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「営業 外部委託」に関する裁判例(4)平成30年12月26日 東京地裁 平28(ワ)18768号 損害賠償請求事件

「営業 外部委託」に関する裁判例(4)平成30年12月26日 東京地裁 平28(ワ)18768号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成30年12月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)18768号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA12268013

裁判年月日  平成30年12月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)18768号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA12268013

千葉県習志野市〈以下省略〉
原告 X1(以下「原告X1」という。)
同所
原告 X2(以下「原告X2」という。)
原告ら両名訴訟代理人弁護士 中川博雄
埼玉県川口市〈以下省略〉
被告 株式会社Y1(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 Y2
埼玉県川口市〈以下省略〉
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
被告ら両名訴訟代理人弁護士 隅田敏

 

 

主文

1  被告らは,原告X1に対し,連帯して2425万2800円及びこれに対する平成24年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告らは,原告X2に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成24年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4  訴訟費用は,原告X1と被告らとの間に生じたものについてはこれを3分し,その2を被告らの負担とし,その余を原告X1の負担とし,原告X2と被告らとの間に生じたものについてはこれを3分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告X2の負担とする。
5  この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告らは,原告X1に対し,連帯して3657万5732円及びこれに対する平成24年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告らは,原告X2に対し,連帯して330万円及びこれに対する平成24年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  事案の要旨
本件は,被告会社における業務としてカーテンの販売及びそれに付随する事務作業を行っていた原告X1が脳出血を発症し,左上下肢麻痺や機能障害等の重度の後遺障害を負ったことにつき,原告X1及びその母である原告X2が,被告会社及びその代表者である被告Y2に対し,原告X1においては,被告会社における過重な業務により,上記のとおり脳出血を発症し,重度の後遺障害を負ったものであり,被告らには,原告X1に対する安全配慮義務違反があるなどと主張して,①原告X1が,被告Y2に対しては民法709条又は会社法429条1項に基づく損害賠償請求により,被告会社に対しては不法行為(会社法350条,民法709条)又は労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求により,3657万5732円及びこれに対する不法行為日(原告X1に脳出血が発症した日)である平成24年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,②原告X2が,被告らに対し,民法709条に基づき330万円の損害賠償(原告X1が重度の後遺障害を負ったことによる近親者慰謝料300万円,弁護士費用相当額30万円)及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,それぞれ求める事案である。
2  前提事実(証拠を付記しない事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認められる。なお,証拠について枝番を全て挙げる場合には,枝番の記載を省略する。)
(1)  当事者
ア 原告X1は,昭和38年○月○日生の女性であり,平成23年1月から被告会社の業務に従事していた(被告会社に雇用されていたのか,業務委託を受けていたのかについては,後記のとおり,当事者間に争いがある。)。
原告X1(当時49歳)は,平成24年12月13日,被告会社の業務中に脳出血を発症し(後記(4)ア),平成27年5月11日,川口労働基準監督署から,後遺障害等級1級3号の障害認定を受けた(後記(5)イ)。
イ 原告X2は,原告X1の母である。
ウ 被告会社は,一般建築の内装工事請負業や室内装飾用商品の販売等を目的とする株式会社であり,中心的な業務は,新築マンション等の内覧会において,マンション購入者等の顧客に対し,カーテン等の商品を提案・販売し,取付・内装工事を請け負って施工することである。
被告Y2は,遅くとも平成23年1月以降,被告会社の代表取締役を務めている。
(2)  被告会社営業部の体制
被告会社営業部には,営業部一課,営業部二課及び営業部四課が置かれていたところ,営業部一課は,a社の仕事をする課であり,A(以下「A」という。)が課長を務めていた。また,営業部二課は,a社以外のメーカーの仕事をする課であり,Bが課長を務め,リーダーをC(以下「C」という。)とし,メンバーとしてD(以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)が所属するチームなどが置かれていた。(以上,甲29,30,弁論の全趣旨)。
平成24年6月から同年12月において,営業部二課に所属していたC,A及びEは,恒常的に時間外労働を行っており,所定の退勤時刻が午後5時30分のところ,午後9時以降に退勤することがほとんどで,翌日の午前0時を過ぎることもあった(甲7~9)。
(3)  原告X1が従事していた業務の概要
原告X1は,平成20年1月頃から,被告会社の外注業者(カーテンに特化したインテリアコーディネーター)として,土曜日・日曜日に開催される販売会・内覧会(以下「販売会等」という。)に行き,被告会社の営業部一課における営業活動をしていた(甲4,30,34,弁論の全趣旨)。
原告X1は,平成23年1月以降,上記の業務に加えて,被告会社の事務所において,営業部二課の販売会等の業務及び平日の被告会社における事務作業(納品や採寸を含む。)をするようになった(甲4,30,弁論の全趣旨)。
(4)  原告X1の脳出血の発症,その治療の経過及び後遺障害認定
ア 原告X1は,平成24年12月13日午後7時30分頃,被告会社の事務所で脳出血を発症した(甲4,36。以下「本件脳出血」という。)。原告X1は,同日から済生会川口総合病院(以下「川口総合病院」という。)に入院し,平成25年1月24日に東京湾岸リハビリテーション病院(以下「湾岸リハビリ病院」という。)に転院し,同年6月22日に同病院を退院した(甲1,4,36,38,41)。
原告X1は,同日から平成26年12月25日にかけて,同病院に通院し,リハビリテーション(以下「リハビリ」と略称する。)等の治療を受けた(甲39,41)。
イ 原告X1の本件脳出血による後遺障害については,平成27年1月22日,湾岸リハビリ病院のF医師(以下「F医師」という。)により,平成26年12月31日を症状固定日として,原告X1には,左上下肢の重度の麻痺(左半身に重度の感覚障害が残存したこと)がある,左下肢全体の筋力低下により,患肢で立位を保持できない(左下肢機能が全廃した),左上肢の肩・肘・手関節・手指全ての機能を全廃した(左上肢機能が全廃した)旨の診断がされた(甲1)。
(5)  原告X1による労災の認定申請及びその認定
ア 原告X1は,平成25年1月17日付けで,埼玉労働局川口労働基準監督署長(以下「川口労基署長」という。)に対し,療養給付請求を行った。上記の労災請求を担当した同署の労働基準監督官(以下「本件労災担当官」という。)は,平成25年3月4日を復命年月日として,「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の業務起因性の判断のための調査復命書(以下「本件調査復命書」という。)を作成したところ,①同復命書の「総合判断」の部分には,「本件は,認定基準である『異常な出来事』に遭遇したこと及び『短期間の過重業務』は認められなかったが,発症前6か月間の労働時間は,発症前1か月間の時間外労働時間で120時間49分であり,発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたる1か月当たりの平均時間外労働時間は122時間21分~130時間30分と全ての平均で80時間を大きく超えており,業務と発症の関連性は強く,『長期間の過重業務』があったものと認められる。」との意見が示されるとともに,②労働時間以外に特別な負荷要因があるとは認められない旨の記載や,③原告X1には,既往症として高血圧があったが(川口総合病院の主治医の意見書で指摘があることがその根拠とされている。),高血圧と本件脳出血の発症との関連性は完全には否定できず不明である旨の記載もされている。(以上につき,甲4)
イ 川口労基署長は,平成27年5月8日付けで,原告X1に対し,労働者災害補償保険法施行規則別表第1の第1級3号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの)に該当する障害を有しているとして,障害補償年金・障害特別支給金・障害特別年金の支給決定をし,同月11日付けでその通知をした(甲2)。
(6)  原告X1の被告会社に対する残業代等請求訴訟
ア 原告X1は,被告会社に対し,残業代等を請求する訴訟を提起し(東京地方裁判所平成25年(ワ)第34098号。以下,同訴訟を「残業代等請求訴訟」という。),東京地方裁判所は,平成28年3月31日,原告X1の請求を,残業代90万3523円及び付加金50万円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却する旨の判決を言い渡した(甲35)。
イ 被告会社は,上記アの第1審判決を不服として控訴を提起し,原告X1も附帯控訴を提起した(東京高等裁判所平成28年(ネ)第2162号残業代等請求控訴事件,同附帯控訴事件)ところ,東京高等裁判所は,平成28年9月7日,上記第1審判決を変更し,原告X1の請求を残業代84万7361円及び付加金40万円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却する旨の判決を言い渡した(乙14)。
3  争点及びこれに対する当事者の主張
(1)  被告らが原告X1に対し安全配慮義務を負っていたか否か(争点1)
ア 原告らの主張
原告X1と被告会社の間では,以下のとおり,労働契約が成立しており,被告会社は同契約に基づき,被告Y2は被告会社の取締役又は実質上の使用者として,原告X1に対し,それぞれ安全配慮義務を負っているものというべきである。
仮に,原告X1及び被告会社間の契約が労働契約とは評価できなくとも,原告X1及び被告会社間の契約により,原告X1と被告らは,特別な社会的接触関係に入ったといえるから,被告らは,原告X1に対し,安全配慮義務を負っているものといえる。
(ア) 時間的・場所的拘束性
①原告X1の勤務場所には,事務所と販売会とがあったところ,原告X1は,事務所勤務日については,勤務時間を午前9時から午後6時,勤務場所を被告会社の事務所と定められ,販売会勤務日についても,販売会等の主催者により午前9時の朝礼から午後8時の終礼までを勤務時間と定められることがほとんどであった。加えて,②原告X1の受け取る報酬が日当制であり,原告X1は上記の勤務時間や勤務場所を自由に決められなかったといえること,③原告X1は,事務所勤務日か否かを問わず,遅刻する場合には必ず被告会社に対してその旨の連絡をしており,④また,Cの方針を受けて定められた期限を守るために残業し,被告会社による黙示の残業命令に服していたというべきことからしても,原告X1は,被告会社により,勤務環境を時間的・場所的に拘束されていたものといえる。
(イ) 被告会社が業務遂行上,指揮監督をしていたこと
原告X1は,被告会社において,事務所勤務日も販売会勤務日も,被告会社の他の従業員と同様,上司であるAやCの指揮監督を受けていた。すなわち,原告X1の販売会業務の予定は,CとAによって決められ,販売会勤務日においても,AやCから必要な指示を仰ぎ,見積書等で報告をしており,事務所勤務日については,事務作業の割振り又はそのやり方につき,Cの指示の下に従事していた。さらに,原告X1が販売会業務を終えた後に,Cからの指示で被告会社の事務所に戻って仕事をしたこともあった。
(ウ) その他の事情も加えた小括
