判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(225)平成23年 8月 5日 東京地裁 平22(ワ)20886号 債務不存在確認請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(225)平成23年 8月 5日 東京地裁 平22(ワ)20886号 債務不存在確認請求事件
裁判年月日 平成23年 8月 5日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)20886号
事件名 債務不存在確認請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2011WLJPCA08058004
要旨
◆証券会社である原告が、保険代理店業を営む被告に対して、資金調達に係る証券化商品のアレンジメント業務を受託するアレンジメント契約に基づき被告から受領した基本報酬及び成功報酬等につき、被告への不当利得返還債務が存在しないことの確認を求めた事案において、原告が受領した金銭は被告と他社との金銭消費貸借契約締結を媒介した手数料であって、平成18年法律第115号による改正前の出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律に定める制限利率を超える違法なものであるなどとして不当利得返還債務があると被告は主張したが、原告が受領したのは上記アレンジメント業務に関する専門的な業務を総合的に受託した対価であるとし、本件各契約に基づく報酬等の合意及び受領が公序良俗に反して無効であるとはいえないなどとして、原告の不当利得返還債務不存在確認の請求は理由があるとし、請求を認容した事例
参照条文
民法90条
民法703条
民法704条
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律4条(平18法115改正前)
貸金業法12条の6
金融商品取引法15条1項
裁判年月日 平成23年 8月 5日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)20886号
事件名 債務不存在確認請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2011WLJPCA08058004
東京都中央区〈以下省略〉
原告 ばんせい証券株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 鈴木信一
同 松冨しほ里
同 出田浩一
同 松尾政治
東京都中央区〈以下省略〉
被告 株式会社ニュートラル
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 中村信雄
同 久保潤弥
同訴訟復代理人弁護士 鈴木友美
主文
1 原告と被告との間において,原被告間の平成20年11月11日付けアレンジメント契約に基づき原告が被告から受領した基本報酬及び成功報酬合計5474万9996円,原被告間の平成21年4月2日付けアレンジメント契約に基づき原告が被告から受領した基本報酬及び成功報酬合計4200万円及び原被告間の同年5月19日付けアレンジメント契約に基づき原告が被告から受領したアレンジメント報酬及び私募取扱手数料合計2572万5000円に関し,原告の被告に対する各不当利得返還債務が存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文1項と同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が,資金調達に係る証券化商品のアレンジメント業務を受託するアレンジメント契約3件に基づき被告から受領した基本報酬及び成功報酬又はアレンジメント報酬及び私募取扱手数料(以下「報酬等」という。)に関し,被告に対する各不当利得返還債務が存在しないことの確認を求めた事案である。
1 争いのない事実等(認定した事実は,末尾に証拠等を示す。)
(1) 当事者等
ア 原告(平成20年12月1日から平成23年5月16日までの商号は,ばんせい山丸証券株式会社)は,内閣総理大臣の登録を受けて,有価証券の募集又は私募の取扱いを含む金融商品取引業,金融商品取引法第35条第1項に規定する付随業務等を行う金融商品取引業者である。
イ 被告は,保険代理店業を行っていた株式会社である。
ウ 合同会社エヌティーエル(以下「エヌティーエル」という。)は,平成19年9月13日に設立され,金銭の貸付事業及び当該事業に附帯する事業を行う資本金10万円の合同会社である(甲1の3)。
NTLファイナンス合同会社(以下「NTL」という。)は,平成21年3月27日に設立され,金銭の貸付事業及び当該事業に附帯する事業を行う資本金50万円の合同会社である(甲2の3)。
