【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(94)平成22年 2月25日 東京地裁 平20(行ウ)701号 不当労働行為再審査命令取消請求事件 〔国・中労委(NTT西日本)事件・第一審〕

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(94)平成22年 2月25日 東京地裁 平20(行ウ)701号 不当労働行為再審査命令取消請求事件 〔国・中労委(NTT西日本)事件・第一審〕

裁判年月日  平成22年 2月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(行ウ)701号
事件名  不当労働行為再審査命令取消請求事件 〔国・中労委(NTT西日本)事件・第一審〕
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2010WLJPCA02258019

要旨
◆原告である大手通信会社が策定した経営計画に基づく構造改革に伴う退職・再雇用制度の導入等に関して、参加人である少数派労働組合との団体交渉における多数派労働組合と比べて合理的な理由のない提案、資料の提示及び説明といった原告の対応並びに当該退職・再雇用制度の実施過程で行われる配置転換に係る交渉事項に関する原告の参加人に対する対応のいずれもが誠実交渉義務違反に当たると認定判示して、原告による中労委の不当労働行為救済命令の取消請求を棄却した事例
◆参加人である労組が上記原告の各対応は誠実交渉義務違反のほかに不当な支配介入にも該当する不当労働行為であると主張したのに対して、行政事件訴訟法22条により訴訟参加した参加人は独自の訴訟上の請求をしている者ではないから当該主張は審理の対象とはならないと判示した事例

新判例体系
公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第二章 抗告訴訟 > 第一節 取消訴訟 > 第二二条 > ○第三者の訴訟参加 > (五)その他
◆団体交渉における使用者の対応は労働組合法第七条第二号の不当労働行為に当たるが、同条第三号の不当労働行為に当たらないとして、前者につき救済措置を命じ、後者の申立部分を棄却した中央労働委員会の命令に対し、使用者が提起した取消訴訟において、行政事件訴訟法第二二条により被告側に訴訟参加した労働組合は独自の訴訟上の請求をしている者ではないから、同労働組合の、使用者の対応は労働組合法第七条第三号にも該当するとの主張は、審理の対象とならない事項についてするものであり、判断する必要はない。

公法編 > 労働法 > 労働組合法〔昭和二四… > 第二章 労働組合 > 第七条 > ○不当労働行為 > (三)団体交渉の拒否… > B 交渉の経過、態様に関するもの
◆複数の労働組合が併存する会社において、使用者が多数派労働組合とのみ経営協議会を設けていて、経営協議会で提示した資料や説明がその後の団体交渉における使用者の説明や協議の基礎となる場合に、使用者は、少数派労働組合との間の同一の交渉事項に関する団体交渉において、経営協議会におけるものと同様の資料の提示や説明を求められたときには、必要な限りでこれを行う必要があるから、合理的な理由なく差異のある対応をしたことは、誠実交渉義務に違反する。

 

裁判経過
控訴審 平成22年 9月28日 東京高裁 判決 平22(行コ)110号 不当労働行為再審査命令取消請求控訴事件 〔国・中労委(NTT西日本)事件・控訴審〕

関連審決・命令
平成20年 9月 3日 中央労働委員会 平成18年(不再)第12号・平成18年(不再)第16号

評釈
葛西功洋・判タ別冊 32号396頁(平22主判解)
出田健一・民主法律時報 453号3頁
出田賢一・民主法律 284号31頁
池田稔・中央労働時報 1170号17頁

参照条文
労働組合法7条2号
労働組合法7条3号
行政事件訴訟法22条
民事訴訟法40条

裁判年月日  平成22年 2月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(行ウ)701号
事件名  不当労働行為再審査命令取消請求事件 〔国・中労委(NTT西日本)事件・第一審〕
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2010WLJPCA02258019

大阪市〈以下省略〉
原告 西日本電信電話株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 高坂敬三
同 夏住要一郎
同 田辺陽一
同 加賀美有人
同 嶋野修司
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 千葉景子
処分行政庁 中央労働委員会
同代表者会長 菅野和夫
同指定代理人 藤村誠
同 山川隆一
同 加藤雄三
同 寺山洋一
同 中嶋万紀子
同 久保毅
同 松下修一郎
東京都世田谷区〈以下省略〉
参加人 通信産業労働組合
同代表者 B
同訴訟代理人弁護士 河村武信
同 出田健一
同 横山精一
同 西晃

 

