
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(5)平成30年 9月27日 東京地裁 平29(ワ)10523号 地位確認等請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(5)平成30年 9月27日 東京地裁 平29(ワ)10523号 地位確認等請求事件
裁判年月日 平成30年 9月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)10523号
事件名 地位確認等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2018WLJPCA09278002
要旨
◆積極性の欠如等を理由とする普通解雇が有効とされた例
参照条文
労働契約法16条
裁判年月日 平成30年 9月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)10523号
事件名 地位確認等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2018WLJPCA09278002
原告 A
同訴訟代理人弁護士 小松紘士
被告 アクセンチュア株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 村主知久
多根井健人
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、26万1800円及びこれに対する平成28年11月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告に対し、平成28年12月1日から本判決確定の日まで、毎月25日限り、52万9800円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、コンピュータ・ソフトウェアの設計、開発、制作、販売、リース、賃貸及び輸出入等を目的とする株式会社である被告に雇用された原告が、被告によって行われた解雇が無効かつ違法であると主張して、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、同契約に基づく上記解雇後の賃金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(争いのない事実又は後掲の証拠(枝番のあるものは特に断らない限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によって認められる事実)
(1) 当事者及び原被告間の雇用契約
ア 被告は、コンピュータ・ソフトウェアの設計、開発、制作、販売、リース、賃貸及び輸出入等を目的とする株式会社である。
イ 原告は、昭和45年(1970年)8月に中華人民共和国において出生した男性であり、平成20年(2008年)7月1日、被告との間で、期限の定めのない雇用契約(以下、原被告間の雇用契約を「本件雇用契約」という。)を締結した。
ウ 平成28年(2016年)10月当時における本件雇用契約上の月額賃金に係る労働条件は、基本給47万6000円、住宅手当3万円、前払い退職金2万3800円(以上、合計52万9800円)を、毎月末締め・当月25日払いとするものであった。
(2) 被告における業務内容の概要
ア 被告の業務は、大別すると、顧客(クライアント)に対するコンサルティングを主とする業務とクライアントの有するシステムの保守・運用や業務のアウトソーシングを行う業務の2つから成る(被告においては、前者を「プロジェクト業務」、後者を「アウトソーシング業務」と呼称するので、以下もこれに倣うこととする。)。
イ 被告の従業員は、各クライアントに対するサービス提供のために、その都度結成されるチーム(被告においては特にアウトソーシング業務におけるチームを「ユニット」と呼称することがあるので、以下、そのようにいう場合がある。また、「ユニット」内でのさらに小さな人数単位の集団を「チーム」と呼称することがあるので、これについても、以下、そのようにいう場合がある。)に採用され、当該配属チームに所属する形で業務を行っている。被告においては、そのようにチームに配属されることを「アサイン」と呼称しており、その中でも、書類選考や面接によってチームの需要を満たすことが確認された上でなされる場合を「通常アサイン」、所属する部署以外のチームの仕事に臨時で配置する場合を「貸出アサイン」、配属先が決まらず配属待ちの状態(プロジェクト業務であれ、アウトソーシング業務であれ、クライアントとの契約内容の変更や終了等の要因によってチームが解散する場合、配属された従業員のパフォーマンスが十分でないとチームにおいて判断された場合、配属された従業員の健康上その他の個人的な理由等によって被告に配慮が求められる場合などには、従業員のチームへの配属は終了し、当該従業員は次のチームに配属になるまでの間、配属待ちの状態になる。)が続いている従業員をそのレベル相応の役割を強制的に創出してどこかのチームに配属させる場合を「強制アサイン」としている。
