判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(290)平成20年 3月28日 東京地裁 平19(ワ)3626号 債務不存在確認請求事件(本訴)、不当利得返還請求事件(反訴)
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(290)平成20年 3月28日 東京地裁 平19(ワ)3626号 債務不存在確認請求事件(本訴)、不当利得返還請求事件(反訴)
裁判年月日 平成20年 3月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)3626号・平19(ワ)12521号
事件名 債務不存在確認請求事件(本訴)、不当利得返還請求事件(反訴)
裁判結果 本訴一部却下、一部棄却、反訴一部認容 文献番号 2008WLJPCA03288005
要旨
◆弁護士である原告が依頼者であった被告に対し、委任契約に基づき支払を受けた報酬の返還債務の不存在確認と未払報酬の支払を請求した本訴に対し、被告が不当利得返還請求権に基づき既払報酬金額の一部の返還を求める反訴を提起した事案において、本訴のうち債務不存在確認請求は反訴提起により訴えの利益がないとして却下し、未払報酬請求は預かり金との相殺を理由に棄却し、反訴については、旧弁護士会報酬規程により算出された金額を超える成功報酬額を支払う合意があったとは認められず、仮にあったとしても、当該金額を超える部分は被告に錯誤があり、重大な過失もないから無効であり、また、委任契約に含まれていない作業についてタイムチャージにより得た報酬部分は法律上の原因がない利得であるとして、反訴の一部を認容した事例
参照条文
民法95条
民法643条
民法648条1項
民法703条
裁判年月日 平成20年 3月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)3626号・平19(ワ)12521号
事件名 債務不存在確認請求事件(本訴)、不当利得返還請求事件(反訴)
裁判結果 本訴一部却下、一部棄却、反訴一部認容 文献番号 2008WLJPCA03288005
平成19年(ワ)第3626号 債務不存在確認請求事件(本訴)
平成19年(ワ)第12521号 不当利得返還請求事件(反訴)
東京都港区〈以下省略〉
原告(反訴被告) X
同訴訟代理人弁護士 上野秀雄
(登記簿上の本店所在地)
東京都港区〈以下省略〉
(送達先)
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告(反訴原告) アイシーアセット有限会社
同代表者取締役 A
同訴訟代理人弁護士 久保田伸
主文
1 原告(反訴被告)の債務不存在確認の訴えを却下する。
2 原告(反訴被告)のその余の請求をいずれも棄却する。
3 原告(反訴被告)は,被告(反訴原告)に対し,2310万2000円及びこれに対する平成19年5月29日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告(反訴原告)のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用はこれを10分し,その8を原告(反訴被告)の負担とし,その余を被告(反訴原告)の負担とする。
6 この判決は,3項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1) 原告(反訴被告,以下「原告」という。)の被告(反訴原告,以下「被告」という。)に対する別紙債権目録記載の債権が存在しないことを確認する。
(2) 被告は,原告に対し,1600万3278円及びこれに対する平成17年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は,被告に対し,8589万3249円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,弁護士である原告が,委任契約に基づいて依頼者であった被告から,支払を受けた報酬のうち1億8705万6216円につき,被告がその返還を求めているが,そのような債務はないとして,債務不存在の確認を求めるとともに,報酬が一部未払であるとして,未払額1600万3278円と事務完了の日の後の日である平成17年11月28日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払いを求めた(本訴)のに対し,被告が,報酬として支払った金額の一部について委任契約が無効だと主張して不当利得返還請求権に基づき8589万3249円と反訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案である。
1 前提事実(証拠を挙げたもののほかは,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,東京弁護士会に所属する弁護士である。