上記(ア)及び(イ)に加え,①原告X1は,平成23年1月以降,被告会社の事務所で事務作業も担当するようになってから,被告会社で月に平均25日,1日8時間以上の仕事をするようになり,原告X1は,被告会社の業務に専属して従事していたこと,②原告X1の労務を第三者が原告X1に代わって提供することは認められておらず,原告X1の労務には代替性がないこと,③原告X1に特にノルマが課されていたわけではなく,1日の労働時間を基礎とした日当制となっていたことからすると,原告X1に対する報酬は,一定時間労務を提供することに対する対価という性格のものであったというべきこと,④他の外注形態をとっていた者と比較すると,原告X1の業務内容や労働環境は,正規の従業員に近かったこと,⑤原告X1としては,被告会社においてアルバイトをしているという認識を有しており,被告会社としても,実質的に原告X1を労働者として使用していたことからすると,原告X1と被告会社との間には,遅くとも平成23年1月以降,労働契約が成立していたというべきである。
イ 被告らの主張
原告X1と被告会社との契約関係は,以下に述べることからして,雇用契約ではなく,外注契約(準委任契約)であるから,被告らは原告X1に対し,安全配慮義務を負わない。
(ア) 時間的・場所的拘束性がないこと
原告X1は,①出勤時刻・退勤時刻を特に指定されておらず,自由であったため,その執務時間についてタイムカードによる管理はされておらず,他の従業員より後に出社しても,被告会社の従業員からは何らの注意もされなかったこと,②事務所内作業につき,他の従業員から期限を設けられたわけではなく,自発的に夜間に作業していたにすぎないこと,③休暇を自由に取得することができたことなどからすれば,執務時間について被告会社に拘束されていなかったものというべきである。
また,原告X1は,同人が販売会等で応対した顧客にサンプルを配る手配や見積書の作り直し・送付,資料のファイリングなど,販売会業務により発生した作業を,引き続き被告会社で行っていたにすぎないものであって,被告会社は,これらの作業を自宅で行うことを禁止していなかったのであるから,原告X1の執務につき場所的拘束性があったとはいえない。
(イ) 被告会社は原告X1を指揮監督していなかったこと
原告X1は,①販売会業務については,自ら顧客に対応し,込み入った内容でない限り,逐一上司に指示を仰いだり,確認をとったりすることはなく,事務所内作業についても,上記(ア)のとおり,販売会等でのやり取りに基づく作業を引き続き被告会社の事務所において行っていたにすぎず,上司の指示等を受けるものではなかったこと,②自分の業務は自分だけで行い,他の被告会社の従業員とは独立して業務を行っていたこと,③被告会社から業務に関するノルマを課されていなかったこと,④複数の部署の業務を横断的に従事しており,特定の部署の指揮系統下にはなかったことからして,被告会社の従業員の指揮監督下にはなかった。
また,被告会社の従業員は,外注業者としての原告X1に対し,委託する業務の範囲を特定するために指示していたにすぎず,このことをもって,原告X1の業務内容について,被告会社の具体的な指揮監督が及んでいたとはいえない。
(ウ) その他の事情も加えた小括
以上のほか,①原告X1の業務には代替性があり,原告X1には諾否の自由もあったこと,②被告会社が原告X1に対して支払った報酬には,労務対償性がないこと,③原告X1が,外注業者として被告会社と契約していたとの認識を有していたというべきこと,④原告X1の被告会社における取扱いが被告会社の従業員とは異なっていたことからすると,原告X1と被告会社との契約は,雇用契約ではなく,外注契約(準委任契約)であり,原告X1は,被告会社の労働者ではないというべきである。
(2)  被告会社における業務の過重性(争点2)
ア 原告らの主張
(ア) 原告X1の労働時間
a 事務所勤務日の出勤時刻
原告X1の事務所勤務日の出勤時刻は午前9時である。このことは,①原告X1が被告会社従業員に対して遅刻する旨の連絡をした電子メール(以下「遅刻連絡メール」という。)の送信時刻は,いずれも午前9時前であったこと,②Cや営業部二課のメンバーが,本件労災担当官の聴取に対し,原告X1の始業開始時刻は午前9時である旨答えていること,③平成21年から平成26年4月まで被告会社で勤務していたG(以下「G元従業員」という。)が,事務所勤務日における原告X1の出勤時刻は基本的に午前9時前であった旨述べていること,④原告X1が残業代等請求訴訟の時点から一貫して同様に供述していることから裏付けられる。
これに対し,Dは,残業代等請求訴訟の証人尋問において,原告X1は必ず午前9時以降に出勤していた旨証言するが,その根拠が不明であることや,同人が原告X1の退勤時刻についても客観的証拠と矛盾する証言をしていることからして,同人の証言に信用性は認められない。また,Aは,原告X1の入社時に出勤時刻を決めておらず,通常9時以降に出勤していた旨証言しているものの,Aがその根拠として挙げる日報ノートの記載については,残業代等請求訴訟における証人尋問においては触れられず,本件訴訟の証人尋問に至って初めて触れられたものであること,このことを原告X1が午前9時以降に出勤したことの根拠として指摘しているのがAだけであることからしても,Aの上記証言は採用できないというべきである。
b 事務所勤務日の退勤時刻
原告X1の事務所勤務日の退勤時刻は,①早くとも午後8時30分であり,②原告X1が午後8時21分より後の時刻にPCから送信したメールがある場合は,送信時刻に10分を加えた時刻,③原告X1が携帯電話から送信した「終電」との記載のあるメール(以下,PCから送信したメールを「PCメール」と,携帯電話から送信したメールを「携帯メール」とそれぞれいう。)がある場合は午後11時,④「現在地○○」(○○は適宜の場所)という記載がある携帯メールがある場合は,被告会社の事務所からその地点までの所要時間を引いた時刻,⑤原告X2との単なる連絡の携帯メールがある場合は,最も遅い携帯メールの時刻から2時間を引いた時刻が退勤時刻である。なお,原告X1が所属していた営業部二課の従業員は,これらの時刻と同時刻頃まで残業していたことからすると,原告X1も,これらの従業員と同程度の時刻頃まで働いていたものといえる。
なお,上記①については,C及びDが,本件労災担当官による聴取に対し,原告X1が,通常は午後8時30分頃まで働いていた旨述べていることから,原告らの主張には合理性がある。上記②については,原告X1が被告会社の事務所のPCから業務関連のPCメールを送信している場合,少なくとも,その時刻まで残業していたことになり,その後すぐに仕事を終えたとしても,片付け等の時間を踏まえれば,退勤までに少なくとも10分を要するといえることから,原告らの主張には合理性がある。上記③については,原告X1が京成上野駅を午後11時56分に出発する京成津田沼駅行きの終電に乗るためには,被告会社の事務所を午後11時に出る必要があることから,原告らの主張には合理性がある。上記④については,原告X1が同X2に対し,虚偽の内容の携帯メールを送信する動機もないことに照らすと,被告会社の事務所から携帯メールに記載された地点までの所要時間を基に,原告X1の退勤時刻を算出することは合理的であるというべきことからすれば,原告らの主張には合理性がある。上記⑤については,原告X1が,被告会社の事務所からの帰路に寄り道をするとは考えられないことからすると,被告会社の事務所から原告X1の自宅までの所要時間を控えめに2時間として退勤時刻を算出することに合理性があることから,原告らの主張には合理性がある。
c 販売会勤務日の出退勤時刻
①出勤時刻については,〈ア〉開始時刻を指定する携帯メールがある場合には,その時刻とし,〈イ〉上記〈ア〉以外でSuicaカードの利用履歴がある場合は,販売会場の最寄り駅の出場時刻に同会場までの所要時間を加算し,その時刻以降30分ごとの切りのよい時刻を出勤時刻とし,〈ウ〉さらに,同履歴がない場合は,定時である午前9時とすべきである。
②退勤時刻については,〈エ〉Suicaカードの利用履歴がある場合は,最寄り駅への入場時刻から,販売会場から最寄り駅までの所要時間を踏まえて時刻を算定し,〈オ〉同履歴がない場合は,定時である午後6時とすべきである。
d 原告X1の時間外労働時間
以上を基に,原告X1の勤務時間を算定すると,別紙1のとおりとなり,原告X1の1か月の法定労働時間を174時間とすると,本件脳出血の発症前6か月間(平成24年6月14日から同年12月13日)の1か月当たりの平均時間外労働時間は,112.17時間となる。
なお,残業代等請求訴訟の控訴審判決で認定された労働時間を前提にすると,本件脳出血の発症前6か月(上記期間)の1か月当たりの平均時間外労働時間は80.83時間となる。
e 休暇の少なさ・不規則さ
原告X1が休暇を取った日数は,平成24年6月に3日,同年7月に4日,同年8月に5日,同年9月に4日,同年10月に3日,同年11月に2日,同年12月に2日と少なく,休暇の間隔も不規則であった。
(イ) 不規則な勤務
原告X1の出勤時刻等が,被告会社によって指定され,黙示の残業命令に基づく残業もあったこと,販売会勤務日に,被告会社の指示によって被告会社の事務所に戻って勤務することがあるなど,不規則な勤務であった。
(ウ) 拘束時間の長い勤務
原告X1が被告会社から時間的拘束を受けていないとか,残業命令がないといったことはなく,また,原告X1の業務の自由度が極めて高いとか,労働密度が低いといった事情はなかった。原告X1がゲームをしていたのは,休憩中のことであり,私語についても,業務時間内に常識的な範囲でしていたにすぎない。
(エ) 出張の多さ・出張先の変則性
原告X1の勤務の3分の1は,販売会業務日であり,その出張先は本件脳出血発症前6か月間だけで50か所以上であった。販売会場は様々な場所に点在しており,原告X1が自宅を出る時刻や帰宅する時刻も一定ではなく,毎日同じ場所で勤務する場合と比較すると,身体的・精神的疲労がより大きかった。
(オ) 精神的緊張を伴う業務
原告X1は,営業部二課の他の従業員と同様に膨大な量の業務を担当していた。また,被告会社で取り扱っていたカーテンは,基本的には1窓で数十万円もするようなフルオーダーの商品であったところ,そのサイズが数センチ短いだけでも再発注となるため,発注業務は失敗が許されないものであったため,原告X1は,高度の精神的緊張を伴う業務を行っていた。
(カ) 小括
以上のとおり,原告X1の勤務の内容や環境を考慮しても,原告X1が,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労していたことは明らかである。
イ 被告らの主張
厚生労働省が策定した平成13年12月12日付け「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号。以下「脳・心臓疾患認定基準」という。)によると,業務の過重性については,労働時間のみによって評価されるものではなく,就労態様の諸要因も含めて総合的に評価されるべきである。
(ア) 労働時間について
a 残業代等請求訴訟の控訴審判決において認定された労働時間を全て計上したとしても,原告X1の発症前2か月間,発症前3か月間,発症前4か月間,発症前5か月間,発症前6か月間の各時間外労働時間の平均時間は,以下のとおり,いずれも80時間を超えていない(なお,労働日数については,連続した5日を労働日とし,その後の連続した2日を休日とすることを繰り返してカウントした。)。また,労働者の発症前6か月間のうち1か月当たりの時間外労働時間が80時間を超える月があったとしても,発症前3か月間時間外労働時間が減少していること,発症直前に休日が与えられていること等の事情がある場合には,発症時には労働による疲労が回復していたとして,業務の過重性が否定され得る。
① 発症前1か月間 73.17時間
② 発症前2か月間平均 66.365時間
③ 発症前3か月間平均 71.37時間
④ 発症前4か月間平均 77.315時間
⑤ 発症前5か月間平均 72.706時間
⑥ 発症前6か月間平均 70.623時間
b 本件において,原告X1には,発症前日である平成24年12月12日に休日が与えられていた上,発症の直前である同年11月29日から同年12月13日までは,全て午後8時前には終業しており,時間外労働をしていないか,極めて短時間であることから,本件脳出血の発症時において,労働による疲労回復の機会は十分に存在していた。
原告らが主張する労働時間は,事務所勤務日における原告X1の出勤時刻が午前9時であり,その退勤時刻が午後8時30分であるとして算定されているが,いずれについても何ら立証がされていない。
また,原告X1は,被告会社従業員のH氏と週に2回は夕食を共にしていたように,被告会社からの帰宅途中に,寄り道等をしていた可能性もあり,原告X1が原告X2宛に送信した携帯メールは,何ら原告X1の退勤時刻の根拠となるものではない。
以上のように,原告らによる原告X1の労働時間の算定については,その前提に誤りがあるから採用できない。
(イ) 不規則な勤務について
被告会社は,原告X1の出勤時刻・退勤時刻について特に指定せずに原告X1の自由に委ねており,被告会社の従業員が原告X1の業務スケジュールにつき変更等を求めたことはないこと,被告会社における業務内容については,販売会等における営業業務と事務所内作業の概ね2種類に固定されていたことからして,原告X1の勤務が不規則であったとはいえない。
(ウ) 拘束時間の長い勤務について
被告会社は,原告X1の出勤時刻・退勤時刻を指定していなかった。また,被告会社従業員が,原告X1に対し,事務所内作業をするために黙示の残業指示をしたことはなく,むしろ,原告X1が自発的に残っていたものというべきである。
