判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(240)平成22年12月27日 東京地裁 平21(ワ)9165号 不当利得返還等事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(240)平成22年12月27日 東京地裁 平21(ワ)9165号 不当利得返還等事件
裁判年月日 平成22年12月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)9165号
事件名 不当利得返還等事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA12278031
要旨
◆自動車学校である原告会社とその代表取締役であった原告X1が、被告証券会社の従業員から、外国債(ノックイン債、ランド債、ユーロ債)購入の勧誘を受け、損失を被ったことから、被告証券会社従業員の説明義務違反、詐欺、不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知などを理由に被告証券会社に対して損害賠償の支払等を求めた事案につき、原告らの主張をいずれも排斥し、原告らの請求を棄却した事例
参照条文
民法95条
民法96条
民法415条
民法704条
民法709条
民法715条
金融商品の販売等に関する法律3条
金融商品の販売等に関する法律4条
消費者契約法4条
裁判年月日 平成22年12月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)9165号
事件名 不当利得返還等事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA12278031
静岡県富士市〈以下省略〉
原告 株式会社静岡県中央自動車学校
上記代表者代表取締役 A
静岡県富士市〈以下省略〉
原告 X1
原告ら訴訟代理人弁護士 中島成
同 増井陽一
原告ら訴訟復代理人弁護士 川野義典
同 高橋信雄
同 辻畑泰喬
同 岡田武士
同 小川久美
東京都中央区〈以下省略〉
被告 野村證券株式会社
上記代表者代表執行役 B
被告訴訟代理人弁護士 西修一郎
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
(1) 被告は,原告株式会社静岡県中央自動車学校(以下「原告会社」という。)に対し,1億4626万8332円及びうち3130万円につき平成18年4月11日から,うち5535万3570円につき同年5月8日から,うち4500万円につき平成19年4月18日から,うち1461万4762円につき平成21年4月8日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告X1(以下「原告X1」という。)に対し,5519万3875円及びうち4873万7500円につき平成20年8月27日から,うち645万6375円につき平成21年4月8日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
(1) 被告は,原告会社に対し,1億0611万1982円及びうち2195万円につき平成18年4月3日から,うち2725万7920円につき同年4月26日から,うち4500万円につき平成19年4月5日から,うち1190万4062円につき平成21年4月8日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告X1に対し,4733万8215円及びうち4132万6500円につき平成20年8月8日から,うち601万1715円につき平成21年4月8日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,原告会社及びその代表取締役であった原告X1が,証券会社である被告からそれぞれ外国債券(原告会社につきノックイン債,ランド債及びユーロ債。原告X1につきノックイン債)を購入したところ,被告従業員の原告らに対する勧誘につき①詐欺(民法96条1項),②錯誤(民法95条),③金融商品の販売等に関する法律(以下,平成18年法律第66号による改正前のものを「旧金融商品販売法」,同号による改正後のものを「現行金融商品販売法」という。)又は民法上の説明義務違反及び④適合性原則違反が,原告X1に対する勧誘につき⑤不実の告知,不利益事実の不告知及び断定的判断の提供(消費者契約法4条1項1号,2号,同条2項,現行金融商品販売法4条)があったと主張して,
(1) 原告会社が,被告に対し,①主位的に,(a)証券購入契約の詐欺取消し又は錯誤無効による悪意の不当利得(民法704条前段,後段)に基づき,損失金合計1億3165万3570円及び外国債券毎の損失金に対する各利得日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による法定利息の支払並びに(b)債務不履行(民法415条)又は不法行為(民法709条,715条)に基づき,弁護士費用相当損害金1461万4762円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,②予備的に,旧金融商品販売法上の損害賠償責任(同法4条),不法行為(民法709条,715条)又は債務不履行(同法415条)に基づき,(a)弁護士費用を除く損害金合計9420万7920円及び外国債券毎の損害金に対する各証券購入日から,並びに(b)弁護士費用相当損害金1190万4062円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から,各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,
(2) 原告X1が,被告に対し,①主位的に,(a)証券購入契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効又は消費者契約法上の取消し(同法4条1項,2項)による悪意の不当利得(民法704条)に基づき,損失金4873万7500円及びこれに対する損失日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による法定利息の支払,並びに(b)債務不履行(民法415条)又は不法行為(民法709条,715条)に基づき,弁護士費用相当損害金645万6375円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,②予備的に,現行金融商品販売法上の損害賠償責任(同法4条),不法行為(民法709条,715条)又は債務不履行(同法415条)に基づき,(a)弁護士費用を除く損害金4873万7500円及びこれに対する証券購入日から,並びに(b)弁護士費用相当損害金601万1715円及びこれに対する訴状送達の日から,各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を
それぞれ求めている事案である。
2 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を示す。)
(1) 原告会社は,自動車教習所の経営等を目的として昭和39年8月に設立された株式会社である。
原告X1は,昭和12年○月生まれであり,遅くとも平成13年8月以前から平成19年9月20日まで,原告会社の代表取締役の地位にあった(甲43,原告X1本人)。
(2) 被告は,有価証券の売買等の媒介,取次ぎ及び代理を含む金融商品取引業等を目的とする株式会社である。C(以下「C」という。)は,少なくとも平成17年12月ころから平成20年10月ころまでは,被告沼津支店の資産管理課第二課長の職にあった(乙59,証人C)。
(3) 原告会社は,Cの勧誘により,被告から,平成18年4月3日,ノムラ・ヨーロッパ・ファイナンス・エヌブイを発行体とするユーロ円建債券(NEF#8546。銘柄コードS8905。以下「本件ノックイン債A」という。)を次の約定で購入し,同月11日,代金5000万円を,被告沼津支店の原告会社用取引口座に振込入金した(甲7,乙1の1,1の2)。
ア 発行日 平成18年4月20日
イ 発行額(発行価格) 3億5000万円(100.00%)
ウ 想定元本総額 35億円
エ 券面 5000万円
オ 利払日 平成19年以降毎年4月20日(年1回)
カ クーポン(利金) 18.70%(年率,30/360ベース)
キ 参照期間 平成18年4月4日から満期償還額決定日まで
ク 参照対象株式,基礎価格,ノックイン価格,価格主要取引証券所 別紙1のとおり
ケ プロテクション金額 0円(プロテクション付与なし)
コ 満期償還額決定日 平成21年4月9日
サ 満期償還日 平成21年4月20日
シ 満期償還額
(ア) 参照ポートフォリオ損失額(L)<プロテクション金額の時
元本100%の現金により償還
(イ) プロテクション金額≦Lの時
1券面当たり「券面額×R(=100-(L-プロテクション金額)/発行額×100。小数点第2位未満切捨て)(%)」の現金(円未満四捨五入)により償還される。ただし,Lがプロテクション金額と発行額の和以上となる場合,償還額はゼロとなる。
ス 参照ポートフォリオ損失額(L)
参照ポートフォリオを構成する各オプションにつき以下の①又は②の方法により算出される損失額の合計額
① 参照期間中,株価(ザラ場を含む。)が一度でもノックイン価格以下になり,かつ,Pi(銘柄iの基礎価格。以下同じ)<Ki(銘柄iの満期償還額決定日の終値。以下同じ)である場合
損失額=T(想定元本総額)/N(参照対象株式の銘柄数)×(1-Pi/Ki)(円未満切捨て)
② 参照期間中,株価が一度もノックイン価格以下にならなかった場合又はPi≧Kiである場合
損失額=ゼロ
(4) 原告会社は,Cの勧誘により,被告から,平成18年4月26日,国際金融公社を発行体とするユーロランド建債券(銘柄コードU5608。以下「本件ランド債」という。)を次の約定で購入した(甲12,乙1の1)。購入代金6086万7570円は,同日,キーストーン・キャピタル。コーポレーションを発行会社とする富士写真フイルム株式交換社債(甲13)の売却代金の一部から充当された(乙1の1,1の2)。
