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判例リスト「営業代行会社 完全成功報酬|完全成果報酬」(474)昭和57年10月27日 大阪高裁 昭56(う)828号 商法違反被告事件

判例リスト「営業代行会社 完全成功報酬|完全成果報酬」(474)昭和57年10月27日 大阪高裁 昭56(う)828号 商法違反被告事件

裁判年月日  昭和57年10月27日  裁判所名  大阪高裁  裁判区分  判決
事件番号  昭56(う)828号
事件名  商法違反被告事件
裁判結果  破棄自判  上訴等  確定  文献番号  1982WLJPCA10270014

要旨
◆商法違反事件(同法四九四条二項、同条一項一号)につき、金員授受の趣旨が不正の請託を伴う株主総会対策の謝礼であるとするには疑問があるとして、有罪の一審判決を破棄し無罪を言渡した事例

裁判経過
第一審 昭和56年 3月31日 神戸地裁 判決 昭49(わ)141号・昭49(わ)79号 恐喝、商法違反被告事件

出典
判タ 489号133頁
判時 1078号155頁

評釈
江頭憲治郎・ジュリ 850号123頁

参照条文
商法494条

裁判年月日  昭和57年10月27日  裁判所名  大阪高裁  裁判区分  判決
事件番号  昭56(う)828号
事件名  商法違反被告事件
裁判結果  破棄自判  上訴等  確定  文献番号  1982WLJPCA10270014

主文
原判決のうち、被告人に関する有罪部分を破棄する。
被告人は無罪。

理由
(控訴趣意と答弁)〈省略〉
(論旨の要約)
論旨は要するに、「原判決は、被告人が畑佐邦雄、三宅肇の両名と共謀のうえ嶋﨑榮治に対し、本件株主総会において株式会社津上(以下『津上』という。)の経営不振に関する右畑佐ら新役員の責任を追及する一切の発言を封ずるよう依頼するとともに、その謝札の趣旨で昭和四八年五月二五日現金二〇〇万円を交付したと認定し、右依頼をもつて同総会における株主の発言ないし議決権の行使に関する不正の請託であると判断した結果、商法四九四条(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)を適用・処断している。しかしながら、本件二〇〇万円は、嶋﨑が原判示の退助社長退陣の裏工作に尽力し、その目的を実現させてくれたことに対する成功報酬と認めるのが相当であつて、右金員の趣旨性格についての原審の証拠判断には重大な誤りがある。すなわち、もともと津上における売掛金滞留等の経営上の失策は、退助または同人の一族がその原因を作り出したものであるから、退助一派らがこの点につき新役員らの責任を追及する筈もなく、従つて、被告人らが原判示のごとく退助一派らの発言封じ等を嶋﨑に依頼した事実も全くなかつたのにかかわらず、本件二〇〇万円を不正の請託をともなう総会対策費用と認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある。さらに商法四九四条にいわゆる『不正の請託』がなされたというには、会社役員らが経営上の不正や失策を隠ぺいし、これに対する追及を免れるという動機目的の存在を必要とするものと解すべきところ、本件の場合、右経営上の失策は既に公けに明らかにされており、これを隠ぺいする必要がなかつたのであるから、原判決には同条の解釈適用を誤まつた違法があり、いずれの見地からみても、原判決は破棄を免れない。」というのである。
(本件公訴事実と原審の判断)
そこで記録を調査すると、本件はもともと「昭和四八年五月二七日開催の本件株主総会において、決算承認議案に関し、津上の津上商事に対する売掛代金がこげついたという経営上の失策につき、株主から追及され、総会の議事進行に支障を来すことを慮つた被告人及び畑佐邦雄の両名が、三宅肇と共謀のうえ、嶋﨑榮治に対し、津上の経営上の失策を追及する他の株主の一切の発言を封じ、津上に有利な発言をして総会が無事終了するよう尽力されたい旨を依頼し、もつて同総会における株主の発言及び議決権の行使に関して不正の請託をなし、その謝礼の趣旨で、(一)五月一五日には現金一〇〇万円を、さらに(二)同月二五日には現金二〇〇万円を、各交付して財産上の利益を供与した。」旨の公訴事実により起訴されたものであるところ、原審は、右一〇〇万円についてはこれを総会対策費用と認めるに足る前提事実を欠き、退助退陣の裏工作に関する費用として授受されたものと解するのが相当であるばかりでなく、不正の請託が介在した事実を認めるに十分な証拠がないとの理由で無罪を言い渡し(被告人に対する無罪部分の判決は既に確定している。)、一方、本件二〇〇万円に関しては、被告人らが嶋﨑に対し不正の請託をなしその謝礼の趣旨で交付されたものと認められると判断したうえ、有罪を言い渡したことが明らかである。
