃金から控除されていた。
(カ) 原告X5は、平成18年8月頃、派遣従業員を対象に開催された被告Y1社の期間従業員採用の説明会に参加した。説明会には派遣従業員が多数参加していた。
原告X5は、平成18年8月29日、被告Y1社との間で、雇用期間を同年9月1日から同年12月31日までとする期間労働契約を締結し、同期間、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課において期間従業員として就労した。被告Y1社は、原告X5がb社において付与された有給休暇を引き続き使用することができる措置をとった。
(キ) 原告X5は、被告Y3社との間で、平成19年1月8日から平成20年3月31日までを期間とする派遣労働契約を締結し、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課において派遣従業員として就労した。派遣従業員となった後も、被告Y3社が寮の部屋を借り上げたことにより、原告X5は被告Y1社の寮に引き続き居住し、被告Y3社からの賃金から寮費が控除されていた。また、原告X5は、被告Y1社から付与された有給休暇を引き続き使用することができた。
同期間中の平成19年8月頃、原告X5の就労場所は、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課内の「AL・Cプラ」からL工長の担当する「P32E」に変更された(「AL・Cプラ」と「P32E」はいずれも「P42」という係に属する。)。
(ク) 前記派遣期間中であった平成19年9月頃、原告X5は、上司であったL工長から、派遣社員の中から正社員を登用する制度の対象者として原告X5を職場推薦することを告げられた。
同制度は、派遣社員から正社員登用を行うことにより、定着率の向上を図ること、正社員待遇を希望している優秀な人材の流出防止につなげること、派遣社員の中から監督者/指導員候補になり得る人材を採用することを目的として、在籍期間が1年以上の派遣社員のうち、将来、監督者/指導員候補になり得る優秀な者で、派遣元の合意が得られる者を対象に、全工場で50名、横浜工場では10名程度を採用するというものであり、採用に当たっては、職場推薦を得て、筆記試験、面接試験を受けることとされていた(証拠〈省略〉)。L工長は、同時期に、原告X5の他にも2名の派遣従業員を職場推薦していた。
(ケ) 原告X5は、平成20年2月17日から同月28日まで、被告Y1社横浜工場に出勤しなかった。同月17日の欠勤は事前に予定されていたものであったが、同月18日以降同月28日までの欠勤は、事前に届出をしておらず、かつ、原告X5は、この間、被告Y3社にも被告Y1社横浜工場にも欠勤の連絡をしなかった。
L工長は、被告Y3社の担当者に原告X5の欠勤を伝え、原告X5と連絡を取ることを依頼し、また、部下を通じて原告X5の携帯電話に電話をかけるなどしたが、原告X5と連絡を取ることができなかった(なお、この点につき、原告X5は、平成20年2月18日以降も欠勤することについて、L工長に告げていた旨供述等(証拠〈省略〉、原告X5本人)するが、L工長はこれを否定する供述等(証拠〈省略〉、証人L)をしているほか、横浜工場において勤務交替にかかる引継ぎ事項を記載していた工長申し送り書(証拠〈省略〉)において、原告X5が無断欠勤をしていること、原告X5から連絡があったか否かを確認する記載があることからすれば、原告X5の上記供述等はにわかに措信し難く、採用することができない。)。
(コ) 原告X5は、平成20年2月28日、p整形外科を受診し、診断名を「腰椎椎間板症、両足底腱膜炎、右膝関節炎」として、腰痛、両足部痛著名にて、約1週間の安静加療を必要とする見込み、と記載された診断書(証拠〈省略〉)の発行を受けた。原告X5がp整形外科を受診したのは同日が初めてであり、また、原告X5はその後の受診を継続することもなかった。原告X5は、同日の受診料を健康保険証を使用して支払った。
(サ) 原告X5は、同日、被告Y3社Mに電話をかけ、足が痛いことを理由に、被告Y1社を欠勤する旨を伝えた。
