判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(61)平成29年 1月18日 東京地裁 平27(ワ)13887号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(61)平成29年 1月18日 東京地裁 平27(ワ)13887号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成29年 1月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)13887号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2017WLJPCA01188004
要旨
◆訴外会社から新設分割により設立された原告会社が、訴外会社の執行役員などであった被告Y2及び同人が同社を退職した後に設立した被告Y1社に対し、被告Y2は、在職中及び退職後2年間、訴外会社と競業関係に立つ事業を自ら開業又は設立する行為をしないとする、同社との本件誓約に違反したと主張して、賠償金1億2117万円等の支払を求めた事案において、原告会社はパチンコ業界における有料職業紹介事業たる本件事業を訴外会社から承継しており、被告Y2は、本件誓約による競業禁止期間に、自身が代表取締役を務める被告Y1社において本件事業と競業関係に立つ本件競業事業を行っている以上、本件誓約の趣旨に違反し、これに基づく損害賠償責任を負うとする一方、本件誓約の当事者ではない被告Y1社の責任を否定した上で、被告Y2の本件誓約違反により減少した10件分についての粗利益366万8710円を原告会社の損害と認定したほか、訴外会社が被告Y2に対して本件競業事業を行うにつき同意をしたとはいえないと判断して、被告Y2に対する請求を一部認容した事例
参照条文
民法415条
民法416条
裁判年月日 平成29年 1月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)13887号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2017WLJPCA01188004
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社X
上記代表者代表取締役 A
上記訴訟代理人弁護士 山下瑞木
同 髙岡奈生
東京都豊島区〈以下省略〉
被告 株式会社Y1(以下「被告会社」という。)
東京都豊島区〈以下省略〉
上記代表者代表取締役兼被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 大菅剛
主文
1 被告Y2は,原告に対し,366万8710円及びこれに対する平成26年12月2日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
2 原告の被告会社に対する請求及び被告Y2に対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを100分し,その3を被告Y2の負担とし,その余は原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して,1億2117万円及びこれに対する平成22年10月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案
本件は,原告が,被告らに対し,連帯して,新設分割前の株式会社Xと被告Y2との間の「秘密保持に関する誓約書」(以下「本件誓約」という。)に違反したと主張し,同誓約違反に基づき,賠償金1億2117万円及びこれに対する違反行為日以降の日たる平成22年10月1日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求めて,提訴した事案である。
2 前提事実(証拠を摘示した部分以外の部分は当事者間に争いがない。)
(1) 株式会社a(以下「旧a社」という。)は,旧商号「株式会社a」といい,人材紹介業務や経営コンサルティング業務等を行ってきた株式会社であるが,平成26年10月1日,原告は,旧a社から新設分割により,企業内の人事,労務,総務,採用等に関するコンサルティング等の業務を行う株式会社として設立され,旧a社が営む「採用・組織に関する支援事業(ヒューマンリソース事業)」(以下「本件支援事業」という。)を承継するものとされていた(甲3)。
