判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(116)平成27年 3月17日 東京地裁 平25(ワ)10002号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(116)平成27年 3月17日 東京地裁 平25(ワ)10002号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成27年 3月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)10002号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2015WLJPCA03178024
要旨
◆本件会社に出資した原告が、本件会社の代表社員である被告に対し、本件会社の勧誘行為又は出資金運用が違法であると主張して、不法行為又は会社法597条に基づき、損害賠償を求めた事案において、勧誘行為については、被告に故意又は過失が認められず、不法行為責任及び会社法597条の責任は認められないが、出資金の管理、運用については、被告に重過失があり、会社法597条に基づく損害賠償責任が認められるところ、原告にも落ち度がある一方で、被告自身も被害者的側面を有することは否定できないことから、被告との関係においては、過失相殺を認めても過失相殺の制度趣旨を没却するとまではいえないとした上で、被告の過失の重大さと、原告の過失内容に照らせば、被告の過失が上回るとして、相殺額を損害額の1割に満たない弁護士費用相当額と同額と認め、請求を一部認容した事例
参照条文
民法709条
民法722条2項
会社法597条
裁判年月日 平成27年 3月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)10002号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2015WLJPCA03178024
神奈川県横須賀市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 山口貴士
同 梅津竜太
東京都世田谷区〈以下省略〉
(訴状記載の住所 東京都目黒区〈以下省略〉)
被告 Y
主文
1 被告は,原告に対し,3830万円及びこれに対する平成25年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,4213万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,合同会社UTトレード(以下「本件会社」という。)に出資した原告が,本件会社の代表社員である被告に対し,本件会社の勧誘行為又は出資金運用が違法であると主張して,不法行為又は会社法597条に基づき,損害賠償を請求した事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 本件会社は,平成24年1月23日,投資事業組合の運営を目的として設立された合同会社である。被告は,設立時から現在まで,本件会社の業務執行社員及び代表社員を務めている。
(2) 投資事業匿名組合契約の締結
原告は,平成24年4月17日,本件会社との間で,次の約定により,投資事業匿名組合契約を締結し(乙23,以下「本件契約」という。),5000万円を本件会社に出資した(甲1)。本件契約の契約書には,次の約定等が明記されている(乙23)。
ア 本件契約の成立(2条)
本件契約は,商法535条に定める商法上の匿名組合契約であり,原告は本件会社に対して出資を行い,本件会社は原告に対して営業から生ずる利益を分配することを約束する。
イ 対象となる営業(4条)
本件会社が行う営業は以下のとおりとする。
(ア) 国内外の資源関係事業等を行う企業の有価証券の取得,運用
(イ) 鉱業権の売買及び開発
(ウ) 有価証券,不動産,知的財産権等の売買及び金銭の貸付等を含むその他の事業
(エ) 前各号に付帯する一切の業務
ウ 善管注意義務(7条)
本件会社は,本営業を善良なる管理者の注意をもって遂行するものとし,本営業の成功に向けて商業上合理的に要求される努力を行うものとする。
ただし,本件会社は,本営業の成功又は原告を含む本匿名組合員に対する出資履行金額の返還について,明示又は黙示を問わず,何らの保証をするものではない。
エ 保証(9条2項)
原告は,本件会社に対し,本件契約締結日において,原告が日本国籍を有する自然人であり,自己を被後見人とする任意後見契約を締結しておらず,かつ,原告に関し,後見開始,保佐開始,又は補助開始の審判申立ての原因となる事由は存在せず,本契約を締結し,本契約上の義務を履行するために必要な完全な意思能力,権利能力,行為能力を有していることを保証する。
オ 本件会社の報酬(14条)
本件会社は,本営業の遂行の対価として,以下の申込手数料,管理報酬及び成功報酬を組合財産から取得するものとする。
(ア) 本件契約の申込手数料として出資金額の5%に相当する額(消費税込み)を現金にて受領するものとし,出資金の払込みと同時に出資金の中から受領する。
(イ) 本件会社は初年度は出資総額の10%に相当する金額(消費税込み)を現金にて受領するものとし,出資金の払込と同時に出資金の中から受領する。2年度目以降は年額120万円(消費税込み)を現金で受領するものとする。但し,二次募集期間中において既存の匿名組合員が追加で出資を行う場合又は新たに加入した匿名組合員が出資を行う場合については日割り計算とし,当該匿名組合員が出資した金額が払込まれた日から30日以内に現金にて一括して受領する。なお,1円未満の端数は切り捨てるものとする。
(ウ) 本件会社による本営業の遂行に対する成功報酬は,各営業年度について,次の各号のいずれかに基づき計算された金額を現金にて受領するものとし,各営業年度終了後3か月以内に清算する。
① 各営業年度における成功報酬控除前利益(営業利益から費用を差し引いた額。但し,本件会社が本営業に関して支払うべき公租公課がある場合には,公租公課も差し引いた残りの金額とする。なお,公租公課は既に支払ったものだけでなく,将来支払うことが確定したものも含む。以下同じ。)が出資総額の30%未満である場合はゼロ円とする。
