「成果報酬 営業」に関する裁判例(68)平成22年 2月17日 東京地裁 平19(ワ)35111号 損害賠償請求事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(68)平成22年 2月17日 東京地裁 平19(ワ)35111号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年 2月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)35111号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA02178004
要旨
◆原告が被告に対し、主位的に、両者間で締結されたとする契約1乃至3を被告が違法に解除したとし、予備的に、契約1についてかかる契約が締結されてなかったとしても契約締結が確実であったのにこの関係を被告が違法に解消したとして、それぞれ原告が被ったとする損害の賠償を求める事案において、原告と被告の間では、報酬や費用の負担等を含めて具体的な取り決めはなされていないなどと認定するなどし、請求を棄却した事例
参照条文
民法1条2項
民法415条
民法709条
裁判年月日 平成22年 2月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)35111号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA02178004
東京都港区〈以下省略〉
原告 デルタパートナーズ株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 隈元慶幸
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社ライセンスアカデミー
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 築尾晃治
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
被告は,原告に対し,3877万6910円及びこれに対する平成20年1月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
被告は,原告に対し,511万6510円及びこれに対する平成20年1月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告に対し,主位的に,両者間で締結されたとする後記本件契約1ないし3を被告が違法に解除したとし,予備的に,本件契約1についてかかる契約がなかったとしても契約締結が確実であったのにこの関係を被告が違法に解消したとして,それぞれ原告が被ったとする損害の賠償を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実)等
(1) 当事者等
ア 原告は,各種イベントの企画・制作・運営等を目的とする会社である。
イ 被告は,広告企画及び市場調査等を目的とする会社であり,C(以下「C」という。)は,被告の従業員である。
ウ Cは,被告の企画室勤務中の平成19年(以下,同年は年の記載を省略することがある。)4月12日,原告代表者(A)と会い,原告代表者は,5月9日,被告代表者(B)と面談した。
(2) 本件契約及びその解消等
ア 原告は,後記本件契約1ないし3(以下併せて「本件契約」という。)が成立した(ただし,予備的に,本件契約1はその契約締結が確実になった。)と主張し,被告は,原告の主張を否認する(両者間で共同事業を行おうとしていたと主張する。)ところ,本件契約に係る契約書は作成されておらず,原告代表者とCとの間等で多数のメールのやりとりがされた。
イ 上記各主張に係る原告と被告との関係は,6月18日,被告の意思表示により解消された。
2 争点
(1) 本件契約の成否等
(2) 本件契約の解除及びその違法性の有無
(3) 原告の損害
3 当事者の主張
(下記以外の間接事実等に関する主張のうち必要なものは後の第3に記載)
(1) 本件契約の成否等
(原告の主張)
ア 本件契約1(aキャンペーン業務委託契約)
(ア) 主位的主張
