「営業支援」に関する裁判例(108)平成21年 3月27日 東京地裁 平17(ワ)25366号 譲受債権反訴請求事件
「営業支援」に関する裁判例(108)平成21年 3月27日 東京地裁 平17(ワ)25366号 譲受債権反訴請求事件
裁判年月日 平成21年 3月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)25366号
事件名 譲受債権反訴請求事件
裁判結果 請求認容 文献番号 2009WLJPCA03278010
要旨
◆原告が、補助参加人に対して有する貸付金債権を含む債権を担保するため、補助参加人から、補助参加人の被告に対するETC車載器の売買代金債権に根債権譲渡担保権の設定を受けたとして、被告に対し上記売買代金の支払を求めた事案において、被告従業員Dは、ETC車載器について被告を代理して第三者との間で売買取引を行う権限を与えられていたと認められるから、被告の事業に関するある種類又は特定の事項の処理につき委任を受けた使用人であり、補助参加人はDの代理権の制限を知らず、そのことに重過失もないから、Dが締結した売買契約の効果は被告に帰属し、またこの売買契約が通謀虚偽表示によって無効であるともいえないとして、原告の請求が認められた事例
参照条文
民法94条
会社法14条
裁判年月日 平成21年 3月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)25366号
事件名 譲受債権反訴請求事件
裁判結果 請求認容 文献番号 2009WLJPCA03278010
東京都千代田区〈以下省略〉
反訴原告 株式会社三井住友銀行
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 海老原元彦
同 若林茂雄
同 栗原さやか
同 福谷賢典
同 川島亜記
同訴訟復代理人弁護士 木村和也
東京都港区〈以下省略〉
反訴原告補助参加人 株式会社クロムサイズ
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 松坂祐輔
同 小倉秀夫
同 大下信
同 濵田弘幸
東京都目黒区〈以下省略〉
反訴被告 株式会社パスコ
同代表者代表取締役 C
同訴訟代理人弁護士 石田省三郎
同 鎮西俊一
主文
1 反訴被告は,反訴原告に対し,20億1022万8000円及びうち6億0060万円に対する平成17年11月1日から,うち14億0962万8000円に対する同年12月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,反訴被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文第1項と同旨
第2 事案の概要
本件は,反訴原告(以下「原告」という。)が,反訴原告補助参加人(以下「補助参加人」という。)に対して有する貸付金債権を含む債権を担保するため,補助参加人から,補助参加人の反訴被告(以下「被告」という。)に対するETC車載器の売買代金債権に根債権譲渡担保権の設定を受けたとして,被告に対し,上記売買代金20億1022万8000円及びうち6億0060万円に対する弁済期の翌日である平成17年11月1日から,うち14億0962万8000円に対する弁済期の翌日である同年12月1日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 前提となる事実(括弧内に証拠等を記載した事実以外は争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は,銀行業等を営む株式会社である。
イ 被告は,航空機を使用する事業,航空写真測量,地上測量,水路測量等測量全般及び土木設計調査並びにコンピュータ情報処理サービス並びに情報処理データ,ソフトウェア及び情報処理機器の開発,販売,リース,レンタル等の事業を目的とする株式会社である。
ウ 補助参加人は,インターネット接続業等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告の補助参加人に対する貸付け
ア 原告と補助参加人は,平成17年7月27日,上限金額を7億円,期間を平成18年7月27日までとして,貸付基本契約を締結した(以下「本件基本契約」という。乙1)
イ 原告は,補助参加人に対し,平成17年7月28日,本件基本契約に基づき,弁済期を同年8月26日として,5億1480万円を貸し付けた(以下「本件貸付1」という。乙2の1)。
原告と補助参加人は,その後,上記弁済期を同年10月31日と変更した(弁論の全趣旨)。
ウ 原告は,補助参加人に対し,平成17年8月3日,手形貸付の方法により,弁済期を同年11月30日として,11億5200万円を貸し付けた(以下「本件貸付2」という。乙2の2)。
エ 原告は,補助参加人に対し,平成17年8月31日,本件基本契約に基づき,弁済期を同年9月20日として,1億8000万円を貸し付けた(以下「本件貸付3」といい,本件貸付1ないし3に係る貸付金債権を「本件貸付金債権」という。乙2の3)。
原告と補助参加人は,その後,上記貸付金の弁済期を同年11月30日と変更した。
(3) 売買契約
ア 被告の従業員D(役職名は,システム事業部ビジネス営業部第2グループ長。以下「D」という。)は,補助参加人との間で,平成17年7月25日ころ,被告のために,被告が補助参加人から,別紙物件目録記載1のETC車載器合計5万2000台を代金6億0060万円(消費税相当額を含む。)で買い受ける売買契約(以下「本件売買契約1」という。)を締結した(甲5,甲15,弁論の全趣旨)。
イ Dは,補助参加人との間で,同日ころ,被告のために,被告が,補助参加人から,別紙物件目録記載2のETC車載器合計9万2000台を代金12億0960万円(消費税相当額を含む。)で買い受ける売買契約(以下「本件売買契約2」という。)を締結した(甲7,甲15,弁論の全趣旨)。
ウ Dは,補助参加人との間で,平成17年8月29日ころ,被告のために,被告が,補助参加人から,別紙物件目録記載3のETC車載器1万2660台を代金2億0002万8000円(消費税相当額を含む。)で買い受ける売買契約(以下「本件売買契約3」といい,本件売買契約1ないし3を併せて「本件各売買契約」という。)を締結した(甲9,弁論の全趣旨)。
(4) 根譲渡担保権設定
ア 補助参加人は,原告に対し,平成17年7月28日,補助参加人が原告に対して本件基本契約に基づく銀行取引により負担する一切の債務(以下「本件被担保債務」という。)を担保するため,本件売買契約1の売掛債権6億0060万円について根債権譲渡担保権を設定した(以下「根債権譲渡担保権設定1」という。乙4の1,2,弁論の全趣旨)。
イ 補助参加人は,原告に対し,同年8月31日,本件被担保債務を担保するため,本件売買契約3の売掛債権2億0002万8000円について根債権譲渡担保権を設定した(以下「根債権譲渡担保権設定2」という。乙4の2,乙5の1,2)。
ウ 補助参加人は,原告に対し,同年11月2日,本件被担保債務を担保するため,本件売買契約2の売掛債権12億0960万円について根債権譲渡担保権を設定した(以下「根債権譲渡担保権設定3」という。乙4の2,乙6の1,2,弁論の全趣旨)。
(5) 債権譲渡通知
ア 補助参加人は,Dに対し,平成17年7月27日ころ根債権譲渡担保権設定1につき,同年8月3日ころ根債権譲渡担保権設定2につき,同月29日ころ根債権譲渡担保権設定3につき,それぞれその旨を通知した(甲3,甲4,甲6,甲8,弁論の全趣旨)。
イ 補助参加人は,被告に対し,平成20年7月11日の本件口頭弁論期日において,根債権譲渡担保権設定1ないし3について通知した(顕著な事実)。
2 争点及びこれについての当事者の主張
(1) Dの代理権限
(原告の主張)
ア ETC車載器の買受け
(ア) Dは,平成16年12月15日ころ,被告のために,三井物産プラントシステム株式会社(旧商号三井物産交通システム株式会社。以下「三井物産交通システム」という。)から,コシダテック製ETC車載器2万台を買い受けた。