NTLファイナンス2合同会社(以下「NTL2」といい,エヌティーエル及びNTLと併せて「本件各合同会社」という。)は,平成21年5月11日に設立され,金銭の貸付事業及び当該事業に附帯する事業を行う資本金20万円の合同会社である(甲3の3)。
本件各合同会社は,いずれも,社債発行により調達した資金を被告に貸し付ける事業及びその附帯事業のみを行うことを目的として設立されたいわゆるSPC(特別目的会社)である(甲1の3,2の3,3の3)。
(2) 原被告間のアレンジメント契約の締結及び報酬の支払
ア 原被告間の平成20年11月11日付けアレンジメント契約
(ア) 原告は,平成20年11月11日,被告及びエヌティーエルとの間で,要旨次の内容のアレンジメント契約を締結した(以下「本件第一契約」という。)。
a 契約の目的(第1条)
被告は,原告に対し,資金調達に係る証券化商品のアレンジメント業務に関するアレンジャーとしての専門的な業務(以下「本件第一業務」という。)を委託する。
本件第一業務に付随する業務として,エヌティーエルは被告の資金調達のために私募社債発行により投資家から資金を調達し,原告はエヌティーエルの資金調達のため,別途締結する私募社債取扱契約により当該私募社債の私募取扱い(社債の取得勧誘及び取得申込みの受付。以下同じ。)をエヌティーエルから受託する。
b アレンジメント報酬(第4条)
原告が本件第一業務を実施する場合,①本件第一契約期間中(平成20年11月11日から同年12月1日まで)の資金調達予定額7億5000万円については750万円(資金調達予定額の1パーセント。消費税込み)を基本報酬とし,②原告が私募にて取り扱う社債発行額を資金調達実行額として,同社債発行総額の6パーセント(消費税抜き)を成功報酬とする。
c 私募取扱手数料(第5条)
原告が私募の取扱いを実施する場合の報酬は前記bのアレンジメント報酬の成功報酬に含まれるものとする。
(イ) 原告による本件第一業務の実施
原告は,平成20年11月10日ころ,エヌティーエルとの間で私募社債取扱契約を締結した上で(甲1の2),同月ころ,エヌティーエルが被告に貸し付ける資金7億5000万円を投資家から調達するために発行した私募社債の私募取扱いを実施した。
(ウ) 被告とエヌティーエル間の金銭消費貸借契約の締結
エヌティーエルは,被告に対し,要旨以下の約定で,同月25日に1億9400万円,同月26日に1億8400万円,同月27日に1億9200万円,同月28日に1億8000万円の合計7億5000万円を貸し付けた(乙1。以下「本件第一金銭消費貸借契約」という。)。
a 利息
年4パーセント(年365日の日割計算)
b 弁済期
平成21年5月29日に元金3億7500万円及び利息1508万3799円,同年11月30日に元金1億8800万円及び利息381万1324円,同年12月1日に元金1億8700万円及び利息381万1621円を弁済する。
c 担保設定
本件第一金銭消費貸借契約に基づく貸付けの担保として,被告は,保険会社から被告名義の銀行預金口座に入金される保険代理店報酬に関し,普通預金通帳(証書)及び印章をエヌティーエルに交付し,上記代理店報酬に対して極度額を7億7270万6744円,確定期日を毎月25日とする質権を設定し,エヌティーエルから要請があれば,直ちにエヌティーエルが指定する銀行預金口座に送金する。
(エ) 被告の原告に対する報酬の支払
原告は,被告に対し,本件第一契約に基づき,平成20年11月25日から同月28日までの間に,次のとおり基本報酬及び成功報酬合計5474万9996円(消費税込み)の支払を請求し,そのころ,被告から,同額の支払を受けた。
a 平成20年11月25日
基本報酬193万9999円(資金調達予定額1億9400万円の1パーセント,消費税込み)及び成功報酬1222万2000円(資金調達実行額1億9400万円の6パーセント)
b 同月26日
基本報酬183万9999円(資金調達予定額1億8400万円の1パーセント,消費税込み)及び成功報酬1159万2000円(資金調達実行額1億8400万円の6パーセント)
c 同月27日
基本報酬191万9999円(資金調達予定額1億9200万円の1パーセント,消費税込み)及び成功報酬1209万6000円(資金調達実行額1億9200万円の6パーセント)
d 同月28日
基本報酬179万9999円(資金調達予定額1億8000万円の1パーセント,消費税込み)及び成功報酬1134万円(資金調達実行額1億8000万円の6パーセント)
イ 原被告間の平成21年4月2日付けアレンジメント契約
(ア) 原告は,平成21年4月2日,被告及びNTLとの間で,要旨次の内容のアレンジメント契約を締結した(以下「本件第二契約」という。)。
a 契約の目的(第1条)
