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「営業支援」に関する裁判例(17)平成29年11月24日 東京地裁 平25(行ウ)263号 法人税更正処分取消請求事件

「営業支援」に関する裁判例(17)平成29年11月24日 東京地裁 平25(行ウ)263号 法人税更正処分取消請求事件

裁判年月日  平成29年11月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(行ウ)263号
事件名  法人税更正処分取消請求事件
裁判結果  棄却  上訴等  確定  文献番号  2017WLJPCA11248005

評釈
今村隆・ジュリ 1530号131頁
青山慶二・TKC税研情報 28巻5号30頁
西中間浩・税経通信 74巻1号186頁

裁判年月日  平成29年11月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(行ウ)263号
事件名  法人税更正処分取消請求事件
裁判結果  棄却  上訴等  確定  文献番号  2017WLJPCA11248005

大阪市〈以下省略〉
原告 上村工業株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 山本英幸
同補佐人税理士 B

東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 D
処分行政庁 東税務署長 E
同指定代理人 W1
W2
W3
W4
W5
W6
W7
W8
W9
W10
W11

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判
1  請求の趣旨
(1)  東税務署長が原告に対して平成18年3月30日付けでした平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度(以下「平成12年3月期」という。)の法人税の更正処分(以下「平成12年3月期更正処分」という。)(ただし,平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち,所得金額15億4107万4493円,納付すべき税額4億3445万4200円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)を取り消す。
(2)  東税務署長が原告に対して平成18年3月30日付けでした平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度(以下「平成13年3月期」という。)の法人税の更正処分(以下「平成13年3月期更正処分」という。)(ただし,平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち,所得金額18億0419万9372円,納付すべき税額4億8037万3400円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)を取り消す。
(3)  東税務署長が原告に対して平成18年3月30日付けでした平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度(以下「平成14年3月期」という。)の法人税の更正処分(以下「平成14年3月期更正処分」という。)(ただし,平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち,所得金額12億9164万0717円,納付すべき税額2億8862万0100円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)を取り消す。
(4)  東税務署長が原告に対して平成18年3月30日付けでした平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度(以下「平成15年3月期」という。)の法人税の更正処分(以下「平成15年3月期更正処分」という。)(ただし,平成22年1月28日付け減額更正処分及び平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち,所得金額13億6287万0614円,納付すべき税額2億4079万1286円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,平成22年1月28日付け変更決定処分及び平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)を取り消す。
(5)  東税務署長が原告に対して平成18年3月30日付けでした平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「平成16年3月期」といい,平成12年3月期,平成13年3月期,平成14年3月期及び平成15年3月期と総称して「本件各事業年度」という。)の法人税の更正処分(以下「平成16年3月期更正処分」といい,平成12年3月期更正処分,平成13年3月期更正処分,平成14年3月期更正処分及び平成15年3月期更正処分と総称して「本件各更正処分」という。)(ただし,平成22年1月28日付け減額更正処分及び平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち,所得金額19億1053万8473円,納付すべき税額3億5557万8500円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,本件各更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分を総称して「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)(ただし,平成22年1月28日付け変更決定処分及び平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち加算税の額16万2000円を超える部分を取り消す。
2  請求の趣旨に対する答弁
(1)  本案前の答弁
ア 請求の趣旨(4)の訴えにつき,東税務署長が原告に対してした平成15年3月期更正処分(ただし,平成22年1月28日付け減額更正処分及び平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち,所得金額14億0239万8814円,納付すべき税額2億4261万2400円を超えない部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,平成22年1月28日付け変更決定処分及び平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち加算税の額23万8000円を超えない部分の取消しを求める部分を却下する。
イ 請求の趣旨(5)の訴えにつき,東税務署長が原告に対してした平成16年3月期更正処分(ただし,平成22年1月28日付け減額更正処分及び平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち,所得金額19億5107万4473円,納付すべき税額3億6773万9300円を超えない部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,平成22年1月28日付け変更決定処分及び平成24年11月8日付け国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち加算税の額137万9000円を超えない部分の取消しを求める部分を却下する。
(2)  本案の答弁
上記(1)ア及びイを除く原告の請求をいずれも棄却する。(ただし,被告は,上記(1)ア及びイの各部分の取消しを求める請求についても,本案においては棄却を求めているものと解される。)
第2  事案の概要
本件は,東税務署長が,めっき薬品(めっき用化学品)の製造販売等を業とする原告に対し,原告が租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの)66条の4第1項に規定する国外関連者との間でしためっき薬品の製造・販売に係る技術やノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引について,原告が当該国外関連者から支払を受けた対価の額が,同条2項2号ロ,租税特別措置法施行令(平成16年政令第105号による改正前のもの)39条の12第8項所定の方法(利益分割法)のうちの残余利益分割法と同等の方法によって算定した独立企業間価格に満たないとして,その独立企業間価格によって当該取引が行われたものとみなして所得金額を計算し,平成12年3月期ないし平成16年3月期の法人税に係る本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(本件各更正処分等)をしたところ,原告が,上記取引の独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法と同等の方法を採用するのは不相当であり,その算定過程にも誤りがあるなどとして,本件各更正処分等(ただし,法人税の減額更正処分,過少申告加算税の変更決定処分及び国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち申告額等を超える部分の取消しを求める事案である。
1  関係法令等の定め
別紙1関係法令等の定めに記載のとおりである(同別紙で定める略称等は,以下においても用いることとする。)。
2  前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により認められる事実)
(1)  当事者等
ア 原告は,昭和8年に設立された,めっき薬品及び表面処理用機械の製造販売,工業用薬品及び非鉄金属の仕入販売等の事業を行う内国法人である。
イ 台湾上村股份有限公司(Taiwan Uyemura Co., LTD.以下「TUC社」という。)は,台湾に本店を有し,めっき薬品の製造販売,表面処理用機械の仕入販売等の事業を行っており,原告が本件各事業年度においてその発行済株式総数の50%以上(その割合は,平成12年3月期において76%,平成13年3月期において76.11%,平成14年3月期ないし平成16年3月期において87.78%であった(乙21の1~5,乙35)。)を保有する外国法人で,原告の国外関連者である。
ウ UYEMURA(MALAYSIA)SDN.BHD.(以下「UMM社」という。)は,マレーシアに本店を有し,めっき薬品の製造販売等の事業を行っており,原告が本件各事業年度においてその発行済株式総数の100%を保有する外国法人で,原告の国外関連者である。
エ Uyemura International(Singapore)Pte., Ltd.(以下「UIS社」という。)は,シンガポール共和国(以下「シンガポール」という。)に本店を有し,めっき薬品及び表面処理用機械の仕入販売等の事業を行っており,原告が本件各事業年度においてその発行済株式総数の100%を保有する外国法人で,原告の国外関連者である。
(2)  原告とTUC社との間の契約等
ア 原告とTUC社は,1997年(平成9年)6月1日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」(以下「TUC旧契約書」という。)により,契約を締結した。TUC旧契約書には,①原告が,TUC社に対し,別紙2-1ライセンス契約対象製品一覧表(以下「本件製品一覧表」という。)の「TUC社」「旧契約書」欄記載の製品につき,当該製品に関連する技術情報(製造,販売及び商業的な発明や改良に関する原告の経験,知識,技術データ,営業上の機密,製法その他の情報)を使用し,台湾で当該製品を製造,流通,販売する非独占的権利を付与し,当該製品に関する製法等のノウハウを開示するとともに,TUC社の従業員を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の化学専門家をTUC社に派遣して技術支援を行うことを内容とする役務を提供すること,②TUC社が,原告に対し,契約期間中に技術情報を使用しその恩恵に浴することに対するロイヤルティとして,正味製造価格の5%を支払うこと,③契約期間を5年間とすることなどが記載されている。(甲19の1・2,乙22)
イ その後,原告とTUC社は,2001年(平成13年)4月1日付け「技術提携及びライセンス契約書」(以下「TUC新契約書」という。)により,新たな契約を締結した。TUC新契約書には,①原告が,TUC社に対し,本件製品一覧表の「TUC社」「新契約書」欄記載の製品につき,ライセンス対象特許及び技術情報(当該製品の製造及び使用に関して原告が使用する全ての情報及び知識)を用いて,台湾で当該製品を製造,販売,使用することができる独占的ライセンスを付与するとともに,TUC社の研修生を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告のエンジニアをTUC社の工場に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること,②TUC社が,原告に対し,ロイヤルティとして,TUC社が当該契約の下で販売した製品の純販売価格の5%を支払うこと,③契約期間を5年間とすることなどが記載されている。(甲28の1・2,乙23,24)
ウ 原告とTUC社は,上記各契約書等による合意に基づき,めっき薬品に係る製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引をした(以下「本件TUCライセンス取引」という。ただし,本件TUCライセンス取引の対象製品は,必ずしも上記各契約書に明記されたものに限らず,両社間で実際に製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引の対象とされていた製品を含むものとし,後記の本件UMMライセンス取引,本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引についても同様とする。)。
本件TUCライセンス取引によって使用許諾された製造ノウハウ等の無形資産を使用してTUC社で製造されためっき薬品の製品(以下「TUCライセンス製品」という。)は,TUC社から台湾等の非関連者(国外関連者ではない者をいう。以下同じ。)に直接販売されるほか,一部についてはUIS社ほか数社の原告の国外関連者に販売された上で当該国外関連者から非関連者に販売されている(以下,原告とTUC社との国外関連取引(本件TUCライセンス取引)を含め,これに連なるTUC社と非関連者との取引,TUC社とUIS社との取引及びUIS社と非関連者との取引全体を「本件TUC取引」という。)。
(3)  原告とUMM社との間の契約等
ア 原告とUMM社は,2000年(平成12年)12月1日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」(以下「UMM旧契約書」という。)により,契約を締結した。UMM旧契約書には,①原告が,UMM社に対し,本件製品一覧表の「UMM社」「旧契約書」欄記載の製品につき,原告から開示されるノウハウ(製品製造のための化学薬品構成,製造手順,原材料の仕様,製品の品質管理手順,設備の仕様から成る,当該製品を製造するために有用な技術情報及びデータ)及びその他の技術情報を使用し,マレーシアにおいて当該製品を製造,使用,販売する独占的なライセンスを付与するとともに,UMM社の従業員を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の技術専門家をUMM社に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること,②UMM社が,原告に対し,ロイヤルティとして,契約期間中にUMM社が製造した当該製品の純売上高の5%を支払うこと,③契約期間を1998年(平成10年)1月1日から2002年(平成14年)12月31日までとすることなどが記載されている。(甲31の1・2,乙25)
イ 原告とUMM社は,2003年(平成15年)1月7日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」(以下「UMM新契約書」という。)により,新たな契約を締結した。UMM新契約書には,①対象製品を本件製品一覧表の「UMM社」「新契約書」欄記載の製品とするほかは前記ア①と同様の内容,②UMM社が,原告に対し,ロイヤルティとして,契約期間中にUMM社によって販売された当該製品の純売上高の5%を支払うこと,③契約期間を同月1日から2007年(平成19年)12月31日までとすることなどが記載されている。(乙26)
ウ 原告とUMM社は,上記各契約書等による合意に基づき,めっき薬品に係る製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引をした(以下「本件UMMライセンス取引」といい,本件TUCライセンス取引と併せて「本件国外関連取引」という。)。
本件UMMライセンス取引によって使用許諾された製造ノウハウ等の無形資産を使用してUMM社で製造されためっき薬品の製品(以下「UMMライセンス製品」といい,TUCライセンス製品と併せて「原告ライセンス製品」という。)は,全て一旦国外関連者であるUIS社に販売された上で同社から非関連者に販売されている(以下,原告とUMM社との国外関連取引(本件UMMライセンス取引)を含め,これに連なるUMM社とUIS社との取引及びUIS社と非関連者との取引全体を「本件UMM取引」という。)。
(4)  原告とKPM Tech Co., Ltd.(以下「KPM社」という。)との間の契約等(以下,原告がKPM社との間で行った下記ア及びイの各契約書等による合意に基づくめっき薬品に係る製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引を「本件KPMライセンス取引」という。)
ア 原告と,原告の国外関連者ではない大韓民国(以下「韓国」という。)に本店を有するKPM社は,1997年(平成9年)12月1日付け「ノウハウライセンス契約書」(以下「KPM旧契約書」という。)により,契約を締結した。KPM旧契約書には,①原告が,KPM社に対し,本件製品一覧表の「KPM社」「旧契約書」欄記載の契約品につき,これらの技術情報(契約品の製造及び組立てのために使用されるノウハウ及びその他の技術に関する全ての情報,データ又は書類)を提供し,韓国において契約品を製造及び販売する非独占的実施権を付与するとともに,KPM社の訓練生を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の技術者をKPM社の工場に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること,②KPM社が原告に対し,ロイヤルティとして,当該契約に基づいてKPM社により製造される契約品の正味販売高の2~5%(契約品ごとに定められた割合であり,契約品の一部についてはロイヤルティの支払義務が免除されている。)を支払うこと,③契約期間を5年とすることなどが記載されている。(乙38)