被告と三井物産交通システムは,平成17年3月9日ころ,上記売買契約を合意解除した。
(イ) Dは,平成17年3月4日,被告のために,三井リース事業株式会社(以下「三井リース」という。)から,ETC車載器合計4万5730台(三菱電機製EP-223Bが2万0730台,パナソニック製CY-ET800Dが1万台,トヨタ製08685-00120が1万5000台)を代金5億2422万1425円(消費税相当額を含む。)で買い受けた。
(ウ)a Dは,同月31日,被告のために,エヌ・ティ・ティ・リース株式会社(以下「NTTリース」という。)から,ETC車載器合計1万5500台(三菱電機製EP-223Bが5000台,デンソー製DIU-3600が1万0500台)を代金1億1283万円(消費税相当額を含む。)で買い受けた。
b Dは,同年4月20日,被告のために,NTTリースから,ETC車載器7500台(パナソニック製CY-ET800D)を代金1億9912万7250円(消費税相当額を含む。)で買い受けた。
(エ) Dは,同年3月10日,被告のために,株式会社関東宇佐美(以下「関東宇佐美」という。)から,ETC車載器7000台(トヨタ製08685-001200)を代金5769万7500円(消費税相当額を含む。)で買い受けた。
(オ) Dは,同日,被告のために,株式会社東京宇佐美(以下「東京宇佐美」という。)から,ETC車載器7000台(トヨタ製08685-001200)を代金5769万7500円(消費税相当額を含む。)で買い受けた。
(カ) Dは,同月25日,被告のために,株式会社ライネット(以下「ライネット」という。)からETC車載器1万6000台(三菱製が7800台,パナソニック製が8200台)を代金9744万円(消費税相当額を含む。)で買い受けた。
(キ) Dは,同月29日,被告のために,クレディセゾン株式会社(以下「クレディセゾン」という。)から,ETC車載器合計7500台(古野電気製JHP-101A)を代金3000万円(消費税相当額を含む。)で買い受けた。
(ク) Dは,同年4月7日,被告のために,三井物産交通システムから,ETC車載器合計3万3000台(三菱電機製EP-223Bが1万0500台,古野電気製JHP-101Aが7500台,デンソー製DIU-3600が1万5000台)を代金5億2156万0725円(消費税相当額を含む。)で買い受けた。
(ケ) Dは,上記(ア)ないし(ク)の売買の際,当該売買契約につき,被告を代理する権限を有していた。
イ ETC車載器の売渡し
(ア)a Dは,平成17年3月11日,被告のために,株式会社DSI(以下「DSI」という。)に対し,ETC車載器1万4000台(トヨタ製0866-001200)を代金1億1833万5000円(消費税相当額を含む。)で売り渡した。
b Dは,同月31日,被告のために,DSIに対し,ETC車載器合計1万6000台(パナソニック製が8200台,三菱製が7800台)を代金1億0080万円(消費税相当額を含む。)で売り渡した。
c Dは,同年4月11日,被告のために,DSIに対し,ETC車載器7500台(古野電気製JHP-101A)を代金3090万円(消費税相当額を含む。)で売り渡した。
(イ) Dは,平成17年6月20日,被告のために,エイチツークリエイト株式会社(以下「エイチツークリエイト」という。)に対し,ETC車載器3万3000台(三菱電機製EP-223Bが1万0500台,古野電気製JHP-101Aが7500台,デンソー製DIU-3600が1万5000台)を代金5億3720万7300円(消費税相当額を含む。)で売り渡した。
ウ Dは,平成17年3月1日,被告のために,DSIに対し,法人データ販売及びデータクレンジング業務を3億1582万3142円(消費税相当額を含む。)で発注した。
Dは,同年4月14日,被告のために,DSIの住商リース株式会社(以下「住商リース」という。)に対する上記請負債権の債権譲渡につき,異議をとどめないで承諾をした。
Dは,DSIとの上記契約締結及び上記承諾につき,被告を代理する権限を有していた。
エ 上記アないしウの事実によれば,Dは,本件各売買契約の前にも,被告を代理して,本件各売買契約と同様の取引を行っていたものである上,本件各売買契約締結当時のDの肩書きは被告の「システム事業部ビジネス営業部第2グループ長」であったところ,グループ長とは部長のことであるから,Dが,本件各売買契約を含むETC車載器の売買取引について被告から委任を受けた被告の使用人であったことは明らかであり,Dは,会社法14条1項により,被告のために本件各売買契約を締結する代理権を有していた。
(補助参加人の主張)
ア 第1商流
(ア) 平成16年ころから同17年ころにかけて,ETC車載器は,法人向けに大きな需要が期待できる状況にあり,このような法人需要の増大に目を付けた被告は,ETC車載器のレンタル・リース事業を行うことを計画した。
そして,被告は,平成17年3月ころ,以前から取引関係のあった三井物産交通システム,パナソニック製のETC車載器を取り扱っていた三井物産オートモーティブ株式会社(以下「三井物産オートモーティブ」という。)に対し,10万台を目標にETC車載器を調達するよう依頼した。
(イ) 被告は,ETC車載器の調達を平成17年4月初旬ころまでに完了するよう三井物産交通システム及び三井物産オートモーティブに求めており,その資金に充てるため,リース会社から与信枠の設定を受ける必要があったところ,三井リースのみで約13億円の与信枠を設定することは時間的に困難であったことから,NTTリース及び三井物産交通システムの被告に対する与信枠を利用して資金を調達することとした。
ところで,ETC車載器は,取付工事及びセットアップサービスとのパック商品でないと販売が容易ではなかったところ,三井リース,NTTリース及び三井物産交通システム(以下,併せて「本件リース会社各社」という。)としても,ETC車載器を販売する段階で,取付工事及びセットアップサービスとセットで販売されている方が都合が良かった。
そのため,被告及び本件リース会社各社は,ETC車載器と取付工事及びセットアップサービスをセット販売するため,通信関連企業を商流に組み入れることとした。
(ウ) 被告及び本件リース会社各社は,当初,株式会社ラハイナコーポレーション(以下「ラハイナ」という。)を商流に組み入れる予定であったが,三井物産オートモーティブが代金の前払いを求めたため,前払いができないラハイナではなく補助参加人を商流に組み入れることにした。なお,NTTリースとの取引については,ラハイナを契約の相手方とすることを前提にNTTリースにおいて社内手続を進めていたため,補助参加人が三井物産オートモーティブとラハイナの間に介在することとなった。
その結果,被告,三井物産交通システム,三井物産オートモーティブ,三井リース,NTTリース,ラハイナ,DSI及び補助参加人との間の取引は,別紙第1商流明細記載のとおりとなった(以下,これらの商流を「第1商流」という。)。
なお,補助参加人,三井リース及びNTTリースは,それぞれファクタリングや与信枠設定のために第1商流に組み入れられたにすぎず,ETC車載器の調達及び在庫の確認は,三井物産交通システム及び三井物産オートモーティブが行っていた。
イ 被告と補助参加人の接触
(ア) 第1商流に係るETC車載器の取付工事及びセットアップサービスについては,補助参加人が,DSIとの間で請負契約を締結した上で,DSIにエンドユーザーのために取付工事及びセットアップサービスを行わせる地位(以下「取付工事権」という。)をラハイナ等を経て被告に移転した。
DSIの契約の相手方は補助参加人であるが,DSIによる取付工事及びセットアップサービスの結果に直接の利害を有するのは被告であった。
(イ) そこで,DSIと補助参加人は,被告の代理人であったDとの間で,平成17年5月10日,DSIが被告の指定したETC車載器を被告の指定した顧客の車両に取り付けること,補助参加人は,DSIの取付工事及びセットアップサービスに一切関知せず,債務も負わず,DSIの被告に対する債務の履行について何らかの疑義が生じたとしても,DSIと被告との間で直接解決することを合意した。
ウ 第2商流
