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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(33)平成29年11月24日 東京地裁 平27(行ウ)78号 相続税決定処分等取消請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(33)平成29年11月24日 東京地裁 平27(行ウ)78号 相続税決定処分等取消請求事件

裁判年月日  平成29年11月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(行ウ)78号
事件名  相続税決定処分等取消請求事件
裁判結果  棄却  上訴等  確定  文献番号  2017WLJPCA11248017

裁判年月日  平成29年11月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(行ウ)78号
事件名  相続税決定処分等取消請求事件
裁判結果  棄却  上訴等  確定  文献番号  2017WLJPCA11248017

長野県北佐久郡〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 井﨑淳二
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 V1
処分行政庁 杉並税務署長 V2
同指定代理人 W1
W2
W3
W4
W5
W6

 

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
処分行政庁が平成24年6月27日付けでした原告に対する平成20年8月28日相続開始に係る相続税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成26年8月19日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
第2  事案の概要
1  事案の要旨
本件は,平成20年8月28日に死亡したA(原告の父)を被相続人とする相続(以下「本件相続」という。)に関し,その相続人の1人である原告が,相続税の申告をしなかったところ,処分行政庁(杉並税務署長)から,納付すべき相続税額を1065万3600円とする相続税の決定処分及び無申告加算税の額を210万5000円とする賦課決定処分(ただし,平成26年8月19日付け裁決において,納付すべき相続税額749万7100円,無申告加算税の額147万3000円を超える部分が取り消された。以下,同裁決により一部取り消された後の相続税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ「本件決定処分」及び「本件賦課決定処分」といい,これらを併せて「本件決定処分等」という。)を受けたことにつき,課税価格が被相続人の遺産に係る基礎控除額を超えておらず,納付すべき相続税はないと主張して,本件決定処分等の取消しを求める事案である。
2  相続税法の定め(ただし,同法13条1項については平成27年法律第9号による改正前のもの)
(債務控除)
第13条 相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第1条の3第1号又は第2号の規定に該当する者である場合においては,当該相続又は遺贈により取得した財産については,課税価格に算入すべき価額は,当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用
(2項以下 略)
第14条 前条の規定によりその金額を控除すべき債務は,確実と認められるものに限る。(2項以下 略)
(評価の原則)
第22条 この章で特別の定めのあるものを除くほか,相続,遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価により,当該財産の価額から控除すべき債務の金額は,その時の現況による。
3  前提事実(当事者間に争いがない事実か,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)  当事者等
ア 本件相続の被相続人であるA(大正10年○月○日生。以下「被相続人」ともいう。)は,昭和24年5月20日,Bと婚姻した。両名の間の子として,長男である原告及び二男であるC(以下「C」という。)がいる(乙5)。
イ Bは,平成13年7月4日に死亡した。Bの相続についての相続人は,A,原告及びCの3人であったが,Aの死亡時までの間にBの相続に係る遺産分割協議はされていなかった(乙3,弁論の全趣旨)。
ウ Aは,平成20年8月28日(当時87歳)に死亡し,本件相続が開始した(以下,同日を「本件相続開始日」という。)。本件相続についての相続人は原告及びCの2人である。
エ D(平成6年○月○日生)は原告の長女であり,E(平成3年○月○日生。以下「E」という。)はCの長男である(乙5,23,24)。
(2)  被相続人の職歴等
ア 被相続人は,昭和22年に商工省(後に通商産業省に改組)に入省し,同省立地公害局長を経て昭和51年8月に同省を退官した後,同年10月にa株式会社の取締役副社長に就任し,代表取締役副社長等を経て,平成2年5月に取締役を退任した。
イ その後,被相続人は,平成2年11月から平成15年1月までの間,社団法人b協会(以下「b協会」という。)の理事として会長の職にあった。
ウ さらに,被相続人は,同年3月から平成20年7月までの間,株式会社c(以下「株式会社c」という。甲48)の代表取締役であった。
(3)  本件相続財産の概要
本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の計算の基礎となる被相続人の財産として,別表5記載の土地及び家屋(ただし,同別表順号3及び6についてはその評価につき争いがある。),別表6順号1ないし9記載の有価証券,別表7順号1ないし11記載の現金・預貯金,別表8記載のその他の財産並びに別表9記載の債務・葬儀費用がある。
また,これらのほかに,別表6順号10ないし15記載の無記名の割引商工債券(以下「本件割引債券」という。),別表7順号12及び13記載のE名義の定額貯金(以下「本件定額貯金」という。),並びに原告が主張する被相続人のF(以下「F」という。)又はd株式会社(以下「d社」という。)に対する債務が本件相続税の計算の基礎になるか否かが争われている。
(4)  本件で問題となる財産及び債務の概要
ア 本件割引債券(別表6順号10ないし15)
(ア) Bの死亡後である平成14年1月頃,B名義の貸金庫内に別表10記載の割引債券(無記名)額面総額2億6000万円(以下「本件貸金庫内割引債券」という。)等が発見された。
被相続人は,これらを発見するまで同債券の存在を知らず,同債券は,Bが購入の手続をし,これを占有,管理していたものであった。(乙3~5)
(イ) 被相続人は,上記(ア)で発見した財産を記載したメモ書き(乙6・10丁~16丁)を作成し,同月頃,G税理士(以下「G税理士」という。)に,亡Bの相続に係る相続税の申告の要否を相談したが,結局,申告を行うことはなかった。
(ウ) その後,本件貸金庫内割引債券は,別表10の「償還・買換・乗換の状況」欄記載のとおり,償還,買換え又は乗換えがされた。
同債券のうち,同別表順号31ないし50の割引商工債券(以下「本件旧割引債券」という。額面総額6000万円)は,平成15年9月3日又は同月4日,買換え又は乗換えがされた(この本件旧割引債券の買換え又は乗換え後の割引商工債券が本件割引債券であり,別表6順号10ないし15記載の割引商工債券に当たる。)。
(エ) 上記(ア)のとおり,平成14年1月頃に本件貸金庫内割引債券がB名義の貸金庫内で発見されてからしばらくの間は,被相続人がこれを占有,管理していた。また,上記(ウ)のとおり,平成15年9月3日又は同月4日に本件旧割引債券が買換え又は乗換えがされたときには,原告がこれを占有,保管していた。
(オ) その後,本件割引債券は,被相続人の死亡後である平成21年4月24日から同年10月1日にかけて,別表11記載のとおり償還され,当該償還日又はその翌日に償還代金の全部又は一部が原告名義の預金口座に入金された。
イ E名義の定額貯金(別表7順号12及び13)
(ア) 平成12年5月9日付けで預け入れがされたE名義の定額郵便貯金の証書(元本500万円のもの2通。以下「本件定額貯金証書」という。)が存在する。本件定額貯金証書は,それぞれ,Bの自筆により「E 平成12.5.9 500万」と記載された封筒に入れて保管されていた(甲8の1,8の2,乙21の1,21の2)。
被相続人の死亡時において本件定額貯金は,1013万3030円となっていた。
(イ) 本件定額貯金証書は,平成24年1月24日の時点で,原告名義の貸金庫の中に保管されていた。同貸金庫は,原告が平成20年9月19日に契約したものであった。
ウ 川崎市所在の建物(別表5順号6)
(ア) 本件相続開始日において,川崎市多摩区三田j丁目○番○所在の土地の一部分(283.34m2)(別表5順号3記載の土地。以下「本件三田土地」という。)及び同土地上に存在する建物(同別表順号6記載の家屋。以下「本件三田建物」といい,本件三田土地と併せて「本件三田不動産」という。)は,被相続人所有の不動産であった。
(イ) 本件三田建物につき,被相続人とFとの間において昭和63年6月18日付けで作成された公正証書(建物使用貸借契約公正証書)には,以下のような記載がある(甲11,乙31)。
① 被相続人は,Fに対し,昭和53年12月から本件三田建物を賃貸していたが,昭和60年1月頃から明渡しを求め,再三交渉を重ねた結果,このほど合意に達し,以下条項のとおり契約を締結した。
② 被相続人は,Fに対して本件三田建物を無償で使用させることを約し,Fはこれを借り受けた(1条)。その使用貸借の期間は,Fが死亡した時までとし(2条),被相続人の都合による契約解除の正当な事由が発生した場合においても,Fが死亡するまでは同建物の明渡し及び賃料の支払を要求しない(6条)。
③ Fは,本件三田建物をF自身の居住用としてのみ使用し(3条),被相続人の承諾なくして,増築,改築,転貸,他人に居住・使用をさせることをしてはならず(4条),Fの死亡により本契約が解除がされる場合には,名目を問わず金銭の要求はせず,被相続人に返還する(5条)。
(ウ) Fは,Bが死亡した後,東京都杉並区浜田山所在の被相続人の自宅(別表12順号3記載の家屋。以下「浜田山自宅建物」という。また,その敷地である同別表順号6記載の浜田山所在の土地を「本件浜田山土地」という。)において,被相続人と同居していたことがあったが,平成18年4月頃,同居を解消した(甲12,13の1,原告本人)。
エ 被相続人のFに対する債務(別表9記載のもの以外の債務)
(ア) 被相続人の記名がされている「反省と誓約」と題する書面(甲12)には,「Fの関心がある次の案件について次のように処理したいと思います。約束した二千万円は間違いなく返還します。A これには,昨年の返済分(毎月30万円)を含めます。B もし,未済分があれば,私の相続財産から優先的に返済することを約束します。C このことを,公正証書として作成します。」などと記載されている。
(イ) 被相続人とFとの間の交渉の経過等
a Fの代理人であるH弁護士及びI弁護士(以下「Fの代理人弁護士ら」という。)は,平成18年9月19日付け「ご通知」と題する書面(甲13の1)により,被相続人に対し,同人とFとの内縁関係の解消に伴う問題について話合いをしたい旨を伝えた(甲13の1,13の3)。
b Fの代理人弁護士らは,平成19年12月5日付け「ご連絡」と題する書面(甲13の2)により,被相続人の代理人であるJ弁護士(以下「J弁護士」という。)に対して,①Fが本件三田不動産から立ち退くこと,②被相続人がFに対して内縁関係の解消に伴う解決金として3500万円を支払うことの条件により和解をする意向がある旨を伝えた(甲13の2,13の3)。
c J弁護士は,平成20年6月13日,Fの代理人弁護士らから,Fは本件三田不動産から立ち退かず,解決金2000万円の支払を求める旨の提案を受けたが,被相続人とFとの間の内縁関係の解消に関する交渉は合意に至る前に,被相続人は同年8月28日に死亡した(甲13の3,弁論の全趣旨)。
オ 被相続人のd社に対する債務(別表9記載のもの以外の債務)
(ア) d社は,平成13年2月28日に設立され,インターネット等のネットワークを利用した電力商取引市場システムの開設,運用及び保守等を目的とする株式会社である。
原告は,平成13年10月1日以降,同社の代表取締役を務めており,K(以下「K」という。)は,同月から平成14年10月までの間,同社の取締役を務めていた。(甲28,53,乙3)
(イ) 平成20年7月,被相続人及びL(以下「L」という。)の共著である「◎◎」(以下「本件著書」という。)が発刊された(甲1,52の1,52の2)。
(ウ) d社は,被相続人に対して営業活動補助及び資金管理業務費用並びに著書執筆補助業務に係る費用9137万4403円の支払債権を有しているとして,平成21年8月25日付け請求書(甲23)により,その相続人である原告及びCに対して,同額を請求した。なお,d社の第9期(同年2月1日から平成22年1月31日まで)の決算報告書(甲22)には,同日現在の未収入金として,「A営業活動等補助業務受託費用」名目の9137万4403円を含む9527万4403円が計上されている。
この請求に対して,原告は,平成25年3月7日,d社に対し,4568万7202円を支払った(甲24の1,24の2)。
(エ) d社は,原告及びCを相手方として,著書執筆補助業務等に係る費用の支払を求めて当庁に訴訟を提起した(当庁平成26年(ワ)第19705号事件。以下「別件訴訟」という。)。
(オ) 別件訴訟において,平成29年3月27日,d社,原告及びCとの間に裁判上の和解が成立した(以下「別件和解」という。)。その和解の内容の概要は次のとおりである(甲50)。
① d社,原告及びCは,原告とCとの間において同日に合意に至った遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)の内容が,別件和解に係る和解調書添付の遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)記載のとおりであることを確認する(1項)。なお,本件遺産分割協議書においては,被相続人の遺産(B名義のものも含む。)につき,Cが別表12記載の土地,建物又は借地権及び有限会社e(以下「e社」という。)の株式を取得し,その余の預貯金等を原告が取得することとされている。
② 原告は,d社に対し,本件遺産分割協議により取得した一切の財産を,同社の原告に対する賃料支払債務(相続債務)の支払に代えて譲り渡す(3項(2))。
③ Cは,d社のCに対する業務費用支払債務(相続債務)4568万7201円の支払義務があることを認める(4項(1))。
④ d社所有の本件浜田山土地(別表12順号6記載の浜田山所在の土地)につき被相続人との間で締結されていた借地権設定契約を合意により解除し,d社は,Cに対して同土地の10分の6を譲渡し(2項),Cは,d社に対して上記③の支払債務の支払に代えて同土地の10分の2を譲り渡す(4項(2)。これにより,本件浜田山土地は,d社が10分の6,Cが10分の4を有することとなる。)。
(5)  被相続人の遺言等
ア 被相続人は,平成20年6月2日,M弁護士(以下「M弁護士」という。)ら2名の立会いのもと,公正証書により次のような記載のある遺言書(乙8。以下「第1遺言書」といい,同遺言書による遺言を「第1遺言」という。)を作成した。
① 別表12記載の土地及び建物,借地権をCに相続させる。
② 上記①を除く被相続人の財産(別表10記載の債券のほか,預貯金等の財産)を,原告及びCに各2分の1の割合で相続させる。
イ 被相続人は,同年8月25日,N弁護士ら2名の立会いのもと,公正証書により次のような記載のある遺言書(乙25。以下「第2遺言書」といい,同遺言書による遺言を「第2遺言」という。)を作成した。
第1条 原告は,下記のとおり,被相続人の実印を勝手に使用して被相続人の財産を自分のために費消したなどしたばかりか,被相続人がその明細を回答するよう求めても何ら誠意ある態度を示さず,病身の被相続人を大声で怒鳴りつけるなど実の親である被相続人に対する暴力的言動が多いので,被相続人は原告を廃除する。

1 Eの元金1000万円(現在推定2000万円程度)の定期預金を勝手に使用した(本人が未成年のため速やかに保護者に返還してほしい)。
(2以下 略)
第2条 被相続人は,この遺言の遺言執行者としてO弁護士を指定する。
ウ 被相続人が平成20年8月28日に死亡した後,第2遺言の遺言執行者であるO弁護士は,本件相続に関して,原告を相続人から廃除することを求めて,東京家庭裁判所に審判の申立てをした(東京家庭裁判所同年(家)第8448号推定相続人廃除申立事件。以下「本件廃除申立事件」という。)。
平成24年1月25日,同申立ては却下された。(甲44)
(6)  本件決定処分等,本件訴訟に至る経過等
ア 原告は,平成20年8月28日に開始したAの相続(本件相続)に係る相続税(本件相続税)の申告をしなかった。
イ 処分行政庁(杉並税務署長)は,第1遺言による本件相続に係る権利関係に基づき,平成24年6月27日付けで,原告に対して相続税(課税価格5536万9000円,納付すべき相続税額1065万3600円)の決定処分及び無申告加算税(無申告加算税額210万5000円)の賦課決定処分をした。
ウ 原告は,同年8月24日,処分行政庁に対し,上記イの相続税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分に対して,異議申立てをした。
処分行政庁は,同年11月21日,上記の異議申立てを棄却する決定をした。(乙1)
エ 原告は,同年12月21日,国税不服審判所長に対し,上記ウの決定を不服として審査請求を申し立てた。