被告は,原告に対し,資金調達に係る証券化商品のアレンジメント業務に関するアレンジャーとしての専門的な業務(以下「本件第二業務」という。)を行うことを委託する。
本件第二業務に付随する業務として,NTLは被告の資金調達のために,私募社債発行により投資家から資金を調達し,原告はNTLの資金調達のため,別途締結する私募社債取扱契約により当該私募社債の私募取扱いをNTLから受託する。
b アレンジメント報酬(第4条)
原告が本件第二業務を実施する場合,①本件第二契約期間中(平成21年4月2日から同月10日まで)の資金調達予定額5億円に係る基本報酬は,原被告間の同年3月23日付け財務アドバイザリー契約第4条所定の財務アドバイザリー報酬(資金調達予定額5億円の2パーセント(消費税抜き)に含まれるものとし,②原告が私募にて取り扱う社債発行額を資金調達実行額として,同社債発行総額の6パーセントを成功報酬とする。
c 私募取扱手数料(第5条)
原告が私募の取扱いを実施する場合の報酬は前記bのアレンジメント報酬の成功報酬に含まれるものとする。
(イ) 原告による本件第二業務の実施
原告は,平成21年4月2日,NTLとの間で私募社債取扱契約を締結した上で(甲2の2),同月ころ,NTLが被告に貸し付ける資金5億円を投資家から調達するために発行した私募社債の私募取扱いを実施した。
(ウ) 被告とNTL間の金銭消費貸借契約の締結
NTLは,被告に対し,要旨以下の約定で,同月9日に2億8200万円,同月10日に2億1800万円の合計5億円を貸し付けた(乙2。以下「本件第二金銭消費貸借契約」という。)。
a 利息
年4パーセント(年365日の日割計算)
b 弁済期
平成21年5月25日(当日が土日又は休日であれば翌営業日。以下同じ。)に2000万円,同年6月から平成23年3月までの毎月25日に各1000万円,同年4月から平成24年3月までの毎月25日に各2461万5000円,同年4月9日に2465万0904円を弁済する。
c 担保設定
本件第二金銭消費貸借契約に基づく貸付けの担保として,被告は,保険会社から被告名義の銀行預金口座に入金される保険代理店報酬に関し,普通預金通帳(証書)をNTLに交付し,上記代理店報酬に対して担保を設定し,NTLから要請があれば,直ちにNTLが指定する銀行預金口座に送金する。
(エ) 被告の原告に対する報酬の支払
原告は,被告に対し,本件第二契約に基づき,平成21年4月10日,基本報酬1050万円及び成功報酬3150万円の合計4200万円(消費税込み)の支払を請求し,そのころ,被告から,同額の支払を受けた。
ウ 原被告間の平成21年5月19日付けアレンジメント契約
(ア) 原告は,平成21年5月19日,被告及びNTL2との間で,要旨次の内容のアレンジメント契約を締結した(以下「本件第三契約」といい,本件第一契約及び本件第二契約と併せて「本件各契約」という。)。
a 契約の目的(第1条)
被告は,原告に対して,資金調達に係る証券化商品のアレンジメント業務に関するアレンジャーとしての専門的な業務(以下「本件第三業務」という。)を行うことを委託し,原告がこれを受託する。
本件第三業務に付随する業務として,NTL2は被告の資金調達のために,私募社債発行により投資家から資金を調達し,原告はNTL2の資金調達のため,別途締結する私募社債取扱契約により当該私募社債の私募取扱いをNTL2から受託する。
b アレンジメント報酬(第4条)
原告が本件第三業務を実施する場合,本件第三契約期間中(平成21年5月19日から同年6月1日まで)の資金調達予定額3億5000万円の2パーセント(消費税抜き)をアレンジメント報酬とする。
c 私募取扱手数料(第5条)
原告が私募の取扱いを実施する場合の私募取扱手数料は,当該取り扱う社債の発行額を資金調達実行額として,同社債発行総額の5パーセント(消費税抜き)とする。
(イ) 原告による本件第三業務の実施
原告は,平成21年5月20日,NTL2との間で私募社債取扱契約を締結した上で(甲3の2),同月ころ,NTL2が,被告に貸し付ける資金3億5000万円を投資家から調達するために発行した私募社債の私募取扱いを実施した。
(ウ) 被告とNTL2間の金銭消費貸借契約の締結
NTL2は,被告に対し,要旨以下の約定で,同月29日に2億4000万円,同年6月1日に1億1000万円の合計3億5000万円を貸し付けた(乙3。以下「本件第三金銭消費貸借契約」といい,本件第一金銭消費貸借契約及び本件第二金銭消費貸借契約と併せて「本件各金銭消費貸借契約」という。)。
a 利息
年3パーセント(年365日の日割計算)
b 弁済期
平成21年6月から平成22年4月までの毎月28日(当日が土日又は休日であれば前営業日。)に各3000万円,同年5月26日に3038万6574円を弁済する。
c 担保設定
