【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

判例リスト「営業代行会社 完全成功報酬|完全成果報酬」(417)平成 9年 6月 9日 東京地裁 平8(ワ)17401号 不当利得等請求事件、貸金等反訴請求事件

判例リスト「営業代行会社 完全成功報酬|完全成果報酬」(417)平成 9年 6月 9日 東京地裁 平8(ワ)17401号 不当利得等請求事件、貸金等反訴請求事件

裁判年月日  平成 9年 6月 9日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平8(ワ)17401号・平4(ワ)13475号
事件名  不当利得等請求事件、貸金等反訴請求事件
上訴等  控訴  文献番号  1997WLJPCA06090001

要旨
◆変額保険の抽象的な仕組みではなく、具体的、現実的な相続税対策として現在の運用実績及び極近い将来の現実的な運用実績が判断の要素となっている場合に、実際は運用率がマイナスで同傾向にあるのに、運用率が現実に九ないし一〇パーセントを維持し銀行金利を三パーセント上回って推移していくと信じた点に要素の錯誤があるとされた事例
◆保険契約、保険料の融資のための金銭消費貸借契約のいずれも無効である本件の場合、端的に、銀行の保険料金相当額の貸金の損失のもとに保険会社が保険料を利得した関係として保険契約者と保険会社と融資銀行の関係を律するのが不当利得制度の理念にかなうとされた事例
◆変額保険の保険料の融資を勧める銀行員が、単に変額保険の運用率の見込みを述べるに止まらず、実際のマイナス運用実績と異なる九パーセントを超える運用率を現実で確実性があると積極的に説明したことは信義則上要求される注意義務に反し不法行為を構成するとされた事例

出典
判タ 972号236頁
判時 1635号95頁
金法 1489号32頁
金商 1038号38頁

評釈
石川正美・NBL 620号62頁
松本明敏・判例Check 契約の無効・取消 442頁(加藤新太郎編,新日本法規,平成16年)
中島昇・銀行法務21 551号70頁

参照条文
保険募集法11条
保険募集法16条
民法587条
民法703条
民法709条
民法715条
民法719条
民法95条

裁判年月日  平成 9年 6月 9日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平8(ワ)17401号・平4(ワ)13475号
事件名  不当利得等請求事件、貸金等反訴請求事件
上訴等  控訴  文献番号  1997WLJPCA06090001

原告(反訴被告) 小林良夫
右訴訟代理人弁護士 田中富雄
同 高畑拓
被告 日本生命保険相互会社
右代表者代表取締役 足立信之
右訴訟代理人弁護士 藤井正博
同 松澤建司
被告(反訴原告) 株式会社東京三菱銀行
右代表者代表取締役 高垣佑
右訴訟代理人弁護士 小野孝男
右訴訟復代理人弁護士 芳村則起
同 五十畑昭彦
右本訴復訴訟代理人兼反訴訴訟代理人弁護士 近藤基

 

主文
一  被告日本生命保険相互会社及び被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行は、原告(反訴被告)に対し、各自金三〇〇万円及びこれに対する被告日本生命保険相互会社は平成四年八月二六日から、被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行は同月二七日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二  原告(反訴被告)と被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行との間で、平成三年一月三一日付当座貸越約定に基づく金銭消費貸借契約及び右契約の保証債務に基づく、原告(反訴被告)の被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行に対する金一億二八一二万三八八〇円の債務が存在しないことを確認する。
三  被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録記載の土地及び建物についてなされた東京法務局港出張所平成三年二月一日受付第二四七九号根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。
四  原告(反訴被告)のその余の本訴請求を棄却する。
五  被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行の反訴請求を棄却する。
六  訴訟費用は、本訴請求についてはこれを二分し、その一を原告(反訴被告)の、その余を被告日本生命保険相互会社及び被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行の、反訴請求については被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行の各負担とする。

事実及び理由
第一  請求
一  本訴
1(一)  被告日本生命保険相互会社(以下「被告日本生命」という)は、原告(反訴被告、以下「原告」という)に対し、金九八八六万八二〇〇円及びこれに対する平成四年八月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二)  被告日本生命及び被告(反訴原告)株式会社東京三菱銀行(以下「被告銀行」という)は、原告に対し、各自金一一四九万円及びこれに対する被告日本生命は平成四年八月二六日から、被告銀行は同月二七日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(三)  主文二項と同旨
(四)  主文三項と同旨
2  選択的請求
被告日本生命及び被告銀行は、原告に対し、各自、一億二八一二万三八八〇円及びこれに対する平成三年一月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二  反訴
原告は、被告銀行に対し、金一億二〇二一万七九九五円及びうち金一億一八〇〇万円に対する平成四年六月一五日から支払済みまで年一四パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による金員を支払え。
三  本案前の申立(被告銀行)
原告と被告銀行との間の平成三年一月三一日付金銭消費貸借契約に基づく貸金債務の不存在確認請求のうち、三八〇〇万円を超える部分については、訴を却下する。
第二  事案の概要
一  本訴請求は、原告の亡父小林金太郎(明治四一年八月生まれ、以下「金太郎」という)と被告日本生命との間の後記生命保険契約及び被告銀行との間の後記金銭消費貸借契約、根抵当権設定契約が、公序良俗違反、錯誤無効、詐欺取消により無効であるとして、被告日本生命に対し悪意の不当利得に基づき払込保険料の返還と受領の日以降の遅延利息の支払いを、被告銀行に対し右消費貸借契約上の債務及び右保証債務の各不存在確認と右根抵当権設定登記の各抹消登記手続を求め、選択的に、右金銭消費貸借契約上の債務相当額につき損害賠償を求め、また、被告らの契約担当者が右契約に際してなすべき説明義務を尽くさなかったことが不法行為に該当するとして本訴弁護士費用について損害賠償を求めた事案であり、反訴請求は、右消費貸借契約及び保証契約に基づく貸金の返還及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。
二  争いのない事実等(証拠で認定した事実については証拠を( )で示す)
1  本件各契約の成立
(一) 金太郎を代理した原告及び原告の妻小林愛女(以下「愛女」という)と被告日本生命との間に、平成三年一月三一日、次の(1)、(2)の内容の各保険契約(以下、合わせて「本件保険契約」という)が締結された。
(1) ニッセイ変額保険(終身型)
被保険者 原告
保険契約者 金太郎
保険金額 二億円
死亡時保険受取人 原告
保険料 七五九九万円
保険期間 終身
保険料払込方法 契約一時払
(以下「本件変額保険」という)
(2) ニッセイ養老保険
被保険者 原告
保険契約者 金太郎
保険金額 一億円
死亡時保険受取人 原告
保険料 三回払込、
合計六八六三万四六〇〇円
保険期間 一〇年
保険料払込方法  三回(年)払
一回二二八七万八二〇〇円
(以下「本件養老保険」という)
(二)(1) 金太郎は、平成三年一月三一日、被告銀行との間で、金太郎の被告銀行に対する債務の遅延損害金を年一四パーセント(年三六五日の日割計算)として銀行取引約定を締結し、右約定に基づき、同日、次の内容の当座貸越(専用口座)約定を締結し、当座貸越口座を開設した。
貸越元本極度額 二億円
取引期間 平成四年一月三一日 ただし、期限の前日までに当事者の一方から別段の意思表示がない場合には、更に期限を一二ヶ月間延長し、以後も同様とする。
契約の終了 この契約による債務を担保する根抵当権が確定したときは、当然に終了する。
貸越金の弁済期 取引期限到来時または契約終了時
利率 変動金利(当初は年8.3パーセント)
利息の支払方法 毎年二月、五月、八月及び一一月の各末日に、次回の利払日間での利息を前払い
(2) 原告は、平成三年一月三一日、右当座貸越約定に基づく金太郎の被告銀行に対する債務を連帯保証した(以下「本件保証契約」という)。