(シ) 原告X5は、同日、横浜工場を訪れてL工長と一対一で面談をした。同面談において、L工長は原告X5に対し無断欠勤の理由について質問をしたが、原告X5は明確な理由を述べず、L工長は、原告X5に対し、このままでは一緒に働くことは難しい旨を告げた。この面談が終わる頃、原告X5は、L工長に対し、足が痛いと述べて上記診断書(証拠〈省略〉)を提示したものの、労災申請等の話はしなかった。原告X5は、その後、横浜工場のU係長に対しても、上記診断書を提出したものの、労災申請等の話はしなかった(この点、原告X5は、同日、U係長に対し、労災申請をさせて下さいと伝えた旨供述等(証拠〈省略〉、原告X5本人)するが、L工長は、U係長から、原告X5が診断書を差し出してすぐにその場を立ち去った旨聞いていると供述していること(証拠〈省略〉)、その後、原告X5は労災申請を行わないまま、後記のとおり新たな派遣就労先である被告Y2社において就労していること、に照らすと、原告X5が当時から労災申請の意思を有していたとみることは不自然であると言わざるを得ず、原告X5の上記供述等を直ちに採用することはできない。)。
(ス) L工長は、原告X5が無断欠勤を続けたものの、原告X5の能力を評価していたことから、被告Y3社Mに対し、引き続き原告X5の派遣就労を受け入れる用意がある旨を伝えていたが、被告Y3社Mは、これ以上被告Y1社に迷惑はかけられない、原告X5には次の派遣先を紹介すると述べた。被告Y3社は、平成20年2月28日頃、被告Y1社における原告X5の派遣就労を終了することを決定した。
(セ) 原告X5は、被告Y3社が新たな派遣先として提示した複数の会社の中から、被告Y2社を派遣先として希望し、平成20年3月26日から、被告Y2社に派遣されて就労を開始した。
被告Y2社における派遣就労中、原告X5が足の痛みを訴えることはなかった。
(ソ) 原告X5と被告Y3社との間の被告Y2社を派遣就労先とする労働契約の終期は平成21年3月末日であったが、被告Y3社は、被告Y2社が同社との労働者派遣契約を同年2月28日付けで解除したことから、同年2月28日又は同年3月4日に、原告X5を解雇した。
(タ) 被告Y3社は、解雇後も、原告X5が、使用していた寮を平成21年3月末日まで引き続き使用することができる措置を講じた。
被告Y3社は、原告X5が平成21年3月末日までに使用していた寮から退去しなかったことから、寮内の原告X5の荷物を原告Y3社の用意した他の住居に移転させた。原告X5は、同住居において、平成21年6月頃まで居住し、その間の住居費は被告Y3社が負担した。
ウ 報奨金の受領
被告Y1社は、派遣従業員の定着を高めるため、仕事で功績のあった派遣従業員について、一定の要件の下に、精勤慰労金、皆勤褒賞、優秀社員手当として、通常の派遣料金以上の金額を派遣会社に支払っていた。被告Y3社は、被告Y1社から受け取った上記上乗せ分を、報奨金として通常の賃金に加算して派遣従業員に支払っており、原告X5もこれを受領したことがあった(証拠〈省略〉)。
エ 有給休暇申請
原告X5は、被告Y1社において就労していた当時、休暇を申請する場合は、横浜工場の工長に連絡をして許可を得ていたところ、横浜工場の繁忙期などには休暇の取得を断られることがあった。なお、原告X5の取得した休暇を有給休暇として処理するか否かは、被告Y3社において決められており、原告X5は、被告Y3社から有給休暇は1か月当たり3日までに抑えるように指示されたこともあった。
オ 契約更新手続
原告X5と被告Y3社との間の派遣労働契約の更新手続は、原告X5と被告Y3社との間で行われており、被告Y1社が契約更新手続に関与したことはなかった。
(2)  黙示の労働契約の成立の主張について
ア 原告X5は、原告X5の地位が派遣従業員から期間従業員へ、期間従業員から派遣従業員へと変遷していること、地位の変更にもかかわらず、有給休暇の持ち越しが認められ、被告Y1社の寮を継続して使用することが認められていたことなどから、原告X5の就労は労働者派遣法の期間制限を潜脱するものであり、少なくとも平成18年1月8日以降の被告Y1社と被告Y3社との間の労働者派遣契約、原告X5と被告Y3社との間の派遣労働契約はいずれも無効であるとし、原告X5と被告Y1社との間には黙示の労働契約が成立していた旨を主張する。
