判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(388)平成14年 2月12日 神戸地裁 平13(わ)90号 収賄被告事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(388)平成14年 2月12日 神戸地裁 平13(わ)90号 収賄被告事件
裁判年月日 平成14年 2月12日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 平13(わ)90号・平13(わ)185号・平13(わ)297号
事件名 収賄被告事件
裁判結果 有罪 文献番号 2002WLJPCA02129003
要旨
◆芦屋市助役であった被告人が、芦屋市議会議員2名から紹介されて懇意にしていた建設会社代表者3名から、前後3回にわたり、自己の職務又は職務密接関連行為に関して現金合計250万円の賄賂を収受したという収賄3件の事案について、被告人は、建設業者の弱みにつけ込むなどして、執拗に賄賂を要求し、提供された賄賂を平然と当然のごとく収受し、賄賂の趣旨に沿う工事の分割発注など種々の便宜供与を行っていることから、本件は、執拗、卑劣、大胆かつ悪質な犯行であるといわざるを得ないが、起訴に係る収賄金額の合計は著しく多額とまではいえないこと、被告人は、本件各犯行を謝罪し、反省の態度を示したこと、本件が広くマスコミに報道されるなどの相応の社会的制裁を受けたこと、前科前歴がないことなどを考慮して、懲役2年6月(執行猶予5年)を言い渡した事例
出典
裁判所ウェブサイト
参照条文
刑法197条1項前段
裁判年月日 平成14年 2月12日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 平13(わ)90号・平13(わ)185号・平13(わ)297号
事件名 収賄被告事件
裁判結果 有罪 文献番号 2002WLJPCA02129003
主文
被告人を懲役2年6月に処する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人から金250万円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,建設部に属する事務を分担する芦屋市助役として同市長を補佐し,同市が発注する公共工事に関し,同市建設部に属する工事の施工の監督又は検査,請負業者を介してする下請業者の監督,著しく不適当と認める下請業者の変更等の事務を統括掌理するとともに,建設工事等請負業者選定委員会(第1種委員会)の副委員長として競争入札に係る参加者の選定に関することを審議するなどの職務に従事していたものであるが,
第1 平成12年10月26日,兵庫県芦屋市Aa番b号所在のB店内において,造園土木の設計・施工等を目的とする株式会社Cの代表取締役であった分離前の共同被告人Xから,芦屋市発注の清水公園整備工事に関し,同工事を分割して発注することにより,前記Cの下請受注を実現可能なものとし,同工事の落札業者に前記Cを下請業者として推奨する等前記Cの下請受注のため有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら,現金100万円の供与を受け,もって,自己の職務に関し,賄賂を収受した
第2 同年11月20日ころ,神戸市D区Ec丁目d番e号所在のF地下駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,土木工事業等を目的とする株式会社Gの代表取締役である分離前の共同被告人Yから,芦屋市発注の阪神間都市計画事業芦屋西部第二地区震災復興土地区画整理事業第1工区整備工事に関し,前記Gが建設工事等請負業者選定委員会(第1種委員会)で入札参加業者として指名選定され,かつ,同工事の落札業者である株式会社Hに前記Gを下請業者として推奨する等前記Gの工事受注のため有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び将来も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら,現金50万円の供与を受け,もって,自己の職務に関し,賄賂を収受した
