「営業支援」に関する裁判例(140)平成19年 1月18日 東京地裁 平17(ワ)7089号の3 損害賠償請求事件
「営業支援」に関する裁判例(140)平成19年 1月18日 東京地裁 平17(ワ)7089号の3 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年 1月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)7089号の3・平17(ワ)22154号の3
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA01188009
要旨
◆ゴルフ会員権の購入に際し、被告銀行が虚偽あるいは値上がりについて断定的な説明を行った、ゴルフ会員権の危険性について説明しなかった、金融機関の優越的地位を利用して販売を行った、ゴルフ会員権の販売媒介行為が銀行法に違反する、などの原告らの主張を排斥し、原告らの被告に対する損害賠償請求を棄却した事例
参照条文
民法709条
銀行法10条
銀行法11条
銀行法12条
裁判年月日 平成19年 1月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)7089号の3・平17(ワ)22154号の3
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA01188009
千葉市〈以下省略〉
第1事件原告 成和産業株式会社(以下「原告成和産業」という。)
同代表者代表取締役 A
東京都大田区〈以下省略〉
第1事件原告 株式会社インテリア・エース(以下「原告インテリア・エース」という。)
同代表者代表取締役 B
東京都品川区〈以下省略〉
第1事件原告 株式会社三洋工亊(以下「原告三洋工亊」という。)
同代表者代表取締役 C
横浜市〈以下省略〉
第1事件原告 株式会社パル企画(以下「原告パル企画」という。)
同代表者代表取締役 D
東京都目黒区〈以下省略〉
第1事件原告 株式会社イーストウエスト(以下「原告イーストウエスト」という。)
同代表者代表取締役 E
東京都墨田区〈以下省略〉
第2事件原告 東京ビジネスデータ処理サービス株式会社(以下「原告東京ビジネスデータ」という。)
同代表者代表取締役 F
横浜市〈以下省略〉
第2事件原告 株式会社林商事(以下「原告林商事」という。)
同代表者代表取締役 G
上記7名訴訟代理人弁護士 道本幸伸
同 永井均
同 渡瀬耕
同訴訟復代理人弁護士 坂井崇徳
東京都千代田区〈以下省略〉
第1事件及び第2事件被告 株式会社みずほ銀行(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役 H
同訴訟代理人弁護士 海老原元彦
同 島田邦雄
同 浦中裕孝
同 吉野彰
同 圓道至剛
同 福谷賢典
同(第1事件につき) 大久保由美
同(第2事件につき) 横山詩士
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告成和産業
被告は,原告成和産業に対し,金3500万円及びこれに対する平成2年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告インテリア・エース
被告は,原告インテリア・エースに対し,金3500万円及びこれに対する平成2年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告三洋工亊
被告は,原告三洋工亊に対し,金3500万円及びこれに対する平成2年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告パル企画
被告は,原告パル企画に対し,金3500万円及びこれに対する平成2年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告イーストウエスト
被告は,原告イーストウエストに対し,金3500万円及びこれに対する平成2年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告東京ビジネスデータ
被告は,原告東京ビジネスデータに対し,金2245万円及びこれに対する平成15年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告林商事
被告は,原告林商事に対し,金3500万円及びこれに対する平成2年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告らが,ゴルフ会員権の購入に関して,被告から違法な勧誘を受けたことにより損害を被ったと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実(証拠等で認定した事実については,各項の末尾に証拠等を摘示した。)
(1) ゴルフ場の経営主体等
ア 富士カントリー株式会社(以下「富士カントリー」という。)は,昭和46年12月,ゴルフ場の開発とゴルフ場運営会社への出資及び会員権販売請負を目的として設立された。富士カントリーは,自らゴルフ場事業を営むほか,有限会社大多喜城ゴルフ倶楽部(以下「大多喜城ゴルフ倶楽部」という。)を含むグループ企業の中核会社として,グループ企業に対して金融支援,営業支援及び業務支援をしていた。
(甲27の1,2)
イ フジパン株式会社(以下「フジパン」という。)は,富士カントリーの株式を有していた時期があるものの,昭和61年ころ資本関係は解消された。しかし,Iは,昭和26年からフジパンの取締役,昭和40年から代表取締役を務めるとともに,昭和46年から平成15年まで富士カントリーの取締役,昭和52年から昭和56年まで代表取締役を務め,また,Jは,昭和40年から平成15年までフジパンの取締役,昭和48年から平成15年まで代表取締役を務めるとともに,昭和46年から平成16年12月まで富士カントリーの代表取締役を務めており,資本関係解消後も,フジパンと富士カントリー間には,人的な関係が存在した。
(甲1の1,4,5,甲2の1から3まで,甲3の1から5まで,甲27の1,2,分離前相被告J本人)
ウ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,富士カントリー大多喜城倶楽部(以下「本件ゴルフ場」という。)の開発・運営を主たる目的として,昭和61年9月,株式会社富士カントリー大多喜城ゴルフ倶楽部の商号で設立され,平成13年8月,有限会社に組織変更し,平成17年8月1日,現商号に変更した。
Jは,平成元年1月から平成11年ころまで大多喜城ゴルフ倶楽部の取締役,平成元年1月から平成6年3月まで代表取締役であった。
(甲5の1から4まで,甲64,甲M25の3)
エ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成元年7月以降,本件ゴルフ場のゴルフ会員を募集し,その際,富士カントリーが募集代行業者を務めた。
(甲64,70の2)
(2) 被告の勧誘行為
ア 被告(当時は株式会社富士銀行又は株式会社第一勧業銀行。以下,いずれについても単に「被告」という。)は,平成元年12月ころまでに,大多喜城ゴルフ倶楽部との間で,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件ゴルフ場の会員権(以下「本件会員権」という。)の購入希望者に対して,その購入資金を融資するとともに,大多喜城ゴルフ倶楽部が購入希望者の借入債務について被告に対して連帯保証する旨の提携ローンの合意をした。
(甲49の1,2,乙M1から3まで,証人K,証人L,原告成和産業代表者,分離前相被告J本人)
イ 原告成和産業は,昭和47年7月に設立された精密機械器具販売を主な業務とする会社であり,昭和49年から,被告(当時は株式会社富士銀行)稲毛支店と継続的な銀行取引を行っていた。
被告稲毛支店副支店長M(以下「M」という。)は,平成2年1月20日ころ,原告成和産業の事務所を訪問して,原告成和産業代表者に対し,本件ゴルフ場の説明をし,本件会員権の購入を勧誘した。富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲49の1,原告成和産業代表者,弁論の全趣旨)
ウ 原告インテリア・エースは,昭和61年9月に設立された舞台・展示装飾を主な業務とする会社であり,設立当初から,被告(当時は株式会社第一勧業銀行)羽田支店と継続的な銀行取引を行っていた。
被告羽田支店取引先課課長代理N(以下「N」という。)は,平成2年4月ころ,原告インテリア・エースの事務所を訪問して,原告インテリア・エース代表者に対し,本件ゴルフ場の説明をし,本件会員権の購入を勧誘した。富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲49の2,原告インテリア・エース代表者,証人N)
エ 原告三洋工亊は,昭和58年6月に設立されたさく井及びとび土工基礎工事を主な業務とする会社であり,昭和60年ころから,被告(当時は株式会社第一勧業銀行)大井町支店に口座を設けて入出金のために利用していた。
被告大井町支店副支店長K(以下「K」という。)及び営業担当のO(以下「O」という。)は,平成2年6月初めころ,原告三洋工亊の事務所を訪問して,原告三洋工亊代表者に対し,本件ゴルフ場のパンフレットを示しながら本件ゴルフ場の説明をし,本件会員権の購入を勧誘した。富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲49の3,甲70の1から4まで,乙Ml,原告三洋工亊代表者,証人K)
オ 原告パル企画は,昭和45年10月に設立された建売住宅販売を主な業務とする会社であり,昭和55年ころから,被告(当時は株式会社第一勧業銀行)横須賀堀之内支店と継続的な銀行取引を行っていた。
被告横須賀堀之内支店支店長L(以下「L」という。)は,平成2年1月ころ,同支店を訪れた原告パル企画代表者に対し,本件ゴルフ場のパンフレットを示しながら本件ゴルフ場の説明をし,本件会員権の購入を勧誘した。富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲49の4,甲70の1から4まで,乙M3,原告パル企画代表者,証人L)
カ 原告イーストウエストは,昭和47年3月に設立されたコンピュータを使った画像処理等を主な業務とする会社であり,昭和62年から,被告(当時は株式会社第一勧業銀行)恵比寿支店と継続的な銀行取引を行っていた。
被告恵比寿支店営業担当者(担当者の氏名を特定するに足りる証拠はなく,以下,当該担当者を「恵比寿支店担当者」という。)は,平成2年2月末ころ,被告恵比寿支店において,原告イーストウエスト代表者に対し,本件ゴルフ場の説明をし,本件会員権の購入を勧誘した。富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲49の5,原告イーストウエスト代表者)
キ P(以下「P」という。)は,平成2年当時,センチュリー監査法人の代表社員であり,マンション経営を主な業務とするイシイエステートの税務顧問をしていた。P及びセンチュリー監査法人は,被告(当時は株式会社第一勧業銀行)との銀行取引はなかった。
被告西船橋支店支店長(支店長の氏名を特定するに足りる証拠はなく,以下「西船橋支店長」という。)は,平成2年5月14日ころ,イシイエステートの事務所を訪問して,イシイエステート代表者に対して本件会員権の購入を勧誘したが,同人が購入を断ったところ,税務顧問として同席していたPに対し,本件ゴルフ場の説明をし,本件会員権の購入を勧誘した。富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲75の1,原告東京ビジネスデータ代表者)
ク 原告林商事は,昭和49年に設立された飲食業を主な業務とする会社であり,設立当初から,被告(当時は株式会社第一勧業銀行)上大岡支店と継続的な銀行取引を行っていた。
原告林商事代表者は,平成2年3月ころ,本件ゴルフ場ではない他のゴルフ場の会員権を購入するための融資の相談のために被告上大岡支店を訪れたところ,被告上大岡支店の支店長又は行員(原告林商事は,勧誘したのは同支店のQ支店長であると主張するが,同人は,その陳述書(乙M4)において,勧誘の事実を否定しており,他に勧誘者の氏名を特定するに足りる証拠はなく,以下,当該勧誘者を「上大岡支店担当者」という。)は,原告林商事代表者に対し,本件ゴルフ場のパンフレットを示しながら本件ゴルフ場の説明をし,本件会員権の購入を勧誘した。富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲70の1から4まで,75の2,原告林商事代表者)
(3) 会員権の購入
ア 原告成和産業は,平成2年2月,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証委託並担保差入契約書を作成してMに交付し,Mは,これを大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,原告成和産業の入会を承諾した。
原告成和産業は,同年3月14日,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため1500万円の融資を受け,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲49の1,原告成和産業代表者)
イ 原告インテリア・エースは,平成2年8月,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証委託並担保差入契約書を作成してNに交付し,Nは,これを大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,原告インテリア・エースの入会を承諾した。
