【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業支援」に関する裁判例(147)平成17年 2月 9日 大阪地裁 平15(ワ)3262号の1 損害賠償請求事件〔a社株主代表訴訟・第一審〕

「営業支援」に関する裁判例(147)平成17年 2月 9日 大阪地裁 平15(ワ)3262号の1 損害賠償請求事件〔a社株主代表訴訟・第一審〕

裁判年月日  平成17年 2月 9日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平15(ワ)3262号の1
事件名  損害賠償請求事件〔a社株主代表訴訟・第一審〕
裁判結果  認容  上訴等  控訴  文献番号  2005WLJPCA02090001

要旨
◆料理飲食店の経営等を業とする会社が、無認可の添加物を使用した「◎◎」を販売して同会社に損害を与えた場合、同会社の取締役に善管注意義務違反があったとして、株主の同取締役に対する損害賠償請求が認容された事例

裁判経過
上告審 平成20年 2月12日 最高裁第三小法廷 決定 平19(受)722号
控訴審 平成19年 1月18日 大阪高裁 判決 平17(ネ)731号 損害賠償請求控訴事件 〔ダスキン株主代表訴訟・控訴審〕

出典
判タ 1174号292頁
判時 1889号130頁
金商 1214号26頁
資料版商事法務 256号21頁
新日本法規提供

評釈
山地修・判タ臨増 1215号172頁(平17主判解)
松井秀征・旬刊商事法務 1836号4頁(下)
松井秀征・旬刊商事法務 1835号20頁(中)
松井秀征・旬刊商事法務 1834号4頁
阿南剛・JICPAジャーナル 17巻11号62頁

参照条文
商法254条3項
商法254条の3
商法266条
商法266条1項5号
商法267条
民法644条

裁判年月日  平成17年 2月 9日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平15(ワ)3262号の1
事件名  損害賠償請求事件〔a社株主代表訴訟・第一審〕
裁判結果  認容  上訴等  控訴  文献番号  2005WLJPCA02090001

原告 X
同訴訟代理人弁護士
中山嚴雄
金子武嗣
松原弘幸
坂野真一
小谷眞一郎
松浦由加子
加藤真朗
細見孝次
香川朋子
東忠宏
壇俊光
同訴訟復代理人弁護士 中村昌樹
被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 服部素明
被告 Y2
同訴訟代理人弁護士
山田庸男
中世古裕之
平山芳明
平山忠
李義
二宮誠行
西村勇作
増田広充
安江由里
西原和彦
三好吉安

 

主文
1  被告らは,株式会社a(本店の所在地・大阪府吹田市〈以下省略〉)に対し,連帯して,106億2400万円及びこれに対する平成16年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は被告らの負担とする。
3  この判決は,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1  請求
主文同旨
第2  事案の概要
本件は,株式会社a(以下「a社」という。)の株主である原告が,a社の取締役であった被告らに対し,(1)a社が,食品衛生法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)6条に違反して,人の健康を損なうおそれのない場合として厚生大臣(当時。以下同じ。)が定めていない添加物であるt―ブチルヒドロキノン(以下「TBHQ」という。)を含む「◎◎」を販売したことについて,被告らは,①a社が「◎◎」の供給元から商品を受け取るに当たり,受入検査を行うべき善管注意義務(商法254条3項,民法644条)があったのにこれを怠り,②食品衛生法に違反することを認識しながら上記販売の継続を決定,実行し,その結果,a社にb店加盟店営業補償,キャンペーン関連費用等の出捐や支払を余儀なくさせ,合計106億2400万円の損害を与えた,また,(2)a社が,「◎◎」がTBHQを含んでいることを知らせたA(以下「A」という。)に対して6300万円を支払ったことについて,被告らは,善管注意義務に違反して,「◎◎」にTBHQが含まれていた事実を隠ぺいするために,口止め料として,上記金員を支払い,a社に上記支払額と同額の損害を与えた,さらに,(3)被告らがTBHQを含んだ「◎◎」を販売した事実を公表するなどしなかったことについて,被告らは,上記事実を公表し,上記「◎◎」を回収し,謝罪等の被害回復措置をとるべき善管注意義務があったのにこれを怠り,その結果,a社に上記(1)の出捐や(2)の支払を余儀なくさせ,合計106億2400万円の損害を与えたと主張して,商法266条1項5号に基づき,連帯して,上記損害額及びこれに対する請求の趣旨拡張申立書送達の日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を同社に対し賠償するよう求めた株主代表訴訟である。
1  当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1)  当事者等
ア a社は,昭和38年2月4日設立された,環境衛生及び清掃用資器財等の製造及び販売,料理飲食店等の経営並びにこれらの事業を経営するフランチャイズ店に対する経営指導及び業務委託等を目的とする株式会社であり,発行済株式の総数は1399万2472株,資本の額は113億5294万6000円である(甲1号証)。
イ 原告は,平成15年1月14日の6か月以上前から引き続きa社の株式を有する株主である(甲2号証)。
ウ 被告らは,a社の取締役であった者であり,その主な経歴は次のとおりである。
(ア) 被告Y1(以下「被告Y1」という。)
平成6年6月 取締役生産本部長就任
平成9年4月 常務取締役事業本部運営担当就任
平成11年4月 専務取締役フードサービス事業グループ担当
平成13年6月 退任
(イ) 被告Y2(以下「被告Y2」という。)
平成12年6月 取締役b店フランチャイズ事業本部長(以下「b店FC本部長」という。)就任
平成13年12月 退任
(2)  TBHQ
TBHQは,主にパーム油の酸化防止剤である。日本では,食品衛生法上,人の健康を損なうおそれのない場合として厚生大臣が定める場合を除いては,添加物及びこれを含む食品は,これを販売等してはならないと定められている(同法6条)ところ,TBHQは,厚生大臣によって定められていない添加物である。
なお,国連食糧農業機関(以下「FAO」という。)及び世界保健機関(以下「WHO」という。)によって設立された合同添加物専門家委員会(JECFA)が定めたTBHQの1日摂取許容量(体重1キログラムあたり)は,0.7ミリグラム(体重50キログラムの人の1日摂取許容量は35ミリグラム)であり,アメリカ,中華人民共和国(以下「中国」という。)を始め,十数か国で使われている。(乙ウ62ないし66号証)
(3)  TBHQが含まれた「◎◎」の販売
a社は,テスト販売を開始した平成12年4月から同年12月20日ころまでの間に,食品衛生法上使用が許されていない添加物であるTBHQが含まれた「◎◎」1314万個(同年12月1日以降で約300万個)を日本全国のb店店頭で販売した(甲5号証 以下「本件販売」という。)。
上記「◎◎」は,a社が株式会社c(以下「c社」という。)から供給を受けたものであったが,c社は,株式会社d(以下「d社」という。)にその製造を委託し,同社は,中国の子会社であるe有限公司(以下「e社」という。)の中国工場で「◎◎」を製造していた。TBHQは,e社が「◎◎」の皮の部分の原材料として使用したショートニング(加工植物性油脂で,天然のパーム油に化学合成品の酸化防止剤を入れたもの)に含まれていた。(甲4号証の1)
(4)  Aへの6300万円の支払
ア a社は,株式会社○○(以下「○○社」という。)の代表取締役であるAに対し,平成12年12月13日に800万円,同月15日に2500万円をそれぞれ支払った。
イ 被告Y2は,平成13年1月18日,f株式会社(以下「f社」という。)から3000万円を借り入れ,同日,Aに対して同額を支払った(以下,ア,イを総称して「本件支払」という。)。
ウ a社は,平成14年2月20日,f社に対して3000万円を支払った。
(5)  本件販売の発覚,行政処分及び略式命令
ア 本件販売の事実は,平成14年5月21日,新聞報道された(甲9号証の1,2)。
イ 大阪府は,平成14年5月31日,a社に対し,食品衛生法23条に基づき,本件販売を理由に,中国で製造された「◎◎」について,次の処分解除の要件が確認できるまでの間,仕入れ及び販売を禁止することを命じた(甲63号証の1,2 以下「本件行政処分」という。)。
(ア) 安全性チェック機能の強化について
a社が,品質管理体制の強化,品質管理に関する方針や目標を明記した文書等を提出することにより,大阪府が確認できること。
(イ) 違反品・不良品確認時の対応策策定について
a社が,事故発生時の初期対応体制,事故拡大防止の対策,再発防止の対策,情報の公開等についてのマニュアルを作成し,大阪府が確認できること。
(ウ) 輸入品については,常に安全性をチェックし,適正に管理すること。
ウ a社は,平成15年9月4日,本件販売を理由に,食品衛生法違反の罪で罰金20万円に処せられた(乙エ1号証 以下「本件略式命令」という。)。
(6)  食品衛生法違反問題に関する出捐
a社は,食品衛生法に違反して「◎◎」を販売したことに関して,第41期(平成14年4月1日から平成15年3月31日)において,次のとおり合計105億6100万円の出捐をした(甲68号証,弁論の全趣旨 以下「本件出捐」という。)。
ア b店加盟店営業補償
57億5200万円
イ キャンペーン関連費用 20億1600万円
ウ CS組織員さん優待券及びSM・MM等特別対策費用ほか 17億6300万円
エ 新聞掲載・信頼回復費用 6億8400万円
オ 飲茶メニュー変更関連費用 3億4600万円
(7)  提訴請求
原告は,a社(監査役C,同D,同E及び同F)に対し,平成15年1月14日に到達した書面で,被告らの責任を追及する訴えを提起するよう請求したが,a社は,上記請求の日から60日を経過するも,訴えを提起しなかった(甲7号証の1,2)。