本件第三金銭消費貸借契約に基づく貸付けの担保として,被告は,保険会社から被告名義の銀行預金口座に入金される保険代理店報酬に対して担保を設定し,NTL2から要請があれば,直ちにNTL2が指定する銀行預金口座に送金する。
(エ) 被告の原告に対する報酬等の支払
原告は,被告に対し,本件第三契約に基づき,平成21年5月29日,アレンジメント報酬735万円及び私募取扱手数料1837万5000円の合計2572万5000円(消費税込み)の支払を請求し,そのころ,被告から,同額の支払を受けた。
(3) 関東財務局は,平成23年3月1日,原告に対し,金融商品取引法52条1項に基づき,同月7日から同年4月6日までの間,有価証券の募集及び私募の取扱いに係る業務(関東財務局が個別に認めたものを除く)の停止を命じたほか,同法51条に基づき,原告に対する処分の内容について,全ての顧客に対して説明を行うことなどの業務の改善に必要な措置をとるべきことを命じる行政処分を行った(以下「本件行政処分」という。)。
(4) 被告は,本件各契約は平成18年法律第115号による改正前の出資の受入れ,預かり金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)4条に違反し,公序良俗に反して無効であるから,本件各契約に基づき原告に対して支払った報酬等合計1億2247万4996円につき不当利得返還債権を有すると主張している。
2 争点及び争点に対する当事者の主張
本件各契約に基づく報酬等の支払合意及び受領がいずれも公序良俗に反し,その全部が無効であるか否か。
(被告の主張)
(1) 本件各契約に基づく報酬等の出資法4条1項違反
本件各契約に基づく報酬等は,いずれも,出資法4条1項に違反するものであって,公序良俗(民法90条)に反して無効である。
本件各契約は,原告が,資金繰りに窮していた被告に対し,被告が保険代理店業務により各保険会社に対して取得する代理店報酬を担保として金銭を借り入れる方法による資金調達(以下「本件資金調達方法」という。)を提案したことによって締結されたものである。本件資金調達方法において,被告と本件各合同会社との本件各金銭消費貸借契約は,単なる一要素ではなく,最終的な目的であって,原告による本件各合同会社の設立や社債の私募取扱いの実施などは,あくまでも本件各金銭消費貸借契約の原資を調達するための技術的なものにすぎない。原被告間の平成21年3月23日付け財務アドバイザリー契約第1条において定める,被告が原告に対して,証券化スキームを利用して契約期間終了までに5億円の資金調達を行うためにアドバイザーとしての専門的な業務を行うことを委託するという目的どおりに本件第二金銭消費貸借契約が締結されたこともこれを裏付けるものである。
このように,本件各契約は,被告が本件各合同会社との間で本件各金銭消費貸借契約を締結することにより資金を調達できるよう原告が段取りを組み,その原告の業務について被告が原告に対して報酬を支払うことを本質的な内容とするものである。したがって,本件各契約に基づく報酬等は,原告が本件各金銭消費貸借契約の締結という「金銭の貸借の媒介」を行ったことに対する「手数料」と評価されるべきものであり,出資法4条1項が適用される。
しかるに,本件第一契約は,資金調達予定額7億5000万円の1パーセント(750万円,消費税込み)の基本報酬及び資金調達実行額の6パーセント(消費税抜き)の成功報酬を,本件第二契約は,資金調達予定額5億円の2パーセント(消費税抜き)の基本報酬(財務アドバイザリー報酬に含む)及び資金調達実行額の6パーセント(消費税抜き)の成功報酬を,本件第三契約は,資金調達予定額3億5000万円の2パーセント(消費税抜き)のアレンジメント報酬及び資金調達実行額の5パーセント(消費税抜き)の私募取扱手数料を定め,報酬等の額は調達金額(貸付金額)の7ないし8パーセントとなる。したがって,本件各契約は,いずれも,本件各金銭消費貸借契約に基づく貸付金額の5パーセントに相当する金額を超える手数料を定めた契約といえるから,同項に違反する。
出資法4条1項に違反する契約は公序良俗に反して無効であるところ,原告は,証券取引等監視委員会の監督下にある証券会社であり,金融取引において公正に業務を行うことを期待されている立場にあること及び本件各金銭消費貸借契約の貸付合計額が16億円と極めて多額であることにかんがみると,本件各契約の反社会性は極めて強い。したがって,本件各契約は,貸借金額の5パーセントに相当する金額を超える手数料を定める部分のみではなく,その全部が無効である。
(2) さらに,原告は,本件各契約に関連して,次のとおり悪質な行為をしているから,本件各契約は,この点からも公序良俗に反する。
ア 関連報酬と併せた出資法4条1項違反
