判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(74)平成28年 8月16日 東京地裁 平25(ワ)19614号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(74)平成28年 8月16日 東京地裁 平25(ワ)19614号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成28年 8月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)19614号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 主位的請求一部認容、予備的請求認容 文献番号 2016WLJPCA08168008
要旨
◆原告が、被告に対し、主位的に、被告が原告を騙し、複数回にわたって金員を詐取したとして、不法行為に基づき、原告が交付した金員相当額の損害賠償及び遅延損害金の支払を求め、予備的に、上記金員の交付が不法行為に該当しないとしても、同金員の交付は、原告と被告との金銭消費貸借契約に基づくものであるとして、交付した金員及び遅延損害金の支払を求めた事案において、本件各金員交付の一部につき、被告の原告に対する詐欺による不法行為の成立を認めて、主位的請求を一部認容し、その余の金員交付につき、消費貸借契約の成立が認められるなどとして、予備的請求を認容した事例
参照条文
民法587条
民法708条
民法709条
民法722条
裁判年月日 平成28年 8月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)19614号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 主位的請求一部認容、予備的請求認容 文献番号 2016WLJPCA08168008
栃木県栃木市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 宗像紀夫
同 橋爪雄彦
同 岩佐孝仁
東京都中野区〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 赤堀文信
同 小池知子
主文
1 被告は,原告に対し,7030万円及び内金3000万円に対する平成22年10月15日から,内金230万円に対する平成22年12月17日から,内金200万円に対する平成23年1月19日から,内金300万円に対する平成23年1月28日から,内金1000万円に対する平成23年2月28日から,内金200万円に対する平成23年3月9日から,内金55万円に対する平成23年3月17日から,内金45万円に対する平成23年3月28日から,内金1000万円に対する平成23年4月4日から,内金1000万円に対する平成23年4月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の主位的請求を棄却する。
3 被告は,原告に対し,1750万円及びこれに対する平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
被告は,原告に対し,8780万円及び内金1750万円に対する平成22年9月13日から,内金3000万円に対する平成22年10月15日から,内金230万円に対する平成22年12月17日から,内金200万円に対する平成23年1月19日から,内金300万円に対する平成23年1月28日から,内金1000万円に対する平成23年2月28日から,内金200万円に対する平成23年3月9日から,内金55万円に対する平成23年3月17日から,内金45万円に対する平成23年3月28日から,内金1000万円に対する平成23年4月4日から,内金1000万円に対する平成23年4月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
被告は,原告に対し,8780万円及びこれに対する平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,主位的に,被告が原告を騙し,複数回にわたって金員を詐取したとして,不法行為に基づき,原告が交付した金員相当額の損害賠償及びこれに対する原告が各金員を交付した日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合に基づく遅延損害金の支払を求め,予備的に,上記金員の交付が不法行為に該当しないとしても,同金員の交付は,原告と被告との金銭消費貸借契約に基づくものであるとして,交付した金員及びこれに対する約定の弁済期の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 原告は,栃木県栃木市内で土工工事,解体工事,建築資材の販売等を業とする株式会社や,建築資材用コンクリート販売を行う株式会社を経営する者であり,栃木県議会議員も務めている(甲1,2)。
被告は,かつて栃木県栃木市内で砂利や建築資材等を取り扱う株式会社を経営していた者であり,遅くとも昭和41年ころまでに原告と知り合い,原告に仕事を提供したこともあった。
A(以下「A」という。)は,被告の妻である(甲38,乙4)。
(2) 原告は,昭和60年ころ,被告の妻であるAに対し,500万円を貸した。
また,原告は,平成4年ころ,Aからの依頼を受け,被告が詐欺罪で逮捕された際の示談金のための借入れについて,保証人になったことがあった。
(3) その後,原告は,被告と音信が途絶えていたが,平成22年2月初旬ころ,被告と再会した。このころ,被告は,原告に対し,同年7月に予定されていた参議院議員選挙においてa党公認候補者を決定する立場にある参議院議員を紹介できるとの話をし,実際,原告が紹介した選挙出馬希望者と面会するなどしていた。
(4) 平成22年3月23日,被告を取締役とする株式会社b(以下「本件株式会社」という。)が設立された。同社の目的は,「土地払い下げに伴う業務代行」などであった。(甲7)
(5) 被告は,平成22年8月ころ,原告に対し,「物件概要書」(甲8)を見せながら,神奈川県鎌倉市に所在するJR・○○駅周辺において予定されていた再開発事業(以下「○○再開発事業」ともいう。)において,JR東日本が所有する社宅や工場,操車場の跡地等の払下げを受けたり,建物の解体工事をすることで,儲けを出す話を持ちかけた。この時,被告は,原告に対し,上記再開発事業は,a党のBが関係している確実な案件であることや,被告は,上記払下げのために,被告の妻の妹の夫から借りて25億円を用意していること,払い下げた敷地は,三菱地所が買い受けることになっており,解体工事と敷地販売で100億円の利益になるなどと説明した(以下「本件儲け話」という。)。
(6) 平成22年8月3日の金銭交付(以下「金銭交付①」ともいう。)
被告は,原告に対し,被告が経営する会社の従業員に対する給与支払いのためとして,1000万円の借入を申し入れ,その担保として,被告がドイツで経営する店舗の手形を差し入れる旨述べたところ,原告は,これを承諾し,平成22年8月3日,被告に対し,1000万円を交付した。被告は,同金員を受領する際,同金員を借り入れた旨及び返済日を平成22年9月末日であることを記載した名刺(甲9)及び「A c社」(以下「本件ドイツ店舗」という。)発行の手形3通(甲10~12)を差し入れた。
(7) 平成22年9月13日の金銭交付(以下「金銭交付②」ともいう。)
原告は,平成22年9月13日,被告に対し,バカラ賭博の営業資金に充てるための金員として,2000万円を交付し,被告は,原告に対し,2100万円を借用したこと,返済日を「平成22年10月13日」,「上記借用証書に対し,万一不履行ある場合」には,東京都千代田区麹町所在の店舗「d店」(以下「d店」という。)の営業権を譲渡することを内容とする借用書(甲14)を交付した。
(8) 平成22年10月13日の金銭交付(以下「金銭交付③」ともいう。)
原告は,平成22年10月13日,被告に対し,東京都港区六本木に所在する「クラブe」(以下「本件クラブ」という。)の営業権取得の資金として,3000万円を交付した。被告は,原告に対し,本件クラブ代金として3000万円を受領した旨の同月15日付けf新聞社発行の被告宛ての領収書を交付した(甲16)。
(9) 平成22年12月17日の金銭交付(以下「金銭交付④」ともいう。)
ア 被告は,平成22年12月9日ころ,原告に対し,被告名義の三井住友銀行の預金通帳(残高が25億1000円のもの。以下「被告三井住友銀行通帳」という。甲19)及び同預金通帳の写しを添付した25億円の融資証明書(甲20)を見せ,同証明書は,○○再開発事業の土地を払い下げるために設立された一般社団法人g協会(以下「本件協会」という。)に対し,被告が25億円を融資する旨の証明書である旨を説明した。
