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判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(316)平成19年 8月24日 東京地裁 平17(ワ)27522号 報酬金請求事件、反訴請求事件

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(316)平成19年 8月24日 東京地裁 平17(ワ)27522号 報酬金請求事件、反訴請求事件

裁判年月日  平成19年 8月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)27522号・平18(ワ)21237号
事件名  報酬金請求事件、反訴請求事件
裁判結果  一部認容、反訴請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2007WLJPCA08248002

要旨
◆弁護士に対する訴訟委任をなした場合には、民法648条1項の規定にかかわらず、特約がなくとも黙示の合意による報酬支払義務を認めるべきである
◆その場合の報酬額は、事件の難易、訴額及び労力の程度、依頼者との平生からの関係、その他諸般の状況をも審査し、当事者の意思を推定した上で相当報酬額を算定すべきである

参照条文
民法648条1項

裁判年月日  平成19年 8月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)27522号・平18(ワ)21237号
事件名  報酬金請求事件、反訴請求事件
裁判結果  一部認容、反訴請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2007WLJPCA08248002

本訴 平成17年(ワ)第27522号 報酬金請求事件
反訴 平成18年(ワ)第21237号 反訴請求事件

東京都千代田区〈以下省略〉
本訴原告(反訴被告) X
同訴訟代理人弁護士 宮本岳
東京都中央区〈以下省略〉
本訴被告(反訴原告) Y株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 内藤平

 

 

主文

1  本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,156万円及びこれに対する平成18年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  本訴原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。
3  本訴被告(反訴原告)の請求を棄却する。
4  訴訟費用は,本訴反訴ともにこれを100分し,その3を本訴原告(反訴被告)の負担とし,その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。
5  この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

 

 