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
中央労働委員会が中労委平成18年(不再)第12号及び同第16号事件について平成20年9月3日付けでした救済命令及び再審査棄却命令をいずれも取り消す。
第2  事案の概要等
1  事案の概要
大阪府労働委員会(以下「府労委」という。)は,参加人に継承された通信産業労働組合西日本地方本部(以下,継承される前の同地方本部についても「参加人」という。)が原告を被申立人として申し立てた不当労働行為救済申立事件(府労委平成14年(不)第15号事件。以下「本件初審事件」という。)について,原告が策定した経営計画に基づく構造改革に伴う労働条件の当初の提案における参加人に対する提案内容が他の労働組合に対する提案内容と比べて格差があったことは労働組合法7条3号に該当するとして,上記申立ての一部を認容し,その余を棄却する旨の命令(以下「本件初審命令」という。)をした。
参加人及び原告は,中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対し,参加人においては本件初審命令のうち申立てを棄却した部分の取消し及び同部分に係る救済命令を求めて,原告においては本件初審命令のうち一部申立てを認容した部分の取消しを求めて,それぞれ再審査を申し立てた(中労委平成18年(不再)第12号,第16号事件。以下「本件再審査事件」という。)。中労委は,本件再審査事件について,平成20年9月3日付けで,原告が,①経営計画に基づく構造改革に伴う退職・再雇用制度の導入等に関する参加人との団体交渉における参加人に対する提案並びに参加人の求める資料の提示及び説明において,合理的な理由がないにもかかわらず他の労働組合と比べて取扱いに差異を設け,団体交渉期日の設定及び団体交渉における説明・協議において誠実性を欠く対応をし,上記退職・再雇用制度導入に伴う意向確認を参加人との誠実な協議を行わずに実行に移したこと,②参加人が申し入れた組合員の勤務地等に関する団体交渉において,本人の希望を尊重した配置を行うことなどの配転の実施方針に関する団体交渉に応じなかったことは,労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するとして,本件初審命令の一部認容部分を別紙のⅠ記載のとおり変更し,原告の再審査申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発した。
本件は,本件命令を不服とする原告が,その取消しを求める事案である。
2  前提事実(争いのない事実)
(1)  当事者等
ア 原告
日本電信電話公社をその前身とする日本電信電話株式会社は,平成11年7月1日,日本電信電話株式会社等に関する法律により再編成され,原告,日本電信電話株式会社(以下「持株会社」という。),東日本電信電話株式会社(以下「東会社」という。),NTTコミュニケーションズ株式会社が設立された。
平成13年7月末の時点において,持株会社の下に,上記再編時に設立された会社(ただし,持株会社を除く。)のほか,電気通信設備運営業務,通信機器端末の販売等を事業とする子会社(株式会社エヌ・ティ・ティ・エムイー関西,同東海,同北陸,同中国,同四国及び同九州の6社。以下,これら各社を総称して「ME会社」という。)や,テレマーケティング業務及び人材派遣業務等を事業とする子会社(株式会社エヌ・ティ・ティ・ダイナミックテレマ,株式会社エヌ・ティ・ティ・テレメイト等4社。以下,これら各社を総称して「テレマ会社」という。)等が設立されている(以下,上記の全会社を含めて「NTTグループ」という。)。
イ 参加人
通信産業労働組合西日本地方本部は,昭和56年に発足した労働組合であり,当初は参加人の地方本部組織であったが,平成17年10月9日の組織変更に伴い解散して参加人に継承された。参加人は,原告,持株会社及び原告の関連会社の社員で組織されており,平成15年1月時点の組合員数は約1300人,その過半数がME会社又はテレマ会社に,原告から期間の定めのない在籍出向という形態で派遣されて勤務していた。原告が把握していたところによると,原告における参加人の組合員数は,平成14年3月時点において,社員約5万1000人のうち約350人(組合員となり得る者の0.74%)であった。
参加人は,本件訴訟に,行政事件訴訟法22条に基づき訴訟参加している。
ウ 他の労働組合
原告には,原告のほかに,NTT労働組合(以下「NTT労組」という。),大阪電気通信産業合同労働組合等の労働組合があった。原告が把握していたところによると,原告におけるNTT労組の組合員数は,平成14年3月時点において,社員約5万1000人のうち約4万6000人(組合員となり得る者の98.9%)であった。
(2)  労働組合と原告との交渉方式
ア NTT労組と原告との交渉方式
原告は,NTT労組との間で,団体交渉のほかに,事業の健全な運営を図るために,原告の経営方針などについて労使で忌憚のない意見交換を行う場として中央及び企業本部の各レベルで経営協議会を設置し,運用していた。
経営協議会においては,事業計画(収支計画,販売計画,建設計画,人員計画等),組織の改廃(新会社の設立,組織の新設・廃止等),新規サービス等について議論され,そのうち人員計画については,経営計画の延長線上の問題として,必要人員数,人員の配置,人員削減などが議論され,また,収支計画について議論する中で,人件費の削減等のコスト削減策も議論されている。ただし,コスト削減策のうち労働条件に関する施策については,別途,団体交渉において議論することとされていた。
イ 参加人と原告との交渉方式
原告は,参加人との間で,団体交渉に関して,「中央交渉委員会」と4つの地域(関西,東海・北陸,中国・四国及び九州)における「地域交渉委員会」の2段階交渉方式で行うことを合意している。しかし,原告と参加人との間には,上記アの内容のような経営協議会は設置されていない。下記(3)の退職・再雇用制度については,中央交渉委員会で議論されていた。
(3)  本件構造改革及び本件退職・再雇用制度
原告は,「NTTグループ3か年経営計画(2001~2003年度)」(以下「新3か年計画」という。)に基づく構造改革(以下「本件構造改革」という。)の一環として,NTTグループが一体となってコスト競争力の強化を図り,新たなグループ運営体制の確立に向け,アウトソーシング会社(以下「OS会社」という。)として,営業系地域会社,設備系地域会社及び共通系会社を設立し,注文受付,設備保守・運営等の業務をアウトソーシングするのに合わせて,社員の雇用確保及びライフプランの多様化を図る観点から,平成14年度から,以下のとおりの概要の退職・再雇用制度(以下「本件退職・再雇用制度」という。)を実施した。
ア 対象者
(ア) 51歳以上(平成15年3月31日に見込まれる年齢。以下同じ。)となる社員
(イ) 50歳以下(平成15年3月31日に見込まれる年齢。以下同じ。)の社員であって,特に退職・OS会社への再雇用を希望する者。
イ 雇用形態・処遇体系の通知・申出
(ア) 51歳以上の社員
51歳以上の社員は,平成14年1月31日までの間に雇用形態等を選択し,任命責任者に対し,通知する。
(イ) 50歳以下の社員
50歳以下の社員であって,特に退職・再雇用を希望する者については,平成14年1月31日までの間に任命責任者に対し申し出る。
(ウ) 雇用形態・処遇体系の選択・通知を行わない場合
51歳以上の社員が雇用形態・処遇体系を選択・通知しない場合は,60歳満了型を選択したものとみなされる(以下「みなし取扱い」という。)。
ウ 51歳以上の社員が選択する雇用形態・処遇体系
(ア) 繰延型
a 51歳以上の社員が,平成14年4月30日に原告を退職し,同年5月1日にOS会社に再雇用され,60歳定年制により60歳まで勤務した後,61歳以降は契約社員としてOS会社に再雇用され,最長65歳までの雇用を実現する形態。
b 勤務地が府・県内に限定的となる一方で,所定内給与が20%~30%低下するが,激変緩和措置としてOS会社における退職手当及び契約社員期間の給与加算が支給され,雇用保険等公的給付や企業年金(税制適格年金)の受給の組合せにより,61歳以降の充実した生活設計に資するもの。
なお,激変緩和措置は,退職・OS会社への再雇用に伴って発生する生涯賃金の減少額の一定割合を,実際に移行する社員の生活条件の激変防止の観点から補てんするものであり,この激変緩和措置の額は,減額された賃金相当分(給与減額分×60歳までの残年数)のおおむね半額程度を補うものであった。
(イ) 一時金型
雇用の形態としては繰延型と同様であるが,所定内給与が20%~30%低下することに対する激変緩和措置については,平成14年4月30日の原告退職時の一時金及びOS会社における退職手当として受給する形態とし,生活設計の多様化に応えるもの。
(ウ) 60歳満了型
a 原告の本店・支店において,原告本社・支店の業務(企画・戦略,設備構築,サービス開発,法人営業等の業務)に従事し又はOS会社以外のグループ会社に出向し,社員就業規則73条(定年)に基づき,60歳まで勤務する形態
b 社員就業規則60条(転用,配置換等)又は61条(出向)に基づき,市場性の高いエリア等を中心として,勤務地を問わず成果・業績に応じて高い収入を得る機会を追求する意欲を持った社員に応えるもの。
(エ) 50歳以下の社員が特に退職・OS会社への再雇用を希望する場合は,激変緩和措置の給与加算及び一時金は支給しない。
エ 再雇用先のOS会社
(ア) 再雇用先のOS会社
繰延型及び一時金型を選択した社員及び50歳以下で特に退職・OS会社への再雇用を希望した社員の再雇用先のOS会社については,アウトソーシング業務に従事している社員は,原則として当該業務が移行するOS会社とし,アウトソーシング業務以外に従事している社員は,本人の業務経験,スキル及び希望等並びにOS会社の人員状況等を考慮して決定される。
(イ) 勤務地
勤務地については,原則として府・県単位の事業所とし,次のいずれかから選択する。なお,これら以外に希望がある場合には,本人事情等を考慮し,例外的に入社後に初期配属された組織以外の採用旧支社管内の府・県についても選択できる。
a 退職時に勤務している支店等(アウトソーシング対象業務に従事していない出向者は出向前に勤務していた支店等)が所在する府・県
b 入社後に初期配属された組織が対応する府・県
オ 意向確認手続(以下「本件意向確認」という。)
(ア) 意向確認調書
意向確認調書は,原告が行う個別面談等により,社員の意向を確認するもので,上記ウの雇用形態及び上記エのOS会社,勤務地等の希望を記入するもの。
(イ) 雇用形態選択通知書
雇用形態選択通知書は,社員の最終の意向を申し出るものであり,同通知書をもって辞職・再雇用願に代える。
(ウ) 意向確認の手順
意向確認は,①個別面談等により社員説明及び相談を行い,意向確認書を配付し,②再度,個別面談等により社員の意向を確認した上で,意向確認調書を回収し,雇用形態選択通知書の用紙を配付する。
(エ) 意向確認の時期
51歳以上の社員については,平成14年1月31日までの間に雇用形態等を選択し,任命責任者に対して雇用形態選択通知書により通知する。50歳以下の社員が特に退職・OS会社への再雇用を希望する場合には,同日までに任命責任者に対し申し出る。
カ OS会社への移行時期
OS会社への移行については,平成14年4月30日で原告を退職し,同年5月1日からOS会社において再雇用される。
(4)  参加人と原告との団体交渉
参加人と原告は,団体交渉前及び団体交渉の間に,参加人と原告との間で参加人から原告に対する質問書及び要求書並びに原告から参加人に対する回答書を取り交わしたほか,以下のとおりの議題により,団体交渉を行った(いずれも第○回西日本中央交渉として開催されたものであり,以下,団体交渉の回数を付して「第○回団交」といい,このうち第13回団交から第21回団交までの団体交渉を併せて「本件退職・再雇用制度導入団交」という。)。
ア 平成13年5月11日 第13回団交
「組織対応問題」,「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件整備等の見直し等」等
イ 同年7月11日 第14回団交
「組織対応問題」(組合間差別問題),「新3か年計画に伴う労働条件制度等の見直し」等
ウ 同年8月10日 第15回団交
「組織対応問題」(組合間差別問題),「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件制度等の見直し」等
エ 同年9月19日 第16回団交
「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件制度等の見直し」等
オ 同年10月12日 第17回団交
「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件制度等の見直し」等
カ 同年11月6日 第18回団交
「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件制度等の見直し」等
キ 同年12月6日 第19回団交
ク 同月18日 第20回団交
「雇用形態・処遇体系の多様化に伴う意向確認等について」等
ケ 平成14年1月24日 第21回団交
コ 同年2月15日 第22回団交
「会社選択にかかわる『勤務地・事業所及び業務に関する希望』について」等
サ 同年3月12日 第23回団交
(5)  本件初審事件
参加人は,府労委に対し,平成14年3月27日,本件初審事件を申し立てた。
府労委は,平成18年2月28日付けで,本件退職・再雇用制度の導入の当初の提案の内容において組合間格差があったことは,労働組合法7条3号の不当労働行為に該当するとして,原告に対し,府労委においてその旨認められ,今後このような行為を繰り返さないようにするとの内容の文書を参加人に対して交付するよう命じ,その余の救済申立てを棄却するとの本件初審命令を発した。[甲1]
(6)  本件再審査事件
参加人及び原告は,それぞれ本件初審命令に対して再審査を申し立てた。中労委は,平成20年9月3日付けで,上記1(事案の概要)中の原告の①及び②の行為が労働組合法7条2号の不当労働行為に当たるとして,別紙記載の主文による命令を発した。
(7)  訴えの提起
原告は,平成20年10月31日,本件命令の交付を受け,同年11月28日,本件命令の取消しを求めて,当裁判所に本件訴えを提起した。
3  争点
(1)  本件退職・再雇用制度導入団交等における原告の参加人に対する対応の労働組合法7条2号の不当労働行為該当性
(2)  第22回団交及び第23回団交における配置転換に係る交渉事項に関する原告の参加人に対する対応の労働組合法7条2号の不当労働行為該当性
4  争点に関する当事者の主張
(1)  争点(1)(本件退職・再雇用制度導入団交等における原告の参加人に対する対応の労働組合法7条2号の不当労働行為該当性)
ア 被告の主張
(ア) 使用者は,少数派労働組合との団体交渉においても,自己の主張につき相手方が理解し納得することを目指して,誠意を持って団体交渉を行うことが必要である。したがって,使用者は,多数派労働組合との交渉を重視することが許されるとしても,少数派労働組合に対し多数派労働組合との団体交渉における取扱いに比して,提案の時期・内容,提示資料,説明内容などにおいて,合理的理由のない差異を設けてはならないと解すべきである。
(イ) 複数組合が併存する状況下で多数派組合のみとの間で経営協議会が設置されている場合,使用者は,そのような経営協議会を設置していない他の労働組合に対し,経営協議会において多数派組合に行った説明・協議と同様の対応を行うべき義務を当然に負うものではない。しかしながら,使用者が一の労働組合との経営協議会において提示した資料や説明内容が,その後の当該労働組合との団体交渉における使用者の説明や協議の基礎となっている場合には,使用者は,経営協議会を設置していない他の労働組合との間における同一の交渉事項を扱う団体交渉において,当該他の労働組合から,団体交渉を行うに当たり必要なものとして経営協議会において提示した資料や説明したものと同様の資料の提示や説明を求められたときには,必要な限りで,同様の資料の提示や説明を行う必要がある。
また,本件退職・再雇用制度の導入は,雇用関係の変更や賃金の引下げをもたらし得る労働条件の変更にかかわるものであるから,その導入に関する経営上の諸問題が労働条件と密接に関連する事項であることは明らかである。そうすると,本件退職・再雇用制度の導入に関する諸問題は,経営専管事項であるとしても,原告は,参加人から団体交渉の場において説明を求められた場合には,参加人の組合員の労働条件に密接に関連するものとして,必要な資料の提示や説明をする必要がある。
しかしながら,原告は,本件退職・再雇用制度導入団交等において,①原告の提案,提示資料,②本件退職・再雇用制度の導入に関連する経営上の諸問題( 原告の赤字状態の要因,赤字状態の推移の見通し,赤字状態の解消策, OS会社の業務方針,経営方針,将来展望及び設立スケジュール)についての交渉態度,③本件退職・再雇用制度の導入に伴う労働条件面の内容( 第14回団交における激変緩和措置率, 第16回団交におけるOS会社における賃金, 第17回団交における年金, 第17回団交における平成13年10月の中間面談の際に行う社員のニーズ把握の前提となるOS会社の業務内容,労働条件等, 第18回団交及び第19回団交における一時金型の退職金(一時金)支給回数の変更理由及びOS会社の賃金額の基礎の変更)についての交渉態度,④団体交渉の期日の設定・頻度及び⑤NTT労組との激変緩和措置の事実上の合意後のみなし取扱いや本件意向確認の実施についての交渉態度に関して,NTT労組に対する対応と比べて時期や内容において大きな取扱い上の差異のある不誠実な対応をしており,これらの対応は,労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する。
(ウ) 下記ウ(ウ)の主張について
上記(イ)の第2段落の「必要な限り」という基準は,その前提としている「一の労働組合との経営協議会において提示した資料や説明内容がその後の当該労働組合との団体交渉における使用者の説明や協議の基礎となっている」場合において「他の労働組合から団体交渉を行うに当たり必要なものとして経営協議会において提示した資料や説明したものと同様の資料の提示や説明を求められた」ときという要件の下で必要性を問題にするものであるから,あいまいかつ不明確なものとはいえず,同基準に基づく判断による本件命令は,行政処分として不適法であるとはいえない。
イ 参加人の主張
本件命令は,正確な事実認定に基づくものであり,上記アのとおり,本件退職・再雇用制度導入団交等における原告の参加人に対する対応が労働組合法7条2号の不当労働行為に該当することは明らかである。
そして,原告の上記対応のうち構造改革に伴う労働条件に関する当初のNTT労組に対する提案と参加人に対する提案とが同一時期に同一内容で行われていないという差別的取扱いがされていることは,労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するのみならず,同条3号の不当労働行為にも該当するというべきである。
ウ 原告の主張
(ア) 経営協議会は,積極的な事業展開を行い,事業を健全に発展させるためには労働組合の理解,協力がなければならないとする会社側と,会社の発展があって初めて労働条件の向上が図られるとする労働組合との認識が一致した場合に,会社の経営施策を労働組合に説明し,協力を求める場として設置されるものである。そして,労働条件に関連する事項は,経営協議会が設置されていても,団体交渉の場で決着されるのが一般的である。原告とNTT労組との間の経営協議会も,全面的競争の下において積極的な事業運営を行い,事業の健全な発展を図るため,経営の基本施策など重要課題について論議する場として設置した経営参加型の協議会であり,団体交渉の前さばきの役割を担うものではない。そして,原告は,労働条件に関連する事項については,NTT労組との間においても団体交渉の場で決着する運用をしている。
使用者と経営協議会を持っている労働組合との団体交渉において,経営協議会における使用者の提示資料や説明が,当該団体交渉における原告側の説明や協議の基礎とされることがあるからといって,経営協議会を設置していない他の労働組合に対しても,当然に同様の資料の提示や説明をしなければならないものではない。仮に経営協議会を設置している労働組合に対するのと同様の資料の提示や説明を経営協議会を設置していない他の労働組合にもしなければならないとすると,経営協議会を設置している労働組合との信頼を裏切ることにもなり,経営協議会を設置する意味がなくなってしまう。
本件においても,原告は,経営協議会を設置しているNTT労組に対しては事業計画,人員計画,業務運営,グループ事業運営等の経営専管事項について資料の提示や説明をしている一方,参加人に対しては同様の資料の提示や説明をしていないものもあるが,これは経営協議会が設置されていないことによるものである。また,原告と参加人とは,その間の団体交渉方式についての確認事項として,団体交渉事項を「組合員の労働条件に関する事項及び労働協約の締結,改廃に関する事項」とすることを確認しており,経営専管事項に当たる上記の事業計画等は団体交渉事項に含まれないものである。したがって,原告の参加人に対する上記対応は,誠実団交義務に違反するものではない。
(イ)a 上記ア(イ)①の点について
原告がNTT労組との間で経営協議会を設置している趣旨は上記(ア)のとおりであるから,原告において,原告と全くスタンスを異にしているが故に経営協議会を設置していない参加人に対し,経営協議会で示した資料や説明を同様にしなければならない理由はないし,原告の経営状態に関する基本的認識に相違がなく労働条件に関する諸施策についても論議を進めることのできたNTT労組との間の団体交渉と,そもそも構造改革という施策自体に反対して白紙撤回を求めるのみで論議を進めることのできなかった参加人との間の団体交渉との間において,原告が提示する資料や説明内容に差異が生じるのは当然であり,この間に同一歩調をとるべきであるというのは,実状を無視した無理な要求である。
本件退職・再雇用制度の導入についての原告の当初提案は,NTT労組に対するもので経営専管事項を除いた部分と参加人に対するものとは同内容のものである。なお,提案時期において参加人の方が遅いという差があるが,この差は,原告では労働組合ごとに担当者が異なっていることによるものであり,また,5月の連休等の休日を除くと4営業日の差でしかなく,大勢に影響を及ぼすようなものではない。上記提案に関して提示した資料の記載内容が異なるのは,NTT労組に対するものは経営協議会用の資料であって経営専管事項にわたる説明があるのに対し,参加人に対するものは当該経営専管事項の記載がないことによるのであるが,この違いは,上記のことから当然の結果である。
b 上記ア(イ)②の点について
本件退職・再雇用制度の導入に密接に関連する経営上の諸問題に係る 原告の赤字状態の要因,赤字状態の推移の見通し,赤字状態の解消策や OS会社の業務概要,経営方針,将来展望及び設立スケジュールといった事項は経営専管事項であるから,原告は,本件退職・再雇用制度導入団交等の場において,経営協議会を設置していない参加人に対し,労働条件の変更の説明に必要な限度を越えて,上記事項を説明する義務も必要もない。また, の各事項については,原告は,参加人に対し,これらについて論議を進めるのに資するべく説明をしており,原告が全く説明しなかったかのように認定しているのは誤っている。 の各事項については,原告は,参加人から再三質問を受けたわけでもなく,本来団体交渉事項ではないものであるが,参加人に対し,これらについて十分に説明した。
c 上記ア(イ)③の点について
原告と参加人との本件退職・再雇用制度の導入に伴う労働条件面の具体的内容についても,原告は,本件退職・再雇用制度導入団交等の場において,資料の提示や説明をして参加人において本件退職・再雇用制度を論議する基礎として必要なものを示すなど,その制度設計を理解するに足りる相応の対応を行っている経過に照らすと,上記の点に関する原告の参加人に対する対応に不足はない。なお,参加人が以上の説明等以外のことで説明等を求めた事項は,いずれも経営専管事項であるところ,原告は,当該事項についても説明できる限度で説明をしており,それ以外は経営専管事項であって団体交渉事項ではないので,原告には当該事項についての説明義務はない。
また, の事項については,参加人は,激変緩和措置率について100%とする以外容認しない態度であるから,それ以上に論議が発展する余地はなく,参加人からもそういった要求はなかった。
の事項については,第16回団交の当時,OS会社の賃金は具体的に決まっておらず,NTT労組に提示した資料(具体的には,後記第3の1(2)オで認定する13.6.15N労提示資料)に記載されているOS会社の賃金はあくまでもイメージである。なお,原告は,参加人に対しても,年齢別給与イメージ(70%会社の場合)を説明した資料(具体的には,後記第3の1(3)ウで認定する13.8.6提示資料)を提示している。
の事項については,個人の年金額は,具体的な賃金が確定すれば,社内規程等に基づき自分で計算したり,会社が作成した年金額の概算を計算する仕組みを活用して計算できるものであり,原告が説明すべき事項ではない。
の事項については,原告は,第17回団交までにもOS会社の労働条件について示しているし,労働条件が分からないから選択できないとの回答でもよいという前提で中間面談をする方針であったから,参加人からの要望に応じられなかった
の事項については,原告は,一時金の支給回数の変更理由として,公平性を考えて実施すると答えている。
d 上記ア(イ)④の点について
原告は,参加人から再三にわたる団体交渉の実施要求はなく,参加人の窓口担当者との間で団体交渉の日程調整を行い,参加人から要求された団体交渉については,ほぼ参加人から指定された期間内に団体交渉を行っており,団体交渉の期日設定・頻度について,誠実を欠く対応をしたことはない。
e 上記ア(イ)⑤の点について
(a) 60歳満了型を選択するというのは,従前の労働条件のまま原告に残ることを意味するのであるから,みなし取扱いの導入は,重大な労働条件の変更をもたらすものではない。
原告は,みなし取扱いについて,参加人に対しても検討期間を設けた上で提案しており,NTT労組との合意後に突如として提案したことはない。原告は,参加人に対し,平成13年12月6日に行った第19回団交においてみなし取扱いの導入を明らかにしているところ,参加人からは,第19回団交においても,同月12日に開催した勉強会においても,みなし取扱いについて質問等はなく,平成14年1月29日に初めて,みなし取扱いが無効である旨の確認が求められたので,原告は,その後,みなし取扱いについて,必要に応じて,参加人に説明している。
(b) 原告の社員で組合員となり得る者の98.9%を組合員とする多数派労組であるNTT労組との間で合意に至っている本件退職・再雇用制度の導入を予定どおりに進めるためには,NTT労組と合意した期間に本件意向確認を実施しなければならない時期に至っていた。
(ウ) 本件命令は,経営協議会を設置していない労働組合から資料の提示や説明を求められれば,必要な限りで経営協議会を設置している労働組合に対するのと同様の資料の提示や説明を行う必要があるとしているが,「必要な限り」という基準は,一義的に理解できる内容のものではなく,あいまいかつ不明確であり,同基準に基づく判断による本件命令は,行政処分として不適法である。
(エ) 参加人は,本件退職・再雇用制度導入団交等における原告の参加人に対する対応が労働組合法7条3号の不当労働行為にも該当すると主張する。しかし,参加人は,本件命令のうち当該不当労働行為の成立を否定した部分の取消しを求めて訴えを提起していないから,上記主張は失当である。
(2)  争点(2)(第22回団交及び第23回団交における配置転換に係る交渉事項に関する原告の参加人に対する対応の労働組合法7条2号の不当労働行為該当性)
ア 被告の主張
配転は,労働の場所,内容,形態等を変更するものであり,労働者の労働条件や生活環境に多大な影響を与えるものであるから,配転の実施方針(一般的な基準)は,労働条件その他の待遇に関する事項に該当するものである。本件においては,本件退職・再雇用制度の実施に伴って,大規模かつこれまでになかった他府県事業所や異職種への配転が予定されていたのであるから,原告は,このような大規模な配転を行うに当たって社員の希望勤務場所,希望職務内容等の希望をどのように配慮するか又は配慮しないのかという配転の実施方針について,参加人に対し,説明・協議を行う必要があった。しかし,原告は,第22回団交において,参加人から上記の点を協議事項として提示されていたにもかかわらず,労働契約事項であるとして,協議をしないという態度に固執して協議を拒否し,第23回団交においても,同様の理由により協議を拒否した。以上の原告の対応は,本件命令のとおり,労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する。
イ 参加人の主張
上記アのとおり,原告は,第22回団交及び第23回団交において,参加人が交渉事項として提示した本人の希望を尊重した配置を行うか否か等の組合員の配転の実施方針について回答しておらず,このような対応は,労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する。