イ 原告は,被告から東京都港区六本木に所在するキャバクラ「h」(以下「本件キャバクラ」という。)の什器備品の購入資金として230万円が必要であるとの説明を受け,平成22年12月17日,同金員を被告が指定した銀行口座に振込送金した(甲21)。
(10) 被告は,平成22年12月29日,原告に対し,1250万円を交付した。
(11) 被告は,平成22年12月ころ,原告に対し,被告が本件協会に融資する予定の25億円には手をつけられないことを伝えた。
また,被告は,このころ,本件クラブを経営する株式会社i(以下「i社」という。)名義の東京都民銀行の預金通帳を原告に預けた。
(12) 平成23年1月19日の金銭交付(以下「金銭交付⑤」ともいう。)
原告は,被告から本件キャバクラの運転資金として200万円が必要であるとの説明を受け,平成23年1月19日,同金員を被告の指定する預金口座に振込送金した(甲22)。
(13) 平成23年1月28日の金銭交付(以下「金銭交付⑥」ともいう。)
原告は,被告から本件キャバクラの運転資金として300万円が必要であるとの説明を受け,平成23年1月28日,同金員を被告の指定する預金口座に振込送金した(甲23)。
(14) 平成23年2月15日,○○再開発事業を目的とする一般社団法人j機構(以下「本件機構」という。)が設立された。被告は,本件機構の理事であったが,原告にも同機構の理事に就任することを依頼したところ,原告は,これを承諾し,同月23日,同機構の理事に就任した(甲24)。
(15) 被告は,平成23年2月22日,原告の要請を受け,原告に対し,貸金額を2億円,返済日を同年6月末日,貸主を原告,借主を本件機構(代表理事C)との内容の借用書(甲25)を交付した。
(16) 平成23年2月28日の金銭交付(以下「金銭交付⑦」ともいう。)
原告は,被告の依頼を受け,平成23年2月28日,1000万円を交付した。
(17) 平成23年3月9月の金銭交付(以下「金銭交付⑧」ともいう。)
原告は,被告から本件キャバクラの運転資金として200万円が必要であるとの説明を受け,平成23年3月9日,被告に対し,同金員を交付した。
(18) 平成23年3月17日の金銭交付(以下「金銭交付⑨」ともいう。)
原告は,平成23年3月17日,被告から本件キャバクラの運転資金が必要であるとの説明を受け,少なくとも50万円の金銭を貸し付けた。
(19) 平成23年3月28日の金銭交付(以下「金銭交付⑩」ともいう。)
原告は,平成23年3月28日,被告から本件キャバクラの運転資金が必要であるとの説明を受け,少なくとも40万円の金銭を貸し付けた。
(20) 平成23年4月4日の金銭交付(以下「金銭交付⑪」ともいう。)
原告は,平成23年4月4日,被告に対し,1000万円を交付した。
(21) 平成23年4月8日の金銭交付(以下「金銭交付⑫」ともいう。)
原告は,平成23年4月8日,被告に対し,1000万円を交付した(甲30)。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 争点①(被告の原告に対する不法行為の成否,主位的請求)
(原告の主張)
被告は,平成22年8月ころ,原告に対し,本件儲け話をし,さらには,○○再開発事業で土地の払下げを受けた際には,その後の解体工事や土砂運び・砕石運びは原告のところでやろうとの話をしてきた。原告は,被告が有力議員と懇意にし,同年7月に行われた参議院議員選挙におけるa党の公認についても話ができる仲であると認識していたことから,被告の儲け話は本当であり,これが成功すれば自分の会社も儲けることができると期待してしまい,これを端緒として,以下のとおり,被告に次々と金員を詐取されたものである。
また,被告は,変造された預金通帳を多用しており,原告は,被告またはAから,A名義,本件機構名義,被告名義の多額の残高が記載された預金通帳を預かったことから,十分な担保があると誤信して,被告に以下の金銭を交付したものである。
ア 金銭交付①について
被告は,金員を従業員の支払に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,平成22年8月ころ,原告に対し,本件儲け話に続けて,払下げ価格は20億円で25億円を用意しているが,5億円は念のための資金で,払い下げの調印がされるまで預金しておかなければならないので今は使えない,会社の従業員の給与支払に充てるための資金が足りない,本件ドイツ店舗発行の手形を担保に入れるなどと述べ,1000万円の借入れを申し入れた。被告の上記説明は虚偽であり,ドイツの手形も金融機関では支払の手続を取ることができないため,何ら担保価値のないものである。
しかし,原告は,被告が払下げ準備金として25億円を用意している,跡地の払下げ先も決まっている,払下げが決まれば原告が経営する会社にも仕事がもらえる,被告が担保も差し出しているなどと誤信したため,被告に貸付けをすることとし,1000万円を交付した(金銭交付①)。
よって,金銭交付①は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
イ 金銭交付②について
(ア) 被告は,金員をバカラ賭博営業の資金に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,平成22年9月ころ,原告に対し,都内の某国大使館内でバカラ賭博の胴元を頼まれたのでその資金が必要だ,払下げ準備金は払下げまで使えないので2000万円を貸して欲しい,担保として自分がオーナーをしている麹町のレストランの営業権譲渡証などを差し入れるなどと虚偽を述べ,資金融通を懇請した。
原告は,被告が払下げ準備金として25億円を用意している,払下げが決まれば原告が経営する会社にも仕事がもらえる,被告が担保も差し出しているなどと誤信したため,被告に貸付けをすることとし,2000万円を交付した(金銭交付②)。
よって,金銭交付②は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
なお,原告と被告が,バカラ賭博の胴元を共同で行うことになったとの事実はない。このことは,金銭交付②にあたり,被告が借用書や担保に関する資料を差し入れたことからも明らかである。
(イ) また,金銭交付②が不法原因給付に当たるとしても,不法の度合いは,被告に比べて原告の方が低いため,民法708条は適用されない。
ウ 金銭交付③について
被告は,4億円以上の預金残高があるかのように装い,平成22年10月ころ,原告に対し,本件クラブの営業権を買い取るつもりであるが,払下げ準備金に手を付けることはできないので,その資金がない,1,2か月後には返済する,担保として,被告の妻であるA名義の4億円を超える残高のある預金通帳を差し入れるなどと述べて3000万円の資金融通を懇請し,同月13日付けで4億0002万2153円の残高がある旨の記載がある預金通帳,実印,f新聞社発行の領収書,被告の財産であるとする登記済権利証を原告に差し入れた。被告の上記説明は虚偽であり,上記通帳の残高は変造されたもので,実際の残高は3円に過ぎなかった。
しかし,原告は,上記通帳には4億円以上の預金残高があるから,確実に返済されるだろうと誤信して,被告に貸付をすることとし,3000万円を交付した(金銭交付③)。
よって,金銭交付③は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
なお,原告と被告が,本件クラブを共同で経営することになったとの事実はない。このことは,被告が設立当初からi社の代表取締役に就任する一方で,原告は,設立当初は取締役にすらならなかったことから明らかである。原告がi社の代表取締役に就任した旨の登記は,同代表取締役原告名義の預金口座を開設するためのものにすぎない。
エ 金銭交付④について
被告は,平成22年12月9日ころ,原告に対し,25億1000円の残高がある預金通帳や25億円の融資証明書を見せ,被告が,○○再開発事業のために25億円の融資をする旨を説明した。その後,被告は,金員を本件キャバクラの什器購入代金に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,原告に対し,本件キャバクラの什器備品の購入に230万円かかる,1,2か月後には返済するなどと述べ,資金融通を懇請した。被告の上記説明は虚偽であり,上記通帳の残高は変造されたもので,実際の残高は1000円に過ぎなかった。
しかし,原告は,被告が25億円もの融資をできるほどの資力があることや,Aから預かっている預金通帳などの担保があるものと誤信し,また,平成22年12月5日に○○再開発事業のために設立された本件株式会社の取締役に就任し,同月17日にその旨の登記がされたことなどから,被告に貸付けをすることとし,230万円を振込送金した(金銭交付④)。
よって,金銭交付④は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
オ 金銭交付⑤について