原告インテリア・エースは,同年9月5日,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため3500万円の融資を受け,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲49の2,原告インテリア・エース代表者)
ウ 原告三洋工亊は,平成2年6月,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証委託契約書を作成してKに交付し,Kは,これを大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,原告三洋工亊の入会を承諾した。
原告三洋工亊は,同月29日,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため3500万円の融資を受け,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲49の3,乙Ml,証人K,原告三洋工亊代表者)
エ 原告パル企画は,平成2年4月,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証委託契約書を作成してLに交付し,Lは,これを大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,原告パル企画の入会を承諾した。
原告パル企画は,同月12日,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため3500万円の融資を受け,同年5月8日,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲49の4,乙M3,証人L,原告パル企画代表者)
オ 原告イーストウエストは,平成2年3月,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証委託契約書を作成して恵比寿支店担当者に交付し,恵比寿支店担当者は,これを大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,原告イーストウエストの入会を承諾した。
原告イーストウエストは,同月29日,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため3500万円の融資を受け,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲49の5,原告イーストウエスト代表者)
カ Pは,平成2年6月ころ,代表社員を務めていたセンチュリー監査法人において,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証委託契約書を作成して西船橋支店長に送付し,西船橋支店長は,これを大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,センチュリー監査法人の入会を承諾した。
センチュリー監査法人は,同月5日ころ,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため3500万円の融資を受け,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
その後,センチュリー監査法人は,平成9年2月,原告東京ビジネスデータに対し,本件会員権を2000万円で売却した。
(甲75の1,甲M29の1,2,甲M30の1,2,甲M31の1から4まで,原告東京ビジネスデータ代表者)
キ 原告林商事は,平成2年3月,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書を作成して上大岡支店担当者に交付し,上大岡支店担当者は,これを大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,原告林商事の入会を承諾した。
原告林商事は,同年4月27日ころ,被告から本件会員権購入代金の支払のため3000万円の融資を受け,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲75の2,原告林商事代表者)
(4) 大多喜城ゴルフ倶楽部の推移
ア 大多喜城ゴルフ倶楽部は,被告以外の金融機関とも,本件会員権の購入に関して,(2)アと同様の提携ローンの合意を行い,これらの金融機関の紹介により,平成元年以降,特別縁故募集として800名の法人会員を集めた後,追加の第一次募集を行い,平成4年11月30日,本件ゴルフ場を開場した(平成12年ころの公表会員数は法人939名)。
(甲42,64,甲70の2)
イ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,ゴルフ場開場後,海外でのプレーを希望する会員への利便性提供の意味を含め,豊富な預託金により富士カントリー関係の海外ゴルフ場等への投融資を行ったが,その後海外のゴルフ場の価額が大幅に下落し,出資会社が大幅な債務超過に陥ったことから,出資金の回収が不能となった。
また,バブル経済崩壊後における経済不況の深刻化・長期化によって,会員権購入のためのローンの支払が困難となる会員が続出した結果,金融機関から,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して保証債務の履行請求が相次ぎ,履行ができない状態に陥った。
さらに平成7年当時約1000万円であった会員権相場が,平成15年には250万円程度に下落し,預託金券面額を大幅に割り込むこととなり,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成16年12月30日以降に償還時期を順次迎える預託金について,会員権の分割を条件に据置期間の延長を求めたが,その約3割について同意を得ることができず,預託金返還請求に応じられない見込みとなった。
(甲28の1,甲64)
ウ こうしたことから,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成16年12月6日に,当庁に対して民事再生手続開始の申立てを行って倒産し,同月10日に民事再生手続開始決定を受けた。その後,平成17年4月27日,スポンサーとして東急不動産株式会社を選定し,預託金返還請求権について元本等の95%の免除を受けること等を内容とする再生計画について認可決定を受けた。
(甲28の1,甲64,甲M25の1,2,乙C6,8,9)
2 争点
(1) 本件会員権購入の勧誘を行った者(以下「被告担当者」という。)による被告の勧誘行為が,以下のとおり違法なものであって,被告の故意又は過失による不法行為に該当するか(争点1)。
ア 本件会員権に関する虚偽の説明
イ 本件会員権に関する断定的な説明
ウ 本件会員権の危険性に関する説明義務違反
エ 金融機関の優越的地位の濫用
オ 販売媒介行為の銀行法違反
(2) 被告担当者による勧誘行為について,被告は使用者責任を負うか(予備的主張,争点2)。
(3) 原告は,被告の不法行為により損害を被ったといえるか(争点3)。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(被告の違法な勧誘行為)について
ア 本件会員権に関する虚偽の説明
(ア) 原告成和産業について
(原告成和産業の主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,Mは,原告成和産業に対する勧誘に際して「フジパンが経営(経営母体)しているので絶対安心である」「優良企業が経営している」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
原告成和産業は,Mの説明とは無関係に当時の情勢から預託金の返還について何ら危惧していなかったのであり,また,フジパンの経営状態などの認識はなかったから,本件ゴルフ場の運営主体がフジパンであるが故に預託金返還の心配がないとして本件会員権の購入に至ったものではない。
(イ) 原告インテリア・エースについて
(原告インテリア・エースの主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,Nは,原告インテリア・エースに対する勧誘に際して「バックがフジパンだから問題のないゴルフ場です」「経営母体はフジパンです」「富士カントリーの富士は,フジパンのフジからとったものです」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
原告インテリア・エースは,Nの説明とは無関係に,当時の情勢から預託金の返還について何ら危倶していなかったのであり,また,フジパンについて上場会社だと思っていたにすぎず,フジパンの経営的・財政的な良好性といった観点からの認識は有していなかったのであるから,本件ゴルフ場の運営主体がフジパンであるが故に預託金返還の心配がないとして本件会員権の購入に至ったものではない。
(ウ) 原告三洋工亊について
(原告三洋工亊の主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,K及びOは,原告三洋工亊に対する勧誘に際して「経営母体が名古屋のフジパンである」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
原告三洋工亊は,Kらの説明とは無関係に当時の情勢から預託金の返還について何ら危惧を有していなかったのであり,また,フジパンについての知識といえば,新聞に記載された中京地区では大手の製パン会社であると読んだ知識があった程度のものだったのであって,財務状態については全く認識がないのであるから,本件ゴルフ場の経営母体がフジパンである故に預託金返還の心配がないとして本件会員権の購入に至ったものではない。
(エ) 原告パル企画について
(原告パル企画の主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,Lは,原告パル企画に対する勧誘に際して「有名なフジパンが経営するゴルフ場である」「母体がフジパンという会社がやっている(フジパンのフジであって富士山の富士ではない)。富士カントリー系のゴルフ場はどこでもフジパンがついているので名門コースになることは間違いない」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
原告パル企画は,Lより紹介を受けたことがきっかけであるとしても,年数十回もプレーをする原告パル企画代表者において名門ゴルフコースの会員になることの希望があり,本件ゴルフ場については,多数のゴルフ場を運営する富士カントリーが運営するゴルフ場であるが故に本件会員権を購入するに至ったものである。原告パル企画は,フジパンについて全く知らなかったと述べるのであり,フジパンの存在により本件会員権の購入に至ったものではない。
(オ) 原告イーストウエストについて
(原告イーストウエストの主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,恵比寿支店担当者は,原告イーストウエストに対する勧誘に際して「フジパンという会社がついているので心配ありません」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
原告イーストウエストは,自身の独自の裁量のもと(原告イーストウエスト自身が一度購入を拒絶している),被告との「つき合い」の観点のみから本件会員権購入を決断した。したがって,恵比寿支店担当者からフジパンがバックについているゴルフ場で安心できるとの説明があった故に本件会員権の購入に至ったものではない。
原告イーストウエストは,平成2年当時,ゴルフ場市況についての認識をさほど有しておらず,預託金の返還の心配もしていなかった。また,フジパンについての知識を全く有していなかったのであって,フジパンがバックについているなどといった説明とは無関係に本件会員権の購入に至ったのである。
(カ) 原告東京ビジネスデータについて
(原告東京ビジネスデータの主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,西船橋支店長は,センチュリー監査法人に対する勧誘に際して「フジパンという名古屋の会社がスポンサーである」「フジパンは優良会社である」「無借金経営である」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
センチュリー監査法人の代表社員であるPは,自身の取引先ともいえるイシイエステートよりの依頼を受けて,単にイシイエステートに対する義理から,本件会員権を購入するに至ったにすぎず,フジパン関係の会社であるために安心だと言われたことが理由となって購入したものではない。
(キ) 原告林商事について
(原告林商事の主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであったにもかかわらず,上大岡支店担当者は,原告林商事に対する勧誘に際して「経営母体がフジパンだ」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
原告林商事は,ゴルフ会員権の購入をもとより欲していたところに,偶々,被告から大多喜城ゴルフ倶楽部について紹介を受け,独自に収集したパンフレットや雑誌の情報をもとに,ゴルフコースや運営主体である富士カントリーに好感を抱いて本件会員権を購入するに至ったにすぎない。したがって,銀行員よりフジパンが母体となっているゴルフ場であるとの説明があった故に購入に至ったものではない。
イ 本件会員権に関する断定的な説明
(原告成和産業の主張)
ゴルフ場の事業については不確定要素が多く,15年後という長期に亘る預託金の償還については危険性があるにもかかわらず,Mは,原告成和産業代表者に対し,「預託金は絶対に保証される」「富士銀行としても担保価値は3500万円とする」「開場されれば会員権価格が5000万円以上になることは間違いない」と将来値崩れしない確実なゴルフ場であるかのように不確実なことを断定的に説明した。
