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「営業支援」に関する裁判例(38)平成27年 7月15日 東京地裁 平21(ワ)33221号 地位確認等請求事件 〔日産自動車ほか事件〕

「営業支援」に関する裁判例(38)平成27年 7月15日 東京地裁 平21(ワ)33221号 地位確認等請求事件 〔日産自動車ほか事件〕

裁判年月日  平成27年 7月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)33221号
事件名  地位確認等請求事件 〔日産自動車ほか事件〕
裁判結果  棄却  上訴等  確定  文献番号  2015WLJPCA07158015

要旨
◆派遣労働者と派遣先会社との直接の黙示の労働契約の成立が認められなかった例

評釈
山崎隆・労経速 2261号8頁
慶谷典之・労働法令通信 2396号24頁

裁判年月日  平成27年 7月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)33221号
事件名  地位確認等請求事件 〔日産自動車ほか事件〕
裁判結果  棄却  上訴等  確定  文献番号  2015WLJPCA07158015

東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 笹山尚人
同 今野久子
同 大山勇一
同 伊須慎一郎
同 上田裕
同 小部正治
同 三浦直子
横浜市〈以下省略〉
被告(以下「被告Y1社」という。) Y1株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 大澤英雄
同 小鍛冶広道
同 湊祐樹
東京都港区〈以下省略〉
被告(以下「被告Y2社」という。) Y2株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 水野信次

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  原告と被告Y1社との間において,原告が,被告Y1社に対し,期間の定めのない労働契約上の地位を有することを確認する。
2  被告Y1社は,原告に対し,平成21年6月1日から,本判決確定の日まで,毎月25日限り,41万5480円及びこれに対する各同日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  被告らは,原告に対し,連帯して,1492万3040円及びこれに対する平成21年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告Y2社は,原告に対し,857万3040円及びこれに対する平成21年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,派遣元である被告Y2社との間で期間の定めのある労働契約を締結し,その更新を重ねながら,派遣先である被告Y1社において就労していた原告が,① 原告と被告Y2社との間の労働契約及び被告ら間の労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)は偽装された無効なものであり,原告と被告Y1社との間には直接の労働契約が黙示のうちに成立しているとして,仮にそうでないとしても,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(平成24年法律第27号による改正前の題名は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」。同改正前の同法を以下「労働者派遣法」という。)40条の4及び40条の5の各規定によって原告と被告Y1社との間に労働契約が成立しているとして,被告Y1社に対し,期間の定めのない労働契約上の地位を有することの確認(第1の1)並びに平成21年6月以降の賃金及びこれに対する遅延損害金(起算日は賃金の約定支払日の翌日)の支払(第1の2)を求め,② 被告らの職業安定法違反及び労働者派遣法違反等の違法行為によって,原告が被告Y1社に直接雇用されていれば本来支払を受けることのできたはずの賃金の支払を受けられず,被告Y2社から受け取っていた賃金との差額について損害を被り,また,精神的苦痛も被ったとして,被告らに対し,連帯して,不法行為に基づく損害賠償金として,逸失利益,慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する遅延損害金(起算日は原告が被告Y1社で就労していた最後の日の翌日である平成21年6月1日)の支払を求め(第1の3),③ 原告と被告Y2社との間の労働契約及び被告ら間の労働者派遣契約が上記のとおり無効であることから,被告Y2社は原告が被告Y1社に派遣され就労していた期間,被告Y1社から支払を受けた派遣代金額から,被告Y2社が原告に対して支払った賃金額を控除した額につき,法律上の原因なく利得を得ており,これに対応して原告に損失が生じているとして,被告Y2社に対し,不当利得返還請求権に基づき上記差額及びこれに対する遅延損害金(起算日は平成21年6月1日)の支払を求めている事案である。
1  関係法令等の定め(要旨)
(1)  職業安定法
ア 労働組合等が厚生労働大臣の許可を受けて無料で行う場合を除くほか,何人も,労働者供給事業を行い,又は,労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならず,これに違反した者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科す(45条,64条9号)。
イ 労働者供給とは,供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい,労働者派遣法2条1号(後記(2)ア)に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする(4条6項)。
(2)  労働者派遣法
ア(労働者派遣の定義)
労働者派遣とは,自己の雇用する労働者を,当該雇用関係の下に,かつ,他人の指揮命令を受けて,当該他人のために労働に従事させることをいい,当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする(2条1号)。
イ(契約の内容等)
(ア) 労働者派遣契約の当事者は,厚生労働省令で定めるところにより,当該労働者派遣契約の締結に際し,次に掲げる事項等を定めなければならない(26条1項)。
1号 派遣労働者が従事する業務の内容
2号 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他労働者派遣に係る派遣労働者の就業(以下「派遣就業」という。)の場所
3号 労働者派遣の役務の提供を受ける者のために,就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者(以下「指揮命令者」という。)に関する事項
4号 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
5号 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
6号 安全及び衛生に関する事項
7号 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
8号 労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
9号 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合にあっては,当該紹介予定派遣に関する事項
10号 前各号に掲げるもののほか,厚生労働省令で定める事項
(イ) 40条の2第1項(後記カ(ア))各号に掲げる業務以外の業務について派遣元事業主から新たな労働者派遣契約に基づく労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は,1項(上記(ア))の規定により当該労働者派遣契約を締結するに当たり,あらかじめ,当該派遣元事業主に対し,当該労働者派遣の役務の提供が開始される日以後当該業務について同条1項(後記カ(ア))の規定に抵触することとなる最初の日(以下「抵触日」という。)を通知しなければならない。派遣元事業主は,上記の通知がないときは,当該者との間で,当該業務に係る労働者派遣契約を締結してはならない。(26条5項・6項)
(ウ) 労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は,労働者派遣契約の締結に際し,当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない(26条7項)。
ウ(就業条件等の明示)
派遣元事業主は,労働者派遣をしようとするときは,あらかじめ,当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,① 26条1項各号(前記イ(ア))に掲げる事項その他厚生労働省令で定める事項であって当該派遣労働者に係るもの,② 40条の2第1項(後記カ(ア))各号に掲げる業務以外の業務について労働者派遣をする場合にあっては,当該派遣労働者についての抵触日等を明示しなければならない(34条1項)。
エ(労働者派遣の期間)
(ア) 派遣元事業主は,派遣先が当該派遣元事業主から労働者派遣の役務の提供を受けたならば40条の2第1項(後記カ(ア))の規定に抵触することとなる場合には,当該抵触日以降継続して労働者派遣を行ってはならない(35条の2第1項)。
(イ) 派遣元事業主は,当該抵触日の1月前の日から当該抵触日の前日までの間に,厚生労働省令で定める方法により,当該抵触日以降継続して労働者派遣を行わない旨を当該派遣先及び当該労働者派遣に係る派遣労働者に通知しなければならない(35条の2第2項)。
