判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(117)平成27年 2月25日 東京地裁 平24(ワ)30265号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(117)平成27年 2月25日 東京地裁 平24(ワ)30265号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成27年 2月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)30265号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2015WLJPCA02258013
要旨
◆原告が、被告会社と2回にわたり匿名組合契約を締結して出資した本件出資金が無価値となり、手数料を含めた損害を受けたとして、被告会社の業務執行社員であり、代表社員でもあった被告Y1及び被告Y2に対し、主位的に、本件出資金を運用に回さないことを知りながら受け入れたことが詐欺に当たるとして不法行為に基づき、予備的に、本件出資金が70%以下に毀損したにもかかわらず漫然と放置したことが任務懈怠に当たるとして業務執行社員の第三者責任に基づき、また、被告会社に対し、主位的に、会社代表者の第三者責任に基づき、予備的に、善管注意義務違反等の債務不履行又は本件各匿名組合契約上の元金償還義務に基づき、損害賠償を求めた事案において、原告主張の詐欺の事実は認められず、また、比較的短期間のうちに出資金が壊滅的に毀損した本件では、被告らに結果回避のための具体的注意義務違反ないし任務懈怠を認めることは困難というべきであるなどとして、被告らの各責任を否定し、各請求をいずれも棄却した事例
参照条文
会社法597条
会社法600条
民法415条
民法644条
民法671条
民法709条
裁判年月日 平成27年 2月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)30265号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2015WLJPCA02258013
東京都新宿区〈以下省略〉
原告 公益財団法人竜の子財団
同代表者代表理事 A
同訴訟代理人弁護士 水成直也
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
東京都中央区〈以下省略〉
被告 カヴァリエ・インベストメント・パートナーズ合同会社(以下「被告会社」という。)
同代表者清算人 Y2
被告ら訴訟代理人弁護士 豊田賢治
同 横井良
同 内藤悠作
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して6239万4000円及びうち5199万5000円に対する平成21年10月14日から,うち1039万9000円に対する同年12月18日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言。
第2 事案の概要
1 本件は,原告において,被告会社と2回にわたり匿名組合契約を締結して出資した合計6000万円の出資金(以下「本件出資金」という。)が無価値となり,手数料239万4000円を含めた損害を受けたとして,①被告会社の業務執行社員である被告Y1及び同Y2に対し,主位的に,本件出資金を運用に回さないことを知りながら受け入れたことが詐欺に当たるとして不法行為(民法709条)に基づき,予備的に,本件出資金が70%以下に毀損したにもかかわらず漫然と放置したことが任務懈怠に当たるとして業務執行社員の第三者責任(会社法597条)に基づき,また,②被告会社に対し,主位的に,被告会社の代表社員である被告Y1及び同Y2の上記不法行為が被告会社の業務につき行われたとして会社代表者の第三者責任(会社法600条)に基づき,予備的に,本件出資金につき善管注意義務をもって運用すべき義務に違反し,本件出資金の運用状況を正確に情報提供すべき義務を怠ったとして債務不履行(民法415条)に基づき,又は,上記各匿名組合契約上の元金償還義務に基づき,出資額及び手数料相当額の合計6239万4000円(ただし,各予備的請求に関しては,出資額の70%相当額)及びこれらに対する各出資をした日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(証拠等を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は,外国人留学生に対する奨学金の支給,奨学金の支給を受ける外国人留学生に対する生活指導及び助言等の事業を行う公益財団法人である。
