判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(172)平成25年 4月26日 東京地裁 平23(ワ)21512号 報酬金支払請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(172)平成25年 4月26日 東京地裁 平23(ワ)21512号 報酬金支払請求事件
裁判年月日 平成25年 4月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)21512号
事件名 報酬金支払請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2013WLJPCA04268003
要旨
◆被告との間で不動産売買の仲介等に関する業務提携契約を締結した原告が、不動産情報の提供や仲介支援業務を行ったなどと主張して、被告に対し、本件契約及び商法512条に基づき、相当額の報酬の支払を求めた事案において、原告と被告との間では、本件契約の締結に際し、原告の情報提供に基づき売買契約が成立した場合に限り、原告の関与の度合いに応じて成功報酬を支払う旨の合意が成立していたと認められるところ、原告が本件契約に基づき行った業務のうちで成約に至った不動産売買契約は、原告からの情報提供等を契機とするものではなく、また、原告の働きかけや提案が成約に寄与したものでもないから、原告に支払われるべき報酬は存在しないとして、請求を棄却した事例
参照条文
商法512条
裁判年月日 平成25年 4月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)21512号
事件名 報酬金支払請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2013WLJPCA04268003
東京都大田区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 小笠原耕司
同 伊東孝
同 白木孝二郎
東京都中野区〈以下省略〉
被告 株式会社新東京信菱
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 平野耕司
同 山崎哲
同 渡邊清朗
同 遠藤美紀
同 楠純一
同 髙橋雅喜
同 田畑哲
同訴訟復代理人弁護士 古川亮
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成23年3月2日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告との間で不動産売買の仲介等に関する業務提携契約(以下「本件契約」という。)を締結し,本件契約に基づき,不動産情報の提供や仲介支援業務を行ったが,本件契約には,報酬支払合意はあるものの,報酬算定基準に関する具体的な合意がないと主張して,被告に対し,本件契約及び商法512条に基づき,相当額の報酬2000万円及びこれに対する履行請求日の翌日である平成23年3月2日から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお,以下,書証については特記するものを除き,枝番を含むものとする。)
(1) 当事者等
ア 被告は,不動産売買の仲介等を目的とする株式会社である。
イ B(以下「B」という。)は,被告の取締役である。
ウ C(以下「C」という)は,不動産売買の仲介等を目的とする株式会社タワーマネジメントの代表者である。
(2) 原告と被告は,平成22年1月14日,「業務提携に関する覚書」(以下「本件覚書」という。)に調印して,本件契約を締結した。本件覚書には,下記の記載がある(甲1)。
記
第1条(目的)
甲(被告)と乙(原告)は,不動産の流動化,土地・建物の有効利用に関する企画,調査,設計業務,その他これに付帯する業務(以下「本件業務」という)において,お互いの強みを生かす分野での業務提携を行う。
第2条(期間)
本覚書の有効期間は,平成22年1月5日から平成22年12月31日までとする。
2 (略)
第3条(報酬)
本覚書に基づく報酬はその業務への関与比率に応じ別途定めるものとする。
2 (略)
(3) 被告は,平成22年12月頃までに,アクティブ・インベストメント・エイト(以下「アクティブ」という。)とヒューリック株式会社(以下「ヒューリック」という。)との間における東京都品川区東大井〈以下省略〉所在の土地及び建物の所有権共有持分並びに同区東大井〈以下省略〉所在の土地及び建物(以下,これらの不動産を併せて「大井町不動産」という。)の売買契約(以下「大井町契約」という。)の仲介業務を行い,仲介報酬を得た(甲13の2,弁論の全趣旨)。
(4) 原告は,平成23年3月1日,被告に対し,本件契約に基づく報酬の一部として2000万円を請求した。
2 争点
本件の争点は,以下のとおりである。
(1) 本件契約に基づく原告の報酬について,原被告間にどのような内容の合意があったか
