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「営業支援」に関する裁判例(43)平成27年 3月25日 東京地裁 平24(ワ)23558号 損害賠償請求事件

「営業支援」に関する裁判例(43)平成27年 3月25日 東京地裁 平24(ワ)23558号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成27年 3月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)23558号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2015WLJPCA03258018

要旨
◆タイ王国法人である原告が、原告の代表権を有する取締役であった被告Y1は、その在任中、原告に送金された金銭を自己が原告に対して貸し付けたものであるかのように仮装して横領し、また、不正に工場用地購入資金の貸付け及び中古機械購入代金の支払等を行い、また、原告の株主総会の決議を経ることなく取締役報酬等の支給を受け、また、子である被告Y2に給与を不正に支給したと主張して、被告Y1に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに、被告Y2は原告における同被告の稼働期間中に当該各不法行為を被告Y1と共同して行ったと主張して、被告Y2に対し、当該期間の各不法行為に係る損害の賠償を求めた事案において、被告Y1の取締役報酬等のうち、株主総会決議があったものと同視できる全株主の同意があったとは認められない報酬等を認定して、その支給を受けた行為に限り被告Y1の不法行為責任を認める一方、被告Y2は原告の従業員として業務に従事していたと認めるなどして、同被告の不法行為責任を否定し、被告Y1に対する請求を一部認容した事例

参照条文
民法709条
民法719条
会社法361条

裁判年月日  平成27年 3月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)23558号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2015WLJPCA03258018

タイ王国チョンブリ県パントン市〈以下省略〉
原告 X社
同代表者取締役 A
同訴訟代理人弁護士 黒澤基弘
同 升村紀章
同 小林正樹
同 朝妻健
同 伊﨑健太郎
同 笠置泰平
同 畑田正彦
同 前川晶
神奈川県平塚市〈以下省略〉
被告 Y1
神奈川県川崎市〈以下省略〉
被告 Y2
上記2名訴訟代理人弁護士 鴨志田哲也

 

 

