「営業代行」に関する裁判例(13)平成28年 6月23日 東京地裁 平25(ワ)34654号 損害賠償請求事件
「営業代行」に関する裁判例(13)平成28年 6月23日 東京地裁 平25(ワ)34654号 損害賠償請求事件
要旨
◆「エスプリンセス」の文字等から成る商標につき商標権を有する第一事件原告会社が第一事件被告会社に商品の製造を委託してその製造代金を支払う旨の本件製造契約を締結し、その後、第一事件被告会社が商品の販売を代行してその販売代金を第一事件原告会社に支払う旨の本件代行契約が締結され、さらに、本件代行契約が解除されるに至ったところ、第一事件原告会社が、第一事件被告会社に対し、本件代行契約の債務不履行に基づく損害賠償、同契約に基づく販売代金の支払を求めるとともに、本件代行契約解除後の第一事件被告会社による被告標章1~4の使用が第一事件原告会社の有する本件商標権の侵害に当たると主張して、被告各標章の使用の差止め及び同各標章が付された商品等の廃棄並びに損害賠償を求めた事案において、債務不履行に基づく損害賠償請求及び販売代金支払請求は理由がないが、本件商標権侵害に基づく請求は、被告標章1、2及び4の使用の差止め並びにこれらを付した商品又は包装の廃棄を求める限度で理由があるとして、請求を一部認容した事例(第1事件)
◆第一事件被告会社が、第一事件原告会社に対し、主位的に、第一事件原告会社が本件製造契約において見通しを誤った過大な発注を行ったことなどが不法行為に当たると主張して、損害賠償を求め、予備的に、本件製造契約に基づく製造代金等の支払を求めるとともに、第一事件原告会社の代表取締役に対し、同人は第一事件原告会社の不法行為等につき会社法429条1項の責任を負うと主張して、連帯支払を求めた事案において、不法行為を理由とする第一事件原告会社に対する請求及びこれを前提とする同社の代表取締役に対する損害賠償請求は、いずれも理由がないが、本件製造契約に基づく製造代金の請求は9449万1216円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして、請求を一部認容した事例(第2事件)
参照条文
民法173条1号
民法709条
会社法429条1項
商標法36条1項
商標法36条2項
商標法37条1号
商標法38条2項
民事訴訟法142条
裁判年月日 平成28年 6月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)34654号・平27(ワ)8166号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 第1事件一部認容、第2事件一部認容 文献番号 2016WLJPCA06239002
平成25年(ワ)第34654号 損害賠償請求事件(第1事件)
平成27年(ワ)第8166号 損害賠償等請求事件(第2事件)
第1事件原告兼第2事件被告 ブリリアントビューティー株式会社
(以下「ブリリアント社」という。)
第2事件被告 A
(以下「A」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 酒井将
浅野健太郎
同訴訟復代理人弁護士 日原聡一郎
藤井真事
第1事件原告補佐人弁理士 児玉道一
第1事件被告兼第2事件原告 コスメテックスローランド株式会社
(以下「ローランド社」という。)
同訴訟代理人弁護士 村和男
宮舘雅義
藤野大介
第1事件被告補佐人弁理士 岩堀邦男
主文
1 ローランド社は,別紙被告標章目録記載1の標章を別紙被告商品目録記載1~5の商品に,別紙被告標章目録記載2の標章を別紙被告商品目録記載1~4の商品に,別紙被告標章目録記載1若しくは2の標章を別紙被告商品目録記載6の商品の包装に,別紙被告標章目録記載4の標章を別紙被告商品目録記載7の商品の包装に付し,上記各標章を付した各商品若しくは各包装を販売し,又は販売のために展示してはならない。
2 ローランド社は,別紙被告標章目録記載1の標章を付した別紙被告商品目録記載1~5の商品,別紙被告標章目録記載2の標章を付した別紙被告商品目録記載1~4の商品,別紙被告標章目録記載1又は2の標章を付した別紙被告商品目録記載6の商品の包装及び別紙被告標章目録記載4の標章を付した別紙被告商品目録記載7の商品の包装をいずれも廃棄せよ。
3 ブリリアント社のその余の請求をいずれも棄却する。
4 ブリリアント社は,ローランド社に対し,9449万1216円及びこれに対する平成27年5月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 ローランド社の主位的請求及びその余の予備的請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,第1事件及び第2事件を通じ,ブリリアント社とローランド社の間ではこれを10分し,その6をブリリアント社の,その余をローランド社の各負担とし,Aとローランド社の間では全てローランド社の負担とする。
7 この判決は,1項及び4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
(1) ローランド社は,別紙被告標章目録記載1の標章(以下,同目録記載の標章をその番号により「被告標章1」などという。)を別紙被告商品目録記載1~5の商品(以下,同目録記載の商品をその番号により「被告商品1」などという。)に,被告標章2を被告商品1~4に,被告標章1若しくは2を被告商品6の包装に,被告標章3若しくは4を被告商品7の包装に付し,上記各標章を付した各商品若しくは各包装を販売し,又は販売のために展示してはならない。
(2) ローランド社は,被告標章1を付した被告商品1~5,被告標章2を付した被告商品1~4,被告標章1又は2を付した被告商品6の包装及び被告標章3又は4を付した被告商品7の包装をいずれも廃棄せよ。
(3) ローランド社は,ブリリアント社に対し,3億2252万2618円及びうち1億9442万6533円に対する平成26年3月14日から支払済みまで年6分の割合による金員,うち1億2809万6085円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
(主位的請求)
ブリリアント社及びAは,ローランド社に対し,連帯して2億6000万円及びこれに対する平成27年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
ブリリアント社及びAは,ローランド社に対し,連帯して2億4716万5219円及びこれに対する平成27年5月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は商品名を「エスプリンセス」,「esprincess」とするシャンプー等の商品に関する訴訟であり,ブリリアント社がローランド社に対し商品の製造を委託してその製造代金を支払う旨の契約(以下「本件製造契約」という。)を締結し,ローランド社が製造した商品をブリリアント社が販売していたが,その後,ローランド社が商品の販売を代行してその販売代金をブリリアント社に支払う旨の契約(以下「本件代行契約」という。)が締結され,さらに,本件代行契約が解除されるに至った。また,ブリリアント社は「エスプリンセス」の文字等から成る商標につき商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有するところ,ローランド社は本件代行契約の解除後も「esprincess」の文字を含む標章を付したシャンプー等の商品を販売した。