オ(派遣元・派遣先管理台帳)
派遣元事業主及び派遣先は,厚生労働省令で定めるところにより,派遣就業に関し,それぞれ派遣元管理台帳及び派遣先管理台帳を作成し,当該台帳に派遣労働者ごとに従事した業務の種類等の事項を記載しなければならず,派遣先は,厚生労働省令で定めるところにより,上記事項を派遣元事業主に通知しなければならない(37条1項5号,42条1項5号・3項)。
カ(労働者派遣の役務の提供を受ける期間)
(ア) 派遣先は,当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について,派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。ただし,その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識,技術又は経験を必要とする業務等であって,当該業務に係る労働者派遣が労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を損なわないと認められるものとして政令で定める業務については,この限りでない。(40条の2第1項1号イ)
(イ) 前項(上記(ア))の派遣可能期間(以下,単に「派遣可能期間」という。)は,次の各号に掲げる場合の区分に応じ,それぞれ当該各号に定める期間とする(40条の2第2項)。
1号 次項(後記(ウ))の規定により労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間が定められている場合 その定められている期間
2号 前号に掲げる場合以外の場合 1年
(ウ) 派遣先は,当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について,派遣元事業主から1年を超え3年以内の期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けようとするときは,あらかじめ,厚生労働省令で定めるところにより,当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を定めなければならない(40条の2第3項)。
キ(派遣労働者の雇用)
(ア) 派遣先は,35条の2第2項(前記エ(イ))の規定による通知を受けた場合において,当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば抵触日以降継続して当該通知を受けた派遣労働者を使用しようとするときは,当該抵触日の前日までに,当該派遣労働者であって当該派遣先に雇用されることを希望するものに対し,労働契約の申込みをしなければならない(40条の4)。
(イ) 派遣先は,当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(派遣可能期間による制限を受けない,40条の2第1項1号(前記カ(ア))に掲げる業務等に限る。)について,派遣元事業主から3年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けている場合において,当該同一の業務に労働者を従事させるため,当該3年が経過した日以後労働者を雇い入れようとするときは,当該同一の派遣労働者に対し,労働契約の申込みをしなければならない(40条の5)。
ク(厚生労働大臣に対する申告)
派遣労働者は,労働者派遣をする事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者が労働者派遣法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実を厚生労働大臣に申告することができ,労働者派遣をする事業主及び労働者派遣の役務の提供を受ける者は,上記の申告をしたことを理由として,派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(49条の3第1項・2項)。
(3)  労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令(ただし,平成24年政令第211号による改正前のもの。同改正前の題名は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令」。)
(法40条の2第1項1号の政令で定める業務)
法40条の2第1項1号(前記(2)カ(ア))の政令で定める業務には,① 電子計算機,タイプライター,テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務,② 文書,磁気テープ等のファイリング(能率的な事務処理を図るために総合的かつ系統的な分類に従ってする文書,磁気テープ等の整理(保管を含む。)をいう。)に係る分類の作成又はファイリング(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とするものに限る。)の業務を含む(4条5号,8号。以下,同条5号に掲げられた上記①の業務を「5号業務」といい,同条1号から26号までに掲記された各業務を「専門26業務」という。)。
(4)  労働者派遣事業関係業務取扱要領
厚生労働省の定めた「労働者派遣事業関係業務取扱要領」においては,5号業務の範囲について,電子計算機,タイプライター,テレックスほか,これらに準ずるワードプロセッサー,テレタイプ等の事務用機器についての操作の業務及びその過程において一体的に行われる準備及び管理の業務をいい,当該機器は法40条の2第1項(前記(2)カ(ア))1号イの趣旨から迅速かつ的確な操作に習熟を必要とするものに限られ,ファクシミリ,シュレッダー,コピー・電話機,バーコード読取器等,そうした習熟を必要としない機器は含まれないとしている。また,専門26業務の実施に伴い,付随的にそれ以外の業務を併せて行う場合であって,その業務の割合が1日又は1週間当たりの就業時間数で1割以下の場合には,全体として派遣可能期間の制限を受けない業務と取り扱って差し支えないなどとしている。(乙イ7,弁論の全趣旨)
2  前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠(書証については枝番号を含む。以下特記しない限り同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)  当事者,被告ら間の労働者派遣に係る基本契約
ア 被告Y1社は自動車等の製造,販売等を目的とする株式会社であり,被告Y2社(元の商号「株式会社a1」を,平成11年8月「a株式会社」に,平成16年1月現商号に,それぞれ変更している。)は労働者派遣事業等を目的とする株式会社である。
イ 被告Y1社と被告Y2社は,平成8年12月16日付けで,被告Y2社がその従業員を被告Y1社の事務所に派遣し,同被告の指揮命令に従って同被告のために労働に従事させ,同被告が被告Y2社に対し派遣料を支払うこと等について合意し,その旨の基本契約書を作成した(乙イ1)。
ウ 原告は,平成11年に高校を卒業した後,正社員として就職はせず,求人雑誌等で仕事を見付けアルバイトとして就労を続けていたところ,派遣会社の広告を見て興味を抱き,平成12年12月22日,被告Y2社に派遣労働者の候補として登録し,被告Y2社から派遣先の紹介を待っていたが連絡がなかったため,引き続きアルバイトとして就労していた。平成15年2月24日には,再度被告Y2社に同様の登録を行ったものの,その直後に不動産会社に採用され正社員として就労を始めた。(甲69)
(2)  原告が被告Y1社で就労するに至る経緯,原告と被告Y2社との労働契約,被告ら間の個別的な労働者派遣契約
ア 原告は,平成15年9月に上記(1)ウの不動産会社を退職することになり,改めて被告Y2社に仕事の紹介を依頼した。原告は,同月中旬頃,被告Y2社から,派遣先として被告Y1社の紹介を受け,同月下旬頃,被告Y2社の担当者(C。以下「C」という。)とともに,当時東京都中央区銀座に所在した被告Y1社本社を訪れ,就労が予定される被告Y1社の部署の担当者(営業本部販売ネットワーク推進部主担・D。以下「D主担」という。)と面談した。
イ 原告と被告Y2社は,期間を同年10月1日から1か月と定め,派遣先を被告Y1社,就業場所を被告Y1社本社として原告が就労する旨の労働契約を締結し,被告Y2社は,その旨の契約書(「就業条件明示書兼雇用契約書」)を作成し,原告に送付した。同契約書には,「就業部署」として「営業本部業務部業務課」と,「業務内容」として「5号 事務用機器操作業務」とそれぞれ記載されていた。(乙ロ1)
ウ 被告らは,平成15年9月頃,上記(1)イの基本契約書に基づき,原告の被告Y1社における就労に対応した労働者派遣に係る個別契約書を作成した(乙イ2,弁論の全趣旨)。
(3)  原告と被告Y2社間,被告ら間それぞれの契約の更新,原告の就労状況等
ア 原告と被告Y2社との間の雇用契約は,その後,以下のとおり期間を定めて,25回にわたって順次更新された(乙ロ1)。
平成15年 期間を2か月と定めて1回更新
平成16年 期間をいずれも3か月と定めて4回更新
平成17年 期間をいずれも3か月と定めて4回更新
平成18年 期間を1か月,2か月,3か月,3か月,3か月と定めて5回更新
平成19年 期間をいずれも3か月と定めて4回更新
平成20年 期間を3か月,1か月,2か月,3か月,3か月と定めて5回更新
平成21年 期間を3か月,2か月と順次定めて2回更新
イ 原告は,上記アの期間中,被告Y1社本社での就労を続け,配属部署は次のとおり変更された。もっとも,配属部署の異動は組織の名称変更や改編統合に伴うものであって,原告は所属していたチームの構成員と一体となって異動した。
① 平成15年10月から平成16年3月まで
販売ネットワーク推進部内 総括チーム