被告Y2は,平成12年6月5日,旧a社に就職し,平成17年10月1日から平成20年9月30日まで,同社執行役員などの地位にあり,同日,同社を退職した。
被告Y2は,同年10月30日,経営コンサルティング業務等を目的とする被告会社を設立し,同代表取締役に就任している。
(2) 旧a社は,平成12年頃から,パチンコ業を営む採用企業と転職希望者との間の仲介を行う人材紹介事業(以下「本件事業」という。)を営んでいた。
被告Y2は,平成15年10月27日,旧a社との間で,在職中及び退職後2年間,旧a社と競業関係に立つ事業を自ら開業又は設立する行為をしないとする本件誓約を締結した(甲2)。
(3) 被告Y2は,平成20年9月30日に旧a社を退職し,被告会社を設立し,被告会社は,平成21年7月1日,有料職業紹介事業の許可を受けて,遅くとも同年9月頃には,パチンコ業界を対象とする人材紹介事業を開始した。なお,同事業は本件事業と重複し競合する事業(以下「本件競業事業」という。)である。
被告会社は,旧a社に所属し,同社を退職した従業員を数名雇用して勤務させていた。
(4) 原告は,平成26年12月1日までに,被告らに対し,本件誓約に違反する行為があったとして,その損害を賠償するよう求めた(甲20の1~3)。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は,①原告による本件事業の承継の有無(争点1),②被告会社の本件誓約違反に係る賠償責任の有無(争点2),③原告の損害の有無や額等と本件競業事業との因果関係の有無(争点3),④原告による承諾の有無(争点4)である。
(1) 争点1
【原告】
原告は,旧a社が営んでいた本件事業を含む本件支援事業を承継しており,本件事業に係る本件誓約に基づく権利義務も承継している。なお,許認可の要否は,承継の有無とは直接には関係しない。
【被告ら】
本件支援事業は,パチンコ業界における人材紹介事業たる本件事業と性格を異にするものであり,本件事業自体に許認可を要する点も考慮すると,承継の対象となっていないと解すべきである。
(2) 争点2
【原告】
被告Y2による本件競業事業は,被告会社を通じて行われ,その利益が被告会社に帰属している以上,被告会社は,被告Y2と同等の立場で,本件誓約違反に係る賠償責任を負うべきである。
【被告ら】
争う。
(3) 争点3
【原告】
旧a社の平成19年度(平成20年9月30日決算,以下同社の決算年度は,いずれもその翌年9月30日時点のものである。)における人材紹介業に係る売上高は4億4152万6200円であったが,平成20年度において同売上高は2億7694万4698円となり,平成21年度において同売上高は1億9916万7715円に減少した。この売上高の減少は,本件競業事業による影響であることを否定できず,平成19年度売上高を基準とすると,平成20年度売上高は1億6458万1502円減少し,平成21年度売上高は2億4235万8485円減少しており,この減少額の合計額に2分の1を乗じた1億2117万0242円が原告の損害というべきである。特に,本件事業は,原告がパチンコ業界において初めて開始したものであり,被告会社が現れるまで実質的な競業相手が存在しなかった。このことからしても,被告らが遅くとも平成21年2月20日より前に開始した本件競業事業の結果,上記売上高が減少したことは明白である。また,本件競業事業の開始時期は,各資料で裏付けられている。
【被告ら】
争う。本件競業事業の開始時期からして,原告の平成20年度の売上高の減少と本件競業事業は無関係であり,損害額又はその因果関係を争う。なお,本件事業と同様の事業を営む競業相手は,被告会社以外にも複数存在しており,被告会社が参入したことによる影響はわずかなものにすぎず,原告に損害を与えたとは考えられない。本件競業事業の開始時期は,平成21年9月頃であり,それより前に開始されていない。原告が指摘する資料は虚偽のものである可能性が高い。
また,平成22年9月までに原告の取引先との取引により被告会社が得た利益は,営業利益をベースに考えると,実質0であり,被告が得た利益から見ても,原告の損害は生じていないというべきである。
(4) 争点4
【被告ら】
被告Y2は,本件競業事業が旧a社の本件事業と競合し,本件誓約違反行為に当たると認定されることを危惧し,あらかじめ,当時の旧a社の代表者に対し,本件競業事業の実施について説明をしたところ,同代表者は,平成21年7月頃にこれを了解し応援するとの意向を示した。このことは,旧a社の当時の代表者のメールなどからも明らかである。