② 各営業年度における成功報酬控除前利益が出資総額の30%以上50%未満である場合,当該営業年度の成功報酬控除前利益の20%に相当する額(消費税込み)とする。
③ 各営業年度における成功報酬控除前利益が出資総額の50%以上である場合,当該営業年度の成功報酬控除前利益の30%に相当する額(消費税込み)とする。
カ 利益分配(16条)
本件会社は各計算期間から生じた利益(一般に公正妥当と認められる会計基準に従って算出される税引前当期利益を意味する。)又は損失(一般に公正妥当と認められる会計基準に従って算出される税引前当期損失を意味する。)を,その裁量により,当該計算期間の末日における出資比率に応じて,原告に分配し,原告はこれを享受する。なお,貸借対照表上の純資産額の算定に際し未実現利益は算入しないものとし,損失は補填されるまで累積されるものとする。但し,本件会社は,その任意の裁量において,再投資を行い,また,費用,本組合の債務及び公租公課の支払等の目的のため必要な場合には,本条に基づく分配を留保することができる。
ある計算期間において利益が発生した場合であっても,本営業に関して累積している損失がある場合には,その損失を補填した後でなければ,利益の分配は行われない。
分配すべき利益が存在する場合,本件会社は各計算期間終了日から3か月以内までに金銭の支払をもって利益を分配するものとする。
前項の利益の分配は,当該計算期間の末日における匿名組合員たる地位の保持者に対してこれを行う。
本件会社は,原告に出資履行金額相当額の返還を保証せず,また,利益の分配を保証しない。
キ 有効期間(20条)
本件契約の有効期間は,本件契約成立日から平成27年12月31日までとする。但し,本件会社は,本件契約期間を延長する旨の通知を原告に行った上で本件契約期間満了日の翌日から更に7年間を限度として本件契約期間を延長することができる。また,営業開始日以降3か月経過後から本件会社は自らの裁量により,本件契約期間をいつでも終了させることができる。
ク 契約の解除(21条)
本件契約に別段の定めがある場合のほか,原告は本件契約を解除することはできない。但し,本件会社及び原告は,やむを得ない事由があるときは,商法540条2項に基づき,いつでも本件契約を解除することができる。
ケ 残余財産の分配(23条)
本件契約が,期間満了,解除,契約の終了,その他の理由により終了した場合,本件会社の裁量により,本件会社が合理的であると判断する方法で必要に応じて金銭以外の組合財産を処分し,本件契約終了時又は直近営業年度末のいずれか適切と判断する時点の貸借対照表に記載された組合財産から本営業に関する全ての債務及び損失を差し引いて残った財産(以下「残余財産」という。)を原告に対してその出資比率に応じて分配することにより,清算を行うものとする。但し,本件契約の終了時に,本営業のために締結された他の匿名組合契約のうち,一つでも終了しないものがある場合,本件会社の裁量により本件会社の処分は行わず,本件契約終了時又は直近営業年度末のいずれか適切と判断する時点の賃借対照表に基づき,営業者が合理的であると考える方法により組合財産を金銭的に評価して残余財産を算出することができるものとし,原告はかかる組合財産の清算方法について,あらかじめ異議なく了承するものとする。
本件会社は,本件契約終了後3か月以内に,前項に基づく残余財産を分配するものとする。但し,他の匿名組合契約の全てが終了していない場合は,本件会社はその判断により,他の匿名組合契約の全てが終了するまでの間,残余財産の分配を留保することができる。
コ 匿名組合員の地位の譲渡(28条)
原告は,被告会社の書面による承諾がある場合を除き,その匿名組合員たる地位及びかかる地位に基づく権利の譲渡について,裁判上及び裁判外の事由の如何を問わず,譲渡,質入れ,担保権設定その他一切処分することができない。なお,本件会社の書面による承諾を得て本匿名組合員たる地位の譲渡がされる場合,本匿名組合員は,本匿名組合員たる地位の譲受人をして,本件会社の指定する日までに,本件契約に拘束されることに同意する旨の書面を本件会社に対して提出させるものとする。
(3) 原告代理人は,平成24年5月8日ころ,本件会社に対し,本件会社がアセットワークスのAと名乗る者と共謀して,本件会社に出資すればその出資した権利を倍の値段で買い取る者がいるなどの虚偽の事実を申し向けて原告に本件契約を締結させたなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求,又は本件契約の詐欺取消しによる不当利得返還請求として,原告が出資した5000万円の返金を求めた(甲2)。
更に,原告代理人は,同月17日,本件会社に対し,本件会社は,原告が不正な勧誘等によらずして勧誘を受けたかどうかの確認ができていないため,ファンドに資金を投入して運用を開始することはできないはずであるし,また,原告は日本国籍を持っていないため,ファンドに投資するための適格性を欠いていることから,即時の全額返金が可能ではないかという疑念を禁じ得ないとして,早急に原告の出資金を返金するよう請求した(乙6)。
(4) 本件会社は,平成24年5月18日,原告に対し,出資金5000万円の返金義務を負うことを認めるとの書面(甲3)を送付し,同月16日から同年8月17日にかけて,同返還義務の履行として,原告に対し,合計1170万円を支払った(当事者間に争いはない)。
(5) 原告は,平成25年4月17日,主位的に,本件会社及び被告に対して,共同不法行為又は会社法597条に基づく損害賠償請求として,連帯して4213万円(出資金残額3830万円及び弁護士費用383万円)を支払うよう求め,予備的に,本件会社に対して,本件会社の前記(4)の出資金返金約束に基づき出資金残額3830万円の支払を求めて,本訴訟を提起した。
(6) 本訴訟の第1回口頭弁論期日において,被告及び本件会社は,主位的請求の請求原因である不法行為を否認する答弁書を陳述した。同期日において,原告は,本件会社に対する主位的請求を取り下げた。本件会社は,主位的請求の取下げに同意した上,予備的請求を認諾した(第1回口頭弁論調書)。
2 争点及び当事者の主張
(1) 被告は不法行為責任,又は会社法597条責任を負うか。
(原告の主張)
ア 本件会社が行った本件契約への勧誘は,以下のとおり,違法である。
(ア) 原告は,本件契約について,以下の勧誘行為を受けた。