国税不服審判所長は,平成26年8月19日,上記イの相続税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を一部取り消す裁決をした(課税価格を4048万1000円とし,納付すべき相続税額749万7100円及び無申告加算税額147万3000円を超える部分を取り消した。)。同裁決書は,同月28日,原告に到達した。(乙3,弁論の全趣旨)
オ 原告は,本件決定処分等の取消しを求めて,平成27年2月19日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
4  被告が主張する本件決定処分等の根拠及び適法性
(1)  本件決定処分について
被告が本訴において主張する本件相続に係る原告の納付すべき相続税額は,別表1及び2記載のとおり,749万7100円である。
そして,本件決定処分における原告の納付すべき相続税額(乙3・別表8の「1 課税価格及び納付すべき税額の計算」の順号⑪の「請求人」の「納付すべき税額」欄の金額)は,上記の相続税額749万7100円と同額であるから,本件決定処分は適法である。
(2)  本件賦課決定処分について
上記(1)のとおり本件決定処分は適法であるところ,原告は,本件相続に関し,相続税を相続税法27条1項に規定する申告期眼までに申告しなかったものであるから,原告に対しては,国税通則法66条1項及び2項の規定に基づき無申告加算税が賦課されることとなる。
原告に課されるべき無申告加算税の額は,本件決定処分により原告が納付すべきこととなった相続税額749万円(ただし,国税通則法118条3項の規定により1万円未満を切り捨てた後の金額)に,100分の15の割合を乗じて計算した金額(ただし,上記相続税額のうち50万円を超える部分の税額については,当該超える部分の税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額)の147万3000円である。
そして,本件賦課決定処分における無申告加算税の額(乙3・別表8の「2 無申告加算税の額の計算」の順号⑥の「無申告加算税の額」欄の金額)は,上記の無申告加算税額147万3000円と同額であるから,本件賦課決定処分は適法である。
5  主な争点及び争点についての当事者の主張
本件の主な争点は,①本件割引債券が被相続人の相続財産であるか否か(争点1),②本件定額貯金が被相続人の相続財産であるか否か(争点2),③本件三田不動産の評価(争点3),④本件相続税の課税価格の計算上,原告が主張する被相続人のFに対する債務を債務控除すべきか否か(争点4),⑤本件相続税の課税価格の計算上,原告が主張する被相続人のd社に対する債務を債務控除すべきか否か(争点5)である。これに関する当事者の主張は,次の(1)ないし(5)のとおりである。
(1)  争点1(本件割引債券が被相続人の相続財産であるか否か)について
(被告の主張の要旨)
本件割引債券は,被相続人に帰属する財産であり,原告に帰属するものと認めることはできない。理由は,次のアないしウのとおりである。
ア 本件割引債券は被相続人に帰属する財産であること
(ア) 財産の帰属の判断に当たっては,当該財産又はその購入原資の出捐者,当該財産の管理(占有)及び運用の状況,当該財産から生ずる利益の帰属者のほか,「名義」も考慮すべき判断要素の一つであると解されるところ,本件割引債券のような無記名の割引債券については,券面に権利者の名義表示がされていないことから,その帰属については,その購入資金(原資)の出捐者及び取得の状況,その後の証券の占有及び管理状況等を総合考慮して判断すべきである。
(イ) 本件旧割引債券及び本件割引債券(いずれも額面総額6000万円)に係る事実関係をみると,被相続人及び亡Bの収入の状況等によれば,本件旧割引債券の購入資金(原資)の出資者は被相続人であり,また,Bの死亡後,被相続人が本件旧割引債券を占有・保管していたことからすると,本件旧割引債券は被相続人に帰属する財産であると認められる。そうすると,本件旧割引債券が買い換え又は乗り換えられた本件割引債券についても,被相続人に帰属する財産であると認められる。
なお,本件相続開始日において,原告が本件割引債券を所持・保管していたものの,それは,原告が被相続人の意に反して本件割引債券を持ち出したものであり,原告が本件割引債券を占有・管理することを被相続人が承諾していたとも認められないので,本件割引債券が原告に帰属するものとは到底認められない。
イ 贈与に関する原告の主張について
これに対して原告は,①被相続人は,平成15年当時,原告及びd社に損害を与えた代償として,原告に対し,自己の退職金約1億5000万円を贈与する約束をし,同年9月初旬頃,その約束の履行の一部として本件旧割引債券を原告に交付したこと,②被相続人は,本件旧割引債券を原告に交付した後,当該債券の存在について一度も原告に確認するなどしておらず,本件旧割引債券が自己の財産であるという認識がなかったことから,本件割引債券は,被相続人の相続財産ではなく,原告の固有財産であると主張する。
(ア) 原告の上記主張①について
原告が主張するd社の損害とは,平成13年9月21日付けのb協会とd社の業務委託合意書(甲2)に基づき,d社が報酬として受領するはずであった約9億円が3億円に減額されたとする約6億円のことを指すものと思料される。しかしながら,原告自身が被相続人から上記損害を被ったことを具体的に裏付ける証拠はなく,仮にかかる損害の発生が認められるとしても,それはb協会とd社との合意に基因するものであるから,被相続人がd社に対して損害を賠償する法的義務はない。
また,被相続人が上記損害の代償として退職金を原告に贈与する旨約束したことを具体的に裏付ける証拠もない。この点,平成15年2月5日付け書簡(甲4)に「特に私の退職金が一つの焦点であったこともあり,d社等,あなたの今後の資金に自由に活用してください。」との記載があるものの,その記載から読み取れることは,何らかの経過の中で,被相続人の退職金が一つの焦点となっていたということのみであり,その意味するところは不明であり,また,自由に活用するものが何なのかも明記されておらず,被相続人が退職金を原告に贈与する旨約束したことを裏付けるものではない。
さらに,被相続人が退職金を原告に贈与する約束の履行として本件旧割引債券を原告に交付したことを具体的に裏付ける証拠もない。この点に関して,原告は,当初,本件旧割引債券を亡Bの財産の法定相続分として受け取ったものである旨供述するのみで,これを被相続人から退職金の贈与の一部として受け取ったとは供述していなかったものの,その後,上記の主張に沿った内容へ供述を変遷させるに至っており,原告本人の陳述書及び尋問の結果によっても,その変遷について合理的な説明ができていない。加えて,原告は,平成20年5月8日付け書簡(乙15)において,本件割引債券を含む額面総額2億6000万円の本件貸金庫内割引債券がこの時点で残存していることを念頭に置いた記載をしていることからしても,この時点よりも前に,被相続人が本件旧割引債券を原告に贈与したとの原告の供述は自己矛盾しているというべきである。
したがって,原告が上記①で主張するような,被相続人が原告及びd社に損害を与えた代償として退職金を原告に贈与する約束の履行として本件旧割引債券を原告に交付した事実は認められない。
(イ) 原告の上記主張②について
本件貸金庫内割引債券は,原告が被相続人の意に反して持ち出し所持していたものであり,また,被相続人は,M弁護士を通じて,本件旧割引債券を含む本件貸金庫内割引債券を取り戻すため,その所在を原告に確認するよう依頼し(平成20年6月12日付け書簡(乙16)),同債券の保管状況等を原告に問い合わせている(同年7月2日付け書簡(乙17))のであるから,被相続人が本件割引債券について一度も原告に確認などしたことはない旨の原告の上記②の主張は,明らかに事実に反するものである。
そして,被相続人は,本件貸金庫内割引債券の返還を原告に求めていること(同月15日付け書簡(乙19)),第1遺言書(乙8)に本件貸金庫内割引債券の記載があること及び被相続人がG税理士に対して本件貸金庫内割引債券は自分のものだと述べたことからすると,被相続人には同債券が自己の財産であるという認識があったと認められ,他方,これに反する原告の上記②の主張には理由がない。
(ウ) その他の原告の主張について
原告は,上記(ア)及び(イ)において被告がその主張の根拠として引用している(ⅰ)G税理士の答述における被相続人の発言部分(乙3),(ⅱ)平成20年5月8日付け書簡(乙15)及び同年7月12日付け書簡(乙18)における被相続人の手書きによる書込み部分,(ⅲ)被相続人作成に係る同年6月12日付け書簡(乙16)及び同年7月15日付け書簡(乙19),(ⅳ)同月2日付け書簡(乙17),(ⅴ)第1遺言書(乙8)に係る被相続人の供述内容につき,それぞれの作成当時において,被相続人の記憶や判断能力は著しく低下しており,信用性が認められない旨主張する。
しかしながら,原告は,被相続人の記憶や判断能力が著しく低下していたことを裏付ける客観的な証拠(診療録や,担当医師の所見等)を提出していない。また,第1遺言書の作成日以降に作成された被相続人の手書きのメモ(甲38の60,38の61,38の65,38の66等)については,d社が行っていた被相続人の営業活動補助及び資金管理業務を立証するものの一部,すなわち,被相続人からの業務指示を示すものとして提出していることからして,原告の主張は自己矛盾であるといえる。
さらに,原告は,被相続人につき,成年後見人の選任申立てを行っていないばかりか,平成20年7月12日頃には,金銭問題に関する自己の主張及び被相続人への要求事項等を記載した書面(乙18)を被相続人に送付しており,このことからしても,原告は,被相続人の記憶や判断能力が低下していないことを前提した行動を取っていたものと認められる。
上記に加え,原告は,被相続人が原告に謝罪の意を示したものであるとする書簡(甲25,26)の存在をもって上記各書簡及び各遺言書の内容は被相続人の真意を示したものではないとも主張する。しかしながら,原告指摘の各書簡(甲25,26)については,単に被相続人が感情的になって原告と口論したことを反省して謝罪する趣旨のものであると解されること,「浜田山の上物の件よろしくお願いします」と記載されているほかに被相続人の財産等に関する記載が全くないこと,乙第15号証以外の書面は,いずれも甲第25,26号証の書簡が作成された時期よりも後の時期に作成されたものであり,後に示された意思こそが真意を示すものであるとみるのが自然であることからすると,上記各書簡及び各遺言書の内容は被相続人の真意を示したものではないとはいえない。
したがって,被相続人の記憶や判断能力が著しく低下していたなどとする原告の上記主張に根拠がないことは明らかである。
(エ) 以上のとおり,本件割引債券に係る原告の上記主張①及び②は,いずれも失当である。
ウ 遺産分割協議に関する原告の主張について
原告は,別件訴訟において成立した別件和解(甲50)の前提とされた本件遺産分割協議において,本件割引債券が被相続人の遺産の範囲に含まれていないことをもって,Cの主張が原告の主張と一致しており,かかる事実を本件訴訟における事実認定において十分に斟酌しなければならないと主張する。
しかしながら,別件和解は,当事者として,原告をd社,被告を本訴原告及びCとする別件訴訟における和解であるところ,その内容からすると,d社が原告でありながら,別件和解に至る経過においては,本件相続における本訴原告とCとの遺産分割についての話合いも行われたものと思料される。そうすると,別件訴訟においては,d社と被相続人との債権債務のみを争点として行われたものではなく,本件相続に係る遺産分割に関する事項をも含めて審理が行われていたのであり,また,別件和解が成立するに当たり,当事者がどのような事実関係及び証拠関係に基づき,どのような理由で別件和解条項を決めたのかという点について,別件和解の内容からは何ら明らかではない。したがって,Cが,別件和解に応じたからといって,直ちに,本件割引債券の帰属が決定されるものではないので,別件和解の内容は,上記ア及びイの判断に影響を及ぼすものではない。
また,抗告訴訟においては,行政処分がされた当時の事実状態を基準として当該処分の違法性を判断すべきであると解されているところ,本件決定処分等が行われた後に,原告とCとの間で遺産分割協議をし,その内容を前提として,原告,C及びd社の間で別件和解が成立したとしても,同和解は,本件相続開始日における客観的な事実関係に基づいて成立したものであることは明らかではないのであるから,本件決定処分等の違法性を判断する上で斟酌できないというべきである。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(原告の主張の要旨)
処分行政庁は,別表11記載の無記名の割引商工債券(額面総額6000万円。本件割引債券)について,被相続人の相続財産であると認定した。しかしながら,本件割引債券は,原告が平成15年9月初旬頃に被相続人から贈与を受けた本件旧割引債券(別表10順号31~50)を,原告自らが同月3日から同月4日にかけて買換え又は乗換えの手続をして保有していたものであり,原告の固有財産であって被相続人の相続財産ではない。理由は次のアないしウのとおりである。
ア 原告が本件旧割引債券の贈与を受けたこと
(ア) 平成13年当時,被相続人は,b協会の会長を務めており,同協会加盟店(中小の自営小売商)に係る電気料金の値下げを達成する目的で,d社に対して,同年9月21日,電力会社側との折衝等を内容とするコンサルティング業務を委託した。この業務委託契約(甲2)においては,d社の成功報酬につき「値下げ額の5%相当額を3年間にわたり支払う」旨が定められていた。
その後,d社の働きにより電気料金の値下げ(1年間で約60億円)が達成された。しかるに,このような電力料金の値下げと料金の平等を求める被相続人の活動に対して不満・不信感を抱いていた電力会社及び電力会社から依頼を受けた政治家により,何年も前に問題になった被相続人の秘書に対する不正融資問題が蒸し返されるなどし,被相続人を業界から排除する方向での圧力が掛かった。その結果,被相続人はb協会会長を辞任せざるを得なくなり,併せてb協会がd社に支払うべき約9億円の業務委託報酬(約60億円×5%×3年)を3億円に減額することを迫られ,結局,d社は,6億円の報酬を失うこととなった。
さらに,被相続人を全面的にサポートしていた原告(当時はf株式会社(以下「f社」という。)の国内電力事業部長)に対しても,業界から排除する方向での圧力が掛かり,その結果,原告は,同社からの退職を強いられた。
以上のような事情の下,被相続人は,平成15年2月頃,自己の活動や秘書に対する不正融資問題等が原因で,原告及びd社に対して上記の損害を与えたということを自認し,その代償として,自己の退職金を原告に贈与することを約束した。このことは,被相続人の自筆による同月5日付け書簡(甲4)に明確に記載されている。すなわち,同書簡には,「特に私の退職金が一つの焦点であったこともあり,d社等,あなたの今後の資金に自由に活用して下さい。」とある(甲4)。なお,上記書簡で指摘されている退職金とは,b協会の下部組織であるk研究所からの退職金1億4920万9600円である。
(イ) Bは平成13年7月4日に死亡し,その後の平成14年1月頃,被相続人は,B名義の銀行の貸金庫内において,本件旧割引債券を含む額面総額2億6000万円の割引債券(本件貸金庫内割引債券)を発見した。その後,被相続人は,この割引債券を被相続人名義の貸金庫にて保管していたが,間もなく,これらを原告名義の貸金庫に移して保管することとなった。そして,平成15年2月頃,被相続人から原告に対して上記割引債券を使用したい旨の指示があったため,原告は,本件貸金庫内割引債券を全て貸金庫から出して被相続人に渡した。その後は,被相続人が,常日頃に持ち歩いていた黒い鞄に入れて持ち運んでいた。
被相続人は,本件貸金庫内割引債券を中国関係の活動資金に充てると言っていた。被相続人が実際に上記割引債券を使用する際は,必要に応じて,その一部を原告に渡し,その都度,被相続人の指示により原告が現金化して被相続人に渡していた。
他方,上記割引債券の一部である本件旧割引債券(額面総額6000万円)については,平成15年9月初旬頃,被相続人が原告に対し,上記(ア)の贈与の約束の履行の一部として本件旧割引債券を原告に交付したものであり,原告はこれを譲り受けた。このとき,被相続人は,原告に対し,「退職金の代わりに持って行け。」という趣旨を伝え,本件旧割引債券を交付した。すなわち,被相続人は,自分の退職金を現金で交付する代わりに,本件旧割引債券をそのまま交付したものである。
その後,原告は,平成15年9月3日から同月4日にかけて本件旧割引債券の買換え又は乗換えの手続をして,小口の割引商工債券(本件割引債券)に変えて保有していた。
イ 原告が本件旧割引債券の贈与を受けたことの間接事実等
(ア) 被相続人には本件旧割引債券が自身の財産であるという認識はなかったこと
被相続人においては,平成15年以降,資金が必要となる局面が何度もあり,資金集めに苦慮していたにもかかわらず,①平成15年11月頃に株式会社gのP社長に対して,著書出版及び日中友好の所要資金として,5000万円の貸付けを依頼したとき(甲5の1,5の2),②平成16年7月ないし10月頃,h株式会社の副会長Q(以下「Q副会長」という。)に対して,著書出版及び日中問題等の活動資金として,月額1000万円の援助を依頼したとき(甲6の1,6の2),③平成18年10月,同じくQ副会長に対して,著書の編纂,刊行のための支援を求めた際,被相続人自身の手元に資金が残っていない旨を説明しており(甲30),いずれにおいても,本件旧割引債券の存在について一度も原告に確認したことはなく,言及もしていない。
また,被相続人は,平成18年当時,本件浜田山土地(底地)を買い取りたいと考え,いくつもの金融機関を回って購入資金の借入れを申し込んでいた。このとき,被相続人は,その借入れの担保として,本件浜田山土地(底地)を最優先で担保とし,次いで軽井沢の不動産等,原告の個人資産を担保として考えており,それでも不足する場合には,被相続人所有の株式で補填するという計画であった。さらに,被相続人は,原告に対して,「ちっぽけな相続財産で,子供たちが不仲になるような愚かなことを絶対さけたいと念じています」と述べる一方で,本件旧割引債券を含む額面総額2億6000万円の本件貸金庫内割引債券のことについては全く記述していない。