(2) 被告が原告に対して支払うべき報酬額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件契約に基づく原告の報酬について,原被告間にどのような内容の合意があったか)について
(原告の主張)
本件覚書は,原告の報酬について「本覚書に基づく報酬はその業務への関与比率に応じ別途定める」と定めるのみであり,その算定基準に関する具体的な合意は存在しないところ,原告は自己の名をもって建設・不動産コンサルタント業を営む商人であり,その営業の範囲内において被告のために業務を行ったのであるから,原告は,被告に対し,本件契約及び商法512条に基づき,仲介業務が成功したか否かにかかわらず,相当額の報酬を請求することができる。
なお,原告の報酬につき,Bから成功報酬とするとの提案があったが,原告は,これに同意せず,継続協議を申し入れたまま,本件契約を締結した。したがって,原告と被告との間に,本件契約に基づく原告の報酬を成功報酬とする旨の合意は存在せず,また,原告が提供する情報に関し,売主からの直接の情報であり,かつ,未だ不動産業界に出回っていない情報に限定して成功報酬の対象とする旨の合意も存在しない。
(被告の主張)
原告と被告は,本件契約の締結に際し,原告の情報提供に基づき不動産売買契約が成立した場合に限り,原告の関与の度合いに応じて成功報酬を支払う旨を合意した。加えて,原告と被告は,原告の成功報酬の対象となる情報提供について,売主からの直接の情報であり,かつ,未だ不動産業界に出回っていない情報である場合に限る旨の合意をした。
なお,原告は,被告が営む宅地建物取引業の補助的な仕事をしていたにすぎないから,自己の名をもって商行為をすることを業としていたものではない。
したがって,本件契約に関して,商法512条の適用はなく,本件契約に基づく原告の報酬は,以上の合意に基づき算定されるべきものである。
(2) 争点(2)(被告が原告に対して支払うべき報酬額)について
(原告の主張)
原告が本件契約に基づき行った以下の業務からすれば,その報酬額は2000万円を下らない。
ア 成功報酬について
原告は,次のとおり,大井町契約の成約に大きく寄与し,被告は多額の報酬を得ている。
(ア) 原告は,被告に対し,平成22年1月12日に最初に大井町不動産の情報を提供したのであり,大井町契約はまさに原告の情報提供を契機として成約したのであるから,大井町契約の成約について原告の寄与するところは大きい。Cや株式会社オカヨシコーポレーション(以下「オカヨシコーポレーション」という。)のD(以下「D」という。)が,原告より先に大井町不動産の情報を提供したという事実は存在しない。
(イ) アクティブから大井町不動産の処分に関する包括的な代理権を授与されていたクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド・アセットマネジメント株式会社(以下「クッシュマン」という。)が,平成22年8月頃,Cに対し,大井町不動産の買主候補を探すよう依頼(以下「本件依頼」という。)をしたのは,原告が従前Cを通じてクッシュマンへの積極的な働きかけを行っていたことを契機とする。
また,被告がヒューリックに大井町不動産を提案したのは,原告が再三そのように提案していたことを契機とする。
さらに,ヒューリックが大井町不動産の取得について具体的な検討を始めたのは,原告がヒューリックが株式を保有するサンアローズ・インベストメント株式会社(以下「サンアローズ」という。)に対し,大井町不動産の取得を提案したことを契機とする。
以上からすれば,大井町契約の成約について原告の寄与するところは大きい。
(ウ) 大井町不動産の売買価格は約140億円であり,被告は8億円にものぼる仲介手数料を取得している。
イ その余の報酬について
原告は,大井町契約に関する業務の他にも,不動産売買契約の成立には至らなかったものの,①被告に対し,不動産の購入希望情報や売却希望情報を提供する,②特定不動産の買主候補ないし売主候補について,条件検討のために必要となる資料の請求や打合せを行うなどして,被告の仲介業務を支援する,③被告から提供された不動産の購入希望情報や売却希望情報について複数の売主候補ないし買主候補を紹介するなどの業務を行っており,その業務量は,業務件数として合計131件(①について59件,②について25件,③について47件)を,紹介不動産件数としては合計205件をそれぞれ下回らないから,これらの業務についても相当な報酬が支払われるべきである。
(被告の主張)
以下のとおり,原告が行った業務について,報酬が発生する理由はない。
ア 成功報酬について
(ア) 大井町不動産に関する情報は,平成21年6月の時点でCから被告に提供されていた上,平成22年1月6日にもDから同様の情報が提供されており,いずれにせよ原告からの情報提供が最初ではないから,大井町契約は原告からの情報提供を契機として成約したものではなく,その成約について原告の寄与するところは存在しない。
