「営業コンサルタント」に関する裁判例(6)平成31年 3月20日 東京地裁 平25(ワ)31378号・平26(ワ)9591号 損害賠償請求本訴事件、報酬等請求反訴事件
「営業コンサルタント」に関する裁判例(6)平成31年 3月20日 東京地裁 平25(ワ)31378号・平26(ワ)9591号 損害賠償請求本訴事件、報酬等請求反訴事件
裁判年月日 平成31年 3月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)31378号・平26(ワ)9591号
事件名 損害賠償請求本訴事件、報酬等請求反訴事件
文献番号 2019WLJPCA03206001
評釈
浜辺陽一郎・WLJ判例コラム 171号(2019WLJCC016)
裁判年月日 平成31年 3月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)31378号・平26(ワ)9591号
事件名 損害賠償請求本訴事件、報酬等請求反訴事件
文献番号 2019WLJPCA03206001
平成25年(ワ)第31378号損害賠償請求本訴事件・
平成26年(ワ)第9591号報酬等請求反訴事件
東京都中央区〈以下省略〉
本訴原告兼反訴被告 野村ホールディングス株式会社(以下「原告野村HD」という。)
同代表者代表執行役 A1
東京都中央区〈以下省略〉
本訴原告兼反訴被告 野村證券株式会社(以下「原告野村證券」という。)
同代表者代表執行役 A2
上記2名訴訟代理人弁護士 上山浩
同 中川直政
同 井上拓
同 田口洋介
東京都中央区〈以下省略〉
本訴被告兼反訴原告 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役 A3
同訴訟代理人弁護士 牛島信
同 井上治
同 影島広泰
同 百田博太郎
同訴訟復代理人弁護士 小坂光矢
主文
1 被告は,原告野村HDに対し,16億2078万円及びこれに対する平成25年6月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告野村HDのその余の本訴請求,原告野村證券の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じて,これを21分し,このうち9を原告野村HDの負担とし,1を原告野村證券の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1) 被告は,原告野村HDに対し,34億3533万0570円及びこれに対する平成25年1月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告野村證券に対し,1億8157万8159円及びこれに対する平成24年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
(1) 原告野村HDは,被告に対し,3億9049万5000円及びうち1億1224万5000円に対する平成24年10月1日から,うち9030万円に対する同年11月1日から,うち1億0605万円に対する同月10日から,うち6300万円に対する同年12月1日から,うち1890万円に対する同月31日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 原告野村HD及び原告野村證券は,被告に対し,連帯して1億7253万4759円及びこれに対する平成26年4月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求の概要
(1) 原告野村HDは,その100%子会社である原告野村證券の投資一任口座サービス業務に供するため,「WealthManagerTMSoftware(ウェルス・マネージャ・ソフトウェア)」と称するパッケージ・ソフトウェア(以下「WM」という。)を用いたコンピュータ・システムの開発業務(以下「本件開発業務」という。)を被告に委託し,被告との間で,別紙1「契約一覧」中「1 ウェルス・マネージャ導入にかかる被告との契約」と題する表記載の各契約(以下,「本件各個別契約」と総称し,各契約を同表欄外記載の数字を用いて「本件個別契約1」のようにいう。)を締結したが,原告野村證券は,平成24年11月2日,被告に対し,本件開発業務を中止することを通告し(以下「本件通告」という。),平成25年1月29日,原告野村HDを代理して被告に対し,本件開発業務の履行不能を理由として本件各個別契約を解除する旨の意思表示をした(以下「本件解除」という。)。
(2) 本件の本訴事件は,原告野村HD及び原告野村證券(以下「原告ら」という。)が,被告は,本件開発業務を適切に遂行せずにスケジュールの遅延を繰り返した上,劣悪な成果物を納入し,中核となる要員を適切な引継ぎもなく頻繁に交代させるなど適切な開発態勢の確立も怠り,原告野村證券が提示した問題点に関する挽回策を提示することもなく本件開発業務を頓挫させ,本件各個別契約を履行不能に至らしめたが,これは原告野村HDとの関係で債務不履行に,原告らとの関係で不法行為に,それぞれ該当すると主張して,被告に対し,原告野村HDにあっては債務不履行又は不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき,原告野村證券にあっては不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき,それぞれ次の各支払を求める事案である(以下,債務不履行を理由とする原告野村HDの請求を「本訴債務不履行請求」,不法行為を理由とする原告らの各請求を「本訴各不法行為請求」という。)。
ア 原告野村HD
同原告が,①本件各個別契約,②本件開発業務のために被告以外の者との間で締結した別紙1「契約一覧」中「2 ウェルス・マネージャ導入にかかる被告以外のベンダーとの契約」と題する表記載の各契約(以下「本件各別途契約」と総称する。)及び③本件開発業務の中止に伴い締結した同表中「3 コンティンジェンシープランの発動に伴う旧システムの稼働延長のために締結された契約」と題する表記載の各契約(以下,「本件各中止対応契約」と総称し,本件各個別契約,本件各別途契約及び本件各中止対応契約を併せて「本件各契約」と総称する。)について支払った対価の合計31億2281万2396円(同別紙中各表の各「支払額(税込)」欄記載の金額の合計額)に,④本件開発業務に用いた別紙2「機械目録」記載の各機械(以下「本件各機械」という。)の処分に要した費用21万5395円,並びに弁護士費用相当損害として3億1230万2779円を加えた合計34億3533万0570円及びこれに対する本件解除の日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払
イ 原告野村證券
同原告が本件開発業務のために要した費用1億6507万1054円(プロジェクトルームの賃借費用合計2107万1054円及び人件費合計1億4400万円の合計額)に弁護士費用相当損害として1650万7105円を加えた合計1億8157万8159円及びこれに対する本件通告の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
(3) 本件の反訴事件は,被告が,次の各請求をする事案である。
ア 原告野村HDに対し,①本件個別契約13及び15について被告の業務が完了したのに原告野村HDが所定の報酬を支払わず,本件個別契約14に係る既履行の業務についても原告野村HDが所定の報酬を支払わないと主張するとともに,②本件個別契約14に係る未履行の業務について,これを履行することができないのは,原告らが突然本件開発業務を取り止めたことによるから,被告は民法536条2項により,報酬請求権を失わないと主張して,本件個別契約13~15に係る報酬合計3億9049万5000円及びこれらに対する既履行分については各約定期限の翌日から,未履行分については被告が本件開発業務を中止した日の翌日である平成24年11月10日から,各支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(以下「反訴未払報酬請求」という。)。
イ 本件開発業務における次の(ア)及び(イ)の各追加作業並びに本件開発業務の中止を受けて行った次の(ウ)の追加作業(以下,次の各作業を符号を用いて「本件追加作業(ア)」のようにいい,全体を「本件各追加作業」と総称する。)について,原告野村HDに対しては,当事者間の合意,商法512条又は債務不履行を理由とする損害賠償請求権に基づき,原告野村證券に対しては,当事者間の合意又は商法512条に基づき,それぞれ選択的に,原告らに対し,次の(ア)~(ウ)の相当報酬額の合計1億7253万4759円及びこれに対する本件反訴状送達の日の翌日である平成26年4月19日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める各請求(以下「反訴追加作業関係各請求」と総称する。)
(ア) 本件開発業務の遅延によって生じた追加作業に係る相当報酬額合計1億2773万2348円
(イ) 原告野村證券が要件を変更したことによって生じた追加作業に係る相当報酬額3895万5000円
(ウ) 本件開発業務の中止を踏まえたサーバ停止作業に係る相当報酬額584万7411円
2 前提事実
次の各事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠又は弁論の全趣旨により容易に認定することができる。ただし,次の各事実中には,事実の意義や評価について当事者間に争いのある重要な間接事実があることから,以下では,これらを付記して摘示する。
(1) 当事者等
ア 原告野村HDは,金融商品取引業,銀行業及び信託業法に規定する信託業,その他の金融サービスなどを営む会社及びこれに相当する業務を営む外国会社の株式又は持分を所有することにより,当該会社の事業活動を支配及び管理することを目的とする株式会社であり,その100%子会社である原告野村證券が投資一任口座サービス業務用に用いる「SMA・ファンドラップ・システム」と称するコンピュータ・システム(以下「本件システム」という。)の開発を被告に委託し,被告との間で本件各個別契約を締結した者である。
イ 原告野村證券は,有価証券の売買等及び売買等の委託の媒介,アセットマネジメント業及びその他の証券業並びに金融業等を営むことを目的とする株式会社であり,その業務の一環として「SMA」及び「ファンドラップ」と称する投資一任口座サービスを顧客に提供している者である。
上記「SMA」とは,英文の「Separately Managed Account」の略であり,資産運用のアドバイスや株式・債券・投資信託の売買注文等を一括して提供する資産運用サービスをいい,上記「ファンドラップ」とは,英文では「Fund Wrap」であり,投資一任運用サービスの一種で,顧客のリスク許容度や投資目的に合わせて,金融機関の専門家のアドバイスをもとに異なるタイプの複数の投資信託を選び,これらを組み合わせて運用するサービスをいう(甲57,甲58)。原告野村證券にあって,これらの投資一任口座サービスは,「投資顧問事業部」(以下「原告事業部」という。)が担当しており,本件開発業務には,原告事業部のほか,IT部門である「国内IT戦略部」(以下「原告戦略部」という。)が携わった。
ウ 被告は,コンピュータ・システムの開発,運用,管理,搬入及び保守サービス,汎用コンピュータ・システム,サーバ等のハードウェア及びこれに付随するシステム・ソフトウェア等の販売等を業とする株式会社であり,オランダ法人であるTemenos(NL)B.V.(以下「テメノス社」という。)が著作権を有するパッケージ・ソフトウェアであるWMを利用して本件システムを開発することを原告らに提案し,原告野村HDとの間で本件各個別契約を締結し,本件開発業務を行った者である。なお,WMは,本件開発業務の開始当初,オデッセイ社が著作権を有していたが,その後,テメノス社が著作権を有することになったものであり(以下では,オデッセイ社とテメノス社を区別せず,テメノス社という。),世界的には広く用いられているパッケージ・ソフトウェアであるが,本邦における導入は初めてであった。
(2) 本件システム
ア 原告らにおいては,平成22年7月頃から,原告野村證券の個人向け商品のための情報システム全体を全面的に刷新する「リテールITプロジェクト」と称するプロジェクトが実施されていた。同プロジェクトは,「バックIT」と「フロントIT」とに大きく分かれ,バックITでは,バックオフィス業務(原告野村證券では,事務や会計・管理等の基幹業務は「バックオフィス業務」,顧客対応等の対外的業務は「フロントオフィス業務」と呼ばれている。)用の「CUSTOM」と呼ばれる勘定系情報システム(以下「CUSTOM」という。)に代え,原告らの関係会社である株式会社野村総合研究所(以下「NRI」という。)が著作権を有する「THE STAR」を利用した情報システム(以下「STAR」という。)を平成25年1月4日から稼働開始させることが予定されていた。
イ 原告野村證券には,投資一任口座サービス用の既存の情報システム(以下「現行システム」という。)があり,リテールITプロジェクトにおいては,当初,現行システムをそのままSTARとネットワークで接続し,接続部分のみを開発することが予定されていたが,現行システムの老朽化から,新たなシステムとして,本件システムが開発されることになった。その際,原告野村證券が扱う口座数は少なくとも5万口座であるところ,NRIが提案するパッケージ・ソフトウェアは5000口座までしか対応できないなどの事情から,被告が提案したWMを利用した本件システムが採用されたものであり,本件システムは,STARとネットワークで接続され,連携して処理を行うことが予定されていたため,STARと同じ平成25年1月4日の稼動開始が予定されていた。
ウ なお,リテールITプロジェクトのフロントITでは,顧客情報の管理等を行う複数のシステムの更改が予定されていたが,本件システムとリテールITプロジェクトの関係には争いがあり,被告は本件システムがフロントITの一部であると主張するのに対し,原告らは本件システムはSTARと連携しているのみでフロントITの一部ではないと主張している。
(3) 本件システムの開発方法等
ア コンピュータ・システムの開発においては,開発されるべきコンピュータ・システムを利用する者をユーザ,これを開発する者をベンダといい,ベンダが採用する開発方法には,大別して,パッケージ・ソフトウェアを利用する方法と,これを利用せずにプログラムを一から作る「カスタム開発」と称する方法とがある。パッケージ・ソフトウェアを利用する方法には,当該ソフトウェアをそのまま導入する方法と,一部のプログラムを追加・変更する「カスタマイズ」と呼ばれる開発作業を行った上,導入する方法とがあり,カスタマイズを行う場合には,開発されるべきコンピュータ・システムに対して,パッケージ・ソフトウェアのプログラムが適合し,そのまま導入できる部分と,不適合や不足などからカスタマイズすべき部分を,「フィット&ギャップ分析」と呼ばれる作業により特定し,ギャップがあるとされた部分がカスタマイズの対象とされる。一般には,カスタマイズ量が増大すれば,開発費用が増大し,開発期間が長期化するという関係にある。
イ パッケージ・ソフトウェアを利用した開発におけるカスタマイズの工程は,カスタム開発の工程と同様,工程を「フェーズ」と呼ばれる局面に分け,前のフェーズの成果物を元に次のフェーズの開発作業を行うという方法で行われるのが一般的である。各フェーズは,一般には次の①~④のような局面で分けられることが多い。
① 要件定義ないし要求定義:ベンダが開発するコンピュータ・システムをどのようなものとするかというユーザの要求をベンダが開発できるような形に取りまとめる工程であり,成果物として,要件定義書が作成される。
② 基本設計ないし外部設計:ユーザの視点から,ユーザが日常業務において使用する画面や帳票などのインターフェイスを設定し,決定する工程であり,成果物として,基本設計書ないし外部設計書が作成される。
③ 詳細設計ないし内部設計及びプログラミング:ベンダが基本設計書を前提に機能要件等のハードウェア,ソフトウェア等による実現方式や処理の内部ロジックを設計するなど,開発すべきコンピュータ・システムの詳細を設計し,これを元にプログラミングを行う工程であり,成果物として,プログラムが作成される。
④ テスト:コンピュータ・システムが正しく動作することを検証する工程であり,個々のプログラムの動作を検証するためにベンダが行う「単体テスト」,プログラム同士を結合した動作を検証するためにベンダが行う「結合テスト」,システム全体の動作を検証するためにベンダが行う「システムテスト」,ユーザが検収のために行う「運用テスト」などがある。
上記の開発方法は,各フェーズを滝が流れ落ちるように開発作業が進むことから「ウォーターフォール型開発プロセス」と呼ばれ,上記①及び②の工程は「上流工程」,③及び④の工程は「下流工程」と呼ばれ,上流工程はシステムの仕様を確定し,品質を埋め込むプロセス,下流工程は確定された仕様に基づいて開発を行い品質を確認・検証するプロセスと位置づけられている。(甲6)
ウ 本件開発業務は,パッケージ・ソフトウェアであるWMに,フィット&ギャップ分析を行ってカスタマイズ部分を特定し,カスタマイズを行った上で導入する方法で行われ,カスタマイズ部分の開発は,ウォーターフォール型開発プロセスを用いて行われた。また,本件開発業務における詳細設計及びプログラミングは,テメノス社が「ストーリーボード」と称する文書を作成して,原告野村證券のサインオフを受け,それを元にスペック(仕様書,specification)を作成し,プログラムを作成する方法で行われたが,上記ストーリーボードの位置づけについては,当事者間に争いがあり,原告らはこれを一般的なプロジェクトにおける基本設計書に相当するテメノス社における文書と位置づけるのに対し,被告はこれをWMの要件定義書と位置づけている。
(4) 本件システムの開発態勢
ア 本件開発業務においては,原告野村證券,被告及びテメノス社がそれぞれプロジェクトマネジャを出し,これらのプロジェクトマネジャが中心となって,それぞれの役割を果たしながら進行させるという態勢が採用された(以下「本件2頭態勢」という。)。本件2頭態勢の評価については,当事者間に争いがあり,被告は,共同してプロジェクト・マネジメントを行う態勢であると主張するのに対し,原告らは,原告らが負うのは協力義務にすぎないと主張している。
イ 本件開発業務は,本件2頭態勢の下で,チームに分かれて行われ,進捗管理のために,①原告野村證券及び被告のプロジェクトマネジャ,チームリーダー等が参加して行う「プロジェクト全体会議」,②①のメンバーに適宜チームメンバーが参加して行う「進捗会議」,③チームリーダーとチームメンバーが参加して行う「チーム進捗会議」が設けられたが,平成23年10~11月以降,本件開発業務の進捗報告と問題解決のため,「課題共有ボードミーティング」が週1回の頻度で,更に高度な意思決定のため,原告野村證券,被告及びテメノス社のマネジメント層が参加して行う「ステアリングコミッティーミーティング」が月1回の頻度で,それぞれ開催されることになった。
(5) 本件開発業務
本件開発業務は,平成22年11月15日に開始され,STARと連携した平成25年1月4日の稼働開始に向け,当初,別紙3「工程変更表」中「No.」欄1「スケジュール」欄記載のとおり各フェーズを進行することが予定されたが,同「No.」欄2~12各「スケジュール」欄記載のとおり順次変更され,同「No.」欄13の「局面」欄及び「スケジュール」欄記載のとおり,平成24年8月9日に総合テストが開始されたが,同「No.」欄14の「局面」欄及び「スケジュール」欄記載のとおり,同月24日には同テストが断念された上,同「No.」欄15の「局面」欄及び「スケジュール」欄記載のとおり,原告野村證券による課題提示や被告による見直しプランの提示等の経緯を経て,同年11月2日の本件通告に至ったものであった。この間の経過の概要は,次のとおりである(以下,同経過の各局面を同別紙「局面」欄記載の時点ごとに同別紙「No.」欄記載の数字を用いて「本件局面1」のようにいい,各局面において予定された「スケジュール」欄記載の各スケジュールを,同じ数字を用いて「スケジュール1」のようにいう。)。
ア 本件局面1
平成22年10月29日,被告が当初の提案(甲7)をした局面であり,スケジュール1は,同提案において予定されたスケジュールである。
当時,原告らは被告が提案したWMを導入することを決定していなかったため,スケジュール1において,最初のフェーズは,その導入の可否を決するための事前検証を目的とする「導入前機能検証フェーズ」とされ,同年中に同フェーズを行った上,平成23年1~3月に要件定義フェーズを行い,同年4月から設計・開発フェーズを開始して,平成24年3月末までに開発・テストフェーズを完了し,同年4月からSTARを含むシステム全体の運用テストを開始することが予定されていた。
なお,当初の計画における概算開発費用は,総額17億7900万円と見積もられていた。また,導入前機能検証フェーズの事前準備のために本件個別契約1が,導入前機能検証フェーズのために本件個別契約2が,それぞれ締結された。そして,被告は,平成22年12月29日,同フェーズにおける検討の結果,WMの導入は可能である旨の判断を原告らに報告した。
イ 本件局面2
導入前機能検証フェーズにおけるWMの導入は可能との判断を踏まえ,要件定義フェーズの開始に当たり,平成22年12月29日,被告が提案(甲8)をした局面であり,スケジュール2は,同提案において予定されたスケジュールである。
スケジュール2では,要件定義フェーズの期間が平成23年1~2月に変更され,新たに要件定義の2段階目である「概要設計フェーズ」を同年3~4月に行うことが予定されたが,スケジュール全体に大きな変更はされなかった。なお,本件開発業務における要件定義は,要件定義フェーズ及び概要設計フェーズにおいて行われたが,その意義については当事者間に争いがあり,原告らは,もともと原告野村證券におけるシステム開発では,要件を確定させる工程を要件定義と概要設計の2段階に分けて行っていると主張するのに対し,被告は,本来は要件定義フェーズにおいて実質的な要件定義を行う予定であったが,導入前機能検証フェーズの後,原告らがWMを導入するか否かの意思決定ができなかったため,要件定義フェーズは,実質的には提案活動として行われたと主張している。
要件定義フェーズのために本件個別契約3が締結された。また,被告は,要件定義フェーズにおけるフィット&ギャップ分析を踏まえ,概算開発費用を総額19億3000万円と提示した。なお,要件定義フェーズからの開発態勢には本件2頭態勢が採用された。要件定義フェーズにおける開発態勢は,別紙4「開発態勢整理表」(以下「開発態勢整理表」という。)①記載のとおりである(甲152)。
ウ 本件局面3
要件定義フェーズの終了に当たり,平成23年2月25日,要件定義書(甲74。以下「本件要件定義書」という。)が作成された局面であり,スケジュール3は,本件要件定義書において予定されたスケジュールである。
スケジュール3では,要件定義フェーズの後,同年3月に「概要設計立ち上げフェーズ」を行い,その後の同年4~5月に概要設計フェーズを行うこととされ,設計・開発フェーズの開始はスケジュール2より1か月遅い同年6月から,テストフェーズの開始は同じく2か月遅い平成24年1月から,開発・テストフェーズの完了は同じく2か月遅い同年5月末とされ,同年6月から運用テストを開始することが予定された。なお,新たに加えられた概要設計立ち上げフェーズの意義については当事者間に争いがあり,原告らは,年度を跨いだ提案を受けることができないことから,概要設計フェーズにおいて行われるべき要件定義作業のうち同年3月分を別契約にしたと主張するのに対し,被告は,前記イのとおり提示した概算開発費用を前提にWMを導入するか否かの意思決定に1か月を要すると言われたために,実質的な要件定義作業を開始することができなかったと主張している。
概要設計立ち上げフェーズのために本件個別契約4が締結された。なお,概要設計立ち上げフェーズにおける開発態勢は,開発態勢整理表②記載のとおりである(甲152)。
エ 本件局面4
概要設計フェーズの開始に当たり,平成23年3月28日,被告が提案(甲9)をした局面であり,スケジュール4は,同提案において予定されたスケジュールである。
スケジュール4では,概要設計フェーズの期間を1か月延長して同年4~6月に概要設計フェーズを行うこととされ,設計・開発フェーズの開始はスケジュール3より1か月遅い同年7月からとされたが,テストフェーズの開始はスケジュール3と同じ平成24年1月からとされ,開発・テストフェーズの完了はスケジュール3より1か月遅い同年6月末とされ,同年7月から運用テストを開始することが予定された。なお,概要設計フェーズの期間が延長された原因については当事者間に争いがあり,原告らは被告の要望によると主張するのに対し,被告はリテールITプロジェクトの進捗状況に合わせたもので,被告の要望ではないと主張している。
概要設計フェーズのために本件個別契約5が締結された。また,WMの導入が決定されたことを踏まえ,本件個別契約6及び7が締結された(ただし,本件個別契約6に添付された「WEALTH MANAGERTMSOFTWARE LICENSE AND SUPPORT SERVICES AGREEMENT」は,原告野村HDとテメノス社との間で締結されたライセンス契約である。)。なお,概要設計フェーズにおける開発態勢は,開発態勢整理表③記載のとおりである(甲152)。
オ 本件局面5
概要設計フェーズの終了に当たり,平成23年7月1日,被告が提案(乙6)をした局面であり,スケジュール5は,同提案において予定されたスケジュールである。
スケジュール5では,概要設計フェーズの終了後,同月に,新たに「概要設計最適化フェーズ」を行うこととされ,設計・開発フェーズの開始はスケジュール4より1か月遅い同年8月から,テストフェーズの開始は同じく1か月遅い平成24年2月からとされたが,開発・テストフェーズの完了はスケジュール4と同じ同年6月末とされ,同年7月から運用テストを開始することが予定された。なお,概要設計最適化フェーズは,概要設計フェーズにおけるフィット&ギャップ分析の結果,WMのカスタマイズ量が著しく増大したことから,その削減のため,業務要件を再度レビューする目的で行われることとなったものであり,同フェーズを経ても,カスタマイズ量が大きく削減されることはなかったが,これらの原因については当事者間に争いがあり,原告らは,本来WMの機能をベースに,原告野村證券固有の追加又は修正が必要な機能を整理するというアプローチを採用すべきところ,被告が誤って原告野村證券の現行業務で利用されている機能及び原告野村證券の現行システムの機能をベースに要件を取りまとめたことが原因であると主張するのに対し,被告は,原告事業部担当者が,現行業務ないし現行システムに固執し,WMの機能では原告野村證券固有の現行業務及び商品並びに現行システムにある機能が実現できない場合には,WMをカスタマイズすることで実現するよう要望してきたことが原因であると主張している。
概要設計最適化フェーズのために本件個別契約8が締結された。なお,概要設計最適化フェーズ以降の開発態勢では,プロジェクト責任者(プロジェクトオーナー)の上位に,より経営上上位の者が務める全体責任者(プロジェクトアドバイザー)が設けられた。概要設計最適化フェーズにおける開発態勢は,開発態勢整理表④記載のとおりである(甲152)。
カ 本件局面6
概要設計最適化フェーズの終了に当たり,平成23年8月4日,被告が提案(乙7)をした局面であり,スケジュール6は,同提案において予定されたスケジュールである。
スケジュール6では,概要設計最適化フェーズの終了後,同月に,新たに「基本設計準備フェーズ」を行うこととされ,設計・開発フェーズの開始時期が1か月先とされたが,テストフェーズ以降の計画に変更はなく,設計・開発フェーズの完了時にテメノス社がプログラムを一括して被告に出荷した上で,テストフェーズを開始することが予定されていた。基本設計準備フェーズにおいては,同年7月までに検討した事項をストーリーボードに反映し,レビューを行うこととされており,16本のストーリーボードの作成・修正作業がテメノス社によって行われたが,同作業の位置づけには当事者間に争いがあり,被告は,同作業は上流工程であって,同フェーズにおいて要件定義の作業が終了したと主張するのに対し,原告らは,WMのカスタマイズ作業は上流工程・下流工程を明確に区分できず,両方が混在した状態であったため,ストーリーボードの作成・修正作業は随時継続されるべき基本設計の一部であったと主張している。なお,ストーリーボードの作成・修正作業は,概要設計最適化フェーズ中から業務要件の再レビューと並行して行われていたが,同年8月以降のストーリーボード作成・修正作業の具体的な進捗状況は,別紙5「本プロジェクトのStoryboardの推移」(以下「ストーリーボード進捗表」という。)記載のとおりである。
基本設計準備フェーズのために本件個別契約9が締結された。また,原告野村證券と被告は,同年8月30日,概要設計最適化フェーズ終了後のカスタマイズ量を前提に,概算開発費用を総額26億9000万円に増額することを合意した。なお,基本設計準備フェーズの開発態勢は,開発態勢整理表⑤記載のとおりである(甲152)。
キ 本件局面7
設計・開発フェーズの開始に当たり,平成23年9月2日,被告が提案(甲15)をした局面であり,スケジュール7は,同提案において予定されたスケジュールである。
スケジュール7では,それまで設計・開発フェーズの完了時に一括出荷することとされていたプログラムを2分し,1については,平成24年1月からの開始が予定されていたサブシステム間連結テストに間に合うように出荷するが,他の1については出荷時期をすらすこととし(以下,前者を「ドロップ1」,後者を「ドロップ2」という。),ドロップ1については原告らに同年3月末に納入し,ドロップ2についてはその後に別に納入することが予定された。なお,スケジュール7は,平成23年9月9日に16本あるストーリーボードのサインオフが完了することを前提とするスケジュールであり,サインオフが遅れる場合にはスケジュールが変更されることが予定されていたところ,このサインオフと本件局面8~12における本件開発業務の遅れとの関係については当事者間に争いがあり,被告は,本件局面8~12における本件開発業務の遅れは,WMのカスタマイズ量が増大した上に,原告らのサインオフが同年12月5日まで遅延したことなどが原因であると主張するのに対し,原告らは,スケジュール7は,増大したカスタマイズ量を前提にするものであるし,原告らにストーリーボードのサインオフのためのレビューの遅延はなく,本件局面8~12における本件開発業務の遅れは,テメノス社による開発作業自体の遅れや被告のプロジェクト・マネジメントの失敗によると主張している。
設計・開発フェーズのために本件個別契約10~13が締結された。なお,設計・開発フェーズ開始時の開発態勢は,開発態勢整理表⑥記載のとおりである(甲152)。
ク 本件局面8
平成23年11月29日のステアリングコミッティーミーティングにおいて被告が計画変更(甲17)を提案した局面であり,スケジュール8は,同提案において予定されたスケジュールである。
スケジュール8では,スケジュール7においてテメノス社がドロップ2として被告に出荷することとされていたプログラムの一部をドロップ3として別に出荷することとし,ドロップ1部分の一部についてはスケジュール8と同様,原告らに平成24年3月末に納入し,ドロップ1部分の残部及びドロップ2部分については原告らに同年6月末に納入し,ドロップ3部分については同年9月末に納入することが予定されていた。(甲17)
なお,上記計画変更時以降の開発態勢は,開発態勢整理表⑦の1~3記載のとおりであり,プロジェクト管理者が,プロジェクト主管部とプロジェクトマネジャの2段構想とされ,原告野村證券及び被告のほかにテメノス社も参画する「3社プロジェクトガバナンス態勢」が構築された。
ケ 本件局面9
平成24年2月16日の課題共有ボードミーティングにおいて被告が計画変更(甲25)を提案した局面であり,スケジュール9は,同提案において予定されたスケジュールである。
スケジュール9では,スケジュール8においてテメノス社がドロップ1として被告に出荷することとされていたプログラムのうち一部の出荷を,従来予定されていた同年3月9日から同年4月15日に延期し,同年3月9日のドロップ1.0と分けて,ドロップ1.1として出荷することが予定された。
なお,上記計画変更時に予定された同年3~7月の設計・開発フェーズの開発態勢は,開発態勢整理表⑧記載のとおりである(甲152)。
コ 本件局面10
テメノス社がドロップ1.0として出荷したプログラムについて,被告が受入れテストを実施したところ,修正を要する部分が判明したことから,平成24年4月3日,テメノス社においてその修正を行った上,同月5日に再度出荷することとし,併せてドロップ1.1の出荷を同月30日とするスケジュール10に変更された局面である。
サ 本件局面11
平成24年4月17日,テメノス社がもともと同月15日に被告に出荷することとされていたドロップ1.1の出荷が,同年5月11日に延期された(スケジュール11)局面である。なお,ドロップ1.1については,これに先立つ同年3月29日,同年4月15日から同月30日への出荷延期が予定され,上記延期は更なる延期となっていた。
シ 本件局面12
平成24年5月9日のステアリングコミッティーミーティングにおいて被告が計画変更(甲34)を提案した局面であり,スケジュール12は,同提案において予定されたスケジュールである。
スケジュール12では,従来,テメノス社がドロップ2として被告に出荷することとされていたプログラムについてもドロップ2.1とドロップ2.2とに2分し,ドロップ2.1部分については同年6月29日,ドロップ2.2部分については同年7月27日に原告らに納品することが予定された。
原告野村證券は,本件システムとSTARとの総合テストが同年7月から予定されていたことから,被告に対し,ドロップ2.1部分の納品を前倒しするよう要請し,上記遅延によりスケジュールに余裕がなくなったため,これ以上の延期は許容できないことを伝達した。
なお,被告は,同年6月19日のステアリングコミッティーミーティングにおいて,原告野村證券に対し,WMのドロップ2.1がテメノス社から出荷されたこと及びWMのプログラムの不具合の修正のうち,最も難しいとされていた点等について修正の目処がつき,同月18日からのSTARとの総合テストの開始前段階の準備作業に参加できる見通しであることを報告したが,同月26日のステアリングコミッティーミーティングにおいて,上記最も難しいとされていた点の修正が早くても同年7月末になりそうであるとの見通しを報告した。
また,同年7月27日,テメノス社から被告に対し,被告の受入れテストでの障害を修正したドロップ1.0及びドロップ2.2が出荷されたが,ドロップ1.0については,被告の受入れテストで障害が発生し,テメノス社においてこれを修正した上,同年8月6日に再度出荷することとされた。
なお,この間,IBM側の開発態勢は,開発態勢整理表⑨記載のとおり変更された。
ス 本件局面13
被告が平成24年8月6日から開始されていたSTARとの総合テストに参加することは可能であるとの見解を示したことから,同月9日のステアリングコミッティーミーティングにおいて,総合テストへの参加が決定された局面(乙16)であり,総合テストへの参加のため,本件個別契約14が締結された。ただし,総合テストへの参加の意義については,当事者間に争いがあり,被告は,通常の総合テストであると主張するのに対し,原告らは,総合テストの環境を利用した被告の内部テストであると主張している。
なお,総合テストは,おおむね開発態勢整理表⑩記載の開発態勢の下で行われた。
セ 本件局面14
被告が,平成24年8月24日,平成25年1月にSTARと連携しての稼働を開始するためには,①平成24年9月末までに障害対応を終えてWMの受入れを完了し,②同年10月末までに総合テストを完了する必要があるところ,上記①については,WMの障害対応完了予定が同月16日であるため達成できず,上記②については,同年8月24日現在の状況では達成できないリスクが大きく,平成25年1月4日のSTARと連携した稼働開始について,現状では,スケジュール及び品質のリスクがあると考えていることを報告し(甲42。以下「本件リスク報告」という。),これを受けて,原告野村證券が,上記稼働開始を断念し,被告に対し,全体の工程のリスケジュール案を作成するよう依頼し,本件システムの総合テストが中止された局面である。
コンピュータ・システム開発においては,不測の事態が発生することを想定し,被害や損失を最小限にとどめるために,あらかじめ「コンティンジェンシープラン(contingency plan)」と称する対応策を定めておくのが通常であり,原告野村證券は,上記経緯を受けて,コンティンジェンシープランの発動として,現行システムをSTARと接続して稼働できるよう修正するための開発作業をNRIに委託することを決定し,平成24年8月27日,その旨を被告に通知した(以下「本件発動通知」という。)。
なお,この段階におけるテストで生じていた障害の評価については当事者間に争いがあり,被告は90.1%が対応済みで,当初の予定から3~4か月の遅れでサービス・インが可能な状況であったと主張するのに対し,原告らは,あまりに品質が悪く,完成の見通しが立たなかったと主張している。
ソ 本件局面15
平成25年1月4日のSTARと連携しての稼働開始が断念された後の局面であり,原告野村證券と被告は,平成24年9月3日に第1回遅延問題検討会を,同月6日に第2回遅延問題検討会を,それぞれ開催し,被告は,第2回遅延問題検討会において,第1回遅延問題検討会で原告野村證券が指摘した,認識している問題点(甲45)に対する取りまとめ資料(甲46)を提出した。
また,被告は,同月7日,原告野村證券に対し,本件開発業務の見直しプラン(甲47)を提示し,原告野村證券は,被告に対し,「対策を確認したいプロジェクト課題」と題する資料(甲48。以下「課題一覧」という。)を提示し,対応策を検討して提示するよう求めた。なお,被告は,同月18日,中間報告として,本件開発業務の見直しプランのプレゼンテーション(甲51)を実施した。
その後,原告野村證券及び被告は,検討を重ね,被告は,同年10月4日,原告野村證券に対し,本件開発業務の見直しプラン(甲49)を提示し,同月15日には,最終報告として,稼働開始を当初の平成25年1月4日から約8か月遅らせた同年9月2日とする本件開発業務の見直しプランについて,再度のプレゼンテーション(甲52)を実施した。
しかし,原告野村證券は,平成24年11月2日の会議において,被告に対し,データ移行と稼働開始後の運用保守にリスクがあることを理由として,口頭で本件通告をした。
なお,本件局面15において,原告野村證券が最終的に被告に提示した問題点が課題一覧(甲48)記載の23項目であったのか,これにコストの問題を追記した26項目(甲50)であったのか,これらの問題点が,本件開発業務を回復軌道に乗せるために重要かつ必要不可欠な課題であったのか,被告がこれに適切な対応策を示したのか否かについては,当事者間に争いがある。
(6) 本件解除
ア 原告野村證券は,平成25年1月29日の打合せの場において,被告に対し,「SMA/ファンドラップ・システム構築プロジェクトに係る契約解除のご通知」と題する文書(甲54)を交付し,被告野村HDを代理して,本件各個別契約を全部解除する旨の意思表示をした。
同文書には,平成24年8月,当初予定の平成25年1月のリリースを断念する旨の被告からの申入れを受け,被告に対し,平成24年8月27日,本件発動通知を行った上,新プロジェクト計画策定のため,23項目の課題を提示した旨,同年10月に提示された新プロジェクト計画は,原告野村證券が提示した課題への有効な解決策と評価できるものではなく,慎重な検討の結果,本件開発業務は失敗に終わったものとして中止せざるを得ないとの結論に達し,同年11月2日に被告に対し,その旨を通知した旨,同月20日の被告代表者と原告CEOの会談において,委託継続の要請を受けたが,被告から具体的な改善策の提示はなかったため,同月27日に再度中止を通知した旨,中止までの間には,被告側の事情で度重なる遅延が生じており,契約において合意された成果物はいずれも納入されておらず,原告野村證券においては,支払済みの金額以外にも多額の損失を計上する結果となった旨の記載があり,上記損害については,支払済みの金員の返還と併せて,追って請求する旨が予告されている。(甲54)
イ 原告らは,平成25年5月29日,連名で被告に対し,損害賠償として34億1897万2605円を2週間以内に支払うよう催告した。
(7) 責任制限条項
本件各個別契約のうち,例えば,本件個別契約1~5,8,9,14及び17には,それぞれ「お客様がIBMの責に帰すべき事由に基づいて救済を求めるすべての場合において,IBMの損害賠償責任は(中略)損害発生の直接原因となった当該『サービス』の料金相当額(中略)を限度とする。」との責任制限条項が設けられ,本件個別契約13及び15でも,「IBMの損害賠償責任は(中略)損害発生の直接原因となった当該別紙所定の作業に対する受領済みの代金相当額を限度額とする。」旨の責任制限条項が定められている(以下,これらの責任制限条項を「本件各責任制限条項」と総称する。)。
3 当事者の主張
(1) 本訴債務不履行請求について
【原告野村HD】
ア 履行不能
被告は,別紙6「プロジェクト・マネジメント整理表」(以下「PM整理表」という。)中「No.」欄5及び6の各「状況」欄中「原告ら」欄記載のとおり,本件開発業務の下流工程である本件局面6~12において,成果物の納入遅延を繰り返した上,劣悪な品質の成果物を納入することを繰り返し,本件局面13では,総合テストの環境を利用したテストが開始されたが,成果物の品質の劣悪さから,原告野村證券は,本件局面14において,平成25年1月4日の稼働開始を断念し,コンティンジェンシープランを発動させざるを得ない状況に陥った。そして,原告野村證券は,被告に対し,PM整理表中「No.」欄6の「対策」欄中「原告ら」欄④記載のとおり,具体的な課題を挙げて見直し案の検討を求めたが,被告が適切な対応をしなかったため,本件通告に至ったものである。
被告は,本件各個別契約に基づく義務として,合理的な費用・スコープ・期間で本件システムを完成させるべき義務を負うところ,上記経過の下では,本件開発業務は,遅くとも原告野村證券が本件通告をした平成24年11月2日までに,①技術的観点から一定期間内に本件システムの品質を金融システムに求められるレベルにまで改善することができない状況となるとともに,②原告らと被告との間の信頼関係が破壊され,共同して本件開発業務を完遂することのできない状態となったというべきであるから,原告らがこれを継続させかいと判断することには合理性が認められ,本件システムは,社会通念上,客観的に完成不能となったものというべきであり,これに伴い,本件各個別契約は,既履行・未履行を問わず履行不能となり,被告は原告野村HDに対し債務不履行責任を負うというべきである。同責任を争う被告の主張は,次のとおり理由がない。
(ア) 被告が本件システムの完成義務を負わない旨の主張(後記【被告】欄(1)ア(ア))について
被告は,本件各個別契約に基づき被告が本件システムを完成させる義務を負うことはないと主張する。しかし,本件各個別契約は,本件システムの完成に向け,順次締結されたものであり,個々の契約は,当初設定された費用・期間・機能によって構成される計画に従って本件システムを完成できるよう作業や取引を規定して締結されるものであるから,本件各個別契約の債務の本旨に従った給付には,本件システムを完成させることも含まれるというべきである。
(イ) 既履行債務は不能とならず,本件システムの完成は確実であった旨の主張(後記【被告】欄(1)ア(イ))について
被告は,本件個別契約14を除く本件各個別契約は,既に履行が完了しており,既履行債務が遡って不能となることはないと主張するが,被告がこれらの契約について,債務の本旨に従った履行を完了したことはなく,本件各個別契約の前記(ア)の趣旨からすれば,本件システムの完成が不能となった以上,これらは全て遡って履行不能となると解される。
また,被告は,乙86号証及び乙134号証(以下「トーマツ意見書」と総称する。)を援用し,本件通告の時点で本件システムが完成することは客観的に明らかであったと主張するが,トーマツ意見書は,多数の点で重大な誤りを含んでおり,信用性を有しない(甲142,甲145,甲150,甲151,甲153,甲154。以下,甲142,甲151及び甲153を併せて「キャップ・ジェミニ意見書」といい,甲145,甲150及び甲154を併せて「A36意見書」という。)。なお,原告らが何らかの社内事情からリテールITプロジェクトの一部にすぎない本件システムを切り捨てたとの被告の主張は,本件システムがリテールITプロジェクトのフロントITの一部であるという前提において誤っている上,何ら根拠のない独自の主張である。
