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「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(3)平成31年 2月27日 東京高裁 平30(ラ)382号 株式売買価格決定に対する抗告事件

「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(3)平成31年 2月27日 東京高裁 平30(ラ)382号 株式売買価格決定に対する抗告事件

裁判年月日  平成31年 2月27日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  決定
事件番号  平30(ラ)382号
事件名  株式売買価格決定に対する抗告事件
裁判結果  抗告棄却  上訴等  許可抗告、特別抗告  文献番号  2019WLJPCA02276001

裁判経過
第一審 平成30年 1月29日 東京地裁 決定 平28(ヒ)112号 株式売買価格決定申立事件

評釈
弥永真生・ジュリ 1534号2頁
岩田合同法律事務所・新商事判例便覧 3346号(旬刊商事法務2199号)
水野信次・銀行法務21 843号66頁

参照条文
会社法179条の8第1項

裁判年月日  平成31年 2月27日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  決定
事件番号  平30(ラ)382号
事件名  株式売買価格決定に対する抗告事件
裁判結果  抗告棄却  上訴等  許可抗告、特別抗告  文献番号  2019WLJPCA02276001

シンガポール〈以下省略〉
抗告人 X社
同代表者ディレクター A
同代理人弁護士 赤木貴哉
清野訟一
西岡祐介
川村一博
同復代理人弁護士 大塚和成
大阪市〈以下省略〉
利害関係参加人 Z相互会社
同代表者代表取締役 B
同代理人弁護士 荒井紀充
門田正行
岡野辰也
木村聡輔
田島弘基
大澤大
桑原聡子
関口健一
渡辺邦広
朽網友章
金村公樹

 

 

主文

1  本件抗告を棄却する。
2  抗告費用は,抗告人の負担とする。

 