原告は,参加人の組合員に対する雇用形態の選択,退職・再雇用に関する意向確認手続において,参加人から,強制にわたらないことを求められ,組織的対応を行うべく個人面談を実施すべきでないとの意向が示されていたにもかかわらず,参加人の組合員個々人に対して個人面談を実施した。このような参加人の頭越しの個人面談の実施は,労働組合法7条3号の不当労働行為にも該当する。
ウ 原告の主張
(ア) 配転は,使用者が人事権の行使として行うものであるところ,人事権は,使用者の業務運営上の裁量が広く認められる権利であり,労働組合との間で事前協議をしなければならないものではない。
被告が原告において説明すべきであるとする配転の実施方針は,その内容が具体的で明確なものでないし,長距離通勤を伴う配転や異職種配転を行う場合に社員の希望をどのように考慮するのか,社員自身やその家族が病気療養中の者,自宅において家族介護中の者などの家庭的事情をどのように配慮した取扱いを行うのかなどは,通常の配転においても生ずるものであるから,あえて団体交渉において説明しなければならない事項ではないし,そもそも,配転は,社員個々人の事情を把握し,配転が実施可能かどうかを個別に判断して決するものであるから,一般的基準としての配転の実施方針というものは定立し得ないものである。原告は,NTT労組との間の団体交渉でも,配転に関する事前交渉を行っていない。なお,原告は,参加人に対し,配転発令後に疑義が生ずれば団体交渉に応じることを説明し,現に,参加人との間で,その点を交渉事項とする団体交渉を行っている。
(イ) 参加人は,第22回団交及び第23回団交における原告の対応が労働組合法7条3号の不当労働行為にも該当すると主張する。しかし,参加人は,本件命令のうち当該不当労働行為を否定した部分の取消しを求めて訴えを提起していないから,上記主張は失当である。
第3  争点に対する判断
1  認定事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,文末に掲記の証拠により認められる。
(1)  第13回団交までの経緯
ア 平成13年4月6日,持株会社,東会社及び原告(以下,これらを総称して「3会社」といい,東会社と原告を併せて「東西会社」という。)は,NTT労組との間で中央経営協議会を開催し,同月16日の報道発表に先立って,新3か年計画について説明した。同協議会の中で,原告は,①東西会社の本体機能を企画・戦略等に特化させ,設備保守等の業務は,地域単位(県又は複数ブロック)に設立する経営資源活用会社等へアウトソーシングすること,②これに併せ,退職・再雇用制度の導入といった雇用形態の多様化・処遇の多様化に取り組み,人的コストの低減を図ることなどを説明した。これに対して,NTT労組は,新3か年計画で予定される構造改革の主要な課題として,雇用・労働条件にかかわる課題が触れられており,雇用確保が第一義との観点から,この課題についての議論を避けて通ることはできないとして,原告に対し,別途,労使交渉の場で明らかにするよう求めた。
イ 同月16日,持株会社は,新3か年計画を策定し,報道発表をした。
新3か年計画においては,東西会社の構造改革について,①東西会社の本体機能を企画・戦略,設備構築・管理,サービス開発,法人営業等に特化させ,注文受付,設備保守・運営,故障修理等の業務については地域単位(県又は複数県を束ねたブロック)の経営資源活用会社等へアウトソーシングすることとし,徹底した経営の効率化を図るとともに,地域密着型の事業活動によりグループ内外に向けた業容の拡大に取り組むこと,②上記①の施策の実施に合わせ,社員のライフプランの多様化等を踏まえつつ,例えば,退職・再雇用等により雇用形態の多様化,処遇の多様化等に取り組み,人的コストの低減を図ることなどが盛り込まれていた。
ウ 同月26日,原告とNTT労組は,中央経営協議会を開催した。原告は,同協議会において,「会社の構造改革に向けた取り組みについて」と題する資料(8枚のもの。以下「13.4.26経協資料」という。)に基づき,本件構造改革について提案した。その内容は,原告のこれまでの取組と今後の展望,原告の本件構造改革に向けての基本的考え方,収益確保とコスト改善の徹底,原告の事業運営スキームの再構築,事業運営スキームの再構築に伴う諸制度の見直しであり,それぞれの内容は,おおむね次のとおりである。
(ア) 原告のこれまでの取組と今後の展望
原告は,これまで中期経営改善施策をスピード感をもって着実に実行し成果を上げているところであるが,今後の市場環境を展望すると,これらの取組を実施したとしても,大幅な赤字構造が継続し,自立した企業として存続し得ない事態を想定せざるを得ない。
(イ) 原告の本件構造改革に向けての基本的考え方
新たな競争環境を直視し,厳しい現状を克服するための抜本的な構造改革に取り組むことが不可欠であり,これにより平成14年度黒字化,将来にわたる黒字構造への転換,競争力ある情報流通企業グループへの変革を希求し,経営の責任としての社員の雇用確保に最大限努力する。
(ウ) 収益確保とコスト改善の徹底
IT革命の推進に向けたブロードバンドビジネス等を展開し,収益確保の取組を行うとともに,一般物件費の削減,本件退職・再雇用制度の導入を通じたグループ委託費の低減,投資構造の見直し等によるコスト改善を図る。
(エ) 原告の事業運営スキームの再構築
現行の直営主義の事業運営スキームから脱却し,同業他社と同様に,徹底したアウトソーシングを行うため,次により,原告の事業運営スキームの再構築を行い,発展基盤の確立,雇用確保に努める。
a 原告とOS会社との役割分担
原告本体は,企画・戦略・サービス開発機能に加え,お客様に対するサービス提供責任を果たすための基本的機能等に特化し,それ以外の業務については,市場価格を指向して大胆にアウトソースし,OS会社は,受託業務に関するコストを低減するとともに,経営資源を活用して周辺領域で積極的に業容拡大を図ることを基本にして,再構築する。
b 原告の本社・支店体制の見直し
効率的業務運営の観点から,本社は,業務の親和性に基づき,組織の大括り化等スリムで機動性のある体制を確立する。支店は,原告の30支店をブロック単位に10~15程度の支店に統合する。
c OS会社の運営形態
現行のME会社及びテレマ会社を再編し,それぞれ西日本1社とした上で,その傘下に,原告からの受託業務を基本業務とするME子会社及びテレマ子会社として,原告の支店に対応したブロック単位を基本としてOS会社を設置する。また,OS会社は,業務の実施地域において同種の業務を実施する会社と同程度の価格で受託し,業務運営コストの低減を図る。
(オ) 事業運営スキームの再構築に伴う諸制度の見直し
OS会社の人員配置については,現在アウトソーシング対象業務に従事している社員の移行によって対処することとする。なお,51歳以上の社員は,今回新たに予定している退職・再雇用のスキームを選択しての移行を想定しており,雇用確保の観点から,この移行方式を基本とする。
OS会社の労働条件については,雇用形態・処遇形態の多様化の観点及び同一地域同業種の賃金水準などを勘案して設定することとし,具体的設定の考え方や社員の移行方法等の労働条件諸制度の見直しは,別途提案する。
エ 同日,原告とNTT労組は,中央経営協議会の後に団体交渉を開催した。原告は,同団体交渉において,NTT労組に対し,同日付けの「構造改革のための更なる取り組みの実施に伴う労働条件諸制度の見直し等について」(5枚のもの。以下「13.4.26N労提示資料」という。),「退職手当制度の見直しについて」(1枚のもの),「新たな転進支援制度の導入について」(1枚のもの)及び「特別手当制度の見直しについて」(2枚のもの)と題する資料を提示して,上記ウの中央経営協議会において別途提案するとしていた本件構造改革の実施に伴う労働条件の見直しについて提案し,NTT労組と協議を行った。13.4.26N労提示資料は,本件退職・再雇用制度について具体的に説明したものであり,おおむね次のことが記載されている。
(ア) 13.4.26経協資料に基づき,NTT西日本グループの事業運営スキームの再構築を行い,コスト競争力強化を図り,発展基盤の確立を図る観点から,マーケットプライスを実現するためにOS会社を創設し,既存の116,SOC,113等の顧客フロント業務,設備オペレーション,SOHO・マス営業等の業務をアウトソーシングする。これと合わせ,雇用確保を図る観点から,現在アウトソーシング対象業務に従事している社員を中心としてOS会社に移行するに当たり,雇用形態の多様化を実施していく。
(イ) OS会社は,現行のME会社やテレマ会社の活用及び再編成並びに新会社設立により支店に対応したブロック単位を基本に設置するものであり,アウトソーシング対象業務を実施地域において同種の業務を実施する会社と同程度の価格で受託するとともに,専門スキルを活かして,グループ会社から新たな受託業務拡大,地域密着型会社の特性を活かした一般市場の獲得拡大を図ることを目的とする会社である。
(ウ) OS会社の労働条件は,同一地域同業種の労働条件を意識して各社ごとに設定し,賃金水準は,現行の原告のものよりおおむね20~30%下回る水準とすることとし,具体的な労働条件は別途提案する。
(エ) 雇用形態は,選択型のものを提供することとし,60歳満了型(OS会社設立後の原告の本社・支店及びOS会社を総括する本体会社において,現行の人事・賃金制度により60歳まで勤務する形態のもの),充実型(50歳時点で原告を退職し,OS会社に再雇用され,60歳までOS会社で勤務した後,いったん退職して,原告のキャリアスタッフと同様に,別途雇用契約を締結してOS会社に雇用され,公的年金の受給開始年齢に合わせ最高65歳までの雇用を実現する形態のもの。後に繰延型と名称が変更された。),一時金型(雇用形態は充実型と同じであるが,勤務地が限定的となる一方,OS会社においては月例給が下がることから,一定程度の激変緩和措置として50歳時などの節目において一時金を複数回受給する形態のもの)に多様化を図る。
(オ) OS会社設立時の移行対象者は,原則として,原告及びME会社等においてアウトソーシング業務に従事している社員とする。
ただし,51歳以上の社員については,従事業務にかかわらず,充実型又は一時金型の選択を希望する社員を移行対象とし,60歳満了型を選択する者については,勤務地を問わず,本体会社の業務への配置代え又はOS会社以外のグループ会社への出向を行う。
50歳以下の社員については,原告を退職してOS会社に再雇用されることを希望する者は,その形態でOS会社へ移行し,その希望をしない社員は,在籍出向によりOS会社へ移行する。
(カ) 充実型又は一時金型を選択する51歳以上の者に対しては,激変緩和措置を適用する。
(キ) 現行のキャリアスタッフ制度は廃止する。
[乙5の59の1~4]
オ 同月27日,原告は,参加人に対し,同日付けの「NTT西日本の構造改革に伴う検討課題について」(1枚のもの。以下「13.4.27提示資料」という。),「退職手当制度の見直しについて」(1枚のもの),「新たな転進支援制度の導入について」(1枚のもの)及び「特別手当制度の見直しについて」(1枚のもの)と題する資料4枚をファックス送付したが,電話等での口頭による補足説明は行わなかった。この資料のうち,本件退職・再雇用制度の導入に関連する資料は13.4.27提示資料1枚だけであり,そこには,1.検討項目として,①アウトソーシングの実施,②業務運営体制の見直しに伴う雇用形態の多様化等,③諸手当の見直し,④人員流動関連制度の見直し,⑤福利厚生の見直し,以上の5項目が箇条書されているだけで,本件退職・再雇用制度の導入についての説明は全くなく,2.今後の扱いとして,上記項目について,必要な事項については内容が固まり次第論議していく考えであると記載されていた。
[乙2の8の1~4]
カ 同年5月8日,原告は,参加人に対し,同日付け「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等について」(3枚のもの)と題する資料(以下「13.5.8提示資料」という。)をファックス送付した。同資料には,13.4.26N労提示資料に記載されていたものとおおむね同内容の記載がされているが,OS会社は現行のME会社及びテレマ会社の活用,再編成及び新会社設立により設置されること(上記エ(イ))は記載されていない。
[乙2の9,5の59の1]
キ 同月11日,原告と参加人は,参加人からの要求に基づき,第13回団交を行った。第13回団交は,本件退職・再雇用制度の導入に関する事項を交渉議題とする原告と参加人との間の最初の団体交渉であった。第13回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) まず,参加人は,本件退職・再雇用制度導入に関する組合対応において,原告が,NTT労組には同年4月27日に詳細な説明をしたのに,参加人に対しては同年5月8日に初めて説明資料を送付したのは,組合間差別である旨の発言をした。これに対し,原告は,組合間差別ではなく,経営協議会の場があるかないかの差である旨の回答をし,参加人は,今後はこのようなことのない対応をすることを申し入れた。
(イ) 原告は,13.5.8提示資料を読み上げて本件退職・再雇用制度の導入の提案を行ったが,これに加える説明はなかった。
(ウ) 原告は,参加人から,本件構造改革の必要性について説明を求められ,原告の経営状況は並の会社なら既に倒産していても仕方がないような経営状況にあり,その原因として,社会全般の構造不況,原告の事業が携帯電話へ移行していること,競争相手との関連で値下げ競争も必要になっていること,将来予測をしても同程度の赤字が続く状況にあることなどと説明したが,他方,会社を巡る状況認識に対立があれば,これらの論議をしてもしようがないと応答し,赤字の規模等については,具体的数字を示した説明をしなかった。
(エ) 参加人が,OS会社について質問したのに対し,原告は,MEグループ,テレマ等の既存の会社は活用したいが,OS会社がどのような企業で社員構成や業務内容等の部分はまだはっきり決まっておらず,現在検討中であり,詳細は今後明らかにする旨説明した。
(オ) 参加人は,構造改革の全体像を含めて大問題であり,解明すべき問題がたくさんあり,これまでの団体交渉の回数にこだわらず,論議の場を持つようにしたいと提案し,原告は,これを了解し,扱いは窓口で詰める旨回答した。
[乙2の10,5の53,6の4,6の13]
ク 原告と参加人は,同日,第13回団交の後,窓口対応を行った。同対応では,原告が,今後の議論の方法について,具体的な内容が固まり次第通知するが,疑問点の解明を含めた議論は,参加人からの質問を受け,現時点での検討状況を含めて回答するので,小委員会的なもので議論することを提案し,参加人が,基本的な問題は別途団体交渉における論議とするが,疑問点の解明は小委員会で扱うことを了承し,質問は早急に出すので,具体的な理解しやすい回答を文書でするよう応答した。これにより,原告と参加人との間で,団体交渉とは別に,上記の点を議論等する勉強会が開催されることになった。
(2)  第14回団交までの経緯
ア 平成13年5月16日,原告は,参加人に対し,第13回団交における参加人からの今後の事業運営についての質問を受けて,参加人の理解のため,本件構造改革前後で原告の組織形態や実施する業務内容がどのように変わるかを図示した「構造改革に伴う事業運営スキームイメージ」と題する資料(1枚のもの。以下「13.5.16提示資料」という。)をファックス送付した。
イ 同年6月1日,原告は,参加人に対し,OS会社における労働条件等及び雇用形態・処遇体系多様化のイメージとして,60歳満了型,繰延型,一時金型の各概要等を説明した「労働条件諸制度の見直しの検討状況」と題する資料(2枚のもの。以下「13.6.1提示資料」という。)をファックス送付した。
ウ 同月8日,参加人は,原告に対し,「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等についての質問(通信労西地交第92号)」(以下「13.6.8質問書」という。)を提出し,①構造改革の必要性,OS会社の概要や組織規模(人員),②ここ数年間の定年退職予定数や年度別労務費の軽減額,③OS会社において20~30%下回る賃金を設定する理由,④OS会社の労働条件について「同一地域同業種の労働条件をも意識して」とはどのような会社の労働条件を意識することか,⑤原告からの在籍出向とはならない理由,⑥雇用形態を選択する年齢を「50歳」とした理由等を始めとする33項目の質問事項について,同月15日までに文書で回答するよう求めた。
これに対し,原告は,参加人に対し,同月14日,同日付け回答書(以下「13.6.14回答書」という。)を交付し,上記①,②,⑤及び⑥については,「会社の責任により実施していく考えである」,上記③については,13.5.8提示資料において提案したとおり,同一地域同業種の労働条件をも意識して各社ごとに設定することとしている,上記④については,現在検討中である旨の回答をした。
[乙2の13]
エ 同日,NTT労組は,第17回拡大企業本部委員長会議において,原告提案に対する取組の基本認識として,現状の雇用は危機的な状況に陥っていることから,激痛はあるが「雇用確保三条件」をベースに構造改革の総仕上げを行い,次への展望を切り拓く条件を作り,反転攻勢をかけるとの積極的な姿勢で取り組むこと等を確認し,原告との労使交渉を再開し,労働条件に関する具体的な制度内容や水準等について原告提案を受けることとした。
[乙3の30]
オ 同月15日,原告とNTT労組は,団体交渉を行った。同団体交渉において,原告は,同日付け「雇用形態・処遇体系の多様化について~退職・再雇用の枠組み~」(15枚のもの。以下「13.6.15N労提示資料」という。),「退職手当制度の見直しについて」(8枚のもの),「特別手当制度の見直しについて」(7枚のもの),「新たな転進支援制度の導入について」(11枚のもの),「人員流動関連制度の見直しについて」(4枚のもの),「諸手当の見直しについて」(4枚のもの)及び「福利厚生の見直しについて」(10枚のもの)と題する資料(合計59枚)を提示するとともに,本件退職・再雇用制度における労働条件に関する具体的な制度内容や水準等について提案し,これについて上記資料に基づき説明をした。
これらの資料には,①原告における事業運営スキームの再構築に当たっての考え方,②新たな支店ブロックにおけるグループ運営イメージ,③OS会社の設置形態と業務内容イメージ,④OS会社の新たな人事制度イメージ,⑤OS会社の賃金制度イメージ,⑥OS会社の賃金水準(カーブ)設定方法,⑦OS会社の賃金水準,⑧雇用形態・処遇形態多様化の選択パターン,⑨雇用形態・処遇形態多様化における選択肢の適用,⑩OS会社への移行方法等,⑪繰延型及び一時金型の61歳以降契約社員制度,⑫激変緩和措置率の設定の考え方及び年齢別措置総額等の内容について,図表を用いて分かりやすく説明されていた。
[乙3の23~29]
カ 同月18日,原告と参加人は,第1回勉強会を開催した。原告は,13.6.8質問書について,13.6.14回答書を補足して説明したが,上記ウの①~⑥の質問についての補足説明はしなかった。
[乙2の11,2の13,5の53]
キ 同月20日,原告は,参加人に対し,同日付け「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等について」(1枚のもの。以下「13.6.20提示資料」という。),「その他の労働条件諸制度の見直し等について」(4枚のもの),「特別手当制度の見直しについて」(1枚のもの),「退職手当制度の見直しについて」(1枚のもの)及び「新たな転進支援制度の導入について」(1枚のもの)と題する資料(合計8枚)をファックス送付した。本件退職・再雇用制度の導入に関する資料は13.6.20提示資料1枚だけであり,それには,①OS会社に移行する社員の給与水準が地域別に50~59歳の平均値の70~80%であること,②激変緩和措置は,繰延型は50%,一時金型は40%とすることなどの説明があるが,OS会社の設置形態や業務内容等に関する記載はなく,また,OS会社の運営イメージ,OS会社の賃金水準(カーブ)の設定方法,ME会社やテレマ会社等への出向者は本件退職・再雇用制度の対象となること,激変緩和措置率の設定の考え方等の説明もない。
[乙2の14]
ク 同月26日,参加人は,原告に対し,「通信労西地交質問メモ4『NTT西日本の構造改革にともなう労働条件諸制度等の見直し等』に関する質問メモ」を提示して15項目の質問をした。原告は,同年7月6日,「質問メモに対する回答書」により回答した。
上記質問のうち,原告が提案する本件退職・再雇用制度に転籍規定(原告とNTT労組との間に締結された協約等において転籍会社設立時における労働条件は原告の現行の労働条件を持ち込むこととすることを定めたもの)を適用しない理由・根拠を問うものに対する原告の回答は,業務上の都合により転籍会社へ雇用を継承する転籍とは異なるものであるというものであった。
また,参加人と原告は,上記の質問メモを渡す際に,次回の団体交渉の開催日を同月11日とすることを合意した。
[乙5の51]
ケ 同月10日,NTT労組は,企業本部三役支部代表者会議を開催し,原告提案の本件構造改革について,全国大会での方針決定に向けて,①同提案を受けて立つこと,②激変緩和措置に万全を期すこと,③要求の実現に向けて組織の総力を挙げて戦うことなどの意思統一を行い,約10万人を対象とする本件退職・再雇用制度の導入に基本的に合意した。このことは,同月11日及び同月12日の新聞で報道された。
[乙2の80の1,2の99,3の34,3の36,7の1]
コ 同月11日,原告と参加人は,組織対応問題(組合間差別問題),新3か年計画に伴う労働条件制度等の見直し等を交渉議題として第14回団交を行った。第14回団交の冒頭で,次のようなやり取り等がされた。
(ア) 参加人は,前回の団体交渉から2か月も団体交渉を行わなかった原告の対応について遺憾の意を示し,その間,原告はNTT労組に対しては本件退職・再雇用制度の導入について詳細な説明をしているが,参加人に対して提案した13.6.20提示資料は,13.6.15N労提示資料と比較して明らかに差があり,中立義務違反で不当労働行為であると述べ,改善して交渉による十分な対応をするよう要求した。これに対し,原告は,組合間差別はしているつもりはないが,交渉における論議のスピードに違いが出てくることは否めない,提案の中身は同じであり,NTT労組には質問に対する回答という形で出している旨応答し,参加人は,原告の提案内容は,大幅な労働条件の切下げであるので,原告においては,質問すれば答えるという姿勢ではなく,能動的に説明するのが当然である旨主張した。
(イ) 参加人が構造改革の必要性の理由を質問したのに対し,原告は,再編による構造改革をしたが,その後経営環境が変化し,収入構造が大きく変わったこともあって,原告の経営状況は倒産していても仕方がないような経営状況であるとの認識に立ち,競争力を強化する立場ですべての分野で聖域なきコスト構造改革によって生き延びるため,アウトソーシングや業容拡大をし,労働条件も見直し,全体の力を借りながら西日本グループとして運営していくようにする旨説明した。
(ウ) 参加人が,2年から3年の期間でみると相当の社員が定年退職して人件費が減り,赤字が解消するのに,なぜ緩やかな改革ができないのかと質問したのに対し,原告は,根本議論は人件費が高いとのみ説明し,具体的な数値を上げての説明はなかった
(エ) 参加人が,激変緩和措置は100%保障ではなかったのか,原告は現給保障といってきたのではないのか,X値(激減緩和措置率)はなぜ50%又は40%かという質問をしたのに対し,原告は,痛みを伴う改革だ,だから100%ではない,すべて削減する,人件費も同じだと回答し,それ以上の説明はなかった。
[乙2の15,5の53,6の14]
(3)  第15回団交までの経緯
ア 平成13年7月18日,参加人は,原告に対し,「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等に関する要求書(通信労西地交第93号)」(以下「13.7.18要求書」という。)を提出し,①原告提案は,労働条件にかかわる重要な問題があるので,団体交渉で十分に協議し,要求課題などを労使で解決してから実施すること,②本件退職・再雇用制度は,実質的な50歳定年制であり,労働基準法,高年齢者雇用安定法,労働契約承継法等の労働者保護の精神からして脱法・違法行為であり,白紙撤回を求めることなどを要求した。これに対し,原告は,参加人に対し,同月25日,13.7.18要求書に対する回答書(以下「13.7.25回答書」という。)を交付し,上記①について,原告としては,これまでも参加人組合員の労働条件に問題が生じることがあれば,必要に応じ対応しているところであり,今後も対応していく考えである旨回答し,上記②について,原告の責任により計画し実施していく考えであり,法の趣旨に則り適切に対処していく旨回答した。
また,参加人は,原告に対し,同月18日付けで「団体交渉の開催を求める申入書(通信労西地交第94号)」(以下「13.7.18申入書」という。)を提出し,同月25日~同月31日の間に団体交渉を申し入れた。しかし,原告の交渉委員の日程調整が付かないことが理由とされて上記期間中に団体交渉は行われず,実際に団体交渉が行われたのは,同年8月10日であった。
[乙2の17,5の56の1]
イ 同月2日,参加人は,原告に対し,13.7.25回答書に対する質問書(以下「13.8.2質問書」という。)を提出し,同月7日までに回答するよう要求した。
この質問書は,13.7.25回答書は重大な問題を含んでいるとし,参加人において,①原告提案は,50歳以上の退職・再雇用を制度化するものであり,現行の労働契約に違反すると考えていること,②原告の現行給与水準を20~30%下回るOS会社の給与水準は,労働条件の切下げであり,双方の合意なくして実施できないものと考えていること,③原告提案は,就業規則にも定めていない社員としての身分の変更を伴うものであって,労働契約に違反するものであり,会社の責任により計画し実施できるものではないと考えていること,④法の趣旨に則り適切に対処していくとしているが,法とはどの法律のことか,⑤満了型の選択に当たって,その条件を勤務地を問わずとすることは,繰延型,一時金型への選択の強制を迫るものであり,強制の同意は法的にも同意とみなされないから,法の趣旨に反すると考えていること,以上の点についての原告見解を質問するものであった。これに対し,原告は,同月7日,電話による窓口対応の中で口頭で回答したが,文書による回答はしなかった。
ウ 同月6日,原告は,参加人に対し,それまでの団体交渉等において「現在検討中である」としていた事項についての現時点での原告の検討イメージとして,①「NTT西日本・設備系会社・営業系会社の大胆な業務・人員移行イメージ」(1枚のもの),②「設備系各地域会社の設置機能イメージ」(1枚のもの),③「アウトソーシング会社の労働条件イメージ」(3枚のもの)の資料(表紙を含めて合計6枚。以下「13.8.6提示資料」という。)を提示した。
[乙2の19]
エ 同月10日,原告と参加人は,組織対応問題(組合間差別問題),NTT西日本の構造改革に伴う労働条件制度等の見直し,13.7.25回答書及び13.8.2質問書等を交渉議題として,第15回団交を行った。第15回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) 参加人は,原告から提示された労働条件見直しに関する資料につき,NTT労組に提示されたものと大きな差があるとして,対等に提示するよう要求した。原告は,労働条件にかかわるものは同じように対応しており,参加人に対しても必要なものは提示しているが,必ず同じ資料を示さなければならないものとは考えていない,議論が進行する中で提示する資料があり,各組合との交渉の過程において内容に違いが生じることはあるが,労働条件に関する事項については提示する旨応答した。
(イ) 原告は,本件退職・再雇用制度の対象者を51歳以上とした理由につき,50歳から企業年金の受給権が発生し,勤務地域に対する要望や一時金を必要とする人が多い年齢であり,ライフプランにおける一つの節目であるといったことを説明した。
[乙2の20,5の53]
オ 同日の第15回団交後,原告と参加人は,「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し」を議題として第2回勉強会を開催した。原告は,参加人に対し,第15回団交で参加人からNTT労組と同様の資料を提示するよう強く要望されたことを受けて,13.6.20提示資料に加え,8枚の資料を提示した。この資料のうち,本件退職・再雇用制度の導入に関するものは,「アウトソーシング会社の新たな人事制度イメージ」(1枚のもの),「激変緩和措置(X値)の水準設定について」(1枚のもの),「アウトソーシング会社への移行方法等について」(1枚のもの)の合計3枚(以下「13.8.10提示資料」という。)であり,同資料には,平成14年度の激変緩和措置の措置率について,繰延型は50%,一時金型は40%とする旨の説明がされていたが,13.6.15N労提示資料と比較すると,OS会社の設置形態や業務内容等に関する記載が全くなく,OS会社の運営イメージ,OS会社の賃金水準(カーブ)の詳細な設定方法等の説明もなかった。
(4)  第16回団交までの経緯
ア 平成13年8月27日,原告は,参加人に対し,OS会社の給与水準等,特別手当制度,退職手当制度,服務制度等について,その時点における原告の検討状況を説明した「アウトソーシング会社における労働条件等の検討状況」と題する資料(1枚のもの。以下「13.8.27提示資料」)という。)をファックス送付した。