(ウ) 被告の責めに帰すべからざる事由がある旨の主張(後記【被告】欄(1)ア(ウ))について
被告は,本件開発業務が遅延したのは,上流工程において,原告らの意思決定の遅れにより要件定義作業に3か月の遅れが生じた上,原告事業部が原告戦略部の方針に反して現行業務・現行システムに固執したため,WMのカスタマイズ量が増大し,ストーリーボードの確定が遅れたこと等によるとの独自の主張をしているが,PM整理表中「No.」欄1~4の「原因」欄中「原告ら」欄記載のとおり,上記主張は理由がないし,被告は,概要設計最適化フェーズが終了した本件局面6において,その時点の遅れとWMのカスタマイズ量を前提に,下流工程におけるスケジュールを策定したのであるから,これらは下流工程の遅延の理由になるものではない。さらに,仮にこれらが下流工程の遅れの原因となったとの被告の主張を前提としても,PM整理表中「No.」欄1~4の「対策」欄中「原告ら」欄記載のとおり,被告は,必要な対応を怠ったから,被告の責めに帰すべからざる事由があるとはいえない。
かえって,被告は,本件開発業務を担うベンダとして,ベンダに通常求められる高度の専門的知識と経験に基づき,プロジェクト・マネジメントを適切に行うべき義務を負うところ,本件開発業務が下流工程において遅延した原因は,PM整理表中「No.」欄5・6の「原因」欄中「原告ら」欄記載のとおりであって,被告は,下流工程において,①被告及びテメノス社の要員のWM及び証券業務についての知識不足,②引継ぎに不備のある頻繁な要員の交代,③杜撰な進捗管理,④不正確・不十分な設計書及び⑤杜撰な品質管理から,適切なプロジェクト・マネジメントを行わなかったものであり,本件開発業務が頓挫したことについて重過失がある。被告は,各時点の課題に対し,適時,適切な対応をしたと主張するが,同主張は,PM整理表中「No.」欄5・6の「対策」欄中「原告ら」欄記載のとおり理由がない。なお,被告は,本件開発業務は原告らと被告が共同してプロジェクト・マネジメントを行うものであったと主張するが,原告らは,ユーザとして,コンピュータ・システム開発の専門業者たるベンダである被告から協力を求められた場合に,それに応じる協力義務を負うにすぎない。
イ 損害
(ア) 相当因果関係のある損害の額について
原告野村HDは,本件開発業務のため,被告との間で本件各個別契約を締結し,被告に対し合計25億2545万9229円(消費税込み)を支払った。また,原告野村HDは,本件開発業務のため,被告以外のベンダとの間で本件各別途契約を締結し,合計1億2506万3167円(消費税込み)を支払った。さらに,原告野村HDは,コンティンジェンシープランの発動に伴い,NRIとの間で本件各中止対応契約を締結し,合計4億7229万円(消費税込み)を支払った。加えて,原告野村HDは,被告が本件個別契約7,10及び12に基づき買い受けた本件各機械を撤去しなかったため,その処分を余儀なくされて21万5395円を支払った(甲146)。原告野村HDが被告の債務不履行により賠償を受けるべき損害額は,上記の合計31億2302万7791円に,弁護士費用相当損害として,その1割に相当する3億1230万2770円を加えた合計34億3533万0570円を下らない。
被告は,本件各個別契約に基づく既履行部分の報酬は損害を構成しないと主張するが,本件システムの完成が不能となった以上,全ての支出が原告野村HDの損害である。また,被告は,本件各中止対応契約に係る支出と本件開発業務の頓挫との間の相当因果関係を争うが,これらは,本件開発業務が頓挫しなければ支出されることのなかった費用であるから,相当因果関係が認められる。
(イ) 本件各責任制限条項の適用について
被告は,本件各責任制限条項による責任制限の抗弁を提出するが,同条項は,原告らに一方的に不利な内容であるのに,何らの交渉も行われず,交渉を行うこともできないまま定められたものであるから,信義則に反し無効というべきであり,少なくとも被告に重過失のある本件については,適用されるべきではない。また,仮に同条項が有効であるとしても,原告野村HDが第三者との間の契約に基づいて支払った費用に相当する損害については適用されるべきではない。
【被告】
ア 履行不能
本件各個別契約の履行不能に関する原告野村HDの主張は,次のとおり理由がない。
(ア) 本件各個別契約に基づく本件システムの完成義務がないこと
まず,原告野村HDの主張は,被告が本件各個別契約に基づいて本件システムを完成させる義務を負うことを前提としているが,本件各個別契約は,当事者が不確実性の中で合意を形成せざるを得ないという特質のあるコンピュータ・システム開発の実務に従い,契約を予測可能な範囲で区切り,債権・債務の内容を明確化したものであり,被告は,本件各個別契約に基づいて,本件システムの完成に向けた各開発段階におけるサービスを提供し,成果物の納入等を行う債務を負うものの,直ちに本件システムを完成させる義務を負うものではない。
(イ) 既履行債務が履行不能となることはなく,本件通告当時,本件システムの完成は確実な状況にあったこと
次に,原告野村HDは,本件各個別契約が遡って全て履行不能となると主張するが,被告は,本件個別契約14を除く本件各個別契約の履行を完了していたものであり,履行が完了した契約上の債務が遡って全て履行不能となることはあり得ない。
また,本件開発業務は,専ら原告ら側の原因で遅延が生じていたものの,PM整理表中「No.」欄6の「状況」欄中「被告」欄記載のとおり,本件通告がされた平成24年11月2日当時,本件システムの完成が客観的にみて可能な状況となっていたものであり,当初の予定から3~4か月遅れるのみで稼働開始が客観的・統計的に可能な状況となっていた。最終的な見直しプラン(甲52)においては,稼働開始が当初の予定から約8か月遅れの平成26年9月2日となってはいたが,原告らが,当時,遅れてもリリースしたいとして見直しプランの作成を求めたように,本件各個別契約は稼働開始時期の延期を許容しないものではなく,上記程度の遅れは,本件開発業務と同程度の規模のコンピュータ・システム開発において社会通念上,通常生じる範囲内のことであったし,PM整理表中「No.」欄6の「対策」欄中「被告」欄④~⑥記載のとおり,被告の見直しプランは,十分実現可能な妥当なもので,原告らと被告との間の信頼関係を破壊するようなものではなかったし,社会通念上,原告らが本件開発業務を中止せざるを得ないような状況にもなかった。
本件システムが完成不能となったとの原告野村HDの主張は,本件通告が,同⑤及び⑥記載のとおり,当時問題とされていなかったデータ移行と運用保守のリスクを理由としていたことからみても,後付けの主張であって理由がなく,結局,本件開発業務は,原告野村證券が一方的に本件通告をしたために頓挫したものにほかならない。当時,原告野村證券に,インサイダー取引事件を契機とする経営陣の交代という背景事情が存在していたことや,本件システムがリテールITプロジェクトという巨大なプロジェクトのごく一部であることからすると,原告らは,何らかの社内的な事情から,本件システムを切り捨てるとの経営判断をしたと考えられる。
(ウ) 被告の責めに帰すべからざる事由があること
さらに,PM整理表中「No.」欄1~4の「原因」欄中「被告」欄記載のとおり,本件開発業務が遅延したのは,上流工程において,原告らの意思決定の遅れにより要件定義作業に3か月の遅れが生じた上,原告事業部が原告戦略部の方針に反して現行業務・現行システムに固執したため,WMのカスタマイズ量が増大したこと等によるものであり,被告は,PM整理表中「対策」欄の「被告」欄記載のとおり,その時々の課題に対し,適宜,適切な対策を講じていたが,原告らが一方的に本件開発業務を取り止めたものであるから,本件開発業務が頓挫したことについては,被告の責めに帰すべからざる事由がある。上記遅延の原因を前提としても被告の責めに帰すべからざる事由があるとはいえないとの原告野村HDの主張は,PM整理表中「No.」欄1~4の「対策」欄中「被告」欄記載のとおり理由がなく,本件開発業務の頓挫が被告の下流工程における重過失によるとの原告野村HDの主張は,PM整理表中「No.」欄5・6の「原因」欄中「被告」欄記載のとおり理由がない。
そもそも,上記下流工程での重過失に関する原告野村HDの主張は,①被告のみがプロジェクト・マネジメントを行うことを前提に,②本件局面6~12における本件開発業務の進捗状況や,③本件局面14における本件システムの品質を捉えて,被告が適切にプロジェクト・マネジメントを行わなかったとするものである。しかし,本件開発業務は,金融機関のコンピュータ・システム開発実務の一般的な慣行(乙25の1・6頁,乙25の2・11頁,乙63・120頁)に従って,原告らと被告がそれぞれの役割を果たすことにより共同してマネジメントすることが合意されていたから(甲1の12の1,甲15・25~26頁,乙55,乙77),上記①の前提には誤りがある。また,コンピュータ・システム開発は,不可避的に発生する想定外の事態に対応しつつ試行錯誤を経ながら進行するのが通常であるから,マネジメントの適否は,その時々の課題に対して適切に対応したかという視点から検討されるべきものであって,開発過程の一時点における遅延や品質を捉える上記②及び③の捉え方も誤りである。そして,プロジェクト・マネジメント義務の本質は,ユーザが適切な意思決定を行うための情報を提供する説明義務であるところ,PM整理表中「対策」欄の「被告」欄記載のとおり,被告は,その義務を尽くしている。
イ 損害
(ア) 相当因果関係のある損害の額について
本件各個別契約に基づく支払額は争わないが,本件各個別契約に基づく既履行部分の報酬が損害を構成することはない。また,本件各別途契約に係る支払額は,本件開発業務との関連性も明らかでなく,支払額も不知である。さらに,本件各中止対応契約に係る支払額は,原告らは,もともと本件システムを開発しない場合に,現行システムをSTARに接続することを計画していたというのであるから,本件開発業務が頓挫したこととの間に相当因果関係が認められない。
(イ) 本件各責任制限条項の適用について(抗弁)
本件には,本件各責任制限条項の適用があり,原告らは,損害発生の直接原因となった「サービス」又は「当該別紙所定の作業」について主張立証すべきところ,その主張立証はされていない。原告らは,同条項が一方的にユーザに不利益であると主張するが,仮に同条項がなければ,ベンダは損害賠償責任のリスクをユーザに転嫁せざるを得なくなるのであるし,同趣旨の規定は,ユーザとベンダの双方が参加した経済産業省のモデル契約(乙124)でも推奨されているのであって,同条項は,ユーザに一方的に不利益なものではない。また,原告野村HDは,同条項について交渉ができなかったと主張するが,原告らは証券業界のリーディングカンパニーであって,本件各個別契約における交渉力を十分に有していた。なお,原告らは,本件各個別契約の締結以降,本件訴訟提起に至るまで,本件各責任制限条項が無効であるとの主張をしなかったのであり,同条項が信義則に反することはあり得ない。
(2) 本訴各不法行為請求に関する当事者の主張
【原告ら】
ア 違法な権利ないし利益の侵害
本件各個別契約を締結したベンダである被告は,契約相手方である原告野村HD及びユーザである原告野村證券に対し,ベンダに通常求められる高度の専門的知識と経験に基づき,下流工程において,適切にシステム開発を遂行し,合理的な費用・スコープ・期間で本件システムを完成させるべき不法行為法上の注意義務を負うとともに,本件開発業務の過程において,適宜得られた情報を集約・分析してシステム構築を進め,原告らに必要な説明を行い,その了解を得ながら,適宜必要とされる修正・調整等を行いつつ,本件システムの完成に向け,プロジェクト・マネジメントを行うべき不法行為法上の注意義務を負うところ,被告は,PM整理表中「No.」欄5・6の「原因」欄中「原告ら」欄記載のとおり,本件開発業務の下流工程において,①被告及びテメノス社の要員のWM及び証券業務についての知識不足,②引継ぎに不備のある頻繁な要員の交代,③杜撰な進捗管理,④不正確・不十分な設計書及び⑤杜撰な品質管理から,適切なプロジェクト・マネジメントを行わず,本件開発業務を頓挫させたものであるから,その頓挫について原告らが被った損害について,不法行為責任を負うというべきである。
イ 損害
原告野村HDが本件開発業務の頓挫により被った損害は,債務不履行責任について前記(1)【原告野村HD】欄イ(ア)で主張したところと同様であり,原告野村證券が本件開発業務の頓挫により被った損害は,次の合計1億6507万1054円に,弁護士費用相当損害として,その1割に相当する1650万7105円を加えた合計1億8157万8159円を下らない。なお,本件各責任制限条項の適用については,原告野村HDが債務不履行責任について前記(1)イ(イ)で主張したところと同様である。
(ア) 原告野村證券が,本件開発業務のプロジェクトルームに用いるために支払った次の賃料合計2107万1054円(1円は端数処理の差)
① 平成23年10月1日~平成24年7月8日の期間,日本橋本社(本館)地下1階部分を賃借して支払った332万9966円(甲3の1)
② 同月9日~同年11月30日の期間,aビル6階を賃借して支払った1774万1089円(甲3の2)
(イ) 原告野村證券が,本件開発業務に充てるために用いた人員の人件費相当額合計1億4400万円(甲4)
【被告】
ア 違法な権利ないし利益の侵害
不法行為の成立に関する主張は否認し争う。理由は,前記(1)【被告】欄アで主張したとおりである。
イ 損害
原告野村HDの損害額については,前記(1)【被告】欄イ(ア)で主張したところと同様であり,原告野村證券の損害額については,不知ないし争う。原告野村證券プロジェクトルームの賃料について提出する証拠上,賃借人(甲3の1)ないし転借人(甲3の2)は,原告野村HDと記載されており,原告野村證券が賃料を支払ったことが明らかでない。また,原告野村證券の要員の人件費は,本件開発業務の有無にかかわらず同原告が支出すべき固定費であるから,被告の不法行為との間に相当因果関係が認められない。
なお,本件各責任制限条項は,不法行為責任についても適用されるものというべきであり,その適用については,債務不履行責任について前記(1)【被告】欄イ(イ)で主張したところと同様である。
(3) 反訴未払報酬請求に関する当事者の主張
ア 本件個別契約13及び15
【被告】
(ア) 被告は,平成23年9月28日,原告野村HDとの間で,作業範囲を基本設計,開発及びサブシステム内連結テスト,成果物を基本設計書,単体テスト結果報告書,サブシステム内連結テスト計画書及びプログラム,報酬額を8億0800万円,支払期日を平成24年9月30日と定めて,本件個別契約13を締結した。
(イ) 被告は,平成24年3月29日,原告野村HDとの間で,作業範囲を基本設計,開発及びサブシステム内連結テスト,成果物を単体テスト結果報告,サブシステム内連結テスト計画書及びサブシステム内連結テスト結果報告,報酬額を6150万円,支払期日を同年9月30日と定めて,本件個別契約15を締結した。
(ウ) WMのカスタマイズ後のプログラムは,平成24年7月27日,ドロップ2.2がテメノス社から被告に出荷され(前記前提事実(5)シ),同年8月9日,総合テストへの参加を承認され,同テストが開始されたことにより(同ス),被告は,本件個別契約13及び15の全工程を終了した。
(エ) よって,被告は,原告野村HDに対し,本件個別契約13に係る未払報酬1564万5000円(1490万円+消費税相当額)及び本件個別契約15に係る未払報酬630万円(600万円+消費税相当額)の合計2194万5000円及びこれらに対する約定期限の翌日である平成24年10月1日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【原告野村HD】
【被告】欄(ア)及び(イ)は認め,同(ウ)は否認し,同(エ)は争う。
本件システムが総合テスト環境を利用した被告の内部テストを開始した段階では,いまだサブシステム内連結テストは完了しておらず,本来の総合テストが開始されたわけではないし,テメノス社から出荷されたプログラムは,本来の総合テストを開始できる品質には達していなかったから,被告は,本件個別契約13及び15に基づく業務を完了していない。
イ 本件個別契約14
【被告】
(ア) 被告は,平成24年3月29日,原告野村HDとの間で,サービス内容を運用準備支援,テスト準備支援,テスト実施の支援,データ移行(システム切替)準備支援,データ移行実施(テスト,リハーサル,本番)支援及びプロジェクト管理,サービス期間を同年4月1日~平成25年1月4日,報酬額を6億9500万円,支払期日を,①平成24年5月から10月まで各月末日限り各8600万円,②同年11月30日及び同年12月30日限り各6000万円,③平成25年1月末日限り5900万円(いずれも消費税抜き)と定めて,本件個別契約14を締結した。上記①は平成24年4月~同年9月中の作業に対して各月当たり8600万円を翌月末日限り支払うという趣旨,上記②は同年10・11月中の作業に対して各月当たり6000万円を同年11月末日及び同年12月30日限り支払うという趣旨,上記③は同年12月中及び平成25年1月1日~4日の作業に対して5900万円を同月末日限り支払うという趣旨の各定めである。
(イ) 被告は,平成24年4月1日以降,本件通告後の同年11月9日まで本件個別契約14に基づく業務を実施したが,原告野村HDは,同年8月分以降の報酬を支払わない。よって,被告は,原告野村HDに対し,同年8月分及び9月分につき各9030万円(8600万円+消費税相当額),同年10月分につき6300万円(6000万円+消費税相当額),同年11月分につき1890万円(6000万円×9日/30日+消費税相当額)の合計2億6250万円及び同年8月分については同年10月1日から,同年9月分については同年11月1日から,同年10月分については同年12月1日から,同年11月分については同年12月31日から,各支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(ウ) 本件通告を受け,同年11月9日をもって本件個別契約14に基づく業務は履行不能に至ったが,前記(1)【被告】欄ア(イ)及び(ウ)のとおり,その履行不能は,本件システムの完成が確実な状況にあったにもかかわらず一方的に本件開発業務を取り止めた原告野村HDの責めに帰すべきものであるため,民法536条2項により,被告は未履行業務に対する報酬請求権を失わない。よって,被告は,原告野村HDに対し,同年11月分4410万円(6000万円-既履行分1800万円+消費税相当額),同年12月及び平成25年1月分6195万円(5900万円+消費税相当額)の合計1億0605万円及びこれに対する上記履行不能となった日の翌日である平成24年11月10日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【原告野村HD】
(ア) 【被告】欄(ア)のうち,本件個別契約14を締結した事実は認め,同(イ)及び(ウ)は否認し争う。
(イ) 本件個別契約14に基づく被告の既履行分の業務は,債務の本旨に従ったものではなかったし,本件開発業務が被告の責めに帰すべき事由によって遅くとも平成24年11月2日に履行不能となったことは,前記(1)【原告野村HD】欄アのとおりであるから,被告は,これらの業務に対する報酬請求権を有しない。
(4) 反訴追加作業関係各請求に関する当事者の主張
【被告】
ア 本件各追加作業
被告は,次のとおり本件各追加作業を行った。
(ア) 本件追加作業(ア)
被告は,ストーリーボードの作成・修正作業を,平成23年8月末までに終える予定であったが,上記作業は同年9月以降も継続された。
また,本件個別契約13及び15では,テメノス社がプログラムの単体テストまで行った上で被告にプログラムを出荷することが予定されていたが,被告は,スケジュールの遅延を取り戻すため,テメノス社が実施すべき単体テストと同レベルのテストをテメノス社に代わって実施し,出荷基準に達するまで障害を洗い出すなどの作業を行った。
(イ) 本件追加作業(イ)
被告は,WM以外の帳票やコントラクト・ワークフロー等の追加開発の作業を行うとともに,本件個別契約13及び15において予定されていなかったWMの追加のカスタマイズ作業を行った。
(ウ) 本件追加作業(ウ)
被告は,平成24年11月10日~23日,本件開発業務の中止を受けて,「千手」と呼ばれるサーバ管理のためのソフトウェアを停止するなどの作業を行った。
イ 相当報酬額
本件各追加作業に係る相当報酬額は,次のとおりである。
(ア) 本件追加作業(ア) 1億2773万2348円
(イ) 本件追加作業(イ) 3895万5000円
(ウ) 本件追加作業(ウ) 584万7411円
ウ 合意に基づく請求
本件各追加作業は,本件各個別契約の範囲外の作業であり,原告らは,被告がこれらの作業を行っていることを認識しつつ,その作業を行わせた以上,被告と原告らとの間には,本件各追加作業につき,それぞれ相当額の報酬を支払う旨の合意が成立したというほかはない。よって,被告は,同合意に基づいて,原告らに対し,上記イの相当報酬額合計1億7253万4759円及びこれに対する本件反訴状送達の日(原告ら双方について同日)の翌日である平成26年4月19日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
エ 商法512条に基づく請求
本件各追加作業は,本件各個別契約の範囲外の作業であり,商人である被告は,その営業の範囲内で,原告らのため,これらの作業を行った。よって,被告は,商法512条に基づいて,原告らに対し,上記イの相当報酬額合計1億7253万4759円及びこれに対する本件反訴状送達の日(原告ら双方について同日)の翌日である平成26年4月19日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
オ 債務不履行に基づく請求(原告野村HDに対し)
本件開発業務は,金融機関のコンピュータ・システム開発実務の一般的な慣行(乙25の1・6頁,乙25の2・11頁,乙63・120頁)に従って,原告らと被告がそれぞれの役割を果たすことにより共同してマネジメントすることが合意されており(甲1の12の1,甲15・25~26頁,乙55,乙77),原告野村HDは,本件各個別契約に基づいて,ユーザとして,適時適切な意思決定を行い,原告ら内部の社内調整を行い,課題に対する対応を検討するなどのプロジェクト・マネジメントを行うべき義務を負っていた。しかし,原告野村HDは,WMを採用するか否かの意思決定を遅延し,原告事業部において,原告戦略部の方針に反して現行業務・現行システムに固執したことにより,WMのカスタマイズ量を増大させ,さらに,ストーリーボードのサインオフを遅延して,本件開発業務を遅延させた上,一方的に本件通告を行って,本件開発業務を頓挫させたものであって,原告野村HDは,ユーザとしてのプロジェクト・マネジメント義務を尽くさなかった債務不履行責任があり,被告は,原告野村HDの上記債務不履行により,本件各追加作業を行い,上記イの相当報酬額合計1億7253万4759円に相当する損害を被った。
よって,被告は,債務不履行を理由とする損害賠償請求権に基づいて,原告野村HDに対し,1億7253万4759円及びこれに対する同原告に対する本件反訴状送達の日の翌日である平成26年4月19日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【原告ら】
【被告】欄アは認め,同イ~エは否認し争う。
同イにおいて被告が主張する相当報酬額は,作業内容を無視した人工計算によるものであり,相当でない。
また,同ウ及びエについて,本件各追加作業は,前記(1)【原告野村HD】欄アで主張したとおり,被告の責めに帰すべき事由によって生じた作業であるから,被告が自身の費用負担において実施すべきものであり,原告らがこれらの実施を認識していたからといって,報酬の支払につき黙示の合意があるとはいえないし,他人の事務を行ったとして,商法512条による報酬請求権が成立するとも解されない。
【原告野村HD】(債務不履行に基づく請求に関し)
【被告】欄オは争う。
原告野村HDは,本件各個別契約において,ユーザとしての協力義務を負うにとどまるし,本件各追加作業は,前記(1)【原告野村HD】欄で主張したとおり,被告の責めに帰すべき事由によって生じた作業であって,原告野村HDに債務不履行責任はない。
第3 認定事実
前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件開発業務に関し,次の各事実が認められる。なお,次の各事実の認定に関し,本件2頭態勢の下で本件開発業務に関与した主要な人員を整理すると,別紙7「主要人員説明表」記載のとおりである(以下,同表記載の者は同表中「呼称」欄記載のとおり呼称する。)。また,以下では,前記前提事実において付記して摘示した,事実の意義や評価について当事者間に争いのある重要な間接事実に対しても,必要に応じて判断する。
1 本件システムの提案に至る経緯
(1) 原告事業部が提供するSMA及びファンドラップ(甲143,甲156,甲157,甲158,甲159)
原告事業部が顧客に提供するSMA及びファンドラップ(前記前提事実(1)イ)は,「野村SMA」及び「野村ファンドラップサービス」と称する富裕層向けサービスであり(以下,各サービスをそれぞれ順次「本件SMA」及び「本件FW」といい,両者を「本件各サービス」と総称する。),いずれも投資一任契約に基づいて,顧客が原告野村證券に必要な権限を委任して投資判断の全部を一任し,資産運用に関する投資対象の選定,実際の売買,定期的な報告等をまとめて提供するサービスである。本件各サービスのうち,本件SMAには,顧客が目標とする収益やリスク水準に応じてプログラム化されたサービスばかりでなく,超富裕層顧客向けに,個別銘柄レベルでの投資判断に基づいて運用する「直投」と称するサービスも含まれていた(証人A4・6頁)。
本件各サービスに係る業務は,いずれも,①顧客への案内,②顧客への提案,③顧客との契約,④投資対象の運用,⑤運用状況の報告及び⑥投資計画の見直しという流れで行われていた。上記④の投資対象の運用については,上記③の契約に定める資産クラス・個別運用商品の資産配分比率に合わせて行われるが,相場の変動等で資産配分比率が変化した場合は,ファンドの売買により目標の資産配分比率へと調整することがあり,この調整業務は「リバランス」と呼ばれていた(甲121,甲122の1・2)。また,上記⑤の報告には,取引ごとの「取引報告書」,四半期ごとの「取引残高報告書」のほか,本件SMAでは毎月末及び四半期ごとの「野村SMA定期運用報告書」及び四半期ごとの「野村SMAパフォーマンス・レポート」があり,本件FWでは毎月末の「野村ファンドラップ月次パフォーマンス・レポート」及び四半期ごとの「野村ファンドラップ定期運用報告書」があり,更に「野村SMA専用Web」及び「野村ファンドラップ専用Web」と称する各ウェブサイトに,前日までの時価評価額等を掲載する業務があった。
本件各サービスに係る以上の各業務は,平成22年当時,現行システム(前記前提事実(2)イ)を用いて行われていた。
(2) リテールITプロジェクトの立ち上げ(甲5,乙145)
原告らは,平成22年7月頃,リテールITプロジェクトを立ち上げた。
リテールITプロジェクトは,原告野村証券の旧勘定系情報システムであるCUSTOMのハードウェア保守期限が,平成23年7月末に満了することを見据え,既存の情報システムが抱える構造的な問題のためにコスト効率に支障をもたらし始めているとの認識の下,新たなシステムとして,NRIが提供するSTARを導入することにより,営業部門のITをスリム化することを狙いとするものであり,新たなシステムは,平成25年1月4日に稼働開始させることが予定されていた(乙211)。
STARの導入に当たり,原告らは,①バックオフィス業務用のシステムが取り扱う注文,約定,募集,口座管理等の機能のうち,株・投資信託の注文や約定,口座管理等の機能についてはSTARを採用し,その余についてはスリム化して再構築するか,現行システムをSTARに接続するかのいずれかとし,②フロントオフィス業務用のシステムが取り扱う顧客情報,フォローアップ,接触履歴等の機能についてはスリム化して再構築するか,現行システムをSTARに接続するか,廃止するかのいずれかとし,③「コーポレートシステム」と呼ばれる決済,会計,人事及び給与などの機能については,現行システムをSTARに接続することとしていた。フロントオフィス業務に属する本件各サービスについては,リテールITプロジェクトの予算策定時には,現行システムをSTARと接続し,接続部分のみを開発することが予定され(証人A6・1~2頁),その後,現行システムの老朽化から新たなシステムが開発されることとなったが,本件各サービスの口座数が少なくとも5万口座であるのに,NRIが提案するパッケージ・ソフトウェアは5000口座までしか対応できないという事情が存在していた。
(3) WMの導入に向けた被告の営業活動(甲103,乙144,乙148)
被告は,原告らがリテールITプロジェクトを立ち上げることを知り,本邦で初めて導入されるパッケージ・ソフトウェアであるWMを導入して新たなシステムを開発し,スリム化によりコストの削減を図ることを提案することとして,遅くとも平成22年4月頃から営業活動を開始した。被告は,同年9月21日頃からはフィット&ギャップ分析のための準備作業を進め,原告野村證券との間で,同月28日及び29日には事前セッションを,同年10月4日,5日及び7日には集中セッションを,同月13日にはWMのデモセッションを,それぞれ行い,同年10月末までに,WMを導入した本件システムを原告野村證券に正式に提案する機会を得た。上記営業活動期間中のWMの導入に関する被告の説明の状況は,次のア~ウのとおり,原告事業部のほとんどの業務要件が基本的にWMの標準機能によって実現可能であり,既存の情報システムの保守期限(平成23年7月末)における短期間でのシステム導入も可能であるという趣旨のものであった。
ア 平成22年4月21日付け「富裕層ビジネスとオデッセーウェルスマネージャー説明会資料」(乙144)による説明
上記資料は,WMの主な評価基準を,「必須」6項目,「可能な限り」3項目(①日本における実績,②拡張性,③ASPによるビジネス)及び「不要」3項目(①多通貨対応,②複数エンティティ対応,③多言語対応)に分類し,「必須」とされた6項目につき対応の可否を検討し,3項目(①提供可能な商品範囲,②原告担当部門の要員によるカスタマイズが可能な機能の提供,③原告担当部門の要員が多数の顧客に対応できるための機能の提供)につき「対応可」,3項目(④日本化対応,⑤迅速な保守サービスのほか,⑥期限内の構築完了)について「対応可だが前提あり」と評価している。
上記⑥の期限内の構築完了が対応可能となる前提は,WMのカスタマイズが全くない場合の開発期間として10か月(設計3か月,開発3か月,テスト及び検収4か月)を想定し,CUSTOMの保守期限である平成23年7月末(前記(2))における稼働開始のために,遅くとも平成22年10月にプロジェクトを開始することとされている。また,WMのカスタマイズについては,①標準画面の日本語化,②画面のロゴの原告ロゴへの修正,③レポートデザインの原告仕様への修正及び④ポートフォリオアロケーションモデルの原告仕様への修正の4点が挙げられ,⑤既存発注システムへの連携についてはインターフェースデータの作成が挙げられており,そのほか,⑥顧客向けポータルのカスタマイズ,日本固有の税制対応及び原告固有の用語への対応等その他の事項は「別途検討部分」とされている。そして,この「別途検討部分」で開発期間に大きく影響を及ぼす可能性がある事項として,パッケージ・ソフトウェアの構成に大きく影響を与えるその他カスタマイズ部分,及び,既存外部システムへの連携ゲートウェイ構築の2点が挙げられている。
イ 平成22年8月30日付け「富裕層ビジネスとオデッセーウェルスマネージャー説明会資料」(甲103)による説明
上記資料は,本件各サービスに係る原告の業務を,①投資提案書作成~投資方針の策定,②注文管理及び一括注文,③ポートフォリオ管理及びパフォーマンス測定,④顧客レポート,及び,⑤顧客管理の5つに分け,それぞれについてのWMの主要機能を説明し,前記アで「必須」とされた6項目について再度対応の可否を検討し,同⑥の期限内の構築完了に対する評価を「対応可だが前提あり」から「対応可」へと変更している。
上記⑥の期限内の構築完了については,WMのカスタマイズが「限定的な」場合の開発期間として,前記アと同じ10か月(設計3か月,開発3か月,テスト及び検収4か月)を想定しつつ,CUSTOMの保守期限である平成23年7月末(前記(2))までの導入が可能としたものであり,WMのカスタマイズ範囲については,おおむね前記アと同様の考察がされている。
ウ 平成22年10月15日付け「SMA/ファンドラップ向けオデッセーウェルスマネージャー導入検討中間報告資料」(乙148)による説明
上記資料は,平成22年9~10月のデモセッション等を踏まえ,概要レベルでのWMのフィット&ギャップ分析の結果として,WMの標準機能とのギャップが明らかな4項目及び原告事業部の懸念点の解消に至っていない3項目を除き,ほとんどの業務要件が基本的にWMの標準機能によって実現可能であると評価している。
ギャップが明らかとされた4項目は,①フィー全般,②CRF自動発注,③フィナンシャルプランニング,及び,④スリーブ管理であり,いずれもWMの標準機能にはなく,①についてはカスタマイズ又は第三者製品の利用,②についてはカスタマイズ,③については第三者製品の利用による実現,④についてはWMの階層モデルを組み直す方法が検討されている。
原告事業部の疑念点の解消に至っていないとされた3項目は,①一括大量処理(1000件単位で案件作成が発生する際のオペレーション),②レポートの柔軟性(定型フォームから柔軟にパーソナライズされたレポートが作成できる機能),及び,③増減額時の運用資産額の把握(増減額時,変更適用日ベースで運用資産額を把握する流れを確認し,適用日ベースで増減額を管理する場合に日々行われる残高照合において不一致が発生しない理由及び仕組み)であり,いずれも,被告はWMの標準機能で実現可能であると判断しているが,原告事業部に懸念点があるため,追加デモなど不明点や疑問点を解消するための活動を継続することとされている。
(4) リテールITプロジェクトと本件開発業務の関係に関する争いについて
リテールITプロジェクトと本件開発業務の関係については,当事者間に争いがあり,被告は本件システムがリテールITプロジェクトにおけるフロントITの一部であると主張するのに対し,原告らは本件システムはSTARと連携しているのみで上記フロントITの一部ではないと主張する(前記前提事実(2)ウ参照)。
そこで検討すると,証拠(証人A4及び証人A5[証人A4・57~58頁の対質部分],証人A6・1~2頁)によれば,原告らと被告との間には,リテールITプロジェクトにおけるCUSTOMからSTARへの更新に併せて,STARのサブシステムの一つとして本件システムが開発されることとなったとの事実認識には齟齬がなく,ただ,①原告事業部においては,本件サービス向けのコンピュータ・システムが昔から原告野村證券の情報システム内で独立したような位置づけにあったこと,②原告戦略部においては,本件システムの開発が,リテールITプロジェクトの予算策定時の現行システムとの接続(前記(2))から変更されて別予算で行われたこと等から,それぞれフロントITの一部ではないと評価しているにとどまることが認められる。そうすると,要するに,上記争いは,一部であるか否かを評価する観点を異にするにすぎないものというべきであり,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
2 被告の当初の提案とWMの導入前機能検証(本件局面1)
(1) 被告の当初の提案(本件局面1・甲7の1)
被告は,平成22年10月29日,「オデッセーウェルスマネージャー導入によるSMA/ファンドラップ・システム更改のご案内」と題する資料(甲7の1)を用いて原告野村證券に対し,WMを導入した本件システムの提案を行った(本件局面1)。上記提案の概要は,次のとおりであり,概算開発費用は合計17億7900万円とされていた。
ア 全体スケジュール
STARと連携した平成25年1月4日の稼働開始(前記1(2))に向けて,スケジュール1のとおり,26か月(平成22年11月~平成24年12月)の開発期間が予定された。本件局面1当時,原告らはWMの導入を決定していなかったため,スケジュール1では,最初に導入の可否を決するための事前検証を目的とする導入前機能検証フェーズ(PoC)を行うことが提案された。
イ WM導入の目的ないし方針
新たなシステムの導入として,導入及び導入後の運用保守において,投資額の適正化を図った上で円滑に移行することを挙げ,そのために,本件各サービスに係る業務をWMの導入により低コストかつ短期間で実現し,現状のサービスレベルを維持できる運用保守サービス態勢を構築するという方針が掲げられた。
ウ WM導入のメリット
テメノス社は,ウェルスマネジメント及びアセットマネジメント・ソリューションの世界的なプロバイダであり,ウェルスマネジメントビジネスにおいて必要な各種機能を統合されたプラットフォーム上で実現できるパッケージとして,カナダのロイヤル・バンク・オブ・カナダ(以下「RBC」という。)など39か国・230顧客で採用されているWMを導入することにより,プロセスの標準化や処理の効率化等が実現でき,業務プロセスの変革が可能であることが挙げられている。
エ WMのカスタマイズの範囲
営業活動中(前記1(3)ウ)と同様,①フィー,②CRF自動発注,③フィナンシャルプランニング,及び,④スリーブ管理の4項目には明確なギャップがあるが,本件各サービスに係る業務要件は,基本的にWMにより継続することができ,スリーブ管理(上記④)については,テメノス社の別製品であるTriple-A plus(以下「Triple」という。)をモジュールとして組み込むことで,現行業務と同様の機能を実現することが可能であるとされている(甲7の1・12頁)。
(2) 導入前機能検証フェーズ
平成22年11月15日,被告の前記(1)アの提案に基づく導入前機能検証フェーズを皮切りに,本件開発業務が開始された。導入前機能検証フェーズの経緯は,次のとおりである。
ア 事前準備フェーズの提案と本件個別契約1(甲1の1,乙115)
原告事業部は,明確なギャップのある4項目(①フィー,②CRF自動発注,③フィナンシャルプランニング,及び,④スリーブ管理)を除く業務要件は基本的にWMで継続できるという営業段階での被告の概要レベルでのフィット&ギャップ分析の結果(前記(1)エ及び1(3)ウ)に対し,①概要レベルでのフィット&ギャップ分析ではオペレーションの適合性までの判断が不可能であり,業務の切替を判断するためには詳細レベルでの機能評価が必要である,②デモセッションにおけるデータ,シナリオ及び前提条件が現行業務とマッチしない部分が多いため評価が不能である,③追加開発するシステムの機能についても評価し,実装の可否の判断が必要である,などの懸念を示していた。
そこで,被告は,平成22年11月12日,「SMA/ファンドラップ・システム向けオデッセーウェルスマネージャー導入前機能検証(事前準備フェーズ)のご提案資料」と題する資料(乙115)を用いて原告野村證券に対し,導入前機能検証においては,実際にWMを利用することのできるパイロット環境をテメノス社が構築し,被告と原告事業部が合意したテストデータ又は本番データのサンプルを用いて,アウトプットを行うとともに,被告と原告事業部が合意したシナリオに従い,チェックポイントを設けてオペレーションの流れを検証することとし,同月15日~同年12月3日の期間に,そのための事前準備フェーズを行うことを提案し,事前準備フェーズのため,本件個別契約1(甲1の1)が締結された。
イ 事前準備フェーズの実施
被告は,本件個別契約1に基づき,平成22年12月3日までの間,原告野村證券から本件FWに係る業務フロー(乙173と同様のもの)の作成・交付を受けるなどして事前準備を進め,原告野村證券との間で,検証のためのシナリオ等について合意した。
ウ 検証実施フェーズの提案と本件個別契約2(甲1の2,乙116)
被告は,平成22年11月29日,「SMA/ファンドラップ向けオデッセーヴェルスマネージャー導入前機能検証(検証実施フェーズ)のご検討資料」と題する資料(乙116)を用いて原告野村證券に対し,事前準備フェーズを踏まえ,同年12月6日~同月24日の期間に検証作業を実施する検証実施フェーズを行うことを提案し,検証実施フェーズのため,本件個別契約2(甲1の2)が締結された。
同提案では,おおむね上記全期間において,本件各サービスのデータ及び業務を中心にWMの機能適合性を検証し,同期間の後半において,本件SMAのデータ及び業務を中心に追加機能を検証することとされ,確認ポイントと確認のシナリオ等が挙げられている。なお,明確なギャップがあるとされてきたスリーブ機能(前記(1)エ及び1(3)ウ)については,WMのダミーアカウントでの代替の可否や制約事項,同機能のために組み込むTripleの機能確認などが盛り込まれた。
エ 検証実施フェーズの実施
被告は,本件個別契約2に基づき,WMのパイロット環境を構築し,原告野村證券との間で合意したシナリオ等(前記ウ)に基づき,実際にWMを操作し,17名分の口座を利用してレポートのサンプルを作成するなどして(乙1,乙168,乙174,乙175),検証作業を行った。ただし,上記操作は,カナダのトロント市(以下「トロント」という。)所在のテメノス社からの遠隔リモート操作であり,被告や原告野村證券の担当者が実際にWMを操作したものではなかった(乙116・9頁,証人A6・14頁,43~44頁)。
オ 導入前機能検証の結果報告
被告のA5及びA7らは,平成22年12月29日,「SMA/ファンドラップ向けOdysseyウェルスマネージャー導入前機能検証結果報告資料」と題する資料(乙1)を用いて,原告野村證券のA8戦略部長,A9戦略部課長及びA6戦略部課長に対し(乙54),導入前機能検証の結果を報告した。
同報告は,本件各サービスの顧客管理業務,提案から運用までの業務,本件SMAに係る資産運用業務及びポートフォリオ管理業務,及び,本件FWに係る資産運用業務及びポートフォリオ管理業務の4つの業務について,確認ポイント合計24項目(分析ポイント合計53)につき,①要求機能があることを確認した項目,②要求機能はあるが実機での実証が未了な項目,③A要求機能がないことを確認し代替案を検討する項目,③B要求機能がないことを確認しテメノス社担当者の想定に基づいて大,中,小及び未定の4段階でカスタマイズを検討する項目,④要求機能が未確認の項目に分類し,検証した結果は,次のとおりであり,②及び④の残作業と③A及びBの詳細確認については引き続き機能検証を行うが,WMの導入は可能であるとするものであった。
確認ポイント 分析ポイント ① ② ③A ③B ④
大 中 小 未定
顧客管理業務 6項目 13 12 0 0 0 0 1 0 0
提案から運用業務 7項目 13 8 1 0 0 0 4 0 0
本件FW 6項目 16 6 0 1 0 1 6 0 2
本件SMA 5項目 11 5 0 2 0 2 3 0 0
原告事業部が懸念を示していたレポートの柔軟性(前記1(3)ウ)に関連して,提案書については,WMでは,ユーザが提案書を変更できないが,あらかじめ提案書のパーツを数種類用意し,自由に組み合わせる調整は可能であるため,要求機能はあると分析され,レポートについては,カスタマイズの方法とレポートのマージ機能を使ったカスタマイズが確認された(乙1・9頁)。また,明らかなギャップとされたスリーブ機能(前記(1)エ,(2)ア及び1(3)ウ)を直投についてWMで代替的に実現する方法については,上記③Aとして引き続き検討が必要であり,リバランスなどについても,カスタマイズを含めた対応策の検討が必要であると分析された。
当時,A10事業部長は,原告事業部の疑念点の解消に至っていないとされた一括大量処理(前記1(3)ウ)に関し,導入前機能検証において大量のポートフォリオ処理等の機能を実機で見られなかったことが当初の意向と違うなどとしていた。A5は,報告の翌日,残作業が残ったことを指して「PoCにはうまくいかない点があったが,要件定義フェーズに進める機会はもらえそうである。」との社内メール(乙54)を被告内で送付した。(乙54,証人A5・47~48頁,証人A6・46~47頁)
