「営業アウトソーシング」に関する裁判例(39)平成26年12月 2日 東京地裁 平26(ワ)426号 損害賠償請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(39)平成26年12月 2日 東京地裁 平26(ワ)426号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成26年12月 2日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)426号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2014WLJPCA12028009
要旨
◆被告R社及び被告H社(被告会社ら)からリゾート施設の利用権を購入した原告が、虚偽の内容の勧誘によって損害を被ったなどと主張して、被告会社らに対しては不法行為及び会社法350条に基づき、被告会社らの代表取締役である被告Y1に対しては不法行為及び会社法429条に基づき、購入代金相当額及び弁護士費用等の連帯での賠償を求めた事案において、被告会社らは、本件利用権の販売につき、原告に対する被告会社らの履行補助者による違法な勧誘活動によって自らも利益を得ていたと認めて、本件履行補助者との共同不法行為責任を負うとした上、被告Y1は、被告会社らと業務委託契約を締結した本件履行補助者の違法行為を是正しなかったことに過失があるとして、不法行為責任を負うとし、原告主張に係る損害を認めたが、購入代金を支払った日を裏付ける客観的証拠がないから、購入代金相当額に対する遅延損害金の起算日を本件履行補助者が営業を停止した日と認めて、請求の殆どを認容した事例
参照条文
会社法350条
会社法429条
民法709条
民法719条
裁判年月日 平成26年12月 2日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)426号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2014WLJPCA12028009
埼玉県熊谷市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 村越仁一
東京都中央区〈以下省略〉
被告 リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社
同代表者代表取締役 Y1
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 株式会社ヘリテージ
同代表者代表取締役 Y1
大阪市〈以下省略〉
被告 Y1
上記3名訴訟代理人弁護士 板垣眞一
主文
1 被告リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社及び被告Y1は,原告に対し,連帯して,金2541万円及び内金2310万円に対する平成21年9月30日から,内金231万円に対する被告リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社については平成26年1月27日から,被告Y1については同月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社ヘリテージ及び被告Y1は,原告に対し,連帯して,金1501万5000円及び内金1365万円に対する平成21年9月30日から,内金136万5000円に対する平成26年1月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社及び被告Y1は,原告に対し,連帯して,金2541万円及び内金315万円に対する平成21年4月15日から,内金210万円に対する同月19日から,内金315万円に対する同月23日から,内金210万円に対する同月29日から,内金210万円に対する同年5月12日から,内金105万円に対する同月15日から,内金210万円に対する同月21日から,内金105万円に対する同月23日から,内金210万円に対する同月27日から,内金210万円に対する同月28日から,内金105万円に対する同年8月7日から,内金105万円に対する同月8日から,内金231万円に対する被告リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社については平成26年1月27日から,被告Y1については同月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社ヘリテージ及び被告Y1は,原告に対し,連帯して,金1501万5000円及び内金390万円に対する平成21年6月26日から,内金585万円に対する同月27日から,内金195万円に対する同年7月16日から,内金195万円に対する同月29日から,内金136万5000円に対する平成26年1月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社(以下「被告RRD」という。)及び被告株式会社ヘリテージ(以下「被告ヘリテージ」という。)からリゾート施設の利用権を購入した原告が,虚偽の内容の勧誘によって損害を被ったなどと主張して,被告RRD及び被告ヘリテージに対しては,不法行為及び会社法350条に基づき,被告RRD及び被告ヘリテージの代表取締役である被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対しては,不法行為及び会社法429条に基づき,購入代金相当額である3675万円(被告RRDにつき2310万円,被告ヘリテージにつき1365万円)と弁護士費用367万5000円(被告RRDにつき231万円,被告ヘリテージにつき136万5000円)の合計4042万5000円及びこれに対する購入代金相当額に対しては不法行為日から,弁護士費用に対しては訴状送達の日の翌日からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求めた事案である。