イ 同日,原告の代表取締役とNTT労組西日本本部執行委員長は,「NTT西日本の構造改革に向けた取り組み」に関する基本確認を行い,公表した。
この確認には,①NTT西日本労使は,構造改革に向けた取組が避けて通れないことを強い認識として共有し,自立した企業として再生を果たすため,誠実に努力すること,②原告は,今回の構造改革に当たり,重要な経営責務として,雇用確保を図るべく最大限努めるとともに,労働条件など労使間の諸課題については誠実かつ真摯な対応に努めること,③これまで以上に労使信頼関係をベースとした議論を重ね,対立・葛藤を乗り越え,本件構造改革に取り組むこと等が盛り込まれていた。
ウ 同月29日及び同月30日の両日,NTT労組は,第4回定期全国大会を開催し,2001年度運動方針を決定し,同決定に基づき,同月31日,原告と団体交渉を行った。
同年9月6日及び同月7日の両日,NTT労組(西日本本部)は,第4回西日本本部定期大会を開催し,会社の構造改革を厳しくとも真正面から受け止め,取組を進めこと等を内容とする2001年度活動方針を決定した。
同年9月11日,NTT労組(西日本本部)は,原告と団体交渉を行い,上記2001年度活動方針を踏まえ,原告に対して申入書及び意見書(以下「13.9.11N労申入書等」という。)を提出し,労使関係・労使対応,本件構造改革の取組,情報通信政策,労働安全の推進等についての原告の見解を,同月18日までに回答するよう要求した。この中には,①本件構造改革に伴う新たな事業運営体制の構築に向けての具体的移行の検討に当たっては,準備室機能の設置など万全な体制を整備すること,②年内決着に向け集中した労使間論議が必要なことから,支部段階における論議の促進に向け,「暫定交渉方式」を確立し,当該支部・NTT支店・グループ会社が合同で論議できる「場」を設置することも盛り込まれていた。
同月13日,NTT労組(中央本部)は,原告と団体交渉を行った。NTT労組は,同団体交渉において,原告から,同年8月31日付け要求書に対する回答を受けた。その内容は,総論においては,誠意を持って議論し早急に結論を得たいとの基本姿勢を示していたものの,具体的な要求事項に対しては,原告提案時の考え方に踏みとどまった実質ゼロ回答であった。この原告回答の直後,NTT労組委員長と原告の代表取締役との間で,同年10月末には結論を出すという認識で一致し,この認識を基に労使交渉を行うことを確認した。
[乙3の40,3の41,3の43~46]
エ 同年9月18日,原告と参加人は,「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し」を議題として第3回勉強会を開催した。同勉強会では,原告から新たな資料の提示はなく,参加人からの質問について原告が回答をするという経過で終わった。
オ 同日,原告とNTT労組は,団体交渉を行い,上記ウの13.9.11N労申入書等に対して同日付け回答書(以下「13.9.18N労回答書」という。)により回答した。その回答内容は,13.9.11N労申入書等の①については,本件構造改革実施に伴う具体的な検討体制として本社内にOS会社設立準備PT(プロジェクトチーム)を設置したところである,同②については,支部段階も含めた早期な論議が必要との認識から支部段階の労使間論議を円滑に促進する場を設置する考えであるとするものであった。これを踏まえて,同月以降,原告各支店長とNTT労組各支部との間で,本件構造改革について協議が行われた。
カ 同月19日,原告と参加人は,参加人からの口頭の要求に基づき,NTT西日本の構造改革に伴う労働条件制度等の見直し,13.7.25回答書及び13.8.2質問書等を交渉議題として第16回団交を行った。第16回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) 原告が,現状のままでは赤字脱却できない,赤字解消を真剣に考えて構造改革を提起している,14年度をめどに赤字を解消したい,市場の変化は早く,その先に合理化がないとはいえない,雇用を守るためにも構造改革をやる旨説明したのに対し,参加人は,原告の赤字状況の改善の時期の見通し及び本件構造改革による赤字改善の具体的内容等について質問した。これに対し,原告は,労働条件にかかわることは議論するが,経営問題は議論するつもりはないと述べ,具体的な説明はしなかった。
(イ) 参加人は,原告の赤字脱却のためにOS会社への委託費を減らしていくのか,そうなるとOS会社の労働条件や公共的なサービスの提供が維持されるかどうか分からなくなる旨の質問をしたのに対し,原告は,委託費は基本的には市場価格になること,OS会社は別会社であるが,原告が放って置くことはない,委託費は原告が責任を持つ,提案しているOS会社における労働条件は原告の経営責任の問題として守る旨回答したが,それ以上の具体的説明はなかった。
(ウ) 参加人が,OS会社の賃金を50歳~59歳の平均値の7割で設定することに関して,モデル賃金額はいくらか,現在の50歳~59歳の平均賃金はいくらか,7割の賃金額がいくらになるのかなどの質問したのに対し,原告は,賃金額は人によって違うこと,OS会社の賃金が決まれば提示するなどの説明をしたが,それ以上の具体的説明はなかった。
[乙2の22,5の53,6の6,6の14]
(5)  第17回団交までの経緯
ア 平成13年10月1日,原告は,参加人に対し,13.5.8提示資料において検討するとしていた事項の一部である共通業務の新会社へのアウトソーシングに伴う社員の移行等について,現時点での原告の考え方を示した「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等について」と題する資料(3枚のもの。以下「13.10.1提示資料」という。)を提示した。
イ 同月2日,原告とNTT労組は,膠着状態になっていた本件構造改革に関する団体交渉を再開した。同団体交渉において,原告は,現状の収支見通しと今後の収支展望に基づき,原告提案がギリギリであるとの見解を示した。議論は平行線の状態で推移したが,同月中に,同団体交渉を含めて7回の団体交渉が行われ,激変緩和措置について集中的に議論された。
ウ 同日,原告は,参加人に対し,13.5.8提示資料において検討するとしていた事項である①支店の統合による新たな支店体制,②新会社・地域会社の設置形態等,③新会社・地域会社及び共通系会社へアウトソーシングする業務等,④人員移行等について,現時点での原告の考え方を示した「NTT労組西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等について」と題する資料(11枚のもの。以下「13.10.2提示資料」という。)のうち最後の1枚を除く10枚を提示した。同資料のうち最後の1枚は,同月3日に追加提示された。
[乙2の24]
エ 同日,原告と参加人は,窓口対応を行った。
原告は,参加人に対し,年度当初の期首面談において決定した当該年度の業務目標等について,当該年度途中時点で,その結果や業績を社員とその上長(課長)との面談により確認するために行われる中間面談の際に,①本件構造改革の必要性の説明及び②本件退職・再雇用制度における雇用形態の選択について51歳以上の社員のニーズ把握を行うこととしたい旨説明した。
オ 同月5日,参加人は,原告に対し,同日付け団体交渉申入書により,13.7.18要求書,13.8.2質問書,13.10.2提示資料等に関する事項を交渉議題とする団体交渉を,同月9日~同月12日の間に行うことを申し入れた。
[乙5の56の2]
カ 同月12日,原告と参加人は,NTT西日本の構造改革に伴う労働条件制度等の見直し,13.7.18要求書,13.8.2質問書,13.10.2提示資料等を交渉議題として第17回団交を行った。第17回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) 参加人が,OS会社の設立スケジュール及び就業規則の制定時期について質問したのに対し,原告は,移行は平成14年4月が目途であり,詳細が決まり次第知らせる旨回答した。
(イ) 参加人が,OS会社での賃金が現行より3割下がると年金に与える影響はどうなるのかなどについて説明を求めたのに対し,原告は,OS会社の労働条件は現時点で固まっていないため,検討中のものを現時点の考え方として示している,年金の計算は個人でやってほしい,原告は出すつもりはない旨回答した。
(ウ) 参加人が,満了型を選択した社員の人員移行の考え方を明らかにすることを求めたのに対し,原告は,勤務地を問わず,原告・新たな支店・新会社の企画・戦略,設備構築,サービス開発,法人営業等の業務への配転,又は,設備系・営業系等地域会社以外のグループ会社への出向となる旨回答した。
(エ) 参加人が,中間面談において雇用形態の選択ニーズを聞くのであれば,OS会社の労働条件を示してから実施すべきと主張したのに対し,原告は,本件構造改革の必要性,取組内容について説明するためのものであり,労働条件が見えないから分からないという結果でも良いと考えている旨回答した。
(オ) 参加人が,赤字だから労働条件を引き下げるための構造改革をするとの原告の説明について,赤字の中身について具体的に議論すべきであると主張したのに対し,原告は,経営に関する事項は議論するつもりはない旨応答した。
[乙2の25,5の53,6の6,6の12]
(6)  第18回団交までの経緯
ア 平成13年10月15日,原告は,参加人に対し,医療部門に関する労働条件諸制度,特別手当制度,退職手当制度の各見直しについての資料(合計7枚のもの。以下「13.10.15提示資料」という。)を提示した。
[乙5の16~18]
イ 同月22日,原告とNTT労組は,団体交渉を行った。同団体交渉において,原告は,激変緩和措置について,原告提案のままでは決着できないとの認識に立って,当初提案に固執せず,具体的議論を行うとの姿勢を示した。
ウ 同月25日,3会社は,「『当面の経営課題に対するNTTグループの取り組み』の効用について」(以下「13.10.25報道資料」という。)を報道発表した。これには,3会社が,電気通信をめぐる環境の変化の中で,東西会社の財務状況が急激に悪化しており,既に実施中の中期施策に加えて,グループ一丸となって東西会社の自立化を図るために,①業務の抜本的なアウトソーシングと雇用形態の多様化による人的コストの低減,②グループ内人員再配置の更なる推進を内容とする抜本的な構造改革を推進することが明らかにされており,上記の抜本的な構造改革の労働条件にかかわる事項については,現在,労働組合と年内決着を目指して交渉中であり,具体的内容や収支改善効果等については,別途公表することとされていた。
エ 同月30日,原告とNTT労組は,団体交渉を行った。同団体交渉において,NTT労組は,原告から,激変緩和措置について,平成14年度の移行者に対して年齢別・地域別に「10~2%」の措置率を加算することなどの最終回答を受け,交渉をいったん凍結し,同年11月8日に開催する第5回臨時中央委員会に上記最終回答を議案として提出し,組織的決定を踏まえ,最終決着を図ることとした。
[乙3の58,3の61]
オ 同年10月30日,原告は,参加人に対し,13.5.8提示資料において検討するとしていた事項についての現時点での原告の考え方を示した同日付け「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等について」(3枚のもの。以下「13.10.30提示資料」という。),「特別手当制度の見直しについて」(2枚のもの),「退職手当制度の見直しについて」(3枚のもの),「その他の労働条件諸制度の見直し等について」(4枚のもの)及び「新たな転進支援制度の導入について」(1枚のもの)と題する資料(合計13枚)を提示した。
13.10.30提示資料は,①OS会社へ移行する社員の給与水準,②繰延型及び一時金型を選択した者における61歳以降の雇用形態等,③退職再雇用の枠組みと移行措置についての3項目について説明したものであった。このうち,平成14年度の激変緩和措置における措置率については,年齢別・地域別に細分化して数値を記載した表が添付されており,13.8.10提示資料においては繰延型が50%,一時金型が40%とされていたのが,繰延型は53~60%,一時金型が43~50%とされている。また,一時金型の一時金の支給について,13.6.1提示資料においては原告退職時,OS会社60歳退職時及びOS会社最終退職時の3回に分けて支払うとされていたのが,原告退職時及びOS会社60歳退職時の2回になるものとされていた。なお,以上の変更について,上記以上の説明はなかった。
13.10.30提示資料を含む上記資料の内容は,原告が同日のNTT労組との団体交渉においてNTT労組に最終回答した内容と同じものであった。
[乙2の28の1~5,3の61,5の12,5の13]
カ 同月31日,参加人は,原告に対し,同付け団体交渉申入書により,13.7.18要求書,13.10.2提示資料,13.10.30提示資料等に関する事項を交渉議題とする団体交渉を,同年11月5日~同月9日の間に行うことを申し入れた。
[乙5の56の3]
キ 同年10月31日,原告は,OS会社の準備企画会社であるエヌ・ティ・ティ西日本営業系企画株式会社及びエヌ・ティ・ティ西日本設備系企画株式会社を設立し,その登記をした。
ク 同年11月6日,原告と参加人は,NTT西日本の構造改革に伴う労働条件制度等の見直し,13.7.18要求書,13.8.2質問書及び13.10.30提示資料等を交渉議題として第18回団交を行った。第18回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) 原告は,13.10.15提示資料及び13.10.30提示資料の説明と,これまでの提案内容との変更点を説明した。
(イ) 参加人が,一時金型における一時金の支払回数を3回から2回に変更した理由及びその配付比率の考え方と一時金は激減緩和措置であるのかについて質問したのに対し,原告は,2回支給で整理したものであり,OS会社の退職金見合いは激変緩和措置に含まれ,退職金見合いは30万円×年数で考えており,10年で300万円相当となる旨回答した。参加人は,この点に関して更なる質問はしなかった。
(ウ) 参加人が,OS会社における賃金の基礎とする賃金額について,50歳~59歳の賃金額の平均値としていたのを50歳の賃金額に変更した理由を質問したのに対し,原告は,同年6月時点ではいろいろ検討していたが,最終的に平均値ではなく調整手当で措置することにしたこと,個々人によって違うので手当で調整し,公平性を考えて実施する旨回答し,それ以上の説明はなかった。
(エ) 参加人が,OS会社の労働条件の提出時期を尋ねたのに対し,原告は,同年11月中には出したい旨回答した。
[乙2の31,5の53]
(7)  第19回団交までの経緯
ア 平成13年11月8日,NTT労組は,第5回臨時中央委員会において,上記(6)エの団体交渉における本件構造改革についての原告の最終回答を受けることを承認した。
NTT労組は,同日,同委員会終了後に,第6回企業本部委員長会議を開催し,OS会社の労働条件について,同月12日に原告から提案を受けて交渉を開始し,具体的な対処方針は同月14日に開催が予定されている第3回企業本部事務局長会議で扱うことなどを決めた。
[乙3の66,3の67]
イ 同月9日,原告とNTT労組は,団体交渉を行い,第5回臨時中央委員会における組織決定を踏まえ,本件構造改革について最終決着を図った。
ウ 原告は,NTT労組に対し,同月12日,OS会社の労働条件について提案し,「アウトソーシング会社の労働条件等について」と題する78枚からなる資料を提示した。このうちの48枚が本件退職・再雇用制度に関するもの(以下「13.11.12N労提示資料」という。)であった。同資料には,OS会社の人事制度,賃金制度,各種手当,人員移行,激変緩和措置及び福利厚生などが,図表やイラストを用いて分かりやすく説明されており,原告の現行制度との比較を含めた説明もされていた。
エ 同月13日,原告は,参加人に対し,同日付け「アウトソーシング会社の労働条件等について」と題する36枚からなる資料(以下「13.11.13提示資料」という。)をファックス送付した。その1枚目には,「構造改革に伴い設立されるアウトソーシング会社の労働条件等については,別紙のとおりとする考えであります。」と記載されていた。
同資料は,OS会社における人事制度,賃金制度,各種手当,人員移行及び激変緩和措置等について,図表やイメージを用いて分かりやすく説明されたものであり,13.11.12N労提示資料とほぼ同内容のものが盛り込まれていたが,13.11.12N労提示資料に記載されていた原告の現行制度との比較の説明はなかった。
[乙3の64,5の19]
オ 同月14日,NTT労組は,第3回拡大企業本部事務局長会議を開催し,13.11.12N労提示資料に基づいて協議し,OS会社の労働条件について意思統一するとともに,OS会社の移行時期及びそれに伴う意向把握のスケジュールを同月21日に開催が予定されている第7回企業本部委員長会議で意思統一し,その上で,本件構造改革の事業運営上の課題を同月末までに決着を図ることとした。
同月16日,NTT労組は,第4回拡大支部事務局長会議を開催し,本件構造改革に伴う退職・再雇用者の移行方法等について同月末を目途として決着することを目指すものとした。
[乙3の69]
カ 同日,参加人は,原告に対し,13.7.18要求書,13.10.2提示資料,13.10.30提示資料,13.11.13提示資料等を交渉議題とする団体交渉を,同月26日~30日の間に行うことを申し入れた。
キ 同月21日,NTT労組は,第7回企業本部委員長会議を開催し,OS会社の労働条件のほか,OS会社の設立時期を平成14年5月1日とすること,移行に関する意向確認は同年1月末までとするなどの社員のOS会社への移行にかかわる諸条件等について意思統一した。
[甲3の69]
ク 平成13年11月22日,3会社は,NTT労組との間で本件構造改革について合意したことを受けて,「NTT東西の構造改革の公表について」(以下「13.11.22発表資料」という。)を報道発表した。
同資料は,13.10.25報道資料において別途公表することとされていたもの(上記(6)ウ)を取りまとめて公表したものであり,経営改善施策とその収支改善効果額,業務の抜本的なアウトソーシングの概要,雇用形態の多様化の概要等を内容としていた。原告においては,今後,13.11.22発表資料の内容で本件構造改革を実施するという位置付けのものであった。
ケ 同月30日,NTT労組は,第5回拡大支部委員長会議を開催し,本件構造改革について,大綱整理(案)の方向を確認し,同年12月中に最終整理を図ることとし,また,平成14年1月末完了で進める移行に関する意向確認と同年5月に移行を実施することに向けて万全を期すことについて意思統一した。
[乙3の70]
コ 平成13年12月3日,東会社は,「構造改革の実施に伴う雇用形態・処遇体系の多様化の実施について(社長達東第96号)」と題する社長通達を発出し,東会社の社員を対象として,平成14年1月18日を期限とする新会社への移行に関する雇用形態・処遇体系の選択・通知及び申出の手続を始めた。
[乙2の33]
サ 平成13年12月6日,原告と参加人は,NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直しについて,OS会社の労働条件等について等を交渉議題として第19回団交を行い,原告は,参加人に対し,同日付け「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等について」(22枚のもの),「退職手当制度の見直しについて」(7枚のもの),「新たな転進支援制度の導入について」(3枚のもの),「アウトソーシング会社の労働条件等について」(14枚のもの)と題する資料(合計46枚。以下「13.12.6提示資料」という。)を提示した。これには,みなし取扱いを導入することが記載されていた。第19回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) まず,参加人は,原告に対し,本件構造改革に伴う労働条件等について原告から資料の提示があるが,交渉の場を機敏に設定できないのは問題であり,原告は機敏に対応するよう申し入れた。これに対し,原告は,できる限りの対応をすること,交渉を軽視したり,形骸化しようとは考えていない旨応答した。
(イ) 原告は,本件構造改革について,これまで検討中のものとして数次にわたって提案してきたが,13.12.6提示資料は原告の意思が固まったものとして再提案したものである旨説明し,また,OS会社の労働条件について,13.11.13提示資料で変更した点も含めて説明したが,変更理由や変更経緯についての説明はしなかった。
(ウ) 原告は,みなし取扱いについて,その導入の理由や根拠についての説明はしなかった。他方,参加人も,みなし取扱いについて質問等をしなかった。
(エ) 参加人は,今回はほとんど議論ができていない,次回交渉は早く設定するよう申し入れた。
[乙2の34~38,5の53,7の1,7の2]
(8)  第20回団交までの経緯
ア 平成13年12月7日,原告は,参加人に対し,「雇用形態・処遇体系の多様化に伴う意向確認等について」と題する資料(8枚のもの。以下「13.12.7提示資料」という。)をファックス送付した。
同資料は,本件退職・再雇用制度を実施していくための社員に対する意向確認等の手続やスケジュールを説明したものであり,①同月中旬から社員説明を開始,②同月17日から平成14年1月31日までの間に,個別面談,意向確認調書の配付,意向確認調書提出に伴う面談・調書回収(雇用形態選択通知書配付),最終意向確認(雇用形態選択通知書回収),雇用形態選択意思の確定,③同年2月上旬から辞職の承認と再雇用を併記した通知(雇用先会社・勤務地等の明示),④同年4月30日退職,⑤同年5月1日再雇用というスケジュールであった。
なお,上記意向確認等の手続やスケジュールは,NTT労組との関係では,平成13年11月14日までに提案が行われており,同月末に合意されていた。
[乙3の69]
イ 同年12月11日,原告は,参加人に対し,同日付け「NTT西日本等の組織編成等について」と題する資料(41枚のもの。以下「13.12.11提示資料」という。)をファックス送付した。同資料は,原告の本店,支店等の組織の見直しに伴う組織移行図並びにOS会社である営業系新会社,営業系地域会社,設備系新会社,設備系地域会社及び共通系会社の組織等イメージについて説明したものであった。
ウ 同月12日,原告と参加人は,第4回勉強会を開催した。
同月13日,参加人は,原告に対し,本件意向確認は団体交渉を踏まえて実施してほしい旨要望した。これを受けて,原告は,下記カのとおり,参加人の組合員に対する本件意向確認を,同月17日から実施予定であったものを,同月18日の参加人との団体交渉後から実施した。
エ 同月13日,参加人は,原告に対し,同日付け「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等に関する要求書(通信労西地交第121号)」(以下「13.12.13要求書」という。)を提出し,13.12.6提示資料による原告の最終提案は,13.7.18要求書による参加人の要求を全く無視するものであって到底納得できるものではないことから,同要求書による再検討を要求するとともに,次の要求事項について回答を求めた。
(ア) 退職・再雇用を希望しない社員には,現在の職場での業務を確保すること。
(イ) OS会社における労働条件引下げ提案を撤回すること。
(ウ) 退職・再雇用の意向把握は,OS会社における労働条件等について合意の上実施すること。
(エ) 意向把握の実施については,参加人は委任状に基づき組織的対応を行うので,次のように対応すること。
a 50歳以上の組合員の意向は参加人がすべて把握し,参加人がその希望に基づいて原告と対応するので個別面談は行わないこと。
b アウトソーシング業務に従事する50歳未満の組合員の配転,出向等については,本人の希望を尊重し本人同意に基づき実施すること。
オ 同月13日,参加人は,原告に対し,同日付け団体交渉申入書により,原告が,13.12.7提示資料を送付しておきながら,意向確認の実施日までに参加人が要望していた団体交渉を行わず,説明をしないことは不誠実な対応であることから,①同月17日から予定されている社員説明を含めた面談を延期すること,②本件意向確認の実施,13.7.18要求書,13.12.13要求書等を交渉議題とする団体交渉を,同月14日~同月20日の間に行うことを申し入れた。
カ 他方,同月13日,原告は,参加人に対し,同日付け回答書(以下「13.12.13回答書」という。)により,上記オの申入れについて,①意向確認は,原告が責任を持って行うべきものであると考えているが,職場において無用なトラブル等の発生を望むものではないことから,個人面談は,(同月17日から実施予定のところを)参加人との交渉日を踏まえ実施する,②社員周知等については,社員間の情報格差等を勘案し,原告の責任において実施する,③具体的な交渉日時等については,窓口担当を通じ調整する旨の回答をした。
キ 同月14日,原告は,社内の各部署の長に対し,同日付け「雇用形態・処遇体系の多様化に伴う意向確認の実施について」と題する人事部長通知を発出した。
同通知の内容は,OS会社を設立して業務をアウトソーシングするのに合わせて,どの雇用形態を選択するかについて社員の意向確認を行うことを社内に通知したものであり,この中には,みなし取扱いも盛り込まれていた。
原告は,NTT労組の組合員に対しては同月17日以降本件意向確認を実施したが,参加人の組合員に対しては同月18日の第20回団交以降に本件意向確認を実施した。また,原告は,平成14年1月31日までの間に,意向確認調書及び雇用形態選択通知書を回収した。
ク 平成13年12月17日,原告は,参加人に対し,13.12.13要求書について,次のように回答した。
(ア) 上記エの(ア)及び(イ)について
要求には応じられない。
(イ) 上記エ(ウ)について
意向確認等は原告の責任において実施する。
(ウ) 上記エ(エ)aについて
本件意向確認は社員の身分にかかわる事項であるから,原告が責任を持って社員個々人に対応する。
(エ) 上記エ(エ)bについて
出向等は本人の適性,業務の必要性,経験,希望等を総合的に勘案し,原告の責任において実施していく考えである。
ケ 同日,エヌ・ティ・ティ西日本設備系企画株式会社の目的が変更され,登記された。変更後の目的には,「アイティ(情報技術)に関わるコンサルティング,設備・システムの設計,施工,監理,運用及び保守」,「アイティ(情報技術)に関わる商品・サービスの企画,開発及び販売」,「電気通信設備に関わる設備提案,設計,工事,保守及び設備・品質管理業務」等合計49の業務が挙げられている。
コ 同月18日,原告と参加人は,雇用形態・処遇体系の多様化に伴う意向確認等について,13.7.18要求書,13.12.13要求書等を交渉議題として第20回団交を行った。第20回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) 原告は,13.12.7提示資料に基づき,本件意向確認の実施のスケジュールや手続について説明をした。その後,原告は,参加人から,本件退職・再雇用制度の導入という制度変更は就業規則に明示するのかという質問を受け,通達として制定する旨説明した。
(イ) 参加人は,個人面談は強制力が働くから実施すべきでないと主張したが,原告は,面談を受けよというのは業務命令である,意向確認を委任するのはなじまない,通達で面談を受けるように言っている,面談は選択を強要などするものではなく,原告の責任において実施する旨回答した。なお,原告が意向確認のための個人面談を業務命令を出して実施したことはなかった。
(ウ) 参加人が,OS会社の経営見通し等が不明確な状況で雇用形態の選択を実施することは納得できないとの主張をしたのに対し,原告は,社員説明時に原告とOS会社のかかわり等を説明していく,OS会社の経営についてはなるべく心配しないでいいようにしていくし,労働条件は示していく,雇用をなくすようなことはしない旨回答した。
(エ) 参加人が,意向確認の面談については組織として対応するから拒否する旨主張したのに対し,原告は,雇用形態の選択は個人にしてもらう必要があるから,意向確認の面談は原告の責任において各社員と対応する,個人面談は本日以降実施する旨返答した。
[乙2の44,5の53,6の6,6の12]
サ 同日,第20回団交の後,原告と参加人は窓口対応を行った。参加人は,原告に対し,口頭で年内に団体交渉を行うことを申し入れた。
[乙6の12]
(9)  第21回団交までの経緯
ア 平成13年12月25日,参加人は,原告に対し,年内に本件意向確認について団体交渉を行うよう要求した。これに対し,原告は,同月28日まで予定が入っていて団体交渉期日が入らない,年始にすぐに入れる旨回答した。
[乙6の16]
イ 同月26日,エヌ・ティ・ティ西日本営業系企画株式会社の目的が変更され,登記された。変更後の目的には,「西日本電信電話株式会社等からの各種問い合わせ・注文受付・販売業務等の受託」,「テレマーケティング業務及びテレマーケティングに関するコンサルティング業務」,「各種市場調査の企画,実施」等合計24の業務が挙げられている。