第1事件は,ブリリアント社が,ローランド社に対し,(1) ローランド社が本件代行契約上の債務を履行しなかったと主張して,①債務不履行に基づく損害賠償金1億7515万4420円及びこれに対する履行の請求の後である平成26年3月14日(第1事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,②本件代行契約に基づく販売代金1927万2113円及びこれに対する履行期の後である同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の各支払を求めるとともに,(2) 本件代行契約解除後のローランド社による被告標章1~4の使用が本件商標権の侵害に当たると主張して,商標法36条1項及び2項に基づく上記各標章の使用の差止め及びこれが付された商品等の廃棄と,民法709条及び商標法38条2項に基づく損害賠償金1億2809万6085円及びこれに対する商標権侵害行為の後である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴訟である。
第2事件は,ローランド社が,(1) ブリリアント社に対し,①主位的に,ブリリアント社がローランド社と締結した本件製造契約において見通しを誤った過大な発注を行ったことなどが不法行為に当たると主張して,民法709条に基づく損害賠償金2億6000万円及びこれに対する不法行為の後である平成27年5月2日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の,②予備的に,本件製造契約に基づく製造代金2億4716万5219円及びこれに対する履行期の後である同日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の,(2) ブリリアント社の代表取締役であるAに対し,Aは上記(1)のブリリアント社の不法行為等につき会社法429条1項の責任を負うと主張して,主位的に上記①,予備的に同②の金員の各連帯支払を求める訴訟である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ブリリアント社は化粧品,シャンプー及び美容器具の企画,販売その他商品開発を業とする株式会社であり,Aはその代表取締役である。
ローランド社は,医薬部外品,化粧品,健康食品及び雑貨の製造販売及び輸出入を業とする株式会社である。
(2) ブリリアント社の商標権
ブリリアント社は,別紙商標権目録記載の本件商標権を有している。
(3) 本件製造契約
ア ブリリアント社とローランド社は,平成23年6月24日,ブリリアント社がローランド社に対しシャンプー及びコンディショナー各20万本並びに容器金型4個の製造を8120万円(内訳:シャンプー及びコンディショナー各1本当たり198円,容器金型1個当たり50万円)で委託する旨の契約を締結した。(甲3,乙1)
イ ブリリアント社は,ローランド社に対し,同年9月20日,「仮発注書」と題する書面を送付した。同書面には,シャンプー及びコンディショナー各50万本の製造を1億9800万円(1本当たり198円)で発注する旨の記載がある。(乙14,30。ただし,ブリリアント社が上記各50万本の製造を委託したかなど本件製造契約の内容については当事者間に争いがある。)
ウ ローランド社は,同年9月~12月の間,シャンプー25万2647本,コンディショナー21万9371本,セットボックス(シャンプー及びコンディショナー各1本を箱詰めしたもの)35万1504セット等の商品をブリリアント社に納品した。ブリリアント社は,製造代金のうち6046万0424円をローランド社に支払った。また,ブリリアント社は,上記期間中,シャンプー7878本,コンディショナー7572本,セットボックス12万5243セット等の商品を販売した。(甲8,40,41,乙31)
(4) 本件代行契約
ア ブリリアント社とローランド社は,平成24年1月15日に覚書を取り交わして,エスプリンセスブランドのシャンプー等の商品をローランド社がブリリアント社に代わって販売することに関する本件代行契約を締結した。上記覚書には,以下の趣旨の条項がある。(甲12)
(ア) 営業代行の販売数量として,同年1月から3月末までのセットボックスの販売努力目標数を50万セットとし,販売目標本数を38万セットとする。(3条1項)
(イ) ローランド社は,3条に定める販売数量における支払を,ローランド社の取引先・取引条件一覧表に基づき商品を販売し,入金された金額をローランド社への入金後5営業日以内にブリリアント社の指定する金融機関に振り込むものとする。(4条)
イ ローランド社が上記ア(ア)の期間中に販売したセットボックスは2万0340セットであった。(甲13)
ウ ブリリアント社は,同年10月3日に本件代行契約を解除した。(甲17,乙18。なお,ローランド社は解除の効力を争っていない。)
(5) ローランド社の行為
ローランド社は,同月4日以降,被告標章2を被告商品1~4及び被告商品6の包装に,被告標章4を被告商品7の包装にそれぞれ付して,これらの商品を販売した(被告標章1及び3の使用については争いがある。)。
3 争点
(1) 本件代行契約の債務不履行に基づく損害賠償請求について(第1事件)
ア 最低販売数量の保証の有無
イ 努力義務違反の有無
ウ 損害額
(2) 本件代行契約に基づく販売代金請求について(第1事件)
ア ローランド社が支払うべき販売代金の額
イ 本件製造契約に基づく製造代金請求権との相殺の成否
(3) 不法行為及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求について(第2事件,主位的請求)
ア 不法行為の成否
イ 悪意又は重過失の有無
ウ 損害額
エ 消滅時効の成否等
(4) 本件製造契約に基づく製造代金請求及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求について(第2事件,予備的請求)
ア 訴えの適法性
イ ブリリアント社が支払うべき製造代金の額
ウ 悪意又は重過失の有無
エ 本件代行契約による製造代金請求権の消滅の有無
オ 消滅時効の成否
カ 信義則違反の有無
キ 損害賠償請求権又は不当利得返還請求権との相殺の成否
(5) 商標権侵害に基づく請求について(第1事件)
ア 被告標章1及び3の使用の有無
イ 本件商標と被告標章1~4の類否
ウ 損害額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 本件代行契約の債務不履行に基づく損害賠償請求について(第1事件)
ア 最低販売数量の保証の有無
(ブリリアント社の主張)
ブリリアント社は,シャンプー等の納品日を重視しており,ローランド社に対して平成23年8月末日までに納品してほしい旨繰り返し伝えていたが,ローランド社はこの日までに納品せず,その後製造でき次第納品するという状態であった。ローランド社による納品遅延により,ブリリアント社は予定どおり販売することができず,売上げの減少,倉庫料や広告費等の支出,在庫の発生などの損失が生じた。そこで,ローランド社は,自ら生じさせた損害について責任を取り,これを確実に填補するために,ブリリアント社を代行して商品を販売するとともに,ローランド社の販売本数につき50万セットを努力目標とし,38万セットという最低保証販売数を設定することを内容とする本件代行契約を締結した。
したがって,ローランド社は,本件代行契約に基づき,平成24年1月~3月の間にシャンプーとコンディショナーを最低38万セット販売しなければならない債務を負う。しかし,ローランド社は,上記期間に2万0340セット販売したのみであるから,債務不履行となる。
(ローランド社の主張)
ローランド社による納品遅延があったことは否認する。納品がブリリアント社の当初希望納期より遅れた原因は,必要な発注書を交付しないなど同社の側にある。本件代行契約は,ブリリアント社によるシャンプー等の販売が低迷したままではブリリアント社からの製造代金の回収が困難となることから,その回収を目的として,ローランド社がブリリアント社を代行してシャンプー等を販売するとしたものである。そして,覚書中の「販売目標本数」はローランド社が支払った資材購入費相当額を回収できるという第1段階の目標数としての38万セットであり,「販売努力目標数」は在庫全てを販売できるという希望的数値としての50万セットであって,いずれも販売目標を定めたものにすぎない。したがって,ローランド社はセットボックスを38万セット販売すべき債務を負わない。
