判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(122)平成26年12月17日 東京地裁 平24(ワ)23486号 追加開発費用等請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(122)平成26年12月17日 東京地裁 平24(ワ)23486号 追加開発費用等請求事件
裁判年月日 平成26年12月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)23486号
事件名 追加開発費用等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA12178005
要旨
◆原告が、被告の提供するデジ印システムの追加開発契約等に基づく報酬金の支払を求めたほか、主位的に、システム運用契約、ヘルプデスク契約、コンサルタント契約に基づく報酬金の支払を、予備的に、システム開発契約に基づく値引き分相当額の報酬金の支払を求めた上、被告は原告開発に係る本件基盤プログラムのソースコードを不正取得したとして不法行為、不正競争防止法4条に基づく損害賠償を求めた事案において、追加開発契約及びヘルプデスク契約の成立は認められないこと、運用契約は解除されコンサルタント契約は報酬支払条件を満たしていないこと、原被告間に値引き合意はなく原告は値引き分相当額の損害を被っていないこと、原告は本件基盤プログラムのソースコードの交付義務を負い被告の行為は不法行為や不正取得に当たらないことから、各請求を棄却した事例
参照条文
民法536条2項
民法634条1項
民法651条2項
民法655条
民法656条
民法709条
商法512条
不正競争防止法2条1項4号
不正競争防止法4条
裁判年月日 平成26年12月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)23486号
事件名 追加開発費用等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA12178005
東京都町田市〈以下省略〉
原告 株式会社TSR
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 今津泰輝
同訴訟復代理人弁護士 田附周平
同 土屋裕太
埼玉県所沢市〈以下省略〉
被告 株式会社デジサイン
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 中野厚徳
同 幡田宏樹
同 吉藤真一郎
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,223万0200円及びこれに対する平成24年9月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 (主位的請求)
被告は,原告に対し,2416万7283円及びうち597万3438円に対する平成24年9月9日から,うち1819万3845円に対する平成25年10月31日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
被告は,原告に対し,551万2500円及びこれに対する平成24年9月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,272万1600円及びこれに対する平成24年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1(1)ア 原告は,コンピュータソフトウェアの開発,販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は,コンピュータネットワーク通信において電子データの漏えい,改ざんを防止し電子データを作成又は発信した者の本人確認を証明する電子署名,電子証明書ファイルの作成代行サービス等を目的とする株式会社である。
被告は,電子データに電子署名及びタイムスタンプを付与した電子証明ファイルを作成し送受信する電子署名インターネットサービス(商品名は「デジ印」である。以下「デジ印」という。)を提供している。