原告と被告は,6月15日,被告が原告に対し,専門学校への入学促進のためのプロモーション事業(雑誌やフリーペーパーに広告を出し,かつ,原告が企画したCDを体験入学参加者にプレゼントし,専門学校の体験入学を若年層に浸透させるためのキャンペーン活動)を委託し,体験入学者1名につき5000円の報酬(成果報酬)を支払うとの内容のaキャンペーンの業務委託契約(本件契約1)を締結した。
(イ) 予備的主張
仮に本件契約1が成立していないとしても,原告と被告は,6月15日に同契約に係る基本的合意をし,被告担当者において契約書が作成される予定になっており,原告は,同契約が確実に締結されると考え,その履行に具体的に着手していた。
イ 本件契約2(ミーティングイベント業務委託契約)
原告と被告は,4月23日及び6月17日,被告が原告に対し,専門学校の説明ブースを設置して高校生に学校説明の場を提供する下記①ないし⑦のイベント(以下順に「①イベント」等という。)の業務を委託し,報酬を支払うとの内容のミーティングイベントの業務委託契約(本件契約2)を締結した。①イベントは開催され,6月12日に被告から原告に報酬(税込み52万2500円)が支払われ,また,同月17日に②ないし⑦イベントの実施が具体的に合意された。
イベント実施日 会場(規模) 報酬(消費税別)
① 5月29日 千葉(80名) 50万円
② 6月29日 神奈川(60名) 30万円
③ 7月3日 千葉(80名) 50万円
④ 7月11日 東京(100名) 50万円
⑤ 7月18日 東京(30名) 20万円
⑥ 7月25日 東京(100名) 50万円
⑦ 8月7日 千葉(80名) 50万円
ウ 本件契約3(cサミット共同営業合意)
原告と被告は,4月12日,7月15日から10月21日にかけて全国で開催されるcサミットにおいて,専門学校・企業のプロモーション事業として,イベント会場で専門学校・企業説明用のブース設置及びフライヤー(ちらし)配布等を実施するべく,原告は学生を集め,被告は専門学校及び企業を集めるとの役割分担で共同で営業活動を行う旨の合意(本件契約3)をしたが,これ以上の取り決めは行われていない。
(被告の主張)
ア 原告の主張のうち,本件契約1及び2に係るaキャンペーン及びミーティングイベントの内容は大筋認め,本件契約3に係る事業を行う場合の役割分担を原告主張のとおりとする話が進められていたことは認めるが,その余はいずれも否認し争う。
イ 被告は,原告との間で共同事業を行おうとしたことはあるが,本件契約はいずれも成立しておらず,同1及び2に係る報酬の合意はなく,同1の契約締結も予定されていなかった。
同2につき,原告と被告の合意により①イベントを予想収入約100万円として試験的に実施したが,報酬は決め方さえも合意されていなかった。①イベントの実収入は41万6000円しかなかったが,参加費を無料とした学校もあったため,被告は,原告の要求により,この件に限り,予想収入額の半額相当の50万円(消費税別)を支払った。②ないし⑦イベント実施の具体的合意はなく,上記支払は後のイベントの報酬支払約束を示すものではない。
(2) 本件契約の解除及びその違法性の有無
(原告の主張)
被告は,6月18日,原告に対し,「被告社長から契約書で契約する会社とパートナーシップを組んで取引をするのは難しい」とのCのメール(甲17,18,215)により,合理的な理由を一切示さず,本件契約を一方的に破棄し,これを違法に解除した。
(被告の主張)
被告は,原告との共同事業を行おうとしていたが,原告の強圧的態度,信義則上の誠実交渉義務違反の債務不履行により,これを中止することとし,6月18日,Cからの電話及び原告主張のメールによって原告にこれを伝えたもので,被告の事業中止(本件契約の解除)は正当である。
(3) 原告の損害の有無及び額
(原告の主張)
原告は,本件契約の解除により,アないしウのとおりの損害を被った(本件契約1につき,主位的にはアⅠの逸失利益3621万5700円,予備的にはⅡの経費260万5300円を損害として請求する。)。
ア 本件契約1(aキャンペーン)関係
Ⅰ 逸失利益(主位的請求に係る主張) 3621万5700円
次の収入から経費を控除した逸失利益
(ア) 収入 3887万1000円
a 報酬 3150万円
