判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(102)平成27年12月24日 東京地裁 平25(ワ)31678号 原状回復等請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(102)平成27年12月24日 東京地裁 平25(ワ)31678号 原状回復等請求事件
裁判年月日 平成27年12月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)31678号
事件名 原状回復等請求事件
文献番号 2015WLJPCA12248020
裁判年月日 平成27年12月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)31678号
事件名 原状回復等請求事件
文献番号 2015WLJPCA12248020
東京都墨田区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 榊枝真一
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 鈴木弘美
主文
1 被告は,原告に対し,880万円及びこれに対する平成26年1月17日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,880万円及びこれに対する平成26年1月17日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,被告との間でコンピュータのシステム改良やソフトウェアの改良等についての請負契約(以下「本件契約」という。)を締結したと主張する原告が,被告に対して,仕事の完成が遅れ,報告等もないとして,被告との信頼関係が破壊されたとして,本件契約を解除し,原状回復請求権及び約定の損害賠償請求権に基づき,合計880万0000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年1月17日から支払済みまで商事法定利率である年6パーセントの割合による金員の支払を求める事案である。
2 前提となる事実等(争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1) 原告と被告との間には,WEBショッピングモールのシステムに関する本件契約に関し,以下の内容の,平成24年3月1日付け請負契約書(甲1。以下「本件契約書」という。)が存在する。
ア 請負契約の内容
(ア) 売手・買手間の自動決済システム及び,手動対応部分の補助システムの改良(稼働補修)・追加構築
(イ) ジャンル対応用システムの改良(稼働補修)
(ウ) その他 追加構築(抜粋)
④検索機能に関し,「検索しようとする商品等について(A)ジャンルを問わず全ての関係するアイテムを抽出できる。(B)ジャンル等を限定してアイテムを選択,抽出できる。」という,(A)もしくは(B)の何れかを選択することができるようにする(以下,この作業を「本件追加構築」という。)。
イ 作業期間
平成24年3月1日から平成25年5月末日(引渡最終期限)
ウ 契約金
650万円
エ 支払条件
(ア) 手付金 250万円(平成24年3月1日)
(イ) 中間金 50万円(平成24年4月末日)
(ウ) 中間金 50万円(平成24年5月末日)
(エ) 中間金 50万円(平成24年6月末日)
(オ) 最終残金(成功報酬) 250万円(平成25年5月末日 作業完了月末締め翌月末日銀行振込)
オ 解除
(ア) 原告又は被告は,相手方に次の各号の何れかに該当する事由が生じた場合には,何らの催告なしに直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
a 重大な過失又は背信行為があった場合(①)
b その他前各号(②ないし④は記載を省略)に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
(イ) 原告又は被告は,相手方が本契約に定める債務を履行しないとき,その相手方は,自己の債務の履行を提供し,且つ,相当の期間を定めて催告した上,本契約を解除することができるものとする。
カ 違約金(以下「違約金条項」という。)
違約金の支払いは次のとおり直ちに行うものとする。(抜粋)
被告の債務不履行により原告が解除したときは,被告は受領済みの金員及び同額の違約金を付加して原告に支払う。(①。②以下は省略)
(2) 原告は,被告に対し,手付金として,平成24年3月1日に250万円,中間金として,同年4月28日,同年5月31日,同年6月30日に各50万円(合計150万円)を支払った。
(3) 原告は,被告から,新WEBショッピングモールのシステムが平成25年5月末日までに完成せず延期依頼を受け,これを承諾し,最終期限を平成26年2月まで延期した。
(4) 原告と被告は,平成25年5月15日,同日付けの覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。