イ 原告とKPM社は,2002年(平成14年)12月1日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」(以下「KPM新契約書」という。)により,新たな契約を締結した。KPM新契約書には,①原告が,KPM社に対し,本件製品一覧表の「KPM社」「新契約書」欄記載の契約品につき,ノウハウ(契約品製造のため有用な技術情報及び技術データ)及びその他の技術情報を提供し,韓国において契約品を製造,使用及び販売する非独占的実施権を付与するとともに,KPM社の訓練生を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の技術専門家をKPM社の工場に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること,②KPM社が,原告に対し,ロイヤルティとして,契約期間中にKPM社により製造,販売された契約品について5%を支払うこと,③契約期間を2007年(平成19年)12月31日までとすることなどが記載されている。また,同契約書には,上記契約品以外の製品名が列挙された別紙2-2KPM開示リストが添付されており,同リストに記載された製品と上記契約品とを併せた製品の範囲は,本件製品一覧表の「KPM社」「旧契約書」欄記載の製品の範囲とおおむね一致している。(甲29,乙39)
(5)  原告とPoly Hitechs Co., Ltd.(以下「Poly社」という。)との間の契約等(以下,原告がPoly社との間で行った下記契約書等による合意に基づくめっき薬品に係る製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引を「本件Polyライセンス取引」という。)
原告と,原告の国外関連者ではないタイ王国(以下「タイ」という。)に本店を有するPoly社は,1999年(平成11年)5月1日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」により,契約を締結し,その後,2000年(平成12年)11月10日付け,2001年(平成13年)1月15日付け,同年8月10日付け及び2002年(平成14年)2月4日付け各付属書により,契約の対象製品を追加した(以下,上記契約書を各付属書も含めて「Poly契約書」という。)。Poly契約書には,①原告が,Poly社に対し,本件製品一覧表の「Poly社」欄記載の製品につき,ノウハウ(製品製造のための化学薬品構成,製造手順,原材料の仕様,製品の品質管理手順及び設備の仕様から成る,当該製品を製造するために有用な技術情報及びデータ)及びその他の技術情報を提供し,タイにおいて当該製品を製造,使用,販売する独占的なライセンスを付与するとともに,Poly社の従業員を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の技術専門家をPoly社の工場に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること,②Poly社が原告に対し,50万円に加え,ロイヤルティとして,契約期間中にPoly社が製造した製品の製造純原価の5%を支払うこと,③契約期間を5年間とすることなどが記載されている。(甲20~24の各1・2,乙40)
(6)  本件各更正処分等の経緯
ア 原告は,本件各事業年度の法人税について,別表1-1ないし1-5の各「確定申告」欄記載の年月日に,東税務署長に対し,同欄記載の内容の各確定申告書を提出し,東税務署長は,このうち平成12年3月期の法人税について,平成13年5月30日付けで,別表1-1の「減額更正処分」欄記載のとおり,所得金額及び納付すべき税額を減額する更正処分をした。
また,原告は,平成13年3月期及び平成14年3月期の法人税について,平成15年6月2日,東税務署長に対し,別表1-2及び1-3の各「修正申告」欄記載の内容の各修正申告書を提出したところ,東税務署長は,平成15年6月26日付けで別表1-2及び1-3の各「賦課決定処分」欄記載のとおり,過少申告加算税の賦課決定処分をした。
さらに,原告は,平成15年3月期の法人税について,平成16年3月5日,東税務署長に対し,別表1-4の「修正申告」欄記載の内容の修正申告書を提出した。
イ 東税務署長は,平成18年3月30日付けで,本件各事業年度の原告の法人税につき,別表1-1ないし1-5の各「更正処分等」欄記載のとおり,本件各更正処分等をした。
ウ 原告は,平成18年5月26日,本件各更正処分等について異議申立てをした。
エ 原告は,本件各更正処分の対象となった国外関連者との取引のうち,UMM社との取引について,平成18年8月2日,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とマレーシア政府との間の協定の規定に基づき,日本国の権限ある当局とマレーシアの権限ある当局との相互協議の申立てをしたところ,平成22年1月6日,両国の権限ある当局間で,平成15年3月期及び平成16年3月期の法人税についてのみ,相互協議の合意(以下「本件相互協議の合意」という。)が成立した。同合意においては,原告とUMM社との取引につき,平成15年3月期の原告の所得に対する調整金額を4200万円,平成16年3月期の原告の所得に対する調整金額を5000万円として,日本国国税庁が課税を行い,マレーシア国税庁が対応的調整を行うこととされた。(乙2,3)
上記合意を受けて,東税務署長は,平成22年1月28日付けで,別表1-4及び1-5の各「減額更正処分等(相互協議)」欄記載のとおり,平成15年3月期及び平成16年3月期の法人税について,所得金額及び納付すべき税額を減額する更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分(以下「本件減額更正処分等」という。)をした。
オ 異議審理庁は,前記ウの異議申立てについて,平成22年12月17日付けで棄却する旨の決定をした。
カ 原告は,平成23年1月14日,国税不服審判所長に対し,本件各更正処分等について審査請求をしたところ,同所長は,平成24年11月8日付けで,別表1-1ないし1-5の各「審査裁決」欄記載のとおり,本件各更正処分等の一部を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし,同月15日付けで,原告に対し,その裁決書謄本を送付した。
キ 原告は,平成25年5月14日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3  争点及び当事者の主張
(1)  平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分の取消しを求める訴えの適法性(争点1)
(被告の主張)
ア(ア) 更正処分につき,更正の請求の手続を経ることなく申告額を超えない部分の取消しを求める訴えは,納税者の自認する範囲を超えて取消しを求めることになるから,訴えの利益を欠くものとして許されない。また,国際的二重課税に係る相互協議の合意は申立者の同意が前提となっていることからすれば,相互協議により合意された調整金額を超えない部分の取消しを求める訴えは,申立者(納税者)の自認する範囲を超えて取消しを求めることになるし,これが認められれば相互協議による問題解決の実効性を失わせることになるから,当該訴えは訴えの利益を欠くというべきである。したがって,更正処分につき,申告額と相互協議により合意された調整金額との合計額を超えない部分の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものというべきである。
本件相互協議の合意についても原告の同意が前提となっているから,原告が自認している平成15年3月期及び平成16年3月期の各所得金額は,それぞれ申告に係る所得金額と本件相互協議の合意による調整金額との合計額となる。そうすると,平成15年3月期及び平成16年3月期につき,原告の請求の基礎とすべき所得金額,納付すべき法人税額及び過少申告加算税の額は,別表2-1及び2-2のとおりとなる。したがって,請求の趣旨(4)及び(5)の各訴えのうち,これらの額を超えない部分の取消しを求める部分は,訴えの利益を欠き,不適法である。
(イ) また,原告は,本件相互協議の合意の内容に同意するに当たり,当該合意による調整金額の部分については「訴訟を行わない」などと確約した「確認事項」と題する書面を国税庁に提出しており,当該部分について訴訟による金額の改変を求めない旨の不起訴の合意をしたものと認められる。したがって,本件相互協議の合意による調整後の金額を超えない部分まで取消しを求める訴えは,上記不起訴の合意に反するから,訴えの利益を欠き,また,信義則にも違反するものであって,不適法である。
(ウ) さらに,原告は,異議申立て及び審査請求において,更正処分のうち本件相互協議の合意が成立した平成15年3月期及び平成16年3月期のUMM社との取引を基礎とする部分を不服申立ての対象から除いているから,同部分の訴えは不服申立前置を欠き,不適法である。
イ ところで,法人税基本通達9-5-2(平成20年課法2-5による改正前のもの。以下同じ。)は,法人税について2期以上の連年同時更正を行う場合,納税者の担税力に配慮した特例的措置として,当該事業年度の直前の事業年度分の事業税として納付すべき税額の見積額(以下「事業税相当額」という。)を損金の額に算入することができる旨を定めており,本件各更正処分においてもこれに基づく事業税相当額の損金算入がされている。この事業税相当額は法人税額の計算のためだけに算定される見積額にすぎないことからすれば,訴訟等において更正処分と異なる所得金額及び法人税額が認定される場合においては,上記通達に基づき損金の額に算入する事業税相当額についても,再度見積りを行うべきである。なお,このように解しても,納税者に不利益が生じることはない。
そして,原告は本件各更正処分のうちそれぞれ各一部が取り消されるべきものと主張しているから,その主張による限り,更正処分により前期の所得金額が増加したことに伴う事業税相当額の全額が当期の損金の額に算入されることはあり得ない(前期の更正処分が取り消される場合には,これに連動して当期の事業税の損金算入額も減額される。)のに,原告は,この点を無視して,事業税相当額全額が減算された本件各更正処分における所得金額を出発点とし,ここから争いのある国外移転所得額を減算する方法により請求額を特定しているため,結果として,平成15年3月期及び平成16年3月期について原告の請求の趣旨により設定される訴訟物の範囲は,本件相互協議の合意による調整後の金額を超えない部分を含むものとなっているのである。この部分の訴えが不適法であるのは,前記アのとおりである。
(原告の主張)
ア 更正処分により確定した納税義務につき,納税者が申告額を超えない部分の取消しを求めることは更正の請求の排他性により許されないが,そうでない限り,納税者がその減額を求めることを不適法とすべき法的根拠はない。相互協議の合意は,納税義務の確定と関係のある法的効果を何ら有しておらず,更正の請求の排他性とも関係がないから,納税者が相互協議の合意に同意したことをもって,更正処分の取消しの訴えの一部が不適法となるものではない。
原告が国税庁に提出した「確認事項」と題する書面は,所得金額や納付すべき税額が特定の金額であることを自認したものではない。また,同書面は,本件相互協議の合意により加算された所得金額が誤りであることを理由に更正処分の取消しを求める訴訟を提起することはしないとする趣旨のものであって,相互協議の対象外である取引についてされた所得加算部分の認定が誤りであることを理由に更正処分の取消しを求める訴訟を提起する権利まで放棄したものではないから,これに基づき不起訴の合意や信義則違反をいう被告の主張には理由がない。
イ そもそも,原告は,本件訴訟において,本件相互協議の合意の内容(原告とUMM社との国外関連取引による所得移転金額が相互協議で合意された金額であること)を争っていないのであり,信義則に反するような行為は何らしていない。被告の主張は,更正処分が取り消された場合に事業税相当額の損金算入も見直されるべきか否かという法律解釈の問題につき,原告の解釈(後記ウ)と異なる自己の解釈をとることを前提に,訴えの一部に利益がない旨をいうものであるが,当該問題は本案審理により解決されるべき事項であり,被告の主張は失当である。
ウ 本件各更正処分においては,2期以上の法人税の連年同時更正がされる場合の事業税相当額の損金算入について定めた法人税基本通達9-5-2に基づき,見積もった納付すべき事業税額(事業税相当額)をその翌事業年度の損金に算入している。そして,法人税の更正処分が取り消されても,それだけでは既に発生している事業税の債務は消滅しないから(現に,原告は,本件各更正処分等の後にされた事業税の更正により,事業税の納税をしている。),直ちに事業税相当額の損金算入が取消しになるものではなく,事業税の減額更正がされて還付金の権利が確定した際に初めて,当該還付金を当該減額更正がされた事業年度の益金に算入することによって処理されるべきである。被告が主張するように事業税相当額の損金算入が取り消されるものとすると,上記通達によらずに原則的な方法による課税がされた場合に比べ,納税者は不利益を受けることになる。
(2)  本件国外関連取引に対する残余利益分割法と同等の方法の適用の可否(争点2)
(被告の主張)
ア 独立価格比準法と同等の方法の適用ができないこと
国外関連者との取引に係る課税の特例について定める措置法66条の4は,実際の取引価額のいかんにかかわらず,資産の低価販売等の場合には独立企業間価格に相当する金額が益金に算入される旨規定するところ,棚卸資産の販売又は購入に係る独立企業間価格とは,①独立価格比準法,②再販売価格基準法,③原価基準法(以下,①~③を総称して「基本三法」という。)及び④その他の方法により算定した金額をいい,④その他の方法は,基本三法を用いることができない場合に限り用いることができるものとされている(同条2項1号)。そして,棚卸資産の販売又は購入以外の取引についての独立企業間価格とは,基本三法と同等の方法及び④その他の方法と同等の方法をいい,④その他の方法と同等の方法は,基本三法と同等の方法を用いることができない場合に限り用いることができるものとされている(同項2号)。
本件国外関連取引は,棚卸資産の販売又は購入以外の取引であるところ,原告からのライセンスについて再実施権は認められていないから,②再販売価格基準法と同等の方法は適用できないし,めっき薬品等に係る無形資産が取引の対象とされているため,取得原価の算定は困難であるから,③原価基準法と同等の方法を適用することもできない。そして,以下のとおり,本件国外関連取引について,原告が内部比較対象取引(原告又は国外関連者が一方当事者となり,それと非関連者との間で行われる比較対象取引をいう。以下同じ。)であると主張する本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引はいずれも比較対象取引とはいえず,他に内部比較対象取引も外部比較対象取引(非関連者と他の非関連者との間で行われる比較対象取引をいう。以下同じ。)も存在せず,①独立価格比準法と同等の方法を適用することはできないから,④その他の方法と同等の方法を用いることができる。
(ア) 独立企業間価格の算定の単位
本件では,製品ごとの取引を単位とする独立企業間価格の算定は不適切であり,製品のみで無形資産の「同種」性を判断することはできない。
すなわち,めっき薬品に関する無形資産は特殊であり,用途によってその管理や使用に係る技術やノウハウも異なってくるのであり,製品(めっき薬品)を単位として無形資産を把握すること自体が困難であること,原告とその国外関連者との間では,単に指定されためっき薬品を販売するのみではなく,複数のめっき薬品に関する製法,使用,管理等のノウハウが包括的に開示されるとともに,顧客先への技術支援に必要となる技術指導や技術者の派遣等の無形資産の使用を伴った役務提供が不可分一体のものとして行われ,パッケージとしての取引がされていたことからすれば,製品ごとの個別取引に分解して無形資産の「同種」性を論ずるべきではない。
(イ) 「同種」の取引といえないこと
独立価格比準法において,比較対象取引は「同種」の棚卸資産の取引であることが求められるところ,「同種」と認められるためには,性状,構造,機能等の面で相当程度の類似性が必要であり,その一部に差異がある場合には,その差異が取引の対価の額に影響を与えないと認められる必要がある。独立価格比準法と同等の方法を適用する場合の無形資産についても同様であり,無形資産が「同種」であるか否かは,取引の形態,無形資産の種類,保護の期間と程度,その無形資産によって期待される利益の程度を考慮して判断すべきである。
まず,無形資産の使用許諾の対象製品の種類別で比較すると,①本件UMMライセンス取引と本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引とでは,そもそも使用許諾の対象となっている薬品の種類に明確な差異が認められるから,使用を許諾した無形資産が同種といえないことは明らかである。また,②本件TUCライセンス取引と本件Polyライセンス取引とでは,使用許諾の対象となっている薬品の種類に明確な差異が認められるし,③本件TUCライセンス取引と本件KPMライセンス取引とでは,例えばTUC社に対するライセンスの対象となっていた無電解金めっき薬品たる「GOBRIGHT(ゴブライト)」(TUC旧契約書に記載はないが,平成11年までには契約対象とされていた。)がKPM社にはライセンスされていないなど,両者には品目差が見られるし,同一種類の中でも細目的な品名や品数は大きく異なっているから,いずれも使用を許諾した無形資産が同種であるとはいえない。
次に,用途別に見ると,例えば,TUC社の平成15年の用途別の生産実績では,PWB(プリント配線板)関連が圧倒的に多く,汎用がわずかであるのに対し,年度は異なるものの,KPM社の平成16年の用途別の生産実績では,汎用がPWB関連を大幅に上回っている。同種のめっき薬品であっても,用途が異なれば,それに伴う製造プロセスや品質管理,必要な技術フォロー体制の場面でも差異が生じ,各契約における価格決定等にも当然違いをもたらすから,この観点からも使用を許諾した無形資産が同種であるとはいえない。
このように,原告がTUC社及びUMM社に対し使用を許諾した無形資産と,KPM社及びPoly社に対し使用を許諾した無形資産は,対象製品の種類や用途等において差異があり,それに応じて特徴等が異なるし,その無形資産の使用によって期待される利益の程度も異なるから,「同種」とはいえない。
また,役務提供の内容について見ても,本件TUCライセンス取引においては,無電解金めっき液を使用しためっき工程についての技術助言,ユーザー対応等のために,緊急の要請に応えた臨時の出張も行うなど頻繁に出張がされているのに対して,KPM社及びPoly社に対する役務提供はそのような内容ではなく,「同種」であるとはいえない。
(ウ) 「同様の状況」の下の取引ではないこと
また,独立価格比準法又はこれと同等の方法における比較対象取引は「同様の状況」の下でされた取引であることを要し,「同様の状況」の下でされた取引といえるかは,取引段階,取引数量,取引時期,引渡条件,取引市場等が考慮されるべき重要な要素となり,「同種」か否かと同様,状況の差異が取引の対価に差異を生じさせる条件か否かを検討すべきところ,以下の点に照らすと,本件国外関連取引と,本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引とは,「同様の状況」の下で行われた取引であるとはいえない。
a 製造・販売地域が異なること
