判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(170)平成25年 5月27日 東京地裁 平25(ワ)7号 放送受信料請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(170)平成25年 5月27日 東京地裁 平25(ワ)7号 放送受信料請求事件
裁判年月日 平成25年 5月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)7号
事件名 放送受信料請求事件
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2013WLJPCA05278015
要旨
◆原告が、被告との間で締結した放送受信契約(衛星契約)に基づく放送受信料の支払を求めた事案において、本件契約の締結は被告の妻が行ったとする被告の主張を退け、仮に妻が本件契約を締結したとしても被告は民法761条により妻と連帯して責任を負うとし、また、本件契約の公序良俗違反、放送法違反、通謀虚偽表示をいう被告の各主張を退けた上で、放送受信料債権は民法169条の定期給付債権に当たり5年の短期消滅時効を援用するとする被告の主張を採用し、被告の債務承認により時効は中断した、被告による消滅時効の援用は信義則違反又は権利濫用に当たるとする原告の主張を否定する一方、放送受信料の一部については催告による時効中断が認められるとして、請求を一部認容した事例
参照条文
民法1条2項
民法1条3項
民法90条
民法94条1項
民法147条3号
民法153条
民法169条
民法761条
放送法64条
裁判年月日 平成25年 5月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)7号
事件名 放送受信料請求事件
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2013WLJPCA05278015
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 日本放送協会
同代表者会長 A
同訴訟代理人弁護士 前岨博
同 黒河元次
東京都板橋区〈以下省略〉
被告 Y
主文
1 被告は,原告に対し,15万2240円及びこれに対する平成24年8月1日から支払済みの日が属する月の前月(支払済みの日が偶数月に属する場合)又は前々月(支払済みの日が奇数月に属する場合)の末日まで2か月当たり2パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その7を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金21万7760円及びこれに対する平成24年8月1日から支払済みの日が属する月の前月(支払済みの日が偶数月に属する場合)又は前々月(支払済みの日が奇数月に属する場合)の末日まで2か月当たり2パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,放送法に基づいて設置された法人である原告が,被告との間において締結した放送受信契約(衛星契約)に基づき,放送受信料等の支払を求めた事案である。
2 前提事実
(1) 原告は,放送法に基づいて設置された法人であり,同法64条3項に基づき,総務大臣の認可を受けて,別紙日本放送協会放送受信規約(以下「規約」という。)概要記載のとおり放送受信契約の内容を定めた規約を定めている。
(2) 規約6条は,放送受信料の支払方法のうち「毎期払」につき,下記のとおり,1年を2か月ごとに6期に分けて,各期に当該期分を一括して支払わなければならない旨規定している。
記
第1期 4月,5月
第2期 6月,7月
第3期 8月,9月
第4期 10月,11月
第5期 12月,1月
第6期 2月,3月
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 原告は,被告との間において,放送受信契約を締結したか
(原告)
ア 原告は,平成16年2月15日,被告との間において,衛星カラーの放送受信契約(以下「本件契約」という。)を締結し,同年8月1日における契約種別は衛星カラー,支払区分・支払コースは「訪問集金・毎期払」であった。
衛星カラー契約は,平成19年4月1日の規約改正により,同年10月1日をもって衛星契約に変更された。衛星カラー契約と衛星契約の放送受信料額は同一であり,上記支払区分・支払コースの放送受信料額は月額2340円である。平成20年4月1日の規約改正により,同年10月1日以降に発生する放送受信料は月額2290円となった。
イ よって,原告は,被告に対し,本件契約に基づき,平成16年8月1日から平成20年9月30日まで(平成16年度第3期から平成20年度第3期まで)の50か月分については,訪問集金・毎期払(月額2340円)による放送受信料小計11万7000円及び平成20年10月1日から平成24年5月31日まで(平成20年度第4期から平成24年度第1期まで)の44か月分については,毎期払(月額2290円)による放送受信料小計10万0760円の合計21万7760円並びにこれに対する平成24年8月1日(訴えの変更申立書送達の日の翌々月初日)から支払済みの日が属する月の前月(支払済みの日が偶数月に属する場合)又は前々月(支払済みの日が奇数月に属する場合)の末日まで2か月当たり2パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
