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「営業アウトソーシング」に関する裁判例(33)平成27年 6月24日 東京地裁 平26(ワ)15227号 未払派遣料請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(33)平成27年 6月24日 東京地裁 平26(ワ)15227号 未払派遣料請求事件

裁判年月日  平成27年 6月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)15227号
事件名  未払派遣料請求事件
裁判結果  認容(本訴)、請求棄却(反訴)  文献番号  2015WLJPCA06248015

要旨
◆原告が、被告との間で締結した労働者派遣契約に基づく未払派遣料金の支払を求めた(本訴)のに対し、被告が、原告の派遣した労働者Dは派遣業務遂行中に被告に損害を与え、又は被告の事業と競業する取引を行って被告に損害を与えたから不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づく損害賠償請求権を有するとして原告の未払派遣料金請求権との相殺を主張しその残額の支払を求めた(反訴)事案において、本訴請求原因事実は当事者間に争いがないとした上で、本件では、被告代表者の陳述書の記載を併せ考慮しても被告主張のDの注意義務違反行為は認められないから、被告の原告に対する損害賠償請求は理由がないとして被告の相殺主張を認めず、本訴請求を認容し反訴請求は棄却した事例

参照条文
民法414条
民法415条
民法505条1項
民法715条

裁判年月日  平成27年 6月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)15227号
事件名  未払派遣料請求事件
裁判結果  認容(本訴)、請求棄却(反訴)  文献番号  2015WLJPCA06248015

東京都新宿区〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 株式会社X(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 小泉始
東京都中央区〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 株式会社Y(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 大友良浩
同 森山航洋
同 奥津啓太
同 清水紘武