イ 努力義務違反の有無
(ブリリアント社の主張)
仮にローランド社が上記アの債務を負わないとしても,ローランド社は少なくとも38万セット販売するべく努力する義務を負う。ところが,ブリリアント社が平成23年9月~12月に1か月当たり3万セット以上販売したのに対し,ローランド社は平成24年1月~3月に1か月当たり約7000セットしか販売しておらず,この努力すべき義務を怠ったから,ローランド社には債務不履行がある。
(ローランド社の主張)
ローランド社は,製造代金を回収するため,本件代行契約に基づき真摯に営業代行に取り組んでおり,努力義務を怠っていない。
ウ 損害額
(ブリリアント社の主張)
ブリリアント社は,ローランド社の債務不履行により,38万セットを販売できた場合の売上げと実際の売上げの差額である1億7515万4420円((38万-2万0340)×487円)の損害を被った。
(ローランド社の主張)
争う。
(2) 本件代行契約に基づく販売代金請求について(第1事件)
ア ローランド社が支払うべき販売代金の額
(ブリリアント社の主張)
本件代行契約は,ローランド社が商品の販売を代行し,販売代金をブリリアント社に対して支払うものであるところ,ローランド社が平成24年1月~9月25日の間に代行販売した商品の代金額は合計1億2433万1231円である。このうち5036万2992円が未払であるが,他方でブリリアント社はローランド社に対して3109万0879円の製造代金の支払義務を負っている。したがって,ブリリアント社は,ローランド社に対し,上記の差額である1927万2113円の支払を求める。
(ローランド社の主張)
未払の販売代金の額は1951万3276円である。
イ 本件製造契約に基づく製造代金請求権との相殺の成否
(ローランド社の主張)
後記(5)イ(ローランド社の主張)のとおり,ローランド社はブリリアント社に対し本件製造契約に基づく製造代金請求権を有しているところ,平成23年12月31日時点の残額は2億4716万5219円であった。
そして,ローランド社はブリリアント社に対し上記製造代金請求権をもってブリリアント社の販売代金請求権と対当額において相殺するとの意思表示をしたから,上記販売代金請求権は消滅した。
(ブリリアント社の主張)
後記(4)イ(ブリリアント社の主張)のとおり,「仮発注書」による製造契約は成立していないから,ローランド社が主張する製造代金請求権は存在しない。また,同エ(ブリリアント社の主張)のとおり,本件代行契約の締結により製造代金請求権は消滅した。さらに,同カ(ブリリアント社の主張)のとおり,ローランド社が製造代金請求権を行使することは信義則に反するから,相殺の自働債権とすることもできない。
(3) 不法行為及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求について(第2事件,主位的請求)
ア 不法行為の成否
(ローランド社の主張)
ブリリアント社は,販売の見通しも立たず,支払能力を欠くにもかかわらず,ローランド社との間で本件製造契約を締結し,確たる販売計画に裏付けられていない過大な発注を行い,その代金も支払わなかった。これは詐欺的な行為であり,取引として合理性を逸脱し,社会的相当性を欠くものであって,不法行為が成立する。
(ブリリアント社の主張)
ブリリアント社の販売の見通しが甘かったということはない。商品を十分に販売できなかった原因は,ローランド社による納品の遅延にある。
イ 悪意又は重過失の有無
(ローランド社の主張)
Aはブリリアント社の代表取締役としてブリリアント社の上記行為に積極的に関与していたから,職務を行うにつき悪意又は重過失がある。
(Aの主張)
争う。
ウ 損害額
(ローランド社の主張)
ローランド社は,ブリリアント社及びAの行為により,本件製造契約に基づく未払の製造代金額に相当する2億4716万5219円の損害を被った。また,弁護士費用相当額は1283万4781円である。
(ブリリアント社及びAの主張)
ローランド社は自ら商品を販売したことにより既に製造代金相当額の販売代金を取得しているから,ローランド社に損害は発生していない。
エ 消滅時効の成否等
(ブリリアント社の主張)
第2事件における主位的請求は,形式的には不法行為に基づく損害賠償請求であるが,その実質は予備的請求と同じく本件製造契約に基づく製造代金の請求である。したがって,予備的請求について後述するのと同様に,消滅時効が成立しており,又は信義則に反するものとしてローランド社の請求は許されない。
(ローランド社の主張)
争う。
(4) 本件製造契約に基づく製造代金請求及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求について(第2事件,予備的請求)
ア 訴えの適法性
(ブリリアント社の主張)
第2事件の予備的請求に係る製造代金請求権は第1事件において相殺の抗弁に供されているから(前記(2)イ),製造代金の支払を求める訴えは民事訴訟法142条の趣旨に反して不適法である。
(ローランド社の主張)
本件は第1事件において相殺の抗弁を主張した後に第2事件が提起されたいわゆる抗弁先行型であること,両事件の弁論は併合されており,同一機会に審理されること,相殺に供されるのは第2事件の請求額の一部であることからすれば,第2事件の訴えの提起が不適法となることはない。
イ ブリリアント社が支払うべき製造代金の額
(ローランド社の主張)
ローランド社は,ブリリアント社との間で,平成23年6月24日にシャンプー及びコンディショナー各20万本並びに容器金型4個,同年9月26日にシャンプー及びコンディショナー各50万本をそれぞれ製造する旨の契約を締結した。これに加え,営業用サンプル容器,特別セット等の製造の委託を受け,個別的に契約が成立した。ローランド社は,これら本件製造契約に基づき,同年9月~12月の間にシャンプー及びコンディショナー合計117万5026本等の商品を製造し,ブリリアント社に納入した。ところが,これらの代金のうち同月31日時点において2億4716万5219円が未払であるから,ローランド社は,ブリリアント社に対し,本件製造契約に基づき,同額の製造代金の支払を求める。
(ブリリアント社の主張)
ブリリアント社がローランド社に対して平成23年9月20日に送付したのは仮発注書であり,製造ラインを押さえるために形式的に作成したものにすぎないから,上記各50万本の製造契約は成立していない。
ブリリアント社が支払義務を負うのは,本件代行契約の締結までにブリリアント社が販売したシャンプー等の製造代金のみであり,その額は6480万5688円(シャンプー208円×8250本,コンディショナー208円×7896本,セットボックス456円×13万4255セット,トリートメント215円×1056本。甲13)であるが,既にローランド社に対し6026万0424円を支払っているので,残額は454万5264円である。
ウ 悪意又は重過失の有無
(ローランド社の主張)
Aは,ブリリアント社の代表取締役として,ブリリアント社が上記の債務不履行によりローランド社に損害を与えたことについて,その職務を行うにつき悪意又は重過失がある。
(Aの主張)
争う。
エ 本件代行契約による製造代金請求権の消滅の有無
(ブリリアント社の主張)
本件代行契約は,ローランド社が商品を代行販売し,その販売代金をブリリアント社に対して支払うとともに,ブリリアント社は受け取った販売代金の中から販売された商品の製造原価のみを支払えば足りるというものであるから,本件代行契約の締結前に発生した本件製造契約に基づく製造代金請求権は本件代行契約によって清算され,消滅した。
(ローランド社の主張)