広告を掲載した雑誌及びフリーペーパー(①POSHH!7月17日発売号CS2007,②同同Tokyo Real,③同8月17日発売号CS2007,④同同Tokyo Real,⑤DROP7月1日配布号CS2007,⑥同同Tokyo Real,⑦同8月1日配布号CS2007,⑧同同Tokyo Real)の売上及び配布合計26万部(①ないし④の20万部,⑤ないし⑧の6万部)の5パーセント1万3000人を体験入学者として獲得することが可能であり,確実に体験入学者となったと考えられる6000人につき1人当たり5250円の報酬(消費税込み)
b CD売上 632万1000円
体験入学者6000人につき,3000人ずつに配付される2種のCD(cサミット2007及びTokyo Real)の原告から被告への販売による利益(cサミット2007の利益794円(仕入値2146円-売価2940円)×3000とTokyo Realの利益1313円(仕入値262円-売価1575円)×3000の合計)
c 広告費 105万円
b誌への広告費分52万5000円と原告出稿の広告についての被告負担分52万5000円
(イ) 経費 260万5300円
a 原稿変更制作費 53万4800円
①aキャンペーン27万3000円,②cサミットジャケット版データ修正8万4000円,③cサミットモデル版デー修正8万4000円,④Tokyo Realデータ修正8万4000円,⑤会議室代3000円,⑥通信費3000円,⑥交通費3800円の合計
b 広告費 207万0500円
上記(ア)aの①と②,③と④につき各34万6500円,⑤と⑥,⑦と⑧につき各57万7500円,スーパーライザ渋谷への7月1日から同月31日までのビジョン出稿分22万2500円の合計
Ⅱ 経費(予備的請求に係る主張) 260万5300円
上記1(イ)の経費
イ 本件契約2(ミーティングイベント)関係 224万1750円
①イベントによる原告の利益44万8350円(報酬52万2500円-(動員協力費5万円+交通費1万0560円+通信費6000円+会議費1万円))の利益率85.4パーセントによって算定される②イベントないし⑧イベント(報酬額合計250万円)が実施されなかったことによる逸失利益224万1750円(250万円×0.854+消費税5%)
ウ 本件契約3(cサミット)関係 26万9460円
原告が本件契約3に関して支出した営業経費(交通費,通信費,人件費)の合計
(被告の主張)
原告の主張は,いずれも否認し若しくは知らず又は争う。
第3 当裁判所の判断
1 当事者等とその地位及び関係等
争いのない事実並びに後掲証拠(認定事実に反する部分を除き,書証の枝番は省略することがある。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,平成17年7月設立の会社であり,原告代表者(A)は平成19年3月28日にその代表取締役に就任した。原告は,各種イベントの企画・制作・運営等を目的としており,フリーペーパーb誌を発行し,b1というサイトを運営し,平成17年12月22日出願の「cサミット」の商標登録をしており,毎年夏ころにイベントcサミットを実施しており,映画Tokyo Realの制作にも関与していた(甲276,293,原告代表者。なお,被告は,原告代表者がdサークルあるいはD(強姦事件で有罪判決を受けた人物)と関係があるように主張するところ,平成12年に開催されたcサミット2000において原告代表者が全国実行委員長,Dが企画統括を務め,その当時両者がいずれもe大学に属していたことは認められる(乙13,14)が,それ以上の両者の関係を認めるべき証拠はない。)。
(2) 被告は,被告代表者(B)が昭和55年8月に設立した広告企画及びその市場調査等を目的とする会社であり,顧客を大学及び専門学校等(以下「上級学校」ともいう。)並びに高校とその生徒及び教員等とし,高校生に対し上級学校への進路ガイダンスを行い,情報誌や新聞を発行し,○○というサイトを運営し,進路相談会等の事業を実施している。この事業における被告の収入は,上級学校から支払われるイベント参加費及び情報誌等に掲載する広告料であり,これらは毎年度ごとに前年度の3月までに予定される(上級学校の予算は前年度3月までに配分され,予算化されていない費用は予備費等によって支出されることになるため,新年度に入ってから新たな契約をするのは難しい。)が,イベントについては,その実施後において,実績(上級学校の希望する生徒が来場したか等)によって参加費の支払の要否や額が最終的に決定される。また,被告は,従来,イベントへの高校生の集客(動員)を自ら行っており,他社にこれを依頼(外注)したことはなかった(甲58,158,176,乙15,16,被告代表者)。