イ 被告会社は,有価証券の取得,保有及び運用等を目的とする合同会社であるが,平成23年3月31日解散し,清算中である。(弁論の全趣旨)
被告Y1及び同Y2は,被告会社の業務執行社員であり,代表社員であった。
ウ ALBATROSS.INC(以下「アルバトロス」という。)は,デリバティブ取引等による資産運用を行うマレーシア法人であり,その代表者は相被告B(以下,単に「被告B」という。)である。(甲18,乙ロ11,被告B本人)
(2) 匿名組合契約の締結
ア 原告は,平成21年10月6日,被告会社との間で,以下の内容の匿名組合契約(以下「本件第1契約」という。)を締結した。
匿名組合の名称 ワールド・フューチャーズC号匿名組合
1口の金額 100万円
出資口数 50口
出資金合計 5000万円
申込手数料 1口3万9900円(消費税相当額込み)
50口合計199万5000円(同上)
イ 原告は,同月14日,被告会社に対し,本件第1契約に基づき,出資金及び申込手数料の合計5199万5000円を支払った。
ウ 原告は,同年12月18日,被告会社との間で,以下の内容の匿名組合契約(以下「本件第2契約」とい,本件第1契約と併せて「本件各契約」という。)を締結した。
匿名組合の名称 ワールド・フューチャーズC号匿名組合
1口の金額 100万円
出資口数 10口
出資金合計 1000万円
申込手数料 1口3万9900円(消費税相当額込み)
10口合計39万9000円(同上)
エ 原告は,同日,被告会社に対し,本件第2契約に基づき,出資金及び申込手数料の合計1039万9000円を支払った。
オ 本件各契約では,出資金をアルバトロスの発行する変動利付社債に投資することとされていた。また,運用状況の悪化等の理由により,出資総額の時価が契約締結時の70%以下に減少したとアルバトロスが判断した場合には,本件各契約が終了する旨の約定(以下「本件7割毀損条項」という。)があった。(甲1ないし3)
(3) 配当金の支払
原告は,平成21年12月15日から平成22年7月15日までの間に,被告会社から,本件出資金の元金に対する月2%の割合による配当金として,別紙1のとおり,合計850万円(以下「本件配当金」という。)を受領した。
(4) 運用の終了
ア 被告会社は,平成21年10月以降,毎月末頃に,アルバトロスから送付される運用報告書を原告に送付していたが,アルバトロスからの定期的な報告は,平成22年5月31日付けの運用報告書を最後に途絶えた。(甲4ないし13,被告Y1本人)
イ アルバトロスが行っていたデリバティブ等の金融取引は,同月頃,株価の大幅下落に伴い証拠金が不足して取引を継続することができなくなり,同社はこれらの金融取引を取りやめた。(被告B本人)
ウ 被告会社は,同年10月6日頃,原告に対し,アルバトロスが同年6月にマイナスリターンを計上したこと,同年8月にはアルバトロスから運用上の重大な損失計上の報告を受け,本件出資金の投資対象である変動利付社債の価値算定実施をアルバトロスに依頼したことなどを書面で報告した。また,同年10月26日頃,アルバトロスには2万5000USドル余の残余財産しかなく,本件各契約に係る匿名組合以外にも債務を負っているため,原告への分配額等は不明であることなどを報告した。(甲14,16)
エ アルバトロスは,同年10月27日頃,原告に対し,アルバトロスが発行した変動利付社債が減損し,原告の意向に沿って損失を補てんすることはできない旨を連絡した。(甲17)
3 争点
(1) 不法行為(民法709条)ないし会社代表者の第三者責任(会社法600条)に基づく請求について
ア 被告Y1及び同Y2は,本件出資金を運用に回さないことを知りながら原告からこれを受け入れたのか。(争点1・詐欺の成否)
イ 本件配当金を損害額から控除すべきか。(争点2・損益相殺)
(2) 業務執行社員の第三者責任(会社法597条)及び債務不履行(民法415条)に基づく請求について