事実及び理由

第1  抗告の趣旨
1  原決定を取り消す。
2  抗告人が所有するa株式会社の株式について売買価格の決定を求める。
第2  事案の概要
1  本件は,利害関係参加人が,a株式会社(以下「対象会社」という。)を子会社化する取引(以下「本件経営統合」という。)の一環として,対象会社の発行済株式の全部(対象会社が保有する自己株式を含まない。以下,同じ。)の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)に引き続き実施した会社法179条1項に基づく特別支配株主による株式売渡請求(以下「本件売渡請求」という。)に対し,売渡株主である抗告人が,同条の8第1項に基づき,自己が保有する対象会社の普通株式の売買価格の決定を求める事案である。
原審は,抗告人が保有する対象会社の普通株式の売買価格は本件公開買付けにおける買付価格(以下「本件買付価格」という。)と同額の1株につき560円とする旨の決定をしたところ,これを不服とする抗告人が抗告した。
2  前提事実
前提事実は,原決定「事実及び理由」欄の第2の2(原決定2頁14行目から9頁16行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  本件の争点及びこれに関する当事者の主張は,後記(2)に当審における当事者の主張を摘示するほかは,原決定「事実及び理由」欄の第2の3(原決定9頁17頁から22頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)  当審における当事者の主張
(抗告人)
ア 本件株式の売買価格の決定方法について
本件は,利害関係参加人が対象会社を子会社化する取引(本件経営統合)の一環として,非上場会社である対象会社の株式の公開買付け後に引き続き特別支配株主である利害関係参加人が公開買付けに応じなかった株主に対して売渡請求をするという公開買付前置型キャッシュアウトの事案であり,しかも,後記のとおり,本件経営統合においては,本件公開買付け後,利害関係参加人から同買付けに応じた従前の株主のうち株式会社b(以下「b社」という。)外○○グループに属する株主(以下「本件再取得株主」という。)に対して対象会社の株式の譲渡がされること(以下「本件再取得」という。)が予定されていたため,本件再取得株主は,対象会社の他の一般株主と異なり,本件再取得によって保有することになる株式につきシナジー等の利益を享受する可能性があるという客観的利益状況があり,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に構造的な利益相反関係が生じるものであった。
ところで,株式の公正な価格の決定に関する裁判所の合理的裁量の在り方について判示した最高裁決定としては,独立当事者間における共同株式移転の事案に関する最高裁平成23年(許)第21号,同第22号同24年2月29日第二小法廷決定・民集66巻3号1784頁(以下「テクモ最高裁決定」という。)と,株式会社の株式の相当数を保有する株主が当該株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引の事案に関する最高裁平成28年(許)第4号ないし第20号同年7月1日第一小法廷決定・民集70巻6号1445頁(以下「ジュピターテレコム最高裁決定」という。)があり,前者のテクモ最高裁決定は,相互に特別の資本関係がない会社間において,一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,特段の事情がない限り,当該株式移転における株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率は公正なものである旨判示しているが,同決定は,上場会社の株式(以下「上場株式」という。)について株式等の割当てに関する比率が争われた事案における判断であり,本件のように,市場株価という指標が存在しない非上場会社の株式(以下「非上場株式」という。)についてのものではなく,また,公開買付前置型キャッシュアウトの事案についてのものでもないから,その判断枠組みが本件に当然に当てはまるというわけではない。しかも,本件公開買付けにおいては,上記のとおり,本件再取得株主とその他の一般株主との間に構造的な利益相反関係が生じるなどしている。
また,後者のジュピターテレコム最高裁決定は,本件と同じ公開買付前置型キャッシュアウトの事案(ただし,本件とは異なり,多数株主による完全子会社化に向けた事案)につき,公開買付けを行った多数株主と少数株主の間に利益相反関係が存在したとしても,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である旨判示し,利害関係参加人は,同決定はテクモ最高裁決定を前提とするものであり,しかも,本件は,テクモ最高裁決定の事案と同様,本件公開買付けが行われるまで,利害関係参加人と対象会社との間に資本関係がなく,また,利害関係参加人と対象会社の役員との間にも利害関係がなかったもので,利害関係参加人と対象会社は構造的な利益相反が生じるおそれのない相互に独立した会社であったから,テクモ最高裁決定の射程は本件にも及び,一般に公正と認められる手続により行われた本件公開買付け後の株式売買価格は本件買付価格と同額とするのが相当である旨主張する。
しかし,ジュピターテレコム最高裁決定の事案も,テクモ最高裁決定の事案と同様,上場株式について取得価格が争われた事案であり,また,本件とは異なる多数株主によるキャッシュアウトの事案であるから,直ちには,本件のような多数株主によらない公開買付前置型キャッシュアウトの事案にもテクノ最高裁決定の判断枠組みがそのまま当てはまるとはいえない。
利害関係参加人は,上記いずれの最高裁決定の趣旨も本件のような非上場株式についてこそ当てはまる旨主張するが,上場株式の場合には,市場株価という株主に最低限保証されるべき価値(いわゆるナカリセバ価値)を示す指標が客観的に存在し,市場株価と乖離する価格を採用しづらく,濫用もされにくいため,手続面から価格の公正性を判定することの妥当性が認められるが,非上場株式の場合にはこのような指標は存在しないから,手続面から価格の公正性を判定することの妥当性は認められない。ジュピターテレコム最高裁決定の補足意見は,「株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,・・・株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ない。」と述べているところ,裁判所が価格決定の審理において取締役等の判断を尊重することができるのは,それが「一定の幅の中」で選択された価格であるからであり,上場株式については「一定の幅の中」であることについて市場株価という客観的指標による裏付けを得ることができるが,非上場株式についてはこのような指標は存在せず,そのため,非上場株式の評価は評価人や評価の方法によって大きな差異が生じる可能性があって,非上場株式の場合にも原則として手続審査のみを行い当事者が決定した価格を尊重するという判断枠組みを採用したときには,手続のみを形式的に整えて不当な価格でスクイーズ・アウトが行われるなどの濫用の危険が高いといわざるを得ないから,手続面から価格の公正性を判定する手法は採り得ない。
そこで,本件においては,価格形成過程に係る手続だけではなく,関係当事者が選択した株式の価格そのものについて,「一定の幅の中」にあると認められるか否か,その算定の手法や価格の評価を含め,実質的な審査をすることが必要である。
そして,仮に,価格形成過程に係る手続を審査するという手法を採用する場合であっても,上記観点から,構造的な利益相反関係及びその排除措置の有無や手続の公正性については,上場株式の場合よりも,より慎重に,よりきめ細やかに審査がされなければならない。
イ 本件買付価格決定における構造的な利益相反関係の存在及びこれを踏まえた公正な価格の判定について
(ア) 対象会社の一般株主と本件再取得株主との間にみられる構造的は利益相反関係の存在
本件公開買付けは,公開買付前置型キャッシュアウトの事案であり,しかも,対象会社が利害関係参加人の完全子会社となった後,利害関係参加人から一部の従前の株主(本件再取得株主)に対して対象会社の株式の譲渡がされること(本件再取得)が予定されていたことから,本件再取得株主は対象会社の一般株主と異なり本件再取得によって保有することになる株式についてシナジー等の利益を享受する可能性があるという客観的利益状況があり,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に構造的な利益相反関係があるといえる。そして,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に不平等を生じさせる本件公開買付けは,均一性原則に抵触する,違法なものとさえいえる。
このような構造的な利益相反関係の存在は,対象会社の営業職員を始めとする従業員のモチベーションやロイヤリティを維持するために,本件経営統合後も対象会社の商号や「○○」のブランドを維持する必要があり,そのために○○グループとの資本関係を一定程度維持すべく実施するといった,対象会社の取締役の目的という主観的事実の有無によっては左右されない。