(当裁判所の判断)
一  津上の経営不振の状態と津上退助が代表権を奪われるまでの事実経過関係証拠によれば、昭和四八年二月当時津上の経営状態は悪化の一途をたどり、無配当に転落していたばかりでなく、遂には従業員に対する給与の支払にも事欠くという深刻な状況に陥つていたこと、右経営不振の原因が当時の退助社長のワンマン経営、とくに津上の製品を津上商事株式会社など退助及びその一族が経営する同族の子会社に一手販売させ、その結果売掛金の未回収分が少くとも一〇億円近い金額にのぼり、これが津上の資金繰りを圧迫していた点にあるとの事実に関しては、津上のメイン・バンクである大和銀行をはじめとする銀行筋や古田専務や津上の役員間の共通した認識となつており、銀行関係者や関連商社筋でも、退助が社長の座をしかるべき後継者に譲り津上の販売体制を刷新しない以上、資金的な援助に応じられないとの意向を示していたこと、それにもかかわらず、退助は、高齢(明治二六年九月生、本件当時七九歳)かつ病弱の身で、出社すら覚束ない状態にありながら、当分は引退しないとのかたくなな姿勢をとりつづけ、従来どおりの販売体制を維持継続する方針を固執していたこと、そこで津上の役員のひとりである畑佐(当時技術部門担当の常務取締役)も、津上の再建をはかるについては退助を会長に棚上げしその代表権を奪うほかなしとの決意を固め、二月中旬から下旬ごろにかけて、畑佐の出身校(浜松工専、のちには静岡大学工学部)の後輩にあたる被告人にその情を打ち明けたこと、一方、当時自動販売機の開発・販売等を目的とするエターナル・プロダクツ株式会社の経営にたずさわつていた被告人は、津上にコーヒーの自動販売機を製造させ、これを自社で直接販売する計画をもくろんでいたところから畑佐の企てに共鳴し、三月中旬ごろ被告人の柔道師範であつた三宅肇を介し、大物総会屋のひとりとして名の知られていた嶋﨑に退助退陣の裏工作を依頼するや、嶋﨑もこれを承諾したこと、被告人らは嶋﨑の協力のもと退助退陣の工作に乗出したものの、退助が永年にわたりワンマン経営を一貫し、周囲の説得にも耳をかそうとしなかつた経緯からみて、同人を退陣させるのは至難の業であり、右工作を成功させるのには多くの障害があると考えていたこと、さらに被告人は嶋﨑の紹介者である三宅から、一部に上場されている大会社津上の創業者である退助社長を退陣させる件で、嶋﨑のような総会屋の力を借りるというからには、一、〇〇〇万ないし二、〇〇〇万円程度の報酬を支払う覚悟が要る旨を示唆され、畑佐にもその旨を伝えていたこと、一方、畑佐はその立場上、嶋﨑に対する工作依頼に関し表立つた行動に出られないという制約があり、とくに他の役員らに嶋﨑との関係を察知されるのを強く恐れていたため、同人との折衝についてはもつぱら被告人に一任するとの態度をとりつづけたこと、ところで、嶋﨑は被告人から、退助の経営上の失策・疑惑に関する情報の提供を受け、四月二〇日ごろから三回にわたり、退助の失態を追及・指弾する書簡(公開質問状)を退助、古田専務、山本(榮松)常務らに送りつけたほか、古田、山本らと直接面談のうえ右同様の追及等をくりかえしたこと、このような経過の中にあつて、古田ら役員内部では、これ以上退助の居座りを黙認していては、会社の存亡にかかわる事態にまで発展するおそれがあるとの危機感を強め、次第に退助退陣への機運が高まり、五月上旬ごろには役員らの間で暗黙のうちに退助を代表権のない会長にまつり上げるとの意思統一が概ね遂げられるに至つたすえ、各役員が古田専務に辞表を預けるなどの行動に出たこと、一方、被告人及び畑佐は、嶋﨑が退助退陣の裏工作を具体的に進めてくれているのに対し、その工作費用を提供する必要を感じ、畑佐が個人的な預金を引出して調達した資金の一部である現金一〇〇万円を、被告人において五月一五日嶋﨑に交付したこと、他方、古田ら津上の取締役(八名)は、法的な手続により退助社長の解任を正式に決定するため、弁護士等の意見をきいたすえ、五月一二日取締役全員の連名で、退助に宛て、「五月一八日までに貴殿を代表取締役社長から取締役会長に就任させるための取締役会を招集されたい。招集のない場合は自分達取締役において取締役会を招集する。」旨の内容証明郵便を郵送したが、退助社長は何らこれに対応する処置に出ず右期間を経過したため、遂に五月一九日退助欠席のまま開かれた取締役会で、同人を代表権のない会長とし、古田が代表取締役社長の地位を継ぐ旨の決議がなされるに及んだこと、以上のような事実経過を認めることができる。