ア 年限 5年
イ 発行日 平成16年11月10日
ウ 発行額(発行価格) 8億南アフリカ・ランド(95.97%)
エ 券面 1万南アフリカ・ランド
オ 利払日 毎年11月10日(年1回)
カ クーポン(利金) 7.00%
キ 償還日 平成21年11月10日
ク 償還価格 100.000%
(5) 原告会社は,Cの勧誘により,被告から,平成19年4月5日,ノムラヨーロッパファイナンス・エヌブイを発行体とする以下の約定を含む早期償還条件付ユーロ円建債(払込金・利金:円,償還:米ドル又は豪ドル。払込NEF#12613。銘柄コードR7870。以下「本件ユーロ債」という。)を購入し,同月18日,代金4990万円を被告沼津支店の原告会社取引口座に振込入金した(甲14,乙1の1,1の2)。
ア 年限 30年
イ 発行日 平成19年4月24日
ウ 発行価格 100.00%
エ 券面 5000万円
オ 利払日 毎年4月及び10月の各24日
カ クーポン(利金)
当初1年間は10%,以降29年間は以下の①又は②の計算式で算出された数値のうち低い方(ただし,下限0.00%)を適用
①(Fx1u(当該利払日の10東京・ロンドン・ニューヨーク・シドニー営業日前のロイタースクリーン“JPNU”上に,東京時間午後5時の米ドル/円為替レート(1米ドル当たりの円貨)として表示されているレートの仲値)-Fx0u(=108.15))×1.00%
②(Fx1a(当該利払日の10東京・ロンドン・ニューヨーク・シドニー営業日前のロイタースクリーン“JPNU”上に,東京時間午後5時の豪ドル/円為替レート(1豪ドル当たりの円貨)として表示されているレートの仲値)-Fx0a(=86.75))×1.00%
キ 償還価格 100.000%(米ドル又は豪ドル)
ク 償還日(及び早期償還条件)
平成49年4月24日。ただし,支払クーポンの累積額(当該クーポンを含む)がターゲットレベル(額面の10.10%)以上となる場合,当該利払日において自動的に早期償還される。
サ 償還券面額
償還日の当該利払日の10東京・ロンドン・ニューヨーク・シドニー営業日前に,発行体が,①625,000.00米ドル(=5000万円÷80.00米ドル/円,小数点以下第3位切上げ)又は②1,000,000.00豪ドル(=5000万円÷50.00豪ドル/円,小数点以下第3位切上げ)のいずれかの金額を選択できる。ただし,最終利払日に早期償還条件に該当した場合,円貨(単位100円)で償還される。
(6) 原告X1は,平成19年9月20日,原告会社の代表取締役を退任し,同日,原告X1の子であるA(以下「A」という。)及びD(以下「D」という。)が同社の代表取締役に就任した(甲43,44,原告X1本人,原告会社代表者)。
(7) 原告X1は,Cの勧誘により,被告から,平成20年8月8日,ノムラヨーロッパファイナンス・エヌブイを発行体とする早期償還条件付ユーロ建債(銘柄コードT2746。NEF#23137。以下「本件ノックイン債B」という。)を次の約定で購入した(甲18,乙2の1)。購入代金4997万5000円は,同月21日,ノムラヨーロッパファイナンス・エヌブイを発行体とする別証券(銘柄コードT1847。NEF#22512)の償還金の一部を振り替える方法により,被告沼津支店の原告X1用取引口座に入金された(乙2の2)。
ア 年限 2年
イ 発行日 平成20年8月26日
ウ 発行価格 100%
エ 券面額 5000万円
オ 利払日 毎年4回(2月,5月,8月,11月の各26日)
カ クーポン(利金)
当初3か月間は10.00%(年率)。以降1年9か月間は,①NK1(当該利払日の10東京営業日前の日経平均株価終値)が1万1091円以上の場合は10.00%(年率),②それ以外の場合は0.10%(年率)
キ 償還日(及び早期償還条件)
平成22年8月26日。ただし,平成20年11月の利払日以降,毎利払日の10東京営業日前の日経平均株価終値が1万2827円の水準(トリガー)以上になった場合,当該利払日において自動的に早期償還される。
ク 償還価格
(ア) 早期償還価格 100.000%
(イ) 満期償還価格 以下の①又は②の計算式のいずれかによる。
① 参照期間中に日経平均株価(終値を含む全ての値)が一度でもノックイン価格(9786円)以下になり,さらにNK2(償還日の10東京営業日前の日経平均株価終値)がNK0(1万3049円)を下回った場合 100%×(1-2×(NK0-NK2)/NK0)
(ただし,0%を下限,100%を上限とする)
② それ以外の場合 100%
ケ 参照期間 平成20年8月8日から償還日の10東京営業日前まで
(8) 原告会社は,被告に対し,平成20年12月1日到達の内容証明郵便により,本件ノックイン債A,本件ランド債及び本件ユーロ債(以下併せて「本件各外国債(原告会社分)」という。)の各購入契約を被告の詐欺(民法96条1項)に基づき取り消すとの意思表示をした(甲22の1,22の2)。
(9) 原告X1は,被告に対し,本件ノックイン債Bの購入契約につき,平成20年12月1日到達の内容証明郵便により,被告の詐欺(民法96条1項)に基づき取り消すとの意思表示をし(甲22の1,22の2),さらに,平成21年2月2日到達の内容証明郵便により,消費者契約法4条に基づき取り消すとの意思表示をした(甲23の1,23の2)。
(10) 原告会社は,本件ノックイン債Aの利金名目で,平成19年から平成21年まで毎年4月20日の利払日に935万円ずつ(累計2805万円)を受領したが(乙5の1ないし5の3),同債券の償還日(平成21年4月20日)における償還金額は0円となった(乙4)。
(11) 原告会社は,本件ランド債の利金名目で,平成18年から平成21年まで毎年11月10日の利払日に,順に315万6300円,313万3200円,193万4100円,243万3900円(累計1065万7500万円)を受領したが(乙6の1ないし6の3,57),同債券の償還日(平成21年11月10日)における償還金額は3477万円となった(乙56)。ただし,原告会社は,償還金を受領していない。
(12) 原告会社は,本件ユーロ債の利金名目で,平成19年4月24日及び平成20年4月24日の各利払日に250万円ずつ(累計500万円)を得たが(乙7の1,7の2),同債券は償還日(平成49年4月24日)が到来しておらず,償還金額は未定である。
(13) 原告X1は,本件ノックイン債Bの利金名目で,平成20年11月26日に125万円,平成21年2月26日から平成22年8月26日まで計7回の各利払日に1万2500円ずつ(累計133万7500円)を得たが(乙8の1ないし8の3,58の1ないし58の4,67),同債券の償還日(平成22年8月26日)の償還金額は2059万9969円となった(乙66)。ただし,原告X1は,償還金を受領していない。
3 争点
(1) 原告らの主位的請求について
ア 本件ノックイン債A及び同B,本件ランド債,本件ユーロ債(以下併せて「本件各外国債」という。)の購入が,Cの詐欺(民法96条1項)によるものか。
イ 本件各外国債の購入に際し,原告らに錯誤(民法95条)があったか。
ウ (原告X1の主位的請求につき)本件ノックイン債Bの勧誘にあたり,Cが不実を告知し,不利益事実を告知せず又は断定的判断を提供したか(消費者契約法4条1項1号,同条2号,2項)。
エ 原告らの損失額
(2) 原告らの予備的請求について
ア (原告会社の予備的請求につき)本件各外国債(原告会社分)の勧誘にあたり,Cが,旧金融商品販売法3条所定の説明義務に違反したか。
イ (原告X1の予備的請求につき)本件ノックイン債Bの勧誘にあたり,Cが,現行金融商品販売法3条所定の説明義務に違反したか。
ウ (原告X1の予備的請求につき)本件ノックイン債Bの勧誘にあたり,Cが,現行金融商品販売法4条で禁止されている断定的判断の提供をしたか。
エ 本件各外国債の勧誘にあたり,Cが民法上の説明義務に違反したか。
オ 本件各外国債の勧誘につき,適合性原則違反が認められるか。
カ 原告らの損害額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 原告らの主位的請求について
ア 争点(1)ア(詐欺取消しの成否)について
(ア) 原告会社の主張
a Cは,原告会社の運転資金を銀行定期預金よりは有利だが元本割れのリスクの少ない堅い金融商品で運用したいとの原告X1の希望を知りながら,
(a) 本件ノックイン債Aが,満期償還額の算出方法が極めて複雑であり,プロテクション金額も0円であって,参照銘柄のノックインにより元本がゼロになるリスクも十分あるがその程度を誤解しやすく,これに見合ったリターンの程度も評価しにくい金融商品であり,
(b) 本件ランド債が,為替リスクが非常に大きい南アフリカの通貨建てであり,円への換金時に3.5%のコストもかかり,元本割れのリスクも高く,会社の運転資金の運用には不向きな金融商品であり,
(c) 本件ユーロ債が,米ドル及び豪ドルの為替レートによっては支払われないこともあるクーポンの累計額が券面額の10.1%に達しない限り最大30年間償還されないリスクや,米ドル又は豪ドル建ての償還金を円に換算する際の為替レートによっては元本割れも生じるリスクがあり,会社の運転資金の運用には全く不向きな金融商品であるにもかかわらず,
高齢で視力・聴力も減退している原告X1に対し,上記のようなリスクを具体的に説明することなく,あたかも本件各外国債(原告会社分)が原告X1の上記希望に沿う金融商品であるかのように装って原告X1を欺き,その旨誤信した原告X1をして,原告会社のために本件各外国債(原告会社分)の各購入契約を締結させた。
b 前記争いのない事実等(9)のとおり,原告会社は,被告に対し,本件各外国債(原告会社分)の購入契約を詐欺(民法96条1項)により取り消すとの意思表示をした。
(イ) 原告X1の主張
