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「営業 外部委託」に関する裁判例(1)令和元年 5月23日 神戸地裁 平26(ワ)2580号 株主代表訴訟事件

「営業 外部委託」に関する裁判例(1)令和元年 5月23日 神戸地裁 平26(ワ)2580号 株主代表訴訟事件

裁判年月日  令和元年 5月23日  裁判所名  神戸地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)2580号
事件名  株主代表訴訟事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2019WLJPCA05236008

出典
裁判所ウェブサイト
金商 1575号14頁

参照条文
会社法330条
会社法355条
会社法419条1項
会社法423条1項
会社法847条3項

裁判年月日  令和元年 5月23日  裁判所名  神戸地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)2580号
事件名  株主代表訴訟事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2019WLJPCA05236008

主文

1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求
1  被告Aは,株式会社シャルレに対し,15億2000万円(うち12億4500万円につき被告Bと連帯して)及びこれに対する平成27年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告Bは,株式会社シャルレに対し,被告Aと連帯して12億4500万円及びこれに対する平成27年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,株式会社シャルレ(以下「本件会社」という。)の株主である原告が,本件会社がその子会社である株式会社エヌ・エル・シーコーポレーション(以下「NLC社」という。)及び株式会社シャルレライテック(当時の商号である。以下,商号変更の前後を問わず「ライテック社」という。)に対して10回にわたり行った合計15億2000万円(NLC社につき合計5億9500万円,ライテック社につき合計9億2500万円)の貸付け又は増資の全額が回収不能に陥ったことについて,その当時,本件会社の執行役又は取締役であった被告らに対し,その職務に善管注意義務違反があったことを理由として会社法423条1項による損害賠償請求権に基づき,各在任期間に応じて,被告Aにつき全額の15億2000万円,被告Bにつき12億4500万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日(被告Aにつき平成27年1月29日,同Bにつき同月25日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,12億4500万円の限度で連帯して支払うよう求める株主代表訴訟である。
1  前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  本件会社
本件会社は,昭和50年11月19日に設立され,レディースインナーを主体とする衣料品・化粧品等の販売等を目的とし,商号を株式会社シャルレとする株式会社である。本件会社は,平成18年6月に会社分割により持株会社となり,その商号を株式会社テン・アローズに変更し,レディースインナー事業は新設会社に承継された。その後,平成20年10月,本件会社は,上記新設会社から同事業を吸収分割により承継し,商号を再び株式会社シャルレに変更した。本件会社の資本金の額は,36億0025万円である。NLC社及びライテック社に対する後記貸付け及び増資がされた当時,本件会社は,その株式を大阪証券取引所市場第二部に上場していた。(甲1,215)
(2)  NLC社
NLC社は,本件会社が新規事業開拓及び事業推進をすることを目的に,平成18年4月3日に完全子会社として設立した株式会社である。
(3)  ライテック社
ライテック社は,もともと本件会社の子会社であったところ,本件会社が,新規事業としてLED照明の販売・レンタル事業を開始するに当たり,旧商号(株式会社がいS)を株式会社シャルレライテックに変更したものである。
(4)  原告
原告は,本件会社に対して後記の提訴請求をした日の6か月以上前から引き続き同社の株式を有する株主である。
(5)  被告ら
ア 被告Aは,平成19年6月27日から平成20年12月2日まで本件会社の執行役,同日から平成21年6月24日まで本件会社の代表執行役,同日から平成24年4月12日まで同社の代表取締役の地位にあった者である。
同人は,平成18年4月3日から平成21年3月13日までの間,NLC社の代表取締役の地位にもあった。(甲1,37の1)
イ 被告Bは,平成21年2月25日,常勤顧問として本件会社に迎えられ,同年4月10日から本件会社の執行役,同年6月24日から平成24年4月9日まで同社の取締役の地位にあった者である。
同人は,平成22年4月15日から平成24年4月9日までライテック社の取締役の地位にもあった。(甲44,177,乙C14,22,23の1・2)
(6)  他の取締役等
ア Cは,平成21年6月24日から平成25年6月27日まで本件会社の取締役を務めていた。同人は,これに先立ち,平成20年4月から同年12月まで本件会社の執行役を,同月から平成21年6月24日までライテック社の代表取締役をそれぞれ務めていた。(甲1)
イ Dは,平成21年6月24日から本件会社の取締役を務めていた。同人は,非常勤の社外取締役であった。
ウ Eは,平成22年6月29日から平成24年6月26日まで本件会社の取締役を務めていた(以下「E取締役」という。)。同人は,平成22年11月11日から平成24年3月30日までNLC社の代表取締役を,同年4月12日から同年6月22日までライテック社の取締役をそれぞれ務めていた。
(7)  NLC社に対する貸付け及び増資
ア 本件会社は,平成18年4月3日,完全子会社としてNLC社を設立した。
イ NLC社は,平成19年頃,従前の事業に加えて新たにU-ペン事業の立ち上げを計画した。U-ペン事業は,ボイスリーダーペンを「U-ペン」という名称で販売する事業である。ここで,ボイスリーダーペンとは,紙面に印刷した文章をペンでなぞることにより,紙面に印刷した特殊な二次元ドットコード(情報を点で表した記号)を本体の先端から組み込んだカメラで読み取り,内臓のスピーカーから音声を再生するペン型ボイスプレーヤーであり,商品として,「U・リーダー(再生ペン)」(以下「再生ペン」という。)と「U・スピーク(録音&再生ペン)」(以下「録音・再生ペン」という。)の二つがあった。
U-ペン事業は,紙媒体に印刷したドットコードをタッチペンで読み取り,パソコンやペン自体(録音・再生機能付き)で動作・制御を行う技術(ウェブサイト表示,動画表示,音声等)を内容とするものであり,当該技術を利用した商品の市場は,当時,国内外を問わず形成されていない,全く新しい事業であった。
ウ 本件会社は,平成19年9月28日開催の取締役会において,NLC社がU-ペン事業を立ち上げること及び当該事業資金として同社に6000万円を貸し付けることを承認し(以下「第1決議」という。),平成19年10月19日,同額を貸し付けた。(甲17の2,甲49の2)
エ 本件会社は,平成20年2月28日開催の取締役会において,NLC社に運転資金として4000万円を貸し付けることを承認し(以下「第2決議」という。),同年4月11日,同額を貸し付けた。(甲22,49の2)
オ 本件会社は,平成20年7月25日開催の取締役会において,NLC社に事業資金として7500万円を貸し付けることを承認し(以下「第3決議」という。),同年8月6日に4000万円,同年12月25日に3500万円をそれぞれ貸し付けた。(甲49の2)
カ NLC社は,U-ペン事業に関し,新たにベトナムの高校生(16歳から18歳)を対象として,語学学習用に録音・再生ペン及びこれに対応する教科書を販売すること(以下「ベトナム案件」という。)を事業の中心にすることとした(ただし,対象とする生徒の年齢層については,その後に変更された。)。本件会社は,平成21年2月27日開催の取締役会において,上記の方針を前提として,NLC社に事業資金として1億円を貸し付けることを承認し(以下「第4決議」という。),同年4月28日に3000万円,同年8月28日に3000万円,同年10月9日に4000万円をそれぞれ貸し付けた。なお,被告Bは,顧問としての立場で,当該取締役会に出席した。(甲36,乙C34)
キ 本件会社は,平成21年11月27日開催の取締役会において,NLC社に事業資金として7000万円を貸し付けることを承認し(以下「第5決議」という。),同年12月3日,同額を貸し付けた。(甲49の2)
ク 本件会社は,平成22年2月2日開催の取締役会において,NLC社に2億5000万円を増資することを承認し(以下「第6決議」という。),同月4日,同額を増資した。(甲52の2)
ケ 本件会社は,平成24年3月,U-ペン事業を断念し,香港の会社であるインテレクチュアル・デジタル・システム(Intellectual Digital System Co. Limited)(以下「IDS社」という。)にNLC社の全株式を譲渡した。(乙D2)
(8)  ライテック社に対する貸付け
ア 本件会社は,平成22年4月,KFEJAPAN株式会社(以下「KFE社」という。)との間で,LED照明の販売・レンタル事業(以下「LED照明事業」という。)に関し,合弁契約を締結した。その内容は,ライテック社(当時の商号株式会社がいS)がKFE社からLED照明事業の事業譲渡を受け,同社がライテック社から第三者割当増資を受けるというものであり,増資後の持株比率は本件会社が50.13パーセント,KFE社が49.87パーセントとなった。(甲56の1,甲60,乙B1)
イ ライテック社が当初取り組む事業としては,主としてLED蛍光灯を販売又はレンタルすることを予定し,顧客としては,事業所,大型商業施設,FC展開を行っているコンビニエンスストアチェーン,地方自治体,学校法人などを想定していた。(乙B1)
ウ 本件会社は,平成22年4月15日開催の取締役会において,ライテック社が,KFE社からLED照明事業を譲り受け,事業を遂行するための資金として,同社に5億円を貸し付けることを承認し(以下「第7決議」という。),同月22日,同額を貸し付けた。(甲56の1)
エ 本件会社は,平成22年9月8日開催の取締役会において,ライテック社のESCO(Energy Service Company・エスコ)事業に係る融資について審議した。ESCOサービスとは,顧客における水道光熱費の使用状況の分析,改善,設備の導入といった初期投資から設備運用の指導や装置類の保守管理まで,顧客の水道光熱費削減に必要となる投資の全て又は大部分を負担し,顧客の経費削減を実現し,これにより実現した経費削減実績から一定額を報酬として受け取るサービスをいう。当時,KFE社は,群馬県太田市から,防犯灯納入事業について,ESCOサービス事業者として選定されていた(以下,太田市におけるESCO事業を「本件ESCO事業」という。)。(甲67)
オ 本件会社は,平成22年10月14日開催の取締役会において,ライテック社に事業資金として2億5000万円を貸し付けることを承認し(以下「第8決議」という。),同年11月29日,同額を貸し付けた。これは,KFE社が行うことになっていた本件ESCO事業に対してライテック社が商品の供給に止まらず,自らサービス事業者として参画することに伴うものであった。(甲69の2)
カ 本件会社は,平成23年11月14日開催の取締役会において,ライテック社に事業資金として3757万5000円(7500万円の持株比率である50.1%)を貸し付けることを承認し(以下「第9の1決議」という。),同月25日に3757万5000円を貸し付けた。また,本件会社は,同年12月16日開催の取締役会において,KFE社の負担分についても貸し付けることを承認し(以下「第9の2決議」といい,第9の1決議と合わせて「第9の1・2決議」という。),同月26日に3742万5000円を貸し付けた。(甲91)
キ 平成23年12月29日,KFE社は,自らが債務超過に陥っていること及びLED照明事業から撤退することを公表した。(甲171)
ク 本件会社は,平成24年1月17日開催の取締役会において,ライテック社に事業資金として1億円を貸し付けることを承認し(以下「第10決議」といい,第1決議から第10決議までを「本件各決議」という。),同月27日に同額を貸し付けた。(甲91)
ケ 本件会社は,平成24年3月30日,KFE社との間で合弁解消契約を締結し,KFE社保有のライテック社の株式全部を譲り受けた。
コ 本件会社は,平成24年12月3日,ライテック社によるLED照明事業を断念し,株式会社サンコーテレコム(以下「サンコーテレコム社」という。)に対し,ライテック社の全株式を譲渡し,LED照明事業から撤退した。同日,ライテック社は,その商号を株式会社サンコーライテックに変更した。(甲112,113,乙C15)
(9)  被告らの辞任
被告Bは平成24年4月9日にライテック社の取締役及び代表取締役を,同Aは同月12日に本件会社の代表取締役,同年6月15日に同社の取締役をそれぞれ辞任した。(甲1,乙C15)
(10)  提訴請求
原告は,NLC社に対する貸付け及び増資に関して平成23年6月23日,ライテック社に対する貸付けに関して平成24年3月30日,本件会社に対し,それぞれ被告らの責任を追及する訴訟を提起するよう請求した。(甲3,4)
2  争点
(1)  被告らの善管注意義務違反の有無
(2)  損害額及び因果関係
3  争点に関する当事者の主張
(1)  争点(1)(被告らの善管注意義務違反の有無)について
(原告の主張)
ア 総論
取締役及び執行役は,その職務を行うに当たり,会社に対して善管注意義務を負っている。他方,その経営判断には一定程度の裁量が認められるが,その裁量も無制限ではなく,①経営判断の前提となる事実の認識に不注意な誤りがなく,②当該認識に基づく意思決定の推論過程及びその内容に明らかに不合理な点がないことを要する。
親会社の子会社への貸付け又は増資に当たり,親会社の取締役及び執行役は,子会社に貸付けや増資を行うことによって親会社にもたらされるメリット(子会社の倒産による回収不能額の拡大防止,出資の無価値化防止等)と現実的な回収可能性を勘案しつつ子会社への貸付け又は増資の可否を判断するべきであり,かかる判断を行うことなく漫然と子会社への貸付け又は増資が行われることは,親会社の取締役及び執行役の善管注意義務違反を構成する。このような取締役及び執行役の判断はいわゆる経営判断の一つであるが,子会社への貸付けや増資を巡る取締役の善管注意義務違反を判断するに当たっては,①当該取締役及び執行役の判断の前提となった事実の調査及び検討に不注意な点があったか,②その意思決定の過程及びその内容に業界における通常の経営判断として不合理な点があったかという観点から決するべきである。そして,その判断に当たっては,①親会社が子会社を支援する目的及び必要性,②回収可能性,③意思決定過程の合理性,④金額の相当性という四つの視点を中心に検討すべきである。また,親会社が保有する子会社の株式は親会社の資産に他ならないから,親会社の取締役及び執行役は,子会社の株式の価値を毀損しないように子会社を監視・監督する義務を負う。これらの義務は,親会社の取締役及び執行役の善管注意義務として親会社の取締役全員に等しく認められるのであるが,とりわけ親会社と子会社の両役員を兼任している者には,詳細な事実調査等を行うといった高度の義務が認められなければならない。
以下のとおり,本件各決議の当時,本件会社の取締役の地位にあった被告ら(ただし,被告Aは第1決議から第4決議までの時点においては執行役であった。)は,事業計画の基礎となる事実の調査に不十分な点があり,通常の経営判断として著しく不合理な点があったといわざるを得ない。
イ NLC社に対する貸付け及び増資
(被告Aについて)
被告Aは,本件会社の執行役,代表執行役又は代表取締役として,本件会社の取締役会に対し,NLC社の業務内容を報告し,本件会社が行う投融資の回収可能性について十分な説明を行う必要があった。
被告Aは,以下のとおり,第1決議から第4決議までについては執行役ないし代表執行役として,第5決議及び第6決議については代表取締役として,それぞれ本件会社の取締役会における調査,報告,説明及び判断に関する善管注意義務違反が認められる。
(ア) 第1決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
NLC社には,U-ペン事業に先立って,ボイスリーダーペンの技術を使用したi-touch事業の計画があった。そして,平成19年4月13日にはNLC社の事業撤退が議論され,同年5月11日の取締役会では,同事業を本件会社に引き継ぎ,NLC社を解散する旨の決議がされた。U-ペン事業は,i-touch事業と同じくタッチ式ボイスリーダーペンを使用する事業であり,その本質に差異はなく,新規性は認められない。そして,NLC社の撤退決議からわずか5か月半後にU-ペン事業が立ち上げられたこと,想定される取引先との関係からすると,U-ペン事業は,いったんは収益が見込めないとされた上記i-touch事業と実質的に同一であった。そのような状況において,第1決議当時,取締役会においてはNLC社への融資を行うことでいかにして本件会社の利益につなげるのかという融資の目的が十分に検討されておらず,無目的に融資が実行されたといわざるを得ない。
U-ペン事業は,収益性が見込めず,撤退予定であったi-touch事業と実質的に相違がないものであり,同事業を理由にNLC社に支援を行う必要はなかった。また,第1決議の時点で,1年間の事業活動の結果を見て事業存続を判断する必要がある旨も指摘されており,当初からU-ペン事業の継続可能性は疑われていた。
以上によれば,第1決議の時点から,本件会社がNLC社の同事業のために貸付けを行う合理的な必要性がなかったことは明らかである。
(b) 回収可能性がないこと
NLC社の事業撤退が業績低迷を前提とするものであったことを前提とすると,回収可能性はU-ペン事業の成否に大きく依存することになる。しかし,U-ペン事業はかつてのi-touch事業と同様の機能を持つと思われるもので,同事業からの収益は見込めないはずであった。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
第1決議において,U-ペン事業に係る需要や,将来性についての客観的裏付けは乏しく,予想されるリスクについても楽観的な説明しかされていない。そして,平成19年2月28日の収支予測では第2期の総売上高が5億円と予測されていながら,わずか半年後の平成20年2月28日には2億円まで低下している。このことに鑑みると,貸付けに至る意思決定が十分な資料に基づいて行われたとは到底いえない。したがって,意思決定過程に合理性はない。
(d) 貸付額の合理性を欠くこと
第1決議の当時,本件会社は,連結決算において22億4700万円の純損失が生じ,NLC社の事業の撤退に2100万円の損失が生じる状況にあった。そして,第1決議の当時におけるNLC社の売上高は,既存の緑化事業を含めて4543万4000円であった。このような状況において,6000万円という貸付額は多額に過ぎる。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 被告Aは,本件会社の取締役会において,U-ペン事業が将来有望である旨の説明はしているが,その将来性に関して大手出版社からの引き合いがどの程度の確実性を有しているかといった詳細な事項について説明しなかった。
(b) 第1決議に当たり,貸付金の回収可能性の観点から,U-ペン事業の将来性や市場規模等に関する事項について緻密に検討することが求められていたのに,被告Aは,取締役会において,日本や米国において予想される市場規模の根拠について客観的データを示さなかった。
(c) 被告Aは,取締役会において,予想されるリスクに関し,「制御可能」であるとの楽観的な説明を行っているが,競合他社との差別化の方法,独占的販売に係る交渉の具体的な内容,その手法,奏功する可能性等具体的事項について何ら示さず,根拠の薄弱な説明しか行わなかった。
(d) 被告Aは,NLC社の取締役を兼任する者として他の取締役以上に事実調査に関して高度の義務を負っていた。
(e) U-ペン事業は被告AがNLC社の代表取締役に就任した後に登場したことに鑑みると,同事業は同人が立ち上げた事業である。
(イ) 第2決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
第2決議は,再生ペンの製造会社が変更になった等の事業環境の変化に伴い事業計画を変更したことにより必要となった費用のための貸付けに係るものである。しかし,そこで検討された事実及び資料は極めて不十分なものであった。また,上記(ア)のとおり,第1決議自体も貸付けの目的及び必要性に欠けるものであり,その後,NLC社の経営状況が好転したという事情もないことからすれば,無目的に融資が行われたとしか考えられず,融資の必要性も欠如している。
(b) 回収可能性がないこと
第1決議からわずか半年足らずで,平成20年度の売上予測が従前の予測の4割に下方修正を余儀なくされた。そして,前記のとおり,U-ペン事業が既に撤退予定であったi-touch事業と同一事業であり,収益性が見込めず,NLC社が第2決議までの第1期で1億4000万円の営業赤字を計上していることからすれば,回収可能性は極めて低かったといわざるを得ない。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
第2決議は,第1決議から半年しか経過していなかったところ,前回の貸付けによる資金の不足の有無,資金の使途,金額等に関して情報や資料が収集され,議論された形跡はない。また,半年足らずの間に,売上予測が大幅に修正されたことに鑑みると,修正後の利益計画の達成可能性について,慎重かつ厳格に調査し,検討することが求められていた。しかるに,営業対象品目や競合相手,販売価格,特許問題,利益計画,資金繰り計画,収益構造,事業性,融資金等の問題点に関する資料及び売上予測を低下させる原因となった問題点に関する資料は用意されていなかった。そうすると,決議をするに当たり,前提とすべき事実関係を明らかにする資料が欠けていたものであって,意思決定過程に合理性は認められない。
(d) 貸付額が相当性を欠くこと
第2決議当時,本件会社の四半期(当期)純損失が15億7000万円であり,NLC社の平成19年度売上高予定が0円という状況からすると,9200万円ないし4000万円という貸付額は多額に過ぎる。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 第2決議は,第1決議から約5か月しか経過しておらず,この間に再生ペンの製造会社を変更することによる販売開始時期の遅れ,平成20年度の売上予測が従前の4割に低下することが明らかになっていた。このような状況に鑑みると,被告Aは,取締役会において,第1決議に基づく貸付けの結果,すなわち,約5か月前に借り入れた6000万円の使途及び追加借入れを申し込む理由,再生ペンの製造会社変更の理由及び平成20年度の売上予測が従前の予測を大きく下回った理由等について詳細に説明する必要があったのに,何ら言及しなかった。
(b) 被告Aは,取締役会において,録音・再生ペンの販売時期が4か月遅れたことについて詳細な説明をしなかった。
(c) 被告Aは,取締役会において,上記の説明を避け,単に抽象的な製品の応用可能性や需要の存在を説明し,楽観的な事業目標及び事業戦略を説明したのみであった。
(ウ) 第3決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
後記のとおり,同決議に当たり検討された事実及び資料は不十分であった。支援の必要性が高ければ,十分な資料をもって説明することに支障はないはずであり,支援する目的ないし必要性が欠如していたことが推認される。
(b) 回収可能性がないこと
前回の貸付けから半年も経過しないうちに追加融資が求められており,NLC社が第3決議までに2期連続で約1億円の営業赤字であったことからすれば,回収可能性は第2決議時よりも低下しているといわざるを得ない。また,従前の貸付けに対する弁済はされず,弁済の予定も明らかにされていない。よって,回収可能性は,極めて低かった。
(c) 意思決定過程に合理性がなかったこと
第2決議が行われた平成20年2月28日の取締役会では,同年8月以降の融資については,同年7月を事業計画のチェックポイントとして判断することが条件とされ,①一つから二つの取引先を確保すること,②同年10月以降に向けての納品に備えて製造体制に入っていることを内容とする重要業績評価指標(KPI)が示されており,第3決議では,上記達成度について慎重に検討する必要があった。
しかし,第3決議では,NLC社の事業計画の中期財務目標である平成20年度における売上高2億円のうち,同年7月時点の売上高がその約1パーセントの228万5000円であって,事業計画の達成の見込みがないにもかかわらず,何ら具体的な資金計画,損益計算表を示されないまま貸付けが承認された。また,上記取締役会において提示された重要業績評価指標のうち,一つないし二つの取引先の確保については達成したことを確認しつつも,もう一つの内容であった「10月以降に向けての納品に備えて製造体制に入っている」との点については何ら説明されなかった。加えて,同決議に際して,U-ペン事業の見通しや,外国企業との提携予定及びその内容,生産発注及び販売契約の時期及び数量,販売契約前の生産発注リスク,融資の実行と実行条件などについての質疑応答に必要とされる資料が何ら用意されず,十分な議論がされなかった。さらに,それまでの貸付金の使途及び金額についての資料提出や議論が行われた形跡もない。これらの状況によれば,意思決定過程に合理性は認められない。
(d) 貸付額が相当性を欠くこと
本件会社が平成20年3月期において20億円前後の当期純損失を計上していること及びNLC社の平成20年度第1期の売上高が228万5000円に止まっていることに鑑みると,7500万円という貸付額は多額に過ぎる。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 被告Aは,取締役会において,NLC社の上記状況を踏まえて,なおも本件会社がNLC社のU-ペン事業を支援する合理性について説明を行わなかった。
(b) 被告Aは,取締役会において,平成20年10月以降の納品に向けた製造準備について説明を行わなかった。
(c) 被告Aは,取締役会において,第2決議から約5か月しか経過していない段階で追加貸付けを必要とするに至った理由や,第2決議により借り入れた金銭の使途について何ら説明を行わなかった。
(d) 被告Aは,取締役会において,平成20年2月28日付け事業計画書記載の年間販売見込額から今期の年間販売見込額が6割も下方修正された理由について説得的な説明を行わなかった。
(e) 被告Aは,第2決議において平成20年8月以降の融資は同年7月を事業計画のチェックポイントとして判断する,すなわち,第2決議において示された事業計画を達成していることを条件に融資することとしていた。しかし,その時点の販売実績が計画の約1パーセントであったにもかかわらず,その理由について十分な説明を行わなかった。
(f) これらの事実からすると,貸付けの前提となる事実の調査及び検討に不注意な点があり,その判断に著しい不合理な点があった。
(エ) 第4決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
NLC社は,事業の計画を大幅に変更し,事業の中心をベトナムの高校生を対象とした語学学習用の録音・再生ペン及びこれに対応する教科書の販売に移行した。この事業計画の変更は,平成20年度事業計画を提案した同年7月25日からわずか半年程度の短期間に行われた。このような経緯に鑑みると,NLC社の事業は当初から全く定まっていなかったものといわざるを得ない。
(b) 回収可能性がないこと
平成20年11月28日,本件会社の取締役会において,NLC社の平成21年3月期第2四半期業績報告では,予算上は総売上高が1億2600万円であったところ,総売上高の見込みが3100万円に止まり,営業利益が予算上はマイナス3640万7000円であったところ,営業利益の見込みが8000万円となり,将来のマイナス方向の見通しが膨らむ状況にあった。そして,第4決議時においては,平成21年3月期の売上見込みが平成20年7月25日開催の取締役会で承認された利益計画売上高1億2600万円を達成できず,1500万円前後になる旨が説明された。その上,NLC社が第4決議までに2期連続で約1億円の営業赤字であったこと,従前の貸付けに対する弁済がされず,弁済の予定も明らかにされていないのであるから,回収可能性は極めて低かった。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
平成21年2月27日の取締役会において,NLC社は,重要目標達成指標(KGI)を達成することができないことが明らかとなった。この重要目標達成指標は,当初,平成21年度3月期の利益計画が5億円とされていたところ,平成20年7月25日の取締役会で1億2600万円に下方修正された後のものである。また,現実の売上高は上記利益計画の約1割にすぎない1500万円前後となることや,下方修正後の重要目標達成指標も達成できないことも判明した。このように,NLC社は自ら下方修正した目標すらも達成できていない状態に至ったのであるから,取締役としては,回収可能性の観点から,また,子会社の監視,監督の観点からも上記の原因について子会社の担当者に問いただし,場合によっては当該事業からの撤退を含めて検討する等の調査を講じ,対応策を議論すべきであった。
この時までに,NLC社に対しては既に1億7500万円もの貸付けが行われていたのであるから,取締役ないし執行役としては,新たな貸付けの当否を判断するに当たり以前にも増してより慎重を期すべきであった。すなわち,従前のNLC社に対する貸付金の使途及び新たな貸付金の使途について慎重に検討し,ベトナムにおける新事業について,将来的な見通しについて客観的な資料を基に検討する必要があった。しかし,重要目標達成指標不達成の原因究明と対応策の策定に向けられた資料が提出されないばかりか,従前及び新たな貸付けの使途並びにベトナム案件に関する客観的な資料は提出されなかった。さらに,学校を対象として行うこととされていた録音・再生ペンの販売に関し,許認可取得の可能性についての検討もされなかった。
NLC社の代表者であったF(以下「F」又は「F社長」という。)や被告Bは,NLC社にはベトナム科学技術省所属の要人で文部省の要人等へのアクセスが容易なビジネスパートナーがいること,同人を通じて事業基盤を形成し,ベトナム文部省のお墨付きがもらえれば,ベトナム政府による助成金の対象となり,中期事業計画の成功が限りなく保証される,録音・再生ペンの販売方法は,政府案件として各学校の売店で販売する,NLC社はベトナムにおける販売のためにジョイントベンチャー(以下「JV」という。)を設立し,これにはベトナム政府も資本参加することが検討されているとの報告を行った。Fや被告Bの報告事項に関し,①ベトナム科学技術省所属の要人で文部省の要人等へのアクセスが容易な人物を通じて,同文部省のお墨付きを受けているか否かは,ベトナム政府の発行した書面,当該要人に関する資料,同人とのやりとりをした記録等,②ベトナムの各学校長から許可をもらっているとする許可状等,③録音・再生ペンを紹介する予定であるとする国営放送局との契約書又は覚書等の書面,④ベトナム政府機関が「HomeTeacherプロジェクトを承認しており,NLC社の協力を望んでいる」旨のNLC社宛てのレターの正訳を求めることにより,それが真実であるかどうかの調査,判断はある程度可能であった。また,ベトナム案件は,ベトナム科学技術省所属の要人に依存している状態であったことは当時から明らかであったところ,同人を取締役会に呼び出して事情を確認するなどの手段も取り得たにもかかわらず,そのような調査等はされなかった。JVについては,JVの資本金,概要等の詳細が不明なため現時点では出資の判断が難しいとの意見が付されたが,Fの「最終的には国も出資することになる」との説明を鵜呑みにし,取締役の誰一人として疑った形跡もない。
以上からすると,意思決定の過程に合理性は認められない。
(d) 貸付額が相当性を欠くこと
本件会社の平成21年3月期第3四半期の連結業績における純利益が14億2300万円であったこと,NLC社の平成21年度3月期の売上高が900万円であったことと比較すると,今回の1億円及び累積すると1億7500万円という貸付額は多額に過ぎる。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) NLC社は,U-ペン事業の内容をベトナムでの高校生を対象とする事業へ当初の計画から大幅に変更した。このように,事業内容が当初の計画から大幅に変更された場合,新規事業への貸付けに準じて当該事業の市場規模や将来性について厳しく調査し,検討することが求められていた。さらに,事業内容の変更の理由,変更前の事業と異なり変更後の事業が成功すると考える根拠について客観的な資料を基に厳しい調査を行うことが求められていた。しかるに,本件の事業内容の変更理由は,ベトナム科学技術省所属の要人で文部省要人等へのアクセスが容易な人物が現れたというものであり,突発的でにわかには信じられないものであった。それにもかかわらず,この点についての十分な説明はなかった。また,既に展開済みの国内市場における不調の理由も十分に説明されなかった。
(b) 取締役会において,本件会社がNLC社の事業を支援する合理性について,本件会社への貢献の内容が明らかにされなかった。
(c) 被告Aは,取締役会において,売上見込みが売上予測を下回った理由について,グローバル販売パートナーが方向転換した理由や市場を読み違えた具体的な理由を説明すべきであるのに,極めて抽象的な説明しかしなかった。
(d) 被告Aは,従前の事業を転換するに際して,「成功が限りなく保証される」などと断定的な判断を交え,何ら説得的な説明を行わなかった。
(オ) 第5決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
平成21年4月28日の取締役会において,NLC社は録音・再生ペンの販売の対象者をベトナムの高校生から中学生(12歳から15歳)に変更し,それに伴い販売計画も大幅に変更した。販売対象者を高校生とする販売計画を立案したのはそのわずか2か月前の同年2月27日のことであり,当初の販売計画が極めて杜撰であり十分な調査に基づかないものであったことは明らかである。また,同年10月15日の取締役会では,録音・再生ペンが販売できない状況であること,現地法人の販売パートナーとの間で取引条件等の詳細が決まっていないことが判明した。このような状況では,録音・再生ペンの販売は客観的にみて実現可能性はなく,これに対して貸付けを行う必要性は皆無であった。
(b) 回収可能性がないこと
事業開始から既に2年以上が経過していながらそれまで繰り返し行われた貸付けに対して一切弁済が行われていないこと,業績が向上する見込みがなかったことからすると,回収可能性は極めて低かった。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
それまでNLC社は幾度となく利益計画を下方修正し,自らが立てた利益計画を実現できる目途が立っていないことが明らかであった。このような事態に至った以上,回収可能性の観点から,また,子会社の監視,監督の観点から,上記下方修正の原因調査について子会社の担当者を問いただし,客観的な資料の提出を求めるべきであった。
また,第5決議に先立つ平成21年4月28日の取締役会では,仲介役がベトナム案件に関わる理由,政府機関による通達の拘束力の程度,高額な費用を投じて現地の中学生がペンを使用することの現実性などに対する疑問が提示され,返品リスクについての質問がされたが,F社長は十分な回答をしなかった。さらに,監査役からされたNLC社自身が現地で販売することのできない理由,現地法人との取引条件の詳細,現地法人からNLC社が引き受けている事業の概要についての質問に対しても,F社長は満足な回答をしなかった。このようなFの対応に鑑みても,当時,ベトナムにおける録音・再生ペン事業の問題点が浮き彫りになっていたのであるから,被告Aは,原因の調査及び客観的な資料の提出についてはより高度な要求をすべきであったが,取締役会において何らの要求もなかった。
さらに,NLC社の販売パートナーである企業のプレジデントがベトナム政府の上層部の者であるとの情報に接した際には,公務員が一般企業の役員を兼職できないことを推測すべきであったのに,上記の情報を鵜呑みにした。取締役会に提出されたベトナム科学技術省からの手紙の訳文に誤りがあることが判明し,正確な日本語訳が出されることを停止条件として貸付けが承認されたが,当時の取締役が正確な日本語訳の文書に接した形跡はない。また,上記条件は,実質的にベトナム政府からのバックアップが確認できることを意味していた。そうすると,当該決議に際し,前提とすべき事実関係を明らかにする情報や資料に誤りがあり,あるいはこれらが欠けていたのであって,意思決定過程に合理性がない。