(3) 被告銀行は、金太郎に対し、右当座貸越約定に基づき、当座貸越の方法により、次のとおり各金員を貸し渡した(以下「本件消費貸借契約」といい、貸付金を「本件貸金」という)。
① 貸付日 平成三年一月三一日
金額 一億一四〇〇万円
② 貸付日 平成三年一二月二日
金額 四〇〇万円
(丙一、三の1ないし3、四、五)
(4) 平成三年一月三一日、右当座貸越契約に基づく債務を担保するため、被告銀行は、金太郎との間で別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)について、また、原告との間において、同目録記載の建物(以下「本件建物」という)について、それぞれ次の内容の根抵当権設定契約を締結した(以下「本件根抵当権」という)。
極度額 二億円
被担保債権の範囲 銀行取引、手形債権、小切手債権
債務者 金太郎
(丙二)
(5) 金太郎は、平成三年一二月一四日死亡した。
(6) 本件根抵当権は、金太郎の死亡後六ヶ月が経過しても民法三九八条の九第二項の登記がなされなかったため、右根抵当権は金太郎の右死亡日をもって確定した。
(7) 金太郎の相続人は、いずれも子である原告及び訴外小林和雄、同須山三枝子の三名である。
2  本件根抵当権に基づく登記及び保険料の支払等
(一) 本件根抵当権に基づき、金太郎は本件土地について、原告は本件建物について、東京法務局港出張所平成三年二月一日受付第二四七九号の根抵当権設定登記手続をし、右登記(以下「本件根抵当権設定登記」という)が経由された。
(二) 金太郎は、本件消費貸借契約に基づき被告銀行から借り受けた中から、平成三年一月三一日、被告日本生命に対し、本件変額保険の保険料として七五九九万円、本件養老保険の一回目払込保険料として二二八七万八二〇〇円、合計九八八六万八二〇〇円を振込んで支払った。
また、金太郎は、本件消費貸借契約に基づき被告銀行から借り受けた中から、平成四年四月三日、被告銀行に対し、同年三月二日までの本件消費貸借契約に基づく利息合計一〇一二万三八八〇円を支払った。
(甲五の5)
三  当事者の主張
1  原告
(一) 変額保険の問題点
(1) 変額保険の危険性
変額保険は、昭和六一年一〇月に初めて登場した。それまでは運用リスクを保険会社が負担する定額保険が普及し、一般に保険とは安全・安心のために加入するものであるという社会常識が浸透し定着していた。
変額保険は、保険会社が変額保険の保険料の殆どを特別勘定として他の資産と分け株式や社債等で運用し、その運用成果を保険金額や解約返戻金に反映させる生命保険であり、死亡保険金は終身型変額保険で基本保険金が保障されているものの、保険金や解約返戻金についての保障はない。
したがって、株価や為替などの変動が直接保険金等に連動し、保険会社の運用如何や加入時期によって大きな格差が生じ、保険金や解約返戻金の額が払込保険料の額を大きく下回ることもあり、それ自体投機性が高く、その運用のリスクは保険契約者が負担する危険の高い商品であり、その仕組みが一般には複雑で理解が困難であった。
(2) 融資一体型変額保険の危険性
本件変額保険は、本件変額保険の保険料を全額被告銀行から借り受けて一括払込み、右借受金の返済を死亡保険金や解約返戻金で行うものであり、変額保険と融資契約が一体化した新しい商品である(以下「融資一体型変額保険」という)。したがって、本件保険契約と本件消費貸借契約は、目的手段の関係に立ち密接不可分のもので実質上一つの契約といえる。
融資一体型変額保険は、保険料支払いのために銀行から借り受けた債務が時間の経過と共に増加するため、変額保険によるリスクが自己資金により保険料を払い込む場合より一層大きくなる。
そして、銀行金利が変動金利の場合、特別勘定の運用利率と借入金の利率の双方が共に変動するため、保険契約者にとって相互の複雑な関係によるリスクの予測が極めて困難になり、将来的にどのような損益が生じるかを保険契約者が判断することは殆ど不可能である。
(3) 相続税対策の限界
被告らの担当者は、原告及び愛女に対し、本件保険契約を金太郎の相続税対策として勧誘したが、その相続税対策の内実は、一方で解約返戻金等によって相続税支払いの資金を確保し、他方で銀行借り入れにより相続財産を減少させて相続財産の評価を下げるというものである。
したがって、右目的が達せられるか否かは、本件保険契約にかかる保険の運用利率、本件清費貸借契約の利息の利率、被保険者が被相続人以外の場合の相続税対策の有用性、相続税の税率や解約返戻金の一時所得税、課税控除の有無など複雑かつ予測困難な多様な要因により決せられ、右の要因についての予測に誤りがあれば負債のみが残るという結果さえ起こりえ、融資一体型変額保険契約により「相続税対策」として有用に機能するのは限局された場合でしかありえない。一般的に有用であると強調して勧誘するのは誤りであり違法な勧誘である。
(二) 変額保険をめぐる規制
(1) 生命保険募集に関する法規制
保険募集の取締に関する法律(以下「募取法」という)九条は、生命保険の募集を行うことができる者を制限し、また、同法一六条では、保険契約者又は被保険者に対し、不実のことを告げあるいは契約条項のうち重要な事項を告げない行為等を禁止し、同法一四条では募集文書図画に関する規制をし、これに違反した場合には同法二五条で処罰している。
(2) 変額保険に関する規制
大蔵省は、「変額保険募集上の留意事項について」(昭和六一年七月一〇日蔵銀第一九三三号)の通達において、「変額保険は定額保険以上に慎重な募集対応が必要である」との基本姿勢を示したうえで、「将来の運用成績についての断定的判断を提供する行為」は勿論、「特別勘定運用成績について、募集人が恣意に過去の特定期間を取り上げ、それによって将来を予測する行為」や「保険金額(死亡保険金の場合には最低保障を上回る金額)あるいは解約返戻金を保障する行為」を明確に禁止するとともに、「販売資格を有しないものが変額保険の募集に従事する」ことを禁止している。
また、生命保険協会の規則において、右と同様の内容が定められ、募集の際一定の重要事項については、保険契約者の確認を求めることが業界の自主規制となっている。
(三) 本件各契約の締結
(1) 原告(昭和一六年三月生まれ)は、肩書地で建築木工業を営み、平成三年一月当時、同居の家族は父金太郎と妻愛女及び子供二人であった。金太郎は、高齢の上脳梗塞のため平成二年八月頃から床に就いていた。原告及び愛女は金太郎の健康状態に不安を感じ、金太郎が本件土地を所有し、原告が本件土地上に本件建物を建築していたこと、本件土地界隈の地価が上昇していたことから、金太郎死亡による相続税の支払いを心配していた。
(2) 原告と愛女は、平成二年一一月頃から、被告日本生命の日本橋総支社東銀座営業室所属支部長訴外佐藤博伸(以下「佐藤」という)、同所属外務員同黛三千代(以下「黛」という)及び被告銀行赤坂見附支店取引先第一課所属訴外皆川秀一(以下「皆川」という)から自宅訪問を受けるなどして、同人らから、金太郎の死亡による相続税の推計概算が六六八七万円に上ること、この相続税の対策として銀行借入れによる相続財産の評価減と納税資金の確保のためにニッセイ養老保険及び変額保険が有効だとの説明を受けて勧誘されるようになった。
皆川、佐藤及び黛は、同席してまたは単独で、後述のように、右保険がいかにも相続税対策として有効であるかのような説明を行い、加入すれば直ちに必要となるはずの払込保険料金を全額融資すると約束した。
原告及び愛女は、黛、佐藤及び皆川の繰り返しの説明によって、右説明を信用し、融資一体型変額保険が有効確実な相続税対策になり、かつ、万一にも損失を被ることはあり得ないものと確信した。
そこで、原告と愛女は、金太郎の相続税対策や納税資金の確保を最大の動機、目的として、金太郎を代理して本件保険契約及び本件消費貸借契約を締結し、被告銀行赤坂見附支店から一億一八〇〇万円を借り受け、別紙物件目録記載の土地について極度額二億円の本件根抵当権設定契約を締結し、原告は、同じく同目録記載の建物について本件根抵当権設定契約を締結し、前記のとおり、本件養老保険及び本件変額保険の保険料を払い込んだ。
原告と愛女は、佐藤、黛及び皆川の説明を信用し、被告日本生命との間で、平成三年一月三一日、保険契約者を金太郎、被保険者を原告とする、満期保険金額一億円、保険料三回払込み(年一回二二八七万八二〇〇円)、一〇年満期の本件養老保険及び基本保険金二億円、一時払込、保険料金七五九九万円の本件変額保険の各契約を 締結した。
(四) 公序良俗違反
ところで、相続税対策を目的とする融資一体型変額保険の場合には、前記のとおり相続税対策となりうる場合が限局されているうえ、年月の経過及び変額保険の運用実績の悪化により、借入債務額の増大に耐えられず、結局、本件保険契約の中途解約に追い込まれ、解約返戻金による返済の途を選ばざるをえなくなり、その解約返戻金の額によっては、相続税対策をしようとした当該財産自体を右借入金債務の返済のために失ってしまう危険すらあった。
しかるに、平成二年頃は、未だ変額保険についての情報が一般人に入手できる状況になく、しかも相続税対策として実際有用であるかは複雑な検討が必要であるから、一般人がこれを判断することは困難な事情にあった。