ウ 平成14年1月9日,参加人は,原告に対し,同日付け「NTT西日本の構造改革および『意向確認調書』・面談・『雇用形態選択通知書』に関する会社説明についての申入書(通信労西地交第125号)」(以下「14.1.9申入書」という。)を提出した。同申入書は,平成13年12月18日以降実施されている本件意向確認のための個人面談における原告の本件構造改革及びOS会社の労働条件に関する説明に対し,社員から出されている様々な疑問・質問が出されているが,説明者(管理職)はほとんど回答できない状況にあるとして,このような状況の下での①個別面談には応じないこと,②意向確認調書は提出しないこと,③NTTに残る組合員については雇用形態選択通知書は提出しないこと,④意向確認調書及び面談については組織的に対応して組合員の意向は別途提出するので各地域交渉委員会で扱うことの申入れと,上記①~④について団体交渉において回答することの申入れをしたものであった。
エ 平成14年1月9日,参加人は,原告に対し,同日付け団体交渉申入書(通信労西地交第126号。以下「14.1.9団交申入書」という。)により,「労働条件上の問題が提示されてから1か月もたっておらず,論議も始めたところであり,まだ提示されていない労働条件もあるため,年内での団交設定を交渉後の窓口対応で求め,会社も応じたところであるにもかかわらず,その後,年内は無理と言い,年明け後の再三の申入れにもかかわらず,未だに日程調整をしようとしないことはまさに不当・不誠実な対応といわざるを得ない。」と抗議するとともに,雇用形態・処遇体系の多様化に伴う意向確認について等を交渉議題として,同月21日~同月25日の間に団体交渉を行うよう申し入れた。同申入書の上記抗議部分に対して,原告からの反論はなかった。
オ 同月15日,原告は,参加人に対し,同日付け「新たな希望退職の実施について」と題する資料(以下「14.1.15提示資料」という。)により,本件退職・再雇用制度の導入に関して,新たに希望退職者の募集を実施することを通知した。同通知による希望退職の内容は,退職日は同年4月末日,これまで実施された希望退職の対象者である40歳から57歳の社員に加えて58歳・59歳の社員も対象とすること,募集期間は,同年1月中旬から2週間程度というものであった。
カ 同月21日,参加人は,原告に対し,「NTT西日本の『50歳退職・再雇用』を迫る社員対応についての要求書(通信労西地交第127号)」(以下「14.1.21要求書」という。)を提出し,次の事項を要求するとともに,同月25日までに文書より回答することを求めた。
(ア) 60歳定年退職制度が存在する下で,合意なき会社計画を一方的に実施して50歳退職・再雇用の選択を迫ることは,労働条件の不利益変更に当たるので,直ちに計画の実行を中止すること。
(イ) 雇用形態選択通知書の無効を確認すること。
(ウ) 50歳退職・再雇用制度は,年齢による雇用の差別であり,就業規則,高年齢者雇用安定法に違反するものであり,その導入を中止すること。
(エ) OS会社の会社名とその所在地,資本金規模,将来にわたる経営見通し,業務内容,就業規則等について,社員に説明し,会社の告知義務を果たすこと。
(オ) 社員は,現行就業規則の下で労働条件を引き下げることなく現作業に従事する権利を有しており,50歳以上の社員にもOS会社への在籍出向を認めること。
キ 他方,同月21日,原告は,参加人に対し,「アウトソーシング会社への給与の具体的移行方法等」と題する資料(7枚のもの。以下「14.1.21提示資料」という。)をファックス送付した。同資料は,退職時と異なる府県に所在するOS会社に再雇用される場合の給与移行イメージ,平成14年度退職・再雇用者の激変緩和措置の算定(算定の基礎とする所定内給与の決定)等について説明したものであった。
ク 同月23日,原告は,参加人に対し,同日付け回答書(以下「14.1.23回答書」という。)により,14.1.21要求書について,次のように回答行した。
(ア) 上記カの(ア)及び(イ)について
意向確認等は原告の責任において実施しているものであり要求には応じられない。
(イ) 上記カ(ウ)及び(オ)について
要求には応じられない。
(ウ) 上記カ(エ)について
意向確認等の実施に当たっては,原告の責任により適切に対処しているところであり,OS会社の労働条件等については,社員説明等の場でパンフレット等を配付の上,必要な対応を行っている。
ケ 同月24日,原告と参加人は,14.1.9申入書,14.1.23回答書等を交渉議題として第21回団交を行った。第21回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) 原告は,14.1.9申入書による要求事項について口頭で回答するとして,意向確認調書,雇用形態選択通知書については,社員の雇用契約にかかわるものであり,各社員に対し責任をもって対処していくので,参加人の言う組織的対応には応じられない,社員の疑問等にはパンフの配布,相談窓口で対応し,面談等でも対応している旨回答した。
(イ) 参加人は,14.1.23回答書について,要求に対して全面拒否を行い,誠実な議論をしてきたとは認識できない,原告の対応は,施策内容を決定してから説明するなど,形式的としか思えない,このような状態で意向確認を行うことは一方的実施といわざるを得ない,参加人の質問に対して原告の責任でやるという木で鼻をくくった回答に終始しているなどと主張した。これに対し,原告は,検討中のものではあるが現時点での考えとして早めの提案をしており,平成13年4月27日の提案以降,出された要求には対応しており,不誠実であるとは考えていないなどの返答をした。
[乙2の51,5の53,6の7]
(10)  第22回団交までの経緯
ア 平成14年1月25日付けの原告の設備系地域会社設立準備プロジェクトチームが作成した資料の北部九州設備系地域会社収支シミュレーションには,経常損益は平成14年度は1億円,平成15年度は5億円,平成16年度は6億円と赤字が拡大していくものと記載されていた。また,同日付けの原告の営業系地域会社設立準備プロジェクトチームが作成した資料の営業系OS北部九州地域会社の業容拡大のメニュー案の中には,弁当屋や墓掃除といったそれまでの原告の業務と無関係の事業も含まれていた。
イ 同月29日,参加人は,原告に対し,同日付け「『雇用形態・処遇体系の多様化に伴う意向確認等について』に対する要求書」(以下「14.1.29要求書」という。)を提出し,次の事項を要求するとともに,同月31日までに回答することを求めた。
(ア) 参加人との合意なく,原告の計画を一方的に実施することは,労働条件の不利益変更に当たるものであり,計画を中止すること。
(イ) OS会社の会社名,所在地,資本規模,将来にわたる経営見通し,OS会社での就業場所,業務内容,就業規則について明らかにすること。
(ウ) 原告(現場管理者)は,原告に残ることを希望している社員に対し,仕事がない,全国配転と脅かし,数度にわたりOS会社への選択変更を迫っているが,退職強要であり,直ちに中止すること。
(エ) みなし取扱いは,双方の合意を前提とする労働契約とは無縁のものであり,労働条件の不利益変更を強要するもので無効であることを確認すること。
(オ) 現在同様の勤務地において,現在の業務を確保すること。なお,配置転換に当たっては本人の同意を尊重することとし,通勤時間(90分以内),本人のスキル等を無視した配転は行わないこと。
配転に当たっては,事前に参加人に説明し,配転協議を行うこと。
(カ) 社員の遠隔地配転については,ILO条約第156号,ILO勧告第165号に基づき,労働者が差別されることなく家族的責任を果たせるよう処遇する義務があり,この義務を原告が守ることを文書で確認すること。
(キ) 参加人の組合員の配属にかかわる勤務地及び事業所等については,労働条件上の問題であるから,組合員の希望を要求書として別途提出するので,各地域交渉及び各ME交渉で扱うよう指導されたい。
ウ 同月31日,原告は,参加人に対し,同日付け回答書(以下「14.1.31回答書」という。)により,14.1.29要求書について,次のように回答した。
(ア) 上記イ(ア)について
残念ながら未だに参加人とは意見の懸隔があるものの,今後においても本施策内容等について十分な理解が得られるよう,引き続き参加人と真摯に論議していく考えである。
(イ) 上記イ(イ)について
業務運営上の施策は,原告の責任において計画し実施していく考えである。
(ウ) 上記イ(ウ)について
意向確認等の実施は原告の責任により適切に対処しているところであるが,選択に当たっては,あくまで本人選択に基づくものであり,退職・再雇用を迫っているものではない。
(エ) 上記イ(エ)について
みなし取扱いは13.12.6提示資料等において明らかにしているところであり,社内通達等において規定している。
(オ) 上記イの(オ)及び(カ)について
人員の配置に当たっては,業務上の必要性等を勘案し,原告の責任により対処する考えであり,要求には応じられない。
(カ) 上記イ(キ)について
意向確認は,各社員の雇用契約そのものにかかわる事項であることから,原告として責任をもって社員個々人に対応することとしており,要求には応じられない。
エ 同年2月5日,参加人は,原告に対し,同日付け団体交渉申入書(通信労西地交第130号)により,組合員の勤務地,事業所及び業務内容の変更は,労働条件の変更にかかわる大きな問題であり,新たな会社の労働条件問題も十分な議論ができていないことから,団体交渉で十分な議論を行うよう求めて,同申入書と同時に原告に交付した同日付け「会社選択にかかわる『勤務地・事業所及び業務に関する希望』について(通信労西地交第129号)」(以下「14.2.5要求書」という。)及び構造改革にかかわる労働条件とOS会社の労働条件等を交渉議題とする団体交渉を,同月12日~同月15日の間に行うよう申し入れた。
14.2.5要求書は,参加人が,14.1.29要求書において別途提出するとしていた個々の組合員の希望を提出するとともに,次の事項について同月8日までの文書回答を求めるものであった。
(ア) 営業系及び設備系OS会社を選択した組合員の勤務地・事業所及び業務等に関する希望は別紙1(略)のとおりであるので,本人の希望を尊重した配置を行うこと。
(イ) 原告に残ることを選択した組合員の勤務地・事業所及び業務等に関する希望は別紙2(略)のとおりであるので,本人の希望を尊重した配置を行うこと。
(ウ) 別紙1及び別紙2の組合員の要求については,各地域交渉委員会において具体的に対応すること。
(エ) 各ME会社に在籍出向している組合員の要求については,各ME交渉委員会で具体的に対応するよう指導すること。
なお,別紙1は,OS会社への移行を選択した50歳以上の参加人の組合員120名各人の希望勤務地(例えば,滋賀県下,京都市,自宅通勤圏など),希望職種(例えば,現在の仕事,設備保守・管理,外販業務など)のほか,特記事項として各人の個別事情を記載したものであり,その中には,「高血圧」,「病気入院中」,「両親の要介護」,「単身不可」,「胃で通院」等の記載をしている者もあった。また,別紙2は,「満了型」として原告に残ることを選択した50歳以上の参加人の組合員287名各人の希望勤務地(例えば,通勤可能圏,沼津,四日市など),希望職種(例えば,現在の仕事,接客対応職種,設備系,電送無線など)のほか,特記事項として各人の個別事情を記載したものであり,その中には,「母親が脳梗塞のため通勤可能地域」,「母高齢」,「C型肝炎治療中」,「慢性腎不全」等の記載をしている者もあった。
オ 同月6日,原告は,参加人に対し,同日付け「窓口メモ質問(020129)に対する会社回答」を交付し,新たな希望退職者募集などの本件退職・再雇用制度の導入の労働条件の詳細等に関する参加人の質問に対して回答を行った。
カ 同月8日,原告は,参加人に対し,同日付け回答書(以下「14.2.8回答書」という。)により,14.2.5要求書について,次のように回答した。
(ア) 上記エの(ア)及び(イ)について
人員の配置に当たっては業務上の必要性等を勘案し,原告の責任により対処する考えであり,要求には応じられない。
(イ) 上記エ(ウ)(エ)について
各社員の雇用契約そのものにかかわる事項であることから,原告として責任をもって社員個々人に対応することとしており,要求には応じられない。
キ 同月15日,原告と参加人は,14.1.21要求書,14.1.29要求書及び14.2.5要求書等を交渉議題として第22回団交を行った。第22回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) 参加人は,原告が労働条件の問題を個々に対応するとしてすり替えている,配属にかかわる具体的な勤務地や業務は労働条件上の問題であるから,団体交渉で扱うべきであると主張した。これに対し,原告は,労働契約の問題であるので個別に対応し,組織とは交渉しない,配転等を実施した結果,疑義が生じた場合は参加人からの要求に基づき,団体交渉において扱う旨回答した。
(イ) 参加人が,北部九州設備系地域会社の設立準備プロジェクトチームの案において業務委託費が毎年5.5%削減とされていることなどを踏まえて,OS会社の委託費を減らす意図について質問したのに対し,原告は,委託費は市場価格にしてコスト競争力をつける旨回答し,それ以上の説明はなかった。
[乙2の58,5の53,6の16]
(11)  第23回団交までの経緯
ア 平成14年2月25日,参加人は,原告に対し,「2002年国民春闘要求書(第一次)(通信労西地交第136号)」(以下「14.2.25要求書」という。)を提出し,本件退職・再雇用制度関連の5項目を含む下記の11項目の要求を行い,同年3月13日までに文書による回答を求めた。
(ア) OS会社における労働条件の切下げ提案を撤回し,NTT準拠を基本にした具体的論議を行い決めること。
(イ) 50歳以上の原告の社員にOS会社への在籍出向を認めること。
(ウ) キャリアスタッフ制度の廃止は,高年齢者雇用に関する努力義務を放棄するものであり,撤回すること。
(エ) 出向・単身赴任・異業種配転・長距離通勤(90分を超える通勤)等の配置転換は,本人の同意を得て行うこと。
(オ) 業務委託費は,OS会社の賃金を初めとする労働条件を補償する水準を確保し,削減計画をやめること。
イ 同年2月27日,原告は,「構造改革の実施に伴う研修等の実施について」を原告の社員に通知した。
同通知は,原告が,本件構造改革に伴い,新たな従事業務に必要なスキル習得を目的として研修を実施することとしたことを通知したものであり,その内容は,①対象者は,満了型を選択した社員の中から,現行の従事業務等を勘案して選出された者,②研修場所は,大阪支店等,③実施時期は,平成14年4月以降逐次1か月程度の期間,④研修終了後等における人員配置については,業務上の必要性,本人のスキル・適性等を勘案し,大規模マーケット等の直轄営業部門等へ配置するというものであった。
ウ 同年3月6日,参加人は,原告に対し,同日付け「通信労西地交第137号」の書面(以下「14.3.6要求書(退職再雇用)」という。)を提出し,下記事項の要求を行い,同月11日までの文書による回答を求めた。
(ア) 本件退職・再雇用制度の導入について,誠実かつ実質的団体交渉を行うこと。
(イ) 個々人についての勤務地,業務を含む労働条件等を団体交渉で交渉すること。
(ウ) 本件退職・再雇用制度を撤回すること。
(エ) 退職・再雇用(雇用形態選択通知書)は無効であること。また,今回の退職・再雇用は,社員就業規則第61条(出向)による出向規定に基づく転籍出向に当たるものであり,出向規定により賃金等労働条件の低下を伴わないよう補償すること。
(オ) 50歳以上の人もOS会社への在籍出向を認めること。
(カ) OS会社の規模,就業規則等の労働条件の基本にかかわる問題,OS会社のすべての会社名や社長,役員名,資本金,業務概要を明らかにすること。
(キ) 公共サービス維持のためのOS会社への委託費の増額を行うこと。
(ク) OS会社へ転籍・在籍出向した者の雇用と労働条件について,OS会社の経営・労働条件等については,実質的にNTTが支配する関係にあり,OS会社にかかわる団体交渉には原告が応じること。
a 勤務と担当業務は従来と同じものとすること。
b 経営の見通しについて,具体的な資料を提示して納得のいくまで説明すること。
c OS会社が倒産した場合,原告は転籍した者の雇用を保証確保すること。
d 転籍者の労働条件は,転籍以後退職に至るまで変更なく保障すること。
エ 同月6日,参加人は,原告に対し,同日付け「通信労西地交第138号」と題する書面(以下「14.3.6要求書(研修)」という。)を提出し,参加人はみなし取扱いに同意しておらず,原告が計画しているIP系業務の研修は全国配転及びスキル転換を前提としたもので同意できないので,IP系業務の研修及び全国配転について下記の要求を行うとともに,同月11日までの文書による回答を求めた。
(ア) NTTに残った社員の具体的配属先は,各社員の経験とスキルを生かした業務配置とし,その配属先についてすべて明らかにすること。
(イ) IP系業務の研修について
a 営業系と設備系の研修内容の違い,研修及びOJTの具体的実施スケジュールを明らかにすること。また,研修を受講しない場合に一切の不利益を課さないこと。
b 研修は現在所属の支店で実施すること。
c スキル転換を前提としたIP系業務の研修については,社員の希望を尊重して強制的に受講させることのないよう選択制とすること。
d 事前研修では,在籍出向が予想されるNTTグループ企業の業務内容を詳しく説明し,選択肢の幅を広げること。
e 研修は,OS会社での業務が開始される同年5月1日以降に実施すること。
(ウ) 全国配転等について,配転は参加人及び本人との協議・同意を得て実施すること。
a 原告が選抜して原告に残した50歳以上の社員も配置転換の対象とするのか明らかにすること。これらの社員を特別に配置転換の対象としないこと。
b 大阪から名古屋,名古屋から大阪を例とするような玉突き的配置転換は行わないこと。
c 単身赴任を伴う配転は,社員の家庭的事情を配慮して行うこと。
d 広域配転は,個々の配転について,参加人との団体交渉で協議を誠実に行うこと。
オ 同年3月6日,参加人は,原告に対し,同日付け団体交渉申入書により,14.2.25要求書,14.3.6要求書(退職再雇用),14.3.6要求書(研修)等を交渉議題とする団体交渉を,同月7日~同月13日の間に行うよう申し入れた。
[乙5の56の8]
カ 同月11日,原告は,参加人に対し,14.2.25要求書に対する同日付け回答書(以下「14.3.11回答書(国民春闘)」という。),14.3.6要求書(退職再雇用)に対する同日付け回答書(以下「14.3.11回答書(退職再雇用)」という。)及び14.3.6要求書(研修)に対する同日付け回答書(以下「14.3.11回答書(研修)」という。)により,それぞれ次のように回答した。
(ア) 上記アの各要求について
a (ア)について
OS会社における給与水準については,同年4月27日以降の提案以降論議しているとおり,同一地域同業種の労働条件をも意識して各社ごとに設定することとしている。
b (イ)~(エ)について
要求には応じられない。
c (オ)について
業務運営上の施策については,原告の責任により対処していく考えである。
(イ) 上記ウの要求について
a (ア)~(オ)及び(ク)aについて
要求には応じられない。
b (カ)について
参加人に対して提案し議論してきているところであり,また,社員説明の場においても,パンフレット等を配布の上,必要な対応を行っている。
c (キ)について
業務運営上の施策については,原告の責任により対処していく考えである。
d (ク)b~dについて
OS会社の事業開始後における業務運営等について議論する考えはない。
(ウ) 上記エの要求について
原告の責任により対処する考えであり要求には応じられない。
キ 同月12日,原告と参加人は,14.2.25要求書,14.3.6要求書(退職再雇用),14.3.6要求書(研修)を交渉議題として第23回団交を行った。第23回団交では,以下のやり取り等がされた。
(ア) 参加人は,原告は本件構造改革について真摯に論議しているというが,参加人の意見に耳を傾けない態度を貫いている旨主張した。これに対し,原告は,これまでも真摯に論議をしてきたと認識しており,今後も十分な理解が得られるよう,引き続き真摯に論議する考えである旨応答した。
(イ) 参加人は,本件構造改革に伴う人員配置の問題につき,事前に団体交渉で論議すべきである旨主張した。これに対し,原告は,事前に団体交渉で協議する考えはなく,人員配置について疑義が生じた場合は,地域交渉委員会において扱っていく考えである旨説明した。
(ウ) 参加人が,既にOS会社は設立登記されているのに説明がないことを指摘したのに対し,原告は,登記ができているのはアウトソーシングの企画会社であり,OS会社を立ち上げるのに登記する必要があるので,各地に企画会社を作っている旨説明したが,企画会社についてそれ以上の説明はしなかった。
[乙2の67,5の53,6の7,6の12]
2  争点(1)(本件退職・再雇用制度導入団交等における原告の参加人に対する対応の労働組合法7条2号の不当労働行為該当性)について
(1)  本件命令(甲2)は,①本件退職・再雇用制度の導入に関する当初提案の時期,提示資料及び説明内容並びに当初提案後の団体交渉等で提示した資料において,原告が参加人に対するものとNTT労組に対するものとの間に差異を設けた対応をしたこと,②団体交渉での本件退職・再雇用制度の導入に密接に関連する経営上の諸問題に係る説明のうち, 原告の赤字状態の要因,赤字状態の推移の見通し,赤字状態の解消策, OS会社の業務方針,経営方針,将来展望及び設立スケジュールに関する説明において,原告が参加人に対するものとNTT労組に対するものとの間に大きな取扱いの差異のある対応をしたこと,③団体交渉での本件退職・再雇用制度の労働条件面の具体的内容に係る説明において,原告が参加人に対するものとNTT労組に対するものとの間に大きな取扱いの差異のある対応をしたこと,④参加人からの再三の求めがあったにもかかわらず,参加人との団体交渉期日の設定を機敏に行わず,団体交渉の頻度を不十分なものにした原告の対応及び⑤みなし取扱いの導入や本件意向確認の実施に関して,原告が,参加人に対し,NTT労組との合意後に初めて提案したのみならず,NTT労組と合意した内容やスケジュールで性急に実施に移すという対応をしたことは,いずれも使用者に要求される誠実交渉義務に違反したものであり,労働組合法7条2号に該当する不当労働行為であるとするものである。
以上の本件命令において不当労働行為に当たると判断された原告の誠実交渉義務違反行為は,いずれも多数派労働組合であるNTT労組との対応に比して差異があるというものであるので,以下においては,まず,多数派労働組合と少数派労働組合が併存する状況下において,少数派労働組合との団体交渉における使用者の交渉態度がどのような場合に労働組合法7条2号の誠実交渉義務違反に該当するかを検討し,その後,本件命令が誠実交渉義務に反するものであるとした原告の各対応が労働組合法7条2号に該当するかを検討することとする。
(2)  多数派労働組合と少数派労働組合が併存する状況下での少数派労働組合との団体交渉について
ア 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合,各組合は,それぞれ独自の存在意義を認められ,固有の団体交渉権及び労働協約締結権を有する。そうすると,そのことの当然の帰結として,使用者は,いずれの労働組合との関係においても,誠実に団体交渉を行うべきことが義務付けられているものといわなければならず,また,単に団体交渉の場面に限らず,すべての場面で使用者は各労働組合に対し,中立的態度を保持し,その団結権を平等に承認,尊重すべきものであり,各労働組合の性格,傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取扱いをすることは許されないものというべきである。
ところで,中立的態度の保持といい,平等取扱いといっても,現実の問題として,併存する組合間の組織人員に大きな開きがある場合,各労働組合の使用者に対する交渉力,すなわちその団結行動の持つ影響力に大小の差異が生ずるのは当然であり,この点を直視するならば,使用者が各労働組合との団体交渉においてその交渉相手の持つ現実の交渉力に対応してその態度を決することは是認できるものであって,団結力の小さい労働組合が団体交渉において使用者側の力に押し切られることがあったとしても,そのこと自体に法的な問題が生ずるものではない。
複数労働組合併存下においては,使用者に各労働組合との対応に関して平等取扱い,中立義務が課せられているとしても,各労働組合の組織力,交渉力に応じた合理的,合目的的な対応をすることが,同義務に反するものとみなされるべきではない(以上につき,最高裁昭和53年(行ツ)第40号昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号730頁参照)。
イ 本件においては,原告は,多数派労働組合であるNTT労組とは経営協議会を設けているが,少数派労働組合である参加人とは経営協議会を設けていない。このように,使用者が一方の労働組合のみとの間で経営協議会を設置している場合に,使用者が一方の労働組合のみとの間での経営協議会で行った説明・協議それ自体は,使用者と当該労働組合との間の経営協議会設置に関する取決めに基づくものであって,使用者はそのような取決めを行っていない他の労働組合に対して,これと同様の対応を行うべき義務を負うものではないと解される。
しかしながら,使用者が一方の労働組合との経営協議会において提示した資料や説明内容が,当該労働組合とのその後の団体交渉における使用者の説明や協議の基礎となることがあり得る。このような場合には,使用者は,経営協議会を行っていない他の労働組合との間の同一の交渉事項に関する団体交渉において,当該他の労働組合から,団体交渉を行うに当たって必要なものとして経営協議会におけるものと同様の資料の提示や説明を求められたときには,団体交渉における使用者の実質的な平等取扱いを確保する観点から,必要な限りで,同様の資料の提示や説明を行う必要があるというべきである。
(3)  ①本件退職・再雇用制度の導入に関する当初提案の時期,提示資料及び説明内容並びに当初提案後の団体交渉等で提示した資料における原告の参加人に対するものとNTT労組に対するものとの間の差異について
ア 本件退職・再雇用制度の導入に関する当初提案
(ア) まず,本件退職・再雇用制度の導入に関する当初提案の時期についてみるに,前記1の認定事実(以下,単に「認定事実」という。)の(1)ウ~キのとおり,原告は,NTT労組に対しては,平成13年4月26日に開催された中央経営協議会で本件構造改革について提案し,同協議会後に開催された同日の団体交渉において,本件退職・再雇用制度について具体的に説明しているのに対し,参加人に対しては,同月27日に13.4.27提示資料(1枚)をファックス送付したものの,同資料には本件退職・再雇用制度の導入についての説明はなく,同年5月8日に本件退職・再雇用制度の導入に関する説明が記載された13.5.8提示資料をファックス送付し,同月11日に本件退職・再雇用制度の導入について最初の団体交渉を行っている。以上によれば,原告による本件退職・再雇用制度の導入の提案時期は,NTT労組については同年4月26日であり,参加人については同年5月11日であることが認められ,その間には約2週間の差がある。
原告は,上記提案時期の差について,原告では労働組合ごとに担当者が異なっていることによるものであり,また,5月の連休等の休日を除くと4営業日の差でしかないと主張する。しかし,本件退職・再雇用制度の導入は,前記第2の2前提事実(以下,単に「前提事実」という。)(3)のとおり,本件構造改革の中核を成すものであり,原告の社員が原告を退職してOS会社に再雇用されることとなったり,賃金も最大30%低下し得るという労働条件の変更をもたらすものであるなど,参加人の組合員を含む原告の社員の労働条件を大きく変更させることになるものであるから,可能な限り同一時期にその説明をすべきである。また,原告の労働組合担当者が各労働組合ごとに異なっていることが当然に上記提案時期の差をもたらすものではなく,担当者間で調整することによって同一時期に提案ができたと考えられるところ,このような対応ができなかったとする特段の事情をうかがわせる証拠はない。以上によると,上記提案時期の差について合理的な理由があるとはいえない。
(イ) 次に,提示資料の内容について検討する。
a 認定事実(1)ウ,エによれば,原告は,NTT労組に対し,平成13年4月26日,中央経営協議会において,13.4.26経協資料(8枚のもの)を提示して本件構造改革について提案し,原告の財務状況改善の観点からの本件構造改革の必要性,本件構造改革全体の中でのOS会社や本件退職・再雇用制度の導入の位置付け,本件退職・再雇用制度の導入に伴う労働条件見直しの基本方針等を説明している。さらに,原告は,NTT労組に対し,同日,団体交渉において,13.4.26N労提示資料(5枚のもの)を提示して,OS会社は,現行のME会社,テレマ会社の活用,再編成及び新会社設立により設置すること,OS会社の賃金水準は,現行を20~30%下回る水準とすること,雇用形態は,60歳満了型,充実型,一時金型に多様化を図ること,OS会社設立時の移行対象者は,原告及びME会社等においてアウトソーシング業務に従事している社員とすること,充実型又は一時金型を選択する51歳以上の者に対しては激変緩和措置を措置することなどの本件退職・再雇用制度の具体的内容について説明していることが認められる。
