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判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(304)平成19年12月11日 東京地裁 平17(ワ)26212号 損害賠償請求事件

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(304)平成19年12月11日 東京地裁 平17(ワ)26212号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成19年12月11日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)26212号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2007WLJPCA12118003

要旨
◆商業用不動産担保証券に関して優先株式を購入した原告らが、被告らは、前記担保証券組成時に、早期償還事由を含む諸条件の設定等の仕組みや運用計画が遂行不可能で、ファンドが早期破綻必至であったのに、これを秘して原告らに投資させたと主張して損害賠償請求をした事案について、早期償還事由の設定が現実的なものでなかったなど、ファンドが構造上運用不可能であったとはいえないし、本件証券に対する格付けや実際の運用状況からみても、ファンドの運用が客観的に運用不可能であったとはいえないとして、請求を棄却した事例

参照条文
民法709条

裁判年月日  平成19年12月11日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)26212号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2007WLJPCA12118003

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

 

 

主文

1  原告らの各請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告らの負担とする。

 

 

事実及び理由

第1  請求
被告らは,別表請求債権目録の原告氏名欄記載の各原告に対し,同目録の請求債権金額欄記載の金員及びこれに対する平成13年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,ティーディー・セキュリティーズ・インク(証券)(以下「旧TD証券」という。)東京支店が組成の調整・実行(アレンジ)をしたジャパン・レジデンシャル・キャピタル・リミテッド(投資を目的とする特定目的会社。以下「JRC」という。)によって発行された商業用不動産担保証券に関して,JRCが発行した優先株式を購入した原告らが,当該商業用不動産担保証券の組成時において,それに係る早期償還事由を含む諸条件の設定等の仕組みや運用計画(スキーム)は不合理なものであって,そもそも遂行不可能なものであり,早晩破綻することが必至なものであったとして,被告らに対して,下記の不法行為に基づいて,上記優先株式取得代金相当額の損害賠償の支払をそれぞれ求める事案である。

