【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(60)平成24年10月31日 東京高裁 平24(ネ)763号 各損害賠償等請求控訴事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(60)平成24年10月31日 東京高裁 平24(ネ)763号 各損害賠償等請求控訴事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕

裁判年月日  平成24年10月31日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ネ)763号
事件名  各損害賠償等請求控訴事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2012WLJPCA10316006

要旨
◆被控訴人の従業員であった控訴人らが、リソース・アクション・プログラム(RAプログラム)により任意退職するよう退職勧奨を受けたため、本件各退職勧奨は違法であるなどとして、損害賠償を求めたところ、原審で各請求を棄却されたため、控訴した事案において、RAプログラムの目的及び対象者の選定方法は、基本的には不合理とはいえず、定められた退職勧奨方法及び手段自体が不相当ともいえない上、控訴人らが対象者に選定されたことも不合理とはいえず、恣意的な評価を前提に控訴人らが対象者に選定されたとか、選定の前提となる評価に裁量の逸脱・濫用があったとは認められず、また、退職勧奨が、退職に関する控訴人らの自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、控訴人らの退職についての自由な意思決定を困難にするものとも認められないから、控訴人らの退職に関する自己決定権が侵害されたとは認められないとして、控訴を棄却した事例
◆退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思決定を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有し、使用者は、当該退職勧奨を受けた労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負うとされた事例

裁判経過
第一審 平成23年12月28日 東京地裁 判決 平21(ワ)17789号・平21(ワ)41390号 損害賠償等請求事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕

出典
労経速 2172号3頁

評釈
國武英生・法時 86巻8号130頁
勝井良光・ビジネスガイド 783号63頁
原俊之・労働法学研究会報 2563号22頁
矢野昌浩・法セ 704号117頁
岡芹健夫・労経速 2172号2頁
榎本英紀・ジュリ増刊(実務に効く労働判例精選) 125頁
正木順子・Libra 14巻5号54頁
國武英生・法セ増(新判例解説Watch) 15号291頁

参照条文
民法709条
民法710条

裁判年月日  平成24年10月31日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ネ)763号
事件名  各損害賠償等請求控訴事件 〔日本アイ・ビー・エム事件〕
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2012WLJPCA10316006

控訴人 X1
控訴人 X2
控訴人 X3
控訴人 X4
上記4名訴訟代理人弁護士 鍛治利秀
同 大熊政一
同 山内一浩
同 並木陽介
同 細永貴子
同 水口洋介
同 今泉義竜
同 本田伊孝
同 穂積剛
同 岡田尚
同 小池拓也
被控訴人 Y株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 牛島信
同 小島健一
同 高橋健一
同 山中力介
同 柳田忍
同 菱田彩子
同 前田直哉

 

 

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。
2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

 