(ア) DSIの主たる株主であり実質的な経営者であったE(以下「E」という。)は,平成17年7月14日,補助参加人の代表者であったF(以下「F」という。)に,DSIが被告にETC車載器を納入する際に補助参加人がファクタリングをすることを依頼した。
Fが,三井物産交通システムに無断で第1商流における三井物産交通システムの立場に取って代わるようなことはできないと考え,同社に確認したところ,同社は,Fに,ETC関連事業から撤退したので,同社を除いて商流が作られても差し支えないと回答した。
(イ) Fは,原告の日比谷支店法人営業部に連絡し,平成17年7月15日,同支店法人営業部のG(以下「G」という。)に対し,この商流に係るETC車載器の買受資金の融資について相談をし,Gは,これに前向きの回答をした。
(ウ) Fは,同月19日,Eに対し,融資に対する原告の姿勢を報告をした。
Fは,翌20日,被告の本社を訪問し,DとEの上記依頼につき打ち合わせを行った。その際,Fが,補助参加人はあくまでファクタリング機能を担うだけであること,現実にETC車載器を大量に調達することはできないことを確認したところ,Dは,補助参加人の仕入れ先としてエイチツークリエイトを指定するともに,同社が既に商流の目的物であるETC車載器を保有していると説明した。
(エ) F,D,エイチツークリエイトのH及びIは,同月22日,上記商流について打ち合わせを行い,その後,Fは,同月25日にEと,翌日にもE及びDとそれぞれ打合せを行った上,同月27日,被告の本社を訪問し,Dとともに本件売買契約1及び2に係る契約書案の読み合わせを行った。
そして,補助参加人は,被告の代理人であるDとの間で,同日ころ,本件売買契約1及び2を締結した(以下,本件売買契約1及び2に係る商流を「第2商流」という。)。
(オ) 第2商流につき,被告は倉庫業者として有限会社アクティマインド(以下「アクティマインド」という。)を指定していたところ,同社は,エイチツークリエイトに対し,同月27日,第2商流に係るETC車載器の預かり証を発行した。
エイチツークリエイトは,これを受けて,補助参加人に,同月28日,第2商流に係るETC車載器の所有証明書を上記預かり証とともに交付し,補助参加人は,直ちに,G及びDに上記所有証明書及び預かり証の受領を報告した。
(カ) 原告は,これを受けて,補助参加人に,同月28日に5億1480万円(本件貸付1)を,同年8月3日に11億5200万円(本件貸付2)を貸し付けた。
そして,補助参加人は,被告から,本件売買契約1に係る同年7月29日付け検収書及び同年8月1日付け検収書(いずれも被告のビジネス営業部の社判が押捺されたもの。)の送付を受けたので,エイチツークリエイトが指定する銀行預金口座に,同年7月29日に5億2000万円を,同年8月3日に10億5000万円を振込送金した。
エ 第3商流
(ア) Fは,Dから,第2商流と同様にファクタリングの依頼を受け,補助参加人は,同年8月29日ころ,被告の代理人であるDとの間で,本件売買契約3を締結するとともに,被告を買主,補助参加人を売主として,別紙物件目録記載4のETC車載器合計1万7340台を代金2億7397万2000円で売り渡す売買契約(以下「本件売買契約4」という。)を締結した(以下,本件売買契約3及び4に係る商流を「第3商流」という。)。
(イ) 第3商流につき,被告は倉庫業者としてアクティマインドを指定していたところ,アクティマインドは,同月29日,エイチツークリエイトに第3商流に係るETC車載器の預かり証を発行し,同社は,補助参加人に,第3商流に係るETC車載器の所有証明書を上記預かり証とともに交付した。
補助参加人は,その後,直ちに,G及びDに,上記所有証明書及び預かり証の受領を報告した。
(ウ) 原告は,以上を受けて,補助参加人に対し,同月31日,1億8000万円を貸し付けた(本件貸付3)。
補助参加人は,Dから,本件売買契約3に係る納品を受けたので,検収書は直ちに送付するが,エイチツークリエイトが振り出した手形の支払期限が迫っているので,直ちに代金を送金してほしいとの依頼を受け,同社が指定する銀行預金口座宛に3億4000万円を送金した。
(被告の主張)
ア ETC車載器の買受等
三井物産交通システムとの取引(平成16年12月15日ころ。原告の主張ア(ア)),三井リースとの取引(同ア(イ)),NTTリースとの取引(同ア(ウ))並びにDSIとの取引及び住商リースへの債権譲渡対する異議をとどめない承諾(同ウ)につき,Dに代理権限があったとの原告の主張は争う。また,これらの取引に係る契約書は,Dが偽造したものである。
補助参加人の上記主張は争う。
イ DがETC車載器の取引を行うようになった経緯
(ア) Dは,平成16年ころ,三井物産交通システムから,ETCサービス株式会社(以下「ETCサービス」という。)の社長であったEを紹介された。
Eと三井物産交通システムのJ(以下「J」という。)は,Dに,ETC車載器の販売事業は規模が大きく,ビジネスとして成立するのではないかと持ち掛けた。
また,三井物産交通システムは,ETC車載器の販売事業に積極的に取り組んでいたところ,Eが同社に持ち込んだ具体的な受注先リストのうちの全国異業種協同組合連合会(以下「全国異業種協同組合」という。)からの受注については確度が高いと判断し,被告を通じて同組合にETC車載器を販売することを計画した。そして,三井物産交通システムは,メーカーに対し,10万台のETC車載器の購入を予約し,平成16年12月ころには,三菱製ETC車載器2000台を発注した。
Dは,EやJの話を信じて受注の確度が高いと判断し,権限がないにもかかわらず,平成17年1月ころ,三井物産交通システムに対し,被告名義で上記2000台を見込み発注した。
(イ) EがDに提示したETC車載器の販売スキームは,三井物産交通システムがメーカーからETC車載器を仕入れて,ETCサービスや全国異業種協同組合に売却するというものであった。
また,このスキームには,ETCサービスのEを営業支援名目で参加させ,そのころ,同人が実質的に経営していたDSI(なお,Eは,平成17年2月25日,代表取締役に就任した。)にETC車載器取付業務を担当させることにより,DSIに利益を得させる目的があった。
Dは,被告が債務負担リスク,回収リスク又は在庫リスクを負うような取引をする権限を有していなかったが,取引に介在する契約を締結し,介在する当該取引を営業面でサポートする権限は認められていた。
(ウ) Dは,平成17年1月ころ,三井物産交通システムがメーカーにETC車載器を正式に発注する際,Jから求められるまま,三井物産交通システムが作成した発注書に被告に無断でDの個人の印鑑を押捺した。
Eは,その後,Dに,全国異業種協同組合からの受注ができなくなったと報告した。
(エ) Dは,当時,Dが被告の本来の業務に属する顧客管理システムについて相談していた株式会社ウェルネス・フロンティア・センター(以下「ウェルネス」という。)の社長であったK(以下「K」という。)に対し,上記スキームへの参加を要請した。
Kは,ウェルネスがETC車載器のリース事業を行うことを条件にこれを承諾した。
(オ) ウェルネスは,平成17年4月ころ,上記スキームから離脱したが,三井物産交通システムは,ウェルネスの参加を前提に大量のETC車載器の発注手続を開始しており,ETC車載器の代金の支払期限が迫っていた。そのため,上記スキームにウェルネスを参加させた立場のDは,E及びJから,代わりの受注先を見つけるか,被告が商品を引き受けてETC車載器のリース・レンタル事業者になることを強く迫られた。
(カ) そこで,Dは,三井物産交通システムが紹介したリース会社等に対し,被告に無断で被告の組織変更前の印鑑を使用するなどして,被告がETC車載器の発注先となる書類を偽造し,支払先に対する支払を肩代わりするため,融資(契約の形式は延払売買契約等)を受けることとした。
こうして偽造されたのが,三井物産交通システム,三井リース及びNTTリース,DSIとの間の取引(原告の主張ア(イ),(ウ),(ク),ウ)に係る契約書類である。
上記の取引については,代金約6億3000万円が最終的にDSIに流れた。
ウ 三井物産交通システムとの取引(平成17年4月7日。原告の主張ア(ク))及びエイチツークリエイトとの取引(同イ(イ))