(原告インテリア・エースの主張)
ゴルフ場の事業については不確定要素が多く,15年後という長期に亘る預託金の償還については危険性があるにもかかわらず,Nは,原告インテリア・エース代表者に対し,預託金の返還について,バックがフジパンだから確実であるとして,期限が来れば返してもらえるのは間違いないと不確実なことを断定的に説明した。
(原告三洋工亊の主張)
ゴルフ場の事業については不確定要素が多く,15年後という長期に亘る預託金の償還については危険性があるにもかかわらず,K及びOは,原告三洋工亊代表者に対し,預託金の返還について,「フジパンだから,15年後の返還時期においては間違いなく戻ってくる」と不確実なことを断定的に説明した。
(原告パル企画の主張)
ゴルフ場の事業については不確定要素が多く,15年後という長期に亘る預託金の償還については危険性があるにもかかわらず,Lは,原告パル企画代表者に対し,「経営に関しては何の心配もいらない」「億という値が付くゴルフ場だから,6000万円ぐらいに行ったところで売ったらどうですか」と将来値崩れしない確実なゴルフ場であるかのように不確実なことを断定的に説明した。
(原告イーストウエストの主張)
ゴルフ場の事業については不確定要素が多く,15年後という長期に亘る預託金の償還については危険性があるにもかかわらず,恵比寿支店担当者は,原告イーストウエスト代表者に対し,預託金の返還について,「フジパンがついているのだから大丈夫」とゴルフ場が破綻する心配はないと不確実なことを断定的に説明した。
(原告東京ビジネスデータの主張)
ゴルフ場の事業については不確定要素が多く,15年後という長期に亘る預託金の償還については危険性があるにもかかわらず,西船橋支店長は,Pに対し,フジパンは無借金経営の会社だからつぶれる心配はなく大丈夫だと強調して,ゴルフ場が破綻する心配はないと不確実なことを断定的に説明した。
(原告林商事の主張)
ゴルフ場の事業については不確定要素が多く,15年後という長期に亘る預託金の償還については危険性があるにもかかわらず,上大岡支店担当者は,原告林商事代表者に対し,「経営母体がフジパンだから,安心だ」「大丈夫」「第一勧銀の行員も買っている」と説明を加えて,ゴルフ場が破綻する心配はないと不確実なことを断定的に説明した。
(被告の主張)
被告担当者が断定的な内容の説明をしたことは否認する。
自身に関する情報以外の情報が第三者に提供された場合において,当該情報の受領者は,情報提供者の責任において当該情報の正確性を信用する権利を有するものではなく,提供された情報の正確性を自ら判断し,それに従うか否かという取捨選択をおこなうべきものである。したがって,情報の正確性が情報提供行為自体の対価性と結び付いているという特別の事情のない限り,当該情報に基づいて情報受領者がとった行動によって損害が生じても,一般的に,情報提供者がこれを賠償すべき責任を負うものではない。
ウ 本件会員権の危険性に関する説明義務違反
(原告らの主張)
被告は,富士カントリーが大多喜城ゴルフ倶楽部の預託金を含めた資金を海外ゴルフ場開発や各種の投資,絵画の購入等の事業に支出しており,それらの事業が頓挫した場合にはゴルフ場経営や預託金の償還に支障が生じることを知っていたか若しくは当然に知ることができたにもかかわらず,被告担当者は,これらの危険性を原告ら(原告東京ビジネスデータについては,センチュリー監査法人をいう。)に説明しなかった。また,被告は,ゴルフ会員権の価格暴落の危険が指摘されていることを認識しており,ゴルフ事業の今後について不確定要素が多い状況にあり,長期に亘る預託金の償還については危険性がある状況であったにもかかわらず,被告担当者は,その危険を同原告らに説明しなかった。
(被告の主張)
被告担当者に本件会員権の危険性に関する説明義務違反があることは否認する。
エ 金融機関の優越的地位の濫用
(原告らの主張)
被告担当者は,著名金融機関の行員としての社会的な信用に加えて,原告ら(原告東京ビジネスデータについては,Pが税務顧問をしていたイシイエステートをいう。)との継続的な銀行取引によって培ってきた信頼関係や,同原告らの経営内容や資産状況などの内情を把握しているという点や,融資している若しくは今後も融資の可否を判断する立場という総合的な優越的地位を有していた。被告は,その立場を利用して本件会員権の販売を媒介した。
(被告の主張)
原告ら(原告東京ビジネスデータについては,センチュリー監査法人をいう。)は,独自の判断のもとで,本件会員権購入に及んだものであり,被告担当者が,その社会的地位や同原告らとの取引上の優位性を誇示して販売の媒介を行ったことはない。また,同原告らにおいて,被告以外の金融機関からの資金調達が困難であった等,被告の同原告らに対する優越的地位が存在した事実はない。
また,優越的地位の濫用の違法行為の主張と,原告らの主張する損害との因果関係も認められない。
オ 販売媒介行為の銀行法違反
(原告らの主張)
被告担当者は,単なるゴルフ場の紹介にとどまらず,ゴルフ場の会員契約を直接媒介して入会申込書までも原告ら(原告東京ビジネスデータについては,センチュリー監査法人をいう。)から受領した。ゴルフ場関係者による説明や勧誘などが一切介在しない銀行の直接媒介による入会手続は,銀行法や大蔵省の通達によって禁止されている銀行の目的外行為であり,当然に違法である(銀行法12条)。また,こうした銀行による媒介行為に対して,大多喜城ゴルフ倶楽部からは,協力預金という名のもとに対価が支払われていたから,特にその違法性は強い。
(被告の主張)
被告は,顧客である同原告らに対して,その要望に応じて情報提供を行ったにすぎず,情報提供を販売手数料等の収受を目的とした営利のために業として行ったことはなく,その後の単純な書類の授受を併せ考慮しても,銀行法に違反する行為などと評価されるものではない。
また,銀行法違反の違法行為の主張と,原告らの主張する損害との因果関係も認められない。
(2) 争点2(使用者責任,予備的主張)について
(原告らの主張)
被告担当者が行った勧誘行為は,被告の事業執行に際して行われたものである。
(被告の主張)
原告らの主張は争う。
(3) 争点3(損害)について
(原告成和産業の主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,原告成和産業は,本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないのであるから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア 原告成和産業は,平成2年3月14日,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。同時に原告成和産業は,被告との間で,2870万円のローン契約を締結し,平成5年8月までの支払利息の合計は329万円となる。
その結果,原告成和産業は,購入代金と利息合計額の4138万円の損害を被った。
イ その後大多喜城ゴルフ倶楽部は倒産し,その民事再生手続の中で,配当として退会者には5%の175万円が支払われることとなった。原告成和産業は,退会をせずに引き続き会員権を保有しているが,10年据え置き後に退会の意思表示によって5.6%の返還を受けられる。
結局,現時点での原告成和産業が得た配当利益は,175万円と評価される。また,原告成和産業に対して,Jの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。
ウ 原告成和産業は,購入代金と利息合計額の4138万円に,弁護士費用200万円を加算した合計4338万円から受領した179万0628円を差し引いた4158万円(端数切り捨て)の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年3月14日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(原告インテリア・エースの主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,原告インテリア・エースは,本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないのであるから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア 原告インテリア・エースは,平成2年8月31日,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。同時に原告インテリア・エースは,被告との間で,3500万円のローン契約を締結し,10年間の支払利息の合計は1571万円となる。
その結果,原告インテリア・エースは,購入代金と利息合計額の5380万円の損害を被った。
イ その後大多喜城ゴルフ倶楽部は倒産し,その民事再生手続の中で,配当として退会者には5%の175万円が支払われることとなった。原告インテリア・エースは,退会をせずに引き続き会員権を保有しているが,10年据え置き後に退会の意思表示によって5.6%の返還を受けられる。
結局,現時点での原告インテリア・エースが得た配当利益は,175万円と評価される。また,原告インテリア・エースに対して,Jの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。
ウ 原告インテリア・エースは,購入代金と利息合計額の5380万円に,弁護士費用200万円を加算した合計5580万円から受領した179万0628円を差し引いた5400万円(端数切り捨て)の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年8月31日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(原告三洋工亊の主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,原告三洋工亊は,本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないのであるから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア 原告三洋工亊は,平成2年6月30日,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。同時に原告三洋工亊は,被告との間で,3500万円のローン契約を締結し,平成4年9月までの支払利息の合計は545万円となる。
その結果,原告三洋工亊は,購入代金と利息合計額の4354万円の損害を被った。
イ その後大多喜城ゴルフ倶楽部は倒産し,その民事再生手続の中で,配当として退会者には5%の175万円が支払われることとなった。原告三洋工亊は,退会によって175万円の配当を受けた。また,原告三洋工亊に対して,Jの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。
ウ 原告三洋工亊は,購入代金と利息合計額の4354万円に,弁護士費用200万円を加算した合計4554万円から受領した179万0628円を差し引いた4374万円(端数切り捨て)の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年6月30日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(原告パル企画の主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,原告パル企画は,本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないのであるから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア 原告パル企画は,平成2年5月10日,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。同時に原告パル企画は,被告との間で,3500万円のローン契約を締結し,平成8年までの支払利息の合計は746万円となる。
その結果,原告パル企画は,購入代金と利息合計額の4555万円の損害を被った。
イ その後大多喜城ゴルフ倶楽部は倒産し,その民事再生手続の中で,配当として退会者には5%の175万円が支払われることとなった。原告パル企画は,退会をせずに引き続き会員権を保有しているが,10年据え置き後に退会の意思表示によって5.6%の返還を受けられる。
結局,現時点での原告パル企画が得た配当利益は,175万円と評価される。また,原告パル企画に対して,Jの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。
ウ 原告パル企画は,購入代金と利息合計額の4555万円に,弁護士費用200万円を加算した合計4755万円から受領した179万0628円を差し引いた4575万円(端数切り捨て)の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年5月10日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(原告イーストウエストの主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,原告イーストウエストは,本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないのであるから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア 原告イーストウエストは,平成2年4月5日ころ,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。同時に原告イーストウエストは,被告との間で,3500万円のローン契約を締結し,平成12年までの支払利息の合計は1255万円となる。