①  旧TD証券東京支店ストラクチャードファイナンス部長の職にあり,当該商業用不動産担保証券の組成の担当者であった被告Y1に対しては,民法709条
②  旧TD証券の事業を承継した被告ティーディーセキュリティーズ(ジャパン)インク(証券)(以下「被告TD証券」という。)と被告ザ・トロント・ドミニオン・バンク(銀行)(以下「被告TD銀行」という。)とは実質的に一体のものであるとして,被告TD証券及び被告TD銀行に対しては,被告Y1の使用者責任として民法715条
③  被告株式会社インシュアードキャピタル(以下「被告インシュアード」という。)の代表取締役であった被告Y2に対しては,被告Y1と意思を通じて,破綻必至の当該商業用不動産担保証券を組成し,これを秘したまま原告らに投資させたものであるとして,民法709条
④  被告インシュアードに対しては,代表者の被告Y2の不法行為責任として民法44条(代表者の不法行為責任)
⑤  さらに,被告Y1と被告Y2は,共同不法行為責任(民法719条1項)
1  前提となる事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠によって容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア(ア) 被告TD銀行は,銀行業を主たる目的とし,カナダ銀行法に基づいて設立された会社であるところ,カナダをその本店所在地とし,日本においては,その東京支店を通じ,営業を行っている(甲2)。
(イ) 被告TD証券は,証券業を主たる目的とし,平成13年9月13日,バルバドス法に基づいて設立された会社であるところ,バルバドスをその本店所在地とし,日本においては,その東京支店を通じ,営業を行っている(甲3,乙1)。
なお,被告TD証券の東京支店は,平成15年11月1日,カナダを本店所在地として平成8年に設立された旧TD証券の東京支店の営業を譲り受け,その事業を承継したものであり,以後,旧TD証券は,東京支店を閉鎖し,日本における活動を行ってはいない(乙2。以下,本件においては,旧TD証券と被告TD証券を区別せず使用することがある。)。
(ウ) 被告Y1は,本件当時,旧TD証券の東京支店のストラクチャードファイナンス部門に所属していた(甲53)。旧TD証券は,主として,アセットバック証券(資産担保証券)の組成にアレンジャー(証券化商品の組成に当たって関与する多数の関係者との間で,発行条件についての調整等を行う者)として関与していたところ,被告Y1は,その担当者として,アレンジメント業務を行っていた。
イ(ア) 被告インシュアードは,不動産の売買,交換,賃貸借及びその仲介並びに所有,管理,利用及び鑑定等を主たる目的とする株式会社である(甲1)。
(イ) 被告Y2は,被告インシュアードを設立した者であり,平成19年2月14日まで,その代表取締役を務めていた。
(2) 本件ファンドの具体的内容(甲41,42)
旧TD証券は,担当者を被告Y1として,以下のようなスキームのファンドを組成した(なお,本件においては,次に述べるような一連のスキームからなる金融商品全体を指して,「本件ファンド」と称する。)。
ア 本件ファンドの仕組み
特定目的会社として,ケイマン諸島に本店を置くJRCが設立される。そして,JRCは,株式会社ANJOコンサルティング(以下「ANJO」という。)を業務代理人とした上で,①機関投資家を対象として,シニアの部と称されるアセットバック証券(商業用不動産担保証券,以下「本件証券」という。)を約30億円分,②個人投資家を対象として,ジュニアの部と称される優先株式(以下「本件優先株」という。)を約6億円分それぞれ発行して,合計約36億円の資金を調達する。
JRCは,プライムプロパティーファンディングリミテッド(以下「PPF」という。)が発行する私募債(いわゆるボンド)を,上記約36億円でもって購入する。その後,PPFは,JRCから受け取った資金をもとに,特定目的会社である有限会社アイシーアセット(以下「アイシー」という。)に対し,約34億5000万円を貸し付ける。
アイシーは,ANJOを業務代理人とした上で,PPFから借り入れた上記約34億5000万円をもって,被告インシュアードとの間で締結したアドバイス契約(以下「本件アドバイス契約」という。乙7,丙1)に基づき,被告インシュアードからアドバイスを受けつつ,関東地区の居住用マンション売買の不動産事業を展開して収益を上げる。そして,ANJOは,かかる収益によってPPFに対する借入金を返済し,アイシーからPPF,PPFからJRCに利息を付けて返済された金員の一部は,本件証券及び本件優先株の購入者に配当される。
その後,アイシーは,3年程度経過した後に事業を終了し,清算を遂げる。
イ 本件ファンドの運用条件
本件ファンドの運用に当たっては,以下の事由を含む早期償還事由が,本件証券に付されていた。
(ア) バックアップ・サービサー事由が発生した場合
アイシーと被告インシュアードとの間の本件アドバイス契約(乙7,丙1)においては,①アドバイザーである被告インシュアードの資産に対する法的措置が採られた場合のほか,②被告インシュアードの任務懈怠等が生じた場合等には,バックアップ・サービサーが発動する旨規定されている。そして,かかるバックアップ・サービサー事由が発生した場合には,本件証券は早期償還される。
(イ) 月次のLTAPP比率が80パーセントを3か月連続で超えた場合
LTAPP比率(Loan-to-allocated-purchase-price(不動産の購入価格に対するローン比率))は,発行された債券(本件証券を指す。)残高から,①本件ファンドの元本準備金として積み立てられている金銭,②物件の購入に利用可能な現金残高を差し引き,これをアイシーが保有している物件購入価格総額(ただし,物件の購入金額のほか,購入から売却までの税金,仲介手数料,リフォーム費用等の全ての税金・費用を加えた金額をいう。)で除したもので表される。
そして,この数値が3か月連続して80パーセントを超えた場合には,早期償還となる。
{債券残高-(元本準備金+現金残高)}÷物件購入総価格<0.8
(3) 原告らによる本件優先株の購入
ア 原告ら(ただし,原告X1及び原告X2を除く。)は,本件証券の発行会社であるJRCの優先株(本件優先株)につき,平成13年4月12日付けで引受契約を締結し,その購入代金として,各々別表請求債権目録の請求債権金額欄記載の金員を振り込み,それぞれ株式の交付を受けた(甲7ないし13,15,16,18ないし39)。
イ F及びGは,本件優先株につき,同日付けで引受契約を締結し,その購入代金として,各々2000万円の金員を振り込み,それぞれ株式の交付を受けた(甲14,17)。
その後,原告X1及び原告X2は,相続により,本件優先株を取得した(甲49,50)。
(4) 本件ファンドの運用停止
ア 本件ファンドは,平成13年5月23日から運用が開始された。
イ しかるところ,平成15年12月,アイシーの業務代理人であるANJOは,被告インシュアードが,本件ファンドの運用に当たり,アイシーの関知していないところで物件の所有権を移転しており,これは,被告インシュアードとアイシーとの間の本件アドバイス契約上のバックアップ・サービサーの発動事由に該当するとして,被告インシュアードを解任した(乙8)。
その結果,上記のとおり,バックアップ・サービサーの発動事由は,本件証券の早期償還事由に該当することから,本件証券は,その運用が停止され,現在,償還手続が行われている。
なお,本件証券の償還により残高が生じた場合には,本件優先株に対しても,償還(消却)が行われる予定となっている。
2  争点
(1) 争点1
本件ファンドの運用スキームは,そもそも遂行不可能なものであり,早晩破綻することが必至なものであったか否か。
(2) 争点2
被告らの責任の有無
3  争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(本件ファンドの運用スキームは,そもそも遂行不可能なものであり,早晩破綻することが必至なものであったか否か。)について
(原告らの主張)
以下のとおり,本件ファンドは,そもそも運用不可能なものであり,当初から破綻することが必至なものであったというべきである。
ア 早期償還事由(LTAPP比率)との関係
(ア)a 本件証券には,早期償還事由として,3か月連続してLTAPP比率が80パーセントを超えないことが規定されていたところ,この条件を遵守することは,およそ不可能である。
すなわち,LTAPP比率は,債券残高から元本準備金として積み立てられている金銭と物件購入に利用可能な現金残高を差し引き,それを物件購入総価格で除したもので表されるところ,物件購入に利用可能な現金残高は,アイシーが調達した資金から,元本準備金が予め控除されることは当然として,積み立てるべきものとされる向こう半年分の費用のほか,初期費用(イニシャルコスト)を差し引いたものとなる。そのため,LTAPP比率の計算式の詳細は,以下のとおりになる。
{債券残高-(アイシーの調達資金-元本準備金-半年分の費用-初期費用)}÷物件購入総価格
b(a) これを本件について具体的に当てはめると,本件における債券残高は30億円,アイシーの調達資金は34億5000万円,積み立てるべき元本準備金は6億円である。また,半年分の費用としては,アイシーがPPFに対して負担する金利の合計3億5310万円をもって計算するのが妥当であり(アイシーとPPFとの間の約34億5000万円の金銭消費貸借契約の約定金利たる年15パーセントで計算されるべきところ,この6か月分の金利は,3億5310万円となる。),初期費用は約3億5000万円である。
(b) そして,本件ファンドの運用開始1か月目でLTAPP比率が80パーセント以下となるような物件購入価格をαとすると,上記計算式から,
{30億円-(34億5000万円-6億円-3億5310万円-3億5000万円-α)}÷α<0.8
8億5310万円<-0.2α
となり,物件購入価格がプラスとなる解はない。そのため,本件ファンドは当初からLTAPP比率の条件を遵守できない運用不可能なものであったといえる。
(c) また,仮に本件ファンドの運用開始1か月目に,1億円相当の物件を購入したと想定して,同月末のLTAPP比率をxとすれば,上記計算式から,
{30億-(34億5000万円-6億円-3億5310万円-3億5000万円-1億円)}÷1億円=x
x=9.531
となり,LTAPP比率は80パーセント(x=0.8)をはるかにオーバーしてしまう。そして,LTAPP比率は3か月連続して80パーセントを超えてはならないところ,本件ファンドの運用においては,①1件当たり3000万円前後の物件が多数扱われ,総額30億円を超える規模の不動産取引が行われること,②取り扱う物件の間取りや床面積について,細かく規定が設けられていることからすれば,物件の購入からリフォーム等の作業を遂げ,売却,代金回収までを3か月以内に完了し,利益を上げることは実務上不可能であり,3か月連続してLTAPP比率の条件を遵守することはできないというべきである。