② 平成16年4月から平成17年3月まで
販売ネットワーク管理部内 総括チーム
③ 平成17年4月から平成18年3月まで
販売会社経営支援部内 総括チーム
④ 平成18年4月から平成19年3月まで
販売ネットワーク推進部内 総括チーム
⑤ 平成19年4月から平成20年3月まで
カンパニー支援室内 損益管理チーム
⑥ 平成20年4月から平成21年5月まで
営業支援部内 Value-chain改善企画チーム
ウ 被告Y2社は,上記アの更新の都度,契約書を作成して原告に送付しており,そこでは,「就業部署」及び「業務内容」について,上記(2)イの記載が,おおむね以下のとおり改められている(乙ロ1)。
(ア) 「就業部署」
平成16年1月以降 「営業本部 販売ネットワーク推進部」
平成17年1月以降 「販売ネットワーク本部 販売ネットワーク推進部」
平成17年7月以降 「販売ネットワーク本部 販売会社経営支援部」
平成18年7月以降 「販売ネットワーク本部 販売ネットワーク推進部」
平成19年7月以降 「営業支援本部 人財教育支援部 人財育成室」
平成20年5月以降 「営業支援部」
(イ) 「業務内容」
平成17年1月以降 「5号 事務用機器操作業務 8号 ファイリング業務」
平成18年10月以降 「5号 事務用機器操作業務 PCを使用したデータ入力」
平成19年10月以降 「5号 事務用機器操作業務 PCを使用したデータ入力,及び電話応対・書類整理の業務(うち法令上の付随的な業務に該当する部分の総計は,1週当り就業時間数の1割以下とする)」
平成20年10月以降 「5号 事務用機器操作業務 OA機器操作を伴う文書作成管理業務,各種資料作成,社員アシスタント業務及び,一体的に行われる付随業務。次の付随的業務は1日又は1週間あたり1割以下とする(書類整理)」
平成21年1月以降 「5号 事務用機器操作業務 エクセルを使用してのデータ集計・グラフ作成。パワーポイントを使用してのプレゼン用資料の作成。社内WEBシステムを使用しての会議設定・情報の展開・集約 及び,一体的に行われる付随業務。次の付随的業務は1日又は1週間あたり1割以下とする(書類配布)」
エ 被告ら間でも,上記アの更新の都度,個別契約書が作成されたが,「業務内容」については,平成16年4月以降の契約期間に対応した個別契約書では,「販売会社ごとの販売・損益実績データ入力・エクセル加工,会議コーディネート,出席者への案内・確認,資料作成,設営準備,部内庶務,電話・来客応対,慶弔関係など」などと,平成17年10月以降の契約期間に対応した個別契約書では,「データ加工・管理,販売・損益実績データ入力,会議アレンジ,出席者への案内・確認」などと,それぞれ記載されていた(乙イ2)。
オ 原告が,被告Y2社から支払を受けていた賃金は当初時給1550円であったところ,その後,平成18年10月1600円に,平成20年4月1630円に順次増額された。
カ 原告は,いずれも被告Y1社の休業時期である,平成17年4月下旬から5月上旬の連休時期,平成18年5月上旬の連休時期,同年8月中旬の夏休み(お盆)時期,平成19年1月上旬の年始時期,同年8月中旬の夏休み(お盆)時期,同年12月下旬の年末時期,平成20年1月上旬の年始時期,同年8月中旬の夏休み(お盆)時期に,被告Y1社以外の企業を被告Y2社から派遣先として紹介され,いずれも1日から数日までの短い期間を定めて被告Y2社との間で労働契約を締結し,当該派遣先で就労して賃金の支払を受けていた(乙ロ12)。
(4)  原告による被告Y1社に対する直接雇用の申入れ,同被告における就労の終了等
ア 被告Y1社は,平成21年4月2日,被告Y2社に対し,原告が従事している業務に係る労働者派遣契約について更新をしない旨を通知した。その際,被告Y2社から派遣されている原告以外の派遣労働者が従事している業務についても,更新の可否をリスト形式で一括して通知した。(甲58)
イ 原告は,平成21年4月10日頃,被告Y1社に対し,代理人弁護士名で,労働者派遣法40条の4の規定に基づき原告に直接雇用の申込みをするよう求めること等が記載された書面を送付した(甲59)。
ウ 原告は,平成21年4月27日,被告Y2社から同年6月以降被告Y1社本社への派遣が更新されず終了する旨を通知した。
エ 被告Y1社は,平成21年6月15日,原告の代理人弁護士に宛てて,労働者派遣法40条の4に基づく申込みの義務は負っていないこと,経営状況等に照らして原告の直接雇用には応じられないこと等を記載した書面を送付した(甲61)。
オ この間,原告は,労働組合であるbユニオンに加入し,同組合を通じて,被告Y1社に対し,直接雇用を求めて,団体交渉を申し入れたが,同被告は,その義務はないとして,これに応じなかった。
(5)  被告らに対する東京労働局からの指導・処分等
ア 被告Y2社は,平成21年2月23日頃,東京労働局長から,過去に同様の法違反が認められ,是正指導を受け,点検し,是正した旨報告していながら,派遣労働者が実際には専門26業務とは異なる業務を行っていたにもかかわらず,専門26業務を行っているものとして派遣先から抵触日の通知を受けずに労働者派遣契約を締結し,また,派遣労働者に対しては実際と異なる業務内容を示して抵触日を明示せず,派遣先及び派遣労働者に対して派遣停止の通知を行わず,派遣可能期間を超えて労働者派遣をしており,労働者派遣法26条1項・6項,34条1項,35条の2,37条1項の各違反があるなどとして,改めて,全社的に点検を実施し,違反があった場合には,労働者の雇用の安定を図るための措置を講ずることを前提に,是正・再発防止の措置を講ずること等を内容とする,同法49条1項に基づく改善命令を受けた(甲6,32)。
イ 被告Y1社は,平成21年5月28日付けで,東京労働局長から,被告Y1社本社営業本部業務部業務課において平成14年6月10日以来受け入れている被告Y2社からの労働者派遣につき,実際には5号業務とコピー取り等の庶務的業務とを併せて行っていたにもかかわらず,受入期間制限のない5号業務を行っているものとして労働者派遣契約を締結し,業務内容を適正に定めていなかったこと,受入期間制限のある業務に係る労働者派遣の役務の提供を受けるに当たり派遣元に対し抵触日の通知をせず,派遣可能期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けていること,派遣先管理台帳に業務内容を適正に記載せず,派遣元に対し業務内容を適正に通知していないことから,労働者派遣法26条1項・5項,40条の2第1項,42条1項・2項に違反するとして,是正の措置を講ずるよう指導することを内容とする是正指導書を交付された(乙イ6)。また,被告Y2社も,平成21年5月29日付けで,東京労働局長から,同じ被告Y2社から被告Y1社本社への労働者派遣につき,同法26条1項・6項,34条,35条の2第1項・2項,37条に違反するとして,是正の措置を講ずるよう指導することを内容とする是正指導書を交付された(甲22)。
3  争点及びこれに係る当事者の主張
本件の争点は,① 原告と被告Y1社との間の労働契約の成否(黙示に労働契約が成立したか,労働者派遣法40条の4及び40条の5の各規定により労働契約が成立したか),② 被告らが労働者派遣法違反を行い,被告Y1社において原告の直接雇用に応じなかったことが,原告に対する不法行為を構成するか,不法行為が認められた場合の損害額は幾らか,③ 被告Y2社は,被告Y1社から受け取った派遣代金と原告に支払った賃金との差額につき,法律上の原因なく利得したといえるかという点にある。これらの点に係る当事者の主張は以下のとおりである。
(1)  原告の主張
ア 黙示の労働契約の成立
(ア) 被告ら間の労働者派遣契約は,被告Y1社本社における恒常的な業務を常用の従業員の代替として派遣労働者に従事させることを目的として締結されており,労働者派遣を偽装しているものの,その実質は,原告と被告Y2社との間の労働契約と併せて,職業安定法44条の禁止する労働者供給事業と当該事業により供給された労働者の受入れにほかならないから,いずれも公序良俗に反した無効なものというべきである。労働者派遣法は,同法の要件を満たした適法な労働者派遣に限って労働者供給事業に当たらないとしたものであり,同法に違反した労働契約及び労働者派遣契約に基づく原告の被告Y1社への派遣は職業安定法に違反し,公序良俗に反する無効なものというべきである。
原告に係る労働者派遣においては,① 虚偽の業務内容の表示(26条1項等),② 派遣可能期間の徒過(40条の2等),③ 抵触日の通知の懈怠(26条5項・6項),④ 派遣停止の通知の懈怠(35条の2第2項など),⑤ 派遣元管理台帳の虚偽記載(37条1項)等の各労働者派遣法違反があり,後記(イ)の各事実を踏まえれば,原告と被告Y2社との間の労働契約,被告ら間の労働者派遣契約はいずれも無効と解すべき事情があるというべきである。
(イ) 原告と被告Y1社との間には,以下の事実関係のとおり,原告が被告Y1社での就労を開始した当初から,被告Y1社が労働条件を決定し,その指揮命令・監督の下に原告が労務を提供するという事実上の使用従属関係があり,その対価を被告Y1社が支払うという点で意思の合致があるから,労働契約が黙示のうちに成立しているものというべきである。
a 被告Y1社は,原告が就労を始めるに当たり,事前面接を実施しており,労働者派遣法26条7項で禁止されている派遣労働者の特定を目的とする行為を行い,自ら労働者の選別・採用を行っていた。被告Y2社は,被告Y1社の労働者募集・賃金の支払を代行し,原告の求職と被告Y1社の求人とを仲介して職業紹介を行っていたにすぎない。
b 被告Y1社は,原告が就労を始めた当初から,実際には,派遣可能期間の制限を受ける一般事務,専ら庶務的な業務に従事していたのに,専門26業務に従事しているかのように偽装して,労働者派遣法上の義務を回避し,これを免れようとした。
c 被告Y2社は,原告が被告Y1社において就労している間,原告とほとんど接触を取ることなく,業務内容を確認した回数も2回にとどまるなど,本来派遣元に求められる就業状況の把握を行っておらず,これを実施する意思もなかった。