二  本件二〇〇万円交付前後の状況関係証拠を検討すると、右取締役会開催の前日である五月一八日、古田、山本、畑佐の三名がホテル「ニュージャパン」で嶋﨑と面談した席上、古田は、退助を代表権のない会長に棚上げし、古田が新社長として津上の経営刷新にあたるとの新人事が内定した経過を説明したところ、嶋﨑は、意外に早く退助の退陣が実現したのに驚きの色を示すとともに、その結果に満足している趣旨を述べたこと、なお、津上では従来から総会の都度大物総会屋のひとりである谷口勝一をいわゆる幹事総会屋に起用し、各決算期ごとに六〇万ないし八〇万円の報酬を提供して議事進行係の役割をつとめるよう依頼していたものであるが、嶋﨑は右谷口の後輩にあたり、右五月一八日の面談の際にも、新体制による津上の株主総会の進行に関しては嶋﨑が谷口とあい呼応して力を貸す旨の意向を明らかにしたこと、ところで、古田専務を主軸とする津上の役員らが、前記のように退助社長を事実上引退同様の立場に追いこむ方向で結束したうえ、退助の意に反して取締役会を招集・開催し、一挙に社長解任の議決に及ぶという手段に訴えるのは、いわば異例中の異例ともいうべきイベントであり、万一右のような役員らの画策が取締役会以前に外部にもれた場合にはいかなる横槍や妨害が加えられるかも知れず、ひいては役員間の団結が乱れ、所期の目的を果し得ない事態を招くおそれが強いため、あくまで極秘裡に事を進める必要があり、従つて畑佐も被告人に対し、このような役員内部の動向の推移を努めて秘匿するよう心がけ、できる限り漠然とした表現で社内の趨勢を伝えてきたこと、しかし、懸案の取締役会を翌日にひかえ、古田専務自ら、嶋﨑に対し右の内情を明確にしたことから、畑佐もこれ以上被告人にこれら情勢の報告を手控える必要がなくなつたと判断し、同日夜、被告人とひそかに会合する機会をつくり、明一九日開催の取締役会で社長解任の決議が正式になされる見通しがほぼ決定的に固まつた事情を伝えたこと、これを聞いた被告人は、早急に金員を調達して嶋﨑に交付する必要があるとの意見を述べたところ、畑佐もこれに賛成し、とりあえず一、〇〇〇万円程度の資金の準備に努力すると約束したこと、そして、五月一九の日取締役会で予定どおりの決議がなされて新布陣が発足し、即日右決議の結果は退助のもとにも連絡され、同人は、それまで自宅で保管していた代表者印等社長決済用の印鑑等一切を会社に返還したこと、畑佐は、前日の被告人との打合せにもとづき、嶋﨑に交付する金員調達のため、取締役会終了後、浜松工専出身の先輩にあたる松尾隆也(当時インターナショナル東京精密株式会社の社長)を訪ねて金策方を申出るなど奔走したが、同人の応諾を得られず、そこでかねて畑佐が津上製品の販売につき業務提携をはかろうと折衝を重ね、一時はその交渉が成功直前の段階にまで進んだものの、結局は退助の反対で挫折したという関係のある安宅産業株式会社の機械第一本部副本部長・百木正孝の口そえにより、五月二五日、株式会社津田製作所の専務取締役・津田節士から現金一、〇〇〇万円を借受け、そのうち五〇〇万円を被告人に手渡したこと、そこで被告人は、嶋﨑に交付すべき金額を三宅に打診したところ、二〇〇万円が相当であるとの示唆を得たので、三宅と共に嶋﨑経済研究所に赴き、嶋﨑に本件二〇〇万円を手交したこと、以上のような事実を認めることができる。
三  本件株主総会の状況
本件総会の状況については、関係証拠に徴すると、五月二七日午前一〇時ごろから新潟県長岡市内の津上・長岡工場において予定どおり第六八期定時株主総会が開かれ、およそ九〇名の(本人)株主(株式数は約一四五万株)が出席し(委任状による出席株主が一一六名、その株式数は約一、九五六万株)、議長席についた古田新社長の開会宣告により第一号(決算承認)議案の審議にはいつたこと、まず古田社長が同期の営業の概要等についての説明を行なつたところ、前記谷口勝一が発言を求め、「永年の懸案であつた首脳部の刷新がなされたことは喜ばしい。新経営陣は、労使の一体化と傘下の下請工場を包含する強固な団結のもと、経営不振の現状克服に努力されたい。なお、従来の販売体制を改善するため、津上商事等の吸収合併を早期に実現することが必要である。また、津上に対する金融機関の不信感を除去するのにベストを尽くすよう要望する。」旨の意見を述べ、つづいて、嶋﨑が発言を申出たのち、津上の創立者である退助前社長の長年月にわたる功績を讃え、記念品を贈呈したい旨を申出たこと、古田社長はこれらの発言を受け、貴重な意見に謝意を表し、株主各位の要望に応えるよう努力して行きたいと答弁したところ、嶋﨑と親しい総会屋のひとりである岡崎弘が発言を求め、「社長の説明は抽象的に過ぎる。新社長は前社長の補佐役として専務取締役の要職にあつた以上、再建計画、とくに、販売体制の改革について常日頃から腹案を練つていた筈だから、例えば、津上商事を吸収合併するのかどうかなど具体的な構想を明らかにせよ。」とかなり厳しい口調で古田社長に迫つたこと、これに対し同社長の答弁が要領を得なかつたため、次第に議場がざわつきはじめたが、一部株主から「もう、その位でいいではないか。」