構造的な利益相反関係がある場合の利益相反排除措置(恣意的意思決定排除措置)の要否判断において問題とされるべき利益状況は,裁判所が関係当事者等の判断した価格(取引条件)を尊重することができる利益状況の有無であって,それは,取締役に当該会社及びその株主の利益にかなう価格(取引条件)を決定することを期待することができ,株主も公正な価格と判断したからこそ公開買付けに応募したといえるような利益状況があったか否かである。抗告人は,利害関係参加人がいうように「何らかの意味で立場や利害に違いがあれば常に利益相反排除措置が必要になる」と主張しているのではなく,公正な価格に関する裁判所の合理的な裁量の在り方という観点から,利益状況の内容や性質,程度に即した利益相反排除措置が必要になる旨主張している。
本件再取得株主は,本件公開買付けに応じて,その保有する対象会社の株式を売却し,その後,本件再取得によって再び対象会社の株式を取得するが,これにより生ずる持株比率は従前の比率まで回復せず,低下する。しかし,取締役が会社及び株主の利益にかなう判断をする利益状況の有無は,本件再取得株主の持株比率の低下の程度だけで判断することができるものではない。すなわち,本件再取得株主の持株比率が本件経営統合によって低下したとしても,本件再取得株主がシナジー等の利益を享受する可能性があることには変わりがなく,現に,本件経営統合後の平成29年度には,対象会社の純利益は,本件経営統合によるシナジー効果により,野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)及び大和証券株式会社(以下「大和証券」という。)が対象会社の株価算定の基礎とした本件経営統合を前提としないスタンドアローンベースでの事業計画における金利維持ケースの場合の純利益350億円(乙10の2・21頁,乙11の2・28頁)の2.18倍,金利上昇ケースの場合の純利益189億円(乙10の2・22頁,乙11の2・32頁)の4.04倍となる764億6900万円(同年度通期純利益232億0400万円(甲157・14頁)に追加で積み立てられた同期責任準備金532億6500万円(甲157・18頁)を加えたもの)にもなり,これに応じた株価の上昇(純利益を指標とするマルチプル法により算定した場合には2.18倍から4.04倍,DDM法(配当割引モデル法)により算定した場合には約4倍)が生じている。すなわち,本件再取得株主は,一般株主と異なりシナジー等の利益を享受する可能性があったため,買付価格に不満があったとしても,本件公開買付けに応じる動機が働いてしまう利益状況があったといえるのであり,本件再取得株主と一般株主との間に構造的な利益相反関係が生じていたことは客観的に明らかである。対象会社が,法務アドバイザーの助言に従い,対象会社の取締役のうちb社における名誉顧問の地位を有するC取締役及びd株式会社(以下「d社」という。)における監査役の地位を有するD取締役を本件経営統合に関する検討や利害関係参加人との協議,交渉に関与させないようにしたのも,上記構造的な利益相反関係がみられたからである。
そして,本件再取得株主は,本件経営統合に関する審議等が行われた当時,対象会社の支配株主として取締役人事をコントロールし(甲8),対象会社の取締役8名のうち過半数となる5名を本件再取得株主分の枠として確保して,継続的に利益代表者を取締役として対象会社に送り込んでいた(甲78~88)。本件経営統合の決議に関与した3名の取締役は,対象会社の取締役退任後,○○グループに復帰して,本件再取得株主の関連会社の役員に就任している(甲89~91)。このような対象会社の取締役会が,上記のような構造的な利益相反関係が認められる状況において,対象会社や株主の利益にかなった判断をすることは期待し難い。
したがって,本件買付価格に関する取締役等の判断を尊重することができるためには,上記のような構造的な利益相反関係に応じて,取締役等の意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置(恣意的意思決定排除措置)が適切に講じられていることが必要となる。
(イ) ところで,本件買付価格は,平成27年8月下旬まで,遅くとも同年9月11日までに,利害関係参加人と対象会社との間で,(a) 対象会社の取締役会が自ら算出し,公表したEEV(ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)を,本件経営統合における自らの企業価値の算定方法から排斥した過程,(b) 対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程,(c) 対象会社の取締役が利害関係参加人との交渉の中で買付価格を引き上げた過程,及び(d) 対象会社の取締役が買付価格の算定(試算)に関する野村證券の助言を受け入れた過程を経て決定されているが,本件買付価格が公正な価格といえるかどうかは,単にこれらの過程において,例えば,第三者機関の設置や株価算定機関からの意見聴取がされたという外形的事実があったということだけからではなく,上記各過程や恣意的意思決定排除措置が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかを検討し,判断することが必要である。
しかし,本件においては,上記各過程を通じてどのように本件買付価格の形成がされていったのか,また,恣意的意思決定排除措置が具体的にどのように機能し,同価格形成に影響したのかを解明するに足る的確な証拠は提出されておらず,利害関係参加人が提出した本件係属後作成の陳述書が的確な証拠とならないことは明らかである。
そして,仮に,上記各手続過程のうち,例えば前記(a),(c)及び(d)の各過程が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての事実が認定され,当該事実によればその価格構成部分は公正に形成されたと評価できたとしても,前記(b)のプレミアム・シナジー部分がそのようにいえない場合には,本件買付価格を構成する各部分のうちプレミアム・シナジー部分を尊重することは許されず,当該部分については,別途,公正な価格を算定することが必要になる。
a 対象会社の取締役会が自ら算出し公表したEEVを本件経営統合における企業価値の算定方法から排斥した過程(前記(a))について
本件のようなスクイーズ・アウトの事案における公正な価格とは,① 当該取引が行われなければ株主が享受し得る価値と② 当該取引後に増大が期待される価値のうち既存株主が享受してしかるべき部分を合わせたものである。そして,非上場会社である生命保険会社において,最も上記①の価値を反映することができる算定方法は生命保険会社におけるDCF法に相当するEEVであり,実際に,対象会社自身が,世界的に著名なアクチュアリー・ファームであるミリマン・インク(甲22)による検証意見を得た上,平成27年5月28日に「生命保険会社の企業価値を評価する有力な指標」(甲7・2枚目)としてEEVによる企業価値算定結果を公表し,また,これまでもEEVを継続して公表してきたこと(甲58の1~5)からすれば,EEVの算定結果の適正は担保されており,本件株式の買付価格算定につきEEVを採用することに支障はなかった。
ところが,本件公開買付けにおいては,対象会社の取締役会は,本件株式の買付価格の算定につきEEVを排斥し,あえてより低い株式価値が算出される算定方法を採用したのであるから,本件における手続(手続の公正性を担保するための措置)が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての判断において,上記(a)の過程が特に慎重に吟味検討されなければならず,例えば,対象会社が利害関係参加人に対してEEVによる算定結果を提示してそれが交渉にどのように影響したかといった事実の認定が必要である。
なお,平成27年10月27日及び同年11月5日各開催の対象会社取締役会の議事録には,抗告人からのEVこそが対象会社の企業価値を表すものである旨の主張を受けて,野村證券が株式会社T&Dホールディングス及び第一生命保険株式会社2社の市場価格はEVの1倍割れが常態化している旨説明したことが記載されているが(乙30・3頁,乙31・4頁),このことは,対象会社の取締役会があえて自ら算出し公表したEEVを本件経営統合における株式価値の算定方法から排斥して,より低い株式価値が算出される算定方法を採用した過程を認定し得るものではない。加えて,時期の問題としても,上記各取締役会議事録は,抗告人が平成27年8月28日に対象会社に対して買付価格について懸念を示し,説明を求めた(甲115の1・2・別紙1)後に作成されたもの,すなわち,抗告人が本件買付価格について争う姿勢を示した後に作成されたものに過ぎない。
b 対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程(前記(b))について
本件のようなスクイーズ・アウトの事案における公正な価格とは,前記aの①の価値と②の価値を併せたものであるところ,シナジーやコントロール・プレミアムが考慮されていない買付価格は,同②の価値を含まないものであるから,公正な価格とはいえない。