イ 原告X1及び原告X2についての判断部分において説示したとおり、派遣労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が成立するか否かについては、派遣労働者及び派遣先企業の就労当時の認識を前提として、派遣元に企業体としての独自性があるかどうか、派遣労働者と派遣先との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係の実情を検討すべきである。
また、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用関係が無効になることはないものと解される(最高裁判所平成21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁「松下PDP最高裁判決」参照)ことも原告X1及び原告X2についての判断部分において説示したとおりである。
ウ 原告X5と被告Y1社との間の黙示の労働契約の成否につき、原告X5の就労状況に即して検討するに、前記認定事実のとおり、原告X5は、平成16年6月頃、a社からの派遣従業員としてペットボトルの製造会社に派遣されて就労した経験を有し、その後にa社から派遣されて被告Y1社横浜工場における派遣就労を開始したことからすれば、原告X5が被告Y1社を直接の雇用者と認識して就労を開始したものとはいえず、また、原告X5が、平成17年8月頃、a社の担当者から、被告Y1社の期間従業員にならなければ他社に派遣されることになる旨の説明を受けた上で、被告Y1社の期間従業員になることを希望したこと、原告X5は、被告Y3社との間で労働契約の更新手続を行っており、被告Y1社はこれに関与していないこと、原告X5が、平成20年3月頃、被告Y3社から、被告Y1社における派遣就労を終了することを告げられ、新たな派遣先として挙げられた複数の候補の中から被告Y2社を選択し、その後は被告Y2社において就労した経緯があることに照らせば、原告X5は、労働契約の相手方が被告Y3社等の派遣元会社であることを明確に認識していたというべきである。
エ このことに加えて、前記認定事実のとおり、被告Y3社は、被告Y1社と資本提携関係になく、被告Y1社以外にも多数の取引先(派遣先)を有していたこと、被告Y3社と原告X5との間で労働契約が締結され、更新手続が行われていたこと、原告X5の賃金は被告Y3社から支払われており、平成20年2月に原告X5が長期間無断欠勤をした際、被告Y3社において原告X5の被告Y1社における派遣就労の終了を決定し、新たな派遣先を提示していること、被告Y3社は、平成21年2月、被告Y2社から派遣就労契約が解除されたことに伴い原告X5を解雇していることに照らせば、被告Y3社と原告X5との労働契約は形式的・名目的なものとはいえず、実体を伴った労働契約であったということができる。
オ 原告X5は、被告Y1社が仕事で功績のあった派遣従業員について、一定の要件の下に、精勤慰労金、皆勤褒賞、優秀社員手当といった賃金を、派遣元会社に対して派遣料金に上乗せして支払っていたことをもって、被告Y1社が派遣従業員に直接賃金を支払っていたことになる旨主張する。しかしながら、精勤慰労金、皆勤褒賞、優秀社員手当支払の目的は派遣社員の定着を高めることにあること、これらの金員は臨時の報奨金であって賃金そのものとはいえないこと、支払先は各派遣会社であり、派遣従業員にいかなる内容、金額で支払うかについては各派遣会社の裁量に委ねられているといえることに照らすと、これをもって被告Y1社が派遣従業員の賃金額の決定に関与していたことを示す事実とはいえず、他に被告Y1社が原告X5の賃金額の増減に関与していたことを示す証拠はない。