被相続人は,セーフガード問題を解決した中心人物の一人であり,主にこの問題の解決のための活動費用として手元資金を費やしたのであり,このように費やした手元資金の中には,本件旧割引債券を除く額面総額2億円の割引債券も含まれていた。平成18年当時,被相続人の手元には活動資金に充てるべき財産は残っていなかったのである。
これらのことから,被相続人は,本件旧割引債券を含む額面総額2億6000万円の本件貸金庫内割引債券は残っていないと認識していたことが分かる。
(イ) 被告がその主張の根拠として引用している書簡,遺言等の内容に信用性が認められないこと
a 被相続人が作成した平成20年6月12日付け書簡(乙16)及び同年7月15日付け書簡(乙19)は,その作成当時の被相続人の病状や生活状況に鑑みると,被相続人の記憶や判断能力は著しく低下していたことが明白である。すなわち,被相続人は,平成16年3月に大腸がんで緊急入院した後,通院を繰り返し,平成20年6月には再入院し,肉体的にも精神的にも非常に弱くなっていた。被相続人は,平成19年5月以降,C及びその家族と同居していたところ,特に再入院した平成20年6月以降は,Cの意向に左右されることが多くなっていた。
したがって,上記各書簡は,被相続人がCに言われるがまま書いたか,又は思い違い,考え違いで書いたものと考えられ,現に,加筆の部分が非常に多く,極めて不自然な体裁である。よって,上記各書簡の内容の信用性は全くない。
b M弁護士作成の平成20年7月2日付書簡(乙17)についても,上記aと同様,同書簡が作成された当時,被相続人は記憶や判断能力が著しく低下していたのであり,M弁護士は,Cの意向を受けて同書簡を作成したものと考えられ,同書簡は,その当時のCの主張内容であり,被相続人の認識している事実を記載したものではない。よって,同書簡の内容の信用性は全くない。
c 第1遺言書(乙8)についても,これが作成された当時,被相続人は記憶や判断能力が著しく低下しており,Cの意向のままに作成されたものと考えられる。そもそも,同遺言書に記載されている割引債券(本件貸金庫内割引債券と同じ債券)は,平成15年の春から秋に掛けて,被相続人が自ら原告に指示して換金し,これを自ら使用したのであるから(ただし,本件旧割引債券は除く。),これらが存在するものとして記載されていること自体,被相続人の記憶や判断能力の欠如を示すものといえる。
また,第2遺言書(乙25)は,被相続人が亡くなる前の3日前である平成20年8月25日に作成されたものであること,原告にも一定の財産を相続させることを内容としている第1遺言書の作成時から僅か3か月足らずで作成されたものであり,原告と被相続人との間にトラブルもなく廃除事由は見当たらないにもかかわらず,一転して原告を相続人から廃除するという異常な内容となっていること,その他第2遺言書の内容等に鑑みると,同遺言書の作成時に被相続人の遺言能力が欠缺していたことが明らかである。
d 加えて,被相続人作成の平成20年5月20日付け書簡(甲25)及びその一部を被相続人が再度書き留めた書簡(甲26)は,被相続人の原告に対する謝罪の意を込めたものであり,被相続人の真意を記載したものである。したがって,これらの書簡と近い時期に被相続人が作成した文書のうち,原告を攻撃する趣旨のもの,具体的には,被相続人が書簡に書き込みをした手書き部分(乙15,18),上記aの各書簡(乙16,19)及び上記cの各遺言書(乙8,25)の内容は,被相続人の真意ではなく信用性がないものと認められる。
ウ 本件遺産分割協議の内容について
d社が提起した別件訴訟において平成29年3月27日に裁判上の和解(甲50)が成立したが,その和解の前提として,原告とCとの間において遺産分割協議が成立した。その遺産分割協議において,原告とCは,本件割引債券を遺産の範囲に含めておらず,両者は,本件割引債券を遺産とは考えていないのである。
かかる事実は,本件訴訟における事実認定において,十分に斟酌されるべきである。
(2)  争点2(本件定額貯金が被相続人の相続財産であるか否か)について
(被告の主張の要旨)
本件定額貯金は,被相続人に帰属する財産であり,Eの固有財産であるとの原告の主張は失当である。理由は次のアないしウのとおりである。
ア 本件定額貯金は被相続人に帰属する財産であること
(ア) 預貯金の帰属の判断に当たっては,ある財産が被相続人以外の者の名義となっていた場合であっても,世上,特に親族間において,名義を借用して預貯金等の財産を作成することが往々見聞されることからすれば,被相続人以外の名義の財産が,相続開始時において,実際には被相続人に帰属するものであったと認められる場合には,当該財産は相続税の課税の対象となる相続財産となるところ,被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは,当該財産又はその購入原資の出捐者,当該財産の管理及び運用の状況,当該財産から生ずる利益の帰属者,被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係,当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断することとなる。
(イ) 本件定額貯金に関する事実関係をみると,被相続人やBの収入の状況等によれば,本件定額貯金の預入原資の出捐者は,被相続人であり,本件相続開始日において,原告が原告名義の貸金庫の中に本件定額貯金証書を保管していたものの,被相続人は,原告が同証書を保管することを承諾していなかったものと認められることなどに加え,本件相続の開始前において,本件定額貯金の名義人であるE,原告及びCのいずれに対しても贈与された事実が存しないことからすると,本件定額貯金は,被相続人に帰属する相続財産であると認められる。
イ 原資及び贈与に関する原告の主張について
原告は,①被相続人が,平成14年1月頃,G税理士に亡Bの相続に係る相続税の申告の相談をする際に作成した,亡B名義の財産が記載されたメモ書き(甲10,乙6),②Bが原告の子であるDに対して定額貯金を贈与したとする裁決書(乙3)を根拠として,Bは,その特有財産を原資として作成した本件名義定額貯金について,Dの場合と同様,その証書を原告に交付してEのために管理するよう委託したものであるから,遅くともこの委託の時点で,BがEに対する贈与の意思表示をしたと認められることから,本件定額貯金は,Eの固有財産であって,被相続人の相続財産ではない旨主張する。
(ア) 本件定額貯金の原資がBの特有財産であるとは認められないこと
被相続人とBの各収入の状況等から,Bには多額の財産を取得することができるほどの特有財産があったとは認められない。
被相続人作成の上記①のメモ書き(甲10,乙6)については,財産の帰属は上記ア(ア)のとおり総合考慮により判断されるのであるから,被相続人が上記メモ書きを作成してG税理士に亡Bの相続に係る相続税の申告の相談をする際に作成したとしても,当該財産が直ちに亡Bの特有財産に当たるとされるものではない。この点,税の専門家であるG税理士も,被相続人からの相談に対し,被相続人及び亡Bの収入状況等に鑑みれば,財産の名義が亡Bになっていたとしても,その実質的享受者は,飽くまでも所得の稼得者たる被相続人であると認められるので,上記メモ書きに記載された各財産については,亡Bに帰属する相続財産として相続税の申告を行う必要はない旨を回答しているのであるから,上記メモ書きに記載された財産は亡Bの特有財産とはならない。
なお,原告は,「Bには自分の親から相続した財産もありましたし,さらに,株取引もしていましたので,自分自身でかなり多くの財産を蓄えていました」などと陳述するが,亡Bに多額の相続財産があったことを裏付ける証拠もない旨供述していることことからすれば,原告の上記陳述は単なる憶測に基づくものにすぎないというべきである。
したがって,本件定額貯金の預入原資が亡Bの特有財産であるとは認められない。
(イ) BがEに本件定額貯金を贈与した事実は認められないこと
まず,仮に,原告が主張するように,Bが任意で原告に対して,本件定額貯金証書を交付してその管理を委託したとしても,原告がEの親権者であるCから,本件定額貯金の贈与に関する代理権を授与されていない限り,EがBから本件定額貯金の贈与を受けたとは認められないところ,同代理権の授与があったことを裏付ける証拠は見当たらない。
また,原告は,裁決書(乙3)を根拠として,Bが本件定額貯金証書を原告に交付したことをもってBがこれをEに贈与したとの主張している。しかしながら,裁決書においては,D名義の定額貯金の証書が原告に交付されたことをもって同貯金がBからDに対して贈与されたとまでは認定されていないこと,D名義の定額貯金は平成15年5月1日に設定されたものであり,また,その設定者は不明であるとされており,設定の時期及び設定者について,E名義の本件定額貯金と異なる認定がされていることからすると,裁決書を根拠としてBが本件定額貯金をEに贈与したとする原告の上記主張は理由がない。
なお,原告は,Bの死亡後に被相続人から本件定額貯金証書を見せられ,その後に被相続人が同証書を保管していた旨供述していたが(乙5),Bの生前に同人から「Eが成人してから,本人に直接渡すように」と言われて本件定額貯金証書を預かった旨の供述に変遷させており(甲49),その変遷に合理的理由は認められない。さらに,原告は,その本人尋問において,Bの生前に同人から「Eが成人したらXから直接,これはBからのお金だよということを言って,渡すように」と言われていたが,本件定額貯金証書の現物を見たのはBの死後であり,その後,当該証書が自分の手元に来た旨供述するなど,供述を更に変遷させており,一貫性が認められないことから,原告の供述は全く信用できないものといわざるを得ない。
(ウ) 以上のことから,Bが本件定額貯金をEに贈与したとする原告の上記主張は失当である。
ウ 遺産分割協議に関する原告の主張について
原告は,別件訴訟において成立した別件和解(甲50)の前提とされた本件遺産分割協議において,本件定額貯金が被相続人の遺産の範囲に含まれておらず,Cの主張が原告の主張と一致しており,かかる事実を本件訴訟における事実認定において十分に斟酌しなけれならないと主張する。
しかしながら,上記(1)の被告の主張ウで述べたように,別件和解の内容は,上記ア及びイの争点の判断に影響を及ぼすものではなく,また,本件決定処分等の違法性を判断する上で斟酌できないというべきであり,原告の上記主張は理由がない。
(原告の主張の要旨)
処分行政庁は,被相続人の孫であるEの名義の定額郵便貯金1013万3030円(本件定額貯金)につき,被相続人の相続財産であると認定した。しかしながら,本件定額貯金は,EがBから贈与を受けたものであり,被相続人の相続財産ではない。理由は次のアないしウのとおりである。
ア EがBから贈与を受けたこと
(ア) Bは,昭和55年12月から平成13年7月までe社の代表取締役として年額300万円の役員報酬を得ていたほか,Bの親の相続とB自身の株取引などにより,相当程度の特有財産を有していた。実際に,Bは,被相続人に相談することなく,自ら約600万円の高級車(ベンツ)を購入したこともあった。なお,このときの代金は,原告が一旦立て替えて支払い,後日,Bから原告名義の預金口座に600万円が振り込まれた。
また,Bが相当程度の特有財産を有していたことについては,Bが亡くなった後の平成14年1月頃,被相続人がB名義の貸金庫を解錠した際に確認されている。
仮に,平成2年以後のBの収入が僅かであったとしても,同人の特有財産がなかったことの直接の理由にはならない。
(イ) Bは,本件定額貯金を平成12年5月9日に作成した。その証書が入っていた各封筒(甲8の1,8の2)には,Bの自筆で「E 平12.5.9 500万」と記載されており,本件定額貯金は,BがEのために作ったものであることは明らかである。
Bは,本件定額貯金の作成後,同人が亡くなった平成13年7月4日までの間の某日,原告に対し,本件定額貯金証書をEのために管理するよう委託した。BがEの親権者であるCに本件定額貯金証書を渡さなかった理由は,Cを余り信用していなかったためである。つまり,Bは,Cが本件定額貯金を自己のために使ってしまうことを避けるために,原告にその管理を託したのである。
(ウ) 本件定額貯金は,Bの特有財産を原資とし,B自身が手続をして作成したものであるから,その作成時には,Bにおいて,Eに対して贈与をする意思は明確であったといえる。そして,Bが,亡くなるまでの某日,原告に対して本件定額貯金をEのために管理するよう委託したのであり,その時点で,BがEに対する贈与の意思表示をしたと認められる。
他方,受贈者側であるEの意思については,Bが原告に対して本件定額貯金証書の管理を委託し,原告がこれを引き受けたときに,原告が,Eの代理人として受贈の意思表示をしたと認められる。
ところで,上記各意思表示の時点において,原告は,Eの代理権を有していなかった。しかしながら,平成21年4月3日,Eの親権者であるCが,本件定額貯金について,証書紛失を理由とする再発行手続及び「お届け印」の変更手続を行っており,このとき,Eの親権者であるCが,原告による無権代理行為を追認したものと認められる。
以上から,Bが原告に対し本件定額貯金をEのために管理するよう委託し,原告がこれを引き受けた時点で,本件定額貯金の贈与契約が成立したと認められる。
イ EがBから贈与を受けたことの間接事実等
(ア) 被相続人においても,本件定額貯金を自己の財産として認識していないこと
被相続人は,平成14年1月頃にB名義の貸金庫内で発見されたB名義の通帳残高等をメモ書き(甲10)に書き留め,その後,被相続人がG税理士に税務相談をした際に,そのメモ書きを同税理士に示した。上記メモ書きは,被相続人が亡Bの財産であると考えて書き留めたものであり,だからこそ,G税理士に対して,亡Bの相続に係る相続税の申告の要否を相談したのである。被相続人が自己の財産であると認識していたのであれば,G税理士に相談することはなかったはずである。
また,被相続人が原告に宛てた平成20年1月10日付け書簡(甲33の1)をみると,本件定額貯金について「Cには,あなたと相談してくれるように云ってあります。くれぐれもよろしく相談にのって下さい。私は基本的にEちゃんとDちゃんが同じように扱ってもらえば賛成です」と記載されており,被相続人においても,本件定額貯金を自己の財産として認識している様子は全く見受けられない。
(イ) Cも,本件定額貯金をEの財産であると認識していたこと
Cは,原告を相手方として申し立てた本件廃除申立事件において,原告が書証として提出した本件定額貯金証書の写しを見て,同貯金が残存していることを知った。その直後の平成21年4月3日,Cは,本件定額貯金証書を原告が管理していると認識しているにもかかわらず,共同相続人である原告の同意を得ることなく,「証書紛失」の手続をしたのである。このことから,Cにおいても,本件定額貯金をEの財産であると認識していたことが分かる。
ウ 本件遺産分割協議の内容について
原告とCとの間で平成29年3月27日に成立した本件遺産分割協議においては,本件定額貯金は遺産の範囲に含まれていない(甲50)。すなわち,本件遺産分割協議において,原告とCは,いずれも本件定額貯金を被相続人の遺産とは考えていないのである。かかる事実は,本件訴訟における事実認定において十分に斟酌すべきである。
(3)  争点3(本件三田不動産の評価)について
(被告の主張の要旨)
ア 相続税法22条における財産評価
相続税法22条に規定する時価とは,課税時期(相続開始時)における当該財産の客観的交換価値のことであり,不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額をいうものと解されており,その評価については,課税実務上,財産評価基本通達(乙28。以下「評価通達」という。)に定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。
そして,相続財産を評価するに当たって適用される評価通達の定めに一般的な合理性があり,評価通達に定める評価方法によるべきではない特別の事情がない限り,当該財産は評価通達に定める評価方法に従って評価すべきであり,また,当該評価方法に従って算定された評価額は,相続税法22条に規定する時価であると事実上推認される。
イ 評価通達に基づく本件三田不動産の評価額は,相続税法22条に規定する時価であると認められること
(ア) 宅地の評価方法
評価通達は,土地については,その第2章(評価通達7~87-7)においてその評価方法を定めている。
土地の価額は課税時期の現況によって判定される地目の別に評価することとされ(評価通達7),市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は,原則として,路線価方式で評価する(評価通達11)。路線価方式とは,その宅地の面する路線に付された路線価を基とし,個々の宅地の個別事情をその評価額に反映させるため,一定の加算又は減算を行う(評価通達15~20-5)こととしており,本件三田土地の評価に関連する定めは,奥行価格補正(評価通達15),不整形地の評価(評価通達20),間口が狭小な宅地等の評価(評価通達20-3)及び貸家建付地の評価(評価通達26)である。
評価通達は,借地借家法の適用のある家屋賃借人の有する賃借権の目的となっている家屋(貸家)の敷地の用に供されている宅地(貸家建付地)については,上記のとおり(貸家建付地の評価(評価通達26)),賃借権があることを考慮して減額評価をする一方,使用貸借契約(民法593条)により無償使用されている家屋の敷地の用に供されている宅地については,土地の評価上,無償使用に係る権利(使用借権)は考慮しない,すなわち減額評価をせず,自用地として評価することとしている。この取扱いは,使用貸借契約に係る使用借権は,借地借家法の適用のある家屋賃借人の有する賃借権のような法的な保護を受けないことなど,使用貸借契約の当事者の一般的認識,当該契約の法的性質及び借地借家法の適用のある家屋賃借人の有する賃借権との効力との権衡との観点によるものである。
(イ) 家屋の評価方法