ア 被告Y1及び同Y2につき,本件出資金が70%以下に毀損したにもかかわらず漫然と放置した任務懈怠が認められるか。また,被告会社は,本件出資金につき善管注意義務をもって運用すべき義務に違反し,又は,本件出資金の運用状況を原告に対し正確に情報提供すべき義務を怠ったといえるか。(争点3・運用についての注意義務ないし情報提供義務違反)
イ 上記アの任務懈怠ないし義務違反が認められる場合の損害賠償の範囲(争点4・損害)
(3) 出資金償還請求について
被告会社は原告に対し,本件出資金が70%以下に毀損した場合,本件各契約に基づき本件出資金元金の70%相当額につき償還義務を負うか(争点5・7割償還義務の有無)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(詐欺の成否)について
(原告の主張)
被告会社は,原告から交付された本件出資金を,投資に充てていない。仮に,被告会社が本件出資金をアルバトロスに預託していたとしても,アルバトロスは,本件出資金を投資に回すことはなかった。アルバトロスは,被告らのコントロールで動いており,被告会社と一体として活動していた。
被告Y1及び同Y2は,被告会社又はアルバトロスが本件出資金を運用に回さないことを知りながら,本件出資金を受け入れており,これが原告に対する詐欺に当たることは明らかである。
(被告らの主張)
被告会社は,本件出資金でアルバトロスの変動利付社債を購入し,もって投資を行っており,本件出資金は全て運用に回されている。よって,被告Y1及び同Y2が詐欺行為を行ったことはなく,送金処理は適切に行った。なお,被告会社がアルバトロスの事業活動をコントロールしたことはなく,一体として活動したことはない。
(2) 争点2(損益相殺)について
(被告らの主張)
本件配当金850万円については,損益相殺がされるべきである。
(原告の主張)
被告らは,詐取した本件出資金をあたかも投資に運用しているかのように装い,仮装配当金として本件配当金850万円を原告に交付したものであり,これによって原告が得た利益は不法原因給付によって生じたものというべきである。よって,本件損害賠償請求において本件配当金を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として控除することは許されない。
(3) 争点3(運用についての注意義務ないし情報提供義務違反)について
(原告の主張)
本件7割毀損条項は,仮に損失が発生したとしても,その損失につき30%を限度とすることにより,原告を保護することを目的とするものである。被告会社は,善管注意義務をもって本件出資金を運用しなければならないところ,この義務に違反して,本件出資金が70%以下に毀損したにもかかわらず,漫然と放置し,本件出資金を無価値にしたため,原告は,本件出資金の70%相当額について損害を被った。
また,被告会社は,匿名組合の営業者として,営業に当たり,善良なる管理者の注意を尽くす義務を負うのであり,原告に対し,本件出資金の運用状況について,正確な情報を提供する義務を負う。しかし,被告会社は,原告に対し,虚偽の運用状況を報告し,又は,アルバトロスの運用報告を漫然と信用し,アルバトロスの行為を放置した。
被告Y1及び同Y2は,アルバトロスの運用報告を漫然と原告に送付するだけであり,やはり業務執行社員の悪意又は重過失による任務懈怠行為が認められる。
(被告らの主張)
本件各契約は,本件出資金をアルバトロスの変動利付社債の購入に充て,利益の分配は当該社債の利息をもって行うことを目的とした契約である。この旨は契約書及び説明書面に明記され,原告に口頭でも説明され,同意を得ていた。要するに,本件各契約は,本件出資金の運用をアルバトロスに委ねようという事業であり,運用状況や利回りはアルバトロスからの報告や配当に依拠することが想定されていた。このような本件各契約のスキームから導かれる被告会社の義務としては,本件出資金をアルバトロスに適切に託し,アルバトロスから送金された利息を配当金として適切に投資家に分配し,アルバトロスから提供された情報を正確に投資家に伝えることである。これを超えて,アルバトロスの運用活動を監視し,具体的な運用状況について積極的に調査することを念頭に置いた義務を設定することは,被告会社がそれらを行う物的人的基盤を有しないこと,アルバトロスとの間の契約は社債引受契約であり,社債権者にそのような権限は認められていないこと,原告もそれを承知した上で本件各契約を締結したことから,現実性がなく不合理な議論である。