ウ なお,被告は,本件契約を締結したのは被告の妻である旨主張するところ,仮にそうであったとしても,同人は本件契約の締結に関して被告を代理する権限を有しており,本件契約は有効に成立している。
(被告)
被告の妻が,平成16年2月15日,原告との間において,被告名義で本件契約を締結したことは認める(なお,被告は,上記原告の主張を認める旨答弁する一方で,本件契約は被告の妻が締結したものであると主張しており,弁論の全趣旨から,本件契約締結の有無を争うものとして整理した。)。
(2) 本件契約は公序良俗に反し無効か
(被告)
被告は,昭和47年7月頃,原告との間において,放送受信契約を締結した。その後,先に述べたとおり,被告の妻が,平成16年2月15日,原告との間において,被告名義で本件契約を締結した。原告は,同契約締結に際して,被告の妻に対し,従前の契約締結を何ら言及しなかったが,これはいわゆるNHK集金人と呼ばれる放送受信契約取次業者らが,契約締結の成功報酬をできるだけ多く得るために二重に契約を締結したものである。これら事情にかんがみるとき,本件契約は,公序良俗(民法90条)に違反し無効である。
(原告)
原告と被告が平成16年2月15日に本件契約を締結したことは認め,その余は否認ないし争う。
(3) 本件契約は放送法に反し無効か
(被告)
仮に,上記(2)の主張が容れられないとしても,下記のとおり,本件契約は放送法に反し無効である。すなわち,放送法によれば,原告と契約をしなければならない義務を負っているのは,「受信設備を設置した者」であるところ,本件において受信設備を設置したのは被告の妻であるから,契約当事者は同人であって被告ではない。また,規約においては,受信設備を設置した者が放送受信契約書に「受信機設置の日」を記載しなければならない旨規定されているところ,本件において受信機を設置した日は昭和47年7月頃であったにもかかわらず,平成16年2月15日との虚偽の記載がされている。
(原告)
否認ないし争う。
(4) 通謀虚偽表示
(被告)
仮に,上記(3)の主張が容れられないとしても,本件契約は,原告の地域スタッフと被告の妻との通謀虚偽表示によるものであるから無効である。
(原告)
否認ないし争う。
(5) 短期消滅時効(民法169条)により放送受信料債務は消滅したか
(被告)
放送受信料債権は,民法169条の債権に当たり,5年以上前に弁済期が経過した本件放送受信料債権は時効により消滅した。被告は,平成24年10月26日の本件第3回口頭弁論期日において,原告に対し,上記時効を援用するとの意思表示をした。
(原告)
争う。民法169条は,その立法趣旨に照らし,放送受信料債権に適用されない。その他,放送受信料債権に同条の適用を認めるべき合理的な理由や必要性はなく,同条の適用を認めた場合,放送受信料の公平負担を阻害する。したがって,同条の5年の短期消滅時効の適用はない。
(6) 時効中断事由の有無
(被告)
仮に,本件放送受信料債権について,民法169条の短期消滅時効が適用されるとしても,①被告は,平成24年1月19日及び同年3月29日に,平成16年8月分以降の放送受信料債務を承認したことにより,時効が中断し又は時効の利益の放棄若しくは時効の援用権を喪失しているため,被告は消滅時効を主張できない。仮に①が認められない場合であっても,少なくとも,②平成24年1月20日ないし同月末日の時点で支払期限から5年を経過していない放送受信料について消滅時効は完成していない。
(被告)
否認ないし争う。
(7) 消滅時効の援用は信義則等に反し許されないか
(原告)
被告が消滅時効を援用することは,信義則に反し又は権利濫用として許されない。
第3 当裁判所の判断
1 原告は,被告との間において,放送受信契約を締結したか(争点(1))について
証拠(甲1,6,7)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成16年2月15日,被告との間において,本件契約を締結したこと,同契約における支払区分・支払コースの放送受信料額は月額2340円であり,平成20年4月1日の規約改正により,同年10月1日以降に発生する放送受信料は月額2290円となったことの各事実が認められる。被告は,本件契約の締結は同人の妻が行った旨主張するが,同事実はこれを認めるに足りない(なお,仮に,被告の妻が本件契約の締結をしたとしても,同行為は,日常の家事に関する法律行為の範囲に属すると解されるから,被告は,本件契約に基づく債務につき同人の妻と連帯してその責任を負うこととなる(民法761条)。)。
2 本件契約は公序良俗に反し無効か(争点(2))について
被告は,昭和47年7月頃,原告との間において,放送受信契約を締結した事実を前提として第2の2(2)のとおり主張するが,同事実は,本件全証拠に照らし認められない。したがって,被告の上記主張は採用できない。
3 本件契約は放送法に反し無効か(争点(3))について
被告は,第2の2(3)のとおり,①本件において受信設備を設置したのは被告の妻である,②本件において受信機を設置した日は昭和47年7月頃であった旨主張するが,これらの事実については,本件全証拠によっても認められない。被告の上記主張は採用できない。
4 通謀虚偽表示(争点(4))について
被告は,第2の2(4)のとおり,本件契約は,原告の地域スタッフと被告の妻との通謀虚偽表示によるものである旨主張するが,同事実は,本件全証拠に照らし認めることができない。被告の上記主張は採用できない。
5 短期消滅時効(民法169条)により放送受信料債務は消滅したか(争点(5))について