ブリリアント社はローランド社から受け取った販売代金の中から未払となっていた製造代金を支払うとされていたのであって,本件代行契約によって製造代金請求権が消滅したということはない。
オ 消滅時効の成否
(ブリリアント社の主張)
本件製造契約に基づく製造代金請求権は民法173条1号所定の債権に当たるところ,その支払日(遅くとも平成23年12月31日)から第2事件の提訴(平成27年3月25日)までに2年が経過し,ブリリアント社が時効を援用したから,同権利は消滅時効により消滅した。
(ローランド社の主張)
ブリリアント社は,時効期間経過後,平成26年10月2日付け準備書面において,額については争うものの,製造代金の支払義務自体は承認しているから,時効援用権を喪失し,又は信義則上その援用は許されない。
カ 信義則違反の有無
(ブリリアント社の主張)
ローランド社は,本件製造契約に基づき未払の製造代金を請求しているが,他方で,その製造したシャンプー等を販売して代金を受け取っている。これに対し,ブリリアント社は,シャンプー等を占有していないため,自ら販売することができない。このような状況下でローランド社がブリリアント社に対して製造代金の支払を請求することは信義則に反する。
(ローランド社の主張)
ブリリアント社が製造代金を支払わず,しかも,ローランド社の保管するシャンプー等の在庫の引取りを拒んでいるのに対し,ローランド社はブリリアント社から製造代金を受け取れないために損失を被っているのであるから,ローランド社に信義則違反はない。
キ 損害賠償請求権又は不当利得返還請求権との相殺の成否
(ブリリアント社の主張)
(ア) ローランド社は,本件代行契約が解除されたことにより,ブリリアント社に対してその占有している商品(ローランド社の主張によれば,解除時点での在庫はシャンプー22万5108本,コンディショナー18万7448本,セットボックス13万1646セットである。)を引き渡す債務を負っていたにもかかわらず,これを引き渡さず,ブリリアント社の所有権及び販売権を侵害した。ブリリアント社は,この債務不履行又は不法行為によって,引渡しを受けていれば販売することができたシャンプー等の販売代金額に相当する3億7157万5778円の損害を被った。したがって,ブリリアント社は,ローランド社に対し上記債務の不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を有しており,これら請求権をもってローランド社の製造代金請求権と対当額において相殺するとの意思表示をしたから,上記製造代金請求権は消滅した。
(イ) ローランド社は,上記(ア)のとおりブリリアント社に対し在庫商品を引き渡す債務を負っていたにもかかわらず,そのシャンプー等を販売して代金3億3554万1561円を受け取った。ローランド社の上記行為は,ブリリアント社の所有権及び販売権の侵害に当たるとともに,法律上の原因なく他人の財産によって利益を受けたことになるから,ブリリアント社はローランド社に対し不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得に基づく利得金返還請求権を有する。そして,ブリリアント社はこれら請求権をもってローランド社の製造代金請求権と対当額において相殺するとの意思表示をしたから,同請求権は消滅した。
(ローランド社の主張)
ローランド社が占有する商品について,ローランド社はブリリアント社に対し製造代金請求権を有しているから,その占有を継続する権原を有している(商法521条,民法295条)。また,ブリリアント社は,シャンプー等の引取りを拒絶している。したがって,ローランド社に債務不履行等はなく,ブリリアント社による相殺は認められない。
(5) 商標権侵害に基づく請求について(第1事件)
ア 被告標章1及び3の使用の有無
(ブリリアント社の主張)
ローランド社は,平成24年10月4日以降,被告標章1を被告商品1~5及び被告商品6の包装に,被告標章3を被告商品7の包装にそれぞれ付して販売している。
(ローランド社の主張)
争う。ローランド社が本件代行契約の解除後に使用したのは被告標章2及び4のみである。
イ 本件商標と被告標章1~4の類否
(ブリリアント社の主張)
本件商標は,「ESPRINCESS」及び「エスプリンセス」の文字を上下二段に書して,それぞれが黒色のゴシック体の文字で構成されている。その称呼は「エスプリンセス」であり,「プリンセス」の文字を有することから「王妃」の観念が生じる。
(ア) 被告標章1との類否について
被告標章1は,「esprincess」と黄金色の欧文字で書し,「i」の点の部分をダイヤの図形で構成して成るものであり,その称呼は「エスプリンセス」であって,「princess」の文字を有しているから「王妃」の観念が生じる。被告標章1は,本件商標と外観が類似し,称呼及び観念が一致するから,本件商標に類似する。
(イ) 被告標章2との類否について
被告標章2は被告標章1の上方に「ROLAND &」との黄金色の文字及び記号を小さく配したものであるが,「esprincess」の文字が「ROLAND &」より大きく構成されていることからすれば,その要部は「esprincess」の文字にある。そうすると,被告標章2からは「ローランドアンドエスプリンセス」のみならず「エスプリンセス」の称呼が生じ,これに応じた「王妃」の観念が生じるから,本件商標に類似する。
(ウ) 被告標章3との類否について
被告標章3は,赤色の花柄模様の下地に,各文字の周囲が黒みがかった黄金色の欧文字で「esprincess」と書し,「i」の点の部分をダイヤの図形で構成して成るものであり,被告標章1と同様に,本件商標に類似する。
(エ) 被告標章4との類否について
被告標章4は,被告標章3の上方に各文字の周囲が黒みがかった黄金色の「ROLAND &」の文字及び図形を小さく配したものであり,被告標章2と同様に,本件商標に類似する。
(ローランド社の主張)
被告標章2及び4は,いずれも外観において明らかに本件商標と相違している。また,これらは造語であって意味もないから,観念が相違する。被告標章2及び4から「ローランドアンドエスプリンセス」との称呼のほか「エスプリンセス」との称呼が生じることは否定しないが,これのみで問屋等の取引者に資することはないから,本件商標と被告標章2及び4が相紛れることはない。そして,在庫処理のために行われたという被告標章2及び4が付されたシャンプー等の販売形態に照らせば,問屋等の取引者において被告標章2及び4を本件商標と区別することができるから,これらは本件商標に類似しない。
ウ 損害額
(ブリリアント社の主張)
(ア) 平成24年1月~9月の間のローランド社による月間平均の利益は853万9739円であったから,ローランド社が同年10月~平成25年12月の15か月間に被告商品1~7を販売することにより得た利益の額は1億2809万6085円を下らず,ブリリアント社は同額の損害を被ったと推定される(商標法38条2項)。そして,被告標章1~4を付したシャンプー等は,ブリリアント社による宣伝広告等の結果,ブリリアント社の商品であると広く認識されており,ローランド社がその販売に際し格別の貢献をしたとはいえないから,上記推定が覆滅することはない。
(イ) ローランド社は本件代行契約の解除後に販売した商品の数量につき以下のとおり主張するが,同契約締結当時の在庫数,契約期間中の販売数や,ローランド社の取引先に対するブリリアント社による弁護士法23条の2に基づく照会及び本件における調査嘱託の結果に比し著しく少なく,信用することができない。ローランド社による上記解除から平成28年3月までの販売数量は合計43万4089本,これによる利益の額は2億0645万2985円と推計することができる。
(ローランド社の主張)
被告標章2及び4を付したシャンプー等の販売価格は低廉であり,その製造原価や倉庫料として2億円以上費やしていることから,被告標章2及び4の使用によってローランド社に利益は生じていない。なお,本件代行契約の解除後,平成27年3月末までにローランド社が販売したのは,シャンプー1382本,セットボックス1万6446セットからコンディショナーの返品331本を控除した3万3943本である。