他方,認定事実(1)カ,キによれば,原告は,参加人に対し,13.4.26N労提示資料(5枚のもの)の記載内容から,OS会社の概要に関する部分の一部並びに現行のME会社及びテレマ会社の活用,再編成及び新会社設立によりOS会社を設置する旨の部分を除いた内容の13.5.8提示資料(3枚のもの)を提示したが,13.4.26経協資料又はこれと同旨の内容を記載した資料の提示はしていないこと,参加人は,原告に対し,同年5月11日の第13回団交において,同年4月27日に検討項目のみを記載した13.4.27提示資料だけを送付し,同年5月8日に初めて説明資料を送付するという原告の対応は組合間差別であるとして,その是正を申し入れていることが認められる。
本件退職・再雇用制度は,原告の社員に対し,原告を退職してOS会社に再雇用されるか,原告での勤務を続けるかの選択を迫るものであるから,OS会社がどのように設置されるかは重要な情報というべきである。そうであるのに,上記認定のとおり,13.4.26N労提示資料と13.5.8提示資料とでは,OS会社がどのように設置されるのかについて,前者では説明があるが,後者では説明がないという差異がある。また,本件退職・再雇用制度の導入は,原告の社員の労働条件を大きく変更させるものであることからすると,原告は,参加人から,団体交渉の場における説明又は資料の提示を求められれば,本件構造改革の必要性,本件構造改革における本件退職・再雇用制度の導入の位置付けについても説明すべきである。しかし,上記認定のとおり,原告は,参加人から,第13回団交において,組合間差別である旨の申入れを受けたが,本件構造改革の必要性,本件構造改革における本件退職・再雇用制度の導入の位置付けについて説明した13.4.26経協資料又はこれと同旨の内容を記載した資料の提示をしていない。
b 原告は,①経営協議会を設置していない参加人に対し,NTT労組との間の経営協議会で示した提示資料や説明を同様にしなければならない理由はないし,②本件退職・再雇用制度の導入についての原告の当初提案は,NTT労組に対するもので経営専管事項を除いた部分と参加人とに対するものとは同内容のものである旨主張する。
しかし,上記(ア)で説示のとおり,本件退職・再雇用制度の導入は,参加人の組合員を含む原告の社員の労働条件を大きく変更させることになるものであることに加え,認定事実(1)ウ,エによれば,原告が経営協議会でNTT労組に提示した13.4.26経協資料の記載内容は,同資料において別途提案することとしていたもので,同協議会に引き続いて行われた団体交渉で交渉事項とされた本件構造改革に伴う労働条件の見直しの提案に関して提示された13.4.26N労提示資料及びこれに関する説明の前提となる事項等であり,少なくとも,13.4.26経協資料の記載内容のうち,原告の本件構造改革に向けての基本的考え方,収益確保とコスト改善の徹底,原告の事業運営スキームの再構築,事業運営スキームの再構築に伴う諸制度の見直しの部分は,同交渉事項と密接に関連するものである。そうすると,13.4.26経協資料若しくはこれと同旨の内容を記載した資料の提示又は同内容の説明は,経営に関する事項ではあるが,原告の社員の労働条件と密接に関係する事項であるといえることから,参加人との団体交渉における義務的交渉事項に密接に関連するものであり,NTT労組に対するのと同様の資料提示や説明を行う必要があるというべきである。しかし,原告は,参加人に対し,以上の資料の提示も説明もしていないのである。以上のことは,経営協議会の性格が前記第2の4(1)ウ(ア)で原告が主張するとおりのものであったとしても,それにより結論が左右されるものではない。したがって,原告の上記主張は,採用することができず,原告の以上の対応について合理的理由があるとはいえない。
なお,本件命令(甲2)は,13.4.26N労提示資料と13.5.8提示資料の説明内容の差異について,13.5.8提示資料では,ME会社,テレマ会社等に勤務する者が本件退職・再雇用制度の対象となる旨の説明がないとしているが,証拠(乙2の9,5の59)によれば,13.5.8提示資料では,「NTT西日本及びME会社等において」アウトソーシング業務に従事しているとの記載はないものの,それに続くただし書において,「51歳以上の社員(出向者を含む。ただし,ME各社及びDO社を除く期間の定めのない会社への出向者を除く。)については,(中略)移行の対象とする。」と記載されていることが認められるから,やや分かりにくいものではあるのの,ME会社等に勤務する者が本件退職・再雇用制度の対象となるとの記載がないとはいえない。
(ウ) 以上によれば,原告の本件退職・再雇用制度の導入についての参加人に対する当初の提案は,NTT労組に対するそれと比べて,提案の時期においても,提示資料や説明の点においても,合理的な理由が認められない差異のある対応をしているというべきであり,原告の参加人に対する当該対応は,併存する労働組合に対し共通の提案を掲げて行う団体交渉において使用者に要求される誠実交渉義務に違反したものというべきである。
(エ) 原告は,以上の点に関連して,本件命令が,経営協議会を設置していない労働組合から資料の提示や説明を求められれば,必要な限りで経営協議会を設置している労働組合に対するのと同様の資料の提示や説明を行う必要があるとしているが,「必要な限り」という基準は,一義的に理解できる内容のものではなく,あいまいかつ不明確であると主張する。
しかし,本件命令が,原告の本件退職・再雇用制度の導入についての参加人に対する当初提案において,NTT労組と同様に行うべきであったというのは,平成13年4月26日の経営協議会における提示資料(13.4.26経協資料)や説明であるとしており(甲2の93頁),この点は,上記(イ)で説示したこと等と同旨のものと解されるから,本件命令が原告の主張するようにあいまいかつ不明確であるとはいえない。
イ 当初の提案後の団体交渉における資料提示
(ア) 認定事実(2)エ,オによれば,原告は,NTT労組に対し,平成13年6月15日,NTT労組が同月14日に原告提案を受ける旨意思決定をしたのを受けて,団体交渉において,13.6.15N労提示資料(15枚のもの)を提示して,本件退職・再雇用制度における労働条件に関する具体的な制度内容や水準等について提案及び説明をしていることが認められる。
また,認定事実(7)イ,ウによれば,原告は,NTT労組に対し,同年11月12日,NTT労組が同月8日にOS会社の労働条件について同月12日に原告から提案を受け交渉を開始する旨の意思決定をしたのを受けて,13.11.12N労提示資料(48枚のもの)を提示して,OS会社の労働条件について提案及び説明をしていることが認められる。
(イ) 他方,認定事実(2)キによれば,原告は,参加人に対し,同年6月20日,13.6.20提示資料をファクス送付したが,同資料は,13.6.15N労提示資料と比べると,OS会社の設置形態や業務内容等に関する記載がなく,また,OS会社の運営イメージ,OS会社の賃金水準(カーブ)の設定方法,ME会社やテレマ会社等への出向者は本件退職・再雇用制度の対象となること,激変緩和措置率の設定の考え等の説明もないものであったことが認められる。
また,認定事実(3)エ,オによれば,原告は,同年8月10日,第15回団交において参加人からNTT労組と同様の資料を提示するよう要望したのを受け,第15回団交に引き続いて開催された第2回勉強会において,参加人に対し,13.8.10提示資料を提示したこと,同資料は,13.6.15N労提示資料と比べると,OS会社の設置形態や業務内容等に関する記載がなく,OS会社の運営イメージ,OS会社の賃金水準(カーブ)の詳細な設定方法等の説明もなかったことが認められる。
さらに,認定事実(7)エによれば,原告は,同年11月13日,参加人に対し,13.11.13提示資料を提示していること,同資料は,13.11.12N労提示資料と比べると,ほぼ同様の内容のものではあったが,原告の現行制度との比較がないものであったことが認められる。
(ウ) 以上(ア)及び(イ)の認定事実によると,原告は,NTT労組に対しては,NTT労組の意思決定の進捗状況に応じ,節目ごとにまとまった資料を提示して交渉を進めているのに対し,参加人に対しては,参加人からNTT労組と同様の資料を提示するよう要求を受けていたのに,上記(イ)のように,NTT労組に提示した資料の内容とは一部異なる(同資料の内容の一部が記載されていない)資料を提示している。
本件においては,NTT労組と参加人との間では,組合人数に大きな開きがあり,殊にNTT労組の組合員数は原告の全社員のうち組合員になり得る者の98.9%に及んでいたこと(前提事実(1)ウ)からすると,原告がNTT労組の意思決定の進捗状況に応じて,節目ごとにまとまった資料を提示して交渉を進めること自体が問題であるとはいえないが,NTT労組との間で妥結した内容により本件退職・再雇用制度が導入される可能性が高い状況にあったのであり,たとえ参加人との間の交渉の進捗状況がNTT労組との間のそれと同一歩調のものでなかったとしても,使用者の中立的態度の保持,労働組合の団結権に対する平等取扱いの必要の観点及び導入される本件退職・再雇用制度は一つであることに照らすと,同制度に関して説明すべき事柄は同じものでなければならないというべきであるから,参加人に対しても,NTT労組に対して提示したのと同様の資料を提示すべきであったというべきである。
なお,認定事実(7)エによれば,原告が参加人に対して提示した13.11.13提示資料には,「構造改革に伴い設立されるアウトソーシング会社の労働条件等については,別紙のとおりとする考えであります。」と記載されており,提案ではなく,原告における決定事項を伝える内容のものとなっていることが認められる。この点は,上記(ア)で認定したとおり,圧倒的多数の組合員を擁するNTT労組との間でこれとほぼ同様の13.11.12N労提示資料を基礎に妥結が図られる可能性が高い状況にあったことにかんがみれば,合理的,合目的的な対応の範囲内のものといい得るものであり,不当な対応とはいえない。
(エ) 以上によれば,当初の提案後の団体交渉における原告の参加人とNTT労組との間の資料の提示に関して認められる上記(ア)及び(イ)の差異のある対応は,合理的な理由があるものとは認められず,併存する労働組合に対し共通の提案を掲げて行う団体交渉において使用者に要求される誠実交渉義務に違反しているというべきである。
(4)  ②本件退職・再雇用制度の導入に密接に関連する経営上の諸問題についての交渉態度
ア 原告の赤字状態の要因,赤字状態の推移の見通し及び赤字状態の解消策
(ア) 本件命令(甲2)は,①原告の赤字状態は主にどのような要因で生じたものであるか,②原告は今後どの程度赤字状態で推移する見通しであるか,③赤字状態を解消するためにはどのような方策があるのかなどは,本件退職・再雇用制度の導入が必要かどうかという問題と密接に関連するものであって,本件退職・再雇用制度の具体的内容を議論する基礎として必要なものであるのに,原告は,第14回団交,第16回団交及び第17回団交において,参加人から,上記各事項について説明を求められたのに,いずれの団体交渉においても相応の説明をしておらず,このような原告の交渉態度は,誠実なものであったとは認められないとしている。
同判断に対し,原告は,上記各事項は,経営専管事項であるから,本来労働組合と議論すべきものではないが,原告は,参加人に対し,労働条件の変更の説明に必要な限度を超えて,上記各事項を説明する義務も必要もなく,また,論議を円滑に進めるのに資するべく説明をしており,本件命令が全く説明しなかったかのように認定しているのは誤っていると主張する。
(イ) 上記(3)ア(ア)で説示したとおり,本件退職・再雇用制度の導入は,参加人の組合員を含む原告の社員の労働条件を大きく変更させることになるものであるから,同制度導入の必要性について,原告の社員の労働条件に密接に関連する事柄であり,これについて原告は誠実に対応する必要があったというべきである。そして,本件退職・再雇用制度は,本件構造改革の一環としてその導入が検討されたものであり,コスト競争力の強化を図るためのものであるから,原告の赤字状態は主にどのような要因で生じたものであるか,原告は今後どの程度赤字状態で推移する見通しであるか,赤字状態を解消するためにはどのような方策があるのかなどは,本件退職・再雇用制度導入の検討に当たって必要なものであるといえる。
したがって,上記各事項は経営専管事項であるから,参加人に説明する義務も必要もないという原告の主張は採用できない。
(ウ) 原告の参加人との団体交渉における原告の赤字状態の要因,赤字状態の推移の見通し及び赤字状態の解消策に関する説明等の内容は,第13回団交におけるものは認定事実(1)キ(ウ)のとおりであり,第14回団交におけるものは認定事実(2)コ(イ),(ウ)のとおりであり,第16回団交においては認定事実(4)カ(ア)のとおりであり,第17回団交においては認定事実(5)カ(オ)のとおりである。
原告の赤字状態の要因,赤字状態の推移の見通し,赤字状態の解消法は,本件構造改革における一つの柱とされている本件退職・再雇用制度の導入の必要性の問題と密接に関連するものであり,同制度の導入は参加人の組合員を含む原告の社員の労働条件を大きく変更させるものであることからすると,原告は,原告と参加人との間の団体交渉において,上記各事項に関する参加人からの説明要求について,相応の対応をして説明すべきであったというべきである。しかし,上記認定の原告の説明等の対応内容は,具体的な説明を求められたものに対して一応の説明をしている部分については,抽象的な説明にとどまっているといわざるを得ないし,経営専管事項であることを理由として説明をしない対応をしている部分については,相当とはいえないから,原告の上記各団体交渉における上記各事項についての交渉態度が誠実なものであったとはいえない。
イ OS会社の業務概要,経営方針,将来展望及び設立スケジュール
(ア) 本件命令(甲2)は,参加人が,参加人の組合員が本件退職・再雇用制度の導入に伴い雇用形態を選択するに当たってはOS会社がどのような会社であるか把握する必要があるとの観点から,第13回団交,第16回団交,第17回団交,第20回団交及び第22回団交において,OS会社の業務概要,経営方針,将来展望及び設立スケジュールについて再三質問したのに対し,原告は,上記各団体交渉において,不十分な説明しかしておらず,このような原告の交渉態度は,誠実なものであったとは認められないとしている。
(イ) 同判断に対し,原告は,上記各事項は,経営専管事項であるから,労働条件の変更の説明に必要な限度を超えて,上記各事項を説明する義務も必要もなく,また,参加人から再三質問を受けたわけでもなく,本来団体交渉事項ではないものであるが,参加人に対し,上記各事項につき十分に説明している旨主張する。
しかし,前記(3)ア(ア)で説示したとおり,本件退職・再雇用制度の導入は,参加人の組合員を含む原告の社員の労働条件を大きく変更させることになるものであり,原告の社員は,原告を退職してOS会社に再雇用されるか,原告に勤務し続けるかの選択を迫られるのであるから,その選択に必要な情報であるOS会社がどのような会社であるのかは,原告の社員の労働条件に密接に関連する事柄であり,これについて原告は誠実に対応する必要があったというべきである。そうすると,原告は,OS会社の業務概要,経営方針,将来展望及び設立スケジュールについて,誠実に回答すべきであった。
したがって,上記各事項が経営専管事項であるから,参加人に説明をする義務も必要もなかったという原告の主張は採用できない。
(ウ)a 認定事実(1)キのとおり,原告は,参加人に対し,平成13年5月11日に行われた第13回団交において,OS会社について認定事実(1)キ(エ)の内容の説明をしている。他方,前記(3)ア(イ)で説示したとおり,原告は,NTT労組に対しては,第13回団交よりも前の同年4月26日に行なわれた団体交渉において,13.4.26N労提示資料を提示し,13.4.26経協資料の記載内容をも前提として,OS会社の設置内容,賃金水準,雇用形態,OS会社への移行対象者等について具体的に説明している。
以上によると,本件退職・再雇用制度の導入の当初提案の段階において,同提案を検討する上で重要な情報であるOS会社に関する説明内容に上記のような差異があり,参加人に対する説明内容はNTT労組に対する説明内容と比べて明らかに不十分なものであることが認められる。このような差異ある対応をした原告の参加人に対する第13回団交における交渉態度は,誠実なものであるとはいえない。
なお,認定事実(2)ア,イによると,原告は,参加人に対し,同年5月16日に13.5.16提示資料を交付し,同年6月1日に13.6.1提示資料を交付し,これらの資料にはOS会社に関する記載があることが認められるが,これについての口頭による説明はなく,同(2)ウによると,参加人が原告に対し,OS会社の概要や組織規模等を初めとする33項目にわたる質問事項を記載した13.6.8質問書を提出し,原告が参加人に対し,同(2)ウの第2段落で認定した内容の回答をしたことが認められるが,いずれも第13回団交後の行為であり,これをもって,第13回団交における原告の上記対応の不誠実性が減殺されるものではない。
b 認定事実(4)カ(イ)によれば,原告は,第16回団交において,参加人から,OS会社へ移行する社員の労働条件の関係で,原告の赤字脱却のためにOS会社への委託費を減らしていくのかどうかという質問を受けて,委託費は基本的には市場価格となり,OS会社は別会社であるが,原告が放って置くことはない,委託費は原告が責任を持つ,提案しているOS会社における労働条件は原告の経営責任の問題として守る旨の説明をし,それ以上の説明をしていないことが認められる。ところで,認定事実(1)~(4)によると,第16回団交の時点(平成13年9月19日)では,OS会社の実体像は未だ確定しておらず,参加人の上記委託費に関する質問に対して原告に具体的な説明を求めることは困難であったものと考えられる。しかし,第16回団交までに原告が本件構造改革に関する資料として作成していたものをみると,例えば13.4.26経協資料(乙3の14)及び13.5.8提示資料(乙2の9)において,OS会社へ委託する業務が例示されており,第16回団交においても,例示された委託業務につき市場価格を示すなどして概括的にでも参加人の質問に対する説明をすることは可能であったと考えられる。そして,本件退職・再雇用制度がOS会社への移行を柱の一つとした制度であって,原告の社員の労働条件の大きな変更をもたらすものであることからすると,OS会社での労働条件は経営責任の問題として守るなどの宣言的な説明は,実質的な内容を伴わない抽象的な説明の域を出ないものであって,不十分であるといわざるを得ない。
以上によれば,第16回団交におけるOS会社の委託費に関する質問に対する原告の対応は,誠実な交渉態度とはいい難い。
c 認定事実(5)カ(ア),(イ)によれば,平成13年10月12日に行われた第17回団交において,原告は,参加人からのOS会社の設立スケジュール及び就業規則の制定時期について質問を受け,移行は平成14年4月を目途としており,詳細は決まり次第知らせる旨返答したことが認められる。この返答は,原告が新会社の設立の進展に関して,詳細が分かればその都度知らせることを約束したものと解される。
認定事実(6)キ,(8)ケ,(9)イによれば,同月31日にOS会社の準備企画会社であるエヌ・ティ・ティ西日本営業系企画会社及びエヌ・ティ・ティ西日本設備系企画会社の設立登記がされ,同年12月17日にエヌ・ティ・ティ西日本設備系企画会社の目的が49の事業を行う内容のものに変更されてその旨の登記がされ,同月26日にエヌ・ティ・ティ西日本営業系企画会社の目的が24の事業を行う内容のものに変更されてその旨の登記がされていることが認められるが,他方,認定事実(6)~(11)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,同年10月31日以降に行われた参加人との第18回団交から第22回団交までの各団体交渉及びその間における参加人に対する資料の提示等のやり取りにおいて,参加人に対し,上記各会社の設立登記及び目的変更登記がされた事実を知らせていないことが認められる。また,認定事実(8)コによれば,原告は,参加人から,同年12月18日に行われた第20回団交において,OS会社の経営見通しが不明確な状況で雇用形態選択を実施することは納得できないとの主張を受けていたにもかかわらず,その時点で説明可能であった同月17日にエヌ・ティ・ティ西日本設備系企画会社の目的が変更され49の事業を行うこととされたことについて,説明していないことが認められ,他方,上記期間が経過する中で,原告が上記各会社の設立及びその目的等について説明できなかったとする特段の事情をうかがわせる証拠はない。
上記各会社は,OS会社そのものではないが,OS会社を設立するについて準備,企画をする会社であるから,上記各会社の設立等の事実は,OS会社の設立に密接に関連する事項というべきであり,これがOS会社の設立の進展に関する事項に当たることは明らかである。この点にかんがみると,原告の上記対応は,原告が参加人に対してOS会社の設立スケジュール等について詳細が分かればその都度知らせるとの返答を反故にするものであり,全体的にみて不誠実な交渉態度であるというべきである。
d 認定事実(10)キ(イ)によれば,平成14年2月15日に行われた第22回団交において,原告は,被告から,OS会社の委託費を減らす意図を質問されたのに対し,原告は,委託費は市場価格にしてコスト競争力をつける旨回答したにとどまったことが認められる。
以上のように,原告は,OS会社の委託費について同日当時においてもなお上記の程度の回答しかしておらず,上記bで説示したところに照らしても,具体的な内容を伴わない上辺だけの説明しかしていないといわざるを得ない。そうすると,第22回団交におけるOS会社の委託費に関する質問に対する原告の対応は,誠実な交渉態度とはいえない。
ウ 以上を要するに,上記ア及びイで認定した原告の誠実な交渉態度でないと認められる各対応は,参加人に対する誠実交渉義務に違反したものというべきである。
(5)  ③本件退職・再雇用制度の導入に関連する労働条件面の内容についての交渉態度
ア 本件命令(甲2)は,本件退職・再雇用制度導入団交における本件退職・再雇用制度の導入に伴う労働条件面の具体的内容についての原告の説明のうち, 第14回団交における激変緩和措置率の説明, 第16回団交におけるOS会社における賃金に関する説明, 第17回団交における年金に関する説明, 第17回団交における平成13年10月の中間面談の際に行う社員のニーズ把握の前提となるOS会社の業務内容,労働条件等に関する説明, 第18回団交及び第19回団交における一時金型の退職金(一時金)支給回数の変更理由及びOS会社の賃金額の基礎の変更に関する説明において,原告が具体的な説明又は説明そのものをしておらず,このような原告の交渉態度は,誠実なものとは認められないとしている。
イ 認定事実(2)コ(エ)によれば,平成13年7月11日に行われた第14回団交において,原告は,参加人から,激変緩和措置は100%保障ではなかったのか,会社は現給保障といってきたのではないのか,X値(激減緩和措置率)はなぜ50%又は40%かという質問を受けて,痛みを伴う改革だ,だから100%ではない,すべて削減する,人件費も同じだと回答したことが認められる。
激変緩和措置は,本件退職・再雇用制度の導入により原告を退職してOS会社に再雇用されることに伴って発生する生涯賃金の減少額をどれだけ補てんするかという問題であるところ,この補てんの割合がいくらの数値に設定されるのかは,原告を退職してOS会社に再雇用される社員の収入の変動に直結する問題であり,当該社員の労働条件に密接に関連する問題であるから,原告は,経営専管事項であることを理由としてその説明を免れることはできず,参加人に対して説明すべき事項であるというべきである。そして,認定事実(2)オ,キによれば,第13回団交から第14回団交までの間に原告から参加人に提示された13.6.20資料において激減緩和措置についての説明もされていたが,例えば激減緩和措置率の設定の考え方や年齢別措置総額等の説明はなかったのに対し,原告が同資料を参加人に提示した日より5日前にNTT労組に提示した13.6.15N労提示資料には,激減緩和措置率の設定の考え方等について図表を用いて分かりやすく説明がされていたことが認められることからすると,原告は,第14回団交において,参加人からされた上記質問に対し,13.6.15N労提示資料に記載されている説明と同程度の説明ができる状態にあったといえるのに,原告が上記回答をしたにとどまる対応をしたのは,NTT労組に対する対応と明らかに差異があり,誠実な交渉態度ではないと認められる。
この点について,原告は,参加人は,激減緩和措置率について100%とする以外容認しない態度であるから,それ以上に論議が発展する余地はなく,参加人からもそういった要求はなかった旨主張する。認定事実(2)ア~ケで認定される本件退職・再雇用制度の導入に関する原告と参加人及びNTT労組との対応の状況をみると,NTT労組は同制度の導入を受け入れる姿勢,態度であるのに対し,参加人は反対の姿勢,態度であることがうかがわれるが,原告が激減緩和措置について説明を行わなければならない理由は上述のとおりであるから,参加人のこのような姿勢,態度をもって,激減緩和措置に関する説明内容に差異を設けることが許される理由とならないことはいうまでもない。
ウ(ア) 認定事実(4)カ(ウ)によれば,平成13年9月19日に行われた第16回団交において,原告は,参加人から,OS会社の賃金を50歳~59歳の平均値の7割で設定することに関して,モデル賃金額はいくらか,現在の50歳~59歳の平均賃金はいくらか,7割の賃金額がいくらになるのかなどの質問を受けて,賃金額は人によって違うこと,OS会社の賃金が決まれば提示するなどの説明をしたが,それ以上の具体的説明をしなかったことが認められる。
参加人の上記質問事項は,激減緩和措置と同様に,本件退職・再雇用制度の導入により原告を退職してOS会社に再雇用される原告の社員の収入の変動に直結する問題であり,当該社員の労働条件に密接に関連する問題であるから,原告は,経営専管事項であることを理由としてその説明を免れることはできず,参加人に対して説明すべき事項であるというべきである。そして,認定事実(2)オ,(3)ウ及び証拠(乙2の19,3の23)によれば,第16回団交より前の平成13年6月15日に原告がNTT労組に対して提示した13.6.15N労提示資料には,OS会社の賃金水準(カーブ)は,労働省「賃金構造基本統計調査」等に基づき,各県別に,OS会社において実施する業務と類似する職種の賃金水準をベースに,各県別の産業全体の賃金水準・労務構成・労働時間,都市部と地方の職位構成の差を考慮して設定することを初任給ポイント(18歳),中位点,フラットポイント(50歳)ごとの設定方法とともに説明し,各県別に試算した資料も添付するなどして説明していたこと,他方,同年8月6日に原告が参加人に提示した13.8.6提示資料には,「年齢別給与イメージ(70%会社の場合)」と題してグラフを使った説明がされているが,13.6.15N労提示資料と比べると,同説明は同資料における説明内容の一部にすぎず,同資料の中で地域別,年齢別に具体的数字を示して説明している部分はないことが認められることからすると,原告は,第16回団交において,参加人からされた上記質問に対し,13.6.15N労提示資料に記載されている説明と同程度の説明ができる状態にあったといえるが,原告が上記回答をしたにとどまる対応をしたのは,NTT労組に対する対応と明らかに差異があり,誠実な交渉態度ではないと認められる。
この点について,原告は,第16回団交の当時,OS会社の賃金は具体的に決まっておらず,NTT労組に提示した13.6.15N労提示資料に記載されているOS会社の賃金はあくまでもイメージであり,また,参加人に対しては,13.8.6提示資料により,年齢別給与イメージ(70%会社の場合)を説明していると主張する。しかし,同主張は,上記説示の理由により採用することができない。
(イ) 認定事実(5)カ(イ)によれば,同年10月12日に行われた第17回団交において,原告は,参加人から,OS会社での賃金が現行より3割下がると年金に与える影響はどうなるのかなどについて説明を求められたのに対し,OS会社の労働条件は現時点で固まっていないため,検討中のものを現時点の考え方として示している,年金の計算は個人でやってほしい,原告は出すつもりはない旨回答したことが認められる。
ところで,社員各人の年金額は,具体的な賃金が確定しなければ計算することができないものであり,これが確定すれば,社内規程等に基づき自分で計算したり,会社が作成した年金額の概算を計算する仕組みを活用して計算できるものである。このことと,原告がNTT労組に対し,本件退職・再雇用制度導入後の社員各人の年金額について具体的に説明していたと認めるに足りる証拠はないことにかんがみると,原告の上記対応をもって不誠実な交渉態度であるとはいえない。
エ 認定事実(5)カ(エ)によれば,平成13年10月12日に行われた第17回団交において,原告は,参加人から,中間面談において雇用形態の選択ニーズを聞くのであれば,OS会社の労働条件を示してから実施すべきと主張されたのに対し,その要望には応じずに,中間面談をする意向を示したことが認められる。