a Cは,退職金を老後のために銀行定期預金よりは有利だが元本割れのリスクの少ない金融商品で運用したいとの原告X1の希望を知りながら,本件ノックイン債Bが,日経平均株価に連動する満期償還額及びクーポンの算出方法や早期償還条件も極めて複雑であり,日経平均株価が1度でもノックインすれば元本割れとなるリスクが極めて高いがその程度を誤解しやすく,これに見合ったリターンの見込みも評価しにくい金融商品であるにもかかわらず,高齢で視力・聴力も減退している原告X1に対し,その具体的内容及びリスクを説明することなく,あたかも本件ノックイン債Bが原告X1の上記希望に沿う金融商品であるかのように装って原告X1を欺き,その旨誤信した原告X1をして本件ノックイン債Bの購入契約を締結させた。
b 前記争いのない事実等(10)のとおり,原告X1は,被告に対し,本件ノックイン債Bの購入契約を詐欺(民法96条1項)により取り消すとの意思表示をした。
(ウ) 被告の主張
a 原告会社の主張は否認ないし争う。
(a) 原告会社は,取引口座の開設時に,①元本の安全性及び利子・配当等の安定収入と合わせて収益性を重視する旨及び②株式,信用取引,ワラント,CB,公社債,株式投資信託,公社債投資信託の投資経験がある旨自己申告し,本件各外国債(原告会社分)の購入前も,被告から外国債券を購入していた。
(b) 本件各外国債(原告会社分)のリスクは為替リスク及び株価変動リスクにすぎず,その仕組みは利金及び償還金の条件が理解できれば容易に理解できるところ,Cは,本件各外国債(原告会社分)の勧誘に際し,原告X1に対し,
① 本件ノックイン債Aにつき,その仕組みや,株価変動による元本毀損リスクをとるかわりに年率18.7%の利金を受け取れることなどを,案内書(乙11),説明書(乙12),参考資料(乙13),マトリックス表(乙48)を交付した上で,
② 本件ランド債につき,その仕組みや,為替変動による元本割れのリスクをとるかわりに年率7%の利金を受け取れることなどを,案内書(乙16),投資環境に関する資料(乙17),為替に関する資料(乙18)を交付した上で,
③ 本件ユーロ債につき,その仕組みや,為替変動による元本割れのリスク及び早期償還条件を満たさない場合は最長満期30年となることなどを,案内書(乙19),発行体概要(乙20)等を交付した上で,
口頭で具体的に説明した。
b 原告X1の主張は否認ないし争う。
原告X1は,取引口座の開設時に,①投資方針として収益性をより重視し,②投資目的は余裕資金の運用であり,③株式,信用取引,投資信託,公社債,CBの投資経験がある旨自己申告し,本件ノックイン債Bの購入前も,被告から株式,外国株式,投資信託,外国投資信託,外国債券等を購入していた。また,Cは,原告X1に対し,本件ノックイン債Bの仕組みや日経平均株価変動による元本割れのリスクにつき,説明資料(乙23),契約締結前交付書面(乙50),発行体概要(乙51)を交付した上で,口頭で具体的に説明した。
イ 争点(1)イ(錯誤無効の成否)について
(ア) 原告会社の主張
a 当時原告会社の代表取締役であった原告X1は,
(a) 4(1)ア(ア)原告会社の主張a(a)のとおり,本件ノックイン債Aが,償還額の算出方法も複雑であって元本割れのリスクも高く,原告会社の運転資金の手堅い運用には不向きな金融商品であり,
(b) 4(1)ア(ア)原告会社の主張a(b)のとおり,本件ランド債が,為替リスク及び換金コストによる元本割れのリスクが極めて高く,会社の運転資金の運用には不向きな金融商品であり,
(c) 4(1)ア(ア)原告会社の主張a(c)のとおり,本件ユーロ債が,為替リスクによる元本割れのリスクがある上,償還期間が30年にも及ぶため,会社の運転資金の運用には全く不向きな金融商品であるにもかかわらず,
これらを知らず,元本割れのリスクの少ない原告会社の投資方針に沿った金融商品であると信じ,原告会社のために本件各外国債(原告会社分)の各購入契約を締結した。
b したがって,本件各外国債(原告会社分)の各購入契約は,原告会社の錯誤により無効である。
(イ) 原告X1の主張
a 原告X1は,4(1)ア(イ)原告X1の主張のとおり,本件ノックイン債Bが,償還額・クーポン額・償還条件が日経平均株価に連動し,日経平均株価が1度でもノックインすれば元本割れとなるリスクが極めて高く,老後のための退職金の運用には不向きな金融商品であるにもかかわらず,そのことを知らず,元本割れのリスクの少ない自己の希望に沿った金融商品と信じ,本件ノックイン債Bの購入契約を締結した。
b したがって,本件ノックイン債Bの購入契約は,原告X1の錯誤により無効である。
(ウ) 被告の主張
a 原告会社の主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張aのとおり,原告会社に錯誤はない。
b 原告X1の主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張bのとおり,原告X1に錯誤はない。
ウ 争点(1)ウ(原告X1に対する不実告知,断定的判断の提供又は不利益事実の不告知(消費者契約法4条1項1号,2号,2項)の存否)について
(ア) 原告X1の主張
事業者である被告は,消費者である原告X1との間の本件ノックイン債B購入契約の勧誘に際し,銀行利息よりは利率が良く元本割れリスクが小さな「堅い」金融商品への投資を望む原告X1に対し,高齢者に読めないような細かい文字で理解不可能な内容を記載した説明書等を渡したのみで,本件ノックイン債Bの複雑な構造や元本がゼロになるリスクなど原告X1の不利益となる重要事項を故意に告げず(消費者契約法4条2項),ただ「大丈夫です。」と事実と異なる説明をし(同条1項1号),断定的な判断を提供したこと(同条1項2号)により,原告X1は,本件ノックイン債Bを自己の希望に沿う商品と誤認して購入した。
(イ) 被告の主張
原告X1の主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張bのとおり,原告X1に元本がゼロとなるリスクは説明済みであり,「大丈夫です。」などと断定的判断を提供した事実はない。
エ 争点(1)エ(損失額)について
(ア) 原告会社の主張
被告が原告会社から受領した本件各外国債(原告会社分)の購入代金は,詐欺取消し又は錯誤無効により不当利得となるところ,被告は悪意の受益者(民法704条前段)であり,かつ,Cの勧誘行為は不法行為にもあたる(同条後段)から,被告は,原告会社に対し,次の金員の支払義務を負う。
a 本件ノックイン債Aの購入代金として支出した5000万円からクーポン名目で受領した累計1870万円を控除した損失金3130万円及びこれに対する被告の利得日(平成18年4月11日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息
b 本件ランド債の購入代金として支出した6086万7570円からクーポン名目で受領した累計551万4000円を控除した損失金5535万3570円及びこれに対する被告の利得日(平成19年5月8日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息
c 本件ユーロ債の購入代金として支出した5000万円からクーポン名目で受領した累計500万円を控除した損失金4500万円及びこれに対する被告の利得日(平成19年4月18日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息
d 上記aないしcの損失金の不当利得返還請求につき,原告会社が同代理人弁護士に対して報酬基準に基づき支払を約した着手金487万1587円(請求額の3%+69万円+消費税)及び成功報酬974万3175円(認容額の6%+138万円+消費税)の合計額相当損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年4月8日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
(イ) 原告X1の主張
被告が原告X1から受領した本件ノックイン債Bの購入代金は,詐欺取消し,錯誤無効又は消費者契約法上の取消しにより不当利得となるところ,被告は悪意の受益者(民法704条前段)であり,かつ,Cの勧誘行為は不法行為にもあたる(同条後段)から,被告は,原告X1に対し,次の金員の支払義務を負う。
a 上記購入代金として支出した5000万円からクーポン名目で受領した累計126万2500円を控除した損失金4873万7500円及びこれに対する被告の利得日(平成20年8月27日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息
b 上記aの損失金の不当利得請求につき,原告X1が同代理人弁護士に対し前記4(1)エ(ア)dと同様の報酬基準に基づき支払を約した着手金215万2125円及び成功報酬430万4250円の合計額相当損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年4月8日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
(ウ) 被告の主張
a 原告会社の主張は否認ないし争う。
b 原告X1の主張は否認ないし争う。
(4) 原告らの予備的請求について
ア 争点(2)ア(旧金融商品販売法3条所定の説明義務違反の存否)について
(ア) 原告会社の主張
a 金融商品販売業者である被告は,顧客である原告会社に対し,業として
(a) 金融商品である本件ノックイン債Aを販売するまでの間に,ノックイン価格や参照対象銘柄の基礎価格など元本欠損が生ずるおそれの直接の原因となる指標(旧金融商品販売法3条1項1号)及び購入契約後は解除ができないこと(同項4号)を説明しなかった。
(b) 金融商品である本件ランド債を販売するまでの間に,発行額が為替変動の激しい南アフリカ・ランド建てであることなど元本欠損が生ずるおそれの直接の原因となる指標(同項1号)及び購入契約後は解除ができないこと(同項4号)を説明しなかった。
(c) 金融商品である本件ユーロ債を販売するまでの間に,クーポン算出における為替レートや早期償還条件のターゲットレベルなど元本欠損が生ずるおそれの直接の原因となる指標(同項1号)及び購入契約後は解除ができないこと(同項4号)を説明しなかった。
b したがって,被告は,原告会社に対し,旧金融商品販売法4条に基づく損害賠償責任を負う。
(イ) 被告の主張