(d) 貸付額が相当性を欠くこと
本件会社の平成21年3月期の純利益が9億0600万円であったことや平成22年3月期のNLC社の売上高が1000万円であること,それまで同社への貸付額が2億7500万円に上っており,その回収可能性をも踏まえると,7000万円という貸付額は多額に過ぎる。
b 取締役会における報告,説明,調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 平成21年11月27日開催の本件会社の取締役会では,同年2月27日開催の同取締役会において承認された計画が更に下方修正された。修正後の計画では,立ち上げ時のそれと比較し,利益が2割程度まで減少していた。このような状況の下,子会社の監視,監督という観点からも被告Aは,上記の下方修正の原因について担当者を問いただし,客観的な資料を求める等の調査を行うべき義務があった。特に,取締役会において,提出されたベトナム語レターの日本語の完訳に問題がないことを条件に融資することを決議したが,被告Aは貸付けに先立って問題のない完訳を提示しなかった。
(b) 我が国の法制を参考とすれば,ベトナムにおいても公務員が一般企業の役員を兼職できないことは容易に推測できたはずであるにもかかわらず,取締役は,販売パートナーである企業のプレジデントがベトナム政府の上層部であるという情報を鵜呑みにして疑問を持たなかった。
(c) 取締役会において,監査役のG(以下「G監査役」という。)から2億7000万円の資金が必要となるキャッシュフロー計画資料及びNLC社の販売計画に対し未達成となるマイナスのシナリオの準備をしているかについて質問がされ,かつ,撤退基準を踏まえた検討をすべきとの意見がされた。また,同取締役会において,監査役のH(以下「H監査役」という。)からも,売買代金の担保,ベトナム政府による補償,資金回収のルート及び現地法人である販売パートナーの組織について質問がされ,カントリーリスクと販売パートナーの性格が明確でないので売買代金の回収について不安がある旨の指摘がされた。被告Aは,G監査役及びH監査役(以下「G・H両監査役」という。)の指摘を真摯に検討することなく,①5万個の受注ができていること,②ベトナム政府が本件プロジェクトをバックアップしていること,③資金支援を表明している機関が存在すること,④NLC社の販売パートナーがベトナム政府の上層部の者であることが事実であることの確認や調査を行わなかった。前記政府機関からのレターの正確な翻訳によっても同国政府のバックアップは確認できなかった。
(カ) 第6決議について
a 決議の問題点
(a) 増資の必要性がなかったこと
第6決議の時点において,来年度の発注に係る発注書がいまだ作成されていなかったこと,教科書認定の時期が5月であり,内定の時期は更に前であるにもかかわらず,内定の有無が不明であったこと,学校販売に関する契約書面は,注文書程度の書面であるにもかかわらず,いまだ作成されておらず,受注証票は入手すらされていないことが判明した。このような状況からすると,教科書認定は内定しておらず,学校販売に対する契約も締結されていないことが予想され,この時点での増資によって,同社の経営その他の状況が好転することは考えられず,その必要性は客観的にみて皆無であった。
(b) 回収可能性がないこと
第6決議時点でのNLC社に対する累積貸付額は,3億4500万円であり,何ら返済の目途が立っていない状況であった。さらに,NLC社の事業開始以来の営業利益は毎年1億円超の赤字であった。このような状況に照らすと,融資金の回収は,到底見込めない状況であることは明らかであった。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
平成21年12月18日,本件会社の取締役会において,販売パートナーとNLC社の関係についての質問に具体的な回答はなく,契約書等も提出されず,その他ベトナム案件の進捗状況に関して有意な資料は全く提出されなかったにもかかわらず,出席した取締役がその提出を求めることはなかった。
また,NLC社の報告により,ベトナム案件に関して差し当たり必要な手続が何ら履践されておらず,同事業が何ら進捗していないことが明らかになった。
平成22年2月2日開催の本件会社の取締役会では,同年3月期の売上予想について更なる下方修正が行われた。このような状況の下,これまでの貸付けについて回収が全く行われていないことや,NLC社が自ら立てた利益計画を実現できていないことは判明している以上,同社に対する金銭の供与については消極的な判断を行わざるを得ない状況にあった。そのため,仮に金銭の供与を行うとしても,本件会社の資産維持の観点や子会社への監視,監督の観点から,以前にも増して厳格にNLC社の事業内容や経営状態等について客観的な資料を提出させる等の措置を講じるべきであった。しかるに,政府機関からのバックアップや教科書認定について政府との交渉を示す客観的な資料や有力銀行からの資金バックアップに関する客観的な資料など容易に提出を求められると思われる資料さえも提出が求められた形跡がない。F社長や被告Bの報告事項に関し,①教科書認定の審査状況に関する書面又は教科書認定に関する連絡の記録,②平成22年8月上旬に開催予定の2万人規模の教育関係者の大会(ティーチャーズミーティング)に関する案内状又はパンフレット,③ベトナム科学技術省職員,教育省,内閣府高官ファミリーそれぞれとの連絡の記録等を提出させることにより,それが真実であるかどうかの調査,判断はある程度可能であった。
それにもかかわらず,取締役会は,NLC社に対し,何ら具体的な事実確認を行わず,説明を促すこともなかった。事業の中核を占めるベトナムの学校への商品納入が実現不可能であることが判明したのであれば,事実関係を確認し,いったん,ベトナム案件を中止させるべきであった。第1決議において,平成23年3月期に黒字化していなければ撤退するとしていたところ,この時点において残り1年の間に黒字化に持ち込むことは極めて困難であった。これらの事情に照らすと,ここでの意思決定は,必要な手続が履践されておらず,極めて不適切であった。
よって,意思決定過程に合理性がない。
(d) 増資額が相当性を欠くこと
前記(b)のとおり,NLC社に対する累積貸付額が3億4500万円に上り,回収ができていないこと,本件会社の第2四半期の純利益が前年比96.4パーセントの減益となり,金額も4000万円に止まったことを踏まえると,2億5000万円という増資額は多額に過ぎる。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 被告Aは,取締役会において,「受注発注(NLC社が注文を受けてから,業者に発注するという取引のやり方)で販売リスクがなく,回収も有力銀行がバックアップしているのでリスクがない合理的なものである」旨の説明を受けたところ,その真実性について一切検討せず,本来,存在しないとされていた在庫が実際には存在し,その額も2億円以上であったにもかかわらず,貸付けの判断を行った。
(b) 被告Aは,取締役会において,NLC社の事業に対する累積貸付額が既に3億4500万円に上っており,NLC事業開始以来営業利益が毎年1億円超の赤字であることから,返済の見込みがないことが明らかであるにもかかわらず,貸付けの判断を行った。
(c) 被告Aは,取締役会において,監査役から,現地販売店の契約書,売上金の回収に関する現地銀行の合意書面の入手,撤退条件の検討を行うよう指摘があったにもかかわらず,これらの資料を入手せず,撤退条件の検討を行うことなく,貸付けの判断を行った。
(被告Bについて)
被告Bは,本件会社の取締役として,同社が行う投融資の回収可能性について十分な調査,判断を行う必要があった。
被告Bは,以下のとおり,第5決議及び第6決議について,本件会社の取締役として,取締役会における調査,報告,説明及び判断に関する善管注意義務違反が認められる。
(ア) 第5決議について
a 決議の問題点
被告Aに対する主張と同じ。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 平成21年11月27日開催の本件会社の取締役会では,同年2月27日開催の同取締役会において承認された計画が更に下方修正された。これは立ち上げ時の計画に比較して利益が2割程度にまで著しく下落していた。このような状況の下,子会社の監視,監督という観点からも上記の下方修正の原因について担当者を問いただし,客観的な資料を求める等の調査を行うべき義務があった。特に,取締役会において,提出されたベトナム語レターの日本語の完訳に問題がないことを条件に融資することを決議したが,貸付けに先立って問題のない完訳が提示されなかった。それにもかかわらず,被告Bは,何らの対応も行わなかった。
(b) 我が国の法制からベトナムにおいても公務員が一般企業の役員を兼職できないことは容易に推測できたはずであるにもかかわらず,被告Bは,販売パートナーである企業のプレジデントがベトナム政府の上層部であるという情報を鵜呑みにして疑問を持たなかった。
(c) 取締役会において,G監査役から2億7000万円の資金が必要となるキャッシュフロー計画資料及びNLC社の販売計画に対し未達成となるマイナスのシナリオの準備をしているかについて質問がされ,かつ,撤退基準を踏まえた検討をすべきとの意見がされた。また,同取締役会において,H監査役からも,売買代金の担保,ベトナム政府による補償,資金回収のルート及び現地法人である販売パートナーの組織について質問がされ,カントリーリスクと販売パートナーの性格が明確でないので売買代金の回収について不安がある旨の指摘がされた。被告Bは,G・H両監査役の指摘を真摯に検討することなく,①5万個の受注ができていること,②ベトナム政府が本件プロジェクトをバックアップしていること,③資金支援を表明している機関が存在すること,④NLC社の販売パートナーがベトナム政府の上層部の者であることが事実であることの確認や調査を行わなかった。
(イ) 第6決議について
被告Aに対する主張と同じ。
ウ ライテック社に対する貸付け
(被告Aについて)
被告Aは,以下のとおり,第7決議から第10決議までについて,代表取締役として,取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反が認められる。
(ア) 第7決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
LED蛍光灯市場及びLED防犯灯市場は,いずれも同等の価格競争力を有する競合他社が存在しており,将来が有望視される市場ではなかった。
LED照明事業の譲受額の約6割をのれんに計上しておきながら,ライテック社の同事業はわずか2年間で5億5800万円もの損失が発生した。合弁会社の共同運営者であったKFE社は,不採算事業として撤退することを決定し,合弁契約締結の2年後である平成24年3月30日に同契約を解消した。これらの事実に鑑みると,上記事業譲受けの時点において,十分な資料に基づいて事業評価の算定等がされたとは考えられない。
また,当該貸付けによって譲り受けるKFE社のLED照明事業は,平成21年3月スタートの「新規事業」と位置付けられるものであったが,当該貸付けに当たって,同事業がどのように発展し,本件会社に対して利益をもたらす可能性があるのかについて十分な検討がされていない。したがって,その目的及び必要性について合理性がない。
(b) 回収可能性がないこと
KFE社のLED照明事業については,製品の電解コンデンサー制限回路に係る特許権の存在が,KFE社とGenessis Photonics Inc.(以下「GPI社」という。)の共同出願であることがその製品の価格優位性を基礎付けるものとして報告されていたが,実際にはGPI社の単独出願であり,KFE社は上記特許権を有していなかった。また,KFE社は,Sillicone Electoronics Company of Hong Kong(以下「SEC社」という。)がJFEエンジニアリング株式会社(以下「JFE社」という。)に対し,LED照明を販売した場合にはマージンをSEC社がKFE社に対して支払う旨の口頭合意ができており,KFE社の事業を譲り受けたライテック社においてそのマージン収入が得られる旨説明していた。しかし,その後,当該マージンの支払が受けられないことが報告された。第7決議による貸付けはLED照明事業の収益からの回収が見込まれていたが,このように製品の優位性に関する誤った情報に基づいて事業価値算定が行われており,実際には4億5000万円もの価値はなく,事業からの収益はおよそ期待できないものであって,回収可能性はなかった。
さらに,LED照明事業の平成23年度3月期の売上計画は,平成22年4月15日の取締役会において20億4600万円であったが,その後この計画は,17億円,次いで13億円と変更された。その変更理由は,事業譲渡のためのデューディリジェンス及び算定における前提条件であった20億円について精査し,リスクを考慮して15パーセント減額した17億円とし,更に事業譲渡を受けた段階で個々の案件を精査した結果として13億円としたとの説明がされた。LED照明事業の譲受けに当たり当該事業についての財務デューディリジェンス及び合弁事業の出資者となるKFE社についての財務デューディリジェンスがいずれも必須であったにもかかわらず,それらが行われていなかった。LED照明事業に関するライテック社の事業計画は専門家の検証を経ない杜撰なものであった。
そうすると,KFE社のLED照明事業は,存在するとされていた特許権及びマージン収入が存在せず,その事業計画も杜撰であり,これらに基づいた誤った事業価値の算定がされており,当該事業からの収益はおよそ期待できず,回収可能性がなかった。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
KFE社のLED照明事業の譲受けに当たり,財務デューディリジェンスを経ていないこと,共同出願とされていた特許権の検証を行っていないこと,マージンに関する契約締結の有無による事業価値への影響,とりわけ価格優位性について検証していないこと,ライテック社の具体的な資金計画を把握せず,具体的な回収可能性を検討していないことという点で,一般的な取締役に期待される検証過程を経ておらず,その意思決定過程は不適切なものであった。
(d) 貸付額が相当性を欠くこと
本件会社の平成23年3月期におけるグループ全体の純利益16億8000万円に比較して,5億円という貸付額は上記純利益の30パーセントに相当する金額であり,本件会社全体にとって相当重大な影響を及ぼす著しく不相当なものであった。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 被告Aは,KFE社のLED照明事業を譲り受ける前に事業の収益性を調査する損益計算書分析,将来における事業のキャッシュ獲得能力を把握するキャッシュフロー分析,将来における収益力を把握する事業計画分析が行われておらず,極めて不十分な財務デューディリジェンスを基に貸付けの判断を行った。
(b) ライテック社設立のスキームは,同社が,本件会社からの貸付金5億円のうち4億5000万円を,KFE社から事業譲渡及び在庫の譲渡の代金に充て,KFE社が上記事業譲渡等の対価として取得する4億5000万円のうち2億円を用いてライテック社による募集株式の払込みに充てて同株式を引き受けるという一連の流れによる。そして,KFE社のLED照明事業の事業譲渡契約及びがいS社の株式総数引受契約締結,事業譲渡代金の支払及び新株引受についての払込みは,それぞれ同一日付で行われており,資金の流れも一体である。このようなライテック社設立のスキーム及び資金の流れの一体性からすれば,LED照明事業の事業譲渡は,実質的に現物出資に該当するため,本来であれば検査役による検査が必要であった。そして,平成22年9月8日の取締役会において現物出資の潜脱と疑われないかとの疑問が出るほどであったが,前記のとおり,検査役における検査を経ずに現物出資を受けさせた。
(c) 被告Aは,TMI総合法律事務所による法務デューディリジェンスの調査報告書において,商標以外の知的財産権はない旨明示されているにもかかわらず,共同出願されている特許があるものと誤信し,共同出願している特許権の有無について確認を行わなかった。
(d) 被告Aは,競合企業SEC社がGPI社から製品を仕入れるに当たり,KFE社に対するマージンの支払義務を負わない場合でもライテック社が価格優位性を保つことができるのか否かについて十分な検証を行っていなかった。
(e) 監査役のI(以下「I監査役」という。)から,平成22年3月期が終了した時点の損益(利益)の数値について質問があったにもかかわらず,被告Aは,裏付けのない事業計画の数値を示したのみで,平成22年3月期終了時点の損益の数値をKFE社に確認するなどせずに貸付けの判断を行った。
(f) 第7決議に係る貸付けを行うに当たり,LED照明事業からの撤退基準を明確に定めた上で貸付けを行うべきであったのに,これを行わず,貸付けの判断を行った。
(イ) 第8決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
第8決議における貸付けは,当初の予定と異なりライテック社がKFE社に代わって太田市における本件ESCO事業のサービス事業者となるに当たって新たに必要となる経費を調達することを目的とするものであった。しかし,KFE社が同事業の注文を失った場合の影響については議論されているものの,当該貸付けがなければ注文を失うのかどうかについては明らかにされていない。また,本件ESCO事業に係る資金計画の内容についても,平成22年9月8日の取締役会において,「太田市向け費用」として計上されているのは同年10月の9205万6000円のみであったが,同年10月14日の取締役会では,同年11月1日以降毎月1540万円(平成23年1月には3040万円)が必要とされ,約1か月の間に大きく変遷している。このような状況からすれば,ライテック社がKFE社に代わって本件ESCO事業のサービス事業者になるに当たり,いつの時点でどの程度の資金が必要かという点について,全く不明確なままで十分な検証ができていなかった。
ライテック社は,KFE社と本件会社の合弁会社である。そうすると,本件会社のみがライテック社に対して融資を行うことは,KFE社に対して無償の利益を与えることになる。そして,これに対する手当てとしてKFE社の保有するライテック社株式担保権の設定を受けること等がいったんは検討されたものの,その設定を受けないまま融資を行っており,十分な検討がされた形跡もない。
これらの事情からすると,当該貸付けは,合理的な目的の下,必要性があって行われたものではない。
(b) 回収可能性がないこと
第8決議に基づく貸付けは,本件ESCO事業からの利益のみならず,ライテック社の事業全体からの利益による回収を前提として,返済期間2年とされた。しかし,ライテック社の代表取締役でもあった被告Bは,本件ESCO事業の投資費用の回収が10年にわたる旨述べ,その実現可能性が低いことを示唆していた。
また,ライテック社の事業に要する費用については,本来,合弁契約に基づきKFE社と折半にすべきものであったにもかかわらず,そうされておらず,同社が有するライテック社の株式に対して担保権の設定を受けることもしていない。
加えて,ライテック社の第6期(平成22年4月1日~平成23年3月31日)の純資産額は5984万7559円のマイナス計上であり,債務超過状態であった。そして,当時,ライテック社の当期純損失は1億9984万8217円であり,毎月赤字計上であって,本件会社からの貸付けがなければ運転資金の確保すらままならない状況であった。このような状況の下,第8決議に基づく貸付けは無担保で行われた。
以上によれば,本件貸付けの回収可能性について何ら検討がされておらず,回収可能性がなかった。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
第8決議は,KFE社の関与の在り方を巡り,平成22年9月17日の取締役会がライテック社への融資に係る議案について,いったんなかったものにしてから1か月も経過しないうちに行われており,上記⒜のとおり,その目的及び必要性について,十分な資料の追加収集がされないまま貸付けの判断を行った。また,当該貸付けは,2億5000万円全額を一度に貸し付けることを内容とするものであるところ,本件ESCO事業における資金需要とライテック社の事業の進捗状況をみながら必要に応じて貸付けを追加するという方法についても検討すべきであったが,そのような検討はされていない。
さらに,上記(b)のとおり,当該貸付けの回収可能性について何ら検討がされていなかった。
以上のとおり,貸付けを実行するか否かの意思形成過程において収集すべき資料を収集しておらず,その検討もできていなかった。よって,意思決定過程に合理性がない。
(d) 貸付額が相当性を欠くこと
本件会社の平成23年3月期におけるグループ全体の純利益16億2800万円に比較して,2億5000万円という貸付額は,その約15パーセントに相当し,相当重大な影響を及ぼすものであり,著しく不相当なものであった。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 被告Aは,ライテック社がKFE社に代わってESCOサービス事業者になるに当たって,いつの時点でどの程度の資金が必要かという点について,全く不明確なままで十分な検証を行わなかった。
(b) 被告Aは,本件会社のみがライテック社に対して融資を行うことは合弁相手であるKFE社に対して無償で利益を与えることになり,回収すべき金額にも直結する問題であるにもかかわらず,この点についての検討が行わなかった。
(c) 被告Aは,ESCO事業からの利益のみならず,ライテック社の事業全体から生じる利益からの回収であることを前提として返済期間を2年と設定したが,本件ESCO事業に係る投資費用の回収には10年を要する見込みであったなど,回収可能性について検討しなかった。
(d) 被告Aは,ライテック社の事業の見直しを検討するに際して,KFE社による事業実績を見ることなく裏付けのない事業計画の数値のみを前提に貸付けの判断を行った。
(ウ) 第9の1・2決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
第9の1・2決議に基づく貸付けは,ライテック社に対して当面の運転資金を早急に提供することにあった。しかし,事前に返済計画についての提示が行われず,かつ,KFE社が実際にその負担分を支出できないことも認識されていた。また,第9の1決議で決定された貸付額は,資金ショートを回避するために必要とされた金額の半分にすぎず,平成24年1月末にも資金ショートする可能性を含む金額であった。
そして,上記のとおり,KFE社が出資比率の割合に応じた負担分の支出をしないことからKFE社が負担すべき貸付けについても本件会社において行うことが決議された(第9の2決議)。
このように,同決議は,ライテック社の資金ショートのおそれから,返済計画やKFE社による合弁出資割合に応じた金額の弁済可能性について何ら結論を見いださないまま行われており,さらには資金ショートが予測された平成24年1月にライテック社の事業計画が立案される予定とされ,その際の取締役会決議内容によっては,ライテック社の解散などの可能性もあった。
そうすると,第9の1・2決議に基づく貸付けは場当たり的なものにすぎず,合理的な目的と必要性を欠くものであった。
(b) 回収可能性がないこと
ライテック社の第7期事業計画第3四半期(平成23年10月~12月)の収支不足金額は,1億0966万6000円であり,1億5000万円全額の貸付けがなければ,同社が資金ショートすることは確実な状況にあった。そして,当時KFE社は合弁出資割合に応じた貸付けをしないとの姿勢であったことからすると,ライテック社は資金ショートにより事業自体が立ち行かなくなることが予測される状況にあった。
また,ライテック社の第7期(平成23年4月1日~平成24年3月31日)の純資産額は5億5132万4849円のマイナス計上であり,債務超過状態であった。そして,当時ライテック社の当期純損失は4億9147万7290円であり,毎月赤字計上であって,本件会社からの貸付けがなければ運転資金の確保すらままならない状況であった。このような状況の下,第9の1・2決議に基づく貸付けは無担保で行われた。
よって,当該貸付けは回収可能性がなかった。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
平成23年11月14日の取締役会では,ライテック社の事業について,防犯灯関係事業が大幅にずれ込んでいるものの,一般販売については計画どおり達成しており,街路灯に関しても大前提は揺らいでおらず,大型案件も着実に進んでいるため,LED照明事業の優位性は崩れていないと説明がされ,同年12月16日の取締役会においても,自治体に対しても競合他社との関係について,ライテック社がメジャープレーヤーであるとの説明がされていた。しかし,平成24年1月には,KFE社はライテック社の事業について不採算事業と明示して撤退の意思を示した。また,同社の平成24年7月20日の取締役会では,ライテック社のLED照明事業について,自治体や大学等への納入実績がなく,競合他社の追従により価格優位性も消失したとして,撤退が可決承認された。第9の1・2決議からわずか半年でライテック社のLED照明事業に関する経営環境が急激に悪化したとは考えられず,ライテック社の事業計画は杜撰であったといわざるを得ない。
平成23年11月14日の取締役会において,監査役から当面の返済の見通しを提示してもらってから融資できないかとの意見が出されたが,被告Bが事業計画,事業性を含めて,今後の費用資金も含めて平成24年1月に提案したいとの意見を述べたのみで,具体的な返済計画及び返済の見通しが提示されることはなかった。また,貸付けに当たって,人的及び物的担保の設定を受けることもなかった。
上記のとおり,資金ショートが予測された平成24年1月にライテック社の事業計画が立案される予定とされ,その際の取締役会決議内容によっては,ライテック社の解散などの可能性があったが,このような事態が生じた場合の検討は何ら行われなかった。
以上によれば,一般的な取締役に期待される検証過程を経ておらず,その意思決定過程は不適切なものであった。
(b) 貸付額が相当性を欠くこと
第9の1・2決議の約1年前にもライテック社に対しては2億5000万円という多額の貸付けがされていたが,第9の1・2決議の時点においても具体的な返済の見込みはなかった。そのような状況において,本件会社の平成24年3月期第2四半期連結業績における経常利益が前年比で46.3パーセント減少していたことに鑑みると,7500万円という金額は不相当であった。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 平成22年11月11日以降,平成23年1月13日,同年3月18日,同年4月15日に監査役会から業績が厳しい等の指摘がされ,ライテック社への金銭供与を控えることが示唆されていたにもかかわらず,被告Aは,同社による具体的な返済の見通しすら提示されないまま貸付けの判断を行った。
(b) ライテック社の平成24年1月の資金ショートを回避するために必要な金額は1億5000万円であったにもかかわらず,被告Aは,返済計画についての提案すら受けないまま貸付けの判断を行った。
(c) 被告Aは,平成24年1月の資金ショートを回避するために1億5000万円が必要なはずのところで7500万円の貸付けしかされていないのであるから,それ以降のライテック社の事業継続は不可能なはずであるのに,同月にライテック社の事業計画や返済計画の提示を受ける予定を立てるという矛盾を抱えて貸付けの判断を行った。
(エ) 第10決議について
a 決議の問題点
(a) 貸付けの必要性がないこと
第9の1・2決議の時点で既にライテック社の資金ショートの可能性が指摘されていた。その後,同社の事業が好転する可能性について何ら検討されていない。さらに,平成23年12月29日にはKFE社がLED照明事業を不採算事業として撤退する旨述べた。それまで監査役会から業績が厳しい等の指摘を受け続けていたことからすると,KFE社の撤退を受けて,ライテック社への貸付けについて,事業計画の基礎となる資料ないし事実の収集,分析,評価を極めて慎重に行うべきであった。また,このような経緯に照らすと,この時点でLED照明事業からの撤退を真剣に検討する必要があった。それにもかかわらず,第9の1・2決議の時点で予定されていた返済計画すら検討しなかった。このような経緯に照らすと,合理的な目的及び必要性はなかった。
(b) 回収可能性がないこと
KFE社は,平成23年12月29日のプレスリリースで,ライテック社との合弁事業を不採算事業と明示し,平成24年1月には,LED照明事業からの撤退の意思をも表明していた。そして,当該取締役会では,第9の1・2決議までに行われた貸付金の回収が一切行われていないことや,予定されていた返済計画すら提示されなかった。
加えて,前記(b)のとおり,第10決議当時,ライテック社は,債務超過状態,かつ,毎月赤字計上であって,本件会社からの貸付けがなければ運転資金の確保すらままならない状況であった。このような状況の下,第10決議に基づく貸付けは無担保で行われた。
以上によれば,第10決議に基づく貸付けについて回収可能性がないことは明らかである。
(c) 意思決定過程に合理性がないこと
予定されていた返済計画が検討されておらず,本件会社によるライテック社へ資金提供が既に8億2500万円に上っていたこと,上記の状況に照らしてLED照明事業からの撤退を検討すべき時期にあったこと等に鑑みると,撤退か更なる貸付けを行うかの判断を行う前提として得るべき情報は膨大な量であったにもかかわらず,情報収集に対する態度は極めて怠慢であった。以上によれば,第10決議の意思決定過程に合理性はなかった。
(d) 金額が不相当であること
前記のとおり,本件会社の平成24年3月期第2四半期連結業績における経常利益が前年比で46.3パーセント減少していたことに加え,第9の1・2決議に基づく貸付けからわずか2か月での追加貸付けであったことに鑑みると,1億円という金額は著しく不相当なものであった。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 被告Aは,第9の1・2決議時には平成24年1月に返済計画の提示を受けることになっていたにもかかわらず,返済計画の提示を受けないまま貸付けの判断を行った。
(b) 被告Aは,KFE社がライテック社との合弁事項を不採算事業と明示し,平成24年1月,KFE社はLED照明事業からの撤退の意思を示しており,回収可能性は皆無であったにもかかわらず,十分な検討を行わないまま貸付けの判断を行った。
(c) 被告Aは,ライテック社が,社内規定に従って契約書類を作成していないことや従業員の時間外労働に対して外勤手当等の手当てを支払うことで時間外労働の実態に応じた割増賃金を支払っていないという労働基準法違反の状況にあったことから,貸付金の回収可能性がなかったにもかかわらず,法務デューディリジェンス等の調査を行うことなく貸付けの判断を行った。
(d) ライテック社のLED照明事業は,当初から多数の自治体を顧客とする見込みであり,自治体が重要な取引先とされていた。しかし,平成23年11月時点において,自治体案件の計画達成率は,7.1%であり,全く売上げにつながっていない状況であって,自治体案件が売上げにつながった旨の報告は太田市の事例以外にない。このような状況からすれば,ライテック社のLED照明事業において自治体案件はおよそ成立の見込みなかったにもかかわらず,被告Aは,その評価について十分な検討を行わないまま貸付けを行った。
(e) KFE社の元代表者であったJがライテック社の経営状況について厳しい意見を述べた上,貸付けの要請についても,資金調達の趣旨について事業計画の実効性に乏しく,黒字化が見えないこと,費用の圧縮努力のない状態であり,真の立て直しにはならないこと,金融機関からの借入調達ができないという状況は経営責任であり,社長である被告Bを交代するべきである等の意見を述べたにもかかわらず,被告Aは,十分な検討を行わないまま貸付けの判断を行った。
(f) ライテック社のLED照明事業は,最終的に同社の株式を2000万円で売却して事業が終結されている。その理由は,同社の事業を継続する上で解決すべき法的問題が多数あり,かつ,事業の見通しが悪く,多額の貸付金につき回収の目途が立たないまま更なる融資を行わなければならない状況に陥ることを回避することであった。そうすると,第10決議時点においても,事業の継続可能性はなく,撤退を検討し,法務デューディリジェンスや財務デューディリジェンス等専門家による検証を行うべきであった。それにもかかわらず,被告Aは,これらを行わずに漫然と貸付けを行った。
(被告Bについて)
被告Bは,以下のとおり,第7決議から第10決議まで,取締役として,取締役会における調査,報告,説明及び判断に関する善管注意義務違反が認められる。
被告Bは,平成22年4月15日にライテック社の代表取締役に就任しており,同社の経営状況や事業の見通し等に関する資料の収集及び事実の分析,評価を十分に行うことのできる地位にあったのであるから,同人の責任は明白である。被告Bは,決議に参加していなかったとしても,意見陳述及び釈明の機会を与えられた特別利害関係取締役として,他の取締役が十分な審議及び適切な意思決定が行えるように当該決議について,丁寧に説明,報告をすべきである。被告Bは,上記各決議に係る取締役会において,ライテック社の法的課題,自治体事業の実現可能性のなさ,販売費が過大になっていること等について説明及び報告をすべきであったのに,これを怠った。
(ア) 第7決議について
a 決議の問題点
被告Aに対する主張と同じ。
b 取締役会における調査,報告,説明及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 事業譲渡前に損益計算書分析,キャッシュフロー分析,事業計画分析を行わず,取締役会に提出した資料は極めて不十分な財務デューディリジェンスの結果にすぎなかった。
(b) ライテック社設立のスキームは実質的に現物出資に該当するため,本来であれば検査役による検査が必要であり,平成22年9月8日の取締役会において現物出資の潜脱と疑われないかとの疑問が出るほどであったが,検査役における検査を経ずに現物出資を受けさせた。
(c) TMI総合法律事務所による法務デューディリジェンスの調査報告書において,商標以外の知的財産権はない旨明示されているにもかかわらず,共同出願されている特許があるものと誤信し,共同出願している特許権の有無について確認を行わなかった。
(d) 競合企業であるSEC社がGPI社から製品を仕入れるに当たり,KFE社に対するマージンの支払義務を負わない場合でもライテック社が価格優位性を保つことができるのか否かについて十分な検証を行わず,取締役会に報告もしなかった。
(e) I監査役から,平成22年3月期が終了した時点の損益(利益)の数値について質問があったにもかかわらず,裏付けのない事業計画の数値を示したのみで,平成22年3月期終了時点の損益の数値をKFE社に確認するなどせず,取締役会にも報告しなかった。
(イ) 第8決議について
a 決議の問題点
被告Aに対する主張と同じ。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) ライテック社がKFE社に代わってESCOサービス事業者になるに当たって,いつの時点でどの程度の資金が必要かという点について,全く不明確なままで十分な検証や説明を行わなかった。
(b) 本件会社のみがライテック社に対して融資を行うことは合弁相手であるKFE社に対して無償で利益を与えることになり,回収すべき金額にも直結する問題であるにもかかわらず,この点についての検討や説明を行わなかった。
(c) ESCO事業からの利益のみならず,ライテック社の事業全体から生じる利益からの回収であることを前提として返済期間を2年と設定したが,本件ESCO事業に係る投資費用の回収には10年を要する見込みであったなど,回収可能性について検討せず,取締役会への説明や報告もしなかった。
(d) ライテック社の事業の見直しを検討するに際して,裏付けのない事業計画の数値を挙げたのみでKFE社による事業実績を取締役会で説明しなかった。
(ウ) 第9の1・2決議について
a 決議の問題点
被告Aに対する主張と同じ。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 平成22年11月11日以降,平成23年1月13日,同年3月18日,同年4月15日に監査役会から業績が厳しい等の指摘がされ,ライテック社への金銭供与を控えることが示唆されていたにもかかわらず,同社による具体的な返済の見通しすら説明ないし提示しなかった。
(b) ライテック社の平成24年1月の資金ショートを回避するために必要な金額は1億5000万円であったにもかかわらず,返済計画についての説明や提案すら行わなかった。
(c) 平成24年1月の資金ショートを回避するために1億5000万円が必要なはずのところで7500万円の貸付けしかされていないのであるから,それ以降のライテック社の事業継続は不可能なはずであるのに,同月にライテック社の事業計画や返済計画の提示を受ける予定を立てるという矛盾した説明を行った。
(エ) 第10決議について
a 決議の問題点
被告Aに対する主張と同じ。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 第9の1・2決議時には平成24年1月に返済計画の提示を受けることになっていたにもかかわらず,返済計画の説明,提示を行わなかった。