本件国外関連取引は,台湾及びマレーシアの国外関連者に対する無形資産の使用許諾であるから,市場の類似性等を担保するためには比較対象取引の市場は台湾及びマレーシアであることが不可欠であるところ,KPM社及びPoly社の製造・販売地域は,韓国及びタイであり,その差異を調整することはできない。
b 契約形態・条件が異なること
本件国外関連取引においては,対象地域における独占的な権利が付与されているが,本件KPMライセンス取引においては,非独占的契約となっており,その差異を調整することはできない。
c 役務提供の頻度及び程度が異なること
本件国外関連取引と,本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引とでは,無形資産の使用許諾に伴う役務提供の頻度や程度において差異が大きく,その差異を調整することはできない。
d 市場の状況が異なること
本件TUCライセンス取引により使用許諾された無形資産を使用して製造される製品(TUCライセンス製品)は,台湾のPWB用途のめっき薬品の市場で約80%のシェアを占めているが,韓国において,本件KPMライセンス取引により使用許諾された無形資産を使用して製造されるPWB関連向けのめっき薬品のシェアは約14.6%にすぎず,その違いは価格競争力等に影響する。また,生産実績から見ても,TUC社とKPM社とでは大きな差がある。
さらに,本件UMMライセンス取引により使用許諾された無形資産を使用して製造される製品(UMMライセンス製品)の販売先は,日系企業2社がほとんどという特殊性があり,現地企業に販売している他の国とは状況が異なる。
そのほか,好不況の程度も異なるなど,国ごとの市場の状況の差は大きく,その差異を調整することはできない。
イ 残余利益分割法と同等の方法が相当であること
本件国外関連取引に基づいて製造販売された原告ライセンス製品は,TUC社の所在する台湾や,TUC社及びUMM社の製品を販売しているUIS社の所在するシンガポールを含むASEAN諸国において,原告の製造技術・ノウハウが提供されることにより,他社よりも優位な競争上の地位を築いたものである。これは原告が,研究開発,海外支援体制の確立等の企業活動により,①めっき薬品等の製造及び販売に関する技術情報やノウハウを提供し,②国外関連者やその顧客に対し技術支援を行うことによって原告ライセンス製品に対する信用を形成,保持及び発展させたことによるものであり,この①及び②は原告の無形資産である。
また,TUC社及びUIS社については,原告の支援を受けながら,③顧客に対する営業・技術サポートを行うことで原告ライセンス製品のイメージを浸透及び普及させて付加価値を創出し,原告ライセンス製品を台湾等において製造及び販売してきたのであり,この③はTUC社とUIS社の無形資産である。
これらの無形資産を総合的に活用することによって,本件国外関連取引は事業成果を上げているといえるのであるから,上記①ないし③の無形資産は,超過利益の源泉である重要な無形資産である。
したがって,本件国外関連取引の独立企業間価格については,前記のその他の方法である利益分割法(措置法施行令39条の12第8項)と同等の方法の中でも,原告,TUC社及びUIS社の有する重要な無形資産が利益獲得に寄与する点に着目し,通常得られる利益をそれぞれに配分した残余の利益をその重要な無形資産の価値に応じて合理的に配分して独立企業間価格を算定する残余利益分割法(措置法通達66の4(4)-5)と同等の方法を適用して算定するのが相当である。
(原告の主張)
ア 独立価格比準法と同等の方法の適用ができること
基本三法の一つである独立価格比準法の適用のための比較対象取引の存否は,価格に影響を与えることが客観的に明らかな差異が存在するか否かという観点から判断されるべきである。そして,後記(ア)ないし(ウ)のとおり,本件国外関連取引については,本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引を比較対象取引として,独立価格比準法と同等の方法を適用し,独立企業間価格を算定することができる。
したがって,基本三法と同等の方法を適用できないとして,残余利益分割法と同等の方法を適用することは違法である。そして,本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引を比較対象取引として,独立価格比準法と同等の方法を適用すれば,本件国外関連取引の対価の額は独立企業間価格を下回るものではないから,本件各更正処分等(請求の趣旨において取消しを求める部分)は違法である。
(ア) 独立企業間価格の算定の単位
独立企業間価格の算定は,原則として個別の取引ごとに行うべきところ(措置法通達66の4(3)-1),本件国外関連取引については許諾製品ごとに個別取引があるから,その独立企業間価格は,許諾製品ごとに別個に算定されるべきである。そして,許諾製品ごとにそれぞれ比較対象取引が存在するから,独立価格比準法と同等の方法の適用をすべきである。
被告は,本件国外関連取引はそれぞれパッケージとしての取引である旨主張する。しかし,複数の製品を顧客に供給する場合にも,供給する製品それぞれの使用上のノウハウが必要なだけであって,単独で用いる場合と異なる特殊な使用上のノウハウが発生するものではなく,複数の薬品についてのノウハウが顧客への提案時に同時に開示されなければならないものではない。本件国外関連取引も,個々の製品ごとの取引の集積であり,製品を一括したパッケージ取引ではない。
(イ) 本件TUCライセンス取引について
a 本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引は,いずれもノウハウ等及び役務の提供が約されている点において,本件TUCライセンス取引と変わりがない。
b 独立価格比準法と同等の方法の要件である「同種」は,同一よりも広い概念であり,取引対象の特徴が価格に重大な影響を及ぼすことがない程度に類似していれば足りる。そして,製造ノウハウの使用許諾取引においては,「同種」か否かの判断対象は使用許諾されたノウハウであって,そのノウハウから生み出された製品ではないところ,製品種類が同じ(同一の製品群)であれば,使用許諾の対象である製造ノウハウは「同種」であるといえるし,製品種類が異なっても,ロイヤルティ料率に影響を及ぼす程度の差異が認められなければ「同種」であるといえる。
これを本件TUCライセンス取引について見ると,①平成12年3月期及び平成13年3月期においては,TUC旧契約書の対象は5品目であって,これに基づいてTUC社が実際に取引の対象とした製品は3品目(ACL-009,TKK-51及びニムデンNPR-4)のみであり,これらは全て本件KPMライセンス取引の対象製品と同一であるから,「同種」の無形資産の取引といえることは明らかであるし(なお,当該契約前から,他の製品について製造ノウハウの開示及び原料の販売を一体の取引として行っていたが,これはTUC旧契約書による契約の対象ではない。),②平成14年3月期ないし平成16年3月期においても,本件TUCライセンス取引の対象とされているノウハウは,本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引の対象とされているノウハウと同様に,めっき薬品の製造に係るノウハウであって,種類を同じくする製品を対象とするものであり,その対価に影響を与えるような差異もないから,「同種」の無形資産の取引といえる。
また,役務提供の内容についても,価格に重大な影響を及ぼすような差異は存在しない。なお,原告の技術者の台湾への出張は,原告の利益のためにしたものであって,本件TUCライセンス契約上の義務の履行としてされたものではない。
c そして,本件TUCライセンス取引と本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引との間には,製造・販売地域,契約形態・条件,役務提供の頻度及び程度,市場の状況とも,対価の額に影響を与えることが客観的に明らかといえる差異はないから,「同様の状況」の下での取引といえる。
(ウ) 本件UMMライセンス取引について
本件UMMライセンス取引と本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引とは,いずれも同一の製品群である無電解ニッケルめっき液を許諾対象製品とするものであるから,「同種」の製造ノウハウの取引といえるし,その取引の状況において対価の額に影響を与えることが客観的に明らかといえる差異もないから「同様の状況」の下での取引といえる。
また,本件UMMライセンス取引においては,前処理剤も許諾対象製品とされているところ,これと本件KPMライセンス取引における前処理剤であるアサヒクリーナーに関する製造ノウハウの許諾取引は,同一の製品群を対象とするものであるから,「同種」の製造ノウハウの取引といえるし,その取引の状況において対価の額に影響を与えることが客観的に明らかといえる差異もないから「同様の状況」の下での取引といえる。
イ 残余利益分割法と同等の方法が相当でないこと
基本三法と同等の方法を適用することができない場合,適用される方法は,その他の方法のうち,独立企業間価格を算定する最も適切な方法であることが必要である。そして,仮に本件国外関連取引につき本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引を比較対象取引とする独立価格比準法と同等の方法を適用することができないとしても,両取引を比較対象取引として,独立価格比準法の考え方から乖離しない合理的な方法であって「同種」や「同様の状況」を多少緩めた「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を適用すべきである。
これに対し,残余利益分割法と同等の方法は,本件では合理的な方法とはいえない。例えば,TUC社が台湾におけるPWB用途のめっき薬品の市場で高いシェアを獲得した原因は,台湾の立地上の特殊性,台湾企業の独特のニーズ,TUC社の社員の専門能力の高さなどを生かした,TUC社が独自に考案し実践したユーザーに対する技術サポート体制にあるのであって,被告が後記(3)で主張するように試験研究費の額を指標として残余利益を分割したのでは,独立企業間価格を合理的に算定することはできない。
したがって,本件国外関連取引につき,残余利益分割法と同等の方法により独立企業間価格を算定することはできない。
(3)  本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定(争点3)
(被告の主張)
残余利益分割法の適用に当たっては,まず,分割対象利益を算出する必要があり,分割対象利益とは,国外関連取引に係る棚卸資産の販売等により適用対象法人及び国外関連者に生じた営業利益の合計額である。次に,分割対象利益から基本的利益の額(分割対象利益のうち重要な無形資産を有しない非関連者間取引において通常得られる利益に相当する金額)を適用対象法人及び国外関連者それぞれに配分する。最後に,分割対象利益から適用対象法人及び国外関連者の基本的利益の合計額を控除した残余利益を,適用対象法人又は国外関連者が有する重要な無形資産の価値に応じて合理的に配分する。以上は,残余利益分割法と同等の方法を適用する場合においても同様である。
ア 主位的主張
(ア) 分割対象利益の算定
a 分割対象利益の算定方法
本件TUC取引及び本件UMM取引は,いずれも原告が使用許諾の対象としためっき薬品等の製造に関する技術や役務提供を受けてTUC社及びUMM社が製造しためっき薬品等(原告ライセンス製品)の製造販売に係る一連の取引であり,分割対象利益の算定に影響する可能性があるから,本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定を残余利益分割法と同等の方法によって行うにおいては,原告ライセンス製品の非関連者への販売を担っていた国外関連者であるUIS社を含めて分割対象利益を算定し,3社間(①原告,TUC社及びUIS社の3社,②原告,UMM社及びUIS社の3社)で利益分割を行うことが相当というべきであり,本件における分割対象利益の額は,本件各事業年度ごとに,後記bのとおり本件TUC取引及び本件UMM取引において原告,TUC社,UMM社及びUIS社のそれぞれに生じた営業利益の合計額となる(別表3-1の⑳欄及び別表3-2の⑫欄)。
b 本件TUC取引及び本件UMM取引における原告,TUC社,UMM社及びUIS社の営業利益の算定
(a) 原告の営業利益の額
分割対象利益に含めるべきめっき薬品等の製造販売に係る無形資産の使用許諾及び役務提供に係る原告の営業利益は,①本件TUCライセンス取引については,原告がTUC社から得た当該無形資産の使用許諾及び役務提供に係るロイヤルティの収入金額(別表3-1の①欄。ただし,UIS社以外の国外関連者についてはTUC社から仕入れた製品の販売に係る金額を合理的に算定することができなかったことから,その営業利益を分割対象利益には含めないこととしたため,上記金額は,TUC社がUIS社以外の国外関連者に販売した額に対応する額を除外したものである。具体的には,原告がTUC社から得たロイヤルティ収入金額に,TUCライセンス製品に係るTUC社の全売上高に占めるTUC社が直接外部に売り上げた金額とUIS社に販売した金額との合計額の割合(以下「本件TUC取引割合」という。)を乗じて算出した。)であり,②本件UMMライセンス取引については,原告がUMM社から得た当該無形資産の使用許諾及び役務提供に係るロイヤルティの収入金額(別表3-2の①欄)である。
なお,本件TUCライセンス取引は,平成12年3月期及び平成13年3月期においても,原告が有するノウハウ等を使用してTUC社との間で行われた全ての取引を指しており,TUC旧契約書に特定明記された製品に係る取引に限らない。当時の取引の実態としても,同契約書に特定明記された品目以外の製品につき,原告が主張するように原料の販売価格を高く設定するなどして,原料売買による販売利益とは別にノウハウの使用許諾の対価を回収していたとは認められない。
(b) TUC社,UMM社及びUIS社の営業利益の額
本件TUC取引について,分割対象利益に含めるべきTUC社の営業利益は,TUC社が原告から無形資産の使用許諾及び役務提供を受けたことにより生産した製品(TUCライセンス製品)の売上高から,それに対応する売上原価と販売費及び一般管理費(以下「販管費」という。)を控除した金額(別表3-1の⑩欄。ただし,いずれも本件TUC取引割合を乗じたもの)であり,分割対象利益に含めるべきUIS社の営業利益は,UIS社がTUC社から仕入れた製品(TUCライセンス製品)の売上高から,それに対応する売上原価と販管費を控除した金額(別表3-1の⑲欄)である。
また,本件UMM取引について,分割対象利益に含めるべきUMM社の営業利益は,UMM社が原告から無形資産の使用許諾及び役務提供を受けたことにより生産した製品(UMMライセンス製品)の売上高から,それに対応する売上原価と販管費を控除した金額(別表3-2の⑥欄)であり,分割対象利益に含めるべきUIS社の営業利益は,UIS社がUMM社から仕入れた製品(UMMライセンス製品)の売上高から,それに対応する売上原価と販管費を控除した金額(別表3-2の⑪欄)である。
(イ) 基本的利益及び残余利益の算定
本件TUC取引及び本件UMM取引のいずれについても,原告の事業活動のほとんどが原告の重要な無形資産を使用して行われていることから,原告の基本的利益はないものとした。
他方,TUC社,UMM社及びUIS社の基本的利益については,それぞれ台湾,マレーシア及びASEAN諸国の企業から比較対象企業を選定した。
TUC社については,比較対象企業の総費用に対する営業利益の割合の中位値を利益指標とし,TUC社の総費用にTUC社の売上高合計に対してTUC社の原告ライセンス製品の売上高が占める割合を乗じた金額から,めっき薬品製造等に係る支払ロイヤルティの額とTUC社が有する無形資産価値の指標とした研究開発費の額の合計額を控除した金額(ただし,いずれも本件TUC取引割合を乗じたもの)に上記利益指標を乗じ,基本的利益を算出した(別表4-1の⑦欄)。
UMM社については,比較対象企業の総費用に対する営業利益の割合の中位値を利益指標とし,UMM社の総費用からめっき薬品製造等に係る支払ロイヤルティの額を控除した金額に上記利益指標を乗じ,基本的利益を算出した(別表4-2の⑥欄)。
UIS社については,比較対象企業の売上高に対する営業利益の割合の中位値を利益指標とし,これをUIS社の売上高に乗じて基本的利益を算出した(別表4-1の⑩欄及び別表4-2の⑨欄)。
本件における残余利益の額は,本件各事業年度ごとに,前記(ア)で算出した分割対象利益の額から上記のとおり算出したTUC社,UMM社及びUIS社の基本的利益の額の合計額を控除した額となる(別表4-1の⑪欄及び別表4-2の⑩欄)。
(ウ) 残余利益の配分
残余利益の配分に当たっては,適用対象法人と国外関連者がどのような重要な無形資産を有するのかを検討し,その重要な無形資産の価値を算定する必要があるところ,当該重要な無形資産の開発のために支出した費用等の額によって配分を行うのが合理的である。
a 配分比率算出の基礎となる本件TUC取引における原告,TUC社及びUIS社の支出額
(a) 原告の支出額
原告が有する重要な無形資産であるめっき薬品の製造及び販売に関する技術は,原告の研究開発部門である中央研究所(以下,単に「中央研究所」という。)で形成されているところ,中央研究所での研究開発活動は,TUC社のみならず原告のグループ会社全体が受益するものであること,本件TUCライセンス取引には含まれていない表面処理用機械の研究開発も行っていること,前述のとおり分割対象利益からUIS社以外の国外関連者への販売分を除いていることから,原告によって中央研究所で研究開発費として支出された金額に,原告の全拠点における外部売上金額に占めるTUCライセンス製品の外部売上金額の割合,中央研究所の研究開発部門総人員数のうち表面処理用機械の研究開発を担当する者を除く人員が占める割合を乗じ,更に本件TUC取引割合を乗じて,本件TUC取引に係る原告の重要な無形資産の価値を示す指標となる原告の支出額とした(別表5-1の①欄)。
(b) TUC社の支出額
TUC社が有する重要な無形資産は,顧客に対する営業技術サービス等であると認められ,これらに関連して支出された研究開発費の額が重要な無形資産の価値の指標となるところ,TUC社の研究開発費の額に,本件TUC取引割合を乗じた金額をもって,本件TUC取引に係るTUC社の重要な無形資産の価値を示す指標となるTUC社の支出額とした(別表5-1の②欄)。
(c) UIS社の支出額
UIS社が有する重要な無形資産は,顧客に対する営業技術サービス等であると認められ,UIS社において支出された営業技術関連費用の額のうち,本件TUCライセンス取引に係る部分と認められる金額,すなわち,UIS社での原告ライセンス製品の売上高に対応する販管費の額から,本件TUC取引に対応する販管費を按分計算によって算出し,その額にUIS社の総人員数に対する技術者数の占める割合を乗じて算出した金額を,UIS社の重要な無形資産の価値を示す指標となるUIS社の支出額とした(別表5-1の③欄)。
b 配分比率算出の基礎となる本件UMM取引における原告,UMM社及びUIS社の支出額
(a) 原告の支出額
前記a(a)と同様に,原告によって中央研究所で研究開発費として支出された金額に,原告の全拠点における外部売上金額に占めるUMMライセンス製品の外部売上金額の割合,中央研究所の研究開発部門総人員数のうち表面処理用機械の研究開発を担当する者を除く人員が占める割合を乗じて,本件UMM取引に係る原告の重要な無形資産の価値を示す指標となる原告の支出額とした(別表5-2の①欄)。