原告会社の主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張aのとおり,Cに説明義務違反はない。
イ 争点(2)イ(現行金融商品販売法3条所定の説明義務違反の存否)について
(ア) 原告X1の主張
a 金融商品販売業者である被告は,業として金融商品である本件ノックイン債Bを販売するまでの間に,顧客である原告X1に対し,元本欠損が生ずるおそれがある旨(現行金融商品販売法3条1項1号イ),その直接の原因となるノックイン価格や参照対象銘柄の基礎価格などの指標(同号ロ),取引の仕組みの重要な部分(同号ハ)及び購入契約後は解除ができないこと(同項7号)を全く説明せず,少なくとも原告X1の年齢,知識,原資及び目的に照らして同人に理解されるために必要な方法及び程度による説明をしなかった(同条2項)。
b したがって,被告は,原告X1に対し,現行金融商品販売法5条に基づく損害賠償責任を負う。
(イ) 被告の主張
原告X1の主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張bのとおり,Cは重要事実を告知した。
ウ 争点(2)ウ(現行金融商品販売法4条所定の断定的判断提供の存否)について
(ア) 原告X1の主張
a 金融商品販売業者である被告は,業として金融商品である本件ノックイン債Bを販売するまでの間に,顧客である原告X1に対し,「大丈夫です。」と述べ,償還日の償還状況,儲けの有無,元本欠損のおそれといった不確実な事項につき大丈夫であるとの断定的な判断を提供し,少なくとも確実であると誤認させるおそれのあることを告げた(同法4条)。
b したがって,被告は,原告X1に対し,現行金融商品販売法5条に基づく損害賠償責任を負う。
(イ) 被告の主張
原告X1の主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張bのとおり,Cが断定的判断を提供したことはない。
エ 争点(2)エ(民法上の説明義務違反の存否)について
(ア) 原告らの主張
a 証券会社は,信義則上,顧客の勧誘にあたり,顧客が投資の適否を的確に判断するために必要な情報である当該投資商品の仕組みや危険性について具体的に理解できる程度の説明を,当該顧客の投資経験,知識,理解力等に応じて行う義務を負うと解される。
b しかるに,Cは,本件各外国債の勧誘に際し,高齢で,リスクの高い金融商品への投資経験がなく,当該商品のリスクを理解していない原告X1に対し,複雑で理解困難な商品の内容を細かい文字で記載した説明書等を交付しただけで,原告X1が具体的に理解できる説明をしなかった。
c したがって,Cの使用者である被告は,原告らに対し,民法上の説明義務違反としての債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
(イ) 被告の主張
原告らの主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張のとおり,Cに説明義務違反はない。
オ 争点(2)オ(適合性原則違反の存否)について
(ア) 原告会社の主張
a 証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した投資商品の取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,不法行為上も違法となると解される。
b しかるに,Cは,本件各外国債(原告会社分)の勧誘当時,原告会社の代表取締役であった原告X1が70歳目前であり,複雑な金融商品の知識及び投資経験がない上,原告会社の厳しい経営状況・財務に鑑みその運転資金を銀行より利率が良い程度の元本割れができる限り少ない堅い商品で運用する意向であることを知りながら,原告会社の意向と実情に反し,
(a) 得られる利益はクーポンの限度であるのに対し,ノックインすれば元本割れをおこすリスクが極めて高く,購入の判断にあたってはその仕組みの十分な理解と償還時までの株式市況等の動向の調査・予測を要する本件ノックイン債A
(b) 償還日に元本が全額償還されるものの,為替変動の激しい南アフリカ・ランド建てで償還されるため,円への換金時の為替リスク及び3.5%の両替手数料リスクによっては元本割れをおこすリスクが極めて高く,購入の判断にあたってはその仕組みの十分な理解と償還時の為替動向の予測を要する本件ランド債
(c) クーポンに影響する米ドル・豪ドルの為替動向によっては最大30年間元本が償還されないリスク及び円換算で元本割れをおこすリスクがあり,購入の判断にあたってはその仕組みの十分な理解と利払日・償還日の為替動向の予測等を要する本件ユーロ債
といった明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘した。
b したがって,Cの使用者である被告は,原告会社に対し,適合性原則違反の不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
(イ) 原告X1の主張
a Cは,本件ノックイン債Bの勧誘当時,原告X1が70歳目前であり,複雑な金融商品の知識及び投資経験がなく,老後のための退職金を銀行より利率が良い程度の元本割れができる限り少ない堅い商品で運用する意向であると知りながら,原告X1の意向と実情に反し,得られる利益はクーポンの限度であるのに対し,ノックインすれば元本割れをおこすリスクが極めて高く,購入の判断にあたってはその仕組みの十分な理解と償還時までの株式市況等の動向の調査・予測を要する本件ノックイン債Bという,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘した。
b したがって,Cの使用者である被告は,原告X1に対し,適合性原則違反の不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
(ウ) 被告の主張
a 原告会社の主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張aのとおりの原告会社の意向と実情に照らし,適合性原則違反の事実はない。
b 原告X1の主張は否認ないし争う。
4(1)ア(ウ)被告の主張bのとおりの原告X1の意向と実情に照らし,適合性原則違反の事実はない。
カ 争点(2)カ(損害額)について
(ア) 原告会社の主張
争点(2)ア,同エ及び同オに関する原告会社の主張を前提にすると,被告は,原告会社に対し,次の各損害を賠償すべき責任を負う。
a 本件ノックイン債Aにつき,投資額5000万円から利金2805万円を控除した元本欠損額2195万円及びこれに対する不法行為の日(平成18年4月3日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
b 本件ランド債につき,投資額6086万7570円から利金1065万7500円を控除した元本欠損額5021万0070円(未受領償還金を含む。)及びこれに対する不法行為の日(平成18年4月26日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
c 本件ユーロ債につき,投資額4990万円から利金500万円を控除した元本欠損額4490万円及びこれに対する不法行為の日(平成19年4月18日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
d 上記aないしcの損害賠償請求につき,原告会社が同代理人弁護士に対して前記4(1)ア(ア)dと同様の報酬基準に基づき支払を約した着手金487万1587円及び成功報酬703万2475円の合計額相当損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年4月8日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
(イ) 原告X1の主張
争点(2)イないし同オに関する原告X1の主張を前提にすると,被告は,原告X1に対し,次の各損害を賠償すべき責任を負う。
a 本件ノックイン債Bにつき,投資額4997万5000円から利金133万7500円を控除した元本欠損額4683万7500円(未受領償還金を含む。)及びこれに対する約定日(平成20年8月28日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
b 上記aの損害賠償請求につき,原告X1が同代理人弁護士に対して前記4(1)ア(ア)dと同様の報酬基準に基づき支払を約した着手金215万2115円及び成功報酬385万9590円の合計額相当損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年4月8日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
(ウ) 被告の主張
a 原告会社の主張aないしcは否認ないし争う。
本件ランド債につき,争いのない事実等(11)記載の未払償還金3477万円は元本欠損額(損害)ではなく,投資金額から既払利金及び未払償還金を控除した損失額は1544万0070円である。本件ユーロ債については,償還日未到来のため,損失は発生していない。いずれにせよ,損失は原告会社の自己責任に帰すべきものである。
b 原告X1の主張は否認ないし争う。
本件ノックイン債につき,争いのない事実等(13)記載の未払償還金2059万9969円は元本欠損額(損害)ではなく,投資金額から既払利金及び未払償還金を控除した損失額は2803万7531円であるが,その損失は原告X1の自己責任に帰すべきものである。
第3 争点に対する判断
1 事実経過
争点に対する判断の前提として,前記争いのない事実等並びに証拠(後記のもののほか,甲43,44,乙1の1,2の1,47の1,47の2,59,原告X1本人,原告会社代表者,C証人)及び弁論の全趣旨により認められる事実は,次のとおりである。
(1) 原告会社は,昭和39年8月に設立され,本店を静岡県富士市に置き,主に自動車教習所の経営を目的とする取締役会・監査役設置会社であり,平成18年4月当時の資本金は1000万円,発行済株式総数は6000株であった。遅くとも平成13年8月以降,平成19年9月20日までは,原告X1及びE(以下「E」という。)が代表取締役に,A,Dらが取締役の地位にあった(原告X1,原告会社代表者)。