事実及び理由

第1  請求
1  本訴
本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,238万円及びこれに対する平成18年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  反訴
本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,2484万4161円及びこれに対する平成18年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本訴事件は,弁護士である本訴原告(反訴被告,以下「原告」という。)から原告との間で弁護士業務に関する委任契約を締結した本訴被告(反訴原告,以下「被告」という。)に対し,上記委任契約に基づく報酬金の支払及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
反訴事件は,被告から原告に対し,上記委任契約上の債務不履行に基づく損害賠償及びこれに対する本件「訴え変更申立書」送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1  争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を掲記する。)
(1)  当事者
ア 原告は,東京弁護士会所属の弁護士である。
イ 被告は,漆器,ガラス器,陶器などの卸売及び販売を業とする株式会社である(甲15ないし甲17)。
(2)  被告は,平成17年10月6日,原告に対し,被告の取締役であり,○○営業所長であったB(以下「B」という。)が,退職金の支払を巡るトラブルに端を発し,被告の取引先である株式会社a(現商号は株式会社a1,以下「a社」という。)や株式会社b(以下「b社」という。)などに対し,自分が関係する株式会社c(以下「c社」という。)との取引をするよう申し入れ,被告を商流から外そうとしているとの相談をした。原告は,同日,被告との間で,弁護士業務に関する委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した(ただし,この委任契約の目的については,後記のとおり当事者間に争いがある。)。
(3)  以後の被告とBとの紛争の主要な経過は以下のとおりである。
ア 被告は,同年11月8日,原告を代理人として,Bに対し,c社の取締役ないし従業員への就業禁止及び競業禁止を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てた(以下「本件仮処分申立て」という。)。
イ 被告は,同月9日,○○営業所において取締役会を開催し,①Bの営業所長解職とその場からの退去,②Bの処遇について臨時株主総会を開催することなどを決定した。なお,Bは,同月25日,被告の株主総会において取締役を解任された(乙27)。
ウ 本件仮処分申立てに基づく第1回審尋期日は同月21日に,第2回審尋期日は同年12月6日にそれぞれ開催された。そして,第3回審尋期日である同月14日,被告とBとの間に,別紙和解条項記載の内容にて和解が成立した(以下,この和解を「本件和解」という。)。
(4)  被告は,原告に対し,本件委任契約及び本件仮処分申立てに関して以下のとおり金員を支払った(ただし,各金員交付の趣旨については後記のとおり当事者間に争いがある。)。
ア 平成17年10月11日 52万5000円
イ 同年11月8日 60万円
2  争点
(1)  本件委任契約の目的(本訴・反訴請求原因)
(原告の主張)
ア 本件委任契約は,Bの行為が背任的なものである可能性が高いとの認識の下に,被告がBに対してどのように対処するかについて,原告が法的コンサルタントとして方針を検討し,助言することを目的として締結された。
イ その後,本件仮処分申立てをすることを決定した際に,原告及び被告は,本件仮処分申立て及びその手続の遂行を目的とする委任契約を締結した。
(被告の主張)
ア 本件委任契約は,Bがc社と協働して被告の取引先を奪う行為を実行しているとの認識の下に主要取引先4社(b社,a社,有限会社e,株式会社f)との取引確保及び回復並びに売上減少による損害の回復を目的として締結されたものである。
イ したがって,被告が原告に依頼した事項には,Bのみならずc社に対して法的手段を講ずることも含まれていた。
ウ 本件委任契約は,委任事項の細部までは決めないまま,概括的なものとして締結された。その後,数回の相談と証拠資料の収集を経て,遅くとも平成17年10月31日には,Bについては,仮処分申立てという方針が決められた。また,同じころ,被告は,原告に対し,c社についても,時期をずらすこととしつつも,営業妨害行為をやめさせて,損害賠償請求などにより被告の営業損害の回復を図ることを具体的に依頼した。
(2)  原告は,委任の目的を達成したか(本訴請求原因)。
(原告の主張)
ア 本件和解の内容は,①Bの謝罪,②Bに対する,和解成立の日から3年間の競業禁止,c社の取締役若しくは従業員となること又は営業に協力することの禁止,被告の営業を妨害する行為の禁止の各義務付け,③上記義務負担の事実を明記したB名義の挨拶状を被告の顧客及び取引先に送付すること,④Bが在職中に知り得た営業秘密の漏洩禁止を明記し,さらにBの退職金請求権についても被告の主張を取り入れさせて減額し,さらに上記各義務の履行確保のため,その一部の支払を和解成立から3年後まで留保することを認めさせた。
イ 以上のような内容は,Bとの紛争を解決するに足るものであり,被告に経済的利益をもたらした。したがって,原告は,被告に対し,この経済的利益に見合う報酬請求権を有する。
(被告の主張)
ア 本件和解が本件委任契約の目的の一部を達成したものであることは認めるが,完全な達成とはいえない。
イ 原告がc社に対する措置をとらないままにしたことで,同社は,ほしいままに被告の商権を奪い取り,被告の営業は,甚大な被害を被った。しかも本件和解によっても被告の損害は回復されなかった。
(3)  報酬の約定(本訴請求原因)
(原告の主張)
ア 被告は,本件委任契約を締結するにあたり,当面コンサルタントにより法的助言を受けること,事件としての法的措置が必要になったときは,その都度,原告の「浅野綜合法律事務所報酬基準」(以下「原告報酬基準」という。)に基づき報酬を支払うことを了解した。前記第2,1(4)アの52万5000円は,上記のコンサルタント業務に対する費用として支払われた。
イ そして,被告は,本件仮処分申立てを委任するにあたり,原告に対し,着手金として60万円,仮処分発令時に報酬として40万円を支払うことを約した。前記同イの60万円は,上記着手金として支払われた。
(被告の主張)
ア 原告と被告との間で,原告報酬基準に基づき報酬を支払うことを約したことなどはなかった。原告は,被告に対して原告報酬基準を示しもしなかったし,自分に報酬基準があることすら述べなかった。
イ 本件委任契約締結にあたって支払った52万5000円は,本件委任契約による原告の事務遂行のための着手金である。そして,被告がその後に支払った60万円は,原告が弁護士報酬の一部として受領したものである。
(4)  本件における報酬額(本訴請求原因)
(原告の主張)
ア 本件和解のうち,Bの謝罪については,特に被告が求めていたものであり,従業員の士気,会社としての営業妨害者へのけじめ,取引先への説明等,計り知れない経済的価値がある。
イ また,3年間の競業,c社への就職禁止などは,仮処分の趣旨と重なるが,仮処分ではなく,確定した本案としての債務名義である点において,申立ての趣旨を超えた価値がある。また,Bが取締役を退任後も3年間も競業避止義務を負わせることに成功したという点も価値がある。裁判所は,無限定の競業避止義務を認めない可能性があり,本件仮処分においても予備的に退任後2年間の競業避止を求める申立てをしていた。被告もこの点を知り,了解していたところ,上記のような成果を得ることができたのである。