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,110万2500円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  被告の反訴請求を棄却する。
3  訴訟費用は,本訴・反訴を通じ,被告の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  本訴
主文1項同旨
2  反訴
原告は,被告に対し,232万9500円及びこれに対する平成26年6月4日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
1  事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,労働者派遣契約に基づき,未払派遣料金とこれに対する支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴),被告が,原告に対し,原告の派遣した労働者が,派遣業務遂行上,被告に対して損害を与え,又は被告の事業と競業する取引を行って被告に対して損害を与えたため,不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づき損害賠償請求権を有するとして,同請求権と本訴による原告の未払派遣料金請求権とを対当額で相殺し,損害の残額につき,反訴請求をした事案である。
2  前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認めることができる。)
(1)  当事者
ア 原告は,労働者派遣事業,有料職業紹介事業,各種業務のアウトソーシングの受託及び請負等を目的とする株式会社である。
イ 被告は,内外物資の輸出入及び販売,放射線測定器の製造,販売,卸,輸出入等を目的とする株式会社である。
(2)  原告と被告は,平成25年2月28日,原告が被告に対し,以下の条件で,労働者を派遣するという内容の労働者派遣契約を締結した(以下「本件派遣契約」という。甲3)。
派遣先:被告
派遣命令者:被告代表取締役B
業務内容:営業
派遣期間:平成25年3月1日から同年5月31日まで
就業時間:10時から18時まで(休憩1時間)
休日:土日祝日
派遣料金:時給2500円(消費税別途)
支払条件:末日締めの翌月末日銀行振込み
(3)  原告は,本件派遣契約に基づき,労働者C(以下「C」という。)を被告に派遣した。上記Cの派遣により,原告の被告に対する合計110万2500円の派遣料請求権が発生した。
(4)  原告は,被告に対し,平成25年12月26日付け請求催告書により,上記未払派遣料金110万2500円を同催告書到達後直ちに支払うよう催告したが(同月27日到達),被告は,上記の支払をしていない。
(5)  原告と被告は,平成23年12月28日,原告が被告に対して労働者を派遣するという内容の労働者派遣契約を締結した(以下「別件派遣契約」という。乙1)。
原告は,被告に対し,別件派遣契約に基づき,平成24年1月から同年3月まで労働者D(以下「D」という。)を派遣した。
なお,原告と被告とは,別件派遣契約以前にも労働者派遣契約を締結しており,Dは,平成23年10月から被告に対し派遣されていた。
3  争点
(1)  Dの注意義務違反行為の有無(争点1)
(2)  被告の損害(争点2)
(3)  原告の使用者責任(争点3)
第3  当事者の主張
1  争点1(Dの注意義務違反行為の有無)について
(1)  被告の主張
ア 被告は,有限会社a(以下「a社」という。)との間で,平成23年4月27日,a社がウクライナのb社という会社(以下「b社」という。)が製造した放射線測定器を輸入して,これを被告に販売するという内容の輸入品売買基本契約を締結し(乙2),日本国内において,b社製の放射線測定器の輸入販売を開始した。
イ ところで,Dは,被告に派遣された労働者として,派遣業務遂行上,被告に対して損害を与えないようにすべき注意義務を負っていた。また,Dは,被告に対し,被告への派遣期間中,派遣先である被告の事業と競業する取引を行ってはならないとの注意義務を負っていた。
それにもかかわらず,Dは,a社代表者E(以下「E」という。)やウクライナ在住のa社担当者F(以下「F」という。)と共謀して,平成24年3月23日,a社がb社から輸入した放射線測定器「○○」のうち,フードテスタ(食品用放射能検査器)10台を被告を介することなく,被告が放射線測定器等の販売会社として日本国内において開拓した株式会社c(以下「c社」という。)に対して直接販売した。
ウ 同様に,Dは,E及びFと共謀して,同年4月17日,a社がb社から輸入したフードテスタ2台を,被告を介することなく,c社に直接販売した。
エ Dは,上記イ記載の注意義務に反し,a社がb社から輸入した放射線測定器を,被告を介することなく日本国内の販売会社に販売すれば,被告に損害が生じることを認識しながらこれを実行したものであり,Dの行為は被告に対する不法行為を構成する。
また,Dは,被告の事業と競業する取引を行ったものであるから,やはり,Dの行為は不法行為に該当する。
(2)  原告の主張
不知
2  争点2(被告の損害)について
(1)  被告の主張
b社製の「フードテスタ」は,被告がa社から1台20万円程度で仕入れ,販売店に1台48万6000円で販売できた商品であり,被告を介して販売された場合には,被告は,少なくとも1台当たり28万6000円の利益を得ることができたといえる。そして,Dの行為がなければ,被告は,a社が被告を介することなく販売したフードテスタ12台をa社から購入し,c社に販売することができたはずである。
したがって,被告には,Dの不法行為によって,合計343万2000円の損害が発生している。
(2)  原告の主張
不知
3  争点3(原告の使用者責任)について
(1)  被告の主張
Dは,原告との間で雇用契約を締結し,原告の指揮監督を受ける労働者であり,その雇用関係を維持しつつ,原告の命令によって一時的に被告の下に派遣され,その指揮監督下で労働することになったものである。
Dの労働の対価である賃金は,原告から支給される一方で,原告は被告から派遣料の支払を受けてDの労働により利益を得ていたものである。このような原告とDとの関係からすれば,原告は,Dの使用者であり,Dの行為は,別件派遣契約に基づく原告の派遣業務として原告の職務執行につきなされたものといえる。
(2)  原告の主張
仮に,Dに競業違反等の行為が存在していたとしても,被告が主張するDの行為は,同人が原告の事業とは別に,D個人として独自に行ったものであり,原告による派遣業務とは無関係になされたものであるから,原告の職務執行につきなされたものとはいえない。
また,Dが原告の一定の指揮監督下にあったことは認めるが,業務を遂行する上では,Dを一次的に指揮監督する権限を有していたのは被告であり,原告の指揮監督の範囲は限定的なものであった。
第4  当裁判所の判断
1  本訴における原告の被告に対する未払派遣料請求につき,請求原因事実は当事者間に争いがないので,以下においては,被告の原告に対する損害賠償請求権の成否について検討する。
2  争点1(Dの注意義務違反行為の有無)について
(1)  前提事実に加え,以下に記載する証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告とa社は,平成23年4月27日,ウクライナのb社製の放射線測定器について,a社が同社の測定器を輸入し,これを被告に販売する旨の輸入品売買基本契約を締結した(乙2,10)。被告は,a社から上記測定器を購入し,c社等に販売していた。
イ 被告は,平成25年,東京地方裁判所に対し,a社を被告として,売買代金の返還等を求める訴訟を提起したが,同訴訟の中で,a社は,被告がフードテスタ10台を輸入し,そのうち5台について,被告を介することなくc社に直接売却した旨主張した(甲10,乙8)。
ウ 上記訴訟は,平成26年11月11日,a社が,被告に対し,和解金として20万円を支払うとの内容で訴訟上の和解が成立し,終了した(甲13)。
(2)  被告は,a社が被告を介することなく単独でc社に対し,b社製の「フードテスタ」を販売したのは,被告において放射線測定器の販売を担当していたDが仲介したためである旨主張し,これを裏付けるものとして,乙6~8号証等の書証を提出する。そして,上記認定によれば,a社が,c社に対し,被告を介することなく少なくともフードテスタ5台を売却した事実は認められるが,DとFとの間のメールである乙6号証には,上記フードテスタについて,被告を介する商流によって販売するとの記載があるし,乙8号証には,Dの関与について何も記載されておらず,乙7号証も,被告から原告に対する苦情を受けて作成されたもので,Dが原告を退社した後c社に入社して,被告の顧客情報等を利用していること等を問題にしているものであるが,具体的な行為内容は不明であり,これらをもって,被告が主張するように,Dの仲介により,a社が,被告を介することなく上記フードテスタをc社に販売したものと認めるには足りない。そうすると,被告代表者の陳述書(乙11)の記載を併せ考慮しても,被告主張のDの注意義務違反行為の存在を認めるには足りないといわざるを得ない。
したがって,被告の上記主張は採用できず,被告の原告に対する損害賠償請求は理由がないことになる。
3  よって,本訴請求は理由があるからこれを認容し,反訴請求については,その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
(裁判官 篠原礼)

 

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