さらに,被告会社従業員は,原告X1の業務につき,販売会等の現場の指定や仕事の割り振りを除き,業務のやり方を指示し,業務内容を監督したことはなかったこと,被告会社が原告X1にノルマを課していたわけではなかったこと,原告X1が執務時間中にソーシャルゲームをしたり,他の被告会社従業員と談笑したりしていたことからすると,原告X1の被告会社における業務の自由度は極めて高かったものということができる。また,同じ業務量の営業部一課においてはAが一人で業務を行っていたのに対し,営業部二課については,C,E,原告X1の3人で分担して行っていたこと,原告X1は外回りの業務を担当していなかったこと,原告X1は被告会社の従業員と食事をしたいがために居残っていたとも推測されることからすると,原告X1の業務における労働密度は決して高くなかったものといえる。
加えて,残業代等請求訴訟の控訴審判決の認定事実によると,原告X1は被告会社の事務所における執務時間中,必ず1時間の休憩をとっていたこと,販売会等においても,休憩時間を十分に取れる体制となっていたことからして,原告X1には,必要な休憩時間は適切に確保されていたものといえる。
以上のとおり,原告X1の被告会社における労働密度,業務内容,休憩時間等に照らすと,本件における拘束時間の長い業務の負荷要因における負荷の程度は極めて小さいものといえる。
(エ) 出張の多い業務について
原告X1は,残業代等請求訴訟において,事務所での作業の方が販売会での作業よりも負担が大きかった旨を供述していたのであって,この点に関する原告らの主張は,上記の供述と相反する。
また,販売会業務については,同種業務の経験が20年以上ある原告X1にとっては慣れた業務であり,精神的負荷が他の業務よりかかるというものではないし,販売会場も都内やその近郊が多く,移動の負担も小さい。さらに,販売会等への移動手段は電車であり,移動中の自由度も高く,十分な休憩時間も取られていたことからして,販売会業務が原告X1にとって身体的・精神的負荷が大きかったとはいえない。
(オ) 交代制勤務・深夜勤務について
被告会社においては,交代制勤務・深夜勤務のシフトは組まれておらず,本件において,標記の負荷要因は存在しない。
(カ) 作業環境について
原告X1の業務においては,特異な温度環境,騒音又は時差は存在せず,本件では標記の負荷要因は存在しない。
(キ) 精神的緊張を伴う業務について
本件においては,「発症に近接した時期における精神的緊張に伴う業務に関連する出来事」は見当たらず,「日常的に精神的緊張を伴う業務」については,上記(ウ)で指摘した諸事情に照らせば,原告X1の業務は,日常的に精神的緊張を伴う負荷要因は決して多くない業務であったことが理解できる。なお,原告X1は,「販売会に行くときに直行する際のサンプルだとか資料をもって朝電車に乗っていくことはちょっときつかった」と述べるにとどまり,上記負荷要因が大きいことを示すエピソードについてはほとんど供述等していない。
(ク) 小括
以上のとおり,本件においては,上記(ア)のとおり,労働時間のみでは原告X1の業務が過重であったと評価することはできず,かつ,他の負荷要因についても,上記(イ)~(キ)のとおり,いずれも負荷要因が存在しないか,負荷の程度は極めて小さいため,これらの点を総合考慮しても,業務の過重性は認められない。
(3)  被告会社における業務と本件脳出血との間の因果関係(争点3)
ア 原告らの主張
脳・心臓疾患認定基準は,医学的知見に基づいて策定されたものであり,本件のような事案における業務と脳・心臓疾患との間の相当因果関係の有無を判断する際にも合理的な基準となる。そして,同基準においては,発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。
上記(2)アで主張したとおり,原告X1の時間外労働時間は,発症前6か月間の平均で,112.17時間であり(なお,残業代等請求訴訟の判決で認定された時間外労働時間に基づいても,6か月間の平均で80.83時間となる。),原告X1は,被告会社において,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労していたものといえる。したがって,原告X1は,本件脳出血発症前に従事していた業務による明らかな過重負荷が加わることによって,血管病変等がその自然的経過を超えて著しく増悪し,これにより,本件脳出血を発症したものと推認できるから,本件脳出血の発症と業務との間には相当因果関係があるものといえる。
原告X1の高血圧について,原告X1は,本件脳出血発症前に高血圧との診断を受けたことはなく,カルテ等に高血圧の既往症がある旨の記載も,原告X1の家族が推測で述べたことを,医師がそのまま記載したものであるから,原告X1が,本件脳出血発症時に,高血圧の既往症を有していたとは認められない。また,本件脳出血発症に伴う搬送後に,相当高い血圧が測定されたとしても,そもそも,脳出血発症時の血圧が高いことからすると,搬送直後の血圧をもって,原告X1が高血圧の既往症を有していたものということはできない。さらに,原告X1が本件脳出血の発症当時肥満であったことについても,そのBMI指数は25.73であって,同指数を用いた肥満度の分類において最も軽度の部類に属することからすると,原告X1に高血圧の原因となるような肥満があったものということはできない。加えて,原告X1の家族に高血圧の者がいるとしても,その者が遺伝性の高血圧であるかは不明であるし,遺伝的に高血圧になりやすかったとしても,そのことから,直ちに高血圧症にり患していると認められるわけでもない。
仮に,原告X1に高血圧の既往症があったとしても,長時間労働が高血圧を引き起こす要因と認められるのであるから,原告X1の高血圧が,被告会社における過重業務以外の要因によるものとはいえない。
イ 被告らの主張
原告X1は,本件脳出血を発症して救急搬送された時点で,収縮期血圧が190mmHg,拡張期血圧が120mmHgであり,重度の高血圧状態にあった。このことからすると,原告X1は,脳・心臓疾患と関連の深い高血圧症にり患しており,この点が,本件脳出血の発症の原因となった可能性がある。主治医も,本件脳出血と既往症である高血圧との関連は完全には否定できない旨述べている。
なお,原告X1が本件脳出血の発症前に高血圧の診断を受けたことがなかったとしても,原告X1が単に本件脳出血の発症前に血圧の測定自体を行っていなかったためにすぎない。また,脳出血に伴う頭蓋内血腫等によって急激な頭蓋内圧亢進が生じると,一時的に血圧が上昇することがあり(クッシング現象),この場合には,血圧の上昇と同時に心拍数の低下(徐脈)を伴い,自覚症状として,頭蓋内圧亢進による激しい頭痛や悪心,嘔吐が生じるとされているが,原告X1の救急搬送時における心拍数(HR)は77回から92回と平常値であったほか,徐脈や悪心,嘔吐といった症状も認められなかったのであり,原告X1が,本件脳出血の時点において,一時的な血圧上昇であるクッシング現象に陥っていたとはいえない。
以上のとおり,原告X1の脳出血は,発症前から存在していた高血圧を原因とするものであり,高血圧は,原告X1自身が健康管理を怠ったために発症したものであるから,被告会社における業務と原告X1の脳出血の発症との間に因果関係は認められない。
(4)  被告らの責任原因(争点4)
ア 原告らの主張
上記(1)アにおいて主張したとおり,被告らは,原告X1に対して労働契約又はそれに類似する契約により,安全配慮義務を負うところ,その具体的な内容は,①原告X1の労働時間を管理する義務,②原告X1の健康に配慮する義務及び③安全配慮義務を遵守する体制を構築すべき注意義務に分けられる。
そして,上記(2)アで主張したとおり,被告らは,原告X1に対して過重な業務を負担させていたところ,被告Y2においては,被告会社と原告X1が労使関係にあることを認識し,又は容易に認識できたのに,外注業者として扱ったことにより,タイムカード等による労働時間の管理を怠った。また,被告Y2は,原告X1の長時間労働を認識し,又は容易に認識できたのにもかかわらず,原告X1が長時間労働によって健康を損なうのを防止するための措置を採らなかった。
したがって,被告Y2は,上記①,②の義務に違反して原告らに損害を与えたのであり,不法行為(原告X2に対するものも含む。)又は会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。また,被告会社の代表取締役である被告Y2は,自身の代わりに上記の安全配慮義務を履行することができる者をもってその義務の履行をさせれば足りるから,被告Y2には,被告会社にそのような者を配置しなかった点において,安全配慮義務を遵守する体制を構築すべき注意義務への違反も認められる。
加えて,被告Y2に不法行為(民法709条)が成立する以上,被告会社も,会社法350条により,原告らに対して不法行為責任を負い,さらに,原告X1に対しては,債務不履行責任を負う。
イ 被告らの主張
そもそも,上記(1)イで主張したとおり,被告らは原告X1に対して安全配慮義務を負うものとはいえないから,「侵害」行為(民法709条)又は重大な過失(会社法429条1項)若しくは債務不履行の事実がいずれも存在しない。
仮に,原告X1の労働者性が肯定され,被告らに原告X1の健康に配慮する義務が存在したとしても,上記(2)イで主張したとおり,原告X1の業務には過重性が認められないため,被告会社における業務と本件脳出血の間に因果関係が認められず,また,原告ら主張の「侵害」行為,「重大な過失」行為又は債務不履行の事実は,いずれも存在しない。
さらに,被告Y2においては,被告会社と原告X1が労使関係にあることを認識し,又は容易に認識できたとはいえず,原告X1の労働時間等を把握・管理できたものとはいえないから,被告らに,原告X1の労働関係を管理する義務違反はない。
加えて,本件脳出血は,原告X1が体調管理を怠ったために発症したものであるから,被告らに,原告X1の健康に配慮すべき義務の違反はない。
(5)  損害額(争点5)
ア 原告らの主張
(ア) 原告X1の損害 合計3657万5732円
a 入通院慰謝料 296万2666円
原告X1は,本件脳出血により平成24年12月13日から平成25年6月22日までの192日間入院したのであり,そのことによる精神的損害を金銭に換算すると,慰謝料の額は232万8000円を下らない。
また,原告X1は,同年6月23日から,症状が固定した平成26年12月31日までの期間(538日間)通院したのであり,そのことによる精神的損害を金銭に換算すると,慰謝料の額は63万4666円を下らない。
b 後遺症慰謝料 3000万円
原告X1には,①左上下肢に重度の麻痺,左半身に重度の感覚障害,②左下肢機能の全廃及び③左上肢機能の全廃という後遺障害が残っているところ,これを労働者災害補償保険法施行規則別表第1の後遺障害等級に当てはめると,上記①については第2級の2の2に,上記②は第5級の5に,上記③は第5級の4に,それぞれ該当し,上記①及び②の併合をもって同基準において第1級相当の後遺障害があるものといえる。
このような重大な後遺障害が残ったことにより原告X1は多大な精神的苦痛を被ったのであり,かかる精神的損害を金銭に換算すると3000万円を下らない。
c 入院雑費 28万8000円
原告X1は,合計192日間入院したところ,1日当たり雑貨費等で少なくとも1500円の支出を余儀なくされたため,入院雑費は合計で28万8000円(192日×1500円)である。
d 弁護士費用 332万5066円
原告X1は,法律の専門家ではないから,被告らに対して訴訟を提起するには,弁護士に依頼しなければならないことは明らかである。そして,被告らの不法行為により原告X1が支出せざるを得ない弁護士費用は,上記a~cの合計額の1割である332万5066円を下らない。
e 原告X1の素因減額の可否
上記(3)アで主張したとおり,①原告X1が本件脳出血発症前に高血圧症にり患していたことを示す客観的証拠はないこと,②原告X1が軽度肥満であったとしても,そのことから直ちに高血圧であったとはいえないこと,③仮に原告X1が高血圧であったとしても,被告らによる過重労働が,原告X1の高血圧を招いた可能性があることからして,原告X1の損害について,素因減額をすべきではない。
(イ) 原告X2の損害 合計330万円
a 固有の慰謝料 300万円
原告X2においては,同居してきた娘である原告X1に重度の後遺障害が残存し,今後も原告X1を介護する必要があること,原告X2は,現在77歳であり,本件脳出血を発症しなければ,原告X1を頼りにし,いずれは原告X1によって介護を受けることも期待していたが,その期待も失われたこと,本件脳出血の発症後,被告らより誠意のある対応を受けていないことからすれば,原告X2は,被告らの不法行為によって,原告X1の死亡にも比類すべき大きな精神的損害を被ったといえ,その精神的損害を金銭に換算すれば,300万円を下らない。
b 弁護士費用 30万円
原告X2は,法律の専門家ではなく,被告らに対して訴訟を提起するためには,弁護士に依頼しなければならない。そしてその費用は,上記aの1割である30万円を下らないというべきである。
イ 被告らの主張
(ア) 原告X1の損害について
a 通院慰謝料について
原告X1は,湾岸リハビリ病院を退院した平成25年6月22日の時点で,「治癒に近い状態」であったのであるから,退院後に引き続き同病院に通院し,リハビリ等の必要があったとしても,翌日から平成26年12月31日までの538日もの長期間にわたって治療を行う必要性があったのか疑義がある。仮に,治療が必要であったとしても,原告X1の症状,治療内容,通院頻度に照らし,実通院日数を基準として通院慰謝料を計算すべきである。
b 後遺障害慰謝料について