そこで,当事者が決定した価格にシナジーやコントロール・プレミアムが適切に織り込まれていることは価格の公正性を基礎付けるものとなるから,本件における手続(手続の公正性を担保するための措置)が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての判断においては,対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムをどのように織り込んでいったかを具体的かつ慎重に吟味検討することが必要となる。
なお,本件においては,野村證券の算定結果(試算結果)がシナジーを考慮しないスタンドアローンベースのもの(本件経営統合を前提としないもの)であることについては当事者間に争いがない。また,本件のように市場株価のない非上場株式については,どの程度のシナジーが発生するかをある程度,定量的に把握できなければ,少数株主に対して適切にシナジーを分配することはできないが,利害関係参加人は,本件経営統合に関する基本合意書(乙3。以下「本件基本合意書」という。)作成日である平成27年9月11日の時点においてシナジーやコントロール・プレミアムを具体的にどのように加味するかを検討していなかったことを自認している。
本件基本合意書には,本件買付価格が「本統合によるシナジー,支配権の移転に伴うプレミアム等を勘案したもの」であるとの記載があるが,本件基本合意書作成時においてシナジーやコントロール・プレミアムをどのように加味するかが具体的に検討されていなかったことは上記のとおりである。また,本件基本合意書の上記記載は,単に本件買付価格の決定においてシナジーやコントロール・プレミアムを勘案したということを表現したものに過ぎず,財務アドバイザーが株価算定(試算)についてシナジーやコントロール・プレミアムを考慮していない状況において,どのようにシナジーやコントロール・プレミアムを考慮したかを明らかにするものではない。作成時期も,前記各取締役会議事録と同様,抗告人が平成27年8月28日に対象会社に対して買付価格について懸念を示した(甲115の1・2・別紙1)後である。
また,平成27年11月5日開催の対象会社取締役会の議事録(乙31・4枚目)には,「普通株式1株560円という価格は,Z社との間で長期間に亘る協議・交渉を経て,引き上げを行い,統合シナジーやコントロール・プレミアムも勘案して,合意された」との記載があるが,これは,財務アドバイザーの株価算定(試算)でシナジーやコントロール・プレミアムが考慮されていない状況で,どのようにシナジーやコントロール・プレミアムを考慮したかを明らかにするものではないし,作成時期も抗告人が本件買付価格について争う姿勢を示した後のものである。
c 対象会社の取締役が利害関係参加人との交渉の中で買付価格を引き上げた過程(上記(c))について
対象会社が当初利害関係参加人から提示された1株当たり490円という価格(以下「本件当初価格」という。)は,利害関係参加人が選定した財務アドバイザーである三菱UFJ証券株式会社(以下「三菱UFJ証券」という。)の類似取引比較分析やアプレーザル・バリュー分析及びシティグループ証券株式会社(以下「シティグループ証券」という。)の配当割引分析による算定結果のレンジを下回っている(甲3・19~20頁)ことからも明らかなとおり,そもそもその価格で妥結させるつもりで提示された価格ではなく,交渉の技法として,最初にある価格を提示し,その後,これを引き上げて,譲歩したという姿勢を見せつつ,有利な価格で妥結させることを想定して提示された価格に過ぎない。つまり,本件当初価格は,利害関係参加人の当時の検討資料と矛盾するものであり,真摯に提示された価格ではない。したがって,仮に,本件当初価格が本件買付価格に引き上げられた事実が認められたとしても,同事実は真摯な交渉があったことを示すものではなく,本件買付価格が一般に公正と認められる手続により形成された公正な価格であることを基礎付けるものとはいえない。
d 対象会社の取締役が買付価格の算定(試算)に関する野村證券の助言を受け入れた過程(前記(d))について
野村證券が採用し,対象会社の取締役会が受け入れたDDM法という株価算定方法は,配当還元法と同種の算定方法であり,内部留保率(ソルベンシーマージン比率)を高くすることにより株価を低くすることが可能であるから,内部留保率の設定次第では前記aの①の価値を適切に反映できない危険性のある算定方法である。
本件において,対象会社の取締役会は,本件経営統合直前の平成27年5月28日に行ったEEVの算定結果開示において,「必要資本維持のための費用の算出にあたり,ソルベンシー・マージン比率400%に相当する金額を必要資本」(甲7・7頁)とするという前提を置いたことを明示した上で,株主を始めとする利害関係人に対しては,上記前提を含む「計算前提は,最新の実績及び合理的に予測した将来の見通しに基づき設定しております」と述べて,計算過程の合理性を明言していた(甲7・13頁)。つまり,対象会社の取締役会は,自ら対象会社のソルベンシーマージン比率として400%が適切であると明言し,これを公表していた。しかし,対象会社の財務アドバイザーである野村證券は,対象会社の取締役会が設定したソルベンシーマージン比率よりも,低い株式価値が算出されるソルベンシーマージン比率により,対象会社の株式価値を算出し,これを対象会社の取締役会は受け入れている。
そのため,本件においては,対象会社の取締役会が,自らが数か月前に決定し,公表したソルベンシーマージン比率とは異なるソルベンシーマージン比率,しかも,対象会社の株式価値が大幅に低くなる方向に変更された比率を,どのような検討や利害関係参加人との交渉を経て受け入れるに至ったのかを具体的かつ慎重に吟味検討することが必要となるが,これに関する証拠方法は提出されていない。
ウ 本件株式の公正な価格
本件株式の売買価格については,本件買付価格(1株当たり560円)をもって公正な価格と認めることはできず,本来,鑑定の結果を用いるなどして公正な価格を認定するのが相当であるが,鑑定が実施されていない現在の証拠資料の状況を前提とすれば,対象会社自身が世界的に著名なアクチュアリー・ファームであるミリマン・インク(甲22)による検証意見を得た上で,平成27年5月28日に「生命保険会社の企業価値を評価する有力な指標」(甲7・2枚目)としてEEVによる企業価値算定結果(7450億円)を公表し,これまでもEEVを継続して公表してきた(甲58の1~5)ことから,同EEVの額をもって対象会社のスタンドアローンでの価値と認め,さらに,直近10年間に行われた公開買付けのプレミアムの平均及び平成22年から平成27年までに行われた公開買付けの各年のプレミアムの平均(甲48の1~7)が約40パーセントであることから,本件株式についても40パーセントのプレミアムが生じるものとし,上記EEVの額にその40パーセントに相当する額を付加し,これを株式数で除した金額,すなわち,1746円をもって本件株式の1株当たりの公正な売買価格とするのが相当である。また,仮に本件買付価格を前提にしたとしても,シナジー・プレミアムがその4割に相当する額であれば,本件買付価格にその4割に相当する額を加えた784円をもって本件株式の1株当たりの公正な価格と認めるべきである。
(利害関係参加人)
ア 非上場株式の売買価格の決定方法について
抗告人の主張は争う。
テクモ最高裁決定は,「一般に,相互に特別の資本関係がない会社間において株式移転計画が作成された場合には,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう計画を作成することが期待できるだけでなく,株主は,株式移転完全子会社の株主としての自らの利益が株式移転によりどのように変化するかなどを考慮した上で,株式移転比率が公正であると判断した場合に株主総会において当該株式移転に賛成するといえるから,株式移転比率が公正なものであるか否かについては,原則として,上記の株主及び取締役の判断を尊重すべきである」と判示した上で,「相互に特別の資本関係がない会社間において,株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,当該株主総会における株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がない限り,当該株式移転における株式移転比率は公正なものとみるのが相当である」と判示し,ジュピターテレコム最高裁決定は,「多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である」と判示しているところ,ジュピターテレコム最高裁決定の判示は,その補足意見が,テクモ最高裁決定を引用して説明していることから明らかなとおり,テクモ最高裁決定の射程が,株式移転のような株式を対価とする会社間の組織再編行為のみに限定されるものではなく,公開買付けを行った上での全部取得条項付種類株式の取得のように現金を対価とした株式の強制取得の方法により買収者が対象会社の株主から株式を取得する二段階買収の取引の場合にも及ぶことを前提とした上で,多数株主による完全子会社化のような構造的な利益相反関係が存する場合であっても,そのような構造的な利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられていれば,裁判所はなお当事者の決定した取引条件を尊重すべきであることを明らかにしたものであり,いずれも当該株式が上場されていることを要件とも,また,前提ともしてないから,両決定の判断枠組みを踏まえた上,ジュピターテレコム最高裁決定の事案と異なり,多数株主による完全子会社化のような構造的な利益相反関係の存しない本件につき,いわゆる独立当事者間において企業間取引がされた場合と同様に,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できるというべきであり,公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど,一般に公正と認められる手続により経営統合の手段たる公開買付けが行われ,その後に公開買付けに係る買付価格と同額で株式売渡請求がされた場合には,株主が公開買付けに応じるか否かを適切に判断することが期待できる以上,上記の手続において基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情がない限り,裁判所は,株式売渡請求に係る株式の売買価格を公開買付けに係る買付価格と同額とするのが相当である。