そして,本件各契約では,契約の終了はアルバトロスの判断に委ねられることとなっており,被告会社の責任において判断し,その判断に基づいて対応しなければならないという根拠はなく,被告会社にその権限もない。
被告会社は,アルバトロスからなされた報告内容をそのまま原告に報告しており,意図的に虚偽の報告をした事実はない。もっとも,アルバトロスでは,遅くとも平成22年5月時点で回復不可能な損失が生じ,運用の原資となる資金(証拠金)が消失した(マイナスになった)ようであるものの,同月以降同年8月まで被告Bがそれを意図的に秘匿していたのであり,アルバトロスないし被告Bから,被告Y1及び同Y2に対し,平成22年5月31日以降,具体的に本件出資金の投資先である変動利付社債にどの程度の毀損が生じたのか,残金がいくらかについて詳細な報告はなされなかった。同年10月下旬になってようやく簡単な報告がされたという状況である。そうである以上,被告会社から投資家らへの報告が同月まで遅れたことについて,被告会社に責任はない。
被告Y1及び同Y2としては,アルバトロスから詳細な報告を受けられなければ具体的な方針を立てることも困難であるため,原告のため,被告Bに再三詳細な報告を求めたが,被告Bの対応は上記のとおりであった。被告Y1及び同Y2は,任務を全うしたものであり,漫然と本件出資金の毀損を放置したことはない。
(4) 争点4(損害)について
(原告の主張)
原告は,被告会社から本件出資金の正確な運用状況を知らされていれば,本件各契約を中途解約していたところ,被告会社が虚偽の説明を行ったため,本件各契約を中途解約する機会を失い,本件出資金が毀損して損害を被った。
(被告らの主張)
平成22年5月までに生じたアルバトロスにおける大規模な損失は,相場の大きな変動によって極めて短期間に生じたものであり,仮に被告Bから適時の情報開示がなされたとしても,被告会社としては,ひいてはアルバトロス自身でさえ,損失回復ないし軽減を図ることは不可能であった。原告の損失は大幅な相場変動に由来するものであって,被告らの対応如何とは無関係である。
(5) 争点5(7割償還義務の有無)について
(原告の主張)
本件7割毀損条項では,本件出資金の価値が70%を下回った時点で本件各契約が終了し,投資元本及び利息を償還する旨定めているから,被告会社は,本件出資金が70%に毀損した場合には,本件各契約に基づき本件出資金の元金の70%部分について,償還義務を負う。
(被告会社の主張)
本件各契約において,70%を下回ったとアルバトロスが判断した時点での契約終了の定めはあるが,70%の償還義務を規定した条項は存在しない。そもそも,原告を含む投資家の出資金を元にアルバトロスの社債を引き受け,その利息を投資家に配当して分配するというスキームを採用している本件各契約において,被告会社が社債の払込金を用いずに独自に元本の一部保証をすることが不可能であることは明白であり,合理性もない。本件各契約において,元本保証の特約がされたことはなく,原告もそれを理解して本件各契約を締結した。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実,争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) アルバトロスの業務等
ア 被告Bは,山一証券株式会社が経営破綻する前,約20年間にわたり,同会社に勤務した経験があり,その期間を含め約21年間海外に居住していた。(乙ロ11,被告B本人)
イ アルバトロスは,マレーシア人オーナーが65%を,被告Bが35%を各出資した資産運用会社であり,マレーシア人オーナーが主に不動産投資をしていたが,平成19年又は平成20年頃以降,被告Bが代表者を務めるようになってからは,日経225オプション取引を中心に資産運用をしていた。この日経225オプション取引は,日経平均株価を原資産として,これを将来の特定日に特定の価格(権利行使価格)で買うことができる権利(コール・オプション)又は売ることができる権利(プット・オプション)を売買するといういわゆるデリバティブ取引であり,アルバトロスが行っていた日経225オプション取引の多くは,コール,プットともに売り方(売手側)の取引が中心であった。
アルバトロスは,マレーシアにあるフィリップ証券という証券会社及び日本のアーツ証券株式会社(以下「アーツ証券」という。)にそれぞれ口座を開設して上記オプション取引等を行っていた。