(d) さらに,実際に本件ファンドの運用開始3か月後である平成13年8月末日時点におけるアイシーの決算報告書をもとに,LTAPP比率を計算すると,当該報告書では,「現金・預金」が32億3255万8273円,「販売用不動産」が8883万6422円とされ,元本準備金を6億円とすると,上記計算式から,
{30億円-(32億3255万8273円-6億円)}÷8883万6422円=4.136
となり,80パーセントをはるかに超えたものとなっており,LTAPP比率の条件に沿わない。
c したがって,上記各計算からすれば,本件ファンドは,LTAPP比率の早期償還事由を遵守できない運用不可能なものであったというべきである。
(イ) なお,被告らは,アイシーがPPFに対して支払わなければならない最低限の金利は,年2.6パーセントで足りる旨主張するが,これは,アイシーにおいて,所定の年15パーセントの金利を支払えないほどに資金不足となった場合に初めて適用されるものであり,具体的なLTAPP比率の計算においては,年15パーセントの金利でもって計上すべきである。現にアイシーは,本件ファンドの運用開始後,年15パーセント相当の計算で利息を支払っているところである。
イ 本件ファンドの担当者の認識
本件ファンドの運用条件等が協議されていた平成13年3月当時,被告インシュアードに勤務し,被告Y2の部下として実務に携わっていたAは,被告Y1及び被告Y2に対し,本件ファンドについて,「こんな条件では現場は対応できない」,「はっきり言って,話にならない。あんな条件を付けられるくらいなら,スタンダード・アンド・プアーズ(以下,単に「S&P」と称する。)の格付けなんていらない」,「条件面を白紙に戻してでも,改めて考えてもらわないと,現場は対応できませんよ。」などと強く意見した。
また,被告Y2は,本件証券の早期償還後である平成16年7月8日に開催されたJRC経過説明会において,本件ファンドが破綻したこと,本件優先株は事実上無価値になったことのほか,本件ファンドの運用条件を遵守するのは無理であり,1年以内にほぼ100パーセント破綻すると感じたと述べるなど,LTAPP比率の制限が,本件ファンドにおいて,およそ遵守不可能なものであることを自認していた。
したがって,本件ファンドの担当者の認識からも,本件ファンドが早期に破綻するものであったことは明らかである。
ウ 本件ファンドの運用シミュレーションが適切になされてはいないこと
(ア) 本来,ファンドの運用開始前においては,当該ファンドに設定された各種運用条件等のルールを遵守しつつ,いつの時期に,どのような物件を,何件購入するのか,それらにつき,リフォーム等付加価値を付ける過程に要する期間を踏まえて,どの時期に,いくらで売却するのかなど,実際にシミュレーションをする必要がある。しかしながら,本件においては,これらに関する何らの適切なシミュレーションもされてはいなかった。
(イ)a この点,被告らは,本件ファンドにつき,運用開始前に,エクセルで作成したシートを用いたシミュレーションを実施している旨主張し,これを裏付けるものとして,乙第11,第14号証及び第15号証の1,2を提出する。
b しかしながら,まず,乙第11号証のシミュレーションは,本件ファンドの運用開始後,7か月目にして破綻するという内容のものであり,論外というほかはない。
c また,乙第14号証のシミュレーションは,既に述べたとおり,アイシーの金利負担を15パーセントではなく,年2.6パーセントで計算している点で誤っている。
また,かかるシミュレーションは,物件を購入してから4か月目で当該物件を売却できるものと想定しているが,本件ファンドの運用は,1件当たり3000万円前後の物件を多数扱い,総額30億円を超える規模の不動産取引から成るものであり,その購入から,リフォーム等の作業を遂げ,売却,代金回収までを3か月以内に完了していくことは,実務上不可能であるというべきである。
殊に,被告らは,本件ファンドのシミュレーションを,被告インシュアードが以前に販売したジャパン・ハイグロウス・ファンド(以下「JHGF」という。)の具体的運用実績に基づき行ったとするが,JHGFは,本件ファンドと異なり,購入すべき物件の間取りや保有件数の制限がないなど,費用対効果の目標達成機能を最大限発揮できる仕組みとなっていた。そのため,本件ファンドのシミュレーションに際し,JHGFの具体的運用実績は,何ら参照されるべきものではない。また,仮にJHGFを参照することが許されるとしても,JHGFにおける運用対象物件の平均保有日数でさえ,145日であったことからすれば,本件ファンドの物件を4か月目で売却できるとする試算は,誤っているというべきである。
d さらに乙第15号証の1,2について,かかるシミュレーションシートは,平成13年5月10日に作成されているところ,この時期は,既に原告らから本件優先株の購入代金が全額振り込まれた後であり,かかる時期にシミュレーションを行っていること自体,不適切というべきである。
また,当該シミュレーションの具体的内容は,①本件ファンドの運用開始後1か月間で11億円相当もの物件を購入し,②その購入分を,本件ファンド運用開始後の5か月目に,1か月間で全て売却する,③さらに5か月目に,1か月間で上記②の売却と並行して新たに15億円相当もの物件を仕入れ,④その後は,1か月間で20億円,25億円を仕入れ,それらも全て購入月から5か月目に完売していくものであり,このようなシミュレーションは,JHGFの運用実績とかけ離れていることは当然のこと,もはや机上の空論というほかはない。
e 加えて,本件ファンドのシミュレーションは,本件ファンドの実務担当者であるAには知らされておらず,また,本件ファンドのスタート後に入社したBも,本件ファンドのシミュレーションはされていなかった旨述べている。
f 以上のことからすれば,被告らが事前に行ったとするシミュレーションは,不十分かつ不適切なものであったというべきであり,ひいては,かかるシミュレーションシートは,いわばアリバイ作りのために,事後的に作成されたものにすぎないというべきである。
(ウ) したがって,本件ファンドは,事前に適切なシミュレーションがされてはいなかったというべきであり,このことは,本件ファンドが運用不可能なものであったことを裏付けるものである。
エ ANJOの作成に係る月次リポートは虚偽であること
被告らは,ANJOの作成に係る月次リポートによれば,本件ファンドの運用開始から早期償還に至る約2年半の間,LTAPP比率が3か月間連続して80パーセントを超えることはなく,運用されていた旨主張する。
しかしながら,アイシーの決算報告書によれば,アイシーは,PPFに対し,本件ファンドの運用開始後,約年15パーセント相当の金利を支払っていたことがうかがえるにもかかわらず,被告らが提出している月次リポートには,被告らが金利の支払月であると主張する5月及び11月のリポートも含め,ローン利息の欄には金利が一切計上されてはいない。
したがって,被告らの提出するANJOの作成に係る月次リポートには,信用性がないというべきである。
オ まとめ
以上のことからすれば,本件ファンドは,早晩破綻することが必至なものであり,そもそも運用不可能なものであったというべきである。
(被告TD銀行,被告TD証券及び被告Y1の主張)
以下に述べるとおり,本件ファンドの運用諸条件は適切に設定されたものであり,本件ファンドの運用スキームが実現可能であって,破綻必至なものであるとはいえない。
ア 本件ファンドは事前に適切なシミュレーションが実施されていること
(ア) 本件ファンドは,以下に述べるとおり,アレンジャーである被告TD証券,アイシーの運用アドバイザーである被告インシュアード,本件ファンドに「A(シングルA)」の格付けをした格付機関といった関係当事者により,事前に適切なシミュレーションが実施されている。
(イ) すなわち,被告Y1は,本件ファンドの運用担当者である被告インシュアードのAから,被告インシュアードが運用していたJHGFに関する実績表,被告インシュアードに所属する役員・ファンドマネージャーの経歴一覧,被告インシュアードの決算書類,本件ファンドに係る資産運用の業務フローチャート等を入手した上で,エクセルを用いてシミュレーションシートを作成し,被告インシュアード及び格付機関と協議・検証を重ね,運用シミュレーションを実施した。
(ウ) さらに,平成13年1月17日ころ,格付け機関から,本件ファンドの資産運用の指標の一つとして,LTAPP比率を早期償還事由として設けることが提示された。そこで,被告Y1は,本件証券にもLTAPP比率を導入することが可能かどうかを被告インシュアードとともに検討し,併せてLTAPP比率の考え方を用いたシミュレーションシートを作成した。そして,被告Y1は,アイシーにおける不動産の購入・売却につき,被告インシュアードの過去の実績を踏まえた上で,平均売却期間を4か月,借入金利を2.6パーセントとして,シミュレーションシートに仮定の数値を挿入し,本件証券の償還可能性や本件優先株に対する配当可能性等についてシミュレーションを行った。その後,かかる検証結果を表示したシミュレーションシートは,被告インシュアードらに提供された。
その上で,被告インシュアードらは,被告Y1が作成した上記シミュレーションシートの検証を行い,社内でも独自にシミュレーションを行った。その後,被告Y1は,被告インシュアードの担当者との間で協議・検証を重ね,シミュレーションシートの数値を修正するなどしてシミュレーションを実施し,格付機関にこれを報告した。
(エ) また,被告TD証券は,本件ファンドが販売されるに当たり,販売時点における被告インシュアード,格付機関との協議,検証に基づいた機関投資家向けのシミュレーションシートも作成した。
(オ) したがって,本件ファンドは事前に適切なシミュレーションが実施されているものであり,当初から運用不可能なものであったということはできない。
イ 本件証券には「A(シングルA)」の格付けが付与されていること
本件証券には,世界的な格付機関であるS&Pによって,「A(シングルA)」の格付けが付与されている。
具体的には,S&Pは,被告TD証券に対し,LTAPP比率その他の指標を本件ファンドのスキームに組み込むよう促した。そして,S&Pは,被告TD証券を介して,または直接に被告インシュアードを訪問して,被告Y2,各経営幹部らへのインタビューを行うとともに,被告インシュアードから受領した資料等に基づく独自の検証を踏まえ,平成13年3月15日,本件証券の予備格付けとして,「A(シングルA)」を付し,同年5月23日には,正式な格付けとして,「A(シングルA)」を付与した。
実際にも,S&Pが公表した本件証券のプリセール・リポートにおいては,本件証券について,「本案件の信用分析は,インシュアード・キャピタルの査定方針と買い取り市場における実績も根拠としている。」,「本案件は損益分岐水準をはるかに上回る実績となるものと考えている。」と記載されているところである。