そこで,被告Y2は,被告会社を設立し,同年9月以降,本件競業事業を開始した。その後の平成26年6月頃になり,旧a社は,被告らに対し,本件競業事業について不満を述べるようになったにすぎない。
【原告】
旧a社が本件競業事業を許諾した事実はない。当時の同社代表者は,平成21年12月には,被告Y2に対し,本件競業事業を止めるよう申し入れており,被告Y2もこれに応じる意向を示した。なお,当時の同社代表者は,独立したいとして旧a社を退職した被告Y2を応援する趣旨で,同社に所属していた当時に被告Y2が担当していた経営コンサルタント業務を被告会社に再委託することはあったが,あくまでもその限度での支援にすぎず,本件競業事業を許諾した事実はない。原告の現代表者は,被告Y2と当時の旧a社の代表者との間のやり取りを承知しておらず,そのメールなどから,原告があらかじめ許諾していた事実が裏付けられるものではない。
第3 当裁判所の判断
1 本件の事実関係について
(1) 旧a社の設立,事業形態,同業種等
ア B(以下「B」という。)は,平成6年2月に旧a社を設立し,平成12年1月に職業安定法30条1項所定の有料職業紹介事業の許可を得て,その後にパチンコ業を営む採用企業と転職希望者との仲介を行う,パチンコ業界に特化した人材紹介業たる本件事業を開始した(甲30・1頁,証人B・1,2頁)。
イ 本件事業は,ウェッブサイトを開設,運営し,全国規模で,転職希望者を求め,登録をした採用企業と転職希望者について,登録企業から求める人材についてのヒアリングを行い,また登録済みの転職希望者に対しても面談を実施し,相互に適した,同希望者を登録企業に紹介するとともに,面接の設定や面接指導を行うほか,採用後も定期的に面談を行うなど,パチンコ業界の転職,就職を支援する有料職業紹介事業である(甲5・1,2,8,9頁,甲6,甲30・2頁,証人B・33頁)。なお,報酬の形態は,完全成功報酬型とされ,人材が採用できるまで費用はかからず,紹介した希望者が就職後3か月以内に退職した場合には,紹介料を一部返金するシステムが採られていた(甲5・2,9頁)。
ウ なお,平成18年11月に設立された株式会社bは,パチンコ業界専門の求人情報サイトを運営する有料職業紹介事業を営んでいる。平成5年7月に設立された株式会社cは,遅くとも平成23年頃から,旧a社の協力を得て,有料職業紹介事業を営んでいる。平成19年11月に設立された株式会社dは,主に九州地方で有料職業紹介事業を営んでいる。 (以上,乙7~乙9,証人B・3,4頁)
(2) 被告Y2の旧a社在職中の職務内容,同社退職,被告会社の設立,本件競業事業の開始等
ア 前記前提事実(1)~(3)のとおり,被告Y2は,平成12年6月5日,旧a社に就職し,本件事業の立ち上げの頃から,責任者として稼働し,その後の平成15年10月27日,旧a社との間で,退職後2年間,旧a社と競業関係に立つ事業を自ら開業又は設立する行為をしない(甲11の「第4(競業避止義務の確認)」の3)旨,これに違反した場合,法的な責任を負担するものであることを確認し,これにより旧a社が被った一切の損害賠償することを約束する(甲11の「第4(損害賠償)」)旨の本件誓約を締結していた(甲11,甲30・2,3頁)。その後の平成17年10月1日以降も,被告Y2は旧a社の執行役員の地位にあり,平成19年3月1日時点では,本件事業を営む「キャリアサポート課」の属する第一営業部の部長職にあり,平成20年4月1日時点では,本件事業と直接関係しない営業体質改善部の部長職にあった(甲7~甲9,乙52・1頁)。なお,平成20年当時のY2の年俸は,662万5567円であった(甲10)。
イ 旧a社の平成19年度における本件事業の売上高は4億4152万6000円であり,同売上総利益(粗利益)は2億8544万1000円であり,同営業利益は1億8377万8000円であった(甲39・3頁)。
同年度における年間成約件数は,403件であった(甲39・1頁)。
ウ 被告Y2は,平成20年8月26日,原告の現代表者A(以下「A」という。当時,公認会計士として,旧a社の上場コンサル業務を担当していた。証人B・23頁,原告代表者本人1頁)にメールを送り,旧a社を退職する旨と起業に際して個人事業主と会社設立とのメリット・デメリットを尋ね,これを受けて,同日,Aは,被告Y2にあてて,被告Y2が旧a社を退職するについて,残念であるが,起業についての相談はいつでも気軽にしてほしい旨や上記回答の概要などを記載したメールを返信した(乙3,原告代表者本人2,3頁)。