(乙ロ1ないし10,被告B本人)
ウ アルバトロスは,同社の資産を担保として同社が発行する変動利付社債の販売もしていた。アルバトロスの変動利付社債は,発行の時期により少なくとも7本発行されており,購入者の3割は原告を含む日本の個人又は法人であり,その余はマレーシアやシンガポールの個人又は法人であった。
アルバトロスは,オプション取引等に係る運用実績(損得の計算結果)を元に,上記変動利付社債の価値を算定して,同社債につき配当(利払い)を実施していたが,運用実績の報告(損得の計算)に際しては,フィリップ証券の口座で行っていたものについては,マレーシアにいる従業員が計算し,アーツ証券の口座で行っていたものについては,東京にいる従業員が計算し,最終的には両口座を併せた会社全体の運用実績を取りまとめていた。
(被告B本人)
(2) 本件第1契約と被告会社によるアルバトロスの変動利付社債の引受
ア 被告会社は,平成21年9月30日,アルバトロスとの間で,アルバトロスが発行する元本総額6500万円の変動利付社債引受契約を締結した。(乙イ1の1及び2,乙イ3の1及び2)
イ 同年10月6日,原告と被告会社との間で本件第1契約が締結され,原告は,同月14日,被告会社に対し,同契約に基づく出資金5000万円を支払った。(前記前提事実(2)ア,イ)
本件第1契約では,被告会社が,本件出資金をアルバトロスの発行する変動利付社債への投資に充て,同変動利付社債からの利息等が利益として計上され,被告会社の報酬等を控除して原告に損益の分配を行うものとされていた。(甲1,3)
ウ 被告会社は,同月16日,アルバトロスに対し,上記アの社債引受契約に基づく払込金の一部として5000万円を送金した。(乙イ5,被告Y2本人)
エ アルバトロスは,同月21日,アーツ証券の取引口座へ5000万円を入金した。(乙ロ1,11,被告B本人)
(3) 本件第2契約と被告会社によるアルバトロスの変動利付社債の引受
ア 平成21年12月18日,原告と被告会社との間で本件第2契約が締結され,原告は,同日,被告会社に対し,同契約に基づく出資金1000万円を支払った。(前記前提事実(2)ウ,エ)
本件第2契約においても,本件第1契約と同様,本件出資金をアルバトロスの発行する変動利付社債に投資するものとされていた。(甲2,3)
なお,アルバトロスの変動利付社債への投資のため被告会社との間で匿名組合契約を締結して出資した者は,原告のほかに15前後の個人又は法人がおり,総額5億円弱であった。(被告Y2本人)
イ 被告会社は,同月21日,アルバトロスに対し,1000万円を送金した。(乙イ6)
ウ 被告会社は,同月31日,アルバトロスとの間で,アルバトロスが発行する元本総額1000万円の変動利付社債引受契約を締結し,上記イの1000万円は,同変動利付社債の払込金に充当された。(乙イ2の1及び2,乙イ4の1及び2,被告Y2本人,被告B本人)
エ アルバトロスは,平成22年2月19日,アーツ証券の取引口座へ上記イの1000万円を含む3000万円を入金した。(乙ロ5,11)
(4) 日経平均株価の下落とアルバトロスによる金融取引の終了
ア 前記のとおり,アルバトロスが主として行っていた日経225オプション取引は,売手側の取引であり,オプションを売ることによりその対価(プレミアム)がアルバトロスに入るため,日経平均株価が一定の範囲内(プレミアムの範囲内)に収まっている限りにおいては,安定して利益を出すことができる。しかし,日経平均株価がプレミアムを超えて変動した場合には,買手側が権利行使をしたときに権利行使価格での売り又は買いに応じなければならないため,その損失は無限の可能性で拡大することとなる。このため,売手は取引をするに当たり,証拠金を払い込む必要がある。(被告B本人)
イ 平成21年10月以降,アルバトロスは,月6%台を中心とする高い運用成績を上げていた(ただし,この運用成績は,あくまでアルバトロスが被告会社を経由して原告に報告した運用報告書に記載された数値である。)。しかし,平成22年4月5日をピークに日経平均株価は下落傾向に入り,同年5月には,ギリシャの財政危機等のヨーロッパ情勢の影響等から日経平均株価がアルバトロスの想定を超えて下落した。この結果,アルバトロスが試みたヘッジングの取引も,取引自体が成立しないなどの理由により奏功せず,最終的には同月中に証拠金が枯渇し,1億円を超える損失を出してアルバトロスはオプション取引等を全て終了させた。(甲4ないし15,乙ロ11,被告B本人)