(3) 原告の担当業務及び配属
被告における原告の職務内容は、アウトソーシング業務であったところ、原告が被告に入社した平成20年(2008年)7月1日以降におけるユニットへの配属あるいは配属待ちの状況は、次のとおりである(なお、日数は初日不算入である。)。
① 平成20年(2008年)10月16日~平成23年(2011年)5月31日(957日)強制アサインによってSG(X1)ユニットに配属
② 平成23年(2011年)6月1日~同年9月7日(98日)配属待ち
③ 平成23年(2011年)9月8日~同年10月2日(24日)通常アサインによってX2ユニットに配属
④ 平成23年(2011年)10月3日~同月10日(7日)配属待ち
⑤ 平成23年(2011年)10月11日~同年12月9日(59日)貸出アサインによってFR(X3)ユニットに配属
⑥ 平成23年(2011年)12月10日~平成24年(2012年)2月6日(58日)配属待ち
⑦ 平成24年(2012年)2月7日~同年5月6日(89日)強制アサインによってSGユニットに配属
⑧ 平成24年(2012年)5月7日~同年6月25日(49日)配属待ち
⑨ 平成24年(2012年)6月26日~8月28日(63日)貸出アサインによってX4ユニットに配属
⑩ 平成24年(2012年)8月29日~平成25年(2013年)5月12日(256日)配属待ち
⑪ 平成25年(2013年)5月13日~同年12月31日(232日)強制アサインによってX2ユニットに配属
⑫ 平成26年(2014年)1月1日~平成28年(2016年)6月19日(900日)配属待ち
⑬ 平成28年(2016年)6月20日~同年9月16日(88日)PIP(Performance Improvement Plan、業務改善プラン)によってX5ユニットに配属
(4) 被告による原告の解雇
被告の就業規則54条には、社員の業務能率又は就業状況が著しく不良で就業に適しないと会社が認めた場合(同条2号)や、その他そのような場合などに準ずるやむを得ない事由のある場合(同条6号)などに、会社が社員を解雇することができる旨が定められているところ、被告は、原告に対し、平成28年(2016年)10月12日、解雇予告通知書をもって、就業規則の上記定めにより原告を同年11月15日付けで解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。
3 争点
本件解雇の有効性(客観的合理的な理由と社会的相当性の有無)
第3 争点に関する当事者の主張
1 被告の主張
被告において主にプロジェクト業務に関わる従業員は、数週間から半年、大規模なものでも1年程度といった比較的短期間のプロジェクトの都度結成されるチームにアサインされ、プロジェクトの終了(チームの解散)と同時に配属待ちとなり、0日から長くとも1か月程度の配属待ちの状態を経て、他のチームへアサインされることを繰り返して自らの経験を積んでいく一方で、主にアウトソーシング業務に関わる従業員は、クライアントとの契約が比較的長期間であること等の理由から、ユニットの配属替え自体がほとんどなく、配属待ちの状態になることもないのが一般的である。
ところが、原告は、被告に入社した後の平成20年(2008年)10月からおよそ2年半にわたってSGユニットに配属されたものの、同ユニットへの配属が終了となった後は、被告の人事部による調整にもかかわらず、指示しない限り何も動かず積極的に業務に関与しないという基本姿勢や日本語でのコミュニケーションがとりにくくクライアント対応を任せられない等の理由で、通常アサインが成立せず、配属待ち、強制アサイン等による配属、能力不足等を理由とする短期でのリリース、再度の配属待ちという状態を繰り返した。
そのような原告の年次評価(原告の場合、6月から翌年5月の1年間を評価期間として、多数人の複数段階にわたる合議を経て客観的になされる業績評価)は、特に平成23年(2011年)から平成27年(2015年)まで「下位5%」にとどまり続け、ユニット単位での成果評価(Assess Outcomes、「AO評価」)もおよそ過半数の項目で不十分であるとの判断がされていた。
そして、AO評価や年次評価のためのユニットからのフィードバックにおいては、評価者から被評価者である原告に対して、入社以来一貫して仕事を率先して行う姿勢が欠如しているという指摘やコミュニケーション力に問題があるという指摘が上長や人事部といった複数の者から繰り返し指摘がされているにもかかわらず、原告は、配属待ちの間に社内で準備された自己研鑽のための手段を有効に活用する学習意欲も乏しいままに、上記のような問題点を理解しようとも改善しようともしてこなかった。