事実及び理由

第1  控訴の趣旨
1  原判決を取り消す。
2  被控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ330万円及びこれらの各金員に対する控訴人X1、同X2及び同X3については平成21年6月6日から、控訴人X4については平成21年11月21日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  仮執行宣言
第2  事案の概要(略語は、新たに定義しない限り原判決の例による。以下、本判決において同じ。)
1  被控訴人は、平成20年10月ないし12月(平成20度第4四半期)、任意退職者に対して通常の退職金に加えて特別加算金を支払い、再就職支援サービス会社によるサービスを提供することなどを内容とする「特別セカンドキャリア支援プログラム」(特別支援プログラム)を、「2008 ○○プログラム」(○○プログラム)に基づいて実施し、被控訴人の従業員であった控訴人らは、それぞれ○○プログラムに基づいて、特別支援プログラムにより任意退職することにつき退職勧奨(本件各退職勧奨)を受けた。本件は、控訴人らが、本件各退職勧奨は、退職に関する控訴人らの自由な意思決定を不当に制約するとともに、控訴人らの名誉感情等の人格的利益を侵害した違法な退職強要であり、控訴人らは、本件各退職勧奨により、それぞれ精神的苦痛を被ったと主張して、いずれも不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自330万円(慰謝料300万円に弁護士費用相当額30万円を加算した金額)及びこれに対する不法行為の日より後である本件訴状送達の日の翌日(控訴人X4について平成21年11月21日、その余の控訴人らについて同年6月6日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  原審は、控訴人らの請求をいずれも棄却した。
当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも棄却すべきものと判断した。
3  前提事実(争いのない事実並びに原判決掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)、争点及び争点に対する当事者の主張は、次のとおり改め、当審における当事者の補足的主張を後記4のとおり加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2~4(原判決3頁6行目~36頁9行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)  原判決5頁末行末尾に改行して次のとおり加える。
「ただし、△△評価は、従業員間の相対的な貢献度を計るものであるため、同じ職位(後記(3)のバンド)で、似たような職務内容の社員と比較して、その年のY社の総合的な成功に対する従業員の貢献度を評価することとされており、△△評価の説明(書証〈省略〉)には、『相対的貢献度』の場合、ラインマネージャーは誰がその年に最も高いレベルで業績をあげたかを決めなければならない旨の記載がある。なお、△△では、ラインマネージャーは、人事管理の重要性を認識し、人事管理業務に関する目標を立てることが求められていた。」
(2)  原判決6頁4~5行目の「運用していた」の次に「。」を加え、5行目の「のに対し、新たな△△評価の運用では」から10行目末尾までを次のとおり改める。
「A~Dの定義は、順次、『極めて優れた業績を示した』、『職務の要求どおりの業績を示した』、『いくつかの面で不十分な業績であった』、『不十分な業績であった』とされていた。
これに対し、新たな△△評価は、従業員間の相対的な貢献度を計るため、評価を5段階に変更し、次のとおり、相対評価であることを明確にして再定義したものである。
〔1 最大の貢献度を達成〕
卓越した成果を達成し、特に際だった貢献をあげている
Y社 Valueを真に体現できている社員
〔2+ 平均を上回る貢献度〕
職務上の責任を上回る成果、多くの同僚と比較して優れた業績をあげている
業績・貢献の範囲と影響を拡大している
〔2 着実な貢献〕
職務上の責任を遂行している
確実に結果を出している
知識、スキル、効果性、イニシアチブを発揮している
〔3 貢献度が低く、業績の向上が必要〕
他の同僚と比較して、
職務上の責任を十分に遂行していない、または遂行してはいるが目立った成果をあげていない
知識、スキル、効果性、イニシアチブをあまり発揮していない
△△ 3評価が連続した場合、業績の抜本的な向上が必要
〔4 極めて不十分な貢献〕
必要な知識やスキルを発揮、または活用していない
職務上の責任を遂行していない
連続して△△ 3評価を受けたが、目立った業績の向上が見られない
早急に顕著な業績の向上を示し、それが継続されなければならない
業績の向上が示されない場合には所定の業績向上のための措置が実施される
段階ごとの評価分布は、1が10~20%、2+と2が合計65~85%、3と4が合計5~15%とされ、その幅の中で被控訴人の業績に応じて変動することとされており、毎年度、評価分布が示されることとされていた。」
(3)  原判決6頁25行目の「バンド2から10までを設定する。」の次に「各バンドには、それぞれ必要とされる能力の定義がされており、」を加える。
(4)  原判決8頁25行目の「安心感」の前に「少しでも」を加える。
(5)  原判決10頁5行目の「反することは」を「反するようなことは」に改める。
(6)  原判決10頁23行目の「その結果を」の次に「HRパートナーに」を加える。
(7)  原判決12頁11行目の「ご判断を」を「ご判断」に改める。
(8)  原判決16頁19~20行目の「違法な退職強要である。」を「違法な退職勧奨であり、控訴人X1の退職に関する自由な意思決定を不当に制約するとともに、控訴人X1の名誉感情等を違法に侵害したものである。」に改める。
(9)  原判決18頁12~13行目の「違法かつ不当な退職強要である。」を「違法かつ不当な退職強要であり、控訴人X2の退職に関する自由な意思決定を不当に制約するとともに、控訴人X2の名誉感情等を違法に侵害したものである。」に改める。
(10)  原判決19頁14行目の「侵害する違法な行為である。」を「侵害して控訴人X3の退職に関する自由な意思決定を不当に制約するとともに、控訴人X3の名誉感情等を違法に侵害したものである。」に改める。
(11)  原判決23頁2~3行目の「違法かつ不当な退職強要である。」を「違法かつ不当な退職強要であり、控訴人X2の退職に関する自由な意思決定を不当に制約するとともに、控訴人X2の名誉感情等を違法に侵害したものである。」に改める。
4  当審における当事者の補足的主張
(1)  違法性判断基準について
〔控訴人ら〕
退職勧奨は、事実行為としての合意解約の申入れにすぎず、労働者には、退職勧奨に応じて理由や条件を詳細に聞く義務がないが、使用者と労働者は、現実には人事上の権限や職務上の上下関係から対等な立場にはないことから、実質的には、不当な圧力の下で労働者の自由な意思形成を不当に制約する強制強要になりかねないものであり、労働契約法3条1項、4項に照らせば、人事上の権限や職務上の上下関係を利用しての執ような退職勧奨は違法である。
本件では、第1に、被控訴人に1300人もの退職勧奨を行う経営上の必要性があったか、第2に、使用者が労働者の自由意思を尊重する配慮義務を尽くしたか、第3に、退職勧奨行為の手段・方法が社会通念上の相当性を逸脱し、自由な意思決定を不当に制約したかが問題とされるべきところ、上記第1の点については、その必要性はなかったから、より一層労働者の自由意思の尊重が求められ、上記第2の点からは、組織的に管理職を動員して退職勧奨を実施したことが重要であり、上記第3の観点からは、次のいずれかの要素があれば違法と評価されるべきである。
① 労働者が退職の意思のないことを明確に通知していたこと
② 退職しない意思を明示した後も退職勧奨が続けられたこと
③ 退職勧奨の回数や時間などが執ようであったこと
④ 労働者の名誉感情を傷つけたこと
⑤ 労働者の人格権を侵害していること
⑥ 手段・方法が粗暴な言動があったこと
⑦ 労働者に困惑や不安を生じさせたこと
⑧ 退職勧奨を拒否したら不利益取扱い(人事上のマイナス評価、担当職務が存在しない、業務改善の研修の実施等)をされたことないし示唆されたこと
以上と異なり、原判決が示した違法性判断基準は、使用者と労働者との圧倒的な格差を無視した基準となっている。また、原審では控訴人らの業務成績及び業務能力について審理が尽くされていないのに、原判決が示した違法性判断基準は、控訴人らの業績が不良であるとの前提に立っており、偏見に基づくものであって、不当である。
〔被控訴人〕
原判決の示した違法性判断基準は正当である。また、原審では、控訴人らの業務成績及び業務能力について十分な審理が行われており、原判決が示した違法性判断基準が控訴人らの業績不良を前提としていることが偏見に基づいているとの控訴人らの主張は理由がない。
(2)  ○○プログラムの合理性について
〔控訴人ら〕
平成20年度の被控訴人の業績は、前年度と同様、好調(経常利益は平成19年度で1644億円、平成20年度で1626億円)であったから、業績悪化は虚偽であり、1300人もの任意退職の必要性はなかった。ところが、○○プログラムでは、△△評価3又は4の評価割合を最高の15%に設定し、その従業員を対象者として選定し、対象者数を恣意的に増やして3500名とし、その4割という高比率で退職させることを目標とした。また、○○プログラムは、退職勧奨者の上司であるラインマネージャーに、目標を達成できなければ「結果責任」を問われるという圧力をかけ、従業員の「キャリアも限界」と決めつけた上、退職しない従業員の再生措置についても記述していない従業員を退職に追い込むための施策であり、解雇もやむを得ない従業員については、法務担当であり弁護士であるB取締役を同席させて実施された。そのため、建前上は退職強要を禁止すると言いながら、実際には、△△評価と賃金の減額調整という不利益を強調し、今後のキャリアの可能性がないとして、従業員が業務改善を図る可能性をも否定する大規模な退職強要が行われ、その結果、最も弱い立場にあるメンタル疾患者が集中攻撃を受け、大量に退職する結果となった。そして、被控訴人は、結果責任の圧力をかけることにより、これを容認していたのであるから、故意の不法行為・安全配慮義務違反があるというべきであり、その態様は悪質である。
○○プログラムが従業員を退職に追い込むための施策であったことは、それが現在でも被控訴人において行われ、退職に応じない従業員が「ビジネス推進」という部署に送られて、報復措置と一つになった「プロジェクトフェニックス」という施策により退職に追い込まれていること(書証〈省略〉)からも分かる。
〔被控訴人〕
本件では、被控訴人のラインマネージャーらが控訴人らの自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為や言動を取った事実がなかったから、○○プログラムなど被控訴人の人事施策自体の当否は、問題にならない。また、○○プログラムは、原審で主張・立証したとおり、適切に立案、計画、実行されたものである。さらに、被控訴人の現在の施策に関する控訴人らの主張は、その根拠である「ビジネス推進状況報告」(書証〈省略〉)に平成20年に実施された○○プログラムについての言及が一切なく、控訴人らが「ビジネス推進」に所属した事実もないから、本件とは関連がなく、「ビジネス推進」という部署に関する主張も事実無根で理由がない。
(3)  控訴人らに対する退職勧奨の違法性について
〔控訴人ら〕
本件各退職勧奨の違法性を否定した原判決の判断は、前提事実を誤認し、又は、その評価を誤ったところに基づくものであって、誤っている。特に、原判決は、控訴人らの業務能力及び業務成績が低かったことを前提にした判断をしているが、その判断は誤っている上、原審では控訴人らの業務能力及び業務成績について審理が尽くされていないから、その判断は控訴人らにとって不意打ちであり許されない。
〔被控訴人〕
原判決の前提事実の認定・評価に、控訴人ら主張の誤りはなく、本件各退職勧奨に違法性はない。また、控訴人らの業務能力及び業務成績についての原判決の判断にも誤りはなく、原審では、控訴人らの業務成績及び業務能力についても、十分な審理が行われている。
第3  当裁判所の判断
1  争点1(本件各退職勧奨の違法性の有無)について
(1)  退職勧奨とその違法性について
労働契約は、一般に、使用者と労働者が、自由な意思で合意解約をすることができるから、基本的に、使用者は、自由に合意解約の申入れをすることができるというべきであるが、労働者も、その申入れに応ずべき義務はないから、自由に合意解約に応じるか否かを決定することができなければならない。したがって、使用者が労働者に対し、任意退職に応じるよう促し、説得等を行うこと(以下、このような促しや説得等を「退職勧奨」という。)があるとしても、その説得等を受けるか否か、説得等に応じて任意退職するか否かは、労働者の自由な意思に委ねられるものであり、退職勧奨は、その自由な意思形成を阻害するものであってはならない。
したがって、退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有し、使用者は、当該退職勧奨を受けた労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負うものというべきである。
控訴人らは、本件各退職勧奨が、退職に関する控訴人らの自由な意思決定を不当に制約した点で違法であり、控訴人らは本件各退職勧奨により損害賠償に値する精神的苦痛を被ったと主張するので、本件各退職勧奨の態様が上記限度を逸脱し、控訴人らの退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるか否かについて検討する。そして、本件各退職勧奨が控訴人らの退職に関する自己決定権を侵害するものとはいえないとしても、その具体的な言動の態様において、控訴人らの名誉感情等の人格的利益を違法に侵害したと認められる場合には、被控訴人は、これに基づく控訴人らの精神的苦痛等につき、不法行為責任を負うことになるので、この点についても検討する。
(2)  ○○プログラムの合理性と本件各退職勧奨の違法性について
本件各退職勧奨が○○プログラムに基づいて行われたことは、当事者間に争いがなく、○○プログラムが、特別支援プログラムを実施する目的で、その対象者の選定及び退職勧奨の手段・方法を定めたものであったことは、前記引用に係る原判決が前提事実(前記のとおり改めたもの。以下引用する原判決について同じ。)として認定したとおりである。そして、控訴人らは、そもそも○○プログラムが必要性を欠き、対象者の選定や退職勧奨の手段・方法においても不当なものであったと主張するのに対し、被控訴人は、本件各退職勧奨においては、ラインマネージャーらが控訴人らの自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為や言動を取った事実がなかったから、施策自体の当否は問題にならないと主張する。
しかし、退職勧奨の目的や選定の合理性の有無は、退職勧奨行為の態様の一部を構成するものであり、退職勧奨が合理的な目的を欠く場合や、対象者を恣意的に選定して行われた場合は、そのような事情を労働者が知っていたというような例外的な場合でない限り、労働者は、自らの置かれた立場を正確に理解した上で退職するか否かの意思決定ができたということはできないので、そのような退職勧奨行為は、原則として、自由な意思形成を阻害するものというべきである。
そして、本件では、個別の事案に共通する目的と対象者の選定並びに退職勧奨の方法が○○プログラムに定められ、控訴人らは、その共通の目的並びに選定及び退職勧奨の方法の合理性・相当性を争っているのであるから、これについて検討する必要がある。
(3)  ○○プログラムの合理性・相当性について
ア 認定事実
○○プログラムの合理性・相当性について当裁判所が認定した事実は、次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1(1)ア(原判決36頁13行目~40頁15行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決37頁3行目の「必要があると判断し、」の次に「人事部において、労務部や法務部など他の部門の協力の下、」を加える。
(イ) 原判決37頁8行目の「特別支援金」を「加算金(特別支援金)」に改める。
(ウ) 原判決37頁17行目の末尾に「これは、多数の従業員に応募してもらえるような魅力のあるプログラムとなるよう、再就職支援の内容を充実させたものであった。」を加える。
(エ) 原判決37頁21行目の末尾に「なお、○○プログラムは、被控訴人の子会社を含めて実施されたものであり、以下で認定する人数は、○○プログラムが実施された子会社を含めたものであり、前提事実記載の被控訴人の従業員数とは異なる。」を加える。
(オ) 原判決37頁23行目の「被告は」の次に「、当時の経済状況などを踏まえ、」を加える。
(カ) 原判決38頁11行目末尾に改行して次のとおり加える。