原告X1の後遺障害については,平成26年2月4日付けリハビリテーション総合実施計画書によれば,基本動作については全て自立と評価されており,FIM(機能的自立度評価表)の食事,整容,入浴,更衣,トイレ動作等のセルフケア,排せつ調節,起居移乗及びコミュニケーションについては全て完全自立の状態と評価されている。また,FIMの歩行・階段については6点(修正自立)であり,補助具を使用したり時間がかかったりしながらも,監視・介助を必要としない状態にあるものといえる。これらの点からすると,原告X1は,左上下肢に麻痺を残すものの,基本的な動作・活動について介護を要しない状態にあるのであるから,後遺障害の程度は,後遺障害等級第1級の3ではなく,同第3級の3「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの」の程度にとどまる。
また,原告X1に後遺障害等級第1級に相当する後遺障害があったとしても,同等級における一般的な後遺障害慰謝料の額に照らし,原告X1の後遺障害慰謝料の額(3000万円)は高額にすぎる。
c 上記a及びb以外の損害費目について
いずれも争う。
d 素因減額について
原告X1の高血圧症の既往症が,本件脳出血の発症に大きく寄与していることは明らかであるから,原告X1の損害額については,大幅な素因減額を免れない。
(イ) 原告X2の損害について
原告X2は,原告X1に後遺障害が残ったことにより,原告X1の生命が侵害されたことに比肩するような大きな精神的損害を被ったとはいえず,近親者固有の慰謝料を請求できない。
仮に,近親者固有の慰謝料を請求できるとしても,原告X1の高血圧症が本件脳出血の発症に大きく寄与している以上,原告X2の損害額も大幅な素因減額を免れない。
第3  当裁判所の判断
1  被告らが原告X1に対し安全配慮義務を負っていたか否か(争点1)について
(1)  認定事実
前提事実並びに証拠(後掲のもののほか,甲30~34,46,47,乙2~4,28~31,証人A〔以下「証人A」という。〕,証人H〔以下「証人H」という。〕,原告X1本人,被告会社代表者兼被告Y2本人〔以下「被告Y2」という。〕)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア 原告X1は,平成10年頃から平成23年頃までの間,外注業者として,株式会社b(以下「b社」という。)のカーテンのコーディネート業務を行っていた。また,原告X1は,b社の業務の中で,被告会社の仕事を事実上手伝うこともあったところ,Aに声を掛けられ,平成20年1月頃から,主に土日に開催される被告会社の販売会等(Aが課長を務める営業部一課が担当するもの。)の業務に参加するようになった(甲4)。
イ 原告X1は,平成23年1月以降,被告会社からの依頼により,営業部一課の販売会業務に加え,営業部二課の販売会業務及び同課の事務所における事務作業をするようになり,月に10日程度,販売会業務として,販売会の会場において,カーテンの購入を検討する顧客からカーテンの好みや予算を聴き取って商品の提案をし,見積書の作成をするといったコーディネート業務や,他のコーディネーターの接客補助業務を行うようになった。また,原告X1は,被告会社からの依頼を受けて,被告会社の事務所内作業として,販売会等で作成された見積書を基にしたサンプルの手配や,カーテンの発注といった業務を行うとともに,他の営業部二課の従業員と同様に互いの作成した発注書のチェックなども行い,さらに,同年7月に営業部二課に配属されたDの手伝いも行っていた。以上のとおり,原告X1は,同年1月頃以降は,被告会社の業務を専属的に行うようになり,毎月不定期で2日ないし5日程度休む以外は,被告会社における業務を行っていた。
なお,原告X1は,以上の業務のほかに,納品・採寸及び個別対応・移動・打合せ等の用件で外出する場合があった。
(以上につき,甲4,5,乙8,弁論の全趣旨)
ウ 被告会社の所定始業時刻は,午前8時30分であり,所定終業時刻は午後5時30分(休憩時間1時間)であるが,原告X1は,後に認定するように,事務所勤務日には,基本的に午前9時に出勤していたものの,Cなどの被告会社の従業員から注意されることはなかった(弁論の全趣旨)。
また,被告会社は,タイムカードを用いて従業員の労働時間の管理をしていたものの,原告X1の業務時間については,そのような管理を行っていなかった。
さらに,被告会社においては,毎月末に翌々月の販売会等の予定が発表され,AとCが各販売会等に派遣する従業員の人員配置を決定しており,原告X1についても,被告会社の他の従業員と同様に,各営業日における勤務場所,出張先等が決められていた。また,被告会社において,各営業日に従業員が行った業務を記録するために作成されていた日報ノートには,原告X1についても,各営業日における出張先が記載されていた(甲6)。
エ 原告X1は,被告会社の業務を被告会社のパソコンを用いて行っており,また,被告会社から付与された社用のメールアドレスを用いて取引先との連絡をしていた(甲13)。なお,原告X1が業務に関するPCメールを送信する際には,Cも把握できるように,Cのメールアドレスを「Cc」に入れて送信していた(甲16)。
オ 原告X1の報酬については,日当制が採られており,事務所勤務日は1日8000円とされ,また,販売会勤務日は,平成24年9月までが1日1万5000円,同年10月以降が1日1万2000円とされていた(甲5,乙8)。なお,原告X1には,業務におけるノルマは課されていなかった。
原告X1は,毎月末に,当該月の事務所勤務日と販売会勤務日の日数に沿って,これらの日当に加え,出張旅費を記載した請求書を作成して被告会社に提出し,被告会社は,かかる請求書と,日報ノートとを突合,確認した上で,原告X1に対する報酬を支払っていた(甲4)。
カ なお,原告X1に対する報酬は,被告会社の会計処理においては外注費として取り扱われていたほか,税務処理において,原告X1の報酬につき所得税の源泉徴収処理をせず,消費税を仮払消費税として計上していた(乙6~9)。また,被告会社は,原告X1を雇用保険や社会保険に加入させていなかった(争いがない)。
(2)  判断
ア(ア) 原告X1が被告会社との関係において「労働者」(労働基準法9条)に該当するか否かは,単に契約形式のいかんにかかわらず,労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して,実質的な使用従属関係が認められるか否かによって判断するのが相当である。
(イ) 上記(1)の認定事実によれば,①原告X1は,平成23年1月以降は被告会社の事務所における事務作業をするようになり,被告会社において専属的に業務を行っていたところ,②販売会勤務日については,毎月末に,A及びCによって,翌々月の販売会等における出張先が指定されていたこと,③事務所勤務日における業務を見ても,被告から社用のメールアドレスが付与され,被告会社のパソコンを用いて取引先とのメールのやり取りを行い,また,営業部二課の中心的なメンバーとして(甲10),見積書や発注書の作成作業や,カーテンコーディネートの経験が浅いDの業務をサポートし,また,他の営業部二課のメンバーと同様に,他のメンバーが作成した発注書のチェックといった作業をしていたことが認められ,原告X1は,業務を行う上で場所的に拘束されていたものと認められる。
(ウ) また,上記(1)の認定事実及び後に争点2において認定するところ並びに証拠(甲18の6・12・30・33)によれば,①原告X1は,事務所勤務日については,後記認定のとおり基本的には午前9時には出勤しており,所定の時間に遅刻する場合には,被告会社の従業員にその旨携帯メール(遅刻連絡メール)で連絡していたこと,②販売会勤務日については,被告会社の業務として,販売会等の主催者の指示する時刻に合わせて出退勤し,その後被告会社の事務所に戻って被告会社の業務を行うこともあったことからすると,原告X1は,被告会社の業務を行うに当たって,時間的に拘束されていたものと認められる。
(エ) さらに,上記(1)の認定事実によれば,①原告X1は,営業部二課の事務所内作業につき,自らが作成した発注書の内容にミスがないか,営業部二課の他のメンバーの確認を受けていたこと,②自らの作成した見積書に関する事務作業のほかに,Cの指示を受けて,他の従業員が作成した見積書に基づき発注書の作成を行うなどの事務作業を行っていたこと(甲32),③取引先とPCメールでやり取りをする場合には,Cのメールアドレスを「Cc」に入れてメールを送信していたことなどが認められ,これらの点からすれば,原告X1は,被告会社から具体的な指揮監督を受けて業務を行っていたものと認められる。
(オ) そして,原告X1の報酬は,事務所勤務日及び販売会勤務日のいずれにおいても日当制が採られており,また,原告X1は,被告会社からノルマを課されていなかったことに照らすと,原告X1の報酬は,インテリアコーディネーターとしての業務の成果ではなく,業務を行ったこと自体を主たる要素として定められているものというべきであって,報酬についての労務対償性も認められるというべきである。
(カ) 以上の各点からすると,原告X1と被告会社の契約関係は,少なくとも平成23年1月頃以降は,その外形いかんにかかわらず,労働契約と評価すべきものであって,原告X1は,被告会社との関係において「労働者」に当たるものと認められる。
そして,使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)を負うものと解するのが相当であるから,被告会社は,原告に対し,上記のような安全配慮義務を負うものというべきであり,被告会社においてこの義務に違反した場合には,原告X1に対し,労働契約上の債務不履行責任又は不法行為責任を負うものと解される。
また,上記のとおり被告会社との関係において労働者であると認められる原告X1は,被告会社の代表取締役である被告Y2の指揮監督に復するべき地位にあるというべきところ,労働者の労務管理は会社経営に当たっての重要事項であるというべきことや,被告会社の規模がそれほど大きくないこと(甲29,弁論の全趣旨)にも鑑みれば,被告Y2において,適切な社内体制を構築し,被告会社の個々の従業員の疲労や心理的負荷等を把握することは十分に可能であると考えられることからすれば,被告Y2においては,原告X1に対し,被告会社が負うのと同様の安全配慮義務を負うとともに,被告会社に対する善管注意義務として,従業員の労務管理の業務を行うにつき,過重な長時間労働等により従業員が心身の健康を損なうことのないよう,適正に労働時間等の管理を行い,従業員に長時間労働が生じたときは直ちにこれを是正するための社内体制を構築する義務を負うものと解するのが相当であり,被告Y2においてこれらの義務に反して原告X1に損害を与えた場合には,不法行為責任又は会社法429条1項の責任を負うものと解される。
イ(ア) この点,被告らは,①原告X1については,勤務場所も勤務時間も自由であり,場所的拘束性も時間的拘束性もなかった,②被告会社は,原告X1の業務を指揮監督していなかった,③原告X1の業務には代替性があり,原告X1には業務につき諾否の自由があり,その報酬の労務対償性もなかった,④原告X1も被告会社も原告X1が被告会社の従業員との認識を有していなかったなどとして,原告X1と被告会社との関係は安全配慮義務を伴わない外部委託(準委任)契約であるなどと主張し,証人A,証人H,被告Y2の供述等や,残業代等請求訴訟における同人らを含む証人の調書等には,これらの主張に沿う部分がある。
(イ) まず,上記(ア)①の点について,被告らは,〈ア〉原告X1の業務条件を協議した時点で,勤務時間が指定されなかった,〈イ〉原告X1の行っていた事務作業が,被告会社の事務所以外において可能であり,他の外注業者は,被告会社の事務所以外で行っていたなどとする。
しかしながら,上記〈ア〉については,既に述べたとおり,原告X1が事務所勤務日に基本的には午前9時に被告会社の事務所に出勤し,午前9時に遅れるときには遅刻連絡メールを被告会社の従業員に送信していたこと(上記ア(ウ))と原告X1の供述等を併せ考慮すれば,原告X1の出勤時刻が定められていたことは優に認められるというべきである。また,上記〈イ〉については,原告X1が,事務所勤務日において,Dの業務のサポートや,他人の作成した発注書のチェックといった作業をしていたこと(上記ア(イ))と整合しない上,上記〈イ〉を前提とすれば,原告X1に対する報酬が日当制である以上,被告会社においては,原告X1につき,必要性のない出社は控えさせるのが通常であると考えられるが,被告会社の代表者である被告Y2は,原告X1が毎月15日程度,被告会社の事務所において勤務しているのを容認していることとも整合しない(被告Y2は,原告X1に来なくてよい旨伝えたと供述するが,これを裏付ける証拠はなく,採用し難い。)。結局のところ,被告らの上記主張は,採用することができない。
(ウ) 次に,上記(ア)②の点について,被告らは,被告会社側において,原告X1の業務につき具体的な指示や確認をする場面が,委託する業務の範囲を確定する場合や,発注書のチェックをする局面に限られていたなどと主張する。しかしながら,そのような主張には,何らの客観的な裏付けがないことに加え,原告X1が他の営業部二課の従業員と同様の業務を行うとともに,毎月不定期で2日ないし5日程度休む以外は被告会社における業務を行い,業務に関するPCメールを送信する際には,Cのメールアドレスを「Cc」に入れて送信していたこと(上記(1)イ及びエの各認定事実,後記争点2における認定事実)も勘案すれば,被告らの上記主張は,採用することができない。
(エ) さらに,被告らの上記(ア)③の主張のうち,報酬の労務対償性が認められることは上記ア(オ)において述べたとおりであり,原告X1に許諾の自由があったとする点についても,上記(1)イの認定事実及び後記争点2における認定事実のような原告X1の勤務実態と整合せず,いずれも採用し難い。また,原告X1の業務の代替性をいう点については,そもそも原告X1の労働者性を判断するに当たって決定的な決め手となるような事情であるとはいい難く,上記アにおいて述べた当裁判所の判断を左右するようなものではない。