したがって,本件証券には,S&Pによる検証を踏まえた「A(シングルA)」の格付けがなされていることからしても,本件ファンドが,そもそも運用不可能なものであったということはできない。
ウ 本件ファンドの運用実績
本件ファンドは,平成13年5月23日に運用が開始されてから,平成15年12月に,被告インシュアードが運用アドバイザーを解任され,運用が停止されるまでの約2年半の間,3か月間連続してLTAPP比率が80パーセントを超えることもなく,運用が継続されてきた。
したがって,この点からも,本件ファンドが運用不可能なものではなかったことが実証されているというべきである。
エ 本件ファンドの運用停止の原因
加えて,本件証券が早期償還となったのは,本件ファンドが運用不可能なものであったからではない。
すなわち,平成15年12月,本件ファンドの運用に関し,被告インシュアードが,アイシーの関知していないところで,物件の所有権を移転している事実が発覚した。そのため,被告インシュアードは,アイシーの業務代理人であるANJOから,本件ファンドの運用アドバイザーを解任された。そして,本件ファンドのスキームにおいて,運用アドバイザーである被告インシュアードが解任されることは,バックアップ・サービサーの発動事由になり,また,かかるバックアップ・サービサーの発動事由は,本件証券の早期償還事由の一つとされていることから,本件証券は,償還手続がとられ,運用が停止したものである。
したがって,本件ファンドは,ファンドの組成とは全く関係のない事情により償還,運用停止となり,かつ,現在償還手続がとられているものであり,その運用が不可能となり破綻したものではない。
オ 原告らによるLTAPP比率の計算について
原告らは,アイシーが恒常的に保有し得る在庫物件総額や具体的なLTAPP比率を計算し,その結果,本件ファンドは,計算上,当初から運用不可能なものであった旨主張する。
しかしながら,原告らの上記計算は,以下の点において,誤っているというべきである。
(ア) 半年分の費用として計上すべき金利について
まず,原告らは,本件ファンドの半年分の費用につき,アイシーがPPFに対し支払うべき金利を年15パーセントとして,LTAPP比率の計算上,その半年分の金利である3億5310万円を計上する。
しかしながら,そもそも,アイシーがPPFとの間の契約に基づき支払うべき最低限の金利は,年2.6パーセントで足りる。
殊に,本件優先株は,その株式としての性質上,債権の性質を有する本件証券への配当金の支払に劣後するものであり,本件優先株への配当は,本件ファンドの運用において利益が出た場合にのみ支払われるものである。すなわち,本件ファンドのスキームにおいては,アイシーによる不動産売買によって利益が生じた場合,当該利益部分を原資として,年2.6パーセントを超え年15パーセントに至るまでの部分が金利として支払われ,これが本件証券の発行体であるJRCにまで還流され,本件優先株の配当に充当されることが予定されていた。そのため,アイシーがPPFに対し,15パーセントの金利を確定的に支払わなければならないとすれば,それはJRCにおける本件優先株の配当の支払を確約していることと同じであり,本件優先株の本来的な性質上,あり得ない。実際にも,本件優先株の株式引受契約において,本件優先株に係る権利は,本件証券に係る権利の行使に劣後することが記されているところである。
したがって,LTAPP比率の算出に際して,アイシーがPPFに対して負担する金利を,年2.6パーセントではなく,年15パーセントとして計算することは,誤っているというべきである。
(イ) 元本準備金について
さらに,原告らは,アイシーの調達した資金から元本準備金6億円を控除している。
しかしながら,そもそも元本準備金である6億円は,本件証券の発行当初において,準備金口座の元本準備金勘定に記帳されるものであるところ,これは,一定の事由が生じた場合に,直ちに借入金の元本償還,ひいては本件証券の元本償還に充当されることが予定された金銭である。
したがって,アイシーが保有する現金から元本準備金を控除してLTAPP比率計算することは,適切ではないというべきである。
(ウ) アイシーの決算書について
また,原告らは,アイシーの決算書の数値をもって,LTAPP比率を計算するが,かかる決算書における「現金・預金」の金額の中には,本来,準備金口座の費用準備金勘定に記帳されている額が含まれているものと考えられ,かかる金額が含まれたままLTAPP比率の計算を行うことは不当である。
(エ) 不動産売却による利益が計上されていないこと
また,本件ファンドの運用においては,不動産の購入・売却を繰り返すことにより,利益も生じるのであるから,LTAPP比率の計算においては,不動産の売却による収益も加算して計算しなければならない。しかしながら,原告らは,かかる売却による利益を一切想定せず,LTAPP比率を計算しているものである。
カ 本件ファンドの担当者の認識について
(ア) なお,原告らは,本件当時,被告インシュアードに勤務し,被告Y2の部下として実務に携わっていたAが,被告Y1に対して,本件ファンドは運用不可能なものであると意見した旨主張する。
しかしながら,被告Y1は,本件ファンドの現実の運用アドバイザーであるAの意見を無視して,本件証券の発行を強制できる立場にはなく,被告インシュアードが本件ファンドの運用条件を確認し,承諾したからこそ,本件証券が発行されたものである。
(イ) また,原告らは,平成16年7月8日に実施されたJRC経過説明会において,被告Y2がLTAPP比率による制約を遵守することは無理である旨認識していたと述べた旨主張するが,被告Y2のかかる発言は,被告インシュアードが損害賠償請求を受ける可能性を回避することを念頭に置いた上で,Bが本件ファンドは運用不可能であると述べたことを,そのまま理解し公表したものにすぎない。
(ウ) したがって,本件ファンドの担当者の認識として,真実,本件ファンドが運用不可能なものであるとは考えてはいなかったというべきである。
キ まとめ
以上のことからすれば,本件ファンドは,当初から運用不可能なものであったということはできない。
(被告インシュアード及び被告Y2の主張)
被告インシュアード及び被告Y2は,いずれも宅地建物取引業に関わる者にすぎないため,本件ファンドの組成に関与しておらず,その構造については与り知らない。しかしながら,次に述べることからすれば,本件ファンドは,収益を合理的に期待出来ない破綻必至の構造であったなどということはできない。
ア 本件ファンドは,被告TD証券によって,実際に運用アドバイスを行う被告インシュアードの過去の取引実績等が検討されるとともに,平均単価平均保有日数,利益率等が分析された上で,条件設定がされたものである。
殊に,世界的な格付機関であるS&Pは,これらの条件設定の検討に加え,アメリカのファンド専門のアナリストを派遣し,被告インシュアードが購入して転売を予定している中古用マンション等の内装工事現場を直接に踏査し,本件証券につき,「A(シングルA)」の格付けを付与している。
そして,実際にも,本件ファンドは,早期に償還されることもなく,約2年半もの間,運用がなされたところである。
イ また,本件証券には,いわゆる機関投資家である日本を代表する大手生命保険会社2社から投資がなされており,これは,本件ファンドが,機関投資家の目からも,運用可能なものであったことを物語るものである。
ウ(ア) なお,Aは,被告Y2に対し,本件ファンドは運用不可能なものである旨進言したと供述する。
しかしながら,そもそもAは,政治経済学部を卒業し,不動産取引を行ってきた宅地建物取引主任者であって,LTAPP比率等について,専門的な知識を有する者ではない。殊に,Aは,平成13年3月30日に開催されたJRCの優先株の説明会において,「マーケットの下落リスクを回避しまして,利益を上げてまいる,という形を目指しております。」と述べ,本件ファンドの運用開始時においては,本件ファンドのスキームに則り,積極的に利益を上げていく考えを説明している。
したがって,Aの上記供述は信用できないというべきである。
(イ) また,本件証券が早期償還となった後,被告Y2は,平成16年7月8日の説明会に出席し,本件ファンドの運用に無理があった旨述べてはいる。
しかしながら,被告インシュアードは,宅地建物取引業者にすぎず,被告インシュアードの社内においては,LTAPP比率やその計算式に代入すべき数値について,正確に把握している者はいなかった。そのため,被告Y2の発言は,その時点において社員から聞き取った範囲をそのまま述べたものにすぎず,かかる発言をもって,被告Y2が,本件ファンドの運用当初から,スキームが破綻するとの認識のもとに行動したものということはできない。
(2) 争点2(被告らの責任の有無)について
(原告らの主張)
ア 被告Y1及び被告Y2の責任
(ア) 被告Y1及び被告Y2は,相互に意思を通じ,主観的にも客観的にも関連共同して,上記(1)で述べたような欠陥を内在する本件ファンドを組成し,この欠陥を秘匿したまま,原告らをして,別表請求債権目録の請求債権額欄記載の各金額を投資させ,これにより,同額から受領済の配当額(1株につき44万1273円)を控除した残額につき,損害を被らせたものである。
殊に,被告Y2も,平成13年3月30日に開催されたJRC優先株式説明会において,投資家に対して具体的に説明していることからすれば,本件ファンドの組成ないし販売につき,被告Y1と主観的,客観的に関連共同していることは明らかである。
(イ) そして,被告Y1及び被告Y2においては,上記(1)で述べたような事情からすれば,本件ファンドが早期に破綻することを十分に認識し,あるいは認識すべきであった。
(ウ) したがって,被告Y1及び被告Y2は,本件ファンドの組成ないし販売に関し,民法709条,719条1項に基づき,共同不法行為責任を負うというべきである。
イ 被告TD銀行及び被告TD証券の責任
(ア) 被告Y1は,被告TD証券の従業員であり,本件ファンドの組成ないし販売は,被告TD証券の事業の執行につきなされたものであることは明らかである。
したがって,被告TD証券は,被告Y1による本件ファンドの組成ないし販売につき,民法715条に基づく使用者責任を負う。
(イ) さらに,被告TD銀行の責任について,①被告TD銀行は,被告TD証券の100パーセント親会社であり,被告TD証券と同一のフロアで業務遂行をしていること,②被告Y1によって,本件ファンドが組成,運用されることにより,被告TD銀行に対しては,口座管理手数料として,年間1000万円もの利益がもたらされること,③被告Y1のメールアドレスは,被告TD銀行のコンピュータ回線内にあり,被告Y1はこのアドレスを用いて被告TD証券の業務を遂行していたことからすれば,被告TD銀行は,被告TD証券と一体となり,被告Y1の使用者であるとともに,本件ファンドの組成もその業務としていたというべきである。
したがって,被告TD銀行も,被告Y1による本件ファンドの組成ないし販売につき,民法715条に基づく使用者責任を負うというべきである。