原告は,安愚楽牧場に対する出資詐欺の被害者であるが,同詐欺に遭った後の平成24年3月7日,アセットワークスのAと名乗る人物(以下「A」という。)から電話があり,「安愚楽牧場の件で1億6000万円ほど損されてますよね。」「本件会社に出資して欲しいんです。そうしたら,弊社の大事な顧客のB様という方が,安愚楽牧場被害にあった1億6000万円の20%をお渡しすると言っています。」「B様は,本件会社に直接出資をする権利がないのですが,原告にはその権利があるのです。」「原告が本件会社に2500万円を出資してくれれば,その出資した権利についても,弊社を通じてB様がその倍の値段で買い取ってくれます。」などと申し向けられた。原告が流動資産がない旨述べると,Aは,原告に対し,「今,動かせるお金がないのであれば,保険を担保にお金を借りてでも出資した方がいいです。」「今すぐに本件会社に連絡をして,必要書類をもらって下さい。」と言った。原告は,その旨真実と誤信したため,同日,Aから教えられた本件会社の電話番号に電話をかけて,本件契約の資料の発送を依頼した。数日後,本件会社から,「本件会社が主として国内外の資源関係事業等を行う企業の有価証券の取得,運用を行い,投下資本を増殖回収することを目的とします」などと記載のある重要事項説明書等が封入された郵便物が送付された。
原告が,Aに対し,上記郵便物の送付を伝えると,Aは,本件会社から届いた必要書類の記載方法を原告に教え,原告はAに教えられたとおりに記載し,それらを本件会社に送付した。
その数日後,本件会社の従業員であるC(以下「C」という。)から原告に電話があり,「うちの審査はとても厳しいのですが,原告の審査は通りました。」「本当にうちのファンドは人気があるので急いでお金を払ってください。」「弊社の従業員が原告宅まで取りに行きます。」「早くしないと人数がいっぱいで締め切らせていただきますよ。」などと述べた。原告が,Cに対し,流動資産がない旨述べると,Cは,原告に対し,「今動かせるお金がないのであれば,保険を担保にお金を借りてでも出資した方がいいです。」などと言った。
原告は,個人年金保険及び生命保険を担保にして,独立法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構から合計400万円,日本生命保険相互会社から合計4500万円を借り入れ,本件会社の従業員であるD(以下「D」という。)に対し,本件契約の出資金として,同月28日に500万円,同年4月9日に2000万円,同月17日に2500万円を交付し,同日,本件契約を締結した。
本件契約締結後,原告は,本件会社に出資した権利の倍額での買取り及び3200万円(安愚楽牧場の被害に遭った1億6000万円の20%相当額)の交付を求めて,アセットワークスに電話したが,アセットワークスはこれらを拒否し,その後,連絡が取れなくなった。
(イ) 上記勧誘行為は,以下①②③の理由により,不法行為に該当する。
① Aは,本件会社に出資すれば,安愚楽牧場の被害額である1億6000万円の20%相当額を得られる,出資金の倍額で出資した権利を買い取るなどと喧伝しているが,原告が,本件契約締結後,アセットワークスにこれらの金員を求めて拒否されたのであるから,これらの勧誘文言が虚偽であることは明らかであり,かかる勧誘行為は詐欺に当たる。
また,アセットワークスの従業員が,本件会社の電話番号を教えた上で原告に対し本件会社への連絡を指示していることや,本件会社から届いた必要書類の記載方法をアセットワークスの従業員が原告に指示し,原告はこれをその指示どおりに記載し,それらを本件会社に送付させられたことに鑑みれば,アセットワークス及び本件会社が一体となって,原告に対する上記勧誘行為を行ったことは明らかである。
② 本件会社は,原告ら出資者から集めた出資金を適正に運用してその利益を出資者に還元させるのように表示して,本件契約の勧誘を行っている。しかしながら,以下イで述べる本件会社の資金流出及びその後の対応に照らせば,本件会社は,当初から,出資金を適正に管理,運用する意思などなかったことは明らかである。それにもかかわらず,あたかも適正に資金を運用してその利益を出資者に還元させるかのように虚偽の表示をした上で投資を募集する行為は,当初から破綻必須の詐欺的商法であり,その販売はおよそ正当な金融商品取引とは認められない金融商品まがいの取引であり,原告に対する関係で故意又は過失による詐欺に当たるから,社会的相当性を逸脱する違法な勧誘行為といえる。
③ 投資の勧誘をする者は,勧誘に際し,被勧誘者が取引内容を十分理解し自己責任において投資判断をするための前提として,当該取引に伴う危険性,仕組等について正しい認識を形成するに足りる情報や資料を積極的に提供し,被勧誘者の知識,能力,経験等に応じて,被勧誘者が理解できる程度に説明すべき信義則上の説明義務を負う。
しかしながら,前記のとおり,本件会社はそもそも出資金を適正に運用してその利益を出資者に還元させる意思などなかったことは明らかであり,それにもかかわらず,あたかも,出資金を適正に運用してその利益を出資者に還元するかのように虚偽の表示をした上で本件会社による投資の募集を行っているから,上記信義則上の説明義務に反するといえ,本件会社による投資の勧誘行為は不法行為となる。
イ 本件会社の出資金の管理,運用は,本件会社の善管注意義務に違反する。
(ア) 本件会社は,原告ら出資者から預かった出資金の管理,運用を,E(以下「E」という。)が経営するH2トレーディング株式会社(以下「H2会社」という。)に丸投げし,以下のとおりの多額の資金流用をしている。