ウ アルバトロスは,毎月末にアルバトロスの月次の運用成績(パーセンテージ)と原告への配当金額を記載した運用報告書を作成し,翌月上旬までには,被告会社を経由して,原告に送付されていたところ,平成22年5月31日付けの運用報告書には,同月の運用成績が8.68%と引き続き高水準にあることが記載されていた。また,同運用報告書のコメント中には,ギリシャ危機について触れた部分や相場の変動可能性があることを指摘する記載が見られるものの,同月中にアルバトロスが損失を計上し運用を停止したことをうかがわせる記載は一切見られない。被告Bは当法廷において,運用成績として数字が出てくるのは2か月後となるので,運用報告書の数字には2か月のずれがあると説明している。(甲4ないし13,被告B本人)
アルバトロスは,上記の同年5月31日付け運用報告書を最後に,同年6月末以降,運用報告書を被告会社に送付せず,被告会社からアルバトロスに対し,なぜかという問い合わせはしていたが,アルバトロスからは少し待ってほしいという回答があったのみであった。(被告Y2本人)
エ 被告会社は,匿名組合員である原告に対し,別紙1のとおり,運用期間の2か月後の毎月15日付けで配当を実施しており,配当を実施する直前にはアルバトロスから配当金の原資(原告を含む匿名組合員への配当金相当額に被告会社の成功報酬を加えたもの)が送金されていた。
アルバトロスは,上記イのとおり平成22年5月中には運用を停止していたが,原告にはもちろん,被告会社にもその旨伝えることなく,同年6月中旬には同年4月分の運用に対する配当金の原資を,同年7月中旬には同年5月分の運用に対する配当金の原資を,それぞれ被告会社に送金し,被告会社は,原告に対し,別紙1のとおり,同年4月分の運用に対する配当を同年6月15日に,同年5月分の運用に対する配当を同年7月15日に,それぞれ実施した。
(被告Y2本人,被告B本人)
オ 被告会社は,平成22年5月頃の相場の変動情勢について認識しており,アルバトロスに対し,状況について問い合わせをしていたが,アルバトロスからは,相場情勢について共通認識を持ちながらも大丈夫である旨の回答をしており,同年7月頃まで,本件各契約の出資金が大幅に毀損したことは伝えなかった。しかし,同年8月15日に予定されていた配当の前後頃になり,アルバトロスは,被告会社に対し,配当ができないのみならず,ファンドが壊滅的な打撃を受け,アルバトロスが事業継続することは不可能な状態にあることを伝えた。(被告Y2本人,被告B本人)
カ 被告会社は,平成22年10月6日頃,原告に対し,書面(甲14)をもって,同年6月以降の経過を報告した。そこには,同年6月,アルバトロスが運用開始以来初のマイナスリターンを計上したこと,同年7月,更なるマイナスリターンが発生したこと,同年8月は無配当であり,第3週目に,アルバトロスから運用上の重大な損失計上の報告を受け,第4週目に,被告会社がアルバトロスに対し投資対象である変動利付社債の価値算定実施を依頼したことなどが記載されている(前記前提事実(4)ウ)。被告Bによれば,上記の報告内容のうちアルバトロスのマイナスリターンの計上については,被告Bが口頭で説明した内容を元に被告会社が書面にしたものであり,運用報告書と同様,2か月のずれがあるので,同年6月とあるのは同年4月のことを指していることになる。
被告会社は,同年10月26日頃,原告に対し,損失発生までの経過報告(甲15)とともに最終報告として書面(甲16)を送付した(前記前提事実(4)ウ)。このうち,損失発生までの経過については,アルバトロスから受けた報告として,相場は同年4月5日をピークに下げトレンドに入ったが,あくまで相場の調整と捉えて,ポジションが戻るトレンド観測を中心に運用戦略を展開していたところ,日経平均株価は同年5月上旬から同月20日まで瞬く間に下げ続きとなり,1500円安で反転するとの予想を裏切って,同年7月6日時点で2300円下落したこと,投資判断が逆目に出るようになってからは損切り(ロスカット)に終始し,予想を上回る損害が発生し,追証が続出したこと,現金ポジションのマイナス状況発生に伴い,ファンドの運用を全て停止したことが記載されている。
(甲14ないし16,被告B本人)
2 争点1(詐欺の成否)について