本件覚書は,納期の延期を認める代わりに,ア 再度の延期はしないこと(本件覚書の第2の1。以下同じ。),イ 原告の営業に必要な新WEBの公開予定(平成26年3月)に間に合わせるため,同年2月末日までに,新WEBを,不備や瑕疵のないものとして稼働できるようにすること(第2の2),ウ 被告は,毎週1回以上,1週間の進捗状況や今後の見通し等の報告を,原則電話で,それができない場合は留守番電話,電子メール等で電話連絡できる時間の目処を報告した上で,電話での説明と報告をすること(第2の3①),エ 次のオの支払につき,被告が原告の下に集金に来て,原告と面談をすること(なお,面談での報告内容により,オの支払を無期限で留保できること)(第2の3②),オ 本件契約における最終残金250万円を,200万円と最高50万円までの褒賞金とし,200万円については平成25年5月末日から平成26年2月末日まで,毎月20万円の10回払いを予定し,褒賞金については,新WEBの完成及び納品後,原告の主観で完成度に満足した場合に支払われ,減額もあり得ること(第3の⑤B案選択の場合),カ 上記ウ,エの報告が,合計2回遵守されない場合,納期延期,支払方法の変更は無効となり,被告の債務不履行が確定すること(第3柱書第2段落)等が定められている。(甲2)
(5) 被告は,平成25年7月6日以降,原告に対して書面等での説明を行っていない。
(6) 原告は,平成25年10月21日に内容証明郵便で及び同月31日に書留・特定記録郵便で,被告の原告に対する信頼関係破壊を理由に,本件契約の解除の意思表示をした書面を被告に送付し,内容証明郵便は不在で到達しなかったが,書留・特定郵便は被告に到達した。(弁論の全趣旨)
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件契約の内容
(原告)
原告と被告は,平成24年3月1日,WEBショッピングモール(旧システム)に対し,システムの改良及び追加仕様書の作成,旧システムにおけるソフトウェアの改良及び追加機能の設計を完成させることに関する請負契約である本件契約を,前提となる事実等(1)のとおりの内容で,締結した。
(被告)
原告の主張アは否認する。
前提となる事実等(1)のとおりの本件契約書を作成したのは事実であるが,もともと,当初は口頭で,その後,平成24年3月1日以前に,本件契約書とは別の請負契約書を作成している。
その内容によれば,被告が請け負ったのは,新たなWEBショップシステムの構築のみであった。
すなわち,原告のWEBショッピングモールの構造は,①○○(商品の配送ルートを検索するためのWEB上のサービスサイトで原告が過去に第三者に発注し,すでに稼働していたもの),②△△(旧WEBショッピングモールのサービスを提供するためのパッケージソフトであり,第三者が作成した既製品),③□□(②とともに,しかし②とは独立して旧WEBショッピングシステムのサービスを提供するためのソフト,a社(以下「a社」という。)が原告から請け負い作成し,稼働中であった。),④新WEBショッピングモール(ショッピングモールサービスを展開するための新しいシステム,原告がa社に発注して納品されたが,稼働していない状態であり,システム仕様書や操作説明書,サービス稼働のための手順説明書もなかった。)⑤が新規開発案件(個人間取引を実現するもの。④とは独立したもの。)であり,被告が請け負ったのは⑤のみである。
また,発注者からの変更や周辺技術の開発進歩等により,作業工数が大きく変化することが一般的にあり,そのために代金変更の余地があるため,その余地を認め「その都度協議する」との合意がされるのが通常であるところ,本件においても,本件契約書前の契約書では当該内容の条項(以下「都度協議条項」という。)が記載されていた。
被告は,平成24年3月1日,原告から呼び出され,原告から,司法書士に作成してもらったからと,突然本件契約書への署名を求められ,当惑しながら,半ば強制されるようにして本件契約書に署名した。
その際,被告は,持ち帰って検討したい旨申し入れたが,原告は,その場での署名,押印を求め,原告から後に読んでおかしいところがあれば訂正するとの発言も受けて,内容を確認することなく,署名したのである。
そして,従来の契約書は,原告により破棄されたのである。
よって,原告被告間の請負契約の内容は,本件契約書に記載された内容ではない。
(2) 解除原因及び請求額について
(原告)
ア 被告は,平成25年7月6日,本件契約書の本件追加構築に関し,別報酬と一方的に述べたため,原告は,報酬は支払済みであり,今後の意見の食い違いを避けるため,「システム仕様書」や「要件定義書」の提出を求めた。
イ 平成25年7月6日以降,被告の説明・報告義務及び面談義務の違反は,本件訴訟提起時には4か月以上にわたり,被告には新WEBショッピングシステムの開発を遵守する誠意がないものとして,本件覚書が無効になった。
原告は,被告に対し,440万円もの前金を支払っているにも関わらず請負契約の進捗状況について,何もわからないばかりか,話すらできない状況が続いており,これは信頼関係を完全破壊するものである。
ウ 原告は被告に対し,440万円を支払っており,違約金条項により,違約金は880万円となる。
(被告)
ア 原告の主張は争う。
本件契約書及び本件覚書は,被告に適用されるものではなく,それらに基づく解除には理由がない。
イ 被告には帰責事由がなく,また,請負契約上の仕事完成前の注文者の都合による解除であり,原告には契約解除に伴う損害賠償義務(民法641条)があり,被告はこれまで原告の求めに応じて本件契約の対象となるもの以外の作業を多数実施しており,その報酬額は被告が受け取っている440万円を大きく上回り,被告が原告に支払う金員はない。
ウ また,本件では,原告は,注文を増やすものの,納期の設定等について協議を行うことには消極的であり,被告は,この点につき,再三協議を繰り返し求めていたが,一方的に発注条件を難化させ,しかし納期の延期は認めないという,不可能を強いるものであり,契約当事者の信義則上,認めがたい。