まず,本件会社は,原告ら出資者から集めた出資金の多くを,投資の名目で,①Pershing Gold Corporation(以下「ゴールド社」という。)の未公開株48万株の購入,②ナビゲーション装置に関する特許権の持分20万分の25の購入,③株式会社ユナイティプラス(以下「ユナイティ」という。)への貸付にあてて流出している。①については,本件会社は,株式購入代金として,譲渡会社であるMillion Win Investments Limited(以下「ミリオン社」という。)に出資金の6割もの金員を支払っているが,現在まで,株式譲渡契約を締結できておらず,本件会社がゴールド社の株式に関する権利を確実に取得できていることの確認すらできておらず,投資した金員の回収を図ろうともしていない。②については,本件会社は,譲渡会社である株式会社ビルズ(以下「ビルズ社」という。)に購入代金として8521万円を支払っているが,特許権のごく一部の持分に対して8521万円もの金員を支払うこと自体明らかに極めて過大な投資と言わざるを得ない上,本件会社は,特許権の譲渡を受けた旨の登録さえしておらず,特許権の20万分の25について有効に権利を取得できていない状況にあり,特許権の持分を換金することはできない状態にある。③については,本件会社は,貸し金として,ユナイティに3433万3600円を支払っているが,担保も取っていない上,貸付を証する契約書等の書面を一切作成しておらず,利息や返還日を含む返済条件等も定めていないだけでなく,返還合意があるかさえも定かでない。これらの事情に鑑みれば,①②③は,「投資」の実態はなく,本件会社の資金をミリオン社,ビルズ社,ユナイティに対して流出させるための名目に過ぎないといえる。しかも,本件会社は,①②③についてユナイティらに対し返還請求をするなどの回収の努力をしておらず,出資金を集め終わった後に従業員がいなくなっているから,集めた出資金を適切に管理,運営,回収する意思がないことは明らかである。
また,本件会社は,原告ら出資者から集めた出資金のうち,10%は営業担当者の報酬として支払われ,5%は管理費として本件会社に入り,その管理費の5分の1(出資金の1%)及び毎月30万円がH2会社に対してコンサルタント料として支払われており,平成24年3月30日から同年9月までの6か月弱の間に,これらの名目で,6468万5500円もの金額が営業担当者(Fの取り分含む。)とH2会社に支払われている。また,被告自身も同年3月から6月までの4か月間で合計約130万円もの役員報酬を得ており,さらに,配当として管理費の5分の1(出資金の1%)に当たる300万円以上を得ている。
上記の投資名目での資金流出や営業報酬等の名目での資金流出の結果,本件会社の資産は,ほとんどゼロになってしまい,原告ら出資者が出資した金員は回収不能になっている。
(イ) 本件契約7条には,「本件会社は本営業を善良なる管理者の注意をもって遂行するものとし」と規定されており,また,本件会社は金融商品取引法42条2項に基づき,出資金の管理,運営に対する善管注意義務を負っている。とすれば,上記の資金流出行為は,原告からの委託信任関係に違反して不法に処分したものといえることから,背任罪にも該当し得る違法な行為に該当し,民事上も不法行為に該当することは明らかである。また,仮に背任行為に該当しないとしても,本件会社による資金流出行為は,本件契約及び金融商品取引法に基づく投資運用の受託者としての最低限度の善管注意義務に少なくとも過失により違反していることは明らかであるから,善管注意義務違反を理由とする不法行為となる。
ウ 被告の不法行為責任
被告は,本件会社の上記各不法行為について,自らが代表者という立場を引き受けることにより,本件会社,E,F(以下「F」という。)らと共にこれを行い,あるいは,本件会社の代表者として,自らの業務執行行為としてこれを行った者であるから,原告に対して不法行為責任又は共同不法行為責任としての損害賠償義務を負う。
エ 被告の会社法597条責任
被告は,本件会社の業務執行役員として,本件会社について,違法な職務執行を行わない義務及び本件会社の違法な業務執行を阻止すべき義務を負っていたにもかかわらず,上記の本件会社及び自己の不法行為責任について,少なくとも重過失として,自らの業務執行としてこれを行ってきた者であるから,被告には,原告が被った損害に対して,役員責任として損害賠償義務(会社法597条)を負う。
(被告の主張)
ア 本件会社は原告が主張するような違法な勧誘行為は行っていないし,指示もしていない。
本件会社は,匿名組合契約に関心ありとされた原告に対し,匿名組合契約の申込書(乙1)の資料を発送し,原告から同申込書が送付された後,「お客様カード」(乙2)及び「契約締結前交付書面に関する確認書」(乙3)の各記載により原告が申込条件を満たすと判断した。更に,本件会社の集金担当だったDが,平成24年3月28日に原告に出資金の集金に伺い,その際も「ご加入時調査アンケート」(乙4)を用いて,本件契約を説明している。
原告は,同年4月26日,本件会社を訪れ,①原告が安愚楽牧場の被害者である,②大阪のAと名乗る者から勧誘があった,③原告が韓国籍であると述べたが,原告は,その時点までは,本件会社のCにもDにもこれらの事情を告げておらず,本件会社も被告も知らなかった。本件会社が原告の解約返金に応じた理由は,原告代理人が通知書(乙6)において,原告が日本国籍を持っていないため投資するための適格性を欠いていると指摘するとおり,原告が日本国籍を持っていないことが判明したからである。被告は,アセットワークスなる会社やAという者を全く知らないし,原告も,本件契約締結前に,アセットワークスのAの勧誘について,本件会社の営業担当者に話していない。
イ 本件会社が出資金を投資目的で①ゴールド社の株式(アメリカのOTCブリテインボードに登録されており,未公開株ではない。)の購入,②ナビゲーション装置の知的財産権の購入,③ユナイティへの長期貸付を行ったことは事実であるが,出資金の管理,運用が極めてずさんであったということはない。
①については,金やレアメタルが上昇基調にあるため,それらの探査,採掘を行っているゴールド社を投資先にした。同社の株はアメリカのOCTブリーティングに登録された銘柄であり,株価もパソコンでいつでも見られる安心感がある。②の装置については,エンドライン方式と呼ばれ,必要最低限のデータのみを抽出し,新情報を付加することで,商業的利用が期待できる。ただし,原告らの返金に充当するために,持分20万分の25のうち,20万分の7だけ売却しており,今後も売却を考えている。③はEの強い推薦で行ったものであり,Eが回収に当たることになっているが,未だ回収ができていないため,回収を急ぐ予定である。
ウ 被告は,Fから,「形だけ」本件会社の代表社員になって欲しいと言われたため,代表社員の就任を引き受けた。本件契約を含む匿名組合契約の勧誘行為は,Fが営業担当のCらを使用して行っており,被告は勧誘行為には関わっていない。また,出資金の管理,運用は,EとEが経営するH2会社から派遣されたGら2名が担当しており,Eが本件会社の通帳と実印を管理し,出資金の投資先は,FとEで決定していた。