したがって、融資一体型変額保険を勧誘する被告日本生命及び被告銀行の担当者が、本件保険契約を、相続税対策として原告や愛女に勧誘する場合には、同人らが本件保険契約を理解し締結の是非について合理的な判断をすることは不可能に等しいから、客観的具体的な資料を豊富に示したうえ、変額保険の内容、保険料を全額銀行融資でまかなうことの意味、「相続税対策」になる仕組み、どういう場合にどのような「相続税対策」になるのかなど、変額保険に伴うリスクを合理的な根拠に基づいて十分説明し、同人らが十分納得し理解したうえで契約できるように説明することが信義則上要請されていた。
しかるに、佐藤、黛及び皆川は、金太郎や原告、愛女の無思慮、浅薄に乗じて、多額の銀行借り入れをしての一時払い変額保険が、自己の資産を減少させることなく、かつ、相続税の支払額も減少するものであり、「相続税対策」として安全・確実なものと誤信させ、その旨錯誤に陥れて本件保険契約、本件消費貸借契約、本件根抵当権設定契約を締結させたもので違法性が強い。
確かに、いわゆるバブル経済の崩壊後の株価の急落という事情はあるが、株の運用の専門家である被告日本生命や金融の専門家である被告銀行が予測不可能であったといって責任逃れできるのであれば、全てにわたり素人である原告に本件変額保険の保険料運用成績悪化によるリスクの予見を強いることは、著しく公平の原則に反することになる。特に本件では、被告日本生命の当時の運用成績がマイナスに転じているのに、佐藤、黛及び皆川は、原告や愛女に対し、運用実績として九パーセントのみの説明や、九パーセントないし一〇パーセントは確実と言わんばかりの説明をした。
したがって、以上のような内容と経緯で締結された本件保険契約、本件消費貸借契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約は公序良俗違反の契約である。
(五) 錯誤無効及び詐欺取消
(1) 被告日本生命の黛及び佐藤は、いずれも本件保険契約が、有効な相続税対策である旨の抽象的な宣伝、説明を一方的に繰返すだけで、本件保険契約の具体的な危険性にかかる説明や資料の提供をすれば原告及び愛女が本件保険契約の締結を当然ためらうであろうことを危惧し、右説明や金太郎の死亡による推定相続税額が小規模宅地の特例や基礎控除により六七〇〇万円にならないことを十分知っていたのに、推定相続額が六七〇〇万円位になるだろうなどと明かに過大な推定相続税額を告げ、「銀行金利はいまが一番高い時だけれど変動金利だから低いときもあります。しかし、保険金の運用はこれまで九パーセントないし一〇パーセントを超えているから心配いりません」などと全く過大かつ虚偽の事実を交えて原告及び愛女を欺き、相続税対策のためには本件各保険契約の加入が極めて有効な相続税対策であるとして勧誘した。
被告銀行の皆川は、本件保険契約の締結が被告銀行の融資獲得に直結することから、金太郎の推定相続税額が六七〇〇万円には到底ならないことを十分知りながら、愛女の相談を受けて六七〇〇万円位になると計算式まで出して説明し、「大きい保険の運用で儲かって行きますから心配いりません。おじいちゃんが死んだら小さい方を解約して、その資金で相続税を払えばいい」などと推定相続税額や保険料の銀行借入れによる相続資産の軽減などについて被告日本生命の勧誘、説明を代替、補充して説明し、有効な相続税対策であると強調し、本件消費貸借契約の協力を約束して、本件保険契約の締結を黛や佐藤よりも積極的、主体的かつ執拗に勧誘した。
しかも、皆川や佐藤らは勧誘過程の説明において、保険の解約返戻金に一時所得税や地方税等が賦課されることから、運用実績が九パーセントであっても税引後は大幅に下がることを説明しなかった。
そのため、原告及び愛女は、金太郎の推定相続税額が六七〇〇万円位になり、早急に相続税対策をしなければならないと決意し、その対策として全額銀行借り入れによって本件養老保険及び本件変額保険に加入することにより相続税額が減少し、他方、本件変額保険の運用実績が九パーセントないし一〇パーセント以上で間違いなく推移することから、相続税及び銀行借入金の返済資金を確保でき、有効な金太郎死亡の相続税対策となるという佐藤、黛及び皆川の欺罔に騙され、錯誤に陥いり、本件保険契約及び本件消費貸借契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約を締結した。
要するに、被告日本生命の佐藤及び黛と被告銀行の皆川は、保険、金融の専門家として、金太郎の推定相続税額が六七〇〇万円には到底ならないこと、金太郎が本件各保険に加入しても、運用成績次第では解約返戻金から一時所得税、地方税、諸経費を控除すれば、相続税や銀行借入金の返済は困難で、最終的には抵当権実行という自体が十分あり得ることを知りながら、営業成績を上げるため相協力して、原告及び愛女に対し、①金太郎の推定相続税額が約六七〇〇万円に上ること、②相続税額減税に加え変額保険の運用実績が九パーセントないし一〇パーセントを下らないため右相続税の原資を確保できることが本件各保険加入の最大のメリットであること、③解約返戻金で相続税と借入元利金の支払いが可能であること等の虚偽の事実をこもごも説得し、その結果、原告及び愛女をして右①ないし③を信じさせて本件各契約を締結させたのである。
(2) ところが、金太郎が平成三年一二月一四日心不全で死亡したため、相続税申告を税理士に依頼すると、申告額は四〇六七万円であった。
しかも、変額保険の運用実績がマイナスで本件変額保険の中途解約返戻金は、平成四年五月二八日現在で払込金七五九九万円に対し一八〇五万六四六一円もの元本割れの損害が生じてしまっていた。
こうして、本件借入れと本件各保険契約は、金太郎の相続税対策及び相続税資金確保としての佐藤及び黛、皆川の説明①ないし③と大幅に異なり、何らの効果も達成せず負債を増大させるものであった。
よって、被告日本生命との間の本件保険契約及び被告銀行との間の本件消費貸借契約、本件根抵当権設定契約は、いずれも要素の錯誤により無効である。
また、佐藤、黛及び皆川の一連の勧誘行為は、詐欺に当たるから、原告は、本訴状をもって、本件保険契約、本件消費貸借契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約をいずれも取り消す。
したがって、本件保険契約は無効であり、金太郎が被告日本生命に支払った保険料金合計九八八六万八二〇〇円は、同被告が無効事由を知っていて(悪意)不当に利得したものであるから、九八八六万八二〇〇円及び受領後の本訴状送達の日の翌日である平成四年八月二六日から支払済みまで年五分の割合による遅延利息の支払を求める。
また、本件消費貸借契約及び本件根抵当権設定契約も同様に錯誤、詐欺取消しにより無効であるから、本件消費貸借契約及び本件保証契約に基づく債務の各不存在確認、及び本件根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。
(六) 不法行為(説明義務違反)
佐藤、黛及び皆川の(五)の本件保険契約の勧誘行為は、保険や金融の専門家として、融資一体型変額保険を相続税対策を目的として勧誘する際の説明として、信義則上要求される説明義務に違反し共同不法行為に当たる。
金太郎は、右共同不法行為により被告銀行からの借入金債務(借入元金及びこれに対する平成四年三月二日までの利息合計一億二八一二万三八八〇円)と同額の損害を受けた。
したがって、原告は、被告日本生命に対し佐藤及び黛の使用者として、被告銀行に対し皆川の使用者として、それぞれ民法七一九条、七一五条、七〇九条、募集取締法一一条、一六条により、連帯して、右損害の賠償を求める。
(七) 原告は、遺産分割協議によって、金太郎の、被告日本生命に対する前記払込保険料相当額の返還請求権及び遅延損害金請求権並びに被告らに対する本件損害賠償請求権を相続した。
(八) 原告は、被告日本生命及び被告銀行に対する本訴請求のために訴え提起を余儀なくされ、原告訴訟代理人らに対し訴え提起及び訴訟追行を委任せざるを得なかった。
そして、原告は、その報酬として、原告訴訟代理人らに対し、弁護士会の報酬基準に従い着手金及び成功報酬としてそれぞれ五七四万五〇〇〇円を支払うことを約束した。
よって、原告は被告らに対し、連帯してその賠償を求める。
2  被告日本生命
(一) 公序良俗違反の主張について
変額保険は、保険審議会の答申に基づき昭和六一年七月一日認可され、各保険会社に商品認可されて発売された、公に認められた保険商品である。そして、原告の公序良俗違反の理由とするところは、等価交換原則に反するものとしての暴利行為と主張するようであるが、被告日本生命の佐藤及び黛は、原告及び愛女に対し、本件変額保険のリスクについても十分に説明し理解を得ている。また、本件変額保険は、約定にかかる基本保険金等の支払い義務を負担しているから、これらの給付関係は等価というべきであり暴利行為ではない。
(二) 錯誤無効、詐欺取消、説明義務違反の主張について
(1) 佐藤及び黛は、愛女に対し、平成二年一一月二六日、一二月一二日、一二月一七日に、変額保険の仕組み、資産運用が特別勘定によりなされ、運用実績によって契約者がリスクを負う旨明示されている変額保険の設計書を示し、変額保険の特別勘定による運用について説明しているのであるから、愛女は運用の結果次第で解約返戻金がいわゆる元本割れすることを認識していたはずである。
それ故、本件変額保険の解約返戻金が確実に相続税の資金源になると説明するはずがない。
また、佐藤及び黛は、右設計書を持参した際、パンフレット(乙一九)をも持参し、これも示して、変額保険の仕組み、リスクについて説明し、契約のしおりも渡している。