主文

1  被告Y1は,原告に対し,2426万9902円及びこれに対する平成23年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告の被告Y1に対するその余の請求を棄却する。
3  原告の被告Y2に対する請求を棄却する。
4  訴訟費用は,原告及び被告Y1に生じた費用の10分の1を被告Y1の負担とし,その余を原告の負担とする。
5  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告Y1は,原告に対し,第2項の限度で被告Y2と連帯して,2億3952万5718円及びこれに対する平成23年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告Y2は,原告に対し,被告Y1と連帯して,1億9021万0595円及びこれに対する平成23年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,タイ王国(以下,単に「タイ」という。)法人である原告が,原告の代表権を有する取締役であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対し,同被告が,その在任中,①a株式会社(以下「a社」という。)から原告に対してプログラム代等の名目で送金された金銭を,自己が原告に対して貸し付けたものであるかのように仮装して,413万2941タイバーツ(以下,単に「バーツ」という。)を横領し,②自己及び自己の支配するタイ法人b(以下「b社」という。)の利益を図り原告に損害を加える目的で,原告代表者として,不正に,b社に対する工場用地購入資金700万バーツの貸付け及びb社の工場建設資金1717万0944バーツの支払を行い(合計2417万0944バーツ),③自己及び自己が支配するc株式会社(以下「c社」という。)の利益を図り原告に損害を加える目的で,原告代表者として,c社からの中古機械購入代金を水増しして2168万円を不正に支出し,また,株式会社d(以下「d社」という。)がc社から代金を水増しして購入した中古機械を,d社から水増しした代金で購入して5262万円を不正に支出し,④原告の株主総会の決議を経ることなく,取締役報酬等として2587万0419バーツの支給を受け,⑤原告代表者として,原告の従業員であり自己の子である被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し,給与1106万7500バーツを不正に支給したと主張して,不法行為(平成18年法律第78号による改正前の法例11条1項,2項及び同改正後の法の適用に関する通則法17条本文,22条1項により,タイ民商法典420条及び日本の民法709条が累積的に適用される。)に基づき,上記①ないし⑤の損害額合計に弁護士費用300万円を加えバーツを円に換算した額のうち損害賠償金2億3952万5718円及びこれに対する不法行為の後である平成23年8月31日から支払済みまでタイ民商法典224条及び日本の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,被告Y2に対し,同被告が,平成20年8月からの原告における稼働期間中に被告Y1と上記不法行為を共同して行ったと主張して,当該期間の不法行為に相当する損害,すなわち上記②の2417万0944バーツ全部,上記③のc社分2168万円全部及びd社分のうち4137万円,上記④のうち1435万0419バーツ及び上記⑤の1106万7500バーツ全部,並びに弁護士費用300万円を合計しバーツを円に換算した額のうち損害賠償金1億9021万0595円及びこれに対する上記同様の期間及び割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1  前提事実
(1)  当事者等
ア 原告は,タイのチョンブリ県において,平成15年7月23日,金属製品・金属部品製造事業等を目的として設立された外国法人である。(甲1)
原告は,平成16年3月にタイの工場を完成させ,同年6月に操業を開始した。(争いのない事実)
イ A(以下「A」という。)は,平成23年6月1日,原告の臨時株主総会において,B(以下「B」という。)とともに代表権を有する取締役(以下,単に「代表取締役」という。)に選任された者である。(甲1)
ウ 被告Y1は,Aの実兄であり,原告設立時,原告の代表取締役に就任し,以後原告の業務全般を統括する権限を有する者であったが,平成23年6月1日,原告の臨時株主総会において,代表取締役を解任する旨の決議を受けた。(争いのない事実)
エ 被告Y2は,被告Y1の子であり,平成20年8月頃から平成23年8月31日まで,原告においてゼネラル・マネージャーとして稼働した。(争いのない事実)
オ a社は,昭和40年頃からAが個人で営んでいた精密部品の機械加工等の事業を法人化した有限会社a1が,昭和56年3月4日,組織変更して設立された株式会社であり,Aが設立から平成19年9月30日まで代表取締役を務めた。(争いのない事実)
カ b社は,平成24年8月10日,タイにおいて設立された会社であり,その唯一の取締役は被告Y1であり,その設立発起人株主は,被告Y1及び2名のタイ人実業家であった。(甲7,甲8)
キ c社は,昭和53年10月31日に設立された,土木工事,建築工事及び電気工事の設計,施工等を目的とする株式会社であり,被告Y1が代表取締役,被告Y2が取締役を務めている。(甲9)
(2)  原告の株主構成
ア 原告設立時の株式は,Aが37%に当たる4万1106株,Aの妻C(以下「C」という。)が31.5%に当たる3万5000株,Aの子であるD(以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)がそれぞれ15.75%に当たる1万7500株ずつ,被告Y1が1株を保有していた。そのほか,a社関係者であるB,F(以下「F」という。)及びG(以下「G」という。)が株式を保有し,株主数は合計8名であった。(争いのない事実)
イ 原告は,平成15年11月14日,全株主同意の下,A及び被告Y1に対し新株を発行して増資を行い(以下「本件第1増資」という。),その結果,Aが52.63%に当たる11万1106株を有する筆頭株主となり,被告Y1が14.21%に当たる3万0001株を有する第3順位株主となった。(争いのない事実)
ウ 被告Y1は,平成18年3月20日,当時の原告代表者として,被告Y1に対し新株を発行して増資する手続を行った(以下「本件第2増資」という。)。本件第2増資の結果は,被告Y1が50.8%に当たる18万7001株を有する筆頭株主となり,Aが30.18%に当たる11万1106株を有する第2順位株主となるというものであった。(争いのない事実)
エ Aは,平成21年1月頃,本件第2増資の取消しを求めてタイのチョンブリ県裁判所に訴えを提起し,同年11月18日,請求認容判決(以下「本件取消判決」という。)が下された。その後控訴が棄却され,同判決は確定した。(甲19,弁論の全趣旨)
(3)  b社に対する工場建設資金供与
ア 被告Y1は,平成22年8月頃,当時の原告代表者として,b社に対し,タイのチョンブリ県パントン市に建設予定の新工場(以下「本件新工場」という。)の用地購入資金として,700万バーツを貸し付けた(以下「本件融資」という。)。(争いのない事実)
b社は,本件融資を原資として,平成22年9月15日に本件新工場の敷地を704万4000バーツで購入し,同土地につきb社名義の登記を受けた。(甲36,37)
イ 被告Y1は,平成22年9月から平成23年7月までの間,当時の原告代表者として,本件新工場の建設代金として,タイの業者3社に対し,合計1717万0944バーツを支払った(以下「本件建設代金支払」という。)。(争いのない事実)
これによって建設された本件新工場の建物については,b社名義で登記がされた。(甲38,39)
ウ b社名義の土地権利証等,関係書類,同社の代表印,本件新工場の事務所及び工場の鍵は,現在原告が管理している。(争いのない事実)
(4)  被告Y1に対する取締役報酬等の支給