その結果,原告イーストウエストは,購入代金と利息合計額の5064万円の損害を被った。
イ その後大多喜城ゴルフ倶楽部は倒産し,その民事再生手続の中で,配当として退会者には5%の175万円が支払われることとなった。原告イーストウエストは,退会をせずに引き続き会員権を保有しているが,10年据え置き後に退会の意思表示によって5.6%の返還を受けられる。
結局,現時点での原告イーストウエストが得た配当利益は,175万円と評価される。また,原告イーストウエストに対して,Jの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。
ウ 原告イーストウエストは,購入代金と利息合計額の5064万円に,弁護士費用200万円を加算した合計5264万円から受領した179万0628円を差し引いた5084万円(端数切り捨て)の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年4月5日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(原告東京ビジネスデータの主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,センチュリー監査法人及び原告東京ビジネスデータは,本件会員権を購入していないのであるから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア センチュリー監査法人は,平成2年6月5日ころ,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。同時にセンチュリー監査法人は,被告との間で,3500万円のローン契約を締結した。
Pが平成15年11月ころセンチュリー監査法人を定年退社するに際し,Pの経営する原告東京ビジネスデータは,本件会員権を2000万円にてセンチュリー監査法人から譲り受けた。原告東京ビジネスデータは,その際,名義変更入会金として大多喜城ゴルフ倶楽部に30万円,仲介業者としてのレックスゴルフに15万円の手数料の合計45万円を支出した。
イ その後大多喜城ゴルフ倶楽部は倒産し,その民事再生手続の中で,配当として退会者には5%の175万円が支払われることとなった。原告東京ビジネスデータは,退会をせずに引き続き会員権を保有しているが,10年据え置き後に退会の意思表示によって5.6%の返還を受けられる。
結局,現時点での原告東京ビジネスデータが得た配当利益は,175万円と評価される。また,原告東京ビジネスデータに対して,Jの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。
ウ 原告東京ビジネスデータは,購入代金及び手数料の合計2045万円に,弁護士費用200万円を加算した合計2245万円から受領した179万0628円を差し引いた2065万円(端数切り捨て)の損害賠償請求権を有する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘による影響の下,センチュリー監査法人から購入した平成15年12月1日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(原告林商事の主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,原告林商事は,本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないのであるから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア 原告林商事は,平成2年5月1日ころ,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。同時に原告林商事は,被告との間で,3000万円のローン契約を締結し,現在までの支払利息の合計は1709万円を下らない。
その結果,原告林商事は,購入代金と利息合計額の5518万円の損害を被った。
イ その後大多喜城ゴルフ倶楽部は倒産し,その民事再生手続の中で,配当として退会者には5%の175万円が支払われることとなった。原告林商事は,退会によって175万円の配当を受けた。また,原告林商事に対して,Jの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。
ウ 原告林商事は,購入代金と利息合計額の5518万円に,弁護士費用200万円を加算した合計5718万円から受領した179万0628円を差し引いた5538万円(端数切り捨て)の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年5月1日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(被告の主張)
原告らの主張は争う。
ア 故意又は過失
平成2年当時,預託金会員制のゴルフ場運営会社が倒産し,その預託金の返還が困難になることが一般的に予想される客観的状況にあったことはなく,大多喜城ゴルフ倶楽部についても倒産の危険が認められる具体的事情はなかったから,被告は大多喜城ゴルフ倶楽部の倒産の具体的危険性を認識していなかったし,その可能性もなかった。したがって,被告については,原告らの主張する損害との関係における故意又は過失が認められない。
イ 因果関係
大多喜城ゴルフ倶楽部が倒産し,民事再生手続開始決定を受けるに至ったことは,原告らの主張する違法行為の後に生じた特別事情である。特別事情により生じた損害について相当因果関係が認められるためには,特別事情の認識可能性が必要であるところ,平成2年当時,被告は,ゴルフ会員権の価格の下落や,大多喜城ゴルフ倶楽部の破綻については何ら認識を有していなかったし,その可能性もなかったから,原告らの主張する違法行為と損害との相当因果関係は認められない。
ウ 損害
(ア) 預託金損害部分
預託金返還請求権のうち,平成2年当時において,将来の返還期限に返還が困難となるべき金額が損害となるべきところ,当時の大多喜城ゴルフ倶楽部の財務状況は将来の預託金の返還を危惧されるものではなかったから,預託金返還請求権に毀損が生じていたということはできない。
(イ) 利息損害部分
原告らは,自己資金で本件会員権を購入することも可能であったから,購入資金の出所は問題となる余地がないし,借入れに係る資金を現に利用しているのであるから,利息を損害として評価することはできない。
(ウ) 入会金部分
入会金は,1度しかゴルフ場を利用しない場合であっても支払うことを要するものであり,15年近くもの間,本件ゴルフ場を利用することができた原告らについては,損害として発生したものと評価すべきではない。
(エ) その他
原告三洋工亊は,被告からのローンについて,実行後約2年で完済に至っているから,その後8年間分の利息について損害として請求できる理由はない。
原告イーストウエストは,本件会員権につき4口に分割した後の3口を既に譲渡しているから,その売却代金額は損害から控除されるべきであり,預託金額全額を損害として請求できる理由はない。
原告東京ビジネスデータは,被告担当者から勧誘を受けたものではなく,センチュリー監査法人の損害賠償請求権を行使する理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 被告担当者による勧誘行為の位置づけについて
被告は,大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件会員権の購入希望者に対して,その購入資金を融資するとともに,大多喜城ゴルフ倶楽部が購入希望者の借入債務について被告に対して連帯保証する旨の提携ローンの合意(以下「本件提携ローン合意」という。)をしたことは,前記第2の1(2)アに認定のとおりである。証人Kの証言によれば,被告から富士カントリーへの出向者が,被告大井町支店に対し,本件会員権の縁故募集について紹介の依頼をしたこと,副支店長であるKは,支店長と相談し,一般行員に対して本件会員権の縁故募集があることを知らせるとともに,取引先から応募の希望があれば取引先に対する説明はK自身が行うことにしていたこと,乙M3によれば,被告から富士カントリーへの出向者が,被告横須賀堀之内支店に対し,本件会員権の縁故募集について紹介の依頼をしたこと,そこで,支店長であるLは,自ら,原告パル企画に対して,被告の提携ローンを利用して本件会員権を購入することを勧誘したことが認められる。以上の事実を合わせ考えれば,被告担当者(上大岡支店担当者を除く。)は,被告の各支店の方針に基づき,原告ら(原告東京ビジネスデータについては被勧誘者及び購入者であるセンチュリー監査法人をいう。以下同じ。)に対して,被告の提携ローンを利用して本件会員権を購入することを勧誘したと推認される。
そうであれば,被告担当者(上大岡支店担当者を除く。)が,原告らに対して行った本件会員権購入の勧誘は,提携ローンの利用を勧誘する目的で行われたものであり,被告の営業行為そのものであるから,被告の不法行為の成否の検討においては,被告担当者の行った本件会員権購入の勧誘行為は,被告による勧誘行為と解して妨げないというべきである。
また,原告林商事については,同代表者が本件ゴルフ場ではない他のゴルフ場の会員権購入の融資の相談のために被告上大岡支店を訪問したところ,上大岡支店担当者が,同代表者に対し,本件会員権購入の勧誘をしたこと,本件会員権購入のため,原告林商事は被告から融資を受けたが,それは提携ローンではないことが認められる(甲75の2,原告林商事代表者)。そうすると,原告林商事に対する本件会員権購入の勧誘は,提携ローンの利用を勧誘する目的ではないけれども,本件会員権の購入は被告からの融資を前提としているものであり,被告の営業行為そのものであるから,被告の不法行為の成否の検討においては,上大岡支店担当者の行った本件会員権購入の勧誘行為も,被告による勧誘行為と解して妨げないというべきである。
2 争点1ア(本件会員権に関する虚偽の説明の有無)について
(1) 原告らは,被告が,本件会員権購入の勧誘に際し,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行ったと主張する。
そこで検討するに,被告は,本件提携ローン合意に基づき(原告林商事については被告からの融資を目的として),取引先等に対して本件会員権の購入を勧誘したものであり,取引先等による会員権の購入と被告からの融資は極めて密接な関連性を有しているから,被告は,取引先等に対して自ら本件会員権の内容を説明するにあたっては,信義則上,できる限り正確な説明をすべきであり,購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明をしたときは,これを信用して本件会員権を購入した者に対し,上記虚偽の説明と相当因果関係のある損害を賠償すべき義務を負うというべきである。
(2) 原告成和産業について
原告成和産業は,Mが,勧誘に際して「フジパンが経営(経営母体)しているので絶対安心である」「優良企業が経営している」という説明を行ったと主張する。
そして,原告成和産業代表者は,その調査回答書(甲49の1)において,Mから「フジパンが経営母体なので絶対安心」であると説明された旨を述べ,代表者尋問においても,大多喜城ゴルフ倶楽部をフジパンが経営している,優良企業が経営しているゴルフ場であるから安心であると聞いた旨供述している。
他方,原告成和産業代表者は,代表者尋問において,フジパンが本件ゴルフ場の運営会社でないことは理解していたが,フジパンと富士カントリーは,役員が一緒であるから関連会社と認識していたと供述する。この供述等に照らすと,Mがフジパンと富士カントリー又は大多喜城ゴルフ倶楽部との人的関係を説明したことが窺えないではないが,原告成和産業代表者は,フジパンが本件ゴルフ場の運営会社でないことを理解していたのであるから,原告成和産業代表者の供述等をもって,Mが,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部を経営している旨を説明したと認めることはできない。
そして,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前提事実(1)イ及びウのとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,仮にMがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との人的関係を説明したとしても必ずしも虚偽ということはできない。
また,原告成和産業代表者は,代表者尋問において,本件会員権を購入すると決断した理由として,接待用に利用するゴルフ場が1か所ぐらい必要であったこと,当時のゴルフ会員権の価格はバブルであったので,値上がりする可能性は十分あると認識しており,値上がりを期待していたこともあったと述べ,実際にもこれまで年に少なくとも数回は接待等で本件ゴルフ場を利用していたことがある一方で,フジパンと富士カントリーとは関連会社であるとの認識を有していたものの,関連会社であることを確認したことはなかったというのであるから,原告成和産業が本件会員権を購入するという投資判断をするにあたって,大多喜城ゴルフ倶楽部とフジパンとの関係が重要な事項であったと認めることは困難である。
上記の諸点に加えて,本件会員権購入に伴い原告成和産業代表者が大多喜城ゴルフ倶楽部から受領した保証委託並担保差入契約書,預り証書,入会承諾書,仮領収書,領収書のいずれにも,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが表示されている一方,フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないことをあわせ考えると,Mがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との人的関係に言及する説明をしたとしても,それが,購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明であったということはできない。