(2) 本件は,原告が,被告に対し,① デジ印に係るシステム(以下「デジ印システム」という。)の追加開発契約(予備的に商法512条,不当利得返還請求権)に基づき,報酬金(追加開発費。予備的に不当利得金)223万0200円及びこれに対する平成24年9月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を(以下,これを「請求①」という。),② (a)主位的に,デジ印システムの運用業務契約,ヘルプデスク業務(被告に代わりユーザーからの問合せに対応する業務)契約,コンサルタント業務契約等(予備的に民法651条2項)に基づき,報酬金(予備的に損害賠償金)2416万7283円及びうち597万3438円に対する同日から,うち1819万3845円に対する平成25年10月31日(請求拡張申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,(b)予備的に,デジ印システムの開発契約(予備的に民法651条2項)に基づき,値引き分相当額の報酬金(開発費。予備的に損害賠償金)551万2500円及びこれに対する平成24年9月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を(以下,これを「請求②」という。),③ 被告は原告開発に係るアプリケーション基盤プログラム(TSRアプリケーション基盤プログラム)のソースコード(以下,それぞれ「本件基盤プログラム」,「本件ソースコード」という。)を不正に取得したなどと主張して,不法行為,不正競争防止法4条に基づき,損害賠償金272万1600円及びこれに対する同年1月31日(不法行為の日又はその後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(以下,これを「請求③」という。)を求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)ア 原告は,平成22年11月11日,被告との間で,コンサルタント,コンピュータソフトウェアの開発,運用等の業務の委託に関する基本契約(以下「基本契約」といい,これに係る契約書を「基本契約書」という。)を締結するとともに,① デジ印システムの開発契約(開発費は735万円〔消費税を含む。特に断らない限り,以下同じ。〕である。以下,上記契約を「開発契約」,上記開発費を「開発報酬金」という。),② デジ印システムの運用業務契約及びヘルプデスク業務契約(以下,それぞれ「運用契約」,「ヘルプデスク契約」といい,併せて「運用契約等」という。ただし,ヘルプデスク契約の成否については争いがある。),③ コンサルタント業務契約(以下「コンサルタント契約」といい,これに係る契約書を「コンサルタント契約書」という。また,上記①から③までの各契約を併せて「本件各契約」という。)を締結した(甲3から9まで)。
イ(ア) 基本契約書(甲3)には,① 被告の委託する業務は,(a)情報処理システム技術及び業務のコンサルティング,教育訓練,(b)各種情報処理に関する研究,開発業務,(c)これに付帯関連する業務であり,その具体的内容及び委託料(報酬金)は個別契約で定める(個別契約で基本契約と異なる定めをした場合は,個別契約の定めを優先する。),② 個別契約は,被告が注文書を発行し,原告がこれに応諾することにより成立する,③ 原告は,個別契約で定めるとおりに,成果物(コンサルタント報告書,ソフトウェア,設計書,プログラムのソースコード等)を納入しなければならない,④ 成果物については,納入時に被告の検査を受けなければならず,検査の結果,成果物に瑕疵があった場合,原告はこれを無償で修補し,再検査を受ける,⑤ 成果物の所有権,使用権,知的財産権等は原被告両者に帰属する,ただし,原告が業務開始以前に取得した知的財産権等を使用した部分は原告に帰属する,⑥ 期間は契約締結日から1年間とする,ただし,期間満了の1か月前までに原告又は被告から別段の意思表示のない限り,同一条件で1年間更新され,以後も同様とする旨の記載がある。
(イ) 開発契約に係る「見積書別紙」(甲9)には,原告が納入する成果物として「設計書」,「開発設計書,ソースコード,テスト結果報告書」,「DB設計書,Batch設計書」が挙げられているほか,デジ印システムの運用開始後1年間に原告の作業に起因する障害が発生した場合,原告はこれに無償で対応する旨の記載がある。
(ウ) 運用契約等に係る見積書(甲7)及び注文書(甲8)には,「当業務御見積は今後,半年ごとの自動継続とさせていただきます。もし,解約・変更がありましたら契約更新の2ヶ月以上前に両社にて協議するものとします。」などとの記載がある。