被告Y1は,原告から,給料相当報酬として,平成16年10月から平成17年5月までは月額15万バーツ,同年6月から平成19年4月までは月額24万バーツ,同年5月から平成23年7月までは月額32万バーツの合計2304万バーツの支給を受けたほか,賞与として,平成21年2月,同年8月,平成22年2月,同年8月及び平成23年2月に合計255万6000バーツの支給を受け,ホテル代として,平成20年から平成22年までに合計27万4419バーツの支給を受けた(総計2587万0419バーツ。以下,併せて「本件取締役報酬等」という。)。(甲12,乙26,29の1)
(5)  被告Y2に対する給与等の支給
被告Y2は,原告から,給与として,平成20年8月から平成23年7月まで月額25万バーツ,合計900万バーツの給与の支給を受けたほか,賞与として,平成21年2月,同年8月,平成22年2月,同年8月及び平成23年2月に合計206万7500バーツの支給を受けた(総計1106万7500バーツ。以下,併せて「本件給与等」という。)。(甲12)
2  争点
(1)  プログラム代相当額の横領の有無
(2)  b社に対する工場建設資金供与(本件融資及び本件建設代金支払)の違法性
(3)  中古工作機械購入代金の支払の違法性
(4)  被告Y1に対する本件取締役報酬等支給の違法性
(5)  被告Y2に対する本件給与等支給の違法性
(6)  被告Y2の責任原因
(7)  損害
3  争点に対する当事者の主張
(1)  プログラム代相当額の横領の有無(争点(1))について
ア 原告の主張
被告Y1は,平成16年12月13日から平成17年9月5日までの間,a社から原告に対してプログラム代等の名目で送金された金銭を,自己が原告に対して貸し付けたもののように仮装して,合計413万2941バーツを横領した。被告Y1は,これを本件第2増資の払込みに充てた。
被告らは,タイ人会計士に責任を転嫁しようとするが,タイ人会計士が被告らの指示なくして事実と異なる会計処理をすることは考え難い。
イ 被告らの反論
横領の主張は否認する。a社から原告に送金されたプログラム代等名目の金銭が,原告の銀行口座から引き出されたり,被告Y1名義の口座に振り替えられたりした事実はない。
タイ人会計士が,a社から送金された金銭の一部413万2941バーツを,被告Y1が原告に貸し付けた形とし,これを本件第2増資の払込みに充てるという会計処理を行っていたようである。しかし,その後本件第2増資が本件取消判決によって取り消されたことにより,結局,a社から原告に送金された金銭は移動しておらず,原告には損害が発生していない。
(2)  b社に対する工場建設資金供与の違法性(争点(2))について
ア 原告の主張
被告Y1は,本件取消判決により原告の乗っ取りに失敗したことから,自己及びb社の利益を図るとともに,原告に損害を加える目的で,本件融資及び本件建設代金支払を行った。すなわち,何らの担保も徴求することなく,b社に対する本件融資を行い,b社は,これを原資に,公定評価額187万8400バーツの土地を704万4000バーツという高額すぎる価格で購入した。また,本件建設代金支払を行い,本件新工場の建物はb社名義で登録された。原告が同工場を利用してアルマイト処理事業を実施することはできないし,土地及び建物の価値も低いから,原告が本件融資及び本件建設代金支払を回収することはできない状況である。
被告らは,e社(以下「e社」という。)からの要望に基づいてアルマイト処理工場の建設を計画した旨反論するが,平成20年当時,被告Y1はe社とトラブルになっており,そのような要望があったとは考えられない。本件新工場があるタイ王国チョンブリ県パントン市においては,省令により,アルマイト処理工場を操業することはできない。
また,被告らは,原告名義で工場用地の登記をすることができなかったため,タイ人法律専門家と相談の上b社を設立した旨反論するが,当該法律専門家の報告書は提出されていないし,原告を株主として会社を設立すれば足りるのであり,被告Y1が株主となる必要はない。
イ 被告らの反論
原告は,機械加工を行った製品を現地企業に納入してきたが,平成20年頃,大口取引先であるe社から,2次工程である表面処理(アルマイト処理)をした製品を納入してほしいとの要望があった。競合他社も,アルマイト処理工場を増設し,e社からの受注を伸ばした。そのため,被告Y1は,原告工場近隣にアルマイト処理工場を建設することを計画した。しかし,平成22年夏頃,土地購入手続を任せていたタイ人司法書士とタイ人従業員から,タイの法制上,原告名義で土地の登記をすることが困難であるとの報告を受けた。そこで,被告Y1は,タイ人法律専門家と相談の上,被告Y1とタイ人との合弁会社であるb社を設立し,原告代表者として本件融資を実行し,b社の名義で工場用地を取得した。また,原告は,同用地上に本件新工場を建設し,本件建設代金支払を行った。
このように,本件融資及び本件建設代金支払は,被告Y1の経営判断の下行われており,また,b社の名義となっている不動産も実質的には原告の所有であり,権利証等も原告が所持している。被告Y1が,自己及びb社の利益を図る目的で行ったのであれば,被告らが日本に帰国する際,本件新工場の権利関係書類を引き揚げたはずであるが,そのようなことは行っていない。
被告Y1が平成20年当時e社とトラブルになった事実はない。
(3)  中古工作機械購入代金の支払の違法性(争点(3))について
ア 原告の主張
(ア) 被告Y1は,原告を代表して,c社から別紙工作機械一覧表(1)記載の工作機械を,d社から別紙工作機械一覧表(2)記載の工作機械を,それぞれ「購入金額」欄記載の金額で購入したが,実際の価値は,各表「原告主張額」欄記載のとおりでしかない。
上記工作機械の中には,原告の事業に不必要なもの,購入当初から故障していたもの,精度の関係で本来であれば中古で購入することがあり得ない測定顕微鏡が含まれていた。
したがって,購入金額と原告主張額の差額合計7430万円(うちc社分については2168万円,d社分については5262万円)が原告の被った損害である。
(イ) 中古工作機械は,製造年からの経過年数に従って取引価格が下落していくものである。被告らは,中古工作機械の価格にとっては,年式よりもそれまでの使用頻度,累積使用時間等が重要な要素である旨反論するが,被告Y1は,これらの要素について何らの資料も残しておらず,根拠を欠く。
別紙工作機械一覧表(1),(2)の工作機械について日本海事検定協会の検査が行われているかは明らかでない。仮に検査が行われているとしても,検査結果は抽象的・概括的なものにとどまる上,工作機械の取引価格の適正を担保するものではない。
(ウ) d社の平成22年8月25日付けインボイスに係る別紙工作機械一覧表(2)の28番から30番までは一覧表(1)の9番と,一覧表(2)の31番は一覧表(1)の10番と,一覧表(2)の35番は一覧表(1)の11番と同じであり,c社に対して支払がされたのと同一機械について,d社に対して二重に支払がされている。
被告らは,平成22年8月25日付けは通関のための書類にすぎない旨反論するが,同インボイスにはコマーシャル・インボイス(Commercial Invoice)と記載され,通関のためのカスタム・インボイス(Customs Invoice)とは記載されていないから,支払請求のためのインボイスである。
イ 被告らの反論
(ア) 被告Y1は,適正な価格で中古機械を購入したものであり,自己又はc社の利益を図り,原告に損害を加える目的で購入したものではない。業績向上に伴い設備を増強する必要が生じて購入したものである。
そもそも,原告のタイ工場に日本から工作機械を輸入するには,タイ政府投資委員会が指定する日本海事検定協会の検査合格証明書が必要であり,原告が購入した工作機械については,同協会によって,年式,型式,精度等が検査されている。
原告主張の見積金額は,誰がいかなる基準で査定したものか不明である。また,中古工作機械の価値については,使用頻度や機械に記録された累積使用時間が重要であり,年式が古いからといって一律に減価するわけではない。
別紙工作機械一覧表(2)の1番の工作機械は,Aの経営するa社が選定し,原告に購入させたものであり,原告の主張に従えば,a社が高額で売りつけたことになる。もともと,d社自体,Aないしa社が「いい会社がある」と言って被告Y1に紹介した業者である。
(イ) d社の平成22年8月25日付けインボイスに係る別紙工作機械一覧表(2)の25番から35番までの工作機械は,原告がc社から購入したものであって,d社は売主ではなく,輸出入手続を行ったにすぎない。上記インボイスは,通関のための書類にすぎず,支払請求を兼ねるインボイスではない。コマーシャル・インボイスと記載されているのは,d社の誤りにすぎない。現に,原告からd社に同インボイスに基づく代金407万円が支払われたことはない。