(オ) 上記(ア)④の点について,被告らは,〈ア〉本件労災担当官による聞き取りの際に,原告X1が「自分がY1社で専属的に外注で契約していることは皆,知っていたと思います。」と述べたこと(乙5・6頁)や,〈イ〉原告の報酬についての取扱いや社会保険等への加入状況(上記(1)カの認定事実)等を指摘する。
しかし,上記〈ア〉については,原告X1と被告会社の契約につき外形的に外注の形式が採られていたことを述べたものにすぎないと解されるし,上記〈イ〉についても,これまでにおいて述べたような原告X1と被告会社との契約関係の実態に照らせば,上記アのような当裁判所の認定,判断を左右するようなものとはいえないものというべきである。この点に関する被告らの主張も,採用することができない。
2  被告会社における業務の過重性(争点2)について
(1)  脳・心臓疾患の認定基準(乙19〔以下の認定事実の文末に付した頁は,すべて同号証の該当頁である。〕,弁論の全趣旨)
脳・心臓疾患認定基準においては,脳血管疾患及び虚血性心疾患等について,業務による明らかな過重負荷が加わることによって,血管病変等がその自然的経過を超えて著しく増悪し,脳・心臓疾患が発症した場合は,その発症に当たって業務が相対的に有力な原因であると判断し,業務に起因することの明らかな疾患として取り扱うものとし,具体的には,発症に近接した時期における負荷のほか,長期間にわたる疲労の蓄積を考慮することとして,発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働(1週間当たり40時間を超えて労働した時間数)が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できるものとされている(8頁)。
長時間にわたる時間外労働は,疲労の回復のために必要な睡眠時間の減少につながり,睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ,その結果,血管病変等をその自然的経過を超えて著しく増悪させる可能性があると考えられている。このことに関連して,複数の疫学調査において,長時間労働群と短時間労働群を比較した場合,血圧の上昇,心筋梗塞の発症率について有意差が見られることが確認されている(甲40)。
長期間の過重業務についての判断に当たっては,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚労働者又は同種労働者(当該労働者と同程度の年齢,経験等を有する健康な状態にある者のほか,基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者)にとっても,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から客観的かつ総合的に判断することとされ(8頁)。具体的には,労働時間のほか,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交代制勤務・深夜勤務,作業環境,精神的緊張を伴う業務であるか否かといった観点から検討するものとされている(5~7頁)。
(2)  原告X1の労働時間について
ア 事務所に出勤した労働日の始業時刻
(ア) 証拠(甲30,33,原告X1)及び弁論の全趣旨によれば,別紙1において原告X1の業務形態が「事務所」又は「事務所→販売会」のように事務所への出勤から始まる労働日につき,原告X1がまず事務所に出勤したこと,その場合の始業時刻が当該出勤時刻であったことは認められる。
そして,原告X1については,タイムカードによる出退勤の管理が行われておらず(前記(1)ウの認定事実),他に原告X1の事務所への出勤時刻を特定し得る客観的な直接証拠も存在しないところ,原告X1は,Aから午前9時までに出勤するよう指示を受けていたことから,遅れる旨の連絡をした場合を除いて午前9時までには出勤していた旨を,残業代等請求訴訟及び本件において一貫して述べており(甲30,33,原告X1),そのような供述等それ自体に特段不自然な部分は見当たらない。
また,本件調査復命書(甲4)は,午前9時を始業時刻として認定し,Cからの録取の結果(甲10)をその根拠の一つとしているところ,Cは,原告X1が業務をしていた営業部二課の所属グループのリーダーであって,原告X1に業務上の指示をする立場にあり,原告X1の業務の内容及び勤務状況を的確に把握し得た者であることや,Cにおいて,本件労災担当官に対して原告X1の始業時刻につき実際よりも早い時刻を殊更に述べなければならないような事情は見当たらないことからすれば,原告X1の始業時刻についてCが述べたところは,信用性が高いものといえる。加えて,労働局職員がする労働災害の認定は,同種の申請を大量に処理するため,聴取等により収集した事実を機械的に認定基準に適用して,労働災害の業務起因性等を判断するいわゆる行政認定であり,その担当官が,ある一個の申請についてのみ,あえて申立人の申立内容に合わせるようにする動機もないし,また,そのような行動をとることは,公務員としての職責に照らし許されることでもないから,本件調査復命書を作成した本件労災担当官においても,Cについての面談録取書に原告X1の供述内容に合わせるように修正した内容を記載し,あるいは,事情聴取に際しCの述べるところを原告X1の供述内容に沿うように誘導するような事態はおよそ考え難い。
以上に加え,原告X1が送っていた遅刻連絡メールの送信時刻及びその内容(甲18の6・12・30・33)や,G元従業員の陳述書(甲31)の記載も上記の原告供述等や本件復命調査書の記載内容と矛盾しないことに照らせば,自身の出勤時刻に関する原告X1の上記供述等は,信用するに足りるものと認められる。
したがって,上記のとおり「事務所」出勤日における原告X1の始業時刻は午前9時と定められていたものであり,原告X1は,「事務所」出勤日においては,基本的にはその時刻に業務を開始していたものと認められる。もっとも,原告X1が遅刻連絡メールを送信した日(平成24年6月20日,同月22日,同年9月26日及び同年11月12日。甲18の6・12・30・33)については,午前9時よりも遅く出勤したものであり,上記メールの送信時刻からして,遅くとも午前9時30分までには事務所に到着したものと推認できるから,これらの日については午前9時30分に出勤したものと認めるのが相当である。また,到着が午後1時過ぎになる旨の携帯メールを送信した同年8月23日については,始業時刻を午後1時30分であると認めることができる。
(イ) これに対し,証人Aは,原告X1の出勤時刻が通常は午前9時を過ぎていたなどと証言等し,残業代等請求訴訟におけるDの証言等にもこれに沿う部分がある。
しかしながら,証人Aは,原告X1が毎朝午前9時15分から午前9時30分までの間に事務所に出勤していたことの根拠として,原告X1が日報ノートの書き方を知らなかった点や自身の記憶を挙げるものの,そもそも,被告会社従業員が日報ノートに書き写していた時刻が午前9時頃であったという前提自体,何ら客観的な裏付けのないものであって,上記のような証人Aの証言等は,上記(ア)のような当裁判所の認定,判断を左右するものとはいえない。
次に,残業代等請求訴訟におけるDの証言等について検討すると,Dは,同じ課で働いており十分に把握しているはずの原告X1の退勤時刻につき,本件労災担当官から事情聴取を受けた際には午後8時30分頃と答え(甲11),残業代等請求訴訟において書証として提出された陳述書では「午後5時30分前に仕事を切り上げることが良くありました」と述べ(乙4),同訴訟における証人尋問の際には,おおむね午後7時30分から午後8時頃と証言する(甲32)など,その内容を変遷させているが,本件における全ての証拠を検討しても,そのような変遷につき合理的な理由は見出し難い。また,Dは,上記陳述書(乙4)において,原告X1が午後11時過ぎまで仕事をしたことはない旨述べているが,原告X1においては,平成24年8月23日,同月27日及び同年9月11日に,上記時刻を過ぎて取引先にPCメールを送信していること(甲16の26・27・35),Dにおいても,上記の各日については,いずれも午後11時まで被告会社の事務所で残業をしていたこと(甲8)に照らして,上記のような陳述書の内容が事実に反することは明らかである。これらの点からすれば,Dが原告X1の退勤時刻について述べる部分については,信用し難いものというほかない。このように,残業代等請求訴訟におけるDの証言等は,その重要な部分(同訴訟においては,原告X1の退勤時刻は,出勤時刻と並んで重要な争点の1つであった。甲35,乙14)において信用し難いものであることや,上記証言等のうち原告X1の出勤時刻に関する部分について,その内容が客観的証拠に裏付けられているといった事情は見当たらないことからすれば,Dの上記証言等のうち原告X1の出勤時刻につき述べた部分についても,特に信用性が高いとはいえない。
加えて,被告Y2は,残業代等請求訴訟の陳述書(乙2)において,原告X1の出勤時刻につき,「午前8時30分より前に出勤したことはなく,午前9時を過ぎても出社しないということが度々ありました」などと,原告X1の出勤時刻が通常は午前9時を過ぎていた旨の証人A及びDの各証言等とはかなり趣を異にすることを述べているところ,そのような話の食違いにつき特段の合理的理由は見出し難いところである。
以上述べたところからすれば,これらの証言ないし供述等は,上記(ア)のような当裁判所の認定,判断を左右するに足りるものとはいえないものというべきである。
イ 事務所以外に直行した労働日の始業時刻
証拠(甲30,33,原告X1)及び弁論の全趣旨によれば,別紙1において原告X1の業務形態が「販売会等→事務所」のように事務所以外から始まる労働日については,原告X1がまず事務所以外の場所に直行したことが認められる。そして,証拠(甲13,17)及び弁論の全趣旨によれば,これらの労働日の始業時刻は,原告X1が事務所以外の目的地に到着して労務の提供を開始した時刻であると認められる。
(ア) 原告X1が開始時刻等の指定をされた労働日
下記の各証拠によれば,原告X1は,被告会社の他の従業員から,平成24年8月5日につき午前9時10分開始(甲17の24),同年9月17日につき午前9時20分朝礼(甲17の16),同年12月1日につき午前9時15分集合(甲17の2)という趣旨の携帯メールを自身の携帯電話において受信したものと認められるところ,これらの日については,被告会社から,販売会等における業務の開始時刻を指定されたものというべきである。そして,原告X1がこれらの日に遅刻したなどの事情も認められないから,上記時刻が始業時刻であると認められる。
(イ) Suicaカード利用履歴のある労働日
利用履歴(甲19)によれば,原告X1は,履歴に記載された各駅において,それぞれの年月日の入出場時刻に改札を入出場したことが認められる。その上で,販売会等の会場の最寄り駅から販売会場等までの所要時間は,証拠(甲20)により認定することができるから,原告X1は,上記出場時刻に上記所要時間を加えた時刻頃に外出先に到着したものと認められる。また,販売会等の開始時刻(朝礼の時刻)は,毎時零分又は30分であることが通例であったこと(甲33)からすると,原告X1が販売会等に直行した労働日のうちSuicaカード利用履歴のある場合の始業時刻は,原告X1の到着時刻の直後において30分ごとの時刻であると推認することができる。
また,納品・採寸等に直行した場合には,原告X1の主張の範囲内で,カード利用履歴,最寄り駅から外出先までの所要時間(甲20及び弁論の全趣旨)を換算すると,別紙2の該当部分に記載したとおりの時刻であると推認することができる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)以外の労働日
原告らは,上記(ア)及び(イ)以外の労働日につき,始業時刻は一律午前9時である旨主張する。しかし,全ての販売会等において午前9時から朝礼等が行われていたと認めるに足りる証拠はなく,かえって,午前9時30分から朝礼が行われていたこともあるものと認められること(甲17の16)からすると,原告X1が販売会等に直行した労働日のうち,上記(ア)及び(イ)以外の労働日について,証拠のない場合の始業時刻は,午前9時30分と認めるのが相当である。
ウ 事務所から退勤した労働日の終業時刻
(ア) 証拠(甲30,33,原告X1)及び弁論の全趣旨によれば,別紙1において,原告X1の業務形態が「事務所」のみとされているか,「納品・採寸→事務所」,「事務所→納品・採寸→事務所」,「個別対応→事務所」又は「事務所→個別対応→事務所」とされている労働日については,原告X1が事務所から退勤しており,終業時刻が当該退勤時刻であるものと認められる。
(イ) PCメールがある労働日
a 原告X1が,被告会社から付与されたメールアドレスを使用して被告会社のパソコンからPCメールを送信した時刻(甲16)に,被告会社の事務所において業務に従事していたことは明らかである。そして,上記事務所から退勤した時刻が,上記メールを送信した10分後より早くなることはない旨の原告X1の供述等は合理的なものというべきである。そうすると,原告X1が被告会社の事務所から退勤した労働日のうち,送信したPCメールがある日の終業時刻については,各送信時刻に10分を加えた時刻と推認することができる。ただし,平成24年6月21日,同月28日,同月29日,同年7月12日,同年9月3日,同年10月17日,同年11月5日,同月7日,同月15日及び同年12月3日については,上記PCメールが送信されているものの,後記(ウ)の説示に照らし,終業時刻を午後7時30分と認めるのが相当である。
