「成果報酬 営業」に関する裁判例(21)平成28年 8月19日 東京地裁 平27(ワ)14721号 貸付金等返還請求事件
「成果報酬 営業」に関する裁判例(21)平成28年 8月19日 東京地裁 平27(ワ)14721号 貸付金等返還請求事件
裁判年月日 平成28年 8月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)14721号
事件名 貸付金等返還請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA08198012
要旨
◆株式会社である原告が、その経営する美容室に勤務する美容師である被告Y1との間で、原告の新店舗出店事業に関する業務委託契約が成立したにもかかわらず、被告Y1は一方的に同契約を破棄したなどと主張して、被告Y1に対し、主位的には債務不履行に基づき、予備的には契約締結上の過失に基づき、損害賠償を求めるとともに、本件貸金の返還を求め、また、被告Y1の実父である被告Y2に対し、同貸金債務に係る連帯保証契約の履行を求めた事案において、本件業務委託契約の成立を否定した上で、原告の代表者が同契約の非常に重要な条項につき事前の説明をせず、原告が被告Y1からの変更の申出に一切応じなかった以上、被告Y1が信義則上の義務に違反したと評価することはできず、また、本件業務委託契約締結の成熟度が高かったと評価することもできないから、被告Y1に契約締結上の過失はないと判断したほか、本件貸金に係る消費貸借契約の成立を否定するなどして、各請求をいずれも棄却した事例
参照条文
民法1条2項
民法415条
民法446条
民法587条
民法643条
民法656条
裁判年月日 平成28年 8月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)14721号
事件名 貸付金等返還請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA08198012
東京都新宿区〈以下省略〉
原告 株式会社L’avenir
同代表者代表取締役 A
原告訴訟代理人弁護士 川島浩
原告訴訟復代理人弁護士 杉浦友亮
東京都杉並区〈以下省略〉
被告 Y1
東京都青梅市〈以下省略〉
被告 Y2
被告ら訴訟代理人弁護士 関根翔
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告Y1は,原告に対し,1449万1888円並びに内800万円に対する平成27年1月11日から年1割4分の割合による金員(当該金員については被告Y2(以下「被告Y2」という。)と連帯して),及び内647万9286円に対する平成26年12月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告Y2は,原告に対し,被告Y1と連帯して,801万2602円及び内800万円に対する平成27年1月11日から年1割4分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 原告は,美容室を経営する株式会社であり,被告Y1は,原告の美容室において勤務する美容師である。本件は,原告が,①被告Y1に対し,(ア)原告の新店舗出店事業に関し,被告Y1との間で業務委託契約が成立したにもかかわらず,被告Y1が一方的に同契約を破棄したことにより,原告が開店初期費用及び各店舗利益減少分等の損害を被ったと主張して,債務不履行に基づき(主位的請求原因),また,仮に,上記契約が成立していなかったとしても,契約締結上の過失に基づき(予備的請求原因),損害の一部である647万9286円及びこれに対する平成26年12月25日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,(イ)被告Y1に800万円を貸し付けたと主張して,元金800万円,確定利息1万2602円及び内800万円に対する支払期限の翌日である平成27年1月11日から支払済みまで約定の年1割4分の割合による遅延損害金の支払(被告Y2との連帯支払)を求め,②被告Y2に対し,被告Y2が上記①(イ)の債務を書面で連帯保証したと主張して,連帯保証債務履行請求として,被告Y1と連帯して,801万2602円及び内800万円に対する平成27年1月11日から支払済みまで年1割4分の割合による金員の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 原告は,美容室の経営等を目的とする株式会社であり,本店であるa店(以下「a店」という。),b店(以下「b店」という。),c店(以下「c店」又は「新店舗」という。)の3店舗の美容院を新宿駅周辺で経営している。