(b) UMM社の支出額
UMM社については,顧客に対する営業技術サービス等,超過利益の源泉となる企業活動を行っておらず,重要な無形資産を有していないため,重要な無形資産の価値指標はない。
(c) UIS社の支出額
UIS社が有する重要な無形資産は,顧客に対する営業技術サービス等であると認められ,UIS社において支出された営業技術関連費用の額のうち,本件UMMライセンス取引に係る部分と認められる金額,すなわち,UIS社での原告ライセンス製品の売上高に対応する販管費の額から,本件UMM取引に対応する販管費を按分計算によって算出し,その額にUIS社の総人員数に対する技術者数の占める割合を乗じて算出した金額を,UIS社の重要な無形資産の価値を示す指標となるUIS社の支出額とした(別表5-2の②欄)。
c 原告に配分すべき残余利益の額
原告に配分すべき残余利益の額は,①本件TUCライセンス取引については,その残余利益に,原告,TUC社及びUIS社の各支出額の合計額に占める原告の支出額の割合を乗じて算出した金額(別表5-1の⑤欄),②本件UMMライセンス取引については,その残余利益に,原告及びUIS社の各支出額の合計額に占める原告の支出額の割合を乗じて算出した金額(別表5-2の④欄)となる。
(エ) 本件国外関連取引に係る所得移転額
a 独立企業間価格の算定
本件各事業年度における本件国外関連取引に係る独立企業間価格は,原告には基本的利益が認められないことから,原告に配分すべき残余利益の金額であり,その金額は,本件TUCライセンス取引については別表5-1の⑤欄のとおり,本件UMMライセンス取引については別表5-2の④欄のとおりとなる。
b 所得移転額の算定
本件各事業年度における本件国外関連取引に係る国外関連者への所得移転額は,上記aの独立企業間価格から原告の営業利益であるロイヤルティの収入金額を差し引いた金額であり,その金額は,本件TUCライセンス取引については別表5-1の⑦欄のとおり,本件UMMライセンス取引については別表5-2の⑥欄のとおりとなる。ただし,本件UMMライセンス取引に係る平成15年3月期及び平成16年3月期の所得移転額は,本件相互協議の合意に基づく金額である。
なお,以上の計算過程及び結果は,別表6-1及び6-2に示すとおりである。
(オ) 本件各事業年度の原告の所得金額及び納付すべき法人税額並びに過少申告加算税額
以上を前提に,本件各事業年度の原告の所得金額及び納付すべき法人税額並びに過少申告加算税額を計算すると,別紙3主位的主張額の内訳のとおりとなり(なお,このうち⑤の事業税の損金算入額は,前期の更正処分により増加した所得金額に対応する事業税相当額の損金算入額である。),いずれも本件各更正処分等(ただし,本件減額更正処分等及び本件裁決による一部取消し後のもの)におけるこれらの金額を上回るから,本件各更正処分等(ただし,本件減額更正処分等及び本件裁決による一部取消し後のもの)は,適法である。
イ 予備的主張
(ア) 原告は,TUC社について,①原告のノウハウに由来しない自社開発製品の製造販売が行われており,②仕入販売も行っていたとして,これらに係る利益を分割対象利益から除外すべきである旨主張する。
しかし,上記①については,TUC社による自社開発の事実はないとした調査時の原告の説明は合理的で信頼でき,そのほか本件各事業年度においてTUC社が自社開発製品を製造販売した事実を裏付ける証拠はない。TUC社において自社開発製品の開発活動がされていたとしても,本件各事業年度においては製品の販売に結びつくまでは進展していなかったし,原告がTUC社の自社開発製品であるとする製品は,原告のノウハウ等に由来するTUCライセンス製品の一部を改変した類似品ないし改良品にすぎないから,原告の主張には理由がない。
また,上記②についても,被告が独立企業間価格の算定の基礎とした財務データ(乙52)は,原告自身が,TUC社において原告のノウハウ等の使用許諾を受けて製造した製品の製造販売に係る財務データとして作成し,税務職員に提出したものであり,これに仕入販売取引のデータが含まれているとは考え難いことなどからすれば,原告の主張には理由がない。仮に上記データに仕入販売取引のデータが含まれていたとしても,原告提出の資料によればTUC社によるめっき薬品の仕入販売取引に係る営業利益が赤字であることからすれば,本件各更正処分においては,分割対象利益(ひいては独立企業間価格)が過少に算定されていた可能性が極めて高く,そうでなくてもその影響額はごくわずかであるから,本件各更正処分を取り消すほどの重大な影響があるとはいえない。
(イ) ただし,念のため,分割対象利益についてTUC社の仕入販売取引に係る営業利益が混入しているとする原告の上記②の主張を踏まえ,予備的主張として再計算を行う(上記①の主張に理由のないことは明白であるため,この点は考慮しない。)。再計算の基本的方針は次のaないしcのとおりである。
a 仕入販売取引に係るデータの修正
課税庁が本件TUCライセンス取引に係るTUC社の営業利益(ひいては分割対象利益)を算定するに当たり基礎とした資料(乙52)のデータには,仕入販売取引に係るデータが混入している旨の原告の主張を踏まえ,原告の主張に係る仕入販売取引を除いた製造販売取引のみのデータを算定し直した上,残余利益分割法と同等の方法による国外移転所得額の算定過程について必要部分を見直す。
b 本件裁決における算定の修正及び変更箇所の反映
本件裁決において,課税庁がした国外移転所得額の算定過程のうち3箇所について,いずれも原告に有利となる修正及び変更が行われて,本件各更正処分が一部取り消されたことから,本件裁決における算定に沿った計算に修正する。
c ロイヤルティ収入を得るために要した費用の控除
課税庁の算定及び被告の主位的主張額の算定においては,原告の営業利益(分割対象利益)を算定するに当たり,原告のロイヤルティ収入からロイヤルティ収入を得るために要した費用を控除していなかったが,本来,営業利益の算定に当たっては,利益獲得に要した費用を控除するのが合理的であることから,この点を修正する。
(ウ) 予備的主張1
上記aないしcの全てを考慮して各修正を行った計算過程及び結果は,別表7-1及び7-2に示すとおりである。
これを前提に,本件各事業年度の原告の所得金額及び納付すべき法人税額並びに過少申告加算税額を計算すると,別紙4予備的主張額の内訳(予備的主張1)のとおりとなり,いずれも本件各更正処分等(ただし,本件減額更正処分等及び本件裁決による一部取消し後のもの)におけるこれらの金額を上回るから,本件各更正処分等(ただし,本件減額更正処分等及び本件裁決による一部取消し後のもの)は,適法である。
(エ) 予備的主張2
上記cの算定方法によると,原告の国外移転所得額が増加することとなるところ,念のためより謙抑的に,上記a及びbのみを考慮して各修正を行った計算過程及び結果は,別表8-1及び8-2に示すとおりである。
これを前提に,本件各事業年度の原告の所得金額及び納付すべき法人税額並びに過少申告加算税額を計算すると,別紙5予備的主張額の内訳(予備的主張2)のとおりとなり,本件各更正処分等(ただし,本件減額更正処分等及び本件裁決による一部取消し後のもの)は,少なくともその限度では適法というべきである。
(原告の主張)
ア 被告の主位的主張について
(ア) 被告が主位的主張において主張するTUC社の売上高には,本件TUCライセンス取引により製造されたTUCライセンス製品の売上高のみならず,TUC社が自社開発した製品の売上高や,TUC社が仕入販売しためっき薬品の売上高も含まれている。同じくTUC社の売上原価も,これら全ての売上高に対応するものである。それにもかかわらず,被告が主位的に主張する独立企業間価格は,これらのTUC社の売上高等の全てがTUCライセンス製品の売上高等であることを前提として算定されたものであるから,誤っている。
(イ) また,平成12年3月期及び平成13年3月期につき,TUC旧契約書に基づく合意の対象は,同契約書に特定明記された5品目だけであり,そのうち実際の取引対象は,TUC社が新たに製造ノウハウの開示を受けて製造を開始した3品目(ニムデンNPR-4,ACL-009及びTKK-51)であって,上記5品目以外の製品(以下「既存製品」という。)については,原告がTUC社に対して製造ノウハウの開示と原料の販売を一体の取引として行っていたものである。このように,既存製品はTUC旧契約書の取引対象ではないから,更正処分の対象取引とはいえず,これを含めて独立企業間価格を算定することは誤りである。仮にこれを含めて独立企業間価格を算定するとしても,残余利益分割法と同等の方法の適用に当たり,一体の取引の対価である原料の売買代金の中に含まれている製造ノウハウの開示の対価部分の金額を分割対象利益に加算すべきであり,これを加算していない被告の計算は誤りである。
イ 被告の予備的主張について
(ア) TUC社の自社開発製品の製造販売取引について
前記ア(ア)のとおり,TUC社は自社開発製品の製造販売取引をしていたのに,被告の予備的主張はこの点の修正をしていないから,その計算が誤りであることは明らかである。
(イ) TUC社の仕入販売取引について
被告は,TUC社の仕入販売取引を除いたとして,国外移転所得額を算定しているが,その前提とした売上高の期間とこれに乗じる製造製品の売上割合の期間とが一致しておらず,TUCライセンス製品の売上高が誤っているし,その売上原価にも同様の誤りがあるから,国外移転所得額を正確に算定したものではない。
(ウ) ロイヤルティ収入を得るための費用の控除(予備的主張1)について
被告は,原告がロイヤルティ収入を得るために要した費用を控除するとしているが,①原告が本件各事業年度に支出した研究開発費は,将来製造を開始する新製品を開発するためのものであって,原告がTUC社にライセンスを与えている各製品の開発のために支出されたものではないし,②製品の開発期間と販売期間とは異なるため,1年間に支出された研究開発費は,当該1年間のロイヤルティ収入に対応する費用ではなく,これらの点において被告の計算は誤っている。
第3  当裁判所の判断
1  争点1(平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分の取消しを求める訴えの適法性)について
(1)  法人税については,申告納税方式がとられ,その納付すべき税額は第一次的には納税者のする申告により確定するものとされている(国税通則法16条1項1号,2項1号,法人税法74条1項)。そして,申告納税方式の国税につき,納税者は,納税申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときなど,申告の内容が誤って自己に不利になっていた場合には,所定の期間内に限り,更正の請求をすることによりその是正を求めることができるものとされているところ(国税通則法23条),申告の誤りにつきこのような特別の救済手段が法定されていることからすれば,特段の事情がない限り,納税者が,申告後にされた増額更正処分につき,更正の請求の手続を経ることなく,申告額を超えない部分の取消しを求める訴えを提起することは許されず,当該訴えは不適法というべきである。
これを原告の平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分の取消しを求める訴え(請求の趣旨(4)及び(5))について見ると,原告はいずれも自ら申告した納付すべき税額を超える部分の取消しを求めているから,当該訴えは,上記のような更正の請求の排他性に抵触するものではない。
(2)ア  ところで,措置法66条の4第1項の規定に基づく課税(以下「移転価格課税」という。)がされる場合,実際の取引価格と独立企業間価格との差額について,我が国と国外関連者の所在国との間で国際的二重課税の問題が生ずるところ,このような場合,当事者(内国法人)の申立て等により,我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約等の規定に基づく,我が国の権限ある当局と相手国等の権限ある当局との協議が行われることがあり,これを相互協議という(乙1)。そして,この相互協議につき,国税庁長官作成の国税局長等宛て平成13年6月25日付け「相互協議の手続について(事務運営指針)」(乙1)によれば,国税庁長官官房国際業務課相互協議室は,相手国等の権限ある当局と合意に至ると認められる状況になった場合には,合意に先立ち,合意案の内容を文書で申立者に通知するとともに,当該合意内容に同意するかどうかを申立者に確認し,申立者がこれに同意することを確認した後に,相手国等の権限ある当局と合意する一方(18項),申立者が上記合意案に同意しなかった場合には,相手国等の権限ある当局に相互協議の終了を申し入れる(20項(1)ヘ)ものとされている。
本件においても,前記前提事実(6)エのとおり,本件各更正処分により移転価格課税を受けた原告の申立てにより,我が国の権限ある当局とマレーシアの権限ある当局とが相互協議を行った結果,平成15年3月期及び平成16年3月期の原告とUMM社との取引に係る課税に関し,本件相互協議の合意が成立し,これを受けて,東税務署長は,原告の平成15年3月期及び平成16年3月期の法人税につき,同合意の内容に従って所得金額及び納付すべき税額を減額する更正処分をしたものである。そして,証拠(乙99の1・2)によれば,原告は,本件相互協議の合意の成立に先立つ平成21年7月7日付けで,国税庁長官官房相互協議室長宛てに,①本件相互協議の合意の内容を原告がした相互協議の申立てに係る課税問題の最終的な解決として受け入れることに同意する旨等が記載された「相互協議の合意に先立つ同意の確認について(回答)」と題する書面,及び,②原告は,平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分(ただし,相互協議の合意に基づいてされる減額更正処分後のもの)について,原告とUMM社との取引に関し,異議申立て,審査請求及び訴訟を行わないことを確約する旨等が記載された「確認事項」と題する書面(以下「本件確認書面」という。)を提出していたことが認められるから,本件相互協議の合意は,その合意内容について原告が同意していることを前提に成立したものということができる。
イ  この点につき,被告は,相互協議の合意が申立者の同意を前提とするものであることからすれば,更正処分につき,相互協議により合意された調整金額を超えない部分の取消しを求める訴えは申立者(納税者)の自認する範囲を超えて取消しを求めるものであるなどとして,更正処分のうち申告額と相互協議により合意された調整金額との合計額を超えない部分の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠いて不適法である旨主張する。
しかし,権限ある当局間での相互協議の合意又はその合意内容についての納税者の同意は,それ自体として納税者が納付すべき税額を法的に確定する効果を有するものではないし,その合意や同意の効力等を争うための特別の手続が設けられているものでもないから,申告額を超えない部分の取消しを求める訴えが更正の請求の排他性により許されないこと(前記(1))とは事情を異にし,納税者の同意を前提として相互協議の合意が成立したことの一事をもって,更正処分のうち所得金額が申告額と相互協議により合意された調整金額との合計額を超えない部分の取消しを求める訴えが不適法になるものということはできない。
ウ  また,被告は,原告が本件相互協議の合意の内容に同意するに当たり本件確認書面を提出していることなどから,平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分のうち申告額と相互協議により合意された調整金額との合計額を超えない部分の取消しを求める訴えは,不起訴の合意又は信義則に反し,不適法である旨主張する。
しかし,本件確認書面は,その提出の経緯や内容に照らしても,平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分につき,その各期における原告とUMM社との取引に係る所得移転額が本件相互協議の合意による調整金額のとおりであること以外の部分を不服として原告が訴えを提起することまで否定する趣旨のものとは解されない。そして,本件訴訟において,原告は,平成15年3月期及び平成16年3月期における原告とUMM社との取引に係る所得移転額が本件相互協議の合意による調整金額(4200万円及び5000万円)のとおりであることを争っておらず,それ以外の部分を不服として,上記各期の更正処分の取消しを求めているのである。
そもそも,原告の平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分の取消しを求める訴え(請求の趣旨(4)及び(5))が,被告のいう「申告額と相互協議により合意された調整金額との合計額を超えない部分」の取消しを求める内容となっているのは,上記各更正処分において,法人税基本通達9-5-2の定めに従い,直前の事業年度分の事業税相当額の損金算入がされていたところ,①被告は,原告の主張に従って直前の事業年度の更正処分が取り消されれば当該事業税相当額の損金算入も見直されるべきであるとして,事業税相当額の損金算入額を取り消し又は減額した上で所得金額及び納付すべき税額を算出することにより,原告の請求の基礎とすべき額を計算しているのに対し(別表2-1及び2-2),②原告は,直前の事業年度の更正処分が取り消されても当該事業税相当額の損金算入が直ちに見直されるべきものではないとして,当該事業税相当額の損金算入額を維持したまま所得金額及び納付すべき税額を計算していることに原因がある(この点は当事者間にも争いがない。)。しかるに,法人税に係る2年以上の連年同時更正の処分が取り消された場合における,上記通達に従ってされていた事業税相当額の損金算入の取扱いについて,上記①又は②のいずれの見解をとるかは,本件相互協議の合意の内容とは関係のない法律解釈の問題であるから,原告が上記②の見解を前提に所得金額及び納付すべき税額を計算して訴えを提起することが,本件相互協議の合意の内容に同意したことやその同意に際して本件確認書面を提出したことと矛盾抵触するものということはできない。(なお,上記①又は②のいずれの見解をとるかは,本案の問題として判断されるべき事項である。)
そうすると,仮に本件確認書面が一定の事項につき不起訴の合意をする趣旨を含むものであるとしても,原告の平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分の取消しを求める訴え(請求の趣旨(4)及び(5))がその趣旨に反するものとはいえないから,同訴えが不起訴の合意に反して不適法であるということはできない。また,以上の検討内容に照らせば,同訴えが信義則に反して不適法であるということもできない。
(3)  さらに,被告は,原告は異議申立て及び審査請求において更正処分のうち本件相互協議の合意が成立した平成15年3月期及び平成16年3月期のUMM社との取引を基礎とする部分を不服申立ての対象から除いているから,同部分の訴えは不服申立前置を欠き,不適法である旨主張する。