原告会社の毎年6月末決算期の貸借対照表によれば,平成18年6月末の資産合計は約4億6528万円(うち預金約1億7538万円,投資有価証券約4万円,投資外国債券約1億0708万円),負債合計は約3238万円,別途積立金3億3000万円を除く同期未処分利益は約3290万円であった(甲41の1)。平成19年6月末の資産合計は約4億9233万円(うち預金約1億3074万円,投資有価証券約4万円,投資外国債券約1億8169万円),負債合計は約3272万円,別途積立金3億3000万円を除く繰越利益剰余金は約5961万円であった(甲41の2)。平成20年6月末の資産合計は約4億6096万円(うち現金・預金約7586万円,投資有価証券約4万円,投資外国債券約1億8169万円),負債合計は約1億5893万円(うち長期借入金約1億1260万円),別途積立金3億3000万円を除く繰越利益剰余金はマイナス約9796万円となった(甲41の3)。また,原告会社の入校者数は,平成15年は1024人,平成16年は993人,平成18年は887人,平成19年は824人,平成20年は693人と減少傾向にあった(甲39)。
(2) 原告X1は,昭和12年○月生まれで,約40年は原告会社の役員を務め,少なくとも平成13年以前からその代表取締役に就任しており,本件各外国債(原告会社分)の購入時には68歳ないし69歳,本件ノックイン債Bの購入時は70歳であった(甲43)。原告X1には,被告との取引開始以前に,他の証券会社との間で少なくとも株式,信用取引の投資経験があった(原告X1本人)。
(3) 原告X1は,平成16年1月23日ころ,当時の被告沼津支店従業員Fの勧誘により,被告に原告X1用取引口座を開設するため,証券総合サービス申込書兼証券取引申込書兼外国証券取引口座設定申込書に署名押印し,被告に交付した(乙10の1,原告X1本人)。原告X1名義の署名のある同日付け「お客様カード」中のチェック方式による回答欄には,①投資方針につき「収益性をより重視したい。」旨,②投資目的は「余裕資金の運用」である旨,③投資経験につきMMF,公社債投信,外国証券(含む外国為替取引),ワラント,先物・オプション等は経験がないが,それ以外の投資信託,公社債,CB(転換社債又は転換社債型付新株予約権付社債),株式,信用取引は経験がある旨,④給与年収は1000万円ないし2000万円,金融資産は1億円以上である旨,⑤情報提供につき被告からの情報やアドバイスも参考にしたい旨,⑥国内外の株式・債券・CBの重要事項につき改めて説明を受ける必要はない旨の各チェックがある(乙10の2)。
(4) 原告X1は,平成16年1月28日から平成20年8月21日までの間に,被告との間で,別紙2の取引番号1ないし56各欄記載のとおり,株式(取引番号1,2,9,13,16,21ほか),外国株式(取引番号3,26ほか),投資信託(取引番号7(日経好配当株投信)ほか),外国投資信託(取引番号19,29(野村通貨選択型日経225投信JコースNZドル建て成長型)ほか),外国債券(取引番号5(ユーロ米ドル建債券),49,50,54(本件ノックイン債B)ほか)等の売買取引をし(乙2の1。以下「原告X1全取引」という。),平成21年3月31日時点において,これらによる通算損益は売買損1124万4676円から売買益800万8045円を差し引いたマイナス323万6631円,買付証券(外貨決済分)は2462万5271円,買付証券残高は5298万3986円となった(乙2の1)。
(5) 原告会社は,平成17年5月12日ころ,原告会社用取引口座を開設するため,保護預り口設定申込書及び外国証券取引口座設定申込書に記名押印し,被告に交付した(乙9)。同申込書のチェック方式による回答欄には,①投資方針につき「元本の安全性及び利子・配当等の安定収入を重視したい。」に加え「上記に併せて収益性も重視したい。」旨,②投資経験につき,株式,信用取引,ワラント,CB,公社債,株式投信,公社債投信は経験があるが,外国証券(含む外国取引為替),先物・オプション等,スワップ取引は経験がない旨,③投資資料は必要である旨,④重要事項の説明に関する意向につき,国内外の株式・債券・CBの6商品全てにつき以後改めて説明を受ける必要はない旨チェックがあるほか,⑤同申込書中の資産状況欄には,平成16年6月決算期の資本金1000万円,純資産額16億円,売上高3億1800万円,経常利益4900万円との記載がある(乙9)。
(6) 原告会社は,平成17年5月17日から平成20年10月10日までの間に,被告との間で,別紙3の取引番号1ないし28各欄記載のとおり,本件ノックイン債A(取引番号4),本件ランド債(取引番号8),本件ユーロ債(取引番号14)のほか,外国債券(取引番号1(ユーロ豪ドル建債券),12(ユーロ豪ドル債券)ほか),外国投資信託(取引番号3(野村通貨選択型日経225投信Aコース米ドル建て),11ほか),ユーロ円建満期担保付償還条項付他社交換社債(取引番号6,甲13),株式(取引番号13ほか)等の売買取引をし(乙1の1。以下「原告会社全取引」という。),平成21年3月31日時点において,これらによる通算損益は売買益961万1386円から売買損456万0109円を差し引いた505万1277円,買付証券残高は1億7776万7570円となった(乙1の1)。
(7) Cは,沼津支店赴任後の平成17年12月14日ころ,原告X1と面談又は電話により投資方針等を確認した後,同月16日,電話や資料送付の方法により株式の購入(別紙2の取引番号21ほか)及び外国株式の売却(別紙2の取引番号20)を受注した(乙47の1,59)。
(8) Cは,原告X1に対し,平成18年1月17日,電話で野村通貨選択型日経225投信Aコース米ドル建て(別紙3の取引番号3)の購入を勧誘し,原告会社から注文を受けた後,同年3月23日,日本航空円貨建て債券の購入を提案したが,受注に至らなかった(乙47の1,59)。
(9) Cは,平成18年3月30日ころ,原告X1と面談し,同月23日付け「プロテクション付ノックインプット・エクイティリンク債のご案内」(乙11),「プロテクション付ノックインプットリンク債説明書」(乙12)等を示しながら本件ノックイン債Aの購入を勧め,同年4月3日ころ,「ユーロ債の証券内容説明書」5枚(乙15)をファクシミリで送信し,原告会社から買い注文を受けた。案内書(乙11)には,「Lがプロテクション金額と発行額の和以上となる場合,償還額はゼロとなります。」との記載も含めて争いのない事実等(3)の約定と同趣旨の記載があったほか,「ご留意いただくポイント」として「本債券の価格は,参照対象株式の株価変動および金利の変動等により上下しますので,これにより損失を被ることがあります。」等の記載があった。また,説明書(乙12)には,参照対象株式の株価が参照期間中に一度でもノックイン価格になった場合として,満期償還額決定日における参照対象株式の株価に応じて損失額が想定元本価値の0%から100%まで変動し得ることが色刷りの図で示され,「価格リスク」として「参照対象株式の市場価格が下落することにより,途中売却価格及び満期償還価格が購入価格を下回るリスクがあり」「場合によっては,満期償還価格がゼロになる場合もあります」との記載もあった。
(10) 原告X1は,原告会社代表取締役として,Cに対し,平成18年4月5日ころ,電話で通貨選択型日経225投信Aコース米ドル建て(別紙3の取引番号5)の売り注文をし,さらに,同月10日ころ,ユーロ円建て富士写真フイルム株式交換社債(別紙3の取引番号6)の買い注文をした。
(11) Cは,原告X1に対し,平成18年4月26日,電話で本件ランド債の購入を勧め,案内書1枚(乙16),「南アフリカ・ランドの投資環境」(乙17),「南アフリカ・ランド建て債券のご投資にあたっての為替のお取扱いについて」(乙18)をファクシミリで送信した上で,同日,原告会社から本件ランド債の買い注文を受けた(甲43,乙47の1,59)。同案内書には,争いのない事実等(5)の約定と同趣旨の記載のほか,旧金融商品販売法に係る重要事項と題して「金利の変動の影響等による債券の価格の上下や為替相場の変動等により,投資元本を割り込むことがあります。」などの記載があった。また,投資環境に関する説明資料には,昭和46年ころから平成18年ころまでの円/ランドの為替相場の動向が記載されていた。
(12) 平成18年6月,旧金融商品販売法を改正する同年法律第66号が成立し,平成19年9月30日に現行金融商品販売法が施行された(顕著な事実)。
(13) Cは,原告X1に対し,平成19年4月5日,電話で本件ユーロ債の購入を勧め,ファクシミリでユーロ債の御案内(乙19),発行体概要(乙20)及びリーストダイレクトパワーパターン債説明資料(乙21)を送付し,さらに電話の上,ユーロ債のご案内(最終版)及び発行体概要各1枚(甲14),買付約定書の書式1枚をファクシミリで送信した(甲15)。同案内書(甲14)には,争いのない事実等(6)の約定と同趣旨の記載があり,特に「払込金・利金:円,償還:米ドルまたは豪ドル」「ターゲットレベル:額面の10.10%」等の記載は赤文字で強調されていたほか,「支払クーポンの累積額がターゲットレベルに達しない場合があります。」「本債券の価格は,為替及び金利の変動等の影響等により上下いたしますので,これにより損失を被ることがあります。」などの注意書きがあった。原告会社は,同日ころ,買付約定書(甲16)中の「当法人は( )に関し,その条件を充分に確認し,また投資に係るリスクについて説明を受け,充分に理解の上,額面( )を野村證券株式会社より購入しました。」との定形文言に銘柄特定情報と額面額を記載し,代表取締役原告X1名義で記名押印した上,Cに送信した。
(14) A及びDは,平成19年9月20日,原告会社の新代表取締役となったが,会計事務所からの指摘で本件各外国債(原告会社分)のリスクに疑問を抱き,平成20年7月4日,被告沼津支店において,Cらに対し,本件ノックイン債A販売勧誘時の説明内容等を質した上で,原告X1がリスクを理解していないなどと述べた(甲31の2,原告代表者本人)。