評価通達は,家屋については,その第3章(評価通達88~94)においてその評価方法を定めている。
貸家の価額は,「その家屋の価額(A)-A×評価通達94に定める借家権割合×その家屋に係る賃貸割合」により計算した価額によって評価することとされている。
(ウ) 評価通達に基づく本件三田不動産の評価額
Fは,本件相続開始日において,本件三田建物を使用貸借契約に基づき無償で使用していたが,当該契約は民法593条所定の使用貸借契約である。したがって,本件三田建物は貸家として評価することはできず,自用家屋として評価することとなり,また,本件三田土地は,貸家建付地ではなく,自用地として評価することとなる。
その結果,本件三田不動産の評価額は,同建物につき226万8955円(別表5順号6,同別表付表2順号3),同土地につき4590万1080円(同別表順号3,同別表付表1順号3)となる。
(エ) 以上のとおり,評価通達に定める土地等に係る評価方法は,相続税法22条に規定する時価を求めるための合理的な評価方法であって,さらに,本件三田不動産を評価するに当たり,同通達に定める評価方法によるべきではない特別の事情もないから,同通達の各定めに基づき算出された同不動産の評価額は,同条に規定する時価と認められる。
ウ 原告の主張について
原告は,要旨,①本件三田不動産の使用関係は,被相続人が,同人と重婚的内縁関係にあったFに対して支払うべき生活費(婚姻費用)の一部に代えて,本件三田不動産をFに無償使用させる負担付きの使用貸借関係であること,②被相続人はFに支払債務を負っており,その支払債務は,原告及びCに承継されていることから,同人らが,Fに対して本件三田不動産の返還を求めることは極めて困難であることを理由に,Fの本件三田不動産の使用権は,通常の使用借権よりも強い権利であるとした上で,本件三田土地の評価は,少なくとも,自用地としての評価ではなく,建物賃貸借が成立している貸家建付地に準じて評価すべきであると主張する。
しかしながら,本件三田建物の使用貸借契約は,当該契約に係る公正証書(乙31)の各条項から明らかなとおり,名実共に使用貸借契約であり,同建物の使用貸借契約に係る使用借権は,借地借家法の適用のある家屋賃借人の有する賃借権とは認められず,原告が主張するように同建物の使用貸借契約に係る使用借権が通常の使用借権よりも強い権利であるとする法的根拠も見当たらず,また,そのような権利が認められるような事実関係も見当たらない。
また,原告の主張する上記事情は,いずれもFと被相続人又はFと原告及びCとの間の人的関係に基因する事情にすぎず,本件三田建物の使用貸借契約に係る公正証書(乙31)の記載内容に照らしても,かかる事情が本件三田建物の使用貸借契約に係る使用借権の法的性質に影響を及ぼすものとはいえない。
したがって,本件三田土地は自用地として評価するのが相当であり,原告の上記の主張には理由がない。
(原告の主張の要旨)
処分行政庁は,本件三田不動産の評価額を,同土地につき4590万1080円,同建物につき226万8955円としている。しかしながら,本件三田不動産の評価額は,Fが同不動産を無償で使用していることを考慮して,減額しなければならない。理由は,次のア及びイのとおりである。
ア Fの権利が通常の使用借権よりも強いこと
(ア) 被相続人とFは,昭和53年頃に出会い,平成13年7月にBが亡くなる前から重婚的内縁関係にあった。そして,Bが亡くなった後は,浜田山自宅建物において同居するなど,内縁関係が継続していた。その後,平成18年4月,被相続人とFは別居することとなり,Fが浜田山自宅建物から出て,被相続人の所有する本件三田不動産に無償で居住することとなった。
したがって,本件三田不動産の使用関係は,被相続人からみれば,重婚的内縁関係にあったFに対して支払うべき生活費の一部に代えて,Fが亡くなるまで,同不動産をFに無償使用させる趣旨である。すなわち,Fが死亡するまで同不動産の明渡しを求めることができないのであるから,Fによる同不動産の使用権は,一時的な利用権を付与する使用借権よりも強い権利であり,賃借権と同程度の財産的価値があると評価すべきである。
(イ) また,「Fが死亡するまでの間,本件建物を無償で使用させる」旨の公正証書(甲11)も存在することを考えると,本件三田不動産につき,現時点で被相続人がFに立退きを要求すれば,相当な立退料を支払う必要があり,これはFに対する潜在的な債務であると認められる。実際にも,Fは,後述(4)の原告の主張イのとおり,被相続人に対し,同不動産の立退料として3500万円を請求していた。
このような公正証書と潜在的な債務がある以上,本件三田不動産の時価評価は,当然に減額となるはずである。
イ 評価通達の形式的な適用は違法であること
(ア) 評価通達において貸家建付地の評価額が減額される趣旨は,①土地所有者はその所有する宅地について自由な使用収益権が一部制限されること,②借家権の解消に際しては,借家権の対価等の要素を有する立退料等の支払が不可避であり,これが一種の潜在的な債務としての性格を形成していることから自用地との評価上の均衡を図るものと解される。
本件三田不動産についてみると,上記アのとおり,①Fが死亡するまでの間については,全く使用収益できない物件であること,②同不動産の明渡しを求めるためには立退料の支払が不可避であり,潜在的債務であるといえる。したがって,本件三田不動産については,評価通達を形式的に適用することはできない。
(イ) 以上によると,本件三田不動産の評価額は,Fが同不動産を無償で使用していることを考慮して,減額しなければならず,上記(ア)のような貸家建付地の評価額が減額される趣旨に照らして,少なくとも貸家建付地に準じて18ないし21%減額して評価すべきである。
(4)  争点4(本件相続税の課税価格の計算上,原告が主張する被相続人のFに対する債務を債務控除すべきか否か)について
(被告の主張の要旨)
原告が主張する被相続人のFに対する支払債務(2000万円又は少なくとも同債務から既払い額合計660万円を控除した残額1340万円の支払債務。以下「本件F債務」という。)は,次のアないしウのとおり,本件相続税の課税価格の計算上,これを控除することはできない。
ア 本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務等
相続税法13条1項は,相続又は遺贈により財産を取得した者が同法1条の3第1号の規定に該当する者である場合においては,当該相続又は遺贈により取得した財産については,課税価格に算入すべき価額は,当該財産の価額から,被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(同法13条1項1号)及び被相続人に係る葬式費用(同項2号)の金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定しており,同法14条1項は,同法13条の規定によりその金額を控除すべき債務は,確実と認められるものに限る旨規定している。
イ 原告の主張について
原告は,要旨,①被相続人がFに宛てて書いたとする「反省と誓約」と題する書面(甲12)の記載内容,②平成18年9月以降,被相続人とFが双方代理人を通じて金銭の支払に関する交渉をしていたことを根拠として,Fと被相続人との間には,Fに対する被相続人の生活支援が終了したときに,被相続人のFに対する2000万円の債務から毎月の既払い額を控除した残額を支払う旨の合意があったと認められるとし,本件相続の開始時において,当該債務の残額は履行されることが確実なものと認められるから,本件相続税の課税価格の計算上,債務控除の対象となる旨主張する。
しかしながら,被相続人とFとの間で上記の支払合意があったことを裏付ける契約書等の客観的証拠は存在しない。被相続人が,Fとの間で締結した本件三田建物の使用貸借契約については公正証書を作成していることからすれば,上記合意についても書面化するのが自然であるところ,現にかかる証拠が存在しないこと自体,上記支払合意が存在しないことを示すものである。
また,原告が,被相続人とFの間で支払合意があったことの根拠として摘示する「反省と誓約」と題する書面(甲12)には,「A」という氏名の記載はあるものの,作成された日付の記載もなければ,契約の相手方の署名及び契約当事者の捺印等がない上,その内容は,作成者の個人的な所感や所信を一方的に記したものにすぎず,およそ何らかの給付の根拠となるような当事者間の合意があったことを証するものとは認められない。
加えて,原告は,平成18年9月以降は,被相続人とFが双方代理人を通じて2000万円の支払に関する交渉をしていた旨主張するが,仮に,原告の主張するように,同月以降に被相続人の代理人とFの代理人との間で2000万円の支払について交渉が行われていたとしても,それは単に交渉していた事実があったというにすぎず,そのことのみをもって,被相続人とFとの間で何らかの給付の根拠となるような合意が存在していたとは認められない。そして,現に,Fは,被相続人の死亡後に,その相続人である原告やCに対して何ら具体的な給付の請求をしておらず,また,原告が,被相続人の死亡後,Fに対して,本件F債務に係る支払をした事実もない。
以上のことからすれば,原告が主張する被相続人とFとの間の支払合意は,もともと存在しないとの推認が優に働くというべきである。
ウ 上記のとおり,本件相続税の課税価格の計算上,本件F債務を控除することはできず,同債務を債務控除の対象とすべきとする原告の主張は失当である。
(原告の主張の要旨)
被相続人のFに対する,2000万円の支払債務又は少なくとも同債務額から既払い額合計660万円を控除した残額1340万円の支払債務(本件F債務)は,次のアないしウのとおり,本件相続の開始時において現に存在し,かつ,履行されることが確実なものであったと認められ,本件相続税に係る債務控除の対象とする必要がある。
ア 2000万円を支払う旨の合意が成立したこと
上記(3)の原告の主張アで述べたとおり,被相続人とFは内縁関係にあり,平成18年4月まで浜田山自宅建物で同居していたが,その同居中に被相続人がFに宛てて書いた「反省と誓約」と題する書面(甲12)には,「約束した二千万円は,間違いなく返還します。Aこれには昨年の返済分(毎月30万円)を含めます。Bもし未済分があれば私の相続財産から優先的に返済することを約束します。」と記載されている。この記載の趣旨については,同書面中の他の記載と合わせて考えると,Fが被相続人と同居して被相続人の生活支援をすることの対価として,被相続人がFに対し毎月30万円を支払うこと,その生活支援が終了したときは,被相続人がFに対して2000万円から毎月の既払い額を控除した残額を支払うことを約束したものと解される。
したがって,被相続人とFとの間には,債務額2000万円の支払合意があり,また,Fによる被相続人の生活支援が終了したときは上記債務額から既払い額を控除した残額を支払う旨の合意があったものと認められ,被相続人死亡時の既払い額は合計660万円であり,これを控除した残額は1340万円であった。
イ 合意成立後の被相続人とFとの交渉経緯
被相続人とFが平成18年4月に別居するに至った後,Fの代理人であるI弁護士から被相続人に対し,平成18年9月19日付け「ご通知」(甲13の1)をもって,被相続人とFとの内縁関係の解消に伴う問題について話し合いたい旨の連絡があり,被相続人とFとの間において,内縁関係の解消に関する交渉が始まった。
平成19年12月5日,Fは,代理人のI弁護士を通じ,被相続人に対し「本件三田不動産を明け渡す条件として3500万円を支払ってもらう」旨を要求し,平成20年6月13日には「本件三田不動産の居住継続と2000万円の支払」を電話にて要求した。
結局,被相続人とFとの間で,内縁関係の解消に関して最終的な合意に至らないまま,被相続人が平成20年8月に死亡した。しかしながら,Fによる上記の要求内容をみれば,Fにおいて,本件F債務が存在していたこと及び同債務が現に存在することを前提としていることは明らかである。そうであれば,内縁関係の解消に関する最終的な合意が成立する前に被相続人が死亡したからといって,本件F債務及び同債務に関する上記アの支払合意の効力が覆滅するわけではない。
ウ したがって,本件F債務は,本件相続の開始時において現に存在していたと認められる。そして,被相続人の死亡によりFによる被相続人の生活支援が終了したのであるから,本件F債務は履行されることが確実なものである。
なお,被告が提出したFの聴取書(乙32)は,「自宅玄関先」にて聴取した内容を書面化したものであり,常識的に考えて,この様な立ち話とさほど変わらない方法により聴取した程度で,Fから真実を聴取できるとは考え難く,さらに同聴取書には,調査担当職員のFに対する質問が記載されていないため,同担当職員がFの答述を誘導したという疑いを払拭できないので,同聴取書の信用性はないといわざるを得ない。また,仮に,Fが実際に「債権・債務の関係も,過去及び将来にわたってないことに相違ありません」と述べていたとすれば,本件三田不動産を無償で使用させる旨の公正証書(甲11)及び上記イの交渉経過からすると,債権債務関係の存在は明白であり,Fの供述は虚言であるといわざるを得ない。
(5)  争点5(本件相続税の課税価格の計算上,原告が主張する被相続人のd社に対する債務を債務控除すべきか否か)について
(被告の主張の要旨)
原告は,被相続人とd社との間には,同社が被相続人の著書執筆補助業務等を行い,被相続人が同社に対してその費用又は対価を支払う旨の合意があり,これに基づく被相続人には同社に対し9137万4403円の費用を支払う債務があった旨主張する(以下,原告が主張する被相続人とd社との間の上記合意を「本件d社合意」といい,被相続人がd社に支払うべき上記債務を「本件d社債務」という。)。しかしながら,本件相続税の課税価格の計算上,本件d社債務を控除することはできない。理由は,次のア及びイのとおりである。
ア 本件d社合意は存在せず,本件相続税の課税価格の計算上,本件d社債務を控除することはできないこと
(ア) 課税価格の計算上,控除すべき債務について
上記(4)の被告の主張アで述べたとおり,相続財産につき,課税価格に算入すべき価額は,当該財産の価額から,被相続人の債務で相続開始の際,現に存するもの及び被相続人に係る葬式費用の金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額によることとされている上,当該控除すべき債務は,確実と認められるものに限られている。
(イ) 本件d社合意の存在を証明する具体的かつ客観的な証拠がないことについて
a 原告が主張する本件d社合意については,その存在を証する具体的かつ客観的な証拠はない。
この点,原告は,被相続人とd社の代表取締役である原告が親子であるから,契約書等の書面を作成することなく信頼関係に基づき業務を行っていたとしても何ら不自然ではない旨主張する。しかしながら,法人であるd社が,同社と別人格である代表者個人(原告)と被相続人との間の信頼関係のみを基礎として,委託(受託)する業務の内容,当該業務に係る費用負担の取決め,当該費用の算定方法,委託(受託)する期間等について契約書等の書面を作成して明確にすることのないまま,総額9000万円以上もの未払の費用及び対価が生ずることとなる業務を執行すること自体,不自然・不合理である。また,原告が主張するような詳細な計算によらなければ必要となる費用が算出できないような業務を長期間にわたって委託(受託)する旨の契約を締結するというのであるから,上記のような事項について契約書等の書面を作成し,明確にしておくことが自然であり,口頭のみで本件d社合意が行われたということ自体,極めて不自然である。
加えて,被相続人が代表取締役を務めていた株式会社cがd社に対して業務委託をするに当たっては,業務委託契約書(乙36)や覚書(乙38)を作成している(以下,これらによりd社と株式会社cとの間で締結された業務委託契約を「本件法人間契約」という。)にもかかわらず,被相続人とd社との間では,総額9000万円以上もの未払の費用及び対価が生ずることとなる合意について契約書等の書面を作成していないことも極めて不自然である。
b 原告は,本件d社合意が存することの根拠として,被相続人が作成した書簡等(甲5の1,5の2),Kの陳述書(甲28)及び被相続人の営業活動補助業務等に関する書類等(甲34~43)を摘示する。
しかしながら,上記書簡等(甲5の1,5の2)には,d社の名称は記載されておらず,被相続人がd社に著書執筆補助業務を年間1000万円で委託する旨の記述や,それをうかがわせる記述も見当たらず,d社とは無関係の書類である。
また,上記書類等(甲34~43)のいずれを見ても,被相続人とd社との間で本件d社合意をしたこと,あるいは当該合意をしたことをうかがわせる記載は存在しない。むしろ,甲第34号証ないし同第38号証として提出された書類は,本件法人間契約に関連してやり取りされたもの又は本件d社合意とは異なる被相続人とd社との間の業務委託に関連してやり取りされたものとみるのが自然である。
さらに,Kの陳述書(甲28)が,平成15年4月上旬当時における本件d社合意の存在を直接裏付けるものともいえない。
c 上記のほかに,原告は,本件d社合意が存することの根拠として,d社が平成22年1月期の決算報告書(甲22)に,本件d社債務に係る費用及び対価の合計額である9137万4403円を収益計上していることを挙げる。
しかしながら,原告が本件d社合意に基づき生じたと主張する上記金額については,平成15年4月から平成20年8月までの約5年5か月間に係るものであるにもかかわらず,d社は,当該費用及び対価を,費用収益の適正な期間対応を求める企業会計原則の定め(企業会計原則第二の一・損益計算書の本質,同第二の一A・発生主義の原則参照)に反し,被相続人の相続開始後である平成22年1月期の決算において収益として一括計上しているのであり,d社の平成22年1月期の決算報告書の記載内容は,同社の真実かつ正確な経営成績を表しているとは到底認められないから,当該決算報告書の記載内容は,本件d社合意があった根拠とはなり得ない。