原告が中間面談において社員から聴取しようとしている雇用形態の選択ニーズというのは,本件退職・再雇用制度において用意されている前提事実(3)ウの雇用形態について,社員が正式に選択をする前の意向調査的なものと解されるところ,このような調査は,社員が雇用形態の種類を知っていなければならないことは当然として,雇用される先のOS会社の業務内容や労働条件についても知らなければ,意向そのものを形成することができないものである。参加人は,その組合員の労働条件の変動をもたらす本件退職・再雇用制度の導入に関して原告と交渉する立場にあるから,組合員が正しく上記の選択ニーズの聴取に答えられるよう,OS会社の業務内容や労働条件等について説明を求める必要性が認められ,逆に原告は,これらの事項について,組合員の労働条件に密接に関するものとして説明をすべきであることは既に説示しているとおりである。原告は,第17回団交までにもOS会社の労働条件について示しているし,労働条件が分からないから選択できないとの回答でもよいという前提で中間面談をする方針であったから,参加人からの要望に応じられなかったと主張するが,前記(4)イ(ウ)で説示しているように,OS会社の業務概要,経営方針,将来展望及び設立スケジュールについて,第17回団交までの間に原告は十分な説明をしている状況ではなかったし,認定事実(5)カの第17回団交における原告と参加人とのやり取り等の内容に照らしても,第17回団交の時点でさらに説明すべき事項があったのに説明していないという状況にあったといえるから,参加人の上記要望に応えなかった原告の対応は,誠実な交渉態度ではないと認められる。
オ(ア) 認定事実(6)ク(イ)によれば,平成13年11月6日に行われた第18回団交において,原告は,参加人から,一時金型における一時金の支払回数を3回から2回に変更した理由及びその配付比率の考え方と一時金は激減緩和措置であるのかについて質問されたのに対し,2回支給で整理したものであり,OS会社の退職金見合いは激変緩和措置に含まれ,退職金見合いは30万円×年数で考えており,10年で300万円相当となる旨回答し,参加人は,この点に関して更なる質問をしなかったことが認められる。
一時金の支給回数の理由についての原告の回答は上記の程度のものであるが,それに対して参加人から更なる質問が出なかったことと,この点以外の原告と参加人とのやり取りの内容からすると,参加人の一時金型に関する質問の重点は,一時金の支給回数が3回から2回となったことを問い質すということよりも,配付比率の考え方にあると考えられる。そうすると,原告が,一時金型における一時金の支給回数の変更理由について上記の説明以上の説明をしなかったことをもって,直ちに不誠実な対応であるとはいえない。
(イ) 認定事実(6)ク(ウ),(7)サ(イ)によれば,第18回団交において,原告は,参加人から,OS会社における賃金の基礎とする賃金額について,50歳~59歳の賃金額の平均値としていたのを50歳の賃金額に変更した理由を質問されたのに対し,同年6月時点ではいろいろ検討していたが,最終的に平均値ではなく調整手当で措置することにしたこと,個々人によって違うので手当で調整し,公平性を考えて実施する旨回答し,それ以上の説明をしなかったこと,平成13年12月6日に行われた第19回団交において,原告は,参加人に対し,本件構造改革について意思が固まった提案として13.12.16提示資料を提示し,それまで示してきた提案内容を変更した点を説明したが,変更理由や変更経緯についての説明はしていないことが認められる。
第18回団交において参加人がしたOS会社における賃金の基礎とする賃金額の変更に関する質問は,乙2の31によると,OS会社の賃金の基礎を50歳~59歳の平均から個々人の50歳の賃金とすると賃金原資が少なくなり,結局は重要な労働条件の変更になるのではないかという点を懸念したものであり,この懸念は同質問の際に原告に示されていることが認められる。そうすると,参加人の上記質問がこのような懸念を示してされたものであることに照らすと,原告の上記回答は具体的な理由の説明になっていないものというべきである。また,第19回団交においても,この点について具体的な説明がされていないのである。そうすると,OS会社における賃金の基礎の変更理由に関する質問に対する原告の第18回団交及び第19回団交における上記対応は,誠実な交渉態度ではなかったと認めるのが相当である。
カ 以上を要するに,本件退職・再雇用制度導入団交における本件退職・再雇用制度の導入に伴う労働条件面の具体的内容についての原告の説明対応のうち,本件命令が不誠実な交渉態度であるとした, 第14回団交における激変緩和措置率の説明, 第16回団交におけるOS会社における賃金に関する説明, 第17回団交における年金に関する説明, 第17回団交における平成13年10月の中間面談の際に行う社員のニーズ把握の前提となるOS会社の業務内容,労働条件等に関する説明, 第18回団交及び第19回団交における一時金型の退職金(一時金)支給回数の変更理由及びOS会社の賃金額の基礎の変更に関する説明は, 及び のうち一時金型における一時金の支給回数の変更理由を除き,団体交渉において使用者に要求される誠実交渉義務に違反していると認められる。
(6)  ④本件退職・再雇用制度導入団交における団体交渉の期日・設定頻度
ア 本件命令(甲2)は,本件退職・再雇用制度導入団交に関して,原告は,参加人の再三の求めにもかかわらず,団体交渉期日の設定を機敏に行わず,団体交渉の頻度を不十分なものにしており,このような原告の参加人に対する対応は,使用者に要求される誠実交渉義務に違反しているとしている。
イ 本件退職・再雇用制度導入団交である第13回団交から第21回団交の実施状況は,前提事実(4)のとおりであり,以上の団体交渉が行われた経過及びそれに関係する背景事情等は,認定事実(1)~(9)のとおりであり,このうち本件退職・再雇用制度導入団交における団体交渉の期日・設定頻度に直接関係する事実関係は,以下のとおりである。
(ア) 認定事実(1)キ(ア),(2)コ及び証拠(乙2の15,6の4)によれば,参加人は,原告に対し,第13回団交において,本件構造改革は大問題であり解明すべき問題がたくさんあるため,これまでの団体交渉の回数にこだわらず設定して論議の場を持つようにしたいと要望したところ,原告は,これを了解したこと,参加人は,原告に対し,第13回団交後,何度も団体交渉を行うよう申し入れていたが,原告から日程調整がつかないなどと言われ,最終的に,第13回団交から61日後の平成13年7月11日に第14回団交が行われることになったこと,参加人は,原告に対し,第14回団交において,前回の団体交渉から2か月間団体交渉を行おうとしなかった原告の対応は遺憾であると述べたこと,これに対し,原告は,反論をしていないことが認められる。
(イ) 認定事実(3)アによれば,参加人は,原告に対し,平成13年7月18日,同月25日~同月31日の間に団体交渉を行うことを要求したが,原告の交渉委員の日程調整が付かないことが理由とされて,上記期間中に団体交渉は行われず,実際に団体交渉(第15回団交)が行われたのは,第14回団交から30日後の同年8月10日であったことが認められる。
(ウ) 認定事実(7)カ,ク,サ及び証拠(乙2の34)によれば,第18回団交後の平成13年11月22日,3会社は,NTT労組と本件構造改革について合意したことを受けて,今後この内容で実施するという位置付けの経営改善施策等を公表したこと,同公表から14日後の同年12月6日に行われた第19回団交において,参加人は,原告に対し,その冒頭で,団体交渉の場が機敏に設定されないのは問題であるので,今後は機敏に対応するよう申し入れ,原告はできるだけの対応をしたいと返答し,また,同団交の最後に,参加人は,原告に対し,今回ほとんど論議ができていないので,次回の団体交渉期日を早く設定するよう申し入れたことが認められる。
(エ) 認定事実(9)ア,エ,ケ及び証拠(乙2の46,6の3,6の16)によれば,参加人は,原告に対し,第20回団交後,複数回にわたり,団体交渉を行うよう要求したこと,原告は,参加人からされた平成13年12月25日に団体交渉申入れに対しては同月28日まで予定が入っているので団体交渉期日が入らない,年始にすぐに入れる旨回答したこと,参加人は,平成14年1月に入っても原告から団体交渉実施の話がなく,同月9日,14.1.9団交申入書により団体交渉を申し入れたこと,同申入書には,「労働条件上の問題が提示されてから1か月もたっておらず,論議も始めたところであり,まだ提示されていない労働条件もあるため,年内での団交設定を交渉後の窓口対応で求め,会社も応じたところであるにもかかわらず,その後,年内は無理と言い,年明け後の再三の申入れにもかかわらず,未だに日程調整をしようとしないことはまさに不当・不誠実な対応といわざるを得ない。」との抗議文が記載されていたこと,これに対し,原告から抗議,反論等はなかったこと,同申入書に基づき,同月24日に第21回団交が行われたことが認められる。
ウ 以上によれば,第13回団交後2か月間次の団体交渉が行われなかったこと,第15回団交も原告の都合により要望よりも遅い日に開催されていること,参加人から原告に対し,第19回団交において団体交渉を機敏に開催するよう申し入れられており,また,第20回団交後,複数回にわたって団体交渉の申入れがされ,原告においても平成14年1月に入ってすぐに団体交渉期日を入れる旨回答していたにもかかわらず,改めて参加人から14.1.9団交申入書が出されて,ようやく第21回団交が行われていることについては,これらの団体交渉期日の設定に関して,原告が機敏に対応していないものと評価せざるを得ない。そして,本件退職・再雇用制度の導入は,参加人の組合員を含む原告の社員の労働条件に大きな変更をもたらすものであることにかんがみると,これを交渉事項とする団体交渉は重要なものということができ,労使間において十分に交渉が行うべきものと考えられるが,上記のような原告の対応は,団体交渉の頻度を不十分なものとしたとも評価されるものである。したがって,参加人との間の団体交渉期日の設定に関する原告の上記対応は,使用者に要求される誠実交渉義務に違反していると認められる。
エ この点に関して,原告は,参加人から再三にわたる団体交渉の要求はない旨主張し,参加人に係る原告側の交渉担当者であったCの本件初審事件における審問速記録である乙6の16等には同主張に沿う部分があるが,参加人の当時の中央本部中央執行委員長であったDの本件初審事件における審問速記録である上掲乙6の3及び6の16並びに上記イ(エ)で認定した参加人から原告への14.1.9団交申入書の抗議文に対して原告が何ら抗議,反論をしていないことに照らすと,上記主張は採用することができない。
また,原告は,参加人の窓口担当者との間で団体交渉の日程調整を行い,参加人から要求された団体交渉についてはほぼ参加人から指定された期間内に団体交渉を行っており,団体交渉の期日設定・頻度について,誠実を欠く対応をしたことはない旨主張するが,上記ウで挙げる事実関係及びに説示理由により,同主張も採用することはできない。
(7)  ⑤NTT労組との激変緩和措置の事実上の合意後のみなし取扱いや本件意向確認についての交渉態度
ア みなし取扱い導入についての交渉態度
(ア) 本件命令(甲2)は,原告が,NTT労組とみなし取扱いの導入について合意した後に,参加人に対して初めてその内容を提示したのみならず,NTT労組と合意した本件退職・再雇用制度導入のスケジュールどおりにみなし取扱いを実施するために,みなし取扱いを導入することを明らかにした参加人との団体交渉においてその導入理由等の説明を行わず,同団体交渉の8日後に,みなし取扱いを盛り込んだ人事部長通知を発出していることについて,不誠実な交渉態度であったとしている。
(イ) 前提事実(3)イ(ウ),ウによれば,みなし取扱いは,51歳以上の社員が,繰延型,一時金型及び満了型の三つの雇用形態のいずれも選択しない場合は,60歳満了型(市場性の高いエリア等を中心として,勤務地を問わず,成果・業績に応じて高い収入を得る機会を追求する意欲を持った社員の当該意欲に応えるという趣旨を含む。)を選択したものとみなす取扱いであることが認められる。みなし取扱いが適用されると,60歳満了型を選択したものとして,他府県事業所や他職種への配転を望まない社員についても,本人の意思に反して,広域配転や他職種への配転の可能性が相当高まることになる。以上によれば,みなし取扱いの導入は,重大な労働条件の変更をもたらすものというべきである。
原告は,60歳満了型を選択したものとみなされれば,従前の労働条件のまま原告に残ることを意味するのであるから,みなし取扱いの導入は,重大な労働条件変更ではないと主張するが,上記説示の理由により,採用することができない。
(ウ) 前提事実(3)ウによれば,本件退職・再雇用制度における雇用形態としては,繰延型,一時金型,及び60歳満了型の3種類のみが予定されていることが認められ,いずれの雇用形態も選択しない場合に,原告を退職してOS会社に再雇用されることとなる繰延型及び一時金型ではなく,これまでどおり原告に残ることとなる60歳満了型を選択したとみなす取扱い自体は,一概に不合理とはいえないものであり,みなし取扱いによって,選択の対象となる上記3種類の雇用形態に変更を来すものではないことからすると,原告が,参加人に対し,みなし取扱い自体の内容が分かる説明をしていれば,参加人から更に導入理由について別途質問を受けない限り,その説明までしなければならないとするのは,相当とはいい難い。
認定事実(7)サ,(8),(9)によれば,原告は,参加人に対し,平成13年12月6日に行われた第19回団交において,みなし取扱いの導入理由や根拠について説明していないが,みなし取扱いを導入すること自体は,その際に提示した13.12.6提示資料に明記されていること,参加人は,第19回団交において,みなし取扱いに関する質問等はしていないこと,参加人がみなし取扱いを取り上げて原告に要望等をしたのは,平成14年1月29日に提出したみなし取扱いが無効であることの確認要求を含む14.1.29要求書が最初であることが認められる。以上の事実関係及びみなし取扱いがどのような内容のものであるかは特に説明を受けるまでもなく分かるものであることからすると,原告は,参加人から14.1.29要求書によるみなし取扱いに関する要望等を受ける以前の段階において,みなし取扱い導入理由について説明しなかったことが,不誠実な交渉態度であるとまではいえない。
イ 本件意向確認実施についての交渉態度
認定事実(7)キ,ケ,(8)ア,キによれば,原告は,NTT労組に対しては,平成13年11月14日までに本件意向確認の実施手続及びスケジュールについて提案し,同月30日までに,NTT労組との間において,本件意向確認を平成14年1月末に完了するスケジュールで進めることを合意していたこと,他方,参加人に対しては,本件意向確認の実施手続及びスケジュールについて,平成13年12月6日の第19回団交においても説明せず,同月7日に提示した13.12.7資料により初めて提案したことが認められる。また,認定事実(8)ウ~キ,コによれば,参加人は,原告からの上記本件意向確認の実施手続及びスケジュールに対する提案に対し,同月12日に開催された勉強会において,本件意向確認は団体交渉を踏まえて実施することを要望し,同月13日には,13.12.13要求書を提出して,意向確認について組織的対応を行うので組合員との個別面談は行わないことなどを要求するとともに,本件意向確認の実施を交渉事項とする団体交渉の申入れをしたこと,これに対し,原告は,団体交渉を踏まえて本件意向確認を実施するとの対応をとることとし,同月18日に参加人と第20回団交を行ったものの,同団体交渉では,原告の責任において個別に社員に対して本件意向確認を行う旨の説明をして,参加人の上記要求は受け入れられないとの対応をしたこと,他方,原告は,第20回団交を行った日より4日前の同月14日には,原告の社員に対して本件意向確認を行うことを通知した人事部長通知を発出し,参加人の組合員以外の社員に対しては同月17日から,参加人の組合員に対しては第20回団交後の同月19日から,本件意向確認を実施し,平成14年1月31日までの間に,意向確認調書及び雇用形態選択通知書を回収したことが認められる。
以上によれば,原告は,本件意向確認の提案の時期及び方法について,原告とNTT労組との間にその実施方法及びスケジュールの合意ができた後に,それらの提案を参加人にしているというように,明らかに差異ある取扱いをしている。そして,同提案以後,原告は,参加人との団体交渉を待たないで,同月14日に本件意向確認の実施を進めるための人事部長通知を発出し,参加人のと団体交渉前に参加人の組合員以外の社員に対する本件意向確認を始め,同月18日の原告と参加人との間の第20回団交においても,参加人の要望等を受け入れずに原告の責任で本件意向確認を実施するとの対応をとり,参加人の組合員に対しても,1回だけ団体交渉を行っただけで本件意向確認を実施したという原告の対応等をみると,原告は,NTT労組と合意した本件意向確認の実施方法及びスケジュールを既定路線として,参加人の要求等を顧慮せずに,押し進めたものと評価できる。これらの本件意向確認の実施に係る原告の参加人に対する対応等は,NTT労組との対比において,不誠実な交渉態度であるといわざるを得ない。
原告は,原告の社員で組合員となり得る者の98.9%を組合員とする多数派労組であるNTT労組と合意に至っている状態で,本件退職・再雇用制度の導入を予定どおり進めるためには,社員に対する意向確認を実施しなければいけない時期に至っていたと主張する。NTT労組の組合員数が上記のような規模のものであることにかんがみると,いずれにせよNTT労組と合意したスケジュールに沿って本件意向確認を進めることとなったものと考えられるものの,少数派労働組合をないがしろにしてよいという理由にはならず,複数組合が併存する場合の中立的態度の保持の観点に照らすと,参加人に対しても,NTT労組との対比において,相応の時期に,本件意向確認の実施方法及びスケジュールを提案し,これらについて参加人が求める団体交渉の場で説明,協議を行うべきであったというべきであるから,原告の上記主張は,上記判断を左右するものではない。
ウ なお,本件命令(甲2)は,その第4の1(8)ウの本件意向確認実施完了後におけう交渉態度についての判断部分(113頁以下)において,本件意向確認が完了した平成14年1月末以降の本件退職・再雇用制度の導入に関する原告の参加人に対する交渉態度について,不誠実なものであるとしている。
しかし,本件命令の結論において労働組合法7条2号の不当労働行為に当たるとした原告の誠実交渉義務違反行為の中に上記の交渉態度は含まれていない(本件命令第4の1(8)エ(114頁)及び同(9)ア(オ)(116頁)参照)から,この点についての適否の判断はしない。
(8)  結論
以上によれば,本件命令において不誠実な交渉態度であると認定判断した原告の各対応のうち,①本件退職・再雇用制度の導入に密接に関連する経営上の諸問題についての交渉態度における年金に関する説明態度及び一時金型における一時金の支給回数の変更理由に関する説明態度,②NTT労組との激減緩和措置の事実上の合意後のみなし取扱いや本件意向確認についての交渉態度におけるみなし取扱いの導入理由に関する説明態度を除き,いずれも不誠実な交渉態度であると認められ,これらは使用者の労働組合に対する誠実交渉義務に反するものであるといえるから,以上の部分に係る本件命令の判断は相当であるが,上記①及び②に係る部分の判断は相当ではない。
ところで,本件命令は,不誠実な交渉態度であると判断した原告の各対応について,個別に不当労働行為該当性を認めたものではなく,本件退職・再雇用制度導入団交における一連一体の行為としてその不当労働行為該当性を認め,これを特定したのが本件命令の主文Ⅰ項1中の①の部分であるところ,上記の不誠実な交渉態度とは認められないものを除いた原告の不誠実な交渉態度も,上記一連一体の行為と同一性を有するものであり,これが労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するものであるということができ,これを特定する記述は本件命令Ⅰ1①の部分と同様のものになると考えられる。
(9)  参加人の主張(労働組合法7条3号該当性について)について
参加人は,以上検討した原告の各対応は,労働組合法7条2号に該当するのみならず,同条3号にも該当する不当労働行為であると主張する。
本件命令(甲2)は,当該原告の各対応が労働組合法7条2号の不当労働行為に当たるとしたが,同条3号の不当労働行為には当たらないとして,参加人が申し立てた当該原告の各対応が同号の不当労働行為に当たるとする不当労働行為救済命令の申立て部分を棄却しているところ,本訴は,原告から本件命令中当該原告の各対応が同条2号の不当労働行為に当たるとして救済命令が出された部分の取消しを求めて提起されたものであるから,同部分の適否が審理の対象となるものである。他方,参加人は,本件命令中上記棄却部分の取消しを求める訴えを提起していない。
行政事件訴訟法22条により訴訟参加した参加人は,民事訴訟法40条1項から3項の規定の準用により,参加した訴訟の手続において,必要的共同訴訟の共同訴訟人に準ずる地位に立つが,独自の訴訟上の請求をしている者ではなく,共同訴訟人とは異なる。そうすると,参加人の,上記主張は,本訴において審理の対象とならない事項についてするものであるから,判断をする必要がない。
3  争点(2)(第22回団交及び第23回団交における配置転換に係る交渉事項に関する原告の参加人に対する対応の労働組合法7条2号の不当労働行為該当性)について
(1)  本件命令(甲2)は,第22回団交及び第23回団交における原告の対応のうち,参加人が,差し迫った本件退職・再雇用制度の実施過程で行われる配転において,組合員にとって配転先となるOS会社の事業内容や労働条件が必ずしも明らかになっていない中にあって,どのように本人の希望を尊重した配置を行うかなどの原告が行う配転の実施方針についての協議を求めたのに対し,原告が,これに応じなかったことが団体交渉の拒否に当たり,労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するとした。
(2)  認定事実(10),(11)によれば,第21回団交後から第23回団交までの間における本件退職・再雇用制度導入に係るやり取り等のうち雇用形態等に関する参加人と原告との間の交渉等の経過は,概要,以下のとおりであることが認められる。
ア 参加人は,原告に対し,平成14年1月29日,14.1.29要求書により,配転に当たっては本人の同意を尊重し,通勤時間,本人のスキルを無視した配転は行わないこと,事前に説明し配転協議を行うことを要求し,次いで,同年2月5日,14.2.5要求書により,個々の参加人の組合員について,勤務地・事業所及び業務に関する希望を記載した上,本人の希望を尊重した配置を行うこと,組合員の要求については各地域交渉委員会において具体的に対応することを要求し,同月15日,第22回団交が行われた。原告は,以上の参加人からの要求に対し,14.1.31回答書及び14.2.8回答書により,人員の配置は業務上の必要性等を勘案して原告の責任により対処するので,参加人の要求には応じられない旨の回答をし,第22回団交においては,配転等は労働契約の問題であるので個別に対応し,組織とは交渉しない,配転等を実施した結果,疑義が生じた場合は参加人からの要求に基づき,団体交渉において扱うなどの説明をする対応をした。
イ 第22回団交後,参加人は,原告に対し,同月25日,14.2.25要求書により,出向・単身赴任・異職種配転・長距離通勤などの配転は本人の同意を得て行うことを要求し,次いで,同年3月6日,14.3.6要求書(退職再雇用)により,個々人についての勤務地,業務を含む労働条件等を団体交渉で協議することを要求するとともに,以上の要求事項を交渉議題に含む団体交渉を求め,同月12日,第23回団交が行われた。原告は,以上の参加人からの要求に対し,同月11日,14.3.11回答書(退職再雇用)により,業務運営上の施策については原告の責任により対処していく考えであり,参加人の要求には応じられない旨の回答をし,第23回団交においては,人員配置について事前に団体交渉で協議する考えはなく,人員配置について疑義が生じた場合は,地域交渉委員会において扱っていく旨の回答をする対応をした。
(3)  上記(2)の経過のうち,第22回団交までの経過は,前記2(7)イで認定説示したとおり,本件意向確認が,参加人の組合員以外の社員に対しては平成13年12月17日以降,参加人の組合員に対しては同月19日以降始められ,原告において,意向確認書調書及び雇用形態選択通知書を回収し終えていた状況の下でのものであることからすると,第22回団交時点では,平成14年5月からの実施が予定されていた本件退職・再雇用制度に伴う3種類の雇用形態に即した社員の異動について具体的可能性が生じていた時期であったといえる。また,第22回団交後から第23回団交までの経過は,認定事実(11)イによれば,第22回団交から3日目の同年2月27日に,原告から社員に対し,60歳満了型を選択する社員に対し,新たな従事業務に必要なスキル習得を目的として,同年4月以降に研修を実施することを準備し,研修終了後に,大規模マーケット等の直轄営業部門等へ配転することが通知された状況の下でのものであることが認められることからすると,第23回団交時点では,より異動の具体的可能性が強まっていた時期であったといえる。そして,認定事実(10)エによれば,参加人が徴求したその50歳以上の組合員の雇用形態の希望結果は,OS会社への移行希望者が120名,60歳満了型希望者が287名であったことが認められることからすると,参加人においては,OS会社への移行を希望した組合員との関係では再雇用されるOS会社の労働条件が,60歳満了型を希望した組合員との関係では他府県事業所や異職種への配転内容が,原告との団体交渉における重要な交渉事項となっていたことは容易に肯認することができる。
(4)  配転は,社員の配置の変更であって,職務内容や勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものであり,労働者の労働条件や生活環境に多大な影響を与えるものである。配転は,業務上の必要性があって行われるものであるが,使用者は,業務上の必要性を考慮するだけでなく,労働者の職業上,生活上の不利益にも配慮して労働者の配転を行わなければならないことからすると,特に本件退職・再雇用制度のように大規模な配転を行うことを予定している場合には,組合員の労働条件を守る立場にある参加人にとって配転がどのような方針で行われるのかは,正に組合員の労働条件に関する事項として,原告に対して確認し,協議していくべき事項であるといえる。そして,上記(2)アで認定した第22回団交までの各要求書による要求事項及び第22回団交における要求事項並びに上記(2)イで認定した第23回団交までの各要求書による要求事項及び第23回団交における要求事項は,上記の配転の方針に関する要求事項であると解されるから,原告は,これらについては協議に応じ,説明する義務があったというべきである。
しかし,以上の要求事項について,原告は,上記(2)のとおり,参加人とは交渉しない,要求には応じられないとの対応をするなどして,協議に応じることをしなかったというのである。このような原告の対応は,不誠実であるだけでなく,当該事項についての団体交渉を拒否したものと評価することができる。
(5)  この点について,原告は,被告が原告において説明すべきであるとする配転の実施方針は,その内容が具体的で明確なものでないし,長距離通勤を伴う配転や異業種は移転を行う場合に本人の希望をどのように考慮するのか,自分自身や家族が病気療養中の者,自宅において家族介護中の者などの家庭的事情をどのように配慮した取扱いを行うかなどは,通常の配転においても生じるものであるから,あえて団体交渉において説明しなければならない事項ではないし,そもそも,配転は,社員個々人の事情を把握し,配転が実施可能かどうかを個別に判断して決するものであるから,一般的基準としての配転の実施方針というものは定立し得ないと主張する。
しかし,参加人が原告に対して協議,説明を求めた要求事項は,上記(2)の内容のものであり,これが配転の実施方針に係る要求事項であることは,原告においても十分理解できたものというべきであり,原告がこれについて協議,説明しなければならないことは,上記(4)で説示したとおりである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(6)  結語
以上によれば,上記(1)の本件命令の判断部分は相当である。
(7)  参加人の主張(労働組合法7条3号該当性について)について
参加人は,上記検討した原告の各対応は,労働組合法7条2号に該当するのみならず,同条3号にも該当する不当労働行為であると主張する。しかし,同主張について判断する必要がないのは,前記2(9)で説示したとおりである。
4  結論
前記2及び3によれば,原告の本件退職・再雇用制度導入団交及び本件配転団交における原告の対応は,いずれも労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するものといえる。そして,本件命令中,本件退職・再雇用制度導入団交における原告の対応について上記の不当労働行為該当性を認めた部分は,前記2(8)で説示したとおり,結論において相当であり,本件配転団交における原告の対応について上記の不当労働行為該当性を認めた部分は相当である。そして,以上の不当労働行為に対する救済方法として,本件命令主文Ⅰ項1の内容の文書手交を命じたことは相当である。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青野洋士 裁判官 渡邉和義 裁判官 荒谷謙介)