被告は,金員を本件キャバクラの運転資金に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,平成23年1月ころ,原告に対し,本件キャバクラの運転資金に充てるために200万円が必要である,1,2か月後には返済するなどと虚偽の事実を述べ,資金融通を要請した。
原告は,自分では払い戻すことはできないものの,被告やAから預かっている預金通帳などの担保があるものと誤信し,被告の嘘を信じて,被告に貸付けをすることとし,200万円を振込送金した(金銭交付⑤)。
よって,金銭交付⑤は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
なお,原告も被告も,本件キャバクラの経営権を取得しておらず,その運転資金の必要性がないことは明らかである。
カ 金銭交付⑥について
被告は,金員を本件キャバクラの運転資金に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,平成23年1月下旬ころ,原告に対し,本件キャバクラの運転資金に充てるために300万円が必要である,1,2か月後には返済するなどと虚偽の事実を述べ,資金融通を懇請した。
原告は,被告やAから預かっている預金通帳などの担保があるものと誤信し,被告の嘘を信じて,被告に貸付けをすることとし,300万円を振込送金した(金銭交付⑥)。
よって,金銭交付⑥は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
なお,原告も被告も,本件キャバクラの経営権を取得しておらず,その運転資金の必要性がないことは明らかである。
また,原告は,被告から,本件キャバクラの開店にあたり,売上金を管理する人間がいないので,原告の息子でも入れて欲しいといわれたため,次男を同所で働かせたが,被告の話では,売上金を管理する人間として雇う話であったにもかかわらず,ボーイの仕事をさせられた上に,賃金の遅配もあったため,次男は,1か月もしないうちに退職し,本件キャバクラも,数ヶ月後に閉店となった。
キ 金銭交付⑦について
被告は,本件株式会社,本件協会,本件機構の運転資金に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,平成23年2月下旬ころ,原告に対し,本件機構等の運転資金として1000万円必要である,1,2ヶ月後に返済するなどと虚偽の事実を述べ,資金融通を懇請した。
原告は,被告から預かっている被告名義,A名義,本件機構名義の預金通帳などの担保があるものと誤信していたことから,被告の嘘を信じて,被告に貸付をすることとし,1000万円を交付した(金銭交付⑦)。
よって,金銭交付⑦は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
ク 金銭交付⑧について
被告は,金員を本件キャバクラの運転資金に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,平成23年3月上旬ころ,原告に対し,本件キャバクラの運転資金に充てるために200万円が必要であるなどと虚偽の事実を述べ,資金融通を懇請した。
原告は,被告から預かっている被告名義,A名義,本件機構名義の預金通帳などの担保があるものと誤信していたことから,被告の嘘を信じて,被告に貸付けをすることとし,200万円を交付した(金銭交付⑧)。
よって,金銭交付⑧は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
なお,原告も被告も,本件キャバクラの経営権を取得しておらず,その運転資金の必要性がないことは明らかである。
ケ 金銭交付⑨について
平成23年3月17日,被告は,原告の自宅を訪ねた後,原告が運転する自動車内において,運転資金に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,原告に対し,本件キャバクラの運転資金に充てるための資金融通を懇請した。
原告は,被告やAから預かっている預金通帳などの担保があるものと誤信していたことから,被告の嘘を信じて,被告に貸付けをすることとし,55万円を交付した(金銭交付⑨)。
よって,金銭交付⑨は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
コ 金銭交付⑩
平成23年3月28日,被告は,原告の自宅を訪ねた後,原告が運転する自動車内において,運転資金に充てる意思も返済の意思もないのにこれがあるかのように装い,原告に対し,本件キャバクラの運転資金に充てるための資金融通を懇請した。
原告は,被告やAから預かっている預金通帳などの担保があるものと誤信していたことから,被告の嘘を信じて,被告に貸付をすることとし,45万円を交付した(金銭交付⑩)。
よって,金銭交付⑩は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
サ 金銭交付⑪について
被告は,本件機構等の運転資金に充てる意思も返済の意思もなく,また,借入金の担保資金がないのに,これがあるように装って,平成23年4月4日ころ,原告に対し,本件機構の運転資金として1000万円必要である,同年6月30日には返済する,本件機構には5億円を超える預金があるからこれを担保に提供するなど述べ,資金融通を懇請し,5億円を超える預金残高が記載された本件機構理事名義(理事名として原告名が入ったもの)のりそな銀行の預金通帳(以下「本件りそな銀行通帳」という。),銀行届出印及び同届出印に関するりそな銀行発行の証明書を持参した。また,併せて,被告は,1000万円の預かり証と確認書(作成者を本件機構,名宛人を原告,確認内容を本件りそな銀行通帳にかかる口座の全ての預金について,平成23年6月30日を経過して以降,原告が同口座の預金を引き出し,解約その他一切の処分をなすこと,本件機構は,原告がした同処分に対し,一切異議を申し立てないこととするもの。以下「本件確認書」という。)も持参した。被告の上記説明は虚偽であり,本件りそな銀行通帳の真実の残高は0円であった。
しかし,原告は,5億円を超える残高のある本件りそな銀行通帳が担保になると誤信したことから,被告に貸付けをすることとし,1000万円を交付した(金銭交付⑪)。
よって,金銭交付⑪は,被告の原告に対する詐欺に該当する。
シ 金銭交付⑫について
被告は,本件機構等の運転資金に充てる意思も返済の意思もないのに,これがあるように装って,平成23年4月上旬ころ,原告に対し,本件機構の運転資金として1000万円必要である,1,2か月後に返済するなどと虚偽の事実を述べ,資金融通を懇請した。
原告は,担保として5億円を超える残高のある本件りそな銀行通帳があると誤信していたことから,被告に貸付けをすることとし,1000万円を交付した(金銭交付⑫)。
なお,原告が,D氏に対する選挙資金貸付金として,被告に対し,1000万円を預けたことはない。
(被告の主張)
原告と被告は,○○再開発事業を共同で行うこととなり,その資金を,被告が4分の3,原告が4分の1の割合で用意することになった。もっとも,原告は,被告が払下げ後の解体等を原告の会社で行うことを提案し,原告はそれを信じたというが,同事業は大型プロジェクトで,原告が経営する会社で引き受けて処理できる規模を超えていたのであり,そのように考えることは非常識である。原告は,本件金銭交付と○○再開発事業を結びつけているが,同事業は,本件金銭交付とは全く関係がない。
また,被告は,原告に提示した通帳のコピー又は原本が正しい取引履歴であると信じており,故意に変造した通帳を見せることで,原告を誤信させたということは絶対にない。
ア 金銭交付①について
金銭交付①は,被告が,原告から,被告の経営する会社の従業員給与の支払いのための事業資金として1000万円の貸付けを受け,同年9月末までに返済する旨約束したものである。よって,被告の行為は詐欺に当たらない。
また,被告は,平成22年12月29日,上記貸付金に利子として20万円をつけ,1020万円を返済しており,金銭交付①については既に解決済みである。
イ 金銭交付②について
(ア) 被告は,平成22年8月から9月ころ,知人であるE(以下「E」という。)からバカラ賭博の胴元になる権利の買取りを持ちかけられた。原告は,被告とともに,同賭博を開帳している部屋を確認するなどした上,被告に対し,これを共同でやることを提案し,資金は原告が調達し,利益が出たら,これを原告と被告で折半することとなった。そこで,被告は,同年9月13日,原告から2000万円を預かり(金銭交付②),これをEに渡したのであり,被告の行為は詐欺には当たらない。なお,被告は,上記2000万円について借用書を作成したが,これは,原告と被告との間で金銭消費貸借契約が締結されたものではなく,預り金が大金である一方,バカラ賭博は日本では違法であり,正式な形での預かり書面を残すことができなかったため,借用書を書いて欲しいとの原告の要請に応じたものにすぎない。