d 被告Y1社における派遣労働者の時給は,派遣労働者が派遣元に増額の希望を出し,派遣元の担当者が被告Y1社購買部に申請して,同部が増額の可否を決定しており,原告の賃金についても,原告が被告Y2社の担当者を通じて被告Y1社の承認を経た上で増額が実施されている。また,原告が被告Y2社の担当者に増額の希望を伝えたものの,被告Y1社の予算の都合で増額幅が制限される,あるいは,被告Y1社の増額の基準を満たさないので増額はできないなどと,被告Y1社と交渉した被告Y2社の担当者から説明を受け,希望どおり増額が実施されないこともあった。このように,原告の賃金決定の権限を有していたのは被告Y1社であって,被告Y2社はそうした権限を有していなかった。
e 原告の有給休暇や労働時間の管理は専ら被告Y1社が行っており,原告は欠勤する際も被告Y1社の担当者に申し出てその承認を得る一方,被告Y2社がこれに関与することはなかった。被告Y1社は平成21年1月より社内の残業時間等の管理をそれまでの30分単位から1分単位に改めているが,被告Y2社における原告の残業時間の管理もこれに合わせて変更された。
f 原告は,被告Y2社から,被告Y1社内での配属部署の異動について指示を受けたことはなく,専ら被告Y1社の担当者がこれを原告に伝えていた。被告Y2社の担当者は,配属部署が変わったら申し出るよう原告に指示していたが,被告ら間でこの点は伝達されていない。原告と被告Y2社との間の契約書や,被告Y2社と被告Y1社との間の契約書には,実際の配属部署とは異なる部署の記載があり,このことは原告の配属につき被告Y2社が関与していないことを表している。
g 被告Y1社は,被告Y2社に対し,労働者派遣契約の更新の可否を派遣労働者ごとに特定して通知し,派遣労働者に対して更新の可否を通知することを指示していた。実際に,原告が被告Y2社から雇止めをされた当時所属していた被告Y1社の営業支援部には原告以外にも3名の派遣労働者がいたが,原告以外の者は平成21年6月以降もそのまま就労を続けていた。このように解雇・雇止めの場面でも被告Y1社が原告に関する人事労務管理を行っていた。
イ 労働者派遣法40条の4の規定による労働契約の成立
被告Y1社は,派遣可能期間を超え,原告を継続して派遣労働者として使用しようとしていたものであり,原告は被告Y1社に雇用されることを希望していたから,労働者派遣法40条の4に基づき原告に対して労働契約の申込みをしなければならず,同条は私法上の効果をも有するものであるから,擬制された被告Y1社の申込みと原告が上記期間経過後も就労を続けたことによる黙示の承諾とによる意思の合致により,両者間で直接労働契約が成立する。
なお,同条においては,同法35条の2第2項の規定による通知がされたことがその適用要件とされているが,被告Y1社は,同条の免脱を企図して原告の業務内容を偽装しており,その結果として同条によって義務付けられた通知を怠っていたにすぎないから,信義則や民法130条の趣旨に照らしても,上記通知がされていないことを理由に労働者派遣法40条の4の適用がない旨主張することは許されない。
ウ 労働者派遣法40条の5の規定による労働契約の成立
被告Y1社は,平成20年7月,原告が労働者派遣法40条の5の規定の施行日である平成16年3月1日以降3年を超えて従事していた業務につき,同一の業務に従事させるために新たに中途採用の正社員を募集しており,労働者派遣法40条の5に基づき,原告に対して,労働契約の申込みをしなければならない。原告は平成20年10月上旬直接雇用を希望する旨を被告Y1社に申し入れており,その後も被告Y1社が引き続き原告の労務提供を受け入れている事実からすれば,両者間の労働契約が黙示のうちに成立したというべきである。
エ 被告らのした解雇・雇止めの無効
(ア) 上記アからウまでのとおり,原告と被告Y1社との間には,期間の定めのない労働契約が成立しており,被告Y1社が原告の就労を拒否したのは解雇にほかならないところ,その解雇は労働契約法16条に違反するものとして無効である。
仮に,上記労働契約に期間の定めがあるとしても,原告が被告Y1社にとって不可欠で,常用性のある業務に正社員と一体として従事していたこと,更新回数が多く,継続期間も長いこと,更新手続は形式的なものであったこと,被告Y2社からは,当初より長期間の契約の継続を前提とした説明があり,平成21年2月時点でも同年6月以降の契約の継続を前提とした説明があったことからすれば,原告には更新への合理的な期待があったといえ,その雇止めも労働契約法16条に違反するものであって無効である。
また,被告Y1社は人員整理を理由として雇止めを実施しているが,被告Y1社の平成21年2月当時の状況は,経営状況は上向き,役員報酬も増額し,原告の雇止め後も原告が従事していた業務は存在し,同年7月から同一部署で新たに別の派遣労働者を受け入れていることからすれば,人員削減の必要性に乏しく,回避努力や人選の合理性,事前の説明等も尽くされていないなど,整理解雇としても要件を満たさない無効なものというべきである。
(イ) 被告Y1社が原告に係る労働者派遣契約の更新を拒絶し,原告の直接雇用の受入れを拒否したのは,原告が被告Y1社に係る労働者派遣法違反の事実を東京労働局に申告したからであり,こうした取扱いは同法49条の3第2項,公益通報者保護法3条に違反するもので無効である。このことは,原告が当時所属していた営業支援部には引き続き派遣労働者の行うべき業務が存在し,同部に所属する他の派遣労働者であって契約の更新を希望していた3名のうち,原告のみについて雇止めをしており,その余の2名については契約を更新していることからも明らかである。
オ 賃金の請求
平成21年5月当時被告Y2社から原告に対して支払われていた時給は1630円であるが,被告Y1社との間で成立した労働契約の下では正社員としての賃金が支払われるべきであり,その金額は厚生労働省の調査結果から得られる一般労働者派遣事業における派遣事業者の取得する平均的なマージン比率32%に相当する金額を上乗せした金額とするのが合理的であり,以下のとおり,1日8時間,週5日,52週間の労働時間数から得られる年間賃金を月割にした41万5480円が原告に支払われるべき月額賃金である。
1,630円÷0.68≒2,397円
2,397円×8時間×5日×52週÷12月=415,480円
カ 被告らによる不法行為
(ア)  派遣先は派遣労働者を受け入れ,自らの指揮命令下において就労させる場合には労働者派遣法等の法令を遵守し,信義誠実に従って派遣労働者に対応すべき条理上の義務がある。にもかかわらず,被告Y1社は,業務を偽装して労働者派遣法違反を行い,長期間にわたり原告の労務の提供を受け入れてその利益を享受する一方,落ち度のない原告の就労を拒絶して不利益を負わせ,東京労働局からの指導を無視して,労働組合を通じた原告との直接交渉も拒絶している。被告Y1社のこうした行為は,著しく信義誠実の原則に違反した違法なものであり,その結果,被告Y1社で就労を継続することができるという原告の合理的な期待を侵害したものであるから,原告に対し不法行為責任を負う。
(イ)  被告Y2社は,原告が被告Y1社において従事する業務の内容を的確に把握せず,ずさんな就労管理を続け,被告Y1社の業務の偽装,労働者派遣法の免脱・脱法に加担しており,労働者派遣法35条の2第2項の通知が実施されていれば,被告Y1社が原告を直接雇用しなければならない状態に置くことが可能であったにもかかわらず,被告Y2社がこれを怠ったがために,原告が被告Y1社から直接雇用される機会が侵害され,また,最終的に長期間継続してきた被告Y1社での就労継続の期待が侵害されたものであるから,原告に対し不法行為責任を負う。
キ 原告の損害
(ア)  原告は,被告らの不法行為がなければ,平成15年10月から平成21年5月までの被告Y1社での就労期間中,被告Y2社から支払を受けた賃金に加えて,一般労働者派遣事業における派遣事業者の取得する平均的なマージン比率32%(前記オ参照)に相当する金額を賃金として受領できたはずであるから,被告らは逸失利益として次のとおり少なくとも857万3040円を賠償すべきである(原告の当初時給1,550円から算定される派遣事業者が得ていたマージンに1日8時間,週5日労働,稼働期間5年8か月に対応する294週を乗じて算定)。
1,550円×0.32÷0.68≒729円
729円×8時間×5日×294週=8,573,040円
(イ)  原告は,本来であれば,被告Y1社と直接労働契約上の地位が認められるべきところ,派遣社員として短期間の契約の更新を繰り返し,更新拒絶の危険と背中合わせの将来に不安を抱いた生活を強いられ,正社員であれば可能な人生設計を描くこともできず,庶務的業務を押しつけられて経験の蓄積やキャリアアップの機会も得ることができなかった。これらの不利益は大きく,精神的苦痛も伴うものであり,これに対する慰謝料としては500万円が相当である。
(ウ)  上記(ア),(イ)に係る損害賠償請求について135万円の弁護士費用は被告らの不法行為と相当因果関係のある損害である。
ク 被告Y2社の不当利得
上記ア(ア)のとおり被告ら間の労働者派遣契約は公序良俗に違反して無効であり,上記キ(ア)のマージン比率に基づいて算出した,原告が被告Y1社での就労期間中に被告Y2社が取得した派遣代金のうち,原告に賃金として支払った金額を控除した残額である857万3040円は,法律上の原因のない利得であり,これに相当する損失が原告に生じているから,被告Y2社はこれを不当利得として原告に返還する義務を負う。
(2) 被告Y1社の主張
ア 原告と被告Y1社との間の労働契約の成否について
(ア)  被告Y1社は,労働者派遣契約に基づいて派遣された原告に対し,派遣先として必要な指揮命令を継続的に行っていたものの,原告の基本的な労働条件(期間の定めの有無とその長短,賃金の額とその計算方法等)の決定に関与していた事実はなく,採用,配置,懲戒及び解雇等の権限を有していないなど,原告の人事管理を行っていた事実はないから,原告との間で黙示の労働契約が成立する余地はない。