1 前提となる事実(特に証拠を摘示していない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,昭和18年○月○日生まれの無職の女性である。
(2) 被告RRD及び被告ヘリテージ(以下,併せて「被告会社」という。)は,リゾート会員権販売を業とする株式会社であり,被告Y1は,被告会社の代表取締役である。
(3) 被告RRDは,aリゾートクラブと称する会員制クラブを運営し,同クラブ会員にタイ国内の所定のリゾート施設を1口当たり10年で1500ポイント分宿泊利用できるという権利(以下「タイムシェア利用権」という。)を付与する形で,これを1口105万円で販売していた(甲5,20,22)。
原告は,被告RRDから,タイムシェア利用権合計22口を,代金合計2310万円で購入し,上記代金を被告RRDに支払った。
(4) 被告ヘリテージは,bリゾートと称する会員制クラブを運営し,同クラブ会員にタイ国内の3つのリゾート施設を一口あたり年間14日間30年間宿泊利用できるというタイムシェア利用権を付与する形で,これを1口195万円で販売していた(甲6,17ないし19,21)。
原告は,被告ヘリテージから,タイムシェア利用権合計7口を,代金合計1365万円で購入し,上記代金を被告ヘリテージに支払った。
2 争点
(1) 争点1
被告らが,原告に対し,不法行為等に基づく損害賠償を支払う義務を負うか。
ア 原告の主張
被告会社は,金融商品取引法所定の金融商品取引業の登録をしていないにもかかわらず,金融商品取引を行う資格があるかのように装って,タイムシェア利用権というリゾート会員権や空室を運用した収益の配当などを合わせた金融商品を業として販売し,原告から金銭の交付を受けた行為は違法であり,会社法350条及び民法709条に基づき,原告に対し,損害賠償を支払う義務を負う。
また,被告会社の従業員は,原告に対し,タイムシェア利用権を購入すれば高い配当が得られ,保有していれば損はしないなどと虚偽の内容の執拗な勧誘を行った結果,原告は,タイムシェア利用権購入代金相当額の損害を被ったものである。上記勧誘を行ったのが訴外株式会社A&G(以下「A&G」という。)であるとしても,同社は,被告会社が作成したパンフレットをもとに原告に対する勧誘を行い,原告をして,真実はそうでないのに高配当を得られると誤信して金員を拠出したのであるから,被告会社とA&Gには客観的関連共同性が認められ,両者には共同不法行為が成立する。
そして,被告Y1は,一般消費者から金銭を詐取するため,被告会社の代表取締役としてその運営を指示統括してきたから,民法719条に基づき,被告会社とともに共同不法行為責任を負うべきである。また,被告Y1は,業務執行行為一般について監視監督義務があるにもかかわらず,重大な過失により本件違法行為を是正しなかったのであるから,会社法429条に基づく損害賠償責任を負うべきである。
イ 被告の主張
原告の主張を争う。
被告会社が販売したタイムシェア利用権は金融商品ではないから,被告会社に金融商品取引を行う資格がなくとも,タイムシェア利用権を販売することが不法行為となるものではない。
また,被告会社は,タイムシェア利用権の販売活動をアウトソーシングで行っており,原告にタイムシェア利用権を販売したのはA&Gである。よって,原告の主張する不当な勧誘行為が事実であったとしても,不当な行為を行ったのはA&Gであって被告会社ではなく,委託者である被告会社がA&Gの不当な販売活動を予想できるものではない。
よって,被告らは,原告に対し,不法行為等に基づく損害賠償を支払う義務を負うものではない。
(2) 争点2
原告の被った損害額。
ア 原告の主張
(ア) タイムシェア利用権の購入代金相当額 3675万円
(イ) 弁護士費用 367万5000円
原告は,原告訴訟代理人に本件損害賠償請求手続を依頼し,その弁護士費用として,前記(ア)の約2割に相当する金額を支払う旨約したが,そのうち少なくとも367万5000円は,被告らの違法なタイムシェア利用権販売商法により発生した損害として,被告が負担すべきである。
(ウ) 合計 4042万5000円
イ 被告の主張
原告の主張を争う。
第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲5ないし15,17ないし24,乙1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告RRDは平成20年10月31日に,被告ヘリテージは平成21年6月1日に,それぞれA&Gとの間で,タイムシェア利用権に係る営業業務をA&Gに委託する旨の業務委託契約を締結して,パンフレット等の営業用資材をA&Gに提供し,タイムシェア利用権に係る営業活動は専らA&Gが行っていた。
被告会社が作成したパンフレットには,タイムシェア利用権につき配当があるとの記載はない。