「 なお、平成20年度の△△評価は、被控訴人の業績を踏まえ、△△評価3及び4の評価分布を最高の15%に設定することとされており、上記『ボトム15%として特定された社員』は、業績が改善しない場合、同年度の△△評価が3又は4とされることが予定されていた。また、当時の被控訴人の従業員数は約2万2000人であり、その15%に相当する人数は3300人で、ほぼ特別支援プログラムの応募者予定数1300人の約2.5倍(3250人)に匹敵する。」
(キ) 原判決40頁12行目の「しかし、」の次に「徐々に対象者を増やし、対象者が3500人になった段階で」を加える。
イ ○○プログラムの目的の合理性
(ア) 前記引用に係る原判決が認定した事実(前提事実を含む。以下、引用する原判決の認定事実について同じ。)によれば、被控訴人は、従前から任意退職プログラムを実施していたが、平成20年度第2四半期の業績不振に加え、同年9月のリーマンショックにより経営環境の見通しが不透明となる中で、本件企業文化(「ハイ・パフォーマンス・カルチャー」〈従業員一人ひとりが自らの業績を向上させる努力を怠らず、また、被控訴人も従業員に対して、従業員自らの業績向上のための努力を求めるという企業文化〉)を一層推進する必要性も相俟って、第4四半期に、より大規模な任意退職プログラムを実施することとし、当時の経済状況などを踏まえて、応募者予定数を1300人とし、多数の従業員に応募してもらえるよう、その支援の内容を、年収総額ベースで15か月分の退職金加算と被控訴人の費用負担による無期限で再利用の可能な再就職支援などとし、これを実施する目的で○○プログラムを策定したものである。
(イ) 控訴人らは、平成20年度の被控訴人の業績は、前年度と同様、好調であったから、業績悪化は虚偽であり、○○プログラムによって1300人もの任意退職を得る必要性はなかったと主張する。
平成20年9月のリーマンショックによって、世界経済の見通しが著しく不透明となったことは公知の事実である。被控訴人も、平成20年度に減収にはなっており、その幅が小さかったとしても、当時の不透明な経済情勢の中で、被控訴人が、その後に生じる減収の程度を予測できたと認めるに足りる証拠はないから、第2四半期に従前より大規模な任意退職プログラムを計画したことが合理性を欠くとは認められない。また、特別支援プログラムは、一方的な解雇ではなく、任意退職プログラムであり、年収総額ベースで15か月分の退職金加算と被控訴人の費用負担による無期限で再利用も可能な再就職支援を含む支援の内容は、客観的にみて、事情によって、自由な意思で任意退職を選択する動機となり得る条件を提示するものといえるから、これにより退職勧奨を試みることが許容されないとはいえない。また、1300人という人数は、不透明な経済情勢の中で本件企業文化を一層推進する必要性も相俟って定められたものであるところ、本件企業文化は、人事施策の方針として不当なものとはいえないから、それを評価の基準としたり、一層の推進のために従業員に対する指導を強化することには合理性が認められる。
しかし、1300人という人数は、従業員数2万2000人の約5.9%に相当し、約17人に1人もの従業員が任意退職することを予定するものである。その人数は、当時の経済状況などを踏まえて定められたというものの、経済状況を具体的に分析・検討した上で必要不可欠とする人数として、設定されたと認めるに足りる証拠はなく、整理解雇に準じるような事情はない。そして、当時の不透明な経済情勢の中で、整理解雇に準じるような事情がないのに、従業員が特別支援プログラムの条件を動機として継続雇用より任意退職を選択する可能性は、さほど高いものであったとは考えられず、個人の置かれた状況次第で退職を選択することがあり得るというものにすぎなかったと解される。
以上によれば、リーマンショック後の経済情勢を前提とすれば、○○プログラムの目的が合理性を欠くものであったとはいえないが、1300人という人数の達成は、応募者の自由な意思決定を必要不可欠の前提としていたというべきである。
ウ ○○プログラムにおける対象者の選定基準の合理性
(ア) 前記認定事実によれば、○○プログラムでは、それまでの経験に基づいて無理なく応募者予定数を確保するため、退職勧奨の対象者数を、応募者予定数の2.5倍(3250人)~3倍(3900人)と設定し、その選定基準については、業績の下位15%(3300人)として特定された従業員のうちY社グループ外にキャリアを探して欲しい者を基本とし、5つの条件を付加的に設定したものである。そして、平成20年度の△△評価は3及び4の評価分布は15%とされていたことから、業績の下位15%として特定される従業員は、業績が改善しない場合には、平成20年度の△△評価が3又は4となることが見込まれていた。
(イ) 控訴人らは、○○プログラムにおける対象者の選定方法が、△△評価を3又は4とする従業員を最高の15%に設定し、これらの者を対象者として選定し、対象者数を恣意的に増やして3500人とし、その4割という高比率で退職させることを目標としているから、不当であると主張する。
前記認定事実によれば、△△の評価分布は、被控訴人の業績が反映されるものであり、前記認定の当時の経済情勢を前提にすれば、被控訴人が、3及び4の評価分布を最高の15%に設定したことについて、経営判断としての合理性を直ちに否定することはできない。また、業績の低さを基準として対象者を選定することは不合理とはいえないし、△△の定義に照らせば、その業績の低さが、2(着実な貢献)に及ばず、3(貢献度が低く、業績の向上が必要)又は4(極めて不十分な貢献)と見込まれるかを基準とすることも不合理とはいえない。3500人という多数の従業員を対象者としたことについても、過去の経験を踏まえ、2.5~3倍という余裕を考えてのことであり、不合理であったとまではいえない。
もっとも、上記の基準は、約17人に1人の従業員(1300人)から任意退職を得るために、6~7人に1人の従業員(3250人〔2.5倍〕~3900人〔3倍〕)を対象者とし、その対象者の2~3人に1人から同意を得ようとするものである。そして、これほど多くの従業員に退職勧奨を行わなければ無理なく応募予定者を達成できないのは、その人数が1300人と設定されているからである。したがって、○○プログラムは、リーマンショック後の不透明な経済情勢の中で、多数の従業員に、継続雇用に対する不安を生じさせるおそれのあるものであるから、退職勧奨を受けるか否かについて、対象者の自由な意思が十分に尊重される必要があったというべきである。
エ ○○プログラムにおける個別の退職勧奨の方法及び手段の相当性
(ア) 前記認定事実によれば、○○プログラムに基づく退職勧奨は、部門ごとに、割り振られた数の対象者を選定し、ラインマネージャーが面談という方法で行うこととされ、伝達事項には、①特別支援プログラムについて、特別に用意された充実した経済的支援であること等を(伝達事項1)、②対象者の業績について、被控訴人がキャリアも限界と判断しており、業績の改善がなければ、平成20年度の△△評価が3又は4となること等を(伝達事項2)、含めることとされており、基本的な留意事項として、退職強要はできず、飽くまで対象者の「自由意思」によることが掲げられ、面談の具体的かつ詳細な注意事項が示されて、ラインマネージャーに対し、面談の方法についての講義や面談研修が実施された。Cは、ラインマネージャーを招集した会議で、予定数の確実な達成を求めて、対象者の数を割り振り、「予定数の達成が、我々リーダー一人ひとりのaccountability(結果責任)となります。」として、○○プログラムを伝達した(以下、この伝達された責任を、かぎ括弧を付して「結果責任」という。)。
(イ) 控訴人らは、「結果責任」の伝達について、被控訴人が、ラインマネージャーに、目標を達成できなければ「結果責任」を問われるという圧力をかけ、対象者を退職に追い込むためのものであったと主張する。
これに対し、Cは、「結果責任」を伝達したのは、部門長が、人事施策である○○プログラムについても、営業と同様、真剣に取り組むことを期するためであった旨、前記認定に沿う供述をするところ(証拠〈省略〉)、この供述は不自然なものではなく、被控訴人が、割振単位となった部門全体のラインマネージャーばかりでなく、下位のラインマネージャーにまで「結果責任」を周知徹底したと認めるに足りる証拠もない。そして、他に「結果責任」の伝達が、対象者を退職に追い込むための手段として行われたと認めるに足りる証拠はない。
もっとも、被控訴人のラインマネージャーは、人事管理業務の重要性を認識し、△△目標を立てることを求められていたものである。また、被控訴人が、平成20年11月7日、代表者名義及びC名義で、広く社員に宛てて、本件企業文化の一層の推進についての文書(書証〈省略〉)を発したことは、前記引用に係る原判決が前提事実として認定したとおりであるところ、これらの文書は、被控訴人が、本件企業文化の観点から業績評価を行うことや、従業員に対する指導を強化することを周知する内容となっており、被控訴人は、当時、本件企業文化の一層の推進を社内に徹底しようとしていたことが認められる。このような状況において、ラインマネージャーに退職勧奨を担当させた場合、仮に「結果責任」が周知徹底されていないとしても、ラインマネージャーの中には、自己の業績向上のため又は自己の業績評価を懸念して、対象者の自由な意思形成よりも応募者予定数の実現を優先し、職務権限を背景に、恣意的な業績評価や過剰な説得をする者があるのではないかという危惧が生じるのは当然のことである。○○プログラムに基づく退職勧奨は、3か月弱の間に、多くのラインマネージャーによって3500人に上る多数の従業員に対して行われ、不透明な経済情勢の中で、予定よりも早く、従業員の約17人に1人が任意退職したものであり、その結果から判断しても、上記の危惧は当然のことというべきである。
しかし、被控訴人には、業績評価の客観性を確保する基準としての△△が存在し、従業員に厳しいコンプライアンス教育が施されていたことは、前記引用に係る原判決が認定するとおりである。また、面談は、基本的に当事者が合意しなければ実施できないものであるし、○○プログラムには、面談の留意事項として、退職強要は許されず、対象者の「自由意思」を尊重することが掲げられ、具体的かつ詳細な注意事項が示されて、講義や面談研修も施されていたのは、前記のとおりであり、これらの措置は、個別の退職勧奨が、対象者の自由な意思形成を促す限度で行われ、法的に正当な業務行為として許容されるように慎重に配慮されたものと認められる。そして、このような配慮に従って、業績評価の客観性が確保され、面談の留意事項が遵守されるのであれば、○○プログラムの退職勧奨に基づく説得は、自由な意思形成を促す行為として社会的に許容される範囲を逸脱するものになるとは解されない。そこで、個別の事案において、実際に業績評価の客観性が確保され、面談の留意事項が遵守されたか否かが問題となる。
(ウ) 控訴人らは、上記退職勧奨の方法について、退職勧奨の対象となる従業員の「キャリアも限界」と決めつけ、再生措置を記述していない従業員を退職に追い込むための施策であり、従業員が業務改善を図る可能性を否定して大規模な退職強要がされたと主張する。
「キャリアも限界」というのは、特別支援プログラムに関する伝達事項1と共に伝達される伝達事項2についての主張であるが、伝達事項2は、被控訴人がキャリアも限界と判断しており、業績の改善がなければ、平成20年度の△△評価が3又は4となるというものであり、業務改善を図る可能性を否定して、限界と決めつける趣旨のものとはいえない。そして、○○プログラムは、業績の下位15%とY社グループ外にキャリアを探して欲しい社員とを基本的な選定基準とするから、その時点で、被控訴人が対象者に対し、伝達事項2のような評価をし、それを理由に退職勧奨をすることにはなるが、理由も条件も告げずに退職勧奨をするのでは、いたずらに不安を煽ることにもなりかねないから、自由な意思形成を促す上で、選択の前提となる情報として、退職勧奨をする理由(伝達事項2)とその条件(伝達事項1)とを提供することが不相当であるとはいえない。
控訴人らは、退職勧奨に応じなかった従業員の再生措置についても指摘する。この点については、退職勧奨とその後の業務改善措置とは本来は異なる問題であるが、対象者は、同一の上司から、同一の業績評価の見込みに基づいて、一方で退職を促され、他方で業務改善を求められることになり、しかも、業績評価の告知や業務改善措置は、従業員の意思にかかわらず、被控訴人が一方的に行うことのできるものである。そして、○○プログラムが実施されていた平成20年度第4四半期には、本件企業文化の一層の推進が社内に周知徹底され、従業員の指導が強化されていたことは、前記認定のとおりであるから、業績評価の告知や業務改善措置の態様によっては、対象者の退職に関する自由な意思形成に影響を及ぼすおそれがあることは否定できない。
(エ) なお、控訴人らは、解雇もやむを得ない従業員については、法務担当であり弁護士であるB取締役を同席させて面談が実施されたとか、最も弱い立場にあるメンタル疾患者が大量に退職する結果となったと主張するが、これらはそれぞれ個別の退職勧奨の問題であって、○○プログラム自体の問題ではない。
また、控訴人らは、被控訴人においては、○○プログラムが現在も行われ、退職に応じない従業員が退職に追い込まれているなどとも主張するが、本件で問題となる○○プログラムは、平成20年第4四半期に実施された「2008 ○○プログラム」であり、それが平成20年12月7日に終了したことは、前記認定のとおりである。被控訴人において、その後も何らかの人事上の施策が実施されているとしても、当該施策と○○プログラムとが関連していると認めるに足りる証拠はなく、本件各退職勧奨との間に関連性があるとは認められない。
オ まとめ
以上のとおり、○○プログラムの目的及び対象者の選定方法は、基本的には不合理なものとはいえず、定められた退職勧奨の方法及び手段自体が不相当であるともいえない。したがって、被控訴人が控訴人らを選定し、退職勧奨を試みたことについては、①その個別の選定に合理性を欠いていたか否か、②その具体的な退職勧奨の態様において、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱していたか否かが問題となる。
控訴人らは、上記①の個別の選定の合理性について、原審における審理の不足を指摘するが、既に説示したとおり、○○プログラムによる対象者の選定は、業績の下位15%を基本とする広範なものであり、△△評価3及び4の評価分布が最高の15%に設定された平成20年度には、その余の年度に2の評価を受けたり、自己の目標を達成した通常の従業員でも、相対的に下位15%と評価されることが十分あり得る。また、被控訴人は、当時、本件企業文化の一層の推進という観点から業績評価を行うことを社内に周知徹底しているところ、その観点が従業員の評価の観点としては不当なものとはいえないことは、前記説示のとおりである。そうすると、選定に合理性を欠いていたか否かは、上記の相対評価と人事施策方針の下で、業績評価の客観性が確保されているか、すなわち、業績評価に恣意的評価あるいは裁量の逸脱・濫用があるか否かによって判断されるべきものというべきであり、その判断に必要な審理は尽くされているものと解される。
そして、○○プログラムに基づく退職勧奨は、対象者の自由な意思を十分に尊重する態様で行われるべきこと、個別の事案の問題としては、業績評価の客観性が確保され、面談の留意事項が遵守されたか否かが問題となり得ること、業績評価の告知や業務改善措置の態様によっては、対象者の退職に関する自由な意思形成に影響を及ぼすおそれがあることは、前記説示のとおりである。
そこで、次に、これらの点について検討する。
(4)  控訴人らに対する具体的な退職勧奨の違法性について
以上に説示したところを前提として、本件各退職勧奨について、その選定の合理性と、具体的な退職勧奨の態様の相当性を、控訴人ごとに判断する(以下ア~エの各記載においては、ア~エでそれぞれ検討する控訴人に対する退職勧奨を「本件退職勧奨」という。)。
ア 控訴人X1について
(ア) 認定事実
本件退職勧奨について当裁判所が認定した事実は、次のとおり改めるほかは原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1(2)イ(ア)(原判決45頁18行目~50頁12行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
a 原判決45頁18行目の「71、」の次に「103、」を加え、21行目~47頁9行目を次のとおり改める。
「a 控訴人X1の所属と業績の状況等
(a) 控訴人X1は、昭和56年9月、被控訴人に入社し、○○プログラムが実施された平成20年10月当時は、パワーシステム事業部の製品企画に所属していた。パワーシステム事業部は、被控訴人のシステム製品事業部門に属する四つの事業部のうちの一つであり、製品企画の業務には、営業担当者からの製品に関する質問に回答したり、営業担当者からの製品販売に関する依頼に応じてアメリカ本社との交渉を行うなど、営業部門のサポート業務(営業支援業務)が含まれていた。控訴人X1の当時の上司は、ファーストラインがD、セカンドラインがE、サードラインがFであり、Eはパワーシステム事業部全体のラインマネージャー、Fはシステム製品事業部門全体のラインマネージャーであった。なお、被控訴人の定年は60歳で、控訴人X1の60歳の誕生日は平成22年5月29日であったため、平成20年10月から1年7か月後には定年退職の予定であった。また、控訴人X1は、平成18年3月、うつ病を発症し、平成20年1月以降、在宅勤務を認められていた。