(イ) 大井町契約は,平成22年8月頃に,クッシュマンからCに対し本件依頼があり,これに基づきBとCとが協力して買主を確保し,交渉を行い,最終的に成約するに至ったものであるところ,Cに対して本件依頼があったのは,原告の活動とは全く関係なく,Cがクッシュマンと従前から信頼関係を築いていたことによるものである。
また,ヒューリックが大井町不動産の買主となったのは,Bが大成建設株式会社に勤務していた当時の部下がヒューリックの役員であり,大井町契約の締結以前にも4ないし5件の仲介業務を行った実績があったところに,Bが働きかけをしたことで実現したものである。
さらに,原告がサンアローズを通じてヒューリックに大井町不動産を提案したという事実はない。
(ウ) 以上のとおり,原告の情報提供と大井町契約の成約との間には何ら因果関係がなく,他に成約に寄与するような原告の行為も存在しない。
なお,被告が大井町契約の成約により得た手数料は,8億円をはるかに下回る。
イ その余の報酬について
前記(1)(被告の主張)のとおり,原告と被告との間の報酬に関する合意は,原告の情報提供に基づき不動産売買契約が成立した場合に限り成功報酬を支払うというものであるから,その余の報酬が発生する余地はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件契約に基づく原告の報酬について,原被告間にどのような内容の合意があったか)について
(1) 前記前提事実,証拠(甲30[ただし,後記不採用部分を除く。],乙2,3,4,9ないし12,証人C,同B,原告本人[ただし,後記不採用部分を除く。])及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,平成21年12月10日,Bに対し,被告の名刺を使用して不動産仲介業務の補助業務を行いたい旨を申し入れたこと,②Bは,平成22年1月6日,原告に対し,原告が被告の名刺を使用して被告の不動産仲介業務の補助業務を行うことについて,B以外の取締役の了解が得られたこと,原告が行う業務に対する報酬については,原告の情報に基づき被告の仲介により売買契約が成立した場合に支払われる成功報酬であることを告げたところ,原告はこれに同意したこと,③これを受けて,原告は,同日午後10時57分頃,Bに対し,有効期間及び締結日が空欄となっているほかは本件覚書と同一内容の本件覚書の原案の電子データを電子メールに添付して送信し,これを検討したBが,同月7日午前8時20分頃,原告に対し,「基本的にOKとおもいます」と返信したこと,④原告とBは,同月8日,被告の事務所で面談し,本件覚書の内容を確認したこと,⑤その際,Bは,原告の報酬について,再度,上記のような報酬であることを告げたところ,原告はこれに同意したこと,⑥原告と被告は,同月14日,本件覚書に調印したこと,⑦本件覚書には,原告の報酬につき,「その業務への関与比率に応じ別途定めるものとする。」との記載があること,⑧原告が同月25日にBに対して交付した「業務提携に関する覚書に基づく報酬について(案)」と題する書面には,「(本件)覚書に基づく報酬については下記の通りとします。」との書き出しによる始まり,成功報酬に関する記載はあるが,成功報酬以外の報酬については何ら記載がないこと,⑨原告が,被告に対し,大井町契約の成立を知った後である同年12月まで何ら報酬を請求しなかった上,同月に報酬を請求した際も,大井町契約に関する報酬しか請求しなかったことが認められ,これらの事実によれば,原告と被告は,本件契約の締結に際し,原告の情報提供に基づき売買契約が成立した場合に限り,原告の関与の度合いに応じて成功報酬を支払う旨を合意したものと認められる。
これに対し,原告は,Bからの成功報酬の提案に同意せず,継続協議を申し入れたまま,本件契約を締結したと主張する。しかしながら,本件契約に基づく原告の報酬が成功報酬か否かという本件契約の重要部分について協議が調っていないにもかかわらず,被告が原告との間で本件契約を締結したとはにわかに考え難いこと,不動産の仲介業務に関する報酬は一般的に成功報酬であること,本件覚書の「その業務への関与比率に応じ」という表現は,成功報酬を前提としているとみるのが自然であること,上記認定事実のとおり,原告が同年1月25日にBに対して交付した書面には,成功報酬以外の報酬については何ら記載がないこと,原告が,被告に対し,大井町契約の成立を知った後である同年12月まで何ら報酬を請求しなかった上,同月に報酬を請求した際も,大井町契約に関する報酬しか請求しなかったことからすると,原告の上記主張及びこれに沿う陳述(甲30,原告本人)はたやすく採用することはできない。
(2) 他方で,原被告間に,原告の成功報酬の対象となる情報提供について,売主からの直接の情報に限る旨の合意があったものと認めるに足りる証拠はない。
かえって,証拠(甲11,12,29,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告の提供したaビル及びbビルに関する情報について,それが売主からの直接の情報ではないにもかかわらず,仮にこれらのビルの売買契約が成約していれば,原告に対して本件契約に基づく報酬支払義務が発生したと認識していることが認められることからすれば,原告と被告との間には,そのような合意はなかったものと認められる。