(イ)  原告の就労開始に先立って被告Y1社が実施した面談は,派遣労働者に対して業務内容や勤務形態を説明し,被告Y1社が被告Y2社に対して要求していた派遣労働者の技術水準を確認することを目的とするものであって,労働者派遣法で禁止されている特定行為に該当しない。
(ウ)  原告の時給の決定に被告Y1社は一切関与しておらず,当初の時給にしても被告Y1社と接触する前に被告Y2社担当者から原告に提示されており,その後時給が増額された際に原告が被告Y1社の担当者に対して直接接触した事実もない。被告Y1社と被告Y2社との間の派遣料金の改定も,被告Y2社から原告に支払われる時給の改定とは無関係に行われており,4回行われた前者の改定のうち,後者の改定と同時期に行われたのは平成18年10月時の1回にとどまる。
(エ)  被告Y2社は,原告の有給休暇,労働時間等の労働条件について,就業規則を定めて独自に管理していた。原告は,休暇を取得するに当たり,契約で定められた被告Y1社の指揮命令者に対して事前又は事後に通知していたものの,実際に休暇の取得が認められるか否かは被告Y2社が決しており,被告Y1社はその手続に関与しておらず,有給休暇とされたか,欠勤扱いとされたかについても被告Y1社は関知していない。また,被告Y1社は,原告ら派遣社員が入力した出退時刻の情報を基に被告Y2社が計算した業務料金を支払っていたが,原告に支払われる賃金の額の決定には関与していない。
(オ)  被告Y1社は,原告と被告Y2社との間の労働契約の内容,更新手続や終了等につき一切関与していない。被告ら間の労働者派遣契約の終了に伴い,原告に労働契約の終了を通知したのは被告Y2社であり,同被告は独自の判断で原告との労働契約を継続した上で休業補償の措置を講じているし,被告Y1社への派遣期間中も被告Y1社の休暇期間中,原告を被告Y1社以外の派遣先において就労させるなど,被告Y2社は原告の配置や契約の終了について独自に人事管理上の意思決定を行っていた。
イ 労働者派遣法40条の4及び40条の5の各規定の適用について
原告の被告Y1社への派遣について,労働者派遣法40条の4及び40条の5の各規定が適用されることはない。まず,被告Y1社は派遣元事業主である被告Y2社から原告について同法35条の2第2項の通知を受けた事実はないから,同法40条の4の要件を満たしていない。また,被告Y1社が平成20年7月から8月にかけて実施した中途社員の募集は,損益,財務分析,自動車ビジネス関係の立案に関する高度の専門性を有する人材の募集であって,その業務は原告の行っていた帳票類の作成等,販売会社に対する個別支援を補助する業務とは全く異なっており,同一の業務に従事させるために社員を募集したものではないから同法40条の5の要件も満たしていない。仮に同法40条の4及び40条の5の各規定の適用があったとしても,これらは公法上の規律であるから,その違反による私法上の効果として,雇用契約の存在や雇用契約に係る申込みの意思表示が擬制されることはなく,原告と被告Y1社との間に労働契約が成立する根拠となるものではない。
ウ 不法行為の成否について
(ア)  原告と被告Y1社との間において労働契約は成立しておらず,その成立を前提とした原告の損害賠償請求は失当である。また,原告に係る労働者派遣において,労働者派遣法違反があったとしても,そのことが直ちに不法行為法上の違法性を基礎付けるものではない。さらに,東京労働局長が被告Y1社に対してした是正指導の内容をみても,被告Y1社の直接雇用に加えて,グループ会社による新たな就業機会の確保,被告Y2社による別の派遣先での就業等の措置を求めたものであるところ,被告Y2社から原告に対し実際に被告Y1社以外の派遣先を提供する旨の申出がされているから,是正指導の内容に違反した事実は存在しない。
(イ)  原告は,被告Y1社は常用代替で派遣労働者を受け入れており,常用代替を防止しようとして立法された労働者派遣法に違反すると主張するが,労働者派遣法において常用代替防止の措置は専門26業務以外の業務について派遣可能期間による制限を設けるという形で具体化されている(同法40条の2)にとどまり,それ以上に抽象的に常用代替防止の措置が講じられているわけではなく,常用代替に当たることを捉えて不法行為法上の違法性を基礎付けることはできない。
(ウ)  被告Y1社において原告が行っていた業務は,そのほとんどが財務データの集約とそのデータを基にした損益分析資料の作成,エクセルを使用した整理作業であり,5号業務に限定されている。専ら専門26業務を行う場合のみならず,専門26業務とこれに付随する業務とを併せて行う場合も専門26業務に準ずるものとして,派遣可能期間の制限を受けることはないから,原告が5号業務以外の業務を行っていたとしても,派遣可能期間の制限を受けることはなく,被告Y1社にこの点についての労働者派遣法違反はない。
(3) 被告Y2社
ア 被告ら間の法律関係は,労働者派遣契約であって,労働者供給契約には当たらず,この点は労働者派遣法違反の有無によって左右されない。また,仮に,労働者派遣法違反があったとしても,原告と被告Y2社との間の労働契約及び被告ら間の労働者派遣契約が直ちに公序良俗違反として無効となるものでもない。
イ 原告は,被告Y2社との間で,被告Y1社を派遣先とした労働契約のみならず,他社を派遣先とする労働契約を複数締結して実際に就労しており,派遣労働契約のメリットを享受しつつ被告Y1社での就労を続けていたものである。具体的には,ゴールデンウィーク,お盆,年末年始等,被告Y1社の長期休暇期間中,被告Y2社との労働契約に基づき複数の派遣先企業で就労しており,正社員であれば通常禁止されている兼業に相当する就労を行ってその対価を得ている。したがって,原告が派遣労働契約の無効を主張するのは禁反言の原則に違反するというべきである。
ウ 被告Y2社は,原告から被告Y1社による直接雇用を希望する旨の申出があったことを踏まえて,被告Y1社の担当者にその旨を伝え,その実現に向けて働き掛けるとともに,原告に対しては,被告Y1社に直接雇用を求め,平成21年6月及び7月の休業補償を行うことを申し出た上,総額57万3760円(ただし,公租公課を控除する前の金額)を支払っている。
また,被告Y2社は,同年5月29日,原告に対し,新しい派遣先を紹介するので希望条件を伝えてほしいと申し入れたものの,原告からは紹介は無用であると返答された。さらに,原告は,同年7月17日,被告Y2社に対し,同年8月以降の休業補償の継続を求めたことから,被告Y2社が1か月分の給与相当額を支払うこと等を内容とする和解案を提示したものの,原告はこれを拒絶した上,同年7月31日をもって被告Y2社との労働契約を自ら終了させている。
このように,被告Y2社は,原告について解雇や雇止めをしておらず,解雇権を濫用したり雇止め法理に反した雇止めを行ったりした事実もないから,この点について原告に対する不法行為が成立することはない。
エ 仮に,被告Y2社が損害賠償責任を負う場合でも,被告Y2社は原告の就労がないにもかかわらず上記のとおり休業補償の名目で金銭を支払っており,その金額は損益相殺として控除されるべきである。また,原告に損害が生じたとしても,被告Y2社の和解提案を拒否し,紛争を長期化させた原告が自ら招いた事態というべきであるから,この点は過失相殺として賠償金額の算定に当たり考慮されるべきである。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実(第2の2),証拠(各項掲記のもののほか,甲69,70,乙イ21,22,乙ロ12,証人E,同D,同F,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)  被告Y1社における派遣労働者の受入れ・契約更新の手続
ア 原告が被告Y1社で就労していた当時の被告Y1社における派遣労働者の受入れはおおむね次のような手順で行われていた。まず,派遣労働者を必要とする部署から,受入れの希望の集約等を行う人事関係の部署である「グローバルセールスリソースマネージメント部」(以下「GP3」という。)に伝えられ,GP3は購買関係の部署である「第一サービス・サポート部」(以下「H50」という。)に連絡する。H50は,実績のある複数の派遣会社と連絡を取り,これに応じた派遣会社との間で,派遣労働者の候補者が派遣先の予定部署を訪問する機会を設定し,その旨を当該部署に伝える。当該部署では当該候補者の訪問を受けて面談を実施し,職務内容についての説明を行う。面談の結果,当該部署が受入れを希望する場合は,H50が派遣会社にその旨を伝え,派遣会社でも当該候補者に就労する意思があることを確認した上,H50と派遣会社との間で交渉し,被告Y1社と派遣会社との間であらかじめ合意されていた派遣料金テーブル(乙イ20)を基に派遣料金の時間単価を定めるなど個別的な労働者派遣契約の内容を決定して契約書を作成する。
イ 上記派遣料金テーブルには,事務用機器の操作,英文事務,経理事務,秘書,通訳・翻訳等の区分が設けられ,事務用機器の操作に関しては,更にワード,エクセル等の使用ソフトごとに,基本操作,応用操作等の分類を設けるなどしており,操作内容が高度なものについては高い時間単価が定められていた。さらに,こうした分類に基づく各時間単価について,配属される事業所ごとに異なる時間単価が定められていた。
ウ 既に派遣労働者を受け入れている部署がその継続を希望し,被告Y1社において労働者派遣契約を更新する際は,GP3が契約期間終了の前に当該部署に対して更新の意向を確認してこれをH50に伝え,H50が派遣会社に更新の希望を伝え,派遣会社では派遣労働者の意向を確認した上,H50と派遣会社との間で,その時点の派遣料金テーブルに従って派遣料金の時間単価を決定するなどして,更新した契約書を作成する。
(上記アからウまでにつき,乙イ20,22,証人F)
(2)  原告が被告Y1社本社での就労を始めた経緯