抗告人は,上記各最高裁決定の判断枠組みは上場株式についてのものであり,非上場株式の場合には当てはまらない,裁判所が売買価格決定の審理において取締役等の判断を尊重することができるのは,それが「一定の幅の中」で選択された価格であるからであり,上場株式については「一定の幅の中」であることについて市場株価という客観的指標による裏付けを得ることができるが,非上場株式についてはこのような指標はないから,非上場株式につき上記各最高裁決定の判断枠組みを適用することはできない旨主張する。
しかし,上記各最高裁決定の判断枠組みが上場株式であることを前提とするものでないことは前記のとおりであり,ジュピターテレコム最高裁決定の補足意見が,全部取得条項付種類株式の取得価格の決定に関する裁判所の合理的な裁量の在り方につき,「関係当事者の判断等の形成過程の公正さ,その判断等に基づく取引に関する関係当事者の予測可能性と利害,取引の衡平の確保等を考慮し,どこまでその判断等に介入するかについて検討する必要がある」と指摘した上で,「株式価格の形成には多元的な要因が関わることから,種々の価格決定方法が存する。そのため,株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,将来的な価格変動の見通し,組織再編等に伴う増加価値等の評価を考慮した株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ない。」と指摘するところは,その内容からして,上場株式のみに当てはまるものではなく,株価算定について様々な評価手法が存在し,どのような場合にどのような評価方法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立されていない非上場株式にこそ,より強く妥当するといえる。
イ 本件買付価格決定における構造的な利益相反関係の存在及びこれを踏まえた公正な価格の判定について
(ア) 対象会社の一般株主と本件再取得株主との関係について
抗告人は,本件公開買付けにおいては,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に構造的な利益相反関係があるから,株式買付価格に関する取締役等の判断を尊重することができるためには,同利益相反関係に応じて,取締役等の意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置(恣意的意思決定排除措置)が適切に講じられていることが必要であり,抗告人主張の各過程(前記(抗告人),イ,(イ)の(a)~(d))において,単に第三者機関の設置や株価算定機関からの意見聴取がされたという外形的事実があったということだけからではなく,同各過程や恣意的意思決定排除措置が本件買付価格の形成との関係で具体的にどのように機能したかを検討し,判断することが必要である旨主張する。
しかし,構造的な利益相反関係がある場合に恣意的意思決定排除措置が必要となるのは,MBO(経営者による企業買収)や多数株主による完全子会社化の取引にみられるように,買付価格が上昇すれば,一方が上昇分だけ利益を得る反面,他方が上昇分だけ損失を被り,また,買付価格が下落すれば,その逆の状況が生じるというような,まさに構造的に利益が相反する関係があるからであり,何らかの意味で立場や利害に違いがあれば常に恣意的意思決定排除措置が必要となるかのような抗告人の主張は,相当でない。
本件再取得株主は,対象会社が利害関係参加人の完全子会社となった後,利害関係参加人から対象会社の株式を再取得するが,再取得価格は本件買付価格と同額であり,しかも,再取得後の持株比率(ただし,後記再取得前の比率は,A種株式,B種株式については,いずれも転換後の普通株式数による。)は,b社にあっては35.73%であったものが11%に,e株式会社にあっては17.64%であったものが2%に,f株式会社にあっては7.38%であったものが1%に,g株式会社にあっては3.92%であったものが1%に,d社にあっては3.91%であったものが1%にまで減少するのであるから,本件再取得株主は,他の一般株主と同様に,構造的に対象会社の株式の売主の立場に立ち,同一般株主と利害関係を共通にしているとみることができる。
そして,本件再取得株主によるシナジー等の利益の享受についても,本件経営統合によるその発生の可能性が認められるが,同事情は,本件再取得株主と他の一般株主との間に何らかの利益状況の差異が存する可能性を示すものに過ぎず,上記のような本件再取得株主の立場を構造的に売主から買主に転換させ,本件再取得株主と他の一般株主との間に対立する利害関係を生じさせるようなものではない。すなわち,本件再取得株主は,仮にシナジー等の利益を享受する可能性があったとしても,株式の買主のように買付価格が下落した分だけ自らが利得するという関係に立つわけではなく,買付価格が下落すれば損失を被る関係にあることに変わりはないのである。
また,本件再取得は,あくまでも対象会社の企業価値の維持・向上のための施策であって,本件再取得株主が本件経営統合によって生じるシナジーを享受することを目的に行われたものではない。本件再取得株主は,対象会社の要請により対象会社の株式の一部を再取得するに過ぎず,その保有する対象会社の株式の大半を売却するのであるから,仮に本件経営統合によるシナジー等の利益を享受する可能性があったとしても,本件再取得株主が対象会社の株式の廉価での売却に応じるとは合理的に考えられない。
抗告人は,本件再取得株主は,本件経営統合に関する審議等が行われた当時,対象会社の支配株主として取締役人事をコントロールし,対象会社の取締役8名のうち過半数となる5名を本件再取得株主分の枠として確保して,継続的に利益代表者を取締役として対象会社に送り込んでおり,同取締役らが対象会社やその株主の利益にかなった判断をすることを期待できない状況があり,構造的な利益相反関係が認められる,対象会社が,法務アドバイザーの助言に従い,対象会社の取締役のうちb社における名誉顧問の地位を有するC取締役及びd社における監査役の地位を有するD取締役を本件経営統合に関する検討や利害関係参加人との協議,交渉に関与させないようにしたのは,上記構造的な利益相反関係がみられたからである旨主張する。
しかし,本件再取得株主と他の一般株主との間に構造的な利益相反関係が認められないことは前記のとおりであるから,抗告人の上記主張はその前提を欠き失当である。また,本件再取得株主は,いずれも対象会社の支配株主ではなく,それぞれ独立した上場会社又は上場会社の完全子会社である。上記各取締役を本件経営統合に関する検討や協議,交渉に関与させないようにしたのは,本件再取得株主が他の一般株主と同様に売主の立場に立つことから構造的な利益相反関係が存在するとはいえないことを前提に,利益相反の疑いを避けるために,念のために執られた措置であって,かえって,この措置は対象会社が手続の公正性を重視して慎重な配慮をしていたことを示すものといえる。
なお,抗告人は,本件再取得株主と他の一般株主との間に不平等が生じる本件公開買付けは,均一性原則に抵触する旨主張するが,本件再取得の際の取得価格は本件買付価格と同額であるから,抗告人の上記主張は理由がない。
その他,本件公開買付けにおいては,構造的な利益相反関係が認められるような事情は認められない。
したがって,構造的な利益相反関係があることを前提とした恣意的意思決定排除措置の有無及びそれが実効的に機能したかについての手続審査をすることは必要とはいえない。
(イ)a 抗告人主張の対象会社の取締役会が自ら算出し,公表したEEVを,本件経営統合における自らの企業価値算定方法から排斥した過程(前記(抗告人),イ,(イ),a)について
抗告人の主張は争う。
対象会社は,EV(EEV)に関して,財務アドバイザーである野村證券の助言も受けながら議論しており,EVを類似会社比較法における比較の指標(マルチプル)とした野村證券及び大和証券の株価算定結果(乙10の1・11頁,乙10の2・7頁及び10頁,乙11の1・9頁,乙11の2・16頁及び20頁)も踏まえた検討の上,本件買付価格を合意するに至っているのであり(乙1・18~20頁,乙26・3~4頁,乙28・4頁及び7~8頁),EVを排斥して決定したということはない。