さらに,原告は,契約内容にない作業を次々と被告に行うように要求し,被告が無理であるとして断っても,断る理由が理解できなかったり強引に頼み込んだりして,結局は被告にそれらの作業を実施させようとし,結局は本体の作業の進行が遅れることになった。
費用に関しても,当初約束された650万円では到底不足する事態となり,その費用の支払を求めたところ,毎月20万円ずつの支払になったのである。
以上のように,作業の遅れは被告の責任ではなく,本件契約の解除に被告の帰責性はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 前提となる事実等(1)のとおり,原告被告間で本件契約書が作成されている。
これについて,被告は,本件契約には,従前の契約書があり,契約内容も本件契約の内容の一部のみを対象とし,個人間取引についての新規開発をすることは争いがないものの,新WEBショッピングモールのシステムの開発は含まれず,本件追加構築については別費用となること,工数などの増加に関して「都度条項」が付されていたのに,本件契約書では内容が変更されており,本件契約書の作成時には十分な検討時間も与えられないまま,署名を求められた旨主張する。
確かに,本件契約の前に,具体的な作業が始まり,実質的には口頭により,契約が始まったことは原告も陳述書(甲10)で述べ,原告の下で被告との打ち合わせを行っていたA(以下「A」という。)も供述等(甲9,証人A)し,さらに,Aは,本件契約書の1年前くらいには別の契約書があったことも認めている。
しかしながら,原告は,本件契約書の作成の約1年前である平成23年3月23日には,旧システムに関し,バグが多く,その修正等がされない以上,新機能の追加についてはいったん白紙に戻すことを提案したところ,被告を含めてその修正等が行われる見込みが示されたため,「新WEBシステム追加構築」は,修正等の確認後にする旨の電子メールを被告に送っている(甲8)ことを考えると,その修正に関しても,被告に依頼があったと推認できるところ,本件契約書には,その旨が内容として記載されており,本件契約書において,初めて内容が盛り込まれたとは考えがたい。
(2) また,被告は,本件契約書への署名にあたり,一応内容は見ており,その内容について,さらに検討したと申し出た旨主張し,その旨供述等(乙1,被告本人)するが,本件契約書は,新WEBシステムに関する契約書であり,旧システムの改良等についても明示的に記載されている。そして,さらに,被告は,本件契約書の前の契約書では,被告の申し出により,「都度条項」を追加して貰ったと述べていることからすれば,被告の主張するとおり,契約内容が大幅に付け加えられているとすれば,すぐにその修正を求めたり,「都度条項」を追加したりすることができる状況であったと認められるが,被告から,後日の訂正申入れも含め,これが正式な形でなされた記録はない。
その上,契約外の作業をさせられたと主張していながら,それについての報酬の請求をした形跡がない。
(3) さらに,被告は,納期の延期に伴う本件覚書にも,被告の認識では,納期の遅れは,契約外の作業のせいであるというのであるから,本件契約書を前提とし,被告の責任で納期が遅れているとする本件覚書のような内容には到底承服できないと考えられるにもかかわらず,署名,押印しているのであり,きわめて不自然であって,その旨の被告の供述等は信用できず,その主張も採用できない。
(4) そうすると,本件契約は,本件契約書の内容どおりに締結されたと認められ,旧システムの修正や新WEBショッピングモールの開発も含め契約の内容になっていたと認められる。
2 争点(2)について
(1) 前提となる事実等(5)のとおり,被告は,平成25年7月6日以降,原告に対して書面等での説明を行っていない。
(2) 本件覚書では,週1回の電話連絡,月1回の面談が義務づけられているほか,契約の履行として,少なくとも個人間取引の新システムの開発作業をしなければならないところ,被告は,これらをしている形跡はなく,被告においても,平成26年7月23日付けの準備書面で,費用の点からも実際の開発作業を行うのは無理であると主張し,平成26年4月10日付けの第2準備書面では自らも解除を主張するなどしており,上記の報告等が行われていないことも考えれば,原告被告間の信頼関係は破壊されたと認められる。
(3) 被告は,契約外の作業による信義則上の問題や未払の報酬等があることを主張しているが,被告が主張する契約外の作業の多くは,上記1の認定のとおり,契約上の義務であり,その他上記認定を覆す事情があるとは到底いえないから,その主張は採用できない。
3 以上によれば,原告は被告に440万円を支払っているから,本件契約の違約金条項に基づき,被告は原告に880万円の支払義務がある。
なお,被告は多額の未払報酬等がある旨主張するが,具体的な請求はしていないから,これを勘案する余地はない。
ところで,原告は,遅延損害金につき商事法定利率に基づいて請求しているが,原告において,会社を経営していることは認められる(証人A)ものの,原告は,会社ではなく,個人であり,原告や被告が商人であるとの主張もないから,これを認めることはできず,民法所定の年5パーセントの割合にとどまるというべきである。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は主文の限度で理由があるから,その限度でこれを認容することとし,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 千葉和則)
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