 

別紙
Ⅰ 初審命令主文を次のとおり変更する。
1 西日本電信電話株式会社は,通信産業労働組合に対し,下記の文書を速やかに手交しなければならない。

年 月 日
通信産業労働組合
中央執行委員長 B様
西日本電信電話株式会社
代表取締役 A
当社が,①「NTTグループ3ヶ年経営計画(2001~2003年度)」に基づく構造改革に伴う退職・再雇用制度の導入等に関する貴組合との団体交渉において,貴組合に対する提案並びに貴組合の求める資料の提示及び説明において合理的な理由がないにもかかわらず他の労働組合と比べて取扱いに差異を設け,団体交渉期日の設定及び団体交渉における説明・協議において誠実性を欠く対応をし,上記退職・再雇用制度の導入に伴う意向確認を貴組合との誠実な協議を行わずに実施に移したこと,②貴組合が平成14年2月5日付けで申し入れた組合員の勤務地等に関する団体交渉において,本人の希望を尊重した配置を行うことなどの配転の実施方針に関する団体交渉に応じなかったことは,労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると中央労働委員会において認められました。
今後このような行為を繰り返さないようにいたします。
2 その余の本件救済申立てを棄却する。
Ⅱ 西日本電信電話株式会社の本件再審査申立てを棄却する。

 

*******

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。


Notice: Undefined index: show_google_top in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296

Notice: Undefined index: show_google_btm in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296