2  争点
(1)  TBHQが使用された「◎◎」の供給を受けたことについて,被告らに善管注意義務違反が認められるか。
(2)  本件販売について
ア 被告らに具体的法令違反又は善管注意義務違反が認められるか。
イ 被告Y2の違法性阻却事由,責任阻却事由の有無
ウ 因果関係
エ 過失相殺
オ 損益相殺
(3)  本件支払について
ア 被告らに善管注意義務違反が認められるか。
イ 被告Y2の責任阻却事由の有無
ウ 過失相殺
エ 損益相殺
(4)  本件販売の事実を公表するなどしなかったことについての被告らの責任(善管注意義務違反の有無,違法性阻却事由・責任阻却事由の有無,過失相殺,損益相殺)
3  争点に対する当事者の主張
(1)  争点(1)(「◎◎」供給についての善管注意義務違反)について
(原告の主張)
ア 被告らは,a社がc社から「◎◎」の供給を受けるに当たり,受入検査を行うべき善管注意義務を負っていた。
イ しかるに,被告らは,前記アの善管注意義務を怠り,「◎◎」の受入検査をしなかったことから,「◎◎」にTBHQが含まれていることを看過し,本件販売を実行するに至った。
(被告Y1の主張)
争う。
a社は,株式会社g(以下「g社」という。)との間で技術提携の覚書を締結しており,上記覚書において,g社は,製造業者に対して,自己の開発したレシピを開示し,かつ技術指導を行い,b店事業本部の指示する品質の商品開発と製造を行わせるものと定められていた。g社が,「◎◎」の原材料について分析し通知していれば,TBHQが使用されることはなかったものであり,販売業者であるa社にTBHQが使用されたことについての責任はない。
g社は,h社傘下の有力企業であり,技術上の専門家もおり,信頼できるものであって,a社において検査,点検をすべき義務はない。
(被告Y2の主張)
争う。
a社(b店フランチャイズ事業本部(以下「b店FC本部」という。)は,当時,専門の製造メーカーであるc社及びi株式会社(以下「i社」という。)に「◎◎」の製造を委託し,しかも,上記各製造業者とは別個に,h社の系列会社であるg社との間において技術開発提携契約を締結し,レシピや品質管理に関する技術指導を委託していたが,これらの事業者は,いずれも「◎◎」の製造業者あるいは技術開発指導をする業者としては品質管理,安全面で十分な水準に達した業者である。そして,a社は,c社及びg社等との取引開始に際しては,業務遂行能力を有するか否かの評価検討を加えたり,新規仕入先としての表に基づく評価を行った上で取引業者として選定した。さらに,a社は,実際に「◎◎」を製造させるに際しては,あらかじめ原材料規格書を徴求して,その製造過程を吟味するなどした。
以上のとおり,a社は,「◎◎」受入れの態勢について社会通念上最大限の配慮をし,通常,食品を外部業者に委託して製造する場合に必要とされる品質管理上の注意義務は十分に果たした上でその供給を受けていたのであって,上記システムは当時の商慣習等に照らしても不合理,不適切であるとまではいうことができない。
よって,被告Y2に善管注意義務違反はない。
(2)  争点(2)ア(本件販売についての具体的法令違反又は善管注意義務違反)について
(原告の主張)
ア 食品衛生法違反
(ア) 本件販売は,食品衛生法6条に違反していた。
(イ) 被告らは,本件販売の継続を決定し実行した。
(ウ) 被告らは,(イ)の際,(ア)を認識していた。
イ 善管注意義務違反
(ア) 被告らは,違法添加物の使用を認識した時点で直ちに「◎◎」の販売を中止すべき善管注意義務を負っていた。
(イ) 被告らは,前記(ア)の義務を怠り,「◎◎」にTBHQが含まれていることを認識しながら,本件販売の継続を決定し実行した。
(被告Y1の主張)
被告Y1は,平成12年11月30日,被告Y2から,c社の製造した「◎◎」からTBHQが検出された旨連絡を受け,同被告に対し,中国での製造中止,出荷停止及び販売停止を指示した。
被告Y1は,平成12年12月2日,「◎◎」に微量ではあるがTBHQが含まれている事実を確認した。b店FC本部内の商品本部プロダクトマネージャー統括部長G(以下「G」という。)らは,TBHQは米国や中国では使用が許可されているものであって本当の毒性はないので問題にならないとの判断であり,被告Y2は,「◎◎」を店頭から引き上げると混乱するので,店頭在庫はこのまま販売したいとの意向を示した。
そこで,被告Y1は,現場の意向に従うということで本件販売の継続を了承した。
(被告Y2の主張)
争う。
ア 本件販売についての事実関係
(ア) 被告Y2は,平成12年11月30日,Gから,Aから「◎◎」にTBHQが含まれているとの指摘があった旨の報告を受けた。
(イ) 被告Y2は,前記報告を受け,平成12年12月2日,被告Y1に対し,「◎◎」にTBHQが含まれていることを報告した。
(ウ) 被告Y2は,平成12年12月8日,被告Y1との間で,国内在庫分の「◎◎」を廃棄するか販売するかを協議した。その際,被告Y2は,①TBHQは欧米等では十数か国で使用が許可されていて,②WHOでも毒性非検知とされて暫定的な1日摂取許容量も0.7ミリグラムに増加されている,③「◎◎」での使用量は0.1ないし0.12ミリグラム程度とみられ,WHOの1日摂取許容量は「◎◎」300個以上に相当するのでTBHQの使用による生命・健康への危険性はない,④日本でTBHQが許可されていないのはこれに代わる強力な抗酸化性の添加物が承認されているため,許可の申請をする必要がないからにすぎない等の説明をした上で,12月の繁忙期に入った現時点で「◎◎」の供給を突然中止すれば,現場の店舗の混乱は大きく,大変な事態になるので国内在庫分の「◎◎」は販売した方がよいのではないかとの自己の見解を述べた。これに対して,被告Y1は,「分かった。国内(在庫)分は販売しよう。」と回答した。
イ 食品衛生法違反について
(ア) 商法266条1項5号にいう「法令」は,会社(株主)の財産・利益の保護を規定するような実質的意義の会社法規定に限定される。しかるに,食品衛生法は,直接的には,食品の安全と公衆(市民)衛生の向上,増進を目的としているのであって,同法6条も,名宛人は食品販売者たる事業者であるとはいえ,その利益は顧客ないし消費者一般といった公衆の衛生や健康に向けられているのであって,これを会社の財産・利益を保護するための規定とみることにはかなり無理がある。
(イ) 会社を名宛人として遵守すべき法令一般について当該法令違反行為があった場合でも,なお取締役の任務懈怠と評価できない場合には,善管注意義務違反の責任を問うことはできず,商法266条1項5号の「法令」違反との評価はされない。
本件では,後記ウのとおり,被告Y2は任務懈怠としての善管注意義務違反の責任を負うものではないから,商法266条1項5号の「法令」違反にも該当しない。
ウ 善管注意義務違反について
(ア) 経営判断の原則
企業の経営に関する判断は,不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした,専門的,予測的,政策的な判断能力を必要とする総合的判断であるから,その裁量の幅はおのずと広いものである。
したがって,裁判所としては,実際に行われた取締役の経営判断そのものを対象として,その前提となった事実の認識について不注意な誤りがなかったかどうか,また,その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかどうかという観点から審査を行うべきであり,その結果,前提となった事実認識に不注意な誤りがあり,又は,意思決定の過程が著しく不合理であったと認められる場合には,取締役の経営判断は,許容される裁量の範囲を逸脱したものとなり,取締役の善管注意義務に違反するものになる。
(イ) TBHQは,欧米等十数か国で使用が許可されており,WHOでは,毒性非検知とされ,その1日摂取許容量を0.2ミリグラムから0.7ミリグラムへと増大させた。
そして,「◎◎」の皮の部分のみに用いられたショートニング中に,平均して0.1ミリグラム程度,最大でも0.12ミリグラム程度のTBHQが含まれていたものと推測され,これは,体重50キログラムの人間であれば毎日「◎◎」を350個ないし291個食べてようやく1日摂取許容量に届くというレベルである。
また,日本においてTBHQの使用が食品衛生法上認められていないのは,上記のような国際的利用状況や国際基準に照らすと,その危険性を憂慮してということではなく,単に使用の許可申請がないからということに尽きるのであり,仮に上記申請がされれば,許可された可能性が高いとの指摘がされている。結局,日本ではTBHQより抗酸化性の強い添加剤の使用が許可されているから,わざわざTBHQの使用についての許可を求める実益がないから許可されていないにすぎないものと推認される。
さらに,平成12年11月30日以後,国内の検査機関に「◎◎」の検査を委託したところ,TBHQは検出されなかった。
(ウ) 被告Y2は,本件販売を継続するに当たり,前記(イ)の事実を前提にしているが,これらの事実の認識について不注意な誤りはない。
そして,上記のとおり「◎◎」に実質的な危険性がないことを前提として,平成12年10月及び同年11月の「◎◎」の販売実績が,全国約1100店のb店店舗で500万ないし700万個以上あり,さらに,冬季特に年末シーズンを迎え,これらの多数の店舗の経営と売上げのことを考えると,ここで「◎◎」の在庫切れを迎えることは,多くのフランチャイズチェーン加盟店の信頼と経営に深刻な打撃を与えかねないと考え,最低限,中国でのショートニングの切替えが可能となるまでの間,国内在庫分については販売を継続する旨の判断をすることは,企業人として,不合理であったとまでの評価を受けることはない。
(エ) 仮に法令違反行為が介在するとしても,それによって経営判断の原則を全く適用しないということにはなり得ないところ,「◎◎」にTBHQが使用されていることを認識した後,その国内在庫分の販売を継続する行為は,形式的には食品衛生法6条,30条に違反する行為ではあるが,その実質的違法性は皆無か又は著しく低いのであって,経営判断の原則の適用が否定される状況にはない。
(3)  争点(2)イ(本件販売についての被告Y2の違法性阻却事由,責任阻却事由)について