(b) KFE社がライテック社との合弁事項を不採算事業と明示し,平成24年1月,KFE社はLED照明事業からの撤退の意思を示しており,回収可能性は皆無であったにもかかわらず,十分な検討を行わなかった。
(c) 社内規定に従って契約書類を作成していないことや従業員の時間外労働に対して外勤手当等の手当てを支払うことで時間外労働の実態に応じた割増賃金を支払っていないという労働基準法違反の状況にあったことから,貸付金の回収可能性がなかったにもかかわらず,法務デューディリジェンス等の調査を事前に行うなどして回収可能性を十分に検討しなかった。
(d) KFE社の元代表者であったJがライテック社の経営状況について厳しい意見を述べた上,貸付けの要請についても,資金調達の趣旨について事業計画の実効性に乏しく,黒字化が見えないこと,費用の圧縮努力のない状態であり,真の立て直しにはならないこと,金融機関からの借入調達ができないという状況は経営責任であり,社長である被告Bを交代するべきである等の意見を述べたにもかかわらず,十分な検討を行わないまま貸付けの判断を行った。
(被告らの主張)
ア 総論
(被告Aの主張)
取締役及び執行役の善管注意義務違反の有無を判断するに当たり,①親会社が子会社を支援する目的及び必要性,②回収可能性,③意思決定過程の合理性,④金額の相当性を要素とすることは争わない。ただし,①に関し,子会社の倒産による出資の無価値化,貸付金の回収不能を避ける必要性も考慮されなければならない。本件各決議は,いずれも子会社であるNLC社及びライテック社の新規事業を成功させ,親会社である本件会社の利益を図るために行われたものである。当然のことながら,被告らと子会社との間に個人的な関係はなく,私益を図るなど不当な目的はなかった。②に関し,倒産することが具体的に予見可能な状況であったか否か,弁済金を回収できなくなるなどの危険が具体的に予見できる状況にあったか否かにより判断されるべきである。③に関し,意思決定過程の前提となる事実の調査については,当時の取締役において可能な限りで,合理的な範囲で分析,調査,検討がされていたか否か,本来取るべき正式な手続を履践して融資がされたか否かが考慮されるべきである。④に関し,親会社の純資産の範囲内か否か,融資によって回避する損失との比較,融資金額が過剰な出捐であるか否かを基準として判断されるべきである。
本件会社の本業であるレディースインナー事業は,平成8年頃をピークに売上げが低下し,第1決議当時,業績の悪化に歯止めがかからない状態であった。この業績悪化は,時代の流れとビジネスモデルに問題があり,容易に解決することができないものであった。そのような状況の下,グループを含めた本件会社においては,新たな事業の創設が重要な課題となっていた。
本件各決議に係る貸付け及び増資は,いずれも本件会社の連結の純資産に占める割合はごくわずかであり,それらの貸付け等によっても純資産の減少はなく,それらは本件会社の財務状態に悪影響を及ぼしていない。
NLC社に関する第1決議から第6決議まではいずれもあらかじめ定められた撤退基準には違反しておらず,ライテック社の事業に関しては撤退基準が設けられていなかったから違反もない。
(被告Bの主張)
原告の主張は,争う。
イ NLC社に対する貸付け及び増資について
(被告Aの主張)
(ア) 第1決議について
a 決議の問題点
U-ペン事業は,将来性があるとして本件会社に引き継ぐ予定であったi-touch事業を承継するものであった。i-touch事業が過去に頓挫していた事実はない。さらに,ボイスリーダーペンは実用化に向けて試行錯誤が行われていたものであるから,U-ペン事業についてもi-touch事業と同一といえるものでもなく,本件会社がその将来性を再認識して取り組んだ事業であった。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 上記のような状況を踏まえ,被告Aは,第1決議の際,U-ペン事業の概要,戦略,成功要因,リスク,スケジュール等を説明した。
(b) 取締役会において,U-ペン事業の将来性に関し,殊更に引き合いの確実性を取り上げて説明する義務はなかった。また,被告Aは,この点に関し,見込み顧客の固有名詞を挙げた上で,具体的な説明を行っていた。
(c) 取締役会において,殊更に日本市場30万人,米国市場100万人(視聴覚障害者の数)の根拠について客観的データなどについて説明する義務はなかった。ただし,厚生労働省の調査及び米国の国立眼科研究所の統計結果によれば,上記数値の根拠は存在した。
(d) 予想されるリスクとしてNLC社の見込み顧客が同社の製造元から直接購入することが考えられたが,この点については製造元との契約により拘束することが可能である旨説明しており,これによってある程度「制御可能」であることは経験則上明らかであった。したがって,制御可能の程度について説明する義務はなかった。
(イ) 第2決議について
a 決議の問題点
(a) 一般に新規事業の立ち上げに際しては,当該事業が軌道に乗るまでの間は一定の投資が必要である。そして,NLC社は,新規事業開発を目的に設立された会社であり,当該新規事業が軌道に乗るまでの間に赤字が継続することは当然であり,借入金により資金調達するほかない。
(b) 第2決議当時,NLC社のU-ペン事業は,事業開始から約5か月しか経っておらず,同決議による貸付けは,新規事業に対する融資であって,業績不振である同社の救済のための融資ではない。
(c) 新規事業の立ち上げの段階である第1決議の時点において,再度追加融資をすることについては,追加の貸付金は事業計画を見た上で追加投資を考えるべきものと予定されていた。当初の予定に従って平成20年2月28日付けの事業計画書の提出を受けた上で貸付けの判断が行われた。当該事業計画の中では,3年の中期事業目標に加え,詳細なタスクスケジュール,損益相殺についても検討されている。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 前記a(c)のとおり,NLC社に対しては,当初の予定どおりの追加融資がされたものであり,販売時期の遅れについて個別に資料の記載がなかったからといって説明義務違反はない。
(b) 新規事業の立ち上げからわずか半年足らずの時点であり,実績を検討する段階でもないため,被告Aは,将来の事業目標及び事業戦略に重点をおいて説明したものであり,説明義務違反はなかった。
(ウ) 第3決議について
a 決議の問題点
(a) U-ペン事業の立ち上げ当初から,売上計画は,平成20年3月期はゼロ,平成21年3月期以降に売上げが立つという予測であり,軌道に乗るまでの事業運転資金は本件会社からの貸付金で賄うことが前提であった。また,第2決議の際に,第3決議の融資判断の基準を示し,かつ,平成20年8月以降の融資については,同年7月を事業のチェックポイントとして判断するとの意向が示されており,第3決議による貸付けは予定されていた。
(b) 取締役会では,被告Aが過去の経緯,追加融資,販売計画,ビジネスモデル,売上実績等について説明を行い,また,F社長が販売計画,販売提携先,市場規模,中長期ターゲット等について説明をしており,支援の合理性の根拠が十分示されていた。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 取締役会においては,「出席取締役と出席執行役により,…生産発注の時期・数量と販売契約の確定時期・数量,提携内容,販売契約前の生産発注リスク」等について質疑応答がされており,納品に向けた製造準備についても説明が行われ,検討されたことがうかがわれる。
(b) 売上げが立つまでに必要な運転資金を小分けにして融資しているものであり,追加融資が新たに必要となったわけではない。被告Aは,執行役としてNLC社の事業計画を説明しており,説明義務違反はなかった。
(c) 当時,「事業計画がまだやわらかい状況」であり,売上見込額が下方修正されることは不合理ではない。修正後の1億2600万円については「今期の具体的販売計画」の中で具体的に説明している。
(d) 平成20年2月28日の取締役会において決定した同年7月までの短期目標は,「1~2社の営業先が確定しており,同年10月以降の納品に向け,製造準備に入っている」ことであり,同月までは目標販売実績はゼロである。むしろ,少額ながら同年6月末の時点で約230万円の販売実績が前倒しで達成できたものであり,上記短期目標は達成できていた。
(エ) 第4決議について
a 決議の問題
U-ペン事業について,売上目標の不達や売上予測の下方修正がされたとしても,直ちに事業撤退の決断をすべき状況にはなかった。当時,同事業は本格的に開始してからわずか1年足らずの新規事業であったこと,販売を開始して間もないバードボイス関連製品(再生ペン)の売上額が1500万円程度あったことからすると,同事業に将来性がないとまで判断することはできない。
ベトナム案件は,当時,市場規模として1040億円と予想され,ターゲットとなる学生の人数,ベトナム政府からの補助金等の要素からその将来性が見込まれていた。国内市場が伸び悩む中で,市場規模及び経済成長が期待でき,ITインフラが整備されていない新興国を市場とするベトナム案件への事業転換は合理的なものであった。
b 取締役会における調査,報告及び説明に関する善管注意義務違反
(a) 平成21年2月27日の取締役会で,平成20年7月25日の販売目標が達成できなかった理由を分析し,当初予定していた視覚障害者向け及びバードボイス関連で売上げを拡大することが難しいこと,これに代わる将来性のある案件として,ベトナム案件が説明されており,販路,市場規模,リスク,事業機会,成功要因等詳細に検討し,説明がされていた。海外展開については,同年2月の段階で長期目標として掲げられ,同年11月段階で予定されていた。
(b) 本件会社が主要とするレディースインナー販売事業の売上げが先細りであることから,子会社であるNLC社が新規事業を立ち上げ,売上げに貢献する目的については周知の事柄であった。当時,被告Aは,執行役で取締役会決議には参加しておらず,貢献の具体的な内容を確認すべき立場になかった。
(c) 被告Aは,当時,執行役として目標不達の理由について,いわゆるリーマンショックの影響を受けたグローバル販売パートナーに関する市場においてもリーマンショックの影響を受けたこと等具体的事情を示して説明しており,説明義務違反はなかった。
(オ) 第5決議について
a 決議の問題点
(a) 第5決議に基づく貸付けは,ベトナム案件の本格展開に伴って必要となる資金融資を行い,NLC社の中期計画達成に向けた取組の継続を目的に行われた。当時,ベトナム案件が頓挫していた事実はなく,現地法人の販売パートナーを通じて販売する方向で検討が進んでいた。当該決議による融資を行わなかった場合,NLC社は3か月後の平成21年12月末の時点で4987万5000円の資金ショートになることが予測されていた。そうすると,倒産によりそれまで投下した出資金1億円及び貸付金2億7500万円の回収が不可能になる状況にあった。NLC社については,当初から平成22年3月期の事業の状況をみて事業継続及びその方針を判断することとされており,第5決議に基づく貸付けは,NLC社のその後の事業方針を判断するために必要な資金融資であった。
(b) NLC社が行う録音・再生ペン事業は,本件会社にとどまらず世の中にこれまで存在しなかった全く新しい事業であり,正確な業績予想を出すことは困難であり,将来の計画に対する明確な客観的根拠を出すことは極めて困難であった。また,事業を立ち上げてから間もない時期であったから,当初の業績予測から大きく変更することになったとしてもやむを得なかった。NLC社に対する貸付けは全て長期貸付金であり,そもそも弁済期が到来していなかったのであるから,この時点で返済がされていなかったとしても何ら問題はない。この時点において,NLC社が倒産することが具体的に予見可能な状況であったとはいえず,弁済金を回収できなくなるなどの危険が具体的に予見できる状況にあったとはいえない。
(c) 第5決議は,録音・再生ペン5万個の発注書,ベトナム政府機関からの文書等が取締役会に示された上で,NLC社の今後の利益計画も提出され,F社長も出席の上,取締役の各質疑に対して回答し,決議に至っている。また,意思決定過程の前提となる事実の調査について,当時の取締役において可能な限りで,合理的な範囲で分析,調査,検討がされていたといえる。したがって,当時の取締役会の意思決定過程には合理性が認められる。
(d) 本件会社は,平成21年3月期において,9億0600万円の当期純利益を計上し,同期の純資産額は186億2200万円であった。これに対して当該融資額は7000万円であり,当期純利益の8パーセント弱,純資産額のわずか0.37パーセントであり,本件会社にとって大きな負担であったとはいえない。
b 取締役会における調査,報告,説明及び判断に関する善管注意義務違反
(a) ベトナム政府機関からの文書については,取締役会後,貸付け実施前に日本語の完訳が提出されていた。その内容は,科学者とNLC社との間でホームティーチャープロジェクトが実施されていること,ホームティーチャーの最初の商品は,教育改善戦略の中で最も重要な役割を果たしていること,政府機関が本プロジェクトの推進に賛成していることなどであり,融資の実施を妨げるような内容のものではなかった。
(b) ベトナムは,新興国であり,社会主義国家でもあり,我が国とは異なる体制の国である。国やその体制が異なれば,規制も異なることから,公務員が一般企業の役員を兼職できないことを容易に推測できたとはいえない。
(c) 録音・再生ペンにつき5万個の受注ができていることについては,販売パートナーからのパーチェスオーダーから客観的に明らかであった。ベトナム政府のパックアップ,資金支援を表明している機関の存在,販売パートナーがベトナム政府の上層部の者であることについては,被告Aは,販売パートナーとされるベトナム人のKと直接面談し,また,その旨のレターを取得しており,F社長からの説明内容について疑問を抱かなかったとしても,注意義務違反はない。
(カ) 第6決議について
a 決議の問題点
(a) 第6決議に基づく増資は,タッチペン事業の前にNLC社において行われていた屋上緑化事業等の他事業によって計上した事業損失を切り離し,今後の責任を明確化するため,債務超過を解消し,貸借対照表の健全化を図る目的の下に行われた。
(b) NLC社は,平成21年11月に録音・再生ペンの注文を受け,事業が軌道に乗り始めた段階であり,弁済金の回収可能性もあった。
(c) 当該決議の過程は,意思決定過程の前提となる事実の調査について,当時の取締役において可能な限りで,合理的な範囲で分析,調査,検討がされており,当時の取締役会における意思決定過程には合理性が認められる。
(d) 第6決議当時,本件会社の連結業績は,売上高114億4800万円,営業利益3億0600万円,経常利益3億3400万円,四半期純利益4000万円であり,連結の業績としては利益を出していた。増資額2億5000万円は,本件会社の純資産額のわずか1.3パーセントであり,本件会社に大きな影響を与えるものではなく,それまでにNLC社に貸し付けた3億4500万円の貸倒れのおそれを踏まえると,相当な金額の増資であった。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 当該決議が行われた時点では,2億円以上の在庫の存在は判明していなかった。NLC社のF代表取締役及びL事業部長(以下「L部長」という。)が同席し,製品供給フロー,受発注及び代金回収等について説明した上で,G監査役からの対応在庫についての質問に対し,L部長が対応在庫はないことを明言していたことからすれば,真実性を問題にしなかったからといって,被告Aに任務懈怠はない。
(b) 累積貸付額及び営業赤字については認めるが,当時,ベトナム案件は立ち上げ時であって,計画どおり遂行すれば平成22年度においては売上高約23億円,営業利益3億7000万円,平成23年度においては売上高33億円,営業利益5億6000万円を見込めるものであったから,返済の見込みがないことが明らかであったとはいえない。
(c) 当時,現地販売店との契約書については,L部長が状況を説明した上で,検討が行われたものと思われる。銀行との間の融資に関する合意書面については,NLC社の担当者によれば,融資契約書のコピーを要請したがもらえなかったとのことであり,この点についても検討していた。
(被告Bの主張)
(ア) 第5決議について
a 決議の問題点
(a) 当時,ベトナム案件が頓挫していなかったことは明白である。
(b) NLC社に対する貸付けの返済期限は平成22年9月30日以降とされており,この時点で返済がされていないのは当然である。当時,ベトナム案件は進展中であり,裏付け資料としてパーチェスオーダーの提出もあり,将来,同案件が実を結ぶであろうと判断できる状況にあった。
(c) 当時の情報に基づけば,上記のとおり判断することは不合理なものとはいえず,当時の取締役会の意思決定過程に不合理な点はなかった。
(d) 本件会社の事業規模等を踏まえれば,同社にとって7000万円という金額は多額ではない。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) ベトナム政府機関からのレターは,取締役会終了後直ちに関係部署に対し外部の専門家に翻訳を依頼するよう指示がされ,日本語訳が提出され,内容に問題がないと判断された。日本語の完訳を強く求めたD(社外取締役)のみならず監査役又は監査役会がその後一切問題視していない。監査報告書にもこれに関する指摘はない。
(b) 平成21年2月27日開催の取締役会(このとき,被告Bは取締役ではなかった)で,ある人物をキーパーソンとすることを含めてベトナム案件の基本的な枠組みが確認された上でNLCの追加融資が決議された。その後,キーパーソンとの間でビジネス上の関係を深める中で同人の属性につき強い疑いを抱かせる事情は伝えられず,被告Bによるベトナム視察においても特に不審な点は見当たらなかった。このような経緯を踏まえれば,日本と政治・社会体制を異にするベトナムにおける公務員の在り方を日本の法制度から問題意識を持つべきであったとはいえない。
(c) 次のとおり,①5万個の受注,②政府によるバックアップ,③資金支援を表明している機関の存在,④NLC社の販売パートナーがベトナム政府の上層部の者であることについて,いずれも調査,確認を行っている。①5万個の受注については,そのパーチェスオーダーが取締役会に提出されていた。②については,NLC社は,本件会社の取締役会でベトナム政府(機関)の出資予定の報告(平成21年2月27日)や学校経由の販売プランの報告(同年4月28日)を行い,同取締役会は当時の事情を踏まえてその報告を受け入れてきた。被告Bの取締役就任後に政府(機関)の支援に強い疑いを抱かせる具体的事情は伝えられず,ベトナム視察でも不審な点は見当たらなかった。当該決議時には,F社長より科学技術省直下の組織からレターが送付されたと回答され,ベトナム語レターが提出されているが,その内容はNLC社の説明と矛盾するものではなかった。③は,融資が未実行である以上,客観的資料の裏付けとなじまず,完全子会社の具体的な説明及び報告を信頼しても不注意とはいえない。④は(b)に記載のとおりである。
(イ) 第6決議について
a 決議の問題点
(a) 当時の事情,情報に基づけば,ベトナム案件が事業として見込めると判断することは不合理なものとはいえない。当該取締役会において,売上高及び営業利益について,平成22年3月期は下方修正されたが,平成23年3月期及び平成24年3月期は上方修正されている。
(b) 第6決議は増資に係るものであり,回収可能性は問題とならない。
(c) 当時,ベトナム案件は進展中であり,NLC社の報告等に基づけば,将来,同案件が実を結ぶであろうと判断できる状況にあった。当時の情報に基づけば,上記のとおり判断することは不合理なものとはいえず,当時の取締役会の意思決定過程に不合理な点はなかった。
(d) 本件会社の事業規模等を踏まえれば,同社にとって2億5000万円という金額は多額とはいえない。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 在庫の存在について
受発注及び在庫の有無等はNLC社の事業活動に関連する事項であるから,同社の責任者の説明及び作成資料に疑念を抱かせる特段の事情がない限りは信頼しても非難されるべきではない。本件会社の各取締役会(平成21年11月27日及び平成22年2月2日)においてF社長及びL部長が行った受発注の在り方や在庫の有無等の説明及び報告に疑念を抱かせるような事情はない。
NLC社の在庫発生は,同社が本件会社に知らせずに発注したことに起因し,かつ,当該決議の取締役会以降に判明した出来事である。当時,NLC社の説明等を疑い同社の社内資料をくまなく確認すべきとはいえない。
(b) NLC社の財務状況について
新規事業は,収益を伴わない事業活動が先行した後ある時期から突如又は急速に収支が改善することが少なくない以上,既存事業と異なり,過去の財務状況及び事業収支に依拠して次に投じる経営資源(資金提供等)の有効性及び経済合理性を判断すべきではない。
前記のとおり,当時の事情や情報に基づけばベトナムでの事業化が期待できるとの判断は著しく不合理なものではない。当時の経営計画では,既存ビジネスを含め,平成23年3月期の売上高を約23億2860万円,営業利益を3億7052万円,平成24年3月期の売上高を約33億0320万円,営業利益を5億5720万円と見込んでおり,既存貸付金の回収のみならず,ベトナム以外の地域でのビジネス展開も期待できないわけではなかった。そうすると,仮に100パーセント計画どおりに進捗しなくても2億5000万円の投資に値する事業内容であった。当該決議に際して累積貸付額や過去の営業損益は支障にならない以上,被告Bの経営判断に善管注意義務違反はない。
(c) 監査役の発言について
平成22年2月2日の取締役会では,F社長及びL部長よりNLC社の中期事業計画について具体的かつ詳細な説明及び報告がされ,これを基に活発な議論がされた。それまでの間ベトナム案件に係るNLC社の対応に疑義が生じたことはなく,かつ,前年にパーチェスオーダーが提出されるなど事業の伸展が確認されていた。その中で,同社の責任者から具体的かつ詳細な説明及び報告がされ取締役会で活発に議論がされた以上,相応の情報収集,分析及び検討がされたと評価できる。G監査役の発言の趣旨は,①今後NLCに契約書の閲覧を求めることがあるほか,②当該決議承認後のNLCの事業展開を前提として,現地銀行との合意書面を入手しておくべきこと,③上記の前提の下,年度及び金額を示した撤退基準を視野に入れておくべきということであり,要請及び意見が受け入れられない限り当該決議をすべきでないという趣旨ではない。
ウ ライテック社に対する貸付けについて
(被告Aの主張)
(ア) 第7決議について
a 決議の問題点
(a) 当時,本件会社の主力事業であるレディースインナーの販売事業は,先細りが予想されており,将来性のある新規事業に参入し,それまでの主力事業以外で安定した収益を確保できる事業を開拓,成長させる必要があった。
(b) LED照明事業は,当時,黎明期であり,早期参入が必要で,かつ,KFE社からの事業譲渡によることが可能であった。
(c) ライテック社のLED照明事業は新規事業であり,第7決議に基づく貸付けによって立ち上がった事業であり,当時,ライテック社の倒産が予想される状況になかったことからしても回収可能性はあった。事業の譲受けに当たり,どの範囲でどの程度のデューディリジェンスを行うかは,取得する対象,規模,金額,取引のタイミング等が総合的に判断されるものである。上記事業の価値については,社外においては公認会計事務所の,社内においては本件会社の経営企画部が分析しており,行うべき作業は十分に行われていた。
(d) 平成22年3月期の本件会社の純資産額は180億6600万円であり,第7決議に基づく貸付額は,上記純資産額の2.77パーセントにすぎない。上記(a)のとおり,本件会社は新規事業を開拓する必要があったことからすれば,相当な金額であった。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) KFE社は当時公開会社であり,損益計算書,貸借対照表,キャッシュフロー分析の状況,事業計画分析は公開されていた。加えて,本件譲渡の対象はKFE社の一部門の開始から約1年の事業であるから,一般論は妥当しない。当時,LED照明事業の参入について,市場の将来予測などから分析した上で,同社のLED照明事業についても,公認会計士事務所に依頼して調査した。
(b) 法務デューディリジェンスの調査報告書は権利登録された知的財産権についての記載であり,共同出願中の特許権は対象外である。当時,KFE社側から共同出願中である旨の発言を受けて録音テープも残しておいたということであり,結果として共同出願されていなかったことが判明したとしても,当時,それ以上の確認義務があったとはいえない。
(c) 事業譲渡契約書の中でKFE社はSEC社がKFE社へマージンを支払う旨の口頭の合意が存在するという表明を明確にしているから,当時,当該マージンがないことを最初から想定して製品優位性を保つかどうかについてまで検証すべき義務はなかった。
(d) KFE社は3月末決算の会社でかつ上場会社であることからすると,平成22年4月15日の時点で同年3月期の損益が確認できなかったとしても何ら不合理なことではない。当該決議の際に提出された事業計画は,市場環境,製品の特性,見込み顧客,事業リスク等を踏まえて,詳細に検討された計画数値であった。これらは,わずか1年足らずしか事業期間のないKFE社におけるLED照明事業の損益よりも事業性を判断するに際して有益であるから,裏付けのない事業計画の数値とはえいない。
(e) ライテック社設立のスキームは,現物出資に該当しない。ライテック社とKFE社は,平成22年4月28日付けで,株式総数引受契約を締結し,これに基づいてライテック社は,KFE社から募集株式3980株の対価として,1億9900万円の払込みを受けている。また,ライテック社は,KFE社に対し,同社からのLED照明在庫及び営業権の譲渡対価として4億1000万円を支払っている。これら二つの行為は別個の行為であるし,当時,TMI総合法律事務所から法的な助言を受けつつスキームを進めており,平成22年4月30日の払込期日において取締役に現物出資であるとの認識はなかった。
(イ) 第8決議について
a 決議の問題点
(a) ライテック社は,本件ESCO事業のほかにも自治体の案件及び同市から紹介を受けて進行していた案件があり,これらの案件で想定される売上金額の合計は32億9020万円であった。本件ESCO事業は,太田市から優先交渉権を得ていたのであり,これを受注することができないことになれば,本件ESCO事業での報酬(3億6960万円)を得られないばかりか対外的な信用低下が生じ,上記のような太田市以外の案件についても受注できないという事態が想定された。
(b) ライテック社は,本件ESCO事業のために特注の防犯灯及び灯具を入荷し在庫として保有していたのであり,本件ESCO事業が受注できなくなれば,余剰在庫を抱える状況にあった。
(c) ライテック社は,平成22年7月度及び8月度には数千万円単位の売上げを上げていた。また,上記(a)のとおり,本件ESCO事業の他の案件も進行していた。さらに,本件ESCO事業の対価として10年間にわたり合計3億6960万円が入ることが予定されていたほか,本件ESCO事業以外の事業全体による収益から回収を予定しており,回収可能性があったことは明らかである。
(d) 平成22年3月期の本件会社の純資産は,180億6600万円であり,第8決議に基づく貸付額は,そのわずか1.4パーセントであった。ライテック社は,第8決議に基づく貸付けを受けられなければ,本件ESCO事業を受注できないだけにとどまらず,他の案件も失う可能性があり,その場合には最大で30億円を超える損失が予測されていた。このような状況からすれば,第8決議に基づく貸付けの金額は相当である。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 平成22年8月17日の取締役会でいったんなかったものとされたのは,その直前に契約関係の前提が変わってきたためであり,その後,当該決議時点では,従前の内容に戻ることとなったため従前に決定したとおり貸付けを承認したものであり,十分な資料がないまま貸付けの判断を行ったものではない。
(b) 平成22年11月から必要となる太田市向け費用の金額が明示され,検討対象となっている。また,太田市防犯灯の仕入代金及び逸失利益と販売減価相当額の2億5000万円が必要となる旨が記載されていた。事業の性質上,一括とは事業開始段階で必要となることは明らかであった。
(c) 平成22年9月8日の取締役会では,KFE社が保有するライテック社の株式に担保権の設定を受ける案も出ていた。また,KFE社が保有するライテック社の株式を本件会社が買い取り,その買取代金でKFE社に資金調達させることなども議論されていた。当時の取締役会では,ライテック社の利益が上がると同社の株価も上がって結局KFE社から買い取る金額を上げてしまうことなどが議論されており,KFE社からの回収可能性については十分検討していた。
(d) 回収可能性があったことについては,前記a(c)のとおりである。当該融資の返済期間と本件ESCO事業の投資費用の回収期間は別の次元の問題である。ライテック社は本件ESCO事業以外の事業全体による収益から回収を予定していたのであるから,特に不合理なことではない。
(e) 当該融資の回収可能性の根拠となる本件ESCO事業の詳細,収益性を説明した上で,これを失注した場合の影響,進行中の他の自治体の案件などについても説明しており,貸付けの必要性,回収の可能性は十分に説明されている。そもそもKFE社はライテック社にLED照明事業を譲渡するまで約1年間しか同事業を行っておらず,むしろ事業の見通しとしては将来に向けた案件の検討,精査の方が重要性は大きいのであり,当時,KFE社の事業実績について検討する必要はなかった。
(ウ) 第9の1・2決議について
a 決議の問題点
(a) ライテック社は,平成23年11月にも資金繰りがつかない可能性があり,かつ,7500万円の貸付けを受けても,平成24年1月に資金不足となる可能性があった。当時,既に本件ESCO事業を受注しており,事業継続のためにも本件会社からの貸付けは不可欠であった。
(b) 本件ESCO事業は,将来にわたって確実に売上げが見込まれる事業であり,資金ショートすればこのような事業からも撤退を余儀なくされる状況であった。
(c) ライテック社は,上記⒜のとおり,本件会社からの貸付けがなければ,平成23年11月にも資金ショートすることが見込まれていたものの,同年10月度には1092万円の売上高があり,代理店及び自治体紹介案件のいずれも増加しており,今後の更なる営業活動が期待できる状況にあり,世界最高水準の新製品を9月に発売したばかりであった。
(d) 平成23年3月期の本件会社の純資産額は192億4100万円であり,第9の1・2決議に基づく貸付額はそのわずか0.39パーセントであり,相当な金額であった。
b 取締役会における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 平成23年4月15日の監査役会において,ライテック社への言及はない。平成22年11月11日,平成23年1月13日,同年3月18日の監査役会において,金銭供与を控えることを示唆した発言,指摘はない。また,経営の専門家である取締役と監査役とは異なる立場にあるから,事後的な監査役の見解をもって当時の取締役の判断を評価することはできない。
(b) 平成24年1月の資金ショートを回避するために必要とされる金額が1億5000万円であるという発言,議論はなかった。融資返済の見通しも含めた事業計画を1月に提出することを確認した上でそれまでに最低限必要な事業資金として決議されている。平成24年1月に事業計画を出すことを勘案して,原案の融資金額の2分の1に相当する金額で承認しており,返済計画に対して配慮した上で融資判断を行っている。
(c) 1億5000万円の融資がなければ資金ショートが確実であったということではない。平成24年1月の事業計画や返済計画の内容を検討した上で,更なる融資の実施等も検討する可能性があるということであり,同月に事業計画を提出することと7500万円の貸付けの判断に矛盾はない。
(エ) 第10決議について
a 決議の問題点
(a) 平成24年1月17日の取締役会においては,平成24年度のライテック社の事業計画書が提出されている。同計画書においては,平成23年度の戦略を振り返って,国内市場とライテック社の現状,今後の市場予測,マーケットのポテンシャル等を分析し,今後の製品戦略,営業戦略の内容が具体的かつ詳細に検討されている。そして,同計画書中には,不確定要素の多い自治体防犯灯の案件を除いた上で8億円の売上計画が算出されており,十分に業績の好転が見込まれた。
(b) 平成24年1月17日の取締役会に提出された事業計画においては,国内市場とライテック社の現状,今後の市場予測,製品戦略,営業戦略等,具体的かつ詳細な内容が記載されており,この時点で,ライテック社の倒産が具体的に予見可能な状況にはなく,貸付金の回収ができなくなる具体的危険を予見できる状況にもなかった。
(c) KFE社は,LED照明事業を不採算事業と明示して合弁事業からの撤退を示しているが,同社は上場廃止が予定されており,業績が悪化していた。このようなKFE社において,LED照明事業を不採算事業と言及されたからといって,回収可能性が皆無であったとはいえない。当時,投資回収がされていないがために,収益よりも支出が多いという意味で不採算事業であったとしても本件事業の将来性を含めて判断した場合に,当時,本件合弁事業自体が不採算事業とはいえない。これらを検討した上で,貸付けの判断を行っている。
(d) 第10決議に基づく貸付額は,平成23年3月期の本件会社の純資産額(192億4100万円)のわずか0.52パーセントであり,本件会社への影響は極めて限定的である。他方,第10決議に基づく貸付けが行われない場合,ライテック社は倒産し,既に貸付け済みである8億2500万円の回収が不可能となるほか,本件会社自体の信用低下という損失が生じるおそれがあり,さらに,今後ライテック社の業績が好転した場合に予想される収益を考慮すると,貸付けをしないことによって生じる損失の方が大きく,貸付額の相当性が認められる。
b 決議における調査及び判断に関する善管注意義務違反
(a) 契約書類の作成や従業員の時間外労働について,問題点の指摘があったとしても,これらの問題は当該決議がされた後に明らかになったものであるし,社内体制上のコンプライアンスの問題と,貸付金の回収可能性の有無は無関係である。子会社への貸付けに際し,法務デューディリジェンスを行うことは一般的でなく,当該決議に際して法務デューディリジェンスを行わなかったとしても何ら注意義務違反はない。
(b) KFE社は第8,9の1・2決議による貸付金についても持分割合を負担せず,資力を理由に負担を拒否している状態で,平成23年12月の時点で合弁契約の解消を検討しているところである。この時点までに多額の援助を行い,ライテック社が存続しなければこれまでの貸付金の回収が途絶えてしまう本件会社の立場とは全く異なるものである。Jは,本件貸付けが承認されれば,KFE社の代表者として更に融資を負担しなければならない立場にあり,反対意見を客観的に正当であると認めることはできない。ライテック社の取締役会においては,Jからの反対意見を受けた上で,被告Bから反対すべき点は反対した上で決議を採っている。
(被告Bの主張)
(ア) 第7決議について
a 本件会社は,譲り受ける事業の価値を把握するための作業や在庫品等の実査を実施している。原告が指摘する各種の分析は,基本的に過去の財務情報を調査し,現状の確認又は将来の見通しに役立てるものである。しかし,分析の対象となる事業自体に蓄積された過去の実績がほとんどなく,かつ,過去から未来の予測が難しい状況下において,実質的に意義のある作業は多くない。
LED照明事業は,本件事業譲渡契約締結時点で,事業開始から約1年しか経過しておらず,本件事業譲渡により承継される債務は特定の契約に基づく義務からクロージング日より前の原因に基づいて生じた譲渡人の債務を除いたものという極めて限定されたものであったため,財務デューディリジェンスを実施すべき必要性に乏しい。ビジネスデューディリジェンスは実施されており,その中では,KFE社のLED照明事業の強み,弱みが詳細に検討,分析され,その他,損益計画が作成されるなど,実質的に意義のある作業は実施されていた。
b 事業譲渡と募集株式の引受けは明らかに法的に別個の行為であり,それぞれ会社法上必要な手続がされれば足り,これらが法的に一体のものとして現物出資の規制を受けると解する理由はない。本件事業譲渡は法務室を通してTMI総合法律事務所のチェックを受けたが,その過程でスキーム又は手続上法的問題があるとの報告は受けていない。本件会社は大阪証券取引所からの問合せに応じて本件事業譲渡と増資の経緯を記した報告書を提出し,同取引所は報告について問題なしと判断した。
c 特許の共同出願の件は,KFE社の不正確な説明及び発言に起因する問題であった。本件会社側が不合理ではない交渉体制を整えていた以上,本件会社側に原因や責任を求めるべきではない。上場企業では相手方との協議ないし交渉の中で拾い上げられた情報は,担当部署や外部専門家が必要な調査等を行い,問題があれば担当部署が取りまとめて必要に応じ取締役に報告するのが通常であり,取締役が全契約書や関係資料の隅々まで目を通して関係資料間の整合性等を確認する必要はない。特許自体は事業取得決定の重要な要素ではなく,これにより事業を譲り受けなかったものではない。共同出願の件と価格優位性とは無関係である。