(2) 被告は,不動産の売買,交換,賃貸借及びその仲介などを目的とする有限会社であり,平成13年5月23日から開始された,運用総額34億5000万円の証券化スキーム「Japan Residencial Capital Limited Series1」(以下「本件スキーム」という。)のために設立された会社である。本件スキームは,トロント・ドミニオン証券会社(以下「TD証券」という。)東京支店がアレンジャーとなって組成し,被告がプライムプロパティーファンディングリミテッド東京支店から34億5000万円を借り入れ,この資金から当初費用支払い,費用リザーブ,元本勘定リザーブ(当初6億円,以後収益に応じて収益の50~100パーセントの範囲内で積み上げ)を差引いた後の資金で,東京,神奈川,千葉,埼玉所在のアパート,マンションを購入し,改装を施して転売して転売益を得て,これを投資家に配当することを予定していた。本件スキームにおいては,購入すべき不動産の選択,売却は,被告とアドバイザー契約を締結した株式会社インシュアードキャピタル(以下「インシュアード」という。)のアドバイスに従って行われ,売買契約の締結など不動産購入に必要な業務は,被告と業務委託契約を締結した株式会社ANJOコンサルティング(以下「ANJO」という。)が行うとされていた(乙5の12)。
(3) 原告と被告は,以下の委任契約を締結した。
ア 契約年月日 平成15年12月4日(第1委任契約)
相手方 インシュアード及びその取引業者
委任の範囲 インシュアードの不正行為に基づく被告の資産の保全及び回収
着手金 2769万円
報酬金 東京弁護士会弁護士報酬規程による
イ 契約年月日 平成16年8月11日(第2委任契約)
事件名 インシュアードを除く本件不動産証券化(JRC)関係当事者の責任の有無の調査及び責任の追及
弁護士報酬 時間制 1時間当たり
弁護士報酬4万円
リサーチアシスタント及びパラリーガル1万円
ウ 契約年月日 平成16年12月6日(第3委任契約)
事件名 売買代金等請求事件
相手方 有限会社ベリル外2名
着手金 519万円
報酬金 旧弁護士会の報酬規程による
裁判所 東京地方裁判所
エ 契約年月日 平成17年3月(第4委任契約)
事件名 不当利得返還請求控訴事件
相手方 株式会社リビングクリエイト
裁判所 最高裁判所
着手金 34万円
報酬金 旧弁護士会の報酬規程による
(4) 原告は,第1委任契約及び第3委任契約に基づき,少なくとも,別紙訴訟一覧表に記載された訴訟手続を行った。被告は,このうちの株式会社扶桑レクセルを被告とする訴訟の成功報酬として,平成16年11月ころ,2100万円(源泉徴収前金額,消費税相当額を含む)を原告に支払い,株式会社レガリアを被告とする訴訟の成功報酬として,平成16年4月ころ,1167万4764円(源泉徴収前金額,消費税相当額を含む)を支払った。
(5) 原告と被告の委任契約は,平成17年11月28日ころ,原告が解任にされて終了した。
(6) 原告は,平成19年6月20日,本件第1回弁論準備手続において,後述2争点(4)で主張する未払報酬金等請求権合計額2551万6288円を自働債権とし,前項の返還請求権951万3010円を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした。
2 争点
(1) 第1委任契約において,株式会社扶桑レクセル(以下「レクセル」という。)を被告とする訴訟(以下「レクセル訴訟」という。)の成功報酬及び株式会社レガリアを被告とする訴訟(以下「レガリア訴訟」という。)の成功報酬は,全額,第1委任契約の報酬の合意に基づいて支払われたものか。
(2) 第2委任契約について,旧弁護士会の報酬規程(前項の旧報酬規程と同じもの。)に基づく着手金額及び報酬金額の合計額を超える分については精算するとの合意の有無。
(3) 第2委任契約に基づいて,タイムチャージ制による報酬金等算出の基礎となった作業のうち,第2委任契約の内容とは評価されない作業(被告が第2委任契約に基づいて報酬金等を支払う必要がないもの)の有無及び金額。
(4) 第1委任契約,第2委任契約,第3委任契約についての報酬等の未払の有無及びその金額。
(5) 原告の被告に対する未払報酬債権を自働債権とし,被告の原告に対する不当利得返還請求権を受働債権とする相殺の可否。
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)
(被告の主張)
ア 株式会社扶桑レクセル(以下「レクセル」という。)の件について
(ア) レクセル訴訟(東京地方裁判所平成16年(ワ)第4328号)については,平成16年11月9日に裁判外でレクセルが原告に1億7000万円を支払う旨の和解が成立し,同日,原告が上記訴訟を取り下げて終了した。
第1委任契約においては,報酬金は旧報酬規程に従って算出されるものとされており,1億7000万円の経済的利益を受けた場合の報酬金は1158万円となり(1億4000万円×6%+2700万円×10%+300万円×16%=1158万円),消費税相当額57万9000円を含めると,合計1215万9000円となる。
(イ) 被告は,平成16年11月,レクセルの件についての報酬として2100万円(源泉徴収前金額,消費税相当額を含む)を支払った。
(ウ) 被告の当時の代表者Bは,前項の支払い当時,2100万円が旧報酬規程に基づいて算出された金額であると誤信していた。
