判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(125)平成26年11月26日 東京地裁 平25(ワ)21498号 損害賠償等請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(125)平成26年11月26日 東京地裁 平25(ワ)21498号 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成26年11月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)21498号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA11268032
要旨
◆不動産売買の仲介等を業とする被告会社の従業員である被告Y2が、本件土地及び本件建物の価値につき欺罔し、これにより錯誤に陥った原告X1が本件不動産を被告会社に対して売却したことにより損害を被ったとして、被告らに対し、損害賠償を請求し、原告X1が、被告会社に対して法律上の原因なく30万円を支払ったとして、不当利得返還請求権に基づき同額の支払を求め、原告会社が被告会社に対して決算書作成を委任し、その作成費用を支払ったところ、上記委任は、被告会社の定款記載の目的外の行為であるから無効であるとして、不当利得の返還を求めた事案において、本件売買契約に係る売買代は必ずしも不適正な取引価格ではなかった可能性を否定できず、被告Y2が原告X1の主張するような欺罔行為を行ったものとも、被告Y2について欺罔行為に係る故意があったものとも認めることはできないとして、かつ、原告X1は、本件不動産の売買契約に係る委任事項に関する費用として30万円を支払った可能性があり、これを否定するに足りる適切な証拠はないとして、また、被告会社は原告X1から決算書作成に関して税理士の紹介を依頼され、原告会社の決算書3期分と作成費用の預託を受けたものであり、被告会社の目的外の行為であるとはいえないとして、原告の請求を棄却した事例
参照条文
民法703条
民法709条
裁判年月日 平成26年11月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)21498号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA11268032
東京都江東区〈以下省略〉
原告 X1
東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 株式会社X2
同代表者代表取締役 X1
原告ら訴訟代理人弁護士 仲隆
同 内野真一
同 髙橋幸一
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 株式会社Y1
同代表者代表取締役 A
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 Y2
被告ら訴訟代理人弁護士 鐘築優
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告X1に対し,連帯して2750万円及びこれに対する平成23年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社Y1は,原告X1に対し,30万円及びこれに対する平成23年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告株式会社Y1は,原告株式会社X2に対し,40万円及びこれに対する平成23年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,①不動産売買の仲介等を業とする被告株式会社Y1(以下「被告会社」という。)の従業員である被告Y2(以下「被告Y2」という。)が,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録記載2の建物(以下「本件建物」といい,本件土地と併せて「本件不動産」という。)の価値が少なくとも7650万円を下らないことを知りながら,原告X1(以下「原告X1」という。)に対して本件不動産の適正価格が4900万円である旨欺罔し,これにより錯誤に陥った原告X1が本件不動産を被告会社に対して4900万円で売却したことにより少なくとも2750万円の損害を被ったとして,被告Y2に対しては民法709条に基づき,被告会社に対しては民法715条に基づき,連帯して上記損害2750万円及びこれに対する上記売買の日である平成23年9月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案,②原告X1が,被告会社に対して法律上の原因なく平成23年7月5日に30万円を支払ったとして,不当利得返還請求権に基づき30万円及びこれに対する上記支払日の翌日である平成23年7月6日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案,及び,③原告株式会社X2(以下「原告会社」という。)が被告会社に対して決算書作成を委任し,その作成費用として平成23年6月17日に40万円を支払ったところ,上記委任は,被告会社の定款記載の目的外の行為であるから無効であるとして,不当利得返還請求権に基づき40万円及びこれに対する上記支払日の翌日である平成23年6月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠によって容易に認定できる事実。)