d SEC社は,半導体商社であり,競業企業ではない。当時,KFE社がGPI社と独占契約を締結しているわけではないことがリスクとして把握されていた。これを踏まえ,有望視されていたLED照明事業に早期に参入することは当然あり得る選択である。マージンは,JFE社がGPI社と直接取引したことにより浮上した問題である。JFE社に係るマージンについては,デューディリジェンス報告書の助言に従い,事業譲渡契約の中で合意書面を締結できるようKFE社が最大限協力すべき規定が設けられている。
e 譲受事業について最も注力すべきは市場の将来性や譲り受ける事業の強み・弱みの検討と最新の需要情報の確認であった。KFE社によるLED照明事業は実質的な展開期間が短く,成熟した市場が存在しない以上,事業のセグメント別の損益状況は当該決議に際して必須の情報ではない。本件会社のM経営企画部長の回答に対し,I監査役を含め他の出席者から調査が不十分であるとか,追加調査をすべきとの指摘はなかった。原告が言及する損益計画は,KFE社から開示を受けた顧客リストや営業案件の獲得数等から,総合的に勘案して作成された計画であり,裏付けのないものではなかった。
(イ) 第8決議について
a 平成22年9月8日の決議がいったんなかったものとされた理由は太田市の二転三転する対応に起因し,主に本件ESCO事業におけるKFE社の役割について関係者(特に太田市)との間において協議,調整を行い,その結果に即した取締役会決議を行うためであった。同年10月14日開催の取締役会では,被告Bから同年9月17日以降の協議の状況や結果等につき十分な説明,報告がされた上で取締役会の場で熱心な検討が加えられている。同月8日の決議と当該決議に基本的な違いはない。前者の決議は融資の必要性や回収可能性に問題があるために撤回されたわけではない以上,当該決議における融資の必要性や回収可能性に影響を及ぼさない。
b 平成22年10月14日開催の取締役会では,ライテック社がESCOサービス事業者になることにより生ずる資金の項目や必要な時期が明確に説明されている。すなわち,①同議事録の附属資料にESCO事業推進に2億5000万円程度の資金が必要と示されている。②このうちライテック社がESCOサービス事業者になることにより生ずる支出合計は9300万円(概算)との記載がある。③上記②の資金が必要な時期は太田市との契約上の工事期間である平成23年3月1日までの工事費等が支出される時期であった。また,④同議事録には,附属資料には「太田市向け費用」欄に,平成22年11月から平成23年3月までの間に9200万円が支出予定である旨記載されている。なお,上記取締役会議事録に附属する「(株)シャルレライテック資金繰計画」と題する表において,毎月1540万円(平成23年1月は3040万円)と記載されたのは,本件ESCO事業において,防犯灯が順次設置されることを踏まえ,事業の進捗状況に即した支出計画に修正したにすぎず,資金需要の総額自体に大幅な変更はない。
c 被告Bは,KFE社事業者問題(KFE社単独でESCO事業を遂行することが困難である問題)に迅速かつ適切に対応し,平成22年9月8日以降,同月17日及び同年10月14日開催の各取締役会で現状を踏まえて複数の解決案の検討結果を示すなど十分な説明や報告を行った。同年9月8日,同月17日及び同年10月14日開催の各取締役会では,本件会社のみがライテック社に融資することの当否が活発に議論された。KFE社事業者問題は,相手のある話であってKFE社や太田市とのコンセンサスが必要であり,かつ,限られた時間と費用の中で解決が求められる問題である。トラブルの原因がKFE社や太田市側にある中で現実的な対応策を検討し説明することは相当である。
d 被告Bは,①本件ESCO事業に係る投資費用の回収が10年にわたること,②他の自治体案件の受注が不確定であったこと,③事業開始からまだ四,五か月しか経っておらず確実に見込める収益に鑑みた返済計画であることを前提に,返済期間を7年とする説明を行っていた。返済期間を2年間とする融資の承認決議に被告Bが参加していない以上,同決議は被告Bの説明義務違反等の根拠にはならない。
e 原告が言及すると解される事業計画のうち,①ライテック社の平成22年度事業計画書と当該決議との関係は全く不明である。②平成23年2月14日付け中期経営計画書及び③平成24年1月17日付け平成24年度事業計画書はいずれも当該決議以降に作成されており,同決議と無関係である。上記①の事業計画書はライテック社内で地道な積み上げ作業を踏まえて作成されたもの(上記②及び③の各計画書も同様)であり,被告Bは,平成22年8月11日開催の取締役会で①の事業計画書における販売計画の数値について説明していた。したがって,決して裏付けのない事業計画ではなかった。
(ウ) 第9の1・2決議について
a 監査役会での議論から被告Bの注意義務違反を導くことはできない。平成23年1月13日及び同年3月18日の監査役会議の議事録にはライテック社への金銭供与を控えるよう示唆する記載はなく,同年4月15日の監査役会議事録に原告の主張を導く記載はない。当該決議より相当前の時期に開かれた監査役会での議論により,取締役の善管注意義務を論じることはできない。
第9の1・2決議に際し,被告Bは,融資の必要性等を十分に説明し,出席取締役は活発に議論した。ライテック社の第7期(平成23年4月1日~平成24年3月31日)においてLED事業は合理的に期待できる領域であり,被告Bが取締役会(平成23年11月14日開催及び同年12月16日開催)で行った説明の内容に不合理な点はない。本件会社の監査役会議事録で,ライテック社の第7期の当初から当該決議までの間に,同社に対して厳しい指摘がされた形跡はない。
b 1億5000万円程度の運転資金が半年間の事業に必要と考えられた額であるのに対し,7500万円は翌平成24年1月までに必要な運転資金であり,被告Bはこの点を明瞭に説明していた。被告Bは,取締役会でKFE社との交渉状況を報告し,LED照明事業の優位性が崩れていない旨の意見を述べるとともにライテック社の資金繰り計画を提出し,融資の必要性等について詳細に説明している。同資金繰り計画表には第8期(平成24年4月1日~平成25年3月31日)の第1四半期に1億5000万円を返済することが記載されていた。
c 被告Bは,平成23年11月14日開催の取締役会で資金提供しなければ同月末日に資金がショートする可能性を示すとともにその後の半年間に必要な運転資金として1億5000万円という金額を示した。単に資金ショートを避けるためであれば7500万円の融資で平成24年1月まで賄うことができた。よって,被告Bの説明に矛盾はない。当該決議により,本件会社がライテック社に合計7500万円を融資するとともに続く平成24年1月17日開催の取締役会において新たな事業計画の承認と同計画を前提とした運転資金の提供について議論されることとなった。
(エ) 第10決議について
a 平成24年1月17日開催の取締役会では,予定どおり新たな事業計画の承認と同計画を前提とした運転資金の貸付けについて審議され,被告Bは十分な説明をしている。そのような事業計画が承認されることを前提に,運転資金の融資の実行及び既存融資の条件変更について提案し説明をしていた。
上記の事業計画では,数字が変動しやすい自治体防犯灯の売上げを見込んでいないことなどから,本件会社から新たに借り受ける運転資金及び既存の7500万円の借入れについては返済期限を平成26年3月31日とすることとされた。したがって,資金繰り計画に返済の予定が記載されなかった点に問題はない。もとより被告Bは貸付け条件についても十分な説明を行っている。
さらに,被告Bは,自治体営業が成約に至った場合,業績が好転することになること,ESCO事業の事業譲渡による資金化も検討している旨の説明もしていた。
b KFE社の公表した別のプレスリリースでは,今後成長が期待されるLEDライト用等のアルミベースプリント基板等の戦略的な受注拡大に取り組むことが述べられていた。したがって,KFE社は,LED照明事業が魅力的な事業分野であることに変わりはないが,財務的に余裕がないためにやむを得ず選択と集中の結果としてLED照明事業から撤退したのである。KFE社は資金繰りの問題により上場廃止に追い込まれており,LED照明事業の将来性を合理的に判断した上で事業の継続ないし撤退を決定できる状況になかった。過去の不採算事業という表現は特別損失を計上する理由として使用されているにすぎない。したがって,原告の引用するKFE社のプレスリリースは,LED照明事業の将来性やライテック社の回収可能性を否定する理由にはならない。
c ①社内規定に従って契約書類が作成されていないこと及び②従業員に時間外労働の実態に応じた割増賃金が支払われていないことが,なぜ,融資回収可能性を著しく低下させるのか,プロセスや具体的な因果の流れが全く不明である。法務デューディリジェンスの実施は融資の回収可能性と無関係である。②について,仮に時間外労働の実態に応じた割増賃金を支払っていれば,それにより減じた会社資産を前提に株式の売却価格が算定された以上,②の事情は株式売却価格に有意な差を導くものではない。
d 当時のKFE社又はJの主眼が合弁契約に基づく金銭負担をいかに拒むかという点にあった以上,Jの発言はKFE社からライテック社への金銭負担を拒むための方便にすぎず,額面どおり受け取るべきではない。Jは,平成23年10月27日開催のライテック社の取締役会では,LED照明事業の推進に前向きな姿勢を見せていた。その後,同年11月以降,KFE社による金銭負担の話が出てからライテック社の取締役会で厳しい発言をするようになったことは,いかに合弁契約に基づく金銭負担を拒むかという上記Jの姿勢を裏付けるものではある。
原告の指摘するJの言動は経営者としての合理的な判断に基づくものではない。Jが現在代表取締役を務めるMTES株式会社がLED照明事業を手掛けていることからしても,当時,LED照明事業の将来性に疑問を抱いていたとは考え難い。被告Bは,本件会社の取締役会でKFE社側との交渉状況を説明する際にKFE社又はJの不合理な対応にも言及していた。
(2)  争点(2)(損害額及び因果関係)について
(原告の主張)
ア 第1決議から第10決議までに基づいて支出された合計15億2000万円が全額回収不能に陥っている。したがって,その全額が本件会社に生じた損害である。
(ア) 被告Aについて
第1から第10決議までの全てにわたり本件会社の取締役であった被告Aは,その全額について責任を負う。
(イ) 被告Bについて
第5決議から第10決議までの当時,本件会社の取締役であった被告Bは,12億4500万円の限度で責任を負う。
イ 被告らが本件会社の取締役又は執行役として取締役会決議又は取締役会における報告及び説明に関して善管注意義務に違反したことにより上記損害が発生したものであるから,被告らの各行為と損害との間には因果関係が存在する。
(被告らの主張)
争う。
第3  争点に対する判断
1  認定事実当
事者間に争いのない事実,証拠(甲5,10~14,16~19,22,23,25,26,28~30,32,33,35~37,39~41,43,44~50,52~54,56,60~73,75,76,80,85,87~93,95~99,101,102,109,113,117,119,123,125,128,129,134~138,140,141,147,148,159,162,163,165,171,177,184,186,187,193~196,199,203,208,乙A5~8,15~17,乙B1~4,6,10,12,13,17,乙C16,18,32,34,35,乙D2,3(枝番があるものは各枝番を含む。),証人N,同D,同C,被告ら各本人。主な証拠は各項に再掲する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  本件会社の経営状況
ア 財務状況(連結)
資産           負債債         純資産額
平成15年3月期   -             -         27,381,000,000円
平成16年3月期   -             -         28,081,000,000円
平成17年3月期   -             -         24,895,000,000円
平成18年3月期   -             -         24,379,000,000円
平成19年3月期   37,369,000,000円   15,987,000,000円   21,381,000,000円
平成20年3月期   23,672,000,000円   5,340,000,000円   18,331,000,000円
平成21年3月期   23,045,000,000円   4,434,000,000円   18,611,000,000円
平成22年3月期   22,224,000,000円   4,158,000,000円   18,066,000,000円
平成23年3月期   24,212,000,000円   4,971,000,000円   19,241,000,000円
平成24年3月期   23,999,000,000円   4,333,000,000円   19,665,000,000円
(「-」部分は,不明である。)
(平成19年以降,甲25,41,61,80,98)
イ 業績(連結)
売上高        営業利益     当期純利益
平成15年3月期   39,181,000,000円     -      ▲1,246,000,000円
平成16年3月期   66,304,000,000円     -      744,000,000円
平成17年3月期   65,093,000,000円     -      ▲1,932,000,000円
平成18年3月期   61,134,000,000円     -      ▲76,000,000円
平成19年3月期   54,570,000,000円   518,000,000円   ▲2,545,000,000円
平成20年3月期   46,363,000,000円   2,548,000,000円   ▲1,971,000,000円
平成21年3月期   25,781,000,000円   1,548,000,000円   906,000,000円
平成22年3月期   23,288,000,000円   594,000,000円   169,000,000円
平成23年3月期   23,172,000,000円   1,522,000,000円   1,628,000,000円
平成24年3月期   22,908,000,000円   1,309,000,000円   1,064,000,000円
(「-」部分は,不明である。)
(平成19年以降,甲25,41,61,80,98)
ウ 新規事業の開発
本件会社は,平成12年頃から本業であるレディースインナー等販売事業につき売上額の下落傾向が続いており,本業における収益の確保に加えて新規事業の開発が課題とされていた。(証人C)
(2)  NLC社の概要(甲137)
ア 平成18年4月3日,NLC社は,設立された。
イ NLC社設立時の同社の代表取締役は,被告Aであった。同人は,平成19年6月18日,同社の事業低迷につき経営責任を問われて退任し,Oが代表取締役に就任したが,その後,本件会社の経営陣の交代に伴い,同月27日,Oに代わって被告Aが,再度,代表取締役に就任した。同人は,同年8月10日頃,本件会社におけるNLC社の担当執行役にも就任した(甲16)。本件会社においては,2か月に1回程度,子会社業績報告会を開催していた。被告Aは,主としてその機会を通じて,NLC社に対する監視,監督を行っていた(乙A17)。平成21年3月13日,同社の代表取締役が被告AからFに交代した(甲37の1)。同社には,L部長以下数名のスタッフが在籍し,業務に従事していた(甲36)。同社には企業法務を担当する部署がなかったため,これを本件会社の法務部が事実上担当していた(証人N)。
ウ NLC社の財務状況及び業績は,以下のとおりである。
資産      負債      純資産
平成19年3月期   91,850,000円   7,483,000円   84,366,000円
平成20年3月期   26,353,000円   69,939,000円   ▲43,585,000円
平成21年3月期   42,895,569円   190,531,156円   ▲147,635,587円
平成22年3月期   355,028,225円   354,210,387円   817,838円
(甲13,26,43,62の2)
売上高     営業利益     当期純利益
平成19年3月期   45,434,000円   ▲114,630,000円   ▲115,633,000円
平成20年3月期   360,000円   ▲101,288,000円   ▲127,952,000円
平成21年3月期   11,777,277円   ▲102,681,985円   ▲104,050,048円
平成22年3月期   29,679,584円  ▲100,696,451円   ▲101,546,575円
(甲13,26,43,62の2)
エ 当初,NLC社は,緑化資材の製造及び販売事業を譲り受け,これを遂行していた。
オ NLC社は,その設立後,新規事業の一つとしてボイスリーダーペンの技術を使用したi-touch事業に着手した。(甲10)
(3)  NLC社の設立から第1決議(U-ペン事業の開始)までの経過
ア 被告Aは,平成13年頃,新規事業部の事業部長として本件会社に入社し,それ以降,新規事業の開発に従事していた。当時,本件会社においては,既存事業であるレディースインナーの売上額が減少傾向にあり,将来の成長も困難な見通しであることから,新規事業の開拓が課題となっていた。(乙Aの16,17,被告A本人)
イ 平成17年12月27日開催の本件会社の取締役会において,NLC社の設立が可決承認された。同社は,資本金1億円,資本準備金1億円,本件会社の完全子会社として設立することとされた。(甲5の1)
ウ 平成18年4月,NLC社が設立された。同社は,本件会社とその関連会社による企業グループ(以下「シャルレグループ」という。)の発展のために新規事業に取り組むという位置付けを社内外に明確にするため新規事業の企画立案,事業立ち上げと運営を本件会社から切り離して行うことを設立の目的としていた。(甲5の1)
エ 平成19年4月13日開催の本件会社の取締役会において,平成20年3月期から平成22年3月期までのグループ戦略上,NLC社については早期の事業撤退を進めることとされた(甲11)。同年5月11日開催の本件会社の取締役会において,NLC社の今後の方向性について,同社が取り組んだ新規事業のうち,①緑化事業については撤退業務を遂行中,②カイロウェア事業については新設会社シャルレの商材としての可能性の検討に焦点を定め,その検討を同社に引き継ぐ,③i-touch事業についてはその検討を株式会社テン・アローズ・イノベーションに引き継ぐ,④上記処理が完了次第,NLC社を解散するとの方針が承認された(甲12)。
オ 平成19年6月15日開催の本件会社の取締役会において,子会社であるNLC社の定時株主総会についての審議が行われ,被告Aの取締役再任の原案に対して社外取締役から業績低迷に対する同人の責任を問う声が上がり,Oを代わりに選任するとの修正案が可決された。これに基づき,同月18日開催のNLC社の株主総会において,同社の代表取締役が被告AからOに交代した(甲13,乙A17)。しかし,その後,同月に開催された本件会社の株主総会において,取締役全員の交代があり,P(以下「P社長」という。)が新たに代表執行役に就任した。また,同月27日開催の本件会社の取締役会において,NLC社の役員について,①経営体制を一新するためOの辞任又は解任,②被告Aを取締役に選任し,代表取締役社長とするとの方針が承認された(甲14,乙A17)。
(4)  第1決議の成立
ア 平成19年9月28日,本件会社の取締役会において,取締役兼代表執行役であるP社長の提案に係るU-ペン事業(6000万円の貸付けを含む。)の提案に関し,被告Aは執行役として,概要,以下のとおり説明した(甲17の2,乙B10)。このU-ペン事業は,従前のi-touch事業と同じく,ボイスリーダーペンの技術を使用した事業であった。
(ア) 目的
シャルレグループの新事業インキュベーションの一環として,U-ペン事業を立ち上げる。
(イ) 背景
U-ペンは,アナログとデジタルの橋渡しツールとしての全く新しい技術である。既に,USBタイプの商品納入を済ませている。その他の再生タイプや録音・再生タイプの商品については,非常に多くの見込み客はいるが,製品の品質確立の課題を抱えており,いまだ製品市場導入には至っていない。現在,製品の品質確立を進めており,遅くとも来期第1四半期中(平成20年4月~6月)の市場導入を目指している。
(ウ) 審議いただきたい事項
a U-ペン事業のシャルレグループ内に対する貢献(ミッション)
(a) 福祉関連事業(視覚障害者向け物品認識機器)を通して,シャルレブランドのイメージを向上させる。
(b) シャルレ組織販売事業への導入の可能性もある。まずは,シャルレ組織販売事業の新中期戦略策定後,具体的戦術の策定時期に,将来の技術進歩の可能性も含め調整を図りたい。
b U-ペン事業の概略
(a) 短期的目標
短期的(1~2年)には,U-ペン事業の独占販売に徹する。主に,出版社(書籍,雑誌)に向けた再生ペンと視覚障害者に向けた録音・再生ペンの独占販売を行う。出版社向けの再生ペンについては,大手出版社などからも引き合いがきており,平成20年に再生ペン市場が立ち上がる確率は非常に高い。視聴覚障害者向け録音・再生ペンは,視覚障害者用の展示会などでの反響は非常に高く,必ずや日本市場30万人,米国市場100万人程度の需要があるものと思われる。これにより,当該市場の拡大とともに将来的に先駆者利益を得ることを期待する。主に,BtoBを中心としたチャネル戦略で展開を予定する。
(b) 中長期的目標
中長期的(2~5年)には,サプライチェーンの関係各社(チップメーカー,ペン組立メーカー,コンテンツ・オーナー)との密な関係を確立し,当業界において競争優位なポジションを確立する。各社と戦略的提携及び更なる資本提携も視野に入れた関係構築を目指す。
(c) 想定リスク
調達に関し,平成19年10月初旬入手予定の再生ペンの設計品質レベルが想定外に悪い場合,新たな設計及び生産が遅延するおそれがあるが,挽回(制御)が可能である。
競合する企業が出現することや,顧客が当社の調達先から直接購入することが想定されるが,当社への独占的販売を交渉することなどにより,ある程度,制御が可能である。
将来的にコスト競争力のある代替技術が出現するおそれはあり得るが,これは制御することができない。
(d) 損益計画
平成21年3月期
売上高   5億円   営業利益   0円
平成22年3月期
売上高   15億円   営業利益   7500万円
平成23年3月期
売上高   30億円   営業利益   3億円
(e) 必要追加資金の見込額
平成19年10月   6000万円(NLC社として)
平成20年4月   1億円(本件会社の一部門又はNLC社として)
c 事業立ち上げのための課題
平成19年10月中に試作品の品質確認をし,品質確立の目途が立てば,量産品の品質確認後,早ければ平成20年1月から発売を開始する。遅くとも,来期第1四半期(平成20年4月~6月)中の発売開始となる。
d 事業評価基準
(a) 3年後の平成23年3月期に黒字化していること。
(b) ただし,当該事業分野は黎明期につき,予期せぬ外部環境変化があることが予測されるため,市場の成長が見込めないと判断した場合,競合が急速に増えた場合など,四半期から半期単位で市場観測と分析を行う。
e 撤退基準(目安)
(a) 定量的基準として,3年後の平成23年3月期に経常利益が黒字化しない場合
(b) 定性的基準として,①当該市場全体の成長が見込めないと判断した場合,②競争相手が急速に増えた場合,③価格競争が激しくなった場合が挙げられる。これらの場合,結果として,売上高などの定量データに現れる。定義が曖昧なため,四半期単位で市場観測と分析を行う。
イ 審議の結果,出席取締役全員の賛成によりU-ペン事業の提案(NLC社に対する6000万円の貸付けを含む。)が承認された(第1決議)。(甲17の2,乙B10)
ウ 本件会社は,平成19年10月19日,第1決議に基づき,NLC社に対し6000万円を貸し付けた。
(5)  第2決議までの経過
ア 平成19年11月頃,FがNLC社の事業部長から同社の取締役に選任された。(甲18)
イ 平成19年11月15日開催の本件会社の取締役会において,平成20年3月期の中間決算報告がされた。その内容は,以下のとおりである。(甲19)
(ア) 経営成績
平成19年9月中間期の連結業績は,売上高266億5400万円,営業利益10億6800万円,経常利益12億3200万円であった。しかし,ギフト卸売事業による事業整理損失引当金繰入額26億9400万円及びレディースインナー等卸売事業における「シャルレスポーツ」ブランドの棚卸資産評価損7億6800万円をそれぞれ特別損失に計上したことにより,中間純損失22億4700万円となった。
(イ) 財政状態
総資産は,前連結会計年度末に比べ42億0300万円減少し,331億6500万円となった。負債は,前年度に比べ11億1800万円減少し,148億6800万円となった。純資産は,前年度に比べ30億8400万円減少し,182億9600万円となった。自己資本比率は,前年度末の57.2パーセントから55.2パーセントへ減少した。
(6)  第2決議の成立
ア 平成20年2月28日,本件会社の取締役会において,NLC社の事業計画について審議された。P社長の概要の説明に続き,被告Aは,事業の進捗状況,変更点,独自開発,立ち上がりの遅れ,大手企業での販売,海外視覚障害者向け販売,製造準備状況等について説明を行った。その上で,事業計画の修正が可決承認された。商品の販売時期の変更に伴い,利益計画を以下のとおり修正した。
平成20年3月期
売上高   0円   営業利益   ▲9500万円
平成21年3月期
売上高   2億円   営業利益   ▲3000万円
平成22年3月期
売上高   6億円   営業利益   1億9400万円
平成23年3月期
売上高   12億円   営業利益   3億8800万円
また,上記事業計画において,平成20年7月の時点で,営業先として一,二社が確定しており,同年10月以降の納品に向け,製造準備に入っていること,同年10月の時点で,録音・再生ペンの調達体制完備,同年12月の時点で,大手企業が録音・再生ペンを採用することをそれぞれ重要業績評価指標として掲げた。そして,平成21年3月の時点で売上高2億円,大手企業に再生ペンとコンテンツを売り上げるか,少なくとも商談が確定していること,海外視覚障害者向けに録音・再生ペンを年間1万本程度売り上げることを重要目標達成指標として掲げた。
イ その上で,P社長は,NLC社の事業計画に関して9200万円の追加融資の提案を行った。審議の結果,平成20年4月当初に同月から同年7月までの運転資金として4000万円を融資することとし,同年8月以降の融資については,同年7月の事業計画のチェックポイントとして判断することとされた。そして,4000万円の限度で貸付けが可決承認された(第2決議)(甲22)。
(7)  第3決議までの経過
ア 平成20年3月14日開催の本件会社の監査委員会において,監査の中間報告がされた。その中で,NLC社の経営体制に重大なリスクがあり,社内決済ルールの整備及び運用,個別事業立ち上げ時の取引先との契約関係整備,良識や遵法性を重んじる経営体制への改善が必要である旨が指摘された。ポイントとして,①現在は取引先への支払,社内経費の承認に組織内牽制がかからない,社内の決済基準,決裁ルール,審議事項の整備とその運用が直ちに必要である,②事業の開始,撤退する際の基本的な条件整備,相手先の調査,取引開始後の良好な関係作りなど,賠償問題が起きない事業推進が必要である,③株主である親会社への適宜かつ正確なリスク情報提供,良識,遵法性を重視した経営判断が必要であることが指摘された。また,同委員会において,Q(以下「Q取締役」という。),R(以下「R取締役」という。)及びS(以下「S取締役」という。)の各社外取締役が,起票者と決裁者が同じこと等について内部牽制上問題であること,NLC社に関連する架空発注が行われていたと判断すべき事態が生じていたこと等を指摘した。(甲117)
イ 本件会社は,平成20年4月11日,第2決議に基づき,NLC社に対し4000万円を貸し付けた。
ウ 平成20年4月15日開催の本件会社の取締役会において,同年3月期の業績見通しについて,屋上緑化事業からの撤退等に伴う財務状態等を考慮してNLC社の株式の簿価8400万円全額を評価損として特別損失に計上し,その旨公表することが承認された。(甲23)
同日開催の本件会社の監査委員会において,被告Aは,仮装隠蔽目的によるNLC社の行った2000万円の貸付けに係る仮装隠蔽及び4900万円の架空発注について,本件会社から譴責処分を受けた。(甲119)
エ 平成20年5月15日開催の本件会社の取締役会において,平成20年3月期の決算報告がされた。その内容は,以下のとおりである。(甲25)
(ア) 経営成績
平成20年3月期の連結業績は,売上高463億6300万円,営業利益25億4800万円,経常利益28億0900万円であった。他方,子会社の事業整理(ギフト卸売事業の譲渡)等に係る特別損失27億3900万円,レディースインナー等卸売事業におけるブランドの棚卸資産評価損・処分損8億1200万円及び商品カタログ等の表記の誤りによる商品自主回収に伴う費用等5億3800万円をそれぞれ特別損失に計上したことにより,当期純損失は19億7100万円となった。NLC社の当期売上高は0円,純損失1億2700万円であった。
(イ) 財政状態
総資産は,前年度に比べ136億9700万円減少し,236億7200万円となった。負債は,前年度に比べ106億4700万円減少し,53億4000万円となった。純資産は,前年度に比べ30億4900万円減少し,183億3100万円となった。自己資本比率は,前年度末の57.2パーセントから77.4パーセントへ増加した。
オ 平成20年7月11日開催の本件会社の取締役会において,NLC社の事業に関し,同年5月及び6月の売上高が合計216万円であったこと,中国大手出版企業との取組は中止されたこと等が報告された。(甲28)
(8)  第3決議の成立
ア 平成20年7月25日開催の本件会社の取締役会において,NLC社の第1四半期の業績について,被告Aが,NLC社の設立経緯,財務状況,累積損失,販売状況,営業活動状況及び今期の販売見込みなどについて説明した。その中で,同社の売上高228万5000円,純損失2844万3000円であったこと,今期の販売見込みとして,再生ペンで約5100万円,録音・再生ペンで7500万円を目標とすること等が報告された。なお,録音・再生ペンの販売可能時期は平成21年1月からとなり,実質的に第4四半期から売上額が計上されることが報告された。また,NLC社は,従前の重要業績評価指標につき,現時点で営業先として一,二社を確定させたとし,金額は小さいものの同指標を一応達成したとして,利益計画を次のとおり修正した。
平成21年3月期
売上高   1億2600万円   営業利益   ▲3600万円
平成22年3月期
売上高   5億5100万円   営業利益   2億1200万円
平成23年3月期
売上高   9億2300万円   営業利益   4億8200万円
また,新たな重要業績評価指標として平成20年12月末までに随時録音・再生ペンの量産完了までに至るまでの各プロセスを検証すること等を掲げ,同じく新たな重要目標達成指標として年間売上高を1億2600万円とすることとし(ただし,これは平成20年2月28日に承認された年間売上高2億円を下方修正するものである。),撤退基準として①新計画3年目(平成22年度)の単年度黒字化,②新計画5年目(平成25年度)の投資回収(設立後の録音・再生ペン事業以外を含むか,純粋な同事業とするかは別途協議)を掲げた。なお,上記1億2600万円のうち約60パーセントに相当する7500万円は視覚障害者向け商品の売上げを見込んでおり,当該商品が当該事業の主力商品と位置付けられ,同期の計画達成を左右するものとされていた。
イ その上で,P社長は,事業立ち上げ時の事業資金として7500万円の追加融資の提案を行い,可決承認された(第3決議)。(甲29の1・2)
(9)  第4決議までの経過
ア 本件会社は,平成20年8月6日,第3決議に基づき,NLC社に対し,追加融資承認額7500万円のうち4000万円を貸し付けた。
イ 平成20年8月12日開催の本件会社の取締役会において,平成21年3月期第1四半期の決算報告が行われ,NLC社の売上高が200万円,純損失2800万円,本件会社のNLC社の貸付金に対する貸倒引当金組入額が4600万円であること等が報告された。(甲30)
ウ 平成20年11月12日開催の本件会社の取締役会において,平成21年3月期第2四半期の決算報告が行われ,NLC社の売上高が500万円,純損失5100万円であること等が報告された。(甲32)
エ 平成20年11月28日開催の本件会社の取締役会において,平成21年3月期第2四半期の業績報告が行われ,NLC社について,上半期はバードボイスの売上高が大幅な計画未達となったことが影響し,営業損失が5582万1000円,純損失が5156万5000円となったこと,重要目標達成指標として,年間売上高の目標を1億2600万円と設定していたところ(前記(8)ア),同売上高は3100万円に止まる見込みであること等が報告された。(甲33,乙B12)
オ 被告Aは,平成20年中には,U-ペン事業の国内における将来性に限界を感じ,同事業の実務担当の責任者であったFに対し,国外の特にITのインフラが整備されていない新興国における事業展開の可能性について検討するよう指示した。そして,同年12月頃,Fは,被告Aに対し,U-ペン事業に関する有望な開拓先としてベトナム案件を提案した。同月2日,被告Aは,P社長に代わって本件会社の代表執行役に就任した。(甲37の1,乙A17,被告A本人)
カ 平成20年12月25日開催の本件会社の監査委員会において,今後の新規事業展開の可能性や,大阪証券取引所等からの指摘があることを踏まえ,NLC社ほか子会社も対象として遵法性監査を中心とした監査計画書が提案された。(甲123)
キ 本件会社は,平成20年12月25日,第3決議に基づき,NLC社に対し,追加融資承認額7500万円の残りの3500万円を貸し付けた。
ク Fは,自らの人脈を通じてKと知り合った。平成21年2月6日頃,被告Aは,Fの紹介により,Kと面会した。当時,Fは,被告Aに対し,Kのことをベトナムの科学技術省の役人であり,政府の要人につながりを持っている人物である旨説明した。(乙A17,被告A本人)
ケ 平成21年2月13日開催の本件会社の取締役会において,同年3月期第3四半期の決算報告が行われ,本件会社の連結業績は売上高209億4600万円,営業利益19億2200万円,経常利益19億4600万円,純利益14億2300万円,NLC社の売上高が900万円,営業損失が7900万円,純損失が7500万円であること等が報告された。(甲35)
(10)  第4決議の成立
ア 平成21年2月27日開催の本件会社の取締役会において,NLC社の中期事業計画の審議が行われた。その際,NLC社のFは,資料に基づき,同年3月期の売上見込みについて,平成20年7月25日に承認された1億2600万円を達成することは困難で1500万円前後(バードボイス関連のみ)に止まること,理由として,計画全体の6割を占めていた海外視覚障害者向け物品識別機器が販売パートナーの突然の方針転換によりゼロとなったこと,同じく4割を占めていたバードボイスセットの市場の読み違いや市場の落ち込み,録音・再生ペン対応図鑑の新刊発行の後ろ倒しがあったことを説明した。(甲36,乙B13)
また,NLC社は,ベトナム案件を今後の事業の中心にすると説明し,これを前提に利益計画を以下のとおり修正した。(甲36)
平成22年3月期
売上高   14億4200万円(うちベトナム案件13億0700万円)
営業利益   3億2800万円(同上2億7100万円)
平成23年3月期
売上高   33億2100万円(同上28億9800万円)
営業利益   7億0400万円(同上5億4300万円)
平成24年3月期
売上高   70億7300万円(同上60億4800万円)
営業利益   16億0800万円(同上11億4300万円)
イ ベトナム案件に関する説明は,以下のとおりである。
(ア) 前記アの取締役会における同取締役会において,NLC社は,ベトナム案件について,①同国の科学技術省所属の要人(K)で文部省の要人等へのアクセスも容易なビジネスパートナーが存在し,同人のポジション及びネットワークを通して事業基盤を早期に形成することとし,文部省のお墨付きがもらえれば,同国政府が平成20年から平成32年までに予算約550億円をかけて行う「外国語能力向上教育プログラム」の助成金対象となり,成功が限りなく保証される,②販売方法は,録音・再生ペン及び教材のセットを政府関連案件として各学校の売店で販売することとし,当該販売について各学校長から許可をもらっている,③同国での販売のためにJVを設立し,それには同国政府も資本参加することが検討されており,最終的には同国の出資会社になる,④9月の新学期の時期に販売時期を合わせる,常時同国の国営放送局枠(1週間:30分枠×2回)を借りており,当該プログラムで直接録音・再生ペンを紹介する予定である,リスクの対処方法として技術提供者と独占販売契約を締結する,信用調査のため科学技術省からの紹介状を取得する,⑤6月から9月にかけてテストマーケティングを行う旨を説明していた。(甲137)