愛女は、右設計書を見せられていないと証言するが虚偽である。愛女が受領したと証言する設計書(甲一四)にも色刷りグラフにより特別勘定の運用実績と変動保険金の関係が記載され、保険契約者がリスクを負うことが明示されている。
ところで、銀行から保険料の融資を受けて変額保険を相続税対策とする場合の、保険勧誘者に求められる説明義務については、保険金額の予想利回り、金利動向、地価の変動、税制の推移等に関する予想を前提とするから、経済情勢の複雑さと対比すれば、いずれにせよ余り意味のないものである。また、推定相続税についても確定的な資料を欠く状態では、正確な相続税の推定はできないし、解約返戻金に対する所得税についても、支払保険料金額より多額の解約返戻金が支払われるときは一時所得として課税され、解約返戻金が支払保険料額を下回るときは一時所得は発生しないのであるから、この点も確実な予測はつかないのである。
(2) また、佐藤及び黛が「保険金の運用はこれまで九パーセントないし一〇パーセントを超えているから心配いりません」などと、変額保険の運用実績の予測を断定するような説明はしていない。
(3) 本件変額保険契約当時、その後に生じた恐慌にも類する急激なマイナス方向の景気変動は、官民いずれも予測しなかったことである。被告日本生命及び佐藤、黛も同様であったし、予測できなかったことに過失はなかった。
(4) ところで、愛女は、本件土地について、国税庁の相談では六七〇〇万円余りの、訴外三井信託銀行の窓口担当者の計算では一九〇〇万円の相続税がかかると言われて、納付税額の調達について心配していたのであるから、原告及び愛女は、納税資金の調達問題について一時払保険料の借入れを巡り、税の専門家に相談し、自ら検討すべきであった。
佐藤及び黛は、税の専門家ではないのであるから、税理士が相続税申告手続を依頼されて、職業的に相続関係、財産関係の調査や小規模宅地、事業用用地、貸家建付地についての特例の適用について、これを検討して判断すると同様に正確に相続税を確定できる立場にはない。
したがって、佐藤及び黛は、概算でしか推定相続税の範囲を出せないし、保険勧誘の際の資料としては、あくまで商品説明の便宜のための補助手段としてのサービスに過ぎないから、相続税については概略説明でその説明義務を果たしている。
(5) 佐藤、黛及び皆川は、本件養老保険を、短期目的で、三年間の保険料に対する「みなし相続財産」としての評価減のメリットを勧誘目的の一つとした。それ故、本件養老保険の解約返戻金によって相続税を払えると説明するはずがない。
(6) また、佐藤、黛及び皆川は、本件変額保険を設計書やパンフレット、ご契約のしおりによってその仕組みやリスクを十分に説明し、相続税対策についても相続資産を圧縮するという観点から説明しているのであるから、説明義務は尽くしている。
したがって、原告及び愛女が、金太郎死亡による相続税の対策として、本件養老保険の解約返戻金で相続税の支払ができるというような錯誤に陥るはずがない。
3  被告銀行
(一) 訴却下の申立理由
(1) 原告が債務不存在を求める一億二八一二万三八八〇円は、本件貸金一億一八〇〇万円及びこれに対する平成四年三月二日までの利息一〇一二万三八八〇円の合計であるが、右利息については、被告銀行は弁済を受けたことを認め、右利息債務の不存在については争いがないから本件不存在確認請求の訴えの利益はない。
(2) 原告が債務不存在確認を求める一億二八一二万三八八〇円のうち、元金一億一八〇〇万円の債務については、これが平成三年一二月三一日付金銭消費貸借契約であれば元金は金一億一四〇〇万円であるからこれを超える元金債務の不存在については争いがない。
したがってその不存在確認の利益はない(もっとも、平成三年一二月二日付金銭消費貸借契約に基づく貸金四〇〇万円については債務の存在を主張する)。
(3) 原告が債務不存在確認を求める一億二八一二万三八八〇円の借入債務のうち元金一億一四〇〇万円の債務について、金太郎から原告が相続したのはその三分の一の三八〇〇万円であり、被告銀行は、原告がもともと右債務を超えて債務を負担していないとして請求していないから、不存在確認を求める利益がないか当事者適格がない。
(4) 結局、原告が訴えの利益及び当事者適格を有するのは、三八〇〇万円の範囲である。
(二) 錯誤無効の主張について
(1) 本件変額保険契約の締結について、原告及び愛女に、「変額保険には運用のリスクがないものと誤信した結果、変額保険の運用が低迷して相続税対策とならない場合があり得ることを知らなかった」との錯誤の事実が仮に認められるとしても、本件変額保険契約と本件消費貸借契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約は別個の契約であるから、右錯誤は本件変額保険契約の締結に言えることであって、本件消費貸借契約等が錯誤無効となるわけではない。
それは、借入金をある対象に投資し結果として損失が出たことによって、金銭消費貸借契約自体に要素の錯誤があったとならないことは当然だからである。実際上も、契約の効力を著しく不安定にするから非常識な主張である。
(2) また、錯誤の有無とは、意思表示の時点で客観的に定まっていることが必要であるが、投資の結果損失が生じるか否かは結果が出た後でなければ無効か否かが確定しないから錯誤無効にはならないし、変額保険の場合、運用の経過によって損失が出たり利益が出たりして錯誤の有無が確定しないことになり、不当である。
(3) 本件消費貸借契約の動機は、借入金を本件保険契約の保険料支払いに利用することであるが、原告の錯誤無効として主張している動機は、本件保険契約の利用目的であり、被告銀行に対しては右動機が表示されていない。
(4) 仮に、原告主張の錯誤があったとしても、変額保険のパンフレットやご契約のしおり及び設計書に明記されていることにより、また新聞等の報道により、変額保険の仕組みやリスクについては十分知り得たし、仕事上や確定申告、銀行借入、アパート賃貸経営などの経済活動、金融取引から、金太郎及び原告、愛女が変額保険の運用実績が九パーセント以上で確実に推移すると信じたことに重大な過失がある。
また、愛女は、麻布税務署や国税庁、そして訴外三井信託銀行で相談しており、本件保険契約や本件消費貸借契約が相続税対策として有効であることを確認できたはずである。そして、相続税は多くの不確定要素から変動するので、確実な相続税対策があると信じることができようはずがない。
したがって、原告及び愛女が、本件保険契約を確実な相続税対策と信じたことに錯誤があるとすれば、重大な過失がある。
(三) 詐欺取消の主張について
皆川は、原告主張のような説明や発言をしていない。仮に、皆川が原告主張のような発言をしたとしても、変額保険は高い運用利回りが見込めるため、多額の保険金、解約返戻金が期待できる結果、相続税対策として有効との見込みを述べたものであり、虚偽ではなく、欺罔の意思もない。
仮に、佐藤及び黛に原告主張の欺罔行為が存在し、本件消費貸借契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約が第三者の詐欺によるものであるとしても、被告銀行は右事実について善意であるから、佐藤及び黛の詐欺を理由に本件消費貸借契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約を取り消すことはできない。
(四) 共同不法行為の主張について
(1) 被告銀行は、本件消費貸借契約に際し、変額保険の内容やリスクについて説明すべき義務はない。本件変額保険が本件貸金の返済原資となるという場合でも同様である。また、本件消費貸借契約が、金太郎の相続税対策の一環としてなされたとしても、被告銀行が、相続税対策の具体的内容、効果について説明しなければならない義務は全くない。そもそも、皆川は、生命保険募集人ではないのであるから、変額保険の説明をして勧誘してはならないのである。
返済原資が不確実であることは他にも多くあるが、だからといって返済原資についていちいち説明義務が生じるというのは取引社会の実態を無視し、不当に銀行に過大な負担を負わせるものである。
(2) 仮に、佐藤や黛が、原告及び愛女に対し原告主張の欺罔行為をしたとしても、皆川の知らないことであり、被告銀行が共同して不法行為責任を問われる理由がない。
(3) 仮に、被告銀行に何らかの不法行為が成立するとしても、前記のとおり、金太郎もしくは原告、愛女にも重大な過失があるから過失相殺されるべきである。
第三  裁判所の判断
認定事実は、認定事実の後に証拠を( )内に後記する。
一  変額保険及び養老保険について
1  変額保険
(一) 変額保険は、昭和四七年六月、昭和五〇年六月、昭和六〇年五月、大蔵大臣に対する保険審議会答申で、社会経済情勢の変化に応じ、経済成長に伴う資産運用の成果を契約者に還元しうる保険で、保険料を株式投資等に資産運用しその成果が直接保険金額に反映されることから、インフレに有効に対処することができる利点があるとして着目され、国民の需要がある新保険商品であり行政上の必要な措置を講ずれば実施に特に問題はないと答申され、認可すべき変額保険の内容や実施に当たっての死亡保険金など最低保障の問題、分離勘定の設置、資産評価の方法、資産運用規制、契約者保護のための情報提供、募集体制の整備等の問題が保険審議会等で検討された結果、昭和六一年七月一〇日付けで、大蔵省によって生保一八社に対し変額保険の商品認可が行なわれ、実際には、昭和六一年一〇月から発売された。