被告Y2は,同年9月30日に旧a社を退職し,同年10月30日,被告会社を設立し,同代表取締役に就任後,同社を経営している(甲4,乙48・2頁)。
被告会社は,設立登記前の同月1日付けで,旧a社との間で,委託期間を同日から1年間として,同社がコンサルティング業務を請け負ったパチンコ店2社に対する経営・営業に関する助言等の業務を被告会社が旧a社から受託する2件の業務委託契約をそれぞれ締結した(甲12の1及び2,被告Y2本人21頁)。
エ 被告会社は,平成21年2月頃,本件競業事業のウェッブサイトの準備などを始め,同年7月1日,有料職業紹介事業の許可を受けて,遅くとも同年9月頃には,パチンコ業界を対象とする本件競業事業を開始した(前記前提事実(2),(3)のとおり,甲24,乙48・2頁)。本件競業事業は,全国規模で,転職希望者を求め,登録をした採用企業と転職希望者について,登録企業から求める人材についてのヒアリングを行い,また登録済みの転職希望者に対しても面談を実施し,相互に適した,同希望者を登録企業に紹介するとともに,面接の設定や面接指導を行うほか,採用に至って初めて課金され(成功報酬型),採用後も定期的に面談を行うなど,パチンコ業界の転職,就職を支援するものであって(甲14,甲15),本件事業とほぼ同内容の事業である。
オ 旧a社の平成20年度における本件事業の売上高は2億7694万5000円であり,同売上総利益(粗利益)は1億6928万8000円であり,同営業利益は8189万7000円であった(甲39・3頁)。
同年度における年間成約件数は,337件であった(甲39・1頁)。
(3) 本件競業事業に関するBと被告Y2とのやり取り,平成21年,平成22年頃のBと被告らとの関わり等
ア Bは,被告Y2の退職以降も,業務上の理由や私的交流から,被告Y2とメールを交換していたが,例えば,平成21年3月,同年9月,同年11月,Bと被告Y2は,メールで,仕事上の情報交換,上記(2)ウの業務委託契約に係る業務に関する打合せや同年12月にB及び被告Y2が参加する予定のハワイホノルルマラソンなどの話をしていた(乙11~乙16)。
イ Bは,平成21年11月26日,被告Y2に対し,メールで,旧a社の取引先から電話があって,被告会社が同取引先に営業をかけてきたが,構わないのかといった趣旨の連絡をBが聞いた旨,Bは,被告Y2が同じ業界で仕事をすることは構わないが,「①元X社の時にはお世話になって。。というトークや②元X社の幹部が新会社を立ち上げまして。。。というトーク,③X社時代の顧客にX社と被る企画・サービスを直接ぶつける営業,はお客様や社内の無用な混乱を生む恐れがあるので自重をお願いしたい。」と伝えた(甲30・4頁,乙17,証人B・15,16頁,被告Y2本人兼被告会社代表者本人(以下「被告Y2本人」という。)4,5頁)。
ウ Bと被告Y2は,一緒に上記ホノルルマラソンに参加し,その後の平成22年1月以降も,相互に協力していくつかの業務を手掛けていた(乙18~乙43,乙48・3,4頁,被告Y2本人5~7頁)。
エ 被告会社は,旧a社との間で,平成22年2月26日付けで,委託期間を同年3月1日から1年間として,同社がコンサルティング業務を請け負ったパチンコ店2社に対する経営・営業に関する助言等の業務を被告会社が旧a社から受託する業務委託契約を,同年4月22日付けで,委託期間を同月1日から1年間として,同社がコンサルティング業務を請け負ったパチンコ店に対する経営・営業に関する助言等の業務を被告会社が旧a社から受託する2件の業務委託契約を,それぞれ締結した(乙44,乙45)。
オ 旧a社の平成21年度における本件事業の売上高は1億9916万8000円であり,同売上総利益(粗利益)は1億1666万5000円であり,同営業利益は6395万5000円であった(甲39・3頁)。
同年度における年間成約件数は,318件であった(甲39・1頁)。
カ 旧a社の平成22年度における本件事業の売上高は1億4306万円であり,同売上総利益(粗利益)は4378万1000円であり,同営業損失は1006万4000円であった(甲39・3頁)。
同年度における年間成約件数は,179件であった(甲39・1頁)。
(4) 平成26年頃のB及びAと被告Y2とのやり取り等
ア Bは,平成26年6月25日,被告Y2にあてて,旧a社の元従業員を役員等として,本件競業事業を行っているかどうかについて問いただす旨のメールを送った(甲25,証人B・11頁,被告Y2本人7,8頁)。そのメールの中で,Bは,被告Y2に対し,「斡旋の事業を毎月平均10人程度の成約規模でやってるのか?」と尋ねた(甲25・1頁)。