さらに,本件商標は,これを付した商品の発売後間もなく,消費者の認知度は低く,顧客吸引力があるとしても極めて僅かであるから,利益への寄与度は皆無であるか極めて僅少である。
第3 当裁判所の判断
1 事実経過
前記前提事実に加え,証拠(書証の枝番の記載は特記するものを除き省略する。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件製造契約に基づく商品の製造及びブリリアント社による販売
ア ブリリアント社は,女性アイドルグループ「AKB48」のメンバーを宣伝キャラクターとして起用したシャンプー等の販売を企画し,平成23年3月頃(以下,(1)においては「平成23年」の記載を省略する。),シャンプー等の製造業者であるローランド社との間で,商品の製造委託に関する交渉を開始した。ただし,ブリリアント社が株式会社として設立されたのは5月10日である。(甲1,34,乙49)
イ ブリリアント社とローランド社は,4月末ないし5月初め頃の段階では,シャンプー等の納品日を7月15日と予定していた。ローランド社はそのために5月16日までに容器金型を発注することを求めたが,ブリリアント社はこれに応じなかった。ブリリアント社とローランド社は,6月1日,今後のスケジュールについて協議し(この時点での商品名は「アントワネット」),同月20日までにブリリアント社が発注書を提出することを前提に,8月31日までにローランド社がシャンプー及びコンディショナー各15万本を納入することを確認した。ローランド社は容器メーカーの要望があるので発注を急ぐよう度々連絡したが,ブリリアント社が発注書を送付したのは6月23日であった(この時点での商品名は「マーメイドプリンセス」)。ブリリアント社の担当者は9月1日の発売予定は変わらない旨伝えたものの,発注書の記載内容は,上記確認された内容と異なり,数量を各20万本,納品期限は別途相談とするものであった。ローランド社は,6月24日,上記発注書に対する注文請書を送付し,これにより合計40万本の製造を委託する旨の契約が成立した。(甲3,4,38,乙1,6~10,29,49)
ウ ブリリアント社は,6月28日,ローランド社に対し,シャンプー及びコンディショナーの容器各15万本を追加注文するとの発注書を送付するとともに,半金を7月5日に支払う旨及び9月1日発売に向け尽力をお願いする旨伝えた。ブリリアント社は,6月29日に上記追加注文に係る注文請書を送付し,7月5日に上記イの各40万本の製造代金の半金として4368万円を受領した。(甲39,乙4,27)
エ ローランド社は,7月25日,ブリリアント社に対し,容器のデザインが複雑であり,より多く納品するためには印刷よりラベルシールが望ましいが,9月1日までに何本納品できるかは未定である旨伝え,最終デザインを早く決めるよう求めた。ローランド社は,7月26日,デザインは現物を確認して決めたい,具体的工程を把握してスケジュールを共有しながら進めていきたい旨返答した。ローランド社は,8月11日,追加発注の数量及び時期について問い合わせたが,ブリリアント社から明確な回答はなかった。(甲5,乙12,13,28,証人B)
オ ローランド社からブリリアント社への商品の納入は9月1日に開始された。同月15日の商談の場でブリリアント社の側から納期遅れに関する言及があったが,商品の納入はそのまま続けられ,同月20日までに約16万本のシャンプー及びコンディショナー(セットボックス分を含む。以下(1)において同じ。)が引き渡された。ブリリアント社は,同日,ローランド社に対し,シャンプー及びコンディショナー各50万本の製造を委託する旨の「仮発注書」を交付した。この書面には,納期は互いに調整するが最終は12月末を目安とする,都合により発注を取りやめる場合もある旨記載されていた。ローランド社は,発注を中止する場合はその時点での費用を請求する旨断った上で,9月26日,これに対する注文請書を送付した。ローランド社からブリリアント社へはその後も商品の納入が続けられ,シャンプー及びコンディショナーの累積納入数は同月末日時点で約24万本,10月14日時点で約40万本,同月末日時点で約62万本となった。ブリリアント社は,同月中旬,ローランド社に対して11月及び12月の納入予定本数の確認を求め,ローランド社は予定数量を伝えた。また,ローランド社は,ブリリアント社からシャンプー等以外にサンプル品等の注文も受けたので,これを製造して納入したほか,製造に要した香料,工賃,版下等の代金をブリリアント社に請求した。ローランド社は,これらの納入又は請求の都度,商品名,数量,単価,合計額等を明記した納品書をブリリアント社に交付した。(甲6,40,41,乙14~16,30,31,47,49,証人B)
カ ブリリアント社によるシャンプー及びコンディショナーの販売数は,9月が約6万本,10月が約8万本であった。ブリリアント社は,11月初めから下旬にかけ,当時人気のあったAKB48所属のタレント2名を起用した広告を雑誌9誌に掲載し,主要駅の構内に掲示するなど大規模な宣伝活動を行った。同月のシャンプー等の販売数は10万本を超過したものの,ローランド社からの累積納入数は同月末日時点で約100万本に達し,在庫が大量に発生した。(甲7,8,24,25,40,41,乙31)
キ ローランド社からの納入は12月9日まで続けられ,シャンプー及びコンディショナーが合計117万5026本納入された。これらシャンプー等に上記オのサンプル品,工賃等を合わせた代金額は3億0742万5643円であった。一方,9月~12月の間に販売されたシャンプー及びコンディショナーは合計26万5936本であった。また,ブリリアント社からローランド社への支払は,前記ウの半金4368万円のほか,11月末日振込の1658万0424円のみであり,2億4716万5219円が未払となった。ローランド社は,12月30日,ブリリアント社に対し売掛債権の残高が同額である旨を通知した。(甲8,40,41,乙4,17,31)
(2) 本件代行契約の締結及び解除
ア 上記の販売状況の結果,在庫が大量に発生し,ブリリアント社からローランド社への製造代金の支払が困難になったことから,両社は今後の対策につき協議を行った。ブリリアント社が,平成23年12月9日,販売が低迷したのはローランド社の納品遅延によるものであり,そのために損失が生じたとして対応を求めたのに対し,ローランド社は,同月下旬までに,納品遅延の原因についてはあえて触れずに,ローランド社がブリリアント社に代わって営業活動を行い,その販売代金により製造代金を支払うとすることを提案した。ローランド社がこのような提案をしたのは,商品の原材料,容器その他資材の購入費用を既に支払い,運送費等を負担しているが,商品が売れなければ入金が見込めないところ,ブリリアント社が在庫商品を販売できる可能性は低いので,ローランド社が販売を代行することにより製造代金の回収を図ろうとしたものである。(甲9~11,乙49,証人B)。
イ ブリリアント社とローランド社は,平成24年1月15日(以下,(2)においては「平成24年」の記載を省略する。)に覚書を取り交わし,本件代行契約を締結した。この覚書には,1月~3月の間のセットボックスの販売努力目標数を50万セット,販売目標本数を38万セットとする旨定められたが,前者は在庫一掃のため,後者はローランド社の資材購入費用を賄うためにおおむね必要な数量であり,実際の販売数がこれらに満たなかった場合の取扱いに関する定めはされなかった。(甲12,乙49,証人B)