(二) 変額保険とは、その保険料の大部分(約九割)を、変額保険契約の資産を運用するために定款に基づいて設定された、他の保険と分離した特別勘定において管理される特別勘定資産とし、これを保険会社の定めた運用方法に基づいて、上場会社の株式等の投資運用に回し、その運用の結果を直接保険金額に反映させる保険である。
したがって、定額保険は、生命保険会社の資産運用実績が予定利率を下回った場合にもそのリスクは保険会社が負担し、契約者の受け取る保険金額が保証されているが、変額保険は、変動保険金額が、変額保険契約(保険料払込)月単位の契約応答日ごとに計算され、その日の属する月における特別勘定資産の運用実績によって決せられ(基本的には特別勘定資産を運用した成果から基本保険金を控除した額がおおよそ変動保険金額となる)、資産運用の成果もリスクもともに契約者がその自己責任において負担するから、解約返戻金額及び保険金額の最低保障は全くない(但し、終身型の基本保険金額は保証されている)。
(甲一六の1ないし6、一七の1ないし5、二三の1、2ないし15の各1ないし3、二三の16、17、三四、四四の1、2、乙四)
(三) 変額保険は、資産運用のリスクについて契約者が自己責任を負うとの基本的性格を有し、しかも、従来保険といえば定額保険であり、安心、安全な商品との固定観念が一般化していたことから、昭和六〇年五月の保険審議会答申でも、保険者保護のために、契約者に対し、変額保険の仕組みと契約者が資産運用のリスクを負担し、保険金額が減少する危険があることを十分説明する必要があり、資産運用の方針、過去の資産運用成果等について情報提供をする必要があると答申されている。
そのため、変額保険の販売員は、一定の資格を必要とされている。
(乙一〇の2ないし4)
(四) 以上のように、変額保険は、その資産(保険料)の運用方法とその成果が直ちに保険金に反映することから投資性の高い商品であり、いわゆるハイリスク・ハイリターンな商品であり、従来の生命保険に求められた安全・安心という信頼を抱けない契約者の自己責任に基づく商品である。
したがって、変額保険契約者が、従来の保険をイメージして、変額保険の右の内容を十分理解しないで加入する危険があるから、保険を勧誘する保険会社の担当者は、変額保険の内容を十分説明することが必要となる。
そして、後述の融資併用変額保険の場合には、多額の保険料を一括して銀行から借り入れて支払うものであるから、資産運用率が平均して銀行金利を数パーセント上回る状態が続くようでないと、銀行金利の方が保険金より多くなり、多額の借入債務だけが残る危険があるから、更にリスクが高くなるため、保険契約者は、その点十分認識して契約したのでなければ自己責任を負う前提を欠くことになる。
そこで、保険会社の担当者は、保険契約者が自己責任をもって契約できるように、一層、その仕組みや運用実績等についての正確な情報を提供する必要がある。
2  養老保険
養老保険は、定額保険であり、解約返戻金と満期保険金は定まっている。
但し、積立配当金及び満期配当金は、保険料運用によって変動する。従って、保険契約者としては、積立配当金及び満期配当金がどの程度増加するかはともかく、それを除いた保険金額が予測でき、その点では、従来型の安全、安心の保険の範疇に入る保険である。
(乙一の1、五、一五、証人佐藤博伸)
3  相続税対策としての融資併用変額保険
(一) 被告日生の東銀座営業室では、平成二年七月当時、「『生保節税』のおすすめ 変額保険を活用した相続税対策プラン(ダブルメリット方式)」と題するパンフレットを作成し、銀行からの融資による保険料一括支払いによる変額保険を利用した相続税対策を検討していた。そして、被告銀行や他の銀行と提携しての共同スキーム(実施案)を開発していた。
その内容は、AプランとBプランであり、Aプランは、資産家本人が変額保険に加入する方法であり、Bプランは資産家の相続人(妻又は子)を被相続人として変額保険に加入する方法である。
Aプランの仕組みは、提携銀行が資産家の土地を担保として、資産家に変額保険(終身型・保険料一時払タイプ)の一時払保険料相当額を貸付け(当座貸越)、資産家は、右借入金により一時払保険料を支払い、変額保険に加入し、資産家が死亡した場合に被告日本生命が生命保険金を資産家の相続人に支払い、相続人は右保険金で相続税を納付するとともに、右銀行に借入金を返済するというものである。
Aプランによる資産家の相続税対策の利点は、自己資金を別途調達することなく借入金にて相続税対策が図れること、銀行借入金により(当座貸越方式で、年数の経過に伴い借入金が増大する)相続税評価を引き下げることができること、そして、生命保険金を相続税納税資金及び銀行借入金に充当できることである。佐藤及び黛は、このAプランが、生命保険金が資産として加えられ、いったん相続税額は増えるものの、利点が一番大きい典型的な相続税対策プランと考えていた。
Bプランの仕組みは、提携銀行が資産家の土地を担保として、資産家に変額保険(終身型・保険料一時払タイプ)の一時払保険料相当額を貸付け(当座貸越)、資産家は、右借入金により一時払保険料を支払って変額保険に加入し、資産家が死亡した場合に相続人(妻か子)が当該変額保険の権利を相続することで、一時払保険料をもって生命保険の権利評価額(相続税評価額)とされるため、年数が経過するにつれ、保険の現在価値(解約時受取額)と相続税評価額の乖離が生じ相続税の対象外となる「含み」益が生じ、借入れによる債務控除と合わせ、相続税評価を下げ、相続税の節税を計ることができるというものである。
Bプランによる資産家の相続税対策の利点は、自己資金を別途調達することなく借入金にて相続対策が図れること、資産家が高齢、病気等の理由で変額保険に加入できない場合でも、妻や子を被保険者とすることにより利用できること、借入金により(当座貸越方式で、年数の経過に伴い借入金が増大する)相続税評価を引き下げることができること、相続した変額保険を引続き継続することにより(保険契約者を妻又は子に変更)、二次以降の相続対策を図ることができることである。
佐藤及び黛は、このBプランは相続財産の評価を下げるプランであり、経過年数が経つほど借入金が増大して債務控除益が生じ、他方、保険の現在価値(解約時受取額)が高くなると相続税評価額との差額が相続税の対象とならず、例えば変額保険の特別勘定の運用利回りが九パーセントで借入金の利率が六パーセントとした場合に、税引後の解約時受取額は銀行借入金額に及ばず、税引後の解約時受取額での借入金の返済には足りないが、税引後の解約時受取額と相続税評価額との差額が相続税の対象とならないことによって節税対策となると考えていた。
一時払・終身型変額保険の加入において、保険契約者が、保険会社と変額保険の保険料支払資金の融資を提携している銀行から一時払保険料を全額借入れ保険会社に右保険料を全額支払う形態(AプランとBプランを含む)を、以下、「融資併用変額保険」という。
(二) 佐藤と黛は、原告の隣人の訴外茅野紀子(以下「紀子」という)に対して、融資併用変額保険を相続税対策として勧めたが、AプランとBプランの併用又はAプランを利用した場合の五年、一〇年、二〇年後の相続税対策効果であり、Aプランを利用しているため、死亡保険金と解約返戻金(但し、税引前)によって銀行からの借入金及び相続税を支払ってまだ多額の残金がでる内容となっている。しかし、Bプランの場合には前述のとおり、税引後の解約返戻金では、特別勘定による運用実績が九パーセントでも、右解約返戻金をもって銀行借入金の返済も足りず、相続税の原資には全くならないのであるが、その具体的な計算表は示していない。
(甲一三の1ないし8、六九の2、証人佐藤博伸、同黛三千代)
(三) 融資併用変額保険の販売が展開された背景には、大都市部を中心とした地価の急激な高騰に対し、この地価をそのまま前提として相続税額が決定されたことから、大都市部に土地、特に処分予定のない宅地等を有する者は、予定される高額な相続税の対策に頭を痛めており、何らかの対策を立てないと相続税を支払うために売却するか、物納するかしなければならない事態が現出し、三代したら土地はなくなると言われていた。
(甲四七、五五、五八、六〇)
3  相続税対策としての養老保険
養老保険の相続財産としての権利評価額、すなわち「みなし相続財産」は、一時払いの時は一時払い保険料金額そのものであり、分割払いの場合は、保険事由発生のときまでに支払われるべき保険料の七〇パーセントから保険金の二パーセントを控除した額である(相続税法二六条一項)。
本件養老保険は、三回の分割払いで、一回の保険料が二二八七万八二〇〇円であるから、契約後一年以内に保険事由が生じた場合には、右金額の七〇パーセント相当額は一六〇一万四七四〇円であるから、保険金額一億円の二パーセント相当額二〇〇万円を控除した「みなし相続財産」は一四〇一万四七四〇円となり、差額八八六万三四六〇円が相続財産価格で減額されることになる。
三年後に保険事由が生じ、それまで三回分支払っている場合には、支払保険料総額六八六三万四六〇〇円の七〇パーセント相当額は四八〇四万四四二〇円となり、これから保険金額の二パーセント相当額二〇〇万円を控除すると四六〇四万四四二〇円となり、二二五九万〇一八〇円が相続財産価格で減額されることになる。
(乙一四)
二  変額保険における特別勘定資産の運用実績
変額保険における特別勘定資産の運用実績は、昭和六一年一〇月に売り出されると高水準の運用を続けたが、次第に、高低変動はあるもののおしなべて低下し、加入月が遅いほど運用実績が低く、平成二年九月加入の変額保険の運用実績はマイナス9.9パーセントであり、昭和六三年一一月以降に加入した変額保険の運用実績はいずれもマイナスで悪化傾向を示していた。