EVはその前提条件の設定により大きく異なり得,我が国におけるEVと株式価値との関連性についての研究はほとんど行われておらず,EVは財務情報の補完機能に限定されるとの指摘もあり,我が国の上場生命保険会社の市場株価はEVを大幅に下回っている。そして,対象会社は,平成3年頃から,いわゆる逆ざや状態が続くなど厳しい財務状態に追い込まれ,サブプライム・ローン問題とリーマンショックにより,平成20年度には,生命保険会社の基礎的な期間収益の状況を表す指標である基礎利益が大幅にマイナスになり,平成27年3月期においても,なお逆ざや状態が解消されなかった中で,保険料等収入や総資産等の規模が約9倍近くであり,従業員数も約7倍にもなる利害関係参加人との間で,本件買付価格を含む本件経営統合の取引条件について交渉し,財務アドバイザーやアクチュアリー・ファームから,対象会社と類似の国内の上場生命保険会社の株価の推移をみると,1株当たりEVを大きく下回る状況が常態化しており,生命保険会社のEV自体を株式価値とすることは合理的ではないとの説明を受け,あるいは,EV算定に当たっての前提条件の置き方には一定の幅があり得る旨の指摘を受けて,あえてEVの前提条件に関する詳細な議論に立ち入ることなく,利害関係参加人との間で買付価格の引上げ交渉を行い,本件当初価格から本件買付価格への引上げに成功した後,最終的に本件買付価格を受け入れている。こうした,我が国におけるEVの位置づけや,本件買付価格の価格交渉における対象会社のEVの検討過程を前提とすれば,本件買付価格が対象会社の公表したEVを大幅に下回る金額を前提にしたものであったとしても,対象会社と利害関係参加人との間の実質的な交渉によって決定された本件買付価格が,それぞれの会社及び株主の利害が適切に調整されたものであることは否定されないと解するのが相当である。
b 対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程(前記(抗告人),イ,(イ),b)について
抗告人の主張は争う。
対象会社は,法務アドバイザーや財務アドバイザーの助言を随時受けながら,買付価格がシナジーやコントロール・プレミアムを十分に勘案した価格となるように利害関係参加人と交渉を行っており,このような交渉を踏まえて本件買付価格が決定されている。
なお,抗告人は,本件経営統合後,対象会社において,野村證券及び大和証券が算定に用いた(本件経営統合を前提としない)スタンドアローンベースの事業計画の計画値を上回る純利益が出ていることをもって,本件経営統合によって実際に大きなシナジー効果が発生しているとし,本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程については,特に,信用性のある証拠により適正かつ具体的な事実認定がされなければならない旨主張する。しかし,対象会社は,上記のとおり,シナジーやコントロール・プレミアムを踏まえた交渉により本件買付価格の決定に至っているのであり,このことが抗告人主張の本件経営統合後の事情によって影響を受けるということはない。また,取引前にシナジーを具体的に計算して考慮することは困難であるため,公開買付事案における財務アドバイザー作成の株式価値算定書において,スタンドアローンベースの事業計画を前提とし,シナジーを織り込まないことは実務上一般的なことであり(乙27),また,対象会社の業績はシナジーに限らず様々な要因により変動するものであるから,野村證券及び大和証券が算定に用いた事業計画が本件経営統合を前提としないスタンドアローンベースのものであり,本件経営統合後の様々な要因により結果として対象会社において当該事業計画の計画値を上回る純利益が生じたとしても,本件経営統合において本件買付価格が一般に公正と認められる手続により決定されたことは,何ら否定されるものではない。
c 対象会社の取締役が利害関係参加人との交渉の中で買付価格を引き上げた過程(前記(抗告人),イ,(イ),c)について
抗告人の主張は争う。
対象会社は,利害関係参加人から当初提案された1株当たり490円という本件当初価格について,法務アドバイザー及び野村證券の助言を随時受けながら,対象会社の株主の利益のために,より高い価格を目指した交渉を行った結果,買付価格は1株当たり560円に引き上げられた。
d 対象会社の取締役が買付価格の算定(試算)に関する野村證券の助言を受け入れた過程(前記(抗告人),イ,(イ),d)について
抗告人の主張は争う。
対象会社は,野村證券の助言を随時受けながら,最終的に1株当たり560円の買付価格に合意した。
抗告人は,対象会社の取締役会が,買付価格の算定方法に関して,自らが数か月前に決定・公表したソルベンシーマージン比率(400%)とは異なるソルベンシーマージン比率(812.4%)を受け入れたことが異様であるかのような主張をするが,野村證券及び大和証券が採用したDDM法による算定において,ソルベンシーマージン比率として対象会社の直近事業年度の実績値である812.4%が採用されていることについて何ら不合理な点はないから(むしろ,DDM法による算定において,EV算定に用いられたソルベンシーマージン比率(400%)を採用することは明らかに不合理であった。),抗告人の上記主張はその前提を欠き,失当である。
第3  当裁判所の判断
1  当裁判所も,抗告人が有するa株式会社(対象会社)の普通株式の売買価格は1株につき560円とするのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり改め,後記2において当審における抗告人の主張について判断するほかは,原決定「事実及び理由」欄の第3の1から3(原決定22頁14行目から52頁23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)  原決定46頁8行目の「普通株式に転換した」から10行目の「成立している。」までを「普通株式に転換したと見なした場合の株式総数5億9727万3868株のうち5億7543万2699株(株式総数の96.34%)の応募があり,買付予定数の下限4億3978万5136株(本件再取得株主及び住友生命保険相互会社(以下「住友生命保険」という。)が保有する株式の総数と同じ。株式総数の73.63%)を上回り,本件公開買付けが成立している。」と改める。
(2)  同48頁24行目から25行目にかけての「工夫例の一つとされているにすぎない。」の次に「また,本件公開買付けにおいては,対象会社の本件再取得株主及び住友生命保険が保有する株式以外の株式(合計1億5748万8732株)のうちその86.13%に相当する1億3564万7563株を保有する株主が本件公開買付けに応募している。」を加える。
2  当審における抗告人の主張について
(1)  非上場株式の売買価格の決定方法について
本件売渡請求は,利害関係参加人と対象会社の間の本件経営統合に係る契約(以下「本件経営統合契約」という。)を前提として,利害関係参加人による対象会社の発行済み株式の全部を対象とする公開買付けに引き続き実施されたものであるところ,利害関係参加人は,本件経営統合ないし本件公開買付けに至るまで,対象会社の株式を一切保有しておらず,対象会社との間に何等の資本関係もなかった。このように,相互に特別の資本関係がない会社間において,一方の会社が他方の会社と経営統合するための手段として株式の公開買付けを行い,その後に当該会社の株式について会社法179条1項に基づく特別支配株主による株式売渡請求をして,当該会社の株式の全部を取得する場合においては,いわゆる独立当事者間において企業間取引がされた場合と同様に,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できるといえる。そして,公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど,一般に公正と認められる手続により経営統合の手段たる公開買付けが行われ,その後に公開買付けに係る買付け価格と同額で株式売渡請求がされた場合には,株主が公開買付けに応じるか否かを適切に判断することが期待できる以上,上記の手続において基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情がない限り,裁判所は,株式売渡請求に係る株式の売買価格を公開買付けに係る買付価格と同額とするのが相当である。
抗告人は,上記のような考え方は本件公開買付けのような非上場株式が対象となる場合には当てはまらない,同考え方の前提となっている前記各最高裁決定はいずれも上場株式が対象となっている事案についてのものであり,そこにおいて裁判所が取締役等の判断を尊重することができるのは,それが「一定の幅の中」で選択された価格であるからであり,上場株式については「一定の幅の中」であることについて市場株価という客観的指標による裏付けを得ることができるが,非上場株式についてはこのような指標はないから,非上場株式につき上記各最高裁決定の判断枠組みを適用することはできない旨主張する。