3 本件要件定義書の作成とWMの導入決定(本件局面2・3)
(1) 今後の進め方の提案(甲8・本件局面2)
被告は,導入前機能検証の結果報告(前記2(2)オ)と同日の平成22年12月29日,「SMA/ファンドラップシステムの今後の進め方のご相談」と題する資料(甲8)を用いて原告野村證券に対し,上記結果報告を踏まえた今後の進め方を提案した(本件局面2)。同提案の概要と原告戦略部からの指示等は,次のとおりである。
ア 全体スケジュール
STARと連携した平成25年1月4日の稼働開始(前記1(2)及び2(1)ア)に向けて,スケジュール2が提案された。同スケジュールは,平成24年12月までの開発期間が予定された点は,当初の提案に係るスケジュール1と同様であったが(前記2(1)ア),要件定義フェーズの期間が平成23年1~2月に変更され,新たに要件定義の2段階目である「概要設計フェーズ」を同年3~4月に行うことが予定された。
イ 開発態勢
被告が業務要件の絞込みや新たなシステム像の検討をリードできるよう,①パッケージをベースとした開発経験者にリーダー及びメンバーを変更する,②テメノス社のコンサルタントをオンサイトで参加させる,③A7を専属させ,できるだけ常駐で活動するなどの対策を講じ,開発態勢を強化することが提案された。
ウ 原告戦略部からの指示等
上記提案に対し,A8戦略部長は,①先にA10事業部長が「『要件定義を支援します。』という消極的な意思表示では困る」と発言したことに関し,要件定義を行うのは原告事業部であるので,A10事業部長の認識を確認するようA6戦略部課長に指示し,A6戦略部課長は,後にその確認を行った。また,A8戦略部長は,②スケジュールに関し,リテールITプロジェクト全体の要件定義が平成23年2月末までずれたので,本件システムの要件定義についても同じスケジュールとなる旨,③開発態勢に関し,原告野村證券も含めた態勢図が必要であり,常駐すると,同化して現行を是としたシステム像になるきらいがあるため,A10事業部長と連携して,上から落として業務要件を変える必要がある旨を,それぞれA5に対して発言し,A5は,上記②に対して,導入前事前検証の残作業は平成23年1月7日までに終了し,同月11日から要件定義を開始する予定である旨を,上記③に対して,パッケージ導入に長けたメンバーをアサインした旨を,それぞれA8戦略部長に説明した。併せて,A8戦略部長は,④原告野村證券側にはパッケージの機能に合わせた要件定義の進め方について経験が少ないのでやり方を教えて欲しい旨をA5に依頼したが,A5は,上記④に対する回答をA8戦略部長に直接しておらず,また,被告内部でパッケージの機能に合わせた要件定義を行うための具体的な方法論を検討したこともなかった。(乙54,証人A5・48~49頁,52頁,証人A6・44~45頁,証人A11・56~58頁)
(2) 要件定義フェーズ(甲74,乙2)
平成23年1月24日,被告の前記(1)の提案に基づく要件定義フェーズが開始された。要件定義フェーズの経緯は,次のとおりである。
ア 要点定義フェーズの提案と本件個別契約3(甲1の3,乙2)
被告は,平成23年1月17日,「SMA/ファンドラップ・システム要件定義フェーズ支援のご検討資料」と題する資料(乙2)を用いて原告野村證券に対し,同月24日~同年2月28日の期間に要件定義フェーズを行って,要件定義書を作成することを提案し,要件定義フェーズのため,本件個別契約3(甲1の3)が締結された。
上記提案は,冒頭で,パッケージ・ソフトウェアを利用するシステム開発において,プロジェクトの成否に大きく関係する方針として,①極力パッケージの標準機能の中で業務を成立させること,②業務改革を意識した業務の棚卸しをすること,③変更点に関するユーザの理解を求める活動の3点を確認し,進め方として,次の各点が確認されている。
① 既存の業務モデルや手法に固執せず,新たな業務モデルを構築する意思をもって作業を行う必要があること
② ユーザ,コンサルタント,開発者が共同プロジェクトとして一丸となってベクトルを合わせ,業務とシステムの両面から改善及び代替案の提案及び検討を行うことが必須となること
③ 判断及び意思決定の流れが進捗に大きな影響を及ぼすので,タイムリーな意思決定を行うことが重要であること
④ ギャップがあれば追加開発とするのではなく,「パッケージ標準機能の中で業務を成立させるにはどうしたらよいか?」を念頭に作業をすることが後の効果につながること
イ 原告野村證券からの指示等
A8戦略部長は,上記提案について,A5に対し,①要件定義書は,本来,ユーザ部門が作成すべきところ,原告事業部がやりたいことを原告戦略部が理解した上で作成し,被告にも一部を書いてもらいたいので,目次に合わせて担当者案を提出し,スケジュールやレビュー等のマイルストーンを明確にして欲しい旨,②費用について原告事業部と話をする予定であるため提出して欲しい旨,平成23年3月の活動費用について,年度末で処理が厳しくなるので早く提出してもらいたいが,要件定義フェーズが終了し,承認されないと,次のフェーズの稟議が回せないので,進め方を考える必要がある旨,を述べ,A5は,これを受けて,スケジュールの見直し等の準備を指示した。(乙3)
ウ 要件定義フェーズの実施
被告は,本件個別契約3に基づき,要件定義フェーズにおける原告野村證券の要件定義作業を支援した。その概要は,次のとおりである。
(ア) 開発態勢
要件定義フェーズにおける開発態勢は,開発態勢整理表中①記載のとおりであり,被告側は,導入前事前検証フェーズから関与していたA7をリーダーとする基幹業務チームの下で,本件開発業務に新たに加わったA11及びA12が,要件定義の作業を担当することとされた。なお,平成23年2月1日以降は,テメノス社の従業員3名によるWMチームも設けることとされていた。(甲152,乙2・14頁)。
(イ) 被告とテメノス社との契約
被告は,平成23年2月3日,本件個別契約3に基づく要件定義の作業を行うために,テメノス社との間で契約(乙164の1・2。以下「本件個別契約3向け契約」という。)を締結し,テメノス社から5~6名の担当者が来日した。
本件個別契約3向け契約は,作業範囲を「プロジェクト開始調査」とし,同月1~28日の4週間,顧客データをWM上で実証するための導入前機能検証の完了や,ユーザ要件に対するWM内の概要レベルの機能に関するギャップの特定などの10領域に重点を置いた作業を行い,その結果を被告に提出し,被告のサインオフにより業務を終了することとされており,①ユーザ要件の定義,②詳細な機能設計の完了,③ソフトウェアの実装又は納品,及び,④ソフトウェアの設定は,いずれも範囲外とされていた。
(ウ) 具体的な作業内容
要件定義フェーズにおいて,A11やA12など被告の担当者は,原告事業部担当者に対するヒアリングを実施し,本件各サービスに係る大まかな業務要件及びシステム要件を記載した業務要件リストを作成し,各要件について,WMで実現可能か否か,実現できないと見込まれる要件について,WMをカスタマイズすることで対応するか,外部機能として追加開発をすることで対応するかについて,原告事業部担当者,来日したテメノス社の担当者と検討を行った(乙169)。
上記検討には,リバランス(乙176)やレポート(乙177),資金プール(乙178)に関する検討も含まれており,レポートその他の帳票については,WMの標準機能のサンプルが示された(乙196~198)。もっとも,原告野村證券は,コンピュータ・システム開発の内部基準(甲84。以下「原告開発基準」という。)を有しており,同基準では,要件定義を要件定義と概要設計の2段階で行い(同第2章及び第3章),要件定義の段階で,一定の基準によりパッケージ・ソフトウェアの採否を決定するという手法が採用され(同9条及び別紙1-3。甲84・8頁),その決定のための要件定義書は,開発の目的・範囲,スケジュール,開発態勢及び見積もりが明確となっていれば,提案書でも代替できる(同8条3項)程度のもので足りるとされるため,要件定義フェーズにおけるフィット&ギャップ分析は,後の概要設計よりも相当粒度の粗いものとなっていた(証人A5・17頁,証人A6・53頁,証人A4・65頁)。また,テメノス社の本件個別契約3向け契約上の作業場所は,被告又はテメノス社の事務所とされており(乙164の1・2),テメノス社の担当者は,原告野村證券を訪れることもあったが,後の概要設計最適化フェーズの頃までは,原告野村證券の担当者と本格的に直接議論を行う態勢になってはいなかった(証人A11・68~69頁)。
エ 要件定義フェーズ及び概要設計フェーズの意義に関する争いについて
本件開発業務における要件定義は,要件定義フェーズ及び概要設計フェーズにおいて行われたが,その意義については,当事者間に争いがあり,原告らは,もともと原告野村證券におけるシステム開発では,要件を確定させる工程を要件定義と概要設計の2段階に分けて行っていると主張するのに対し,被告は,本来は,要件定義フェーズにおいて実質的な要件定義を行う予定であったが,導入前機能検証フェーズの後,原告らがWMを導入するか否かの意思決定ができなかったため,要件定義フェーズは,実質的には提案活動として行われたと主張する(前記前提事実(5)イ参照)。
そこで検討すると,原告開発基準が,システム開発における要件定義を要件定義と概要設計の2段階で行い,要件定義段階でパッケージ・ソフトウェアの採否を決定する方法を採用していたことは,前記ウ(ウ)認定のとおりである。そして,証拠(証人A4・49~51頁,証人A6・47頁,証人A4及び証人A5[証人A4・64~65頁の対質部分],証人A11・61~62頁)によれば,原告らは,本件開発業務において原告開発基準を被告と共有してはいなかったが,要件定義が上記2段階で行われ,要件定義段階でWMの採否決定が行われ,概要設計段階で通常のコンピュータ・システム開発における要件定義書に相当する概要設計書が作成されるということは,要件定義フェーズに関与していた原告野村證券と被告の担当者間で共有されていたと認められ,テメノス社との間の本件個別契約3向け契約の作業範囲が「プロジェクト開始調査」とされた(前記ウ(イ))のも,被告がこのことを理解していたことによると推認することができ,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) 本件要件定義書の作成(甲74,乙4・本件局面3)
平成23年2月25日,要件定義フェーズの成果物として,本件要件定義書(甲74)が原告野村證券名義で作成され(本件局面3),被告は,本件要件定義書を前提とした「オデッセーウェルスマネージャー導入によるSMA/ファンドラップ・システム更改の概算費用」と題する資料(乙4)において,概算開発費用を19億3000万円(ハードウェア・ソフトウェア一式(本番・開発)2億円,WMライセンス費用6億3000万円,システム構築費用11億円)と試算した。本件要件定義書の概要は,次のとおりである。
ア 全体スケジュール
STARと連携した平成25年1月4日の稼働開始(前記(1)ア,1(2)及び2(1)ア)に向けて,スケジュール3が提案された。同スケジュールは,平成24年12月までの期間が予定された点は,スケジュール1及び2と同様であったが,概要設計立ち上げフェーズが新たに加えられ,テストフェーズ以降のスケジュールは,スケジュール2より2か月ずつ後ろ倒しとされた。また,各フェーズごとに,別紙8の1「要件定義フェーズ整理表」記載のとおり,主な作業内容,主要作成物及び担当が整理され,マイルストーンと完了条件が定められた(甲74・83~89頁)。
なお,上記スケジュールは,本邦での実績がないWMの導入に当たり,通常より各タスクの期間を長く余裕度をもって設定し,必要十分な時間をかけることとしたものであり,移行リハーサルを合計3回,運用テスト期間を6か月設けることにより,未知の障害発生リスクを回避し,入念なリハーサルにより要件定義時に認識できなかった機能や予測できなかったエラーにも十分な対応を図ることが可能であるとされている(甲74・76~82頁)。
イ 目的及びWMのカスタマイズの範囲
本件各サービスの内容を,パッケージの機能を中心としたサービスに変更し,顧客との契約上変更できない点等について必要最低限のカスタマイズを行うこととし(甲74・4頁),新システムを導入するに当たって認識された業務要件等を列挙した「新業務要件一覧」及び同要件を業務ごとにフロー図化した「新業務フロー」(同6~22頁)を前提に,「パッケージ機能を活用したアプローチにより,カスタマイズを抑え,追加開発は可能な限りCognos又はWTX又は外部開発とすることでパッケージベンダーへの依存を低くし,開発リスクの低減及び保守性の向上を図(る)」(同30頁。上記Cognos及びWTXはWM付属のツールで,前者はレポート作成,後者はウェブに関連する。)という観点から,原告事業部内の各課についてフィット&ギャップ分析を行ったとして,次表のとおり(表中「CS」,「資産運用」,「PF」及び「CF」は,それぞれ順次,原告事業部のクライアントサービス課,資産運用課,ポートフォリオ管理課及びコンブライアンス課の略),大規模のカスタマイズが0%,中規模のカスタマイズが4%という検討結果を示した(同30~54頁)。
対応分類 CS 資産運用 PF CP 計(割合)
標準機能で対応可能 18 6 48 5 77(50%)
カスタマイズ小 15 8 12 0 35(23%)
カスタマイズ中 3 0 3 0 6(4%)
カスタマイズ大 0 0 0 0 0(0%)
Cognos又はWTX 3 3 5 6 17(11%)
外部開発 2 11 5 0 18(12%)
合計 41 28 73 11 153(100%)
なお,当初からの明らかなギャップ4項目(前記1(3)ウ,2(1)エ及び(2)ア)のうち,①フィー全般,②CRF自動発注及び③フィナンシャルプランニングについては,外部開発又はWMのカスタマイズでの対応とされた(甲74・37頁,42頁及び52~53頁)。ただし,上記③は,その後,既存のシステムのライフプラン機能を利用し,出力結果をWMに入力する方法で代替することとなり,開発は見合わされた。
ウ 開発態勢
開発態勢として,原告野村證券及び被告の双方に,①プロジェクト責任者(プロジェクトオーナー),②プロジェクト管理者(プロジェクトマネジャ),③チームリーダー及び④チームメンバーを置き,⑤事務局(プロジェクトマネジメントオフィス)を置くこととして本件2頭態勢を提唱し,その各役割を定めている(甲74・91~92頁)。
エ リスク及び対応方法
リスクについては,①要件定義の網羅性や精度の低さ,②現行システム改修の遅延,③移行データ準備の遅れや精度の低さ,④基幹システムの刷新,⑤WMの製品リスクが挙げられ,各リスクの内容,対応策,対応区分及び全体へのインパクトについて,それぞれ次表のとおりの考察がされた(甲74・94頁)。また,本件システムの稼働開始後は不具合等に対して迅速に対応可能な保守運用態勢を敷くこととされた(同68~70頁)。
内容 対応策 対応区分 全体へのインパクト
① テストフェーズで要件
漏れが認識される。
外部設計レビューによる品質の作り込み
及び十分なテスト期間の設定
軽減受容 ・スケジュール遅延
・費用の増大
・品質の低下
② 関連するシステムの
インターフェース開発が遅れる。
関連するシステムチーム全体での進捗管理による
トラッキングの実施及び十分なテスト期間の設定
軽減受容 ・スケジュール遅延
・品質の低下
③ 移行テストで想定以上のエラーが検知され,
データ定義の変更が頻発する。
移行元システムチームとの連携を密接に図り,
認識の齟齬を軽減し,数回のリハーサルにより
データ精度の確認を実施していく。
軽減受容 ・スケジュール遅延
・本番稼働遅延
④ 双方が新システムのため障害発生時の
原因究明が難しく,解消までに時間を要する。
基幹システムとの連携テストには
十分な期間を設け対応を図る。
受容 ・スケジュール遅延
・費用の増大
・品質の低下
⑤ 日本での稼働実績がないため,
バグや機能不足が発生する可能性がある。
最新バージョンのリリース時期に変更が
発生する可能性がある。
検証作業や十分なテスト期間の設定により
対応が必要な事態が発生してもクリティカルな
影響を最小限にする。
既存バージョンでの対応策を検討する。
受容
回避
・スケジュール遅延
・品質の低下
・スケジュール遅延
・品質の低下
(4) 概要設計立ち上げフェーズとWMの導入決定(甲1の4,乙5)
要件定義フェーズに引き続き,本件要件定義書で新たに加えられた概要設計立ち上げフェーズ(前記(3)ア)が行われた。概要設計立ち上げフェーズの概要は,次のとおりである。
ア 概要設計立ち上げフェーズの提案と本件個別契約4
被告は,平成23年3月3日,「SMA/ファンドラップ・システム概要設計フェーズ立上げ支援のご検討資料」と題する資料(乙5)を用いて原告野村證券に対し,概要設計立ち上げフェーズについて,提案した。同提案は,WMの導入を前提として,同月7~31日の期間に,①周辺システムとの連携内容の検討,②保守スキームの検討(継続),③概要設計フェーズ立ち上げの検討を行うというものであり,概要設計立ち上げフェーズのため,本件個別契約4(甲1の4)が締結された。
イ 概要設計立ち上げフェーズの実施及びWMの研修受講
概要設計立ち上げフェーズにおいて,A11やA12など被告の担当者は,本件個別契約4に基づき,平成23年3月の第1週及び第4週を利用して,WMと外部システムとの接続部分のインターフェース設計や,保守スキームの検討等を行った(証人A5・15頁,同[証人A4対質部分63~64頁],証人A6・5~6頁,証人A11・6頁)。なお,概要設計立ち上げフェーズにおける開発態勢は,開発態勢整理表中②記載のとおり,要件定義フェーズをほぼ踏襲したものであったが(甲152,乙5・7頁),概要設計立ち上げフェーズのために被告とテメノス社間で特段の契約が締結された様子はうかがわれず,テメノス社の担当者が作業に参加していた様子もうかがわれない。
また,被告のA13,A11及びA12ほか1名は,同月第2~3週のうち10日間,トロント所在のテメノス社に赴き,うち8日間は,WMを用いたシステム開発を行う技術者向けにテメノス社が時期を定めて提供しているWMの体系的な研修を受け,残りの2日間は,本件システムの業務要件の中で特に重要と思われる要件に関し,WMでの実現方法等について,テメノス社の技術者と議論するなどした。上記研修では,本件開発業務に用いられたストーリーボード(前記前提事実(3)ウ)について,①要件の理解を確かめる,②カスタマイズの内容を確認するという2つの目的があり,ユーザからサインを取得すべきことなどが説明された。(乙87,証人A11・6~8頁,12頁,30頁,47~48頁,59~60頁)
ウ WMの導入決定
原告開発基準におけるパッケージ・ソフトウェアの採否の基準(前記(2)ウ(ウ))は,①要求される業務要件・機能要件を充たすこと,②カスタム開発とのメリット・デメリットを比較検討すること,③カスタマイズ後の権利の帰属・保守サポート態勢・保障と責任の範囲・機密保護・損害賠償及び免責事項等,契約内容が明確にされていること等とされている(甲84・9条,別紙1-3。甲84・8頁)。原告野村證券では,本件要件定義書の内容を踏まえ,WMが要求される業務要件・機能要件を満たす(上記①)ものとして,概要設計立ち上げフェーズの提案の翌日である平成23年3月4日までに,役員を含めてWMの導入について了解を得,原告野村證券と被告との間で,WMの導入が内定した(乙70)。
その際,WM導入のメリット・デメリット(上記②)について,原告事業部では,被告から紹介されたRBCを始めとする海外での実績及び大量口座に関する低コストをメリットとして重視し,デメリットとして,海外のパッケージ・ソフトウェアであることから,運用後の保守における言葉や時間の問題を懸念していた(証人A4・2頁,52頁)。一方,原告開発基準上,採否の第一次的権限を有する原告戦略部(甲84・1条及び9条,証人A6・19頁,53~54頁)では,RBCなど大量口座を有する海外での実績のほか,大規模なカスタマイズがないため(証人A6・4頁),低コストかつ短期間で構築でき,フロント機能の使い勝手が良いことをメリットとして重視し,デメリットないしリスクとして,海外のパッケージ・ソフトウェアであることを懸念していたが,要件定義書において,日本での稼働実績がないことに伴うリスクに対し,「検証作業や十分なテスト期間の設定により対応が必要な事態が発生してもクリティカルな影響を最小限にする」との対応方法が採用されたこと(前記(3)エ)から,上記リスクは受容された(証人A6・2頁,54~55頁)。
エ 概要設計立ち上げフェーズの意義に関する争いについて
概要設計立ち上げフェーズの意義については,当事者間に争いがあり,原告らは,年度を跨いだ提案を受けることができないことから,概要設計フェーズにおいて行われるべき要件定義作業のうち平成23年3月分を別契約にしたと主張するのに対し,被告は,本件要件定義書を踏まえて提示した概算開発費用19億3000万円(前記(3)柱書)を前提にWMを導入するか否かの意思決定に1か月を要すると言われたために,実質的な要件定義作業を開始することができなかったと主張する(前記前提事実(5)ウ)。
そこで検討すると,概要設計立ち上げフェーズは,本件要件定義書において新たに加えられたものであるところ(前記(3)ア),本件開発業務の開発費用に係る年度末での処理が難しいことは,要件定義フェーズの開始当初に被告に伝えられ,被告はスケジュールの見直しを準備していたものである(前記(2)イ)。また,概要設計立ち上げフェーズのための本件個別契約4の対価が980万円であるのに対し,概要設計フェーズのための本件個別契約5の対価は1億7370万円であり,WMの導入決定を踏まえて締結されたライセンス契約及び機器購入契約である本件個別契約6及び7の対価は合計7億1746万8546円となっている(別紙1「契約一覧」中「1 ウェルス・マネージャ導入にかかる被告との契約」表中「支払額(税別)」欄)。以上の事情に,証拠(証人A6・5頁,証人A4・64頁,証人A5・14~15頁)を総合すると,概要設計立ち上げフェーズのための本件個別契約4は,原告野村證券では,稟議を要する予算案件について,決算を跨ぐような提案を受けられないために,稟議を要しない金額で,概要設計とは別の契約を締結したと認められる。
しかし,概要設計立ち上げフェーズで行われた作業は,前記イのとおり,WMと外部システムとの接続部分のインターフェース設計や保守スキームの検討にとどまり,テメノス社の担当者が作業に参加した様子もないのであるから,実質的な要件定義作業は行われていなかったと推認され,かつ,そのことは,原告野村證券担当者と被告担当者において共通認識となっていたと認められ,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
4 概要設計及び概要設計最適化フェーズにおけるカスタマイズ量の著しい増大と基本設計準備フェーズにおける要件定義の確定遅延(本件局面4~6)
(1) 概要設計フェーズの開始とカスタマイズ量の増大
WMの導入決定後,原告野村證券の事業年度が代わり,平成23年4月以降,正式に概要設計フェーズが開始されたが,同年5月頃までの間に,新たなギャップが判明し,カスタマイズ量が著しく増大した。この時期の経緯は,次のとおりである。
ア 概要設計フェーズの提案と本件個別契約5(甲1の5,甲9)
被告は,平成23年3月28日,「SMA/ファンドラップ・システム概要設計フェーズ支援のご提案」と題する資料(甲9)を用いて原告野村證券に対し,同年4月4日~同年6月30日の期間に概要設計フェーズを行うことを提案し,概要設計フェーズのため,本件個別契約5(甲1の5)が締結された。上記提案の概要は,次のとおりである。
(ア) 全体スケジュール
STARと連携した平成25年1月4日の稼働開始(前記1(2),2(1)ア,3(1)ア及び(3)ア)に向けて,スケジュール4が提案された(甲9・3~11頁)。
同スケジュールは,平成24年12月までの期間が予定された点は,スケジュール1~3と同様であったが,概要設計フェーズが1か月延長され,その分,設計・開発フェーズが1か月短縮されており,また,連結テストフェーズが1か月延長され,その分,テストフェーズの完了が1か月後ろ倒しとされている。
(イ) 開発態勢
本件2頭態勢の下,開発態勢整理表中③記載の開発態勢が提案され,その役割が示された(甲9・23~24頁,甲152)。また,プロジェクト目標の達成に向けてのメンバーのベクトルの一致を図り,作業計画に対する進捗状況を共有するとともに問題の発生を予防し,発生した問題を早期に発見してこれに対する対応方法を共有し,重要事項の伝達や共有を図るため,会議体として,①プロジェクト全体会議,②進捗会議及び③チーム進捗会議を設けることが提案された(甲9・26頁)。
(ウ) 具体的な作業内容
概要設計フェーズを「次の基本設計フェーズ以降を円滑に進めるための要件確定のフェーズ」と位置づけ,要件定義フェーズでの成果物を前提に,新業務フローの最終化及びこれを実現するためのコンフィグレーション内容の確定,追加開発要件の整理と概要設計を主なタスクとして掲げ(甲9・12頁),別紙8の2「概要設計フェーズ整理表」記載のとおり,①WM,②帳票・外付け,③インターフェース,④移行計画,及び,⑤基盤の5つに区分して,主な作業内容,主要作成物及び担当を整理し,原告野村證券がレビューにより作成物を承認することとされており(同16~21頁),WMのカスタマイズ部分の詳細定義については,被告の担当ではあるが,作業を担当するのがテメノス社であることが明記されている(同17頁)。
(エ) 概要設計フェーズが延長された原因に関する争いについて
スケジュール4において概要設計フェーズが1か月延長された(前記(ア))原因については,当事者間に争いがあり,原告らは,被告の要望によると主張するのに対し,被告は,リテールITプロジェクトに合わせたもので,被告の要望ではないと主張する(前記前提事実(5)エ)。
そこで検討すると,A6戦略部課長の証言中には,原告野村證券は連結テストの期間をリテールITプロジェクトに合わせるよう要望したが,概要設計フェーズの期間の延長は被告からの提案であったとの原告らの主張に沿う部分がある(証人A6・6~7頁,21~22頁)。しかし,これを裏付けるような客観的な証拠はなく,他に,上記延長が,いずれの要望によるかを明らかにする適確な証拠は存しない。なお,A8戦略部長が要件定義をリテールITプロジェクトに合わせるとした時期は,概要設計フェーズの開始前の平成23年2月であるし(前記3(1)ウ),証拠(甲88)によれば,リテールITプロジェクト内においても,個別のプロジェクトの概要設計フェーズの期間が一致していたと認めることはできないから,少なくとも,原告野村證券がリテールITプロジェクトに合わせることを要望したために,1か月の延長がされたと認めることは困難である。
イ 概要設計フェーズの実施
被告は,本件個別契約5に基づき,概要設計フェーズにおける原告野村證券の要件定義作業を支援した。その概要は,次のとおりである。
(ア) 開発態勢
概要設計フェーズにおける開発態勢は,前記提案(前記ア(イ))に従って,開発態勢整理表中③記載のとおりとされ,被告側は,導入前事前検証フェーズから関与していたA7が全体調整を担当し,WMの研修を受講したA13,A11及びA12(前記3(3)イ)ほか2名が,A13をリーダーとするWM・外部開発チームを組んでWMの要件定義を担当し,同チームの下に,テメノス社の担当者から成るチームが置かれることとされた(甲9・23頁,甲152)。
(イ) 被告とテメノス社との契約
被告は,平成23年5月10日,本件個別契約5に基づく作業を行うために,テメノス社との間で契約(乙165の1・2。以下「本件個別契約5向け契約」という。)を締結し,テメノス社から,平成23年5月中に2週間,同年6月中に2週間,それぞれ担当者が来日した。
本件個別契約5向け契約は,作業範囲を,「ストーリーボードを作成するための概括的な設計工程の完了」とし,同年5月9日~同年6月30日の8週間,被告の事務所における多数回のオン・サイトの作業の後,第一次報告書を作成し,リモート・セッションを経て,フォローアップ解析をし,最終的にストーリーボードを被告のサインオフのために被告に提出することとされており,同月2日以降,WMのデモ環境の利用が可能となった(乙205)。引き続き,①ユーザの要件定義,②ソフトウェアの実装又は納品,③ソフトウェアの設定は範囲外とされており,ストーリーボード及びこれを元に作成される仕様書であるスペック(前記前提事実(3)ウ)については,いずれについても,疑義を避けるためとして,エンドユーザの要件を意図するものではないことが明記されている。
(ウ) 具体的な作業内容
平成23年4月4日のキックオフミーティング(甲116)を皮切りに,具体的な作業が開始された。A11やA12など被告の担当者は,要件定義フェーズにおける(前記3(2)ウ(ウ))と同様,原告事業部担当者に対するヒアリングを実施して把握した業務要件について,WMで実現可能か否か,実現できないと見込まれる要件について,カスタマイズで対応するか,追加開発で対応するかをテメノス社担当者や原告事業部担当者と検討するという手法で,粒度の粗かった要件定義フェーズ(前記3(2)ウ(ウ))より詳細なレベルで要件定義作業を行った。なお,その際,A11など被告の担当者は,パッケージに業務を合わせるという抽象的な心構えを有していたが,ギャップの生じた業務要件について,個別具体的にWMに合わせるような対策を講じてはいなかった。また,要件定義フェーズ(前記3(2)ウ(ウ))に引き続き,テメノス社の担当者は,原告野村證券を訪れることもあったが,後の概要設計最適化フェーズの頃までは,原告野村證券の担当者と本格的に直接議論を行う態勢になってはいなかった。(甲116,乙71,乙72,乙154の1~5,証人A11・36~37頁,56頁,68~69頁)
(エ) カスタマイズ量の増大
WM・外部開発チームは,平成23年5月13日頃に新業務フローを詳細化して,その作成を終了したが,新たなギャップが生じ,検討が必要な状況となった。なお,他のチームにおいても,それぞれ要件定義時に想定した作業方針の前提が否定される事態が発生していた。(甲90,甲91,甲117,乙154の6~9)
WM・外部開発チームにおいて,新業務フローを前提として生じた新たなギャップの主な例を挙げると,次のとおりである。
① 四半期リバランス
四半期リバランスとは,本件FWにおいて,原則として全口座を対象に,年1回の更新時のほか,四半期に1回の割合でリバランスを行うというルールであり(乙172,乙179),原告野村證券が,本件システムへのシステム更新の目玉の一つとして導入しようとしていた新機能である。本件システムにおいて,リバランスは,「案件作成」という業務要件の一つとして把握されるが,本件要件定義書中の案件作成の業務要件中には,四半期リバランスが明記されず,案件作成の業務要件は全て標準機能で対応するものとされていた(甲74・39頁の「案件作成」欄中「No.」欄8)。これに対し,概要設計フェーズでは,案件作成の業務要件として四半期リバランスが明記され,30人日を要するカスタマイズが必要とされた(甲161及び乙158の各「業務要件リスト(資産運用課)」表中「案件作成」の「No.」欄1の11,乙195)。
② パフォーマンスレポート及び定期運用報告書
レポートの柔軟性は,当初の提案前の営業活動段階から原告事業部の懸念点の解消には至っていないとされていた項目の一つであったが(前記1(3)ウ),導入前機能検証フェーズ段階でレポートをサンプル作成し(前記2(2)エ),要件定義フェーズ段階ではcognosの利用が想定されていたところ(前記3(3)イ,甲74・35頁「パフォーマンスレポート,定期運用報告書」欄),概要設計段階における業務要件の詳細化の結果,平成23年6月17日の段階でカスタマイズ量が要件定義時の3倍以上に増大し,同月末時点では405人日の増加とされた(甲124,甲161及び乙158の各「業務要件リスト(CS課)」表中「パフォーマンスレポート,定期運用報告書」欄)。
③ 契約変更・解約者の除外
そのほか,新業務フローにおける「契約更新時の口座抽出の際に解約や契約変更がされた口座を抽出する」という機能(甲74・16頁の「CS課」欄中「契約変更・解約者リストを抽出する」の囲み部分)についても合計38人日が必要とされた(甲74・32頁の「契約更新」欄中「No.」欄8,甲124,甲161及び乙158の各「業務要件リスト(CS課)」表中「契約更新」欄「No.」欄1)。
(2) カスタマイズ量の著しい増大に対する対応
概要設計フェーズにおいて生じた新たなギャップによるカスタマイズ量の著しい増大を受けて,被告及び原告野村證券は,次の対応を行った。
ア 概要設計フェーズの状況報告(甲10)
被告は,平成23年6月17日,「SMA/ファンドラップ・システム概要設計フェーズの状況報告」と題する資料(甲10)を用いて原告野村證券に対し,概要設計フェーズの状況報告を行った。
上記報告では,課題として,概要設計フェーズでの要件を元に開発が必要な機能を見積もったところ,全てにおいて対象数が大きく増加したこと,現行の業務プロセスをベースに要件をパッケージに反映することで,業務機能と関連するインターフェースや帳票数も増加したことが報告された。具体的に報告された増加分(機能数による。)は,次のとおりであり,テメノス社が担当するWMの本体機能に関する部分の増加はわずかであったが,被告が担当する周辺機能の増加を中心に,全体のカスタマイズ量の増大は2倍弱に達していた(甲10・3頁)。
担当 対象機能 要件定義時 合計 概要設計時 合計
テメノス社 WMカスタマイズ 25 37 101 27 41 195
外付け機能等
インターフェース 10 12
帳票 2 2
被告 外付け機能等 8 64 23 154
インターフェース 45 95
帳票 11 36
上記報告において,被告は,対応として,要件定義フェーズ及び概要設計フェーズの双方でカスタマイズが必要とされた部分等については,概要設計を確定させて同年7月から開始予定の基本設計フェーズにおいて基本設計を行うが,その余については,基本設計フェーズの前半を用いて,再度,パッケージをベースとした「あるべき業務プロセス」を検討し,業務要件を再レビューすること,具体的には,WMの画面及び機能をベースとし,被告及びテメノス社の要員が,①共通化,②代替手段,③自動化しない,④やめるなどの対応策を検討することを提案し,原告野村證券に協力を要請した(甲10・4頁)。
イ 原告野村證券の対応(甲13)
原告事業部では,平成23年6月22日付け「WealthManager 導入プロジェクトの現状」と題する文書(甲13)を発出し,WM・外部開発チームの作業に関する懸念を表明した。
上記文書は,①新業務の検討が本件要件定義書以降進んでいない,②原告戦略部向けの進捗報告の内容と原告事業部における進捗認識のギャップが大きい,③原告事業部向けの定期的な進捗報告が実施されていない,④重要事項に関する連絡がない,⑤進捗報告等の資料の完成度が低い(チーム・組織としてのチェック機能に対する懸念),⑥各種アウトプットが分かりづらい,という6つの懸念を列挙し,それぞれ理由を挙げた上,懸念の解消方法として,被告側メンバーが現行の業務プロセス踏襲の気持ちを改め,パッケージをベースとしたあるべき業務プロセスを検討するよう気持ちを入れ替えること等を提言していた。
また,原告野村證券及びテメノス社の担当者は,それまで本格的に直接議論を行う態勢になっていなかったが(前記(1)イ(ウ)及び3(2)ウ(ウ)),上記文書では,同年7月からの被告側の新態勢にテメノス社も交えて週3日の集中的なセッションを2週間実施するとの提案がされ,これが上記①及び②の懸念の解消につながるとの認識が示された。
ウ 被告の対応(甲11,甲12の1・2)
被告は,平成23年6月29日,「SMA/ファンドラップ・システム基本設計フェーズ①支援アプローチのご紹介」と題する資料(甲1)及び「SMA/ファンドラップ・システム基本設計フェーズ①の進め方(案)資料」と題する資料(甲12の1・2)を用いて原告野村證券に対し,カスタマイズ量の著しい増大に対する対応策として,次の①~⑤の各「課題」欄記載の課題を挙げ,「見直し案」欄記載の対応を対応策として提示し,原告野村證券に協力を求めた。
課題 見直し案
① 現状業務及びシステムを再現する要件定義となってしまった(要件増大の原因) あるべき姿を関係者で検討し,必要な改修要件を確定するアプローチを採用する。
② 業務チームとITチームとのコミュニケーションが希薄であった(要件増大の要因) ワークショップに業務チームとITチームが参加することで同じ議論・情報を共有し,アウトプットを作成する。
③ WMの機能及び導入後のイメージが共有されていなかった。 テメノス社メンバーがワークシップに参加することでWMの機能を討議の中で共有する。
④ プロジェクトガバナンス(統制力)がうまく機能していなかった。 プロジェクトチームの管理者を上位者とし,人事権と一致させることでプロジェクトガバナンスを強化する。
⑤ プロジェクトがどうなっているかの情報が共有されなかった。 プロジェクトの進捗状況をプロジェクト責任者に定期報告することにより,透明性を高める。また,全体責任者を含めた情報共有を月次で開催する。
エ 平成23年7月以降の進め方に関する原告野村證券の懸念(甲160)
被告のWM・外部開発チームのリーダーであるA7は,平成23年6月30日,A4事業部課長ほか原告事業部内各課の担当者との間で,同年7月以降の進め方について,各課の意見を求める打合せをした。
上記打合せにおいて,①クライアントサービス課(A4事業部課長)からは,標準画面,レポート等のイメージ及び簡単な画面の遷移が見たい旨,②資産運用課からも,パッケージの具体的な形が見えないと進められないので,画面の裏のロジックを知りたい旨,③ポートフォリオ管理課からも,原告事業部がWMを分かっていない部分があるので,一連の業務の流れの考え方を知りたい旨,④コンプライアンス課からも,WMのコンプライアンスの標準画面を一通り見たい旨及びパフォーマンス分析についてはWMのツールを利用したいので,標準機能を知りたい旨,の意見が述べられ,いずれも総じてWMの機能が分からないことに対する懸念が示された。
(3) 概要設計最適化フェーズ
平成23年7月,カスタマイズ量の著しい増大を踏まえ,業務要件を見直すための概要設計最適化フェーズが開始された。概要設計最適化フェーズの経緯は,次のとおりである。
ア 概要設計最適化フェーズの提案と本件個別契約8(甲1の8,乙6)
被告は,平成23年7月1日,「SMA/ファンドラップ・システム概要設計最適化支援のご提案」と題する資料(乙6)を用いて原告野村證券に対し,同月4~31日の期間に概要設計の最適化を図ることを提案し,概要設計最適化フェーズのため,本件個別契約8(甲1の8)が締結された。上記提案の概要は,次のとおりである。
(ア) 全体スケジュール
STARと連携した平成25年1月4日の稼動開始(前記(1)ア(ア),1(2),2(1)ア,3(1)ア及び(3)ア)に向けて,スケジュール5が提案された(乙6・15頁)。
同スケジュールは,平成24年12月までの期間が予定された点は,スケジュール1~4と同様であったが,新たに概要設計最適化フェーズを1か月加えた分,設計・開発フェーズを1か月先送りし,その後の連結テストフェーズを1か月短縮することにより,総合テスト以降のスケジュールへの影響を回避することとされている。
(イ) 開発態勢
本件2頭態勢の下,開発態勢整理表中④記載の開発態勢が提案され,その役割が示された(乙6・16~17頁)。従来のプロジェクト責任者の上位に,新たに全体責任者として,原告野村證券側からはA14執行役及びA15経営役が,被告側からはA16常務が全体責任者に就任することが提案され,開発態勢が強化された。
(ウ) 具体的な作業内容
作業内容としては,概要設計フェーズでの検討の結果,現行業務及び現行システムを前提とした要件をパッケージに反映したことが原因とみられるカスタマイズ量の増大があり,開発費の見込額が本件要件定義書を大きく上回るため,削減を再検討するための見直し作業と見直し作業の影響を受けない部分の基本設計の準備作業とを並行して行い,開発費を低減することとして,別紙8の3「最適化フェーズ整理表」記載のとおり,①WM,②帳票・外付け・機能開発概要設計,③インターフェース,④移行計画,⑤基盤の5つに区分して,作業内容,作成物,具体的なタスクのスケジュール等について提案している(乙6・10~15頁)。
上記作業内容のうち,概要設計書の確認作業については,作成物として,概要設計書のほかストーリーボードが挙げられており,ストーリーボードについてはテメノス社が作成し,原告野村證券がレビューにより承認することが明記されている(乙6・11頁)。なお,被告は,平成23年5月10日の本件個別契約5向け契約において,テメノス社との間でWMのストーリーボードの作成を合意しており(前記(1)イ(イ),ストーリーボード進捗表中「No.」欄17の「5/10」の記載),テメノス社は,同日以降,順次ストーリーボードの作成に着手し,概要設計フェーズ終了間際の同月29日には,被告から原告野村證券に対し,同日時点の作成途上のストーリーボード数本のデータとその進捗状況が送付されるなど,原告野村證券担当者に対してストーリーボードに関する情報が提供されていた(乙215,乙216,ストーリーボード進捗表中「No.」欄1~5,7~10,14の各「6/29」の記載,証人A4・35~37頁,証人A11・19~20頁,43~44頁)。
イ 概要設計最適化フェーズの実施
被告は,本件個別契約8に基づき,概要設計最適化フェーズにおける作業を行った。その概要は,次のとおりである。
(ア) 開発態勢
開発態勢については,前記提案(前記ア(イ))に従って,開発態勢整理表中④記載のとおりとされ,全体責任者であるA14執行役,A15経営役及びA16常務の下,被告側では,A5に代え,パッケージ・ソフトウェア導入による開発の経験に富むA17(乙234,証人A18・20頁)がプロジェクト責任者に就き,これまでWM・外部開発チームとして本件開発義務に携わってきたA7,A13,A11及びA12はアドバイザーと位置づけられ,WMの開発を担当する義務アプリチームのリーダーにはA19が就くことが予定された。一方,原告野村證券側では,従来,プロジェクト管理者(プロジェクトマネジャ)とされていたA4事業部課長及びA6戦略部課長は,それぞれチームリーダーとなり,A20次長が重要プロジェクトマネジャとなることが予定された(ただし,後記5(2)ア(ウ)のとおり,A20次長が直接本件開発業務に関与することとなったのは,その後の平成23年10月頃である。証人A20・2頁)。
(イ) 被告とテメノス社との間の契約
被告は,平成23年7月12日,本件個別契約8に基づく作業を行うために,テメノス社との間で契約(乙166の1・2。以下「本件個別契約8向け契約」という。)を締結した。
本件個別契約8向け契約は,作業範囲を「WM製品の機能及び特徴並びに同製品を野村においてどのように展開するかについてのコンサルティング・サービスの提供」とし,1か月間,①インターフェース設計のコーチング(テメノス社が被告に技術支援を提供),②その後の実装業務の見積もり及び計画の立案の支援,及び,③原告野村證券の要件に照らして標準機能が使用可能な領域を特定するためのWMの仕様に関する支援及び助言に重点を置き,被告の事務所における多数回のオン・サイト作業及びリモートでの協議を行うとされている。ただし,④ユーザ要件の定義,⑤ソフトウェアの実装又は納品,及び,⑥ソフトウェアの設定が作業範囲外とされたこと,ストーリーボード及びスペックがエンドユーザの要件を意図するものでないとされたことは,本件個別契約3向け契約(前記3(2)ウ(イ))及び本件個別契約5向け契約(前記(1)イ(イ))におけると同様であった。
(ウ) 前半2週間における具体的な作業
概要設計最適化フェーズの開始に当たり,平成23年7月4日,ミーティングが行われ(甲14),同月の前半2週間の作業の目的を,カスタマイズ量の削減と原告野村證券側の懸念事項の解消の2点とすることが確認され,前者について,次の合計851人日の削減目標が確認された(甲14・5頁)。
① 定型帳票である投資一任契約書の開発中止 -34人日
② 本件各サービスのレポートの同一化 -201人日
③ データ重複精査による工数削減 -88人日
④ WM画面で確認可能な帳票の削減 -141人日
⑤ 直投の廃止 -237人日
⑥ 本件FWの更新手続の本件SMA同様の自動継続化 -54人日
⑦ 本件各サービスの手数料計算ロジックの共通化 -64人日
⑧ 共通ヒアリングと追加ヒアリングの画面統一 -32人日
被告は,翌5日以降の約2週間,カスタマイズ量の削減を図るため,業務フロー上の各プロセスについて,原告事業部とテメノス社の担当者を直接交えて削減案を検討し,原告事業部の懸念を解消するため,WMの画面を用いた説明等を行った(甲20,乙56,乙57,乙203)。