被告は,資金調達先を探していたところ,平成20年5月,当時AIFG株式会社(以下「AIFG」という。)の代表取締役であったC(以下「C」という。)から,原告の従業員であるD(以下「D」という。)を紹介され,Dから本件資金調達方法の提案を受けて,原告との間で本件各契約を締結した。このような経緯があるため,被告は,Dから本件資金調達方法を提案されたときから,原告に対して本件各契約に基づく報酬等を支払うほかに,AIFG及び同社の取締役であるEが代表取締役を務める株式会社総和地所(以下「総和地所」という。)に対しても,本件各金銭消費貸借契約締結の成功報酬を支払うことが決まっており,原告もこれを認識していた。
そして,被告は,現に,原告に対して本件各契約に基づく報酬等を支払ったほかに,本件第一金銭消費貸借契約締結の成功報酬として,AIFGに対し,平成20年11月26日に5610万円,同月27日に2000万円を,総和地所に対し,同月28日に2000万円,同年12月4日に5700万円を支払い,本件第二金銭消費貸借契約締結の成功報酬として,AIFGに対し,平成21年4月10日に1100万円を支払い,さらに,本件第三金銭消費貸借契約締結の成功報酬として,AIFGに対し,同年6月1日に1500万円を支払った(合計1億7910万円)。原告は,当然,これらの事実を認識していた。
以上によれば,原告とAIFGらの受領した手数料の総額は,合計3億0157万4996円である。これは,被告の資金調達額16億円の約19パーセントに上る。
出資法4条1項の趣旨に照らせば,複数の者が貸借の媒介を行った場合,各媒介者が受け取る手数料の合計がその媒介に係る貸付金額の5パーセントに相当する金額を超えてはならない。本件においては,被告がDから本件資金調達方法を提案されたときから,AIFGに対して本件各金銭消費貸借契約に係る貸付金額の5パーセントに相当する金額を超える手数料を支払うことが予定されており,原告は,その事実を知っていたから,原告が被告からさらに本件各契約に基づく報酬等を受領したことは出資法4条1項に反する。
イ 貸金業法12条の6第4号違反
原告は,本件各金銭消費貸借契約に基づく貸金債権の担保として,被告が保険会社に対して取得する代理店報酬債権を譲渡担保に供することを予定していたが,保険会社からその承認を得ることが不可能であった。そこで,原告は,被告に対し,被告が保険会社に対して有する代理店報酬債権の振込先である被告名義の銀行預金口座(滋賀銀行東京支店,普通預金口座,口座番号〈省略〉)に係る預金通帳及びキャッシュカード(以下「本件預金通帳等」という。)を原告に交付するよう強要したので,被告は,原告に対し,本件預金通帳等を交付した。
原告は,貸金業者であるところ,金融庁事務ガイドラインは,貸金業者が貸金業の業務に関して行ってはならない「偽りその他不正又は著しく不当な行為」(貸金業法12条の6第4号)の一つとして,預貯金通帳,キャッシュカードを徴求することを挙げている。したがって,原告の上記行為は同号に違反する悪質なものである。
ウ 金融商品取引法15条1項及び行政処分違反
本件行政処分の対象は,原告が金融商品取引法15条1項に違反する有価証券の募集及び私募の取扱いを実施したこと及び社債の取得勧誘に関して重要な事項につき誤解を生じさせる表示をしたことである。本件第一契約に関しエヌティーエルが発行した私募社債は,利率,最小額面,発行額上限,手数料は同じであるが,発行日及び償還日をそれぞれ一日ずつずらすことによって,ほぼ同一内容の無担保社債を四回に分割して発行するものであって,本件行政処分の対象となった社債の発行と極めて類似している。したがって,本件各契約に関連する社債の発行も,同項に違反する可能性が極めて高い。
また,本件行政処分は,原告に対し,原告に対する処分の内容について,全ての顧客に対して説明を行うことなどの業務の改善に必要な措置をとるべきことを命じたが,被告は,原告から,何ら説明を受けていない。
エ 報酬増額のための一方的な貸付額増額
原告は,本件第一契約に関連し,本件第一金銭消費貸借契約に基づく被告に対する貸付金額を,第一回目の私募社債募集締切日の直前に,当初の予定融資額3億5000万円の倍額以上である7億5000万円にした。この融資額は,原告が一方的に設定したものである。貸付金額が倍額以上になれば,本件第一契約に基づく基本報酬及び成功報酬も倍額以上になるのであるから,原告は,被告の窮状に乗じて敢えて高額の貸付けをすることで,被告から不法な報酬を得ようとしていたことが強く推認される。
(3) 以上のとおり,本件各契約は,出資法4条1項に違反する上,本件各契約に関連する原告の行為も悪質であるから,本件各契約は,公序良俗に反し,その全部が無効である。
したがって,被告は,原告に対し,本件各契約に基づき支払った報酬等の合計1億2247万4996円について不当利得返還債権を有する。
(原告の主張)
(1) 被告の主張(1)(本件各契約に基づく報酬等自体の出資法4条1項違反)は争う。本件各契約に出資法4条1項は適用されない。