(3) また,原告と被告が,原告の成功報酬の対象となる情報提供について,未だ不動産業界に出回っていない情報である場合に限る旨を合意したものと認めるに足りる的確な証拠もない。
ただし,前記のとおり,原被告間において,本件契約に基づく原告の報酬について,成功報酬とする旨を合意し,その報酬額について,「業務への関与比率に応じ」るものとされていることに照らせば,何ら新規性のない情報提供等の売買契約の成約に寄与しない原告の活動については,成功報酬の対象とならないものと解するのが原告と被告の合理的意思に合致するというべきである。
2 争点(2)(被告が原告に対して支払うべき報酬額)について
上記のとおり,原被告間においては,本件契約の締結に際し,原告の情報提供に基づき不動産売買契約が成立した場合に,原告の関与の度合いに応じて成功報酬を支払う旨の合意があったところ,原告が本件契約に基づき行った業務のうち,成約に至ったものが大井町契約のみであることは当事者間に争いがないから,以下,大井町契約の成約について,本件契約に基づき原告に支払われるべき報酬額について検討する。
(1)ア 原告は,被告に対し,平成22年1月12日に最初に大井町不動産の情報を提供したのであり,大井町契約はまさに原告の情報提供を契機として成約したから,原告の寄与するところは大である旨主張する。
イ そこで,検討するに,証拠(甲13,14,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成22年1月12日午前10時25分頃,B及びCに対し,「大井町再開発ビルの内,売買対象土地建物概要」と題する書面の電子データ,大井町不動産の写真とその所在地図の電子データ,「品川区cビル1号棟権利者一覧表」と題する書面の電子データ及び「大井町再開発ビル テナント明細(2009年10月1日~賃料改訂後)」と題する書面の電子データを,「中央不動産の前に2社いるルートの情報ですのでご参考です。」などと記載した電子メールに添付して送信し,これを確認したCが,平成22年1月14日午後5時43分頃,原告及びBに対し,「本件,クッシュマンAM(旧PMCのAM会社)から直接,聞きました。非常に中のいい人間からなので,取得希望者が見つかれば,いつでも話できます。」と返信したことが認められる。
そして,Cの電子メールにおけるクッシュマンから「直接,聞きました」という表現からは,原告から情報の提供を受けて,C自身が直接クッシュマンに対し大井町不動産の情報を確認したものと推認することができるから,原告が同月12日に被告に対し提供した大井町不動産に関する情報には,新規性があったものと認めるのが相当である。
ウ この点について,被告は,大井町不動産に関する情報は,平成21年6月の時点で既にCから提供されていたと主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はない上,仮に,そのような事実があったとしても,その時点における大井町不動産の売却状況が平成22年1月12日まで継続していたものと認めるに足りる証拠はないから,いずれにせよ被告の上記主張は採用することができない。
また,被告は,大井町不動産に関する情報は,同月6日の時点で既にDから提供されていたとも主張するが,被告がその証拠として提出する同日付けのメモ書き(乙7の1)の作成時期及び記載内容を直ちに信用することはできず,D作成の確認書(乙8)には,「別紙大井町再開発ビルの物件情報は,平成22年1月6日午後,私が,貴社を訪問し,貴殿に交付したものに間違いありません。」と記載があり,当時Dが提供したとされる大井町不動産の情報が記載された書面及び所在地図が添付されているものの,同確認書はDからの情報提供があったとされる日から2年以上後の平成24年5月9日に作成されたものであり,同日の時点で,Dに,被告に対する情報提供をした正確な日付の記憶が残っているかには疑問があること,上記添付書面及び所在地図には情報提供があった時期がいつであったかをうかがわせる記載は一切存在しないことからすれば,同確認書の記載をもって,Dが平成22年1月6日に被告に対し大井町不動産の情報を提供したとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,被告の主張は採用できない。