平成二年一二月時点で、同元年一二月加入の変額保険の運用実績は、マイナス11.7パーセントであり、同年一、二月加入の変額保険の運用実績が、各0.3パーセント、同年三月が0.0パーセント、同年四月がマイナス2.7パーセント、同年五月がマイナス2.0パーセント、同年六月がマイナス2.3パーセント、同年七月がマイナス5.3パーセント、同年八月がマイナス5.4パーセント、同年九月がマイナス7.4パーセント、同年一〇月がマイナス7.8パーセント、同年一一月がマイナス9.5パーセントであった。
その後、平成三年に入り、運用実績がやや好転したが、同年秋から低下傾向でマイナス実績を続け、平成四年九月から同五年三月まで好転に転じたが、マイナス実績であった。
(甲二三の1、2ないし15の各1ないし3、二三の16、17、三四、四四の1、2)
三  本件各保険契約締結に至る経緯と締結後の事情
1  原告には、平成二年一二月当時、明治四一年生まれの父金太郎、妻愛女、それに子供二人の家族がおり、金太郎所有の本件土地上に原告所有の本件建物を建築し、同居していた。
金太郎は、建具職人として働いてきたが、昭和四〇年に倒れて以来すっかり病身となり、しばしば高血圧で入院し、同四二年脳出血で倒れてからは、半身麻痺、言語障害のため、家族の助けを借りないと生活できない状態であった。そして、金太郎の収入は、年三〇万円程度の老齢福祉年金が唯一の収入であった。
原告も建具業を営み、平成二年一二月当時の年収は四〇〇万円強程度であった。愛女は三一歳で結婚するまで京都で美容師をしていた。本件土地の広さは119.40平方メートルであり、本件建物は二階建て共同住宅であり、一階が57.13平方メートル、二階が59.43平方メートルである。原告は、本件建物を、昭和五九年、港信用金庫から二一〇〇万円を二〇年のローンで借りて建築し、収入が少ないためやむなく本件建物の二階を賃貸し、月々の家賃収入(当初二一万円、現在二八万円)を分割返済(毎月一四万五八八六円)の資金として右ローンを返済している。
金太郎も原告及び愛女も、株取引、先物取引の経験は全くなく、大口の銀行取引というのは、本件消費貸借契約まで本件建物建築についての借入のみであった。
2  愛女は、金太郎が平成二年夏に倒れたため、近いうちに金太郎の相続が発生するかもしれないと考え、地価が高騰していたことから相続税が心配になり、同年八月頃、国税局市ヶ谷分室で税務相談をした。愛女は、右相談で、「親の土地の上に息子の建物を建て、二階をアパートにして貸しているが、近いうちに父が死亡した場合、相続税はどうなるか」と本件土地の場所と面積を話して相談したところ、この場合は更地計算になり相続税は六七〇〇万円位である、生前三年位前には相続税対策を立てる必要があると言われた。
その後、三井信託銀行でも調べてもらえる機会があり、そのときは、同居していると小規模宅地の特例を受けられるので、相続税は一九〇〇万円位でしょうと言われた。そして、一部資産があれば支払って、後は延納もできると教えられた。愛女は、それを聞いて何とか相続税を支払えるかもしれないと考えた。
その後、愛女は、相続税について税理士にでも相談しようと考えていたところ、平成二年一一月二〇日頃、紀子から、夫訴外茅野博(以下「博」という)が金太郎の公正証書遺言で遺言執行者にもなっていたこともあって、金太郎死亡による相続税を心配していた紀子から、相続税対策ということで変額保険を紀子に勧めていた黛を紹介された。
黛は、昭和五二年一月に被告日本生命に入社し、昭和五一年一〇月募取法による生命保険募集人の登録をし、昭和六一年一〇月に社団法人生命保険協会に変額保険販売資格者として登録され、被告日本生命日本橋支店東銀座営業室に勤務する保険外務員であった。
紀子に黛を紹介されたとき、愛女は黛から、「土地を持っているおじいさんが銀行から金を借りて、一時払い保険に入ると節税効果がある。保険料の運用がいいので借りたお金の心配はいらない」と説明された。その後、三、四日して紀子に呼ばれて茅野宅に行くと、黛と皆川がおり、黛が皆川を被告銀行赤坂見附支店の行員であると紹介した。
そこで、愛女は、皆川に対し、「本件土地を所有する金太郎の今回の倒れかたは今までと違うようなので長く持たないような気がする。地価も上がっているので相続税が心配だ。国税局市ヶ谷分室で相談したら、相続税が六七〇〇万円位かかると言われ、三井信託銀行では一九〇〇万円位と言われたがどちらが正しいのか心配だ。一九〇〇万円なら何とか払ってゆけるが、六七〇〇万円ではとても払えないので何とか対策を立てないといけないので調べて欲しい」旨の話をした。すると、皆川は、「自分の部署に税理士がいるから調べて上げましょう」と言った。そして、土地があっても相続税を払えない人のために作られた保険があり、相続税対策にこんなにいい保険はないと言った。
3  その約一週間後、茅野宅で、皆川は愛女に対し、「小林さんの場合は更地計算になる。六七〇〇万円位かかります」と言い、皆川が作成した本件土地が更地の場合の路線価と公示価格を基礎にして相続税の計算式を記載した書面と公図及び路線価図を愛女に見せて、路線価で計算すると税控除後に六六八七万円となると説明した。皆川は、親の土地の上に子供の建物が存在するときには小規模宅地の適用はなく更地計算になるとも言い、税理士に相談したと言った。皆川は、このままでは地価上昇に伴い相続税も上がり、土地を手放さなくてならなくなるから、この相続税対策の保険に入って早く対策を立てた方がいいと言った。そこで、愛女は、これは大変なことになったと思った。
4  平成二年一一月二七日、佐藤、黛及び皆川が来ていた茅野宅に原告と愛女が行き、皆川と佐藤から変額保険の説明を受けた。佐藤は、昭和五九年四月に被告日本生命に入社し、同年募取法による生命保険募集人の登録をし、昭和六一年一〇月変額保険の販売に伴い、社団法人生命保険協会に変額保険の販売資格者として登録し、当時、被告日本生命日本橋支社東銀座営業室の支部長として、同営業室の保険外務員の変額保険の販売について変額保険の説明をして勧誘を助けていた。愛女が、銀行から借りて保険に入っても返せなくなる心配があるから保険に入れないと不安を述べたの対し、佐藤は、変額保険は保険料を株などに運用し、その運用実績で保険金額が上下する保険であると説明し、運用実績は過去において常に九ないし一〇パーセントを越え、銀行金利を上回っており、銀行から借り入れても大丈夫であると言った。また、皆川は、「土地を所有しているおじいさんが大きな借金をしなければ相続税対策にはならない。そのため一時払い保険料としておじいさんが銀行借入をする。この銀行借入により相続財産の資産評価が下がり、その結果相続税が下がる」と言った。そして、皆川は、銀行への元利金返済額と変額保険の運用実績が九ないし一〇パーセントである場合の保険金額との関係を図示し、銀行金利は今が一番高いが変動金利で平均六ないし七パーセントであり、変額保険の運用実績は九ないし一〇パーセントを超えているから、長期だと運用益の方が増えて行き、銀行借入金の元利金を控除しても差額が生じこれを納税資金に当てれば良い」「相続税対策の保険は、保険料を海外投資、株、不動産、その他に有効に運用している。プロの人達がいて運用部があって、安全に運用しているから安心です」と言った。原告と愛女は、金太郎に相談すると言って、一時間ほど説明を聞いて帰った。
佐藤、黛及び皆川は、当時、変額保険の運用実績がマイナスであることを知っていたが、過去の高率の運用を念頭におき、しばらくすれば一〇パーセント台の運用実績となると信じていた。
その後数日して、愛女は、皆川から電話があったので、金太郎が本件土地を守れるならば銀行から保険料を借りて保険に入ってもいいといっていると話し、皆川は近いうち訪ねると言った。
5  同年一二月初め、皆川が、夜一人で原告宅を訪ね、原告と愛女に対し、「保険の運用実績は九ないし一〇パーセントだが、運用実績が下がったときは銀行金利も下がり、最悪でもとんとんで大体三パーセント運用実績のほうが上回っているから心配ない。運用が金利より下がるような危険なものなら三菱銀行は融資しないから安心して下さい」と言い、「一億円から二億円の借金をしないと相続財産の評価を下げられず、相続税対策にならない。土地建物を担保に融資するがまだまだ余裕がある」と言った。
皆川から金太郎の様子を聞かれて、愛女は、食欲もあるし元気であると答えた。原告が、相続税や銀行借入元利金の返済ができるのか尋ねると、皆川は、「不安ならもう一つ短期の保険を組みますから心配いりません。一億と二億の保険を合わせて保険料は大体一億円位となる。融資可能な金額は二億円位であり、その半分を保険料としてその余を金利の範囲とし、養老保険を納税用とし、変額保険を運用して銀行返済金をカバーする長期対策用とすると安心だ」と説明した。
原告と愛女は、縁のない数字であったから、そんなに借金をしても返済できるのかと尋ねると、皆川は、「三菱と日本生命がうまくやって行くから大丈夫です。これくらいの対策を立てないと相続税対策にはならない」と言った。
そこで、原告は、本当に安全な相続税対策ならお願いしますと、初めて被告銀行から借り入れて保険に加入する話を進めてもらうことをお願いした。
皆川は、佐藤に連絡しておくと言って帰った。
6  同年一二月一八日頃、佐藤、黛及び皆川が、原告宅を訪れ、基本保険金二億円の変額保険と保険金一億円の養老保険の設計書を持参した。変額保険の設計書には、基本保険金、九パーセント、4.5パーセント、〇パーセントの各場合のそれぞれの運用実績の、三年、五年、一〇年、六五歳時、八〇歳時の各死亡・高度障害保険金及び解約返戻金の額、波形図の変額保険の仕組み等が記載されていた。