(エ) コンサルタント契約書(甲4)には,① 原告は,被告に対し,「デジ印販売等の業務を通じて」,被告の経営,企画,運営等につき助言,指導を行うサービスを提供する,② 被告は,原告に対し,コンサルタント業務の報酬金(以下「コンサルタント報酬金」という。)として「甲(被告)の月の売上15%(消費税別)」を支払う,ただし,「支払い開始時期」は「甲(被告)の単月黒字が目安となり甲(被告)乙(原告)両社合意により」決定する,③ 契約期間は平成22年11月11日から1年間とする,ただし,期間満了の2か月前までに当事者の一方から契約を更新しない旨の意思表示がされないときは,同一条件で1年間自動的に延長され,以後も同様とする旨の記載がある。
(2) 被告は,平成23年11月13日及び同月30日,原告に対し,平成24年1月13日をもって本件各契約を解除する旨の意思表示(以下「本件解除」という。)をした(甲26,乙8,乙9の1,2)。
(3) 被告は,平成23年11月18日,原告の従業員に対し,デジ印システムのプログラムのソースコード(これには本件ソースコードが含まれる。)を送付するよう求め,同月21日頃,その送付を受けた(乙2,3)。
3 当事者の主張
(1) 請求①
(原告)
ア 被告は,平成23年4月頃から同年7月頃までの間,原告に対し,デジ印システムに係る追加開発作業(① アドレス帳機能に係る追加開発作業,② 画面設計の変更作業,③ メール機能に係る追加変更作業,④ ダウンロード機能に係る追加変更作業。以下,併せて「本件追加作業」という。)を発注し,原告は,これを受注した(以下,これを「追加開発契約」という。)。
イ 本件追加作業の工数(要件定義,設計作業に要した工数と開発,テスト作業に要した工数を合わせたものにリスクヘッジ係数1.2を乗じたもの)は53.1人月であり,1月当たりの作業日数は20日,月単価は80万円(消費税別)であるから,本件追加作業に係る報酬金(以下「追加開発報酬金」という。)は223万0200円(53.1人月÷20日×80万円×1.05)となる。
なお,仮に追加開発契約が成立していないとしても,原告は,その営業の範囲内において被告のために本件追加作業を行ったのであるから,相当な報酬金を請求し得るというべきであるし(商法512条),被告は,追加開発報酬金相当額を不当に利得したというべきであるから,これを返還すべきである。
よって,原告は,被告に対し,追加開発契約(予備的に商法512条,不当利得返還請求権)に基づき,追加開発報酬金(予備的に不当利得金)223万0200円及びこれに対する平成24年9月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
原告が本件追加作業を行ったことは認める。しかしながら,本件追加作業のうち,少なくとも,メール機能に係る追加変更作業及びダウンロード機能に係る追加変更作業は原告が無償で行うべき成果物の瑕疵の修補である。また,原被告間では,① 原告は運用契約に係る報酬金(月額30万円〔消費税別〕。以下「運用報酬金」という。)の範囲内でデジ印システムに係る追加開発作業を行う,② 合意の下,運用報酬金の範囲を超えて上記作業を行う場合,被告は別途報酬金を支払うとされていた(本件追加作業は運用報酬金の範囲内の作業であるし,別途報酬金を支払う旨の合意もない。)。本件追加作業を有償で行う旨の追加開発契約は成立しておらず,被告に追加開発報酬金,不当利得金の支払義務はない。
(2) 請求②
(原告)
ア 主位的請求
(ア)(ⅰ)原告は,被告との間で,平成22年11月11日,運用報酬金を月額31万5000円(ただし,デジ印ユーザーのID数が50IDまでの場合),ヘルプデスク業務に係る報酬金(以下「ヘルプデスク報酬金」という。)を月額10万5000円として運用契約及びヘルプデスク契約を締結し,また,その頃,デジ印システムの運用業務に関し,被告がレンタルサーバの使用料(以下「サーバ使用料」という。)を負担する旨の合意(以下「サーバ使用料合意」という。)をした。
(ⅱ)被告は,運用報酬金及びサーバ使用料として合計446万3460円の支払をしたものの,① 平成24年1月分(同月14日以降)から5月分までの運用報酬金(原告は,被告がデジ印システムの運用に不可欠な情報〔情報暗号化機能のライセンス契約に係る情報〕の提供を拒否することから,同年2月末日をもって上記の運用業務を中止したが,これは被告の責めに帰すべき事由〔民法536条2項〕によるのであるから,原告は同年3月分以降の運用報酬金を請求し得る。)及び同年2月分から5月分までのサーバ使用料の合計156万1338円,② 平成23年1月分から平成24年5月分までのヘルプデスク報酬金178万5000円の支払をしない。