(エ) よって,旧報酬規程により算出される報酬金額を超える884万1000円の支払いは,錯誤により無効であり,原告は法律上の原因なく同額を利得している。
イ 株式会社レガリア(以下「レガリア」という。)の件
(ア) 被告は,原告が訴訟活動を行ったレガリアを被告とする訴訟(東京地方裁判所平成16年(ヨ)第1330号)により,最終的にはレガリアから8000万円の返還を受けた。
(イ) 8000万円の経済的利益を受けた場合の旧報酬規程に基づく報酬金額は618万円(5000万円×6%+2700万円×10%+300万円×16%)であり,消費税相当額30万9000円を合計すると,648万9000円となる。
(ウ) 被告は,原告に対し,平成16年4月に,報酬金として合計1173万9000円(333万9000円+840万円(消費税相当額を含む))を支払った。
(エ) 前項の支払い当時,Bは1173万9000円が旧報酬規程に従って算出された金額であると誤信していた。
(オ) よって,旧報酬規程に従って算出された金額を超える525万円の支払いは錯誤により無効であり,原告は法律上の原因なく同額の利得を得ている。
ウ 原告は,レクセル及びレガリアの支払について当時被告代表者だったBに重大な過失があると主張するが,依頼者と弁護士との関係において,弁護士から具体的報酬金額を提示された場合,それが報酬基準に基づくものであろうと信じるのは当然のことであり,報酬基準に合致しているか,計算根拠を尋ねることを要求するのは困難であって,Bが旧報酬規程に合致しているか否かを確認しなかったからといって,重過失があったとはいえない。
エ 以上によれば,第1委任契約の報酬金として被告が原告に支払った金額のうち,合計1409万1000円は,原告が法律上の原因なく取得したものである。
(原告の主張)
ア 旧報酬規程によっても事件の複雑困難性などを考慮して30パーセントの増額が可能であるところ,原告と被告は,レクセル及びレガリアについては,報酬金の額を旧報酬規程に従って算出するのではなく,レクセル及びレガリアに対する訴訟の複雑さ及び事案の処理等に必要とされる時間数などを考慮して増額し,それぞれ実際に支払われた金額を報酬金とする旨を口頭で合意している。
イ 仮に,被告主張のように,第1委任契約の報酬金等が全て旧報酬規程に従って支払われるべきであるとするならば,原告は,インシュアード以外の取引業者に対する各訴訟の受任に関し,新たに着手金を支払うべきことを請求し,被告の原告に対する不当利得返還請求権が認められる場合には,上記着手金相当額をもって,被告の不当利得返還請求権と対当額での相殺を主張する。
ウ 錯誤が認められるとしても,B氏は,米国公認会計士の資格を持ち,他の株式会社の専務執行取締役を兼務していた人物であり,自ら旧報酬規程を徴求して検算すべきであり,報酬の算定根拠について何ら確認をすることなく弁護士に言われた金額を旧報酬規程によるものだと誤信したものであり,重大な過失がある。
(2) 争点(2)
(被告の主張)
ア 第2委任契約に基づく委任内容は,具体的には,アレンジャーであるTD証券,監査人である中央青山監査法人(以下「中央青山」という。),業務代理人ANJOにおける責任の有無の調査及び責任の追及であった。このような委任内容では,責任の調査がある程度進まないと旧報酬規程に従って着手金と報酬金の額を算出することが困難であったため,原告と被告は,当面はタイムチャージ制により報酬を支払うが,旧報酬規程に従って着手金と報酬金の額を算出できるようになった時点で,その額を最終的に被告が原告に支払うべき金額として,タイムチャージ制により支払った金員を精算する旨を合意した。
イ 被告は,平成16年9月から平成17年4月にかけて,第2委任契約に基づくタイムチャージ制により合計6059万1038円(消費税相当額を含む)を支払った。なお,その内訳は,弁護士1072時間45分,リサーチアシスタント3841時間39分,リーガルクラーク1100時間30分となっている。
ウ TD証券らに対する責任追及の請求額は,11億5777万0143円であり,この金額を基準とする旧報酬規程に基づく着手金額は2684万5402円であり,消費税相当額を含めて2818万7672円となる。
エ したがって,6059万1038円から2818万7672円を差し引いた3240万3366円は,精算により被告に返還されるべき金額であり,原告は,同額を法律上の原因なく利得している。
(原告の主張)
被告が主張する精算の合意がなされたことはない。
(3) 争点(3)
(被告の主張)
インシュアード及びその取引業者に対する責任追及は第1委任契約の内容であり,別紙訴訟一覧(乙23)記載の11件の訴訟は,いずれも,インシュアードの取引業者に対する訴訟であるから,これらの訴訟に必要な作業には,第1委任契約の委任内容に含まれるものであり,第2委任契約の委任内容には含まれない。したがって,これらの作業について第2委任契約で報酬金等を請求するのは契約外の作業についての報酬金等を請求するものである。また,機関投資家に対する説明,リーガルクラークの費用(原告は時給1000円として請求)の支払いは第2委任契約の内容とはなっていない(これら,契約外の作業についての請求は,別紙契約外請求目録1ないし7に記載したとおりである。)加えて,第2委任契約に基づく成果物が意見書2通(乙4,38ページ。乙7,34ページ)のみであること,第2委任契約に関する全ての資料(甲51,甲53ないし甲61)をみても,弁護士が1072時間45分,リサーチアシスタントが3841時間39分,リーガルクラークが1000時間30分もの作業を要したとは思われない内容である。