被告Y1は,平成24年1月ころから原告の経営する美容院にて勤務している美容師である。被告Y1は,平成25年5月からb店において週5回業務を行うようになった。
被告Y2は,被告Y1の実父である。
(2)ア 原告は,平成26年ころから,3店舗目(c店)の出店計画を立て,次の内容の「c店店舗管理に関する業務委託契約書」(以下「本件業務委託契約書」といい,同契約書に係る契約を「本件業務委託契約」という。甲3の1)及び金銭消費貸借契約書(被告らの署名押印前のもの。以下「本件消費貸借契約書」といい,同契約書に係る契約を「本件消費貸借契約」という。甲2)を作成し,同年12月中旬ころ,被告Y1に交付した。本件業務委託契約書の内容は,①原告が被告Y1にc店の店舗管理を委託し,被告Y1はこれを受託する,②収益については,原告が被告Y1に毎月10万円と税を業務委託費として支払い,原告は被告Y1に対して,成果報酬として店舗試算表を作成し,c店の運転資金として200万円を超えた当月資金の50%を税込報酬として支払う(「料金表・損害賠償・その他特約事項について」1(1),同1(2)本文),③c店の当月余剰資金が100万円を超えた場合でも,原告の報酬分は最大50万円として,残額は被告Y1の税込報酬とする(同1(2)但書),④原告は被告Y1より保証金として100万円を預かり,ランニング資金に充当し,本契約終了時又は解約時に運転資金が200万円以上ある場合被告Y1に対し,保証金100万円を返却する(同3(1)),⑤原告は,c店の店舗試算表において,店舗管理資金がマイナス,又は原告の取引業者への支払が滞ったとき,被告Y1が支払できないときは,催告その他の手続を要することなく,直ちに本件業務委託契約を解除することができる(本件業務委託契約書11条1項。以下「本件11条1項」という。),というものであった。また,本件消費貸借契約書の内容は,①原告が被告Y1に対し,800万円を貸し付ける,②被告Y1は,800万円を平成27年1月から平成34年12月まで毎月10日限り9万5500円を84回にわたり返済し,当該返済分は,本件業務委託契約における上記の業務委託費用から天引きされる,③利息は年2.50%とする,④借入日を第1回とし,以後毎月10日までに翌月分を前払いする,ただし,平成26年12月10日から平成27年1月9日までの利息は借入時に支払う,⑤期限後又は期限の利益を失ったときは,残元金に対する年14%の割合による遅延損害金を支払う,⑥被告Y1は,上記の分割金又は利息を期限内に支払わないとき,被告Y1の住所が不明となったときは,当然に期限の利益を失う,⑦連帯保証人は,被告Y1がこの約定によって負担する一切の債務について,連帯保証する(以下,当該規定に基づく連帯保証契約を「本件連帯保証契約」という。),というものであった。
イ 被告Y1は,本件消費貸借契約書の連帯保証人欄に被告Y2をして署名押印させ,被告Y1自身も署名押印し,平成26年12月20日,原告代表者A(以下「A」という。)に交付した。
ウ 被告Y1は,同月21日ころ,Aに対し,本件11条1項に関し,店舗試算表においてマイナスが生じた場合,マイナス分を半分原告に負担して欲しい旨を通知した。
同日ころ,Aは被告Y1と面談し,被告Y1からの上記申出を拒否した。
被告Y1は,同月25日,Aに対し,本件業務委託契約を締結できない旨を口頭で告げ,翌26日,同旨の書面(甲4)を原告に提出した。
被告Y1は,本件業務委託契約書に署名押印していない。
(3) 原告は,平成27年1月,c店を開店した。
被告Y1は,現在もb店において勤務している。
3 争点及び当事者の主張
(1) 本件業務委託契約の成否(争点(1))
(原告の主張)
ア Aは,平成25年5月以降,被告Y1に対し,原告が新店舗を出店するときに共同経営とすることを提案し,被告Y1もその計画に賛同していた。