(ア) 被告は,Dから,三井物産交通システムがエイチツークリエイトに3万3000台のETC車載器を販売する取引があり,これに被告が介在することができ,この取引の代金は,エイチツークリエイトから被告に先払いされ,被告はこの先払いを確認した後,三井物産交通システムにその代金から口銭分を控除した残額を支払うことで足りると説明を受けた。
そのため,被告は,上記取引には全くリスクがないと判断し,稟議を経ることなく,上記取引に介在することを了承した。
(イ) 被告は,上記取引については,平成17年7月29日,エイチツークリエイトから5億3720万7300円の送金があったので,同日,三井物産交通システムに対し,被告の口銭分を控除した5億2155万9885円を送金した。
(ウ) ところが,その後,上記取引に被告が介在した事実がなかったため,被告は,上記取引に係る契約を取り消し,被告が留保した口銭分については預かり金として会計上処理した。
エ 関東宇佐美との取引(原告の主張ア(エ)),東京宇佐美との取引(同ア(オ)),ライネットとの取引(同ア(カ)),クレディセゾンとの取引(同ア(キ))及びDSIとの取引(同イ(ア))
(ア) 被告は,Dから,リスクのない現金取引である関東宇佐美,東京宇佐美及びライネットとDSIとの間の取引に被告が介在することができ,これらの取引の代金はDSIから被告に先払いされ,被告はこの先払いを確認した後,関東宇佐美,東京宇佐美,クレディセゾン又はライネットにその代金から口銭分を控除した残額を支払うことで足りると説明を受けた。
被告は,これらの取引には全くリスクがないと判断し,これらの取引に介在することを了承した。
(イ)a 関東宇佐美及び東京宇佐美とDSIとの取引
これらの取引については,被告は,平成17年3月22日,DSIから1億1833万5000円の送金があったので,同月25日,関東宇佐美及び東京宇佐美に対し,それぞれ5769万7500円を送金した。
b クレディセゾン及びライネットとDSIとの取引
これらの取引については,被告は,DSIから,同年4月17日に3090万円を,同月22日に1億0080万円の送金があったので,同月22日,クレディセゾンに対して3000万円を,ライネットに対して9744万円をそれぞれ送金した。
c なお,DSIが被告に送金した上記金員は,上記イ(カ)の約6億3000万円を原資とするものであった。
(ウ) その後,これらの取引の存在自体に疑念が生じたため,被告は,これらの取引に係る各契約を取り消し,被告が留保した口銭分については預かり金として会計上処理した。
オ 本件各売買契約に係る取引の概要
(ア) Eは,Dに,平成17年6月ころ,被告が補助参加人にETC車載器を売却することにして,被告が補助参加人から代金名目で融資を受け,これを,三井リース,NTTリース及び住商リースに対する決済資金とするスキームを提案した。
Dは,上記スキームに参加しなければ,上記リース会社に対する支払期限が到来して,これまでの被告に対する背任行為が露見することになると考え,弁済資金を一時的に用立てるため,このスキームに参加することにした。
(イ) ところが,補助参加人が,E及びDに,手持資金の余裕がないと説明したことから,Eは,同年7月ころ,当初のスキームに代えて,補助参加人が被告にETC車載器を売却したことにし,この代金債権を担保に,補助参加人が従前から取引をしていた原告から融資を受けるという提案をした。
ところで,補助参加人が被告にETC車載器を売却した形にするという上記スキームを実行するためには,補助参加人の上流に仕入先を置く必要があった。そこで,E,D及び補助参加人は,エイチツークリエイトにこの仕入先を担当させることにした。
また,三井リースとの取引(同ア(イ)),NTTリースとの取引(同ア(ウ))並びにDSIとの取引及び住商リースへの債権譲渡に対する異議をとどめない承諾(同ウ)は,Dが権限なくしたものであり,被告の経理担当者を通して決済をすることができなかったため,E,D,補助参加人及びエイチツークリエイトは,エイチツークリエイトが,被告名義で送金することにより,三井リース,NTTリース,住商リースに代金を支払うこととした。
カ Dの権限について
(ア) 本件各売買契約に係る契約書に押印された「東京都目黒区〈以下省略〉」,「株式会社パスコビジネス営業部」,「取締役営業部長L」の各ゴム印及び営業部長の職印の印影が,被告所有のゴム印及び印鑑によるものであることは認める。
しかしながら,本件各売買契約締結の当時,被告がDに与えていた権限は,地図を利用するロジスター等の拡販のための営業サポート活動が主たるものであり,この活動に属する取引に関しても,被告は,決裁を経ずに契約書に調印するような権限は与えていなかった。
また,被告においては,ビジネス営業部は平成17年3月31日に廃止され,以後,その業務は,システム事業部が所管しており,ビジネス営業部取締役部長であったLは,他社に移籍した。
以上の事実からして,上記印影は,Dが,システム営業部の管理グループが保管していた上記ゴム印及び職印を盗用して押印したものであることは明らかである。
(イ) また,このほかに被告がDに認めていたのは,上司に対して報告することを前提とする,先入金,後支払の金銭取引(以下「特需取引」という。)に介在する取引を行う権限にすぎなかった。
そして,前記のDSIと関東宇佐美,東京宇佐美,ライネット,クレディセゾン及び三井物産交通システムとの間に被告が介在する取引(以下「特需取引1」という。)並びにエイチツークリエイトと三井物産交通システムとの間に被告が介在する取引(以下「特需取引2」という。)は,Dが,上司に特需取引であると報告したため,被告において,これらの取引に介在することを了承したものである。
(ウ) 以上のとおり,Dは,ETC車載器の取引につき,被告がリスクを負わない特需取引に介在する権限のみを有していたにとどまるところ,本件各売買契約は,特需取引とはいえず,したがって,本件各売買契約の締結は,Dの権限外の行為であった。
(原告の反論)
ア 被告は,特需取引1に介在することは了承したものの,その後,この取引に係る契約を取り消したと主張するが,被告が三井物産交通システムに支払った金員の返還を求めておらず,また,エイチツークリエイトから支払を受けた金員の返還も同社に申し出ていない。
有効に成立した契約につき,被告の内部において取り消す手続をしたり,口銭分を預かり金として会計処理したとしても,その契約の法的効果に何ら影響を及ぼすものではない。
イ 被告は,特需取引2に介在し,DSIからその販売代金の送金を受けた。このことは,DによるETC売買契約により収益を得ていたことを意味するが,これは,Dが被告のためにETC売買契約を締結する権限を被告から付与されていたことを示すものである。
(補助参加人の反論)
ア Dが,三井物産交通システムとの間で,平成17年4月7日,被告のために,ETC車載器3万3000台の売買契約(特需取引1)を締結したことは争いがないところ,この売買契約は,代金が5億2156万0725円(消費税相当額を含む。)と高額な取引であるにもかかわらず,これに関し,被告においては,社長決裁だけでなく,社内稟議も行われず,上司の了承だけで社内手続が完了している。
上記売買契約の買約証には,「株式会社パスコビジネス事業部取締役営業部長L」のゴム印及び社判が押捺されていることからして,被告においては,社長決裁や社内稟議がなくても,5億円を超える取引についても営業部長印や社判の押印ができる体制になっていたといえる。
イ 上記買約証の作成日付は平成17年4月7日であるところ,被告においては,ビジネス営業部は,既に廃止されていた。しかし,Dは,上司の了承を得て上記契約を締結したものであるから,被告においては,ビジネス営業部が廃止された同月1日以降も,上記ゴム印が使用されることを容認していたというべきである。
(2) 補助参加人の悪意・重過失
(被告の主張)
ア 関連取引の概要
(ア) 古野電気製JHP-101A合計7500台
このETC車載器は,当初,株式会社日本ロードサービス(以下「日本ロードサービス」という。)が,株式会社ハイウェイパスポート(以下「ハイウェイパスポート」という。)向けのOEM商品として古野電気から仕入れ,これをハイウェイパスポートサービスが購入した後,クレディセゾンが引き取った。