b 次に,原告らの業務形態が「販売会等→事務所」又は「事務所→販売会等→事務所」である労働日については,原告X1がこれらの主張のとおり事務所に戻った後に退勤したか,販売会場から直帰したかについて争いがある。
これらの労働日のうち被告会社から付与されたメールアドレスを用いてPCメールを送信している日については,原告X1は,事務所で残業した後にそこから退勤したものと認められるから,その終業時刻は,上記aのとおり,PCメールの送信時刻から10分後となる。
一方,それ以外の労働日に関しては,原告X1が販売会場から同僚の運転する自動車に同乗して事務所に戻った旨の原告らの主張は,これを裏付ける的確な証拠がないから採用することができず,その結果,原告X1の労働時間については,原告X1が販売会場等から直帰したものとして算定せざるを得ないものというべきである(これに当たる労働日は,平成24年6月30日,同年7月18日,同年8月30日,同年9月1日,同月7日,同月28日,同年10月2日及び同年12月9日である。なお,同年6月30日は,Suicaカード利用履歴に照らし,事務所には戻っていないと認められるから,直帰日であると認められる。また,同年9月22日も,上記の点に加え,原告X2との携帯メールのやり取りが,原告X1の終業時刻の認定資料に用いられないことをも考慮すると,同様に,直帰日であると認められる。)。
(ウ) 上記(イ)以外の労働日
a 原告らは,PCメールのない場合の終業時刻は午後8時30分である旨主張し,その供述等には,これに沿う部分がある。
よって検討するに,まず,原告らは,平成24年1月以降,原告X1が原告X2と携帯メールの送受信をした日が相当数あるところ,これらの携帯メールによれば,原告X1の終業時刻が非常に遅いものといえる旨主張する。しかし,これらの携帯メールについては,送信した場所,送信時の状況等が明らかではなく,原告X1が事務所にいる業務時間中には原告X2に携帯メールを送信することが一切なく,退勤後に必ず携帯メールを送信する習慣がついていたというような事情も全くうかがわれないことからすると,これらの携帯メールは,原告X1の終業時刻が原告ら主張のとおりであることを基礎付けるに足りるものとはいい難い。
また,上記(ア)において述べたところも勘案すると,例えばPCメールのある日のメール送信時刻がことごとく午後8時20分以降であるとの事情が認められれば,PCメールのない日の退勤時刻が午後8時30分以降であることを推認させるための一事情とはなり得ると思われるが,実際のPCメールの送信日を見ると,午後6時台や午後7時台となっているものもあり(甲16),PCメールの送信時刻を原告らの上記主張を推認させるための一事情として評価することはできないものというべきである。
結局のところ,上記のような原告X1の供述等には,的確な裏付けがないものといわざるを得ず,原告らの上記主張をそのまま採用することはできない。
b 一方,①平成24年6月17日以降,原告X1と同じチームに所属していたCらは,恒常的に相当の残業をしていたこと(前提事実(2)),②Cは,本件労災担当官からの事情聴取において,原告X1が通常は午後8時30分頃まで働いていた旨を答えており,証人Hは,夕飯を一緒に食べる際には午後8時頃に会社付近に集合しており,また,そうでない日においても,午後8時頃に被告会社事務所の最寄り駅にいる原告X1から電話がかかってくることがあった旨証言していること(なお,証拠〔甲21,33〕によると,被告会社事務所から蕨駅までは,徒歩で20分弱の距離であったと認められる。),③原告X1が従事していた事務所業務は,必ずしも自身の見積書や発注書の作成だけではなく,他の従業員の発注書のチェックもあったこと(前記1(1)イ),④既に述べたとおり,原告X1が取引先にPCメールを送信した後にすべき業務がないわけではなく,原告X1においてPCメールの送信後に仕事を続ける場合もあったものとうかがわれること等を考慮すると,平成24年6月17日以降,原告X1は,通常は午後7時30分頃まで,被告会社の事務所において業務をしていたものと推認することができる(なお,残業代等請求訴訟におけるDの陳述書〔乙4〕には,以上の認定と異なる部分があるが,これに十分な信用性を認め難いことは,既に述べたとおりである。)。
c 以上のとおり,上記期間において,原告X1が被告会社の事務所から退勤した労働日のうち,PCメールのない場合の終業時刻は,午後7時30分と認められる。
エ 事務所以外から直帰した労働日
証拠(甲30,33,原告X1)及び弁論の全趣旨によれば,別紙1において,原告X1の業務形態が事務所以外のみとされているか,「事務所→販売会等」又は「事務所→納品・採寸等」とされている労働日につき,原告X1が事務所以外から直帰したこと及びその場合の終業時刻が外出先を出発した時刻であることが認められる。
また,上記ウ(イ)のとおり,原告X1の業務形態が「販売会等→事務所」又は「事務所→販売会等→事務所」とされている労働日のうち社用のメールアドレスからPCメールを送信したとは認められない日については,原告X1において,販売会場から直帰したものとして労働時間を算定するほかないものというべきである。
(ア) Suicaカード利用履歴のある労働日
Suicaカード利用履歴(甲19)によれば,外出先の最寄り駅における原告X1の入出場時刻を特定することができ,また,証拠(甲20)により,最寄り駅から外出先までの所要時間を認定できるから,原告X1は,上記入場時刻より上記の所要時間分だけ前の時刻に外出先を出発したと認めることができる。そして,弁論の全趣旨によれば,原告X1の終業時刻はこの出発時刻であるものと認めるのが相当である(例えば,平成24年9月22日については,原告X1は,午後7時17分に桜木町駅改札に入場したが〔甲19〕,販売会場から同駅までの所要時間は15分であったから〔甲20の14,弁論の全趣旨〕,その15分前である午後7時2分に販売会場を出発しており,これが同日の終業時刻と認められる。別紙2においては,このカテゴリーに含まれる他の労働日の終業時刻についても,同様の手法により認定した。)。
なお,原告らが携帯メールのやり取りをした日に関し,これらの携帯メールから原告らの主張する終業時刻を認定することができないことは,上記ウ(ウ)において述べたとおりである。
(イ) Suicaカード利用履歴のない労働日
弁論の全趣旨に照らし,原告X1が販売会場から直帰した労働日のうち,Suicaカード利用履歴のないものについては,午後6時が終業時刻であるものと認めるのが相当である。
オ 時間外労働時間のまとめ
上記ア~エにおいて述べたところと,本件における全ての証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,原告X1の始業時刻は,別紙2の「出社時間」欄に記載のとおりと,終業時刻は,同別紙の「退社時間」欄に記載のとおりとそれぞれ認められる。
また,原告らにおいては,事務所勤務日における休憩時間が1時間であることを自認していること,原告X1の販売会等に従事した労働日の休憩時間が20分であるとの主張を認めるに足りる客観的証拠がないことからすると,休憩時間は,労務の提供の場所や用件等にかかわらず,1労働日当たり1時間であると認めるのが相当である。
以上より,平成24年6月17日から同年12月13日までの間の労働日における原告X1の実労働時間は,1労働日ごとに,以上に認定した始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間1時間を減じた時間であると認められ,その具体的な時間数は,別紙2の「実労働時間」欄記載のとおりとなる。
そして,発症日から起算して期間を算定する(1か月は30日)とともに,土曜日及び日曜日を休日,1週間の所定労働時間を40時間とすると(ただし,1か月間のうち最後の2日間については,1日単位で8時間とする。),時間外労働時間については,別紙2の「実労働時間」欄記載の時間から「所定労働時間」欄記載の時間を控除した時間(ただし,8月9日から8月15日の週については,1週間の実労働時間が所定労働時間である40時間に達していないため,0時間とする。)であり,本件脳出血発症前1か月間は71時間35分,本件脳出血発症前の2か月間ないし6か月間の平均は,それぞれ2か月間の平均は75時間33分,3か月間の平均は81時間30分,4か月間の平均は89時間57分,5か月の平均は88時間26分,6か月の平均は87時間54分であると認められる(同別紙末尾記載の「合計時間外労働時間のまとめ(表)」参照)。
(3)  その他の負荷要因について
上記(2)において述べたところからすれば,原告X1は,平成24年6月17日から同年12月13日までの期間の出勤時刻は,おおむね午前9時又は午前9時30分であることが多く,退勤時刻についても,翌日の午前0時を回ることはほとんどなく,むしろ,午後7時30分から午後10時までに退勤することがほとんどの日数を占めていたものと認められる。そうすると,原告X1の勤務が,殊更に不規則であったものとは認められず,拘束時間についても,原告X1が,通常の休憩時間とは別に,仮眠等を行った上で業務を継続しなければならなかったようなことがあったとは認められないから,時間外労働とは別に,拘束時間が長いことをもって,原告X1に,特別な精神的・身体的負荷があったものとは評価し難い。
また,原告X1が毎月10日程度従事していた販売会等の業務についても,それ自体が自己又は他人の生命身体が危険にさらされるような性質のものではない上,原告X1が平成10年頃から携わってきたカーテンのコーディネート業務に関する知識を生かすもので,原告X1において,少なくとも平成20年1月頃から販売会等の業務に従事してきた経験があることからすれば,原告X1にとって,特別に精神的負担が大きい業務であったということもできない。
さらに,販売会場等についても,いずれも都内若しくは都内近郊に所在していることからすれば,出張に伴う身体的負担が大きかったものとも認められない。
以上の点に加え,原告X1に業務上のノルマは課されていなかったこと,勤務時間中も他の従業員と会話等をすることができるなどの勤務環境にあったことなどに照らすと,原告が従事していた業務それ自体については,特別に強い精神的緊張を伴う業務であったとは認めるに足りない。
(4)  小括
ア 上記(2)において述べたとおり,原告X1の1か月当たりの時間外労働時間は,本件脳出血発症前4か月の115時間17分をピークとして,最低でも本件脳出血発症前1か月の71時間35分であったものであり,本件脳出血発症前6か月間の平均は87時間54分となっている。そして,前記(1)のとおり,脳・心臓疾患の認定基準において,長時間労働は,睡眠時間不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ,血管病変等をその自然的経過を超えて著しく増悪させる可能性があると理解されているものであって,業務の過重性を判断する最も重要な要因であるというべきところ,そのような観点からすると,原告X1が従事していた業務は,その時間外労働時間の長さに照らすと,上記(3)において述べた事情を考慮しても,本件脳出血の発症との関連性が強いと評価できる程度に過重な業務であったものというべきである。そうすると,原告X1については,長期間労働に由来する疲労の蓄積によって,血管病変等がその自然的経過を超えて著しく増悪し,脳・心臓疾患が発症し得る程度に,業務による明らかな過重負荷が加わったものと評価するのが相当である。
イ これに対し,被告らは,①本件脳出血の発症前4か月間では時間外労働時間が減少傾向であったこと,②本件脳出血の発症日の前日が休日であり,原告X1には十分な休息が与えられていたというべきこと,③原告X1は,本件脳出血発症前1週間は時間外労働をほとんど行っていなかったことを指摘して,本件脳出血の発症時においては,時間外労働による疲労は回復していたという趣旨の主張をする。
しかしながら,本件脳出血発症前の6か月における平均時間外労働時間は,前記(2)オのとおり,2か月間平均を除き,いずれも脳・心臓疾患の認定基準において業務と発症との関連性が強いと評価できるとされる時間である月80時間を超えていることからすると,原告X1には,6か月間にわたる継続的な長時間の時間外労働によって,相当な程度の疲労が蓄積していたものと認められる(特に,発症前4か月は115時間17分と,当該月のみで評価したとしても脳・心臓疾患が業務との関連性を強いとされる水準に達していたものであり,その後の3か月間をみても,それぞれ本件脳出血発症前の3か月が93時間25分,同2か月が79時間32分,同1か月が71時間35分と,脳・心臓疾患と業務との関連性が強いとされ,また,それに近い水準の時間外労働の時間で推移しているところである〔別紙2〕。)。そうすると,被告ら指摘の事情を考慮しても,原告X1において,蓄積していた疲労を解消させ,又は顕著に減少させるに足りる休息が与えられていたものと評価することはできない。
ウ また,被告らは,原告X1の労働密度が低く,精神的緊張等を要しない業務であったとして,原告X1の業務は過重負荷が加わるようなものではなかった旨主張する。
しかしながら,既に説示したとおり,脳・心臓疾患の認定基準において,長時間労働及びこれに起因する睡眠時間の減少が,疲労の蓄積を招くことから,長時間労働は,脳・心臓疾患の基礎となる血管病変等に与える影響が強いと考えられているところである。すなわち,長時間労働は,労働時間が長時間であることそれ自体により,睡眠時間の減少を招き,疲労を蓄積させるものなのであって,そのような長時間労働の性質を捨象して,業務の質的側面のみを取り出して業務の過重性を論ずることは相当ではないものというべきである。したがって,被告らの上記主張も,採用することができない。