(15) Cは,原告X1に対し,ファクシミリで,平成20年8月8日午前9時7分ころ,金融商品取引法37条の3に基づくユーロ債取引の契約締結前交付書面(最終版)2枚,商品概要(ユーロ債のご案内)4枚,発行体の概要1枚を,同日午前9時27分ころ,買付約定書の書式をそれぞれ送信した(甲17)。契約締結前交付書面には,「この書面は,本債券のお取引を行っていただく上でのリスクや留意点が記載されています。あらかじめよくお読みいただき,ご不明な点はお取引開始前にご確認ください。」「ユーロ債は,金利水準,為替相場,金融商品市場における相場その他の指標の変化や発行者の信用情報に対応して価格が変動すること等により,損失が生じるおそれがあります」「本債券のクーポン及び償還額は,株価指数の数値に基づいて決定されますので(中略),対象となる株価指数の変動により本債券の価格が下落した場合に,本債券を途中売却すると,損失を被ることになります。」「本債券の満期における償還額は,対象となる株価指数の数値により決まります。(中略)このため,対象となる株価指数の数値によっては,償還時に投資元本の一部又は全部を失うことがあります。」などの記載があった。また,商品概要には,発行形態,発行額,年限,クーポン,早期償還条件,利払日,償還日,満期償還価格,ノックイン価格,参照期間等が記載されているほか,「〈ご留意いただくポイント〉」中の「◎クーポンについて」との項目には「クーポンは日経平均株価の変動により不連続に変化します。」「日経平均株価が所定の水準を下回るとクーポンは大幅に低下します。」,「◎早期償還について」との項目には「早期償還されずに,日経平均株価が下落して推移した場合,低クーポンが長期間継続する可能性があります。」,「◎償還金について」との項目には「満期償還時の償還価格は日経平均株価の変動の影響を受けます。」「ノックインした場合は,日経平均株価が下落すると償還価格が低下し,これにより損失を被ることがあります。(これにより償還価格がゼロになることもあります。)。」などと記載されていた(甲17)。原告X1は,同日,買付約定書(甲20,乙28)中の「当法人は,契約締結前交付書面の交付を受け,( )に関し,クーポン・償還等の条件を充分に確認し,また投資に係るリスクについて確認のうえ,額面( )を野村證券株式会社より購入しました。」との定形文言に銘柄特定情報と額面額を記載し,「当該債券への投資に係るリスク(「ご留意いただくポイント」の◎部分)について説明を受け,充分に理解いたしました」との欄にチェックし,署名押印の上,同日午前10時4分ころ,Cに対し,ファクシミリで返信した(甲20,乙28)。
(16) 原告X1は,Aらから,平成20年9月ころ,本件各外国債(原告会社分)につき指摘を受け,さらに,同年10月10日までにCからノックイン債Aの参照対象銘柄のうち5社分の株価がノックインした旨報告を受け,Cに初めて苦情を述べた(原告X1本人,原告会社代表者,乙47の1)。
(17) 原告らは,代理人弁護士を通じ,被告に対し,平成20年12月1日到達の内容証明郵便で,本件各外国債の販売についての説明義務違反,適合性原則違反,詐欺取消,錯誤無効等を主張して,本訴請求と同趣旨の請求をした(甲21の1,21の2)。
2 本件各外国債の商品特性について
また,前記争いのない事実等に前記認定の事実を総合すると,本件各外国債には,それぞれ次の商品特性があることが認められる。
(1) 本件ノックイン債Aについて
本件ノックイン債Aは,①発行体こそ外国法人であるが,円建て債券である。②3年間で元本の56.1%の利金を受領できるが,③満期償還金は,原則として元本100%であるものの,別紙1記載の10銘柄の参照対象株式のそれぞれにつき株価が一度でも当該銘柄のノックイン価格以下になり,かつ,当該銘柄の平成21年4月20日における終値が当該銘柄の基礎価格を上回った場合において,争いのない事実等(3)ス①の数式により算出される各銘柄の損失額の合計額(参照ポートフォリオ損失額)が0円以上となったときは,争いのない事実等(3)シ(イ)の数式により算出される額となり,その下限はゼロとなる。
したがって,参照対象株式の株価変動を直接の原因として変動し得る満期償還金が元本の約44%を下回った場合に初めて元本欠損のおそれがあることになる。
(2) 本件ランド債について
本件ランド債は,①国際金融公社を発行体とする南アフリカ・ランド建て債券であり,②ランド建て券面額の100%が償還されるほか,③毎年1回の利払日に券面額の7%の利金が得られるところ,勧誘(平成18年4月)の時点では償還日まであと3回の利払が予定されていた。
ただし,ランド建て債券であるため,利金及び償還金を円貨で受領する際に,為替変動リスク及び為替手数料コストにより元本欠損が生じるおそれがある。
(3) 本件ユーロ債について
本件ユーロ債は,①発行体は外国法人であり,払込み・利金は円建て,償還は豪ドル又は米ドルによる外国債券である。②償還年限は30年であるが,毎年2回の利払日における累積利金が10.1%以上になると券面額の100%(豪ドル又は米ドル)で早期償還される。③利金は,1年目は10%であるが,2年目以降は利払日の10営業日前の1米ドル当たりの円貨と108.15円との差(%)又は利払日の10営業日前の1豪ドル当たりの円貨と86.75円との差(%)のうち低い方(ただし0%を下限とする。)となる。④償還券面額は,発行体が62万5000米ドルか100万豪ドルのいずれか(通常は低い方)を選ぶ。
したがって,米ドル又は豪ドルの為替相場の変動により最大30年間元本が償還されないリスクのほか,償還時の為替変動リスクを直接の原因として元本欠損が生じるおそれがある。
(4) 本件ノックイン債Bについて
本件ノックイン債Bは,①発行体こそ外国法人であるが,円建て債券である。②3か月毎の利金の年利は,初回は10%であるが,2回目以降は当該利払日の10東京営業日前の日経平均株価が1万1091円以上の場合は10%,それ以外は0.1%となる。③2年後を満期とする償還金は,原則として券面額の100%であるが,日経平均株価が参照期間中に一度でもノックイン価格(9786円)以下になり,かつ,各利払日の10営業日前の日経平均株価終値が一度も1万2827円以上にならないまま,満期償還日の10営業日前の日経平均株価終値も1万3049円を下回った場合には下回った割合の2倍の損失額が生じる。
したがって,日経平均株価の変動を直接の原因とする利金及び満期償還金の合計額が券面額を下回る場合に,元本欠損を生ずるおそれがある。
3 原告らの主位的請求について
(1) 争点(1)ア(詐欺取消しの成否)について
ア 原告会社に対する詐欺の成否
原告X1は,会社の運転資金を「堅い」商品にのみ投資したいとの意向をCに告げていたなどと原告会社の主張に沿う供述をするのでその信用性等を検討するに,前記認定の事実経過及び商品特性のとおり,①当時の原告会社代表取締役であった原告X1は70歳近い高齢であり,②原告会社の主たる収入源である生徒数は減少傾向にあった上,被告X1及びEの退任に備えて役員退職金規定(甲40)に基づき各1億円の引当金が必要であったこと,③本件ノックイン債Aには,3年で56.1%の利金も得られるが,参照対象株式の株価変動によりノックインすれば償還すべき元本がゼロとなるリスクもあること,④本件ランド債は,元本が南アフリカ通貨ランドとしては100%償還されるものの,利金及び償還金の受領は円貨によるため,為替変動及び為替手数料のコストにより相当程度の元本割れのリスクがあること,⑤本件ユーロ債には,元本が最大30年間償還されず,為替変動による元本割れのリスクもあることは認められる。
しかし,C証人は,原告X1の前記供述内容を強く否認しているところ,前記第3の1認定の事実経過のとおり,⑥原告会社の取引口座開設時の申込書(乙9)には,信用取引・ワラント債の投資経験があり,元本の安全性及び利子・配当等の安定収入に加えて収益性も重視したいとの記載があるところ,原告X1はかかる記載をした事実を否認するものの,これらは被告が特に記載を求める箇所として鉛筆で囲みがあることに鑑みても原告会社側において記載したと考えるのが自然であること,⑦原告会社には,本件各外国債(原告会社分)の勧誘当時,流動資産として外国債券への投資分以外にも1億数千万円の預金があり,毎年数千万円の利益も得ていたこと,⑧現に原告会社は,本件ノックイン債Aの勧誘以前から為替変動リスクを伴う外国債券や日経平均株価に連動する投資信託を購入し,原告X1個人も1回の売買で投資額の75%以上の利益を得るような株価変動リスクを伴う株式も購入していること(原告X1本人),⑨仮に原告X1の供述するような発言があったとしても,「堅い」商品とは極めて曖昧な概念であって,およそ証券会社の扱う金融商品の中でいかなるものがこれにあたるかは明らかでなく,少なくとも本件各外国債(原告会社分)は元本を超える損失の生ずるおそれのある信用取引等と比べれば明らかにリスクは低いこと,⑩原告X1は,数十年にわたり原告会社の役員又は代表取締役として会社経営に関与し,少なくとも外貨建債券における為替リスクの基本的な理解自体はある旨自認しており(原告X1本人),本件各外国債(原告会社分)の年利7%から18.7%に及ぶ利金の高さに鑑みても,前記各リスクを理解していなかったとは考え難いこと,これに加えて⑫本件ノックイン債Aの案内書・説明書にはノックインにより償還金がゼロとなるおそれがあることは明記されていたこと,⑬本件ランド債の案内書や説明資料には南アフリカ通貨(ランド)建てである旨明記され,原告X1本人もこれを充分認識していたこと(原告X1本人),⑭本件ユーロ債の案内書には年限及び償還日が30年後であることがそれぞれ明記されており,これらの文字は原告X1本人が署名した1頁30行程度の陳述書の文字(甲43)に比べれば小さいものの,老眼鏡等を使用しても読めないものとは認め難いことなどに照らせば,仮に客観的に原告会社において生徒数が減少傾向にあり,退職引当金の準備も要する状況にあったからといって,直ちに原告会社がかかる認識の下にリスクもリターンも極めて低い金融商品しか購入する意思がなかったと認めるにも,Cがこれを知りながら本件各外国債(原告会社分)のリスクを隠して原告を騙したとも認めるにも到底足りないというべきである。