(b) 平成20年度までの控訴人X1の△△評価は次のとおりである。
平成17年(2005年) 3(書証〈省略〉)
平成18年(2006年) 2
平成19年(2007年) 2(書証〈省略〉)
平成20年(2008年) 3(書証〈省略〉)
b 控訴人X1が○○プログラムの対象者に選定された経緯
(a) Fは、平成20年10月上旬、サードラインが集まったミーティングで○○プログラムの説明を受け、システム事業部門における○○プログラムの対象者を、傘下の4事業部のラインマネージャーの意見を踏まえて決定することとし、控訴人X1が所属するパワーシステム事業部については、E及びDの意見を踏まえた上、①営業支援業務についての業績評価が相対的に低いこと、②平成22年5月に定年退職を控え、健康面での不安を抱えながら就労していることを主要な理由として、控訴人X1を対象者の1人に選定した。なお、Fが所管するシステム事業部門には、当時60数人の従業員が所属しており、特別支援プログラムの応募者予定数として10人が割り振られ、15~20人程度の従業員に対する退職勧奨が行われたが、特別支援プログラムに応募したのは、50代後半から60代の年代の3人程度であった。
(b) 上記(a)①の業績評価の具体的理由は、控訴人X1については、営業部門からの要求を断ることについての営業部門からのクレームが他の従業員よりも多いというものであり、証拠として提出されている従前の控訴人X1の△△評価には、営業支援業務について次の記載がある(「フィールド」とは営業部門である。)。
〔平成17年度(書証〈省略〉)〕
Eレビュー:我々にとってのお客様であるフィールド及びパートナー様、またその先にいるクライアントに対する価値の提供と貢献により一層フォーカスし、積極的な活動を展開することにより、更なる飛躍を遂げられることを期待しています。
控訴人X1レビュー:フィールドから見た場合、最後の駆け込み寺としての役割も担っています。この部分に注ぐエネルギーが不足していたことは自覚しています。
〔平成19年度(書証〈省略〉)〕
総合評価の理由:体調等のことを考慮しても、発表品質や対営業支援においてまだ改善の余地があったかと思います。
控訴人X1レビュー:対営業支援については、会社全体のsales skillが年々下がる中で、どこまでそれに付き合うか、と言う問題があります。会社として、全体の「会社力」というものが下がるのを防ぐ手段を講じないと、手遅れになります。私一人の対営業の態度の問題ではないことをマネージャー・レベルでも認識していただきたい。数年前では考えられないような未熟な営業員が増えています。それを周りの年長者が指導すべきなのになされていない。この現状を認識していただきたい。
上記各記載によれば、被控訴人は、控訴人X1の△△評価が2の時期においても、営業支援業務に関しては、業績の向上が必要と評価していたものであり、控訴人X1は、平成19年には、この問題を、自己の業績向上の問題ではなく、製品企画として提供すべき営業支援業務の程度の問題であると位置付け、控訴人X1一人対営業の態度の問題として評価する被控訴人に対して、抗議していたと認められる。」
b 原判決47頁10行目の「b」を「c」に改め、11行目冒頭に次のとおり加えて改行する。
「Eは平成20年10月20日、Dは同月21日、それぞれラインマネージャーのための面談研修に参加し、控訴人X1に対する面談が開始された。面談の具体的経緯は次のとおりである。」
c 原判決47頁25行目の「60歳の定年退職時の退職金等の情報」の次に「(退職金情報)」を加え、48頁4~5行目及び8行目の各「上記のとおり開示を求められた情報」及び12行目の「Eが原告X1に対して開示する予定であった上記情報」をいずれも「退職金情報」に改める。
d 原判決48頁16行目の「E」を「F及びE」に、17行目の「上記a(b)の執務態度の問題や」を「上記b(a)①の」に、23行目の「10分ないし15分程度しか経過していなかった」を「の時間は約20分であった」に、それぞれ改める。
e 原判決49頁2行目の「退職勧奨を断念した」を「退職勧奨での面談を打ち切ることにした」に改める。
f 原判決49頁12~13行目の「メール(書証〈省略〉)」を「メール(Fメール①。書証〈省略〉)」に改め、13行目の「しかしながら、」及び13~14行目の「これを謙虚に受け止めることなく、」をいずれも削る。
g 原判決49頁15行目の「メール(書証〈省略〉)」を「メール(X1メール①。書証〈省略〉)」に改め、15~16行目の「Fが原告X1に対して求める真摯な反省と業務改善への取組みを拒否する姿勢を示し、」を削り、23行目の末尾に「控訴人X1は、同月17日、支部組合に加入した。」を加える。
h 原判決50頁4行目の「実施することとし、」の次に「同年12月3日、」を、5行目の「メール」の次に「(Fメール②。書証〈省略〉)」を、8行目の「同席を求める旨」の次に「のメール(X1メール②。書証〈省略〉)及び今後のキャリアについて執行役員の時間を取る必要はない旨のメール(X1メール②’。書証〈省略〉)を」を、それぞれ加える。
i 原判決50頁10~11行目の「再度返信して原告X1を説得しようとした。なお、」を「のメール(Fメール③。書証〈省略〉)を再度返信した。当日、控訴人X1は、在宅勤務の予定であったが、上記メールを受けて、業務命令であれば伺うが、社員一人の今後のキャリアについて、面識もない執行役員との面談が必要との判断は社会常識からみて異常である旨、退職/転職の意思はない旨のメール(X1メール③。書証〈省略〉)を返信した上、面談のために出社したところ、」に改める。
(イ) 選定の合理性について
a 控訴人X1は、控訴人X1の平成18、19年度及び21年度の△△評価は2であり、平成20年度の3という評価は、退職強要の手段として行われたと主張する。
しかし、平成20年度の△△においては、その余の年度に2の評価を受けた通常の従業員が業績の下位15%と評価されることも十分あり得ることは前記説示のとおりであり、そのことから、直ちに評価の恣意性が疑われるとはいえない。また、控訴人X1は、平成17年度に3の評価を受け、評価が2の時期にも営業支援業務については業績の向上が必要という評価を受け、平成19年度には、問題を製品企画として提供すべき営業支援業務の程度問題として、個人の業績の問題として評価することに抗議していたのであるから、控訴人X1が当時提供していた営業支援業務の内容・程度は、被控訴人の要求水準からすれば、他の従業員を下回っていたと推認される。控訴人X1は、当審で提出した陳述書(書証〈省略〉)においても、在職中の業務遂行態度は一貫していたと述べており、その営業支援業務に大きな変化があったとは認められない。そして、上記のような控訴人X1の態度を、自ら自己の業績を向上する努力を怠らない態度とはいえないと評価することは、本件企業文化を一層推進しようとする人事施策方針の下では、不合理なことではなかったと認められる。
以上の事情に、FがD及びEの意見を踏まえて対象者を決定したことをも総合すると、Fが、恣意的な評価を前提として、控訴人X1を対象者に選定したと認めることはできず、他に前提となる業績評価に裁量の逸脱・濫用があったことを基礎付ける事情は見当たらない。
b そして、控訴人X1は、平成20年10月時点で19か月後に定年退職を控え、うつ病に罹患し、自宅勤務をしながら就労していたのであるから、客観的にみて、年収総額ベースで15か月分の退職金加算と被控訴人の費用負担による無期限で再利用も可能な再就職支援を含む特別支援プログラムが提示されれば、自由な意思で任意退職を選択する可能性があると考えることにも合理的な理由がある。
(ウ) 具体的な退職勧奨の態様の相当性について
a 退職勧奨の期間、回数等
(a) 前記(ア)の認定事実によれば、本件退職勧奨は、Dにおいて、平成20年10月28日に第1回面談を15分程度行い、同年11月6日に資料(書証〈省略〉)を交付し、F及びEにおいて、同月13日に第2回面談を行い、20分程度の面談がされた時点で、△△評価3という見込みの伝達に立腹した控訴人X1が、途中で席を立ったため、打ち切られたものである。
(b) 控訴人X1は、前記引用に係る原判決第2の4(1)ア(イ)のa~f(原判決14頁24行目~16頁20行目)のとおり、第2回面談以降も退職勧奨が継続されたことを前提に、その退職勧奨が執ようで違法であったと主張し、前記引用に係る原判決が、第2回面談で退職勧奨目的の面談が打ち切られたと認定したことには誤りがあると主張する。
しかし、第2回面談を担当したE及びFは、それぞれ、それ以降は、控訴人X1と特別支援プログラムの話はできないだろうと思った旨(人証〈省略〉)、業務改善を先行させることとした旨(人証〈省略〉)、前記認定に沿う供述をするところ、第2回面談以降の経緯の中で、Dら3名が特別支援プログラムや任意退職に言及したことはうかがわれない。また、Fが、控訴人X1の△△評価について3の見込みを有し、控訴人X1の態度が、自ら自己の業績を向上する努力を怠らない態度とはいえないと評価されたとしても不合理とはいえないから、雇用の継続を前提にしても、控訴人X1に対して業績評価の見込みを伝え、業務改善のための面談を求めることは、不自然ではない。そして、第2回面談以降にFが取った前記認定の行動は、①控訴人X1が△△評価の見込みに立腹して第2回面談の席を立ったにもかかわらず、その日のうちに評価3の見込みをメールで通告した、②これに反発した控訴人X1から、その日のうちに直接激しい抗議のメールを受信するとともに、翌日にはDに対する抗議がされた状況も知りながら、更に執行役員同席での面談を申し入れた、③反発を強めるとともに退職勧奨の継続を疑った控訴人X1から、組合の同席を求める申入れを受けたのに、業務上の要請であるから組合の同席は不要であり、従わないときには解雇の可能性があると明示して、面談を求めたというものであり、その態様は、○○プログラムにおける面談の留意事項や注意事項とは大きく異なり、上司として、その職務権限に基づいて業務改善を求める言動とみることが自然なものである。
したがって、前記E及びFの供述を排斥する根拠はなく、第2回面談以降の経過が業務改善を求めるものであったことを否定することは困難である。
(c) もっとも、控訴人X1に対し、退職勧奨の終了が明示的に告げられたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、Fメール①(書証〈省略〉)は、第2回面談の席を立った控訴人X1に対して、その直後に、退職勧奨の終了を明示せずに、面談で伝達した△△評価の見通しを伝達したものであり、Fメール②(書証〈省略〉)は、第2回面談が中断されているとして再度の面談を求める内容であるから、退職勧奨の継続を疑うことに理由がないとはいえない。また、X1メール①、②、②’及び③の内容からみて、控訴人X1は、実際にそれを疑っていたと認められる。従業員の誤解を招かないためにも、退職勧奨と職務権限の行使は明確に区別されることが相当であり、その点では、E及びFが上記のような状況を生じさせたことは不相当であったというほかはない。
しかし、Dによる評価の見込みの説明やFが第2回面談以降に送信したメールの内容は、控訴人X1に退職を迫るものではなく、業務改善を求めるものとして、社会通念上、許容される範囲を逸脱したものとは認められない。なお、控訴人X1は、業績評価の見込みのメールに対して、反発して抗議し、面談の求めについても、業務上の要請であることが確認されるまで拒絶し、これを確認した後、面談に応じることにしたのであって、第2回面談以降の措置を退職の意思形成を促すものとして受け止めることを拒絶していたのであるから、それが控訴人X1の退職に関する自由な意思形成に影響したと認めることはできない。
(d) 以上の事実を総合すると、第2回面談以降の経過について、違法な退職強要がされたと認めることはできない。
b 第2回面談までについて
控訴人X1は、退職勧奨と認められる第2回面談までの経緯について、第1回面談で退職意思がないことを伝えたにもかかわらず、一方的に資料を交付されたと主張し、これに沿う供述をする。
これに対し、第1回面談を担当したDは、控訴人X1から、60歳の定年まで勤めたい旨の返答があったが、すぐに判断できることではないから、しばらく考えて、次週にもう1度話を聞かせて欲しいと話すと、控訴人X1は明確な拒否態度を示すことはなかった旨(人証〈省略〉)、前記認定に沿う供述をする。
控訴人X1が、客観的にみて、特別支援プログラムが提示されれば任意退職を選択する可能性があると考えることに合理的理由があることは、前記説示のとおりである。また、控訴人X1は、資料を受領した直後に、退職金情報を書面で知らせることを求めるメモをDに交付したことを自認しており、そのような行動は、通常、定年退職と任意退職の条件を比較するための行動と推認されるものである。そうすると、メモを交付した時点において、控訴人X1には、条件次第で任意退職を選択する意思があったと認めるのが相当である。控訴人X1は、任意退職の方が条件が悪かったことから、退職金情報が提供されるはずはなく、任意退職に応じる意思がないことを示す意味でメモを交付したと主張し、これに沿う供述をしているが、第1回面談で退職意思がないことを明確に伝えたのに、その意に反して資料が提供されたというのであれば、端的に、その受領を拒むか返還すれば足り、あえて退職金情報についてメモを作成し、交付するのは不自然である。したがって、Dの供述の信用性を否定することはできず、控訴人X1が、第1回面談で明確に退職勧奨に応じない旨を表示したとは認められない。
また、上記の事情の下では、仮に、控訴人X1の内心の意思が、その主張のようなものであったとしても、Dが、控訴人X1の行動から、その内心を認識することはできなかったというべきである。
以上の事情を総合すると、第2回面談を設定するまでの経緯は、いずれにせよ、社会通念に照らして、自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱していると認めることはできない。
なお、控訴人X1が第2回面談に当たり「退職のことなら、断ったはずですが。」と発言したことは、前記認定のとおりであるが、控訴人X1は、Eから「宿題があるから。」と言われ、Eの言う「宿題」が退職金情報を意味することを認識した上で、その意思に基づいて面談に応じたことを自認している。したがって、上記の発言をもって第2回面談の設定が不相当であったと認めることもできない。
c 第2回面談について
控訴人X1は、退職勧奨と認められる第2回面談におけるEとFの言動が退職強要に当たると主張する。
第2回面談におけるEとFの具体的な言辞は、本件全証拠によっても明らかではないが、その日のうちに控訴人X1が支部組合に対して送付したメールには、「私が何を言っても『それはあなたの主観的感情にすぎない。我々は会社の客観的評価に基づいて、会社を代表して、あなたにY社以外の道を考えてはどうかと勧めているだけで、決して退職を強要してはいない。』と言い、話にならないので、『これ以上お話することはありません。』と言って席を蹴って部屋をでてきました」(書証〈省略〉)との記載がされている。
上記記載によれば、第2回面談は、少なくとも退職を強要しないことが明示されて行われ、控訴人X1が任意に面談を終了させることができたものと認められる。また、控訴人X1がその意思に基づいて第2回面談に応じており、その面談の時間も20分程度であったことは、前記認定のとおりである。これらの事情を総合すると、第2回面談において、自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱した退職勧奨がされたとは認められない。
(エ) 控訴人X1の請求について
以上によれば、本件退職勧奨が、控訴人X1の退職に関する自己決定権を侵害したと認めることはできない。また、第2回面談におけるEとFの具体的な言辞が明らかでないことは前記認定のとおりであるほか、本件退職勧奨において、控訴人X1の名誉感情等の人格的利益を違法に侵害する言動があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人X1の請求は理由がない。
イ 控訴人X2について
(ア) 認定事実
本件退職勧奨について当裁判所が認定した事実は、次のとおり改めるほかは原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1(2)ウ(ア)(原判決52頁15行目~59頁末行)に記載のとおりであるから、これを引用する。
a 原判決52頁16行目の「73、」の次に「104、」を加え、19行目~54頁7行目を次のとおり改める。
「a 控訴人X2の所属と業績の状況等
(a) 控訴人X2は、昭和58年4月、被控訴人に入社し、○○プログラムが実施された平成20年10月当時は、被控訴人のアウトソーシング事業部門の事業推進という部署の中の事業企画という部署に所属していた。アウトソーシング事業とは、顧客から情報システムの運用を請け負い、機器やソフトウェア、運用サービスを提供する事業であり、同事業について、営業部門から提案される営業活動が行うに値するものか否かを判断したり、当該営業活動のために営業部門から提案される予算を承認するか否かを判断したりするため、「ストラテジック・アウトソーシング・オポチュニティー・マネジメント・カウンシル」(SO―OMC)という会議が置かれ、控訴人X2は、このSO―OMCの運営業務を担当していた。