原告に業務改善の意欲が認められず、平成25年(2013年)5月13日~同年12月31日(232日)の強制アサインによるX2ユニットへの配属以降2年半にわたって配属待ちの状態が継続していることを踏まえ、被告は、原告に対し、より正式かつ明確な形で原告に改善すべき点を再度伝えるべく、X5ユニットにてPIPを実施したが、結局のところ、原告の前記のような問題点の改善は何らみられなかった。
以上のとおり、原告は、仕事を率先して行う姿勢(プロアクティブな行動)、同僚とのコミュニケーション等に著しい問題があるため、被告において客観的に低い評価を受けており、その結果、アサインがない配属待ちの状態が在職期間のおよそ半分にあたる合計1368日間も継続するという極めて異例な状態にあったところ、被告としても、原告に改善の機会を与えるなどの努力をしてきたが、原告において改善意欲がみられなかったことから、原告については被告の就業規則54条に定める解雇事由(社員の業務能率又は就業状況が著しく不良で就業に適しないと会社が認めた場合(同条2号)や、その他そのような場合などに準ずるやむを得ない事由のある場合(同条6号))が存在する。そして、本件解雇は、そのように原告の業績改善のために被告がありとあらゆる手段を講じ、さらには万策が尽きた後にせめて解雇を回避すべく合理的な条件による退職勧奨を行ったにもかかわらずこれを原告が受け入れなかったことを踏まえてなされたものであるから、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当である。
2 原告の主張
被告はあたかも原告の配属待ちの状態や期間の長さが異常であるかのように主張するが、原告が入社した当時の被告の採用方針の下、原告は当初からその能力等とは無関係にアサインのない状況で就業せざるを得ず、強制アサイン等の方法で既に人数の足りているユニットに無理に入れられ、責任のある業務を分配されないままの状況に置かれ、そのような被告側の事情にもかかわらず、原告自身の業務経験が足りないものと判断され、それ以後のアサインが受けられないという悪循環に陥ったもので、人材の需要と供給のバランスの調整を怠った会社側の問題で生じた配属待ちの状態を原告の能力不足の問題と捉えるべきではない。
そもそも被告におけるアサイン制度は、被告に入社した後に社内で改めて採用の活動を行うに等しく、一見すると社員間での競争意識を生じさせて人材育成につながるかのようではあるが、各ユニットで独立採算制がとられているために、それぞれの部署で人材を育てる意識よりも他のユニットとの競争意識が優先し、ユニットの需要により適合する人材と判断しなければ通常アサインとして受け入れようとしない土壌があり、ユニットの都合によって従業員の配属待ちの期間が延長するという構造になっている。また、多くの企業では、全社的な規模の配置転換等によって人材を適材適所に配置して余剰人員を極力生じさせない対処をしているが、被告においては、強制アサイン等の制度はあれども、ユニットの需要と人材の供給が適合しなければ基本的に配属待ちとなり、配属待ちの従業員については具体的な業務を何ら行っていないにもかかわらず通常の賃金が生じるために、長期間にわたって配属待ちの状態にある従業員を退職勧奨によって社外に放出する、さらにはそのような退職勧奨に応じなかった原告のような従業員をその延長線上において解雇するという方法で対処しており、解雇法理との関係で重大な問題を有している。
上記のようなアサイン制度の根本的な問題点を措くとしても、原告は、配属になった各ユニットにおいて、「作業者としてのキャッチアップは期待を超えている」、「維持管理業務における各種開発工程のオペレーションについて問題はなく対応可能」等の一定の評価を受け、その業務を十分に遂行しており、被告での就業をするのに適した能力を持っていた。被告の年次評価は飽くまで相対評価である上に、原告においても、平成21年(2009年)と平成23年(2011年)の2回は「下位50%」というそれほど低くはない評価であったし、最も下の「要改善」の評価を受けたことは一度もない。フィードバックにおける指摘は原告に努力を促してさらなる評価を得るためのポイントとして示唆されていたものといえるが、それを超えて原告の著しい不良や就業に適さない旨までをも指摘していたものとは解されない。実際のところ、例えば、原告は、平成25年(2013年)5月13日以降の強制アサインによるX2ユニットへの配属中、当該ユニットのマネージャーから職位の降格(レベルD→レベルE)を伴うものの通常アサインとしてのアサイン継続の打診を受けたほか、平成26年(2014年)9月にも再度X2ユニットのマネージャーからのアサインを前提とした勧誘があったもので、原告の就業能力に問題があったとはいえない。しかしながら、いずれの機会においても、当時原告に対して退職勧奨を並行して実施していた人事部の調整によって、アサインの継続がなくリリース、あるいは、アサインが実現されないという結果に終わったもので、このような経緯をみれば、被告においては、一定の配属待ちの期間の継続によって退職勧奨の対象となった従業員に対しては、業務改善の機会を与えるよりも、むしろ自主退職あるいは解雇を前提としていたものと考えられる。