したがって,原告会社に対する詐欺の主張は理由がない。
イ 原告X1に対する詐欺の成否
原告X1は,老後の生活のための退職金を「堅い」商品にのみ投資したいとの意向をCに告げていたなどとその主張に沿う供述をするのでその信用性等を検討するに,前記認定の事実経過及び商品特性のとおり,①原告X1は,本件ノックイン債Bの勧誘当時はすでに70歳であったこと,②本件ノックイン債Bには,日経平均株価の変動によりノックインすれば元本がゼロとなるリスクもあったことは認められる。
しかし,Cは,原告X1の上記供述内容を否認しているところ,前記第3の3(2)で指摘した③「堅い」商品との表現の曖昧さ(同ア⑨),及び④原告X1の職業上の知識・経験(同ア⑩)に加え,⑤原告X1は,取引口座開設時のお客様カード(乙10の2)のうち,給与収入が1000万円以上,金融資産が1億円以上との欄にチェックをしたこと自体は自認していること,⑥原告X1は,同カードのその他の投資方針,投資目的,投資経験欄等の記載は覚えがない旨供述するものの,上記収入欄等のチェックとの筆跡に特段の相違は認められず,これらも原告自身が記載した蓋然性が高いこと,⑦原告X1は,Cの前任者の時から,為替変動リスクを伴う外国通貨建て債券や,株価と為替の変動リスクを伴う外国株式,日経平均株価と為替の変動リスクを伴う外国通貨建て投資信託も購入して投資経験を積んでいたこと,⑧特に本件ノックイン債B購入前の平成20年1月18日と同年4月23日にも本件と同種のノックイン債を購入し,いずれも元本又は利金を併せて投資以上の利得を得たこと(取引番号2の49,50,55),⑨原告X1自身が,買付約定書(乙24)において,当該債券への投資に係るリスクについて説明を受けて充分理解した旨チェックしているところ,リスクの具体的内容として引用された案内書(乙26)の「ご留意いただくポイント」の◎部分には「◎償還金について」と題してノックインした場合は償還金がゼロとなることがある旨明記されており,その文字は原告X1本人が署名した1頁30行程度の陳述書の文字(甲43)に比べれば小さいものの,老眼鏡等を使用しても読めないものとは認め難いことなどを総合すると,原告X1が,日経平均株価の変動により元本がゼロとなるリスクもあることを理解していなかったとは考え難く,本件全証拠によるも,原告X1がリスクもリターンも極めて低い金融商品しか購入する意思がなかったと認めるにも,Cがこれを知りながら本件ノックイン債Bのリスクを隠して原告を騙したとも認めるにも到底足りないというべきである。
したがって,原告X1に対する詐欺の主張も理由がない。
(2) 争点(1)イ(錯誤無効の成否)について
ア 原告会社の錯誤の主張について
原告X1本人は原告会社の主張に沿う供述をしているところ,前記第3の3(1)ア認定のとおり,①原告会社の当時の代表者原告X1が高齢であり,②原告会社の経営・財産状況が必ずしも上向きとまではいえなかったこと,③本件各外国債(原告会社分)には相応の元本割れのリスクがあり,特に本件ノックイン債Aには相当の利金を得るかわりに償還すべき元本がゼロとなるリスクもあったことは認められる。しかし,前記第3の3(1)ア記載のとおりの④原告会社の取引口座開設時の申込書の記載内容(同(1)ア⑥),⑤原告会社の預金を含む財産状況(同(1)ア⑦),⑥本件ノックイン債A購入以前の原告会社の投資状況(同(1)ア⑧),⑦原告X1のいう「堅い」商品の曖昧さ(同(1)ア⑨),⑧原告X1の職業上の知識・経験(同(1)ア⑩),⑨本件ノックイン債Aの案内書の記載内容(同(1)ア⑪)に照らしても,原告X1本人の供述内容をそのまま採用することはできず,本件全証拠によるも,原告会社が,リスクもリターンも極めて低い金融商品しか購入する意思がなかったと認めるにも,本件各外国債(原告会社分)のリスクを知らずにこれらを購入したと認めるにも到底足りないというべきである。
したがって,原告会社の錯誤の主張は理由がない。
イ 原告X1の錯誤の主張について
原告X1本人はその主張に沿う供述をするところ,前記第3の2(1)ア認定のとおり,①原告X1が高齢であり,②本件ノックイン債Bには相当の利金を得るかわりに償還すべき元本がゼロとなるリスクもあったことは認められる。しかし,前記第3の3(1)イ記載のとおりの③原告X1のいう「堅い」商品の曖昧さ(同(1)イ③),④原告X1の職業上の知識・経験(同(1)イ④),⑤原告X1の取引口座開設時の申込書の記載内容及び資産状況(同(1)イ⑤及び⑥),⑥本件ノックイン債B購入以前の原告X1の投資状況(同(1)イ⑦及び⑧),⑧本件ノックイン債Bの案内書及び買付約定書の記載内容(同(1)イ⑨)に照らしても,本件全証拠によるも,原告X1が,リスクもリターンも極めて低い金融商品しか購入する意思がなかったと認めるにも,本件ノックイン債Bのリスクを知らずにこれを購入したと認めるにも到底足りないというべきである。
したがって,原告X1の錯誤の主張も理由がない。
(3) 争点(1)ウ(原告X1に対する不実告知(消費者契約法4条1項1号),断定的判断の提供(同条1項2号)又は不利益事実の不告知(同条2項)の存否)について
ア 原告X1個人が事業者である被告との間で締結した本件ノックイン債B購入契約は消費者契約に該当し得るところ,原告X1本人は,Cが同債券の仕組みや元本がゼロになるリスクなどを原告X1に告げず(不利益事実の不告知),ただ「大丈夫です。」と告げた(不実の告知及び断定的判断の提供)などと一見同人の主張に沿うかのような供述をし,証人Cはこれを否認する供述をする。
イ しかし,前記第3の3(1)ア及びイで指摘した各事情に照らせば,そもそも原告X1本人の供述の信用性自体に疑問がある上,①特に原告X1は,それまでにも原告会社代表取締役として本件ノックイン債Aを,個人として2回にわたり本件ノックイン債Bと同種のノックイン債を購入しており,これらの取引経験を通じてその仕組みを理解する機会は充分あったこと,②前記第3の3(1)ア⑨記載のとおり,本件ノックイン債Bの案内書(乙26)にもその仕組みや元本がゼロになるリスクが明記されているところ,老眼鏡等を使用しても読めない程のものとは認め難いことなどに照らせば,本件全証拠によるも,Cが,同債券の仕組みや元本がゼロになるリスクなど原告X1に不利益な事実を告げなかったと評価することはできず,Cの勧誘行為につき不利益事実の不告知(消費者契約法4条1条1項違反)があったと認めるに足りない。
ウ また,以上の事情に照らしても,Cがただ「大丈夫です。」と言い,これにより元本割れのリスクを誤認したとの原告X1本人の供述内容の信用性にも疑問がある上,そもそも「大丈夫」との言葉も,その意味し得る内容は極めて多義的かつ曖昧であって,「将来における変動が不確実な事項」につき「断定的判断」を提供したと評価することも困難といわざるを得ず,Cが本件ノックイン債Bの勧誘時に不実を告知し(同条1項1号)又は断定的判断を提供した(同条1項2号)と認めるにもりない。
エ したがって,消費者契約法に基づく取消しの原告X1の主張にも理由がない。
(4) 以上によれば,その余について判断するまでもなく,原告らの主位的請求は理由がない。
4 原告らの予備的請求について
(1) 争点(2)ア(原告会社の予備的請求につき:旧金融商品販売法3条所定の説明義務違反の存否)について
ア 金融販売業者である被告による,顧客である原告会社に対する本件各外国債(原告会社分)の勧誘・販売行為は,いずれも現行金融商品販売法の施行日(平成19年9月30日)より前になされたところ,各勧誘に際し,旧金融商品販売法3条1項1号(元本欠損の生ずるおそれがある旨及びその直接の原因となる指標)並びに同項4号(契約解除期間の制限)所定の重要事項につき説明義務違反があったか否かを検討する。
イ まず,本件ノックイン債Aについてみると,その元本割れのリスクは主に参照対象株式の株価変動によるものであるところ,前記第3の3(1)及び同(2)ア認定のとおり,Cが,原告X1と面談の上,少なくとも案内書(乙11)及び説明資料(乙12)を示しながら説明したこと,案内書・説明資料には,為替変動によるリスクの説明のほか,参照対象株式の株価変動により元本欠損の生ずるおそれがあること自体は図でも明記されていることなどを考慮すれば,本件全証拠によるも,Cによる本件ノックイン債Aの勧誘時に旧金融商品販売法3条1項1号所定の元本欠損の生ずるおそれがある旨及びその直接の原因となる指標の説明がなかったと認めるに足りない。
また,同項4号(契約解除期間の制限)の説明義務違反の主張については,解除期間の制限自体を認めるに足りる証拠がない上,案内書及び説明書中の「ご留意いただくポイント」として「法令等の規制または市場環境等により,弊社が買取りを行えない場合があります。」との記載があることなどに照らしても,同号違反の事実を認めるに足りない。
ウ 次に,本件ランド債についてみると,その元本割れのリスクは,前記のとおり南アフリカ通貨であるランドの為替変動リスク及び為替手数料コストによるものであるところ,前記第3の1及び同3(1)で認定のとおり,Cは,電話で南アフリカ通貨建ての債券と告げて勧誘の上,ファクシミリにより案内書(乙13)及び円とランドの為替相場の変動状況等を含む説明資料(乙14,15)を送付し,さらに電話で説明したもので,原告X1自身も南アフリカ通貨建て外国債である旨は理解していたところ,発展途上国である南アフリカの通貨建て債券に相当の為替変動のリスクがあり得ることは一般人でも容易に理解し得ると考えられることからしても,本件全証拠によるも,Cによる本件ノックイン債Aの勧誘時に旧金融商品販売法3条1項1号所定の元本欠損の生ずるおそれがある旨及びその直接の原因となる指標の説明がなかったと認めるに足りない。また,同項4号(契約解除期間の制限)の説明義務違反の主張についても,これを認めるに足りる証拠はない。
エ 本件ユーロ債についてみると,その元本割れのリスクは主に償還時の為替変動によるものであるところ,前記第3の1及び同3(1)で認定のとおり,Cは,電話で勧誘の上,ファクシミリにより案内書(乙19),発行体概要(乙20)及び説明資料(乙21)を送付しており,同説明資料にも,満期償還は2通貨のうち発行体が選択した外貨であり,満期償還金の円ベースの受取額には為替リスクがある旨数カ所にわたり明記されていることからしても,本件全証拠によるも,Cによる本件ユーロ債の勧誘時に旧金融商品販売法3条1項1号所定の元本欠損の生ずるおそれがある旨及びその直接の原因となる指標の説明がなかったと認めるに足りない。また,同項4号(契約解除期間の制限)の説明義務違反の主張についても,説明資料(乙21)の「本債券の留意点」に「途中売却できない場合がある」旨明記されていることに照らしても,これを認めるに足りない。