したがって,Mが,本件会員権の内容に関し,原告成和産業の判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告成和産業の主張は採用することができない。
(3) 原告インテリア・エースについて
原告インテリア・エースは,Nが,勧誘に際して「バックがフジパンだから問題のないゴルフ場です」「経営母体はフジパンです」「富士カントリーの富士は,フジパンのフジからとったものです」という説明を行ったと主張する。
そして,原告インテリア・エース代表者は,その調査回答書(甲49の2)において,「バックがフジパンだから問題ない」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,バックがフジパンであると聞いた旨供述している。
他方,原告インテリア・エース代表者は,代表者尋問において,バックがフジパンという説明は,経営母体が一緒で,例えば経営者が一緒だとか,幹部が一緒だという意味と理解しており,フジパンが本件ゴルフ場を経営していないことは理解していた旨供述する。この供述等に照らすと,Nがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との関係に言及したことが窺えないではないが,原告インテリア・エース代表者は,フジパンが本件ゴルフ場の運営会社でないことを理解していたのであるから,原告インテリア・エース代表者の供述等をもって,Nが,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部を経営している旨を説明し,原告インテリア・エースの判断を誤らせたと認めることはできない。
また,仮にNが大多喜城ゴルフ倶楽部のバックがフジパンであると説明したとしても,原告インテリア・エース代表者は,その意味は,経営者が一緒だとか,幹部が一緒だということと理解していたのであり,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことは前提事実(1)イ及びウのとおりであるから,Nの説明が原告インテリア・エースの判断を誤らせたと認めることはできない。
したがって,Nが,本件会員権の内容に関し,原告インテリア・エースの判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告インテリア・エースの主張は採用することができない。
(4) 原告三洋工亊について
原告三洋工亊は,K及びOが,勧誘に際して「経営母体が名古屋のフジパンである」という説明を行ったと主張する。
そして,原告三洋工亊代表者は,その調査回答書(甲49の3)において,「経営母体が名古屋のフジパンである」「フジパンが経営母体であるので絶対に確実である」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,経営母体が名古屋のフジパンであると聞いた旨を供述している。
他方,Kは,その陳述書(乙M1)において,「富士カントリーがフジパンから独立した会社であり同社との資本関係がないことも説明しました」と述べ,証人尋問においても,被告から富士カントリーへの出向者からフジパンと富士カントリーは資本系列にない旨を聞き,原告三洋工亊代表者に対しても,フジパンと富士カントリーは別の会社である旨説明したと証言する。この供述等に照らすと,原告三洋工亊代表者の供述等をもって,K及びOが,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部を経営している旨を説明したと認めるには足りない。
念のため,仮にK又はOがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との関係に言及したことがあるとして検討すると,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前提事実(1)イ及びウのとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,フジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部が何らかの関係を有することを説明したとしても,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽ということはできない。
これに加えて,本件会員権募集に際しK又はOが原告三洋工亊代表者に交付した本件ゴルフ場のパンフレット(甲70の1,2)には,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないこと,ゴルフ会員権の購入を検討している一般的な顧客は,当該ゴルフ場のパンフレットに目を通し,それを1つの重要な資料として購入の是非を検討すると考えられるところ,上記パンフレットを読めば,本件ゴルフ場の運営主体は大多喜城ゴルフ倶楽部であることを容易に理解できるものといえること,原告三洋工亊代表者自身,フジパンが経営母体という意味は大多喜城ゴルフ倶楽部にフジパンの資本が入っているという意味であって,フジパンが本件ゴルフ場の運営会社ではないことを理解していたこと(原告三洋工亊代表者)をあわせ考えると,仮にK又はOがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部が何らかの関係を有していることを説明したとしても,それが購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明であったということはできない。
したがって,K及びOが,本件会員権の内容に関し,原告三洋工亊の判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告三洋工亊の主張は採用することができない。
(5) 原告パル企画について
原告パル企画は,Lが,勧誘に際して「有名なフジパンが経営するゴルフ場である」「母体がフジパンという会社がやっている。富士カントリー系のゴルフ場はどこでもフジパンがついているので名門コースになることは間違いない」という説明を行ったと主張する。
そして,原告パル企画代表者は,その調査回答書(甲49の4)において,「有名なフジパンが経営するゴルフ場である。フジパンは他にもいくつも名門ゴルフ場を経営していると聞かされました。」「フジカントリー系のゴルフ場はフジパンが付いているのでどこも名門なので,このゴルフ場も名門コースになることは間違いないと説明を支店長より受けていた」旨を述べ,代表者尋問においても,母体はフジパンであり,フジパンは優秀な会社であると聞いた旨供述している。
他方,原告パル企画代表者自身,大多喜城ゴルフ倶楽部を富士カントリーという名前の会社が運営していることはよく分かっていたというのであり(原告パル企画代表者),また,Lは,その陳述書(乙M3)において,「フジパンが経営している,フジパンがついている(中略)など説明した記憶は全くございません」「原告社長様も,富士カントリーが運営するゴルフ場であれば会員となりたいということで購入する意向を示されたのですから,フジパンが経営している,フジパンがついているなどということには興味はなかったはずです」と述べ,証人尋問においても,原告パル企画代表者との話の中でフジパンが経営しているとか,フジパンがついているとかの説明はしていないと証言する。この供述等に照らし,原告パル企画代表者の供述等をもって,Lが,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部を経営している旨を説明したと認めることはできない。
念のため,仮にLがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との関係に言及したことがあるとして検討すると,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前提事実(1)イ及びウのとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,フジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部が何らかの関係を有することを説明したとしても,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽ということはできない。
また,原告パル企画代表者は,もともと接待に使えるようなゴルフ会員権の購入を希望しており,Lに対してゴルフ会員権の紹介を頼んでいたところ,本件会員権を勧められたので購入したものであり,本件会員権購入の勧誘当時,フジパンについては全く知らなかったというのであるから(原告パル企画代表者),原告パル企画が本件会員権を購入するという投資判断をするにあたって,大多喜城ゴルフ倶楽部とフジパンとの関係が重要な事項であったと認めることは困難である。
上記の諸点に加えて,本件会員募集に際しLが原告パル企画代表者に交付した本件ゴルフ場のパンフレット(甲70の1,2)には,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないこと,ゴルフ会員権の購入を検討している一般的な顧客は,当該ゴルフ場のパンフレットに目を通し,それを1つの重要な資料として購入の是非を検討すると考えられるところ,上記パンフレットを読めば,本件ゴルフ場の運営主体は大多喜城ゴルフ倶楽部であることを容易に理解できるものといえることをあわせ考えると,仮にLがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部が何らかの関係を有することを説明したとしても,それが購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明であったということはできない。
したがって,Lが,本件会員権の内容に関し,原告パル企画の判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告パル企画の主張は採用することができない。
(6) 原告イーストウエストについて
原告イーストウエストは,恵比寿支店担当者が,勧誘に際して「フジパンという会社がついているので心配ありません」という説明を行ったと主張する。
そして,原告イーストウエスト代表者は,その調査回答書(甲49の5)において,「フジパンがバックについているゴルフ場で安心出来る」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,フジパンといういい会社がついているから心配ありませんと聞いた旨供述している。
しかしながら,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前提事実(1)イ及びウのとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,仮に恵比寿支店担当者が,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部のバックにあるという説明をしたとしても,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽ということはできない。
また,原告イーストウエスト代表者は,フジパンがバックについているというのは,経営母体が一緒だという意味だと思っており,入会関係の書類に富士カントリーという名前は出てきたが,フジパンの名前がなかったことは認識していたというのであり(原告イーストウエスト代表者),この供述等に照らすと,原告イーストウエスト代表者は,フジパンが本件ゴルフ場の運営会社でないことは理解していたと推認される。
さらに,原告イーストウエスト代表者は,本件会員権購入の勧誘当時,フジパンは名前も知らず,本件会員権を購入すると決断した理由としてフジパンはどうでもよく,恵比寿支店担当者が大丈夫と言うからであったというのであるから(原告イーストウエスト代表者),原告イーストウエストが本件会員権を購入するという投資判断をするにあたって,大多喜城ゴルフ倶楽部とフジパンとの関係が重要な事項であったと認めることも困難である。
したがって,恵比寿支店担当者が,本件会員権の内容に関し,原告イーストウエストの判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告イーストウエストの主張は採用することができない。
(7) 原告東京ビジネスデータについて
原告東京ビジネスデータは,西船橋支店長が,勧誘に際して「フジパンという名古屋の会社がスポンサーである」「フジパンは優良会社である」「無借金経営である」という説明を行ったと主張する。
そして,Pは,その調査回答書(甲75の1)において,「フジパン系列のゴルフ場でしっかりした会社です」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,フジパンが後ろにいるゴルフ場である,フジパンは優良な無借金の会社であると聞いたが,その意味は,フジパンが,大多喜城ゴルフ倶楽部のスポンサー会社であると理解した旨供述している。
この供述等に照らすと,西船橋支店長がフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との関係に言及したことが窺えないではないが,他方,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前提事実(1)イ及びウのとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,仮に西船橋支店長が,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部と何らかの関係を有するという説明をしたとしても,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽とまでいうことはできない。
また,Pは,フジパンが本件ゴルフ場の運営会社でないことは理解しており,その上で,フジパンは,大多喜城ゴルフ倶楽部の経営がおかしくなるとスポンサーとして救済すると理解していたが,その根拠は,ゴルフ仲間からそれがスポンサーの役割であると聞いていたことであるというのであり(原告東京ビジネスデータ代表者),西船橋支店長からフジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部の倒産時に責任を負う具体的な根拠を示されたなどの事情は認められないから,Pの供述等をもって,西船橋支店長が,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部の経営に責任を負うとか,経営を保証している旨の説明したとは認めるには足りない。
また,Pは,本件会員権を購入すると決断した一番の理由は,Pの顧問先であるイシイエステートが被告から融資を受けるに当たって,Pが本件会員権の購入を断ることが妨害になってはいけないと判断したためであって,フジパンが優良会社かどうかは分からなかったし,ゴルフ場をいくつも持てるような会社だとは思っていなかったというのであるから(原告東京ビジネスデータ代表者),センチュリー監査法人が本件会員権を購入するという投資判断をするにあたって,大多喜城ゴルフ倶楽部とフジパンとの関係が重要な事項であったと認めることは困難である。
したがって,西船橋支店長が,本件会員権の内容に関し,センチュリー監査法人の判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告東京ビジネスデータの主張は採用することができない。
(8) 原告林商事について
原告林商事は,上大岡支店担当者が,勧誘に際して「経営母体がフジパンだ」という説明を行ったと主張する。
そして,原告林商事代表者は,その調査回答書(甲75の2)において,「フジパンが母体となっているゴルフ場と聞いた」「フジパンがついている」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,経営母体がフジパンで,まず大丈夫,安心だと聞いた旨供述している。
この供述等に照らすと,上大岡支店担当者がフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との関係に言及したことが窺えないではないが,他方,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前提事実(1)イ及びウのとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,仮に上大岡支店担当者が,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部と何らかの関係を有するという説明をしたとしても,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽とまでいうことはできない。
また,原告林商事代表者は,フジパンが母体というのは,フジパンが中心になって経営又は会社運営をしているという意味だと思っており,フジパンが本件ゴルフ場の運営会社でないことは理解していたというのであり(原告林商事代表者),上大岡支店担当者からフジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部の倒産時に責任を負う具体的な根拠を示されたなどの事情は認められないから,原告林商事代表者の供述等をもって,上大岡支店担当者が,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部の経営に責任を負うとか,経営を保証している旨の説明したとは認めるには足りない。
さらに,原告林商事代表者は,本件会員権を購入すると決断した理由は,プレーをしたいという気持ちと,ゴルフ会員権の値上がりへの期待であって,フジパンについてはパン屋さん程度の認識しかなかったというのであるから(原告林商事代表者),原告林商事が本件会員権を購入するという投資判断をするにあたって,大多喜城ゴルフ倶楽部とフジパンとの関係が重要な事項であったと認めることは困難である。
上記の諸点に加えて,本件会員権募集に際し上大岡支店担当者が原告林商事代表者に交付した本件ゴルフ場のパンフレット(甲70の1,2)には,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないこと,ゴルフ会員権の購入を検討している一般的な顧客は,当該ゴルフ場のパンフレットに目を通し,それを1つの重要な資料として購入の是非を検討すると考えられるところ,上記パンフレットを読めば,本件ゴルフ場の運営主体は大多喜城ゴルフ倶楽部であることを容易に理解できるものといえることをあわせ考えると,仮に上大岡支店担当者がフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部が何らかの関係を有することを説明したとしても,それが購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明であったということはできない。
したがって,上大岡支店担当者が,本件会員権の内容に関し,原告林商事の判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告林商事の主張は採用することができない。
3 争点1イ(本件会員権に関する断定的な説明の有無)について
(1) 原告らは,被告が,本件会員権購入の勧誘に際し,本件会員権が将来値崩れしない確実なものであり,預託金の返還も確実であると説明し,将来の不確実なことを断定的に説明したと主張する。
そこで検討するに,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件会員権の購入希望者に対して,その購入資金を融資しようとする場合において,購入希望者に対して自ら本件会員権の内容を説明する際には,信義則上,できる限り正確な説明をすべき義務を負うことは2(1)に判示のとおりであり,預託金返還の可能性やゴルフ会員権相場の動向等の投資判断を左右するような重要な事実について,不確実なものをあたかも確実な事実として断定的に説明した結果,購入希望者の任意かつ自由な判断を誤らせたときは,これを信用して本件会員権を購入した者に対し,上記断定的説明と相当因果関係のある損害を賠償すべき義務を負うというべきである。
(2) 原告成和産業について
原告成和産業は,Mが,原告成和産業代表者に対し,預託金の返還について,絶対保証されるし,値崩れすることはないと,不確実なことを断定的に説明したと主張する。
そして,原告成和産業代表者は,その調査回答書(甲49の1)において,「開場されれば会員権の価値は5000万円以上になる事は間違いない」「富士銀行としても担保価値は3500万円とする」「絶対間違いなく返還されるし,その価値以上で市場取引される」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,預託金は絶対保証される,会員数が少ないので5000万円以上になると説明されたと供述する。
しかしながら,原告成和産業代表者の供述等のみをもってたやすくMの具体的な説明内容を認めることはできないし,仮に,Mが,本件会員権の価格が下落しても預託金は大多喜城ゴルフ倶楽部から返還されると説明したとしても,それは預託金制度の一般的仕組を述べたにすぎず,これをもって断定的説明ということはできない。
念のため,仮にMが本件会員権の価格の動向について言及したことがあるとして検討すると,Mが原告成和産業に対する勧誘を行った当時において,ゴルフ会員権価格相場は未だ高騰が続いていたのであるから(甲M12の11),Mが本件会員権の価格の値上がりの可能性に言及したとしても,それが全く不合理な主観的予測に基づく評価であったとは言い難い。
また,将来におけるゴルフ会員権の価格が経済情勢によって上下することは何ら専門的知識を有しない者でも当然推知し得るものであり,原告成和産業代表者自身,ゴルフ場会員権の価格の変動があり得ることは理解していたというのであるから(原告成和産業代表者),Mが本件会員権の価格上昇について述べたとしても,当時の社会情勢を踏まえた上での一般的な予測にとどまり,原告成和産業代表者においてもその趣旨を理解していたと推認することができ,これにより原告成和産業の任意かつ自由な判断が誤らされたものとは認めることができない。
さらに,原告成和産業代表者は,Mが被告において本件会員権を担保として評価すると説明した旨供述するけれども,原告成和産業代表者の述べるところによっても,本件会員権につき被告が一定額での買取りを約束するとか,預託金返還請求権の履行を保証するといった具体的な内容ではないことからすると,その意味するところは,被告が本件ゴルフ場を優良なゴルフ倶楽部であると評価していることを述べたものとみるのが相当であり,Mの行った説明が,本件会員権の安全性を過度に強調したものであって,原告成和産業が本件会員権を購入する際の判断を誤らせるような不適切なものであったとは認めることはできない。
したがって,Mが,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性や会員権相場等の将来における変動が不確実な事実について断定的説明を行い,原告成和産業の任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告成和産業の主張は採用することができない。
(3) 原告インテリア・エースについて
原告インテリア・エースは,Nが,原告インテリア・エース代表者に対し,預託金の返還について,バックがフジパンだから確実であると説明したと主張する。
そして,原告インテリア・エース代表者は,その調査回答書(甲49の2)において,「バックがフジパンだから問題ない」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,預託金の返還について期限が到来すれば返還される旨説明されたと供述する。
しかしながら,フジパンとの関係についてのNの説明が原告インテリア・エースの判断を誤らせたと認められないことは前記2(3)のとおりである。また,Nが預託金について期限が到来すれば返還される旨述べたとしても,預託金制度について一般的仕組を述べたにすぎず,これをもって断定的説明と評価することはできない。
したがって,Nが,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性について断定的説明を行い,原告インテリア・エースの任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告インテリア・エースの主張は採用することができない。
(4) 原告三洋工亊について
原告三洋工亊は,K及びOが,原告三洋工亊代表者に対し,預託金の返還について,「フジパンだから,15年後の返還時期においては間違いなく戻ってくる」と説明したと主張する。
そして,原告三洋工亊代表者は,その調査回答書(甲49の3)において,「フジパンが経営母体であるので絶対に確実である」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,経営母体がフジパンであるから15年後の預託金返還は心配ないと説明されたと供述する。
しかしながら,フジパンとの関係についてK及びOが原告三洋工亊の判断を誤らせるような説明を行ったと認められないことは前記2(4)のとおりである。また,預託金の返還が確実という説明を行ったことについても,Kは,富士カントリーの経営や財務状態の詳細を知っていた訳ではないので,そのような説明ができるはずがないと証言しており,この証言に照らすと,原告三洋工亊代表者の供述等をもってK及びOが預託金の返還が確実との説明を行ったと認めるには足りない。
したがって,K又はOが,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性について断定的説明を行い,原告三洋工亊の任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告三洋工亊の主張は採用することができない。
(5) 原告パル企画について
原告パル企画は,Lが,原告パル企画代表者に対し,「経営に関しては何の心配もいらない」「億という値が付くゴルフ場だから,6000万円ぐらいに行ったところで売ったらどうですか」と説明したと主張する。
そして,原告パル企画代表者は,その調査回答書(甲49の4)において,「第一勧銀よりゴルフ場に役員を送り込んでいるので,経営に関しては当行も見るので心配いらない」「将来は名門コースとなり,どんなに少なく見積もっても6千万円から1億円くらいになっているので,名義が書き換え可能な時期が来たら,いつでも高値で売れます」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,Lが被告から富士カントリーの役員を派遣しているので大丈夫である旨や本件会員権はやがて値上がりするので6000万円程度になったら売ったらどうかと説明されたと供述する。
他方で,Lは,その陳述書(乙M3)において,「銀行が経営を見るから心配がない,いつでも高値で売れる,(中略)など説明した記憶は全くございません」と述べ,証人尋問においても,本件会員権の値上がりについては述べていないと証言する。
そこで,検討すると,Lの供述等に照らすと,原告パル企画代表者の供述等をもって,Lが,原告パル企画代表者に対し,銀行が経営を見ている旨や6000万円程度になったら売ったらどうかと述べたとは認められない。