本件各契約は,自ら金融機関からの借入れ又は証券発行による資金調達ができない被告のために,本件各合同会社が,①被告に対し,被告が保険代理店業務の遂行により各保険会社から受領する代理店報酬を担保として金銭を貸し付け,②被告に対する同貸金債権を証券化して無担保私募債を発行することにより投資家から資金を調達し,③被告が保険代理店業務の遂行により得た収入から貸金の弁済を受けるという本件資金調達方法に関し,原告がアレンジャーとしての専門的な業務及びその付随業務としての社債の私募取扱い等を受託するものである。本件資金調達方法は,上記のような仕組みに鑑みれば,本件各金銭消費貸借契約に基づく貸付け,証券化及び事業の遂行と弁済への充当が不可分一体となって構成されるものであるから,私募社債発行部分と本件各金銭消費貸借契約の締結を切り離し,後者だけを独立して評価することはできない。
したがって,本件各契約に基づく報酬等は,原告が,資金調達に係る証券化商品のアレンジメント業務に関するアレンジャーとしての専門的な業務遂行全体の対価として受領したものであり,本件各金銭消費貸借契約の締結を媒介したことに対する手数料として受領したものではない。
したがって,原告は,本件資金調達方法において,出資法4条1項の「金銭の貸借の媒介を行う者」に当たるということはできず,本件各契約に同項は適用されないから,本件各契約は同項に違反するものではない。
(2) 被告の主張(2)も理由がなく,本件各契約は公序良俗に違反しない。
ア 被告の主張(2)ア(関連報酬と併せた出資法4条1項違反)は否認し,争う。原告は,本件訴訟において被告が主張するまで,AIFG及び総和地所(以下「AIFGら」という。)の存在自体を知らず,被告がAIFGらに対して本件各金銭消費貸借契約の締結に関する報酬を支払った事実を認識していなかった。原告は,被告から資金調達について相談を受け,被告の決算資料上,被告の財務状況に問題がないと判断したから,本件各契約を締結して被告の資金調達を支援したにすぎない。
イ 被告の主張(2)イ(貸金業法12条の6第4号違反)は否認し,争う。
原告は,被告に対し,本件預金通帳等を原告に交付するよう強要していない。そもそも,被告が原告に対して委託したアレンジャーとしての専門的な業務は貸金業務ではなく,原告の上記業務の遂行は貸金業法の規制を受けるものではない。
ウ 被告の主張(2)ウ(金融商品取引法15条1項及び行政処分違反)は争う。
本件行政処分は本件各契約及び本件資金調達方法とは何ら関連性がない。
関東財務局は,本件行政処分において,原告が,ある株式会社等が新たに発行した社債について,償還期限等を変えて社債に付された複数の回号ごとに勧誘人数を50名未満に抑えて取得勧誘を行った行為は,上記社債の内容及び取得勧誘の実態等からすれば,金融商品取引法2条3項の「有価証券の私募」ではなく,各社債群ごとにそれぞれ一個の「有価証券の募集」(同項)に該当するもので,有価証券募集時の事前届出を求めた同法15条1項に反すると判断したが,これは投資家保護の観点からなされた処分である。よって,本件行政処分は,本件各契約が公序良俗に反するとの被告の主張を根拠付ける事実にはならない。
エ 被告の主張(2)エ(報酬増額のための一方的な貸付額増額)は否認し,争う。金融機関が,確実に弁済できる見込みがないような者に対し,その窮状に乗じて敢えて高額の貸付けをすることはなく,被告の同主張はおよそ有り得ないものである。
(3) 以上によれば,本件各契約が公序良俗に反し,その全部が無効であるとの主張を根拠付ける事実はなく,被告の主張は理由がない。
第3 争点に対する判断
1 被告の主張(1)(本件各契約の報酬等自体の出資法4条1項違反)について
被告は,本件各契約がいずれも出資法4条1項に違反するものであって,公序良俗に反して無効であると主張するので,まずこの点について検討する。
本件各契約は,業務委託契約であり,その目的が,原告が,被告から,資金調達に係る証券化商品のアレンジメント業務に関するアレンジャーとしての専門的な業務を受託し,その付随業務として,本件各合同会社が被告に貸し付ける資金を投資家から調達するために私募債を発行し,原告が本件各合同会社から私募債の私募取扱いを受託することにあることは,前記第2の1(2)ア(ア)a,同イ(ア)a及び同ウ(ア)aのとおりである。また,前記第2の1(1)ウ及び証拠(甲1の1ないし1の3,2の1の1ないし2の3,3の1ないし3の3)によれば,本件資金調達方法は,被告に対する貸付け及びその付随事業のみを目的として設立されたSPCである本件各合同会社が,原告との間で私募社債取扱契約を締結した上で私募債を発行して投資家から調達した資金を被告に貸し付ける形で,被告に対する資金調達を実施するものであること,上記私募債は,被告が保険代理店業務により各保険会社から受領する代理店報酬を担保として償還元本及び利金の保全を図るものであることが認められる。そうすると,本件各契約は,私募債の発行による資金調達を実施するための基本となる契約である。