原告と被告Y1は,平成26年5月ころから,共同して新店舗の物件探しや融資先の確保,新店舗の物件の賃貸借契約締結準備,施工会社との打合せ等を行った。また,被告Y1は,防火管理者の資格の取得や,被告Y1名義で予約管理システムを登録するなど,積極的に新店舗の開店に向けて関与していたのであって,c店の経営者としての役割を果たしていた。
Aは,被告Y1に対し,本件業務委託契約書と本件消費貸借契約書を同一日に交付し,本件消費貸借契約については被告Y1が本件消費貸借契約書に署名押印したことにより成立しているところ,本件業務委託契約と本件消費貸借契約には強い牽連性がある。したがって,本件業務委託契約書に被告Y1の署名押印がない本件においても,それ以前に既に業務委託契約の内容について原告と被告Y1との間で合意が形成されていたといえる。
これらのことから,原告と被告Y1との間では,遅くとも平成26年11月26日までに,共同出資で被告Y1がc店の経営を行うとの内容の本件業務委託契約が成立していた。
イ 被告らは,c店の出店計画をAが主導し,被告Y1はその指示に従わざるを得なかったかのように主張するが,事実に反する。原告は,被告Y1の独立支援のために,被告Y1と対等な関係で業務提携を行ったのである。実際に,本件業務委託契約においては,c店の売り上げに連動した報酬体系が採られ,被告Y1には,スタッフの採用権限や報酬額の決定権限,ヘアケア商品の選択等,単なる雇われ店長には認められない権限が認められていた。
(被告らの主張)
ア 本件業務委託契約は,契約の要素につき原告と被告Y1との間で折り合いがつかず,成立に至っていない。すなわち,平成26年11月の段階において,原告は,被告Y1に対し,新店舗にマイナスが生じた場合についての説明をしていなかった。また,原告が被告Y1に示した予想収支表(乙1)では「総客」数欄に現実的に集客不能な数字が打ち込まれており,マイナスが生じないような外観が作出されていた。さらに,本件11条1項によれば,新店舗の収支でマイナスが生じた場合には被告Y1が赤字を補填しつつ店舗管理を継続せねばならないこととなるところ,Aは,被告Y1がマイナスが生じた場合に原告がその半分を負担するよう求めても拒否した。被告Y1は,現実的な総客数に修正し,予想収支を立てたところ,多大なマイナスが生じることが判明した。
このような経緯から,本件業務委託契約の要素につき合意が成立しなかったことは明らかである。
イ そもそも,新店舗の出店は,原告が当初から単独で計画していたものであって,被告Y1の独立支援のために計画されたものではない。被告Y1による開店準備行為は,常にAの指示に基づいて行われていたものである。
被告Y1は,本件消費貸借契約書に署名押印して原告に提出しているものの,これはAから,とにかく本件消費貸借契約書だけでも早急に提出するよう催告され,本件業務委託契約書の内容につき十分検討する機会がないまま本件消費貸借契約書に署名押印したものであり,このことをもってしても本件業務委託契約を締結したことにはならない。
(2) 本件業務委託契約が成立していない場合,被告Y1に契約締結上の過失があるか否か(争点(2))
(原告の主張)
①被告Y1は,共同経営の形でc店の店長として業務を行うという本件業務委託契約に不可欠な契約といえる店舗物件の賃貸借契約の締結や,店舗の内装工事の請負契約の締結に関与し,②「c店」という店名を名付け,防火管理者の資格を取得し,求人案内の文言も作成するなど,店長として積極的に店づくりを行い,③本件業務委託契約に密接な関わりのある本件消費貸借契約を締結するなど,c店開業に必要かつ不可欠な取引及び準備行為は全て行っており,本件業務委託契約の成立のための成熟度は極めて高い段階にあった。
これらの事情からすれば,被告Y1は,本件業務委託契約を締結できない場合には事前にその理由を説明し,契約締結できない旨を申し出る信義則上の義務を負っていたというべきところ,被告Y1は,この義務を果たすことなく,平成26年12月26日,本件業務委託契約は締結できないとの内容の書面を一方的に原告に送付し,業務委託契約交渉を破棄するに至ったのであり,被告Y1は信義則上の注意義務に違反したといえる。
したがって,本件業務委託契約が成立に至っていなかったとしても,被告Y1には契約締結上の過失がある。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