しかし,上記考え方が公開買付けの対象となる株式が非上場株式である場合にも,いわゆる独立当事者間における取引については等しく当てはまると考えるべきことは,前記1のとおり引用する原判決説示のとおりである。株式価格の形成には多元的な要因が関わることから,種々の価格決定方法が存し,そのため,株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,将来的な価格変動の見通し,組織再編等に伴う増加価値等の評価を考慮した株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ず,独立当事者間の取引の場合には各当事者がそれぞれ経済合理性を追求することから,合理的な価格が形成されるのが通常であり,このことは,上場株式に限らず,非上場株式の場合も同様である。
したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。
(2)  構造的な利益相反関係の存在について
抗告人は,当審においても,本件経営統合においては,対象会社が利害関係参加人の完全子会社となった後,利害関係参加人から一部の従前の株主(本件再取得株主)に対して対象会社の株式の譲渡がされること(本件再取得)が予定されていたことから,本件再取得株主は対象会社の一般株主と異なり本件再取得によって保有することになる株式についてシナジー等の利益を享受する可能性があるという客観的利益状況があり,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に構造的な利益相反関係があったといえる旨主張し,また,本件再取得株主が本件再取得によっても対象会社の保有株式数を減少させ,持株比率を下げることについては,それでも,シナジー等の利益を享受する可能性があることに変わりはなく,現に,本件経営統合後の平成29年度にはシナジー効果が生じ,対象会社の純利益は2.18ないし4.04倍となり,これに応じて株式価値も2.18ないし4.04倍に上昇して,利益を得ている,つまり,本件再取得株主は,一般株主と異なりシナジー等の利益を享受する可能性があったため,買付価格に不満があったとしても,本件公開買付けに応じる動機が働いてしまう利益状況があったといえ,対象会社が法務アドバイザーの助言に従い対象会社の取締役のうちb社及びd社の役員の地位を有する2名の取締役を本件経営統合に関する検討や利害関係参加人との協議,交渉に関与させないようにしたのも,上記構造的な利益相反関係がみられたからである,そして,本件再取得株主は,本件経営統合に関する審議等が行われた当時,対象会社の支配株主として取締役人事をコントロールし,対象会社の取締役8名のうち過半数となる5名を本件再取得株主分の枠として確保し,継続的に利益代表者を取締役として対象会社に送り込む等していたから,本件公開買付けについては,構造的な利益相反関係があった旨主張する。
しかし,本件経営統合ないし本件公開買付けにおいて,抗告人を含む対象会社の一般株主と本件再取得株主及び対象会社の取締役との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があったとはいえないことは,原決定説示のとおりである。
本件再取得株主は,本件再取得によって保有することになる株式について,一般株主と異なり,抗告人が主張するシナジー等の利益を享受する可能性があることは否定されないが,本件再取得は,対象会社の営業職員を始めとする従業員のモチベーションやロイヤリティを維持するため,本件経営統合後も対象会社の商号や「○○」ブランドを維持する必要があり,そのために○○グループとの資本関係を一定程度維持すべく実施されるに至ったものであって,本件再取得株主に対して対象会社の一般株主とは異なる特別の利益を与える目的で実施されたと認めることは困難である。また,シナジー等の利益は種々の要因が複合的,相乗的に影響することにより生じるものであって,これを取引前に具体的に算定することは困難であり,したがって,検討対象となっている買付価格と妥当と考えられる価格との差額をシナジー等の利益で補うことができるかを判断することもまた困難である。そして,本件再取得株主は,対象会社の38.65%の株式を有していたところ,本件公開買付けに応募することにより,本件再取得を前提にしても,その保有する対象会社の株式の持株比率を16%まで,これを各社個別にみれば,b社については14.23%から11%まで,e社については9.11%から2%まで,f社については7.20%から1%まで,g社については4.06%から1%まで,d社については4.05%から1%まで,また,対象会社のA種株式及びB種株式の各数をいずれも転換後の普通株式数に置き換えた場合には,b社にあっては35.73%であったものが11%まで,e株式会社にあっては17.64%であったものが2%まで,f株式会社にあっては7.38%であったものが1%まで,g株式会社にあっては3.92%であったものが1%まで,d社にあっては3.91%であったものが1%まで,それぞれ大幅に減らすことになり,本件再取得が本件買付価格と同額で行われたことからすると,本件再取得株主は,実質的には,利害関係参加人に対し,保有する対象会社の株式の大半を本件買付価格で売却しているに等しいことになるのであるから,本件再取得株主は,保有する対象会社の株式の多くについて,買付価格が低下すれば損失が拡大するという意味で,一般株主と同様の利害を有するといえる。
したがって,本件再取得が予定されていたことをもって,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に,MBO類似の構造的な利益相反関係があったということはできない。
(3)  本件買付価格が一般に公正と認められる手続に従い,決定されたものであるかについて
ア 抗告人は,本件買付価格は,平成27年8月下旬まで,遅くとも同年9月11日までに,利害関係参加人と対象会社との間で,(a) 対象会社の取締役会が自ら算出し,公表したEEVを本件経営統合における自らの企業価値の算定方法から排斥した過程,(b) 対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程,(c) 対象会社の取締役が利害関係参加人との交渉の中で買付価格を引き上げた過程,及び(d) 対象会社の取締役が買付価格の算定(試算)に関する野村證券の助言を受け入れた過程を経て決定されているが,本件買付価格が公正な価格といえるかどうかは,単にこれらの過程において,例えば,第三者機関の設置や株価算定機関からの意見聴取がされたという外形的事実があったということだけからではなく,上記各過程や恣意的意思決定排除措置が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能し,影響したかを解明することが必要であり,これにより,仮に,上記各手続過程のうち,例えば前記(a),(c)及び(d)の各過程が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての事実が認定され,当該事実によればその価格構成部分は公正に形成されたと評価できたとしても,前記(b)のプレミアム・シナジー部分がそのようにいえない場合には,本件買付価格を構成する各部分のうちプレミアム・シナジー部分を尊重することは許されず,当該部分については,別途,公正な価格を算定することが必要になる旨主張する。
しかし,本件売渡請求は,利害関係参加人と対象会社の間の本件経営統合契約を前提として,利害関係参加人による対象会社の発行済み株式の全部を対象とする公開買付けに引き続き実施されたものであるところ,利害関係参加人は,本件経営統合ないし本件公開買付けに至るまで,対象会社の株式を一切保有しておらず,対象会社との間に何等の資本関係がなく,このように相互に特別の資本関係がない会社間において一方の会社が他方の会社と経営統合するための手段として株式の公開買付けを行い,その後に当該会社の株式について特別支配株主による株式売渡請求をして当該会社の株式の全部を取得する場合においては,いわゆる独立当事者間において企業間取引がされた場合に当たり,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できるといえ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど,一般に公正と認められる手続により経営統合の手段たる公開買付けが行われ,その後に公開買付けに係る買付け価格と同額で株式売渡請求がされた場合には,株主が公開買付けに応じるか否かを適切に判断することが期待できる以上,上記手続において基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情がない限り,裁判所は,株式売渡請求に係る株式の売買価格を公開買付けに係る買付価格と同額とするのが相当であることは前記(1)説示のとおりである。また,本件公開買付けにつき本件再取得株主あるいは対象会社の取締役会と一般株主との間にMBO類似の構造的な利害相反関係がみられないことは前記認定判断のとおりであって,本件再取得株主が対象会社の一般株主と異なりシナジー等の利益を得る可能性があるという利害状況や,本件買付価格が対象会社が自ら継続して提示してきたEEVを基準にして算出される株式価値を大幅に下回るものであったこと等を踏まえても,本件公開買付けが一般に公正と認められる手続により行われたといえることは,原判決説示のとおりである。