これらの点を検討すれば,第2委任契約に基づく純粋な原告らの作業量としては,被告が原告に支払った6059万1038円の2分の1を超えることはないといえる。
したがって,第2委任契約の報酬金等をタイムチャージ制で算出するとしても,その額は3029万5519円を超えることはなく,6059万1038円から3029万5519円を差し引いた3029万5519円については,原告が法律上の原因なく取得したものである。
(原告の主張)
第1委任契約に基づく調査の対象となったのは,インシュアードやANJOの代理権の範囲,被告が行いうる取引の範囲(物件担保融資や未竣工物件の青田買いを行い得るか。)及び各取引事案に特有の事情(当事者の言動,契約書の成立の真正,印鑑の偽装の有無等)であるのに対し,第2委任契約に基づくTD証券や中央青山に対する責任追及は,主に被告の早期償還事由(被告の営業成績不振の一定の場合にファンドを凍結し残存する資金を投資家に償還するために定められていた。)の発生を不正に遅らせたことに関する,関係者の不法行為ないし債務不履行責任の追及であり,インシュアードやANJOが定期的に正確な営業成績を報告しなかったこと,中央青山の監査が機能しなかったことが調査,立証すべき対象となるのであり,第1委任契約と第2委任契約の法律構成・検討すべき法的論点,収集すべき証拠の内容は基本的には別であって,作業内容が重複することはない。このため,原告が,第1委任契約で収集した資料等を第2委任契約で利用することは不可能である。また,リーガルクラーク(原告のスタッフで主として事務を担当する者)の費用については,Bと原告との間で実費請求する旨の口頭の合意があった。
(4) 争点(4)
(原告の主張)
ア 第1委任契約の未払報酬等請求権(合計858万5285円)
(ア) 第1委任契約では,成功報酬金,着手金,日当報酬・実費等については,旧報酬規程に基づいて被告が支払うとされ,日当報酬・実費等については,原告が請求したとき,成功報酬金については事件処理が終了したときに成功の割合に応じて支払うものとされている。
(イ) 原告は,第1委任契約に基づき,別紙未払い報酬金等明細一覧表(以下「別紙未払一覧表」という。)①の「事務処理期間」欄記載の期間,同表「案件名」欄記載の訴訟等につき訴訟追行等の職務行為を行い受任事務に従事した。各期間の原告の職務行為により発生した日当報酬及び経費等の金額(源泉所得税・消費税を含む),原告が被告に対し同金額の支払請求書を発行した日,並びにその支払期限は,それぞれ同表①「請求金額」欄,「請求日」欄,並びに「支払期限」欄に記載したとおりである。
(ウ) 被告は,第1委任契約に基づく原告のインシュアードに対する責任を追及する訴訟活動によるインシュアードとの和解で4500万円の経済的利益を得た。旧報酬規程によれば,4500万円の経済的利益の場合,報酬金は,300万円×16%+2700万円×10%+1500万円×6%=408万円となり,消費税20万4000円を加えて,合計428万4000円となる。
(エ) 被告は,第1委任契約に基づく原告のケイミックスに対する責任追及を行う訴訟活動による勝訴判決で1851万9900円の経済的利益を得た。旧報酬規程によれば,1851万9900円の経済的利益の場合,報酬金は,300万円×16%+1551万9900円×10%=203万1990円となり,消費税10万1599円を加えて,合計213万3589円となる。
イ 第2委任契約の未払報酬等(合計1661万8051円)
(ア) 第2委任契約においては,被告は,原告に対し,その事務処理に対する報酬等として旧報酬規程に基づく成功報酬金と,着手金に代わる時間制による時間給(弁護士は時間当たり報酬金4万円,リサーチアシスタント及びパラリーガルは時間当たり報酬金1万円)を,成功報酬金については事件終了時に,時間給については,各月15日締め翌月25日払いで支払うとされており,リーガルクラーク(原告の事務所で主として事務作業を行う者)については,Bと協議の上,口頭で,原価ないし原価相当額を支払う旨の合意がされている。
(イ) 原告は,第2委任契約に基づき,別紙未払一覧表②の「事務処理期間」欄記載の期間,同表「案件名」欄記載の時間数の職務行為を行い受任事務に従事した。各期間の原告の職務行為により発生した時間給(所得税・消費税を含む)は,同表②の「請求金額」欄記載の通りである。
ウ 第3委任契約の未払等報酬請求権(31万2952円)
(ア) 第3委任契約に基づき,被告は原告に対し,旧報酬規程に基づき報酬金を支払うものとされた。
(イ) 原告は,第3委任契約に基づいて供託金の取戻手続きを行い,供託金2000万円を取り戻して被告に交付した。旧報酬規程に基づいて算出される報酬金の額は,別紙未払一覧表③「請求金額」欄記載のとおりである。
(被告の主張)