(2) 過失相殺
(被告の主張)
原告は,本件会社の営業担当者に対して,原告主張の事前勧誘を受けたこと,すなわち,アセットワークスのAから,本件会社に出資すれば,アセットワークスの顧客のBが,安愚楽牧場被害にあった1億6000万円の20%を渡し,出資金の倍額で出資した権利を買い取るなどと言われたということを説明せず,また,原告が韓国籍であることも説明しなかった。また,本件契約の出資は,自己資金の範囲内で行うことと定められており,契約締結前交付書面に関する確認書(乙3)において確認済みであるのに,実際は,確認書への原告の記載と異なる。
原告がこれらの事実を告げる又は記載して本件契約の申込みをしていれば,本件会社は本件契約の申込みを承諾しなかった。
(原告の主張)
原告が韓国国籍であることや安愚楽牧場の被害者として勧誘を受けていた事実を本件会社に告げていなかったことについては過失はない。
なぜなら,本件契約の対象者が日本国籍を有する者に限定されているという情報は,重要事項説明書(乙11)にしか記載がないところ,重要事項説明書は本件契約締結の1週間後であるから,原告は,本件契約締結時までに,本件契約対象者が日本国籍を有する者に限定されているとの事実を知り得なかったため,韓国籍であることを告げないことに過失はない。また,Aから安愚楽牧場の被害回復として勧誘を受けたことについて本件会社に告げなかったことについては,そもそも,本件は被告らがアセットワークスのAを名乗る人物らと共謀した上で行ったいわゆる劇場型詐欺の事案であるから,被告らが原告が安愚楽牧場の被害者であることやアセットワークスから勧誘を受けていた事実を知らないはずがない。仮に,被告が,かかる事実を知らなかったとしても,こうした原告に対する勧誘は,本件会社から高額の報酬の見返りとして勧誘を委託されたFやEないしその関係者らが行ったのであるから,こうした事実を原告が被告らに伝えなかったことが原告の過失に当たらない。
そもそも,過失相殺とは,不法行為における被害者に生じた損害について,被害者側にも過失がある場合,被害者側の過失を考慮して公平の見地から被害者にも損害を分担させるための制度であるところ,本件は安愚楽牧場の破綻により多額の損害を被った原告の何とかして損害を取り返したいという切実な思いにつけ込んで,被告及びその関係者らが違法かつ巧妙な欺罔な手段を用いて金銭を収奪し,更に,その金員を本件会社から流出させて原告からの被害回復を困難にしたという事案であるから,原告に損害を分担させることは極めて不公平である。本件のような詐欺的不法行為の関係者に対する損害賠償請求事件において,裁判所が過失相殺を認めることは,詐欺師のもとにあえて違法収益を残存させることを意味し,また,急増する特殊詐欺事件を更に増長させることにつながり,不法行為に対する事後的幇助にあたると言っても過言ではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実並びに証拠(甲1から8,乙1から12,17から25,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告の本件会社代表社員就任の経緯
被告は,平成24年1月中旬,知人の紹介でFと知り合った。被告は,投資の経験がなかったが,Fから,本件会社を立ち上げるのでその代表になって欲しい,本件会社の代表社員というのは証券会社の社長でありリスクが少ない,形だけでいいから代表になって欲しい,具体的な業務は別のファンドの運営を行っているEらが責任を持って行うなどと言われたため,被告は,本件会社の代表社員を引き受けることにした。
Fは,被告にEを紹介し,Eが本件会社の設立手続及び本件会社の事務所の準備を担当し,本件会社設立後の出資金の管理及び運用は,主に,E及びEが経営するH2会社が担当することとした。また,Fは,投資事業匿名組合契約の契約書(乙23),パンフレット(乙10),重要事項説明書(乙11)等の付属書類を作成した。
本件会社は,同月23日,設立され,被告は,本件会社の業務執行社員及び代表社員に就任した。本件会社の事務所には,同年3月から,H2会社から派遣された2名の社員が出勤して,事務処理を行った。
(2) 本件会社の営業活動
本件会社の営業活動,すなわち,投資事業匿名組合契約の勧誘及び出資金の集金行為は,主にFが担当し,Fが,Cら営業担当の契約社員4名を指揮,監督して営業活動を行わせていた。かかる営業活動は,投資事業匿名組合契約の募集期間である同年2月ころから同年7月ころまで行われた。
被告は,勧誘行為に関与せず,Fらに任せていたが,契約者が高齢であるなど,問題のありそうな申込みに気付いた場合に限り,Fに苦情を述べて契約締結をやめさせていた。
(3) 本件会社の出資金の管理,運用
本件会社が集めた出資金の管理,運用は,E及びH2会社が担当し,その事務処理はH2会社の社員2名が行っていた。
被告は,本件会社設立後,出資金を保管するための本件会社の口座を開設し,直ちにEに同口座の通帳及び実印を渡し,同口座の管理を任せた。以後,Eは,平成25年1月7日まで,同通帳を管理して入出金を自由に行っており,被告は,Eの入出金状況を把握していなかった。
EとFは,出資金を,①ゴールド社の株式48万株の購入にあてること,②ナビゲーション設備に関する知的財産権の購入にあてること,③ユナイティへの貸付にあてることを話し合って決定した上,被告に対して,同投資先について説明した。被告は,EとFの説明をそのまま信じ,各契約書等の客観的な資料に照らして検討することもなく,各投資について賛同し,Eは上記①②③を行った。
(4) F及びEらの報酬
Fが指揮,監督する営業担当の契約社員が,勧誘に成功し,投資事業匿名組合契約が成立した場合には,同契約により本件会社が得た出資金の10%を同社員が営業者報酬として受け取ることとなっており(乙23・9頁),Fは,同営業料の中から報酬を得ていた。
Eは本件会社からコンサルタント料として月額30万円を得ていた上,本件会社が各出資者から申込手数料名目で得た出資金の5%(乙23・9頁)のうち,1%を得ていた。
Fら営業担当者,E及びH2会社が平成24年2月23日から同年10月31日までの間に得た営業者報酬及びコンサルタント料の合計額は,6468万5500円である(甲5)。
(5) 被告の業務実態