(b) 平成20年当時、アウトソーシング事業部門のラインマネージャーはGであり、同部門には、事業企画のほか、Hがラインマネージャーを務めるエンゲージメント・プロセスという部署が置かれており、事業企画には控訴人X2を含めて5人、エンゲージメント・プロセスには8人の従業員が配置されていた。控訴人X2の当時の上司は、ファーストラインが平成20年6月まではI、同年7月以降はJであり、Iは、このとき、事業推進のラインマネージャーとなって、控訴人X2のセカンドラインとなった。なお、事業推進は、平成21年1月、事業企画&Process推進(9人)、営業&Solution推進(9人)及びオファリング推進(13人)の3つの部門に組織が変更され(上記括弧内の人数は所属するスタッフ数)、Jはラインマネージャーではなくなって、事業企画&Process推進に所属することになり、控訴人X2は営業&Solution推進に所属することになり、ファーストラインはKとなった。(書証〈省略〉)
(c) 平成20年度までの控訴人X2の△△評価は次のとおりである。
平成17年(2005年) 2
平成18年(2005年) 2
平成19年(2007年) 2
平成20年(2008年) 3(書証〈省略〉)
b 控訴人X2が○○プログラムの対象者に選定された経緯
(a) Iは、平成20年9月末ないし10月初めころ、ラインマネージャーが出席したミーティングにおいて、○○プログラムについての説明を受け、Gから対象者を選定するよう指示を受けた。アウトソーシング事業部門に割り振られた対象者の人数は10数名で、事業推進には2人が割り振られ、Iは、J及びHと協議の上、事業企画とエンゲージメント・プロセスで各1人を目標とすることとし、事業企画については、控訴人X2の業績が事業企画に属する他の従業員に比して相対的に低いことを主要な理由として、控訴人X2を対象者として選定した。
(b) 控訴人X2の業績が相対的に低いと評価された理由は、勤続25年でバンド7に昇格して17年であり、SO―OMC運営業務を2年以上担当しているのに、その業務が日程調整や議事録の作成という事務作業を主体としており、SO―OMCにおける判断を内容面から支援するための業務が不十分であるため、他の従業員であるLが代わりに行ったり、放置されたりしているというものである。前記認定のとおり、バンドは、8以上が管理職に相当する職位であるから、バンド7は管理職直前の職位である。その必要となる能力は次のとおり定義されており(書証〈省略〉)、相当高度の業務遂行能力が要求されている。
〔Skills〕
Environment:組織またはファンクションに関係する専門知識を持つ。
Communication/Negotiation:独立したプロフェッショナルとして論理的に、かつ複数の解決案を検討することができる。特定の目的について交渉を行う。
Problem Solving:プロジェクトの障害となる問題を認知する。創造性と判断力をもって、専門的、テクニカル、運用上の問題にあたる。
分析スキルとビジネス知識に基づき、自主的に解決案を策定する。
現行の業務手続やプロセスを検証し、改善や補完するようなソリューションをつくる。
〔Contribution/Leadership〕
特別なプロジェクトへの参画、小規模のチームのリード、または組織の通常業務の管理を行う。組織のミッションやビジョンを理解し、技術面・運用面でのアドバイスを行う。
仕事の優先順位の決定や解決手段の選択をする。
〔Impact on Business/Scope〕
個人やチーム、もしくは組織の業績に責任をもつ。また、ファンクションの活動実績に影響を及ぼす。
所属組織全般に関わるプログラムの企画に参画する。
必要に応じて予算管理に責任を負う。ビジネスの目標値に従い、顧客満足度や直接的なコスト/経費に関して貢献する。
(c) なお、Jは、平成20年7月、事業企画のラインマネージャーとなった際、キャリアインタビュー(新しく就任したラインマネージャーが部下の将来のキャリアの希望などを聞くために行う面談)において、控訴人X2に対し、昇進など将来のキャリアに関する希望を聴取したが、控訴人X2が、この部門でずっと働き続けたいと答えたことから、常に向上していくことを考えるように話した。また、控訴人X2は、25年の勤続期間中17年間バンド7の職位にあり、その間、職種が変わっているが、所属長からバンド昇進の推薦を受けたことはなく、本人尋問において、バンド昇進のチャンスがあったのではないかとの質問に対し、『何でバンド昇進をしなかったのかというふうなもし質問だったとすると、私の勝手でしょうという、そういう答えになってしまうんですけれども』と供述しており、昇進についての積極性をうかがうことはできない。」
b 原判決54頁8行目の「b」を「c」に改め、9行目の冒頭に次のとおり加え、改行する。
「 Jは平成20年10月22日、ラインマネージャーのための○○プログラムに関する面談研修に参加した上で、控訴人X2に対する退職勧奨を開始した。面談の具体的な経緯は次のとおりである。」
c 原判決54頁9~22行目を次のとおり改める。
「(a) 平成20年10月23日、Jは、控訴人X2と15分程度の面談を実施した。同面談では、控訴人X2の被控訴人での今後のキャリアに関する話と任意退職に関する話がされ、控訴人X2は転職の意思がない旨を述べたが、Jは、特別支援プログラムの具体的な内容等を説明していなかったため、面談を続行する旨を控訴人X2に伝え、第1回面談を終えた。なお、第1回面談におけるJの具体的な言動とその強さについては、控訴人X2の供述とJの供述が食い違っている。」
d 原判決55頁2~24行目を次のとおり改める。
「翌24日、Jは、就業時間終了後、□□と呼ばれる社内のチャットシステムを用いて控訴人X2を呼び出し、第2回面談が実施された。第2回面談が実施された経緯についての控訴人X2とJの供述は食い違っており、第2回面談における面談の内容については、控訴人X2が作成したメモ(書証〈省略〉。本件メモ)があるが、Jは本件メモに記載された発言をしたことを否定する供述をしている。
なお、第2回面談の時間は30~40分であった。控訴人X2は、その3日後に当たる同月27日、支部組合に加入した(書証〈省略〉)。」
e 原判決55頁25行目の「上記の面談」を「第2回面談」に改め、「人事担当者」の次に「であるM」を加える。
f 原判決57頁22~23行目の「(上記a(a)及び(b))」を削る。
g 原判決58頁15行目の「、乙66、89(書証〈省略〉)」及び21行目の「原告X2は」から24行目の「そして、」までを、いずれも削る。
h 原判決59頁3行目の末尾に「(乙66、89、90)(書証〈省略〉)」を加え、8行目の「何度も」から9行目末尾までを「納得できない様子で理由を尋ね、」に改め、11~12行目の「(乙90、93)(書証〈省略〉)」を削る。
i 原判決59頁末行の「送信し」の次に「、その後、Iとの間に業績評価と退職勧奨の関係についてのメールがやりとりされ」を、「甲46(書証〈省略〉)」の次に「、乙11(書証〈省略〉)」を、それぞれ加え、末尾に改行して次のとおり加える。
「(1) Jは、平成20年12月26日、控訴人X2に対し、平成20年度の△△評価についての面談を行った。
面談において、Jは、控訴人X2が平成20年度の△△で立てていた目標のうち、総契約金額に係る目標を達成できなかったことについては、「これは皆さん同じ。残念ながら今年は部門としての達成はきびしいです。」と発言し、その他の目標については、控訴人X2が数値目標を達成したことを確認したが、その数値目標は、SO―OMCを通した案件が総契約金額に占める割合(営業成功率)を60%とすることや、エンゲージメント・プロセスの手続を五つ以上改善することなどであった。
Jは、「X2さんの活動の主体がSO―OMCのトランザクションをいかに効率良く回すかというのはわかりました。」と述べた上、「さらに貢献していただくために、回数や効率化にとどまらず、本来の目標である経営資源をいかに当て込むか、判断基準をそろえるとか、自ら判断にかかわるとか、一部、間違ったプライオリティの混乱が起きていたらそれを正すなどの踏み込んだ活動をしていただくのと、それと、コストのマネジメントもかかわってらっしゃいますが、ここもいろいろな工夫をされたりとか。」、「部門の目標達成のための貢献度という評価と、相対評価になりますので、バンド要件やチームの中での相対ですので、皆さんに良い評価がいくわけではないこともご理解いただきたい。」などと発言し、業務命令ではなく話合いの上で改善アクションを作っていけたらと考えていた旨を述べた。
これに対し、控訴人X2は、コストマネジメントは行っている旨、低い業績評価は退職勧奨の一環であり、改善アクションが必要だという前提に疑問がある旨を述べ、△△評価3についても納得がいかない旨を述べた。(書証〈省略〉)。」
(イ) 選定の合理性について
a 控訴人X2は、それまで△△評価が2で、平成20年度の△△目標も、誰も達成できなかった営業上の目標を除いては達成しているのに、△△に記載されてもいない基準に基づいて、3と評価することは許されないと主張する。
Jが、平成20年度の控訴人X2の△△目標について、全員が達成できなかった営業上の目標を除いては、数値目標が達成されていることを確認したことは、前記認定のとおりであり、控訴人X2の△△目標の達成度は他の従業員より劣っていたとは認められない。しかし、△△は、評価分布を前提とした相対評価であるから、個人の目標達成度が他の従業員に劣らないとしても、それだけで直ちに同等の評価がされるものではない。また、控訴人X2は、よほどの失敗がないと△△評価が3にはならないとの前提に立っているが(証拠〈省略〉)、平成20年度の△△においては、従前2の評価を受けていた通常の従業員が業績の下位15%と評価されることが十分あり得、前後の△△評価から直ちに評価の恣意性が疑われるとはいえないことは、前記説示のとおりである。特に、控訴人X2が所属する事業企画の従業員は5人であるから、そこから1人選定された対象者の評価が、それまで2であったとしても不自然ではない。
そして、控訴人X2については、前記(ア)b(b)のとおり、勤続25年でバンド7に昇格して17年であり、SO―OMC運営業務を2年以上担当しているのに、その業務が日程調整や議事録の作成という事務作業を主体としており、SO―OMCにおける判断を内容面から支援するための業務が不十分であることが考慮されたものであるところ、被控訴人がバンド7に対して要求する業務遂行能力は極めて高いものであり、その要求水準に照らせば、控訴人X2の当審における主張及び立証(書証〈省略〉)を前提としても、平成20年度の△△の相対評価において、被控訴人が、控訴人X2を2と評価しなければ直ちに裁量の逸脱・濫用となるような事情があるとは認められない。
なお、控訴人X2は、JはSO―OMCの業務を十分把握していないため正当な評価ができないとか、Jからの指導・注意が少なかったと主張する。しかし、控訴人X2を対象者に選定したのは、平成20年6月まで控訴人X2のファーストラインであったセカンドラインのIであり、IとJの意見が一致していたことは前記認定のとおりであるから、Jの業務把握度が、評価に係る裁量の逸脱・濫用を疑わせるものではない。また、被控訴人がバンド7の職位に要求していた高度な業務遂行能力に照らせば、Jからの指導・注意の少なさが、評価に係る裁量の逸脱・濫用を疑わせるものでもない。
そして、控訴人X2は、25年の在職期間中の17年間、管理職直前のバンド7の職位にあり、その間、所属長からバンド昇進の推薦を受けたことはなく、昇進についても積極性がうかがわれず、キャリアインタビューにおいても、この部門でずっと働きたいとの希望を述べ、常に向上していくことを考えるように言われていたのであって、上記のような控訴人X2の態度を、自ら自己の業績を向上する努力を怠らない態度とはいえないと評価することは、本件企業文化を一層推進しようとする人事施策方針の下で、不合理なものということはできない。
以上の事情を総合すると、Iが、恣意的な評価を前提として、控訴人X2を対象者として選定したと認めることはできず、他に前提となる業績評価に裁量の逸脱・濫用があったことを基礎付ける事情は見当たらない。
b ただし、控訴人X2は、それまで△△評価において、バンド7を前提にして、着実な貢献(△△評価2)という評価を受けてきたものであり、平成20年度にその業務遂行態度が特別変化した事情はうかがわれない。また、△△目標の達成度が他の従業員より劣っていたわけでもないから、仮に評価分布が15%に設定されていなければ、3の評価を受けなかった可能性が相当高い。そして、控訴人X2には、定年が近いなど、定年までの継続雇用に代えて特別支援プログラムを自由な意思で選択する特別な動機も見当たらない。そうすると、控訴人X2については、客観的にみて、特別支援プログラムの提示を受けても、自由な意思に基づいて任意退職に応じる可能性が高かったとは認められない。
(ウ) 具体的な退職勧奨の態様の相当性について
a 退職勧奨の期間、回数等
(a) 前記(ア)の認定事実によれば、本件退職勧奨は、Jにおいて、平成20年10月23日に15分程度の第1回面談を、翌24日に30~40分程度の第2回面談を行い、これらの面談の経過を踏まえ、同月29日に、I及びJが人事担当者のMと協議して、取り止められたものである。
(b) 控訴人X2は、前記引用に係る原判決第2の4(1)ア(ウ)のa~h(原判決16頁22行目~18頁13行目)のとおり、第2回面談以降、平成20年11月19日の第5回面談まで退職勧奨が継続されたことを前提に、その退職勧奨が執ようで違法であったと主張し、前記引用に係る原判決が、第2回面談で退職勧奨が打ち切られたと認定したことには誤りがあると主張する。
しかし、その後に行われた第3回面談が、控訴人X2において退職勧奨のための面談を拒否したために、Iとの間のメールのやりとりにより、雇用の継続を前提とした業務改善のための面談であることを確認した上で行われ、控訴人X2が、その確認を受けて面談に応じたことは、前記認定事実のとおりである。したがって、第3回面談が退職勧奨でなく業務改善を目的とすることは、控訴人X2とIとの間では、共通の認識であったというべきである。
また、その後の経過は、控訴人X2が、第4回面談から第5回面談の間にIからの△△評価3の見込みを通告するメールを受信し、同月19日の第5回面談において納得できない様子で理由を尋ね、同月24日の第6回面談において、業務改善プランは自分一人で策定し実行する旨を通告し、同年12月2日以降、業績評価と退職勧奨の関係についてIとの間でメールのやりとりを行い、同月24日の△△評価に関する面談においても、退職強要の手段としての業績評価であると主張して納得しなかったというものであり、同面談において、Jが、話合いの上で改善アクションを作っていけたらと考えていた旨を述べたのに対し、控訴人X2は、改善アクション自体が不要であると述べている。この経過からすると、控訴人X2は、当初は業務改善のための指導を自由な意思で受け入れたが、△△評価が3であることに納得できず、当該評価とその評価に基づく業務改善を目的とする面談が退職勧奨の手段とされていると考えて、第6回面談以降、指導を拒否したと認めるのが相当である。
控訴人X2は、勤続25年で17年間バンド7の職位にあり、それまで2の評価を受け、よほどの失敗がないと△△評価が3にはならないと考えていたのであり、業務改善の指導に任意に応じている中で、△△評価3の見込みのメールを受信した場合、全体が退職勧奨の手段とされていると感じたとしても、不自然ではない。
しかし、控訴人X2に対しては、第2回面談の終了時に、継続雇用を前提として、業務改善を図っていくこととされ、第3回面談から第5回面談は、業務改善を共通の認識として行われ、その当時においては、控訴人X2も、自由な意思で業務改善のための面談と受け止めていたものであり、被控訴人が、このような面談を退職勧奨に利用していたとか、それが退職に関する控訴人X2の自由な意思に影響したとは認められない。そして、控訴人X2が、指導を拒絶した第6回面談後、更なる業務改善の指導が行われた事実はない。
(c) なお、控訴人X2は、平成20年11月17日及び18日のミーティングが業務改善とは無関係であったと主張し、Iとの3回目の面談に関するメモ(書証〈省略〉)に「仕事の分担について Jさん、Lさん、X2で話す」と記載されているのは、Iから面談で指導されて記載したのではなく、面談の開始を待っている間に自ら記載したものであると主張する。しかし、上記記載は、メモの冒頭に面談の日時等を示した「11/12 13:00~14:00 w/Iさん @24A2」という記載の下に、Iからの指導事項と同様の体裁で記載されている上、当時、Iが、控訴人X2の業務が不十分であるため、Lが代わりに行ったりしていると評価していたことは、前記認定のとおりであるから、上記記載は、Iが、控訴人X2の業務改善のために、Eとの仕事の分担について協議するよう指導したことをメモしたものとみるのが自然であり、上記主張は採用できない。
b 第1回面談について