例えば,同月8日のセッションでは,業務要件とされるコーポレートアクション情報が株式分割など一部の情報とされていることの適否をテメノス社担当者が確認した際,情報入力を画面での手作業とすることによって17人日を削減することが被告側から提案されたが,原告事業部は,オペレーションに手作業が入ることによるリスクが,削減工数に比べて高すぎ,また,今後のオペレーションの時間短縮という観点からも,難色を示した(乙56)。
また,例えば,同月12日のセッションでは,①簿価と損益計算について,WMの標準機能を用いてSTARから情報を取得して開発コストを0にすることが協議されたほか,②リバランスから発注について,テメノス社が作成していたストーリーボードの絵とWMの標準画面による原告野村證券担当者への説明,③発注機能及び直投の場合のオーダー作成についての説明が行われた。上記①については,簿価をバックオフィスから得るのは,欧米では通例であることが確認されたが,我が国の慣例には反するため,計算方法が異なるなどカスタマイズが残ることや,STARと連動させた場合,万一の修正時の対応が複雑化してしまうデメリットがあること,ソフト・ハード面で考えるべきことが多数あることから,断念された。また,上記③については,直投を含んだリバランスの実現に困難な点があることが確認された。(乙57,乙203)
併せて,ストーリーボードについても,同月4日,説明会が行われ,レビューが開始された(乙89,乙238,乙239,ストーリーボード進捗表中「No.」欄1~5,7~10,14の各「7/4」の記載及び16も含めた各「7月」欄の記載)。
(エ) 中間報告及び後半2週間の進め方の提案(甲89の1・2)
被告は,平成23年7月15日,「7月15日ご報告資料」と題する資料(甲89の2)を用いて原告野村證券に対し,前半2週間の作業についての中間報告を行うとともに,後半2週間の作業の進め方について提案した。
上記中間報告では,前半2週間の作業目的の1つであるカスタマイズ量の削減(前記(ウ))について,合計799人日を削減したが,新たに合計681人日が必要となったため,差し引き25人日が削減されたにとどまることが報告された。合計799人日の削減のうち350人日は,前記(ウ)の削減目標のうち,同①,③,⑦及び⑧(合計218人日)の全部と同②及び④(合計342人日)の一部(132人日)であり,同⑤及び⑥(直投の廃止及び本件FWの自動更新化合計291人日)の削減はできなかった。なお,削減されなかった上記⑤の直投は,個別銘柄レベルの投資判断で運用する超富裕層向けのサービスであり(前記1(1)),当時14件の口座が存在していた(甲120)。一方,合計681人日の増加は,次の①~⑮の15項目であり,被告のプロジェクト責任者であるA17の説明では,WM本体機能に関して漏れていたところが増えたものであって,その増えた原因としては,テメノス社とのコミュニケーション不足又はテメノス社内部での詳細検討不足が考えられるとされた。
① CRF発注機能 +30人日
② 運用開始前入金の扱い +70人日
③ 解約情報 +32人日
④ フィープールと源泉プール関係 +22人日
⑤ コーポレートアクション +7人日
⑥ コーポレートアクションに関する簿価・損益計算 +50人日
⑦ パフォーマンス計算の野村ロジックへの変更 +60人日
⑧ 四半期リバランス +80人日
⑨ 輪切り売却 +60人日
⑩ 法人顧客の売却制限 +60人日
⑪ 契約期末の定額払出 +60人日
⑫ 源泉あり/なしの変更 +60人日
⑬ 資産配分モデル変更時のIPS自動更新 +60人日
⑭ ダミー口座での画面の使用 +20人日
⑮ 契約イベント履歴 +10人日
また,上記中間報告では,前半2週間の作業目的の他の1つである原告野村證券側の懸念事項の解消(前記(ウ))について,テメノス社のコンサルタントとの直接の検討やWMの画面を用いたカスタマイズ項目の説明により,原告野村證券から,やっと検討が進んだとの声をいただいている旨が報告された。
被告は,上記中間報告を踏まえ,同月19日以降の後半2週間の作業の進め方について,カスタマイズ量の見直しを継続し,上記①~⑮の15項目について最大310人日を削減し,全体で最大1581人日を削減するとの目標を立てるとともに,これと並行して,概要設計書の作成・更新及びレビュー,帳票のレビュー等を行うことを提案した。なお,上記増加の原因に関し,A17は,原告事業部担当者からプロジェクト態勢を十分考慮するよう求められ,十分コミュニケーションの取れる態勢を構築し,常に被告とテメノス社との共同作業で進めていく旨を述べた。また,原告事業部からは,帳票のうち現時点で記載する項目すら決定していないものがあることについて,懸念が示された。
(オ) 後半2週間における具体的な作業
被告は,平成23年7月後半の2週間も,原告事業部担当者とセッションを行ってカスタマイズ量の削減に向けた検討を進め(乙58,乙157),同月末までに約19%を削減したが(乙201・3頁),それ以上の削減はできず,後半2週間の検討においても,開発方法が,WMの付属ツールであるWTXからWMのカスタマイズに変更される例(乙201・5頁)などがあった。
被告は,検討結果に従って,従前から作成していた概要設計書を順次更新し,原告事業部等のレビューに供した(甲19,甲161,乙78,乙158)。また,提案書や定期運用報告書などの帳票については,WMの標準帳票と対比するなどしたサンプル(甲125,甲126)が示され,WMの画面についても視覚化した資料(乙181~184,乙204)が作成され,原告事業部担当者による確認・検討作業が進められた(乙155~157)。
ウ 概要設計最適化フェーズの報告(乙201)
被告は,平成23年7月29日,「7月29日ご報告資料」と題する資料(乙201)を用いて原告野村證券に対し,概要設計最適化フェーズの結果を報告した。
上記報告は,作業に対する評価を青・黄・赤の3色で示しており,19%程度にとどまったカスタマイズ量の削減については赤色の評価がされている。一方,WMでは業務ができないのではないかという原告野村證券側の懸念事項の解消については,かなりの部分を解消できたとして青色の評価をしつつ,今後の要件詳細化の中で,新規契約から全解約までの一連の流れの中での検討が必要であるとしている。
なお,業務要件の確定については,同日時点の概要設計書においても,残作業が相当程度残されており(甲124,甲161,乙158),帳票についても,詳細は同年8月の次のフェーズで決定するとされており(乙155),被告は,上記報告において残作業を引き続き同年8~9月に処理することを提案した。ストーリーボードについても,その時点における内容について,説明やレビューが行われたが(ストーリーボード進捗表中「No.」欄1~5,7~14及び16の各「7月」欄),なお更新されることが予定され,更新後のものを同年8月上旬から五月雨式に原告野村證券に交付することが予定されていた(乙157,証人A4・38~39頁)。
エ 概要設計最適化フェーズを踏まえたカスタマイズ量増大に対する被告の社内分析(乙73)
被告は,概要設計最適化フェーズが終了した平成23年7月末,カスタマイズ量が著しく増大した原因について,社内的に,①フィー計算等の機能の国際標準から日本標準(野村標準)への対応,②バックシステムであるSTARの機能役割の違い,③業務要件の変更,④環境及びシステム構成の追加・変更の4点に想定からの相違があったと分析した。上記②は,簿価と損益計算についてWMの標準機能を用いてSTARから情報を取得することが断念されたこと(前記イ(ウ))を指すと考えられ,上記①と併せて,原告事業部の要件とWMが前提とするグローバルスタンダードとの違いを意味すると考えられる。また,上記③については,当初想定していたパッケージ機能を前提とした機能から現行機能が最優先となったとの分析がされている。
(4) カスタマイズ量増大の原因に関する争いについて
以上のとおり,WMのカスタマイズ量は,概要設計フェーズにおいて著しく増大し,概要設計最適化フェーズを経ても,大きく削減されることはなかったが,その原因については,当事者間に争いがあり,原告らは,本来WMの機能をベースに,原告野村證券固有の追加又は修正が必要な機能を整理するというアプローチを採用すべきところ,被告が誤って原告野村證券の現行業務で利用されている機能及び原告野村證券の現行システムの機能をベースに要件を取りまとめたことが原因であると主張するのに対し,被告は,原告事業部担当者が,現行業務ないし現行システムに固執し,WMの機能では原告野村證券固有の現行業務及び商品並びに現行システムにある機能が実現できない場合には,WMをカスタマイズすることで実現するよう要望してきたことが原因であると主張する(前記前提事実(5)オ)。
そこで検討すると,概要設計最適化フェーズ終了時点における被告の社内分析によれば,その増大の原因は,環境及びシステム構成に関するもの(前記(3)エ④)を除けば,①原告野村證券の業務要件とWMが前提とするグローバルスタンダードとの相違(前記(3)エ①及び②)と,②業務要件の変更(前記(3)エ③)とに集約される。そして,上記被告の社内分析では,上記②の業務要件の変更について,当初考慮していたパッケージ機能を前提とした業務機能から現行機能が最優先となり,パッケージに対する修正項目が増加した旨の分析がされている(乙73)。
しかし,A4事業部課長は,上記②の業務要件の変更について,原告事業部担当者が現行業務に固執したことを明確に否定する(証人A4・3~5頁)。そして,これまで認定した事実によれば,原告野村證券は,パッケージの機能に合わせた要件定義の進め方について経験が少ないので教えて欲しい旨を被告に依頼したが,被告は,これに直接答えたり,具体的な方法論を内部で検討したりせず(前記3(1)ウ④),担当者も,パッケージに合わせる心構えはあっても,実際に用いた手法は,要件定義フェーズから概要設計フェーズを通じて,原告事業部から業務要件をヒアリングして,WMで実現できない場合はカスタマイズか追加開発かを検討するというもので,個別具体的なギャップをWMに合わせる対策もなく(前記(1)イ(ウ)及び3(2)ウ(ウ)),原告事業部担当者は,概要設計フェーズ終了時点で,WMのイメージも理解できていなかったものである(前記(2)ウの課題③及びエ)。WMは,本邦に初めて導入されるパッケージ・ソフトウェアであり(前記1(3)柱書),以上の事情の下で,原告事業部担当者は,ヒアリングに応じて現行業務を説明するよりほかはなかったというべきであるから,これを固執と評価することはできない。かえって,以上の事情の下では,概要設計フェーズまでの間,原告事業部担当者が,被告の支援の下でWMの機能に合わせた要件定義を行うことは不可能であったというべきである。
次に,その後の概要設計最適化フェーズについてみても,原告事業部は,前半2週間に,WMに業務を合わせるという観点から提案された合計851人日の削減目標(前記(3)イ(ウ)①から⑧)のうち350人日を含め,合計799人日を削減し(前記(3)イ(エ)),後半2週間に更に約19%を削減している(同(オ))。そして,削減されなかったもののうち,直投(前記(3)イ(ウ)⑤)は,14口座であっても超富裕層向けなのであるから(前記(3)イ(エ)及び1(1)),廃止できないことには無理からぬところがあると言わざるを得ない。また,概要設計フェーズにおけるカスタマイズ量の増大は,被告が担当する周辺機能が中心で,テメノス社が担当するWMの本体機能に関する部分はわずかであったものが(前記(2)ア),概要設計最適化フェーズにおいて,逆に,WMの本体部分が増加したものであり,その原因について,A17は,テメノス社とのコミュニケーション不足又はテメノス社内部での詳細検討不足を挙げている(前記(3)イ(エ))。
以上の事情の下では,概要設計最適化フェーズにおいても,原告事業部が現行業務に固執してカスタマイズ量の削減を妨げたと認めることは困難である。かえって,以上の事情に加え,原告事業部の業務要件は,被告も社内分析したとおり(前記(3)エ①及び②),WMが前提とするグローバルスタンダードと多々相違する固有で複雑なものがあったと認められること(証人A11・11頁,32頁),テメノス社が,原告野村證券に対するコンサルティング業務も行うようになり(前記(3)イ(イ)),原告野村證券担当者と直接本格的な議論を行うようになった(前記(1)イ(ウ)及び3(2)ウ(ウ))概要設計最適化フェーズにおいて,WM本体部分のカスタマイズ量が増大しており,A11が,このうち業務要件自体の追加・変更で大きなものは,四半期リバランス,輪切り売却,法人顧客の売却制限及び契約イベント履歴(前記(3)イ(エ)①~⑮の合計681人日のうち⑧,⑨,⑩及び⑮の合計210人日)程度であると述べること(証人A11・67~68頁)などからすると,同フェーズにおけるWM本体部分のカスタマイズ量の増大は,要件の詳細化に伴い,それまで把握されていなかったギャップが把握されるに至ったことに大きな原因があったと推認するのが相当である。
なお,上記業務要件自体の追加とされるものの中で最大の増加(80人日)をもたらした四半期リバランスについては,当事者間に追加時期の争いがあり,被告は,概要設計フェーズになってから追加されたと主張するのに対し(被告準備書面24・4~9頁),原告らは,要件定義フェーズ段階から伝えており,業務要件としても,本件要件定義書の「業務要件」中「案件作成」の「余資乖離(Feeプール含む)」(甲74・39頁「案件作成」欄中「No.」欄8の8)に含まれていると主張する(原告ら準備書面22・13頁)。
原告らの上記主張は,上記「Feeプール」というのは,四半期リバランスの導入により,本件FWで四半期に1回行っていた顧客からの手数料徴収のための売買を止め,新たに手数料用の資金を乖離したものであることを根拠とする。そして,確かに,要件定義フェーズの途中段階の資料に挙げられている「フィー徴収時の売却」(乙176「No.」欄18)が,本件要件定義書(甲74)に見当たらないことからすると,手数料を売却ではなくフィープールから徴収することは,決定されていたことがうかがわれる。しかし,フィープールは,四半期リバランス以外にも必要なものである可能性も高い上(証人A11・50~51頁),本件要件定義書に四半期リバランスという用語はないから,少なくとも,四半期リバランスが要件定義フェーズにおいて明確に業務要件化されていたと認めることは困難である。もっとも,四半期リバランスによるカスタマイズ量の増大は,上記業務要件自体の追加とされるものの中で最大であるといっても,681人日のうち80人日にとどまるし,これが要件定義フェーズにおいて明確に業務要件化されなかった理由を明らかにするような証拠もないから,その追加時期は,カスタマイズ量の増大原因に関する上記判断を左右しない。
(5) 基本設計準備フェーズ(乙7)
概要設計最適化フェーズにおける要件定義の残作業は,平成23年8月以降の次のフェーズで行われることとなり(前記(3)ウ),同月中は,新たに追加された基本設計準備フェーズが行われた。基本設計準備フェーズの概要は,次のとおりである。
ア 基本設計準備フェーズの提案と本件個別契約9(甲1の9,乙7)
被告は,平成23年8月4日,「「SMA/ファンドラップ・システム基本設計準備」のご支援に関わるご提案」と題する資料(乙7)を用いて原告野村證券に対し,同月5~31日の期間に基本設計の準備に向けた作業を行う「基本設計準備フェーズ」を行うことを提案し,基本設計準備フェーズのため,本件個別契約9(甲1の9)が締結された。上記提案の概要は,次のとおりである。
(ア) 全体スケジュール
STARと連携した平成25年1月4日の稼働開始(前記(1)ア(ア),(3)ア(ア),1(2),2(1)ア,3(1)ア(ア)及び(3)ア(ア))に向けて,スケジュール6が提案された(乙7・10頁)。
同スケジュールは,平成24年12月までの期間が予定された点は,スケジュール1~5と同様であったが,新たに加えられた基本設計準備フェーズの1か月分,設計・開発フェーズを短縮したことにより,テストフェーズ以降の計画に変更はなく,設計・開発フェーズの完了時にテメノス社がプログラムを一括して被告に出荷した上で,受入れテストとしてサブシステム内連結テストを行い,総合テスト以降のテストフェーズを開始することが予定されていた。ただし,総合テスト以降のテストフェーズについては,一応,スケジュールは組まれているが,作業範囲と態勢は今後の調整とするとされていた(乙7・10頁)。
(イ) 開発態勢
本件2頭態勢の下,開発態勢整理表中⑤記載の開発態勢が提案された(乙7・11頁)。上記開発態勢は,基本的には概要設計最適化フェーズにおける態勢を踏襲しているが,アドバイザーとされていたA12及びA11はA19をチームリーダーとするWMの業務アプリチームに復帰している。
(ウ) 具体的な作業内容
上記提案では,同フェーズの期間である平成23年8月中に,①WMについては,同年7月までに検討した内容をストーリーボードに反映し,レビューを行うこと,②画面,帳票及び外部ツールなどの周辺機能については,これまでの概要設計を受けて,更に詳細な設計を進めることとし(乙7・3~4頁),別紙8の2「概要設計フェーズ整理表」記載のとおり,①WM,②帳票・外付け,③インターフェース,④移行計画,⑤基盤の5つの個別タスクに区分して,主な作業内容,主要作成物及び担当を整理している(同5~9頁)。上記①の作業に関し,上記提案書には,ストーリーボードのレビューを行うことにより,テメノス社が正しく要件を理解したことを確認し,ストーリーボードを確定することにより,WMで実現させる機能を確定させることが明記されている(同5頁,別紙8の4「基本設計準備フェーズ整理表」中「No.」欄1「作業内容」欄)。
イ 基本設計準備フェーズの実施
被告は,本件個別契約9に基づき,平成23年8月中,要件定義の残作業を行った。その概要は,次のとおりである。
(ア) 被告とテメノス社との契約
被告は,平成23年8月12日,本件個別契約9に基づく作業を行うために,テメノス社との間で契約(乙167の1・2。以下「本件個別契約9向け契約」という。)を締結した。本件個別契約9向け契約は,ストーリーボード及びスペックの意義を含めて,本件個別契約8向け契約とほぼ同内容とされた。
(イ) 具体的な作業
テメノス社が開発を担当するWMについては,平成23年8月2~24日にかけて,ストーリーボードの修正作業が順次開始され,レビューが行われた。被告とテメノス社との間での修正作業は,共有サーバ上にアップロードされたエクセルファイル(乙230)上に,被告がテメノス社に対する質問等を記載し,テメノス社の技術者が回答を記載し,メールのやり取りにより確認するという方法で行われたが,基本設計準備フェーズ期間中にサインオフに至ったストーリーボードは存在していなかった(乙154の11・12,ストーリーボード進捗表中「No.」欄1~16の各「8月」欄及び同欄記載の各証拠)。
被告が開発を担当する周辺機能についても,同月中,画面に関し,画面遷移図の確定作業,画面上のデータ項目の確定作業及びWM上のデータ項目との紐づけ作業が,帳票に関し,帳票上のデータ項目の確定作業,帳票の出力タイミングのドラフト作成及びWM上でいつまでにどのデータを用意するかの確定作業が,外付けに関し,WMとの間のインターフェース項目の確定作業が,それぞれ行われたが(甲15・24頁),画面や帳票については,データ項目の検討が続き(乙154の11・12),残作業が多くなっていた。
ウ 基本設計準備フェーズの報告(乙59,乙154の11・12)
被告は,平成23年8月30日,原告野村證券に対し,同月中の作業を報告するとともに,同年9月の作業予定を説明した。
基本設計準備フェーズの後には,設計・開発フェーズの開始が予定されていたが,上記報告では,WMのストーリーボードについて,同月5日に原告野村證券のレビューを完了する予定であったところが,同月9日にずれ込む見込みであること,帳票の定義及びロジックの定義についても,同月22日に終了する見込みであることが報告され,結局,設計・開発フェーズの開始前に予定された要件定義に関する作業が完了することはなかった。
被告の業務アプリチームリーダーであるA19は,ストーリーボードのレビューがずれ込んだ場合はどうなるのかを原告野村證券担当者から尋ねられ,テストの完了が遅れる可能性が出てくる旨を回答した。これを受けて,原告野村證券のプロジェクト責任者であるA10事業部長に,同月9日のストーリーボードの完成期日は厳守しなければならない旨,原告野村證券と被告が連携を取りながら取り組んでもらいたい旨を発言した(証人A11・21~22頁)。
(6) ストーリーボードの作成・修正作業の位置づけに関する争いについて
上記認定中,テメノス社によるストーリーボードの作成・修正作業の位置づけには当事者間に争いがあり,被告は,同作業は上流工程であって,基本設計準備フェーズにおいて要件定義の作業が終了したと主張するのに対し,原告らは,WMのカスタマイズ作業は上流工程・下流工程を明確に区分できず,両方が混在した状態であったため,ストーリーボードの作成・修正作業は随時継続されるべき基本設計の一部であったと主張する(前記前提事実(5)カ)。
そこで検討すると,確かに原告らが主張するように,本件開発業務においては,設計・開発フェーズの開始前にサインオフに至ったストーリーボードが存在せず(前記(5)イ(イ)及びウ),その後の設計・開発フェーズにおいてストーリーボードの修正が続けられ(後記5(3)及び(4)ア),上流工程と下流工程が混在していた。また,ストーリーボードは,被告とテメノス社との間の契約上は,それ自体で原告野村HDの要件を定めることを意図しない文書であったが(前記(1)イ(イ),(3)イ(イ)及び(5)イ(ア)),原告野村HDと被告との間の契約上は,それ自体が概要設計書の一部として利用され(証人A11・61~63頁),契約当事者間で位置づけが異なるものとされていた。こうしたことから,本件開発業務におけるストーリーボードの位置づけが曖昧となったことは否定し難い。
しかし,ストーリーボードは,テメノス社が,WMを導入するコンピュータ・システム開発において,①要件の理解を確かめる,②カスタマイズの内容を確認するという2つの目的でユーザからサインを取得すべきものとして作成される文書である(前記3(4)イ)。本件開発業務においても,ストーリーボードは,概要設計最適化フェーズ以降,概要設計書の確認作業に係る作成物として提案書に明記され(前記(3)ア(ウ),別紙8の3「最適化フェーズ整理表」中「主要な作成物」欄),基本設計準備フェーズでは,これによりテメノス社の要件の理解を確認するという目的も提案書に明記され(前記(5)ア(ウ),別紙8の4「基本設計準備フェーズ整理表」中「作業内容」欄及び「主要な作成物」欄),原告野村證券のレビューを受けることとされているのは(前記(5)ア(ウ)),上記趣旨を踏まえたものであることが明らかである。また,被告とテメノス社が概要設計フェーズのための本件個別契約5向け契約においてストーリーボードの作成を約していること(前記(1)イ(イ))や,本件開発業務に従事した者の証言(証人A4及び証人A5[証人A4・57~59頁の対質部分],証人A11・59~63頁)からも,ストーリーボードは,上流工程における文書であって,これによりテメノス社が要件を理解したことを確認するための重要な文書であったと認められる。
もっとも,被告担当者が,これをWM機能本体部分についての要件定義書に当たる概要設計書の一部であり,原告野村證券,被告及びテメノス社の3社間の文書であると理解していたのに対し(証人A11・61~62頁),原告事業部担当者は,ストーリーボードがテメノス社の要件把握を確認するための重要な文書であることが被告の提案書に明記されているのに,被告担当者からその明確な位置づけの説明がなかったなどとして,被告とテメノス社との間の文書であって,口頭でサインオフをすれば足りる,さほど重要でない文書と理解し,被告が平成23年6月頃から情報提供をしていたストーリーボードの案(前記(3)ア(ウ),イ(ウ)及びウ)の検討を本格的に進めておらず,A4事業部課長が本格的な検討を始めたのは,同年8月末に提供を受けた案が初めてであった(証人A4・8~10頁,35~38頁,証人A6・30~31頁)。
5 設計・開発フェーズにおける遅延の発生(本件局面7~12)
本件開発業務は,カスタマイズ量の著しい増大の中,設計・開発フェーズ開始までに予定された要件定義に関する作業が完了しないまま(前記4(5)イ(イ)及びウ),平成23年9月に設計・開発フェーズが開始されたが(後記(1)),設計・開発フェーズにおいて,当初予定されたスケジュール7から度重なる出荷遅延が発生し(後記(2)~(6)),全体スケジュールがスケジュール12まで変更されて,WMのプログラムは,スケジュール7で予定された平成24年2月・4月から遅れて同年6月・7月になって被告に出荷された(後記(7))。この間,別紙3「工程変更表」中「主要な出来事」欄記載の主要な出来事があり,経過は次のとおりである。
(1) 設計・開発フェーズ開始時におけるスケジュール7の採用とその難航(本件局面7)
設計・開発フェーズの開始時に予定された全体スケジュールは,平成23年9月2日の被告の提案で予定されたスケジュール7であったが(後記ア),スケジュール7は,その後,ストーリーボードのサインオフ期限である同月9日のサインオフが遅延し(後記イ),その後も同年11月29日までスケジュールが遅延して(後記ウ),同日,スケジュール8に変更されるに至った(後記(2)ア)。その経過は,次のとおりである。
ア 設計・開発フェーズの提案と本件個別契約13(甲1の12,甲15)
被告は,平成23年9月2日,「SMA/ファンドラップ・システムシステム構築プロジェクト「基本設計~サブシステム内連結テスト」に関わるご提案」と題する資料(甲15)を用いて原告野村證券に対し,同月5~31日の期間に,基本設計(同年8月の基本設計準備フェーズにおいて行われた部分を除く。甲15・24頁),開発及びサブシステム内連結テストを行うことを提案した。上記提案の概要は,次の(ア)~(ウ)のとおりであり,これを受けて,設計・開発フェーズのため,次の(エ)のとおり,本件個別契約13が締結された。
(ア) 全体スケジュール
STARと連携した平成25年1月4日の稼働開始(前記1(2),2(1)ア,3(1)ア及び4(1)ア(ア),(3)ア(ア)及び(5)ア(ア))に向けて,スケジュール7が提案された(甲15・19頁)。
同スケジュールは,平成24年12月までの開発期間が予定された点は,スケジュール1~6と同様であったが,同スケジュールは,WMが通常想定しているストーリーボードの確定から6か月という開発期間より1か月短く(甲15・19頁),プログラムの出荷が,それまでの一括出荷から,分割出荷に変更された。具体的には,①一部を除く外部インターフェース機能のプログラムについては「ドロップ1」として同年1月からのサブシステム関連結テストに間に合うように出荷し,②WM機能全般のプログラムは,「ドロップ2」として同年4月からのリテールITプロジェクトとの総合テストに間に合うように出荷することとされ,STARとの総合テストへの影響の少ない直投とクライアントポータルの部分は,更に出荷時期をずらすことが提案された。
なお,上記スケジュールは,平成23年9月9日までにストーリーボードのサインオフが完了するという前提のものであり,サインオフが遅れる場合にはスケジュールは変更になることが注記されていた(甲15・5頁)。
(イ) 開発態勢(甲15・25~27頁)
本件2頭態勢の下,開発態勢整理表⑥記載のとおり,おおむね基本設計準備フェーズの開発態勢を維持する態勢が提案された。また,担当者間のコミュニケーションを図るため,次の各会議体を設けることが提案された。
① ステアリングコミッティーミーティング(隔月)
プロジェクトの進捗状況報告及び課題に対する意思決定を目的として,原告野村證券からは全体責任者のA14執行役及びA15経営役,プロジェクト責任者のA10事業部長,A8戦略部長及びA9戦略部課長,重要プロジェクトマネジャのA20次長が,被告からは全体責任者のA16常務及びプロジェクト責任者のA17が,それぞれ参加する。
② プロジェクトミーティング(各月)
プロジェクトチームの進捗共有・課題解決及び他プロジェクトへのリクエストを目的として,原告野村證券からはA10事業部長,A8戦略部長,A9戦略部課長及びA20次長が,被告からはA17が,それぞれ参加する。
③ チームミーティング(各週)
プロジェクトチーム内の進捗・課題解決及び他プロジェクトチームへのリクエストを目的として,原告野村證券からはチームリーダーであるA4事業部課長,A6戦略部課長ほかが,被告側はチームリーダーであるA19ほかが,それぞれ参加する。
(ウ) 具体的な作業内容
上記提案では,WMの導入目的を,①大量口座への対応,②タイムリーな資産配分モデル反映によるサービスレベルの向上,③営業担当者の操作性と位置づけ(甲15・3頁),当初,強調されたような低コスト・短期間での導入や最低限のカスタマイズでの導入(前記1(3)柱書,2(1)イ及び3(3)イ)などはうたわれていない。また,上記提案は,別紙8の5「基本設計~サブシステム内連結テストフェーズ整理表」記載のとおり,基本設計からサブシステム内連結テストまでの作業項目と役割分担,成果物及び提出物を整理しており(同23頁),その設計・開発の範囲は,次の①~⑤の合計3600人日とされた。ただし,次の①のうち出荷時期を更にずらす提案がされていた直投とクライアントポータル(前記(ア))は別途提案とされていた。
① WM(ストーリーボード16本) 1000人日
② 帳票 500人日
③ ワークフロー・外付け 合計500人日
④ インターフェース 1000人日
⑤ 移行 600人日
上記設計・開発の範囲は,増大したカスタマイズ量を前提に,被告がテメノス社の見積もりを確認するなどして,システム開発における一般的手法を用いて算定されたものであり(乙170の1・2,乙207,乙222~乙228,証人A11・12~13頁),他の案件が発生した場合や想定される工数を大きく上回る変更が発生した場合は別途相談とされていた。また,上記①のWMは,テメノス社が16本のストーリーボードに基づいて開発することとされる一方,②~⑤は被告の担当とされ,同②の帳票はCognos(WM付属のレポート作成ツール。前記3(3)イ),同③のワークフローはAppway(WMに標準装備されているソフトウェア。証人A11・66頁)を用いて開発することとされた。
(エ) 設計・開発フェーズのための本件個別契約13の締結(甲1の12)
上記提案を受け,原告野村HDと被告は,下流工程の設計・開発フェーズのため,対価を8億0800万円(消費税別)として,本件個別契約13を締結するとともに,ハードウェアの購入等のため,本件個別契約10~12を締結した。
もともと原告戦略部は,WMの導入決定の際,大規模なカスタマイズがなく,各タスクの期間を長く設定し,クリティカルな影響を最小限にするなどの本件要件定義書(前記3(3)ア,イ及びエ)を前提に,低コストかつ短期間で構築できることをメリットとして重視し,本邦での稼働実績がないことに伴うリスクを受容していた(前記3(4)ウ)。これに対し,下流工程に入る本件個別契約13締結当時は,カスタマイズ量の著しい増大により,開発期間がWMが通常想定するより逆に1か月短く,プログラムが分割出荷とされるような状況となっており,低コストや短期間での導入は目的から外されていた(前記(ア)及び(ウ))。また,原告野村證券担当者に,カスタマイズ量が増大した経緯から,被告のWMの理解度に疑問を覚えていた。しかし,原告らが,本件個別契約13を締結するに当たり,特段の再検討や被告に対する要望等を行った気配は見当たらない(証人A6・58~59頁)。
逆に,原告事業部では,8億0800万円という本件個別契約13の対価はさほど高額ではなく,ストーリーボードのサインオフ期限である平成23年9月9日についても,ストーリーボードはさほど重要でないとの認識の下で,同年6月頃から情報提供を受けていたストーリーボード案の検討を本格的に進めておらず(前記4(6)),同年8月末に受領したストーリーボード案について初めて本格的な検討を始め,10日の検討期間は不十分と考えながら,口頭であれば間に合うであろうという程度の見通しで,設計・開発フェーズを開始したものであった(証人A4・10~11頁,38~41頁,66~68頁)。なお,同年6月以降,ストーリーボードの情報提供をしてきた被告担当者は,ストーリーボードの確認にそれほど負担があるとは考えておらず,同年9月9日までのサインオフは可能であると考えていた(証人A11・22頁)。
イ 平成23年9月9日のストーリーボードのサインオフ期限の徒過(後掲各証拠のほか甲162,乙154の12・13)
被告は,本件個別契約13に基づき,WMの16本のストーリーボードについて,原告事業部及びテメノス社の各担当者とやり取りをし,業務要件の確定作業とストーリーボードの作成・修正作業を同時並行で進めた。平成23年9月2日にはストーリーボード16本全部につき,テメノス社のドラフトが完成し,被告のレビューが開始されるとともに,原告野村證券のレビューも開始された。しかし,サインオフ期限である同月9日までに原告野村證券のサインオフに至ったストーリーボードは存在せず,被告のレビューが終了したストーリーボードも2本にとどまった。
被告のプロジェクトマネジャであるA17及びWMを担当する業務アプリチームリーダーであるA19は,同日,原告野村證券のA10事業部長,A4事業部課長及びA9戦略部課長等との間で,ストーリーボードのサインオフに関するミーティングを行った。同ミーティングにおいて,被告側は,同日中にサインオフをしないとテメノス社の手が空いてしまうとして,同日中にサインオフできるストーリーボードがあれば,それだけでも進められるよう特定を求めた。原告野村證券側は,1日に複数のバージョンのストーリーボードが行き来している状況であるため,特定ができないとして署名を拒否した。協議の結果,その後の進め方として,署名によらず,どのバージョンのストーリーボードに対してどの点が不十分となっているかをリスト化し,確認日を設ける形で対応することとされ,サインオフは,不十分な点を留保しつつ次のフェーズに進めることを了解するという条件付きの承認に意味内容が変更され(乙154の13・3頁),同日,被告がレビューを終えた上記2本のサインオフが終了した(ストーリーボード進捗表中「No.」欄1及び6の各「9/9」欄)。なお,被告から原告事業部に交付されたストーリーボードは英文であったところ,原告事業部担当者には英語を解する者がほとんどおらず,原告野村證券担当者からは,今日の今日でこんな話になること自体が非常識であるとの不満や被告の進め方に対する不安が示された。また,被告は,テメノス社に対し,サインオフが完了し,他のストーリーボードと依存関係のないストーリーボードから,スペックの作成作業を進めるよう指示をした。(甲98,証人A4・8~11頁,証人A11・22~24頁,59~60頁,73~74頁)
なお,この間の同月6日頃,概要設計フェーズ当時から本件開発業務に携わってきたA13が,プロジェクトメンバーから外れる予定であることが,被告担当者から原告野村證券担当者に告げられた。被告は,その理由としてA13の能力を挙げたが,原告野村證券側からは引継ぎに不安が示された。もっとも,A13は,概要設計最適化フェーズの頃には,既にアドバイザーであり,基本設計準備フェーズの頃には既に態勢図に氏名がない(開発態勢整理表④及び⑤)。(甲75,甲76)
ウ その後の遅延状況
本件開発業務は,その後も作業が遅延して,平成23年11月29日のステアリングコミッティーミーティングにおけるスケジュール7からスケジュール8への変更(後記(2)ア)に至ったが,この間の経緯は,次のとおりである(後掲各証拠のほか,ストーリーボード推移表中「9月」欄,「10月」欄及び「11月」欄の記載及び同各欄記載の各証拠)。
(ア) 平成23年9月27日のミーティングまで(後掲各証拠のほか乙8,乙146の1・2,乙154の14)
WMのストーリーボード16本のうち,3本を除く13本は,平成23年9月20日までに原告野村證券のサインオフが終了した。遅延した3本は,①四半期リバランスの検討(乙180)と契約更新プロセスの業務要件の検討(乙185)が長引いたため遅延したコントラクトメンテナンスサポート(ストーリーボード進捗表中「No.」欄5),②新帳票への対応を継続したため遅延したレポート&ビューサポート(同「No.」欄16),③ドロップ2以降の対応とされていたクライアントポータル(同「No.」欄14。前記(1)ア)であった(以下「本件遅延3本」と総称する。)。このうち,①及び②は,被告のレビューの結果,なお修正作業が必要とされ,③のクライアントポータルは,業務要件に確定しない点があったため,被告のレビューに至っておらず,同年10月末に完了する方向で調整がされた(乙154の15)。
WM以外のもの(前記ア(ウ)の②帳票,③ワークフロー・外付け,④インターフェース及び⑤移行)についても,それぞれ予定された進捗がみられず,特に,③のワークフローについては,開発に用いるAppway(前記ア(ウ))関連の課題が浮上していた。
上記進捗状況を踏まえ,同年9月27日,同年10月以降における作業の進め方についてのミーティングが行われた。同ミーティングでは,WMについては,同月7日までに,被告のレビューが未了の上記クライアントポータルに係る業務要件を確定した上,同月14日までに本件遅延3本のサインオフを完了することが確認された。併せて,同年12月29日までにWMのシステム設定に必要な要件の設定を終了することや,帳票・外付けについては,同年10月7日までに要件を確定し,同月30日までに設計を終了し,同年12月29日までに開発を終了し,移行についても,同日までに移行ツールの設計を終了することも確認された。
(イ) 平成23年10月14日の第2回課題共有ボードミーティングまで(甲16,乙89,乙126,乙147,乙153の1,乙154の15・16)
平成23年10月14日,第2回課題共有ボードミーティングが行われた。
同日は,WMに係る本件遅延3本のサインオフ予定日(前記(ア))であったが,同日時点でサインオフには至っておらず,WM以外の設計・開発作業にも引き続き遅延が生じていた。また,引き続きワークフローの開発に用いるAppway(前記ア(ウ))関連の課題(前記(ア))が把握されていた。
同ミーティングでは,スケジュール7で予定されたドロップ1・2の分割出荷(前記(1)ア(ア))について,翌夏と翌秋を加えた4回の分割出荷にできないかとのテメノス社の意向が報告された(甲16)。原告野村證券担当者は,同社の温度感や士気についての懸念を示し,折から同月にA15経営役がテメノス社を訪問する機会があったことから,これを起爆剤とするために,具体的に確認すべき事項がリストアップされることとなった(甲16)。
また,同ミーティングでは,帳票について,同一の円グラフに3時始まりと12時始まりのものが混在しており,3時始まりのグラフは本邦では不自然であることが指摘された。帳票は,Cognosを用いて開発されることとされており(前記ア(ウ)),被告は,最新版のCognosで対応可能であると説明したが,テメノス社担当者は,同月中に導入が予定されていたWMの更新版では最新版のCognosを導入する予定がないことが表明され,原告野村證券担当者から批判を受けた。
(ウ) 平成23年10月20日の第3回課題共有ボードミーティングまで(甲100,甲105,乙154の17)
平成23年10月20日,第3回課題共有ボードミーティングが行われた。
WMに係る本件遅延3本のうち,①四半期リバランスの検討と契約更新プロセスの業務要件の検討が長引いたため遅延したコントラクトメンテナンスサポート(ストーリーボード進捗表中「No.」欄5)については,前日の同月19日に原告野村證券から条件付きのサインオフが得られていたが,新帳票への対応を継続したため遅延した②レポート&ビューサポート,及び,③ドロップ2以降の対応とされていたクライアントポータル(ストーリーボード進捗表中「No.」欄16及び14)の2本(以下「本件遅延2本」と総称する。)は,サインオフには至っておらず,WM以外の設計・開発作業にも引き続き遅延が生じていた。また,引き続きワークフローの開発に用いるAppway(前記ア(ウ))関連の課題(前記(ア)及び(イ))が把握されていた。
同ミーティングでは,原告野村證券が同年9月12日に条件付きでサインオフしたコーポレートアクションプロセスフロー(ストーリーボード進捗表中「No.」欄8)のストーリーボードについて,テメノス社が出荷したバージョンに原告野村證券と被告が検討した内容を反映してバージョンアップをしたところ,これと並行して,テメノス社内部で行った検討点が混在したバージョンが同月5日に出荷され,要件の認識に関する多くの齟齬が指摘されたことが報告された。原告野村證券からは,サインオフしたストーリーボードについて違うものを作成されると困るという苦情が寄せられ,再発防止策として,テメノス社は,自らストーリーボードを修正しないこととされ,上記更新をいったん取り消し,必要な修正点を被告とテメノス社が確認の上,ストーリーボードに反映することとされた。
なお,同ミーティングでは,第2回課題共有ボードミーティングで計画されたA15経営役のテメノス社訪問(前記(イ))に関し,本件開発業務の位置づけを確認するほか,原告野村證券のプロジェクトマネジャをテメノス社に派遣すること,月次で原告野村證券,被告及びテメノス社の3社での電話会議を実施することなどが合意され,第2回課題共有ボードミーティングで提起された円グラフの問題(前記(イ))について,Cognosの最新版を導入する旨の提案がされた。
(エ) 平成23年10月27日の第4回課題共有ボードミーティングまで(乙60の1・2)
平成23年10月27日,第4回課題共有ボードミーティングが行われた。
同ミーティングでは,WMに係る本件遅延2本のうち,新帳票への対応を継続したため遅延したレポート&ビューサポート(ストーリーボード進捗表中「No.」欄16)については,原告野村證券のレビューを同月28日までに確認する予定であるが,ドロップ2以降の対応とされていたクライアントポータル(同「No.」欄14)については,なお残作業が残るほか,同時点において見積もり工数が30人日から105人日へと3倍に増加していることが報告された。併せて,第3回課題共有ボードミーティングにおいて必要な修正点を反映させることとしたコーポレートアクションプロセスフローのストーリーボード(同「No.」欄8,前記(ウ))について,2か所の調整が必要であることが報告された。なお,WM以外の設計・開発作業にも引き続き遅延が生じていたほか,引き続きワークフローの開発に用いるAppway(前記ア(ウ))関連の課題(前記(ア)~(ウ))が把握されていた。
なお,同ミーティングでは,第2回課題共有ボードミーティング以降計画されてきたA15経営役のテメノス社訪問(前記(イ)及び(ウ))が同年10月24~25日に行われたこと,原告野村證券,被告及びテメノス社の3社でステアリングコミッティーミーティングを立ち上げることが確認された。
(オ) 平成23年11月4日の第5回課題共有ボードミーティングまで(甲29,乙153の2)
平成23年11月4日,第5回課題共有ボードミーティングが行われた。
WMに係る本件遅延2本のうち,新帳票への対応を継続したため遅延したレポート&ビューサポート(ストーリーボード進捗表中「No.」欄16)については,原告野村證券のレビューを同年10月28日までに確認する予定であったが(前記(エ)),同ミーティング時点において本件遅延2本のサインオフは未了であることが報告され,全てのストーリーボードを同年11月11日までに確定させる方針が確認された。また,WM以外の設計・開発作業も検討が続けられたが(甲112,乙90,乙120等),引き続き遅延が生じていたほか,継続的に課題が把握されてきたAppway(前記(ア)~(エ))について,原告事業部では,同一画面に複数が同時にアクセスするところ,Appwayにはそのようなワークフローの想定がなく,ワークフローの開発(前記ア(ウ))に機能が不足することが報告された(証人A11・55~66頁)。
また,同ミーティングでは,同年10月24~25日のA15経営役のテメノス社訪問(前記(エ))の際の印象として,開発チームとサービスチームの相互間のチェックがあまり機能していないことが報告された。
また,同ミーティングにおいて,概要設計最適化フェーズ以降,A13に代わってWMの業務アプリチームのリーダーを務めてきたA19がA21に変更になることが報告され,原告野村證券から不安が表明された。
(カ) 平成23年11月11日の第6回課題共有ボードミーティングまで(後掲各証拠のほか甲96)
平成23年11月11日,第6回課題共有ボードミーティングが行われた。