(4)  被告Y1に対する本件取締役報酬等支給の違法性(争点(4))について
ア 原告の主張
(ア) 原告はタイ国籍の会社であるから,タイ民商法典1150条により,取締役の報酬は,株主総会で定めることとされている。
にもかかわらず,被告Y1は,株主総会の決議を経ることなく,前記第2の1(前提事実)(4)のとおり,本件取締役報酬等合計2587万0419バーツの支給を受けたものであり,原告に対する不法行為を構成する。
(イ) Aと被告Y1は,被告Y1が原告の取締役に就任するに当たって,取締役報酬はないものとし,それに代えてa社又はその関連会社からc社に対して月額30万円を顧問料又は営業指導料との名目で支払うことを合意していた。
すなわち,平成13年6月から平成16年4月まではa社から,同年5月から平成20年8月まではその関連会社である株式会社f(以下「f社」という。)から,それぞれc社に対し,月額30万円の顧問料等が支払われていた。その額は,平成13年9月以降,月額30万円であった。Aは,原告設立当初,Fを代表取締役とするつもりであったが,被告Y1が強く求めたため,被告Y1を代表取締役とすることとした。しかし,被告Y1がa社に対して上記顧問料等に見合う業務を提供していなかったことから,Aと被告Y1との間では,被告Y1に対する取締役報酬の支給をしないことで合意した。
被告らは,上記月額30万円の支払は,長野県飯田市〈以下省略〉の宅地及び同土地上の建物(以下,併せて「飯田物件」という。)の賃料である旨反論するが,そのような事実はない。
すなわち,飯田物件の土地は,A及び被告Y1の実兄である亡H(以下「H」という。)が農業を営んでいた土地であり,Hが,病気で農業を続けられなくなったことなどから,Aの子Dに対し無償で貸し渡すことを申し出,Dがこれに基づいて使用を開始した。HとAは,一時裁判で争っていたが,平成13年頃以降,和解して良好な関係にあった。
Dが飯田物件の占有を開始したのは,平成16年3月22日であり,月額30万円の支払開始時期と合わない。
a社の関連会社である有限会社g(以下「g社」という。)が飯田物件の占有を終了したのは平成19年2月であるが,その後も,月額30万円の支払は続いている。そして,Aは,平成20年6月頃,本件第2増資の事実を知り,被告Y1に裏切られたと考えたことから,同年8月,c社に対する月額30万円の支払を中止した。
(ウ) Aは,I(以下「I」という。)から原告の月次収支報告を受けたことはなく,一時期被告Y1から収支報告を受けたことがあるものの,支出の内訳は明示されていなかったため,被告Y1の取締役報酬が支給されていることを知らなかった。
(エ) 被告らは,原告に利益が出たらその利益の中から被告Y1の取締役報酬を支給する旨の合意があった旨反論するが,原告において初めて利益が出たのは,通年では平成18年7月期,単月では平成17年3月期であり,被告Y1が取締役報酬を受給し始めた時期と一致しない。
また,取締役の報酬について,支払時期や金額まで取締役に一任する内容の決議は,お手盛り防止のため株主総会決議事項とした趣旨を潜脱するものであり,無効である。
(オ) 会社法319条のような規定を欠くタイ民商法典においては,1人株主であるAが被告Y1との間で報酬を支給する旨の合意をすれば株主総会決議は不要であるとの解釈をとることはできない。
また,原告の設立時の株主のうち,C,D及びEは,それぞれ自己資金で払込みを行っており,実質的な株主であったが,上記3名も被告Y1に対する取締役報酬の支給に同意していない。
イ 被告らの反論
(ア) 被告Y1に対する取締役報酬の支給について,原告における株主総会決議は存在しない。しかし,実質的には,株主総会決議を経たのと同視すべき特段の事情がある。すなわち,原告の設立時の株主は,A,被告Y1のほか,Aの家族(妻のC,子のD及びE),a社関係者(B,F及びG)の合計8名であったが,これは,当時,タイの法制度上,設立時の発起人として7名以上が必要とされていたことから,Aが頭数をそろえるために人選したもので,実質的には,Aが資金を拠出した。その後,A及び被告Y1が追加出資を行い,原告はAと被告Y1の共同事業であり,他の株主は名目的なものであった。
そして,Aと被告Y1との間では,平成16年6月の原告工場操業開始までに,原告において利益が出る,ないし売上げの計上がなされるようになった際,原告から被告Y1の取締役報酬を支給する旨の合意がされていた。正式な株主総会議事録を作成しなかったのは,兄弟間の信頼関係に基づく共同事業であったからである。
(イ) Aは,平成16年10月以降,被告Y1が原告から取締役報酬の支給を受けている事実を認識していた。すなわち,Aは,同年6月,自身の身代わり的な存在も兼ねて,旋盤工であるIをタイの原告工場に派遣した。そして,Iは,毎月,Aに対して,被告Y1の取締役報酬を含め原告の月次収支報告を伝達していた。しかし,Aは,平成23年までの7年間にわたり,被告Y1の取締役報酬の支給に対して異議を述べていないから,これを了解していたといえる。
(ウ) c社がa社から月額30万円の支払を受けていたのは,飯田物件の賃料である。すなわち,Aから,c社に対し,a社ないしその関連会社であるg社において板金工程を行いたいので,飯田物件を板金工場として貸してもらいたい旨の申出があり,c社は当時空き家となっていた飯田物件を月額賃料30万円で賃貸することとした。
飯田物件の土地所有者は,もともと,Aと被告Y1の父であるJ(以下「J」という。)であったところ,Jが昭和55年に被告Y1に対し賃貸し,Jが昭和57年死亡すると,被告Y1が相続するはずであったが,遺産分割が長引いたため,平成20年の遺産分割協議で被告Y1が取得することとなった。建物の所有者は被告Y1である。Hは,勝手にD又はAに飯田物件を貸す権限を有しない。Hは,当時Aと土地問題の裁判で争っており,AやDと話ができる関係にはなかった。また,Dは,g社による板金工場開設には関与していない。なお,平成20年8月をもってa社からの賃料の支払はなくなり,その後A又はDがトラクター等農機具の保管場所として飯田物件の無断使用を続けている。
(5)  被告Y2に対する本件給与等支給の違法性(争点(5))について
ア 原告の主張
被告Y2は,平成20年8月から平成23年7月までの間,本件給与等合計1106万7500バーツの支給を受けた。
しかし,被告Y2は,ゼネラル・マネージャーという肩書は有していたものの,精密機械加工,工場管理者としての経験を全く有しておらず,タイ語もあいさつ程度しか話せなかったため,機械や人の配置を含む生産計画の立案の業務も,従業員の管理を含む工場管理業務もほとんどできなかった。
被告Y2は,システム開発関係の会社に就職してシステムエンジニアとして働いていたのであり,金属製品・金属部品製造という原告の業務に関する知識経験を全く有していない。被告らが指摘するような業務は,実際にはIが行っていた。
このような被告Y2の勤務状況に照らし,被告Y2の受給した給与の額は著しく不当であって,給与という名目の贈与というほかなく,違法である。
イ 被告らの反論
被告Y2は,被告Y1の要請に応え,タイでの就労許可を取得して平成20年8月に原告に入社し,ゼネラル・マネージャーの肩書きで生産管理を担当し,取引先の発注計画に対応した原告工場における生産計画,部材の発注業務を主として行っていた。原告から支給を受けた給料は,従業員としての就労の対価である。
旋盤加工の経験がなければ生産管理ができないわけではなく,むしろ,生産管理は,システムエンジニアの仕事である。Iは生産管理の業務を行っていない。
(6)  被告Y2の責任原因(争点(6))について
ア 原告の主張
被告Y2は,平成20年8月頃,被告Y1の指示を受け,被告Y1の不法行為に加担するため,タイに入国した。そして,被告Y1の不在の間,その指示の下,共同不法行為を行った。
イ 被告Y2の反論
原告の主張は否認する。被告Y2は,原告の新工場建設や,中古工作機械の購入等の経営判断には関与していない。
(7)  損害(争点(7))について
ア 原告の主張
前記(1)ないし(5)の各不法行為による原告の損害額及びそのうち被告Y2が関与した平成20年8月以降の損害額は,次表のとおりである。原告は,被害回復のため,やむを得ず訴訟代理人弁護士らに本訴の提起及び追行を委任したところ,被告らの不法行為と相当因果関係が認められる損害としての弁護士費用は,300万円を下らない。