第3 同年12月13日ころ,兵庫県芦屋市If番g号所在のJマンション専用階段踊り場付近において,土木工事業,建築工事業の請負及び施工等を目的とするK株式会社の代表取締役であった分離前の共同被告人Zから,Lを介して,芦屋市発注の同市立岩園小学校校舎建替工事に伴う既設校舎解体工事に関し,同建替工事を落札したM特定建設工事共同企業体の代表者であるN株式会社に前記Jを同解体工事の下請業者として推奨する等前記Jの下請受注のため有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら,現金100万円の供与を受け,もって,自己の職務に関し,賄賂を収受した
ものである。
(証拠の標目)―括弧内は,証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
省略
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも刑法197条1項前段に該当するが,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,被告人が判示各犯行により収受した賄賂はいずれも没収することができないので,同法197条の5後段によりその価額合計金250万円を被告人から追徴することとする。
(量刑の理由)
第1 犯行に至る経緯等
1 判示第1,第2の各犯行について
被告人は,芦屋市議会議員O(以下「O議員」という。)から,平成11年10月ころ株式会社Gの代表取締役である分離前の共同被告人Yを,同年12月ころ株式会社Cの代表取締役であった分離前の共同被告人Xをそれぞれ紹介され,以来,O議員,Y及びXとしばしば行動を共にするようになり,Y及びXにおいて,被告人やO議員に対して,ゴルフ,飲食等の接待を繰り返す中で,自ら様々な接待等を要求するようになっていた。
芦屋市建設工事等請負業者選定委員会の副委員長の立場にもあった被告人は,遅くとも平成12年7月ころまでに,Yに対し,Gが芦屋市発注の阪神間都市計画事業芦屋西部第二地区震災復興土地区画整理事業第1工区整備工事(以下「第1工区整備工事」という。)の指名競争入札参加者に選定されるよう有利かつ便宜な取り計らいをしても良い旨ほのめかしたところ,Yからその旨依頼を受け,同月25日,部下職員らとの打ち合わせの際,同職員らに対し,第1工区整備工事の地元業者であるGを指名競争入札参加者に加えるよう指示し,同年8月31日に開催された建設工事等請負業者選定委員会(第1種委員会)においても,Gを指名競争入札参加者に加えるべきであるとの意見を述べる等し,同年9月ころ,建設工事等請負業者選定委員会(第1種委員会)において,Gが第1工区整備工事の指名競争入札参加者に選定されるに至った。
しかしながら,Yは,入札に際し,他の入札参加者と敵対するような断固たる行動をとれず談合に応じ,結局第1工区整備工事を落札できなかったため,被告人に対し,同工事に下請業者として参加したい旨口利きを依頼し,これを了承した被告人は,同月18日ないし20日ころ,落札業者を芦屋市助役室に呼び出し,暗にGを下請業者とするよう推奨し,Gが,落札業者から第1工区整備工事を下請受注するに至った。
他方,Xは,平成12年8月ころ,O議員からYとともに被告人をサイパン旅行に招待しないかと誘われ,これを断ったのであるが,その接待旅行後,Gが,前記のとおり,入札参加者に選定されたり,被告人の口利きにより落札業者から当該工事を下請受注することになったことを知り,被告人の権限や影響力の大きさを改めて認識し,Yに出遅れたという焦りの気持ちを有するようになった。
ところで,被告人は,同年9月ころから,Yに対し,前記取り計らいに対する謝礼(賄賂。以下同じ)を繰り返し要求したほか,同年10月中旬ころには,契約金額の二,三パーセントが相場である等として再三謝礼を要求し,結局,同年11月20日ころ,判示第2の犯行に及んだのであるが,同年10月上旬ころ,接待の席上,被告人において,Yに対し,前記取り計らいの謝礼をあからさまに要求するのを目にしたXは,被告人は謝礼を贈れば自分にも有利な取り計らいをしてくれると感得した。このような経過があったため,被告人から,Cが下請受注できるよう清水公園整備工事の分割発注も可能である等として有利かつ便宜な取り計らいをしても良いとほのめかされたXは,被告人に対しその旨依頼し,被告人もこれを承諾したのであるが,Xは,被告人から有利かつ便宜な取り計らいを受けるためには事前に賄賂を贈る必要があると考え,判示第1の犯行に及んだ。その後,被告人は,地元業者の参入を可能にするとの名目で清水公園整備工事を分割発注させるとともに,Xに対し,事前に分割後の清水公園整備工事の入札参加業者案等を開示するなどし,Cが,前記工事を落札した業者から下請受注するに至った後,Xに対し,その成功報酬を要求した。