(被告Y2の主張)
ア 違法性阻却事由
前記(2)被告Y2の主張ウ(イ)の事情からして,本件販売は,形式的には食品衛生法に違反しているとしても,同法の趣旨である公衆の衛生・健康に対する実質的違法性は皆無かほとんどないものと評価することができる。
したがって,商法266条1項5号の「法令」違反についての実質的な違法性は阻却される。
イ 責任阻却事由
前記(2)被告Y2の主張ウ(イ)の事情に加え,b店の約1100店に及ぶフランチャイズチェーン店舗の経営混乱と売上げ低下を回避すること,長年のa社及びb店における被告Y1の影響力,同被告を通じたa社としての本件に対する判断・決定,被告Y2が平取締役に就任して1年目にすぎなかったこと等を勘案すると,形式的な食品衛生法違反が存するという状況の中で,同被告に,国内在庫分の販売継続決定に対してあえて異議を唱えてこれを中止させる行為に出ることを求めるのは酷に過ぎるものであって,同被告には期待可能性が乏しい。
したがって,本件販売についての責任は阻却される。
(原告の主張)
争う。
(4)  争点(2)ウ(因果関係)について
(原告の主張)
被告らの本件販売の継続行為と本件出捐等との間には相当因果関係がある。
(被告Y1の主張)
争う。被告Y1の行為と本件出捐との間には相当因果関係がない。
本件出捐による損害は,これを決定し実行した取締役らが全額負担すべきである。
(被告Y2の主張)
争う。被告Y2の行為と本件出捐との間には相当因果関係がない。
ア 本件出捐は,被告Y2が取締役から退任した平成13年9月又は遅くとも同年12月以降に,同被告が全く関与せずに決定され実行されたものである。
イ a社の専務取締役(当時。以下同じ。)B(以下「B」という。)及び常務取締役L(以下「L」という。)らは平成12年12月中に,代表取締役副社長M(以下「M」という。)及び監査役N(以下「N」という。)らは遅くとも平成13年6月ころまでには,いずれも「◎◎」にTBHQが使用されていた事実を確認しており,BあるいはLらは,被告Y2から何度も「『◎◎』にTBHQが使用されていた問題をどうする気か。」「外部から公になったらどうするのか。」と申し入れられたにもかかわらず,「公になったらなったでかまわない。」と回答し,本件販売の事実がマスコミ報道により公になったことに端を発して本件出捐を余儀なくされたのであるから,本件出捐はBらの行為の結果として発生したものである。
(5)  争点(2)エ(本件販売についての過失相殺)について
(被告Y2の主張)
ア 会社の取締役に対する損害賠償が請求されている場合(株主が代表訴訟によって会社に代わって請求する場合を含む。)には,会社と取締役は債権者と債務者の関係であるから,当然に過失相殺の規定(民法418条)が適用される。
イ 被告Y2は,上司であった被告Y1から国内在庫分の販売を継続するとの指示を受けてこれを忠実に実行したのであり,上記指示は当然a社の会社としての正式決定事項であると認識していた。そして,実際に,他の取締役等によって本件販売が停止されることはなかった。
ウ そこで,仮に,被告Y2に法令違反が認められたとしても,その結果はa社の長年にわたる会社としての組織系統あるいは管理体制に起因したものといえるから,損害賠償制度の根本にある公平の原則ないし信義則に照らして過失相殺の規定が適用ないし類推適用されるというべきである。
(原告の主張)
争う。
(6)  争点(2)オ(本件販売についての損益相殺)について
(被告Y2の主張)
a社は,本件販売の結果,販売利益(商品の販売益とフランチャイズ店舗からのロイヤルティ)を得ているから,損益相殺をすべきである。
(原告の主張)
争う。
(7)  争点(3)ア(本件支払についての善管注意義務違反)について
(原告の主張)
ア 被告らは,a社の取締役として,実体のない契約を締結して同社に対価を支払わせない善管注意義務,違法行為等を認識した場合,直ちに取締役会に報告すべき善管注意義務及び違法行為を隠ぺいするための口止め料を支払ってはならない善管注意義務を負っていた。
イ しかるに,被告らは,前記アの義務を怠り,「◎◎」にTBHQが含まれていた事実を隠ぺいするために,口止め料として,本件支払を行った。
(被告Y1の主張)
争う。a社は,Aに対して資金援助をしたものであって口止め料を支払ったものではない。
ア Aは,被告Y1の紹介で,平成12年8月ころから「◎◎」のテスト製造を始めたが,同年9月に至ってもその製造する商品は予定の水準に達せず,合格品ができなかった。
イ その後,c社が使用していた酸化防止剤からTBHQが検出された。
ウ 被告Y1は,「◎◎」の製造の中心がc社からAにシフトする事態が生じるのではないかと考え,被告Y2に対し,Aを支援して早急に工場の生産ラインを整備するように伝えた。その際,被告Y1は,同Y2に対し,支援金額は一任する旨伝えた。
エ 被告Y1は,平成12年12月31日,○○社に対する委託手数料3300万円の支払を承認したが,その実質は資金援助である。
(被告Y2の主張)
争う。a社は,g社が○○社に対して負担する損害賠償金を立替払いしたものであり,口止め料を支払ったものではない。
ア Aは,平成12年12月初め,g社に対し,○○社は,必要情報の提供がない上,g社の品質管理不足等によって設備投資だけで7000万円近くの負担を余儀なくされているからその賠償を求める旨の通知をした。
被告Y2は,平成12年12月8日,g社から,a社が上記損害賠償金を支払うことについて被告Y1の了解を得ている旨告げられた。被告Y2は,同Y1が,a社として一時的な立替払いを内諾したものと判断し,その判断どおりに処理する必要があると考えた。
イ 被告Y2は,(ア)①g社が○○社に対して損害賠償責任を負う可能性が皆無とまではいえないし,また,事態を早期解決して安定した取引関係を継続する必要があったこと,及び②g社はh社の系列会社であり,a社が独自で製造委託をした○○社との間の賠償問題をg社に直接負担させることは,今後のh社との取引関係上相当程度のマイナスとなることから,この点からも早期解決が必要であったことから,本件はa社がg社に代わって○○社に対して実質的な一時立替払いをすべき案件である,(イ)ただし,g社の実際の業務内容と対価との不均衡は是正する必要があり,契約条件としてのロイヤルティ率が低減できれば,実質的にはa社の一時的な立替払いの負担も回収でき,将来はa社の収益にもつながるとの見解をまとめた。
ウ 被告Y2が被告Y1に前記イの見解の概略を説明したところ,同被告は,立替払いを正式に指示した。被告Y2は,Aと話し合い,支払額は○○社の設備投資額にほぼ見合う6300万円とすることで合意した。被告Y2は,6300万円全額をa社から業務委託費として支出して処理する(ただし,これはg社のための立替払いであって,後にg社から業務委託手数料の料率低減の形で回収を図る予定であった。)という認識であった。しかし,全額を一度に現金で支出することには経理上の問題があったので,被告Y2は,ひとまず3300万円をa社から業務委託費として支払い,残金3000万円は,いったんa社の取引業者であったf社から資金提供を受けて支払った。被告Y2は,上記3000万円も後日業務委託費で処理する予定であったが,その後この件の担当から外されてしまったため,その事務処理ができなかった。
エ その後,g社は,平成12年12月中旬,被告Y2に対し,業務提携契約上のロイヤルティ率を1.6パーセントから1パーセントに減少させる旨回答した。これにより,前記6300万円は2,3年で回収することが可能であった。
(8)  争点(3)イ(本件支払についての被告Y2の責任阻却事由)について
(被告Y2の主張)
①g社が○○社に対して損害賠償義務を負担する可能性がないとはいえないこと,②a社にとって,h社の子会社であるg社がa社の委託を受けた製造業者である○○社に直接的な賠償義務を負担することは,今後のh社との取引上問題があること,③他方でg社の技術指導,品質管理には問題があり,ロイヤルティ料率を含めた契約条件の変更の必要性があったこと,④現にg社がロイヤルティ率を1.6パーセントから1パーセントに変更しており,その結果,a社のg社に対する業務指導契約に基づくロイヤルティの支払額が減額されているという事情に加え,上司である被告Y1のb店事業に対する影響力等を勘案すると,平取締役に就任して1年目にすぎなかった被告Y2に,あえて本件支払に異議を唱えてこれを中止させる行為に出ることを求めるのは酷に過ぎるものであって,同被告には期待可能性が乏しい。
したがって,本件支払についての責任は阻却される。
(原告の主張)
争う。
(9)  争点(3)ウ(本件支払についての過失相殺)について
(被告Y2の主張)
ア 前記(4)被告Y2の主張アと同じ。
イ 被告Y2は,上司であった被告Y1から本件支払を指示されこれを忠実に実行したのであり,上記指示は当然a社の会社としての正式決定事項であると認識していた。
ウ そこで,仮に,被告Y2に善管注意義務違反が認められたとしても,その結果はa社の長年にわたる会社としての組織系統あるいは管理体制に起因したものといえるから,損害賠償制度の根本にある公平の原則ないし信義則に照らして過失相殺の規定が適用ないし類推適用されるというべきである。
(原告の主張)
争う。
(10)  争点(3)エ(本件支払についての損益相殺)について
(被告Y2の主張)
g社に代わってa社が○○社に対して6300万円を支払ったことによって,g社との技術指導契約に基づくロイヤルティの支払が減少したという利益を享受している。
上記利益は,被告Y2がa社に与えた損害から損益相殺すべきである。
(原告の主張)
争う。
(11)  争点(4)(本件販売後の対応についての責任)について
(原告の主張)
ア ①本件販売の事実が露見すれば,TBHQが実際に人体に有害であるか否かにかかわらず,b店を利用している一般消費者に不安感を与え,その信頼感を損なう結果,a社の売上げに深刻な悪影響が生じるであろうことが予見可能であったこと,及び②本件販売当時,違法添加物の混入した商品を販売した他の食品会社は,一般的対応として,積極的に公表し,被害回復措置をとっていたことからすると,被告らは,a社の取締役として,①食品衛生法の趣旨及び②消費者の信頼を構築・維持・発展させる義務に基づいて,TBHQが混入した「◎◎」を販売した事実を公表し,前記「◎◎」を回収し,謝罪,被害弁償等の被害回復措置をとるべき善管注意義務があったのに,これを怠った。