退職勧奨と認められる第1回面談において、控訴人X2の被控訴人での今後のキャリアに関する話と任意退職に関する話がされ、控訴人X2は転職の意思がない旨を述べたが、Jは面談を続行する旨を控訴人X2に伝えたこと、第1回面談におけるJの具体的な言動とその強さについて、両者の供述が食い違っていることは前記認定のとおりである。上記の両者の供述は、前記認定の第1回面談の話題については基本的に一致しており、キャリアに関する話が将来がないかのようなものであったか、検討を申し渡したのか、というような具体的な言動とその強さが食い違っているものである(なお、控訴人X2は、平成20年10月22日が第1回面談であったと主張し、これに沿う供述をしているが、Jは、具体的な研修日程に基づいて、同日の研修に参加した旨を供述しており(人証〈省略〉)、これを排斥する根拠はない。)。
すなわち、控訴人X2は、Jが、控訴人X2には被控訴人における将来がないかのように述べ、控訴人X2が転職意思はないと伝えたのに、退職を検討するよう申し渡したと主張し、これに沿う供述をするのに対し、Jは、第1回面談では、同年7月のキャリアインタビューを控訴人X2が覚えていないようであったので、「Y社で何歳まで働くつもりですか。別のキャリア、次のキャリアをどう考えていますか。」等と尋ね、控訴人X2の業務の幅と責任の遂行度合いが不十分であり、現状のままでは昨年の△△評価を維持できないことを話し、転職の選択肢と特別支援プログラムの存在を紹介し、「60歳まで働くつもりです。転職は考えていません。」と返答した控訴人X2に対し、「また今度続きをお話ししましょうね。」と言って第1回面談を終えた旨供述する。
そこで両者の供述について検討すると、前記認定のとおり、Jは、平成20年7月に控訴人X2のラインマネージャーとなり、同年10月22日に○○プログラムに関する面談研修に参加し、その翌日に控訴人X2との第1回面談に臨んだものであるから、通常であれば、留意事項・注意事項を十分に念頭において面談に臨むものと考えられ、それを前提にすれば、Jの供述は自然である。しかし、Jは当時、ラインマネージャーとなって間もなく、控訴人X2一人のみの退職勧奨を担当したのであるから、本件企業文化の一層の推進の徹底が図られる中で、その成否について、自己の業績向上への期待や自己の業績評価への懸念があったとしても無理はなく、それを前提とすれば、控訴人X2が供述するような強い説得をすることがあながち不自然であるとも言い難い。一方、控訴人X2は、勤続25年で、これまでの△△評価は2で、よほどの失敗がないと3にはならないと考えており、特段異なる業務遂行をしておらず、△△目標もほぼ達成していたのに、突然、退職勧奨を受けたのであるから、そのことに強い衝撃を受け、Jの言動を、評価を下げて退職を迫るものと受け取ったとしても不自然ではなく、控訴人X2の供述するJの言動は、控訴人X2の主観的な受け取り方が反映しているおそれもあることは否定できない。
そして、それぞれの供述についてその真実性を補強する客観的な証拠はなく、Jの言動が控訴人X2の供述するとおりであったと認めることはできないし、少なくとも、Jの言動が控訴人X2の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったとは認めることはできない。
もっとも、Jの供述を前提としても、Jは、控訴人X2が、転職の意思がないことを表示したのに、また今度続きを話しましょうという形で面談を終了しており、この点は、執ような退職勧奨と受け取られるおそれのあるものではあるが、控訴人X2が面談の続行を拒絶したと認めるに足りる証拠はなく、Jが面談を継続したのは、第1回面談で特別支援プログラムの資料を控訴人X2に交付していなかったからであり、自由な意思形成を促す上で、任意退職の条件を説明するために資料を交付することは不相当とはいえないので、Jの供述する第1回面談の終了の仕方が、自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱したものと認めることはできない。
c 第2回面談について
(a) 退職勧奨と認められる第2回面談が実施された経緯について、Jと控訴人X2の供述が食い違っていることは、前記説示のとおりである。
すなわち、Jは、前記認定のとおり、第2回面談は時間を空けて実施することとしていたが、第1回面談の翌日の午後、控訴人X2から昨日の話の続きをしたい旨の申入れがあったことを受けて実施したところ、控訴人X2から、突然「こういう話をすること自体が違法行為です。退職勧奨は違法行為です。このような話をするときは今後組合を通してください。」と言われたと供述する。
これに対し、控訴人X2は、Jから一方的に呼び出され、メモ(書証〈省略〉)記載の話をされたと供述する。そして、①○○プログラムでは、同年10月21日までに第1回面談を完了することとされており(書証〈省略〉)、毎週木曜日開催の社長を含めた会議では、同月24日までの実績が前提となるため、Jには「結果責任」の下でスケジュールの遅れを取り戻すために第2回面談を急ぐ必要があった、②Jが供述するように、控訴人X2が説明を求めて面談を申し入れたとすれば、第2回面談の冒頭で、組合を通すよう要求するのは不自然であり、その週末の体調悪化を踏まえて支部組合に加入した控訴人X2が、第2回面談で組合を通してほしい旨の発言をするはずがないと主張する。
しかし、上記①について、控訴人X2が指摘する第1回面談完了のスケジュールは、同年10月14日及び15日の説明会に参加した場合が前提であり(書証〈省略〉)、初回面談が同月21日以降になることを予定した記載もあるから(書証〈省略〉)、同月22日の説明会に参加したJが、同月21日までに第1回面談を完了しなければならない立場にあったとは認められない。また、前記認定のとおり、第2回面談が時間を空けて実施するとされていたことは、Iも供述するところであって、いかにJに業績向上への期待や業績評価への懸念があったとしても、第1回面談で転職の意思がないことを表示していた控訴人X2に対し、「結論を急ぎすぎないよう」(原判決10頁8行目)との注意事項やIとの協議に反して、翌日の就業時間終了後に、自ら再度の面談を設定したとは考えにくい。
また、上記②については、控訴人X2が、第1回面談での退職勧奨に衝撃を受けたとしても不自然ではないこと、第1回面談の終了に当たり、Jが面談を続行する旨を伝え、控訴人X2がそれを拒絶したとは認められないことは、前記のとおりである。この状況を踏まえると、控訴人X2の方から、翌日、面談を求め、冒頭で、退職勧奨は違法であるとの意見を述べ、その後の退職勧奨に応じない意思を明確にし、組合を通すよう求めることは、不自然ではない。控訴人X2は、当時、控訴人X2は支部組合に加入していなかったから、組合を通すよう求める発言をするはずがないと主張するが、控訴人X2が支部組合に加入したのは、第2回面談の3日後であり、前記控訴人X1や後記控訴人X4の例をみても、当時は多くの従業員が○○プログラムに基づく退職勧奨を理由に、支部組合に加入したと推認することができるから、特に加入を拒否される事情がなければ、速やかに加入することを予定して組合を通すよう要求することがあり得ないとはいえない。かえって、Jの供述は、控訴人X2が任意退職に応じない明確な意思を表示し、組合を通すよう求めたのに、なお面談を継続したというものであるから、退職を強要したと疑われかねない被控訴人に不利益な内容であり、しかも、Jは、控訴人X2が第2回面談当時、支部組合に加入していないことを知っているのに(証拠〈省略〉)、あえて組合について虚偽の供述をする理由が見当たらない。
これらのことを総合すると、第2回面談が実施された経緯とその冒頭の控訴人X2の発言に関するJの供述は、その信用性を否定することができないものというべきである。
(b) もっとも、Jの供述を前提とすれば、上記のとおり、第2回面談において、Jは、控訴人X2が任意退職に応じない明確な意思を表示し、組合を通すよう求めたのに、なお面談を継続していることになる。前記(イ)のとおり、控訴人X2は、もともと客観的にみて自由な意思に基づいて任意退職に応じる可能性が高いわけではなく、第1回面談において、退職の意思がないことを表明し、第2回面談の冒頭で、上記のような意思を表示した控訴人X2に対し、上記のように面談を継続したことが相当であったかが問題となる。
そこで、どのような面談が継続されたのかについて検討すると、第2回面談における面談内容について控訴人X2が作成した本件メモには、以下の記載がされており、「・」から始まるものはJの、「〓」から始まるものは控訴人X2の、各発言を示すものと認められる。
・X2さんのキャリアプランを聞きたい
・何才まで働くつもりか、60才まで働くのはあり得ない。50才代で転職する
・自分のキャリアプランを引きなおしてほしい
・ことしのX2さんの評価はこのままだと悪くなる
・会社の業績が悪いのでX2さんの来年の仕事はなくなる
・来年は新DBがうごけばいったい何をするのか
〓 私は今年はいつもの年と比較して、そんなに働きが悪いとは思わない
・キャリアインタビューでこの部署でずっと働きたいと言ったのが、積極性の無い理由だ。そんな人は評価が悪くなる。バンド7ならもっとリーダーシップを持つべきだ
・あなたのことをずっと見ていたが、向上する気持がみられない。これだからバンド7としてはダメなんだ
・仕事も受け身だ
〓 あなたは私の上司なんだから部下の指導をするのが
・そこがダメなんですよ
・あなたはもう大人なんですから自分で考えないと
・今ならわりまし金もあるし、しゅうしょく支援会社もしょうかいしてくれる。ある意味チャンスよ
〓 今この不況の中で転職するのはとくさくとは思えない
・そうじゃない。だから分ってない
・これを渡すから考えておいて
上記発言につき、Jは、そのような発言はしていないと供述するが(証拠〈省略〉)、評価の見通しについては発言したことを認めている上、本件メモの記載内容は具体的で臨場感があり、その文字等の体裁からみても、これを第2回面談の席上で作成した旨の控訴人X2の供述に信用性が認められる。飽くまでメモであることから、言辞や具体的な表現、前後の脈絡や語調の詳細までを正確に再現したものとまで認めることはできないまでも、第2回面談では、Jと控訴人X2との間に、おおむね本件メモに記載されたようなやりとりがあったと認めるのが相当である。
しかし、本件メモによっても、上記のやりとりにおいて、控訴人X2は、Jの意見に対し、自らの働きが例年に比して悪いと思わないことや、Jが上司として指導すべきこと、今の不況の中で転職するのが得策とは思えないことなど、反対意見を自由に述べているし、本件メモは、その内容から判断して、自分の発言よりもJの発言を書き留めることに主眼があったものと解されるので、実際には控訴人X2の発言はもっと多かった可能性が高いというべきである。そして、第2回面談の時間は30~40分であったが、Jと控訴人X2との職場での関係や、本件メモの内容から判断しても、控訴人X2はJの発言に対して逐一反論していたものと推認されるし、控訴人X2が任意に面談を終了できないような状況であったと認めることもできない。したがって、本件メモによっても、第2回面談が控訴人X2の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、控訴人X2の退職についての自由な意思決定を困難にするようなものであったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(c) なお、本件メモの記載は、今の不況の中で転職するのが得策とは思えないとの控訴人X2の反対意見に対し、「そうじゃない。だから分かってない。これを渡すから考えておいて」とJが発言したところで終了しており、あたかもJが特別支援プログラムの資料を交付し、検討を要請して、面談が終了したかのような記載となっている。
しかし、Jは、特別支援プログラムの資料を交付して、応募を検討するよう求めたが、控訴人X2から60歳までY社で働き続けたい旨返答したため、もはや本件退職勧奨を継続することは困難と判断した旨供述するところ(証拠〈省略〉)、これまで説示してきた控訴人X2の対応からみて、「そうじゃない。だから分かってない。これを渡すから考えておいて」と言われて、特別支援プログラムの資料の交付を受けた控訴人X2が、Jから求められた検討を拒絶する意思を表示しなかったとは考え難い。また、第2回面談の結果を踏まえ、JとIが協議して本件退職勧奨を終了したことは、前記認定のとおりである。第2回面談での発言に関するJの供述は、本件メモ記載の自己の発言を否定する点では信用できないものであるものの、本件メモは飽くまでメモであるから全ての発言が網羅されているわけではなく、上記の事情を総合すると、控訴人X2がJからの上記検討の求めに対して、明確な拒絶の意思を表示したという点までが信用できないものではない。なお、Jは、これを受けて、在職を前提として今後10年間の業務の取組等につき一緒に考えたい旨を述べて第2回面談を終了したとも供述するが(証拠〈省略〉)、控訴人X2が、第2回面談後に支部組合に加入し、第3回面談以降の面談についても退職勧奨のための面談として拒否していたことからみて、この点に関するJの供述は採用することができない。したがって、結局、第2回面談は、控訴人X2が「そうじゃない。だから分かってない。これを渡すから考えておいて」と言われて、特別支援プログラムの資料の交付を受け、その検討を明確に拒絶して終了したと認めるのが最も合理的である。
そして、Jは、第2回面談を終了し、その結果を踏まえ、その後の○○プログラムに基づく退職勧奨を打ち切っているのであり、その退職勧奨の経過は、全体としてみても、控訴人X2の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、控訴人X2の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認めることはできない。
(d) なお、控訴人X2は、Jが第2回面談で脅しや人格を傷つけるような非難をしたと主張し、これに沿う供述をする(証拠〈省略〉)。しかし、第2回面談におけるJの発言が不法行為法上、控訴人X2の名誉感情等を侵害するものとして違法の評価を受けるか否かは、その言辞や具体的な表現の詳細、語調や前後の脈絡、控訴人X2の対応などの諸事情によって異なるものというべきところ、本件メモは、これらの点を正確に再現したものと認めることはできないことは、前記説示のとおりであり、本件メモも含めて、Jに控訴人X2の名誉感情等を違法に侵害するような発言があったと認めるに足りる証拠はない。
(エ) 控訴人X2の請求について
以上によれば、本件退職勧奨が、控訴人X2の退職に関する自己決定権を侵害したと認めることはできない。また、本件退職勧奨及びその後の経緯において、控訴人X2の名誉感情等の人格的利益を違法に侵害する言動があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人X2の請求は理由がない。
ウ 控訴人X3について
(ア) 認定事実
本件退職勧奨について当裁判所が認定した事実は、次のとおり改めるほかは原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1(2)エ(ア)(原判決62頁2行目~67頁17行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
a 原判決62頁2行目の「78、」の次に「106、」を加え、4行目~63頁12行目を次のとおり改める。
「a 控訴人X3の所属と業績の状況等
(a) 控訴人X3は、平成2年4月、被控訴人に入社し、被控訴人の製造営業統括本部のシステム開発室に配属され、以来、アプリケーション開発の業務に従事してきたが、平成18年1月、ITSソリューション・センター第五オープンサーバー技術部門に配転され、○○プログラムが実施された平成20年10月当時も、同部門に所属していた。同部門は、控訴人X3が長年従事してきた開発部門とは異なり、顧客のインフラシステム等を構築する業務を担当する部門であり、その業務には、顧客とやり取りをしながらシステムの構築、保守及び運用等のサービスを提供する「デリバリー業務」と呼ばれる業務があった。控訴人X3の当時の上司は、ファーストラインがN、セカンドラインがOであった。
(b) 平成20年度までの控訴人X3の△△評価は次のとおりである。
平成16年(2004年) 2(書証〈省略〉)
平成17年(2005年) 3(書証〈省略〉)
平成18年(2006年) 3(書証〈省略〉)
平成19年(2007年) 4(書証〈省略〉)
平成20年(2008年) 4(書証〈省略〉)
b 控訴人X3が○○プログラムの対象者に選定された経緯
控訴人X3が、平成18年、懲戒処分でバンド6から4に降格したことは、前記引用に係る原判決が前提事実として認定したとおりであるが、被控訴人の社内のルールでは、バンド4の従業員は単独ではデリバリー業務に従事することができなかった。控訴人X3は、バンド6に昇格してデリバリー業務に従事することを希望し、平成20年度の△△目標として、①「70―290マイクロソフト・ウィンドウズ・サーバー2003環境の管理及びメンテナンス」の資格を取得すること、②技術者認定試験のための「Y社技術者認定試験対応x Series/System xの概要とハンズオン」(1RE061JP)の講義を受講すること、③「RE064 System X障害監視ハンズオン」の講義を受講することを設定し、Nは、その設定を承認していた。しかし、控訴人X3は、平成20年度において、上記①の資格を取得せず、上記②及び③の講義を受講せず、△△目標を達成できていなかった。(書証〈省略〉)