カ 原告X5は、同原告が、派遣従業員となった後も被告Y1社の寮を使用することができたこと、有給休暇の持ち越しが認められていたことを指摘するが、前記認定事実によれば、派遣元会社が派遣先会社の寮を借り受けるなどして、派遣従業員から期間従業員、期間従業員から派遣従業員に立場が変わった就労者に対して便宜が図られていたものにすぎないと認められ、このことが被告Y1社と派遣従業員との使用従属関係を裏付けるものとはいえない。
キ 原告X5は、原告X5が平成19年9月頃に正社員登用試験への職場推薦を受けたことをもって、被告Y1社が派遣従業員の特定行為を行ったものである旨主張する。
派遣先会社が派遣元会社に対し、現在の派遣労働者の派遣労働契約を更新するか否かについて直接指示することは、派遣労働者を特定し、派遣元会社の人事配置権に介入することとなり、許されないものと解される。しかしながら、本件全証拠をもってしても、被告Y1社において、被告Y3社に対し、原告X5との派遣労働契約の更新を要請した事実は認められないし、正社員登用試験への職場推薦を行うことによって、被告Y3社に対して原告X5の就労状況が良好であることが伝わるとはいえるものの、それ以上に、被告Y3社において原告X5との派遣労働契約を更新することが義務付けられるものとは認められないし、このことによって被告Y1社が原告X5の契約更新に関与したものともいえない。
したがって、被告Y1社が原告X5につき派遣従業員の特定行為を行ったものということはできない。
ク 原告X5は、平成19年8月頃、原告X5の就労場所が、被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課の「AL・Cプラ」からL工長の担当する「P32E」に変更されたことをもって、被告Y1社が原告X5の配置を決定していた旨主張する。
しかしながら、前記認定事実によれば、原告X5の派遣就業場所は被告Y1社横浜工場第2製造部第2機械課の「P42」係であって、「AL・Cプラ」と「P32E」はいずれも同係内であることが認められるから、これをもって被告Y1社が被告Y3社との合意を超えて原告X5の配置を変更したということはできない。
ケ ところで、原告X5は、派遣従業員から期間従業員となること、期間従業員から派遣従業員となることを「地位のキャッチボール」と呼称し、これは派遣制限期間の潜脱を目的として設計されたものであり、無効な契約である旨の主張をしている。
そこで、この点について検討するに、前記認定事実によれば、期間従業員として採用される際に被告Y1社担当者から、期間従業員としての期間終了後は、再び派遣従業員となって引き続き就労することができる旨の説明がされていたり、派遣労働期間が終了する頃に派遣従業員を対象とした期間従業員採用説明会が開催されるなどしていたことからすると、原告X5のみならず、被告Y1社横浜工場で就労していた多くの派遣従業員が、短期間で派遣従業員から被告Y1社の期間従業員となり、再び派遣従業員となっていたことが推認されるところ、このような契約形態が常態化していたのは、被告Y1社において、作業効率の観点から一定の経験を積んだ就労者を確保しつつ、他方で、いわゆる期間の定めのある労働契約の雇止めに際して期間更新の合理的期待を抱かせないようにすることにより期間従業員の雇止めが無効にならないようにする意図及び派遣期間制限違反が生じることを回避する意図が背景にあることが推認される。
しかしながら、労働者派遣法は、派遣労働期間の制限を定め、制限にかかるクーリング期間を設定しているところ、同法が平成24年10月1日に改正されたことによって離職後1年以内の労働者派遣が禁止されるまでは、派遣就労先において期間労働者として就労していた者を再び派遣労働者として雇用することを禁止する定めはなかったこと、また、クーリング期間中に派遣労働者を直接雇用することを禁止する定めもないことに照らせば、このような運用を行った場合に期間従業員に対する雇止めが有効となるか等は別途検討されるべき問題であるとはいえるものの、こうした扱いが当時の労働者派遣法の派遣期間制限に直接違反するものとはいえない。