同日は,WMに係る本件遅延2本の確定予定日(前記(オ))であり,同ミーティングでは,クライアントポータル(ストーリーボード進捗表中「No.」欄14)を除く15本については同日中に確定するが,ドロップ2以降の対応とされていたクライアントポータルは,遅れて同月22日までに確定することが確認された。また,WM以外の設計・開発作業にも引き続き遅延が生じていた。
同ミーティングにおいて,フィー(ストーリーボード進捗表中「No.」欄9~11)について,計算対処金額算出処理機能を,WMからフィー計算システムに変更して追加開発をすることが確認された(甲96・12頁)。上記変更は,原告野村證券のフィー計算式が,営業活動の開始当初からギャップが指摘されていたように(前記1(3)ウ),WMが前提とするグローバルスタンダードのフィー計算式とは異なっており,原告野村證券とのストーリーボードレビューの中で,WMとフィー計算システムの役割を明確に分けた方が障害発生時の切り分けなどが容易にでき,システム開発としてもシンプルであることから,フィー計算は計算処理に,WMはデータ送信に,それぞれ特化させることとしたものであり,当時,WMの開発を担当する業務アプリチームと,周辺機能を担当するインターフェース・移行チームとの間で検討した結果,WMとしてはインターフェース項目の微増対応,開発チームでは,数行のステップ追加(プログラム)で対応できると考えて,決定されたものであった(乙218,証人A11・57頁,64~65頁)。
同ミーティングでは,これまでの開発状況を踏まえ,同月29日にステアリングコミッティーミーティングを開催し,①テメノス社の態勢,②WMの出荷スケジュール,③WMの改修要件の品質管理,④質疑に対する24時間以内の応答態勢,⑤リリース後の維持管理態勢を検討することが合意された。
(キ) 平成23年11月21日の第7回課題共有ボードミーティングまで(後掲各証拠のほか甲101,乙154の18)
平成23年11月21日,第7回課題共有ボードミーティングが行われた。
同日は,全てのストーリーボードの確定期限(前記(カ))の前日であり,サインオフ未了の最後のストーリーボードであるクライアントポータル(ストーリーボード進捗表中「No.」欄14)についても,同日までに原告野村證券のレビューが終了したが,テメノス社がスペックの作成に注力し,ストーリーボードの更新作業の優先度が低い状況が発生しており,現在協議中であることが報告された。併せて,モデル&リバランスのストーリーボード(ストーリーボード進捗整理表中「No.」欄3)についても,変更点が生じてテメノス社が修正中であるが,同様に作業優先度が低い状況であること等が報告された。なお,上記モデル&リバランシングの変更点(甲101・3頁)は,いずれも,サインオフ当時のストーリーボードには記載されておらず,テメノス社の見積もりでは20人日を要した(乙208)。
(2) 平成23年11月29日のステアリングコミッティーミーティングにおけるスケジュール8の採用とその遅延(本件局面8)
平成23年11月29日,ステアリングコミッティーミーティングが行われ,本件開発業務のこれまでの状況を踏まえ,全体スケジュールについて大規模な見直しが行われ,スケジュール7がスケジュール8に変更されるとともに,開発態勢についても,大規模な見直しが行われ(後記ア),同年12月5日には,ストーリーボードのサインオフも完了した(後記イ)が,フィーを中心として,その後も開発作業は難航した(後記ウ)。その経過は,次のとおりである。
ア ステアリングコミッティーミーティングにおけるスケジュール8への変更
平成23年11月29日のステアリングコミッティーミーティングにおけるスケジュール7からスケジュール8へのスケジュール変更は,WMの出荷開始時期をスケジュール7より更に1か月先送りした上で,平成24年3月・6月・9月の3回に分割して出荷するという大規模な見直しであり,開発態勢の見直しも大規模なものであった。その概要は,次のとおりである。
(ア) 全体スケジュール
まず,WMのプログラムのうち,ドロップ2とされていた管理機能の日本語化を分けて平成24年9月30日に出荷することとされた(ドロップ3)。また,ドロップ1及びドロップ2については,テストフェーズとの関係を考慮して,次のとおり出荷することが改めて合意された(甲17・10頁)。
① ドロップ1
サブシステム間連結テストに必要な機能の部分であり,要件定義に時間を要したため,開発期間を短縮し,平成23年11月9日から次のとおり約5か月で開発することとされた。なお,工数は,契約時の1010人日からドロップ2に70人日を持ち越した940人日とされた。
平成23年12月16日 スペック提示
平成24年2月3日 単体テスト完了
3月9日 被告に対するプログラム出荷
30日 サブシステム内連結テスト完了(被告が開発する周辺機能も同じ。)
開発期間の短縮に伴い,テスト期間及び品質への影響がリスクとして懸念され,対応策として,テメノス社に依頼して原告野村證券の環境を整備し,テメノス社と被告の共同テストを実施することとし,①平成24年1月中旬~同年2月末までは,トロントのテメノス社において,WMと周辺機能の結合テストを共同で実施し,②同年1~3月のサブシステム内連結テストは,トロント及び東京で対応し,③同月12日から原告野村證券の環境でテストを実施できるよう,環境を整備することが確認された。
② ドロップ2
クライアントポータルを含むWMの残機能部分であり,平成24年3月6日から次のとおり約4か月で開発することとされた。なお,工数は,①クライアントポータルが180人日,②リスクとリターンの算出が52人日,③タックスプール,バックテストが52人日,④発注が40人日とされ,工数の最適化を継続して検討することとされた。
平成24年4月15日 スペック提示
5月11日 単体テスト完了
6月15日 被告へのプログラム出荷
30日 サブシステム内連結テスト完了
平成24年6月15日という出荷時期は,同月30日というテメノス社の提案を前倒ししたものであり,テメノス社担当者は,前倒しのネックとして,開発者が12~14人で,本来はテストに3か月の期間をかけるところ,今回は非常に短い上に,ドロップ1にも4~5人をとられるため,人員が不足することを挙げていた。スケジュール変更による総合テスト,運用テスト及び営業向け研修への影響がリスクとして懸念され,対応策として,テメノス社に対し,設計・開発要員の補充が要請されるとともに,総合テストへの影響の少ないものをドロップ3に持ち越し,同年5月末での出荷を可能にする優先順位を付けることとされた。
(イ) 開発態勢
開発態勢については,ガバナンスを含めた態勢強化が行われ,開発態勢整理表⑦の1~3のとおり,テメノス社を含めた態勢が合意された(甲17・3~7頁,甲152)。
最上位のプロジェクト責任者には,原告野村證券はA14執行役とA15経営役が,被告はA16常務が,テメノス社はA22が就き,その下に新たにプロジェクト主管部を設けて,原告野村證券はA8戦略部長が,被告はA17が,テメノス社はA23が就き,その下に,プロジェクトマネジャとして,原告野村證券はA9戦略部課長が,被告はA24が,テメノス社はA25が就き,原告野村證券ではA20次長がプロジェクトマネジャを補佐することとなり,その下に,原告野村證券,被告及びテメノス社の各担当者から構成される「業務チーム」及び「ITチーム」を置き,これとは別に「テスト推進チーム」が置かれることとなり,そのリーダーはA26とされた。なお,テメノス社のA22は,WMを当初開発した会社のメンバーであった者であった。また,A20次長は,平成23年10月頃,A15経営役やA8戦略部長から依頼され,遅延が明らかになってきた本件開発業務の立て直しのために本格的に関与することとなったものであった(証人A20・2頁)。
進捗管理のためには,次のプロジェクト横断的な会議体を置くことが合意された(甲17・8頁)。
① 課題共有ボードミーティング(各週)
課題を共有し,対策を検討すること,他プロジェクトへの依頼事項を確認し,結果を共有すること,プロジェクト全体に関わる方針を打ち出すことを討議内容とし,原告野村證券のA10事業部長,A4事業部課長,A9戦略部課長及びA20次長,テメノス社のA25,被告のA17,A24及びA21等が参加する。
② ステアリングコミッティーミーティング(各月)
プロジェクト内部で解決できない課題に対し,3社マネジメントレベルでの討議を行い方針を決定すること,リテールITプロジェクト全体との摺り合わせ,3者間での課題を持ち寄り検討することを討議内容とし,原告野村證券のA15経営役,A8戦略部長,テメノス社のA22,A27,被告のA16常務,A17等が参加する。
(ウ) その他
なお,設計・開発フェーズ開始当時,WMの導入決定の際に重視された低コストかつ短期間という前提は失われていたが,操作性の良さはなお維持されていた(前記(1)ア(ウ)③)。しかし,同ミーティングでは,本件開発業務の課題のうち影響度が大きい課題として,同一画面に複数名がアクセスできない点(前記(1)ウ(オ)),WMの内部データを自由に加工できない点,資産設計とWMの連携の3点について,WMを使う意味がなくなるほどの重要性があるとされ,平成23年12月9日までに被告がテメノス社と連携して対応策を提示することとされた。また,原告野村證券からは,同ミーティングの場で,最後までサインオフが残ったクライアントポータル(前記(1)ウ(カ)及び(キ))について,言っていることは変わっていないので,要件をきちんと引き出して欲しいとの要望がされた。
イ 平成23年12月5日のストーリーボードのサインオフ完了(乙75)
サインオフ未了の最後のストーリーボードであるクライアントポータルについては,平成23年11月21日までに終了した原告野村證券のレビューを踏まえ,テメノス社において修正中であったが(前記(1)ウ(キ)),同年12月5日,3点を留保する条件付きで,原告野村證券のサインオフが終了し(乙75・6頁),16本のストーリーボード全てのサインオフが完了した。また,サインオフ後の修正が長引いていたモデル&リバランシングのストーリーボード(前記(1)ウ(キ))の修正も,同月中には終了し,その後の開発の前提となるストーリーボードが確定した。
ウ その後の開発作業の難航状況
本件関発業務は,ストーリーボードの確定後も難航し,平成24年2月16日の第17回課題共有ボードミーティングにおけるスケジュール8からスケジュール9への変更(後記(3)ア)に至ったが,この間の経緯は,次のとおりである。
(ア) 平成23年12月中の状況(甲18,甲22,甲164,乙75,乙140,乙153の3・4,乙154の19)
平成23年12月中には,1日に第8回,8日に第9回,15日に第10回,28日に第11回の各課題共有ボードミーティングが行われ,本件開発業務の全体的な進捗状況や主要な課題,同時点における変更点等が確認され,この間,22日には第2回ステアリングコミッティーミーティングも行われた。
同年11月29日のスケジュール8への変更後,WMのドロップ1の開発作業は,同年12月16日がスペックの提示期限,平成24年2月3日が単体テストの完了期限,同年3月9日が被告への出荷期限とされていた(前記ア(ア)①)。しかし,平成23年12月28日の第11回課題共有ボードミーティングの時点で,3日遅れの状況にあり,スペックは目標100%に対して98%,プログラミングは目標60%に対して58%の達成状況にあることが報告された。
Appwayの機能不足の問題(前記ア(ウ)及び(1)ウ(オ))については,同月1日の第8回課題共有ボードミーティングで,WMとの組合せで実現できる方式を検討することとされたが,同月22日の第2回ステアリングコミッティーミーティングでは,外付けでワークフローを開発することが同月12日に合意されたことが確認され,同年10月28日の第11回課題共有ボードミーティングでは,これを踏まえて作業全般が見直されることとなった。上記外付け開発には,設計・開発フェーズの開始当初,ワークフロー・外付け開発全体について予定された500人日(前記(1)ア(ウ)③)を上回る780人日を要することが見込まれていた。
なお,同月15日の第10回課題共有ボードミーティングにおいて,テメノス社の営業担当者として本件開発業務に関与していたA28が本件開発業務から離れることが明らかにされ,同月22日の第2回ステアリングコミッティーミーティングでは,後任者がA29であり,日本側の態勢強化として2名を増員することが報告された。これに対し,被告のA16常務は,テメノス社の日本側の要員は被告とのインターフェースの役割を果たしているので,簡単に交代するのではなく,継続が重要であるとの意見を述べた。
(イ) 平成24年1月中の開発作業の状況(後掲各証拠のほか甲23,甲97,甲106,甲107,乙153の5~7,乙154の20)
平成24年1月中には,5日に第12回,12日に第13回,26日に第14回の各課題共有ボードミーティングが行われ,本件開発業務の全体的な進捗状況や主要な課題,同時点における変更点等が確認され,上記第14回と同日の26日には第3回ステアリングコミッティーミーティングも行われた。
平成23年11月29日のスケジュール8への変更後,WMのドロップ1の開発作業は,同年12月16日がスペックの提示期限,平成24年2月3日が単体テストの完了期限,同年3月9日が被告への出荷期限とされていたところ(前記ア(ア)①),同年1月5日の第12回課題共有ボードミーティングの時点で,前月の3日遅れ(前記(ア))から更に2日遅れて5日遅れの状況にあり,スペックは目標100%に対して99%の達成状況にあるものの,年末から年始にかけてのテメノス社のスペック担当者とプログラム担当者の棚卸しの結果,食違いが見つかって手戻りが生じ,また,ストーリーボードに記載し切れていない詳細部分が出てきたため,上記スケジュールの下で同年1月末に予定されていたプログラムの完成を,同年3月9日の出荷期限に向けた限界期限である同年2月9日に変更することが報告された。
同年1月12日の第13回課題共有ボードミーティングでは,上記限界期限までにドロップ1のプログラムを完成させるため,テメノス社では,土日を返上し,他のプロジェクトから人員を投入するなど打てる手は全て打っているが,出荷時の品質管理のためのテストがぎりぎり間に合うかという状況にあることが報告された。テメノス社のプロジェクトマネジャであるA25は,遅延の要因として,ストーリーボードからスペックに落とすところの深さが弱かった点を挙げ,テメノス社が詳細部分を被告に確認しているが,フィーの部分が全体の足を引っ張っていると説明した。被告の業務チームリーダーであるA21は,フィーの部分をドロップ2の対応とする方向性を提案したが,A10事業部長から同部分は同月に出荷される必要があるとして反対され,検討する旨を述べた。
上記フィーの部分については,同月26日の第14回課題共有ボードミーティングでも,予定より6日遅れの状況にあり,ドロップ1の出荷が1~3週間遅れる見込みであることが報告された。また,同日の第3回ステアリングコミッティーミーティングでは,フィーの要件確定が遅れたために開発に遅延が発生し,同年3月9日の出荷に間に合わないこととなり,フィーの部分を更に分割し,段階的に出荷する方向性が確認された。なお,同ミーティングでは,WM以外の設計・開発作業のうち,インターフェースについても,STAR側の仕様を反映するのに4週間の遅延が生じており,被告担当者がトロントのテメノス社に赴き,共同でキャッチアップ作業を行っていることが報告された。
同ミーティングでは,スケジュール8で完了期限が同年2月3日とされていた単体テスト(前記ア(ア)①)について,同年1月の作業により進捗率が99%であり,同月18日からはWMと周辺機能との結合テストも開始しており,同年2月9日から原告野村證券との間で合意した完了基準の下でテストを行い,同月23日に完了判断を行うことが提案された。
また,テストに関する課題として,ストーリーボードの更新内容がテストケースに反映されていないことが指摘され,当初の分析では,頻繁なストーリーボードの更新が反映されていないとも考えられたが,検討の結果,一部のテストケースが作成中であったことが判明し,同月9日のテスト開始までにはテストケースの作成を完了する予定であることが報告された。原告野村證券担当者は,ストーリーボードの内容が100%スペックとテストケースに反映されていることを確認して進めることを要望し,テメノス社担当者は,確認方法と確認結果を報告することを了承した。また,被告担当者は,被告がテストケースを見るのが,テスト開始の同日では遅すぎるので,出来たところから提供するよう要望し,テメノス社担当者は,これを了承した。
被告は,原告野村證券のレビューによる修正を経て,テストの開始基準及び完了基準等を規定する単体テスト計画書(乙122)及びサブシステム内連結テスト計画書(乙91)を,同年1月31日付けで作成した。
(ウ) 平成24年2月前半の開発作業の状況(甲24,甲108及び乙153の8・9)
平成24年2月前半には,2日に第15回,9日に第16回の各課題共有ボードミーティングが行われ,本件開発業務の全体的な進捗状況や主要な課題,同時点における変更点等が確認され,上記第16回と同日の9日には臨時ステアリングコミッティーミーティングも行われた。
難航していたWMのドロップ1のフィーの部分のプログラムについては,同月2日の第15回課題共有ボードミーティングにおいて,分割し,出荷を3週間延期して同年3月の最終週とする方向性が確認され,テストの進捗率が報告された。
同月9日の第16回課題共有ボードミーティングにおいて,原告野村證券担当者から,ストーリーボードに関し,実装との間に齟齬があり,原告野村證券と被告との間でバージョンを異にするものが存在したことが指摘され,被告担当者は,ストーリーボードからスペックとの間,スペックからプログラムの間で実装に漏れがないかをチェックしていることを報告した。
同じミーティングにおいて,原告野村證券担当者からテストのスケジュール変更やカバレッジについての指摘もされた。被告担当者は,上記スケジュール変更について,ストーリーボードの詳細確認やテストケースの網羅性に確認を要したことによるものであると説明し,当時,報告しなかったことを謝罪した。また,被告は,テストカバレッジがあまりに低い場合は,今後どうするのかの判断が必要であり,テメノス社ともそのように話していると説明した。
なお,同日の臨時ステアリングコミッティーミーティングでは,テメノス社で,本件開発業務から,A22及びA27が離脱し,A30及びA31が参加し,A22はアドバイザーとしてA30への引継ぎをするという大規模な開発態勢の変更が報告された。原告野村證券担当者は,その変更を承認したが,A22には技術とチームをまとめ上げる力があったとして確実な引継ぎを要望し,A22のアドバイザーからの退任については,ステアリングコミッティーミーティングでの承認を待つこととされた(なお,前記ア(イ)のとおり,A22は,WMを当初開発した会社のメンバーであった。)。テメノス社の上記態勢変更は,同日の第16回課題共有ボードミーティングでも報告されたほか,同ミーティングでは,被告の業務チームのリーダーがA21からA32に代わることも報告された。ただし,A21は,原告野村證券のA10事業部長が,非効率なことが続いており,もう少し全体を見て判断できる人材が必要であるとして,交代か補強を申し入れていた人物であった(甲77)。
(3) 平成24年2月16日の第17回課題共有ボードミーティングにおけるスケジュール9の採用とその遅延(本件局面9)
平成24年2月16日の第17回課題共有ボードミーティングでは,以上のような開発作業の難航を受け,全体スケジュールが,スケジュール8からスケジュール9に変更され(後記ア),同年3月2日にはドロップ2のための本件個別契約15が締結され(後記イ),ドロップ1.1についての作業も続けられたが(後記ウ),ドロップ1.0は,スケジュール9における同月9日の出荷期限を遵守できず,その出荷は同月16日までずれ込んだ(後記エ)。この間の経緯は,次のとおりである。
ア 第17回課題共有ボードミーティングにおけるスケジュール8からスケジュール9への変更(甲25,甲30,乙153の10)
平成24年2月16日,第17回課題共有ボードミーティングが行われた。
同ミーティングにおいて,原告野村證券及び被告は,WMのドロップ1の全体的な進捗は97%であるが,フィーの部分が遅れていることから,分割して同年4月15日に出荷するというテメノス社の提案を受け入れ,テストへの影響を最小限に抑えるため,同年3月9日に出荷予定のドロップ1のうち,フィーを中心とする一部の機能を分割し,分割した部分を同日出荷のドロップ1.0と分けでドロップ1.1とし,その仕様を原告野村證券,被告及びテメノス社の3社間で確定した上,テメノス社にてストーリーボードの修正とプログラム作業を行った上,同年4月15日に出荷することを合意した。
なお,同ミーティングでは,被告側の更なる人員変更が伝えられ,原告野村證券からは,キーパーソンのメンバー交代は事前に説明してもらいたいとの申入れが行われた。
イ 平成24年3月2日のドロップ2のための提案と本件個別契約15(甲1の14,乙117)
被告は,平成24年3月2日,「SMA/ファンドラップ・システムシステム構築プロジェクト「基本設計~連結テストフェーズ(顧客Web等)」に関わるご提案」と題する資料(乙117)を用いて原告野村證券に対し,ドロップ2部分の基本設計からサブシステム内連結テストまでの工程を同年4~6月にかけて行うことを提案し,その作業のために,本件個別契約15(甲1の14)が締結された。
上記提案では,開発態勢整理表中⑧記載のとおり,従来の業務チーム及びITチームに代えて,「WMチーム」,「CWチーム」,「帳票/Add-onチーム」,「インターフェースチーム」,「切替・運用チーム」及び「基盤チーム」のチーム態勢とし,これらとテスト推進チームが連携する開発態勢が提案され,WMチームのリーダーは,A21の後任であるA32とされたが,その下に,A21の前任であったA19及び要件定義フェーズから本件開発業務に関わってきたA12が復帰した(甲152,乙117・13頁)。また,テスト推進チームのリーダーは,被告は従前どおりA26であったが,原告野村證券はプロジェクトマネジャ補佐であるA20次長が担当することとなり,ドロップ1の開発態勢も同様に変更された(甲152)。
ウ 平成24年3月上旬までの状況(乙141,乙153の11~13)
平成24年2月16日のスケジュール9への変更以降,同年3月9日のWMのドロップ1.0の出荷期限までの間には,同年2月23日に第18回,同年3月1日に第19回,出荷期限である同月9日に第20回の各課題共有ボードミーティングが行われ,上記第18回と同日の同年2月23日には,第4回ステアリングコミッティーミーティングも行われた。
ドロップ1.1として分割されたフィーの部分のプログラムについては,上記第4回ステアリングコミッティーミーティングにおいて,根幹に関わる部分でテメノス社の認識にずれがあることが指摘され,原告野村證券担当者からサインオフを経ているフィーのストーリーボードの中身がずれている理由を良く確認するよう要望がされた。このずれについては,同年3月1日の第19回課題共有ボードミーティングまでの間に集中討議が行われ,テメノス社の不明点が明確化して仕様確認が終了した。
また,同年2月に提起された,①ストーリーボードと実装の齟齬及びバージョン違いの問題と,②テストカバレッジの問題(前記(2)ウ(ウ))については,同ミーティングにおいて,被告担当者から,上記①については,ストーリーボードの整合性をテメノス社において検査し,問題発生分をストーリーボードに反映している旨,上記②については,テスト計画に関する基本方針の説明が,それぞれ行われた。原告野村證券担当者は,ストーリーボードが承諾なく修正されていることに対する懸念を表明するとともに,ストーリーボード,スペック,テストケース,WMのテストケースの関連が分かるマトリックスを要求した。ストーリーボードの修正については,同日の課題共有ボードミーティングにおいて,再発防止策が協議され,システム要件とテストケースとの間の紐づけ資料(乙135,乙135の2)が同年3月1日の課題共有ボードミーティングまでに作成された。
なお,上記第4回ステアリングコミッティーミーティングでは,原告野村證券担当者が,フィーの部分をドロップ1.1として分割したことについて,更なる遅延の発生やドロップ2の開発スケジュールへの影響,分割された状況でのテスト開始への懸念を表明したのに対し,テメノス社担当者は,ドロップ1.1用のテスト要員を増強して100人日を加え,ディフェクト対応にも100人日を加えたので,更なる遅延はない旨,ドロップ2は,ドロップ1よりとても小さく,フィーと直投以外の開発は既に完了しているので,影響はないと説明した。被告担当者も,ドロップ1.0とドロップ1.1はモジュールベースで独立しているので,テストを開始することは可能であると説明し,明確な説明を行うことを約束した。
エ 平成24年3月9日の出荷期限におけるドロップ1.0の出荷遅延
平成24年3月9日は,WMのドロップ1.0の被告への出荷期限であり,テメノス社は,ドロップ1.0のプログラムを被告に送付した。しかし,これは被告がバグ出しを行うためのプレ版であり,被告はこれを原告野村證券に交付したものの,完成版の出荷は同月16日までずれ込んだ(甲26,甲31の1)。
被告は,同月6日頃,本件開発業務の難航を受け,本件開発業務の懸案事項,原因及び対応案について,次のとおり分析した(甲140)。
懸案事項 原因 対応案
①機能要件での確認は行われているが,業務要件での確認が行われていない。 ①業務オーナーがいない ①業務オーナーを明確にする。
②機能要件での確認は行われているが,内容が不十分の可能性がある(業務カバレッジが不十分)。 ②WM(ベストプラクティス)をベースとした新業務設計という視点に欠けている。 ②代表的な業務フローを作成して検証する(3月30日ドロップ1.1の受入検証で確認)。
③事故対応(報告資料作成の印刷処理等)の検討がされていない。 ③IBMの体制面が弱い。 ③テストメンバーを増員してテストを強化することにより業務スキルを強化(実施中)。
④何か月間も原告事業部の満足度を上げられない。 ④クロスチェックができない。 ④プレUATの実施(サイクルテスト等)(5~6月追加提案)
⑤サブシステム間インターフェーステストの結果,基本的なデータに欠落があり,インターフェース設計に不安がある。 ⑤WMのドキュメントがない。 ⑤トロントでのテスト参加(対応済み)
⑥設計(インターフェース,帳票)の精査ができない。 ⑥WM-DBとの付き合わせが出来ていない(ブラックボックスのため)。 ⑥納品前テスト(テメノスとの並行テスト)の実施(データ連係確認)(4~6月受入テストにて実施)
⑦移行ツールが複雑で不安がある。 ⑦確認項目に対するテメノス対応に時間がかかる。 ⑦原告事業部選任メンバーを増員(5~9月追加提案)
⑧スケジュール(マイルストーン)が守られない。 ⑧投資顧問事業部の確認に時間がかかる。 ⑧重複テストへの対応(増員),システム間連携テスト,性能テスト,運用テストなど
⑨データのライフサイクルが定義されていない可能性がある。 ⑨プロジェクトの前提条件が変わった。
⑩2010年4月~2013年1月(安定稼働までの数ヶ月)の心得制度への対応(基盤の体制)の人員がいない
⑪ITaのテスト密度が計画時点から大幅に減っている。受入テスト104ケースは相当少ないケース数。最低限確認すべきバリエーションがカバーされていない。
⑫3月9日納品分及び4月15日納品分のテスト対象範囲が分離できるのか
一方,原告野村證券も,本件開発業務の状況及び今後の進め方について検討し,同月12日,A15経営役,A8戦略部長及びA20次長において,被告のA16常務と打合せを行い,改善方を指示した(甲27,証人A20・2~3頁)。
上記指示では,本件開発業務の現状について,①概要設計から基本設計に至るつながりに不明確な部分があり再精査が必要,②サブシステム内連結テストで遅延が継続,③ドロップ1.1の発生を受けてのマスタースケジュールの再構成がほぼ1か月を経ても完了しない,④テストの組み立て(どのような密度や網羅性を有するテストをいつどのように行うか)の考え方が未整理,⑤テスト推進の遅延・不足が積み上がっているという課題があると分析し,対策として,マスタースケジュールの大きめの修正並びにプロジェクトの管理強化・テスト計画及びテスト推進の強化が挙げられていた。
被告は,同月15日の第21回課題共有ボードミーティングにおいて,原告野村證券担当者に対し,テメノス社の出荷遅延への対応として,同年4月に追加テストを行うとともに,品質向上のためのプロセスを設けること,被告の人員を増員することを提案し,併せて,トロントのテメノス社で行われていた周辺機能との結合テストは93%が終了し,障害が2件にまで収束したため完了し,受入れテストの準備を進めることを報告した(甲28,乙153の14)。もっとも,マスタースケジュールの改訂はされず,原告野村證券のA20次長は,同月16日,自ら作成したマスタースケジュール案(甲31の1)を被告に参考送付した(証人A20・3頁)。
オ 平成24年3月後半の開発作業の状況(乙142,乙153の15・16,乙209)
平成24年3月16日,ドロップ1.0が出荷された。同月後半には,22日に第22回,29日に第23回の各課題共有ボードミーティングが行われ,22日には第5回ステアリングコミッティーミーティングが行われた。
上記第5回ステアリングコミッティーミーティングでは,テストのための原告野村證券の環境整備について,テメノス社の日本橋オンサイトサポートが同月21日から活動を開始し,同年4月中の開通を目指して被告側で準備中であることが確認され,テストケースレビューワーとして要員を追加することが報告された。ただし,テスト開始に当たっての課題とされていたドロップ1.0とドロップ1.1の独立性の確認(前記ウ)について,被告が提供した資料は不十分であるとされ,早急な対応が求められた。
同ミーティングでは,WMの開発が遅延する中で周辺機能の開発が先行していることについてのリスクも検討された。テメノス社のA30は,WMのデータベースは完成しており,周辺機能はデータベースをアクセスして連携するので,フィー以外は影響が少ないと説明し,原告野村證券のA20次長は,概要設計フェーズでチェックをしたが,チェックし切れない部分があるので,今後はウォークスルーを実施して検証して欲しいと要望した。また,システムの切替・運用について,3週間の遅れが発生したことが報告され,原告野村證券のA15経営役は,その理由について質問し,被告のA17は,切替方法が複雑化したことに伴い,当初は1種類のツールの開発予定であったが,3種類のツールの開発が必要になったことを説明した。
同年3月1日までに仕様確認が終了したフィーを含むドロップ1.1のプログラム(前記ウ)については,同月22日の第22回課題共有ボードミーティングにおいて,原告野村證券のストーリーボードのレビューが同月16日に終了し,その結果を反映中であることが報告されたが,同月22日の第5回ステアリングコミッティーミーティングでは,その結果を反映したストーリーボードの中に,原告野村證券の最終確認ができたものとできていないものがあるため,同年4月15日のドロップ1.1の出荷期限に間に合わない部分が出てくる可能性が指摘され,A15経営役は,WMについては常にフィーが問題になっており,問題点を明確にして欲しいと要望した。なお,原告野村證券の最終確認は,同年3月29日の第23回課題共有ボードミーティングまでには終了し,同ミーティングでは,開発スケジュールを調整中であることが報告された。
なお,上記第5回ステアリングコミッティーミーティングでは,被告のA33が品質担当としてメンバーに加わり,テメノス社のプロジェクトマネジャであるA25に代わって,それまでも実質的にプロジェクトマネジャとして活動していたA34がプロジェクトマネジャを務めることが報告された。ただし,A25は,課題共有ボードミーティングの形骸化をもたらす存在として,原告野村証券から,同人を外したミーティングが提案されたことのある人物であった(甲77)。
(4) 平成24年4月3日のスケジュール10の採用とその難航(本件局面10)
ア スケジュールの変更
被告は,平成24年3月16日に出荷されたドロップ1.0につき,同月30日,サブシステム内連結テスト結果報告書(乙94)を原告野村證券に提出し,受入れテストを進めたが,同年4月3日,不具合があるとして,その改善をテメノス社に要求し,ドロップ1.0の品質向上版は,同月5日に再納品することが決定された。併せて,開発スケジュールを調整中であったドロップ1.1についても,品質改善を優先することとして,同月15日の出荷予定を,同月30日に延期することとして(ただし,同月20日にプレ版を出荷),スケジュール9はスケジュール10に変更された。(甲26)
イ その後の開発作業の難航
上記のとおり,スケジュール10で平成24年4月5日に再出荷とされたドロップ1.0については,同月12日の第25回課題共有ボードミーティングにおいて,メンバーを増員してリバランス領域の不具合に対応しており,同月13日に出荷予定であることが報告された(乙153の18)。
また,上記のとおり,スケジュール10で,出荷期限が同年4月30日(同月20日にプレ版)に延期されたドロップ1.1については,同月5日の第24回課題共有ボードミーティングでは,予定どおり同月20日にプレ版を出荷予定であることが報告されていたものの(乙153の17),同月12日の第25回課題共有ボードミーティングでは,プログラミング作業は終了したが,テスト環境へのインストールに手間取り,テストが遅れて開始されたことが報告された(乙12,乙153の18)。
ウ 被告の対応(甲33)
被告は,テメノス社の度重なる出荷遅延への対応として,被告担当者をトロントに派遣し,常駐させて,テメノス社によるレグレッションテストまでの対応を現地で実施することとし,フィー機能のスケジュール及び品質担保のため,被告のフィー外付け機能の開発メンバーによるテメノス支援を平成24年4月15日から強化した。なお,ドロップ2については,別チームが対応しているため,同年6月15日に出荷という従前のスケジュール(前記(2)ア(ア)②)を維持することとされた。
(5) 平成24年4月17日のスケジュール11の採用と遅延に対する対応策の検討(本件局面11)
ア スケジュールの変更
被告は,平成24年4月17日,テメノス社から,同月20日にフィー計算・支払機能,同月27日にフィー修正及びフィー画面,同年5月11日に最終版という分割出荷となる予定であるとの報告があったことを原告野村證券に報告し(甲33),同報告を受けて,スケジュール10は,同年5月11日を出荷期限とするスケジュール11に変更された。
イ 対応策の検討
上記報告(甲33)において,被告は,テメノス社の度重なる出荷遅延の要因として,①チーム統括ができていないこと(チームプレイ<個人プレイ,チーム間コミュニケーションが希薄),②対応策をとるタイミングの遅れ(スケジュール遅延が不可避となってからの対応に終始),③テスト管理の形骸化(品質管理がガイドに沿っていない,開始終了条件が軽視されている),④テスト及び不具合対応の優先順位が現場任せとなっている(重要度の高い案件への対応が遅く,優先順位が現場主導),⑤危機感の欠如(納期遵守への認識の甘さ,公私バランス優先順位の相違,生産性に対する意識が希薄)の5つを挙げ,対応策として,①被告の現場管理を強化すること,②被告のフィー開発者をトロントに派遣し,フィー機能のテストを加速化し,品質向上を図る技術支援をすること,③要因分析のための不具合対応窓口要員をトロントに派遣し,不具合対応の優先順位を徹底し,WMのテスト検証を利用者目録で実施すること,④テストや不具合対応等の品質管理を推進することを挙げた。
また,今後の方針として,全体スケジュールの検討,稼働時の機能確認及びリスクと課題に対する抜本的対応(態勢,コストの見直しなど)が必要であるとし,平成24年5月8日のステアリングコミッティーミーティングに向けて,次の①~③の3つの案を検討するとした。
① プロジェクトを一時停止して,WMの品質向上に注力することとして,全体スケジュールを大幅修正する案
② 統合テストを一時停止して,ドロップ1の品質向上とドロップ2の開発を継続する案
③ 全体スケジュールが1か月遅延することを了承の上で本件開発業務を継続する案
原告野村證券のプロジェクトマネジャ補佐でテスト推進チームのリーダーでもあったA20次長は,上記①の一時停止案に比較的賛成の立場であったが,被告が本件開発業務の一時中止を含む上記①や②の案を提案することはなく,A20次長も,ベンダとしての被告の判断を尊重し,本件開発業務は継続された(証人A20・59~60頁)。
ただし,開発態勢については,プロジェクトマネジャとして原告野村證券側の評価が低かったA17(甲35)を補強するため,同年4月20日以降,本件2頭態勢におけるA20次長のカウンターパートとして,プロジェクトマネジメントオフィスという立場で,A18が本件開発業務に関わるようになった(甲152,乙234)。なお,A17がパッケージ・ソフトウェア導入による開発の経験に富んでいた(前記4(3)イ(ア))のに対し,A18は,カスタム開発の経験が長い技術者であった(乙234,証人A18・20~21頁)。
ウ その後の開発状況
(ア) ドロップ1の状況
出荷期限が平成24年5月11日に延期されたWMのドロップ1.1(前記ア)については,同月1日の段階で,品質改善版が同月2日に出荷され,同月4日から受入れテストを開始することが予定され,ドロップ1.0と併せて受入れテストが続けられたが,出荷2日前の同月9日の第6回ステアリングコミッティーミーティングの段階で,受入れテストで「showstopper」が3件発生したことが報告された。なお,上記「showstopper」とは,それが直らない限り,WMによる正常業務ができないという緊急性の高い障害(以下「ショーストッパー」という。証人A11・50頁)であった。原告野村證券担当者は,その状況報告と翌週からのテストに対する影響分析を報告するよう要望し,被告において,同月11日までに報告することとされた。(甲34,甲109,乙96,乙154の22~26,乙210)
(イ) ドロップ2の状況
スケジュール8における平成24年6月15日の出荷期限が維持されてきたWMのドロップ2については,同年4月27日のストーリーボードのサインオフを目指して修正作業が続けられ,クライアントポータルを除く部分は,同年5月1日までにストーリーボードのサインオフが終了したが,クライアントポータルの部分のサインオフは同月7日までずれ込んだ。なお,原告野村證券担当者が作成した同年4月26日の第27回課題共有ボードミーティングのメモ(甲109)には,ストーリーボードの変更履歴に関し,指摘しても直らない,いつの間にか変わっている,という両方の意味でまずい状態になっているとの記載がある。(甲62の1・2,甲109,乙154の22~26)
(6) ドロップ2の出荷時期を延期して分割出荷とする平成24年5月9日のスケジュール12への変更(本件局面12)
ア スケジュールの変更(甲34,乙210)
平成24年5月9日,第6回ステアリングコミッティーミーティングが開催された。同ミーティングでは,ドロップ2のうち,クライアントポータルについてはドロップ2.2として同年7月27日に出荷し,それ以外の部分をドロップ2.1として同年6月29日に出荷することが報告され,スケジュール12への変更がされた。
被告担当者ないしテメノス社担当者は,その理由について,①ストーリーボードをサインオフした時点で行った再見積もりが甘かったこと,②テメノス社マネジメントの交代,③開発促進の遅れ,④コミュニケーションの問題を挙げた。また,ドロップ2は,ドロップ1とは別態勢で工数が少ないため,ドロップ1の遅れは影響しないとの従前の説明(前記(3)ウ及び(4)ウ)に反して,ドロップ1のトラブル対応とスケジュールのキャッチアップのために人員をドロップ1に割かざるを得なかったことから,ドロップ2にも遅れが生じ,当週からドロップ2にも人員を投入したが,スケジュールを取り戻すのは難しい状況であることが説明された。
イ 被告の対応と原告野村證券からの指示等(甲34,乙210)
上記第6回ステアリングコミッティーミーティングにおいて,被告担当者は,ドロップ2の遅延に対する対応として,平成24年5月11日以降も被告の人員を引き続きトロントに派遣することを検討することを表明した。
原告野村證券担当者は,上記遅延によって,全体スケジュールに余裕がなくなったため,これ以上の延期は容認できないことを伝達し,①投資家が直接接する帳票やクライアントポータル機能の柔軟性を評価してWMの導入を決めたが,今回の納品遅延に伴い,アウトプットの正確性に問題がないか,データの連携や整合性の確認に十分な時間が取れるのかを懸念しており,見積もりが甘かったために遅れると軽々に言って欲しくない,②ドロップ2についてもドロップ1と同様に更なる遅れが今後発生しないとはいえず,全く信用できない,③金融庁の検査が強化されている中(折から当時,原告野村證券には金融庁の検査が入っていた。),このような遅延が続くと本件システムの稼働開始後の保守面でもかなり不安である,④開発の遅れによってユーザ側での作業にも余裕がなくなっているなどとして,ドロップ2の出荷が同年6月29日になると,同年7月からの全体総合テストに参加できなくなるので,スケジュールの前倒しを会社として真剣に考えるよう強く要望した。(証人A20・5頁)
被告のA16常務は,テメノス社担当者に対し,WM開発の信号は黄色ではなく赤信号であると発言した。テメノス社のA30は,WMの開発遅延が他の開発及び同年7月からの総合テストに影響することは理解したので,ドロップ2.1の納品を当初スケジュールに近づける検討を早急に実施することを表明した。被告担当者及びテメノス社担当者は,同年5月11日までに前倒しを再検討することなり,被告は,同月18日までに全体スケジュールを見直すこととされた。
(7) スケジュール12の出荷期限におけるWMのプログラムの出荷完了
被告及びテメノス社は,その後も,受入れテスト及び品質向上テストで多発する障害への対応を継続して,WMのプログラムの品質向上作業を進め,WMのドロップ2.1は,スケジュール12における出荷期限より前倒しの平成24年6月15日に出荷され,ドロップ2.2は,同スケジュールにおける出荷期限である同年7月27日に納品された。また,同日までには,被告の受入れテストでの障害を修正したドロップ1の修正版も出荷され,WMのプログラムの納品は,設計・開発フェーズの開始当初,スケジュール7で予定された同年2月及び4月(前記(1)ア)から大きく遅れて終了した。ただし,ドロップ2.1の出荷に関しては,受入れテストでの障害から出荷の判断に疑義が呈され,同年6月19日の第7回ステアリングコミッティーミーティングにおいて,原告野村證券担当者から被告担当者に対し,テメノス社に対するプロジェクト管理が甘いなどとして,改善要求がされた。(甲39,乙143,乙153の23,乙154の27~35)
原告野村證券のA20次長は,同年7月28日,ドロップ2.2のテスト状況をメールで被告のA18に問い合わせ,その結果を踏まえ,被告担当者を激励する趣旨で,「今回は100点以上の出来だったと思います。来週からの受入&全体総合テストにいい状態で入っていけそうですね!」との記載のあるメールを送付した(乙102,証人A20・9~10頁,22~23頁)。
(8) ストーリーボードのサインオフの遅れと本件開発業務の遅れとの関係に関する争いについて
上記認定のスケジュール7の前提となった平成23年9月9日のストーリーボードのサインオフ完了(前記(1)ア(ア))が,最終的に同年12月5日までずれ込んだこと(前記(2)イ)と本件局面8~12における本件開発業務の遅れとの関係については当事者間に争いがあり,被告は,本件局面8~12における本件開発業務の遅れは,WMのカスタマイズ量が増大した上に,ストーリーボードのサインオフが遅延したことなどが原因であると主張するのに対し,原告らは,スケジュール7は,概要設計フェーズ及び概要設計最適化フェーズで増大したカスタマイズ量(前記4)を前提にするものであるし,原告らにストーリーボードのレビューの遅延はなく,本件局面8~12における本件開発業務の遅れは,テメノス社による開発作業自体の遅れや被告のプロジェクト・マネジメントの失敗によると主張する(前記前提事実(5)キ)。