Nは、平成20年10月中旬、Oから○○プログラムについての説明を受け、Oの要望に従い、○○プログラムの対象者を選択するに当たり、上記に基づく控訴人X3の業績評価の見込みから、控訴人X3を対象者の1人として選定した。」
b 原判決63頁13行目の「b」を「c」に改め、14行目の冒頭に次のとおり加えて改行する。
「 Nは、ラインマネージャーを対象とする研修を受けた上、控訴人X3の面談を開始した。面談の具体的経緯は次のとおりである。」
c 原判決64頁14行目の「9月」の前に「①」を、15行目の「今後の」の前に「②」を、16行目の「申し入れた」の次に「(以下、上記①及び②の面談事項をそれぞれ「面談事項①」及び「面談事項②」という。)」を、それぞれ加え、17行目の「退職勧奨を拒否する返事をする点で」を「面談事項②については、24日に話したとおりなので」に改める。
d 原判決65頁20行目から67頁11行目までを次のとおり改める。
「(e) 控訴人X3は、本件X3面談における控訴人X3とNとの会話を、Nに知らせずに録音していた。その反訳(書証〈省略〉)によれば、本件X3面談は、約1時間30分に及ぶものであり、その概要は、次のとおりである(以下、引用部分において、控訴人X3の控訴人の表記を省略する。)。
冒頭、次のとおり、本件X3面談が退職勧奨と関係しないことが確認された。
X3「あー、すみません、今回の打ち合せの趣旨というか、その辺から確認したいんですけども。前に話のあった早期退職プログラムと関係ありますか。」
N「関係ありません。関係していきたいんだろうけども関係していません。」
X3「いや、確認したかっただけで、それをやったらまずいと思うので。」。
その後、まず、面談事項①について、平成20年9月及び10月にNが控訴人X3に割り当てた「エスコン」(複数のサーバーを統合するサービスを提供する際のプロセスについて記載された「サービスプロダクト」と呼ばれる英文のマニュアルを和訳するなどして、部門内で共有するための社内作業)に関する業務について、控訴人X3がその内容を申述し、Nがコメントを加えるという形で報告がされた。
次に、面談事項②について、今後の控訴人X3に対する仕事の割当て(アサイン)に関する希望が、仕事の割当てを受けるために、過去1年間にスキル向上のためにどのような努力をしてきたかを含めて聴取された。その聴取に当たっては、仕事の割当てはラインマネージャーの職務であるという控訴人X3の意見に対して、Nが、割当てに必要な能力の向上は従業員の責任である旨を述べたり、控訴人X3が、平成18年の配転につき不服を述べることがあった。
約54分が経過した時点で、控訴人X3が、同日、組合から事業所長に対して申入書が提出される旨の発言をしたことから、Nは、いったん面談を打ち切ろうとした。その際の具体的な会話は次のとおりである。
X3「そこは、あのー、申し訳ないんですが、今日、あの、組合からまぁ事業所長に対して申入書というのが出されることになります(聴取不能)」
N「組合がどうのこうのって(聴取不能)、何でそんな話が出てくるの?」
X3「いや、この(聴取不能)っていう意味が私としては分からなかったので。」
N「実績?これからどうするのって、どういう風に、どういう仕事ができるのか、って。」
X3「△△であるとか、そういった類、そこで話すべき問題で、なぜこの時期に…」
N「いいじゃない、△△じゃなくたって頻繁にやれっていうのが会社の方針だもん。」
X3「まあそうですけど。」
N「違う?違う?」
X3「であるならば、今回の話は実は関係ないと…」
N「関係ないって言ったじゃん、メールでも書いて、関係ないって書いたじゃん、なんか文句あるの?」
X3「それはまぁ、そう書いてあれば、まあ、そういうことでしょうけども。」
N「じゃあなんでそういうこと言うの?」
X3「んー、私の勘違いだったら申し訳ないんですけども…」
N「えー?ふざけんなよ貴様。」
X3「はい?セキュリティ呼びましょうか? 前も(聴取不能)終わらせ方を一方的に(聴取不能)ありましたよね。こういう場合ってどうすればいいんですか?上司として(聴取不能)放棄していいんですか。」
N「なんですかそれ?」
X3「話し合いを打ち切ってますけど。」
N「答えを返さないのに?」
X3「いや、答えています。それの答え方は別として。私の知っていることは全部お伝えしましたけど。それに対して帰られるっていうことは、これはどう私としては捉えればいいんですか。またこういった呼び出しがありますか?」
N「話聞くよ、もう1回。」
その後、再び、面談事項②に関する会話がされた後、Nが、都庁案件について、バンド6に戻すことを前提に担当することを控訴人X3が検討することとして、本件X3面談は終了した。その後の面談中にも、控訴人X3は、3度にわたり、面談の内容が重複していることを指摘して、退職勧奨との関係を問い質し、Nはその都度、本件X3面談と退職勧奨が無関係である旨を説明した。控訴人X3は、面談終了後、Nを追いかけて、再度、本件X3面談と退職勧奨との関係を確認し、Nは再度関係ない旨を述べ、結局、事前のメールのほか、面談の前後5回にわたって、退職勧奨と本件X3面談が関係ないとの確認がされた。(書証〈省略〉)」
(イ) 選定の合理性について
控訴人X3は、平成20年度の△△評価が4であることについて、控訴人X3の業績が極端に悪かったという根拠はないと主張する。
しかし、○○プログラムの選定基準は、業績の下位15%を基本とし、業績が極端に悪くなくても、選定される可能性は十分ある。また、前記認定のとおり、控訴人X3は、平成17年から19年までの△△評価が3又は4であり、平成20年度も△△目標を達成していなかったものであり、控訴人X3が当審で提出した陳述書(書証〈省略〉)等を踏まえても、目標管理型業績評価である△△において、目標を達成しなかった控訴人X3を、3以上に評価しなければ裁量の逸脱・濫用となることを基礎付ける事情があるとはいえない。そして、△△目標を達成しない控訴人X3の態度を、自ら自己の業績を向上する努力を怠らない態度とはいえないと評価することは本件企業文化を一層推進しようとする人事施策方針の下で、不合理なものとはいえない。
したがって、Nが、恣意的な評価を前提に、控訴人X3を対象者に選定したと認めることはできず、他に前提となる業績評価に裁量の逸脱・濫用があったことを基礎付ける事情は見当たらない。
もっとも、被控訴人の主張によっても、控訴人X3が任意退職に応じる可能性は低かったと認められる。
(ウ) 具体的な退職勧奨の態様の相当性について
a 退職勧奨の適否について
前記(ア)の認定事実によれば、本件退職勧奨は、Nにおいて、平成20年10月24日に第1回面談を実施したところ、あらかじめ予想したとおり、控訴人X3が退職勧奨に応じない旨を明確に述べたため、資料の返戻を受け、N及びOが協議して取り止められたものであり、前記認定の第1回面談の態様は、社会通念上、相当な範囲を逸脱したものではない。
控訴人X3は、前記引用に係る原判決第2の4(1)ア(エ)のa~d(原判決18頁15行目~19頁14行目)のとおり、その後の本件X3面談が退職勧奨として行われ、平成20年度の△△評価4は報復として行われたと主張する。そして、あらかじめ断ることを予想しながら対象者に選定し、断られて面談をやめることは、時間の無駄であるから不自然であり、むしろ、断られた後も退職勧奨と無関係なことを装って、能力がないという戦力外通告をして精神的に追い込み、自主的に退職させようとしたとみるのが自然であるから、前記引用に係る原判決が、第1回面談で退職勧奨が打ち切られたと認定したことには誤りがあると主張する。
しかし、本件X3面談は、特別支援プログラムへの応募勧奨とは無関係であることが、あらかじめメールのやりとりによって確認され、面談の前後でも5回にわたり確認されて行われたものである。このような面談を、被控訴人が退職勧奨に利用していたと認めることはできないし、このような面談が、控訴人X3の退職に関する自由な意思に影響を及ぼすとも認められない。また、控訴人X3が当審で提出した陳述書(書証〈省略〉)等を踏まえても、目的を達成していない控訴人X3の業績を3以上に評価しなければ裁量の逸脱・濫用となることを基礎付ける事情があるとは認めることはできない。
控訴人X3の上記主張に即してみても、○○プログラムの対象者の選択基準には、断る見込みがあるか否かという基準がなく、我が国の雇用慣行と当時の経済情勢とを前提とすれば、断る見込みがないことの方が不自然であり、断る見込みがある従業員を選定することが不自然とはいえない。また、控訴人X3については、第1回面談で特別支援プログラムの資料が返戻されている上、平成20年10月30日にNがOに送信した○○プログラムの進捗状況表には、控訴人X3の次回面談予定について、「UNIONのため以降なし」との記載もされている(書証〈省略〉)。控訴人X3は、上記記載の意味が明確でなく、断られたために打ち切ったという被控訴人の主張とも異なると主張するが、同日時点で被控訴人が社内的にも控訴人X3に対する退職勧奨を打ち切っていた事実は否定できない。
b 本件X3面談の態様について
(a) 控訴人X3は、本件X3面談において、①Nが、控訴人X3の説明にも耳を貸さず、控訴人X3には会社に貢献するスキルがなく、不要な人材であることを繰り返し執ように述べ、②右膝を高く上げ、右足を床にドンドンと7、8回激しく打ち付けて激しい音を出して控訴人X3を威嚇し、③お茶のペットボトルを控訴人X3の顔から30センチメートルの至近距離で振り回し、④労働組合に相談したことを話すと「あー、ふざけんなよ。貴様。」と言いながら机を蹴り上げて立ち上がり、⑤控訴人X3が退職強要に当たる旨述べると「そんなことはここでいわなくてもいいから。」と言って再びペットボトルを控訴人X3の顔近くで振り回した、と主張する。
(b) このうちまず、Nの発言(上記①及び④)についてみると、本件X3面談における控訴人X3及びNの具体的なやりとりは、甲60の3(書証〈省略〉)及び乙86の2(書証〈省略〉)のとおりであったと認められる。その中で、Nは、「えー、ふざけんなよ。貴様」と発言したが、この発言は、強い語調ではなく、その発言に至る前記認定の経緯からみて、意図的な発言ではなく、退職勧奨とは無関係である旨を確認して面談を行っているのに支部組合から申入書が提出される旨を聞いて苛立ち、口走ったものと認められる。
次に、Nの挙動のうち、足を床に打ち付ける動作(上記②)についてみると、録音(書証〈省略〉)には、ドンドンという等間隔での音が記録されているところ、Nは、足の裏をかかとだけ上げて床に打ち付ける癖(Nは、これを「貧乏揺すり」と称している。)によるものではないかと供述する(人証〈省略〉)。これに対して、控訴人X3は、本人尋問において、「テーブルからある程度離れた状態で、椅子を後ろにやって」、「右足の膝を高く上げて床にたたきつけるような音をドンドンと10回程度」と供述するが、控訴人X3が供述するような動作は、前記認定のような狭い会議室で面談中に、相手方を威嚇することを意図した動作としては、不自然である。また、控訴人X3は、本件X3面談の状況を録音し、Nが「えー?、ふざけんなよ。貴様。」と発言して立ち上がった際には「はい?セキュリティ呼びましょうか?」と述べ、Nが、感情的になって大声を出している旨を指摘し、記録に残しているのであるから、仮に控訴人X3の供述するような動作をNがしたのであれば、記録化のために、控訴人X3が何らかの指摘をすることが自然であるが、そのような指摘はされていない。そして、録音(書証〈省略〉)に記録されたドンドンという等間隔の音は、苛立った仕草としてみられる足踏みであるとしても、不自然なものではない。したがって、本件X3面談において、Nが、威嚇のために足を踏みならしたという上記②の事実を認めることはできない。
さらに、Nの挙動のうち、ペットボトルに関する動作(上記上記②及び⑤)については、控訴人X3とNの供述に食い違いがあるところ、Nが自認する動作は、控訴人X3の発言に対して否定的態度を示す際にペットボトルのキャップ部分を右手の人差し指と中指の間に挟んでいた手を振った(書証〈省略〉)、ペットボトルを持ったまま、確認の趣旨で指を指すような動作をした(書証〈省略〉)というものであり、これとは異なる動作をした旨の控訴人X3の供述を裏付ける的確な証拠は存しない。なお、Nの挙動のうち、立ち上がる際に机を蹴り上げた動作(上記④)については、これを認めるに足りる証拠はない。
(c) 控訴人X3は、本件X3面談におけるNの言動が転職に関する控訴人X3の自由な意思決定を不当に制約したと主張する。しかし、本件X3面談は、控訴人X3から特別支援プログラムの資料が返戻され、社内的にも退職勧奨が打ち切られた後に、何度も退職勧奨とは無関係である旨を確認しながら行われ、控訴人X3は退職勧奨に応じないことを明確に表示し、退職勧奨目的での面談はまずいなどの意見を述べ、記録化のため録音するなどしていたことは、前記認定のとおりである。このような面談において、Nが、上記(b)で認定したように、苛立って足踏みをし、甲60の3(書証〈省略〉)及び乙86の2(書証〈省略〉)のとおり発言し、退職勧奨とは無関係であることを確認して行った面談について組合から文書が発出されることを聞いて苛立ち「えー、ふざけんなよ。貴様」と口走り、ペットボトルを振るなどしたとしても、それは客観的にみて退職を迫る行為とはいえず、控訴人X3の退職に関する自由な意思形成が阻害されるおそれがあったと認めることはできない。したがって、これらの行為は、控訴人X3が主張する違法な退職勧奨を根拠付けることにはならない。
(d) もっとも、控訴人X3は、本件X3面談が上記の態様において控訴人X3の名誉感情等を違法に侵害するものであったとも主張する。
確かに、甲60の3(書証〈省略〉)、乙86の2(書証〈省略〉)に記録されたNの具体的な言辞のうち、「えー、ふざけんなよ。貴様」という発言は、本来、動機や理由のいかんを問わず、上司が部下に行うべき発言とはいえず、このような言辞を用いた発言は不相当であったというべきである。しかし、その語調が強いものではなく、Nが、退職勧奨とは無関係である旨を確認して行った面談について組合から文書が提出されることを聞いて苛立ち、口走ったものであることは前記認定のとおりである。上司であるNが、△△目標を達成しなかった部下の控訴人X3に対して業務改善のための面談を行うことは許容されることであり、本件X3面談は、面談の設定に当たって退職勧奨とは無関係である旨を確認した点においても、相当性に欠けるものとはいえない。ところが、控訴人X3は、退職勧奨とは無関係であることを前提に本件X3面談に応じる一方で、本件X3面談が退職勧奨であることを前提にあらかじめ組合から文書を提出させていたものであり、このような控訴人X3の行動に、Nが信頼を害されたと感じて苛立つことには無理からぬところがあるというべきである。そして、そのことは、控訴人X3においても予測できたと認められるところ、録音の上で面談に臨んでいた控訴人X3は、上記発言を受けて動揺する様子もなく、Nに対し、「セキュリティ呼びましょうか?」と述べたり、面談を「放棄していいんですか?」と述べたりするなど、Nの苛立ちや動揺を予測した態度を採っている。これらの事情を総合すると、Nの「えー、ふざけるなよ。貴様」という発言は、不適切なものではあるが、その発言当時の具体的状況において、控訴人X3に金銭賠償による慰謝を必要とする程度の精神的苦痛を与えたと認めることはできない。なお、Nの供述する態様でのペットボトルに関する挙動も、相手方に不快な思いをさせる不適切な動作であったことは否定できないが、直ちに金銭賠償による慰謝を必要とする程度の精神的苦痛を与えるものとはいえない。また、前記認定の他のNの言動については、直ちに控訴人X3の名誉感情等を違法に侵害したとは認められない。
(エ) 控訴人X3の請求について
以上によれば、本件退職勧奨が、控訴人X3の退職に関する自己決定権を侵害したと認めることはできない。そして、その態様において、控訴人X3の名誉感情等を違法に侵害し、金銭賠償による慰謝を必要とするような精神的苦痛を与えたと認めることもできないから、控訴人X3の請求は理由がない。
エ 控訴人X4について
(ア) 認定事実
本件退職勧奨について当裁判所が認定した事実は、次のとおり改めるほかは原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1(2)オ(ア)(原判決71頁4行目~76頁4行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
a 原判決71頁4行目の「79、」の次に「105、」を加え、7行目~72頁18行目を次のとおり改める。
「a 控訴人X4の所属と業績の状況等
(a) 控訴人X4は、昭和62年4月、被控訴人に入社し、○○プログラムが実施された平成20年10月当時は、セキュリティ・サービスという部署に所属し、セキュリティ製品を顧客の環境に合わせて変更し、システムとして構築する業務に従事していた。控訴人X4の当時の上司は、ファーストラインが、平成20年6月まではP、同年7月以降はQであり、このとき、Pは、控訴人X4のセカンドラインとなった。なお、控訴人X4の平成20年当時の職位はバンド7であった。(書証〈省略〉)