(1) 原告会社は,宝石や貴金属の販売等を業とする株式会社であり,原告X1は原告会社の代表取締役である。
被告会社は,警備業務請負に関する業務,建物の管理及び清掃業務,不動産の売買及び賃借仲介業務,建築工事請負に関する業務並びにこれらに付帯する一切の業務をその目的とする株式会社である。
被告Y2は,被告会社の従業員である。
(2) 原告X1は,平成23年9月7日当時,本件不動産を所有していた。(甲1,12)
(3)ア 原告X1は,平成23年4月8日,株式会社三井住友銀行(以下「三井住友銀行」という。)から,強制競売開始決定を原因とする本件不動産の差押えを受けた。平成23年4月8日当時,本件不動産には,三井住友銀行の差押え以外に,横浜信用保証株式会社(以下「横浜信用保証」という。)に対する抵当権が設定されていた。また,原告会社は,買掛金を含めた負債が数億円に上っており,原告会社の負債について連帯保証をしていた原告X1も債務超過の状況にあった。
原告X1は,このような窮状を友人に相談したところ,被告Y2を紹介された。
イ 原告X1は,平成23年5月ころ,被告Y2に対し,本件不動産について強制競売開始決定がされたことや,原告会社の経営状況等を伝えた。
被告Y2は,平成23年6月ころ,原告X1と被告会社との間の日付欄が空欄の専属専任媒介契約書を作成した(甲2)。
また,被告Y2は,原告X1に対し,競売ではなく任意売却をすれば利益が出て原告X1に金員が残ることになる等と申し向けた。原告X1は,原告らが債務超過の状態にあったため,本件不動産の売却によっても原告X1自身に金員が残るとは考えていなかったことから,原告X1自身にも利益が残るという被告Y2の発言を信用するようになり,被告Y2に本件不動産の処分を任せることを決めた。
ウ 被告Y2は,平成23年6月ころ,本件不動産の任意売却により1000万円程度の利益を見込んでおり,その20%程度を原告X1に協力金として支払う旨の覚書(甲3。以下「本件覚書」という。)を作成し,原告X1に署名押印するよう求め,原告X1はこれに署名押印した。
エ 被告Y2は,原告X1に対し,本件不動産の処分にあたり,決算書を作成する必要がある旨を告げた。原告会社は,平成23年6月17日,被告会社に対し,決算書作成費用として40万円を支払い,被告会社から領収書(甲4。以下「甲4領収書」という。)を受領した。
オ 被告Y2は,原告X1に対し,本件不動産の整理を行うため30万円の費用がかかる旨を告げた。原告X1は,平成23年7月5日,被告会社に対し,不動産整理の着手金として30万円を支払い,被告会社から領収書(甲5。以下「甲5領収書」という。)を受領した。
カ 被告Y2は,平成23年8月ころ,日付欄及び代金額欄が空欄の本件不動産に係る売買契約書(甲6)及び重要事項説明書(甲7)への署名押印を原告X1にさせた。
キ 被告Y2は,平成23年8月29日,三井住友銀行及び横浜信用保証から残債権額の連絡を受け,同日,本件不動産の売却価格を4900万円とする配当表(被告会社名義の不動産任意売却金分配案。甲10)を作成し,原告X1に交付した。
ク 原告X1は,平成23年9月7日,被告会社に対し,本件不動産を売却し(以下「本件売買契約」という。),同日,その旨の所有権移転登記が経由された。(甲1,12)
ケ 被告会社は,平成23年11月11日,B(以下「B」という。)に対し,売買代金7150万円(うち消費税50万円)で本件不動産を売却し(乙3),同日,その旨の所有権移転登記が経由された。Bは,この売買に際し,本件不動産に被担保債権額を7650万円とする抵当権を設定した。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 被告Y2の詐欺による不法行為及び被告会社の使用者責任
ア 原告X1の主張
(ア) 不動産取引通念上,被担保債権額7650万円の抵当権が設定されている場合,その当時の当該不動産の適正価格は同額を上回る金額であり,かつ,特別の事情がない限り,平成23年9月7日から同年11月11日までの約2か月間で不動産価格が2750万円,すなわち50%以上も上昇することはおよそ考えられない。
被告会社とBとの間の本件不動産の売買契約に係る契約書に,特約事項として雨漏りの修理に関する項目があることからすれば,本件建物は上記売買契約当時雨漏りがある状態だったのであり,その状況であっても本件不動産は7150万円で売却できている。
簡易査定の結果によれば,本件売買契約当時の漏水等の工事前の本件不動産の査定額は1億1700万円であり,現時点での査定額は1億1720万円である。
被告会社が本件不動産を買い受けてわずか2か月で,買い受けた金額のおよそ1.5倍の値段で転売されており,本件売買契約時点において本件不動産に買い手がつかないなどという状況ではなかった。