そこで検討すると,これまで認定した本件局面8~12における本件開発業務の遅延の状況(前記(2)~(7))からすれば,その遅延には様々な要因が複雑に関与していると認められ,その原因を単純に特定することは困難なことと言わざるを得ない。しかし,少なくとも,ストーリーボードのサインオフとの関係では,原告野村證券は,平成23年11月21日に16本のストーリーボード全てについてレビューを完了し(前記(1)ウ(キ)),本件開発業務のスケジュールは,サインオフの遅延を踏まえた上で同月29日のステアリングコミッティーミーティングにおいて大規模な見直しが行われ,スケジュール8が策定されており(前記(2)ア),同年12月5日にはストーリーボードのサインオフも完了し(前記(2)イ),スケジュール8の下での開発が開始されているのであって,このスケジュール8を遵守できなかった本件局面9以降の遅延は,前記(2)~(7)で認定したところによっても,フィーの部分のプログラミング作業の難航などテメノス社による要件の把握不足や開発作業自体の遅れによるところが大きいものと言わざるを得ない。実際に,スケジュール8以降,開発が難航しドロップ1.1の分割をもたらしたフィー(前記(2)ウ(イ),(3)ア及びウ)も,受入れテストでショーストッパーを呈し(前記(5)ウ(ア)),後記認定のとおり最後まで総合テストへの参加を妨げた「運用開始日前日案件作成」(後記6(2)エ)も,それぞれテメノス社の要件の把握不足が原因であったのであり,スケジュール8を遵守できなかった本件局面9以降の度重なる遅延の主たる原因をストーリーボードのサインオフの遅れに求めることは困難である。
また,スケジュール7は,概要設計フェーズ及び概要設計最適化フェーズにおけるカスタマイズ量の増加を前提に,被告がテメノス社の見積もりを確認するなどして決定した1000人日というWMの開発作業量に基づくものであるところ(前記(1)ア(ア)),テメノス社には,上記フィーに代表される要件の把握不足があった上,テメノス社担当者が,スケジュール8を策定する段階でドロップ2の開発人員不足を懸念し(前記(2)ア(ア)②),ドロップ2が分割出荷とされた際にも,ストーリーボードをサインオフした時点行った再見積もりが甘かったこと等を挙げていること(前記(6)ア①),被告が,反訴において,本件個別契約13及び15に基づきテメノス社で行ったと主張する追加作業の工数が,被告又は被告の外注先の担当者が行ったものに限り,かつ,ストーリーボード関係する作業分を除いても,合計8.3人月とされており(反訴状18~19頁),1月を30日として換算すると249人日となって当初の開発作業量の4分の1に及ぶことなどを総合すると,テメノス社がスケジュール8以降のスケジュールを遵守できなかった開発作業自体の遅れは,テメノス社の要件の把握が不十分であったため,増加したカスタマイズ量を適切に把握できておらず,スケジュール自体に無理があったことによる可能性が極めて高いものと認められる。
なお,A11の証言中には,被告がテメノス社の見積もりを適切に査定したとの部分があるが,本件全証拠によっても,被告がスケジュール7やスケジュール8の策定時に,WMのカスタマイズ量を適切に把握できるほど,WMの詳細仕様に通じていたと認めるに足りる証拠はなく,その査定が客観的にみて正しかったと認めることは困難である。
ただし,テメノス社の把握が不足した本件開発業務に係る原告事業部の要件が,WMの前提とするグローバルスタンダードとは多々相違する固有で複雑なものであったことは前記認定のとおりであり(前記4(4)),前記フィーにも,「運用開始日前日案件作成」にも,それぞれ原告事業部の要件に固有で複雑なものが含まれていたと推認される。
6 テストフェーズにおける障害の多発とテストの中止(本件局面13・14)
(1) テストフェーズの提案と契約
被告は,設計・開発フェーズでの作業が遅延する中(前記5(2)~(7)),設計・開発作業と並行してテスト作業を行うこととし,リテールITプロジェクトとの総合テストに参加するため,本件個別契約14(甲1の13)が締結された。この間の経緯は,次のとおりである。
ア 平成24年3月2日の提案(甲32の1)
被告は,WMのドロップ2の設計・開発作業のための契約の提案(前記5(3)イ)と同日の平成24年3月2日,「SMA/ファンドラップ・システムシステム構築プロジェクト「フロントIT総合テスト~リリース支援」に関わるご提案」と題する資料(甲32の1)を用いて原告野村證券に対し,STARとの総合テストに関する提案を行った。同提案は,WM及び周辺機能とフロントIT及びリテールIT内関連システムとの総合テスト,ユーザ受入れテスト及びデータ移行を同年4月~12月にかけて行うことを内容とするものであったが,契約成立には至らなかった。なお,当時は,総合テスト以降の各テストの位置づけや開始・終了条件,役割分担についての明確な決定がなく,そのことが,同年3月15日の第21回課題共有ボードミーティングで課題として挙げられていた(乙153の14)。
イ 平成24年3月26日の提案と本件個別契約14(甲1の13,乙10)
平成24年3月16日,WMのドロップ1.0が出荷され(前記5(3)オ),被告は,同月26日,「SMA/ファンドラップ・システムシステム構築プロジェクト「フロントIT総合テスト~リリース支援」に関わるご提案」と題する資料(乙10)を用いて原告野村證券に対し,総合テスト以降の作業に関する提案を行い,本件個別契約14(甲1の13)が締結された。上記提案は,前記アの提案とほぼ同内容であり,被告は,同日,総合テストの個別計画書及びテストケースを原告野村證券に提示した(乙93の1・2)。
(2) 総合テストへの参加に至る経緯
本件個別契約14に基づく総合テストへの参加は,ドロップ1.0の再出荷など設計・開発フェーズにおける作業の遅延(前記5(4)~(7))に伴い,平成24年8月9日まで遅延した。その経緯は,次のとおりである。
ア 平成24年5月中の状況
被告は,平成24年5月23日,「SMA/ファンドラップ・システム構築プロジェクト全体総合テスト開始に向けた課題と対応施策,およびプロジェクトプランの見直しのご説明(補足資料)」と題する資料(甲79)を用いて原告野村證券に対し,本件開発業務が遅延する状況の中で総合テストに参加する対応策について提案した。同提案は,同月9日のドロップ2の分割出荷(前記5(6)ア)を前提として,総合テストに参加するための前提条件を整理するものであり,品質向上のため,全体のテストと並行して,被告独自での品質向上テストを同年7月から実施することなどが提案された。被告は,同年5月25日,「SMA/ファンドラップ・システム構築プロジェクトプロジェクトプランの見直しのご説明」と題する資料(甲36)を用いて,更なるプランの見直しを提案した。
イ 平成24年6月中の状況
被告は,総合テストへの参加に向け,平成24年6月15日付けで,原告野村證券名義の「全体総合テスト個別計画書」(乙98の1~5)を作成し,原告野村證券に提出した。
同月19日の第7回ステアリングコミッティーミーティングでは,WMのドロップ2.1が同日までに出荷されたこと(前記5(7))が報告されるとともに,当時,総合テストへの参加の条件とされていた同年5月9日の第6回ステアリングコミッティーミーティングで報告されたWMのショーストッパー3件(前記5(5)ウ(ア))の解消に目処がつき,同年6月末までに解決して,STARとの総合テストに参加できる見通しであることが報告された。(甲37,乙143,証人A20・6~7頁,証人A11・27頁)
その後の同月26日,テメノス社から,上記ショーストッパー3件に対する対応を同月末までに完了するとの見通しを見直すとの連絡があり,その後,これに対する対応スケジュールは立たず,早くても同年7月末との見通しに変更された。原告野村證券担当者は,上記ショーストッパーに対する対応が放置されていたとして,被告に説明を求め,被告のプロジェクトマネジャであるA17が問題発覚の日を実際よりも後ろに送らせる報告をしたとして,被告に対し,A17を更迭するよう申し入れた。
この頃,アドバイザーからの退任にステアリングコミッティーミーティングの承認を待つこととされたA22(前記5(2)ウ(ウ))が,承認を待たずにアドバイザーを退任していたことが判明し,A15経営役は,被告に苦情を申し入れた。これに対し,被告のA16常務は,被告の管理が甘かったとして謝罪した。(甲39,甲40,甲65,甲78,甲114,証人A20・5~8頁)
ウ 平成24年7月中の状況
本件開発業務の開発態勢は,平成24年7月5日以降,開発態勢整理表中⑨記載のとおり変更され(甲152),プロジェクトマネジャには,パッケージ・ソフトウェア導入による開発の経験に富むA17に代えて,カスタム開発の経験に富み,同年4月20日以降,プロジェクトマネジャオフィスを務めていたA18(前記5(5))が着任し,プロジェクトマネジャオフィスには要件定義フェーズ当時のプロジェクトオーナーであるA5が着任した(証人A18・21~22頁)。また,テスト推進チームのリーダーには,原告野村證券の評価が低かったA26(甲35)に代え,要件定義フェーズ当時から本件開発業務に携わってきたA11が復帰し,A19及びA12は,業務横断エキスパートを務めることとされた(甲152,証人A11・26~27頁)。上記開発態勢は,その後,周辺機能に関するチーム構成の変更,及び,A19及びA12が業務横断エキスパートからWMチームの中に組み入れられたのを除いては,本件開発業務が終了するまでおおむね維持された(甲152)。
被告は,同年7月11日,総合テストへの参加に向け,本件システムの総合テストのテストケース(乙99,乙100)を原告野村證券に提出し,同月26日の第8回ステアリングコミッティーミーティンダでは,同月に入りプロジェクトの状況が改善してきているとの認識が示された(乙101,証人A20・9頁)。
ただし,解消が総合テストへの参加の条件とされていたWMのショーストッパー3件(前記イ)は,その後も発生し,同月31日には,テメノス社においてこれを修正した上で,同年8月6日に再度出荷することになった(甲41の1・2)。
エ 平成24年8月9日の総合テストへの参加の承認
平成24年8月6日,WMのショーストッパー3件(前記イ)のうち,総合テストへの参加の条件であった最も業務への支障が大きい「運用開始日前日案件作成」について解消の見通しがつき(乙103,証人A20・10頁,22~25頁,証人A18・32~33頁,51~53頁,69頁,証人A11・50頁),同月9日の第9回ステアリングコミッティーミーティングでは,WMの出荷状況と課題の解消状況から,本件システムの総合テストへの参加が承認され,被告は,設計・開発フェーズにおいて予定された作業であるサブシステム内連結テストを継続しつつ,これと並行して,サブシステム内連結テストが終了したプログラムから,順次,総合テストに参加した(乙16,証人A11・27頁,50頁,54~55頁,証人A18・32頁)。
なお,上記「運用開始日前日案件作成」の障害は,被告の担当者においては原告野村證券の要件がWMの要件と異なることを理解していたが,テメノス社担当者がこれを理解していなかったところによるものであり,この段階で,テメノス社の担当者がギャップを把握したものであった(甲114,証人A18・75~76頁)。
オ 総合テストへの参加の意義に関する争いについて
本件システムの総合テストへの参加の意義については当事者間に争いがあり,被告は通常の総合テストであると主張するのに対し,原告らは総合テストの環境を利用した被告の内部テストであると主張する(前記前提事実(5)ス)。
しかし,証拠(甲168,証人A20・58~59頁,証人A20[証人A18の対質部分63頁]及び証人A18・63頁)によれば,原告野村證券と被告との間には,総合テストへの参加が正式に承認されたことや,総合テストとして行われていた作業自体についての事実認識には齟齬がなく,ただ,原告らは,本件開発業務における総合テストが,ウォーターフォール型開発プロセスにおける通常のテストとは異なり,原告野村證券への納品前の被告の受入れテストであるサブシステム内連結テストが終了したプログラムから,順次並行して行われ(前記エ),前工程までのテストで解消されるべき障害が多数発生したことから(後記(3)ア),内部テストのレベルと評価していることが認められ,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) 総合テストの中止とコンティンジェンシープラン発動に至る経緯
ア 総合テストでの障害発生の状況
本件システムは,総合テストに参加したものの,平成24年8月18日までの総合テストにおいて123件の障害が発生した。うち70件は,周辺機能に関するものであり,内訳は,インターフェース関連が52件,WM関連が8件,コントラクト・ワークフロー関連が10件となっていた。(甲149)
同月24日までの総合テストにおいては,①初期マスター作成に関しては,他の合計65のプログラムの合計が104件(1システム当たり1.6件)であるのに,本件システムのみで37件という極めて多くの障害が発生し,②実行サイクルに関しても,他のシステムの合計が153件(1システム当たり2.3件)であるのに,本件システムに係るプログラムのみで11件という極めて大きな障害が発生した。また,本件システムに係るプログラムについて発生した総障害数61件の原因は,基本設計(外部)に由来するものが16件,基本設計(内部)に由来するものが11件,詳細設計に由来するものが29件,開発に由来するものが5件となっており,開発フェーズで作り込まれた不具合が総合テストフェーズまで残存していたと考えられ,前工程までのテストが十分でなかったと分析された。(甲83)
イ 本件リスク報告
被告は,平成24年8月24日,「SMA/ファンドラップ・システムご報告」と題する資料(甲42)を用いて,総合テストの状況を原告野村證券に報告する本件リスク報告をした。
本件リスク報告は,STARと連携した平成25年1月4日稼働開始のためのマイルストーンとして,①平成24年9月末のWMの受入完了(障害対応の完了を含む。),②同年10月末の全体総合テスト完了(障害残大5個未満,中10個未満,小20個未満)を設定していたが,上記①については,WMの障害対応は,同月16日に完了する予定であるため達成できず,上記②についても,同年8月24日現在,予定されているテストケース872のうち,完了する予定のテストは623であり,249が残るため,達成できないリスクが大きく,上記稼働開始に対し,現状ではスケジュール及び品質のリスクがあると考えているというものであった。
本件システムの開発に意欲的であったA15経営役は,同日,遅れても本件システムをリリースしたいのでプランを作るよう,非公式に被告に指示した(甲43,乙17の1・2,証人A20・50~52頁)。
ウ 総合テストの中止とコンティンジェンシープランの発動
原告野村證券は,本件リスク報告を受けて,平成25年1月4日のSTARと連携しての本件システムの稼働開始を断念し,総合テストを中止して,平成24年6月15日付けで要件定義書(甲82)が作成されていたコンティンジェンシープランを発動することとし,現行システムをSTARと接続して稼働できるよう修正するための開発作業をNRIに委託することを決定し,同年8月27日,本件発動通知によって,これを被告に通知した。これにより,リテールITプロジェクトにおける本件各サービスへの対応はコンティンジェンシープランによることが決定し,原告野村證券は,同年9月28日,リテールITプロジェクト全体の課題として管理してきた本件開発業務の遅延という課題についてクローズした(甲111)。
総合テスト中止後の本件開発業務の取扱いについては,原告開発基準(甲84)にも記載がなく,原告野村證券内では,A15経営役より上位の経営判断に委ねられることとなった(証人A20・51頁,61~62頁)。ただし,被告は,その後もサブシステム内連結テストを継続していた(甲63の1,乙154の40・41)。
7 被告の対応策の提示から本件解除に至る経緯(本件局面15以降)
本件開発業務は,遅れても本件システムをリリースしたいのでプランを作るようにとのA15経営役の非公式の指示(前記6(3)イ)の下,総合テストの中止後も,STARに遅れた稼働開始に向けた検討が続けられたが(後記(1)~(3)),平成24年11月2日には本件通告がされ,平成25年1月29日には本件解除がされることとなった(後記(4))。その経緯は,次のとおりである。
(1) 当初案
被告は,本件リスク報告をした平成24年8月24日にA15経営役から受けた,遅れても本件システムをリリースしたいのでプランを作るようにとの非公式の指示(前記6(3)イ)を踏まえ,同月29日までに,本件システムの稼働開始時期を遅らせる全体スケジュール案を2通り作成した(乙19)。これらの全体スケジュール案では,本件システムは,STARの稼働開始から約3~4か月遅れの平成25年3月末又は同年4月末のゴールデンウィークには稼働開始が見込めるものとされていた。
(2) 遅延問題検討会における遅延問題に対する協議
原告野村證券と被告は,平成24年9月3日に第1回遅延問題検討会を,同月6日に第2回遅延問題検討会を,それぞれ開催し(第2回が同年10月3日であったとのA20次長の証言(証人A20・16頁)は,当事者間で確認された前提事実(本件第19回弁論準備手続調書,前記前提事実(5)ソ)に反するので採用できない。),今後の対応を検討した。その経緯は,次のとおりである。
ア 平成24年9月3日の第1回遅延問題検討会
第1回遅延問題検討会において,被告は,「SMA/FW問題原因検討ディスカッションペーパー」(甲45)と題する資料を用いて原告野村證券に対し,平成24年8月末日時点における遅延の原因を分析し,これに対する対応策を報告した。
上記原因分析では,WMの受入れテストが完了しておらず,総合テストでテストケースが予定どおり消化できておらず,障害が多発しており,手戻りが多いこと,周辺機能の開発が完了しておらず,サブシステム内連結テストも完了していないこと,移行の方法・手順が確立していないこと,稼働開始後の業務運用手順や運用引継内容,保守内容が決まっていないこと,業務アプリの品質が確保できていないこと,テメノス社が要件を完全に理解できていないこと,被告の要員で原告野村證券の業務を理解できている者がA19とA12のみであること,ストーリーボードの記載が不十分であり,WMの詳細仕様が開示されないため,受入れテストの実施まで被告が仕様の誤りを確認できないこと,そもそも要件が確定できておらず,設計書の記載に漏れや誤りがあったこと,要員の交代が多く,交代の際に知識・経験が継承されなかったこと,業務とシステムの両方を理解している人間が少なく,原告事業部と稼働開始後の運用について一緒に検討できる人間が少ないことなど,多数の要因が挙げられ,対応策として,開発工程を並列でなく直列で行うことやテメノス社の担当者を日本に呼び,直接会話できるようにすることなどが提案された。
同検討会に参加していた原告野村證券のA10事業部長,A9戦略部課長及びA20次長は,上記被告の分析及び対応策に対し,原告野村證券担当者が認識している問題点を指摘した。
イ 平成24年9月6日の第2回遅延問題検討会
被告のプロジェクトマネジャであるA18は,平成24年9月6日,第1回遅延問題検討会における原告野村證券担当者の指摘(前記ア)を取りまとめた資料(甲46)を原告野村證券に提出した(証人A20・15頁,30~31頁,証人A18・14頁)。
同資料では,①全般に関わる問題点として,質問やアクションアイテムに対する対応が遅いこと,スケジュールが守られないことが多いこと,どんなシステムを作っているかの説明が不足しており,プランが分からないこと,人員が足りず,やり方が非効率であること,最初に聞いていた説明と実際が違うこと等が挙げられたほか,②A10事業部長の意見として,責任の所在が見えず,今の態勢で出来ますといっても出来ないと思うこと,③A9戦略部課長の意見として,被告がWMを分かっておらず,WMの開発は,トロントの中身を分かっている人とやるしかないと考えていること,Appwayについても研修を受けて使えないことが分かったとのことだが,そんなことは言わないでほしいこと,STARと同時稼働という言い訳で,各タスクが終わっていないのに,次のタスクを始めたために多数のタスクが並列で進むこととなった上,前の挽回に忙しく,質問にもろくに答えられない状況になったこと,④A20次長の意見として,本件開発業務のアプローチが,パッケージ適用なのか,カスタム開発なのか不明確であり,方法論を決める必要があることなどが挙げられている。当時,A20次長は,本件開発業務はカスタム開発寄りの方法論を採らなければうまくいかないと考えていた(証人A20・56~57頁)。
(3) 被告の見直しプランとこれに対する原告野村證券の評価
ア 平成24年9月7日の被告の見直しプラン(甲47)
被告は,平成24年9月7日,「SMA/ファンドラップ・システム構築プロジェクト新プロジェクト計画のご説明資料(中間報告)」と題する資料(甲47)を用いて原告野村證券に対し,本件開発業務の見直しプランを示し,その後のステアリングコミッティーミーティングで中間報告を行い,同月18日に最終提案を行うことを提案した(甲168,乙234,証人A20・15~16頁,証人A18・14~15頁)。
上記見直しプランは,①現在のプロジェクトにおける課題の原因分析を行い,課題を解決する対応策を計画に反映すること,②現在のプロジェクトで完了した作業と残作業の洗い出しと数値化を行った上で必要工数とスケジュールを確定させ,計画に反映すること,③WMパッケージと周辺機能の設計内容を再度レビューし,実現可能であることを再度検証すること,及び,④稼働開始後のシステム及び業務保守を確実に運用できるレベルとすることを骨子とするものであり,上記①について,5つの問題点を挙げ,その原因及び見直しに当たっての対応策を示している。
原告野村證券担当者は,上記以外にも種々の課題があると指摘し,これを追って指摘することを表明した(証人A20・16頁)。
イ 平成24年9月7日の原告野村證券からの課題一覧の送付等
原告野村證券のA20次長は,平成24年9月7日,被告に対し,「対策を確認したいプロジェクト課題」と題する課題一覧(甲48)を提示し,対応策を検討して提示するよう求めた(甲68,甲168,乙234,証人A20・16頁,証人A18・15頁)。課題一覧の体裁及び記載内容は,別紙9の1「【SMA・FW】対策を確認したいプロジェクト課題」のとおりであり,後に本件通告の理由とされたデータ移行は,課題一覧の21に,運用保守は14,15及び22に,それぞれ含まれていた(証人A20・21頁)。A20は,さらに同月11日,自社の開発チームメンバーから収集した「気になる事項」を被告宛てにメールで送付したが,その内容は本件証拠上は不明である(甲69,証人A20・16~17頁)。
A20次長は,同月13日,先に送付した課題一覧に対する回答状況が芳しくないというコメントを付して,中間報告に対する理解をメールで送付し,被告のA18は,「いただいております課題に対する原因,対策をご提示できておらず誠に申し訳ございません。」というメールを返信した(甲70,甲71)。なお,別紙9の1「【SMA・FW】対策を確認したいプロジェクト課題」のとおり,課題一覧には対応方針欄が設けられていたが,被告は,個別の課題に回答することよりも,上記課題を取り込んだ見直しプランを策定することを優先していた(証人A18・15~16頁,41~42頁)。
ウ 平成24年9月18日の被告の見直しプラン
被告は,稼働開始後の保守につき,テメノス社から,原告野村證券向けの「プレミアムサポートのご提案」(乙132の1・2)を得て,平成24年9月18日,「SMA/ファンドラップ・システム構築プロジェクト新プロジュクト計画のご説明資料」と題する資料(甲51)を用いて原告野村證券に対し,見直しプランを説明した(甲168,乙234,証人A20・17頁)。
上記見直しプランにおける見直しの骨子となる視点は,同月7日の見直しプラン(前記ア)とほぼ同様とされているが,①スケジュール,②態勢,③品質向上及び④プロジェクト管理について,項目ごとに具体化された骨子が示され,これに沿って,ウォークスルーやテスト,移行,態勢等について,具体的な見直し案が示されており,上記①のスケジュールでは,平成25年6月中にデータ切替と並行稼働を開始し,同年10月4日に最終切替と稼働開始を報告する予定とされている。また,現状の本件開発業務の問題点について,被告において認識しているものに加え,原告野村證券から提示を受けた種々の問題を整理したとして,①プロジェクト管理,②全体視点及び③文書化に分け,それぞれ対策を示している。
被告は,平成24年9月28日,「プロジェクトプラン変更に伴うリリースの検討(議論用資料)」と題する資料(乙138。甲163は乙138に原告担当者が書き込みをしたもの。)を作成し,原告野村證券に対し協議を申し入れた。同申入れは,稼働開始が平成25年1月4日以降となることを前提として,並行稼働方式など具体的な検討等について,議論を求める趣旨のものであったが,平成24年9月28日の打合せにおいて,原告野村證券のA20次長は,被告に課題一覧の趣旨が伝わっていないとして強く非難した(甲72,甲155,甲168,証人A20・18頁)。
エ 被告の見直し案に対する原告野村證券の評価
原告野村證券のA20次長は,平成24年9月28日,被告に対し,課題一覧に対する被告の対応についての評価を記載した文書をメール(甲72,甲155)で送付した(甲168,証人A20・17~18頁)。その評価は,別紙9の2「【SMA・FW】対策を確認したいプロジェクト課題(9/13中間報告を反映)」中右側の「対策方針」欄記載のとおり,2点「△」とされているのを除いては,ほとんどが「× 具体的な提示なし」と評価するものであった。
オ 平成24年10月4日の被告の見直しプラン
被告は,平成24年10月4日,「SMA/ファンドラップ・システム構築プロジェクト新プロジェクト計画のご説明資料」(甲49)及び「SMA/ファンドラップ・システム構築プロジェクト 新プロジェクト計画のご提案資料 別冊」(甲80)と題する2つの資料を用いて原告野村證券に対し,見直しプランに関する報告を行った(甲168,乙234,証人A20・18頁)。
同報告では,これまでの見直しプランにおける見直しの骨子を成す4つの視点に加え,新たに「再計画の実行精度を上げるための活動」が見直しの視点に加えられ,同視点からの活動として,①設計ウォークスルーの実施,②要件過不足検討会の実施,③システム化対象範囲検討が挙げられている。また,WMの仕様書開示という新たな打開策も打ち出し,問題点の分析についても,原因を深掘りするなどして分析を深めている。スケジュールについては,平成25年4~5月にかけて全体総合テストを行い,同年7月の稼働開始を目指す内容となっている。ただし,上記見直し案には,従前の本件システムに含まれていた直投及び提案バックテストが含まれていない。
被告のA16常務は,平成24年10月9日,原告野村證券のA15経営役に対し,見直し後の新たな計画でやりきれるという自社の立場を,自身やプログラムマネジャのA18ではなく,新たな計画に客観性と監査性を持って参画し,内容の精査を行った担当者や品質管理の責任者から説明する場を設けることを提案した(乙20)。
カ 原告野村證券の評価
原告野村證券は,被告の平成24年10月4日の見直し案について,別紙9の3「【SMA・FW】対策を確認したいプロジェクト課題(2012/10/4 最終報告の評価)」と題する文書(甲50。以下「新課題一覧」という。)を用いて,同別紙「対策方針」欄記載のとおり評価した(甲168)。
新課題一覧は,「A リリースが100%実現可能であること」及び「B リリース以降のサービス提供が100%実現可能であること」という視点から課題を26項目に分けて検討するものであり,上記Aのリリースの確実性については,仕様開示など「○」の評価を受けるところも出てきているのに対し,上記Bのリリース後の運用の確実性については相当厳しい評価となっている。
キ 平成24年10月15日の被告の最終見直しプラン
被告は,平成24年10月15日,「SMA/ファンドラップ・システム構築プロジェクト最終プロジェクト計画のご説明資料」と題する資料(甲52の1・2)を用いて,見直しプランに関する最終報告を行った。同報告は,これまでの対応の原因分析を起点とし,前回の提案に含まれていなかった直投及び提案バックテストを含めて計画の見直しをするものとなっている。また,スケジュールとしては,STARの稼働開始から約8か月遅らせた平成25年9月2日の稼働開始を目指す内容となっている。
ク 原告野村證券の評価(甲53)
原告野村證券は,被告の平成24年10月15日の見直し案について,別紙9の4「【SMA・FW】対策を確認したいプロジェクト課題(2012/10/4 最終報告およ(原文ママ)10/15追加説明の評価)」と題する文書(甲53。評価基準は新課題一覧と同じ。)を用いて,同別紙「対策方針」欄記載のとおり評価した。その評価は,引き続き厳しいものとなっていた。
ケ 原告野村證券が被告に提示した問題点を巡る争いについて
原告野村證券が最終的に被告に提示した問題点が課題一覧記載の23項目,新課題一覧記載の26項目のいずれであったかについては,当事者間に争いがある(前記前提事実(5)ソ)。
そこで検討すると,新課題一覧については,課題一覧(前記イ及びエ)とは異なり,原告野村證券が直接これを被告に示したことを示す客観的な証拠がなく,後に送付した本件解除に係る通知書(甲54)にも23項目の課題を提示したとの記載があるにとどまること(前記前提事実(6)ア)からみても,書面自体を直接被告に示したと認めることは困難である。もっとも,証拠(証人A20・21頁,証人A20[証人A18の対質部分64~65頁]及び証人A18・64~65頁)によれば,少なくとも,後に本件開発業務を中止する旨の本件通告の理由とされたデータ移行の問題と運用保守の問題は,課題一覧に含まれていたと認められるし,被告側でも課題として認識していたと認められ,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(4) 本件解除に至る経緯
ア 本件通告(乙21)
原告野村證券担当者は,平成24年11月2日の会議において,被告担当者に対し,データ移行と稼働開始後の運用保守にリスクがあることを理由として,口頭で本件通告をし,本件開発業務を中止することを通告した。同月6日,被告のA16常務が原告のA15経営役に確認した際も,特にデータ移行が問題であるとされた。なお,サブシステム内連結テストは,最終的には同年10月28日までは継続されていた(乙154の40・41)。
イ トップ会談(甲54)
総合テスト中止後の本件開発業務の取扱いは,原告野村證券内で,A15経営役より上位の経営判断に委ねられることとなっていたところ(前記6(3)ウ),平成24年11月20日,原告野村證券の営業部門CEOのA2と当時の被告代表者A35との会談が行われた。
A2・CEOは,本件開発業務が価格,品質及び納期の観点から不十分と評価している旨を表明するとともに,新プロジェクト計画を改めて検討する旨を表明したが,本件開発業務の中止の決定に変更はないことが被告に対して通知された。
ウ 被告の対応
被告のA16常務は,原告野村證券に対し,本件プロジェクトは,原告野村HDと被告との間の契約に基づいて進められてきたものであり,平成24年11月2日及び6日に中止の理由として表明されたデータ移行や運用保守のリスク(前記ア)については,被告の最終プランでは十分に対策が講じられており,中止に至る理由の説明について合理的な理由を見いだすことができないため,受け入れることができない旨を書面で通知した(乙22)。
被告のA5も,同月17日,原告野村證券のA8戦略部長と面談するとともにメールを送付し,データ移行及び運用保守という2点の懸念事項については,同年8月から開始した新プロジェクト計画作成作業に当たり,重要な課題として認識されていたが,打合せを重ね,双方につき,原告側担当者の理解を得て課題が解消されているとの認識を伝え,原告らがプロジェクトを取りやめても,既に請求済みの2億5290万円については直ちに支払うよう求める旨,及びその余の支払についても支払を求め,場合によって原告らの中止により被告が被った損害の賠償を求めることもある旨を伝えた(乙23)。
エ 本件解除(甲54)
原告野村HDは,平成25年1月29日,被告に対し,本件プロジェクト開発に係る全ての契約を解除する旨の本件解除を行った。
同解除通知には,平成24年8月,当初予定の平成25年1月のリリースを断念する旨の被告からの申入れを受け,被告に対し,平成24年8月27日,本件発動通知を行った上,新プロジェクト計画策定のため,23項目の課題を提示した旨,同年10月に提示された新プロジェクト計画は,原告野村證券が提示した課題への有効な解決策と評価できるものではなく,慎重な検討の結果,本件プロジェクトは失敗に終わったものとして中止せざるを得ないとの結論に達し,同年11月2日に被告に対し,その旨を通知した旨,同月20日の被告代表者と原告野村證券のCEOの会談において,委託継続の要件を受けたが,被告から具体的な改善策の提示はなかったため,同月27日に再度中止を通知した旨,中止までの間には,被告側の事情で度重なる遅延が生じており,契約において合意された成果物はいずれも納入されておらず,原告野村HDにおいては,支払済みの金額以外にも多額の損失を計上する結果となった旨の記載があり,上記損害については,支払済みの金員の返還と併せて,追って請求する旨が予告されている。
オ リテールITプロジェクトの終了
なお,原告らにおけるリテールITプロジェクトは終了し,本件各サービスに対しては,コンティンジェンシープランの発動によりSTARと接続された現行システムがしばらく稼働し,その後,現在ではNRIが開発したシステムが稼働している(証人A20・48~49頁)。
(5) 総合テストの中止までに発生した障害の評価及び被告の最終見直しプランの合理性に関する争いについて
本件開発業務において,総合テストの中止までに発生した本件システムの障害の評価及び被告の最終見直しプランの適切さについては,当事者間に争いがあり,被告は,上記障害は90.1%が対応済みで,被告の最終見直しプランによれば,当初の予定から3~4か月の遅れでサービス・インが可能な状況であったと主張するのに対し,原告らは,あまりに品質が悪く,被告の最終見直しプランによっても,完成の見通しが立たなかったと主張するので(前記前提事実(5)セ及びソ),以下検討する。
ア 専門家意見書の概要
原告ら及び被告は,それぞれ上記各主張に沿う専門家意見書として,原告らは,トーマツ意見書(乙86及び乙134)を,被告は,キャップ・ジェミニ意見書(甲142,甲151及び甲153)及びA36意見書(甲145,甲150及び甲154)を提出するところ,その概要は,それぞれ次のとおりである。
(ア) トーマツ意見書
トーマツ意見書は,最初の意見書(乙86。以下「トーマツ第1意見書」という。)では,テストの評価に一般に用いられている①欠陥除去効率(DRE)の観点から,テストにおけるデータに信頼度成長曲線の考え方を用いて課題対応終了予定日付を予測し,統計取得開始時点である平成23年6月1日時点では全体の60%超が修正中又は修正未着手の状態であったのに対し,同年10月17日時点では解決済み欠陥数が95%(一般的か指標は94%)を超える状態が続き,同月31日時点では10%まで減少していることから,障害発生や対応件数は収束傾向にあったとする。そして,②スケジュール遅延について,テストの繰返しによる習熟や態勢見直しによる効果も加味するとスピードが失速する可能性は低いと推測されることなどから,被告の最終プランにおけるスケジュール内の対応は可能であると評価する(乙86・69~74頁)。
また,次の意見書(乙134。以下「トーマツ第2意見書」という。)においては,上記トーマツ第1意見書に対する後記ギャップ・ジェミニ意見書の指摘を受けて,③テストケースが要件及び実施においてテストされるべき要件をどれだけカバーできているかという観点からの,テスト要件カバレッジ及びテスト実行カバレッジ,④どの程度重大な障害が生じているかに関する欠陥重症度指標(DSI),⑤どの程度の時間で対応できているかに関する欠陥対策時間の観点からも,同様の結論を導いている。
そして,トーマツ意見書は,被告の最終見直しプランは妥当な内容であり,障害対応の収束を含めて,本件システムが完成する可能性が高かったと結論づける(乙86・20~21頁,80頁,乙134・10頁)。
(イ) キャップ・ジェミニ意見書
キャップ・ジェミニ意見書は,トーマツ第1意見書につき,他の指標が用いられていないこと(甲142・17,19,20,23頁)のほか,トーマツ意見書で用いられている信頼度成長曲線によって,テストをしていないから欠陥が発見できないのか,品質が達成された状態なのかを判別するためには,テスト実行カバレッジが併用される必要があることを指摘し(同14~15頁),テスト実行カバレッジに関しては,本件関発業務では,総合テストが中断されているため未消化で,品質確認が不十分であるとし,他の指標にも確認できない部分が多いとする(同17頁)。
また,トーマツ第2意見書における他の指標の検討についても,検討が不十分であるとし(例えば,テスト要件カバレッジにつき甲153・13,28~30頁,39~40頁),スケジュール遅延について,トーマツ意見書は,障害の原因となった欠陥が新たな障害を発生させることなく直ちに修正されるとの前提に立つが,その前提に誤りがあるなどとして,トーマツ意見書における結論には根拠がないとする(甲151・23頁,甲153・19頁)。
さらに,被告の最終見直しプランの内容についても,サブシステム間連結テストの欠落や,総合テストとユーザ受入れテストを同時並行にて開発環境で実施するなどウォーターフォール型開発方式に反する不備があること,見直しプランを作成した当時のプロジェクトの混乱からみて信頼性が高くないなどとして,自身の分析では,最終見直しプランより8~10週間を超え,具体的に遅延期間を予測できない遅延が予測されると結論づける(甲153・14~18頁,42~62頁)。
(ウ) A36意見書
A36意見書は,トーマツ第1意見書における欠陥除去効率の分析及びトーマツ第2意見書におけるテスト実行カバレッジにつき,本件開発業務においては,総合テストが3週間で中止されていることを挙げ,その後の障害が検出されないために,収束しているように見えるだけで,収束傾向にあるとはいえないと評価する(甲145・4~6頁,28~30頁,甲154・3頁,10~12頁)。
そして,WMのテストが十分で新規障害の発生が収束状況にあるとのトーマツ意見書の見解は誤っているため,障害の収束時期を予測することはできないし,障害への対応スピードも揺れや振り幅が大きい状況が続いているため定めるのが困難であって,対応が完了する時期は予測できないとし,これらの点に関するトーマツ意見書の見解は根拠や検証を欠いているから信頼性に欠けると結論づける(甲145表紙,甲154・14~15頁)。
イ 原告野村證券及び被告の各担当者の証言
一方,本件開発業務が中止された際の原告野村證券及び被告の各担当者のうち,まず,被告のテスト推進チームのリーダーであったA11は,障害に対する対応は90%が終了していたので,平成25年1月4日は無理だが,同年5月頃には稼働開始が可能であったと証言するが,同証言は,同人の経験からの感覚にとどまっている(証人A11・27~28頁,同[証人A18対質部分72頁])。
一方,原告野村證券のプロジェクトマネジャ補佐であり,テスト推進チームのリーダーであったA20次長は,テストケース940ケース中40ケース程度で総合テストが中止され,その後の900ケースでどのような不具合が生じるか全く予想がつかない中で,被告の見直し案自体が,移行を含めて,今後,具体的検討を要する比較的大きな課題が残された抽象的なものであり,A11がいうように時間をかければできるのかも知れないが,論理的にプロジェクトを進められるという確信が持てず,これ以上続けられないと思った旨証言する(証人A20・63頁,同[証人A18対質部分67~68頁,73頁])。
これに対し,被告のプロジェクトマネジャであったA18は,見直しプランは,総合テストまで入って不具合もある程度分かっている中での再プランであり,慎重に計画したので自信があったと証言するが(証人A18・73~74頁),同証人も,被告の見直しプランに,今後の具体的検討を要する大きな課題があったことは認めている(同68頁)。
ウ 障害の評価及び最終見直しプランの合理性
本件審理に関与した専門委員2名の説明によれば,上記アの各専門家意見書の作成者は,いずれもコンピュータ・システム開発業務について,相応の知見を有する者であり,各意見書中で参照されている文献も,それぞれコンピュータ・システム開発業務において,一般に参照されている文献であり(本件第14回口頭弁論調書添付の各専門委員作成書面参照),そのほか外形的にその信用性を疑わせるような事情は,いずれの意見書についても見当たらない。
そして,本件開発業務における総合テスト中止時の障害の評価及び被告の最終見直しプランの合理性は,そのような専門家意見書において,前記アのとおり,評価が真っ向から分かれる内容・性質のものであることに加え,前記イの関係者の証言内容,特に,完成可能であるとの被告担当者の見解が,経験からの感覚にとどまっていたり,見直しプランに具体的検討を要する大きな課題があることを自認するものであることを総合すると,少なくとも,本件システムは,総合テスト中止時の障害の状況の下で,社会通念に照らして客観的にみて,被告の見直しプランによって完成が確実であったとまでは認められず,かえって,ユーザである原告野村證券において,完成や円滑な移行,稼働開始後の運用保守を危惧することもやむを得ないものであったと認められ,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
第4 本訴債務不履行請求に対する判断
1 履行不能の成否について
(1) 本件発動通知による本件個別契約14の履行不能
前記認定事実によれば,本件各個別契約のうち,平成23年3月におけるWMの導入決定(前記認定事実3(4)ウ)より後に締結された本件個別契約5~17は,いずれもリテールITプロジェクトにおいて更新されるSTARの開発と併せて,そのサブシステムの一つとして本件システムを開発し(同1(4)),平成25年1月4日にSTARと連携して同時に稼働を開始させる目的で締結されてきたものと認められる。
しかし,前記認定事実によれば,これらの契約によって進められた本件開発業務は,要件定義に関する作業が遅延して完了しないまま平成23年9月に設計・開発フェーズが開始され(同4(3)ウ,同5(1)及び(2)イ),同フェーズにおいてプログラムを分割出荷とするとともにスケジュールの調整が行われたが(同5(1)及び(2)),度重なる出荷遅延が発生し(同5(3)~(7)),品質向上のためにSTARとの同時稼働開始を断念して本件開発業務を一時中止することが検討されるような状況も経て(同5(5)イ),平成24年8月に設計・開発フェーズと並行してテストフェーズが開始されたが(同6(2)エ),同フェーズにおいて前工程までのテストが十分でなかったと分析される障害が多発し,同年8月24日の本件リスク報告では,ベンダである被告自身が,STARとの同時稼働開始にスケジュール及び品質のリスクがある旨を申し出る状況に陥ったものである(同6(3)ア及びイ)。
被告が報告した上記スケジュール及び品質のリスクとは,要するに,本件システムが平成25年1月4日のSTARの稼働開始までには完成せず,仮に完成させても稼働開始後に不具合を生じるというリスクにほかならず,このようなリスクが現実化したときには,原告野村證券の顧客に対する本件各サービスに係る業務に支障が生じることは避けられないと考えられる。そして,顧客に対し,日々円滑に本件各サービスに係る業務を提供すべき立場にある原告野村證券にとって,社内のコンピュータ・システムの更新に伴い,顧客との関係で上記のような業務支障を生じさせるリスクは,到底,許容し得るものとは思われない。しかも,本件リスク報告は,STARの稼働開始まで4か月強しか残されていない時期に,遅延し障害が多発していた当時の本件開発業務の状況を踏まえ,ベンダである被告自身が行ったものであるから,そのリスクは,客観的にみて,現実的で差し迫ったものであったというべきである。
前記認定事実のとおり,原告野村證券は,平成24年8月24日の本件リスク報告を受け,総合テストを中止してコンティンジェンシープランを発動することとし,同月27日には本件発動通知をし,STARの稼働開始に向けて現行システムとの接続が開発されるに至ったが(前記認定事実6(3)ウ),ここで発動されたコンティンジェンシープランとは,不測の事態が発生したときに被害や損失を最小限にとどめる目的であらかじめ定められたものであり(前記前提事実(5)セ),以上のような許容し得ない現実的で差し迫った業務支障リスクに直面した当時の状況の下で,ユーザである原告野村證券が,リスクマネジメント策としてコンティンジェンシープランを発動するということは,社会通念に照らして客観的にみて,ごく通常の,あるいは当然の因果の流れであったと認められる。むしろ,当時の状況の下で,本件開発業務がそのまま継続されるということは,通常考え難いほどに不自然・不合理なことというべきである。