そこで検討すると,証拠(甲10,乙98)によれば,原告は,本件各更正処分等に係る異議申立ての手続において,本件相互協議の合意の成立を受けて,平成15年3月期及び平成16年3月期の原告とUMM社との取引については審理の対象から除外するよう求める上申をするとともに,平成15年3月期及び平成16年3月期に係る審査請求の趣旨を,原告とTUC社との間の国外関連取引に基づく部分に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求めるものとしていたことが認められる。しかし,原告は,本件訴訟において,平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分(本件相互協議の合意の内容に従って減額更正された後のもの)につき,原告とUMM社との取引による所得移転額以外の部分(原告とTUC社との取引による所得移転額)を不服として処分の取消しを求めているのであって,上記の上申及び審査請求の趣旨の内容を考慮しても,当該取消しの訴えが異議申立て及び審査請求を経ていないとはいえない。また,上記の上申及び審査請求の趣旨は,不服申立ての範囲を所得金額又は納付すべき税額の金額において限定したものではないから,請求の趣旨(4)及び(5)のとおりの訴えについて,所得金額又は納付すべき税額の金額面において異議申立て及び審査請求による不服申立ての範囲を超えるものということもできない。
したがって,原告の平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分の取消しを求める訴え(請求の趣旨(4)及び(5))について,不服申立前置を欠くものとはいえない。
(4)  以上によれば,原告の平成15年3月期更正処分及び平成16年3月期更正処分の取消しを求める訴え(請求の趣旨(4)及び(5))の一部が不適法である旨の被告の主張は理由がなく,同訴えは適法というべきである。
2  争点2(本件国外関連取引に対する残余利益分割法と同等の方法の適用の可否)について
(1)  本件国外関連取引の概要等
本件国外関連取引の概要等について,前記前提事実(1)ないし(3)のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,表面処理技術のリーディングカンパニーとして,先端的めっき技術をトータルに提供する開発提案型企業を標榜しており,原告及びその国外関連者(以下「原告グループ」という。)において,めっき薬品の開発・販売のみならず,顧客に対して装置,制御システムに至るまでを一貫して提案・供給する体制をとっている点に特徴がある。
また,原告は,技術集約型企業として,研究開発部門の拡充発展を図っており,昭和43年に開設した表面処理に関する学際的研究機関である中央研究所において,各種めっき・表面処理技術の研究や製品開発のほか,めっき技術に関してトータルソリューションを提供できるような薬品・機械・管理装置・CAE(コンピューター支援エンジニアリング)をリンクしたシステム開発等を行っている。(乙20,27,28)
イ 原告は,1980年代中頃から,米国,香港,タイ,マレーシア,中国,台湾,シンガポールに進出し,積極的な海外事業を展開している(乙27)。
ウ(ア) TUC社は,1987年(昭和62年)に台湾において設立され,原告グループの一つとして,台湾市場の販売拠点かつ台湾・中国・ASEAN諸国市場の生産拠点となっている(乙27,31)。
(イ) 本件各事業年度において,原告は,TUC社との間で,めっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾並びに技術訓練及び支援等の役務提供を行い,対価(ロイヤルティ)を得るという取引(本件TUCライセンス取引)を行っていた(前記前提事実(2))。
すなわち,TUC社では,設立当初から,原告から開示を受けた製造ノウハウ等を用いてめっき薬品を製造していたが,ロイヤルティの支払について台湾当局の規制があったため,原告は,TUC社に移転した技術ないしノウハウについてロイヤルティを受ける替わりに,TUC社が使用原料を原告から購入することを義務付け,当該原料の販売利益の取得に努めてきた。その後,1995年(平成7年)に上記規制が廃止され,1997年(平成9年)にTUC社が原告から新製品5品目の製造ノウハウ等の開示を受けてこれを製造・販売することになったのを機に,原告及びTUC社は,ロイヤルティ契約を締結することとしたが,当時のTUC社は収益規模がまだ小さく,ロイヤルティの支払による同社の財務内容への影響が大きかったことなどから,ロイヤルティの支払対象を当該新製品5品目に関連するものに限定することとして,同年6月1日付けTUC旧契約書を作成した。さらに,TUC社の業績が向上する一方で,原告の研究開発費を原告が単独で負担することが困難となったため,原告及びTUC社は,原告の研究開発費の受益者であるTUC社に応分の負担を求めるという観点から,2001年(平成13年)4月1日付けTUC新契約書を作成し,TUC社が従前から製造していたがTUC旧契約書によるロイヤルティの支払対象には含まれていなかった既存製品を含めて,当時TUC社が製造していた全品目(208品目)を対象に,一律5%のロイヤルティを適用することとした。(前記前提事実(2),甲63,67,68,103,乙24,27,85の1の1・2,乙88,89)
(ウ) 原告の製品のうち無電解金めっき薬品である「ゴブライト」は,高度なハンダ接合性という優れた特徴を有するものであり,原告は,平成11年までに,ゴブライトを使用して,従来では考えられないような高度なハンダ接合性の要求に対応できると評される新しい無電解ニッケル・金めっきプロセスを開発した(乙81)。
このゴブライト製品は,TUC旧契約書には記載されていなかったが,原告は,遅くとも平成11年末頃以降,原告の従業員をTUC社に派遣して,ゴブライト製品やこれを使用したプロセスの技術的ポイントについて打合せ・説明をしていたほか,TUC社は,遅くとも2000年(平成12年)1~6月期には,ゴブライト製品の一部の製造を開始していた。そして,TUC新契約書において,ゴブライト製品もロイヤルティの支払対象とされた。(前記前提事実(2)ア,イ,乙76~79,85の8,乙90,104)
(エ) TUC社は,ユーザーに対する徹底的な技術サポート(24時間サポート体制,認定作業サポート等)のサービスによって商品に付加価値をつけることをビジネスモデル化しており,営業部門,技術サポート部門及び市場調査企画部門に相当程度のマンパワーを投入している(甲42,47の1・2,乙28,29)。
(オ) 台湾のPWB(プリント配線板)用途のめっき薬品の市場において,TUCライセンス製品は,2003年(平成15年)には約80%のシェアを占めるに至っている(甲42,乙29,33)。
エ(ア) UMM社は,1996年(平成8年)にマレーシアにおいて設立された原告の100%子会社であり,UIS社向けの生産拠点となっている(甲83,乙27,31)。
(イ) 本件各事業年度において,原告は,UMM社との間で,めっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾並びに技術訓練及び支援等の役務提供を行い,対価(ロイヤルティ)を得るという取引(本件UMMライセンス取引)を行っていた(前記前提事実(3))。
すなわち,UMM社は,原告から開示を受けた製造ノウハウ等を用いて無電解ニッケルめっき薬品等を製造していたところ,原告及びUMM社は,2000年(平成12年)12月1日付けUMM旧契約書により,前処理剤及び無電解ニッケルめっき薬品の32品目を対象として,UMM社がロイヤルティを支払うことなどを定め,更に2003年(平成15年)1月7日付けUMM新契約書により,その対象を37品目とした。ただし,UMM社は,遅くとも1998年(平成10年)以降,原告に対して同様のロイヤルティを支払っており,UMM旧契約書においても,契約期間の始期は同年1月1日とされていた。(前記前提事実(3),乙27,84)
(ウ) UMM社は,製造した製品を全てUIS社に販売していることから,顧客に対する営業や技術サポート等の活動は行っていない(弁論の全趣旨)。
オ(ア) UIS社は,1988年(昭和63年)にシンガポールにおいてその前身会社が設立された原告の100%子会社であって,TUC社やUMM社等から仕入れた原告ライセンス製品をASEAN諸国の非関連者に販売しており,ASEAN諸国市場の販売拠点となっている。UIS社は,マレーシアの日系企業(日本法人の現地子会社)2社等を主たる顧客としている。(前記前提事実(2)ウ,(3)ウ,甲83,乙27,28,31)
(イ) UIS社は,ASEAN諸国や日系企業の顧客に対する営業,技術サポートの担当部門を有し,その活動を行っている(乙30,31)。
(2)  基本三法と同等の方法の適用の可否
本件各更正処分の適法性に関する被告の主張は,原告がその国外関連者であるTUC社及びUMM社との間でした棚卸資産の販売又は購入以外の取引である本件国外関連取引につき,措置法66条の4第2項1号ニに掲げる政令で定める方法である利益分割法(措置法施行令39条の12第8項)のうちの残余利益分割法と同等の方法を用いて独立企業間価格を算定し,措置法66条の4第1項に基づき当該取引がその価格で行われたものとみなすものである。
棚卸資産の販売又は購入以外の取引に係る独立企業間価格の算定に当たり,政令で定める方法と同等の方法は,基本三法(独立価格比準法,再販売価格基準法,原価基準法)と同等の方法を用いることができない場合に限り用いることができるものであるから(措置法66条の4第2項2号柱書の括弧書),まず,本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定につき,基本三法と同等の方法を用いることができないと認められるか否かについて検討する。
ただし,平成15年3月期及び平成16年3月期の本件UMMライセンス取引については,本件相互協議の合意が成立しており(前記前提事実(6)エ),これにより合意された調整金額を国外移転所得額と扱うことについて当事者間にも争いがないから,上記取引については,以下の独立企業間価格の算定に係る検討の対象外である。
ア 独立価格比準法と同等の方法の適用の可否
(ア) 比較対象取引の意義
基本三法のうち独立価格比準法とは,特殊の関係にない売手と買手が,国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階,取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(当該同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階,取引数量その他に差異のある状況の下で売買した取引がある場合において,その差異により生じる対価の額の差を調整できるときは,その調整を行った後の対価の額を含む。)に相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう(措置法66条の4第2項1号イ)。
このように,独立価格比準法は「同種」の棚卸資産について「同様の状況」(取引段階等の差異により生じる対価の額の差を調整できる状況を含むものとする。以下同じ。)の下で行われた売買を比較対象取引とするものであるところ,本件国外関連取引は無形資産及び役務(以下「無形資産等」という。)を取引の対象とするものであるから,これについて独立価格比準法と同等の方法を適用するには,本件国外関連取引の対象と「同種」の無形資産等について,本件国外関連取引と「同様の状況」の下で行われた取引を比較対象取引とする必要があるというべきである。
そして,独立価格比準法及びこれと同等の方法は,比較対象取引の対価の額をもって国外関連取引の対価の額とみなすものであるから,比較対象取引が「同種」かつ「同様の状況」の下での取引といえるか否かは,対価の額に影響を及ぼす差異があるか否か(「同様の状況」については,更にその差異により生じる対価の額の差を調整できるか否か)という観点から検討するのが相当である。
(イ) 独立企業間価格の算定の単位
本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定及び比較対象取引の特定の単位につき,原告は,本件国外関連取引については許諾製品ごとに個別取引があるから,その独立企業間価格は許諾製品ごとに別個に算定されるべきであるとして,許諾製品ごとにそれぞれ比較対象取引の存否を検討すべきである旨主張するのに対し,被告は,製品ごとの取引を単位とする独立企業間価格の算定は不適切である旨主張する。
そこで検討すると,原告グループが開発供給するめっきプロセスにおいては,一般に,前処理剤等を含む複数のめっき薬品がプロセスとして使用されることにより表面処理加工が完成することが多く(乙71,75,80,81),単一のめっき薬品のみで表面処理加工の目的を達するとは限らない。また,めっき薬品は製品ごとに特徴があり,需要用途に応じて各特徴により製品の優位性を示すことができるケースが多いため,原告グループの営業戦略上,品揃えは重要な意味を有している(乙28)。さらに,原告グループは,先端的めっき技術をトータルに提供する開発提案型企業を標榜し,めっき薬品の開発・販売のみならず,顧客に対して装置,制御システムに至るまでを一貫して提案・供給する体制をとっており(前記(1)ア),顧客が考える表面処理に合うように相談に応じることを含め,めっきの出来上がりまでを顧客への提供の対象としている(乙28)。その中で,原告は,表面処理技術の研究と開発を行う中央研究所を有し,めっき薬品の開発だけでなく,めっき・表面処理技術の研究やシステム開発等を行っており(前記(1)ア),例えば,TUC社の顧客においてめっき加工の工程に問題が生じた際には,中央研究所の技術者をTUC社及びその顧客先に派遣し,技術サポートをするなどして(乙76~79,82,92),原告グループがめっき加工の工程管理を含む顧客のニーズに対応するに当たって必要な技術やノウハウを提供している。
このようなめっき薬品の特徴や原告グループの事業内容等を前提とすれば,原告とその国外関連者との間の取引においては,原告から個別のめっき薬品についての製造ノウハウ等が示されるだけでは不十分であり,一定の品揃えを伴った複数のめっき薬品に関する製法,使用,管理等のノウハウが包括的に開示されるとともに,顧客先への対応に必要となる技術訓練や技術者の派遣等の役務提供が不可分一体のものとして行われる必要があるものと解される。本件国外関連取引についても,このようなパッケージとしての取引と見て初めて,その価値を適切に把握できるものというべきであり,これを許諾製品(めっき薬品)ごとに個別に分解して検討するのでは,その取引の価値を十分に把握することができないというべきである。
そうすると,本件国外関連取引について,許諾製品(めっき薬品)ごとに独立企業間価格を別個に算定するのは不適切であり,原告とTUC社及びUMM社との間では,複数のめっき製品に係る製造ノウハウ等の無形資産及び役務が一体として取引の対象となっているものと解して(すなわち,本件TUCライセンス取引及び本件UMMライセンス取引をそれぞれ一体の取引と解して),その独立企業間価格を算定するのが相当であり,比較対象取引の存否もこれを前提に検討すべきである。
原告がその主張の根拠とする措置法通達66の4(3)-1も,独立企業間価格の算定は個別の取引ごとに行うのを原則としつつ,例えば,生産用部品の販売取引と当該生産用部品に関する製造ノウハウの使用許諾取引等が一体として行われる取引のようにその独立企業間価格を一体として算定することが合理的であると認められる場合には,複数の取引を一の取引として独立企業間価格を算定することができるものとしており,上記解釈の考え方と軌を一にするものと解される。
(ウ) 本件TUCライセンス取引に係る比較対象取引の有無
原告は,韓国に本店を有する非関連者であるKPM社との間で行った本件KPMライセンス取引及びタイに本店を有する非関連者であるPoly社との間で行った本件Polyライセンス取引が比較対象取引になる旨主張するので,その当否を検討する。
a 本件KPMライセンス取引について
(a) 「同種」といえるか否か
本件TUCライセンス取引につき,本件各事業年度において原告からTUC社に対する無形資産の使用許諾及び役務提供の対象とされていた製品は,TUC新契約書の下では本件製品一覧表の「TUC社」「新契約書」欄に記載のめっき薬品であるが,前記(1)ウ(イ)の各契約書の作成の経緯に照らせば,TUC旧契約書の下で取引されていた時期においても,これに明記されていた製品に限られるものではなく,TUC新契約書の作成時までには,本件製品一覧表の「TUC社」「新契約書」欄に記載のめっき薬品の全部又は大部分が無形資産の使用許諾及び役務提供の対象となっていたものと認められる。例えば,前記(1)ウ(ウ)のとおり,原告の無電解金めっき薬品であるゴブライト製品は,TUC旧契約書には記載されていないものの,平成12年3月期中から,TUC社に対してその製造,使用等に関する無形資産の使用が許諾され,これに関する役務の提供がされていたものと認められる。
(この点に関し,原告は,TUC旧契約書の対象は同契約書に特定明記された5品目のみであり,これに関する取引のみが更正処分の対象となる旨主張する。
しかし,TUC旧契約書に明記されていない製品(既存製品)についても,原告とTUC社との間で実際に当該製品に係る無形資産の使用許諾及び役務提供が行われていた以上,これに伴う所得移転が生じ得るから,既存製品に係る取引を含めて独立企業間価格を算定し,その所得移転額について課税をするのが相当であり,このことは,TUC社が既存製品について原告に対してロイヤルティを支払っていたかどうかにかかわらない。すなわち,本件において独立企業間価格の算定の対象となる本件TUCライセンス取引には,TUC旧契約書に明記されていない製品(既存製品)に係る取引も含まれるのであって,原告の上記主張には理由がない。)
これに対し,本件KPMライセンス取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品は,本件製品一覧表の「KPM社」の「旧契約書」又は「新契約書」欄及び別紙2-2KPM開示リストに記載のとおりである(同リストは,KPM新契約書の下で,原告からKPM社に対してロイヤルティの支払義務なしに製造ノウハウ等が開示されていた製品を列挙したものと解されるから,同リスト記載の製品も本件KPMライセンス取引の対象に含まれるものということができる。)。
そこで,両取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の種類について比較すると,その一部について重なりはあるものの,本件TUCライセンス取引の対象であるゴブライト製品が本件KPMライセンス取引の対象とはされていないほか,TUC新契約書に記載されている製品シリーズでありながら本件KPMライセンス取引の対象とされていないものも複数あるなど,明確な差異が存在する。前記(イ)のとおり,原告グループの営業戦略上,品揃えが重要な意味を有していることも考慮すれば,製品の種類に係るこのような差異は,これらを対象とする無形資産等の対価の額にも影響を及ぼすものというべきである。
また,製品の用途について比較すると,例えば,無電解ニッケルめっき薬品について,TUC社の生産製品はPWB(プリント配線板)関連用途のものが圧倒的に多く,汎用用途のものはわずかであるのに対し,KPB社の生産製品は汎用用途のものがPWB関連用途のものを上回っているなどの差異が存在する(乙29)。前記(1)アのとおり,原告グループがめっき薬品の開発・販売のみならず,顧客に対して装置,制御システムに至るまでを一貫して提案・供給する体制をとっていることからすれば,同一の製品であっても,用途が異なれば,技術サポート等に必要な体制も異なってくるから,これを対象とする無形資産等の対価の額にも影響が及ぶものというべきである。