オ 以上のとおり,本件全証拠によるも,原告会社に対する本件各外国債(原告会社分)の勧誘時に旧金融商品販売法3条1項1号及び4号違反があったと認めるに足りない。
(2) 争点(2)イ(原告X1の予備的請求につき:現行金融商品販売法3条所定の説明義務違反)について
ア 金融販売業者である被告による,顧客である原告X1に対する本件ノックイン債Bの勧誘・販売行為は,現行金融商品販売法の施行後になされたから,同法3条1項1号(元本欠損が生ずるおそれがある旨(同号イ),その直接の原因となる指標(同号ロ),取引の仕組みのうち重要な部分(同号ハ)),同項7号(契約解除期間の制限)所定の重要事項につき,原告X1の知識,経験,財産状況及び投資目的に照らして同人に理解されるために必要な方法及び程度による説明(同法3条2項)がなかったといえるか検討する。
イ この点,原告X1本人は,その主張に沿う供述をするが,①本件ノックイン債Bの商品特性は前記第3の2(2)のとおりであり,元本欠損のおそれの直接の原因となる指標は日経平均株価の変動リスクに尽きるところ,以上のような仕組みの重要部分,元本欠損のおそれ及びその直接の原因となる指標は,Cから送信された契約締結前交付書面及び案内書に明記されていること,②原告X1は,当時70歳とはいえ,原告会社の役員又は代表取締役を長年務め,それ以前にも原告会社としての本件ノックイン債Aや原告X1個人としての同種のノックイン債の購入経験があったこと,③参照対象株式10銘柄の株価を指標とする本件ノックイン債Aに比しても日経平均株価を指標とする本件ノックイン債Bが理解困難なものとはいえず,買付約定書中のリスク理解のチェック欄をチェックする際に指示された案内書中の該当箇所を読めば,現行金融商品販売法3条所定の最低限の重要事項は理解できた筈であることに照らせば,Cが本件ノックイン債Bの勧誘時には直接面談しておらず,案内書及び説明資料の送信から数十分後に買付約定書を送信した事実など,原告X1指摘の事実を考慮してもなお,同法3条1号イないしハの重要事項の説明がなかったと認めるに足りない。
ウ また,同法3条7号(解除期間の制限)についても,具体的な主張立証がなく,これを認めるに足りない。
エ 以上のとおり,本件全証拠によるも,Cが同法3条所定の説明をしなかったと認めるに足りず,原告X1による同条違反の主張も理由がない。
(3) 争点(2)ウ(原告X1の予備的請求につき:現行金融商品販売法4条所定の断定的判断提供の存否)について
ア Cの原告X1に対する本件ノックイン債Bの勧誘時に現行金融商品販売法4条で禁止された断定的判断を提供したか検討するに,前記認定の事実経過に加え,前記争点(1)ウで指摘したとおり,その前提となる原告X1本人の供述の信用性自体に疑問がある上,日経平均株価及び為替の変動によるリスクを明記した案内書を交付した上で,仮に「大丈夫」と抽象的に述べたとしてもその意味し得る内容は極めて多義的かつ曖昧といわざるを得ず,本件全証拠によるも,Cが,原告X1に対し,「不確実な事項」につき「断定的判断を提供し,又は確実であると誤認させるおそれのあることを告げ」たと認めるに足りない。
イ したがって,現行金融商品販売法4条に基づく原告X1の主張も理由がない。
(4) 争点(2)エ(民法上の説明義務違反の存否)について
ア 証券会社の担当者が,金融商品を勧誘するにあたり,顧客の知識,経験,財産状況及び購入目的に照らし,当該商品のリスクにつき当該顧客に理解されるために必要な方法・程度による説明を尽くさなかったと認められるときは,民法上の債務不履行又は不法行為になる余地があると解される。
イ しかしながら,原告会社については前記第3の4(1)のとおり,原告X1については同(2)のとおり,本件全証拠によるもCが説明義務に違反したと認めることはできない。したがって,この点に関する原告らの主張も理由がない。
(5) 争点(2)オ(適合性原則違反の存否)について
ア 証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となると解される(最高裁平成17年7月14日判決・民集59巻6号1323頁)。その判断にあたっては,各金融商品の具体的な商品特性との相関関係において,顧客の知識,経験,意向及び財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである。
イ 原告会社の主張について
(ア) まず,本件ノックイン債Aには,前記第3の2(1)のとおり,各参照対象株式の株価変動により一度でもノックインが生じた場合に,株式毎に個別に算定される損失額の合計額に連動する償還額が元本の約44%を下回る場合に初めて元本欠損のおそれを生じるという商品特性がある。しかし,①原告X1には投資信託,外国投資信託,外国株式,外国債券等の投資経験もあったほか,過去に元本を上回る損失の生じるおそれのある信用取引の経験もあったこと,②原告会社は,代表取締役である原告X1自身が関与して,その流動資産の相当額を外国債券や日経平均株価に連動する投資信託など相応のリスクある金融商品の購入に充てながら,なお1億円以上の預金を有していたこと,③平成18年4月時点における各参照対象株式の株価とノックイン価格には相当の差異があったこと(乙60の1ないし60の10)に照らせば,本件全証拠によるも,なお,Cの本件ノックイン債Aの勧誘行為をもって,原告会社の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したとも,適合性の原則に著しく逸脱したとも認めるに足りない。
(イ) 次に,本件ランド債には,前記第3の2(2)のとおり,券面額100%の償還金及び3年間で累計21%の利金が得られるものの,南アフリカ・ランドの為替相場の変動及び為替手数料コストによっては元本欠損が生じるおそれがある。しかし,上記2(5)イの事情に加え,①原告会社は,それまでにも米ドル・豪ドル・ニュージーランドドルなど様々な外貨建債券を購入していたこと,②本件ランド債購入の原資はもともと原告会社の株式交換社債の売却代金であったことなどに照らしても,Cの本件ランド債の勧誘をもって,原告会社の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したとも,適合性の原則に著しく逸脱したとも認めるに足りない。
(ウ) 本件ユーロ債には,前記第3の2(3)のとおり,1年目は10%の利金が得られるが,米ドル又は豪ドルの為替変動によっては2年目以降の利金がゼロとなるリスク,これにより累積利金が早期償還条件に達することなく最大30年間償還が得られないリスク,償還時の米ドル又は豪ドルの為替変動によっては円貨換算した場合に元本欠損が生じるリスクがある。そして,確かに30年間元本償還を得られないリスクが原告会社の実情に沿うものであったか疑問の余地がないではないが,これまで認定してきた各事情に加え,①平成18年4月当時の為替相場は1米ドル118円前後,1豪ドル97円前後で推移しており,利率決定のための基準価格をそれぞれ約10円上回っていたこと(乙62の1,62の2),②最大30年間の塩漬けリスクがあることは案内書からも自明であることも考慮すれば,Cの本件ユーロ債の勧誘をもって,原告会社の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したとも,適合性の原則に著しく逸脱したとも認めるに足りない(なお,仮に本件ユーロ債の勧誘につき適合性違反を論ずる余地があるとしても,未だ償還金が確定しておらず,損害が発生したともいえない。)。
ウ 原告X1の主張について
また,本件ノックイン債Bには,前記第3の2(4)のとおり,①年4回の利払日に初回は年利10%,2回目以降は基準日の日経平均株価終値が1万1091円以上か否かにより10%か0.1%か決まること,②2年後を満期とする償還金は,原則として券面額の100%であるが,日経平均株価終値が参照期間中に一度でもノックイン価格(9786円)以下になり,かつ,各利払日前の基準日の日経平均株価終値が一度も1万2827円以上にならないまま,満期償還日前の基準日の日経平均株価終値も1万3049円を下回った場合には下回った割合の2倍の損失額が生じるというものであり,日経平均株価の変動を直接の原因とする利金及び満期償還金の合計額が券面額を下回る場合に,元本欠損を生ずるリスクがあるという商品特性がある。しかし,先に認定した原告X1の投資経験,傾向,財産状況に加え,平成20年1月から同年8月にかけて,日経平均株価の終値が1万4000円台からほぼ1万3000円台で推移していたこと(乙61ないし65)に照らせば,Cの本件ノックイン債Bの勧誘をもって,原告会社の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したとも,適合性の原則に著しく逸脱したとも認めるにも足りない。
エ これらの事情を総合すれば,原告らにおよそ本件各外国債を自己責任で購入する適性がなかったとも,Cの勧誘行為が適合性の原則から著しく逸脱するものであったということもできず,この点につき被告の不法行為又は債務不履行責任を認めることはできない。
(4) したがって,その余について判断するまでもなく,原告らの予備的請求も理由がない。なお,原告会社は,本件ランド債の履行請求として償還金3477万円の支払を,また,原告X1は,本件ノックイン債Bの履行請求として償還金2059万9969円の支払を,それぞれ被告に対して求めることができるものの,原告らがこのような主張に基づく請求をしていない以上,判決の結論を左右しない。
4 以上のとおり,原告らの請求にはいずれも理由がないから棄却する。
(裁判官 押野純)
〈以下省略〉
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