(ⅲ)被告は,ヘルプデスク契約の成立を否認するとともに,運用契約は本件解除(民法655条の準用する651条)により平成24年1月13日をもって終了した旨の主張をする。
しかしながら,継続的契約(非典型契約)である運用契約に民法651条の適用はなく,運用契約は,被告が平成23年9月10日(契約更新後の期間満了の日の2か月前)までに更新拒絶の意思表示をしなかったことにより,同年11月10日から半年間更新されたというべきである(更新拒絶の意思表示があったとしても,これには正当の事由があることを要する。)。
また,仮に民法651条の適用があるとしても,原被告は,運用契約を締結した際,同条の適用を排除する旨の合意をしたのであるし,そもそも,運用契約は,これを通じて,原告に開発報酬金の値引き分相当額の利益を還元するという原告の利益のための契約でもあり,被告において解除権自体を放棄したものとは解されない事情もないことからすると,被告は,やむを得ない事由がなければ,運用契約を解除し得ないというべきである。
本件において,やむを得ない事由(及び正当の事由)はなく(被告の主張する事情〔原告の財務状況,原告代表者の不正行為〕はこれに該当しない。また,被告代表者の行為が窃盗,背任等を構成し,不正競争防止法に違反することからすると,被告において,原告代表者の不正行為を主張するのは民法1条2項に反し許されない。),被告は運用契約を解除し得ないというべきであるし,仮にそうでないとしても,上記のとおり運用契約が原告の利益のための契約でもあることや,本件解除が原告に不利な時期にするもの(民法651条2項)であることからすると,被告は原告の損害を賠償すべきである。
(イ)(ⅰ)原告は,平成22年11月11日,被告との間で,コンサルタント報酬金を被告の1か月当たりの売上げの15%相当額(消費税別),支払期限を被告が「単月黒字」を達成した時(以下,これを「原告主張の契約内容」という。)として,原告が被告の経営,企画,運営等につき助言,指導を行う旨のコンサルタント契約を締結した。
(ⅱ)被告の平成22年11月11日から平成24年11月10日までの間の売上げは合計1億3219万6476円であるから,上記の期間のコンサルタント報酬金は2082万0945円(1億3219万6476円×0.15×1.05)となるところ,被告は,平成23年2月,遅くとも同年4月には単月黒字を達成したのであり,原告に対し,同額の支払義務を負う。
(ⅲ)被告は,契約内容を争うとともに,コンサルタント契約は本件解除(民法655条の準用する651条)により平成24年1月13日をもって終了した旨の主張もするが,① コンサルタント契約に民法651条の適用はなく,同契約は,被告が平成23年9月10日(期間満了の日の2か月前)までに更新拒絶の意思表示をしなかったことにより,同年11月11日から1年間更新されたこと(更新拒絶の意思表示があったとしても,これには正当の事由があることを要すること),② 同条の適用があるとしても,(a)原被告は,同条の適用を排除する旨の合意をしたこと,(b)コンサルタント契約は原告の利益のための契約でもあり,被告において解除権自体を放棄したものとは解されない事情もないことから,被告はやむを得ない事由がなければ,これを解除し得ないことは,前記(ア)(ⅲ)と同様である。
被告は,コンサルタント契約を解除し得ないというべきであるし,仮にそうでないとしても,原告の損害を賠償すべきである。
イ 予備的請求
原告は,開発契約を締結する際,被告との間で,本件各契約を通じて原告に利益が還元されない間に契約が終了することを解除条件として,開発報酬金(1286万2500円)を551万2500円値引きする旨の合意(以下「値引き合意」という。)をした。
仮に本件各契約が本件解除により終了したのであれば,これによって上記解除条件は成就し,値引き合意はその効力を失うのであるから,被告は,値引き分相当額である551万2500円の支払義務を負うというべきであるし,仮にそうでないとしても,民法651条2項により,原告の損害を賠償すべきである。
よって,原告は,被告に対し,① 主位的に,本件各契約(予備的に民法651条2項)に基づき,報酬金(予備的に損害賠償金)2416万7283円及びうち597万3438円に対する平成24年9月9日(訴状送達の日の翌日)から,うち1819万3845円に対する平成25年10月31日(請求拡張申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,② 予備的に,開発契約(予備的に民法651条2項)に基づき,値引き分相当額の開発報酬金(予備的に損害賠償金)551万2500円及びこれに対する平成24年9月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