イ 被告Y2は,平成26年6月26日,Bに対し,携帯電話で,「パソコンに送って頂いたメールを確認致しました。ご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありません。本来であれば状況に変化があった際にはご報告するべきでした。本当に申し訳ありません。」などと記載して,一度Bに会いたいとのメールを送った(甲29)。
同日,Aは,被告Y2に対し,Bが怒っているので,一度冷静に話し合うためにも,Aに被告Y2と話をしてほしいと指示したので,被告Y2と話をしたい旨のメールを送った(乙4)。
そこで,同年7月1日,Aは,被告Y2と直接会って,本件競業事業の状況などについて説明を受けた(乙48・6頁,乙49)。その際,被告Y2は,Aに対し,成約件数について,月間10人ということではなく,せいぜい2,3人にすぎないなどと説明をした(乙48・6頁,被告Y2本人9~11頁)
ウ Bは,被告Y2に対し,平成26年7月3日,経営者としての助言を与えるとともに,同月中旬頃に時間を合わせて会いたいとのメールを送り,これに対し,被告Y2は,同月4日,同月14日,同月15日及び同月25日に会えるとメールした(甲28,乙4)。
なお,Bは,上記メールの中に,「数字など,俺のところに多少大袈裟に伝わっていたところもある」,「Y2が独立して5年か?6年か?あの後,新しい事業が立ち上がるまでの一定期間,限定的な商いという認識で俺はY2の斡旋に目をつぶって来た。あのハワイでの2人での話から何年経ったのか。」と記載していた(乙4・2,3頁,被告Y2本人11頁)。
エ Bと被告Y2は,平成26年7月25日,直接会って話をしたが,その後の同日中,原告代表者は,被告Y2に対し,メールで,引き続き本件競業事業を行っていく上でのルール作りについて,被告Y2の考えを聞きたい旨伝えた(乙1・3頁,乙6)。
その後の同年8月7日,被告Y2は,原告代表者に対し,結論としては被告らからのアイデアが出なかったので,原告から提案をしてほしいとメールし,これに対し,Aは,同月18日,メールで,被告Y2に対し,被告Y2とBが話をしてから約1か月が経過し,そこで話をしたことも含めて,今回の話の趣旨や自らの理解していることから書くと前置きして,被告Y2が,旧a社にはないオリジナル事業を築き,発展させていくことを目標とするが,独立後すぐには会社経営上厳しい局面もあるので,本件競業事業をつなぎの事業として手掛けることで当面の経営を安定させることとし,その点についてBも聞いて了解していたが,現在まで同事業が拡大していき,ここ数年を積算すると億単位の売上を計上し,原告と競合することになっており,上記つなぎという位置づけと異なっているので,これまでのことを不問にするなどとして,被告会社の売上額の30%をロイヤリティとして支払うことなどを内容とするルール作りをしたい旨提案した(乙1・1,2頁)。
これを受けて,被告Y2は,同月25日,Aに対し,上記ロイヤリティを支払うことはできない旨回答した(乙47,被告Y2本人12頁)。
(5) 旧a社の会社分割
旧a社は,会社の新設分割を行うこととし,以下の新設分割計画書を策定した(甲3)。すなわち,その目的として,設立会社たる原告に本件支援事業に関して有する権利義務を同計画の定めに従って承継させること,原告が旧a社から承継する資産,債権債務,雇用契約その他の権利義務に関する事項として,原告が,分割期日たる平成26年10月1日,旧a社から「承継権利義務明細表」記載の債権債務や契約の地位等を承継することなどが定められていた(甲3・2枚目表裏)。また,同明細表には,原告が旧a社から本件支援事業に属する資産(同事業に属する現金及び預金,売掛金,ソフトウェア,その他の資産),負債その他これに付随する一切の権利義務を承継するとされていた(甲3添付の別紙2)。
(6) 原告及び旧a社からの被告らに対する損害賠償請求等
原告及び旧a社(以下「原告側」という。)は,被告らに対し,平成26年12月1日までに(被告会社について同年11月27日到達,被告Y2について同年12月1日到達),被告らが本件誓約に違反し,本件競業事業を営んだり,旧a社に所属する営業担当の従業員を引き抜く行為をしたりしたとして,連帯して,賠償金1億2117万円を支払うよう請求した(甲20の1~3)。
これに対し,被告らは,同月9日付けで,原告側に対し,本件競業事業の開始は平成21年9月頃であること,本件競業事業を行うことについて原告側が同意しており,違法行為がないこと,原告側に損害がないことを回答するとともに,早期解決のために幾らかの支払をして解決したいことを回答した(甲21)。