不法行為 全損害 被告Y2関与分
(1)プログラム代関係 4,132,941バーツ 0
(2)b社関係 24,170,944バーツ 24,170,944バーツ
(3)中古工作機械関係 c社 21,680,000円 21,680,000円
d社 52,620,000円 41,370,000円
(4)本件取締役報酬等関係 25,870,419バーツ 14,350,419バーツ
(5)本件給与等関係 11,067,500バーツ 11,067,500バーツ
弁護士費用 3,000,000円 3,000,000円
合計 65,241,804バーツ
及び77,300,000円
49,588,863バーツ
及び66,050,000円

この合計額を平成27年1月28日付けの為替相場(終値)3.612101円/バーツで換算すると,全損害は3億1295万9985円となるところ,被告Y1に対しては,2億3952万5718円(平成16年10月から同年12月までの取締役報酬相当額を含まず,平成24年8月15日付け為替相場(終値)2.5038円/バーツで換算した額)の限度で請求する。同様に,被告Y2関与分の損害は,2億4516万9981円となるところ,被告Y2に対しては,1億9021万0595円(上記平成24年8月15日付け為替相場で換算した額)の限度で請求する。
イ 被告らの反論
争う。
第3  当裁判所の判断
1  プログラム代相当額の横領の有無(争点(1))について
a社から,原告に対し,プログラム代等の名目で送金がされたこと,及び原告においてその送金額のうち413万2941バーツを被告Y1の原告に対する貸付けとする会計処理が行われ,本件第2増資の払込みに充てる形とされたことは当事者間に争いがないところ,実際に被告Y1が当該金銭を原告に貸し付けたことがないことは被告Y1自身が供述するところであるから,上記貸付けとする会計処理は不適切なものであったと考えられる。
しかし,上記貸付けの返済名目で原告から被告Y1に対し現に金銭が移動したと認めるに足りる証拠はなく,被告Y1自身が,本件訴訟において貸付けの事実を否定し,自らが返済を受けるべき金銭ではない旨明言していること,被告Y1は既に原告の取締役を解任されており,上記貸付けの返済名目で将来被告Y1に金銭が支払われる見込みもないこと,本件第2増資については本件取消判決が確定していることに照らすと,被告Y1の責任原因について検討するまでもなく,いずれにしても,原告に損害が発生したものとは認められない。
2  b社に対する工場建設資金供与の違法性(争点(2))について
(1)  原告は,被告Y1が原告に損害を加える目的で本件融資及び本件建設代金支払を行った旨主張する。
これに対し,被告Y1の陳述書(乙32)及び供述によれば,原告は,平成19年,取引先のe社から,アルマイト処理をした製品を納品することを求められたことから,アルマイト処理の外注を開始したが,被告Y1は,競業他社にアルマイト処理を自社内で行うものが現れたことや,外注先企業が原告工場から遠いこともあり,原告においてアルマイト処理を自社内で行う方が有利であると考えて,アルマイト処理工場の建設を決め,アルマイト処理の前工程に必要な装置を購入するなど準備を進めた,被告Y1は,当初は原告において工場用地を取得するつもりであったが,タイの法制上,原告名義又は原告を株主とする会社名義の取得が難しいとの報告を受け,タイ人法律専門家と相談した結果,b社を設立して同社名義で不動産を取得することとし,その際,被告Y1が100万バーツを出資し,名目的なタイ人出資者を過半数株主としたものである,本件新工場の所有権は実質的には原告にある,という。
原告が平成19年にe社からアルマイト処理をした製品の納品を求められ,アルマイト処理の外注を開始したが,その後自社処理化のための装置導入等の準備を行っていたことについては,原告代表者Iも同旨の供述をしており,当該装置の写真もあること(乙52),被告らが平成23年にタイを離れるに際し,b社の書類を持ち出さなかったこと(乙32),b社名義の土地権利証等,関係書類,同社の代表印,本件新工場の事務所及び工場の鍵は,原告が管理しており,原告が本件新工場の土地及び建物を売却するための書類は備わっていること(前記第2の1(前提事実)(3)ウ,原告代表者I)に照らし,被告Y1が本件新工場の建設を決めた動機,及びb社が名目的な会社にすぎず実質的には原告が不動産の所有者であることについての被告Y1の上記陳述書及び供述は信用することができる。
そうすると,b社の銀行預金口座に本件融資直前に上記出資金と見られる100万バーツしかなかったこと(甲40)や,本件新工場の建設が本件取消判決の後に行われたことを前提としても,原告は実質的に本件新工場の所有権を取得しているのであるから,被告Y1が,原告に損害を加える目的で本件融資及び本件建設代金支払を行ったとは認められない。
(2)  次に,原告が実質的に新工場の所有権を取得しているとしても,原告は,土地の購入代金が公定評価額に比べ高額すぎる,原告が当該土地でアルマイト処理事業を実施することはできないなど,被告Y1の判断が不当である旨主張し,これに沿う原告代表者Iの供述がある。
しかし,被告Y1の供述によれば,本件新工場の用地については,7,8件の候補の中から,原告工場や幹線道路との近さを考えて選定したところ,他の候補地は1ライ(ライは面積の単位)当たり80万ないし120万バーツの価格が多かったのに対し,被告Y1が選定した土地は1ライ当たり約63万バーツであり,他の候補地と比べ高額とはいえないこと,被告Y1及びその依頼を受けたタイ人司法書士が,工場用地取得前に,チョンブリ県建築局に相談し,建設の内諾を得ていたことが認められる。そして,これらの事実を覆すに足りる証拠はないし,これらの点に関する被告Y1の供述は,具体的であり,また新工場の取得主体について前記のように法律専門家と相談していた事実に照らしても,信用することができる。当初,原告が工場用地を取得した際の価格である1ライ当たり260万バーツ(乙34)と比べても,不当に高額であるとは認め難い。また,Iが指摘するパントン市の省令の添付リストにアルマイト処理が明示されていないこと(甲54)をもって,本件新工場でアルマイト処理を行うことが許されないものと直ちに解することはできない。
そのほか,原告代表者Iは,高額な排水浄化設備を導入してアルマイト処理を実施するよりも外注に出した方がよい旨供述するが,アルマイト処理を外注するか,自社処理化するかは,取締役に委ねられた経営上の判断に属するものであり,競業他社の動向や外注により生じる問題等を踏まえ,自社処理化を企図した被告Y1の判断が,著しく不当なものであったと認めるに足りる証拠はない。