ア 主位的請求
(ア)(ⅰ)ヘルプデスク契約は成立していないし,仮に成立したとしても,平成23年4月末頃,合意により終了した。
また,被告は,平成23年11月13日及び同月30日,原告に対し,民法655条の準用する651条1項に基づき,平成24年1月13日をもって,運用契約を解除する旨の意思表示(本件解除)をした(運用契約が終了した以上,被告にサーバ使用料の支払義務はない。また,被告に損害賠償金の支払義務はない。)。
(ⅱ)原告は,運用契約に民法651条の適用はない旨の主張をするが,運用契約は準委任契約であり,原被告間に同条の適用を排除する旨の合意もないのであって,更新拒絶の意思表示の有無,効力にかかわらず(なお,更新拒絶の意思表示には,正当の事由があることを要しない。),被告は,同条に基づき運用契約を解除し得るというべきである。
原告は,被告はやむを得ない事由がなければ運用契約を解除し得ない旨の主張もするが,被告は,上記事由がなくとも,民法651条1項に基づき,いつでも運用契約を解除し得るというべきであるし,仮にそうでないとしても,① 原告が3期(平成21年3月期,平成22年3月期,平成23年3月期)連続で赤字を計上し債務超過の状態にあること,② 原告が従業員を休業させたように仮装して雇用調整助成金を不正に受給していたことに照らすと,被告にはやむを得ない事由があったというべきである。
(イ) 被告は,原告との間で,コンサルタント報酬金を被告の1か月当たりのデジ印に係る売上げの15%相当額(消費税別),支払開始時期の目安を,デジ印に係る売上げから,その経費及びコンサルタント報酬金を控除しても,被告の「単月黒字」が達成される時(以下,これを「被告主張の契約内容」という。)としてコンサルタント契約を締結した。
上記の単月黒字が達成された事実はないし,そもそも,コンサルタント報酬金は,原告のコンサルタント業務により成果が得られた場合に支払う成功報酬の性質を有するところ,原告は,被告に対し,雇用調整助成金を不正に受給する方法を指導したほかは,コンサルタント業務を行っていないのであって,いずれにせよ,被告にコンサルタント報酬金の支払義務はない(また,被告に損害賠償金の支払義務はない。)。
仮にそうでないとしても,被告は,原告に対し,デジ印に係る経費として合計1197万0960円(平成23年3月から平成24年2月までの間の運用報酬金391万2097円,サーバ使用料55万1363円,開発費750万7500円)の支払をしたのであり,少なくとも同額はコンサルタント報酬金から控除すべきである。
イ 予備的請求
原被告間において値引き合意をした事実はなく,原告が本件解除により開発報酬金の値引き分相当額の損害を被った事実もない。
(3) 請求③
(原告)
被告は,平成23年12月から遅くとも平成24年1月31日までの間,原告の従業員に指示し,本件ソースコードを複製して送付させ,不正の手段により原告の営業秘密を取得し,原告がデジ印システムの運用業務を中止した後も,これを用いデジ印システムの運用を継続して,原告の営業上の利益を侵害した。
原告の損害額は,少なくとも272万1600円(本件基盤プログラムの開発作業の全体工数〔開発に要した工数にリスクヘッジ係数1.2を乗じたもの〕を64.8人月,1月当たりの作業日数を20日,月単価を80万円として算定し,消費税相当額を加算したもの。64.8人月÷20日×80万円×1.05)となる。
よって,原告は,被告に対し,不法行為,不正競争防止法4条に基づき,損害賠償金272万1600円及びこれに対する平成24年1月31日(不法行為の日ないしその後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
被告は,平成22年12月頃,原告から,開発契約に基づき,成果物であるデジ印システムのソースコードの交付を受けるとともに,本件基盤プログラム(旧版)のコンパイルモジュール(ソフトウェアの設計図〔ソースコード〕をコンピュータ上で実行可能な形式〔オブジェクトコード〕に変換したもの)の交付を受けたが,平成23年11月13日に本件各契約を解除する旨の意思表示(本件解除)をした後,原告代表者が,正当の理由なく,最新の本件基盤プログラムのソースコード(本件ソースコード)の交付を拒否することから,やむを得ず,原告の従業員に対し,これを複製して送付するように依頼し受領したにすぎない。被告の行為は不法行為に該当しないし,被告が不正の手段により営業秘密を取得したともいえない。