イ 被告らは,経営判断の原則により免責されない。
(ア) 経営判断の不存在
本件販売の事実を公表しないという被告らの経営判断は存在しない。
(イ) 経営判断の手続的瑕疵
経営判断の原則の適用を受けるためには,その判断が,判断時点で合理的に利用可能な情報を十分に収集した上で,かつ,時間の許す限り慎重な検討を経たものであることを要する。
本件についていえば,「◎◎」に違法添加物が含まれていたという事態に対応した善後策を検討することは,食品を販売するa社にとって生命線ともいうべき食品衛生法に関する事項であり,対応を誤れば莫大な損害が発生する事項であるから,違法添加物使用に関する他社の事例及び法律専門家の意見等の情報を収集すべきであるとともに,取締役会において決定しなければならなかった(a社の稟議規定によっても,取締役会において決定しなければならなかった。)。
しかるに,被告らがTBHQの人体への影響についての情報を収集したかは明らかでなく,その他の情報について収集の努力をしたという主張も見られない。そして,被告らは,本件販売の事実を取締役会に報告しなかった。
ウ 被告Y2の主張ウからカまでは争う。
(被告Y1の主張)
争う。
被告Y1が本件販売の事実を公表しなかったのは,人命には影響がないという観点と販売店の混乱を避けるためであり,後日,他の取締役らが,これを追認してa社として公表しないことを決定したのであるから,被告Y1は,a社に迷惑をかけているわけではない。
(被告Y2の主張)
争う。
ア 被告Y2の善管注意義務の内容として,原告の主張アのようなものがあるのか疑問である。
イ 仮に,被告Y2が原告の主張アのような善管注意義務を負っていたとしても,同被告は上記義務を怠っていない。
(ア) 本件販売は,TBHQの人体への影響は皆無と考えられるほどのものであって実質的違法性を欠くのであるから,商品の安全性を確保すべき義務を怠っていたとはいえない。
(イ) 被告Y2は,平成12年11月30日以降,可能な限りでの原因究明及び応急措置策等を講じた。
(ウ) 被告Y2は,平成13年1月にb店FC本部長を解任されて別部署に異動し,同年6月にはM及びLらによって「◎◎」問題については一切関与することができなくなった。
(エ) 被告Y2は,遅くとも平成13年9月には,内部的にはa社の取締役とはいえなくなっていた。
(オ) 被告Y2は,平成13年9月以降も,できる限りの被害回復措置を講じるようにBら当時のa社の経営陣に随時上申したにもかかわらず,これを無視された。
ウ 違法性阻却事由
TBHQ自体の危険性や「◎◎」への使用の程度とその危険性の観点からみれば,実質的違法性はない。
エ 責任阻却事由
被告Y2は平成12年6月にa社の平取締役になったばかりであり,平成13年9月には内部的に取締役を辞任していること,20数名以上存在するa社の取締役の中において,1年目の平取締役にすぎない同被告の置かれた地位,発言力等にかんがみれば,適法行為に出ることの期待可能性は乏しい。
したがって,被告Y2の責任は阻却される。
オ 過失相殺
仮に,被告Y2に善管注意義務違反が認められたとしても,それはa社の長年にわたる会社としての組織系統あるいは管理体制に起因したものといえるから,損害賠償制度の根本にある公平の原則ないし信義則に照らして過失相殺の規定が適用ないし類推適用されるというべきである。
カ 損益相殺
a社は,平成12年12月以降「◎◎」の販売が停止される平成14年5月までの間,「◎◎」の販売を継続しており,それによってa社が受けた利益は,損益相殺をすべきである。
第3  当裁判所の判断
1  事実経過
前記第2の1の事実に証拠(甲4号証の1ないし3,5号証,9号証の1ないし3,10号証の1ないし6,11号証の1ないし8,71号証,75号証の1,3ないし5,8,10,乙イ5号証,6号証,乙ウ1号証,3ないし10号証,14号証,17号証,24号証の2,30号証,32号証の1ないし4,33号証の1,2,35号証,36号証,39号証の1,2,40号証の1,2,41ないし44号証,46号証,50号証,55号証,68号証,71号証,72号証,乙エ2号証,3号証)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1)  a社の組織,決裁権限の分配等
ア a社の平成12年11月から平成13年1月当時の本社組織は,大別して五つの事業部門(生産本部,訪販事業グループ,ケアサービス事業グループ,フードサービス事業グループ,レントサービス事業)と管理部門(人事本部,総務本部,経理本部等)とから成り立っていた(乙ウ1号証)。
イ a社は,平成12年7月10日,全事業部門を「完全資金独算会社」とし,権限と責任を各事業部門の責任者に委譲する旨の稟議規定の改定を行った(乙ウ3号証)。
稟議規定には,各事業部門(本社スタッフ部門を含む。)ごとに,金額による決裁範囲が定められていた。この金額による決裁範囲は,部門内スタッフ,スタッフ責任者,部門責任者,担当役員,総括責任者の順に大きくなり,総括責任者の決裁範囲(1億円以下とされる部門と5億円以下とされる部門があった。)を超える案件については,経営情報担当専務取締役M又は役員協議会(取締役会)が決裁権限を有することとされていた。また,部門内スタッフの決裁枠については,各部門内で定めることとされていた(乙ウ3号証)。ただし,業務委託契約の締結に関する件は,関係部門(人事,総務,経理,監査)の役員及びMの決裁・確認の上,役員協議会(取締役会)による最終決裁が必要であった(乙ウ3号証)。
ウ a社のフードサービス事業グループ(担当専務取締役被告Y1)は,フードサービス事業本部(本部長取締役O(以下「O」という。))とb店FC本部(本部長取締役被告Y2)とから成り立っていた(乙ウ1号証)。
a社は,本件支払当時,稟議規定において,b店FC本部の3000万円以下の案件については被告Y2の単独決裁とし,3000万円超1億円以下の案件については被告らの共同決裁と定めていた(乙ウ3号証)。
(2)  g社との間の技術提携覚書
a社は,b店事業本部(b店FC本部の当時の名称。以下「MD本部」という。)が展開するb店事業に飲茶点心類を導入するに当たり,平成4年11月13日,h株式会社の子会社であり,餃子専門店等を経営しているg社との間で,次のような内容を含む技術提携覚書を締結した(乙ウ17号証,36号証)。
ア MD本部は,b店事業の新商品として飲茶点心類を取り扱い,g社は,MD本部が希望する飲茶点心類の開発・提案をMD本部に対して行うとともに,g社がその権利を有するレシピを開示しかつ技術指導をして,飲茶点心類の生産・供給体制を支援するものとする。
イ 飲茶点心類は,MD本部とg社が協議し決定した製造業者にMD本部が製造を委託するものとし,MD本部が指定する流通業者を通じて,MD本部が主宰統括する加盟店の店舗に直接納品させるものとする。
ウ g社は,イの製造業者に対し,自己の権利に属するレシピを開示しかつ技術指導を行いMD本部の指示する品質の商品開発と製造を行わしめるものとする。
エ(ア) MD本部は,g社に対し,飲茶点心類の商品開発委託金として1億円を支払うものとする。
(イ) MD本部は,g社の商品の開発提案,レシピの開示・技術指導の対価として,年間2億円を上限として,MD本部が主宰統括する加盟店に対する飲茶点心類全類の納品価格の2パーセント相当の生産技術協力費を支払うものとする。
ただし,この上限額については,正式導入開始後6年を経過したときに双方協議の上見直しをするものとする。
(ウ) (ア),(イ)の支払方法等については,MD本部とg社の間で別途協議の上決定するものとする。
(3)  c社との間の製造委託契約締結の経緯等
ア c社を含むc社グループは,当時,ラーメンのフランチャイズチェーン(昭和40年代以降),中華ファミリーレストラン(平成9年以降)等を経営していた。また,c社グループは,生ラーメン,蒸し餃子及び冷凍ワンタン等を自社工場で製造し,販売していた。そして,c社の子会社である株式会社jは,食品及び食材の輸入及び販売事業等を行っていた(乙ウ39号証の1)。
c社は,平成5年にその株式を店頭登録していた(乙ウ39号証の2)。
イ a社は,平成10年当時,「新規仕入先選定マニュアル」(乙ウ46号証)を策定していた。同マニュアルでは,新規仕入先を選定するに当たっては,①情報の収集分析(現地調査,信用調査等による必要な情報の収集,書類審議(信用調査の結果がCランク以上を対象とする等),工場調査(生産体制・品質管理体制の調査)),②購買条件の交渉,③仕入先決定,④契約というステップを経ることとされていた(乙ウ46号証,弁論の全趣旨)。
a社は,平成10年以降,c社からワンタン麺及びワンタンスープの具材として冷凍ワンタンを仕入れていたが,a社は,前記仕入れを開始するに当たり,上記「新規仕入先選定マニュアル」に従って,「新規仕入先評価表」(乙ウ42号証)及び「新規仕入先提案書」(乙ウ41号証)を作成していた。新規仕入先評価表においては,「品質管理能力」という項目(着眼点として,「品質管理が組織的かつ機能的に実施されているか」「過去に発生したクレームに対して適切な処理を行ったか」等が挙げられる。)が設けられ,評価者の所見・コメントとして,「品質管理センターを置き,原材料と製品の検査実施を徹底している。」(c社は,工場製品を始め社外と取引している商品,原材料について,成分,味,細菌数,その他の品質が決められた基準の範囲内にあるか検査し,基準外のものについては入出荷停止等の指示を行う部署として品質管理センターを設けていた(乙ウ39号証の1)。)と記載され,10点満点中7点の評点が付けられていた。また,新規仕入先提案書には,c社の主な仕入先及び主な販売先が記載されていたほか,「品質管理」という項目が設けられ,c社が材料受入検査部門及び出荷検査部門を有していることが記載され,また,下請工場を利用していないことなどが記載されていた(乙ウ41号証,42号証)。
a社は,上記新規仕入先評価表及び新規仕入先提案書等を資料として,稟議の上,平成10年7月22日,c社との取引を決定した(乙ウ40号証の1,2)。