(3) Cは,e大学を卒業後,金融会社を経て平成12年9月に被告に入社し,教育事業部(イベントの実施等を担当)で勤務し,平成18年9月から企画室(上級学校の生徒募集に関する企画立案,顧客の新規開拓等の業務を担当)に所属していたが,平成19年3月ころ,cサミットというイベントが多くの高校生を集めていることを知り,高校生を被告の顧客に引き合わせることができれば被告の利益につながると考え,4月7日に会った関西のcサミット代表者から東京におけるcサミット代表者として原告代表者を紹介してもらった。
Cと原告代表者は,同月12日に面談した。この面談において,Cは,同月12日,原告代表者の実績や考え方に感銘を受け,しかもe大学の学生時代に原告代表者が既に有名で,Cも原告代表者の妹と知り合ってその自宅に行った際に原告代表者に会っていたことなどから,原告代表者と意気投合した。Cは,原告代表者に対し,被告の事業の概略を伝え,Cが被告社内で孤立感を感じていて一旗揚げたい(手柄を立てたい。)と考えていることなどを告げ,原告代表者と一緒に仕事をしたいと申し出,被告の顧客であるf専門学校(以下「f専」という。)が同月22日に開催を予定していたダンスイベント等に高校生を動員できないかなどと持ちかけ,イベントにおける集客の報酬(キックバック)は一般に3000円ないし4000円程度であり,5000円程度のこともあり,f専のイベントに集客ができれば3000円程度は支払えるなどと述べた(甲60,114,293,乙16,証人C,原告代表者。なお,後記のとおり,同日以降,原告代表者とCとの間で種々のメール等によるやりとりがされ,両者が共同であるいは個別に本件契約に係る営業活動等を行った。)。
(4) 原告代表者は,5月9日,被告事務所を訪ね,被告代表者と面談し,大学はオープンキャンパスに関心を持っているので参加者が増えれば喜ぶといった一般論を話したが,原告代表者とCとのやりとりに関する具体的進捗状況等は話題とならなかった(乙15)。
(5) 被告においては,外注費は見積書の提出を受けて担当者が稟議書を作成し,被告代表者が許可する手続を経て支払っており,新規の取引先とは相手方会社の内容や実績等を検討した上で契約を締結する(必ず契約書を作成するわけではない。)こととされている。Cは,原告代表者に対し,当初の面談の際からCには契約締結の権限がないことを告げており,原告代表者もCにその権限がないことを認識していた(甲166,167,188ないし193,293,乙15,16,証人C,原告代表者,被告代表者)。
2 本件契約の成否等について
(1) 原告は,本件契約が成立した(本件契約1については,予備的に,契約締結が確実であった。)と主張するが,これを認めることはできない。以下,原告の主張する契約の成立日順に補足して説明する。
(2) 本件契約3(cサミット共同営業合意)について
ア 原告は,4月12日に本件契約3が成立した旨主張する。
イ 上記1(3)によれば,同日,原告代表者とCが面談したこと,面談は,Cにおいて,多数の高校生の参加があるcサミットを利用して被告の事業を行えば,被告が利益を上げられるとの考えによって行われたものであること,面談の際,Cは,被告が原告に対して集客に関する報酬を支払う旨述べたことが認められる。また,その事業は原告が学生を集め,被告が専門学校等を及び企業を集めるとの役割分担で行われるものとされ,同日以降,原告代表者及びCは,それぞれ又は原告代表者がCに協力して,学生の集客や専門学校等への営業活動等を行い,両者間等においてこれらの活動等に関する頻繁なメールのやりとり等がされた(争いのない事実,甲13ないし16,94,95,100,101,109,118,123,126,127,138,141,142,149,150,151,162,163,172,175,197,199,201,207,208,293,乙16,証人C,原告代表者)。
ウ しかし,原告の主張によっても,原告と被告との間では上記の役割分担によって共同で営業活動を行う旨の合意がされた以外は,報酬や費用の負担等を含めて具体的な取り決めはされておらず,上記事実によって本件契約3が成立したとすることはできない。