ウ さらに,B名義の挨拶状を被告の顧客及び仕入先に送付したこともその内容がBの非違を認めた形で陳謝し,被告との取引を希望させたものであって,これによって得意先にBの介入による他社との取引を回避させたことにより,今後の被告の得意先のつなぎ止め,取引の回復に直結するものであった。
エ 平成17年9月から同年11月までの売上減少額2015万3252円を基準にすると,上記イ及びウの和解条項により,3年間にわたって2億4183万9024円の売上減少を食い止め,利益率を被告のいう24.5パーセントとしても3年間で5925万0560円の損失を防いだことになる。
オ しかし,原告は,経済的利益を低く抑えることを考慮し,上記アないしウの和解条項による経済的利益を算定不能の800万円の倍額である1600万円とした。これは,本来の原告報酬基準による報酬からみて内輪の金額であり,十分に認められるべきである。
カ 退職金については,Bの請求額が1000万円であったところを800万円に減額したのであるから200万円の経済的利益がある。なお,被告は,Bに対する損害賠償を放棄したことを考慮すべきであると主張しているが,被告主張の損害は,和解以前に発生したものであり,和解以降の経済的利益とは別のものである上,被告は,自らの意思で損害賠償の獲得よりも今後の競業避止義務の獲得を優先させたのであるから,これを上記の経済的利益から差し引くことなどできない。
キ 以上のオ及びカの経済的利益の合計額である1800万円を基準とする報酬額は198万円である。本訴においては,これに仮処分自体の報酬として約定の40万円を加算して238万円を請求する。
ク なお,被告は,原告が報酬について説明していないことを問題にするが,この点は,報酬額の算定とは関係のないことである。また,本件和解は,本件仮処分手続の進行過程で成立し,本案解決に結びついたのであるから,本件仮処分申立て時に本案の解決について報酬の説明がなかったとしてもやむを得ないし,報酬請求時には見積書によって説明をしているのであるから問題はない。
(被告の主張)
ア 原告は,仮処分命令申立事件の終了時に支払うべき報酬を40万円と主張している。したがって,本件和解が成立したからといって,これを変更する合意がない以上は,その報酬は40万円である。原告は,仮処分申立時において和解が成立することもあり得ることを十分に知っていたのであり,これを知りながら40万円と約定した以上は,一方的な変更はできない。
イ 本件において,原告は,現在,一般的に作成すべきとされている委任契約書すら作成していない。したがって,それによる不利益が生じたときは,原告がこれを負うべきである。
ウ 本件和解によるBの謝罪,3年間の競業,c社への就職禁止等,B名義の挨拶状の発送などは,いずれもこれによる経済的利益は発生しないか,少なくとも算定不能である。
エ 原告は,以上の経済的利益について,算定不能の基準額の2倍を経済的利益と主張するが,和解条項が何項かに分かれているからといって各項毎に経済的利益を算出するのは,取引先の確保と損害の回復が委任契約の目的である本件事案の実態にそぐわず,弁護士報酬をかさ上げするだけの結果となって不当である。上記の項目は,すべて損害の予防と回復という目的に向けたものであるから,その経済的利益も一つの算定不能利益とみるべきである。
オ 退職金の減額については,一方で被告がBに請求をしたかった損害賠償を放棄した点を考慮すべきである。被告は,Bに退職金を支払うこと自体,想定していなかったのであり,退職金について経済的利益は得ていない。
カ 原告は,仮処分自体の報酬として約定の40万円を加算しているが,この40万円は,仮処分の終結の際に支払うべき金額として約定したものである。したがって,これを求めるのであればこれだけであるし,約定報酬額と約定に基づかない報酬を求めるのは,二つの報酬の対象が本件仮処分手続の遂行という同一の法律事務処理であることからすると,報酬を二重に請求することになって不当である。
キ 日本弁護士連合会や各単位会が弁護士報酬会規を定めていることが独占禁止法に違反する疑いがあるとの公正取引委員会の指摘により,各会の報酬会規は平成16年4月1日に廃止された。このことは,それまでの報酬会規の内容を一般的な慣習として認めない旨公表したことを意味する。だからこそ,日本弁護士連合会や各単位会は,会員に対し,必ず各自で報酬規定を作成して備え置くよう指導したのである。このような制度の下では弁護士は,事前あるいは事後に,金額と算出理由を説明して依頼者の同意を得なければ弁護士報酬を請求できない。各弁護士の報酬規定を慣習として弁護士報酬算定の根拠とすることはできない。
ク 仮に原告報酬基準に従って算定したとしても,仮処分命令申立事件の着手金は16万3333円であり,成功報酬額は本案に準ずるものとしても98万円であるから,その合計は114万3333円である。当初の受任を交渉事件の受任とみて,規定による最高額49万円を認めたとしても総合計は163万3333円にしかならず,既払額110万円との差は53万3333円にすぎない。
ケ しかしながら,本件和解は,その内容の不十分さ,不完全さ(①仮処分申立ての理由が法的に不十分な構成であったために和解協議においてBに被告の要求を認めさせることができなかったこと,②和解内容も被告が求めていたBからの損害賠償を得られないという不十分なものであったこと)から被告を満足させるものではなく,成功報酬に値する結果を実現できていない。この点を考慮すると,本件和解によっては既払額以上に報酬は発生せず,原告は,被告に対し,合意をした報酬額40万円についても,また,きちんと説明して被告の了解を得ていたら請求できたであろう53万3333円についても,これを請求することはできないというべきである。
(5)  原告の債務不履行の有無(反訴請求原因)
(被告の主張)
ア 上記のとおり,本件委任契約の目的にはBのみならずc社に対して法的手段を講ずることも含まれていたところ,c社に対する措置は,Bに対する仮処分手続の後にすることになっていた。
イ 平成17年10月28日,c社は,被告の仕入先に対し,今後は自社経由でb社に商品を納入したい旨の通知書をファックス送信した。被告は,これを同月29日に入手した。それ以降,被告は,原告に対し,Bの件と並行してまず内容証明でc社に対して警告書を出すよう何度も要望した。
ウ したがって,原告は,被告に対し,同年11月中にはc社に対する警告書を発すること,Bとの和解が成立した後,速やかにc社に対する法的措置に着手すべき契約上の義務を負っていた。しかるに,原告は,これらのことを何ら実行しなかった。これは原告の被告に対する本件委任契約上の債務不履行に当たる。
(原告の主張)
ア 本件仮処分申立てにあたり,被告は,c社を相手方にしないことを希望した。それ以降も,原告は,c社に対する法的措置を依頼されていないのであるから,債務不履行はない。
イ 被告は,今日に至るまでBやc社に対する損害賠償請求をしていないというのであるから,そもそもそのような損害賠償を請求はできなかったのである。
(6)  被告の損害額(反訴請求原因)
(被告の主張)
ア c社は,平成17年11月初旬からb社とa社に,従来被告が納入していた商品を納入するようになり,商流の変更が生じた。
イ b社及びa社ともBが担当して何年も商流の変更なく推移してきたことからみて,c社の不当な介入さえなければ,被告はそのまま従来の水準に沿った売上を維持できたとみるのが自然である。ところが,上記商流の変更により,被告の売上は激減し,本来得られた利益を得られなくなった。その額は,平成18年7月末時点で2484万4161円である。