本件業務委託契約書には,本件11条1項等,非常に重要な条項であるにもかかわらず事前の説明を一切受けていない条項が含まれており,かかる契約の要素について何ら事前の協議がなさなかったため本件業務委託契約の締結に至らなかったものであり,契約成立のための成熟度が高かったと評価することはできない。
また,被告Y1は,原告に対し,本件業務委託契約を締結できない理由をLINE及び口頭で説明している。
(3) 被告Y1の債務不履行又は契約締結上の過失によって生じた損害(争点(3))
(原告の主張)
ア 債務不履行により生じた損害
被告Y1が本件業務委託契約を一方的に破棄したことにより,次の(ア)及び(イ)の損害が発生した。原告は,その合計6479万2864円の10分の1である647万9286円を主位的請求原因による損害として一部請求する。
(ア) 開店初期費用相当額
原告の負担額全額(589万7758円)及び店舗原状回復費用(259万2000円)の2分の1の合計から,現状の店舗清算価値(101万7900円)のうち原告持分2分の1を控除した額であり,668万4808円である。
(イ) 原告運営店舗の利益減少額
本件業務委託契約の破棄により,Aがc店の運営を一挙に引き受けることとなり,a店及びb店にAが応援に入ることができなくなった。これにより,客単価の減少,人件費増加,営業時間の短縮等を余儀なくされ,a店は平成27年4月末時点で前年比59%の利益減少,b店は同時点で前年比19%の利益減少となった。
本件業務委託契約は8年契約であるところ,将来の8年分の損害は,将来利息分を控除しても,5810万8056円を下らない。
イ 契約締結上の過失により生じた損害
被告Y1の契約締結上の過失により生じた損害は,上記ア(ア)の開店初期費用相当額であり,668万4808円である。
原告は,その10分の1である66万8481円を予備的請求原因による損害として一部請求する。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
原告は現在もc店を経営しており,そもそも何ら損害が出ていない。
また,開店初期費用と各店舗の利益減少を共に請求するのは二重請求となる。
(4) 本件消費貸借契約及び本件連帯保証契約の成否(争点(4))
(原告の主張)
原告と被告Y1は,平成26年12月18日,本件消費貸借契約を締結し,原告と被告Y2は,同日,本件連帯保証契約を締結した。
本件消費貸借契約の目的物である800万円は,c店の開店準備費用として被告Y1が負担する部分につき,被告Y1の指示を受けて,直接原告が各業者に対して支払った。これにより,被告Y1は,現金の授受があったのと同一の経済上の利益を受けている。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。被告Y1は一切の金銭を受領しておらず,本件消費貸借契約は成立していない。
そもそも本件業務委託契約が成立していない以上,新店舗の開店費用のうち被告Y1の負担すべき部分は発生していないのであり,原告の主張は失当である。また,c店の売上げも全て原告が受領し,店舗内の動産も全て原告が使用・収益・処分しており,被告Y1は一切経済上の利益を受けていない。
本件消費貸借契約が成立していない以上,本件連帯保証契約も成立していない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実,証拠(甲2ないし5(枝番号を含む。),12,13,15ないし19,乙1ないし3,8,9,原告代表者A本人,被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告Y1は,平成24年1月ころ,原告の店舗で勤務を始めた。
原告と被告Y1は,平成25年5月1日,原告が,被告Y1に対し,b店における美容師としてのサービス,店舗運営サポート等の業務を委託する旨の業務委託契約を締結した。
これにより,被告Y1は,b店において,週5回勤務するようになった。
Aは,被告Y1に対し,b店における掃除,レジ締め,店舗のブログのアップロード,両替,ミーティングへの参加,備品の購入,他店舗への応援等を命じていた。