第1委任契約の原告主張未払報酬金等のうち,インシュアードとの和解に基づく成功報酬428万4000円(消費税相当額を含む),ケイミックスに対する勝訴の成功報酬(213万3589円消費税相当額を含む),別紙未払一覧表①「インシュアードキャピタル及びその他の取引業者に対する責任追及」中,裁判の出廷日当及びリビングクリエイトに対する強制執行の着手金及び報酬金と,第3委任契約の報酬金が未払であることは認める。
第1委任契約の経費は内容が不明である。第2委任契約の報酬金等は発生していない。
第3 裁判所の判断
1 争いのない事実に証拠(別に挙げたもののほか,甲6の1から8,甲7,甲8,甲9の1から5,甲10,甲11,甲13の1から3,甲14から甲23,甲31から甲39,乙1,乙2,乙4から乙25,乙29から乙35(各枝番1から3を含む),乙60から乙62,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 原告は,平成12年の秋ころから,弁護士(当時は暁国際法律事務所)として外国法律事務所と共に本件スキームの組成にあたっており,被告とインシュアードとのアドバイス契約,被告,インシュアード,物件管理を担当する株式会社日本リロケーションとの間のプロパティ・マネジメント契約などにも関わっていた。本件スキームには,厳格な早期償還事由が定められており,この事由に該当すると,被告による運用は停止され,資産を投資家に償還することとされていた。
Bは,平成15年6月にANJOの取締役に就任し,平成16年9月12日に被告の取締役に就任して,平成17年5月18日まで被告の取締役を務めていた。
Bは,平成15年10月か11月ころ,被告の保有不動産が何らかの方法で不正に処分されているのではないかと疑いをもち,不正処分により損なわれた被告資産を回収,保全することを考えた。そして,本件スキームの仕組みが複雑であるため,これを理解している弁護士が適当であると判断して,原告に対し,インシュアード及びその取引先業者を相手方として,インシュアードの不正行為により処分された被告の資産の保全,回収することを依頼し,原告はこれを受任した。
(2) 原告とBは,依頼者を被告,受任弁護士を原告とし,委任内容を「インシュアード及びその取引業者を相手方とする訴訟,保全,民事執行とする委任契約書を作成した(甲3,甲4。以下「第1委任契約契約書」という。)。同契約書には,着手金の額について旧報酬規程17条1項による標準金額として計算式が示され,経済的利益を12億円(第1委任契約当時,インシュアードによる不正取引の損害として概算した額)として着手金の額が2769万円とされ,報酬金の標準金額が5538万円となることが記載されている。
(3) 本件スキームの構造から,被告は,不動産の購入,転売,賃貸などの処分については,もっぱらインシュアードのアドバイスに従って行い,独自の判断で行うことは予定されておらず,また,被告の不動産処分の手続きは,被告の全ての業務の業務代理人であるANJOが行うことになっていた。このため,被告保有の不動産の不正処分にインシュアード及びANJOが関与している蓋然性は相当程度に高いと判断できる状況であった。また,機関投資家を対象に毎月行われる報告や,中央青山監査法人の会計監査の結果にも,不正行為による不動産処分が正しく反映されていないことが予想された。
(4) 原告は,被告の訴訟代理人として,平成16年にインシュアードに対する損害賠償請求事件(東京地方裁判所平成16年(ワ)第2916号)を提起した(甲13の1,2)。
この訴訟は,被告がインシュアードとの間で締結したアドバイス契約に反するアドバイスをインシュアードが行ったために損害を被ったとして損害賠償を求めるもので,具体的には,①インシュアードは,代金2億円以下の既存の建物(建物区分所有の対象となる分譲マンションを含む)の購入及び売却のアドバイスを被告に提供する義務を負っていたのに,これに反して,未竣工物件を手付けを交付して購入し竣工後の代金決済日までに売却して残代金を支払うという,リスクの高い方法をアドバイスし,その結果,被告は3億円の手付金を交付して東急不動産から購入した世田谷区碑文谷所在の未竣工物件の取引で,手付金を没収されるという損害を被った,②物件の購入,売却以外のアドバイスはできないところ,売主が手付金に金利相当額を加えた金額で買い戻すことを条件として手付金を一旦売主に交付して,所有権移転に必要な書類一式を預かるという方法をアドバイスし,被告はこのアドバイスに従って,レクセルの保有する草加松原及び小岩所在の物件について手付金を交付したが,レクセルから真実売買のための手付金の交付であるとして手付金の没収を主張されて損害を被ったという内容であった(甲13の1)
(5) 前項の訴訟の他にも,原告は,平成16年中に,第1委任契約に基づいて別紙訴訟手続き一覧表記載2ないし10記載の訴訟9件を提起した。これらの訴訟は,いずれも,インシュアードの不適切なアドバイスや不正行為などにより,被告が被った損失を回復する目的で提起されたものであり,その内容は,①買戻しによる金融を得ることを目的として,被告が不動産の買主となって手付金を交付するが,その後売主が手付金額を上回る金額を被告に払って,当該不動産を買い戻すことを前提に,被告と不動産売主との間で売買契約を締結して,手付金を交付していた取引について,主位的に所有権移転登記手続を求め,これが否定される場合の予備的請求として,買戻契約ないし不当利得返還請求権に基づく代金相当額の支払いを求めた事案,②被告が売買代金を支払ったが,売買が不成立もしくは無効であったとして代金相当額について不当利得返還を求めた事案,③被告がインシュアードの推奨のもとに物件担保融資をした1億円の返還と,売買契約の解除に基づく原状回復請求として支払った代金2000万円の支払を求めた事案,④インシュアードが被告に対して虚偽の物件の購入を装って手付け金名目で金銭の支払いを求めて,実際にはインシュアードの債務の返済に流用したとして,インシュアードと支払を受けた相手方に対して不当利得返還を求めた事案などであった。