第3 当裁判所の判断
1 請求①について
原告は,本件追加作業を有償で行う旨の追加開発契約が成立した旨の主張をし,原告代表者も,① プログラムの変更を伴う追加開発作業は有償で行うというのが原被告共通の認識である,② 本件追加作業はプログラムの変更を伴うもので有償である旨の陳述(甲47)及び供述(原告代表者)をする。
しかしながら,被告代表者は,① 原被告間において,デジ印システムに多数の障害があり,その修補を要したことや,デジ印ユーザーのID数が2ID(運用報酬金は50IDまで月額31万5000円である。)にとどまることから,原告において運用報酬金の範囲内で追加開発作業を行い,これを超える場合には別途見積書を発行する旨の合意をした,② 本件追加作業につき見積書,注文書等の発行はなく,これらは原告が無償で行うべき瑕疵の修補又は運用報酬金の範囲内の追加開発作業である旨の陳述(乙84)及び供述(被告代表者)をするのであるし,証拠(甲15の1,2,甲40,47,乙4,5,15,39,44,45,48,49,68,69,84,原告代表者,被告代表者。次の認定に反する部分は採用しない。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,① 被告からの発注に対し,「その箇所を修正することは本来有償による修正になります。無償でお願いするのであれば,正確に且つ具体的に指示してください。」,「この要望はプログラムの変更になります。まず,多くの時間が必要となることと,無償の範囲を超えます。作成は可能ですが,無償提供は不可能となります。」,「デジ印運用費1ヶ月分(30万円)を2週間分の作業料金として支払っていただけませんか。」,「この作業は有償になりますが,ご承諾いただけますか。」,「今回まで当作業は無償にて行いますが,次回からはサポート契約がないため有償となります。」などと,当該作業を無償で行うことの可否につき確認がされ,その結果,被告において発注を撤回したものや,これを有償で行うことを前提に見積書が発行されたものもあるのに,本件追加作業については,かかる事情はうかがわれないこと,② 原告は,原告訴訟代理人を通じ,平成24年2月13日付けの内容証明郵便により「既に発生している追加開発作業費用」として76万円(消費税別)の支払を請求するまで,追加開発報酬金の支払を請求せず,また,これを会計帳簿等に未収金として計上することもしていないこと,③ そして,本件追加作業のうち,少なくとも,メール機能に係る追加変更作業及びダウンロード機能に係る追加変更作業は,プログラムの不備を修正するもので,原告が無償で行うべき成果物の瑕疵の修補であることも認められるのであって,かかる事実に照らすと,本件追加作業を有償で行う旨の追加開発契約の成立を認めるのは困難であるし,原告が商法512条に基づき相当な報酬金を請求し得るというのも,被告が不当利得金の返還義務を負うというのも困難である。
2 請求②について
(1) 主位的請求
ア 本件各契約のうち,運用契約(サーバ使用料合意を含む。)及びコンサルタント契約が成立したことについては,当事者間に争いがない。
原告代表者は,ヘルプデスク契約も成立している旨の陳述(甲47)及び供述(被告代表者)をする。そして,① 運用契約等に係る見積書(甲7)及び注文書(甲8)に,「デジ印運用業務・ヘルプデスク業務」との記載があり,ヘルプデスク報酬金の月単価(消費税別)として「100,000」との記載もあること,② 被告の事業計画書(甲29)に,原告との契約概要として「システム運用とヘルプディスクを月額400K(40万円)を基本として委託」との記載があることは,上記陳述及び供述に一応沿う事実といえる。
しかしながら,上記の見積書及び注文書には,運用報酬金,ヘルプデスク報酬金のみならず,「デジ印 システム構築」に係る報酬金の月単価(消費税別)を「100,000」とする記載もある上,証拠(甲47,乙13の1,2,乙26,50,52,84,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,① 原告は,被告に対し,平成23年1月25日,「私も社員に給与を払っている以上,今月から運用費(運用報酬金)とAmazonクラウド使用料(サーバ使用料)は請求させていただきます。ヘルプデスクは顧客がいませんので,請求いたしません。」