ア 被告Y1社本社では,平成15年10月から,販売会社の再編に係る業務を扱う部署として営業本部販売ネットワーク推進部を新設することになり,販売会社の財務データの整理作業の増加が見込まれたので,そうした作業の能力を有する派遣労働者を新たに受け入れることになった。同部署を担当することになったD主担は,GP3に上記の希望を伝え,それまでに労働者派遣契約の実績があった被告Y2社と連絡が取られ,同被告に登録された候補者が被告Y1社本社を訪ねて担当者であるD主担と面談することになった。被告Y2社は原告と連絡を取り,被告Y1社本社の仕事があること,時給等の条件を伝え,被告Y1社本社を訪ねて面談を受けることを打診した。
イ 原告は被告Y2社の申入れを了承し,平成15年9月下旬頃面談が実施された。被告Y1社本社には,被告Y2社の担当者Cが同行し,持参した「スタッフスキルカード」と称する書面(乙ロ7)をD主担に交付した。D主担と原告との面談にはCも同席し,D主担は,上記書面を確認しながら,英語は使えるか,エクセルのVLOOKUP関数は使えるか,どんな仕事にやりがいを感じるか,職場の飲み会には参加できるか,長期間継続した勤務は可能かなどの質問をした。また,D主担は,業務内容について,販売会社の財務データを集計・加工することであるなどと説明し,20分程度の面談が終わった後,原告を執務スペースに案内した。
ウ 上記イの面談の結果を受けて,D主担は原告の受入れ希望をGP3に伝え,また,被告Y2社は,被告Y1社からの連絡を受けて,原告に対し,被告Y1社の意向を伝え,原告の就労の意思を確認した上,被告ら間では,原告の派遣・就労に対応した個別的な契約書が作成された。なお,D主担は,担当部署の派遣労働者の受入れに関して,被告Y2社以外の派遣会社の候補者1名ともほぼ同じ時期に面談を実施していたが,受入れの希望を出しておらず,結果として希望を出した方の原告の受入れが決まるという経過をたどっていた。
エ Cが上記イの面談の際D主担に交付したスタッフスキルカード(乙ロ7)には,「経験職務・技能・資格」,「職務経歴」等の記載項目があり,「OA技能」として使用ソフトウェアの記載があるほか,原告が被告Y2社に登録した時期(平成15年2月)や,原告がそれまでに担当していた業務内容とその期間が記載されていたが,末尾に,「弊社では本資料に個人情報の記載はいたしません」,「確認後は必ず破棄していただくようお願い致します」との記載があり,住所,氏名,年齢等のほか,過去の就労先の固有名詞等,原告の個人情報は記載されていなかった。
オ 原告に係る労働者派遣契約の契約期間の終了時期が到来すると,これに先立ちGP3から原告が配属されている部署に更新希望の有無を確認するメールが送信され,当該部署の責任者(当初はD主担)が継続を希望する旨を返信し,これに合わせて,被告Y2社との間で契約更新の手続が執られ,新たな契約書が作成された。原告に対しては,同じ時期に,被告Y2社の担当者が被告Y1社本社を訪れて契約更新の意思があるか原告に確認した上,新たな契約書を作成し,これを原告方に送付していたが,契約で定められた被告Y1社の指揮命令者が更新の希望があるかを原告に直接質問することもあった。
(上記アからオまでにつき,乙ロ7,証人D,同E,原告本人)
(3)  原告が担当していた業務の内容
ア 原告が被告Y1社で就労を開始した当初,全般に原告の業務量は少なく,販売会社の財務データの管理に関する業務もほとんどなかったが,徐々に庶務的業務を幅広く担当するようになっていった。具体的には,配属部署で社員が異動した際の事務処理・事務用品の提供・電話配線の手配等,図書等の発注,社員の購買希望の集約,パソコンの使用ソフトの申請手続,タクシー券使用の申請手続,社員に貸与される携帯電話の管理,住所録の改定,保険証切り替え,年末調整に必要な書類の集約,慶弔関係の事務,備品管理,電話応対,郵便物の処理,コピー取りその他のコピー機操作,弁当の発注,会議の日程調整・会議室の予約,宿泊先の手配,受取手形の決済関連事務,経費決裁関連事務等,多岐にわたっていたが,その中にはパソコンを使用するものも含まれており,その割合は後になるに従って増えていった。また,平成18年6月以降は,それまで正社員が担当していたG顧問(以下「G顧問」という。)の秘書的業務(兵庫県に在住し,月に数度上京・出社するG顧問との連絡・調整や上京時の出張の手配等)を担当するようになり,平成19年10月には入院しているG顧問を見舞う目的で大阪に出張したこともあった。
イ 平成20年4月頃から原告の担当業務は販売会社の財務データの集約,分析資料の作成が中心となり,パソコンを使用した業務の割合がおおむね9割を超えるようになったが,電話応対や宿泊先の手配,弁当の発注,旅費精算書類のファイリング等,パソコンを使用しない庶務的業務の割合も依然として1割程度あった。
ウ 被告ら間の労働者派遣契約が更新される際,契約書に記載される業務内容に変更が加えられることがあった(前記前提事実(3)エ)が,その記載は専ら被告Y1社側が決めたものであった。もっとも,原告が配属された部署の責任者・契約で定められた指揮命令者(当初はD主担)は契約書の作成に関与しておらず,上記のような記載内容の変更についても関知していなかった。さらに,被告Y2社の担当者(E。以下「E」という。)も,業務内容を5号業務と定めて労働者が派遣されている場合,当該労働者がそれ以外の業務を行っているとしても,その割合が業務全体の1割以内であれば適法であるという認識を有していたが,原告が実際に従事している業務の内容が契約書の記載と一致しているかどうか,5号業務とそれ以外の業務の割合がどうなっているかといった点について,被告Y2社の担当者が原告や被告Y1社側に確認することはなかった。
(上記アからウまでにつき,甲15から19まで,24から26まで,29,48,54)
(4)  原告に関する労働時間・休日の管理,時給増額の経緯等
ア 原告は被告Y1社で就労を始めた当初出退勤時刻等を書面で被告らに申告していたが,平成16年からは,被告Y2社が派遣労働者に係る勤怠管理をジョブサーチパワー株式会社に委託したことを受け,被告Y2社からの派遣労働者は同社が管理するウエブ上の「POWERTIME」と称する勤怠管理システムにログインして出退勤時刻を入力・申告し,同システム上で被告Y1社の担当者から申告内容に承認を得るという手続を経るようになった。原告は,被告Y1社の正社員から業務の指示を受け,当日中の処理を命じられた場合等に残業を行っていたが,こうした残業が反映された労働時間を上記システムに入力・申告し,被告Y1社の担当者の承認を経た上で申告内容に基づいた労働時間の計算が行われ,これに従って原告の賃金が被告Y2社から支払われていた。また,原告は,上記(3)アのG顧問の見舞い等,出張をすることもあったが,その際,被告Y1社の正社員と同等の日当や出張旅費が支払われており,原告に対する支払は被告Y2社から給与とともに振込で行われていた。(乙ロ6,8,13,14)。
イ 原告は,被告Y1社での就労を開始するに当たり,被告Y2社から就業規則や賃金規定の要旨等が記載された書面(「ハンドブック」・乙ロ5の1)を交付されており,そこには,遅刻・欠勤等をするときは被告Y2社及び派遣先の許可を要する旨が記載されていたため,当初は被告Y2社に対して遅刻等の連絡をしていたが,連絡を受けた被告Y2社の担当者からは被告Y1社へも連絡するよう指示され,被告Y2社への連絡が漏れたときも特段注意を受けなかったことから,被告Y1社に対してのみ遅刻等の連絡をするようになった。
ウ 被告Y1社では,年末年始,ゴールデンウィーク,夏休み(お盆)期間に長期の休業期間が設けられているほか,部門ごとに年休取得促進日も設定されており,正社員がこれらの日に休暇を取って配属部署も休業状態となるため,派遣労働者がこれらの日に就労することは認められておらず,原告もこれに合わせて同じ日に休暇を取っていた。しかし,原告は,時給計算の給与を受け取っており,こうした休暇があった場合はその分減収となるため,その都度被告Y2社の担当者に連絡するなどして,被告Y1社以外の派遣先の紹介を受け,短期間当該派遣先で就労していた(前記前提事実(3)オ)。
エ 原告は,平成18年9月頃,被告Y2社から被告Y1社本社に派遣されている同僚から,エクセルのピボットテーブル機能を使用していることを申告すれば被告Y1社が時給を上げてくれるらしいという話を聞き,被告Y2社の担当者に上記機能の使用の事実と時給の増額の希望を伝えたところ,同担当者が被告Y1社に確認することになり,数日後,同担当者から次回の契約更新時期から時給が50円上がる旨の説明があった。原告は,平成19年7月にも,アクセスを業務で使用するようになったことを受けて被告Y2社の担当者に時給の増額を打診したところ,同担当者からは30円の増額になる旨の説明があった。他方,前記(3)アのとおり,原告は,平成18年7月頃,秘書業務を担当するようになったことを受けて,被告Y2社の担当者に時給の増額を打診したこともあったが,同担当者からは被告Y1社の条件に該当しないなどと説明され,増額は実現しなかった。なお,被告ら間の原告に係る派遣代金の時間単価の推移をみると,当初1900円であったところ,平成17年7月に1805円,平成18年10月に1995円,平成20年7月に2055円,平成21年4月に2012円とそれぞれ変更されている。(甲25の49,乙ロ9)
オ 被告Y1社では派遣労働者を含めて労働時間の管理を30分単位で行っており,これに合わせて,被告Y2社でも被告Y1社に派遣されている者については30分単位で残業時間の計算を行っていたため,30分未満の残業時間は切り捨て処理がされていた。しかし,平成21年1月から,被告Y1社において1分単位で労働時間を管理するように改められ,被告Y2社においても原告を含めた被告Y2社からの派遣労働者についても1分単位での労働時間の管理が行われるようになった。(甲25の50)
(5)  原告の被告Y1社に対する雇用の申入れ,就労の終了とその後の交渉経緯等