また、被告Y1社において、派遣労働者の希望の有無にかかわらず、派遣労働期間と期間雇用契約期間とを交互に設置して就労を継続させることを制度化していたことを認めるに足りる証拠はなく、上記の扱いは、派遣制限期間ごとに派遣就労先を変更することを避けて、同一の就労場所での継続的な就労を希望する派遣労働者の要請に応えたものともいえる。そして、被告Y1社は、原告X5を職場推薦したように、1年以上就労している有能な派遣従業員については被告Y1社の正社員に登用する制度を用意し、派遣労働者を正規雇用化する措置も講じていたことを併せて考慮すれば、被告Y1社の派遣労働者に対する上記のような扱いが、当時の労働者派遣法の潜脱を目的とするものであるとまでいうことはできない。
さらに、派遣労働において、労働基準法75条以下において規定する災害補償責任、労働契約法16条が規定する解雇はいずれも派遣元と派遣労働者との間で生じる問題であり、派遣先においてこれらの責任を負うことはないから、被告Y1社の上記のような扱いが上記各条項に違反することを指摘する原告X5の主張は失当であり、また、本件全証拠によっても、被告Y1社の上記のような扱いが、公序良俗(民法90条)に違反すると認めることはできない。
以上のとおりであるから、この点についての原告X5の主張は採用することができない。
コ 結論
上記検討したところによれば、被告Y1社と被告Y3社との間の労働者派遣契約及び原告X5と被告Y3社との間の派遣労働契約を無効とすべき特段の事情は見当たらず、また、原告X5と被告Y1社との間の黙示の労働契約の成立を認めるに足りる事情もないものといわざるを得ない。
(3)  規範的・合理的意思解釈に基づく労働契約の成立の主張について
原告X5は、原告X5と被告Y1社との間に、規範的・合理的意思解釈に基づく労働契約の成立が認められる旨主張する。
しかしながら、被告Y1社と被告Y3社との間の労働者派遣契約及び原告X5と被告Y3社との間の派遣労働契約が無効とはいえないことは既に説示したとおりであり、また、原告X5と被告Y1社との間に黙示の労働契約が成立したとはいえないことも上記説示したとおりである。原告X1及び原告X2の判断部分で説示したとおり、契約当事者間の意思の合致がなくとも、規範的・合理的意思解釈によって労働契約の成立が認められるとする原告X5の主張は独自の解釈というほかなく、採用することができない。
(4)  信義則違反による労働契約の成立の主張について
原告X5は、被告Y1社は、信義則上、原告X5と被告Y3社との労働契約の有効性を主張することができないとし、その効果として、原告X5と被告Y1社との間に直接の労働契約が成立する旨主張する。
しかしながら、原告X5と被告Y3社との間の派遣労働契約が無効であったとはいえないことは上記説示したとおりである。そして、前記認定事実のとおり、原告X5の上司であったL工長は、原告X5が被告Y3社からの派遣従業員であることを前提に、原告X5を正社員登用候補者として職場推薦していること、L工長は、原告X5が無断欠勤をした際、被告Y3社担当者に連絡を取って対処を要請していること、L工長としては無断欠勤を経てもなお原告X5の就労継続を受け入れる意向があったが、被告Y3社の意向で原告X5の被告Y1社における派遣就労が中止されたことなどの経過を踏まえると、原告X5の派遣就労当時、被告Y1社において、原告X5を被告Y1社の従業員として取り扱っていたものとはいえないのであり、本件訴訟において、被告Y1社が、原告X5と被告Y3社との間の労働契約の有効性を主張することが信義則上許されないような事情があるものとは認められないものといわざるを得ない。
よって、この点についての原告X5の主張は理由がない。
(5)  解雇無効の主張について
原告X5は、原告X5と被告Y1社との間に労働契約が成立したことを前提に、被告Y1社が原告X5を解雇したこと、解雇に合理的理由がないこと、合意退職ではないことを主張する。しかしながら、原告X5と被告Y1社との間に労働契約が成立したと認めることができないことは上記説示のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告X5の上記主張は理由がない。
(6)  被告Y1社、被告Y2社及び被告Y3社に対する損害賠償請求について