ウ a社は,平成12年7月13日現在で,c社が製造する「◎◎」について,「原材料規格書」(乙ウ50号証)を徴求していた。同規格書には,「製品概要」(供給責任を負う販売会社がc社であること,品質責任を負う生産工場がe社であり,HACCPを導入済みであること,輸入者が株式会社k(以下「k社」という。)であること等の記載がある。),「配合表」(原材料名,重量(百分率),原産国・生産地等の記載があるほか,アレルギー成分等特記の必要な成分として,動物性油脂(豚脂)及び肉系成分(豚肉)の記載がある。),「衛生規格」(一般生菌数10の4乗以下,大腸菌群陰性,黄色ブドウ球菌陰性,サルモネラ陰性,カビ・酵母陰性との記載がある。)等の記載がある。(乙ウ50号証)
なお,上記原材料規格書の配合表には,ショートニングについて,パーム油100パーセントとの規格・指定が記載されている。
エ e社は,麺類,中華点心の製造及び販売を事業内容とするd社が中国に設立した会社であり,その工場は,平成9年に農林水産省食肉加工食品認定工場として稼働し,平成10年にISO9002認証を取得しており,平成14年にはHACCP認証を取得した(乙ウ43号証,44号証)。
d社は,昭和40年5月に株式会社d1として設立された株式会社であり,中国所在の工場としてe社を擁していたほか,国内においても2か所の工場を有していた。k社はd社の関連会社である(乙ウ43号証)。
オ a社は,平成12年10月1日,c社との間で,次のような内容の「◎◎」の製造委託契約を締結した(乙ウ24号証の2)。
(ア) 製造供給量は月産400万個を目処とし,店舗数,売上げの増減により変動する。
(イ) 製造供給日は平成12年10月とする。
(ウ) 「◎◎」の仕様は開発したレシピ・原材料規格書に基づく。
(エ) 価格は別途協議の上決定する。
(オ) 品質管理・衛生管理は万全を期し,b店の基準を満たすこと。
(カ) 生産工場はHACCP又はISO9001の基準に準ずる工場であること。
(キ) 発注期間は平成12年10月から平成13年9月までとし,双方話し合いにより1年ごとに更新する。
(ク) その他の事項については,双方話し合いによって決定する。
(4)  a社の違法行為防止に関する取組み等
ア 危機管理行動チェックリスト
a社は,本件販売及び本件支払当時,「危機管理行動チェックリスト」において,a社で考えられる危機の種類として「企業の過失・犯罪」を掲げ,違法行為について,内部摘発があれば総務本部及び監査役が対応し,関係機関からの摘発があれば「法務奉行」という担当者を中心に特別対応チームを編成して対応し,社会問題化したり企業責任が追及されたり社内から逮捕者が出た場合には全社緊急対策本部を設置して対応する旨を定めていた。また,a社は,上記チェックリストにおいて,「欠陥商品」を掲げ,健康障害について,顧客からのクレームや消費者協会等の改善指摘があれば該当事業本部が対応し,訴訟になった場合には「PL奉行」という担当者を中心に特別チームを編成して対応し,顧客への被害が多数発生したり製品を回収する事態になる等の場合には全社緊急対策本部を設置して対応する旨を定めていた(乙ウ30号証)。
イ 稟議規定
a社は,本件販売及び本件支払当時,稟議規定において,経営上の重要な問題,特に「お客様,加盟店,支店,店,工場,取引先等の問題・課題」について,担当役員は役員協議会(取締役会)に報告するように定めていた(乙ウ3号証)。
ウ 社員研修
a社は,すべての新入社員に対し,a社の社員として遵守すべき内容を記載した「〈教育マニュアル〉新人働きさん教育テキストⅠ,Ⅱ,Ⅲ」を配布するとともに,新人研修において,このテキストの内容をすべて説明し,周知徹底を図っていた。「〈教育マニュアル〉新人働きさん教育テキストⅢ」の中には,ミスや突発的な問題は素早い対応が望まれるため,最優先で報告すること,連絡が遅れた分だけ事態が悪化すること等が記載されている。(乙ウ32号証の1ないし4,33号証の1,2,弁論の全趣旨)
エ 危機管理セミナー
a社は,平成12年7月13日,富士火災海上保険株式会社顧問を招いて,「雪印乳業集団食中毒事件の問題点と反省点〜「危機管理」の欠如で被害拡大〜」と題するセミナーを開催した。同セミナーでは,(1)事件の概要(雪印乳業の大阪工場が製造し出荷した製品による集団食中毒事件が発生したこと,前後して発生した参天製薬の目薬への異物混入事件で同社が損失を覚悟で短時間で250万個の製品の回収を決定し完了させたことと比較され,社会的に批判を受けていること等),(2)問題点((ア)社内のルール違反(①事実の確認の欠如,②報告,連絡の欠如,③現場と管理部門との連携の欠如,④製品の回収指示が遅れたこと,⑤製造工程に問題があったこと,⑥工場に保管されるべき洗浄記録の欠落,⑦責任体制の欠如),(イ)マスコミ対策の不十分さ(①マスコミ(広報危機)対策が不十分であったこと,②マスコミに対して隠ぺい(ミスリード)した事実があったこと,③窓口一本化対策が推進されていなかったこと)),(3)反省点(対応策)(①事実確認と実態調査,②経営トップの認識,③プロジェクトチームの編成,④事件,事案への基本方針の決定,⑤監督省庁への報告,連絡,⑥関係部門の連携,協力,⑦製品回収の決定と指示,⑧広報対策の推進,⑨被害(消費者,量販店,関係業者等)補償対策の推進,⑩訟務対策の推進)といった点が説明された(乙ウ35号証)。
(5)  a社の本件支払当時の経理に関する規定等
ア a社の経理本部(当時本部長取締役P(以下「P」という。)は,同社の単独及び連結の各予算業務及び各決算業務(具体的には,月次決算報告,経営資料作成,営業報告書作成,株主総会資料作成,予算対比管理,予算実績進捗把握,国際会計基準経営基盤作成,連結決算処理統一基準策定等)を業務内容としていた。
イ a社においては,前記(1)イのとおり,稟議規定に定められた決裁権限の範囲内で,各事業部門に権限が委譲され,各事業部門の統括責任者及び担当役員の責任の下に,伝票入力から証票等のチェック及び伝票の承認行為に至るまでの処理が各事業部門内で完結するシステムが採用されていた。したがって,上記承認行為をもって,仕訳データの処理及び銀行振込手続等も自動的に行われ,本社経理本部には伝票が回ってこないシステムとなっていた。(乙ウ55号証,弁論の全趣旨)
ウ a社においては,随時更新される最新の経理データを,いつでも誰でも検索,照会,ダウンロードすることが可能な経理システムが採用されていた。そして,すべてのデータについて履歴が保持され,入力,変更及び承認のいずれについても,いつ,誰が,何をしたのかが時系列で記録される仕組みとなっていた。(乙ウ55号証,弁論の全趣旨)
エ a社における平成12年4月1日から平成13年3月31日までの仕訳レコード件数は,借方と貸方を別々に数えると,422万8026件(1か月平均35万2336件(小数点以下四捨五入。以下同じ。),1日平均1万7617件(1か月の稼働日数を20日として計算))であった(乙ウ55号証)。
(6)  「◎◎」へのTBHQの使用及び本件販売
ア e社が「◎◎」の原材料として使用したショートニングの中に,TBHQが含まれていた(TBHQ(グラム)/肉まん重量(キログラム)=0.00012グラム/0.12キログラム=0.001グラム/キログラム 甲4号証の1,2)。
イ Aは,後記(8)のとおり○○社において「◎◎」のテスト製造をしていた際に,c社が製造した「◎◎」に日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが含まれたショートニングが使用されていることを知り,平成12年11月30日,a社を訪問し,b店FC本部のGらに対し,上記事実を告げた。
Gは,直ちに被告Y2にこのことを報告し,同人は,事実関係を至急調査するように指示した(乙ウ14号証,乙エ3号証)。
e社は,同年12月2日,ショートニングの仕入先に確認して,「◎◎」に使用しているショートニングには日本で使用が許されていない添加物が含まれていることが判明したため,自主的に操業を停止した。a社から出張した品質管理担当者は,同日,Gに対し,日本では使用が許されていないTBHQが「◎◎」に使われていることと,午後からの工場の操業停止を報告した。(甲4号証の2)
被告Y2は,同日ころ,被告Y1に対し,c社が製造した「◎◎」に日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが使用されていた旨を連絡するとともに,国内の公的機関に「◎◎」の食品分析を依頼しており,同月6日に結果が出るので,在庫品の廃棄は待って欲しい旨要望し,被告Y1はこれを了解した(甲71号証,乙イ5号証,6号証,乙エ3号証)。
Gは,同日,定量下限0.01グラム/キログラムでの検査において,「◎◎」の2検体から,TBHQが検出されなかった旨を被告Y2に報告した(乙ウ14号証)。
ウ 被告らは,平成12年12月8日ころ,c社が製造した「◎◎」について販売を継続することを決定した(甲5号証,乙イ6号証,乙ウ14号証)。
a社は,「◎◎」について,平成12年4月にテスト販売を開始し,同年10月6日に本格販売を開始した。そして,同年12月20日ころまでの間に,テスト販売期間中に販売したものも含め,TBHQが含まれた「◎◎」を1314万個(同年12月1日以降で約300万個。この中には,同月7,8日に通関した68万4000個,同月10日船積み,同月15日通関した65万6560個が含まれる。)販売した。(甲5号証,乙ウ14号証)
(7)  本件支払に関する経理処理
ア 平成12年12月11日,「異物混入調査費用」という名目で,被告Y2に対する300万円の小切手による仮払いが,b店FC本部から経理本部あてに依頼され,同月12日,被告Y2名義の預金口座に振り込まれた(乙ウ4号証)。被告Y2は,同月13日,Aに対して上記300万円を支払った。
イ 平成12年12月12日,○○社に対する500万円の小切手による仮払いが,b店FC本部から経理本部あてに依頼され,同月13日,A名義の預金口座に振り込まれた(乙ウ5号証)。
ウ a社(b店FC本部)は,平成12年12月15日,Aに対し,2500万円を支払った。○○社(代表取締役A)は,これを受けて,a社(b店FC本部)あてに業務委託料(手付金分)800万円及び業務委託料(残金)2500万円を受領した旨の同日付けの領収書2通を交付した(乙ウ9号証,10号証)。