さらに,原告による役務提供について見ると,本件各事業年度における原告の従業員による技術支援等のための海外出張は,台湾を出張先とするものの回数が韓国を出張先とするものの回数を大きく上回る上(乙47の1~5),その台湾においてユーザー対応を含むTUC社への営業支援・技術支援が繰り返し行われており(乙76~79,82,83,92),本件TUCライセンス取引と本件KPMライセンス取引とでは,原告に求められる役務提供の頻度及び程度等に相当程度の差異があるものと認められる。
そうすると,本件TUCライセンス取引と本件KPMライセンス取引とでは,その取引の対象たる無形資産等が「同種」のものということはできない。
(b) 「同様の状況」の下での取引といえるか否か
本件TUCライセンス取引と本件KPMライセンス取引に係る状況を比較すると,次のとおり,その取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在する。そして,その影響を具体的に把握することは極めて困難であって,生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから,両取引が「同様の状況」の下でされたものということはできない。
① そもそも,本件TUCライセンス取引は,台湾の法人を相手方とする無形資産等の取引であるのに対し,本件KPMライセンス取引は韓国の法人を相手方とするものである。
無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の市場となる国・地域が異なれば,景気の状況は当然異なるし,同一製品でも販売価格に差異が生じ得るから(例えば,原告ライセンス製品であるめっき薬品の2004年度(平成16年度)における台湾市場での販売価格は,製品により韓国市場での販売価格の0.4倍ないし3.6倍(円換算)であり,大きな差異がある(乙44)。),上記のような製造・販売地域の違いは,当該製品に係る無形資産等の対価の額に影響を及ぼす事情といえる。
② 本件TUCライセンス取引においては,TUC社に対して対象地域における独占的権利が付与されているが(なお,TUC旧契約書には,非独占的権利である旨の記載があるが,TUC新契約書においては独占的権利であると改められていること,TUC社は台湾における原告の唯一の国外関連者であること(乙21の1~5)からすれば,TUC旧契約書の下でもTUC社に独占的権利が付与されていたものと解され,この点は原告も特に争うものではない。),本件KPMライセンス取引においてKPM社に付与されているのは非独占的権利である。このように無形資産の使用許諾が独占的なものであるか否かの違いは,その対価の額に影響を及ぼす事情というべきである。
③ 台湾のPWB(プリント配線板)用途のめっき薬品の市場において,TUCライセンス製品は約80%のシェア(2003年(平成15年))を占めているのに対し,韓国の同市場においては,本件KPMライセンス取引に基づくKPM社の製品は約14.6%のシェア(2004年(平成16年))を有するにすぎない(乙29)。このような市場におけるシェアの違いは,当該製品の価格競争力や収益力に影響を及ぼし,ひいては当該製品に係る無形資産等の対価の額にも影響を及ぼす事情といえる。
(c) 小括
以上によれば,本件KPMライセンス取引が本件TUCライセンス取引の比較対象取引になるということはできない。
b 本件Polyライセンス取引について
(a) 「同種」といえるか否か
本件Polyライセンス取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品は,本件製品一覧表の「Poly社」欄に記載のとおりであり,これを本件TUCライセンス取引と比較すると,その一部について重なりはあるものの,本件Polyライセンス取引では無電解金めっき薬品が対象とされていないなど,本件KPMライセンス取引(前記a(a))よりも更に明確な差異が存在する。また,原告のTUC社に対する役務提供の状況は前記a(a)のとおりであるが,本件各事業年度において原告の従業員によるタイへの出張は1件のみしか認められない(乙47の1~5)。
そうすると,本件TUCライセンス取引と本件Polyライセンス取引とでは,その取引の対象たる無形資産等が「同種」のものということはできない。
(b) 「同様の状況」の下での取引といえるか否か
本件Polyライセンス取引は,タイの法人を相手方とする無形資産等の取引であること,同取引に基づくPoly社の製品がタイのめっき薬品の市場において高いシェアを有するものとはうかがわれないことなど,本件TUCライセンス取引と比較して,その取引の状況につき,取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在し,これにより生じる対価の額の差を調整できるとはいえない。したがって,両取引が「同様の状況」の下でされたものということはできない。
(c) 小括
以上によれば,本件Polyライセンス取引が本件TUCライセンス取引の比較対象取引になるということはできない。
c その他の取引について
原告はそのほかの内部比較対象取引の存在を主張するものではなく,また,本件TUCライセンス取引は原告グループ特有の製品開発・供給体制(前記(1)ア)を前提とするものであり,外部比較対象取引が存在するとは考えられないから,結局,本件TUCライセンス取引の比較対象取引は存在しないものというべきである。
(エ) 本件UMMライセンス取引に係る比較対象取引の有無
a 本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引について
(a) 「同種」といえるか否か
本件UMMライセンス取引につき,本件各事業年度において原告からUMM社に対する無形資産の使用許諾及び役務提供の対象とされていた製品は,本件製品一覧表の「UMM社」の「旧契約書」又は「新契約書」欄に記載のめっき薬品である。なお,UMM旧契約書は2000年(平成12年)12月1日付けで作成されたものであるが,前記(1)エ(イ)の事情に照らせば,同契約書作成前の平成12年3月期及び平成13年3月期においても,同契約書に記載のものと同様の取引が行われていたものと認められる。
これに対し,本件KPMライセンス取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品は,本件製品一覧表の「KPM社」の「旧契約書」又は「新契約書」欄及び別紙2-2KPM開示リストに,本件Polyライセンス取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品は,本件製品一覧表の「Poly社」欄に,それぞれ記載のとおりである。
そこで,本件UMMライセンス取引と本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引とで,その無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の種類について比較すると,その一部について重なりはあるものの,本件UMMライセンス取引の対象であるニムデンHDXが他の取引の対象とされていないなど,明確な差異が存在する。このニムデンHDXは,ニムデンSXを基本としつつ,非磁性特性をより安定させたものであって,アルミハードディスクの下地無電解ニッケルめっきの用途のみで使用される製品であり,同用途の顧客は海外ではマレーシアの日系企業(日本法人の現地子会社)2社のみである(乙28,33)。
このように,本件UMMライセンス取引と本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引とでは,その無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の種類及び用途に差異が存在し,その差異は,無形資産等の対価の額にも影響を及ぼすものというべきであるから(前記(ウ)a(a)参照),各取引の対象たる無形資産等が「同種」のものということはできない。
(b) 「同様の状況」の下での取引といえるか否か
本件UMMライセンス取引は,マレーシアの法人を相手方とする無形資産等の取引であり,独占的権利が付与されているのに対し,本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引は,韓国又はタイの法人を相手方とするものであって,無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の製造・販売地域が異なるし,KPM社に付与されているのは非独占的権利にとどまる。
このように,本件UMMライセンス取引と本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引とでは,その取引の状況につき,取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在し,これにより生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから,各取引が「同様の状況」の下でされたものということはできない。
(c) 小括
以上によれば,本件KPMライセンス取引又は本件Polyライセンス取引が本件UMMライセンス取引の比較対象取引になるということはできない。
b その他の取引について
原告はそのほかの内部比較対象取引の存在を主張するものではなく,また,本件UMMライセンス取引は原告グループ特有の製品開発・供給体制(前記(1)ア)を前提とするものであり,外部比較対象取引が存在するとは考えられないから,結局,本件UMMライセンス取引の比較対象取引は存在しないものというべきである。
(オ) 小括
以上のとおり,本件国外関連取引について,独立価格比準法と同等の方法を適用し得る比較対象取引は存在しないから,本件国外関連取引の独立企業間価格を独立価格比準法と同等の方法を用いて算定することはできないというべきである。
イ 再販売価格基準法と同等の方法の適用の可否
本件国外関連取引につき,取引の対象である無形資産等をTUC社又はUMM社が更に第三者に使用許諾又は提供して対価を得ていたとは認められないから,再販売価格基準法と同等の方法を用いることはできない。
ウ 原価基準法と同等の方法の適用の可否
本件国外関連取引は,その対象がめっき薬品の製造ノウハウ等の無形資産及び役務であるという性質上,その取得原価を算定することは困難であるから(なお,当該無形資産等は,原告が対価を支払って第三者から使用許諾又は提供を受けたものではない。),本件国外関連取引について原価基準法と同等の方法を用いることはできない。
エ 小括
以上によれば,本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定につき,基本三法と同等の方法を用いることはできないと認められるから,基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法(措置法66条の4第2項2号ロ)を用いることができるものというべきである。
(3)  残余利益分割法と同等の方法の適用の可否
ア 措置法66条の4第2項1号ニに規定する「政令で定める方法」とは,措置法施行令39条の12第8項に定める利益分割法を指し,具体的には,国外関連取引に係る棚卸資産の当該法人又は国外関連者による購入,製造,販売その他の行為に係る所得が,当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額,使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。この方法は,原則として,国外関連取引に係る棚卸資産の販売等により当該法人及び国外関連者に生じた営業利益の合計額(分割対象利益)を同項に規定する要因により分割する方法であり(措置法通達66の4(4)-1参照),その分割要因としては,人件費等の費用の額や投下資本の額等,これらの者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいものが用いられるべきものと解される(措置法通達66の4(4)-2参照)。
この利益分割法は,他の方法による独立企業間価格の算定が困難な場合においても,国外関連取引により生じた営業利益をその発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び国外関連者に分割することにより,独立企業間価格を算定し,関連者間の取引を通じた所得の国外移転に対して適正な課税を実現しようとするものであるところ,当該法人又は国外関連者が重要な無形資産を有しており,それによって生み出された利益がある場合には,その貢献による利益を適切に評価する必要があり,これを区分しないまま,典型的な分割要因である人件費等の費用の額や投下資本の額等を分割要因として分割対象利益を分割するのでは,重要な無形資産の貢献による利益が存在するにもかかわらず,その貢献度が分割対象利益の配分に適切に反映されないことになり,合理性を欠く。
そこで,措置法通達66の4(4)-5は,利益分割法の適用に当たり,法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合には,分割対象利益のうち重要な無形資産を有しない非関連者間取引において通常得られる利益に相当する金額を当該法人及び国外関連者それぞれに配分し,当該配分した金額の残額を当該法人又は国外関連者が有する当該重要な無形資産の価値に応じて,合理的に配分する方法,すなわち残余利益分割法により,独立企業間価格を算定することができる旨を定めている。この残余利益分割法は,第1段階として,非関連者間取引において通常得られる利益に相当する金額(基本的利益)を配分し,第2段階として,当該配分した金額の残額(残余利益)を重要な無形資産の価値に応じて配分することにより,重要な無形資産の貢献度を分割対象利益の配分に反映させるものであり,法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合における利益分割法の適用方法として,合理性を有するものということができる。なお,平成23年政令第199号による改正により,租税特別措置法施行令39条の12第8項1号ハにおいて,利益分割法の下位分類として残余利益分割法が規定されたが,同改正は,利益分割法の適用方法の一つとして残余利益分割法があることを確認的に定める趣旨のものと解される。
また,措置法通達66の4(2)-3の(8)は,上記の無形資産の意義につき,著作権,法人税基本通達20-1-21に定める工業所有権等のほか,顧客リスト,販売網等の重要な価値のあるものをいう旨を定めており,これを受けて,平成13年6月1日付査調7-1ほか3課共同「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」(平成18年3月20日付査調7-2ほか3課共同による改正後のもの。乙18)2-11は,無形資産が法人又は国外関連者の所得にどの程度寄与しているかを検討するに当たっては,特許権,営業秘密等の技術革新に関する無形資産のみならず,例えば,企業の経営,営業,生産,研究開発,販売促進等の活動によって形成された,従業員等の能力,知識等の人的資源に関する無形資産並びにプロセス,ネットワーク等の組織に関する無形資産についてもその検討範囲に含め,これら所得の源泉となるものを総合的に勘案する旨を定めているところ,これらの定めの内容は,残余利益分割法を適用する際に考慮すべき無形資産の範囲に係る取扱いとして,合理性を有するものということができる。
イ 以上を前提に,本件国外関連取引に対する残余利益分割法と同等の方法の適用の可否について検討する。
前記(1)アのとおり,原告グループは,めっき薬品の開発・販売のみならず,顧客に対して装置,制御システムに至るまでを一貫して提案・供給する体制をとっており,めっき薬品自体の品質・性能とこのような供給体制とが相まって,台湾においてTUCライセンス製品が圧倒的なシェアを占めているように,その製品の市場価値が高められているものと解される。これを本件国外関連取引について見ると,原告及びその国外関連者において原告ライセンス製品の製造,販売等により所得(利益)を得ているのは,①原告が,研究開発,海外支援体制の確立等の企業活動により,顧客のニーズに沿っためっき薬品を開発した上,国外関連者に対して当該めっき薬品の製造,販売等に関する技術情報やノウハウを提供するほか,国外関連者やその顧客に対する技術支援も行うことによって,原告ライセンス製品に対する信用を形成,保持及び発展させていること,並びに,②TUC社及びUIS社においても,原告からノウハウの提供や技術支援を受けながら,顧客に対する営業及び技術サポートを行うことで,台湾やASEAN諸国において原告ライセンス製品を市場に浸透させて付加価値を創出し,その販売先となる顧客を開拓,維持していること(例えば,TUC社は,ユーザーに対する徹底的な技術サポートによって商品に付加価値をつけ(前記(1)ウ(エ)),UIS社も,日系企業に対する営業・技術サポートを行うことにより,当該日系企業をUMMライセンス製品(ニムデンHDX等)の販売先として確保するなどしている(前記(1)オ,(2)ア(エ)a(a))。)によるものということができる。このうち①は原告の,②はTUC社及びUIS社のそれぞれ重要な無形資産であって,これらの無形資産が総合的に活用されることにより,本件国外関連取引は事業成果を上げ,所得(利益)を生み出しているものといえる。
このように,本件国外関連取引については,原告及びその国外関連者が有する重要な無形資産が利益獲得に寄与していることからすれば,その独立企業間価格の算定には,基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的であるということができる。
ウ これに対し,原告は,本件国外関連取引について本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引を比較対象取引とする独立価格比準法と同等の方法を適用することができないとしても,両取引を比較対象取引として,「同種」や「同様の状況」の要件を多少緩めた「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を適用すべきである旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,結局,独立価格比準法と同等の方法を適用する上で比較対象取引に求められる「同種」や「同様の状況」の要件を緩和し,本来は比較対象取引とならない取引を比較対象として独立価格比準法と同等の方法を適用しようとするものであって,そのような方法により独立企業間価格を算定することが「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」として許容されるのか,疑問があるといわざるを得ない。また,この点をさて措くとしても,前記(2)ア(ウ)及び(エ)のとおり,本件国外関連取引と本件KPMライセンス取引及び本件Polyライセンス取引との間には,取引の対象及び状況に相当程度の差異が存在することからすれば,本件KPMライセンス取引又は本件Polyライセンス取引を比較対象として本件国外関連取引の独立企業間価格を的確に算定する具体的な方法を見いだすことはできないから,本件国外関連取引について「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を適用することが合理的ということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