(b) 被控訴人では、システム開発等のプロジェクトが、プロジェクトごとに従業員に割り当てられる仕組みが採られ、プロジェクトによっては、プロジェクトマネージャーが、複数の部署から、必要なスキルを持つ従業員を、面接等により選別して招集することもあった。この仕組みの下で、個々の従業員に割り当てられるプロジェクトの件数は異なっており、控訴人X4については、プロジェクトの割当て(アサイン)が少なく、稼働率(勤務時間に対する顧客に報酬を請求できる有償の稼働時間の割合であり、業績評価で重視される数値である。)が、他の従業員より低くなっていた。
(c) Qは、平成20年9月18日、「中間△△として会話しましょう。」とのメールを送信し、日程調整をした上、同年10月7日、控訴人X4に対する第1回面談を実施した。同面談において、Qは、プロジェクトの技術的業務と管理系業務のうち、どちらの方面への進路を希望するか尋ねたところ、控訴人X4は、いずれの方面の業務も厳しく、IT以外の部門があれば、そこに異動したい旨、異動先については控訴人X4も探してみたい旨を回答し、所属部門での業務が自己に適合していない旨の認識を示していた。
(d) 平成20年度までの控訴人X4の△△評価は次のとおりである。
平成17年(2005年) 2
平成18年(2006年) 3
平成19年(2007年) 2(書証〈省略〉)
平成20年(2008年) 4(書証〈省略〉)
b 控訴人X4が○○プログラムの対象者に選定された経緯
Pは、平成20年10月半ば、セカンドライン以上が集まるミーティングで○○プログラムについての説明を受け、上司から○○プログラムの対象者を選定するよう指示を受けた。Pは、Qを含むファーストラインの部下に相談し、Qは、部下の中で控訴人X4の稼働率が最下位であったことから、控訴人X4を対象者とすることを提案し、同年6月まで控訴人X4のファーストラインであったPは、これに賛成し、控訴人X4を対象者に選定した。なお、Pには当時、30人程度の部下がおり、当初3人を対象者として選定し、最終的には5人を対象者とし、そのうち3人が任意退職した。」
b 原判決72頁19行目の「b」を「c」に改め、20行目冒頭に次のとおり加えて改行する。
「 Qは、ラインマネージャーを対象とした面談研修を受けた上で、控訴人X4に対する面談を開始した。面談の具体的経緯は次のとおりである。」
c 原判決73頁末行の「Q」を「P」に改める。
d 原判決74頁18行目末尾に「なお、控訴人X4は、同月4日、支部組合に加入した。」を加える。
e 原判決75頁24行目の「原告X4に対する業務改善プログラム」の次に「は、コミュニケーションスキルの向上を図ることなどが目的とされていたが、具体的に特別な研修を受けたり、訓練をするものではなく、当時、控訴人X4が参画していたプロジェクトのメンバーから評価をヒアリングするというものであり、そ」を加える。
(イ) 選定の合理性について
a 控訴人X4は、控訴人X4の平成20年度の△△評価が4であったのは、裁量を逸脱・濫用したものであると主張し、①前後の平成19年度(書証〈省略〉)及び平成21年度(書証〈省略〉)の△△評価が2であること、②平成20年度も朝日生命プロジェクトで実績を上げていること、③Qが稼働率を上げるために必要なプロジェクトの割当てを行わなかったことを挙げる。
しかし、上記①については、平成20年度においては、その余の年度で2の評価を受けた通常の従業員でも業績の下位15%と評価されることが十分あり得、そのことから直ちに評価の恣意性が疑われるとはいえないことは、前記説示のとおりである。また、控訴人X4については、平成18年の△△評価が3であり、評価が2であった平成19年度及び平成21年度には複数のプロジェクトをこなした旨が△△に記載されているのに(書証〈省略〉)、平成20年度は上記朝日生命プロジェクトの記載があるにとどまり(書証〈省略〉)、当然に前年と同じ評価がされるという状況にはない。そして、稼働率が最低である従業員を、業績の下位15%と見込むことが不合理とはいえないし、その中で、上記②のように、一つのプロジェクトで実績を挙げていたとしても、相対評価における評価に係る裁量の逸脱・濫用を疑わせる事情になるものではない。なお、控訴人X4は、上記③のとおり、Qがあえてプロジェクトの割当てを行わなかったかのように主張する。しかし、○○プログラムの伝達は、第3四半期が経過した平成20年10月であるのに対し、控訴人X4の稼働率は年間を通じてのものであり(書証〈省略〉)、退職勧奨のために割当てを減らされて、稼働率が低下したとは認められない。そして、稼働率が最低である従業員を、自己の業績を向上する努力を怠らない態度とはいえないと評価することは、本件企業文化を一層推進しようとする人事施策方針の下で、不合理なものとはいえない。
なお、控訴人X4は、他に、製品知識が不十分なためにプロジェクトが不採用となったことはないとか、控訴人X4がアサインを断ったことはないなどと主張するが、これらもそれぞれ相対評価における評価に係る裁量の逸脱・濫用を疑う事情にはならない。また、控訴人X4は、バンド7として期待されるリーダーシップが発揮されていなかったことはないとか、△△の評価根拠が明らかにされなかったと主張するが、バンド7としてのリーダーシップについては、平成20年度の△△の総合評価の理由に記載されているものの(書証〈省略〉)、Pが選定理由として述べているわけではなく、これらはそれぞれ△△評価の問題というべきである。
控訴人X4が当審において提出した陳述書(書証〈省略〉)等の証拠は、いずれも控訴人X4の上記主張の趣旨に沿うものにとどまり、これらによっても、Pが、恣意的な評価を前提として、控訴人X4を対象者に選定したと認めることはできず、他に前提となる評価に裁量の逸脱・濫用があったことを基礎付ける事情は見当たらない。
b そして、控訴人X4は、第1回面談でQが提示した2つの業務がいずれも厳しく、IT以外の部門があればそこに異動したいとの認識を示していたのであるから、客観的にみて、条件次第では任意退職に応じる可能性があると判断することは不合理ではない。
(ウ) 具体的な退職勧奨の態様の相当性について
a 退職勧奨の期間、回数等
(a) 前記(ア)の認定事実によれば、本件退職勧奨は、Qにおいて、平成20年10月21日に第2回面談を、同月28日に第3回面談を行い、控訴人X4が「良い転職先が見つかれば考えたい。」旨述べたことから、再就職支援会社のカウンセリングを受けた上、改めて面談を行うこととされ、再就職支援会社とのカウンセリングが行われ、同年11月11日の第4回面談を経て、同年12月1日に第5回面談を実施した際にも、控訴人X4は「良い転職先であれば応募する」と述べて、求人情報のメールを転送することを了解し、その転送も受けていたが、同日、Pが同年度の△△評価が4の見込みであるとのメールを送信したところ、翌2日、当該求人情報に応募するのは不可能若しくは無駄であるとのメールが返信され、そのままの状態で○○プログラムが終了したというものである。
(b) 控訴人X4は、前記引用に係る原判決第2の4(1)ア(オ)のa~j(原判決19頁16行目~23頁3行目)のとおり、平成20年10月7日の第1回面談、同年12月25日の第6回面談、平成21年1月20日の第7回面談及びその後の同年7月まで実施された業務改善プログラムの全体が退職勧奨であることを前提に、その退職勧奨が執ようで違法であったと主張し、前記引用に係る原判決が、第2回面談から第5回面談のみを退職勧奨として判断したことには誤りがあると主張する。
しかし、第1回面談と第6回面談以降の面談で退職勧奨が行われたことについては、控訴人X4の供述のほか証拠がない。一方、P及びQは、前記認定事実に沿う供述をしているところ、第1回面談が行われたのは、○○プログラムが実施される以前であり、第6回面談が行われたのは○○プログラムが終了した後で、退職手続の実施期限である平成20年12月19日(原判決11頁1行目)を経過した後であること、これらの面談は、第1回面談については中間△△であることが、第6回面談及び第7回面談については平成20年度の△△評価に関する面談であることが、それぞれ明示されて行われたことに照らせば、これらの面談において退職勧奨を行っていないとのP及びQの供述の信用性を否定する根拠はない。
(c) これに対し、控訴人X4は、第1回目の面談について、○○プログラムの対象者リストが平成20年10月7日には作成されていたから(書証〈省略〉)、退職勧奨が行われても不自然ではないと指摘する。
しかし、第1回面談が同年9月中に設定されたこと(書証〈省略〉)は、前記認定のとおりであるし、控訴人X4は、○○プログラムに基づく退職勧奨についても、同年10月7日の第2回面談で「考えておいてねというすごい軽いレベルで言われ」、同月28日の第3回面談までは「それまで退職してもいいかなという気がありましたので応じておりました。」(人証〈省略〉)と供述しているのであり、それ以前に控訴人X4が供述するような退職強要行為が行われたということは不自然である。
(d) また、控訴人X4は、平成20年度の△△評価が4であるのは、控訴人X4が退職勧奨を拒否したことによるものであり、第6回面談及び第7回面談は△△評価に関する面談を装った退職強要であり、その後の業務改善プログラムは、控訴人X4を退職に追い込むために行われたと主張する。
控訴人X4については、12月2日のメールの後、そのままの状態で○○プログラムが終了したものであり、退職勧奨が終了したことは明示的に告げられていない。また、当時、控訴人X4が転職について積極的な様子を見せていなかったことは、前記認定のとおりであり、第5回面談で、これまで受けたことのない4の評価の見込みを受け、その日にその評価を通告するメールを受信し、そのまま4の評価を受け、業務改善プログラムを受けた控訴人X4が、上記のように感じることに理由がないとはいえない。
しかし、控訴人X4は、バンド7であったのであり、バンド7に求められる高度な業務遂行能力からすれば、平成20年度の稼働率が最低であった控訴人X4について、3以上に評価しなかったことが不合理で不自然であるとはいえないし、第6回面談以降の経過が○○プログラムが終了した後であることは、前記認定のとおりである。△△評価について、Qが面談を行い、その面談で控訴人X4の納得が得られなかったことからPも同席しての面談が行われ、△△評価4を前提として業務改善プログラムが実施されたことについても、不自然ではない。そして、これらの措置は、△△評価に関する面談であることや、業務改善措置であることが、明確に告げられて行われ、これらの措置に対して、控訴人X4は、社長に退職強要を訴える内容証明郵便を送付したほか、違法な退職強要であることを指摘し続けてきたと供述している。このような状況の中で、被控訴人が、○○プログラムの終了後、△△評価の面談や業務改善プログラムを装って、退職勧奨を続けていたとみるのは困難である。また、控訴人X4は、これらの措置を退職を求めるものとして受け止めることを明示的に拒否していたのであるから、これらの措置が控訴人X4の自由な意思形成に影響したともいえない。なお、控訴人X4が受けた業務改善プログラムが、その参画しているプロジェクトのメンバーから聞取りをするというものにすぎないことは、前記認定のとおりであり、同プログラムを含めた第6回面談以降の経過は、少なくとも控訴人X4の退職に関する自由な意思決定を困難にするようなものではない。
b 平成20年12月1日について
退職勧奨と認められる第2回面談から平成20年12月1日の求人情報メールの転送までの経過のうち、第2回面談から第4回面談までの面談について、控訴人X4が、退職してもいいかなという気で応じていたことを自認していることは、前記説示のとおりである。控訴人X4は、平成20年11月11日の第4回面談の際、はっきり退職しない旨を告げたと主張し、これに沿う供述をする。
これに対し、P及びQは、前記認定事実に沿う供述をするところ、控訴人X4が第5回面談の設定のために、Qと交わしたメール(書証〈省略〉)には、それまでの○○プログラムに関するメール(書証〈省略〉)と同じ体裁で「面談」という標題が付され、その内容にも、次のとおり(次の引用においては控訴人X4の控訴人という表記を省略する。)、面談目的は記載されていないから、控訴人X4においても、当然に退職勧奨目的の面談と認識し得たと認められるが、その内容によれば、控訴人X4は自ら会議室を予約していることが認められ、その面談が控訴人X4の意思に反していたことをうかがうことができない。
Q「12/1(月)11:00―12:00でお時間頂けますか?」
X4「すみません、この時間はHZで顧客a社とのミーティングに出ています。14時以降なら大丈夫です。以上、よろしくお願いします。」
Q「13:00―15:00でテレコンが入っていますが、早めに終わると思いますので、終わり次第ということでお願いします。」
X4「了解しました。12/1 14:00―16:00、15F Conference 4を予約しました。以上、よろしくお願いします。」
また、控訴人X4は、前記のとおり、客観的にみて、条件次第では任意退職に応じる可能性があると判断することの不合理ではない者であり、実際、任意退職を検討していた上、同年12月1日の第5回面談においても、自分で異動先を探しても構わないか聞いたことや、Qから求人案内のメール転送を受けることを了解したことを自認していることは、前記認定のとおりである。これらの事情からすると、同年11月11日の第4回面談の段階で、任意退職に応じない意思を明確に表示したとの控訴人X4の供述は、不自然であり、採用することができない。
そして、退職勧奨と認められる第2回面談からPの控訴人X4に対する求人案内のメールの転送までの経緯は、控訴人X4の自由な意思に基づいて行われたと認められ、同月2日に、控訴人X4が、転送された求人案内に関して、当該求人情報に応募するのは不可能あるいは無駄であるとのメールを返信して以降、退職勧奨は行われていない。
(エ) 控訴人X4の請求について
以上によれば、本件退職勧奨が、控訴人X4の退職に関する自己決定権を侵害したと認めることはできない。また、控訴人X4については、本件退職勧奨が、その態様において控訴人X4の名誉感情等の人格的利益を違法に侵害する言動があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人X4の請求は理由がない。
2  控訴人らの当審における補足的主張について
当審における補足的主張に対する判断は、以上に説示してきたとおりである。
すなわち、○○プログラムの目的は、控訴人らが主張する虚偽の業績に基づくものとはいえないが、本件企業文化を一層推進する目的も相俟って1300人の任意退職を達成するものであるから、整理解雇に準じるような事情はなく、対象者の自由な意思が十分に尊重される必要がある。また、控訴人らが指摘する職務権限を背景にした恣意的な業績評価や過剰な説得は、個別の事案の問題として問題にはなり得るし、職務権限を有する上司が行う退職勧奨は、職務権限の行使とは明確に区別されることが相当であったというべきである。
しかし、本件各退職勧奨については、個別に認定したとおり、控訴人らが対象者に選定されたことは、当審で提出された証拠を総合しても、平成20年度における△△の相対評価と本件企業文化を一層推進しようとする人事施策方針の下で不合理であったとはいえず、恣意的な評価を前提に、控訴人らが対象者に選定されたと認めることはできないし、他に選定の前提となる評価に裁量の逸脱・濫用があったことを基礎付ける事情も見当たらない。
また、控訴人らが主張する執ような退職勧奨は、その一部については、退職勧奨であったと認められるが、大半は業務改善の要求であったと認められる。もっとも、控訴人らが、それぞれ、同一のラインマネージャーから、同一の業績評価に基づいて、一方では○○プログラムによる任意退職を促され、他方では業務改善を要求されていたと認められることからすると、控訴人らにおいて、業績評価や業務改善措置が退職勧奨に利用されていると疑うことは不自然ではない。特に、退職勧奨の終了が明示的に告げられなかったり(控訴人X1)、消極的な態度で退職勧奨を受けていたり(控訴人X4)する中での業務改善の要求は、対象者に退職勧奨と誤解させるおそれがあるもので、不相当であったというべきである。しかし、個別に認定したとおり、これらは職務上の業務改善要求として行われ、控訴人X2については合意の上での指導として行われているし、その余の控訴人について行われた業務改善要求も、それが退職を迫るものであったと認めることはできない。また、控訴人らは、いずれも退職勧奨を拒否し、業務改善の要求であることを確認した上で面談に臨むなどの対応をしてきたものであり、それが控訴人らの退職に関する自由な意思形成に影響したとも認められない。そして、退職勧奨と認められる面談等についても、退職に関する控訴人らの自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、控訴人らの退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認めることができないこと、したがって、控訴人らの退職に関する自己決定権が侵害されたとは認められないことは、個別に認定したとおりである。
第4  結論
よって、原判決は相当であるから、本件控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田剛久 裁判官 塩田直也 裁判官 東亜由美)

 

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