ア 被告Y1社
(ア) 原告X5は、被告Y1社が、労働者派遣法の潜脱目的で、原告X5を低賃金かつ不安定な地位に押しとどめたまま3年6か月間就労させたこと、原告X5は、被告Y1社において熱心に就労した結果、被告Y1社の正社員登用制度に職場推薦され、正社員登用への期待を持たされていたにもかかわらず、原告X5が作業で無理をしたことが原因で足底腱膜炎を発症して工場に出勤することができなくなり労災申請の意思を示すや否や原告X5を強迫して被告Y1社から強制的に追い出すとともに労災を隠したこと、被告Y1社の号令に基づく被告Y2社の人員合理化及び被告Y3社の違法解雇によって被告Y1社での就労を一方的に終了させられたことが被告Y1社の不法行為である旨主張する。
(イ) 労働者派遣法の潜脱目的の点
そこで検討するに、被告Y1社が、派遣制限期間のクーリング期間において派遣労働者であった者をその希望に応じて直接雇用する措置を講じていたことをもって、労働者派遣法を潜脱する目的があるとまではいえないことは上記説示のとおりである。また、仮に被告Y1社において労働者派遣法に違反する何らかの事実が認められたとしても、原告X5は、被告Y3社から所定の賃金の支払を受けていることを踏まえると、労働者派遣法違反の事実があることによって、原告X5の何らかの権利又は法律上保護された利益が侵害されたとは認められず、被告Y1社に不法行為責任が生じるとはいえない。
(ウ) 労災隠しの点について
原告X5がU係長に労災申請の意思を告げた事実が認められないことは前記認定事実のとおりであり、また、原告X5の被告Y1社における就労中止を決めたのは原告X5の雇用主である被告Y3社であり、被告Y1社が原告X5を解雇したとはいえないことは既に説示したとおりであるから、この点についての原告X5の不法行為の主張はその前提を欠くものである。
(エ) 正社員への期待について
前記認定事実によれば、原告X5は、被告Y1社の正社員登用試験の職場推薦を受けていた事実が認められるから、その時点においては正社員に登用される期待を有していたことは明らかであるものの、原告X5は、無断欠勤を続けたことにより正社員登用試験の受験機会を失ったものというほかないから、原告X5に正規雇用について法的保護に値する期待があったともいえない。
(オ) 被告Y2社での就労の終了について
被告Y1社が被告Y2社の人員合理化及び被告Y3社による原告X5の解雇に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(カ) よって、被告Y1社について不法行為が成立するとの原告X5の主張は理由がない。
イ 被告Y3社について
(ア) 原告X5は、被告Y3社が労務管理を怠り、原告X5の雇用主としての役割を果たしていなかったこと、被告Y1社と意思を通じて派遣可能期間の脱法行為に加担したこと、被告Y1社の使者として原告X5を解雇したこと、原告X5の労災申請手続に協力しなかったこと、派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)を原告X5に代わって被告Y3社担当者が偽造していたこと、平成21年2月末、被告Y2社から労働者派遣契約を解除されたことに伴い、原告X5を期間途中で解雇したこと、原告X5が入寮していた被告Y3社の寮から他の寮に原告X5の荷物を運び出したことが被告Y3社の不法行為である旨主張する。
(イ) 労務管理の点について
被告Y3社が原告X5の労務管理を行っていなかったとする点については、原告X5も、被告Y3社担当者が被告Y1社横浜工場を訪れていたこと及び被告Y3社担当者から有給の取得日数を制限されたことがあることは認める供述をしていること、原告X5が署名・押印していないとする派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)を除く他の派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)については原告X5が署名押印したことを認めていること、前記認定事実のとおり、原告X5が無断欠勤をした際、被告Y3社担当者が原告X5に連絡を取り、その後の派遣就労先を提示していることに照らせば、被告Y3社が原告X5の労務管理を行っていなかったとまではいえないし、仮に被告Y3社の原告X5に対する労務管理に不十分な点があったとしても、そのことによって原告X5の権利または法律上保護された利益が侵害されたということはできない。