被告は原告の業績向上のための数次のフィードバック及び人事部による面談等を行ってきた旨を主張するが、原告は、PIPを実施されるまで、被告において考える原告の問題点に係る具体的な事実を示されたことはなく、退職勧奨をされることはあっても、それら問題点についての改善を求められたことはなかったし、特に平成25年(2013年)5月13日以降の強制アサインによるX2ユニットへの配属が終了した後はそもそも全くアサイン調整がされずに業務改善のための機会を与えられることすらなかった。そのような状況の中、被告は、あえて原告が経験したことのない業務分野に係るユニットにおいてPIPを実施し、「プロアクティブな姿勢」、「コミュニケーション力」、「学習意欲」といった客観的に評価する指標を設定することが困難で主観の入り込む余地が大きいと思われる事象を改善ポイントに設定し、事実誤認に基づく判断を含みつつ原告に不利になるような偏った評価を行ったもので、このようなPIPは原告の業務改善を目的にしたものではなく、解雇を正当化するための手段として行われたものというほかない。
以上のとおり、アサインの可否とそれに伴う配属待ちは人材の需要と供給のバランスを調整する会社側の問題であって労働者個人の能力の問題に帰着するものではないにもかかわらず、被告においては、原告について、そのようなアサインの制度を建前として、社内の人材と配属先のミスマッチの問題を労働者個人の能力の問題にすり替えるばかりか、最終のアサインと位置づけたX2ユニットへのアサイン以降は全くアサイン調整をすることなく漫然と配属待ちの状態に原告をさらし、その経過において退職勧奨に応じなかった原告を最終的には形ばかりのPIPを実施して解雇を正当化しようとするものであるところ、そのような制度設計等によって解雇回避義務が軽減されるはずがないし、その点を措くとしても、原告には被告での業務を遂行するに十分な能力を有していたもので、被告のいう「プロアクティブな姿勢の欠如」といった抽象的な理由の解雇事由は当たらず、本件解雇は、客観的に合理的な理由はなく、また社会通念上も相当ではない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加えて、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のような事実が認められる。
(1) 原告が被告への入社に至る状況
原告は、昭和45年(1970年)8月に中華人民共和国において出生した男性であり、同国にいた当時から、平成12年(2000年)に来日して以降も引き続き、複数の会社において、システムエンジニアとして稼働し、平成18年(2006年)に日本国籍を取得した。
原告は、自身がシステムエンジニアとして稼働してきた経験を土台として、さらなる業務領域と能力の拡充のため、プロジェクトを管理(マネージメント)する職種へ就くことを目指して、コンサルティング業を主とする被告への採用を希望するに至り、平成20年(2008年)7月1日、担当する職務内容をアウトソーシング業務として、被告との間で本件雇用契約を締結した。(前提事実(1)イ、同(3)、証拠略)
(2) 原告の業務(アウトソーシング業務)の状況
ア 被告におけるアウトソーシング業務は、クライアントの有するシステムの保守・運用や業務のアウトソーシングを行う業務であるところ、同業務において被告及びその従業員が担う具体的な役割は、原告が最初に配属されたSGユニットを例にすると、クライアントが有するシステムの保守・運用がどのように実施されるべきか全体的な方針を決定し、実際に保守・運用を担う数十社にも及ぶベンダー(製品供給業者)がその決定に沿って業務を推進できるかどうかの確認をするというユニット全体のマネージメント業務をはじめとして、クライアントからの日々の問合せ(システムをどのように使用するのか説明をしてほしい、システム改修をしてほしい等)をヘルプデスクで受け付け、その問合せに対応するのに適切な個々のベンダーを差配して、当該ベンダーとの間で具体的な期日や業務の優先順位の調整を行うといったものである。(前提事実(2)ア、人証略、弁論の全趣旨)
イ 原告は、被告に入社した平成20年(2008年)7月当初において配属待ちの状態にあったが、同年10月16日以降、強制アサインによってSGユニットに配属され、その当初半年ほどの間はユニットの全体的なマネージメントを行う業務に携わり、その後は、責任者であるCの下で、個々のベンダーとの具体的な調整の取りまとめを行う業務に携わった。