Eは,これを,被告を介在させてDSIに購入させ,三井リース,三井物産交通システムに順次循環させた上,エイチツークリエイト,補助参加人,被告の順序で循環させた。
(イ) 三菱電機製EP-223B合計1万0500台
このETC車載器は,コシダテック,補助参加人,三井リース,三井物産交通システム,被告,エイチツークリエイト,補助参加人,被告の順序で循環した。なお,補助参加人から被告に売却する際に,3万5000台に水増しされた。
(ウ) デンソー製DIU3600合計1万5000台
このETC車載器は,トヨタ部品販売,補助参加人,三井リース,三井物産交通システム,被告,エイチツークリエイト,補助参加人,被告の順序で循環した。
(エ) パナソニック製CY-ET800Dのうち7500台
このETC車載器は,三井物産オートモーティブ,補助参加人,ラハイナ,NTTリース,被告,エイチツークリエイト,補助参加人,被告の順序で循環した。
(オ) このように,本件各売買契約に係るETC車載器については,ほぼ全機種にわたって,関係者が通謀の上,不正な循環取引が行われたものである。
しかも,これらの取引については,ETC車載器の台数が水増しされており,上記取引を含む一連の取引において,取引された台数は合計22万4990台とされるところ,被告において平成16年9月30日に調査した際には,実際の在庫は7万5690台にすぎなかった。
イ 以上のとおり,本件各売買契約は,仮装・循環取引の一環であったものであり(以下,この仮装・循環取引を「本件一連取引」という。),本件各売買契約締結以前からこの取引に関与していた補助参加人は,本件各売買契約が仮装・循環取引であることを認識していた。
このような補助参加人が,Dに仮装・循環取引を行う権限があると信じたものでないことは明らかであり,補助参加人は,Dの権限に制限を加えられていることを知っていたものであり,そうでないとしても,知らないことに重大な過失があった。
(原告の主張)
Fは,Dの代理権に被告が主張するような制限が加えられていたことについては善意であり,知らなかったことについて重過失もなかった。
(補助参加人の主張)
被告の上記主張は争う。
(3) 通謀虚偽表示
(被告の主張)
ア 本件一連取引のスキームは,二重取引,循環取引,架空取引あるいはそれらの取引が複合した不正常取引であり,Fは,本件各売買契約についても,このような不正常取引の一環を構成する売買契約であることを熟知して,Dとの間で売買契約の外形を装ったものである。
したがって,本件各売買契約は,実体がないにもかかわらず,これがあるかのように偽ったものであり,通謀虚偽表示として無効である。
イ 原告の日比谷法人営業部においては,本件貸付金債権の担保として本件各売買契約に基づく売買代金債権を徴するに際し,多額にのぼる売買代金債権の調査を全く行わず,Dが手書きで署名し,三文判が押印された,一見して明らかに変則的な債権譲渡承諾書類を容易に受け入れた上,被告に対する照会による確認手続も全く行わなかった。
これらの事実にかんがみると,原告においては,株式の上場を目指して取引の実績を膨らませたいとする補助参加人の意図に沿うために,根譲渡担保権の問題点及びDの権限の問題に意識的に目を覆っていたことは明らかであり,原告は,本件各売買契約につき,虚偽表示による取引であると知っていたと認められる。
(原告の主張)
ア Dは,補助参加人からETC車載器を買い受ける意思を有していたものであり,本件各売買契約は,Dの意思と何ら異なるものではない。
イ Fには,不正常な取引であると知りながら本件一連取引に参加するメリットはなかった。また,Fは,本件貸付1ないし3に係る補助参加人の原告に対する貸金返還債務についての連帯保証人にもなっているから,本件各売買契約がFの意思に反するものでなかったことも明らかである。
(補助参加人の主張)
被告の上記主張は争う。
(4) 仮装・循環取引の無効
(被告の主張)
本件各売買契約を含む本件一連取引は,既に主張したとおり,仮装・循環取引であったところ,このような取引は,各取引ごとに生じる利益分が行き詰まることが避けられない取引であり,社会的に実現不能なものであるから,法律行為の有効要件である実現可能性の要件を欠き,無効というべきである。
(原告及び補助参加人の主張)
原告の上記主張は争う。
(5) 異議をとどめない承諾
(原告の主張)
ア Dは,原告に対し,①平成17年7月27日,根債権譲渡担保権設定1につき,②同年8月3日,根債権譲渡担保権設定2につき,③同年8月29日,根債権譲渡担保権設定3につき,それぞれ被告のために異議をとどめないで承諾をした(以下,これらの承諾を「本件異議なき承諾」という。)。
イ 前記(1)(原告の主張)及び同(原告の反論)のとおり,Dは,被告の事業に関するある種類又は特定の事項であるETC車載器の売買(仕入れ及び販売)の委任を受けていたものであり,会社法14条1項に定める使用人に該当する。
したがって,Dは,平成17年7月及び8月当時,被告のために,ETC車載器の売買(仕入れ及び販売)に関する一切の裁判外の行為をする権限を有していた。
そして,ETC車載器の売買契約に基づく代金債権の譲渡につき異議をとどめないで承諾をすることは,客観的にみて,Dの上記受任事項に属するものと認められるから,Dは,平成17年7月及び8月当時,ETC車載器の売買契約に基づく代金債権の譲渡につき,被告のために異議をとどめないで承諾をする権限を有していた。
(補助参加人の主張)
Dは,本件各売買契約の締結について代理権を有していたから,この契約に基づく売買代金債権の譲渡について,異議をとどめないで承諾をする権限も有していた。
(被告の主張)
ア 会社法14条1項にいう「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」とは,「ある種類又は特定」の事項(取引)に関して会社の使用人と認められる者を指す。したがって,当該取引とは全く別種の取引について会社の使用人であると認められるとしても,当然に当該取引についても会社の使用人であることが認められるわけではない。
イ 被告は,根債権譲渡担保権設定1ないし3について異議をとどめないで承諾をする権限をDに与えたことはない。
ウ 仮に,Dが会社法14条1項に定める使用人に当たるとしても,上記のとおり,被告は,Dに,異議をとどめないで承諾をする権限を与えていなかったものであり,これはDの権限に加えた制限というべきところ,次のとおり,原告は,被告がDに異議をとどめないで承諾をする権限を与えていなかったことを知っていたものであり,そうでないとしても,原告には,知らなかったことについて重大な過失があった。したがって,原告は,会社法14条2項にいう善意の第三者に当たらない。
(ア) 被告のような企業においては,部長にすぎない者が,20億円を超え,被告の資本の約20%に達する金額の取引,債権譲渡の承諾を行うことについては,社内規定上制限が設けられており,このことは金融機関である原告としては,当然に知り得べきであった。
(イ) 債権譲渡に対する異議をとどめない承諾は,当該債権に付着する抗弁事由をすべて遮断する効果を持つところ,金融機関である原告が,Dにこのような承諾をする権限があると考えたとは認められない。
(ウ) 原告が,本件貸付1の際に補助参加人を経由してDから徴した債権譲渡の承諾書(甲3)には,手書きで「株式会社パスコ・システム事業部ビジネス営業部第二グループ部長D」と記載され,Dの認め印が押捺されていたにすぎなかった。原告は,上場企業である被告が,5億円を超える取引を行うにつき,その1部門の営業部長にすぎないDが,社印を使用することなく,手書きで上記のような記載をすること自体に疑念を抱くべきであり,上記承諾書を確認した時点で,被告のしかるべき部署に,Dの権限について問い合わせるべきであった。
また,被告がDから提出を受けた承諾書(甲6,甲8)には「株式会社パスコビジネス事業部取締役営業部長L」と記載されていたが,当時,Dが所属していたのはシステム事業部であったから,この時点で,被告はいっそう疑念を抱いて調査をすべきであった。