2 判示第3の犯行について
分離前の共同被告人Zは,平成12年5月ころから,親交のあった芦屋市議会議員L(以下「L議員」という。)に対し,N株式会社を含む3社で構成される特定建設工事共同企業体において,芦屋市立岩園小学校建替工事を受注した暁には,Jをその解体工事の下請業者として使ってもらえるよう口利きを依頼し,L議員を介して被告人にも同様の口利きを再三にわたり依頼した。被告人は,同年6月上旬ころ,芦屋市助役室において,L議員からJが前記工事を下請受注できるよう口利きを依頼された際,L議員に対し,「下請に入ったら儲けの半分くらいをお礼としてくれるのか」等と述べ,下請受注に至った場合,Zに謝礼を支払う意思があるかを確認し,これを受けて,Zは,同月26日ころまでには,L議員に対し,同人や被告人に対する謝礼の支払方を約束し,次いで,L議員は,同月下旬ころ,同助役室において,被告人に対し,Jの下請受注の件で再度後押しを依頼するとともに,Zが謝礼の支払方を約束したことを伝えた。他方,NR支店長のP(以下「P支店長」という。)は,L議員から前記工事にJを下請けに使うよう依頼されていたのであるが,同月26日ころ,突然電話で呼び出され,芦屋市助役室において,被告人から,NとしてL議員の推薦に沿う取り計らいをするよう,暗にJを下請業者として使うよう指示された。
Zは,前記共同企業体が前記建替工事を落札後,P支店長らに対し,前記工事の下請受注に向けた営業活動を積極的に行い,同年9月ころには,前記解体工事の第1次下請業者との間で第2次下請受注に向け直接交渉を行っていたが,第1次下請業者の下請代金とZの希望する第2次下請代金とが同額であったため,L議員やP支店長に対し,Nの第1次下請業者の下請代金の引き上げを申し入れ,これを受けて,L議員は,同年10月上旬ころ被告人に対し,第1次下請代金の増額を口添えして欲しいと依頼したところ,被告人は,その場ではこれを拒否したものの,その後,P支店長を同助役室に呼び出して,同人に対し,暗に元請であるNにおいてJの希望に沿う対応をするように働きかけ,その結果,P支店長は,前記建替工事の工事事務所長に対し,第1次下請業者に対する下請代金額を引き上げるよう指示した。
以上の経過により,Jは,同年11月ころまでには,前記共同企業体の下請業者から前記解体工事を下請受注した。
Zは,同年12月上旬ころ,前記約束に従い,L議員及び被告人の前記口利き等に対する謝礼をそれぞれ100万円とすることを決め,同月5日ころ,L議員にその旨説明しその内諾を得るとともに,被告人の内諾を得ることを依頼し,同月5日ころ,L議員は,被告人に対し,その旨説明し,被告人はこれを了承した。Zは,同月13日,西宮市内のSにおいて,L議員に対し,同人及び被告人の前記口利き等に対する謝礼の趣旨及び将来も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨で二人分の現金合計200万円を交付し,被告人は,同日,L議員から,Zから託された現金100万円を前記趣旨で供与されるものであることを知りながら貰い受けて判示第3の犯行に及んだ。
3 弁護人は,判示各罪につき,被告人はいずれも賄賂を要求したものではないし,各賄賂収受によって有利かつ便宜な取り計らいをしたこともない旨主張し,被告人も,当公判廷において,これに沿うかのような供述をするが,関係証拠によれば,事実関係は判示「罪となるべき事実」記載の事実のほか,前記1,2記載のとおりであると認められるのであって,被告人自身捜査段階において自認しているように,被告人の建設部担当助役や建設工事等請負業者選定委員会副委員長としての公共工事に関する権限及び影響力は絶大であって,被告人の意向,言動が,芦屋市政に対してのみならず建設業者間において強い影響力を持っていたものであるところ,関係各証拠,とりわけ信用性の十分な贈賄者X,同Y及び同Z並びに本件各犯行に深く関わっているO議員及びL議員の捜査段階における各供述調書,Qの公判供述及び捜査段階における供述調書,Rの供述調書等に照らし,被告人の公判廷における供述は信用できず,弁護人の主張はいずれも理由がない。なお,弁護人が援用する芦屋市収賄容疑事件対策会議報告書の写し(弁護人請求証拠番号20)及び公文書部分開示決定通知書添付の前助役収賄事件調査特別委員会会議録(同24)は,いずれも前記認定事実を左右するものではない。
第2 特に考慮した事情