エ 平成12年12月15日,「異物混入」という名目で,被告Y2に対する2500万円の振込みによる仮払いがb店FC本部から経理本部あてに依頼され,同月19日,支払が実行された(乙ウ8号証)。
オ 被告Y2は,平成13年1月18日,f社から3000万円を借り入れ,同日,Aに対してこれを支払った。
(8)  a社と○○社との交渉経過
ア 被告Y1は,平成12年5月にAを紹介されたものであるが,同年7月には,Aから「◎◎」の製造をしたい旨の申入れを受けた(甲4号証の2,乙ウ14号証)。
イ ○○社は,平成12年8月ころから「◎◎」のテスト製造を始めたが,同年9月に至っても予定の水準に達せず合格品を製造することができなかった(甲4の2,乙ウ14,弁論の全趣旨)。
ウ Gは,平成12年10月,被告Y1に対し,同年9月に訪中し,○○社が「◎◎」を実際に製造させるとしていた工場を視察したが,特に設備面,衛生管理面に問題があり,現状では同工場での生産は難しい(何らかの投資をする必要がある上,日本サイドでの品質管理をどうするかという問題もある。),また,既にi社の2工場及びc社の1工場が立ち上がっており,現状ではこの3工場でも供給が間に合う旨を報告した(乙ウ14号証)。
エ a社(b店FC本部(被告Y2))は,平成12年12月5日,○○社に対し,次のような前提条件を含む「MD肉まん製造依頼書」を交付した(乙ウ14号証・資料3)。
(ア) 製造供給量は全量の3分の1(月産200万個)を目処とする。
(イ) 製造供給日は平成13年2月を目処とする。
(ウ) 現行肉まんと同品質(味・外観・大きさ・使用原材料)であること。
(エ) 価格は工場出し価格29.53円とする。
(オ) 品質管理・衛生管理には万全を期し,b店の基準を満たすこと。
(カ) 生産工場はHACCP又はISO9001の基準に準ずる工場であること。
(キ) 発注期間は平成13年1月から同年12月までとする。
オ Aは,平成12年12月7日,g社に対し,商品開発の指導を怠ったとして7000万円の損害賠償を要求した。同月8日,Aに対する対応は,被告Y1の了解の下,被告Y2がすることとなった。(乙ウ14号証)
カ a社(b店FC本部(被告Y2))と○○社は,平成12年12月13日付けで,平成13年1月1日から同年12月31日までを契約期間とし,○○社がa社の品質基準に基づいたb店オリジナル肉まんを安定供給し(供給量は月産200万個),a社が委託料年額3300万円を支払う旨の業務委託契約を締結した(乙ウ6号証)。
なお,上記業務委託契約締結に際して,Q(当時b店FC本部内の管理本部長 以下「Q」という。)が平成12年12月15日に起案した「稟議決裁書」(乙ウ7号証)は,次のような内容であった。すなわち,「◎◎」については,発売当初よりすべて中国本土において生産し冷凍加工後に輸入して対応しているが,昨今,異物混入が相次いだことから,危機対策室が再度中国本土に赴いて製造工程の再々チェックや現地での再発防止の協議をしている。それと並行して,c社とi社の工場だけでは不安定要素が払拭できないとの判断から,急きょ,被告Y1の決断により,○○社と業務委託契約(契約期間平成13年1月1日から同年12月31日までの1年間,委託料年3300万円)を締結する形としたい。(乙ウ7号証)
被告Y2は平成12年12月15日,被告Y1は同月19日,それぞれ上記の稟議を承認する旨の決裁をした。しかしながら,役員協議会の最終決裁はもちろん,関係部門の役員やMの決裁・確認もされていなかった。(乙ウ7号証)
キ g社は,平成12年12月15日,a社(b店FC本部)に対し,「一連の管理責任不徹底のお詫びと今後の事業発展に向けての弊社開発体制の再提案」と題する書面を提出し,g社がa社から受領していたロイヤルティを,平成13年1月1日納品分より,a社購入価格の1パーセントに変更したい旨提案した(乙ウ14号証,乙エ2号証)。ただし,g社は,平成12年10月1日にも,「◎◎」の生産技術協力費を,同年12月31日までの納品分については納品価格の1.6パーセントとし,平成13年1月1日以降の納品分については納品価格の1パーセントとする旨を提案していた(乙ウ68号証)。
また,g社は,平成12年12月15日,c社に対し,「a社様「◎◎」技術協力のお詫びと今後にむけての協力のお願い」と題する書面を提出し,c社の「◎◎」廃棄損の一部として500万円を負担したい旨提案したが,同社はこれを受領しなかった(乙ウ14号証)。
ク a社b店FC本部内の品質管理室室長H(以下「H」という。)は,平成13年4月20日,○○社が「◎◎」を実際に製造させるとしていた工場(なお,同年3月に製造工場が変更された。)を調査し,Gに対し,次のように報告した。すなわち,設備が完成状態ではなく,最終判断できる段階に至っていないが,今のままでは不適格である。同年5月7日に設備が完成した段階で,75点(適格とは認められないが,要注意の取引先としては取引を開始することが可能である点数)となるだろうと想定している。同日に設備は最低限整うことになるが,品質管理体制は未熟である。少なくとも,不備を自主的に発見し,改善できるまでには至っていない。(乙ウ14号証)
Hは,同月11日に再度前記工場を調査し,Gに対し,次のように報告した。すなわち,前回の指摘項目は,施設及び設備についてすべて改善されている。a社の指摘とは別に行政からの改善指導があり大規模な改修工事をしている。その工事がまだ終わっていない段階で,工事現場のようにセメントは乾いておらず,ペンキ塗り立ての状態である。総合評価は,適格取引先ではなく要注意取引先である。(乙ウ14号証)
ケ a社は,平成13年9月10日,○○社に対し,①中国当局の輸出許可,国内輸入許可の目処等の輸出入許認可状況,②現在までに生産し備蓄している「◎◎」の数量,③現在の生産数量(日産)及び生産計画等の報告を求めた。これに対し,○○社は,同月13日,①中国当局の輸出許可は取得済みであり,国内輸入許可についても,同月末ころに手続が完了する見込みである,②同月12日現在で「◎◎」約72万個を備蓄している,③現在の生産数量は日産5万5000個で,10月又は11月を目処に日産8万個という生産計画を立てているといった内容を報告した(乙ウ14号証)。
コ a社は,平成13年10月30日付け通知書をもって,○○社に対し,同社との間の業務委託契約及び同社に対するMD肉まん製造依頼を同年12月末日をもって解約する旨の意思表示をした(甲4号証の3)。
サ ○○社は,平成14年3月9日,a社を被告として,契約上の地位確認請求訴訟を当庁に提起した(甲4号証の3)。
(9)  a社の本件販売後の対応
ア a社は,平成13年9月18日に,社外取締役のRが代表取締役社長のBに対し,調査委員会の設置を提言したことに基づき,本件販売及び本件支払について調査するために,「MD調査委員会」を発足させた。同委員会は,取締役のO(当時フードサービス事業本部長)を委員長とし,Q(当時b店カンパニー社長),P(経理本部長),監査役のNのほか,社内からG,I(監査部部長),J(b店カンパニー総務部法務管理主任),b店加盟店の社長Kの合計8名で構成された。その目的は,主として担当者の処分と今後の方針等について検討することにあり,同年10月1日から同年11月5日までの間に合計5回,委員会が開催された。同委員会は,社内関係者からの事情聴取に基づき,a社と○○社の交渉経過等について調査し,平成13年11月6日付けで,Bあてに調査報告書を提出した。上記調査報告書には,同委員会の所見として,本件販売及び本件支払について,被告らに善管注意義務違反が認められる旨等が記載され,担当者の処分その他今後の方針等について,Aについては速やかに取引関係を解消しなければならないこと,同委員会の調査にかかる情報の開示については,性質上,慎重を期する必要があるので,内容の開示に際しては,その時期,方法,内容等について十分留意されたいこと等が記載されている。(乙ウ14号証,72号証)
イ a社は,前記MD調査委員会の調査報告書の提出を受けて,平成13年11月29日開催の取締役会において,本件販売及び本件支払に関し,被告Y2の取締役辞任を受理すること,被告Y1との間の顧問契約を解約すること,Qを1か月間100分の10の減給とすること等の処分を決定した(甲75号証の1)。
ウ a社は,平成13年11月末ころまでに,本件販売に関するTBHQ問題について,自ら積極的には公表することをしないこととした(乙ウ72号証)。
エ a社の本件販売については,厚生労働省又は農林水産省への匿名による通報があり,平成14年5月15日,保健所が大阪府下のb店店8店舗に立入検査をしたことをきっかけとして,同月20日,共同通信社からa社に対し取材がされた。そこで,a社は,同日,記者会見をして,本件販売の事実を公表した。翌21日以降,新聞等のマスコミで本件販売及び本件支払等について,大きく報道された。特に,a社が食品衛生法上使用が許されていない添加物を含んだ「◎◎」の販売を故意で継続するという食品衛生法違反行為を行ったこと,当該事実を指摘した業者に「口止め料」を支払ったこと,更にSにより隠ぺいがされたこと等の疑惑が大きく報道された。(甲4号証の3,9号証の1ないし3,10号証の1ないし6,11号証の1ないし8,乙ウ71号証,72号証)
オ 大阪府は,平成14年5月31日,a社に対し,本件行政処分をした。
a社は,同日,上記処分を受けて,Bの報酬を3か月間全額カットすること,Mを代表取締役副社長から代表取締役専務に降格し,その報酬を3か月間30パーセントカットすること,Lを常務取締役から取締役に降格し,その報酬を3か月間20パーセントカットすること並びにO,Q,T及びUの取締役報酬を3か月間20パーセントカットすること等の処分を決定した(甲75号証の3)。
カ a社は,平成14年6月20日開催の取締役会において,「a社再生委員会」の発足を決定した(甲75号証の4)。
a社再生委員会は,本件販売及び本件支払等の事実関係を調査し,同年9月25日,Bに対し,報告書を提出した(甲4号証の1ないし3,75号証の10)。
キ a社は,平成15年9月4日,本件販売を理由に,食品衛生法違反の罪で,本件略式命令を受けた。
(10)  本件出捐の内訳