3  被告会社における業務と本件脳出血との間の因果関係(争点3)について
(1)  認定事実
前提事実並びに証拠(後掲のもののほか,甲30~34,46,47,乙2~4,28~31,証人A,証人H,原告X1本人,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア 脳出血について(甲40)
脳出血とは,脳実質内に出血が生じる病態を総称したものであり,脳出血の結果として,血腫が脳実質を圧迫,破壊し,神経症状を引き起こす。
脳出血の原因の60%以上を占めるのが高血圧である。
発症時の血圧は高いところ,これについては,基礎疾患として高血圧症があり,もともと血圧が高いところに,さらに脳圧増加と急性ストレスに続発する血圧上昇が重畳している可能性が高いとされている。
イ 本件脳出血の発症直後から川口総合病院に入院していた際の原告X1の状況等(甲36)
(ア) 本件脳出血発症直後の状態
a 原告X1は,平成24年12月13日午後7時40分頃,被告会社の事務所において,椅子に座っていたところで卒倒し,意識を消失した。
b 同日午後7時53分頃,救急隊が到着した際,原告X1は,救急隊員の呼びかけに対し,開眼をするも,発語はできない状態であり,その際,収縮期血圧が189mmHg,拡張期血圧が120mmHg,心拍数が毎分77回であった。また,川口総合病院に搬送する車内において,220mmHgの血圧が記録された。
c 川口総合病院に到着後,原告X1には血圧降下剤であるニカルピンが投与された。
d 川口総合病院のI医師(以下「I医師」という。)は,原告X1の親族に対し,病名は右被殻出血であり,確定できないものの高血圧性脳出血であると説明した。
(イ) 翌日以降の状況
a 平成24年12月14日午後3時頃,I医師は,原告X1の親族に対し,CT画像を踏まえた治療方針を説明した際,原告X1が高血圧であった可能性がある旨説明した。
b 同月19日午後5時頃,I医師は,原告X1に対し,脳内の血腫を除去するため,内視鏡下血腫除去手術を施行した。
(ウ) 原告X1が川口総合病院から湾岸リハビリ病院に転院するに当たり,I医師により作成された脳卒中診療情報提供書には,原告X1のり患した疾患を「脳内出血」と診断した旨の記載とともに,脳卒中の危険因子として「高血圧」にチェックが付され,「頭蓋内精査行いましたが,明らかな血管障害などは認めず,高血圧性によるものと判断しております」との記載もされている(甲41)。
ウ 湾岸リハビリ病院に入院中の原告X1の病状等(甲41)
同病院作成の原告X1の入院チャートには,主診断として高血圧性の脳出血であり,既往症として高血圧がある旨記載されている。
エ その後の原告X1の状況等(甲43~46)
平成28年から平成29年の期間,原告X1の血圧は,収縮期血圧については100~135mmHg程度,拡張期血圧については60~100mmHg程度で推移していた。
(2)  判断
ア 因果関係の立証は,一点の疑義もない自然科学的証明ではなく,特定の事実が特定の結果を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし,かつそれで足りると解するのが相当である(最高裁判所昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。
イ 上記(1)の認定事実によれば,本件脳出血発症直後の原告X1の収縮期血圧は,190~220mmHg程度と,日本高血圧学会の分類においてⅢ度高血圧(脳・心臓疾患につき高リスクを有するとされる。)に分類されるものであった。また,川口総合病院に搬送された日から原告X1の加療を行い,内視鏡下血腫除去手術を実施したI医師は,本件脳出血を発症した日には,確定できないとしながら,高血圧性脳出血であるとの所見を示した上,原告X1の湾岸リハビリ病院への転院に当たり作成した脳卒中診療情報提供書にも,原告X1の疾患を「脳内出血」と診断した旨記載し,脳卒中の危険因子として,高血圧にチェックを付し,「頭蓋内精査行いましたが,明らかな血管障害などは認めず,高血圧性によるものと判断しております」との記載をしているところである。
以上の点に加え,高血圧が脳出血の原因の60%以上を占めていること(上記(1)ア),本件全証拠に照らしても,原告X1に脳出血の原因となり得る血管病変等が存したことを認めるに足りる証拠がないことも勘案すると,原告X1は,本件脳出血の発症する直前の時点においては高血圧症の状態にあったものであり,これが本件脳出血の直接の原因であるものと推認することができる。
ウ 一方,上記2(4)のとおり,原告X1においては,本件脳出血発症前6か月間に,被告会社において継続して長時間労働をしていたことによって,血管病変等がその自然的経過を超えて著しく増悪し,脳・心臓疾患が発症し得る程度に,業務による明らかな過重負荷が加わったものと評価することができるところである。
そして,本件調査復命書には,主治医が指摘するところとして,原告X1には高血圧の既往症があり,高血圧と本件脳出血との関連は「完全には否定でき」ない旨の記載がされており(前提事実(5)),また,湾岸リハビリ病院において作成された退院要約にも,原告X1には既往症として「高血圧」があるとの記載がされているが(甲41),上記の「主治医」において,既に述べたような原告X1の長時間労働の実態を把握した上で,原告X1に高血圧の既往症があるなどの判断をしたものとは認められない。
また,本件における全ての証拠を検討しても,本件脳出血発症以前における原告X1の「高血圧」の客観的状態を示すに足りる血圧の測定値や,高血圧を引き起こす因子となり得る生活習慣に関する情報などは明らかではなく,本件脳出血発症前6か月間に原告X1の「高血圧」が医師による治療を要するほどの状態に至っていたことなどをうかがわせるような事情も特に認められない。
そうすると,原告X1の被告会社における本件脳出血発症前6か月間の業務(継続的な長時間労働)が,自然的経過を超えて本件脳出血の発症直前の時点における高血圧症の状態を引き起こし,これが本件脳出血発症の原因となった高度の蓋然性が認められるというべきである。
エ この点,被告らは,原告X1には,既往症として高血圧症があったとした上で,①本件脳出血発症時における原告X1のBMIが25.73と肥満を示すものであること,②原告X1の親族に高血圧の者がおり,遺伝的に高血圧症にり患しやすいことなどからすると,原告X1の高血圧の原因は,同原告が健康管理を怠ったことにある旨を主張する。
しかし,既に述べたところからすれば,原告X1が例えば本件脳出血発症の6か月前から高血圧といえる状態にあったとしても,そのような状態がその後の自然的経過により本件脳出血を生じさせ得る程度に達していたことを具体的にうかがわせるような事情は認め難いものというべきであって,原告X1の被告会社における継続的な長時間労働が,自然的経過を超えて本件脳出血を発症させたことを否定する根拠となるものではないものというべきである。被告らの上記主張は,採用することができない。
4  被告らの責任原因(争点4)について
(1)  使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)を負うものと解するのが相当であるから,被告会社は,原告に対し,上記のような安全配慮義務を負うものというべきであり,被告会社においてこの義務に違反した場合には,原告X1に対し,労働契約上の債務不履行責任又は不法行為責任を負うものと解される。
また,上記のとおり被告会社との関係において労働者であると認められる原告X1は,被告会社の代表取締役である被告Y2の指揮監督に復するべき地位にあるというべきところ,労働者の労務管理は会社経営に当たっての重要事項であるというべきことや,被告会社の規模がそれほど大きくないことにも鑑みれば,被告Y2において,適切な社内体制を構築し,被告会社の個々の従業員の疲労や心理的負荷等を把握することは十分に可能であると考えられることからすれば,被告Y2においては,原告X1に対し,被告会社が負うのと同様の安全配慮義務を負うものというべきであり(具体的には,原告X1の労働時間が長時間労働とならないよう注意し,一時的に長時間労働となる期間があったとしても,それが恒常的にならないよう業務量を調整するなどの配慮をし,適正な休憩時間及び休日等を取得することができるよう注意すべき義務があったものというべきである。),これを怠った場合には,原告X1に対する不法行為責任を負うものというべきである。
(2)  既に述べたとおり,本件脳出血発症前の6か月間については,原告X1が事務作業を行っていた営業部二課では恒常的に長時間の時間外労働を行っており(前提事実(2)),原告X1についても上記2(2)において述べたとおりの継続的に長時間の時間外労働を行わせていたものであり,かつ,原告X1については,タイムカード等による労働時間の管理すら行っていなかった(前記1(1)ウ)ことからすれば,被告Y2においては,上記の安全配慮義務に違反したものというべきであり,原告らに対し,民法709条に基づく損害賠償責任を負うというべきである(なお,原告X2につき,いわゆる近親者慰謝料を発生させるだけの権利侵害が認められることは,後に述べるとおりである。)。
そうすると,被告会社についても,原告らに対して,会社法350条に基づき損害賠償責任を負うということができる。
(3)  なお,原告らのその余の請求(被告Y2に対する会社法429条1項に基づく損害賠償請求及び被告会社に対する債務不履行に基づく損害賠償請求)については,上記(2)の各請求とそれぞれ請求権競合の関係に立つと解されるから,これらの請求の当否については判断をする必要がないということになる。
5  損害額(争点5)について
(1)  認定事実
前提事実並びに証拠(後掲のもののほか,甲30~34,46,47,乙2~4,28~31,証人A,証人H,原告X1本人,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア 川口総合病院における原告X1の後遺障害及びリハビリの状況について(甲36)
(ア) 平成24年12月14日の時点においては,原告X1に左片麻痺があること,左上下肢に感覚障害があることが明らかになっていた。上記病院の看護記録には,「右手挙上している姿あるため,本人へ左手を持ち一緒に拳上するよう説明すると,左手を持ち上げようとする姿あり。」,「左口角下垂あり。」,「血腫増大することなく経過しているも,出血量が多く,今後脳浮腫に伴い意識レベルや,麻痺の悪化の恐れあり。」との記載がある。
(イ) 原告X1は,同月17日に,看護師の介助を受けながら端坐位の練習を行った。同日の部門記録には,「感覚:touch 左上肢2/10 左下肢0/10?」,「深部感覚も障害されている様子あり」と,同月18日の記録には,「離床開始しており,バランス保持が困難である為車椅子乗車時などの転倒転落リスクが高い状態である」旨の記載がされている。
(ウ) 原告X1に関する,①同月20日の部門記録には「感覚:左上下肢5/10 深部感覚も障害されている様子」との記載があり,②同月21日の看護記録には「座位保持は前日より保持時間が延びており,座位も数秒なら安定している。」との記載があり,③同月23日の記録には「左麻痺あり,自分で体動困難」,「車椅子乗車の看護度軽くなっている。次々にリハビリ介入し筋力アップはかる必要あり。」との記載があり,④同月25日の部門記録には「左麻痺はBr.stage上肢Ⅰ,手指Ⅰ」,「感覚は表在,深部ともに脱失」との記載があり,⑤同月28日の記録には「介助量は当初より軽減している印象。トイレ誘導などの際に端座位や立位保持行っていき筋力維持に努めていく。」との記載がある。
(エ) ①平成25年1月8日の部門記録には「寝返りは右下肢で左下肢を引っ掛け,行うことができる。その際,右手で左手を掴み,同時に持っていくことが出来る」,「起き上がりは下肢下垂も介助せず,口頭指示のみで実施可能」,「平行棒内立位は軽介助」,「平行棒内歩行はknee braceつけ,要介助にて4周歩行可能」との記載があり,②同月21日の部門記録には「平行棒内歩行は軽介助にて2周3回歩行可能」,「左下肢振り出しは自力で可能」,「4点杖歩行は約5m要介助にて歩行可能」との記載がある。
イ 原告X1の湾岸リハビリ病院における後遺障害及びリハビリの状況について(甲41)
(ア) リハビリテーション転院サマリーの記載
川口総合病院において作成された原告X1のリハビリテーション転院サマリーには,以下のような記載がある。
a 障害
(a) 「初期評価(H24/12/17)」欄
① 運動麻痺 上肢Ⅰ,手指Ⅰ,下肢Ⅱ
② 感覚障害 左上肢2/10,下肢0/10,深部感覚ほぼ脱失
(b) 「最終評価(H25/1/23)」欄
① 運動麻痺 上肢Ⅱ,手指Ⅰ,下肢Ⅲ
② 感覚障害 左上肢・手指4/10,左下肢2/10
③ 基本動作 「寝返り」は「自立」,「起き上がり」及び「座位保持」は「監視」,「立ち上がり(椅子)」,「トランスファー」及び「立位保持」は「介助」。
④ 歩行 「院内」については「介助」,「階段,屋外」については「不能」,「杖」は「四点」,「補装具」は「あり」。
b Barthel-index得点表
「食事」,「トランス」,「整容」,「トイレ動作」,「入浴」,「平地歩行」,「階段昇降」,「更衣」,「便禁制」及び「尿禁制」の各評価項目が掲げられており,①「初期」については,「食事」の項目のみ5点で他の項目は0点とされていたが,②「最終」においては,「トランス」,「便禁制」及び「尿禁制」の各項目は10点,「食事」及び「トイレ動作」の各項目は5点,その他の項目はいずれも0点とされている。
(イ) 湾岸リハビリ病院の退院時看護記録の記載