ウ 被告インシュアードの責任
上記アのとおり,被告Y2は,本件ファンドの組成ないし販売に関し,不法行為責任を負う以上,被告インシュアードは,民法44条に基づき,代表者の不法行為責任を負うというべきである。
(被告TD銀行,被告TD証券及び被告Y1の主張)
争う。
殊に,被告TD銀行は,被告Y1と雇用関係になかったことは明らかである。そして,被告TD銀行は,被告TD証券と別個の法人格を有している上,本件ファンドの組成に際し,被告Y1に対して,何らかの指揮命令をしたこともない。したがって,被告TD銀行が被告TD証券と一体的に業務を行っていたことはなく,被告TD銀行が被告Y1につき,使用者責任を負うこともないというべきである。
(被告インシュアード及び被告Y2の主張)
ア 被告Y2及び被告インシュアードは,何ら責任を負うことはない。
イ 不動産の証券化スキームにおいて,ファンドの組成を行うのは,いわゆるアレンジャーであり,被告インシュアード及び被告Y2も,アレンジメント業務を受託した事実,アレンジメント業務を行った事実,アレンジメント業務に関して報酬を受け取った事実もない。
被告インシュアードと本件ファンドとの関わりは,アイシーと被告インシュアードとの間に締結された本件アドバイス契約しかなく,被告インシュアードが本件ファンドの運用スキームの中で負担していた義務は,本件アドバイス契約に定められたものに限られる。そして,被告インシュアードは,アイシーに対し,本件アドバイス契約に基づき,不動産取引のノウハウを提供したにすぎないものである。
ウ なお,被告インシュアードは,被告TD証券が本件ファンドを組成していく中で,被告TD証券に対し,①被告インシュアードがそれまでに運用していたファンドに関する実績表,②被告インシュアードの役員,ファンドマネージャーの経歴一覧,③被告インシュアードの決算書類,④被告インシュアードが運用アドバイスを行う際の資産運用のフローチャートを提供した。しかしながら,これらは,被告TD証券による本件ファンドの組成が行われる過程で,アドバイザーを担当する被告インシュアードの資産運用状況の確認を受けたため提出したものにすぎず,かかる事実をもって,運用アドバイザーである被告インシュアードが,本件ファンドを組成したものということはできない。
また,被告インシュアードは,被告TD証券及び格付機関の担当者による本件ファンドの協議・検証に参加した。しかしながら,被告インシュアードは,本件ファンドのLTAPP比率やその他の早期償還事由等の項目につき,金融工学の観点からの種々の専門的検討に関与したものではなく,どの規模の不動産をどの程度購入して転売するのが適当かという点につき,協議・検証に協力したにすぎない。
さらに,被告インシュアードは,被告TD証券から指示されるシミュレーションシートに基づき,当時の不動産市場の状況から,30平方メートル以上の物件を25パーセント以内まで仕入れることが可能であるか,1億円以上の物件を仕入れて転売利益をコンスタントに上げていくことが可能であるかなど,本件ファンドの運用条件に照らした検証を行ったが,その他,LTAPP比率やその他の早期償還事由等の項目については,そもそも検証し得る能力はなく,何らシミュレーションを行ってはいない。
エ また,本件ファンドの販売に当たっては,講演会が行われたり,説明会が開催されているが,被告インシュアードは,これらの会を主催したことはない。被告インシュアードないし被告Y2は,運用アドバイザーとして説明会で話をしたことはあるが,それは,未だアイシーを特定目的会社(SPC)とするスキームの内容が確定していない時期において,投資家に対するいち早い情報提供のため,確定的な内容ではない旨の留保を付して,その概要の説明を行ったにすぎない。
したがって,被告インシュアード及び被告Y2が,本件ファンドの販売活動等を行ったことはない。
オ 以上のことからすれば,被告インシュアード及び被告Y2は,本件ファンドの組成は当然のこと,本件ファンドの販売においても,何ら不法行為責任を負うことはないというべきである。
第3  当裁判所の判断
1  本件に関する事実として,前記前提となる事実,A,Y1及びY2の各陳述書(甲47,乙46,丙2),証人Aの証言,被告Y1及び被告Y2の各本人尋問の結果及び文末に掲記した各書証並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  本件ファンドの組成の経緯
ア 被告インシュアードは,平成11年ころに,JHGF(ジャパン・ハイグロウス・ファンド)なる不動産投資ファンドの運用アドバイザーを務めていた。JHGFは,10億円程度の運用資金をもって,首都圏の中古マンションを購入し,その後,当該マンションをリフォームするなどして付加価値を高めて売却し,利益を上げるというファンドであるところ,被告インシュアードでは,主としてCのほか,A,DがJHGFの運用アドバイスを担当し,年約9パーセントから約14パーセントの利回りを上げていた。
そのような中,被告インシュアードの代表者であった被告Y2は,JHGFと並行して,新たな不動産ファンドを組成し,その運用アドバイスを行い利益を上げようと考えた。そこで,被告Y2は,平成12年ころから,具体的な新しいファンドの組成に取り掛かり,その中で,被告Y2は,被告TD証券のストラクチャードファイナンス部長であった被告Y1に相談するなどした結果,被告TD証券をアレンジャー,被告インシュアードをその運用アドバイザーとする本件ファンドが,具体的に組成されることになった。
イ そして,被告TD証券は,実際に不動産の運用アドバイスを行うこととなる被告インシュアードから,平成12年10月以降,過去の資産運用の実績等を取り寄せ(乙10参照),これを分析するとともに,運用の担当者に対し,インタビューを行った。そして,被告TD証券は,かかる分析をもとに,エクセルを利用して,本件ファンドの運用に関するシミュレーションシートを5,6通り作成し(乙11,14参照),具体的な数値を変えて,数百通りのシミュレーションを実施した。
また,被告インシュアードにおいても,本件ファンドに関し,運用のシミュレーションを複数回行った(乙15の1,2参照)。
そして,かかるシミュレーションの最中である平成13年1月18日には,被告TD証券と被告インシュアードとの間で,改めて,被告インシュアードが被告TD証券に,20億ないし30億円相当のアセットバック証券の発行を行うことを委託する旨の証券化業務委託契約が締結された(乙3)。
ウ なお,本件ファンドについては,「東京レジデンシャルノート」という名称で,平成12年11月21日に,被告インシュアードによって,投資家向けの説明会が開催されている(甲40)。
(2)  本件ファンドに対する格付け(乙4)
一方で,格付機関であるS&Pも,平成12年10月以降,被告TD証券とは別に,独自に本件ファンドの調査を行った。具体的には,S&Pは,被告TD証券及び被告インシュアードから本件ファンド及びその運用に関する資料を取り寄せ,日本及びアメリカのアナリストによる分析を行うとともに,実際に被告インシュアードが購入し,内装工事を行っている中古マンションの実地踏査も行った。
その中で,S&Pは,平成13年1月に入り,本件ファンドの運用条件として,具体的な物件の購入の態様のほか,本件証券の早期償還事由として,LTAPP比率を設けるよう提案した。そして,被告TD証券及び被告インシュアードは,これらを検討した結果,後述するような物件の購入及び売却に関する条件のほか,本件証券の早期償還事由の一つに,LTAPP比率を組み入れることとし,以後,これらの条件を前提としたシミュレーションが実施されることになった。
その後,S&Pは,同年3月15日付けで,本件証券に関するプリセール・リポート(乙4)を出し,本件証券の予備格付けとして,「A(シングルA)」を付与するとともに,同年5月23日には,本格付けとして「A(シングルA)」を付与した。
(3)  本件ファンドの販売経緯(甲41,52の1及び2,57,58)
平成13年3月30日,被告TD証券の被告Y1,被告インシュアードの被告Y2及びA,ANJOの代表者で公認会計士でもあるEが出席し,本件優先株に関する投資説明会が開催され,本件ファンドの概要,仕組み等が説明された。
その後,原告ら(ただし,原告X1及び原告X2を除く。),F及びGは,同年4月12日付けで,本件優先株の引受契約を締結し(甲43の1,2参照),それぞれ代金を振り込み支払った。なお,原告X1及び原告X2は,それぞれF及びGの所有する本件優先株を相続により取得した。
(4)  本件ファンドの具体的内容
以上のような経緯を経て組成された本件ファンドの仕組みは,次のとおりである。
ア JRCによる資金調達
特定目的会社として,ケイマン諸島に本店を置くJRCが設立される。そして,JRCは,ANJOを業務代理人とした上で,①機関投資家を対象として,シニアの部と称される本件証券を約30億円分,②個人投資家を対象として,ジュニアの部と称される本件優先株を約6億円分それぞれ発行して,合計約36億円の資金を調達する。
イ アイシーによる本件ファンドの具体的運用
(ア) アイシーによる資金調達の概要
JRCは,PPFが発行する私募債(いわゆるボンド)を,上記約36億円でもって購入する。その後,PPFは,JRCから受け取った資金をもとに,特定目的会社であるアイシーに対し,約34億5000万円を貸し付ける。
(イ) PPFとアイシーとの間の金銭消費貸借契約(乙6)
なお,アイシーとPPFとの間の上記約34億5000万円の貸付けに関する金銭消費貸借及び担保権設定契約書(乙6)には,アイシーがPPFに対して支払うべき金利に関して,以下のような定めがある(第14条参照)。
a 借主(アイシー)は,口座管理契約に基づいて被告TD銀行東京支店に借主名義で開設された銀行口座内の預金の使途制限に従い,金利支払日(①期限の利益喪失事由,期限前弁済事由の発生前又は貸付日から3年までは,年2回の後払いの5月と11月の17日,②期限の利益喪失事由,期限前弁済事由の発生後又は貸付日から3年経過後は,毎月の17日とする。)に年15パーセントの金利を支払う。ただし,上記銀行口座内の預金が各金利支払日における年15パーセントの支払に不足する場合,借主(アイシー)は各金利支払日において,年2.6パーセント以上で支払可能な金額の金利を支払えば足りるものとする。
b また,各金利支払日において,上記銀行口座内の資金が年15パーセントの利息の支払に不足する場合,不足する金額の支払は,翌金利支払日に繰り越され,翌金利支払日にも支払不能の場合,それ以降の金利支払日に繰り越される。そして,最終金利支払日である平成20年5月17日において,なお上記銀行口座内における資金によっても残存する利息を支払えない場合,借主の利息支払義務は,その時点において消滅する。
c なお,借主(アイシー)は,残りの金利の支払につき,遅延利息を支払うことを要しない。
(ウ) 本件アドバイス契約(乙7,丙1)