1 本件は,芦屋市助役であった被告人が,芦屋市議会議員2名から紹介されて懇意にしていた建設会社代表者3名から,前後3回にわたり,自己の職務又は職務密接関連行為に関して現金合計250万円の賄賂を収受したという収賄3件の事案である。
2 いずれの犯行においても,その犯行の動機に酌むべき事情はなく,被告人は,建設業者の弱みにつけ込むなどして,執拗に賄賂を要求し,提供された賄賂を平然と当然のごとく収受し,さらに,地元業者の育成という芦屋市当局の基本政策にかこつけるなどして,賄賂の趣旨に沿う工事の分割発注など種々の便宜供与を行っているのであって,それぞれその収賄額も決して少額とはいえないことを併せ考慮すると,本件は,執拗,卑劣,大胆かつ悪質な犯行といわざるを得ない。
3 被告人は,阪神淡路大震災により壊滅的被害を受けた芦屋市の復興の指導者たる役割を期待されて,平成10年7月,芦屋市の建設部担当助役に就任し,以後,市長を補佐するとともに,建設部に属する事務を掌理して同部職員に対する指導監督を行う地位にあり,その職務を公正かつ廉潔に遂行するだけでなく,同市職員の模範となるべき立場にありながら,芦屋市議会議員や建設業者らの度重なる接待により同人らとの癒着を深め,専ら私利私欲を図るため,影響力の大きい助役の立場を利用して種々の便宜供与を行ったばかりか,その対価として賄賂を収受したものであり,本件各犯行は,被告人の建設部担当助役としての公正な職務執行に対する芦屋市民の期待と信頼を裏切り,ひいては,行政に対する社会一般の期待と信頼を甚だしく損なわせたものであり,国家公務員倫理法の施行等により綱紀の粛正が叫ばれている公務員全体に対する国民の信頼を揺るがせた本件各犯行の結果は重大であって,被告人の刑事責任は厳しく指弾されなければならない。
4 被告人は,捜査段階において,当初賄賂の収受自体を否定するなど本件各犯行を否認していたが,当公判廷では,本件各犯行自体はこれを認め,一面では反省の弁を述べながら,他方で,前記のとおり,なお不自然不合理な弁解を繰り返しているところ,その態度は到底了解できるものではなく,被告人は真摯な反省の態度に欠けるといわざるを得ない。弁護人は,「被告人は,芦屋市議会議員に対する怒りを主たる動機として本件各犯行に及んだものであり,職務に対する自負心を失ったことはない。」旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするが,日常的に接待を受け,その中で賄賂を平然と収受していた被告人の態度からは,たとえ,弁護人がるる主張する被告人の職務上の貢献に見るべきものがあったとしても,職務行為の対価として現金や利益を受けて恥じるところがなかったという点において,被告人に公務員としての十分な自覚があったものとは到底認められず,公務員としての基本的資質を欠いていたと断じて差し支えない。
5 そうすると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ず,一般予防の見地から,被告人を実刑に処することも十分にありうる事案であるといわなければならない。
6 しかしながら,起訴に係る収賄金額の合計は著しく多額とまではいえないこと,本件各犯行に深く関わった芦屋市議会議員2名がいずれも不起訴処分を受けるに止まっていることのほか,本件の発覚により芦屋市助役を解職されて国家公務員職も辞職したこと,相当期間の身柄拘束を受け,本件が広くマスコミに報道される等の相応の社会的制裁を受けたこと,昭和57年の建設省入省以来,被告人なりに国家公務員等としてその職責を全うし,相応の業績を残していること,前科前歴がないこと,養うべき妻子がいること,恩師や妻が公判廷において今後の指導監督を誓約していること,収受した賄賂の額に比べて僅少といわざるを得ないが,財団法人法律扶助協会に30万円の贖罪寄付をしたこと,知的障害者授産施設においてボランティア活動に参加し,自らの傲慢な心を見つめ直す機会を得た旨述べていること,被告人が,当公判廷において,本件各犯行を謝罪し,反省の態度を示したことなどの被告人のために酌むべき事情も認められる。
7 以上の諸事情を総合考慮すると,犯情甚だ悪質ではあるけれども,直ちに被告人を実刑に処するのは躊躇せざるを得ないから,被告人に対し,主文掲記の刑を科し,法律上可能な最長期間,その刑の執行を猶予することとした。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉森研二 裁判官 溝國禎久 裁判官 林史高)
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