ア 上記(3)イのとおり,原告は,平成20年4月以降,販売会社の損益管理業務を担当していたところ,同年6月頃,同じ業務を担当していた正社員が産休に入ることになり,社内の他部署から人員を補充するか,新たに正社員を中途採用するかの,いずれかの対応を被告Y1社が検討しているらしいという情報を得た。原告は,派遣労働者が行っている業務と同じ業務を行う目的で新たに正社員を採用する場合には,派遣労働者が優先して雇用されるという規定があるという話を聞いており,自分もそれに当てはまるのではないかと考えて,被告Y1社に直接雇用を申し入れることにし,被告Y2社のEと連絡を取って,被告Y1社への取り次ぎを頼もうとした。しかし,Eは自分で被告Y1社と交渉してほしいなどと答えたため,原告は,当時の被告Y1社の指揮命令者であるHに直接雇用の希望がある旨を伝えたものの,同人からは「正社員と派遣労働者とでは業務内容が異なり直接雇用には応じられない」という趣旨のGP3の回答が伝えられた。
イ 被告Y1社では,平成21年2月9日,代表者が,いわゆるリーマンショックを受けた業績悪化に対する改善策,グループ全体の人員削減,派遣社員の契約を更新しないなどの方針を被告Y1社の社内外に向けて発表した。被告Y1社本社においても,受け入れている事務職の派遣労働者について,労働者派遣契約を更新しない方針を採ることになり,被告Y2社に対しては,同年4月2日,原告を含む複数の労働者に係る労働者派遣契約を更新しない旨通知し,被告Y2社の担当者は,同月27日,被告本社を訪れて,原告に対し同年6月以降の被告Y1社との契約が更新されず,派遣が終了する旨を告知した。(前記前提事実(4)ア,ウ,甲64)
ウ 原告は,被告Y2社以外の派遣会社から被告Y1社本社に派遣されて就労していたIとともに,平成21年4月10日付けで,厚生労働大臣及び東京労働局長に宛てて,原告の業務は専門26業務に当たらず,被告Y1社が派遣可能期間を超えて派遣労働者の受入れをしているとして,同被告に対し,労働者派遣法40条の4の規定による「期間の定めのない雇用契約の申込み」をしなければならないとする指導,助言及び勧告をするよう求める申告書を提出した(甲3,46,68)。
エ 東京労働局長は,上記ウの申告を受けて,被告Y1社及び同Y2社を含む被告Y1社本社に労働者派遣している派遣会社に対する調査を実施した上,被告Y1社に対しては,平成21年5月28日付けで,被告Y2社に対しては,同月29日付けで,それぞれ労働者派遣法違反を指摘した上是正の措置を講ずるよう指導することを内容とする是正指導書を交付した。ちなみに,当時,被告Y1社本社では,被告Y2社を含む複数の派遣会社から,多くの派遣労働者を受け入れており,その人数は,同年3月時点で233名,同年4月17日時点でも140名に上っていた。(前記前提事実(5)イ,甲40,44,45,49,57)
オ 被告Y1社は,平成21年6月10日付けで,東京労働局長宛てに,上記エの是正指導書に対する回答書を提出したが,そこで指摘された被告Y2社からの労働者派遣は5号業務を内容としており,派遣可能期間の制限を受けず,労働者派遣法違反もないとの認識であるという内容であり,被告Y1社の担当者が東京労働局の担当者に口頭で説明した際も,労働局の解釈が変わったのではないかなどと不満を述べたところ,東京労働局の担当者からは,解釈に変更はなく,被告Y1社が作成した契約書には多様な業務内容が記載され更新が繰り返されているが,その際,それが5号業務に該当するか否かを確認しなかったことが問題で,是正指導書に従わないのであれば勧告を行うことも視野に入れなければならないなどと警告を受け,是正指導書の内容を検討して改めて報告書を提出するよう求められた(甲38,40)。
カ 被告Y2社は,上記イのとおり,被告Y1社本社での就労が終了する旨を原告に告知した際,新たな派遣先が決まるまで最大2か月間休業手当を支給することを申し入れており,新たな派遣先を紹介するために原告と連絡を取っていたが,原告は,被告Y1社での直接雇用を求めているので,新たな派遣先の紹介は不要であると申し入れた。被告Y2社の担当者は,平成21年6月3日及び同月9日,原告の希望を伝えるために被告Y1社本社を訪れ,同被告の担当者と交渉したが,被告Y1社側は,業績が悪化しており,直接雇用のほか,継続雇用,関連会社での雇用のいずれの方法によるとしても原告の雇用を継続するのは困難であると回答した。(甲39)
キ 原告は,平成21年7月17日,労働組合のメンバーと共に,被告Y2社との団体交渉に臨み,同年8月以降の雇用関係の継続と休業補償の延長を求めたのに対し,被告Y2社からは1か月分の給与相当額を支払うという和解の提案がされ,両者間で合意をみるに至らなかった。原告は,平成21年7月31日付けで,最後の派遣先から契約の更新がなく,その後も被告Y2社から仕事の紹介がなかったことを理由に退職する旨,今後同被告による派遣就業を希望しない旨,会社都合による離職票の交付を求める旨を記載した書面を提出して,被告Y2社から退職する手続を執った。(乙ロ15)
2  原告と被告Y1社との間の労働契約の成否について
(1)  黙示の労働契約の成否について
ア まず,労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当する場合には,たとえ同法違反の事実があったとしても,その事実から当該労働者派遣が職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当することにはならないというべきである。また,労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質等に鑑みれば,仮に同法違反の労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによって派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはないというべきである(最高裁平成21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁参照)。
原告は,原告と被告Y2社との間の労働契約,被告ら間の労働者派遣契約が,職業安定法44条に違反し無効であることを前提として,原告と被告Y1社との間の黙示の労働契約の成立を主張しているところ,本件における事実関係の下で上記特段の事情が存在するといえるか,原告と被告Y1社との間で,黙示の労働契約の成立が認められるかについて検討する。
イ 原告が被告Y1社本社において行っていた業務は,前記認定事実(3)のとおりであって,平成20年4月頃から販売会社の財務データの集約,分析資料の作成が中心となり,パソコンを使用した業務の割合がおおむね9割を超えるようになったものの,それ以前は多岐にわたる一般的な庶務的業務の割合が大半を占めており,その中にパソコンを使用した事務を一部含んでいるとはいえ,その割合が過半を占めていたともいえないのであるから,平成20年4月以前において原告が5号業務を担当していたとはにわかに認められない。また,平成20年4月以降においても,パソコン使用業務以外に庶務的業務を行っており,それがパソコン使用業務に付随したものとする根拠も見当たらないから,結局,原告の業務は,被告Y1社本社で就労していた期間を通じて5号業務には該当しなかったものと認めるのが相当である。
一方で,被告らは,原告の業務が5号業務・専門26業務に該当するという前提の下,これを業務内容として記載した契約書を作成しており,本来の派遣可能期間(あらかじめ定めていた場合,最長で3年間)による制限を超えて,原告に係る契約の更新を繰り返し,必要な労働者派遣法上の手続を経ないまま,5年8か月の長期間にわたって労働契約・労働者派遣契約を結び,原告を専門26業務以外の業務に就労させていたことになるから,被告らに同法26条1項・5項・6項,34条1項,35条の2第1項・2項,40条の2第1項・3項の各違反があったことは明らかというべきである。
また,原告が被告Y1社本社で受けた面談にしても,被告Y1社では,複数の派遣会社の候補者と並行して面談を実施し,人柄・仕事への意欲等をただす質疑等を行った上,その結果を踏まえて,いずれの派遣会社と契約し,派遣労働者を受け入れるかを決しており,これを踏まえて被告Y2社でも原告との労働契約の締結に及んでいるという経過(前記認定事実(2)ウ)からすると,被告ら間で授受した書面には原告に係る個人情報の記載がなかった(同エ)とはいえ,本来労働契約の雇用主が採用・選定行為として行うべき役割の相当部分を被告Y1社が担っていたことは否定できず,労働者派遣法26条7項の禁止する特定行為が行われていた疑いが強いというべきである。そして,被告Y2社では,更新時を除くと担当者が直接原告と面談・接触する機会に乏しく,原告の業務内容や配属部署・名称等について,被告Y1社が主導して定めた契約書上の記載を漫然とそのまま受け入れるのみで,それが実態を反映しているかどうか,自ら調査し把握するなど,労働契約の雇用主,派遣元事業主としての責任を果たさず,その結果,多くの労働者派遣法違反を招いていたものということができる。
ウ とはいえ,被告Y2社は,原告との間で労働契約を締結し,就労場所を被告Y1社本社と定めその指揮命令を受けて同被告のために原告を就労させていたものであり,就労の対価である賃金を原告に支払うことはもとより,雇用主に義務付けられた社会保険に加入するほか,就業規則において賃金,労働時間,休暇,服務規律等に関する定めを置き,派遣先とは別個に労働者の就労を管理していたものと認められる。被告Y1社本社で実施された面談にしても,原告の個人情報は被告Y1社には提供されていないから,被告Y1社単独で原告の採用・選定行為が完結したわけではなく,この点が被告Y2社が労働契約の主体であることを否定する事情になるとまではいい難い。