(イ) 前記アの事業計画において,平成21年度上半期までにベトナム案件の受注,平成22年度9月までにNLC社の主導により一体型製品の投入を行うことを重要業績評価指標として,販売計画(平成22年3月期1億3000万円)の達成及び平成23年3月期の単年度黒字化を重要目標達成指標としてそれぞれ掲げた。(甲36,乙B13)
(ウ) その上で,NLC社の中期事業計画承認の件に関し,①追加融資6000万円,②ベトナム案件発注費用立替資金約4500万円,③ベトナム案件のJVへの出資金1億5000万円等の提案がされた。その際,同社のFが,①当該事業はベトナムの学生向けに録音・再生ペン及びこれを使用する外国語学習テキストを販売するものである,②想定市場規模は1040億円である,③リスクとして,カントリーリスク,競合及びビジネス模擬リスク,ビジネスパートナーリスク,予測数字の読み違い,その他不確定要素を想定し,対応を検討している等の補足説明を行った。(甲36)
ウ その後,質疑応答がされ,S取締役から,商材のテストマーケティングを実施することが必要であり,マイルストーンが抜けているのではないか,前提としてジャッジするためのプロセスの埋め込みがほしいとの意見が付された。これに対しては,被告Aから,①現地の商材の受けが良いが,ユーザーの視点が抜け落ちている点はFも認識しており,平成21年6月の1か月間に反応を調査する旨,②テスト結果を見た上でのぎりぎりで判断することで進めざるを得ないとの意見が付された。Q取締役から,誰がプロジェクトのイニシアティブをとっているのかという質問がされ,Fが自分である旨回答した。R取締役から,JVの資本金,概要等の詳細が不明なため,現時点では出資の判断が難しいのではないかとの意見が付されたが,これに対してはFから,本件会社の立場からすると,JVへの出資金は,NLC社に対する融資という位置付けになり,JVは本件会社の孫会社になる旨,最終的には国(ベトナム)もJVに出資することになる旨の説明がされた。S取締役から,JVに対する1.5億円の出資はどのタイミングで必要になるのかという質疑がされた。これに対し,被告Aから,同年6月のテストマーケティングが終わった段階で投資等の可否を判断しておくべき方向で進めざるを得ない旨の意見が付された。Fから,ベトナム案件発注用立替資金4500万円は同案件JVへの出資金1.5億円に含まれている旨の補足説明がされた。本件会社の法務部長であるN(以下「N法務部長」という。)が,子会社の解散,清算及び事業撤退等を検討するのであれば,撤退等に伴う取引先への違約金など偶発債務等の法的なリスクも勘案した上で今後検討する必要がある旨発言した。また,被告Aは,本件会社の事業の厳しい状況に鑑み,短期に成長を期待できる国・地域や事業分野であれば遂行するという基準も設けることが妥当である旨発言した。審議の結果,NLC社の中期事業計画について,①追加融資の枠はテストマーケティング費及びクロージングまでの撤退費用等を含めて1億円の枠で承認すること(キャッシュアウトは分割で実施する),②上記テストマーケティングの初月(同年6月)の結果を基に撤退の可否を判断すること,③テストマーケティングまでJVへの出資が必要であるか再度確認を行い,仮に出資が必要であれば,必要最低限の金額を出資する方向で進めることで調整を行うこと等が可決承認された(第4決議)。(甲36)
(11)  第5決議までの経過
ア ベトナム案件は,Kの紹介により同国政府の認定を得て同国内の学校で取り扱う教材として販売することを計画の基礎としていた。当時,NLC社は,Kを同国の科学技術省の要人であると同時に,教材を作成する会社のオーナーであると認識していた。また,同社は,ベトナム科学技術省所属の物理電子研究所から,「K博士」が同機関のスタッフであること,同機関が同社のU-ペンの機器と技術に強い関心を寄せていること等が記載された文書を取得していた。(乙A15の1・2,証人N)
イ 平成21年3月13日,被告AがNLC社の代表取締役を辞任し,Fがこれに就任した(甲37の1)。ベトナム案件は,F社長とL部長が実務に携わり,2か月に1回程度の頻度で,被告Aはその進捗状況について報告を受けていた(被告A)。
ウ 平成21年4月10日開催の本件会社の取締役会において,平成22年ないし平成24年の中期事業計画の承認がされた。その中で,NLC社の同期,平成23年及び平成24年の各3月期はいずれも売上高が2億円,営業損失及び純損失が各2億円とされた。(甲39)
エ 平成21年4月28日開催の本件会社の取締役会において,NLC社のベトナム案件の進め方に関し,F社長が現地訪問を終えての最新事業プランについて説明し,審議がされた。NLC社は,録音・再生ペン販売の対象者を高校生から中学生へ変更すること,販売方法を校内及び近隣店舗での店頭販売から学校経由での販売(学校推奨教材として生徒に紹介され,注文取りまとめを学校が代行する。)に変更することを報告した。また,①同年7月末までに製品開発,②同年8月から同年9月末まで量産準備,③同年9月末までに量産版テキスト作成,④同年10月に教科書としての認定等のスケジュールが示された。
その後の審議において,S取締役から,①仲介役がこのビジネスに関わる理由,②政府機関の通達の拘束力,③返品の歯止めとなる文化,法律,特許権等の有効性について質問がされた。これに対し,F社長から,販売はパートナーとなる会社が行う旨回答した。R取締役から,①他社の類似商品に切り替えることを政府機関が認めるのか,②それを理由に返品してくるのかという質問がされた。これに対し,F社長から,①については不明,②について,テキストとペンはセットであり,ペンは採点できるユニークなものであり,他社にまねされることはない旨回答された。T内部監査部長から,事業計画や損益計算書のデータがなく,損益インパクトも分からないままで投資の承認を行うのは早計である旨の意見が述べられた。被告Bから,新規事業は,本件会社の事業と接点がないが,国内外を問わず他の新規案件でも成長性があれば検討する前提であるのかという質問がされた。これに対し,被告Aは,ベトナム案件は本件会社の事業とシナジー効果はないが,ビジョンの方向性と合致していることであれば行う旨述べた。その後,S取締役から,経験のない分野で新規事業におけるリスクは限りなくハイであるが,成功や経験事例が多ければ多いほど成功確率は高いから,本件会社で利用できないか十分に検討すべきである旨の意見が述べられた。これに対し,被告Aは,本件会社側の事情で導入が見送られている旨回答した。S取締役から,判断してほしいことのデータがなく,経営企画部がNLC社へ揃えるべきものをきっちりガイドすべきである旨,テストマーケティングを行うが,それは1億円の範囲内で収まるもので,テストマーケティングの収支,事業計画及び損益計算書を速やかに提出するということでどうかという旨,Q取締役から,テストマーケティングであり,3000万円から4000万円で終わるなら改めて承認することではない,また,一括して商品を受発注することではなく,幾つかに分けて発注を行い,在庫を持ってはどうかという旨,N法務部長から,追加の1億円の融資が必要となるのは年末頃であり,それまでにまずテストマーケティングを行い,平成21年11月頃には成功するかどうかが分かることから,その結果を受けて融資を決めたらどうかという旨,それぞれ意見が述べられた。
これらの審議の結果,①ベトナムの中学生を対象とすることとし,平成21年2月に承認した追加融資承認額1億円(第4決議)の範囲内でテストマーケティングを行うこと,②同年秋頃,受注量に応じて運転資金が必要な状況を見ながら取締役会に融資の承認議案を提出すること,③3年間の損益計算書,キャッシュフローを提出すること,④現地の法律,特許及び契約は法務部長が支援すること等の修正案が可決承認された。(甲40の2)
オ 本件会社は,平成21年4月28日,第4決議に基づき,NLC社に対し,追加融資承認額1億円のうち3000万円を貸し付けた。
カ 平成21年5月14日開催の本件会社の監査委員会において,NLC社が損害賠償請求をされた結果,解決金500万円を支払ったこと,長期借入金が増加しており弁済の目途が立っていないこと等,同社の監査状況報告がされた。(甲125)
キ 平成21年5月15日開催の本件会社の取締役会において,同年3月期の決算報告がされた。その内容は,以下のとおりである。(甲41)
(ア) 経営成績
本件会社の平成21年3月期の連結業績は,売上高257億8100万円,営業利益15億4800万円,経常利益15億9400万円,純利益9億0600万円であった。
NLC社の当期売上高は1100万円,純損失1億0400万円であった。
(イ) 財政状態
本件会社の総資産は,前年度に比べ6億2600万円減少し,230億4500万円となった。負債は,前年度に比べ9億0600万円減少し,44億3400万円となった。純資産は,前年度に比べ2億7900万円増加し,186億1100万円となった。自己資本比率は,前年度末の77.4パーセントから80.8パーセントへ増加した。
ク 平成21年6月24日,本件会社は,株主総会において,委員会設置会社から監査役会設置会社へ移行した。(甲44)
ケ 平成21年8月12日開催の本件会社の取締役会において,平成22年3月期第1四半期の業績について,売上高51億2600万円,純利益7000万円であったこと等が報告された。また,本件会社の取締役の職務分掌として,同年9月1日から,NLC社の担当を被告Aから同Bに変更することが可決承認された。(甲45)
コ 本件会社は,平成21年8月28日,第4決議に基づき,NLC社に対し,追加融資承認額1億円のうち3000万円を貸し付けた。
サ 平成21年9月9日開催の本件会社の取締役会において,被告Bが,ベトナム案件の状況等について報告を行った。その中で,現地側パートナーの人的リソース不足の改善に至らず,NLC社のスタッフの駐在時間を増やすことで対応しており,負担が大きいこと,ハードウェアの量産スケジュールがタイトな状況であること等が課題である旨が述べられた。これに対し,G監査役から,特にベトナム案件は損失が発生すると目立ち,失敗した場合に説明責任が発生する可能性があるため,慎重に行う必要がある旨の意見が述べられた。また,D取締役から,類似品は存在するのかとの質問がされたのに対し,被告Aが粗悪品を含め類似品は存在する旨回答した。
同取締役会において,本件会社の中期経営計画の中で,NLC社に関し,同年2月に承認された事業計画を見直し,新たな事業計画を策定することとされた。(甲46)
シ 平成21年9月17日から同月18日まで,被告Bは,視察のためベトナムへ赴き,Kと面会したほか,現地の学校2校を訪問した。なお,NLC社は,録音・再生ペンの製造を台北市に所在する会社に委託しており,被告Bは,途中,同所への視察も行った。(乙C32,34,被告B本人)
ス 本件会社は,平成21年10月9日,第4決議に基づき,NLC社に対し,追加融資承認額1億円の残り4000万円を貸し付けた。
セ 平成21年10月15日開催の本件会社の取締役会において,M経営企画部長は,H監査役の質問を受けて,NLC社に対する投下資本の累計額が,資本出資額1億円,長期貸付金2億7500万円である旨回答した。被告Bは,同社は財務諸表上債務超過の状態であるが,ベトナム案件を設立当初からやっているわけではなく,1年ほど前から取り組んでいるものであり,投下資本の全体が同案件に関するものではない旨説明した。G監査役から,NLC社自身が販売するとの方針が見直されたことに関し,NLC社自身が現地で販売できないのは許認可等の関係であるのかとの質問がされた。これに対し,被告Bは,JV等も考えているが,まずは現地法人パートナーを使って販売する方向で考えている旨回答した。U内部監査部長から,販売パートナーの現地法人との取引条件等について詳細は決まっているのか,NLC社が在庫を持つことになるのかとの質問がされた。これに対し,被告Bは,基本的には受注発注という方向で考えているが,詳細な条件等はこれからの交渉になり,一,二か月ほど在庫を保有することはある旨回答した。(甲47)
ソ 平成21年11月13日開催の本件会社の取締役会において,平成22年3月期第2四半期の決算報告が行われ,本件会社の連結業績は,売上高114億4800万円,営業利益3億0600万円,経常利益3億3400万円,四半期純利益4000万円,NLC社の当期売上高は1000万円,純損失は4600万円であること,同社の海外事業は,特記事項として,教材コンテンツ開発過程において一部の機能に問題があることが判明し,1か月程度の遅れが発生していること等が報告された。(甲48,乙B17)
(12)  第5決議の成立(甲49の1・2)
ア 平成21年11月27日開催の本件会社の取締役会において,ベトナム案件の本格展開に伴う事業活動に必要となる運転資金,仕入資金を目的としたNLC社への貸付けの提案がされた。その中で,F社長は,融資の目的,平成22年5月までの資金計画等について説明した。また,同取締役会には,資料として,ベトナムの政府機関からのレターとされる文書及びその訳文が提出された。それには,ホームティーチャープロジェクトを当機関が承認していることを証明すること,当機関がNLC社の協力を強く望んでいること等が記載されていた。なお,その後に提出された完成版の訳文によれば,当該レターの内容は,NLCの協力によりホームティーチャープロジェクトが実施されていること,当機関が全面的に本プロジェクト推進に賛成すること等を含むものであった。同取締役会には,録音・再生ペン5万個の受注を示す資料として販売パートナーからのパーチェスオーダーも提出された。
イ D取締役はベトナムの科学技術省の担保は大丈夫か,経営にはリスクがつきものであるが,リスクをどれだけ少なくするかが経営判断の一番重要なところである旨意見を述べた。これに対し,F社長は,担保としてベトナムの科学技術省よりお墨付きレターも入るところ,現時点では同省直下の組織からのレターが送付されている旨回答した。G監査役は事業撤退の判断を行うべき撤退基準を踏まえながら検討すべきである,来年の5月までのキャッシュフローないし資金計画のシナリオ及び売上高が8割や6割になった場合のシナリオを配布すべき旨意見を述べた。被告Aは,NLC社が限られたリソースの中でようやく5万個の受注にたどり着いたもので,よくここまでやったと評価した。H監査役は,資金回収の担保,ベトナム政府の保証,資金回収のルート及び販売パートナーの組織について質問した。これに対し,L部長が,ベトナム政府が本件プロジェクトをバックアップし,販売パートナーの組織はベトナム政府の上層部がプレジデントであり,パートナー企業への出資者は政府関係者である旨,被告Bが,ベトナム政府ではなく販売パートナーからの発注である旨,N法務部長が,新しく設立されたばかりの会社なので信用調査は出てこない旨,それぞれ回答した。これを受けて,H監査役は,カントリーリスクと販売パートナーの性格が明確でないので,売買代金の回収について不安がある旨述べた。被告Bから,NLC社が販売パートナーから引き受けている業務について質問がされた。これに対し,F社長は,戦略を立てて販売パートナーが実行するもので,学校等への訪問計画はパートナー企業が用意している旨回答した。I監査役から,ベースプランを下回る場合の要因について質問がされた。これに対し,F社長は,製品に対する容認度が分からないので,市場のフィードバックを受けながらタイムリーに進めていく旨回答した。被告Aは,NLC社の事業に関しては今期(平成22年3月)判断することが期初からの方針であることから,今回審議しているNLC社への融資は,当該判断に至るまでに必要なオペレーション上の資金の融資である旨意見を述べた。
ウ 審議の結果,D取締役の提案により,上記レターの忠実な日本語訳の完訳を見て問題がないことを条件に付した上で,NLC社に対する7000万円の貸付けを行うことが可決承認された(第5決議)。被告らを含む取締役全員がこれに賛成した。
エ 同取締役会において,NLC社の利益計画が次のとおり下方修正されることも報告された。(甲49の1・2,137)
平成21年度
売上高   3億4730万円   営業損失   3億6100万円
平成22年度
売上高   22億7180万円   営業利益   2億2000万円
平成23年度
売上高   32億6000万円   営業利益   3億5560万円
オ 本件会社は,平成21年12月4日,第5決議に基づき,NLC社に対し7000万円を貸し付けた。
(13)  第6決議までの経過
ア 平成21年12月18日開催の本件会社の監査役会において,I監査役は,NLC社の重要な取引の監査報告として,長期借入金が前年の6000万円から1億7500万円へと約3倍に増えているが,いずれも借入日の約3年後に一括弁済する契約となっている,2年以内に1億円,3年以内に7500万円の弁済が必要であるが,直近の事業計画と照らし合わせると到底返済できる見込みがないので,今後も同様の借入れを行う場合は,貸付け側の本件会社で融資の承認をした責任を問われる可能性があり注意が必要である旨報告した。また,I監査役及びG・H両監査役(以下「I・G・H各監査役」という。)は,3名の総意として,①NLC社の経営状況については,平成22年1月末の売上入金があるかどうかを確認してから監査役会としての対応を考えること,②NLC社の今期支出の外部委託手数料及び研究開発費の使途を支払伝票ベースで監査役会事務局において確認を行い,妥当性のチェックを行うこと,③I監査役が,平成21年12月末までに,NLC社担当取締役に対し,パーチェスオーダーが代金回収の根拠となっていることの事実確認を行うことが確認された。(甲128)
イ 平成21年12月18日開催の本件会社の取締役会において,平成22年3月期11月度業執行報告の件が審議された。被告Bより,NLC社の現地販売パートナーから追加受注の見込みがあること,12月度の予定として,2万セットの完成品の納入,学校へのデリバリーの開始,製品フィードバックの収集をすることが計画されていること等が報告された。G監査役から,取引先が学校から代金を受け取らなければNLC社にはお金が入らないという仕組みなのかとの質問がされた。これに対し,被告Bから,基本的にそのとおりであるとの回答がされた。H監査役から,それでは代金回収の担保として発注書がそれに代わるという従前の説明と異なるのではないかとの質疑がされた。これに対し,被告Bが,それは支払を保証するものではない旨回答した。H監査役から,学校の方でどれだけ需要があるかによってNLC社の代金の回収額が変わるのか,G監査役から,学校に5万セットの製品が売れる,売れないにかかわらず,NLC社は代金を回収できるという理解で良いのかとの質問がそれぞれ行われた。これに対し,被告Bは,G監査役の理解のとおりである,極論をいえば,学校から受注が一切なくてもNLC社は5万セットの製品代金を回収する,最終的には取引先がコーポレートバンク等から借入れを行った上でNLC社に支払うことになる旨回答した。(甲50)
ウ 平成21年12月頃,NLC社は,本件会社の取締役の承認を得ることなく,録音・再生ペン2万1000個の発注を行った。(甲137)
(14)  第6決議の成立
ア 平成22年2月2日開催の本件会社の取締役会において,NLC社の中期事業計画承認の件に関し,平成22年度の売上高を23億2860万円,営業利益を3億7052万円,平成23年度の売上高を33億0320万円,営業利益を5億5720万円と計画することを可決承認した。
審議の中で,F社長は,市場のポテンシャル,戦略的展開,特許出願及び独占的ライセンス契約などについて説明した。被告Bは,中期事業計画,資金計画及び資本政策をセットで平成22年3月に提案予定であったが,NLC社に資金的な問題があり,今回の提案に至った旨説明した。D取締役から,このビジネスモデルでは,製造部門でコストを下げないと利益が出ず,この程度の利益幅では商売が相当厳しく,数字の詰め方及びビジネスの基本の枠組みに問題がある,数字の打ち出し方が非常に大ざっぱでシャルレグループを統括している経営企画部がこれらを的確に把握していないと,理論立てた数字の説明ができない,製品の技術レベルはカラオケの点数付けと変わらないイメージである,一国を相手にその文化や教育に入り込むなら,ビジネスチャンスを生かすような仕掛けが必要である,事業の継続性とコーポレートガバナンスのため,組織的チェック機能を働かせるべきとの意見が述べられた。G監査役から,来年度の発注は契約書で確定しているのかとの質問がされた。これに対し,L部長が,基本契約はあるが,発注書はまだないため確定していないと説明した。L部長は,G監査役の質問を受けて,教科書認定の時期は本年5月であるが,内定はもっと前である旨述べた。D取締役から,受注ありきのビジネスであるから,在庫を作る必要はなく,受注の状況によって製造委託先とは厳しい交渉が可能である旨の意見が述べられた。L部長は,G監査役からの質問を受けて,対応在庫はない旨回答した。N法務部長から,現地販売店から学校への販売に関する契約書面又は受注証票について質問がされた。これに対し,L部長は,契約書面はせいぜい注文書レベルであるが,作成はこれからであり,受注証票については入手する旨回答した。H監査役から,経営のリスク管理として,投資回収及び事業利益を含め,何年度までにどういう数字が未達であれば撤退するのかを視野に入れておくべきである旨の意見がされた。G監査役から,売上金の回収に関して現地銀行との合意書面を入手しておくべき旨の意見が述べられた。なお,D取締役は上記議案の賛否を留保した。(甲52の1)
イ また,同取締役会において,NLC社が現在行っているU-ペン事業を行う前の事業損失を同事業の損失から切り離すことにより,現事業を実質的に評価することのできる体制を構築し,対外的な信用力を向上させるため貸借対照表の健全化を図ることを目的として,NLC社について,資本金及び資本準備金各1億円,合計2億円を減資した上,2億5000万円を出資(増資)することが提案された。その審議の中で,M経営企画部長は,D取締役からの質問を受けて,資本政策及び日々の資金繰りについてはNLC社から提出された需要予測に基づいて経営企画部が主導で行っている旨説明した。
審議の結果,上記の提案は,可決承認された(第6決議)。被告らを含む取締役全員がこれに賛成した。(甲52の2,乙D3)
ウ 本件会社は,平成22年2月4日,第6決議に基づき,NLC社において2億5000万円を増資した。
(15)  第6決議以降の経過
ア 平成22年2月10日開催の本件会社の取締役会において,NLC社の平成22年3月期第3四半期の業績について,売上高1700万円,純損失7700万円であったこと等が報告された。(甲53)
イ 平成22年3月11日開催の本件会社の取締役会において,NLC社のベトナム案件に関し,同年1月に現地税関でトラブルが発生したことが報告された。被告Bは,今回のトラブルは想定していなかった,同年3月末までに決着を付けたい旨説明した。D取締役は,平成21年12月に売上げを計上し,平成22年1月に資金回収するという計画が遅れている理由を税関トラブルやカルチャーの違いで片付けることは疑問であり,経営側にシビアな判断が必要である旨述べた。(甲54)
ウ 平成22年4月15日開催の本件会社の取締役会において,I監査役から,NLC社のベトナム案件に関し,当初計画と大きく乖離している現状に鑑み,従来に増して厳格に事業を監査したいとの意向が述べられた。(甲56の2)
平成22年4月15日開催の本件会社の監査役会において,NLC社のベトナム案件の進捗について,質問状を作成し担当取締役へ回答を求めることが決定された。(甲129)
エ 平成22年5月13日開催の本件会社の取締役会において,平成22年3月期の決算報告がされた。その内容は,以下のとおりである。(甲61)
(ア) 経営成績
平成22年3月期の連結業績は,売上高232億8800万円(3期連続の減少),営業利益5億9400万円,経常利益6億4500万円,純利益1億6900万円であった。
NLC社の当期売上高は2900万円,純損失は1億0100万円であった。
(イ) 財政状態
総資産は,前年度に比べ8億2000万円減少し,222億2400万円となった。負債は,前年度に比べ2億7600万円減少し,41億5800万円となった。純資産は,前年度に比べ5億4400万円減少し,180億6600万円となった。自己資本比率は,前年度末の80.8パーセントから81.3パーセントへ増加した。
同日の取締役会において,D取締役は,NLC社に関し,報告を受けるたびに次に大きなターゲットがあると言われ,その話には具体性があるように見えるが,現実には実現性がなく,非常に不安視している,経営の方向性をどこかで見直さないといけない旨発言した。
オ 平成22年6月8日開催の本件会社の取締役会において,NLC社について,在庫が同年3月末時点において1億7000万円,同年4月に2万個の在庫が増えて現在では2億円台前半となっていることが報告された。(甲62の2)
カ 平成22年6月29日開催の本件会社の取締役会において,NLC社を担当する取締役が,被告BからE取締役に変更された。(甲63)
キ 平成22年6月29日,G監査役は,NLC社に関する問題点を記載した書面を監査役会に提出した(甲64の1)。その内容は,概要,次のとおりである。
平成21年11月27日の7000万円の貸付けを決定した第5決議は,暫定的なオペレーション維持のための融資をすることは合理的な判断と考えられた。平成22年2月2日の増資を決定した第6決議も,受注発注で販売リスクがなく,回収も有力銀行がバックアップしているのでリスクがないことを前提に経営判断として合理性があると考えられた。しかしながら,上記各取締役会において担当者からされた説明は事実に基づくものではなかった可能性が生じている。現時点で,上記経営判断を支えるものとして述べられた根拠が真実であるか否かを早急に確認する必要がある(G監査役作成書面の概要は,以上のとおりである。)。
平成22年6月29日開催の本件会社の監査役会において,G監査役から,NLC社に関する問題点として,平成21年11月27日の取締役会における7000万円の貸付けの承認及び平成22年2月2日の取締役会における2億5000万円の出資の承認は,当該取締役会においてされた報告内容を前提とする限り経営判断としての合理性が認められるが,現時点では,担当者からされた説明は事実に基づくものではなく,結果として上記の貸付け及び出資は合理的な根拠に基づくものではない可能性が生じている,上記説明の内容が真実であるか否かを早急に確認する必要がある,そのために事情を確認し,監査役会の懸念を伝えるために,速やかに社長との面談を実施する旨が報告された。(甲134)
ク 平成22年7月2日,I監査役は,NLC社の担当者に対し,ベトナム案件に関して事情を聴取した。その中で,計画と実績とが乖離した要因として,①予備調査を外部に委託し,直接の確認が不十分だったこと,②政府認可が遅滞するおそれを考慮していなかったこと,③有力銀行の支援が確実なものでなかったこと,④これらの事項についてNLC社の調査が不足していたこと等が挙げられた。(甲135)
ケ 平成22年7月9日,I監査役は,F社長に対し,ベトナム案件に関して事情聴取を行い,その中で,F社長は,①事業推移に対する認識は,平成20年に着手してまだ忍耐期にあると位置付けており,もう少し我慢してやっていくなら道が開けるかもしれない,②業務の推進体制は,責任者に一任してきたが,本社サイドがもっとサポートできたのではないかと考えている,③計画倒れの原因認識として,製造,開発及び販売のそれぞれに狂いが生じた,④リスクに対する認識が甘かった,⑤本件会社からのバックアップがないことに違和感があった等を述べた。(甲135)
コ 平成22年7月15日開催の本件会社の取締役会において,被告Bは,ベトナム案件に関し,当初のF社長及びL部長の説明ではペン(ハード)及びテキスト(ソフト)の両方が政府認定されることで進行していくことが前提であったが,その後,①ペン(ハード)は学校購買ツールとして政府認定するという位置付けであること,②テキスト(ソフト)は政府認定されないことに変更となった旨報告した。(甲137)
サ 平成22年7月28日,I・G・H各監査役を構成員とする本件会社の監査役会は,F社長らに対し,ヒアリングを行った。同人らは,ベトナム案件の現状について,録音・再生ペンの教材認定は決定しており,同年8月上旬には2万人規模の同国の教育関係者が参加するティーチャーズミーティング(教師らが集まって授業で使用する教科書や教材を決定するための会議)が開催され,その後に教材認定に関するレターが交付される旨回答した。(甲137)
シ 平成22年8月27日開催の本件会社の取締役会において,E取締役は,ベトナム案件に関し,同月23日から現地でティーチャーズミーティングが開催されたこと,当初2万人規模と報告されていたが,実際には200人規模であったことが報告された。(甲66)
ス 平成22年8月11日開催の本件会社の監査役会において,NLC社のベトナム案件について,責任者の信用性に疑問が生じており,客観的な資料がないままに事業を進めるのは妥当でない旨を取締役会において発言することが確認された。(甲136)
セ NLC社は,平成22年8月31日時点において,在庫が2億1250万円分存在し,当該在庫分の代金が支払われる目途は立っていなかった。売上金の回収又は回収の見込みはなく,同年2月末時点で1億6500万円存した現預金が,同年6月末推定として7700万円となっていた。なお,同社は,設立以降,毎年1億円以上の当期純損失を出していた。
平成22年8月31日,I・G・H各監査役は,NLC社の業務執行についての監査報告書を作成した。その中で,ベトナム案件について,①キーパーソンの信頼性という最も重要な要素を欠いている疑いが強くなっている,②そもそも上場企業である本件会社が,その適正性を第三者として評価できるような客観的証拠を得られない事業に進出したことの当否が問われるべきである,③キーパーソンの言辞が信頼に足りるものではないことが明らかになった以上,他に継続すべきことを正当化する客観的な事由が存すると合理的に判断できない限り,早急に撤退すべきである,④もっとも,業務執行責任者において,ベトナム案件を継続すべきことを正当化する客観的な事由が存すると合理的に判断するのであれば別であるとの意見が述べられた。(甲137)
ソ 平成22年10月14日開催の本件会社の取締役会において,NLC社のベトナム案件における在庫の取扱いについて協議された。E取締役の説明に対し,H監査役は在庫の引取りが膠着するようであれば厳格な態度を取るべきである旨発言した。(甲69の1)
タ 平成22年10月28日開催の本件会社の取締役会において,F社長から3か月間10パーセント程度の減俸の申出があったこと,管理責任として被告B及び同Aについても同水準の報酬の自主返納の申出があったことが報告された。(甲70)
チ 平成22年11月11日,E取締役は,NLC社の代表取締役に就任し,Fは代表権のない取締役になった。(甲71の2)
ツ 平成22年12月27日開催の本件会社の取締役会において,本件会社の平成24年3月期及び平成25年3月期中期経営計画の件に関し,NLC社を平成23年度下半期で赤字を解消し,平成24年度は黒字化を目指すこととされた。(甲73の1)
テ 平成23年2月14日開催の本件会社の取締役会において,D取締役は,ベトナム案件に関し,目に見えない部分が多く非常にリスクが高いと考えている旨述べた。(甲75の3)
ト 平成23年3月18日開催の本件会社の取締役会において,NLC社への貸付金返済猶予の件に関し,同月末に返済期限を迎える1億円について返済期限を6か月延長して同年9月30日とすることが可決承認された。(甲76の1)
ナ Kは,ベトナムの公務員ではあったものの,少なくとも同国の科学技術省の要人と呼べるような人物ではなく,同国において学校の教材認定に関し,直接的にも間接的にも影響力を持つような人物ではなかった。(甲137,証人N)
ニ 平成23年8月12日開催の本件会社の監査役会において,監査役であるV(以下「V監査役」という。)から,以下のとおり,意見が述べられた。すなわち,①初期の国内案件については経営判断の裁量の範疇と考える,②ベトナム案件については,ベトナムへの進出そのものは経営判断の枠内である,③しかし,未知で特殊な体制の国で事業を行うに際し,慎重な対応が当然必要であったにもかかわらず,キーパーソンに寄りかかり,完全に依存してしまい,その者の言葉を鵜呑みにして進めたことに,調査不足や認識不足があったことが目に付く,④確認の必要があるが,取締役会における増資の判断の時期と出荷後に支払の遅延が生じたりしていて,NLC社の社長が状況を把握して本件会社の取締役会や担当取締役に報告を上げているのかは疑問を持った,⑤ただ,取締役会自体の議論は押さえるべきところを押さえている,⑥取引先が銀行の融資を受けることが決まり,代金回収が間違いなくできる旨のNLC社の回答をもって,取締役会は判断している,⑦そこの現地情報が崩れているのが大きな責任の問題であり,取締役会の判断の前提が覆ってしまっている,⑧そこは取締役会に責任があったというより,責任はNLC社側にあったのではないかという印象を持った,⑨取締役会での議論はそれなりの内容を審議しているので,取締役に責任があるという判断は難しい,⑩被告Bについては,着任時には既にベトナム案件がスタートしており,そういう状況で事業のストップを判断するのは難しかった(V監査役の述べた意見は以上のとおりである。)。また,I監査役から,キーパーソンと当時担当取締役であった被告Bとのコミュニケーション不足の懸念,調査が甘い点など不足していた面はあったが,善管注意義務違反とまではいえない旨の意見が述べられた。その結果,同監査役会において,原告からの取締役らに対する責任追及の訴えの提起請求に対し,本件会社として提訴しない旨決議された。(甲147)
ヌ 平成23年8月18日頃,I監査役,H監査役及びV監査役の3名(以下「I・H・V各監査役」という。)は,原告に対し,前記のとおり原告として提訴しない旨回答した。(甲148)
ネ 平成24年3月,本件会社は,IDS社に対し,NLC社の全株式を譲渡した(乙D2)。同月末の決算期において,録音・再生ペンの在庫品の譲渡により,1億3700万円の売上高を計上した。(甲98,乙C34)
(16)  ライテック社の概要
ア ライテック社は,本件会社の子会社である。本件会社がLED照明事業を開始するに当たり,株式会社がいSから株式会社シャルレライテックに商号を変更した。
イ ライテック社の財務状況及び業績は,以下のとおりである。
資産       負債       純資産額
平成22年3月期   1,000,658円   60,000,000円   ▲58,999,342円
平成23年3月期   785,518,756円   845,366,315円   ▲59,847,559円
平成24年3月期   430,847,985円   982,172,834円   ▲551,324,849円
(甲62の1,82,100)
売上高       営業利益       当期純利
平成22年3月期     0円       ▲224,301円       17,959,157円
平成23年3月期   167,078,965円   ▲255,509,306円   ▲199,848,217円
平成24年3月期   388,234,167円   ▲290,090,802円   ▲491,477,290円
(甲62の1,82,100)
(17)  第7決議(LED照明事業の譲受け)までの経過
ア KFE社は,GPI社と共同で試作,評価,検証を繰り返し,平成21年3月からLED照明事業を開始した。しかし,主力事業であったプリント基板事業の業績悪化のため,LED照明事業の譲渡を検討するようになった。(乙B1)
イ LED照明は,一般的に,消費電力が少なく二酸化炭素の排出を大幅に削減できること,長寿命であること(4万時間(使用時間によるが10年程度)であり,通常の蛍光灯(40W)が1万時間,白熱灯が1000時間とされているのに比べて長い。),環境負荷物質を含まない(水銀不使用である)こと,低温度であること,紫外線が排除されていることが長所として挙げられていた。他方,価格が高いこと,規格や法律がない(人体への影響が不明である)こと,演色性に劣る(白色LEDの場合,白っぽく見える)ことが短所として挙げられていた。(乙B1)
平成21年当時,LED白色照明市場は,黎明期であり,向こう3年間に拡大されるとの予想もされていた。(乙B1)
ウ 平成22年1月頃から,本件会社は,M経営企画部長を中心に,KFE社との間でLED照明事業の譲受けの交渉を開始した。当初,本件会社としては,同事業を完全に譲り受けることを希望していたが,KFE社の意向により,同社と合弁事業を行う方向で進めることになった。(乙C35)
エ 平成22年2月2日,本件会社は,ライテック社によるLED照明事業の譲受けを検討するに当たり,株式会社野村総合研究所から「LED照明市場動向と今後の展望」と題する資料(乙A6)を基に説明を受けた。
オ LED照明事業の譲受けに向けた情報収集
(ア) 平成22年2月25日頃,KFE社から本件会社へ,「LED市場動向と展望」と題する資料(乙A5)が提供された。
(イ) 平成22年3月26日頃,本件会社は,野村證券株式会社から,「テーマ調査:LED照明」と題する資料(乙A7)の提供を受けた。