すなわち,本件経営統合及び本件買付価格の交渉に関し,対象会社は,リーマンショック等の影響によって財務基盤が毀損し,他社との連携統合等も含めた検討をしていたところ,利害関係参加人から,本件経営統合に向けた協議の打診を受け,本件公開買付けに関する協議及び交渉に当たり,法務アドバイザー,財務アドバイザー及びアクチュアリー・ファームといった外部の専門家から助言を得ながら,利害関係参加人が提示した買付価格の妥当性を検討し,利害関係参加人との間で,上記打診から本件経営統合契約の締結に至るまで約7か月間に渡り,本件買付価格を含む取引条件の交渉をし,利害関係参加人から,普通株式の買付価格を本件当初価格とするなどの提案を受けたものの,財務アドバイザーや法務アドバイザーの助言を受けてシナジーやコントロール・プレミアム等をも考慮した本件当初価格の引上げを求め,その結果,本件買付価格への引上げに成功し,その後も,利害関係参加人に対し,更なる価格の上乗せを要請したが,本件買付価格は複数の財務アドバイザーによる株式価値の算定結果のレンジ内にあることが確認され,財務アドバイザーからこれ以上の価格の引上げは難しいとの報告を受け,さらに,抗告人を除く主要株主からも本件買付価格を含む本件経営統合について前向きな返答を得,利害関係参加人の財務アドバイザーから買付価格の更なる引上げが困難であるとの見解を得るなどしたことから,本件買付価格を応諾するに至ったものである。そして,本件公開買付けの実施に関しても,対象会社は,利害関係参加人との基本合意の締結後,直ちに,対象会社の発行済株式の全部を対象とする本件公開買付けを実施し,その後,スクイーズアウト手続が実施される予定であることや,本件再取得を行う方向で協議していることといった重要事項を公表し,経営統合契約締結後,利害関係参加人は,直ちに,本件買付価格,公開買付期間,決済の開始日,買付予定数の下限,本件公開買付けが成立した場合には本件買付価格と同額でキャッシュアウトされること,本件再取得に関する方針といった,本件公開買付けへの応募の可否を検討するために必要と考えられる事項を公表し,利害関係参加人と対象会社は,本件公開買付けに先立ち,公開買付届出書と意見表明報告書をそれぞれ提出し,本件買付価格の決定に当たって参考にした双方の複数の財務アドバイザーによる対象会社の普通株式の価格の算定過程とその結果を開示した上,利害関係参加人は,30営業日の公開買付期間を定めて本件公開買付けを実施したものである。その結果,A種株式及びB種株式を普通株式に転換したと見なした場合の株式総数5億9727万3868株のうち5億7543万2699株(株式総数の96.34%)の応募があり,買付予定数の下限4億3978万5136株(本件再取得株主及び住友生命保険が保有する株式の総数と同じ。株式総数の73.63%)を上回り,本件公開買付けが成立し,応募のあった株式のうち1億3564万7563株は本件再取得株主及び住友生命保険が保有する株式以外の株式(合計1億5748万8732株)の86.13%に相当するものであったのである。これらの事情に照らせば,本件公開買付けは,対象会社と利害関係参加人との間で,対象会社の一般株主にも配慮した買付価格の模索も含め,実質的な交渉が行われて実施されるに至ったものであり,本件公開買付けに当たっては,対象会社の株主が本件公開買付けに応じるか否かの判断に必要となる情報が適時かつ適切に開示され,また,当該判断に必要な期間も十分に確保されていたということができ,本件公開買付け及びその後の本件スクイーズアウト手続は,一般に公正と認められる手続により行われたということができる。
そして,抗告人が原審において主張した手続の公正性を担保するための各措置,すなわち,独立した第三者委員会の設置,財務アドバイザーからのフェアネス・オピニオンの取得,マジョリティ・オブ・マイノリティの設定,一般株主と利益相反関係にない取締役会による財務アドバイザーの選任,財務アドバイザーに対する成功報酬に関する情報の開示,オークションプロセスの実施といった措置がとられていないこと,対象会社が自ら公表したEVを大幅に下回る金額を基準として買付代金(本件買付価格)が決められたこと等があるとしても,原決定説示のとおり,手続の公正さが失われるものとまではいえない。
イ 抗告人は,本件公開買付けのようなスクイーズ・アウトの事案における公正な価格とは,①当該取引が行われなければ株主が享受し得る価値と②当該取引後に増大が期待される価値のうち既存株主が享受してしかるべき部分を合わせたものであるところ,シナジーやコントロール・プレミアムが考慮されていない買付価格は,同②の価値を含まないものであるから,公正な価格とはいえない,そして,当事者が決定した価格にシナジーやコントロール・プレミアムが適切に織り込まれていることは価格の公正性を基礎付けるものとなるから,本件における手続(手続の公正性を担保するための措置)が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての判断においては,対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムをどのように織り込んでいったかを具体的かつ慎重に吟味検討することが必要となる旨主張する。
しかし,前記1の引用に係る原決定の認定及び証拠(乙27)によれば,シナジー等の利益は種々の要因が複合的,相乗的に影響することにより生じるものであって,これを取引前に具体的に算定することは困難であり,公開買付事案における財務アドバイザー作成の株式価値算定書においてスタンドアローンベースの事業計画を前提とし,シナジーを織り込まないことが実務上一般的といえる状況において(乙27),対象会社は,法務アドバイザーや財務アドバイザーの助言を随時受けながら,買付価格がシナジーやコントロール・プレミアムを十分に勘案した価格となるように利害関係参加人と交渉を行っており,このような交渉を踏まえて本件買付価格が決定されていることが認められるのであり,抗告人の上記主張を踏まえても,本件公開買付け及びその後のスクイーズアウト手続が一般に公正と認められる手続により行われたといえるとの判断は動かすことができない。
また,抗告人は,野村證券が採用し,対象会社の取締役会が受け入れたDDM法という株価算定方法は,配当還元法と同種の算定方法であり,内部留保率(ソルベンシーマージン比率)を高くすることにより株式価値を低く算出することが可能であるから,内部留保率の設定次第では前記①の価値を適切に反映できない危険性のある算定方法であるところ,対象会社の取締役会は,自ら対象会社のソルベンシーマージン比率として400%が適切であると明言し,これを公表していたにもかかわらず,財務アドバイザーである野村證券が株式価値が低く算出される812.4%というソルベンシーマージン比率を採用して算定した株式価値を受け入れ,これを前提に利害関係参加人との交渉をしているから,同受入れの過程を具体的かつ慎重に吟味検討することが必要である旨主張する。
しかし,野村證券がDDM法による算定において使用した対象会社のソルベンシーマージン比率は対象会社の直近事業年度の実績値であり,これを株式価値の算定において用いたことについて不合理な点は認められない。
したがって,抗告人の上記各主張はいずれも採用の限りでない。
3  抗告人は,本件株式の売買価格については,本件買付価格(1株当たり560円)をもって公正な価格と認めることはできず,本来,鑑定の結果を用いるなどして公正な価格を認定するのが相当であるが,鑑定が実施されていない現在の証拠資料の状況を前提とすれば,対象会社自身が世界的に著名なアクチュアリー・ファームであるミリマン・インクによる検証意見を得た上で,平成27年5月28日に「生命保険会社の企業価値を評価する有力な指標」としてEEVによる企業価値算定結果(7450億円)を公表し,これまでもEEVを継続して公表してきたことから,同EEVの額をもって対象会社のスタンドアローンでの価値と認め,さらに,直近10年間に行われた公開買付けのプレミアムの平均及び平成22年から平成27年までに行われた公開買付けの各年のプレミアムの平均が約40パーセントであることから,本件株式についても40パーセントのプレミアムが生じるものとし,上記EEVの額にその40パーセントに相当する額を付加し,これを株式数で除した金額,すなわち,1746円をもって本件株式の1株当たりの公正な売買価格とするのが相当であり,仮に本件買付価格を前提にしたとしても,シナジー・プレミアムがその4割に相当する額であれば,本件買付価格にその4割に相当する額を加えた784円をもって本件株式の1株当たりの公正な価格と認めるべきである旨主張する。
しかし,シナジー・プレミアムを4割とみるべき根拠は見出すことはできず,対象会社の普通株式の売買価格は,前記理由により本件公開買付けにおける買付価格と同額の1株につき560円とするのが相当であるから,抗告人の上記主張は採用することができない。
4  抗告人の文書提出命令申立て(平成30年(ウ)第274号)及び平成30年11月12日付け鑑定申出は,いずれも必要性がないから,却下する。
第4  結論
よって,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとして,主文のとおり決定する。
東京高等裁判所第9民事部
(裁判長裁判官 齊木敏文 裁判官 廣田泰士 裁判官 增永謙一郎)

 

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