(6) 原告が第1委任契約を受任した直後から,機関投資家からの問い合わせが多数行われるようになり,原告は,これらにも対応していた。
(7) 被告は,平成16年3月25日,口頭受注による受任作業を行ったとして,248万円(4万円×62時間),及び経費等を加えた合計234万0963円の請求を原告から受けて,これを支払った。
(8) 平成16年8月11日,Bと原告は,インシュアードを除く本件不動産証券化(JRC)関係当事者の責任の有無の調査及び責任の追及(第2委任契約)について,依頼者を被告,受任弁護士を原告とする委任契約書(甲5)を作成した。これには,受任範囲として,示談折衝,書類作成,契約交渉,訴訟,調停,保全処分,強制執行と記載され,着手金については記載がなく,報酬については,報酬金は旧報酬規程によること,手数料については着手金に代わる時間制とし,1時間あたり弁護士報酬を4万円,リサーチアシスタント,パラリーガルを1万円とする旨記載されている。
このように,弁護士費用について時間制とされたのは,この時点では,関係当事者(TD証券,ANJO,中央青山)のうち,誰にどれだけの金額の損害賠償を求めることができるかなどが未確定であり,原告による調査検討を待たなければ,経済的利益を受ける金額を確定できず,旧報酬規程の着手金や成功報酬の額を定める方法によっては原告に支払われるべき金額を算出することができなかったこと,他方,原告による調査検討のためには費用もかかるため,当初全く報酬等の支払がないのでは原告の受任が困難であることなどの事情があったためであった。
(9) 原告は,第1委任契約に基づく訴訟(被告東急不動産,被告ニチモ,被告インシュアード,被告ケイミックス,被告ランドプランナ,被告ベリル)の資料として,平成16年2月ころから平成17年10月にかけて,インシュアードの取締役を務めていたC,ANJOのSPC事業部長D,ANJOのSPC事業部長D,ANJOのSPC事業部勤務従業員E,ANJO代表取締役F,ANJO従業員G,司法書士Hらの陳述書,報告書などを用意した(乙37から乙57)。
(10) 平成16年11月9日に裁判外でレクセルが原告に1億7000万円を支払う旨の和解が成立し,同日,原告が上記訴訟を取り下げて終了した。
(11) 平成17年7月4日,原告が被告代理人となり,インシュアード外に対してた提起した訴訟(東京地方裁判所平成16年(ワ)第13874号及び同第13877号)について,インシュアードが4500万円を分割で支払い,インシュアードの代表者であるIが連帯保証することを骨子とする裁判上の和解が成立した(甲13の3)。
(12) 原告は,平成17年8月10日付けで,ANJO,インシュアード及びTD証券に対する責任追及が可能とする報告書と添付資料(乙4),中央青山に対する責任追及が可能とする報告書(乙7)を被告に提出した。
(13) ANJOらに対する責任追及についての報告書の概要は,本件スキームに設けられていた厳格な早期償還規定に従えば,LTAPPレイシオが3か月間にわたり80パーセントを超える状況が続いたことで,平成14年4月末には早期償還となり,それ以降の資金減少を回避できたはずであった。にもかかわらず,インシュアードのC,I,ANJOのD,TD証券のJが協議して,被告が本来行うことができない未竣工物件の購入や物件担保融資を行い,また,LTAPPレイシオの不正運用を行って早期償還を不正に回避したため,平成14年4月末日の時点で31億1611万3100円あった資産が,実際に早期償還が行われた平成17年4月の時点では18億1588万5453円に減少しており,その差額13億0022万7643円が,上記3者の共同不法行為により被告に生じた損害であるというものである。
この意見書において,LTAAPレイシオの不正操作については,以下のような説明がされている。
LTAPPレイシオは,(投資金の残存元本-被告保有現金)÷計算日における「登記済」特定建物の総購入価格(以下「総購入価格」という。)との数式により算出される数字であり,3か月続けて80パーセントを超えると早期償還事由となる。したがって,未竣工建物を購入する場合には,手付金の支払により被告の保有現金高が減少するのに対し,未竣工であるために総購入価格が増加しない。このため,竣工までの間,LTAPPレイシオが80パーセントを超える可能性が高い。しかし,手付金額を分母に加えるという不正操作を行うことでこれを回避していた。
2 争点(1)(第1委任契約の成功報酬額についての合意内容)