なお,この当時,被告にビジネス事業部は存在せず,また,Lが被告の取締役を退任していたことは,既に主張したとおりである。
(エ) 被告と原告日比谷法人営業第一部との間の取引は,本件貸付1ないし3及び根債権譲渡担保権設定1ないし3が初めてであり,上記各承諾書には,被告代表者印が押捺されていなかったから,本件貸付1ないし3のような金額にのぼる融資についての譲渡担保として,債権譲渡承認を受ける際には,被告の意思を確認すべきであった。
しかるに,原告は,上記承諾書と本件各売買契約に係る買約証を確認しただけで,それ以外の確認を怠った。
(補助参加人の反論)
仮に,被告がDの権限について制限を加えていたとしても,原告は,これを知らなかったし,知らないことに重大な過失もなかった。
第3 争点に対する判断
1 認定事実
前提となる事実,証拠(甲5,甲7,甲9,甲12,甲14,甲22,甲23,甲24の1ないし3,乙7の1ないし6,乙8の1ないし5,乙9の2ないし9,乙10の1ないし6,乙11の2ないし6,乙12の1ないし10,乙13の1ないし7,乙14の1ないし7,乙15の1ないし9,乙16の1ないし10,乙17の1及び2,丙13,三井物産交通システム,三井リース,住商リース,NTTリース,エイチツークリエイト,DSI,ライネット,株式会社東日本宇佐美及びクレディセゾンに対する各調査嘱託の結果,証人D,証人E,証人M,証人H,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) ETC車載器に係る契約
ア 三菱電機製EP-223Bについて
(ア)a 三井物産交通システムは,平成17年3月4日,三井リースに対し,ETC車載器2万0730台を売り渡した。
b Dは,同月4日,被告のために,三井リースから,代金支払期日を同年5月から平成18年2月の毎月末日限りとする約定で,上記ETC車載器2万0730台を割賦売買の方法により買い受けた。
三井リースは,同年8月3日,その代金の支払を受けた。
(イ)a Dは,同年3月25日,被告のために,ライネットから,ETC車載器7800台を買い受けた。
被告は,同年4月22日,ライネットに対し,その代金を支払った。
b Dは,同年3月31日,被告のために,DSIに対し,上記ETC車載器7800台を売り渡した。
DSIは,同年4月20日,被告に対し,その代金を支払った。
(ウ)a 三井物産交通システムは,NTTリースに対し,同年3月31日,ETC車載器5000台を売り渡した。
b Dは,同月31日,被告のために,NTTリースから,代金支払期限を同年8月から平成18年3月までとする約定で,上記ETC車載器5000台を割賦売買の方法により買い受けた。
(エ)a コシダテックは,平成17年3月ないし4月ころ,補助参加人に対し,ETC車載器1万0500台を売り渡した。
b 補助参加人は,同年3月ないし4月ころ,三井リースに対し,上記ETC車載器1万0500台を売り渡した。
c 三井リースは,同年3月ないし4月ころ,三井物産交通システムに対し,上記ETC車載器1万0500台を売り渡した。
d Dは,同年4月7日,被告のために,三井物産交通システムから,代金支払期限を同年7月31日とする約定で,上記ETC車載器1万0500台を買い受けた。
被告は,同月29日,三井物産交通システムに対し,その代金を支払った。
e Dは,同年6月20日,被告のために,エイチツークリエイトに対し,代金支払期限を同年7月31日とする約定で,上記ETC車載器1万0500台を売り渡した。
エイチツークリエイトは,同月29日,被告に対し,その代金を支払った。
(オ)a エイチツークリエイトは,同年6月23日,補助参加人に対し,代金は納品確認日に支払うとの約定で,ETC車載器3万5000台を売り渡した。
補助参加人は,同年7月29日,その代金を支払った。
b Dは,同月25日ころ,被告のために,補助参加人から,代金支払期限を同年8月31日とする約定で,上記ETC車載器3万5000台を買い受けた(本件売買契約1)。
イ パナソニック製CY-ET800Dについて
(ア)a 三井物産オートモーティブは,平成17年3月4日,三井リースに対し,ETC車載器1万台を売り渡した。
b Dは,同月4日,被告のために,三井リースから,代金支払期日を同年5月から平成18年2月までの毎月末日限りとする約定で,上記ETC車載器1万台を割賦売買の方法により買い受けた。
三井リースは,平成17年8月3日,その代金の支払を受けた。
(イ)a Dは,同年3月25日,被告のために,ライネットから,ETC車載器8200台を買い受けた。
被告は,同年4月22日,ライネットに対し,その代金を支払った。
b Dは,同年3月31日,被告のために,DSIに対し,上記ETC車載器8200台を売り渡した。
DSIは,同年4月20日,被告に対し,その代金を支払った。
(ウ)a 三井物産オートモーティブは,同年3月ないし4月ころ,補助参加人に対し,ETC車載器7500台を売り渡した。
b 補助参加人は,同年3月ないし4月ころ,ラハイナに対し,上記ETC車載器7500台を売り渡した。
c ラハイナは,同年4月20日,NTTリースに対し,上記ETC車載器7500台を売り渡した。
d Dは,同年4月20日,被告のために,NTTリースから,代金支払期限を同年8月から平成18年3月までとする約定で,上記ETC車載器7500台を割賦売買の方法により買い受けた。
NTTリースは,平成17年8月31日,その代金の支払を受けた。
(エ)a エイチツークリエイトは,同年6月23日,補助参加人に対し,代金は納品確認日に支払うとの約定で,ETC車載器1万7000台を売り渡した。
補助参加人は,同年7月29日,エイチツークリエイトに対し,その代金を支払った。
b Dは,平成17年7月25日ころ,被告のために,補助参加人から,代金支払期限を同年8月31日とする約定で,上記ETC車載器合計3万2000台を買い受けた(本件売買契約1,2)。
ウ トヨタ製EP08685-00120について
(ア)a ETCサービスは,平成17年3月ころ,関東宇佐美及び東京宇佐美に対し,ETC車載器を売り渡した。
b Dは,同年3月10日,被告のために,関東宇佐美から,代金支払期限を同月28日とする約定で,上記ETC車載器7000台を買い受けた。
被告は,同月25日,関東宇佐美に対し,その代金を支払った。
c Dは,同月10日,被告のために,東京宇佐美から,代金支払期限を同月28日とする約定で,上記ETC車載器7000台を買い受けた。
被告は,同月25日,東京宇佐美に対し,その代金を支払った。
d Dは,同月11日,被告のために,DSIに対し,上記ETC車載器1万4000台を売り渡した。
DSIは,同月22日,被告に対し,その代金を支払った。
(イ)a DSIは,同年3月ころ,三井リースに対し,ETC車載器1万5000台を売り渡した。
b Dは,同年3月ころ,被告のために,三井リースから,代金支払期日を同年5月から平成18年2月の毎月末日限りとする約定で,上記ETC車載器1万5000台を割賦売買の方法により買い受けた。
三井リースは,平成17年8月3日,その代金の支払を受けた。
(ウ) Dは,同年7月25日ころ,被告のために,補助参加人から,代金支払期限を同年8月31日とする約定で,ETC車載器2万台を買い受けた(本件売買契約2)。
(エ) Dは,同年8月29日ころ,被告のために,補助参加人から,代金支払期限を同月31日とする約定で,ETC車載器1万2660台を買い受けた(本件売買契約3)。
エ デンソー製DIU-3600について
(ア)a 三井物産交通システムは,平成17年3月31日,NTTリースに対に対し,ETC車載器1万0500台を売り渡した。
b Dは,同月31日,被告のために,NTTリースから,代金支払期限を同年8月から平成18年3月までとする約定で,上記ETC車載器1万0500台を割賦売買の方法により買い受けた。
(イ)a トヨタ部品販売は,同年3月ないし4月ころ,補助参加人に対し,ETC車載器1万5000台を売り渡した。
b 補助参加人は,同年3月ないし4月ころ,三井リースに対し,上記ETC車載器1万5000台を売り渡した。