ウ 原告が,被告の依頼にこたえて適時にc社に対して警告書を発していれば,c社の平成17年11月以降の商品納入を阻止して,被告が従来どおりの売上を維持できた可能性が強い。実際,c社は,本件仮処分手続中は営業活動を控えていた。ところが,本件和解成立後は積極的にb社及びa社と取引を始めた。このような事実からみると,原告が委任契約を忠実に履行していれば,被告の上記利益減少は防げたといえる。したがって,原告の債務不履行と被告の上記損害との間には相当因果関係がある。
エ また,仮に上記警告書によってもc社がb社などとの取引をやめなかったとしても,原告は,c社と交渉をし,最終的には訴訟提起もすべきであった。この場合,どの程度の損害が認容されるかは予測困難ではあるが,c社の違法行為が証拠上,認定される可能性は高く,不法行為若しくは不正競争防止法違反などの法的構成も可能だったことからみて,具体的金額が認定できなくとも,民訴法248条によって損害を認定すべきである。
オ なお,確かに被告は,現在に至るもc社に対する損害賠償請求訴訟を提起していない。しかし,これは,本件和解成立後,すぐに原告から本件訴訟を提訴され,その対応に時間を割かれ,また精神的にも負担となって新たな訴訟を提起する余力がなかったためである。そして,今となっては,時間的経過による立証の困難化,法律関係の事実上の安定などから改めての提訴は非常に困難である。そもそも被告がc社に提訴しなかったことは,原告の債務不履行と被告の損害との間の因果関係を遮断するものではない。
(原告の主張)
被告主張の損害は争う。
第3  争点に対する判断
1  証拠(甲1ないし甲37,甲41ないし甲50,甲52の1ないし5,甲54の1及び2,甲55,甲57,乙3,乙22ないし乙27,乙38,乙41,乙42,原告本人,被告代表者)及び弁論の全趣旨と前記争いのない事実等を総合すると以下の事実が認められる。ただし,証拠(甲57,乙27,原告本人,被告代表者)のうち,以下の認定に反する部分は採用しない。
(1)  Bの背任行為
ア Bは,昭和43年4月に被告に入社し,平成15年5月より被告の取締役となった。被告の営業所は,△△の本店と○○営業所の2箇所であった。Bは,○○営業所における営業を長らく担当し,前記第2,1(2)のとおり,○○営業所長の地位にあった。同営業所における営業の主要な卸売先にa社,b社があり,b社は被告の売上の約2割を,a社は同じく約1割を占める,重要な取引先であった。
イ Bは,平成17年9月1日,被告代表者に対し,電子メールで役員就任前の退職金の支払を求めた。同時に,Bは,被告を同年12月31日で退職する意向も示し,その場合の退職金の支払日を確定して約束してもらいたい旨求めた。これに対し,被告代表者は,退職日より40日以内に支払うと応じた。
ウ Bは,上記退職金請求と前後して,退職後,自己が○○営業所長として築いてきた営業上の人脈を利用して被告と競業する営業活動を続けることを企て,社内及び社外の仕入先及び卸売先にその趣旨の発言を公然とするようになった。その過程で,Bは,同年9月21日,c社のC専務と会って,同社との間で,被告の帳合いによって仕入先から卸売先に流通していた商品をc社の帳合いとすることによって新たな取引を開始すること。Bをc社の営業担当者として,売上に応じて歩合給を支給するインセンティブ契約を締結することなどを話し合った。また,同日ころ,Bは,被告に無断で被告が契約している江戸川倉庫の一部をc社の商品のために使用し始めた。
エ さらに,Bは,同月28日,b社に対し,値札ロールとハンドラベラーをc社に送付するよう依頼したり,同年10月3日,a社の社員に対し,同年12月をもって被告を退社するが,その後も同業他社で営業活動を続けるのでよろしくお願いしたい旨の電子メールを発信したりした。
オ 同月28日,c社は,被告の仕入先に対し,書面で,b社より被告からc社への帳合変更の要請があったとして,確認の回答を求めるとともに,「本件の理由といたしまして,お聞きした範囲のことですが,Y(株)B所長さんが,年内退社と本社・D常務の退職予定などで,専門店事業の商売が,難しいとの予測のようです。」と退職予定のないD常務を退職予定としたり,被告の専門店事業の継続が困難とするなどの虚偽の情報を流布し,併せて「Y(株)様への確認を要するのであれば,(株)b社様にもご迷惑がかかりますので,B所長様の退社予定のご確認だけにしていただきたいと思います。」と書き添えて仕入先からの問い合わせに対して被告が事実を説明する機会を奪おうとした。
カ B及びc社は,11月上旬から,被告の仕入先より,被告が扱っていた商品と同じ商品を仕入れて,被告の卸売先に供給を開始した。これによって,商流の変更が生じ,被告のb社及びa社に対する売上は,同月以来,毎月のように前年比マイナスを記録するようになった。
(2)  原告と被告との第1回法律相談から仮処分申立てまで
ア 被告代表者は,平成17年10月4日にc社の専務と面会して,上記(1)ウのc社とBの関係を知った前後から,Bの行動を制限し,被告が失った利益の確保,回復のために法的手段を含め何らかの措置をとる必要性を感じるようになり,被告の保険加入の件で面識を持つようになったd生命保険会社のE(以下「E」という。)から同人のテニス仲間であった原告を紹介してもらった。なお,被告代表者は,それまで弁護士に法律相談をしたり,事件を依頼した経験を全く有していなかった。
イ 被告代表者は,平成17年10月6日,原告の事務所にEとともに赴き,それまでのBの背信行為の経過などについて説明し,今後とるべき措置について相談した。これに対して,原告は,どのようにしてBを被告から排除していくかということと,取引の確保のために取引先に対してどのように働き掛けていくかというようなことが課題となると述べ,これらについて,今後どういうふうに対応していけばいいかということを,しばらく打合せをしながら原告から被告代表者にアドバイスをしていくことを提案したところ,被告代表者もこれに対して同意した。そして,原告から被告代表者に対し,このような原告の継続的相談とアドバイスを受けることに対して52万5000円を支払ってもらいたいとの提示がされ,被告代表者は,これについても同意して,前記第2,1(4)アのとおり支払った。ただし,その際に,弁護士費用についての契約書は作成されず,原告から領収書も発行されなかった。また,原告から被告代表者に対して,原告の事務所に備え置かれた原告報酬基準を示して弁護士費用についての説明がなされることもなかった。
ウ その後,被告代表者は,原告との間で,同月11日,14日,21日,26日,31日と相談及び打合せを行うとともに,上記(1)のBの背任行為の裏付けとなる資料の収集を進めた。上記各回の相談及び打合せは,Bを○○営業所長から解職する方法,同じく取締役から解任する方法,Bに対する損害賠償請求,Bに対する退職金の支払の問題,a社,b社などの取引先に対する説得と取引確保のための方策の検討などが主要なテーマとなり,最終的に同年11月9日に取締役会を開催して,Bを○○営業所長から解職し,その後,臨時株主総会で取締役からも解任する方針が決められた。
エ それとともに,上記解職あるいは解任後のBの競業行為などを制限するため,仮処分を申し立てることが検討され,同年11月7日,原告と被告代表者との間でこの方針が決定された(この時点で法的措置の相手方をBのみとするのか,Bとc社の両者とするのかについて,原告と被告代表者との間で検討がなされたが,Bとc社が共同して被告に対抗することを防ぐために,両者を分断することが被告代表者から発案され,まず,Bを相手方とすることが合意された。)。その際,原告は,仮処分申立て時に60万円をまず受領したいこと,仮処分命令が出されたときの報酬を40万円とすることを申し入れ,被告代表者もこれを了承した。上記60万円は,前記第2,1(4)イのとおり支払われた。なお,この時も原告と被告との間で委任契約書は作成されず,また,上記60万円についての領収書も発行されなかった。