(1) 前記認定事実(2)及び(3)のとおり,本件出資金は,いずれもアルバトロスへ送金されて,アルバトロスの変動利付社債の払込金に充当されているものと認められ,アルバトロスはこれを,アルバトロスの行っていたデリバティブ取引の取引口座に入金してその原資にしていたものと認められる。したがって,原告主張の詐欺(欺罔行為)の事実はその前提を欠き,認められない。
(2) そうすると,原告の主位的請求(民法709条及び会社法600条に基づく損害賠償請求)は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
3 争点3(運用についての注意義務ないし情報提供義務違反)について
(1) 被告会社は匿名組合の営業者であり,匿名組合員たる原告との関係で善良な管理者の注意をもって営業を遂行しなければならないところ(民法671条,644条参照),本件各契約においては,本件出資金を運用することが被告会社の事業であるから,被告会社は,本件出資金を善良な管理者の注意をもって運用しなければならないこととなる。
もっとも,前記前提事実及び認定事実によれば,本件出資金は,アルバトロスの変動利付社債に投資することが本件各契約においてあらかじめ定められており,アルバトロスの変動利付社債は,アルバトロスの資産を担保とするものであって,具体的にはアルバトロスが行っていた日経225オプション取引等の損益に依存するものであった。そして,上記オプション取引等の損益は,アルバトロスがマレーシアにある証券口座と日本にある証券口座とで取引を行い,これらの損益を取りまとめて月次の運用利率を算出していたものであり,アルバトロスの社債権者たる被告会社において,アルバトロスが行っていた上記オプション取引等に直接関わることは予定されておらず,その損益をアルバトロスの報告なしに把握することは事の性質上極めて困難であるといえる。本件7割毀損条項が,7割毀損の判断をアルバトロスに委ねているのも,そのような理由によるものと解され,被告会社において,アルバトロスの上記オプション取引等の内容を常に監視するなどして本件出資金が70%以下に毀損したことを独自に判断しこれを原告に報告すべき義務があるとはいえない。原告は,被告会社とアルバトロスとの関連性を指摘するが,証拠(甲18ないし20)によっても,被告会社とアルバトロスは別法人であり,被告会社がアルバトロスの行うオプション取引等に関与し得たと認めることはできない。
(2) ただし,前記認定事実のとおり,アルバトロスが原告向けに作成して被告会社に送付していた月次の運用報告書は,平成22年5月31日付けのものを最後に送付されなくなった上,被告会社は,そのころにおける株価の変動等の相場情勢を認識していたのであるから,被告会社としては,遅くとも同年6月30日付け運用報告書が送付されるはずであった同年7月上旬までには,アルバトロスによる本件出資金の運用に何らかの問題が発生していることを認識し得たというべきである。しかし,被告会社は,そのころ以降,同年8月中旬にアルバトロスから本件出資金の毀損について報告を受けるまでの間,アルバトロスに対して問い合わせはしたものの,運用報告書が送付されない具体的事情を追及することなく,待ってほしい旨あるいは大丈夫である旨のアルバトロスの返答をそのまま鵜呑みにし,原告に対して,被告会社が把握していた相場情勢やアルバトロスに問い合わせた経過等を報告することもしていない。被告Bが出資金の毀損について被告会社にあえて秘匿していたという状況を踏まえても,日経平均株価の推移からすれば,同年3月までの運用実績と比較して,それ以降,少なくとも運用利率が下落傾向にあったであろうことは,被告会社が被告Bに詳細報告を求めることにより明らかにし得た可能性が高いというべきであり,そうであれば,原告に注意喚起程度であっても何らかの情報提供をし得たものと考えられるから,単にアルバトロスからの運用報告書を原告に送付するだけで,善良な管理者の注意を尽くしたということには疑問が残るところである。
しかし,前記認定事実によれば,アルバトロスは,平成22年5月の日経平均株価の下落により,出資金が70%を大きく下回りほぼゼロとなるまでに毀損して,回復困難な損失を被っており,被告会社において,同年6月末以降にそのような状況を把握し得たとしても,それにより出資者であり匿名組合員である原告の損失をそれ以上拡大させないための何らかの対応をとることは著しく困難であったものと解される。また,アルバトロスが行っていたオプション取引等の運用実績を取りまとめるのに一定の時間がかかることはやむを得ないものと考えられ,アルバトロスから2か月後に運用実績の報告がされていた実情に照らすと,定期の同年6月末に作成されるはずであった運用報告書の作成を待たずに,被告会社側で運用状況を把握し原告に報告することは,アルバトロスからの情報提供がない限りは困難であったと考えられる。