(2) Aは,同年10月ころ,被告Y1に対し,原告の店舗を増やしたいので一緒にやらないかと勧誘した。被告Y1は,将来的には自己の店舗を持ちたいと考えていたことから,良い条件であれば一緒にやってみたい旨の返事をした。
Aは,被告Y1以外の従業員2名にも新店舗出店の話を持ちかけた。
(3) Aは,平成26年5月ころから新店舗に適した物件を探すようになり,Aが適当な物件を見つけては,被告Y1にLINEで物件の詳細を知らせていた。
Aは,同年11月中旬ころ,現在c店の店舗となっている物件(以下「c店物件」という。)を見つけ,被告Y1に打診をした。Aは,被告Y1に対し,パソコン上で作成した新店舗の予想収支表(乙1)を見せ,c店物件で新店舗を開業する旨を告げた。当該収支表によれば,開店3か月までは赤字収支となるものの,開店4か月以降は毎月の黒字が膨らむ計算となっていた。
(4) Aは,同月下旬ころ,被告Y1に対して提案書(乙2)を示し,①Aが新店舗を経営し,被告Y1は役員又は業務委託との形態で新店舗の店舗管理を行うこと,②出店費用はAと被告Y1の折半とし,それぞれが約850万円を負担すること,③被告Y1の負担分はAが立て替え,最長84か月で分割して返済し,返済方法は被告Y1の役員報酬又は業務委託費を月10万4628円とし,それと相殺すること,④新店舗で生じた利益はAと被告Y1で折半とし,Aの取り分は最大で50万円とすること,⑤店舗内の動産のうち,重機(ボイラー等)はAの所有とし,鏡や椅子は被告Y1の所有とすること,⑥家主への対応等はAが行うこと,⑦Aと被告Y1で100万円ずつ新店舗に出資し,被告Y1は,Aの決めた発注相手の中で,100万円の範囲内で価格・人材・ルール等を決めて良いこと,⑧これらの内容を基本として,Aと被告Y1の相談の上内容を決定していくころ,⑨美容師としての給与は業務委託契約書(甲3の2)に従って被告Y1に支払われること,以上の説明をした。その際,Aは,被告Y1が新店舗で生じた赤字分を全て負担することや,赤字分を補填できなければ契約が解除されること,契約が解除されれば出店費用の負担分を一括返済しなければならないことを説明することはなかった。
(5) 原告は,同月26日,c店物件について,貸主との間で賃貸借契約を締結した。賃貸借契約締結の場には,被告Y1も同席していた。
Aは,同日,被告Y1に対し,防火管理者の資格を取るよう勧めた。
原告は,同月28日,ホットペッパービューティーの広告掲載料を支払った。
原告は,同年12月2日ころ,被告Y1のc店の代表名義の名刺を発注した。
(6) Aは,同月2日,被告Y1に対し,c店物件の内装工事を行う業者との顔合わせに立ち会うよう要請し,同月4日,被告Y1はこれに立ち会った。
(7) 被告Y1は,同月5日,Aに対し,新店舗の店名を「c」とすることを報告した。
また,被告Y1は,同月6日,c店の求人広告の文面を作成し,Aに報告した。
被告Y1は,同月7日,防火管理者の資格を取得した。
(8) 原告は,同月11日,東京信用金庫との間で,同金庫を貸主,原告を借主とする1600万円の金銭消費貸借契約を締結した。
(9) Aは,同月14日ころ,被告Y1に対し,金銭消費貸借契約書(修正前)(乙8。以下「修正前消費貸借契約書」という。)及び本件業務委託契約書の文案を交付し,その内容で良いかどうか検討するよう要請した。その際,Aは,特に,本件業務委託契約書の5条2項(契約期間満了日の6か月前までに双方から申出のないときは,従前の条件で1年間更新するものとする条項),本件11条1項,「料金表・損害賠償・その他特約事項について」1(2)及び同3(1)をよく検討するよう要請した。
Aは,同月15日,上記金銭消費貸借契約書及び本件業務委託契約書を早急に提出するよう催促した。
原告は,同日,内装工事業者との間で,内装工事の請負契約を締結した。その際,被告Y1も同席した。
被告Y1は,修正前消費貸借契約書の内容を検討し,同契約書では,委託契約終了時に残金を一括返済するとの規定になっていたことから,同月18日,Aに対し,その修正を依頼した。
Aは,同日,被告Y1に電話し,店舗に来るように命じた。Aは,同日,修正前消費貸借契約書を修正した本件消費貸借契約書(署名押印前のもの)を被告Y1に交付し,すぐに署名押印して提出するように告げた。