エ 原告は,時給が増額された過程での被告Y1社の関与を捉えて,原告の賃金を被告Y1社が決定していた旨主張するが,原告が直接時給増額の交渉をしたのは被告Y2社の担当者であり,被告Y2社から原告に対して支払われる給与の原資が被告Y1社から被告Y2社に支払われる派遣代金であること,原告の給与,上記派遣代金ともに,原告の業務内容や実績を踏まえて決定されるべき性格のものであることからすれば,原告の給与の増額に呼応して,上記派遣代金の改定に係る交渉が行われたとしても,特別視すべき事情には当たらず,この点を捉えて,被告Y1社が原告の給与・時給を決定していたとみることはできない。実際にも,両者の改定が同じ時期に改定されたのは1回にとどまり,両者が一義的に対応しているとも,強い相関があるともいえないところである(前記前提事実(3)オ,前記認定事実(4)エ)。
このほか,平成21年1月まで,被告Y2社が原告の労働時間の管理を派遣先であるY1社に倣って30分単位で行っていたことの適否はともかくとして,派遣就業という就労形態に照らせば,原告の労働時間を被告Y1社の担当者の承認に係らしめて把握すること自体は労働時間の管理方法として合理的なものであり,これを踏まえて支払給与の計算等は被告Y2社が独自に行っていたものと認められ,被告Y1社が原告の給与の額の決定に関与していた事実はうかがえない。
オ 他方,原告は,被告Y2社との契約の更新を繰り返し,被告Y1社での就労を続けている途中,被告Y1社の長期休業期間等に,被告Y2社から被告Y1社以外の派遣先,就労場所を紹介され,実際にそこで就労している(前記前提事実(3)カ,前記認定事実(4)ウ)。このような事実関係を前提とする限り,原告と被告Y2社との間の労働契約,被告Y2社の派遣元事業主としての役割は実体を伴っているというほかない。そして,この点は,契約の更新を重ねて原告の被告Y1社での就労が長期化し,労働者派遣法上可能な期間を大幅に超えて就労を続け,原告と被告Y1社との結び付きが強固なものとなっていることや,その反面として,被告Y2社における原告の業務内容の把握等,その管理・関与が不十分なものとなっていることを考慮に入れても,原告と被告Y2社との契約関係が実体を欠いた,形骸化したものというのは困難である。
カ 以上検討したところによれば,原告と被告らとの間の法律関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣にほかならず,職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当しない。また,原告と被告Y2社との契約関係は実体を伴ったものであって,これを無効とすべき特段の事情は見当たらないところである。そして,原告について,被告Y2社との間の関係と並列的に,被告Y1社との間の直接の雇用関係の成立を認めるべき根拠となるような事情は見当たらないというべきである。かえって,被告Y1社の休業期間中とはいえ,原告が,同Y2社から同Y1社以外の派遣先の紹介を受け,就労していた事実は,被告Y1社との間に直接の雇用関係が存在することを前提とせず,同Y2社からの労働者派遣という法律関係の枠内で就労を継続していたことを裏付けるものであって,原告と被告Y1社との間で黙示の労働契約の成立を認める余地はないというべきである。
(2)  労働者派遣法40条の4及び40条の5の規定による労働契約の成否について
労働者派遣法40条の4は,専門26業務以外の業務を行う派遣労働者につき,派遣可能期間を超えて役務の提供を受けようとする派遣先に,直接労働契約の申込みをすることを義務付けるものであり,同法40条の5は,専門26業務等を行う派遣可能期間の制限を受けない派遣労働者につき,3年を超えて役務の提供を受けている派遣先に,同じ業務を従事させる目的で直接労働者を雇い入れようとするときは,まず,当該派遣労働者に対する労働契約の申込みをすることを義務付けるものである。これらの規定は,派遣労働者の継続的な雇用の安定・確保を目的とするものであるとはいえ,派遣労働者の派遣先と派遣労働者との間の労働契約はもとより,派遣先の申込みの意思表示についても,一定の条件の下で,その成立・存在を擬制する旨の規定とはなっておらず,労働者派遣法の取締法規としての性質も勘案すると,同法上の指導,助言,監督及び公表という行政上の措置を通じて,間接的に派遣先に義務の履行を促し,これらの規定の実効性を確保することが予定されているものと解すべきである。被告Y1社が原告に対する労働契約の申込みをした事実がないことは争いがないから,これらの規定を根拠として,原告と被告Y1社との間の労働契約の成立を認めることはできない。
(3)  小括
以上によれば,原告と被告Y1社との間で直接労働契約が成立したものとみる余地はなく,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告Y1社に対する地位確認の請求及び賃金の支払請求は理由がない。
3  被告らによる不法行為等の成否について
(1)  被告Y1社の不法行為
ア 原告の被告Y1社本社での実際の業務内容が5号業務に当たらないのに,これに当たるものとして,労働契約・労働者派遣契約を締結し,本来の派遣可能期間を超えて原告の役務の提供を受け入れるなど,被告らに労働者派遣法に違反する行為があったことは既に判断したとおりである。しかし,実際の業務内容に即して,被告らが上記各契約を締結し,同法上の規定を遵守していたと仮定しても,被告Y1社は,最大3年の派遣可能期間を定め,抵触日を通知し,被告Y2社は抵触日以降,被告Y1社本社への原告の派遣を禁じられることになるから,通常の経過としては,原告に係る労働者派遣を取りやめることになると考えられる。また,同法35条の2第2項の通知を受けた派遣先である被告Y1社が,引き続き派遣労働者である原告を使用しようとするときは,同法40条の4の規定に基づき,同被告での雇用を希望する原告に対して労働契約の申込みをしなければならないものとされており,この申込みがあったときは,原告と同被告との間で労働契約の成立に至るものと考えられるが,被告Y1社がこの申込みをしなかったときの法律上の効果,労働契約の成否は上記2(2)で述べたとおりであって,当然に労働契約の成立に至るものではなく,したがって,原告においてその点を法律上当然に期待できるものでもないから,原告と被告Y1社との間で,直接雇用契約が成立した場合を念頭に置いた逸失利益の請求(前記第2の3(1)キ(ア))には理由がなく,慰謝料請求(同(イ))についても上記雇用契約の成立が認められるべきことを前提とする限りやはり理由がないというべきである。
イ もっとも,原告は,被告Y1社には派遣労働者を受け入れた派遣先として法令を遵守し,信義誠実に従って対応すべき条理上の義務があるところ,被告Y1社が,その義務に反して法令違反を行い,東京労働局の指導も無視して,原告の就労を拒絶したことにより,被告Y1社での就労の継続についての期待が侵害されており,長期間にわたって派遣労働者として不安定な地位を強いられ,庶務的業務を押し付けられたことによって精神的苦痛を被ったとも主張している。
しかし,被告Y1社が労働者派遣法を遵守したとしても,直接・間接雇用を問わず,原告が被告Y1社での就労を継続できる合理的な期待があるとまでいえないことは既に述べたところから明らかであるし,東京労働局の指導を無視したとする点についても,被告Y1社が原告との直接交渉に応じていないのは配慮に欠ける嫌いがないではないものの,東京労働局の指導した雇用の安定の措置としては,被告Y1社による原告の直接雇用のほか,グループ会社での雇用,被告Y2社による別の派遣先の就業が例示されていたところ(甲40),原告は被告Y1社による直接雇用以外は受け入れない姿勢を示していたこと(前記認定事実(5)カ)からすれば,合意に至る可能性が低いとして交渉に応じなかったことを捉えて不法行為に当たるとするのは相当でないというべきである。また,長期間派遣労働者として不安定な地位にあったとする点も,原告が被告Y1社から直接雇用された地位,その他派遣労働者以外の地位を法律上当然に期待できたわけではなく,被告Y2社との契約の更新,同Y1社での庶務的業務の担当を含めた就労の継続が,原告の意思に反した不相当な方法で行われていたことをうかがわせる証拠もないから,この点を捉えて不法行為であるということもできない。
ウ なお,原告は,被告Y1社が原告に係る労働者派遣契約の更新と,直接雇用の申入れを拒絶したのは,原告が東京労働局に被告Y1社の労働者派遣法違反の事実を申告したためであると主張するが,原告が申告を行った時点よりも前に被告Y1社から同Y2社に対して契約の更新拒絶の通知が行われており,その対象も原告に限られたものではないから(前記認定事実(5)イ,ウ),原告主張の点を理由にして契約が更新されなかったとは認められず,この点に違法があるということもできない。
(2)  被告Y2社の不法行為等
ア 被告Y2社による労働者派遣法違反がなかったとしても,原告の被告Y1社による直接雇用,その他雇用の継続が当然期待できる地位にあったといえないことは既に判断したとおりであるから,原告がそうした地位にあったことを前提とした被告Y2社に対する請求には理由がない。
イ なお,被告Y2社は原告との間で期間の定めのある雇用契約を結んでおり,その期間経過後の継続への期待が侵害されたか否かが問題となり得るが,原告は被告Y1社での直接雇用以外は希望せず,被告Y2社からの他の派遣先の紹介も断った上,自ら同被告から退職する手続を執っていること(前記認定事実(5)カ,キ)からすれば,被告Y2社が契約の継続への期待を侵害したと認めることはできない。
ウ 原告の被告Y2社に対する不当利得返還請求は,原告と被告Y2社との間の労働契約,被告ら間の労働者派遣契約が無効であることを前提としており,この点が認められないことは既に判断したとおりであるから,上記請求は認められない。
(3)  小括
以上によれば,原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求及び被告Y2社に対する不当利得返還請求は,いずれも理由がない。
第4  結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 吉田徹)

 

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