以上のことから,原告X1が被告会社に本件不動産を売却した時点での価格が7650万円を下回ることはない。
(イ) 被告Y2は,本件不動産の適正価格が少なくとも7650万円以上であることを認識しながら,情を知らない原告X1に対し,代金額が空欄の売買契約書を作成させて欲しいままに代金額を補充し得る状況を作出し,かつ,本件不動産の価格が4900万円であることを示して,原告X1をして4900万円が本件不動産の適正価格であると誤信させた。
原告X1は,被告Y2の欺罔行為により,本件不動産の適正価格が4900万円であるものと錯誤に陥り,その結果本件不動産を被告会社に4900万円で売却するとともに,登記委任状等に署名押印をし,被告会社への所有権移転登記をした。
以上のとおり,原告X1は,被告Y2の欺罔行為により,少なくとも2750万円の損害を被った。
よって,原告X1は,被告Y2に対し,詐欺による不法行為(民法709条)に基づき,2750万円の損害賠償請求権を有する。
(ウ) 被告Y2は,被告会社の従業員であり,また,被告Y2の詐欺行為は,被告会社が本件不動産を買い受けるためにされたものであるから,被告会社の事業の執行についてされたものである。
よって,原告X1は,被告会社に対し,民法715条に基づき,2750万円の損害賠償請求権を有する。
(エ) 原告X1が,被告会社に対して本件不動産の買取と仲介のどちらかを任せるなどという話をしたことはない。
(オ) 被告らは,平成25年4月以降,原告ら訴訟代理人が再三にわたり補修に関する資料を提供するよう求めているにもかかわらず,一向に補修に関する資料を提出しない。被告会社とBとの売買契約に係る契約書の内容からすれば,本件建物は同売買契約当時雨漏りをしていた状況であって,売買契約締結後に大規模な建物補修を行うことは考え難い。
これまでの経緯に照らせば,被告会社が本件建物の補修を行ったことについてはきわめて疑わしい。
仮に被告会社が本件建物の補修を行っていたとしても,簡易査定の結果のとおり,建物補修による価値の増大は軽微なものにすぎない。
被告らが提出する見積書(乙2)は,本件建物を解体した場合の見積書であるが,そもそも本件建物は解体していないから,本件訴訟とは無関係である。
イ 被告らの主張
(ア) 原告X1は,平成22年5月14日,本件不動産を原告X1の息子であるCに売却したが,債権者である三井住友銀行から資産隠しであるとして処分禁止の仮処分の申立てを受けた。原告X1は金融機関からの信用を著しく失っており,金融機関との交渉は難航が予想された。
原告X1は,平成23年4月8日,三井住友銀行を債権者とする強制競売開始決定による差押えを受けたが,時間がなかったことから,買取り又は仲介のいずれかを被告会社に任せると話した。
(イ) 被告会社は,金融機関との交渉を進める上で,まずは仲介会社として話をさせて頂こうといことで専属専任媒介契約書(甲2)を作成した。本件建物は築23年を経過しており,外壁や防水のメンテナンスを施したことはなく,3か所の雨漏りや,外壁タイルの割れや剥がれが多数出ていた。また,本件建物の解体には800万円以上費用がかかることが分かった。
東日本大震災の直後ということもあり,この状況では全く買い手がつかず,原告X1の負債額を減らすため最終的に被告会社が買い取ることとなった。
(ウ) 任意売却金配分案では配当金が4886万2899円となっているが,本件不動産の競売における買受可能額は3449万6000円であり,被告会社の買取価格である4900万円という値付けは坪あたり200万円を超える価格であり,決して安い数字ではなく,むしろ業者が買い取る価格としては高値である。
(エ) 被告会社は,本件建物取得後,Bに売却するまでの間に,2階リビングの天井,3階トイレ天井及び壁,屋上への階段周りで生じていた雨漏りに対し,屋上の漏水対策及び壁紙交換を行った。被告会社は,Bとの売買契約後に雨漏りの補修を行い,その後Bに引き渡した。
被告会社がBに対し,本件不動産を7650万円(実際の売買価格は7150万円である。)で売却できたのは,被告会社の建物補修や融資利息,税金の支払い,営業努力によるものである。
(2) 被告会社の30万円の不当利得
ア 原告X1の主張
(ア) 原告X1は,平成23年7月5日,被告会社に対し,不動産整理の着手金として30万円を支払った。
この不動産着手金の趣旨は明らかでないが,これが本件売買契約を指すとすれば,原告X1と被告会社は本件売買契約の当事者であるから,着手金を支払う法律上の原因はない。
また,本件不動産は原告X1の債権者の担保となっていたところ,この債権者に対する債務の整理を含む趣旨だとすれば,被告会社の行為は弁護士法72条に違反するものである。
さらに,原告X1と被告会社は,契約日空欄の専属専任媒介契約を締結しており,不動産整理の着手金を支払った時点で同契約が存続している場合には,被告会社は仲介業者という立場を有しながら不動産整理の着手金を受領したこととなるが,これは,仲介業者が成功報酬しか受領できないことを定めた宅地建物取引業法に違反する。