と岡﨑を鎮撫する声があがるなどの経過があつて、岡崎もそれ以上の発言を控えて着席したこと、そこで古田社長が第一号議案承認の議決を得ようとした際、津上長岡工場の下請会社である品川鋳造所の経営者・品川英三が発言を求めて立上つたが、谷ログループに属する総会屋のひとりである平田雅弘に制止され十分発言できぬままにおわつたこと、これと相前後して退助前社長の委任を受けて出席していた関根俊太郎弁護士が発言を求めて起立しようとした際、近くにいた株主に背広の袖を引張られるなどの悶着があつたものの、嶋﨑が「発言させてやつたらいいではないか。」と声をかけ、関根の着衣に手をかけていた者もその行動を止めたこと、そこで起立した関根弁護士は、「津上商事を吸収合併するかどうかというような問題は、津上の営業の基本にかかわる重要な事項であるから、総会の場で軽々にとりあげるべきではない。」等の意見を述べたが、ハンド・マイクなしの発言であつたため、同弁護士の述べた内容は、必ずしも出席者全員に徹底しなかつたこと、その後第一号議案が議決され、それ以降は格別の混乱もなく、第二号議案(監査役選任の件)が承認され午前一〇時四七分ごろ閉会したこと、以上の事実が認められる。
四  本件二〇〇万円授受の趣旨及び不正の請託の有無
叙上のような事実関係を踏まえたうえ、原審で取調べられた証拠のほか当審における事実取調の結果を吟味し、本件二〇〇万円授受の趣旨、不正の請託の有無について検討する。
(一)  原審の認定判断も一概には排斥しがたいことについて
原審で取調べられた証拠、とくに、被告人のほか、畑佐及び嶋﨑らの捜査官に対する各供述調書によれば、本件二〇〇万円は総会対策を目的とする費用であり、原判決認定のように不正の請託がなされたことを窺わせるに足る供述記載が随所にあらわれているばかりでなく、右金員の交付された時期、その金額、総会前の関係者の動向等原判決説示の諸状況を総合すると、右の点についての原審の認定判断は一応首肯し得ないわけではなく、にわかにこれを排斥しがたいことを否定できない。
しかしながら、所論にかんがみ、原判決の証拠判断ないし推論の過程につき検討を進めると、そこには、少なからぬ疑問のあることも事実であり、以下、疑問点を順次明らかにして行くこととする。
(二)  被告人らの捜査段階の供述とその問題点について
先に判示した本件起訴の内容に照らしても明らかなごとく、捜査官の側では五月一五日に授受された一〇〇万円と本件二〇〇万円の双方がいずれも同趣旨、同性格の金員であるとの判断に立つて被告人らの取調を進めたため、被告人をはじめ関係者の捜査段階における各供述調書の記載も右のような捜査官の判断にそう方向の内容にまとめられており(原審検察官は、論告において、「本件二〇〇万円は五月一五日に供与した一〇〇万円の趣旨をより一層徹底させるものであつた。」と主張している。)、従つて、一〇〇万円授受の趣旨、目的についての検察官の主張が破綻した以上、本件二〇〇万円授受の趣旨にかかわる捜査官作成の各供述調書の供述記載の評価にも重要な影響を及ぼすものということができる。
しかも、被告人らの捜査官、とくに検察官に対する各供述調書中、本件二〇〇万円の趣旨等に関する供述記載部分を見ると、例えば、「私(被告人)は、五月二五日畑佐から五〇〇万円を受取つたが、これは、嶋﨑自身が新役員に対する経理責任追及の発言をしないようにしてくれることはもちろん、新人事の報告議案あるいは決算承認議案について、退助一派らの反対発言や不承認の議決権行使を、嶋﨑に封じてもらうことに対するお礼として、畑佐が私(被告人)に渡してくれたわけです。」「嶋﨑に二〇〇万円を渡し、『先生、ご苦労さまですがよろしくお願いします。』と言つたが、これは、新役員に対する経理責任の追及はしないでほしい、また退助派の発言などを封じたり妨害して下さい、そのお礼としてあげるのです、という意味であつた。」(被告人の昭和四九年三月一五日付検察官調書)とか、「私(畑佐)は小野に、『嶋﨑自身の経理責任追及の発言をやめてもらうことはもちろん、退助派や中間派の新人事に対する反対発言、あるいは退助退陣の必要がないとしての決算議案不承認の議決権行使を阻止してもらうため、一、〇〇〇万円作ろう。』と言つた。」(畑佐の同月一三日付検察官調書)、「この二〇〇万円は、私(嶋﨑)がこれまで公開質問状で指摘してきた経理上の問題を一切追及せず、退助派の発言を完全におさえることの謝礼の意味で受取つた。」(嶋﨑の同月七日付検察官調書)など(なお、以上に例示した部分は、いずれも原審検察官が論告で具体的に引用しているものである。)抽象的・類型的であり、各人がこもごも他の者の内心や底意を十分知り尽くしていたかのような供述記載に整理されていることが特徴的である。