念のため,仮にLが本件会員権の値上がりの可能性について言及したことがあるとして検討すると,Lが原告パル企画に対する勧誘を行った当時において,ゴルフ会員権価格相場は未だ高騰が続いていたのであるから(甲M12の11),Lが本件会員権の価格の値上がりの可能性に言及したとしても,それが全く不合理な主観的予測に基づく評価であったとは言い難い。
また,将来におけるゴルフ会員権の価格が経済情勢によって上下することは何ら専門的知識を有しない者でも当然推知し得るものであり,原告パル企画代表者自身,本件会員権の購入前に,所有していたゴルフ会員権の経営会社が倒産し,預託金の返還を受けることができなかった経験があるというのであるから(原告パル企画代表者),ゴルフ会員権の価格変動により損失を被る可能性を理解していなかったとは到底認められない。そうであるならば,Lが本件会員権の価格の値上がりの可能性について言及したとしても,これにより原告パル企画の任意かつ自由な判断が誤らされたとまでは認めることができない。
したがって,Lが,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性や会員権相場等の将来における変動が不確実な事実について断定的説明を行い,原告パル企画の任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告パル企画の主張は採用することができない。
(6) 原告イーストウエストについて
原告イーストウエストは,恵比寿支店担当者が,原告イーストウエスト代表者に対し,「フジパンがついているのだから大丈夫」と説明したと主張する。
そして,原告イーストウエスト代表者は,その調査回答書(甲49の5)において,「フジパンがバックに付いているゴルフ場で安心出来る」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,恵比寿支店担当者が大丈夫と言ったから本件会員権を購入することにしたと供述する。
しかしながら,原告イーストウエスト代表者自身フジパンはどうでもよかった旨述べていることは前記2(6)のとおりである。また,原告イーストウエスト代表者は,恵比寿支店担当者が大丈夫だと説明した旨供述するが,原告イーストウエスト代表者の述べるところによっても,本件会員権につき被告が一定額での買取りを約束するとか,預託金返還請求権の履行を保証するといった具体的な内容ではないことからすると,その意味するところは,被告が本件ゴルフ場を優良なゴルフ倶楽部であると評価していることを述べたものとみるのが相当であり,恵比寿支店担当者の行った説明が,本件会員権の安全性を過度に強調したものであって,原告イーストウエストが本件会員権を購入する際の判断を誤らせるような不適切なものであったとは認めることはできない。
したがって,恵比寿支店担当者が,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性について断定的説明を行い,原告イーストウエストの任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告イーストウエストの主張は採用することができない。
(7) 原告東京ビジネスデータについて
原告東京ビジネスデータは,西船橋支店長が,Pに対し,フジパンは無借金経営の会社だからつぶれる心配はなく大丈夫だと強調して,ゴルフ場が倒産する心配はないと説明したと主張する。
そして,Pは,その調査回答書(甲75の1)において,「フジパン関係の会社だから安心である」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,フジパンが後ろにいるので大丈夫であると説明されたと供述する。
しかしながら,フジパンとの関係について西船橋支店長がセンチュリー監査法人の判断を誤らせるような説明を行ったと認められないこと,P自身,フジパンが優良会社かどうかは分からなかったし,ゴルフ場をいくつも持てるような会社だとは思っていなかった旨述べていることは前記2(7)のとおりである。また,Pは,預託金の返還の確実性について説明があったかとの質問に対し,会社の内容がわからないし,決算書も見たことのない会社だから,返還の確実性は全然検討もしなかったと述べ,西船橋支店長は,預託金の償還の確実性について直接的な言い方はしていないというのであり(原告東京ビジネスデータ代表者),Pの述べるところによっても,本件会員権につき被告が一定額での買取りを約束するとか,預託金返還請求権の履行を保証するといった具体的な内容ではないことからすると,その意味するところは,被告が本件ゴルフ場を優良なゴルフ倶楽部であると評価していることを述べたものとみるのが相当であり,西船橋支店長の行った説明が,本件会員権の安全性を過度に強調したものであって,センチュリー監査法人が本件会員権を購入する際の判断を誤らせるような不適切なものであったとは認めることはできない。
したがって,西船橋支店長が,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性について断定的説明を行い,センチュリー監査法人の任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告東京ビジネスデータの主張は採用することができない。
(8) 原告林商事について
原告林商事は,上大岡支店担当者が,原告林商事代表者に対し,「経営母体がフジパンだから,安心だ」「大丈夫」「第一勧銀の行員も買っている」と説明したと主張する。
そして,原告林商事代表者は,その調査回答書(甲75の2)において,「フジパンが母体なので大丈夫と思った」「法人が主に購入しており,第一勧業銀行の行員も多く購入しているので安心」と説明された旨を述べ,代表者尋問においても,経営母体がフジパンで,まず大丈夫,安心だと説明され,加えて,第一勧銀の行員も買っているからまず心配ない旨説明されたと供述する。
しかしながら,フジパンとの関係について上大岡支店担当者が原告林商事代表者の判断を誤らせるような説明を行ったと認められないことは前記2(8)のとおりである。また,原告林商事代表者は,富士カントリーのパンフレットやゴルフ雑誌を見ていいゴルフ場だと判断した,当時,ゴルフ会員権の市場はいいと考えており,預託金の心配は全然していなかったというのであり(原告林商事代表者),また,原告林商事代表者の述べるところによっても,本件会員権につき被告が一定額での買取りを約束するとか,預託金返還請求権の履行を保証するといった具体的な内容ではないことからすると,その意味するところは,被告が本件ゴルフ場を優良なゴルフ倶楽部であると評価していることを述べたものとみるのが相当であり,上大岡支店担当者の行った説明が,本件会員権の安全性を過度に強調したものであって,原告林商事が本件会員権を購入する際の判断を誤らせるような不適切なものであったとは認めることはできない。
なお,本件ゴルフ場は,法人専用のゴルフ場であるから(甲70の4),上大岡支店担当者が,被告(当事は株式会社第一勧業銀行)の行員も本件会員権を購入している旨の説明をしたとは考えがたい。
したがって,上大岡支店担当者が,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性について断定的説明を行い,原告林商事の任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告林商事の主張は採用することができない。
4 争点1ウ(本件会員権の危険性に関する説明義務違反の有無)について
(1) 原告らは,富士カントリーが大多喜城ゴルフ倶楽部の預託金を含めた資金を海外ゴルフ場開発や各種の投資,絵画の購入等の事業に支出しており,それら事業が頓挫した場合にはゴルフ場経営や預託金の償還に支障が生じることや,今後のゴルフ事業には不確定要素が多く,預託金の将来の償還については危険性がある状況であったことを,被告は知り又は知り得たにもかかわらず,原告らにこれらの危険性を説明しなかった義務違反があると主張する。
しかしながら,金融機関の従業員が,その取引先等に対して融資を受けてゴルフ会員権を購入するように積極的に勧誘し,その結果として,当該取引先等がゴルフ会員権を購入するに至ったものの,自ら虚偽の説明や,不確実なものをあたかも確実な事実とする断定的な説明を行ったことにより当該取引先等の判断を誤らせたという事情は存在しない場合においては,当該従業員がゴルフ会員権の預託金の償還が見込まれないことを認識していながらこれを当該取引先等に殊更に知らせなかったことなど,信義則上,当該従業員の当該取引先等に対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情のない限り,当該従業員がゴルフ場運営会社の経営内容や預託金の償還可能性等について調査した上で顧客に説明しなかったとしても,それが法的義務に違反し,当該取引先等に対する不法行為を構成するものということはできないものというべきである。
(2)ア これを本件についてみると,被告担当者は,本件提携ローン合意に基づき(原告林商事については被告からの融資を目的として),原告らに対して本件会員権の購入を勧誘したものであり,原告らによる本件会員権の購入と被告からの融資は極めて密接な関連性を有していることは前記2(1)のとおりであり,この事実は,上記の特段の事情を肯定する方向の一要素ということができる。
イ しかしながら,証拠(甲120,甲M11の12,甲M12の2,5から11まで,甲M13の5)によれば,昭和60年ころから,ゴルフ場の開発がブームになり,ゴルフ会員権の相場も高騰を始め,昭和63年ころから平成元年ころにかけては,さらに相場が上昇し,千葉県内のゴルフ会員権が数千万円で販売されることも珍しくない状態であったことが認められ,一部にゴルフ場の供給過剰を懸念する指摘もあったものの,本件会員権勧誘当時において,ゴルフ場を経営する会社の倒産やゴルフ場の開発の著しい遅延という具体的な状況が存し,社会的な問題となっていたという状況はうかがうことはできず,一般に大多喜城ゴルフ倶楽部を含むゴルフ場運営会社が破たんするおそれがあると予見できる状況にはなかったことが認められる。
大多喜城ゴルフ倶楽部が民事再生手続開始の申立てをするに至った原因をみても,その主たる要因は,富士カントリー関係の海外ゴルフ場等への投融資が回収不能に陥ったこと,バブル経済崩壊後における経済不況の深刻化・長期化によって,会員権購入のためのローンの支払が困難となる会員が続出した結果,金融機関から大多喜城ゴルフ倶楽部への保証債務の履行請求が相次いだこと,本件会員権の相場の大幅な下落により会員からの預託金の返還請求が避けられない見込みとなったことによるものであり,いずれも,原告らが本件会員権を購入した後に生じたものである。
このほか,本件ゴルフ会員権契約締結当時,大多喜城ゴルフ倶楽部や富士カントリーが,他のゴルフ場運営会社と比較して特に経営基盤が脆弱で預託金の返還の実行余力に乏しいと認識されていたとか,被告が大多喜城ゴルフ倶楽部や富士カントリーの将来における破綻を予測させるような事実ないしその兆候を認識していたと認めるに足りる証拠もなく,これを予測することは極めて困難であったというべきである。
ウ(ア) 原告成和産業代表者は,精密機械器具販売を主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,本件会員権購入の勧誘前からゴルフを趣味としていたこと,Mから説明を受けた後,他の役員とも相談の上,本件会員権を購入することを決めたこと,購入の目的,動機として,接待用のゴルフ場が必要であり,会員権の値上がりも期待していたこともあったこと(以上の事実は,甲49の1,原告成和産業代表者)に照らすと,原告成和産業代表者が,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,Mが原告成和産業代表者の思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
(イ) 原告インテリア・エース代表者は,舞台・展示装飾を主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,本件会員権購入前からゴルフを趣味としていたこと,Nから説明を受けた後,自己の意思に従って本件会員権を購入することを決めたこと,購入の目的,動機は,顧客を接待できる立派なゴルフ場が欲しかったということであったこと(以上の事実は,甲49の2,原告インテリア・エース代表者)に照らすと,原告インテリア・エース代表者が,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,Nが原告インテリア・エース代表者の思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
(ウ) 原告三洋工亊代表者は,さく井及びとび土工基礎工事を主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,本件会員権購入の勧誘当時,12,3年のゴルフ歴を有していたこと,K及びOから説明を受けた後,税理士とも相談の上,本件会員権を購入することを決めたこと(以上の事実は,甲49の3,原告三洋工亊代表者)に照らすと,原告三洋工亊代表者が,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,K及びOが原告三洋工亊代表者の思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
(エ) 原告パル企画代表者は,建売住宅販売を主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,本件会員権購入の勧誘当時,三つのゴルフ会員権を所有しており,ゴルフ場の経営会社が倒産したため,預託金が償還されない経験を有していたこと,原告パル企画代表者は,もともと接待に使えるようなゴルフ会員権の購入を希望し,Lに対してゴルフ会員権の紹介を頼んでおり,Lから説明を受けた後,自己の意思に従って本件会員権を購入することを決めたこと(以上の事実は,甲49の4,原告パル企画代表者)に照らすと,原告パル企画代表者が,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,Lが原告パル企画代表者の思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