オ 原告は,宮本岳弁護士(以下「宮本弁護士」という。)とともに被告の代理人として,前記同(3)アのとおり仮処分命令の申立てをした。
(3)  取締役会の開催
ア 原告と被告代表者は,同月7日の打合せ(上記(2)エ)の際に,取締役会の進行について,原告が作成した議事次第に基づき打合せをした。そして,取締役会の当日も原告が出席して議事進行などについて被告代表者を補助することが決められた
イ 前記第2,1(3)イのとおり,被告の取締役会が開催され,Bは,○○営業所長から解職された。原告は,この取締役会に,上記打合せに従い出席した。決議を可決後,原告及び被告代表者は,Bに対し,c社のために取引先に対して営業活動をすることをやめるよう申し入れ,被告が用意した取引先への書簡に署名することを求めたが,Bは,これを拒否した。取締役会が終了し,Bが出社禁止を受け入れた後に,原告は午後の裁判に向かった。
ウ 被告は,同月9日付けで「B氏の○○営業所長の解職と取締役の解任についてのご連絡」と題する文書を各取引先に送付し,事実経過の説明と今後,Bを取締役から解任する予定であることを通知した。
(4)  仮処分申立て後の経過と和解の成立
ア 本件仮処分申立ての趣旨は,第1にc社の取締役ないし従業員に就くことの禁止,第2に被告との競業行為の禁止というものであった。その被保全権利は,取締役の競業避止義務(旧商法264条)であった。なお,その後,被保全権利については,平成17年11月10日付け第1準備書面において営業権侵害の不法行為に対する差止め請求権が選択的に主張され,同月29日付け第2準備書面においては株主による取締役の違法行為に対する差止め請求権(旧商法272条)の類推適用が主張され,さらに,同年12月14日付け第5準備書面において不正競争防止法に基づく差止め請求権が追加された。
イ 本件仮処分申立てに基づく第1回審尋期日は,同年11月21日に開催された。この期日には,被告側として原告及び宮本弁護士並びに被告代表者が出席した。裁判所からは,原告に対し,主として差止めの法的根拠について質問があった。Bには,F弁護士(以下「F弁護士」という。)が代理人として就き,答弁書を出してきたが,その内容はBの背任行為を否定し,申立てを全面的に争うというものであった。裁判所から和解の可否について質問があったため,原告は,条件次第であると述べた。
ウ 上記第1回期日終了後,同日,被告代表者は,原告に対し,当方から和解案を出すのは少し納得できないとしつつも,和解案の骨子を電子メールにて送信してきた。その内容は,Bに対し,①被告への謝罪,②得意先と仕入先との完全回復に努める,③競業禁止及び守秘義務の遵守,④b社,a社などに対し,得意先と仕入先に迷惑をかけたこと,同業他社に転職をしても今後,一切の取引をしないこと,被告との取引継続をお願いすることなどを内容とするレターの送付,⑤c社との関係を正直に明らかにすることを求め,反対に被告は,給与11月分と12月分の支給及び退職金の支払をするというものであった。ただし,翌22日に被告代表者が送信してきた電子メールによると,上記内容に加え,Bに対して①損失額の賠償,②裁判費用の負担を求めることが加わっていた。
エ 本件仮処分申立てに基づく第2回審尋期日は,同年12月6日に開催された。被告側の出席者は,前回と同様であった。この席上で,原告は,上記ウの被告代表者の要望を踏まえた以下のような骨子の和解条項案を提示した。
Bは,①一定の期間,競業行為をしないこと,②一定の期間,c社の取締役又は従業員に就かないこと,③一定の期間,被告の取引先の会社と接触しないこと,④被告に対する営業妨害行為をしたことを認めること,⑤今後,営業妨害行為をしないこと,⑥被告の取引先に対し,被告との取引継続を要望する通知をB名義で送付することに同意すること,被告は,⑦和解金として一定の金額を支払うこと
これについて,裁判所からは,Bの非違行為を和解条項に入れることは難しいのではないかとの指摘があり,また,競業禁止などの期間については職業選択の自由の制約であることから1年が相当ではないか,ただし,退職金を支払えば2年ということもあり得るとの見解が示された。また,裁判所を通じて,B側の意向として,競業禁止などの期間が2年であれば1000万円,1年であれば500万円を要求していること,上記⑥の通知については文言次第で応じる可能性もあることなどが伝えられた。
オ 上記第2回期日終了後,同日,被告代表者は,原告に対し,電子メールにて,Bの退職金の額について,①従業員退職金額が935万0100円,②役員退職金額が97万5000円であるところ,③企業年金解約払戻金が202万6774円あるから,実際支給額は732万3326円となることを通知し,さらに,B名義で取引先に送付する文書の案を送信してきた。また,同日の原告宛て別信で,被告代表者は,非違行為を認めないまま,謝罪もせずに和解金を受領することについては納得がいかないとの感想を述べ,翌7日には,同じく原告に宛てた電子メールにて,競業禁止の期間は2年以下では考えていない旨の見解を述べた。
カ 同月8日,被告代表者は,原告に対し,被告社内における討議の結果としての方針であるとして,以下のような和解案を示した。
Bは,①自らの非違行為を認めること,②被告の社員が納得する内容の謝罪をすること,③今後2年間は競業行為をしないこと,④今後2年間はc社の取締役又は従業員に就かないこと,⑤和解文を被告の取引先に送付すること,被告は,上記各条項をBが受け入れることを条件に⑥退職金名目で732万3326円を支払うこと,⑦退職事由は重責解雇ではなく,定年退職とすること,⑧Bに対する訴訟は提起しないこと,さらに加えてBは,⑨被告の平成17年9月1日時点の取引関係への原状回復に協力すること,⑩被告の営業秘密及び個人情報に係る資料を返却すること,⑪被告在職中に知り得た営業秘密及び個人情報について退職後も漏洩しないこと,⑫被告の社員に対し,競業他社への就職のあっせん,紹介等の行為をしないこと,⑬その他,被告に損害を与えるような行為をしないこと,⑭2年間が過ぎたからといって,直ちに被告に反旗を翻すような行為をしないこと,⑮訴訟費用はすべてBが負担すること
キ 原告は,同月9日,上記の被告案にほぼ沿う内容の和解条項案を作成し,被告に送付して確認を求めた。
ク これに対し,被告代表者は,同月12日,宮本弁護士に対し,競業禁止などの期間を3年間とすることなどを提案してきた。そのため,原告及び宮本弁護士は,この点などを修正した和解条項案を急ぎ作成して,同日,F弁護士及び裁判所にファックスにて送信した。
ケ これに対し,F弁護士からは,下記第3回審尋期日の当日になって対案がファックスにて送信されてきた。その主要な骨子は,①競業禁止などの期間は2年間とすること,②退職金は1013万0100円とし,これを平成17年12月末日までに1000万円,残金を翌月末日限り支払うこと,③謝罪等はしないことというものであった。
コ 本件仮処分申立てに基づく第3回審尋期日は,同年12月14日に開催された。被告側の出席者は,前回と同様であった。
裁判所は,和解条項に一方当事者の謝罪を入れるのは異例であるとして,これに難色を示したが,原告がこの点は被告の強い意向であると主張した結果,別紙和解条項第1項の謝罪条項を盛り込むことになり,この点につき,被告代表者も了解した。
また,3年間という競業禁止などの期間についても,裁判所は,従前の経過の中でこのような長期間の提案は出されていなかったため,難色を示したが,交渉の結果,B側もこれを受諾するに至った。さらに,謝罪文にもBの非を認める内容が盛り込まれた。これと引換えに,退職金などを内容とする和解金は800万円とされたが,内金700万円を平成17年12月末日に支払い,残金100万円は平成20年12月末日まで留保されることとなった。