①「経過」欄には,「入院翌日よりPT・OT・ST介入。ADL全般に介助必要であったが,病棟でも更衣・装具やアームスリングの着脱など時間をとり練習することで,現在ADLはほぼ自立した。T杖使用し,安定して院内歩行できるようにな」ったとの記載がされ,②「介護保険」欄には要介護2の部分に印が付けられており,③「移乗・移動手段」欄には,「杖」及び「自立」の各部分に印が付けられるとともに,「歩行安定し,T杖・装具使用にて院内フリー」との記載がされ,④「更衣」欄には,「自立」の部分に印が付けられるとともに,「5~10分ほどで,自己にて安全に更衣できる。」との記載がされている。
(ウ) 「(退院時)日常生活機能評価表」の記載
「患者の状況等」に関する各評価項目のうち,①「床上安静の指示」については「なし」に,②「どちらかの手を胸元まで持ち上げられる」,「寝返り」,「起き上がり」,「座位保持」,「移乗」,「口腔清潔」及び「他者への意志の伝達」については「できる」に,③「移動方法」については「介助を要しない移動」に,④「食事摂取」及び「衣服の着脱」については「介助なし」に,⑤「診察・療養上の指示が通じる」については「はい」に,⑥「危険行動」については「ない」に,それぞれ印が付けられている。
(エ) 湾岸リハビリ病院のリハビリに係る記録
a 平成25年1月27日
「初期評価実施」したところ,右手の「握力」,「横つまみ」,「指腹(示)」及び「指腹(中)」についての測定はできたものの,左手についてはいずれも実施できなかった旨記載されている。
b 同年4月11日
「手すり把持にてマヒ側支持可,入浴についても,15cmの段差を越え,接置(ママ)位置も調節可能レベルである。」と記載されている。
c 同年5月23日
「洗濯物干し:ふらつきなく行える。立位のまま,ハンガーかけ,洗濯バサミつけ可,裏返った衣類を戻すことも可」,「リュックに3kgの重り入れ病棟1周実施。疲労訴えあるもののふらつきなく可」などと記載されている。
d 同月27日
「stair:壁に触れずに昇降して頂く。ふらつき大きくなるが,介助は要さない。」などと記載されている。
e 同年6月3日
「掃除機:コンセント,掃除機がけ共に見守りレベル。片付けも可能でふらつきもみられないが,マヒ側下肢にてコードをふんでしまう」と記載されている。
f 同月8日
「テーブル拭き:ふらつきなく,右上肢でテーブルを拭きながら歩行することが可能。タオルをしぼる動作もタオルを蛇口にかけ,ねじりながら行っている。」と記載されている。
ウ 湾岸リハビリ病院への通院中の原告X1の状況について
(ア) 診療録の記載
同病院の診療録には,原告X1に関し,①「家で1回ころんだ,自分で立ちあがることできた」(平成25年7月18日),②「Hpで転倒,とくにいたみ(-)」(同年8月15日),③「2014 12月までリハビリしたい」,「階段:前よりのぼれるようになった 家:杖で歩行」(平成26年4月3日),④「12月くらいで症状固定」(平成26年8月28日),⑤「歩行大部(ママ)安定している」(平成27年1月22日),⑥「居宅リハ3回/日,本日は歩いてきた。」(同年3月26日),⑦「屋外歩行能力 階段昇降 向上へ」(同年12月24日),⑧「最近体調よくなってきた。転倒なし 屋外歩行目標」(平成28年3月3日),⑨「バスでスタバにいった」,「大きな問題なし」(平成29年1月5日)などの記載がされている。
(イ) リハビリテーション総合実施計画書(F医師作成)の記載
「活動」欄の記載を見ると,①平成25年7月18日付けのものでは,ADL(FIM。機能的自立度評価)につき,「セルフケア(食事,整容,入浴・洗い動作,更衣(上半身),更衣(下半身),トイレ動作)」は「入浴,洗い動作」を除き7点満点(以下,リハビリテーション総合計画書の「活動」欄の評価において同じ。)中7点(完全自立。乙22),「入浴,洗い動作」は3点,「排泄調節(排尿,排便)」はいずれも7点,「起居移乗(ベッド・椅子・W/C,トイレ動作(W/C操作も含む),風呂・シャワー・洗場移動)」についてはいずれも6点(修正自立。乙22),「移動(歩行・W/C・50m・15m,階段(能力評価))については,「歩行・W/C・50m・15m」が6点,「階段(能力評価)」が5点(監視や準備が必要。乙22)とされており,②平成25年12月5日付けのものまで概ね同様の評価がされていたところ,③平成26年1月9日付けのものにおいては,「移動」を除く項目について全て7点の評価となり(「移動」の各項目は上記①におけるのと同じ。),④それ以降は,多少の変動はありつつも,平成26年12月4日付けのものまで概ね同様の水準であった。
(ウ) リハビリに係る記録の記載
①「本人hope一人で生活できるくらいまでになりたい。」(平成25年7月18日),②「床上動作,以前よりも,身体への注意・配慮が可能となり,口頭指示なしでも介助量はほぼ見守りで可能となるが,時折,動作の予測が困難となる」(同年11月14日),③「以前よりも,右側下肢の管理良好となり,介助量も↓している」(同年12月26日),④「階段昇降,壁使用すれば安定して可能」(平成26年5月1日),⑤「床上動作,イス使用すれば,見守りレベル」(同月8日),⑥「床上動作:台〈-〉でも見守りレベルにて可能」(同年8月7日),⑦「外出訓練実施,基本的には,麻痺側から介助する,電車の乗降では駅員に声かけてから行うようにする等,原告X2に対し,介助の際に留意する点を伝える。」(同年10月30日)などの記載がある。
(2)  判断
ア 原告X1に生じた損害について
(ア) 入通院慰謝料 286万円
原告X1は,平成24年12月13日に本件脳出血を発症して川口総合病院に入院した後,平成25年1月24日に湾岸リハビリ病院に転院し,同年6月22日に同病院を退院し(入院日数は合計192日間),その後も,同月23日から平成26年12月25日までの期間(551日間),同病院に通院して,リハビリ治療を受けたことが認められる(前提事実(4)ア,上記(1)の認定事実)。
そして,上記(1)ア及びイ(ア)の認定事実によれば,原告X1においては,①本件脳出血発症後の左上下肢の皮膚感覚は,表在・深部ともに脱失状態であり,端座位や立位の保持もままならなかったものと認められ,川口総合病院を退院する時点では,多少は改善したものの,起き上がりや座位保持について見守りが必要であり,移動や立位保持については介助が必要とされ,階段昇降や更衣が自立ではできないなど日常生活には問題のある項目も多数存在したこと,②湾岸リハビリ病院に転院し,同病院においてリハビリを行った結果,入浴や階段の昇降といった行為や,掃除機かけやテーブル拭き,洗濯物干しといった行為ができるようになり,同病院の退院時の状態としては,入浴等につき問題は残しながらも,自立と評価できる項目も多くあったこと,③歩行能力については,退院後に見られた歩行中の転倒については,その後徐々にその頻度が減っているとうかがわれること,④入浴や洗い動作については,平成25年7月18日時点では問題があったものが,平成26年1月9日にかけて能力の向上があったことが認められ,これらの事情に照らすと,同日の時点までは,リハビリ等の治療に有意な効果が認められ,通院の必要性があったものと認めるのが相当である。
これに対し,同日よりも後のリハビリについては,その内容,効果等をみると,リハビリテーション総合実施計画書の「活動」欄における各数値にそれほど大きな変化が認められないこと(上記(1)ウ(イ))や,同計画書における治療方針も動作練習や減量といったテーマのみであり,同期間における診療録やリハビリに係る記録を含めて検討しても,それ以降に具体的に原告X1の左下肢の機能が改善した項目があるものとは認められないこと(甲41)からすると,原告X1の症状固定日は,平成26年1月9日と認めるのが相当である。
以上を踏まえると,原告X1の入通院慰謝料については,前記の入院期間(192日間)及び平成25年6月23日から平成26年1月9日までの通院期間(201日間)を基に算定するのが相当というべきであり,その額は286万円と認めるのが相当である。
(イ) 後遺障害慰謝料 1890万円
a F医師作成の診断書においては,原告X1には,①左上下肢の重度の麻痺(左半身に重度の感覚障害が残存したこと)がある,②左下肢全体の筋力低下により,患肢で立位を保持できない(左下肢機能が全廃した),③左上肢の肩・肘・手関節・手指全ての機能を全廃した(左上肢機能が全廃した)ものとされている(前提事実(4)イ)。
b しかし,①平成26年1月9日の時点における原告X1の状況は,ADL(FIM。機能的自立度評価)につき,「セルフケア(食事,整容,入浴・洗い動作,更衣(上半身),更衣(下半身),トイレ動作)」は7点(完全自立。乙22),「排泄調節(排尿,排便)」はいずれも7点,「起居移乗(ベッド・椅子・W/C,トイレ動作(W/C操作も含む),風呂・シャワー・洗場移動)」についてもいずれも7点,「移動(歩行・W/C・50m・15m,階段(能力評価))」については,「歩行・W/C・50m・15m」が6点(修正自立。乙22),「階段(能力評価)」が5点(監視や準備が必要。乙22)とされており,その後もこれらの各項目につき顕著な変動は見られないこと(上記(1)ウ(イ)の認定事実)に加えて,②診療録や看護記録,リハビリに係る記録によっても,上記症状固定日以降,原告X1につき,随時介護が必要とされる状況にあることをうかがわせるような記載は確認できないこと(甲41)にも照らすと,原告X1の障害の程度は,労働者災害補償保険法施行規則別表1における第3級の3(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの)に相当するものと認めるのが相当である。
c この点,原告X1は,自身の後遺障害が第2級の2の2(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの)に相当する旨主張するが,上記bにおいて指摘したところに照らし,採用することができない(この点に関する原告X2の陳述書〔甲47〕の記載は,客観的な裏付けに乏しく,採用できない。)。
また,原告X1は,左片麻痺の後遺障害につき,「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し」たこと以外にも,「左下肢機能の全廃」,「左上肢の全廃」といったものにも該当し,併合(労働者災害補償保険法施行規則14条2項,3項)の考え方によると,原告X1の後遺障害は,上記別表1の第1級に相当すると主張する。しかしながら,原告X1の上記主張は,一つの身体障害につき複数の観点から異なる評価をすると,異なる後遺障害等級のものとして評価することが可能であることをいうものにすぎず,そのような場合には,最も上位の等級をもって,当該障害の後遺障害等級とすべきであるから,原告X1の上記主張は,採用することができない。
d 以上によれば,原告X1の後遺障害慰謝料の額は,1890万円と認めるのが相当である。
(ウ) 入院雑費 28万8000円
上記認定のとおり,原告X1は,本件脳出血により川口総合病院及び湾岸リハビリ病院に合計192日間入院しており,1日当たり1500円の入院雑費を要すると認めるのが相当であるから,入院雑費の合計額は,28万8000円と認めるのが相当である。
(エ) 弁護士費用 220万4800円
原告X1には,被告らの不法行為により上記(ア)~(ウ)のとおりの損害が発生したものと認められるところ,その損害額と相当因果関係のある弁護士費用の額は,220万4800円と認めるのが相当である。
イ 原告X2に生じた損害について
原告X1においては,①本件脳出血の発症により,病院に搬送されて降圧剤の投与を受けた後も,再度出血する可能性があったもので,救命のための手術も想定され,発症後少なくとも3~4日は安定しない状態が続いたこと(甲36),②その後,上記(1)及び(2)アにおいて認定したとおり,原告X1には重度の部類に属する後遺障害が残ったことからすると,原告X2は,原告X1が死亡するに比肩する精神的苦痛を受けたといえる。
そうすると,原告X2は,被告らに対して,不法行為(民法709条又は会社法350条)に基づく固有の近親者慰謝料を請求することができるものと認められる。そして,上記認定の事情その他本件において認められる全ての事情を勘案すると,その額は100万円と認めるのが相当である。
また,被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,10万円と認めるのが相当である。
ウ 被告らの素因減額の主張について
被告らは,原告X1には高血圧の既往症があり,そのことが本件脳出血の発症に寄与しているものと主張し,相当額を素因減額すべきであると主張する
しかしながら,既に認定したところからすれば,原告X1が本件脳出血発症前6か月よりも以前の時点から,素因減額の対象となる程度の高血圧症という疾患を有していたとまでは認めるに足りず,被告らの上記主張には理由がない。
6  結論
以上によれば,①原告X1の請求は,被告らに対し2425万2800円及びこれに対する不法行為日(本件脳出血発症日)である平成24年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余はいずれも理由がないからこれらを棄却し,②原告X2の請求は,被告らに対し110万円及びこれに対する平成24年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余は理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第28部
(裁判長裁判官 田中一彦 裁判官 菊池浩也 裁判官 大門真一朗)

 

〈以下省略〉

 

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