更にこの点について原告は,d社がかかる会計処理を行った理由について,要旨,①被相続人は,本件d社合意に基づいて生じた被相続人の営業活動補助業務等に係る費用及び対価を定期的に支払うことができるだけの資金を有しておらず,②また,本件著書が完成した平成20年7月から印刷費用など種々の未確定要素が確定するまでに相当期間が必要であったこともあり,平成21年1月期の決算においては,未だ被相続人の営業活動補助業務等に係る費用及び対価の額が確定していなかった旨供述している。
しかしながら,上記主張①につき,d社は,少なくとも平成18年8月から平成20年9月までの間,被相続人からの収入として,本件d社合意とは別の業務受託により生じたものと思料される月額95万2381円を計上しており,被相続人には,原告が主張する本件d社合意に基づく費用及び対価を支払うだけの資力がなかったとは,直ちには認められない。また,上記主張②につき,原告が主張する本件d社合意に基づく営業活動補助及び資金管理業務の費用の金額は,実費計算ではなく,d社の従業員等の人件費及び一般管理費に一定の計算を施すことによって算出できるものであるから,各会計年度ごとに機械的に計算できることになるから,平成22年1月期までは上記費用の金額が未確定であった旨の原告の上記主張②はその前提を欠く。したがって,原告の上記主張①及び②は,不自然・不合理なものというほかない。
以上によると,d社が本件d社合意に基づく費用及び対価を本件相続開始後の平成22年1月期の決算において一括で収益計上したのは,不自然な会計処理であり,d社の平成22年1月期の決算報告書の記載内容は,本件d社合意があった根拠とはなり得ない。
(ウ) 本件d社合意に基づき生じたとする費用又は対価の金額に関する原告の主張は具体性がなく不自然であることについて
a 原告が主張する営業活動補助及び資金管理業務の費用に関する合意内容につき,原告は,被相続人とd社との間で,「当該業務にかかる必要経費(人件費,管理費を含む。)相当額の対価」とする旨合意したと主張しているが,その本人尋問において,曖昧な供述に終始しており,また,被相続人とd社代表者である原告との間で,人件費の相場について認識を共有していたということしか明らかにされておらず,甲第28号証に記載されているような費用の算定方法に関して合意があったとは到底認められないような説明をするのみで,費用の算定方法に関する合意があったかどうかという点について何ら答えていない。
b 原告が主張する著書執筆補助業務の対価につき,原告は,被相続人とd社との間で,「1年間当たり1000万円(必要経費相当額を含む金額)の対価」とする旨合意したとし,同業務の内容を主張しているが,その業務内容は,d社が被相続人から受託したと原告が主張する営業活動補助及び資金管理業務の内容とが一部重複しており,その業務内容自体,不自然である。また,上記金額の算定根拠などといった当該合意内容に係る具体的かつ詳細な説明はされていない。
このように,著書執筆補助業務の費用及び対価に係る原告の主張は,具体性がなく不自然である。
c 以上のとおり,d社が被相続人から受託した営業活動補助及び資金管理業務並びに著書執筆補助業務の費用及び対価の金額に関する原告の主張は,具体性がなく不自然なものであり,理由がない。
(エ) 本件法人間契約が存することからすると,被相続人及びd社が本件d社合意を締結すること自体不自然であることについて
a 本件法人間契約により株式会社cがd社に対し委託した業務内容は,被相続人がd社に対して委託したと原告が主張する営業活動補助及び資金管理業務の具体的な業務内容と酷似している。このように被相続人が代表取締役を務める株式会社cがd社に業務を委託しているにもかかわらず,被相続人個人が,当該業務と酷似した内容の業務を,改めてd社に委託する必要性は見い出せない。
b これに対して原告は,被相続人の著書執筆に関する業務は株式会社cとは無関係であること及び被相続人がd社に対して賃料相当額を支払っていたとは認められないことなどを前提として,d社においては,株式会社cから受託した業務と被相続人の営業活動補助業務等とを明確に区別していたなどと主張する。
しかしながら,株式会社cの業務内容と被相続人個人の業務内容が異なることを証する具体的かつ客観的な資料は見当たらず,また,d社が被相続人から日々指示される業務の内容によって,株式会社cからの受託業務と被相続人の営業活動補助業務等とを明確に区別できたことを証する具体的かつ客観的な資料も見当たらない。したがって,d社が,株式会社cと被相続人との両方から内容の酷似した業務を受託していたとは,到底考えられない。
(オ) 小括
以上によれば,原告が主張する本件d社合意は存在しないものというほかない。したがって,本件相続税の課税価格の計算上,本件d社債務を控除することはできないのであるから,原告の上記主張は失当である。
イ 遺産分割協議に関する原告の主張について
原告は,別件訴訟において成立した別件和解(甲50)の前提とされた本件遺産分割協議において,本件d社債務を原告とCとで分割承継しており,Cの主張が原告の主張と一致しており,かかる事実を本件訴訟における事実認定において十分に斟酌しなけれならないと主張する。
しかしながら,上記(1)の被告の主張ウで述べたように,別件和解の内容は,上記アの争点の判断に影響を及ぼすものではなく,また,本件決定処分等の違法性を判断する上で斟酌できないというべきであり,原告の上記主張は理由がない。
(原告の主張の要旨)
被相続人がd社に対して支払うべきであった営業活動補助及び資金管理業務にかかる費用並びに著書執筆補助業務にかかる費用の合計9137万4403円の支払債務(本件d社債務)は,次のアないしエのとおり,本件相続の開始時において現に存在し,かつ,履行されることが確実なものであったと認められ,本件相続税に係る債務控除の対象とする必要がある。
ア 本件d社合意及び本件d社債務について
(ア) 相当額の対価を支払う旨の合意(本件d社合意)
① 営業活動補助及び資金管理業務にかかる費用の支払合意
被相続人は,平成15年4月上旬頃,d社に対し,その営業活動の補助及びその営業活動に必要な資金管理等の秘書的な業務を,d社において行ってもらいたい旨を要請した。それを受けて,d社は,被相続人との間で,被相続人のための営業活動補助及び資金管理業務を,当該業務にかかる必要経費(人件費,管理費を含む。)相当額の対価にてd社が遂行する旨の合意をした。
② 著書執筆補助業務にかかる費用の支払合意
また,被相続人は,平成15年4月頃から,通商産業省で執務していた時代及びa株式会社の副社長であった時代に産業界に貢献した足跡を記録すべく産業政策史の執筆,編纂作業を開始するに当たり,d社に対し,その作業について協力を得たい旨を要請した。そして,上記①の合意と同時期の平成15年4月上旬頃,d社は,被相続人との間で,被相続人のための著書執筆補助業務を1年間当たり1000万円(必要経費相当額を含む金額)の対価にて行うこと及び対価の支払時期は著書の完成後とすることを合意した。
(イ) 業務遂行の内容及びその対価
被相続人がd社に対して負っていた費用支払債務(本件d社債務)の金額は,下記①及び②の合計9137万4403円である。
① 上記(ア)①の合意に基づき,d社が被相続人からの指示に従い,同人のために行った営業活動補助及び資金管理業務は,(a)原告及びd社の従業員が被相続人の依頼に基づき,営業の相手先に対して連絡し又は相手先からの連絡を取り次ぐこと,(b)被相続人の営業に関するスケジュール調整,(c)被相続人が営業の相手先に行き来するための移動交通手段の手配,(d)営業の相手先への同行(中国出張の際の同行も含む。),(e)被相続人が営業の相手先に情報提供をするための新聞記事の整理,(f)営業の相手先(各種情報の提供先)への新聞記事の送付,(g)被相続人が手書きした文章のタイプアップによる書面化,(h)被相続人の指示に基づく書籍等の購入,文献の調査,(i)被相続人が使用する資料の作成・準備,(j)上記c,d,h及びi等にかかる費用(営業活動費用)の出納管理,(k)被相続人の所得税確定申告に関する補助業務,(l)被相続人とLとの共著である「□□」の出版のため,原稿の一部を起案するなどの補助業務,(m)本件著書の編纂のために収集,整理した歴史的資料,文献を京都大学に寄贈するに際しての資料・文献のデータベース化及び文献目録の作成の業務である。
上記の営業活動補助及び資金管理業務は,平成15年4月から,被相続人が亡くなった平成20年8月まで5年5か月間にも及び,これらの業務の対価(必要経費相当額)は,別表15の合計欄(「営業補助・経理」欄)に記載のとおり,4137万4403円である。
② 上記(ア)②の合意に基づき,d社が被相続人のために行った著書執筆補助業務の内容は,本件著書編纂の企画及び準備,資料の収集及び整理,著書の校正,編集,発刊等の補助である。
上記の著書執筆補助業務は,平成15年4月から平成20年7月までの5年4か月間にも及び,これらの業務の対価は,別表15の合計欄(「本執筆補助」欄)に記載のとおり,6555万9552円であるが,上記(ア)②のとおり「1年間当たり1000万円」とする合意の内容であることから,5000万円である。
イ 本件d社合意が存在することの間接事実等
(ア) 被相続人が著書執筆に要する費用等について認識していたこと
上記ア(ア)②の著書執筆補助業務に関する費用の「年間1000万円」という金額は,被相続人がd社に対して,著書の執筆作業を開始する前に,「著書執筆に要する費用」として話していた金額である。この金額については,被相続人が作成した借用証書の下書き(甲5の1)及び被相続人が原告に宛てた平成15年11月10日付け書簡(甲5の2)の記載からも,著書執筆の費用として合意したことが明らかであり,被相続人が明確に支払意思を有していたことがうかがわれる。被相続人は,その著書の執筆・編纂に,年間1000万円の費用と5年の年月を要することは,自ら認識していたのである。
また,そもそも執筆・出版は,被相続人一人で成し遂げられるものではなく,現実にd社の従業員が関わっていた事実からすれば,被相続人が本件d社債務を負担する意思を有していたことは明らかである。被相続人は,私財を投じてでも歴史的事実を残したいという気持ちが強かったのである。
ところで,被相続人がd社に対して本件d社債務を支払う旨の契約書は作成されていないが,d社の代表者である原告は,被相続人の子であることからすれば,契約書等の書面を作成することなく信頼関係に基づき業務を行っていたとしても,何ら不自然とはいい得ない。
(イ) 業務量が膨大であること
上記ア(ア)①の営業活動補助及び資金管理業務は多岐にわたり,かつ,非常に膨大であった。いかに膨大な業務量だったかは,d社が保管していた被相続人に関するコレポン等,書籍「□□」(甲40)及び「文献目録データベース」(甲41の1)等の成果物を見れば,一目瞭然である。
また,上記ア(ア)②の著書執筆補助業務についても,特に,原稿の管理,校正,編集等の作業量は膨大であった。具体的には,被相続人とd社の取締役であったLとの対談を録音し,その録音テープの内容を書き起こして原稿としてまとめる作業,被相続人が手書きした原稿のタイプアップ,被相続人が校閲して手書きにより加除修正した部分をタイプアップすることにより当該原稿を校正する作業,そして,Lの助言などをもとに600頁以上にわたって章立て,構成する編集作業であった。そして,ようやく平成20年7月に,600頁以上に及ぶハードカバーの書籍「◎◎」(本件著書)が出版されるに至ったのである。
このような膨大な業務量及び成果物からすれば,これらをd社が無償で行うことなどあり得ないのであり,そのことからも,本件d社合意の存在は明らかであるといえる。
(ウ) d社における会計処理
d社においては,本件d社債務について未収入金として収益計上している(甲22)。これは,本件d社合意の内容として,著書執筆補助業務の対価の支払時期は著書の完成後とされていたところ,被相続人は,平成20年7月に本件著書を完成させた直後の同年8月28日に亡くなったため,未払いのままとなったのである。
また,被相続人は,平成15年当時から亡くなるまで,本件d社債務につきこれを支払うことができるだけの資金を有していなかったこと,本件著書が完成した平成20年7月から印刷費用等,種々の未確定要素が確定するまでに相当期間が必要であり,平成21年1月期の決算においては未だその額が確定していなかったのである。
(エ) 本件d社債務の支払請求及び支払等
被相続人の共同相続人である原告及びCが,本件d社債務を法定相続分に従って2分の1ずつ分割承継したことから,d社は,原告及びCに対し,平成21年8月25日付け請求書(甲23)をもって本件d社債務の支払を請求した。
そして,実際に,原告は,d社に対し,平成25年3月7日,相続により分割承継した4568万7202円を支払った。そして,この支払については,その後のd社の会計処理においても適切に反映された結果,本件d社債務にかかる平成29年1月31日現在の未収入金は4568万7201円となっている。
ウ 本件遺産分割協議の内容について
別件訴訟において平成29年3月27日に成立した裁判上の和解(別件和解。甲50)においては,d社に対する9137万4403円の費用支払債務について,被相続人の相続によって原告とCが分割承継したことが確認されている。かかる事実は,本件訴訟における事実認定において十分に斟酌しなければならない。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲第34号証ないし同第38号証の書類につき,株式会社cとd社との間における業務委託契約(乙36,38)(本件法人間契約)に関連してやり取りされたもの又は本件d社合意とは異なる業務委託に関連してやり取りされたものである旨主張している。
株式会社cとd社との間において,上記の業務委託契約が締結されていたのは事実であるが,d社においては,株式会社cから受託した業務と,被相続人の営業活動補助及び資金管理業務並びに著書執筆補助業務とを明確に区別して業務遂行しており,かつ,それぞれの経理処理についても明確に区別していた。
(イ) また,被告は,上記(ア)において,平成18年8月から平成20年9月までの間,被相続人からd社に対して,月額100万円(消費税を含む。)の支払があったことをもって,両者間には,本件d社合意とは異なる業務委託関係があった旨を主張している。
この点,株式会社cは,d社に対し,①平成16年2月から平成17年3月までは月額150万円,②同年4月から平成18年7月までは月額180万円,③同年8月から平成19年2月までは月額80万円,④同年3月から平成21年1月までは月額30万円の各支払(いずれも消費税を含む。)をした。もっとも,この期間のうち平成16年2月から平成18年7月までの支払額については,株式会社cがd社のオフイスを間借りしていたことによる賃料相当額100万円が含まれている。これは,被相続人は,議員会館や霞ヶ関に近い場所に活動拠点を置くことを強く希望していたため,平成15年3月に,d社が,東京都千代田区永田町にあるiビル内のオフィスを賃借し,同オフイスの半分のスペースを区分した上で,被相続人の執務場所を確保したことに対する対価である。したがって,厳密には,株式会社cからd社に対して支払われた業務委託費は,上記①及び②の金額から月額100万円を差し引いた金額となる。
このように,月額100万円の支払は,iビル内のd社オフイスを被相続人が間借りしていたことによる賃料相当額であり,当初は株式会社cがこれを支払っていたが,その後,同社が当初予定していた程度の収入を得られなくなり,これを負担することができなくなったため,被相続人が個人的に支払うことになったのである。
したがって,被相続人とd社との間において,本件d社合意とは異なる業務委託関係があったわけではなく,被告の上記主張は失当である。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
上記第2の3の前提事実,当事者間に争いのない事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  被相続人の財産,収入等
ア 被相続人は,昭和27年7月頃,本件浜田山土地(別表12順号6記載の浜田山所在の宅地)を当時の所有者であるUから借り受け,同土地上に建物を建築して,家族と共に居住していた(乙3・14頁)。
イ 被相続人の昭和53年分,平成12年分及び平成13年分,平成17年分ないし平成20年分の収入状況は,別表13記載のとおりである(乙9の1~9の7)。
ウ 被相続人は,昭和54年12月11日,川崎市多摩区三田j丁目○番○の一部及び同番△の土地(別表5順号2)を売買により取得し,同土地上に建物(同別表順号5)(以下「本件三田マンション」という。)を建築した。
被相続人は,本件三田マンションを賃貸し,これにより別表13の「賃貸収入」欄記載のとおりの家賃収入を得ていた。なお,被相続人は,同マンションの管理をe社に委託していた。(乙3,10)
(2)  Bの財産,収入等
ア e社は,不動産の売買,賃貸,管理等を目的とする会社であるところ,Bは,同社が設立された昭和55年12月から平成13年7月まで,同社の代表取締役であった(乙11の1,11の2)。
Bの預金口座には,別表14記載のとおり,e社から振込入金があった(乙12の1,12の2)。
イ 被相続人は,昭和53年分,平成12年分及び平成13年分の所得税の確定申告において,Bを控除対象配偶者として所得税法83条に規定する配偶者控除の適用を受けていた(乙9の1~9の3)。
ウ 昭和63年頃,上記(1)アの建物を建て替えることとなり,Bは,本件浜田山土地の上に,建物(浜田山自宅建物。別表5順号4の建物)を4185万円の費用で建築した(乙3・14頁)。
Bは,平成元年3月16日,昭和63年分の贈与税につき,被相続人から,住宅を取得するため2000万円の贈与を受け,当該贈与について,相続税法21条の6(贈与税の配偶者控除)第1項の規定(2000万円控除)の適用を受ける旨の贈与税の申告をした(乙13)。
また,平成元年5月のB宛ての「お買いになった資産の買入価額などについてのお尋ね」(控)(乙14)には,①作成税理士をRとし,②Bが,杉並区浜田山〈以下省略〉の家屋(別表5順号4の建物に当たるもの)を合計4185万円で取得し,③その取得資金の内訳は,上記の被相続人からの贈与分2000万円の他に,昭和63年3月25日から平成元年3月30日にかけて第一勧業銀行(現みずほ銀行)浜田山支店のB名義の普通預金から払い出した現金合計1030万円,昭和63年12月26日にビックを担保にして三井信託銀行新宿西口支店からBが借り入れた1200万円,ワリコ一及びワイドを売却した416万2250円である旨の記載がある。なお,Bは,上記の昭和63年分を除き,昭和55年分から平成13年分までの年分について,贈与税の申告をしていない(弁論の全趣旨)。