(イ) 仮に,金銭交付②が詐欺に当たるとしても,バカラ賭博は公序良俗違反で違法であるところ,原告は,バカラ賭博の胴元になる権利を取得するための資金であることを知って被告に金員を交付したのであるから,かかる給付は不法原因給付に当たり,原告は,その返還を請求できない。
ウ 金銭交付③について
原告は,F(以下「F」という。)から持ちかけられた,同人が経営していた本件クラブの経営を原告及び被告に任せたいとの話を聞き,自ら積極的にその資金を提供することを提案し,平成22年10月15日,被告に3000万円を預け(金銭交付③),被告は,これを直ちにF側に渡した。その後,原告は,被告とともに,i社の代表取締役となり,経営に携わるようになった。よって,被告の行為は詐欺には当たらない。
エ 金銭交付④について
Fは,本件キャバクラを開店するのでその経営も原告と被告で行って欲しいという話を持ちかけてきたところ,原告は,この話にも積極的に応じ,原告の次男を同店舗に関わらせた。原告は,将来的には,次男に経営を委ねることを考えており,そのため,自分が運転資金を提供するのは当然とばかりに,被告を介して,Fに,本件キャバクラの運転資金を提供しており,金銭交付④もその一環である。
なお,金銭交付④にかかる230万円については,原告がすぐに戻して欲しいと述べたため,被告は,平成22年12月29日,金銭交付①の1000万円とともに,これを原告に返還した。
よって,被告の行為は詐欺には当たらない。
オ 金銭交付⑤から⑧について
金銭交付⑤から⑧は,原告が,上記エの金銭交付④と同様,原告と被告が経営していた本件キャバクラの運転資金として,被告を介してFに渡したものである。
よって,被告の行為は詐欺には当たらない。
カ 金銭交付⑨,⑩について
金銭交付⑨,⑩は,原告が,上記エの金銭交付④と同様,原告と被告が経営していた本件キャバクラの運転資金として,被告を介してFに渡したものである。
なお,被告は,金銭交付⑨,⑩につき,原告から借りて返していないと述べていたが,記憶違いである。
よって,被告の行為は詐欺には当たらない。
キ 金銭交付⑪について
原告は,平成23年4月4日,D(以下「D」という。)に対し,選挙資金として900万円を貸し,被告が,これをDの代わりに預かった(金銭交付⑪)。被告は,このうち600万円を,被告の従業員を通じてDに渡し,残りの300万円に被告自身が拠出した100万円を加えた400万円を,Dの選挙事務を手伝っていた行政書士に渡した。よって,被告の行為は詐欺には当たらない。
なお,被告は,金銭交付⑪の際,原告に対し,1000万円を預かった旨の預かり証を作成したが,同書面は金銭を数える前に作成したものであり,被告が,その後,原告から交付された金員を数えたところ,900万円しかなかった。
また,被告は,金銭交付⑪につき,○○再開発事業の件で原告が提供した資金である旨説明していたが,記憶違いである。
ク 金銭交付⑫について
原告は,平成23年4月8日,Dに対し,選挙資金として1000万円を貸し,被告が,これをDの代わりに預かった。被告は,このうち600万円を,被告の従業員を通じてDに渡し,残りの400万円を,Dの選挙事務を手伝っていた行政書士に渡した。よって,被告の行為は詐欺には当たらない。
(2) 争点②(過失相殺)
(被告の主張)
原告によれば,原告と被告は,昭和36年ころからの知り合いであり,当時,地元の友人から被告が詐欺師であるから付き合わない方が良い旨忠告されていた。つまり,原告は被告が詐欺をするかもしれない人物であろうことは十分予測できたはずである。それにもかかわらず,原告は昭和60年ころに,被告に500万円を貸し付けるとともに,平成4年には被告の父が借入れをする際の連帯保証人になるなど,被告と懇意な付き合いをしていた。
また,原告は,○○再開発事業については,大きな金額が動く話なのであるから,詐欺師と噂されている被告が原告に話を持ちかけた時点で,慎重に検討する必要があった。しかし,原告は,○○再開発事業での成功報酬に目がくらみ,被告の機嫌を取るために金員を交付し,さらには,i社の代表取締役にも就任したのである。
以上によると,原告は,自らの欲望に勝つことができずに被告の詐欺行為に応じたといえ,原告には相当の落ち度があるため,仮に,被告の行為が詐欺に当たり,原告に損害が生じていたとしても,全額について過失相殺されるべきである。
(原告の主張)
争う。
(3) 争点③(原告の被告に対する貸金返還請求権,予備的請求)
(原告の主張)
ア 原告は,被告に対し,以下の貸付をした。
(ア) 平成22年8月3日,弁済期を同年9月末日として,1000万円を貸し付けた(金銭交付①)。
(イ) 平成22年9月13日,弁済期を同年10月13日として,2000万円を貸し付けた(金銭交付②)。
(ウ) 平成22年10月15日,弁済期を定めることなく,3000万円を貸し付けた(金銭交付③)。
(エ) 平成22年12月17日,弁済期を定めることなく,230万円を貸し付けた(金銭交付④)。
(オ) 平成23年1月19日,弁済期を定めることなく,200万円を貸し付けた(金銭交付⑤)。
(カ) 平成23年1月28日,弁済期を定めることなく,300万円を貸し付けた(金銭交付⑥)。
(キ) 平成23年2月28日,弁済期を定めることなく,1000万円を貸し付けた(金銭交付⑦)。
(ク) 平成23年3月9日,弁済期を定めることなく,200万円を貸し付けた(金銭交付⑧)。
(ケ) 平成23年3月17日,弁済期を定めることなく,55万円を貸し付けた(金銭交付⑨)。
(コ) 平成23年3月28日,弁済期を定めることなく,45万円を貸し付けた(金銭交付⑩)。
(サ) 平成23年4月4日,弁済期を同年6月末日として,1000万円を貸し付けた(金銭交付⑪)。
(シ) 平成23年4月8日,弁済期を同年6月末日として,1000万円を貸し付けた(金銭交付⑫)。
イ 一部弁済
被告は,平成22年12月下旬ころ,原告に対し,上記ア(ア)の1000万円及び同(イ)の2000万円の内金250万円を弁済した。
ウ 弁済期の合意
原告と被告は,平成23年4月4日,上記ア(イ)ないし(シ)の貸付について,弁済期を平成23年6月末日とすることを合意した。
エ よって,原告は,被告に対し,金銭消費貸借契約に基づき,8780万円及びこれに対する平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
ア 金銭交付①について
金銭交付①は,原告の被告に対する貸付金であることは認める。
しかし,被告は,平成22年12月29日,原告に対し,利子20万円を付した1020万円を返還した。
よって,被告には,金銭交付①についての返還義務はない。
イ 金銭交付②ないし⑫について
(ア) 金銭交付②について
金銭交付②は,被告が,原告から,バカラ賭博の胴元となるために預ってEに渡したものであり,貸金ではない。同金銭交付の際に作成した借用書は,原告の求めに応じて作成したものであり,実際には金銭消費貸借契約は締結されていない。
仮に,原告と被告の間で金銭消費貸借が締結されていたとしても,バカラ賭博は公序良俗違反で違法であり,その金銭交付は不法原因給付に当たるため,原告は,その返還請求をすることはできない。
(イ) 金銭交付③について
金銭交付③は,被告が,原告から,本件クラブを経営する資金として預かってFに渡したものであり,貸金ではない。
(ウ) 金銭交付④について
金銭交付④は,被告が,原告から,本件キャバクラを経営する資金として預かったものであり,貸金ではない。
そして,被告は,平成22年12月29日,原告に金銭交付④にかかる230万円を返済したので,被告に返還義務はない。
(エ) 金銭交付⑤から⑧について
金銭交付⑤から⑧は,原告が,原告と被告が共同経営していた本件キャバクラの運転資金として被告に交付し,これを被告がFに渡したものであり,貸金ではない。
(オ) 金銭交付⑨,⑩について
金銭交付⑨,⑩は,原告が,原告と被告が共同経営していた本件キャバクラの運転資金として被告に交付し,これを被告がFに渡したものであり,貸金ではない。
なお,被告は,上記資金提供につき,借りて返していないと説明していたが,記憶違いであった。
(カ) 金銭交付⑪について
金銭交付⑪は,原告が,Dに選挙資金として貸し付け,これを被告が預かったものであり,原告と被告との間の貸金ではない。
なお,被告が受け取ったのは900万円である。
また,被告は,上記資金提供につき,○○再開発事業のために原告が提供した資金だと説明していたが,記憶違いである。
(キ) 金銭交付⑫について
金銭交付⑫は,原告が,Dに選挙資金として貸し付け,これを被告が預かったものであり,原告と被告との間の貸金ではない。
ウ なお,被告は,平成23年4月4日,原告との間で,各金銭交付について,弁済期を平成23年6月末日とする合意をした事実はない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に下記の文中に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
(1) ○○再開発事業について