被告は,本件会社設立後,特に定められた業務はなかったため,週3日程度,本件会社の事務所に出勤し,H2会社から派遣された社員や営業担当の契約社員らの動きを見たり,Eから,投資先の説明を受けたりしていた。被告は,平成24年3月ころから6月まで,報酬として,本件会社から月額約30万円を得ており,合計で約130万円程度を得た。また,被告は,本件会社が各出資者から申込手数料名目で得た出資金の5%(乙23・9頁)のうち,1%を得ていた。
(6) 原告の本件契約締結までの経緯
ア 平成24年3月7日
原告は,平成24年3月7日,アセットワークスのAと名乗る者から電話を受けた。Aは,原告に対し,「安愚楽牧場の件で1億6000万円ほど損されていますね」「UTトレードという会社に投資して欲しいんです。そうしたら,弊社の大事な顧客であるB様という方が,安愚楽牧場事件の被害にあった1億6000万円の20%をお渡しすると言っています。」「B様は,本件会社に直接出資をする権利がないのですが,Xさんにはその権利があるのです。」「Xさんが本件会社に2500万円を出資してくれれば,その出資した権利についても,弊社を通じてB様がその倍の値段で買い取ってくれます。」「Bさんは名前を使えないので,本件会社に出資するのに名前を貸してくれれば出資金は倍にして返します。」などと言った。これに対し,原告は,お金がない旨断ると,Aは,「今,動かせるお金がないのであれば,保険を担保にお金を借りてでも出資した方がいいです。どうせお金はすぐに戻ってきます。」「今すぐに本件会社に連絡をして,必要書類をもらって下さい。」と言い,本件会社の電話番号を教えた。
原告は,安愚楽牧場への出資で1億6000万円の損害を出していたため,その被害額の20%に相当する金銭をもらいたいと思い,同日,本件会社に電話をかけて,本件契約の資料の発送を依頼した。
イ 同月15日ころ
原告は,同月15日ころ,本件会社から,本件会社のパンフレット(乙11),本件契約の申込書(乙1),お客様カード(乙2),契約締結前交付書面に関する確認書(乙3)等が入った郵便物が送付された。本件会社のパンフレット(乙10)の裏表紙には,匿名組合に基づく匿名組合員たる地位及び地位に基づく権利は,原則として,譲渡その他一切の処分ができず,本組合に関わる持分を他の匿名組合員以外の者に譲渡することはできない旨明記されていた。
原告は,本件契約後に直ちにB(以下「B」という。)に倍額で本件契約の権利を売り渡して1億6000万円の20%の金員を得ることが目的だったため,本件契約内容に興味がなく,もともと,面倒でパンフレットや説明書などを読まない性格だったことから,本件会社から送付されたパンフレット等にほとんど目を通さなかった。
原告は,同日,Aに電話して,本件契約の申込書の記載方法を尋ね,同申込書に出資金額2500万円などと記載して,本件会社に対してファックスで送信した(乙1)。
ウ 同月19日
原告は,同月19日,お客様カード(乙2)及び契約締結前交付書面に関する確認書(乙3)の記載方法について,Aに相談し,お客様カードに職業「会社役員」,勤務先「(有)a」,役職名「役員」と記載し,取引の動機「インターネット」,金融資産の状況「1000万円~3000万円未満」,出資金の性格「余裕資金」,投資方針「成長的投資を重視」,年間所得「500万~1000万円未満」,主な収入「利子・配当」とそれぞれチェックをして,本件会社に送付した(乙2)。また,原告は,同日,契約締結前交付書面に関する確認書に,「私は,下記項目内容に相違ありません」として「本組合への出資を借入により行いません」にチェックし,また,契約締結の目的として,「余裕資金の運用」にチェックして,署名押印した上,本件会社に送付した(乙3)。
実際は,出資金の性格は「余裕資金」などではなく,原告が借入れにより捻出したものであり,また,取引の動機は,「インターネット」ではなく,電話で,出資した権利の倍額での売却ないし名義貸しの勧誘を受けたことにあったが,Aから全部チェックをつけて署名をするように言われたため,原告は上記のように署名及びチェックをした。原告は,本件会社から求められた書類に,事実と異なるチェックをすることについて,Aに特に理由を確認せず,異議も述べなかった。
原告が,上記お客様カード及び上記確認書を送信した後,Cから原告に電話があり,「うちの審査はとても厳しいのですが,原告の審査は通りました。」「本当にうちのファンドは人気があるので急いでお金を払ってください。」「弊社の従業員が原告宅まで取りに行きます。」「早くしないと人数がいっぱいで締め切らせていただきますよ。」などと述べた。
エ 原告は,個人年金保険及び生命保険を担保にして,独立法人郵便貯金・簡易生命保保険管理機構から合計400万円,日本生命保険相互会社から合計4500万円を借り入れ,自宅に集金に来たDに対して,本件契約の出資金として,同月28日に500万円を,同年4月9日に2000万円を,同月17日に2500万円を交付し,同日,本件契約を締結した。
(7) 本件契約締結後
原告は,本件契約締結後,被告会社に出資した権利の倍額での買取り,及び安愚楽牧場の損失額1億6000万円の20%に当たる3200万円の交付を求めて,アセットワークスに電話したが,アセットワークスは,これらを拒否し,その後,電話に出なくなった。
(8) 原告の出資金返還請求
原告は,アセットワークスのAにだまされたと気づき,友人に相談し,同月26日,友人とともに本件会社を訪問した(乙5)。原告は,面談した本件会社の担当者Gに対し,大阪のAという名の者から,安愚楽牧場の被害の損失を本件会社のファンドで埋めてやるという電話があったこと,自分は外国人(韓国籍)なので本件契約締結ができないのではないかと思うこと,4500万円は日本生命の年金を担保に借り入れているので金利がかかることなどを話し,出資金の返還を求めた。
その後,原告は,安愚楽牧場被害対策弁護団に所属している原告代理人に相談し,出資金の返還を依頼した。原告代理人は,同年5月8日及び17日,本件会社に対し,原告が出資した5000万円の返金を求める通知を行い,本件会社は,同月18日,原告に対し,出資金5000万円の返金義務を負うことを認めるとの書面を送付し,同月16日から同年8月17日にかけて,原告に対し,合計1170万円を返還したものの,その後,本件会社の資金繰りが苦しいなどとして,支払わなくなった。