2  争点(1)(本件委任契約の目的)について
(1)  証拠(甲57,乙27,原告本人,被告代表者)によれば,平成17年10月6日の原告と被告代表者との第1回法律相談の時点において,被告代表者は,c社の専務からBとc社との関係やBの意図しているところを聞き出してはいたものの(前記第3,1(1)ウ),これを裏付ける客観的証拠を十分にそろえていなかったことが認められる。この点と前記同(2)イの原告と被告代表者のやり取りを総合すると,本件委任契約は,Bによる背任行為が行われている可能性が高いという認識の下に,今後,Bを○○営業所長から解職し,さらに,取締役から解任するなどして被告から排除することに向けて,被告の社内においてどのような手続をとっていくべきかということ及び取引の確保のために取引先に対してどのように働き掛けていくかということなどについて,具体的状況の進展に応じて検討と準備を進めていくこと,さらに,今後の証拠収集の状況などを見極めてどのような法的手段を誰に対してとるべきかを決定すべく,原告が被告代表者に対して継続的に法的助言をしていくことを目的として締結されたと認めるのが相当である。そして,前記同(2)エのとおり,原告及び被告は,その後,本件仮処分申立てをすることを決定した際に,本件仮処分申立て及びその手続の遂行を目的とする委任契約を締結した。
(2)  これに対し,被告は,本件委任契約の目的について,Bがc社と協働して被告の取引先を奪う行為を実行しているとの認識の下に主要取引先との取引確保及び回復並びに売上減少による損害の回復を目的として締結されたものであると主張し,被告が原告に依頼した事項には,概括的なものとはいえ,Bのみならずc社に対して法的手段を講ずることも含まれていたと主張する。
(3)  しかしながら,前記同(1)オのとおり,B及びc社の働き掛けによって商流の変更が生じたのは,11月上旬からのことであり,本件委任契約締結時には,いまだ損害がどの程度発生するのか明らかではなかったのであるから,この点に照らすと,この時点において,損害の回復という課題については,将来の検討課題とはなり得ても,これを委任の目的とすることで原,被告間に合意がなされたとまでは認め難い。
(4)  確かに,上記のc社の専務の話は,c社とBが結びついて被告の取引先を奪おうとしていることがうかがえる内容であり,この点を踏まえると,原告と被告との間では,今後のc社側の出方及びこれを裏付ける証拠の収集状況次第では,同社に対する損害賠償請求など法的手段を講ずることもあり得るという前提で相談を進めることも合意されていたと認めることができる。しかし,上記(1)のような本件委任契約締結当時の証拠収集状況などからみると,誰に対してどのような法的措置をとるかは,上記のような相談を進めつつ検討すべき課題とされていたと認めるのが相当であり,その他本件全証拠によっても原告及び被告の間で概括的にせよc社に対する法的措置をとることを本件委任契約の目的とし,原告にその義務を課すというところまでの合意がなされたと認めることはできない。よって,被告の上記(2)の主張は採用できない。
(5)  また,被告は,当初,概括的なものとして締結された本件委任契約の下で,遅くとも10月31日には,Bについては,仮処分申立てという方針が決められ,同じころ,被告は,原告に対し,c社についても,時期をずらすこととしつつも,営業妨害行為をやめさせて,損害賠償請求などにより被告の営業損害の回復を図ることを具体的に依頼したとも主張する。
(6)  しかしながら,前記同(2)エのとおり,原告と被告代表者との検討の結果,Bとc社とを分断するために,Bのみを相手方として本件仮処分申立てがなされたことは認められるが,本件全証拠によるも被告がc社に対しても具体的な法的措置を依頼したとまでは認めるに足りない(被告代表者においても,「漠然と損害賠償を請求するという話があった。」と供述するにとどまる。)。また,仮に,c社に対する法的措置についても依頼がなされたというのであれば,この点について,弁護士費用を含めてどの程度の費用を要するのか,原告と被告代表者との間で話合いがなされてしかるべきであるが,本件全証拠によるもこのような話合いがなされた形跡は認められない。さらに,被告代表者は,c社に対して前記同(1)エの同社名義の書面に対する警告書を発送してほしいとの依頼を再三にわたりしたと供述するが,これを裏付ける客観的証拠はなく(被告代表者は,原告に対し,多数の電子メールを発信しており,本件訴訟においてもそれらが書証として提出されているが,その中にも上記のような依頼を含むものは見当たらない。),上記供述は採用できない。以上を総合すると,c社に対する法的措置については,Bに対する本件仮処分申立てを決定した時点でもなお今後の検討課題とされていたにとどまり,それ以上のものになっていたとは認めるに足りない。なお,証拠(甲19,乙30の1及び2)によれば,同年11月24日ころ,原告は,c社代表者の自宅の不動産登記全部事項証明書を取り寄せていたことが認められ,被告代表者はこれを仮差押えの準備のために取り寄せた旨供述するが,調査資料として取り寄せたにとどまるとの原告の供述をも総合すると,これによって上記結論は左右されない。よって,被告の上記(5)の主張も採用することはできない。
3  争点(2)(原告は,委任の目的を達成したか。)について
(1)  本件委任契約は,前記第3,2(1)のとおり,Bの○○営業所長からの解職,取締役からの解任及び取引の確保のために取引先への働き掛けについて,具体的状況の進展に応じて検討と準備を進めていくこと,さらに,今後,どのような法的手段を誰に対してとるべきかを決定すべく,原告が被告代表者との間で継続的に法的助言をしていくことを目的として締結されたところ,前記同1(2)イないしエのとおり,原告は,平成17年10月6日の第1回法律相談以降,同月中に6回,同年11月中にも1回,法律相談を行い,同月8日の本件仮処分申立て,同月9日の取締役会の開催にこぎつけているのであるから,原告は,その目的を一応達成したものと解される。
(2)  また,本件仮処分申立てについても,前記同1(4)のような経過を経て本件和解に至り,その内容は,Bに対する3年間の競業禁止,営業妨害禁止,c社への就職禁止などを含む最終解決を得たのであるから,上記仮処分申立ての目的を超える成果を得たと認められる。特にBについて退任後の競業避止義務の根拠となるべき労働契約又は委任契約上の特約,就業規則などを欠いていた(これがあれば原告は,第一に被保全権利の根拠として主張したと推認できるところ,このような主張をしていないことからみて,Bの取締役退任後の競業避止義務については,上記のような明文上の根拠を欠いていたと認められる。)中で,3年間の競業避止義務を和解条項の中に盛り込ませたという点は,この点に関する現在の判例,学説などの一般的状況に照らしても一定の成果を上げたと認めるのが相当である。
(3)  これに対して,被告は,原告がc社に対する措置をとらないままにしたことで,同社は,ほしいままに被告の商権を奪い取り,被告の営業は,甚大な被害を被ったし,本件和解によっても被告の損害は回復されなかったのであるから委任の目的は完全に達成されたとはいえないと主張する。しかしながら,本件委任契約の目的にc社に対する法的措置をとることまでは含まれていないことは前記同2のとおりであるところ,被告は,これと異なる前提に立って上記主張をしていることが明らかであるから,被告の上記主張は採用できない。
4  争点(3)(報酬の約定)について