ところが、後にも触れるとおり、本件に関与した被告人のほか畑佐、嶋﨑らは、いずれも各人各様の思惑と打算にもとづいて行動していたうえ、その真意や各人の知識、行動の模様を腹蔵なく打ち明け合つていたわけではなく、被告人と畑佐の両名にしても、捜査段階での各供述に示されているほど終始一心同体の関係で緊密に結ばれていたとは認めがたく、いわんや、嶋﨑が被告人らとびつたり呼吸を合わせて動いていたと見ることには多くの疑問があり、これらの点に徴すると、右に例示したような各検察官調書の内容は、あまりにも符節を一にし、かつ、商法四九四条の構成要件をなぞるかのように整理されていることのために却つて空々しい印象を与えるのを否定できない。
(三)  被告人及び畑佐、嶋﨑らの接触状況について
関係証拠を調査検討すると、畑佐は、自らが表面に出るのを避け、もつぱら被告人を通じて同人と嶋﨑との折衝の経過を知らされていたに過ぎず、被告人の報告を信ずる以外には、被告人が実際に嶋﨑に対してどのような行動を依頼しているのか、これを具体的・客観的に確知するすべがなかつたものであり、畑佐が直接嶋﨑と顔を合わせたのも、五月一八日、古田、山本に同行してホテルニュージャパンに赴いた際だけであるうえ、その席でも、嶋﨑が畑佐の出身学校をたずねた以外には、両名の間で格別話をかわした事実のないこと、一方、被告人は、津上の役員ら会社内部の者が退助退陣の問題でどの程度歩調をそろえる空気になつているのか、あるいは、退助社長解任の正式な決議がなされたのち新体制下の役員らが具体的にいかなる新方針を掲げて総会に臨もうとしているのかなど仔細を知りたかつた事情に関しても、畑佐から教えられた情報に頼るほかにはこれを探知ずるルートを持つていなかつたこと、ところが、畑佐は金銭面の問題をも含め必ずしも全面的に被告人を信頼していたわけではなく、さらに、自らの立場上、被告人及び同人を介しての嶋﨑との関係等を他の役員らに看破されるのを警戒し、きわめて用心深い態度をとりつづけ、率直に被告人に話しても差支えない事実と出来る限り伏せておかねばならないこととを慎重に選別しながら被告人と応対していたこと、被告人も嶋﨑に対する関係では、同人に交付した金員の出所等を明確にしないまま終始したため、嶋﨑自身は本件金員の出捐者等につき漠然とした推量をしていたにとどまること、他方、嶋﨑もその計画や意向のすべてを常に直接被告人に説明していたものではなく、被告人の発問や依頼に対しては、むしろ如何様にも解釈できる曖昧な表現で答えていた場合の少くないこと、以上のような接触状況を認めることができ、これを要するに、三者三様に相手方の意中を付度しながら事を運んでいたという経緯にあつたと解するのが相当である。
(四)  被告人らが退助退陣工作に関与した動機等について
関係証拠を調査検討すると、被告人及び畑佐の両名とも津上の再建を願う気持にかわりがなかつたものの、被告人の場合には、当時新形式のコーヒー自動販売機の製造販売計画を進めるうえで隘路となつていた津上の閉鎖的な販売体制を改革できれば、商取引上きわめて有利な条件を得られるとの期待が最大の引き金となつて退助退陣工作に関与したこと、畑佐の場合には、退助社長が事実上会社を私物化するにも等しいワンマン経営をつづけ製品の販売権を同社長とその一族が独占するという商法を固執しているのに対し、役員内部では最も批判的な態度を明確にしていたものであり、他の役員らが制裁的な人事権の発動を恐れて退助社長に迎合し弱腰の姿勢をとつていることについて強い不満をもつていたところ、畑佐自身の渉外的な手腕により、津上の製造する在来の製品を安宅産業株式会社に販売させるとの商談をまとめ、その方針につき退助社長の承認を得たうえ、昭和四八年二月七日開催の取締役会で同社長をはじめ出席者全員の賛成により、右のような販売体制の抜本的刷新が決議されるに至つたのにかかわらず、その後間もないころ、津上商事の首脳部が右改革に強い抵抗を示したため、退助社長がにわかに前言をひるがえし、安宅産業には海外輸出用製品の販売のみしか認めないとの意向を表明するなど取締役会の決議を社長の一存でくつがえしたばかりか、畑佐の努力を水泡に帰せしめ、安宅産業に対し背信的な事態を惹起したことから、退助社長不信任の決意をますます強め、他の役員らに退助退陣の必要性を力説してその説得に努めるかたわら、被告人に協力を求め、一方、退助の会長棚上げに成功した後には、社内での地位昇格、発言力の強化にともない安宅産業その他有力商社との業務提携の計画を実現させ、リベート収受等の役得にあずかる立場を確保できるという功利的な打算心も手伝つて、退助社長解任の火つけ役となつたこと、嶋﨑の場合には、本件当時谷口勝一が津上の幹事総会屋として同社の株主総会の運営を事実上とりしきる役柄を務めており、嶋﨑自身は津上から広告賛助料名下に毎年五万円の寄附金を受額するだけの立場にとどまつていたため、この機会に退助退陣の裏工作にたずさわつたうえこれに成功した場合には、津上の経営陣に対し谷口を凌駕する発言権をかちとり、幹事総会屋のポストを谷口から奪い上げるのはもちろん、大会社のワンマン社長追放の難事を巧妙にこなし切つたという実績によつて総会屋仲間のみならず広く財界にその存在を印象づけることができるとの野心から本件社長解任劇の舞台まわしを買つて出たこと、以上のような事実が認められる。