c 三井リースは,同年3月ないし4月ころ,三井物産交通システムに対し,上記ETC車載器1万5000台を売り渡した。
d Dは,同年4月7日,被告のために,三井物産交通システムから,代金支払期限を同年7月31日とする約定で,上記ETC車載器1万5000台を買い受けた。
被告は,同月29日,三井物産交通システムに対し,その代金を支払った。
e Dは,同年6月20日,被告のために,エイチツークリエイトに対し,代金支払期限を同年7月31日とする約定で,上記ETC車載器1万5000台を売り渡した。
エイチツークリエイトは,同月29日,被告に対し,その代金を支払った。
(ウ) Dは,同月25日ころ,被告のために,補助参加人から,代金支払期限を同年8月31日とする約定で,ETC車載器5万台を買い受けた(本件売買契約2)。
オ 古野電気J-HP101Aについて
(ア) ハイウェイパスポートは,平成16年12月27日,クレディセゾンに対し,ETC車載器7500台を売り渡した。
(イ) Dは,平成17年3月10日,被告のために,クレディセゾンから,上記ETC車載器7500台を買い受けた。
被告は,同年4月22日,クレディセゾンに対し,その代金を支払った。
(ウ) Dは,同月11日,被告のために,DSIに対し,上記ETC車載器7500台を売り渡した。
DSIは,同月19日,被告に対し,その代金を支払った。
(エ) DSIは,同年3月ないし4月ころ,補助参加人に対し,上記ETC車載器7500台を売り渡した。
(オ) 補助参加人は,同年3月ないし4月ころ,三井リースに対し,上記ETC車載器7500台を売り渡した。
(カ) 三井リースは,同年3月ないし4月ころ,三井物産交通システムに対し,上記ETC車載器7500台を売り渡した。
(キ) Dは,同年4月7日,被告のために,三井物産交通システムから,代金支払期限を同年7月31日とする約定で,上記ETC車載器7500台を買い受けた。
被告は,同月29日,三井物産交通システムに対し,その代金を支払った。
(ク) Dは,同年6月20日,被告のために,エイチツークリエイトに対し,代金支払期限を同年7月31日とする約定で,上記ETC車載器7500台を売り渡した。
エイチツークリエイトは,同月29日,被告に対し,その代金を支払った。
(ケ) Dは,同月25日ころ,被告のために,補助参加人から,代金支払期限を同年8月31日とする約定で,上記ETC車載器7000台を買い受けた(本件売買契約2)。
(2) 本件の経緯
ア Dは,平成16年ころ,ETCサービスの代表者であるとともにDSIを実質的に経営していたEと知り合った。
Eと三井物産交通システムのJ及びM(以下「M」という。)は,その当時,三井物産交通システムがETCサービスにETC車載器を売り渡し,ETCサービスがこれを全国異業種協同組合ないしその組合員に販売するという事業計画を考えていた。
Dは,当時,上司から売上げを伸ばすよう求められていたことから,E及びMと相談して,ETCサービスの代わりに被告が上記事業計画に加わることとした。
Dは,被告のために,全国異業種協同組合から,平成16年12月ころ,代金約2億5000万円相当のETC車載器の発注を受け,平成17年2月ころ,代金3億5000万円相当の発注を受けた。
Dは,平成16年12月ころ,三井物産交通システムに対し,被告のために,三菱電機製ETC車載器2万2000台及びパナソニック製ETC車載器6000台を発注した。
もっとも,全国異業種協同組合からの上記受注については,メーカーから三井物産交通システムへの納品が遅れた結果,被告から全国異業種協同組合への納品も遅れたため,全国異業種協同組合は,平成17年1月ころ,Dに対し,被告に対する発注をキャンセルすると通知した。
イ Dは,同年2月ころ,被告のために,三井物産交通システムに対し,三菱電機製ETC車載器1万3000台及び古野電気製ETC車載器7000台を発注した。
ウ Dは,同年2月ないし3月ころ,ウェルネスの代表者であったKに対し,上記事業計画への参加を要請し,ウェルネスは,三井物産交通システムから,被告の介在を経て,ETC車載器(上記ETC車載器合計4万8000台にトヨタ製ETC車載器及びデンソー製ETC車載器を加えた10万台)を買い受け,これをユーザーにリースするという形で参加することを決めた。
Dは,Kから,ウェルネスはトヨタグループに属しており,トヨタグループ製ETC車載器が過半数ないと上記事業計画に参加することは難しいと聞いたことから,三井物産交通システムに対し,被告のために,トヨタ製ETC車載器及びデンソー製ETC車載器合計5万2000台を発注した。
また,上記事業計画は,DSIがETC車載器の取付工事及びセットアップサービスを担当し,DSIに対してこれらを求める権利(取付工事権)もETC車載器とともに販売することを予定するものであったが,ETC車載器については,平成17年2月か3月ころ,ETCサービスが保管し,DSIが管理することとされた。
ウェルネスは,同年6月ころまでに,上記事業計画から離脱した。
エ(ア) 三井物産交通システムのJは,Dに対し,平成17年3月ころ,三井リース及びNTTリースを紹介した。
(イ) 三井物産交通システムは,同年3月4日,三井リースに対し,ETC車載器(三菱電機製EP-223B)2万0730台を売り渡し,Dは,同日,被告のために,三井リースから,上記ETC車載器2万0730台を割賦売買の方法により買い受けた(前記(1)ア(ア))。
(ウ) 三井物産交通システムは,NTTリースに対し,同年3月31日,ETC車載器合計1万5500台(三菱電機製EP-223Bが5000台,デンソー製DIU-3600が1万0500台)を売り渡し,Dは,同年3月31日,被告のために,NTTリースから,上記ETC車載器1万5500台を割賦売買の方法により買い受けた(前記(1)ア(ウ),エ(ア))。
オ 三井物産交通システムは,ウェルネスの参加を前提に,トヨタ製ETC車載器及びデンソー製ETC車載器合計5万2000台を発注したが,この代金の支払期限が迫ってきたことから,平成17年4月から6月にかけて,Dに対し,ウェルネスの代わりになる会社を探すよう申し入れた。
カ Dは,ウェルネスの代替会社を検討したが,条件に合致する会社を探し出すことができなかった。
Dは,被告の三井物産交通システム,三井リース及びNTTリース(本件リース会社各社)に対する代金支払期限が迫っていたことから,平成17年7月ころ,Eと相談し,DSIが管理していたETC車載器合計10万1730台につき,エイチツークリエイトをウェルネスの代替会社として同社に譲渡した上,これを被告が買い受けることとした。
キ Eは,平成17年7月14日,補助参加人に,上記カの取引計画につき,エイチツークリエイトと被告との間のファクタリングを依頼した。
補助参加人は,上記依頼を受けて,原告に融資を申し入れたところ,Gが前向きな姿勢を示したことから,上記取引計画に参加することとした(この取引計画のうち被告と補助参加人との間の取引が本件各売買契約である。)。
(3) 被告におけるDの立場
ア Dの被告への報告
(ア) Dは,平成16年10月ころ,上司に,ETC車載器の取引がビジネスとなることを報告した。
(イ) Dは,被告に対し,同年12月ころ,全国異業種協同組合からETC車載器約2億5000万円分を受注できると報告し,平成17年2月ころにも,同組合から約3億5000万円分を受注できると報告し,各受注を被告のシステムに登録した。
(ウ) Dは,同年2月ころ,上司のN事業部長から,上記6億円の入金は大丈夫かと確認された。
(エ) Dは,同年3月4日ころ,上司に対し,ETC車載器(三菱電機製EP-223B,パナソニック製CY-ET800D,トヨタ製08685-00120)の三井リースからの買受け(前記(1)ア(ア)b,イ(ア)b,ウ(イ)b)及びETC車載器(三菱電機製EP-223B,デンソー製DIU-3600)のNTTリースからの買受け(前記(1)ア(ウ)b,エ(ア)b)につき報告した。
(オ) Dは,同年3月10日ないし11日ころ,上司に対し,ETC車載器(トヨタ製08685-00120)に係る東京宇佐美,関東宇佐美及びDSIとの取引(前記(1)ウ(ア)bないしd)につき,契約の成立並びに入金時期及び出金時期を報告した。