と記載した電子メールを送信し,現に,同年11月30日まで,ヘルプデスク報酬金の支払を請求せず,平成24年1月31日まで,ヘルプデスク契約の成果物について検査(検収)を求めることさえしていないこと,② 原告の主張によっても,原告は,被告から転送を受けたデジ印ユーザーからの問合せに対応する体制を整え,また,月に数回程度,被告からの問合せに電話で対応していたにすぎないこと,また,原告は,当初,被告から借用した電話機を原告札幌支店に設置しユーザーからの問合せに対応していたものの(もっとも,これは原告の主張するヘルプデスク業務ではない。),平成23年4月末頃,被告がヘルプデスク業務の担当者を雇用したことに伴い,電話機を返却していることも認められるのであって,かかる事実に照らすと,上記見積書等の記載を考慮しても,ヘルプデスク契約の成立を認めるのも,被告がヘルプデスク報酬金(又は損害賠償金)の支払義務を負うとするのも困難である。
イ(ア) 原告は,運用契約及びサーバ使用料合意に基づき,平成24年1月14日以降の運用報酬金及び同年2月以降のサーバ使用料の支払を請求するが,前記前提事実に加え,証拠(乙84,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成23年11月13日及び同月30日,原告に対し,民法655条の準用する651条1項に基づき,平成24年1月13日をもって本件各契約を解除する旨の意思表示(本件解除)をしたことが認められ,これにより,運用契約は終了し,これに付随するサーバ使用料合意もその効力を失ったというべきである(なお,後述するとおり,値引き合意が成立したとは認められない本件において,被告が損害賠償金の支払義務を負うとはいえない。)。
(イ) 原告は,運用契約は継続的契約(非典型契約)であり,民法651条の適用はない旨の主張をするが,上記契約は,被告が原告に対してデジ印システムの運用業務を委託するもので,これが準委任契約に該当するのは明らかであるし,これに民法655条の準用する651条の適用があることも明らかというべきである。
また,原告は,① 民法651条の適用があるとしても,原被告は,同条の適用を排除する旨の合意をした,② 被告は,やむを得ない事由がなければ,運用契約を解除し得ないとの主張もするが,全証拠によるも,原被告が同条の適用を排除する旨の合意をしたとは認められないし,後述するとおり,値引き合意が成立したとは認められない本件において,運用契約を原告の利益のための契約でもあると解するのは困難であり,被告は,更新拒絶の意思表示の有無,効力にかかわらず,また,やむを得ない事由がなくても,民法655条の準用する651条1項に基づき,いつでも運用契約を解除し得るというべきである。
ウ 原告は,コンサルタント契約に基づき,平成22年11月11日から平成24年11月10日までにおけるコンサルタント報酬金の支払を請求する。
この点,コンサルタント契約書に,① 原告は,被告に対し,「デジ印販売等の業務を通じて」,被告の経営,企画,運営等につき助言,指導を行うサービスを提供する,② 被告は,原告に対し,コンサルタント報酬金として「甲(被告)の月の売上15%(消費税別)」を支払う,ただし,「支払い開始時期」は「甲(被告)の単月黒字が目安となり甲(被告)乙(原告)両社合意により」決定する旨の記載があることは,前記前提事実のとおりであるが,全証拠によるも,平成22年11月11日から平成24年1月13日(コンサルタント契約が本件解除により終了した日。なお,原被告が民法651条の適用を排除する旨の合意をしたとは認められないこと,コンサルタント契約を原告の利益のための契約でもあると解することはできず,被告は,更新拒絶の意思表示の有無,効力にかかわらず,また,やむを得ない事由がなくても,民法655条の準用する651条1項に基づき,いつでもコンサルタント契約を解除し得ること,被告が損害賠償金の支払義務を負うとはいえないことは,運用契約と同様である。)までの間に,被告が,被告主張の契約内容にいう単月黒字を達成したとは認められない(証拠〔乙22,77,84,被告代表者〕及び弁論の全趣旨によれば,被告は,コンサルタント報酬金の支払を考慮するまでもなく,上記の単月黒字を達成し得る状況にはなかったことが認められる。)。
原告は,コンサルタント契約書に「単月黒字」を被告主張の契約内容のとおりに解すべきとする文言はなく,むしろ,「デジ印販売等」として,コンサルタント報酬金算定の基礎となる業務がデジ印に係るそれに限定されないことが明記されている旨の主張をする。