右認定にかかる被告人らの接触状況及び退陣工作関与の動機等具体的、個別的な事情を念頭において考察すると、本件二〇〇万円授受の趣旨目的及びこれに対する各人の認識解釈の内容に関し、前記各検察官調書の供述記載ないしその結論において概ねこれにそつた線で認定していると見られる原判決の証拠判断のように一義的に割切つた評価をくだすことが許されるか否か、なお慎重な検討の余地が残されていることを否み得ないと思われる。
(五)  本件二〇〇万円は総会対策費用か
原判決は、本件株主総会において退助一派の巻き返しが予測される状況にあつたこと、畑佐が総会直前の時期に急拠金策に苦慮したすえ、一、〇〇〇万円という高額の金員を準備し、総会開催の前々日に本件二〇〇万円が授受されていること等の諸事情を指摘し、これらの情況に徴すると、本件二〇〇万円が総会対策を目的とした費用と認めるのが相当であると判断している。
(1) 原判決のいう「退助一派の巻き返し」が具体的に何を意味するかは必ずしも明らかでないが、原判文全体の文脈との関係でその趣旨を考察すると、法的には五月一九日の取締役会で退助の社長解任が決定されたものの、これに至る経過・事情の公正さや妥当性につき、退助及びその支持者らが本件総会の場でひろく株主に訴え、場合によつては退助の社長復帰を企てる動きに出ることを指していると解される。
なるほど、先にも判示したとおり、少くとも昭和四八年三月ごろまでの退助は、周囲の忠告に耳を傾ける余裕もなく、あくまで代表者の座を手離さず、製品販売のシステムについても従来の方法を変更しないという強硬な態度をとつていたものであり、さらに、関係証拠によれば、退助は、嶋﨑から退陣を促す内容の公開質問状が送付されてきた当初の段階では、とくに動揺するところなく、嶋﨑に応分の金員を提供するなど適当な収拾手段を講ずれば足りると楽観していたものと認められ、いわんや全役員が結束して社長解任という大胆な行動に出るなどとは全く予想していなかつたと窺われるから、不本意な形で代表権を失つた退助が腹心の部下に裏切られた恨みを晴らすため、本件総会の場を借りて、何らかの巻き返し工作に出ると予測される状況があつたと推認することも一応は可能であろう。
しかしながら、関係証拠によれば、退助は前判示のような内容証明郵便によつて古田ら役員が退助の意向を無視して一方的に取締役会の招集開催を企てている事実を知り、その対策につき、顧問弁護士の関根俊太郎らに意見を打診するうち、津上の役員はもちろん、部課長クラスの中間管理者をはじめ労働組合員も含め、その圧倒的多数が退助退陣の線で結束を固め、もはや退助の勢力挽回のための切崩し工作を試みる余地が残されていないとの事情をさとつた結果、退助自身、取締役会開催以前の時点で既に退陣もやむを得ないと観念するに至つたこと、なお、関根弁護士は、退助が出処進退を誤まつたという印象を多少とも弱めるため、同人が満八〇歳を迎える九月を期して自発的に社長の座を明渡すこととし、それまでの間は副社長を選任してこれにも代表権を持たせるとの方法を提案して古田専務に働きかけたが、同人は他の役員らの意見をも聴いたうえ、右提案には到底応じがたい旨を回答し、退助もその経過を聞知していたこと、五月一九日に開かれた取締役会については、退助派と見られる者が何らかの方法でその開催を妨害する行動に及ぶのではないかと危惧する声もあつたが、何のトラブルもなく平穏のうちに予定どおり議事進行がなされたこと、退助は、取締役会当日代表権のない会長に棚上げするとの議決がなされた旨の連絡を受けるや、前判示のようにいささかの悶着もなく素直に代表者印等を会社に返還するなど事実上取締役会の決議を追認しこれに従う行動に出ていること、その後、退助の依頼により関根弁護士が退助の代理人として総会に出席することを引受けたものであるところ、津上商事の専務取締役で退助と義兄弟の関係にある飯塚伊太郎が退助の意を体して、同弁護士に総会の席では社長更迭人事の不当性を問うてもらいたい旨を要望したのに対し、同弁護士は、「既に適法に決定された人事問題に関して発言する意思は全くないし、もしそのような発言を望んでいるというのであれば、総会には出席できない。」旨きつぱりと飯塚の申出を拒否していること、現に本件総会の席では右のような意味での人事問題に触れる株主の発言が全くなかつたこと、以上のような事実が認められ、これら各般の事情に照らせば、退助一派が本件総会において巻き返しをはかると推測するに足る客観的な事情があつたとは解しがたい。
そうだとすると、被告人らが右のような経過の詳細のすべてを知悉していなかつたと窺われる点を考慮にいれても、退助派が総会の席で巻き返しに出ると予測される状況があつたとの認定をひとつの根拠として、本件二〇〇万円を総会対策費用と評価した原審の推論には重大な疑問が残るといわなければならない。