そうすると,被告Y1の本件新工場建設に関する経営上の判断が,不法行為法上違法であると解することはできない。
(3)  以上によれば,本件融資及び本件建設代金支払が不法行為に当たるとの原告の主張は,採用することができない。
3  中古工作機械購入代金の支払の違法性(争点(3))について
(1)  甲17,18によれば,原告が,c社から,別紙工作機械一覧表(1)の工作機械を,「購入金額」欄記載の代金で購入し,d社から,一覧表(2)の1番から24番までの工作機械を,同じく「購入金額」欄記載の代金で購入したことが認められる。
他方,原告は,これらの工作機械の適正な価額を「原告主張額」欄記載のとおりと主張する。しかし,その算定根拠は,Aが,機械名及び製造年月日等限られた情報を基に見積もったものにすぎず(甲17,18,原告代表者B),第三者による査定を経たものではないから,その証拠価値は著しく低いといわざるを得ない。
また,c社が原告に販売した工作機械のうち,一覧表(1)の2番及び3番については,c社が,平成22年4月7日頃,合計367万5000万円(消費税込み。以下,本段落において同じ。)で購入し,積出港までの国内輸送費合計85万0500円を負担したこと(乙18ないし20),同表4番については,c社が,同年2月10日頃,64万0500円で購入し,国内輸送費29万4000円を負担したこと(乙21,22),同表5番については,c社が,同年3月19日頃,73万5000円で購入し,国内輸送費19万9500円を負担したこと(乙24),同表7番については,c社が,同年4月8日頃,47万2500円で購入したこと(乙25)が認められるところ,原告に対する販売価格からこれらの仕入れ価格及び経費を控除したc社の利益が,不当に過大であるとは,直ちに認め難い。
(2)  原告は,被告Y1が購入した中古工作機械には,原告の事業に不必要なもの,購入当初から故障していたもの,精度の関係で本来であれば中古で購入することがあり得ない測定顕微鏡が含まれていた旨主張し,それに沿う原告代表者Iの陳述書(甲22)及び供述がある。
しかし,中古工作機械の要否の判断及び選定は,被告Y1の取締役としての経営上の合理的判断に委ねられていると解されるところ,平成18年から平成22年にかけて原告の売上高が大幅に増加しており,工作機械の増設を必要とする根拠があったこと(乙1,33),d社が品質等の優れたものとして選定した中から被告Y1が購入する工作機械を選定し,d社による精度測定を経て日本からタイへの輸出が行われた旨の同会社の陳述書があること(乙3の1),購入する機械については日本海事検定協会による機能及び性能等の検査が行われていたこと(乙3の2,3,乙4の1,2,乙10),a社が選定した工作機械(一覧表(2)の1番)も含まれていること(当事者間に争いのない事実)に照らし,被告Y1の判断に著しく不合理な点は認め難い。また,被告Y1が購入した工作機械の中に一部故障していたものがあったとしても,そのことをもって,直ちに被告Y1が不当な目的をもって工作機械を購入したとか,経営上の判断が著しく不合理であったとか認めることはできない。
(3)  原告は,別紙工作機械一覧表(2)の工作機械のうち,平成22年8月25日付けインボイスに係るもの(25番から35番まで)には,c社に対して支払がされたのと同一機械についての二重支払が含まれている旨主張する。
しかしながら,上記インボイスは,日本とタイとの通関用に作成された書類であり,支払請求のために作成されたものではなく,d社がカスタム・インボイスとして作成すべきところを誤ってコマーシャル・インボイスとして作成したものであって,同インボイスに基づく代金407万円を受領していない旨のd社の回答書(乙16の1)に照らし,二重の支払がされたとは直ちに認められない。
そのほか,原告からd社に対し,同インボイスに基づく代金407万円が現に支払われたことを認めるに足りる証拠はない。
(4)  以上によれば,c社及びd社に対する工作機械代金の支払が違法であるとは認められない。
4  被告Y1に対する本件取締役報酬等支給の違法性(争点(4))について
(1)  タイ民商法典1150条は,会社の取締役の報酬は株主総会で定めるものとしており(甲11),日本の株式会社(会社法361条)におけるのと類似の規律を行っている。そうすると,タイ法上,取締役報酬を定める株主総会の決議がない場合,これに代わる全株主の同意がない限り,報酬請求権は発生しないものと解される(最高裁判所平成11年(受)第948号平成15年2月21日第二小法廷判決参照)。
被告Y1は,原告から,平成16年10月から平成23年7月までの間,本件取締役報酬等の支給を受けているが,原告の株主総会において被告Y1の取締役報酬を定める旨の決議がされたとは認められない。そこで,株主総会決議があったものと同視できる全株主の同意があったか否かについて検討することとする。
(2)  ところで,原告は,被告Y1の取締役報酬を支給しない代わりに,a社又はその関連会社からc社に対し月額30万円を支払うことを合意していた旨主張する。
確かに,平成13年ないし平成14年から平成16年4月まではa社からc社に対し,同年5月から平成20年8月まではa社の関連会社であるf社からc社に対し,継続的に月額30万円の支払がされていたことが認められる(甲44,乙33,40)。ただし,このうち,平成16年初頭までの支払は,c社がa社の営業支援等をすることに対する対価,あるいはc社に対する援助の趣旨であり,いずれにしても原告とは無関係のものと認められる(乙33,原告代表者A,被告Y1本人)。
原告は,平成16年以降の支払は被告Y1の取締役報酬に代替するものとして行われたと主張し,これに沿う原告代表者Aの陳述書及び供述があるのに対し,被告Y1の陳述書(乙33)及び供述は,被告Y1がタイでの原告工場操業に専念するため,同年4月をもって上記営業支援等に対する対価を停止するとともに,同年5月からはf社が賃借を始めた飯田物件の賃料に切り替えることをAと合意したとする。