被告Y1は,実家に同契約書を持ち帰り,被告Y2に同契約書に署名押印してもらい,自身も署名押印し,同月20日,Aにこれを交付した。
(10) 被告Y1は,Aから本件11条1項に関する説明を受けていなかったところ,本件11条1項の内容では,c店に赤字が発生した場合にその赤字分を被告Y1が補填しなければならないことから,同月21日,Aに対し,赤字が出た場合には一時的に原告又はAが立て替えてもらいたい旨のメッセージをLINEで送信した。
被告Y1は,同月22日,a店でAと面談し,Aに対し,c店の赤字分を立て替えるか,半分負担して欲しい旨を伝えた。Aは,被告Y1からの要望を拒否した。Aが被告Y1に対し,不安があるならマイナスが出るか収支表を確認するよう述べたため,被告Y1は,パソコンで予想収支表を確認した。被告Y1は,同収支表では,4か月間で160万円の赤字が出る結果が表示されていた。被告Y1は,同収支表の「新規」欄の数値を修正したところ,開店5か月間で340万円の赤字が発生する計算結果が表示された。被告Y1は,パソコン上の同画面をAに見せたところ,Aは,被告Y1に対し,そんなに客がこないなら経営センスがない,赤字が心配なら,もう400万円渡すから自分で全部やってみろ,その代わりにうちのスタッフ(a店勤務の美容師)を新店舗に働きに行かせてお客さんを横取りするなどと告げた。
被告Y1は,同月25日,Aに対し,本件業務委託契約を締結できない旨を伝え,同月26日,その旨の書面をAに提出した。
(11) Aは,平成27年1月4日,被告Y1に対し,450万円を支払えば今回のことはなかったことにする旨を告げた。被告Y1は,Aに対し,考えさせて欲しいと返答した。
Aは,同月8日,被告Y1に電話をし,同月9日にも被告Y1を呼び出して450万円を払うよう催促し,被告Y1の両親も巻き込む旨を告げた。被告Y1は,450万円を支払うことはできない旨を返答した。
(12) Aは,同月11日,b店とa店の従業員が集まるミーティングにおいて,従業員全員に対し,被告Y1が新店舗を共同経営することになっていたが,被告Y1が辞退することになり,多大な損害が生じているので,被告Y1及び被告Y2に損害賠償請求すること,全従業員への委託料の支払を日払いから月払いにすること等を説明した。
被告Y1は,その後,被告ら訴訟代理人に原告との交渉等を委任した。
(13) Aは,同年3月1日,被告Y1を含むb店の従業員を居酒屋に連れ出し,参加者全員に対し,被告らに損害賠償請求する旨を改めて説明した。
2 争点(1)について
以上の認定事実を基に検討するに,本件11条1項において規定された,新店舗の資金がマイナスとなった場合に直ちに原告が解除できるとの条項に関連して,被告Y1は,新店舗で赤字が生じた場合の赤字の立替え又は補填を原告又はAに要請したにもかかわらず,Aがこれを拒否したために,被告Y1が本件業務委託契約を締結しない旨をAに告げており,本件業務委託契約の要素について原告と被告Y1との間で合意が形成されていないことは明らかである。被告Y1が本件業務委託契約書に署名押印していないことからしても,本件業務委託契約が成立しているとみる余地はない。
これに対し,原告は,被告Y1はc店の経営者として開店に向けて行動しており,c店物件について,原告が貸主との間で賃貸借契約を締結した平成26年11月26日までには本件業務委託契約が成立していたと主張する。
しかしながら,前記認定事実によれば,c店の開店に向けての物件探しや融資先の確保,内装業者との折衝,広告依頼,名刺作成等の準備行為はA(原告)が主導していたのであって,被告Y1が新店舗の店名を提案したり,内装業者とやり取りしたり,防火管理者の資格を取得したことがあっても,これは被告Y1が原告又はAの方針に追従した結果にすぎないということができ,被告Y1が新店舗の経営者として積極的な行動をしていたとはいえない。
また,Aが同月下旬ころに提案書をもって被告Y1に説明した内容は,新店舗における共同経営の基本方針の骨子を伝えるにとどまっており,被告Y1が新店舗で生じた赤字分を全て負担することや,赤字分を補填できなければ契約が解除されること,契約が解除されれば出店費用の負担分を一括返済しなければならないことが説明されることはなかったことからすると,本件業務委託契約における重要な点が示されていないといわざるを得ず,Aが提案書をもって説明した内容を被告Y1が承認したとしても,本件業務委託契約の内容について合意が成立していたことにはならない。