ア 被告は,平成22年3月23日,JR所有の建物及び土地の払下げを受けるための会社として,被告を取締役とする本件株式会社を設立した。同社の目的は,「土地払い下げに伴う業務代行」などであり,被告は,○○再開発事業において,同社を利用して土地等の払下げを受けることを検討していた。(前提事実(4),甲7,38,乙4,被告本人)
イ 被告は,平成22年8月ころ,原告に対し,「物件概要書」(甲8)を見せながら,本件儲け話を持ちかけた。原告は,この時,被告との間で,払下げを受けた後の解体工事や土砂運び等を原告の会社でやろうなどとの話が出ていたこともあり,○○再開発事業が成功すれば,大きく利益を得ることができると考えた。(前提事実(5),甲38,原告本人,弁論の全趣旨)
ウ 原告は,平成22年12月5日,本件株式会社の取締役に就任し,同月17日,その旨の登記がされた(甲7,原告本人)。
エ その後,被告は,本件株式会社に代わって○○再開発事業で土地等の払下げを受けるための機関として本件協会を設立し,平成23年2月15日には,さらに,本件協会に代わる払下げのための受け皿として,本件機構を設立した。被告は,本件機構の理事であったが,原告にも同機構の理事に就任することを依頼したところ,原告は,これを承諾し,同月23日,同機構の理事に就任した(前提事実(14),甲24)。
オ その後,○○再開発事業は,鎌倉市の反対を受けるなどしたことから,当面凍結することとなり,払下げも実現していない。(乙4,被告本人)。
(2) 金銭交付①の経緯について
被告は,原告に対し,被告が経営する会社の従業員に対する給与支払のために1000万円の借入れを申し入れ,その担保として,本件ドイツ店舗の手形を差し入れる旨述べたところ,原告は,ここで被告の依頼に応じないと,○○の再開発事業での解体工事等を請け負わせてもらえず,儲け話を逃してしまう,担保も十分であるなどと考えて,これを承諾することとし,平成22年8月3日,被告に対し,1000万円を交付した。被告は,同金員を受領する際,原告に対し,同金員を借り入れた旨及び返済日を平成22年9月末日であることを記載した名刺(甲9)及び本件ドイツ店舗発行の手形3通(甲10~12)を差し入れた。(前提事実(6),甲38,乙4,被告本人)
被告は,弁済期である平成22年9月30日には,上記1000万円を返済しなかったものの,その後,原告が強く返済を求めたところ,同年12月29日,原告に対し,これを返済した(前提事実(10),甲38,乙4,弁論の全趣旨)。
(3) 金銭交付②の経緯について
被告は,平成22年9月ころ,原告に対し,在日大使館で行われているバカラ賭博の胴元になる権利を買うための資金として,2000万円の借入れを申し入れ,その担保として,被告が経営するd店の営業権を担保にする旨述べた。原告は,○○の再開発事業で払下げが決まれば被告には5億円ほどの余裕資金ができるのであるから,返済されないはずはない,ここで被告の依頼に応じないと,○○再開発事業での解体工事を請け負わせてもらえず,儲け話を逃してしまうなどと考え,これを承諾することとし,平成22年9月13日,被告に対し,2000万円を交付した。同金員を受領する際,被告は,原告に対し,2100万円を借用したこと,返済日を「平成22年10月13日」,「上記借用証書に対し,万一不履行ある場合」には,d店の営業権を譲渡することを内容とする借用書(甲14)を交付した。なお,原告は,このころ,被告とともに,当該大使館を訪れ,カジノが行われるとされる部屋を確認したことがあった。(前提事実(7),甲38,乙4,原告本人)
(4) 金銭交付③の経緯について
ア 被告は,平成22年10月ころ,原告に対し,被告がf新聞社から本件クラブの営業権を取得することになったとして,その資金として,3000万円の借入れを申し入れ,その担保として,A名義の三菱東京UFJ銀行中野駅前支店の預金口座通帳(以下「本件A通帳」という。)を交付する旨述べたところ,原告は,これまで貸した金銭には別途担保がある上,本件の金銭交付についてもAの預金通帳が担保になるし,○○再開発事業で払下げが決まれば,被告にも5億円ほどの余裕資金ができる,ここで被告の依頼に応じないと,○○再開発事業での解体工事を請け負わせてもらえず,儲け話を逃してしまうなどと考え,これを承諾することとし,同月13日,被告に対し,3000万円を交付した。同金員を受領する際,被告は,原告に対し,本件A通帳のほか,実印及び印鑑登録証明書等並びに本件クラブ代金として3000万円を受領した旨の平成22年10月15日付けf新聞社発行の被告宛ての領収書を交付した。(前提事実(8),甲15,16,38)
なお,被告は,本件A通帳は,金銭交付③のときではなく,別の機会に原告に交付した旨主張しているが,被告は,その交付の時期を明らかにしない(被告本人)一方,原告に交付された本件A通帳の最後の記帳日が,金銭交付③の日である平成22年10月13日であることに照らすと,本件A通帳は,原告主張のとおり,金銭交付③の担保として差入れられたものと認められる。
イ 本件A通帳は,平成22年7月9日時点で残高が3円であったが,同月23日付けで被告名義により4億円が振り込まれて残高が4億3円となり,原告が上記金銭を交付した同年10月13日の残高は4億2万2153円である旨の印字がされている。しかし,実際には,同通帳口座では,平成22年7月9日に残高が3円となった以降は出入金はなく,同月23日の4億円の振込以降の記載は偽造されたものであった。(甲15,34)
ウ i社の履歴事項全部証明書(乙2)には,被告は,本件クラブの設立当時の代表取締役であったが,平成23年2月1日に辞任し,代わりに,原告が,同日付けで代表取締役に就任した旨の登記がされている。また,同証明書においては,原告は,同年3月10日に,同代表取締役を辞任し,代わりに,被告が同日付けで代表取締役に就任した旨の登記の記載もある。
(5) 原告のAに対する貸金について
Aは,平成22年11月30日,原告から2000万円を借り入れたが,その際,原告に対し,借用書及び本件株式会社名義の東京都民銀行茅場町支店名義の預金通帳(以下「本件株式会社通帳」という。)を交付した(甲17,38)。
本件株式会社通帳には,平成22年5月21日にご新規として1000円が入金された後,同年11月30日付けで2394万円が3回,798万円が1回振り込まれ,同日の残高は,7980万1000円である旨の印字がされている。しかし,実際には,同預金通帳口座は,同年8月12日に1000円が払い戻しされた以降は入出金がなく,同年11月30日の残高も0円であり,同預金通帳は,変造されたものであった(甲17,35)
(6) 金銭交付④の経緯について
ア 被告は,平成22年12月ころ,原告に対し,本件キャバクラを開店することになった旨を伝えるとともに,原告の息子を同店で働かせることを提案したところ,原告は,これを承諾し,平成23年1月から原告の次男を本件キャバクラで働き始めさせた。しかし,原告の次男は,聞いていた仕事と異なる仕事を担当させられたなどとして,すぐに同店を退職した(甲38,原告本人)。
また,本件キャバクラは,実際には,平成23年1月のオープン後,10日間程度しか営業しておらず,被告は,遅くとも同年2月には,同事実を認識していた(被告本人)。
なお,原告及び被告が,本件キャバクラの経営に関わったり,売上げを得たりすることはなかった(甲38,原告本人,被告本人)。
イ 被告は,平成22年12月9日ころ,原告に対し,被告三井住友銀行通帳及び本件協会に,被告が25億円を融資する旨の融資証明書を見せた。また,被告は,原告に対し,本件株式会社の取締役に就任することを依頼したところ,原告はこれを承諾し,同社の取締役に就任した(前提事実(9),甲7,20,38)。
被告三井住友銀行通帳には,平成22年9月29日にご新規として1000円が入金された後,平成22年11月29日付けで4億円,同月30日付けで8億円,同年12月1日付けで8億円,同月2日付けで5億円が振り込まれ,同日時点の残高は,25億1000円である旨の印字がされている。しかし,実際には,同通帳口座には,平成22年9月29日にご新規として1000円が入金された以降は出入金はなく,同年12月2日時点での残高も1000円であり,同通帳は変造されたものであった。
(甲19,36)
ウ また,被告は,上記イに続き,原告に対し,本件キャバクラの什器備品の購入資金として230万円が足りないとして,その借入れを申し入れたところ,原告は,被告が25億円もの資金を用意しているので,返済されるはずであるなどと考えて,これを承諾することとし,平成22年12月17日,同金員を被告が指定した銀行口座に振込送金した(前提事実(9),甲21,38)。
(7) ○○再開発事業の3億円の資金について
被告は,平成22年12月ころ,原告に対し,○○の再開発事業のためには3億円が必要であるが,被告が本件協会に融資する予定の25億円には手をつけられないことを伝えた。これに対し,原告は,原告が上記資金を提供するのであれば,5億円の担保が必要である旨を伝えたところ,被告は,i社代表取締役被告名義で,少なくとも3億円の残高がある旨の印字がされている預金通帳を持参したが,原告は,同通帳では,原告自身が預金を引き出すことができないため担保にならないこと,原告が預金を引き出すことができる預金通帳があれば担保になり得ることを伝えた。