そして,上記中止された総合テストとは,履行未了につき当事者間に争いがない本件個別契約14(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄ア(イ)及び【被告】欄ア(イ))における被告の債務の目的であり,具体的には,リテールITプロジェクトの総合テストへの参加を通じて行われるものであるところ(前記認定事実6(1)及び(2)),以上の事情の下では,本件発動通知の後に,現行システムでなく,本件システムがリテールITプロジェクトの総合テストに再び参加することは,社会通念上,客観的にみてあり得ない。
そうすると,本件個別契約14における被告の債務は,本件発動通知がされた平成24年8月27日の時点において,履行不能を来したものと認められる。
(2) 本件通告による本件個別契約13及び15の履行不能
本件発動通知当時,被告が,総合テストと並行して,本件個別契約13(前記認定事実5(1)ア(ウ),(エ)及び別紙8の5「基本設計~サブシステム内連結テストフェーズ整理表」「No.」欄3)及び15(前記認定事実5(3)イ)における被告の債務であるサブシステム内連結テストを受入れテストとして行っていたことは,前記認定のとおりである(同6(2)エ及び(3)ウ)。ところで,本件個別契約13及び15は,本件個別契約14と同様,平成25年1月4日のSTARとの同時稼働開始を目的とする契約であって(前記(1)),本来,本件個別契約14による総合テストの開始までには債務の履行を終了すべきであったところ,その履行が遅延したため,次の工程のための本件個別契約14における債務の履行と並行して行われていたものにすぎない(前記認定事実6(1)及び(2))。そうすると,本件個別契約13及び15は,より後の工程のための本件個別契約14が本件発動通知により履行不能を来したこと(前記(1))に伴い,本来は,当然に履行不能を来すことになるのが通常の性質のものというべきである。
もっとも,前記認定事実のとおり,本件開発業務においては,本件発動通知の後も,STARに遅れた稼働開始に向けた見直しプランの検討が重ねられる中で,本件通知の直前までサブシステム内連結テストが継続されていたものである(前記認定事実7(4)ア)。また,本件個別契約13及び15に基づくサブシステム内連結テストは,STARとの連携前の本件システム自体のテストであって,STARに遅れた稼働開始のためにも必要であり,総合テストとは異なり,リテールITプロジェクトとは別に行うこともできる性質のものということができる。そうすると,本件の具体的事実関係の下では,本件個別契約13及び15における被告の個別具体的な債務までが,本件発動通知によって直ちに履行不能を来したとまで認めることは困難である。
しかし,見直しプランで検討されたSTARに遅れた稼働開始は,例えば,総合テストの環境をリテールITプロジェクトのものとは別に新たに構築する必要が生じるであろうし,現行システムから本件システムへの移行もSTARの稼働開始前に行う移行とは全く条件が異なることが予想されるなど,本件個別契約13及び15の本来の目的であるSTARとの同時稼働開始とは開発に関わる諸事情が大きく異なることが明らかである。実際にも,原告野村證券のA20次長は,見直しプランを本件開発業務の本来の作業としてではなく,ビジネス上の施策に係る再計画として検討した旨を証言し(証人A20・51~52頁,61頁),被告のA18も,移行方式などについては検討課題が多く残されていたことを認めており(証人A18・67~68頁),原告ら及び被告の各担当者が,見直しプランと本件個別契約13及び15とが同じ契約目的を有すると解していたとは認められない。また,上記見直しプランの検討は,本件発動通知後,本件開発業務の取扱いが原告野村證券内でより上位の経営判断に委ねられる中で,本件システムの開発に意欲的であったA15経営役からの非公式の指示で行われていたものであり(前記認定事実6(3)イ,ウ及び7(1)),STARに遅れた稼働開始に向けて開発を継続するとのユーザの判断が正式に行われていたわけでもない。そうすると,見直しプランの検討とは,本件個別契約13及び15の本来の契約目的を,STARに遅れた本件システムの稼働開始に変更した上で,本件開発業務を継続することについての検討と位置づけるよりほかない。したがって,本件開発業務を中止する旨の本件通告(前記認定事実7(4)ア)は,原告野村證券が,本件個別契約13及び15について,契約目的を変更してまで継続することはしない旨を明らかにしたものというべきである。そして,サブシステム内連結テストに係る被告の債務は,承認やレビューはもとより,作業の場や機器の確保など,ユーザである原告野村證券の協力なくして履行できないものと解されるから,本件通告の後,被告がサブシステム内連結テストを行うことは,社会通念上,客観的にみて不可能である。
そうすると,本件個別契約13及び15における被告の債務は,本件通告がされた平成24年11月2日時点において,履行不能を来したものと認められる。
(3) 本件個別契約13~15の履行不能を争う被告の主張について
ア 本件システムの完成義務を負わない旨の主張について
被告は,本件各個別契約の履行不能を争い,その理由として,本件各個別契約は,契約を予測可能な範囲で区切り,債権・債務の内容を明確化したものであり,被告は,本件各個別契約に基づき,直ちに本件システムを完成させる義務を負わないことを挙げる(前記当事者の主張(1)【被告】欄ア(ア))。
確かに,コンピュータ・システム開発においては,不可避的に発生する不測の事態を想定し,これに対応しつつ,試行錯誤を経ながら進行するのが通常であるため,ユーザとベンダ双方のリスクマネジメントの機会を確保する観点から,工程ごとに段階的に個別契約を締結する手法が採られていることが認められる(乙118,乙124)。実際に,本件開発業務においても,カスタマイズ量の著しい増大や要件定義作業の遅延,ドロップ2の分割出荷といった開発状況に応じ,当初予定されていなかった概要設計最適化フェーズのための本件個別契約8や,基本設計準備フェーズのための本件個別契約9,ドロップ2のための本件個別契約15が締結されているのであり(前記認定事実4(3)ア,(5)ア及び5(3)イ),本件各個別契約がフェーズごとに段階的に締結されてきたのは,様々な変更を織り込みつつ進行する開発状況に応じて,リスクマネジメントの観点から,段階ごとに次の工程の在り方を検討し,当該次の工程に必要・適切な債権・債務を契約ごとに個別具体的に定める趣旨に基づくものと解される。そして,STARと連携した稼働開始までには,本件各個別契約における債務のほかに,移行に関わる作業など,更に契約上の債務として個別具体化されるべき種々の作業が必要になると推認することができるから,被告が,本件各個別契約に基づき,直接,STARと連携して稼働する本件システムを完成させるべき契約上の債務を負っていたとまでは解されない。また,本件開発業務について,本件個別契約5~17を包含し,本件システムの完成やSTARと連携した稼働開始を直接の法的義務として約するような包括的契約が締結されていた様子も見当たらない。もちろん,平成25年1月4日のSTARと連携した本件システムの稼働開始は,本件個別契約5~17の共通の目的であるから(前記(1)),被告の本件個別契約5~17における個別具体的な債務は,上記契約目的の達成のために履行されるものではあるが,以上によれば,被告が,STARと連携して稼働する本件システムを完成させるべき債務を,本件各個別契約上の債務として負っていたと認めることは困難である。
もっとも,本件では,本件個別契約13~15において個別具体的に定められた被告の給付が,それぞれ社会通念に照らして客観的にみて不可能となったため,上記各契約上の被告の債務が履行不能を来したと認められることは,前記(1)及び(2)で認定・説示したとおりである。したがって,被告が,本件各個別契約に基づき,直接,STARと連携して稼働する本件システムを完成させるべき契約上の債務を負っていなかったとしても,本件個別契約13~15の履行不能が否定されるものとは解されない。
イ 本件個別契約13及び15の履行を完了した旨の主張について
被告は,本件個別契約13及び15は,履行が完了しているから,遡って履行不能となることはないと主張し(前記当事者の主張(1)【被告】欄ア(イ)),反訴に関する主張の中で,その履行完了の根拠として,本件システムが総合テストへの参加を承認され,総合テストに参加したことを挙げる(同(3)ア【被告】欄(ウ))。
しかし,前記認定事実によれば,本件開発業務における総合テストは,ウォーターフォール型開発プロセスにおける通常のテストとは異なり,原告野村證券への納品前の被告の受入れテストであるサブシステム内連結テストと並行して,サブシステム内連結テストが終了したプログラムから順次行われ(前記認定事実6(2)エ),前工程までのテストで解消されるべき障害が多数発生し,本件リスク報告においても,受入れテストの終了時期の遅れが,稼働開始に対するスケジュール上のリスクの一つとして挙げられていたほか,総合テストが中止された後も,被告はサブシステム内連結テストを継続していたものである(同(3)ア~ウ)。
以上の事情の下では,総合テストへの参加の承認やその参加によって,本件個別契約13及び15の履行が完了したと認めることは到底できず,他に本件個別契約13及び15の履行が完了したと認めるに足りる証拠はない。
ウ 後付けの理由による一方的な切捨てであるとの主張について
被告は,本件通告の理由とされたデータ移行及び運用保守のリスクが後付けであり,本件通知当時,本件システムは被告の見直しプランにより完成が確実な状況にあったのに,原告らは,何らかの社内的な事情から,本件システムを一方的に切り捨てるとの経営判断をしたとも主張する(前記当事者の主張(1)【被告】欄ア(イ))。
しかし,前記認定事実によれば,WMは本邦で初めて導入されるパッケージ・ソフトウェアであって(前記認定事実1(3)柱書),円滑な移行と運用保守サービス態勢の構築は,被告の当初の提案からの方針とされながらも(同2(1)イ)。その後,継続してリスクが懸念されてきたところであり(要件定義フェーズ及び導入決定につき同3(3)エ及び(4)ウ,設計・開発フェーズの終了直前につき同5(6)イ),本件発動通知後の課題一覧にも含まれており,その送付を受けた被告担当者も課題として認識していたと認められるのであって(同7(3)イ及びエ),これらが後付けの理由であるとは認め難い。
また,本件システムが,総合テスト中止時の障害の状況の下で,社会通念に照らして客観的にみて,被告の見直しプランによって完成が確実であったとは認められず,かえって,ユーザである原告野村證券において,完成や円滑な移行,稼働開始後の運用保守を危惧することがやむを得ないものであったことも,前記認定のとおりである(同7(5))。そして,見直しプランの検討とは,契約目的を変更して本件個別契約13及び15を継続するかどうかの検討であったところ(前記(2)),本件リスク報告までの前記(1)のような遅延と障害の状況の下で,ベンダから,完成や円滑な移行,稼働開始後の運用保守を危惧することもやむを得ないような見直し案の提示しか受けられなかった場合,更なる費用と期間をかけ,契約目的を変更してまで本件開発業務を継続することを選択しないことは,社会通念に照らして客観的にみて,通常のユーザのリスクマネジメントとして,当然とまではいえないとしても,無理からぬ選択であったというべきであるから,本件通告が一方的な切捨てであるとの評価は当を得ない。
なお,被告は,原告らが本件システムを切り捨てるとの経営判断をした社内的事情として,インサイダー取引事件を契機とする経営陣の交代という原告野村證券の背景事情(乙26~35。枝番のあるものは枝番を含む。)を挙げている。原告野村證券に金融庁の検査が入っていたことは事実であるが(前記認定事実5(6)イ),原告野村證券担当者は,本件開発業務が難航する中で,金融庁の検査強化を稼働開始後の保守面での懸案材料に挙げている(同5(6)イ③)。そして,上記懸案にも無理からぬところがあるから,被告主張の上記背景事情から,直ちに原告野村證券が本件システムを切り捨てる判断をしたと認めることは困難であり,他に,上記被告の主張をうかがわせるような証拠ないし事情は見当たらない。
エ 小括
以上のとおり,本件個別契約13~15の履行不能を争う被告の主張は,理由がない。
(4) 本件個別契約13~15を除く本件各個別契約も履行不能となるとの原告野村HDの主張について
ア 本件システムの完成不能による履行不能の主張について
一方,原告野村HDは,本件各個別契約の債務の本旨に従った給付には,本件システムの完成が含まれるから,本件システムの完成が不能となった以上,本件各個別契約は全て遡って履行不能となると主張する(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄ア柱書及び(ア))。
しかし,被告が,本件各個別契約に基づき,直接,STARと連携して稼働する本件システムを完成させるべき契約上の債務を負っていたとまでは解されないことは前記説示のとおりである(前記(3)ア)。確かに,本件各個別契約のうち,本件個別契約5~17は,平成25年1月4日の本件システムとSTARとの同時稼働開始を共通の契約目的としているが(前記(1)),契約目的の達成不能と契約上の個別具体的な債務の履行不能とは分けて検討する必要がある(民法542条,543条参照)。そして,本件個別契約5~17が,目的を共通にしながらもフェーズごとに段階的に締結されてきた趣旨(前記(3)ア)からすれば,その共通の契約目的は,各契約が順次締結され,その個別具体的な債務の履行の終了を順次積み重ねていくことにより,段階的に達成されていくことが,当事者間で予定されていたと解される。それにもかかわらず,各契約に定められた個別具体的な債務の履行により各フェーズの工程が終了し,対価の支払が完了しても,なお最終的な契約目的が達成されるまで,債務が履行未了のものとして残存すると解することは,上記のような契約を締結した当事者の合理的意思に反するものというべきである。そうすると,本件各個別契約の債務の本旨に従った給付に本件システムの完成が含まれるとの原告野村HDの主張は,上記共通の契約目的を有する本件個別契約5~17についても採用できない。
まして,本件個別契約1~4は,いずれもWMの導入決定前に,本件個別契約1~3については,WMを導入した本件システムの開発が可能かどうかの確認及び検証を目的として(前記認定事実2(2)ア,ウ及び3(2)ア),本件個別契約4については,原告野村證券の予算上の都合から,実質的な要件定義作業を行わず,インターフェース等の検討をすることを目的として(同3(4)ア及びエ),それぞれ締結されたものである。すなわち,本件個別契約1~4は,契約目的にさえ本件システムの完成を含まないのであり,これらの契約における債務の本旨に従った給付が本件システムの完成を含まないことは明らかである。
以上によれば,本件各個別契約の債務の本旨に従った給付が本件システムの完成を含むことを理由として,本件システムの完成不能により,各個別契約が遡って全て履行不能となるとの原告野村HDの主張は採用できない。
イ 被告が債務の本旨に従った履行を完了していないから履行不能となるとの主張について
原告野村HDは,本件個別契約13~15を除く本件各個別契約が全て履行不能を来す理由として,被告が債務の本旨に従った履行を完了したことがないとも主張する(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄ア(イ))。そして,原告野村HDが,被告に債務の本旨に従わないプロジェクト・マネジメント義務違反があったとして種々の事情を挙げる(PM整理表中「状況」欄,「原因」欄及び「対策」欄の各「原告ら」欄参照)ことからすると,上記主張は,被告が,本件各個別契約における個別具体的な債務について,債務の本旨に従った履行を完了しないまま,本件開発業務が終了したことをもって履行不能とする趣旨とも解される。ところで,本件各個別契約は,本件開発業務の各時点における開発状況に応じて必要・適切な債務を個別具体的に定める趣旨のものであり(前記(3)ア),本件個別契約13~15を除く本件各個別契約は,それぞれ契約目的や個別具体的な債務を異にすることから,以下,①WMの導入決定前の各契約(本件個別契約1~4),②要件定義に関する各契約(本件個別契約5,8及び9)及び③その他の各契約(本件個別契約6,7,10,11,12,16及び17)に分けて,上記主張について判断する。
(ア) WMの導入決定前の各契約(本件個別契約1~4)について
本件個別契約1~3が,WMを導入した本件システムの開発が可能かどうかの確認及び検証を目的として(前記認定事実2(2)ア,ウ及び3(2)ア),本件個別契約4が,実質的な要件定義作業を行わず,インターフェース等の検討をすることを目的として(同3(4)ア及びエ),それぞれ締結されたものであることは,前記アのとおりであり,これらの契約は本件個別契約5~17とは契約目的を異にしている。そして,本件個別契約1~3における確認及び検証は,原告野村證券がWMの導入を決定したことにより終了し(同3(4)ウ),本件個別契約4において予定された検討も行われ(同3(4)イ),原告野村HDは,これらに対する対価の支払を完了している(別紙1「契約一覧」中「1 ウェルス・マネージャー導入にかかる被告との契約」と題する表の欄外1~4の各「発注額(税別)」欄及び「支払額(税別)」欄)。以上の事情の下では,本件個別契約1~4は,被告の債務の履行に不十分なところがあったとしても,それぞれその最終的な契約目的を達成して終了したと認めるのが相当であり,後に履行不能を来すものとは解されない。
(イ) 要件定義に係る各契約(本件個別契約5,8及び9)について
本件個別契約5,8及び9は,本件システムとSTARとの同時稼働開始という共通の契約目的を有する本件個別契約5~17(前記(1))に含まれる。しかし,上記共通の契約目的は,順次の契約締結と履行の終了の積み重ねにより,段階的に達成されていくことが予定されたものであるところ(前記ア),本件個別契約5,8及び9は,概要設計フェーズ,概要設計最適化フェーズ及び基本設計準備フェーズについての契約であって(前記認定事実4(1)ア,(3)ア及び(5)ア),上流工程の要件定義を目的とする点で,下流工程の設計・開発・テストを目的とする本件個別契約13~15とは異なる段階的な目的を有している。
ところで,原告野村HDが,被告に債務の本旨に従わないプロジェクト・マネジメント義務違反があったとして挙げる諸事情(PM整理表中「状況」欄,「原因」欄及び「対策」欄の各「原告ら」欄参照)は,本件個別契約13~15に関する事情を除けば,専ら要件定義に関する事情となっている。そして,確かに,本件開発業務の上流工程では,例えば,本件個別契約5による概要設計フェーズまでの間,被告の支援の下で原告野村證券担当者がWMの機能に合わせた要件定義を行うことが不可能な状況の下でカスタマイズ量が増大する(前記認定事実4(4))など,被告の債務の履行に債務の本旨に従わないところがあったことは否定し難い。
しかし,開発状況に応じて必要・適切な債務を契約ごとに個別具体的に定める本件各個別契約の趣旨(前記(3)ア)からすると,本件各個別契約は,前の工程における不十分な点や不備の是正を,次の工程において行う趣旨をも含んでいたと認められる。実際にも,前記認定事実によれば,本件開発業務では,上記概要設計フェーズにおけるカスタマイズ量の増大に応じて,新たに本件個別契約8が締結されて概要設計最適化フェーズが行われ,同フェーズにおいて,概要設計フェーズで増大したカスタマイズ量は,相当程度削減されて是正されたものであり,それにもかかわらず,全体としてカスタマイズ量が削減できなかったのは,要件の詳細化によるカスタマイズ量の増大によるところが大きかったものである(前記認定事実4(4))。そして,本件開発業務では,その後,取り立てて要件を見直す気配もないまま,ストーリーボードの取りまとめが進められ(同5(1)),平成23年12月5日には,開発の前提となるストーリーボードも確定し(同5(2)イ),設計・開発フェーズが進められ,受入れテストと並行してとはいえ総合テストも開始され,原告野村HDは,要件定義のための上記各契約の対価の支払を完了している(別紙1「契約一覧」中「1 ウェルス・マネージャー導入にかかる被告との契約」と題する表の欄外5,8及び9の各「発注額(税別)」欄及び「支払額(税別)」欄)。
要件定義は,ウォーターフォール型開発方式におけるユーザの要求をベンダが開発できるような形に取りまとめる上流工程の作業であって(前記前提事実(3)イ),その取りまとめの主体は,ユーザであり,ベンダとの間の契約は,その取りまとめをベンダが開発できるような形で行うことを支援する趣旨のものと解される。そして,以上の事情の下では,原告らは,遅くとも総合テストが開始されるまでには,ユーザとしてベンダが開発できるような形での要件の取りまとめを終了したと認めるのが相当である。
なお,前記認定事実によれば,本件開発業務では,平成23年12月5日のストーリーボードのサインオフ後の設計・開発フェーズでも,ストーリーボードの確認・修正作業が続いている(前記認定事実5(2)ウ(ウ),(3)ウ,オ,(5)ウ(イ)など)。しかし,その確認・修正作業には,原告野村證券が確定した内容と異なることを理由とするものが散見されるところ,このような確定後の無断修正の是正は,要件の確定が未了であることを意味しないことが明らかである。また,ウォーターフォール型のコンピュータ・システム開発では,要件定義確定後の設計・開発・テスト段階において,確定した要件定義に不備や欠陥が発見されて修正されることも,あらかじめ予定されていると解されるから,このような修正作業もやはり要件の確定が未了であることを意味しないものというべきである。そして,前記認定事実によれば,本件開発業務では,テメノス社の要件の把握不足からショーストッパーを呈し,最後まで総合テストへの参加を妨げた「運用開始日前日案件作成」も改善し,総合テストへの参加をみたものであり(前記認定事実6(2)エ),本件全証拠によっても,総合テストへの参加時点において,ベンダが開発できるような形での要件の取りまとめ自体が終了していない要件があったとは認められない。
そうすると,要件定義のための本件個別契約5,8及び9は,被告の債務の履行に不十分なところがあったとしても,それぞれその段階的な契約目的を達成して終了したと認められ,後に履行不能を来すものとは解されない。
(ウ) その他の各契約(本件個別契約6,7,10,11,12,16及び17)について
本件個別契約6,7,10,11,12,16及び17(以下「本件各その他契約」と総称する。)は,ライセンス契約や機器等の購入契約,ハードや基盤に関する契約であり,そもそも被告が債務の本旨に従った履行をしなかったところとして原告らが挙げる要件定義や設計・開発に関する諸事情(PM整理表中「状況」欄,「原因」欄及び「対策」欄の各「原告ら」欄参照)と,本件各その他契約における被告の債務の履行状況が具体的にどのように関連していたかが明らかでない。
原告野村HDの主張中には,機器等を利用できていないなどとする部分もあるが(原告ら準備書面(28)28頁),その納品等に争いはなく(原告ら準備書面(26)2頁),原告野村證券は,その対価の支払を完了しているのであるから(別紙1「契約一覧」中「1 ウェルス・マネージャー導入にかかる被告との契約」と題する表の欄外6,7,10,11,12,16及び17の各「発注額(税別)」欄及び「支払額(税別)」欄),本件各その他契約については,要件定義や設計・開発に係る被告の債務の履行状況にかかわらず,個別具体的な債務自体は,履行が完了したと認めるのが相当である。
ウ 履行不能を理由として解除し得る旨の主張について
原告野村HDは,最高裁判所平成8年11月12日第三小法廷判決(民集50巻10号2673頁。甲55)を引用し,本件システムの完成不能に伴い,少なくともWMの導入決定以後に締結された本件各個別契約(前記(1)のとおり,本件個別契約5~17と認められる。)については,履行不能を理由として解除し得るとも主張する(原告ら準備書面(28)・第2の1(1)イ・3~11頁)。
しかし,上記最高裁判決は,同一当事者間で締結された2個以上の契約のうち1の契約の債務不履行を理由に他の契約を解除し得る場合について判断したものであって,1の契約の債務不履行を理由に他の契約が債務不履行を来すことを判断したものとは解されない。
また,上記最高裁判決の下で,いずれかの債務不履行を理由としてその余の契約を解除し得るのは,社会通念上,いずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体として達成されないと認められる場合であると解される。これを本件個別契約5~17について検討すると,これらの各契約の共通の契約目的は,各契約の締結と履行の終了の積み重ねを通じて,順次段階的に達成されていくことが予定されたものであって(前記ア),上記最高裁判決の事案のように,数個の契約の同時並行的な履行によって達成されることが予定されたものではない。しかも,上記最高裁判決の事案では,共通の契約目的を達成する上で必要な契約があらかじめ全で締結され,数個の契約上の債務の履行により契約目的が達成されることが法的に保障されていたのに対し,本件開発業務については,本件個別契約5~17を包含し,本件システムの完成やSTARと連携した稼働開始を直接の法的義務として約するような包括的契約もなく(前記(3)ア),中止に備えたコンティンジェンシープランも想定される(前記前提事実(5)セ)など,契約ごとの段階的な契約目的を超えて,最終的な共通の契約目的が達成されることが法的に保障されていたものでもない。
以上によれば,上記最高裁判決は,本件とは事案を異にするというべきであるから,本件に引用するのは相当でない。
エ 小括
以上のとおり,本件システムの完成不能に伴い,本件個別契約13~15を除く本件各個別契約も履行不能となるとの原告野村HDの主張は,採用できない。
2 被告の責めに帰すべからざる事由について
(1) 本件個別契約13~15の履行不能に係る帰責事由について
ア 本件個別契約14が,本件発動通知のされた平成24年8月27日時点で履行不能を来したこと,しかし,本件発動通知に係るコンティンジェンシープランの発動が,本件リスク報告までの遅延と障害多発の状況の下で,許容し得ない現実的で差し迫った業務支障リスクに直面したユーザのリスクマネジメント策として,ごく通常の,あるいは当然の因果の流れと認められることは,前記説示のとおりである(前記1(1))。
そうすると,コンティンジェンシープランを発動し,本件発動通知をしたこと自体が,原告らの責めに帰すべき事由によるとはいえないから,本件個別契約14の履行不能に係る帰責事由は,コンティンジェンシープランの発動がごく通常の,あるいは当然の因果の流れとされるような本件リスク報告までの開発業務の遅延と障害多発の状況について,検討されるべきである。
イ 本件個別契約13及び15が,本来は,本件個別契約14の履行不能に伴い通常当然に履行不能を来すべき性質のものであったこと,しかし,本件の具体的な事実関係の下では,その契約目的を変更した上で継続することが検討されていたために,直ちに履行不能を来すことはなく,本件通告がされ,上記継続がされないことが確定した平成24年11月2日時点において履行不能を来したことは,前記説示のとおりである(前記1(2))。そして,契約当事者が契約目的を変更しないことを責めに帰すべき事由とするのは,もともと困難である上,前記1(3)ウ説示のとおり,本件では,本件リスク報告までの遅延と障害の状況の下で,契約目的を変更してまで本件開発業務を継続することを選択しないことは,通常のユーザのリスクマネジメントとして,当然とまではいえないとしても,無理からぬ選択であったのであるから,尚更,本件通告が,原告らの責めに帰すべき事由によるとはいえない。
そうすると,本件個別契約13及び15の履行不能に係る帰責事由もまた,契約目的を変更してまで本件開発業務を継続するとの選択をしないことがやむを得ないといえるような,本件リスク報告までの開発業務の遅延と障害多発の状況について,検討されるべきである。
ウ そこで,以下,本件リスク報告までの開発業務の遅延と障害多発の状況が,被告の責めに帰すべからざる事由によるといえるか否かを検討する。
前記認定事実によれば,本件開発業務において,スケジュール8を遵守できなかった本件局面9以降の度重なる出荷遅延は,テメノス社による要件及びカスタマイズ量の把握不足による可能性が極めて大きいものである(前記認定事実5(8))。テメノス社は,本件個別契約13~15に係る被告の履行補助者であるから,その要件及びカスタマイズ量の把握不足は,ベンダである被告自身のものと同視される。それて,ベンダが要件及びカスタマイズ量の把握不足を原因としてプログラムの出荷を遅延するような行為は,ベンダとしての通常の注意を欠いたものと言わざるを得ない。
また,前記認定事実によれば,テメノス社による要件の把握は,要件定義フェーズ及び概要設計フェーズにおいては,被告の原告事業部担当者に対するヒアリングに基づいて行われたものである(同3(2)ウ(ウ)及び4(1)イ(ウ))。このことに,被告のレビューで修正が必要とされたストーリーボードの例(同5(1)ウ(ア))や,被告が正しく理解していたのにテメノス社が理解を欠いた「運用開始日前日案件作成」の例(同6(2)エ)をも総合すると,履行補助者であるテメノス社の要件及びカスタマイズ量の把握不足は,債務者本人である被告との間の連携に原因がある可能性が高いものというべきである。
加えて,本件局面8~12における度重なる出荷遅延は,他の様々な要因が複雑に関与して生じたものと認められるところ(同5(8)),被告が,原告事業部の業務に対応できないAppwayをワークフローの開発に用いることを決定し,当初の工数を上回る工数の増加を招き,第2回遅延問題検討会でA9戦略部課長から批判を受けたこと(同5(1)ア(ウ),(2)ウ(ア)及び7(2)イ③)や,微増の修正にとどまるとしてフィーの変更を決定したこと(同5(1)ウ(カ))などは,前記認定の経緯に照らし,その遅延の一因となっている可能性が高いものというべきである。
エ 以上によれば,本件リスク報告までの開発業務の遅延と障害多発の状況が,被告の責めに帰すべからざる事由によると認めるのは困難であり,本件個別契約13~15の履行不能が被告の責めに帰すべからざる事由によるとは認められない。
(2) 帰責事由を争う被告の主張について
被告は,履行不能に係る帰責事由を争い,本件開発業務が遅延したのは,①上流工程における要件定義作業の遅れ,②カスタマイズ量の増大,及び,③ストーリーボードのサインオフの遅れ(以下,上記丸数字に応じて「本件遅滞要因①」のようにいい,本件遅滞要因①~③を「本件各遅滞要因」と総称する。)によるものであり,被告は,その時々の課題に対し,適宜,適切な対策を講じていたのに,原告らが一方的に本件開発業務を取り止めたから,被告の責めに帰すべからざる事由があると主張する(前記当事者の主張(1)【被告】欄ア(ウ),PM整理表中「No.」欄1~3の「原因」欄中「被告」欄)。このうち,原告らが一方的に本件開発業務を取り止めたとの主張を採用できず,本件通告が原告らの責めに帰すべき事由によるといえないことは,前記説示のとおりであるから(前記(1)イ及び1(3)ウ),以下,その余の点について判断する。
ア 本件各遅滞要因について
本件遅滞要因①のうち,要件定義フェーズが提案活動にとどまったため,要件定義作業が遅延したという点(PM整理表中「No.」欄1の「原因」欄中「被告」欄①)は,もともと原告野村證券では,原告開発基準の下で,要件定義を要件定義と概要設計の2段階で行い,要件定義段階でパッケージ・ソフトの採否を決定する方法が採用され,これが原告野村證券と被告の各担当者間で共有されていたのであるから(前記認定事実3(2)エ),そもそも遅れがあったと認め難い。また,本件遅滞要因①のうち,リテールITプロジェクトに合わせて概要設計フェーズが延長されたため,要件定義作業が遅延したという点(PM整理表中「No.」欄1の「原因」欄中「被告」欄③)についても,少なくとも,原告野村證券がリテールITプロジェクトに合わせることを要望したとは認められず(同4(1)ア(エ)),原告ら側の要因であるとは認め難い。
次に,本件遅滞要因②,すなわち,カスタマイズ量の著しい増大(PM整理表中「No.」欄2の「原因」欄中「被告」欄)についても,前記認定事実によれば,原告野村證券は,概要設計フェーズまでの間は,被告の支援の下でWMの機能に合わせた要件定義を行うことが不可能であったと言わざるを得ず,概要設計最適化フェーズにおけるカスタマイズ量の増大は,原告野村證券が現行業務に固執して削減を妨げたことによるのではなく,要件の詳細化に伴う新たなギャップの把握に大きな原因があったと推認され,被告の責めに帰すべからざる事由があるとは認め難い(前記認定事実4(4))。
以上に対し,本件遅滞要因①のうち,概要設計立ち上げフェーズにおいて,原告野村證券の予算上の事情から実質的な要件定義作義が行われなかったこと(前記認定事実3(4)エ),及び,本件遅滞要因③,すなわち,原告野村證券がストーリーボードのサインオフを遅延したこと(同5(1)イ)は,被告主張のとおりである。そして,これらのことが,本件開発業務が本件局面7及び8の時点で大きなリスクを内在する要因となったことは,本訴各不法行為請求に関し,後記第5の2で認定・説示するとおりである。
しかし,前記認定事実によれば,被告は,要件定義フェーズ,概要設計フェーズ及び概要設計準備フェーズまでの期間の経過(前記柱書①)と,概要設計フェーズ及び概要設計最適化フェーズでのカスタマイズ量の著しい増大(前記柱書②)という開発状況を踏まえて,本件局面7において,スケジュール7を前提に,設計・開発フェーズのための本件個別契約13を締結し(前記認定事実5(1)ア(ア)及び(エ)),さらに,本件局面8において,ストーリーボードのサインオフの遅れ(前記柱書③)という開発状況の変化を踏まえ,大規模なスケジュールの見直しを行って,スケジュール7をスケジュール8に変更したのであるから(同5(2)ア),本件各遅滞要因は,被告がベンダとして提案したスケジュール8に織り込み済みであるはずである。ところが,被告は,そのスケジュール8を遵守できずに,局面9~12において度重なる出荷遅延を生じさせたものであり(同5(3)~(7)),その度重なる出荷遅延は,テメノス社の要件及びカスタマイズ量の把握不足によるところが大きいのであるから(同5(8)),いずれにしても,本件各遅延要因から,スケジュール8を遵守できたかったことが,被告の責めに帰すべからざる事由によるということはできない。
イ 被告が適切なマネジメント策を講じていたとの点について
被告は,その時々の課題に対し,適宜,適切な対策を講じていたと主張する(前記柱書)。
確かに,前記認定事実によれば,被告は,スケジュール8を遵守できなかった本件局面9以降の度重なる出荷遅延に対しても,平成24年4月15日からテメノス社の作業拠点であるトロントに人員を派遣するなど(前記認定事実5(4)ウ,(5)イ及び(6)イ),本件開発業務の開発状況を踏まえて様々なマネジメント策を講じたことが認められ,これらの中に,開発状況の改善に寄与するものが存在したことは否定できない。例えば,被告は,本件開発業務の難航を受け,上流工程で要件把握に携わったA11やA12を本件開発業務に復帰させ(同5(3)イ及び6(2)ウ),パッケージ・ソフトウェア導入の経験に長けたA17の補充・代替としてカスタム開発の経験に長けたA18を本件開発業務に参加させているところ(同5(5)イ及び6(2)ウ),前記認定のその後の開発状況からみて,これらの開発態勢の補強が開発状況の改善に寄与したところは大きかったことがうかがわれる。
しかし,被告は,それ以前に,A11やA12を本件開発業務から離脱させ,カスタマイズ量の著しい増大の中で,パッケージ・ソフトウェア導入の経験に長けたA17を本件開発業務に従事させ続けていたわけであり,これを改善したからといって,被告の責めに帰すべからざる事由があるということはできない。また,前記認定事実によれば,被告やテメノス社の頻繁な人員の変更は,原告野村證券側から批判を受けることが多く(前記認定事実5(1)イ,(2)ウ(ア)及び(3)ア),中には,原告野村證券側の評価が低かった人員を交代させた例もあったが(同5(2)ウ(ウ),(3)オ及び6(2)ウ),A22のように,原告野村證券との約束に反した本件開発業務からの離脱を止められず,被告が管理の甘さを謝罪した例もあったのであり(同6(2)イ),被告が講じた開発態勢が全て適切であったわけではない。さらにいえば,被告がいかにマネジメント策を講じたとしても,履行補助者であるテメノス社に要件及びカスタマイズ量の把握不足があり,これを原因としてプログラムの出荷が遅延した可能性が極めて高いものである以上(前記(1)ウ),被告の責めに帰すべからざる事由があるとはいえない。
ウ その余の点について
以上のほか,被告は,インターフェース機能の設計遅延を挙げ,自身の責めに帰すべからざる事由がある(PM整理表中「No.」欄4の「原因」欄中「被告」欄)などと主張するが,以上によれば,その余について判断するまでもなく,本件個別契約13~15の履行不能が被告の責めに帰すべからざる事由によると認めることは困難である。
(3) 小括
したがって,被告は,本件個別契約13~15の履行不能によって原告野村HDが被った損害について,債務不履行責任を負うというべきである。
3 損害について
(1) 本件個別契約13~15の履行不能を理由として賠償されるべき損害の範囲について
ア 原告野村HDが,履行不能となった本件個別契約13~15自体の代金として,合計12億5223万円(消費税相当額を含む。)を支払ったことは,当事者間に争いがない(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄イ(ア)及び【被告】欄イ(ア))。
被告は,上記支払額のうち,既履行部分の報酬が損害を構成することはないと主張する(上記【被告】欄)。しかし,前記認定事実によれば,原告野村證券では,本件各サービスについて,コンティンジェンシープランの発動によりSTARと接続された現行システムがしばらく稼働し,現在ではNRIが開発した別のシステムが稼働しており(前記認定事実7(4)オ),本件全証拠によっても,本件個別契約13~15が履行不能となった後,その既履行部分について,原告野村HDに何らかの経済的利益が残存していたとは認められない。したがって,その代金の支払は,本件個別契約13~15が履行不能となったことにより,無為に帰したものというべきである。
以上によれば,上記本件個別契約13~15の代金合計12億5223万円は,本件個別契約13~15の履行不能による損害を構成すると認められる。
イ 原告野村HDが,本件各個別契約のうち,WMのライセンス契約である本件個別契約6の代金として6億6150万円(消費税相当額を含む。)を支払ったことは,当事者間に争いがない(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄イ(ア)及び【被告】欄イ(ア))。
被告は,上記支払額についても,既履行であるから損害を構成することはないと主張する(上記【被告】欄)。本件個別契約6が,既履行であり,本件発動通知や本件通告により遡って履行不能を来すものでないことは前記説示のとおりであるが(前記1(4)),本件個別契約13~15が履行不能となったことにより,もはや本件システムが開発されることはなく,本件全証拠によっても,本件個別契約13~15が履行不能を来した後,本件個別契約6により得たWMのライセンスについて,原告野村HDに何らかの経済的利益が残存していたとは認められない。したがって,その代金の支払は,本件個別契約13~15が履行不能となったことにより,無為に帰したものというべきであり,これにより債権者である原告野村HDには現実の損害が生じたと認めることができるから,本件個別契約6が履行不能を来していないからといって,上記支払額を損害から除外すべき理由は見当たらない。
以上によれば,本件個別契約6の代金合計6億6150万円は,本件個別契約13~15の履行不能による損害を構成すると認められる。
ウ 原告野村HDは,本訴債務不履行請求において,その余の本件各個別契約に本件各別途契約及び本件中止対応契約も加えた本件各契約のための支払総額並びに本件各機械の処分費用及び弁護士費用について賠償を求めている(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄イ(ア))。
しかし,本件各個別契約のうち履行不能となった契約は,本件個別契約13~15のみである(前記1(1)及び(3))。そして,本件個別契約13及び15には「IBMの損害賠償責任は(中略)損害発生の直接原因となった当該別紙所定の作業に対する受領済みの代金相当額を限度額とする。」との責任制限条項が,本件個別契約14には「お客様がIBMの責に帰すべき事由に基づいて救済を求めるすべての場合において,IBMの損害賠償責任は(中略)損害発生の直接原因となった当該『サービス』の料金相当額(中略)を限度とする。」との責任制限条項が,それぞれ設けられている(前記前提事実(7)。以下,契約の略称に合わせて「本件責任制限条項13」のように略称する。)。
本件各責任制限条項は,経済産業省が提唱するモデル契約においても類似の規定が設けられているものであり(乙124・53条),その趣旨は,コンピュータ・システム開発に関連して生じる損害額が多額に上るおそれがあることに鑑み,段階的に締結された契約のいずれかが原因となってユーザに損害が生じた場合,ベンダが賠償すべき損害を当該損害発生の直接の原因となった個別契約の対価を基準として合意により限定し,損害賠償という観点からも契約の個別化を図るものと解される。また,その性質は,賠償上限額についての損害賠償の予定と解される。
そうすると,本件個別契約13~15の下で被告が賠償すべき損害は,本件責任制限条項13~15により,本件個別契約13及び15の支払済みの代金額に,本件個別契約14の代金相当額を加算した合計16億2078万円に限られるというべきである。そして,前記ア及びイ認定の損害は,合計19億1373万円であり,既に上記損害賠償予定限度額を上回るから,本訴債務不履行請求のうち,同金額を超える損害について賠償を求める部分は,その余について判断するまでもなく理由がない(なお,過失相殺をすべきでないことは,後記(3)説示のとおりである。)。
(2) 本件各責任制限条項の適用を争う原告野村HDの主張について
原告野村HDは,本件各責任制限条項は,①信義則違反により無効であり,②少なくとも被告に重過失のある本件について適用されるべきでなく,③仮に有効であるとしても,第三者との間の契約により生じた本件各別途契約及び本件各中止対応契約に係る損害については適用されるべきではないと主張するので(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄イ(イ)),以下,判断する。
ア 信義則違反の主張(上記柱書①)について
原告野村HDは,信義則違反の理由として,本件各責任制限条項が一方的に同原告に不利な内容であるのに,何らの交渉も行われず,交渉を行うこともできないまま定められたと主張する。
しかし,まず,本件各責任制限条項と類似の規定を含む経済産業省のモデル契約は,ユーザ・ベンダ双方のリスクを考慮したものとされている(乙124・53条)。また,本件各個別契約は,消費者契約ではなく,それぞれの業界において我が国を代表するともいえるような大企業の間で締結されたものであり,原告野村HDについて,一方的に不利益な契約条項を是正する交渉力が被告に劣後していたと認めるに足りる証拠はない。
しかも,本件各責任制限条項は,本件個別契約13~15に係る契約書のみならず,同様に被告の役務提供を内容とする本件個別契約1~5,8,9及び17に係る各契約書(甲1の枝番1~5,8,9,12~14及び16)にも明記され,これらの契約書はいずれも被告の調印から数日を経て原告野村HDの調印がされているから,原告野村HDは,本件各個別契約の内容を確認の上,調印に応じたものと認められるところ,その調印に当たり,原告野村HDが本件各責任制限条項について被告に交渉を求めたような気配は,本件全証拠によっても見当たらない。
以上の事情の下では,原告野村HDが,契約書上明記された本件責任制限条項13~15が本件に適用されないと信頼して調印したとは認められない。かえって,以上の事情を総合すれば,本件各責任制限条項を含む本件個別契約13~15は,対等な当事者が自由な意思で合意したものというべきであり,信義則違反により無効であるとの原告野村HDの主張は採用できない。
イ 重過失の主張(上記柱書②)について
原告野村HDは,被告には,ベンダに通常求められる適切なプロジェクト・マネジメントを怠って本件開発業務を頓挫させた重過失がある(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄ア(ウ))とし,被告に重過失のある本件について本件各責任制限条項は適用されるべきではないと主張する(同欄イ(イ))。