ア 本件出捐のうち,「b店加盟店営業補償」57億5200万円は,本件販売の発覚によりb店事業の加盟店の売上げが減少したことを受けて,a社が,上記加盟店に対し,各加盟店ごとの平成14年5月21日から同年9月30日までの減収額(同一期間における過去3年の平均売上高と比較した場合の減収額)に,過去3年の平均限界利益率を乗じた利益相当額を補償したものである(甲75号証の8,弁論の全趣旨)。
イ 本件出捐のうち,「キャンペーン関連費用」20億1600万円は,a社が,本件販売の発覚を受けてb店事業について営業活動及び販売活動を自粛した後,その売上げを向上させるために行ったキャンペーンの費用並びに上記自粛によって不要となった販促ツール(景品類)の回収費用及び本件販売の発覚を受けて実施前に中止されたキャンペーンの中止までに要した費用である(弁論の全趣旨)。
ウ 本件出捐のうち,「CS組織員さん優待券及びSM・MM等特別対策費用ほか」17億6300万円は,a社がb店事業の顧客向けに発行し,顧客が加盟店で使用した優待券を加盟店から引き取った費用並びにa社のクリーンサービス事業対策費用,サービスマスター事業及びメリーメード事業の加盟店等への営業支援費用等である(甲75号証の5,弁論の全趣旨)。
エ 本件出捐のうち,「新聞掲載・信頼回復費用」6億8400万円は,a社が,本件販売の発覚を受けて,新聞広告を掲載した費用,信頼回復及び売上回復のためにセールチラシの折込み等を実施した費用並びに店頭でのお知らせポスター等の制作費等である(弁論の全趣旨)。
オ 本件出捐のうち,「飲茶メニュー変更関連費用」3億4600万円は,本件販売の発覚を受けて,a社が「◎◎」等の販売を中止したことによる「◎◎」等の在庫品及び仕掛品の廃棄損並びにb店事業の売上げ低下によって生じた賞味期限切れ商品の廃棄損である(甲75号証の5,8,弁論の全趣旨)。
2  争点(2)ア(本件販売についての具体的法令違反・善管注意義務違反),同イ(本件販売についての被告Y2の違法性阻却事由,責任阻却事由)について
(1)  前記1(6)のとおり,被告らは,c社の製造した「◎◎」に,食品衛生法上使用が許されていない添加物であるTBHQが含まれていることを知りながら,少なくともその一部を販売することを決定したものである。商法266条1項5号にいう「法令」には,取締役を名あて人とし,取締役の受任者としての義務を一般的に定める商法254条3項(民法644条),商法254条ノ3の規定及び取締役がその職務遂行に際して遵守すべき義務を個別的に定める規定のほか,会社を名あて人とし,会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定が含まれると解するのが相当であるところ(最高裁第二小法廷平成12年7月7日判決・民集54巻6号1767頁参照),食品衛生法6条は,食品を販売する会社であるa社を名あて人とし,同社がその業務を行うに際して遵守すべき規定であるから,商法266条1項5号にいう「法令」に当たる。
(2)  被告Y2は,TBHQが,欧米等十数か国で使用が許可されていて,WHOでは毒性非検知とされたこと,「◎◎」に含まれていたTBHQは微量であったこと等の事情からして,本件販売は食品衛生法の趣旨に実質的に反しておらず,違法性が阻却される旨主張する。
しかしながら,食品衛生法は,添加物について,有毒な,若しくは有害な物質が含まれ,若しくは附着し,又はこれらの疑いがあるものの販売,販売の用に供するための使用等を禁止する一方で(4条2号),それとは別個に,人の健康を損なうおそれのない場合として厚生大臣が食品衛生調査会の意見を聴いて定める場合を除いては,添加物を含む食品の販売等を禁止しているのであるから(6条),TBHQが有害でないとしても,食品衛生法違反の違法性が阻却されるとはいえない。
(3)  また,被告Y2は,b店の約1100店に及ぶフランチャイズチェーン店舗の経営混乱と売上げ低下を回避すること,長年のa社及びb店における被告Y1の影響力,同被告を通じたa社としての本件に対する判断・決定,被告Y2が平取締役に就任して1年目にすぎなかったこと等をも勘案すると,同被告には期待可能性がなかった旨主張する。
しかしながら,被告Y2が当時a社の取締役b店FC本部長という,フードサービス事業グループにおいて,Oと並んで被告Y1に次ぐ地位にあったことからすると,たとえ被告Y2が平取締役に就任して1年目にすぎなかったとしても,期待可能性がなかったとはいえない。
(4)  以上より,被告らは,食品衛生法6条に違反して本件販売の継続を決定したものであって,商法266条1項5号に基づき,それによってa社が被った損害を同社に賠償する責任を負う。
3  争点(2)ウ(因果関係)について
(1)  前記2のとおり,被告らは,本件販売の継続によってa社が被った損害を賠償する責任を負うところ,原告は,本件出捐が本件販売の継続と因果関係を有する損害である旨主張するので,以下検討する。
本件出捐は,前記1(10)のとおり,①a社が,本件販売の発覚を受けて,「◎◎」の販売を中止したことに伴う費用(「◎◎」の在庫品及び仕掛品の廃棄損(前記1(10)オ)),②同社が,本件販売の発覚を受けて,「◎◎」以外の商品の販売を中止したり,キャンペーンを自粛したことに伴う費用(同イ,オ),③b店事業の売上げ低下によって生じた同事業の他商品の廃棄損(同オ),④同社が,信頼回復,売上げ向上のために広告,キャンペーン等の措置を講じたことに伴う費用(同イ,ウ,エ),⑤同社が,加盟店の売上げ減少を補てんするために支出した費用(同ア)等であるところ,いずれも,本件販売の事実を消費者が知った結果,a社のb店事業及びその他の事業の信用が損なわれ,売上げが減少したことによって,同社が負担しなければならなくなった費用であるものと認められる。
(2) そもそも,食品販売事業を営む会社が,過去に,飲食に関する衛生の見地から法律上使用することが許されていない添加物を含んだ食品を故意で販売していたという事実(食品衛生法違反の犯罪行為に該当する。)を消費者が知った場合,上記事実を消費者が知った時期や同社が上記事実を自ら積極的に公表するか否かにかかわらず,消費者は,同社が販売する食品の安全性について不信,不安を抱き,その結果として,同社の食品販売事業の信用が損なわれ,同社が販売する食品の売上げが減少する蓋然性があるほか,同社の営む他の事業についても信用が損なわれ,売上げが減少する蓋然性があるものと推認される。食品は体内に摂取するものであって,一般に,消費者はその安全性について敏感に反応するものであるところ,たとえ,当該会社が,法律上使用することが許されていない添加物を含んだ食品を販売していたという事実を自ら公表したとしても,同社が現在及び今後販売する食品が当然に安全であると信頼するものではなく,やはり同社が販売する食品の安全性について不信,不安を抱くものと推認される上,消費者は,必ずしも特定の会社の営む複数の事業を峻別せず,ある事業について法令に違反した会社は,他の事業についても法令に違反するのではないかという不信,不安を抱く蓋然性があるものと推認されるからである。
そして,本件においては,被告らが,食品衛生法違反を認識しながら本件販売の継続を決定し実行していたから,何らかの原因,方法によってその事実を消費者が知る蓋然性があった。したがって,a社の他の取締役らが本件販売の事実を公表することを決定するか否か,決定するとしてそれがいつであるかにかかわらず,消費者が本件販売の事実を知ってa社の販売する食品の安全について不信,不安を抱き,その結果として,同社の信用が損なわれ,売上げが減少し,同社が本件出捐のような性格を有する多額の費用を負担しなければならなくなる蓋然性があったものである。
確かに,本件出捐の際,例えば,TBHQが含まれていないことが明らかな「◎◎」の販売を中止するか否か(前記(1)①),「◎◎」以外の商品の販売を中止するか否か(同②),どの程度の費用を投じて信頼回復のための広告等を行うか(同④),加盟店の売上げ減少を補てんするためにいくら支出するか(同⑤)等はその時の取締役らの経営判断によって決定されるものであって,本件販売の事実から相当な出捐額が一義的に導かれるものではない。
しかしながら,上記出捐額の決定はまさに当時のa社の置かれた状況等種々の事情を総合考慮した上で判断されるべきものであり,当時の取締役らに広い裁量が認められるから,当時の取締役らの経営判断の過程や結果が通常予測され得るところと著しく異なる等の特段の事情が認められない限り,被告らの行為と本件出捐との間の法律上の因果関係が否定されるものではない。
(3)  この点,被告Y2は,①本件出捐は,被告Y2が取締役から退任した平成13年9月又は遅くとも同年12月以降に,同被告が全く関与せずに決定され実行されたものである,②B及びLらは平成12年12月中に,M及びNらは遅くとも平成13年6月ころまでには,いずれも「◎◎」にTBHQが使用されていた事実を確認しており,BあるいはLらは,被告Y2から何度も「『◎◎』にTBHQが使用されていた問題をどうする気か。」「外部から公になったらどうするのか。」と申し入れられたにもかかわらず,「公になったらなったでかまわない。」と回答し,本件販売の事実がマスコミ報道により公になったことに端を発して本件出捐を余儀なくされたのであるから,本件出捐はBらの行為の結果として発生したものであるなどとして,本件販売の継続と本件出捐との間には相当因果関係がない旨主張する。
しかしながら,前判示のとおり,被告らが本件販売の継続を決定した以上,a社が本件出捐を余儀なくされる蓋然性があるのであるから,被告らが本件出捐の決定に関与しなかったからといって,本件販売の継続と本件出捐との間の相当因果関係が否定されるものではない。また,仮に,被告Y2主張のとおり,平成12年12月時点において被告らの他に本件販売の事実を知るa社の取締役がいて,本件販売の事実を公表する等の措置をとらなかったとしても,少なくとも当該行為(不作為)は通常予測され得るところと著しく異なるものではないから,本件販売の継続と本件出捐との間の相当因果関係が否定されるものではない。
(4)  したがって,本件販売の継続と本件出捐との間には相当因果関係が認められる。
4  争点(2)エ(本件販売についての過失相殺)について