(3) 本件契約2(ミーティングイベント業務委託契約)について
ア 原告は,4月23日及び6月17日に本件契約2が成立した(6月17日により具体的合意がされた。)旨主張する。
イ Cは,専門学校の説明ブースを設置し,原告の有する集客力を利用して高校生に学校説明の場を提供するというミーティングイベントを開催することを考え,4月20日ころからその旨を原告代表者及び被告代表者に告げていた。被告は,5月29日に千葉会場において試験的に①イベントを行うことを決め,同日,同イベントが実施されたが,報酬については,原告が収入(売上)の半額相当を要求し,Cが経費を控除した利益の折半とすることを提案しており,合意に達していなかった。①イベントが開催された後,原告は同イベントの予想収入であった100万円の半額相当の50万円(税別)の支払を要求し,被告は,実収入が41万6000円しかなかったが,6月12日に要求どおりの報酬を支払った。また,同月17日ころまでの間に,Cと原告代表者との間において,原告が集客をし,被告が上級学校等の参加を募ることを前提として,同月29日から8月7日までの間に神奈川,千葉及び東京の会場において②ないし⑦イベントの開催することに関する打ち合わせがメール等によって頻繁に行われた(争いのない事実,甲8ないし12,84,85,91,94,95,100,101,109,118,123,126,127,142,149,150,151,162,163,172,175,197,199,201,207,208,293,乙16,証人C,原告代表者)。
ウ しかし,上記認定の事実から,原告と被告との間でミーティングイベントの業務委託契約である本件契約2が成立したとすることはできない。
(ア) すなわち,上記事実によれば,①イベントについては原告と被告との合意に基づいて実施され,その報酬が被告から原告に支払われたことが認められるが,②ないし⑦イベントの開催が具体的に確定したことやその報酬の支払についての合意が成立したとの事実を認めることはできない(原告が本件契約2締結の事実を示すものとする甲68,70ほかのメールもCと原告代表者あるいは原告が上記営業活動を行っていることの報告や,開催日及び場所の打診やこれに対する回答等をしているだけであって,これらによって上記認定以上の事実を認定することはできない。)。
(イ) のみならず,上記1(5)のとおり,被告において外注費は稟議書の提出後に被告代表者が許可する手続を経て支払われることとされており,Cは,原告代表者に対し,4月12日の面談時からCに契約締結権限がないことを告げ,原告代表者もそのことを認識していたのであり(この認定を覆すに足りる証拠はない。),上記イ認定のような打ち合わせ等がCとの間で頻繁に行われたからといって,原告と被告との間で本件契約2が成立することになるものではない。
(ウ) なお,原告代表者は,契約書が存在しないことに関し,原告としては再三にわたって契約書の作成を求めてきたが被告がこれに応じなかった旨供述する(甲293の陳述書の記載を含む。)。そして,被告は外注の契約をする場合であっても必ず契約書を作成するわけではないが,原告が契約書の作成を求めていたのは,上記活動等をしていても被告との契約が締結されたことになるものではないことを原告においても認識していたからであると考えるのが自然である。また,原告代表者は,契約書がなくとも契約が成立していると主張する根拠として,原告代表者が被告代表者と面談していることを揚げるが,上記1(4)のとおり,両者が面談したのは5月9日の1回のみで,その際も一般論の話がされただけで,原告代表者とCとのやりとりに関する具体的進捗状況等は話題とならなかったのであって(この認定に反する証拠はない。),このような面談があったことによって,原告と被告との間の契約が成立したことになるものではない。
(4) 本件契約1(aキャンペーン業務委託契約)について
ア 原告は,6月15日に本件契約1が成立した(予備的には,同日,両者間で同契約に係る基本的合意がされ,被告担当者において契約書が作成される予定になっており,同契約が確実に締結される状態となっていた。)旨主張する。