原告は,平成23年2月1日,i社の代表取締役に就任し,その後,被告は,残高が5億円を超えるi社代表取締役原告名義の預金通帳を原告に預けた。
原告は,上記通帳を用いて,3億円の調達を試みたが,原告個人ではなく,i社名義での通帳では担保にならないとの理由で,資金調達ができなかったため,被告に対し,同通帳を返還し,同年3月10日,i社の代表取締役を辞任した。
(以上につき,前提事実(11),甲38,乙2,4,原告本人,被告本人)。
(8) 被告の原告に対する返済
被告は,平成22年12月29日,原告に対し,1250万円を返還した(甲38,乙4,原告本人)
(9) 金銭交付⑤,⑥の経緯について
ア 被告は,平成23年1月中旬ころ,原告に対し,本件キャバクラの運転資金として200万円が足りないとして,これまで預けた担保をもって,その借入れを申し入れたところ,原告は,これまでにもA通帳等などの担保を預かっていること,被告から一部返済を受けられたこと,○○再開発事業が進めば大きな儲け話になるなどと考えたことから,これを承諾することとし,同月19日,同金員を被告の指定する預金口座に振込送金した(金銭交付⑤。前提事実(12),甲38)。
イ 被告は,平成23年1月下旬ころ,原告に対し,本件キャバクラの運転資金として300万円が足りないとして,これまでの担保をもって,その借入れを申し入れたところ,原告は,上記アと同様の考えの下,これを承諾することとし,同月28日,同金員を被告の指定する預金口座に振込送金した(金銭交付⑥。前提事実(13),甲38)。
(10) 金銭交付⑦の経緯について
ア 被告は,平成23年2月15日,○○再開発事業を目的とする本件機構を設立した。被告は,本件機構の理事であったが,原告にも同機構の理事に就任することを依頼したところ,原告は,これを承諾し,同月23日,同機構の理事に就任した(前提事実(14))。
イ 被告は,平成23年2月22日,原告の要請を受け,原告に対し,貸金額を2億円,返済日を同年6月末日,貸主を原告,借主を本件機構(代表理事C)との内容が記載された借用書(甲25)を交付したが,実際には,原告が,同日までの間に,本件機構自体に対して金銭を貸与したことはなかった(乙4,弁論の全趣旨)。
ウ 被告は,平成23年2月下旬ころ,原告に対し,本件機構等の運転資金として,これまでの担保をもって1000万円の借入れを申し入れたところ,原告は,これまでにもA通帳等などの担保を預かっていること,被告から一部返済を受けられたこと,本件機構等が破綻すると,本件儲け話がなくなってしまうかもしれないことなどを考え,これを承諾することとし,同月28日,被告に対し,1000万円を交付した(前提事実(16),甲38,乙4,被告本人)。
(11) 金銭交付⑧の経緯について
被告は,平成23年3月上旬ころ,原告に対し,本件キャバクラの運転資金として200万円が足りないとして,これまでの担保をもってその借入れを申し入れたところ,原告は,上記(10)ウと同様の考えの下,これを承諾することとし,同月9日,被告に対し,200万円を交付した(前提事実(17),甲38,乙4)。
(12) 金銭交付⑨,⑩の経緯について
ア 被告は,平成23年3月17日,原告に対し,本件キャバクラの運転資金の借入れを申し入れたところ,原告は,これを承諾し,55万円を貸し付けた(金銭交付⑨。前提事実(18),甲38,乙4,原告本人,被告本人)
イ 被告は,平成23年3月28日,原告に対し,本件キャバクラの運転資金の借入れを申し入れたところ,原告は,これを承諾し,45万円を貸し付けた(金銭交付⑩。甲38,乙4,原告本人,被告本人)
(13) 金銭交付⑪,⑫の経緯について
ア 被告は,平成23年4月4日,原告方に赴き,本件機構の運転資金として1000万円の借入れを申し入れ,その担保として,本件りそな銀行通帳(甲26),同預金口座の銀行届出印(Xのもの)及びその証明書(甲27)に加え,同日付被告名義の1000万円の預かり証(甲28)及び本件確認書(甲29)を交付し,○○再開発事業の払い下げは平成23年6月中に決まるはずであるため,同月中は,本件りそな銀行通帳から現金を引き出さないで欲しいが,同年7月以降は,同通帳から現金を引き出して,これまで借りた金銭の返済に充てて構わない旨述べた。原告は,本件りそな銀行通帳が原告名義のものであり,届出印も原告名義のものであるから,同預金口座の預金は自分で引き出すことができ,担保として十分であると考え,これを承諾することとし,平成23年4月4日,被告に対し,1000万円を交付した(金銭交付⑪。前提事実(20),甲38,原告本人)。
これに対し,被告は,上記金銭交付の際に受け取ったのは900万円に過ぎない旨主張し,これに沿う証拠(乙4,被告本人)もある。しかし,被告は,原告に対し,1000万円を受領した旨の預かり証(甲30)を差し入れているにもかかわらず,原告に対し,受領した資金が1000万円に満たなかったことを告げるなどして追加の資金提供を求めるなど,通常取るべき行動に出ることがなかったこと(被告本人)に照らすと,被告の上記主張を採用することはできない。
イ 被告は,平成23年4月8日,原告方に赴き,上記アで交付した本件りそな銀行の預金を担保として,本件機構の運転資金としてさらに1000万円の借入れを申し入れたところ,原告は,○○再開発事業が決まれば,被告には5億円の余裕資金ができるし,ここで運転資金を貸さずに本件機構が破綻してしまえば,本件儲け話はなくなってしまうなどと考え,これを承諾することとし,同日,被告に対し,1000万円を交付した(金銭交付⑫。前提事実(21),甲38,原告本人)。
ウ 本件りそな銀行通帳には,平成23年3月18日に同通帳口座が開設され,同月23日付けで5億22万5200円が振り込まれ,同日の残高も同額である旨の印字がされている。しかし,実際には,同通帳口座は,平成23年3月18日に開設された後,出入金はなく,同月23日時点の残高も0円であり,同通帳は変造されたものであった(甲26,33,37)。
(14) 原告は,平成23年6月末日を過ぎても,被告から返済はなく,同月8月以降は,被告と音信不通となった。そこで,原告が,被告から預かった本件りそな銀行通帳から預金を払い戻そうとしたところ,りそな銀行担当者から,同預金口座の残高は0円である旨伝えられ,本件りそな通帳が偽造されたものであることが判明した(甲32,33,38,原告本人)。
2 事実認定の補足説明
(1) 金銭交付②について
被告は,原告と被告は,共同でバカラ賭博の胴元になることにしたのであり,金銭交付②は,その資金提供にすぎず,被告に対する貸付けではない旨主張し,被告本人もこれに沿う供述をする(乙4,被告本人)。
しかし,前記認定事実によれば,被告は,金銭交付②を受ける際,原告に対し,借用書(甲14)を差し入れ,担保として被告が経営するd店の営業権を譲渡することを約束していることが認められるところ,原告が,自らが運営するバカラ賭博のための資金提供をするのであれば,被告が,このような借用書や担保を差し入れる必要はないというべきであるから,被告の上記主張は不合理かつ不自然であり,にわかに採用できない。
なお,被告は,上記借用書は,バカラ賭博は違法であり,正式な預かり証を発行することができなかったため,原告の要請に応じて形式的に作成したものである旨主張するが,原告はこれを否認している上,被告の主張を前提にしても,被告が担保を差し入れたことの説明はできていないし,Aが作成したメモ(以下「本件メモ」という。甲39)にも,「借入」として,金銭交付②があった平成22年9月13日に2000万円の記載があることに照らすと,被告の上記主張は採用できず,金銭交付②は,前記認定のとおり,原告の被告に対する貸付けであるというべきである。
(2) 金銭交付③について
被告は,原告と被告は,共同して本件クラブを経営することにしたのであり,金銭交付③は,そのための資金提供であるから,被告に対する貸付けではない,被告は,これを直ちに,本件クラブの経営を持ちかけてきたFらに渡し,その領収書も原告に交付している旨主張し,被告本人もこれに沿う供述をする(乙4,被告本人)。
確かに,前記認定事実及び証拠(甲16)によると,被告は,本件クラブを経営していたとされるf新聞社発行の本件クラブの代金として3000万円を受領した旨の領収書を原告に交付しているが,同領収書は被告宛のものであり,同領収書から,直ちに原告自身が本件クラブの経営権を買い取るために資金を提供したと認めることはできない。加えて,前記認定事実によると,金銭交付③を受ける際,担保として,本件A通帳を交付しているところ,原告が,自らが運営する本件クラブのための資金提供をするのであれば,被告が,このような担保を差し入れる必要はないことは前記(1)の場合と同様であること,本件メモには,「借入」として,金銭交付があったころの平成22年10月13日及び同月15日に合わせて3000万円が記載されていること,そのほか,原告が,本件クラブの経営等に関わっていたことを認めるに足りる証拠はないことも併せ考えると,被告の上記主張を採用することは困難であり,金銭交付③についても,前記認定のとおり,原告の被告に対する貸付けであるというべきである。