そこで検討するに,飯田物件の土地(飯田市○○1551番6)はA及び被告Y1の父であるJが昭和51年当時から所有していたが,Hが昭和52年8月に同土地上に床面積49.14m2の平家建建物(家屋番号1551番6)を新築する一方,被告Y1が昭和55年7月頃に同土地上に床面積187.32m2の平家建建物(家屋番号1551番6の2)を新築していたところ,Jは昭和57年に死亡したが,平成20年10月3日に成立した遺産分割協議において同土地を被告Y1が相続することとなったこと(甲28,29,58,乙14,15),他方で,平成16年3月22日頃飯田物件の工場に板金用の機械が搬入され,その後に,f社と同じくa社の関連会社であるg社による板金工場としての使用が始まったと認められるところ(乙36の2,3,原告代表者A,被告Y1本人),被告Y1のタイ工場開業準備への専念と飯田物件の賃貸が同時期に発生したため,従前からの支払の趣旨を賃料に切り替えたとする被告Y1の説明は不自然ではないこと,g社による板金工場としての使用は平成19年頃終了したものの,現在に至るまでA,D又はa社の関連会社が飯田物件を農機具の倉庫等として占有していること(争いのない事実),賃料額を従前の支払と同じ月額30万円とした根拠について,不動産屋から聞いた賃料相場を参考に,1600円/m2に床面積187.32m2をかけてAとの間で合意したとの被告Y1の供述は合理性を有すること,この時期にa社からf社に支払主体が代わったこととも符合することに照らすと,賃料の点に関する上記被告Y1の陳述書及び供述は信用することができ,これに反する原告代表者Aの陳述書及び供述は採用することができない。
これに対し,原告は,飯田物件はHからDに対し無償で貸し渡されたのであるから賃料ではない旨主張する。確かに上記家屋番号1551番6の建物はHの所有であるから,D又は関連会社に対し無償で貸し渡された可能性があるが,被告Y1が所有する家屋番号1551番6の2の建物については,Dには貸し渡す権限がないのであるから,賃料の合意がされたとの上記判断を覆すものではない。
したがって,平成16年5月以降のc社に対する月額30万円の支払は飯田物件の賃料であると認められ,これに反する原告の主張は採用することができない。
(3)  被告Y1の陳述書等(乙33,34)及び供述によれば,Aと被告Y1は,平成15年6月6日,a社のG課長も同席の上,原告の設立計画について打合せをした際,被告Y1の報酬について,原告が操業を開始し,利益を上げてから,原告から支給することを合意したという。
これについては,被告Y1の平成15年の手帳に,「6月6日 Aとの打合せ」との見出しの下,①G課長とタイで加工する製品について打ち合わせたこと,②a社から2名出向者を出すことを考えていること,③被告Y1がAにEの派遣を依頼したが断られたこととともに,「4 給与は利益が出てから貰う」と記載されており(乙35の4),裏付けを有するといえる。なお,同記載には,他の3項目の打合せ事項も含め,不自然な点はなく,後日書き加えられたものとは考え難い。原告代表者Aは,この日に被告Y1と会ったこと自体を否定する供述をするが,Aが,a社から原告への発注についてGと被告Y1が打ち合わせていたことや,AがEの派遣を断ったことは認めつつ,この当時の記憶が曖昧である旨述べていることからすると,この日の打合せがなかったとの供述には信用性が欠け,採用することができない。
また,被告Y1が無報酬で原告の代表取締役を務める動機はなく,当時Aと被告Y1の関係は良好であったところ,前記(2)のとおりc社に対する月額30万円の支払は被告Y1の報酬ではなく飯田物件の賃料であると認められる以上,Aと被告Y1が上記のような合意をすることには合理性がある。
そうすると,上記被告Y1の陳述書及び供述は信用することができ,Aと被告Y1との間で取締役報酬支給についての合意があったことが認められる。
そして,そのほかの株主のうち,B,F及びGはいずれも出資の払込みをしておらず,名目的な株主にすぎないことが認められる(甲47)。C,D及びEも,現実に出資の払込みを行ったか否かは明らかでなく,仮に払込みを行ったとしても,Aの家族であり,原告の設立及び運営について意見を述べた形跡もないから,過半数を有する筆頭株主であるAの意向に従うことを了承していたものと解される。
(4)  もっとも,タイ民商法典1150条が,会社の取締役の報酬は株主総会で定めるものとしている趣旨は,取締役によるいわゆるお手盛りの弊害を防止し,報酬の額の決定を株主の自主的な判断に委ねるところにあると解されるから,株主が報酬の額を当該取締役に無条件で一任することは許されないものと解される。また,平成17年度の原告の純利益はマイナスであるから(乙1),平成16年10月から前記合意にいう「利益が出てから」という条件を満たしたものと解してよいかは明らかでない。
しかし,乙27ないし29の3,被告Y1の供述によれば,平成16年9月頃,取引先からまとまった取引の提示があり,同年10月から月次収支がプラスになる目処が立ったため取締役報酬の支給を受け始めたこと,被告Y1は,平成17年当時,Aが経営するa社の経理担当者の求めに応じて,a社に対し,原告の収支報告書等を随時送付していたこと,その中に被告Y1の取締役報酬の額も記載されていたことが認められる。上記供述は,前記(3)の合意の存在や,少なくとも被告Y1の取締役報酬が月額24万バーツに増額された平成17年当時まではAと被告Y1との関係が良好であったこと(甲47,弁論の全趣旨)に照らし,信用することができる。なお,被告Y1の当初の陳述書(乙32)では,Iが上記収支報告書等を送付していたとされていたが,これに反する原告代表者Iの供述に照らし,同報告書等は,被告Y1が宛名等を記入した上で,自ら,又は他の従業員に指示して送付したものと認められる。しかし,この点に記憶違いがあったことをもって,直ちに被告Y1の供述全体の信用性が失われるものとはいえない。
原告代表者Aは,被告Y1から原告の収支状況の報告を受けたことはほとんどなく,報告を求めても何も出さないだろうと思っていた旨供述するが,少なくとも平成17年11月度の収支報告書に被告Y1が「owner殿」と記載してa社に送付していると見られること(乙28),原告の経営状況について被告Y1が当初から報告を拒絶していたとすれば,Aが,筆頭株主として最も関心を持つはずであるのに,平成18年3月,Bを通じて被告Y1に代表取締役を辞めるよう伝えるまで,原告の収支報告を求めた形跡はなく,また,被告Y1を解任しようとしなかったこと(甲47,原告代表者A)は不自然であることに加え,Aがa社から原告に派遣されていたIを通じるなどして原告の収支報告を求めることすらしていないことに照らし,採用することができない。