(9) 被告は,原告代理人からの上記出資金返還請求を受け,原告代理人との交渉にあたったが,E及びFは原告代理人との交渉に関与しなかった。本訴訟提起後,被告は,本件会社の出資金の運用状況等の確認や説明のため,E及びFに連絡しているが,EもFも被告に対して何ら返答せず,会おうとしない。
(10) 投資事業匿名組合契約により出資された金員の現在の運用状況
本件会社の平成24年2月23日から同年10月31日までの損益計算書,販売費及び一般管理費,同日現在の貸借対照表には,以下のとおり記載されている(甲5)。
ア 受入出資金,未払金 3億0027万円
イ 販売費及び一般管理費 7372万9122円
(内訳 給料手当271万円,支払報酬料6468万5500円,支払手数料29万8648円等)
ウ 資産
現金及び預金 65万0878円
投資有価証券 1億6618万1500円
長期貸付金 3433万3500円
知的財産権 5776万円
出資金総額から,F,営業担当者,E及びH2会社に対して報酬料6468万5500円が支払われており,これらを含む販売費及び一般管理費は7372万9122円である。
また,①ゴールド社の上場前の株式48万株の購入代金として少なくとも1億6618万1500円が支出され,②ナビゲーションシステムの知的財産権の20万分の25の購入代金として8521万円が支出され(乙7),③ユナイティへの貸付として3433万3500円が支出されており,その結果,平成24年10月31日現在,本件会社の預金及び現金が65万0878円のみとなっている。出資金の募集は平成24年7月には終えているため,同年10月31日以降,他の者からの出資金によって本件会社の資産が増える見込みはない。
①については,株式譲渡契約書は未だに作成されておらず,被告は,ゴールド社の株式の換価方法について具体的に説明できていない。②については,譲渡契約書はあるものの,知的財産権譲渡の登録は未だにされていない。③については,金銭消費貸借契約書が作成されておらず,被告は返還期限すら把握しておらず,担保も取得していない。
2 争点(1)のうち,勧誘行為について,被告が不法行為責任又は会社法597条責任を負うかについて
(1) 原告が,アセットワークスのAから,本件契約の権利をBに譲渡又は名義貸しをすれば,Bから,出資金の倍額及び1億6000万円の20%に相当する金員が支払われるとの虚偽の事実を告げられて勧誘され,原告がAの話を信じて本件契約を締結したことが認められることは,前記認定事実(6)のとおりである(なお,被告は,同勧誘の事実は知らないと述べ,否認している。同勧誘の事実の証拠は原告本人の供述のみであるところ,原告本人の供述は,本件会社の営業担当者であるDやCとの会話内容や重要事項説明書をいつの時点で受け取ったかについて,陳述書や訴状記載の主張との食い違いが見られ,よく覚えていないと述べるなど,あいまいな点が残るものの,少なくとも,アセットワークスのAから,本件契約を締結してBに譲渡又は名義貸しをすれば,Bから出資金の倍額及び1億6000万円の20%相当額を得られるとの電話勧誘を受け,これらの金員を得る目的で本件契約締結をしたという部分については,本訴訟提起当初から一貫している。加えて,本件会社の投資に対する原告本人の無関心さに照らせば原告が本件契約をしたのは上記目的があったからとみるほかないことを併せ考えれば,上記勧誘の事実についての原告本人の供述は信用性が高いというべきであり,同供述により,上記勧誘の事実は認められる。)。
そして,本件会社への出資の勧誘は,アセットワークスの利益に資するものではなく(そもそもアセットワークスなる会社が存在するかも証拠上不明である。),本件会社の利益に資することは明らかであることから,Aが,本件会社の営業行為を担当していたFら本件会社の関係者から,依頼を受けて,上記勧誘行為を行ったと推認される。
そして,前記前提事実及び前記認定事実に照らせば,原告が本件契約を締結し,Bに対して譲渡ないし名義貸しすれば,Bから出資金の倍額及び1億6000万円の20%相当額を得られるということが虚偽であることは明らかであるから,虚偽の事実を申し向けて本件契約を締結させたA,及びAに依頼したFら本件会社の関係者に,不法行為が成立することは認められる。
(2) もっとも,被告は,一貫して,アセットワークスやAという者は知らないし,原告が安愚楽牧場の被害者であることについても知らなかった旨主張し,その旨供述している。加えて,前記認定事実のとおり,本件会社の勧誘行為はFが担当し,Fが営業担当者の指揮監督をしているのであって,被告自身は,名目的な代表社員であり,本件会社の勧誘行為にほとんど関与していない。
前記の被告の本件会社の勧誘活動における関与状況及び被告の前記供述に照らせば,被告がAと共謀していたとか,Aが上記のような勧誘行為を行っていることを認識しながら黙認していたとまでは認定できない。
また,被告の本件会社の業務への関与状況や原告が本件会社に提出したお客様カード(乙2)及び確認書(乙3)には,Bへの転売ないし名義貸し目的であることは一切記載されておらず,むしろ,本件契約目的欄に「余裕資金の運用」とチェックされていることに照らせば,被告が上記勧誘行為を認識し得たとも認め難い。
したがって,Aの上記勧誘行為について,被告に故意又は過失は認められず,不法行為責任及び会社法597条の責任は認められない。
また,原告は,出資金のずさんな管理,運用の実態から,そもそも本件会社は,当初から適切な管理,運用を行って出資者に利益を還元する意思がないといえ,本件契約を勧誘すること自体が不法行為に当たる旨主張する。しかしながら,本件会社並びに本件会社を実質的に運営していたFやEについては,当初から適切な管理,運用を行って出資者に利益を還元する意思がなかったと推認される余地はあるものの,名目的な代表社員に過ぎず,投資の知識に乏しい被告が,原告への勧誘行為の時点(平成24年3月から本件契約締結日の同年4月17日)において,出資金の適切な管理,運用を行って出資者に利益を還元する意思自体がなかったとまでは認められないから,本件契約を勧誘すること自体が被告の不法行為に当たるとの原告の主張は採用できない。
3 争点(1)のうち,出資金の管理,運用について,被告が不法行為責任又は会社法597条責任を負うかについて
前記前提事実のとおり,本件会社は,平成24年5月18日,原告に対する出資金返還義務自体を認め,1170万円までは返還したものの,同年8月18日以降,本件会社の資金繰りが苦しいなどとして,支払わなくなった。