(ウ) 平成22年4月,本件会社は,とちもと公認会計士事務所から,KFE社のLED照明事業のデューディリジェンスに関する調査報告書の提供を受けた。それには,同事業の強みとして,GPI社及びエヴァーライト社との連携によりLEDチップから製造するため,低価格でLED照明を供給することが可能である旨が記載されていた。(乙A8)
(エ) 平成22年4月9日,本件会社は,TMI総合法律事務所から,KFE社のLED照明事業に関する同年3月17日から同年4月8日までの調査に基づく法務調査報告書の提供を受けた。(甲163)
カ 被告Bは,平成22年3月21日から同月23日まで,台湾にあるGPI社を訪問し,製品の製造設備等を視察した。(乙C35)
キ KFE社におけるLED照明事業の平成22年3月期の売上高は,1億7000万円であった。なお,同社の営業損益については,本件会社において確認していなかった。
(18)  第7決議の成立
ア 平成22年4月15日開催の本件会社の取締役会において,KFE社との合弁会社設立に関する基本合意書締結の件が審議された。被告Bは,その件に関し,概要,以下のとおり,説明した。(甲56の1,乙B1)
(ア) 合弁会社設立により取り組む事業の概要
合弁会社において,当初は,主としてLED蛍光灯を事業所,大型商業施設,コンビニチェーン等,地方自治体,学校法人などに販売又はレンタルする。
(イ) KFE社との提携協議に至った経緯
LED照明事業は黎明期であり,また,製品寿命が非常に長いため,早期にマーケットを攻略する必要がある。
(ウ) KFE社の概要
a 連結経営成績
売上高        営業利益      当期純利益
平成19年3月期   11,521,000,000円   238,000,000円   205,000,000円
平成20年3月期   12,258,000,000円   60,000,000円   27,000,000円
平成21年3月期   208,951,000,000円   ▲641,000,000円   ▲842,000,000円
平成22年3月期予想   6,500,000,000円   ▲487,000,000円   ▲344,000,000円
b 連結財政状態
総資産        純資産      自己資本比率
平成21年3月期   6,743,000,000円   636,000,000円   9.3%
平成21年12月   2,802,000,000円   376,000,000円   13.1%
(エ) 新会社設立のスキームと事業価値の範囲
合弁会社の設立に当たり,本件会社がライテック社に対する6000万円の債権を放棄し,新たに5億円を貸し付け,KFE社がライテック社から事業譲渡代金として3億5000万円及び在庫譲渡代金として1億円を受領する一方,ライテック社に対して2億円を出資する。そして,合弁会社であるライテック社の株式は,本件会社が4000株(51%),KFE社が3843株(49%)をそれぞれ保有する。LED照明事業の価値は,KFE社の顧問会計士による試算によれば3億6000万円,後記の損益計画によれば25億円とそれぞれ試算された。
(オ) KFE社の蛍光灯の優位性①
KFE社のLED蛍光灯は,他社の小売価格が1万8000円から3万8000円であるのに対して1万円と圧倒的な価格優位性がある。
(カ) KFE社の蛍光灯の優位性②
KFE社のLED蛍光灯の優位性として,顧客に安心を与える試験(日本工業標準調査会発行の評価項目,地震評価試験,CE認証試験,熱衝撃試験,防水試験,落下試験,電源ONOFF試験に各合格),基準(重量JIS規格)及び体制(全数電気検査出荷体制,商品出荷トレーサビリティ体制)を備えている。
(キ) 顧客として見込まれる者
確定顧客として太田市(見込み本数1万7748本)が,顧客見込みとして栃木県足利市,群馬県藤岡市,埼玉県草加市等の地方自治体,病院,一般企業等が存在し,全て成約に至ると,約20億円の売上額が見込まれる。
a 損益計画
平成23年3月
売上高 20億4600万円
営業利益 2億5500万円
平成24年3月期
売上高 30億2000万円
営業利益 4億0800万円
平成25年3月期
売上高 45億3000万円
営業利益 8億2400万円
b 販売計画(LED蛍光灯)
平成23年3月期
防犯灯10万本
販売18.5万本
レンタル4.6万本
平成24年3月期
防犯灯15万本
販売27.5万本
レンタル6.9万本
平成25年3月期
防犯灯22.5万本
販売41.2万本
レンタル10.3万本
(ク) 事業リスク
a 大手企業の参入による競争環境の激化が見込まれるが,現在,蛍光灯ではリーディングカンパニーといえる企業はなく,体制を整え,いち早く市場を攻める。
b 現時点で,GPI社から,蛍光灯を最終商品として供給を受けているのはKFE社のみであるが,独占契約を締結しているわけではない。GPI社から,円滑な取引,供給を受けるには,一定程度販売量を伸ばしていかなければならない。
c 現在,最終製品でのキャパシティは,月産3万本(最大5万本)である。対応可能なアッセンブリ工場(組立工場)が存在するが,立ち上げに2,3か月かかるため,需要動向を注視又は制御する必要がある。
イ そして,M事業開発部長は,KFE社は平成21年3月にLED照明事業を開始したこと,当初は製品トラブル等が多発して対応に追われていたが,半年経過した頃に営業活動を本格的に展開し,直近数か月で主力代理店を獲得し,代理店数が増加していること,同年3月期が終了した時点の損益の数値は確認していないこと,KFE社のエコ・プロダクト事業に所属する従業員12名のうち10名程度の引継ぎを予定していること,本件会社からライテック社へ3名程度派遣(出向)する予定であること,KFE社から開示を受けた顧客リストや営業案件の獲得数等から,損益計画どおりの数値を見込んでいること,KFE社は設備投資,仕入資金等を含め資金繰りが非常に苦しく,LED照明事業を存続させていくために苦肉の策として今回の譲渡に至ったこと等を説明した。また,M事業開発部長は,G監査役からの質問を受けて,LED素子そのものの特許権はGPI社の単独であるが,電解コンデンサー制限回路の特許権はKFE社とGPI社の共同出願である旨回答した。(甲56の1,164,乙B1)
ウ 審議の結果,ライテック社がLED照明事業を譲り受け,事業を遂行するための資金として,同社に5億円を貸し付けることを可決承認した(第7決議)(甲56の1)。被告らを含む取締役全員がこれに賛成した。この金員は,譲渡代金4億1000万円(事業資産約1億6000万円(在庫約1億5000万円,その他事業資産1000万円),営業権約2億5000万円)及び当面の運転資金9000万円に充てるためのものであった(甲99,165)。
(19)  第8決議までの経過
ア 太田市は,本件ESCO事業により,同市内の防犯灯1万8000本を平成22年度内(平成23年3月まで)に全てLEDへ交換する計画であった。(乙C16)
イ 平成22年4月20日,本件会社は,KFE社との合弁事業に向けて,ライテック社(当時の商号・株式会社がいS)に対し,貸付金6000万円の債務免除を行った。
ウ 本件会社は,平成22年4月22日,第7決議に基づき,ライテック社に対し5億円を貸し付けた。
エ 平成22年4月28日頃,ライテック社は,KFE社との間で,LED照明事業に係る事業譲渡契約を締結した。その中に,KFE社は,SEC社がJFE社へLED照明を販売した場合にSEC社から1個当たり250円から300円程度のマージンを受領するとの口頭合意があることを確認し,書面による合意を得られるようライテック社へ最大限協力する旨の規定が存在していた。(甲165)
オ 平成22年4月30日,ライテック社は,KFE社に対し,第三者割当増資を行い,1億9900万円の出資を受けた。その結果,ライテック社の持株比率は,本件会社50.13パーセント(4000株),KFE社49.87パーセント(3980株)となった。(甲60)
カ 平成22年6月8日開催の本件会社の取締役会において,被告Aは,ライテック社のLED照明事業における価格の優位性に疑問を呈する旨の発言を行った。(甲62の1)
キ 平成22年8月11日開催の本件会社の取締役会において,被告Bは,ライテック社の事業の損益計画に関し,平成23年度3月期の売上予定額が20億円から17億円を経て最終的に13億円に変更されたことを報告した。変更の理由は,リスクを考慮して15パーセント減額して17億円とし,さらに,LED照明事業を譲り受けた後に個々の案件を精査した結果であるとされた。加えて,被告Bは,LED照明事業に関する問題点として,①GPI社との取引につき,KFE社がマージンの支払を受ける旨の口頭合意があることを前提に,これを書面化するよう事業譲渡契約の中に盛り込んでいたにもかかわらず,KFE社が商流から外され,マージンの支払を受けられなくなったこと,②KFE社のJから同社とGPI社との共同出願であると説明を受けていた電流制限回路に関する特許について,それは同人の誤解で,実際にはGPI社の単独出願であり,ライテック社には特許権がなかったことを報告した。特許権がないことによる事業に影響を及ぼす影響について,被告Bは特許自体が事業取得決定の重要な要素とは考えていないと述べたのに対し,被告Aはこの事業譲渡は商品の競争優位性と販路の存在が重要であり,そのために特許による商品の独自性を担保できることは重要なことであって,そのポテンシャルがなければ事業譲渡を受けていないという意味で見解の違いがある旨述べた。(甲65の2)
ク 平成22年9月頃,本件会社は,株式会社帝国データバンクから,KFE社の状況全般に関する調査報告書の提供を受けた。それには,最近の動向と見通しについて,①同社の提案が太田市のLED防犯灯ESCO事業における最優秀提案として選出されたこと,②前期から今期にかけて連結子会社の売却等グループ内の再編が激しく,全体像の把握が難しい状況であること,③上場企業としての社内体制が問題となる事象が発生していること,④資金面に関して,直近2期の大幅減収と連続最終欠損を経て財務体質の弱体化が見られることなどが記載されていた。(甲162)
ケ 平成22年9月8日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社の太田市防犯灯納入に関する三社間契約締結の件が審議された。これは,太田市が割賦契約を認めないとの姿勢を示したことや,資金調達先に予定していた業者をESCOサービス事業者に含めないことを要望したことを契機として,KFE社が独自の資金調達が不可能となったため,当初の計画を変更し,ライテック社がESCOサービス事業者となって事業を進めることを内容とするものであった。審議の中で,被告Bは,太田市が本件ESCO事業の資金調達方法につき割賦払いを認めなかったこと(同市によるKFE社の提案書の精査不足)によりKFE社が独自に資金を調達することができなくなったこと等を報告した。H監査役から,今後,KFE社に問題が発生するたびに資金提供を求められることを懸念する発言がされたのに対して,被告Bは,今後,ESCO事業において,KFE社と共同で事業は行わない方向で進めていく旨回答した。
続いて,ライテック社の本件ESCO事業に係る融資の件が協議された。その中で,D取締役,E取締役及びG監査役から,KFE社が保有するライテック社の株式につき直ちに担保権の設定を受けるべきであるとの意見が述べられた。そして,①被告Bが同年10月16日までに政府(環境省)のESCO事業に係る補助金支給を含めた他の資金調達に尽力し,②同日の取締役会において同人が資金調達の結果の報告を行い,③②の結果で他の資金調達が見つからなければ本議案の融資を実行すること,④その他,債権者(太田市)の承諾を得ずに譲渡担保を設定する方法を検討することを附帯条件として,可決承認された。(甲67,乙B2)
コ 平成22年9月17日開催の本件会社の取締役会において,本件ESCO事業の状況報告がされた。被告Bは,太田市の意向が二転三転したため,契約締結を先延ばしすることになったが,同市の契約締結の希望は変わっていない旨報告した。審議の中では,今後の本件ESCO事業におけるKFE社との関係について議論が行われた。最終的に,同月8日の貸付け承認の決議はいったん白紙に戻され,KFE社とライテック社との契約を再検討した上で太田市側の最終判断の段階で再提案することとされた。(甲68の2,167)
サ ライテック社の平成23年3月期第2四半期(平成22年9月末)の売上高は1億2500万円,純損失は3600万円であった。(甲184)
(20)  第8決議の成立
ア 平成22年10月14日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社の太田市防犯灯納入に関する三社間契約及び合意書の締結の件が協議された。被告Bは,太田市の防犯灯納入案件について,①当初,KFE社と太田市との割賦契約が予定されていたが,同市が割賦契約を不可とし,KFE社は自らの資金調達ができない事態となったことを踏まえ,事業スキームを見直し,ライテック社が資金調達を行い,同時に同社とKFE社がESCOサービス事業者として太田市と契約することで三社間契約の合意が得られた,②同事業者としての事業への関与,資金調達等は,実質的にライテック社が全て行うことから,工事終了時(平成23年2月末)までにKFE社は同事業のESCOサービス事業者から辞退することが条件となっている旨説明した。また,添付資料には,本件ESCO事業の推進に2億5000万円程度の資金が必要であること,資金繰り計画において平成22年11月から平成23年3月まで総額9200万円が太田市向けの支出として予定されていることが記載されていた。
審議の中で,G監査役は,ビジネス開始直後より2億5000万円の追加融資をすることについて,被告Bには強く責任を感じてほしい旨発言した。同議案は,①ライテック社と太田市が合意すればこれを受けてKFE社が当該事業から離脱する内容に契約を修正すること,②アドバイザリー・フィー1000万円を減額することについてKFE社から合意が得られるように交渉を行い,その結果を受けての決定を常勤取締役に一任することが条件として可決承認された。(甲69の2,168,乙B3)
イ 続いて,同取締役会において,ライテック社への本件ESCO事業に係る融資の件が審議された。その結果,被告Aの意見により,返済期間を提案の7年から2年に変更した上で2億5000万円を貸し付けることが可決承認された(第8決議)。被告Bは特別利害関係取締役として決議に参加せず,被告Aを含むその余の取締役全員がこれに賛成した。(甲69の2,168,乙A17)
(21)  第9の1・2決議までの経過
ア 平成22年11月11日開催の本件会社の監査役会において,H監査役は,①ライテック社の事業買収計画において説明された当初年間販売計画20億円と1億数千万円しか実績が上がっていない現状との乖離について明確にする必要がある,②製品の規格統一による製品の在庫リスクも浮かび上がる可能性がある,③のれん代の償却期間が5年でなく10年とされている根拠も明確にすべきである,G監査役は,①持分比率51パーセントの本件会社に全ての負担が来ていることに疑問がある,②ライテック社についてはこれ以上の資金提供を行わない方が傷が浅いといえる,③当初の見積りが甘すぎることとの関係で撤退の基準を明確にする必要があるとの意見をそれぞれ述べ,同日の取締役会において,適宜,監査役として意見を述べることについて異議なく了承された。(甲138)
イ 本件会社は,平成22年11月29日,第8決議に基づき,NLC社に対し2億5000万円を貸し付けた。
ウ 平成22年12月17日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社の信用状取引(LC)に係る本件会社の債務保証に伴う保証料の徴収の件について審議された。その中で,E取締役は,本件会社が保証料を徴収することでKFE社においても投資持分に対する応分の負担をさせる形で対応する方針である旨説明した。(甲72)
エ 平成22年12月27日開催の本件会社の取締役会において,本件会社の平成24年3月期及び平成25年3月期中期経営計画の件について審議された。ライテック社について,平成23年度の売上高として24億円を目指すこととされた。(甲73の2,乙B4)
オ 平成23年1月13日開催の本件会社の監査役会において,G監査役から,ライテック社の事業計画の達成が良くない状況をどうみていくかが重要である,H監査役から,ESCO事業は行政との接点が非常に重要な事業なので,本件会社の営業経験ではノウハウがなく,非常に厳しいと考える,また,大手家電メーカーがどんどん参入しており,市場はどうなのかという視点では,監査役として違和感があるとの意見が述べられた。(甲140の2)
カ 平成23年2月10日開催のライテック社の取締役会において,同社監査役のWから,平成23年3月期第4四半期に予定されている借入金2億5000万円の返済は苦しい状況と思われる旨指摘された。これに対し,被告Bは,返済については状況に応じて見直していく旨回答した。(甲186)
キ 平成23年3月18日開催の本件会社の監査役会において,I監査役から,ライテック社については2月も販売実績が芳しくなく,月間500万円前後の売上げとなっている,非常に厳しいので来期も注意してみる必要があるとの意見が述べられた。また,H監査役から,子会社については親会社の取締役が子会社役員として関わるのは良いが,逆に子会社からの融資起案者となり,親会社の承認する立場でもある現状については注意して見ていく必要があるとの意見が述べられた。(甲141の1)
ク 平成23年4月14日開催のライテック社の取締役会において,本年度の予算について,年間の利益を1億2240万円(第1四半期-7248万3000円,第2四半期6065万1000円,第3四半期5757万7000円,第4四半期7665万5000円)とすることが承認された。(甲187)
ケ 平成23年4月28日開催の本件会社の取締役会において,本件LED照明事業の売上高が事業譲受時の想定が20億円であったのに対して,結果は1億円にとどまった旨が報告された。(甲79の2)
コ 平成23年9月15日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社に関し,同社販売のLED蛍光灯について,日亜化学工業から特許権の侵害のおそれがある旨の通知があったことが報告された。(甲85,証人N)
サ 平成23年10月14日開催の本件会社の取締役会において,シャルレグループの業務執行の報告が行われた。被告Bは,V監査役からの質問を受けて,ライテック社に関し,競合他社の価格も下落傾向にあるため価格優位性が落ちてきているが,仕入先との価格交渉等を行い,現在は価格優位性を維持できている旨述べた。(甲87)
シ 平成23年11月8日開催のライテック社の取締役会において,本件会社及びKFE社に対する資金融資要請の件について審議された。内容は,同月中に資金ショートが想定されるため,同月18日までに1億5000万円の借入れを求めるというものであった。審議の中で,Jは,本件会社及びKFE社に対する資金の融資要請について,具体的な費用の削減策や,黒字化の目途について明確な説明がされない限り賛成は難しいとの意見を述べた。審議の結果,Jは反対したが,被告B及びXの取締役2名の賛成により,可決承認された。(甲193)
(22)  第9の1・2決議の成立
ア 平成23年11月14日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社への運転資金融資の件について審議された。その中で,被告Bは,ライテックとしては,今後半年の間に運転資金として1億5000万円が必要であることや,KFE社に対するスクイーズアウトの方策の検討状況について説明した。また,被告Bは,前年11月融資に係る2億5000万円の半額に相当する1億2500万円及び今回の融資金1億5000万円の半額に相当する7500万円について,KFE社がその負担分の融資を実行することは難しい旨,総額8億円以上となる借入れの返済計画を盛り込んだライテック社の事業計画を,平成24年1月の本件会社の取締役会に提案する予定である旨回答した。また,被告Bは,今回7500万円の融資を実行してもらっても,平成24年1月末には資金ショートの可能性がある旨発言した。
審議の結果,同取締役会において,ライテック社に対し事業資金として3757万5000円の貸付けを行うことが可決承認された(第9の1決議)。被告Bは特別利害関係取締役として決議に参加せず,被告Aを含むその余の取締役全員がこれに賛成した。(甲88)
イ 平成23年11月17日開催のライテック社の取締役会において,本件会社及びKFE社に対する資金の融資要請の件について審議された。その中で,Jは,KFE社を代表する立場から,①融資額の減額があったとしても,経費削減と黒字化が見込めない状態であり,経営改善の計画性に問題がある,資金不足を生じるからすぐに資金調達を図る前に収益見込みをもっと検証すべきである,②融資の必要性を検討する前提として,資金繰り表の裏付け資料を確認しなければならず,確認を終えるまで決議をすべきではないとして,再度,反対の意見を述べた。
審議の結果,Jは反対したが,被告B及びXの取締役2名の賛成により,可決承認された。(甲194)
ウ 平成23年12月14日開催のライテック社の取締役会において,本件会社及びKFE社に対する資金融資再要請の件について審議された。その中で,Jは,資金調達の趣旨について事業計画の実行性に乏しく,黒字化が見えないこと,費用の圧縮努力のない状態であり,真の立て直しにならないこと,金融機関からの借入調達ができないという状況は経営責任であり,社長を交代すべきであること,合弁契約の解消の協議中であるにもかかわらず,再度資金調達の役員会決議を行うことは横暴であること等,反対の意見を述べた。また,本件会社のN法務部長は,監査役のWからの質問を受けて,新たに行う融資もその半分はKFE社が負担すべきものである旨回答した。
審議の結果,Jは反対したが,被告B及びXの取締役2名の賛成により,可決承認された。(甲195)
エ 本件会社は,平成23年11月14日,第9の1決議に基づき,ライテック社に対し3757万5000円を貸し付けた。
オ 平成23年12月16日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社の資金ショートを回避するため,KFE社の負担分についても融資を実行することとして3742万5000円の貸付けを行うことが可決承認された(第9の2決議)。なお,本件会社が貸付けを決定した場合,KFE社にも出資割合に応じた同様の貸付けを行うことが,合弁契約上の義務として課せられていた(証人N)。被告Bは特別利害関係取締役として決議に参加せず,被告Aを含むその余の取締役全員がこれに賛成した(甲89の1)。
カ 本件会社は,平成23年12月26日,第9の2決議に基づき,ライテック社に対し3742万5000円を貸し付けた。
(23)  第10決議までの経過
ア 平成23年12月27日開催の本件会社の取締役会において,シャルレグループの中期経営計画について報告された。被告Aは,V監査役からの計画の見直しに関する質問を受けて,ライテック社について,数字に期待しすぎた部分があり,かじ取りを変更しなければならないと考えている旨述べた。(甲90,乙B6)
イ KFE社は,平成23年12月29日付けで「事業計画の改善等に関する書面の不提出についてのお知らせ」というプレスリリースを行い,撤退する不採算事業の一つとしてLED照明事業を挙げた。もっとも,同社は,同時に,今後成長が期待されるLEDライト用等のアルミベースプリント基板等の戦略的な受注拡大に取り組む旨も発表していた。(乙C18)
ウ ライテック社のLED照明事業の平成23年12月末時点における当年度累計の売上高は,以下のとおりであった。(甲91)
計画          実績        達成率
代理店   312,000,000円    238,134,000円    76.3%
自治体   650,000,000円    52,843,000円    8.1%
市場開発   88,000,000円    8,520,000円    9.7%
その他         0円    9,277,000円     -%
合計   1,050,000,000円    308,774,000円    29.4%
エ ライテック社の平成24年度の損益計画は,第4四半期に黒字への転換を図り,年間で190万6000円の黒字を計上するというものであった。(甲196)
(24)  第10決議の成立(甲91)
ア 平成24年1月17日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社の事業計画の承認及び運転資金の融資(新規貸付金額1億円,貸付期間平成26年3月31日まで)並びに既存融資の条件変更の件について審議された。その中で,被告Bは,同社の平成24年度の事業計画について説明し,売上高は8億円(不確定要素の多い自治体防犯灯の案件が除外された。)を目指すことが示された。また,平成23年度の営業戦略の振り返りにおいて,震災に伴い,自治体のLED照明導入の優先順位が一時的に低下したこと,街路灯の電力改定が4月から12月に延期されたという外部要因により,導入に至っていないが,継続営業中である旨報告がされた。
イ 審議の結果,ライテック社の資金ショートを回避するため1億円の貸付けを行うことが可決承認された(第10決議)。被告Bは特別利害関係取締役として決議に参加せず,被告Aを含むその余の取締役全員がこれに賛成した。
ウ 本件会社は,平成24年1月17日,第10決議に基づき,ライテック社に対し1億円を貸し付けた。
(25)  第10決議後の経過
ア 平成24年1月31日開催の本件会社の取締役会において,KFE社との合弁契約を解消し,同社が保有するライテック社の株式を譲り受け,同社を本件会社の100パーセント子会社とすることが可決承認された。(甲92)
イ 平成24年2月9日開催の本件会社の取締役会において,平成24年3月期第3四半期の決算報告及び決算短信承認の件について審議された。その中で,被告Bは,H監査役の質問を受けて,ライテック社の業績見通しについて,来期(平成25年3月期)は売上高が8億円,損益はブレイクイーブン(収支均衡するといった意味)で間違いない旨回答した。(甲93)
ウ 平成24年2月頃,ライテック社が受注を目指した秋田市のESCO事業における事業者選定の審査が行われたが,同社が提携する業者は次選交渉権者になるに止まり,受注には至らなかった。(乙C35)
エ 平成24年3月30日,本件会社はKFE社との合弁契約を解消し,同社が保有するライテック社の株式を譲り受け,同社は本件会社の100パーセント子会社となった。(甲95,197)
オ 被告Bは,平成24年4月9日,本件会社の取締役及びライテック社の代表取締役を辞任し,同日付けで,本件会社のE取締役が,本件会社においてライテック社に係る業務を担当することになった。また,同月12日付けで,ライテック社の代表取締役にXが就任した。(甲95,96,198)
カ 平成24年4月26日開催の本件会社の取締役会において,本件会社は,ライテック社に対する貸付金9億2500万円について,会計上の基準により貸倒引当金繰入額として5億5100万円を計上することを決め,その旨公表した。(甲97)
キ 平成24年5月29日開催の本件会社の監査役会において,I・H・V各監査役はいずれも,原告からの取締役らに対する責任追及の訴えの提起請求に対し,本件会社として提訴しない旨を承認した。そして,その頃,原告に対し,その旨回答した。その中で,上記判断の理由が以下のとおり述べられていた。すなわち,平成22年4月の貸付け(第7決議に係る貸付け)については,当時,対象取締役が,新規事業としてLED照明事業に進出するという経営判断をしたことには合理性が認められ,裁量の逸脱があったとはいえない,平成22年11月の貸付け(第8決議に係る貸付け)については,当時,ESCO事業には,経費を考慮しても融資金回収が期待できる状況にあり,その経営判断には合理性が認められ,裁量の逸脱があったとはいえない,平成23年11月及び12月の貸付け(第9の1・2決議に係る貸付け)及び平成24年1月の貸付け(第10決議に係る貸付け)については,当時,LED照明事業を開始して2年すら経過していない時期で,事業戦略を再検討したり,損益を改善したりする取組を実行する時期にあり,直ちに事業活動を中止して撤退すると判断すべきであったとはいえず,その経営判断には合理性が認められ,裁量の逸脱があったとはいえないというものであった。(甲159)
ク 平成24年5月30日開催のライテック社の取締役会において,同年3月期第4四半期の業務報告がされた。その中で,Xは,同年3月期の防犯灯における売上目標が未達成となったため,平成25年3月期の事業計画の見直しを行っていく旨述べた。(甲199)
ケ 平成24年6月26日開催の本件会社の取締役会において,取締役のYから,ライテック社の平成25年3月期の売上高が計画(8億円)の75パーセント程度で推移した場合,年明け頃に資金ショートが発生する可能性がある旨の説明がされた。(甲101)
コ ライテック社の平成25年3月期第1四半期の売上高は8365万3000円,純損失は3612万3000円であった。(甲203)
サ 平成24年7月20日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社の事業を撤退させることが可決承認された。(甲102)
シ 平成24年10月15日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社の在庫が当該時点で1億6000万円である旨報告された。(甲109)
ス ライテック社の平成25年3月期第2四半期の売上高は2億2431万円,純損失は6966万4000円であった。(甲208)
セ 平成24年12月3日,本件会社は,ライテック社に対する9億2500万円の貸金債権を全額放棄した上,サンコーテレコム社に対し,ライテック社の全株式を代金2000万円で譲渡し,LED照明事業から撤退した。(甲113)
(26)  補足説明
ア 原告は,第5決議において貸付けの条件とされたベトナム科学技術省からの手紙の正確な日本語訳について,同決議後に当時の取締役が接した形跡がない旨主張するが,証拠(甲137,証人N)によれば,第5決議後に正確な日本語訳が作成されて各取締役に開示され,稟議を経た上,当該貸付けに至ったことが認められる。
イ N法務部長は,証人尋問において,KFE社からのLED照明事業の譲受けに当たり,被告らに対し,財務デューディリジェンスをした方が良いとの意見を述べた旨供述する。また,D取締役も,証人尋問において,財務デューディリジェンスの必要性について意見を述べた旨供述する。しかしながら,上記の意見はいずれも本件会社の取締役会の議事録には記録されておらず,財務デューディリジェンスの要否が議論になった旨の記録も存在しない。これらに照らすと,上記各事実を認めるに足りない。
2  争点(1)(被告らの善管注意義務違反の有無)について
(1)  善管注意義務違反の判断に関する基本的な考え方
前記のとおり,本件各決議に基づく貸付け及び増資は,いずれも本件会社が子会社であるNLC社又はライテック社を通じて行う新規事業の遂行のため当該子会社に対する資金調達を目的として行われたものである。このような新規事業に係る貸付け及び増資の判断については,事業の開始時においてはもとより事業の開始後においても,当該新規事業の成功の見込み及び将来の見通し,失敗した場合に会社に与える悪影響,親会社及び子会社の業績予測,財務状況等を総合的に考慮する必要がある。そのため,上記のような貸付け及び増資に関する意思決定は将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられた事項であるというべきであり,その決定の過程,内容に著しく不合理な点がない限り,取締役としての善管注意義務違反に違反するものではないと解される。
(2)  NLC社に対する貸付け及び増資について
ア 第1決議について
(ア) 前記認定事実(2)ないし(4)のとおり,NLC社は本件会社を中心とした企業グループ(シャルレグループ)の中で,特に新規事業を扱うことを目的として設立された会社であり,平成19年9月28日の第1決議は,NLC社が新規事業としてU-ペン事業を開始するために必要な資金として6000万円の貸付けを承認したものである。
前記認定事実(1)によれば,本件会社は,平成12年頃から本業による売上高の下落傾向が続いており,新規事業の開発が課題とされていたこと,シャルレグループの業績は平成17年3月期から連続して損失を計上していたことが認められる。そのような中,U-ペン事業は,紙媒体に印刷したドットコード(情報を点で表した記号)をタッチペンで読み取り,パソコンやペン自体(録音・再生機能付き)で動作・制御を行う技術(ウェブサイト表示,動画表示,音声等)を内容とするものであり,当該技術を利用した商品の市場は,当時,国内外を問わず形成されていない全く新しい事業であった(前記前提事実(4)ア)。NLC社は,U-ペン事業に関し,①短期的に同事業の独占販売に徹すること,②中長期的にサプライチェーンの関係各社との密な関係を確立し,業界において競争優位なポジションを確立すること,③想定リスクとして,商品の調達に関して新たな設計及び生産が遅延するおそれ,競合企業の出現並びに顧客が調達先から直接購入するおそれが考えられるが,これらに対してはある程度対応(制御)が可能であること,将来的にはコスト競争力のある代替技術が出現するおそれはあること,④損益計画として,平成21年3月期に売上高を5億円,平成22年3月期に売上高を15億円,営業利益7500万円とすること等,⑤必要追加資金の見込額として,平成19年10月に6000万円,平成20年4月に1億円を計上すること,⑥事業評価基準として,平成23年3月期に黒字化していること,ただし,市場の成長が見込めないと判断した場合や,競合が急速に増えた場合など,四半期から半期単位で市場観測及び分析を行うこと等を計画していた。以上からすると,U-ペン事業はリスクの低いものとはいえないが,成功した場合には大きな利益を得る可能性のあるものであり,上記のとおり相応の事業計画の下に決定されたものであったことからすると,それが経営判断として不合理であったとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,第1決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,第1決議に係る貸付けの目的であったU-ペン事業は,以前に撤退予定であったi-touch事業と実質的に変わらないものであり,同事業によっていかにして本件会社の利益につなげるのかという融資の目的が十分に検討されておらず,無目的に行われたものである旨主張する。しかしながら,前記認定事実(3)エによれば,i-touch事業はNLC社から本件会社への承継がいったん決定されていたことが認められるものの,必ずしもその時点で事業の撤退が決定していたとはいえない。また,前記認定事実(3)オによれば,上記決定が行われた取締役会と第1決議に係る取締役会の間には本件会社の全取締役の交代があり,上記の承継に係る決議と第1決議では取締役会の構成員が異なっているのであって,それぞれの経営判断の違いが決議に影響していることがうかがわれる。そして,同決議に係る取締役会は,U-ペン事業を有望な新規事業と判断し,その遂行のために貸付けを決定したものであるから,それが無目的に行われたものであるとはいえない。
また,原告は,上記と同様の理由からU-ペン事業は収益性が見込めないものであり,同事業のための貸付けを行う必要はなかった旨主張する。しかしながら,上記のとおり,以前に行われた本件会社におけるi-touch事業に関する決定は,同事案を本件会社へ引き継ぐというものであり,U-ペン事業の収益性が見込めないことの根拠になるものではなく,第1決議の当時から,同事業に収益性が見込めなかったということはできない。
b 回収可能性について
原告は,U-ペン事業は,業績が低迷していたi-touch事業と実質的に同様のものであり,同事業からの収益は見込めない状況であったから,U-ペン事業のための当該貸付けも回収可能性がなかった旨主張する。しかしながら,前記aのとおり,U-ペン事業に収益性の見込みがなかったとはいえない。また,第1決議に係る貸付けは新規事業の資金調達のためのものであるから,その回収のリスクについては,新規事業の成功の見込みや,成功した場合の利益の大きさ等との関係で検討するのが相当である。貸付けについて回収不能となるリスクが一定程度あったとしても,事業の成功の見込みが高い場合や,成功した場合の利益が大きい場合には,会社として許容し得る範囲でリスクを負担することは経営判断における裁量として合理性が認められる。前記(ア)のとおり,U-ペン事業は成功した場合には大きな利益を得る可能性のあるものであり,また,後記のとおり,貸付額6000万円は,本件会社の規模等に照らし,許容し得るリスクの範囲であったと認められる。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,第1決議に関し,U-ペン事業の需要や将来性の客観的裏付けが乏しい点,リスクについて楽観的な予想を行っている点,短期間での売上高の下方修正がされている点から,意思決定に合理性がなかった旨主張する。しかしながら,前記(ア)のとおり,U-ペン事業は,それまでになかった全く新しい技術を使ったいまだ市場の形成されていない事業であったことに照らすと,予測される将来的な商品の需要,売上高,リスク要因等について不確定な部分が多く,具体的な予測には限界があることや客観的な資料が不足すること,内容が変動することはやむを得ない面があるといえる。NLC社におけるU-ペン事業に関する前記(ア)の事業計画の内容に照らすと,それらを基に同事業の開始及びこれに対する貸付けを承認した第1決議における意思決定が不合理であったとはいえない。