エ 被相続人とBは,いずれも死亡するまで上記ウの浜田山自宅建物に居住していた(乙3・14頁)。また,同建物において,平成19年5月頃以降は,C及びその家族が被相続人と同居するようになった(甲28,乙35)。
オ 被相続人は,Bの死亡後である平成14年1月頃,B名義の貸金庫内に本件貸金庫内割引債券及び預貯金約3000万円を発見し,被相続人は,それに関するメモを作成し,税理士に提示して,相続税の申告の要否について相談した。上記メモに記載されていた預貯金及び有価証券財産の要旨は以下のとおりであった。(前提事実(4)ア(ア)及び(イ),甲10,乙4,6)
① (DKB貸金庫)定額郵便貯金 額面総額1000万円
② (DKB貸金庫)DKB浜田山(預金)総額1178万3438円
③ (三菱信託B分)東京三菱銀行,三菱銀行(預金)総額1000万1686円
④ (三菱信託分)別表10記載の債券(本件貸金庫内割引債券)総額2億6000万円
(3)  b協会とd社との間の業務委託契約等
ア 被相続人は,平成2年,通商産業省(当時)の外郭団体であるb協会の会長に就任した上,同協会付属のk研究所を設立してその所長となり,中小の流通業(販売業)に対するコンサルティング活動を行っていたところ,大手スーパーやb協会に加盟する中小食品スーパーの電気料金削減に関する取組みにも関与していた(甲49,51,52の2,乙5,原告本人)。
他方,原告は,f社に勤務し,平成13年当時,国内電力事業部長の職にあった。d社は,f社の国内電力事業部が調達した電力を販売することを主たる目的として,平成13年2月に設立された会社であった(ただし,f社とは資本関係はなかった。)ところ,原告は,同年10月にd社の代表取締役に就任し,その従業員は主としてf社の社員が充てられていた。そして,d社の執務は,平成15年3月頃まではf社の社内で執務が行われていた。なお,平成29年1月31日時点では,d社の株式のうち,66%を原告が,30%をLが,4%をKが各保有している。(甲28,49,53,乙5,原告本人)
イ b協会は,平成13年9月21日,d社(代表取締役はS)との間において,「中小店の電気料金を大口工場向けの料金並に引下げること」を目標として,同社に対しコンサルティング業務(電力側との交渉及びその方法に関する業務など)を委託した。
この業務委託契約において,b協会は,費用として,d社に対し,平成13年3月末の中小店の電気料金を基準として,引き下げられた価格の5%相当額を,引下げ措置から3年間にわたり毎年支払うことなどが定められた。(甲2)
ウ 上記イに関し,電力会社が平成14年に値下げを実施したため,d社は,同年12月ないし平成15年1月,b協会に対して,費用として3億0885万6189円の支払を求め,また,平成15年及び平成16年も同額を支払うことを求めた(甲3の1~3の4)。
エ 他方,被相続人は,b協会側から,金銭の出納について不明朗な点があるなどの指摘を受け,会長を退任することを求められていたところ,被相続人の代理人であるM弁護士らは,平成15年1月9日にb協会の代理人(T弁護士)と協議し,同月10日付け報告書(甲3の5)により,被相続人に対してその協議の状況を報告した。
その報告においてM弁護士らは,被相続人に対し,b協会からd社への成功報酬(費用)の支払について解決した上で,同月20日までに辞表を提出することや,b協会への退職金の要求は,d社への支払について解決したことを前提として取り下げることを提案した。(甲3の5,乙5)
オ d社は,b協会との間において,平成15年1月14日付けで,上記ウの請求につき,平成14年から平成16年の支払総額を3億円とすること,その支払がされた時点で上記イの合意を終了することについて同意をするとともに,上記の3億円の支払を請求したところ,その後,それが支払われた(甲3の6,49,乙5,原告本人,弁論の全趣旨)。
カ 被相続人は,平成15年1月,b協会の理事を退任し,k研究所の退職金として約1億4920万円の支払を受けた。その後,被相続人は,原告が同年3月に設立した株式会社c(本社として登記していた住所は被相続人の自宅(浜田山自宅建物)の所在地である。)の代表取締役となり,その肩書きをもって活動するようになった。(甲49,乙5)
また,原告は,f社からd社に移籍することとなり,d社は,平成15年3月頃,その執務場所をf社社内からiビル内の事務所に移転したところ,そこには被相続人が使用する部屋等も設けられた。その当時,d社の従業員は,f社から出向したKほか1名と派遣社員2名であった。(甲28,49,原告本人)
(4)  その後の被相続人とd社及び原告との関係等
ア d社は,被相続人からの指示に従い,その秘書的業務等を支援し,また,著書執筆の補助業務を行った。d社は,平成15年4月頃,アルバイトを1名採用した(甲14ないし21(枝番を含む。),28,原告本人)。
イ 被相続人は,平成16年3月頃,大腸がんに罹患して入院したところ,原告は,手術を依頼する病院の選定や,退院後の生活の支援を行ったほか,被相続人がFとの同居を解消した後は住み込みの世話人の管理などもしていた(乙5,25)。
ウ 被相続人は,平成15年7月頃,その当時の本件浜田山土地の所有者から,同土地に係る賃貸借契約の期間満了の通知を受けた。同所有者は,同土地(底地)の売却を希望していたところ,d社が,平成18年4月14日,本件浜田山土地(底地)を売買により取得した(甲44・3頁)。そして,d社は,被相続人に対してこれを賃貸することとなり,地代を受領していた。その後,被相続人は,本件浜田山土地の借地権と建物をCに相続させる意向を示し,それに伴い,d社から底地を買い取りたいとの申出をしたことがあった。(甲28,原告本人)
(5)  被相続人が平成15年頃から平成18年頃までに作成した書簡等における記載について
ア 被相続人は,原告に対し,平成15年2月5日付け書簡(甲4)を送付した。同書簡には,「私の退職金が一つの焦点であったこともあり,d社等,あなたの今後の資金に自由に活用してください。」等の記載がある。
イ 被相続人は,原告に対し,平成15年11月10日付け書簡(甲5の2)を送付した。同書簡には,「生田を抵当にして,5000万円程借金しようと決心しました。本日はPさんに当ってみます。毎年1000万位を5ヶ年間,積込んで,産業政策史をまとめたいと決心しております。」等の記載がある。
また,被相続人は,上記のPに対する借用証書の下書きを作成した(甲5の1)。この下書きには,借入額につき,「1年間1000万円とし,総額5000万円」との旨の記載がある。
ウ 被相続人は,h株式会社のQ副社長に対し,書簡(平成16年7月7日付け及び同年10月7日付け)(甲6の1,6の2)を送付し,金銭の支援(毎月1000万円)の申入れ等をした。
また,被相続人は,平成18年10月10日付け書簡(甲30)を送付し,再度,Q副社長に対して支援の申入れ等をした。しかしながら,h社からの支援は受けられなかった。(甲6の1,6の2,30,原告本人)
エ 被相続人は,原告に対し,平成18年1月10日付け書簡(甲33の1。日付は欄外のFAX送信日付による。)を送付した。同書簡には,「E名ギの郵便貯金が一千万円をこえた部分の処分を,この20日迄にするよう通知がありました。ハンコも現物もありませんので対應の方法がなく困っています。」,「私は基本的にEちゃんとDちゃんが同じように扱ってもらば,賛成です。」等の記載がある。(甲33の1,33の2)
オ 被相続人は,原告に対し,平成18年5月15日付け書簡(FAX文書)(甲7)を送付した。同書簡には,「所要資金の調達について」として,本件浜田山土地(底地)を最優先で担保とすること,軽井沢,湯沢等d社オーナーとしての原告の資産を次に担保として充当すべきこと,不足分は被相続人の株式で補てんすべきであるとの提案や,「使用(借用)に関して」として,本件浜田山土地(底地)は被相続人が借り受けてその使用料に年金を充当するなどの提案が記載されている。
(6)  被相続人が平成20年に作成した書簡等の記載並びに第1遺言書及び第2遺言書の作成
ア 被相続人は,原告等に対し,平成20年2月4日付け書簡(甲32の1)を送付した。同書簡には,「ちっぽけな相続財産で,子供たちが不仲になるような,愚かなことを絶対さけたいと念じています。」等と記載されている。(甲32の1,32の2)
イ 原告は,被相続人に対し,平成20年5月8日頃に書簡(乙15)を送付した。同書簡には,「浜田山の土地相続をC(E)に譲るときに,Bの残した財産のうち国債,ワリショウ,はXが譲渡すると取り決めた。」,「Bの財産処理は(中略)残り2億6500万円(中略)はXとなります。」,「Eの預金は手元に有りますがBの意志を尊重して本人が成人したときにでも渡すつもりです。」,「決してBの残した国債 ワリコーを当てにしないように。」等と記載されている。
また,上記の書簡(乙15)には,「1.業務委託(家賃対応)+実際のA業務に対する業務委託費 合計約7670万円」「2 人件費」等の記載があるが,被相続人は,当該部分について「一方的何も知されなかった」等の手書きの書込みをしている。
ウ 被相続人は,原告に対し,平成20年5月20日付け書簡(甲25)を送付し,感情的になったことを謝罪するとともに,「私の本心は,Xも,Cも,我が子なり,躾のちがい,親の責任」等と記載している。
また,同じ頃に作成された被相続人の書簡(甲26)にも同様の記載がある。(甲25,26)
同年6月2日,第1遺言書(乙8)が作成された(前提事実(5)ア)。
エ 被相続人は,M弁護士に対し,平成20年6月12日付け書簡(乙16)を送付し,同書簡には「完全な私の財産目録を作っていただきたい」等の記載がある。また,被相続人は,M弁護士に対し,同年7月15日付け書簡(乙19)を送付し,同書簡には「私共は,260百万をそのまま返してくれればよい」等の記載がある。
M弁護士は,原告に対し,同年7月2日付け書簡(乙17)を送付し,同弁護士が被相続人の代理人となったこと及び直接被相続人本人との連絡を控えるよう伝えるとともに,本件貸金庫内割引債券等の処分ないし保管の状況等を知らせるよう求めた。
原告は,M弁護士からの上記書簡を受けて,被相続人に対し,同月12日付け書簡(乙18)を送付し,被相続人の財産管理,Bの遺産及び本件浜田山土地の取扱い等に関する応答をした。(乙16~19)
同年8月25日,第2遺言書(乙25)が作成された(前提事実(5)イ)。
2  争点1(本件割引債券が被相続人の相続財産であるか否か)について
(1)  本件旧割引債券(本件割引債券の買換え又は乗換え前の割引債券)を含む本件貸金庫内割引債券は,Bが死亡した後の平成14年1月頃,B名義の貸金庫内において発見されたものであるが,それが,その当時において,被相続人に帰属する財産であったことについては当事者間に争いがない。
そして,本件貸金庫内割引債券については,それが発見されてからしばらくの間は,被相続人が保管しており,そのうち本件旧割引債券以外のものは,概ね平成15年11月までの間に償還されて現金化されたことが認められ,他方,本件旧割引債券については,それが買換え又は乗換えがされた同年9月3日ないし同月4日頃には原告がこれを占有,管理するに至っていたことが認められる。(前提事実(4)ア)
もっとも,原告が,上記のとおり保管していた本件旧割引債券の買換え又は乗換えをしたことにつき,被相続人がかかる行為を了承したとか,被相続人が原告に対して,同債券を贈与するなどし,原告に対して同債券の管理権限あるいは処分権限が付与されたことを認めるに足りる証拠はない。
(2)  この点に関し,原告は,被相続人が平成15年2月頃に同人の退職金1億4920万9600円を原告に贈与すること約束し,その一部の履行として,平成15年9月頃,被相続人から本件旧割引債券の交付を受けた旨主張し,これに沿う原告の供述等がある。
ア しかしながら,証拠(文中記載のもの)によれば,原告は,本件廃除申立事件においては,額面総額2億6000万円の本件貸金庫内割引債券につき,「この債券をすべて現金化して被相続人に渡した。」(甲44・23頁),「2億6000万円の債券を全部被相続人の指示に基づいて被相続人に戻した」(同30頁),「相手方は,あくまで通帳や債券を渡され換金,送金という事務手続を指示されるまま行っただけである」(同32頁)などと主張し,これに沿う内容の平成22年2月5日付け陳述書(乙5・19~20頁等)を提出しており,他方,本件旧割引債券の贈与を受けたとの主張,陳述はしていない。
そして,このように本件廃除申立事件と本件訴訟とで本件貸金庫内割引債券及び本件旧割引債券に関する主張,陳述が異なることにつき,原告は,その陳述書(甲49)において,「予備的に,Aから支払いを受けることができる権利があるはずだという主張をしておこうと思った」と陳述し,また,原告本人尋問においては,当時の記憶である(原告本人・23頁)又は勘違いをしていた(同43頁)などと供述し,さらに,原告本人尋問実施後に提出した同人の陳述書(甲51)においては,「2億6000万円の債券は全てAの指示に従って処理した(中略)と主張したかった」などと説明をしている。
しかるに,原告は,平成21年4月から同年10月までにの間に,本件旧割引債券を買換え又は乗換えをした本件割引債券を償還し,原告名義の預金口座に入金しており(前提事実(4)ア(オ)),これは本件廃除申立事件の係属中のことであり,かつ,上記の平成22年2月5日付け陳述書(乙5)の作成時期に密接した時期であることからすると,本件廃除申立事件における上記の陳述につき,当時の記憶であるとか勘違いをしたなどという説明は合理性を欠くものといわざるを得ない。また,原告は,予備的な主張をしておこうと思ったとか,「2億6000万円の債券は全てAの指示に従って処理した(中略)と主張したかった」と説明しているが,本件廃除申立事件における上記の主張及び陳述の内容と整合せず,これらの説明も合理性を欠くものというべきである。そもそも,上記のように主張が異なることについての説明自体が合理的な理由なく変遷しており,原告は,追及される内容に応じて場当たり的に主張,供述をしているものとうかがわれるのであって,「被相続人から本件旧割引債券を贈与を受けた」旨の原告の供述を信用することはできない。
イ また,原告は,被相続人が原告に宛てた平成15年2月5日付け書簡(甲4)に「私の退職金が一つの焦点であったこともあり,d社等,あなたの今後の資金に自由に活用してください。」との記載があることを根拠として,被相続人が,原告及びd社に損害を与えた代償として,同人の退職金1億4920万9600円を原告に贈与すること約束した旨主張し,これを原告が被相続人から本件旧割引債券の贈与を受けた事実の間接事実であるとしている。
しかしながら,上記書簡の記載自体からは,被相続人が自由に活用することを許したものが何なのか,また,活用が許された主体が誰なのか(原告本人なのかd社なのか)といった点が必ずしも明らかではなく,更に原告は,本件廃除申立事件において提出した陳述書(乙5・12頁)において,退職金約1億5000万円につき,その一部を被相続人の貸金庫に保管されていた7600万円とスワップし,残りの約7400万円は原告からの貸付けとして,被相続人の口座に残しておいたなどとも陳述している。このように,原告が主張する贈与の対象やその金額,贈与の当事者等は明確ではないといわざるを得ない。加えて,上記認定事実(3)の経過を踏まえると,平成15年1月当時に問題となっていたのはb協会のd社に対する支払であるにもかかわらず,原告個人に対して金員を贈与をする旨の合意をすることは理にかなっておらず,現に,原告がその当時,当該贈与について贈与税の申告をした形跡もうかがわれない。これらの事情に鑑みると,上記書簡(甲4)により,被相続人が同人の退職金を原告に贈与することを約束したものと認めるに足りない。
ウ 更に原告は,被相続人においては,本件旧割引債券が同人の財産であることの認識がなかったなどと主張し,これを原告が被相続人から本件旧割引債券の贈与を受けた事実の間接事実であるとしている。
この点,確かに,被相続人は,平成15年から平成18年にかけて,企業経営者に対して活動費を支援することを求める書簡を送付し又は送付しようとしていたこと(認定事実(5)イ及びウ)や,本件浜田山土地(底地)を自ら買い取るまでに至らなかったこと(認定事実(4)ウ)からすると,その当時に被相続人が保有していた資金は,自らの希望どおりの大掛かりな公私の活動を十分に行う上では潤沢とはいえない状況にあったことがうかがわれるものの,手元に一定の財産を留保しつつ上記のような活動をしようとしていた可能性もあり得るから,上記の当時,被相続人が,本件貸金庫内割引債券のうち被相続人に帰属しているものが全くないとまで認識していたと断じることはできない。また,そもそも,被相続人が本件貸金庫内割引債券の使途や残高等についてどこまで正確に把握していたのかも明らかではなく,本件旧割引債券による資金調達等に言及していなかったとしても必ずしも不自然ではない。
むしろ,上記認定事実及び証拠(文中記載のもの)によれば,原告は,被相続人に宛てた平成20年5月8日付け書簡(乙15)において,「浜田山の土地相続をC(E)に譲るときに,Bの残した財産のうち国債,ワリショウ,はXが譲渡すると取り決めた」,「決してBの残した国債 ワリコーを当てにしないように」等と記載しており(認定事実(6)イ,乙15),これらの記載は,本件貸金庫内割引債券の少なくとも一部が残っていることを前提とするものであるところ,その後,被相続人の意向を受けたM弁護士は,原告に対し,同年7月2日付け書簡(乙17)により,本件貸金庫内割引債券の処分ないし保管等の状況を知らせるよう求めていることが認められる(認定事実(6)エ,乙16,17)。これらの事情を踏まえると,平成20年5月ないし7月当時において被相続人は,同人の財産として本件貸金庫内割引債券の少なくとも一部が残存している可能性があると認識するに至っていたことがうかがわれるところである。