(1)  本件委任契約の締結及び本件仮処分申立てにあたって,日本弁護士連合会の「弁護士の報酬に関する規程」(以下「日弁連規程」という。)5条2項によって弁護士にその作成が義務付けられている「弁護士の報酬に関する事項を含む委任契約書」が作成されていないため,被告から原告に支払われた前記第2,1(4)アの52万5000円及び同イの60万円の性格及び原,被告間の報酬に関する約定がいかなる内容のものであったかという点については一義的に明確ではない。このような事態は,日弁連規程の目的とするところに明らかに反するものと言わざるを得ないが,以下においては,諸事情を総合して,上記の点を認定することとする。
(2)  前記第3,1(2)イの本件委任契約締結時の原告と被告代表者とのやり取りの状況及び前記同2(1)において認定した本件委任契約の目的に照らすと,上記52万5000円については,本件委任契約の目的とされた継続的法律相談の対価として前払されたものと認めるのが相当である。実際にも前記同1(2)イないしエのとおり,法律相談及び打合せが合計7回,前記同(3)イのとおり,被告の取締役会への出席が1回,それぞれ原告によってなされているのであるから,上記対価と認めたとしても不当な結果とはならない。
(3)  これに対し,被告は,上記52万5000円について本件委任契約による原告の事務遂行のための着手金であると主張し,証拠(乙27,乙41,被告代表者)の中にはこれに沿う部分も存在する。しかしながら,本件委任契約の目的を被告主張のような内容と解し得ないことは,前記同2のとおりであり,被告の主張は,これと異なる前提に立つものであるから採用することはできない。また,原告に被告代表者を紹介したEは,第1回の相談日(上記1(2)イ)に原告が主張するような「コンサルタント料」というような言葉は出ていなかったと陳述し,被告代表者も同旨の供述をしているが,たとえ,そのような言葉遣いがなされていなかったとしても,上記各事情に照らせば上記52万5000円の性格は上記(2)のようなものであったと解するほかないのであり,上記の点は,上記認定を左右するものではない。
(4)  次に,上記60万円については,前記同1(2)エの原告と被告代表者とのやり取りの状況及びこれが本件仮処分申立てに際して支払われていることを総合すると,本件仮処分申立てを受任した原告が,その着手金として受領したと認めるのが相当である。
(5)  これに対し,被告は,上記60万円について,本件委任契約の弁護士報酬の一部として受領したものであると主張しているが,本件委任契約の目的を被告主張のように解し得ないことは,上記のとおりである上,本件仮処分申立時には,この案件がどのような決着を見るのか,被告にとって成功と言えるような成果を上げることができるのかについてはいまだ明らかになっていなかったのであるから,そのような時点で報酬の前払をするというのは不合理であり,この点からも被告の主張は採用できない。
(6)  最後に,原告は,本件委任契約締結時に,事件としての法的措置が必要になったときは,その都度,原告報酬基準に基づき報酬を支払うことを被告が了解したと主張しているので,この点につき判断する。上記の原告の主張につき,証拠(甲57)の中にはこれに沿う部分も存在するが,上記のとおり,本件委任契約については契約書が作成されていないなど客観的裏付けとなる証拠がない上,原告自身,本件委任契約締結時に被告代表者に対して原告報酬基準を示していないと供述していることからみて,上記のような約定が成立したとは認めるに足りない。よって,原告の上記主張は採用できない。なお,本件仮処分申立てに際して,仮処分命令の発令時に報酬を40万円とする約定が成立したことについては,当事者間に争いがない(この時に和解等により本案も含めて解決した場合に原告報酬基準を適用するとの約定が成立したとの主張,立証はないから,結局,仮処分が発令されないまま,和解によって事件が終了した場合の報酬の約定は当事者間に存在しなかったということに帰着する。)。
5  争点(4)(本件における報酬額)について
(1)  被告は,日弁連規程の下では弁護士は,事前あるいは事後に,金額と算出理由を説明して依頼者の同意を得なければ弁護士報酬を請求できないと主張する。確かに同規程は,弁護士に対し,法律事務を受任するに際し,弁護士報酬等についての説明義務を課し,また,前記のとおり,弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書の作成を義務付けている。しかしながら,これらの規程の趣旨は,依頼者が専門家である弁護士から費用の点も含めて十分な情報を得た上で弁護士に委任をすること及び依頼者に不測の費用負担を与えないようにすることを目的とするものであり,弁護士報酬契約を要式契約としたり,弁護士報酬についての説明を報酬請求の条件とまでする趣旨ではないと解するのが相当である。したがって,被告の上記主張は採用できない。
(2)  弁護士に対する訴訟委任をなした場合には,弁護士が訴訟委任を受けることをその職務としていることに鑑み,民法648条1項の規定にかかわらず,特約がなくとも黙示の合意による報酬支払義務を認めるべきであり,その場合の報酬額は,事件の難易,訴額及び労力の程度,依頼者との平生からの関係,その他諸般の状況をも審査し,当事者の意思を推定した上で相当報酬額を算定すべきである。上記算定にあたり,日弁連の報酬等基準規程及び各単位弁護士会の報酬会規は既に廃止されたので(公知の事実),これを考慮事情の一つとすることはきないが,弁論の全趣旨によれば,各弁護士が自己の報酬基準を定めるにあたって日弁連の旧弁護士報酬規程などに準拠したことが認められ,また,証拠(甲51)によれば,原告弁護士報酬基準もこれらと同様の内容を定めているものと認められるのであるから,原告弁護士報酬基準をはじめとする,多くの弁護士が採用している報酬基準の内容は考慮事情の一つとなる。一方で,上記のような説明義務及び契約書作成義務が弁護士に課せれられたことに鑑みれば,弁護士がこれを遵守していない場合には,その点も考慮事情の一つになるというべきである(依頼者との間で明確な合意もせず,その報酬算定の基準についても依頼者に十分了知をさせていないのであるから,裁判上請求できる金額は,依頼者に不測の費用負担をかけてはならないという観点から控えめなものとせざるを得ない。)。
(3)  本件において,前記第3,4(6)のとおり,本件和解が成立したことについての弁護士報酬について原,被告間の約定は存在しない。そこで,上記(2)に示した点を考慮しつつ,相当報酬額を算定することとする。なお,この点につき,被告は,原,被告間に仮処分手続終了時に報酬として40万円を支払うとの約定があったのであるから,本件和解が成立したからといって,これを変更する合意がない以上は,その報酬は40万円であると主張している。しかし,上記40万円の報酬約定は,本案についての終局的解決を見ないまま,仮処分命令の発令を得た場合を想定しているものであり,本件和解によって本案についても終局的解決を見たときとは違う状況を前提にしたものであるから,本件和解についての報酬として適用するにふさわしくない。よって,上記の被告の主張は採用できない。
(4)  ところで,証拠(甲51)及び弁論の全趣旨によれば,原告弁護士基準をはじめとする多くの弁護士の報酬基準は,報酬額の算定にあたり,事件の終了により依頼者が得た経済的利益を基準としていることが認められる。したがって,本件においても,弁護士報酬の算定において,依頼者が得た経済的利益を基準として考慮すべきである。
(5)  そこで,本件和解による被告の経済的利益について検討する。
ア 和解条項第1項の謝罪文言は,被告代表者及び社員の精神的満足や今後の士気にかかわる部分もあるが,その内容を取引先に説明することなどにより,被告の取引先にBやc社が流布していた内容(前記同1(1)エ)が虚偽であるとの説明がしやすくなるなど取引先の維持についても資する内容である。同第4項の挨拶状の送付も同様の効果を有するものと認められる。