イ Cと原告代表者は,雑誌やフリーペーパーに被告の広告を掲載し,これによって集まった学生には被告が原告から購入するCDを無料で配付し,体験入学者があれば被告から原告に報酬を支払うこと等を内容とする高校生の専門学校への入学促進のためのプロモーション事業を原告と被告が共同して行うことを企画した。Cは,その企画を被告代表者に報告し,6月6日までに被告代表者から平成19年度に広告費50万円を支出することの了承を得てその旨を原告代表者に伝え(甲158),原告代表者は,同日及び同月14日には,これを了解したとして,「体験入学者ひとりあたりの成果報酬は1万円程度」「成果報酬契約を締結して3月締め,次年度払いにて実施」等と記載されたメールをCに送信し,さらに,Cは,同月14日に原告代表者の上記メールを被告総務部に渡して契約書を作成させている旨のメール(甲188)を原告代表者に送信した。また,同月18日ころまでの間には,原告代表者とC及び被告WEB制作担当者等との間で,掲載する広告の内容やそこに用いられる被告のロゴマークに関する打ち合わせ等が行われ,原告は,雑誌やフリーペーパー及びスーパーライザ渋谷に被告のサイトである○○についての記載がある広告を掲載等する準備をした(争いのない事実,甲73ないし76,81,82,139,153ないし156,158ないし161,170,174,177ないし185,188,193,196,198,200,202ないし206,210ないし214,272ないし275,278,279,286ないし293,乙15,16,証人C,原告代表者,被告代表者)
ウ しかし,上記認定の事実から,原告と被告との間でaキャンペーンに係る業務委託契約である本件契約1が成立し,あるいは契約締結が確実になっていたとすることはできない。
すなわち,上記事実によれば,被告代表者は同キャンペーンに関して広告費50万円を支出することを認め,Cがこれを原告代表者に伝え,その後,原告代表者とCほかの被告担当者との間で雑誌等に掲載する広告についての打合せ等がされたことが認められる。しかし,原告と被告との間でそれ以上に具体的な合意がされたとは認められず,そもそも同年中に被告が原告に対してaキャンペーンに係る業務委託をするのか否かさえ不明で,委託をするとした場合に,原告主張の成果報酬を含め,どのような報酬等を支払うのか等についても,6月15日(原告の主張する契約日)の時点でも合意に至っておらず,上記打合せに係る広告が実際に雑誌等に掲載されたとの事実も認められないのであって,このような状態をもって契約が成立していたとか,基本的合意ができていて契約締結確実の状態であったと評することはできない。
原告は,原告代表者が6月14日に送信したメールが本件契約1の内容を示している旨主張するが,そのメール自体及びその前提とされる甲158のCからのメールによっても同契約が原告主張の内容によって成立しているとは認められず(甲158のメールには,上記1(4)の被告と上級学校との契約を前提とし,「…今年度はサイトから体験入学をさせて,お金を取るという契約仕組みができていないようです。…仮にこの仕組みで6000人体験入学に動員できればその実績を元ににはなりますが,各専門学校に予算を組みをさせる動きをとるとのことです。最低でも2000万から3000万の広告費を次年度Aさんにお支払いするとのことです。1年ブランクがあいてしまいますが,悪くない話だと思います。」などと記載されているにすぎず,広告費50万円の点を除き,平成19年度に報酬等を支払うことや成果報酬を1万円とする合意がされたことなどは一切記載されておらず,甲188のメール及びその前後のメール等を見ても,これらの点につき原告と被告との間で具体的な合意ができていたなどとはいえない。),また,認定し得る上記のような事情から同契約の締結が確実に見込まれる状態であったなどとすることはできない。
さらに,被告における契約締結及びCの権限等に関しては上記(3)ウ(イ)及び(ウ)記載のとおりであり,これらの点からしても,本件契約1が成立し,あるいは契約締結が確実になっていたとすることはできない。
3 以上のとおり,本件契約が成立したとか,本件契約1について契約締結が確実であったとはいえないから,原告の被告に対する主位的請求及び予備的請求は,その余の点を論ずるまでもなく理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 笠井勝彦)
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