したがって,被告会社は法律上の権限なく不動産整理の着手金として30万円を受領しており,原告X1は被告会社に対し,不当利得に基づき30万円の返還請求権を有している。
(イ) 原告X1は,被告会社に交付した30万円の内訳について一切報告を受けていない。
原告X1が受領した領収書(甲5)には,「この金員は完了時に清算いたします。」と記載されており,実際に支出しなかった場合には返還が予定されていた。
被告会社が30万円の使途として主張する内容は,本件不動産を売却する際の営業努力の内容に含まれるべきものであって,原告X1が負担すべきものではない。
イ 被告会社の主張
(ア) 被告会社は,原告X1から,本件不動産に係る雨漏り応急処置,物件調査,物件清掃,片付け等の費用として30万円を受領した。
(イ) 被告会社は,本件建物の物件調査費用として3万1500円,役所調査費用として3万6750円,地下清掃ゴミ捨て費用として2万6250円及び雨漏り応急処置費用として21万円の合計30万4500円を支出した。
被告会社は,原告X1に対し,上記支出を報告し,上記30万4500円を原告X1から受領した30万円で清算した。
(ウ) したがって,不当利得には該当しない。
(3) 被告会社の40万円の不当利得
ア 原告会社の主張
原告会社は,平成23年6月17日,被告会社に対し,決算書作成費用として40万円を支払った。
しかし,被告会社の定款には,他社の決算書作成が可能となるような目的は記載されていない。
したがって,決算書作成の委任を受けることは,被告会社の定款記載の目的外の行為であり無効である。
よって,被告会社は,法律上の原因なく40万円を利得し,同額につき原告会社に損失を与えたものであり,原告会社は被告会社に対し,不当利得に基づき40万円の返還請求権を有する。
イ 被告会社の主張
原告X1は,もともとの顧問税理士から,原告会社が倒産しても何百万,何千万円も税金を納めなければならない,税金は自己破産をしても免れず,どこに行っても追いかけられる等と脅かされて困っていた。被告Y2は,自己破産を覚悟しているのであればやり方は色々あること,焦らなくても大丈夫であること,同種事例を多く経験しており,融通のつく税理士を紹介できること等と告げた。これを聞いた原告X1は,被告会社の税理士に依頼することとし,弁護士に預けている帳簿,通帳等の資料の返却を受けた後に着手すると告げた。被告会社は,原告会社の決算書3期分と40万円を預かり,税理士の元に相談に行った。税理士とは,原告X1に元帳や通帳,領収書等の資料が戻ってきてから打ち合わせをすることとなっている。
以上のとおり,被告会社は40万円を預かっているものであるから不当利得にはならない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告Y2の詐欺による不法行為及び被告会社の使用者責任)について
(1) 証拠(甲1,12,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 株式会社ジービーエイトハウジング作成の平成26年2月26日付け簡易査定書によれば,本件不動産の平成23年当時の査定額は1億1720万円であり,本件不動産に対する漏水対策及び室内補修工事等が行われていないと仮定した場合の平成26年2月時点での査定額は1億1630万円(なお,本件建物の価格算定に関し,上記簡易査定書には,本件建物の価格4810万円から漏水対策及び室内補修工事費用相当額28万3000円を控除する旨の計算式が記載されているから,同簡易査定書が現在の本件建物の価格として記載している4870万円との記載は,4780万円の明確な誤記であると解される。)である。(甲12)
イ 本件不動産には,昭和63年7月14日に債権額を8000万円とする抵当権が(なお,平成11年12月27日の主債務消滅を原因として抹消された。),昭和64年1月6日に極度額を2400万円として設定され,平成元年9月29日に極度額が6000万円に変更された根抵当権が(なお,平成11年12月27日の解除を原因として平成12年1月21日に抹消された。),平成11年12月27日に債権額を5700万円とする抵当権が(なお,平成23年9月7日に放棄を原因として抹消された。),平成23年9月7日に極度額を5200万円とする根抵当権が(なお,平成23年11月11日に解除を原因として抹消された。)設定されたことがある。(甲1,12)
ウ 本件不動産に対する強制競売手続(当庁平成23年(ヌ)第91号事件)における売却基準価額は4312万円である。また,同競売手続における入札期間は平成23年9月1日から同月8日まで,改札期日は同月15日午前9時30分,売却決定期日は同月21日午前11時とされている。(乙1)
(2) 前提事実によれば,原告X1が本件不動産の売却を被告会社に依頼することとなったのは,原告らに多額の負債がある状況で本件不動産に係る競売手続が開始されたところ,被告Y2が原告X1に対して本件不動産を任意売却した方が競売よりも利益が出る旨を説明したためである。そして,被告Y2が作成した被告会社名義の不動産任意売却金分配案(甲10)によれば,本件売買契約に係る売買代金4900万円は,抵当権者である横浜信用保証に対する債務及び差押債権者である三井住友銀行に対する債務を完済することのできる金額となっているうえ,本件不動産に係る競売手続における売却基準価額である4312万円を上回っている。上記事情に加え,上記(1)の認定事実のとおり本件不動産については競売手続が進行しているところ,本件売買契約が締結されたのが上記競売手続の入札期間の終了間際であることからすると,原告X1には本件不動産を売り急ぐ動機があったものと推測される。