a そして,アイシーは,PPFから借り入れた上記約34億5000万円をもって,ANJOを業務代理人として,被告インシュアードとの間で締結した平成13年5月23日付けの本件アドバイス契約(乙7,丙1)に基づき,被告インシュアードからアドバイスを受けつつ,関東地区の居住用マンション売買の不動産事業を展開して収益を上げる。
b なお,本件アドバイス契約においては,バックアップ・サービサー発動事由として,被告インシュアードが当該契約に定める義務を履行し得なくなり,または履行することを怠り,アイシーが催告するも相当期間内に債務を履行することを怠った場合等が規定されており,かかる事由が生じた場合には,アイシーが被告インシュアードを解任して,代わりのバックアップ・サービサーを選任することができる旨規定されている(第12条)。
c また,本件アドバイス契約においては,被告インシュアードは,アイシーに対して,次の全ての条件を満たす物件(以下「特定建物」という。)の購入を推奨することとされていた。
(a) 居住用のマンション又はアパート
(b) 1DKタイプ(床面積30平方メートル以上,キッチン,リビングの他に一部屋を有する構造を備えるもの)以上の構造を備えるもの。ただし,同一機会において,同一の建物から複数の特定建物を購入する場合,同一機会における特定建物の購入総額及び購入床面積に占める1DKタイプの特定建物の割合が25パーセントを超えないこと
(c) 特定建物につき借家人が存在する場合,年間の家賃総額が購入総価格の6パーセント以上であること
(d) 特定建物の所在地が,東京都内若しくは埼玉,神奈川又は千葉県内にあること
(e) 購入総価格が2億円を超えない特定建物。ただし,購入総価格が1億円以上の特定建物の購入は,当該特定建物の購入後において,アイシーが保有することとなる全ての特定建物のうち,購入総価格1億円以上の特定建物の占める割合が20パーセント以下に止まる場合に限る。また,購入総価格が1000万円以下の特定建物の購入は,当該特定建物の購入後において,アイシーが保有することとなる全ての特定建物のうち,購入価格が1000万円以下の特定建物の占める割合が10パーセント以下に止まる場合に限る。
(f) 抵当権その他の担保権の対象となっていないこと
(g) 特定建物の売主又は当該特定建物が民事紛争の当事者又は係争物件に該当しないこと
(h) 購入時点において,既に借家人が入居している場合を除き,賃貸借の対象となっておらず,今後も賃貸借の対象となる予定がないこと
(i) 購入総価格が市場価格の90パーセント以下であること
(j) 本件証券の発行日から3年以内に購入されること
d さらに,本件アドバイス契約においては,アイシーが購入した特定建物の売却に当たっては,アドバイザーである被告インシュアードの推奨に従うほか,概要,以下のような条件が付されていた。
(a) 保有期間
アイシーは購入建物を購入時から3年以内に売却しなければならない。
(b) 強制売却
アイシーは,購入建物のうち,①賃貸物件において,年間賃料収入が購入総価格の6パーセント以下となったもの,②購入時から18か月以上経過した購入物件で,アイシーの購入総価格が市場評価額の90パーセントを上回ったものは,直ちに売却しなければならない。
(c) 売却代金の支払方法
アイシーは,購入建物の売却に当たり,買主より当該建物の売却代金の5パーセントに相当する手付を徴収しなければならない。
(エ) 本件ファンドの資金管理(乙5)
本件ファンドにおけるアイシーの資金管理については,アイシー,PPF,JRC,ANJO他4社との間で,概要,次のような取決めがなされていた。
すなわち,アイシーの管理に係る口座は,①取引口座と②準備金口座に大別されるところ,①取引口座には,アイシーが調達した資金のほか,不動産の売却ないし賃貸により得られた収益等が入金される。
また,②準備金口座には,α)一般準備金勘定,β)元本準備金勘定,γ)費用準備金勘定が設けられていたところ,その具体的な内容は,以下のとおりである。
a α)一般準備金勘定
取引口座に入金されている金額のうち,最大残高必要額を超過する額が,準備金口座内の一般準備金勘定に記帳される。そして,一般準備金勘定に記帳された額から,特定資産の取得に要した費用等が支払われる。
b β)元本準備金勘定
本件ファンドの本件証券が早期償還となった場合に,ローン元本さらには本件証券の元本の償還に充てられるべく保管されるものである。
具体的には,本件ファンドの運用開始時には,6億円が計上されており(乙16),その後,一般準備金勘定に記帳されている額のうち,LTAPP比率計算日におけるLTAPP比率が70パーセントを超過した場合には売却利益の全額,70パーセント以下の場合には売却利益の2分の1に相当する額が,元本準備金勘定に記帳される。
c γ)費用準備金勘定
概要,向こう6か月間に発生することが予定されている費用を予め保管しておくものであり,一般準備金勘定の中から,費用準備金勘定に記帳される。かかる費用準備金勘定は,仮に本件ファンドの本件証券が早期償還になった場合であっても,アイシーが保有する全ての不動産を売却するのに,6か月程度の期間を要することを見込んで,かかる売却期間中にも最低限売却のスキームが維持されるよう,設けられたものである。費用準備金勘定の具体的な内訳は,取引報告書において毎月計算される,①債券発行体費用及び翌利息支払日において支払われるべき最小限の利息(アイシーのPPFに対する利息の支払),②借入人費用(ただし,成功報酬は除き,具体的には,固定アドバイザリー報酬や口座銀行に対する支払額等を指す。),③当該取引報告日後6か月から12か月までの期間に支払期限が到来することが予想される借入人費用及び当該取引報告日後の2回目の利息支払日に支払われるべき債券の利息に相当する額の合計額の6分の1に相当する額,を合計したものをいう。
また,売却利益から,元本準備金として計上すべき金額及び成功報酬として支払うべき金額等を控除した残金が費用準備金勘定に記帳されるものもあり,本件ファンドの配当は,これによっても充てられる。
なお,本件ファンドの運用開始時においては,費用準備金として,アイシーのPPFに対する最低限の金利(年2.6パーセント)を含む7317万5000円が費用準備金勘定として計上された(乙16)。
(オ) 本件ファンドの収益
ANJOは,本件ファンドにおける不動産の運用益によって,アイシーのPPFに対する借入金を返済し,3年程度経過した後,事業を終了し,清算を遂げる。
そして,アイシーからPPF,さらにPPFからJRCに利息を付けて返済された資金の一部は,本件証券及び本件優先株の購入者の配当に回される。なお,アイシーからPPFに支払われる金利のうち,2.5パーセント分が本件証券の配当に充てられる固定金利として,また,0.1パーセント分は,本件証券の発行体を維持するための費用として用いられる。
エ 本件証券の早期償還事由(甲41,乙5)
本件証券においては,概要,以下のような事由が発生した場合には,早期償還となる旨規定されている。そして,本件証券が早期償還となった場合には,まず本件証券の購入者に対し,1か月毎に物件の売却代金相当額に応じてその元本が部分償還され,その後,本件優先株が償還(消却)されることになっていた。
(ア) バックアップ・サービサー事由が発生した場合
既に述べたとおり,アイシーと被告インシュアードとの間の本件アドバイス契約(乙7,丙1)において,バックアップ・サービサー事由が発生した場合をいう。
(イ) 物件売買方針の違反が発覚した場合
(ウ) 費用準備金(向こう6か月間のスキーム維持のために必要とされる経費)が,要件とされる水準を下回った場合
(エ) 次のいずれかの事由(ローン元本確定事由)が満たされない場合
a アイシーは本件ファンドの運用開始1年目は,債券残高の70パーセントと等価の物件を,2年目と3年目には,債券残高の60パーセントと等価の物件を購入しなければならない。
b アイシーは,当初3年間には,債券残高の40パーセントと等価の年間売却金額を達成しなければならない。
c アイシーは,本件ファンドの運用開始後1年間は,年間のコストの50パーセントを,2年目以降はそのコストの100パーセントを十分カバーできる売却益又は賃料収入を上げなければならない。
d 月次のLTAPP比率が80パーセントを3か月連続で超えてはならない。
なお,LTAPP比率は,発行された債券(本件証券を指す。)の元本残高から,①取引口座における預金,②準備金口座における元本準備金勘定,③準備金口座における一般準備金勘定における預金の合計額(ただし,当該時点において支払われるべき公租公課等の額,費用準備金勘定に振り替えられるべき額,成功報酬として支払われるべき額,優先株式配当額として支払われるべき額及び発行体により受領された回収賃料の額は含まれない。)を控除したものを,アイシーが保有している物件購入価格総額(ただし,物件の購入金額のほか,購入から売却までの税金,仲介手数料,リフォーム費用等の全ての税金・費用を加えた金額をいう。)で除したもので表される。
{債券残高-(取引口座における預金+元本準備金勘定+一般準備金勘定)}÷物件購入価格総額<0.8
e いつの時点においても,不動産物件のうち,18か月以上保有されてはならず,また購入総額が直近の市場評価額の90パーセントを上回っている物件が,運用対象物件総価格の10パーセントを上回ってはならない。
(5)  本件ファンドの具体的運用状況
ア 本件ファンドは,上記(4)で認定した各種運用条件に従い,平成13年5月23日に運用が開始された。
なお,ANJOが発行した本件証券に関する月次リポート(取引報告書)におけるLTAPP比率に関する記載の推移は,以下のとおりである(乙12,13,16ないし44)。
(ア) 平成13年5月 0パーセント
(イ) 同年6月 0パーセント
(ウ) 同年7月 0パーセント
(エ) 同年8月 0パーセント
(オ) 同年9月 66パーセント
(カ) 同年10月 63パーセント
(キ) 同年11月 76.2パーセント
(ク) 同年12月 78.6パーセント
(ケ) 平成14年1月 77.8パーセント
(コ) 同年2月 75.7パーセント
(サ) 同年3月 91.6パーセント
(シ) 同年4月 92.0パーセント
(ス) 同年5月 77.8パーセント
(セ) 同年6月 94.9パーセント
(ソ) 同年7月 92.6パーセント
(タ) 同年8月 78.31パーセント
(チ) 同年9月 81.91パーセント
(ツ) 同年10月 79.13パーセント
(テ) 同年11月 85.78パーセント
(ト) 同年12月 86.45パーセント
(ナ) 平成15年1月 68.58パーセント
(ニ) 同年2月 81.24パーセント
(ヌ) 同年3月 80.43パーセント
(ネ) 同年4月 77.46パーセント
(ノ) 同年5月 88.59パーセント
(ハ) 同年6月 85.56パーセント
(ヒ) 同年7月 78.28パーセント
(フ) 同年8月 85.80パーセント
(ヘ) 同年9月 84.85パーセント
(ホ) 同年10月 69.26パーセント
(マ) 同年11月 証拠上明らかではない。