ウ ローランド社は,ブリリアント社から在庫商品の引渡しを受けて,これを販売した。ローランド社によるセットボックスの販売数は,1月~3月が2万0340セットであり,9月までの累計は6万5580セットであった。ローランド社が販売した商品については,ローランド社が販売先から受領した代金をブリリアント社に全額交付し,ブリリアント社は,その受領後,販売された分の製造代金をローランド社に支払うとされていた。ローランド社は支払期日8月31日分までの販売代金を支払ったが(甲14の1~10),ブリリアント社は同月7日支払予定の製造代金(甲15の2)を支払わなかった。そこで,ローランド社が支払期日を9月28日とする販売代金(甲14の12)の支払を留保したところ,ブリリアント社は,10月3日,ローランド社に対し,この不払等を理由に本件代行契約を解除する旨通知した。ローランド社は,同月9日,本件代行契約に基づくブリリアント社の販売代金請求権と本件製造契約に基づくローランド社の製造代金請求権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。(甲13~15,17,乙3,18,49,証人B)
2 本件代行契約の債務不履行に基づく損害賠償請求(第1事件)
(1) 争点(1)ア(最低販売数量の保証の有無)について
ア ブリリアント社は,平成23年8月末という納品日を重視していたところ,ローランド社が納品を遅延したためにブリリアント社に損失が生じたので,ローランド社は自ら責任を取り,上記損失を填補するために最低保証販売数を定めた旨主張する。
イ そこで判断するに,まず,本件代行契約に係る覚書をみると,「販売努力目標数」を50万セット,「販売目標本数」を38万セットとするとされており(前記前提事実(4)ア(ア)),その文言上,これらの数量が「目標」であることが明らかである。また,上記覚書には,販売数量が上記各セット数に達しなかった場合にローランド社が不足数量分相当の支払義務を負うなどといった定めはない(甲12)。そうすると,上記覚書の記載上,ローランド社が最低販売数量を保証したとみることは困難である。
ウ これに加え,本件代行契約の締結に至る経過についてみるに,前記1認定の事実関係によれば,予定された納品日(当初は平成23年7月15日,その後変更されて同年8月31日)までに商品(同年6月24日付け注文請書による合計40万本)が納入されなかったことの主たる原因は,所定の期限までに発注書を提出せず,同年7月下旬に至ってもデザインを確定させなかったブリリアント社の側にあると認められる。また,ブリリアント社作成の発注書には納品期限は「別途相談」と記載されており,このことは同社が納品日を重視していたとの主張と相反するものである。そうすると,ローランド社が納品遅延の責任を取るために最低販売数量を保証したとのブリリアント社の主張を採用することはできない。
(2) 争点(1)イ(努力義務違反の有無)について
上記(1)によれば上記覚書に規定された数量につきローランド社は努力義務を負うにとどまると解されるところ,ブリリアント社は,ローランド社がこの努力義務を怠ったので損害賠償責任を負う旨主張する。
そこで判断するに,証拠(乙32~35)及び弁論の全趣旨によれば,ローランド社は,本件代行契約の締結の前後から,取引先を訪問する,説明会を開催して新たな販売店を開拓するなど営業活動を行っていることが認められ,ローランド社は相応の努力をしていたとみることができる。また,本件代行契約締結後のローランド社による販売数量がそれ以前のブリリアント社による販売数量を下回ることはブリリアント社指摘のとおりであるが(甲8,13),その一因は前記1(1)カのような大規模な宣伝活動がされなったこと(平成24年には雑誌広告が数回されたにとどまる。甲24)にあると考えられるから,販売数量の減少をもってローランド社が努力義務を怠ったと認めることはできない。したがって,努力義務違反をいうブリリアント社の主張も失当である。
(3) 小括
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件代行契約の債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない。
3 本件代行契約に基づく販売代金請求(第1事件)
(1) 争点(2)ア(ローランド社が支払うべき販売代金の額)について
ブリリアント社は,本件代行契約に基づきローランド社が支払うべき販売代金のうち5036万2992円が未払である一方,ブリリアント社は3109万0879円の製造代金支払義務を負うとして,差額の1927万2113円の支払を求める。
そこで判断するに,ブリリアント社は上記販売代金額の裏付けとして5通の請求書(甲14の11~15)を提出するところ,ローランド社はうち1通(甲14の12。1951万3276円。支払期日平成24年9月28日)の未払を認めている。その余の4通中3通(甲14の13~15。合計1904万1026円。支払期日同年10月31日以降)については,品目,数量等がブリリアント社からローランド社への支払通知書(甲15の6~8)とおおむね一致しており,ブリリアント社の請求は正当とみられるが,他の1通(甲14の11。支払期日同年8月9日)については,ブリリアント社が同年9月28日を支払期日とする販売代金の不払を解除理由としていること(甲17)に照らし,ローランド社の支払義務を認めるに足りない。したがって,未払の販売代金の額は3855万4302円であると認めるのが相当である。
そして,これからブリリアント社が支払義務を自認する前記製造代金を差し引くと,ブリリアント社が請求し得る額は746万3423円となる。
(2) 争点(2)イ(本件製造契約に基づく製造代金請求権との相殺の成否)について
ア ローランド社は,ブリリアント社の販売代金の請求に対し製造代金請求権との相殺を主張する。
そこで判断するに,前記1(1)キのとおり,ローランド社がブリリアント社の注文を受けて納入したシャンプー等の代金額が合計3億0742万5643円,うちブリリアント社が支払ったのは6026万0424円であり,平成23年12月末の時点で2億4716万5219円が未払であったと認められる。また,その後にブリリアント社が支払った販売代金の額につき,ローランド社は2411万9701円と主張するところ,ブリリアント社はこれを超える支払をしたと主張立証していない。一方,上記(1)の3109万0879円は製造代金の支払に充てられたとみることができる。そうすると,ローランド社の製造代金請求権の残額は1億9195万4639円となる。そして,ローランド社はブリリアント社に対し相殺の意思表示をしたから(前記1(2)ウ),ブリリアント社のローランド社に対する販売代金請求権は相殺により消滅したことになる。したがって,ブリリアント社の販売代金請求は理由がない。
イ これに対し,ブリリアント社は,①「仮発注書」による製造契約の成立は認められない,②本件代行契約の締結により製造代金の支払義務は消滅した,③ローランド社が製造代金請求権を行使することは信義則に反すると主張するが,次のとおり,いずれも採用することはできない。
(ア) ①(仮発注書)について
ブリリアント社とローランド社は,本件代行契約において,販売努力目標数を50万セットと定めているが,この数量は仮発注書に記載された数を含めなければ導き出すことができないものである。
また,ブリリアント社がローランド社に対し書面を発したのは前記1(1)イ及びウの発注書並びにオの仮発注書のみであるが,ローランド社はこれらに記載されたもの以外にもブリリアント社の注文に応じてサンプル品を納入するなどし,ブリリアント社はその都度金額等が記載された納品書を受領しており(前記1(1)オ),ブリリアント社が,納入の当時,注文した事実はないなどといった異議を述べたことはうかがわれない。そうすると,少なくとも納品書に記載されたシャンプー等については,ブリリアント社とローランド社の間の上記発注書等の書面又は口頭による合意に基づいてローランド社が納入したものということができるから,ブリリアント社はこれら本件製造契約に基づく代金の支払義務を負うと解するのが相当である。
(イ) ②(製造代金支払義務の消滅)について