しかしながら,被告代表者は,① コンサルタント報酬金をデジ印に係る利益の15%相当額とする旨の提案をしたものの,原告代表者が,これをデジ印に係る売上げの15%相当額とするよう要求することから,上記売上げから経費及びコンサルタント報酬金を控除しても単月黒字が達成されることが支払開始の条件であることや,コンサルタント報酬金算定の基礎となる業務はデジ印に係るものに限定されることを確認した上,これに応じた,② コンサルタント契約書に「デジ印販売等」との記載があるのは,デジ印の販売のみならず,そのOEM提供も含む趣旨と理解していた旨の陳述(乙84)及び供述(被告代表者)をするのである。そして,① 原告は,原告訴訟代理人を通じ,平成24年2月13日付けの内容証明郵便により「コンサルタント契約解消」に関するものとして280万円(消費税別)の支払を請求するまで,コンサルタント報酬金の支払を請求せず,被告の売上げを確認することも全くしていないこと(甲15の1,2,乙84,原告代表者,被告代表者),② 原告主張の契約内容によれば,被告は,1度でも単月黒字を達成すると,当月が黒字であるか赤字であるかにかかわらず,遡及的に全売上げの15%相当額のコンサルタント報酬金の支払を要するのに(これが被告の財務状況に深刻な影響を与えることも想定される。),原告は,コンサルタント業務の売上げに対する寄与の程度にかかわりなく,運用報酬金のほか,高額のコンサルタント報酬金の支払を受け得ることになって,著しく衡平を欠くことなどを考慮すると,コンサルタント契約を被告主張の契約内容のとおりに解するのが合理的である。
(2) 予備的請求
原告は,予備的に,本件解除により値引き合意は効力を失った旨の主張をして,値引き分相当の開発報酬金(予備的に損害賠償金)の支払を請求する。
この点,証拠(甲33,47,乙84,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,① 原告が被告の求めに応じ開発報酬金を551万2500円値引きしたこと,② その際,被告は,開発報酬金の支払を担保するため,デジ印システムのプログラムの知的財産権等を原被告の共同保有とする旨の提案をしたことは認められるが,全証拠によるも,原被告間において,本件各契約を通じ原告に利益が還元されない間に契約終了となることを解除条件として開発報酬金を値引きする旨の合意(値引き合意)がされたとは認められず,したがって,原告が本件解除により開発報酬金の値引き分相当額の損害を被ったとも認められない。
3 請求③について
前記前提事実に加え,証拠(甲9,47,乙84,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,① 被告は,平成22年12月頃,原告から開発契約の成果物であるデジ印システムのプログラムのソースコードの交付を受けるとともに,本件基盤プログラムの(旧版)のコンパイルモジュールの交付を受けたこと,② 被告が,平成23年11月13日,原告に対し,本件各契約を解除する旨の意思表示(本件解除)をしたところ,原告代表者は,(a)開発報酬金の値引き分相当額の支払,(b)本件基盤プログラムの買取り,(c)ヘルプデスク報酬金の支払を要求したこと,③ その後,被告は,デジ印システムを運用する上で必要となることから,原告代表者に対し,最新の本件基盤プログラムのソースコード(本件ソースコード)を交付するよう繰り返し求めたものの,同代表者がこれを拒否することから,やむを得ず,原告の従業員に対し,これを複製して送付するように依頼し受領したことが認められる。
原告は,被告の行為は不法行為を構成し不正競争防止法にも違反する旨の主張をするが,原告は,被告に対し,基本契約及び開発契約に基づき,デジ印システムのプログラムのソースコードを交付(納入)する義務を負い,これには本件ソースコードを交付する義務も当然に含まれると解される上,証拠(甲5,9,乙84,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告に対し,本件基盤プログラムを使用する旨の説明を明確にはせず,その知的財産権等が原告に帰属する旨の説明もしていないことも認められるのであって,かかる事実に照らすと,上記の行為が不法行為を構成する,あるいは,被告が不正の手段により原告の営業秘密を取得したなどというのは困難である。
4 以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がないのでこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 森冨義明)
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