(ミ) 同年12月 不明
イ(ア) なお,原告らは,ANJOが作成した上記月次リポートには,アイシーがPPFに支払っていたはずの金利が何ら計上されておらず,信用性がない旨主張する。
(イ) たしかに,既に認定したアイシーとPPFとの間の金銭消費貸借契約によれば,貸付日から3年までは,5月と11月の年2回,金利を支払わなければならないとされており,最低限,年2.6パーセントの金利の支払が予定されていたところ,ANJOの作成に係る月次リポート(乙12,13,16ないし44)の「lnterests of the Loan(ローン利息)」の欄には,一切金利を支払った旨の記載がない。
(ウ) しかしながら,当該月次リポートは,ANJOが機械的に作成した一連のものである上,他の項目に特段不自然な点は見受けられない。
また,当該月次リポートは,毎月毎に,別途中央青山監査法人が,購入方針,販売方針の違反があったかどうかに加え,リザーブ口座,取引口座に矛盾した事実があったかどうかについても,確認がなされる仕組みになっており,実際に本件の全ての月次リポートにおいては,かかる事実は認められない旨の確認が行われている。
加えて,当該月次リポートは,毎月,資金管理者の銀行(Deutsche Bank AG London)やS&Pに送信されていたものと考えられるところ,これらの者から当該リポートにつき異議が述べられた事情もうかがえない。
さらに,既に認定したとおり,アイシーがPPFに対して支払うべき金利は,費用準備金勘定の項目に計上されるところ,上記月次リポートにおける金利の支払月前後の費用準備金勘定の推移は,以下のとおりであり,金利支払月には,費用準備金勘定が必ず減少している。そのため,当該月次リポート上には,既にアイシーのPPFに対する金利の支払が計上されていると考えられる。
a(a) 平成13年10月 1億3666万8492円(乙20)
(b) 同年11月 3005万4648円(乙21)
b(a) 平成14年4月 1億3742万9330円(乙26)
(b) 同年5月 5006万7166円(乙27)
c(a) 平成14年10月 1億2128万7500円(乙31)
(b) 同年11月 3778万5226円(乙32)
d(a) 平成15年4月 1億3238万7500円(乙37)
(b) 同年5月 4736万7420円(乙38)
(エ) したがって,ANJOの作成した月次リポートの「lnterests of the Loan(ローン利息)」の欄に金利の記載がないことの一事をもって,当該月次リポートには信用性がないということはできず,上記原告らの主張は採用できない。
(6)  本件証券の早期償還に至る経緯
ア 被告インシュアードの解任(乙8)
アイシーは,被告インシュアードが,アイシーの関知していないところで,アイシーが購入した物件の所有権を移転していたとして,平成15年12月,被告インシュアードとの間の本件アドバイス契約を解除した。
そのため,本件証券は,その運用アドバイザーである被告インシュアードの解任が,バックアップ・サービサー発動事由に該当することから,早期償還されることになった。
イ 本件証券の早期償還後の説明会(甲46,60,61)
その後,平成16年7月8日,東京都内のホテルにおいて,本件ファンドの購入者,本件の訴訟代理人のほか,当時,被告インシュアードの代表者であった被告Y2らの出席のもと,本件ファンドの経過説明会が開催された。
その席では,被告Y2から,本件証券につき,S&Pで「A(シングルA)」の格付けを取得した関係上,本件ファンドの運用開始時において,約3億5000万円の初期費用が発生するとともに,厳しい運用基準が課せられたことなどについて説明がなされた。
具体的には,被告インシュアードが別に運用していたJHGFは,平均135日(約4.5か月)で購入した不動産を売却することが可能であったが,本件ファンドは,①33億円の資金のうち,18億円分の不動産を1年間に購入しなければならないこと,②さらに14億円分の不動産を1年間に売却しなければならないこと,③運用利益として1億9000万円を計上する必要があること,④不動産を3か月間隔で購入し売却しなければならない回転率(LTAPP比率)の規制等の早期償還を導く各種条件が存在することなど,その運用は制約されており,上記①ないし④の条件を遵守するのは,現状では無理と感じ,1年以内に100パーセント破綻(早期償還)することが分かったことなどが述べられた。
ウ 本件ファンドの現在の償還の状況
本件ファンドは,現在,本件証券に対する償還が行われており,その償還に残高が生じた場合には,本件優先株に対しても償還(消却)が行われる予定となっている。
2  争点1(本件ファンドの運用スキームは,そもそも遂行不可能なものであり,早晩破綻することが必至なものであったか否か。)について
(1)  原告らは,本件ファンドはそもそも運用不可能なものであったとし,具体的には,①本件証券の早期償還事由の一つである,LTAPP比率が3か月連続して80パーセントを超えないことを達成することは計算上不可能であること,②本件ファンドの担当者も,本件ファンドの運用の前後を通じて,運用ができないものであるとの認識を有していたこと,③本件ファンドは事前に適切なシミュレーションがなされていないことを主張する。
(2)ア  そこで,まず,本件証券は,計算上,早期償還事由の一つとして設けられているLTAPP比率の条件を遵守できないものであったか否かについて検討する。
イ  既に認定したとおり,LTAPP比率は,債券元本残高から,取引口座における預金,元本準備金勘定,一般準備金勘定の預金の合計額(ただし,費用準備金勘定を除く。)を控除したものを物件購入価格総額(ただし,物件の購入金額のほか,購入から売却までの税金,仲介手数料,リフォーム費用等の全ての税金・費用を加えた金額をいう。)で除したものである,
{債券残高-(取引口座における預金+元本準備金勘定+一般準備金勘定)}÷購入物件総価格
で表される。
これは,アイシー,PPF,JRC,ANJO他4社の契約中に定められたLTAPP比率の計算方法であるから,本件証券の月次リポートもこの計算方法によるものとすることは当然であり,そのリポートによれば,本件証券はLTAPP比率において条件を遵守している(乙12,13,16ないし44)。
ウ  これに対し,原告らは,本件ファンドの運用開始時において,物件購入に利用可能な現金残高を計算するに当たっては,アイシーが調達した資金から,①元本準備金,②半年分の費用,③初期費用を差し引くべきであるとし,具体的には,LTAPP比率は,
{債券残高-(アイシーの調達資金-元本準備金-半年分の費用-初期費用)}÷購入物件総価格
で計算される旨主張する。
しかしながら,物件購入に利用可能な現金残高から元本準備金を差し引くことは,既に認定した上記LTAPP比率の計算の定義に反するものである。
このことは,本件証券にLTAPP比率が設けられた趣旨からも説明することができる。すなわち,LTAPP比率の計算における債券残高は,JRCが発行する本件証券の償還すべき残高を指し,これからアイシーが保有する預金残高として債券の償還に用いることのできる預金の合計額(ただし費用等を控除する。)を差し引くことによって,残る債券残高をアイシーが保有する物件の価値をもって返せるのか,その債券残高と物件の価値の比率をもって,ファンドのリスクを管理するものである。具体的には,アイシーが保有する預金が多いときには,計算上LTAPP比率は低くなる一方で,アイシーが保有する預金が少ないときには,計算上LTAPP比率は高くなる。そうすると,LTAPP比率が3か月連続して80パーセントを超えてはならないという規制を設けるのは,結局,最終的に本件ファンドの本件証券の償還が困難な場合を予め防止しようという趣旨であるということができる。
そうすると,元本準備金は,最終的には元本の償還に充てられ得ることになるので,LTAPP比率を計算する際に預金残高から控除することは,上記のようなLTAPP比率の規制が設けられた趣旨にも反するものである。
エ  また,初期費用について,原告らは,本件証券の早期償還後の説明会において,被告Y2が初期費用として3億5000万円を要した旨報告していることから(甲46,甲60),同額をもって初期費用に計上すべきであると主張するが,かかる3億5000万円の具体的内訳については,何ら明らかではない。また,ANJOの作成した本件ファンドの運用開始時(平成13年5月)の月次リポート(乙16)においては,アイシーが保有する金員として,元本準備金が6億円,一般準備金が25億3760万7140円,費用準備金が7317万5000円,取引口座残高が8856万6290円の合計32億9934万8430円が計上されているところ,仮に初期費用として3億5000万円かかったのであれば,当初アイシーが調達した資金は,これらの合計36億4934万8430円となるが,これでは実際にアイシーが調達した資金34億5000万円を上回ることになる。さらに,被告Y2は,証券化に関する金融等の知識はなく,本件ファンドに関する細かい実務には携わっていなかったところ(被告Y2本人),被告Y2の上記経過説明会における発言は,初期費用として3億5000万円を要したと述べるのみであり,本件ファンドの半年分の費用(費用準備金勘定)と混同して述べられた可能性も否定できないことからすれば,上記被告Y2の発言をもって,本件ファンドの初期費用が3億5000万円かかったものと認めることはできないというべきである。
したがって,他に本件ファンドに初期費用がかかったことを裏付ける具体的な主張立証がないことからすれば,本件ファンドの初期費用は,0円として,LTAPP比率を計算するのが相当である。
オ  次に,半年分の費用(費用準備金勘定)について検討するに,費用準備金勘定には,アイシーがPPFに対して支払うべき金利が含まれ,費用準備金勘定として計上された上記7317万5000円(乙16)には,その金利を年2.6パーセントとした金額が計上されているところ,原告らは,アイシーがPPFに対して支払うべき金利は,年15パーセントとして計上すべきである旨主張する。
たしかに,既に認定したアイシーとPPFとの間の金銭消費貸借契約によれば,アイシーはPPFに対し,年15パーセントの金利を負担する旨約定されていたところである。
しかしながら,上記金銭消費貸借契約によれば,アイシーの銀行口座内の預金が不足する場合には,アイシーは年2.6パーセント以上で支払可能な金利を支払えば足り,未払分は次回の金利支払日に繰り越されるとされていた。そして,最終金利支払日である平成20年5月17日において,なお残存する金利を支払えない場合には,利息支払義務が消滅する旨規定されており,最低限年2.6パーセントの金利の支払が要求されていた。