その後に,原告側と被告らは,書面でやり取りをするなどしたが,原告側は,平成27年2月17日付けで,被告らに対し,被告らからの100万円という解決金の支払を受けられないと回答した(甲22,甲23)。
2 争点1について
(1) 前記1(5)のとおり,原告は,新設分割の成立日たる平成26年10月1日,旧a社が営んでいた本件支援事業に係る権利義務の一切を承継しているが,本件支援事業は「採用・組織改革に関する支援事業」であって,前記1(1)ア,イのとおり,パチンコ業界における有料職業紹介事業たる本件事業を当然に含むものと理解できる。
これに対し,被告らは,本件事業に許認可を要する以上,同事業について承継の対象となっていない旨主張するが,すでに述べたとおり,本件支援事業は本件事業を含むものと解され,許認可の有無によって承継の有無が左右されるものではないから,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(2) そうすると,原告は,旧a社から,会社分割に伴い,本件事業を承継したものというべきである。なお,前記1(2)アのとおり,被告Y2は,平成15年10月27日に本件誓約を締結し,旧a社に対し,旧a社の事業と競合関係に立つ事業を自ら開業又は設立して本件誓約に違反した場合には損害賠償責任を負うことを合意している以上,仮に,被告Y2が,上記平成26年10月1日までに,本件誓約に違反して旧a社に損害賠償責任を負うこととなっている場合には,当然,原告は本件事業すなわち本件支援事業に係る権利に含まれる旧a社の被告Y2に対する本件誓約に基づく損害賠償請求権をも承継するものと解すべきである。
(3) その上で,被告Y2が本件誓約に違反したかどうかを検討すると,①前記1(1)ア,イのとおり,本件事業は,ウェッブサイトを利用した,全国規模におけるパチンコ業界に特化した人材紹介業であって,顧客(採用企業及び転職希望者)のニーズにきめ細かく対応し,転職を成功させるとともに,その手数料は完全成功報酬型とされるといった特徴を備えているところ,前記1(2)エのとおり,本件競業事業も,ウェッブサイトを利用した,全国規模における人材紹介業であって,上記のようなきめ細かな顧客対応や成功報酬型を内容とするものであって,ほぼ同じ内容の事業といえること,そして,②前記1(2)アのとおり,旧a社と競業関係に立つ被告会社を自ら開業又は設立する行為をした場合に同違反による損害賠償責任を負う旨定める本件誓約の趣旨は,退職後2年という期間に限り,旧a社の退職者に対し,自らが旧a社と競業関係に立つ事業を行う場合や自らが設立した会社を通じて同事業を行うこと自体を禁止するとともに,これに違反した場合の損害賠償責任を課すというものと理解できることからすると,③前記1(2)ウ及びエのとおり,当初から被告Y2が本件競業事業を行うために被告会社を設立したとまで認められないとしても,被告Y2が,本件誓約による競業禁止期間たる平成22年9月30日までに,自らが設立し,かつ,代表取締役を務める被告会社において旧a社の本件事業と競業関係に立つ本件競業事業を行っている以上,上記のとおりの本件誓約の趣旨に違反し,これに基づく損害賠償責任を旧a社に負うこととなるものと解さざるを得ない。
3 争点2について
(1) 原告は,被告Y2と同等の立場で本件誓約による義務を被告会社が負う旨主張する。しかしながら,本件誓約の当事者は被告Y2であって,被告会社ではなく,当然に被告会社が本件誓約に拘束される理由はない。
また,上記2(3)のとおり,被告Y2が被告会社の経営を行うことにより本件誓約に違反し,かつ,それに伴い,被告会社がその違反行為により利益を得ているとしても,そのことのみをもって直ちに被告会社と被告Y2が同一人であるとして,被告会社の法人格を否認すべき理由とはなり得ない。