(2) 次に、畑佐が総会の開催を目前に控えた五月二五日に一、〇〇〇万円の調達に成功し、そのうちの五〇〇万円を預つた被告人が即日嶋﨑に本件二〇〇万円を手渡すに至つた経過は、先に認定判示したとおりであるところ、原判決は、本件二〇〇万円が総会対策の費用と認められる理由として、右のような経緯を重視している。
そこで検討するに、既に判示したごとく、被告人及び畑佐の両名は、嶋﨑がいかに総会屋としての手腕・実力に長じているとしても、退助退陣の裏工作を成功させるのはきわめて至難の業であり、それだけにまた、その成功報酬については、三宅からも示唆されたように、一、〇〇〇万円をくだらない高額の金員を覚悟しておかねばならない旨を十分承知していたものであり、さらに、関係証拠によれば、四月中旬ごろ被告人が畑佐の協力を得て、退助の経理上の失策・疑惑に関する情報を収集整理し、報告書の形にまとめたうえ嶋﨑に提供した際、同人はこれだけの材料があれば退助を退陣に追いこむのに十分である旨自信ありげな態度を示したので、被告人も、予期以上に早く裏工作が成果を挙げるとの見通しをもち、素早く畑佐に右事情を伝えるとともに、早々に一、〇〇〇万円程度の金員を準備しておく必要がある旨を相互に確認し合つたことが認められ、これらの点を併せ考えると、被告人らは既にかなり早い段階から嶋﨑に高額の報酬を支払わなければならないとの心積りを固めていたと窺われる。
一方、本件二〇〇万円が交付されるに及んだ前後の状況、とくに、被告人は、社長解任の決議が正式になされる見込みが決定的となつた旨を取締役会の前夜に至つてはじめて畑佐から教えられ、その際、両名の間で即刻嶋﨑に支払うべき報酬の資金調達を進めるとの具体的な合意が成立し、その目標額として約一、〇〇〇万円という数字が出ていること、ところが予想以上に右資金の調達が手間どつたことなどの経緯に照らすと、畑佐が被告人との関係でも役員内部の社長解任工作の動き等につき秘密を保つとともに、畑佐自身取締役会の解任決議以前の段階で第三者に働きかけて資金の調達を仰ぐなど表立つた行動を慎しんでいたところに、たまたま前記のように資金の調達が難航したという事情が競合した結果、本件二〇〇万円の授受が総会直前の時期にずれこんだものと解される。
右に説示したところを総合すると、現実になされた金員授受の時期等を重視したうえで総会対策費用と評価している原判断には、事態の流れを必ずしも的確に洞察していないうらみのあることを否定できず、却つて、退助の退陣が不動のものとなつたのを契機として、畑佐が被告人との合意にもとづき資金調達に乗出した経緯に照らして推考すれば、本件二〇〇万円は、被告人の供述するごとく、退助退陣の裏工作が成功したことに対する報酬として授受されたものと解するのも、それなりに合理性があるというべきである。
(六)  不正の請託の有無
既に述べたように、本件二〇〇万円を総会対策費用と認めた原認定には少なからぬ疑問のあることを否みがたいが、この点をしばらくおき、不正の請託の有無に関する原判決の認定の当否を検討する。
(1) 所論は、もともと津上商事の関係者が自らの販売能力の不足等によつて惹起した同商事に対する売掛金滞留の問題等を総会の場でとりあげることはあり得なかつたし、一般株主が経営上の失策につき新役員の責任を追及するおそれもなかつたばかりでなく、仮りに責任追及の発言が予想されたとしても、これらの失策は退助社長のワンマン経営がその原因を作り出したものである以上、新役員らにおいてはその追及を懸念しなければならない責任がなかつた旨主張する。しかしながら、古田新社長以下の新役員は、退助前社長当時取締役会の一員としてその決議に加わり、経営に参画していたものである以上、経営上の失策の責任のすべてをひとり前社長のみに転嫁することは許されず、また、販売体制の改革に利害関係の深い津上商事関係者が売掛金の滞留といわれているものの実情、内容等の詳細を示すよう新役員に迫り、その責任を前社長や津上商事のみに帰せしめることの当否を問題にする可能性がなかつたと断定するのも早計であるから、この点についての所論をにわかにそのまま是認しがたいことは原判決が説示するとおりである。
(2) そこで、原判示のような新役員の責任追及の発言が予測されたとの前提に立つたうえで、被告人や畑佐らが嶋﨑に対し、これらの発言を封ずるよう依頼する動機、事情があつたか否かについて検討する。