d 貸付額の相当性について
原告は,第1決議の当時の本件会社及びNLC社の財務状況等に照らし,6000万円の貸付額は多額に過ぎる旨主張する。しかしながら,前記認定事実(1)によれば,本件会社は,平成19年3月期の連結決算において25億4500万円の当期純損失を計上していたことは認められるが,純資産額は213億8100万円に上り,グループを含めた本件会社の規模に照らし,第1決議に係る貸付額が過大であったとはいえない。NLC社は,シャルレグループにおける新規事業を担うことを目的とした,設立間もない会社であったこと,当時,特に目立った業績を上げている事業がない中で,U-ペン事業は将来的な発展が期待されることを前提とした貸付けであったことに照らすと,同社自体が,当時,債務超過であったことや売上高が僅少であったことは,上記の評価に影響を与えるものではない。
e その他
原告は,U-ペン事業に関し,商品の需要,将来の市場規模,リスクへの対応等について,具体的な調査及び説明が不足していた旨主張する。しかしながら,前記cのとおり,同事業は既存の市場がなく,将来の予測に係る調査及び説明の具体性には限界があることを踏まえると,第1決議当時の本件会社における事実の調査や説明が特に不足していたとはいえない。
(ウ) 以上によれば,第1決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に執行役として関わった被告Aに善管注意義務違反は認められない。
イ 第2決議について
(ア) 前記認定事実(6)のとおり,平成20年2月28日の第2決議は,U-ペン事業を継続するために必要な追加資金として4000万円の貸付けを承認したものである。
前記ア(ア)のとおり,本件会社の取締役会は,NLC社が新規事業としてU-ペン事業を開始することを承認したものであり,上記貸付けは事業継続のための追加資金であるから,上記貸付けを行わないことは同事業の中止,撤退を意味する。したがって,上記貸付けを承認するか否かは同事業を継続するのが相当か否かの判断に係ることになる。前記認定事実(4)ア(ウ)b(e)によれば,当初の事業計画において,平成20年4月に必要な追加資金として1億円が計上されていたことが認められるから,この時期に追加融資を行うことは当初からの予定であったといえる。そして,第2決議の時点までに,そのままU-ペン事業を継続することが不相当であるとする事情が新たに発生していたとは認められない。
前記認定事実(6)アによれば,U-ペン事業の販売開始の初年度売上予測が第1決議時の5億円から約5か月後の第2決議時には2億円へ低下していたことは認められる。もっとも,その時点では,売上げの大部分を占める録音・再生ペンの販売可能時期が遅れる予定となったことが認められ,上記の修正にはその影響が考えられる。また,U-ペン事業は開始から間もない事業であり,一般的にみても,開始当初に売上予測が変動することはあり得ることであって,このことをもって,直ちに事業の継続について見直すことが要請されていたとはいえない。
以上からすると,この時期にU-ペン事業継続のために追加資金を貸し付けたことが不合理であったとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,第2決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,第2決議に係る貸付けは,U-ペン事業の商品に係る製造会社の変更等事業計画の変更に伴う貸付けであるが,関係する事実及び資料の検討が不十分であった旨主張する。しかしながら,前記第3の2(2)ア(ア)のとおり,U-ペン事業は,それまでになかった全く新しい技術を利用した,いまだ市場が形成されていない事業であり,事業計画の内容に変動があることはやむを得ない面があるといえる。したがって,商品の製造会社の変更や多少の計画の遅れ等が貸付けの必要性に影響するものとはいえない。
また,原告は,第1決議に係る貸付けが目的及び必要性を欠いており,その後,NLC社の経営が好転したという事情がないことから,第2決議に係る貸付けについても目的及び必要性が欠けている旨主張する。しかしながら,第1決議に係る貸付けが目的及び必要性を欠くものでないことは前記第3の2(2)ア(イ)のとおりであり,上記主張は前提を欠いている。
b 回収可能性について
原告は,第1決議の約5か月後(第2決議時)には平成20年度の売上予測が4割も下方修正されていること,U-ペン事業が既に撤退予定であったi-touch事業と同一の事業であったこと,平成21年3月期第1四半期で既に1億4000万円の営業赤字を計上していたことからして,第2決議に係る貸付けの回収可能性は極めて低かった旨主張する。確かに,U-ペン事業はいまだ商品市場も確立していない不確定要素の多い事業であることからしても,相当のリスクを持った事業であることは否定できない。しかしながら,前記ア(イ)bのとおり,貸付金の回収のリスクは,同事業の成功の見込みや成功した場合に得られるであろう利益等との関係で考慮すべきであり,U-ペン事業は成功した場合には投下資本を上回る利益が上げられる事業であったといえる。前記第3の2(2)イ(ア)のとおり,売上予測が第1決議時から4割下方修正されてはいるが,必ずしも事業の継続を左右する問題とはいえない。また,後記のとおり,貸付額の4000万円は,本件会社の規模等に照らし,許容し得るリスクの範囲であったというべきである認められる。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,第2決議に関し,U-ペン事業が抱える諸問題の検討に必要な資料が欠けたままに決議が行われており,意思決定過程に合理性が認められない旨主張する。しかしながら,前記bのとおり,U-ペン事業はいまだ商品市場も確立していない不確定要素の多い事業であり,事業計画の具体性や客観的な資料の収集に限界があることや,事業計画の内容が変動することはやむを得ない面があるといえる。原告は,第1決議から第2決議まで半年足らずしか経過していないことやその間に売上予測が大幅に下方修正されたことを指摘するが,前記(ア)のとおり,第2決議に係る貸付けは事業開始当初から予定されていたものであり,売上予測の下方修正も事業の継続を左右する問題とはいえない。そして,第1決議に係る取締役会において検討された前記ア(ア)の事業計画の内容に照らすと,これを前提として行われた第2決議における意思決定過程が不合理であったとはいえない。
d 貸付額が相当性について
原告は,第2決議の当時の本件会社及びNLC社の財務状況等に照らし,9200万円ないし4000万円の貸付額は多額に過ぎる旨主張する。しかしながら,前記第1決議と同様,グループ会社を含めた本件会社の純資産額その他の規模(前記認定事実(1))に照らすと,第2決議に係る貸付額が過大であったとはいえない。
e その他
原告は,第2決議に関し,被告Aが,取締役会において,第1決議に係る貸付金の使途,追加貸付けを必要とする理由,再生ペンの製造会社の変更理由,平成20年度の売上予測が下方修正された理由,録音・再生ペンの販売時期の遅れ等について詳細な説明をすべきであった旨主張する。しかしながら,第2決議に係る貸付けは,第1決議に当たって検討された事業計画において既に予定されていたものである。そして,原告が指摘する各事実は,いずれも当初の事業計画に大きな影響を与えるものとはいえないから,当時の取締役会において,これらの説明が必須であったとはいえない。
(ウ) 以上によれば,第2決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に執行役として関わった被告Aに善管注意義務違反は認められない。
ウ 第3決議について
(ア) 前記認定事実(8)のとおり,第3決議は,平成20年7月25日,U-ペン事業を継続するために必要な追加資金としてNLC社に対する7500万円の貸付けを承認したものである。
前記ア(ア)のとおり,本件会社の取締役会は,NLC社が新規事業としてU-ペン事業を開始することを承認したものであり,同事業の継続を相当と判断する限り,事業が軌道に乗るまでに必要な資金について貸付けを行うことには必要性及び合理性があったと認められる。さらに,前記ア(ア)のとおり,当初の事業計画において,必要な追加資金として1億円が計上されており,当該貸付けは第2決議に係る貸付金と合わせて合計1億1500万円と上記金額を1500万円上回るものではあるが,概ね予定された追加融資であったといえる。
他方,前記認定事実(8)及び(9)によれば,NLC社の平成21年3月期第1四半期(平成20年4月~6月)の業績は,売上高が228万5000円に止まり,純損失2844万3000円を計上していたこと,平成21年3月期の利益計画を売上高1億2600万円,営業損失を3600万円へ下方修正していることが認められる。これらからすると,第3決議時点において,U-ペン事業の見通しは開始当初よりも厳しいものになっていたということはできる。しかしながら,そうであるとしても,同事業が開始されてからいまだ1年足らずの時期であり,同事業の性質上,売上額が予測どおりに伸びないことは十分に想定されることであって,上記事情をもって,直ちに事業の継続を見直すことが要請されていたとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,第3決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,第3決議に係る貸付けは,不十分な事実及び資料に基づき承認がされており,支援する目的及び必要性が欠如していたことが推認される旨主張する。しかしながら,前記(ア)のとおり,当初の事業計画の時点から概ね予定されていた追加融資であり,U-ペン事業の継続を前提とする限り,資金調達の目的と必要性のある貸付けであったと認められる。
b 回収可能性について
原告は,前回の貸付けから半年も経過しないうちに追加融資がされていること,NLC社がその時点で既に2期連続で約1億円の営業赤字を計上していたことからすると,貸付けに対する回収可能性は第2決議時よりも更に低下していた旨主張する。この点について,前記(ア)のとおり,U-ペン事業の見通しは開始当初よりも厳しいものになっていたこと,同事業は一定のリスクを持った事業であることは認められる。しかしながら,前記のとおり,貸付金の回収のリスクは,同事業の成功の見込み及び成功の場合に得られる利益等との関係で考慮すべきであり,U-ペン事業は,それが成功した場合には投資資本を上回る利益が上げられる事業と見込まれていた。また,原告は,従前の貸付金が弁済されておらず,その予定も明らかにされていなかった旨指摘するが,それらの貸付けが新規事業の開始当初の資金調達を目的とするものであったことに照らすと,その時点で弁済の事実や弁済期の定めがなかったことにより回収可能性が否定されるものではない。そして,今回の貸付けは基本的に事業開始当初から予定されていたものであり,第2決議時以降,大きな事情の変更も認められない。また,後記のとおり,貸付額の7500万円は,本件会社の規模等に照らし,許容し得るリスクの範囲であったと認められる。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,第3決議に関し,NLC社の事業計画の中期財務目標である平成21年3月期の売上高2億円に対して,当時,約1パーセントの228万5000円に止まっており,事業計画達成の見込みがないにもかかわらず,何ら具体的な資金計画,損益計算表が示されないまま貸付けが承認されており,意思決定過程に合理性が認められない旨主張する。なるほど,上記の状況からすると,平成21年3月期における売上高の達成は困難な状況にあったことは認められるが,同事業が開始されてから1年足らずの時期であり,同事業の性質上,売上予測が変動することは一般的に想定され得るものであったこと等を踏まえると,この段階では事業の継続を見直すことが直ちに要請されていたとはいえない。
また,原告は,第3決議に関し,第2決議時に提示された重要業績評価指標のうち,平成20年10月以降の納品に備えた製造体制について言及がないまま貸付けが承認されており,意思決定過程に合理性が認められない旨主張する。しかしながら,前記認定事実(8)アによれば,同決議に係る取締役会において,重要業績評価指標として,同年12月までに録音・再生ペンを量産完了できるよう各プロセスの検証を掲げることが提案されており,同商品の調達体制についても検討がされたことが認められる。
さらに,原告は,第3決議に関し,U-ペン事業の見通しや外国企業との提携予定及びその内容,生産発注及び販売契約の時期及び数量,販売契約前の生産発注リスク,融資の実行と条件,貸付金の使途及び金額などに関する十分な議論がされないまま貸付けが承認されており,意思決定過程に合理性が認められない旨主張する。しかしながら,前記認定事実(8)アによれば,同決議に係る取締役会において,被告Aが,NLC社の設立経緯,財務状況,累積損失,販売状況,営業活動状況及び今期の販売見込みなどについて説明したことが認められ,同事業の継続及びこれを前提とした貸付けの必要性についての判断に必要な議論はされていたものと認められる。
以上によれば,U-ペン事業の継続及びこれを前提とする貸付けを承認した第3決議における意思決定過程が不合理であったとはいえない。
d 貸付額の相当性について
原告は,第3決議の当時における本件会社の財務状況及びNLC社の売上高に照らし,7500万円という貸付額は多額に過ぎる旨主張する。なるほど,前記認定事実(1)によれば,本件会社は,平成19年3月期に続き平成20年3月期でも,連結決算において,当期純損失19億7100万円を計上していたことが認められるが,純資産額は186万1100円に上っており,前記第1決議と同様,グループ会社を含めた本件会社の純資産額その他の規模に照らすと,上記貸付けは,それまでの貸付金の累積額(1億円)を考慮しても,本件会社の存立に影響を与えるようなものではなく,第3決議に係る貸付額が過大であったとはいえない。
e その他
原告は,第3決議に係る取締役会において,引き続きU-ペン事業を支援する合理性,商品の製造準備,第2決議に係る貸付金の使途,年間販売見込額の下方修正の理由,第3決議の時点での販売実績が計画に比べて著しく低迷している理由等について説明が十分でなかった旨主張する。しかしながら,前記aないしdのとおり,同決議に係る貸付けには必要性,合理性があったことが認められ,当該取締役会において,説明の不足や内容に不適切な点があったとはいえない。
(ウ) 以上によれば,第3決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に執行役として関わった被告Aに善管注意義務違反は認められない。
エ 第4決議について
(ア) 前記認定事実(10)によれば,平成21年2月27日の第4決議の時点において,NLC社の平成21年3月期の売上高について目標の1割強に止まる見込みであったこと,その理由は,計画の6割を占めていた海外視覚障害者向けの録音・再生ペンの売上げが販売パートナーの方針転換により全くなくなり,残り4割を占めていたバードボイスセットの売上額も落ち込んだこと等にあったことが認められる。これらのことからすると,U-ペン事業は,従前の計画に照らして明らかに停滞しており,抜本的な見直しが必要な時期にあったものといえる。また,第4決議に係る取締役会においては,NLC社のU-ペン事業について,それまでの視覚障害者向け商品からベトナム案件へ今後の事業の中心を移すものとされた。これは,従前の方針からの大きな転換であり,実質的には新たな事業の開始に準ずるような重要な判断であったといえる。
前記認定事実(10)イによれば,ベトナム案件は,①同国が計画する外国語能力向上教育プログラムの予算規模が約550億円に上ると見込まれる中,NLC社のビジネスパートナーとして,同国の文部省の要人にアクセスすることが容易な人物であるKが存在すること,②Kの協力により,NLC社の録音・再生ペンを同国内の各学校の売店で販売することができること,③同国内における販売を目的とするJVの設立及び同国政府の資本参加が検討されていること等が,推進の理由とされたことが認められる。このベトナム案件は,その市場規模からして,実現すれば多額の売上高及び利益が見込まれる魅力的な事業であったといえる。他方,当時,取締役会において,ベトナム案件に関する事業の実現性を裏付ける客観的な資料は示されていなかった。また,本件会社は,ベトナムを始め,海外におけるビジネスの経験を特に有しているものではなかった。これらを踏まえると,ベトナム案件を推進するに当たっては,上記のようなリスク要因を含め,多角的に検討することが要請されていたというべきである。そのような観点からすると,第4決議に係る取締役会において,ベトナム案件の推進を決定するに当たり,検討が十分であったかについては,疑問の余地がある。
もっとも,上記のとおり,ベトナム案件は,それが実現すれば大きな利益を得ることが期待できる魅力的な事業であったこと,同国はU-ペン事業に関しても将来的に大きな市場規模や経済成長が期待できる新興国であり,その実現に向けて協力が期待できるビジネスパートナーが存在するとされていたことからすると,差し当たり同案件の推進及びこれを前提とした貸付けを承認したことについては,経営判断として相応の合理性があったということができる。
(イ) これに対し,原告は,第4決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,NLC社は,半年程度の期間で,U-ペン事業の計画につき,事業の中心をベトナムの高校を対象とした語学学習用の録音・再生ペンの販売へと大幅に変更しており,これは同事業の内容が当初から全く定まっていなかったことを示すものであって,これを前提とする第4決議に係る貸付けは必要性がない旨主張する。しかしながら,前記ア(ア)のとおり,U-ペン事業は,いまだ商品市場も確立していない不確定要素の多い事業であり,当初の計画後に有望な販売先が見つかることもあり得る事態であり,直ちに,当初の計画が不十分であったとはいえない。そして,前記認定事実(10)のとおり,第4決議に係る取締役会において検討されたベトナム案件の事業計画の内容に照らすと,これを遂行するための貸付けの必要性がなかったとはいえない。
b 回収可能性について
原告は,第4決議時において,売上高,営業損失の見込みがいずれも予測よりも悪い状況であり,平成21年3月期の売上見込みも計画を大きく下回る状況にあったことや,NLC社が2年連続で約1億円の営業赤字を計上していたこと,それまでの貸付けに対する弁済の予定も明らかにされていなかったことからして,第4決議に係る貸付けの回収可能性は極めて低かった旨主張する。この点,第4決議の当時,従前のU-ペン事業の事業計画は明らかに停滞しており,抜本的な見直しが必要な状態にあったと見られることは前記(ア)のとおりである。しかしながら,同事業が開始されてから1年足らずの時期であり,同事業の性質上,売上予測が変動することはあり得ることである。しかも,第4決議は,U-ペン事業に関し,それまでの視覚障害者向け商品からベトナム案件へ今後の事業の中心を移すという,従前の方針からの大きな転換を前提とした貸付けを承認するものであり,同案件の見通しの如何がその当否の判断に当たり,重要な要素となるというべきであって,業績に関する上記事情をもって回収可能性の観点から事業の継続を見直すことが要請されるものとはいえない。
また,原告は,従前の貸付金が弁済されておらず,その予定も明らかにされていなかった旨指摘するが,前記ウ(イ)bと同様,それらの貸付けが新規事業の開始当初の資金調達を目的とするものであったことに照らすと,この点をもって回収可能性が否定されるものではない。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,U-ペン事業は自ら下方修正した目標さえも達成できないような業績であり,事業からの撤退を含めた検討が必要な状況であったにもかかわらず,新たに提案されたベトナム案件に関する計画について客観的な資料に基づく検討がされておらず,①同国文部省のお墨付きの有無に関し,同国政府が発行した書面,ビジネスパートナーであるKに関する資料,同人とのやりとりをした記録,②各学校長からの許可に関し,許可状等,③国営放送での紹介予定に関し,契約書又は覚書等,④ホームティーチャープロジェクトに関し,ベトナム政府機関がNLC社に発行したとされるレターの正訳等を収集した上で判断すべきであった旨主張する。
確かに,ベトナム案件の計画については,実現性に関して裏付けとなる客観的な資料が不足していたといえ,前記(ア)のとおり,取締役会において,リスク要因を含めた多角的な検討が十分にされたといえるかどうかについて,疑問の余地もある。
しかしながら,前記の資料のうち,政府発行の書面や学校長の許可状等は一般に入手することが容易でないとみられるし,契約書等についてはいまだ作成の段階には至っていなかったものとみられ,第4決議の時点において,ベトナムにおける学校教材としての販売という事業の実現可能性を判断する資料の収集には,客観的に限界があったといえる。また,Kに関して,事後に判明したところによれば,その属性や影響力について事実と異なる点があったものの,同人がベトナムの公務員であり,同人がNLC社とベトナム案件について継続的に協議していたという事実は,これを認めることができる。さらに,本件会社においては,新規事業の開拓が要請されていたことや同社の事業規模に比べると,U-ペン事業の予算は必ずしも大きいものではなかったこと等の事情も存在した。これらの事情を考慮すると,第4決議の時点で,U-ペン事業からの撤退ではなく,ベトナム案件の成功に期待して貸付けを承認するとの判断をしたことについて,当該決議に至るまでの意思決定過程が不合理であったとはいい難い。
d 貸付額の相当性について
原告は,第4決議の当時における本件会社の財務状況及びNLC社の売上高の低迷に照らし,累積貸付額1億7500万円に加え,今回の1億円という貸付額は多額に過ぎる旨主張する。しかしながら,前記認定事実(1)によれば,本件会社の平成21年3月期の純資産額186億1100万円,当期純利益は9億0600万円であったことが認められる。そうすると,第4決議に係る貸付けの金額の当期純利益に対する割合は約11パーセント,第4決議に係る貸付金も含めた貸付金の累積額(2億7500万円)の純資産額に対する割合も1.5パーセント程度に止まり,上記貸付けは本件会社の存立に影響を与えるようなものではなく,第4決議に係る貸付額が過大であったとはいえない。
(ウ) 以上によれば,第4決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に代表執行役として関わった被告Aに善管注意義務違反は認められない。
オ 第5決議について
(ア) 前記認定事実(11)ケ及びシ並びに(12)ア及びイによれば,本件会社の取締役のうちNLC社に係る業務を担当していたのは,従前は被告Aであったところ,平成21年9月1日から被告Bへと変更されたこと,同月に被告Bがベトナムに赴き,Kとの面会や学校の視察を行ったこと,平成21年11月27日の第5決議に係る取締役会において,ベトナムの政府機関からのレターとされる文書及びその訳文が提出されたこと,そこには,ホームティーチャープロジェクトを当機関が承認していることを証明すること及び当機関がNLC社の協力を強く望んでいることが記載されていたこと,録音・再生ペン5万個の発注があったことを示すパーチェスオーダーが提出されていたこと,第5決議は,ベトナム案件の遂行を前提として,NLC社にとって必要な資金を調達させるための貸付けであったこと,NLC社の事業に関しては平成22年3月期が撤退に関する判断時期とされていたことが認められる。これからすると,第5決議に係る貸付けは,第4決議に係る取締役会において決定されたベトナム案件を推進するとの方針にのっとり,NLC社にとって必要な当面の資金を調達させるために行われたものであるといえる。上記貸付けを行わない限りNLC社の事業の継続はできない状況であったから,ベトナム案件を推進することが不合理であると判断すべき新たな事情がない限り,上記貸付けを承認するとの判断は合理的なものであったと認められる。そして,上記の事情に照らしても,その時点においてベトナム案件を推進することが不合理であったとまではいえない。
(イ) これに対し,原告は,第5決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,第4決議後わずか2か月で,録音・再生ペンの販売の対象者をベトナムの高校生から中学生に変更し,それに伴い販売計画を大幅に変更しており,このような十分な調査に基づかない,杜撰な計画に対する貸付けの必要性はなかった旨主張する。なるほど,前記認定事実(11)エによれば,第4決議から約2か月経過後の平成21年4月頃,NLC社は録音・再生ペンの販売対象者を高校生から中学生へ変更したことが認められる。しかしながら,当時は,ベトナム案件の開始から間もない時期であり,計画の内容に流動的な面があっても不思議ではなく,上記の販売対象者の変更をもって計画自体の杜撰さを示すものとはいい難い。
また,原告は,録音・再生ペンがいまだ販売できない状況にあることや,現地法人である販売パートナーとの取引条件等は,その詳細が決まっていないことが判明していたことから,販売の実現可能性がなかった旨主張する。しかしながら,この時点では,上記取引条件等の交渉が行われている時期と考えられ,そのことをもって販売の実現性がなかったと判断するのは尚早であったということができる。
b 回収可能性について
原告は,事業開始から2年以上が経過していながら,それまでの貸付けに対して一切弁済が行われていないこと,業績が向上する見込みがなかったことからすると,第5決議に係る貸付けの回収可能性も極めて低かった旨主張する。しかしながら,NLC社に対する貸付けは,新規事業であるU-ペン事業を遂行するための貸付けであり,前記認定事実(12)エのとおり,その事業計画においても,平成22年3月期までは営業利益は期待できず,それが見込まれるのは平成23年3月期以降とされていたから,第5決議の時点で弁済が開始されていないことは,必ずしも回収可能性がなかったことを示すものとはいえない。また,業績の見込みについても,当時はまだベトナム案件の結果が出る時期ではなかったから,この時点で,業績が向上する見込みがなかったと判断するのは困難であったといえる。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,ベトナム案件については,①ビジネスパートナー(仲介役)が同案件に関わる理由,政府機関の通達の拘束力の程度,商品の需要,返品リスク等,②NLC社自身が現地で販売することのできない理由,現地法人との取引条件の詳細,現地法人からNLC社が引き受けている事業の概要等の問題点が指摘されていたにもかかわらず,十分な回答,検討がされないまま第5決議に至っており,意思決定過程に合理性が認められない旨主張する。しかしながら,ベトナム案件については,前記エ(ア)のとおり,①同国文部省の要人にアクセスするのが容易な人物(K)がNLC社のビジネスパートナーとして存在し,同国が計画する外国語能力向上教育プログラムの予算規模が約550億円に上ること,②Kの協力により,NLC社の録音・再生ペンを同国内の各学校の売店で販売できること,③同国内における販売のためにJVを設立し,それに対しては同国政府の資本参加も検討されていること等が推進の理由とされていたことが認められる。同案件については,具体的な計画は策定途上の段階にあったものの,上記の点を大きなメリットと判断し,その遂行を決定したことが認められ,計画の具体的な内容が固まっていなかったことをもって事業から撤退すべきであったとはいえない。
また,原告は,Kが販売パートナーのプレジデントであり,かつベトナム政府の上層部の者であるという情報に接した時点で,公務員が一般企業の役員を兼職することができないことを推測すべきであった旨主張する。しかしながら,日本とベトナムの国情の違いを踏まえると,当時,本件会社及びNLC社において,Kが民間企業の経営者とベトナム政府の公務員の地位を兼職しているとの情報を得ていたとしても,直ちに同人の属性について疑問を抱くべきであったとはいい難い。前記認定事実(15)ナによれば,Kが,ベトナムにおいて学校の教材認定に関して影響力を持つような人物ではなかったことが事後に判明したものの,同国の公務員としての身分は有していたものであり,同人の属性に関する調査に著しい懈怠があったことをうかがわせる事情は見当たらない。
さらに,原告は,第5決議に係る取締役において,提出されたベトナム科学技術省からの手紙の訳文に誤りがあることが判明し,正確な日本語訳が出されることを停止条件として貸付けが承認されたにもかかわらず,当時の取締役が正確な日本語訳の文書に接した形跡はなく,また,上記条件は実質的にベトナム政府からの保証が得られることを意味していた旨主張する。しかしながら,前記認定事実(26)アによれば,第5決議後に正確な日本語訳が作成されて各取締役に開示された上で,貸付けが実行されたことが認められる。また,前記認定事実(12)ウによれば,条件とされたのは日本語訳の正確性を確認する趣旨に止まり,ベトナム政府からの保証が得られることが上記貸付けの条件にされていたとは認められない。当時の本件会社の取締役会において,ベトナム政府から受けるバックアップの内容に関し,貸付けの条件として具体的に定めたことを認めるに足りる証拠はなく,また,そのことが取締役会の判断として不適切であったとまではいえない。第5決議における貸付けの条件の成否が事後の取締役会において問題とされた形跡もない。
これらの事情を考慮すると,取締役会において,第5決議の時点でU-ペン事業からの撤退ではなく,ベトナム案件の成功に期待して貸付けを承認するとの判断をしたことについて,意思決定過程が不合理であったとはいい難い。
d 貸付額の相当性について
原告は,第5決議の当時における本件会社の財務状況,NLC社の売上高が低迷していたこと及びそれまでの累積貸付額が2億7500万円に上っていたことに照らし,7000万円の貸付額は多額に過ぎる旨主張する。しかしながら,前記第4決議と同様,グループ会社を含めた本件会社の純資産額,当期純利益その他の規模に照らし,第5決議より前までの貸付累積貸付額(2億7500万円)を考慮しても,本件会社の存立に影響を与えるようなものではなく,第5決議に係る貸付額が過大であったとはいえない。
(ウ) 以上によれば,第5決議の時点において,ベトナム案件の推進が不合理であると判断すべき特段の事情は認められず,同決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に代表取締役として関わった被告A及び取締役として関わった被告Bのいずれにも善管注意義務違反は認められない。
カ 第6決議について
(ア) 前記認定事実(14)イによれば,平成22年2月2日の第6決議に係る増資は,U-ペン事業を行う前のNLC社の事業損失を同事業の損失から切り離すことにより,同事業の実質的な評価体制の構築と対外的な信用力を向上させるための貸借対照表の健全化を図ることを目的として,2億円の減資と併せて行われたものであることが認められる。第6決議に係る増資は,第4決議に係る取締役会において決定されたベトナム案件を推進するとの方針にのっとり,U-ペン事業に係る損失及び責任を明確化するとともに,対外的な信用力を確保するために行われたものであったといえる。そのような目的からして,上記の増資は,ベトナム案件の推進が不合理であると判断すべき事情がない限り,合理性のあるものであったと認められる。前記認定事実(14)アによれば,同決議に係る取締役会において,各監査役から書面の入手や撤退の検討に関する意見が述べられているが,これらは必ずしも当該増資について反対の意見を述べたものとは認められない。第6決議の時点では,いまだKの属性や影響力,ベトナム案件の実現可能性等に対する疑念が顕在化していたとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,第6決議について,①増資の必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④増資額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 増資の必要性について
原告は,ベトナム案件に関し,当時の状況に照らすと,教科書認定の内定及び学校販売に関する契約締結も未了であったとみられ,この時点での増資によってNLC社の経営状況等が好転することは考えられなかったから,増資の必要性がなかった旨主張する。なるほど,前記認定事実(14)アによれば,その時点でいまだ,ベトナム国内における教科書認定の内定が得られていなかったこと及び学校販売に関する契約が成立していなかったことが認められる。しかしながら,当時,ベトナム案件は,本件会社の方針としてこれに取り組む決定がされてから約1年が経過したにすぎず,上記の点を含めて交渉が現に進行中の段階であったと判断したことが不合理であったとはいえず,上記の各事実は必ずしもベトナム案件からの撤退を判断すべき事情であったとはいえない。そうである以上,増資の必要性がなかったとはいえない。
b 回収可能性について
原告は,第6決議までの時点でNLC社に対する累積貸付額は3億4500万円に上っており,これらについて何ら返済の目途が立っておらず,同社の事業開始以来の営業利益は毎年1億円超の赤字であったことに照らすと,到底,回収は見込めない状況であることは明らかであった旨主張する。しかしながら,前記aのとおり,当時はベトナム案件が開始されてから約1年が経過したところであり,同事業の具体化に向けた途上の時期と考えることには合理性があったことや,U-ペン事業の当初の事業計画においても営業利益が見込まれるのは平成23年3月期以降とされていたことに照らすと,この時点で投下資本の回収が見込めないと判断するのは尚早であったと考えられる。よって,第6決議の時点において,当該増資について投下資本の回収可能性がなかったとはいえない。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,第6決議に係る取締役会において,①販売パートナーとの間の契約書などベトナム案件の進捗状況に関する有意な資料が全く提出されなかったこと,②ベトナム案件に関して差し当たり必要な手続が何ら履践されていなかったこと,③ベトナムの政府機関からのバックアップや,教科書認定について政府との交渉を示す客観的な資料や,有力銀行からの資金バックアップに関する客観的な資料など,容易に入手し得る資料さえも提出されていなかったこと等に照らすと,増資の当否を判断するに当たり必要な手続が履践されておらず,第6決議の意思決定過程に合理性が認められない旨主張する。このうち,①ベトナム案件の進捗状況に関する資料提出の点及び②差し当たり必要な手続の履践の点については,第6決議がされた平成22年2月2日の時点では,ベトナム案件の開始から約1年という時期であり,かつ,当初予定されたU-ペン事業の撤退の検討時期までになお1年余りあったことに照らすと,上記の確たる資料や手続の履践が未了であったとしても,直ちに問題視されるべきものとはいい難い。次に,③ベトナム案件の実現性を裏付ける客観的な資料については,開始を承認した第4決議の時点から不足していたことに照らすと,この時点において,当時問題となっていた教科書認定の審査状況,平成22年8月上旬に開催予定であった2万人規模の教育関係者の大会(ティーチャーズミーティング)の内容,同事業に関して影響力を持つと思われる政府関係者との交渉や連絡の状況等に関して,何らかの客観的な資料が存在していないのかといった点を確認したり,NLC社において具体的な経過を記録したメモなどを確認するなど,取締役会において,より慎重な審議をする余地はあったというべきである。もっとも,前記認定事実(12)ア及び(15)シのとおり,政府機関発行のレターが入手され,それにはU-ペン事業が関係するプロジェクトを承認し,NLC社の協力を望んでいるとの内容が記載されており,また,規模はともかくティーチャーズミーティング自体も開催に至っていることが認められる。そうすると,仮に上記のような確認がされていたとしても,どの程度判断に影響を与えるものであったかは明らかでない。事柄の性質上,ベトナムにおける学校教材としての販売の実現可能性を判断するための客観的な資料を収集することについてはもともと限界があったといえ,時期的にも,ベトナム案件が開始されてから約1年が経過したところであり,同事業の具体化に向けて進行途上の段階であったといえる。ベトナム案件は,同国政府から録音・再生ペンが教材の認定を受けるなどの支援を受けて同国の学校教材として販売されることを前提とした事業であったから,同国政府の支援が受けられないことが確実となったときにはその事業の遂行は困難と判断されることになるが,第6決議の時点では,いまだそのような状況にあったとはいえない。これらの事情を考慮すると,第6決議の時点で,取締役会において,増資を承認するとの判断がされたことについて,意思決定過程が不合理であったとはいい難い。
d 増資額の相当性について
原告は,第6決議の当時の本件会社の財務状況及びそれまでの累積貸付額が3億4500万円に上っていたことに照らし,2億5000万円という増資額は過大である旨主張する。しかしながら,前記第4決議と同様,グループ会社を含めた本件会社の純資産額,当期純利益その他の規模に照らし,上記増資額は累積貸付額を考慮したとしても本件会社の存立に影響を与えるようなものではなく,第6決議に係る増資額が過大であったとはいえない。