本件各合同会社が,上記目的を有するSPCであることに加え,前記第2の1(1)ウのとおり,いずれも資本金が50万円以下であって,本件各合同会社にはもともと被告に貸し付ける資金はないことにも鑑みれば,本件各合同会社が私募債を発行して資金を調達することは,本件資金調達方法の要であって,単なる本件各金銭消費貸借契約の原資を調達するための技術的なものにすぎないとはいえない。
本件各契約においては,被告と本件各合同会社間の本件各金銭消費貸借契約の締結も原告が被告から受託した業務の内容になっているが,その他にも本件資金調達方法の不可欠の要素として,本件各合同会社による私募債の発行,本件各合同会社と原告間の私募社債取扱契約による同社債の私募取扱い,保険会社から被告に支払われる代理店報酬を社債の償還原資として確保すること等が当然に予定されている。そうすると,原告が被告から受託した資金調達に係る証券化商品のアレンジメント業務に関するアレンジャーとしての専門的な業務は,上記業務内容が複合したものであるから,本件資金調達方法実現のため,被告と本件各合同会社間の金銭消費貸借契約の締結をその委託業務の内容に含んでいても,本件各契約における報酬等は,原告が,被告と本件各合同会社との間の本件各金銭消費貸借契約の締結を含む本件資金調達方法を実施するための専門的な業務を総合的に受託した対価と認められる。したがって,本件各契約における報酬等が資金調達額の7ないし8パーセントであったからといって,本件各契約における報酬等が出資法4条2項の「金銭の貸借の媒介を行う者がその媒介に関し受ける金銭」とはいえず,その額が同条1項の制限に服するとはいえない。本件各契約の報酬等の内には被告と本件各合同会社間の金銭消費貸借の締結に関する部分も含まれているが,その部分を特定する主張,立証はない。
したがって,本件各契約による報酬等の合意及びその受領は,いずれも,出資法4条1項に違反するとは認めることができず,この点に関する被告の主張は理由がない。
2 次に,被告は,原告が本件各契約に関連して悪質な行為をしているから,本件各契約は公序良俗に反すると主張するので,以下,検討する。
(1) 被告の主張(2)ア(関連報酬と併せた出資法4条1項違反)について
被告は,AIFGらに対して本件各金銭消費貸借契約締結の成功報酬として,平成20年11月26日から平成21年6月1日まで合計1億7910万円を支払い,原告は被告がAIFGらに成功報酬を支払った事実を認識した上で,本件各契約に基づく報酬等を受領し,原告とAIFGらの受領した手数料の総額は被告の資金調達額16億円の約19パーセントに上るなどと主張するとともに,これに沿う証拠として,AIFGらが発行した被告宛ての領収証(乙8ないし10)及び預金通帳(乙11の1,11の2,12)を提出し,被告代表者の陳述書(乙6)には,Dは,AIFG代表者Cから被告代表者の紹介を受けて本件資金調達方法を提案したものであるから,当然に上記事実を認識していたなどとの記載がある。
また,Dの陳述書(甲17)には,Cでなく,イーグルホールディングス株式会社の取締役であるF(以下「F」という。)から被告代表者の紹介を受けたとの記載があるところ,証拠(乙13ないし15,17)によれば,F及び総和地所の代表取締役であるEがAIFGの取締役でもあること,原告の取締役であるGがイーグルホールディングス株式会社の取締役でもあることは認められる。
しかし,AIFGらの名前は,本件各契約及び本件各金銭消費貸借契約のいずれにも記載されておらず,原告とAIFGらとの間には密接なつながりがあり,被告がAIFGらに本件各合同会社から融資を受けた成功報酬を支払ったとの乙6の記載は,甲17で否認されており,乙6の記載の裏付けとなるような証拠はないから乙6の記載を直ちに採用することはできない。また,証拠(乙8ないし乙12)によれば,被告が主張する年月日に被告主張の金員が支払われた事実を認めることはできるが,AIFGらが本件各金銭消費貸借契約の締結にどのように関わったのかを認めるに足りる証拠はなく,上記金員が本件各金銭消費貸借契約締結の成功報酬として支払われたことを認めるに足りる証拠もない。さらに,原告において,被告がAIFGらに対しても本件各金銭消費貸借契約締結の成功報酬を支払うこと及びその額を認識していたと認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,被告の主張(2)アは採用できない。
(2) 被告の主張(2)イ(貸金業法12条の6第4号違反)について