個々のベンダーとの調整の取りまとめは、二、三名程度のチームで協働し、クライアントとベンダーの間を取り持って様々なクライアントからの依頼の優先順位を見極めて、その対応の期日等を調整するものであるところ、Cからみて、原告は、例えば、そもそもクライアントからの要望のメールを見逃す、クライアントからの様々な要望の優先順位を調整することのないままにそのままベンダーに流す(それゆえにベンダーでは結局全ての要望を円滑に処理することができず最終的にクライアントに不利益を及ぼす恐れが生じる。)、あるいはそのまま他のメンバーに伝達するというような態様の仕事ぶりで、ベンダーやクライアントからより円滑にコミュニケーションができる者に間を取り持ってほしいとの意見が寄せられたことがあったため、他のメンバーやCが代わって上記のような調整を行う状況にあったほか、原告自身に割り当てられた業務が終わってもこれをCなどに報告することなく、追加の業務の割り当てを要求したり、他のメンバーの業務を手伝ったりせずに、インターネットをずっと見るなどして漫然と時間を費やして過ごしている状況にあった。
Cは、そのような原告の仕事ぶりをみて、Cの下で原告が業務を行うようになってから1か月ほどで原告に直接クライアントとのやり取りを行う役割を与えないようにする一方で(なお、原告は、そもそもSGユニットにアサインされた当初から一度もクライアントへの電話対応を任されたことがない旨を供述するが(人証略)、強制アサインとはいえユニットに配属されたメンバーを協働させずに放逐することは明らかに非合理的であって通常想定し難く、Cの供述や、原告自身もクライアント対応に関してCから「もうしないで」と言われた旨を供述していること(人証略)に照らして、原告が同ユニットに配属された当初から一度もクライアント対応を任されたことがない旨の前記供述は信用することができない。)、Cや他のメンバーがクライアントやベンダーと調整を行う過程に係る情報(メールのやり取り等)を原告と共有して、クライアントの要望を全て漫然とベンダーに受け渡すのではなく、優先順位を決めてベンダーとクライアントの双方に有益な仕事の進め方を示唆したが、原告において、そのような示唆を受けても、上記のように具体的な業務をすることなく漫然と時間を費やす状況を特に変えることはなかった。
そして、原告は、平成23年(2011年)5月31日に、SGユニットの規模の縮小に伴って、他の何名かの従業員とともに同ユニットをリリースされた。
原告がSGユニットに最初に配属された当時(平成20年(2008年)10月16日~平成23年(2011年)5月31日)の年次評価のためのフィードバック(評価期間・①平成21年(2009年)6月~平成22年(2010年)5月、②同年6月~平成23年(2011年)5月)においては、依頼した作業や原告の得意な領域に係る作業をこなすことや、SAPシステムの連携するエクセルなどのオフィス系のツールのテスト及び改修を主に担当する中で、BPO(Business Process Outsourcing、ビジネス・プロセス・アウトソーシング)業務で利用するツールの改修作業において成果物の納期を遵守しつつ品質の向上に貢献したことが評価される一方で、業務の完了報告がされないことがあり、仕事に対して「待ち」の姿勢となっていること、日本語が母国語でないことを踏まえた上でもクライアントやメンバーとのコミュニケーションが円滑に実施されない場面がみられること、苦手意識のある領域の作業や管理作業については二の足を踏み自らの能力を成長させる意識に欠ける傾向があること、自身の空き時間を関係者に知らせることがなく、作業を早期に完了して他の仕事を取りにいく姿勢がないこと、主体的にプロセスの改善等を提案してチーム全体のパフォーマンスを向上させる意識が乏しいこと等の改善すべき点が指摘されていた。
原告は、そのようなフィードバック等を通じて、被告から原告において積極性に欠ける旨の改善すべき点の指摘があることを当初から認識していたものの、「積極性」というのは飽くまで会社から自身に業務の担当領域が与えられることを前提とするものであって、領域が与えられない以上、活動の場がないので積極性を発揮することがそもそも不可能であるという見解の下、原告が最初に強制アサインでSGユニットに配属された時点から既に同ユニットには通常アサインによって配属されたメンバーでもって人員が足りており、Cなどの上長が意図的に原告に業務を割り当てずに暇をもてあます状況を作出して原告に業務の領域を与えなかったのであるから、自身の積極性の有無を指摘されることは筋違いであると考えており、仕事は与えられるものではなく自分で見つけることがすなわち被告において求められる積極性であると明確に言われても、自ら仕事をみつけてその領域を広げることや、仕事の領域が広がらない、あるいは広げてもらえない理由を確認して追求することをしなかった。(前提事実(3)①、証拠略C、弁論の全趣旨)