(1) 第1委任契約の契約書には,成功報酬は旧報酬規程によるものと記載されており,これが,委任契約締結の際の成功報酬の額についての合意内容になっていたと認められる。レクセル訴訟も,レガリア訴訟も,インシュアードの取引業者に対する訴訟であるから,第1委任契約の受任内容に含まれるものであり,その成功報酬額は旧報酬規定により算出される額となる。原告は,Bとの間で既払金額を報酬額とするとの口頭の合意があった旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。旧報酬規程には事件の難易度等を考慮して30パーセントの増額が認められる旨の規程はあるが(甲11),レクセル及びレガリアの各訴訟は,当事者数,事件内容,終了に至るまでの期間などに照らして,増額が相当と認められる事案とは認められず,これを理由として増額が合意されたとも考えにくい。
したがって,旧報酬規程により算出された金額を超える報酬額については第1委任契約の報酬として支払うとの合意があったとはいえない。仮に,Bの支払の事実を増額について合意するとの意思表示と評価できるとしても,Bは成功報酬の支払の際,この金額が旧報酬規程に従って算出されたものと誤信して支払っているので錯誤があり,この動機は表示されているから,旧報酬規程を上回る金額部分の支払合意は錯誤により無効である。弁護士の依頼者が委任契約どおりに報酬が請求されていると考えるのは無理もないことであって,Bが公認会計士の資格を持っていることを考慮しても,旧報酬規程の提示などを求めなかったことに重大な過失があるとは認められない。
以上から,旧報酬規程にしたがって,レクセルの成功報酬額を算出すると1215万9000円(消費税相当額を含む)となり,2100万円の既払成功報酬額のうち884万1000円及び,レガリアの成功報酬額は648万9000円(消費税相当額を含む)となり,既払報酬金額1173万9000円との差額525万円の合計1409万1000円については,原告の不当利得となる。
(2) 原告は,仮に,増額の口頭合意がなく全てを旧報酬規程によるとするなら,インシュアード以外の取引業者については着手金を受領していないから,新たにこれを請求し,この債権を自働債権として相殺すると主張する。しかし,着手金算定の際の経済的利益として記載されている12億円というのは,当時,インシュアードの不正が疑われた取引全体による損害の概算額であり,これを基準に算出された着手金額は取引業者全てを含んでの着手金であると考えられるのであって,この点の原告の主張は採用できない。
3 争点(2)(第2委任契約の弁護士費用についての精算合意の有無)
被告は,第2委任契約の弁護士費用について,時間制とはしたが,最終的に,旧報酬規程により計算できるようになった時点で着手金額と成功報酬額を算出し,それまでに時間制で支払った金額が,着手金と成功報酬額の合計額を超えた場合,その超過部分については原告が被告に返還して精算するとの合意があったと主張し,Bの証言にはこれに沿った部分がある。
しかし,Bの証言は,同人が時給制を前提とすることを知った上で,その支払総額が,着手金と成功報酬額の合計額を超えることはないと考えていたというにとどまり,原告との間で上記条件で合意したというものではないこと,他方,上述のような弁護士費用の定め方は一般的とはいえず,仮に,このような合意をするのであれば,通常,弁護士である原告はBと精算の条件等を話し合うものと考えられるが,Bが被告の代表者を退任するまでの間そのような話が出たことはないことなどを考慮すると,Bの証言によって,前記合意を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
被告は,第2委任契約の文言が着手金にかわる時間制となっていること及び成功報酬は旧報酬規程によることになっており,時間制をとる場合には,成功報酬を支払うことはまれであることをもって,支払総額が旧報酬規定に基づく着手金額と成功報酬額の合計を越えた場合には精算するとの合意があった根拠として主張する。しかし,この記載は,報酬について時間制を採用する場合には,成功報酬は支払われない場合が多いところを,第2委任契約においては,時間制を採用し,かつ,成功報酬も支払う旨を明記したと解するのが合理的であるといえ,この記載から,被告の主張する精算合意があったと認めることもできない。
4 争点(3)(第2委任契約についての契約外請求の有無)
(1) 別紙契約外請求目録1ないし7記載の請求のうち,別紙契約外請求目録の右端に○を付けた請求は,以下のいずれかに該当し,契約外請求であると認められる。
ア 第1委任契約で陳述書が作成されている者についての陳述書の作成,供述の証拠化などの作業
原告作成の意見書(乙4,乙7)に添付されたこれらの者の陳述書等の資料は全て第1委任契約の受任内容となっている訴訟の資料として作成されたものであり,これらとは別に,第2委任契約独自の陳述書等が作成された様子は窺われない。したがって,上記作業は,第1委任契約の受認内容となっている訴訟の資料として作成した陳述書等の作成のために行われたものと認められ,第2委任契約でも請求することは二重の請求となる。
イ 機関投資家に対する説明
原告は,機関投資家に対する説明を第2委任契約締結前から行っており,これについては,別途口頭受注として報酬を請求していたことが窺われるが,第2委任契約締結にあたって,機関投資家に対する説明作業を受任事務の内容に明記しておらず,これが第2委任契約の受任内容となっていたとは認められない。