また,前提事実のとおり,原告X1と被告会社は,本件覚書によって,被告会社が本件不動産に係る事業で得た利益の20%程度を原告X1に協力金として支払う旨の合意をしている。この合意がいかなる経緯によって成立したものであるかは証拠上必ずしも明らかではないが,この合意を客観的にみれば,実質的には本件不動産の売却価格を上記協力金相当額分増額する合意と評価することが可能である。
以上の点からすると,本件売買契約に係る売買代金4900万円は,本件売買契約に関する上記事情の下では必ずしも不適正な取引価格ではなかった可能性を否定できず,被告Y2が原告X1の主張するような欺罔行為を行ったものとも,被告Y2について欺罔行為に係る故意があったものとも認めることはできない。
(3) 原告X1は,本件不動産の時価を裏付ける証拠として簡易査定書(甲12)を提出する。
しかし,前提事実のとおり,被告会社のBに対する本件不動産の売却価格は7150万円(消費税込)であり,また,同売買に際して本件不動産に設定された抵当権の被担保債権額は7650万円であるうえ,上記(1)の認定事実のとおり,平成11年12月27日に設定された抵当権の被担保債権額は5700万円,平成23年9月7日に設定された根抵当権の極度額は5200万円であって,いずれも1億円に達していないこと,本件不動産の競売手続における売却基準価額は,競売手続という特殊性があるとはいえ4312万円にとどまっていることからすると,平成23年時点の評価額を1億1720万円,平成26年2月時点の評価額を1億1630万円とする上記査定書の記載は,本件不動産の評価額としては高きに失する可能性が否定できず,上記査定書の記載内容を信用することはできない。
(4) その他に被告Y2の詐欺として原告X1が主張する内容は,不動産の客観的評価額と不動産業者が関与する場合の具体的な取引価格の形成過程との差異を考慮しないものであって,理由がない。
2 争点(2)(被告会社の30万円の不当利得)について
(1) 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 甲5領収書には,「下記物件の別紙委任状に基づく不動産整理の着手金として金参拾萬円を領収しました。この金員は完了時に清算いたします。」との記載がある。(甲5)
イ 原告X1作成の平成23年6月8日付け委任状には,原告X1が被告会社を代理人として,本件不動産の売買に関する物件評価,家屋調査士評価,測量,売買価格の設定,売買期日の設定,金銭の授受等,金融機関等の担保債権の解除,解体業者の選定を委任する旨の記載がある。(乙5)
(2) 上記(1)の認定事実によれば,原告X1は,本件不動産の売買契約に係る委任事項に関する費用として30万円を支払った可能性があり,これを否定するに足りる適切な証拠は提出されていない。かえって,前提事実のとおり原告X1と被告会社は,本件覚書によって,被告会社が本件不動産に係る事業で得た利益の20%程度を原告X1に協力金として支払う旨の合意をしており,本件覚書(甲3)には事業終了後にその精算を行う旨の記載がある。
そうすると,原告X1が被告会社に対して支払った30万円について,法律上の原因がなかったとするには合理的な疑いが残るものと言わざるを得ない。
3 争点(3)(被告会社の40万円の不当利得)について
前提事実によれば,原告会社は,被告Y2から,本件不動産の処分にあたり決算書を作成する必要がある旨を告げられ,そのための費用として40万円を支払っている。また,甲4領収書の記載内容は,被告会社が決算書作成費用として40万円を受領した旨が記載されているのみであって,決算書作成業務を被告会社が行うものであるか第三者が行うものであるかは必ずしも明らかでない。
この点被告会社は,原告X1から決算書作成に関して税理士の紹介を依頼され,原告会社の決算書3期分と40万円を預かった旨主張しているところ,甲4領収書の記載は,被告会社の上記主張と必ずしも矛盾するものではない。そして,本件不動産の処分にあたって原告会社の決算書を被告会社が紹介する税理士に作成してもらうため原告会社から40万円の預託を受けたものであるとすれば,被告会社の目的外の行為であるとはいえない。
そうすると,被告会社の上記主張を排斥しうる適切な証拠が提出されていない本件においては,原告会社が被告会社に対して支払った40万円について,法律上の原因がなかったとするには合理的な疑いが残るものと言わざるを得ない。
4 結論
以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして主文のとおり判決する。
(裁判官 藤倉徹也)
〈以下省略〉
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