ウ 原告は、前記イのとおりSGユニットをリリースとなった後、平成23年(2011年)6月1日~同年9月7日(98日)の配属待ちを経て、同月8日から通常アサインによってX2ユニットに配属されたところ、クライアントとの契約に至らずに同ユニットが解散となったことを踏まえて同年10月2日にリリースされたが、その後7日の配属待ちを経て、同10月11日には貸出アサインによってFRユニットに配属された(ちなみに、被告においては、一般的に、クライアントとの契約内容の変更や終了等の要因によってチームが解散する際のリリースの場合には、事前にリリースの時期の予測がつくため、ユニットの上長や人事部があらかじめ調整をして、配属待ちの状態を比較的短期間にとどめて次のアサインにつなげるよう運用しているが、従業員のパフォーマンスが十分でないことを理由とするリリースの場合には、それ以降のアサインの調整が難航する傾向にある。)。
しかしながら、原告は、FRユニットにおいて、システムに関する知識などの技術力が優れていると評価される反面、基本的に指示をされないと何も動かないという態様であること等を踏まえて、パフォーマンスが不十分であると判断され、同年12月9日をもって同ユニットをリリースされ、この点、フィードバックでも、業務の開始や終了に対する上長(スーパーバイザー)への報告がないこと、指摘された事項を素直に受け止める姿勢がないこと、自分の業務範囲を広げる努力がないことを改善すべき点として伝えられた。
そして、その後、原告は、同月10日~平成24年(2012年)2月6日まで58日の配属待ち、同月7日~同年5月6日まで89日の強制アサインによる2回目のSGユニット配属、同月7日~同年6月25日まで49日の配属待ち、同月26日~8月28日まで63日の貸出アサインによるX4ユニット(新入社員向けの研修講師を行うチーム)配属、同月29日~平成25年(2013年)5月12日まで256日の配属待ちとなったところ、技術力の高さを背景とする講義の実施や練習問題の作成等についての貢献を一定程度認められたものの、他のメンバーの仕事ぶりをみて自身の仕事に還元する姿勢を持つこと、報告・連絡・相談のタイミングを見計らうべきこと、上司からの指示待ち・メンバーからの報告待ちになるのではなく自ら状況を見極めて積極的に行動すること、与えられた指示の内容を自身で整理の上で見通しを立てて推進すべきこと等を改善すべき点として指摘された。(前提事実(3)②~⑩、証拠略)4~6頁)
エ 被告の人事部は、平成25年(2013年)2月(原告がX4ユニットを経た後に配属待ちとなっている時点)、原告に対し、6か月分の給与相当額の一時金支払又は3か月従業員としての身分を残した上でこれに加えて3か月分の給与相当額の一時金支払による合意退職を提案したが、原告はこれを断った。
その上で、原告は、ラストチャンスアサインと告げられて、平成25年(2013年)5月13日以降、強制アサインによってX2ユニットに配属された。同ユニットにおいては、原告が自身を含めた5名のチームの中で特にITスキルの部分に関して他のメンバーを監督(スーパーバイズ)することができている点が評価される一方、クライアントとのコミュニケーション部分についての苦手意識がぬぐえず、職位に応じた貢献には至っていないとの指摘がされていた。
また、同ユニットのマネージャーは、人事部に対して、同年7月頃、原告の技術力の高さを評価した上で、原告の職位を落とす(Demotion、ディモーション)ことでアサインを継続することを希望し、併せてアサインの継続のためにはディモーションの検討が必要であると原告においても認識していることを伝えたが、結局のところ、同年12月31日をもって、原告は同ユニットからリリースされた。(前提事実(3)⑪、証拠略、弁論の全趣旨)
オ 前記エのX2ユニットへのラストチャンスアサインが終了した平成26年(2014年)1月1日以降、原告は、人事部からアサイン調整をされることなく、結局、平成28年(2016年)6月19日までの900日にわたって配属待ちの状態にあった。なお、この間にも、原告には、人事部から退職勧奨がされたことがあったが、原告はこれを受諾しなかった。
被告において配属待ちの従業員は、オフィスに設けられたトレーニングルームにおいて、常設されたシステムにアクセスして必要なスキル(Java,. NET、オラクル、コーチング、ロジカルシンキング等)を自由に選択して受講することができるが、上記期間において、原告は特に計画性を持ってこれらを受講していたものではなく(この点、原告は、平成28年(2016年)2月18日の人事部との面談で、特に計画を立てることのないままにトレーニングを行っていることを明言している。)、例えば、1時間コースのオンライントレーニングを半日あるいは1日かけて行うとか、同じトレーニングをまた別の日に行うということが散見された。
また、遅くとも平成28年(2016年)1月以降、被告においては、人事部を介したアサイン調整のみならず、従業員がユニットに対してアサインの応募を直接行う制度の運用が開始されたところ、人事部は、原告に対し、例えば平成28年(2016年)2月18日の面談で、トレーニングで自己研さんするに当たって自身の足りないスキルを明確にしてアサインされるための分析(アサインの候補先で必要とされるスキルの分析)と計画を立てて、自分自身を売り込む努力をして積極的に応募をするよう指示したが、結局のところ、原告は、この制度を利用しても、アサインを得るまでには至らなかった。(前提事実(3)⑫、証拠略、弁論の全趣旨)