(オ) 原告イーストウエスト代表者は,コンピュータを使った画像処理等を主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,恵比寿支店担当者から説明を受けた後,自己の意思に従って本件会員権を購入することを決めたこと,購入の目的,動機は,被告から頼まれたからであり,できる範囲で協力しようということであったこと(以上の事実は,甲49の5,原告イーストウエスト代表者)に照らすと,原告イーストウエスト代表者が,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,恵比寿支店担当者が原告イーストウエスト代表者の思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
(カ) センチュリー監査法人代表社員であったPは,公認会計士のほか,税理士,社会保険労務士等の資格を有し,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,しかも,本件会員権購入の勧誘当時,センチュリー監査法人名義で八,九つのゴルフ会員権を所有しており,ゴルフ場の仕組については理解していたこと,西船橋支店長から説明を受けた後,自己の意思に従って本件会員権を購入することを決めたこと,Pが本件会員権を購入すると決断した理由は,Pの顧問先が被告から融資を受けるに当たって妨害になってはいけないと判断したことにあり,預託金の返還の確実性については検討もしなかったこと(以上の事実は,原告東京ビジネスデータ代表者)に照らすと,Pが,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,西船橋支店長がPの思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
(キ) 原告林商事代表者は,飲食業を主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,しかも,本件会員権購入の勧誘当時,原告林商事名義で二つのゴルフ会員権を所有し,これに加えて新たなゴルフ会員権を購入する考えを持っており,そのための融資を上大岡支店担当者に依頼していたこと,上大岡支店担当者から説明を受けた後,パンフレットやゴルフ雑誌等により情報収集を行った上,自己の意思に従って本件会員権を購入することを決めたこと,購入の目的,動機は,原告林商事代表者としてもプレーをしたいという気持ちと,ゴルフ会員権の値上がりへの期待であったこと(以上の事実は,甲75の2,原告林商事代表者)に照らすと,原告林商事代表者が,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,上大岡支店担当者が原告林商事代表者の思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
エ 以上の諸点にかんがみると,本件において,信義則上,被告担当者の原告らに対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情を認めることはできず,被告担当者が大多喜城ゴルフ倶楽部の経営内容や預託金の償還可能性等について調査した上で原告らに説明しなかったとしても,それが法的義務に違反し,被告の原告らに対する不法行為を構成するものということはできない。
5 争点1エ(金融機関の優越的地位の濫用の有無)について
(1) 原告らは,被告担当者は,著名金融機関の行員としての社会的な信用に加えて,原告ら(原告東京ビジネスデータについてはPが顧問をしていたイシイエステート)との継続的な銀行取引によって培ってきた信頼関係や,原告らの経営内容や資産状況などの内情を把握しているという点や,融資している若しくは今後も融資の可否を判断する立場という総合的な優越的地位を有しており,被告は,その立場を利用して本件会員権の販売を媒介したと主張する。
なるほど,金融機関が,顧客に対し,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,不利益な条件での取引を余儀なくさせた場合には,不法行為を構成する余地があるものと解すべきである(独占禁止法2条9項5号,19条及び一般指定14項1号)。
(2) 原告成和産業について
原告成和産業代表者は,その調査回答書(甲49の1)において,「取引銀行を仲介として断れない環境の中での勧誘」であった旨を述べている。
しかしながら,原告成和産業代表者は,代表者尋問においては,「特別それは買わなかったら貸付額絞りますよと言われたわけじゃありません」と供述し,Mの勧誘を受けた後,約1か月くらい他の役員と相談した上で,本件会員権の購入を決めていること(原告成和産業代表者)に照らすと,Mが,原告成和産業代表者に対し,本件会員権を購入しなければ融資をしないとか,既存の融資の早期返済を迫る等の不利益を与える態度を示していたとは認められない。
(3) 原告インテリア・エースについて
原告インテリア・エース代表者は,被告から融資を受けていたけれども,本件会員権の購入を断れないとは思っていなかったというのであり(原告インテリア・エース代表者),Nが,原告インテリア・エース代表者に対し,本件会員権を購入しなければ今後の取引に不都合が生ずるかのような態度を示していたとは認められない。
(4) 原告三洋工亊について
本件会員権購入の勧誘当時の原告三洋工亊と被告との関係は,原告三洋工亊が被告大井町支店に口座を設けて入出金のために利用していたというにすぎず,被告から融資を受けたことはなく,また,原告三洋工亊代表者は,将来の融資のために銀行員の頼みを聞いておこうと思ったというものの,具体的な融資の必要性はなかったのであり(原告三洋工亊代表者),同原告は,本件会員権購入にかかるローンにつき,ローン実行後の2年2か月後には自己資金により繰上返済していること(甲49の3)に照らすと,被告が,原告三洋工亊に対して,優越的な地位を有していたとは到底認められない。
(5) 原告パル企画について
原告パル企画代表者は,その調査回答書(甲49の4)において,Lの説明では,当行に関係の深いゴルフ会員権を売れば,支店長の成績になると言われた旨を述べ,代表者尋問においても,被告からの融資が10億から20億くらいあり,支店長であるLの勧めであったため有無もなく本件会員権を購入した旨供述する。
しかしながら,本件会員権購入の勧誘当時,原告パル企画においては,横須賀信用金庫(現在の湘南信用金庫)からの融資が一番多く,被告からの融資は次順位であったこと,原告パル企画と被告の間においては,被告が建売住宅に適した土地の情報を原告パル企画に提供し,原告パル企画が建売住宅の顧客を住宅ローンの希望者として被告に紹介するという相互関係が存在したこと(原告パル企画代表者,証人L),したがって,被告横須賀堀之内支店にとっては原告パル企画は重要な取引先であったこと(乙M3,証人L)の各事実に照らすと,被告が,原告パル企画に対し,優越的地位を有していたとは到底認められない。また,原告パル企画代表者は,Lに対して自らゴルフ会員権の紹介を頼んでいたというのであり,原告パル企画代表者の供述等によっても,Lが,原告パル企画代表者に対し,本件会員権を購入しなければ今後の取引に不都合が生ずるかのような態度を示していたとは認められない。
(6) 原告イーストウエストについて
原告イーストウエスト代表者は,その調査回答書(甲49の5)において,「銀行取引を密にする為,要望を受けざるを得ませんでした」と述べ,代表者尋問において,周りを固められた,恵比寿支店担当者がしつこく応じざるを得ないと思った旨供述する。
しかしながら,原告イーストウエスト代表者は,代表者尋問において,本件会員権購入の勧誘当時,株式会社三井銀行がメインで被告はサブであったが,本件会員権の購入に応じたのはメインを切り替ようという意図があったこと,恵比寿支店担当者からの本件会員権の購入依頼を一度断ったことがあったこと,それにもかかわらず購入に応じたのは,取引銀行から頼まれたことについて,できる限りの範囲で損益を考えて協力をしようという姿勢であったことを供述しており,これらの供述に照らすと,恵比寿支店担当者が,原告イーストウエスト代表者に対し,本件会員権を購入しなければ今後の取引に不都合が生ずるかのような態度を示していたとは認められない。
(7) 原告東京ビジネスデータについて
Pは,代表者尋問において,本件会員権を購入した理由について,Pの顧問先であるイシイエステートが被告から融資を受けるに当たってPが購入しないことが妨害になってはいけないと判断したためであると供述する。
しかしながら,西船橋支店長が,Pに対し,本件会員権を購入しなければ被告からイシイエステートに対する融資に不都合が生ずるかのような態度を示していたと認めるに足りる証拠はない。また,被告は,P及びセンチュリー監査法人とは取引がなかったのであるから,Pとイシイエステートとの関係を考慮しても,被告がセンチュリー監査法人に対して取引上の優越的な地位を有していたとは到底認められない。
(8) 原告林商事について
原告林商事代表者の調査回答書(甲75の2)や代表者尋問においても,上大岡支店担当者が,原告林商事代表者に対し,本件会員権の購入の有無によって他の融資に影響があることを示唆したことなどに関する供述等はなく,かえって,原告林商事代表者は,本件会員権購入の勧誘当時,二つのゴルフ会員権を所有し,これに加えて新たなゴルフ会員権を購入する考えを持っており,そのための資金として6000万円の融資を上大岡支店担当者に依頼し,その内諾を得ていたというのであるから,上大岡支店担当者が本件会員権を購入しなければ今後の取引に不都合が生ずるかのような態度を示していたとは到底認められない。。
(9) したがって,被告が金融機関としての取引上の優越的地位を不当に利用したものとは認められず,原告らの主張は,理由がない。
6 争点1オ(販売媒介行為の銀行法違反の有無)について
原告らは,ゴルフ場関係者の説明や勧誘など一切介在しない入会手続は,銀行法及び大蔵省の通達によって禁止されている銀行の目的外行為であり,その行為に対して協力預金という名のもとに対価が支払われていたから,違法であると主張する。
そこで検討するに,被告担当者は,原告らの本件会員権購入に際し,原告らから大多喜城ゴルフ倶楽部に対する入会申込書を受領して大多喜城ゴルフ倶楽部に送付したこと,他方,原告らは,大多喜城ゴルフ倶楽部の会員権を購入するにあたって,被告担当者から説明を受けたのみで,富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が関与したことがなかったことは,前記第2の1(2)及び(3)のとおりである。
なるほど,銀行法は,10条1項1号ないし3号において,銀行の営む業務を列挙した上,同条2項において,同項に掲げる業務その他の銀行業に付随する業務を営むことができると規定し,12条において,10条及び11条の規定により営む業務及び担保付社債信託法その他の法律により営む業務のほか,他の業務を営むことはできないと規定して,銀行が法の定める業務のほか,他の業務を営むことを禁止している。
しかしながら,本件において,被告自身はゴルフ場運営事業を営むものではなく,本件会員権購入の勧誘は,被告の業務そのものである融資契約の締結を勧誘する目的で行われたものであるから,本件会員権購入の勧誘行為自体は,銀行法10条2項の定める銀行業に付随する業務とみることができないではない。
また,銀行法が,銀行の行う業務を制限した趣旨は,銀行に無制限の業務を許した場合には,その業務の内容及び遂行如何によって,銀行が多大な損失を被り,経営基盤を危うくする事態も想定されることから,銀行の行うことができる業務を一定の範囲に制限し,もって,銀行経営の健全性を確保することにあると解されるところ,被告の従業員が本件会員権購入の媒介をしたとしても,直接,被告が何らかの債務を負担するものではないから,本件会員権購入の媒介をすることにより,直ちに被告の経営の健全性が損われるおそれがあるということもできない。そうすると,本件会員権購入の勧誘は,大多喜城ゴルフ倶楽部若しくは富士カントリーの関係者の関与がなかったとしても,銀行法12条の趣旨に違反するとまでいうことはできない。
さらに,原告らは,本件会員権購入の勧誘が,大蔵省の発出した通達に違反すると主張し,「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」(昭和57年4月1日蔵銀第901号)の別紙1「銀行経営のあり方」1(3)「社会的批判を受けかねない過剰サービスの自粛」中の「他金融機関への過度な預金紹介,顧客に対する金融商品以外の商品の紹介・斡旋,顧客が振り出した他店券の見做現金扱いによる不当な便益供与,顧客の印鑑及び押印済預金払戻請求書の預かりなど正常な取引慣行に反する行為,その他過当競争の弊害を招き社会的批判を受けかねない行為は厳に慎しむものとする。」との記載部分を指摘する。しかしながら,同通達の別紙1は,平成4年4月30日に定められたものであって,本件会員権購入の勧誘当時には存在しないものであったから,原告らの主張は,その前提を欠くといわざるを得ない。
したがって,被告の行った本件会員権購入の勧誘が,銀行法12条に違反し,不法行為に該当するという原告らの主張は,採用することができない。
第4 結論
以上のとおり,被告の勧誘行為について違法性があるということはできず,その余について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないから,これをいずれも棄却することとしし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鹿子木康 裁判官 小川雅敏 裁判官 進藤光慶)
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