(2) 原告は,平成21年3月28日ころ,被告RRD作成のタイムシェア利用権の購入の案内パンフレットの送付を受けた。そして,同年4月1日ころ,中央省庁の下請会社でリゾート関係の仕事をしているというAと名乗る男性から電話があり,被告RRDのタイムシェア利用権につき,優良なリゾート会員権をかなり格安で販売しているなどとして購入を勧誘されたが,原告はこれを断った。
(3) 同月13日ころ,原告は,資産運用会社のリゾートキャピタルコンサルタント会社のBと名乗る男性からの電話で,被告RRDのタイムシェア利用権を購入すれば高配当が得られ,損はしない,埼玉県内で50名募集しているが,第1回目の募集だからすぐに締め切りになってしまうなどと勧誘され,タイムシェア利用権3口(代金合計315万円)を購入した。
(4) 原告は,翌日ころ,Bから再び連絡を受け,被告RRDのタイムシェア利用権の販売価格は第1回目が1口150万円,第2回目が1口350万円,第3回目が1口500万円であるから,今のうちに口数を多く持って数か月後に譲渡すれば約5倍の利益が確保できるなどとして,さらなる購入を勧誘され,追加でタイムシェア利用権10口(代金合計1050万円)を購入した。
(5) さらに,原告は,同年5月16日ころ及び同月19日ころ,Bから,被告RRDのタイムシェア利用権を16口以上保有すると配当金が月額100万円くらいになり,20口だと大口なのでより高い配当金が付くから,無理をしてでも購入した方が良いと勧誘され,同月中に追加でタイムシェア利用権7口(代金合計735万円)を購入し,合計口数を20口とした。
(6) 原告は,同年6月初旬ころ,被告ヘリテージ作成のタイムシェア利用権の購入の案内パンフレットの送付を受け,数日後,Bから,被告ヘリテージのタイムシェア利用権は,1口195万円と高額ではあるものの,7口以上保有していると,30年間にわたって約5倍の配当金が得られるなどとして購入を勧誘され,同年7月28日ころまでにタイムシェア利用権7口(代金合計1365万円)を購入した。
(7) 原告は,同月30日ころ,被告RRDの管理部のCを名乗る男性から電話があり,被告RRDのタイムシェア利用権を20口以上保有している人に,1口が5口分に相当するプレミアが付く特別な商品(配当金は5倍になる。)の購入を勧誘され,申込期限が3日以内になっているとして,同年8月1日ころにも勧誘を受け,同月7日ころまでにタイムシェア利用権2口(代金合計210万円)を購入した。
(8) A&Gは,同年9月末日をもって営業を停止し,平成22年1月には破産手続開始決定を受けた。被告会社は,タイムシェア利用権の販売を停止している。
2 争点1について
前記1に認定した事実を前提とすれば,被告会社のタイムシェア利用権を購入することにより高配当や数か月後の転売が見込める旨の原告に対する勧誘活動は,虚偽の内容に基づくもので違法であると認められる。
そして,上記勧誘を行ったのがA&Gであるとしても,同社は,被告会社との間の業務委託契約に基づき,被告会社から提供された営業用資材を使用し,被告会社の名前で顧客に対する営業活動を行っていたものであって(乙1,2),タイムシェア利用権を販売する被告会社の履行補助者の立場にあったものというべきである。
そうすると,被告会社としては,タイムシェア利用権の販売につき履行補助者の立場にあったA&Gの原告に対する違法な勧誘活動によって自らも利益を得ていたものであって,被告会社とA&Gには客観的関連共同性が認められるから,共同不法行為が成立するものというべきである。よって,被告会社は,かかる違法な勧誘活動によって損害を被った原告に対し,不法行為に基づく損害賠償を支払う義務を負うものと認めるのが相当である。
また,被告Y1についても,被告会社の代表取締役として,被告会社と業務委託契約を締結した被告会社の履行補助者たるA&Gの上記違法行為を是正しなかったことにつき,少なくとも過失が認められるから,不法行為に基づき,原告が被った後記損害を賠償する義務を負うべきである。
3 争点2について
被告RRDとの間で締結されたタイムシェア利用権合計22口の売買契約により,原告は購入代金に相当する2310万円の損害を被ったことが認められ,被告ヘリテージとの間で締結されたタイムシェア利用権合計7口の売買契約により,原告は購入代金に相当する1365万円の損害を被ったことが認められる。
また,原告は,本件訴訟の遂行のために,原告訴訟代理人に訴訟委任したことが認められるから,その弁護士費用相当額は,被告らの不法行為により生じた損害であると認められるところ,本件訴訟の内容,進行等に鑑みれば,弁護士費用相当額は,上記購入代金の1割に相当する額(被告RRDにつき231万円,被告ヘリテージにつき136万5000円と認めるのが相当である。
ただし,本件記録上,原告が被告会社にタイムシェア利用権の購入代金を支払った日を裏付ける客観的証拠が見あたらないから,購入代金相当額に対する遅延損害金の起算日については,不法行為後の日である平成21年9月30日(A&Gが営業を停止した日)と認める。
4 よって,原告の請求は主文の限度で理由があるから,その限度でこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条但書を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 大須賀綾子)
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