本件代行契約の締結に先立ちブリリアント社がローランド社に対し製造代金の支払義務を負っていたことは明らかであるが,本件代行契約に係る覚書(甲12)には,その支払義務を免除又は猶予するといった条項はない。この覚書においてローランド社が販売代行により受領した代金をブリリアント社に交付するとされていたのは,その中からローランド社に対して製造代金が支払われること,すなわち,製造代金請求権が存続することが前提となっていたと解することができる。また,ローランド社は上記アのとおり本件代行契約の締結当時2億円を超える製造代金請求権を有していたところ,ブリリアント社の主張によるとローランド社はこれを放棄したことになるが,ローランド社においてこれを放棄すべき理由は見当たらない(販売低迷の原因が納入遅延であったとしても,前記2(1)ウのとおり,遅延の責任がローランド社の側にあったとは認められない。)。したがって,ブリリアント社とローランド社が本件代行契約の締結に当たり製造代金支払義務を消滅させることを合意したということはできない。
(ウ) ③(信義則違反)について
ローランド社がブリリアント社に納入したシャンプーの製造代金等の支払を求められることは前記ア及びイ(ア)のとおりであり,本件代行契約を締結してシャンプー等の占有をローランド社に移転したことは上記代金請求権の行使を妨げる事情となるものでない。さらに,本件代行契約の解除後についても,本件の関係各証拠上,ブリリアント社がローランド社に対し在庫の引渡しを求めたとはうかがわれないこと,ローランド社が在庫を販売したことについては別途損害賠償ないし不当利得返還の責任を負うこと(後記5(7))に照らすと,ローランド社による請求自体が信義則に違反するとして否定されることはないと解すべきである。
(3) 小括
以上によれば,ブリリアント社の本件代行契約に基づく販売代金請求は理由がない。
4 不法行為及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求(第2事件,主位的請求)
(1) 争点(3)ア(不法行為の成否)について
ローランド社は,本件製造契約の締結に係るブリリアント社の行為は詐欺的であって,取引として合理性を逸脱し,社会的相当性を欠くので,不法行為に当たる旨主張する。
そこで判断するに,前記1(1)認定の事実経過によれば,ブリリアント社が発注したシャンプー等の本数は実際に販売された本数からみると結果的に過大であったと評することはできるものの,ブリリアント社が商品の宣伝キャラクターとしてAKB48に所属する女性タレント2名を起用し,販売促進のため大掛かりな広告宣伝活動を行っていることからすれば,ブリリアント社が相当数の販売が見込まれると考えたとしても著しく不合理であったということはできない。また,ブリリアント社において虚偽の事実を説明してローランド社に商品を製造させたとうかがわせる証拠はない。そうすると,ブリリアント社及びAの見通しが甘かったということはできるものの,発注行為自体が詐欺的であって社会的相当性を欠くと評価することは困難であり,不法行為としての違法性があると認めることはできない。
(2) 小括
したがって,不法行為を理由とするブリリアント社に対する請求及びこれを前提とするAに対する会社法429条1項に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
5 本件製造契約に基づく製造代金請求及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求(第2事件,予備的請求)
(1) 争点(4)ア(訴えの適法性)について
ブリリアント社は,第1事件において相殺の抗弁に供した製造代金請求権を訴訟物とする第2事件の予備的請求に係る訴えは民事訴訟法142条の趣旨に反し不適法である旨主張する。
そこで判断するに,第2事件はブリリアント社が提起した第1事件の防御の方法と関連し,実質的に反訴に相当するもの(Aを被告とするため別訴とされたもの)であり,第1事件において相殺の抗弁につき判断が示された場合はその部分を請求しない趣旨と解することができる。また,第2事件は第1事件の弁論に併合されており,第1事件における相殺の抗弁と第2事件における予備的請求について審理の重複や判断の矛盾が生じるおそれはない。本件のこのような事情の下では,第2事件の予備的請求に係る訴えが不適法となることはないと解すべきである。
(2) 争点(4)イ(ブリリアント社が支払うべき製造代金の額)について
前記3(1)及び(2)アで説示したところによれば,ローランド社はブリリアント社に対し本件製造契約に基づき1億9195万4639円の製造代金請求権を有するところ,この一部はブリリアント社のローランド社に対する746万3423円の本件代行契約に基づく販売代金請求権と相殺されたことで消滅したから,ローランド社はブリリアント社に対し1億8449万1216円の請求権を有すると認められる。
(3) 争点(4)ウ(悪意又は重過失の有無)について
ローランド社は,ブリリアント社は製造代金の支払を怠ってローランド社に損害を被らせたものであり,Aはその代表取締役として職務を行うにつき悪意又は重過失があったと主張する。
そこで判断するに,前記4(1)で説示したとおり,ブリリアント社からローランド社への発注が過大であったとしても,相当数の販売があると見込んだことが著しく不合理であったとはいえないから,Aに悪意又は重過失があったと認めるに足りないと解すべきである。
したがって,ローランド社のAに対する請求は理由がない。
(4) 争点(4)エ(本件代行契約による製造代金請求権の消滅の有無)について
前記3(2)イ(イ)のとおり,本件代行契約の締結によりローランド社の製造代金請求権が消滅したとは認められない。
(5) 争点(4)オ(消滅時効の成否)について
ブリリアント社は,ローランド社の製造代金請求権は民法173条1号所定の債権に当たり,支払日から第2事件の提訴までに2年の時効期間が経過したのでこれを援用する旨主張する。
そこで判断するに,前記3(2)のとおり,ローランド社はブリリアント社に対し本件製造契約に基づく製造代金請求権を有するところ,支払期はシャンプー等を最後に引き渡した平成23年12月9日と解されるから,これが同号所定の債権に当たるとすれば平成25年12月9日に時効期間が経過したことになる。しかし,ブリリアント社は,その経過後である平成26年10月9日の第4回弁論準備手続に陳述した同月2日付け準備書面において,本件製造契約に基づく製造代金の支払義務が存在していることを認めている(当裁判所に顕著)。したがって,ブリリアント社が消滅時効を援用することは信義則に照らし許されないと解するのが相当である。
(6) 争点(4)カ(信義則違反の有無)について
前記3(2)イ(ウ)のとおり,ローランド社がブリリアント社に対し製造代金の支払を求めることが信義則に反するとは認められない。
(7) 争点(4)キ(損害賠償請求権又は不当利得返還請求権との相殺の成否)について
ブリリアント社は,本件代行契約が解除されたことによってローランド社はブリリアント社に対しその占有するシャンプー等を引き渡す義務を負っていたところ,①ローランド社はこれを引き渡さずにブリリアント社の所有権及び販売権を侵害したので,ブリリアント社はローランド社に対し,引渡しを受けていれば販売できた商品の代金相当額につき,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を有する,②ローランド社が上記シャンプー等を販売して利益を得たことにつき,ブリリアント社はローランド社に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得に基づく利得金返還請求権を有するとして,これらの請求権を自働債権とする相殺を主張する。