また,本件ファンドにおいては,アイシーがPPFに対して支払われる金利は,本件証券の発行体を維持する費用,本件証券に対する配当のほか,本件優先株に対する配当に用いられるところ,既に認定したとおり,上記維持費用としてはその金利の0.1パーセント分が,本件証券の固定配当としてはその2.5パーセント分が充てられることになっていたことからすれば,アイシーが,これら合計2.6パーセント以上の金利を支払った場合には,本件証券さらには本件優先株への配当等に充てられることになるが,本件ファンドの運用上は,本件優先株への配当を何ら保証する仕組みとはなってはいなかった。
そうすると,本件ファンドが客観的に運用可能かどうかを判断するに際しては,最低限,本件ファンドの運用が遂行できるよう,本件証券の発行体の維持費用及び本件証券の配当に充てられる固定額に相当する年2.6パーセントの金利の支払を計上して行えば足りるものというべきである。
したがって,費用準備金勘定として,アイシーがPPFに対する金利負担を年15パーセントとして計上すべきとする原告らの主張は,採用することができない。
カ  以上のことからすれば,本件ファンドが運用不可能であるとする原告らの主張は採用できないというべきである。
(3)ア  次に,本件ファンドの担当者も,本件ファンドの運用の前後を通じて,運用ができないものであるとの見解を示したことについて検討する。
イ  たしかに,本件ファンドに関与した一人である証人Aは,本件ファンドの運用にはLTAPP比率をはじめとして色々な条件があり,その条件を遵守しながら,かなりの数の物件(マンション)を購入していくことは,難しいであろうと考えていた旨供述する。
また,既に認定したところによれば,本件証券の早期償還後の経過説明会において,被告インシュアードの被告Y2は,本件ファンドにつき,その運用条件を遵守するのは現状では無理と感じ,100パーセント1年以内に破綻(早期償還)することが分かったと述べているところである。
ウ  しかしながら,Aの上記供述は,既に認定したような本件ファンドに付された物件の購入,売却に関する様々な条件について,現場の担当者レベルでは,これを遵守しつつ,物件の購入,売却を繰り返していくことが困難であると感じたというに止まり,本件ファンドが,構造上運用不可能なものであったことまでを述べるものではない。
また,本件証券が早期償還となった後に,被告Y2が経過説明会で述べた発言についても,①そもそも被告Y2自身には,証券化に関する金融等の知識はなく,本件ファンドに関する細かい実務には携わってはいなかったこと(被告Y2本人),②被告Y2の発言は,本件証券が早期償還になった後に,本件ファンドの購入者及び本件の訴訟代理人の出席する中でなされたものであることからすれば,自己保身ないし責任転嫁のための発言であった面が否定できないものであって,本件ファンドが運用不可能なものであったとまでいうことはできない。
エ  したがって,これら担当者の認識ないし発言をもって,本件ファンドの運用が,JHGF等の他のファンドに比べて困難であったかどうかは別にして,客観的に運用不可能であったということはできない。
(4)ア  さらに,本件ファンドの事前のシミュレーションの態様について検討する。
イ  本件ファンドの組成に際しては,既に認定したとおり,被告TD証券及び被告インシュアードにおいて,シミュレーションがされているところ,原告らは,当該シミュレーションは不十分なものであったとし,これが,本件ファンドが客観的に運用不可能なものであったことを裏付ける旨主張する(なお,原告らは,本件ファンドはそもそも事前にシミュレーション自体なされてはいなかった旨主張するが,本件においてはこれを裏付けるに足りる的確な証拠はなく,かえって,被告らから,具体的なシミュレーションに関する証拠(乙11,14,15の1,2)が提出されていることからすれば,この主張は採用できない。)。
そして,原告らは,具体的に,被告らから提出された各シミュレーションシートにおけるシミュレーションの内容につき指摘するので,以下,被告らから提出されたシミュレーションシートごとに検討する。
ウ(ア)  乙第11号証について
原告らは,乙第11号証のシミュレーションは,本件ファンド運用開始後7か月目にして破綻するものであり,そもそも適切なシミュレーションではない旨主張する。
しかしながら,既に認定したとおり,本件ファンドのシミュレーションは,エクセルを用いてシミュレーションシートを作成し,これに基づき幾通りものシミュレーションがなされたのであるから,その中に,LTAPP比率が80パーセントを超えるような,不適切な運用を想定したシミュレーションが含まれていたとしても,何ら不自然なものではない。
したがって,原告らの上記主張には理由がないというべきである。
(イ) 乙第14号証について
a 原告らは,乙第14号証のシミュレーションは,①アイシーが負担する金利を年15パーセントではなく,年2.6パーセントで計算していること,②物件を購入してからわずか4か月目で売却できるものと想定していることにおいて,不適切である旨主張する。
b しかしながら,アイシーが負担すべき金利負担については,既に述べたことからすれば,本件ファンドの事前のシミュレーションにおいて,最低限,本件証券の発行体の維持費用及び本件証券の配当に充てられる固定額に相当する年2.6パーセントの金利の支払のみを計上していたとしても,特段不適切であるということはできない。
また,不動産の売却期間についてみるに,乙第14号証では,毎月5億円相当の物件を購入し,4か月目以降,8750万円の利益が上がるように,物件を5億8750万円で売却する旨のシミュレーションがなされているが,①当該シミュレーションは,数百通り行われたシミュレーションの中の一つにすぎないものと考えられること,②そもそもこのような実際の物件の購入,売却が不可能であることを裏付けるに足りる的確な証拠がないことからすれば,かかるシミュレーションが不適切なものであったとまでいうことはできず,また,これをもって,本件ファンドが客観的に運用不可能なものであったとまでいうことはできない。
c したがって,乙第14号証のシミュレーションをもって,本件ファンドが客観的に運用不可能なものであったことを裏付けるには足りないというべきである。
(ウ) 乙第15号証の1,2について
a 原告らは,乙第15号証の1,2のシミュレーションにつき,①当該シミュレーションは,本件優先株の購入代金が振り込まれた後である平成13年5月10日に作成されたものであること,②本件ファンドのスタート1か月目に11億円もの物件を仕入れ,これを5か月目に全て売却し,以後,これを繰り返すものであることにおいて,不適切である旨主張する。
b しかしながら,既に認定したとおり,本件ファンドのシミュレーションは複数回行われたものであることからすれば,本件優先株の購入代金振込前にも,別のシミュレーションが実施されたものと考えられる。そのため,乙第15号証の1,2のシミュレーションが,本件優先株の購入代金振込後になされたものであるとしても,何ら不適切であるとはいえない。
また,実際の不動産の購入,売却の態様についてみても,①当該シミュレーションは,数百通り行われたシミュレーションの中の一つにすぎないものと考えられること,②当該シミュレーションは,本件ファンドの運用開始1か月目,5か月目,9か月目,13か月目のみという具合に,不動産を購入,売却すると想定しており,実際には,それ以外の期間にも,不動産の購入,売却を行うことは可能であること,③そもそもこのような実際の物件の購入,売却が不可能であることを裏付けるに足りる的確な証拠がないことからすれば,かかるシミュレーションが不適切なものであったとまでいうことはできず,また,これをもって,本件ファンドが客観的に運用不可能なものであったとまでいうことはできない。
c したがって,乙第15号証の1,2のシミュレーションをもって,本件ファンドが客観的に運用不可能なものであったことを裏付けるには足りないというべきである。
エ  そうすると,実際にかかるシミュレーションどおりに,アイシーが不動産を購入,売却できるかどうかは別にして,本件ファンドのシミュレーションの態様から,本件ファンドの運用が不可能であったということはできない。
(5)ア  以上のことからすれば,本件においては,未だ本件ファンドが客観的に運用不可能なものであったことを認めるには足りないが,その上で,本件では,かえって,以下のような事実を指摘することができる。
イ  本件証券にはS&Pによって「A(シングルA)」の格付けが付与されていること
本件証券は,S&Pによって,「A(シングルA)」の格付けが付されている。既に認定したとおり,S&Pは,平成12年10月以降,独自の立場で本件ファンドの調査ないし検証を行い,具体的には,各種資料を検討したほか,被告インシュアードが内装工事を行っているマンションへの実地踏査も行った。そして,S&P自ら,本件証券の早期償還事由として,LTAPP比率を設けることを提案するなど,本件ファンドの組成において,十分な試算を行ったものと認められる。
そうすると,第三者である格付機関が,本件証券につき,適切に検討した上で,「A(シングルA)」の格付けを付与していること自体,本件ファンドが客観的に運用不可能なものではないことを裏付けるものである。
ウ  本件ファンドが実際に約2年半にわたり運用されていたこと
また,本件ファンドは,平成13年5月23日から運用が開始されたが,上記で述べたように,早期償還に至る平成15年12月まで,約2年半以上にわたり,現実に運用がなされていた。
そして,既に認定したANJOが発行した本件ファンドに関する月次リポートにおいては,LTAPP比率が3か月連続して80パーセントを超えることなく運用されていた旨報告されている。
したがって,現実の本件ファンドの運用状況からしても,本件ファンドが客観的に運用不可能なものではなかったことが強く裏付けられるものである。
エ  本件証券が早期償還となったのは,本件ファンドが客観的に運用不可能であったからではないこと
さらに,既に認定したとおり,本件証券が早期償還となったのは,アイシーの運用アドバイザーである被告インシュアードが,アイシーの関与しないところで,不動産の所有名義を移転していたことから,運用アドバイザーを解任され,バックアップ・サービサーが発動されたことによる。
そして,仮に本件ファンドが早晩破綻することが必至なものであれば,その早期償還事由も,これに沿ったものになるものと解されるところ,本件ファンドは,その運用とは全く無関係の事由によって,早期償還になったにすぎない。そのため,このことは,本件ファンドが客観的に運用不可能なものではなかったことを裏付けるものとなる。
(6)  結語
以上のことを総合的に考慮すれば,本件ファンドが客観的に運用不可能なものであったことは,未だ認めるには足りないというべきである。
3  したがって,本件においては,争点2について判断するまでもなく,原告らの請求には理由がないことに帰するから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 白石哲 裁判官 吉村美夏子 裁判官 佐野文規)

 

〈以下省略〉

 

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