被告は,原告が被告に対し本件預金通帳等を原告に交付するよう強要したので,原告に対し本件預金通帳等を交付したが,原告のこの行為は貸金業法12条の6第4号に違反する悪質なものであるなどと主張する。
確かに,原告が,被告から,平成20年12月12日,本件預金通帳等を預かったことは認められる(乙18)。しかし,本件資金調達方法は,被告が保険会社から受領する保険代理店報酬を証券化するものであり,投資家から資金を調達する方法である私募債の償還と利金が保険会社から被告が受領する保険代理店報酬により担保されることは必要不可欠な要素であると認められ,被告は,かかる本件資金調達方法の説明を受け,これに同意して本件各契約を締結した(乙6,7)ことに照らしても,原告が本件預貯金通帳の交付を強要したとは認めるに足りず,原告から被告が本件預貯金通帳を預かったことが直ちに貸金業法12条の6第4号に違反するものとはいえず,公序良俗に反するともいえない。
したがって,被告の主張(2)イは採用できない。
(3) 被告の主張(2)ウ(金融商品取引法15条1項及び行政処分違反)について
被告は,関東財務局が原告に対して行った本件行政処分の対象が,本件第一契約に関連する社債の発行と極めて類似しているから,本件各契約に関連する社債の発行自体も,金融商品取引法15条1項に違反する可能性が極めて高いなどと主張する。
証拠(乙4の1ないし4の3)及び弁論の全趣旨によれば,関東財務局は,平成23年3月1日付け本件行政処分において,①原告が,平成20年2月から平成22年7月までの間,株式会社a社及び合同会社12社が新規発行した社債につき複数の回号ごとに勧誘人数を50名未満に抑えて取得勧誘した行為について,各回号の償還期限や発行日がわずかに異なるのみで利率,発行価額等の条件や資金使途が同一の社債群が23あり,いずれも各社債群ごとに近接した期間中に50名以上の多数の顧客に取得勧誘していたことに照らせば,23の各社債群の取得勧誘ごとにそれぞれ1個の募集に該当するにもかかわらずこれを回避しようとしたにすぎないとし,a社及び上記各合同会社が金融商品取引法4条1項所定の届出を行なっていないことから,上記取得勧誘行為が同法15条1項に違反すると判断したこと,②業務改善命令の中で,本件処分の内容について全ての顧客に対して説明を行うこと,本件処分の原因となったもの以外の有価証券についても類似問題の存否につき検証と適切な対処を求めたことは認められる。しかし,本件全証拠によるも,本件行政処分の対象に,本件各契約に関連する社債の発行が含まれているかどうかは明らかではなく,単に,本件行政処分の対象が,本件第一契約に関連する社債の発行と極めて類似しているというだけで,本件各契約に関連する社債の発行自体が同項に違反するかは明らかではない。また,同項は,社債を取得しようとする投資家保護のための取締法規であって,仮に同項違反があった場合でも,社債発行自体が私法上も当然に無効となるとは解されず,原告と被告,本件各合同会社との間で締結された本件各契約自体が公序良俗に反すると認めるに足りない。
よって,被告の主張(2)ウは採用できない。
(4) 被告の主張(2)エ(報酬増額のための一方的な貸付額増額)について
被告は,原告が,本件第一金銭消費貸借契約に基づく被告に対する貸付金額を,第一回目の私募社債募集締切日の直前に,当初の予定融資額3億5000万円の倍額以上である7億5000万円にしたことから,原告が被告から不法な報酬を得ようとしていたことが強く推認されるなどと主張する。
しかし,本件全証拠によるも,被告は,本件第一金銭消費貸借契約に基づき,エヌティーエルから7億5000万円の貸付けを受ける義務があったとは認められず,その必要がなければ,一部につき資金調達を断ることもできたはずであること,原告が,被告に対し,7億5000万円の貸付けを受けるよう強要したとの事実を認めるに足りる証拠もなく,被告は,自らの意思で7億5000万円の貸付けを受けたというべきである。したがって,上記事実から,原告が被告から不法な報酬を得ようとしていたことが推認されるということはできない。
よって,被告の主張(2)エも理由がない。
(5) したがって,被告の主張(2)もいずれも理由がなく,本件各契約が公序良俗に反するとの主張を基礎づけるものではない。
3 以上のとおり,被告の本件各契約に基づく報酬等の合意及び受領が公序良俗に反して無効との主張にはいずれも理由がなく,他に本件各契約に基づく報酬等の合意及び受領が公序良俗に反することを認めるに足りる証拠はないから,被告が,原告に対し,原被告間の本件各契約に基づき支払った報酬等に関して不当利得返還債権を有するとは認められない。
よって,原告の不当利得返還債務不存在確認の請求は理由がある。
(裁判長裁判官 小野洋一 裁判官 押野純 裁判官 潮見牧子)
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