そうすると,比較的短期間のうちに出資金が壊滅的に毀損した本件では,被告会社並びにその業務執行社員である被告Y1及び同Y2に,出資金が70%以下に毀損するという結果回避のための具体的注意義務違反ないし任務懈怠を認めることは困難というべきである。
(3) アルバトロスが作成し,被告会社を経由して原告に送付されていた運用報告書(甲4ないし13)に記載された運用成績は,配当計算期間を平成22年5月1日から同月31日までとする同日付けのもの(甲13)においても,月8.68%という高い運用成績が記載されており,同月中には運用を停止していたという実態と齟齬しているように見える。
もっとも,前記のとおり,被告Bは,運用成績には2か月のずれがあると説明しており(被告B本人),そうであるとすると,平成22年5月31日付けの運用報告書は,同年3月における運用成績を記載したものということになる。この点,運用成績を算出するのに一定の時間がかかることはやむを得ないものと考えられるところ,上記運用報告書がほぼ日付どおりの時期に作成され,被告会社に送付されていたと認められること(被告Y2本人)や,運用成績の推移が2か月前のものであるとするならば,アルバトロスのアーツ証券における口座の証拠金残高の推移(別紙2)に照らしてオプション取引等の実態と大きく齟齬しないと考えられることからすると,被告Bの説明するとおり,2か月前の運用成績が記載されたものであると見てよいものと考えられる。そうであるとすると,平成22年5月31日付け運用報告書に高い運用成績が記載されているのは,時期のずれによるものであって,アルバトロスが意図的に虚偽の報告をしたものとは直ちにいえない。
ただし,同運用報告書の体裁上,これが2か月前の同年3月における運用成績を記載したものであるとは読み取れないから,かかる観点からすると,同年5月末時点においても運用が順調に行われているとの誤解を与えかねないものとなっている。被告会社がこのような運用報告書を特段の留保もなく原告に送付したことは,原告に対して結果的に不適切な情報を提供したことになるとも考えられるが,被告会社において,アルバトロスから,同年5月における運用成績(本件出資金の大幅な毀損)の報告を受けていない状況の中で,本件出資金が70%以下に毀損する前に適時の情報提供をすることは困難であったと考えられることは,上記(2)で検討したところと基本的に同様であるから,このような運用報告書を原告に送付したことをもって,情報提供義務違反の債務不履行を認めることはできない。
(4) 以上の次第で,被告Y1及び同Y2の任務懈怠及び被告会社の債務不履行を認めることはできず,その余の点について判断するまでもなく,原告の会社法597条又は民法415条に基づく損害賠償請求は理由がなく認められない。
4 争点5(7割償還義務の有無)について
本件7割毀損条項は,アルバトロスにおいて,出資金が70%以下に毀損したと判断した場合に,本件各契約が終了することを定めたものにすぎず,この条項から直ちに,被告会社に本件出資金の70%相当額の償還義務を認めることはできない。また,本件各契約では,本件各契約が本件7割毀損条項により終了した場合,営業者たる被告会社は,その終了日において残存する価額(為替換算後)で評価された出資金を原告に払い戻すものとされており,本件出資金(元本)の70%を償還するという内容にはなっていない(甲1,2)。被告会社が,本件各契約の締結に当たり,原告に交付した契約締結前交付書面にも,元本の保証がないことが明記されている(甲3)。
よって,本件出資金が70%以下に毀損した場合に,被告会社が原告に対し,本件各契約に基づき70%相当額の償還義務を負うものとは認められず,原告の本件各契約に基づく償還請求は認められない。
5 結論
以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとする。
(裁判官 浅岡千香子)
〈以下省略〉
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