エ しかしながら,証拠(乙9,10,証人C,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,①Cは,平成22年5月ないし6月頃,旧知の間柄であるクッシュマンに大井町不動産の現状について確認したが,クッシュマンからは,既に入札開始直前であり,今から新しい買主候補を検討しても間に合わないとの回答があったこと,②クッシュマンは,同年8月頃,Cに対し,上記の入札により決定した優先交渉権者との交渉が決裂したため,本件依頼をしたこと,③Cは,これを受けて,Bとともに大井町不動産をヒューリックに提案し,アクティブとヒューリックとの間で,同年12月頃までに被告の仲介のもと大井町契約が成約するに至ったことが認められる。これらの事実によれば,大井町不動産については,同年5月ないし6月頃の時点で,原告の同年1月12日の情報提供に基づく被告の仲介により売買契約が成立する可能性は事実上なくなっており,大井町契約が成約したのは,入札により決定した優先交渉権者との交渉が決裂した後,クッシュマンから旧知の間柄であるCに対して本件依頼があったことによるものであるから,大井町契約が原告の同日の情報提供を契機として成約したものであるとは認められない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(2)ア また,原告は,大井町契約は,原告のクッシュマン,被告及びヒューリックへの直接又は間接の働きかけや提案を契機として成約したものであるから,原告の寄与するところは大である旨主張する。
イ そこで検討するに,上記(1)で認定した事実,証拠(甲13,14,30,乙10,証人C,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,Cは,平成22年1月12日の原告からの大井町不動産に関する情報提供を受けて,同月14日までにクッシュマンに大井町不動産について確認し,また,同年4月23日午前10時55分頃には,原告から,クッシュマンに大井町不動産のテナントであるヤマダ電機の定期借家契約の内容を確認してほしい旨記載された電子メールを受信して,同月28日にクッシュマンにその点について確認し,さらに,同年5月から6月頃には,原告から,買主候補者がいるのでクッシュマンに確認してほしいと頼まれ,クッシュマンに連絡をしたところ,クッシュマンからは,既に入札開始直前であり,今から新しい買主候補を検討しても間に合わないとの回答があったことが認められ,Cがクッシュマンに対し一定の働きかけを行っていたとはいえる。
しかしながら,上記のCの働きかけは,その内容,頻度や時期に鑑みれば,いずれも,それらを契機として,クッシュマンと具体的な買主候補との間で大井町不動産の売買契約が成約する蓋然性があったと認められるようなものではなく,当時大井町不動産の売却を検討していたクッシュマンにとって,他の不動産仲介業者等からもあったであろう働きかけに比して特段有益なものであったとはうかがわれないから,クッシュマンが,これらの働きかけを契機として,Cに対し本件依頼をすることにしたとは認め難く,かえって,証拠(甲14の1,4,乙10,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,Cは,従前より,クッシュマンから,不動産情報の提供を受けるなどして親しい関係にあり,平成22年当時も大井町不動産の情報を直接確認できる立場にあったことが認められ,このことからすれば,クッシュマンがCに対して本件依頼をしたのは,クッシュマンとCとの従前からの親しい関係によるものである可能性が高い。
ウ また,原告は,被告がヒューリックに大井町不動産を紹介したのは,原告が再三そのように提案していたことを契機とする旨主張する。しかしながら,原告が平成22年4月23日から同年5月11日にかけてCに対し送信した電子メール(甲14の2,3,5,6)には,買主候補としてヒューリックの記載はなく,他に原告が被告に対し大井町不動産の買主候補としてヒューリックを提案したことを認めるに足りる証拠はない。
エ さらに,原告は,ヒューリックが大井町不動産の取得について具体的な検討を始めたのは,原告がヒューリックが株式を保有するサンアローズに対し,大井町不動産の取得を提案したことを契機とする旨主張するが,そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
オ 以上によれば,大井町契約が,原告のクッシュマン,被告及びヒューリックへの直接又は間接の働きかけや提案を契機として成約したものであるとは認められず,それらの行為がその成約に寄与したものとも認められない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(3) 以上判示したとおり,大井町契約は,原告の平成22年1月12日の情報提供を契機として成約したものであるとも,原告のクッシュマン,被告及びヒューリックへの直接又は間接の働きかけや提案を契機として成約したものであるとも認められず,また,上記の働きかけや提案がその成約に寄与したものとも認められない上,本件全証拠を検討しても,他に大井町契約の成約に原告が寄与したものと認めるに足りる証拠はないから,本件契約に基づき原告に支払われるべき報酬は存在しない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 増田稔 裁判官 堀田匡 裁判官 粟津侑)
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