イ 同第2項の本件和解成立後3年間にわたる競業行為の禁止,c社への就職禁止,営業妨害禁止及び同第6項の営業秘密の漏洩防止は,いずれも今後,被告の取引関係を維持する上で直接に役立つものである。
ウ したがって,上記ア及びイの各条項は,いずれも被告の取引先の維持が経済的利益であったと解すべきである。その金額を直接的に示す証拠はないが,前記同1(1)ウないしカのとおり,Bが帳合いの変更を画策するなどして,c社に商流を変更させようとした主要な取引先であるb社及びa社については,乙42号証によれば,上記商流変更が開始された平成17年11月から平成18年10月までの1年間の売上において,2社合計で前年より大きく減らしつつも1億0028万1254円を維持できたことが認められる。ただし,売上の維持については,本件和解の成立のみならず,被告の自助努力など様々な要因が作用していること,上記のとおり平成17年11月から始まった商流の変更などにより,相当の取引が被告から離れていったと推認できることも考慮すると,そのうち,本件和解が成立したことによる売上維持分は,その3割である3008万4376円であったと認めるのが相当であり,この売上に対する被告の粗利は,被告代表者の陳述書(乙40)によって示された利益率24.5パーセントを掛けた737万0672円となるから,これが被告の取引先維持の1年分の経済的利益とみるのが相当である。そして,競業禁止期間が3年間であることを考慮すると,上記各和解条項において被告の得た経済的利益は上記の3年分である2211万2016円となる。
エ また,和解条項3項の解決金の支払についての経済的利益は,上記1(4)ケのとおり,本件和解成立当日のB側の要求額が1013万0100円であったところを800万円に減額させたのであるから213万0100円と認めるのが相当である。
(6)  以上の経済的利益の合計額は,2424万2116円となる。これを基準として,上記(2)のとおり,多くの弁護士が定め,原告も同様の定めをしていると認められる,報酬算定基準を単純に適用すると,報酬額は260万円(1000円以下切捨て)となる。
(7)  これに対し,被告は,本件和解は,その内容の不十分さ,不完全さ(①仮処分申立ての理由が法的に不十分な構成であったために和解協議においてBに被告の要求を認めさせることができなかったこと,②和解内容も被告が求めていた損害賠償を得られないという不十分なものであったこと)から被告を満足させるものではなく,成功報酬に値する結果を実現できていないと主張する。
(8)  しかしながら,本件仮処分申立ては,前記同3(2)のとおり,もともとBが取締役を退任した後の競業避止義務について明文上の根拠を欠くなど,困難な問題を抱えていたのであり,原告の主張した被保全権利についての法的構成に報酬を請求するに値しない程の著しい誤りなどは認められない。また,和解に至る経過においても,前記同1(4)イないしコのとおり,原告は,各審尋期日毎に,電子メールによるものも含め被告の意向を聞きながら訴訟活動を進めていたことが認められるのであり,その進め方に不備な点は認められない。特に,被告は,Bに対する損害賠償請求権を放棄したことについて不十分な和解であったと主張するが,前記同ウのとおり,被告は,第1回審尋期日終了後は,和解条項の中にBによる損害賠償を盛り込むよう要求していたが,第2回審尋期日終了後の社内打合せに基づく和解案の提案においては,この要求を引っ込め,むしろBが自らの非違行為を認めることなどを条件にBに対する訴訟提起(この中には損害賠償請求も含まれる。)を見送るとしていたのである(前記同カ)。以上の経過に照らすと,被告は,本件和解についてその内容の利害得失を十分に理解していたと推認できるのであり,証拠(被告代表者)によれば,本件和解が成立した第3回審尋期日には被告代表者も出席していたが,損害賠償請求を留保するとの要求が同人から出されたことはなかったと認められることをも併せて考慮すると,その内容が被告にとって不十分であったとは認め難い。
(9)  一方,前記同1(2)アのとおり,被告代表者がこれまで弁護士に法律相談をしたり,事件を依頼した経験を全く有していなかったこと,それにもかかわらず前記同イ及びエのとおり,本件委任契約の締結に際しても,本件仮処分申立ての受任にあたっても,弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書は作成されず,受領した金員について,原告から領収書も発行されなかったこと,原告から被告代表者に対して,原告の事務所に備え置かれた原告報酬基準を示して弁護士費用についての説明がなされることもなかったこと,前記同4(1)のとおり,これらが日弁連規程に違反するものであったことを考慮すると,原告が本件において被告に対して請求できる弁護士報酬としては,上記(6)の260万円の6割である156万円にとどまると解するのが相当である。
(10)  この点につき,原告は,本件和解は,本件仮処分手続の進行過程で成立し,本案解決に結びついたのであるから,本件仮処分申立て時に本案の解決について報酬の説明がなかったとしてもやむを得ないし,報酬請求時には見積書によって説明をしているのであるから問題はないとも主張している。しかしながら,仮処分申立てが和解によって終局することは通常予想し得ないことではないから,このような場合の弁護士報酬についての説明をしないことの理由とはなり得ない。また,報酬請求時に説明をしたからといって日弁連規程が要求する説明義務を果たしたことにはならないことは明らかである。したがって,上記の原告の主張は,いずれも理由がない。
(11)  なお,本件仮処分申立てにあたり原告が受領した着手金とそれまでの検討段階で原告が受領した金員の合計が112万5000円にのぼること,本件仮処分申立てから本件和解に至るまでの1か月余りの期間に原告は,相当程度集中して本件仮処分申立手続のために時間を割いたことがうかがえることなども考慮要素とすべきであるが,これらの点を考慮したとしても本件の報酬としては上記の156万円が相当である。
(12)  以上によれば,原告の本訴請求は,156万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成18年1月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
6  争点(5)について
(1)  被告は,原告に本件委任契約上の債務不履行があったと主張し,その前提として,原告が,被告に対し,同年11月中にはc社に対する警告書を発すること,Bとの和解が成立した後,速やかにc社に対する法的措置に着手すべき契約上の義務を負っていたと主張している。
(2)  しかしながら,被告代表者が原告に対して,c社への警告書の発信を依頼したとは認めるに足りないこと及び原告が本件委任契約上,Bとの和解が成立した後,速やかにc社に対する法的措置に着手すべき契約上の義務を負っていたと認められないことはいずれも前記第3,2(6)のとおりであり,被告の請求はその前提を欠くものである。
(3)  以上によれば,被告の請求は,争点(6)(被告の損害額)など,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
第4  結論
よって,原告の本訴請求は主文記載の限度で理由があるからこれを一部認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 水野邦夫)

 

〈以下省略〉

 

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