e その他
(a) 原告は,ベトナム案件について,受注発注で販売リスクがなく,回収リスクもないとの説明について真実性を検討すべきであった旨主張する。しかしながら,子会社であるNLC社からの上記説明について,特にその信用性を疑わせるような事情がない状況において,本件会社が,直接,裏付け資料の存在まで調査すべき義務があったとはいえない。
(b) 原告は,2億円以上の在庫が存在していた状況で,在庫の存在について十分な検討をすることなく貸付けを行い,十分な資料に基づき撤退条件の検討を行うことなく,貸付けの判断を行った旨主張する。しかしながら,第6決議が行われた時点では,本件会社の取締役に上記在庫の存在は判明しておらず,NLC社のL部長から在庫が存在しない旨の説明がされていた中で,本件会社がそれ以上の事実確認を行うべきであったとはいえないし,撤退条件の検討を行うべきであったともいえない。
(c) 以上,被告らに第6決議に関し,調査,報告及び説明についての懈怠があるとは認められない。
(ウ) 以上によれば,第6決議の時点において,ベトナム案件の推進が不合理であると判断すべき特段の事情は認められず,同決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に代表取締役として関わった被告A及び取締役として関わった被告Bのいずれにも善管注意義務違反は認められない。
(3)  ライテック社に対する貸付けについて
ア 第7決議について
(ア) 前記認定事実(18)のとおり,平成22年4月15日の第7決議は,ライテック社がKFE社からLED照明事業を譲り受け,以後同事業を遂行するための資金として,ライテック社に5億円を貸し付けることを承認したものである。
前記認定事実(1)ウのとおり,本件会社の置かれた状況の下,同社では,かねてよりグループ内における新規事業の開拓の必要性が認識されていた。そして,前記認定事実(17)イ並びに(18)ア(オ)及び(キ)によれば,LED照明は消費電力が少なく,長寿命,環境負荷が低いこと等の長所を持ち,当時,LED白色照明市場は黎明期であり,向こう3年間に拡大されることが予想されていたこと,KFE社のLED照明事業は,LED蛍光灯につき他社に比べて価格優位性を持っていること,太田市が顧客として確定しており,その他にも複数の地方自治体や病院,一般企業との契約が協議中であったことが認められる。そして,前記認定事実(18)アで認定した事実によれば,本件会社は,LED照明事業の譲受け及び同事業の遂行について,①KFE社との合弁により,LED蛍光灯を大口顧客向けに販売又はレンタルを行う,②ライテック社は,本件会社が51パーセント,KFE社が49パーセントの株式を保有する,③3年間の損益及び販売金額の予測を定める,④大手企業の参入による競争環境激化,GPI社の動向及び製造キャパシティに関する事業リスクへ対応する等の計画を立てていたことが認められる。以上からすると,KFE社から譲り受けるLED照明事業は,市場がいまだ黎明期であり不確定要素が大きいものの,大きな利益を得る可能性を秘めているとともに,価格や獲得顧客の面で優位な地位を築いていたことが認められ,それらの要素を検討した上で同事業の譲受けを承認したことが経営判断として不合理であったとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,第7決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,LED照明市場は,同等の価格競争力を有する競合他社が存在しており,将来が有望視される市場ではなかった旨主張する。しかしながら,前記認定事実(18)ア(オ)によれば,KFE社のLED蛍光灯の小売価格は1万円であり,他社の小売価格が1万8000円から3万8000円であるのと比べ,明らかな価格優位性を有していたことが認められるから,上記主張は採用できない。
また,原告は,LED照明事業の譲受額の約6割をのれんに計上しておきながら,わずか2年間で5億8000万円もの損失が発生していることや,平成24年3月にKFE社との間で合弁関係が解消されていることに照らすと,十分な資料に基づいて事業評価の算定等がされたとは考えられない旨主張する。しかしながら,事後的に事業がうまくいかず損失が発生したこと等をもって,直ちに当初の事業評価の算定が不当であったとはいえない。上記事業の譲渡対価の算定が不当であったことを示す事情は特に見当たらない。
さらに,原告は,KFE社から譲り受けたLED照明事業がどのように発展して本件会社に利益をもたらす可能性があるのかについて,十分な検討がされておらず,貸付けの目的及び必要性がない旨主張する。しかしながら,前記(3)ア(ア)のとおり,本件会社は,同事業に存在する優位性や市場の将来性を踏まえ,売上高及び利益の予測数値を設定し,事業リスクも検討した上で,計画を立てていたものであって,事業計画に関する検討が不十分であったとはいえない。
b 回収可能性について
原告は,KFE社のLED照明事業については,事業譲受時に存在するとされた特許権が現実には存在しておらず,同事業からの収益はおよそ期待できず,貸付けの回収可能性はなかった旨主張する。前記認定事実(18)イ及びキによれば,第7決議に係る取締役会において,KFE社のJから,電解コンデンサー制限回路の特許権が同社とGPI社との共同出願である旨の説明がされていたこと,その後,同特許権がKFE社に帰属していなかったことが判明し,本件会社の取締役会においてその旨報告されたこと,その際,被告Aは特許による商品の独自性を担保できることは重要なことであり,商品の競争優位性がないと判断していたならば事業譲渡を受けていない旨の発言をしたことが認められる。しかしながら,上記特許権の存在が価格その他の点でどの程度商品の優位性に影響を与えるものであったのかは明らかでない。また,当該特許権の存在が同事業の譲受けを検討するに当たり,特に重要な要素とされていたこともうかがわれない。譲受後の同事業の売上げの低迷の原因が,上記特許権の不存在にあったとも認められない。さらに,本件会社の取締役は,KFE社からの説明を受けて同社に共同出願の特許権があると認識したものであり,その裏付けを確認しなかったことが各取締役の調査不足であったともいい難い。
また,原告は,KFE社のLED照明事業については,事業譲受時に存在するとされたマージン収入,すなわち,SEC社がJFE社にLED照明を販売した場合に,SEC社からKFE社に支払うことが約束されていたとされるマージン収入が,実際には存在せず,そのため同事業からの収益はおよそ期待できず,貸付けの回収可能性はなかった旨主張する。前記認定事実(19)エ及びキによれば,ライテック社とKFE社との間で締結されたLED照明事業に係る事業譲渡契約の中で,JFE社への販売に関するマージンについて,KFE社とSEC社との間で1個当たり250円から300円程度のマージンを取得するとの口頭合意があることが確認されていたこと,その後,KFE社が商流から外されてマージン収入が得られなくなったことが判明し,本件会社の取締役会において,その旨報告されたことが認められる。しかしながら,同事業の譲受けに当たり,KFE社がGPI社と独占契約を締結していないことはリスクの一つとして把握されており,当該マージン収入の存在が特に重要な要素とされていたことはうかがわれない。マージン収入の不存在により,ライテック社の商品が価格優位性を失ったという事実も認められない。また,本件会社は,KFE社からの説明を受けて上記マージン収入が存在すると認識したものであり,かつ,それは口頭合意に止まるとの説明を受けていたものであるから,それ以上の調査をしなかったことが問題であったともいい難い。
さらに,原告は,LED照明事業の開始に当たり必須であった譲受けの対象である事業及びKFE社に対する各財務デューディリジェンスが必須であったのにそれらが行われず,同事業に関する事業計画は専門家の検証を経ない杜撰なものであって,同事業からの収益はおよそ期待できず,貸付けの回収可能性はなかった旨主張する。確かに,本件会社が同事業を譲り受けるに当たり,KFE社及び同事業に対する財務デューディリジェンスは実施されていないものの,同社は上場会社であり,ある程度財務状況が明らかにされていたことや,同社の資金繰りが厳しいことが同事業を手放す理由として説明されており,同社の財務状況が良好でないことは前提とされていたこと,同事業については事業開始から間もなかったこと等に照らすと,財務デューディリジェンスを外部の専門家に依頼することが必須であったとまではいえない。また,当時,KFE社が合弁相手として不適格な財務状態であったとの事実や,同事業の取得価額が不当に高額であったとの事実も認められない。
以上からすると,第7決議当時において,ライテック社に対する貸付けの回収可能性がなかったとはいえないし,取締役会がそれに関する判断を誤ったともいえない。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,前記のとおり,LED照明事業の譲受けに当たり財務デューディリジェンスを経ていないこと,特許権の検証を行っていないこと,マージンの有無による事業価値への影響,特に価格優位性について検討されていないことから,第7決議の意思決定過程は不適切であり,合理性がない旨主張する。しかしながら,前記bのとおり,特許権及びマージン収入の不存在は,必ずしも同事業を譲り受けるか否かの判断を左右するまでの事情とはいえず,財務デューディリジェンスを外部の専門家に依頼しなかったことも不適切とまではいえず,その結果,不相当な価額で譲り受けたとの事実も認められない。異常によれば,LED照明事業の譲受け及びそのための貸付けを承認した第7決議における意思決定過程が不合理であったとはいえない。
d 貸付額の相当性について
原告は,第7決議における5億円という貸付額は,それが計上される決算期である平成23年3月期における本件会社のグループ全体の純利益の約30パーセントに相当する金額であり,本件会社全体にとって相当重大な影響を及ぼす過大なものであった旨主張する。前記認定事実(1)イによれば,本件会社のグループ全体の当期純利益は16億2800万円であったことが認められ,貸付額5億円は,上記のとおりその30パーセントに相当するものであり,本件会社にとって相当に影響を与え得る金額であるということができる。しかしながら,仮に同事業が失敗して貸付けの回収ができなくなったとしても,本件会社の存亡を左右するため,同社においておよそ許容することのできない金額であるとまでは認められないし,当時におけるLED事業の見通しに照らし,不合理なほど過大な貸付けであったとはいえない。
e その他
(a) 原告は,KFE社のLED照明事業の事業譲渡契約及びがいS社の株式総数引受契約の各締結と,事業譲渡代金の支払及び新株引受についての払込みが一体のものとして行われており,実質的に現物出資に該当するが,検査役による検査が行われていない旨主張する。しかしながら,KFE社による新株引受について,払込みの実体がなかったとはいえず,上記の各行為が一連のものとして行われたことをもって直ちに現物出資に当たるとはいえない。また,同事業の譲受けの対価が不当であったとも認められない。
(b) 原告は,I監査役からKFE社の平成22年3月期終了時の損益の金額について質問があったにもかかわらず,KFE社に確認することなく貸付けの判断を行ったことが不当である旨主張する。この点,前記認定事実(18)イによれば,上記質問に対してM事業開発部長からKFE社への確認はしていない旨回答したことが認められる。しかしながら,上記質問は飽くまで当該数値が分かれば参考になる趣旨で行われたものに止まるものとみられ,第7決議に係る貸付けを行うに当たり,上記数値の確認が必須であったとは考えられない。
(c) 原告は,第7決議に係る貸付けを行うに当たり,LED照明事業からの撤退基準を定めるべきであった旨主張する。しかしながら,同決議の時点において,本件会社からライテック社に対する追加の貸付けが予定されていたとは認められず,その後は同社が自己の収益をもって同事業を継続していくことが予定されていたとみられる。そのような中では,当初の計画の時点において撤退基準の定めが必須であったとはいい難い。なお,第8決議以降の貸付けの判断の相当性については,後記のとおりである。
(ウ) 以上によれば,第7決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に代表取締役として関わった被告A及び取締役として関わった被告Bのいずれにも善管注意義務違反は認められない。
イ 第8決議について
(ア) 前記認定事実(20)によれば,本件ESCO事業に関し,太田市がKFE社との割賦契約を不可としたため,自ら資金を調達することのできない同社に代わり,ライテック社が資金を提供する必要が生じたことが認められる。前記ア(イ)e(c)のとおり,第7決議の当時においては,LED照明事業の譲受けに係る対価等について貸付けを行うほか,その後の事業の継続のために追加融資を計画していたものではないが,上記の事情から,平成22年10月14日の第8決議は同事業の継続のための追加資金2億5000万円の貸付けを承認したものである。このように当初の計画にはない貸付けではあったものの,本件ESCO事業は実現すれば多額の利益が見込める事業であり,LED照明事業における中心的事業でもあったから,当該貸付けを行わないことは本件ESCO事業,ひいてはLED照明事業からの撤退を意味するものであり,この時点で貸付けを承認したことが不相当な判断であったとはいえない。また,太田市が本件ESCO事業に関して割賦契約を認めないことは,ライテック社がLED照明事業を譲り受ける時点では判明していなかった事情でもあった。
(イ) これに対し,原告は,第8決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,第8決議に係る貸付けは,当該貸付けを行わなければ本件ESCO事業の注文を失うことになるのかが明らかでなかったこと,同決議に係る取締役会において初めて,毎月1540万円の費用がかかることが明らかになるなど,資金計画の検証が不十分であったこと,KFE社から担保権の設定を受けることも決定されていなかったことからして,合理的な目的及び必要性がなく行われたものである旨主張する。しかしながら,当時は,同事業の注文者である太田市が割賦契約の締結をしないとの意向を示していたのであるから,受注するために別途資金調達をすることが必要であり,それをしなければ本件ESCO事業の注文を失う状態にあったものと認められる。また,新たな費用支出の必要が判明したことについても,それが事前の検討が不十分であったことによるものであるかどうかは明らかでない。さらに,貸付けを決定する時点でKFE社から担保権の設定を受けることが決定されていなかったことについても,本件ESCO事業を遂行するためには速やかに貸付けを決定する必要があったとみられ,これを先行させたことが不合理な判断であったとはいえない。以上によれば,当該貸付けの必要性はあったと認められる。
b 回収可能性について
原告は,第8決議に係る貸付けの返済期間2年は実現可能性が低く,KFE社の負担分について同社から担保権の設定を受けることも未了であり,ライテック社が当時債務超過状態で,直前の損益も赤字であったことからすると,無担保で行われた上記貸付けの回収可能性はなかった旨主張する。しかしながら,前記ア(ア)のとおり,本件ESCO事業は具体的な契約締結が目前の状況にあり,それは実現すれば多額の利益が見込める事業であったことが認められる。第8決議に係る貸付けは新規事業の資金調達のためのものであるから,その回収のリスクについては,新規事業の成功の見込みや成功した場合の利益の大きさ等との関係で検討するのが相当である。貸付けについて回収不能となるリスクが一定程度あったとしても,事業の成功の見込みが高い場合や,成功した場合の利益が大きい場合には,会社として許容し得る範囲でリスクを負担することは,経営判断における裁量として合理性が認められる。このような観点からすると,上記貸付けは,本件ESCO事業の遂行のために必要なものであり,後記のとおり,2億5000万円という貸付額も,本件会社の規模等に照らし許容し得るリスクの範囲であったと認められる。したがって,当時のライテック社の財務状況等に照らし約定の返済について遅滞のリスクがあったこと及び十分な担保を取っていなかったことは,貸付けを否定する事情にはならない。なお,前記認定事実(20)イによれば,上記貸付けは,その返済期間を当初提案の7年から2年へと短縮した上で承認されたことが認められる。この2年間での具体的な返済計画は不明であるが,この点をもって,貸付けの判断が不合理であったということもできない。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,第8決議は,平成22年9月17日の取締役会に提案された議案をいったん白紙に戻してから1か月足らずで行われたものであり,意思決定過程に合理性がない旨主張する。しかしながら,前記認定事実(19)コによれば,上記の議案の白紙撤回は,本件ESCO事業の発注者である太田市からの提案条件が変更となる可能性が生じたことによるものであり,当該議案の実質的な内容が問題とされたことによるものではない。したがって,上記事情は第8決議に係る貸付けの必要性ないし相当性を否定する方向に働く事情ではなく,同決議の意思決定過程の合理性を否定する根拠とはならない。
また,原告は,第8決議に係る貸付けについて,2億5000万円を一度に貸し付けるのではなく,本件ESCO事業の資金需要とライテック社の事業の進捗状況をみながら順次貸付けを行っていく方法の可能性について検討しておらず,第8決議の意思決定過程に合理性がない旨主張する。しかしながら,2億5000万円の貸付けを一度に行うか,数度に分割するかは経営上の重要な問題とはいい難く,本件において,分割支払を検討すべき特段の事情も認められない。そのような支払方法は基本的に経営判断における合理的な裁量に委ねられている事項といえる。したがって,この点も第8決議の意思決定過程の合理性を否定する根拠とはならない。
さらに,原告は,第8決議に係る貸付けは,その回収可能性について何ら検討することなく行われているとして,同決議の意思決定過程に合理性がない旨主張する。しかしながら,前記bのとおり,上記貸付けについて回収可能性がなかったとはいえず,その判断が不合理であったともいえない。同決議は,これらの点も踏まえた上で決定されたものとみられる。したがって,この点も,同決議の意思決定過程の合理性を否定する根拠とはならない。
d 貸付額の相当性について
原告は,第8決議における2億5000万円という貸付額は,直近の決算期である平成23年3月期における本件会社のグループ全体の純利益の約15パーセントに相当する金額であり,本件会社全体にとって相当重大な影響を及ぼす過大なものであった旨主張する。前記認定事実(1)イのとおり,本件会社のグループ全体の当期純利益は16億2800万円であり,上記貸付額はその約15パーセントに相当し,本件会社の経営に影響を与え得る金額であるということができる。しかしながら,仮にライテック社によるLED照明事業が失敗して,同社に対する貸付金の返済を受けることができなくなったとしても,本件会社の存亡を左右するため,同社においておよそ許容することのできない金額であるとまでは認められないし,当時の事業の見通しに照らし,不合理なほど過大な貸付けであったとはいえない。
e その他
(a) 原告は,ライテック社がKFE社に代わってESCOサービス事業者になるに当たり,いつの時点でどの程度の資金が必要かという点について全く不明確なままで十分な検証を行わなかった旨主張する。しかしながら,前記認定事実(20)アによれば,取締役会に提出された添付資料に,本件ESCO事業の推進に2億5000万円程度の資金が必要であること及び平成22年11月から平成23年3月まで総額9200万円支出を太田市向けの支出として予定していたことが記載されていたことが認められ,本件ESCO事業のサービス業者となることに伴う資金の必要性及び資金繰りについて相応の説明がされていたと認められる。
(b) 原告は,本件会社のみが融資を行い,合弁相手であるKFE社がこれを負担しないことに関する検討がされなかった旨主張する。しかしながら,前記認定事実(19)ケ及び(20)アによれば,当時の本件会社の取締役会において上記問題が検討の対象になっていたことが認められる。確かに,KFE社が資本比率に見合った貸付けの負担をしないことは,合弁事業として正常な形ではないとの評価を受ける余地があるものの,第8決議に係る貸付けの承認の当否はライテック社の事業を継続するか否かに関わる問題であり,KFE社への対応を将来的な問題として検討しつつ,同貸付けの承認を行うことについては,なお相応の合理性があるものといえる。
(ウ) 以上によれば,第8決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に代表取締役として関わった被告A及び取締役として関わった被告Bのいずれにも善管注意義務違反は認められない。
ウ 第9の1・2決議について
(ア) 前記認定事実(21)シ及び(22)アによれば,平成23年11月14日の第9の1決議及び同年12月16日の第9の2決議に係る貸付けは,ライテック社の資金ショートを回避することを目的としたものであったことが認められる。また,前記認定事実(20)エないしキ及びケによれば,第8決議後,平成22年12月27日開催の本件会社の取締役会において,ライテック社の平成23年度の売上高24億円を目指すことが決定されたこと,平成23年1月13日開催の本件会社の監査役会において,ライテック社の業績に対する懸念,本件ESCO事業の見通しに対する懸念等が指摘されたこと,同年2月10日開催のライテック社の取締役会において,第8決議に係る貸付金2億5000万円の返済が苦しい状況であるとされたこと,ライテック社の同月の販売実績も500万円前後に止まったこと,平成23年4月28日開催の本件会社の取締役会において,本件LED照明事業の売上高が事業譲受時の想定が20億円であったのに対して結果は1億円に止まったことが報告されたこと,以上の事実が認められる。これらの事実からすると,本件LED照明事業は,事業譲受時の計画に比べて業績の低迷が顕著であったといえる。このような状況からすると,本件LED照明事業の将来性について,撤退を含めて検討すべき時期に至っていたと考えられる。もっとも,上記各事情に照らしても,第9の1・2決議の時点において,同事業の業績の現状が低調であり,監査役から将来に対する懸念も示されてはいたが,同事業の継続を困難と判断すべき決定的な事情が存在していたとまではいえない。第9の1・2決議に係る貸付けは,ライテック社の資金ショートを回避することを目的としたものであり,その判断は,正にLED照明事業から撤退するか否かに係るものというべきであるし,この時点において,撤退を決断しなかったことが不合理な判断であったとはいうこともできない。
(イ) これに対し,原告は,第9の1・2決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,第9の1・2決議について,返済計画やKFE社による出資割合に応じた負担に関する結論がないままに行われたものであり,合理的な目的及び必要性がなかった旨主張する。しかしながら,前記(ア)のとおり,上記決議に係る貸付けはライテック社の資金ショートを回避することを目的とし,貸付けの実行の有無は同社が行うLED照明事業から撤退するか否かという重大な判断に係るものである。そうすると,その時点において同事業から撤退しないとの判断が合理性を有する限り,返済計画の実効性や合弁相手であるKFE社の負担の確約がないままであったとしても,そのことをもって貸付けの必要性が否定されるものではないというべきであるし,当該時点において撤退しないとの判断の合理性を否定するに足りる事情も存しないことは前記(ア)のとおりである。
b 回収可能性について
原告は,第9の1・2決議について,ライテック社は1億5000万円の貸付けがなければ資金ショートが確実な状況にあったこと,同社は債務超過の状態であり,損益も赤字を計上していたことからして,無担保で行われた上記貸付けの回収可能性はなかった旨主張する。しかしながら,上記貸付けに回収不能となるリスクがあったことは認められるものの,前記認定事実(24)アによれば,売上げが低迷したことの背景には,平成23年3月11日に発生した東日本大震災の後,地方公共団体においてLED照明導入という政策の優先順位が一時的に後退したことによる影響が少なからずあったと考えられ,将来的にLED照明事業の業績の向上が見込めない状況にあったとはいえず,業績が向上すれば回収の可能性があったものである。そうすると,同事業の将来性とリスクの観点から当面の事業の継続を判断したことに合理性が認められる限り,回収不能のリスクがあったことは,貸付けを否定する根拠にはならないというべきであるし,撤退の決断をしなかったことが不合理とまでいうことができないことは前記(ア)のとおりである。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,第9の2決議のわずか1か月後に合弁相手であるKFE社がライテック社の事業を不採算事業と明示して撤退の意思を示していること,その更に半年後にKFE社が取締役会で撤退を承認していることに照らすと,ライテック社の事業計画は杜撰であったといえ,第9の1・2決議に意思決定過程に合理性は認められない旨主張する。しかしながら,当時,ライテック社のLED照明事業の業績が低調であったことは認められるものの,事業から撤退をするかどうは将来予測にわたる経営上の判断に係るものであり,合弁相手の経営陣が撤退の判断をしていることをもって,ほぼ同時期にこれと異なる判断をしたことをもって,直ちにそれが不合理な判断であるとはいえないし,これをもって従前の事業計画が杜撰であったということはできない。
また,原告は,平成24年1月に再度の資金ショートが見込まれる中,その後の事業計画を明らかにしないまま,また,人的・物的担保の設定も受けないまま,第9の1・2決議に係る貸付けを承認したことは,一般的な取締役に期待される検証過程を経ておらず,同決議は意思決定過程に合理性がなかった旨主張する。しかしながら,前記(ア)のとおり,上記貸付けは,LED照明事業についての将来予測の観点から,その時点での同事業の継続か撤退かの判断を行うものであり,当面の事業継続のために貸付けを決定し,将来の事業計画の決定を事後に回すことや貸付けに係る担保権の設定を受けるか否かに関しては,基本的に経営判断における合理的な裁量に委ねられた事項であったといえる。そして,このときの第9の1・2決議の判断が不合理であったとはいえないことは前記(ア)のとおりである。
d 貸付額の相当性について
原告は,第9の1・2決議における合計7500万円という貸付額は,第8決議において既に2億5000万円という多額の貸付けがされていたこと,具体的な返済の見込みがなかったこと,当時,グループを含めた本件会社の平成24年3月期第2四半期(平成23年7月~9月)の経常利益が前年比で46.3パーセント減少していたことに鑑みると不相当であった旨主張する。しかしながら,上記貸付けが同事業の業績が低迷する中での救済融資であったことに加え,仮に同事業が失敗して貸付けの回収ができなくなったとしても,累積貸付額を含めて本件会社において許容できないほど多額の金額であるとまでは認められない。また,上記の本件会社の業績を考慮したとしても,不合理なほど過大な貸付けであったとはいえない。
e その他
原告は,ライテック社について平成24年1月の資金ショートを回付するために必要な金額の半額の貸付けしかされていないのに,同月に同社から事業計画や返済計画の提示を受けるという矛盾した説明がされた旨主張する。しかし,前記認定事実(22)アによれば,ライテック社は,新たに7500万円の貸付けを受ければ当面の資金ショートを避けることができ,平成24年1月頃までは事業を継続することができるが,それを含め向こう半年間に運転資金として1億5000万円が必要な状況であり,第9の1・2決議により当面の資金ショートを回避しつつ,同月までに新たな事業計画の承認と同計画を前提とした運転資金の提供について議論するものとされたことが認められる。このような経過からすると,必ずしも矛盾した説明に基づいて貸付けが承認されたものではない。
(ウ) 以上によれば,第9の1・2決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同各決議に代表取締役として関わった被告A及び取締役として関わった被告Bのいずれにも善管注意義務違反は認められない。
エ 第10決議について
(ア) 前記認定事実(24)によれば,平成24年1月17日の第10決議に係る貸付けは,ライテック社の資金ショートを回避することを目的としたものであったことが認められる。また,第9の1・2決議までの状況に加え,第9の2決議の後である平成23年12月29日,KFE社がLED照明事業を不採算事業の一つとして撤退する旨を表明したこと等が認められる(前記認定事実(23)イ)。これにより,第10決議の時点では,同事業を合弁事業として行うことはできない状況にあったといえるから,事業を継続するとしてもその計画は抜本的な見直しが必要な時期であったといえる。もっとも,第10決議は,KFE社の上記の撤退表明があってから約3週間後のことであり,上記貸付けは,ライテック社の資金ショートを回避するためのものであって,その判断は急速を要するものであったものと認められる。また,前記認定事実(23)によれば,KFE社は,LEDライト用の電子部品等については受注拡大を目指す計画を有しており,LED照明事業の市場の将来性について消極的な評価をしていたものとはいい切れない。また,本件会社は,当初,LED照明事業の完全な譲受けを希望しており,合弁事業開始後においてもKFE社のスクイーズアウトの方策を検討するなど,同事業をライテック社の単独事業として遂行していくことを視野に入れていたことが認められ,KFE社による撤退表明が,本件会社におけるLED照明事業からの撤退の当否を判断するに当たり決定的な要素であったとはいい難い。以上からすると,この時点において,同事業からの撤退を決断せず,継続を前提とした貸付けを承認したことが経営判断として不合理であったとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,第10決議について,①貸付けの必要性がないこと,②回収可能性がないこと,③意思決定過程に合理性がないこと,④貸付額が相当性を欠くことをそれぞれ主張する。
a 貸付けの必要性について
原告は,第9の1・2決議の時点で既にライテック社の資金ショートの可能性が指摘され,その後,同社の事業の好転の可能性が検討されず,合弁相手であるKFE社は事業の撤退を表明し,監査役から業績が厳しい等の指摘を受けていた等の経緯に照らすと,第10決議の時点では,LED照明事業からの撤退を真剣に検討する必要があったが,それにもかかわらず,第9の1・2決議の時点で予定されていた返済計画すら検討していないことからすると,同決議に係る貸付けの必要性はなかった旨主張する。しかしながら,前記認定事実(24)アによれば,第10決議に係る取締役会においては平成24年度のライテック社の事業計画が示され,自治体防犯灯を除いた売上げ予測として8億円の算出をしていたことが認められる。そして,前記(ア)のとおり,第10決議の当時,LED照明事業について撤退を含めた抜本的な見直しが必要な時期にあったということはできるが,そのことと並行して,ライテック社の資金ショートを回避するための貸付けを行うか否かの判断は急を要する問題であったのであって,前記(ア)のとおり,事業継続の判断が不合理とはいえない以上,貸付けの必要性があったと認められる。
b 回収可能性について
原告は,KFE社がLED照明事業からの撤退を表明していたことや,それまでの貸付金の回収が一切行われておらず,返済計画すら提示されていなかったこと,ライテック社の財務,業績の状況悪化の下での無担保での第10決議に係る貸付けが回収可能性のないものであったことは明らかであった旨主張する。しかしながら,第10決議に係る取締役会において,平成24年度のライテック社の事業計画が示されていたことは前記aのとおりであり,回収可能性が全くなかったとはいえない。そして,当時の状況から上記貸付けに回収不能となるリスクがあったことは事実であるが,将来的にLED照明事業の業績の向上が見込めない状況にあったとはいえず,業績が向上すれば回収の可能性があったものである。そうすると,同事業の将来性とリスクの観点から当面の事業の継続を判断したことに合理性が認められる限り,回収不能のリスクがあったことは,貸付けを否定する根拠にはならないし,事業継続の判断が不合理とはいえないことは前記(ア)のとおりである。
c 意思決定過程の合理性について
原告は,第10決議に係る取締役会において,予定されていた返済計画が検討されておらず,ライテック社への資金提供が既に8億2500万円に上っていたこと,LED照明事業からの撤退を検討する時期にあったこと等に鑑みると,撤退か更なる貸付けを行うかの判断を行う前提として収集すべき情報は膨大であったにもかかわらず,情報収集に対する態度は極めて怠慢であったとして,同決議の意思決定過程に合理性がない旨主張する。前記(ア)のとおり,当時,本件会社は,ライテック社のLED照明事業について,撤退を含めた抜本的な見直しが必要な時期にあったものである。しかしながら,ライテック社の資金ショートを回避するための貸付けを行うか否かの判断は急を要する問題であり,第10決議までに行うことができる情報の収集及び検討には限界があったものといわざるを得ない。前記認定事実(24)によれば,同決議に当たり,本件会社の取締役会では,ライテック社に関する新たな事業計画が提案され,その承認の下に貸付けが決定されたことが認められる。これらの状況からすると,第10決議の意思決定過程に合理性がなかったとはいえない。
d 貸付額の相当性について
原告は,グループを含めた本件会社の平成24年3月期第2四半期の経常利益が前年比で46.3パーセント減少していたこと,第9の1・2決議からわずか2か月での追加貸付けであったことからすると,1億円という貸付額は過大であった旨主張する。しかしながら,上記貸付けが,ライテック社によるLED照明事業の業績が低迷する中で,同社に対する救済融資であり,仮に同事業が失敗して貸付けの回収ができなくなったとしても,累積貸付額を含めて本件会社において許容できないほど多額の金額であるとまでは認められない。また,上記本件会社の業績を考慮したとしても,合理性を欠くというほど過大な貸付けであったとはいえない。
e その他
(a) 原告は,第9の1・2決議時に平成24年1月に返済計画の提示を受けることになっていたにもかかわらず,それがないままに第10決議が行われたのは不当である旨主張する。前記認定事実(24)によれば,同決議に係る貸付けの弁済期が平成26年3月31日とされたこと,その期限までの間における具体的な返済計画は示されていないことが認められる。このように,弁済期まで1年以上を残していたことに照らすと,この時点で具体的な返済計画が示されなかったことが必ずしも不合理であるとまではいえない。
(b) 原告は,ライテック社には契約書類を作成していないことや,従業員の時間外労働に対する割増賃金の不払があったのに,十分な法務デューディリジェンス等を行うなど回収可能性の検討を怠った旨主張する。しかしながら,原告の指摘する上記の問題が,第9の1・2決議の承認の当否に影響を及ぼすような性格を有する問題であったとは認められない。
(c) 原告は,KFE社の元代表者であったJがライテック社の経営状況について厳しい意見を述べたにもかかわらず,十分な検討を行わないまま貸付けの判断を行ったことは不当である旨主張する。そして,前記認定事実(22)ウによれば,第9の2決議に先立つ平成23年12月14日開催の本件会社の取締役会において,Jは,ライテック社の本件会社及びKFE社に対する資金の融資要請について,KFE社を代表する立場から,資金調達の趣旨について事業計画の実行性に乏しく,黒字化が見えないこと,費用の圧縮努力のない状態であり,真の立て直しにならないこと,金融機関からの借入調達ができないという状況は経営責任であり,社長を交代すべきであることから,決議に反対する旨の意見を述べたことが認められる。しかしながら,JはKFE社から派遣された取締役であり,その立場上,KFE社の利益を代弁せざるを得なかったところ,KFE社はライテック社株式の50パーセント弱を保有する株主であるにもかかわらず,ライテック社からの運転資金の融資要請を拒み続けていたことからすると,Jが上記決議に反対した理由は,KFE社がライテック社のために運転資金を用立てるのを回避することを目的としていたと解する余地も十分にあることに照らし,ライテック社の取締役会においてJが上記発言をしたことが第10決議の判断の相当性を左右するものとはいえない。
(ウ) 以上によれば,第10決議に至る過程及び決議の内容に関し,全体として著しく不合理な点は認められない。よって,同決議に代表取締役として関わった被告A及び取締役として関わった被告Bのいずれにも善管注意義務違反は認められない。
第4  結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第5民事部
(裁判長裁判官 齋藤聡 裁判官 立仙早矢)
裁判官伊丹恭は,転補につき署名押印することがでない。裁判長裁判官 齋藤聡
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