この点,被告Y1は本件業務委託契約書と密接な関連性を有する本件消費貸借契約書に平成26年12月18日ころ署名押印しているが,被告Y1は,Aから,同日,被告Y1の修正依頼を踏まえて修正された本件消費貸借契約書を早急に提出するよう催告されたために急いで提出したものであることを考慮すると,被告Y1は,本件業務委託契約の内容に同意したから本件消費貸借契約書に署名押印して提出したというわけではないということができる。
以上によれば,同年11月26日までに本件業務委託契約の内容について原告と被告Y1との間で合意が成立しているとはいえず,原告の主張は失当である。
したがって,本件業務委託契約の成立を前提とする債務不履行による損害賠償請求は理由がない。
2 争点(2),(3)について
原告は,仮に本件業務委託契約が成立していないとしても,被告Y1には契約締結上の過失があると主張する。
しかしながら,被告Y1は,平成26年12月14日ころに原告から本件業務委託契約書を交付され,条項につき十分に検討する機会が与えられていなかった。そして,本件業務委託契約は,原告にとって開店費用の負担を半額に抑えつつ,赤字経営となっても赤字分の補填を免れることができ,経営に伴うリスクを減少させることができるというメリットが原告側にある反面,被告Y1にとっては,開店費用の負担を半額に抑えられるというメリットはあるものの,本件11条1項によれば,赤字経営となった場合,赤字分を自ら補填し続けながら店舗管理を継続しなければならないリスクがあるばかりか,仮に店舗管理資金がマイナスになり原告から本件業務委託契約を解除された場合には,開店費用の負担残額を原告に一括で返済しなければならないというデメリットがあるものであった。そうすると,本件11条1項は,本件業務委託契約において非常に重要な条項であったということができ,かかる規定につきAが事前の説明をせず,被告Y1からの変更の申出につき原告が一切応じなかった以上,本件業務委託契約の締結に至らなかったとしても,被告Y1が信義則上の義務に違反したなどと評価することはできない。
また,前述のとおり,新店舗の開店に向けての準備行為は原告又はAが主導して行っていたのであり,被告Y1はこれに追従するだけであった上,被告Y1が本件業務委託契約の締結を拒否してからはA自身がc店を一人で経営していること,原告が本件Y1以外の他の従業員にも新店舗共同経営の打診をしていたことも考慮すると,原告にとって被告Y1と本件業務委託契約を締結することが必須の状態であったとまではいうことができず,原告と被告Y1との間で本件業務委託契約締結の成熟度が高かったと評価することはできない。
以上によれば,被告Y1に契約締結上の過失はない。したがって,契約締結上の過失が存在することを前提とする原告の損害賠償請求は理由がない。
3 争点(4)について
(1) 本件消費貸借契約について
被告Y1は,本件消費貸借契約書に署名押印し,原告に提出したものの,被告Y1は原告から現金の交付を受けていない。
この点,原告は,本件消費貸借契約の目的物である800万円は,c店の開店準備費用として被告Y1が負担する部分につき,被告Y1の指示を受けて,直接原告が各業者に対して支払ったのであって,被告Y1は,現金の授受があったのと同一の経済上の利益を受けていると主張する。
しかしながら,そもそも本件業務委託契約が成立していない以上,新店舗の開店費用のうち被告Y1が負担すべき部分は発生していないといわざるを得ず,原告の主張は前提を欠き失当である。また,原告はc店の売上げを全て受領し,店舗内の動産も全て原告が使用していること(弁論の全趣旨)からも,被告Y1に一切の財産上の利益が生じていないことは明らかである。
よって,本件消費貸借契約は,「金銭その他の物を受け取る」の要件を欠き,成立していない。
(2) 本件連帯保証契約について
本件消費貸借契約が成立していない以上,本件連帯保証契約も成立していな
4 結論
よって,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第49部
(裁判官 戸室壮太郎)
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