カ 以上のような経緯を踏まえて、被告は、平成28年(2016年)5月30日、原告に対し、「Performance Improvement Plan開始通知書」(PIP、業務改善プラン開始通知書)を発出し、①受け身的な発想で上司が出した指示内容が自らの役割であると限定的に考えた作業に終始する(上司が指示しない限り自分の仕事ではないと考える)点、つまり仕事を率先して行う姿勢(プロアクティブな行動)がない点、②技術力があるという理由で、コミュニケーションを二の次として、報告・連絡・相談を適時かつ相手に理解されるよう行おうとする努力が足りない点、③新たな分野が担当領域になった際に尻込みすることがあり学習意欲に欠ける点を指摘して、およそ3か月の期間にこれらの問題点を改善してパフォーマンスを向上させること、もしもその期間内に改善がなければ、普通解雇によって雇用継続を行わない可能性があることを告げた。
そして、原告は、同6月20日~同年9月16日までの88日にわたって、PIPによってX5ユニットに配属の上、プロジェクトマネジメントオフィス業務を担当する役割を与えられたが、与えられた役割に対して求められている作業を理解して納期に業務を完了させることができないことがあった、時間が余る場合において適切なタイミングで上司に空き時間の提案をできていないことがあった、課題を察知してこれを報告し解決を図るための相談ができていない点があった、チーム内の報告手順を遵守できていたがクライアント向けの中間報告書資料の作成については周囲からの注意喚起を受けて早期に必要な相談をする行動がとれなかった、目的や背景等の補足説明のないまま相手が自身と同等の理解を持っているという前提で確認と依頼事項を出すので相手に応じた行動をすべきであった、未習熟の技術知識等について早々に理解するのが困難であるとしても知識を有する人に確認してその回答を記載するだけの対応で済ませるのが目に付くこと等の指摘がされ、結論として、原告の職位に鑑みた役割は達成していないと評価された。(前提事実(3)⑬、証拠略)
キ 被告は、平成28年(2016年)10月3日、原告に対し、2か月分の給与相当額の一時金の支払と再就職支援サービスの提供を内容とする合意退職案を提案したが、原告はこれを断った。
そこで、被告は、原告に対し、同日、原告を同年11月15日付けで解雇する旨の意思表示(本件解雇)をした。(争いなし、前提事実(4))
2 検討(本件解雇の客観的合理的な理由と社会的相当性の有無)
被告は、特に原告における仕事を率先して行う姿勢(プロアクティブな行動)の欠如や同僚とのコミュニケーション等の問題点を指摘して、被告の就業規則に定める解雇事由(社員の業務能率又は就業状況が著しく不良で就業に適しないと会社が認めた場合等)がある旨を主張する。
前記認定事実のとおり、原告は、得意な業務分野における技術力を相当程度評価される一方で、被告に入社して間もない平成20年(2008年)10月に最初にSGユニットに配属となった当初から、不得手とする分野の作業を率先して行わず、自身の業務が完了してもその旨を上長に報告することなく、他のメンバーの作業を補助する、あるいはさらなる業務を探す・求めるといった主体性及び積極性に欠け、クライアントやメンバーとのコミュニケーションが円滑に実施されない場面があるなどとフィードバック等で指摘されたことをはじめとして、その後に配属になった様々なユニット(FRユニット、2回目のSGユニット、X4ユニット、ラストチャンスアサインと位置づけられたX2ユニット)においても、初回のSGユニットでの指摘と同様に、業務の開始や終了に対する上長への報告がない、指摘された事項を素直に受け止める姿勢がない、自分の業務範囲を広げる努力がない、他のメンバーの仕事ぶりをみて自身の仕事に還元する姿勢がない、報告・連絡・相談のタイミングを見計らっていない、上司からの指示待ち・メンバーからの報告待ちで自ら状況を見極めて積極的に行動することがない、与えられた指示の内容を自身で整理の上で見通しを立てて推進していない、クライアントとのコミュニケーション部分についての苦手意識がぬぐえない等、総じて原告に他のメンバーと協働して必ずしも得意な分野に限定されない様々な領域の業務に取り組む積極性が欠ける旨の改善すべき点を指摘され続けた。