なお,前記認定事実によると,原告は,平成23年2月1日に本件クラブの代表取締役に就任した旨の登記がされているが,証拠(原告本人,被告本人)によると,これは,原告が本件クラブの経営に関与するためのものではなく,原告をi社の代表取締役とする預金通帳を作成するためのものであったことがうかがわれることから,同事実は,上記認定を左右するものではない。
(3) 金銭交付④ないし⑥及び⑧について
被告は,原告と被告は,共同して本件キャバクラを経営することにしたのであり,金銭交付④ないし⑥及び⑧は,そのための資金提供であるから,被告に対する貸付けではない旨主張し,被告本人もこれに沿う供述をする(乙4,被告本人)。
そこで検討するに,確かに,本件においては,本件キャバクラの開店に際し,原告が資金を提供していた旨を述べる本件キャバクラの従業員の陳述書(乙8)が提出されているが,同陳述書の内容は原告が金銭を出したということを抽象的かつ伝聞的に聞いたことを示すものにすぎず,また,原告が金銭を出したという内容は,原告が,被告に対し,運転資金を貸し付けたことと必ずしも矛盾するものではないから,上記陳述書のみをもって,被告の上記主張を採用することは困難である。かえって,前記認定事実及び証拠(被告本人)によると,原告は,本件キャバクラの運営に携わったり,その売上げを得るなどしたことはないことが認められること,そのほか,本件キャバクラの経営者として行動していたことを認めるに足りる証拠はないことに加え,本件メモには,「借入」として,金銭交付④があった平成22年12月17日に230万円,金銭交付⑥があった平成23年1月28日に300万円,金銭交付⑧があった同年3月9日に200万円との記載がされていることも併せ考えると,被告の上記主張を採用することは困難であり,金銭交付④ないし⑥及び⑧についても,前記認定のとおり,原告の被告に対する貸付けであるというべきである。
(4) 金銭交付⑦,⑪及び⑫について
ア 被告は,金銭交付⑦は,本件キャバクラの運転資金として提供を受けたものである旨主張する。しかし,原告は,これは本件機構等の運転資金である旨主張し,被告本人も,上記金銭交付は○○再開発事業のためとして受け取ったものである旨供述しているから(被告本人),被告の上記主張は採用できず,金銭交付⑦は,本件機構等の運転資金名目で交付されたものというべきである(なお,仮に,金銭交付⑦が本件キャバクラの運転資金の名目で交付されたものであったとしても,上記(3)の判示及び下記ウの判示を併せ考えると,これが,原告の被告に対する貸付けであることは優に認められる)。
イ 被告は,金銭交付⑪,⑫は,原告がDに選挙資金として貸したものであり,被告は,これを預かり,D側に渡したにすぎないのであるから,被告に対する貸付けとはいえない旨主張し,被告本人もこれに沿う供述をする(乙4,被告本人)。
そこで検討するに,証拠(乙5,6)によると,確かに,被告は,上記各金銭交付を受けた平成23年4月4日及び同月8日,Dに対して送金をし,Dの選挙を手伝っていたとする行政書士も,選挙資金を被告から受け取った旨陳述している。
しかし,上記各証拠は,被告が,Dに送金した事実を示すものではあるものの,原告が,Dに対して金銭を貸し付けたことを直接的に示すものではなく,上記証拠のみをもって,原告がDに対して金銭を貸し付けたと直ちに認定することは困難である。かえって,原告は,上記各金銭交付は,○○再開発事業のために交付したものである旨を一貫して主張し,Dに対する貸付けを否認しているところ,被告においても,平成26年2月4日付け準備書面を提出した後,平成27年4月19日付けの陳述書(乙4)を提出するまでは,上記各金銭交付は○○再開発事業のために受領したものである旨主張していたこと,金銭交付⑪については,上記陳述書においても,○○再開発事業のために受領した旨述べていたこと,本件メモにも,「借入」として,金銭交付⑪があった平成23年4月4日に1000万円,金銭交付⑫があった同月8日に1000万円と記載されていること,そのほか,原告がDに対して2000万円もの金銭を貸すべき事情を認めるに足りる証拠がないことに照らすと,被告の上記主張を採用することは困難であり,金銭交付⑪及び⑫についても,前記認定のとおり,原告が,被告に対し,○○再開発事業の運転資金として被告に貸し付けたものというべきである。
ウ 被告は,原告と被告は,共同で○○再開発事業を行うことにしたのであり,金銭交付⑦,⑪及び⑫がその資金提供であったとしても,被告に対する貸付けではない旨主張し,被告本人もこれに沿う供述をする(乙4,被告本人)。
そこで検討するに,前記認定事実によると,原告は,平成22年12月5日に本件株式会社の取締役に,平成23年2月23日に本件機構の理事に就任していることが認められ,本件機構の運営に関わっているようにも思われる。他方で,原告は,上記のとおり理事に就任したのは,○○再開発事業で土地等の払下げを受けた後の解体工事等を原告の会社で請け負いやすくするために理事に就任したにすぎないと述べていること(原告本人)に加え,原告が,○○再開発事業に具体的に関わっていたことを認めるに足りる証拠はないこと,上記認定事実によると,被告は,○○再開発事業にかかる金銭の交付を受ける際,原告に対し,担保として,本件りそな銀行通帳及び本件確認書を交付しているところ,原告が,共同事業者として資金を提供しているのであれば,このような担保の交付をすることは不自然であること,本件メモには,「借入」として,金銭交付⑦があった平成23年2月28日に1000万円,金銭交付⑪があった平成23年4月4日に1000万円,金銭交付⑫があった同月8日に1000万円と記載されていることに照らすと,被告の上記主張を採用することは困難であり,上記各金銭交付は,原告の被告に対する貸金であるというべきである。
なお,被告は,原告に対し,本件確認書を交付していない旨供述する(乙4,被告本人)が,被告は,当初は本件確認書を交付したことを認める旨の主張をしていたところ(平成26年2月4日付け被告準備書面(1)参照),被告本人が,その主張の変遷の理由については,原告が提出された書面を見ていなかったかのような供述をするのみで,何ら合理的な説明はされていないから,被告の上記供述は信用できず,主張は採用できない。
(5) 金銭交付⑨,⑩について
被告は,金銭交付⑨,⑩は,原告と被告が経営していた本件キャバクラの運転資金として預かったものであり,被告を介してFに渡したものである旨主張するが,被告は,平成28年4月12日付けの被告準備書面(5)において上記主張をするまで,上記各金銭交付が借入金であることを認めていた上,被告も,本人尋問において,これが借入金であることを明確に認めていた(被告本人)のであるから,上記主張の変遷には何ら合理的理由はなく,到底採用できない。
(6) 偽造通帳について
被告は,被告が原告に提示した偽造通帳は,親戚であるG(以下「G」という。)が入金等の処理をしていたものであり,被告は,通帳の入出金には関わっていない旨主張し,被告本人もこれに沿う陳述(乙4,被告本人)をする。
しかし,前記認定事実によると,被告が,各偽造通帳を管理し,これを自由に原告に交付等していることが認められ,同通帳作成について,その関与が強く推認される。一方,Gが通帳作成に関与していたことを認めるに足りる客観的な証拠はおろか,その作成の理由,経緯等についてのG自身の陳述等の証拠も存在しない上,被告は,自らの名前で振り込まれた金銭についてもその事情を全く知らないと述べるなど,その供述内容にも不自然さが認められる。これら事情を総合的に考慮すると,被告の上記主張は採用できず,少なくとも,被告自身が各通帳の記載内容が偽造であったことを認識していたことは優に認められるというべきである。
(7) 原告供述の信用性について
前記認定にかかる原告の供述内容は,被告が提示した借用書や預金通帳など客観的な証拠とも符合するものである上,被告から本件儲け話を受け,これに対する期待をしていたものの,できる限り確実な担保を得て金銭を交付しようとしたという経緯を自然に説明するものであり,被告からの反対尋問に揺らぐこともなく,重要部分についてはその供述が一貫している。よって,原告の供述部分は,少なくとも前記認定にかかる部分については,十分信用に値するものというべきである。
3 争点①(被告の原告に対する不法行為の成否,主位的請求)について
(1) 前記認定事実によると,被告は,本件各金銭交付に先立ち,原告に対し,本件儲け話をするとともに,○○再開発事業が進んだ際には,原告に大きな利益を得られる仕事を回す旨の話をし,原告も,その言を信じて,被告は,○○再開発事業に関し,少なくとも5億円の余裕資金を有しており,また,○○再開発事業が進むことで,原告が大きな利益を得られる仕事を回してもらえるとの期待を抱くに至ったことが認められ,原告が,これらの期待を実現するため,被告の言を信頼しやすい状況にあったことが認められる。