なお,原告は,上記書簡等(乙16,17)につき,被相続人の記憶や判断能力が著しく低下していた時期に作成されたものであり,また,被相続人の真意(甲25,26)に反する内容であるので,信用性がないなどと主張している。しかしながら,証拠(文中記載のもの)によれば,①原告は,平成20年1月から同年8月までの間に被相続人から指示を受けた業務内容を示すものとして,業務記録(甲38の36~38の66)を提出しているところ,これらの業務記録からは被相続人の記憶や判断能力の著しい低下があることがうかがわれないこと,②甲第25,26号証の書簡は,被相続人が原告に対して感情的な対応をしたことを謝罪するにとどまるものであり,被相続人の財産の使途等に関する事柄を念頭に置いて作成されたものとは認められないことからすると,上記書簡等(乙16,17)につき,被相続人の記憶や判断能力が著しく低下していた時期に作成されたものであるとか,その被相続人の記載内容が,同人の真意ではないなどとはいえず,その基本的な信用性が低いものとは認められない。
エ 原告は,別件和解の前提とされた本件遺産分割協議において,原告とCが本件割引債券を遺産の範囲に含めておらず,このことを事実認定において十分に斟酌すべきであると主張する。
しかしながら,本件遺産分割協議書には,「本遺産分割協議書に記載のないAの一切の遺産」(第1の一の3項)は原告に帰属する旨の規定があるから,本件割引債券が明示的に列挙されていないとしても,「一切の遺産」に含まれ得るものであるとの含意があると解釈する余地は残されている。そして,別件訴訟において,本件割引債券が被相続人に帰属するか否かが争点になっていたかどうかは明らかではなく,したがって,原告とCとが本件割引債券を被相続人の遺産の範囲に明示的に含める扱いをしなかった理由もまた明らかではない。そうすると,本件遺産分割協議書に本件割引債券が明示的に列挙されていないことをもって,直ちに,本件割引債券が被相続人の遺産の範囲に含まれないとすべき根拠となるということはできない。これに反する原告の主張は採用することはできない。
オ 小括
以上によれば,本件割引債券は,被相続人に帰属する財産である本件旧割引債券を買換え又は乗換えしたものであるところ,被相続人が平成15年2月に原告に対して退職金相当額の贈与をしたとの事実や,同年9月頃に原告が被相続人から上記の贈与の履行として本件旧割引債券の交付を受けたとの事実を認めることはできない。
(3)  したがって,本件割引債券は,本件相続開始日において被相続人の相続財産であったものと認められる。
3  争点2(本件定額貯金が被相続人の相続財産であるか否か)について
(1)  判断枠組み
被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するか否かは,当該財産又はその購入原資の出捐者,当該財産の管理及び運用の状況,当該財産から生ずる利益の帰属者,被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係,当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断するのが相当である。
(2)  本件定額貯金についての検討
ア 本件定額貯金の購入原資の出捐者について
(ア) 上記前提事実,認定事実及び証拠(文中記載のもの)によれば,Bの収入等について,次のとおり認められる。
a Bは,昭和55年12月にe社の代表取締役に就任したものであるところ,e社からBの口座への振込入金は,別表14記載のとおり,昭和59年は56万円余り,昭和60年ないし昭和62年はそれぞれ330万円余り,昭和63年は350万円余り,平成元年は37万円余り,平成12年は100万円,平成13年は20万円であった(認定事実(2)ア)。
b 被相続人は,昭和53年分,平成12年分及び平成13年分の所得税の確定申告において,Bを控除対象配偶者として所得税法83条に規定する配偶者控除の適用を受けており(認定事実(2)イ),当該各年度におけるBの収入は,控除対象配偶者の適用範囲内の金額(給与収入であれば,昭和53年分は年額79万円以内,平成12年分及び平成13年分は年額103万円以内)であった。
c 浜田山自宅建物はB名義で建築されているところ,Bは,平成元年3月に,住宅を取得するために2000万円の贈与を受けたとして昭和63年分の贈与税の申告をしたが,その昭和63年分を除き,昭和55年分から平成13年分までの年分について,贈与税の申告をしていない(認定事実(2)ウ)。
d 浜田山自宅建物は,上記cの贈与を受けた2000万円のほかに,B名義の普通預金から払い出した現金合計1030万円,ビックを担保にして銀行から借り入れた1200万円並びにワリコ一及びワイドを売却した416万2250円を原資として4185万円で取得し,上記の銀行借入れは担保であるビックで返済した(認定事実(2)ウ,乙14)。
e 平成元年2月から平成12年2月までの間に関しては,e社からB名義の口座への振込入金の履歴は明らかにされていないが(別表14参照),G税理士が被相続人の所得税の申告に関与していた平成2年以降のBの収入は,上記bの平成12年分及び平成13年分と同様,被相続人が配偶者控除の適用を受ける範囲内のもの(給与収入であれば,平成元年分から平成6年分までの間は年額100万円以内,平成7年分から平成11年分までの間は年額103万円以内)であった(乙3・25頁,乙4)。
f Bが死亡した後,B名義の貸金庫内から,本件貸金庫内割引債券2億6000万円(無記名のもの)及びB名義の預貯金合計3000万円が発見されたが,被相続人はこれを発見するまでこれらの存在を知らなかった(前提事実(4)ア,認定事実(2)オ,弁論の全趣旨)。
(イ) 上記(ア)の事実を総合すると,Bにはe社からの収入があったものの,浜田山自宅建物を建築した当時,その費用を全て賄うに足りる資産はなかったことがうかがわれ,その後の平成2年以降の収入を勘案しても,それはB名義の貸金庫内で発見された3000万円の預貯金を形成できるようなものではなく,ましてや額面総額2億6000万円の割引債券を形成できるような状況にはなかったといえるから,上記の貸金庫内の資産については,被相続人の収入を原資とするものであると認めることができる。そして,被相続人が,これらの資産の存在形態を知ったのはBの死亡後であったことからすると,Bは,被相続人に具体的に報告することなく,その資産の運用に携わっていたことがうかがわれる。
以上のような,Bが平成元年に浜田山自宅建物の建築費用を支出した当時におけるB名義の財産(支出した預金,担保に供した証券及び売却した債券)と収入の関係,その後本件定額預金が預け入れられた平成12年5月までの間のBの収入の状況,Bが被相続人の収入を原資とする多額の資産の運用に携わっていたこと等に鑑みると,本件定額貯金の原資は,Bの収入ではなく被相続人の収入に由来するものと認めることに合理性があるということができる。
(ウ) これに対して,原告は,Bには,その親の相続とB自身の株取引等により相当程度の特有財産を有していたと主張する。
しかしながら,Bがその両親の相続により財産を取得したことを認めるに足りる証拠はなく(なお,国税不服審判所長のした裁決では,Bはその両親の相続により財産を取得しなかった旨の認定がされている(乙3・13頁)。),また,仮にBが株取引をしていたことは認められるとしても,これにより相当程度の特有財産を形成したとする証拠は見当たらない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
更にBが600万円相当のベンツを購入したとする原告の主張についても,その購入代金の原資は明らかではなく,当該事実のみをもってBが多額の特有財産を有していたものとは認められない。なお,上記(イ)で判示した収入状況等を前提とすれば,仮にBが自ら得た収入の一部をベンツ等の財産の取得に用いたのであれば,Bの収入が本件定額貯金の原資に充てられたと認め得る余地はより少なくなるといわざるを得ない。
イ 本件定額貯金の管理の状況,被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係について
(ア) 本件定額貯金証書は,Bの自筆により「E 平成12.5.9 500万円」と記載された封筒に入れて保管されていたことが認められる(前提事実(4)イ(ア))が,Bの生前において,当該封筒がどのように保管され,また,その死後,どのように発見されたのかは明らかではない。
(イ) 被相続人の原告宛ての平成18年1月10日付け書簡(甲33の1)や,原告の被相続人宛ての平成20年5月8日付け書簡(乙15)には,原告がE名義の貯金証書等を保有していることを前提とする内容の記載があること(認定事実(5)エ及び(6)イ),本件定額貯金証書は,原告が平成20年9月19日に契約した貸金庫内において保管されていたことが,平成24年1月24日に確認されたこと(前提事実(4)イ(イ))などからすると,本件定額貯金証書は,本件相続開始日において,原告が占有,保管していたものと認められる。
そして,原告は,本件定額貯金証書を上記のように占有,保管していることにつき,本件廃除申立事件においては,「Bから,Eが成人してから,本人に直接渡すように,と仰せつかって保管しているもの」であるとか「Bから預かり保管しているもの」であると主張し(甲44・33頁),本件訴訟においても同旨のことを主張し,その旨陳述している(甲49・11頁)が,他方,本件廃除申立事件の陳述書(乙5・18頁)では,本件定額貯金証書はBの死亡後に被相続人から見せられた(ただし,Bの貸金庫から見つかったものかどうかは分からない。)旨陳述し,本件訴訟における原告本人尋問(原告本人・17頁及び27~28頁)では,いずれが正しいか記憶がないとしつつも,Eが成人したら同人に渡すという合意のもとに被相続人が原告に預けた旨供述している。
このように,原告の本件定額貯金証書に関する占有の開始の態様に関する供述等は一定しないが,原告が本件訴訟の原告本人尋問で供述したところに従い,原告は,被相続人から本件定額貯金証書の交付を受け,Eが成人したら同人に渡すことを予定しつつ,これを原告名義の貸金庫に保管し,Eが成人するまでの間,被相続人のために本件定額貯金証書を占有,保管していたものと認めるのが相当である。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,Bが原告に対し本件定額貯金証書をEのために管理するよう委託し,原告がこれを引き受けたときに,Eの代理人(ただし無権代理人)として受贈の意思表示をしたと認められ,平成21年4月3日にCが本件定期貯金証書の再発行手続及び届出印の変更手続をとったことにより,無権代理が追認されたなどと主張する。
しかしながら,上記イのとおり,本件定額貯金証書の交付を受けた具体的な経過に関する原告の主張等は変遷しており,これに伴い,贈与を受けたとする具体的な経過に関する主張等も変遷しており,かつ,その変遷につき合理的な説明はされていないことに鑑みると,Bが原告に本件定額貯金証書を交付しその管理を委託したとする原告の上記主張は的確な裏付けを欠き,採用することができない。
(イ) また,原告は,Bにおいて,その孫であるDに定額貯金を贈与したのと同様,Eにも平等に本件定額貯金を贈与したものと考えるのが自然であるなどと主張する。
しかしながら,D名義の定額貯金は,B死亡後の平成15年5月に預け入れられたものであるから(乙3・43頁),原告の上記主張はその前提を欠くものであり,採用することはできない。
(ウ) さらに,原告は,別件和解の前提とされた本件遺産分割協議において,原告とCが本件定額貯金を遺産の範囲に含めておらず,このことを事実認定において十分に斟酌すべきであると主張する。
しかしながら,上記2(2)エと同様,単に本件遺産分割協議書に本件定額貯金が明示的に列挙されていないことから直ちに,本件定額貯金を被相続人の遺産の範囲に含めるべきものではないものと認めることはできない。これに反する原告の主張は採用することはできない。
エ 小括
以上のとおり,本件定額貯金の原資については,Bの収入ではなく被相続人の収入に由来するものであると認めることに合理性があり,本件定額貯金は,原告が被相続人から本件定額貯金証書の交付を受け,Eが成人したら同人に渡すことを予定しつつ,被相続人のためにこれを占有,保管していたものと認められるところ,このような原資の出捐者,名義人との関係,財産の管理状況,利益の帰属に関する関係者の認識等に関する事情を総合考慮すると,本件定額貯金は,被相続人に帰属するものと認めるのが相当である。
したがって,本件定額貯金は,本件相続開始日において被相続人の相続財産であったものと認められる。
4  争点3(本件三田不動産の評価)について
(1)  判断枠組み
ア 相続税法22条は,贈与等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが,ここにいう「時価」とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される(最高裁平成20年(行ヒ)第241号同22年7月16日第二小法廷判決・裁判集民事234号263頁)。
ところで,相続税法は,同法23条ないし26条で定めるほかに,財産の評価の方法について直接定めてはいないが,財産が多種多様であり,時価の評価が必ずしも容易なことではなく,評価に関与する者次第で個人差があり得るため,納税者間の公平の確保,納税者及び課税庁双方の便宜,経費の節減等の観点から,評価に関する通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定し,これにより財産の評価がされることを当然の前提とする趣旨であると解するのが相当である。
かかる趣旨を受けて,国税庁長官は財産評価基本通達(評価通達)を定め,この通達に従って実際の評価が行われている。そして,同法の上記趣旨に鑑みれば,評価対象の不動産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり,かつ,当該不動産の贈与税の課税価格がその評価方法に従って決定された場合には,上記課税価格は,その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り,贈与時における当該不動産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当である。
イ 評価通達は,①貸家の敷地の用に供されている宅地(貸家建付地)の価額については,自用地としての価額を基に,評価通達94に定める借家権割合等を勘案して計算する旨を定め,②貸家である家屋の価額については,その家屋の固定資産税評価額に倍率を乗じて計算した金額等を基に,評価通達94に定める借家権割合等を勘案して計算する旨を定めている(乙28,29,弁論の全趣旨)。
そして,上記の「評価通達94に定める借家権割合」における借家権とは,借地借家法の適用のある家屋賃借人の有する賃借権をいい,家屋の無償使用は含まれない旨を定めている(乙29)。
これは,建物が借家権の目的となっており,それが借地借家法の適用のある家屋賃借人の有する賃借権である場合には,建物賃貸借契約の更新等(同法26条以下)や建物賃貸借の対抗力等(同法31条以下)等の点で極めて強い法的保護を受け,その譲受人は建物及び敷地利用が制約されることとなり,貸家建付地及び貸家の経済的価値はそうではない土地及び建物と比較して低下することとなるのに対し,建物の占有権限が使用貸借契約にすぎない場合には,使用収益に通常必要な費用は借主が負担することとされて(民法595条1項),貸主は建物を使用収益をさせる積極的な義務を負わない上,期間についての合意があったとしても借主の死亡により当然に終了し(民法599条),建物を他に売却すれば借主には譲受人に対する対抗力も認められないなど,借主の保護が脆弱であることから,一般的にみれば,それが建物に付着することによる経済的価値の減少は僅少であることを考慮し,それを勘案しないとしても,評価通達の規定全体に基づいて算定される評価額が,不動産の客観的な交換価値(時価)を超えるものとなることはないとの考え方に基づくものと解されるところ,このような評価方法は,適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するということができる。
(2)  検討
ア 原告は,本件三田建物に関するFの使用借権は,①Bが死亡する前から重婚的内縁関係にあった者に対する生活費に相当するものであり,②Fが死亡するまで立ち退きを求められない旨の公正証書も存在する点などにおいて,通常の使用貸借契約よりも強力であり,形式的に評価通達を適用することは違法であり,本件三田不動産の評価においては,貸家建付地あるいは貸家に準じて減額するのが相当である旨主張する。
イ しかしながら,被相続人とFが,Bが死亡する前から重婚的な内縁関係にあったことを認めるに足りる的確な証拠はない。この点,被相続人とFは,昭和63年6月18日付け公正証書の内容において使用貸借契約(以下「本件使用貸借契約」という。)を締結しているところ(前提事実(4)ウ(イ)),この公正証書には,被相続人がFに対して昭和60年1月頃から明渡しを求めていた旨の記載もあり,被相続人とFとの間の何らかの不和を前提とする別居を前提としていたものと解する余地もある。
また,Fは,本件使用貸借契約の締結後,Bが平成13年に死亡するまでの間は,同契約に基づいて本件三田建物で居住していたところ,Bが死亡した後,浜田山自宅建物に転居し,被相続人と居住するに至り(前提事実(4)ウ(ウ)),この同居は内縁関係に準じるものであったことがうかがわれるが(甲12),平成18年4月頃には,Fと被相続人との同居は解消され,Fは,本件三田建物に戻った上,同年9月頃,代理人弁護士を通じて,被相続人との間で「内縁関係の解消に伴う問題」についての協議を開始し,①本件三田建物から立ち退くことを前提として,解決金として3500万円の支払を受ける案や,②本件三田建物に居住することを前提として,解決金として2000万円の支払を受ける案を提示するなどし,両者間において様々な案が提示されたが,平成20年8月に至ってもなお合意が成立することなく,被相続人は死亡したことが認められる(前提事実(4)エ,甲13の1~13の3)。このような経緯に照らすと,本件三田建物に関する本件使用貸借契約は,Fが被相続人と浜田山自宅建物において同居したことに伴い,一旦終了したとみる余地もあるところであり,そうでないとしても,Fが平成18年4月頃に被相続人との同居を解消した後における本件三田建物の占有権限については,その法的評価はともかく,事実としては公正証書が作成された昭和63年当時よりも不安定なものとなっていたとみる余地がある。