そうすると,Aは,少なくとも事後的に,被告Y1が,平成16年10月から月額15万バーツ,平成17年5月から月額24万バーツの取締役報酬の支給を受けることを了承していたものと推認するのが相当である。
なお,Cは,平成17年1月10日死亡し,A,D,E,K及びLがこれを相続したことが認められるが,後にCの有する原告の株式全部をAが相続する旨の遺産分割協議が成立していることからしても,A以外の相続人は,Aの意向に従うことを了承していたものと解される(甲2の1,甲65,66)。
(5)  他方,被告Y1は,平成19年5月以降,取締役報酬を月額24万バーツから月額32万バーツに増額しているが,これに先立つ平成18年3月,AがBを通じて被告Y1に代表取締役を辞めるよう伝えたこと(甲47),被告Y1も,同月,Aには無断で本件第2増資を行ったこと(前記第2の1(前提事実)(2)ウ,甲47)を考えると,Aが,平成19年5月以降,被告Y1の報酬の増額を了承したとは考え難い。
また,平成21年2月から平成23年2月までの間に支給された賞与合計255万6000バーツについても,Aが平成20年8月頃本件第2増資を知って被告Y1に対する不信感を持ち,平成21年1月頃,その取消しを求めて提訴している(前記第2の1(前提事実)(2)エ,甲47,原告代表者A)のであるから,Aと被告Y1との関係が更に悪化していたというべきであって,Aがその支給を了承したとは考え難い。
(6)  また,本件取締役報酬等のうち,ホテル代の支給については,タイ民商法典1150条にいう報酬として株主総会の決議を要するものとは解されないところ,原告は,その支給が不法行為となる根拠について,具体的に主張立証しない。
(7)  以上によれば,平成19年5月から平成23年7月までの取締役報酬のうち月額8万バーツの増額分(51か月分408万バーツ)及び賞与255万6000バーツの合計663万6000バーツに限っては,支給の根拠を欠き,被告Y1がその支給を受けた行為は,原告に対する不法行為に当たるものと解される。
なお,被告らは,本件訴訟は訴権の濫用であり,信義誠実の原則に反する不当訴訟であって,直ちに棄却すべき旨主張するが,上記判断に照らし,採用することができない。
5  被告Y2に対する本件給与等支給の違法性(争点(5))について
前記第2の1(前提事実)(1)エの事実,乙31,32,44の1ないし15,乙45,被告Y1本人及び被告Y2本人の供述によれば,被告Y2は,平成9年からIT関連会社でシステムエンジニアとして勤務していたが,原告の代表取締役であった被告Y1から,管理業務を担当する日本人スタッフが必要であるとして度々原告への就職を勧誘された結果,原告への就職を決め,平成20年,それまでの会社を退職し,妻を伴ってタイに渡り,平成20年8月から原告においてゼネラル・マネージャーとして勤務を始めたこと,生産管理を担当し,生産計画に従った生産状況の確認,社内での品質管理等のためのミーティングの実施や,取引先との対応を含む業務を行っていたことが認められる。その勤務の実態に関する被告Y2本人の陳述書(乙31)及び供述は詳細かつ具体的であり,信用することができる。
これに対し,原告は,被告Y2が業務に必要な経験・能力を欠き,ほとんど業務を行っていなかった旨主張し,これに沿う証拠として,被告Y2が現場で指示を出すことはほとんどなく,特に仕事をしている様子がなかった旨の,原告代理人による原告タイ人従業員からの聴取結果(甲26),生産管理を行っていたのは被告Y1ではなくIである旨の原告代表者Iの陳述書(甲48)及び供述がある。しかし,いずれも原告の現経営者であるAの強い影響下にある人物であって,客観性・中立性に乏しい上,Iの供述によっても,工場で働く従業員であったIらは,被告Y2が行っている事務方の業務内容を詳細に知る立場にはなかったというのであり,その供述の信用性は限られている。また,Iも,被告Y2が朝礼等に出席して発言したり,取引先との打合せへの同席や発注の決裁をしたりしていたことを認めているし,Iが被告Y2の仕事上の不手際やタイ人従業員からの評価の低さを指摘する点も,その真偽はさておき,被告Y2がそもそも業務を行っていなかったことの根拠となるものではない。また,被告Y2は,原告就職以前に金属製品製造業務自体に携わったことはなく,旋盤加工等について短時間の講習を受けた程度であったことが認められるが,被告Y2が行っていた生産管理や品質管理は,現場の機械加工業務そのものとは異なることが明らかであり,被告Y2にはシステムエンジニアとしての経験のほか,生産管理・品質管理を学んだ経験もあることに照らし,被告Y2が業務に必要な経験・能力を欠いていたとは認められない(乙46ないし48)。
そうすると,被告Y2がほとんど業務を行っていなかった旨の原告の主張は採用することができず,本件給与等の支給が違法であると解することはできない。
6  被告Y2の責任原因(争点(6))について
被告Y2は,原告の従業員として前記5のような業務に従事していたことが認められ,被告Y1に対する本件取締役報酬等の支給の判断に関与したものと認めるに足りる証拠はない。
7  損害(争点(7))について
以上によれば,前記4の被告Y1が本件取締役報酬等のうち663万6000バーツの支給を受けた行為に限り,不法行為が成立するところ,本件口頭弁論終結時の為替相場が原告主張の3.612101円/バーツを下らないことは当裁判所に顕著であるから,これを適用して上記損害額を円に換算すると,2396万9902円となる。
また,原告が本件訴訟の提起及び追行に要した弁護士費用のうち,被告Y1の不法行為と相当因果関係を有する損害額は,30万円と算定するのが相当である。
したがって,損害額は合計2426万9902円となる。
8  結論
よって,原告の被告Y1に対する請求は,不法行為に基づく損害賠償金2426万9902円及びこれに対する不法行為の後である平成23年8月31日から支払済みまでタイ民商法典224条所定の法定利率の範囲内である年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,被告Y1に対するその余の請求を棄却し,被告Y2に対する請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千葉和則 裁判官 伊藤拓也 裁判官 西臨太郎)

 

〈以下省略〉

 

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