(ウ) 労働者派遣法の潜脱目的の点について
派遣期間制限のクーリング期間に派遣労働者であった者を直接雇用する措置が労働者派遣法の潜脱目的とまではいえないことは前記説示のとおりであり、被告Y3社がこのような措置を認識していたとしても、被告Y3社に不法行為責任が生じるものとはいえない。
(エ) 被告Y1社の解雇の点について
被告Y1社が原告X5を解雇したとはいえないことは既に説示したとおりであるから、被告Y3社担当者が被告Y1社の使者として解雇の意思表示をしたともいえない。
(オ) 労災隠しの点について
原告X5は、被告Y3社が原告X5の労災申請手続に協力しなかったと主張するが、そもそも原告X5が被告Y1社で就労していた当時に労災申請の意思を有していたと認められないことは既に説示したとおりであり、本件全証拠によっても原告X5が被告Y3社に対して労災申請を要請したにもかかわらず、被告Y3社がこれを拒否した事実を認めることはできない。
(カ) 派遣労働者雇入通知書偽造の点について
原告X5は、被告Y3社従業員が原告X5の派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)を偽造したと主張するが、被告Y3社との間で労働契約を締結し、被告Y1社において派遣就労することは当時の原告X5の意思と一致しており、原告X5は派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)に記載されたとおりの派遣就労を行い、被告Y3社から所定の賃金の支払を受けていることに照らすならば、原告X5は、被告Y3社担当者が派遣労働者雇入通知書(証拠〈省略〉)の原告X5署名部分を記入することに同意していたものと推認することができ、仮に同意があったとは認められないとしても、そのことのみによっては原告X5の権利又は法的保護に値する利益が損なわれたということはできない。
(キ) 期間途中の解雇の点について
原告X5は、被告Y3社が、平成21年2月末、被告Y2社から労働者派遣契約を解除されたことに伴い、原告X5を期間途中で解雇したことが違法である旨を主張する。
しかしながら、前記原告X3の判断部分で既に説示したとおり、被告Y2社が被告Y3社との労働者派遣契約を解除したことは、いわゆるリーマンショックに伴う受注量の急激な落ち込みに対応するための措置であって、やむを得ない理由があったとみることができる。
そして、前記認定及び説示のとおり、被告Y3社が原告X5を期間途中で解雇したのは、被告Y2社が上記のとおりのやむを得ない理由から被告Y3社との労働者派遣契約を解除したことによるものであること、当時は、製造業の派遣労働者の多数が雇止めされる状況にあり、被告Y3社において原告X5に新たな派遣先を確保することは困難であったと考えられること、原告X5の労働契約期間は解雇の時点で残り約1か月であったこと、被告Y3社は、原告X5に使用させていた寮について、解雇後も平成21年3月末まで使用を認める措置をとった上、その後も、同年6月頃まで、被告Y3社の費用負担で原告X5の住居を用意したことなどの事情に照らせば、被告Y3社が、被告Y2社との労働者派遣契約の解除に伴って原告X5を解雇したことが不法行為を構成するほどの違法性を有する措置であったとはいえないというべきである。
(ク) 荷物を運び出した点
前記認定事実によれば、被告Y3社担当者が、原告X5の使用していた寮から、被告Y3社が用意した別の寮に原告X5の荷物を運び出したことは認められるものの、原告X5は使用していた寮の使用期限について延長申請をしており(証拠〈省略〉)、その期限が平成21年3月末日であることを認識していながら、同月末になっても転居等の準備をしていた形跡は証拠上見受けられないのであるから、被告Y3社担当者において原告X5の荷物を他の場所に移転させるのはやむを得ない措置であったということができる上、原告X5は荷物の移転先の住居に同年6月頃まで被告Y3社の費用負担で居住していたことに照らすと、この点につき被告Y3社に不法行為が成立するとはいえない。