以上のとおりであるから,原告の主張する上記①及び②の点は,本件相続開始日における本件三田建物に係る使用貸借契約の効力を通常の使用貸借契約よりも強める事情に当たるとまではいえず,借主の死亡により当然に終了するとされる通常の使用貸借契約とさしたる相違はないと解されるから,本件において,所定の評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情があるとまではいえない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。
(3)  以上によると,被告主張の評価額は,評価通達に従って適切に算定されているものと認められるのであり,本件三田不動産の評価は,本件相続開始日における適正な時価によるものと認められる。
5  争点4(本件相続税の課税価格の計算上,原告が主張する被相続人のFに対する債務を債務控除すべきか否か)について
(1)  相続税法13条は,相続により取得した財産の課税価格に算入すべき価額は,当該財産の価額から,被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(同条1項1号)及び被相続人に係る葬式費用(同項2号)の金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定している。
そして,同法14条1項は,同法13条の規定によりその金額を控除すべき債務は,確実と認められるものに限る旨規定しているところ,ここにいう「確実と認められる」債務とは,履行が確実と認められる債務をいうと解することが相当である。
(2)  原告は,被相続人のFに対する債務(本件F債務)を控除すべきであると主張するので,以下,検討する。
ア 原告は,上記主張の根拠として,「反省と誓約」と題する書面(甲12)の存在を指摘する。
しかるに,前提事実(4)エ(ア)及び証拠(甲12)によれば,「反省と誓約」と題する書面(甲12)には,「約束した二千万円は,間違いなく返還します。」などといった記載があるものの,同書面には,被相続人が,Fに対して,同人に対する接し方について謝罪をしたり,その態度を改めるよう求める内容等が少なからず記載され,Fの署名や押印はされておらず,上記書面がFに到達したかどうかも明らかではないことからすると,それ自体によって被相続人とFとの間で何らかの合意を形成する文書であるとはいえない。また,上記書面には,2000万円の返還に関しては,公正証書を作成する旨の記載があり,その内容が合意として成立しているのであれば,当該公正証書が作成されていて然るべきであるところ,かかる公正証書が存在するものと認めることはできない。上記書面のこれらの記載内容等に鑑みると,2000万円の返還につき,被相続人とFとの間において合意が形成されたものと認めるに足りない。
したがって,「反省と誓約」と題する書面(甲12)によっても,被相続人とFの間に本件F債務が存在するものと認めるに足りないというべきである。
イ また,原告は,被相続人とFのそれぞれの代理人間における交渉がなされたことを指摘する。
この点,前提事実(4)エ(イ)によれば,被相続人とFの内縁関係の解消につき,両名の代理人間において平成18年9月以降,話合いがされたものの,平成20年8月28日に被相続人が死亡した時点においても,その話合いは合意に至ったものと認めることはできない。また,被相続人が死亡した後は,F又はその代理人弁護士らが,原告に対して金銭の支払を求めてきたことを認めるに足りる証拠はない。これらの点からすると,仮に,被相続人の生前において,被相続人がFに対して相当額の金員の支払をする約束をしていたと認めることができるとしても,その債務の履行は確実といえる状況にはなかったといわざるを得ない。
これに対して原告は,少なくとも2000万円を支払うことは合意されていた旨主張するが,被相続人の代理人であるJ弁護士からFの代理人弁護士らに対する提案は2000万円を下回るものもあり(甲13の3),2000万円の支払合意があることを前提とした交渉がされていたものと認めることはできず,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上によれば,原告が主張する本件F債務は,履行が確実なものと認めることはできない。
(3)  したがって,原告が主張する本件F債務は,本件相続税の課税価格の計算上,これを債務控除すべきものと認めることはできない。
6  争点5(本件相続税の課税価格の計算上,原告が主張する被相続人のd社に対する債務を債務控除すべきか否か)について
(1)  認定事実
上記第2の3の前提事実,当事者間に争いのない事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア d社と株式会社cとの業務委託契約について
株式会社c(当時の代表取締役は被相続人)は,平成16年2月1日,d社との間において,株式会社cが業務を遂行する上で必要となる書類の作成及び管理,情報の収集及び発信,スケジュール管理及びアポイントメントの取得業務,外出及び出張時の手配業務,連絡業務,経理処理業務全般等の業務をd社に委託する旨の業務委託契約を締結した。
また,上記業務委託契約の対価は,月額150万円(消費税込み)とされていたが,平成17年3月1日,業務の範囲及び量が増加することを理由として,月額180万円(消費税込み)に変更された。
上記のd社と株式会社cとの間の業務委託契約及び対価の増額変更の合意については,いずれも書面が作成されている。(乙36,38)
イ d社の会計処理等について
(ア) d社の第9期(平成21年2月1日~平成22年1月31日)の決算報告書(甲22)には,同日現在の未収入金として,「A営業活動等補助業務受託費用」名目の9137万4403円を含む9527万4403円が計上されているが,平成15年4月頃を含むd社の事業年度から第8期までの間の決算報告書には,上記費用は未収入金として計上されていない(前提事実(4)オ(ウ),甲22,弁論の全趣旨)。
(イ) 上記(ア)の取扱いに対して,d社は,株式会社cからの業務受託収入として,平成17年1月期(平成16年2月1日~平成17年1月31日。以後,1年間の事業年度となっている。)は合計1714万2858円を,平成18年1月期は合計285万7146円を,平成19年1月期は合計1485万7146円を,平成20年1月期は合計390万4770円を,平成21年1月期は合計342万8580円を,それぞれ計上している。
また,d社は,被相続人からの業務受託収入として,平成17年1月期及び平成18年1月期は計上されていないが,平成19年1月期は合計571万4286円(平成18年8月以降,毎月95万2381円)を,平成20年1月期は合計1142万8572円(毎月95万2381円)を,平成21年1月期は合計761万9048年(平成20年2月から同年9月まで毎月95万2381円)を,それぞれ計上している。(乙37)
(2)  検討
ア 本件相続税の課税価格の計算上,控除すべき債務については,上記5(1)で判示したとおり,相続税法13条1項及び14条1項の要件を満たすものでなければならない。
原告は,平成15年4月頃にされた被相続人とd社との間の合意に基づき,本件d社債務(上記(1)イ(ア)の「A営業活動等補助業務受託費用」に係るもの)が現に存在し,かつ,同債務は履行されることが確実なものである旨主張し,その根拠として,被相続人が著書執筆に要する費用等を認識していたこと,著書執筆補助等に係る業務量が膨大であること,d社における決算報告書に本件d社債務について未収入金として計上されていること,d社が原告及びCに対して本件d社債務についての支払を求めたところ,原告がその相続分である2分の1相当額を支払ったこと等を指摘している。
イ 被相続人が著書執筆に要する費用等を認識していたことについて
(ア) 上記1の認定事実(5)イ及び証拠(甲5の1,5の2)によれば,被相続人は,原告に対する平成15年11月10日付け書簡(甲5の2)において,「毎年1000万円位を5ヶ年間積込んで,産業政策史をまとめたいと決心しております。」と記載した上,これまでの関係先から支援を求めたが断られたことから他の関係先への借入れを申し込む予定であることを記載し,その借用証書の下書き(甲5の1)には,借入額を総額5000万円(年額1000万円の5年間)と記載していることが認められ,これらの記載からすると,被相続人は,上記の当時において,著書執筆に要する費用及び時間として,概ね毎年1000万円及び5年程度の期間を見込んでいたことがうかがわれる。
もっとも,上記書簡には,d社に関する直接の言及はなく,本件d社合意の存在,同合意による費用の支払及び同合意による業務の実施等に関しては全く記載がされておらず,d社が費用等を負担した場合の取扱いや,株式会社c名義で締結されている業務委託契約との関係についての被相続人の意思は明らかではない。
(イ) 原告主張の本件d社合意については,契約書等の書面が作成されていないことは当事者間に争いはないところ,原告は,d社の代表取締役である原告と被相続人が親子であり,契約書等の書面が作成されていなくても,その両者の信頼関係に基づき業務を行っていたとしても不自然ではない旨主張する。
しかし,原告が主張する著書執筆補助業務にかかる費用は,上記(ア)のとおり,約5年間という短くない期間において発生し,かつ,多額の費用に及ぶ見込みのものであり,営業活動補助及び資金管理業務にかかる費用についても同様のものであることがうかがわれるところ,原告の被相続人に対する平成20年5月8日付け書簡(乙15)中にある原告主張の本件d社債務に係る費用と思われる記載(「1.業務委託(家賃対応)+実際のA業務に対する業務委託費 合計約7670万円」及び「2 人件費」等の記載)に関して,被相続人は,「一方的何も知されなかった」等と記載し(上記1の認定事実(6)イ),それに関する債務の存在について疑義を呈していることがうかがわれる。
また,d社(当時の代表取締役は原告)は,株式会社c(当時の代表取締役は被相続人)との間で締結した業務委託契約(本件法人間契約)に関しては,契約書(乙36)を作成し,さらに,d社の業務が増加することを理由として,同社に支払うべき費用額を増額する変更の合意書(乙38)も作成している(上記(1)の認定事実ア)。
これらの点からすると,本件d社合意については原告と被相続人の信頼関係に基づき書面を作成することなく業務を行ったとする説明は,必ずしも合理的であるということはできず,本件d社合意に関する契約書の不存在は,その合意自体が明確なものではなかったことを裏付ける事情であるといわざるを得ない。
(ウ) さらに,原告は,Kの陳述書(甲28)を本件d社合意が存在することの根拠として挙げている。
しかしながら,Kの陳述書によっても,営業活動補助及び資金管理業務並びに著書執筆補助業務にかかる費用を算定する計算方法につき,被相続人との合意に基づくものであるものと認めることができない。また,原告は,その本人尋問において,人件費についての相場があるとか,本件d社合意に関するメモが存在するなどと供述した(原告本人・34~37頁及び46~47頁)が,Kの陳述書に記載,算定されている費用額が単なる相場観によって合意に至ったものとは認め難く,また,原告本人尋問後に提出した原告の陳述書(甲51)において,本件d社合意に関するメモについては存在しない旨の陳述をしており,この点に関する原告の供述の基本的な信用性は低いといわざるを得ない。
したがって,Kの陳述書によっても,原告主張の本件d社合意が現に存在し,かつ,その履行が確実であることを示すものとはいうことはできない。
(エ) 以上のとおり,被相続人は,平成15年11月当時において,著書執筆に要する費用及び時間として,概ね毎年1000万円及び5年間を見込んでいたことがうかがわれるが,そのことは,原告主張の本件d社合意が現に存在し,かつ,その履行が確実であることを示すものとはいえない。
ウ d社における会計処理について
(ア) 本件d社債務に係る費用は,平成15年4月以降を含む事業年度から第8期までの決算報告書には,未収入金として計上されず,第9期の決算報告書において計上されたところ(上記(1)の認定事実イ(ア)),原告は,この点について,被相続人が本件d社債務につきこれを支払うことができるだけの資金を有していなかったこと,印刷費用等の種々の未確定要素が確定するまでに相当期間が必要であったこと,著書執筆補助費用の支払は著書完成後とされていたことなどを挙げている。
しかし,原告の主張するところによれば,営業活動補助及び資金管理業務にかかる費用については,Kの陳述書(甲28)及びこれに沿った原告の主張のとおりに費用が算定され,また,著書執筆補助業務に係る費用については毎年1000万円とされているというのであるから,仮にそれが真に本件d社合意に基づいて発生していた債務なのであれば,未収入金等の科目として計上することについて会計上の支障はなかったといわざるを得ない。また,著書執筆補助費用の支払は著書完成後とされていたことを客観的に裏付けるに足りる的確な証拠はない。
そうすると,原告主張の本件d社合意がされた平成15年4月頃を含む事業年度から第8期までの決算報告書に本件d社債務に係る費用が一切計上されていないことは,上記合意自体が明確なものではなかったことを裏付ける事情であるといわざるを得ない。
(イ) 原告は,平成21年8月25日付け請求書により,被相続人の相続人である原告及びCに対して,本件d社債務に係る費用の支払を請求し,原告がその相続分である2分の1相当額である4568万7202円を支払い,d社においてその支払についての会計処理が行われていることを指摘する。
しかしながら,上記の点は,d社又はその代表取締役である原告の行為にすぎず,被相続人の行為ではないばかりか,被相続人の死亡後のものであることからすると,直ちに本件d社合意の存在の裏付けとなるものではないというべきである。
エ 著書執筆補助等に係る業務量が膨大であることについて
原告は,本件d社合意に係る営業活動補助及び資金管理業務並びに著書執筆補助業務が膨大であり(甲34~38,43),かつ,その成果物(甲1,40,41の1,41の2,52の1,52の2)からすれば,これらをd社が無償で行うことなどあり得ないのであり,本件d社合意の存在は明らかである旨主張する。
しかしながら,仮に,d社が被相続人の営業活動補助等に係る費用を実際に負担し,それが少なくない金額となるものであるとしても,上記イのとおり,本件d社合意に関する契約書が存在せず,被相続人の意思が明らかではない以上は,d社の代表取締役である原告と被相続人が親子関係にあることを基礎として明確な合意がないまま行われた費用負担であるとの上記の評価を覆すに足りるものとはいえない。
オ 別件和解について
原告は,別件訴訟において成立した別件和解(甲50)の前提とされた本件遺産分割協議において,本件d社債務を原告とCとで分割承継しており,Cの主張が原告の主張と一致しており,かかる事実を本件訴訟における事実認定において十分に斟酌しなければならないと主張する。
しかしながら,別件和解は,原告,C及びd社が同訴訟の解決のためにそれぞれが互譲して成立したものであり,本件d社合意自体の存否はともかく,d社が被相続人の生前においてその営業活動補助等に係る相応の費用を負担したという事情を勘案して,相続人らの間ではそれを調整する趣旨で,被相続人にd社に対する債務があったという形式でそれを織り込んだにすぎないと解する余地もある。また,仮に相続人であるCが債務の存在を認めて別件和解を通じてこれを履行することになったとしても,そのことから直ちに,本件相続開始日の時点で被相続人がその債務を履行することが確実であったと認めることはできない。そうすると,原告が主張するような別件和解及び本件遺産分割協議がされたとしても,そのことは上記の評価を左右するものではない。
カ 小括
以上によれば,原告主張の事情を踏まえたとしても,本件d社合意及びこれに基づく本件d社債務が現に存在し,かつ,その履行が確実であることを示すものということはできず,むしろ,原告主張の本件d社合意に係る契約書等が一切作成されていないこと,平成15年4月頃を含むd社の事業年度から第8期までの決算報告書には本件d社合意に係る費用が未収入金等として計上されていなかったこと等の事情に鑑みると,原告主張の本件d社合意及び本件d社債務が現に存在し,かつ,その履行が確実であると認めることはできない。
(3)  したがって,原告が主張する本件d社債務は,本件相続税の課税価格の計算上,これを債務控除すべきものと認めることはできない。
7  本件各処分の適法性及び納税義務
以上によれば,本件相続に関して,本件割引債券及び本件定額貯金は,被相続人の相続財産であると認められ(争点1,2),本件三田不動産は,土地については自用地として,建物については自用家屋としてそれぞれ評価するのが相当であり(争点3),原告が主張する本件F債務及び本件d社債務はいずれも,課税価格の計算上,これらを債務控除すべきであると認めることはできない(争点4,5)。
そうすると,上記第2の4(1)のとおり,本件相続税につき,課税価格は4048万1000円,納付すべき相続税額は749万7100円となり,また,同(2)のとおり,無申告加算税額は147万3000円となり,これらと同額の本件決定処分等は適法である。
8  結論
よって,原告の本件請求は理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担については行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
(裁判長裁判官 谷口豊 裁判官 平山馨 裁判官 馬場潤)

 

〈以下省略〉

 

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