前記認定事実によれば,被告は,出資金を保管する本件会社の口座の通帳及び実印を平成25年1月7日までEに預けたまま,その入出金を監視することもなく,Eに管理を任せており,また,出資金の投資先等についてもEやFの説明を鵜呑みにして,株式譲渡契約書や金銭消費貸借契約書を何ら確認することなく,それぞれの投資の回収方法や回収可能性について検討することもなく,出資金の支出を容認しているのであるから,被告は,投資事業匿名組合契約を締結した合同会社の代表社員として,適切に出資金を管理,運用する義務を重過失により怠ったと言わざるを得ない。その結果,本件会社を資金不足に陥らせ,原告への3830万円の返還義務を履行できず,今後の履行可能性も低い状態にさせたと認められる。したがって,被告は,出資金の管理,運用について重過失があり,これにより,原告に対し,出資金残金相当額である3830万円の損害を負わせたと認められる。また,原告が,出資金の返還を求めるには弁護士に依頼することが必要であると認められるから,その1割にあたる弁護士費用相当額383万円についても相当因果関係のある損害であると認められる。
以上によれば,被告は,会社法597条に基づく損害賠償責任を負うと認められる。
4 争点(2)について
(1) 前記認定事実のとおり,原告が本件契約を締結した目的は,投資目的ではなく,Bという,自分では本件会社の審査に通らない人物に対し,原告が出資した権利を倍額で売り渡す又は名義貸しをし,その対価として1億6000万円の20%に相当する額の支払を受けることにあるが,原告は,本件契約を締結する目的について「余裕資金の運用」欄にチェックを付け(乙3),また,本件契約の動機について,「インターネット」にチェックして,本件契約を申し込んでおり,本件契約を締結する目的を偽っている。原告が本件契約締結前に送付された自認する本件会社のパンフレット(乙10)の裏表紙には,匿名組合に基づく匿名組合員たる地位及び地位に基づく権利は,原則として,譲渡その他一切の処分ができず,本組合に関わる持分を他の匿名組合員以外の者に譲渡することはできない旨明記されている上,原告は,Cから,本件契約は審査がとても厳しいと言われていること,Aから,Bには出資する権利がない,Bの名前では出資できないと言われていることに照らせば,通常人であれば,そもそもBという本件会社の審査に通らないと言われており,どういう素性か分からない人物に売却することはできず,また,そのような人物に名義貸しをすることが不適切な行為であると認識し得るはずである。また,原告は,自らに余剰資金がなく,借入れによって出資金を作出することを認識していながら,あえて,「本組合への出資を借入により行いません。」という欄にチェックをし,また,本件契約締結目的について「余裕資金の運用」欄にチェックをしており,虚偽のチェックを行っている。
このように,原告は,単にだまされて,金融商品まがいの詐欺的商品に投資してしまったというのではなく,そもそも適切とは言い難い動機で,かつ,本件契約目的や出資金の原資を偽って本件契約を申し込んでいるのであるから,本件契約締結について,原告自身にも落ち度があると言わざるを得ない。
なお,原告は,尋問において,普段から説明書を読まないことにしており,本件会社から送付された書類についても,面倒なので,自分では細かく読まず,Aに言われたとおりに署名やチェックをした旨述べているが(原告尋問調書14,15,16頁),契約締結に当たって,本件会社から署名やチェックを求められている書類について,面倒であるという理由で自分で読まずにチェックや署名をすることが正当化されるとは認め難く,上記虚偽のチェックをしたことについては過失があると言わざるを得ない。
(2) もっとも,被告との関係で,原告の上記過失を考慮すべきかについては,慎重な検討を要する。
原告が指摘するとおり,そもそも過失相殺とは,被害者に生じた損害について,被害者側にも過失がある場合,公平の見地から被害者にも損害を分担させるための制度である。
したがって,原告が主張するように,そもそも被告が,Aの欺罔行為,すなわち,原告が出資したらBが倍額で買い取り,かつ,原告の安愚楽牧場の被害額である1億6000万円の20%に相当する金員を交付する,流動資金がないなら借り入れてでも出資した方がよいとの勧誘行為を認識し,これに加担していたというのであれば,原告が出資金の原資や出資目的を偽っていることを考慮する必要はなく,むしろ上記の過失相殺の制度趣旨に照らせば考慮すべきでないのは当然である。しかしながら,そもそも,前記認定のとおり,被告は,本件契約の勧誘行為にも運用行為にもほとんど関与しておらず,むしろ,Fから形だけでよいからなどと説明されて代表社員に就任したのであって,被告自身が,原告のいう劇場型詐欺事件に積極的に加担したとまでは認められず,原告の主張はその前提を欠く。かえって,被告は,Fから,証券会社社長であってリスクはない,Eという既に別のファンドを運営している者が責任をもって出資金の運用を担当する旨聞かされかかる説明を信じて,本件会社の代表社員に就任し,Eらに投資を任せていたこと,本訴訟後,被告がFやEと連絡を取ろうとしてもFやEは被告に何ら応答せず,FやEは被告を切り捨てる対応をとっていることに照らせば,被告自身,FやEにだまされたという被害者的側面を有することは否定できない。
そうすると,被告との関係においては,過失相殺を認めても,過失相殺の制度趣旨を没却することになるとまではいえない。もっとも,原告からAの勧誘行為を知らされ,本件会社の原告に対する返金義務を認識した後もなお,本件会社の出資金の管理,運用をEらに任せたままにし,資金流出を増長させたという被告の過失の重大さと,原告の前記過失内容に照らせば,被告の過失が原告の過失をはるかに上回ることは明らかであるから,その相殺額は,損害額の1割に満たない,前記弁護士費用相当額と同額と認めるのが相当である。
5 よって,原告の請求は,4213万円から383万円を控除した3830万円の限度で理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 下山久美子)
*******
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。