ところが、原告は、そのように被告から積極性の欠如を指摘されていることを認識しながら、仕事は与えられるものではなく自分で見つけることがすなわち被告において求められる積極性であると被告から明確に言われてもなお、そのような被告の指摘に反して、「積極性」というのは自分で仕事を見つけることをいうのではなくて飽くまで会社から自身に与えられた業務の担当領域で懸命に活動することで足りるとの独自の解釈の下、配属待ちの状態からどこかのユニットに、通常であれ強制であれ、いかなる形態であってもアサインされて配属されることがすなわち業務を与えられることを意味するにもかかわらず、自身が得意とする分野の業務が割り当てられたユニットでは一定の評価を得ている、他方で自身が得意とする分野の業務が割り当てられないユニットにおいてはそもそも正式な業務が与えられていない、それゆえに積極性を発揮する業務の担当領域がないなどと論難して、会社から与えられる業務を選り好みし、意に沿う業務であれば積極的に行うが、意に沿わない業務であれば自身に業務の担当領域(積極性を発揮すべき活躍の場)が与えられていないとの偏頗な考えに立脚して漫然と手持ち時間を過ごし、むしろ自身に適した業務をあてがわない会社側に問題があるという意識の下、様々な分野の業務について真摯に取り組む姿勢を見せようとしなかった。
また、配属待ちの状態について、その状態自体は確かに具体的な業務を与えられるものではなく、さらには遅くとも平成28年(2016年)1月以降において従業員がユニットに対してアサインの応募を直接行う制度の運用が開始されるまでは人事部を介したアサイン調整しか行われていなかったものの、配属待ちの際にトレーニングルームにおいて、被告から指摘された自身の改善すべき点を補う、あるいはアサインの候補先となり得るユニットで必要とされるスキルを分析してこれを習得するよう努めるといった態様でもって、将来的なアサイン獲得の可能性を高めるための積極的な研さんを自らの意思で計画的に実践する機会が十分に与えられていたにもかかわらず、原告は、アサインとリリースを繰り返す中で、延べ日数にして千日を優に超える配属待ちの状態にありながら、前記認定事実のとおり、平成28年(2016年)2月の人事部との面談において、トレーニングルームの上記のような計画的な活用方法を示唆されるまで、何らの計画性も持たずに漫然と時間を費やし、そのような示唆があった後も特段の計画性をもってトレーニングを行ったとうかがわれない(書証略、弁論の全趣旨)のであって、この点でも全く積極性が見られず、最終的にはPIPを実施しても、会社から与えられた仕事を選り好みすることなく、たとえ不得手あるいは習熟していない業務であっても積極的に取り組もうとする姿勢が必要であることを理解することすらできなかった。
そのように業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題を原告は入社当初から被告によって繰り返し指摘されていたにもかかわらず、結局のところ原告は、自身の問題点を、そもそも自身が得意とする仕事を割り当てない会社側の問題点であるとすり替えて、自らの意識や仕事ぶりを全く省みることなく、これによって他のメンバーとの協働に支障を来していることにも思慮が至らないのであるから、原告については、少なくとも就業規則54条2号に定める解雇事由(社員の業務能率又は就業状況が著しく不良で就業に適しないと会社が認めた場合)があり、本件解雇には客観的に合理的な理由があるといえる。
そして、原告の解雇事由がそのような業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題であり、これを長年にわたって繰り返されたフィードバック等による指摘によって容易に認識し得たにもかかわらず、PIPで改善すべき点を示されるまで全く明らかにされてこなかったなどとしてそもそもの認識すら欠如していたこと、仕事の姿勢に対する基本的かつ根本的な会社の考えを明らかにされてもなお「積極性」の意味を手前勝手に解釈してこれに反する考えを一切受け容れないこと、そのような原告に対して被告において普通解雇の可能性を示唆しつつPIPを実施したことや退職勧奨を試みたこと等を併せて鑑みれば、本件解雇は社会通念上相当なものであるといえる。
これに対し、原告は、被告のアサイン制度が解雇権濫用法理との関係ではらむ問題点等を主張するが、それは単に一般的抽象的な懸念にすぎず、原告の主張を採用することはできないし、原告の技術力が一定程度評価されていたことや職位を落とすことによってアサイン継続の可能性が検討された事実があったことといった原告に有利な事情を全て踏まえても、前記認定・説示に係る具体的な原告の勤務態様及び業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題に照らして、解雇の有効性に係る上記判断が覆るものではない。
したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当であって、有効である。
3 結論
以上によれば、原告の請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
(裁判官 上田真史)
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