被告Y2は,本件販売はa社の長年にわたる会社としての組織系統あるいは管理体制に起因したものといえるから,損害賠償制度の根本にある公平の原則ないし信義則に照らして過失相殺の規定が適用ないし類推適用される旨主張する。そして,その具体的な根拠としては,①被告Y2が,上司であった被告Y1から国内在庫分の販売を継続するとの指示を受けてこれを忠実に実行したこと,②他の取締役等によって本件販売が停止されることはなかったこと,③a社は当時本件販売を積極的に自ら公にしようとする姿勢ではなかったことを挙げる。
しかしながら,①被告Y1の指示を受けて本件販売の継続を決定したことは会社(a社)との関係において被告Y2の責任を減免すべき事由には当たらない。また,②他の取締役等によって本件販売が停止されることがなかったのは,被告らが,「◎◎」にTBHQが含まれていることを他の取締役に報告しなかったからであり,そのことを理由に被告Y2の責任が軽減されるいわれはない。さらに,③他の取締役らが自ら積極的に本件販売の事実を公にしなかったからといって,被告Y2が自らの行為と相当因果関係を有する損害について一部責任を免れなければ損害の公平な分担に反するものともいえない。
よって,被告Y2の上記主張は理由がない。
5  争点(2)オ(本件販売についての損益相殺)について
被告Y2は,a社は,本件販売の結果,販売利益(商品の販売益とフランチャイズ店舗からのロイヤルティ)を得ているから,損益相殺をすべきである旨主張する。
そこで検討するに,商法266条1項5号に該当する行為による損害額の算定に当たり損益相殺の対象となるべき利益は,当該行為と相当因果関係のある利益であるとともに,当該行為による会社の損害をてん補する性質を有すること(損害との同質性)を要すると解するのが相当である。しかるに,本件において,被告らが賠償すべき損害は,前判示のとおり,食品衛生法に違反した本件販売の事実が消費者の知るところとなった結果,a社のb店事業及びその他の事業の信用が損なわれ,売上げが減少したことによって,同社が負担しなければならなくなった費用等である。これに対して,本件販売による利益は,a社が食品衛生法に違反して本件販売を実行したことによって得た利益及びロイヤルティである。そうすると,上記損害は,a社が食品衛生法に違反した本件販売を実行して利益を上げたことを原因として生じたものであるから,上記利益は上記損害を惹起する一因でこそあれ,上記損害をてん補する性質を有するということはできない。
したがって,被告Y2の主張する利益は損益相殺の対象となり得ないから,同被告の上記主張は理由がない。
6  争点(3)ア(本件支払についての善管注意義務違反・忠実義務違反),同イ(本件支払についての被告Y2の責任阻却事由)について
(1)  本件支払の目的
本件支払について,原告は,被告らは,「◎◎」にTBHQが含まれていた事実を隠ぺいするために,口止め料として,本件支払を行ったと主張し,被告らはこれを争うので,以下,本件支払の目的について検討する。
ア まず,○○社には食品製造についての実績がなく(弁論の全趣旨),平成12年9月に至っても予定の水準に達する「◎◎」の試作品も製造できず,業務委託契約締結から約5か月を過ぎた平成13年5月の段階でもいまだ同社の準備した工場は工事中という状況であったこと(前記1(8)イ,ク)からすると,i社やc社とは別個に,あえて○○社に対して「◎◎」の製造を委託する必要性はなかったことが推認される(Gも,平成12年10月に,被告Y1に対し,既にi社の2工場及びc社の1工場が立ち上がっており,現状ではこの3工場でも供給が間に合う旨を報告していた(前記1(8)ウ)。)。
イ 次に,○○社の準備した工場がまだ工事中であり,同社とa社の間の業務委託契約締結に関する稟議書も起案されていない同年12月13日の時点で,同社から○○社に対して800万円が支払われていること,しかも,うち300万円については,「異物混入調査費用」という名目で,a社から被告Y2個人に対する仮払いがされた後に同被告が○○社に対して支払うという特異な支払方法がとられていること(前記1(7)ア,イ),a社においては,業務委託契約に関することは役員協議会(取締役会)における稟議事項とされているところ(乙ウ3号証),フードサービス事業グループ内においては,業務委託契約の締結(業務委託料3300万円)という名目で稟議,決裁がされたにもかかわらず,b店FC本部と経理本部との間においては,上記800万円を除く2500万円についても「異物混入」という名目で経理処理がされ,しかも,b店FC本部から○○社に対して支払われた後にa社から被告Y2個人に対する仮払いがされるという特異な支払方法がとられていること(前記1(7)エ),被告Y2が,a社からの支払手続をとらずに取引先であるf社から個人名義で3000万円を借り入れて,Aに対し支払うとの支払方法がとられていること(前記1(7)オ)を総合すると,本件支払を決定し指示した被告Y1及びこれを実行した被告Y2(被告Y1が本件支払を決定,指示し,同Y2がこれを実行したこと自体は当事者間に争いがない。)は,a社における正規の手続を経ることを避け,フードサービス事業グループ内部で事務を処理し,○○社に対して早期に金員を支払うことを優先させたことが推認される。
ウ また,○○社は,平成12年8月ころから「◎◎」のテスト製造を始めていたものであるが(前記1(8)イ),同年11月30日に,Gらに対し,c社が製造した「◎◎」にTBHQが含まれたショートニングが使用されている旨告げた(前記1(6)イ)後の同年12月7日に至って初めて,g社に対して商品開発指導を怠ったとして7000万円の損害賠償を要求するに至った(前記1(8)オ)。そして,被告らは,同月13日には,まず3300万円を支払い,その後,被告Y2がf社から3000万円を借り入れて支払うという特異な方法によって合計6300万円を支払ったものであるが,上記損害賠償の内容について検討したことをうかがわせる証拠はない。
エ 前記アないしウの事実を総合すると,被告らは,○○社又はAに利益を供与することで,「◎◎」にTBHQが含まれていた事実が同人らから外部に伝わることを防ぐ目的で(いわゆる「口止め料」として),本件支払を決定したものと推認することができる。
オ これに対し,被告Y1は,○○社に「◎◎」の製造がシフトすることを予想した資金援助である旨主張するが,前記アのとおり,同社には食品製造の実績がなく,早期に品質が確保された「◎◎」を安定供給できる見込みはなかったものであるから,上記主張事実は認められない。
カ また,被告Y2は,g社が支払うべき損害賠償金の立替払いである旨主張する。確かに,前記ウのとおり,本件支払の契機は,○○社がg社に対して損害賠償を要求したことにある。しかしながら,被告らが,g社がそのような損害賠償責任を負うか否かを検討した形跡が全くないこと,損害賠償金の立替払いであれば,正式の稟議手続を経て支払われるはずであるにもかかわらず,あえて,その一部を業務委託契約に基づく費用として支払い(しかも,経理本部との間では,「異物混入調査費用」又は「異物混入」という名目で経理処理がされている。),残部を被告Y2が個人的にf社から借り入れて支払うという特異な支払方法がとられていること等からすれば,被告らは,きっかけはどうあれ,○○社又はAに利益を供与することで,「◎◎」にTBHQが含まれていた事実が同人らから外部に伝わることを防ぐ目的で,本件支払を決定し実行したものであると推認することができる。
したがって,被告Y2の上記主張は理由がない。
(2) 以上の次第で,被告らは,○○社又はAに利益を供与することで,「◎◎」にTBHQが含まれていた事実が同人らから外部に伝わることを防ぐ目的で,本件支払を決定し実行したものであるから,本件支払は,第三者の利益を図る目的でされた会社の財産的利益を害する行為であり,善管注意義務違反・忠実義務違反が認められる。
なお,被告Y2がf社から借り入れて○○社に支払った3000万円についても,その後a社がf社に同額を支払っているところ,上記支払額は本件支払と相当因果関係を有する損害に当たる。また,被告Y1は,同Y2に対して本件支払の具体的金額を指示したものではないが,具体的金額の決定を同被告に任せたのであるから(争いがない。),a社が支払った合計額6300万円全額について被告Y1の行為との間に相当因果関係が認められる。
(3)  被告Y2は,同被告には期待可能性がなかった旨主張するが,前判示のとおり,同被告は○○社又はAに利益を供与することで,「◎◎」にTBHQが含まれていた事実が同人らから外部に伝わることを防ぐ目的で,本件支払を決定し実行したものであること,被告Y2が当時a社の取締役b店FC本部長という,フードサービス事業グループにおいて,Oと並んで被告Y1に次ぐ地位にあったことからすると,たとえ同被告が平取締役に就任して1年目にすぎなかったとしても,期待可能性がなかったとはいえない。
7  争点(3)ウ(本件支払についての過失相殺)について
被告Y2は,本件支払はa社の長年にわたる会社としての組織系統あるいは管理体制に起因したものといえるから,損害賠償制度の根本にある公平の原則ないし信義則に照らして過失相殺の規定が適用ないし類推適用される旨主張する。そして,その具体的な根拠としては,被告Y2が,上司であった被告Y1から本件支払を指示されこれを忠実に実行したことを挙げる。
しかしながら,被告Y1の指示を受けて本件支払を決定し実行したことは会社(a社)との関係において被告Y2の責任を減免すべき事由には当たらないから,同被告の上記主張は理由がない。
8  争点(3)エ(本件支払についての損益相殺)について
被告Y2は,a社は,本件支払の結果,g社との技術指導契約に基づくロイヤルティの支払が減少したという利益を得ているから,損益相殺をすべきである旨主張する。
しかしながら,前判示のとおり,商法266条1項5号に該当する行為による損害額の算定に当たり損益相殺の対象となるべき利益は,当該行為と相当因果関係のある利益であることを要するところ,本件全証拠によっても,被告Y2の主張する上記利益が本件支払と相当因果関係のある利益であると認めることができない。
したがって,被告Y2の上記主張は理由がない。
9  結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・揖斐潔,裁判官・永井裕之,裁判官・齋藤毅)
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