そして、皆川が、養老保険を納税用とし、変額保険を運用して銀行返済金をカバーする長期対策の保険プランとすると説明し、シャープペンで養老保険の設計書に「六七百万円」と書いて、「金太郎の相続財産には相続税が六七〇〇万円かかるが、金太郎が三年位大丈夫であろうから三年払いにする、二二八七万八二〇〇円を三回払い込む方法にする。三回にしたのは、金太郎の様子を見ながら一年ずつ継続するか決めることができる」「金太郎がどれくらい持つものか分からないし、土地の情勢も分からないのではっきり言えないが、一年目に金太郎が死亡した場合は、小さい保険を解約すれば保険料は大体返戻される。あと保険料の銀行借入によって相続財産について相当圧縮効果がある、銀行金利は変動金利で、平均六、七パーセントである。三年後に解約すると解約返戻金が六七〇〇万円確実に出る(乙五号証拠によれば保険期間一〇年一時払いで三年後の解約返戻金は六九五一万円である)」と言い、変額保険の設計書(甲一四号証)の左下に、「一五〇百万」「▲七五」と記載し、右肩上がりのグラフを書いて、大きい保険の方は運用がとてもいいので長生きする場合の長期対策の保険ですと運用実績九パーセントの欄で説明し、「一〇年後、解約返戻金は一億四八三二万円とあるがこれ以上出る、運用益が積み重なって増えて行くので長期において丁度良いところで解約して大きい保険と小さい保険の借金(元利金)が払える、被告日本生命と被告銀行で全てやるから心配しなくてもいい」と言ったので原告と愛女は安心した。
7  原告と愛女は、本件建物の建築資金を借りる時に港信用金庫の融資審査が厳しかったので、被告銀行が貸すと言う以上大丈夫なのだろうと思った。
そこで、原告と愛女は、相続税対策になると納得し、黛から受け取った本件変額保険と本件養老保険の保険申込書に、金太郎と原告が署名して、翌日、黛に渡した。なお、被保険者を愛女とする変額保険の申込書に愛女と金太郎が署名したが、結局、これには入らないと断った。
その後、平成三年一月三一日、皆川が原告宅に来て、本件消費貸借契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約の各契約書が作成された。
8  原告は、金太郎死亡後直ちに佐藤に連絡して、本件保険契約の相続税対策の効果の説明を求めた。すると、佐藤から説明して欲しいと連絡を受けた皆川の後任者から引継を受けた訴外片桐英博(以下「片桐」という)が、平成四年二月一二日頃、原告宅を訪れ、概算で、本件変額保険の解約返戻金は約六七〇〇万円であり、本件養老保険の解約返戻金は約二一〇〇万円、本件消費貸借契約の残債務が一億一八〇〇万円で、相続税が約二〇〇〇万円であるから、七一〇〇万円の負債が残っている状態であると説明した。
金太郎の死亡による相続税の申告は、平成四年六月に原告の知人の紹介した税理士によって行われた。本件土地の資産評価額は、約三億一〇六五万円であり、小規模宅地等の特例による控除が、二分の一の面積だけ居住用宅地として約七七六六万円が減額され、課税価格は二億三二九九万円として申告され、本件変額保険は七五九九万円と、本件養老保険は約一四〇一万円と権利評価され、被告銀行からの本件消費貸借契約による債務として一億一八〇〇万円を申告し、その結果、相続税総額では約四〇六七万円であり、申告どおり課税され、利子4.8パーセントで一五年の延納扱いとされ、平成四年一〇月、原告の相続税二六〇三万二一〇〇円、弟及び妹の相続税各七三二万一五〇〇円のために、本件土地建物に大蔵省の抵当権を設定した。
本件土地の資産評価額が、二億八〇〇〇万円で小規模宅地等の特例による控除が、全面積居住用宅地として受けられるとすると、相続税は二〇〇〇万円程度であった。
金太郎の相続時、本件変額保険と本件養老保険の権利評価は合計約九〇〇〇万円であり、本件消費貸借契約による債務一億一八〇〇万円との差額約二八〇〇万円が資産評価額を圧縮し、約七五〇万円の相続税の節税となった。他方、解約返戻金と被告銀行からの借入額との差額では、約三〇〇〇万円の債務が存在することになる。
(甲二、六、七、九、一〇、一一、一四、一五、四二の1ないし3、四三、四九の1ないし3、五三、乙一の1、2、5、6、二、三、一三、一四、二四の1、2、証人佐藤博伸、同黛八千代、同小林愛女、同皆川秀一、同片桐英博、但し、いずれも不採用部分は除く)
四  右認定に反する証人佐藤博伸、同黛八千代、同皆川秀一の証言及び陳述書について
1  黛の陳述書には、本件変額保険及び養老保険の契約書を平成二年一二月九日に持参し、何回か押印不備や書き直しがあって同月一八日に両方の申込書をもらったと記載しているが、本件保険契約の申込書(乙二、三、一二の一、二)の設計書番号は、平成二年一二月一二日付けの設計書番号(乙一の三、四)よりも後ろの番号であるから信用できない。
証人皆川秀一は、「原告及び愛女に対し、本件土地の相続税が六七〇〇万円になるとは言っておらず、本件土地の路線価を単純に面積で乗じたものを示したほか、小規模宅地の評価減の特例、借家権、借地権等が控除される場合を説明し、それを書いた書面で説明したが、その紙は持ち帰った、麻布税務署で確認した方がいいと言った」と証言するが、証拠(甲一〇、一一、一五、証人小林愛女)並びに、小規模宅地の評価限の特例、借家権、借地権等の説明に供した書面を持ち帰り、公示価格と路線価の計算書(甲一〇、一一)だけを愛女に渡して帰ったということは不可解であり、証人黛の「通常、坪数、坪単価などから課税評価額を割り出し、相続税を試算しどういう保険が適切か企画する、愛女が、皆川が計算してくれたが、六七〇〇万円位でやっぱり変わらないと言っていた」との証言によれば信用できない。
2  また、証人皆川秀一は、平成二年一二月一七日に愛女と話したときにも養老保険に加入して金太郎が近未来に死亡する場合の相続税対策を検討しており、変額保険に加入して長期対策を立てるという話はまだ出ていなかった、保険金額二億円の変額保険と保険金額一億円の養老保険とする話を聞いたのは平成三年一月一四日であると証言するけれども、証拠(甲一四、一五、乙二、三、一二の1、2、証人佐藤博伸、同黛八千代、同小林愛女)によれば、到底信用できない。何故、証人皆川秀一が、右のような証言をするのか、前記認定事実のように、原告や愛女に対し、「変額保険の運用実績は九ないし一〇パーセントだが、運用が下がったときは銀行金利も下がり、最悪でもとんとんで大体三パーセント運用実績のほうが上回っているから心配ない。運用が金利より下がるような危険なものなら三菱銀行は融資しないから安心して下さい」とはっきり言い、特にグラフを書いて、払い込んだ保険料が一〇年経てば九パーセントの運用益がついて借金を返済できると、それ以上に積み立てればもっと増えて行きます。丁度いい時期に全額元利金合計が支払えるときに被告日本生命と被告銀行がちゃんとやります」と言ったが、養老保険と銀行貸付及び相続税額の説明だけにしては、原告宅を訪れた回数(皆川は実質的に話した回数として八回指摘している)が多いため、変額保険のことを話題にしたことを故意に回避しようとしていると推認される。
3  ところで、被告日本生命は、変額保険及び養老保険の設計書を平成二年一二月一七日付け(甲一四、一五)以外の設計書(乙一の1ないし6)も原告や愛女に会ったときに持参して渡していると主張し、証人黛も同旨の証言をするが、証拠上明らかな設計書番号によれば一四枚作られ(乙三)ており、作成した設計書が原告や愛女に渡されたかは定かではなく、平成二年一二月一七日付け(甲一四、一五)の設計書に皆川の前記認定の記載があること、右設計書と同一内容の設計書が同月一二日付けで作成されていること(乙一の3、4)、そして証人愛女の証言からすると、平成二年一二月一七日付け(甲一四、一五)以外の設計書(乙一の1ないし6)が原告や愛女に渡されていることは認めるに足りない。
4  また、証人黛八千代及び同佐藤博伸は、養老保険及び変額保険の「ご契約のしおり」が、本件保険契約の際に原告に交付されていると証言し、本件保険契約書の、「ご契約のしおりー定款・約款」の欄に受領印が押捺されている(乙二、三)が、契約が成立しなかった愛女を被保険者とする変額保険の申込書にも右欄に受領印が押捺されている(乙一二の3)ことが認められるから、証人愛女の証言に照らして、証人黛八千代及び同佐藤伸博の右証言は信用できない。
5  証人小林愛女の証言の中には、変額保険に対する認識等につき、信用し難いところがないではないが、他の証拠関係に照らし、前記認定の事実の範囲で信用できる。
五  本訴請求について
1  公序良俗違反
前記認定の事実によれば、変額保険はハイリスク・ハイリターンな保険であり、とりわけ、一時払いの融資併用変額保険の場合には、保険料を銀行から借り入れるため、銀行金利が増加するのでリスクが大きくなり、相続税対策として当該相続財産を担保に銀行から保険料を借り入れて変額保険に加入したところが、変額保険の運用実績が悪く、結局、銀行借入金を返済できず、右銀行の抵当権実行により、当該相続財産が競売されるに至る場合もある。
しかし、それだからといって、変額保険自体の仕組みが公序良俗に違反するとはいえない。
2  錯誤無効