(1) 放送受信料債権は,放送受信契約に基づき発生し,その具体的内容は規約により定められ,弁済期は2か月ごととされている(前記前提事実(2))。そうすると,放送受信料債権は,年又はこれより短い時期によって定められた,放送受信契約という基本契約に基づいて発生する支分権であるから,民法169条の定期給付債権に当たると解するのが相当である。
被告は,平成24年10月26日の本件第3回口頭弁論期日において,原告に対し,本件放送受信料債権について民法169条の5年の短期消滅時効を援用するとの意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。
(2) これに対し,原告は,「民法169条は,その立法趣旨に照らし,放送受信料債権に適用されない。その他,放送受信料債権に同条の適用を認めるべき合理的な理由や必要性はなく,同条の適用を認めた場合,放送受信料の公平負担を阻害する。」旨を主張する。
しかし,民法169条が5年の短期消滅時効を定めた趣旨は,年又はこれより短い時期によって定めた金銭等の給付を目的とする債権は,債権者の請求及び債務者の弁済が長期間怠られることや債務者が長くその受領証を保存することがまれであることによるところ,この趣旨に照らしても放送受信料債権が同条の債権に該当することは明白である。さらに,原告は,放送受信料債権に民法169条を適用することが実質的に不当である旨を縷々主張するが,いずれも採用することはできない。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
6 時効中断事由の有無(争点(6))について
(1) 原告は,「被告は,平成24年1月19日及び同年3月29日に,平成16年8月分以降の放送受信料債務を承認した」旨主張するが,被告はこれを否認しており,本件全証拠によるも上記事実はこれを認めるに足りない。なお,原告営業局受信料特別対策センター副部長B(以下「B」という。)の陳述書(甲20)が提出されており,同書面には,原告の上記主張に沿う陳述があるが,Bについては反対尋問を経ておらず,同人の陳述につき客観的裏付けも見当たらないのであって,上記記載内容を措信することはできない。
(2) 原告は,「少なくとも,平成24年1月20日ないし同月末日の時点で支払期限から5年を経過していない放送受信料について消滅時効は完成していない。」旨主張する。
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告は,被告が本件放送受信料の支払を遅滞して以降,継続的に被告に対して未払の放送受信料があり,その支払を求める旨,文書,電話ないし訪問によって請求していた(弁論の全趣旨)。
(イ) 原告は,平成24年1月12日,被告に対し,本件放送受信料の支払を求める内容の書面を配達証明付き郵便で送付した。
同書面は,同月13日,被告方へ配達されたが,被告はこれを受領せず,郵便事業株式会社板橋北支店で保管されることとなり,当該郵便物の差出人名,保管期限が同月20日までであることが記載された不在配達通知書が被告宅の郵便ポストに差し入れられた。
被告は,保管期限である同月20日までに上記書面を受領せず,同書面は原告に返送された。
原告は,同月24日,再度,被告に対し,普通郵便で上記書面を送付した。
(甲21の1~3)
(ウ) 原告は,同年5月25日,被告に対して本件放送受信料の支払を求める支払督促を申し立てた(当裁判所に顕著な事実)。上記支払督促は,被告の督促異議の申立て(以下「本件申立て」という。)により,本件訴訟に移行した(当裁判所に顕著な事実)。
イ(ア) 上記アによれば,原告の被告に対する放送受信料の支払の催告は,社会通念上,被告の了知可能な状態に置かれ,留置期間が満了した平成24年1月20日に被告に到達があったものというべきである。そして,原告は,上記催告から6か月以内である同年5月25日,被告に対して本件申立てをし,その後,本件訴訟に移行している。
(イ) 以上によれば,平成24年1月20日,本件放送受信料債権の消滅時効は中断し,同日の時点で弁済期から5年が経過した本件放送受信料債権は時効により消滅したものと認められる。
そうすると,平成16年度第3期(同年8月及び9月分)から平成18年度第4期(同年10月及び11月分。受信規約によれば,平成18年度第4期の弁済期は平成18年11月末日。甲5)までの本件受信料債権6万5520円(月額2340円×28か月)は時効により消滅した。
7 消滅時効の援用は信義則等に反し許されないか(争点(7))
原告は,「被告が消滅時効を援用することは,信義則に反し又は権利濫用として許されない。」旨主張するが,上記認定判示に係る各事実(債務の性質,債務額,紛争が生じてからの期間,原告及び被告の交渉態度等の本件訴訟に至る経緯)を総合して考慮しても,本件における時効の援用が,信義則に反しあるいは権利濫用に当たるとは解し得ない。原告の主張は採用できない。
8 以上によれば,原告の請求は,平成18年度第5期(平成18年12月及び平成19年1月分)から平成24年度第1期(平成24年4月及び5月分)までの本件放送受信料15万2240円(平成18年度第5期~平成20年度第3期分は月額2340円×22か月=5万1480円,同年度第4期~平成24年度第1期分は月額2290円×44か月=10万0760円)及びこれに対する約定遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
よって,原告の請求は主文の限度において理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 塚原聡)
〈以下省略〉
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