エ そのほかにも,本件国外関連取引の独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法と同等の方法以外に合理的な方法があるとはいえないから,本件国外関連取引については,残余利益分割法と同等の方法により独立企業間価格を算定するのが相当である。
3  争点3(本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定)について
(1)  分割対象利益の算定
ア 分割対象利益の算定対象取引
本件TUC取引及び本件UMM取引は,原告から無形資産の使用許諾及び役務提供を受けてTUC社又はUMM社が製造しためっき薬品(原告ライセンス製品)を,TUC社又はUIS社が非関連者に販売するというものであり(前記前提事実(2)ウ及び(3)ウ),それぞれ原告ライセンス製品の製造,販売に係る一連の取引であって,当該取引全体として原告グループにおいて利益を得ているものといえるから,原告と国外関連者との間での所得移転の有無・程度は,当該一連の取引全体を対象として検討するのが相当である。したがって,本件国外関連取引に係る独立企業間価格を残余利益分割法と同等の方法により算定するに当たっては,TUC社及びUIS社の非関連者に対する販売行為を含む本件TUC取引及び本件UMM取引のそれぞれ全体を対象にして分割対象利益を算定し,これを3社間(本件TUC取引については,原告,TUC社及びUIS社。本件UMM取引については,原告,UMM社及びUIS社。)で分割することとするのが相当である。
イ 被告の主位的主張について
(ア) 被告が主位的に主張する本件TUC取引及び本件UMM取引に係る分割対象利益の額及びその算定過程は,別表3-1及び3-2(別表6-1及び6-2の各「分割対象利益の計算」欄)に記載のとおりである。
これに対し,原告は,被告が本件TUC取引に係る分割対象利益の算定において計上したTUC社の売上高には,本件TUCライセンス取引により製造されたTUCライセンス製品の売上高だけでなく,TUC社が自社開発した製品の売上高や,TUC社が仕入販売しためっき薬品の売上高も含まれている旨主張する。
(イ) そこで,まずTUC社が自社開発した製品の売上高の混入の有無について検討する。
a 証拠(各掲記のもの)によれば,①2004年(平成16年)2月にTUC社に研究所が設立され,中央研究所に所属していたFがその所長として赴任したこと(乙35,95,96),②同年12月3日から14日にかけて原告本社に臨場して行われた税務調査において,原告の担当職員らは,税務調査担当者に対し,TUC社について,現状において研究開発機能は備えていない旨説明したこと(甲83,乙100),③平成17年2月16日,中央研究所及び原告枚方工場に臨場した税務調査担当者が,中央研究所の所長及び原告の経理部長等の原告の担当職員らから,TUC社の研究開発状況について聴取したところ,同職員らは,同社に2004年(平成16年)2月に研究所が設立された旨のほか,その設立以前のTUC社の研究開発グループについて,営業技術及び生産技術の研究開発機能を果たす一方,新製品の開発を全く行っておらず,既存の製品の改良を行う程度であった旨説明したこと(乙95,100),④上記③の聴取の後,税務調査担当者が,原告に対し,上記説明の裏付け資料の提出を求めたところ,原告は,TUC社の研究所の所長として赴任したFが平成17年2月19日付けで原告担当者宛てに送信した電子メールの写しを提出し,同メールには,2003年(平成15年)までのTUC社の研究部のメイン業務は顧客の技術フォローであり,正式に開発業務を始めたのは2004年(平成16年)以降である旨が記載されていたこと(乙96,100)が,それぞれ認められる。
以上のような原告自身の税務調査担当者に対する説明等の内容や,開発の開始から新製品の商品化・販売までには相当程度の期間を要すると解されることからすれば,別異の事実を認めるに足りる証拠がない限り,本件各事業年度(平成16年3月31日まで)において,TUC社が自社開発しためっき薬品が販売されたことはないものと認めるのが相当である。
b この点につき,原告は,TUC社が本件各事業年度において自社開発製品を製造,販売していた根拠として,①原告は,平成11年4月頃,TUC社が自社開発製品に原告の製品名に類似した製品名を付けて製造,販売している事実を知り,これを受けて,原告によるTUC社開発品のチェックシステムが構築されており,これに関連して中央研究所の職員が作成した平成12年12月3日付け台湾出張報告書(乙74)にも,TUC社による自社開発製品があったことが明確に示されていること,②上記チェックシステムの構築に対応して,TUC社では,自社開発製品について,これに対応する品番や区分を設けてコンピューターシステムに登録しており,同社作成の資料等(甲56,60~62,86の1・2,106等)によれば,その売上高がTUC社のめっき薬品の売上高全体の十数%を占めている月もあること,③TUC社は,外部から招へいした2人の顧問の下,研究テーマを設定して新製品を開発する計画と体制を整えており,従前から顧問の下で独自製品の開発を行っていたこと,④平成12年3月期の原告の有価証券報告書(甲77)には,TUC社では既に独自で製品開発を行えるまでに個々の能力が向上している旨の記載があることを主張する。
しかし,上記①につき,中央研究所の職員が作成した平成12年12月3日付け台湾出張報告書(乙74)を見ると,「ただ単に製品名を変更しているケースが多い」旨や,「TUC社で開発したとTUC社が言っている製品は原告が開示した製品を参考に開発した可能性もあり,CRL(中央研究所)において検討することとする」旨が記載されているところ,その後,前記aのとおり,中央研究所の所長等の原告の職員らが,税務調査担当者に対し,2004年(平成16年)2月以前のTUC社においては新製品の開発を全く行っておらず,既存の製品の改良を行う程度であった旨説明していることからすれば,原告においては,検討の結果,TUC社が自社開発製品と主張している製品は実際には自社開発製品には当たらないと判断していたものと解される。そして,原告がTUC社に対して製造ノウハウ等を開示した製品の一部に改変・改良を加えて製造されるなど,原告の製造ノウハウ等に由来して製造された製品は,本件TUCライセンス取引に基づいて製造されたものといえるから,その製造販売は本件TUC取引に含まれるものというべきである。
また,上記②のTUC社による区分も,あくまでもTUC社が自社開発製品と考える製品を区分したものにとどまり,それだけでは,TUC社において原告が開示した製造ノウハウ等によらずに独自に開発した製品が客観的に存在したことが明らかになるものとはいえない。そして,原告がTUC社の自社開発製品の売上高を示すものと主張する「2001年1月売上明細」(甲62)において,「TUC開発品」として表示されている品目のうち,例えば,売上高の多い「SX-TB」及び「SX-TCK」は,いずれも,原告がTUC社に対して製造ノウハウ等を開示した「ニムデンSX」シリーズの製品の一部に改変を加えて製造されたものであることが認められ(甲96の1・2),そのほかの品目についても,それがTUC社において原告が開示した製造ノウハウ等によらずに独自に開発したものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。
さらに,上記③につき,TUC社の研究部研究課が2人の顧問と共に1999年(平成11年)ないし2003年(平成15年)に新製品を開発した旨が記載された書面(甲102の1)は,本件訴訟係属中の平成27年11月3日に作成されたものであって(原告の同月30日付け証拠説明書),証明力に乏しいものといわざるを得ない。中央研究所の職員が平成14年11月から平成16年3月までの間に作成したTUC社への出張の報告書等(乙118~124)を見ても,TCU社において2002年(平成14年)に入社した技術顧問(方教授)の下で自社開発の試みがされていることなどが記載されているものの,平成16年3月の段階でもTUC社の開発品について特許抵触の可能性の有無や商品化について討議した旨が記載されているなどしており,当該開発品が原告の開示した製造ノウハウ等によらずに独自に開発されたものかどうかはさて措いても,本件各事業年度内に当該顧問の下でTUC社が開発した製品が販売されるに至っていたものとまでは認められない。そのほか,TUC社が顧問らの下で自社製品の開発を行い,これを本件各事業年度内に販売するに至っていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
そして,上記④について,平成12年3月期の原告の有価証券報告書(甲77)には,原告が指摘する記載があるものの,それだけでは実際にTUC社が独自に製品を開発し,これを販売していたのかは不明であるし,その後の平成13年4月期ないし平成16年3月期の原告の各有価証券報告書(甲78~81)においては,TUC社について上記④のような趣旨の記載は見られず,むしろ,平成14年3月期には「徐々に開発力のアップに努めており,近い将来には充分な研究開発が行える体制を目指しています」との記載も見られるところであるから(甲79),上記④の記載によって直ちにTUC社が独自に製品を開発,販売していたものと認めることはできない。
以上によれば,原告の上記①ないし④の主張を検討しても,本件各事業年度内においてTUC社が自社開発しためっき薬品が販売されたことはないとの前記aの認定は覆されるものではなく,そのほかこれを覆すに足りる事実を認めるべき証拠はない。
c なお,原告は,TUC社が自社開発製品に分類する製品については,TUC社からロイヤルティの支払を受けていない旨主張する。
しかし,原告が製造ノウハウ等を開示した製品の一部に改変を加えて製造された改良品につき,原告がロイヤルティの支払を受けていないとしても,それは当事者間の契約又は交渉上の問題にすぎず,原告の製造ノウハウ等の開示によって国外関連者に所得の移転が生じていることに変わりはないから,これらの製品の製造販売に係る営業利益を本件TUC取引に係る分割対象利益の算定対象から除外する理由はない。そして,当該製品の改良に係るTUC社の技術的貢献の程度は,当該製品に係る営業利益を分割対象利益に含めた上で,TUC社の研究開発費を分割要因として考慮することにより,独立企業間価格の算定に合理的に反映されるものということができる。
(ウ) 次に,TUC社が仕入販売しためっき薬品の売上高の混入の有無について検討する。
a 被告が主位的に主張するTUC社の売上高は,専ら,原告が2005年(平成17年)4月26日付けで作成して税務調査担当者に提出した,TUC社の財務データ(乙52。以下「乙第52号証のデータ」という。)及びこれを円換算したデータ(乙53)に依拠したものである(別表3-1の②欄,別表6-1の番号6)。
b 上記データに関し,被告は,税務調査担当者が,平成17年3月9日,原告に対し,「CUCのノウハウ等で製造されたChemical」と記載されたイメージ図(乙100の別添1)を示した上で,TUC社について必要な財務データが,原告の無形資産を利用してTUC社で製造販売しためっき薬品の売上とこれに対応する原価や販売管理費等の費用であることを明確に伝えて,その提出を指示したところ,原告がこれに対応する財務データとして乙第52号証のデータを作成し,同年4月26日に提出したものであるから,これに仕入販売取引に係る財務データが含まれているとは考え難い旨主張する。これに対し,原告は,税務調査担当者は原告に対して単にTUC社のめっき薬品の売上損益が分かる資料の提出を要求したものであり,その際に上記イメージ図を示されたこともない旨主張する。
そこで検討すると,平成17年3月9日に税務調査担当者が原告に対してした資料提出に係る指示の内容につき,当該税務調査担当者が作成した陳述書(乙100)には被告の上記主張に沿う記載があるものの,ほかにこれを裏付ける客観的証拠はない。また,仮に被告が主張する内容の指示がされていたとしても,その内容に照らせば,口頭による指示だけで原告がその趣旨を正確に理解した上で乙第52号証のデータを作成したとは,直ちに言い難い(当該税務調査担当者の陳述(乙100)も,仕入販売に係るデータを除外すべきことを特に明示して指示した旨をいうものではない。また,同陳述によっても,上記イメージ図が同日の時点で原告に交付されていたかどうか明らかではなく,そのほか,上記イメージ図につき,乙第52号証のデータの作成・提出後である同年4月28日に原告担当者に手交される(乙110)まで,原告に交付されていたことを認めるに足りる証拠はない。)。被告は,単にTUC社の全売上のデータを提出するのであれば,上記のような作業期間(同年3月9日から同年4月26日まで)を要するはずはない旨主張するが,めっき薬品に係るデータの切り出しや,TUC社と原告とで決算期が異なること(乙100)に伴う数値の調整に時間を要したものとも考えられる。
そうすると,乙第52号証のデータについて,その作成,提出の経緯だけでは,これに仕入販売取引に係る財務データが含まれていないものと直ちに認めることはできないというべきである。
c そこで,更に検討すると,証拠(甲33,77~81,甲87~89の各1・2,乙35)によれば,TUC社は,本件各事業年度において,めっき薬品の製造販売だけではなく,めっき薬品の仕入販売も行っていたものと認められる(そのこと自体は被告も特に争うものではない。)。そして,①TUC社の損益計算書(甲84の1・2,甲104)によれば,TUC社の売上高は,2001年(平成13年)(期間は1月1日から12月31日まで。本項(cの項)において以下同様とする。)に9億2175万6680台湾ドル,2002年(平成14年)に14億3288万9758台湾ドル,2003年(平成15年)に13億7806万6447台湾ドルであり(原告の法人税の確定申告書に添付された国外関連者に関する明細書においても,TUC社の上記各年の売上高は上記各金額と同額とされている(乙21の3~5)。),これらにはめっき薬品の仕入販売による売上高も含まれているものと解されるところ,乙第52号証のデータにおいて,2001年の売上高合計額が損益計算書上の同年の売上高とほぼ一致する9億2175万6692台湾ドルとされ(しかも,乙第52号証のデータが基礎としたものと考えられる月次売上データ(甲59)と照合すると,上記数値は9億2175万6680台湾ドルの誤記であると考えられる。),2002年及び2003年の売上高合計額がいずれも損益計算書上の各同年の売上高と同一の額とされていることからすれば,乙第52号証のデータ上の売上高もめっき薬品の仕入販売による売上高を含む趣旨のものとうかがわれること,②原告は,乙第52号証のデータの提出に先立ち,税務調査担当者に対し,連結パッケージ等と題するTUC社の財務データ(甲85の1,乙105及び106の各1~3)を提出していたところ(乙100),同データ上の2001年ないし2003年の各年の売上総計額(内訳として製品売上だけでなく商品売上等を含むことが明記されているもの)が乙第52号証のデータ上の各同年の売上高合計額と一致し(ただし,2001年については上記①と同様の誤差がある。),かつ,上記各年の製品売上総計額がいずれも乙第52号証のデータ上のめっき薬品の売上高(「小計①~④」)を下回っていることからしても,乙第52号証のデータ上のめっき薬品の売上高は仕入販売(商品売上)による売上高を含む趣旨のものとうかがわれること(このうち,2003年については,上記の各データ上,めっき薬品の売上高が製品売上総計額を上回る12億0758万1542台湾ドルで一致していることからすれば,乙第52号証のデータ上のめっき薬品の売上高が仕入販売(商品売上)による売上高を含む趣旨のものであることは明らかというべきである。),③乙第52号証のデータには,売上原価について「製造原価ではなく売上原価で記載」との注記がされており,この注記は,乙第52号証のデータが製造販売に限らず仕入販売を含む売上全体を対象にしていることをいう趣旨とも解し得ることを考慮すれば,被告が主位的主張において依拠する乙第52号証のデータについては,めっき薬品の仕入販売による売上高を含むものであるとの合理的な疑いがあるものといわざるを得ない。
d そうすると,被告が主位的に主張するTUC社の売上高について,TUC社が仕入販売しためっき薬品の売上高を含まないものと認めることはできない。
本件TUC取引に係る分割対象利益の算定の基礎とすべきTUC社の売上高は,本件TUCライセンス取引により製造されたTUCライセンス製品(原告ライセンス製品)の売上高であり,TUC社が仕入販売しためっき薬品の売上高をこれに算入することはできないから,被告が主位的に主張するTUC社の売上高をもって,本件TUC取引に係る分割対象利益の算定の基礎とすべきTUC社の売上高と認めることはできないというべきである。
(エ) ここで,被告は,仮に乙第52号証のデータにTUC社の仕入販売取引に係る財務データが含まれているとしても,その仕入販売取引につき営業利益は生じていない(営業損失が生じている)ところ,これを含めて分割対象利益を算定することにより,原告の所得移転額及び課税所得金額を減少させる方向に作用することはあっても,これらを増加させる方向に作用することはないし,そうでなくてもその影響額はわずかであるから,上記の瑕疵は本件各更正処分等の適法性に影響を与えるものではない旨主張する。
しかし,TUC社によるめっき薬品の仕入販売取引につき営業利益が生じていない旨の被告の主張は,当該仕入販売取引に係る販売管理費等についての推計を前提とするものであって,当該仕入販売取引について営業利益が生じていないことの立証がされているとは直ちに言い難い。また,仕入販売取引が混入している場合には,被告が国外移転所得額の計算中に使用している「乙51割合」(本件TUC取引割合)及び「乙53割合」(TUC社の売上高合計に対してTUC社の原告ライセンス製品の売上高が占める割合)(別表6-1,付表1,4)が本来よりも高い値ということになり,特に,「乙51割合」は原告の分割要因の算定にも用いられているから,これらの値を用いた結果,原告に帰属する残余利益(ひいては国外移転所得額)が過大に算定されている可能性も否定できない。
そうすると,被告が主位的に主張するTUC社の売上高に仕入販売取引の売上高が含まれている可能性があるという瑕疵について,本件各更正処分等の適法性に影響を与えないものということはできない。
(オ) 以上のとおり,被告の主位的主張は,本件TUC取引に係る分割対象利益の算定において計上されたTUC社の売上高に誤りがあり,これを前提として算定される分割対象利益や国外移転所得額を正当なものと認めることはできないから,同主張を本件各更正処分等の適法性の根拠として採用することはできない。
ウ 被告の予備的主張1について
(ア) 被告が予備的主張1として主張する本件TUC取引及び本件UMM取引に係る分割対象利益の額及びその算定過程は,別表7-1及び7-2の各「分割対象利益の計算」欄に記載のとおりである。
この予備的主張1は,主位的主張と比較して,①本件TUC取引に係る分割対象利益の算定において計上するTUC社の売上高につき,乙第52号証のデータには仕入販売取引に係るデータが混入している旨の原告の主張を踏まえ,仕入販売取引を除いた製造販売取引のみのデータを算定し直した上,他の算定過程にもこれに伴う修正を加える,②本件裁決において原告に有利となる修正及び変更がされた部分につき,これに沿った計算に修正する,③原告の営業利益(分割対象利益)を算定するに当たり,原告のロイヤルティ収入から当該ロイヤルティ収入を得るために要した費用(研究開発費)を控除するという各変更が加えられたものである。