しかし,ベンダに重過失がある場合に責任制限条項を適用しない旨の規定は,経済産業省のモデル契約には設けられているものの(乙124・53条3項),本件個別契約13~15に係る各契約書(甲1の枝番12~14)には,その旨の明文規定はない。
もっとも,前記(1)ウで説示した本件各責任限定条項の趣旨に鑑みれば,被告に重過失があるときは,信義則に照らして本件各責任制限条項の適用が制限されると解する余地がないではない。
しかし,本件開発業務が,本件局面7及び8の時点において,大きなリスクを内在し,これを完遂することが相当困難なものとなっていたことは,本訴各不法行為請求について,後記第5で説示するとおりである。また,コンピュータ・システム開発において,ベンダが変化する開発状況に応じて講じるマネジメント策には様々な選択肢があると考えられ,その中で取るべきマネジメント策を一義的に定めることは困難であるから,その選択は,基本的にはベンダの裁量に委ねられると解さざるを得ない。そして,原告野村HDは,被告の重過失について,①WM及び証券業務についての知識不足,②引継ぎに不備のある頻繁な要員の交代,③杜撰な進捗管理,④不正確・不十分な設計書,及び,②5〉杜撰な品質管理(前記当事者の主張(1)【原告野村HD】欄ア(ウ),PM整理表中「No.」欄5・6の「原因」欄中「原告ら」欄)などを挙げるところ,確かに,被告が講じたマネジメント策の中には,その当否に疑義の残るものがないとはいえないが(前記2(2)イ),本件全証拠によっても,被告が,通常のベンダとしての裁量を逸脱して社会通念上明らかに講じてはならないような不合理な対応策を取ったとか,ベンダとして社会通念上明らかに講じなければならない対応策を怠ったと認めることは困難である。そして,そのほか被告の重過失を認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告の重過失を理由として,本件各責任制限条項の適用を争う原告野村HDの主張は採用できない。
ウ 第三者との間の契約の除外の主張(上記柱書③)について
本件各責任制限条項には,第三者との間の契約に基づく支払について適用を除外する旨の規定は置かれておらず,経済産業省のモデル契約の条文や解説(乙124)にも,これに類する記載はない。そして,原告野村HD及び被告のような大企業が,確認の上,書面で締結した損害賠償額の予定について,明文規定も当事者間の具体的な交渉もないのに,一部の損害が適用から除外されると解すべき合理的な法的根拠は見当たらない。
なお,この点について原告野村HDが引用する裁判例(甲73,乙130)は,コンピュータ・システムの完成を目的として,当事者間の具体的な交渉を経て包括的契約が締結され,同契約において,将来の個別契約の対価を限度とする責任制限条項が約された事案について,当事者間の具体的な交渉に即した意思解釈をしたものであり,その解釈は,特段の交渉がされておらず,個別契約に責任制限条項の置かれた本件(前記ア)に,直ちに妥当するものではない。
エ 小括
以上によれば,本件に本件責任制限条項13~15が適用されないとの原告野村HDの主張は採用できない。
(3) 原告ら側の過失について
被告は,帰責事由に関し,原告らの責めに帰すべき事由があると主張し,これらの事情は本訴債務不履行請求に係る過失相殺に係る事情としても考慮されるべきであると主張する(被告準備書面31・10頁)。
確かに,本件開発業務が,本件局面7及び8の時点において,大きなリスクを内在するものとなっていたこと,上記リスクを内在するに至ったのは,専ら上流工程における原告ら側の要因によるところが大きいことは,本訴各不法行為請求について後記説示するとおりである(後記第5)。
しかし,本件個別契約13~15の履行不能は,テメノス社の要件及びカスタマイズ量の把握不足に起因して,スケジュール8を遵守できなかった本件局面9以降の度重なる出荷遅延によるところが大きく(前記2(1)及び(2)ア,前記認定事実5(8)),下流工程において,原告らに,本件個別契約13~15の履行不能を来す原因となるような協力義務の懈怠その他の過失があったと認めるに足りる証拠はない。
以上の事情の下では,本件開発業務の遅滞に原告ら側の要因が関与しているとしても,その要因を,下流工程のための本件個別契約13~15の履行不能についての債権者の過失と評価することは困難である。また,上流工程における原告ら側の要因を理由として,本件責任制限条項13~15により下流工程の対価の額に制限された原告野村HDの損害(前記(1)ウ)から更に控除することは,むしろ損害の公平な分担という過失相殺の趣旨に反するものというべきである。したがって,本件の損害を定めるに当たり,過失相殺をすることは相当でない。
4 小括
以上によれば,原告野村HDの被告に対する本訴債務不履行請求は,16億2078万円及びこれに対する催告期間が満了した日の翌日である平成25年6月13日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(なお,原告野村HDは,本件解除日からの遅延損害金の支払を求めるが,本件解除において,原告野村HDは,損害については追って請求する旨を予告したのみであり(前記前提事実(6)ア),催告は同年5月29日に2週間の催告期間をもって行われている(同イ)。)。
第5 本訴各不法行為請求に対する判断
原告らは,本件開発業務が頓挫したことについて,被告には,ベンダとしての不法行為法上の注意義務違反があるから,不法行為責任も負うと主張するので(前記当事者の主張(2)【原告ら】欄ア),以下,判断する。
1 本件システムの完成に係る利益の侵害について
前記認定事実によれば,本件開発業務は,本邦で初めて導入されるWMをカスタマイズして,WMが前提とするグローバルスタンダードとは種々異なるところのある固有で複雑な原告事業部の要件に適合させるという業務であり(前記認定事実1(3)柱書,4(4)及び5(8)),もともとその基礎に相応に困難な内容・性質の業務を含んでいたというべきである。
また,本件開発業務について想定された開発期間は,カスタマイズ量の増大により,本件局面7の設計・開発フェーズの開始時点から,WMの通常の想定に不足していたものである(同5(1)ア(ア))。本件開発業務に係るテメノス社のカスタマイズ量の把握は不適切であったから(同5(8)),上記カスタマイズ量は,客観的には過少であったと推認され,これに伴う開発期間の想定も客観的には短すぎたと推認される。しかし,WMを知悉するテメノス社は,その過少なカスタマイズ量を前提にしても,本件局面8より前から開発期間の延長を求め(同5(1)ウ(イ)),本件局面8でもスケジュール8より15日長い開発期間を希望しており(同5(2)ア(ア)②),本件開発業務は,結局,開発期間が不足して頓挫している(同6(3)イ及びウ)。また,本件開発業務は,パッケージ導入の経験に長けたA17の補充・代替としてカスタム開発の経験に長けたA18を本件開発業務に参加させてから(同5(5)イ及び6(2)ウ),状況が改善したことがうかがわれ,その後の頓挫を受けて,A20次長は,本件開発業務はカスタム開発寄りの方法論を取らなければうまくいかないと考えていたものである(同7(2)イ)。以上の事情に,パッケージ・ソフトウェアを利用する開発は,一般にはカスタマイズ量が増大すれば,開発費用が増大し,開発期間が長期化するという関係にあること(前記前提事実(3)ア参照)をも総合すると,本件局面7の設計・開発フェーズ開始時における客観的なWMのカスタマイズ量は,パッケージ・ソフトウェアを利用する開発としては,相当程度,合理性を欠く量に及んでいたと推認するのが相当である。
そうすると,もともと基礎に相応に困難な内容・性質を含んでいた本件開発業務は,カスタマイズ量の増大により,本件局面7の設計・開発フェーズの開始時点においては,開発費用の増大や開発期間の長期化により頓挫する相当程度のリスクを内在するに至っていたものというべきである。そして,そのリスクは,ストーリーボードのサインオフが遅延して変更されたスケジュール8(前記認定事実5(1)イ,ウ及び(2)ア)において,開発期間の圧縮により,更に大きなものとなったことが明らかである。
被告が,上記のような大きなリスクを顕在化させることなく,平成25年1月4日にSTARと連携した本件システムの稼働を開始させ,本件開発業務を完遂することは,被告がコンピュータ・システム開発業界において我が国を代表するようなベンダであることを考慮しても,相当困難なことであったと推認される。そして,このように困難な業務の完遂を,契約上の業務から離れて,一般市民法秩序を規律する不法行為法上の義務として被告が負っていたと解することは,困難なことと言わざるを得ない。
したがって,本訴各不法行為請求は,本件システムの完成に係る利益の侵害を根拠とするものとしては,理由がない。
2 信頼利益の侵害について
前記認定事実によれば,原告らは,WMの導入決定後,平成25年1月4日の本件システムの稼働開始を目的として本件個別契約5~17を締結し,24億円を超える費用を投じ(別紙1「契約一覧」中「1 ウェルス・マネージャー導入にかかる被告との契約」と題する表の「支払額(税込)」欄),本件システム自体も,サブシステム内連結テストと並行してではあれ,一応,総合テストに参加する段階まで到達していたものである。そうすると,被告が,本件システムの完成に係る原告らの期待を違法に侵害することがなかったかについては,別に検討する余地がないではない。
しかし,まず,前記認定事実によれば,本件開発業務が本件局面7及び8の時点で大きなリスクを内在するものとなった(前記1)要因には,次の①~④のような上流工程における原告ら側の要因が含まれていたと認められる。
① もともと本件開発業務の困難さの基礎に,原告事業部の要件にグローバルスタンダードとは異なる固有かつ複雑な内容があったことは,前記1のとおりである。しかし,原告らは,RBCを始めとする海外での実績を重視して,本邦で初めて導入されるWMの導入を決定しながら(前記認定事実3(4)ウ),上記実績の詳細を全く調査しておらず(証人A6・49~50頁),当時のプロジェクトマネジャであるA4事業部課長は,自らそのことを「甘かった」と評している(証人A4・47頁)。
② また,本件開発業務で想定された開発期間が,設計・開発フェーズの開始当初,想定された過少なカスタマイズ量を前提としても,WMの通常の想定に不足していたことは,前記1のとおりである。そして,その不足期間は1か月であったところ(前記認定事実5(2)),本件開発業務では,それより前,原告野村證券の予算上の事情に起因して,1か月間,実質的な要件定義作業に着手しない概要設計立ち上げフェーズが設けられていたものである(前記第4の2(2)ア,前記認定事実3(4)エ)。
③ さらに,本件開発業務におけるカスタマイズ量が,客観的には,本件局面7の設計・開発フェーズの開始時点で,パッケージ・ソフトウェアを利用する開発としては,相当程度,合理性を欠く量に及んだことが,大きなリスクを内在する要因となったことも,前記1のとおりである。しかし,原告らは,もともと低コストかつ短期間での構築を重視してWMの導入を検討し,その導入を決定したのに(前記認定事実2(1)イ及び3(4)ウ),カスタマイズ量が増大し,また,その増大の経緯から被告のWMの理解度に疑問を覚えたにもかかわらず,特段の再検討を行わず,8億0800万円という対価はさほど高額ではないなどとして本件個別契約13を締結している(同5(1)ア(エ))。しかも,その際,原告らは,提案書に明記されたストーリーボードの重要性を見誤り(同4(4)),平成23年9月9日のサインオフまでの検討期間は不十分であると認識しつつ,口頭であれば間に合うであろうという程度の見通ししかないのに,本件個別契約13を締結し(同5(1)ア(エ)),上記サインオフ期限には,サインオフを条件付きのものとして,内容を確定せずに次のフェーズを進めることを了解している(同5(1)イ)。
前記認定事実によれば,本件開発業務におけるカスタマイズ量の増大自体は原告らの責めに帰すべき事由によるとまではいえないが(前記認定事実4(6)),原告らは,要件定義の主体であるユーザである。そして,WMは本邦に初めて導入されるパッケージ・ソフトウェアでもあったのであり(同1(3)柱書),カスタマイズ量の増大を受けて,低コストや短期間・最低限のカスタマイズでの導入もうたわれなくなった段階(同5(1)ア(ウ))における上記のような原告らの態度は,ユーザとして,その増大したカスタマイズ部分の客観的な確認や,テメノス社がそのカスタマイズに必要な原告事業部の要件を把握したか否かの確認を十分しないまま,安易に設計・開発フェーズの開始に踏み切ったものと言わざるを得ない。
④ 加えて,口頭であれば間に合うであろうという原告らの上記見通しは,上記のとおりストーリーボードの重要性を見誤ったところに基づき,平成23年6月頃から情報提供を受けていたストーリーボードの案について本格的な検討を進めず(前記認定事実4(6)),サインオフ期限の10日前の同月8月末に受領した案について,初めて原告事業部のプロジェクトマネジャが検討を始めるというような状況の下での見通しであったものであり(同4(6)),その見通しに反して,ストーリーボードのサインオフが遅れ,本件局面7から不足していた開発期間が更に圧縮されて,本件局面8において,本件開発業務に内在するリスクを更に大きなものとしたことも,前記1のとおりである。
ユーザである原告ら側の上記①~④のような要因は,本件の証人尋問における専門委員2名の補充尋問に対する原告ら側証人A6及び同A4の証言(証人A6・49~52頁,証人A4・50~51頁)並びに上記補充尋問の趣旨に関する専門委員2名の説明(本件第14回口頭弁論調書添付の各専門委員の説明書)からみても,本件開発業務が,本件局面7及び8の時点で大きなリスクを内在するに至った大きな要因となったことを否定し難い。しかも,前記認定事実によれば,原告らは,上記リスクが顕在化して本件開発業務が難航する中で,ドロップ2のための本件個別契約15を締結し(前記認定事実5(3)イ),上記リスクが顕在化して本件開発業務の一時中止が検討されるに至った際も,当時のプロジェクトマネジャ補佐であるA20次長が一時中止に賛成するような見通し状況であったのに,ベンダの判断を尊重することとして本件開発業務を継続することとし(同5(5)イ),更に本件個別契約14を締結したものである。そして,本件開発業務は,本件2頭態勢の下で進められてきたものであるから(前記前提事実(4)ア),原告らは,以上のような本件開発業務の難航状況を知悉していたはずであり,かつ,原告らは,NRIというコンピュータ・システム開発に通じた関連会社を有し(前記前提事実(2)ア),本件開発業務当時は,リテールITプロジェクトに伴い,A20のようなNRI出身の技術者を原告戦略部に置き,本件開発業務にも関与させていたのであって(別紙7「主要人員整理表」中「★A20」欄),コンピュータ・システム開発に関する専門的知識や経験の点で被告に大きく劣っていたとは認め難い。それにもかかわらず,原告野村HDは,被告と対等な立場で,自由な意思で,原告野村證券のため,本件個別契約13~15を締結したものである(前記第4の3(2)ア)。
以上の事情の下では,原告らは,本件個別契約13~15について,これが頓挫して本件開発業務が完遂されない大きなリスクを自ら内在させたものと言わざるを得ず,そのような原告らが,本件開発業務が完遂されて,費用が無為にならないことを期待したとしても,その期待は,契約法とは別に,不法行為法上,信義則に照らして直ちに保護の対象となるものとは解されない。もちろん,被告は,本件個別契約13~15を締結したベンダであるから,本件開発業務がいかに大きなリスクを内在していても,その完遂に向け,適宜・適切なマネジメント策を講じていく必要があったということはできる。しかし,その講じるマネジメント策は基本的には被告の裁量に委ねられていると解されること,本件全証拠によっても,被告が,通常のベンダとしての裁量を逸脱して社会通念上明らかに講じてはならないような不合理な対応策を取ったとか,ベンダとして社会通念上明らかに講じなければならない対応策を怠ったと認められないことも,前記説示のとおりであって(前記第4の3(2)イ),被告のマネジメント策が信義に反するとまで認定する根拠となるような事情は,本件全証拠によっても見当たらない。
以上のような本件開発業務に係る原告らの期待の内容及び性質並びにその期待を害した被告の加害行為の態様等を総合考慮すると,本件開発業務における被告の作為・不作為は,一般市民法秩序を規律する不法行為法上,違法と評価することが困難である。
3 小括
したがって,本訴各不法行為請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。
第6 反訴事件の各請求に対する判断
1 反訴未払報酬請求について
被告は,本件個別契約13及び15の履行及び本件個別契約14の一部の履行は完了しており,また,本件個別契約14の履行未了分は,原告の責めに帰すべき事由によって履行不能となったから,被告は,本件個別契約13~15に係る報酬を全額請求できると主張する。
しかし,本件個別契約13及び15の履行が完了していないことは,前記第4の1(3)イのとおりである。また,本件個別契約14による総合テストは,ウォーターフォール型開発プロセスにおける通常のテストとは異なり,原告野村證券への納品前の被告の受入れテストであるサブシステム内連結テストが終了したプログラムから,順次並行して行われたものであり(前記認定事実6(2)エ及びオ),債務の本旨に従ったものとはいえないから,報酬請求権は発生しないと解するのが相当である。そして,本件個別契約14の履行不能については,被告に帰責事由があると認められることは,前記説示のとおりであり(前記第4の2),これが原告野村HDの責めに帰すべき履行不能であるとは認められない。
以上によれば,被告の反訴未払報酬請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。
2 反訴追加作業関係各請求について
被告が本件各追加作業を行ったことは,当事者間に争いがなく(前記当事者の主張(4)【被告】欄ア及び【原告ら】欄),被告は,反訴追加作業関係各請求において,本件各追加作業について,当事者間の合意,商法512条又は債務不履行(原告野村HDにつき)を理由として,相当報酬額の支払を求めている。
しかし,本件各追加作業について,原告らが,被告との間で相当報酬額を支払う旨を合意した事実は,本件全証拠によっても認められないから,合意に基づく請求は理由がない。
また,本件各追加作業は,本件開発業務の遅延及び履行不能に伴う作業であるところ(弁論の全趣旨),その履行不能が被告の責めに帰すべからざる事由によるとはいえず,被告が債務不履行責任を負うことは,前記第4説示のとおりである。そうすると,被告は,自身の債務を履行し(本件追加作業(ア)及び(イ)),又は,履行不能により終了した契約の清算作業として(本件追加作業(ウ)),本件各追加作業を行ったものと認めるのが相当であり,原告らの事務を行ったとは認められないから,商法512条による請求は理由がない。
被告は,原告野村HDのプロジェクト・マネジメント義務懈怠を理由とする債務不履行を根拠として,本件各追加作業の相当報酬額の賠償を求めるところ,本件開発業務は,その上流工程において,原告らの要因もあって大きなリスクを内在するものとなってはいるが(前記第5の2),本件個別契約13~15の履行不能は,専らスケジュール8を遵守できなかった本件局面9以降の度重なる出荷遅延とこれに伴う総合テストでの障害の多発にあるのであって,これらが原告らのマネジメントの誤りによって生じたと認めるに足りる証拠はない。
3 小括
以上によれば,被告の反訴各請求は,いずれも理由がない。
第7 結論
よって,原告野村HDの本訴債務不履行請求については,16億2078万円及びこれに対する平成25年6月13日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で認容してその余を棄却し,原告らの本訴各不法行為請求及び被告の反訴各請求については,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第15部
(裁判長裁判官 東亜由美 裁判官 不破大輔 裁判官 田中香里)
別紙1
(別紙)契約一覧
1 ウェルス・マネージャ導入にかかる被告との契約
テーマ名 内容 関連性 相手方 証拠 発注額(税別) 未払額(税別) 支払額(税別) 支払額(税込)
1 IBM支援サービス契約書 SMA・ファンドラップ 導入前機能検証(事前準備フェーズ)支援 POC実施に向けたシナリオの確認、環境準備 被告 甲1の1 契約書 8,000,000 0 8,000,000 8,400,000
2 IBM支援サービス契約 SMA・ファンドラップ 導入前機能検証(実行フェーズ) デモの実施 被告 甲1の2 契約書 8,000,000 0 8,000,000 8,400,000
3 IBM支援サービス契約書 SMA/ファンドラップ 要件定義フェーズ 要件定義活動 被告 甲1の3 契約書 39,200,000 0 39,200,000 41,160,000
4 IBM支援サービス契約書 SMA/ファンドラップ 概要設計フェーズ立ち上げ支援 概要設計 被告 甲1の4 契約書 9,800,000 0 9,800,000 10,290,000
5 IBM支援サービス契約書 SMA/ファンドラップ 概要設計フェーズの支援 概要設計 被告 甲1の5 契約書 173,700,000 0 173,700,000 182,385,000
6 IBM支援サービス契約書に対する補足契約書(添付:本件ライセンス契約) ウェルスマネージャーのライセンス契約 被告 甲1の6 契約書 630,000,000 0 630,000,000 661,500,000
7 IBM支援サービス契約書 他社製プログラム支援サービス 開発機器の購入と初年度の保守料 被告 甲1の7 契約書 87,468,546 0 87,468,546 91,841,956
8 IBM支援サービス契約書 SMA/ファンドラップ 概要設計最適化の支援 概要設計の見直し 被告 甲1の8 契約書 56,000,000 0 56,000,000 58,800,000
9 IBM支援サービス契約書 SMA/ファンドラッ 基本設計準備 基本設計 被告 甲1の9 契約書 70,750,000 0 70,750,000 74,287,500
10 IBM製品・サービス契約書(一括署名契約書) 本番機器、開発機器の購入と初年度の保守料 被告 甲1の10 契約書 125,657,966 0 125,657,966 131,940,833
11 IBM請負サービス契約書 電源ケーブルの変更作業
※本番機器を設置したデータセンターの電源仕様と異なっていた為
被告 甲1の11の1 契約書 46,800 0 46,800 49,140
12 御見積書兼注文書(IBM機械売買用) 電源ケーブルの購入
※本番機器を設置したデータセンターの電源仕様と異なっていた為
被告 甲1の11の2 注文書 18,000 0 18,000 18,900
13 IBMシステム・インテグレーション契約書 基本設計~内部連結テスト 被告 甲1の12 契約書 808,000,000 14,900,000 793,100,000 832,755,000
14 IBM支援サービス契約書 SMA/ファンドラップ フロントIT総合テスト~リリース支援 フロントIT総合テスト~リリース 被告 甲1の13 契約書 695,000,000 351,000,000 344,000,000 361,200,000
15 IBMシステム・インテグレーション契約書 顧客Webの開発、テスト 被告 甲1の14 契約書 61,500,000 6,000,000 55,500,000 58,275,000
16 IBMプログラム契約書 active PDF Toolkit Professionalの購入 ウェルスマネージャーで作成したPDFを大日本印刷で印刷・発送を行うが、大日本印刷でページ数の情報が必要な為、ページ数をカウントさせるツールを購入 被告 甲1の15 契約書 358,000 0 358,000 375,900
17 IBMサービス支援契約書 SMA/ファンドラップ 基盤MSFC構築支援 本番環境のサーバーノード名変更 FQDN名、DNSサーバーに関する方針の修正に伴う作業 被告 甲1の16 契約書 3,600,000 0 3,600,000 3,780,000
小計 2,405,199,312 2,525,459,229
2 ウェルス・マネージャ導入にかかる被告以外のベンダーとの契約
テーマ名 内容 関連性 相手方 証拠 発注額(税別) 未払額(税別) 支払額(税別) 支払額(税込)
1 【SMA・ファンドラップ】データ移行検討支援(9月20日~10月末) 旧システム側の担当者によるデータ移行支援活動
・旧システムのデータに関する問合せ対応等
旧システムからのデータ移行を行う上で必要となる作業 NRI 甲2の1 請求書 4,900,000 0 4,900,000 5,145,000
2 日本橋本館地下1階開発ネットワーク構築対応 開発用のネットーワーク構築作業 プロジェクトルームで開発作業を可能とする対応 NRI 甲2の2 請求書 200,000 0 200,000 210,000
3 SMA基盤システム変更に伴う株式売買案件作成機能適応[開発~連結テスト] NPMの開発~連結テスト NPMをウェルスマネージャーとシステム間連携可能とする対応 株式会社金融データソリューションズ 甲2の3 請求書 6,415,000 0 6,415,000 6,735,750
4 SMA基盤システムに伴う株式売買案件作成機能適応[総合テスト~リリース] NPMの総合テスト~リリース NPMをウェルスマネージャーとシステム間連携可能とする対応 株式会社金融データソリューションズ 甲2の4 請求書 2,977,000 0 2,977,000 3,125,850
5 【SMA・ファンドラップ】テストサーバー導入に伴うLAN工事(工事) bデータセンターでのネットワーク工事 ウェルスマネージャーのテストサーバー導入に伴う対応 NRI 甲2の5の1 請求書 890,000 0 890,000 934,500
6 【SMA・ファンドラップ】テストサーバー導入に伴うLAN工事 bデータセンターでのネットワーク機器の設定変更 ウェルスマネージャーのテストサーバー導入に伴う対応 NRI 甲2の5の2 請求書 180,000 0 180,000 189,000
7 【SMA・ファンドラップ】データ移行検討支援(11月~12月) 旧システム側の担当者によるデータ移行支援活動
・旧システムのデータに関する問合せ対応等
旧システムからのデータ移行を行う上で必要となる作業 NRI 甲2の6 請求書 7,000,000 0 7,000,000 7,350,000
8 【SMA・ファンドラップ】本番サーバ導入に伴うLAN工事(工事) cデータセンターでのネットワーク工事 ウェルスマネージャーの本番サーバー導入に伴う対応 NRI 甲2の7の1 請求書 1,600,000 0 1,600,000 1,680,000
9 【SMA・ファンドラップ】本番サーバ導入に伴うLAN工事(一時) cデータセンターでのネットワーク機器の設定変更 ウェルスマネージャーの本番サーバー導入に伴う対応 NRI 甲2の7の2 請求書 180,000 0 180,000 189,000
10 【SMA・ファンドラップ】ウェルスマネージャー導 千手ライセンスの購入 千手監視ソフトの購入およびインストール作業 ウェルスマネージャーのサーバーの運用監視する為のソフト購入 NRI 甲2の8 請求書 9,707,600 0 9,707,600 10,192,980
11 【SMA・ファンドラップ】ウェルスマネージャー導入 千手インストール作業(2012年度分) 千手インストール作業 上記、インストール作業の一部を別タイミングで行った分 NRI 甲2の9 請求書 85,000 0 85,000 89,250
12 SMA・NFW定期運用報告書、PW通知初期開発費 SMA・ファンドラップの定期運用報告書、顧客Webのパスワード通知について印刷及び発送する為のシステム設計活動 ウェルスマネージャーから連携されたデータを大日本印刷で印刷、発送可能とする対応 大日本印刷株式会社 甲2の10 請求書 1,800,000 0 1,800,000 1,890,000
13 SMA・NFW定期運用報告書、PW通知初期開発費 SMA・ファンドラップの定期運用報告書、顧客Webのパスワード通知について印刷および発送する為のシステム開発~リリース ウェルスマネージャーから連携されたデータを大日本印刷で印刷、発送可能とする対応 大日本印刷株式会社 甲2の11 請求書 5,850,000 0 5,850,000 6,142,500
14 【SMA・ファンドラップ】本番サーバ(リバースプロキシ)導入に伴うLAN工事(工事) bデータセンターでのネットワーク工事 ウェルスマネージャーの本番サーバー導入に伴う対応 NRI 甲2の12の1 請求書 522,000 0 522,000 548,100
15 【SMA・ファンドラップ】本番サーバ(リバースプロキシ)導入に伴うLAN工事(一時) bデータセンターでのネットワーク機器の設定変更 ウェルスマネージャーの本番サーバー導入に伴う対応 NRI 甲2の12の2 請求書 180,000 0 180,000 189,000
16 【SMA・ファンドラップ】データ移行検討支援(1月~3月) 旧システム側の担当者によるデータ移行支援活動
・旧システムのデータに関する問合せ対応等
旧システムからのデータ移行を行う上で必要となる作業 NRI 甲2の13 請求書 8,700,000 0 8,700,000 9,135,000
17 【SMA・ファンドラップ】ウェルスマネージャー導 千手ライセンスの追加購入 千手ライセンスの追加購入 購入すべきライセンス数に誤りがあり追加で購入した分 NRI 甲2の14 請求書 401,000 0 401,000 421,050
18 日本橋旧館3階開発用HUB増設対応 ネットワーク作業 開発人員の増加により、別フロアでも開発作業を可能とする対応 NRI 甲2の15 請求書 210,000 0 210,000 220,500
19 Wealth Managerへの売買案件関連ファイル出力機能開発 NPMでの追加開発作業 NPMが発注システム(OMS2)向けに作成したファイルがウェルスマネージャーでも必要となる為、ウェルスマネージャー用にファイル出力する対応 株式会社金融データソリューションズ 甲2の16 請求書 1,200,000 0 1,200,000 1,260,000
20 ウェルスマネジャーシステム向けテスト支援(2012年3月分) IDSでのテストデータ作成 ウェルスマネージャーでフロントIT総合テストを実施する為の対応 NRI 甲2の17 請求書 160,000 0 160,000 168,000
21 【SMA・ファンドラップ】データ移行支援(4月~6月) 旧システム側の担当者によるデータ移行支援活動
・旧システムのデータに関する問合せ対応等
・旧システムでのデータ移行ファイル抽出ツール準備
・移行テスト支援
旧システムからのデータ移行を行う上で必要となる作業 NRI 甲2の18 請求書 30,000,000 0 30,000,000 31,500,000
22 【SMA・ファンドラップ】ウェルスマネージャー導入 千手再インストール作業 千手の再インストール作業 FQDN名、DNSサーバーに関する方針の修正に伴う作業 NRI 甲2の19 請求書 235,000 0 235,000 246,750
23 【SMA・ファンドラップ】取引報告書PDFデータ移行対応 旧システムの取引報告書データをPDF化する為のツール開発、ツール開発用の環境構築、PDF化作業 ウェルスマネージャー過去分を移行する上でPDF化されたものが必要な為 NRI 甲2の20 請求書 12,800,000 0 12,800,000 13,440,000
24 SERVER INTEGRATION SERVICES 旧システムの取引報告書データをPDF化する為のツール開発環境構築用の機器購入 ウェルスマネージャーに過去分を移行する上でPDF化されたものが必要な為 デル株式会社 甲2の21の1 請求書 60,000 0 60,000 63,000
25 DELL PowwerEdge R410 Rack Mount Server等 旧システムの取引報告書データをPDF化する為のツール開発環境構築用の機器購入 ウェルスマネージャーに過去分を移行する上でPDF化されたものが必要な為 DELL Japan Inc. 甲2の21の2 INVOICE 301,041 0 301,041 316,093
26 オブジェクトワークス(ライセンス)御購入の件 旧システムの取引報告書データをPDF化する為のツール開発環境構築用の機器購入 ウェルスマネージャーに過去分を移行する上でPDF化されたものが必要な為 NRI 甲2の22の1 請求書 2,200,000 0 2,200,000 2,310,000
27 オブジェクトワークス保守の件 旧システムの取引報告書データをPDF化する為のツール開発環境構築用の機器購入 ウェルスマネージャーに過去分を移行する上でPDF化されたものが必要な為 NRI 甲2の22の2 請求書 330,000 0 330,000 346,500
28 Oracle Standard Edition Onr Processor 旧システムの取引報告書データをPDF化する為のツール開発環境構築用の機器購入 ウェルスマネージャーに過去分を移行する上でPDF化されたものが必要な為 新日鉄ソリューションズ株式会社 甲2の23の1 請求書 180,294 0 180,294 189,309
29 Oracle Standard Edition Onr Processor等 旧システムの取引報告書データをPDF化する為のツール開発環境構築用の機器購入 ウェルスマネージャーに過去分を移行する上でPDF化されたものが必要な為 新日鉄ソリューションズ株式会社 甲2の23の2 請求書 768,480 0 768,480 806,904
30 SERVER INTEGRATION SERVICES 旧システムの取引報告書データをPDF化する為のツール開発環境構築用の機器購入 ウェルスマネージャーに過去分を移行する上でPDF化されたものが必要な為 デル株式会社 甲2の24 請求書 214,300 0 214,300 225,015
31 【SMA・ファンドラップ】bセンター運用受入支援 bセンターでの運用受入支援
・運用要件の確認、調整
・運用管理ツール定義登録
ウェルスマネージャーをbデータセンターで運用監視する為の対応 NRI 甲2の25の1 請求書 342,000 0 342,000 359,100
32 【SMA・ファンドラップ】bセンター運用受入支援 bセンターでの運用受入支援
・運用要件の確認、調整
・運用管理ツール定義登録
ウェルスマネージャーをbデータセンターで運用監視する為の対応 NRI 甲2の25の2 請求書 244,000 0 244,000 256,200
33 【SMA・ファンドラップ】データ移行支援(7月~9月) 旧システム側の担当者によるデータ移行支援活動
・旧システムのデータに関する問合せ対応等
・移行リハーサル支援
・全体移行テスト支援
旧システムからのデータ移行を行う上で必要となる作業 NRI 甲2の26 請求書 16,000,000 0 16,000,000 168,000,000
34 マネージドPKI for SSLグローバル・サーバID EV サーバー証明書のライセンス購入 お客様向けWebサーバー用 日本ベリサイン株式会社 甲2の27 請求書 118,400 0 118,400 124,320
35 【SMAファンドラップ】時価データ接続対応 プライスシステムでの開発~リリース ウェルスマネージャー向け用の時価ファイル作成する為の対応 NRI 甲2の28の1 請求書 1,050,000 0 1,050,000 1,102,500
36 【SMAファンドラップ】時価データ接続対応 プライスシステムでの開発~リリース ウェルスマネージャー向け用の時価ファイル作成する為の対応 NRI 甲2の28の2 請求書 1,050,000 0 1,050,000 1,102,500
37 【フロントIT SMAFW】案件 MSライセンス見積[EA契約分] Windows Remote Desktop CAL 5ライセンス購入 利用可能ユーザーアカウントを増やす事により効率的に作業が行えるようにする為の対応 野村アメリカ 甲2の29 見積書 23,796 0 23,796 23,796
38 SMAファンドラップシステム千手定義削除対応 千手定義の削除 プロジェクトの中止に伴い、新規登録した千手定義を削除 NRI 甲2の30の1 請求書 34,000 0 34,000 35,700
39 SMAファンドラップシステム千手定義削除対応 千手定義の削除 プロジェクトの中止に伴い、新規登録した千手定義を削除 NRI 甲2の30の2 請求書 34,000 0 34,000 35,700
小計 119,108,911 125,063,167
3 コンティンジェンシープランの発動に伴う旧システムの稼動延長のために締結された契約
テーマ名 内容 関連性 相手方 証拠 発注額
(税別)
未払額
(税別)
支払額
(税別)
支払額
(税込)
1 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープランに
かかるシステム化予備検討支援
(NRI2012/5~6)
コンテンジェンシープランについての検討
・システム化方針案の概要作成
・方針案を基にシステム化の対応範囲、
非対応範囲の整理
プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の31 請求書 4,900,000 0 4,900,000 5,145,000
2 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン
システム化予備検討支援
(NRI2012/5~2012/6)
コンテンジェンシープランについての検討
・システム化方針案の概要作成
・方針案を基にシステム化の対応範囲、
非対応範囲の整理
プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の32 請求書 4,900,000 0 4,900,000 5,145,000
3 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン対応
(基本設計~単体テスト〈1〉)
(NRI~2012/7)
基本設計~単体テスト プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の33 請求書 90,000,000 0 90,000,000 94,500,000
4 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン
(開発~単体テスト〈2〉、内部連結テスト)
(NRI 2012/8~2012/9)
開発~内部連結テスト プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の34 請求書 49,000,000 0 49,000,000 51,450,000
5 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン
(開発~単体テスト〈2〉、内部連結テスト)
(NRI 2012/8~2012/9)
開発~内部連結テスト プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の35 請求書 49,000,000 0 49,000,000 51,450,000
6 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン対応
(外部連結テスト)(NRI 2012/8)
外部連結テスト プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の36 請求書 6,800,000 0 6,800,000 7,140,000
7 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン対応
(総合テスト計画・準備)
(NRI 2012/8)
総合テスト計画 プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の37 請求書 13,200,000 0 13,200,000 13,860,000
8 【リテールIT】
SMAコンテンジェンシープラン
(総合テスト実施・運用接続テスト計画・
実施、移行リハーサル〈3〉)
総合テスト~移行リハーサル プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の38 請求書 76,000,000 0 76,000,000 79,800,000
9 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン
(総合テスト・運用接続テスト計画・
実施、移行リハーサル〈3〉)
総合テスト~移行リハーサル プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の39 請求書 76,000,000 0 76,000,000 79,800,000
10 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン対応
(信託スキーム)
(NRI 2012/11~2013/01)
野村信託銀行向け連携ファイルを
作成する為の開発~リリース
プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の40 請求書 23,000,000 0 23,000,000 24,150,000
11 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン
(信託スキーム)
(NRI 2012/11~2013/01)
野村信託銀行向け連携ファイルを
作成する為の開発~リリース
プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の41 請求書 23,000,000 0 23,000,000 24,150,000
12 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン
(ご案内帳票の電子交付)
(NRI2012/11~2013/01)
電子交付顧客用のご案内帳票を
システムで取込む為の基本設計~リリース
プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の42 請求書 13,000,000 0 13,000,000 13,650,000
13 【リテールITプロジェクト】
SMAコンテンジェンシープラン
(ご案内帳票電子交付)
(NRI2012/11~2013/01)
電子交付顧客用のご案内帳票を
システムで取込む為の基本設計~リリース
プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の43 請求書 13,000,000 0 13,000,000 13,650,000
14 SMAコンテンジェンシープラン
~業務訓練支援(SI)
コンティンジェンシープランを実施するにあたって、
現行業務と異なる点、
手作業でカバーしなければならない点がある為、
業務手順の確認や業務実施の訓練についての支援
プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の44 請求書 4,000,000 0 4,000,000 4,200,000
15 SMAコンテンジェンシープラン
~業務訓練支援(SI)
コンティンジェンシープランを実施するにあたって、
現行業務と異なる点、
手作業でカバーしなければならない点がある為、
業務手順の確認や業務実施の訓練についての支援
プロジェクトの中止に伴い、発生 NRI 甲2の45 請求書 4,000,000 0 4,000,000 4,200,000
小計 449,800,000 472,290,000
合計 2,974,108,223 3,122,812,396
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