前記認定を総合すれば、金太郎の代理人である原告及び愛女は、被告日本生命の佐藤、黛及び被告銀行の皆川から、金太郎死亡の場合の本件土地の相続による相続税対策として、本件保険契約の勧誘、説明を受けたが、その際、皆川に本件土地の相続税額を相談したところ、被告銀行の税理士に相談したら六七〇〇万円位になる、小規模宅地の評価減の特例もないと計算書を示して説明され、何らかの相続税対策を立てないと本件土地の相続税として六七〇〇万円を支払わなくてはならなくなると深刻な不安に陥り、佐藤、黛及び皆川、主に皆川から、前記のとおり、短期対策として養老保険に、長期対策として変額保険に加入し、多額の保険料を銀行から借入れ、借入債務と保険の権利評価の差額により相続財産を減価し、他方、養老保険を相続時に解約して相続税資金に当て、保険料の運用実績が九パーセントから一〇パーセントであり、九パーセントはまず下ることがなく、下がっても銀行金利と同等かこれより三パーセントも上回っている変額保険を原告が承継して、適当な時期に銀行借入債務に当てれば良いと言われ、年収四〇〇万円程度で、一億円以上という、原告や愛女にとって途方もない金額を銀行から借り入れることに不安なため、繰り返し、変額保険の運用実績が銀行借入金の返済ができるような高利率で推移するのか確かめると、皆川から、被告銀行が融資するのだから心配いらない、被告日本生命がうまく運用するから心配いらない旨の説明を受け、本件建物建築の際に二一〇〇万円融資を受けた際の融資審査の厳しさと借入金額を比較し、被告日本生命及び被告銀行という超一流企業への信頼から、皆川の説明は間違いないと考え、佐藤も変額保険の運用実績が九パーセントから一〇パーセントであり、九パーセントはまず下ることがないと説明したことから、本件消費貸借契約を締結して、本件変額保険及び本件養老保険に加入したのである。
ところが、前記のとおり、本件土地には小規模宅地の評価減の特例が一部適用になり(一階部分だけ居住家屋なので半分の面積しか適用にならないとしても、控除額が土地価格の三〇パーセント控除される)、本件変額保険契約当時、直近一年間の変額保険の運用実績はマイナスであり、かつ、運用実績の低迷傾向が顕著で、今後近年中に、九パーセント台を維持して行き、平均して銀行金利を数パーセント上回り、変額保険を解約し本件貸金債務を返済できる見通しが十分持てる運用状況ではなかった。
実際、平成三年一二月一四日、金太郎が死亡し相続税申告をした際、本件土地は高騰していたけれども、本件貸金債務の資産評価額の減価がない場合で五〇〇〇万円弱であって、本件貸金債務額と本件変額保険と本件養老保険の権利評価との差額は約二八〇〇万円であり、この分資産評価額を圧縮し、約七五〇万円の相続税の節税となったが、他方、解約返戻金と本件貸金債務額との差額約三〇〇〇万円の債務が存在することになり、相続税対策どころか、結局、本件消費貸借契約及び本件保証契約を締結したことから二二五〇万円の債務を新たに負担したこととなった。
確かに、変額保険の運用実績が今後、銀行金利をかなり上回り推移する可能性はないわけではなく、その場合、変額保険の解約返戻金や保険金が本件貸金債務を返済しうるかも知れず、その限りでは、皆川は将来の見込みを説明したのであり、原告や愛女に錯誤はないという一面はある。
しかしながら、原告や愛女が、一億円以上の本件貸金債務を負担して、本件消費貸借契約を締結したのは(しかも、相続財産たる本件土地のみならず原告所有の本件土地上の建物も本件貸金債務を被担保債務とする根抵当権を設定している)、抽象的な仕組みの問題ではなく、本件消費貸借契約を締結するか否かを決するための具体的、現実的な、蓋然性の高い相続税対策の利点という事実関係と見るべきである。
そうすると、原告や愛女は、金太郎の代理人として(本件保証契約について原告は本人として)、相続税額と本件変額保険の運用実績の現実(前記の運用実態)について錯誤があり、これは、本件債務の返済に直結していることからすれば、変額保険の運用実績の現実は要素の錯誤に当たると考えられる。
そして、これは被告銀行の担当者である皆川のみならず、前記のとおり、被告日本生命の担当者である佐藤及び黛も、原告や愛女の右錯誤を認識していたものと認められる。
したがって、本件変額保険契約、本件養老保険契約、本件消費貸借契約、本件保証契約及び本件根抵当権設定契約は、いずれも右錯誤がなければそもそも契約しなかったのであり、無効であると考える。
3  重過失
右錯誤無効については、前記認定のとおり、原告及び愛女は、資産(保険料)運用が株式投資等に運用されると説明を受けており、運用実績が九、一〇パーセントを維持し、銀行金利を三パーセント上回るということは、容易に信じられないことのように思われる。
しかしながら、平成二年一二月当時、変額保険の運用実績がマイナスであることを知り、特別勘定の運用を十分理解していた佐藤や黛さえも、過去の高率の運用を念頭におき、しばらくすれば一〇パーセント台の運用実績となると信じ、原告や愛女に対し、当時の運用実績を言わなかったのであるし、前記の被告銀行や被告日本生命の担当者からの説得的な説明を受けたことからすると、原告や愛女が錯誤につき重大な過失を有していたと言うことはできないと考える。
4  不当利得返還請求
ところで、金太郎は、本件保険契約に基づき、本件消費貸借契約を締結して本件貸金を借り受け、保険料として被告日本生命に払い込んでいるから、本件保険契約が無効である以上、右保険料を不当利得として返還請求できるはずである。
しかしながら、本件消費貸借契約も同じく無効であることを考えると、被告日本生命から原告、原告から被告銀行と返還することは迂遠であり、端的に、法律関係のなくなった三者間で、被告銀行の損失の下に被告日本生命が利得しているものとして法律関係を律するのが、不当利得制度の理念にもかなうものと考えるから、原告の被告日本生命に対する不当利得請求は理由がないものと考える。
5  弁護士費用
前記認定事実によれば、原告及び愛女が前記錯誤に陥ったのは、皆川及び佐藤が、とりわけ皆川が、積極的に、変額保険の当時の資産運用実績とは異なる内容の運用率を現実で確実であるかのように原告及び愛女に説明したことが大きいと考えられる。
そうすると、右の皆川及び佐藤の説明は、資産運用の仕組みを他方でしていることとの関係から見込みを説明している面もあるが、それを超えて積極的に原告及び愛女を錯誤に陥しいれるような言辞を述べたことは、取引上の信義則から要求される注意義務に違反し、不法行為を構成するものと考える。
そうして、皆川及び佐藤の説明は、前記認定のとおり、職務の執行としてなされているから、民法七一五条により被告銀行及び被告日本生命がその使用者責任を負う。また、前記認定のとおり、皆川及び佐藤が、同一の機会において、右のような説明をしたことが認められるから、関連共同があるものとして共同不法行為を構成する。
ところで、本件訴訟の提起及び追行の経緯、事案及び判決内容等に照らすと、右注意義務違反と相当因果関係のある損害として認めるべき弁護士費用としては総額で三〇〇万円が相当である。
6  根抵当権設定登記抹消登記請求
以上のように、本件根抵当権設定契約が錯誤により無効であるから、本件根抵当権設定登記も無効登記である。
ところで、原告は、本件建物の所有者であり、本件土地は後記7のとおり、六分の四の持分権利者であるから、本件建物については、所有者として、本件土地については持分権利者の保存行為として、各妨害排除請求としての抹消登記請求は理由がある。
7  確認の利益
本件消費貸借契約上の債務は、金太郎の債務であったところ、証拠(甲八)によれば、金太郎が死亡して、原告は、遺産分割により、本件土地の六分の四及び本件保険契約上の債権と被告銀行からの金太郎の債務を相続したことが認められる。
ところで、原告の法定相続分以上の債務引受については、第三者である被告銀行は受益の意思表示をしていないし、未だ原告の法定相続分以上の債務を主張していないから、その点では訴えの利益がないと言える。
しかし、実態を正視するならば、原告が遺産分割により、本件貸金債務を承継することにしたことは理由のあることであり、被告銀行としても、併存的債務引受として承諾し、権利行使を主張することは潜在的にないとは言えないと考えられる。
したがって、原告の被告銀行に対する本件消費貸借契約上の債務の不存在確認を求める訴えの利益は認められるものと解する。
六  反訴
以上のとおり、本件消費貸借契約及び本件保証契約は、いずれも錯誤により無効であるから、反訴請求は理由がない。
七  以上の次第であるから、本訴請求は、被告日本生命に対する不当利得返還請求は理由がないから棄却し、被告銀行に対する本件消費貸借契約に基づく債務及び本件保証債務の各不存在確認及び本件根抵当権設定登記の各抹消登記請求は理由があるから認容し、被告らに対する損害賠償請求は各自三〇〇万円の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、反訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を各適用し、仮執行宣言については相当でないから付さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官髙橋光雄)

別紙  物件目録
一 所在 東京都港区六本木七丁目
地番 一七四番三六
地目 宅地
地積 119.40平方メートル
二 所在 東京都港区六本木七丁目一七四番地三六
家屋番号 一七四番三六
種類 共同住宅
構造 木造スレート葺
二階建
床面積 一階 57.33平方メートル
二階 59.43平方メートル
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