(カ) Dは,同年7月ころ,上司に,ETC車載器(三菱電機製EP-223B,古野電気製JHP-101A,デンソー製DIU-3600)に係る三井物産交通システム及びエイチツークリエイトとの取引(前記(1)ア(エ)d及びe,エ(イ)d及びe,オ(キ)及び(ク))につき,契約の成立(なお,買主については,エイチツークリエイトではなく,当初買主と予定されていた全国異業種協同組合と報告した。)並びに入金時期(同年7月22日ころ)及び出金時期(同日ころ)を報告した。その後,エイチツークリエイトから入金が遅れるという連絡があったため,Dは,同年7月22日ころ,上司に,入金先がエイチツークリエイトとなり,入金時期が同月29日ころになると報告した。
(キ) Dは,同月29日ころ,上司に,ETC車載器(三菱電機製EP-223B,古野電気製JHP-101A,デンソー製DIU-3600)に係る三井物産交通システムからの買受け(前記(1)ア(エ)d,エ(イ)d,オ(キ))につき,代金の支払先が同社であることを報告した。
イ Dの権限
(ア) J及びMは,平成16年10月ころ,被告の本社の応接室で,D及び被告の常務取締役であったO(以下「O」という。)と面談し,Oとの間で,被告がETC車載器を仕入れてエンドユーザーに販売する事業計画に三井物産交通システムが協力する旨の合意をした。その際,Oは,Dがその窓口であると述べた。
(イ) 被告の決裁権限規程では,外注発注につき,発注額2000万円以上は社長,500万円以上2000万円未満は担当役員,100万円以上500万円未満は事業部長が決裁権者であり,100万円未満は稟議不要と定められている。
2 争点(1)(Dの代理権限)及び争点(2)(補助参加人の悪意・重過失)について
(1) 上記1で認定した事実,殊に,被告と三井物産交通システムは,平成16年10月ころ,ETC車載器を仕入れてエンドユーザーに販売するという被告の事業計画に三井物産交通システムが協力するとの合意をしたが,その際,被告の常務取締役であったOは,三井物産交通システム側に対し,Dがその窓口であると述べ,以後,Dは,上司の関与なく専ら単独で交渉等を進め,本件各売買契約を除いても,特需取引1及び2を含む多数のETC車載器の売買取引を行い,そのすべてではないものの,契約先並びに入金時期及び出金時期を被告に報告していたことにかんがみると,Dは,被告のシステム事業部ビジネス営業部第2グループ長として,被告から,ETC車載器について被告を代理して第三者との間で売買取引を行う権限を与えられていたものと認められ,Dは,被告の事業に関するある種類又は特定の事項の処理につき委任を受けた使用人であったというべきである。
被告は,Dは,ETC車載器の取引につき,被告がリスクを負わない特需取引に介在する権限のみを有していたにとどまるとした上,本件各売買契約は,特需取引とはいえず,本件各売買契約の締結は,Dの権限外の行為であったと主張する。
しかし,既に認定したETC車載器についての一連の取引内容及び上記認定説示したところに照らすと,同取引についてのDの権限に,上記被告が主張するような制限が加えられていたものとは認められない。
また,被告は,本件各売買契約は,仮装・循環取引の一環であったところ,Dには,このような仮装・循環取引を行う権限はなかったと主張する。
しかしながら,前記1で認定した事実,証拠(甲11,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,本件各売買契約は,DSIが実際に保管していたETC車載器10万1730台を売買目的物の一部とするものであったこと,エイチツークリエイトは,被告に代金の支払をし,補助参加人は,原告から借り受けた金員から,エイチツークリエイトに代金を支払っていたことが認められ,これらの事実に照らし,本件各売買契約を含む取引が仮装のものであったということはできない。
そして,既に認定した事実と証拠(証人E,証人H)によれば,本件各売買契約に係るETC車載器の一部は,被告,エイチツークリエイト,補助参加人,被告と循環していることが認められるが,本件全証拠によっても,ETC車載器の売買取引のうち,循環取引となる取引について,Dの権限に制限が加えられていたとは認められない。
(2) ところで,被告の決裁権限規程によれば,取引金額が一定額を超えるときは社内決裁が必要とされていたものであり,ETC車載器の売買取引に係るDの代理権についても,この点で制限が加えられていたことが認められ,本件各売買契約は,前提となる事実記載の取引金額に照らすと,この制限を超えるものであったことになる。
しかしながら,ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人の代理権に加えた制限は,善意の第三者に対抗することはできず(会社法14条2項),また,この善意の第三者には,代理権に加えられた制限を知らなかったことにつき重大な過失のある第三者は含まれないと解すべきである(最高裁昭和60年(オ)第1300号平成2年2月22日第一小法廷判決・裁判集民事159号169頁参照)。
そこで,この点について検討するに,これまでに認定した事実と証拠(証人F)及び弁論の全趣旨によれば,補助参加人は,被告と本件各売買契約を締結するに際し,被告に上記のような決裁権限規程が存在することを知らなかったものと認められる。
そして,上記決裁権限規程は,被告の内部的な規定である上,本件各売買契約は,取引台数及び取引金額こそ大きいものの,本件全証拠によっても,Dが被告のためにこれらの契約を締結する権限を有することを疑わせるような事情があったとは認められないから,補助参加人に,被告の決裁権限規程を調査する義務があったということはできないし,補助参加人が,わずかな注意を払うことによって上記制限を知り得たということもできないから,補助参加人に,Dの代理権に加えられた上記制限を知らなかったことについて重大な過失があったとも認められない。
以上によれば,本件各売買契約は,いずれも被告にその効果が帰属するというべきである。
3 争点(3)(通謀虚偽表示)について
被告は,本件各売買契約を含む一連の取引は,二重取引,循環取引,架空取引あるいはそれらの取引が複合した不正常取引であり,Fは,本件各売買契約も,このような不正常な取引の一環を構成する売買契約であることを熟知して,Dとの間で売買契約の外形を装ったものであると主張する。そして,本件各売買契約に係るETC車載器は,被告がエイチツークリエイトに売り渡し,エイチツークリエイトが補助参加人に売り渡したものであったことは前記認定のとおりである。
しかしながら,証拠(証人F)によれば,Fは,本件貸付1ないし3につき,補助参加人の原告に対する貸金返還債務について個人保証をしていることが認められ,この事実に照らすと,Fにおいて,本件各売買契約につき,不正常な取引の一環であると知りながら,Dとの間で売買契約の外形を装ったとは認められず,本件各売買契約が通謀虚偽表示であったとは認められない。
4 争点(4)(仮装・循環取引)について
被告は,本件各売買契約を含む一連の取引は,仮装・循環取引であり,このような取引は,各取引ごとに生じる利益分が次第に行き詰まることが避けられず,社会的に実現不能な取引であるから,法律行為の有効要件である実現可能性を欠き無効であると主張し,本件各売買契約に係るETC車載器の一部が,被告,エイチツークリエイト,補助参加人,被告と循環していることは既に認定したとおりである。
しかしながら,本件各売買契約が仮装のものであったということができないことは前記のとおりであるし,既に認定した事実のほか,本件全証拠によっても,本件各売買契約を含む一連の取引が,各取引ごとに生じる利益分が行き詰まり,社会的に実現不能な取引であったとは認められない。
したがって,被告の上記主張も採用することができない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 端二三彦 裁判官 大島淳司 裁判官 小嶋順平)
〈以下省略〉
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