先に認定した事実及び関係証拠に徴して認められる一連の事情、すなわち、退助の退陣にともない新経営陣が発足し、販売体制の改革及び金融筋からの信頼回復によつて津上の資金的な行詰まりの解消に乗出そうとしたこと自体は、津上の再建を望んでいた者の間で、永年の懸案事項を解決するための第一歩としてひろく歓迎されたものと窺われること、新役員、ことに古田新社長は、必ずしも経営担当者としての責任を退助前社長ひとりに帰せしめる態度で総会を乗切ろうとしたわけではなく、前社長当時経営陣に加わりながら深刻な業績不振に陥るのを防止できなかつた連帯責任を自覚し、反省すべき点は率直に反省したうえ、株主の理解と協力のもと津上再建のため努力を傾けて行きたいという謙虚な姿勢で総会に臨もうとしていたと認められること、本件当時は株主総会の議事進行に関し会社側が総会屋の力を借りるという方法がなかば公然と是認されていた実情にあり、現に津上においても谷口勝一を幹事総会屋に起用していたものであるが、同人は早くから退助退陣の必要を主張する立場に立つていた関係で、新体制に好意的であり、古田社長らも事前に谷口と緊密な連絡をとり、多少の混乱はあるにせよ本件総会を無事収束する自信をもつていたと窺われることなどを総合すると、もともと新役員ら会社側においても、その責任を追及する趣旨の株主の発言に対し毅然たる態度でこれに対応できる準備を整えていたと認めることができる。
ところで、関係証拠によれば、被告人や畑佐も右のような情勢の大綱を了知していたばかりでなく、他の役員と異なりひとり畑佐のみが特段の責任追及を受けると危惧される格別の事情がなかつたこと、畑佐は筆頭常務の立場にあつたとはいえ、総会の運営については社長のほか総務部門担当の役員が直接その衝にあたるのが慣行であるから、とくに畑佐がこれら直接の責任者と別個に独自の職責として嶋﨑を含む総会屋との交渉を担当すべき地位にあつたものではないこと、一方、被告人自身は当初からほぼ一貫して、嶋﨑に対し、退助社長を退陣させるのに嶋﨑がその手腕を活かしてくれるのを期待するという立場で動いてきたものであること、以上の事実が認められる。
これら各般の事情に加え、畑佐自身嶋﨑に対し本件総会の場で原判示のような一部株主の発言を抑止する役割を期待していたとすれば、少くとも本件総会の直前ごろ何らかの方法でその依頼の趣旨内容を徹底する機会があつたと思われるのにかかわらず、かかる行動に出ていないことも理解に苦しむところなしとせず、以上を要するに、被告人や畑佐が嶋﨑に対し、原判示のような不正の請託をなすべき動機があつたと断ずるのは困難である。
(3) 最後に、本件株主総会の状況を検討することにより、遡つて不正の請託があつたかどうかを判断する資料となし得ると思われるので、この観点から考察する。
前判示のとおり、本件総会の冒頭に谷口、嶋﨑の両名が、一方で新体制の発足を歓迎してこれを激励する趣旨を述べ、他方では前社長の功績に賞讃の言葉を送るなど、巧みな方法で総会全体の空気をなごませ、次に、嶋﨑の傘下に属すると認められる総会屋の岡崎が古田新社長に販売体制改革の具体的な構想の提示を迫るなど緩急おりまぜた形で議事をリードしているところ、これらは議事進行上のかけ引きの範囲を出ないものということができる。
その後退助の意を体して出席していた品川の発言が谷ログループの総会屋(平田)に制止され、また、退助の委任を受けて出席していた関根弁護士の発言申出の際多少の悶着があつたことは前判示のとおりであるが、少くとも、嶋﨑本人もしくはそのグループに属する者がこれら発言妨害の行動に関与したと認め得る証拠はなく、却つて嶋﨑自身は関根弁護士に発言の機会を与えるような声をかけていることなどに徴すると、右のような総会時の状況をもつて、直ちに、原判示のごとき不正の請託の介在を積極に肯認する根拠と評価するのは相当でなく、その他本件総会の議事進行の経過を精査しても、右判断を左右するに足る事情があつたと窺わせる資料を見出すことはできない。
五  まとめ
以上のとおりであるから、本件二〇〇万円授受の趣旨、目的につき、これを不正の請託をともなつた総会対策の費用と推断するには、なお合理的な疑問を差しはさむ余地のあることを否定できず、原判決の有罪認定には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があると思料されるので、法令の解釈適用の誤りに関する論旨に対し判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。事実誤認の所論は、結局のところ理由があるというべきである。
(結論)
よつて、刑訴法三九七条一項、三八二条に従い原判決を破棄し、同法四〇〇条但書を適用して当審において自判することとする。
本件公訴事実の要旨は、先に「本件公訴事実と原審の判断」の項に示したうち(二)に該当する部分のとおりであるところ、先に説示したように、いまだ犯罪の証明がないことに帰着するので、刑訴法三三六条により主文のとおり判決する。
(萩原壽雄 角谷三千夫 鈴木清子)
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