(イ) 前記(ア)①の点につき,被告は,原告が税務調査担当者に対して提出したTUC社の財務データ(乙105の1~3)上の「商品売上」の全額が原告ライセンス製品(本項((イ)の項)においては,この略称を仕入販売されたものを含む趣旨で用いる。)に係る仕入販売取引の売上高であると解して,これを乙第52号証のデータ上の原告ライセンス製品に係る売上高(「売上高」の「小計」欄の金額)から控除することにより,原告ライセンス製品の製造販売売上高を算出している(付表3の1~3欄)。上記算定方法は,原告が主張する仕入販売取引の売上高の存在を最大限に考慮したものであって,合理性を有するものということができる。
そして,上記財務データ(乙105の1~3)は平成12年ないし平成15年のそれぞれ1月1日から12月31日までの期間の数値であることから,被告は,上記算定方法によって当該各年分の製造製品売上割合を算出した上(付表3の番号5),これを本件各事業年度におけるTUC社の原告ライセンス製品の売上高(乙第52号証のデータの「売上高」の「小計」欄の金額)に乗じることにより(平成12年3月期については平成12年分の製造製品売上割合を,平成13年3月期ないし平成16年3月期についてはそれぞれ各事業年度の始期の属する年分の製造製品売上割合を乗じている。),本件各事業年度におけるTUC社の原告ライセンス製品の製造販売売上高を算出している(別表7-1の7欄)。この点につき,原告は,売上高の期間とこれに乗じる製造製品売上割合の期間とが一致していないから,算出される数値には誤りがある旨主張するが,上記算定方法は,被告において現実的に入手し得る資料を前提に,可及的に合理性を担保したものといえ,是認することができる。
これに関連して,本件各事業年度におけるTUC社の原告ライセンス製品の製造販売に係る売上原価及び販管費についても,本件各事業年度におけるTUC社の原告ライセンス製品の売上原価及び販管費に,最も近接した年分の製造製品売上割合を乗じることによって算出しており(別表7-1の10欄及び24欄),上記と同様に可及的に合理性を担保したものとして是認することができる。
(ウ) 前記(ア)③の点について,利益分割法における分割対象利益は営業利益を対象とするものであり(前記(3)ア。措置法通達66の4(4)-1参照),営業利益は収入から費用を控除して算出されるものであるから,本件TUC取引及び本件UMM取引に係る原告の分割対象利益については,その収入であるTUC社及びUMM社からのロイヤルティ収入をそのまま計上するのではなく,当該収入から当該収入を得るために要した費用を控除して算定すべきである。したがって,被告が,予備的主張1において,原告の分割対象利益を算定するに当たり,原告のロイヤルティ収入から当該ロイヤルティ収入を得るために要した費用(研究開発費)を控除することとしているのは相当である。
そして,この原告のロイヤルティ収入から控除すべき研究開発費は,原告が支出した研究開発費の総額のうち,原告の研究開発活動が本件TUCライセンス取引及び本件UMMライセンス取引にそれぞれ寄与した割合に応じた金額とすべきであり(本件においては,両取引に係る原告の分割要因(両取引に貢献した原告の重要な無形資産の価値)と同額になる。),これに従った被告の算定方法及び結果(別表7-1の4欄,別表7-2の2欄,付表2)は相当なものと認められる。
この点につき,原告は,①本件各事業年度に支出された研究開発費は将来製造を開始する新製品を開発するためのものであって,原告ライセンス製品の開発のために支出されたものではないし,②製品の開発期間と販売期間とは異なるため,1年間に支出された研究開発費は当該1年間のロイヤルティ収入に対応する費用ではなく,これらの点において被告の計算は誤っている旨主張する。しかし,研究開発費については,一般に,企業会計処理上,各期の総利益に期間的に対応する費用として発生時に費用処理するとの会計基準が採用されており,法人税に係る損金算入に関しても,原則として,収益との直接の対応関係が要求される原価(法人税法22条3項1号)ではなく,期間対応の費用である一般管理費(同項2号)に当たるものであること(原告の研究開発費についても,製造原価に当たるような事情があるとはうかがわれず,一般管理費に当たるものと解される。)からすれば,本件TUC取引及び本件UMM取引に係る原告の営業利益(分割対象利益)の算定に当たっても,本件各事業年度のロイヤルティ収入から当該事業年度において支出された研究開発費を控除するのが相当であり,被告の主張する上記算定方法が期間対応の点において誤りがあるということはできない。
(エ) また,原告は,平成12年3月期及び平成13年3月期につき,TUC旧契約書に明記された5品目以外の製品(既存製品)については,従前からTUC社に対して製造ノウハウの開示と原料の販売を一体の取引として行っていたものであり,同契約書による取引対象ではないから,これを含めて独立企業間価格を算定することは誤りであるし,仮にこれを含めて独立企業間価格を算定するとしても,残余利益分割法と同等の方法の適用に当たり,当該一体の取引の対価である原料の売買代金の中に含まれている製造ノウハウの開示の対価部分の金額を分割対象利益に加算すべきであるにもかかわらず,被告は加算しておらず,この点においても被告の主張は計算を誤っている旨主張する。
しかし,TUC旧契約書に明記された製品でなくても,実際に原告からTUC社に対する製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の対象とされていたものは,本件において独立企業間価格の算定の対象となる本件TUCライセンス取引の対象に含まれるというべきである(前記2(2)ア(ウ)a(a))。そして,平成12年3月期及び平成13年3月期において,既存製品に係る原料の売買代金の中に製造ノウハウの開示の対価が特に含まれていたことを示す的確な証拠はなく,むしろ,平成14年3月期以降,原告の研究開発費の受益者であるTUC社に応分の負担を求めるという観点から,TUC新契約書が作成され,既存製品を含めて全品目を対象に一律のロイヤルティの支払がされるようになったという経緯(前記2(1)ウ(イ))や,その際に既存製品に係る原料の売買代金額の見直しがされていないこと(争いのない事実)に照らせば,平成12年3月期及び平成13年3月期において,原告は,TUC社から既存製品について製造ノウハウの開示の対価(ロイヤルティ)に相当する支払を特に受けていなかったものと認めるのが相当である。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(オ) さらに,原告は,被告の予備的主張1につき,TUC社は自社開発製品の製造販売取引をしていたのにこの点の修正をしていない点でも誤りがある旨主張するが,前記イ(イ)のとおり,原告の当該主張は採用できない。
(カ) そのほか,被告が予備的主張1として主張する本件TUC取引及び本件UMM取引に係る分割対象利益の算定過程は,事実的基礎及び合理性を有するものと認められるから,その主張する額の分割対象利益の存在を認めることができる。
(2)  基本的利益及び残余利益の算定
被告が予備的主張1として主張する本件TUC取引及び本件UMM取引に係る基本的利益及び残余利益の額並びにその算定過程は,別表7-1及び7-2の各「基本的利益及び残余利益の計算」欄に記載のとおりである。すなわち,①原告の事業活動のほとんどが原告の重要な無形資産を使用して行われていることから,原告の基本的利益はないものとし,②TUC社,UMM社については,それぞれ台湾及びマレーシアの企業から比較対象企業を選定した上,比較対象企業の総費用に対する営業利益の割合の中位値を利益指標とし(別表7-1及び7-2の補足説明1),両社の本件TUC取引又は本件UMM取引に係る総費用(ただし,重要な無形資産の影響を除くため,両取引の支払ロイヤルティの額及びTUC社については本件TUC取引に係る研究開発費の額を控除した金額)に上記利益指標を乗じて基本的利益を算出し,③UIS社については,ASEAN諸国の企業から比較対象企業を選定した上,比較対象企業の売上高に対する営業利益の割合の中位値を利益指標とし(別表7-1及び7-2の補足説明2),これをUIS社の売上高に乗じて基本的利益を算出し,④これらの基本的利益の額を分割対象利益の額(前記(1)ウ)から控除することにより,残余利益を算出したものである。
上記②,③の各利益指標は,証拠(甲3~7,乙63~67)に照らしいずれも相当なものと認められ,そのほか,被告が予備的主張1として主張する基本的利益の算定過程は,事実的基礎及び合理性を有するものと認められる。したがって,本件TUC取引及び本件UMM取引に係る基本的利益の額及びこれを分割対象利益から控除した後の残余利益の額について,被告が予備的主張1として主張するとおり認めることができる。
(3)  残余利益の配分及び国外移転所得額の算定
被告が予備的主張1として主張する本件TUC取引及び本件UMM取引に係る原告に帰属する残余利益及び国外移転所得の額並びにその算定過程は,別表7-1及び7-2の各「分割要因」及び「本件TUC取引に係る国外移転所得額」又は「本件UMM取引に係る国外移転所得額」欄に記載のとおりである。すなわち,①残余利益を原告及び国外関連者それぞれが有する重要な無形資産の価値に応じて配分するという観点から,残余利益の配分の比率を,原告については,研究開発費のうち本件TUC取引又は本件UMM取引に関連して支出したと認められる部分(付表2),TUC社については,研究開発費のうち本件TUC取引に関連して支出したと認められる部分,UIS社については,営業技術関連費用のうち本件TUC取引又は本件UMM取引に関連して支出したと認められる部分をそれぞれ基礎として算出し(なお,UMM社については,重要な無形資産を有するものとは認められない。),②原告への配分の比率を本件TUC取引及び本件UMM取引に係る残余利益の額(前記(2))に乗じることにより,各取引について原告に帰属する残余利益の額を算定し,③これと各取引に係る原告の営業利益との差額をもって,各取引に係る国外移転所得額を算出したものである。
被告が主張する上記算定過程は,事実的基礎及び合理性を有するものと認められるから,本件TUC取引及び本件UMM取引について原告に帰属する残余利益の額及び国外移転所得額について,被告が予備的主張1として主張するとおり認めることができる。
(4)  小括
以上のとおりであるから,①本件TUCライセンス取引につき,独立企業間価格は別表7-1の75欄(本件TUC取引について原告に帰属する残余利益の額)のとおり,原告から国外関連者に対する所得移転額は同77欄のとおり,②本件UMMライセンス取引につき,独立企業間価格は別表7-2の36欄(本件UMM取引について原告に帰属する残余利益の額)のとおり,原告から国外関連者に対する所得移転額は同38欄のとおり(なお,平成15年3月期及び平成16年3月期については,本件相互協議の合意における調整金額のとおり),③本件国外関連取引全体での原告から国外関連者に対する所得移転額は別表7-2の41欄のとおり,それぞれ認めることができる。
4  本件各更正処分等の適法性について
前記3(4)を前提に本件各事業年度の原告の所得金額及び納付すべき法人税額並びに過少申告加算税額を計算すると,別紙4予備的主張額の内訳(予備的主張1)のとおりとなり(弁論の全趣旨),いずれも本件各更正処分等(ただし,本件減額更正処分等及び本件裁決による一部取消し後のもの)におけるこれらの金額を上回るから,本件各更正処分等(ただし,本件減額更正処分等及び本件裁決による一部取消し後のもの)は,いずれも適法である。
5  結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
(裁判長裁判官 古田孝夫 裁判官 貝阿彌亮 裁判官 志村由貴)

 

別紙1
関係法令等の定め
1 租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下「措置法」という。なお,平成12年3月期及び平成13年3月期については平成13年法律第7号による改正前のもの,平成14年3月期については平成14年法律第79号による改正前のものが適用されるが,これらの改正は,いずれも本件に影響しない。)
(1) 措置法66条の4第1項は,法人が,昭和61年4月1日以後に開始する各事業年度において,当該法人に係る国外関連者(外国法人で,当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式の総数又は出資金額(当該他方の法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の100分の50以上の株式の数又は出資の金額を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係(以下「特殊の関係」という。)のあるものをいう。以下同じ。)との間で資産の販売,資産の購入,役務の提供その他の取引を行った場合に,当該取引(以下「国外関連取引」という。)につき,当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき,又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは,当該法人の当該事業年度の所得に係る法人税法その他法人税に関する法令の適用については,当該国外関連取引は,独立企業間価格で行われたものとみなす旨を定める。
(2) 措置法66条の4第2項は,同条1項に規定する独立企業間価格とは,国外関連取引が次の各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法により算定した金額をいう旨を定める。
1号 棚卸資産の販売又は購入 次に掲げる方法(ニに掲げる方法は,イからハまでに掲げる方法を用いることができない場合に限り,用いることができる。)
イ 独立価格比準法(特殊の関係にない売手と買手が,国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階,取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(当該同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階,取引数量その他に差異のある状況の下で売買した取引がある場合において,その差異により生じる対価の額の差を調整できるときは,その調整を行った後の対価の額を含む。)に相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
ロ 再販売価格基準法(国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額から通常の利潤の額を控除して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
ハ 原価基準法(国外関連取引に係る棚卸資産の売手の購入,製造その他の行為による取得の原価の額に通常の利潤の額を加算して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
ニ イからハまでに掲げる方法に準ずる方法その他政令で定める方法
2号 前号に掲げる取引以外の取引 次に掲げる方法(ロに掲げる方法は,イに掲げる方法を用いることができない場合に限り,用いることができる。)
イ 前号イからハまでに掲げる方法と同等の方法
ロ 前号ニに掲げる方法と同等の方法
2 租税特別措置法施行令(平成16年政令第105号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。なお,平成12年3月期及び平成13年3月期については平成13年政令第141号による改正前のもの,平成14年3月期については平成14年政令第271号による改正前のものが適用されるが,これらの改正は,いずれも本件に影響しない。)
措置法施行令39条の12第8項は,措置法66条の4第2項1号ニに規定する政令で定める方法は,国外関連取引に係る棚卸資産の同条1項の法人又は当該法人に係る同項に規定する国外関連者による購入,製造,販売その他の行為に係る所得が,当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額,使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法とする旨を定める。
3 租税特別措置法関係通達(法人税編)(平成16年課法2-14による改正前のもの。以下「措置法通達」という。乙14及び弁論の全趣旨)
(1) 措置法通達66の4(3)-1(取引単位)は,独立企業間価格の算定は,原則として,個別の取引ごとに行うものであるが,例えば,国外関連取引について,同一の製品グループに属する取引,同一の事業セグメントに属する取引等を考慮して価格設定が行われており,独立企業間価格についてもこれらの単位で算定することが合理的であると認められる場合や,生産用部品の販売取引と当該生産用部品に係る製造ノウハウの使用許諾取引等が一体として行われており,独立企業間価格についても一体として算定することが合理的であると認められる場合には,これらの取引を一の取引として独立企業間価格を算定することができる旨を定める。
(2) 措置法通達66の4(4)-1(利益分割法の意義)は,措置法施行令39条の12第8項に規定する方法(以下「利益分割法」という。)は,原則として,国外関連取引に係る棚卸資産の販売等により法人及び国外関連者に生じた営業利益の合計額(以下「分割対象利益」という。)を同項に規定する要因により分割する方法をいうことに留意する旨を定める。
(3) 措置法通達66の4(4)-2(分割要因)は,利益分割法の適用に当たり,分割対象利益の配分に用いる要因は,国外関連取引の内容に応じ法人又は国外関連者が支出した人件費等の費用の額,投下資本の額等これらの者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいものを用いることに留意する旨を定める。
(4) 措置法通達66の4(4)-5(残余利益分割法)は,利益分割法の適用に当たり,法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合には,分割対象利益のうち重要な無形資産を有しない非関連者間取引において通常得られる利益に相当する金額を当該法人及び国外関連者それぞれに配分し,当該配分した金額の残額を当該法人又は国外関連者が有する当該重要な無形資産の価値に応じて,合理的に配分する方法により独立企業間価格を算定することができる旨を定め,その注書において,当該重要な無形資産の価値による配分を当該重要な無形資産の開発のために支出した費用等の額により行っている場合には,合理的な配分として,これを認める旨を定める。
そして,この無形資産の意義につき,措置法通達66の4(2)-3の(8)は,著作権,法人税基本通達20-1-21に定める工業所有権等のほか,顧客リスト,販売網等の重要な価値のあるものをいう旨を定める。
なお,法人税基本通達20-1-21に定める工業所有権等とは,特許権,実用新案権,意匠権,商標権の工業所有権及びその実施権等のほか,これらの権利の目的にはなっていないが,生産その他業務に関し繰り返し使用し得るまでに形成された創作,すなわち,特別の原料,処方,機械,器具,工程によるなど独自の考案又は方法を用いた生産についての方式,これに準ずる秘けつ,秘伝その他特別に技術的価値を有する知識及び意匠等をいい,ノウハウはもちろん,機械,設備等の設計及び図面等に化体された生産方式,デザインもこれに含まれるものとされている。
以上

〈以下省略〉

 

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