(ケ) よって、被告Y3社について不法行為が成立するとの原告X5の主張は理由がない。
ウ 被告Y2社について
(ア) 原告らは、被告Y2社が、原告X5が被告Y3社から解雇されることになることを知りつつ、被告Y3社との労働者派遣契約を解除したことが被告Y2社の原告X5に対する不法行為である旨主張する。
(イ) しかしながら、原告X3の判断部分で説示したとおり、被告Y2社が派遣元会社との労働者派遣契約を期間途中で解除したのは、いわゆるリーマンショックの影響から、自動車販売の需要が減少して被告Y1社からの受注量が急激に落ち込み、多数の余剰人員が生じたことによるものであって、やむを得ない措置であるといえること、被告Y2社は、労働者派遣契約に従って、被告Y3社をはじめとする各派遣会社に事前に解除を申し入れ、各派遣会社がこれに応じたものであることに照らせば、被告Y2社による被告Y3社との労働者派遣契約の解除について原告X5に対する不法行為と評価されるべき違法性があるとは認められない。
(ウ) よって、被告Y2社について不法行為が成立するとの原告X5の主張は理由がない。
(7)  原告X5についての結論
以上のとおりであるから、原告X5の被告Y1社、被告Y3社及び被告Y2社に対する請求はいずれも理由がない。
4  まとめ
原告X1、原告X2及び原告X5は、被告Y1社に対して、原告X3及び原告X4は被告Y2社に対して、それぞれ労働契約に基づく賃金の支払を請求しているところ、本判決確定の日の翌日以降の支払を求める部分は、将来請求であり、民事訴訟法135条に定める「あらかじめその請求をする必要」があると認めることができないから、当該部分に係る訴えは、訴えの利益を欠くものである。
原告らのその余の請求は、いずれも理由がない。
第5  結論
よって、原告らの請求のうち、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分は、不適法であるからこれらを却下し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 新谷祐子 裁判官 岡田毅)

 

(別紙)
当事者目録
(別紙1 原告X1)
1 契約内容
契約期間 3か月間・更新あり
就業場所 被告Y1社プロダクトデザイン部
賃  金 時給2000円
2 請求額
賃  金
毎月16日限り 19万6424円
毎月月末限り 19万6424円
以上
(別紙2 原告X2)
1 契約内容
契約期間 3か月間・更新あり
就業場所 被告Y1社プロダクトデザイン部
賃  金 時給2800円
2 請求額
賃  金
毎月16日限り 28万3118円
毎月月末限り 28万3118円
以上
(別紙3 原告X3)
1 契約内容
契約期間 6か月間・更新あり
就業場所 被告Y2社湘南工場第1地区車体課
賃  金 時給1200円(末日締め、翌月15日支払)
満期慰労金 期間満了時ごとに30万円、満了日翌月15日支払
2 請求額
賃  金
26万3153円
以上
(別紙4 原告X4)
1 契約内容
契約期間 8か月間・更新あり
就業場所 被告Y2社湘南工場第4地区車体課
賃  金 時給1100円(末日締め、翌月15日支払)
満期慰労金 期間満了時ごとに40万円、満了日翌月15日支払
2 請求額
賃  金
24万3268円
以上
(別紙5 原告X5)
1 契約内容
契約期間 3か月間・更新あり
就業場所 被告Y1社横浜工場第1製造部第2機械課
賃  金 時給1150円(末日締め、翌月15日支払)
満期慰労金 期間満了時ごとに10万円、満了日翌月15日支払
2 請求額
賃  金
22万9263円
以上

 

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