そこで判断するに,①について,前記1の事実経過によれば,ブリリアント社が本件代行契約を締結して在庫商品をローランド社に引き渡したのは,ブリリアント社による販売が低調でローランド社への製造代金の支払ができなかったことに起因するものである。また,同契約の解除後についても,本件の関係各証拠上,ブリリアント社がローランド社に対し商品の引渡しを求めたとも,引渡しを受けていればこれを販売して利益を上げることができたとも認めることはできない。したがって,ローランド社が上記商品を引き渡さなかったことによりブリリアント社が損害を被ったとは認められないから,ブリリアント社の上記①の主張は失当である。
次に,②について,ローランド社が占有するシャンプー等の在庫の所有権はブリリアント社が有するから,この在庫を第三者に売却して利益を得た場合には,ブリリアント社はローランド社に対して上記利益相当額の損害賠償請求権ないし利得金返還請求権を有するものと解される。そして,証拠(甲14,15,30,31,33,セルレ株式会社及び株式会社PALTACに対する調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,①ローランド社は,本件代行契約解除後の平成24年10月4日以降,被告標章1,2及び4を商品又は包装に付した被告商品1~7を少なくとも別表記載の4社に販売したこと,②これら商品は,ローランド社が本件代行契約の解除前から在庫として保有していた商品に「ROLAND &」の文字等を付記するなどしたものであること,③これら4社に対する販売の内訳は別表記載のとおりであること(株式会社PALTACに対する販売分については,平成24年2月~平成28年1月の間の販売数が19万5050個,うち平成24年9月までの販売数が4万1244個であるから,同年10月以降の販売数を15万3806個と認めた。),④各商品の1本当たりの販売価格及び製造原価並びにこれらにより算定される粗利額は別表の各欄記載のとおりであること(株式会社PALTAC分の商品ごとの内訳は不明であるが,販売数の多くはシャンプー,コンディショナー又はセットボックスと推認されるので,1本当たりの粗利額を400円と認めた。),⑤上記粗利額の合計は8113万2692円と算定されること,⑥本件代行契約に基づくローランド社の販売額全体に占める上記4社の割合は約49.5%であったこと,以上の事実が認められる。そうすると,上記4社以外への販売を含めた粗利額は上記⑤を上回ると認めるべきであるが,他方,ローランド社が上記商品の販売に当たり運送費,在庫の保管費用等の諸経費を負担したことは経験則上明らかと解される。これらの点に関する的確な主張立証はないが,以上に判示した諸事情に照らすと,ローランド社が得た利益の額は9000万円と認めることが相当である。そうすると,ブリリアント社はローランド社に対して9000万円の損害賠償請求権ないし利得金返還請求権を有することになる。
そして,ブリリアント社は,ローランド社に対し,平成27年12月8日の第14回弁論準備手続期日に陳述した同月4日付け準備書面において,ローランド社の製造代金請求権とブリリアント社の上記損害賠償請求権ないし利得金返還請求権を対当額で相殺する旨の意思表示をしたから(当裁判所に顕著),ローランド社の上記製造代金請求権は相殺により一部消滅したことになる。
(8) 小括
以上によれば、ローランド社の予備的請求はブリリアント社に対し9449万1216円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
6 商標権侵害に基づく差止請求等(第1事件)
(1) 争点(5)ア(被告標章1及び3の使用の有無)について
本件代行契約が解除された平成24年10月4日以降にローランド社がシャンプー等の商品に被告標章2及び4を使用したことに争いはない。
被告標章1及び3についてみるに,セルレ株式会社に対する調査嘱託の結果によれば,被告標章1を付した被告商品3(トリートメント)をローランド社が販売したことが認められる。なお,ローランド社は,ブリリアント社からその使用につき許諾を受けた旨主張するが,本件代行契約の解除後の使用について許諾があったことをうかがわせる証拠はない。一方,被告標章3については,ブリリアント社が提出した証拠(甲18,23)はローランド社以外の会社が運営するインターネット上のショッピングサイトの表示等にとどまり,ローランド社が本件代行契約の解除後に被告標章3を使用したことを裏付ける証拠はない。したがって,被告標章3に関するブリリアント社の主張を採用することはできない。
(2) 争点(5)イ(本件商標と被告標章1~4の類否)について
上記のとおり被告標章3を使用したとは認められないので,本件商標と被告標章1,2及び4の類否を検討する。
ア 本件商標の外観は,別紙商標権目録記載のとおり「ESPRINCESS」及び「エスプリンセス」のゴシック体様の文字を上下二段に書したものであり,「エスプリンセス」の称呼が生じる。
イ 被告標章1は,別紙被告標章目録記載1のとおり「esprincess」との黄金色の斜体の欧文字及び「i」の点の部分に配したダイヤ状の図形から構成されており,「エスプリンセス」の称呼が生じる。
被告標章2は,同目録記載2のとおり,被告標章1の上方に「ROLAND &」との黄金色の斜体の欧文字等を配したものであり,この部分の大きさは「esprincess」部分に比し幅が約3分の1,高さが半分以下となっている。このような外観からすれば,被告標章2に接した需要者(被告標章2が付されたのはシャンプー等の商品であり,一般消費者が含まれることは明らかである。)において「esprincess」部分を独立して看取し,「エスプリンセス」の称呼が生じると認められる。また,被告標章4は,同目録記載4のとおり,下地の模様,各文字の周囲の色を除き,被告標章2と外観が一致しており,類否の判断に当たっては被告標章2と同様に解することができる。
ウ 以上を前提に,まず,本件商標と被告標章1の類否についてみるに,両者は,字体や配色,「i」の点の部分の図形の有無が相違し,大文字,小文字の違いもあるが,文字列としては共通し,称呼も同一であるから,被告標章1は本件商標に類似すると認められる。
次に,被告標章2及び4の類否についても,外観上独立して看取される部分は被告標章1と同様の構成であり,「エスプリンセス」という称呼を本件商標と共通にすると認められるから,これらも本件商標に類似すると解するのが相当である。
エ 以上によれば,ローランド社は本件商標に類似する被告標章1,2及び4を使用したものであり,また,これらが使用されたシャンプー等の商品が本件商標権の指定商品と同一又は類似であることは明らかであるから,ローランド社は本件商標権を侵害したものと認められる。
(3) 争点(5)ウ(損害額)について
ア ブリリアント社は,ローランド社が本件代行契約解除後の平成24年10月4日~平成25年12月末の間に本件商標に類似する標章を付したシャンプー等の販売により少なくとも1億2809万6085円の利益を得たとして,商標法38条2項に基づき同額の損害賠償を求める。
イ そこで判断するに,前記5(7)で説示したとおり,ローランド社が本件代行契約解除後の平成24年10月4日以降に本件商標に類似する標章を付したシャンプー等の販売により合計9000万円の利益を得たことについてはブリリアント社による相殺が認められ,これによって上記利益は遡って消滅したことになる。そうすると,ローランド社が本件商標権の侵害行為により利益を得たとは認められないから,ブリリアント社の商標法38条2項に基づく主張は失当である。
(4) 小括
以上によれば,ブリリアント社の商標権侵害に基づく請求は,被告標章1,2及び4の使用の差止め並びにこれらを付した商品又は包装の廃棄を求める限度で理由がある。
第4 結論
よって,主文のとおり判決する。なお,主文2項についての仮執行の宣言は,相当でないので,これを付さないこととする。
(裁判長裁判官 長谷川浩二 裁判官 萩原孝基 裁判官 中嶋邦人)
別紙
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