イ 内容から第2委任契約の受認内容とはいえないもの
被告の資産に関し火災保険証券の更新(契約外請求目録2,アシスタント3の⑤),被告の取締役の交代についての作業(契約外請求目録5,原告の①から⑤)など。
ウ 他の委任契約の受認事務に関するもの
エ リーガルクラークによる作業
原告が主張するようなアシスタントの事務(主としてファイリング)について実費として時給1000円を支払うとの口頭の合意があったと認めるに足りる証拠はない。Bがリーガルクラーク分の請求を含む額を支払っているとしても,同人は,請求内容となる作業が実際に行われたのかを精査してはおらず,支払の事実から合意を推認することはできない。
オ 以上を合計すると,弁護士の時給については590万円(147時間30分),リーガルリサーチアシスタントの時給については301万円(301時間),リーガルクラークの時給については,10万1000円(101時間)が,いずれも契約外請求であると認められ,その総額は901万1000円となる。
なお,被告は,リサーチアシスタントの作業には,法的な調査と評価できないものがあり,時給は発生しない旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
(2) 被告は,契約外請求があることに加え,作業内容,成果物の量及び内容,他の仕事と平行してこれだけの請求時間働くのは困難であることなどから,第2委任契約の作業としては,請求額の半分に相当する程度のものしか行われていないと主張する。
たしかに,個別の不正取引の内容やそれについての関係者の関与の程度などは,第1委任契約に基づく訴訟のための調査の資料やそこで明らかになった事実を用いることができ,新たな作業は要しなかったものと推察される。しかし,本件スキームのインシュアード以外の関係者の責任を追及するには,未竣工物件の購入や物件融資など本件スキームでは本来許されていない取引が行われていたという第1委任契約に基づいて行われた訴訟から明らかになる事情にとどまらず,LTAPPレイシオの不正操作の方法,本来早期償還が行われるべきであった時期,その時点での被告の資産状況,現時点での被告の資産状況,各関係者の関与の程度,中央青山への監査依頼の契約内容,実際の監査の方法,不正取引及び不正操作の見落としを債務不履行,もしくは不法行為と構成できるかという法的考察,根拠となる事実の調査など,第1委任契約に基づく訴訟とは異なる問題点の検討や事実の調査などが必要になるといえ,相当数の時間がかかるものと推察される。また,意見書の内容や添付資料から,直ちに,請求時間数の2分の1程度で作成できたと認めることはできないし,原告の仕事の仕方や,本件以外の仕事をどの程度行っていたか明らかとはいえない本件では,時間数が過大であるとして請求時間の2分の1程度の作業しかできなかったであろうと推認することもできない。
(3) したがって,前記(1)で認定した契約外請求に対する支払分についてのみ,原告は法律上の原因なく利得したものと認められ,第2委任契約の弁護士費用として支払われた金額のうち,901万1000円が原告の不当利得になる。
5 争点(4)
(1) 原告が未払報酬として請求するもののうち,第1委任契約の原告主張未払報酬金等のうち,インシュアードとの和解に基づく成功報酬(428万4000円消費税相当額を含む),ケイミックスに対する勝訴の成功報酬(213万3589円消費税相当額を含む),別紙未払一覧表①「インシュアードキャピタル及びその他の取引業者に対する責任追及」中,裁判の出廷日当及びリビングクリエイトに対する強制執行の着手金及び報酬金と,第3委任契約の報酬金が未払であることは争いがない。第1委任契約の経費については,証拠(甲52の1から8)によれば,平成17年5月から12月までの間に,経費として126万4696円が発生していることが認められる。被告はタクシー代が高額である点などを問題とするが,深夜の帰宅などのために必要がないとはいえず,額が高いという理由のみで経費ではないと認めるのは難しい。
したがって,第1委任契約の未払報酬金等858万5285円と第3委任契約の未払報酬金等31万2952円の合計889万8237円については,原告の主張が認められる。
(2) 第2委任契約の未払報酬金については,該当期間の請求書(乙18から乙21)によっても,作業内容は法的アドバイスとあるだけで,具体的作業の内容は明らかではなく,未払報酬金等の発生を認めるには足りない。
6 まとめ
被告の反訴が提起されたため,原告の債務不存在確認は訴えの利益がない。
原告の未払報酬債権は889万8237円の限度で認められるが,原告は,これを自働債権とし,951万3010円の預かり金返還請求権を受働債権と対当額で相殺する旨の意思表示をしているので,本件請求のうち金銭請求については理由がない。被告の不当利得返還請求権は2310万2000円(1409万1000円+901万1000円)の限度で認められるから,反訴請求には,これと遅延損害金を求める限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺真理)
〈以下省略〉
*******
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。