上記事実を前提に,各金銭交付につき,被告の不法行為の成否について検討する。
(2)ア 金銭交付③について
前記認定事実及び弁論の全趣旨によると,被告は,金銭交付③を受ける際,あえて4億円もの資金が預金されているかのうように偽造した本件A通帳を示しており,このような事情に照らすと,被告には,借入金を確実に返済できる意思も能力もなかったものと認められる。それにもかかわらず,被告は,原告に対し,担保として,本件A通帳を示し,返済が十分可能であるかのような態度を示して原告を欺き,その旨誤信させた上,原告から金銭交付③として,3000万円の交付を受けたものと認められる。
よって,金銭交付③は,原告に対する不法行為(詐欺)を構成する。
イ 金銭交付④ないし⑥について
前記認定事実及び弁論の全趣旨によると,被告は,金銭交付④ないし⑥を受けるに先立ち,あえて25億円もの資金が入金されているかのように偽造した被告三井住友銀行通帳を提示しており,このような事情に照らすと,被告には,借入金を確実に返済できる意思も能力もなかったものと認められる。それにもかかわらず,被告は,原告に対し,被告三井住友銀行通帳を提示し,本件儲け話が真実であり,被告には5億円の余裕資金があるかのように装うとともに,既に交付していた本件A通帳を担保とすることで返済が十分可能であるかのような態度を示して原告を欺き,その旨誤信させた上で,原告から金銭交付④として230万円,同⑤として200万円,同⑥として300万円の交付を受けたものと認められる。
よって,金銭交付④ないし⑥は,原告に対する不法行為(詐欺)を構成する。
ウ 金銭交付⑦について
前記認定事実及び弁論の全趣旨によると,被告は,借入金を確実に返済できる意思も能力もなかったにもかかわらず,上記イ記載のとおり,被告には5億円の余裕資金があるかのように装うとともに,既に交付していた本件A通帳を担保とすることで,返済が十分可能であるかのような態度を示して原告を欺き,その旨誤信させた上で,原告から金銭交付⑦として1000万円の交付を受けたものと認められる。
よって,金銭交付⑦は,原告に対する不法行為(詐欺)を構成する。
エ 金銭交付⑧ないし⑩について
前記認定事実及び弁論の全趣旨によると,被告は,借入金を確実に返済できる能力がなかったにもかかわらず,上記イ記載のとおり,被告には5億円の余裕資金があるかのように装うとともに,既に交付していたA通帳を担保とすることで,返済が十分可能であるかのような態度を示していたことに加え,当時,既に本件キャバクラが営業していなかったことを認識していたにもかかわらず,その運転資金が必要であるとして,虚偽の事実を述べて,原告を欺き,その旨誤信させた上で,原告から金銭交付⑧として200万円,金銭交付⑨として55万円,金銭交付⑩として45万円の交付を受けたものと認められる。
よって,金銭交付⑧ないし⑩は,原告に対する不法行為(詐欺)を構成する。
オ 金銭交付⑪,⑫について
前記認定事実及び弁論の全趣旨によると,被告は,上記各金銭交付に先立ち,あえて5億円を超える残高があるかのように偽造された本件機構名義(理事名を原告名とするもの)の本件りそな銀行通帳を提示しており,上記各金銭交付についても,借入金を確実に返済できる意思も能力もなかったものと認められる。それにもかかわらず,被告は,原告に対し,担保として,本件りそな銀行通帳及び同通帳口座の預金を原告が自由に処分できることを内容とする本件確認書を交付し,被告は返済が十分可能であり,その上,原告自身が本件りそな銀行通帳を利用して,自由に弁済を受けることができるかのように装って,原告を欺き,その旨誤信させた上,原告から金銭交付⑪として1000万円,金銭交付⑫として1000万円の交付を受けたものと認められる。
よって,金銭交付⑪及び⑫は,原告に対する不法行為(詐欺)を構成する。
(3)ア 金銭交付①について
前記認定事実によると,金銭交付①は,原告が,本件儲け話についての期待を有している状況で行われたものではあるものの,被告が経営する会社の従業員給与のために借り入れたというものであり,その内容が虚偽であると認めるに足りる証拠はない上,被告は,上記借入れに際し,借用書(甲9)を差入れる一方,偽造通帳等も示しておらず,その返済意思がなかったと明確に認めることは困難であるから,金銭交付①は,被告の不法行為(詐欺)によるものとは認められない。
イ 金銭交付②について
前記認定事実によると,金銭交付②は,原告が,本件儲け話についての期待を有している状況で行われたものではあるものの,被告がバカラ賭博の胴元になる権利を取得するために借入れたというものであるところ,その内容が虚偽であると認めるに足りる証拠はない上,被告は,上記借入れに際し,借用書(甲14)を差入れる一方,偽造通帳等も示しておらず,その返済意思がなかったと明確に認めることは困難であるから,金銭交付②は,被告の不法行為(詐欺)によるものとは認められない。
よって,金銭交付②についての原告の主位的請求には理由がない。
(4) 被告による金銭の返還について
前記認定事実によると,被告は,金銭交付①ないし④を受けた後の平成22年12月29日,原告に対し,1250万円を返還していることが認められるが,後述するとおり,上記返還金のうち,1000万円については,金銭交付①に対する弁済と認められ,250万円については,金銭交付②の貸金に弁済充当するべきである。
(5) 以上によると,原告の主位的請求は,7030万円及び各金銭交付の日からの遅延損害金を求める限度で理由がある。
4 争点②(過失相殺)について
被告は,原告は,自らの欲望に勝つことができずに,詐欺をするかもしれないと言われていた被告の詐欺行為に応じたといえ,原告には相当の落ち度があるから,仮に,被告の行為が詐欺に当たり,原告に損害が生じていたとしても,その全額について過失相殺されるべきである旨主張する。
しかし,争点①に対する判断として上記3において認定した被告の欺罔行為の内容に照らすと,原告が被告に欺罔されたのは,本件儲け話への期待がその根底にあったことが認められるものの,原告は,結局は,その期待を利用しつつ,偽造通帳等を使うという被告の悪質な欺罔行為によって錯誤に陥ったのであり,被告に欺罔されたことについて,原告の過失は認められないというべきである。
よって,被告の上記主張は採用できない。
5 争点③(原告の被告に対する貸金返還請求権,予備的請求)について
(1)ア 金銭交付①について
前記認定事実及び証拠(甲14)によると,原告は,平成22年8月3日,被告に対し,弁済期を同年9月末として,1000万円を貸し付けたことが認められる。
もっとも,被告は,平成22年12月29日,原告に対し,上記貸金1000万円を弁済したことは,当事者間に争いがない。
よって,金銭交付①について,被告に返済義務はない(なお,金銭交付①については,原告も,予備的請求においては請求していないものと解される)。
イ 金銭交付②について
前記認定事実及び証拠(甲14)によると,原告は,平成22年9月13日,被告に対し,弁済期を同年10月13日として,2000万円を貸し付けたことが認められる。
また,前記認定事実によると,被告は,平成22年12月29日,原告に対し,上記アの1000万円のほか,250万円を返還していることが認められる。被告は,同金員について,金銭交付④に対する弁済である旨主張し,これに沿う証拠(甲39,乙4)もあるが,これらの証拠に加え,本件に現れた一切の証拠によっても,被告の内心はともかく,上記金員を交付する際に,被告が,これを金銭交付④に充当する旨の意思表示をしていたものとまでは明確に認めるに足りない。そして,被告が上記金員の返還をした時点では,原告は,金銭交付①から④の交付をしていたのであるから,上記時点で返還された金員は,交付した順に充当していくというのが当事者の合理的意思に合致すると解するべきである。よって,上記金員については,金銭交付②の貸金に充当することが相当である。
よって,1750万円の支払を求める金銭交付②についての原告の予備的請求には理由がある。
なお,被告は,バカラ賭博は公序良俗違反で違法であり,その金銭交付は不法原因給付に当たるため,原告は,その返還請求をすることはできない旨主張するが,本件証拠によっても,在日大使館で行われているというバカラ賭博なるものの実態は必ずしも明らかではなく,これが公序良俗違反で違法であると認めるに足りる明確な証拠はないといわざるを得ない。
よって,被告の上記主張は採用できない。
6 結論
以上によれば,原告の主位的請求及び予備的請求にはいずれも主文の限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の主位的請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部
(裁判官 真野さやか)
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