この点,付け加えると,前記1(2)アのとおり,被告Y2が本件事業の立ち上げの頃から,事実上,同事業の責任者とされ,本件誓約後に本件事業に係る部署の部長職や執行役員の地位にあって,名目上も本件事業の責任者であったと評価でき,本件事業に直接関与することがなくなった後も,執行役員,営業体質改善部の部長職にあって,従業員とはいえ,旧a社の経営に参画できる重要な地位にあったと評価できること,それに伴い,相応の給与を得ていたこと,本件誓約が退職後に2年間という短期とはいえないが,一応の期間の限定を設けていることからすると,本件誓約は,旧a社の要職にあった被告Y2に対し,退職後2年に限定して競業避止義務を課すという範囲において無効なものとはいえないが,他方,退職後の競業避止義務を課すことは,義務者の職業選択の自由や営業活動の自由を制限するものであるところ,上記のとおり,本件誓約は2年という短くない期間において効力を有するものであり,しかも,被告Y2が相応の給与を受けていたとしても,十分な代償措置を得ていたとまで認められるかどうかは疑問の余地があって,その制限の範囲や対象について,できる限り限定して解すべきである。そうすると,被告Y2が本件誓約により被告会社の設立や同社における営業活動をすること自体について損害賠償義務を課される場合があるという限度で自らの営業の自由に制約を受けることはやむを得ないとしても,これを超えて被告会社にまでその制約を及ぼすことは許されず,被告会社の行為自体が違法とされる理由はなく,被告会社と被告Y2を同視する理由はないものといわざるを得ない。
(2) 以上のとおり,この点に関する原告の主張は採用できない。
4 争点3について
(1) そこで,被告Y2の本件誓約違反(債務不履行)に基づく損害賠償責任の範囲について検討すると,前記1(2)イ及びオ,同1(3)オ及びカのとおり,本件事業に係る旧a社の損益の状況を見ると,売上高や成約件数は,平成19年度の売上高4億4152万6000円(成約件数403件),平成20年度の売上高2億7694万5000円(成約件数337件),平成21年度の売上高1億9916万8000円(成約件数318件),平成22年度の売上高1億4306万円(成約件数179件)となっており,次第に減少していることは認められる。
(2) もっとも,本件事業は,採用企業の求人数や転職希望者の数に影響され,いわゆる市場環境に影響されること(原告代表者本人10頁),現に,前記1(2)エのとおり,被告Y2が被告会社を通じた本件競業事業の開始は,平成21年9月頃であったと認められ,被告らの事業による影響を受けなったと考えられる平成19年度と平成20年度を比較しても,売上高では約62%(平成20年度の売上高2億7694万5000円について,平成19年度の売上高4億4152万6000円で除したもの)となり,成約件数では約83%(平成20年度の成約件数337件について,平成19年度の成約件数403件で除したもの)となっており,その減少は被告らの行為と無関係なものからもたらされていたというほかない。加えて,少数とはいえ,平成19年頃には,前記1(1)ウのとおり,旧a社以外に,パチンコ業界専門の求人情報サイトを運営する会社が存在しており,その影響をまったく無視するということもできない。
これに対し,被告Y2が被告会社を通じて本件競業事業を開始した平成21年度と平成20年度を比較すると,売上高は,約71%(平成21年度の売上高1億9916万8000円について,平成20年度の売上高2億7694万5000円で除したもの)に落ち込み,成約件数も約94%(平成21年度の成約件数318件について,平成20年度の成約件数337件で除したもの)に落ち込んでいる。この減少分は,上記のとおり,市場情勢などの変化等による減少とみる余地もあるが,被告Y2の競業禁止期間ではないが,平成22年度には,さらに旧a社の売上高は,前年度比で約71%(平成22年度の売上高1億4306万円について,平成21年度の売上高1億9916万8000円で除したもの)に落ち込み,成約件数に至っては,約56%(平成22年度の成約件数179件について,平成21年度の成約件数318件で除したもの)に落ち込んでいる。この期間は,もとより,競業禁止期間ではなく,それ自体が損害そのものとはいえないとしても,その落ち込み具合から見て,被告会社の参入が多少なりとも影響していることがうかがわれる。
(3) そして,Bが,被告Y2に対し,前記1(4)ア及びイのとおり,本件競業事業の成約件数について,平均月10件程度(年間120件程度)であるかどうかを確認した際,被告Y2が,旧a社に対し,月間2,3件程度(年間24~36件)であると説明したことが認められ,平成26年当時の状況(年間24~36件)からすると,本件競業事業の開始時期たる平成21年度においてはより少ない成約件数であったと考えられ,現に,原告の成約件数も前年の平成20年度と比較すると,19件減少したにすぎず,その減少が被告らによる本件競業事業の参入の影響であるとしても,多くても半数の10件程度(月平均1件に満たない程度)であったと推認され,この10件分の減少をもって,旧a社ひいては原告の損害を見るべきである。
(4) その結果,旧a社の損害の額を算定すると,売上高そのものよりはいわゆる粗利益(売上総利益)をベースとみるべきであって(売上高の減少による売上原価も減少するはずであるし,他方,営業利益は,人件費などの固定費に影響され,その増減をもって損害額を算定することは,本件では相当といえない。),平成21年度の粗利額1億1666万5000円を全成約件数318で除した36万6871円が1件当たりの粗利益とみるべきである。
そうすると,被告Y2の本件誓約違反により減少した10件分についての損害額(粗利益)は366万8710円となるものというべきである。
(5) これに対し,原告は,平成19年度の売上高を基準として,平成20年度及び平成21年度の売上高の減少分の2分の1が本件誓約違反による損害であると主張するが,すでに述べたとおり,平成20年度においては未だ本件競業事業が行われていたと認めることはできず,平成19年度と平成20年度とを対比した場合における減少分は,被告らの行為と無関係なものといわざるを得ない。そうすると,平成19年度を基準とすること自体が被告らの行為と無関係な部分を含むこととなり,この点に関する原告の主張は採用の限りではない。
また,被告Y2が,被告会社が得ていた営業利益をベースに旧a社に損害を与えていないと主張する点についても,被告会社が本件競業事業の開始以降,成約を得ていた以降,それに伴い旧a社が得られた成約分が減少していたものであって,また,営業利益は,固定費などの影響も受けるものであり,同利益をベースに旧a社に損害を与えていないとする被告Y2の主張にも理由がないというべきである。
(6) なお,原告は,平成28年5月16日付けの文書提出命令申立書により,被告会社の本件競業事業に関する売上高や営業利益等を要証事実として,被告会社に対し,被告会社の平成20年10月1日から平成22年9月30日までの人材紹介業に関する被告会社の売上高や営業利益等の財産及び損益の状況について記載されている被告会社の決算書及びその付属書類等について文書の提出命令の申立てをしているが,原告の損害についてはすでに認定したとおりであって,更に上記要証事実を明らかにする必要はなく,また,その他の本件の立証の関しても原告が求める文書を取り調べる必要性があるとは認められないから,同申立てを却下する。
5 争点4について
(1) 被告Y2は,本件競業事業の開始に当たり,当時の旧a社の代表者であったBの了解を得ていたと主張する。
(2) しかしながら,Bは自ら了解をしたことを否定し,被告Y2も,Bが被告Y2に対して了解する旨記載したメールについて発見できていない旨述べるなど(被告Y2本人23~26頁),旧a社が本件競業事業を行うことについて了解をしていたと認めるに足りる的確な証拠はない。
また,前記1(3)ア~エのとおり,Bや旧a社と被告Y2が緊密に協力して事業等をしていたことは認められるが,それであればなおさら,Bの同意を書面等にすることもできたはずであるのにこれをしておらず,Bも本件競業事業を明確に認識していなかったからこそ,被告Y2と協力していた可能性が高い。特に,Bは,前記1(3)イのとおり,旧a社の顧客に対し,旧a社と同内容のサービスすなわち本件事業と同内容の営業をすること自体をやめるよう述べていたことからすると,Bは,被告Y2に対し,本件競業事業のような事業をやめるよう述べていたものと評価できる。
加えて,前記1(4)のとおり,Bは,本件競業事業の開始を知ったとされる時点で被告Y2に問いただすメールなどを送っているが,これを見ても,被告Y2がBの同意を得て本件競業事業を開始したとは認めがたい。
以上のとおり,旧a社が被告Y2に対し,本件競業事業を行うについて同意をしたとはいえない。
6 まとめ
以上によれば,原告の被告Y2に対する請求は366万8710円及びこれに対する平成26年12月2日(なお,本件誓約違反による損害賠償請求は,債務不履行に基づく損害賠償請求であって,期限の定めがない債務と解され,前記1(6)のとおり,その請求があった平成26年12月1日の翌日に遅滞に陥ったものというべきである。)から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用について民事訴訟法61条,64条本文,65条1項を適用し,仮執行宣言について同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第1部
(裁判官 名島亨卓)
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